衆議院

メインへスキップ



第一六二回

衆第三三号

   人権侵害による被害の救済及び予防等に関する法律案

目次

 第一章 総則(第一条―第六条)

 第二章 人権委員会

  第一節 中央人権委員会(第七条―第二十一条)

  第二節 地方人権委員会(第二十二条―第二十五条)

 第三章 人権擁護委員(第二十六条―第三十九条)

 第四章 人権救済手続

  第一節 総則(第四十条・第四十一条)

  第二節 一般救済手続(第四十二条―第四十四条)

  第三節 特別救済手続

   第一款 通則(第四十五条―第四十七条)

   第二款 調停及び仲裁

    第一目 通則(第四十八条―第五十二条)

    第二目 調停(第五十三条―第五十九条)

    第三目 仲裁(第六十条―第六十二条)

   第三款 勧告及びその公表(第六十三条・第六十四条)

   第四款 訴訟援助(第六十五条・第六十六条)

   第五款 差別助長行為等の差止め等(第六十七条・第六十八条)

 第五章 報道機関等による自主的取組(第六十九条)

 第六章 補則(第七十条―第七十五条)

 第七章 罰則(第七十六条―第七十八条)

 附則

   第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、人権の侵害により発生し、又は発生するおそれのある被害の適正かつ迅速な救済又はその実効的な予防並びに人権尊重の理念を普及させ、及びこれに関する理解を深めるための啓発に関する措置を講ずることにより、人権の擁護に関する施策を総合的に推進し、もって人権が尊重される社会の実現に寄与することを目的とする。

 (定義)

第二条 この法律において「人権侵害」とは、不当な差別、虐待その他の人権を侵害する行為をいう。

2 この法律において「社会的身分」とは、出生により決定される社会的な地位をいう。

3 この法律において「障害」とは、継続的に日常生活又は社会生活が相当な制限を受ける程度の身体障害、知的障害又は精神障害をいう。

4 この法律において「疾病」とは、その発症により継続的に日常生活又は社会生活が相当な制限を受ける状態となる感染症その他の疾患(当該疾患に係る病原体の保有を含む。)をいう。

5 この法律において「人種等」とは、人種、民族、信条、性別、年齢、社会的身分、門地、障害、色覚異常、疾病、遺伝子構造又は性的指向をいう。

 (人権侵害等の禁止)

第三条 何人も、他人に対し、次に掲げる行為その他の人権侵害をしてはならない。

 一 次に掲げる不当な差別的取扱い

  イ 国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い

  ロ 業として対価を得て物品、不動産、権利又は役務を提供する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い

  ハ 事業主としての立場において労働者の採用又は労働条件その他労働関係に関する事項について人種等を理由としてする不当な差別的取扱い(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)第八条第二項に規定する定めに基づく不当な差別的取扱い及び同条第三項に規定する理由に基づく解雇を含む。)

 二 次に掲げる不当な差別的言動等

  イ 特定の者に対し、その者の有する人種等の属性を理由としてする侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動

  ロ 特定の者に対し、職務上の地位を利用し、その者の意に反してする性的な言動

 三 特定の者に対して有する優越的な立場においてその者に対してする虐待

2 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。

 一 人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として前項第一号に規定する不当な差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発する目的で、当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を文書の頒布、掲示その他これらに類する方法で公然と摘示する行為

 二 人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として前項第一号に規定する不当な差別的取扱いをする意思を広告、掲示その他これらに類する方法で公然と表示する行為

 (国の責務)

第四条 国は、基本的人権の享有と法の下の平等を保障する日本国憲法の理念にのっとり、人権の擁護に関する施策を総合的に推進する責務を有する。

 (地方公共団体の責務)

第五条 地方公共団体は、前条の日本国憲法の理念にのっとり、国との連携を図りつつ、その地域の実情を踏まえ、人権の擁護に関する施策を推進する責務を有する。

 (国民の責務)

第六条 国民は、自ら人権尊重の精神の涵養に努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する人権の擁護に関する施策に協力し、人権が尊重される社会の実現に寄与するよう努めなければならない。

   第二章 人権委員会

    第一節 中央人権委員会

 (設置)

第七条 内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四十九条第三項の規定に基づいて、内閣府の外局として、第一条の目的を達成することを任務とする中央人権委員会を設置する。

 (所掌事務)

第八条 中央人権委員会は、前条の任務を達成するため、次に掲げる事務をつかさどる。

 一 被害者の住所地が二以上の都道府県にわたる人権侵害又は全国的に重要な問題に係る人権侵害による被害の救済及び予防に関すること。

 二 人権啓発及び民間における人権擁護運動の支援に関すること。

 三 所掌事務に係る国際協力に関すること。

 四 前三号に掲げるもののほか、法律(法律に基づく命令を含む。)に基づき中央人権委員会に属させられた事務

 (職権行使の独立性)

第九条 中央人権委員会の委員長及び委員は、独立してその職権を行う。

 (組織)

第十条 中央人権委員会は、委員長及び委員六人をもって組織する。

2 中央人権委員会の委員(以下この節において単に「委員」という。)のうち三人は、非常勤とする。

3 中央人権委員会の委員長(以下この節において単に「委員長」という。)は、中央人権委員会の会務を総理し、中央人権委員会を代表する。

4 委員長に事故があるときは、あらかじめその指名する常勤の委員が、その職務を代理する。

 (委員長及び委員の任命)

第十一条 委員長及び委員は、人格が高潔で人権に関して高い識見を有する者であって、法律又は社会に関する学識経験のあるもののうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。

2 前項の任命に当たっては、委員長及び委員のうち男女のいずれか一方の数が三人未満とならないよう努めるとともに、委員のうちに人権の擁護を目的とし若しくはこれを支持する団体の構成員又は人権侵害による被害を受けたことのある者が含まれるよう努めなければならない。

3 委員長又は委員の任期が満了し、又は欠員を生じた場合において、国会の閉会又は衆議院の解散のため両議院の同意を得ることができないときは、内閣総理大臣は、第一項の規定にかかわらず、同項に定める資格を有する者のうちから、委員長又は委員を任命することができる。

