第一六三回
衆第一六号
排他的経済水域等における天然資源の探査及び海洋の科学的調査に関する主権的権利その他の権利の行使に関する法律案
目次
第一章 総則(第一条・第二条)
第二章 外国人の天然資源の探査の禁止(第三条・第四条)
第三章 外国人の海洋の科学的調査(第五条―第十五条)
第四章 補則(第十六条―第二十条)
第五章 罰則(第二十一条―第二十四条)
附則
第一章 総則
(趣旨)
第一条 この法律は、排他的経済水域等における我が国の権益を確保するとともに、外国人が行う海洋の科学的調査を適切に管理するため、排他的経済水域等における天然資源の探査及び海洋の科学的調査に関する海洋法に関する国際連合条約に定める主権的権利その他の権利の行使について必要な措置を定めるものとする。
(定義)
第二条 この法律において「排他的経済水域等」とは、我が国の排他的経済水域及び排他的経済水域及び大陸棚に関する法律(平成八年法律第七十四号)第二条に規定する大陸棚をいう。
2 この法律において「外国人」とは、次に掲げるものをいう。
一 日本の国籍を有しない者。ただし、適法に我が国に在留する者で主務大臣の指定するものを除く。
二 外国、外国の公共団体若しくはこれに準ずるもの又は外国法に基づいて設立された法人その他の団体
三 国際機関
第二章 外国人の天然資源の探査の禁止
(外国人の天然資源の探査の禁止)
第三条 外国人は、排他的経済水域等において、天然資源の探査(経済的な目的で行われる海水、海流又は風からのエネルギーの生産のための調査その他の政令で定める探査のための活動を含む。以下同じ。)(排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律(平成八年法律第七十六号)第二条第三項の探索及び水産動植物の資源の探査であってその採捕を伴うものを除く。次条において同じ。)を行ってはならない。
(適用除外)
第四条 前条の規定は、外国人が我が国又は独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。第六条において同じ。)の委託を受けて排他的経済水域等において天然資源の探査を行う場合その他の我が国の権益を害するおそれがないものとして政令で定める場合には、適用しない。
第三章 外国人の海洋の科学的調査
(外国人の海洋の科学的調査の許可)
第五条 外国人は、排他的経済水域等においては、政令で定めるところにより、海洋の科学的調査(天然資源の探査に該当するものを除く。以下同じ。)の計画ごとに、主務大臣の許可を受けなければ、自ら、又は他の者に委託して、海洋の科学的調査を行ってはならない。
(適用除外)
第六条 前条の規定は、外国人が我が国又は独立行政法人の委託を受けて排他的経済水域等において海洋の科学的調査を行う場合その他の我が国の権益を害するおそれがなく、又は外国人が行う海洋の科学的調査の適切な管理に支障がないものとして政令で定める場合には、適用しない。
(許可の申請)
第七条 第五条の許可を受けようとする者は、政令で定めるところにより、海洋の科学的調査の実施の六月前までに、海洋法に関する国際連合条約(以下「国連海洋法条約」という。)第二百四十八条(a)から(f)までに掲げる事項その他の主務省令で定める事項を記載した申請書及び主務省令で定める添付書類を主務大臣に提出しなければならない。
(制限又は条件)
第八条 第五条の許可には、必要な制限又は条件(国連海洋法条約第二百四十九条1(a)から(g)までに掲げる条件の内容の詳細を当該許可に係る海洋の科学的調査について定めるものを含む。)を付し、及びこれを変更することができる。
(計画の変更)
第九条 第五条の許可を受けた者は、海洋の科学的調査の計画を変更しようとするときは、政令で定めるところにより、主務大臣の許可を受けなければならない。
(停止命令及び許可の取消し)
第十条 主務大臣は、第五条の許可に係る海洋の科学的調査について次の各号のいずれかに該当する事由がある場合には、期間を定めて当該調査の停止を命ずることができる。
一 当該調査が第五条の許可に係る計画(前条の規定により変更されたものを含む。第十三条第二項において「許可に係る計画」という。)に従って実施されていない場合
二 当該調査を行う者が、法令又は第八条の規定により付された制限若しくは条件(同条の規定により変更されたものを含む。以下同じ。)に違反している場合
2 主務大臣は、前項各号のいずれかに該当する事由がある場合において、その情状が特に重いときは、第五条の許可を取り消すことができる。
(特定調査に関する特例)
第十一条 主務大臣は、外国又は権限のある国際機関が自ら、又は他の者に委託して排他的経済水域等において行う海洋の科学的調査(以下「特定調査」という。)について第七条の規定による許可の申請があった場合において、当該調査の計画が、国連海洋法条約に従って、専ら平和的目的で、かつ、すべての人類の利益のために海洋環境に関する科学的知識を増進させる目的で実施されるものであるときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、許可を与えるものとする。
一 国連海洋法条約第二百四十六条5(a)から(d)までのいずれかに該当するとき。
二 前号に定めるもののほか、当該調査を許可することが適当でないと認められる特別の事情があるとき。
2 排他的経済水域及び大陸棚に関する法律第二条に規定する大陸棚のうち同条第二号に掲げる海域に係る部分(開発又は詳細な探査の活動が行われ、又は合理的な期間内に行われる区域として政令で定める区域を除く。)で行われる特定調査に関する前項第一号の規定の適用については、同号中「第二百四十六条5(a)」とあるのは、「第二百四十六条5(b)」とする。
第十二条 主務大臣は、特定調査について第七条の規定による許可の申請があった場合には、当該申請があった日から四月以内に、当該申請をした者に対し、第五条の許可を与える旨又は国連海洋法条約第二百五十二条(a)から(d)までに掲げる事項を、通知しなければならない。
第十三条 主務大臣は、特定調査について第十条第一項の命令を行った場合において、当該命令に定める期間内に当該命令の原因となった事由がなくなったときは、当該命令を取り消すものとする。
