衆議院

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第一六三回

衆第六号

   人身取引等の防止及び人身取引等の被害者の保護に関する法律案

目次

 第一章 総則(第一条―第五条)

 第二章 人身取引等の防止及び人身取引等の被害者の保護のための基本的施策(第六条―第十四条)

 第三章 基本計画(第十五条)

 第四章 人身取引等対策推進本部(第十六条―第十九条)

 第五章 人身取引等被害者保護センター(第二十条)

 第六章 雑則(第二十一条―第二十四条)

 附則

   第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、人身取引等がその被害者の人権を著しく侵害することにかんがみ、あわせて人身取引等の防止及び人身取引等の被害者の保護に関する国際的動向を踏まえ、人身取引等を防止するとともに、人身取引等の被害者の保護を図ることを目的とする。

 (定義)

第二条 この法律において「人身取引等」とは、次に掲げる行為をいう。

 一 営利、わいせつ又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、誘拐し、若しくは売買し、又は略取され、誘拐され、若しくは売買された者を引き渡し、収受し、輸送し、若しくは蔵匿すること。

 二 前号に掲げるもののほか、営利、わいせつ又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)を自己の支配下に置くこと。

 三 第一号に掲げるもののほか、児童が営利、わいせつ若しくは生命若しくは身体に対する加害の目的を有する者の支配下に置かれ、又はそのおそれがあることを知りながら、当該児童を引き渡すこと。

 (国及び地方公共団体の責務)

第三条 国及び地方公共団体は、人身取引等を防止するとともに、人身取引等の被害者の適切な保護を図る責務を有する。

 (関係機関等との連携強化)

第四条 国及び地方公共団体は、人身取引等の防止及び人身取引等の被害者の保護のための施策の効果的な実施が図られるよう、関係機関及び民間の団体との間の連携の強化その他必要な体制の整備に努めるものとする。

 (財政上の措置等)

第五条 政府は、人身取引等の防止及び人身取引等の被害者の保護のための施策を実施するため必要な財政上の措置その他の措置を講ずるものとする。

   第二章 人身取引等の防止及び人身取引等の被害者の保護のための基本的施策

 (人身取引等の防止)

第六条 国及び地方公共団体は、人身取引等を防止するため、人身取引等に係る事犯の取締りの強化等必要な措置を講ずるものとする。

 (人身取引等の被害者の発見)

第七条 警察官、海上保安官、入国審査官、入国警備官、領事官、労働基準監督官、婦人相談所の職員、医師その他の医療関係者、弁護士その他人身取引等の被害者を発見しやすい立場にある者は、その立場を自覚し、その職務を行うに当たり、人身取引等の被害者の発見に努めなければならない。

 (人身取引等の被害者の発見者による通報等)

第八条 人身取引等の被害者と思料される者を発見した者は、その旨を人身取引等被害者保護センターに通報するものとする。

2 刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない。

3 人身取引等被害者保護センターが第一項の規定による通報を受けた場合においては、当該通報を受けた人身取引等被害者保護センターのセンター長、人身取引等の被害者の保護を行う専門職員その他の職員は、その職務上知り得た事項であって当該通報をした者を特定させるものを漏らしてはならない。

 (人身取引等の被害者に係る状況の把握等)

第九条 人身取引等被害者保護センターは、人身取引等の被害者に関する通報又は相談を受けた場合には、当該人身取引等の被害者に係る状況を把握するよう努めるとともに、当該人身取引等の被害者に対し必要な保護を受けることを勧奨するものとする。

 (助言等)

第十条 国及び地方公共団体は、人身取引等の被害者が人身取引等により心身に受けた有害な影響から回復することができるようにするため、その心身の状況、その置かれている環境等に応じて、相談に応じ必要な助言を行い、適切な保健医療サービス及び福祉サービスを提供する等必要な措置を講ずるものとする。

 (出入国管理及び難民認定法等による処分についての配慮等)

第十一条 国は、人身取引等の被害者から、出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号)その他出入国に関する法令の規定による在留、在留資格の変更、在留期間の更新等に係る許可その他の処分を求められたときは、その保護に欠けることがないよう適切な配慮をする等必要な措置を講ずるものとする。

 (民事に関する手続等における援助等)

第十二条 国及び地方公共団体は、人身取引等の被害者が、民事若しくは行政に関する手続において自己の権利を適正かつ円滑に実現し、又はその被害に係る刑事に関する手続に適切に関与できるようにするため、必要な援助等必要な措置を講ずるものとする。

 (自立の支援)

第十三条 国及び地方公共団体は、人身取引等の被害者の自立を支援するため、居住の場所の確保、就業の支援、教育の機会の提供等必要な措置を講ずるものとする。

 (帰国等の支援)

第十四条 国は、本邦への帰国又は本邦からの出国を希望する人身取引等の被害者を支援するため、当該帰国又は出国に伴い必要となる費用を負担し、これらに係る手続に関し必要な便宜を供与する等必要な措置を講ずるものとする。

   第三章 基本計画

第十五条 人身取引等対策推進本部は、人身取引等の防止及び人身取引等の被害者の保護のための施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、人身取引等の防止及び人身取引等の被害者の保護のための施策に関する基本的な計画(以下「基本計画」という。)を作成しなければならない。

2 人身取引等対策推進本部は、前項の規定により基本計画を作成したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。

3 前項の規定は、基本計画の変更について準用する。

   第四章 人身取引等対策推進本部

 (設置及び所掌事務)

