衆議院

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第1 平成18年の国会の動き

1 国会の召集及び会期

平成18年には、第164回国会(常会)及び第165回国会(臨時会)が召集された。

第164回国会は、平成18年1月20日に召集され、会期は6月18日までの150日間であった。

第165回国会は、9月26日に召集され、会期は12月15日までの81日間であったが、4日間延長され、同月19日までの85日間となった。

2 国会の主な動き

(1) 概況

【第164回国会(常会)】

第164回国会は、平成18年1月20日に召集された。

召集日には、本会議において、議席の指定が行われた後、文部科学委員長及び経済産業委員長の選挙が行われ、また、災害対策特別委員会外6特別委員会が設置された。

3月16日には行政改革に関する特別委員会、5月11日には、教育基本法に関する特別委員会が設置された。

この国会においては、行政改革推進法案や医療制度改革関連法案の審議が大きな焦点になったのをはじめ、農政改革関係法案、建築物の構造計算書偽装事件や証券取引法違反事件を受けその再発を防止する建築基準法等改正案や証券取引法等改正案、また、継続審査となった組織的犯罪処罰法等改正案、教育基本法案等について、議論が行われた。

このほか、対外関係では、在日米軍再編問題、米国産牛肉のBSE(牛海綿状脳症)問題、中国による東シナ海の天然ガス田開発問題、竹島周辺の排他的経済水域をめぐる日韓の外交摩擦問題、北朝鮮による拉致問題等が主な論点となり、関係委員会において議論が行われた。

(施政方針演説及び代表質問)

召集日の1月20日、衆参両院の本会議において、小泉内閣総理大臣の施政方針演説、麻生外務大臣の外交演説、谷垣財務大臣の財政演説及び与謝野経済財政政策担当大臣の経済演説の政府4演説が行われた。

小泉内閣総理大臣はこの中で、「政治は、一部の利益を優先するものであってはならず、国民全体の利益を目指すもの」との考えを示し、「連立政権の安定した基盤に立って、郵政民営化の実現を弾みに改革を続行し、簡素で効率的な政府を実現する」 との決意を表明した。

まず、政府の規模を縮減するため、公務員の総人件費削減、政府系金融機関の民業補完の徹底、公益法人制度の抜本的な見直しなどに取り組む考えを明らかにし、「国から地方へ」の方針の下、3兆円の税源移譲、地方交付税の見直し、4兆7,000億円の補助金改革を実施し、市町村合併を引き続き推進するとともに、歳出・歳入を一体とした財政構造改革の方向についての選択肢及び工程を明らかにして、税体系全体にわたりあらゆる角度から見直しを行う考えを示した。

次に、主要銀行の不良債権残高が3年半で20兆円減少したことから、「貯蓄から投資へ」の流れを進めるとともに、地域の活性化や雇用の拡大につながる外国からの投資を促進しつつ、独創的な技術を持つ人材の確保・育成、新事業への挑戦を支援し、国際競争力の強化などを目指した新たな成長戦略を示すと述べた。また、年金、介護に続く社会保障制度の見直しとして、高齢者の医療費を世代間で公平に負担する新制度の創設や都道府県単位を軸とした保険者の再編・統合など、医療制度の改革を進める考えを明らかにした。

続いて、テロの未然防止を図るため、情報の収集・分析、重要施設や公共交通機関の警戒警備等の対策を徹底するとともに、犯罪を起こした者の再犯防止に向け、情報の共有化等関係機関のより緊密な協力体制を構築するなど、「世界一安全な国、日本」の復活を内閣の最重要課題として取り組む意欲を示した。

今後の日本を支えていくのは「人」であり、「物で栄えて心で滅ぶ」ことのないよう、国民的な議論を踏まえた、速やかな教育基本法の改正を目指す考えを示した。加えて、定職に就かず臨時的に仕事に従事するフリーター、学業、仕事、職業訓練のいずれにも就かないニートの増加に対し、民間の力を活用して研修を全国で実施するなど若者の就業を支援すると述べ、新しい時代を切り拓く心豊かでたくましい人材の育成に取り組む姿勢を示した。

さらに、科学技術の振興なくして我が国の発展はありえないとの認識に立ち、国全体の予算を減らす一方、科学技術分野を増額し、「科学技術創造立国」の実現に向けて研究開発を戦略的に実施する方針を明らかにした。また、気候変動問題の解決に向けて、昨年策定した計画を官民挙げて進めるとともに、世界が一つとなって温暖化対策を進めていくことができるよう共通ルールの構築に向けて主導的な役割を果たしていく考えを述べた。

国際社会が抱える問題となっている、テロとの闘い、貧困の克服、感染症対策などについては、ODAの戦略的活用や人的貢献により、我が国も積極的に協力していく方針を示すとともに、国連が効果的に機能するよう、安全保障理事会を含めた国連の改革に取り組む考えを述べた。また、人権状況を非難する決議が初めて採択され、拉致問題の解決の必要性が国際社会において広く認識された北朝鮮との間では、平壌宣言を踏まえ、拉致、核、ミサイル問題の包括的な解決に向け、関係国と連携しながら粘り強く交渉し、ロシアとの間では、北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を早期に締結するとの基本方針の下、様々な分野において協力を拡大し、隣国である中国、韓国とは、大局的な視点から協力を強化し、相互理解と信頼に基づいた未来志向の関係を構築するとの考えを示した。

そして、象徴天皇制度について皇位が将来にわたり安定的に継承されるよう、また、戦後60年を経て、新しい時代の憲法の在り方については国民とともに大いに議論を深める時期にあると述べた。

これに対する本会議の代表質問は、1月23日及び24日の両日行われ、持続的な経済活性化、医療制度改革、国民の安全対策、外交問題などについて議論が展開された。

参議院においては、同月24日及び25日に代表質問が行われた。

(平成17年度補正予算及び平成18年度総予算審議)

災害対策、アスベスト(石綿)健康被害対策、新型インフルエンザ対策、耐震偽装対策等を講じる平成17年度補正予算及び歳出改革路線を堅持・強化する平成18年度総予算は、1月25日に予算委員会で提案理由の説明を聴取した。

平成17年度補正予算は、同委員会の審査を経て、1月31日の本会議で可決され、2月3日の参議院本会議において可決、成立した。

その後、平成18年度総予算の質疑に入り、集中審議、公聴会、分科会等を含む同委員会の審査を経て、3月2日の本会議で記名投票の結果、可決され、同月27日の参議院本会議において可決、成立した。

(主な議案の審議)

平成17年6月以降、アスベストによる健康被害問題が再び社会問題となったことを受け、その健康被害者救済等の措置を講じる石綿対策関連法案が、本国会の冒頭に提出された。

同関連法案は、環境委員会の審査を経て、1月31日の本会議で可決され、2月3日の参議院本会議において可決、成立した。【詳細は、(8)アスベスト問題関係参照】

平成18年度総予算成立後の国会では、本国会の最重要法案で、小泉内閣が推進してきた改革路線の総仕上げとして位置付けられている、簡素で効率的な政府を実現するため公務員数の削減目標等を明記した行政改革推進法案の審議が焦点となった。

同法律案は、行政改革に関する特別委員会の審査を経て、4月20日の本会議で可決され、5月26日の参議院本会議において可決、成立した。【詳細は、(2)行政改革関係参照】

また、年金、介護に続く社会保障制度改革として、医療費の伸びの抑制に向けて、高齢者医療の抜本改革を柱とする医療制度改革関連法案は、厚生労働委員会の審査を経て、5月18日の本会議で可決され、6月14日の参議院本会議において可決、成立した。【詳細は、(3)医療制度改革関係参照】

農業従事者の減少や高齢化により弱体化した生産構造の改革及び国際規律に対応し得る施策への転換を図るため、農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付等の措置を講じる農政改革関係法案が提出された。

同関係法案は、農林水産委員会の審査を経て、5月18日の本会議で可決され、6月14日の参議院本会議において可決、成立した。【詳細は、(5)農政改革関係参照】

近年、消費生活の変化等を背景に空洞化する中心市街地の機能の増進及び経済活力の向上を総合的かつ一体的に推進するため、中心市街地活性化本部の設置、基本計画の認定制度の創設等の措置を講じる中心市街地活性化法改正案が提出された。

同改正案は、経済産業委員会の審査を経て、4月25日の本会議で可決され、5月31日の参議院本会議において可決、成立した。【詳細は、(6)中心市街地活性化関係参照】

北朝鮮による拉致問題に関連して、北朝鮮が人権侵害を改善しない場合に、政府に経済制裁を促す北朝鮮人権法案が、北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会から提出され、6月13日の本会議で可決され、同月16日の参議院本会議において可決、成立した。

同法律案は、当初、自民、公明の与党及び民主からそれぞれ提出されていた法律案を、その後の協議で委員会提出法律案として一本化したものである。

また、同特別委員会は、5月29日に拉致被害者の父母らを参考人として招致した。

金融資本市場を取り巻く環境の変化や不正な株取引事件等を受けて、幅広い金融商品についての包括的・横断的な制度の整備等を行う証券取引法等改正案が提出された。

同改正案は、財務金融委員会の審査を経て、5月16日の本会議で可決され、6月7日の参議院本会議において可決、成立した。【詳細は、(4)金融商品取引法制関係参照】

建築物の構造計算書偽装問題の発生を受け、建築物の安全性の確保を図るため、建築確認・検査の厳格化、建築士に対する罰則の強化等を盛り込んだ建築基準法等改正案が提出された。

同改正案は、国土交通委員会の審査を経て、5月25日の本会議で可決され、6月14日の参議院本会議において可決、成立した。【詳細は、(7)建築基準法制関係参照】

なお、継続審査となった重要法案としては、組織的犯罪処罰法等改正案、教育基本法案及び国民投票法案がある。

国際テロ組織などによる犯罪の防止のため、共謀罪の創設を柱とする組織的犯罪処罰法等改正案は、平成17年秋の特別会から継続審査になっていたもので、4月21日、法務委員会の審査に入った。

同改正案に対し、与党と民主はそれぞれ修正案を提出して、共同修正を目指し協議が行われたが、共謀罪の対象となる犯罪の範囲などをめぐって意見の隔たりが埋まらず協議は不調に終わり、同法律案は継続審査となった。

新しい時代の教育理念を明確にするため、現行法を全面的に見直す教育基本法案は、5月16日の本会議で趣旨説明・質疑を行い、その後に提出された民主案とともに教育基本特別委員会の審査に入り、「愛国心」問題等を焦点に、参考人からの意見聴取を含む質疑が行われた。【詳細は、(9)教育基本法の改正関係参照】

また、憲法改正の具体的な手続を定める国民投票法案は、与党及び民主から、それぞれ提出され、6月1日の本会議で両案の趣旨説明・質疑を行った後、憲法調査特別委員会の審査に入り、現行憲法施行後、初めて憲法改正に関連する法律案が議論された。

※ 委員会における審査等については、「第3 委員会の概況」参照

(その他)

日米両政府が合意した米軍再編に関する最終報告を受け、5月11日の本会議において麻生外務大臣、額賀防衛庁長官の報告及び報告に対する質疑が行われ、焦点となっていた沖縄米軍海兵隊の移転費用等が議論された。その後、政府は、この最終報告の合意を実施する政府方針を、5月30日に閣議決定した。

4月7日に民主党代表選が行われ、前原誠司代表の後任に小沢一郎議員が選出された。

(会期末)

会期末が休日になるため、6月16日の本会議において閉会中審査の手続や請願採択等が行われ、事実上、第164回国会は終了した。

なお、同日、厚生労働委員会において、国民年金保険料の不正免除問題について集中審議が行われた。

(成立した主な法律案等)

本国会成立した法律案は、内閣提出法律案が84件、議員提出法律案が14件であった。前記以外の主なものとしては、内閣提出法律案では、中小企業のものづくり基盤技術高度化法案、出入国管理・難民認定法改正案、都市計画法等改正案、刑事施設・受刑者処遇法改正案、住生活基本法案、容器包装リサイクル法改正案等である。議員提出法律案では、国会議員互助年金法廃止法案、地震防災対策特別措置法改正案、探偵業務適正化法案、公職選挙法改正案、がん対策基本法案等である。

条約では、腐敗の防止に関する国際連合条約など14件が承認された。

また、議員西村眞悟君の議員辞職勧告に関する決議案及び水俣病公式確認50年に当たり、悲惨な公害を繰り返さないことを誓約する決議案が可決された。

(第164回国会閉会後)

国土交通委員会において、6月21日、建築物の構造計算書偽装問題に関し、平成17年12月14日に同委員会で証言を行った姉歯秀次証人を議院証言法違反(偽証)容疑で告発することを議決した。

財務金融委員会において、6月22日、証券取引法違反事件にかかわる投資問題で、福井俊彦日銀総裁等を参考人招致し、質疑が行われた。

災害対策特別委員会において、8月2日、平成18年7月豪雨による被害状況等について政府から説明を聴取した後、質疑が行われた。また、9月25日、平成18年台風第13号による被害状況等について、政府から説明を聴取した。

このほか、北朝鮮のミサイル発射問題、北朝鮮による拉致問題、イラクに派遣している陸上自衛隊の撤収、米国産牛肉等の輸入再開問題等について、関係委員会においてそれぞれ閉会中審査が行われた。

各党の動向としては、9月20日、自由民主党総裁選で、小泉純一郎総裁の後任に安倍晋三内閣官房長官が新総裁に選出された。

9月25日、民主党臨時党大会で、小沢一郎代表の再選が承認された。

【第165回国会(臨時会)】

第165回国会は、平成18年9月26日に召集された。

召集日には、本会議において、議席の指定が行われ、会期が12月15日までの81日間と議決された後、議院運営委員長の選挙が行われた。

引き続き、内閣総理大臣の指名の投票が行われ、記名投票の結果、安倍晋三君339、小沢一郎君115、志位和夫君9、福島みずほ君7、綿貫民輔君5、無効1で安倍晋三君が内閣総理大臣に指名された。参議院においても、同日、安倍晋三君が内閣総理大臣に指名された。

同月28日、本会議において、議院運営委員長を除く各常任委員長の選挙が行われた。

また、特別委員会については、従来から設置されている災害対策特別委員会等の7特別委員会のほか、前国会で設置された教育基本法に関する特別委員会が設置された。

この国会においては、前国会に提出され継続審査となっていた教育基本法案、防衛庁設置法等改正案及び国民投票法案が大きな焦点となったのをはじめ、テロ対策特別措置法の期限を延長するための改正案、前国会に続いて建築物構造計算書偽装の再発防止対策を強化するための建築士法等改正案等の審議が行われた。

また、新内閣の誕生を受けた行財政・税制改革や格差社会問題への取組、安倍内閣総理大臣の歴史認識等のほか、全国の学校で発覚した必履修科目の未履修問題、いじめの問題、政府主催のタウンミーティングでの「やらせ質問」問題等が取り上げられ、議論された。

対外関係では、北朝鮮の核実験実施発表を受けた我が国の対応措置や日中・日韓間の関係改善問題等が主な論点となり、関係委員会において議論された。

(所信表明演説及び代表質問)

