衆議院

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第12号 平成28年12月2日(金曜日)

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平成二十八年十二月二日(金曜日)

    午前十一時三十分開議

 出席委員

   委員長 鈴木 淳司君

   理事 今野 智博君 理事 土屋 正忠君

   理事 平口  洋君 理事 古川 禎久君

   理事 宮崎 政久君 理事 井出 庸生君

   理事 逢坂 誠二君 理事 國重  徹君

      赤澤 亮正君    秋本 真利君

      井野 俊郎君    奥野 信亮君

      門  博文君    菅家 一郎君

      木村 弥生君    城内  実君

      鈴木 貴子君    鈴木 隼人君

      辻  清人君    野中  厚君

      藤原  崇君    古田 圭一君

      宮川 典子君    宮路 拓馬君

      山田 賢司君    吉野 正芳君

      若狭  勝君    枝野 幸男君

      階   猛君    山尾志桜里君

      大口 善徳君    吉田 宣弘君

      畑野 君枝君    藤野 保史君

      木下 智彦君    上西小百合君

    …………………………………

   法務大臣         金田 勝年君

   法務副大臣        盛山 正仁君

   法務大臣政務官      井野 俊郎君

   政府参考人

   (金融庁総務企画局審議官)            水口  純君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    小川 秀樹君

   政府参考人

   (中小企業庁事業環境部長)            吉野 恭司君

   法務委員会専門員     矢部 明宏君

    ―――――――――――――

委員の異動

十二月一日

 辞任         補欠選任

  赤澤 亮正君     山下 貴司君

同日

 辞任         補欠選任

  山下 貴司君     赤澤 亮正君

同月二日

 辞任         補欠選任

  安藤  裕君     木村 弥生君

  門  博文君     秋本 真利君

  宮路 拓馬君     鈴木 隼人君

同日

 辞任         補欠選任

  秋本 真利君     門  博文君

  木村 弥生君     安藤  裕君

  鈴木 隼人君     宮路 拓馬君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 民法の一部を改正する法律案(内閣提出、第百八十九回国会閣法第六三号)

 民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出、第百八十九回国会閣法第六四号)


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     ――――◇―――――

鈴木委員長 これより会議を開きます。

 第百八十九回国会、内閣提出、民法の一部を改正する法律案及び民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案の両案を一括して議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 両案審査のため、本日、政府参考人として金融庁総務企画局審議官水口純君、法務省民事局長小川秀樹君及び中小企業庁事業環境部長吉野恭司君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

鈴木委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

鈴木委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。宮路拓馬君。

宮路委員 委員の皆様方、おはようございます。私、自由民主党の宮路拓馬でございます。

 民法改正案について、初めて質問をさせていただきます。

 私、一応、大学の法学部を出ております。ただ、当時、民法というものがこの世からなければどれほどいいことかと思って、大分苦労したことが思い出されます。そんな私が今こうして民法改正案の質疑の場に立っているということは、何というか、世の中何があるかわからないなと。

 ただ、今回こうして民法改正案というのを改めて見てみますと、消滅時効、法定利率、保証あるいは意思能力、かつての記憶がおぼろげに思い返されるところでありますが、ああ、そういうこともあったなと思うとともに、しかし、こうして、私も間もなく三十七歳を迎えます、十二月六日が誕生日でございますので、三十数年生きてくると、社会というのが徐々にわかってくるものでございまして、民法というのがどれだけ我々の生活に直接あるいは間接的に影響しているのかということがよくわかるようになった、そういうことも改めて感じた次第でございます。ちょっと、とうとうと私の思いを述べてしまいましたが。

 まず最初に、先日の参考人質疑で、法案に反対の立場の方、加藤参考人から触れられていた点についてまずお伺いしたいと思います。

 今回の改正法案では、債務不履行による損害賠償の要件を定めた民法第四百十五条、これも改正対象になっているというふうに考えております。この条文の改正については、先日も各参考人が異なる評価をされていたところでございますので、この点について少し詳しく説明をしていただければと思っております。

 まず、改めて改正法案の内容について確認をさせていただきます。

 改正法案では、第四百十五条で定める債務不履行による損害賠償の基本的な要件について、今回どのような改正が行われているのかについてお伺いしたいと思います。

小川政府参考人 お答えいたします。

 債務不履行の損害賠償に関します現行法の四百十五条は、履行不能の場合に限って、債務者に帰責事由がなければ責任を負わない旨を規定しておりますが、判例は、履行遅滞など履行不能以外の債務不履行についても、債務者に帰責事由がないことによる免責を認めております。

 そこで、改正法案においては、まず、この判例の解釈に従いまして、履行不能とそれ以外の債務不履行を区別することなく、債務不履行全体について、債務者に帰責事由がない場合に債務者は損害賠償責任を免れる旨の規定を設けまして、債務者に帰責事由がないことが損害賠償責任を免責する要件であることを明確化することとしております。

 また、現在の裁判実務におきましては、帰責事由の有無は、給付の内容や不履行の態様から一律に定まるものではなく、個々の取引関係に即して、契約の性質、契約の目的、契約の締結に至る経緯などの、債務の発生原因となりました契約などに関する諸事情を考慮し、あわせて、取引に関して形成された社会通念をも勘案して判断されております。

 そこで、改正法案におきましては、このような帰責事由の判断の枠組みを明確化するため、帰責事由の有無は契約その他の当該債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして判断されることを明文化することとしております。

宮路委員 ただいまの答弁を聞いておりますと、先日、加藤参考人は、今回の改正によって債務不履行による損害賠償の基本的な枠組みが大きく変わるのではないかという指摘もされていたところでございましたけれども、ほかの参考人の方々から、そういうことはないのではないかという評価もございました。私も、裁判実務、あるいはこれまでのそうした取引の実務をしっかり明文化したにすぎないものではないかというふうに思っております。

 ただ、一方で、そうしたことに懸念を抱いている方がいらっしゃる、しかも法律の専門家にということもまた事実でございますので、その点について、しっかりと今後とも国として説明を果たしていただきたいというふうに思っております。

 それでは次に、これまでの審議でもかなり多く取り上げられてきております第三者保証の問題についてお伺いしてまいりたいと思います。

 これまでの審議の中では、第三者保証を禁止すべきか、それとも公証人の意思確認で足りるのかという点が問題となってきております。そこで、改めて、第三者保証について、これを今回、全面的に禁止せずに、公証人の意思確認手続をすることとした理由についてお伺いしたいと思います。

盛山副大臣 宮路委員から冒頭御発言がありましたけれども、私も実は法律が嫌いでございまして、法学部なんですが、政治学科というところにおったわけでございますけれども、私がこうやって民法を担当して御答弁していいのかなと思いながら御答弁をさせていただきます。

 法制審議会における審議の過程では、事業のために負担した貸し金等債務をいわゆる経営者以外の第三者が保証することについて、これを全面的に禁止すべきであるかどうかについて検討が行われました。しかしながら、第三者保証の中には個人が自発的に保証するものなどが現に存在するため、第三者保証を全て禁止することに対しましては、特に中小企業の資金調達に支障を生じさせ、金融閉塞を招くおそれがあるとの指摘が中小企業団体から強い意見として示されました。

 そこで、改正法案の立案に当たりましては、中小企業の円滑な資金調達に支障が生じないようにしつつ、個人がリスクを十分に自覚せず安易に保証人になることを防止すべく、両者のバランスをとることが重要であると考えたものでございます。

 そこで、改正法案におきましては、第三者保証を全面的に禁止する措置は講じないこととする一方で、保証人がその不利益を十分に自覚せず安易に保証契約を締結する事態を防止するための措置として、事業のために負担した貸し金等債務を保証する際には、原則として公的機関である公証人による意思確認を経るということとしたものであります。

宮路委員 ありがとうございます。

 私の尊敬する盛山副大臣と同じ思いでこの場に立っているということに、改めて深い感銘を受けたところでございます。

 これまでの審議の中で、公証人の意思確認手続を創設するとしても、その例外の範囲が適当かという議論もまたなされております。

 法制審の議論においては、中小企業の意見を踏まえたものという説明がなされているようでありますけれども、そうはいいながらも、その意見を全て受け入れてきたわけでもないということも伺っているところでございます。

 例えば、中小企業の意見の中では、事業承継予定者についても意思確認の対象から外すべきであるとされていたということも伺っておりますが、今回それを意思確認の対象から外さなかった理由をお伺いしたいと思います。

小川政府参考人 お答えいたします。

 法制審議会における検討の過程におきましては、今お話がありましたように、中小企業側からは、事業承継予定者について、金融庁の監督指針などにおいてもこれは一定の要件のもとで例外とされていることを踏まえ、公証人による意思確認の対象外とすべきであるという意見がございました。

 しかし、事業を承継する予定であったとしても、いまだ主債務者の取締役などの地位にない以上は主債務の事業の状況を把握することができる立場にあるとは言いがたく、保証のリスクを十分に認識せずに保証契約を締結するおそれが定型的に低いとは言えないと考えられます。

 そのため、改正法案におきましては、中小企業側の意見とは異なり、事業承継予定者については、公証人による意思確認の対象外とはしないこととしております。

宮路委員 ありがとうございます。

 それでは次に、この論点につきましてさらに御質問したいと思います。

 これまた、これまでの議論の中で、特に配偶者がその例外とされていることについて問題とする意見も多数聞かれたところでございます。今回、個人事業主の配偶者について、公証人の意思確認手続の例外とした理由を詳しくお聞かせいただければと思います。

小川政府参考人 改正法案の検討の過程におきましては、個人事業主の配偶者を公証人による意思確認の手続の例外とするのが適切かについて、さまざまな意見がございました。

 その中でも、中小企業団体あるいは金融機関からは、主債務者が法人であるかあるいは個人事業主であるかを問わず、主債務の事業に現に従事する配偶者については、経営者との経済的一体性や経営の規律づけの観点から保証人となることに合理性があり、現に金融庁の監督指針などにおいても例外的に保証を求めることが許容されていることを踏まえ、公証人による意思確認の手続の例外とすべきであるという強い意見がございました。

 しかし、改正法案におきましては、その例外とすべき配偶者の範囲といたしましては、法人である事業者の代表取締役の配偶者などは含めないこととし、あくまでも個人事業者の配偶者であって事業に現に従事している者に限定して例外扱いをすることとしております。

 個人が事業を営んでいる場合には、その個人の財産がその事業に供され、かつ、その利益はその個人に帰属することとなりますが、その個人事業主が婚姻しているときは、事業に供した個人の財産及び個人が得た利益は、その配偶者とともに形成した夫婦の共同財産であると評価されるものでございます。そして、夫婦の共同財産が事業に供されるだけでなく、その配偶者がその事業に現に従事しているのであれば、事業を共同で行う契約などが夫婦間に存在せず、共同事業者の関係にあるとまでは言いがたい事例であっても、財産や労務を事業に投下し、他方で利益の分配を受けているという点におきまして、実質的には個人事業主と共同して事業を行っているのとこれは類似する状態にあると評価することができようかと思います。

 そういたしますと、個人事業主の事業に現に従事している配偶者は、その個人事業主の事業の成否に強い利害関係を有し、その状況を把握することができる立場にあると言えようかと思います。

 他方で、先ほど挙げました、法人が事業を行っている場合におけるその法人の代表者などの配偶者ということにつきましては、今申し上げましたような意思確認の手続の例外とすべき実質的な事情は存在しないと考えられるところでございます。

 このように、改正法案におきましては、中小企業などの実情も踏まえた上で、保証のリスクを認識せずに保証人となるといった被害を防止するという公証人による意思確認手続創設の趣旨に鑑みまして、個人事業主の配偶者についてのみ、かつ、あくまでも事業に現に従事している配偶者に限定して意思確認手続の例外としたものでありまして、合理的なものだというふうに考えております。

宮路委員 ありがとうございます。

 私も、やはり保証人の保護という観点、今回の法改正において非常に重要だと考えております。その中で、ただいまの答弁をお聞きいたしますと、事業に現に従事しているというその実体的な要件、これが非常に重要であると考えております。

 今回の改正によって新たに設けられる、事業に現に従事しているという要件でございますが、これについてはどのように実際判断されることになるのかについてお伺いしたいと思います。

小川政府参考人 お答えいたします。

 御指摘ありましたとおり、改正法案におきまして個人事業主の配偶者を保証意思確認の例外としておりますが、それはあくまでも事業に現に従事している配偶者に限定されておりまして、この点は重要であるというふうに考えております。

 すなわち、比較的零細であることが多い個人事業主の事業を前提といたしますと、現に事業に従事している配偶者であれば、その事業の状況などを把握することは十分に可能であると考えられるのでありまして、そうであるからこそ、先ほど申し上げましたように、保証意思の確認手続の例外とすることが許容されるというふうに考えております。

 そして、以上申し上げましたような趣旨に照らしますと、現に事業に従事しているとは、文字どおり、保証契約の締結時においてその個人事業主が行う事業に実際に従事していると言えることが必要であると考えられます。したがいまして、例えば、単に書類上、事業に従事しているとされているだけではこれは足りませんし、また、保証契約の締結に際して一時的に従事したというようなものでも足りないというふうに考えております。

宮路委員 相当程度、実質的に本当に保証人たり得るのかということが判断された上で、例外ということになろうかと思います。この点、やはり保護の観点からも非常に関心が寄せられる分野だと思いますので、この点についても、改めて、今回の改正案についての説明の中でしっかりと説明をしていただきたいというふうに思っております。

 次に、これまでの質疑では余り話題に上っていなかった分野ではございますけれども、経済実務の観点からしても、債権譲渡に関する改正についても非常に重要であるというふうに考えております。そこで、今回の改正法案において、中小企業の資金調達の円滑化を図る観点から実施しようとしている施策についてこれから伺ってまいりたいと思います。

 まず、将来債権の譲渡が可能であるということについて、今回規定を設けることとしたということでございますけれども、将来債権の譲渡、私も法学部時代、はてなでございました。この部分は、もともとその内容が一般市民の方には余りなじみがないものではないかと思っております。

 そこで、将来債権の譲渡が可能であるということを明確にすることの意味、あるいは、これがどのような分野で実際利用されているのかについて、具体的にお聞かせいただければと思います。

小川政府参考人 今お話ありました将来債権の譲渡と申しますのは、将来発生する債権を売買などによって譲渡し、またはこれを担保に供する目的で譲渡する、いわゆる譲渡担保のような場合を指すわけでございます。例えば、いわゆるゼネコンから継続的に仕事を受注しています下請会社が、金融機関から融資を受ける際に、融資後一年間に発生する請負代金債権を担保に供する目的で譲渡するといった例が将来債権の譲渡のされる場合として挙げられようかと思います。

 もっとも、現行法におきましては、将来債権の譲渡が可能であることは条文上明確であるとは言えません。判例においては、かつては譲渡が可能な将来債権の範囲が制限的に解されていたものの、現在では、原則として将来債権の譲渡が可能であることは広く認められるに至っております。

 将来債権の譲渡は、最近におきましては、先ほど例に挙げましたように、主として中小企業が将来の収益源であります売り掛け債権などを担保に資金を調達する手法として広く用いられるようになっております。従来、担保を設定する不動産を持たない中小企業は保証人を立てることによって資金調達を図ることが多かったわけでございますが、保証に依存しない融資慣行の確立が求められていることから、将来債権の譲渡は、企業の事業収益力に着目した資金調達の手法として脚光を浴びておりまして、利用が急激に増加しているものでございます。

 そこで、改正法案では、将来債権の譲渡を安定的に行うことを可能とするという観点から、将来債権の譲渡が可能であるということを明らかにする旨の規定を設けることといたしました。

宮路委員 今御説明いただいたとおり、保証に依存しないという観点から、最近は、将来債権の譲渡が中小企業の資金調達にとって非常に重要な意味を有してきているということであります。

 そして、今回の改正案では、それに加えまして、そのような実情を踏まえて、中小企業の資金調達をより円滑に実施可能なものとするために、債権譲渡を禁止、制限する特約、これは譲渡禁止特約というふうに言われているものだと思っておりますが、それが当事者間でされていたとしても、その債権を譲渡することができるようにしたということもその内容であるということでございますが、これはどういうことなのか、なぜこのような改正を行うこととなったのか、この点についてお伺いしたいと思います。

小川政府参考人 お答えいたします。

 先ほど申し上げましたように、債権の譲渡による資金調達という手法は、主として中小企業の資金調達手法といたしまして重要な役割を果たしてきております。

 しかし、現行法のもとでは、債権には、譲渡制限特約、あるいは譲渡禁止特約というふうに申しますが、こういった特約を付すことができまして、譲渡制限特約が付された債権の譲渡は無効であるというふうに解されております。

 そのため、譲渡制限特約が付された債権を利用して資金調達を行おうとする債権者は、債務者の承諾を得た上で債権を譲渡する必要がありますが、実際には債務者の承諾を得ることができない場合が少なくないと言われております。

 また、債権を譲り受けようとする側におきましても、譲渡制限特約の存在によって譲渡が無効となる可能性が払拭し切れないため、譲渡人の信用リスクをも勘案して債権の価値を算定せざるを得ないという問題もございます。

 そこで、譲渡制限特約が資金調達の支障になっているという問題を解消する観点から、改正法案では、譲渡制限特約が付されていても、債権の譲渡の効力が妨げられないこととしております。

宮路委員 今の御説明を伺っておりまして、やはり大学生時代の私には到底理解できないような世界だったのだなと改めて思った次第でございますが、その後、十数年を経て、私、今の答弁の内容が理解できるようになりました。経験というのは非常に大事なものであります。

 ただいま、債権譲渡したい、そういう気持ちがあるというのはわかりますが、他方で、債務者にとっては、債権譲渡しないという合意をしていたのにそれが無視されてしまうことになってしまいます。この点についても改めてここでお伺いしたいと思っておりますが、今回の改正で、そうした譲渡禁止あるいは制限特約というものを設けておるその債務者に何か不都合が生じることはないのか、この点についてお伺いしたいと思います。

小川政府参考人 お答えいたします。

 債務者にとりましては、譲渡制限特約を付する目的は、これは主として、弁済の相手方を固定することにより見知らぬ第三者が債権者となるといった事態を防ぐことになりまして、その限度では、譲渡制限特約を付した債務者の期待は保護する必要があると考えられるところでございます。

 そこで、譲り受け人が、譲渡制限特約がされたことを知り、重大な過失によって知らなかった場合、いわゆる悪意または重過失というふうに申し上げておきますが、この悪意または重過失がある場合には、債務者は、譲り受け人に対する債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済等をもって譲り受け人に対抗することができるということとしております。

 したがいまして、この規定のもとでは、譲渡制限特約について、悪意または重過失の譲り受け人との関係では、これは債務者は従前どおり譲渡人に対して弁済を続ければ足りるということになるのでありまして、先ほど申し上げました、債務者の期待は保護されているというところでございます。

宮路委員 わかりました。

 それでは次に、今回の改正によって、譲渡人に支払えば足りるとなりますと、いざその譲渡人が破産したといった場合には、譲り受け人の方は債権回収を図ることができないことにもなりかねません。譲渡人が破産した場合には譲り受け人としてはどのような対策をとることができるのかについて、またこの場でお聞きしたいと思います。

小川政府参考人 改正法案のもとでは、譲渡制限特約について、悪意または重過失の譲り受け人は、債務者が譲渡人に対して弁済した金銭を譲渡人から受領することによって債権を回収するということが想定されているわけでございます。

 もっとも、先ほど御指摘がありましたように、譲渡人が破産した場合には、譲り受け人は、譲渡人に対して弁済された金銭の全額を譲渡人から回収することができなくなる、そういうリスクがございます。債権譲渡を利用した資金調達の円滑化を図るためには、このようなリスクを除去するための措置を講じておく必要があると考えられるところでございます。

