衆議院

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第一七六回

参第三号

   子宮頸がん予防措置の実施の推進に関する法律案

目次

 第一章 総則(第一条・第二条)

 第二章 子宮頸がん予防方針等(第三条−第六条)

 第三章 子宮頸がん予防措置の実施の推進に関する具体的な施策

  第一節 子宮頸がん及び子宮頸がんの予防に関する正しい知識の普及等(第七条・第八条)

  第二節 子宮頸がん予防ワクチン接種の実施の推進(第九条−第十四条)

  第三節 子宮頸がん予防検診の実施の推進(第十五条−第十九条)

  第四節 子宮頸部の前がん病変に係る適切な医療の提供の実施の推進(第二十条)

 附則

   第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、子宮(けい)() (定義)

第二条 この法律において「子宮頸がん予防措置」とは、子宮頸がん予防ワクチン接種、子宮頸がん予防検診及び子宮頸部の前がん病変に係る医療の提供をいう。

2 この法律において「子宮頸がん予防ワクチン接種」とは、子宮頸がんに関与するヒトパピローマウイルスに対する免疫の効果を得させるため、当該ヒトパピローマウイルスの感染の防止に有効であることが確認されているワクチンを人体に注射し、又は接種することをいう。

3 この法律において「子宮頸がん予防検診」とは、細胞診(子宮頸部から採取した細胞により行う検査及び診断をいう。)とヒトパピローマウイルス核酸検査(子宮頸がんに関与するヒトパピローマウイルスの感染の有無を診断するための検査をいう。)を併用して行う検査及び診断をいう。

   第二章 子宮頸がん予防方針等

 (子宮頸がん予防方針の策定)

第三条 厚生労働大臣は、子宮頸がんの確実な予防を図るため、この法律に基づく施策を円滑かつ着実に実施するための方針(以下この条において「子宮頸がん予防方針」という。)を策定しなければならない。

2 子宮頸がん予防方針は、次に掲げる事項について定めるものとする。

 一 子宮頸がんの予防を推進する意義及び目標に関する事項

 二 子宮頸がん及び子宮頸がんの予防に関する正しい知識の普及並びに子宮頸がん予防措置に関する国民の意識の啓発に関する事項

 三 子宮頸がん予防ワクチン接種の実施の推進に関する事項

 四 子宮頸がん予防検診の実施の推進に関する事項

 五 子宮頸部の前がん病変に係る適切な医療の提供の実施の推進に関する事項

 六 子宮頸がんの予防に関する体制の整備に関する事項

 七 子宮頸がんの予防に関する施策の実施に当たっての関係者相互の連携及び協力に関する事項

 八 子宮頸がんの予防の状況の把握及び分析に関する事項

 九 その他子宮頸がんの予防に関する施策の円滑かつ着実な実施に関する重要事項

3 厚生労働大臣は、子宮頸がん予防方針の策定に当たっては、子宮頸がんの予防に関する国際的動向に十分配慮するよう努めなければならない。

4 厚生労働大臣は、子宮頸がん予防方針を策定しようとするときは、あらかじめ、関係行政機関の長に協議するとともに、がん対策推進協議会及び厚生科学審議会の意見を聴かなければならない。

5 厚生労働大臣は、子宮頸がん予防方針を策定したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。

6 厚生労働大臣は、子宮頸がんの予防に関する施策の効果に関する評価を踏まえ、少なくとも三年ごとに、子宮頸がん予防方針に検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更しなければならない。

7 第三項から第五項までの規定は、子宮頸がん予防方針の変更について準用する。

 (関係者相互の連携及び協力)

第四条 国、地方公共団体、医療機関、健康増進事業実施者(健康増進法(平成十四年法律第百三号)第六条に規定する健康増進事業実施者をいう。以下同じ。)、教育機関その他の関係者は、子宮頸がんの確実な予防を推進するため、この法律に基づく施策の実施に当たり、相互に連携を図りながら協力するよう努めなければならない。