9月29日、衆参両院の本会議において、安倍内閣総理大臣の所信表明演説が行われた

安倍内閣総理大臣は、初の戦後生まれの総理として、新しい時代を切り拓く政治、誰に対しても開かれ、誰もがチャレンジできる社会を目指し、全力投球するとの決意を表明し、「私が目指すこの国のかたちは、活力とチャンスと優しさに満ちあふれ、自律の精神を大事にする、世界に開かれた、『美しい国、日本』」であるとの考えを示した。

まず、安定した経済成長を持続させるため、長期戦略指針「イノベーション25」を実行し、生産性の大幅な向上を図りつつ、国際空港などの機能強化も早急に進め、文化・情報などの流れにおいて日本がアジアと世界の架け橋となる「アジア・ゲートウェイ構想」を推進する考えなどを明らかにした。そして、ベテラン人材や女性などの積極的な雇用の促進、再チャレンジする起業家の資金調達支援など総合的な「再チャレンジ支援策」を推進するとともに、地場産品のブランド化や外国企業の誘致等に前向きに取り組む自治体への新たな地方交付税の支援措置「頑張る地方応援プログラム」をスタートさせて地方分権を進めるなどの方針を明らかにした。

財政については、「成長なくして財政再建なし」の理念の下、引き続き、経済財政諮問会議を活用して経済成長を維持しつつ、国民負担の最小化を第一の目標とするとし、公務員の総人件費削減の徹底、政策金融機関の統合など行政改革を積極的に進めるとともに、平成19年10月からの郵政民営化の実施、市場化テストに基づく民間活力を最大限活用し、それでも対応しきれない社会保障や少子化などに伴う負担増に対しては、安定的な財源を確保するため、抜本的、一体的な税制改革を推進し、将来世代への負担の先送りを行わないようにするとの認識を示した。また、21世紀にふさわしい行政機構の改革・再編や、道州制の本格的な導入に向けた「道州制ビジョン」の策定に取り組む考えを明らかにした。

「人生のリスクに対するセーフティネット」である社会保障制度については、本来日本人が持っている助け合いの精神の延長上にあるとし、持続可能な「日本型の社会保障制度」を構築すべく、厚生年金と共済年金の一元化、医療費適正化や地域医療の体制整備、子育ての素晴らしさや家族の価値を社会全体で共有できるような意識改革などを実施し、国民一人ひとりが豊かな生活を送ることができる社会を目指すとした。また、「美しい国、日本」を実現するためには、次代を背負って立つ子どもや若者の育成が不可欠であるとし、教育基本法案の早期成立を期し、豊かな人間性と創造性を備えた規律ある人間の育成に意欲を示した。

去る7月の北朝鮮によるミサイル発射に関し、我が国が主導して国連安全保障理事会に北朝鮮に対する制裁決議案を提案し、全会一致で採択されたことで、我が国の外交が、新たな思考に基づく主張する外交への転換期を迎えたと述べ、「世界とアジアのための日米同盟」をより明確にし、アジアの強固な連帯のために積極的に貢献する外交を進めていく考えを強調した。

拉致問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化はありえず、対話と圧力の方針の下、全員生存しているとの前提に立ち、すべての拉致被害者の生還を強く求めていくとともに、核・ミサイル問題については、日米の緊密な連携を図りつつ、六者会合を活用して解決を目指すとした。日米同盟に関しては、信頼関係をより強固にするとともに、抑止力を維持しつつ、負担を軽減するものである在日米軍の再編について、着実に進めるとした。経済をはじめ、幅広い分野で我が国と緊密な関係にある中国や韓国とは、両国との信頼関係の強化に向けて未来志向で率直に話し合えるよう努めていくこととし、ロシアとの関係については、領土問題の解決に向けて粘り強く取り組む考えを述べた。さらに、ASEANとの協力を一層進め、アジアに存在する民主国家として自由な社会の輪を世界に広げていくため、オーストラリアやインドなどの国々との首脳レベルでの戦略的な対話を展開するとし、加えて、テロや国際組織犯罪の防止・根絶については、引き続き、テロ対策特別措置法の期限の延長など国際社会と協力して取り組む方針を示した。

新しい時代にふさわしい憲法の在り方については、与野党において議論が深められ、日本国憲法の改正手続に関する法律案の早期成立を期待すると述べた。

これに対する本会議の代表質問は、10月2日及び3日の両日行われ、社会保障制度改革、教育改革、安全保障・外交問題、多重債務問題などについて議論が展開された。

参議院においては、同月3日及び4日に代表質問が行われた。

(主な議案の審議)

前国会に提出され継続審査となっていた議案では、安倍内閣が本国会の最重要法案と位置付ける、新しい時代の教育理念を明確にするため、現行法を昭和22年の施行以来、初めて全面的に見直す教育基本法案が、教育基本法特別委員会の審査を経て、11月16日の本会議で可決され、12月15日の参議院本会議において可決、成立した。【詳細は、(9)教育基本法の改正関係参照】

防衛庁を「防衛省」に名称変更するとともに、自衛隊の国際平和協力活動等を「本来任務」に位置付ける防衛庁設置法等改正案が、安全保障委員会の審査を経て、11月30日の本会議で可決され、12月15日の参議院本会議において可決、成立した。【詳細は、(10)防衛庁の省移行関係参照】

北海道をモデルケースに実施する、国の権限や財源の一部を地方に移譲するための枠組みを定めた道州制特区推進法案が、内閣委員会の審査を経て、11月28日の本会議で可決され、12月13日の参議院本会議において可決、成立した。

本国会に提出された法律案では、9.11同時多発テロ事件に対応して行われる米国等の活動を支援する期限を1年間延長するテロ対策特別措置法改正案が、テロ防止・イラク支援特別委員会の審査を経て、10月19日の本会議で可決され、同月27日の参議院本会議において可決、成立した。

ガス瞬間湯沸かし器、シュレッダーによる事故などが相次いだ問題を受け、メーカー等に重大製品事故の報告を義務付ける等により再発防止を図る消費生活用製品安全法改正案が、経済産業委員会の審査を経て、11月9日の本会議で可決され、11月29日の参議院本会議において可決、成立した。

建築物の構造計算書偽装事件を契機として、第164回国会で成立した建築基準法等改正案に続く再発防止策の第2弾として、一定の建築物について、構造設計一級建築士等による法適合チェックの義務付けなどを盛り込んだ建築士法等改正案が、国土交通委員会の審査を経て、11月30日の本会議で可決され、12月13日の参議院本会議において可決、成立した。【詳細は、(7)建築基準法制関係参照】

国と地方の役割分担を見直す地方分権改革に向けた理念や基本方針等を盛り込んだ地方分権改革推進法案が、総務委員会の審査を経て、11月28日の本会議で修正議決され、12月8日の参議院本会議で可決、成立した。

多重債務問題の解決を図るため、消費者金融など貸金業者に対する規制を強化し、いわゆるグレーゾーン金利廃止や返済能力を超えた貸付けの原則禁止などを盛り込んだ貸金業規制法等改正案が、財務金融委員会の審査を経て、11月30日の本会議で可決され、12月13日の参議院本会議において可決、成立した。

なお、前国会に提出され継続審査となっていた、憲法改正手続を定める国民投票法案については、憲法調査特別委員会に小委員会が設置され、具体的なテーマ毎の審査が行われたが継続審査となったほか、「ねんきん事業機構」の新設や国民年金保険料の未納防止対策等を盛り込んだ社会保険庁改革関連法案は、国民年金保険料の不正免除問題などが相次ぎ発覚したことを踏まえ、社会保険庁改革そのものを抜本的に見直すこととなり、審査未了となった。

※ 委員会における審査等については、「第3 委員会の概況」参照

(北朝鮮に対する我が国の対応)

北朝鮮の地下核実験実施発表を受け、「北朝鮮の核実験に抗議し、全ての核兵器及び核計画の放棄を求める決議案」が10月10日の本会議において可決された。参議院においても、同趣旨の決議案が、11日の本会議で可決された。

また、今年7月の北朝鮮の弾道ミサイル発射を受け、政府が特定船舶入港禁止法に基づき発動した経済制裁(北朝鮮の貨客船「万景峰92号」の入港禁止等)の承認案件について、国土交通委員会の審査を経て、10月19日の本会議で承認され、11月8日の参議院本会議において承認された。

さらに、地下核実験実施発表を受けた経済制裁の第2弾として発動した、外為法及び特定船舶入港禁止法に基づく追加制裁(北朝鮮からの輸入及び船舶の入港禁止等)の承認案件について、経済産業委員会及び国土交通委員会の審査を経て、それぞれ12月5日及び8日の本会議で承認され、12月13日及び15日の参議院本会議において承認された。

(その他)

召集日に先立つ9月25日、自由民主党安倍晋三総裁と公明党神崎武法代表との間で連立政権維持に関する合意が交わされた。

9月30日、公明党大会が開かれ、神崎代表の後任に太田昭宏幹事長代行が新代表に選出された。

10月2日、「国民新党・日本・無所属の会」の会派名が「国民新党・無所属の会」に変更された。

11月9日、災害対策特別委員会において、同月7日に発生した北海道佐呂間町における竜巻被害状況等について、政府から説明を聴取した後、同日及び21日に質疑が行われた。なお、15日には、被害状況等調査のための委員派遣が行われた。

(会期末)

会期末の12月15日、本会議において、会期を19日まで4日間延長することが議決された後、タウンミーティングでのやらせ質問による世論誘導、教育基本法改正の強行等を理由に民主、共産、社民、国民の4会派共同で提出された安倍内閣不信任決議案が否決された。

会期最終日の12月19日、本会議において閉会中審査の手続や請願採択等が行われ、第165回国会は終了した。

(成立した主な法律案等)

本国会成立した法律案は、内閣提出が18件、議員提出が7件であった。前記以外の主なものとしては、内閣提出法律案では、国際協力機構法改正案、統一地方選特例法案、関税暫定措置法改正案、感染症予防法改正案、信託法案、著作権法改正案等である。また、議員提出の法律案では、入札談合等関与防止法改正案、政治資金規正法等改正案、観光立国推進基本法案等である。

条約では、日・フィリピン経済連携協定など2件が承認された。

第164回国会開会式の写真

第164回国会開会式

(2) 行政改革関係

(ア 国会で議論されるに至った経緯)

(ア) 簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律案(行革推進法案)

我が国の行政改革の目的は、国や地方の行政機関の組織の簡素合理化、事務事業の効率化、職員数や給与の適正化等によって、行政の効率化や行政費用の抑制を図ることであり、その取組は、戦前・戦中・戦後を通じて累次にわたり行われてきた。

近年では、平成8年11月に、国の行政機関の再編及び統合の推進に関する基本的かつ総合的な事項を調査審議することを目的とした「行政改革会議」が設置され、翌9年12月、[1]内閣の機能強化、[2]中央省庁の再編、[3]減量・効率化の推進(独立行政法人制度の創設等)、[4]行政の透明化(政策評価の導入等)等について同会議の最終報告が取りまとめられた。これを踏まえ、平成10年6月に、「中央省庁等改革基本法」が成立し、平成13年1月から新しい省庁体制に移行した。

また、省庁再編前の平成12年12月には、「行政改革大綱」が閣議決定され、平成17年までのおおむね5年間を集中改革期間として、様々な分野の行政改革を集中的・計画的に進めることとされた。

平成13年4月に発足した小泉内閣においても、行政改革については、不断に取り組むべき課題であり、構造改革の重要な柱の一つとして強力に推進していく必要があるとして、平成16年12月には、中期的な改革の方針である「今後の行政改革の方針」が閣議決定された。さらに、平成17年12月、今後、「簡素で効率的な政府」への道筋を確かなものとするために推進・続行すべき行政改革の重要課題として、[1]政策金融改革、[2]政府関係法人の見直し、[3]特別会計改革、[4]総人件費改革、[5]政府資産・債務改革、[6]社会保険庁改革、[7]規制改革・民間開放の推進、[8]政策評価の改善・充実、[9]公益法人制度改革などを主な内容とする「行政改革の重要方針」が閣議決定された。そして、「行政改革の重要方針」で定める改革の着実な実施のための基本的な改革の方針、推進方策等が盛り込まれた本法律案は、平成18年3月10日に閣議決定され、同日、国会に提出された。

(イ) 公益法人制度改革関連3法案

民間非営利法人は、行政や民間営利部門では満たすことのできない社会のニーズに対応する多様なサービスを提供しており、公益法人は、こうした民間非営利法人の中核として大きな役割を果たしてきた。一方で、明治29年の民法制定以来、制度の抜本的な見直しが行われておらず、また、主務官庁の許可主義の下、法人設立が簡便でなく、公益性の判断基準が不明確であるなどの指摘がなされており、「行政改革大綱」において、「公益法人に対する行政の関与の在り方の改革」が行政改革の重要課題の一つとして位置付けられた。

当初は、いわゆる行政委託型公益法人等の見直しが進められていたが、平成13年4月の「行政委託型公益法人等改革の視点と課題」(行政改革推進事務局)において、「公益法人制度の抜本的改革の必要性」について言及されているように、公益法人制度全体の抜本的改革に向けた検討が進められることとなった。

平成14年3月に閣議決定された「公益法人制度の抜本的改革に向けた取組みについて」では、公益法人制度を抜本的かつ体系的に見直すこととされ、[1]平成14年度中を目途に「公益法人制度等改革大綱(仮称)」を策定すること、[2]平成17年度末までを目途に法制上の措置を講じることなどが決定された。

これを受けて、平成15年6月に、平成16年末までを目途に制度の枠組みなどについて具体化することとした「公益法人制度の抜本的改革に関する基本方針」が閣議決定された。そして、平成16年11月に取りまとめられた「公益法人制度改革に関する有識者会議」による報告書に基づき、制度の枠組みを具体化するための作業が進められた。「今後の行政改革の方針」の中で「公益法人制度改革の基本的枠組み」について、[1]公益法人の設立に係る許可主義を改め、法人格の取得と公益性の判断を分離すること、[2]公益性の有無にかかわらず準則主義により設立できる一般的な非営利法人制度を創設すること、[3]民間有識者からなる委員会の意見に基づき公益性を判断する仕組みを創設すること等が示され、所要の法律案を平成18年の通常国会に提出することを目指すとされた。

その後、「行政改革の重要方針」において、「法案を平成18年通常国会に提出する」こと等が決定され、平成18年3月10日、公益法人制度改革関連3法案は閣議決定され、同日、国会に提出された。

(ウ) 競争の導入による公共サービスの改革に関する法律案(市場化テスト法案)

「市場化テスト(官民競争入札制度)」とは、「透明・中立・公正な競争条件の下、公共サービスの提供について、官と民が対等の立場で参加する競争入札を実施し、価格と質の両面で、より優れた主体が落札し、当該サービスを提供していく制度」とされ、公共サービス全般の必要性や効率性を見直す手法として総合規制改革会議、規制改革・民間開放推進会議においてその導入が検討されてきた。

平成17年3月25日に閣議決定された「規制改革・民間開放推進3か年計画(改定)」において、「市場化テスト」の本格的導入に向けた法的枠組みも含めた制度の整備を検討する方針が打ち出され、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005」(平成17年6月21日閣議決定)においても、「公共サービスの質の維持向上・経費の削減等に資するよう、『公共サービス効率化法(市場化テスト法)案』(仮称)を平成17年度中に国会に提出するべく、速やかに準備する」とされた。