第十六条 内閣府に、人身取引等対策推進本部(以下「本部」という。)を置く。

2 本部は、次に掲げる事務をつかさどる。

 一 基本計画を作成すること。

 二 前号に掲げるもののほか、人身取引等の防止及び人身取引等の被害者の保護のための施策に関する重要事項について審議するとともに、人身取引等の防止及び人身取引等の被害者の保護のための施策の実施を推進し、並びにその実施の状況を検証し、評価し、及び監視すること。

 (組織)

第十七条 本部は、人身取引等対策推進本部長、人身取引等対策推進副本部長及び人身取引等対策推進本部員をもって組織する。

2 本部の長は、人身取引等対策推進本部長(以下「本部長」という。)とし、内閣総理大臣をもって充てる。

3 本部長は、本部の事務を総括する。

4 本部に、人身取引等対策推進副本部長(以下「副本部長」という。)を置き、国務大臣をもって充てる。

5 副本部長は、本部長の職務を助ける。

6 本部に、人身取引等対策推進本部員(以下「本部員」という。)を置く。

7 本部員は、本部長及び副本部長以外の国務大臣のうちから、内閣総理大臣が任命する。

 (調査委員会)

第十八条 本部に、第十六条第二項に掲げる事務について調査審議させるため、調査委員会を置く。

2 調査委員会の委員は、関係行政機関の職員及び学識経験のある者のうちから、内閣総理大臣が任命する。

 (政令への委任)

第十九条 この法律に定めるもののほか、本部の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。

   第五章 人身取引等被害者保護センター

第二十条 国は、人身取引等被害者保護センター(以下「センター」という。)を設置する。

2 センターは、人身取引等の被害者の保護のため、次に掲げる業務を行うものとする。

 一 人身取引等の被害者に関する各般の問題について、相談に応じ、必要な情報の提供及び助言を行うこと。

 二 人身取引等の被害者(人身取引等の被害者がその家族を同伴する場合にあっては、人身取引等の被害者及びその同伴する家族。第五項において同じ。)の一時保護を行うこと。

 三 人身取引等の被害者の保護に関して、関係機関及び民間の団体との連絡調整を行うこと。

 四 前三号に掲げる業務に附帯する業務を行うこと。

3 前項第二号の一時保護は、センターが、自ら行い、又は適当と認める者に委託して行うものとする。

4 センターには、センター長、人身取引等の被害者の保護を行う専門職員その他の必要な職員を置くものとする。

5 センターには、人身取引等の被害者を一時保護する施設を設けなければならない。

6 センターは、日本語に通じない者に対して第二項に規定する業務を行うに当たっては、その者の理解する言語によりこれを行うものとする。

7 前各項に定めるもののほか、センターに関し必要な事項は、政令で定める。

   第六章 雑則

 (職務関係者による配慮等)

第二十一条 人身取引等の被害者の保護、その被害に係る事件の捜査又は公判等に職務上関係のある者(次項において「職務関係者」という。)は、その職務を行うに当たり、人身取引等の被害者の心身の状況、その置かれている環境等を踏まえ、人身取引等の被害者の人権を尊重するとともに、その安全の確保及び秘密の保持に十分な配慮をしなければならない。この場合において、人身取引等の被害者が児童であるときは、児童の特性に特に留意しなければならない。

2 国及び地方公共団体は、職務関係者に対し、人身取引等の被害者の人権、人身取引等の特性等に関する理解を深めるために必要な研修及び啓発を行うものとする。

 (教育、啓発及び調査研究等)

第二十二条 国及び地方公共団体は、人身取引等の防止に関する国民の理解を深めるための教育及び啓発に努めるものとする。

2 国及び地方公共団体は、人身取引等の防止及び人身取引等の被害者の保護に資する調査研究の推進並びにこれらに関する情報の収集、整理及び活用に努めるものとする。

 (民間の団体に対する支援)

第二十三条 国及び地方公共団体は、民間の団体が人身取引等の防止及び人身取引等の被害者の保護のために行う活動を支援するため、財政上の措置、情報の提供その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

 (国際協力の推進)

第二十四条 国は、国際的協調の下に、人身取引等を防止するとともに人身取引等の被害者の保護を図るため、外国政府又は国際機関との情報の交換その他の国際協力を推進するために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

   附 則

 (施行期日)

1 この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

 (内閣府設置法の一部改正)

2 内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)の一部を次のように改正する。

  第四条第二項中「保護」の下に「、人身取引等の防止及び人身取引等の被害者の保護」を加え、同条第三項第四十六号の二の次に次の一号を加える。

  四十六の三 人身取引等の防止及び人身取引等の被害者の保護のための施策に関する基本的な計画(人身取引等の防止及び人身取引等の被害者の保護に関する法律(平成十七年法律第▼▼▼号)第十五条第一項に規定するものをいう。)の作成及び推進に関すること。

  第四十条第三項の表中

犯罪被害者等施策推進会議

犯罪被害者等基本法

 を

犯罪被害者等施策推進会議

犯罪被害者等基本法

 

 

人身取引等対策推進本部

人身取引等の防止及び人身取引等の被害者の保護に関する法律

 に改める。


     理 由

 人身取引等が人身取引等の被害者の人権を著しく侵害することにかんがみ、あわせて人身取引等の防止及び人身取引等の被害者の保護に関する国際的動向を踏まえ、人身取引等を防止するとともに、人身取引等の被害者の保護を図る必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。


   本案施行に要する経費

 本案施行に要する経費としては、初年度約八千百万円の見込みである。

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