4 前項の場合においては、任命後最初の国会において両議院の事後の承認を得なければならない。

 (任期)

第十二条 委員長及び委員の任期は、三年とする。ただし、補欠の委員長又は委員の任期は、前任者の残任期間とする。

2 委員長及び委員は、再任されることができる。

3 委員長又は委員の任期が満了したときは、当該委員長又は委員は、後任者が任命されるまで引き続きその職務を行うものとする。

 (身分保障)

第十三条 委員長及び委員は、次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、在任中、その意に反して罷免されることがない。

 一 禁錮以上の刑に処せられたとき。

 二 中央人権委員会により、心身の故障のため職務の執行ができないと認められたとき又は職務上の義務違反その他委員長若しくは委員たるに適しない非行があると認められたとき。

 三 第十一条第四項の場合において、両議院の事後の承認を得られなかったとき。

 (罷免)

第十四条 内閣総理大臣は、委員長又は委員が前条各号のいずれかに該当するときは、その委員長又は委員を罷免しなければならない。

 (委員長及び委員の服務等)

第十五条 委員長及び委員は、職務上知ることができた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、同様とする。

2 委員長及び委員は、在任中、政党その他の政治的団体の役員となり、又は積極的に政治運動をしてはならない。

3 委員長及び常勤の委員は、在任中、営利事業を営み、その他金銭上の利益を目的とする業務を行い、又は内閣総理大臣の許可のある場合を除くほか、報酬を得て他の職務に従事してはならない。

4 委員長及び委員の給与は、別に法律で定める。

 (会議)

第十六条 中央人権委員会の会議は、委員長が招集する。

2 中央人権委員会は、委員長及び三人以上の委員の出席がなければ、会議を開き、議決をすることができない。

3 中央人権委員会の議事は、出席者の過半数でこれを決し、可否同数のときは、委員長の決するところによる。

4 中央人権委員会が第十三条第二号の規定による認定をするには、前項の規定にかかわらず、本人を除く全員の一致がなければならない。

5 委員長に事故がある場合の第二項の規定の適用については、第十条第四項に規定する常勤の委員は、委員長とみなす。

 (事務局)

第十七条 中央人権委員会の事務を処理させるため、中央人権委員会に事務局を置く。

2 事務局の職員のうちには、弁護士となる資格を有する者を加えなければならない。

 (公聴会)

第十八条 中央人権委員会は、その職務を行うため必要があると認めるときは、公聴会を開いて、広く一般の意見を聴くことができる。

 (職務遂行の結果の公表)

第十九条 中央人権委員会は、この法律の適正な運用を図るため、適時に、その職務遂行の結果を一般に公表することができる。

 (国会に対する報告等)

第二十条 中央人権委員会は、毎年、内閣総理大臣を経由して国会に対し、所掌事務の処理状況を報告するとともに、その概要を公表しなければならない。

 (内閣総理大臣等又は国会に対する意見の提出)

第二十一条 中央人権委員会は、内閣総理大臣若しくは関係行政機関の長に対し、又は内閣総理大臣を経由して国会に対し、この法律の目的を達成するために必要な事項に関し、意見を提出することができる。

2 内閣総理大臣又は関係行政機関の長は、前項の規定により中央人権委員会から意見が提出されたときは、その意見を十分に尊重しなければならない。

    第二節 地方人権委員会

 (設置)

第二十二条 都道府県知事の所轄の下に、地方人権委員会を設置する。

 (所掌事務)

第二十三条 地方人権委員会は、次に掲げる事務をつかさどる。

 一 被害者の住所地が当該都道府県の区域内にある人権侵害による被害の救済及び予防に関すること(中央人権委員会が行うものを除く。)。

 二 人権啓発及び民間における人権擁護運動の支援に関すること。

 三 人権擁護委員の委嘱、養成及び研修並びに活動の充実に関すること。

 四 前三号に掲げるもののほか、法律(法律に基づく命令を含む。)に基づき地方人権委員会に属させられた事務

 (委員長及び委員の任命)

第二十四条 地方人権委員会の委員長及び委員は、人格が高潔で人権に関して高い識見を有する者であって、法律又は社会に関する学識経験のあるもののうちから、都道府県の議会の同意を得て、都道府県知事が任命する。

2 地方人権委員会の委員長又は委員の任期が満了し、又は欠員を生じた場合において、都道府県の議会の閉会又は解散のためその同意を得ることができないときは、都道府県知事は、前項の規定にかかわらず、同項に定める資格を有する者のうちから、委員長又は委員を任命することができる。

3 前項の場合においては、任命後最初の議会においてその事後の承認を得なければならない。

 (準用)

第二十五条 第九条、第十条、第十一条第二項及び第十二条から第二十一条までの規定は、地方人権委員会について準用する。この場合において、第十条第一項中「六人」とあるのは「四人」と、同条第四項中「あらかじめその指名する常勤」とあるのは「常勤」と、第十一条第二項中「三人」とあるのは「二人」と、第十三条第三号中「第十一条第四項」とあるのは「第二十四条第三項」と、「両議院」とあるのは「都道府県の議会」と、第十四条及び第十五条第三項中「内閣総理大臣」とあるのは「都道府県知事」と、第十六条第二項中「三人」とあるのは「二人」と、同条第四項中「第十三条第二号」とあるのは「第二十五条の規定により準用する第十三条第二号」と、同条第五項中「第十条第四項に規定する常勤」とあるのは「常勤」と、第二十条の見出し中「国会」とあるのは「都道府県の議会」と、同条中「内閣総理大臣」とあるのは「都道府県知事」と、「国会」とあるのは「都道府県の議会」と、第二十一条の見出し中「内閣総理大臣等」とあるのは「都道府県知事」と、「国会」とあるのは「都道府県の議会」と、同条第一項中「内閣総理大臣若しくは関係行政機関の長」とあるのは「都道府県知事」と、「内閣総理大臣を」とあるのは「都道府県知事を」と、「国会」とあるのは「都道府県の議会」と、同条第二項中「内閣総理大臣又は関係行政機関の長」とあるのは「都道府県知事」と読み替えるものとする。