こうした閣議決定に基づき、規制改革・民間開放推進会議は、平成17年9月27日に「『小さくて効率的な政府』の実現に向けて−公共サービス効率化法(市場化テスト法)案の骨子等−」を公表した。さらに同年12月21日に決定・公表された「規制改革・民間開放の推進に関する第2次答申」において、法案の早期提出を求めた上で、市場化テストの対象とすべき分野として、社会保険庁関連業務やハローワーク関連業務等が挙げられた。

「行政改革の重要方針」においては、「『公共サービス効率化法(市場化テスト法)(仮称)』を平成18年通常国会に早期に提出する」とされており、本法律案は平成18年2月10日に閣議決定され、同日、国会に提出された。

(イ 関連議案の概要)

(ア) 行政改革関連5法案(内閣提出)

a 簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律案

簡素で効率的な政府を実現するための行政改革について、その基本理念、改革の重点分野及び各重点分野における改革の基本方針等重要事項を定める。

主な内容は、[1]国及び地方公共団体は簡素で効率的な政府を実現するための行政改革を推進する責務を有する旨を規定、[2]平成20年度において政策金融機関の組織・機能を再編成し、貸出残高の対GDP比半減を平成20年度中に実現、[3]平成18年度以降に初めて中期目標の期間が終了する独立行政法人の見直し、[4]特別会計の廃止及び統合並びにその経理の明確化を図り、今後5年間で総額20兆円程度財政健全化に寄与、[5]国家公務員の5年間で5%以上の純減、地方公務員の5年間で4.6%以上の純減の要請、給与制度の見直し等による総人件費改革、[6]国の資産規模の対GDP比を今後10年間でおおむね半減する等国の資産及び債務の管理の在り方の見直し、[7]公務員制度改革等関連諸制度の改革との連携、[8]行政改革推進本部の設置等である。

b 公益法人制度改革関連3法案

(a) 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律案

剰余金の分配を目的としない社団及び財団について、その行う事業の公益性の有無にかかわらず、準則主義(設立の登記)により簡便に法人格を取得することができる一般社団法人及び一般財団法人に関する制度を創設し、その設立、組織、運営及び管理についての規定を整備する。

(b) 公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律案

民間の団体が自発的に行う公益を目的とする事業の実施を促進して、活力ある社会を実現するため、社団法人及び財団法人の設立の許可及びこれらに対する監督を主務官庁の裁量により行うこととしていた公益法人に関する制度を改め、公益社団法人及び公益財団法人としての認定及びこれらに対する監督を独立した委員会等の関与の下で内閣総理大臣又は都道府県知事が行う制度を創設する。

主な内容は、[1]公益社団法人及び公益財団法人の認定制度の創設、[2]公益認定の基準、[3]公益法人の遵守事項、[4]公益法人の監督等である。

(c) 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴い、中間法人法を廃止するほか、民法その他の関連する諸法律の規定の整備や所要の経過措置を定める。

主な内容は、[1]中間法人法の廃止、[2]民法、非訟事件手続法の一部改正、[3]その他約300の法律についての規定の整備等である。

c 競争の導入による公共サービスの改革に関する法律案

国の行政機関等又は地方公共団体が自ら実施する公共サービスに関し、民間が担うことができるものは民間にゆだねる観点から、これを見直し、官民競争入札又は民間競争入札に付することにより、公共サービスの質の維持向上及び経費の削減を図る改革を実施するため、その基本理念、公共サービス改革基本方針の策定、官民競争入札及び民間競争入札の手続、落札した民間事業者が公共サービスを実施するために必要な措置、官民競争入札等監理委員会の設置その他の必要な事項を定める。

(イ) 国民がゆとりと豊かさを実感しながら安心して暮らせる安全な社会を構築できる効率的で信頼される政府を実現するための行政改革の推進に関する法律案(松本剛明君外5名提出)

国民がゆとりと豊かさを実感しながら安心して暮らせる安全な社会を構築できる効率的で信頼される政府を実現するための行政改革について、その基本理念、重要課題及び各重要課題の解決のための改革の基本方針等重要事項を定める。

主な内容は、[1]事務事業の見直し及び地方分権の強力な推進、[2]財政改革、[3]政策金融改革、[4]独立行政法人制度の見直し、[5]特別会計改革、[6]公務員制度改革、[7]官製談合の防止その他の契約事務の適正化等のための措置、[8]国会による行政の監視及びこれに係る立法に関する機能の充実強化を図るため行政監視院の設置、[9]行政刷新会議の設置等である。

(ウ 審議経過)

行政改革関連5法案のうち競争の導入による公共サービスの改革に関する法律案は平成18年2月10日に提出された。残る各法律案は、3月10日に提出され、同月23日の本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、行政改革関連5法案は行政改革に関する特別委員会(同月16日に設置)に付託された。

同委員会においては、同月29日、提案理由の説明を聴取し、4月3日から質疑に入り、同月10日は公務員制度改革及び公益法人制度改革、11日に特別会計改革、資産・債務改革及びいわゆる市場化テスト法案、13日には政策金融改革その他全般についての集中審議がそれぞれ行われ、17日には、参考人からの意見聴取及び参考人に対する質疑が行われた。

また、4月13日にいわゆる対案として提出された、国民がゆとりと豊かさを実感しながら安心して暮らせる安全な社会を構築できる効率的で信頼される政府を実現するための行政改革の推進に関する法律案については、同日、行政改革に関する特別委員会に付託され、同月18日、提案理由の説明を聴取し、同日及び19日に質疑が行われた。

4月19日の質疑終局後、自民、民主及び公明の共同提案により、競争の導入による公共サービスの改革に関する法律案に対して、第3条(基本理念)に「競争の導入による公共サービスの改革は公共サービスによる利益を享受する国民の立場に立って行う」旨を明記する内容の修正案が提出され、趣旨説明を聴取した。

討論・採決の結果、国民がゆとりと豊かさを実感しながら安心して暮らせる安全な社会を構築できる効率的で信頼される政府を実現するための行政改革の推進に関する法律案は否決すべきものと議決され、行政改革関連5法案のうち競争の導入による公共サービスの改革に関する法律案を除く各法律案は賛成多数でそれぞれ原案のとおり可決すべきものと議決され、競争の導入による公共サービスの改革に関する法律案は賛成多数で修正議決すべきものと議決された。

なお、行政改革関連5法案に対しそれぞれ附帯決議が付された。

4月20日の本会議において、国民がゆとりと豊かさを実感しながら安心して暮らせる安全な社会を構築できる効率的で信頼される政府を実現するための行政改革の推進に関する法律案は否決され、行政改革関連5法案のうち競争の導入による公共サービスの改革に関する法律案を除く各法律案は可決され、競争の導入による公共サービスの改革に関する法律案は修正議決された。

参議院においては、5月26日の本会議で、行政改革関連5法案はいずれも可決され、成立した。

(エ 主な質疑事項)

行政改革関連5法案に対する主な質疑事項は、[1]行革推進法案の目的及び改革の今後の見通し、[2]政策金融が果たしてきた役割及び機能維持の必要性、[3]特別会計の廃止及び統合の見通し、[4]公務員の純減目標の設定根拠等総人件費改革の在り方、[5]独立行政法人制度の評価、[6]国の資産・債務改革の取組、[7]公共調達における随意契約の適正化、[8]市場化テストの在り方及び我が国の公共サービスの将来像、[9]公益法人改革の意義及び特定非営利活動法人を対象外とした経緯、[10]公務員の再就職管理の適正化等であった。

国民がゆとりと豊かさを実感しながら安心して暮らせる安全な社会を構築できる効率的で信頼される政府を実現するための行政改革の推進に関する法律案に対する主な質疑事項は、[1]各分野の改革の実現可能性、[2]地方分権の基本的考え方、[3]官製談合防止の必要性等であった。

(3) 医療制度改革関係

(ア 国会で議論されるに至った経緯)

我が国の医療保険制度は、昭和36年の国民皆保険体制の確立により、すべての国民が保険証一枚でいつでもどこでも医療を受けることができ、健康と高額な費用負担から家計を守る制度として大きな役割を果たしてきた。

しかしながら、いわゆるバブル経済崩壊後の経済不況により国民所得の伸びが1%前後と低迷する中にあっても、急速な高齢化の進展、医療技術の高度化等により、老人医療費を中心に国民医療費は毎年1兆円規模で増加(近年の制度改正の影響を除くと対前年度比3〜4%の増加)を続け、医療保険各制度の財政構造を赤字体質に陥らせていた。このため、医療保険制度の抜本的な見直しが議論される一方で、保険給付率の削減等を内容とする制度改正が繰り返し実施されてきたが、今後においても更なる高齢化の進展等に伴う医療費の増加が見込まれており、持続可能な医療保険制度の構築が喫緊の課題となっていた。

また、医療サービスの内容についても国民の関心は高まっており、医療安全対策の充実、利用者の利便性向上に向けた医療情報の開示・IT化の推進、救急医療体制の充実など患者の視点に立った質の向上と、医療費の適正化に向けた効率的な医療提供体制の再構築も急務となっていた。

(ア) 医療保険制度の改正議論

医療保険制度の体系的な見直しについては、現行の老人保健制度に代わる新たな高齢者医療制度の創設という課題が残されていた。新たな高齢者医療制度の枠組みについては、高齢者を独立の保険制度とする案、現役世代に加入していた制度に継続して加入する案など様々な提案が関係団体から出されていたが、それぞれの提案にはメリット・デメリットがあることから、関係者間の合意が得られずにいた。政府は、平成14年の健康保険法等の改正に当たり、新たな高齢者医療制度の創設を含む医療制度改革の基本方針を平成14年度中に示すことを附則に明記した。この規定を受け、平成15年3月に医療保険制度体系等についての「基本方針」が閣議決定され、新たな高齢者医療制度については、75歳以上の者を被保険者とする新たな医療制度を創設するとともに、65〜74歳の高齢者の医療費について各医療保険の保険者間における負担の不均衡を調整する制度を創設すること、制度改革の実施時期を平成20年度として、平成18年には関連する法律案を国会に提出することが示された。

他方、政府の経済財政諮問会議を中心に、増加を続ける医療費の適正化に向けた方策の検討も進められた。医療費の適正化策については、医療費の増加を経済成長の範囲内に自動的に抑える仕組みを導入すべきとの意見が出される一方で、過度の医療費適正化策は医療サービスの質を低下させることから慎重に対応すべきとの意見が出され、議論が続けられていた。こうした中、厚生労働省においては、疾病予防への取組強化による患者数の減少や効率的な医療提供体制の再構築による平均在院日数の短縮を図り、計画的かつ国民に分かりやすい形で医療費適正化を進める方策の検討が進められた。

(イ) 医療提供体制の改正議論

医療サービスの提供体制の整備は、医療保険制度と同様に医療制度を支える重要な柱である。厚生労働省は、これまでも限りある医療資源を有効に活用すべく、効率的な医療提供体制の再構築に向けて、入院医療の体制整備や医療情報の提供体制の整備など、医療機関の機能の分化と連携の推進、在宅医療の推進等に取り組んでいた。しかし、その一方で医療事故が後を絶たない状況、医療機関の間に技術格差が存在する状況、特定の地域や診療科における医師が不足している状況等が明らかになり、より一層の医療安全対策の充実や医療情報の公開などの医療サービスの質の向上を求める国民からの意見も次第に強くなった。

このため、より患者の視点に立ち、利便性の高い効率的な医療提供体制の構築に向け、厚生労働省内に設置された検討会等で、医療機関に関する情報の提供体制の制度化や都道府県における医療相談体制の制度化、医療機関の整備等に関して都道府県が策定する医療計画制度の見直し、医療安全支援センターの制度化などの多方面にわたる制度改正の検討が進められた。

(ウ) 医療制度改革案の決定

平成18年の医療制度改革の実現に向けて、厚生労働省は、関係審議会、検討会等における議論を踏まえつつ、医療保険制度、医療提供体制の両面にわたる改正事項等を取りまとめた「医療制度構造改革試案」を作成し、平成17年10月に公表した。その後、この「試案」をたたき台にして関係方面との調整が行われ、政府・与党の医療改革協議会において、同年12月1日に「医療制度改革大綱」が取りまとめられた。この中で、懸案の医療費適正化方策については、医療給付費を経済成長の範囲内に自動的に調整する仕組みは設けず、疾病予防対策等への取組方策と医療費の見通しを明示した医療費適正化計画を国等が策定し、実際の医療費の伸びを検証してその後の施策の見直しを行う仕組みを導入することとされていた。

その後、平成18年度予算の政府原案決定過程で、翌年の医療給付費に影響を及ぼす診療報酬の改定幅がマイナス3.16%と決定され、小児・産科医療や在宅医療の分野のほか、IT化の推進等に対して重点的に配分する一方、慢性期の入院医療などを適正化する方向で診療報酬の改定作業が行われることとなった。

これらを受けて政府は、今後の高齢化の進展等による増加が見込まれる医療保険給付費の抑制を図り、医療保険制度の持続的かつ安定的運営を図ることを目的とする健康保険法等の一部を改正する法律案及び患者本位で効率的な医療提供体制の構築を図ることを目的とする良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律案を取りまとめ、第164回国会に提出した。

一方、民主党は、患者が安心、納得して医療が受けられ、また、地域において健康管理、医療保険制度及び医療提供体制の整備が完結する医療制度の実現を目指すことなどを内容とする「民主党医療制度改革」を取りまとめた。そして、現在の医療制度における様々な課題を改善するための小児医療提供体制の確保等のために緊急に講ずべき施策の推進に関する法律案及び医療を受ける者の尊厳の保持及び自己決定に資する医療情報の提供、相談支援及び医療事故等の原因究明の促進等に関する法律案を取りまとめ、第164回国会に提出した。

(イ 関連議案の概要)

(ア) 健康保険法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

医療保険制度の将来にわたる持続的かつ安定的な運営を確保するため、所要の改正を行おうとするもので、その主な内容は、

 生活習慣病対策や長期入院の是正など中長期的な医療費適正化のため、国が示す基本方針に即し、国及び都道府県が計画(計画期間5年)を策定すること

 現役並みの所得がある高齢者の患者負担を2割から3割に引き上げるなど保険給付の内容・範囲の見直しを行うこと

 75歳以上の後期高齢者の保険料、現役世代からの支援及び公費を財源に、都道府県単位ですべての市町村が加入する広域連合が運営する新たな後期高齢者医療制度を創設すること。また、65〜74歳の前期高齢者に係る医療費について各保険者の加入者数に応じて負担する財政調整制度を創設すること

 政府管掌健康保険の保険者を新たに設立する全国健康保険協会とし、都道府県ごとの医療費を反映した保険料率を設定するなどの医療保険者の再編・統合を推進すること

等である。

(イ) 良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

国民の医療に対する安心、信頼を確保し、質の高い医療サービスが適切に提供される体制を確立するため、所要の改正を行おうとするもので、その主な内容は、

 都道府県が医療機関等に関する情報を集約し、分かりやすく住民に情報提供し、住民からの相談等に適切に応じる仕組みを制度化すること

 脳卒中、がん、小児救急医療等事業別の具体的な医療連携体制を医療計画に位置付けるなど医療計画制度を見直し、医療機能の分化・連携を推進し、地域において切れ目のない医療の提供体制を構築すること

