日本国憲法に関する調査のため、沖縄県名護市において地方公聴会を開き、意見陳述者から意見を聴取した後、意見陳述者に対し質疑を行った。
1.意見を聴取したテーマ 日本国憲法について(21世紀の日本と憲法)
2.派遣委員
団長 会長 中山 太郎君(自民)
会長代理 中野 寛成君(民主)
幹事 葉梨 信行君(自民)
委員 久間 章生君(自民)
幹事 島 聡君(民主)
幹事 赤松 正雄君(公明)
委員 藤島 正之君(自由)
委員 春名 直章君(共産)
委員 金子 哲夫君(社民)
委員 井上 喜一君(保守)
3.意見陳述者
平和憲法・地方自治問題研究所主宰 山内 徳信君
弁護士 新垣 勉君
ビジネススクール校長 恵 隆之介君
沖縄国際大学法学部教授 垣花 豊順君
大学生 稲福絵梨香君
沖縄県議会議員 安次富 修君
◎団長挨拶の概要
団長から、会議開催の趣旨及び憲法調査会におけるこれまでの活動の概要等について、発言があった。
◎意見陳述者の意見の概要
山内 徳信君
- 平和憲法は、戦争の地獄を経験した日本国民すべての人々の平和への願いが集約され、戦後の復興発展の基盤となった世界に誇れるものであり、いわば、国民の命そのものと言えること、また、日本国内唯一の地上戦で住民を巻き込んだ沖縄戦を生き残った経験からも、憲法9条の改悪に反対する。
- 憲法9条の発想は日本人が出したものであり、いわゆる「押しつけ」憲法論は適切でない。また、平和主義は、民主主義、基本的人権の保障等の前提となるものである。
- 前文及び9条に示された平和国家像は、世界のモデルになり得るものであり、政治家は、憲法99条の憲法尊重擁護義務を守り、平和国家実現の責務を果たすべきである。また、「武力による平和」ではなく「平和的手段による平和」の実現を図るために、憲法9条を世界各国の憲法に取り入れてもらうことを提案すべきである。
- 有事法制は、戦争体制の準備であり、憲法体制を無視するものであるので、反対である。
新垣 勉君
- 沖縄県民の一人として、日本国憲法が定める非武装・平和主義を堅持し発展させるべきとの立場に立ち、意見を述べる。
- 軍隊が国家を守ることだけを考えて、住民を守らなかった沖縄戦の体験から、沖縄には、個人の命・生活の安全の確保が何にもまして最優先されるべきという「命(ぬち)どぅ宝(たから)」という価値が定着しており、これは、憲法の「個人の尊厳」と共通する。
- 軍事力の行使は、必ず国民に重大な被害をもたらすので、「個人の尊厳」という価値からは受け入れることができない。自衛の権利を認め国民に銃の所持を認めている米国より、銃の所持を否定している我が国の方が社会の安全が保たれていることからすれば、国際社会でも軍事力を持たずに身を守る「非武装平和主義」が貫徹されるべきである。
- 沖縄では、憲法は「平和憲法の下へ」を目標に長い復帰運動を通じて獲得したものと考えられており、いわゆる「押しつけ」憲法論を採ることはできない。
恵 隆之介君
- 我が国は、生産拠点の海外移転等による海外在留邦人の保護、国際的な平和活動への積極的な参加、テロへの対応等の問題に直面しており、このような問題に対応するために憲法9条の改正を主張したい。
- 憲法9条の改正を主張するに当たり、(a)有事が生じた場合に私権が制限されるのは国際常識であり、現行の有事法制は有事に対応するのに不十分であること、(b)交戦権は国家としての当然の権利であること、(c)武力の裏付けなくして国家の独立と平和は維持できないこと等の点を理解されたい。
垣花 豊順君
- 明治憲法では「天皇の神聖」を核として、それを普及するために教育勅語が定められたが、日本国憲法では、「個人の尊厳」を核とし、それを普及徹底するために、「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成」を教育の理念とし、各人の「人格の完成」を目的とする教育基本法が定められた。