 そこで、改正法案におきましては、譲渡制限特約が付された金銭債権が譲渡された後に、譲渡人について破産手続開始の決定があった場合には、譲り受け人は債務者にその金銭債権の全額に相当する金銭を供託させることができることとしております。この供託の請求がされた後は、債務者は譲渡人に対する弁済をもって譲り受け人に対抗することができないことになるわけでございます。

 そして、この譲り受け人による供託の請求を受けて供託された金銭については、譲り受け人のみが手元に持ってくる、要するに還付を請求することができるとされておりますので、譲り受け人はその還付を受けることによりまして債権の全額を回収することができる、こういう仕組みを設けております。

宮路委員 当然のことながら、よく練られたものでございまして、債務者に対する配慮も十分になされているということがよくわかりました。

 ところで、債務者の意向に反して譲渡制限特約が付されている債権を譲渡してしまうと、債務者から、譲渡禁止の特約に違反したことを口実に契約を解除されないかという懸念もあったというふうに聞いております。なかなか細かいところまで皆さんよく行き届いているものだなと思ったわけでございますが、この点についてはどのように考えているのか、この場でお伺いしたいと思います。

小川政府参考人 改正法案に対しましては、譲渡制限特約が付されている債権を譲渡したとしてもその効力は妨げられないことになるわけですが、譲渡人としては、債務者との関係で、特約に違反したことを理由として、今お話ありましたように契約を解除されるおそれがあるため、譲渡制限特約が付された債権を譲渡するのはやはり困難で、資金調達の円滑化にはつながらないのではないかという懸念も示されたところでございます。

 しかし、改正法案におきましては、債務者が譲渡制限特約を付する場合の一般的な目的、すなわち弁済の相手方を固定する目的は達成することができるように、これは先ほど申しましたように弁済の、対抗するような措置をとっております。そういった配慮をした上で債権譲渡を有効としておりますので、譲渡制限特約が付された債権の譲渡は、必ずしも特約の趣旨に反するものではなく、特約違反を構成しないと見ることが可能でございます。

 また、仮に特約違反になるとしても、債務者にとっては特段の不利益がないということになりますので、それにもかかわらず、債権譲渡を行ったことをもって取引関係の打ち切りですとか契約解除などを行うことは極めて合理性に乏しい行動と言えて、いわゆる権利濫用などに当たり得るものとも考えられます。

 法務省といたしましては、この点を含めて改正法案の趣旨を広く周知し、譲渡制限特約に関する実務運用が改正法案の趣旨に沿ったものとなるよう努めていく所存でございまして、関係省庁や関係団体とも連携協力して、中小企業の資金調達の円滑化を進めるべく取り組んでまいりたいというふうに考えております。

宮路委員 ありがとうございます。

 今の論点を含めまして、今回の改正案、そのほか、消滅時効あるいは法定利率、これもこれまでの審議において各委員の方々から有益な質疑が行われたところでございますが、その内容の周知が極めて重要であると考えております。

 民法というのは、これまで、債権法の分野は百二十年間大きな改正がなされてこなかったということ、これは、逆に言うと、それだけ定着しているということであります。それを変えるということですから、その周知について、非常に重要であるということであろうと思います。

 参考人の方々も、このことについては、周知が大事だということで触れておられたところでございます。

 最後に、大臣にお伺いしたいというふうに思っておりますが、この法案が成立した場合の周知について、法務省としてどのように取り組んでいくおつもりか、その決意をお聞かせいただきたいと思います。

金田国務大臣 宮路委員から、限られた時間で非常に中身のある、第三者保証あるいは債権譲渡についていろいろ質問をいただきました。

 そして、ただいまは、私がお答えすることになりますが、本法案が成立した場合の周知の重要性をおっしゃっています。そのとおりだと私も思っております。

 改正法案は、民法の中で、債権関係の諸規定を全般的に見直すものであります。したがって、国民の日常生活や経済活動に広く影響を与え得るものでありますから、法律として成立をさせていただきました後は、その見直しの内容を国民に対して十分に周知する必要がある、このように私も考えている次第であります。

 そこで、改正法案においては、近時の民事基本法の改正と比較しても長期の準備期間を確保するという趣旨で、改正法の施行の日を、原則として、公布の日から三年を超えない範囲内において政令で定める日としております。

 法務省としては、改正法が適切に施行されますように、施行日までの間に、国民各層に対しまして効果的な周知、例えば、全国各地で説明会の開催を行ったり、あるいは法務省ホームページのより一層の活用を考えたり、あるいはわかりやすい解説の公表をするなど、そういった形で効果的な周知を実施するように努めていきたい、このように考えておるところであります。

宮路委員 これまで、どちらかというと法務行政というのは国民にとってやや遠い存在だったのではないかと思いますが、金田大臣の力強いリーダーシップのもと、国民に近い法務行政ということで、周知の徹底をお願いしたいというふうに思っております。

 これで質疑を終わらせていただきたいと思いますが、かつての民法の教授が私の今の姿を見たら何と思うか。(発言する者あり)ありがとうございます。

 これで質問を終わらせていただきます。

鈴木委員長 次に、逢坂誠二君。

逢坂委員 民進党の逢坂誠二でございます。

 北海道函館からやってまいりました。三時間ほど前までは風速三十メートルぐらいで、時折ふぶいている状況だったんですが、この東京の青空のもとへ来ると、そういう厳しい情景を忘れてしまうというか、人間というのは随分勝手なものだなというふうに思っていますけれども。飛行機がおくれるかと思ったんですけれども、間に合いまして、本当によかったと思っています。

 質問に入る前に、大学できちんと法律を学んだ先生方が、いや、実は大学時代に余り法律は得意でなかったとか、法律は好きじゃなかったという話をされるのは、私は御謙遜なんだというふうに思います。ただ、そういう声を立法府の一員である、国民の代表である国会議員が余りしゃべらない方がいいんじゃないかなという気は私は内心しないでもありません。

 私は、逆に、大学では物理や化学や生物の勉強をしておりました。残念ながら、法律の勉強というのは教養のときにちょっとしかやっておりません。だから、法的な思考力という点では、大学でしっかり法の基礎を学んだ方に比べれば、私は相当劣ると思っています。だけれども、立法府にいる国民の代表として、私の持てる力の限りこの立法という仕事を私なりの観点でやはりやっていきたい、そう思っておりますので……(発言する者あり)ありがとうございます。よろしくお願いしたいと思います。

 それで、きょうは、改正民法の四百六十五条の六、主にここについてちょっと話をしたいというふうに思います。

 この間もこの保証の問題は複数の先生がお話しなさいましたし、それから参考人の方からも話がございました。今回の民法改正の一つの大きな柱だろうというふうに思います。

 今回、事業に関係のない個人が保証人になるということについて、公正証書を作成することで保証人になることの意思をしっかり確認しようということではありますが、私は、これまでの議論を聞いていて、今回のことで何が改善されるかなと思うと、軽率だったり安易だったりする保証人、こういうものは相当程度減っていくだろう、簡単な気持ちで、おお、いいぞ、俺、保証やってやるよなんというのはなくなるかもしれないというふうに思います。

 しかしながら、よく専門用語で言う情義性、要するに、どうしてもいろいろな人間関係の中で保証せざるを得ないとか、あるいは、取引の都合上、ああ、あの社長のところだったら保証しなきゃならないかななんていう情義性、この部分については、残念ながら今回の改正でもクリアすることはできない、解決することはできないのではないかというふうに思います。

 それからもう一つが、これは根源的な問題でありますけれども、そもそも保証人が保証能力があるのかどうかという点についても、必ずしも今回の改正だけではクリアできないなというふうに思います。

 それから、私の経験の中で、保証人、特に個人で保証する方の問題で多いのは、お一人で幾つもの保証をされている方がいらっしゃるというようなこと、それから、相互に保証し合っている関係があったりすること、あるいは、相対の相互ではなくて、複数人の間で保証を持ち合いしているといいましょうか、そういうケースが結構散見されるわけでありますけれども、そういうことについても今回の法改正では必ずしもクリアできないだろうというふうに思います。

 ただ、安易、軽率な保証行為、これがある一定程度抑制されるだろうというふうには思いますが、それにしても、もう少し丁寧にいろいろなことを確認しておかなければいけないな、そんな思いでおります。

 なぜ私がこんなことを言うかというと、実は、私の実家は小さな商売をやっておりました。まさに父と母で仕事をしているような商売でありました。そのときに、運転資金を借りるということで、私の知らない間に、実は私が保証人になっていたということがございました。私が保証人になっていた。そのことで父ともめました。何で勝手にやるんだと。おまえ、いいじゃないか、どうせちゃんと返すんだからと。それはもちろん返してもらわなければ困るわけでありますけれども、でも、そんなことが実は世間で当たり前のようにあったのがかつてでありました。

 それから、私の知り合いの農家の息子さん、この方もやはり、お父さんがその息子さんに無断で保証人にした。そこは我が家と違って、残念ながら離農せざるを得なかった。その息子さんの人生はもう、一生を棒に振ると言うと言い過ぎかもしれませんが、父の借金を返すためだけに二十年も三十年も働いているという実態があります。

 だから、そういう経験を踏まえると、やはりここはちょっと丁寧にやらなきゃいけないなというふうに思っています。

 それから、加えて、相互に保証し合っているということがあるために、ある一軒がおかしくなったら地域全体が、みんなが倒れてしまったというケースも私なりに体験をさせていただきましたし、そのことによってみずから命を絶った方というのも、私の仕事の中でもいらっしゃいました。そういう経験も踏まえて、保証のところを少し詳しく聞かせていただきたいと思います。

 まず、法務省にお伺いします。

 事業に関係のない個人が保証をすること、いわゆる第三者保証という言い方をするんだと思いますが、これの課題、問題点というのはどういうところにあると見ていますでしょうか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 保証契約は個人的な情義などに基づいて行われることが多いことや、保証契約の締結の際には保証人が現実に履行を求められることになるかどうかが不確定であることもあって、保証人の中には、そのリスクを十分に自覚せず安易に保証契約を締結してしまう者が少なくないことなどが指摘されております。このような問題は、とりわけ、経営者以外の第三者が保証人となるケースにおいて顕著であると承知しております。

 もっとも、第三者保証の中には、個人の投資家が事業の支援として自発的に保証することなども現に存在しているものと承知しております。このため、第三者保証を全て禁止することに対しては、特に中小企業の円滑な資金調達に支障を生じさせ、金融閉塞を招くおそれがあるとの指摘が中小企業団体からの強い意見として示されておりまして、この意見も重く受けとめる必要があると考えております。

 第三者保証のあり方を検討するに当たりましては、これらの相反する要請をどのようにバランスのとれたものとしていくか、これが重要な課題であるというふうに認識しております。

逢坂委員 第三者保証を全部禁止すると金融閉塞が起こるんだ、それから、個人の意思に基づいて投資をしようという人もいるんだということでありましたけれども、これは通告していませんけれども、個人の意思によって投資をしようという人は、全体の割合からするとそんなに多くなかったですよね。どうでしたか。通告していないですけれども。

小川政府参考人 お答えいたします。

 数的には多くないことは承知しております。

逢坂委員 だから、個人の意思に基づいてやる投資家がいるから金融閉塞が起こるんだということは、私は必ずしもそうではないのではないかという気がするわけであります。だから、原則禁止にして、そういうところだけを例外的に残すという方法はあるんだというふうに私は感ずるわけであります。それはちょっと、またこの後の議論で話をしていきたいと思いますが。

 それでは、現在の第三者保証の件数というんでしょうか、これはどの程度かということはわかりますでしょうか。金融庁にも来ていただいておりますので。

水口政府参考人 お答え申し上げます。

 金融庁では、全ての金融機関における第三者保証の徴求状況というのは網羅的には把握してございませんけれども、幾つかの金融機関とのヒアリングの際に確認したところでは、監督指針の改正以降におきまして、いわゆる、経営に実質的に関与していない第三者による自発的な意思に基づく申し出によりまして個人連帯保証契約というのを締結しているケースは、ほとんどない、もしくはまれであったということでございます。

逢坂委員 今の金融庁の話、改めて確認をさせていただきたいんですが、個人の自発的な意思に基づく保証という言い方をされたかと思うんですけれども、それは、いわゆるエンジェルとか言われる、そういうもののことを言っているんでしょうか、それとも、どういうことを言っているんでしょうか。

水口政府参考人 お答えいたします。

 監督指針におきまして、今申し上げました、みずから連帯保証の申し出を行った方という趣旨で申し上げたものでございます。

逢坂委員 それでは、みずから連帯保証の申し出を行っていない、要するに、みずからは行わないけれども、お願いされてなった方は含まれていない、そういう意味でしょうか。

水口政府参考人 そこは含まれてございません。

逢坂委員 わかりました。

 びっくりしました。金融庁の答弁のとおりだったら、これは立法事実がないということになってしまうものですから、ちょっとどきどきしました。

 法務省に、それじゃ改めてお伺いしますけれども、立法事実はあるんですよね。要するに、今回の四百六十五条の六に該当するような、今回はその人たちは公正証書をつくるということになっているわけでありますけれども、この法が改正される以前にこの対象になるような人はいるということですよね。

小川政府参考人 もちろんいらっしゃいます。

 私どもの方としても、今お話がありましたように網羅的に承知しているわけではございませんが、これは、平成二十五年六月十日の参議院法務委員会におきまして、当時の全国地方銀行協会の会長行であります千葉銀行の方から、自行の個人保証の徴求状況について、個人連帯保証契約先約三万三千のうち、経営に実質的に関与している第三者は約三千五百、それから経営に実質的に関与していない第三者は五十五というふうになっておりますが、この経営に実質的に関与していないというのも、代表取締役を退いた会長や取締役を退いた実質オーナーなど、経営に実質的に関与している第三者として計上しておりますので、これら三千五百ですとか五十五につきましては、今回の改正案によりますと、支配株主であるような場合を除きますと、原則として意思確認の手続の対象になるということでございます。

逢坂委員 ちょっと冒頭聞き逃したんですが、民事局長、今の、最初に言った三万三千というのは、銀行協会の何と言いましたでしょうか。

小川政府参考人 これは、参議院の法務委員会での参考人質疑におきまして、当時の全国地方銀行協会の会長行であります千葉銀行が呼ばれておりまして、その担当者の方から、改めて申し上げますと、いわゆる経営者本人保証を含む個人保証全体の件数は約三万三千件である、そのうち、自発的な意思に基づく申し出によって、経営に実質的に関与していない第三者が保証人となっているものは約五十五件、それから、代表取締役を退いた会長や取締役を退いた実質オーナーなど経営に実質的に関与している第三者が保証となっているものは約三千五百件。要するに、第三者保証の類型として、今申し上げました五十五件と三千五百件ということを言われています。

 その三千五百件の方、我々の仕切り方と若干違いますので、改めて説明いたしますと、代表取締役を退いた会長ですとか取締役を退いた実質オーナーであっても、この方は、例えば支配株主であるというような要件を満たさない限りは今回の意思確認の手続の対象になるという類型であると考えております。

逢坂委員 それで、三万三千と母数を千葉銀行の方がおっしゃったということでありますけれども、その三千五百と五十五以外というのは、それはどういうことなんでしょうか。どういうふうに法務省では見ているんでしょうか。

小川政府参考人 済みません、私の説明が不十分でございました。

 要するに、千葉銀行が自分の銀行の個人保証の徴求状況を説明した文脈でございます。個人連帯保証契約先が約三万三千あって、今申し上げました五十五ですとか三千五百の類型以外は経営者本人保証、個人保証全体の件数として三万三千件でございますので、その余のものは経営者本人保証というふうにお考えいただければと思います。

逢坂委員 わかりました。

 それでは、千葉銀行さんを例にとれば、大体三千件強が今回の公正証書作成の対象になり得る可能性があるということ、そのように理解をしましたけれども、よろしいですか。五十五だけですか。

小川政府参考人 先ほど申し上げましたが、この類型が私どもの方の類型と必ずしもマッチしているわけじゃないんですが、代表取締役を退いた会長や取締役を退いた実質オーナーなども、これは第三者保証の類型でございます。

 したがいまして、自発的な意思に基づく申し出によって、経営に実質的に関与していない第三者が保証人となっているものという類型で五十五件、もう一つの第三者保証の類型として、代表取締役を退いた会長や取締役を退いた実質オーナーなどが第三者として保証人となっているものが約三千五百件ということでございますので、先ほどから申し上げていますように、支配株主であるような場合は若干でこぼこがございますが、全体としますと、この合計の三千五百五十五件というのがいわゆる第三者保証であるというふうに理解しております。

逢坂委員 私が何でこんな話をするかというと、立法事実がどれぐらいあるかということをやはり確認する必要があると思うんですね。

 法務省として、これは、今回の件でどの程度の数があるかという推計、累計みたいなことというのは必ずしもやられておらないんでしょうか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 私どもといたしましても状況について詳細に承知しているというわけではないということでございますが、先ほど申し上げました千葉銀行の例をもとにして一定の試算をしております。

 この千葉銀行の件数は、当時の、平成二十五年段階での一時点において継続している保証の総数を述べたものでありまして、一年ごとに新規に締結される保証契約の件数はこの数値よりも低くなるわけでございます。

 一般に、一件当たりの保証期間をどの程度のものとして保証契約が締結されるかは定かではございませんが、事業性の融資の多数を占めると考えられます貸金等根保証契約については、その保証期間が法律上最大で五年とされていることを踏まえますと、五年に一度は保証契約が締結し直されているものと考えております。そういたしますと、一年ごとに新規に締結される保証契約の件数は、ある一時点における総数の五分の一というふうに仮定できようかと思います。要するに、五年分が累積して先ほどの数になっておりますので。

 その上で、これは千葉銀行の貸出残高と、都市銀行や地方銀行、信用金庫などの貸出残高の合計額とを対比いたしまして、保証契約の件数を推計いたしました。この結果として、先ほどの二つの類型の合計として、全体として予想される、ここで言う第三者保証として考えておりますのが四万数千件というところでございます。

 以上申し上げましたのが、私どもが行いました試算でございます。

逢坂委員 四万数千件というのは日本全体でということで、改めて確認していいんでしょうか。うなずいておりますので、そういうこと……。どうぞ答弁ください。

小川政府参考人 先ほど申しましたように、千葉銀行の貸出残高と全国のいわゆる金融機関の貸出残高との合計額を対比して、掛け算いたしましたので、これは全国の数字というふうに理解しております。

逢坂委員 金融庁にはこれは通告していないんですけれども、今言ったような形での数字みたいなものは、金融庁としては何らか把握しているものはあるんでしょうか。あればある、なければないで構わないんですけれども。

水口政府参考人 お答えします。

 金融庁としては特段把握してございません。

逢坂委員 では、金融庁に改めて問いたいんですけれども、金融庁はこの間ずっと、この第三者保証というものを縮小する方向で頑張ってこられたというふうに認識をしているんですが、これを最初やるときにどの程度の件数があって、それをどういう程度縮小しようとか、そういう目標が必ずしも金融庁はあったわけではないという理解でよろしいんでしょうか。

水口政府参考人 お答えします。

 あらかじめの目標というのは特にございません。

逢坂委員 私、ちょっと、今、正直申し上げまして愕然としているんですが、こういう法改正をするからには、どの程度の件数があってというようなことはやはりしっかり把握をした上で、立法事実がこうである、しかも、今回の手だてを講ずることによってそれがどの程度減ぜられるのかということをやはりしっかり把握した上で法改正しないと、何となくやったようには見えているけれども、本当に効果があったのかどうかというのは私はわからないということになってしまうんじゃないかなという気がするんですね。

 それと、もう一つは、実務を考えてみたときに、これから公正証書をつくっていただくわけですから、実際に全国の公証人役場がそれを引き受け切れるぐらいの量なのか、あるいは全体の業務量からいって全くそれは取るに足らない量なのか、そのことも今の話からすると予定していないように思えてならないんですけれども、この辺、もうちょっとお話を聞かせていただきたいと思います。

