会長 | 中山 太郎君 | 自民 | |||
幹事 | 近藤 基彦君 | 自民 | 幹事 | 福田 康夫君 | 自民 |
幹事 | 船田 元君 | 自民 | 幹事 | 古屋 圭司君 | 自民 |
幹事 | 保岡 興治君 | 自民 | ※幹事 | 枝野 幸男君 | 民主 |
幹事 | 中川 正春君 | 民主 | 幹事 | 山花 郁夫君 | 民主 |
幹事 | 赤松 正雄君 | 公明 | 伊藤 公介君 | 自民 | |
大村 秀章君 | 自民 | 加藤 勝信君 | 自民 | ||
河野 太郎君 | 自民 | 坂本 剛二君 | 自民 | ||
柴山 昌彦君 | 自民 | 渡海紀三朗君 | 自民 | ||
中谷 元君 | 自民 | 西川 京子君 | 自民 | ||
野田 毅君 | 自民 | 葉梨 康弘君 | 自民 | ||
早川 忠孝君 | 自民 | 平井 卓也君 | 自民 | ||
平沼 赳夫君 | 自民 | 二田 孝治君 | 自民 | ||
松野 博一君 | 自民 | 松宮 勲君 | 自民 | ||
三原 朝彦君 | 自民 | 森山 眞弓君 | 自民 | ||
渡辺 博道君 | 自民 | 青木 愛君 | 民主 | ||
稲見 哲男君 | 民主 | 大出 彰君 | 民主 | ||
鹿野 道彦君 | 民主 | 鈴木 克昌君 | 民主 | ||
園田 康博君 | 民主 | 田中眞紀子君 | 民主 | ||
辻 惠君 | 民主 | 中根 康浩君 | 民主 | ||
計屋 圭宏君 | 民主 | 古川 元久君 | 民主 | ||
馬淵 澄夫君 | 民主 | 笠 浩史君 | 民主 | ||
和田 隆志君 | 民主 | 渡部 恒三君 | 民主 | ||
太田 昭宏君 | 公明 | 高木 陽介君 | 公明 | ||
福島 豊君 | 公明 | 山口 富男君 | 共産 | ||
土井たか子君 | 社民 |
(平成17. 8. 8 現在)
※は、会長代理(平成11年7月6日の議院運営委員会理事会における申合せにより、会長が野党第一党の幹事の中から指名)
報告書をまとめるにあたり、平成17年2月3日、10日、17日及び24日の憲法調査会において、これまで議論されてきた論点について分野別に締め括りの自由討議が行われた。
その一方、2月3日の幹事会において中山会長、枝野会長代理及び船田筆頭幹事の協議によりまとめられた報告書の編集方針案が提案された。その内容は、時系列的又は外形的な記録部分については中間報告書のスタイルを踏襲し、憲法調査会委員の議論の中身の部分については、[1]調査会にあらわれた委員の憲法に関する様々な意見をそれぞれ記載する、[2]個々の委員の発言をその発言者名とともに要約摘示するという中間報告書の方式ではなく、テーマ毎に委員の様々な意見を類型化する形で摘示する、[3]5年間の調査を通じて「多く」述べられた委員の意見についてはその旨を記すというものであった。協議の結果、この編集方針により報告書素案を作成することとなった。この方針は、第3編第3章「憲法調査会における議論」の冒頭に「はじめに」として記載されている。
3月29日の幹事懇談会において、まとめられた「報告書素案」が提示され、4月5日、6日、8日の幹事懇談会及び12日の幹事会において「報告書素案」をもとに協議が重ねられ、報告書案が作成された。
4月15日の調査会において、作成された報告書案について、会長からその趣旨の説明を聴取し、各会派から順次発言を行った後、採決を行い、賛成多数(賛成―自民、民主、公明 反対―共産、社民)で議決された。報告書は、同日、会長から議長に提出された。また、4月26日の本会議において、会長から報告書提出の経緯及び概要についての報告があった。
報告書は、第1編「憲法調査会の設置の経緯」、第2編「憲法調査会の設置の趣旨とその組織及び運営」、第3編「憲法調査会の調査の経過及びその内容」及び第4編「資料」の4編で構成されている。調査の内容をまとめた第3編第3章がその中核的な内容をなしている。
憲法調査会において取り上げられた特定の憲法上の論点を中心に、その概要を紹介すれば、おおよそ以下のとおりである。
○ 自由討議における主な発言内容
○ 自由討議における主な発言内容
○ 自由討議における主な発言内容
○ 自由討議における主な発言内容
○ 自由討議における主な発言内容
○ 自由討議における主な発言内容
○ 自由討議における主な発言内容
○ 自由討議における主な発言内容
中山会長より報告書案の趣旨説明を聴取し、各会派から発言がなされた後、採決を行い、賛成多数(賛成―自民、民主、公明 反対―共産、社民)で議決された。
○ 船田元委員(自民)による意見陳述の要点
○ 枝野幸男委員(民主)による意見陳述の要点
○ 赤松正雄委員(公明)による意見陳述の要点
○ 山口富男委員(共産)による意見陳述の要点
○ 土井たか子委員(社民)による意見陳述の要点
本章は、憲法調査会における概ね5年間の憲法に関する議論の全貌を公平に、かつ、分かりやすく提示することを旨として、次の三つの方針に基づいて編集した。
1 憲法調査会にあらわれた委員の多様な意見を偏ることなく公平に記載すること。
2 膨大な量に達する調査の全貌を分かりやすく示すため、委員の意見を論点ごとに類型化して摘示すること。
3 概ね5年間の調査を通じて多く述べられた意見については、その旨を記すこと。なお、これは、憲法調査会の意思決定による多数を意味するものではないこと。
なお、参考として、各項目の末尾に、参考人、公述人、意見陳述者等(以下「参考人等」という。)の発言を、その趣旨を損なわないように要約して掲載した。
日本国憲法制定の意義について、主権在民、基本的人権の尊重、平和主義等の諸原則を定めた点を高く評価する意見が述べられた。これに対し、日本国憲法の制定は、日本の伝統・文化等を軽視ないし否定した側面があるのではないか等とする意見も述べられた。
日本国憲法の制定経緯については、GHQ民政局が作成した草案を日本側に提示し、それを基に日本国憲法の草案を起草するよう指示したことを端緒とする、日本国憲法の制定に対する一連のGHQの関与等について議論が行われた。この点については、日本国憲法の制定に対する一連のGHQの関与を「押しつけ」と捉えて問題視する意見もあったが、その点ばかりを強調すべきではないとする意見が多く述べられた。
その他、日本国憲法の各項目の制定経緯等についても議論が行われた。
国民主権、平和主義及び基本的人権の尊重という日本国憲法の基本的な原理を今後とも維持すべきであるとする意見が多く述べられた。
憲法の役割について、次のような意見が述べられた。
