衆議院

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第7号 平成30年4月6日(金曜日)

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平成三十年四月六日(金曜日)

    午前九時三十分開議

 出席委員

   委員長 平口  洋君

   理事 大塚  拓君 理事 門  博文君

   理事 田所 嘉徳君 理事 藤原  崇君

   理事 古川 禎久君 理事 山尾志桜里君

   理事 井出 庸生君 理事 國重  徹君

      安藤  裕君    井野 俊郎君

      上野 宏史君    鬼木  誠君

      門山 宏哲君    神谷  昇君

      神田  裕君    菅家 一郎君

      城内  実君    黄川田仁志君

      小林 茂樹君    斎藤 洋明君

      谷川 とむ君    中曽根康隆君

      古川  康君    山下 貴司君

      和田 義明君    逢坂 誠二君

      松田  功君    松平 浩一君

      源馬謙太郎君    階   猛君

      関 健一郎君    大口 善徳君

      黒岩 宇洋君    藤野 保史君

      串田 誠一君    重徳 和彦君

    …………………………………

   法務大臣         上川 陽子君

   法務副大臣        葉梨 康弘君

   法務大臣政務官      山下 貴司君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    小野瀬 厚君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    辻  裕教君

   法務委員会専門員     齋藤 育子君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月六日

 辞任         補欠選任

  鬼木  誠君     斎藤 洋明君

  小林 茂樹君     神谷  昇君

  柚木 道義君     関 健一郎君

同日

 辞任         補欠選任

  神谷  昇君     小林 茂樹君

  斎藤 洋明君     鬼木  誠君

  関 健一郎君     柚木 道義君

    ―――――――――――――

四月六日

 国籍選択制度の廃止に関する請願(井出庸生君紹介)(第七六八号)

 同(小川淳也君紹介)(第七六九号)

 もともと日本国籍を持っている人が日本国籍を自動的に喪失しないよう求めることに関する請願(井出庸生君紹介)(第七七〇号)

 同(小川淳也君紹介)(第七七一号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 人事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提出第一一号)


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     ――――◇―――――

平口委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、人事訴訟法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として法務省民事局長小野瀬厚君及び法務省刑事局長辻裕教君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

平口委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

平口委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申出がありますので、順次これを許します。谷川とむ君。

谷川(と)委員 おはようございます。自由民主党の谷川とむです。

 本日は、質問の機会をいただき、ありがとうございます。初めて法務委員会で質問させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

 さて、本日は、人事訴訟法等の一部を改正する法律案の質疑ということで、この法律案は人事訴訟法と家事事件手続法に国際裁判管轄を設けるものであり、国際裁判管轄というのは、近年、国際結婚や海外へ移住する者もふえ、それに伴い、国際的な要素がある家族関係の事件が増加傾向にある中で、それら国際的な要素がある事件について、どのような場合に日本の裁判所で審理、裁判することができるのかを定めるものと承知をしております。

 では、まず、典型的にはどのような事件において国際裁判管轄が問題となるのか、お聞かせください。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 委員御指摘のとおり、この法律案は、国際的な要素を有する人事訴訟事件及び家事事件について、いかなる場合に我が国の裁判所が審理、裁判をすることができるか、すなわち管轄権を有するかといったようなことなどにつきまして定めるものでございます。

 国際的な要素を有する事件として、我が国の裁判所が管轄権を有するかが問題となり得る典型的なものといたしましては、例えば、一方又は双方が外国籍を有する夫婦の間におきまして提起された離婚訴訟、外国に居住する者が日本に居住する子を養子とすることについて許可を求める事件、あるいは外国に居住する日本人が死亡した場合の遺産分割事件などが挙げられます。

谷川(と)委員 ありがとうございます。

 では、その離婚の訴えについて、我が国の裁判所にはどのくらいの件数が提起されているのか、また、そのうち当事者に外国籍の者を含む事件はどのくらいあるのか、お聞かせください。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 最高裁判所の調べたところに基づきまして御答弁申し上げますと、我が国の裁判所におきまして、平成二十九年の一月から十二月までの一年間の間に提起されました人事訴訟事件は九千八百二十七件でございますが、このうち離婚の訴えの件数は八千六百五十八件でございます。そして、これらの離婚の訴えのうち、当事者に外国籍の者を含むものは六百十六件でございます。

谷川(と)委員 ありがとうございます。

 では、次に、今般の規定の整備の必要性について議論することを前提として、現在の裁判実務について確認したいと思います。

 現在の裁判実務では、日本の裁判所はどのように国際裁判管轄の有無を判断してきたのか、答弁を求めます。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 国際的な要素を有する人事訴訟事件及び家事事件につきまして、いかなる場合に日本の裁判所が審理、裁判することができるかという国際裁判管轄に関する規律につきましては、現在、人事訴訟法や家事事件手続法には明文の規定はございません。

 このため、これまでは、事件を処理する裁判所が個別の事案ごとに、当事者間の公平や裁判の適正迅速の理念により条理あるいは先例に基づきまして国際裁判管轄の有無について判断をしてきたというものでございます。

谷川(と)委員 ありがとうございます。

 そのような現状、すなわち、国際裁判管轄に関し、これまで明文の規定がなく、裁判所が個別の事案に応じて判断していたということは、当事者の予見可能性に欠け、裁判の審理においてもその存否の判断に多くの時間を要することになると考えております。また、身分関係については、複数の国で異なる裁判、異なる判断がされることによる当事者の不都合を回避する必要性が高いと思われる中で今まで法整備がされていなかったということは、少し驚きであります。

 では、この法律案において、例えば離婚の訴えを含む人事に関する訴えについて国際裁判管轄が明文化されるとなると、どのようなメリットがあるか、お聞かせいただきます。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 人事訴訟事件などの国際裁判管轄法制に関する規律が整備されますことは、国際裁判管轄の有無についての当事者の予見可能性あるいは法的安定性を向上させるものでございまして、当事者間の紛争の減少につながるものと考えられます。

 そのため、この法律案による規律の整備は、裁判所における事件の一層の適正かつ迅速な解決に資することとなるとともに、管轄権の有無が不明確であるとしてこれまで我が国の裁判所への訴えの提起などをちゅうちょしていた、そういった当事者にとりましても我が国の裁判手続が利用しやすいものとなる、こういった効果があるものと考えております。

谷川(と)委員 ありがとうございます。

 今までであれば、当事者に不都合が生じてしまったりとか、また裁判において時間を要することがあったと思いますけれども、今回明文化することによってそのようなものが解決されて、メリットがあるということがわかりましたので、ありがとうございます。

 次に、法律案によれば、離婚の訴えについて、被告の住所が我が国にあるとき、夫婦である原告及び被告がともに日本の国籍を有するときなどのほか、原告の住所が日本国内にあり、かつ被告が行方不明であるなどの特別の事情があるときを管轄原因としていると承知をしております。

 このような特別の事情があるときについても、我が国の裁判所の管轄権を認めるものとしているのはなぜですか。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 ただいま委員の方からお話がございましたとおり、この法律案では、人事に関する訴えについて、身分関係の当事者の一方である原告の住所が日本国内にある場合におきまして、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の公平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別な事情があると認められるときにも、我が国の裁判所が管轄権を有するものとしております。

 その理由でございますけれども、この法律案では、我が国の裁判所に管轄権を認めるのが類型的に相当であると考えられる場合、そういった管轄原因を住所あるいは国籍といった客観的に明確な要件をもって個別に規定するのを基本としております。しかしながら、そういった管轄原因に該当する場合でなくても、原告の利益の保護のために我が国の裁判所で審理、裁判をする必要がある、そういった事例もあり得ると考えられるわけでございます。

 そこで、この法律案では、個別に定められました管轄原因に該当しないために日本の裁判所で裁判を受ける機会が不当に失われる、こういったことを防止する観点から、先ほど述べました特別の事情が認められるときには、我が国の裁判所の管轄権を認めるものとしているものでございます。

 このような規律でございますけれども、これまでの最高裁判所の判決におきまして示されている、そういった考え方にも沿うものでございます。

谷川(と)委員 ありがとうございます。

 特別の事情があるときというものの少し例を挙げていただければ幸いに存じます。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 特別な事情がある場合でございますけれども、条文にも、被告が行方不明等である場合というのがございますが、このほかにも、これはあくまでも一般論ではございますけれども、例えば、原告が外国に住所がある被告に対して離婚の訴えを提起しよう、こういう場合におきまして、原告と被告は外国で生活をともにしていましたけれども、原告が被告による暴力あるいは虐待から逃れるためにやむを得ず日本に帰国したといったような事情があるとき、あるいは、原告が被告に対して離婚の訴えを提起しようとする場合におきまして、被告の住所が外国にあること自体は判明しているものの、被告とは連絡がとれないで、合理的な調査をしても被告の住所を具体的には特定することができない事情がある、こういったような事例が考えられます。

谷川(と)委員 ありがとうございます。

 では、特に離婚訴訟については、これまでの裁判の実務においてはいかなる場合に日本の裁判所に管轄権があるものとされてきたのか、また、本法律案によって、これまで日本の裁判所の管轄権が認められてきた範囲が狭められるという懸念はないのか、お聞かせください。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 現行法のもとでは、人事訴訟事件につきまして、国際裁判管轄を定める規定がないわけでございます。

 こういったような状況のもとで、最高裁判所は、離婚の訴えの国際裁判管轄に関する規律につきまして、当事者間の公平や裁判の適正迅速の理念により条理に従って決定するのが相当であるというように判示しております。そして、身分関係の当事者であります被告の住所が日本国内にある場合のほか、被告が行方不明である場合等に管轄権を認めております。

 現在の裁判実務は、このような最高裁の判決を踏まえて運用がされているものと承知しております。

 他方で、この法律案でございますけれども、離婚の訴えなどの人事に関する訴えにつきましては、まずは、身分関係の当事者である被告の住所が日本国内にあるとき、また、身分関係の当事者の双方が日本国籍を有するとき、さらに、身分関係の当事者双方の最後の共通の住所及び原告の住所が日本国内にあるときなどの具体的な管轄原因を定めておりますし、先ほど御指摘がございましたとおり、原告の住所が日本国内にあって、かつ被告が行方不明であるときなど、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の公平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情があるときにも、我が国の裁判所が管轄権を有するものとしております。

 このように、この法律案の内容でございますが、おおむねこれまでの裁判実務に沿った内容となっておりまして、この法律案によりまして、現在の裁判実務よりも我が国の裁判所の管轄権が認められる場合が狭められる、そういったことはないものと考えております。

谷川(と)委員 ありがとうございます。

 では、次に、家事事件の手続などを定めた家事事件手続法の規定について質問をさせていただきます。

 まず、家事審判について、一般的になじみのあるものとしては遺産分割の審判事件が思い当たります。この法律案では、遺産分割の審判事件についてはどのような場合に我が国の裁判所に管轄権が認められるのか、お聞かせください。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 この法律案では、遺産の分割に関する審判事件につきましては、まず、相続開始のときにおける被相続人の住所が日本国内にあるとき、また次に、相続人の合意によって日本の裁判所に遺産の分割に関する審判事件の申立てをすることができることを定めたとき、この二つの場合に、我が国の裁判所が管轄権を有するものとしております。