 それじゃ、金融庁は、この間、第三者保証のさまざまな問題というのは改善されているという認識であろうとは思うんですけれども、何をもって改善されているという判断をしているんですか。

水口政府参考人 お答えいたします。

 どの程度改善されているかとお尋ねでございますけれども、今回の民法改正案にございましては、保証人になろうとする者による保証意思というのを公証人が確認するということが求められていると承知してございます。

 こうした保証意思の確認の手続によりまして、第三者が連帯保証契約を締結することに対してより一層慎重になるという効果は考えられますけれども、その結果、第三者保証がどの程度減少するかについてお答えすることはなかなかちょっと困難でございます。

 ただ、金融庁としましては、金融機関が個人保証に依存しない融資を一層促していくことが重要だというふうに考えてございまして、モニタリング等を通じて金融機関にさらに取り組みを促していきたいと思っております。

逢坂委員 正直なところ、驚きました。

 私は、今回のこの改正を必ずしも否定的に思っているわけではないんです。ただ、もう少し緻密な見通しがあってやっているのかなと思ったんですけれども。

 今回の改正によって、私が冒頭に言ったとおり、軽率で安易な保証というのは、それには抑止がかかる可能性は非常に高いというふうに思っています。ただ、情義性とか、そもそもの保証能力の問題については、これはクリアできないだろうという話をさせていただいたんですが、必ずしも立法事実を把握しておらないということと同時に、今回の法改正による効果についても余り何か強く感じておらないというのはちょっと意外でありました。

 逆に言うならば、それでは、問題になる第三者保証というのは少ないという見方なのかどうか。ちょっとその辺はお答えづらいと思いますので聞きませんけれども。

 私はそうではないんだと思うんですね。これぐらいの改正をやるからには、もっとそのあたりをちゃんと調べて、全国的に、千葉銀行だけではなくて事実をもっと調べてやらないと、本当に出発点があやふやだというふうに思います。これは批判せざるを得ません。ちょっと驚きました。

 それでは次に、現在の公証人役場の公正証書の作成件数というのはどれぐらいになるでしょうか。

小川政府参考人 平成二十七年の公正証書の作成件数は約二十二万件でございます。

逢坂委員 二十二万件公正証書が作成されている。今回、それでは新たな、民法のこの公正証書の作成ということが保証人について出た場合には、それがどのぐらいふえるというふうに見込んでいるんでしょうか。

小川政府参考人 先ほど申し上げましたように、私どもの試算では一年間当たりで四万数千件、先ほども言いましたように若干含まれないものも入っているかもしれませんが、多目に見積もって四万数千件。もちろん、一定の数の減少が二十五年から続いている可能性はあると思いますので、やや変動的な要素があろうかと思いますが、差し当たって四万数千件程度の増が考えられるのではないかというふうに思っております。

逢坂委員 四万数千件程度、多目に見積もってという発言がありましたけれども、私は、そこはそのまましゃべっていいのかなという気が内心しないでもないんですが、であるならば、公正証書作成業務という観点でいえば、全体の枚数のうち二割弱仕事がふえるという理解でよろしいんでしょうか。

小川政府参考人 公証人の業務はもちろん公正証書作成だけではございませんが、公正証書作成という観点から見れば御指摘のとおりだと思います。

逢坂委員 それで、現在、公証人役場というのは全国に三百ぐらいある、それから公証人の方は五百人ぐらいいるというふうに承知をしているんですが、これに間違いがないかどうかと、仮に四万ふえたとしても、現在の体制のままでそれは十分業務としてはやれる、そういう認識でいるということでありましょうか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 本日現在で公証人の現在員は四百九十七名でございます。役場の数は二百八十六カ所でございます。

 公正証書の増加数と、それに伴う対応の可否ということでございますが、先ほど申し上げましたように、本日時点での公証人の数は四百九十七人でございまして、先ほど、見込まれる件数を申し上げましたが、現在の公証人の数で割りますと、一人当たりの増加する事件数は、多くて年間約百件程度というふうに見込んでおります。

 そして、先ほど公正証書につきましては二十二万件というふうに申し上げましたが、公証人の仕事はそれ以外にも多数ございます。公正証書の作成のほかにも定款認証、私署証書の認証、確定日付といったものが主要な業務でございます。これらを合計いたしますと年間百三万件程度ございまして、これを一人当たりで見ますと年間二千百件程度の事件を扱っていることになります。

 先ほど申し上げましたように、公正証書の増加という観点から見ますと、年間百件程度の増加であれば、現在の公証役場の体制で差し当たっては対応することが可能であるというふうに考えております。

 もっとも、これは、公証に対する需要が今後とも高まっていくことが予想されますし、この保証意思宣明公正証書は非常に重要なものでございますので、その推移などを見定めながら、公証人を適切に配置するように努めてまいる所存でございます。

逢坂委員 仮に四万という推計が正しければ、多分それはそのとおりなんだろうなというふうに聞いて、私は若干安心はいたしました。

 ただ、やはり一番問題になるのは、出発点である四万というところが本当にそうなのかどうかというところは、多分かつてに比べれば第三者保証というのは減っているんだろうというふうには思うんですが、せっかくこういう議論をするからには、法務省としては、あるいは金融庁もそうなのかもしれませんけれども、もう少し立法事実のところを丁寧に拾っておけば、この三十分はこんなに時間がかからなかったなというふうに思います。

 でも、ここは結構私は大事だと思うんですよ。どの程度の方がお困りになっている、その対象の母集団でいるのかどうかということをしっかり考えておかないと、対応、対策をせっかくとっても、いや、余り効果がなかったねということになると、これほどエネルギーをかけてやっていることが水の泡になってしまう可能性があるなというふうに思っています。

 そこで、実は公証人役場というところは、多くの方々はそんなに行ったことがないんじゃないかと、私は勝手にそう思っているんですけれども、これは感覚で結構なんですが、法務省は公証人役場も所管をしていると思うんですけれども、感覚として、敷居は高いんでしょうか、割とどなたでもどうぞという感じなんでしょうか。そういうところというのはどう、民事局長の感想で構わないので。

小川政府参考人 私も、いわゆる公証役場に何度か仕事の関係で伺うようなことがございますが、もちろん、都会にあります公証役場はいかにもオフィスという感じでございまして、よくある事務所と同じような形態のものでございます。他方、地方の方に行きますと、比較的小規模な、ビルの何階かに事務所を構えているというようなところがございまして、雰囲気はさまざまでございます。

 かつては恐らく敷居が高かったと思われますが、最近は遺言公正証書など非常にふえてきておりますので、一般の方からも近いものになってきているのではないかというふうに感じております。

逢坂委員 午前中は終わります。

鈴木委員長 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午後零時三十一分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時開議

鈴木委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 質疑を続行いたします。逢坂誠二君。

逢坂委員 逢坂でございます。

 それでは、午前中に引き続いて質問させていただきます。

 午前中の質疑の中で、今回の四百六十五条の六の立法事実が私は薄弱だとは思いません。立法事実はあるんだと思います、いろいろ困っている方がたくさんいらっしゃいますから。だが、法務省の立法事実の把握はちょっと甘いというふうに私は感じました。

 さてそこで、金融庁の方にも午後も引き続きお座りいただきまして、本当にありがとうございます。この間、金融庁も第三者保証というものをだんだん狭めていこう、減らしていこうという取り組みをされてきたことはわかるんですが、個人の事業主は、第三者保証がどんどん減ってくるということになったら、将来的に、どういう形で金融機関に信用を担保するということになるんでしょうか。例えば信用保証協会というようなものがあったり、あと、それ以外ではどういう形になるのかというところを、もし金融庁の方でわかれば教えていただきたい。どんな姿を目指しているのか。

水口政府参考人 お答えいたします。

 先生お尋ねの機関保証がどのようになるかというお話でもあったと存じますけれども、金融庁としましては、金融機関に対しまして、第三者保証に限らず保証に過度に依存することなく、取引先企業の事業内容ですとか成長可能性等も適切に評価して融資等を行うよう促してきておりまして、今後ともモニタリングを通じて金融機関のそういう取り組みを促していきたい、そういう方向性で今考えてございます。

逢坂委員 私が最近ちょっと実務から遠ざかっているので現場に疎いのかもしれないんですけれども、ということは、例えば信用保証協会なんかを使うということもあるけれども、それを使わないで個人事業主にお金を貸すというケースもあり得るということですか。その個人事業主の信用度合いが高ければそういう方向だということなんでしょうか。

水口政府参考人 お答えします。

 先ほども申し上げましたけれども、金融庁としては、いわゆる担保、保証に依存することなく、取引先の企業の内容もしくは成長可能性なんかも勘案しながら融資が行われるように金融機関に促しておりまして、その取り組みをさらに促してまいりたいということでございます。

逢坂委員 もう一言だけちょっと。私は頭の中でイメージできないんです。

 ということは、金融庁が目指している姿というのは、第三者保証はどんどん少なくなっていったらいいなということは、それはそれでいいんです。だけれども、では個人事業主にお金を貸すときに、本人に信用力があれば、それは保証というものがない形というのもある種の理想だと考えているということなんでしょうか。

水口政府参考人 お答えします。

 担保、保証に過度に依存することなく、まさに企業の内容ですとか成長可能性ですとか、そういうものを金融機関が見てきちっと融資できるようにということを今促してございまして、その取り組みというのを促してまいりたいということでございます。

 そういう意味では、担保、保証というのに過度に依存することなく金融機関が債務者企業の状況を見て融資できるようにしていきたいとしてきておりまして、今後ともそうしていきたいと思ってございます。

逢坂委員 いや、確かに言っていることはわかるけれども、それで金融機関は納得するのかなという気がしないでもないんですが、この問題はきょうの本質ではないので、後でまたちょっと。

 いやいや、言っているのは私は優等生の答弁だと思いますよ。だけれども、それで現実社会が回っていくのかどうか。というか、金融機関はそれで、いや、確かに調べましたよ、これはいいですね、でもここは悪いですね、悪いから保証をつけてほしいということに一般的にはなるような気はするんですけれども、そこについては排除していないんですよね。第三者保証はだんだん減らしていきたいけれども、保証をつけるということについては排除していないということでいいんですね。

水口政府参考人 お答えします。

 保証、担保をとってはいけないということではもちろんございませんで、過度に依存することなく、取引企業の事業内容、将来性をきちっと見るような融資をしていただきたいというふうに促しておるということでございます。

逢坂委員 この業界というか、この類いの議論というのは、何となく、言葉だけ聞いていると、ああなるほどなと思いがちなところは多いんですけれども、実務を頭に思い浮かべると、何か現実と合っていないような話のところがあるような気がしてしようがないんですね。

 金融庁に対する質問はきょうはこれで終わりたいと思います。午後まで引きとめて大変申しわけございませんでした。これからもまたどこかでお話を聞かせてもらうと思いますので、きょうのところはありがとうございました。

 それじゃ次、また法務省にお伺いしますけれども、公正証書の話にもう一回戻ります。

 今回のこの改正民法による公正証書をつくろうとすれば、これはお金は当然かかるわけですね。

小川政府参考人 公証業務につきましては手数料をいただくということになっておりますので、今回の保証意思宣明公正証書につきましても手数料をいただく予定でございます。(逢坂委員「お幾らですか」と呼ぶ)一万一千円の予定でございます。

逢坂委員 一万一千円の手数料をかけて公正証書をつくってもらって保証人になる、その一万一千円は事実上誰が負担するのかはともかくとして、公証人役場へ行ったときは、その保証人になる人がきっと基本的には払わざるを得ないのだろうというふうに推測しております。

 さてそこで、公正証書のつくり方なんですけれども、これは、法律によれば、保証人になる本人が幾つかの事項を、「公証人が、保証人になろうとする者の口述を筆記し、これを保証人になろうとする者に読み聞かせ、又は閲覧させること。」、そして「保証人になろうとする者が、筆記の正確なことを承認した後、署名し、印を押すこと。」ということで、これで公正証書をつくることになっているんです。

 保証人になろうという人、今回保護をしなければならない保証人という方は、きっと、もしかすると余り法律事項に詳しくないとか、あるいは、そもそもそういうことにふなれな人という方が、場合によっては保護されなければならない人だと思うんですけれども、この「保証人になろうとする者」が例えば上手に伝えられないとかというような場合は、代理の公正証書の作成というのは認められるんでしょうか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 口授すべきは本人というふうに定めておりますので、今回の公正証書につきましては代理嘱託はできないこととしております。

逢坂委員 代理嘱託はできないということですけれども、それじゃ、もう一歩別な形で、本人は余り上手にしゃべれないので、代理嘱託ではないけれども、本人も公証人役場へ行きます、だけれども、銀行の方が誰かがついてきて、その方がある種、本人の話を、この人はこうこうこういうことを言うつもりで来たんだというようなことを言うということは、これは公正証書をつくる上で可能でしょうか。

小川政府参考人 基本は本人の意思の確認でございますので、もちろん一定の補助ということは考えられる場面もあるかとは思いますが、いずれにしろ、制度が本来予定している姿というよりは好ましくないものだというふうに考えております。

逢坂委員 ここは結構私は重要だと思っていまして、かつてのいろいろなお金の貸し借りの契約の中でも、私も目の前で見ていたケースがあるんですが、やはり御本人はよくわからない、でも御本人がそこに座っている、それで金融機関の方ですとか、JAの方ですとか漁連の方ですとかが来て、横に座って、まあまあ、ここはこうだからこうだからこれでいいから、じゃここに判をついてくださいみたいなことになっちゃう。

 公正証書の場合は、そういうことは許されないということでよろしいでしょうか。

小川政府参考人 繰り返しになりますが、本人の口授が必要でございますので、今先生の御指摘のあったようなパターンでは、できないというふうに考えております。

逢坂委員 では次に、お金を貸し借りする契約の中で、返済が滞ったと。返済が滞ったら、裁判の手だてなしに強制的に保証人の財産を没収する、いわゆる強制執行ができるというケースもあろうかと思うんですが、こういうことになるのは、どういう手続を経たらこういうふうになるんでしょうか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 ただいま御指摘がありましたのは、いわゆる執行証書と言われます、執行認諾文言つきの公正証書ということだと思います。

 この執行認諾文言つきの公正証書とは、金銭の一定の額の支払いなどを目的とする請求について、公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているものをいいます。

 この執行認諾文言つきの公正証書が作成されている場合には、債権者は、これを債務名義として、保証人に対して強制執行の手続をとることができるということとなっております。

逢坂委員 ここも多くの方が気にしているところだと思うんですが、債務が滞ったら強制執行しますよというふうに、仮にそのお金を貸し借りする契約書の中に書いてある。書いてあっただけで、そこに保証人として名前を連ねても強制執行はされない。強制執行されるためには、公正証書に別途、もし債務が滞ったら強制執行されても構いませんよということが書いていなければ強制執行はされないということでよろしいでしょうか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 先ほど申し上げました執行認諾文言つきの公正証書は、債務者側の執行認諾、執行を受けるということについて認める旨の文言が必要でございますので、本人の認める旨の文言がない以上は執行証書としては扱われないということになります。

逢坂委員 ここも結構大事なところだと思っていまして、余りこれは多くの人はわからない。しかも、今の言葉は難しいですよね、執行認諾文言つき公正証書。ニンダクと言われてすぐさま漢字が思い浮かぶ人は相当業界に近い人で、ニンダク、ニンダクと言って思い浮かぶ人はなかなか私はいないような気がするんですが。

 それじゃ、公証人役場へ行って、本人はいろいろしゃべる、口述する、そのときに、このことが入っているかいないか、要するに執行認諾文言つきの公正証書であるかどうかということは相当に慎重にやはり確認をする手だてが要るんだと思うんですね。

 単に保証人になりますよということだけではなくて、執行認諾文言つき公正証書であるか否か、この点については、私は、公証人の方々に十分これは指導しなければいけないのではないかというふうに思うんですが、本人が知らないうちに実はそういうものが入っていたということであるならば今回の立法趣旨から大きく外れることになるわけですから、この辺、いかがでしょうか。

小川政府参考人 今回制度として設けますのは、保証意思そのものを宣明する公正証書でございますが、それとは別に、保証契約について執行の認諾文言がつくということについては十分注意するというのは、御指摘のとおりだと思います。

逢坂委員 本人の意思確認の公正証書以外に、認諾文言つきというところについては、分けて、ちゃんとやれるように、これは今後とも法務省にはちゃんとやってもらいたいと思います。もし法案が通ればの話でありますが。

 それから、私は、公証人役場のことについて、これは前に藤野先生も多分御質問されたかと思うんですが、全国に三百程度ということになりますと、やはり距離の問題というのがどうしても出てこざるを得ないと思っています。私の選挙区を考えてみますと、離島が一つある。離島はそもそも遠いわけでありますけれども、陸続きのところでも車で二時間半かかるというのが一番遠いところであります。

 そういうふうに考えてみると、公証人役場の距離の遠さというか利便性というか、そういうものについては法務省ではどう考えているでしょうか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 先ほど申し上げましたように、公証役場は全国で二百八十以上の数がございますが、やはり、事件数との関係などを見ますと、比較してみますと都市部に多いというのは確かでございます。

 もちろん、今後も、そういった需要などを見定めながら、適正な配置、配備を目指していきたいというふうには考えておりますが、公証人の場合、例えば、典型的には遺言公正証書などではよく見られますが、御本人が公証役場に出向くのが難しいというような場合には出張するというようなこともやり方としてはございますので、保証意思宣明公正証書においてもそういったものの活用は考えられるのではないかと思っております。

逢坂委員 公証人役場の地理的な業務の範囲というのは、必ずしも国民の皆様はわかっていないような気が私はするんですが。

 私は、今、函館に住んでいます。私が東京の公証人役場へ出向いていって公正証書をつくってもらうことは可能かどうか。逆に、私が函館にいる、その際に、東京の公証人役場にいる公証人が函館に出張してきて公正証書をつくってもらうことは可能かどうか。この二点、いかがですか。

小川政府参考人 公証人につきましては、職務執行区域という考え方がございまして、いわば監督をする法務局の単位での区域が職務執行区域ということになりますので、最初に言われた、東京の公証人のところに北海道から来られてということであれば、東京の公証人は東京の職務執行区域内で行っておりますので、これは問題ございません。逆に、函館の方に東京の公証人が出向いてやるということは、公証人の制度としては認めておらないというところでございます。

逢坂委員 そうなんですね。

 そういうことを考えてみると、実は、広い地域を所管している公証人役場にいる公証人の方というのは実は人数が結構少なくて、人口密集しているところ、割と多くの公証人役場があるところにいる公証人の方というのは、どっちかというと配置の人数が多いんですね。

 だから、その観点でいいますと、出張して来てもらいたいなと思う、そういう地域のところに公証人の方が少ない、こういう関係になっているような印象を持つんですね。だから、先ほど民事局長から、出張という手だてもありますよとはいったものの、果たしてその出張というのは現実的なのかどうかというところも、きょうはもうこれ以上は言いませんので、ちょっと考えてみなきゃいけないのではないかなというふうに思っています。

 ほかにも、公証人の研修をどうするかとか、今回のこの法がもし施行された場合に、この法の趣旨をどうやって徹底するのかとか、あるいは、先ほど昼食のときも幾つか議論になっていたんですけれども、公証人によって、随分、対応というか、質とまでは言うかどうかわかりませんけれども、対応にばらつきがあるといったような話も実は出ておりまして、こういった問題についても機会があればちゃんとただしておきたいなというふうに思います。

 それで、もう時間がなくなりましたので、これで、大臣の方にちょっと感想というか、お伺いしたいんです。

 きょう私が質疑した中で、公正証書を作成するということについては、軽率あるいは安易な保証、これは多少避けることができるだろうというふうに私は感じました。だけれども、情義性の保証、これはやはり今回の手だてをもってしてもうまくいかない、あるいは、保証能力をどう確認するかというところについては、金融庁はいろいろ言っていましたけれども、少なくとも今回の法整備の中ではそこにもなかなか手だてがいかないのではないかなという印象を持ちます。それから、一人で幾つも保証をするとか、あるいは、相互に保証し合っているといったようなことについてもなかなかうまくいかないのではないかなという印象を持っております。

