衆議院

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第10号 平成28年11月22日(火曜日)

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平成二十八年十一月二十二日(火曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 鈴木 淳司君

   理事 今野 智博君 理事 土屋 正忠君

   理事 平口  洋君 理事 古川 禎久君

   理事 宮崎 政久君 理事 井出 庸生君

   理事 逢坂 誠二君 理事 國重  徹君

      青山 周平君    赤澤 亮正君

      安藤  裕君    井野 俊郎君

      奥野 信亮君    門  博文君

      菅家 一郎君    城内  実君

      鈴木 貴子君    辻  清人君

      野中  厚君    藤原  崇君

      古田 圭一君    宮川 典子君

      宮路 拓馬君    山田 賢司君

      若狭  勝君    階   猛君

      山尾志桜里君    吉田 宣弘君

      畑野 君枝君    藤野 保史君

      木下 智彦君    上西小百合君

    …………………………………

   法務大臣政務官      井野 俊郎君

   参考人

   (弁護士)        岡  正晶君

   参考人

   (名古屋学院大学法学部教授)

   (弁護士)        加藤 雅信君

   参考人

   (弁護士)        黒木 和彰君

   法務委員会専門員     矢部 明宏君

    ―――――――――――――

委員の異動

十一月二十二日

 辞任         補欠選任

  吉野 正芳君     青山 周平君

同日

 辞任         補欠選任

  青山 周平君     吉野 正芳君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 民法の一部を改正する法律案(内閣提出、第百八十九回国会閣法第六三号)

 民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出、第百八十九回国会閣法第六四号)


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     ――――◇―――――

鈴木委員長 これより会議を開きます。

 第百八十九回国会、内閣提出、民法の一部を改正する法律案及び民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案の両案を一括して議題といたします。

 本日は、両案審査のため、参考人として、弁護士岡正晶君、名古屋学院大学法学部教授・弁護士加藤雅信君及び弁護士黒木和彰君、以上三名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表しまして一言御挨拶を申し上げます。

 本日は、御多忙の中、御出席賜りまして、まことにありがとうございました。それぞれのお立場から忌憚のない御意見を賜れれば幸いに存じます。どうぞよろしくお願いいたします。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、岡参考人、加藤参考人、黒木参考人の順に、それぞれ二十分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず岡参考人にお願いいたします。

岡参考人 本日は、発言の機会を与えていただきまして、本当にありがとうございました。

 私は、日弁連からの推薦で本件の法制審部会の委員となり、五年四カ月間、最初から最後までフルで審議に参加をさせていただきました。その立場と経験を踏まえた本改正法案に対する私の意見は、日弁連の意見と同じであります。

 本日は、まず冒頭にその意見を述べさせていただきます。次に、その意見を持つに至った経緯、理由として、本改正審議に取り組んだ日弁連の基本姿勢及びどういう陣容でどのように取り組んだかについて説明をさせていただきます。そして最後に、まとめとしての私の所感を述べさせていただきます。

 ではまず、意見でございます。

 私の配付させていただきました資料五、通しページ十四分の六をごらんください。

 真ん中あたり、「第一 意見の趣旨」第一項でございます。「本改正法案は、保証人保護の拡充や約款ルールの新設を見ても明らかなように、利害の対立する複数の契約当事者間の適正な利益調整を図り、かつ、健全な取引社会を実現するために、必要かつ合理的な改正提案であると評価でき、当連合会は本改正法案に賛成する。」、これが結論でございます。

 我々弁護士は、民法を市民の最も身近な立場で活用し、それを通じて市民の権利を実現する職責も負っております、民法のヘビーかつ最大のユーザーであります。その立場と責任を踏まえて、日弁連も私も本法案に賛成をいたします。

 二項、三項については、後で触れさせていただきます。

 次に、資料六、通しページの十四分の十三をごらんください。

 日弁連は、昨年の通常国会の法案提出時にこの会長声明を出させていただきました。下から二行目をごらんください。「時を移さず、これらの検討内容を活かして、今国会で」、昨年の通常国会でございますが、昨年の通常国会で「充実した十分な審議を行い、重要法案である本改正法案の成立を求めるものである。」という声明を出させていただきました。

 次に、次のページ、十四分の十四をごらんください。

 これは、本年九月三十日に会長声明を出したものでございます。ここでも下二行に御注目ください。法案提出から一年半も経過したことを踏まえ、「今国会で充実した迅速な審議を行い、」今臨時国会での「早期成立を求める」というものでございます。時ここに至って、日弁連も私も、充実だけではなく迅速な審議、すなわち丁寧で速やかな審議をお願いしたいと思っております。

 それでは次に、このような意見形成に至った経緯、理由の一つ目として、日弁連及び私どもが本改正審議に取り組んだ基本姿勢を御説明いたします。

 資料三、通しページの十四分の四をごらんください。

 これは、日弁連の理事会で機関決定していただいたものでございます。法制審の部会には、私を含めて四名が推薦されてメンバーになりましたが、私ども四名は、この基本姿勢に基づいて懸命に発言をし、本法案にこれを反映させたつもりでございます。少し早口になりますが、読ませていただきます。

 一 改正を所与の前提として拙速な取り纏めをすることなく、各検討事項につき、改正の必要性、方向性、改正の具体的内容および改正した場合の影響の内容や程度を慎重に検討する。

理念ファーストではなく、個別的、具体的に検討していくという宣言でございます。

 二 改正にあたっては、法定債権や担保物権に関する規律などを含む民法全体の整合性、消費者契約関連法、商行為関連法、労働契約関連法などの民事特別法との相互関係や役割分担などについて適切に配慮し、民事法体系全体として整合性・統一性をもった民法とすることをめざす。

 三 確立した判例法理や定説のうち法文化すべきものは民法典への適切な取り入れを検討し、市民にとって真に「分かりやすく使いやすい民法」をめざす。

 四 専門的知識や情報の量と質または交渉力に大きな格差のある消費者・労働者・中小事業者などが、理由のない不利益を蒙ることがなく、公正で正義にかなう債権法秩序を構築できる民法となるように積極的に提言する。

 五 社会経済の現代化、市場の国際化、外国の法制度との比較などの考慮に基づく改正に関しては、我が国における民法規範としての継続性や市民法秩序の法的安定性に十分配慮して検討する。

外国の先進的な取り組みは、研究、検討するけれども、追随はせず、批判的に受け入れる、こういうものでございます。

 先ほども申し上げましたが、

 六 民法を市民の最も身近な立場で活用し、市民の権利を実現する職責を負う実務法曹の団体として、多面的な議論を尽くし、利用者である市民の視点にたった改正意見を積極的に表明し、活動する。

 なお、これに加えて、私個人は、民法は日本国民全てに適用される法律ですので、私のふるさと、四国うどん県、香川県で農村に住む私の両親、親戚にも理解できるもの、納得できるもの、そういうものを目指そうと思いました。

 次に、私ども及び日弁連が本改正審議にどういう陣容で取り組んだかを御説明いたします。

 資料二、通しページ十四分の三をごらんください。

 先ほどの基本姿勢の六項で述べましたように、多面的な議論を尽くすためには、いろいろな立場のできるだけ大勢の弁護士で議論することが重要と考えました。そこで、全国の各層から約六十名弱のバックアップチームをつくっていただき、部会の前日等に、合計すると、ここにありますとおり百二十四回の議論をしていただきました。また、このチーム会議の前に、多くの地方の単位会、委員会でも事前議論をしていただき、それを書面等でチーム会議に提出してもらいました。

 本当にさまざまな弁護士、具体的には、消費者、大企業、中小企業、労働者等の代理を多く務める弁護士、企業内弁護士、親族、相続の事件を多く扱う弁護士など、大勢集まって、本当に多面的な議論を尽くすことができたと考えております。

 そのほか、この表の右側に記載してありますとおり、全国八つの高裁所在地で、各二回、シンポ、研修会を行ったり、日弁連の重要な意思決定機関である理事会でも何度も意見交換、審議をさせていただきました。

 次に、意見形成に至った経緯、理由の最後に、私ども日弁連が本改正審議にどのように取り組んだかを御説明いたします。

 資料一、通しページ十四分の一をごらんください。

 最初の第一ステージの当初、我々は、強い警戒心を持って臨みました。きついことも発言をいたしました。また、当初は、日弁連内にも、壊れていないものを直す必要なし、学者主導の改正につき合う必要はない等の批判的な意見が多くございました。しかし、先ほどの基本姿勢に基づいて議論を重ねる中で、批判だけにとどまっているのではなく、前向きで建設的な議論が多くなってきました。

 また、部会におきましても、この次の九ページの五行目以下にありますとおり、別の学者有志、具体的には加藤先生グループの改正提案でございますが、そのような資料も数多く引用されるとともに、比較法資料も豊富に提供されまして、実に多くの議論が滑らかに進んでいくようになったと理解をしております。

 一回目のパブリックコメントの後が第二ステージでございます。

 この第二ステージにおきましては、三つの分科会が部会と部会の間に開かれ、本当に中身の濃い審議をいたしました。日弁連も意見書を五本提出いたしました。この九ページの左側の下から十行目にありますとおり、このほかにも弁護士会、弁護士有志等による意見書が何本も部会に提出され、法制審の部会としては異例のことですが、これらも全て机上配付を許され、審議に供されました。

 そして、いよいよ、二回目のパブコメが終わった後、第三ステージを迎えました。

 資料一、九ページの右側をごらんください。

 これは選択と集中の審議であったと認識をしております。まず、全員のコンセンサスが得られたもの、積極的な反対者がいない、そういう論点を要綱案とする方針に従って仕分けが進められました。早々にまとまったもの、詐害行為取消権など、早々に断念されたもの、信義則等の適用に当たっての考慮要素などもございましたが、熟議の上、少数意見者が多数意見を尊重するということでコンセンサスが成立したものも出てまいりました。

 その例が消滅時効でございますが、消滅時効については、主観的起算点導入に対する不安や時効完成までの期間が短くなる権利がややあるということで、反対が小さくはありませんでした。しかし、熟議を重ねる中で、主観的起算点というのは既に不法行為において民法に導入済みであること、それについて説得的な下級審判決例も出ていて予見可能性があること、生命身体に関する権利の特則を一般債権、不法行為の両方に設けることなどでコンセンサスが得られるに至ったものでございます。

 その後、意見が大きく分かれた論点について、事務当局から、この案でどうかという提案が二次案、三次案、四次案を含め出されまして、この結果まとまったもの、動機の錯誤でありますとか個人保証でございます、そういうものもありましたが、日弁連にとっては遺憾ながら断念されたもの、暴利行為の明文化等も少なからず生じました。

 この間、日弁連では、最終局面に入ったことを受け、ここにあるような組織変更を行ったり、日弁連の理事会等で議論をさせていただきまして、最後まで積極的に発言を続けたものでございます。

 若干時間がございますので、法定利率についても若干御説明をいたしたいと思いますが、法定利率についても、適用法域が異なるごとに利率を設ける方が合理的ではないか、三%では債務不履行のペナルティーとしては低過ぎるので五%のままでいい、逆に、現在のマイナス金利、まあ、その当時はマイナス金利じゃございませんでしたので、当時の低金利を考えると二%がいいなど、さまざまな意見が出ておりました。しかし、これも熟議を重ねる中で、激変は相当ではないのではないか、現在の仕組みに対する適度な変更が今回は相当ではないかということで、四割減の三%とし、加えて穏やかな変動制を採用するという方向に収れんをしていきました。

 私個人は、こういう方程式ではなく、その都度国会が決めればいいという意見でございました。少数意見で採用されませんでしたが、最終的には、こういう方程式があろうとも、国会がその時点で議決をすれば、法定利率を変更することは可能ではないかと考えております。

 以上の経緯、理由を踏まえて、私及び日弁連は、本改正案に賛成をし、早期成立をお願いするものでございます。

 最後に、まとめとしての所見を三点述べさせていただきます。

 第一に、今回の法案は、我々から見ればなお不十分な点もありますし、法案とならなかったものについても残念なものがございます。しかし、これらも、そのような案が公平妥当という方々が社会の中にいらっしゃり、また、それらはまだ時期尚早であるという方々がいらっしゃることから、こうなったものと理解をしております。そして、本法案には我々として評価できるものが数多くございますし、理論よりも実務を優先して採用していただいた条文もございます。

 こういう意味で、本法律案は、各界各層の参加者が民法をよりよいものにしようという思いで長年にわたって検討、議論を行い、その英知を結集したものと理解をしております。そういう意味で、絶妙なバランスのとれた法律案と私は考えております。

 第二に、私どもから見れば不十分な点についても、制度としては一つの大きな前進であると考えております。よい方向でのアナウンスメント効果もあると考えております。国会における審議、金曜日の審議を拝見させていただきましたけれども、それを通じて行政指導等も充実されるのではないかと考えております。我々弁護士会としては、今後は、不十分と考えられる点から問題が生じないよう、法教育の充実等も含め、実務において力を尽くしていきたいと考えております。

 第三に、最後ですが、今回は法案とならなかったものについても、法制審部会における中身の濃い議論が議事録という形で残り、今後に向けての大きな貯金ができたと考えております。これで相当な進展があったと考えています。これをばねにして、さらに一層、全国の弁護士で実務、判例を積み重ね、多数意見の形成に向けて精進していきたいと思っております。

 私の意見は以上でございます。御清聴ありがとうございました。(拍手)

鈴木委員長 ありがとうございました。

 次に、加藤参考人にお願いいたします。

加藤参考人 本日は、社会の基本法である民法の大改正に際しまして、国会の先生方にお話をさせていただける貴重な機会をいただきましたこと、心から御礼申し上げます。

 現行民法が明治三十一年に施行されてから百二十年の歳月がたっております。その間、社会は大きく変化いたしましたので、その変化に合わせて民法を改正しようとするのは極めて自然なことであります。したがって、本来でしたら、この時期に民法の抜本的改正をすることは歓迎されてしかるべきでございます。しかしながら、現在国会に上程されている改正案を見ますと、首をかしげたくなる点も多々ございます。

 なぜこのような首をかしげざるを得ないような案が出てきたのか、それをお話しする必要があるかと思うのですが、その前に、どの点で今回の改正案がすぐれており、どの点で首をかしげざるを得ないのかを、時間の制約もありますので何点かに絞りますが、お話しさせていただきたいと思います。

 まず、賛成する点ですが、先ほど岡参考人の方から話がありましたが、法定利率を固定利率から変動利率にして、市場利率を反映させるというようにした点は、もろ手を挙げて賛成したいと思います。

 現在は、民法の法定利率が五%、商法のそれは六%で、市場利率よりも高い状況です。そうしますと、利息狙いで訴訟遅延を図ったり、あるいは、高い利息を払うのは嫌なので争わずに和解に応じたりする動きが出て、訴訟の健全な姿がゆがめられております。この点を是正する改正案には心から賛成いたします。

 しかし、反対すべき点も多々ございます。

 まず、今回の債権法改正の動きが始まった段階で大問題となったのは、当時法務省参与と呼ばれていました内田貴さんを中心になされた、債務不履行による損害賠償を過失責任から無過失責任に転換しようとする提案でした。これは、ドイツ、フランス、日本等の大陸法諸国ではずっと過失責任とされていた法制度を英米流の無過失責任にするもので、民法のこの部分を大陸法型から英米法型に転換しようとするものです。

 我が国では、債権法改正作業が始まる前まで、債務不履行を無過失責任にすべきであるという主張があったわけではありませんし、内田さん御自身も、御自身の教科書では債務不履行が過失責任であると説明し、それに別段異議を唱えていませんでした。

