平成14年7月11日(木) 地方自治に関する調査小委員会(第5回)

◎会議に付した案件

 地方自治に関する件

  上記の件について参考人北川正恭君から意見を聴取した後、質疑を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(参考人)

  三重県知事 北川 正恭君

(北川正恭参考人に対する質疑者)

  渡辺 博道君(自民)

  山田 敏雅君(民主)

  江田 康幸君(公明) 

  武山 百合子君(自由)

  春名 直章君(共産)

  金子 哲夫君(社民)

  井上 喜一君(保守) 

  伊藤 公介君(自民)

  中村 哲治君(民主)

  保岡 興治小委員長


◎北川正恭参考人の意見陳述の要点

1.「生活者起点」の立場

  • これまでの行政側の考え方は、税金を使う側の立場に立ったものであった。これからの行政には、税金を納める側の立場に立って、満足する行政サービスを受けているかどうかを判断しながら政策を進める「生活者起点」の理念が必要と考える。

2.「情報提供」の考え方

  • 「生活者起点」の観点からは、「情報公開」が不可欠であるが、三重県では、単に結果だけを請求を受けて「公開」するのではなく、審議や決定の過程をも自ら積極的に公表する「情報提供」を行っており、さらに、県民との「情報共有」を目指している。それにより、県民との「コラボレーション(協働)」が可能となり、また、それが行政に対する県民の自己責任を問うことにもつながると考える。

3.「ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)」の導入

  • 「生活者起点」の立場に立った行政を行うため、三重県では、民間企業における経営手法等を行政に導入した「ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)」を取り入れている。この考え方の下、当県では、(a)目標設定型行政から業績評価型行政へ、(b)縦割り型組織からフラット化された組織へ、(c)予算主義から決算主義への転換等を行ってきた。

4.地方分権の推進

  • 地方は国への依存体質を改める必要があり、また、「集権・官治」から「分権・自治」へと脱却することで、各地方の特色を活かした「モザイク国家」となり、地方の発展性を高めることができる。
  • 地方分権一括法により、地方が国に従属するのみであった両者の関係が大きく変化した。今後は、「対等・対立」ではなく、「対等・協力」の姿が求められる。

5.国会議員及び知事の経験より

  • かつて衆議院議員であり、現在は三重県知事であるという自身の経験から、知事と国会議員の立場の違いを痛感している。自治体と国会議員の討議等により、地方自治のための知恵を出し合うべきである。

◎北川正恭参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

渡辺 博道君(自民)

  • 参考人らが、昨日、「地方分権研究会」を発足させたと報道されているが、その発足までの経緯と研究会の内容について伺いたい。また、参考人が主張する「モザイク国家」とは何か。
  • 参考人は、地方自治体は国に頼らない体質へと改善されるべきだという意見であるが、他方で、市町村は、地方分権の受け皿として成り立つのかという議論もある。参考人は、この点についてどう思うか。
  • 平成17年3月を期限とする合併特例法により、市町村合併が奨励されているが、参考人は、今の合併状況についてどう考えるか。


山田 敏雅君(民主)

  • 三重県では、知事のアイデアや理念が県政の場で発揮されているが、そのアイデアや理念を打ち出す際に、参考人個人で考えているのか、あるいは誰かブレインがいるのか。
  • 知事の理念を現実化するに当たって、県庁内の古い考え・体質を変えることは大変なことだったと推察するが、これを進めるポイントは何であったか。
  • 国、都道府県、市町村においては、同じ補助金事業を行う等多くの事務が重複している。この状況を踏まえて、地方分権を行うに当たり、国は権限をどの程度移譲すべきと考えるか。


江田 康幸君(公明)

  • 税金の使途を納税者にとって分かりやすいものとし、地方の閉塞感を打破するためにも、地方への税・財源移譲が必要と考えるが、いかがか。また、5.5兆円分の税収を地方へ移譲するという片山総務大臣案等の具体案を、どう評価するか。
  • 参考人は、三重県で情報公開や行政評価など国に先駆けた改革を推進しており、まさに地方が国を改革に駆り立てる形となっている。今後、どのような改革を検討しているか。


武山 百合子君(自由)

  • 長年、国も地方も地方分権を訴えていながら、実行に移してこなかった。地方自治体という現場にいる立場から見て、この理由をどう考えるか。
  • 知事には大統領にも似た強い権限があるが、参考人は、この知事の権限についてどう考えるか。
  • 現在、教育現場の人事権は都道府県が握っている。しかし、私は、現場に近い市町村が持つべきだと考えるが、いかがか。


春名 直章君(共産)

  • 現行憲法で新たに設けられた憲法8章(「地方自治」)の意義について、参考人はどう考えるか。また、憲法25条の生存権の規定は、地方自治の現場でも重要なものと考えるが、参考人は、日常の県政の運営に、どのように憲法25条の理念を反映しているか。
  • 民間企業における経営手法を導入したNPMという行政経営手法は、介護等の福祉行政や教育行政等のような市場原理に馴染まない分野には適用できないと考えるが、いかがか。
  • 三重県は、私企業であるシャープに対し、15年間で90億円を上限に補助金の交付を決めているが、このような公的な資金は、真珠の養殖業や他の農林水産業といった地場産業の育成に使うべきという考え方もあると思う。この両者のバランスをどう考えるか。