谷川(と)委員 今の答弁を聞かせていただくと、相続人全員の合意があれば、日本の裁判所で遺産分割の事件を審理することができるということですよね。

 そうすると、仮に、被相続人が生前一度も日本において居住したことがなく、相続財産が外国にはあっても我が国、日本にはないといった事情がある場合であっても、形式的には、我が国の裁判所においても遺産分割ができる、相続人全員が合意をしさえすれば、我が国の裁判所で審理や裁判ができるということになります。

 このような場合であっても、常に我が国の裁判所に管轄権を認めると、我が国との関連性がない事案についても管轄権を認めることになり、不都合が生じるものではないかと考えますが、いかがですか。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 ただいま委員の方から御指摘がございましたとおり、この法律案によりますと、相続人の全員の合意によって、我が国の裁判所においても遺産分割に関する審判事件の申立てをすることができると定めた場合には、我が国の裁判所に管轄権が認められることとなります。

 そのため、例えば、先ほどの御指摘にございましたとおり、被相続人が生前一度も日本において居住したことがなく、相続人も極めて短期間の来日経験しかない、また相続財産に属する財産も日本には存在しない、こういった日本との関連性がほとんどない事案につきましても、我が国の裁判所の管轄権が認められ得ることとなるわけでございます。

 しかしながら、このように、被相続人の生前の生活関係等に照らしまして、日本との関連性が薄く、相続財産に属する財産あるいは被相続人の相続に関する証拠も日本に存在しない、こういったような事案につきまして、我が国の裁判所において適正かつ迅速な審理を期待することができないもの、こういったものも含まれ得るものになってしまうというふうに考えられます。

 そこで、この法律案でございますけれども、日本の裁判所が審理及び裁判することが適正かつ迅速な審理の実現を妨げ、又は相手方がある事件について申立人と相手方との間の公平を害することとなる特別の事情があると認めるときは、その申立ての全部又は一部を却下することができると規定しておりまして、先ほど申しましたような場合につきましては、例外的に裁判所が申立てを却下することができるものとしております。

 したがいまして、これによりまして、この法律案における管轄原因を定める規定に形式的に該当する場合でありましても、個別具体的な事情に応じて、我が国との関連性がほとんどない、こういった事案につきましては、先ほど述べました法律の規定の適用によりまして適切に対応することが可能となっているものでございます。

谷川(と)委員 ありがとうございます。

 今の説明であると、改正後の法律においても、我が国の裁判所で審理や裁判ができるとされる場合であっても、例外的に管轄権が認められない場合があり、個別具体的な事情に応じた調整が図られているということが理解できました。

 では、逆に、この法律案では、我が国の裁判所が管轄権を有するものとされない場合には、一切我が国の裁判所には管轄権がないものとされてしまうのか。また、例外的であっても、事案によっては、我が国の裁判所に管轄権を認めないと、裁判手続の利用者に酷な場面もあり得ると思いますが、いかがでしょうか。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 家庭に関する事件にはさまざまな事件類型が含まれておりますので、この法律案は、共通の性質を有する事件類型ごとに、事件と我が国との関連性等を踏まえて、適正な審理、裁判ができるものと類型的に考えられる管轄原因を定めております。

 そうしますと、一般論としましては、そういった管轄原因が認められない場合には、我が国の裁判所がその事件について審理、裁判をしなくても、正義、公平の理念に反することはないというふうに考えられます。

 しかしながら、そのような場合でありましても、個別具体的な事案によっては、我が国の裁判所の管轄権を否定することが正義、公平の理念に反し、不当な裁判の拒否に当たるような場合があり得ます。

 このような場合に対応するものといたしまして、事案の事情に照らして、例外的に、解釈によって、いわゆる緊急管轄として我が国の裁判所が管轄権を有するとされることはあり得るものと考えられます。

 いかなる場合にこの緊急管轄が認められるのかにつきましては、裁判所が個別具体的な事情に基づいて判断することとなると考えられます。

谷川(と)委員 今後、我が国社会、そしてこれを取り巻く環境は、国際化が進展する中、我が国で生活する外国人も年々増加していくのではないかと思われます。そうすると、人事訴訟法や家事事件手続法に国際裁判管轄の規定が整備されることによって、外国籍の方が我が国の裁判手続を利用したいと考える機会も多くなることが考えられます。

 そのような中で、今般の法整備がされるだけで満足するのではなく、やはりそのような方々にも実際に裁判手続を利用することができる環境整備も重要ではないかと考えますが、そこで、最後に、そのような環境整備の現状と今後の取組について、上川大臣の御所見をお願い申し上げます。

上川国務大臣 委員御指摘のとおり、法律案により、人事訴訟事件などの国際裁判管轄、この規定の整備によりまして、我が国の裁判所への訴えの提起等をちゅうちょしていた外国籍の方にとりましても、我が国の裁判手続が利用しやすいものになる、そうした効果があるというふうに考えます。

 もっとも、外国籍の方にとりましては、実際に我が国の裁判手続を利用しやすくするためには、言語の障害なども意識した環境整備が行われることが重要であるというふうに考えております。

 裁判所における手続につきましても、そのホームページにおきまして、英語で手続を紹介するページを設けられているほか、人事訴訟事件、家事事件に関しまして、家庭裁判所における手続の流れにつきましても、英語で説明したパンフレットが公開されているものと承知をしております。

 また、日本司法支援センター、通称法テラスでございますが、現在の取組といたしましては、民事法律扶助といたしまして、一定の資力要件等を満たす場合には、日本国内に住所を有し、適法に在留する外国人に対しましても、弁護士費用や、また通訳費用の立てかえ等の支援を行っております。

 そして、弁護士会におきましても、日本語以外の言語で法律相談をすることができる体制をとっている、そうした弁護士会もあると承知をしております。

 本法律案が成立をいたしまして、国際裁判管轄の規定が整備をされることを契機として、以上のような関係機関によりましての取組が更に進むことを期待しておりまして、法務省としても、必要な協力をしてまいりたいというふうに考えております。

谷川(と)委員 ありがとうございました。

 時間が参りましたので、質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

平口委員長 次に、松平浩一君。

松平委員 おはようございます。立憲民主党の松平浩一です。

 本日は、外国裁判の確定判決の承認というテーマについてお伺いしたいと思います。

 今回、家事事件手続法の七十九条の二が改正されようとされています。それで、内容としては、家事事件においても、外国裁判所の確定判決について民事訴訟法百十八条の規定を準用するという形の改正になっています。

 そこで見るに、では、百十八条は何かというと、外国判決はその百十八条の要件を満たせば承認がされまして、この承認がされれば外国判決の効力が日本に及ぶ、そういったものになります。

 それで、今回、この百十八条の承認の条項が準用されることになったんですけれども、ここで、この家事事件手続法でそれを準用した趣旨について、まず大臣にお聞きしたいと思います。

上川国務大臣 委員御指摘のとおり、まず、この法律案でございますが、外国裁判所の家事事件におきまして確定した裁判につきましては、その性質に反しない限り、民事事件についての外国裁判所の確定判決の効力に関する民事訴訟法第百十八条の規定を準用するということでございます。

 一般に、国際的な要素を有する家事事件につきましては、ある国の裁判所でされた裁判が他国で効力を有しないということになりますと、それぞれの国で異なる内容の判決がされるといった、当事者やまた利害関係人にとりまして不都合な状況が生じ得るものでございます。

 そこで、現在の実務におきましても、民事事件についての外国裁判所の確定判決の効力に関する民事訴訟法第百十八条の規定を準用ないし類推適用し、家事事件についての外国裁判所の確定判決についても我が国でその効力を認めることとしております。

 本法律案におきましては、この家事事件についての外国裁判所の確定判決につきましても、このような解釈を明文化するということをしたものでございます。

松平委員 どうもありがとうございます。

 今回、今、明文化したということで、外国裁判が承認されるために、百十八条の一号から四号まで満たす必要が出てくることになるのだと思います。

 そこで、この一号から四号の承認の要件について、こっちもちょっと御説明をお願いしたいなと思います。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 民事訴訟法第百十八条でございますけれども、外国裁判所の確定判決は、法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること、敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達を受けたこと、判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと、相互の保証があること、このいずれも全てを具備する場合に限りまして、その効力を有すると規定しております。

 それぞれの要件でございますけれども、まず、いわゆる間接管轄と呼ばれているものでございますが、こちらの方は、我が国の国際民事訴訟法の原則から見まして、当該外国裁判所の属する国がその事件について国際裁判管轄を有すると認められることを要求するものと解されております。

 また、敗訴被告に対する送達等の要件でございますが、こちらの方は、敗訴被告が外国の訴訟手続開始の段階におきまして自己の利益を守る手続関与の機会を与えられたか、又はみずから応訴することによってその機会を持ったことを要求するものと解されております。

 また、いわゆる公序の要件でございますが、こちらの方は、外国判決の内容及びその前提となる訴訟手続が我が国の公の秩序又は善良の風俗に反しないことを要求するものでございます。

 最後に、いわゆる相互の保証という要件でございますが、これは、我が国が外国判決を承認するのと同様に、当該外国も我が国の判決を承認することの保証があることを要求するものでございます。

 判例におきましては、この要件を比較的緩やかに解しておりまして、外国裁判所の属する国において当該判決と同種類の我が国の裁判所の判決がこの条文の各号所定の条件と重要な点で異ならない条件のもとで効力を有するものとされている場合には、この要件を満たすものと解されております。

松平委員 どうも御説明ありがとうございます。

 今、四要件、御説明いただいたんですけれども、私が実はここで問題にしたいのは最後の四つ目の要件なんですね。四号の相互の保証という要件についてです。

 それで、こちらの相互の保証というものが要件となると、相互保証があるかどうか、つまり、外国において日本の裁判が同じ条件で承認されるかどうかということを確認する必要が出てきます。この確認の主張、立証の作業は誰がすることになるのでしょうか。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 この相互の保証の有無につきましては、一般的に裁判所が当事者の申立てを待たずにみずから進んで調査、判断すべき職権調査事項と解されておりますが、裁判の実務におきましては当事者により具体的な主張、立証が行われているものと考えられます。

松平委員 ありがとうございます。

 実務においては当事者の具体的な主張、立証が必要となるとなると、ちょっと当事者にとっては大変なところが出てくるのかなというふうに思います。

 それでは、この相互保証について、相手の国に実際にあるのかどうかというところなんですけれども、一般的には、米国のカリフォルニア州であるとかニューヨーク州であるとか、ネバダ州、ハワイ州の判決においては相互保証があるというふうに言われています。

 これに対して、私もベルギーで裁判したことがあるんですけれども、ベルギーは相互保証がないというふうに言われています。また、一般的には中国も相互保証がないというふうに言われています。

 つまり、これは、相互保証を厳格に考えると、例えば、ベルギー人と日本人が結婚しまして、それで離婚したくなってベルギーで離婚裁判をやって、それで離婚が認められましたということになっても、相互保証がないので日本では効力が及ばないということになってしまいます。

 それで、このような相互保証の要件について、諸外国でも、外国判決の効力を認める際に相互保証の要件というものを要求しているのかどうか、これを私の方でちょっと調べてみたんですが、要求している国と要求していない国というのがありまして、ドイツは半々なんですが、オーストリアですとかスイスであるとかフランスでは相互保証を要件としていないようなんです。

