◎会議に付した案件
国際社会における日本のあり方に関する件
上記の件について参考人松井芳郎君から意見を聴取した後、質疑を行った。その後、委員間で自由討議を行った。
(参考人)
名古屋大学大学院法学研究科教授 松井 芳郎君
(松井芳郎参考人に対する質疑者)
◎松井芳郎参考人の意見陳述の要点
はじめに
- 国際法上のPKOの位置付けとPKOに対する日本の取組みの在り方について、意見を述べる。
- 冷戦期におけるPKO(「第一世代のPKO」)とは、「国際的な平和と安全を脅かす地域的な紛争又は事態に対して、国連が関係国の要請又は同意の下に、国連の権威を象徴する一定の軍事的組織等を現地に駐留せしめ、これらの軍事的組織等による第三者的かつ中立的な役割を通じて、当該地域的な紛争又は事態を平和的に収拾することを目的とした活動」をいうものとされていたが、冷戦構造崩壊後に展開されてきたいわゆる「第二世代のPKO」については、その活動内容、役割等に変容が見られる。
1.PKOの誕生と確立
- PKOは、冷戦構造を背景とした集団安全保障の機能不全を受け、(a)正・不正の認定をしないで停戦を実現する、(b)米ソの介入により紛争が国際的に拡大するのを防止するという二重の意味で、国連がその慣行の中で編み出した苦肉の策であり、このため、憲章上明文の根拠規定は存在しない。
- 慣行の中で確立されてきたPKOの諸原則は、(a)非強制の原則(同意原則、自己防衛及び内政不干渉)、(b)中立原則(大国等の排除及び紛争当事者に対する中立)、(c)国際性の原則(国連の統轄、部隊構成の地理的公平及び国連の費用負担)の三つに整理される。
- 第一世代のPKOは、停戦監視、部隊撤退の確保等限定的な範囲において一定の成果を果たしたと評価できるが、内戦に派遣されるPKOについては、課題を残したと考える。
2.第二世代のPKO:その背景と問題点
- 冷戦構造崩壊後、国家構造の崩壊を伴う地域紛争が多発したこと、PKO派遣について安保理におけるコンセンサスが得やすくなったこと等の事情を背景に、PKOは、量的・質的に拡大した。量的には、PKOの派遣件数とその規模が増大し、他方、質的には、任務の多様化・複雑化した「多機能型」又は「多分野型」のPKOが設置されるようになり、また、文民部門の必要性が増大した。
- 第二世代のPKOについては、(a)強制措置とPKOとの混同、(b)同意原則の弛緩、(c)大国中心の部隊構成、(d)内政問題への関与の強化、(e)中立原則の危機等の問題が生じている。
3.最近の国連におけるPKOをめぐる議論:「平和への課題」からブラヒミ報告へ
- 第二世代のPKOが抱える問題の解決に向けて、ガリ前国連事務総長が発表した「平和への課題」(1992年)においては、予防外交、平和形成、平和維持及び平和構築(「ブラヒミ報告」にいう国連平和活動)の一体的な把握と軍事力の積極使用が提言された。
- その後、「平和への課題の補遺」(1995年)においては、「平和への課題」以降の経験を踏まえ、軍事力の使用に係る認識が軌道修正されるとともに、活動原則の尊重が強調された。
- また、「ブラヒミ報告」(2000年)においては、国連平和活動を一体的に把握した上で、迅速かつ実効的なPKO展開等さまざまな提言がなされた。ただし、同報告の提言においても、軍事力重視の傾向が否定できないと考えられる。
4.PKOを中心とした日本の国際協力の在り方
- 日本は、(a)国際協力をPKOの分野に限定して狭くとらえてはならず、(b)主体的に国際協力に係る施策を国連に働きかけ、(c)その出発点としての日本国憲法の原則を認識すべきである。
- 国連平和活動への協力に当たっては、(a)予防外交や平和的解決の分野において尽力すること、(b)PKOについては、活動原則の遵守を国連に働きかけるとともに、文民部門の積極活用を図ること、(c)紛争地域の社会経済発展の支援こそが日本の積極的な協力が可能かつ必要な分野であること等に留意すべきである。
◎松井芳郎参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等
近藤 基彦君(自民)
- 国連による紛争解決は、本来、国家間の紛争を想定しているものだが、国家ではない私的組織によって引き起こされた昨年の米国同時多発テロに対する国連の対応について、参考人の所見を伺いたい。
- アフガニスタンの紛争鎮静後に各国や我が国が行うことができる協力について、参考人の所見を伺いたい。
- 参考人も指摘するように、我が国は、紛争後の平和構築への協力を強化すべきと考えるが、自国の「国際協力像」を明らかにする観点から、参考人はどのような分野において我が国が貢献できると考えるか。