 へき地や、小児科、産科などの診療科における医師の偏在問題に対応するため、都道府県の「医療対策協議会」を制度化し、地域における医師確保の推進を図ること

等である。

(ウ) 小児医療提供体制の確保等のために緊急に講ずべき施策の推進に関する法律案(小宮山洋子君外4名提出)

小児医療を取り巻く状況の変化等により国民が必要とする小児医療の提供の確保が困難となっている現状にかんがみ、良質かつ適切な小児医療を効率的に提供する体制の確保等を図るため、小児医療提供体制の確保に関する基本方針及び医療計画の策定並びにその実施に必要な国の財政上の措置等について定めようとするものである。

(エ) 医療を受ける者の尊厳の保持及び自己決定に資する医療情報の提供、相談支援及び医療事故等の原因究明の促進等に関する法律案(園田康博君外3名提出)

医療を受ける者の尊厳が保持され、医療を受ける者の理解と自己決定に基づいた良質かつ適切な医療の提供を促進するため、医療を受ける者に対する医療に関する情報の提供についての基本的な事項、相談支援に関する必要な事項、医療事故等の原因究明等安全な医療を確保するための必要な事項等について定めようとするものである。

(ウ 審議経過)

内閣提出の2法律案は、平成18年2月10日に提出され、また、民主提出の2法律案は4月4日に提出された。4月6日の本会議において4法律案についての趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、厚生労働委員会に付託された。

同委員会においては、同月7日、4法律案について提案理由の説明を聴取し、12日から質疑に入った。同月25日及び26日には、離島診療所医師や小児科勤務医のほか、患者団体、医師会、労働団体の各代表、学者など12名の参考人からの意見聴取及び参考人に対する質疑が行われた。また、5月8日には、福岡県及び福島県においていわゆる地方公聴会が開催された。同月17日には、小泉内閣総理大臣に対する質疑が行われた後、内閣提出の2法律案について質疑終局の動議が提出され、可決された。次いで、採決の結果、内閣提出の2法律案はいずれも賛成多数で可決すべきものと議決された。

同月18日の本会議において、内閣提出の2法律案は可決された。

参議院においては、6月14日の本会議で内閣提出の2法律案は可決され、成立した。

なお、民主提出の2法律案は、衆議院において審査未了となった。

(エ 主な質疑事項)

内閣提出の2法律案に対する主な質疑事項は、[1]見通しが困難な医療費の将来推計を基に医療費抑制策を議論することの妥当性、[2]医療費適正化を推進するための健康診査の受診率向上に向けた具体的な取組方策、[3]メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の診断基準や医療費抑制効果の科学的根拠を十分に議論しないまま生活習慣病対策を徹底することの妥当性、[4]療養病床の再編成で患者が追い出されることがないよう十分な支援策を講じる必要性、[5]就業構造の変化に対応するため健保・国保を統合した地域単位の保険制度を創設すべきとの意見に対する厚生労働省の見解、[6]新設される後期高齢者支援金を各保険者が拠出しなければならない法的根拠、[7]医師の需給について診療科別及び開業医と勤務医別の必要数並びに不足数を公表する必要性、[8]医師の適正な配置に向けての医師のライフコース等を考慮した総合的な取組の必要性、[9]医師不足が深刻な小児科等で多い女性医師の再就職に向けた研修など総合的な支援策の必要性、[10]厚生労働省が取り組む小児科・産科における医療資源の集約化・重点化の実効性に対する懸念等であった。

また、民主提出の2法律案に対する主な質疑事項は、[1]勤務医の過酷な労働条件を改善し、患者が安心して医療を受けることができるよう国が主導して体制整備を行う必要性、[2]小児科医療の緊急対応策として設置することとしている地域小児センターの概要及び保護者が抱える育児不安等への対応方針、[3]国民の医療に対する安心・信頼を確保する観点から医療に関する情報提供を推進する必要性、[4]医療事故等が発生した際の医療現場における問題点を調査する必要性等であった。

(4) 金融商品取引法制関係

(ア 国会で議論されるに至った経緯)

(ア) いわゆる投資サービス規制の構築

金融ビッグバンによる規制緩和や金融技術の進展などを背景に、これまでになかった新たな金融商品が、既存の利用者保護法制の対象となっていないものも含め、次々と販売されるようになってきた。このような新たな金融商品については、詐欺的な販売が行われる例が見られたことから、これまでに、平成16年6月の証券取引法改正により、組合形態の投資ファンドの持分が証券取引法の適用対象となったほか、同年12月の金融先物取引法改正により、外国為替証拠金取引に対する投資者保護規制が導入された。しかし、包括的・横断的な法制が不備の状態の下での後追い型の対応では、投資者保護に限界があることが従来から指摘されてきた。

また、証券会社や銀行など既存の金融機関が、他の業法に基づく商品を業態の枠を超えて取り扱う傾向が見られるほか、異なる法律に基づく商品の内容が類似してきたり、複数の法律にまたがるような商品を提供したりする動きが見られるなど、金融サービスの融合化が進展してきた。

このような金融環境の変化を踏まえ、金融審議会は累次にわたり包括的・横断的な投資者保護法制を構築すべく議論を行い、平成17年12月22日、第一部会報告「投資サービス法(仮称)に向けて」(以下「投サ法報告」という。)を取りまとめ、「幅広い金融商品について、包括的・横断的な制度を整備することで、これまで利用者保護法制の対象となっていなかった隙間を埋めるとともに、規制構造を柔構造化しつつ、規制の簡素化・明確化や商品設計の自由化を図ることにより、金融イノベーションを促進することが重要である」旨を提言した。

(イ) 開示制度の見直し

a 四半期報告制度の整備

近年、企業を取り巻く経営環境の変化は激しく、企業業績も短期間で大きく変動するようになってきている。こうした状況下では、投資者に対し、企業業績等に係る情報をより適時に開示することが求められることから、全国の証券取引所において四半期開示が段階的に導入されてきた。

このように、四半期開示は、実務面での対応が進んできているが、金融審議会の「ディスクロージャー・ワーキング・グループ」は、平成17年6月28日、「今後の開示制度のあり方について」を取りまとめ、「取引所における四半期開示のみでは、開示情報に虚偽記載等がある場合であっても、罰則は適用されず、損害を被った投資者に対する証券取引法上の民事責任規定も適用されない。また、四半期開示を発行登録制度上の参照書類と位置付けていくことの必要性等も考えると、証券取引法上も、四半期報告制度を整備していくべきである」旨を提言した。そして「投サ法報告」も四半期報告を制度化することが適当であるとした。

b 内部統制報告制度の整備

平成16年10月中旬以降、証券取引法上のディスクロージャーをめぐり、西武鉄道の有価証券報告書虚偽記載問題など不適正な事例が相次いで判明した。これを受け、金融審議会は、同年12月に「ディスクロージャー制度の信頼性確保に向けて」を取りまとめ、財務報告に係る内部統制の有効性に関する経営者の評価と公認会計士等による監査の在り方について、「諸外国の実例や我が国の会社法制との整合性等にも留意しつつ、財務報告に係る内部統制の有効性に関する経営者による評価の基準及び公認会計士等による検証の基準の明確化を早急に図るべきである。これを通じて、会社代表者による確認書制度の活用を促していくとともに、当該基準に示された実務の有効性や諸外国の状況等を踏まえ、その義務化の範囲や方法等が適切に判断されるべきである」と提言した。

この提言を受け、金融庁は、任意の制度として導入されている経営者による確認書制度の活用を促すとともに、経営者による評価の基準及び公認会計士等による検証の基準の明確化を企業会計審議会に要請し、当該基準に示された実務の有効性等を踏まえ、評価及び検証の義務化につき検討することとした。

企業会計審議会は、平成17年12月に内部統制部会報告「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について」を取りまとめ、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準案」を公表した。そして「投サ法報告」は、内部統制部会報告書を踏まえ、内部統制報告制度を整備することが適当であるとした。

c 公開買付制度等の見直し

近時、我が国における企業の合併・買収件数は急速に増加しており、企業買収の一手段である公開買付件数も増加傾向にある。またその態様についても多様化している。合併・買収に関するこれらの動きは、公開買付けの手続において買付者や対象会社等に株主・投資者に対してどこまで情報の提供を求めていくか、公開買付けを利用した合併・買収の一連の過程において株主・投資者間の公平をどこまで追及していくか等の論点を提起することとなった。

金融審議会は、「公開買付制度等ワーキング・グループ」を設置し検討を行った結果、平成17年12月21日、「公開買付制度等のあり方について」を取りまとめ、投資者への情報提供の充実や買付者間の公平性確保のほか、脱法的な態様の取引への対応、大量保有報告制度における特例報告の見直し等についての提言を行った。そして、「投サ法報告」も同提言を踏まえ、公開買付制度等に関する必要な見直しを行うことが適当であるとした。

(ウ) 取引所制度の整備

取引所の組織の在り方については、株式会社化により、ガバナンスの強化、資金調達の円滑化・多様化などのメリットが期待されるとして、平成12年の証券取引法改正で取引所の株式会社化が認められた。

その後、平成15年12月の金融審議会第一部会報告「市場機能を中核とする金融システムに向けて」において、取引所が株式会社として営利性を有しつつ、取引所として求められる公共性を果たしていくための望ましい組織の在り方について、「自主規制業務の遂行体制としては、他の業務から独立して行われるよう担保すべきである」との観点から、「資本関係のない別法人」、「親子・兄弟法人」、「同一法人内の別組織」の3つの類型が示され、「制度的な手当が必要であれば、選択肢が用意されていることが望ましい」と指摘された。

金融審議会は、最近の状況変化や海外の動きも踏まえ、自主規制機能の適正な遂行を確保する観点から、取引所における組織形態の在り方について検討を行った結果、「投サ法報告」において、「取引所を取り巻く環境や、市場の開設者が自らの市場をどうデザインしていくかとの方針は、取引所によって異なり得るものであることから、自主規制機能を担う組織については、別法人におくことや、独立性を高めた上で同一法人内におく方式など、市場の開設者が自らの判断により選択できる制度とすることが考えられる」と提言した。

(エ) 課徴金・罰則規定の見直し

証券取引法における課徴金制度は、平成16年に有価証券届出書の虚偽記載、風説の流布・偽計取引、相場操縦行為、インサイダー取引について導入され、平成17年に有価証券報告書の虚偽記載についても導入された。

近時、証券市場において、大量の買い注文を出しながら、売買が成立する直前に取り消して株価を意図的に吊り上げる「見せ玉」行為が横行しているとの指摘がなされ、金融審議会は、「投サ法報告」において、「見せ玉」行為を課徴金等の対象とする旨の提言を行った。

また、ライブドア事件を契機とし、平成18年2月、自由民主党及び公明党は、証券取引法の規制の実効性確保の観点から、違反行為に対する罰則の引上げを提言した。

(イ 関連議案の概要)

(ア) 証券取引委員会設置法案(古本伸一郎君外6名提出)

内閣府設置法に基づき、内閣府の外局として、証券取引委員会を新たに設置するとともに、その所掌する行政事務を能率的に遂行するため必要な組織を定める。

(イ) 証券取引法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

a 投資サービス規制

証券取引法の題名を「金融商品取引法」に改め、集団で投資を行う契約(集団投資スキーム)に関する包括的な定義規定を設けることによって、規制対象商品を拡大することとする。また、証券業の名称を「金融商品取引業」に改め、販売・勧誘、資産運用・助言及び資産管理をすべて本来業務とした上で、その内容に応じて業規制を整備するとともに、業務の内容及び対象顧客に応じた行為規制の適用の柔軟化を行うこととする。

b 開示制度

四半期報告制度に関しては、上場会社等に対し、四半期に一度、当該会社の属する企業集団の経理の状況等を記載した四半期報告書の提出を義務付けることとする。

内部統制報告書制度に関しては、上場会社等に対し、事業年度ごとに、当該会社の属する企業集団及び当該会社に係る財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要な体制について評価した報告書の提出を義務付けることとする。

公開買付制度に関しては、公開買付規制の適用範囲の明確化、買付者が競合する場合における公開買付けの義務化、公開買付けの買付条件の変更等の柔軟化、意見表明報告書の提出の義務化、対象者の請求に基づく公開買付期間の延長及び全部買付けの義務化等を行うこととする。

大量保有報告書制度に関しては、機関投資家等の特例報告の提出頻度等の見直しを行うこととする。

c 取引所制度

金融商品取引所(現行の証券取引所及び金融先物取引所)は、自主規制業務の遂行の独立性を確保するため、自主規制法人又は自主規制委員会を設けることができることとする。また、株式会社形態の金融商品取引所の主要株主規制として、20%を超える議決権の取得・保有を原則として禁止することとする。

d 課徴金・罰則

顧客による「見せ玉」行為を新たに課徴金の対象とし、証券会社の自己計算による「見せ玉」行為を新たに課徴金及び刑事罰の対象とする。また、開示書類の虚偽記載、風説の流布・偽計取引、相場操縦行為及びインサイダー取引等に対する罰則の法定刑を引き上げる。

(ウ) 証券取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出)

証券取引法等の一部を改正する法律の施行に伴い、外国証券業者に関する法律、有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律、抵当証券業の規制等に関する法律及び金融先物取引法を廃止するとともに、金融商品の販売等に関する法律等72法律の規定の整備等を行う。

(ウ 審議経過)

証券取引委員会設置法案は、平成18年2月3日に、証券取引法等の一部を改正する法律案及び証券取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案は、3月13日に提出された。4月14日の本会議において、3法律案について趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、財務金融委員会に付託された。

同委員会においては、同月18日、提案理由の説明を聴取した後、21日から質疑が行われ、28日、5月10日及び12日には、参考人からの意見聴取及び参考人に対する質疑が行われた。10日には、内閣提出の両法律案に対し、商品取引所法における主務大臣に内閣総理大臣を加えること等を内容とする修正案が民主から提出され、趣旨の説明を聴取した後、原案と一括して質疑が行われた。12日、質疑を終局し、討論・採決の結果、証券取引委員会設置法案は否決された。また、内閣提出の両法律案に対する修正案はいずれも否決され、両法律案はいずれも賛成多数で原案のとおり可決すべきものと議決された。なお、両法律案に対し、附帯決議が付された。

同月16日の本会議において、証券取引委員会設置法案は否決され、内閣提出の両法律案はいずれも可決された。

参議院においては、6月7日の本会議で、内閣提出の両法律案はいずれも可決され、成立した。

(エ 主な質疑事項)

主な質疑事項は、[1]集団投資スキーム(ファンド)に対する規制、[2]取引所の自主規制機能、[3]課徴金及び罰則規定の見直し、[4]商品先物取引に対する規制、[5]証券取引等監視委員会の機能強化、[6]公開買付制度及び大量保有報告制度の見直し、[7]四半期報告制度の法定化、[8]内部統制報告制度の在り方、[9]一般投資家と特定投資家の区分、[10]金融経済教育の必要性等であった。

(5) 農政改革関係

(ア 国会で議論されるに至った経緯)