 社会に無過失責任の要請がないのにこのような改正をいたしますと、取引社会も法曹実務も混乱するだけですので、東大民法の河上正二さんは、この改正をナンセンスという強い言葉で批判され、東大ローマ法の木庭さんは、前代未聞の厳格責任と、厳格責任というのは無過失責任のことですが、批判しましたし、会社法制定の立て役者の江頭憲治郎さんは、民法の債務不履行が仮に厳格責任になっても、商法の方は商法の条文が残っている限り過失責任のままでいくと言明しました。また、各地の弁護士会も反対意見を述べましたし、全国二千人の弁護士を対象としたアンケート調査でも、無過失責任に賛成するのはわずか百八十八名だけで、反対が千五百五十九名と圧倒的でした。

 そこで、内田さんたちは、自分たちの改正方向を示した「債権法改正の基本方針」の中では、債務不履行の規定から帰責事由を意味する文言を除き、無過失責任を一旦明示したわけですが、今回国会に提示された改正案では、帰責事由を意味する文言を復活させました。しかし、現在でも、法制審議会民法部会の委員であった潮見佳男さんは、この文言に「取引上の社会通念に照らして」という修飾語がついているので、今回の改正条文は過失責任原則の否定であるということを著書で明言していらっしゃいますし、法務省民事局参事官室の公表した資料でも似たようなことが述べられております。

 つまり、一旦公表した無過失責任化案は反対が強いので、文言を玉虫色にしておいて、後から立法者意思に基づく解釈として無過失責任であることを主張し、巻き返しを図ろうとしているとしか思えないというのが、法務省民事局参事官室の解説を見たときの私の印象でございます。

 実は、債務不履行の無過失化は、今回の債権法改正の天王山とも言えるものでした。ところが、法務省が国会に提出した改正の理由からは、この点がすっぽり抜け落ちております。恐らく法務省は、この点が国会で議論され、一つの争点となるのを避けたいと考えたのだろうと思います。

 私は、本日の委員会配付資料として、「債権法改正法案の総合的検討に向けて 債権法改正の実相を探る」という小さな冊子を配付いたしました。その百二十一ページには、今回の債権法改正をめぐる法務省のやり方につき、裁判所の中枢におられた元裁判官が、今回はこそこそ改正作業を行ったので、不信感が出ているのが実情なのではないかと評している旨を紹介いたしました。また、私自身も、債権法改正の一番の目玉とされてきた問題を国会提出の改正の理由から外す一方、法務省民事局参事官室の解説では無過失責任化を説く法務省の今回の手法につき、「国会審議を裏口ですり抜けるような手法は、民主主義国家においてはとってはならない」とそのページに記しました。

 この問題に関しまして、ここにいらっしゃる法務委員会の先生方にお願いしたいことがございます。国会で、改正法案の第四百十五条一項が無過失責任か過失責任なのかをぜひ法務省に質問していただければと願っております。法務省は玉虫色の官僚答弁をするかもしれませんが、突き詰めた質問をすれば、回答は無過失責任か過失責任のいずれかにならざるを得ないと思います。

 無過失責任と答えたら、なぜこれまでの改正作業で最もヒートした争点を法務省が国会提出の改正の理由に挙げなかったのか、あたかも裏口入学ならぬ裏口立法を狙っているかのごとき法務省の姿勢につき、国会で問いただしていただきたいと私は願っております。

 また、過失責任と答えたら、このままでは、民法の最も重要な規定の一つである債務不履行につき、過失責任と無過失責任の双方の主張がなされるような状況は望ましくなく、また、このままでは民法と商法という私法の二大法典の分裂を招く可能性もあるとして、改正法案の第四百十五条一項から「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」という文言を削除する修正をしていただけませんでしょうか。そうすれば、今後、法務省民事局参事官室等が今回の改正による債務不履行は無過失責任であると主張する根拠がなくなりますので、混乱の芽が摘まれます。

 次に、保証に移りたいと思います。

 法務省が国会に提出した参考資料の概要には、取締役等以外の個人が事業債務について保証人となるためには、公証人が保証意思を確認しなければ効力を生じないものとすると書かれており、改正法案の第四百六十五条の六にもそのための規定が置かれております。

 ただ、国会におられる先生方は、一九九九年に、当時の商工ファンドの社長の大島健伸氏が国会で証人喚問を受けたことを御記憶かと思います。商工ファンドは、お金に困った中小企業とその保証人をしゃぶり尽くし、次々と自殺者を出しました。その手法は公証人を使ったものでした。具体的には、公証人役場に行って執行証書と呼ばれている執行受諾文言つきの公正証書をつくってもらえば、判決をもらわなくても強制執行が可能になります。商工ローンは、この手法を使って次々と強制執行をかけ、相手を破綻させていったのです。

 今回の債権法改正によって、保証人が公証人のところに行くことが保証することの前提となれば、ついでに執行証書にしてもらうことは簡単になります。要するに、今回の債権法改正の規定は、商工ローンの再現に道を開くものとしか私には思われません。このような改正がなされてよいものなのでしょうか。

 ある方から、法務省民事局幹部が、公証人に対する教育を行うので問題は起こらないと言っている旨を伺いました。しかし、公証人に対する教育では問題は片づきません。ある公証人から伺ったところでは、問題がある公正証書の作成の依頼も中にはあるのですが、その作成を断っても、結局ほかの公証人役場でつくってもらうことになるので、意味がないのですとのことでした。公証人は基本的に手数料仕事なので、意味がない断り方も仕方がないと考えることになりがちなのです。

 公証人役場は法務省の法務局の所管ですので、このような公証の実態は法務省民事局は熟知しているはずです。まさか、まだ、商工ローンで公証制度が悪用されたことを忘れてはいないと思います。それなのに、今回のような改正をし、一見すると見ばえがする、口当たりのいい改正をしようとする。この改正によって、商工ローンと同じような保証人の自殺が出てくるようになったら、法務省はどのように責任をとるのでしょうか。今回の保証法の改正案を見ると、法務省民事局は、行政庁としての責任感を忘れ、法案を通すための体裁だけを整えようとする無責任体制に陥っているようにしか私には思えません。

 法務委員会の先生方の手で、ぜひ、改正法案の第四百六十五条の五から第四百六十五条の九までの改正条文を削除し、別の形での保証人保護を考えていただければと願っている次第です。

 次に、先ほどもお話が出ました消滅時効に移りたいと思います。

 改正条文案では、第百六十六条一項で、債権等の消滅時効は、「債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間」、「権利を行使することができる時から十年間」行使しないと、債権は時効消滅するとされています。前者が主観的起算点、後者は客観的起算点と呼ばれます。今回の改正は、これまでの一元的起算点という考えをとっていた消滅時効を二元的起算点の制度に変更しようとするものです。先ほど、不法行為の消滅時効が二元的だとおっしゃいましたが、不法行為のあれが二元的なのは、時効制度全体の中では極めて例外的な現象です。

 そして、時効は、民法ばかりではなく、商法や数多くの行政法規等、さまざまな法律にも規定されています。これらの数多い法律の時効制度は、これまで客観的起算点だけで、一元的起算点制度で運営されてきました。それらの法規についての改正がない以上、今後も一元的起算点の制度が維持されていくことになるだろうと思います。

 そうしますと、多数の法律にまたがる時効制度の中で、唯一民法だけが突出した二元的起算点制度を導入することになります。これでは、民法の一般法としての性格が、事時効に関しては放棄されることになります。これまで、環境法の分野では、国の法律よりも地方の条例の方が規制基準が強い、いわゆる横出し条例、上乗せ条例が見られることがありました。ところが、今回の改正では民法典が横出し法規になるという、一般法としての民法の自殺現象が見られるのです。

 なぜ、このような奇妙な改正がなされるのでしょうか。それは、一般的に二元的起算点制度が欧米で行われているからです。今回の債権法改正では、欧米の物まね改正という提案が数多く行われました。最初にお話しした債務不履行の無過失責任化もその一例です。時効についても、日本の法体系全体を考えずに物まね改正をしようとしているのが今回の時効法の改正提案だと思います。

 もっとも、時効法の改正でも、意味があるものもあります。それは、債権の消滅時効期間は一般には十年なのに、現行民法が例外として認めている五年、三年、二年、一年の短期消滅時効の多くの規定を廃止したことです。この多数に上る短期消滅時効の規定の廃止自体は望ましいものです。

 ただ、気をつけなければいけないことは、短期消滅時効の対象となるのは、商品代金とか運賃とか飲食料金等の少額債権となるものが多いということです。元来、消滅時効制度は、二重請求された場合に、領収書をなくしていても、時効ですと言えば二重請求による被害を免れられることに意味があります。だから、現行民法は、商品代金、運賃、飲食料金等について短期消滅時効を用意したわけです。これらの現行民法の規定を廃止しただけでは、これらについての領収書を十年間とっておかないと、二重請求の危険にさらされます。

 そうであるとしたら、短期消滅時効規定を廃止する際に少額債権一般についての短期消滅時効を用意しておかないと、国民は十年の長きにわたってこれらの領収書をとっておく必要に迫られます。これらの少額債権の領収書を長期間とっておくことは期待しにくいところです。

 本当に国民の生活を考えるのであれば、錯綜している現行民法の短期消滅時効の廃止をすること自体はいいのですが、それと同時に少額債権一般についての短期消滅時効の導入を考えるべきなのに、改正法案はそのための手当てを置いていません。失礼な言い方ではありますが、こののうてんきな改正案を見ると、法務省民事局が果たして国民の生活を守ろうとしているのかどうか疑わしいという気さえ起こってしまうのです。

 次に、民法の取り消し関連の規定に移りたいと思います。

 今回の改正法案は、現行民法百二十一条本文の取り消しの効果の規定を基本的には維持しながら、その次に第百二十一条の二「原状回復の義務」という規定を挿入しました。これは、法律行為が無効な場合に限定した不当利得絡みの規定です。

 改正法では、契約が無効な場合にはこの改正規定による原状回復が認められることになります。しかし、契約が不存在なのに誤って履行してしまった場合にも不当利得が問題になるはずです。しかし、改正民法では、それは民法七百三条の規定によって不当利得の返還がなされることになります。

 今挙げた二つの事例は、これまではどちらも給付利得と呼ばれ、民法七百三条が規律するとされていました。現行民法七百三条は不当利得の条文ですが、不当利得については類型論という議論があり、給付利得はその一類型とされてきましたが、給付利得分断論などは、日本でも世界でもこれまで聞いたこともありません。一体、法務省民事局は、ローマ法以来の民法の歴史、不当利得の歴史を踏まえてこのようなへんぱな改正案を提案したのでしょうか。

 その上、原状回復については、不当利得のほかに物権的返還請求権も問題になるところです。ところが、改正案はこの点にも触れていません。二重三重におかしな、ある意味で、現行民法の精緻な法体系を破壊するだけの思いつき提案としか私には評価することはできません。

 民法典をまともなものにするために、先生方には、ぜひ第百二十一条の二の改正提案の削除を考えていただければと願っております。

 これ以外にも、約款、債権者代位権、詐害行為取消権等、おかしな提案はたくさんあります。ただ、二十分という時間がありますので、全てを語ることはできません。改正提案の問題点は、やはり配付資料の、大分分厚くはありますが、「債権法改正法務省案の問題点の総合的検討」に今言った三点を含め検討しておきましたので、御一読いただけることを願っております。

 ただ、今までの私の話を聞いて、一体なぜ法務省がこのように問題が多い改正法案を国会に提出したのか、不思議に思われる先生方も多いことと思います。そこで、今回の改正の背景事情をお話ししたいと思います。

 法制審議会に民法部会が立ち上げられる三年前、民法(債権法)改正検討委員会が立ち上げられました。その民法(債権法)改正検討委員会の規程を見ますと、改正試案の原案作成は準備会の任務とされていましたが、設立された五つの準備会の全てに、法務省参与の内田さんと、参事官の、現在では民事法制管理官ですが、筒井さんが委員として入っていました。また、この規程によりますと、幹事として法務省民事局の局付が準備会に参加することも認められていました。学者で複数の準備会の委員になった人は一人もおりません。この民法改正検討委員会は、全体会議こそ学者が多数でしたが、原案作成は法務省の影響下にあるように組織が組み立てられておりました。

 この委員会が立ち上げられると、学界から法務省に移籍した内田さんが委員会の事務局長に就任しました。そして、法務省に移籍した翌年に、論文で、「伝統的な民法が想定していた「人」の概念が消費者を上手く包摂できないことを正面から認め、民法の中にも消費者という概念を使って消費者のための規定を置こう、という立場」があると主張しました。内田さんは、法務省に移籍する以前にはこのような主張をしていたわけではないと私は理解しております。

 そして、この論文を発表した翌年、みずからが事務局長を務める民法(債権法)検討委員会が「債権法改正の基本方針」を発表する中で、改正法案の中に、「消費者・事業者の定義規定を一対をなすものとして置くものとする。」、「消費者契約法から私法実体規定を削除」した上で民法典に取り込み、「消費者契約法を消費者団体訴訟を中心とする法律として再編する」という方向をうたい上げました。そして、その翌年の法制審議会民法部会に、次のような内容の資料を提出したのです。

 総論(消費者・事業者に関する規定の可否等)

  従来は、民法には全ての人に区別なく適用されるルールのみを規定すべきであるとの理解もあったが、民法の在り方についてこのような考え方を採る必然性はなく、むしろ、市民社会の構成員が多様化し、「人」という単一の概念で把握することが困難になった今日の社会において、民法が私法の一般法として社会を支える役割を適切に果たすためには、「人」概念を分節化し、消費者や事業者に関する規定を民法に設けるべきではないかという指摘がある。

これが法制審の資料です。

 このような資料を見た法制審議会の民法部会の委員の方々は、第三者の指摘に民法部会が耳を傾けようとしていると御理解なさったと思います。しかし、この指摘をあらかじめしたのは内田参与です。これは、同一人物が法務官僚でもあり、かつ研究者であるという一人二役であることを利用しつつ、かつ、審議会の場では同一人物のものであることを秘匿し、みずからが書いた論文をあたかも第三者の執筆であるかのごとき印象を与えるような資料の提出をしたことになります。

 このことを正当化するために、別の論文で内田さんは次のように書いております。私は現在、法務省に所属していますが、参与という身分で、担当者の求めに応じて学問的見地から自由に意見を述べる立場にあります。本書も、長年大学教授として民法を研究してきた私個人の考え方を自由に述べたものであり、法務省の見解とはかかわりがないことをお断りしておきたいと思いますと。

 私は、民法(債権法)改正検討委員会が立ち上げられた段階では、その委員会に入らないかと誘われ、別段、当時は法務省の意図も理解しておりませんでしたので、そこに参加させていただきました。ただ、この民法(債権法)改正検討委員会で提案される事務局原案は、余りにも跳びはねた内容のものが多く、日本国民、日本社会にとって無意味どころか有害であることも多かったので、反対意見を述べることも多々ありました。

 また、そのような反対により事務局原案が否決されるようなこともありまして、そのような経緯がありましたので、私も含め、事務局原案に反対したことがある者は、法制審民法部会には誰も参加しませんでした。先ほどの参考意見で、法制審民法部会全会一致ということを言われましたけれども、それは、あらかじめ反対意見をした人は全て排除してからの全会一致であることは御記憶していただきたいと思います。

 ただ、民法部会が発足してから半年ほど、私は、政府の公式の審議会であれば、もう跳びはねた議論はしないだろう、まともな議論がされるだろうということを期待いたしまして、沈黙を守りました。しかしながら、議事録を見ると、跳びはねた議論が続くもので、覚悟を決めました。そこで、沈黙を破りました。

 そのときに考えたことは、今回の債権法改正の本来の、ただ、秘められている目的は、消費者法制定の段階で法務省が、形式的にはともかく実質的に失った消費者契約についての権限を消費者庁から奪還することにある。そこで、自分たちが改正原案をつくった民法(債権法)改正委員会を学者の団体であると言い立てて、消費者契約についての規定を民法に移すという改正案を学者提案としようとしたのだ。そして、この問題が議論の焦点になることを防ぐために、木は森に隠せの格言よろしく、数多くの改正提案の中に消費者契約の問題を紛れ込ませた。そして、債務不履行の無過失責任とか、多くの明らかに反対を呼びそうな改正案を提示し、消費者契約の問題以外に改正案の議論の焦点を誘導した。