- 国際テロ組織等に対しては、「国連警察機構」を設置し、これに対処させることが考えられるが、このような考え方について国際法上どのように評価するか。
首藤 信彦君(民主)
- 参考人は、紛争後の平和構築は日本にとって最も積極的な協力が可能な分野であるとするが、この分野における我が国の対応は遅れており、むしろ最も貢献が困難な分野であると考えるが、いかがか。
- 「ブラヒミ報告」では、PKOが実効的な対応能力を具備するために、交戦規則(ROE)を強固なものにすることが提言されているが、一般住民の暴徒化等に際してのPKOの交戦規則(ROE)はどうあるべきか。
- PKOの交戦規則に関する日本国内における検討に当たっては、法律的観点からのアドバイス等を受けるべきと考えるが、具体的に法律家は参加しているのか、あるいはこの分野における研究がなされているか。
- PKO要員の犯罪や不法行為の取締りについて、国際法的観点から参考人の所見を伺いたい。
赤松 正雄君(公明)
- PKO協力法の掲げる5原則に対する評価と、多様な紛争が勃発する昨今の状況を受けて5原則を見直すべきであるとする議論に対する見解を伺いたい。
- 参考人は、これまでの我が国の議論がPKFへの協力の可否に傾きすぎであると指摘するが、その背景には、我が国が特に軍事部門へ人的貢献を行ってこなかったことに対する後ろめたさがあると考えるが、参考人の所見を伺いたい。
- 参考人は、論文中で、国連が加盟国に武力行使を「授権」する方法は国連憲章違反であり、これに日本が何らかの協力を行うことも、憲法及び国連憲章上、論外であると指摘する。テロ対策特別措置法に基づく我が国の後方支援は、我が国が憲法上行うことができる最大限の「何らかの協力」であると考えるが、参考人はどのように評価するか。
藤島 正之君(自由)
- 最近の国際情勢にかんがみれば、我が国のPKO参加については、今後、PKO協力法に規定する5原則に必ずしもこだわるべきではないと考えるが、いかがか。
- 集団的自衛権の行使はできないとする政府の憲法解釈の下では、拡大PKO、平和執行部隊、多国籍軍、国連軍といった国連の強制的な活動に参加することはできないのではないか。
- 昨今、安保理において拒否権が行使されずに決議が可決される可能性が高まってきていることから、国連中心の紛争解決を行うべきであると考えるが、いかがか。
山口 富男君(共産)
- 第二世代のPKOにおいては、PKOの諸原則の弛緩が見られるが、PKO活動が伝統的なPKOから変質を遂げたのか、あるいは両者は別物であるのか。
- ソマリアのPKO活動の失敗の原因は、PKO諸原則から逸脱したことによるものか、あるいは、ソマリア紛争自体の事情によるものであったのか。
- 我が国のPKFへの自衛隊の参加については、憲法上問題があると考えるが、参考人の見解を伺いたい。
大島 令子君(社民)
- 社民党は、憲法と国連憲章とに基づいた平和の構築が大切であると考えており、日本は文民の分野を中心とした国際協力をしていくべきと考えるが、いかがか。
- 自衛隊の任務が、自衛隊法3条に掲げるもののほか、PKO協力法の制定等に合わせて雑則に任務を追加する方法で拡大されてきていることについて、参考人はどう考えるか。
- 我が国の国際協力施策は、昨年の9月11日に起きた米国同時多発テロ以来、特に軍事的支援に傾いていると考える。自衛隊についても文民部門において活用していくことが必要ではないかと考えるが、PKOと自衛隊の関係はどうあるべきか、参考人の見解を伺いたい。
西川 太一郎君(保守)
- 米国国防総省が2月26日に発表した今回の「対テロ戦争」に貢献した26カ国の中に我が国が入っていなかったのは、我が国が集団的自衛権を発動しなかったことが原因と考えるが、いかがか。
- 東チモールへ派遣される我が国の部隊が武器を携行することについて、国連の司令官及び東チモール当局からは当然のことであるとの認識が示されたが、参考人はどう考えるか。
平井 卓也君(自民)
- PKOの成功・不成功の判断の基準とは、どういうものであるのか。
- PKOに参加するに際しては、参加する日本国民に危険が及ぶこともあり得るが、我が国の国益という観点から、国連の行う活動への参加をどのように位置付けるべきと参考人は考えるか。
山田 敏雅君(民主)
- 自衛権が国際法で認められている権利であるならば、自衛権に基づく自衛隊の実力行使と9条の規定の間には矛盾があるように思う。自衛隊を合憲とするためには、どのように憲法改正をすべきと考えるか。
- 私個人は、「世界連邦」構想を抱いており、将来的には、国家には軍事力を持たせず、国連が軍隊を持つべきと考えている。国連の統轄の下に軍事組織を展開するPKOは、「世界連邦」構築へ向けての第一歩であると認識するが、いかがか。
土屋 品子君(自民)
