衆議院

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第13号 平成29年4月25日(火曜日)

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平成二十九年四月二十五日(火曜日)

    午前九時一分開議

 出席委員

   委員長 鈴木 淳司君

   理事 今野 智博君 理事 土屋 正忠君

   理事 平口  洋君 理事 古川 禎久君

   理事 宮崎 政久君 理事 井出 庸生君

   理事 逢坂 誠二君 理事 國重  徹君

      赤澤 亮正君    安藤  裕君

      井野 俊郎君    奥野 信亮君

      加藤 鮎子君    門  博文君

      菅家 一郎君    木村 弥生君

      城内  実君    鈴木 貴子君

      辻  清人君    野中  厚君

      藤原  崇君    古田 圭一君

      宮川 典子君    宮路 拓馬君

      山下 貴司君    山田 賢司君

      吉野 正芳君    若狭  勝君

      枝野 幸男君    階   猛君

      山尾志桜里君    浜地 雅一君

      吉田 宣弘君    畑野 君枝君

      藤野 保史君    松浪 健太君

      上西小百合君

    …………………………………

   法務大臣政務官      井野 俊郎君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    林  眞琴君

   参考人

   (元在ウィーン国際機関日本政府代表部特命全権大使)

   (国際大学客員教授)   小澤 俊朗君

   参考人

   (中央大学大学院法務研究科教授)         井田  良君

   参考人

   (漫画家)       小林よしのり君

   参考人

   (京都大学大学院法学研究科教授)         高山佳奈子君

   参考人

   (元衆議院議員)

   (弁護士)        早川 忠孝君

   法務委員会専門員     齋藤 育子君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月二十五日

 辞任         補欠選任

  古田 圭一君     加藤 鮎子君

  山田 賢司君     山下 貴司君

同日

 辞任         補欠選任

  加藤 鮎子君     木村 弥生君

  山下 貴司君     山田 賢司君

同日

 辞任         補欠選任

  木村 弥生君     古田 圭一君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出第六四号)


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     ――――◇―――――

鈴木委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 本日は、本案審査のため、参考人として、元在ウィーン国際機関日本政府代表部特命全権大使・国際大学客員教授小澤俊朗君、中央大学大学院法務研究科教授井田良君、漫画家小林よしのり君、京都大学大学院法学研究科教授高山佳奈子君及び元衆議院議員・弁護士早川忠孝君、以上五名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言御挨拶を申し上げます。

 本日は、御多忙の中、御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見を賜れれば幸いに存じます。よろしくお願いします。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、小澤参考人、井田参考人、小林参考人、高山参考人、早川参考人の順に、それぞれ十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず小澤参考人にお願いいたします。

小澤参考人 おはようございます。本日は、お招きいただきまして、大変光栄に存じます。

 私は、テロ等準備罪の創設を含む法案に賛成の立場から意見を申し上げます。

 私は、刑事司法の分野に造詣が深いということは全くないのでありますけれども、二〇一二年の一月から二〇一四年の八月まで、在ウィーン国際機関日本政府代表部の特命全権大使を務めております。退官した現在、国際大学と東京大学駒場で教鞭をとっております。

 ウィーンは、世界第三の国連都市として知られております。国際原子力機関を初め多数の国際機関が存在しており、また、国連組織犯罪防止条約、すなわちTOC条約関連の事務を行うUNODC、これは国連事務局の一部である国連薬物犯罪事務所のことを指します。このUNODCもウィーンに所在しております。

 私は、日本の常駐代表として、二〇一二年十月にウィーンで開催されました第六回TOC条約締約国会合にも出席しております。本日、この場にお招きいただきましたのは、在ウィーン国際機関日本政府代表部の特命全権大使を務めていた際、我が国とUNODCとの協力関係の推進に当たって経験があるからだと理解しておりますので、国際的な刑事司法分野での協力の現場で日本政府を代表して活動したことのある立場から、このTOC条約を締結する必要性について幾つか所感を述べたいと存じます。

 まず最初に、世界のテロ情勢と国際社会の組織犯罪対策の現状についてです。

 二〇〇〇年十二月にイタリアのパレルモでTOC条約の署名会議が開催された以降も、世界各地で組織的な犯罪集団やテロリズム集団による犯罪が頻発しております。二〇〇一年九月十一日には米国においてアルカイダによる同時多発テロが発生し、それ以降も、ISILやボコ・ハラムなどのテロリズム集団によるテロが頻発しております。日本人もその標的となり、死傷者を出す事態となっております。こうした中、各国政府は、国際機関も活用しつつ、必死になってこうした犯罪と闘っております。

 この点、TOC条約について、テロを条約の対象としていないのではないかという議論があるようですが、これは不思議な議論だと思います。国際社会は、このTOC条約がテロ組織を含む組織犯罪集団と闘う上で重要な枠組みである、こう認識しております。このTOC条約を通じて、捜査共助等のさまざまな協力を実際に行っているという現実があります。

 テロと国際組織犯罪に関する安保理決議二一九五というものは、二〇一四年十二月に全会一致で採択されております。テロと闘っていく上で、TOC条約未締結国には、条約に加入することを優先事項として奨励されております。このような現状の中で、この条約がテロと関係があるか否かが議論されるということは、何とも不思議でなりません。

 二番目に、我が国がTOC条約未締結国であることの意味について申し上げます。

 刑事司法分野における最大かつ最重要の国際会議として、我が国は一九七〇年に京都で第四回コングレスを開催しておりますが、その五十年後に当たる二〇二〇年、すなわち、東京でオリンピック・パラリンピックが開催されるその同じ年に、世界から四、五千名の参加を得て第十四回のコングレスが本邦で開催されることが決定されております。五年に一度開催されるこのコングレスの本邦開催は、刑事司法分野における日本のリーダーシップを再構築する大きなチャンスでありますので、UNODC事務局の協力を得つつ、日本らしいイニシアチブをとっていっていただきたいと考えます。

 しかしながら、前回我が国がコングレスを開催した一九七〇年の当時と比べ、刑事司法分野における今日の日本の存在感の低下は否めないと考えます。アジアの中でも低下しているのです。

 これには幾つかの理由があります。

 一つには、日本の社会経済発展が近隣諸国の社会発展を促し、アジアの中でも幾つかの国が刑事司法の分野でイニシアチブをとり始めてきたことが挙げられます。

 二つ目としては、刑事司法分野におけるいわゆる南北問題の存在があります。インターネット管理の問題やテロリズムの定義の問題が典型例でありますけれども、麻薬問題厳罰主義の是非や死刑是非の問題などもあります。これらの問題については、我が国としてのイニシアチブをとりにくい事情があります。

 そして三つ目が、我が国がTOC条約にいまだ加入できていないことです。これは、国際協力のニーズが高いためにほとんどの国連加盟国が締結している国連条約でありますけれども、我が国は署名国の地位にとどまっています。TOC条約については、私が締約国会合に署名国として出席した際の締約国数は百七十二でした。現在の締約国数は百八十七であると聞きます。目ぼしい国は全て締約国であると言って過言ではありません。

 TOC条約を補足するものとして人身取引議定書と密入国議定書がありますが、我が国はTOC条約に加入できないでいるため、これらの重要な議定書についても締約国になれていないのが現状です。

 我が国は、締約国会合では、オブザーバーとして、イランなどの未締結署名国とともに一番後ろの席に座らされます。組織犯罪の防止のためのミニマムグローバルスタンダードであると言ってよいTOC条約の世界で、我が国がいつまでもそのような立場でいてよいはずはないと考えます。

 三番目に、国内法を整備してTOC条約を締結する必要性について申し述べます。

 繰り返しますが、TOC条約は、国際的な組織犯罪に対処するための国際協力に関するミニマムグローバルスタンダードを定める条約であると言えます。このミニマムグローバルスタンダードを満たす法整備がなぜ我が国でおくれているかについて、各国の大使から照会を受けることがありましたが、私が幾ら説明してもなかなか理解されませんでした。

 TOC条約は、重大な犯罪の合意罪または参加罪の少なくとも一方を犯罪化することを締約国に義務づけています。合意罪の法制を採用している国としては例えばイギリス、アメリカなどがあり、参加罪の法制を採用している国としては例えばフランス、イタリアなどがありますけれども、こうした国々で合意罪あるいは参加罪が人権抑圧に使われているという懸念は聞きません。各国の大使が私の説明を聞いても理解できないでいる、あるいはいたというのは、不思議なことではなかったのかもしれません。

 最後になりますけれども、本委員会はテロ等準備罪を創設することを含む法案について御審議中でいらっしゃいます。ぜひ、TOC条約の義務を履行するための国内法を整備していただき、もって我が国がTOC条約と関連議定書の締約国となれるようにしていただきたいと考えます。

 冒頭に申し上げたとおり、我が国は二〇二〇年に第十四回コングレスのホスト国になります。世界のリーダーたちが集まるこの会議の前に、国際協力のミニマムグローバルスタンダードを規定するTOC条約を締結していただきたいと考えます。東京オリンピック・パラリンピックに加え、刑事司法分野のオリンピックとも言えるほど重要なコングレスの成功を期して、必要な準備が全て実行されていくことを期待しております。

 御清聴ありがとうございます。(拍手)

鈴木委員長 ありがとうございました。

 次に、井田参考人にお願いいたします。

井田参考人 中央大学教授の井田でございます。

 このたびは意見表明の機会を与えていただき、まことにありがとうございます。法案に賛成する立場から、刑法学研究者としての意見を述べさせていただきます。

 今ここで問われておりますのは、日本政府が既に署名し、平成十五年には締結につき国会も承認を与えているTOC条約を批准、締結するための国内法整備のあり方であり、とりわけテロ等準備罪と呼ばれる、犯罪の計画、実行準備段階の行為の処罰が必須であるかどうかということであります。

 この問題を考えるときに重要なことは、なぜ国連においてこの条約が提案、決議され、加盟国に締結、実施すべきことを要請するという事態に至ったのかを理解することであろうかと思います。そして、その理由は、組織犯罪という犯罪現象が国際社会にとり極めて危険なものとなり、国際的な協力による対応を必要とするに至ったからにほかなりません。

 組織犯罪が危険なものになったことの背景には、人類の歴史上、この数十年における時代環境の変化があります。すなわち、まず、高速で容易な場所的移動が可能となりました。そして、相互的な連絡の手段、通信の手段が飛躍的に発達しました。さらに決定的なことは、人は簡単な操作で次の瞬間に壊滅的な被害を与えることのできる攻撃手段を比較的容易に手にすることができるようになりました。

 我々の社会は、国家的な監視の目を至るところで光らせるというのではなく、個人個人の自由を基本的には保障する社会でありますから、状況の変化を最大限に利用する組織犯罪集団からの攻撃に対し極めて脆弱な面を持っています。

 社会現象と犯罪現象の変化に対応して、刑法という法律も変わらざるを得ません。典型的なのは、全世界で共通に起こっている処罰の早期化、前倒しという現象であります。

 確かに、刑法は、伝統的には、行われたことに対する事後的な反動として刑罰を科す法律です。以前から、予備罪とか陰謀罪とかの、処罰を前倒しした、そういう規定はありましたけれども、それは例外的な存在でした。しかし、組織犯罪との関係では、処罰の早期化の方に重点が移ることを避けられません。刑法は、何かが起こってからの処罰、応報的な処罰から、早期における介入による被害の未然防止、すなわち警察等による予防的介入のための根拠を与えるものとしての刑法へという機能転換を伴わざるを得ないのです。

 さすがにヨーロッパなどにおいても、テロリスト等の組織的犯罪集団については基本的人権の享有主体であること自体を否定するというような一部の議論に対しては反対が一般的ですが、処罰の早期化なくしては、現代社会において、強く組織化され、高度な技術的手段を用いて大規模な被害を与えようとする組織的犯罪集団に対抗することは不可能だという問題意識は完全に共有されています。そうでなければ、TOC条約が提案され、その締結と実施を各国に要請するという事態にはなっていなかったと思われます。

 現在の組織犯罪集団は、国境を越えた活動を行うところに一つの特色があります。国際的に共同した取り組みが必要となります。もし日本が共同の取り組みに参加していないということになりますと、外国における薬物犯罪やテロ犯罪の計画、準備が日本では規制を受けずに行われるということになります。まさに国際的な規制の穴、ループホールにほかなりません。それは国際社会にとって甚だ困りものということになります。国際社会にとっての共通の敵と共同に戦おうとする取り組みになぜ日本だけ参加しないのかと問われているとも言えましょう。

 以上のことを前提として、条約批准のための法整備の基本的方向性について論じたいと思います。

 最初に注目すべき重要なポイントは、犯罪の主体の限定です。もともと条約が狙いとしている組織的な犯罪集団をピンポイントに捕まえて、間違ってもそれ以外の一般市民の団体行動にまで適用されてしまうような曖昧な規定にしないようにしなければなりません。言いかえれば、組織犯罪対策のための例外的な扱いをきちんと囲い込んで、一般市民に適用される刑法の領域への侵食を食いとめなければなりません。

 法案がとった方法は、現行法である組織的犯罪処罰法がその適用のために要件としている「団体」を前提として、さらにこれを絞るというものであります。すなわち、現行法が今規制の対象としている団体のうちで、団体の結合関係の基礎としての共同の目的が重大な犯罪を実行するところにある、そういう組織的犯罪集団のみを捕捉しようというのです。

 最高裁判所の判例の中には、当該団体がリゾート会員権の販売等を目的とする会社であるということから、直ちに本法に言う「団体」であるとして本法を適用したものがありますけれども、このような形でテロ等準備罪を適用するための目的要件をクリアすることはできません。なぜなら、団体の結合関係の基礎としての共同の目的が重大な犯罪の実行に向けられていなければならないからです。現実問題として、テロ組織、暴力団、薬物の密売組織、あるいは振り込め詐欺集団といったもの以外をこれにより捕捉するということはおよそ困難であるように思われます。

 繰り返しますけれども、法案は、犯罪主体を、現行法を前提に、さらにそれを限定しようとするものです。仮にそれが限定として不十分だというのなら、現行の組織的犯罪処罰法の主体要件はさらにそれ以上に限定として不十分であり、濫用の可能性を持つことになりそうですが、実務上、そのような問題があることは聞いたことがありません。

 現行法の団体要件は、テロ等準備罪が予定する主体要件よりさらに一段緩やかになっているわけですけれども、裁判所による解釈とその運用は安定していて、無限定に用いられているとか濫用のおそれをはらんでいるという批判はおよそ当たらないように思われます。

 以上のように、主体の限定については法案に合格点を上げることができると考えています。そうであるとしても、条約が要求しているのは、現行法は単に刑を重くしているだけでありますけれども、法案は、現行法にない計画、準備段階での処罰をかなり幅広く認めるわけですので、新しい犯罪をたくさんつくることにもなりますから、慎重な検討を必要とすることは間違いありません。

 テロ等準備罪として提案されている犯罪について、法案は、今申し上げた主体の限定を前提として、そして計画行為がなされることが必要で、さらに実行準備が行われることを要求するという形での二重の限定を加えました。このような、主体の限定を前提としたさらなる二重の縛りというのは、法が適用される実際の場面を考えますと、実に高いハードルを設定したものであることがわかります。このことを御理解いただくために、既に現行法にあります予備罪について、それを例にとって説明したいと思います。

 予備罪というのは、それぞれの犯罪を実行しようという目的があり、その準備のための外形的な行為があることにより成立します。外形的行為はそれ自体として異常性を示す必要はなく、日常的な行為でも足りますから、例えば、ある人を殺す目的で、またはある人に強盗を働く目的を持ってホームセンター等で包丁を購入すれば、それだけで殺人予備または強盗予備が成立することになりそうです。

 しかし、この規定が現実に実務において適用される場面について見ると、事情は全く異なることがわかります。現実の法適用の場面では、刑法の規定が予定する目的要件、つまり、殺人予備の場合であれば殺人を実行する目的があったことを、合理的な疑いを入れない程度の確実性を持って証拠により証明しなければなりません。殺人予備罪の規定の適用を認めるためには、いかに本人がそのことを否認したとしても、それでも殺人目的を持って行動したことに疑う余地がないような、そういう客観的行為がなければなりません。例えば、包丁を買ったというだけでなく、その包丁を持って、深夜、被害者の住居に忍び込んだというような客観的な行為が行われなければ、殺人予備罪の規定の適用は認めることができないわけです。

 かくして、裁判の場における目的要件の立証の可能性という見地からは、予備行為というのは、実行行為に直接つながるような相当に危険性を持った、そういう行為に限定されるということになります。