金子 哲夫君(社民)

  • 地方分権を進めていく上で、地方の意見が中央に反映される仕組みを整えることが重要であると考えるが、現行の仕組みの評価を含めて、参考人はどう考えるか。
  • 地方自治体に自主財源を認めたとしても、地方自治体間の財政格差が生ずることは避けられない。地方自治体の自主財源の確保について、参考人はどう考えるか。
  • 林業が不振に陥っている中で、参考人が提言する「緑の雇用事業」(自然環境の保全を目的とした森林管理等の公共事業)に対して、県としてどの程度まで取り組むべきと考えているのか。


井上 喜一君(保守)

  • 参考人が目指す県政の理念は、県職員に真に浸透しているのか。また、理念を浸透させるために、いかなる手法をとっているのか。
  • 地方分権では人材の確保が重要であると考えるが、三重県では、今でも中央省庁からの天下り人事を認めているのか。
  • 市町村合併が進むと、中間団体である都道府県の廃止や連合等が喫緊の課題となるが、参考人はどう考えるか。
  • 一政治家として、日本国憲法のどこを改正すべきと思うか、あるいは改正すべきではないのか。また、9条のあり方、基本的人権の保障のあり方について、どう考えるか。


伊藤 公介君(自民)

  • 地方議員の定数等の地方議会のあり方を法律で画一的に定めるのではなくて、各自治体が独自の判断で定めることができるようにすべきと考えるが、知事としての経験を踏まえ、参考人はどう考えるか。
  • 最近の政官をめぐる不祥事を考えると、公共事業の入札制度を改革する必要があると考える。例えば、横須賀における電子入札制度のような試みもあるが、公共事業の入札制度のあり方について、参考人はどう考えるか。


中村 哲治君(民主)

  • 現在、自治体間競争が注目されているが、参考人は、三重県のどのような点が他県より優れていると思うか。
  • 道州制を念頭に置くと、自治体間「競争」から自治体間「協力」が重要になっていくと考えるが、参考人は、県相互間の協力について、どう思うか。
  • 国会議員と都道府県知事は、地方自治の実現において、どのような関係であるべきと考えるか。


保岡興治小委員長

  • 現在の日本は、目指すべき目標を見失っているため、国家理念とそれを実現させるための体制を再構築する必要があると思うが、知事の目から見て、新しい国家像をどう考えるか。
  • 市町村合併が進み、基礎的自治体に権限と財源が移譲された後には、中間的な存在である都道府県をなくして、道州制を導入することが望ましいと考えるが、いかがか。

◎自由討議における委員の発言の概要(発言順)

伊藤 公介君(自民)

  • 三重県を含め、地方自治体の主要ポストに中央省庁から多くの国家公務員が出向していることは、地方分権を阻害していると思う。国家公務員の出向に頼るのではなく、民間人を登用できるシステムを考えるべきである。


森岡 正宏君(自民)

  • 三重県における「決算主義」への取組みは、国会においても実践すべきである。スキャンダルの解明等が中心となり、予算・決算の審議が行われていないような予算委員会及び決算行政監視委員会のあり方を改めるべきである。

中野 寛成会長代理

  • 日本では民主主義を標榜しながら、いつのまにか民主主義のルールを壁として作り、それを守ることが民主主義であるという錯覚に陥っている。今こそ、「民主主義の民主化」が必要であり、そのためには、地方分権と情報公開が不可欠である。
  • 二院制に関しては、両院での予算と決算の審査の役割分担、両院の議員の選出方法に差を設けること等を検討する必要がある。


中川 正春君(民主)

  • 地方自治体の統治システムは、全国一律に大統領制的な制度となっており、その上、首長と議会とでは圧倒的に首長の権限が強い。このような制度が本当に適切なのか疑問であり、住民参加の観点を重視しつつ、望ましい制度を検討する必要がある。


永井 英慈君(民主)

  • 日本は戦後の発展を経て、人口も経済力も巨大な国になったが、特に、内政部分が肥大化したグロテスクな国になってしまった。これからは、中央と地方の役割を峻別して、バランスのとれた国にしていくことが重要だ。

保岡 興治小委員長

  • これからの日本は、「透明な自治の国の実現」により成熟した社会を目指し、これを国家目標にしていくべきだ。
  • 地方分権を進め市町村に権限を移譲すれば、都道府県の存在意義は薄くなっていく。その意味で、地方分権改革推進会議において、道州制の検討が始まったことは意義深いと思う。


春名 直章君(共産)

  • 地方自治においては住民自治が極めて大切である。しかるに、道州制が導入されると、現在の都道府県が大きくなることによって、住民の声が反映されにくくなるおそれがあるという懸念を持っている。