 それから、最大のきょうの問題点は、立法事実というのは多分あるんだろう、だがしかし、立法するに当たって、閣法として出すという点において、その立法事実の把握、この辺が具体性が少し乏しいのではないかという印象を私は持ちました。

 これらの議論を聞いて、大臣、どのようにお感じになったか、御所見をお伺いします。

金田国務大臣 午前中からの委員の御指摘、そして民事局長の答弁といったものを私もお聞きしておりました。

 ただいま言われたことに関しましては、私は、やはり、公証人による保証意思の確認ということ、公的機関である公証人が保証人となろうとする者の保証意思を確認するという手続を設けることによって安易に保証契約を締結してしまうという事態を抑止することが可能となるという点と、この手続が存在することによりまして、結果的に保証人となることを差し控える例も相当数出てくるというふうに考えておりますので、私は、例えば、委員の御指摘の非常に多い第三者保証の件数、そういうものを減らす方向で、具体的な数字などを申し上げることはできないんですけれども、安易に保証人となるという事態は減少することになるのではないか、このように考えておる次第であります。

逢坂委員 大臣、ありがとうございました。

 ただ、私は、大臣に反論するわけではないんですけれども、安易にならない傾向が強くなるというのは私も同じ感想なんですが、ではそれが具体的に大体どの程度なのかとか、そういうところを、かっちりとした数字は言えないにしても、母集団をちゃんと捉まえた上でどうなるのだというところはやはりもう少し把握しておくべきではないかというふうに思います。

 終わります。ありがとうございます。

鈴木委員長 次に、井出庸生君。

井出委員 民進党、信州長野の井出庸生です。本日もよろしくお願いをいたします。

 たくさん通告をさせていただきましたが、大事なものから入っていきたいと思います。

 まず、今回の新たな債権法の改正、民法改正の中で、「取引上の社会通念に照らして」、こういう言葉が随所に出てくるのですが、この「取引上の社会通念に照らして」、個別の条文についてはまた後ほど順次聞いていきますが、この言葉を今回この法律に盛り込む、また多用する、そこのあたりの意図を、まず民事局長から伺いたいと思います。

小川政府参考人 お答えいたします。

 御指摘ありましたように、改正法案におきましては、「取引上の社会通念に照らして」という文言が、例えば善管注意義務を定めました四百条ですとか、履行不能を定めました四百十二条の二など、こういった場面では、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」などという形で、一定の法律要件などの存否についての判断の枠組みを示すために用いられております。

 これは、現在の裁判実務において、ある法律要件などの存否を判断する際に、契約の性質などの、債権の発生原因となった契約に関する諸事情のほか、取引に関して形成された社会通念をも考慮していることを踏まえ、このような判断の枠組みを明らかにしたものでございます。

 全部で九カ条存在しておりますが、いずれも、抽象的な概念を用いた要件などの存否についての判断の枠組みを明確にする趣旨で規定されているものでございます。

井出委員 今お話があったように、私も確認をしたところ、九カ所この言葉が使われております。

 今御説明あったところは、では、例えば四百十五条の債務不履行による損害賠償のところでいいますと、四百十五条の一で、その前段、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。」。この後なんですが、「ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び」、ここから「取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」と。

 この条文を例にしますと、「契約その他の債務の発生原因」というところは、想像するに、当事者同士が契約をする、債務関係が発生する、ですから、契約をした目的とか契約の趣旨の部分なのかなと思うんですが、その後の「及び」の後、私が取り上げている「取引上の社会通念」というものは、当事者間の契約の発生原因、契約の趣旨といったものよりは、簡単に言えば、取引の常識、常識的にはこうなんだよ、そういう意味合いなのかなと受けとめているのですが、それでよろしいのかどうか伺いたいと思います。

小川政府参考人 お答えいたします。

 社会通念という用語の意義自体は、一般的には、社会一般に受け入れられ通用する常識などと言われておりますので、御指摘がありましたように、取引上の社会の常識ということでよろしいかというふうに考えております。

井出委員 今そういうようなお話を伺いまして、九カ所全部やっておりますとさらなる会期の延長をしなければいけなくなってくると思いますので、重立ったところから聞いてまいりたいと思うのですが、まず、今お話をした四百十五条、債務不履行による損害賠償の部分でございます。

 これはもともと、現行の四百十五条は「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。」と。

 細かいところはちょっと、いろいろ説明し出すと切りがないんですが、私が先ほど読み上げた新しい方の法律も、ただし書きの前までは大体似たようなことが書いてあるんですね。ただしその債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らしても債務者の責めに帰すことができないときはこの限りではないと。

 現行法と新法、ただし書きのついたものを読み比べますと、債務者が責任をとらなくていい、損害賠償をしなくていい、新たにそういうケースが、この条文だけ比較するとふえるのかな。現行法は、基本的には損害賠償を請求することができて、債務者に責任があるときはそうなんだよと書いてあるんですけれども、今度は、ただし書きという形で、責任をとらなくてもいいケースを契約、債務の発生原因及び取引上の社会通念ということで挙げられているんですが、これはやはりそういう、債務者が損害賠償しなくていいケースというものを新たに盛り込むということになるのかどうか、そこを確認したいと思います。

小川政府参考人 お答えいたします。

 条文の体裁自体は若干異なる部分はございます。例えば立証責任をひっくり返すような形で、これは確立した判例実務に従ったものですが、そういう条文の立て方にはしておりますが、基本的な内容は従来の判例と同様でございます。

 帰責事由そのものについても、現在の裁判実務においては、給付の内容や不履行の態様から一律に定まるのではなくて、個々の取引関係に即して、契約の性質、契約の目的、契約の締結に至る経緯などの、債務の発生原因となった契約などに関する諸事情を考慮して、あわせて取引に関して形成された社会通念をも勘案して判断されているということでございまして、書かれている条文の書き方は異なるものの、実質は、あるいは運用としても、変わるところはないというふうに考えております。

井出委員 実質、運用は変わらないというお話をいただきまして、もう少し、念には念をで確認をしたいんですが。

 お配りをしている資料、出典は「図解による民法のしくみ」、神田さんという方が書かれている本。その真ん中の表といいますかエクセルといいますか、そこの部分を見ていただきたいんですが、「債務不履行には、以下の三つの類型がある」と。「履行遅滞」、「履行不能」、「不完全履行」。

 ここも議論はあるんですが、とりあえずそこはきょうはおいておきまして、その要件の中に、私がちょっとピンクの印をつけているんですが、その三つの類型があっても三つとも、やはり、「債務者に責任があること」をまず要件としている。ここは、この間、参考人でいらっしゃった加藤先生が、損害賠償は過失責任なのか無過失責任なのかはっきりさせてくれということをおっしゃっておったんですが、現行、こういう、三つの類型について、いずれも「債務者に責任があること」を要件と解説されている本がございます。

 その三つの類型の書き方も今回の新法で少し変わるんですが、ただ、いずれにせよ、債務不履行というものに対して、やはり債務者に責任があるということは、今回ただし書きが加わってもその大きな原則というものは揺らがないのか、そのことについてもう一度お願いいたします。

小川政府参考人 債務不履行による損害賠償に関する現行法四百十五条は、履行不能の場合に限って債務者に帰責事由がなければ責任を負わない旨を規定しておりますが、判例は、履行遅滞など履行不能以外の債務不履行についても、債務者に帰責事由がないことによる免責を認めております。それが判例の確立した実務でございます。

 今の資料では「責任があること」というふうに書いていますが、恐らく、趣旨とすると、債務者に帰責事由がないとは言えないということだと思います。それをそのように書かれているのであって、実質としては、そういう意味では全く異なるところはないというふうに考えております。

井出委員 その責任を、あると書くのか、ないとは言えないと書くのかで、非常にここの部分はわかりにくいんですが、これまでの判例とまた運用は変わらない、そのことは確認をさせていただきました。

 次に問題として取り上げたいのが、五百四十八条の二、定型約款のところでございます。

 定型約款の部分にも、五百四十八条の二の一で、まず、定型約款について説明をしている。五百四十八の二の二項で「前項の規定にかかわらず、」「相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに」、またここで「取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。」と。

 ここは、今読み上げたところは、今回、定型約款を事業者と不特定多数の方とが結ばれるときに、約款を作成する側の方がいろいろな情報があったり知識もあったりして、そういうこともあって、不特定多数の方いわゆる消費者を守る側の観点なのかなと思うのですが、そこにも「取引上の社会通念」と、その前段に「定型取引の態様及びその実情」ということもくっついているんですが、消費者側からすれば留保がかかっておるんです。

 ここを少し私なりに分析をしますと、「定型取引の態様及びその実情」というのは、お互いの、物を買ったりするときの、要は契約の目的、趣旨だと思うんですが、ただ、それは不特定多数なので、なかなか個別の趣旨というわけにもいかないと思うので、恐らく、定型取引の態様、実情と、先ほどの債務不履行のときと比べると少し言葉を変えられているのかなと。その一方で、「取引上の社会通念に照らして」ということも併記をされているんですが、ここの二つの部分のもう少し具体的な意味を御説明いただきたいと思います。

小川政府参考人 御指摘ありましたように、五百四十八条の二の第二項におきましては、定型約款の個別の条項が信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるか否かについて、いわゆる考慮事由として定められておりまして、その内容が、「その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして」ということでございます。

 こういった考慮事由を定めました趣旨でございますが、定型取引の態様というのは、まず、ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的であると言える、これが定型取引の定義でございます。

 これにおいては、契約内容の画一性が高い取引であるため、相手方である顧客において、約款の具体的な内容を認識しようとまではしないのが通常であります。このような特質に鑑みますと、相手方にとって客観的に見て予測しがたい条項が置かれている場合において、その条項が相手方に多大な負担を課すものであるときには、相手方においてその内容を知り得る措置を定型約款の準備者が講じておかない限り、そのような条項は不意打ち的なものとして信義則に反することとなる蓋然性が高いと考えられます。こういった定型取引の特質を考慮するということを示したのが定型取引の態様でございます。

 今の定型取引の態様は、いわば定型取引の一般的な特質を踏まえた考慮要素でございますが、これに加えて、個別の取引の実情を具体的に考慮し、問題とされた条項が信義則に反するかどうかを検討することも必要となるわけでございます。

 具体的には、その取引がどのような経済活動に関して行われるものか、その取引においてその条項が設けられた理由や背景、その取引においてその条項がその当事者にとってどのような利害得失を有するものかなどといった点も広く考慮されるべきものと考えられます。この趣旨で、個別の取引の実情という意味で、定型取引の実情と言っております。

 また、当事者間の公平を図る観点からは、条項が信義則に反するか否かに当たっては、その種の取引において一般的に共有されている常識、すなわち取引通念に照らして判断することも必要になると考えられます。このことをあらわす趣旨といたしまして、取引上の社会通念を考慮事由として示したものでございます。

井出委員 わかったようなわからないような、恐らく私が法学部でないことにも一つ、理解が進まない理由があるのかもしれませんが。

 「その定型取引の態様」というのは、例えば携帯電話会社が携帯電話を販売するときに、基本的に、どなたであっても何かいろいろ書いたものを用意すると。その後の「実情」というところは、実際の個別の携帯電話を売る店舗での対応ですとか、私はそんなような思いで捉えていたんですが、そこが合っているか間違っているか、ちょっと実例に即して教えてください。

小川政府参考人 お答えいたします。

 定型取引の態様というのは、一般的な、まさに定型約款を用いた、画一性ですとか、余り条項の内容を読まないといった、そういう前提に立ったものでございますので、先ほどの御指摘でよろしいかと思います。

 それから、定型取引の実情も、まさに個別の取引の実情ですので、販売店でどういうことが行われていたかとか、あるいはそこでの契約の締結に至る趣旨、経過なども含めて実情ということでございますので、御指摘のとおりかというふうに考えております。

井出委員 今、その態様、実情のところの御説明をいただきました。

 あと、「取引上の社会通念」、常識の部分なんですが、そもそも定型約款の項目そのものは今回新設をされますので、さまざまなケースや判例があるのかもしれませんが、その常識というものは一体どういうふうに解釈をしていくのかなというところが大変気になるのですが。

 この定型約款というものは、弁護士会なんかもそうですけれども、やはり消費者の保護というものの視点に立って定型約款の部分を評価されていると。ただ、こうしたただし書きといいますか、留保のような条項が一体どのくらいの影響があるのかなというところは考慮していかなければいけないと思います。

 前に、参考人の質疑のときにも少しここを議論させていただいたんですが、きょうはまた別の専門家の方の視点を少し紹介したいんです。

 「民法改正案の評価」、信山社という会社から出ている、加賀山茂さんという方が書かれている本なんですが、そこでは、最大の問題点は、無効とすべき不当約款の判断基準から任意規定という概念が落ちて、かわりに取引上の社会通念という、約款の無効ではなく、むしろ約款の有効性を担保するのに好都合な概念を基準としている、約款が一旦作成をされ合意されたものとみなされると、それが取引上の社会通念とされることになるのであるから、それを約款の無効の判断基準としたのでは公正な判断基準とはなり得ない、定型約款の規定を新設した意義を大きく損ねていると。

 ちなみに、その加賀山さんも指摘をされているんですが、消費者の利益を一方的に害する条項の無効ということで、消費者契約法の第十条を見てみますと、消費者契約法の第十条では、「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効」であると。

 加賀山さんは、消費者契約法第十条、不当約款の判断基準は「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定」だ、それが今回、民法の新法では取引上の社会通念に成りかわってしまっている、そういう意味では、極めてそこがまず曖昧になって、さらに約款の有効性を助ける書きぶりになってしまっているのではないか、そういうことを指摘されているんですが、その点についてちょっと御見解をいただきたいと思います。

小川政府参考人 今お話がありました消費者契約法自体はもちろん消費者と事業者との関係の問題には適用されますので、先ほど言われた内容も、広く、定型約款も含めた形で適用はされる前提でございます。

 ただ、民法の条文としては、消費者契約法のような任意規定との比較という基準には立たなかったということでございますので、今言われた批判は必ずしも当を得ていないのではないかというふうに思っております。

井出委員 この指摘は前に参考人質疑の際に私も申し上げたんですが、これまで約款の議論というものが全くなされていなかったかといえば、決してそうではない。そういう中で、作成者不利、何かあったときに、作成する側、情報をきちっと持っている側、そういう者が不利になるという原則が確立されてきて、それが変わってしまうのではないかという疑念なんです。

 ちょっと今のところをもう一度お聞きしたいんですが、消費者契約法第十条では、「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効」であると。

 少なくとも約款の部分に関して言えば、定型約款というものが盛り込まれて、いろいろ気を使って条文をつくっていただいたとはいえ、前段に御紹介をしたような定型約款の定義というものが生まれて、それに対して、取引上の社会通念とかが、あるときは、はっきり言ってしまえば、作成者側の利をちゃんと認めるということも書かれているんですが、そうすると、民法が一歩、定型約款に関して具体的なものを書くことによって、消費者契約法第十条の解釈、運用というものも変わってくるんじゃないのか。それは、加賀山さんの指摘からすれば、これまでの約款作成者不利原則というものがやはり損なわれるのではないか。ちょっとその点について教えていただきたいと思います。

小川政府参考人 まず、御指摘がありました不利の原則については、ちょっと今回の内容とは直接はかかわらないのではないかというふうに思っております。

 それから、消費者契約法第十条の解釈に当たりましては、これまでの裁判例の中で、民法等の法律に規定がない判例や一般的な理解から導かれるルールとも比べて、相手方の権利を制限し、または相手方の義務を加重するという要件を充足するか否かを判断するという考え方が既に考え方として確立しておりますので、この考え方は妥当であると考えられますが、実際の解釈論と条文の文言との間に乖離があるとも言える状況にあります。

 そのため、先ほど御指摘のあった、「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、」という要件は規定していないというのが説明でございます。

井出委員 今、約款の作成者不利の原則のところを申し上げたときに、そのことは少しこの部分の議論には当たらないのではないかと御指摘をいただいたんですが、一番の問題意識は、定型約款を明記すること、それが弁護士会は消費者にとって一歩前進だと評価をしている、また、新聞とか各種報道を見ていても、消費者のために大きな前進だというようなことが論調として書かれているんですが、果たして本当にそうなのか。

 これは、金田大臣にもちょっと伺いたいのですが、金田大臣、以前この議論で藤野先生が質問をしたときに、「民法はやはり私法の一般法であるという考え方、そのために、取引当事者の情報あるいは交渉力の格差の是正を図るといった、消費者の保護それ自体を目的とする規定を設けるのであれば、特別法である消費者契約法などによることが基本になるかな、こういうふうにも思うんです。」と。このことに対して、藤野委員は、約款の個別例じゃなくて全体としての考えを聞いたんですというお話をされていたところがあるんですが。

 果たして、弁護士会や新聞、テレビが言うように、消費者を守る定型約款の新設なのか、そうではなくて、大臣がおっしゃっている、あくまで民法だから私法の一般法なんだ、消費者を守るのであれば特別法でやっていくことが基本になる、どっちのスタンスがこの法律の定型約款を新設することの趣旨なのか。大事なところですので、できれば大臣に答えていただきたいと思います。

小川政府参考人 まず、私の方からお答えさせていただきます。

 今回の定型約款の制度の基本的な内容は、やはり、定型約款が有効になる場合、あるいは一定の場合に無効になる場合、さらには変更を認められる場合といった枠組みを定めること、これによって予測可能性が立ちますし、紛争の解決の基準としても一定の機能をするということが一般法としての民法の主たる役目でございまして、そのことが消費者にとっても利益になるということ、これが一つの説明でございます。

 消費者との関係、事業者と消費者という、まさにその両者との関係のことについていえば、民法以外にも消費者契約法があって、消費者保護をストレートに目的とする規定が用意されているということでございますので、民法の方としますと、あくまでやはり一般法としての規定を設けているということだろうと思います。

金田国務大臣 確かに、定型約款を用いた取引の当事者の間には、交渉力や情報力の格差があるケースというものが少なくないと考えられます。でも、このような交渉力、情報力の格差そのものを是正する観点からの法規制というものは、消費者契約法といったような、民法以外の法律によって行われているところでありまして、こうした格差から生ずる悪影響については、今回の改正法案が結果的にその是正に効果を発揮する面があるとしても、民法以外の法律によって適切に対応されることが期待されるというふうに考えられます。

井出委員 民法はやはり一般法ですので、私は、新聞やテレビ、新聞にもそういうふうに正確に書いていただくべきかなと。よくよく読んでみると、定型約款を明確化したことは、確かに局長がおっしゃるように消費者にとっても一つのメリットかもしれませんが、それは消費者側にとっても、法律が明確にされることで、想定される責務みたいなものも出てくるのかなと思います。

 もう一つ、約款の問題で伺っておかなければいけないのが、その後の五百四十八条の四の変更のところなんです。

 変更にはいろいろ変更の規定があるんですが、そこは後で聞くとして、一番大事なところは、定型約款の変更を一定の条件で認めているんですが、定型約款の変更については、今し方ずっと議論をしてきました、相手方の権利を制限し、または相手の義務を加重するような条件で何とかかんとかと認められるものについては合意しなかったものとみなす、これを適用しないということを五百四十八条の四の四で書かれているんですが、そうすると、確かに変更をインターネットで周知しなければいけないとか書いてはあるんですが、これはなかなか、変更を妨げるものというものがないのではないかと。

 ここは、もうまさに参考人の加藤先生が御指摘をした、約款の作成者の不利の原則なんかはそれに比べたら小さな問題だ、約款の事後変更の自由を認めてしまうことの方が非常に大きな問題である、そこに力を込められているんですが、変更を一方的に認めているように、確かに加藤先生の本と条文を見ればそうなのかなと私は今疑問を持っておりまして、変更について見解を、そうではないと言っていただければ一番いいんですが、ちょっと解説をいただきたいと思います。