   第三章 人権擁護委員

 (設置)

第二十六条 地域社会における人権擁護の推進を図るため、地方人権委員会に人権擁護委員を置く。

2 人権擁護委員は、地域社会における人権擁護活動に従事することにより、人権が尊重される社会の実現に貢献することをその職責とする。

3 地方人権委員会は、前項の人権擁護委員の職責にかんがみ、これを遂行するのにふさわしい人材の確保並びにその養成及び研修の実施に努めるとともに、その活動の充実を図るために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

 (委嘱)

第二十七条 人権擁護委員は、地方人権委員会が委嘱する。

2 前項の地方人権委員会の委嘱は、当該地方人権委員会に係る都道府県の区域(北海道にあっては、第三十七条第二項ただし書の規定により地方人権委員会が定める区域とする。第五項及び次条において同じ。)内の市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)が推薦した者のうちから、当該区域内の弁護士会及び都道府県人権擁護委員連合会の意見を聴いて、行わなければならない。

3 市町村長は、地方人権委員会に対し、当該市町村(特別区を含む。以下同じ。)の住民で、人格が高潔であって人権に関して高い識見を有する者及び弁護士会その他人権の擁護を目的とし、又はこれを支持する団体の構成員のうちから、当該市町村の議会の意見を聴いて、人権擁護委員の候補者を推薦しなければならない。

4 地方人権委員会は、市町村長が推薦した候補者が人権擁護委員として適当でないと認めるときは、当該市町村長に対し、相当の期間を定めて、更に他の候補者を推薦すべきことを求めることができる。

5 前項の場合において、市町村長が同項の期間内に他の候補者を推薦しないときは、地方人権委員会は、第二項の規定にかかわらず、第三項に規定する者のうちから、当該地方人権委員会に係る都道府県の区域内の弁護士会及び都道府県人権擁護委員連合会の意見を聴いて、人権擁護委員を委嘱することができる。

6 地方人権委員会は、人権擁護委員を委嘱したときは、当該人権擁護委員の氏名及び職務をその関係住民に周知させるため、適当な措置を講ずるものとする。

7 市町村長は、地方人権委員会から求められたときは、前項の措置に協力しなければならない。

 (委嘱の特例)

第二十八条 地方人権委員会は、前条第二項に規定する市町村長が推薦した者以外に特に人権擁護委員として適任と認める者があるときは、同項から同条第五項までの規定にかかわらず、その者の住所地の属する市町村の長並びに当該地方人権委員会に係る都道府県の区域内の弁護士会及び都道府県人権擁護委員連合会の意見を聴いて、その者に人権擁護委員を委嘱することができる。

 (定数)

第二十九条 人権擁護委員の定数は、全国を通じて一万人を超えないものとする。

2 各市町村ごとの人権擁護委員の定数は、その地域の人口、経済、文化その他の事情を考慮して、中央人権委員会が定める基準に従い、地方人権委員会が定める。

3 都道府県人権擁護委員連合会は、前項の人権擁護委員の定数につき、地方人権委員会に意見を述べることができる。

 (任期等)

第三十条 人権擁護委員の任期は、三年とする。

2 人権擁護委員は、再任されることができる。

3 人権擁護委員の任期が満了したときは、当該人権擁護委員は、後任者が委嘱されるまで引き続きその職務を行うものとする。

4 人権擁護委員は、非常勤とする。

 (報酬等)

第三十一条 都道府県は、人権擁護委員に対し、報酬を支給し、及び職務を行うために要する費用を弁償しなければならない。

 (職務執行区域)

第三十二条 人権擁護委員は、その者の委嘱の時における住所地の属する市町村の区域内において、職務を行うものとする。ただし、特に必要がある場合においては、その区域外においても、職務を行うことができる。

 (職務)

第三十三条 人権擁護委員の職務は、次のとおりとする。

 一 人権尊重の理念を普及させ、及びこれに関する理解を深めるための啓発活動を行うこと。

 二 民間における人権擁護運動の推進に努めること。

 三 人権に関する相談に応ずること。

 四 人権侵害に関する情報を収集し、地方人権委員会に報告すること。

 五 第四十二条及び第四十四条の定めるところにより、人権侵害に関する調査及び人権侵害による被害の救済又は予防を図るための活動を行うこと。

 六 その他人権の擁護に努めること。

 (服務)

第三十四条 人権擁護委員は、その職責を自覚し、常に人格識見の向上とその職務を行う上に必要な法律上の知識及び技術の修得に努め、積極的態度をもってその職務を遂行しなければならない。

2 人権擁護委員は、職務上知ることができた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、同様とする。

3 人権擁護委員は、その職務上の地位又はその職務の執行を政党又は政治的目的のために利用してはならない。

4 人権擁護委員は、その職務を公正に行うのにふさわしくない事業を営み、又はそのような事業を営むことを目的とする会社その他の団体の役職員となってはならない。

 (監督)

第三十五条 人権擁護委員は、その職務に関して、地方人権委員会の指揮監督を受けるものとする。

 (解嘱)

第三十六条 地方人権委員会は、人権擁護委員が次の各号のいずれかに該当するときは、関係都道府県人権擁護委員連合会の意見を聴いて、これを解嘱することができる。

 一 心身の故障のため職務の執行ができないと認められるとき。

 二 職務上の義務違反その他人権擁護委員たるに適しない非行があると認められるとき。

2 前項の規定による解嘱は、当該人権擁護委員に、解嘱の理由が説明され、かつ、弁明の機会が与えられた後でなければ行うことができない。

 (協議会及び連合会)

第三十七条 人権擁護委員は、地方人権委員会がその都道府県の区域を数個に分けて定める区域ごとに、人権擁護委員協議会を組織する。

2 人権擁護委員協議会は、都道府県ごとに都道府県人権擁護委員連合会を組織する。ただし、北海道にあっては、地方人権委員会が定める区域ごとに組織するものとする。

 (協議会の任務等)