(ア) 食料・農業・農村基本法の成立

旧農業基本法の下では、農産物価格安定政策が講じられてきた。この政策は、農業所得の確保に強く配慮した運用がなされた結果、需給事情や消費者ニーズが農業者に的確に伝わらず、農業者の経営感覚の醸成を妨げ、需給のミスマッチを招いた面があったと指摘されている。また、国際的な潮流も、農産物の価格形成に市場原理を活用し、市場歪曲性を低めていく方向となっている。

こうしたことから、平成11年7月に公布・施行された食料・農業・農村基本法において、農産物の価格が需給事情や品質の評価を適切に反映して形成されるよう、価格政策を見直すとともに、価格政策の見直しに伴う価格の著しい変動が育成すべき農業経営に与える影響を緩和するための措置を講ずることとされた。

(イ) 旧基本計画と経営政策の検討

平成12年3月、農政推進の基本指針である「食料・農業・農村基本計画」が閣議決定された。この中で、「育成すべき農業経営を個々の品目を通じてではなく経営全体としてとらえ、その経営の安定を図る観点から、農産物の価格の変動に伴う農業収入又は所得の変動を緩和する仕組み等について、今後、品目別の価格政策の見直し状況、品目別の経営安定対策の実施状況、農業災害補償制度との関係等を勘案しながら検討を行う」こととされた。

これを踏まえ、農林水産省は、平成13年8月、「農業構造改革推進のための経営政策」を取りまとめた。この中で、今後特に重点的に講じていく施策の一つとして「構造転換に取り組む経営の価格変動リスクを軽減するセーフティネットの整備」を掲げた。

(ウ) 新たな基本計画と「経営所得安定対策等大綱」の決定

食料・農業・農村基本計画は、おおむね5年ごとに見直しをすることとされており、平成17年3月、新たな基本計画が閣議決定された。この中で、「我が国農業の構造改革を加速化するとともに、WTOにおける国際規律の強化にも対応し得るよう、現在、品目別に講じられている経営安定対策を見直し、施策の対象となる担い手を明確化した上で、その経営の安定を図る対策に転換する」こと(品目横断的政策への転換)が明記された。

農林水産省は、新基本計画を策定後、新たな経営安定対策の導入等について検討を進め、平成17年10月、「経営所得安定対策等大綱」を取りまとめた。この中で、新たな経営安定対策である「品目横断的経営安定対策」の詳細を明らかにするとともに、併せて、米の生産調整支援策の見直し等に係る「米政策改革推進対策」と資源・環境対策として「農地・水・環境保全向上対策(仮称)」が示された。

(エ) 農政改革関係法案(閣法)の提出

以上の経緯を経て、平成18年2月24日、品目横断的経営安定対策の導入等を柱とする農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律案、砂糖の価格調整に関する法律及び独立行政法人農畜産業振興機構法の一部を改正する等の法律案及び主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律の一部を改正する法律案が、内閣から国会に提出された。

(オ) 農政等改革基本法案(衆法)の提出

政府提出の農政改革関係法案の対案として、民主党から3月16日、食料の国内生産及び安全性の確保等のための農政等の改革に関する基本法案が、国会に提出された。

(イ 関連議案の概要)

(ア) 農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律案(内閣提出)

国民に対する食料の安定供給の確保に資するため、これまですべての農業者を対象に品目ごとに講じてきた施策を見直し、認定農業者等の担い手の経営全体に着目してその安定を図るために必要な交付金を交付する措置を講じようとするものであり、その主な内容は、

 対象農産物は、米穀、麦、大豆、てん菜及びでん粉原料用ばれいしょのように、国民に対する熱量の供給を図る上で特に重要であって、相互の組合せによる生産が広く行われているものとすること

 対象農業者は、認定農業者又は特定農業団体その他の一定の要件を満たす農作業受託組織(一定の要件を満たす集落営農)であって、その耕作の業務の規模が一定の基準に適合する等の要件を満たすものとすること

 我が国の地理的条件が悪いこと等に起因する諸外国との生産条件の格差から生ずる不利を補正するため、対象農産物のうち、その生産費が販売価格を上回るものについて、両者の差額に応じ、次の交付金を交付するものとすること

(a) 過去の一定期間における平均生産面積に応じて交付する交付金

(b) 毎年の生産量・品質に応じて交付する交付金

 豊凶変動等による対象農産物に係る収入の減少が農業経営に及ぼす影響を緩和するため、自ら一定の積立てを行っていることを要件として、収入減の一部を補てんする交付金を交付するものとすること

 交付金の交付業務の適正な執行を確保するため、不正の手段で交付金の交付を受けた者に対し交付金の返還を命ずるとともに、必要な場合にはその徴収ができるものとすること

等である。

(イ) 砂糖の価格調整に関する法律及び独立行政法人農畜産業振興機構法の一部を改正する等の法律案(内閣提出)

新たな農業経営安定対策への転換に対応し、需要に即した生産をより一層促進するため、砂糖及びでん粉の原料作物の最低生産者価格を廃止し、生産条件の格差から生じる不利を補正するための交付金を交付するとともに、でん粉について、砂糖と同様の価格調整を行う仕組みを創設する等の措置を講じようとするものである。

(ウ) 主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出)
主要食糧である麦について、新たな農業経営安定対策への転換に対応し、国の関与の在り方を見直しつつ、民間流通を基本とした麦の需給及び価格の安定を図るため、国内産麦の政府無制限買入制度を廃止するとともに、政府が需給見通しを策定し、これに基づき麦の輸入及び備蓄を行うこととする等の措置を講じようとするものである。

(エ) 食料の国内生産及び安全性の確保等のための農政等の改革に関する基本法案(山田正彦君外4名提出)

将来における世界的な食料の供給の不足が予想される中で、食料の相当部分を輸入に依存している我が国において、必要な数量の農産物及び水産物の主たる部分を国内で生産できるようにすること及び食料の安全性を確保すること等が緊要な課題であることにかんがみ、食料の国内生産及び安全性の確保等のための農政等の改革に関する基本法を制定しようとするものであり、その主な内容は、

 国は、食料自給率について、10年後に50%、将来においては60%を目標とするものとすること

 国及び地方公共団体は、米、小麦、大豆及び菜種等を、主要農産物とし、生産数量の目標を定めるものとすること

 国及び地方公共団体は、販売を行う農業者に対して、単年度当たりおおむね1兆円を目途とする直接支払を行うものとし、米の生産調整は廃止するものとすること

 国及び地方公共団体は、集落が行う農地等の保全管理等の取組を支援するものとすること

 国は、農業への参入要件の緩和及び食料の備蓄の推進等のため、必要な施策を講ずるものとすること

 国は、水産資源に関する調査及び研究、漁獲限度量の割当て、これに伴う漁業者への直接支払及び漁業権等の見直し、漁場環境の保全、水産資源の保存及び管理のための輸入の制限、漁場生産力の向上に取り組んだ漁業集落に対する直接支払等の施策を講ずるものとすること

 国は、加工食品等の原料原産地の表示の義務付け、輸入検疫体制の強化、主要な輸入食料に対する輸入先国での査察等の施策を講ずるものとすること

等である。

(ウ 審議経過)

上記イ(ア)、(イ)及び(ウ)の3法律案は、平成18年2月24日に、イ(エ)の法律案は、3月16日に提出された。イ(ア)及び(エ)の2法律案は、3月17日の本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、イ(イ)及び(ウ)の2法律案とともに農林水産委員会に付託された。

同委員会においては、同月23日、提案理由の説明を聴取し、4月5日、12日、20日、5月11日、16日及び17日、質疑が行われた。4月19日には、宮崎県及び北海道において、いわゆる地方公聴会が開催された。同月26日には、農業法人経営者、集落営農、専業農家、消費者団体の関係者、ジャーナリストなど8名の参考人からの意見聴取及び参考人に対する質疑が行われた。5月11日には、公聴会を開催、精糖業界の関係者、農業団体の関係者、学者、農家の4名の公述人からの意見聴取及び公述人に対する質疑が行われた。

5月17日、質疑を終局し、討論・採決の結果、イ(エ)の法律案は否決すべきものと議決され、イ(ア)、(イ)及び(ウ)の3法律案は賛成多数でそれぞれ原案のとおり可決すべきものと議決された。

5月18日の本会議において、イ(エ)の法律案は否決され、イ(ア)、(イ)及び(ウ)の3法律案は可決された。

参議院においては、6月14日の本会議で、イ(ア)、(イ)及び(ウ)の3法律案は可決され、成立した。

(エ 主な質疑事項)

上記イ(ア)、(イ)及び(ウ)の3法律案に対する主な質疑事項は、[1]我が国農業構造の将来展望、[2]品目横断的経営安定対策が農業構造改革推進に果たす役割及び食料自給率の向上に資する効果、[3]「担い手」を限定することの是非及び農村社会二極化への懸念、[4]対象農家数及び対象農地面積の見通し、[5]対象農産物を限定していることの妥当性、[6]地域振興を図る上で集落営農が果たす役割の重要性、[7]「過去の生産実績に基づく支払」が農地流動化の支障となることへの懸念、[8]収入変動影響緩和対策が大規模農業者の経営安定に資する効果に対する疑義、[9]非担い手に対する米価下落影響緩和対策の必要性、[10]新たな米の需給調整システムの実効性確保策、[11]農地・水・環境保全向上対策の営農活動への支援を地域振興施策として位置付けることの妥当性、[12]さとうきび及びでん粉原料用かんしょの経営安定対策の対象要件及び支援水準の考え方、[13]かんしょでん粉工場の再編合理化の現状及び支援の必要性、[14]麦の輸入における売買同時契約(SBS方式)の導入による効果等であった。

イ(エ)の法律案に対する主な質疑事項は、[1]食料自給率目標の達成に向けた具体策、[2]食料自給率目標の積算根拠とその妥当性、[3]生産数量目標の国内需要及び国土条件との整合性、[4]直接支払に係る対象農産物の考え方、[5]農業構造改革の推進を図る上での本法律案の位置付け及び構造改革を阻害するとの意見に対する反論、[6]米の生産調整を廃止した場合における稲作経営への影響、[7]米の棚上げ備蓄における保管方法、財政負担及び処理方法、[8]農業の多面的機能に対する評価の施策上の位置付け、[9]漁業者への直接支払の具体的内容、[10]個別漁獲割当制度導入を含め漁業権制度を抜本的に見直す必要性、[11]食の安全・安心の確保についての基本的考え方等であった。

(6) 中心市街地活性化関係

(ア 国会で議論されるに至った経緯)

中心市街地は、様々な都市機能が集積し、長い歴史の中で文化、伝統をはぐくんできた「街の顔」であった。しかし、近年、モータリゼーションの進展、消費者のライフスタイルの変化等を背景に、中心部の居住人口の減少、空き店舗の増加など、中心市街地の空洞化が深刻になってきている。

こうした中心市街地を取り巻く環境変化には、大型店に対する規制も影響を与えてきた。1990年代までは、大規模小売店舗法(大店法)の下、国が主体となって、開店日、店舗面積、閉店時刻、休業日数について大型店と中小小売業者との調整を行ってきた。しかし、[1]大店法では、大型店の立地の適否の判断や交通、騒音、廃棄物など周辺の生活環境問題に対応できなかったこと、[2]中小小売業の事業機会確保の観点からも調整政策の有効性が問われ始めたこと、[3]日米構造協議において規制緩和の一環として大店法廃止の強い要求を受けたこと、等を背景に、同法は段階的な規制緩和が図られ、平成12年5月に廃止された。

これに先立ち、空洞化の進行している中心市街地の活性化を図るため「中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律」(平成10年7月施行)において、市町村のイニシアティブのもと、まちづくり事業と商業活性化を車の両輪とする施策が講じられるとともに、改正都市計画法(平成10年11月施行)において特別用途地区制度が多様化され、立地コントロールが可能となった。また、大規模小売店舗立地法(平成12年6月施行、以下「大店立地法」という。)によって交通渋滞、駐車・駐輪場問題、ゴミ問題、騒音問題等周辺地域の生活環境保持を図ることとなり、これら3法律がまとまって商業調整からまちづくりへと政策転換が図られた(「まちづくり三法」と総称)。

しかしながら、まちづくり三法施行後も中心市街地における人口や商店数等の減少傾向に歯止めがかからず、中心市街地を取り巻く環境はますます厳しくなっていった。

平成16年9月、経済産業省産業構造審議会流通部会及び中小企業政策審議会商業部会は、まちづくり三法の関連施策の評価・検討及び大店立地法の指針の見直しの検討のため合同会議を立ち上げ、14回の審議、25名の有識者からのヒアリングを経て、平成17年12月26日、「中間報告〜コンパクトでにぎわいあふれるまちづくりを目指して〜」を取りまとめた。本報告では、人口減少や高齢化、車社会化が進むなか、「持続的な自治体財政」と「コミュニティの維持」を共に実現するため、「コンパクトでにぎわいあふれるまちづくり」、いわゆるコンパクトシティを提示している。

また、特に地方都市においては、中心部における地価高騰や周辺部における工場跡地、放棄農地など遊休地の増大等を背景に、学校、庁舎、病院等の公共公益施設及び複合型ショッピングセンター等の大型商業施設が、工業系の用途地域や用途地域が指定されていない郊外の地域へと移転・立地していったことにより、都市機能が拡散し、中心市街地の空洞化や都市における公共投資の非効率性が問題とされるようになった。そのため、平成17年6月及び7月に諮問を受けた国土交通省社会資本整備審議会は、平成18年2月1日、「新しい時代の都市計画はいかにあるべきか。(第1次答申)」及び「人口減少等社会における市街地の再編に対応した建築物整備のあり方について」を答申した。両答申では、多くの人にとって暮らしやすい都市の実現のために、都市計画・建築規制の強化や開発許可の見直しによる広域的都市機能の適正立地を図る一方、中心市街地活性化の見直しや「街なか居住」の推進等により中心地に機能集積を誘導する支援方策の実施を提案している。

これらを受けて政府は、中心市街地における都市機能の増進及び経済活力の向上を総合的かつ一体的に推進するため、中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律の一部を改正する等の法律案を提出するとともに、都市の秩序ある整備を図り、中心市街地の再生を図ることを目的として都市の秩序ある整備を図るための都市計画法等の一部を改正する法律案を第164回国会に提出した。(大店立地法については改正せず。)

(イ 関連議案の概要)

(ア) 中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律の一部を改正する等の法律案(内閣提出)

本法律案は、中心市街地の活性化に関する基本理念等を定めるとともに、市町村が作成し内閣総理大臣による認定を受けた基本計画に基づく事業に対する特別の措置等を集中的に講じるものであり、その主な内容は、

 中心市街地の活性化についての基本法的性格を反映するため、題名を「中心市街地の活性化に関する法律」に改めること

 中心市街地の活性化のための基本理念として、地域における社会的、経済的及び文化的活動の拠点となるにふさわしい魅力ある市街地の形成を掲げることとし、地方公共団体等地域の関係者の取組及び国の支援の在り方について規定するとともに、国、地方公共団体及び事業者の中心市街地活性化のための責務規定を創設すること

 内閣に中心市街地活性化本部を設置するとともに、市町村が作成した基本計画について、内閣総理大臣による認定制度を創設し、認定された基本計画に基づく取組に対して国が集中的かつ効果的に支援すること

 市町村が作成しようとする基本計画並びに認定基本計画及びその実施に関し必要な事項について協議するため、中心市街地整備推進機構、商工会又は商工会議所その他の多様な民間主体等により組織される中心市街地活性化協議会を法制化すること