 (子宮頸がんの予防の状況に関する登録制度の実施の促進等)

第五条 国及び地方公共団体は、子宮頸がんの予防に関する施策の検証及び見直しにより子宮頸がんの予防の一層の推進が図られるよう、子宮頸がん予防ワクチン接種の状況、ヒトパピローマウイルスの感染の状況、子宮頸部の前がん病変の発生及び保有の状況、子宮頸部の前がん病変に係る医療の提供の状況、子宮頸がんへの進行の状況その他の子宮頸がんの予防の状況を把握し、分析するための取組を支援するため、これらに係る事実を収集するための登録に関する制度の実施の促進その他の必要な施策を講ずるものとする。

 (財政上の措置についての適切な配慮)

第六条 国及び地方公共団体は、第十四条及び第十九条に定めるもののほか、この法律に基づく子宮頸がんの予防に関する施策を実施するため必要な財政上の措置について適切な配慮をするものとする。

   第三章 子宮頸がん予防措置の実施の推進に関する具体的な施策

    第一節 子宮頸がん及び子宮頸がんの予防に関する正しい知識の普及等

 (知識の普及及び意識の啓発)

第七条 国及び地方公共団体は、学校教育、社会教育及び家庭教育における子宮頸がん及び子宮頸がんの予防に関する教育の推進、これらに関する広報活動の充実等により、子宮頸がん及び子宮頸がんの予防に関する正しい知識を普及し、並びにこれを通じた子宮頸がん予防措置に関する国民の意識の啓発を図るため、必要な施策を講ずるものとする。

 (相談体制等の整備)

第八条 国及び地方公共団体は、国民自らの子宮頸がんの予防に向けた取組を支援するため、子宮頸がん予防措置に関する相談に応じ、的確な情報の提供及び適切な指導又は助言を行うことができるよう、必要な体制の整備を図るものとする。

    第二節 子宮頸がん予防ワクチン接種の実施の推進

 (実施の推進及び実施体制の整備)

第九条 国及び地方公共団体は、相互に連携を図り、子宮頸がん予防ワクチン接種の実施を推進するとともに、子宮頸がん予防ワクチン接種を受けようとする者がその者の居住する地域にかかわらず等しく適時かつ適切な子宮頸がん予防ワクチン接種の機会を確保することができるよう、医療機関、健康増進事業実施者、教育機関その他の関係者の理解と協力を求め、これらの者による子宮頸がん予防ワクチン接種への取組を促進するための援助を行うこと等により、子宮頸がん予防ワクチン接種を実施するための体制の整備を図るものとする。

 (予防効果の観点からの重点化)

第十条 子宮頸がん予防ワクチン接種については、我が国における子宮頸がんの罹患の現状を踏まえ、子宮頸がん予防ワクチン接種を受けることによる予防効果が高いと認められる範囲の年齢の者に対する子宮頸がん予防ワクチン接種の機会が確実に確保されるようにすることに特に重点を置いて推進されなければならない。

2 前項の規定により重点を置いて推進される子宮頸がん予防ワクチン接種であって、同項の範囲の年齢の者の一般的な心身の発達の程度、子宮頸がん予防ワクチン接種の予防効果の持続期間との関係等を総合的に勘案し、子宮頸がん予防ワクチン接種を受けることが最も適切であると認められる年齢として政令で定める年齢の者に対する子宮頸がん予防ワクチン接種については、市町村(特別区を含む。以下同じ。)がこれを実施するよう努めるものとする。この場合において、市町村は、医療機関及び教育機関に対し、当該市町村が実施する子宮頸がん予防ワクチン接種について、必要な協力を求めることができる。

 (適切かつ有効な実施のための情報の提供等)

第十一条 厚生労働大臣は、子宮頸がん予防ワクチン接種の適切かつ有効な実施を図るため、市町村、健康増進事業実施者、医療機関、教育機関その他の関係者に対し、その有効性及び安全性を確保するために必要な事項その他の子宮頸がん予防ワクチン接種の実施に当たり認識することが必要な情報の提供その他の援助を行うものとする。