 なぜ我が国は、ここでそのまま準用することにして、相互保証を要件とすることにしたのでしょうか。この相互保証の要件を設けた趣旨からお伺いできればというふうに思います。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 相互保証の趣旨ということでございますので、まず、相互保証といいますものは、民事訴訟法に規定されているものでございます。

 そこで、民事訴訟法がなぜこの相互保証を要求しているのかという点について答弁させていただきますと、外国裁判所の判決でございますが、これは当該外国の司法権の行使として行われるものでございまして、本来的にはその効力はその外国の国内のみで認められるべきものでございまして、当然には我が国においてその効力が承認されるものではございません。

 民事訴訟法の第百十八条でございますが、こういったことを前提として、国家が互いに対等である、こういった観点から、外国裁判所の確定判決の効力を我が国で認めるためには、その当該外国においても我が国の裁判所の判決の効力が同様に認められることを要求するのが相当である、こういった考え方に基づきまして、承認要件として相互の保証を要求しているものでございます。

松平委員 どうもありがとうございます。

 簡単に一言で言うと、国家間の公正みたいな概念になるのかなというふうに思うんです。

 確かに、取引関係の訴訟であれば、財産執行を終局的には予定していますので、国家間の公正というものを考える必要というのはあると思うんです。それはわかるんですけれども、今回のような家事事件においては、個人の生活であるとか家族であるとか身分というものを扱う分野ですので、国家間の公正でやるという意味合いは余りないのではないかなというふうに思ったりもいたします。

 ところで、ちょっとペーパーを用意したんですが、こちらのペーパーを見ていただきたいんですが、外国の非訟事件の確定裁判の承認について、東京高裁の平成五年十一月十五日判決というのがございまして、本当に抜粋で、要約してちょっと言いますと、非訟事件の裁判に関しては、民訴法の百十八条は直接的には適用されないけれども、ごめんなさい、もとは二百条となっていますね、これは改正されたので百十八条なんですけれども、これの一号及び三号の要件を満たすときは承認されますよというふうに判示されています。

 これは、一号は外国裁判所が管轄権を有することで、三号は我が国の公序良俗に反しないことという要件ですので、四号の相互保証というものは要件とされていない判決になるんです。

 それで、今回、相互の保証を要求したということは、こういった過去の判例よりも要件を追加したことになるということになるのだと思います。

 ちょっとまとめますと、先ほどおっしゃっていただいたその趣旨、国家間の公正という趣旨からは、今回の民事間の身分を扱う分野には当てはまらないのではないかという点、他の国では相互保証がない国も多いという点、主張、立証の点で当事者の負担になるだけという点、それから過去の判例にもこれにちょっと違うような判例も出ていますよという点、こういった点から考えると、これは、この相互保証を要求する、そのまま要求することを準用するのではなくて、この相互保証の要件というのはもしかして不要なのではないか、むしろ準用しない方がいいのではないかというふうに思ったりもするんですけれども、この点、いかがでしょうか。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 この法律案では、先ほど申し上げましたとおり、外国裁判所の家事事件についての確定した裁判につきましては、その性質に反しない限り、民事訴訟法第百十八条の規定を準用としております。したがいまして、相互の保証も必要になるわけでございます。

 現行のこの解釈でございますけれども、御指摘のような裁判例はあるということでございますけれども、現在の実務におきましては、外国裁判所の家事事件についての確定した裁判につきましても、民事訴訟法第百十八条の準用ないし類推適用を認めて、その要件として、百十八条の各号の要件を全て満たす必要があるという解釈が有力であるというふうに私ども認識しております。

 この法律案は、こういった現行法の解釈を明文化する趣旨で、民事訴訟法第百十八条の規定を準用するとしているものでございます。

 先ほど申し上げましたとおり、民事訴訟法百十八条四号が相互の保証があることを要件としておりますのは、外国の主権の一部であります司法権の行使として行われる裁判所の判決は、当然には我が国においてその効力が認められるものではないために、我が国において外国裁判所の確定判決の効力を認める前提として、当該外国においても同様に我が国の裁判所の判決の効力が認められるということを要求するのが相当だということでございます。

 外国の裁判所の家事事件に関する裁判も、民事事件の判決と同様に、やはりこれも当該外国の主権の一部であります司法権の行使として行われるものでございますので、そういう点では、我が国においてその効力は当然には認められるものではないという意味で、外国裁判所の民事の判決と家事事件に関する裁判とで本質的な違いはないものと考えております。

 そのために、この法律案におきましては、家事事件につきましても民事訴訟法の百十八条の規定を準用することとしたものでございます。

松平委員 どうもありがとうございます。

 民事の判決と家事事件で本質的な違いはないというふうにおっしゃったんですが、そうなのかなというふうには思います。

 やはり、ほかの国で要求していない国もあったり、ほかの国で離婚が認められて日本で認められないみたいなことというのもどうなのかなというふうに思ったりしますので、もうちょっと議論してもいいのかなというふうにも思ったりもしました。

 この点、もしよろしければ、大臣、所感をお伺いできればなと思うんですが、いかがでしょうか。

上川国務大臣 相互保証の必要性につきまして、委員のお考えにつきましては、そうした意見もあるということで承知をしているところでございますが、先ほど刑事局長が答弁したとおりでございまして、外国裁判所の家事事件につきましての裁判も民事事件の判決も、いずれも国家の司法権の行使として行われることに照らせば、家事事件の裁判につきましても民事事件の判決の承認要件となる要件を定めることについて、慎重な検討、こうしたことが必要となるのではないかというふうに思っております。

松平委員 どうもありがとうございます。

 きょう、ほかのトピックもありますので、ちょっとこの辺にさせていただきたいなと思います。また後日改めて、この問題を提起できる場で提起させていただければなと思っております。

 さて、今までのお話というのは、外国判決が出たときに、民訴法百十八条を準用して、それが承認されたら日本に効力が及ぶという話だったんですけれども、では、取引に関する紛争で、一般的に、外国判決が出たときに既に別の判決が日本で出ている場合、こういった場合というのはどうなるのでしょうか。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 民事事件に関します外国裁判所の確定判決が我が国におきまして効力を有するか否かは、民事訴訟法の第百十八条各号の要件を満たすか否かによって判断されることとなります。そして、御指摘のように、外国裁判所の判決が例えば既に存在する日本の裁判所の確定判決と矛盾する場合には、我が国の公の秩序に反するか否かが問題となります。

 この点につきましては、最終的には解釈問題ということになりますけれども、日本の裁判所の確定判決が既に存在する以上、その後に外国の裁判所でこれに矛盾する判決がされて、それが確定したといたしましても、この裁判所の確定判決は、日本の公の秩序に反するものとして我が国においては効力を有しないこととなるものと考えられます。

松平委員 どうもありがとうございます。

 そうですね、既に判決が出ているのに、改めて承認されたらやはりおかしいことになる話なのかなというふうに思います。

 それでは、これに対して、両方でまだ判決が出ていない場合、こちらはどうなるのかという問題が出てくるのかなというふうに思います。いわゆる国際訴訟競合と言われている問題です。

 つまり、実質的に同一の紛争が、同じ紛争が国内の裁判所と国外の裁判所で同時に係属している状態、これを国際訴訟競合というんですけれども、今は、国際的にも、ビジネスも人の交流もふえてきているので、そういった国際的な紛争というのはどんどん増加しておりまして、同時に、国際裁判管轄も複数国で認められることもありますので、今話したような、二つの国で訴訟が係属するという状態というのは実際に結構あるのかなというふうに思っています。

 この国際訴訟競合、同じ訴えを二つの国で訴える動機としては、例えば被告の財産がいろいろな国に所在している場合、これはそうなんです。それから、ある国で被告を訴えて、ほかの国でも訴え、ほかの国でも訴えといって、いろいろなところで訴えて、被告に応訴の負担を課して、ちょっと有利に訴訟を進めよう、そういった場合もこの国際訴訟競合が起こってくる場合になると思います。それから逆に、ある国で訴えられた被告が別の国で逆に訴えるというパターンもありまして、これはどういうことかというと、先に訴えられた地が、先に訴えられた場所が被告にとって不利な場所であった場合、自分に有利な場所で訴えてしまう、それで、そちらで先に勝訴判決をとっちゃう、そうなると、最初訴えられた場所で負けても執行を阻止できる、そういった場合が考えられると思います。

 こういう国際訴訟競合を規律する明文というのは、現在あるのでしょうか。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 委員御指摘のとおり、ある財産権上の訴えが外国の裁判所にも提起され、また日本の裁判所にも提起されまして、それぞれの裁判所が独立に審理、判決するということになりますと、外国の裁判所と日本の裁判所で内容が矛盾する判決がされるおそれがあるなどの問題が生じます。

 これを避けるために、一定の場合に、後から訴えが提起された日本の裁判所の訴訟手続を中止するなどの、こういった規律を設けるべきか否かが問題となり得ますが、我が国の民事訴訟法にはこういった国際的訴訟競合に関する明文の規定はございません。

 このため、同一の事項に関する訴訟が日本の裁判所と外国の裁判所に二重に提起された場合には、日本の裁判所がその事件の審理を進めるか、外国の裁判所の審理状況を見守るかといった点について、現状では、個別具体的な事案において、裁判所の訴訟指揮に委ねられているという状況でございます。

松平委員 ありがとうございます。

 現状では、裁判所の訴訟指揮に委ねられている。つまり、明文では、ないということになるのかなというふうに思います。

 日本の民訴法百四十二条に、二重起訴の禁止という条文がございますけれども、こちらは外国裁判というものは該当しないという理解でおります。

 明文がないということなんですけれども、この国際訴訟競合については弊害もあるというふうに思っております。

 それはどういう弊害かというと、当事者は、やはり訴訟費用を二重に負担しなければならない、二重どころか、いろいろな国で訴えられたらその国ごとに負担しなければならない。それから、訴訟経済、つまり、我が国の裁判所も限界があるので、人員ですとか場所的な部分においても限界があるので、審理の重複になったら負担が増すだけなのかなという点ですね。それから、結局のところ、終局判決になった場合に内容が矛盾する判決が言い渡されるおそれがあるという点です。

 このような弊害があるというふうに考えられるんですけれども、その弊害を踏まえて、法務省として、どういったお考え、立場をとっておられるかということをお聞きしてもいいでしょうか。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 財産権上の訴えについて、国際裁判管轄法制が整備されました平成二十三年の民事訴訟法の改正の際に、国際的訴訟競合に対応するために、例えば日本の裁判所の訴訟手続を中止するための規律を設けるべきであるか、こういったことが検討されました。

 しかしながら、当時の議論では、最終的には、そのような明文の規定を設けるのではなく、個別具体的な事案における裁判所の運用に委ねるのが適当であるとされたものでございます。

 その主な理由といたしましては、まず、その当時の裁判実務では、先ほど申し上げましたとおり、裁判所の実務において、それぞれの審理の進行状況等を考慮しつつ、弁論等の期日の間隔を調整するなどの柔軟な対応がされており、特段の規定がなくても、国際的訴訟競合の問題に適切な対応をすることが可能であるというふうに指摘されておりました。