一つは、憲法の役割について、近代立憲主義の理念に基づき、公権力の行使を制限する役割を重視する意見である。もう一つは、憲法の役割について、国家目標の設定や国民の行為規範としての役割をも重視する意見である。このような重点の置き方の違いは、憲法事項の内容、例えば、前文に我が国固有の価値を規定すべきか否か、国民の義務規定を増やすべきか否か、憲法尊重擁護義務の名宛人に国民を追加すべきか否か等について、意見が分かれる基因となっている。
自衛隊の存在や海外におけるその活動と、9条に定める戦争の放棄、戦力の不保持及び交戦権の否認との関係、選挙における一票の価値の格差の問題と、14条に定める法の下の平等との関係をはじめとして、いくつかの事項が憲法と現実との乖離として取り上げられた。
憲法と現実との乖離として取り上げられた事項を憲法解釈により説明付けることについては、憲法の空洞化・形骸化を招き、ひいては憲法規範の軽視や憲法本来の安定性を毀損するのではないかという懸念等が指摘された。
そこで、当該乖離をいかなる方法で解消すべきかについては、意見が分かれた。
一方は現実に合わせて憲法を改正すべきであるとする意見であり、他方は現実を憲法に合わせて是正していくべきであるとする意見である。この意見の違いは、主として、9条と現実との乖離をどう解消するかにおいて現れた。
憲法を取り巻く状況は、制定以来、著しく変容している。
その事例として取り上げられたものとしては、[1]我が国に対する国際貢献の期待の高まり、[2]科学技術の進歩、[3]環境問題の発生等があった。
これらの状況の変化を踏まえ、憲法の条項にこれを反映させることの要否が憲法のいくつかの分野において議論された。そこでは、これらの状況の変化に対応して憲法に規定を設けるべきであるとする意見と、憲法の理念を踏まえ法律等で対応することが重要であり、憲法改正は必要ないとする意見が述べられた。
A 内容
前文に関しては、主として前文の必要性の有無、前文と各条文との関係、前文の規範性、前文の内容及び前文の文章・表現について議論が行われた。
前文と各条文との関係については、前文は各条文との間に密接な関係を有しているとする意見が述べられた。
前文の内容に関する主な議論は、前文に規定すべき事項についてである。この点については、我が国固有の歴史・伝統・文化等を前文に明記することの是非に関する議論が行われたが、意見が分かれた。
歴史・伝統・文化等は多様性を持っており、特定の価値観を規定することは慎むべきであるとする意見もあったが、前文に我が国固有の歴史・伝統・文化等を明記すべきであるとする意見が多く述べられた。
また、憲法の基本三原則や地球環境に対する我が国の対応を前文に規定することについて議論が行われた。
B 文章・表現
前文の文章・表現については、前文の文章は国民の間に定着しており、変える必要はないとする意見もあったが、英語の文章構造に基づく、いわゆる翻訳調のものであることから、日本人の発想に基づいた、分かりやすい日本語で書かれたものに改めるべきであるとする意見や、シンプルなものに改めるべきであるとする意見が多く述べられた。
C 前文と憲法の各項目に対応した発言
前文と憲法の各項目との関連で議論が行われた。その主なものは、平和主義や平和的生存権に関するものであった。平和主義については、その趣旨を評価する意見と、批判的な意見とが述べられた。また、平和的生存権については、平和的生存権を評価する意見と平和的生存権をより明確に提示すべきであるとする意見が述べられた。
A 象徴天皇制に対する評価
現行の象徴天皇制については、国民から支持され定着していること、歴史的にみても本来の天皇制のあり方に適ったものであること等を理由として、今後とも維持されるべきものであるとする意見が多く述べられ、その存廃を当面の憲法問題とする意見はなかった。
また、国民主権の下における天皇制の位置付けについても議論が行われた。
B 天皇の地位
天皇の地位については、元首の問題が取り上げられた。天皇を元首と認識すべきか否かについては、意見が分かれた。また、憲法に天皇が元首である旨の規定を置くべきか否かについても両論があったが、元首である旨を明記する必要はないとする意見が多く述べられた。
天皇が元首である旨を明記する必要はないとする意見は、その論拠として、[1]国政に関する一切の権能を有しないという天皇の現在の地位からするとその旨の規定は困難であること、[2]国民の大半が現在の象徴天皇制に異議を述べていないこと、[3]元首と明記しないことが象徴天皇制にふさわしいこと等を挙げている。これに対し、天皇を元首と明記すべきであるとする意見は、天皇は現に元首であると認識し得るから、これを明確にすべきであるとするものである。
C 皇位継承
皇位継承については、主として皇室典範の問題として議論が行われた。その主な議論は、女性による皇位継承の是非に関するものである。この点については、女性による皇位継承を認めることに慎重な意見もあったが、これを認めるべきであるとする意見が多く述べられた。
女性による皇位継承を認めるべきであるとする意見は、[1]憲法が皇位継承権を男性に限定していないこと、[2]男性による継承に限定したままでは皇統が断絶する懸念があること、[3]女性の天皇を容認する国民世論の動向、[4]これを認めることが男女平等や男女共同参画社会の形成という現在の潮流にも適うものであること等を論拠としている。これに対し、慎重論は、男系男子による継承が我が国の伝統であること等を論拠としている。
D 天皇の行為
天皇の行為については、国事行為のあり方及び運用、国事行為及び私的行為以外の天皇の行為類型を容認するか否か等に関する議論が行われた。
A 安全保障
a 9条に対する評価
安全保障については、9条がこれまで我が国の平和や繁栄に果たしてきた役割を評価する意見が多く述べられた。また、少なくとも同条1項の戦争放棄の理念を堅持し、平和主義を今後も維持すべきであるとする意見が多く述べられた。
9条に対する評価として、[1]現行の憲法は優れた憲法であり、戦後の日本の平和と安定・発展に大きく寄与してきたとする意見、[2]9条は単なる理念ではなく、軍事大国に進まない歯止めとなっているとする意見、[3]9条と前文に基づく平和主義と徹底した平和主義への国民の努力が、我が国の平和に大きな貢献をしてきたことは、アジア各国からの平和主義への支持と積極的な評価からも明らかであるとする意見、[4]憲法は、軍事的手段による安全保障を否定し、徹底して人間の安全保障を希求しているとする意見が述べられた。これに対し、9条があることにより、日本が紛争を起こさず、他国にも侵略されていないとする議論があるが、日米安全保障条約及び自衛隊の存在があったからこそ、我が国は、平和と経済的繁栄を享受してきたとする意見等が述べられた。
b 自衛権及び自衛隊