第三十八条 人権擁護委員協議会は、次に掲げる事務を行うことを任務とする。

 一 人権擁護委員の職務に関する連絡及び調整

 二 人権擁護委員の職務に関し必要な資料及び情報の収集

 三 人権擁護委員の職務に関する研究及び意見の発表

 四 市町村その他関係行政機関及び関係のある公私の団体との連携協力

 五 その他人権擁護上必要な事項で中央人権委員会規則で定めるもの

2 人権擁護委員協議会は、定期的に、又は必要に応じて、その業績を当該都道府県人権擁護委員連合会に報告しなければならない。

 (連合会の任務等)

第三十九条 都道府県人権擁護委員連合会は、次に掲げる事務を行うことを任務とする。

 一 人権擁護委員協議会の任務に関する連絡及び調整

 二 人権擁護委員の職務に関し必要な資料及び情報の収集

 三 人権擁護委員の職務に関する研究及び意見の発表

 四 都道府県その他関係行政機関及び関係のある公私の団体との連携協力

 五 その他人権擁護上必要な事項で中央人権委員会規則で定めるもの

2 都道府県人権擁護委員連合会は、定期的に、又は必要に応じて、その業績を地方人権委員会に報告しなければならない。

3 都道府県人権擁護委員連合会は、人権擁護委員の活動の成果を踏まえた人権擁護に関する施策についての意見を地方人権委員会に申し出ることができる。

   第四章 人権救済手続

    第一節 総則

 (人権侵害に関する相談)

第四十条 中央人権委員会又は地方人権委員会(第四十二条第二項、第四十四条第二項、第五十一条第六項及び第七項並びに第六十六条第七項を除き、以下この章において「人権委員会」という。)は、人権侵害に関する各般の問題について、相談に応ずるものとする。

2 人権委員会は、委員又は事務局の職員に、前項の相談を行わせることができる。

 (救済手続の開始)

第四十一条 何人も、人権侵害による被害を受け、又は受けるおそれがあるときは、人権委員会に対し、その旨を申し出て、当該人権侵害による被害の救済又は予防を図るため適当な措置を講ずべきことを求めることができる。

2 人権委員会は、前項の申出があったときは、当該申出に係る人権侵害事件について、この法律の定めるところにより、遅滞なく必要な調査をし、適当な措置を講じなければならない。ただし、当該事件がその性質上これを行うのに適当でないと認めるとき又は当該申出が行為の日(継続する行為にあっては、その終了した日)から一年を経過した事件に係るものであるときは、この限りでない。

3 人権委員会は、人権侵害による被害の救済又は予防を図るため必要があると認めるときは、職権で、この法律の定めるところにより、必要な調査をし、適当な措置を講ずることができる。

4 人権委員会は、第一項の申出に係る人権侵害事件が、その管轄に属しないときは、当該事件を管轄する人権委員会に移送するものとする。

    第二節 一般救済手続

 (一般調査)

第四十二条 人権委員会は、人権侵害による被害の救済又は予防に関する職務を行うため必要があると認めるときは、必要な調査をすることができる。この場合においては、人権委員会は、関係行政機関又は関係地方公共団体に対し、資料又は情報の提供、意見の表明、説明その他必要な協力を求めることができる。

2 中央人権委員会は委員又は事務局の職員に、地方人権委員会は委員、事務局の職員又は人権擁護委員に、前項の調査を行わせることができる。

 (調査の嘱託)

第四十三条 人権委員会は、人権侵害による被害の救済又は予防に関する職務を行うため必要があると認めるときは、国の行政機関、地方公共団体、学校その他の団体又は学識経験を有する者に対し、必要な調査を嘱託することができる。

 (一般救済)

第四十四条 人権委員会は、人権侵害による被害の救済又は予防を図るため必要があると認めるときは、次に掲げる措置を講ずることができる。

 一 人権侵害による被害を受け、又は受けるおそれのある者及びその関係者(第三号において「被害者等」という。)に対し、必要な助言、関係行政機関又は関係のある公私の団体への紹介、法律扶助に関するあっせんその他の援助をすること。

 二 人権侵害を行い、若しくは行うおそれのある者又はこれを助長し、若しくは誘発する行為をする者及びその関係者(次号において「加害者等」という。)に対し、当該行為に関する説示、人権尊重の理念に関する啓発その他の指導をすること。

 三 被害者等と加害者等との関係の調整をすること。

 四 関係行政機関に対し、人権侵害の事実を通告すること。

 五 犯罪に該当すると思料される人権侵害について告発をすること。

 六 前二号に掲げるもののほか、人権侵害による被害の救済又は予防について、法令、契約その他の事由により実効的な処置を執ることができる者に対し、必要な処置を執ることを要請すること。

2 中央人権委員会は委員又は事務局の職員に、地方人権委員会は委員、事務局の職員又は人権擁護委員に、前項第一号から第四号まで及び第六号に規定する措置を講じさせることができる。

    第三節 特別救済手続

     第一款 通則

 (不当な差別、虐待等に対する救済措置)

第四十五条 人権委員会は、次に掲げる人権侵害については、前条第一項に規定する措置のほか、次款から第四款までの定めるところにより、必要な措置を講ずることができる。

 一 第三条第一項第一号に規定する不当な差別的取扱い

 二 次に掲げる不当な差別的言動等

  イ 第三条第一項第二号イに規定する不当な差別的言動であって、相手方を畏怖させ、困惑させ、又は著しく不快にさせるもの

  ロ 第三条第一項第二号ロに規定する性的な言動であって、相手方を畏怖させ、困惑させ、又は著しく不快にさせるもの

 三 次に掲げる虐待

  イ 国又は地方公共団体の公権力の行使に当たる職員が、その職務を行うについてする次に掲げる虐待

   (1) 人の身体に外傷が生じ、又は生ずるおそれのある暴行を加えること。

   (2) 人にその意に反してわいせつな行為をすること又は人をしてその意に反してわいせつな行為をさせること。

   (3) 人の生命又は身体を保護する責任を負う場合において、その保護を著しく怠り、その生命又は身体の安全を害すること。

   (4) 人に著しい心理的外傷を与える言動をすること。

  ロ 社会福祉施設、医療施設その他これらに類する施設を管理する者又はその職員その他の従業者が、その施設に入所し、又は入院している者に対してするイ(1)から(4)までに掲げる虐待