2 厚生労働大臣は、子宮頸がん予防ワクチン接種を受けようとする者又はその保護者(親権を行う者又は後見人をいう。)に対し、子宮頸がん予防ワクチン接種の有効性及び安全性に関する事項、接種時期及び接種回数その他子宮頸がん予防ワクチン接種を受け又は受けさせることの判断に資する重要な事項に関する情報が確実に提供されるよう、適切な措置を講ずるものとする。

 (安全な実施のための措置)

第十二条 厚生労働大臣は、医師その他の医療従事者に対する子宮頸がん予防ワクチン接種に関する研修の機会の確保その他の子宮頸がん予防ワクチン接種の安全な実施を図るために必要な措置を講ずるものとする。

 (ワクチンの安定供給の確保及び研究開発等の促進)

第十三条 国及び地方公共団体は、子宮頸がん予防ワクチン接種の円滑な実施に資するよう、必要なワクチンの供給を確保するために必要な措置を講ずるとともに、子宮頸がん予防ワクチン接種による子宮頸がんの予防効果の一層の向上を図るため、予防効果の高い新型のワクチン並びに子宮頸がん予防ワクチン接種の予防効果の持続性の向上及び接種回数の減少によるこれを受ける者の負担を軽減することができるワクチンの開発に関する調査研究を促進するものとする。

 (国庫補助)

第十四条 国は、市町村に対し、第十条第二項の規定により市町村が実施する子宮頸がん予防ワクチン接種について、これに要する費用の全部を補助するものとする。

2 前項に規定するもののほか、国は、子宮頸がん予防ワクチン接種を実施する者に対し、予算の範囲内において、子宮頸がん予防ワクチン接種に要する費用の一部を補助することができる。

    第三節 子宮頸がん予防検診の実施の推進

 (実施の推進及び実施体制の整備)

第十五条 国及び地方公共団体は、相互に連携を図り、子宮頸がん予防検診の実施を推進するとともに、健康増進事業実施者及び医療機関の理解と協力を求め、これらの者による子宮頸がん予防検診への取組及び必要な人材の確保を促進するための援助を行うこと等により、子宮頸がん予防検診を実施するための体制の整備を図るものとする。

2 前項の規定による子宮頸がん予防検診を実施するための体制の整備に当たっては、子宮頸がん予防検診の受診率の向上が、子宮頸部の前がん病変の早期発見と適切な医療の提供による子宮頸がんへの進行の防止及び生活の質の向上に資することを踏まえ、子宮頸がん予防検診を受診しようとする者がその居住する地域にかかわらず等しく子宮頸がん予防検診を受ける機会を確保することができるようにするものとする。

 (市町村が行う子宮頸がん検診の拡充による実施)

第十六条 厚生労働大臣は、市町村が実施する子宮頸がん検診(健康増進法第十九条の二の規定により実施する子宮頸がん検診をいう。第十九条において同じ。)について、子宮頸がん予防検診にまで拡充して実施され、かつ、その受診を促すための通知の送付その他の子宮頸がん予防検診の受診率の向上に資するための措置が併せてとられることとなるよう、市町村に対し必要な協力を求めるとともに、そのために必要な援助その他の措置を講ずるものとする。

 (適切かつ有効な実施のための情報の提供等)

第十七条 厚生労働大臣は、子宮頸がん予防検診の適切かつ有効な実施を図るため、市町村その他の健康増進事業実施者、医療機関その他の子宮頸がん予防検診を実施する者に対し、子宮頸がん予防検診の項目及び方法並びに子宮頸がん予防検診の実施に当たり留意すべき事項、子宮頸がん予防検診の結果に関し通知に記載すべき事項及び当該受診者に対して説明すべき内容に関する事項等子宮頸がん予防検診の実施に関し必要な情報の提供その他の援助を行うものとする。