自衛権の行使として武力の行使が認められるか否かについては、自衛権の行使としてであっても武力の行使は認められないとする意見もあったが、自衛権の行使として必要最小限度の武力の行使を認める意見が多く述べられた。
(i) 自衛権及び自衛隊と憲法規定との関係
上記のとおり、自衛権の行使として必要最小限度の武力の行使を認めるとする意見が多く述べられたが、この意見は、自衛権及び自衛隊と憲法規定との関係に関しては、(a)自衛権及び自衛隊の憲法上の根拠を明らかにするための措置をとるべきであるとする意見、(b)自衛権の行使や自衛隊の法的統制に関する規定を憲法に設けるべきであるとする意見、(c)自衛のための必要最小限度の武力の行使を認めつつ、9条を堅持すべきであるとする意見に大別することができる。なお、(c)の意見の中には、自衛隊に関する規定を憲法に追加すべきか否かについては、今後の議論の対象であるとする意見を含んでいる。
また、(d)自衛権の行使としての武力の行使及び自衛隊に否定的な意見が述べられた。
上記のように意見は分かれているが、自衛権及び自衛隊について何らかの憲法上の措置をとることを否定しない意見が多く述べられた。
(a)の立場が、自衛権及び自衛隊についての憲法上の位置付けを明確にすることに重点を置くのに対し、(b)の立場は、強力な公権力行使である自衛権の行使について、これを制限的・抑制的なものにするため、その発動要件と限界、自衛隊の行動原則等を規定して法的統制を図ることに重点を置くものである。また、(c)の立場は、個別的自衛権の担保として存在する自衛隊は、9条2項の戦力に当たらないと解することができるという考え方に基づくものである。
一方、(d)の立場からは、9条を堅持すべきであるとし、我が国は同条の理念の下で、紛争の未然防止及び紛争が生じた場合の平和的解決に向けての努力を行うべきであるとする意見が述べられた。また、自衛隊については、これを否定的に評価し、災害対策のための別組織への改組や、その段階的な解消を行うべきであるなどとしている。
(ii) 集団的自衛権
集団的自衛権の行使の是非については、これを認めるべきであるとしつつその行使の限度に言及しない意見、これを認めるべきであるとしつつその行使に限度を設けるべきであるとする意見及びこれを認めるべきではないとする意見に、ほぼ三分された。
集団的自衛権の行使を認めるべきであるとする意見は、論拠として、[1]米国と共同して行う我が国の防衛及び我が国周辺における国際協力をより円滑・効果的に行うため、あるいは、米国との対等な同盟関係を構築するためにこれを認めるべきであること、[2]集団的自衛権は主権国家が持つ自然権であり、国連憲章上も認められていることから、我が国においてもその行使は認められること等を挙げている。
集団的自衛権の行使の限度については、限度を付すことにより他国と共同して行う活動に支障を来す場合も想定されるため、憲法にあらかじめ限度を設けるべきではなく、状況に応じて随時、政策判断をなすべきであるとする意見と、集団的自衛権は、抑制的・限定的に行使すべきであり、[1]同盟国間に限定する、[2]東アジア地域に限定する、あるいは、[3]我が国の死活的利益に重大な影響がある場合に限定するなどの限度を設けるべきであるとする意見等が述べられた。
集団的自衛権の行使を認めるべきではないとする意見は、その論拠として、[1]集団的自衛権は国連憲章上例外的かつ暫定的なものとされ、現実には軍事同盟の根拠とされていること、[2]その行使を認めることは、地球的規模で行われる米国の戦争に自衛隊が制約なく参加できるようにするものであること、[3]集団的自衛権の行使を認めることはアジア諸国に対して不信感と脅威を与える結果となること等を挙げている。
集団的自衛権の行使を認めるべきであるとする立場から、その法的根拠について、憲法解釈の変更により認められるとする意見もあったが、憲法改正によるべきであるとする意見が多く述べられた。
憲法改正によるべきであるとする意見は、上記(i)の(a)及び(b)に記したところと同様である。
集団的自衛権の行使について憲法解釈の変更により認められるとする意見は、国家は、その固有の権利として、個別的・集団的を問わず自衛権を有し、行使できるのであり、集団的自衛権の行使を認めることを憲法に明記する必要はないとするものである。
c 日米安全保障条約
日米安全保障条約については、その存続を前提とする意見と同条約に否定的な意見が述べられた。
日米安全保障条約の存続を前提とする意見も一様ではない。一方には、核の脅威等に我が国一国で対応することは、アジア地域に緊張を持ち込むことになり、日米同盟は非常に現実的な安全保障政策であるとする意見等があり、他方には、我が国の安全保障は、現実には日米同盟を前提に考えざるを得ないが、我が国の自立のためにも、国連中心主義を重視すべきであるとする意見等があった。
これに対し、日米安全保障条約に否定的な立場からは、9条の精神に沿って、これと矛盾する日米安全保障条約を解消すべきであるとする意見等が述べられた。
d 在日米軍基地問題
在日米軍基地に関しては、基地問題の現状と今後のあり方、基地問題と憲法との関係等について議論が行われ、祖国復帰から今日に至るまでの沖縄は、膨大な米軍基地や日米地位協定が存在するため憲法の理念に反する状況に置かれているが、憲法の精神、理念の実現が求められているとする意見等が述べられた。
e 核兵器の廃絶等
核兵器の廃絶等については、[1]核兵器の廃絶や非核三原則を憲法に明記すべきであるとする意見、[2]核抑止論から脱却しない限り核兵器拡散の危険性は続き、核兵器の廃絶と矛盾する核抑止論は認められないとする意見、[3]米国の核抑止力に依存しなければ、必要最小限度とされる自衛権の行使だけでは我が国の安全は確保できないとする意見等が述べられた。
B 国際協力
a 国際協力の推進
我が国が今後も積極的に国際協力を行うべきであるとすることについては、概ね共通の理解があったが、我が国がどのような国際協力を行うべきであるのかについては、多様な意見が述べられた。
b 国際協力の推進と憲法との関係
憲法に国際協力に関する規定を置くことの是非については、規定を置くべきであるとする意見と、新たに憲法に規定する必要はないとする意見が述べられた。
憲法に国際協力に関する規定を置くべきであるとする立場からは、[1]国際協力活動の根拠規定を置くべきであるとする意見、[2]自衛隊の海外派遣についての根拠規定を置くべきであるとする意見、[3]軍事力の行使による国際協力が不可避である場合にこれを可能とする規定を置くべきであるとする意見等が述べられた。
これに対し、新たに憲法に規定する必要はないとする立場からは、我が国は9条の下で非軍事的な分野における支援活動を行うべきであるから、憲法を改正する必要はないとする意見等が述べられた。