 そのことは犯罪統計を見ても明らかです。殺人予備であっても、年間に認知されている件数はたかだか二十件程度にすぎません。しかも、そのうちのほとんどは、別の殺人等の重大犯罪が本人または共犯者により現実に実行されたときに、たまたまそれに付随して明らかになったケースであります。このようにして、殺人予備罪のような処罰の早期化を図る伝統的な規定も、目的要件による縛りが強く影響して、実務においては相当の限定がかかっています。

 それでは、テロ等準備罪として検討されている犯罪についてはどうでしょうか。

 たった一人で頭の中で実行目的を抱いているという予備罪の場合には、外から内心のあり方を知ることはできませんが、しかし、計画行為であれば、組織的犯罪集団の構成員らが一定の重大な犯罪実行について具体的かつ現実的に相談して決意を固めるというのが内容ですので、犯罪的な意思が表にあらわれることになり、より早い段階で捜査機関がそれと認知することは可能になると言えましょう。

 ただ、ここでも、今予備罪について申し上げたことと基本的には同じことが当てはまります。組織としての犯罪的決意が固まったことが疑いを入れない程度の確実性を持って証拠により証明されなければなりませんから、仮に関係者が口をそろえて否認しても、それが説得力を持たないような、そういう外形的な状況がぜひとも必要となります。実際問題としては、何らかの実行準備行為が既に行われていることとあわせて、計画そのものが逆に立証されるというのがほとんどの場合であると言えましょう。

 このように、実は、計画行為だけであっても相当に高いハードルではあるのですが、法案はさらに、第二の限定として実行準備行為の要件を明文化しました。これは、規定が誤った方向で運用されないようにする、そういう趣旨を明確化するものであって、妥当なものであったと思われます。

 ちなみに、アメリカ合衆国のコンスピラシー罪で要求されることがあるオーバートアクトよりも、今回提案されている「計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為」という例示を含む規定の仕方は、より明確であり、立法論としてよりベターなものだというふうに考えられます。

 いずれにしましても、このように、犯罪の訴追立証のハードルはかなり高いわけです。単なる思想ないし悪い意思を処罰するという批判は、法案には当たりません。

 以上のように、主体の限定に加えて、計画行為プラス実行準備行為という犯罪要件の二重の限定、あわせますと三重の限定がかかっているわけで、我が国の法体系において見たときには、相当に輪郭の絞られた犯罪になると思われます。法案の規定をごらんになるときに、そこには三重の限定が施されていること、その結果として、我が国の実務における法適用の場面においては立証のハードルは相当に高いものとなるであろうことを御理解いただきたいと思います。

 そうであるからこそ、テロ等準備罪の規定は頻繁に適用される規定にはならないであろうことも事実です。今の予備罪や陰謀罪と同様に、まれにしか適用されないであろうと想像されます。しかし、それは、捜査機関による濫用が危惧されるようなハードルの低いものではなく、その正反対のものであるからです。

 そうはいっても、オウム事件のような事件の可能性は常に存在しますし、外国の諸機関からの情報提供を受けて、日本国内でテロ行為の準備がされているということが日本の捜査機関に知られることになるといった可能性もないとは言えません。テロの問題を離れても、振り込め詐欺等の特殊詐欺の対策というものもこれにより可能になる場面が想定できると思われます。

 条約との関係についても述べたいと思います。

 TOC条約は、かなり大幅な処罰の早期化を各国に要請しています。そこで、どこまで条約に沿った形での法整備を行うかが問題となります。

 私の考え方を端的に申し上げれば、条約は、これを批准することによって現行法体系の一部になるのですから、これを通常の法解釈の方法に従って解釈して、それで説明がつく限りの法整備を行うべきだと思います。

 条約は、長期四年以上の自由刑を科し得る犯罪を重大犯罪とし、二人以上の者がそれを行うことを合意することを処罰の対象とすべきことを求めています。しかし、長期四年以上の自由刑を科し得る犯罪の中にも、およそ組織的犯罪集団が実行を計画することが現実的には想定されないものもありますので、対象犯罪を限定するということは条約の解釈として許されるところであろうと思います。法案は、このような見地から、対象犯罪の数をかなり限定したものと理解しています。結論として、私は、それが特に広過ぎるという感じを持っておりません。

 最後に、法案のその他の内容についても簡単に触れたいと思います。

 テロ等準備罪を新設したことのほか、マネーロンダリング罪の前提犯罪を拡大して犯罪収益規制を強化したこと、贈賄罪について国民の国外犯の処罰を可能としたこと、証人等買収罪の規定を新設したことなども、組織犯罪に対する有効な対応を可能にするものでしょう。

 特に私が注目するのは、提案されている証人等買収罪です。幾ら刑罰法規を整備しても、裁判を含めた司法活動を妨害する行為が行われて犯罪の立件、処罰が不可能になれば、刑罰法規はまさに絵に描いた餅になります。現行刑法の規定はこの点において相当に不備でありますけれども、法案に見られる対応により、そうした司法妨害行為に対処することが可能となります。

 今回の法案は、確かに、条約批准のための国内法整備のためのものであると言われていますけれども、このように、法案が組織犯罪に対する総合的な対策を用意するものであることも高く評価に値すると考えます。

 以上です。御清聴ありがとうございました。(拍手)

鈴木委員長 ありがとうございました。

 次に、小林参考人にお願いいたします。

小林参考人 おはようございます。

 きょうは、共謀罪を考えるに当たって、二つの事案、直接体験したことがありますので、その話をさせていただきたいと思います。

 一つは、一九九四年、坂本弁護士一家の事件が迷宮入りしていたときに、「ゴーマニズム宣言」という漫画で、わしはこれに対する推理を描きました。それは、限りなくこれはオウム真理教の犯罪ではないかというようなことをにおわせるような漫画を描きましたので、オウム真理教の方からたちまち抗議がやってきました。何度も交渉いたしまして、そのたびにわしは謝罪をはねつけました。そうすると、オウム真理教が名誉毀損で裁判に訴えてきまして、それから裁判闘争になりました。

 それと同時に、実はこれは後からわかったことなんですけれども、麻原彰晃の方から小林よしのりを暗殺せよという指令が出まして、それでVXガスを持った暗殺団が常にわしを尾行するという状態になってしまいました。

 それで、一件、わしが明確に察知したものは、わしの仕事場のマンションの下に、山形明とかという元自衛隊の信者がVXガスを持って待っているという状態になりまして、わし、最後に一人仕事場に残っていたんですけれども、先に帰ったスタッフの方から電話があって、下に怪しいやつがずっと待っている、これは危ないぞ、だから今帰るのはよせ、出ていくなというふうなことを言われて、それで、実際、スタッフがその山形というのに声をかけて、撃退してしまいました。

 それ以外には、わしが書店でちょっと立ち読みしていたら、その書店の外側にずっとわしを見ている男がおりまして、これは何でわしを見ているのだろうというふうに思って、外に出て歩いていくとずっと尾行してきましたので、市場の中に逃げ込んで、ぐるぐる回りながら、それでぱっと外に出てタクシーを拾って逃げていったりとか、そういうこともやりました。

 一番危険だったのは、喫茶店に入ったときに、わしと秘書で入って話していたんですけれども、その後で、後ろに信者たちが五、六人、真後ろの席に座ってしまって、その喫茶店の中はがらがらなのに真後ろに座ったものだから、正面に座っている秘書が、余りにも不気味だ、薄汚れた服を着た男たちの集団五人がわしの後ろに座っているということで、ずっとにらみつけていたんですね、その信者たちを。それで、犯行に及ぶことができなかったんですよ。結局、彼らは喫茶店から立ち去っていきました。

 それは認知されたもので、ほかにも尾行されたりとかしていたのかもしれません。非常にその点、危うかった。でも、何者かはわからないわけですよ、ただ尾行されているということだけを常に察知しているという状態ですから。

 そのときに、玉川警察署の方に行って、怪しいやつがずっと尾行するから、これを何とかしてくれというふうに頼みました。すると、全然受け合ってくれない。それで、わしは当時、小沢一郎さんと対談をした雑誌を持っていたので、それを見せびらかして、ちょっと聞いてくれぬか、わしはこういう知り合いもいるみたいなことを言ったら、そうしたら個室の方に通されまして、それで上の人たちが出てきまして、話を聞いてくれました。

 けれども、最終的には、あなたのところに、玄関の中に一歩でも入ってきたら電話してくれ、そうすると警察は対処できる、そうでなければ対処できないというふうに言われたもので、わしはすごく腹が立って、一歩入られたらそこで殺されるかもしれないのに、冗談じゃねえよというふうに思いまして、これは非常に危ない状態だなと思って、逃げ回る日々が続いていたんですけれども、九五年の元旦にオウムの上九一色村からサリンが検出されて、三月にあの地下鉄サリン事件が起こりました。

 そうすると、上の方から指示があったんでしょう、玉川警察署とか、そういうところからわしに挨拶に来て、それで、これから巡回パトロールをするということになって、一日に二、三回ぐらい、郵便受けの中に異常なしみたいなメモを入れてくれるようになりました。それとて、パトロールしていないときにわしが襲われたらどうするんだという話にもなるんですけれども。

 結局、六月ぐらいにあの暗殺計画というのが新聞にだあっと載りまして、それで、ああ、はやりそういうことだったのかということが発覚したということですね。

 それと、あともう一つ、薬害エイズ事件というものにわしはかかわっておりまして、ちょうどそれが同じ年に並行してやっていたんですけれども、この薬害エイズ事件というのは、子供たちが非加熱製剤を注射しまして、それでエイズを発症してしまった。

 子供というのは、わしにとっては、子供漫画でデビューして、「東大一直線」、「おぼっちゃまくん」というヒットを出しておりましたので、子供に対する思い入れというのは人一倍強いんですよ。だから、子供たちが仕事場にやってきて頼まれたら、ちょっと引き受けざるを得ないということで、この救う会の代表に就任しまして、そのために、自分の読者の学生たちを扇動しまして、厚生省の周りを取り囲んだりとか、そういうことをやっておりました。

 それで、なかなかこれが打開できない。郡司ファイルと当時言われていたんですけれども、そのファイルを厚生省が出さないんですね。これは非加熱製剤が危険であるかどうかの認識を証明するファイルだったんですけれども、これが出てこない、なかなか。

 それで、非常に行き詰まっているところで、「朝まで生テレビ!」に出たときにこの問題を訴えたんですけれども、知識人たちが、国家というのは隠さないかぬこともあるとか、なかなか謝罪できないものだとか、あるいは、これは共産党がかかわっているんだとか、そんなことを言いまして、真面目に考えてくれないんですよ。それで、頭にきまして、番組の最後に、パネルに天誅と書いて、どかんと出したんですね。ことしの目標、これは厚生省に天誅を加えてやるということを宣言してしまったわけですね。それは、本当に毎日毎日子供が死んでいきますので、それで、わし、葬式とかに出かけていって、非常にたまらない思いになってしまっていたんですね。

 それで、年が明けてから、厚生省に何か一泡吹かせてやろうというふうに考えて、学生に電話しまして、それで、とにかく人畜無害な、例えば色がばっと出るとか、あるいはにおいが出るみたいなガスが、そういうものはないのか、わしが厚生省にそれをばらまいてきてやるよ、それで逮捕されようじゃないか、そうすればマスコミが注目するだろう、どうしてそこまでわしが考えなければいけなかったかということを国民にもっと啓蒙するしかないというふうに覚悟しまして、そういう薬剤はないものかと。

 第一、非加熱製剤をエイズ入りなのにばらまいているということは、これは子供たちに対する国家による無差別テロですよね。ということになるわけですよ。だから、権力に一矢報いるためには、全く無害な、そのぐらいのパフォーマンスぐらいやったっていいでしょうというふうに思いまして、そういう相談もしていたりとかしました。これを盗聴されていたりとかすると、わしはちょっと大変なことに、既に、何もやらない間に逮捕されていたかもしれないというような気もしますが。

 結局のところ、一月、菅直人さんが厚生大臣に就任しまして、それで厚生省から資料を一括して出させてしまった。それで謝罪に結びついたんですね。菅直人さんというのは、なかなか最近何か評判が悪いみたいだけれども、とてもいいことをしているんですね、あの人は。

 あの人のおかげで、わしはテロをやらずに済んだんだからね。これは、テロとかといったって、人を傷つけるようなものじゃないですから。パフォーマンスです、表現者としてのね。

 結局、わしのような人間というのは、基本的に権力を持っているわけじゃないですから、一市民ですよ、それは。それで、物を言う市民です、わしは。ほとんどの人は物言わぬ市民です。だから、ふだん自分たちは、まさか、何かそういうせっぱ詰まった状況に追いやられて、何かやらなきゃいけないようなぐらいの感覚になるとは誰も思っていませんよ。ほとんどの人間が、自分たちはただ安全に暮らしていくだけだから、だからたとえ監視されていたって自分たちが安全な方がいいというふうに思っているでしょう。

 けれども、物言わぬ市民は、あるとき物を言う市民に変わってしまうことがあるんです。それはやはり、子供が被害に遭うとか、いろいろなせっぱ詰まった状況になれば、物を言わざるを得なくなるんですよ。

 そういう物言う市民というものをどう守るかというのは、これは民主主義の要諦ですよ。これがなかったら民主主義は成立しませんよ。そうでしょう。だから、わしは、民主主義というものを守るためにも、自分のような物を言う市民というものが必要だと思っています、この世の中に必要だと思っています。そういう人たちが自分の言論を萎縮させるというようなことがあると、非常に困る、健全でない。

 わしは、自分は保守という立場だと思っています。この保守という立場は、決して権力を守るための存在ではありません。公を守るための存在だと思っています。

 権力と公というのは合致しているときはとてもいいんです。公を達成するために権力がちゃんと政策を実行していってくれれば、そうすると、わしも大変助かるんです。けれども、往々にして権力と公というのは、分離してずれていくんですね。そういうときに、わしは権力と公、どっちにつくかといったら、公につきます。それで、世の中の最大多数の人がなるべく幸福になるような方法というものを見つけて、そのために闘わなければいけません。

 わしは今後も闘いますよ、これは宣言しておきますけれども。権力を自民党が握ろうと民進党が握ろうと、共産党が握ったらもっと闘うかもしれないんですけれども、とにもかくにも、権力に対してわしはなびくことはない、従順になることはない、公のためならば闘う。わしはこのように宣言しているわけですから、そのためには結構ラジカルな手法もとるかもしれませんよ。こういうことを宣言しているんだから、今から公安はわしのことを盗聴したり、メールを何か調べたりとかしますか。

 組織なんとかというのは、わしもゴー宣道場という、組織というふうに無理やり見てしまえばそういうものになるようなものを経営していますから、だから、ここの誰かと相談していたとかというふうに言ったら、大きく網をかけて、この組織の中で共謀しているとかというふうに言われれば、何だかんだ、わしのそういう情報は盗まれてしまうこともあるでしょう。

 だから、大概、日本でも、あのオウム真理教ほどのテロなんかもう起こりませんよ、あれほど壮大なものは。結局、オウム真理教の問題が出て、サリン等禁止令みたいな、そういう何か法律がもうできているわけでしょう。そうなると、そういう部分もかなり封じられている。

 日本国内でやる、中核派か何かのしょぼいテロなんかは、火炎瓶を吹っ飛ばすぐらいのものでしょう。テロなんというのは、大体海外から入ってくるものですよ。そうしたら、水際でとめなければならないですよ。そうすると、本当だったら、飛行場を民間の管理だけに任せていていいのかとか、国家がそこを管理しなければいけないんじゃないか。アメリカとかは、わしはしょっちゅうハワイとか行きますけれども、物すごい入国のときの管理が厳しくなってしまいましたね。あれは国家がやるようになったからでしょう。

 だから、外国から入ってくるでしょう、普通、テロってさ。日本国内からのテロなんてものは、オウムが最大のもので、果たしてどれほどのものができるかわかりません。

 それよりも、この共謀罪の非常に危険なところというのは、物言う市民が萎縮してしまって、民主主義が健全に成り立たなくなるんじゃないかということなわけです。だから、わしはそのことを、自分自身が監視されないかということを非常に危惧しております。

 一般国民は気づかないでしょう。物言わぬ市民である限りは、権力に対して従順な羊はいるかもしれません。でも、誰でも、そのくらいエスカレートして、自分の気持ちが、情念がほとばしってしまうときはありますよ、それで権力と闘わなきゃいけなくなることもあるわけです。