小川政府参考人 定型約款の変更における条項の相当性は、不当条項規制よりも厳格な要件のもとで判断されます。したがって、定型約款の変更については、内容の不当性も含めて、先ほど言われました点ですけれども、五百四十八条の四の第一項の要件で判断すれば足りるので、だからあえて五百四十八条の二の第二項の規定を適用する必要がないというのが両者の関係でございますので、いわば両者の要件を比較した上で適用関係を定めたにすぎない条文でございます。

井出委員 定型約款の変更の要件が厳しい、私、今そこをすっ飛ばしてしまったのは大変申しわけなかったんですが、定型約款の変更の要件というものを五百四十八条の四に掲げておりまして、以下の条件をみなせば、「個別に相手方と合意をすることなく契約内容を変更することができる。」と。

 一つは、「定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。」、相手にとっていいときですね、それはまあよしなのかなと。もう一つは、「定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。」、ここが変更できる条件で、それから、その変更の効力発生時期を定めて、インターネットやその他の適切な方法で周知をするんだと。

 その定型約款変更の条件なんですけれども、「相手方の一般の利益に適合するとき。」、これは確かに消費者にとっていいような話なのかもしれませんが、その後の「変更の必要性」ですとか、「変更後の内容の相当性」ですとか、でも、これはやはり事業者側、約款の作成者が一義的に決めることになるわけですね。そこが、果たして要件を厳しくやっていただけるのか。

 ちょっと先ほどの答弁でわからなかったんですが、変更の要件が厳しいから不当条項は適用しないということかと聞いていたんですけれども、果たしてこれで本当に変更の要件が厳しいと言えるのか。これを読んでも、やはり不当条項がかかっていた方が双方、約款をつくる側、それを承諾する側にとっても公平じゃないか、そういうことを考えるんですが、いかがでしょうか。

小川政府参考人 基本的に、変更が契約の目的に反せず、かつ、変更に係る事情に照らして合理的な変更であるときを定型約款の変更の二つ目の要件としたのは、この場合には相手方の利益に適合するとは言えないものの、法令の変更や経済情勢、経営状況に変動があったときなどに、それに対応して定型約款を変更する必要性があるため、契約の目的に反しないことなどの厳格な要件のもとでこのような変更も許容すべきものと考えられるからということでございます。

 そして、変更に係る事情に照らして合理的な変更であるときという要件については、事業者側の事情のみならず、相手方の事情も含めて変更に係る事情を総合的に考慮しなければならないものであり、かつ、その判断は客観的に見て合理的でなければならず、事業者にとって合理的なものと言えればよいというわけではございません。

 このように、定型約款の変更のルールは、事業者に有利に運用されるといったようなことを想定しているものではございません。

井出委員 いずれ裁判になったときに、この文言に沿って事業者と契約者の争いを仲裁していくということになるかと思うんですが、この文言を見たその印象としては、今まで約款の規定自体も、それから約款の変更もなかった、だから、トラブって、裁判にならなくても争っているときに、いや、ここに変更していいと書いてあるんですよ、こういう理由で合理的なんですよ、そういうケースが出てくるのではないかなというような思いを持っております。

 この変更というのは、加藤先生がおっしゃっているんです。加藤さんは今回の民法に対して大変厳しい御意見を持っているんですが、ただ、約款の規定をすることは望ましいと述べられているんです。だけれども、この約款変更権というものは削除をした方がいいと。それは私が今質問した趣旨だと思うんですが、この約款変更権というものは、逆に、やはりなきゃいけないものなんですか。

小川政府参考人 定型約款による契約には、契約関係が一定の期間にわたって継続するものも多いわけでございまして、定型約款には極めて詳細かつ多数の条項が定められているのが実情でありますため、法令の変更や経済情勢、経営状況に変動があったときなどに、それに対応して定型約款を変更する必要が生ずることが少なくないと言われております。

 もっとも、民法の原則によれば、契約の内容を事後的に変更するには個別に相手方の承諾を得る必要があるわけですが、定型約款を用いる不特定多数を相手方とする取引では、相手方の所在の把握が困難であったり、仮に所在の把握が可能であっても相手方の承諾を得るのに多大な時間やコストを要することがあるほか、一部の相手方に何らかの理由で変更を拒否された場合には、定型約款を利用する目的である契約内容の画一性を維持することができないということも問題として出てまいります。

 このため、約款中に、この約款は当社の都合で変更することがあります等の条項を設けておいて、この条項に基づいて変更を行うとの実務も見られますが、この条項が有効であるか否かについては見解が分かれているのが現状でございます。

 そこで、改正法案においては、定型約款準備者が相手方と合意することなく一方的に契約の内容を変更する定型約款の変更の制度を設け、その要件として、定型約款の変更が相手方の一般の利益に適合するか、あるいは、先ほど来出ております、変更が契約の目的に反せず、かつ変更に係る事情に照らして合理的な変更であることを要するということとしております。

 これによりまして、定型約款準備者としては、必要な定型約款の変更を安定的に行うことが可能になりますとともに、定型取引の相手方、いわゆる顧客にとっても、定型約款の変更の効力を争う際の枠組みが明瞭になりまして、その意味で、その保護にも資することになると考えられるというところでございます。

井出委員 一定の御主張をいただいたんですが、私の脳みそのキャパを超えておりまして、また答弁をちょっと精査させていただきたいと思います。

 ただ、この定型約款のところは、加藤先生以外にも、きょうの加賀山先生、また河上さんという方も問題ありとお話をされているので、もう少し、また再度伺いたいと思います。

 きょう、中小企業庁に来ていただいているので、中小企業庁にお答えをいただくところのお答えをいただきたいので先にそっちに移りますが、保証、配偶者の問題でございます。

 前回、山尾先生が質問をされたときに、経営者、その配偶者、配偶者だからよく知っている、事業のことをよくわかると定型的に言えるのか、それは感覚的なものだ、そういう議論がちょっとあったんですが、少しその関連で。

 そもそも、中小企業の方がお金を借りるときに、配偶者が保証人となっているケース、団体からの要望が大変強いということなんですけれども、実際、例えば、千人の中小企業の社長が金を借りに来たら、八百人ぐらいは配偶者を保証人にしているのか、そういう実態があるかないかを、わかる範囲で教えてください。

吉野政府参考人 お答えいたします。

 この問題に関しまして、中小企業庁が平成二十四年度に個人保証制度に関する中小企業の実態調査という調査をいたしております。そのアンケートによりますと、まず、第三者保証の提供の有無、あるかないかということなんですが、まず、ある場合が二一・三%、ない場合が七八・七%でございます。

 ある場合の二一%余りのうち、第三者保証の提供者について問うておりますけれども、これは配偶者に限定した数字ではございません、あくまで代表者の親族ということなんですが、その数字としまして、七四・四%という数字が出ております。

 以上でございます。

井出委員 数字を聞くと、配偶者にこだわらずに、第三者保証そのものが二一%だから、そこをもう少し何か努力できないのかなというような気に今なってきたんですが。

 法務省にあわせて伺いたいのですが、これまで、中小企業団体から、配偶者をきちっとそこに書いたままにしてくれ、そういう要望が強かったと。法制審で言われているのかなと思うんですが、どの団体が、どこの会議で、どういうように発言をしているのか、ちょっと具体的に紹介していただきたいと思います。

小川政府参考人 お答えいたします。

 中小企業団体からの具体的な要望といたしましては、例えば、平成二十五年十一月十九日の法制審の部会第八十回会議におきまして、日本商工会議所の推薦を受けた大島委員から、いわゆる経営者による保証を除き、保証の範囲を自発的に保証する意思を有することが確認されたものに限ることに対して、「現在有効かつ適切に行われている保証契約が行えないなど、中小企業の資金調達に支障が生じないよう留意が必要であると考えております。このような観点で部会資料を拝見しますと、個人事業主の配偶者が保証する場合、事業承継予定者が保証をする場合、事業承継を行った先代の経営者が保証をする場合の三つのケースにおいて困難が生じるおそれがございます。」との意見がございました。

 また、平成二十六年三月十八日の第八十六回会議におきましても、大島委員から、「主債務者が個人事業主の場合には配偶者を保証人として融資を受けることは非常に困難になる。」と記載をされました意見書が提出されました。

 さらに、二十六年六月二十四日、第九十二回会議、これは今回の改正法案と同じ内容ということでございますが、それに対しまして大島委員からは、「商工会議所は、従前から個人事業主の配偶者は個人保証の制限の例外として認めていただきたい旨の主張」をしているなど記載された意見書が提出されたほか、「仮に、個人事業主の配偶者の保証は、公正証書の方法によらなければならない旨の規律を置いた場合には、個人事業主が必要な資金を融資により迅速に調達できなくなるとの懸念が払しょくできません。そこで、現在、部会資料で提案されているとおり、個人事業主の配偶者が公正証書の方法によらず保証を行えるという実務は維持していただきたいと思います。」との意見が述べられております。

井出委員 今、御説明があったのはいずれも同じ方なのかなと思うんですが。やはり一度、役所と私でごちゃごちゃやっているよりは、当事者の方にお話を直接伺ってみるというのも、一つ議論を深める手だてなのかなと思います。

 もう一点、中小企業庁に伺いたいのです。

 中小企業庁が発表されている経営者保証に関するガイドライン、きょうちょっと手元に持ってくるのを忘れちゃったんですが、そこの冒頭の、四ページ、ガイドラインを作成して、その適用者には経営者とその配偶者が入っているんですね。だから、配偶者もこのガイドラインに書かれていることの対象ですと。これを読み進んでいきますと、八ページに、前経営者、経営者をやめた方が、経営者だったらそれをやめれば保証契約が解除される、そんなケースがあるというようなことを、詳しくは私も理解できなかったんですが、ざっくり言うとそういうことが書いてありました。

 これを見たときに、なぜ、前配偶者、前夫でも前妻でもどちらでもいいんですが、離婚してどこか遠くに引っ越すとか、もうその関係性がなくなる、そういう人たちに対して、保証契約の解除というものがここに併記されていないのかな、そういうことを思ったんですが、ちょっと教えてください。

水口政府参考人 お答え申し上げます。

 お尋ねの件でございますが、経営者保証ガイドラインの対象には、経営者の配偶者が保証人となる場合について含まれておりますけれども、離婚等により経営者の配偶者でなくなった方につきましても、既存の保証契約の適切な見直しのガイドラインの部分は当然適用されるというふうに承知してございます。

 したがいまして、離婚した前配偶者から、既存の保証契約の解除等の申し入れがございました場合、金融機関においては、ガイドラインの要件に照らして、改めて保証の必要性等について真摯かつ柔軟に検討することになると承知してございます。

 なお、ガイドラインにおきましては、事業承継時の、先ほどの対応につきまして特段の規定がございますけれども、これは、経営者保証が特に円滑な事業承継を阻害する要因となっているとの指摘がございましたことから、事業承継時における対応としまして、前経営者との保証契約の解除について適切に判断することが明記されたものというふうに承知してございます。

井出委員 運用をしていただけるというのであれば、私みたいなど素人でもわかるように明記をしていただきたかったなという思いがあります。

 時間になりましたので、次回は、古い裁判の、内縁の妻というものをちょっと例にしてこの問題をさらに考えたいと思います。

 どうもきょうはありがとうございました。

鈴木委員長 次に、山尾志桜里君。

山尾委員 図らずも、今、井出委員が最後の方で問題提起されたことと同じ問題意識からスタートしたいと思います。

 配偶者が公正証書を必要とする保護規定の適用除外となっていることについて、きょうは五十一分いただいているわけですけれども、主にこの問題にロックオンして、しっかりと議論したいというふうに思っております。

 今、くしくも井出委員が小川局長の答弁から引き出したとおり、この法制審において、やはり配偶者は公正証書は必要ないんだ、適用除外にするべきなんだと積極的に明言をしている委員は、私も精査したところ、ただ一人なんですよね。ただ一人の委員が、今小川局長がおっしゃったように、繰り返しそういった発言をなさっておられます。

 該当部分を精査いたしました。法制審の債権関係の部会というのは、一人の部会長と、十八人の委員と、十八人の幹事で構成をされております。そして、その中で、配偶者は枠外だ、そうすべきだというふうに言っていたのは誰なんだ、このことを前回私もお聞きしたわけですけれども、小川局長に、ちょっと確認のため、もう一回お聞きします。

 この人というのは、つまるところ、商工会議所を代表してこの委員になられていた大島委員ということでおっしゃっていたわけですね。

小川政府参考人 御指摘のとおりで、大島委員でございます。

山尾委員 大島委員お一人ということなのであります。

 この法制審の中で配偶者の議論が沸騰したのは何回かございまして、先ほど局長から話のあった第八十回、そして八十六回、八十八回、そして終盤の九十二回、ここら辺の審議が配偶者の議論がかなり沸騰した回であります。

 特に、配偶者は適用除外だということで列挙をされた案が初めて出たのが、第八十八回の法制審であります。このときに、配偶者を限定的に列挙して、この人については公正証書を不要とする、こういう例外に明記をした案が提案されたときの政府の説明でも、第八十六回において主債務者が個人事業主である場合における配偶者を保証制限の例外とすべきであるとの意見があったことを踏まえたものであります、こういう説明がされていました。

 ちょっと素朴な疑問なんですけれども、局長、別にこの賛成派一人の方を私は非難するつもりはないんです。お立場からそういう議論が出るのも健全なことだと思います。しかし、この八十八回より以前の複数回の中で、そうやって賛成派の人はお一人おられましたけれども、それに対して複数の、やはり懸念がある、もしくは反対だ、こういう意見がやはり繰り返し数多く出ていたわけですね。なぜ、それにもかかわらず、そういった議論の客観的状況にもかかわらず、このたったお一人の、やはり配偶者は適用除外にするべきだ、これを採用した案が政府から出てきたんでしょうか。

小川政府参考人 やはり中小企業団体から出られた方でございますし、この問題はすぐれて中小企業の資金調達にかかわる問題でございますので、いわば非常に強い当事者的な立場にも立つものでございまして、数としては少ないのは御指摘のとおりでございますが、その発言自体には非常に重みがあったということだと理解しております。

山尾委員 少ないのではなくて、三十六人中たった一人なんですね。

 この八十八回において、ある委員の方が本当に素朴な疑問を提示されておられます。配偶者ということを特に推す意見というのはそれほど強いんでしょうかと尋ねておられます。まさにそのとおりです。それに対して、政府の関係官が、お答えをしているようでしていない。それほど強く推す声というのはあるんですかという声に対して、あえて政府は答弁をしておりません、この第八十八回のやりとりの中で。言えないと思いますね、三十六人中たったお一人ですから。

 さらに、この八十八回において、そのたったお一人の方の意見をベースに、配偶者は適用除外、こういう素案が出てきました。そのとき、少なく見積もって七人の委員が立て続けにこの八十八回で懸念を表明し、うち三人は、議事録を読ませていただく限り、かなり明確に、強い語調で、反対であると断言をされています。賛成派の立場でこの八十八回において弁解あるいは反駁される委員は、私が読んだところ、おりませんでした。

 そして、さらに九十二回、これは最終盤です。この議事録を読んだとき、私は刑事訴訟法の議事録を非常に思い出しました。そもそも、本当に、説得力ある理由をもって、反対だ、配偶者を適用除外することには理由がないとおっしゃって闘ってこられた委員の方たちが、この第九十二回、まとめの場面ですよね、かなり苦しい意見表明をされています。

 委員の皆様にも、あるいは法務大臣にも聞いていただきたいので、あえて具体的に申し上げますけれども、三人御紹介しますね。

 例えばお一人の方。「配偶者による保証を特別扱いすることに反対し、その意見自体は変わってはおりませんが、」「今回は最後まで反対することはしないということにしたいと思います。」。その後何とおっしゃっているか。「今後、本規定の空文化に努力したいと思います。」と。空文化に努力したいとおっしゃっています。

 また、別の方。「賛成はできませんが、反対はしません。」「空文化することに向けて努力をするとおっしゃられましたが、その気持ちは私も共感するところがございます。そういう共感しなければいけないような人間がもう一人いるということを特によくお考えいただいて、今後の説明等に注意を払っていただきたい」。

 もう一方。「配偶者については規定するべきではないという意見は根強く今でも存在いたします。私個人としても、これを載せた要綱仮案に賛成したという委員に名前を残したくないという気持ちも強いところがございます。」。切りがありません。

 この一人の賛成派の方の当事者としての意見を重く受けとめた、局長はこうおっしゃいましたけれども、政府が選んだ専門家による法制審の委員が立て続けに、本当に賛成できない、空文化にこれから努力する、委員として名前を残したくない、これだけのことをおっしゃっているということも私は同等以上に強く受けとめていただく必要があると思いますけれども、局長、いかがですか。

小川政府参考人 もちろん、審議の過程でいろいろ御意見があったことは御指摘のとおりでございますが、要綱、その場合は仮案だと思いますけれども、これを取りまとめるためにいろいろと御意見を闘わせた上で、最終的には御賛同いただいたものと理解しております。

 それから、委員の中で全銀協から御出席されています委員につきましても、例えば八十八回会議におきまして、「個人事業主の場合、一番問題なのは部会資料にも記載されていますが、配偶者と債務者との経済的結び付きが強い、」と配偶者の例外的扱いを支持する旨の意見を述べたという方もいらっしゃることを申し添えておきたいと思います。

山尾委員 大臣にも伺いたいんですけれども、最終盤の取りまとめの中で、これほどの強い懸念の声があり、そして積極的に賛成を表明する方が、私、もう一回局長の今の答弁は精査しますけれども、先ほど局長のお話でも、この大島委員という方が三回とも繰り返し述べている、たった一人、こういう事実関係は、大臣、御存じでしたか。

金田国務大臣 委員御指摘の中身について、委員の御指摘ほどに厳密に精査してそれを承知していたわけではありません。

 しかし一方で、人数だけでは決められない部分もあろうかと思います。やはり、中小企業金融への影響とか、そういったものも含めて重く受けとめるべきである発言、そういうものも考慮した上で考えていく必要があろうかと思います。

山尾委員 大臣おっしゃるとおり、人数だけではないと私も思うので、もちろん、きょうは、賛成派の理由、反対派の理由、それぞれどちらに理を多く感じられるか、こういう議論をしていきたいと思っております。

 ただ、事実関係として、法制審の審議の中で三十六人の委員のうちの内訳というものを大臣に改めて認識していただいたというのは、私は大変重要なことだというふうに思っています。

 中身に入っていくんですけれども、この法務委員会の中で、去年の刑事訴訟法の審議の過程にかかわられた方も、かかわっていない方もおられるわけですけれども、思い出すわけですね。あの刑事訴訟法の改正案のときも、やはり法制審の中で、各委員が、あのときは、可視化の一部法制化に合わせて、通信傍受の手法の範囲拡大だとか司法取引の導入だとか、本当にこれは合わせわざで、一歩前進だけれども、後退部分を含めてこれは本当に賛成できるのかと、かなり苦しい議論が法制審の議論の中でありました。

 当時、私たちはガラス細工で、みんなで賛成をしたんだから修正案は無理だ、こういう雰囲気の中で始まったわけですけれども、最終的には、この委員会の中で、与野党問わず丁寧な議論を積み重ねて、確かに十分とは言えませんでしたけれども、それこそ、司法取引では例外なき弁護士の立ち会いという修正だとか、あるいは通信傍受については、私たちから言わせれば、第三者の立ち会いは必ずしもなくなったけれども警察による立ち会いの確保ができたとか、そういう修正ができたわけです。

 だから、ぜひ読んでいただきたいんですけれども、八十八回と九十二回だけでもいいので読んでいただくと、本当に委員の皆さんがぎりぎりまで頑張られたこの法制審、その第一ラウンドを引き継いで、空文化に努力したいなんていうことを言わせないで、立法府たる第二ラウンドでしっかり私は修正条文をつくっていきたい、与野党問わず一緒に、そういうふうに本気で考えておりますので、ぜひよろしくお願いしたいと思います。