c 国連の集団安全保障活動への参加
国際協力の一類型である国連の集団安全保障活動への参加の是非については、参加は非軍事の分野に限るべきであるとする意見もあったが、非軍事の分野に限らず国連の集団安全保障活動に参加すべきであるとする意見が多く述べられた。
非軍事の分野に限らず国連の集団安全保障活動に参加すべきであるとする意見は、その論拠として、[1]国際の平和と安全から大きな恩恵を享受する我が国は、国際協力に関し、経済大国にふさわしい役割を果たすべきであること、[2]一国平和主義から脱却して他国とリスクを共有すべきであること等を挙げている。この立場から、その法的根拠について、現行憲法の下でも参加が可能であるとする意見もあったが、その法的根拠を憲法に明記すべきであるとする意見が多く述べられた。法的根拠を憲法に明記すべきであるとする意見は、その論拠として、[1]国連軍や多国籍軍を含め積極的に参加することを憲法上可能とする必要があること、[2]当該参加に係る武力行使を限定的なものとするための規定を設ける必要があること等を挙げている。また、現行憲法の下でも当該参加が可能であるとする立場からは、集団安全保障活動は9条が禁ずる国権の発動としての武力の行使ではなく、前文の国際協調主義に基づくものであり、自衛のための必要最小限度の武力の行使とは別枠で認められていると解釈することが可能であるとする意見等が述べられた。
これに対し、参加は非軍事の分野に限るべきであるとする意見は、その論拠として、[1]国連の集団安全保障活動であっても、これに参加して武力を行使することは憲法に違反すること、[2]我が国が軍事的強制措置に参加することは、アジア諸国に対し不信感と脅威を与えるおそれがあること等を挙げている。
d 自衛隊の国際協力活動
自衛隊の国際協力活動の是非については、自衛隊を活用すべきであるとする立場からの意見と、これを活用することは適当ではないとする立場からの意見があった。
自衛隊を活用すべきであるとする立場からは、[1]我が国は世界から人的貢献を含む国際協力を行うことが期待されているところ、その都度自衛隊を派遣するのに必要となる法律を制定することは限界にきているので、憲法に自衛隊の国際協力に関する明文規定を置くべきであるとする意見、[2]自衛隊の海外派遣について一般的に定める恒久法を制定すべきであるとする意見等が述べられた。
これに対し、自衛隊を活用することは適当ではないとする立場からは、[1]自衛隊の海外派遣は憲法上認められないとする意見、[2]NGOなど自衛隊以外の人的貢献のあり方について検討すべきであるとする意見等が述べられた。
e 地域安全保障
地域安全保障に関しては、アジアにおける地域安全保障の枠組みの構築等について議論が行われ、何らかの枠組みが必要であるとする意見が多く述べられた。その主なものとしては、[1]国際的なテロへの共同対処の必要性や北東アジアの地域情勢を考慮すると、アジア諸国が日常的な外交、協議、信頼醸成等を積み重ねることにより安全保障を確保することが重要であり、そのための地域安全保障の枠組みを構築すべきであるとする意見、[2]我が国の安全保障のあり方として、日米安全保障体制を維持・発展させるべきであるが、これに依存するだけではなく、他の外交的選択肢として、アジアにおける集団安全保障機構の創設を検討すべきであるとする意見等があった。
ただ、その枠組みのあり方については、武力の行使を含む枠組みを構想するものと、非軍事的な安全保障対話の枠組みを構築すべきであるとするものとに分かれている。
このほか、経済の自由化と地域安全保障との関係に関する議論が行われた。
C その他
その他、国連に関する諸事項、国家主権の移譲等に関する議論が行われた。
A 国民の権利及び義務総論
a 近代立憲主義とその展開
国民の権利及び義務に関する憲法のあり方という基本問題に関し、憲法は国家権力の濫用から国民の基本的人権を守ることをその目的とするとし、国家からの自由を基本に据える近代立憲主義の考え方を重視すべきであるとする意見と、近代立憲主義を踏まえつつも、基本的人権の保障についての国家の積極的役割をも重視すべきであるとする意見が述べられた。
近代立憲主義の考え方を重視する前者の意見は、憲法の公権力行使の制限規範としての要素を重視するものである。
これに対し、国家の積極的役割をも重視すべきであるとする後者の意見は、環境問題、人権間の調整、科学技術の進展等、国家からの自由のみでは説明及び解決が難しい事態が生じているのではないかとして、人権保障等に関する国家の積極的な役割を求めるものである。
b 基本的人権の調整
基本的人権の調整に関し、公共の福祉の問題等が取り上げられたが、その主な論点は、人権の調整又は制約の目的・手段の合理性をどのように担保するかにあった。この点については、[1]権利の類型等に応じて、公共の福祉の内容を具体的に憲法に規定すべきであるとする意見、[2]人権の調整又は制約の目的・手段の合理性の判断は、主に、議会の定める法律の形式で行われるべきであるとする意見等が述べられた。[2]の意見は、当該合理性の判断という国家の本質的事項について議会が安易に行政権に立法委任することを戒める趣旨を持つものである。ただし、[1]と[2]は、二律背反的なものではなく、議会が当該判断を的確に行うための指針を示すために、[1]のような憲法規定が必要であるとする意見もあった。
c 外国人の人権
人権享有主体の問題に関し、外国人の人権が取り上げられ、様々な角度から議論が行われた。その中でも、定住外国人に地方参政権を付与すべきか否かの問題については、住民自治の観点等からこれに積極的な意見と参政権は国民にのみ与えられるべき権利である等の理由からこれに慎重な意見が述べられた。
d いわゆる「新しい人権」
いわゆる「新しい人権」に関しては、これを積極的に認めるということが共通の認識であった。その上で、これを憲法に明記することの要否について議論が行われた。
新しい人権を憲法に明記すべきであるとする意見は、その論拠として、[1]憲法制定当時には想定されていなかった権利が、その後認められるようになったこと、[2]その憲法への明記が国民の人権の保障に有益であること、[3]憲法への明記が立法や裁判の基準となること、[4]憲法が抽象度の高い規範であるとしても、新しい人権が13条の幸福追求権等に含まれるという考え方には限界があること等を挙げている。
これに対し、新しい人権を憲法に明記することを要しないとする意見は、例えばプライバシーの権利は13条によって、知る権利は21条によって既に解釈上認められるに至っている等、憲法の人権規定は現在の新しい人権のみならず、将来生起し得る新しい人権にも対応できる懐が深いものであるとするものである。そして、必要なことは、憲法に規定を置くことではなく、憲法の精神を具体化する立法措置をとることである等としている。