 だから、そういう権力と闘う物言う市民を守ること自体が民主主義です。それは、今現在のすごく短期的なことだけ考えたってだめ。政治家というのは、将来、ずっと先にわたってもこの国の民主主義が健全に発展するかどうかということまで考えた決断を下してほしいということをお願いして、わしの発言を終了します。

 以上です。(拍手)

鈴木委員長 ありがとうございました。

 次に、高山参考人にお願いいたします。

高山参考人 私は、TOC条約の早期締結に賛成する立場です。それと同時に、この法案には反対する立場です。このような観点から、刑事法の専門家といたしまして、本日は四つの点についてお話をしたいと思います。

 まず、第一点目です。今般のこの法案の内容を見ますと、五輪開催のためのテロ対策をその内容としているものではないと考えます。

 第一に、テロの中でも、たった一人の犯人が行う単独犯のテロの計画、それから、継続した団体のためではない、単発的な集団のテロというのが射程に入ってきておりません。確かに、テロは意図的に除外はされておりませんけれども、テロの中の重要な部分はこの法案の対象からは初めから外れているわけです。

 それから、五輪の関係で申しますと、東京五輪の開催が決まりましたのが二〇一三年の秋でございますが、この後に出されました政府の犯罪対策の計画の正式な文書でも、犯罪の準備段階で処罰する立法の内容と、それからテロ対策の内容とは全く別々の章に規定されており、五輪招致が決まった後でも両者がリンクして論じられていることはありませんでした。

 そして、テロ対策については既に立法的な手当てがなされております。五輪の開催は二〇一三年九月に決定いたしましたが、二〇一四年に改正されましたテロ資金提供処罰法の新しい条文により、テロ目的による資金、土地、建物、物品、役務その他の利益の提供、これが包括的に処罰の対象に新しくなったわけです。これでほとんどのテロ目的の行為はカバーできていると理解いたします。これをもって五輪対策は、事実上、テロの観点で申しますと完了しているように思われます。

 それからさらに、ごく最近の最高裁判所の裁判例の展開を見ますと、詐欺罪や建造物侵入罪の適用が大変広くなってございます。これは、以前に共謀罪法案が議論されていたよりも後の展開でございます。

 例えば、通帳を他人に譲渡する目的でもって自分の名義の銀行口座を開設する行為が、通帳をだまし取ったということで詐欺罪。また、飛行機に他人を搭乗させる目的で自分の買った搭乗券の受領を行う行為、これも搭乗券の詐欺罪とされております。さらに、暴力団関係者がゴルフ場を利用すると、ゴルフ場を勝手に使った罪ということで、場合により詐欺罪が成立する。暴力団関係者が銀行口座を開設する行為も、そうではないというふうに偽って通帳をだまし取ったということで、通帳に対する詐欺罪が成立してございます。建造物侵入の観点で申しますと、他人の暗証番号を盗撮する目的で、誰でも入れるATMコーナーに立ち入った行為、これが建造物侵入罪の既遂として処罰されている。

 というように、違法な目的を持って何かを入手する行為、これはテロに限られません、違法な目的を持って入手する行為や、ある場所に赴く行為、入っていく行為というのがかなり広い範囲で、新しい裁判例によって処罰の対象になっているという面がございまして、テロの対策としては、かなり、日本は諸外国と比べましても広い処罰範囲を既に有していると言うことができます。

 次に、第二点、TOC条約との関係を申し上げたいと思います。

 私は、締結に賛成しますけれども、そのためにこの法案を可決することには反対という立場でございます。

 条約に対する各国の参加の仕方というのにはいろいろございます。

 確かに、TOC条約は、五条におきまして、参加罪あるいは結集罪と呼ばれる類型か、それとも共謀罪の類型か、どちらかのタイプを選んで、両方やってもいいんですけれども、組織犯罪に対処してくださいということを求めています。しかし、この五条という条文だけを見て、それを形式的、しゃくし定規に全部国内法化して犯罪対象にしなければならないものではありません。

 国連が二〇〇四年に公表しております、各国のための参考資料としての立法ガイドという文書がございますが、この五十一項は、参加罪や結集罪の制度か、共謀罪の制度か、その一つの制度を欠いている国が必ずしもそれを導入する必要はないという趣旨のことを述べています。

 条約の全体を見ますと、各国は組織犯罪対策として国内法の基本原則に適合するように対処することを求めているのでして、憲法の範囲で対処してくださいということを言っています。

 それから、一カ条のみを形式的に理解して、その内容を形式、しゃくし定規的に全面的に国内法化することは求められていないわけです。例えば過失犯という類型を考えますと、過失犯というのは認識がないものをいいますから、それを計画するということは論理的に考えがたいわけでして、懲役、禁錮四年以上の刑を含んでいたとしても、過失犯は、これは条約は計画段階での処罰を求めていないということが明らかであります。

 形式的な適用は求められていないというものを示す一例といたしまして、共謀罪を処罰している典型的な国であるアメリカ合衆国は、幾つかの州の刑法が共謀罪の一般的な処罰規定を持っていないために、処罰がない部分があるということを背景といたしまして、条約に留保を付した上で参加をしているわけです。共謀罪の包括的な法制度がない、一部欠けているので、その部分については留保をして参加するということを行っています。

 日本にちょっと引き直して見てみますと、日本には、明治以来の組織犯罪対策の伝統である共謀共同正犯という制度があるんですけれども、これは共謀罪ととても似ているものですが、実行準備行為のところがより限定的で、実質的な危険のある行為でなければならないというふうになっていますので、例えばアメリカが留保ができるのであれば、日本も留保はしようと思えばできると考えられます。

 それから、日本のこれまでの国際法上の対応でも、形式的に、条約の一部分だけを見てそれに対処するということを行っていない例が幾つかございます。例えば、海賊行為の普遍的な処罰を求めている国連海洋法条約というのがありますが、日本はこの条約を一九九六年に批准しましたが、国内の対応の法律である海賊行為対処法を制定して海賊行為処罰規定を導入したのは十年以上後の二〇〇九年でございます。国内の対処は後でもいいんですね。

 それから、第一次安倍政権下の二〇〇七年に国際刑事裁判所規程に日本が参加したときにも、国際刑事裁判所規程の中には犯罪の定義が非常に細かく広範囲にわたって規定されているのですが、これに対応する国内法の改正を行っての処罰範囲の拡張というのは一切行っておりません。また、対象犯罪については時効にかからないことというふうに規程ではなっているんですが、日本では殺人罪を除いて公訴時効の撤廃は行われておりません。なぜこれが問題ないのかといいますと、この規程の一条には、「国際的な関心事である最も重大な犯罪」が管轄の対象だからだと書いてあるからです。

 要するに、一カ条だけ形式的に見るのではなく、条約全体の趣旨、目的を考慮して、各国それぞれの法制度に合った対策をとればよいということになります。

 そして、国際協力の範囲を他国に合わせるために今般の法案の可決が必要であると言われることもあるんですけれども、日本の現行法の処罰は既に他国よりも広範なケースが多いのであります。例えば、共謀罪のある国でも、抽象的危険犯や予備罪などの処罰が日本のように広く行われていない国もございます。また、結集罪、参加型の立法を行っている国で、そもそも団体の結成の当初からの目的が犯罪でなければならないというふうに限定している国、あるいは予備罪処罰がそもそもないといった国では、かなり処罰の対象は大幅に限定されているわけです。

 そこで、日本がこのTOC条約を締結するに当たっても、いろいろな方法が考えられます。

 海賊の場合と同じように、先に条約を締結してしまってから国内法の内容については慎重に考えるということもあり得るでしょう。

 先ほど小澤参考人から、各国の大使によって、なぜ日本が条約に加盟しないのかが理解してもらえないというお話がありましたが、当然だろうと思います。ほかの国の方から見れば、日本はこの状態ですぐに条約に参加できると見えるからではないでしょうか。

 それから、立法ガイドの監修に当たりましたアメリカ・ノースイースタン大学のニコス・パッサス教授という方がいて、私と同じ学会に所属しているメンバーなんですが、この方にお聞きしましても、条約への参加の仕方はいろいろあるので、まずその条約を締結して、その後で国内法についてより改善していくというやり方も十分認められるというようなお答えをいただいております。

 さて、今般の法案の対象が限定されているのかどうかにつきましては、先ほど井田参考人がおっしゃった問題でございます、これが第三の点です。

 井田参考人は、私の聞き間違いでなければ、最高裁判所の平成二十七年九月十五日の決定の結論に反対のお立場を述べておられたかと思います。集団が結成された当初の目的が犯罪でない場合、その集団の一部が詐欺を始めたという場合が問題になったケースなんですけれども、これに組織的詐欺罪が適用されるというふうにした最高裁の決定でございます。

 もし、オウム真理教のように、当初は宗教団体として、市民の団体として結成されたけれども、一部の人たちが犯罪を始めたといったケースに適用をしないのであれば、当初の全体の集団の結成目的が犯罪でなければならないという要件を課すことができるかと思います。しかし、含めようとするのであれば、団体の一部が性格を犯罪的なものに一変させた場合も対象に含めざるを得ません。一般人の通常の団体として結成された場合は除外できないことになります。

 それから、犯罪の計画につきまして、これも、計画というのは行為であるので、それを具体的に事実認定できなければならないということが言われましたけれども、その計画の成立自体が黙示の合意、順次的な合意、未必的な故意による合意を全て含むことが従来の判例からは推測されますし、また、事実認定といたしましても、従来の犯罪でも、何月何日何時何分に何が起こったというところまでの認定が要求されているわけではありません。

 例えば、ある家の中から白骨化した子供の死体が出てきたということであれば、いつ、どのように亡くなったのかという詳細はわかりませんが、家族が遺棄して子供が死んだ、あるいは殺してしまったか、どちらかであろうということはわかるわけで、それで誰も処罰されないということにはならないわけです。事実の認定は、それほど、神様が見ているような形で厳密に必要となるものではありません。

 それから、最後の実行準備行為でございますが、今般の法案の条文の書きぶりは、構成要件要素ではなくて客観的処罰条件です。特段の危険性がその条件として要求されておりませんので、外形的な行為であれば特に限定なく「その他」の中に全部含まれるという読み方ができるかと思います。

 最後に、四番目に、本法案の対象犯罪が選別されているやり方が理解できないものであるという問題点を指摘したいと思います。

 これは、法定刑が比較的軽い犯罪が除外されているのではなく、そうではないんですね。特にTOC条約との関係で懸念される点が幾つかございます。

 まず、公権力を私物化するような行為が含まれるべきであると思われるんですけれども、それが除かれている。公職選挙法、政治資金規正法、政党助成法違反は全て除外されております。それから、警察などによる特別公務員職権濫用罪、暴行陵虐罪は重い犯罪ですけれども、除外されています。

 先ほど、小林参考人から御経験のお話がありました。一旦その不当な取り扱いを手続の中で受けてしまいますと、これが正当な扱いに回復するまでには相当の時間と労力がかかります。先日出されました、GPSを使った違法な捜査、これの最高裁の判断が出るまでに五年かかっております。そのほか、私が関与しました大阪風営法裁判のダンス営業規制の事件も、四年がかかって最高裁でやっと判断が出たということで、一旦強制権力などが使われてしまいますと、正しい扱いを受けられるようになるまでには相当な時間がかかってしまいます。

 ここ最近の犯罪情勢は非常に好転しておりまして、一番犯罪の多かった二〇〇二年から、最新の統計の二〇一五年までの違いを見てみますと、犯罪の認知件数は年間当たり二百万件以上が減少し、四十数%にまで落ち込んでおります。これに対し、警察職員の人数は、同じ年間で二万人の増員になっています。本来ですと、そのふえた警察の人員は適切なマンパワーとして適材適所で使っていただかなければならないんですけれども、これがもし濫用されるということになりますと、回復されるのに相当な年数がかかってしまいます。

 それから、公用文書、電磁的記録の毀棄罪などのような重大な犯罪類型が除外されています。

 もう一つの類型は、組織的な経済犯罪が除かれている。これも条約との関連では問題となる点です。一般に商業賄賂罪と呼ばれ、諸外国で規制が強化されてきているような、会社法、金融商品取引法、商品先物取引法、投資信託・投資法人法、医薬品医療機器法、労働安全衛生法、貸金業法、資産流動化法、仲裁法、一般社団・財団法人法などの収賄罪が対象犯罪から除外されております。

 また、加重類型も除外されているんですが、これはなぜなのかよくわかりません。加重類型が計画された犯罪なのかそうでないのかというのは、テロ等準備罪と申しますか、計画段階で処罰する犯罪の量刑にとっても重要なのですが、なぜ除外されているのか。しかし、組織的殺人罪や組織的詐欺罪については除かれていません。加重類型なのに除かれていないのは、目立つからではないかと思います。

 それから、主に組織による遂行が想定される酒税法違反や石油税法違反なども除外されており、相続税法違反が除外されていて、所得税法違反は含まれています。

 なぜこのようになっているのか。もし、過去に適用のない類型を除外するというのであれば、重大な犯罪も取り除くべきことになってしまい、不当な結論に至ります。そして、除外されずに残っている犯罪の中には、例えば違法なキノコ狩りですとか性犯罪のような、五輪とも暴力団とも関係のないものが多数含まれているということです。

 このような、内容が不可解な法案にそのまま賛成するわけにはいきません。国民が理解できる合理的な説明がなければ、やはり民主的な議論というのはできないのではないでしょうか。

 また、水道水に毒物を混入することを計画し、実際に毒物を準備した場合、これが現行法上処罰できないというふうな情報も流れているんですけれども、実際には、殺人予備罪、毒物劇物取締法違反の罪、先ほど述べましたテロ資金提供処罰法違反の罪がそれぞれ成立するのであって、やはり正しい情報を広く共有して、社会の中で議論して初めてよい法律ができるものと確信しております。

 以上です。ありがとうございました。(拍手)

鈴木委員長 ありがとうございました。

 次に、早川参考人にお願いいたします。

早川参考人 皆さんの前に久しぶりに帰ってまいりました。私、これ、つけているのは元衆議院議員のバッジであります。ここへ入るときには弁護士のバッジですから、弁護士であり、かつ元衆議院議員。私の現在の立場は、あくまでも国民のためになるような、そういう法律を与野党を超えてぜひつくり上げてもらいたい、こういうふうに思っております。

 皆さんが先ほどTOC条約とおっしゃっていました。国際組織犯罪防止条約、こう言っているんだけれども、その国際の中身が違うんですね。コンベンション・アゲンスト・トランスナショナル・オーガナイズド・クライム、要するに、越境的な組織犯罪に対抗するための国連の条約、こういう枠組みです。ですから、そういう意味では、非常に能動的な条約である。

 先ほど参考人から話がありましたけれども、何としても、日本としてもこの条約は締結をしなければならない。特にオリンピックもありますし国際会議もありますし、そういった状況の中で、日本が署名国にとどまって締結国になっていない、あるいは、世界の司法の流れの中で、それをリードするような立場をとっていない、これはやはり問題であろうと思います。

 それから、現在審議されている罰条の関係をテロ等準備罪あるいはテロ準備罪と言われています。私は、テロ対策のために特化した項目はない、むしろ予算とか組織とか、あるいはさまざまな捜査手法とか、そういった議論が本当のテロ対策のためには必要になってくるのではないだろうか。そういう意味では、この法律は、でき上がってもなかなか実効性がないということが出てくるかもしれない。そういうことの観点の中で全体を見渡さなければいけないというふうに思っております。

 そういう状況の中で、なぜ私が参考人としてここに登場することとなったのか。実は十一年前、私は自民党の、衆議院法務委員会の理事として、当時の共謀罪の議論の、言ってみれば実務担当者、責任者の一人でありました。自民党と公明党の間でこの修正案を何とかつくり上げたいという努力をさせていただきました。

 十一年前の議論が現在どこまで反映されているだろうかなということを心配しておりました。七割ぐらい、あるいは八割ぐらいは今回の法案の中に入っている。それは、組織犯罪集団というものの考え方は、我々の修正案の作業の中でも定義をしておりました。それから準備行為、こういったことを要件とする、これも当然議論の中に入っておりました。

 さらに、もう少し大事なのは、やはり、当時は多くの国民の皆さんから大変な不安の声が述べられてまいりました。もちろん、当時の野党の皆さんからもさまざまな議論がなされ、それを踏まえて、やはり、こういったTOC条約の締結のための国内法の整備ということであれば、国民の理解を得た、そういう法律づくりをしておかなければならない。