 また、国際的訴訟競合が生じている場合でございましても、その訴訟の進行状況等はさまざまであることが想定されますところ、日本の裁判所の訴訟手続を中止すべきか否かはそういったような状況にも左右されるものでございます。

 そういったことからしますと、中止すべき一定の場合を一律に定めるのは困難である、こういったような指摘もされていたところでございます。

 こういったことを踏まえますと、民事訴訟法に国際訴訟競合に関する規定を設けるべきであるかどうかにつきましては、ただいま申し上げました議論の状況等も踏まえた上で慎重に検討する必要があるものと考えております。

松平委員 一度御検討されて、現実問題として、運用で柔軟に訴訟指揮されているということかと今お伺いしました。

 私も、弁護士として案件をやってきた感覚からは、国際訴訟競合、結構多いというふうに感じていまして、特に多いのは、外国で給付訴訟があった場合に、これは反対に、日本で、外国の給付訴訟の給付請求権がないことを確認する、消極的確認の訴えを起こすという形が結構ふえてきているのかなというふうな実感があります。

 こういった国際訴訟競合の場合に、判例はどうだったかといいますと、判例もいろいろありまして、特にそういった国際訴訟競合の観点は無視しちゃって考慮しなかったという事案もあれば、外国の裁判所での訴訟係属を、いろいろ自国の裁判所の管轄決定の中で比較考量して考えた事案もあれば、それから確認の利益に関する一般論から結論を出した、そういった事案もあれば、さまざまな立場で判例も考えているように見受けられます。

 そして、もちろん運用で柔軟にされているんでしょうけれども、こういった形で、判例も統一されていない、それで明文もないといった場合に、国際訴訟競合が起きて、日本での自分の訴えはどうなるのかと当事者もやはり不安になっちゃうんじゃないかなというふうに思うんですね。

 裁判所の訴訟指揮といっても、裁判官によっても考えはさまざまですし、このような場合は訴えが認められてこのような場合は訴えが認められないというふうなことになると、なかなか当事者は、済みません、繰り返しで恐縮ですけれども、不安定な地位に置かれてしまうということですので、この際、立法して明示してしまった方がいいんじゃないかというふうにも考えるんですけれども、大臣からこの点、御所感をちょっとお伺いしてもよろしいでしょうか。

上川国務大臣 財産権上の訴えにつきましての国際裁判管轄の競合の問題ということで一連の御質問がございましたし、また、委員の実体験を踏まえましての問題提起及び意見提起ということで受けとめさせていただきました。

 今回の改正につきましては、国際的訴訟競合に対応するために明文の規定は設けていないわけでございますが、先ほど局長からの答弁のとおり、この審議につきましても、議論の過程の中で、明文すべきかどうかということにつきまして議論がなされたものであると承知をしているところでございます。二十三年の民訴法改正の議論、こうした状況等もしっかりと踏まえた上で、慎重に検討する必要があるものと考えております。

 そして、先ほど答弁のところでちょっと一字だけ訂正させていただきますが、本来ならば民事局長と答弁すべきところを刑事局長と申し上げたところを訂正させていただきます。

松平委員 どうもありがとうございます。

 そうですね、慎重に御検討ということなんですけれども、時代はやはり変わってきて国際化がこれからどんどん進んでいく、そうなると国際訴訟競合もどんどんふえていく。一方で、我が国の裁判所も裁判官の人数がふえていないといった問題もありますので、裁判所の負担も少なくするためという部分でもぜひとも積極的に御検討をお願いしたいなというふうに思っております。

 それから、最後に、今回の法案に関して言うと、人事訴訟事件と家事事件については、今話した取引上の紛争、ビジネス上の紛争と比べて、もっと訴えを認めないなどとする必要性は高いんじゃないかなというふうに思っています。

 というのは、取引上の紛争ですと、こちらの国では認められてもこちらの国では認められないといっても、ごめんなさい、しょせんと言っては言葉は悪いかもしれないですけれども、お金の問題なんですけれども、人事訴訟とか家事事件については、身分上の問題ですので、国際的に不統一な身分関係が発生するというのはもっとどうなのかなというふうに思ったりもするんです。やはり子供にとって、この国ではその子供にとって彼はお父さんなんだけれども違う国ではお父さんじゃないというのは、その人の人生にかかわるので、非常にこれはつらいんだというふうに思うんです。

 そういう意味で、ちょっと私の方で見ると、今回の改正をするに当たって中間試案が出ておりまして、それを見てみますと、その中間試案で、甲案として、ちょっと長いので省略して読むと、家事事件で国際訴訟競合があるような場合、そのような場合は、日本の裁判所は、申立てにより又は職権で、一定の期間、訴訟手続又は家事事件の手続を中止することができるという案がありました。

 今回の法案を見てみると、この案は採用されていないようなんですけれども、もう質疑時間が終了なので、その理由をちょっと聞こうと思ったんですが、もうこれで省略させていただきまして、やはり今申しましたように、人事訴訟とか家事事件についてはもっとその必要性が高いので、この甲案、手続中断という措置は、一方の訴訟を却下してしまうという措置よりも随分とマイルドな措置だと思うんですね、柔軟な結論を導ける措置だと思うので、私としては、この中断という措置について、この甲案について採用してもいいのかなというふうに思ったので、その旨、ちょっと最後に御意見申し上げたいと思います。

 今後、グローバル化がどんどん進んで国際訴訟競合もどんどんふえてくることが予想されますので、当事者の身分の安定というもの、それから予測可能性を保つということは大事ですので、ぜひとも積極的な検討をお願いしたいなというふうに思っております。

 それで私の質問を終わりたいと思います。どうもありがとうございました。

平口委員長 次に、井出庸生君。

井出委員 希望の党、信州長野の井出庸生です。

 前回も申し上げましたが、やはり公文書のあり方がこの国会は問われている。問題が発覚している省庁のみならず、法務省を含めた政府全体が、公文書の重みや価値というものを考えていただきたい。

 私が申し上げたいのは、公文書というものは、省庁の私物ではない、広く国民のものであって、将来、国民が過去について学び、よりよい社会を希求していくための資料でもございます。一連の出来事ということは決してあってはならないことでありますし、また、省庁の都合だけで廃棄するというような、そのような制度もどうなのかということを感じているところであります。

 そこで、法案質疑の前に、少し前回のところ、続きを伺っていきたいんですが、前回、刑事参考記録という、刑事裁判記録の中でも重要中の重要な記録が、この五年間だけで十四件廃棄をされていたと。余りにも衝撃を受けて、ふだんから拙い質疑ですが、その後の質疑、私も激しく驚き、動揺したんですが。

 刑事局長に伺いたいんですが、これまでに刑事参考記録を廃棄したということを公表したり、国会で答弁したことはあったでしょうか。

辻政府参考人 ただいまのお尋ねでございますが、廃棄について公表したかと。ちょっと現段階で承知しておりませんので、申しわけございませんが。

井出委員 国会の会議録は、私は、昭和六十年の十月二十三日、刑事記録を保管する法律の審議は昭和六十二年に行われているんですが、その後の議事録というものは全部読みました。廃棄の事実を公表したことはございませんし、法務省としても、恐らく、刑事参考記録というものを何件廃棄したと、廃棄した事実すら、情報公開請求等にも、また、法務省の方から積極的に公表してきたということは一度もなかったと私は承知しておりますが、恐らく感覚的にはそうじゃないかと思いますが、長い御経験でいかがですか。

辻政府参考人 ただいま申し上げたとおり、刑事参考記録を解除した上で廃棄した事実を公表したかどうか、ちょっと承知はしてございませんが、ただ一点、刑事参考記録の指定解除という仕組み自体は平成二十五年に設けておりますので、それ以前にはその解除、したがって、その廃棄という事実自体がないのではないかというふうには考えてございますけれども。

井出委員 今少し重要な答弁があったかと思います。その答弁に触れる前に、この問題がどれだけ大事な問題であるかということを、きょうお配りした資料で説明をしたいと思います。

 裁判記録というものは、刑事確定訴訟記録法によって管理をされていて、この法律は、明治十五年以降の文書について適用されている。明治十五年以降の刑事裁判記録というものは、原則この法律で管理され、最も大切な点は、全て検察庁が原則的に保管をし、そしてまた、その閲覧は大変厳しく制限されているということです。

 下の青いライン二本を見ていただきたいんですが、例えば一八九〇年でも結構ですが、ある事件で死刑判決が確定したとする。死刑判決の判決書というものは保管期間が百年間なんですね。その百年たったときに、保管期間ですから基本的には廃棄をするんですけれども、それでもなおとっておく重要な資料かどうかというところを検察庁が判断して、それで重要だ、とっておこうとなったものが、私が再三言っている刑事参考記録なんです。

 それが、では、一体いつまで保存、今、保存されているのか、されていないのか、また、何がそれに指定されているのかすらも今まではわからず、私も、前回、廃棄が五年で十四件あったこと、その数字だけをもって、何か物すごいこれは重大問題だとまで言い切るつもりはないんですが、ただ、重大問題とは言い切れない、ほかの一体どういう事件が廃棄されたのかとか、どういう基準でとっておいているのか、そういうことすらも一切明らかになっていないから、問題提起をさせていただいている。

 判決書以外の記録というものは、刑事参考記録にする前の保管期間は五十年ですから、この時間の長さ、スパンから考えれば、廃棄のリスクも高くなる。

 上の緑のラインに行っていただくと、これは殺人事件無罪判決確定と書いてありますけれども、無罪事件というものは、判決書も、それに付随する記録も十五年の保存期間しかない。

 無罪事件というものは、もう御存じのとおり、日本の裁判において、特に重大事件は件数は極めて少ないんですね。そのこと自体が、私は、後世にも検証にたえ得るようにしなければいけないし、後世の記録として残しておかなければいけないと。それがどうなっているかわからない。それだけ刑事参考記録というものは重要である。

 先ほど、平成二十五年に、この刑事確定訴訟記録、文書を管理する法律のその下にぶら下がっている規程、それを改正して、解除ができるようになったというような話があったかと思いますが、これまでの議事録を全部ひっくり返してみても、解除ができるということすらも、国会では、法律制定時、答弁がなかった。

 私は、ですから、大体、百年も五十年も保管して、それでも大事だからといって刑事参考記録にするものは、立法の趣旨からいって、基本的には全部とっておく、それは大きい災害とかが来て紛失することはあるかもしれないけれども、捨てることはない、そういう立法趣旨で、この法律、今までやってきたんじゃないんですか。そのことをちょっと教えていただきたいと思います。

辻政府参考人 ただいまのお尋ねでございますが、まず、ちょっと前提となる事実についてでございますけれども、このいただいた、ただいまの資料で、判決書の方の殺人事件死刑判決確定という方でございますけれども、死刑、あるいは懲役、禁錮以上の有罪判決が出たものの判決書につきましては、保存期間経過後も、特別処分として一律に保存しているということでございます。記録事務規程に言うところの特別処分ということでございます。

 それから、記録の方は、別途それぞれに、五十年保管、殺人事件の場合は五十年保管ということでございますが、それにつきましては、御指摘のとおり、刑事参考記録として保存する場合があるということになってございます。