- 国民世論の動向等にかんがみれば、9条を改正して、自衛隊を憲法上認めるべきと考えるが、参考人の9条に関する認識を確認したい。
- 自衛隊には地雷除去をはじめとした高い能力もあり、また、世界的にはNGOの活躍の場が増えているとはいえ、日本のNGOによる活動はまだ少ないことから、我が国のPKOへの協力は、当面、自衛隊を活用しながら行っていくべきと考えるが、いかがか。
- 我が国が国連安全保障理事会の常任理事国になる場合、軍事的貢献を求められることになると考えるが、いかがか。また、その場合、国連待機軍のような別組織を創設する方がよいと考えるか。
◎自由討議における委員の発言の概要(発言順)
中野 寛成会長代理
- 仮に憲法をどこか1箇所だけ変えるということになれば、国際協力に係る部分に絞られるだろう。9条については、制定時に芦田修正が行われていることもあり、一定の解釈の「幅」を持っていると考えるが、PKOなど国連憲章や憲法の制定時には想定されなかった事態についても国際協力を行っていくためには、「超法規的」対応ではなく、例えば9条3項として、国際協力に関する条項を追加するような改正を行うべきである。
山口 富男君(共産)
- 参考人のお話を伺い、国際協力を推進していくに当たっては、憲法を改正する必要はなく、憲法と国連憲章の理念をともに活かすような努力をしていくべきであることを改めて認識した。
- 日本が安保理の常任理事国となることは、国連の軍事的活動に参加することとなり、憲法上不可能であると考える。
葉梨 信行君(自民)
- さまざまな活動を現実に行っている自衛隊については、憲法上その存在をはっきり認めるべきである。すなわち、9条1項については、これを堅持すべきであるが、9条2項については、現実に合わなくなっており、国民の理解を得てこれを改正すべきである。
大島 令子君(社民)
- 戦後日本は、平和主義憲法の下で発展してきた。経済大国になったから、憲法改正を行って、自衛隊を軍隊化し、軍事的な国際協力をしなければならないということには反対である。国際協力には憲法改正は必要ではなく、NGOの活用を図りつつ、文民部門で国際協力を行うことを考えるべきである。
中山 太郎会長(自民)
- 自衛隊は違憲であるとの主張もあるが、社会党(当時)の党首であった村山首相が自衛隊は合憲であると公的に発言しており、これを重く受け止めるべきである。また、その後この発言を覆すような発言はなされていないので、公的には自衛隊は合憲であると考えられており、国民の間にも自衛隊が合憲であるとのコンセンサスができてきているのではないか。このような状況を踏まえ、一方では「国際協力部隊」を別に作るというような考え方も尊重に値すると思われるので、そのような考え方を含め9条をどう変えるべきかという議論がなされていくことを期待したい。
赤松 正雄君(公明)
- 参考人などから日本は、憲法の理念に沿った国際協力をしてこなかったという御指摘があったが、日本が行ってきた国際協力は日米安保体制の理念という観点からも評価する必要がある。
- 安全保障理事会の決議により加盟国に武力行使の「授権」がなされた場合について、日本が安保体制の中でどのような立場をとるかが重要である。このような「授権」がなされた場合について、参考人は、日本が当該加盟国に対して「何らかの協力」を行うことは論外であるとの御意見であったが、そのような場合には日本は憲法上可能な後方支援のような協力はすべきであると考える。
大島 令子君(社民)
- 村山首相が自衛隊が合憲であると発言したからといって、今の社民党も自衛隊を合憲としているということにはならない。現在の社民党は、自衛隊の存在を認めながら軍縮、自衛隊の縮小を進めていく立場だ。
山田 敏雅君(民主)
- 参考人は憲法が変えられないという前提の下での国際協力についてお話をされたのは残念である。憲法は変えられるという前提に立つべきだ。
- 憲法の規制があるから武力行使は一切できないということでは、国際的には、国際協力しているものとしては評価されないと思っている。
山口 富男君(共産)
- 参考人も9条について「解釈改憲」をしてはならないという立場であると承ったが、まったく同感である。9条に違反する自衛隊が存在するような状態を是正しなければならない。
葉梨 信行君(自民)
- 村山首相が自衛隊は合憲であると発言した当時、社会党内では反対はなかったのではないか。村山首相が合憲であると発言しながら、現在、社民党としては自衛隊は違憲であると主張するのでは、党として一貫性がないのではないか。
大島 令子君(社民)
- 繰り返しになるが、村山首相が合憲であると発言したからといって、現在の社民党も自衛隊を合憲であると理解しているということにはならない。現在の社民党は、自衛隊の存在を認めながら軍縮、自衛隊の縮小を進めていく立場だ。