 もちろん、政府の原案というのは私が国会議員になる前にもうでき上がっていまして、二度廃案になり、三度目の段階で、ちょうど十一年前、衆議院の法務委員会で議論をさせていただきました。私がこの法案の中身を検討したときには、やはり懸念事項がどうしても払拭できない、この懸念事項をどうやって減らすか、そういったことを懸命に考えてまいりました。

 二度にわたって、修正案を自公でまとめて法務委員会に提出させていただきました。さらに、その通常国会の閉会の前の段階で、議論をさらに詰めて、もう少し国民の理解が得られるような、そういう内容に法案をブラッシュアップしていきたいということで、最終的には、修正案としては提出できませんでした、しかし、皆さんが御存じのとおりに、当時の法務委員会の議事録の末尾に参考掲載をしていただくことによって、当時の作業をやはり現在の国会議員の皆さんにぜひ承継して、いい法律をつくり上げていただきたい、こういうふうに思っているわけであります。

 七割から八割、ある程度当時の検討の中身が反映されてきたなというふうに思いました。しかし、当時は、やはり憲法に定めるさまざまな自由の制約になる懸念がある、そうすると、配慮規定あるいは留意事項、そういったことをせめて国会の意思として法案の中に織り込むことによって、政府が提案された、いわゆる法務省が原案を作成した、それを右から左にエスカレーターのようにつくるのではなくて、国会の中で十分審議をしていただいて、問題点を十分認識の共有を図ってもらって、直せるものはどんどん直していただきたい、こう思っています。

 今回の政府の案については、自民党と公明党の間でさまざまな検討が進められていたと聞いております。確かに、その検討の結果、大幅な思想の転換がなされました。対象犯罪が、当時で六百余りあるというものを、政府の説明では二百七十七、数え方によっては三百余りということだそうですけれども、やはりそこまで減縮する。当時、法務省も外務省もそれはできないと言っていた中身でありました。しかし、それは変えなきゃいけない。

 十年前、自民党の法務部会の中に、条約刑法等検討に関する小委員会というのを立ち上げました。当時の治安対策特別委員会の委員長等をされた笹川堯先生が委員長で、私が事務局長で、この案の取りまとめをさせていただきました。十年前、二月の二十日にその案を策定いたしました。

 しかし、当時の国対は、この条約刑法等検討小委員会でまとめた案を、それじゃ改めて政府の案にして提出するかということについて、やはり国民のさまざまな議論を招いてしまうということの中で、最終的に、この検討小委員会の案というのはそのままになってしまいました。自民党の法務部会の中だけの議論だったものですから、当然、公明党の皆さんとの情報共有ができておりません。ですから、公明党の皆さんはその案を多分見ておられないと思います。

 私も国会議員をやめましてもう八年ぐらいになりましょうか。そうすると、当時の資料が全部散逸をしています。散逸しておりましたけれども、たまたま、マスコミの関係者の方が十年前、十一年前の資料を私のところへ持ってきてくださって、なるほど、ここまでの議論をしていたのかということが確認できました。せめて当時の議論を今の国会にも反映してもらいたい、こういうふうに思っているところであります。

 その配慮規定とか留意事項については、調査局の方でおまとめになった資料集の中に対照表が書いてありました。非常に丁寧に作業をされておられましたので、なるほど、これを見ていただければかなり審議が充実するのではないだろうかなというふうに思っています。

 私がなぜこんなふうによりよい法案をつくってもらいたいと思っているのかは、日本が、全体として、今いろいろなチェックのシステムが機能しなくなっているのではないか、チェック機能が低下をしている。国会でも、なかなか本当に議論をしてもらえないまま何となく数で通してしまうということになると、理解している人が非常に少ない、それはやはり困ることだ。正確な認識を共有してもらって、国民のために法律をつくるんだということ、国会議員は国民の代表者ですから、やはりその役割を、与野党問わずしっかり果たしていただきたいと思っています。

 この十年の間に、刑事司法の分野でさまざまな問題が発生をしております。

 私が懸念しておりますのは警察です。鹿児島の志布志で選挙違反事件がありました。最終的に無罪判決になりましたけれども、あのときの、要するに選挙違反を摘発するということの中で、警察の現場で、言ってみれば思い込み、見込み捜査、こんなものがあって、ある地域の方々が何十人も調べられる。そういう事件の発生を抑止するためのシステムがきちんとあるかどうか、それを検証しなきゃいかぬ。

 それから、村木さんの事件がありました。大阪地検の特捜部の検事が証拠を改ざんしているというとんでもない事件がありました。地検は、そのことについて、どういうふうな体制の見直しによる、組織内でそういった違法あるいは不適正な捜査が行われないための仕組みづくりをどこまでやっているか。被害を受けた方々に十分救済の措置があるだろうか。

 TOC条約の中で共謀罪と言われているものが、今回はテロ等組織罪という表現で一般の方々の間に流布されております。テロ等組織罪であればこれはやはり必要な制度だと、国民の半分ぐらいの方はそう思うだろうと私は思います。ただ、実態はまさに、組織犯罪に対して対処するための条約を日本でも締結して、その枠組みの中に入るための国内法の整備の一環でしかないということを考えると、テロももちろんありますけれども、しかし法案の中身はちょっと違う。だから、その辺について正しい情報を共有していただいた上で、やはり対象犯罪を減らしていただきたい、こう思っています。

 十年前の条約刑法等検討小委員会で、対象犯罪の絞り込みをするときのメルクマールが、現実にテロ組織等の組織的な犯罪集団が実行するおそれがあること、計画段階で処罰しないと重大な結果が発生すると見込まれる重大な犯罪、実行前の計画段階で処罰することが真に必要と考えられる犯罪、こういうふうに一応メルクマールをつくりました。その結果、大体、百二十幾つから百六十ぐらいまで絞りました。今は、二百七十七とかあるいは三百とか言われています。多分、一つ一つの犯罪を検討すると、ああ、これは必ずしも日本では処罰の対象にする必要がないのかもしれないというのが出てくるのではないかと思います。その議論をぜひともこの法務委員会で、あるいは関連のところでお進めいただきたい。

 以上であります。(拍手)

鈴木委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

鈴木委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。門博文君。

門委員 おはようございます。

 早朝から、五名の参考人の皆さん、大変お疲れさまでございます。御苦労さまでございました。

 きょうは、五名の皆様方のそれぞれの陳述について、時間も少ないものですので、均等に御質問させていただけるかどうかわかりませんけれども、前もってお断りをさせていただいて始めさせていただきたいと思います。

 この法律について、この週末、私も地元、和歌山ですけれども、二、三カ所で座談会だったりミニ集会がありまして、まさに今お話がありましたけれども、国民のためにということでいいますと、有権者の方々に、本来のテーマとは別に、このことについて少しお伺いをさせていただきました。

 皆様方もマスコミ等を通じていろいろな知識とか情報はお持ちだとはいうことだったんですけれども、その場で挙手をしていただきまして、テロとかいうことが心配されている世の中で、この法律が必要と思いますかという単純な質問をさせていただいたところ、私の支持者ということでもあったのですけれども、ほとんどの方々が挙手をされて、この法律は必要だというふうにお答えをいただきました。しかし、もう一点、では、この法律のことについて御理解されていますかということを続けてお尋ねしますと、今度は逆に、ほとんどの方々が手を挙げられないような現実もありました。

 先ほどからありましたように、やはりここは、我々はここで質疑を通していろいろ議論を深めていっていますけれども、我々の後ろ側には絶えず国民の皆さんがいらっしゃるということで、国民の皆さんの理解をまだまだこれから高めていかなければいけないなというふうに思っているところであります。

 私自身は、司法試験にも挑戦したこともありませんし、もちろん合格もしておりませんので、きょうここにいらっしゃる皆さん方の中には、司法試験合格者も、それに挑戦された方もたくさんいらっしゃる中で、国民の目線で質問をさせていただきたいなというふうに思います。

 この法律が必要とされている背景の一つとして、巷間言われていますように、二〇二〇年に東京でオリンピック・パラリンピックが開かれる、そういうことを三年後に控えた今、残念ながら、世界じゅうでは残忍なテロが各地で多発をしております。私が子供のころから考えますと、随分、国際的にこういうテロというものがふえているし、これからもまたふえていくし、それからまた、その背景もどんどん国際化していくのではないかなというふうに懸念を持っているところであります。

 それで、二〇二〇年の東京オリンピックはもとよりですけれども、現在から東京オリンピックのときまで、そしてまた東京オリンピックの後も含めて、私たち、この日本はさまざまな交流をしていっているわけで、特に、御承知のこととは思いますけれども、現在、外国から来られる観光客の皆様方が大変増加をしておりまして、二千万人を大きく超えて、ことしはもっともっとふえていくというような中で、海外の人たちが日本の社会を見る目というのも、従来にも増してこれから大変注目されていくということになってこようかと思います。

 ですから、日本で暮らす我々はもとよりですけれども、海外からお越しいただく、日本を訪れてくれるような方々の生命の安全や、そういうものを守っていくためにも、とりわけ、テロに対しての万全の備えということは喫緊の課題であるのではないかというふうに思います。

 お聞きしていますと、この法律ができ上がって、そして現在、お話、話題の中にもありましたけれども、いわゆるTOC条約が締結されれば、この条約の締結に基づいて国際的な捜査共助や犯罪情報の共有などというものが、国際協力が非常に積極的に行えるというふうに認識をしております。

 さっき水際の話もありましたけれども、私自身も、ちょうど一月ほど前、地元に関西空港がありますので、関西空港の出入国審査の現場に行ってまいりました。今、たくさん人がふえているので、窓口をふやしたり人をふやしたり、どうするかということでやっているんですけれども、その中で、バイオカートという新しい、法務省が開発した器具が入っておりまして、指紋の取得それから顔写真の取得というようなことが全部の入国者に対してやられていたんです。

 そのとき審査官の方がおっしゃっていたことで、ここでとったものがすぐ、入国審査のところへ行く間に、全部基本的には、テロリストとか含めた、好ましくない、入国させてはいけない人たちの、ブラックリストとおっしゃっていましたけれども、それに照合して、窓口に来たときにはその人がそれに該当する方かどうかわかるんだというふうに言われていました。

 しかし、これはまあ私の想像ですけれども、現在TOC条約をまだ締結できていない中でいうと、照合するブラックリストのデータそのものもひょっとしたらまだ上級レベルのものになっていないかなというふうに思いますと、私自身は、この条約の締結ということは最も急がなければならないことだなというふうに思っております。

 そこで、この議論の段階が、条約を締結することを是とするか是としないか、締結するためには国内法を整備しなければいけないのか整備しなくてもいいのか、そして整備する国内法の内容がどうであるか、いろいろなところの議論の段階があると思うんですけれども、陳述の中にもあったかと思いますけれども、改めて、その一番入り口のところの、条約を締結すべきかどうかということについて、それぞれ五名の皆さんから端的に、すべきかどうかという御判断のお返事を賜りたいと思いますけれども、よろしくお願いいたします。

小澤参考人 条約は締結すべきであります。

 百八十七カ国が締約国となっており、国連加盟国で締結国になっていないのは十一カ国になっておりますが、その中で最大の国は日本であり、残っているほかの国を見ても、まあイランという国がありますが、あとは小さい島国そのほかでございます。

井田参考人 私も同じ意見でございまして、今回のTOC条約に加盟といいますか締結、加入するといろいろな形での捜査共助も得られる、また犯罪人引き渡しについても便宜が図られるということで、いろいろな情報も入ってくるし、また外国に逃げた犯罪者についての引き渡しが得られるということもあって、そういう意味でも、組織犯罪対策に対する総合的な見地という点から見て日本の対策を一歩先に進めるものだというふうに考えておりまして、締結すべきであるというふうに考えております。

小林参考人 わしは、この共謀罪の話が本当にテロ対策でつくられているものなのかどうかということを非常に疑っているんですよ。だから、基本的に、その条約を締結する、入るということはいいでしょう。けれども、それに乗じて、最初、テロなんか、一件もテロという言葉がついた法律はなかったといいますからね。後でくっつけてきたわけでしょう。非常にわしはそれを疑っているんですね。

 それから、テロ対策という美名に乗じて一般市民を監視する世の中にしようとしているんじゃないかなという疑惑があるので、そこを払拭していただきたいなと思いますね。

高山参考人 締結すべきです。

早川参考人 やはり、国際社会の中で日本がおくれるというのはよくないと思いますね。国際社会では、やはり法律の共有化、共通化という流れがありますので、そういった先端を担っていくためにも必要だと思います。

門委員 ありがとうございました。全員、一応、締結すべきというようなお返事だったかと思います。

 それで、この次に、この条約の締結ということについて、初歩的なことですけれども、御質問をさせていただきたいと思います。

 今、小澤参考人から、世界の百八十七カ国が既に締結済みで、未締結国は我が国を含めて十一カ国というふうなことでお話を承りました。多くが締結しているからその流れに合わせて締結しなきゃいかぬという議論はどうかとは思うんですけれども、少なくとも、それだけの国がこの重要性を感じて締結したということも、きちんと捉まえなければいけない事実だと思います。

 この条約の締結には国内法の整備が必要ということで、現在政府がこの法律の成立を求めているところでありますけれども、一方、これに対して、国内法を整備しなくても条約の締結は可能という御主張もございます。

 そういう中で、小澤参考人にお尋ねしたいんですけれども、この条約の締結の要件が満たされているか満たされていないかという判断は、私たちは自分たちの国で勝手に判断ができるものではないというふうに思っておりまして、すなわち、締結を望む国の国内法が条約に合致するかどうかという評価をする主体はあくまでも締結国会議であったりそのようなところだというふうに思っておるんです。

 そこで、先ほどの陳述の中にもありましたけれども、参考人はこの会議にオブザーバーとして出席をされた御経験をお持ちというふうにお伺いをさせていただきました。その御経験を踏まえた上で、改めて、この国内法の整備の、条約の締結に対する必要性、または不要という御意見に対して、見解をお伺いさせていただきたいと思います。

小澤参考人 国内法を整備する必要があると私は考えております。

 この条約の第五条で、参加罪または合意罪ということが求められております。この第五条というのはこの条約の中核となる規定で、この規定を満たさずに締結をするということは、我が国の国のあり方として基本姿勢が問われることになると考えます。我が国は国際約束を誠実に遵守するということをしてきております中にあって、条約に入る一番の中核の規定を担保できないまま締結するということはよろしくないというふうに考えます。

 国際社会では、主権国家の上に立つものはございません。そういう意味では、学者の世界ではアナーキーの世界だと言っております。どの国がどういう法整備を整えて締結したかについては、それを判断する主体は必ずしもございません。もちろん、締約国の中でお互いに批判し合うということはあり得ます。

 以上でございます。

門委員 わかりました。

 あわせて、締約国の状況というふうなこともお伺いしたいんですけれども、百八十七の国と地域の中で何らかの国内法を整備して締結に至っていると思うんですけれども、今テーマになっております、いわゆる重大な犯罪の合意罪とか参加罪を国内法として整備すること自体、国際社会の中ではスタンダードになっているのか、少し珍しいことなのか、そのあたりの御見解をお伺いさせていただきたいと思います。

小澤参考人 国によって違いがございます。私の承知しているところでいえば、冒頭に申し上げたように、アメリカ、イギリス、カナダでは合意罪を採用していて、参加罪の法制を採用している国としてはフランス、イタリア、そのほかの国がございます。

 どういうふうに各国が国内の法制を担保しているかについては、これはUNODCを通じつつ各国に照会していくという作業が必要になると考えます。私自身、承知しているわけではございません。

門委員 ありがとうございました。

 では、続けて井田参考人にお伺いをさせていただきたいと思います。

 今回、この法律の改正によってテロ等準備罪が新設をされますと、その要件であります、組織的犯罪集団であるかどうかということ、そしてまたその計画、それから実行準備行為が行われたか否かということ、これらの成立要件が満たされているかどうかを把握するために、捜査機関が一般市民を常に監視していくであろうというような、いわゆる監視社会に日本がなっていくんじゃないかというような御懸念や疑問そしてまた心配の声が上がっております。今回の参考人の御意見の陳述の中にもそういうことがあったかと思います。

 これに対して御質問させていただきたいんですけれども、条約の締結国は、さっき申し上げているように百八十七の国と地域にも上っておりまして、その中にも、先進国、OECD加入国においても我が国を除く全ての国がこの締結をしているというふうに聞きますと、これらの締結国によって今申し上げた監視社会が実現してしまっているかどうかということについて、現況を、実態をお知り得ていらっしゃる範囲でお聞かせいただきたいと思います。