- このことは、衆参両院の決議でも確認されているので、この決議は尊重され実行されるべきである。
- 我が国では「個人の尊厳」が浸透していないが、これは「個人の尊厳」を浸透させる努力を国会議員等の公務員がしてこなかったためであり、公務員は、憲法尊重擁護義務(99条)を果たし「個人の尊厳」の普及に努めるべきだ。
- 「個人の尊厳」を「わがまま」とか「利己主義」に結び付ける向きもあるが、「個人の尊厳」を徹底し、その内容を深化させることが日本の課題である。
稲福絵梨香君
- 高校三年間、青少年赤十字(JRC)というボランティア部に属した経験から、ボランティア活動は、活動を行う者とお年寄りや子ども等のサービスを受ける側がお互いに学び合う「相互学習」とも言える共生的な関係を持つ活動と考えている。
- 「奉仕活動の義務化」等としてボランティア活動を「義務」付ける動きがあるが、このような強制は、青少年の自発的な活動、学習の契機を奪い、ボランティア活動を戦時中の「勤労奉仕」と本質的に違わなくするおそれがある。
- 有事法制の整備については、国民の権利が制限されたり、平和を脅かすものではないかとの疑念を持つ。
- いわゆるDV法(ドメスティック・バイオレンス防止法)の制定等、障害者、女性、子どもなど弱い人たちの権利が確立されつつあるが、夫婦間の暴力、児童虐待等、様々な課題が残されており、憲法の精神を大切にして、こうした問題に取り組むべきである。
安次富 修君
- 沖縄は、太平洋戦争における地上戦、戦後27年間の米軍の施政等の厳しい経験をし、また、現在でも、在日米軍基地の集中する現実に直面しているが、沖縄の米軍基地がアジア太平洋地域の平和と安全に寄与している事実をも踏まえた議論を行うことが重要である。
- 9条の理念は尊重すべきであるが、国際社会の現実は「戦争の放棄」の理念と大きく乖離しているので、自衛のための必要最小限の武力の保持を憲法に明記すべきである。その際には、自衛力の行使を国民が直接コントロールできる仕組みを確保すべきである。
- 在沖縄米軍が起こす事件・事故に対し、県民に対する「人間の安全保障」が確保されなければならず、日米地位協定の改定も検討されるべきである。
- 昨今の政官における不祥事を見ていると、政官の癒着をなくすため、議会と内閣が厳格に分離されるように憲法第4章の「国会」の条項を改正すべきである。また、「地方の時代」、「地方分権」の流れを踏まえ、国と地方の役割分担等も憲法に明記すべきである。
◎意見陳述者に対する主な質疑事項
中山 太郎団長
- 日本の安全保障についてどのように考えるか。(全陳述者に対して)
久間 章生君(自民)
- 自衛隊は必要ないと考えるか。また、憲法99条の憲法尊重擁護義務から敷衍すると、憲法改正の論議を行うことも認められないのか。(山内陳述者に対して)
- 国連の一員として国連の活動に参加するためには、現在の憲法で十分と考えるか。(恵陳述者及び安次富陳述者に対して)
- 憲法に福祉や環境について規定を設けることについて、どのように考えるか。(稲福陳述者に対して)
島 聡君(民主)
- 有事において基本的人権を保護するためにも有事法制を整備する必要があると思うが、いかがか。(恵陳述者及び安次富陳述者に対して)
- 環境権等の新しい人権を憲法に明記することについて、若者一般にはどのような反応があると考えるか。(稲福陳述者に対して)
- 憲法9条2項を改正し、自衛、災害救助等に役割を限定した兵力の保有を認める規定を設けることについて、いかに考えるか。(山内陳述者に対して)
赤松 正雄君(公明)