 認定された基本計画に基づいて行われる事業に対する支援措置として、土地区画整理事業の換地特例の拡充、中心市街地共同住宅供給事業の創設、中心市街地整備推進機構等による公共空地等の管理制度の創設、大規模小売店舗立地法の特例の創設、共通乗車船券の特例の創設等を行うこと

等である。

(イ) 都市の秩序ある整備を図るための都市計画法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

本法律案は、広域的に都市構造に影響を与えるような大規模集客施設(床面積10,000m2超の店舗、映画館等)に対し、その立地を制限することにより、都市機能の適正立地を図るなど中心市街地の活性化に資することを目的とするものであり、その主な内容は、

 大規模集客施設について、立地可能な用途地域を6から3へ限定するとともに、非線引き都市計画区域及び準都市計画区域内の白地地域内においては、原則として立地不可とすること

 大規模集客施設の立地を制限された都市計画区域内において、市町村の判断により、用途を緩和する地区計画(開発整備促進区)を定めることができること

 都市計画区域外における土地利用規制について、広域的な観点から判断できるように、準都市計画区域の指定権者を市町村から都道府県とすること

 市街化調整区域内における計画的大規模開発の許可に関する例外規定を廃止するなど開発許可制度を見直すこと

 まちづくりの推進に関し知見を有する団体等を都市計画の提案権者に追加すること

等である。

(ウ 審議経過)

中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律の一部を改正する等の法律案は、平成18年2月8日に提出された。3月16日の本会議において、趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、経済産業委員会に付託された。

同委員会においては、4月5日、提案理由の説明を聴取した後質疑に入り、7日に国土交通委員会との連合審査会、12日に栃木県宇都宮市において、官民一体となったまちづくりの取組や大型店の出店状況についての視察等を行った。18日、学識経験者やタウンマネージャー等4名の参考人からの意見聴取及び参考人に対する質疑が行われた後、21日、質疑を終局し、討論・採決の結果、本法律案は賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと議決された。なお、本法律案に対して、附帯決議が付された。

同月25日の本会議において、本法律案は可決された。

参議院においては、5月31日の本会議で可決され、成立した。

都市の秩序ある整備を図るための都市計画法等の一部を改正する法律案は、平成18年2月8日に提出された。3月16日の本会議において、趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、国土交通委員会に付託された。

同委員会においては、同月17日、提案理由の説明を聴取し、29日に、質疑に入るとともに、同日、本法律案の審査に資するため、群馬県前橋市及び伊勢崎市において、中心市街地の商店街における空き店舗の状況や郊外に立地する大規模商業施設の視察等を行った。4月4日、自治体の首長及び学識経験者の4名の参考人からの意見聴取及び参考人に対する質疑が行われ、5日、質疑を終局した。

同月11日に、共産、社民の共同提案により、大規模集客施設が立地規制される用途地域に準工業地域を追加すること、大規模集客施設の規模要件を厳格化すること、開発整備促進区を定める地区計画制度を認めないこと、都市計画の提案権者の範囲の拡大を認めないことなどを内容とする修正案が提出され、趣旨の説明を聴取し、採決の結果、修正案は否決され、本法律案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと議決された。なお、本法律案に対して、附帯決議が付された。

同日の本会議において、本法律案は可決された。

参議院においては、5月24日の本会議で可決され、成立した。

(エ 主な質疑事項)

中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律の一部を改正する等の法律案に対する主な質疑事項は、[1]これまでのまちづくり三法が果たしてきた役割、[2]基本計画の認定基準の具体的内容、[3]市町村の個性が活かせる基本方針の在り方、[4]中心市街地活性化協議会の機能及び構成、[5]中心市街地活性化事業に係る事前・事後評価の在り方、[6]中心市街地活性化施策と都市計画(ゾーニング)との整合性、[7]中心市街地活性化本部の役割及び実効的な機能の確保、[8]コンパクトシティ実現のための街なか居住促進の方途、[9]地権者のまちづくりへの参加促進、[10]まちづくりにおける有能な人材確保の必要性等であった。

都市の秩序ある整備を図るための都市計画法等の一部を改正する法律案に対する主な質疑事項は、[1]中心市街地衰退の原因及び活性化策、[2]準都市計画区域の指定実績が低い理由、[3]中心市街地の活性化策と公共交通機関の整備を一体的に進める必要性、[4]本法律案による今後のまちづくりの方向性、[5]大規模集客施設の郊外立地規制が消費者の利便性を損なう懸念、[6]施行までの1年6月の間に大規模集客施設の駆け込み立地が行われる可能性、[7]本改正案による中心市街地活性化の実効性、[8]立地規制される大規模集客施設の床面積を10,000m2超とした理由、[9]都市計画制度の総点検の必要性、[10]床面積が10,000m2以下の店舗についても立地規制する必要性等であった。

(7) 建築基準法制関係

(ア 国会で議論されるに至った経緯)

(ア) 構造計算書偽装問題の概要

本問題は、姉歯秀次・元一級建築士(注:一級建築士資格は平成17年12月7日に抹消)が構造計算書の偽装を行った設計による建築確認申請をイーホームズ梶A日本ERI鞄凾フ指定確認検査機関や特定行政庁が審査の中で見逃したことにより、耐震強度の著しく劣るマンションやホテルが多数建てられたというものである。本問題の背景には、マンション建築主の潟qューザー、施工業者の木村建設梶A元請設計会社の平成設計梶Aホテルの開業指導を行う椛麹経営研究所などがかかわっていた。

平成17年11月17日、国土交通省は「姉歯建築設計事務所による構造計算書の偽造とその対応について」を公表した。国土交通省によれば、イーホームズから構造計算書の偽装に関する第一報を受けたのは、同年10月26日である。その直後には問題の実態が十分に把握されていなかったが、情報収集・分析を進めた結果、11月8日時点で大幅な偽装が竣工済みの物件に及んでいるおそれがあると判断され、緊急の対策に着手した。17日の時点で、偽装の疑いのある物件は21件であった。

その後、姉歯建築設計事務所が業務を行った全物件の把握及びそれらの構造安全性の確認を進めたところ、明らかとなった構造計算書偽装の件数は増え続けていった。姉歯元建築士が関与した物件205件のうち100件において「問題あり」という調査結果が出ている(注:「問題あり」とされた100件のうち姉歯元建築士による偽装は99件であり、残る1件は他の設計者におけるミスと考えられる理由により耐震基準を満たしていない物件である。)。

また、姉歯元建築士は関与していないが、木村建設、ヒューザー、平成設計、総合経営研究所が関与している物件についても併せて調査を行ったところ、8件が構造計算書に「問題あり」とされた(サムシング鰍ノよる偽装3件、ミスによる熊本市内の物件2件、鞄c中テル也構造計画研究所、鰍モなもと設計及び本田建築デザイン事務所各1件)。その結果、姉歯元建築士及び姉歯物件に関係していた業者の関与した物件における問題ありの物件は12月5日現在108件となっている。

さらに、サムシングが関与したこのほかの物件や札幌の浅沼良一・元二級建築士が関与した物件などにおいても構造計算書に偽装や誤りがあることが判明している。

(イ) 今般の改正に至る経緯

a 本問題への対応等

平成17年11月18日、国、地方公共団体及び関係特定行政庁は、構造計算書偽造問題対策連絡協議会(名称を途中で「構造計算書偽装問題対策連絡協議会」へ改称)を組織し、当面、17日に公表された21物件の対策を優先して、安全性の確認と入居者等への連絡、居住者の受入住宅等、姉歯建築設計事務所が関与した他の建築物に関する調査、処分・告発、再発防止策等の対応を行うこととなった。本協議会では、関係機関間において、情報の共有、今後の対応に関する協議等が行われた。

さらに、本問題は、国の所管が国土交通省に限らず、関係省庁間での連携協力が必要となることから、情報交換及び情報共有を目的として、11月25日、関係省庁連絡会合が開催されることとなった。

b 社会資本整備審議会等における検討

平成17年12月12日、北側国土交通大臣から社会資本整備審議会会長に対して「建築物の安全性確保のための建築行政のあり方について」の諮問が行われた。本件が付託された建築分科会において、平成18年2月24日、「建築物の安全性確保のための建築行政のあり方について 中間報告」が取りまとめられた。

また、国土交通大臣の私的諮問機関として「構造計算書偽装問題に関する緊急調査委員会」が設置され、平成18年2月8日に中間報告が、4月6日には最終報告がそれぞれ取りまとめられた。

なお、社会資本整備審議会建築分科会においては、平成18年4月24日から基本制度部会を再開し、「中間報告」において「引き続き検討すべき課題」とされた建築士制度の見直し等の検討に着手し、8月31日に答申を取りまとめた。また、国土交通大臣の私的諮問機関として「住宅瑕疵担保責任研究会」を発足させ、新築住宅の売主等に課せられた瑕疵担保責任履行の実効を確保するための具体的な仕組みについての技術的な検討を行い、同研究会は平成18年7月18日に報告書を取りまとめている。

c 国会での取組

本問題が公表されてから、国会においても事実関係や原因の究明、被害者対策・再発防止策の検討等のため、現地視察、政府に対する質疑、参考人質疑(3回)、証人喚問(2回)等が精力的に行われた。第164回国会閉会中の6月21日には、国土交通委員会が姉歯証人に対する偽証告発を行ったところである。

(ウ) 関連議案の提出

これら社会資本整備審議会の報告等を踏まえ、政府は、第164回国会の3月31日、早急に講ずべき施策等について制度改正を行うべく、建築物の安全性の確保を図るための建築基準法等の一部を改正する法律案を国会に提出した。

また、民主党は、対案として4月27日に居住者・利用者等の立場に立った建築物の安全性の確保等を図るための建築基準法等の一部を改正する法律案を国会に提出した。

さらに、社会資本整備審議会の答申を踏まえ、政府は、第165回国会の10月24日、建築士制度の見直し等を行うべく、建築士法等の一部を改正する法律案を国会に提出した。

(イ 関連議案の概要)

(ア) 建築物の安全性の確保を図るための建築基準法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

建築物の安全性の確保を図るための措置を講じようとするもので、その主な内容は、

a 建築基準法の一部改正

(a) 建築主事等は、一定の建築物に係る確認申請を受理した際に都道府県知事による構造計算適合性判定を求めなければならないこと

(b) 建築主は、階数が3以上である共同住宅の建築等の工事において、特定の工事が終了する都度、建築主事の検査を申請しなければならないこと

(c) 特定行政庁は、必要があると認めるときは、指定確認検査機関に対する立入検査等を行うことができること

(d) 構造耐力に関する規定等に違反した建築物の設計者等に対する罰則を強化すること

b 建築士法の一部改正

(a) 国土交通大臣又は都道府県知事は、建築士に対し、懲戒等の処分をしたときは、その旨を公告しなければならないこと

(b) 建築士は、非建築士等に自己の名義を利用させてはならず、建築士事務所の開設者は、自己の名義をもって、他人に建築士事務所の業務を営ませてはならないこと

(c) 非建築士等に自己の名義を利用させた建築士等に対する罰則の追加等罰則を強化すること

c 建設業法の一部改正

建設工事の請負契約の締結に際し、工事の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結等の定めをするときは、その内容を書面に記載しなければならないこと

d 宅地建物取引業法の一部改正

(a) 宅地建物取引業者は、宅地建物取引業の相手方等に対して、保証保険契約の締結その他の措置等の有無等を説明し、その内容を記載した書面を交付しなければならないこと

(b) 相手方の判断に重要な影響を及ぼす事項の不実告知等に対する罰則の強化等を行うこと

等である。

(イ) 居住者・利用者等の立場に立った建築物の安全性の確保等を図るための建築基準法等の一部を改正する法律案(長妻昭君外4名提出)

居住者・利用者等の立場に立った建築物の安全性の確保等を図るための措置を講じようとするもので、その主な内容は、

a 建築基準法の一部改正

(a) 建築主事等は、一定の建築物に係る確認申請を受理した際に都道府県知事による構造計算適合性判定を求めなければならないこと

(b) 建築主は、建築物の建築等の工事において、特定の工事が終了する都度、建築主事の検査を申請しなければならないこと

(c) 指定確認検査機関は、株式の所有等特別の関係がある建築主については、確認検査ができないこと

(d) 構造耐力に関する規定等に違反した建築物の設計者等に対する罰則を強化すること

b 建築士法の一部改正

(a) 建築士となる資格を有する者が建築士となるには、日本建築士連合会による建築士名簿への登録を受けなければならないこと

(b) 建築士会及び日本建築士連合会を法人として設立し、建築士及び建築士法人は建築士会の、建築士、建築士法人及び建築士会は日本建築士連合会の会員となること

(c) 非建築士等に自己の名義を利用させた建築士等に対する罰則の追加等罰則を強化すること

c 建設業法の一部改正

広告及び契約の締結に際し交付すべき書面に、住宅の品質確保の促進等に関する法律に規定する瑕疵を担保すべき責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結の有無等を記載しなければならないこと

d 宅地建物取引業法の一部改正

(a) 広告、契約の締結に際し交付すべき書面等に、住宅の品質確保の促進等に関する法律に規定する瑕疵を担保すべき責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結の有無等を記載しなければならないこと

(b) 相手方の判断に重要な影響を及ぼす事項の不実告知等に対する罰則の強化等を行うこと

等である。

(ウ) 建築士法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

建築物の安全性の確保を図るための措置を講じようとするもので、その主な内容は、

 建築設計の専門分化を踏まえ、一定規模の建築物の設計に当たって、構造設計一級建築士又は設備設計一級建築士による構造関係規定又は設備関係規定への適合性の確認を義務付けること

 建築士の資質、能力の向上を図るため、建築士試験の受験資格の見直し、建築士に対する定期講習の受講の義務付けを行うこと

 建築士事務所の業務の適正化を図るため、管理建築士の要件を強化するとともに、設計・工事監理の契約締結前に、管理建築士等による一定の重要な事項の説明を義務付けること

 建築士事務所の団体による自律的な監督体制の確立を図るため、建築士事務所協会等を法定化し、当該協会において苦情解決や研修等の業務を実施すること

 建築士及び建築士事務所の登録、名簿の閲覧等の事務の効率化を図るため、国土交通大臣又は都道府県知事の指定を受けた機関がこれらの事務を行うことができること

 建設業者が請け負った多数の者が利用する一定の重要な施設等の建設工事の一括下請負を禁止すること

等である。

(ウ 審議経過)

上記イ(ア)の法律案は、第164回国会、平成18年3月31日に、イ(イ)の法律案は、4月27日にそれぞれ提出された。4月28日の本会議において両案について趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、国土交通委員会に付託された。

同委員会においては、5月10日、提案理由の説明を聴取し、12日から質疑に入った。16日には参考人からの意見聴取及び参考人に対する質疑が行われ、24日に質疑を終局した。同日、討論・採決の結果、イ(イ)の法律案は否決すべきものと議決され、イ(ア)の法律案は賛成多数で原案のとおり可決すべきものと議決された。