 このように考えた私は、「民法(債権法)改正 民法典はどこにいくのか」という本等を著し、以上に述べたような構造を世の中に明らかにしました。その結果かどうかはわかりませんが、法務省は、最初の段階では法制審議会に提案していた消費者契約に関する規定を民法に置くことは諦めたようで、この法案には消費者契約の問題は残っておりません。残ったのは、当初は消費者契約についての権限奪還の弾よけのために提起された跳びはねた改正提案だけだったのです。

 もちろん、このような改正提案には、当然のことながら、学者、裁判官、弁護士等の多くの反対があります。裁判所の中枢におられた元裁判官の中には、今回の改正は、その改正の内容も改正の進め方も、どちらも公益という姿勢に反しているのではないかとおっしゃっている方もいますし、別の裁判官は、本当に国民のための改正ですかと問い直したいとおっしゃっています。

 このような反対がありましたので、当初提案よりは、現在の改正法案は大分穏やかになっております。それでも、今回最初に述べましたような債務不履行、保証、時効、原状回復の改正点にあらわれているように、極めて深刻な問題が多々残されております。私個人は、法務省の改正原案のまま民法改正がなされることがあってはならないと考えております。制定後百二十年たった民法に改正の必要があることは事実ですから、国会の手により、よりよい改正案にしていただくことを願っておりますが、政府原案のまま改正されることには強く反対したいと思っております。

 官僚主導のもとでロースクールは大失敗いたしましたが、その愚を債権法改正で繰り返すことがないよう、よりよい審議をしていただくように心からお願いしたいと思います。

 最後に、冒頭で申し上げました「取引上の社会通念」という、今回の改正で債務不履行以外でも極めて多く用いられている文言には、非常に深刻な問題がございます。この点を時間の制約で申し上げられないことは痛恨のきわみですが、時間ですので、これで私の話を終わらせていただきます。

 どうもありがとうございました。(拍手)

鈴木委員長 ありがとうございました。

 次に、黒木参考人にお願いをいたします。

黒木参考人 おはようございます。

 本日は、このような発言の機会を与えていただきまして、まことにありがとうございます。

 私は、日弁連の消費者問題対策委員会の委員として、先ほど岡参考人がお話しになりましたけれども、多面的な議論を尽くすためにはいろいろな立場からできるだけ大勢の弁護士で議論することが重要であるとして、全国各層から約六十人弱のバックアップチームをつくって、部会の前日などに、合計すると百二十四回議論したという中にずっと加わっておりました。

 私は、事業者と比べまして情報力でも交渉力でも圧倒的に劣位の立場にいる消費者の立場から、今回の債権法の改正に関与してきました。消費者問題対策委員会では、事務方から配られる資料が来ますと、火曜日にありますので、それを金曜日までにみんなで読み込んで、金曜日に集まることができませんので電話会議で議論をし、その議論の結果を日曜日までにまとめて、バックアップに書面で出すということを百二十四回続けてきたということになります。

 なぜ、この消費者問題対策委員会がこのような情熱を持って今回の債権法改正に加わったのかということを申しますと、それは、今回の債権法改正ではまさに一種の通奏低音として契約格差の問題が意識され、議論されていたからだと思っております。

 本日、私の名前で配らせていただきました資料の一ページ目を見ていただくといいと思いますけれども、私的自治を実現するためには契約は自由に締結できなければなりません。また、その契約に拘束力がなければなりません。

 しかし、現代社会では、圧倒的な事業規模を持つ事業者がその事業規模を背景にして、情報力と交渉力を持たない者との間で契約を締結しているということが多数ございます。この契約条項の中には、一方当事者に過度に有利であったり、あるいは詳細な契約条項を理解していない者からすると不意打ちになってしまっているというような条項が散見されることは間違いありません。

 同時に、日弁連の消費者問題対策委員会では、過度の債務に苦しむ人たちの救済活動を続けております。その大きな原因が保証制度の問題である、保証人保護は重要な問題であると意識されておりました。そこで、日弁連として、債権法を改正するのであれば、保証人の保護のための改正を強く望んでおりました。

 今回の民法の改正は、消費者問題対策委員会といたしましては、以上のように深く審議過程にコミットした中での成案となっておりますので、この法案の成案を強く期待しております。

 同時に、本日資料として配付させていただきました「Q&A 消費者からみた民法改正」という冊子がございます。これにつきましては、議論した中で見送りになった七項目について言及しております。また、その他の論点につきましても、各項目ごとに「残された課題」というものを設けておりまして、今後の実務上あるいは立法上の課題について指摘させていただいております。

 これは去年の四月に上梓させていただきました。まさに法案ができた直後に、上程された直後に作成させていただいたものでありまして、このような形で議論をしていただくことについては本当にうれしい機会であります。ですから、もしもお時間がありましたら御一読いただければありがたいと思っております。

 また、今後、成年年齢の引き下げも検討されているということでございますが、十八歳になりますと、この十八歳以降の人たちというのはやはり類型的な契約弱者となりますので、今後も、消費者保護の観点からは、消費者契約法などの関連法も含めて検討していく課題が出てくるんだろうなと思っているところであります。

 ではまず、具体的な例としての保証人保護について御説明申し上げたいと思います。

 日弁連は、今回の債権法改正に当たりまして、二回にわたって保証人保護制度についての意見書を発表しております。その意見書のうち、二〇一二年のものは私の資料の七ページ以下、二〇一四年のものは十九ページ以下にあります。

 今回の改正内容は、第三者保証人についてはかなり厳格な手続要件を課しているという点で、評価できると考えております。事業に係る債務についての保証契約は、今まで多くの保証人の悲劇を生んできたものであります。

 私の地元で親しくさせていただいて、今回の民法改正について一緒にシンポジウムをさせていただきました中小企業の経営者の方がいらっしゃいます。その方は、事業を営む第三者が事業性の保証人になるということは、一度お願いしてほかの会社の社長さんに保証人になってもらうということを意味するんだ、そうすると、今度はその方からその会社の保証人に自分がなってくれと言われたら断れない、これは、銀行主導で、融通手形をお互い書き合っているのと何も変わらないんだ、こういうふうにおっしゃっていました。まさに第三者保証の問題点を鋭く言い当てた至言であると私は思っております。

 その観点から今回の改正を考えてみたいと思います。今回の改正法案と金融庁の監督指針を対比させた表を私のレジュメの二ページ以下でつくっておりますので、ごらんください。個々の点については、詳細な点は割愛させていただきます。

 第三者保証については、原則として公証人による意思確認、口授を求めている点では、ガイドラインでは意思確認の方法は単なる無方式、無様式の方法でも構いませんので、その点では評価できると思っております。

 また、主たる債務者から保証人に対する虚偽の事実の説明があり、それを債権者が知り、または知り得べき場合には取り消すことができるという規定、これも非常に重要な改正であろうと思っております。

 他方、公証人による公正証書による事実確認と同日に執行証書をつくるということが懸念されているということは御指摘のとおりであります。この点は、よく考えてみますと、本当に保証をするのかということについて保証人が公証人から確認された後、一日ぐらいもう一度考える機会を保証人に与えるということをすればよいのではないかと思いまして、例えば、これを、先立つ日という修正をすることで、この点の疑問が払拭されて懸念が払拭できるのではないかなと私自身は思っております。

 最後に、監督指針との関係で、ぜひとも今後も御検討いただきたい点が、保証履行時における保証人の履行能力を踏まえた対応でございます。これにつきましては、三十四分の三の一番最後のところですけれども、今回の法案にはありません。この点は、日弁連も、繰り返し、比例原則といったような形で何とか改正の中に入れてくれということで立法化を期待した考え方でありますけれども、今回の改正では見送られております。今後は、実務における経営者保証のガイドラインの運用などの実績を踏まえまして、何らかの形で立法化されていくことを強く期待しているところでございます。

 また次に、具体的な例としての定型約款について私の意見を申し述べておきます。

 定型約款の規定も大変重要な改正だと私どもは考えております。

 現行民法には、現代社会において重要な役割を果たしている約款について規定が一切ありません。

 この約款のうち、今回は、かなり限定された約款類型である定型約款について規律を設けることとなりました。この定型約款の規律を手がかりといたしまして、当事者の合意が希薄である約款について、どのような要件で拘束力が認められるのか、一方当事者に有利な内容が含まれている場合、合意の効力がどこまで認められるのか、また、約款提供者が約款を変更しようとしている場合、どのような場合にどこまで変更が可能なのかといった論点について、今後、裁判実務も含めて解釈が行われていくことは有意義だと思っております。

 この定型約款につきましては、実は、法制審議会で平成二十六年八月二十六日に決定された要綱仮案では、「第二十八 定型契約」と書いてあって、「(P)」、日本語がないという状態でありました。そこで、日弁連は、二〇一四年、平成二十六年十一月に会長声明を発表いたしまして、民法の改正案には約款に関する法規範を規定すべきであるということを申し述べました。このような経緯を経まして、今回、定型約款の規定を含む民法改正案が審議されているということは、私どもにとっては大変喜ばしいことであります。

 同時に、定型約款の条項の適用範囲がどうなっているのか、これは単に消費者なのか、消費者と事業者だけなのか、あるいは、交渉力が劣位にある中小事業者との関係でもその適用があるのかないのかといったような点につきまして審議をしていただくことが必要だと思っております。

 それから、事業者には、定型約款の重要部分に関する信義則上の説明義務があります。このような説明義務の存在につきましては、改正民法の施行までの間に周知徹底されていくことが必要であろうと考えております。

 約款使用者に一方的に有利な契約条項、不当条項の押しつけに対しては、みなし合意の除外規定で対応できるということは大きな改正であると考えています。同時に、通常想定しがたいような契約条項の不意打ちに関しましてもみなし合意除外規定で対応できると考えています。この周知徹底も重要な論点であると考えています。

 さらに、定型約款の変更につきましては、変更の可能性の判断基準が抽象的なものとなっております。この変更要件が緩やかに運用されてしまいますと、消費者は契約締結時には同意していない約款条項に広く拘束されることになりますので、約款変更の要件は厳格な運用が必要であるということについても周知徹底される必要がある重要なポイントであると考えております。

 あと、個別的な論点といたしましては、時効、法定利率といった大きな改正がなされております。これにつきましては、私どもも議論の中に加わっておりまして、消費者の観点からいろいろな意見を申しましたが、最終的にこの改正の必要性それ自体は是認できるものです。ただ、社会生活に大きな影響を与えることは間違いありません。そのため、法律成立後、施行までの周知期間において、いろいろな広報などにより国民一般に広く周知していただきたいと期待しております。

 最後に、残された課題につきましてお話をさせていただければと思います。

 この「Q&A 消費者からみた民法改正」では七項目の見送りの論点があるとしておりますけれども、その重要な論点の一つとしまして、暴利行為と取り消し権の原状回復といった点についてお話しさせていただきます。

 まず、暴利行為ですけれども、中間試案から最終的な要綱の取りまとめまで、何度か議論が続けられた重要な論点であります。

 今後我が国が高齢化社会を迎えていく中で、典型的な契約弱者であります高齢者に対して、高齢者などの状況につけ込んで暴利をむさぼるような事案がふえてくることは間違いないのではないかと懸念しております。そのような場合、民事ルールの基本である民法にこの問題を指摘する条項があってもよかったのではないかというのが偽らざる感想であります。今回の改正では、条項の決め方とかさまざまな問題によりまして見送りとなりました。

 ただ、民法の特別法であります消費者契約法の改定作業の中でもこの問題は意識されておりまして、過量取り消し規定が規定されました。ただ、暴利行為はこの類型だけではありません。高齢者の加齢による判断能力の低下につけ込んで高額な商品を買わせる悪徳事業者など、消費者が合理的な判断ができないなと、その状況につけ込む形での不当勧誘についての立法的手当てはやはり必要だと考えております。

 また、取り消し権の原状回復につきましても、基本的なルールが明らかになったということについては前進であると思います。

 ただ、詐欺取り消しの場合、常に原状回復義務を負担するということでは、取り消し権の実効性が担保されません。その意味で、改正消費者契約法で返還義務の特則が規定されたことは前進だと考えています。ただ、同時に、今後、民法の詐欺取り消しや強迫による取り消しについても同様の規定が用意されるべきではないかと考えております。

 最後に、私の今回の民法改正についての意見を申しますけれども、今回の民法改正は、百点かと言われたら、まだそうではありませんが、しかし、重要な改正であると同時に、我々から見ても大きな前進でございます。したがいまして、充実した審議をしていただきますのと同時に、早く国民のために新しいルールを社会に定着させていただきたい、そのように考えております。

 以上でございます。ありがとうございました。(拍手)

鈴木委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

鈴木委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。山田賢司君。

山田(賢)委員 ありがとうございます。私は、自由民主党の山田賢司でございます。

 明治二十九年に制定され、百二十年を迎えるこの根本的な法律の改正の審議に参加できること、大変光栄に存じます。本日は、質問の機会をいただきまして、まことにありがとうございます。

 そして、本日は、三人の参考人の皆様方、それぞれの専門の立場から大変貴重な御意見を賜りまして、本当にありがとうございます。改めまして御礼を申し上げます。

 さてそこで、早速御質問に入らせていただきたいんですが、まず総論的なことをお聞かせいただきたいと思います。

 今回の改正に当たっては、これまでの民法の条文に規定されていたんだけれども、考え方をいろいろ変更しないといけない部分、こういったものもあるんですが、中には、明文の規定にはなかったんだけれども、ある程度判例の理論というものが確立している、こういったものをあえて法文の中に書き込むことによって、明記した、わかりやすくした、こういった改正の部分なんかもあろうかと思います。

 こういったものを、先ほど岡参考人からはお話があったように、壊れていないものを直す必要はなしみたいな議論も一部にあったというふうに聞いております。そういった考え方は一つあるんですが、民法という、消費者あるいは国民生活にとって大変身近な法律ですから、きちんと法文に書いて周知し、わかるようにするということは非常に大事かと思っております。

 ただ、これは専門家の皆さん方では、あえて条文に明記する意味はないという議論もあったということなので、その辺の、あえて条文に明記する意義について、各先生方の御意見をお聞かせいただきたいと思います。お三方からお願いいたします。

岡参考人 先ほどの基本姿勢の一で述べましたように、我々実務家は、この条文がいいか悪いかというふうに考えておりますので、全体的に、抽象的な考え方は余りなれておりません。今回の条文一つ一つを見ていきまして、これはあった方がいいというものについて条文に残していただいた、こういう理解をしております。

 どうも、実務家らしい答えで申しわけございません。

加藤参考人 御質問ありがとうございました。

 一般論として、判例法理を民法典に取り込むということは、いい側面と悪い側面がございます。

 それは、いい側面というのは、本当に判例法として確立している、抽象的理論を取り込むことはいいことです。しかし、判例というのは具体的な事案に即しているものでございますので、そこでたまたま抽象論として述べた片言隻句を入れると、その事案にはいいけれども、一般論として不適切なものがございますので、一つ一つ吟味しなければいけないと思います。

 それから、今回の民法改正に関しまして、法務省は、判例理論を一般に取り込むということを終始一貫言っておりました。しかし、そういう方向で改正がなされたのかというと、私はそうは思いません。もしそうだったら、今回やっているところで、非常に重要な問題として、例えば民法九十四条の外観法理、こういうものを入れなければおかしいのに、そういうものは一切入れていない。そして、例えば、判例法では否定されていて、そして学界でも通説は反対している履行期前の履行拒絶を入れる。

 基本的に、今回の民法改正は、日本社会をにらんだものというよりも欧米の改正をにらんだもの、ただ、そういうことを言うと語弊があるので、判例法理を入れている。判例法理を入れているならなぜ外観法理という一番重要なものを入れないのか。言っていることとやっていることの間に食い違いがあるというのが私の評価でございます。