  ハ 学校その他これに類する施設を管理する者又はその職員その他の従業者が、その学生、生徒、児童若しくは幼児又はその施設に通所し、若しくは入所している者に対してするイ(1)から(4)までに掲げる虐待

  ニ 児童虐待の防止等に関する法律(平成十二年法律第八十二号)第二条に規定する児童虐待

  ホ 配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下この号において同じ。)の一方が、他方に対してするイ(1)から(4)までに掲げる虐待(配偶者の一方が、離婚(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあった者が、事実上離婚をしたと同様の事情に入ることを含む。)をし、又はその婚姻が取り消された場合において、引き続き他方に対してするものを含む。)

  ヘ 高齢者(六十五歳以上の者をいう。)若しくは障害を有する者(以下この号において「高齢者・障害者」という。)の同居者又は高齢者・障害者の扶養、介護その他の支援をすべき者が、当該高齢者・障害者に対してするイ(1)から(4)までに掲げる虐待

 四 前三号に規定する人権侵害に準ずる人権侵害であって、その被害者の置かれている状況等にかんがみ、当該被害者が自らその排除又は被害の回復のための適切な措置を執ることが困難であると認められるもの

 (差別助長行為等に対する救済措置)

第四十六条 人権委員会は、次に掲げる行為については、第四十四条第一項に規定する措置のほか、第五款の定めるところにより、必要な措置を講ずることができる。

 一 第三条第二項第一号に規定する行為であって、これを放置すれば当該不当な差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発するおそれがあることが明らかであるもの

 二 第三条第二項第二号に規定する行為であって、これを放置すれば当該不当な差別的取扱いをする意思を表示した者が当該不当な差別的取扱いをするおそれがあることが明らかであるもの

 (特別調査)

第四十七条 人権委員会は、第四十五条第一号から第三号までに規定する人権侵害又は前条に規定する行為(以下この項において「当該人権侵害等」という。)に係る事件について必要な調査をするため、次に掲げる処分をすることができる。

 一 事件の関係者に出頭を求め、質問すること。

 二 当該人権侵害等に関係のある文書その他の物件の所持人に対し、その提出を求め、又は提出された文書その他の物件を留め置くこと。

 三 当該人権侵害等が現に行われ、又は行われた疑いがあると認める場所に立ち入り、文書その他の物件を検査し、又は関係者に質問すること。

2 人権委員会は、委員又は事務局の職員に、前項の処分を行わせることができる。

3 前項の規定により人権委員会の委員又は事務局の職員に立入検査をさせる場合においては、当該委員又は職員に身分を示す証明書を携帯させ、関係者に提示させなければならない。

4 第一項の規定による処分の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。

     第二款 調停及び仲裁

      第一目 通則

 (調停及び仲裁)

第四十八条 人権委員会は、この款の定めるところにより、第四十五条に規定する人権侵害(以下「特別人権侵害」という。)に係る事件について、調停又は仲裁の申請を受理し、調停委員会又は仲裁委員会を設けて、これに調停又は仲裁を行わせるものとする。

 (申請)

第四十九条 特別人権侵害による被害について、当事者の一方又は双方は、人権委員会に対し、調停又は仲裁の申請をすることができる。

2 当事者の一方からする仲裁の申請は、この法律の規定による仲裁に付する旨の合意に基づくものでなければならない。

 (職権調停)

第五十条 人権委員会は、相当と認めるときは、職権で、特別人権侵害に係る事件を調停に付することができる。

 (人権調整委員)

第五十一条 人権委員会に、その行う調停及び仲裁に参与させるため、人権調整委員を置く。

2 人権調整委員は、人格が高潔であって、法律又は社会に関する学識経験のある者のうちから、人権委員会が任命する。

3 人権調整委員の任期は、三年とする。

4 人権調整委員は、再任されることができる。

5 人権調整委員は、非常勤とする。

6 第三十四条第二項から第四項までの規定は、地方人権委員会に置かれる人権調整委員について準用する。

7 前各項に規定するもののほか、中央人権委員会に置かれる人権調整委員の任命及び服務に関し必要な事項については政令で、地方人権委員会に置かれる人権調整委員の任命及び服務に関し必要な事項については条例で定める。

第五十二条 人権委員会は、人権調整委員が次の各号のいずれかに該当するときは、これを解任することができる。

 一 心身の故障のため職務の執行ができないと認められるとき。

 二 職務上の義務違反その他人権調整委員たるに適しない非行があると認められるとき。

2 前項の規定による解任は、当該人権調整委員に、解任の理由が説明され、かつ、弁明の機会が与えられた後でなければ行うことができない。

      第二目 調停

 (調停委員会)

第五十三条 調停委員会は、人権委員会の委員長若しくは委員又は人権調整委員のうちから、事件ごとに、人権委員会の委員長が指名する三人の調停委員をもって組織する。

2 調停委員のうち少なくとも一人は、弁護士となる資格を有する者でなければならない。

 (意見聴取)

第五十四条 調停委員会は、調停のため必要があると認めるときは、当事者の出頭を求め、その意見を聴くことができる。

 (調停案の受諾の勧告)

第五十五条 調停委員会は、相当と認めるときは、一切の事情を考慮して調停案を作成し、当事者に対し、三十日以上の期間を定めて、その受諾を勧告することができる。

2 前項の調停案は、調停委員の過半数の意見で作成しなければならない。

3 第一項の規定による勧告がされた場合において、当事者が調停委員会に対し指定された期間内に受諾しない旨の申出をしなかったときは、当該当事者間に調停案と同一の内容の合意が成立したものとみなす。

 (調停をしない場合)

第五十六条 調停委員会は、申請に係る事件がその性質上調停をするのに適当でないと認めるとき、又は当事者が不当な目的でみだりに調停の申請をしたと認めるときは、調停をしないものとすることができる。

 (調停の打切り)