 では、永久に保存するという趣旨ではないのかということではございますけれども、保存したときの趣旨等に、というか、時の経過等々によりまして、保存の必要がないという場合には解除が相当のものもあるのではないかということで、解除ということもあり得るというふうに考えているところでございます。

井出委員 冒頭に刑事局長が補足されたのは、死刑やそういう重大な判決の判決書については今もとってありますということなんですね。それはそれで一つよしとする考え方もありましょうし、ただ、その判決に至る、その判決を決めるに至る重大な記録が、例えば百年前の死刑を出す裁判でどれだけの証拠が整って死刑というものが言い渡されていたのか、今の裁判と比べてどれだけ精緻な立証がされていたのか、そういうことの研究材料の一つにも私はなると思うんですね。

 質問の答えをいただいたところで、時の経過等により必要がなくなれば解除ができると。ただ、それでも、いまだもってなお廃棄ができるとはおっしゃらないわけですね。

 ただしかし、そもそも、法律を制定したときの議論、法律をつくったときは、刑事参考記録は解除できる、そういうことを想定はしていなかった。いつからどういう理由でそれを解除できるようにしたんですか。

辻政府参考人 先ほどの答弁にちょっと補足させていただきますと、平成二十五年に解除の規定を整備したという趣旨でございまして、ちょっと若干あれでありましたら訂正させていただきたいと存じますけれども、平成二十五年に解除の手続的なものを整備した、通達で整備したわけでございますが、考え方といたしましては、それ以前から解除は可能と考えられていたということでございますが、その特段の手続規定というものが明確化されておらなかったので、それを明文化したという趣旨でございます。

井出委員 今おっしゃるように、解除ができるようにしたというのは、平成二十五年三月十九日、法務省刑事局長名で検事総長、検事長、検事正に宛てた依命通達、そこによって解除規定を明文化しているんですが、従前から解除ができる、そういう考え方に立ったのはどうしてなんですか。

辻政府参考人 ちょっと現段階で定かでないところもございますけれども、刑事参考記録は、御承知のとおり、刑事法制あるいはその運用あるいは犯罪の研究等々に資するものということで、確定訴訟記録法上、要件と申しますか、基準が定められているわけでございますが、先ほども申し上げましたように、時の経過等によってはその保存の必要がなくなるということも考えられるという趣旨で、解除ということもあり得るという考え方をとっているものと考えてございます。

井出委員 解除をすることは時の経過だというぐらいしか今明確な理由はなかったかと思うんですが、それでも、いまだに廃棄が可能だとまではおっしゃらないんですよ。

 刑事参考記録として保存する必要がないから解除すると。それをまたとっておく手も規定上あるわけですよね、さっき触れられた特別処分という手で。それをしなければ、残り、消去法の選択として廃棄というものがあるかもしれませんけれども、その廃棄を、廃棄があり得るとか、廃棄が考えられるといったことは、きょうも一度も言っていないし、今までも一度も言ってきていないんですよ。それだけ廃棄をしないためにとっておくのがこの刑事参考記録という制度じゃなかったんですか。

辻政府参考人 御指摘の趣旨を十分把握できているかどうかあれでございますけれども、刑事参考記録の制度自体は、御指摘のとおり、廃棄せずに保存をするという、保管、いわゆる一律の保管期間を過ぎても保存をするという制度趣旨であるというふうに考えております。

 ただ、その必要性がない、刑事参考記録として保存する必要性がないと判断される場合もあり得るのではないかということで、その解除が考えられるということであると考えておりますけれども、では、解除された場合にどうするかということでございますが、そこは刑事参考記録としての保存の必要性はないということでありますので、選択肢としては、今御指摘になったような特別処分として更に自庁の参考等々のために保管するという道も当然ございましょうし、あるいは、公文書管理法で言うところの歴史資料として、重要な公文書等である歴史公文書等に当たるか当たらないかというのも、当然、その段階で、指定の解除の段階で判断するということになります。

 それらの該当性がなく、それらのいずれの処分の必要もないということになれば、あとは廃棄ということになるということだと考えてございますが。

井出委員 刑事参考記録という、とっておくことを使命として、そういう制度があって保管をしてきた。刑事参考記録として保存する必要はなくなったケースが出てくることがあり得る。それでも、特別処分としてとっておくこともあるし、公文書館に入れるということもあるし、その二つにも該当しないんだったら廃棄というお話が今あったんですが、そもそもとっておくために刑事参考記録に指定をしているんですよ。それを廃棄するということは、だったら、どうして指定したのかという話にもなりましょうし、これは別に、辻さんが何か問題を起こしているわけでは決してないんですよ、制度の問題ですから。それで、それだけ重要だという刑事参考記録をなおもとっておくか。なおもとっておくといっても、検察庁の中にあって誰も見れないんですから、それはそれで問題だと思うんですけれども。国立公文書館に移管するか。

 私は、廃棄するしないというのは、もうよっぽど必要性がなくて、物理的に、空間的にとっておいてもしようがないみたいなこともあり得るかもしれないとは思うんですよ。だけれども、必要ある、必要ないというのは、それは皆さんの判断も大事です。だけれども、広く国民の、足りない足りないと言われている公文書の専門家、アーキビストが見たら、いや、これは必要だと言うかもしれない。刑法の専門家が見たら、いや、こういうことが昔はあったのか、必要だと言うかもしれない。

 だから、私は、それだけとっておくことが重要だといって制度化してきた刑事参考記録というものは、やはり基本的にはとっておいて、場所が足りないのであれば公文書館に移管する、それが一つ重要だと思うんですね。

 前回は、ただ、刑事文書というものは大変機微に富んだ難しいものだ、検察官がずっと責任を持って裁判をやってきた組織でもあるから、管理することが不可欠だったというお話があったんです。

 私は、検察官の関与を全く否定するつもりもないんですよ。公文書館に移しても、何か、それを見たいという人が出てきたときは検察官が意見を述べるとかでもいいですし、ただ、百年も五十年も前の出来事を、ここまでとっておくという制度をつくってとっておいてきたものを検察庁の一存で捨てるということは、それは日本の刑事司法の歴史の資料の重大な損失だと思うんですね。

 今お話ありましたけれども、ちょっと重大な答弁が最初に出たんですが、平成二十五年以前は解除をしていないんじゃないか、明文化規定されたのはそのときだからと。それは正しいんですか。

辻政府参考人 申しわけございません。

 行政文書の保管期限等の関係もございまして、解除があったかなかったかは、それ以前の正確なところは確認できていないというのが実際のところではございます。

井出委員 仮に二十五年以前に指定の解除や廃棄がないというのであれば、この間もお話があった十四件が廃棄されただけということになろうかと思いますので、それは一つ問題を感じつつも安心できる材料でもあるのかなと思いますが、そこを、今まで私、昨年から内々にお願いをしてきているんですけれども、もう一度調べていただけませんか。

辻政府参考人 御指摘でございますので検討させていただきたいと存じますけれども、ただいま申し上げましたように、行政文書としての保管期限等々の関係もあろうかと思いますので、実際のところ、確認できるかどうかというのは、ちょっと検討させていただければと存じます。

井出委員 少し大臣に、感想で結構ですので伺っておきたいんですが、私なりにきょう、事の重大性を刑事局長との質疑で少し明らかにさせていただいたつもりです。

 過去のものがどうなっているのか、それから、申し上げるまでもなく、刑事参考記録というものは、私は基本的には、処分するというようなことは、当時の立法の趣旨からいっても、それは物理的にとかということがもしあるとするならば、それでも、ほかの公文書管理館に、国立公文書館に移してそこで管理をする。文書の管理とかアーカイブ化するとかという話だったら、向こうの方が専門家ですから、権限だけ検察がかかわれるようにしてもいいですよ。とにかくとっておいていただくための早急な処置をしていただきたいと思うんですが、いかがでしょうか。

上川国務大臣 この間の一連の御質問と、また同時に、公文書の刑事裁判記録につきましてのさまざまな視点からの御指摘ということについては、大変大事な視点であるというふうに考えております。

 今、フローチャートがございましたけれども、あのフローチャートも含めまして委員御自身でおつくりになられたということでございますが、いずれにしても、大変大切な公文書の、行政文書でございますので、これの作成、また利用、さらに、保管また保存、そういった一連のプロセス、この中でのさまざまな問題提起、御指摘につきましては重く受けとめさせていただきまして、またさまざまな見地から検討させていただきたいと思います。

井出委員 きょうまでに少し事前に質問をして、きょうまでにお答えいただけないというような項目も幾つかございましたので、きょうはここまでにして法案の審議に入りますが、引き続き、この問題は大きい問題として私自身は取り上げさせていただきたいと思います。

 法案に関する質疑に入ってまいりますが、まず、一番、法案の改正趣旨の中での根本理由の一つになろうかと思いますが、被告の応訴負担というところの考え方を少し改めて民事局長から伺っておきたいと思います。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 一般的に応訴による被告の負担の内容といたしましては、裁判所に出頭するなどして訴訟行為を行う、こういった負担のほかに、原告は必要な準備をした上で訴えを提起することができるのに対しまして、被告の方は十分な準備ができていなくても訴状に対して答弁書を作成、提出し、関連する証拠の収集、提出をしなければいけないといったこと、あるいは、被告は原告の訴えが結果的に理由がないものであったとしても応訴せざるを得ない立場にあることなどが考えられます。

 このような応訴による負担は、国際的な要素を有する事件におきましては特に重大なものとなり得ますので、この法律案では、正義、公平の理念に関して、応訴を余儀なくされる被告の負担について十分に配慮することとしております。

 そういった観点から、身分関係の当事者である被告の住所が日本国内にあるときは、それだけで日本の裁判所が管轄権を有するものとしておりますし、また、訴えについて、日本の裁判所の管轄権が認められる場合でも、事案によっては、応訴による被告の負担の程度等の事情を考慮して、当事者間の公平又は適正かつ迅速な審理の実現の観点から、訴えを却下することができる旨の規定も設けているところでございます。

井出委員 基本的には被告の住所、住んでいるところで裁判を起こすということなんですが、最後に少し触れられた部分なんですが、だったら裁判を起こすのをやめよう、何か手間暇かかるな、その訴える側の負担というところもあろうかと思うんですね。被告の住所地で裁判をしなければいけない、そこにも、何か特例というものは応訴負担という原則の中であるんですか。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 基本的には、先ほど申し上げましたとおり、応訴による被告の負担といったものがございますし、また、国際的な要素を有する事件におきましては、それは非常に重大なものとなりますので、本法律案におきましては、この応訴による被告の負担というものを考慮しております。

 ただ、原告の利益を保護する必要がある場合もございますので、原告の住所が日本にある、なおかつ、例えば被告が行方不明であるですとか、そういったように特別の事情があるような場合には日本でも裁判を起こすことができる、こういったような規定も設けているところでございます。