黒木参考人 私も実務家でございますので、余り、そういう判例が云々という大きなことは申しませんが、ただ、一定の、社会的に明確になっているルールのかなりの部分が今回の条文の中に取り込まれたのではないかと考えておりまして、その意味では、今まで読んでもわけがわからなかったものが、少しは国民にとってわかるようになりつつあるのではないかということでは評価できるものだと思っています。

 以上です。

山田(賢)委員 どうもありがとうございます。

 私の質問が抽象的だったもので、かえって実務家の方にはお答えにくかったかと思って、大変恐れ入ります。

 それでは、次の質問に。

 まず、個別の条文についてお尋ねしたいと思います。

 今回、三条の二ということで、意思無能力者の無効という規定が設けられました。これは、法制審の民法部会にも参加していただいております岡参考人にお聞きしたいと思うんですが、意思無能力者の行為は無効、意思能力を有しなかったときは無効という規定になっております。

 他方で、既に現行の七条では、事理を弁識する能力を欠く者については、家裁で後見人ですとか保佐人ですとか補助人といった者をつけて、それがなければ、要件を満たさない場合は取り消しという形になっております。

 この辺の整理、要するに、事理を弁識する能力のない方、後見人が必要な方、こういった方は意思能力を有しなかったというふうには解せないのか、この辺の重複関係というのはあるのかないのかを含めて教えていただければと思います。

岡参考人 そういう難しい話は後でじっくり法務省に聞いていただければと思いますが、この三条の二の条文につきましては、意思能力を有しないというのはどういうことなのか、そこをもう少し定義づけしようじゃないかという議論を一生懸命した記憶がございます。ただ、六歳だとか十歳だとかいう説だとか、いろいろございまして、定義化は最終的には断念をしたところでございます。

 それから、先ほどの行為無能力者につきましては、行為無能力者よりは、意思能力がないときは、その行為のときは絶対的に無効にする。最も保護に厚くするときの条文がこれだと理解をしております。

山田(賢)委員 ありがとうございます。

 もちろんこれは法務省の方に聞かないといけないんですが、審議の過程で、実務家のお立場からどういった議論があったのかなということで御質問させていただきました。

 続きまして、そういう意味ではまたこれも、ほとんど法案の中身というのは提出者である法務省に聞かないといけないんですが、今回はやはり参考人の皆様方のお立場からの御意見をいただければと思っております。

 九十五条で、錯誤、これが、従来の無効から取り消しというふうになりました。今まで無効としてきて、これは逆に、実務上不都合というものがあったのかなかったのか。あるいは、無効という言葉を使っているんですが、錯誤の場合の無効というのは、本人が反対しない限り有効にしていたというふうに思うんですね。無効なものというのは本来最初から無効なはずなんですが、この辺、今まで無効としてきて不都合があったのかなかったのか。あるいは、今回、無効を取り消しに変えることによって何らかの実務上の変更があるかどうか。

 これまた岡参考人、お願いいたします。

岡参考人 ここも随分議論したところでございます。

 判例等も踏まえて、無効にするというのは本人を保護するためのテクニックである、本人を保護するためのテクニックであれば取り消しでもいいのではないか、そういう学説もあったと聞いております。しかも、判例では、その無効は保護されるべき本人しか主張できないというような考え方もあったと思っております。

 そういう意味では、今回、最終的には、無効から取り消しに変えたことで、そう大きな変更はないと理解をしております。そういうことで、大きな変化はないと理解をしております。

山田(賢)委員 ありがとうございます。

 恐らく大きな変化はないのかなと思って、これは多分、こういうことを詰めるのは法務省に聞かないといけないとは思うんですが、実務上どういう不都合が生じて、何が変わるのかなというのがちょっとわからなかったもので、お聞きさせていただきました。

 これは、加藤参考人には無効の議論についてはかなりお聞きをしましたので、黒木参考人、この点について同じような点から御意見をいただければと思います。

黒木参考人 ありがとうございます。

 私どもの立場からしますと、無効でも取り消しでも余り変わらないねということでありまして、結局、錯誤無効で相対無効だというような話がありましたものですから、そこの点は結局は余り変わらないんじゃないか。だから、最後のところの原状回復の範囲がどうなるのかということだけが問題だなというところでありまして、余り熱く消費者側として議論した論点ではないというふうに考えております。

 ありがとうございます。

山田(賢)委員 ありがとうございます。ここが余り論点でないということがよくわかりました。

 続きまして、同じく錯誤無効のところ、九十五条。これまでは何か、講学上、要素の錯誤というものが無効だということだったんですけれども、今回、動機の錯誤で取り消せるようになったということなんです。これは、考え方によっては、勘違いしたという方にとっては取り消せていいなという反面、あんた、そう言ったじゃないか、あなたの返事を、約束を信頼して私は取引関係に入ったんだという人にとっては、大変取引関係が不安定に置かれる状況になると思うんです。

 この辺、要素の錯誤だけではなくて、動機の錯誤まで入れてしまった、これによって何か不都合が生じるのか。先ほど、加藤参考人のあれは意見陳述の中でお聞きをしましたので、何度も恐縮ですが、岡参考人、御意見をお聞かせいただければと思います。

岡参考人 何か司法試験を受けているような気になってまいりましたが。

 従前から、要素の錯誤で、重要な場合で一定の場合は取り消せる、無効になるという判例法理がございました。その法理を明文化すべきだということで、どのように条文化すれば、従来の判例法理と整合性があり、安定的な実務が実現できるか、そういうことで随分ここは議論をいたしました。

 最終的には、この九十五条の一項の本文にありますように、「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」、こういう大きな縛りを入れました。その上で、この二号で、動機の錯誤の表現として、「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する」場合、そして二項で、「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたとき」、この「表示」があるので、相手方の保護とのバランスで取り消せる場合を限定する、こういうバランスのとれた条文に最終的になったと理解をしております。

山田(賢)委員 ありがとうございます。

 そういう意味では、これも抽象的にやっているとイメージが湧きにくいんですが、ただ、これをあえてお聞きするのは、役所に聞くと、個別具体の事案についてはお答えできないということが多いもので、実務家の方にぜひ御質問したいんです。

 例えば、今おっしゃった「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なもの」ということで、認識が真実に反する場合とか、例えば閉店セールとやって、もう今だけですと言われて、これはえらいこっちゃ、買わないとと思って買いに行ったら、次の日もやはりやっていたとか、そういうケースというのは間々あることなんですね。よそよりも安いです、ここが一番安いんですと言われて、そうか、ここが一番安いんだと思って、本人にとっては、だから買うんだという、物すごく重要なことなんだけれども、実はよそにいっぱい安いところがあった。

 こういう場合、今までは、買うという行為についての意思ははっきりしているのでこれは錯誤ではなかったんだけれども、動機の錯誤まで取り消せるということになると、そのとき得だと思って買ったけれども、全然得じゃなかったということが後でわかったときに、これは取り消せることになるんでしょうか、どうでしょうか。これはまた教えていただければ。

岡参考人 試験の解答ですので、間違っていたらまた後で訂正させていただくということで。

 今の場合ですと、直観的には、詐欺があったということで詐欺取り消しに行くのではないかというふうに思います。

 それで、詐欺までいかないで、相手方が惹起した不実行為に基づいて誤った意思表示をした場合、これがこの動機の錯誤に当たるか否か、動機の錯誤の一形態なので、相手方が惹起した不実表示の場合の取り消しの規定を置こうかという議論を随分いたしました。しかし、最終的に、相手方惹起による不実表示による取り消しは実現はせず、現在の動機錯誤のところの運用でしばらくはやっていこうというふうになったと理解をしております。

 そういう変な事例があった場合、実務家はどの条文でいくか、知恵を駆使して対処してまいりますので、今のお話ですと、現在は詐欺か動機の錯誤で対処していくことになると思います。

山田(賢)委員 ありがとうございます。

 私も、余りひどいものというのは詐欺なのかなと思うんですけれども、詐欺というのはかなり認定が難しくて、欺罔されてそれでもってということなんですけれども、単に表示されていて、ああそうか、それなら買おうかということだったら、欺罔されたというところまでいかないのかなとは思うんです。

 また、もう一つの考え方を見ると、債務不履行というか、こういうものだと言って売ったのに、その債務に合っていないんだという考え方もあろうかと思うんですが、今回の動機の錯誤、これを取り消せるようにしたことによって、実際の実務の場では、消費者ないしは買った人とか、こういう方の救済にはつながるのかどうか、また岡参考人、教えていただければと思います。

岡参考人 消費者は黒木先生が専門家ですので、そちらにもお願いしたいと思いますが、十分武器にしていけると理解をしております。

黒木参考人 黒木でございます。

 本日お手元に配っておりますこの本の十四ページと十五ページに、その問題につきましては我々の考え方はまとめておりまして、十五ページに表がございます。

 そこで、つまり、今回の改正法につきましては、動機の錯誤は改正案で二重丸になりました。

 それから、今おっしゃったような閉店セール、いつまでも続く閉店セールみたいなものを御質問いただきましたが、そういうような、相手方の惹起により意思にミスが起こった場合どうなるのかということにつきましては三角とさせていただきまして、これは今後の解釈に委ねられている、排除されたものではないというふうに考えております。

 私どもとしましては、今回の国会審議の中でこれは排除されていないよねということを確認していただくことが、今後、立法者意思という形で裁判実務に大変大きな影響を与えていくと考えておりますので、ぜひとも、私どもはこれは三角だというふうに考えておりますけれども、これは三角なんだ、むしろ丸に近い三角だというふうに議論が進んでいくと、我々とすると大変ありがたいと思っております。

 以上でございます。

山田(賢)委員 ありがとうございます。

 それでは次に、時効についてちょっとお尋ねしたいと思います。

 今回、ばらばらだった短期の債権の消滅時効というのが五年ということでそろえられたんですが、もちろん、請求する側からすれば、一年、二年だったものが五年ということでは保護にはなるんですけれども、例えば飲み屋さんのツケとか、そういったものを一年から五年にして、長過ぎないかなという気も逆にして、これは先ほど加藤参考人も御指摘になられたんですけれども。

 ただ、これは決めの問題ですから、わかりにくいというものをきれいにするというのは一つの意義はあろうかと思うんです。例えば、不法行為の損害賠償請求権の消滅時効、これは知ったときから三年で、行為のときから二十年になっている。他方、債権の消滅時効は全部延びて、知ったときから五年、そして行為のときから十年ということになりました。不法行為の損害賠償請求権の方が逆に手厚くしてあげないといけないんではないかというような気もするんですけれども、知ったときからの期間は不法行為の方が短くて、行為のときからというのは債権時効の方が、起算点からの十年ということで、こちらの方が短くなっている。

 この辺について、消費者の保護というのか、被害者の保護といった観点から矛盾はないか、これは黒木参考人、御意見をいただければと思います。

黒木参考人 ありがとうございます。

 御指摘の点ですけれども、これは現行民法の不法行為が既に三年ということになっておりまして、先ほど岡参考人の方も申し上げていらっしゃいましたけれども、起算点、主観的起算点については、被害者保護の考え方から何をもって起算点と考えるかということについては判例実務がかなり精緻なものがございます。それを考えますと、基本的に、客観的消滅時効が延びるということの方が被害者、弱者にとっては保護ではないかと私どもは考えておりまして、この点につきましては賛成ということで考えております。

 以上でございます。

山田(賢)委員 同じく、岡参考人、御意見いただければと思います。

岡参考人 もう来ないかと、ちょっと油断をしておりましたが。

 まず、不法行為の時効と一般債権の時効を全部そろえた方が簡明ではないかという意見もございました。

 ただ、黒木さんがおっしゃったように、不法行為の三年、二十年が現にあるので、一般債権をすぐそこまで持っていくのは相当ではないだろうと。一般債権につきましては、商事時効が五年というのがかなり一般的でございましたので、基本的には、そこでまずは統一をするということで、一般債権の短期の方が五年になったと理解をしております。

 ただ、さっきも申し上げましたが、基本的には同じ性質ですので、生命身体に係るものについては、一般債権も五年、二十年、不法行為も五年、二十年にそろえたということで、整合性が全体としてとれたと理解をしております。

山田(賢)委員 ありがとうございます。

 それでは、加藤参考人に全然質問しなくて済みません、せっかくですから、ぜひお聞かせいただきたいんですけれども。

 今回の改正案が大変不十分だというお考えというのは私も理解をしたんですけれども、不十分な点、不満足な点というのはあるんですけれども、それでもさまざまなところで消費者の保護であるとかそういった規定が設けられていて、これをまず一旦速やかに成立させて、課題は課題としてさらにもう一度議論をしていくというお考え方というのはどのように考えられるか、お聞かせいただけますか。

加藤参考人 先ほども申し上げたんですけれども、当初の提案よりは大分穏やかになってきたことは事実です。

 現在の民事局長じゃなくて前の民事局長と、何人かの方と御一緒したときに、法務省の方が、先生、ずっと反対なさっていましたけれども、ここまで来たら賛成していただけませんかということを言い、ただ、それは局長がおっしゃったんじゃないですけれども、そのときに私がにやっと笑ったら、隣にいた法制審の委員の方が、加藤先生は大きなマイナスがある改正が小さなマイナスになったと考えていらっしゃるんですよとその法務省の方には説明しました。

 そういう意味で、法定利率とか若干、やっていいというのはあるんですよ。ただ、全体としてはマイナスだ。それはなぜかというと、日本社会のために民法を変えようというのではなくて、要するに、ある意味で法務省の権限争いとかなんかで跳びはねた改正であったものの残滓で、前よりはよくなったけれども依然としてあれなので、これをやることには私は依然として反対でございます。

山田(賢)委員 ありがとうございます。

 時間が参りましたので、終わらせていただきます。三人の参考人の皆様方、本当にきょうは貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございました。失礼いたします。

鈴木委員長 次に、國重徹君。

國重委員 おはようございます。公明党の國重徹でございます。

 きょうは、参考人の三名の先生方に当委員会までお越しいただきまして、貴重な御意見を賜りましたこと、心より感謝と御礼申し上げます。

 今回、民法の債権法の大改正ということで、論点も多岐にわたっておりますし、時間も二十分ということで限られております。また、政府に対する質疑ではなくて、きょうは参考人の先生方に対する質疑ということですので、私の方から、余り細かい条文の解釈論というよりは、例えば、岡先生、法制審議会に参加されて感じたこととか、また今後の実務の運用、こういったことについてお伺いしていきたいと思います。

 そういった観点から、きょうは、長年実務に携わってきた岡参考人、黒木参考人中心になるかと思いますけれども、加藤参考人の御意見も先ほどるるお伺いさせていただきましたので、また御容赦のほどよろしくお願いいたします。

 まず第一点目に、岡参考人にお伺いしたいと思います。

 岡参考人、先ほどお話の中で、六十名弱の弁護士から構成される司法制度調査会民法部会バックアップチームというもので、百二十四回会議がされた。こういうバックアップを受けて、岡参考人が法制審議会の民法部会の委員として最初から最後まで、五年四カ月も参加されてさまざまな意見を言ってきたということですけれども、この間、これは先ほど加藤先生からもお話もありましたけれども、いろいろ悩むこともあったかと思います。最後、絶妙なバランスでこれはできたと思っているということでしたけれども、それは最終結論であって、五年四カ月やっている間にはさまざまな悩み等もあったかと思います。

 こういったところで、岡参考人が今回の法制審議会の中で一番悩まれた点はどのような点だったのか、また、今回法制審議会に参加されて、このやり方はちょっとこういうふうに変えた方がいいんじゃないかとか、もし思う点があれば、ぜひ教えていただきたいと思います。

岡参考人 事前に通告があれば、もっといい答えをしたと思いますが。

 率直に言って、やはり社会的合意というのがこんなに難しいのか、それを一番感じました。

 まず、日弁連の中でもいろいろな意見がございました。それぞれもっともな意見、それをどのようにまとめて法制審でしゃべればいいか、これがまず最初に悩んだ点でございます。ただ、それは、日弁連は四人の委員、幹事を出していただいておりましたので、では、この点は君ね、この点は僕ねという役割分担をして出したこともございました。