新しい人権として規定すべき旨の主張がされたものの代表は、環境権である。憲法に明記する必要はないとする意見もあったが、環境権とするか国家の環境保全義務と構成するかは別として、憲法に環境に関する条項を置くべきであるとする意見が多く述べられた。
また、知る権利・アクセス権や、プライバシー権を憲法に規定すべきであるとする意見も多く述べられた。
e 国民の義務
国民の義務規定を増やすことの是非については、意見が分かれた。
義務規定を増やすべきであるとする意見は、その論拠として、[1]戦後、日本の社会の各方面において、権利の裏にある義務に対する認識が非常に希薄になり、国家、社会、家族・家庭への責任や義務が軽視され、権利主張のみが横行して他者の権利を侵害し、あるいは、社会の混乱を引き起こすという弊害が生じていること、[2]権利の行使には義務の履行が伴うこと等を挙げている。この意見の中には、近代立憲主義を克服し、憲法を、国家と国民の協働を規定するものとして再構築することを志向するものがあった。また、義務規定を増やすべきであるとする意見は、国防の義務、環境保全の義務、投票の義務等を義務規定として追加することを提案している。
これに対し、義務規定を増やすべきではないとする意見は、近代立憲主義の憲法観を前提として、憲法の規範の名宛人は公権力であり、国民に対して義務や責任を多く課すべきものではないことを主たる論拠とし、これに加え、憲法に義務規定を増やしても問題の解決にはならないことをも論拠としている。
f 生命倫理と憲法
生命倫理に関する条項を憲法に設けるべきか否かについては、意見が分かれた。
生命倫理に関する条項を憲法に設けるべきであるとする意見は、日本人の倫理観とバランス感覚に方向性を与え、個人の尊厳と学問の自由の調和を図るために、個人の尊厳の上位概念としての人間の尊厳又は生命の尊厳の理念を憲法に明記すべきであるとするものである。
これに対し、生命倫理に関する条項を憲法に設けることに慎重な意見は、生命倫理の分野においても憲法は十分に対応することができるとするものである。
B 国民の権利及び義務各論
国民の権利及び義務の各条項については、その解釈に当たっては、その制定経緯や歴史的背景を重視しなければならず、また、各条項に一定の評価を行いつつも、新しい人権を明記する等必要な憲法改正を行うことを主張する意見と、憲法の人権規定は、学説や判例の展開とともに、その内容も豊かなものとなってきたものであり、憲法改正の必要はなく、その実現こそが求められているとする意見等が述べられた。
a 法の下の平等
14条の法の下の平等が要求する平等は、個人をその事実上の違いにかかわらず一律に同等に扱うべきことを求める形式的平等であるのか、又は社会的弱者をより優位に扱うことにより結果を平等なものに近付けようとする実質的平等であるのかに関する議論が行われ、実質的平等を図る方策の一つである積極的差別是正措置について意見が述べられた。
その他、非嫡出子の法定相続分に関する民法規定や、選挙人の投票価値の格差の憲法適合性について議論が行われた。
b 信教の自由・政教分離
憲法が信教の自由を保障するほか、政教分離原則を規定していることに関し、同原則の下で許される国家行為の限界について議論が行われた。重点的に議論が行われたのは、内閣総理大臣等の靖国神社への参拝の合憲・違憲の解釈問題である。この点、参拝の目的は戦没者の追悼にあり、効果においても特定の宗教を助長するものではない等として合憲であるとする意見が述べられた一方、政教分離原則を国家と宗教の厳格分離の意に解し、特定の宗教施設へ繰り返される参拝について、その目的・効果からすると政教分離原則に反するとする意見が述べられた。
憲法改正問題としても、内閣総理大臣等が社会的儀礼あるいは習俗的行事へ参加し、公費を支出することが許容されるよう憲法を改正すべきであるとする意見と、国家と宗教の厳格分離を図るため、判断基準を憲法に規定すべきであるとする意見が述べられた。
c 表現の自由
表現の自由については、現代社会においては知る権利という観点を加味して再構成しなければならないとする意見が述べられた。
また、報道機関によるプライバシーの侵害等の人権侵害がみられる状況を踏まえ、報道の自由とプライバシー権の合理的な調整はいかにあるべきかについても議論が行われた。
d 財産権
財産権の保障については、現在の日本では財産権が絶対的なものという認識が強く、その規制が難しくなっているとする意見や、財産権が責任や義務を伴うことを憲法に明記すべきであるとする意見が述べられた。
これに対し、日本国憲法において、財産権は既に社会国家化の流れの中で、社会的拘束を負うものとなっているとする意見も述べられた。
e 家族・家庭に関する事項
家族・家庭に関しては、選択的夫婦別氏制の導入の是非について議論が行われ、女性の働く権利に資する等のために、選択的夫婦別氏制の導入に賛成する意見と、家族の崩壊を誘発するおそれがあること等から、これに反対する意見が述べられた。
また、家族・家庭や共同体の尊重のような規定を憲法に設けることの是非について議論が行われ、この点については、意見が分かれた。
家族・家庭や共同体の尊重のような規定を憲法に設けるべきであるとする意見は、その論拠として、[1]24条が行きすぎた個人主義の風潮を生んでいる側面は否定できないこと、[2]顕在化している社会問題を解決するために、社会の基礎としての家族・家庭の重要性を再認識し、家族における相互扶助、家庭教育等の家族・家庭が果たしてきた機能を再構築する必要があること等を挙げている。
家族・家庭や共同体の尊重のような規定を憲法に設けるべきではないとする意見は、その論拠として、[1]利己主義と24条は関係がなく、同条を否定的にみる必要はないこと、[2]家庭崩壊等の社会問題の解決は憲法に規定を置くよりも家庭生活を守るための具体的な政策に待つべきものであること、[3]家族・家庭の尊重のような価値の法制化に危惧を覚えること、[4]家族条項の規定が戦前の家制度への回帰につながることへの懸念等を挙げている。
f その他
その他、国民の権利及び義務に関する各論的事項として、生命・自由・幸福追求権、思想・良心の自由、生存権、教育を受ける権利、労働基本権、刑事手続上の権利、犯罪被害者の権利等に関する議論が行われた。
A 国会
国会に関する主な議論は、二院制を維持すべきか一院制を採用すべきかに関する問題及び二院制を前提とした両院の権限・選挙制度等の改革に関する問題についてであった。
a 二院制の問題
二院制を維持すべきか一院制を採用すべきかについては、一院制を採用すべきであるとする意見もあったが、二院制を維持すべきであるとする意見が多く述べられた。