25日の本会議において、イ(イ)の法律案は否決され、イ(ア)の法律案は可決された。

参議院においては、6月14日の本会議で、イ(ア)の法律案は可決され、成立した。

また、上記イ(ウ)の法律案は、第165回国会、10月24日に提出され、11月13日、国土交通委員会に付託された。同委員会においては、11月15日、提案理由の説明を聴取し、28日から質疑に入った。29日には参考人からの意見聴取及び参考人に対する質疑が行われ、質疑を終局した。同日、採決の結果、本法律案は、全会一致で原案のとおり可決すべきものと議決された。なお、本法律案に対して、附帯決議が付された。

30日の本会議において、本法律案は、可決された。

参議院においては、12月13日の本会議で、可決され、成立した。

(エ 主な質疑事項)

上記イ(ア)の法律案に対する主な質疑事項は、[1]次期国会に抜本的対策としての法案を提出する方針の有無、[2]構造計算書偽装問題を受けた法改正の全体像、[3]本法律案に盛り込まれなかった課題と今後の対応方針、[4]再発防止に資する建築士制度の免許更新及び資格の在り方、[5]構造計算書適合性判定機関の役割を果たせる機関の数とその実効性、[6]指定構造計算適合性判定機関制度を導入する理由、指定する機関のイメージ及び現行の指定確認検査機関を指定する可能性の有無、[7]建築士の団体加入を義務付けなかった理由、[8]耐震偽装による分譲マンション居住者への支援措置に関する予算措置の内容及び法令上の根拠並びに他の欠陥住宅被害者との公平性、[9]特定行政庁による指定確認検査機関への立入検査を実効性あるものとするための対策、[10]構造計算の大臣認定プログラムに関する問題点とその対応等であった。

イ(イ)の法律案に対する主な質疑事項は、[1]消費者の立場に立った考え方及び法案制定に至った経緯、[2]確認済証等の交付権限を特定行政庁に限定することによる、二重審査となる非効率性、申請者の負担増の懸念、[3]現行の建築確認体制下において、すべての建築物に中間検査を義務付けることの実現可能性、[4]広告での保険等加入の有無に関する表示義務付けについての所見等であった。

イ(ウ)の法律案に対する主な質疑事項は、[1]本法律案が目指している建築士像、[2]構造計算書偽装問題の総括及び原因に関する冬柴国土交通大臣の見解、[3]本法律案により不良不適格な建築士が制度上排除される仕組み、[4]建築士試験の受験資格の見直しの具体的内容と現在就学中の学生への影響、[5]構造設計一級建築士及び設備設計一級建築士に必要な実務経験の量・質の把握の方法、[6]建築士の能力向上に資するための定期講習等の在り方、[7]指定登録機関が国及び地方公共団体の天下り先となる懸念、[8]建設工事の一括下請負禁止規定に違反した場合の措置及び今回の見直しにおける実効性確保策、[9]建築士の報酬基準を業務実態に即して見直す必要性、[10]建築士の資格団体への加入義務化の必要性と今後の見通し、[11]受験資格見直し等の政府案に対する参考人の評価等であった。

(8) アスベスト問題関係

(ア 国会で議論されるに至った経緯)

(ア) アスベスト問題の顕在化

アスベストとは、天然に産出する鉱物繊維のことで、その類いまれな特徴(不燃性、抗張力、耐摩耗性等)があり、非常に安価なため、古くから断熱材等に用いられてきた。その一方で、アスベストには、飛散しやすく、人体組織に刺さりやすく、いったん刺さると排出や変質することなく長期に人体にとどまるといった大きな危険性がある。

我が国においてアスベスト問題が最初に広く注目されたのは、昭和62年頃である。アスベストの不法投棄事件などをきっかけに、アスベストの健康に対する危険性が注目されるようになった。また、同時期に、学校校舎へのアスベストの使用実態が明らかになり、「学校パニック」とも呼ばれ、アスベストの危険性が広く知られるところとなった。しかし当時は、その対策が不十分なまま終わり、社会的関心も次第に薄れていってしまった。

再びアスベストの有害性が注目されるようになったのは、平成17年6月、大手機械メーカーである株式会社クボタ(以下「クボタ」という。)が、同社員や関係社員のうちアスベストが原因で発症する可能性がある「中皮腫」や「肺がん」などで死亡した人がいることを明らかにしてからのことである。

そして、このクボタの公表以後、各企業がアスベストによる健康被害の実態を次々に公表し、アスベストは再び大きな社会問題となった。

(イ) 政府及び企業の対応

政府においては、平成17年7月以降、アスベスト問題に対応するため、関係各省庁による「アスベスト問題に関する関係省庁会議」が随時開かれた。また、「アスベスト問題に関する関係閣僚による会合」が同年7月から12月にかけて計5回開かれ、政府全体としての対応が協議された。そして、12月に開かれた第5回会合では、「アスベスト問題に係る総合対策」として、「隙間のない健康被害者の救済」、「今後の被害を未然に防止するための対応」、「国民の有する不安への対応」が取りまとめられ、新たな法的措置を講ずることが決められた。

一方、アスベストにより健康被害者を出した企業では、被害者への支援に乗り出す企業も現れ、クボタは、石綿疾病の医療・研究を支援する基金を創設することを表明した。

また、クボタでは、従来より従業員の被害者に対し支援(在職中に石綿疾病で死亡し労災認定された場合は3,200万円の支給)を行う一方、公表以後、周辺住民の被害者に対しても200万円の見舞金(弔慰金)を支払っている。さらに、被害の拡大等の実情を踏まえ、新たな対策(労災認定された社員と同等の対策等)をとることとした。

(ウ) アスベスト規制の経緯

アスベストに関する規制は、工場等事業場の中の労働環境とその周辺の生活環境との2種類に分類できる。前者には、工場等事業場における労働者の健康保護を目的とした「労働安全衛生法」等がある。後者には、住宅地など周辺環境における大気汚染の防止を目的とした「大気汚染防止法」等がある。

我が国の対策は、当初、労働者の健康被害に関する対策として行われ、その後、一般住民の健康への危険性が懸念されるようになると、大気汚染防止法による規制が行われるようになった。

労働者の健康対策は、昭和50年代から、耐火用の被覆材などとして吹き付けられるアスベストの使用禁止などが行われ、平成7年には、発がん性の高い青石綿と茶石綿の製造、輸入、使用が労働安全衛生法施行令の改正により全面的に禁止された。

平成16年には、比較的毒性が低いとして使用等が認められてきた白石綿が1%を超えて含有される製品についても労働安全衛生法施行令により規制対象とされた。また、平成17年には、労働安全衛生法に基づいて、建築物等の解体時の粉じん飛散防止対策などを業者に義務付ける石綿障害予防規則が施行された。

一方、一般住民への健康被害対策としては、平成元年、大気汚染防止法によりアスベストの排出規制が行われ、その後、規制値(濃度基準値)はアスベストを使用した製品を製造している工場等の敷地境界濃度に定められた。

平成17年には、アスベストが使用されている建築物の解体等の作業によるアスベスト粉じんの飛散防止を図るため、同法施行令が改正(面積要件の撤廃等)された。

(エ) 法律案の提出等

以上のようなアスベスト問題の現状等を背景として、第164回国会において、アスベストによる健康被害を受けた者及びその遺族に対し、医療費等を支給するための措置等を内容とする石綿による健康被害の救済に関する法律案及び工作物の解体等の作業によるアスベストの飛散の防止、アスベストを添加した建築材料の使用の制限、アスベストが含まれる廃棄物の無害化処理の促進等を内容とする石綿による健康等に係る被害の防止のための大気汚染防止法等の一部を改正する法律案が、内閣から提出された。

(イ 関連議案の概要)

(ア) 石綿による健康被害の救済に関する法律案(内閣提出)

石綿による健康被害の迅速な救済を図るため、石綿による健康被害を受けた者及びその遺族に対し、医療費等を支給するための新たな法的措置を講ずるもので、その主な内容は、

 石綿による健康被害の救済のため支給される給付は、医療費、療養手当、葬祭料、特別遺族弔慰金、特別葬祭料及び救済給付調整金とし、独立行政法人環境再生保全機構(以下「機構」という。)が支給するものとすること

 機構は、救済給付の支給に要する費用に充てるため石綿健康被害救済基金を設けるものとすること

 労災保険適用事業主等から一般拠出金を、また、石綿の使用量、指定疾病の発生の状況その他の事情を勘案して政令で定める要件に該当する事業主から特別拠出金を、毎年度、徴収するものとすること

 厚生労働大臣は、死亡労働者等の遺族であって、労災保険法の規定による遺族補償給付を受ける権利が時効によって消滅したものに対し、特別遺族年金又は特別遺族一時金を支給するものとすること

等である。

(イ) 石綿による健康等に係る被害の防止のための大気汚染防止法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

石綿の飛散等による人の健康又は生活環境に係る被害を防止するため、工作物の解体等の作業による石綿の飛散の防止、石綿を添加した建築材料の使用の制限、石綿が含まれる廃棄物の無害化処理の促進等の措置を講ずるもので、その主な内容は、

 石綿が使用されている建築物に加え、石綿が使用されている工作物についてもその解体作業等による石綿粉じんの飛散を防止する措置を講ずるものとすること

 地方公共団体が石綿による人の健康又は生活環境に係る被害の防止に資する事業で総務省令で定めるものを行うために要する経費については、地方財政法第5条の規定にかかわらず、当分の間、地方債をもってその財源とすることができるものとすること

 建築物は、石綿の建築材料からの飛散による衛生上の支障がないよう、建築材料に石綿を添加しないこと等とすること

 石綿が含まれている廃棄物その他の人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有する廃棄物の高度な技術を用いた無害化処理を行う者等は、当該処理の内容及び当該処理施設が基準に適合していること等について、環境大臣の認定を受けることができることとすること

等である。

(ウ 審議経過)

石綿による健康被害の救済に関する法律案及び石綿による健康等に係る被害の防止のための大気汚染防止法等の一部を改正する法律案の両法律案は、平成18年1月20日に提出された。同月27日の本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、環境委員会に付託された。

同委員会においては、同日、両法律案について提案理由の説明を聴取した後、同日及び31日、質疑が行われ、質疑を終局した。質疑終局後、石綿による健康被害の救済に関する法律案に対して、民主から修正案が提出され、趣旨の説明を聴取し、内閣の意見を聴取した後、討論・採決の結果、修正案は否決され、本法律案は賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと議決された。次に、石綿による健康等に係る被害の防止のための大気汚染防止法等の一部を改正する法律案について採決の結果、本法律案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと議決された。なお、両法律案に対し、それぞれ附帯決議が付された。

同31日の本会議において、両法律案はいずれも可決された。

参議院においては、2月3日の本会議で両法律案はいずれも可決され、成立した。

(エ 主な質疑事項)

石綿による健康被害の救済に関する法律案に対する主な質疑事項は、[1]石綿を使用した建築物の使用実態及び石綿による健康被害の発生状況、[2]全事業主が負担する一般拠出金の事業者負担額、[3]石綿健康被害に関する健康相談の実施状況、[4]石綿ばく露のおそれのある住民への健康診断の実施状況及び健康診断を実施する自治体への財政支援、[5]諸外国における石綿の規制状況並びに健康被害の実態及び支援策、[6]国による総合的な健康被害者対策の推進、[7]療養手当の被害者救済上の性格と特殊事情に配慮した通院費等の加算支給、[8]国による石綿規制措置の経緯と全面的な石綿禁止措置を採らなかった国の責任、[9]石綿含有家庭用品に関する情報の国民への周知と石綿含有家庭用品廃棄物の適正処理等であった。

石綿による健康等に係る被害の防止のための大気汚染防止法等の一部を改正する法律案に対する主な質疑事項は、[1]石綿含有家庭用品を産業廃棄物扱いとして処理すべきこと、[2]石綿に係る大気環境基準が設定されていない理由及び一般環境における濃度調査の実施、[3]労働安全衛生法に基づく指導・監督状況及び同法の違反状況とその原因、[4]大気汚染防止法による工作物解体時の監視方法及び違反した場合の罰則の内容、[5]石綿廃棄物の直接埋立てと溶融無害化処理との費用比較及び無害化処理への誘導策、[6]石綿を使用する工場等発生源以外における環境測定の実施状況、[7]大気汚染防止法改正案と建築基準法でいう「工作物」の定義上の異同、[8]産業廃棄物マニフェストにおける非飛散性石綿廃棄物の記載欄の整備等であった。

(9) 教育基本法の改正関係

(ア 国会で議論されるに至った経緯)

教育基本法は、戦後の我が国の教育の基本を確立するため、昭和22年に施行された。同法は、教育の基本理念、義務教育の無償、教育の機会均等などについて定めており、学校教育法や社会教育法などの教育諸法の根本法となるものである。これまで、何度か見直しへ向けた検討が図られてきたが、制定以来60年近くの間、一度の改正も行われてこなかった。

(ア) 教育改革国民会議

教育基本法の本格的改正へ向けて大きな弾みとなったのは、小渕内閣総理大臣(当時)が、21世紀の日本を担う創造性の高い人材の育成を目指し、教育の基本に遡って幅広く今後の教育の在り方について検討するため、私的諮問機関として、平成12年3月に設置した教育改革国民会議の提言「教育改革国民会議報告 ―教育を変える17の提案―」(同年12月)の一つに、教育基本法の見直しが盛り込まれたことである。

同報告書では、[1]新しい時代を生きる日本人の育成、[2]伝統、文化など次代に継承すべきものの尊重・発展、[3]教育振興基本計画策定に関する規定、の3つの観点から、教育基本法の見直しについて提言がなされている。

(イ) 中央教育審議会

平成13年11月、教育改革国民会議報告を踏まえて、遠山文部科学大臣(当時)は、社会状況が大きく変化し、教育全般について様々な問題が生じている今日、教育の根本にまで遡って教育の在り方を見直すことが必要との考えから、中央教育審議会に対して、「教育振興基本計画の策定と新しい時代にふさわしい教育基本法の在り方」について諮問した。

中央教育審議会は、基本問題部会を設置し、審議を重ねた後、平成14年11月、「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について(中間報告)」を取りまとめた。その後中央教育審議会は、同報告に対する国民各層の意見を幅広く聴取するため、一日中央教育審議会(公聴会)の開催や有識者、教育関係団体等からの意見聴取を経て、平成15年3月、「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について(答申)」を取りまとめ、同文部科学大臣に提出した。

答申では、新しい時代にふさわしい教育基本法の在り方として、現行法の普遍的な理念は大切にしつつ、21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成を目指す観点から、「信頼される学校教育の確立」、「『知』の世紀をリードする大学改革の推進」、「家庭の教育力の回復、学校・家庭・地域社会の連携・協力の推進」、「『公共』に主体的に参画する意識や態度の涵養」、「日本の伝統・文化の尊重、郷土や国を愛する心と国際社会の一員としての意識の涵養」といった理念や原則を明確にすべきであるとの提言がなされている。また、教育の基本理念や基本原則の再構築とともに、具体的な教育制度の改善と施策の充実とが相まって、初めて実効ある教育改革が実現されるとの認識の下、教育の根本法である教育基本法に根拠を置いた教育振興基本計画を策定する必要があるとの提言がなされている。

(ウ) 与党における教育基本法に関する検討

与党において、教育基本法の改正は、極めて重要な問題であるとの認識の下、平成15年5月、「与党教育基本法に関する協議会」が設置され、その下に設けられた「与党教育基本法に関する検討会」において検討が進められた。