2 厚生労働大臣は、子宮頸がん予防検診を受けようとする者に対し、子宮頸がん予防検診の安全性及び有効性、検査の方法、子宮頸がん予防検診の結果に応じた対処の方法その他の子宮頸がん予防検診を適切かつ有効に受診するために必要な情報が確実に提供されるよう、適切な措置を講ずるものとする。

 (子宮頸がん予防検診の精度の向上のための施策)

第十八条 厚生労働大臣は、子宮頸がんの確実な予防に資するよう、医師その他の医療従事者に対する研修の機会を確保すること等により、精度の高い子宮頸がん予防検診を行うことができる知識及び能力を有する人材の育成を促進するものとする。

2 国及び地方公共団体は、子宮頸がん予防検診の精度の向上を図るため、子宮頸がん予防検診の方法等に関する調査研究及びその成果の活用を促進するものとする。

 (市町村に対する国庫補助等)

第十九条 国は、市町村に対し、第十六条の規定により子宮頸がん予防検診にまで拡充して市町村が実施する子宮頸がん検診のうち、子宮頸がんの予防効果の観点から特にその受診率を向上させることが必要な政令で定める年齢で実施されるものについて、これに要する費用の全部を補助するものとする。

2 前項に規定するもののほか、国は、市町村に対し、子宮頸がん予防検診にまで拡充して市町村が実施する子宮頸がん検診に要する費用について、必要な財政上の措置を講ずるものとする。

    第四節 子宮頸部の前がん病変に係る適切な医療の提供の実施の推進

第二十条 厚生労働大臣は、子宮頸がん予防検診の結果子宮頸部の前がん病変が発見された場合における子宮頸部の前がん病変の状態に関する的確な診断及びその結果に基づく適切な対処により子宮頸部の前がん病変が子宮頸がんに進行することを防止するため、医師その他の医療従事者に対する適切な医療の提供に関する研修の機会の確保その他の適切な医療の提供の実施のために必要な施策を講ずるものとする。

   附 則

 (施行期日)

1 この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

 (検討)

2 政府は、子宮頸がん予防ワクチン接種の実施状況等を勘案し、子宮頸がん予防ワクチン接種の法制上の位置付け、子宮頸がん予防ワクチン接種に係る健康被害の救済措置の在り方等について、速やかに検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

 (厚生労働省設置法の一部改正)

3 厚生労働省設置法(平成十一年法律第九十七号)の一部を次のように改正する。

  第四条第一項中第十七号の三を第十七号の四とし、第十七号の二の次に次の一号を加える。

  十七の三 子宮頸がん予防措置の実施の推進に関する法律(平成二十二年法律第▼▼▼号)第三条第一項に規定する子宮(けい)  第八条第一項第四号中「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)」を「子宮頸がん予防措置の実施の推進に関する法律、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)」に改める。

  第十一条の三中「(これに基づく命令を含む。)」を「及び子宮頸がん予防措置の実施の推進に関する法律並びにこれらに基づく命令」に改める。


     理 由

 子宮頸がんの罹患が女性の生活の質に多大な影響を与えるものであり、近年の子宮頸がんの罹患の若年化の進行が当該影響を一層深刻なものとしている状況及びその罹患による死亡率が高い状況にあること並びに大部分の子宮頸がんにヒトパピローマウイルスが関与しており、予防ワクチンの接種及び前がん病変の早期発見と早期治療等の適時かつ適切な予防措置を講ずることにより相当程度の高い確率で子宮頸がんを予防することができることが科学的に解明されていることを踏まえ、子宮頸がんに対するがん対策として、早急に子宮頸がん予防措置を普及することが極めて重要であることにかんがみ、子宮頸がんの確実な予防を図るため、子宮頸がん予防方針の策定、子宮頸がん予防措置の実施の推進のために講ずる具体的な施策等について定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。


   この法律の施行に伴い必要となる経費

 この法律の施行に伴い必要となる経費は、平年度約五百五十億円の見込みである。

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