第五十七条 調停委員会は、調停に係る事件について調停による解決の見込みがないと認めるときは、調停を打ち切ることができる。

2 第五十五条第一項の規定による勧告がされた場合において、指定された期間内に当事者から受諾しない旨の申出があったときは、当該当事者間の調停は、打ち切られたものとみなす。

 (時効の中断)

第五十八条 前条第一項の規定により調停が打ち切られ、又は同条第二項の規定により調停が打ち切られたものとみなされた場合において、当該調停の当事者がその旨の通知を受けた日から三十日以内に調停の目的となった請求について訴えを提起したときは、時効の中断に関しては、調停の申請の時又は職権で事件が調停に付された時に、訴えの提起があったものとみなす。

 (調停手続の非公開)

第五十九条 調停委員会の行う調停の手続は、公開しない。

      第三目 仲裁

 (仲裁委員会)

第六十条 仲裁委員会は、人権委員会の委員長若しくは委員又は人権調整委員のうちから、当事者が合意によって選定した者につき、事件ごとに、人権委員会の委員長が指名する三人の仲裁委員をもって組織する。ただし、当事者の合意による選定がされなかったときは、人権委員会の委員長若しくは委員又は人権調整委員のうちから、事件ごとに、人権委員会の委員長が指名する三人の仲裁委員をもって組織する。

2 仲裁委員のうち少なくとも一人は、弁護士となる資格を有する者でなければならない。

 (仲裁法の準用)

第六十一条 仲裁委員会の行う仲裁については、この法律に特別の定めがある場合を除き、仲裁委員を仲裁人とみなして、仲裁法(平成十五年法律第百三十八号。第十章を除く。)の規定を準用する。

 (準用規定)

第六十二条 第五十九条の規定は、仲裁委員会の行う仲裁について準用する。

     第三款 勧告及びその公表

 (勧告)

第六十三条 人権委員会は、特別人権侵害が現に行われ、又は行われたと認める場合において、当該特別人権侵害による被害の救済又は予防を図るため必要があると認めるときは、当該行為をした者に対し、理由を付して、当該行為をやめるべきこと又は当該行為若しくはこれと同様の行為を将来行わないことその他被害の救済又は予防に必要な措置を執るべきことを勧告することができる。

2 人権委員会は、前項の規定による勧告をしようとするときは、あらかじめ、当該勧告の対象となる者の意見を聴かなければならない。

3 人権委員会は、第一項の規定による勧告をしたときは、速やかにその旨を当該勧告に係る特別人権侵害の被害者に通知しなければならない。

 (勧告の公表)

第六十四条 人権委員会は、前条第一項の規定による勧告をした場合において、当該勧告を受けた者がこれに従わないときは、その旨及び当該勧告の内容を公表することができる。

2 人権委員会は、前項の規定による公表をしようとするときは、あらかじめ、当該勧告に係る特別人権侵害の被害者及び当該公表の対象となる者の意見を聴かなければならない。

     第四款 訴訟援助

 (資料の閲覧及び謄抄本の交付)

第六十五条 人権委員会は、第六十三条第一項の規定による勧告をした場合において、当該勧告に係る特別人権侵害の被害者若しくはその法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から、人権委員会が保有する当該特別人権侵害に関する資料の閲覧又は謄本若しくは抄本の交付の申出があるときは、当該被害者の権利の行使のため必要があると認める場合その他正当な理由がある場合であって、関係者の権利利益その他の事情を考慮して相当と認めるときは、申出をした者にその閲覧をさせ、又はその謄本若しくは抄本を交付することができる。

2 人権委員会は、前項の規定により資料の閲覧をさせ、又はその謄本若しくは抄本の交付をした場合において、当該被害者が当事者となっている当該特別人権侵害に関する請求に係る訴訟の相手方若しくはその法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から、当該資料の閲覧又は謄本若しくは抄本の交付の申出があるときは、申出をした者にその閲覧をさせ、又はその謄本若しくは抄本を交付しなければならない。

3 前二項の規定により資料を閲覧し又はその謄本若しくは抄本の交付を受けた者は、閲覧又は謄本若しくは抄本の交付により知り得た事項を用いるに当たり、不当に関係者の名誉又は生活の平穏を害することのないよう注意しなければならない。

4 第一項又は第二項の規定により謄本又は抄本の交付を求めようとする者は、実費の範囲内において政令で定める額の手数料を納めなければならない。

5 人権委員会は、経済的困難その他特別の理由があると認めるときは、政令で定めるところにより、前項の手数料を減額し、又は免除することができる。

 (人権委員会の訴訟参加)

第六十六条 人権委員会は、第六十三条第一項の規定による勧告がされた場合において、当該勧告に係る人権侵害の内容、性質その他の事情にかんがみ必要があると認めるときは、当該人権侵害に関する請求に係る訴訟に参加することができる。

2 前項の規定による参加の申出については、民事訴訟に関する法令の規定中補助参加の申出に関する規定を準用する。

3 人権委員会が第一項の規定による参加の申出をした場合において、当事者が当該訴訟における請求が当該勧告に係る人権侵害に関するものでない旨の異議を述べたときは、裁判所は、参加の許否について、決定で、裁判をする。この場合においては、人権委員会は、当該訴訟における請求が当該勧告に係る人権侵害に関するものであることを疎明しなければならない。

4 前項の異議及び裁判については、民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第四十四条第二項及び第三項の規定を準用する。

5 第一項の規定により訴訟に参加した人権委員会については、民事訴訟法第四十五条第一項及び第二項の規定(同条第一項の規定中上訴の提起及び再審の訴えの提起に関する部分を除く。)を準用する。

6 民事訴訟法第六十一条から第六十五条までの規定は、第三項の異議によって生じた訴訟費用の人権委員会とその異議を述べた当事者との間における負担の関係及び第一項の規定による参加によって生じた訴訟費用の人権委員会と相手方との間における負担の関係について準用する。

7 中央人権委員会又は地方人権委員会が参加人である訴訟における確定した訴訟費用の裁判は、中央人権委員会にあっては国に対し又は国のために、地方人権委員会にあっては当該地方人権委員会に係る都道府県に対し又は当該都道府県のために、効力を有する。