井出委員 はい、わかりました。

 次に、少し細かいところを聞きたいと思います。

 養子縁組許可の審判事件についてなんですが、海外にいる子供と養子縁組をしたい、外国に実の親がいて、いや、それはちょっと待ってくれというようなときがある、そういうときに、日本で裁判を起こすことができる、日本の裁判管轄になる、そういうことが今回の法案の概要ポンチ絵の中に入っていたかと思うんですが、その点は少し、海外にいる実親にとって、ちょっと日本で訴えられてもな、若干不公平ではないのかな、そういった懸念というものがあるのかないのか、伺っておきたいと思います。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 養子縁組をするにつきましての許可の審判事件につきましては、養親となるべき者又は養子となるべき者の住所等が日本国内にあるときに、日本の裁判所が管轄権を有するものとしております。

 このように、本法律案によりますと、養子となるべき者が実親とともに外国に居住している場合でありましても、養親となるべき者の住所等が日本国内にあるときには、日本の裁判所が管轄権を有することとなりますので、御指摘のとおり、当該実親に一定の負担が生ずるとの指摘もあり得るところとは存じます。

 しかしながら、養親となるべき者の住所等を管轄原因としておりますのは、裁判所による養親となるべき者の生活状況、あるいは養子縁組後の養育方針等についての実効的な調査が可能であって、養子縁組の拒否等に関する後見的判断を適切に行うことが可能になるからということでございます。そのように適切な判断がされるということは、仮に養子が外国にいる場合でありましても、当該養子の保護に資するものではないかと思われます。

 このように、本法律案では、養子の利益にかなった養子縁組を適正かつ迅速に実現する観点から管轄を定めておりまして、御指摘のような事案におきましても、国際裁判管轄の定めとしては適切なものであると考えておるものでございます。

井出委員 その養親となるべき者の、ちゃんと育てられるかとかそういうところをきちっと調査できるから養親が日本にいる場合は日本で裁判するんだ、そこは確かにそのとおりなのかなと思うんですが、ただ、さはさりながら、一方で、実の親が海外にいて、いや、ちょっと待ってくれ、そういう思いがあって、ただ、日本が遠過ぎて、裁判があっても行くこともできないよ、そういうことに対する何か配慮といいますか措置といいますか、そういうことは何か考えられるんですか。

小野瀬政府参考人 養子となるべき者の実親が住んでいる外国の裁判所にも管轄を認めるべきかどうかという点でございますけれども、我が国の国内法による国際裁判管轄法制におきましては、我が国の裁判所が管轄権を有する場合を定めることができるのみでございまして、外国の裁判所が管轄権を有する場合を定めることはできないというものでございます。

 したがいまして、実親の方が住んでいる外国の裁判所に養子縁組についての許可の審判事件の申立てをできるかどうかにつきましては、当該外国が定める国際裁判管轄の規律によるものでございまして、一概にお答えすることは困難でございます。

井出委員 今申し上げたように、いろいろまだ難しい面もあろうかと思いますが、これまでやってきたことを明文化するということですので、そこは一歩前進かなと思います。難しい問題で、初めてそういうことを明文化しようと。また、不断の見直しも必要であろうかと思いますので、その点も一言付言して、質問を終わりたいと思います。

 どうもありがとうございました。

平口委員長 次に、黒岩宇洋君。

黒岩委員 無所属の会の黒岩宇洋でございます。

 それでは、早速質問に移らせていただきたいと思います。

 今回の改正案の提出の経緯といいますか、私の問題意識は、改正案の提案理由としては、当事者の予見可能性及び法的安定性を担保する必要、こうされているんですけれども、これは、以前からこの必要性はあったわけで、決して今に始まったことではありません。そういう意味で、なぜもっと早期にこの改正案を提出されなかったのか、この点についてお聞かせいただけますでしょうか。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 国際裁判管轄法制を規律した機会といたしましては、財産権上の訴え及び保全命令につきまして、平成二十三年、民事訴訟法及び民事保全法の一部を改正する法律の改正がございました。

 その際に、人事に関する訴え等の国際裁判管轄法制の整備についてもその必要性は認識されておったわけでございますが、当時、家族をめぐる紛争を処理するための一般的な手続法であります家事審判法等の現代化を図る法整備が検討されていたため、その検討を待って行うこととされたものでございます。

 そして、家事審判法にかわるものとして平成二十三年に家事事件手続法が成立し、平成二十五年一月から施行されたことを踏まえまして、法制審議会に対する諮問がされ、その後、その答申を得て立案作業を行って、本法律案の提出に至ったというものでございます。

黒岩委員 その経緯はそういうことなんでしょうけれども、ただ、先ほどおっしゃられた財産上の訴えに比べても、身分関係については、複数の国で異なる判決が下されることによる当事者の不都合を回避する必要性というのは高い、こういう意見も出ていたわけですよ。そう考えますと、この平成二十三年当時で、やはり私は実際に、検討ではなく改正についての具体化を図るべきだったと思うんですが、この点についてはいかがでしょうか。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 確かに、人事に関する訴えあるいは家事事件につきましては、国際的な要素を持つそういった事件がふえているという状況にございました。そういう点で、先ほど申し上げました平成二十三年当時も、人事に関する訴え等の国際裁判管轄法制の整備の必要性といったことは言われておったわけでございますけれども、先ほど申し上げましたとおり、家事審判法等の現代化を図る法整備の検討というものをまず待ってというふうにされたところでございます。

黒岩委員 わかりました。

 きょうもいろいろな論点の指摘がされているわけですけれども、今回明文化されても、今後、運用上のことも踏まえながら不断の見直しをしていくという意味では、私はやはり非常にスピーディーに今後も対応していただきたいということをお願いをさせていただきます。

 それでは、今回、単位事件類型という概念が用いられているんですけれども、原則として単位類型ごとに国際裁判管轄の規定を置くということがなされておるんですけれども、ただ、一方で、人事訴訟法の第三条の二においては、人事訴訟共通の国際裁判管轄権が規定されている。

 これにおいて、なぜ人事訴訟法においては共通の規定がなされ、そしてそれと、この単位事件類型という考え方との関係というのは一体どうなっているのか、これをちょっと詳細にお聞かせください。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 人事訴訟事件及び家事事件におきましては、さまざまな事件類型が含まれておるところでございます。したがいまして、いかなる場合に日本の裁判所が適正な審理、裁判をすることができるかというのは、事件の性質に応じて異なるものでございます。

 そこで、この法律案では、共通の性質を有する事件類型ごとに国際裁判管轄の規律を設けることとしておりますけれども、まず、大きく分けまして、事件類型として人事訴訟事件と家事事件に分類することができ、また、それぞれの事件の性質が大きく異なるために、これらを別々に規定することとしております。

 その上で、家事事件につきましては、親権に関する審判事件あるいは相続に関する審判事件のように、さまざまな、性質の大きく異なる事件類型が含まれるために、その事件類型ごとに異なる管轄原因を規定しております。

 他方で、人事訴訟事件につきましては、婚姻、離婚に関する訴訟事件のほか、実親子関係についての訴訟事件、養親子関係についての訴訟事件などが含まれます。

 この法律案の検討の過程では、これらの事件をそれぞれ別々の事件類型として捉えた上で、それぞれについて管轄原因を設けるのが相当かということの検討が進められました。

 しかしながら、人事訴訟事件は、いつでも原告と被告とが対立して主張、立証を行って、身分関係の形成の可否等を争う訴訟事件である、こういう点で共通の基本的性質を有しております。したがいまして、異なる類型の訴訟事件につきましても、そういった共通の性質に照らして共通の管轄原因を設けるのが相当であると考えられたわけでございます。

 そこで、本法律案では、人事に関する訴えにつきましては、これを一つの事件類型として捉えた上で共通の管轄原因を設けることとしたものでございます。

黒岩委員 そうしますと、人事訴訟というものをある意味大きな単位類型と考えて、家事事件については、もう少し詳細なものがあるから、こういったものを細部にわたる単位類型と考えてということで、この単位事件類型という考え方は、これは矛盾がなく双方に適用されている、こういう理解でよろしいんですね。結構です、わかりました。

 そうしましたら、人事訴訟法でも家事事件手続法でも、特別な事情が認められるとき、例外的な管轄原因について規定がされていますけれども、民事訴訟法においては、特別な事情が認められる場合の例外的な管轄原因については特段規定が置かれておりません。

 民事訴訟法には置かれていないのに、なぜ、今回、人訴そして家事事件手続法には特別な事情が認められるときという例外規定を置いたのか、この点についてお聞かせください。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 この法律案におきましては、法律が定めます管轄原因がある場合に該当しなくても、原告の利益の保護のために、日本の裁判所で審理、裁判をする必要がある場面があり得るために、特別の事情が認められるときには日本の裁判所の管轄権を認めるものとしております。

 このように、特別の事情により国際裁判管轄を認める規律は、これまでの離婚訴訟についての最高裁判所の判例を明文化するものでございまして、具体的には、被告が行方不明であることに着目して日本の裁判所の管轄権を肯定した判例、あるいは外国裁判所の確定判決が日本において効力を有しないことに着目して日本の裁判所に管轄権を肯定した判例、こういったものを明文化するものでございます。

 これに対しまして、民事訴訟法におきましては、委員御指摘のとおり、特別の事情による国際裁判管轄の規定はございません。

 財産権上の訴えについての国際裁判管轄の規定を整備した平成二十三年の民事訴訟法の改正の議論の際には、こういったような規定を設けるべきか否かということが議論されました。

 しかしながら、当時の裁判例におきましては、財産権上の訴えに関して、特別の事情による管轄権を認めるべきか否かが問題となった具体的な事例があるわけではございませんでした。そういったことから、それぞれ個別の訴訟類型に応じて管轄を規律することに加えまして、そういった規定が必要とされる具体的な事案を想定することが難しく、またその具体的な要件を定めることが困難でございました。

 そのため、財産権上の訴えにつきましては、特別の事情により国際裁判管轄を認める旨の明文の規定を設けることとはしないで、日本の裁判所の管轄権を否定すると裁判の拒否に当たるようなときに例外的に管轄権を有するものとする、いわゆる緊急管轄を解釈上認めることにより対応することとされたものでございます。

黒岩委員 わかりました。

 民訴の場合は、民訴自体をくくっているわけじゃなくて、不法行為や知的財産権などといった具体的な類型で管轄原因を定めている。一方、人訴では、そのものをくくりにして、ある意味、遊びの部分としてこの特別な事情というものを設けて、その後、それについては個々の裁判所で判断していく。判例については、人訴については判例があったので明文化する。民訴については、そんな判例がない、ゆえに明文化の必要性が低い。こういう理解でよろしいですね。わかりました。

 ちょっと通告を飛ばして、残りの五番の、特別の事情による訴えの却下。

 先ほども議論になっていましたけれども、これは新法の三条の五になりますけれども、この中で、特別の事情による訴えの却下の一つの例示として、成年に達しない子の利益というものが考慮事情として例示されているんですけれども、この子の利益というものは一体どのようなものを想定しているのか、お答えください。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 この法律案による改正後の人事訴訟法の規律におきましては、証拠の所在地や子の利益等を考慮して、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の公平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認めるときは、訴えの全部又は一部を却下することができるものとしてございます。

 この規律におきまして、子の利益として考慮されるべき事情は個別具体的な事情によりさまざまでございますので、一概にお答えすることは困難でございますが、一例を挙げますと、成年に達しない子供がいる夫婦間の離婚訴訟におきましては、離婚の可否とあわせて親権者の指定に関する裁判がされることがございます。