平成16年1月に開催された第4回の与党教育基本法に関する協議会以降は、名称を「与党教育基本法改正に関する協議会」(以下「協議会」という。)及び「与党教育基本法改正に関する検討会」(以下「検討会」という。)に改め、教育基本法の改正という目標を明確にして、さらに議論が続けられたが、特に「愛国心」をめぐる表現と「宗教教育」の規定に「宗教的情操の涵養」を加えることの是非が争点とされた。

同年6月に取りまとめられ、公表された「教育基本法に盛り込むべき項目と内容について(中間報告)」では、新しい教育基本法に盛り込むべき項目として、前文のほか18項目の内容が示される一方で、さらに検討を要する論点も示された。また、愛国心の表現について、「郷土と国を愛し」と「郷土と国を大切にし」が両論併記され、宗教教育については、現行法の条文に「宗教に関する一般的な教養」を加えた表現が示された。その後も、検討会を開催し、引き続き、残された論点について議論された。

平成18年1月、前年8月以降開かれていなかった協議会が再開され、検討会において検討を継続することとされた。

同年4月13日、協議会は検討会における70回の議論を踏まえ、[1]教育基本法の改正法案は、議員立法ではなく、政府提出法案であること、[2]改正方式については、一部改正ではなく、全部改正によること、[3]教育基本法は、教育の基本的な理念を示すものであって、具体的な内容については他の法令に委ねること、[4]簡潔明瞭で、格調高い法律を目指すことを前提とし、前文及び18項目からなる「教育基本法に盛り込むべき項目と内容について(最終報告)」を取りまとめ公表した。

最終報告では、前文に「公共の精神の尊重」

「伝統の継承」が明記され、焦点となっていた「愛国心」の表現については、教育の目標として、「我が国と郷土を愛する態度を養う」とされ、宗教教育については、中間報告と同様「宗教に関する一般的な教養」を加えた表現が示された。

この最終報告に基づいて、条文化された教育基本法案は、同月28日、内閣提出法律案として国会に提出された。

(エ) 民主党における教育基本法に関する検討

民主党では、党の教育ビジョンや教育基本法の在り方について議論を進めるため、平成12年3月、「教育基本問題調査会」(以下「調査会」という。)を設置し、平成13年2月には、教育基本法の理念の実現、発展を目指すことを盛り込んだ「21世紀の教育のあり方について(中間報告)」をまとめた。

平成16年11月からは、調査会に設置された作業部会において、教育基本法の在り方について議論を重ねた。

平成17年4月、作業部会で議論を整理し、中間報告となる「新しい教育基本法の制定に向けて」(草案)をまとめ、宗教的情操教育の尊重、就学前教育や高等教育の無償化推進、現場の主体性重視等が盛り込まれた。一方、「愛国心」に関する文言の明文化については賛否が分かれたため両論表記とされた。

平成18年4月、調査会に「教育基本法に関する検討会」を設置した。5月12日、同検討会は、教育基本法改正案に対する民主党の見解を取りまとめた「日本国教育基本法案(新法)要綱」(民主党「教育基本法に関する検討会」案)を発表した。その中で、愛国心については、「日本を愛する心を涵養」と前文に盛り込み、宗教教育については、「宗教的感性の涵養」と表現した。

「日本国教育基本法案(新法)要綱」は、同月15日に開催された調査会総会において、原案どおり了承され、同要綱に基づいて条文化された日本国教育基本法案が、同月23日、鳩山由紀夫君外6名から国会に提出された。

なお、改正方式については、内閣提出法律案が全部改正としているのに対し、民主党案は、現行法を廃止した上で、新法を制定することとしている。

(イ 関連議案の概要)

(ア) 教育基本法案(内閣提出)

我が国の教育をめぐる諸情勢の変化にかんがみ、時代の要請にこたえる我が国の教育の基本を確立するため、教育基本法の全部を改正し、教育の目的及び理念並びに教育の実施に関する基本となる事項を定めるとともに、国及び地方公共団体の責務を明らかにし、教育振興基本計画の策定について定める等のもので、その主な内容は、

 この法律においては、特に前文を設け、法制定の趣旨を明らかにすること

 教育の目的及び目標について、現行法にも規定されている「人格の完成」等に加え、「個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い」、「公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養う」こと、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う」こと等について新たに規定すること

 教育に関する基本的な理念として、生涯学習社会の実現と教育の機会均等を規定すること

 教育の実施に関する基本について定めることとし、現行法にも規定されている義務教育、学校教育及び社会教育等に加え、大学、私立学校、家庭教育、幼児期の教育並びに学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力について新たに規定すること

 教育行政における国と地方公共団体の役割分担、教育振興基本計画の策定等について規定すること

等である。

(イ) 日本国教育基本法案(鳩山由紀夫君外6名提出)

新たな文明の創造を希求し、未来を担う人間の育成について教育が果たすべき使命の重要性にかんがみ、新たに日本国教育基本法を制定し、教育の目的を明らかにするとともに、学ぶ権利の保障を施策の中心に据えつつ、適切かつ最善な教育の機会及び環境の確保及び整備、教育現場の自主性及び自律性の確保その他教育の基本となる事項を定めるもので、その主な内容は、

 教育の使命として、人間の尊厳と平和を重んじ、生命の尊さを知り、真理と正義を愛し、美しいものを美しいと感ずる心を育み、創造性に富んだ、人格の向上発展を目指す人間を育成すると同時に、日本を愛する心を涵養し、祖先を敬い、子孫に想いをいたし、伝統、文化、芸術を尊び、学術の振興に努め、他国や他文化を理解し、新たな文明の創造を希求すること

 何人に対しても、生涯にわたって、学ぶ権利を保障すること

 国及び地方公共団体は、それぞれの子どもに応じた教育の機会及び環境の確保・整備を図るものとし、国は、普通教育の最終的責任を有すること

 幼児期の教育及び高等教育について、無償教育の漸進的な導入に努めること

 生命及び宗教に関する教育について、生の意義と死の意味の考察、宗教的な伝統や文化に関する基本的知識の修得、宗教の意義の理解及び宗教的感性の涵養は、教育上尊重されなければならないこと

 地方公共団体が行う教育行政は、その長が行わなければならないことと規定するとともに、その設置する学校には、保護者等が参画する学校理事会を設置し、主体的・自律的運営を行うものとすること

 教育予算の安定的確保のため、公教育財政支出について、国内総生産に対する比率を指標とすること

 教育基本法(昭和22年法律第25号)は、廃止すること

等である。

(ウ 審議経過)

教育基本法案は、第164回国会、平成18年4月28日に提出された。教育基本法案を審査するため、5月11日に教育基本法に関する特別委員会(以下「教育基本特」という。)が設置された。

同月16日の本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、教育基本特において、提案理由の説明を聴取した。

日本国教育基本法案は、同月23日に提出され、同日、教育基本特に付託された。24日、提案理由の説明を聴取した後、両案を一括して質疑に入った。

第164回国会では、小泉内閣総理大臣(当時)の出席を求めての質疑のほか、3回にわたり計12人の参考人から意見を聴取するなど、約50時間の質疑が行われたが、両案は会期中に結論を得るに至らず、継続審査となった。

第165回国会では、10月25日、両案について、再度、提案理由の説明を聴取した後、30日から両案を一括して質疑に入り、安倍内閣総理大臣の出席を求めての質疑のほか、11月8日及び13日に、計6か所において、いわゆる地方公聴会を開催し、同月9日には、参考人から意見を聴取した。同月15日には、午前に公聴会を開催し、午後、安倍内閣総理大臣に対する質疑が行われた後、教育基本法案について質疑終局の動議が提出され、可決された。次いで討論・採決の結果、教育基本法案は原案のとおり可決すべきものと議決された。

同月16日の本会議において、教育基本法案は可決された。(教育基本特、本会議ともに野党(民主、共産、社民、国民)は欠席した。)

参議院においては、12月15日の本会議で、教育基本法案は可決され、成立した。

なお、12月13日、教育基本法案及び日本国教育基本法案について、発言が行われた後、日本国教育基本法案は、議決を要しないものと議決された。

(エ 主な質疑事項)

教育基本法案に対する主な質疑事項は、[1]改正の必要性、[2]「個人の尊厳」を引き続き規定した理由、[3]我が国と郷土を愛する「心」ではなく「態度」と規定した理由、[4]我が国を愛する態度について児童生徒に対して評価がなされる懸念、[5]教育行政の最終責任の所在、[6]義務教育年限の規定の削除により義務教育年限が短縮される懸念、[7]家庭教育を規定した理由及び関連する法律を整備する考えの有無、[8]「宗教教育に関する一般的教養」を追加規定した理由及び学校教育における指導方針、[9]「不当な支配に服することなく」の定義及び改正案においても残した理由、[10]教育振興基本計画を規定した理由等であった。

日本国教育基本法案に対する主な質疑事項は、[1]「日本を愛する心を涵養」を前文で規定し条文化しなかった理由、[2]国及び地方公共団体の学校教育に関する権限の範囲、[3]「宗教的感性の涵養」の意味、[4]教育委員会制度廃止の有無、[5]「不当な支配」を削除した理由、[6]教育に対する公財政支出の確保についての規定内容等であった。

そのほか、いじめによる自殺問題、高等学校における必履修科目の未履修問題、教育改革タウンミーティングをはじめとしたタウンミーティングの不適切な運営問題が議論された。

(10) 防衛庁の省移行関係

(ア 国会で議論されるに至った経緯)

我が国の防衛を担当する行政組織を省に移行すべきとの議論は、昭和29年に保安庁が廃止され、総理府の外局として防衛庁が発足して以来、繰り返し議論されてきた。

第一次防衛力整備計画が終了し、我が国の防衛力の一応の骨格が整った昭和39年には、防衛庁を省にするための「防衛庁設置法及び自衛隊法の一部を改正する法律案」が閣議決定されたものの、当時の政治情勢により国会提出には至らなかった。

その後、平成9年の橋本内閣において設置された行政改革会議の中でも議論された。

同会議の最終報告において、「現行の防衛庁を継続する」とする一方、「別途、新たな国際情勢の下におけるわが国の防衛基本問題については、政治の場で議論すべき課題である」と結論付けられた。

平成13年には「防衛省設置法案」が議員提出法律案として提出され、翌14年12月、自民・公明・保守の与党3党により、いわゆる有事法制成立後において、防衛庁の「省」移行を最優先課題として取り組むことが合意された。しかしながら、平成15年10月の衆議院解散に伴い、同法律案は廃案となった。

平成17年11月以降、「与党安全保障プロジェクトチーム」を軸に、自民・公明の関係部会で議論され、[1]関連法案は内閣より提出すること、[2]関連法案に国際平和協力活動などの本来任務化を盛り込むこと、[3]関連法案に安全保障会議に対する内閣総理大臣の諮問事項として国際平和協力活動などに関する重要事項を明示することを盛り込むこと、[4]省の名称は「防衛省」とすること、[5]関連法案に平成19年度に防衛施設庁の廃止・統合などの措置を実施することを盛り込むことなどの方向性が示された。

このような議論を経て、政府は防衛庁設置法等の一部を改正する法律案を第164回国会に提出した。

(イ 関連議案の概要)

防衛庁設置法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つという任務の重要性にかんがみ、防衛庁を防衛省とするなど、「防衛庁設置法」、「自衛隊法」、「安全保障会議設置法」等の一部を改正するもので、その主な内容は、

a 防衛庁設置法の一部改正

(a) 防衛庁を防衛省とすること

(b) 防衛省の長は、防衛大臣とすること

b 自衛隊法の一部改正

(a) 自衛隊法上の内閣の首長としての「内閣総理大臣」の権限については変更せず、内閣府の長としての「内閣総理大臣」については、これを「防衛大臣」と改めること

(b) 国際協力の推進を通じて我が国を含む国際社会の平和及び安全の維持に資する活動等を自衛隊の本来任務として位置付けること

c 安全保障会議設置法の一部改正

安全保障会議の諮問事項に、内閣総理大臣が必要と認める周辺事態への対処に関する重要事項及び自衛隊の国際平和協力活動に関する重要事項を明示すること

等である。

(ウ 審議経過)

防衛庁設置法等の一部を改正する法律案は、第164回国会、平成18年6月9日に提出され、同月16日、院議により安全保障委員会の閉会中審査に付された。第165回国会において9月26日に同委員会に付託され、10月27日の本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われた。

同委員会においては、同日、本法律案について提案理由の説明を聴取し、11月9日から質疑に入った。同月24日には、参考人からの意見聴取及び参考人に対する質疑が行われた。同月30日、質疑を終局し、討論・採決の結果、本法律案は賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと議決された。なお、本法律案に対し、附帯決議が付された。また、この間、「防衛施設庁問題等」及び「非核三原則等我が国の安全保障」についての審議が行われた。

同日の本会議において、本法律案は可決された。

参議院においては、12月15日の本会議で可決され、成立した。

(エ 主な質疑事項)

主な質疑事項は、[1]内閣府の長としての内閣総理大臣の権限を防衛大臣に移すことによるシビリアンコントロールへの影響、[2]自衛隊の国際平和協力活動等の本来任務化に伴う予算等の確保に対する久間防衛庁長官の見解、[3]安全保障会議の諮問事項に周辺事態対処及び国際平和協力活動に関する重要事項を明示することの意義、[4]防衛庁の省移行が我が国の軍事大国化につながらないことの確認、[5]国際平和協力活動等の本来任務化と自衛隊の海外派遣に係る一般法の関係、[6]自衛隊の国際平和協力活動等の本来任務化と憲法の関係、[7]防衛庁の省移行により日米同盟の運用における外務省との所掌分担に与える影響、[8]本法律案の性格についての久間防衛庁長官の認識、[9]自衛隊の国際平和協力活動等の本来任務化と防衛庁の省移行に係る法改正を同時に行う理由、[10]防衛施設庁入札談合等事案に対する再発防止策の具体的内容等であった。

3 国政選挙結果

(1) 平成18年4月統一補欠選挙

平成12年の公職選挙法の改正により、衆議院議員及び参議院議員の補欠選挙の期日は原則として年2回(4月及び10月の第4日曜日)に統一された。

平成18年4月23日、衆議院千葉県第7区において補欠選挙(4月11日告示)が行われた。選挙結果は次のとおりである。

参議院議員の補欠選挙は、補欠選挙の対象となる欠員がないため実施されなかった。

衆・千葉県第7区(松本和巳君 18. 1.18辞職)
立候補者数 5人 投票率 49.63%
当選人 太田 和美君(民主党)




(2) 平成18年10月統一補欠選挙

平成18年10月22日、衆議院神奈川県第16区、同大阪府第9区の2選挙区において補欠選挙(10月10日告示)が行われた。選挙結果は次のとおりである。

参議院議員の補欠選挙は、補欠選挙の対象となる欠員がないため実施されなかった。

衆・神奈川県第16区(亀井善之君 18. 5.12死去)
立候補者数 3人 投票率 47.16%
当選人 亀井善太郎君(自由民主党)
衆・大阪府第9区(西田猛君 18. 6. 8死去)
立候補者数 3人 投票率 52.15%
当選人 原田 憲治君(自由民主党)

衆議院
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