 その上で、数だけではない、中身なんですけれども。でも、私はやはり、賛成派の方あるいはこの案を出している政府の理由よりも、懸念を主張し、あるいは反対をしている立場の方の理屈の方が十個並べても理があるなというふうに思っているので、きょうは時間の許す限りそれを明らかにしていきたいというふうに思います。

 まず、政府が、もうこれでいくんだ、配偶者は適用除外、こういう案を出してきた第九十二回、このときの補足説明の資料なんですけれども、これは局長にお伺いしますね。

 これは、何で配偶者は除外でいいのかということの、突然びっくりするような新しい理由がこの補足説明につけられていて、最後は賛成するしかないと、九十二回である意味覚悟をしておられたんでしょう、委員の皆さんも、この期に及んでなぜこの理由と。

 本当に皆さん、相当強い語調で懸念を表せられているのが、要は、配偶者が適用除外になる理由として、「民法上、夫婦は同居、協力及び扶助の義務を互いに負っており、離婚をした場合などには財産分与が行われるなど、法律上その経済的つながりが強いことが予定されており、一方の配偶者の財産と他方の配偶者の財産を区別するのは相当」でない、こういう理由が最後の終盤の九十二回になって、これは政府ですよ、大島委員の名誉のためにも申し上げますが、決して大島委員が言っていることではありません、政府の補足説明で突然出てくるわけです。

 ちょっと粗っぽく言えば、夫婦の財産というのは区別できないのだから、保証人になってもこれはある意味当たり前だ、こう言わんばかりのこの理由づけですけれども、これは局長にお伺いします、この理由づけ、現段階でも維持されているんですか。

小川政府参考人 現段階でも維持するということはございません。

山尾委員 では、もう一度はっきりお聞かせをいただきたいんですけれども、もしこれが維持されているとすれば、まさにこの債権法改正は、夫婦財産の独立性の原則まで変えようとしているのか、こういう懸念を生じるわけですが、もう一度局長にお伺いをします。

 この九十二回では、政府の理由づけに使われていた七百五十二条、互いの扶助の義務、あるいは離婚した場合の財産分与規定、そして配偶者間の財産を区別するのは相当でない、この見解を法務省として撤回される、そういうことですか。

小川政府参考人 撤回いたします。

山尾委員 はっきり撤回をしていただいて、私は評価いたします。これは撤回しないとおかしいです。これは議事録にしっかりと残ったと思いますし、これは一切、今提案されている案の理由にはならないということ。

 改めてお伺いしますけれども、法務省民事局として、七百六十二条一項が原則づける夫婦財産の独立性の原則ということ、これは、当然のことながら、極めて夫婦間の財産における大原則である、こういうことをもう一度確認させていただいてよろしいですか。

小川政府参考人 もちろん大原則でございます。

山尾委員 では、そういった答弁をいただいたところで、大臣にも確認をさせていただきたいと思います。

 法務省が、これは平成二十六年六月二十四日ですけれども、いっときはこの配偶者適用除外の理由として出してきた先ほどから申し上げている理由、これを法務省として撤回するということでよろしいですか。

金田国務大臣 ただいま私どもの民事局長から答弁をいたしました。私も同じ考え方であります。

山尾委員 撤回いただいたということを議事録に残し、では次に進みますけれども。

 もちろん、この理由が撤回されたり、あるいは削除をされれば、これは例外が認められるんだというわけではありません。私が思ったのは、法務省民事局をしてこんな理由まで持ってこなければ説明できないような状況に九十二回が追い込まれたのかということで、私は非常に、かなり無理筋だなと思ったので、そこは撤回していただいて、良識を保っていただいたというふうに評価したいと思います。

 そして次に、やはりこれは適用除外にする、こういう理由として根強く繰り返されているのが、よく必要性と許容性の議論といいますけれども、配偶者が保証人になるというのは実務ですごく多いから必要なんだ、今すぐこれに制約をかけると困るんだ、こういう必要性の議論であります。

 では、実際に、配偶者による保証というのがどれぐらいなされているのかという話が、先ほどやはり井出委員からもありましたね。さっき答弁にも出ましたけれども、私もその報告書ぐらいしか出てこなかったんです。同じです。平成二十四年度個人保証制度に関する中小企業の実態調査報告書。中小企業の一万社に対してアンケート調査をかけている、中小企業庁が委託をして出てきた調査結果なんですね。

 第三者保証をつけている中小企業のうち、その提供者の七四・四%が代表者の親族である、これは先ほどの答弁どおりです。ちなみに、二番目は、代表者親族以外の役員一〇・五%。親族は七四・四%で、親族以外の役員というのが一〇・五%ですから、相当の乖離があるわけです。第三者保証というのはかなり親族に頼っている。

 ただ、私、素朴な疑問なんですけれども、今回、親族という中でも、配偶者のことが問題になっておりますよね。局長でいいんですけれども、法務省として、では実際、配偶者がどの程度保証の比率を担っているのか、こういう調査はなぜされなかったんですか。

小川政府参考人 私ども、法制審議会の中で議論する過程において、先ほど来のお話に出てまいります中小企業団体の方においでいただいていますので、その方による発言がいわば実情であるという理解をしております。

山尾委員 ちょっと、局長、それは余りにもあんまりな答弁ではないかと思うんですけれども。

 やはりデータですよね。実際、こうやって、親族の比率というのは調査をすれば出てきているわけで、当然、その中でも配偶者の比率というのは、中小企業庁に委託するのか、何か第三者機関に委託するのは構わないですけれども、法務省としても、やろうと思えば当然可能ですよね。先ほどの話からすると、何のデータの裏づけもない、商工会議所を代表としている方の、私もかなり発言は読み込んだつもりですけれども、数字は出てきていませんね。資料も出てきていませんね。

 私、今からでも御提案しますけれども、やはり立法事実の核心ですね、必要性の部分。とりわけ、保証というのはかなり配偶者に頼っていて、これが立ち行かなくなったり手続が煩雑になると本当に困るんですという、立法事実の核心部分ですよね。法案を通そうとする前に、私は調査をなさる必要があると思いますけれども、何か、やらない理由が、合理的な理由があるのであれば、どうぞ御答弁ください。

小川政府参考人 繰り返しになりますが、借りる側、あるいは法制審の中には貸す側、銀行協会の方も入っておられますので、そういった方の御発言が私どもとしては理解する内容というふうに考えております。

山尾委員 済みません、発言する内容が理解する内容ということの意味がわからないので、もう一度御答弁お願いします。

小川政府参考人 発言する内容で、それを実情として考えたということでございます。

山尾委員 数字の裏づけが必要でないというふうに考える合理的な理由を述べてください。

小川政府参考人 まずは、やはり一番身近な立場にいる借りる側あるいは貸す側の説明される状況でいわば足りるという理解をしたということでございます。

山尾委員 私は、そういう方の肌感覚、体感が不要だと言っているのではありません。しかし、それで足りるという合理的理由は、今、局長の答弁からは一切ありませんでした。

 なぜ体感のみで足りて、数字の裏づけは必要ない、こういう判断をなされたんですか、根拠をお尋ねします。

小川政府参考人 もちろん、委員として加わっていただいた方は、個人として加わっているというよりも、組織を代表し、あるいは組織の中のいわゆるバックアップ委員会的なものでの検討を前提とした上で御発言をいただいていますので、そういう意味では、広く、中小企業一般にもいろいろと意見などを伺った状況を反映したものだというふうに理解いたしました。

山尾委員 その委員の発言のバックアップ資料の中に、配偶者によるその保証の比率というのがどれぐらいになっているのか、そういう数字的なデータによって委員の発言がしっかりと組織的にあるいは数字的に裏づけられているのか、こういう確認は法務省民事局としてなされたんですか。

小川政府参考人 そのような確認はしておりません。

山尾委員 確認をしていないということであれば、やはり今のは理由にならない答弁だと思いますし、もう余りこんな追及的なことを言ってもしようがないんですけれども、誰もがわかりますわね、だって、配偶者による保証が実務ですごく多くて必要性が高いから、これは適用除外にせざるを得ないよ、今回ばかりは頼むね、こういうところですよね。それなのに、では、実際、配偶者による保証の割合がどれぐらいなのかという立法事実のデータすらとろうとしていないということの不合理性は誰もが感じると思うんですけれども。

 これは、政務官、副大臣、大臣、どなたでもいいですけれども、これは要らないんだと、何かありますか、体感だけでいいんだと。

 体感も必要なんですよ、私、体感は何ら別に否定していません。でも、そういった、一番の当事者の方の体感に合わせて、せめてその一番のベーシックな数字、私は必要だと思いますけれども、それは不要なのだという合理的な理由をお聞かせいただけるお三方、どなたかおられればお願いします。

盛山副大臣 データがあればそれにこしたことはないとは思います。しかしながら、現状、実態を考えた上で、委員の皆様方、これで最終的には納得されたと思います。

 もちろん、私個人といたしましても、現状の個人保証のあり方がいいと思っているわけでは決してありません。ただ、個人保証の現状を変えるにしても、時間がかかるだろうと。

 そして、私は、空文化されたいという委員の方と直接お話をしたわけではありませんけれども、それは、こういう法律の規定がなくてもいいような金融あるいは融資、そういう実態になっていくようになればいい、そういうふうにお考えで御発言をされたんじゃないかなと私は考えております。

山尾委員 どんな気持ちで空文化に努力するとおっしゃったかというのは、ちょっと私、これを真摯に読んだ限りではなかなか容易に推測は、申しわけないけれども、できません。

 その上で、先ほど御紹介したとおり、きちっと反論してこられた委員の方が本当に納得しているとはとても思えません。納得していないということをはっきりおっしゃっていますよね、皆さん。

 そういう中で、提案なんですけれども、先ほど中小企業庁が使われた実態調査を見ますと、アンケート調査期間は、このアンケートでいうと一月十八日金曜日から二月一日の金曜日、約二週間でできております。しかも、これは結構、項目が多岐にわたっていますけれども、今私が問題に取り上げた、要するに配偶者にどれぐらいよっているのか、これの調査ということであればもっと短い期間で済むでしょう。これはやれない理由がないと思うんですけれども、大臣、これはやった方がいいんじゃないですか。

 つまり、法制審の委員は最終的には皆反対はしなかったとおっしゃいますけれども、実際反対されていますし、そして何よりも、一番最終的に国民の代表者として納得しなければいけないのは私たち国会議員ですから、今せっかくこういう議論がなされているわけで、短い期間でこれはできる調査だと思います。大臣、おやりになる考えはありませんか。

金田国務大臣 先ほど私どもの副大臣の方からも答弁があったわけですけれども、委員が御指摘のように、数字はあった方がよかったかもしれません。

 しかし、法制審議会の委員の皆さんの発言を踏まえて、相当の割合があると認識していたものと私自身は理解をしておりますので、ただいまの御指摘については、私は、少し考えてみたいとは思いますが、そういう部分については、今回の法制審の結論として最終的にお認めいただいた経緯もあることもしっかりと踏まえて考えていかなければいけない、私自身はそう思っております。

山尾委員 少し考えてみたいというところに、私は、なるほどというふうに言いたいと思うんですね。

 ぜひ、これはやれますから。しかも、期間もそんなにかかりませんし。やはり数字はあった方がよかったかもわからないというか、これは立法事実として、なくてはならない最もベーシックな数字がないままこれを押し切るというのは、やはり法務委員会として余り適切なことではないのではないかと私は思いますし、できることですから、やるということでぜひ御検討いただいて、その回答をきちっといただきたいというふうに思います。不可欠だというふうに思います。

 それは、今、そういう前向きな御答弁をいただいたということで次に進むとしますと、私が申し上げているのは、要するに、委員の皆さんも、配偶者が保証人となることを、別に今、現段階で禁止すべきだと言っているのではないんですね。公正証書を必要としましょうというこの一手間すらなぜかけられないんだ、こういうことをずっと言っているわけです。

 だから、百歩譲って、配偶者が実際保証を負っていることが多いという実務の必要性もあるんだよ、こういう大臣や局長の答弁を私も受けとめるとしても。必要なんだよ、実務が今それで回っているんだ、それで融資が受けられなくて困るという中小企業もあるから、そこも考えてほしいと。だとしても、公正証書を受けるという一手間すらかけられないんだということの、何か腑に落ちる説明になっていないと思うんですけれども、この点、局長、いかがですか。

小川政府参考人 今回の公正証書による保証意思の確認手続は、いわばリスクを理解してもらって、そこで改めて考えた上で保証をするかどうかを決めるということでございまして、そういう意味での制度でございます。

 したがいまして、家計と経営が一体的になっているような場合につきましては、そういう経済状況についても知り得べき立場にございますので、その意味で、今回の公正証書の保証意思確認手続には定型的に乗るというものではないという理解でございます。

山尾委員 確認しますね。配偶者には公正証書は必要ないんだ、この理由として今局長がおっしゃったのは、先日と同じですけれども、配偶者という立場は、リスクや経営状態を知り得る立場にある、定型的にそう考えられる、こういうことを一点おっしゃって、これについては、私も、きょうまたさらに議論をします。

 もう一つ、この理由があるかどうか知りたいんですけれども、賛成派の委員の御発言をひもとくに、要するに、公正証書をとるという手続はやはり非常に手間もかかるんだ、だから、実際、実務上多い配偶者保証についてまで公正証書を必要とする手間をかけると、実務が回らなくなって非常に困るんだと。

 公正証書をとる、公証人を絡ませる、このことのやはり手間がかかるということも、これは理由になっているんですか、ならないんですか。

小川政府参考人 借りる側からいうと、いわゆる円滑な資金調達がしにくくなるということで、その手間について、それを嫌うということはあると思います。

 ただ、私どもとして、そのことについてとやかく言っているわけではございません。

山尾委員 いや、ちょっと前段と後段の関係性がわからないのですけれども。

 ちょっとはっきりさせたいんですね。配偶者には公正証書は必要ない、こういう判断に今のところ至っている理由として、一つは、配偶者の、定型的に、リスク等を知り得る立場にあるという民事局の御見解、それプラス、公正証書というもの自体にやはり手間暇がかかるから適用除外というものが必要なんだ、こういう理由、これは両方あるんですか。

小川政府参考人 後者の方の、要するに、手間暇がかかるということについては、それが中小企業団体側から主張されている内容で、それによって円滑な資金調達が阻害されるということを中小企業側が言われているということは、例外とする理由の一つでございます。

山尾委員 民事局としては、その理由も正当な理由の一つというふうに判断されているんですか。

 実際、あるんです。そうなんですよ、この九十二回で、賛成派の方が、配偶者の保証は公正証書の方法によらなければならない、こういう規律を置いた場合には迅速に調達できなくなる、こういうことをおっしゃっているのでね。これは一委員の意見ですから。これも一つの理由として法務省民事局としても採用されておられるんですか。

小川政府参考人 それも一つの理由だというふうに考えております。

山尾委員 やはり公証人制度、公正証書によるということの手間暇、あるいは迅速性の阻害、スピード感がなくなる、これも理由の一つだと今おっしゃいました。そうであるならば、ちょっと私は、大変疑問があるんですね。

 先に申し上げると、確かに、地域の偏在の問題などなど、きょうも議論になっていたかと思います公証人制度あるいは公正証書という手続、これにさまざまな課題があるのは確かだと思うんですけれども、それは公証人制度そのものの課題であって、そのことを解決する努力をせずして、やはり、そういう課題があって迅速さに欠けるから配偶者は適用除外でいいんじゃないか、こういう論になるんだとしたら、それは私は、前後、筋道が違う、こういうことを先ほどから言いたかったわけです。

 実際、公証人制度における地域偏在の問題、これについて民事局として課題を認識しておられるか、認識しておられるとしたら、それをどのように解決しようとなされているのか、こういうことをちょっとお伺いしたいんですけれども。

 今めくっていらっしゃるので、少し私の調べたところを言うと、日本公証人連合会というところが出している資料によれば、全国に公証役場が約三百カ所、公証人は約五百人、確かに思いのほか少ないんですよね。だから、公正証書が必要だとなったときに、ちょっと時間がかかるということは事実としてあろうかと思います。ちなみに、北海道には役場が十三カ所、公証人は二十人、この資料によれば、こういうふうになっております。

 こういった地域偏在の事実関係、それについて、どのように課題として認識をされていて、どうやって解決しようというふうに考えていらっしゃるか、この点、御答弁できますか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 公証人は公証事務に対する需要などを考慮して配置されておりますため、御指摘ありましたとおり、大都市に多く配置されているところでございます。保証意思宣明公正証書について言いますと、この作成につきましては保証人になろうとする者による口授が必要でありまして、代理人による嘱託ができないこととしております。

 公証人が比較的少ない地域においても、証書作成の緊急性等の諸般の事情を勘案して、役場での職務執行が相当でないと判断される場合には、公証人が出張して公正証書を作成することも可能と考えられます。

 公証人が比較的少ない地域におきまして効率的に役場外での職務執行を行う方策なども含めまして、今後、全国の公証人の組織であります日本公証人連合会において、改正法のもとでの公正証書の作成事務のあり方につき、実務上の観点から具体的な検討が進められるものと承知しておりますので、法務省といたしましても、これに必要な協力を十分に行っていきたいというふうに考えております。

山尾委員 何とも、ちょっと当事者意識が薄いというか、この公証人制度というものをさらに利用して、この改正も含めて、保証という制度の保証人保護をやっていこうという法務省としては、どうしてそういう、協力はするよというような、そういう答弁で終えていいのかなという気がするんですね。

 ちょっと基礎的なデータをお伺いしたいんです。公証人の方の平均年齢というのはお幾つなんですか。

小川政府参考人 平均年齢は六十四歳でございます。

山尾委員 公証人の方の収入もお聞きしたいんです。平均的な収入というのはお幾らなんですか。

小川政府参考人 これは、法務局が公証人制度を監督しておりますけれども、監督法務局においては、公証人の手数料収入の総額を把握することはできるわけですが、公証人が負担している役場維持費用などの必要経費を把握することができないため、いわゆる正確な実収入額というのは不明でございます。

 なお、最近に、平成二十七年でとっておりますけれども、平成二十七年における公証人の手数料収入の全国平均で申し上げますと、これは月額約二百五十万円程度でありまして、公証人はその中から役場維持経費、つまり役場の賃料ですとか執務用設備の購入維持費、それから、事務補助者が必要になりますので、事務補助者などの人件費などを支払っているというところでございます。

山尾委員 先ほど、公証人、約五百というのは、私、連合会の資料で申し上げたんですけれども、現時点で公証人の方というのは何名いて、そのうち、法務省の退職者あるいは裁判所の退職者以外の方というのは何名いらっしゃるんですか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 公証人の現在員は四百九十七名でございます。このうち、前職が法務省関係の職員または裁判所職員であった者以外の者は三名でございます。

山尾委員 ということは、四百九十七名いらっしゃる公証人のうち、四百九十四名は法務省OBあるいは裁判所のOBと。それがファクトなんだと思いますね。

 ちょっと素朴な疑問なんですけれども、なぜ、もうほとんど、九九%、法務省OBあるいは裁判所OBという構成になっているんですか。

小川政府参考人 公証人制度につきましては、平成十四年度から公募の制度を始めておりまして、これまで、公募制度が始まりましてから、合計七百五十五名の公証人を任命しております。このうち、いわゆる民間出身者を公証人に任命した実績は、先ほど申しました公証人、トータルで見ますと、司法書士が四名という状況でございます。

 これは、もともと民間出身者からの応募が、公募に対するものとして、極めて少ないというのが現状でございます。もちろん、応募が極めて少ない理由はさまざま考えられるわけでございますが、現状としては、民間出身者からの応募が極めて少ないというところでございます。