 それから、やはり部会の中で、さまざまな研究者がおり、経団連さんがおり、中小企業さんがおり、消費者さんがおり、裁判官がおり、そういう中でそれぞれもっともな意見が出てきて、その中でどれを条文にしたら本当に日本にとっていいんだろう、そこが自分の個人の考えではないところでも、そっちの方がやはり社会にいいのかなと。社会にとっての判断、私にとっての判断ではなく、社会にとって、多数派にとって何がいいのか、それを考え抜いた四年九カ月だったと思います。

 実務家ではない視点、むしろ、やはり政治家さんはそういうことに日々悩んでいるんだろうなという思いをして、やはり私は政治家にはなれないな、そういう思いをしたところでございます。

國重委員 岡参考人、率直な御意見をありがとうございました。

 まさに、やはり合意形成というのは、国会においても極めてこれが難しく、重要なものでありまして、ただ、この法務委員会は、与野党ともに、非常に野党の皆さんの意見もしっかりと取り入れながら審議をされている委員会であると思いますので、またしっかりと法務委員会で充実した審議をしてまいりたいと思います。

 続きまして、第三者保証の制限に関してお伺いしたいと思います。

 先ほど加藤参考人の方から、これは商工ローンの再現に道を開くものじゃないかというような厳しい御指摘もございました。

 この改正法案では、先生方はもう十分御存じのとおり、事業用融資の保証契約は、一定の例外を除いて、公証人がその保証意思を確認しなければ効力を生じない、要は無効であると、非常に強い効力を生じさせることにして、事業用融資の第三者保証における保証人の保護を図ることにしております。

 先ほど加藤先生の御意見は伺ったとして、岡参考人、黒木参考人、長年実務家をされてきて、これが仮に改正法として成立した場合、今後、運用としてこういうところには留意してほしいという点があれば、ぜひ御教示いただきたいと思います。

岡参考人 まず、公証人のところの手続について、過去、加藤先生がおっしゃるような不祥事といいますか、余りよくない事例があったのは承知しておりますので、まず、公証人さんのところの研修といいますか法務省による監督といいますか、公証人さん自身の自覚的な運用、そこがかなり大きいことだろうと思っております。そういう指導等をぜひ国会等からしていただければと思っております。

 実務家としましては、やはり情義性の問題も含めて法教育が大事なのではないか。頼まれたら断れない、そういうところに根差しているものがございますので、法教育が随分重要になり、弁護士も努力しなければいけないというふうに思っております。

 最後に、やはり弁護士としましては、万が一トラブルといいますか事件化した場合には、今回できましたいろいろな条文を駆使して救うべきものは救う、そこで最後は弁護士が頑張らなければいけない、こういうふうに考えております。

黒木参考人 この商工ローンの問題は、実は私も債務者側でやりましたけれども、あれは、金銭消費貸借契約と複写式で委任状までつくられてしまうという、初めからもう事業者がそういう意図を持ってやっていて、しかも、その立ち会いというか、証人というのも事業者が連れてくるという中で執行証書ができていたという問題であります。

 今回の場合は、条文上は口授が条件になっておりますので、面談の上、口頭でのやりとりということが手続として必要になります。

 そうなりますと、普通の人であれば、公証人役場に行くというだけでもえらいこっちゃと思うだろうと思いますし、そこで、あなた、保証というのはこんなものだよという話をして、それについて、わかりました、私はこうですということについて口頭でのやりとりをするということになりますと、かなり心理的な負担は上がる。あるいは、後で知った、それは知らなかったということは言いにくくなるということはよくわかっていただけるのではないかと思います。

 ただ、これは、私どもも同じように消費者問題対策委員会の中から言われていることですけれども、同日、執行証書がつくられてしまったらどうするんだという話はあります。ですから、私としましては、先立つ日という形で、一般の私文書である契約証書も含めて一回公証人から話を聞いて、もう一度よく考えてみるという機会を、一晩寝ようというか、寝て考えるという機会を一回与えるというのも一つの保証人保護の関係では必要なのではないかと考えています。

 そうすると、緊急の資金融資がだめなんじゃないかという話があるかもしれませんが、保証人がいないと貸せないような緊急の資金融資というのはかなり主たる債務者が怪しいわけですので、そうなってくると、今度は、主たる債務者が正しいことを伝えていたのか、そして、それについて保証人に正しく伝えて、債権者もそれを知っていたのか知っていなかったのかという取り消し権の問題が、同時にそういうことが出てくるわけですから、正常な保証を守る、そして正常な保証が予想外の形で事業展開をしてだめになったときにも保証人がそれを理解するという点では、一晩寝るというために、先立つ日にという形で修正すると、今のような問題はかなり軽減されるのではないかと私は考えております。

 以上であります。

國重委員 貴重な御意見、ありがとうございました。

 私もここは結構重要であると思っておりまして、例えば公正証書遺言、私も弁護士時代、相当数、かなりの数つくりましたけれども、遺言者と一緒に公証役場に行って、証人が二人必要なので、私と弁護士事務所の事務員が一緒に行って証人になるということでつくりました。

 公正証書の民法上の条文というのは、「遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。」ということで、これも口授ということが書いてあるんですけれども、実際に実務上どうやってできているかというと、先生方も御存じのとおり、私が遺言者から話を聞いて、遺言者ないしその親族とかいろいろ話し合いをして、事前に下書きをほぼ完璧な形でつくって、それで必要書類等も、公証役場に通帳とかいろいろな必要書類は先にファクス等で送って、事前に下書きを送っていますので、公証人としてはそれをただ、仮にちょっとした言い回しのミス等があればそこは若干直してもらうところがあるにしても、ほぼそのままそれを書いている。

 遺言者は、行った場合に、それを自分で読むのではなくて、公証人がそのままずらっと読み上げたものを、これでいいですかと言って、はい、結構ですというようなことが実務上公証役場でも行われていますし、場合によっては、余命幾ばくもないような、少しふらふらで、病院ではなくて家で最期の瞬間をまさに迎えようとされている方というか、そういう方の場合は、家にまで出張で、出張費を払って公証人に来ていただいて、その場合はあらかじめほぼできたもの、こう言うとあれですけれども、どこまで判断能力があるかどうか若干懸念があるような場合も、今までの公証人というのは、私の経験では、少し緩やかに、柔軟に認めてくださっていたような気がするんです。当然、それが、後で意思能力がなかったとかということで無効の裁判等を起こされる場合もあるかもしれませんけれども、実務上かなり柔軟な運用がされてきたんじゃないかというのが私の実感でございます。

 そうすると、そういった運用と今回の保証意思の確認というのは同じであってはならない、これは当然のことでございまして、こういった観点から、さまざま、今後政府に対する質疑でもここは確認していきたいと思っております。

 続きまして、今回、民法の債権法の大改正というのは、市民生活に大きくかかわることでございます。当然、弁護士会等でも今研修等をされていることと思います。これで、例えば高齢の弁護士の先生がもう俺はやらなくていいんだということで、しなくて、弁護過誤が起きるようなことがあってはならぬということですので、しっかりと弁護士会でもしていただいていることと思います。

 また、先ほど岡参考人の方から、法教育が重要だというようなお話もいただきました。その上で、現場の第一線で奮闘されている先生方からした場合に、この民法というのがいろいろな、まさに市民の生活の基本にかかわるということで、政府に対して、この周知が極めて重要だと。では、政府に対してどのような周知をすることを求められるか、できるだけ具体的に、こういうことを政府に望みたいということがあればぜひ言っていただいて、私もそれをもとにまた政府に対して質疑をしてまいりたいと思いますので、ぜひ御教示のほどよろしくお願いします。

 これは、一応、加藤参考人も、この法案には反対ですけれども、仮にできた場合にということを前提で、できるだけ簡潔に三名の参考人にお話しいただければと思います。

岡参考人 私の資料の十四分の十二をごらんいただきたいと思います。

 上から七行目ぐらいに、民法の所管官庁である法務省において、市民に対する広報、説明会、講演会の実施、関係団体への個別通知などを徹底していただきたい。当然、当連合会もやりますが。

 第二に、法務省民事局参事官室の責任において、わかりやすい解説書を、従来の一問一答の倍ぐらいしっかり書いて、しかも早急に書いていただきたい。この書物は非常に重要であると思っております。

 第三に、施行までの十分な期間が必要であろうというふうに思っております。ただ、提出から一年半もたっておりますので勉強は進んでおりますが、施行までの期間は十分にとっていただきたいと思います。

 それから第四に、経過規定、これも重要だろうと思っております。案が出ておりますが、それをきちんと見て、それの実施に努めたいというふうに考えております。

加藤参考人 別に、どの条文について啓蒙活動が必要かという形で条文を見ていたわけではありませんので、見落としもあるかもしれませんけれども、私が見るところ、年金等とは違いまして、この条文を知らないと市民が、わあ、こういう損をするよというのは、ぱっとは思いつきません。

 そういう意味では、一般的な法教育といいますか啓蒙活動は必要だと思いますけれども、この点についてやらないと市民が困るよというのは、後でやって思いつくかもしれませんけれども、今の段階では思いつきません。

 そういう意味では、一般的な啓蒙活動の一環として、これは基本法でございますから当然知っていただく必要がありますし、特に法曹関係者、準法律家も含めて、そういう人たちはこれを知らないと非常に問題ですから、そういう人たちの教育が非常に重要だろうと思います。

黒木参考人 私の立場から申しますと、国民の皆様方がこの民法について知識を、詳しく知る必要があるということはフィクションだと思います。ただ、消費生活センターの相談員の方々とかが最も市民にとって身近なトラブルの相談の窓口ですので、そういったような方々に対して、やはり何らかの形で政府としてはこの新しい民法のルールを伝える。

 それから、地域包括支援センターとか、そういう高齢者の方々と日常的に接する立場の方々もいらっしゃいます。こういう方々にとりましても、やはり民法のいろいろな問題点を知っておくということは、高齢者がいろいろ今後の問題点にぶつかったときにまず相談を受ける方ですので、そういった方々を一つのターゲットとしてやっていただければと思います。

 企業法務の人は、ほっておいても自分たちで勉強するのでいいんです。そういう人たちはもう置いておいてもいいと言ったら語弊がありますけれども、やはり、そうじゃなくて、普通の市民生活を営んでいる人たちにとって、民法が変わるか変わらないかというのは、身近な問題ではありますけれども、トラブルにぶつからぬ限りはほとんど気がつかない問題ですので、今のような方々に周知徹底を、これはある程度政府として命令、命令と言ったら変かもしれません、何かのそういう機会を与えてやることができるのではないかと思いますし、そういう方々がこのセクターとなって周知徹底していただければ余り混乱が起こらないのではないかと思っています。

 以上です。

國重委員 貴重な御意見、ありがとうございました。

 しっかりと今の御意見を踏まえてやっていきたいと思いますし、また、一問一答形式の解説書等も、やはり当委員会の審議の充実ぐあいによってより充実したものになると思いますので、しっかり頑張ってまいりたいと思います。

 最後の質問をさせていただきたいと思います。

 先ほど加藤参考人は、四百十五条、債務不履行責任に関して、無過失責任なのか過失責任なのか、ぜひこれを今後の審議で問うてほしいというようなことでおっしゃいましたけれども、今後の法務委員会の審議というのは極めて重要になってまいります。

 こういった観点、先ほど加藤参考人は今のところでおっしゃいましたけれども、岡参考人、黒木参考人に最後に簡潔に教えていただきたいのは、今後、我々、政府に対する質疑、また参考人の方も来られるかもしれませんけれども、そのときどういうような質疑を望まれるか、これに関して最後にお伺いしたいと思います。

岡参考人 それは四百十五条に関してということではなくてですね。(國重委員「違います。今後の審議全般です」と呼ぶ)はい。

 私どもとしては、この法案については迅速に成立をさせていただきたいと思っておりますが、冒頭に述べましたように不十分な点もありますので、その点について、先ほどのような金融庁に対する指導でありますとか法教育でありますとか、国会でなければできない仕事があると思いますので、国会が何をするのか、何をしたらもっとよい施行になるのか、そういう観点で議論していただければとてもありがたいと思います。

黒木参考人 ありがとうございます。

 私の立場からいたしますと、実はよくわからない、まだ最終的によくわかっていないところは、定型約款が、本当はB―Cといいますか消費者にかなり近い事業者みたいな人たちが、フランチャイズの加盟をしている人とか、事業者なのか消費者なのかよくわからない人たちがいまして、そういうような人たちについてのこの定型約款の適用はどうなのかといった点については、ちょっと私、個人的にはぜひ議論をしていただきたいと思っております。

 ただ、先ほど申しましたとおり、この法律ができることによってその議論の場が、今まで全く手がかりがないのが、今後、国民のみんなの前に定型約款という考え方が示され、そして、それによっていろいろな考え方がまたこの解釈をめぐって国民各層から出てくるということになっていくことは非常に重要なことでございますので、その手がかりになるのはここの審議でしていただければありがたいと思いますけれども、本当に、まずそういう形のルールをいただきたいというのが偽らざる気持ちです。よろしくお願いします。

國重委員 以上で質問を終わりたいと思いますけれども、きょうは、三名の参考人の先生方、率直で貴重な御意見を賜りましたこと、心より感謝と御礼申し上げます。

 ありがとうございました。

鈴木委員長 次に、井出庸生君。

井出委員 民進党、信州長野の井出庸生でございます。

 きょうは、三人の先生方、急なお願いにもかかわらずお越しをいただきまして、大変ありがとうございます。私は終わらない閉店セールでスーツを買っている口ですので、きょうは優しくいろいろ教えていただければな、そんなふうに思います。

 早速質問に入ってまいりたいのですが、まず、これは弁護士会の黒木先生に伺いたいのですが、消費者のお立場ということを専門にやってきたということで伺いたいのです。

 地裁の民事の第一審訴訟事件数というものを、私、ちょっとこの法案審議に当たって調べたのですが、戦後は三万七千七百六十三件、昭和二十四年という数字がありまして、平成二十一年がピークで二十三万五千五百八件、民事第一審訴訟事件の新たに受けた件数ということでございます。それがどういうわけか、偶然にもこの民法改正の法制審の時期と重なるんですが、だんだん訴訟事件の数が減っていきまして、平成二十六年には十四万二千四百八十七件となっているんです。

 民法の法改正がされたときに、裁判になったときが一番の民法の出番なのかなと思うんですが、訴訟全体の、これも債権法に係る件数ではないので私もこの判断が難しいんですが、債権法に係るところの訴訟ですとかADRですとか、そういうものが一体ふえるのか、また、その質がどのように変化すると予想されていらっしゃるか、忌憚のないところを教えていただければと思います。

黒木参考人 ありがとうございます。

 非常に難しい質問でありまして、私個人もわかりませんが、かつて、二十一年ごろのは、過払い金の事件が非常に多かったために一時的に起きた現象だと考えています。

 それで、今回の民法が改正になったときに、裁判実務の中でこの民法が問われることは間違いないんですけれども、それが事件数とどうなるのかということについては、私は、さほど、余り変わらないんじゃないかなとは思っています。結局、社会のベースとなる紛争がどれくらいあるかということが裁判件数の増減に物すごく影響、過払い金の場合は過払い債権者がいっぱい、今まで債務者だと思っていた人が債権者になっちゃったという事実があったからどっとふえたわけでありまして、民法が変わったからということで社会の紛争形態が大きく変わるのかと言われると、余り変わらないんじゃないか。

 むしろ、特に企業法務の人たちを中心に、いろいろなことを考えて、トラブルにならないように一生懸命やり始める可能性があって、弁護士からするとむしろ紛争は減るんじゃないかなという気もしますけれども、こればかりは、ほかの経済状況とかも影響しますので、私は何とも言えません。