井田参考人 御質問いただき、ありがとうございます。

 私自身が事情を若干知っている点となりますと、ドイツなんですけれども、ドイツは二〇〇六年にこの条約、TOC条約を批准しています。ただ、ドイツには昔から、結社罪の規定が以前からありまして、そういう意味で、この問題との関係では、いわゆる国内法整備等々新たな立法は必要でなかったというふうに私は承知しているところです。

 それで、日本にとってドイツというのは法律学の先生でもあって、世界の中でも法治国家としては私は非常に高いレベルの国であると思っています。

 そういうドイツの結社罪を見ますと、これは大変要件が広範です。簡単に言いますと、およそ何らかの犯罪を実行することを主目的として組織、団体をつくりますと、それだけで犯罪になります。それから、その構成員となることも犯罪ですし、構成員を募ることも犯罪になるという非常に広範な構成要件といいますか処罰規定になっています。先ほど私、法案は三つの限定、三重の限定がかかっているというお話をしましたけれども、ドイツの結社罪というのは一個の絞りだけ、しかもその一個の絞りも、日本の法案と比べるとはるかに広いものになっているということです。

 同時に、刑事訴訟法にはそれに対する通信傍受の規定もありますので、そういう意味でいうと、かなり、ドイツは日本よりははるかに広い法制を持っているわけです。

 にもかかわらず、監視社会であるというような言葉は、ドイツで私は聞いたことはございません。そういう意味で、むしろそれは、現代化した犯罪に対してどうやって捜査機関に武器を持たせて対抗していくのか、ただ、それは法律でもってきちっと規定して、法律を守らせよう、こういうような考え方を基本、それが法治国家なんだという考え方をしているのではないかと思います。

 それと比べると、日本の場合はそういう意味でいうと物すごく限定したものでありますけれども、また、通信傍受の規定も入れないということですので、そういう意味では非常に謙抑的なといいますか、非常に控え目な組織犯罪対処規定であるというふうに感じて、ますます、そういう意味で監視社会の批判は当たらないのではないかと思っております。

門委員 ありがとうございました。

 もう時間が少しになってまいりましたので、最後に監視社会のことについて、今、井田参考人から、極めて限定的に要件を制限しているのでそういうことは日本では起こり得ないのではないかというお話でありましたけれども、今の意見陳述の中で最もそのことを危惧されておりました小林参考人から、そのことについてお話を聞かせてください。

小林参考人 わしは、これは、海外の例と日本とそう簡単に比較できるものじゃないと思いますよ。

 なぜかといったら、例えば、かつてフランシス・フクヤマという人が、日本は高信頼、トラストの国だと言いましたね。これは、海外の国の状況と違うんですね。日本というのは非常に信頼、要するに移民がどんどん入ってくるような国じゃないですからね。ヨーロッパは今移民だらけになっているでしょう。日本というのは、さっきも犯罪発生率が結構下がっていると言いましたよね。そのはずなんですよ。日本という国は非常にトラストが高い国です。

 だから、そういう国の中で、ほかの、移民がどんどん入り込んでいって犯罪がたくさん起きるような国の例に倣って日本にそれを適用する必要とかはわしはないと思うんですよ。信頼し合っている日本の共同体的な感覚というものを、お互いに猜疑心を持たなければならないという国家に、国柄にしてしまう必要なんかないでしょう。

 現実に、本当に、テロなんかでいったら、さっきも言いましたけれども、外から入ってくるんですよ。日本国内で、オリンピックがあるからといって、どうしてテロをやりますかいね。どんな手法がありますかいね。ほかの国だったら銃を持っているんですよ。日本では銃も規制されてしまっていますよね。非常に秩序が高い国ですよ。だから、本当にわしは水際でやってほしいですね、テロ対策というのは。

 以上です。

門委員 ありがとうございました。

 終わらせていただきます。

鈴木委員長 次に、國重徹君。

國重委員 おはようございます。公明党の國重徹でございます。

 本日は、何かと御多用な中、五名の参考人の皆様に当委員会にお越しいただきまして、それぞれの貴重な御意見を賜りましたことを、心より感謝と御礼を申し上げます。二十分という限られた時間でございますので、もしかして参考人の皆様の中で質問を当てられない場合もあるかもしれませんけれども、どうか御理解、御容赦のほど、よろしくお願いいたします。

 早速質問に入らせていただきます。

 テロを含む組織犯罪を未然に防止する、そのために国際協力、連帯、これをしっかりと進めていく、そのためのTOC条約、国際協力を進めていくためのTOC条約の締結、この早期締結の必要性、私も、五名の参考人の皆様とこれは同じ思いでございます。

 その上で、きょうは、ウィーンの日本政府代表部で大使をされていた小澤参考人にお越しいただいておりますので、現場の生々しい声というか、この委員会がコップの中の議論であってはならない、世界の中でどう見られているのかというようなことを具体的にお伺いしたいと思います。

 先ほど、意見陳述の中で小澤参考人は、日本の常駐代表として、二〇一二年の十月にウィーンで開催された第六回TOC条約締結会合に参加されたということでお伺いしました。その中で、その当時は百七十何カ国でしたか、締結がもう既にされていたんだと。世界のミニマムスタンダードであるこの条約を締結できないことについて、国内法の整備ができていない、このことを各国の政府関係者に説明をしたんだけれども、なかなか理解されなかったという旨のお話があったかと思います。

 そのときに、各国の政府関係者からどのようなことを小澤参考人は言われたのか、できるだけ具体的に教えていただきたいと思います。

小澤参考人 ありがとうございます。

 締約国会合、二〇一二年十月時点で百七十二カ国がこの締約国でありました。日本は、署名国として、ほかの署名国同様、最後列に座ります。その締約国会合の公式の場でどうこうという議論はございません。そもそも、署名国として非常に肩身の狭い思いをしているんですが、会合が始まる前に議長が私どもが座っているところに来て、ちょうど私とイランの常駐代表が並んで座っておりましたけれども、悪いやつが二人いる、私に向かっては、あなたは財政問題について、イランに向かっては、あなたはその他の問題全てについて悪い国だというような冗談を言ったりしたことがございます。

 また、この会合の場ではないんですが、そういう会合を経ていろいろな常駐代表たちと話し合う機会があるんですけれども、時折、なぜ日本は後ろに座ったままなのかということが話題になることがあるんです。そういうときに、日本の国内の状況、日本国内で行われている議論というものも説明しつつお話をするんですけれども、冒頭申し上げたように、その中身については全く理解されないでいる。ただ、日本の政治情勢については一定の理解はされる、こんなことでございました。中には悪い冗談を言う常駐代表もいて、日本はやくざが強いからではないかという、とんでもないことを茶化して言う人もおりました。

 犯罪防止について、日本は安心、安全ということを誇りにしている国だと思うんですけれども、世界レベルで見ると、非常に基礎的な、とても各国が重視している条約に入っていない国だ、何でなんだろうという点についての理解というのは全くないということを御説明いたします。

國重委員 今、小澤参考人から具体的なお話をるる述べていただきました。ありがとうございました。よくわかりました。

 次に、具体的な法案の中身に入ってまいりたいと思います。

 井田参考人にお伺いをいたします。

 まず、十年以上前に、いわゆる共謀罪、これは廃案になりましたけれども、これが国会に提出される前に、法制審、法制審議会があったかと思います。井田参考人はそのメンバーだったかどうか、まずお伺いします。端的にお願いします。

井田参考人 私、委員ではありません。幹事でありました。幹事として参加しておりました。幹事というのは、発言権はあるんですけれども、議決権がないということです。

國重委員 正確にお話しいただきました。幹事として参加をしていたということでございました。

 先ほど井田参考人は、今回の法案で最も重要なポイントというのは犯罪主体の限定なんだというようなことを言われました。これは、従前の共謀罪、法制審で議論されていた共謀罪においても、広くこの主体を一般人を対象にするのではなくて、組織的犯罪処罰法の団体ということにしていたわけですね。これについてはTOC条約の二条の(c)に書かれてあるんですけれども、ここで言われている「「組織された集団」とは、」云々ということで、「その構成員について正式に定められた役割、その構成員の継続性又は発達した構造を有しなくてもよい。」というふうに書かれていまして、これは最低ラインを書いているんでしょうけれども、組織的犯罪処罰法の団体というのはこれより厳格化されているというふうに私も認識、理解します。

 その法制審の議論において、こういった団体、今回は組織的犯罪集団ということでより限定しておりますけれども、その以前の団体においても、非常にこれは主体として厳格な要件であったからこそさまざま議論があって、実行準備行為、TOC条約でオプションとして採用することができる実行準備行為を団体概念との関係でとらなかったかと思うんですけれども、この実行準備行為をなぜとらなかったのか、団体概念との関係で述べるところがあればぜひ教えていただきたいと思います。

井田参考人 私は、先ほど申し上げたように幹事という立場でありまして、審議会全体がどういうふうな意見であったかということについては、私が言う権限といいますか、あれはない。私の個人的な当時の思いといいますか考えを、所見といいますか、述べさせていただきたいと思います。

 おっしゃるように、さっき申し上げたように主体による絞りというのはなかったわけですけれども、当時の案では、いわゆる団体性の要件、組織性の要件というような形でもって、そこでもやはり二つの観点から、団体性と組織性という観点から、要するに団体の活動として行われなければいけないんだということ、また、一定の組織により行われなければいけないんだという形でもって、団体性と組織性という形で縛りがあったわけであります。

 先ほども私、意見表明の中でもるる申し上げたところなんですけれども、今言ったような意味での共謀ですけれども、共謀というのは、決してぽつんとそれがあるということではありませんで、単にぽつんと合意の関係がそこに認められればよいというのではなくて、現在の予備罪においても全くそのように考えられていますけれども、裁判の場においてきちっとそのことが立証できる、合理的疑いを入れない程度に立証できるということがなければいけませんので、予備罪であれば、予備行為の場合であれば、それはかなり実行に直接つながるような危険な行為が要求されるということになってきます。

 また、共謀罪の場合であれば、それは共謀があったということを関係者がみんな否認しても、それでも認定できるような状況、外的な状況がなければなりませんので、恐らくは何らかの実行準備行為なんかも当然なければならないだろうし、全く真空のところでそういう共謀罪がぽこんとあるものではないというふうに考えるとすると、一定の外形的な実行準備行為のようなもの、そういうようないろいろな状況から見て、関係者が全員口をそろえて否認はしているけれども、間違いなく共謀があったんだという形でもって立証されていくのが現実であるだろうというふうに考えました。

 ですから、組織性と、さっき申し上げた団体性の要件、そして現実の場における立証ということを考えれば、決してハードルはそんなに低いものではありませんで、今回確かにその趣旨を明確にしたということでありますけれども、以前のものも、そんな、決して非常に低いハードルのものではなかった。

 もう一個傍証を申し上げると、現行法に陰謀罪という規定があります。陰謀罪というのは、確かに、犯罪の相談をして合意をすれば陰謀が成立するんですけれども、しかし、数少ない裁判例を見てみますと、やはり実行に直近するような、実行に近づいた段階での非常に危険な外形的な状況というのを裁判で要求しているんですね。それがないと陰謀そのものを立証できないからだというふうに考えているわけです。

 そういう意味で、従来の共謀罪の規定というのも、私は、少なくともそういう意味でかなりハードルの高い、ブレーキのかかったものだということで、基本的には賛成の気持ちであったということでございます。

國重委員 ありがとうございました。

 その上で、今回の本法案については、組織的犯罪処罰法がその適用のための要件としている団体を前提として、そうした団体のうちで、団体の結合関係の基礎としての共同の目的が重大な犯罪を実行することにある、そういった組織的犯罪集団に限定をしているということになるわけでございます。

 確かに刑法の原則としては、実行の着手があって処罰をする、これが原則なんだろう。今回は、それより前の段階の計画プラス実行準備段階で処罰の対象にするので、刑法を大転換するとかいうようなことで、広く二百七十七の罪を対象とするのはちょっと行き過ぎじゃないかというような批判、主張がございますけれども、これは、一般の予備罪とかであれば、広く一般人を対象にしているわけですね。でも、今回は主体を組織的犯罪集団ということで法文上明確に限定をしているという観点からすれば、私は、刑法の原則の実行の着手ということからすれば、それは確かに変容しているところはある、でも、先ほど井田参考人もおっしゃったように、今の時代情勢とかさまざま考えた場合には、やはり処罰の早期化というのも組織的犯罪集団、組織犯罪に関しては必要なんじゃないか。

 そういうことをいろいろ勘案すると、私は、刑法の転換といっても、これは極めて影響は限定的に限られるんじゃないかというふうに思いますけれども、御意見を聞きたいと思います。

井田参考人 今もう先生が全ておっしゃってくださったことにつけ加えることは特にございませんけれども、おっしゃるように、従来の刑法の中にも、例外的な存在ではありますけれども、予備罪、陰謀罪等々、早目の処罰を認める規定はあったわけです。その濃淡、色の違いというんでしょうか、今、やはり組織犯罪となると、その処罰の早期化の部分がクローズアップされてくるというだけのもので、何か全く違ったものが登場するとか原則を覆すということではないというのが私の認識です。

 それから、もう一つ大事なことは、やはり、そのいわば例外的な処罰の早期化というのをいかに多方面に侵食していかないように範囲を限定していくかということが大事で、今回の法案は、さっき申し上げた主体の限定を前提として、二つの、さらに二重の限定、三重の限定によって、その囲い込みというのには基本的には成功しているのではないかというのが私の意見でございます。

國重委員 ありがとうございました。

 今回の本法案は、従前の共謀罪に比べて、主体を組織的犯罪集団に限定する、計画だけではなくて実行準備行為もつけ加える、さらには、対象犯罪、これは六百七十七ありましたけれども、これは組織的犯罪集団が関与することが現実的に想定される行為、犯罪のみに限定をするということで、これを二百七十七まで減らしたということでございます。今後、この対象犯罪についていろいろ審議があるかもしれませんけれども、これは鋭意審議していけばいいかと思いますけれども、このように大分縛りをかけていっているという私の認識でございます。

 先ほど、小林よしのり参考人が、物言う市民が萎縮して民主主義が機能しなくなるんじゃないか、こういう趣旨のことをおっしゃいました。それで、権力に対して物を言うということを言われましたけれども、私はまさにそういう人が必要だと思います。ですので、そういう社会にならないように、私どもの使命としては、しっかりとこの構成要件の中身を一つ一つ、その内容、適用範囲、これをきちっと明確にして、拡大解釈されないような、濫用されないようなことにしていくことが私はみずからの責任だと思っております。

 そういった点で、次に高山参考人にお伺いしたいんですけれども、高山参考人に行って井田参考人にもしかして返すかもしれませんので、ちょっと準備だけしておいていただきたいですけれども。

 高山参考人の資料も少し事前にいろいろ読ませていただきました。きょうもお話を聞かせていただきました。

 二〇一七年の二月一日、ことしの二月一日に、共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明というのが出されております。高山参考人もその中心者のお一人であると思いますけれども、その中で、「「立法ガイド」第五十一項は、もともと共謀罪や参加罪の概念を持っていなかった国が、それらを導入せずに、組織犯罪集団に対して有効な措置を講ずることも条約上認められるとしています。」ということを言われています。

 まず結論だけ聞きたいんですけれども、先ほどの意見陳述を聞くと、今でもその見解を維持されているという理解を私はしたんですけれども、これを今なお維持されているということなのかそうでないのか、結論だけお願いします。

高山参考人 維持しております。

國重委員 維持されているということでございました。これが、維持しているのであれば、国内の担保法は不要じゃないかということになるんでしょうけれども。

 先日、本年の四月十一日に、国連の薬物犯罪事務所、UNODC事務局から口上書の回答が来たんですね。これは、その前に日本政府がこのUNODCに対して口上書で照会をかけたわけですけれども、その中に何と書いているか。

 立法ガイドのパラグラフ五十一のところの意味についてここで明確にしてあるわけですけれども、「締約国は共謀か犯罪の結社の二つのオプションのいずれかを選ぶことができるが、本規定の本質が義務的であることに変わりはない。すなわち、締約国は共謀のオプション又は犯罪の結社のオプションのいずれかを選択しなければならない。また、締約国は両方のオプションを選ぶこともできる。」云々。

 これが二〇〇四年の国際組織犯罪防止条約及び補足議定書の実施のための立法ガイドのパラグラフ五十一の背景にある意味であるということで言っておるわけであって、私は、もはやこれは明確に、口頭だけではなくて文書でこのようなものが届いた以上はやはり国内担保法は必要なんだ、だから次の段階でしっかりと、この国内担保法の中身を議論していく段階で、鋭意この中身を真剣に議論すべきだというふうに思っております。