2 主務大臣は、特定調査が許可に係る計画の主要な部分を逸脱している場合又は第十条第一項の命令を行った後当該命令に定める期間内に当該命令の原因となった事由が消滅しない場合には、第五条の許可を取り消すことができる。
3 第十条第二項の規定は、特定調査については、適用しない。
(行政手続法の適用除外)
第十四条 この章の規定による処分については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二章及び第三章の規定は、適用しない。
(政令への委任)
第十五条 この章に定めるもののほか、この章の規定の実施に関し必要な事項は、政令で定める。
第四章 補則
(条約の効力)
第十六条 この法律に規定する事項に関して条約に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
(取締り等のための体制の整備)
第十七条 国は、この法律の適切な運用を確保するため、外国人が排他的経済水域等において行う調査についての情報の収集及び監視、排他的経済水域等の巡視、この法律に違反する行為の取締り等を適切に行うために必要な体制の整備に努めなければならない。
(主務大臣等)
第十八条 この法律における主務大臣は、文部科学大臣、経済産業大臣及び農林水産大臣とする。
2 この法律における主務省令は、文部科学省令・経済産業省令・農林水産省令とする。
第十九条 主務大臣は、前章の規定による処分をしようとするときは、外務大臣、環境大臣その他の関係行政機関の長に協議しなければならない。
(政令等への委任)
第二十条 この法律の規定に基づき政令又は主務省令を制定し、又は改廃する場合においては、その政令又は主務省令で、その制定又は改廃に伴い合理的に必要と判断される範囲内において、所要の経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)を定めることができる。
第五章 罰則
第二十一条 第三条の規定に違反した者は、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれらを併科する。
第二十二条 次の各号のいずれかに該当する者は、千万円以下の罰金に処する。
一 第五条の規定に違反した者
二 第八条の規定により付された制限又は条件に違反した者
三 第十条第一項の規定による命令に違反した者
第二十三条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関して、前二条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対し、各本条の罰金刑を科する。
第二十四条 第二十二条の罪に係る訴訟の第一審の裁判権は、地方裁判所にも属する。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(経過措置)
第二条 この法律の施行の日(以下「施行日」という。)前に我が国が国連海洋法条約第二百四十六条2の同意をその計画について与えた特定調査であって施行日において終了していないものについては、第九条中「第五条の許可」とあるのは「国連海洋法条約第二百四十六条2に基づく我が国の同意」と、第十条第一項第一号中「第五条の許可に係る計画(前条の規定により変更されたものを含む。第十三条第二項において「許可に係る計画」という。)」とあるのは「国連海洋法条約第二百四十八条の規定に基づいて提供された情報であって我が国の同意の基礎となったもの(附則第二条第一項の規定により読み替えて適用される前条の規定により当該調査の計画の変更が許可された場合には、変更後の計画についての情報であって我が国の同意の基礎となったもの及び当該許可の基礎となったもの)」と、同項第二号中「第八条の規定により付された制限若しくは条件(同条の規定により変更されたものを含む。以下同じ。)」とあるのは「国連海洋法条約第二百四十九条の規定」と、第十三条第二項中「特定調査が許可に係る計画の主要な部分を逸脱している場合又は第十条第一項」とあるのは「特定調査について国連海洋法条約第二百四十八条の規定の不履行であって海洋の科学的調査の計画若しくは活動の主要な変更に相当するものがあった場合又は附則第二条第一項の規定により読み替えて適用される第十条第一項」として、これらの規定を適用し、第二十二条の規定は、適用しない。
2 施行日前に我が国に対しされた海洋の科学的調査について国連海洋法条約第二百四十六条2の同意を求める旨の申出であって施行日において我が国から当該調査の計画について同意を与える旨又は与えない旨の通知が当該申出をした者に対してされていないもの(国連海洋法条約第二百四十七条の規定により許可が与えられたものとみなされた海洋の科学的調査又は国連海洋法条約第二百五十二条の規定により計画を進めることができるものとされた海洋の科学的調査に係るものを除く。)は、第七条の規定によりされた許可の申請とみなす。
第三条 前条に規定するもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。
(文部科学省設置法の一部改正)
第四条 文部科学省設置法(平成十一年法律第九十六号)の一部を次のように改正する。
第四条第六十一号の次に次の一号を加える。
六十一の二 外国人が行う海洋の科学的調査の管理に関すること。
(農林水産省設置法の一部改正)
第五条 農林水産省設置法(平成十一年法律第九十八号)の一部を次のように改正する。
第四条第七十号の次に次の一号を加える。
七十の二 外国人が行う海洋の科学的調査の管理に関すること。
(経済産業省設置法の一部改正)
第六条 経済産業省設置法(平成十一年法律第九十九号)の一部を次のように改正する。
第四条第一項第四十八号の次に次の一号を加える。
四十八の二 外国人が行う海洋の科学的調査の管理に関すること。
理 由
我が国の海洋権益をめぐる情勢にかんがみ、排他的経済水域等における我が国の権益を確保するとともに、外国人が行う海洋の科学的調査を適切に管理するため、排他的経済水域等における天然資源の探査及び海洋の科学的調査に関する国連海洋法条約に定める主権的権利その他の権利の行使について所要の規定を整備する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。