 これが直ちに、民法が変わったから、みんなして施行日の次の日に訴状をいっぱい持って弁護士がいっぱい行って、どっと裁判所に訴状を出すなんということはちょっと考えにくいので、やはりそこまではないんじゃないかなという気がしております。

 以上です。

井出委員 ありがとうございます。

 これまでの民法がシンプルで条文も抽象的であった。それが、前回、法務委員会の中で私が質問したときに、条文の量は減ったところもあるのでそんなにはふえないんだけれども、具体化はしたというようなことを民事局長がおっしゃっていたんですが、要は、抽象的な民法ですと、抽象的だからゆえに話し合いがつくということもあれば泣き寝入りもある、抽象的だからこそ訴訟ということもあるんじゃないかと思うんです。

 先ほど先生も関心があると言われていた定型約款のことについて、これは、二〇一五年七月の法学セミナーという資料の中で河上正二さんという方が論文を書かれているんですが、今回、定型約款が、定型取引を合意した者にあっては、一つには、契約の内容とする旨の合意をした、または二つ目に、定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたときには、定型約款の個別の条項についても同意したものとみなされるものとしていると。

 この河上さんは、特に後者のケース、定型取引に同意したというだけでは、相手方、顧客の約款内容に対する同意の要素が完全に否定されており、民法の根幹にかかわる私的自治、意思自治の観点から問題が極めて深刻だと。

 少し中略をするんですが、今回の民法の改正、新たな約款の規定ですと、その約款の受領者は、採用合意のレベルではなかなか争うことが、する余地が少なくなって、断念をしてこれに従うか、または裁判所に出向いて条項内容の不当性をこのみなし規定を打破するというレベルの問題として争うほかないことになると。

 そういうようなことを論文に書かれているんです。

 ある程度ルールが具体化されると、社会一般上の契約の世界にあっては、こういうルールです、そうなんですかということになって、それがどうしてもおかしいということになれば裁判になると思うんです。

 ですから、裁判の質の変化というところは少し、今までの、よくわからないから裁判をしてみようから、より先鋭化するのではないかというような懸念を持っておるんですが、その点については、先生、いかがでしょうか。

黒木参考人 今の御質問は、まさに定型約款の拘束力の範囲が、どういう約款が定型約款としてこの規制に適用されるのかということがまずわからないとよくわからない話ではありますけれども、御懸念の点は確かにあるかもしれません。

 そこは私にも何とも言えませんが、ただ、今、消契法、消費者契約法十条とかでもこういう問題がありまして、それについては適格消費者団体が裁判を起こすことができているのですが、では、適格消費者団体が消契法十条に基づいて、私も福岡の適格消費者団体の理事をしておりますけれども、いっぱい裁判をやっているのかというとそんなこともないわけでして、これが個人の問題になったからといって、直ちに裁判がふえるのか、裁判が混乱するのかというと、余りないんじゃないかなと思います。

 今は何が何だかわからないわけです。今、よくわからない条項に基づいて拘束されているか拘束されていないかもわからないという状況が、ここは確実に拘束されるねとわかるということは、むしろ紛争が減る方向に行くかもしれないなと思っていますけれども、これはもうまさに適用されてみないとわからないので、私としては感想めいたことのコメントになります。済みません。

井出委員 ありがとうございます。

 次に、岡先生に伺いたいのですが、先ほど加藤先生の二十分のお話の中で少しお話があったんですが、これは二〇一三年ごろになるのですか、法律時報の八十五巻三号から少し引いてきたんですが、民法改正、全国弁護士千九百人の声ということで、弁護士の声を民法改正に反映させる会事務局がアンケートをされている。

 この文面を見ますと、当時、中部弁護士会連合会司法制度調査委員会は、会として正式に会員の意向調査をする、山梨県弁護士会も同様のことを考えられていたということで、そのアンケートの結果を見ますと、賛成意見百七十六、反対意見千三百七十八、各設問も五段階の評価をして、五が一番大賛成、一は大反対、その平均値をとると一・九で、極めて慎重な弁護士さんが多いということをこの論文は言われているわけなんです。

 先生が冒頭おっしゃられた、弁護士会の中でさまざまな体制を組んで賛成に至ったというところも十分理解はできるんですけれども、例えばこういった声というものは具体的に弁護士会の中でどういう位置づけ、取り上げ方、議論があったのかをちょっと教えてください。

岡参考人 今でも一部の方に反対の弁護士がいらっしゃるのは事実でございます。

 過程の中で段階がそれぞれございまして、当初の中間論点整理のあたりでは、論点数も相当多うございましたし、やや過激な論点もありましたので、それを対象にすると反対という意見も多かったように思いますし、バックアップ会議あるいはその前の単位会の会議でも、そういう意見のある方で会議に出てきていただいた方とはしっかり議論をしていきました。その上で、最終的にはどんどん煮詰まって、最後のこの法律案になったもの、そこについては大多数の賛成が得られているというふうに理解をしております。

 ただ、反対の方が今でもいらっしゃるのは事実でございます。

井出委員 ありがとうございます。

 次に、加藤先生に伺いたいんですが、加藤先生には、私の方からちょっときょうは個別にお願いをした経緯もございまして、特に、三人の先生方の中で、法案に対する慎重な意見を述べていただきました。

 民法改正について本当に長い間かかわられてこられたというところは、きょうの二十分のお話で大変理解をしたんですが、一つ、先生の御経歴の中で、国際ファイナンスリースに関するUNIDROIT条約、この日本政府の代表代理をされたり、UNIDROITリース条約草案・ファクタリング条約草案起草委員というのを先生はされていたと伺っているんですが、ちょっとこれについて簡単な説明と、また、このお立場が先生の民法改正案に対するお考えに何か影響があれば教えていただきたいと思います。

加藤参考人 確かに、民法改正で、初め、民法(債権法)改正検討委員会というのは、法務省は学者の団体だとは言っていますけれども法務省の方がすごくかかわったあれで、それに誘われたということを申し上げましたけれども、私、民法改正でここまで発言しますと何か反体制派のように思われがちなんですけれども、私は別に全然反体制派でも何でもなくて、ごく普通に行動していましたので、政府の委員や何かもたくさんやっております。

 今おっしゃった国際リース条約やファクタリング条約をつくるときにも、これは外交会議というのでつくりました。私は当時国立大学におりまして、外務省に出向していきました。外務省に出向したときに、外務省が私をピックアップしたという形式にはなっていますけれども、これは法務省の推薦だと思います。法務省とも別に全然険悪な関係ではなく、法務省の仕事を今までも手伝っていましたし、法制審の民法部会の委員を、この債権法改正ではなくて、やっておりましたし、司法試験委員もやっている、ごくごく普通の関係。

 ただ、今回の民法改正も、そういう意味で、最初に誘われたとき、ごく普通の官庁の仕事で、また、私は民法を改正すべきだという立場でしたから、ごく素直な気持ちで行ったんですけれども、余りにも改正案の原案が跳びはねているので、一つ一つに反対せざるを得なくて反対していった。そして、三年ぐらいしてやっと、民法改正の基本方針が出た段階で、ああ、ここまでやってきたものの背後には消費者契約法の問題があったとやってきたのが三年たった段階で、そういう状況でございましたので、リース条約とか何かつくったときにはごく普通の、よくある学者。私はいわゆる、お役所の言うとおりに動く立場でもありませんので、すさまじく重用されたというわけでもないんですけれども、ごく普通に官庁とつき合っておりました。

井出委員 国際的なお仕事もされたというところを伺いたかったんですが、ざっくばらんにいろいろとお話をいただきまして、ありがとうございます。

 先生の御本の中から一点伺いたいのですが、今回、約款というものが全然民法にないじゃないかということで定型約款を設ける。先生の御著書「迫りつつある債権法改正」の中で、実は約款の適正化というものは長らく論じられてきている問題だと。

 昭和五十九年の第九次国民生活審議会の消費者政策部会の中で、「解釈に疑義がある場合は作成者である事業者に不利に解釈すること。」と。このもととなっている、昭和五十六年十一月に出された第八次国民生活審議会消費者政策部会報告においては、「事業者からの変更及び解消 消費者は、契約内容に将来変更がないものと考えて契約を締結するのが通常であり、また、事業者は、将来起こり得る危険の負担を織り込んだ上で契約内容を定めることができる。したがって、事業者から理由なく契約内容の変更又は解消を一方的に行うことは許されない。これを行うことができるのは、合理的な事由のある場合のみに限定し、また、その事由を明確に示す必要がある。」と。

 これが第八次の報告の中で言われていることなのですが、この約款作成者不利の原則ということが、今回の民法の定型約款の新たな規定の中で何か、これまでどおりなのか、それが大きく変わってしまうのか、先生の御意見をいただきたいと思います。

加藤参考人 ありがとうございました。

 約款につきまして、現行民法に規定がないので約款を規定すべきだということ自体は、私はあるべき方向だと思います。ただ、当たり前ですけれども、規定するというときは、規定の内容がよくなければいけないわけですね。

 ごくフラットに考えまして、契約をつくった人と、ああそうと言ってサインする人だったら、つくった人の方が有利なのに決まっているんです。ですから、約款というのは常に作成者の方に有利で約款適用者に不利になる可能性があるので、世界的に、いわゆる約款作成者不利の原則という、解釈に疑義があるときは約款作成者の不利に解釈しようとか、そういう議論がなされています。

 それがここのところに反映しているかというと、反映はしておりません。ただ、反映していないのが大問題かというと、ほかの国の事情を見ても、約款作成者不利の原則で決定的なことがあったと私は思っておりませんので、それがないことが大問題だとは私は特に思っておりません。

 ただ、今回の約款法の改正で大問題なのは、約款作成者に事後改定の自由を認めたんですね。

 これは、今までの、法制審ができる前に、まだ経済企画庁の国民生活審議会が議論したときに、そういうことがあってはいけないということは何回も何回も議論されていましたし、ドイツ民法が改正されましたけれども、ドイツ民法では、約款の中に約款作成者の改定権を入れた場合にはそれを無効とするとなっているんです。

 それを、今度の民法の改正は、何も書いていなくても、作成者の自由を法律で認めちゃったんですね。世界的にちょっと考えられないので、さっき先生がおっしゃった河上正二さんというのは約款の専門家なんですけれども、この河上正二さんも含めて、この約款の規定は何だろうと言っている民法学者が極めて多い。恐らく、つくる方には有利ですから、これを推進する方々がいることも事実ですけれども、これは世界的にはかなり異様な約款の規定だと私は思っていますし、これは私個人じゃなくて、学者の方々、もしほかに今後聞いていただいたら、約款の普通の研究者はそう思うと思います。

井出委員 どうもありがとうございます。

 最後、保証の関係を黒木さんに伺いたいのですが。

 民進党は、個人の保証について、これまでも厳しくすべきだという法律を出してまいりまして、保証人が法人である場合や保証人が主たる債務者である法人の代表者である場合、それ以外は原則として認めない。

 そしてまた、今回の法案については、それもさることながら、その前段の公証人というものについても、果たして本当に機能をするのか、また、これまでの議論で、今回、公証人にも行かなくていい例外で配偶者というところが残っていて、これは極めて前近代的ではないか、そういう指摘があると思うんです。

 先生のお立場、先生のお考えで、ここを、さらなる改正、もっと改正を踏み込んだ方がいいとお考えなのか、そのあたりを少し教えていただきたいと思います。

黒木参考人 ありがとうございます。

 まず第一点の公証人に対する口授の問題でございますが、先ほどもいただいておりましたけれども、遺言の場合は、口授をする側の利益があって、自分の遺言意思を公証人によって確定させていただくことによって自分の意思に基づく遺言の効力が発生するという意味で、発言者に利益があるわけです。ところが、今回の場合は保証債務を負担するということでありますので、本人にはほとんど利益がない。こういう、利益状況が違います。

 そのような場合に、公証人が、あらかじめ金融機関がつくってきた文書みたいなものをばっと持たされて、それで、あなた、こういうことだけれども保証人いいのというような形の、そういう形式的な口授と意思確認をするのか、それともより踏み込むのかというのは、やはり実務の問題ではあると思いますが、これは利益状況が百八十度遺言とかと違うわけです。

 そのあたりはぜひとも、法務省等々のお力もあって、やはり保証人に対する口授の仕方というのは、不利益、公証人によって口授することが本人にとっては死活問題になる、しかも、人の債務によって自分が死活問題になるというものですので、自分の財産を自分の死後どうするかという遺言とは全く違うわけですから、そこについての公証人の説明義務の程度、内容の深化というのは違うということをぜひお願いしたいと私は個人的に思います。

 そういうことを公証人から言われると、公証人の方というのは結構年ですので、なかなか、聞いている方も、結構大変なことが起こるんじゃないかなというふうに思うんじゃないかなと思いたいと思っていますので、そういう点でまず一つ。

 それから第二点、配偶者の問題は非常に重要な問題であると思っております。

 これは結局、旦那が失敗したら奥さんも一緒にまとめて保証して、二人して破産しろみたいな、そういう思想が背景にあると思っていますけれども、やはりそれは、現在の社会的な中ではそういう見解、そういうような事実が全くないわけではない。結局、いろいろ議論をした結果、やはり必要だということで押し切られてしまいましたが、この結果として、例えば、離婚してももとの旦那の保証債務だけが乗っかってくるといったような事例もあります。そうなってくると、今度は奥様の再建というようなこととか、旦那が離婚した後何しているかわからないのにいきなり保証債務だけ飛んでくるとか、そういうような事例がいっぱいありますから、今後そういうことについてもいろいろな審議を深めていただいて、これは最終的にはいろいろな形になるかもしれませんけれども、例えば、いわゆる事情変更みたいなもので、旦那と当時は現に事業に従事していたかもしれないけれども、そのままけんかしちゃって別れちゃったから、これは保証債務の効力というのはどうなんだみたいな論点というのも今後何らかの形で裁判実務では考えていきたいと思いますし、この中でも、そういう点についてもどうなのかと。

 事業に現に従事するときが成立要件ですけれども、存続要件は何なのかみたいな話をしていただくこととかも含めて、やはり配偶者の問題というのは重要な問題だと私は思っておりますので、ぜひ、できたらそこは修正していただきたいんですけれども、なかなか、いろいろな形の中でこうなってしまっておりますので、そのあたり、今後、特に離婚した後とか、本当に、相談を受けていてかわいそうだなと思います、もう養育費ももらっていないのに突然連帯保証債務だけやってくるみたいな形が現場でありますので、そういうことも考えていただければと思っております。

 以上です。

井出委員 三人の先生方、貴重な御意見ありがとうございました。

 どうもありがとうございました。

鈴木委員長 次に、藤野保史君。

藤野委員 日本共産党の藤野保史です。

 きょうは、参考人の先生方、御多忙の中、大変貴重な御意見を聞かせていただきまして、本当にありがとうございます。

 三人のお話をお聞きして、この民法典の改正、四年九カ月間の審議にさまざまな形で主体的にかかわってこられた、その思いといいますか熱意というものを本当に強く感じました。私自身も、そうした大変重要な法案審議だということを、改めて、決意といいますか覚悟といいますか、それを今固めているところであります。本当にありがとうございます。

 その上で、論点としては大変多岐にわたるというふうに思います。その大前提としまして、岡参考人がきょう御提出いただいた基本姿勢、岡参考人の資料の十四分の四に当たるところなんですけれども、この基本姿勢がやはり大事かなと思っております。

 とりわけ、私も先日の質疑で聞いたんですけれども、四番目の「専門的知識や情報の量と質または交渉力に大きな格差のある消費者・労働者・中小事業者などが、理由のない不利益を蒙ることがなく、公正で正義にかなう債権法秩序を構築できる民法となるように積極的に提言する。」ということでありました。この視点というのを私は大事にしたいなと個人的には思っておりまして、この点で、今回いろいろ審議があってというお話もありましたが、この角度から見て、参考人の皆さんは、この法案、どうなっているというふうにお感じなのか、お聞かせいただければと思います。