- 阪神・淡路大震災の経験にかんがみると、自然災害等への対応において自衛隊の果たす役割は大きいと考えるが、いかがか。(新垣陳述者に対して)
- 沖縄では犯罪が多いとの指摘及びいわゆる「ゆとり教育」の導入について、どう考えるか。(垣花陳述者に対して)
藤島 正之君(自由)
- イラクによるクウェートの侵攻の際にクウェートの政府は何もできず、結局、国連の活動に頼ったことについてどう考えるか。(全陳述者に対して)
春名 直章君(共産)
- 前文及び憲法9条は、積極的に平和外交を展開し非軍事的な国際貢献をしていくことを要請しており、日本はもっと非軍事面で貢献すべきことがあると思うが、いかがか。(山内陳述者及び新垣陳述者に対して)
- 日米地位協定の改定の内容はどうあるべきか、また、その見通しについてどう考えるか。(安次富陳述者に対して)
- 今国会に提出された「有事法案」について、弁護士の立場からどのように考えるか。(新垣陳述者に対して)
金子 哲夫君(社民)
- 沖縄戦を体験した方として、国民の権利制限等のおそれがある有事法制の整備についてどのように考えるか。(山内陳述者及び垣花陳述者に対して)
- 今回の「有事法案」では「武力攻撃が予測される事態」も「有事」とされるため、周辺事態法の「周辺事態」が、同時に「有事法案」の「有事」と認定されることにより、米軍の軍事行動に沖縄が巻き込まれる可能性があると思うが、いかがか。(安次富陳述者に対して)
- いわゆる戦後補償は軍関係者について手厚いように感じられるが、一般的な戦争被害者に対する補償こそ大切ではないか。(新垣陳述者に対して)
井上 喜一君(保守)
- 9条以外のその他の条項の改正についてどのように考えるか。また、日米安保条約は憲法に違反すると考えるか。(山内陳述者に対して)
- 安全保障に関する点以外に、憲法を改正すべきと考える点はあるか。(恵陳述者に対して)
- 自衛隊及び日米安保条約と憲法の関係についてどのように考えるか。(垣花陳述者に対して)
- 地方自治に関する規定として、どのような規定を憲法に盛り込むべきと考えるか。(安次富陳述者に対して)
◎傍聴者の発言の概要
派遣委員の質疑終了後、団長は、傍聴者の発言を求めた。
芳澤 弘明君
- 紛争が多い中米のコスタリカが憲法により常備軍を廃止していることに留意し、また、1999年にハーグで行われた国際平和市民会議において、日本国憲法9条の意義が高く評価されていることに留意すべきである。
我那覇 隆裕君
- 防衛・軍事力による強制力の裏付けなくして国家の主権を維持することは難しいことを認識すべきである。
伊波 宏俊君
- 沖縄では、一般の戦争被害者に対する補償や、米軍により強制的に収用された土地の返還がいまだなされていないように、憲法が完全に適用されていない。また、日米地位協定の改定等、在沖縄米軍基地をめぐる問題の解決を国会議員は率先して取り組むべきである。
仲本 和男君
- 戦争につながる道に通じている有事法制の整備には、絶対反対である。また、奉仕活動の義務化にも反対である。本日の地方公聴会の開催をもって沖縄の声を聴取し終えたとは思わないで欲しい。
崎原 盛秀君
- 日本国政府は、戦後、沖縄の意見を聴くことなく、米国に施政権を委ね、これにより、沖縄の県民は米国の過酷な占領体制に置かれ、剣とブルドーザーによる土地の収用等の犠牲を強いられた。憲法改正は、このような沖縄県民の感情を踏みにじるものであり、憲法の規定を具体的に活かす運動を展開すべきである。
野澤明希子君
- 昨今の国家の安全保障の論議は、戦前の国体護持と同じ発想ではないか。有事法制の整備及び憲法改正は、アメリカが主導する国際的な戦争体制への組み込みを意図したものであり、絶対に反対である。