 これについて、井田参考人、どのようにお考えでしょうか。

井田参考人 私も国連の薬物犯罪事務所の口上書のことは若干存じ上げていますけれども、この場所というのはTOC条約の解釈に関する公式見解を表明する場所だというふうに承知しています。

 そういうところでもって、この立法ガイド、問題になっているパラグラフの五十一について、かなり明確な解釈指針といいますか、解釈の仕方についての意見が出されたというのは、かなり私は決定的なことなのではないかというふうに考えております。

 それとまた別で、私も意見表明の中で申し上げましたけれども、条約を締結しますと国内法の一部になるわけなので、ここにこう書いてあって、こっちにこう書いてあって、矛盾しているよというようなことがあっては、やはりこれは法治国家としてはよろしくないということも申し添えたいと思います。

國重委員 ありがとうございました。

 最後に、早川参考人に端的にお伺いしたいと思います。

 早川参考人、議員としても弁護士としても大先輩に当たる方でございます。私はブログの方も昨日読ませていただきました。その中で、非常に我が党に対しても評価をしていただいております。水面下で公明党が相当頑張ったんだろうというようなことで書かれております。本当にその評価に感謝をいたします。

 その中で、きょうは配慮規定と留意事項について触れていただきました。私、配慮規定とか留意事項というのは、法的効果としては実効的な意味は余りないかもしれないけれども、政治的な意味合いとか国民の不安を払拭するとか、そういう観点での確認規定というか、そういうものだと思いますけれども、当時、配慮規定とか留意事項というのを法的効果と関係なくここに入れた思いについて最後語っていただいて、私の質問を終わります。

早川参考人 確かに、附帯決議とかあるいは通達等でいろいろ書くという手法もあることはあるんですけれども、大事なことは、やはり、国会で議論をした、その議論をした中身を法律の中に書くことによって、逆に言うと、運用の段階で、当然、行政庁を拘束させ、さらには裁判所を拘束さす。そういう意味で、配慮事項で、逆に言うと法律の趣旨というのが極めて明確になる。憲法に定められたさまざまな権利を侵害するようなものにならないようにみんなでチェックしましょう、こういうことになりますので、どうしても配慮規定とか留意事項は必要だろうと思っております。

國重委員 ありがとうございました。

 二十分というと非常に短い時間で、もっと深掘りして聞きたかったわけでありますけれども、きょういただきました御意見、意見陳述でもかなり詳細に言っていただきましたので、しっかりと、それを受けまして、今後の審議に生かしてまいりたいと思います。

 ありがとうございました。

鈴木委員長 次に、山尾志桜里君。

山尾委員 民進党の山尾志桜里です。

 きょうは、五人の参考人の方、本当に貴重な御意見をありがとうございます。全員に御質問できない場合は御容赦ください。

 まず、私の方から井田参考人にお伺いをしたいと思います。

 井田参考人、先ほど処罰とおっしゃったと思うんですけれども、前倒しをする、新しい犯罪をたくさんつくることにはなるんだ、なので、きちっとした検討が必要だということをおっしゃっておられました。私もそうだと思います。

 まず、お伺いしたいのは、やはりこうやって処罰の時期が早まる、そしてまた、その処罰態様というか犯罪態様が非常に広がる。つまり、捜査の開始の時期も早まったりとか、捜査の対象になる人的範囲も広がったりとか、私はそういう類型的危険があるとは思うんですね。あるということを認めた上で、では、それを起訴なりあるいは有罪判決というところできちっと絞り切れるような高いハードルとなっているのかどうか、それを先生は御検討されているというふうにお伺いをしたんですけれども、捜査の時期が早まったり範囲が広がったりする類型的危険のあるなしについて、まずお答えいただけますでしょうか。

井田参考人 御質問ありがとうございます。

 処罰を早期化する、従来よりも処罰を前倒しするということは、当然のことながら、より早い段階で危険に対して対応しよう。さっき申し上げましたけれども、伝統的な刑法は、ある意味でいうと、重い腰をどんと据えていて、何か悪いことが起こってしまったというときに腰を上げて出ていくというようなイメージ、まさに我々は応報刑と言ったりします。そういうのは、まさに刑法の古典的なイメージだと思うんです。

 ただ、さっき申し上げましたように、犯罪によっては、特に今問題となっている組織犯罪、特に組織的犯罪集団の行動については早目に対応していかないと、起こってからでは取り返しがつかないということにもなってまいります。

 ですから、そういう意味でいえば、捜査が早目になるというのは、ある意味では当たり前といいますか、処罰が前倒しされて、処罰の範囲が広がっていくわけでありますので、そこに捜査が可能になってくるという意味では、捜査が早くなるというのは当然のことではないかとお聞きしました。(山尾委員「人的範囲はいかがですか」と呼ぶ)

 人的範囲も広くなるといいますか、それは何と比べて広くなるかということの問題で、私は、恐らく先生御心配されているのは、まさに危険だと思うんですね。

 それで、私も若干新聞報道等で、捜査に当たって一般の人が捜査の対象になるんじゃないかというような疑念が表明されているということを読みました。

 先ほど申し上げましたように、今のこの法案のつくりというのは、決して一般市民に対して、あるいは一般市民の団体に対して適用しようというものではない。ですから、そういう意味でいうと、一般市民の人がそれによって捕まって有罪になるということはないということは保障されている。

 問題は、では、それに対して、誤って、犯人でない人が捜査の対象になってしまうおそれがあるかといえば、これは、基本的に全ての刑罰法規自体が、捜査というのは、やはり何もないところから証拠を探していくわけですからもちろん誤った方向に行ってしまうこともあるわけですので、そこのために裁判官のチェックが入ってくるという仕組みになっている。最終的には、最後に裁判所でもってもう一回チェックをするというふうになる。そういう意味でいうと、誤った人を捜査の対象にしてしまうおそれというのは、それは全ての刑罰法規につきものであって、それはやはりそれに対応していかなければいけない。

 問題は、では、今回の法案がとりわけその危険性が高いと、今回の法案が、ほかの一般の処罰規定、予備罪の規定、陰謀罪の規定、現行法にある規定と比べてとりわけその危険が高いということは私はないというふうに思っています。

山尾委員 これは、捜査の時期についても少し議論が混乱しているんですね。

 専門家の先生にお伺いしたいんですけれども、組織的犯罪集団に例えば当たるのか否かということについて捜査をされる際の開始時期なんですけれども、私の整理だと、要するに、任意捜査であれば、これは、計画が行われるかもしれない、そういう疑念が生じた時点、計画前から任意捜査というのは行われる可能性がある。一方で、強制捜査については、今回の答弁を聞くと、計画プラス準備行為が終わった段階から強制捜査には至るんだ。こういうふうに整理をされているのかなというふうに思うんですけれども、それが正しい理解かどうかということと、それぞれ、強制捜査、任意捜査といっても、一般の方はなかなかぴんとこないんですね。どういうものが強制捜査として、あるいは任意捜査として考えられるのかということをお聞かせいただけますか。

井田参考人 御質問ありがとうございます。

 捜査の開始というのは、基本的に、捜査の端緒と我々は言っています、何らかのきっかけがあることがもちろん必要であります。それは要するに、現行法の刑罰法規に当てはまる、そういう事実があったという疑いが生じたときには出ていかなければいけないということで、その点は今回の法案のあれでも全く変わらないと思います。

 それで、おっしゃるように、捜査の端緒があった場合に、場合によって、さっき申し上げた、先生もおっしゃった強制捜査というのは、これはまた独自に、別に要件がそれぞれ組み立てられていますので、犯罪行動の嫌疑であるとか、その他、一定の証拠であるとかいろいろな、それぞれの強制捜査の処分の要件というのは別個規定されているので、それに該当しないとそのハードルを越えることはできないようになっている。

 確かに、任意捜査については、比較的広い形でもって捜査の嫌疑がある以上できるということですけれども、基本的には、任意捜査と強制捜査の違いというのは、例えば人権の侵害、権利侵害がそこにあるのかどうか、大きな利益侵害があるのかどうかというような見地から決定されていくものだと理解しておりますので、該当者に非常に大きな利益侵害を及ぼすような、プライバシーに対する干渉をするようなものというのは、これは任意捜査としても許されないという形でもって、私は、これは一般の犯罪の場合と変わらないのではないかというふうに考えております。特に、今回の法案がとりわけ危険を持っているということにはならないのではないかと思います。

山尾委員 要するに、強制捜査とは、例えば逮捕であり捜索であり、それは裁判所の令状を必要とする。任意捜査では、私が聞きたかったのは具体的なところだったんですけれども、もちろん必要性、緊急性、相当性の条件を満たすという前提ですけれども、態様としては、例えば、尾行とか、あるいは、管理をしている会社が応じれば、クレジットカードの履歴だとか交通系ICカードの履歴だとか、場合によってはメールやLINEの履歴だとか、そういうものも実は、令状なしに任意捜査としてできるんだというふうに私は理解しているんですけれども、ちょっとそういうところをお伺いしたかったのですけれども、私の理解で間違っていないでしょうか。

井田参考人 先生は法律家ですので、おっしゃるとおりだと思いました。

山尾委員 そこで、私は井田参考人の方から、誤って、要するに悪いことをしていない人を捜査の対象としてしまうということは、今回の法案でも、そしてまた現行のさまざまな刑罰法規でもこれは同じですよ、こういう答弁をいただいたのは大変重たいと思います。

 なぜなら、この場で法務大臣は一般の方々は捜査の対象とはならないというふうに言っておられて、副大臣は限定されるけれどもそれはなり得ますよと言って、今ちょっと食い違うんじゃないかと報道されているのは御案内のとおりで、今の先生のお答えを伺うと、私は、副大臣が当たり前のことを言っているんだろうというふうに改めて思っております。

 その上で、もう一点、井田参考人にお伺いをしたいのは、端的に言いますね、例えば、ちょっと象徴的事案となった、森林窃盗の中のキノコ狩りという事例がありました。

 これは、先生の論文なんかを読ませていただくと、私も勉強しました、やはり刑法の謙抑性というのを非常に重要に考えておられていて、被害が極めて軽微な場合に刑を科すことは差し控えるべきである、そしてまた、その謙抑性の中には断片性の原則というのが大事で、やはり刑法による法益の保護は、完璧で網羅的なものであってはならず、特に一部を選んで処罰するような断片的性格のものでなければならないと。私はこれを読んで、やはり、すごいなというか、そうだよなというふうに思ったんですね。

 これを素直に考えたときに、私たちは共謀罪そのものに、包括的な共謀罪をつくることに反対ですけれども、少なくとも、今回並べられている森林窃盗を含めて、やはり除外すべきものが、この刑法の謙抑性や断片性の原則の観点から、私は先生の考えの中でもあるように思うんですけれども、その点、本当に成案どおりがベストとお考えなのか否かという観点でお伺いできればと思います。

井田参考人 ありがとうございます。

 いわゆる軽微犯罪、私、そのキノコ狩りのことは不肖にしてその議論は存じ上げませんが、全ての犯罪について、いわば軽い部分というのは果たして起訴すべきなのかどうか、あるいはそもそも捜査の対象にすべきかどうかというような問題が常に軽微犯罪というのはついて回っているわけですので、ある条文を例えば対象犯罪に含めて、これについては一定の要件を持った場合に処罰するんだというふうに書かれていたとしても、常に一番下の方については、それはどんな犯罪についても、例えば今回詐欺も入っていますけれども、詐欺でも非常に軽い詐欺というのは考えられるわけですから、必ず軽微犯罪にどういうふうに対応するかについてはまた別の仕組みというのがあるわけで、この法案の中にそのことを組み込んで、軽いものについては軽く何とかということは、今の現行法体系の中ではちょっとおかしいのではないかと私自身は思います。現行法体系にそぐわないといいますか、一般には、軽微犯罪については、例えばそれは起訴猶予にしてやるとか、そもそも捜査の対象にしないというような形でもって対応されている。

 ちなみにまた、今のお話でいうと、恐らく、主体要件として、そういう組織犯罪集団がキノコ狩りをするというのが若干そぐわないということもあり、その主体要件に該当するのか自体も私はわかりませんし、軽微犯罪というのはここだけの問題ではなくて一般的な問題であり、それについてはとりあえず刑事訴訟法の規定等々があって対応がなされているというふうに私は承知しております。

山尾委員 やはりこの森林窃盗、キノコ狩りというのに組織的犯罪集団という主体がちょっとそぐわないのではないかという素直な御答弁をいただいたと思います。

 私は、捜査機関に身を置いていて、今は国会議員ですので、やはり立法の段階ではできるだけ、運用に委ねなくていいぎりぎりの検討をすべきだというふうに思っていますので、私は、この法案がぎりぎりの検討がなされた法案だとはちょっと思えていないんですね。

 その点で、早川参考人にもお伺いをしたいと思うんですけれども、先ほど出てきたのは、表現の自由に対する配慮条項とか、あるいは目的外使用についての留意条項とか、そういうものはやはりつけるべきじゃないか、そしてまた、対象犯罪も、御自身、百二十八まで絞った中で、今回は絞り切れていないんじゃないか、こういうお話もございました。

 そしてまた、私も、先生が読み上げるはずで読み上げることのなかった、この幻の六月十六日の原稿というのも持っておりますが、この中を見ますと、やはり、今回のものについては、まばたきを処罰しないように、要するに、謀議という形で先生の御提案ではかなり絞ろうとされていたりとか、あるいは、先ほど小林参考人からもありましたけれども、信頼という共同体を破壊しないように、密告を推奨しないように、自首減免を削除する、こういうような御提案もされていると思います。

 ちょっとその点などについての、なぜそういう御提案をされたのか、お話しいただけますか。

早川参考人 十一年前の話ですけれども、やはり、当時の法務委員会の議員の中で、あれは社民党の保坂さんあたりが随分事例を出して、要するに目くばせについて議論があって、これが一般の国民に大変な不安をもたらすことになったということがあって、当時の議論に参加された方々の議論を踏まえると、やはり、国民の納得を得るためには、配慮規定あるいは留意事項というのがどうしても必要になるという状況でした。

 十一年たって、当時の議員がほとんどいなくなっています。ですから、議論の詳細を承継できるようなそういう仕組みになっていないということがあって、これは残念である。やはり、少しでもいい方向に向かってやってもらいたいということで、私は、何としてもこの法務委員会でさらに修正のための協議を進めていただきたいと思います。

 犯罪の絞りは、多分まだ可能だと思います。ただ、ではどれを対象とするかということについては、今、例えば森林の話がありましたけれども、国連の方では、どうも環境犯罪というのに対して非常にシビアになってきている、あるいは文化財の破壊ということについてもシビアになっている。要するに、国際社会の中では、組織犯罪集団がそういったことで収益を上げているということに対してかなり議論が進んでいる。

 そういったことを踏まえると、世界の国々で、組織犯罪に対処してどういう対抗策をとるかということについてはやはりこれからも議論を進めていかなきゃいけない、こういうふうに思います。

山尾委員 もう一点、早川参考人にお伺いしたいのは、先ほどの最初の意見表明の中で感銘を受けたのは、やはり警察のことを懸念しているということで、志布志事件や、あるいは村木厚子さんの事件のことを挙げられました。本当に、村木厚子さんなんというのは、いわゆる公務員であります、当然、何の悪いこともしていない一般の市民だったわけですよね。そういう中で、先生の御発言を聞くと、テロ対策としての実効性もないのではないか、テロ等準備罪という題名もいかがなものかとか、懸念しているのは警察だとか、国会の議論が大事だとか。

 私は、やはり、今の政府がいろいろなことを取り繕って本当の情報を提供せずに、なかなか議論が活性化できないという状況を本当にゆゆしき事態だと思っていて、本当に先生のころの法務委員会と今の法務委員会の議論というのは、残念な方向に非常に変わっているということを思っているんですけれども。

 ちょっと一点、先ほど井田参考人にもお話ししたんですけれども、大臣は、一般市民は捜査の対象とならないと言っています。先生はどう思いますか。

早川参考人 捜査にも任意捜査と強制捜査があるので、捜査の端緒がどこにあるかということになってくるわけですね。

 本当にテロ犯罪を防圧するということになると、それはさまざまな情報を収集してやはりやらなきゃいけない。そういった作業の過程で、実は、予断、偏見、見込みということの中での誤った捜査をされてしまう。そういう意味で、僕は、鹿児島の志布志事件、公職選挙法違反の部落全体の買収ということについて言いましたけれども、結局は、成績主義が役所の場合はどうしてもありますので、何らかの仕組みをつくると結果を出さなきゃいけないということになっている。それから、銃器犯罪なんかで、銃器犯罪の取り締まり月間のときに件数がふえたり、交通取り締まりのときに件数がふえたり。