岡参考人 この点はなかなかハードルの高い点だったと理解をしております。明確に弱者保護ということを打ち出しますと、やはり経済界等から反対が多かったということで、論点から落ちたのも多々あるように理解をしております。

 ただ、その次の五ページを見ていただきますと、やはり、保証人保護の拡充につきましても、弱者になり得る個人の保護に役立つと思いますし、定型約款の明文化につきましても、若干狭い要件立てではありますが、弱者の保護につながるものだと思っております。重要ルールの明文化のところでも、意思能力の無効の明文化というのは、やはり高齢者の方々に対する前進だと思っております。その下の、賃貸借契約終了時の原状回復義務で通常損耗を除いた、判例法理の明文化ではございますが、そういうところで一歩進展はあったと思っております。

 ただ、これは、暴利行為の明文化でありますとか信義則の考慮要素の明文化でありますとか、そういうところでは今回一歩及ばなかったところでございますので、次に向けて社会的合意の形成に努めていきたい、こういうふうに考えております。

加藤参考人 ありがとうございました。

 なかなか、法というのは、いろいろな法があって、役割分担をしていると思うんですね。ですから、取引でも、大企業同士の取引もあれば市民間の取引もあれば大企業と消費者との取引もある。それのときに、基本的に、民法というのはフラットな関係を規律する、そして消費者法とか労働法とかそういったもので弱者を保護する、そういうふうな役割分担ができている法体系になっております。

 そういう意味で、今回の民法改正が、では弱者保護にすごく資するかというと、特に資するとは私個人は思っておりませんが、そのことは、改正方向としてけしからぬというよりは、もともと役割分担として民法がそういうものなんだから、民法の改正ではそういう形、これは、今でも消費者契約法の改正が進んでおりますけれども、そういったところでやる。

 要するに、民法というのは全てに適用されますから、弱者保護の規定があると大企業同士の取引も規制されてしまうんですね。ですから、それは法の役割分担ということで仕方がないことかなと思っておりまして、その点では、私、今回の改正について問題があるとは思っておりません。もともと民法はそういうものだと。

黒木参考人 私どもとしましては、一番最初の意見のときに申しましたけれども、民法改正の議論の中の通奏低音として契約格差の問題はずっと意識されていたと思っています。この事実認識が正しいかどうかというのはまたあれでしょうけれども、そう思っていましたし、その立場で関与していました。

 その中で、いろいろな、例えば暴利行為の議論とかも、最後の最後まで、要綱仮案がまとまる直前ぐらいまで議論をされていました。議事録の中でも、貴重な、いろいろな判例の読み方といったようなことも含めた熱い議論がされていたというところから考えますと、民法の中に、今の社会は、やはり、巨大な事業者と、そうじゃない事業者と、それから本当の、そんなところと無関係にただ単に生きているというか、普通の消費者として消費生活をしている人たち、いっぱいいろいろな多様な層があって、そういうような中のルールのある程度一般化できるものは民法の中に取り込もうという意見があったということも承知していますし、それは一つの考え方であると思っていましたし、私ども消費者問題対策委員会では、民法の中に、何かの規定で、事業者と消費者の定義規定ぐらい置いてくれという議論も最後までしていました。

 だから、そういう意味においては、トライしたということは間違いないし、その中で、トライした結果として、もちろんそれが入ることによっては解釈の幅が広がり過ぎちゃって、先ほど加藤先生がおっしゃったみたいに、巨大企業同士のMアンドAみたいなところにそんな議論が入ってきたら困るじゃないかとか言われてしまうこともあることも十分承知しておりますので、一定程度、そこはできなかったものもあります。

 ただ、先ほど岡参考人もおっしゃっていましたけれども、我々とすると、この日弁連の評価はそのとおりだと思っていまして、個人保証とか定型約款といったようなところでは、かなり前進した、新しいルールができようとしていると思っています。

 以上です。

藤野委員 ありがとうございます。

 そこで、今お話も出ました個人保証と約款につきましてもお聞きをしたいと思うんです。それぞれ、前進面というところと、やはり懸念もあるということでお話しいただいたと思うんです。

 とりわけ、個人保証でいいますと、第三者の場合は、いわゆる公証人による手続ということが今回加わったわけですけれども、先ほど来、法教育の話もありまして、なるほどなというふうにも思いました。

 改めて、情義性という部分がどうしても、最後、どうクリアできるのか、手続的にこれを担保できるのかというのがあると思うんですが、この情義性ということに関して、今回の法案はどういう議論を経てこういうことになったのか、あるいは参考人はどうお感じなのか、ちょっと改めて三人にお聞きしたいと思っております。

岡参考人 最終的には、情義性は民法では対応し切れないのではないかというふうに考えました。軽率性については、公証人手続等で自立支援の方向で対処はできますが、情義性の点でいくとすれば、実態判断をして、一定の場合無効にするという手法しかないように思われまして、それは、今の民法としては相当ではないのではないかというふうに思います。

 まあ、時代はだんだん変わってきておりまして、亭主あるいは妻の保証なんかやらない、そんなのは当然だというムードも、私の子供を見ている限り、ふえてきておるように感じますし、保証被害がこれだけ報道される中で、やはり国民の意識を変える、政府あるいは弁護士等がそちらで頑張るしかないのではないか、個人的には私はそう思っております。

加藤参考人 民法は個人の意思に基づくものでございますから、情義で、気持ちからそういう形に来ることについて手当ては非常にしにくいんですね。

 ただ、保証に関しましては、実はこの民法改正に先行しまして、経産省の中小企業庁とかそれから金融庁がかなり強い規制をしております。そういう意味で、そちらの方で、情義そのものを全て、情義に焦点を当てたことは不可能ですけれども、かなり法整備がされてきていますので、前よりは状況がよくなったと思っています。

 それから、そういう情義とは関係なく、公証人をスクリーニングに使うということは危険性が伴うということをさっき私申しましたけれども、また別の話がありまして、公証人役場に行くのは嫌だという人はたくさんいるわけですね。それのときに、そうおっしゃるならば、では連帯債務にしてくださいとか重畳的債務引き受けにしてくださいといったら、連帯債務でも重畳的債務引き受けでも全部同じ機能を持てるんですね。ですから、保証だけこういう危険回避をやっても全く意味がない。私は、この提案があったときから、保証をやるならば、保証と連帯債務とそれから重畳的債務引き受けを三位一体でやらなきゃ意味がないですよということをずっと論文とか何かで言っていたんです。保証だけやっても、保証にするための公証が嫌だったら、それじゃ連帯債務にしてくださいと言ったらおしまいなので、余り意味がないと私は思っています。

黒木参考人 ありがとうございます。

 なぜ第三者が保証するのか、まさに情義だと思います。私も言いましたけれども、中小企業の社長さんのお話で、自分で保証をお願いした、そしてなってもらったら、その人から頼まれたら俺はならないとは言えない、これが情義性の中心を占める感覚で、それは彼の言葉によると、融通手形の書き合いだ、まさにそのとおりだと思います。この点は非常に重要な、保証の悲劇を生む根拠でもあると思っております。

 それにつきまして、先ほど申しましたけれども、今の金融庁のガイドラインでは、これについて、合理的な判断をしているということを確認できればいいということだけなんですね。

 それについて手続要件を課す、公証人のところにわざわざ行くというようなことで、そこでやはり、頼む方も、公証人のところまで行ってください、それだけお願いします、では、わかった、そこまで行こうというところで、その情義性というものが手続的にもスクリーニングされるということを期待したいと思っています。

 そこまでしても、書き合い手形になるということをわかってもやらなくちゃいけないという中小企業の経営者の人たちの実態というのが否定されているわけではないと思いますから、そういうものはあるんだ。しかし、それはもう本人がそこまでやった。

 前は、当然のように、行きもせずに、銀行員も、署名させて印鑑を押して、印鑑証明書があれば二段の推定で連帯保証だみたいな実務があったわけです。今だとそれが少しずつ変わってきてはいますけれども、これが大きく変わるということで、やはりお互いに、大体、銀行が保証人を連れてこいと言わない限りは保証人を頼みに行かないわけですから、そういうことも含めて金融実務が変わっていくことを期待したいと思います。

 情義性の問題は本当におっしゃるとおりで、これはなかなか今の日本の社会からこの問題を消すことはできないから、こういう形で考えさせていただいたということが私なりの理解でございます。

藤野委員 ありがとうございます。

 本当にこの中身について少しでもよいものになるように、これからの審議でいろいろと詰めていきたいと思っております。

 次は黒木参考人にお聞きしたいんですが、約款についてなんですけれども、今回、組み入れ要件が結構緩やかだというお話もありました。消費者にとっては、これがやはり不意打ちや不当な形でかぶさってくるということがあってはならないというふうに私は考えております。

 その点で、どういった点をこれからの審議で確認していくべきなのか。例えば、みなし合意除外規定というのが五百四十八条の二第二項にあるわけですけれども、この役割がかなり重要だというふうに認識をしているわけですが、具体的に、例えば不当条項や不意打ち条項への適用を含め、こういうことが必要じゃないかというのを実務家の観点で黒木参考人に教えていただければと思います。

黒木参考人 ありがとうございます。

 非常に難しい質問であると思います。今までは除外規定なんかないんです。初めて除外規定というものの概念ができました。だから、これがどういうことになるのか、この除外規定の実体的な要件は何なのかということで、書かれている内容をむしろこれから先生方も含めて議論をしていただきたいと思っております。

 ただ、私どもといたしましては、信義則制限としては、相手方の権利を制限したり義務を加重する条項であって、社会通念に照らして信義則に反して一方的に害するという、立法過程の議論からすると非常に抽象的な言葉であります。これによって適用が除外される、合意の対象から外れていくという新しい法効果を生む規定なんですけれども、この内実は何ですかというのは、この条文にこれから具体的な現場で当たってみないとわかりません。

 しかし、今よりは、ないのですから、消契法の十条で任意規定その他の云々というのはありますけれども、それに比べても広いのではないかと思うんですけれども、そういうことも含めて非常に重要な規定が入った。

 もちろん、それに対しては事業者の方々は、これは狭く解するべきだとおっしゃるに決まっていますので、そのせめぎ合いというようなこともあると思いますので、そのあたりも含めて議論、どういう場合がそうなのかということについて、実務家は依頼者がいないと考えないという変なところもありまして、まだですけれども、ただ、いずれにしましても、大変重要な条文であることは間違いないので、内実について立法提案者である法務省も含めて議論をしていただければありがたいと思います。よろしくお願いします。

藤野委員 まさにそうした形で立法提案者にしっかりと確認していきたいと思っております。

 条文のたてつけでいえば、不当条項にこの除外規定が適用されるということは確認できると思うんですが、不意打ち条項、これについてもやはりこうした除外規定でしっかりと対応できるようにしていくというようなことも必要であるというふうに思っております。

 先ほども話が出ましたけれども、変更ができるという、世界でも珍しいというお話がありましたが、こういう、つくった人が勝手に変更できるというふうなことがフリーハンドでやられると、これはやはり消費者にとっては大変影響が大きいわけですから、この点についてもそうではないということを質疑等で確認していきたいというふうに思っています。

 そして、もう一点、黒木参考人にお聞きしたいんですが、今法案では実現できなかったけれども、やはり今後こういうことが必要ではないかというようなことを冒頭おっしゃっていただきましたが、もう少し詳しく教えていただければと思います。

黒木参考人 ありがとうございます。

 この「Q&A」の中の六ページ以下に書いている暴利行為の問題でございます。これがやはり私どもとしては非常に重要なものでありまして、既に判例がある、判例として昭和九年とかあるわけですけれども、それを立法化していこうという議論をずっと続けていただいておりました。

 ただ、この暴利行為につきましては、やはり、どういう形でこれが裁判規範として機能するのかというようなこととか、民法ですから適用範囲が広過ぎるんじゃないかというような議論があって、最終的に、進めるべき意見と、それから反対するべき意見とがあって、結局立法化できなかったということであります。

 それにつきまして、私どもの方では、この本の中の九ページのところで、「残された課題」という形でこれをまとめさせていただいております。

 私どもとしましては、暴利行為とは、MアンドAで暴利行為があったかなかったかということについて一切興味がありません。巨大な企業同士が何か買収して、そこにのれんをつけるのが高かったか安かったか、暴利行為かということで後でひっくり返るかどうかというような話をする気は一切ないんです、暴利行為の中では。

 そうじゃなくて、契約当事者が弱っている、考え方が弱いというようなところにつけ込む、そういうようなものがやはり暴利行為じゃないかということになるわけですので、そういうところでまず消費者契約法、それから、できたらこの民法の中でもその議論を国会でもしていただいて、やはりこれはいつかは必要だよねという附帯決議とかそういうようなことも含めて、これから超高齢社会に日本はなるわけでして、そうすると、どうしたって、細かな字は読めないとか、いいことしかわからないとか、そういうふうに人間はなっていきますから、そういう状況につけ込む事業者というのは必ず出てきます。そこに対する手当てとして、こういう問題について国権の最高府として議論をしていただいて、やはり対応が必要なんだ、今後も必要だということを言っていただきたいと思っております。

 以上です。

藤野委員 大変貴重な御指摘だと思います。

 冒頭、皆さんの熱意を感じたという感想を述べさせていただきましたけれども、今回の法案はそうした到達点はあるんだけれども、やはりさらに前向きな形でこれをどう変えていくのかという点を視野に入れながら法案の質疑をやっていきたいというふうに思っております。

 最後になりますけれども、冒頭、岡参考人のお示しいただいた資料の中にも、荒れた審議で始まったということや、ステージが三つほどあって、それぞれ局面が変わっていったというお話、あるいは、加藤参考人からはもともとの狙いも含めてお話がありましたけれども、いわゆる過失責任主義の問題等で一点だけお聞きしたいのは、過失責任主義のお話がありましたけれども、四百十五条の規定ぶりも含めて、結局、結論としてどういう到達になったのかというのを、改めて加藤参考人と岡参考人の御認識をお伺いしたいと思います。

加藤参考人 結論として申しますと、帰責事由相当の文言が入り、それに一定の修飾語がついたということでございます。

 普通、帰責事由、過失責任か無過失責任かというのは、こういった債権法改正の議論が始まる前に私は教科書で書いておりまして、帰責事由という言葉、故意、過失という言葉があれば基本的に過失責任、なければ無過失責任ということを書いておりまして、それが普通のクライテリアです。ですから、素直に読めば、これは過失責任の規定と読むのが普通だろうと思います。

 ところが、法務省の民事局の参事官室とかあるいは民法部会の委員が、こういう一定の修飾語がついたからこれは過失責任原則の否定だということを言っている。これは、全然立法と関係ない人が言っているなら、そんな説があるんだで通ると思うんですけれども、やはり立法関係者が言っていると、彼らが立法者というわけではないんですけれども、でも、立法者意思ではそうなんだという議論が出てくるので、恐らく実務は混乱するだろうと思います。混乱しても、恐らく裁判官は、普通は条文を読むことになれている人たちですから、マジョリティーは過失責任と読んでくれると私は思っているんですけれども、しかし、必ずそう読まない一部の人も出てきて、混乱するだろうと思います。

 そういう意味で、混乱状況になってしまったなというのが私の印象でございます。

岡参考人 実務家としては、混乱は生じないと思っております。従来に比べて、この修飾語が入ったことによりまして、契約を中心に考えるけれども、契約だけではなく、取引上の社会通念というのも判断要素に入るということで、プラスになったのではないかと思っております。

 従来から、弁護士会としては、契約に決めたら契約が全てだ、そうなると契約強者が強くなってしまう、こういう問題意識を持っておりましたので、契約が中心だけれども取引上の社会通念も配慮はする、こういう条文になったことで、従来の実務がより明確になって、また明確にして充実したものに実務として対応していけるのではないか、このように思っております。

藤野委員 質問を終わりますが、三人の参考人の皆様、本当にありがとうございました。

鈴木委員長 次に、木下智彦君。

木下委員 日本維新の会、木下智彦です。

 本日は、貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございます。もうあと二十分少々ですので、おつき合いいただきたいと思います。

