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平成二十七年六月二十二日提出
質問第二八九号

東シナ海の領海防衛に対する政府の考え方に関する質問主意書

提出者  逢坂誠二




東シナ海の領海防衛に対する政府の考え方に関する質問主意書


 第百八十九回通常国会に安倍内閣が提出し審議が進められている「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」及び「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律案」(以下、「本法案」という)は、従来、行政実務、判例を勘案して積み重ねられてきた憲法学的知見とは明白に反するもので、違憲である。
 わが国の憲法学の代表的論者である芦部信喜は、その著作の「憲法」の中で、国連決議に基づいて行われる国連平和維持活動に関してでさえ、「武力行使をともなわない停戦監視団についても、武力行使と無縁とは言い切れない」と述べた上で、「自衛隊の海外出動が合憲か否かは、武力行使の有無と深くかかわる」もので、「いかに国際貢献という目的であっても、憲法九条の改正なくして、現状のまま自衛隊が部隊として参加する出動を認めることは、法的にきわめて難しい」との見解を示している。これがわが国の憲法学的通説であり、海外での集団的自衛権の行使を可能とする本法案はこれを超えるもので、憲法上、明白に許されない。
 このような憲法に反する本法案を準備する以前に、そもそもわが国の安全保障上最も憂慮すべきは尖閣諸島周辺などの東シナ海における領海の防衛であろう。尖閣諸島は、日米安全保障条約第五条でいう「日本国の施政の下にある領域」で、「いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものである」ものとして、日米は「共通の危険に対処する」ことが両政府によって繰り返し確認されている。しかしながら、本法案で想定するホルムズ海峡や南シナ海で米軍支援等にわが国の防衛力を割くことで、尖閣諸島周辺の領海の防衛が疎かになり、領海侵犯を繰り返す者が突如として大規模に漁民などを尖閣諸島のある島に上陸させた上で、大量の艦船などをともなって実力を行使して、「日本国の施政の下にある」ことの実効性を失わせた場合、日米安全保障条約の第五条が適用されない実態が生み出される状態に陥りかねず、アメリカの支援を受ける根拠が失われたまま施政権が奪われるという結果を生み出しかねない。中国政府高官は、「釣魚島(尖閣諸島の中国名)は中国の領土主権に関する問題であり、当然、中国の核心的利益に属する」と明言している。
 自国の領土領海の防衛は日本政府が自らの手で行い抜くべきであり、本法案が合憲違憲以前に、ホルムズ海峡や南シナ海に安易に自衛隊の活動範囲を広げるべきではない。尖閣諸島周辺の防衛にアメリカが必ず共同で対処してくれると考えることは妄想でしかない。
 陸上自衛隊の北部総監を務めた元陸将の志方俊之氏は、平成十一年五月十三日、参議院の日米防衛協力のための指針に関する特別委員会の中で、「自分の国を自分の国の兵力が守らないという」ことは「問題がある」。「アメリカの兵隊が日本の国のために命をささげてくれるとでも思っておるのでしょうか。日本とアメリカの国益がこの地域でオーバーラップしているから、アメリカの兵隊はアメリカの国益のために命をかけ」るに過ぎないとして、日米安全保障条約の危うさの部分を指摘している。
 政府が優先すべきはわが国の領土領海を確実に守り抜くことであり、遠方に自衛隊の部隊を長期間派遣し、領土領海の防衛力を減じさせることではない。
 このような視点から、以下質問する。

一 日米安全保障条約第五条でいう「日本国の施政の下」とは、具体的にはどのような状態を指すのか、政府の見解を示されたい。
二 日米安全保障条約第五条でいう「日本国の施政の下にある領域」に、北方領土、竹島、尖閣諸島はそれぞれ該当するのか、政府の見解を示されたい。
三 現在、尖閣諸島周辺の政府の行っている警備体制について、人員、艦船、装備している武器等を具体的に示されたい。
四 中国外務省の華春瑩副報道局長は、平成二十五年四月二十六日の記者会見で、尖閣諸島について「釣魚島(尖閣諸島の中国名)は中国の領土主権に関する問題であり、当然、中国の核心的利益に属する」と述べている。これは中国が尖閣諸島に関わる問題が妥協できない国益を意味する「核心的利益」と初めて公式に位置付けたものである。中国政府はこれまで台湾やチベットの問題について核心的利益との表現を用いてきているが、「尖閣諸島の問題を核心的利益であると主張している」という事実を政府は認識しているのか、見解を示されたい。
五 中国政府は、これまで核心的利益に属すると公式に表明した地域に関して、武力行使も辞さず、その権益を守り抜く姿勢を示している。例えば、古くは一九五〇年代末のチベット動乱がそうであり、昨今のチベットでの反政府派のデモへの実力行使も典型的な事例である。尖閣諸島はわが国の領土であるものの、中国政府が「核心的利益」と明言している以上、政府は特に重点的な防衛体制を取り、守り抜かなければならない。政府は中国政府が「核心的利益」と主張する尖閣諸島について、どのような防衛体制を構築すべきだと考えているのか、見解を示されたい。
六 尖閣諸島の一つの島が漁民等に偽装された兵士に占領され、海上保安庁の艦船等が接近すると火力で応戦しはじめ、近づくことができない場合、この島は「日本国の施政の下にある領域」であるといえるのか、政府の見解を示されたい。
七 尖閣諸島の一つの島が漁民等に偽装された兵士に占領され、短期間で構造物が構築され、火砲等が配備された場合、この島は「日本国の施政の下にある領域」であるといえるのか、政府の見解を示されたい。
八 日本から海上自衛隊の護衛艦がホルムズ海峡周辺の海域、あるいは南シナ海の海域に航行する場合、必要となる日数は片道で何日か、政府の見解を示されたい。
九 海上自衛隊の護衛艦をホルムズ海峡や南シナ海に派遣する場合、その分、わが国の領海防衛の能力は当然減じることになる。また海上自衛隊の護衛艦がホルムズ海峡や南シナ海に派遣される場合、日本本土の基地に配備されている航空自衛隊の戦闘機の行動範囲外である以上、自衛隊機の航空支援は受けられない。いわば護衛艦は「自国の戦闘機による航空支援のない丸裸の作戦行動」を取ることになる。このような様々なリスクを承知の上で、あえて日本の領海防衛の能力を減じさせ、かつ、日本の領海から遠い海域で航空支援もない作戦行動を行うメリットはどこにあるのか。このような航空支援を受けない艦船に対して、敵から攻撃が行われた場合に悲劇的な結果が生まれることは、先の大戦でわが国政府は十分学んだはずである。政府の見解を示されたい。
十 志方俊之氏が指摘するように、日米安全保障条約では、日本とアメリカの国益が日本とその周辺の地域でオーバーラップしているから、アメリカ軍はアメリカの国益のために命をかけるのであろうが、それ以前に日本政府が自ら守り抜かなければならない。従って、日本政府は自らの防衛力でその領土領海を守り抜く体制の確実な構築を優先すべきであり、日本の領土から十数日から数十日もかかる遠方に力を割く余裕はないはずである。本法案でいう重要影響事態では、従来の周辺事態法では規定していた自衛隊の行動範囲の地理的制約を撤廃しているが、政府が優先すべきはわが国の領土領海を自ら守り抜くことであり、遠方に自衛隊の部隊を長期間派遣し、領土領海の防衛力を減じさせることではないのではないか。政府の見解を示されたい。

 右質問する。



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