     第五款 差別助長行為等の差止め等

 (差別助長行為等の停止の勧告等)

第六十七条 人権委員会は、第四十六条に規定する行為が現に行われ、又は行われたと認めるときは、当該行為をした者に対し、理由を付して、当該行為をやめるべきこと又は当該行為若しくはこれと同様の行為を将来行わないことを勧告することができる。

2 前項の勧告については、第六十三条第二項及び第六十四条の規定を準用する。

 (差別助長行為等の差止請求訴訟)

第六十八条 人権委員会は、第四十六条に規定する行為をした者に対し、前条第一項の規定による勧告をしたにもかかわらず、その者がこれに従わない場合において、当該不当な差別的取扱いを防止するため必要があると認めるときは、その者に対し、当該行為をやめるべきこと又は当該行為若しくはこれと同様の行為を将来行わないことを請求する訴訟を提起することができる。

2 前項の訴訟については、第六十六条第七項の規定を準用する。

   第五章 報道機関等による自主的取組

第六十九条 放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関又は報道機関の報道若しくはその取材の業務に従事する者(以下この条において「報道機関等」という。)は、報道機関等がする次に掲げる人権侵害について、自主的な解決に向けた取組を行うよう努めなければならない。

 一 特定の者を次に掲げる者であるとして報道するに当たり、その者の私生活に関する事実をみだりに報道し、その者の名誉又は生活の平穏を著しく害すること。

  イ 犯罪行為(刑罰法令に触れる行為をいう。以下この号において同じ。)により被害を受けた者

  ロ 犯罪行為を行った少年

  ハ 犯罪行為により被害を受けた者又は犯罪行為を行った者の配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)、直系若しくは同居の親族又は兄弟姉妹

 二 特定の者を前号に掲げる者であるとして取材するに当たり、その者が取材を拒んでいるにもかかわらず、その者に対し、次のいずれかに該当する行為を継続的に又は反復して行い、その者の生活の平穏を著しく害すること。

  イ つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所の付近において見張りをし、又はこれらの場所に押し掛けること。

  ロ 電話をかけ、又はファクシミリ装置を用いて送信すること。

   第六章 補則

 (人権相互の関係に対する配慮)

第七十条 この法律の適用に当たっては、救済の対象となる者の人権と他の者の思想及び良心の自由、表現の自由、信教の自由、学問の自由その他の人権との関係に十分に配慮しなければならない。

 (関係行政機関等との連携)

第七十一条 中央人権委員会及び地方人権委員会は、この法律の運用に当たっては、相互に緊密な連携を保つとともに、関係行政機関、関係地方公共団体及び関係のある公私の団体と緊密な連携を図るよう努めなければならない。

 (不利益取扱いの禁止)

第七十二条 何人も、この法律の規定による措置を求める申出又は申請をしたことを理由として、不利益な取扱いを受けない。

 (規則制定権)

第七十三条 中央人権委員会は、その内部規律、地方人権委員会の組織及び運営、人権救済手続その他所掌事務に関し必要な事項について中央人権委員会規則を定めることができる。

 (法務大臣の指揮等の例外)

第七十四条 中央人権委員会がこの法律に規定する権限の行使に関して当事者又は参加人となる訴訟については、国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律(昭和二十二年法律第百九十四号)第六条の規定は、適用しない。

 (経費)

第七十五条 地方人権委員会及び人権擁護委員の委嘱に要する経費は、都道府県が支弁する。

2 前項の規定により都道府県が支弁する経費については、予算の範囲内において、政令で定めるところにより、国がその一部を補助することができる。

   第七章 罰則

第七十六条 第十五条第一項(第二十五条において準用する場合を含む。)の規定に違反して秘密を漏らした者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

第七十七条 第三十四条第二項(第五十一条第六項において準用する場合を含む。)の規定に違反して秘密を漏らした者は、一年以下の懲役又は三万円以下の罰金に処する。

第七十八条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の過料に処する。

 一 正当な理由なく、第四十七条第一項第一号の規定による処分に違反して出頭せず、又は陳述をしなかった者

 二 正当な理由なく、第四十七条第一項第二号の規定による処分に違反して文書その他の物件を提出しなかった者

 三 正当な理由なく、第四十七条第一項第三号の規定による処分に違反して立入検査を拒み、妨げ、又は忌避した者

 四 正当な理由なく、第五十四条の規定による出頭の求めに応じなかった者

   附 則

 (施行期日)

第一条 この法律は、公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、附則第三条第一項の規定は、公布の日から施行する。

 (人権擁護委員法の廃止等)

第二条 人権擁護委員法(昭和二十四年法律第百三十九号)は、廃止する。

2 この法律の施行の日の前日において前項の規定による廃止前の人権擁護委員法(以下この項において「旧人権擁護委員法」という。)に基づく人権擁護委員である者の任期は、旧人権擁護委員法第九条の規定にかかわらず、その日に満了する。

 (経過措置)

第三条 第十一条第一項の規定による中央人権委員会の委員長及び委員並びに第二十四条第一項の規定による地方人権委員会の委員長及び委員の任命のために必要な行為は、この法律の施行前においても行うことができる。

2 この法律の施行の日以後最初に任命される中央人権委員会又は地方人権委員会の委員長及び委員の任命に関し、中央人権委員会について国会の閉会又は衆議院の解散のため両議院の同意を得ることができないときは第十一条第三項及び第四項並びに第十三条第三号の規定を、地方人権委員会について都道府県の議会の閉会又は解散のためその同意を得ることができないときは第二十四条第二項及び第三項並びに第二十五条の規定により準用する第十三条第三号の規定を、それぞれ準用する。

3 この法律の施行の日以後最初に任命される中央人権委員会の委員の任期は、第十二条第一項本文の規定にかかわらず、内閣総理大臣の指定するところにより、二人は一年、二人は二年、二人は三年とする。

4 この法律の施行の日以後最初に任命される地方人権委員会の委員の任期は、第二十五条の規定により準用する第十二条第一項本文の規定にかかわらず、都道府県知事の指定するところにより、一人は一年、二人は二年、一人は三年とする。

 (地方自治法の一部改正)