 家庭裁判所におきましては、これらの事項に関する判断をする上では、子の意見を聞くなどして、その意思を把握することが重要であると考えられ、そのため、子に対して、家庭裁判所における陳述の機会を与える必要がございます。しかしながら、子が外国に居住しているときのように、子が日本の裁判所においてその意見を述べることが困難である事情が認められる場合には、家庭裁判所の判断過程で、その子の意見を考慮することができないまま結論を導くこととなり、子の利益に反することがあり得ます。

 そこで、この法律案では、このような場合には、みずからの意思を裁判に反映させる機会を持つ、そういう子の利益等を考慮して、適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認めるときは、訴えを却下することがあるものと考えられます。

黒岩委員 そうしますと、子がその審判において陳述ができないような状況ということですね。

 というのは、子が不利益だからといって、離婚そのものを認めない、離婚の訴え自体を却下するというのでは、何のために裁判があるのか。やはりそれは裁判の中で、子にとって利益か不利益かというものを私は考えていくものだと思っておりますので、これはあくまでも子が審判に、陳述ができないという場合の不利益ということに限るということでよろしいですね。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 先ほどの例で申しますと、御指摘のとおり、子供の利益というのは手続上の利益でございまして、そういった利益といたしましては、みずから日本の裁判所に出頭して陳述することができるかどうか、それができない場合には、裁判所が子の意思を正確に把握するためにほかの手段があるかどうか、こういったような事情が考えられるというものでございます。

黒岩委員 今回の訴えの却下については、子の利益のみならず、幾つか例示がされているんですけれども、この明文規定を設けることによって、特別の事情による却下が濫用されるような、そんなおそれはないのかということが一点と、この特別の事情の有無の審査が常態化することによって逆に審理の長期化を招くのではないかという、こういった不安も指摘されているんですが、この点についてどう考えているのか、お答えください。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 まず、この法律案におきましては、訴えの全部又は一部を却下することができるのは、当事者間の公平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認めるときというものでございます。そういった特別の事情が積極的に認められる例外的な場合に限って訴えが却下されることになりますので、我が国の裁判所がこの規定に基づいて却下をすべきか否かを決することがそれほど困難になるとは考えがたいものと思われます。

 また、この規律と同じように、民事訴訟法でも、財産法上の訴えについて、特別の事情があるときは訴えを却下することができるというものがございますが、こういった規律が設けられたことによりまして民事訴訟の審理が長期化したとの指摘はされておりません。

 そういうことからいたしますと、この特別の事情による訴えの却下の規律を設けることによって審理が長期化するといったようなことはないものと考えております。

黒岩委員 実情として、今のところそういった懸念が生じていないということですので、それは承りました。

 冒頭申し上げましたとおり、今回の裁判管轄権について明文ができた、これはよしとしますけれども、今後運用においてさまざまな問題点がまた浮かび上がるかもしれませんので、しっかりと今後も速やかに見直しすべきはしていくということをお願いいたしまして、私の質問を終わります。

 ありがとうございました。

平口委員長 次に、藤野保史君。

藤野委員 日本共産党の藤野保史です。

 今回の委員会の持ち方についても複雑な経過がありまして、何でこういうふうになっているのかということを考えますと、やはりこの間の公文書をめぐるさまざまな問題ということがあるというふうに思っております。

 上川大臣は初代の公文書管理法の担当大臣でいらっしゃいまして、その後の修正にもかかわっていらっしゃったということで、きょうは冒頭、防衛省のイラクの派兵部隊が書かれた日報についてお聞きをしたいと思います。

 昨日の参議院の外交防衛委員会で、我が党の井上哲士参議院議員の質問に対して小野寺防衛大臣は、今回の日報は公文書に当たるというふうに答弁されております。具体的には、行政ファイルに保有されていた公文書であり、二〇一五年に作成された保存期間五年間の文書であるという答弁でありました。

 昨年の二月二十日の衆議院予算委員会で、我が党の畠山前衆議院議員の質問に対して稲田防衛大臣当時は、イラクに関しては日報は残っていないということを確認いたしております、こう断定していたんですね。確認している、残っていないと。

 ところが、実際には、今申した保存期間五年の公文書が一年以上にわたって公表されなかった。事実上、隠蔽されていた。ないと言っていた文書が後になってあるとなったという事例は、少なくとも六例目であります。今後も、いろいろ今調べているんですけれども、いずれのケースも民主主義が問われる重大問題ですが、私は、今回のケースは更に異質の危険というものを正直言って感じております。

 それはやはり、日本最大の実力組織である自衛隊が一年以上にわたって、政府にも、そして国会にも事実を隠し続けてきた、そういう重大問題だからであります。

 だからこそ、今、与野党を超えて批判が強まっている。自民党の二階幹事長は、行政は国民の信頼を失えば何もできなくなってしまうと。公明党の山口代表も、国会に、あるものをないと言ってうそをついていた、国民をだますに等しい行為だ、こう厳しく指摘されております。自民党の竹下総務会長は、昨日夜、一年以上隠していたことは言語道断だ、公文書管理に当たる役所として体をなしていない、この問題は与党も野党も関係ない、当然厳しくただしていくと述べていらっしゃいます。私、本当に同感であります。

 小野寺防衛大臣は先ほどの委員会でも、シビリアンコントロールが機能していなければ、まだ日報は隠れていたかもしれないみたいなことをおっしゃっているんですが、しかし、一年以上前にシビリアンコントロールが機能していたら、こういう事態になっていないわけであります。ですから、本当にそういう意味でもこれは大変な問題だと。

 これは小野寺防衛大臣だけの問題じゃないというふうに思っております。自衛隊法第七条では、「内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を有する。」と規定されております。

 大臣にお聞きしたいんですが、これだけ与野党を超えた批判が広がっております。自衛隊の最高責任者は総理大臣であります。やはり安倍総理の責任は免れないと思うんですが、いかがでしょうか。

上川国務大臣 委員からの御質問でございますが、防衛省におきましてただいま一連の経緯を調査されていると承知をしておりますので、防衛省の文書管理に係る事案につきまして法務大臣として所感を述べることにつきましては差し控えさせていただきたいというふうに思います。

 先ほど委員から初代公文書管理担当大臣ということで触れていただきまして、公文書管理法の法律がない段階でこの問題に取り組ませていただきましたし、制定にもかかわらせていただきました。

 公文書は、我が国の民主主義の基盤となる国民共有の知的資源でございます。公文書を適切に管理することが重要であるということは明らかでございまして、国民の皆様から信頼が得られるよう丁寧な説明を行っていく必要があるというふうに考えております。

藤野委員 後半の部分は本当にそのとおりだというふうに思います。ただ、前半は、今、防衛省でとお話があったんですけれども、やはりこれは政権全体を問われているというふうに思います。

 そして、法務大臣としましても、大臣は所信表明演説の中で法の支配ということの重要性を強調されていたというふうに認識しております。この法の支配という観点で、今回の問題、やはり看過できない問題があると思うんです。

 与党が安保法制の際に推薦された憲法学者である長谷部恭男早稲田大学教授も呼びかけ人になっていらっしゃいます立憲デモクラシーの会というのが、この問題にかかわって三月二十六日に声明を出しているんです。

 少し紹介させていただきますと、このたび発覚した虚偽答弁や公文書改ざんが示すのは、内閣が国会に対して説明責任を負う議院内閣制の政治システムや、文書主義に基づく近代官僚制などが安倍政権下で根底から否定され、民主主義や法の支配の大原則が崩壊しつつある現実である。そして、最後、こう締めくくっているんです、権力者が法を超越するのか、法が権力者を規制するのか、まさに瀬戸際である。

 憲法学者と法学者がつくっているのがこの立憲デモクラシーの会であります。まさに日本を代表する知性がこういう警告を発している。まさに今、法の支配か人の支配かが問われている。大臣もこういう認識をお持ちでしょうか。

上川国務大臣 先ほど申し上げたとおり、公文書の重要性につきましては申すまでもないことでございます。民主主義の基盤となる大変重要な知的資源でございまして、この適正な管理、そしてその運用、これにつきましては徹底していくこと、そして、それを通して国の信頼をいただきながら、法の支配に基づく民主主義の国家の運営、こうしたことにつきましても御理解をいただいていくということが不断に必要ではないかというふうに思っております。

藤野委員 私は、大臣はこの公文書の問題については本当に深いかかわりを持っていらっしゃいますので、ぜひイニシアチブを発揮していただきたいと、重ねて求めたいと思います。

 それでは、人事訴訟法案についてお聞きをいたします。

 早速入っていきますけれども、同法の第三条の二、各号に該当しない場合は、基本的には外国での裁判管轄権が認められております。しかし、その場合でも、先ほども質疑で出ましたけれども、特別の事情というものがある場合は原告は日本の裁判所に訴えをすることができるということであります。

 この特別の事情というのは、説明ありましたように、離婚の訴訟などでの判例を踏まえて要件化されたものでありまして、七号に例示をされております。他の一方が行方不明であるとき、あるいは他の一方の住所がある国においてされた当該訴えに係る身分関係と同一の身分関係についての訴えに係る確定した判決が日本国で効力を有しないときに類する場合、ちょっとややこしくて申しわけないんですが、いずれにしろ、特別の事情というのが一応法文では例示されているんですけれども、この例示以外でどのような場合を想定されるのか、どのような場合が含まれるのかというのをお聞きしたいと思うんです。

 そこで、配付資料を見ていただきたいんですが、図の一の方であります。

 これは、上の方で、別居直前までと書いてありますけれども、要するに、例えば、カナダ人の男性と日本人の女性が、日本で知り合って、日本で結婚して、日本で子供が生まれて、東京で住んでいた。ところが、夫がカナダに帰りたいと言って帰ってしまった。これは単純に悪いとも言えません。日本では、三十代、四十代の日本語が話せない外国人男性の場合は、なかなか家族を支えるだけの収入も得にくいという事情もありますので、帰責性という点ではいろいろ、ケース・バイ・ケースだと思うんですが、いずれにしろ帰った。ただ、妻と子供はカナダに行くつもりはない、子供も日本で生まれているというようなケースを想定していただければと思います。

 法務省にお聞きしたいんですが、こうしたケースにも法案第三条の二の第六号、この適用はありますね。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 個別の具体的な事案におきましては最終的にはその裁判所が判断することになりますけれども、この法律案によります改正後の人事訴訟法第三条の二の第六号によりますと、身分関係の当事者の最後の共通の住所が日本国内であり、かつ原告の現在の住所が日本国内にあるときは日本の裁判所が管轄権を有するものとしておりますので、今御指摘のこの図の一のような事案におきましては、基本的には、日本に居住する妻は日本の裁判所に対して離婚の訴えを提起することができるものと考えられます。