 だから、そこには、いろいろ、思わしくないというか、やはり問題の事件がある。ロシアの船員が銃器か薬物か何かを受け取って処罰の対象になった、だけれども結局無罪になったとか、そういった事例を見ると、結局、監視の目、チェックの目が行き届いていないと野方図になりますねということで、そういう意味では、情報の公開、あるいは正しい説明、これはどうしても必要だろうというふうに思います。

 先ほど大臣の話がありましたけれども、まあ、副大臣の方が、そういう意味では、法律家に近い感覚でお答えになったのではないかしらというふうに思っています。

山尾委員 非常に上品な言い方で御答弁をいただきました。ありがとうございます。

 時間もありませんので、高山参考人に一言と、そしてまた小林参考人に一言お願いをしたいと思います。

 高山参考人、もう一回、一般市民は捜査の対象にならない、こういうふうに法務大臣はおっしゃっています。いかがでしょうか。

高山参考人 私は、なると考えております。

 オウム真理教で起こったような事案を考えてみますと、普通の宗教団体あるいは市民の団体、会社などとして設立された団体で、圧倒的多数のメンバーが知らないうちに組織の一部のメンバーが犯罪を始めることにしたという場合に、これを全く適用の対象に置くというのであれば、そのように法文の中に書いておくべきであります。そのような限定がございませんので、最高裁の決定が示しているように、団体の性格が一部一変したという場合にはこれが適用対象になるというのは当然の法律の解釈であると思いますので、私は、一般人が、捜査権限が濫用されなくてもその対象に入ってくるということを理解しております。

山尾委員 最後に、小林参考人にお伺いします。

 実際にオウム真理教による薬物テロのターゲットになった小林参考人から、共謀罪は要らない、むしろ、その後につくられたサリン等による人身被害の防止に関する法律の予備なんかをちゃんと使ってくれ、とりわけ水際対策をちゃんとやってくれ、こういうお話があったのは大変重たいというふうに思います。

 そういう中で、今までのお話を聞いていて、一般市民も捜査の対象にはそれはなりますよと、お三方が法律家ですので、そういうお話が全員からありました。そういう中で、この社会にやはり萎縮効果をもたらすんだということについて一言御意見をいただければと思います。

小林参考人 わしは、以前、「ゴーマニズム宣言」の中で描いた左翼の運動家の人に対する非難というものを名誉毀損で訴えられたことがあるんですね。それで、第一審では勝ちましたけれども、高裁で負けました。わしが負けたときというのは、新聞というのは物すごくでかく書くんですよね。勝ったときは大して書かないんですよ。

 それで、最高裁まで行きまして、最高裁がわしに、弁論、陳述をしてくれという依頼が来ました。それで最高裁に出て陳述したんですけれども、そのときも、わしの描き方が非常に過激ですので、それで名誉毀損とかなんとかと訴えられたりするんですけれども、最高裁の判断は、やはり言論の自由はとことん守らなきゃいけない、これを名誉毀損にすると萎縮効果が出てしまう、だから、これはわしは無罪であるということで、逆転勝訴、勝利になっちゃったんですよ。これは、表現に関する新しい判例が出たんですよ。やはり、それほど最高裁の人たちというのは、言論の自由というものが民主主義の基本だということがわかっておられるんでしょう。

 さて、では政治家の皆さんはどうなんでしょうというふうにわしは考えるんですね。やはりどうしても、何か誰かと相談してしまったりとかすると、それが共謀罪とかということにかかわるとか、先ほど、やはり市民もその対象になり得ると。それはなり得ると思いますよ。だって、普通の一般市民というのは物を言わないで暮らしたいですよ。けれども、やはりそれは、自分がどんな被害を受けたかによっては、命がけで物を言わなきゃいけなくなっちゃうんですからね。それを想像しないんですよ、一般国民って。だから結局、この法案に賛成という人がうかつにもいっぱい出てしまうんですね。

 ところが、やはりそういう運動をやらなきゃいけなくなってしまったりもする。そのときににらまれてしまったら、いろいろ、自分のメールが読まれてしまっているんじゃないかとか、電話が盗聴されているんじゃないかとか、そういうことを考えながら運動しなければいけないわけでしょう。だから、わしは、やはりそれだけで民主主義がかなり萎縮、縮小されているというふうに思いますよ。

 やはり、公共性というのはなるべく広く持たないといけない。これはハンナ・アーレントの「人間の条件」とかというので書かれていることですけれどもね。例えば北朝鮮なんかといったら公共性はないですよ。とことん狭いですよ、公の概念がね。でも、日本はそれが広いんですよ。これは誇るべきことですよ。ヨーロッパの諸国とかと比較する必要はない。日本は本当に公共性が広く担保されていて、それで言論の自由も非常にある世界です。

 だから、そういう世の中を、日本の社会を守っていこうというふうに思うのが愛国心ですよ、それこそ。何かおかしなことに、最近、愛国心とか保守とかと言ったら、権力に追随して、それで何か言論の自由から表現の自由まで狭めていく方向を選んで保守と言っている連中が、ばかどもがいっぱいいるんですよ。これは全然おかしな話で、もう全くわかっていないんですよ。だから、本当に日本を北朝鮮みたいな国にしちゃだめですよということです。

山尾委員 ありがとうございました。

 小澤参考人、御質問できなくて失礼いたしました。

鈴木委員長 次に、畑野君枝君。

畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。

 参考人の皆さん、きょうは大変貴重な御意見をいただき、ありがとうございます。

 まず、高山佳奈子参考人に伺います。

 共謀罪法案における実行準備行為は、外見だけでは行為の意味はわかりません。花見と下見の違いは目的であり、目的をしっかり調べるという政府答弁がありました。結局、内心を調べることになります。これは、内心の自由を保障した憲法に違反するのではないでしょうか。

高山参考人 ある人がある場所に赴く、その目的が花見のときは処罰対象にならないが、犯罪行為のための下見のときは処罰対象に入ってくるということが出てまいりました。これはまさに、外見上は全く何の違いもございませんので、違いは内心そのものです。そして、片方が処罰され、片方が処罰されないということは、その内心の違いだけを根拠として処罰されているのと同じことになるわけです。

 しかし、我が国の憲法の考え方では、そのようなことは基本的に認められておりません。

 最高裁判所は、国家公務員法違反が問題になりました事案で無罪の判断を出したときに、次のようなことを言っています。内心の自由、思想、良心それから表現の自由などを含む精神的自由というのは、経済的な自由と比べても一段と上の価値を有する。それを、いわんや刑事罰をもって制限しようというからには、相当の理由がないといけないわけです。

 この認められる基準については、最高裁は、保護される利益に対する危険が単に観念的なものにとどまらず、現実的なものとして実質的に認められる場合でなければ処罰してはならない、これに反する処罰は憲法違反であるという考え方を示しているわけです。

 まさに、これを出発点といたしますと、単に内心が花見か下見かというだけ、あるいは単に観念そのものであるような犯罪のアイデアといったものが処罰の対象になってしまうということには重大な憲法上の疑義があります。

 そして、TOC条約が守ることを求めている国内法の基本原則の、日本における重大な内容の一つがまさにこの原則でありますので、これを侵害するような立法というのは違憲性があると思います。

畑野委員 ありがとうございました。

 続いて、小林よしのり参考人に伺います。

 先ほど、物言う市民をどう守るかが民主主義の要諦だ、これは物言わぬ市民にとっても大事だというようなことをおっしゃいました。

 思想信条の立場の違いを超えて、やはり、国家から監視され、内心の自由、思想信条の自由、表現の自由を奪われることは許されないという趣旨だと思いますが、御意見を伺いたいと思います。

小林参考人 また同じことを言わなきゃいけないのかなという感じですけれども。

 共産党を警戒するのは、もちろん言論の自由とか公共空間が狭くなってくる可能性がないかというようなことを心配しておりまして、一番肝心なのは、天皇制のところがとことんわしと違いますので、非常に危惧をしちゃうんですね。

 でも、共産党は、やはり今現在の国家権力に対する批判というところは非常に鋭いものを見せてくれますし、大変そういうところはありがたい、頼りになると思っているんですよ。

 社会って変わるんですよ、どんどん変わるんです。ずっと一定の社会というのはない、保てないんですよ。その変わっていくときに悪い方向に変わっていったら、これはチェックしなければならないので、もうわしの考えって結構共産党の考えと同じところがいっぱいあるんですよね、おかしなことに。だから、よく話し合うと意見がぴったり来るところは多分あると思います、いっぱいね。天皇制だけちょっと違うんですけれども。

 けれども、そういう意味で活躍してくれること、言論、表現の自由を守るという、民主主義の基幹の部分を守るというところでぜひとも共産党には活躍してほしいと思います。

畑野委員 ありがとうございました。激励いただきました。

 次に、早川忠孝参考人に伺います。

 本法案の対象犯罪は二百七十七と、余りにも広いという意見がありまして、参考人は対象犯罪を絞る方向で修正すべきだという御意見だと伺っておりますが、その点について伺いたいと思います。

早川参考人 対象犯罪の絞り込みは、専門家の間で相当具体的に検討していただかなきゃいけないと思うんですね。今はどっちかというと、反対と言うだけで、中身の一つ一つの犯罪についてどんなことがあり得るかということについての検討が足りていないんじゃないかという心配がありますので、そういう意味で、これはどうかなというのがある。

 例えば、倒産事件なんかをやっていると、最終的に、破産手続をやれば詐欺破産だとか、あるいは特定の債権者に対しての担保提供とかという、いわゆる民事的な行為の中で特別有利にやる、更生もそうですし、さまざまな、法律的な中に、一般企業がどうもそういうふうに疑われるようなことに関与しているというケースがあるんではないだろうか。これは多分、自民党も公明党の皆さんも、よくよく検討すると、自分の知っている人たちが万一捜査の対象になったら大変だなということになるのかしらというふうに思っています。

 組織犯罪集団がやろうとする犯罪の中には本当にいろいろなケースがあるんですけれども、節税と脱税というこの区分についても、税金を逋脱するというその行為について、結構、経理さんと税理士さんと組んでいろいろなデータをつくり出してやる、こういったものが、いわゆる脱税というふうに大くくりしたときに、あれれ、ここまでいくと一般の企業も、あるいは個人も、集団的にやろうとすると出てくる。会社の場合は、当然、経理担当を含めて一つの組織になっていますから、ある段階で変質するということがあり得るから、これはちょっと注意した方がいいのではないかなというふうに今のところ私は思っていますけれども、もっと検討すると出てくるかもしれません。

畑野委員 ありがとうございました。検討が必要だというお話でした。

 次に、井田良参考人に伺います。

 本法案は、発生する結果の重大性の違いにもかかわらず、一律に計画段階で処罰されるということですが、この点についてどのようにお考えになりますか。

井田参考人 処罰の根拠というのを考えたときに、それは確かに、遠い先にはいろいろな形の、違った種類の結果というのが控えているわけですけれども、今現在の段階であれば、そういう重大な犯罪を行う危険性を持っていて、今ここでとめないといけない。

 さっきちょっと内心の話が出ましたけれども、捕まえて内心を処罰するのがまずいのは、それは無害な場合で、今問題になっている行為というのは、これはこのままほっておけば遠い先には大変な被害が生じるおそれがあって、今ここでとめないと何が起こるかわからない、後で取り返しがつかない、こういう危険性をはらんだ、因果的な発端部分を捕まえようという議論であります。そこで内心を見るというのはある意味では当然、つまり、犯罪を意図して意を決している、それを実現しようと思っているからこそ、その行為が危険であるわけなので、内心を見るのは当然だという話になってくるのではないか。

 いずれにしても、そんなことで、今この段階で処罰するというふうになれば、遠い先に考えられている結果の重大性にかかわらず、とりあえず定型的な形の刑にするというのは、実は現行法がそうでありまして、予備罪の規定を見れば基本的には同じような刑が、どういう犯罪が将来来ようと同じような刑が並んでいるのにお気づきだと思うんですけれども、そういう仕組みが今の現行法の建前だというふうに御理解いただければと思います。

畑野委員 いろいろな問題をこれからまた考えていきたいと思います。ありがとうございます。

 小澤俊朗参考人に伺います。

 TOC条約を締結するときに、国内法の条約適合性についてチェックする国際機関というのはあるのでしょうか。

小澤参考人 ございません。

畑野委員 ないということでした。ありがとうございます。

 それで、高山参考人に伺いますが、先ほども委員の方から紹介があった、刑事法学者として声明を取りまとめていらっしゃいます。共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明というものです。

 その刑事法学者の立場として伺いたいんです。立法ガイドの問題ですとか、あるいはTOC条約と本法案についての関係など、もう少し詳しく伺えますでしょうか。

高山参考人 先ほど、御質問いただいた点について述べる機会がなかったんですけれども、やはり、国内法の基本原則に従った、憲法に従った組織犯罪対策というのがどの国にも求められているというのが条約の根本的な考え方なんですね。まさにここから出発しまして初めて、条約の五条でありますとか、立法ガイド五十一項も、国連からの御回答も、全てが整合的に理解できる。そして、それに基づいて日本は条約に参加することができると考えております。

 具体的には、五条は過失犯なんかは対象に入れていない、想定していないと考えられるわけですし、留保を行って参加している国もあるということで、日本も、さっき最高裁の原則というふうに述べましたような、観念的でなく実質的な危険のある行為だけが刑罰の対象になり得るという基本原則に従いまして、その範囲で対応するということ。

 そうすると、場合によっては、広い範囲で共謀罪を処罰している国よりも処罰範囲が狭くなる部分があるかもしれませんけれども、それは構わない。したがいまして、立法ガイドでもしゃくし定規に全部の国内法化を求めているものではないという意味だと思いますので、特に矛盾する点は生じないと考えます。刑事法学者の声明でも余りそこは詳しくは書くことができていなかったんですけれども、形式的、一律のしゃくし定規の適用は要らないという趣旨で理解をしております。

 そのほかにも幾つかの点を声明では出させていただいておりまして、例えば、テロ対策というのはやはり実際必要だと思うんですけれども、現実的に心配されるテロというのはイスラム過激派によるものが考えられるわけですが、これは、安保法制が強行されたので、それに対する報復的な措置としてバングラデシュで日本人が殺害されたというような事案もありましたし、それを考えますと、外交的な対策というのをもっと有効なテロ対策として考えていく必要もあるだろうと思います。

 それから、先ほど小林参考人を中心としておっしゃっていただいた点ですが、やはり観念だけでは処罰ができないというのが原則でありまして、いろいろな表現者の方々あるいは研究開発に携わるような人たちとかも含めまして、頭の中にもう殺人とか強姦とかが渦巻いている状態というのは、別にそれ自体としては何でもないわけなんですね。表現者の方たちは、それが弾圧されてしまうかもしれない、何かのはずみで誤解されてしまうかもしれないという懸念を非常に抱いていらっしゃると思います。それは新しい物質とか技術とかを開発しているような研究者の立場でも全く同じでございます。

 そういう、非常に広い範囲で処罰の網をかぶせてしまったときに問題が起こる可能性も、やはり今までと同じではなく、範囲そのものが広くなるということは懸念しているところでございます。

 以上です。

畑野委員 高山参考人にもう少し伺いたいんですが、そうしますと、TOC条約を締結するために憲法に反する法律をつくるということについてはどのようにお考えでしょうか。

高山参考人 憲法に反する法律は、たとえつくっても無効ということになりますので、もちろん、当然そのことを踏まえて、TOC条約本体が、五条以外の幾つかの条文で、国内法の基本原則に従って、その範囲で対応することを求めています。

 この基本原則の内容にはもちろん刑事手続の内容も含まれますけれども、今般問題になっておりますような処罰範囲の問題もございますので、例えばアメリカなどを見ても、共謀罪、非常に広く処罰しているようであるけれども、実は処罰していない地域もあるのであるといったような、国の実情に合った対応が求められていると考えます。

畑野委員 そうしますと、もう少し伺いたいんですが、先ほど、アメリカなども留保して条約の締結をしているということですよね。こういうのは当然可能だということですね。

高山参考人 もちろん、できる留保と許されないと考えられる留保と、両方があると思います。五条全体を留保して無視するというようなことは私もできないと考えていますが、日本の場合には、既に共犯の大変広い処罰の制度がございますし、ほかの国にはないような抽象的危険犯の非常に多数の処罰類型、そして予備罪や陰謀罪も他国よりも広く処罰されているところがございますので、そういった制度を組み合わせることによって対応ができるし、現行法のもとでも、条約に加盟している多くの国よりは広い処罰範囲を持っていると理解しております。