第四条 地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)の一部を次のように改正する。

  第九十八条及び第百条第一項中「及び収用委員会」を「、収用委員会及び地方人権委員会」に改める。

  第百八十条の五第二項に次の一号を加える。

  六 地方人権委員会

  第百九十九条第二項中「及び収用委員会」を「、収用委員会及び地方人権委員会」に改める。

  第二百二条の二第五項中「指示その他の事務を行い」の下に「、地方人権委員会は別に法律の定めるところにより人権侵害による被害の救済及び予防その他の事務を行い」を加える。

 (特別職の職員の給与に関する法律の一部改正)

第五条 特別職の職員の給与に関する法律(昭和二十四年法律第二百五十二号)の一部を次のように改正する。

  第一条第十四号の次に次の一号を加える。

  十四の二 中央人権委員会の委員長及び常勤の委員

  第一条第四十七号の次に次の一号を加える。

  四十七の二 中央人権委員会の非常勤の委員

  別表第一官職名の欄中「大臣政務官及び長官政務官」を

大臣政務官及び長官政務官

 

 

中央人権委員会委員長

 に、「公害等調整委員会の常勤の委員」を

中央人権委員会の常勤の委員

 

 

公害等調整委員会の常勤の委員

 に改める。

 (売春防止法の一部改正)

第六条 売春防止法(昭和三十一年法律第百十八号)の一部を次のように改正する。

  第三十七条中「人権擁護委員法(昭和二十四年法律第百三十九号)」を「人権侵害による被害の救済及び予防等に関する法律(平成十七年法律第▼▼▼号)」に改める。

 (特定非営利活動促進法の一部改正)

第七条 特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)の一部を次のように改正する。

  第四十四条の二及び第四十四条の三中「国家公安委員会規則」の下に「、中央人権委員会規則」を加える。

 (日本郵政公社法施行法の一部改正)

第八条 日本郵政公社法施行法(平成十四年法律第九十八号)の一部を次のように改正する。

  第九十八条を次のように改める。

 第九十八条 削除

 (司法試験法及び裁判所法の一部を改正する法律の一部改正)

第九条 司法試験法及び裁判所法の一部を改正する法律(平成十四年法律第百三十八号)の一部を次のように改正する。

  附則第十八条を次のように改める。

 第十八条 削除

 (行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律の一部改正)

第十条 行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律(平成十四年法律第百五十一号)の一部を次のように改正する。

  第十二条中「国家公安委員会規則」の下に「、中央人権委員会規則」を加え、同条ただし書中「公正取引委員会、国家公安委員会」の下に「、中央人権委員会」を加える。

 (行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の一部改正)

第十一条 行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成十四年法律第百五十二号)の一部を次のように改正する。

  第二十五条を次のように改める。

 第二十五条 削除

  附則第一条第六号を次のように改める。

  六 削除

 (公正取引委員会を内閣府の外局に移行させるための関係法律の整備に関する法律の一部改正)

第十二条 公正取引委員会を内閣府の外局に移行させるための関係法律の整備に関する法律(平成十五年法律第二十三号)の一部を次のように改正する。

  第八条の見出し中「及び人権擁護法」を削り、同条第二号を次のように改める。

  二 削除

  附則第一条ただし書を削る。

 (地方独立行政法人法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の一部改正)

第十三条 地方独立行政法人法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成十五年法律第百十九号)の一部を次のように改正する。

  目次中「第三章 法務省関係(第二十六条)」を「第三章 削除」に改める。

  第三章を次のように改める。

    第三章 削除

 第二十六条 削除

 (仲裁法の一部改正)

第十四条 仲裁法の一部を次のように改正する。

  附則第十八条の見出し中「公害紛争処理法等」を「公害紛争処理法」に改め、同条第二号を次のように改める。

  二 削除

 (民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の一部改正)

第十五条 民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律(平成十六年法律第百四十九号)の一部を次のように改正する。

  第九条中「国家公安委員会規則」の下に「、中央人権委員会規則」を加え、同条ただし書中「公正取引委員会、国家公安委員会」の下に「、中央人権委員会」を加える。

 (国家行政組織法の一部改正)

第十六条 国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)の一部を次のように改正する。

  第二十八条を削る。

 (内閣府設置法の一部改正)

第十七条 内閣府設置法の一部を次のように改正する。

  第三条第二項中「治安の確保」の下に「、人権の擁護に関する施策の推進」を加える。

  第四条第三項中第六十一号を第六十二号とし、第六十号を第六十一号とし、第五十九号を第六十号とし、第五十八号の次に次の一号を加える。

  五十九 人権侵害による被害の救済及び予防等に関する法律(平成十七年法律第▼▼▼号)第八条に規定する事務

  第十一条中「第三項第六十号」を「第三項第六十一号」に改める。

  第十六条第二項中「大臣庁等」の下に「、中央人権委員会」を加える。

  第六十四条の表国家公安委員会の項の次に次のように加える。

中央人権委員会

人権侵害による被害の救済及び予防等に関する法律

 (法務省設置法の一部改正)

第十八条 法務省設置法(平成十一年法律第九十三号)の一部を次のように改正する。

  第四条第二十六号から第二十九号までを次のように改める。

  二十六から二十九まで 削除

  第十八条第一項中「及び第二十六号から第三十一号まで」を「、第三十号及び第三十一号」に改める。

 (見直し)

第十九条 この法律は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を加え、その結果を踏まえて必要な見直しを行うものとする。


     理 由

 我が国における人権侵害の現状その他人権の擁護に関する内外の情勢にかんがみ、人権侵害により発生し、又は発生するおそれのある被害の適正かつ迅速な救済又はその実効的な予防並びに人権尊重の理念を普及させ、及びこれに関する理解を深めるための啓発に関する施策を推進するため、新たに独立の行政委員会としての中央人権委員会及び地方人権委員会を設置し、これらの組織、権限等について定めるとともに、これらを主たる実施機関とする人権救済制度を創設し、その救済手続その他必要な事項を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。


   本案施行に要する経費

 本案施行に要する経費としては、平年度約二億円の見込みである。

衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.