二院制を維持すべきであるとする意見は、その論拠として、[1]有権者の多様な意思を反映し、少数者の意思表明の機会を確保するためには二院が必要であること、[2]二院を持ち、法律案等を重ねて審議することにより慎重審議を行うべきであること等を挙げている。
これに対し、一院制を採用すべきであるとする意見は、その論拠として、[1]実際上両院で同じ議論をしており、国家としての迅速な意思決定を阻害していること、[2]両院の構成等が異なる場合に国政が停滞すること等を挙げている。
b 二院制を前提とした改革論
二院制を前提として、その改革の方途について議論が行われたが、その議論は、(i)両院の役割分担の明確化、(ii)各議院の議員の選挙制度及び(iii)参議院の権限縮小・権限行使の自主的抑制に分類される。
(i) 両院の役割分担の明確化
両院の役割分担については、その明確化を主張する意見が多く述べられた。その具体的な提案として、[1]国会の決算審査機能を強化するため、衆議院が予算審査を中心に行い、参議院が決算審査を中心に行うべきであるとする意見、[2]参議院の行政監視機能や長期的視野に立った調査機能を強化すべきであるとする意見等が述べられた。
(ii) 各議院の議員の選挙制度
国会議員の選挙制度については、各議院の議員の選挙制度に違いを持たせ、異なる代表機能を発揮させるべきであるとする意見が多く述べられた。これは、現在、各議院の議員の選挙制度が似通いすぎ、二院制の意味を損ねているという問題意識に基づくものであり、いくつかの提案がなされた。
(iii) 参議院の権限縮小・権限行使の自主的抑制
衆議院が可決した重要法案を参議院が否決した場合に国政が停滞することや、内閣不信任の権限を持たない参議院が国務大臣に対する問責決議により事実上の不信任をなし得ることへの懸念から、[1]59条2項の衆議院の再議決要件を緩和すべきであるとする意見、[2]参議院は問責決議を自主的に抑制する慣行を確立すべきであるとする意見等が述べられた。
これに対し、[1]二院制の意義は国民の意思の多元的反映にあり、両院におけるダブルチェックを通じて法律案の修正や廃案が行われることは有意義であるとして参議院の役割の軽視を戒める意見、[2]参議院も国民代表であって権限行使の自主的抑制を求めることは困難であるとする意見等が述べられた。
B 政党
政党に関しては、政党に関する規定を憲法に明記することの是非について議論が行われた。
政党に関する規定を憲法に明記すべきであるとする意見は、その論拠として、[1]政党は、議会制民主主義の根幹であり、民意を政治に反映する重要な地位・役割を有しているのであって、政党に憲法上の地位を与えるべきであること、[2]政党の公正さと透明性を確保する仕組みを確立することが重要であること等を挙げている。
これに対し、政党に関する規定を憲法に明記することを要しないとする意見は、その論拠として、[1]21条が政党の結社の自由を保障していること、[2]政党に関する諸問題は、単に憲法に規定を設けることによって解決されるものではないこと、[3]政党に関する規定を設けることによって、政党活動の自由、ひいては結社の自由を阻害することとなるおそれがあること等を挙げている。
C 議院内閣制
議院内閣制に関しては、主に内閣総理大臣のリーダーシップの強化や、国会の行政監視機能の強化等について議論が行われた。
a 内閣総理大臣のリーダーシップの強化
我が国の民主主義をより一層成熟させるためには、官僚主導から政治主導への転換を図る必要があり、そのためには、内閣総理大臣のリーダーシップの強化が必要であるとする意見が多く述べられた。その具体策としては、[1]内閣総理大臣を意思決定部門である執政権の主体として、執行機関である行政と峻別した上で、与党幹部が内閣に入ることにより政策決定を一元化し、閣僚以外の議員の行政への関与を厳しく制限し、行政のコントロールに関する内閣の主導性を確保すべきであるとするものや、[2]国民が選挙を通じて、政策プログラムとその実行主体である内閣総理大臣を一体のものとして事実上直接に選ぶ、議院内閣制の直接民主制的な運用形態である「国民内閣制」を志向すべきであるとするものがあった。
b 国会の行政監視機能の強化
国会の行政監視機能を強化すべきであるとする意見が、多く述べられた。その理由としては、[1]内閣総理大臣のリーダーシップの強化の裏返しとして行政監視機能の強化が必要であるとする意見や、[2]行政国家化現象の下で行政権が肥大化したにもかかわらず、司法によるチェックが十分機能していないこと等から、立法機関によるチェック機能の強化が必要であるとする意見が述べられた。
D 首相公選制
内閣総理大臣のリーダーシップの強化を図る方途として、内閣総理大臣を直接公選するいわゆる首相公選制の導入の是非について議論が行われた。この点については、導入すべきであるとする意見も述べられたが、導入すべきではないとする意見が多く述べられた。
首相公選制を導入すべきではないとする意見は、その論拠として、[1]議会の多数派を基盤としない首相を認めることは政党政治の否定につながること、[2]立法府と行政府の不一致といういわゆる分割政府の問題を生じさせること、[3]衆愚政治や首相の独裁のおそれがあること等を挙げている。
これに対し、首相公選制を導入すべきであるとする意見は、その論拠として、[1]首相が直接公選されることにより、リーダーシップの発揮及び迅速な意思決定が可能となること、[2]国民が首相を直接に選挙・決定する仕組みを設けることによって、国民の意思を政治に直接反映させることができること等を挙げている。
E オンブズマン制度
オンブズマン制度については、主としてその導入の是非について議論が行われた。その導入の是非については、導入することに慎重な意見もあったが、導入すべきであるとする意見が多く述べられた。
オンブズマン制度を導入すべきであるとする意見は、その論拠として、[1]行政が肥大化している現状の下で、行政機関から独立して国民の権利救済、行政統制又は行政監視を行い、行政の公平性・透明性を図り、法の支配及び民主主義を確立するために必要な制度であること、[2]行政監視に関する既存の制度を補完する必要があること、[3]EU諸国において普及し、種々の役割を果たしている実態があること等を挙げている。
これに対し、オンブズマン制度を導入することに慎重な意見は、その論拠として、[1]行政監視に関する既存の制度との重複を生ずること、[2]諸外国にみられるような強力な権限・中立性・独立性を有するオンブズマンが、我が国において機能するか疑問であること、[3]この制度の導入が公務員に萎縮効果を及ぼすおそれがあること、[4]請願権や国政調査権の実質化こそ先決であること等を挙げている。