藤野委員 やはり、法文は大事ですけれども、こうした具体例というので一個一個具体化していくのが大事だというふうに思っております。

 そして、もう一点。今のは日本で暮らしていたというケースなんですが、これが韓国だった場合は、ソウルでもどこでもいいんですが、どうなのか。といいますのも、これは、最後の共通の住所が日本ではありませんので、六号というのが適用されません。今答弁いただいた六号が適用されない。それで、夫はカナダにいることがわかっているので、七号の例示にも該当しないということで、しかし、場合によっては、こういう場合にも特別の事情を認める場合があるのではないかと思うんですが、こうした場合、どのようにお考えでしょうか。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 委員御指摘のとおり、図のような事例で直前まで韓国に住まわれていたということになりますと、最後の共通の住所が日本国内ではございませんので、六号の要件には当たりません。したがいまして、日本の裁判所が管轄権を有するかどうかにつきましては、先ほど御指摘いただきました第七号の特別の事情による管轄権が認められるか否かということになります。

 この七号の特別の事情でございますけれども、被告が行方不明であることなどの、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の公平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情があると認められるときということでございますので、個別具体的な事案に応じまして、そのような特別の事情があるかどうかということによるものと思われます。

藤野委員 これはケース・バイ・ケースだということだと思います。しかし、こうした場合もやはりあり得るということで、やはり事案を、積み重ねをこれから見ていきたいと思います。

 配付資料の図の二の方を見ていただきたいと思います。これは、時間の関係でちょっとあれですけれども、先ほど谷川委員への答弁でも出てきたケースであります。要するにDVのケースでありまして、被告にDVを受けていた原告が日本に逃げ帰ってきたという場合、これは外国で訴訟しろというのもなかなか大変だということで、実際、こういう場合には管轄権は日本の場合もあり得るということで、確認ですけれども、よろしいですね。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 先ほど申し上げましたとおり、個別の事案に応じて裁判所が判断するということでございますので、特別の事情があるかどうかということを一概にお答えすることは困難でございますが、御指摘のように、原告が外国に住所がある被告に対して離婚の訴えを提起しようとする場合におきまして、原告が被告による暴力、虐待から逃れるためにやむを得ず日本に帰国した、こういったような事案につきましては、特段の事情があるとの判断がされ得るものと考えております。

藤野委員 実際にこうした訴訟に携わっていらっしゃる弁護士の方からは、やはりこうした事案で要するに生かせるかどうかという点でこの法案審議を見守っていらっしゃいますので、そういう点では、しっかりと今の答弁も生かしていきたいというふうに思っております。

 そこで、最後になりますけれども、今回、緊急管轄の規定というのは盛り込まれませんでした。いろいろ賛成と反対の意見があったことは承知をしております。しかし、例えば日本弁護士連合会は設けるべきだと。なぜなら、こうおっしゃっているんですね、裁判を受ける権利の実現という観点からは、やはり日本の裁判所に管轄権を認めるという根拠規定がなければ、裁判所は、あるいは裁判官はちゅうちょをする可能性が高いという指摘をされております。

 大臣にお聞きしたいんですが、今後、事案が積み上がっていくと思うんです。そうした中で、今回は入らなかったけれども、今後こうした問題も引き続き検討していく、そういうことだと思うんですが、それはいかがでしょうか。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 委員御指摘のとおり、この法律案におきましては、緊急管轄が認められることについての規定は設けておりません。

 その理由といたしましては、あらゆる場面を想定した緊急管轄の要件を明確に規定するだけの議論の蓄積がいまだ不十分であると思われます。(藤野委員「それはいいんです、もう踏まえています。大臣、今後の話」と呼ぶ)はい。

 というような理由で、今回は緊急管轄の規定を見送ったものでございます。

上川国務大臣 ただいま御指摘の緊急管轄の規律を設けるべきか否かにつきましては、今後も引き続き、その運用状況を見ながら慎重に検討してまいりたいというふうに思います。

藤野委員 質問を終わります。

平口委員長 次に、串田誠一君。

串田委員 日本維新の会の串田誠一でございます。

 きょうは、人事訴訟法ということで、かねてからどうして管轄がすっきりと決まっていないのかなというのを思っていたところでございまして、これをしっかりと法案にされるということに関しては大変私としてはすばらしいことだと思っております。

 ただ、要件を決めてしまうということは、逆に言えば、受理をしなければいけなくなる、そういう責務が発生するわけでございまして、これに対するいろいろなむしろ弊害というのもこれから出てくるということをしっかりと覚悟していかなければならないのかなと思っているわけでございます。

 まず、この第三条の五の、事案の性質ということで、訴えの却下ができるということなんですが、この事案の性質というのは具体的にはどのようなことを想定されているんでしょうか。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 委員御指摘のとおり、この法律案におきます改正後の人事訴訟法の規律におきましては、訴えについて日本の裁判所の管轄権が認められる場合でも、事案によっては、当事者間の公平又は適正かつ迅速な審理の実現の観点から訴えの却下ができるという規定を設けております。

 ここで考慮されます事案の性質ということでございますが、この人事訴訟法の規定でございますが、同様の規定が、民事訴訟法の方にも同じような規定がございます。まず、民事訴訟法の規定におきます事案の性質といいますのは、請求の内容、契約地、事故発生地等の紛争に関する客観的な事情をいうものとされておりまして、人事訴訟法におきます事案の性質につきましても、これと同様に、請求の内容、身分関係の当事者の国籍、住所等の客観的な事情をいうものと考えております。

串田委員 この事案の性質等が大変不明確であるということは、いろいろなところでかねてから論じられてきているのかなとは思うんです。

 この人事訴訟法の第三条の二の第六号で、日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えのときに、相手方の当事者が最後の共通の住所を日本国内に有していたときというのも管轄が認められているということなんですけれども、この場合、訴えを起こす側が、相手方の住所地、海外ですね、海外の住所地をしっかり知っているにもかかわらず、当時の最後の共通の住所を日本国内に有しているときには、これは問題なく訴えが起こせるという理解でよろしいんでしょうか。

小野瀬政府参考人 御指摘の規定は、身分関係の当事者の最後の共通の住所地が日本であって、また原告が日本に住所を持っているということが要件でございますので、ただいま御指摘いただいたようなケースでありましても、この規定の適用によって日本の裁判所の管轄権は認められるものと考えております。

串田委員 普通の民事裁判におきましては、相手方の住所がわかるかどうかということを調査を経て、そしてわからないときに初めて公示送達というようなことが行われるんだと思うんです。そうでなければ、訴状等が、当然いないのをわかっていながら届いて、そしてそれが判決になるということで、大変そういう意味では公平に害するというのが普通の民事の事件だと思うんです。

 この日本と諸外国にいらっしゃるときに、住所が外国にあるのがわかっていながら、そして、それにもかかわらず日本に裁判を起こし、当然その訴状なりは本人は受け取ることができないですから、結果というのは目に見えているわけでございまして、このような、何といいますか、公平に害するようなことは、これは三条の五の部分に該当する可能性もあるような気もするんですけれども、先ほど冒頭でお話ししましたように、要件をきっちり定めてしまうということは、逆に言えば、その要件を利用して自分に有利な判決を得るというようなこともあるかと思うんですけれども、外国に住所がわかっていてもこの六号によって日本で裁判を起こして、それは三条の五に該当するということは基本的にないんだという理解でよろしいんでしょうか。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 改正後の人事訴訟法の第三条の五の規定は、先ほどの三条の二の第六号の規律によって管轄権が認められる場合であっても、特別の事情があれば訴えの全部又は一部を却下することができるという規定でございますので、先ほどのようなケースにおきましても、これは個別具体的な事案に応じた裁判所の判断でございますが、事案によって、当事者間の公平又は適正かつ迅速な審理の実現の観点から、この三条の五の規定の適用によって訴えが却下されるということはあり得るというふうに考えております。

串田委員 恐らく、そういう運用をされるのが私は適切ではないかと思うので、法文上も、調査を経ても所在が判明しないときにはというようなことがあってもよかったのかもしれない。そこら辺、どのような弾力的な運用をされるかわかりませんけれども、この文言を見るだけですと、こういう訴えができるんであるというふうに考えてしまうということは十分あり得るわけで、これはこういうような、いわゆる濫訴というものが十分想定できるのではないかなと思います。

 また、五号、これは、どちらも日本の国籍を有するときには日本で裁判を起こすことができる。双方が海外に居住していても、国籍が日本の国籍である場合には、わざわざ日本で裁判を起こすということも許されるということでよろしいんでしょうか。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 改正後の人事訴訟法の第三条の二の第五号の規定によりますと、身分関係の当事者の双方が日本の国籍を有するときに日本の裁判所に管轄権が認められますので、先ほどのようなケースでは、この規定によって日本の裁判所に管轄権が認められることとなります。

串田委員 外国で裁判を起こした場合には恐らく自分の方が負けるだろうというふうに想定された当事者が、両方国籍が日本であるということで、外国で居住しているにもかかわらず、同居して一緒に暮らしている場合もあるわけですけれども、日本にわざわざ裁判を起こす。当然、訴状というのは届かないわけでございますから、これもまた勝ってしまうということになるわけで、それを相手方が気がついて、慌てて外国で訴えを起こして勝訴をしたときというのは、日本の裁判がまず勝訴をし、そして外国で相手方が勝訴をするというようなことになるわけですけれども、この場合、どういうふうに解決をしていけばよろしいんでしょうか。

小野瀬政府参考人 お答えいたします。

 まず、管轄の点について補足いたしますと、先ほどのようなケースにおきましても、人事訴訟法の第三条の五の規定の適用がございますので、個別具体的な事案によって日本の裁判所が審理、裁判することが適切でないというような場合には、裁判所はその訴えの全部又は一部を却下することができるということになります。

 その上で、外国の裁判所で判決がされた場合、その確定判決の効力がどうなるのかといったような問題が出てこようかと思います。

 その点につきましては、民事訴訟法の百十八条の各号の要件を満たすか否かによって判断されることとなろうかと思います。

 外国裁判所の判決が既に存在する日本の裁判所の確定判決と矛盾する場合には、我が国の公の秩序に反するか否かが問題となります。この点につきましては、最終的には解釈問題でございますけれども、日本の裁判所の確定判決が既に存在する以上、その後に外国の裁判所でこれに矛盾する判決がされ、それが確定したとしても、この外国の裁判所の確定判決は、日本の公の秩序に反するものとして、我が国においては効力を有しないこととなるものと考えられます。

串田委員 今お答えいただいたのは却下の事由であると思うんですけれども、判決が確定したときというのはどうするかということと、きょうは通告もありませんので質問はしませんが、家事事件の、家事訴訟の三条の八に、監護権の処分に関しても、子供の住所が日本国内にあるときには管轄権を有するというようなことがあったときに、外国で暮らしている夫婦が子供を連れ去ってきたときというのは、ハーグ条約で連れ戻さなければいけないんですけれども、日本に子供が住所があるということで、日本で監護権をかち取っていくということになると、ハーグ条約との間で抵触が発生するというようなこともあるかと思うんです。

 そんなようなことも含めて、条件、要件を定めるということは、やはり、それに対して審理を受理しなければいけないという、そういう重たい責任も発生するんだということを覚悟した上で、いろいろなトラブルに解決をしていただきたいと思います。

 終わります。ありがとうございました。

平口委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。

    ―――――――――――――

平口委員長 これより討論に入るのでありますが、その申出がありませんので、直ちに採決に入ります。

 内閣提出、人事訴訟法等の一部を改正する法律案について採決いたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

平口委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

平口委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

    ―――――――――――――

平口委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時四十分散会


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