 今回のお話なんですけれども、百二十年ぶり、相当多岐にわたる部分、それから今まで改正されてこなかった部分、そういった部分にメスを入れていこうということで、きょうもお話を三人の方々から聞かせていただいていたら、さまざまな御意見、それから、同じような視点であったとしても、ベクトルは同じ方向なのかなと思いながらも、感覚的には少し違う御意見があったかな、そういう感覚があります。

 そこで、きょうは皆さん、割と細かく法案の中身について聞かれていたんですけれども、ちょっとその前にお話を聞かせていただきたいことがあります。

 というのは、まず最初に、岡先生の方からこの資料をいただきました。資料の中にいろいろとたくさん読むべき部分があって、私も、法制審議会の内容とかも、全部見るのは相当厳しいんですけれども、見せていただいて、今まで変えているべきであったところを変えられなかった、変えてこなかったといった部分で、ぜひともこれは早期にやはり解決していくべきだという立場ではいるんです。

 その中で、この資料の十四の四のところで、「民法改正問題に取り組む基本姿勢 日本弁護士連合会」という形で、こういうお話が書かれていたり、それから、その次、十四の六のところで、これは意見書、これも弁護士連合会から来ている。最後の部分では、日弁連会長から会長声明、そういう感じで資料立てされておりました。

 そこで、ちょっと考えたんですけれども、そうはいいながら、やはりさまざまな意見それから主張があった。岡参考人の方からも、日弁連の中でもいろいろな意見があったんだというふうな話がありましたけれども、こういった声明が出たり意見が出たりといったものを、どういった形で日弁連の中で意見集約をされて機関決定されているのかといったところをちょっと岡参考人の方からお話しいただければと思います。

岡参考人 資料十四分の三をごらんいただきたいと思います。この右側に意見形成に向けた動きも書いてございます。

 一番最初は、最初に申し上げましたように、バックアップチームを全国でつくる。法務省からいただいた部会資料を各弁護士会、委員会に流して意見形成をしていただく。ただ、それでは意識のある方が中心になりますので、上から三つ目ぐらいの枠にありますとおり、「会員への状況周知・検討のため各地でシンポジウム開催」、これを、下の方にありますが、研究財団でも行いました。そういうことで、刻々と状況が変わっておりましたので、そういう現状をお知らせして、お考えいただくという対応をとりました。

 それに加えまして、グレーで囲ってありますところが「理事会での意見書審議・意見交換等」というところでございます。この理事会といいますのは、全国の単位会の会長さんが全員東京に集まりまして、一カ月に一回、丸二日間議論をするところでございまして、重要な意思決定はそこで行っております。全部で七十一人だったと思いますが、そういうところで代表の、責任のある会長さんと、こんな方向で進んでいて、このような意見が今多数になっていますよ、こういう御説明をしてまいりました。

 その上で、十四分の六という意見書は、理事会で多数決で決定するものでございます。その理事会で決定されたものがこの十四分の六でございます。

 会長声明、十四分の十三、十四といいますのは、意見書の範囲内であれば、正副会長会議というのがございます、会長一人と副会長十三人が、これは毎週一回、丸一日会議をしておりますが、そこの機関決定を経て、この会長声明を出しているものであります。

 そういう意見形成と手続を経て、このような書面を出しております。

 以上でございます。

木下委員 ありがとうございます。

 非常に民主的なというのか、しっかりとしたやり方で意見をまとめられているんだなというふうに思いました。

 とはいえ、きょうのお話を聞いていると、加藤先生であるとか黒木先生、いろいろと御意見があるかと思うんですね。こういったプロセスで実質的に意見集約がされてそれなりの内容がまとまったというふうにお考えになられているかどうかといったところを、加藤先生それから黒木先生、いろいろ御意見あるかと思うので、ちょっとまずお聞かせいただきたいんです。

 なぜこんな話をするかというと、参考人で、きょう、たまたまと言ったらあれですけれども、やはり弁護士の方々が三人来られております。この委員会の中でも、法制審議会の中はやはりどうしても専門家に任されてしまう部分が多くて、もっと国民一般の意見が取り入れられやすい、そういった審議がやはり必要なんじゃないかというふうな話があったんですね。にもかかわらず、参考人となると、どうしてもやはり弁護士、専門の方々に御意見を聞くことになってしまう。そこで、ちょっとこのプロセスについても少し掘り下げたいなと思う、そういう次第で、お二人から御意見をいただければと思います。

加藤参考人 私も弁護士ではございますけれども、弁護士会の流れをずっと言いますと、中坊会長が来るまで、日弁連というのはかなり野党色が強い組織だったと思っています。中坊会長が来た後、日弁連の執行部は法務省とかなり融和的になって、私、場合によっては除名されるかもしれませんけれども。そういう形で、特に、日弁連の執行部になるのは東京三会と大阪が中心で、そういうところの、弁護士の中枢で会務をとっていらっしゃる方々は結構法務省の意向と合う。

 ただ、私は法務省の、法務省ではあれは学者の会だと言うかもしれませんけれども、民法(債権法)検討委員会に入っていて、法務省と立場を異にしましたので、半年ほど沈黙を守っていたんですけれども、反対の方々が相当私のところに連絡をとってきました。その中には弁護士の方が非常に多いんですね。

 さっき、この質疑でも弁護士千九百人の声というのがありましたけれども、あの後ふえていて、二千人の声となっているんですけれども、あれを見ても反対が圧倒的なんです。その声は弁護士会には反映されておりません。それは要するに、弁護士会の執行部にいる人と一般の弁護士との間の乖離だと思います。

 今は、反対の方がいらっしゃるというのが岡先生の認識ですけれども、私は、いらっしゃるんじゃなくて、ここまで来たからもういいやという諦めの声はあると思いますけれども、これを積極的に推している人はほとんど少数で、日弁連の執行部の方々は推していらっしゃるかもしれない、あるいは東京三会、大阪とか、他の大都市の執行部の方は推していらっしゃるかもしれないけれども、ほとんど一般の弁護士の方は余りそうではないと思っています。

 私は弁護士と同時に学者というあれで多少特殊かもしれませんけれども、この法案が通って、わあ、こういうぐあいによくなるなと思うところがあるのなら賛成したいと思いますし、法定利率等賛成するところはあるんですし、若干ですけれども、ほかにも賛成するところはありますけれども、マジョリティーとして、わあ、これで現行民法がよくなったというよりは、端的に言ってしまえば、もともとの狙いは法務省は達成することができなかったけれども、全部失敗したらメンツ丸潰れですから、そこのところでやっているので、非常に民法はよくなったというような改正とはほど遠いと私は思っていますし、それは多くの弁護士の方々の感覚ではないかと思っております。

 それから、弁護士ばかりじゃなくて一般の国民の声を聞くということは絶対必要なことですし、それは本当にあれで、先生方は国民から選出されているんですから、そういう形の国民の声をすくい上げていただけるように、ぜひお願いしたいと思います。

 ありがとうございます。

黒木参考人 黒木でございます。

 私は福岡県弁護士会でございますので、東京三会でも大阪でもありません。その福岡県弁護士会の審議の過程についてはある程度わかっていますので、そのことを申し上げたいと思います。

 先ほどの、お示しいただきました岡参考人の十四分の三を見ていただきますと、二〇一一年の四月にパブコメがありました。これは三・一一の東日本大震災を受けて直後だったので、それについて東北三会が出せないんじゃないかというような話もあって延ばしてもらったというようなこともあって、それでも東北三会はパブリックコメントを出されています。福岡も出しました。これは五百項目もありまして、大激論をやはりしなくてはいけなかったのであります。しかし、弁護士会としては、この中間論点整理という形には多分ほとんど全部の単位会は意見を出したんだと思います。そうだったと思います、出していないところはないんじゃないかと思います。

 それから、その後も、先ほど申しましたが、私は消費者問題対策委員会で、これは全国のさまざまな単位会から来ていまして、法務省の事務方から、本当は水曜日にもらえるとかいう話だったのが、遅くなって木曜日になりますとか、そんなのはいっぱいあって木曜日にもらって、それを、金曜日にみんなで会議をすることであらかじめ決めていますから、一日で読んで、それで意見をまとめて、日曜日までに出さないといけない。岡参考人が当時、俺は「龍馬伝」を見てからみんなの意見を見るから、それまでに出していないと俺は見ないとか何か、そういうことを言っていましたけれども、とにかく、それまでには出さないといけないということでやっていました。

 もう一回申しますと、中間試案に対するパブコメも実施されましたけれども、単位会も、それぞれ全部の単位会は、恐らく中間試案についても、ここはいい、ここは悪いといった意見を出したはずであります。それを踏まえて、その単位会の会長というのは日弁連の理事会を構成しますし、日弁連の意見書は理事会の承認を得なければなりませんので、ある意味では、全国の、この民法の改正についてある程度継続的に勉強している、法制審議会の議論がどうなっているのかということを継続的に検討している弁護士はかなり理解していると僕は思っています。

 他方、加藤先生がおっしゃった、反対している先生方もいらっしゃいます。この方々というのは、こう言っちゃなんですけれども、余りこの改正の過程に深くコミットはされていないと思います。やはりこれはすごく労力がかかることでありまして、僕たちの仕事は、法制審議会に出てくる資料を読むことじゃなくて、やはり準備書面を書いたりすることがメーンの仕事ですので、それをすっ飛ばしてそれをやるということに大変なエネルギーが要るわけですけれども、メンバーを見ていても、余りそれはされていなかったのではないかなと思う方々が言われています。

 当初反対だった人たちも、この議論をずっとしていく中で、自分たちの必要な部分、それから、どうしてそれが今回立法化されなかったのかということについてもいろいろな意味で議論を深めていますので、私としましては、今のような地方単位会から見ていても、これはかなり日弁連全体の意見としてはかたいものであって、内部でちょっとひっくり返すと、また反対派がわっと出てくるというようなものではないんじゃないかと思っています。

 以上です。

木下委員 ありがとうございます。

 自分で思いながら、いい質問したなというふうに思いました。もうここでずっと聞いていたいなというようなお話だったんですけれども。

 ちょっと、今の話も聞いていて思ったんですけれども、私がいつもここで疑問に思うところもあるんですね。それは何かというと、やはり今も言われていたとおり、弁護士会、地方の弁護士会、それぞれあります。皆さんが日弁連に加盟している。これは弁護士法の四十七条でしたか、規定されていて、ちょっと条文があれですけれども、何か、弁護士それから弁護士法人などなどは当然日弁連に加盟すると。私も、当然とは、何で当然なんだろうというふうに思ったんですけれども。

 それで、そういうところで意見集約がされて一つのものになっている。いろいろプロセスについては御意見があるかと思うんですけれども、これ自体が本当にいいのかどうかという問題にもかかわってくるのかなと私は思っているんです。というのは、弁護士の先生が一々その一つの団体に加盟していなきゃいけないのかどうか。

 これ以外にも、ほかにもいろいろなことがあります。私、何でこんな話をしたかというと、先ごろ、日弁連でも、今大変言われている、死刑制度についてなんかはそういうふうな話をされていますよね。そういった中で、一つの団体しか認められない、こういうことの中でこういう意見集約をしていかなければいけないというのは、相当僕は限界があるのかなというふうに思っております。

 ちょっとその辺についても、もう時間で、せっかくなので、もうきょうはそういう話にしようかなと今切りかえましたけれども、逆に今度は、黒木参考人から、加藤参考人、岡参考人という順番で、その方が多分公平かなと思いますので、御意見をいただければと思います。

黒木参考人 ありがとうございます。

 全く想定していない質問なので、どう答えていいかわかりませんが、強制加入は、弁護士自治と裏腹の関係だと僕は思っています。

 したがって、私どもがいろいろなこういう問題について、あるいは死刑についても、福井の人権大会も私も参加いたしましたが、いろいろな議論を規制官庁なしに激論を交わせるというのは、強制加入の反対側である自治権があるからであると考えています。これはもう完全に私個人の考えですけれども、これ自体は一種のやむを得ないものであるし、したがって、会内的には民主的な手続というか、できるだけ多くの人たちに参加する機会は、お忙しい方もいらっしゃるので、参加する機会だけで、実質参加できるかどうかはまたそれぞれの弁護士の仕事の状況その他によりますけれども、与え続けていくということによって、いろいろな意見集約をするということではないかと思っています。

 以上です。

加藤参考人 強制加入団体としては、弁護士会もそうですし日本司法書士会もそうです。

 今御質問をいただいてふっと思ったんですけれども、弁護士会でも司法書士会でも、一定の決まったことに対して従わなくて、それで、それについて、何の問題でだったか、とにかく弁護士会とか司法書士会とその会員とが訴訟を起こしている例というのは若干ございます。

 確かに強制加入団体として、今、黒木先生がおっしゃったように、弁護士自治という形からするならば強制加入をしなければいけないということもわかりますけれども、恐らく、今御質問いただいて思ったことですけれども、強制加入団体ということは、意見が多様な問題についてどこまで発言していいかという問題はあり得ると思うんですね。ここの民法改正ですとちょっとあれですから、関係ない死刑の問題でも、弁護士会の中にも、死刑に反対派もいれば賛成派もいるに決まっているわけで、それについて一つの方向を打ち出すということが、いわば思想信条の自由を強制加入団体であれば侵すことになりますから、当然、強制加入団体の行動の限界というのは考えられてしかるべきだろうと思います。

 私自身、もともときっすいの学者をやっていまして、年をとってから弁護士登録したものですから、余り弁護士会のことについて言うだけの資格があるかどうか問題なんですけれども、恐らく強制加入という制度をもらうことの代価はあるだろうと思うので、多様な問題についての意見表明については慎重にしなければいけない。

 ただ、それは、民法改正について日弁連がやったことはけしからぬとかそういう趣旨ではなくて、一般論としてお聞きいただければと思います。

岡参考人 強制加入団体である以上、発言あるいは意見集約にのりがあるべきだ、これはそう思っております。私も昨年度、日弁連の副会長をやりましたけれども、そののりを踏まえなければならないという意思が執行部にもずっと存在をしております。

 ただ、弁護士法一条二項に、「弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。」と書いてございます。民法改正については、この観点からやはり弁護士それぞれが考えなければいけませんし、反対意見があるからといって、日弁連が意見表明しないのは相当ではなかろう、こういう考え方をしておりました。

 もう一つ、だからこそ、日弁連が、さっき申し上げたような丁寧な意見形成に努めておるということはまず前提としまして、その上でも、日弁連の声明あるいは意見が会員の意見を拘束するとか、全会員の意見であるという表明ではない、こういうことは判例等でも明らかにされておりますので、会員個人を拘束するものではない、会員の意見形成に極めて慎重に対処しなければならないのりがある、こういう原則のもとに日弁連は動いております。

木下委員 ありがとうございます。

 もう時間が来てしまいまして。非常に聞き応えのある話だなと。

 おもしろいなと思ったんですけれども、きょう、弁護士の先生方なんですけれども、バッジをつけていらっしゃる方はいらっしゃらないんですよね。国会議員は当然のように、まあ今は議会ですからつけております。それ以外も、外に行っていても外さない人というのは多いんですよね。その中で、皆さん、ちょっとすばらしいな、逆にすばらしいなというふうに思って聞いていたんですけれども。

 本当は、用意していたところ、先ほどの一般の意見というところで、法制審議会なんかに、これはちょっと立法と行政というふうな分かれはありますけれども、国会議員がもう少し入っていってそれで議論をしていけば、こういった議会の中での議論ももう少し活発化する、もしくは短い審議の中でも充実したものができるというような感じのことをどうでしょうかというお話もちょっと聞かせていただきたかったんですけれども、もう時間がなくなりましたので、これで終わらせていただきます。

 きょうはどうもありがとうございました。

鈴木委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 一言申し上げます。

 参考人の方々には、貴重な御意見をそれぞれ賜りまして、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。(拍手)

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時四十五分散会


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