山尾委員 公証人制度そのものの問題でもあるので、あと五分という中でどこまでというのはあるんですけれどもね。

 では実際に、民間の方にもこの公証人という窓口が開いているよ、こういうことをどれだけ外に向かってアピールしていらっしゃるのか。しっかりそれをアピールしているのであれば、なぜ民間出身者がこんなにも少ないのか。そして、収入は、もちろん支出はあるんでしょうけれども、月額二百五十万円の手数料収入というのは、これは決して少ない額ではありませんですね。そういう一定程度の収入も見通せる中で、どうしてこういう結論になっているのか。そしてまた、平均年齢も六十四歳と決して若くない。なぜこの制度がこういう状況になっているのか。

 そしてまた、こういう状況になっている中で、かなり地域の偏在が激しくて、それが、ひいては、やはり商工会議所の方がおっしゃる、地方等々を見れば、必ず、とりわけ口授だから、保証人になろうとする人が行く、これは原則。場合によっては公証人の方に来てもらわなきゃならない。しかも、それは自分の利益ではなくて、自分が保証人になるために。こんなことを本当にやっていられるのか、やはり、必要な融資が急ぎだというときにできない場面が出てくるじゃないか、これは、この制度をこのままほっておけば、そういう懸念が商工会議所という立場の方から出てくること自体は、私は理解はします。

 ただ、その問題を、では、しようがないから配偶者はもう除外にしてしまおう、そういうふうな形で解消するのは筋道違いだということを言いたいんです。必要であれば、公証人が公証人としての役割をしっかり果たせるような環境をきちっとつくるということが本筋だと思うんですね。その課題を解決しようという中には、今言ったような、年齢の問題も出てくるし、なぜ九九%が法務省、裁判所のOBなのかということも出てくるでしょう。そういうことをまずやるべきであって、それをやはり配偶者を適用除外とすることの道筋に位置づけるべきではないということを私は申し上げたいというふうに思います。

 まだ時間がちょっとあるということで、もう一つ、やはり、国際的な潮流ということを一言申し上げたいと思います。

 今回、配偶者をそうやって例外にしていくというときに、国際的には、どちらかというと、配偶者保証というのはやはりかなり問題が多いと。そういう、家族や配偶者が保証人になるということをできるだけ避けていこうというのがヨーロッパを初めとする国際的な潮流だと思いますし、私、手元に論文も幾つもありますので、時間があれば御紹介をしたいですけれども、こういうことについては、何か今回検討を加えられたんでしょうか。

小川政府参考人 今回の検討に当たりましては、さまざまな比較法の調査はしております。

 その上で、事業の限定といったことも、そういったものを参考にして行ったところでございます。

山尾委員 時間ですので、次の議論に譲りたいと思いますけれども、イギリス、ドイツ、フランスと、私もさまざま論文を目にしたことも含めて、やはり、今回このまま修正もかけずに法案を通してしまうと、本当に国際的な潮流に逆流するような、せっかくの百二十年ぶりの改正で、逆流しているじゃないか、日本は逆行しているんじゃないか、こういうふうに思われるのは大変恥ずかしいし、残念なことになってしまうと思うので、今後ともしっかり議論を続けて、この配偶者の問題についてはしっかり修正をしていただきたいというふうに思います。

 ありがとうございました。

鈴木委員長 次に、藤野保史君。

藤野委員 日本共産党の藤野保史です。

 きょうは、不法行為による損害賠償請求権の期間制限、民法でいえば、七百二十四条後段の改正についてお聞きをしたいと思います。

 これは、B型肝炎やじん肺、あるいは水俣病など、これまで薬害や公害をめぐって多くの訴訟が行われてきたわけですが、これと密接に関連する規定であります。

 例えば、私は北陸信越ブロックから選んでいただいております。新潟水俣病、阿賀野川がありまして、阿賀野川患者会の皆さんからも何度もお話を聞いてまいりました。ことしは、実は水俣病公式認定から六十年、新潟水俣病でいえば、少しおくれて五十一年ということになります。しかし、五十年たっても六十年たっても、被害はなお続いている。

 実は、きのうも国会内で、終わらない水俣病を問う院内集会が開かれました。十二万筆を超える署名が寄せられました。私も参加したんですが、いまだに水俣病は終わっていないという痛切な訴えが相次ぎました。

 しかし、こうやって終わっていないにもかかわらず、不法行為による損害賠償請求権が消滅してしまうという解釈が同条をめぐってなされてきた。これは、被害者にとってみれば大変過酷な解釈がこの七百二十四条後段をめぐってずっと続いてきたという問題であります。

 今回、これが改正されるわけですけれども、そこで、この点についてお聞きをしていきたいと思います。

 まず、前提として法務省に確認したいんですが、同条は、特に後段が、これは消滅時効なのか除斥期間なのかということで争われてまいりました。端的にお願いしますが、消滅時効と除斥期間というのはどう違うのか、教えてください。

小川政府参考人 お答えいたします。

 除斥期間は、一定の時の経過に権利消滅の効果を認める制度である点では消滅時効と共通いたしますが、消滅時効と異なって、一般に、これは改正法で概念を整理いたしましたが、現行法でいいますと、中断や停止がなく、また、当事者の援用がなくても裁判所がその適用を判断することができるために、援用が信義則違反や権利濫用に当たるとされることはないと考えられております。

藤野委員 今答弁いただいたとおりでありまして、結局、除斥期間というのは、ある意味、その期間が経過すればもう自動的に権利が消滅する、大体そういうような形で主張され、援用というものがなくても裁判所が判断できてしまうということであります。

 そのもとで法務省にもう一点お聞きしたいんですが、最高裁は、この条文はどちらの解釈をしてきたか、この点もお答えください。

小川政府参考人 除斥期間というふうに判断しております。

藤野委員 そうなんですね。最高裁の平成元年十二月二十一日の判決でこの七百二十四条後段の規定が除斥期間であると言って以降、本当に苦しい裁判闘争が続けられてきたわけであります。

 この点が法制審で今回議論されたわけでありまして、私は重要だと認識しているんですが、法制審は、この最高裁の解釈のもとでどういう問題が起きてきたというふうにしているでしょうか。法務省、お願いします。

小川政府参考人 お答えいたします。

 先ほど若干申し上げましたが、除斥期間は、消滅時効期間と異なりまして、中断や停止の規定の適用がないために、期間の経過による権利の消滅を阻止することはできず、また、除斥期間の適用に対して信義則違反ですとか権利濫用に当たると主張することはできないと解されておりました。

 そのため、長期の権利消滅期間が除斥期間であるといたしますと、長期間にわたって加害者に対する損害賠償請求をしなかったことに真にやむを得ない事情があると認められるような事案においても被害者の救済を図ることができないということが問題とされました。

藤野委員 まさにおっしゃったとおりで、不法行為によるいろいろな侵害を受けたとしても、真にやむを得ない事情が被害者の側にあって、援用したいんだけれども、時効を中断、停止したいんだけれどもそれができないという、時には加害者から妨害されたり、そういうこともあって時効をとめられないという場合にも、これが除斥期間だという理由で、それはもう権利消滅したという事案が幾つも出てきたわけですね。

 法制審では、著しく正義、公平の理念に反し、被害者にとって酷な結論となるという議論がされて、配付資料を見ていただきますと、ちょっと多くて恐縮なんですが、例えば三枚目の真ん中あたりに「例えば、」と書いてありますが、同じく最高裁、平成十年六月の判決や平成二十一年四月の判決で、こうした例が法制審でも挙げられている。

 ちなみに、平成十年の判決は、不法行為の被害者が、不法行為を原因として心神喪失の状態になってしまった。そのために後見人が選べなかった。それでずっと時間が経過してしまって、二十年がたってしまった。もう自分が心神喪失ですから、援用なり、そういうことは全くできないわけですね。後見人も選べなかった。にもかかわらず、二十年たったからということで、そういう事案が争われた例であります。

 平成二十一年は、被害者が殺害されてしまいまして、加害者がそれを隠したわけですね。死体を隠したために、相続人の人たちは被害者の死亡そのものを知ることができなくて、相続人が確定しないという状況が続いた。その結果、損害賠償請求権を行使するという機会がないまま、これまた二十年が経過してしまった。

 二十年が経過したということを除斥期間と考えるもとで、これを本当に救う手段というのを、ある意味、この十年判決や二十一年判決は、いろいろな形で時効の規定を、法理を使ったりさまざまやってきたわけですけれども、しかし、それは不合理だということが法制審で議論されたわけです。

 そこで、また法務省に聞きたいんですが、こうした不合理な事態を解決するために、結論として、この七百二十四条後段について、どう解釈すべきだというふうに法制審は答申したんでしょうか。

小川政府参考人 長期の権利消滅期間を、除斥期間ではなく消滅時効期間とすることとしております。これによりまして、中断、停止を再構成したものであります更新、完成猶予の規定が適用されることになるため、被害者において、加害者に対する権利の時効による消滅を防ぐための措置をとることが可能になります。

 また、消滅時効期間の経過により権利が消滅したという主張が加害者側からされたといたしましても、裁判所は、個別の事案における具体的な事情に応じて、加害者側からの時効の主張が信義則違反ですとか権利濫用になると判断することが可能になるものでありまして、これによって、不法行為の被害者の救済の可能性が広がるものというふうに考えております。

藤野委員 そのとおりでありまして、法制審は、今までの最高裁の、これは除斥期間であるという解釈を、今回の法改正で、消滅時効にするというふうに改めたわけですね。これによって、権利濫用とか信義則とか、個別事案に沿った解決が法理上も可能になってくるということになります。

 配付資料を見ていただきたいんですが、先ほどと同じページ、下の方の、ページでいうと十と書いてあるところですけれども、法制審ではこう言っているんですね。

  素案(二)は、民法第七百二十四条後段の期間制限が同条前段の消滅時効とは異なる性格のものであるという解釈の余地を封ずる趣旨で、「同様とする」という文言を使わずに、これらを各号の方式で併記するものである。これにより、二十年の期間制限が消滅時効であることが明らかになり、中断や停止が認められ、また、信義則や権利濫用の法理を適用することによる妥当な被害者救済の可能性が広がることとなる。

そして、後ろから三枚目のところにも同様の資料がございます。配付資料の二になるわけですが、「概要」と真ん中に書いてあるんですけれども、ここには、

  民法第七百二十四条後段の不法行為の時から二十年という期間制限に関して、中断や停止の認められない除斥期間であるとした判例とは異なり、同条後段も同条前段と同様に時効期間についての規律であることを明らかにするものである。

ということで、はっきりと、そういう立法趣旨であるということを明確にしているわけであります。

 大臣、確認したいんですが、今回、そうした法案を提案されたということでよろしいですね。

金田国務大臣 先ほど民事局長から答弁申し上げました、現行法の第七百二十四条の後段の改正の理由でございますが、除斥期間を消滅時効期間と改めることで、中断、停止を再構成して、更新、完成猶予の規定が適用されることになる、そしてまた、被害者においても、権利の時効消滅を防ぐための措置をとることが可能になる、また、消滅時効期間の経過によりまして権利が消滅したという主張が加害者側からされたとしても、裁判所は、個別の事案における具体的な事情に応じてその主張が信義則違反や権利濫用になると判断することが可能になるということで、被害者の救済を図る余地が広がることを期待しているものである。

 したがって、現行法の第七百二十四条後段の改正によりまして被害者の救済を図る余地が広がることを期待しているものでありまして、適切に運用されるように、その趣旨の周知徹底を図ってまいりたい、このように考えています。

    〔委員長退席、土屋(正)委員長代理着席〕

藤野委員 本当に、そういう意味で、今回の改正は大きな一歩だと私も認識をしております。

 つまり、二十年たってしまえば、権利濫用とか信義則、そういう主張すらできなかったわけで、今回それができるようになるという点で、その適切な解釈、運用の徹底を図るという点も非常に重要なことだというふうに思っております。

 先ほど新潟の阿賀野患者会のお話をしましたけれども、さまざまな薬害や公害でお話をお聞きしますと、一方の側からは、二十年間もほっておいたんだからやむを得ないんじゃないか、そういう声も時々お聞きするわけですね。しかし、実態は全く違う。被害者だと名乗り出たくても出られない。不法行為による侵害が大きければ大きいほど病気や症状も重いわけですし、あるいはエネルギーも奪われてしまう、お金もかかる、日々生きるだけで精いっぱいということで、時効停止の訴えを起こすどころではないわけであります。

 きょう、ここで指摘したいのは、さらに深刻な問題として、社会的な差別、偏見という問題があるということであります。

 その次のページをめくっていただきますと、配付資料の三番目、読売新聞の記事であります。「新潟水俣病 遠い救済 確認五十年 残る潜在患者 「金目当て」差別・偏見恐れ」ということであります。

 ここでも紹介されているんですが、新潟水俣病第五次訴訟団の原告団長を務める皆川栄一さんという方がこの一番上の段で紹介をされております。実は私もお会いしたことがありまして、昨年五月、新潟の現地調査に伺って、新潟水俣病の震源地の一つと言われます昭和電工の鹿瀬工場跡地などを視察したわけですけれども、そこに御同行いただいていろいろと御説明いただいたんですけれども、そのとき皆川さんもこういった趣旨のことをおっしゃっていました。この記事では、「「金目当てのニセ患者」と言われている人も見てきて、名乗り出るのが怖かった」という記事であります。

 この皆川さん自身は、二十代のころからもう手足のしびれとか耳鳴りに悩まされていたんだけれども、当時、いろいろな差別、偏見があって、患者の家に嫁はやるなとかいろいろ、やはり事実としてあった、そのもとで、水俣病の診察を受けるということ自身が家族に影響が及んでしまう、申請に手を挙げること自身が子供たちに影響を与えてしまうという思いからずっと耐えていた、しかし、加齢によって、年によって症状がもう重くなって耐えかねて、子供たちの自立を見届けた後に申請を、手を挙げた、原告団にも入ったというお話でした。それが何と二〇一三年三月ということで、本当に、そういう意味での深刻な実態というのがあるんだということであります。

 ほかのところでも、これは水俣病だけじゃなくて、B型肝炎訴訟の方にも共通して寄せられております。

 例えば、このB型肝炎の方は、お医者の方から絶対に酒は飲むなと言われたときに、しかし、職場の飲み会で上司からお酒を勧められる、いや、飲めないと言って断っているんだけれども、先輩たちからは、何だ、俺たちも飲んで鍛えられたんだみたいな、最近の若いのはわがままだなというようなことを言われる、しかし、ウイルス性の肝炎なんですと言えないというんですね。そう言うと、何か、やはりそれに対するまだ偏見や差別がないと確信が持てないもとで、そういうことが言えないと。実際、配偶者の両親と飲むこともあって、配偶者の両親がすごいお酒好きで、しかし一緒に飲むことができない、親族、家族にも隠し事をしなければならないということが本当につらいんだというお話をされています。

 結局、原告は、病気だけでなく、差別や偏見に対しても闘わないといけないというのが実態だというふうに思うんですね。

 ですから、やはりこうした問題があって、身体的にきつくて、あるいは精神的にきつくて時効を訴えられないということに加えて、社会的にも、それを名乗り出ること、手を挙げること、時効を停止したいと言うことそのものが非常に厳しい状況があるもとで、この間、時効の問題が闘われてきた。そういうものがあるもとで、裁判所は、二十年たったら、権利の濫用、信義則での判断すら許さないということをずっとやってきたということが今回の改正の背景にあるということだと認識をしております。

 ですから、この解釈というのが今回の改正で変わるわけですが、しかし、私は、やはりこれは、法制審の議論の前に、本当に血の出るような被害者と弁護団の皆さんの長年にわたる闘いがあったということを踏まえて、私たちは審議に臨む必要があるのではないかと思っております。

 先ほど、平成十年と平成二十一年の最高裁を紹介しましたけれども、これも、除斥期間のもとでの一定の工夫といいますか、特例みたいな形で救済した例ですけれども、それ以外にも、やはり下級審でも、じん肺をめぐる下級審やB型肝炎、水俣もそうですが、本当に多くの下級審があったわけであります。そうした、本当に皆さんの長年の運動がこの法改正の背景にある。

 大臣にお聞きしたいんですが、今回の改正、先ほどおっしゃっていただいた、これは本当に立法者の意思を示すという点で重要だと私も思うわけですが、そういう意味も含めて大きな一歩であるという御認識だということでよろしいでしょうか。

    〔土屋(正)委員長代理退席、委員長着席〕

金田国務大臣 ただいまの御指摘に対しまして、現行法の第七百二十四条後段の改正によりまして被害者の救済を図る余地が広がることを期待しているものだということで、適切な運用をなされますように、その趣旨の周知徹底を図っていきたい、このように考えています。

藤野委員 その上で、しかしまだ幾つかの問題についてもちょっとお聞きをしたいと思っております。

 その次の条文で、七百二十四条の二で、生命身体の侵害に対する損害賠償請求があるわけですが、これが設けられた趣旨、これは新設なんですね、これを端的に法務省に、まず前提としてお答えいただきたいと思います。

小川政府参考人 お答えいたします。

 生命や身体の侵害による損害賠償請求権は、債務不履行または不法行為に基づいて生ずるわけですが、生命や身体に関する利益は、一般に、財産的な利益などの他の利益と比べまして保護すべき度合いが強いということでございますので、生命や身体の侵害による損害賠償請求権については、他の利益の侵害による損害賠償請求権よりも権利行使の機会を確保する必要性が高いと考えられます。また、生命や身体について深刻な被害が生じた後、債権者は、通常の生活を送ることが困難な状況に陥るなど、時効完成の阻止に向けた措置を速やかに行うことを期待することができないことも少なくありません。

 したがいまして、生命や身体の侵害による損害賠償請求権については、他の利益の侵害による損害賠償請求権についてよりも長い時効期間を設定するのが合理的であるというふうに考えられますが、現行法上はこのような特別な規律が存在いたしません。

 他方で、時効制度には、長期間の経過に伴う証拠の散逸などにより反証が困難となった相手方を保護するという側面もあるため、被害者保護のために時効制度を廃止することや時効期間を著しく長いものとすることには弊害もございます。

 そこで、改正法案では、生命や身体の侵害による損害賠償請求権について、時効期間を合理的な範囲で長くするという観点から、不法行為に基づく場合には、損害及び加害者を知ったときから三年間という時効期間を五年間とすることとしております。

藤野委員 要は、やはり新設するということで、保護の必要性が高いということであります。

 条文上は生命身体への侵害と規定しているだけなんですが、適用対象として、PTSDのように精神的に大きな打撃を受けた場合、これも含まれるという解釈でよろしいですか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 身体を害する不法行為に当たるか否かにつきましては、単に精神的な苦痛を味わったという状態を超え、いわゆるPTSDを発症するなど精神的機能の障害が認められるケースにつきましては、これを身体的機能の障害が認められるケースと区別すべき理由はないと考えられます。

 したがいまして、PTSDが生じた事案につきましても、身体を害する不法行為に当たるものと考えられるところでございます。

藤野委員 その上でなんですけれども、ですから、そうしたやはり重大な影響を受けますと、先ほど答弁ありましたように、時効完成の停止に向けた措置を速やかに行うことが期待できないという場合が間々あるわけですね。先ほど私も申し上げました、いろいろな例で。個人の要因だけではなくて、社会的にもそれが阻害されるというケースもあるわけであります。

 その点で、法制審の場では、時効の期間につきまして、二十年ではなく三十年でもいいじゃないか、三十年でもといいますか、三十年という案も出されて議論されたと認識をしております。

 結論としてはこれは二十年になったわけですが、二十年になった理由は何なのか、お答えいただけますか。

小川政府参考人 お答えいたします。

 法制審議会での検討の過程におきましては、特に生命身体への侵害による損害賠償請求権を対象として、権利消滅期間を三十年とするかどうかが検討の対象となりました。しかし、この消滅期間には、長い時間の経過に伴って証拠が散逸することなどにより反証が困難となった債務者を保護するという公益的な機能もあり、その機能は軽視することができないと考えられるところですが、長期の権利消滅期間を二十年から三十年に変更すると、この機能が大きく損なわれるおそれがあると考えられます。