なお、オンブズマン制度を導入する場合に、これを憲法上位置付けるべきか否かについても議論が行われたが、この点については、意見が分かれた。
F 政治部門における憲法解釈
政治部門における憲法解釈が政府の一部門である内閣法制局に事実上委ねられていることは不当であるとする意見が多く述べられたが、内閣法制局が憲法解釈をするのは当然であり、むしろ、国会がその解釈を鵜呑みにしていることが問題であるとする意見や、内閣法制局による法案提出前の厳格な事前審査は、99条の憲法尊重擁護義務に基づくものであるとする意見もあった。
この現状を踏まえ、憲法裁判所の設置や、国会自らが憲法判断を行うための常設の委員会の設置等に関する議論が行われた。
G その他
その他、選挙制度、政策評価等に関する議論が行われた。
A 違憲審査制
違憲審査制については、違憲審査権の行使の現状及び憲法裁判所による憲法保障を中心に議論が行われた。
a 違憲審査権の行使の現状
違憲審査権の行使については、最高裁判所の法令違憲判決が少ないなど、司法が憲法判断に消極的であり、司法に委ねられた憲法保障に係る役割を十分に果たしていないとする意見が多く述べられた。
これに対し、統治行為について司法が関与することは限定的であるべきであるとする意見もあった。
b 憲法裁判所の設置その他の違憲審査制の改善策
上記の違憲審査権の行使の現状を踏まえ、憲法裁判所の設置の是非について議論が行われた。この点については、設置すべきではないとする意見もあったが、設置すべきであるとする意見が多く述べられた。
憲法裁判所を設置すべきであるとする意見は、その論拠として、[1]現在の付随的違憲審査制の下では、最高裁判所に憲法の番人としての積極的な役割を期待できないこと、[2]内閣法制局が事実上憲法の有権解釈を担っていることは問題であること、[3]抽象的規範統制を行う裁判の仕組みが必要であること等を挙げている。
これに対し、憲法裁判所を設置すべきではないとする意見は、その論拠として、[1]政治上の争いが裁判所に持ち込まれる「裁判の政治化」や憲法裁判所の判例を念頭に立法過程が営まれる「政治の裁判化」を招くおそれがあること、[2]具体的な事件から離れる結果、抽象論・観念論に終始するおそれがあること、[3]抽象的違憲審査は国権の最高機関である国会の地位・権能に重大な制約を加えるおそれがあること、[4]政府の政策等に対する合憲性付与機関になりかねないこと等を挙げている。
憲法裁判所の設置以外の違憲審査制の改善策として、最高裁判所に憲法問題のみを所管する憲法部を設置するという構想や、高等裁判所と最高裁判所の間に、上告審としての機能を担うとともに、憲法問題の選別を行う特別高等裁判所を設置する構想等について議論が行われた。
なお、憲法裁判所に関する議論に関連して、国会に法律案等の憲法適合性の事前審査を行う憲法委員会を設けることを提案する意見もあった。
B 最高裁判所裁判官の国民審査制度
最高裁判所裁判官の国民審査制度については、同制度は形骸化しており、廃止すべきであるとする意見が述べられた。この意見の中には、[1]国民の意思が明確となる他の方法によるべきであるとするものや、[2]最高裁判所裁判官の任命を国会の承認人事とすべきであるとするもの等、別の適格性審査の仕組みを模索しようとするものがあった。
これに対して、現行の国民審査制度は最高裁判所が違憲審査権を行使する終審裁判所であることから導入されたこと等を踏まえ、国民審査制度の見直しに慎重な意見もあった。
C その他
その他、国民の司法参加、行政裁判所等の新しい裁判所、裁判官の任命・身分保障等、裁判官の報酬の減額禁止措置等に関する議論が行われた。
A 財政民主主義
財政民主主義に関しては、その実質化のための方策について議論が行われた。この点については、[1]国民の現在負担及び将来負担を含めた財政情報を国民に分かりやすく提供すべきであるとする意見、[2]公会計を透明性の高いルールの下に置くべきであるとする意見、[3]内閣総理大臣の予算決算に関する説明責任を憲法に明記すべきであるとする意見、[4]国会による決算審査の結果を予算編成に効果的に反映できるような仕組みを設けるべきであるとする意見、[5]国会の財政統制機能を強化するため国会に会計検査院を附置し、又は行政監視院等の附属機関を設置すべきであるとする意見等が述べられた。
B 健全財政主義
健全財政主義に関しては、財政の肥大化を抑制し、現在世代が将来世代に対して財政運営上の責任を負っているとの観点から、これを憲法に規定することが必要であるとする意見が述べられた。この意見の中には、短期的な財政均衡を規定すると機動的な景気対策を行えない等の問題があるため、中長期的な財政の健全化を謳うプログラム規定として規定すべきであるとするものがあった。
これに対し、健全財政主義を憲法上規定すべきであるとする主張は、これまでの政権の財政運営を省みないもので、無責任であるとする意見が述べられた。
C 私学助成の憲法問題
現に行われている私学助成は、89条の規定上、憲法違反の疑義を惹起している等の理由から、同条の改正が必要であるとする意見が多く述べられた。
これに対し、26条の教育を受ける権利にかんがみ、現行の規定の下で私学助成の合憲性は明らかであるとして、89条の改正は必要ないとする意見もあった。
D その他
その他、複数年度予算制の採用の是非や、継続費、会計検査院の機能強化・独立性の強化等に関する議論が行われた。
A 地方自治の章に関する総括的な議論
地方自治の章については、その総括的な評価に関する議論が行われた。この点については、同章を積極的に評価する意見もあったが、その不備を指摘し、現行規定を充実させるべきであるとする意見が多く述べられた。主として地方自治の章の不備を指摘する立場からは、地方自治に関し憲法に規定すべき事項として、[1]国と地方公共団体の基本的な権限のあり方、[2]中央政府と地方政府が対等の立場に立つこと、[3]公的部門が担うべき責務は、原則として、最も市民に身近な公共団体が優先的に執行するといういわゆる補完性の原則、[4]地方公共団体の課税自主権等が挙げられた。
B 地方分権の必要性及びその課題
地方分権の必要性については、[1]住民に身近な問題は地方自らが決定することによって民主主義が発展するのであり、民主主義の発展を図る上で必要であるとする意見、[2]中央による支配を排し、中央・地方の権力の分立を確立するために必要であるとする意見等が述べられた。
また、地方分権の課題については、[1]地方に権限及び財源を大幅に移し、国の役割を限定し、地方のことは地方が決めることとすべきであるとする意見、[2]地方分権の推進に伴い地方公共団体の財政力格差が顕著に表れ、国土全体の均衡ある発展や教育の機会均等に悪影響を及ぼすのではないかとする意見等が述べられた。