畑野委員 そうすると、結論としては、日本の場合は今の状態のままでTOC条約に入ることができる、締結することができるという理解でよろしいのでしょうか。

高山参考人 はい、私はそのように考えております。

 ただ、もちろんいろいろなやり方が考えられることは考えられますので、例えば、穴があるように見えて心配であるというところについては、注意的な留保を付すでありますとか、あるいは個別に犯罪類型をつけ足すという形で穴で埋めるということは別途考えてよいかと思います。

 例えば、人身売買罪への対応が問題になりましたが、現行法では、身の代金目的誘拐罪の予備罪は処罰されていますけれども、人身売買については予備がございませんので、仮に組織的人身売買予備罪という新しい犯罪類型を検討するということは考えられると思うんです。

 いずれにしても、このような非常に広い形での準備、計画段階の処罰ということではなく、個別に本当に必要な犯罪類型を議論してつくっていくということが求められていると思います。

畑野委員 時間がそろそろ参りましたので、以上で私の質問を終わらせていただきますが、きょうは、五人の参考人の皆さん、ありがとうございました。

 今後とも委員会で、引き続き議論や参考人質疑なども大いに進めてまいりたいと思います。

 ありがとうございました。

鈴木委員長 次に、松浪健太君。

松浪委員 日本維新の会の松浪健太であります。

 本日は、五人の参考人の皆様、まことにありがとうございます。

 私も、法律の専門家ではございませんけれども、今回この法律の議論に参加をさせていただきまして感じますことは、組織犯罪防止という観点では大変納得のいくものでありますけれども、私個人は、テロ対策というと、随分と、日本のテロ対策というもの、実際の実務と法律の乖離も非常に大きく感じるわけであります。特に、捜査手法等は海外とも全く違うわけでありまして、テロ対策というと、ウエートリフティングの練習をしようとしているのに、キャッチボールの練習をウエートリフティングのためにしているような、何か別のことをやっているような違和感を感じるわけであります。

 その中で、与野党ともに一致をしている意見は、やはりTOC条約には早期に加盟をしなければならないというわけでありまして、たまたま私も十年以上前にこの法務委員会で理事を少しさせていただいたことがあって、アメリカの幾つかの州が留保をしているというような議論も当時から出ておりました。そもそもになりますけれども、先ほど畑野議員からも、条約適合性をチェックする機関もないという話もありました。私も、この委員会で、北朝鮮が加盟できるんだったら、どうして今我が国が加盟をできないのかということも質問申し上げました。

 日本の政府は、今、OECD加盟国程度は全てチェックをしたけれども、それ以外の国は、さすがに百八十七、なかなかチェックをされていないということですけれども、素朴に、まず小澤参考人に伺いたいんですけれども、幾らかの留保事項をつけて、法整備をせずにTOCに加盟することについてどのようなお考えを持っているか、伺います。

小澤参考人 ありがとうございます。

 この条約を締結することを承認する件というものが国会で審議され、留保を付すことなく締結することについて、国会としての意思がもう既に平成十二年でしたか、行われております。したがって、政府側からすると、国会でそういうような意思が示されておりますので、当然、留保を付さない形の締結を目指すということになります。

 我が国が条約に留保を付すということは国会の承認をいただく前には理論的には考えられたのかもしれないとは思いますけれども、もう既に、その点については国会としての意思がお示しになられているというふうに私は受けとめております。

松浪委員 ありがとうございました。

 それでは次に、高山参考人に伺いたいと思います。

 パラグラフ五十一の話が、先ほど國重委員からの話もありました。私も、国連立法ガイド、パラグラフ五十一、日本語で読んでも英語で読んでも、やはりこれはどう見ても第三の道があるんじゃないかという質問をこの委員会でもさせていただきました。

 これは三月の話でありまして、三月末に、そういうことで外務省と個別のやりとりを党でやったところ、これは今までどうやって担保しているんだ、口頭だと言うので、口頭じゃこんなのは水かけ論になるだろうということで出していただいたのがこの「口上書第PM/NV/三八/二〇一七号」というものでありまして、ようやくこれの正式な訳文というか仮訳が先週の木曜日に出てまいりまして、先ほど國重委員の方がおっしゃったんですけれども。

 これによると、國重議員がおっしゃったとおり、これは義務的であるというUNODCの方からの意見が来て、これまでも、パラグラフ五十一とパラグラフ五十五、全く読み方が違うなとは思っていたんです。とりあえずUNODCが統一見解というか文書での見解を出してきて、これは木曜日に出てきたばかりなので、なかなかごらんいただけてはいないと思うんですけれども。

 これは、出てきたものは出てきたものなんですが、先ほどおっしゃいました立法ガイドをおつくりになった教授の意思と、今回のUNODCの見解というのは相反するものであると感じるのかどうか、伺います。

高山参考人 私は、それは矛盾しないと考えておりますが、もっと説明した方がよろしい……(松浪委員「矛盾しない」と呼ぶ)はい。

松浪委員 先ほどの、日本の二〇一七年の三八号の口上書に対して、UNODCは、「締約国は共謀のオプション又は犯罪の結社のオプションのいずれかを選択しなければならない。また、締約国は両方のオプションを選ぶこともできる。」ということで、両者ではない、今までの、パラグラフ五十一の、第三の見解があるんじゃないかということを否定してきたと思う、まあまあこれは間違いないことだと思うんですけれども、それを置いても矛盾しないということはどういうことですか。

高山参考人 条約本体が二つのオプションというふうに規定していますので、参考資料であるところの立法ガイドがそれと全く矛盾する内容を書いているはずがないのですね。

 私が整合的に理解できるというふうに申し上げている理由は、しゃくし定規に五条をそのまま国内法化しようと思うと、いろいろおかしな内容、例えば、過失犯も処罰しなくちゃならなくなるとか、予備罪の共謀を処罰しなくちゃならないとか、いろいろなおかしな点があるわけです。それがどこに矛盾が生じてくるかというのは、恐らく国によっても違ってくると思うんですね。

 それで、日本の場合には、例えば共謀共同正犯という、共謀罪にかなり似たスタイルの処罰規定が全ての犯罪において適用できるんですね。四年以上の自由刑とか関係なく全犯罪について使うことができており、ですので、パターンとしては共謀罪型の処罰制度を持っているところに近いのだろうと思います。そして、それに加えていろいろな、抽象的危険犯とか予備罪などの広い範囲でカバーする処罰規定がありますので、それによって国内法の基本原則に従った形での対応ができているという理解が十分に可能であると思います。

松浪委員 ありがとうございました。

 それでは、次の質問に移ります。

 あと、我が党は、今回、この法律の趣旨はやはり十分理解するものであるし、二〇二〇年までにTOC条約に加盟するためには、今回の法案にはなかなか、今、修正なんという報道が出ていますけれども、我々は、公明党さんの加憲に倣って加法という言い方で、法を加えて国民の皆さんの御心配を、これは私がつくった言葉ですけれども、今我が党では加法方針というのをとっておりまして、特に一般の方々に御心配がいかないように、取り調べの録音、録画、可視化をこの法律には義務づけるべきではないかという考え方を持っております。

 御承知のとおり、今、裁判員裁判制度と、そして検察独自捜査において、全体の二%程度でまずはこれをやっていこうということで、これはまだ義務化まであと二年ほどありますけれども、こうした中で、井田参考人、高山参考人、早川参考人に、今回のこうしたものがもしできるのであれば可視化を義務づけることについて、専門家の御見識をちょっと手短に伺いたいと思います。

早川参考人 やはり、国民の不安を取り除くためにいろいろな工夫をするというのが国会のあり方だろうと思いますので、可視化の議論が出てきたというのは、これは一つの大きな進歩だろうと思います。

井田参考人 御質問ありがとうございます。

 既に意見表明の段階でいろいろと、るる申し上げたところでもあります、テロ等準備罪、決して自白だけで有罪にするものではありませんし、処罰の早期化というようなことで、確かに目的とか共謀とかに立証の重点があるような犯罪、ほかにも、今の現行法自体に存在しておりますので、今回の法案の規定のみそういうものの例外的な扱いをするというのは若干どうだろうかという感じは私自身はしていて、何かむしろ、みずから大丈夫ですよというふうに国会が言ったものを、全然、若干危険ですからねと、何かちょっと語るに落ちたといいますか、そういうような雰囲気がないでもない、そういう気持ちはあります。

 ただ、高度の政治的な判断としてそういうお立場というのは不可能ではないかどうかというのはちょっと考えてみたいと思います。

高山参考人 権利の保障はないよりもある方がよくて、少ないよりも多い方がいいというのはまさに事実なんですけれども、いろいろ相対的な問題がございます。

 もちろん、取り調べの録音、録画は、一部だけやっているよりも全面的にやる方が望ましいことは間違いございません。しかし、もうちょっと広い視野で見てみますと、弁護人がいつでも立ち会うことができているという状態の方がそれよりももっと望ましいわけですし、それがあれば、別に広く全面的な録音、録画がなくてもいい場合もあろうかと思います。

 そもそも、もうちょっと広く視野をとってみますと、今般の法案のように大変広い範囲で準備段階の行為を処罰することになってしまいますと、権限の濫用などが行われなくても、一旦手続の対象になりますと解放されるまでに四年、五年とかかることも予想されますし、中には不当に手続の対象になるということも考えられますので、権利保障をプラスしていくことによってもちろん回復できる面もあるんですけれども、それではやはり十分ではない。

 そもそも網を広くかけ過ぎているというところ自体をやはり問題にしなければなりません。捜査機関の側で権利濫用がなくてもそうなんですから、いわんや、現に問題のあるケースが起きているというところを見ると、これを、今の現状で対象を大きく広げるということは、やはり懸念材料の方が非常に大きいと思っております。

松浪委員 今回、日本の刑法というものを考えると、私は、先ほど小林参考人がおっしゃったように、非常に我が国が誇るべきものだろうと思います。私は、憲法九条は自衛隊をやはりしっかりと規定をして、改正すべきだという考えの持ち主でありますけれども、この刑法体系を見ていると、いろいろ研究していると、実は日本が世界に誇るべき非常な独自文化であるなと。

 先ほどおっしゃいましたように、拳銃を持つことはおろか、ライフルを持つことも大変難しい。散弾銃を十年持った者にしかライフルを与えないなんという国はこの国ぐらいだろう。そして、ライフルにも散弾銃にも、またこの銃身の長さも大変長くないと難しいというような、大変抑制的な国家である。

 そしてまた一方で、私、この表をこの委員会の冒頭につくらせていただいて、テロということをいやしくも言うのであれば、我が国はどういうふうな形なのかというと、逮捕に伴う場合を除いても、無令状捜索というものが各国ではいかに広く行われていて、そして通信傍受も、司法傍受はおろか行政傍受がどれほどアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、韓国に至るまで、こうした令状によらない行政傍受がいかに広く行われていて、そして、GPSによる捜査もどれだけ行われているのか、ちょっと調査中のものもあって恐縮なんですけれども。

 それに比べて、取り調べの可視化ということは、そうした国でも、義務化している国もあるし全く義務化していない国もあるし、これはばらばらなので、我が国は三角かなという状況であります。

 先ほど小林参考人がおっしゃいましたのは、オウム以上のものは起きないだろうということですけれども、やはり私は、これからISとかああいうものが、例えば日本人の方と偽装なりで結婚して、そしてこの国の中でいろいろな活動をするというのは、なかなかこれは避けられないだろう。六本木に行ったら多くの外国人の皆さんがいらっしゃいますけれども、ああいう皆さんも、そうやって離婚して国籍はずっと持っているという方々がたくさん日本でもふえてきているというのは、実感があります。

 そうした中で、特に司法傍受なんというのも、日本では発付件数が去年も四十件、アメリカは四千件、そしてフランスに至っては、令状のあるものだけですけれども、行政傍受を除いていますけれども、五万件という、外国と比べる必要はないんだとおっしゃいましたけれども、やはりそうした、テロの質が変わってきている、また危険性が出てきている中で、こうした捜査の手法というものを今後拡大していくというか、抑制的ではあるけれども、私は、こうしたテロについては強化をすべきであろうかというふうに思うんですけれども、国民のマインドのことを考えながら、小林参考人の御意見を伺いたいと思います。

小林参考人 テロの恐怖とか例えば北朝鮮の脅威とかというふうなものをあおり立てると、たちまち我が国民というのは権力に盲従するんですよ。これは本当に、お上にもう全部依存しておきたいという感覚がもともとあるんですね、日本人って。だから、どんな政権の不始末が次から次に起こっても、北朝鮮が危ないとかテロが危ないと言ったらどんどん右に傾いていくんですね、国民全体が。それは本当に、ある意味非常に弱いんですよ、この国の日本人って。個人が本当、確立していないというところってあるんですよ、非常に集団性が強いから、だからそっちの方に向かっていくんですよ。

 でも、よく、左翼の人たちが戦前に戻るぞというふうに言ったら、昔と今は違うわと簡単に保守の側が言うんだけれども、治安維持法があった戦前というのは、やはり同じように国民全体が右に傾いていたんですよ。戦争にみんな賛成だったし。そういうものじゃないと売れないんですよ、雑誌とか新聞が。今、結構そうなっていますよ。そういうものじゃないと売れないというぐらいのところまで来ていますよ。

 だから、過去に戻らないともこれは言えないんですね。だから、本当に、国家権力というものが日本人の公共性というものをどんどん狭めていってしまう危険性というのはあるんですね。だからそこは考えておかないかぬ。

 それで、逮捕されたときの可視化とか、それは必要でしょう。本当に、もう昔の鬼平犯科帳の時代じゃないんだから、そもそも。だから可視化は必要でしょう。

 けれども、その前の段階で、やはり、一旦逮捕されてしまったり、そうなってしまったら、本当に、それが冤罪であろうと何であろうとなかなかそれを晴らすのは難しいですから、だから今の安心、安全な日本社会というのをどう担保するかということを考えた方がいい。

 それで、例えば、先ほど、六本木とかは外人がいっぱいいるからと。これは気をつけてしゃべらないと難しい問題ですよ。これは本当に排外主義につながりますからね。今でも、もちろん私は移民反対ですからね。どれだけ混乱が起こるかわからないと思っているんですよ。けれども、今現在の外国人が入ってくるレベルの中で、非常にナショナリズムが強くなった空間でそれを言い始めると、またヘイトスピーチだの何だのという風潮が助長されてしまう可能性がある。

 非常に危うくて、それをもってして、外国人がいっぱい六本木にいるから、これが日本人と結婚して、それでテロ組織になるかもしれないという、そこまで最悪の事態を次から次に考えていったら、それはもう徹底的に国民の自由を縛る法律が必要でしょう、そこまで行くと、最悪の最悪まで考えると。そうすると、内心の自由が徹底的に侵される、そういう社会になっていくんですよ。

 だから、どこかやはり楽観的な部分も我々は保ちながら、それで、内心の自由の段階で逮捕やら何やらされるとかというような恐ろしい世界じゃなくて、やはり犯罪を実行した段階で取り締まる。あるいは、刑法にも予備罪があるわけですから、そういう予備罪の段階で、準備行為まで罰することはできるという部分もあるでしょう。そういうものをうまく活用して、それでそういうテロ的なものを防ごうというふうに考えていった方が安全だと思いますよ。

 以上です。

松浪委員 ありがとうございました。

 学生時代から「ゴーマニズム宣言」を読んでいる身としては大変光栄でありました。

 最後の質問ですけれども、やはり国民の皆さんの安心というのは大事だと思うので、最後に、それでは井田参考人に、「読書日記」、小林参考人の分で配られたものがあるんですけれども、薬害エイズで、先ほどの例で、厚生省に、人体に影響がない色つきのガスを発生する方法はないかと聞いておけと電話して、こうしたものは今回の法律ではテロ等準備罪の構成要件にかかるか、こういうものは取り締まられるようになるのかどうか、御所見を伺って、終わります。

井田参考人 主体の要件がないので当たらない、該当しないと思います。

松浪委員 できるだけ、国民の皆さんのこうした不安をやはり我々もあおらないように、これからも議論を続けないといけないと思います。

 ありがとうございました。

鈴木委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、参考人御各位に一言御礼を申し上げます。

 参考人の方々には、それぞれ大変な貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。(拍手)

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時三分散会


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