 他方で、今回の改正案におきましては、不法行為の損害賠償請求権の長期の権利消滅期間を、先ほども申し上げましたように、除斥期間から消滅時効期間に改めることとしております。そのため、加害者が被害者の権利行使を実際上妨げる行為をしていたといったケースにおいては、加害者による消滅時効の援用は権利の濫用に当たって許されないと判断することが可能となり、個別の事情に応じて被害者の救済を図ることが可能となっております。

 以上の点を踏まえまして、現行法七百二十四条後段の二十年の期間を三十年に延ばすということはしないという結論に至ったものでございます。

藤野委員 そこがよくわからないんですね。証拠の散逸というのでいえば、二十年も三十年もそんなに変わらないといいますか、二十年で散逸するような証拠であれば、別に三十年、余り変わらない。

 法制審の議論を見ますと、こうおっしゃっているんですね。この時効期間を三十年とした場合には、損害賠償請求の相手方となるのが加害者本人ではなく、その相続人であるという事態が少なからず生じ得る、その後に、そして、時間の経過によって証拠が散逸しという話が出ていて、一番初めの理由としては相続人が挙がっているわけであります。

 しかし、この相続人という点もよくわからない。個人の場合はわかるとしましても、損害賠償請求の相手方が個人じゃない場合、政府とか大企業とか、先ほど言った薬害とか公害とかいった場合、大体、公なわけであります。損害賠償請求が個人じゃない場合は、相続人の問題は生じません。

 ですから、法務省にこれをお聞きしたいんですが、損害賠償請求が例えば相手が政府や大企業の場合は、三十年という特則を設けてもいいんじゃないでしょうか。

小川政府参考人 まず第一に、現在の消滅時効期間は二十年ということでございまして、この消滅期間には、長い時間の経過に伴って証拠が散逸することなどにより反証が困難となった債務者を保護するという公益機能がございます。その点では、仮に相手方が法人であっても、今申し上げましたような機能が大きく損なわれる点については異ならないというふうに考えております。

藤野委員 ちょっと答えていないんですけれども。

 要するに、大企業や政府が相手方の場合、三十年でもいいじゃないかというのが私の質問なんです。

小川政府参考人 お答えいたします。

 時効期間が持つ公益的機能につきましては、特段差異はないというふうに考えております。

藤野委員 大臣、この点をどう思われますか。ああいう答弁なので、ちょっとお聞きしますけれども。

金田国務大臣 民事局長が答弁申し上げているとおりなんですけれども、私も、やはり二十年と三十年とでは違うのではないか、このように考えます。

 相続人というのは、反証の難しさの典型例を指摘したものでございますし、法人でも反証は難しいのではないかな、こういうふうに私は考えます。

藤野委員 法人一般じゃなくて、大企業とか政府とか、ある意味しっかりしたところなんです。そういうところにとって、相続という概念そのものが生じないではないかということなんですね。ですから、証拠の云々という話とは別に私はお聞きをしているわけで、その点はやはり個人とは違うということを指摘したいと思います。

 ちょっと時間の関係で法務省にお聞きしたいんですが、やはり今後問題になってくるのは、今回の法改正は一歩前進なんですけれども、今後どうなるのかという話であります。

 先ほど紹介した最高裁平成二十一年四月二十八日の判決には田原睦夫裁判官の意見がついていると思いますけれども、これは簡単に言ってどういったような意見でしょうか。

小川政府参考人 御指摘のとおり、田原睦夫最高裁判事の補足意見がございまして、その骨子は、民法七百二十四条後段の規定を除斥期間と解する場合には、具体的妥当な解決を図ることは法論理的に極めて難しく、他方、時効期間を定めたものと解することにより、具体的に妥当な解決を図る上で理論上の問題はなく、また、そのように解しても不法行為法の体系に特段の支障を及ぼすとは認められないのであり、さらに、そのように解することが今日の学界の趨勢及び世界各国の債権法の流れに沿うことからすれば、民法七百二十四条後段の規定を除斥期間と解した、これはもともと平成元年の判決がございますので、その平成元年判決は変更されるべきであるというのが補足意見の骨子でございます。

藤野委員 そういう意見なんですね。

 いろいろな学説の状況や世界の流れ、あるいは不法行為の体系からいってもこれは変更されるべきだという意見、これは最高裁の中からも出ていたという点を紹介したいと思うわけであります。学界からもこういう意見は出ております。

 問題は、これからやはり改正法の成立あるいは施行ということが問題になってくるわけですが、その以前に、今回二十年ですけれども、二十年を経過している事案というのがもう既に多々あるわけでありまして、こうした事案でも多くの被害者の方が苦しんでいらっしゃるという実態があるわけですね。

 しかも、こうした事案こそですけれども、被害者の方の高齢化というのが進んでおりまして、先ほど言った新潟水俣病でいえば、事件発生からもう半世紀以上過ぎていて、熊本の場合も六十年たっているわけですから、もはや一刻の猶予も許されない、もう人権問題だというふうに私は思うわけであります。

 その点で、今回、政府がこうした形で、七百二十四条後段は時効であるということを明確にする法改正を提案しているということであります。そうであれば、私は、これからこの法案がどうなるのか、改正までどれぐらいかかるのか、あるいは施行までどれぐらいかかるのか、そこの周知徹底という問題もあるというふうに思うわけですが、そこが見通せないもとで、今の被害者の方は刻々と日々年をとって、救済を求めているといいますか、当然の権利を求めているわけですね。

 ですから、今回の法改正自身はそうした実態を受けてのものだというふうに思いますし、大臣も適切な運用、周知徹底とおっしゃっているわけでありますので、そこは本当に大事な点だと思うんですが、やはり、これからこの法案が施行されるまでに、裁判もあるし、いろいろな運用もあるというもとで、例えば裁判で国側がこれをいまだに除斥期間だと主張するようなことが仮にあれば、これは私たちのこの審議とも違ってくるわけですし、何より、被害者の痛切な思いとも反してくるわけであります。

 ですから、もう時間が来ましたので終わりますが、今この議論を踏まえて、やはり施行前の事案であっても、この趣旨を生かして、これは時効であると、除斥期間などという主張は行うべきでないということを強く求めて、質問を終わります。

鈴木委員長 次に、木下智彦君。

木下委員 日本維新の会、木下智彦でございます。

 本日もお時間をいただきまして、ありがとうございます。

 きょう、お話を聞いていて、珍しく民進党の山尾志桜里先生と意見が一致するところもあるなというふうに思いまして、珍しくと言うと大変申しわけないんですけれども。特に、債務保証のお話をされていたかと思うんですけれども、第三者の保証について、実質的なあり方はどうなんだろうというところ、ここは相当考えさせられるところかなと。特に経営者の配偶者なんかについて特例的に、公証人に委ねられることなく、そういうふうな話は結構そうなんじゃないかなというふうに私も聞いていたんですけれども。

 私の方からも、そういった意味で、債務保証に関連するお話を聞かせていただきたいなというふうに思います。観点が私の場合はちょっと違うんですけれども、前回の質問の中でもあったんですが、この法律案、改正案について、実質的に、要は、政府、内閣の考える政策と、それからこの法律の限界、限界と私は言いたくはないんですけれども、そういった観点について、少し質疑を続けさせていただきたいと思うんです。

 きょうは、そういったことも含めて、経産省の中小企業庁それから金融庁の方から来ていただいております。なぜかというところなんですけれども、政府の政策にかかわる部分、特に債務保証にかかわる部分には、相当、もう少し政策的な意味合いを強めた改正案にするべきではなかったか、そういう観点であります。

 では、どういうことを言いたいかというところなんですけれども、今、経産省、特に中小企業庁を中心に、政府の考え方として、中小企業庁なんかは、企業の中でも新陳代謝を促されている。なぜならば、生産性を高めてより日本の経済のファンダメンタルを強めていく必要があるんだということを強く言われておりまして、この政策については私は非常に賛同する部分が多い。特に、私は、当選以来、今回の国会はこの法務委員会をメーンで所属させていただいておりますが、今まで、委員長もそうですけれども、経済産業委員会にずっと所属をさせていただいていた関係で、そういった意見を持っております。

 その経済産業省中小企業庁の政策の中で、やはりそういったところが色濃く出てきているのが産業競争力強化法であるとか、それから、ことしからやられている事業承継円滑化法。特に事業承継円滑化法というのは、中小企業にスポットを当てたそういった法律だというふうに思っております。これは名前のとおり、事業承継を円滑にしていこう、そういうことだと思うんですね。産業競争力強化法については、中小企業のみならず、大きな企業に関しても、事業のポートフォリオ、いろいろな事業をやっている中で、不採算な部分は切り出して、どこかとくっつけて、うまく競争力それから生産性を上げていこうということ。それから、事業承継を円滑化するというところについては、これはやはり、経営者の親族のみならず第三者であるとか、そういったところにも円滑に中小企業が事業を承継していけるようにしようというふうなことだと思っているんです。

 そういった趣旨で、せっかく経済産業省に来ていただいたので、その辺の、今私がほとんど話していますけれども、そういった点を踏まえて、何をしようとしているのか、経済産業省の重点施策というところで今どういうことをされようとしているのかというところを少し説明いただければと思います。

吉野政府参考人 お答えいたします。

 私ども中小企業庁でございますけれども、今まさに先生おっしゃられました新陳代謝、創業、新事業の展開ですとか、それから事業承継といったものをしっかり後押ししていかなければならないと思っております。特に事業承継に関しましては、今、中小企業の経営者のピークの年齢が六十六歳といったところまで来ておりまして、喫緊の課題というふうなところでございます。

 これに当たりまして、経営者の個人保証を求めないといったことは重要な観点かと思っております。あらかじめ求めない、それから、実際のこの履行に当たりましてもそれに配慮をするといったところは重要だと思っておりますので、この点、中小企業の活力を引き出す、さらには日本経済の活性化に資するということを目的としたこのガイドラインにつきましては、私ども、しっかりと普及をしてまいりたいというふうに思っているところでございます。

木下委員 ありがとうございます。明快に御答弁いただいたかと思います。

 もう少しちょっと言いたいところがあるのでお話しさせていただくと、今言われていた創業を支援していくというところで、新創業融資制度みたいなものがあって、ここの中に書いてあるのが、新創業融資制度とは、「新たに事業を開始する者や事業を開始して間もない者に対し、無担保・無保証人で日本公庫が融資を行う制度である。」と。これは無担保無保証である。

 これは、ちょっともう一度質問として聞きたいんですけれども、なぜ保証等が必要でないのか、逆に、保証等が必要になるようなことがハードルだから、だから無担保無保証でやるというふうに私は読み取れるんですけれども、そういう理解でいいですか。そこまでだけ、一つ言っていただければいいと思います。

吉野政府参考人 お答え申し上げます。

 中小企業の創業は、先ほどの観点からもとても大事だということでございますけれども、こうした、経営者による思い切った事業展開を進めるに当たりまして、個人保証、創業時点から保証ですとか担保ですとか、こういうところを当初から求めていくところに関しては、そうした動きを損なうところもあるということで、公的金融におきましては、特に創業時点というところに関しても御指摘のような配慮をしてきているということでございます。

木下委員 ありがとうございます。

 新しい事業を始めるときは特に難しいんだということだと思います。そこをチャレンジしやすい環境に持っていくためにこういうふうな施策をされている。

 もう少し行くと、平成二十八年度、今年度の「経済産業政策の重点」、ここもちょっと読ませていただきたいんですけれども、「創業促進・事業承継円滑化等による新陳代謝促進」、そこの中で書いてあるのが、ちょっと抜粋しますと、「「経営者保証に関するガイドライン」の周知・普及により、個人保証に依存してきた融資慣行を改善し、中小企業・小規模事業者の思い切った事業展開や早期の事業再生等を促進する。」、これはまさしく今御答弁いただいた内容と合致していると思うんです。

 そこで、今度は金融庁にお話を聞きたいんですけれども、今言われた経営者保証に関するガイドライン、これは恐らく、私の理解するところによると、経済産業省が中心となりながら政府が推し進めていく「経済産業政策の重点」、この意思にのっとった形でこのガイドラインというのが決められている、その理解で正しいでしょうか。

水口政府参考人 お答えいたします。

 委員御指摘のとおり、金融庁としましては、創業、事業承継というものを円滑に進める上で経営者保証に過度に依存しない融資というのは大変重要であると考えてございまして、こうした点も踏まえまして、中小企業庁と金融庁の方で二十五年十二月に、民間の自主的なルールとして経営者保証ガイドラインというのがまとめられて、二月に適用がされたところでございます。

木下委員 さすがだなと思うんですね。

 これは、中小企業庁とそれから金融庁がしっかり連携して、政府の意向に沿った形で政策的な制度、それから運用がなされている、もうまさしくそういうことだというふうに思うんです。

 では、その経営者保証に関するガイドライン、ちょっと中を見せていただきました。その中で、これは調査室の説明資料の中で、「主な着眼点」というところで、「経営陣は、ガイドラインを尊重・遵守する重要性を認識し、主導性を十分に発揮して、経営者保証への対応方針を明確に定めているか。また、ガイドラインに示された経営者保証の準則を始めとして、以下のような事項について職員への周知徹底を図っているか。」、これは、民間の金融機関に対してこういうことの周知徹底を図っているか、その一番最初に書いてあるんですね。

 同じようなことですけれども、「経営者保証に依存しない融資の一層の促進(法人と経営者との関係の明確な区分・分離が図られている等の場合における、経営者保証を求めない可能性等の検討を含む。)」。要は、基本的には保証をしない、保証なしに、これは逢坂委員のときの金融庁の答弁でも同じだったかと思うんですけれども、なるべく保証をせずにお金を金融機関が貸すというようなことをやっていってくださいねということだと思うんです。逢坂先生はちょっといろいろ意見があったようですけれども、私はこれはいいと思っているんです。

 なぜならば、お金を貸す、お金を貸すときには金利が当然あるわけですね。お金を貸して、貸し手の方は金利というものの存在によってそのみずからのリスクをうまく打ち消している、これが普通の摂理として成り立っている。そこにこの保証が入ってくるから私は結構難しくなってくると。

 ただ、そのかわり、この保証というのが今までの日本の世の中ではちょっと一般化してしまっているんだと思うんですね。これがまた、今度は今回の民法の説明のところに書いてあるんです、「検討の経過」。この法律案の経緯に戻りますけれども。

 「検討の経過」の中で、経営者保証については、「有用な場合があることは否定できず、民事法による強力な規制は不適当」ということで適用対象外になった。そのかわり、さっき言った「民間ベースの経営者保証ガイドラインに委ねる。」と。ただ、経営者保証ガイドラインには、先ほどから言っているとおり、なるべくそういうふうなことをしないようにすると。結局、法律では規定できずに、こういったガイドラインに委ねざるを得なかったということだと思うんですね。それからもう一つ、第三者保証についても書いていますね。「できる限り抑制すべきであるが、一律禁止は行き過ぎ(厳格な要件の下で許容)。」というふうに書いてあるんです。

 本当にこれでいいのかなということは、また一つ議論があると思っているんです。では、「有用な場合があることは否定できず、」、この「有用な」と言っているのは誰なんだということなんです。それはちょっと次回の議論にしようかなと思っているんですけれども。要は、いろいろなところからの意見を聞いていると、こういったことは「否定できず、」というふうになっている。「できる限り抑制すべき」、でも全部抑制しないよということですよね。本当にこれでいいのかな。

 ただ、さっきから言っているところの、今回の法律案、この中で見る限りにおいては、これは法律だからしようがないというのかもしれませんけれども、この法律の条文だけを読み取ってしまったら、保証人の保護というふうな観点で書いてあるかもしれないけれども、この法律をそのまま真っすぐにとってしまうと、保証はいいんだというふうに捉えざるを得ない。ここからここまでの部分については保証はいいですよというふうなことなのかもしれません。ただ、保証はいいですよということになってしまう。

 そうすると、これだけをとってみると、今いろいろ言われていた政策と、この民法の法律案の中に書かれていることというのが整合性がうまく保てていないんじゃないかな。まあ、運用等々でいろいろ考えられるのかもしれません。さっき言っていたように、「経営者保証ガイドラインに委ねる。」というふうに書いています。

 ただ、本来であれば、これを言うと法律の専門家の方々には申しわけないんですけれども、幾ら民法であったとしても、政府の意向、政策というのが色濃く反映されているべきなのではないかというふうに私は思っておりまして、ここはちょっと非常に難しいところなんですけれども、大臣がそういった部分についてどういうお考えを持っておられるかというところ、きょうちょっとそれをお聞きしたかったんです。よろしいですか。

金田国務大臣 委員の御指摘を拝聴しました。

 個人保証に依存し過ぎない融資慣行の確立、そういうものは我が国の社会において極めて重要だというふうに認識はしております。他方で、やはり、個人保証を利用することを全面的に禁止した場合には、特に信用力に乏しい中小企業の資金調達に支障を生じさせるおそれがあるという指摘が寄せられておった経緯は今まで議論に出ているとおりであります。したがって、この指摘も一方で重く受けとめる必要があるという中で、個人保証の問題に関しては、これらの相反する要請をどのようにバランスのとれたものにしていくかという点が重要であった、このように認識しております。

 したがって、これらの要請を調和のとれたものにするために検討が行われたわけですけれども、最終的な結論としては、事業性の融資に関して、保証契約を無効にするという極めて強力なルールを設けることを前提に、このルールの適用対象として、弊害が顕著である第三者が保証するケースに限定をして、かつ、第三者保証についてもこれを全面的に禁止することとはしないということにしたものであって、改正法案は、金融機関が金融庁の監督指針に反する行動をとることを許容する性質のものではなく、金融庁の監督指針と相まって、第三者の個人保証を求めないことを原則とする融資慣行を確立し、その適正化を図ることに資するものだというふうに考えているわけであります。

 引き続いて、個人保証に依存し過ぎない融資慣行の確立に向けて、関係省庁、きょうもお見えですが、連携をしながら取り組んでいきたい、このように考えておるわけであります。

木下委員 ありがとうございます。丁寧に御答弁いただいたかと思います。

 ただ、やはり今大臣がおっしゃられたようなこと、これはずっと言い続けなきゃいけないと思うんですね。この法律だけをとってしまったら、いや、悪いことしていないじゃないと言う人は絶対に出てくる。

 しかも、もう一つ私がちょっと言わせてもらうと、これは、次回もこの保証制度についてもう少し突っ込んで話をしたいと思っているんですけれども、要は、言えば、金融機関はもっと働けよということだと思うんですね。自分たちがちゃんとリスクをとって、相手の信用力がどれぐらいか、それによって金利をどれぐらいに設定するかというふうなこともちゃんとやっていけよと。多分金融庁なんかはそう思っていらっしゃると思うんですけれども、そういうことをちゃんとやっていって、本当に社会が適正に回るということに、これは法務省、この民法の中でもちゃんとそういったことを何とかして規定できるようにしていくべきなんじゃないかなということ。これは非常に難しいです。

 それから、もう一つ、大臣がおっしゃられていましたけれども、バランスをと。では、このバランスというのが、どこにバランスがあるのかということなんです。法律の専門家それから業界団体、それだけで本当にいいのか。前回は、一般の人の意見というのも必要だと言っていたんですけれども、もう一つ、もっと重要なことは何かというと、ちゃんと政府の意向、こういうものが反映されたような、そういった法律をつくっていっていただきたい。しかも、その政府の意向というのが正しいものであるかどうか、それをしっかりとこういった委員会で審議ができればというふうに思っております。

 きょうは少し早いですけれども、金曜日、最後、厚労委員会とここしか立っておりませんので、これで終わらせていただきたいと思います。

 ありがとうございます。

鈴木委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後三時五十七分散会


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