C 地方公共団体のあり方
地方公共団体のあり方に関する主な議論は、道州制の導入の是非に関するものであった。この点については、道州制を導入することに慎重な意見もあったが、導入すべきであるとする意見が多く述べられた。
導入すべきであるとする意見は、その論拠として、[1]市町村合併を推進して基礎的自治体に権限と税財源を移譲した後においては、国と基礎的自治体との中間的な存在である都道府県を整理して、効率的な国の統治構造を作るべきであること、[2]国から地方への権限移譲の受け皿として道州制が必要であること、[3]適正規模を超えた我が国の中央政府の権限を道州に移譲し、道州に事実上の主権を担わせることによって、大胆な行政改革が可能となること等を挙げている。
これに対し、導入することに慎重な意見は、その論拠として、地方公共団体の規模の拡大によって住民の声が反映されにくくなること、換言すれば住民自治の希薄化が懸念されること等を挙げている。
D その他
その他、条例制定権、地方財政、市町村合併の推進、住民投票の制度化の是非、地方自治特別法等に関する議論が行われた。
96条の改正手続の要件に関しては、主として、その要件を緩和することの是非について議論が行われ、この点については、意見が分かれた。
これを緩和すべきであるとする意見は、その論拠として、[1]時代の変遷に応じて憲法の見直しを図っていく必要があること、[2]国民が憲法の中身を吟味する機会を増加させる必要があること等を挙げている。
これに対し、要件を緩和すべきではないとする意見は、その論拠として、[1]各議院の総議員の3分の2以上という要件部分は、憲法を幅広い合意の下における公権力行使のルールとする上でふさわしいものであること、[2]国民投票の手続は、国民に憲法制定権があることに基づくものであって、改正権の行使によってこれを廃止することは背理であること等を挙げている。
最高法規の章に関しては、憲法の最高法規性の意義・根拠、憲法と条約の効力関係等及び憲法尊重擁護義務について議論が行われた。
このうち、公務員を規範の名宛人とする99条の憲法尊重擁護義務に関しては、国民を名宛人として追加すべきか否かについて議論が行われ、憲法には国民のあるべき姿を規定する必要があるとして、憲法尊重擁護義務を国民にも課すべきであるとする意見と、憲法は国家権力が濫用されないようにこれを制限する規範であることを強調する立場から、憲法尊重擁護義務を国民に課すべきではないとする意見が述べられた。
直接民主制に関しては、特定の問題について是非を問う国民投票制度の導入について議論が行われた。この点については、意見が分かれた。
導入すべきであるとする意見は、その論拠として、議会政治を補完して、様々なニーズや意見を反映させる途を設けるべきであること等を挙げている。
これに対し、導入することに慎重な意見は、その論拠として、[1]民主主義の本質は討議の過程にあるのに、政策の是非を判断する手段を必ずしも有しない国民に対し、直接その意思を問うことは危険であること、[2]議会制民主主義を健全に機能させていくことが重要であること等を挙げている。
現行憲法に非常事態に関する規定が存在しないことに対する評価について議論が行われ、憲法が当該規定を持たないことの意義を踏まえるべきであるとする意見と、憲法に規定が存在しないことの問題点を指摘する意見が述べられた。その上で、非常事態に関する事項を憲法に規定すべきか否か、すなわち、平常時の憲法秩序の例外規定を憲法に置く必要があるか否かという議論が行われた。この点については、憲法に規定すべきではないとする意見もあったが、これを規定すべきであるとする意見が多く述べられた。
憲法に規定すべきであるとする意見は、その論拠として、[1]非常事態においては、内閣総理大臣に対し権限を集中し一元的に事態を処理し、人権を平常時よりも制約することが必要となる場合があり、そのような措置を発動し得る要件、手続及び効果は、憲法事項であること、[2]地域紛争、地球環境の劣化、グローバリズムの進展等による相互影響関係、テロリズムの蔓延等、現代社会は、多様な危険を内包しているが、それにもかかわらず、非常事態への対処規定が設けられていないのは、憲法の欠陥であること、[3]非常事態への対処に当たっては、為政者に超法規的措置の発動を誘発することが多いので、憲法保障の観点から、それを防止するために規定が必要であること等を挙げている。
これに対し、憲法に規定すべきではないとする立場からは、現行憲法が非常事態への対処について明文規定を持たないことの意義、すなわち非常事態を生じさせないよう努力すべきことが規範としてある等の意見が述べられた。
報告書の提出後も引き続き憲法問題を取り扱う国会の常設機関を設置すべきか否かについて議論が行われた。この点については、設置すべきではないとする意見もあったが、設置すべきであるとする意見が多く述べられた。
設置すべきであるとする立場からは、[1]憲法調査会の5年間の議論を踏まえ、更に調査を継続させていくとともに、憲法改正手続法案(国民投票法案)の付託委員会としての役割を担わせるべきであるとする意見、[2]当該機関に憲法改正案、憲法改正手続法案など憲法に係る法律案の付託委員会としての役割を担わせるべきであるとする意見、[3]当該機関に国会として憲法の一次的な有権解釈を行う役割を担わせるべきであるとする意見及び[4]当該機関をこれらの役割を含め、憲法問題全般を取り扱う機関とすべきであるとする意見が述べられた。
これに対し、設置すべきではないとする立場からは、国会における憲法論議は各常任委員会等において所管法律の審議等を通して行うべきであるとする意見が述べられた。
96条(改正)に関し、憲法改正手続法の整備について議論が行われた。この点については、整備を急ぐ必要はないとする意見もあったが、早急に整備すべきであるとする意見が多く述べられた。
早急に整備すべきであるとする意見は、その論拠として、憲法が予定する基本的な附属法である憲法改正手続法が未整備であることは立法の不備であること等を挙げている。
これに対し、整備を急ぐ必要はないとする意見は、その論拠として、憲法改正について国民に合意がなく、憲法改正手続法の整備は重要な課題ではないこと等を挙げている。
なお、上記1の「憲法問題を取り扱う国会の常設機関について」及び同2の「憲法改正手続法について」に関しては、調査会において多く述べられた意見を踏まえて幹事会等において協議した。その結果、現在の衆議院憲法調査会の基本的な枠組みを維持しつつ、これに憲法改正手続法(日本国憲法96条1項に定める国民投票等の手続に関する法律案)の起草及び審査権限を付与することが望ましいとする意見が多く述べられた。