衆議院

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第一七四回

衆第七号

   低炭素社会づくり推進基本法案

目次

 前文

 第一章 総則(第一条−第十七条)

 第二章 中長期的な目標(第十八条)

 第三章 低炭素社会づくり国家戦略(第十九条・第二十条)

 第四章 基本的施策

  第一節 国の施策(第二十一条−第三十一条)

  第二節 地方公共団体の施策(第三十二条)

 第五章 低炭素社会づくり特別行動期間

  第一節 通則(第三十三条)

  第二節 低炭素社会づくり特別行動期間に係る施策(第三十四条−第五十三条)

 第六章 低炭素社会づくりを推進するための体制の整備(第五十四条)

 附則

 人間の活動に伴って排出される温室効果ガスの大気中の濃度の上昇が続いており、最新の科学的知見によれば、地球温暖化が進行した場合には、自然環境、人の生命及び健康並びに経済社会に及ぼす影響が深刻化する可能性が高いことが指摘されている。地球温暖化は、人類の存続の基盤を揺るがす安全保障の問題であり、その防止は人類共通の課題である。

 地球温暖化を防止するためには、すべての主要な経済国が参加する衡平かつ実効的な国際的枠組みの構築が不可欠である。我が国は、世界全体の温室効果ガスの排出の量の削減等を図るため、国際的枠組みに基づき、自ら低炭素社会づくりを確実に進めていくとともに、世界最高水準の環境・エネルギー技術等を生かして世界に貢献していく。

 低炭素社会づくりは、地球温暖化の防止に加え、新たな産業及び雇用の機会の創出、エネルギーの分野における安全保障等に寄与し得るものであるとの認識に立ち、国民一人一人が高い意識を持って、進めていく必要がある。

 我が国古来の自然と共生する文化やもったいないの精神に裏打ちされた生活様式等を生かして、環境・エネルギー技術を生かした製品等の生産及び普及、革新的な技術の研究開発の促進、産業構造、社会システム及び生活様式の変革等により、地球環境の保全と経済社会の持続的な発展との両立を図りつつ、自然と共生する社会及び循環型社会を構築するとともに、世界最先端の低炭素社会を実現することが必要である。

 ここに、低炭素社会づくりについての基本理念を明らかにしてその方向性を示し、関連する施策を長期的、総合的かつ計画的に推進するため、この法律を制定する。

   第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、地球温暖化が地球環境並びに人の生命及び健康に深刻な影響を及ぼすものであること、世界最先端の低炭素社会を実現することが国民の利益の増進に寄与すること、低炭素社会づくりに当たっては、地球環境の保全と経済社会の持続的な発展とが共に進むように取り組むことが重要であること、及び我が国が世界全体の温室効果ガスの排出の量の削減等に貢献することが重要であることにかんがみ、低炭素社会づくりについて、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体、事業者、独立行政法人等、国民及び民間の団体の責務を明らかにするとともに、中長期的な目標の設定、低炭素社会づくり国家戦略の策定その他の低炭素社会づくりに関する施策の基本となる事項を定めることにより、低炭素社会づくりに関する施策を長期的、総合的かつ計画的に推進し、もって地球環境の保全に寄与するとともに、我が国及び世界の経済社会の持続的な発展並びに人類の福祉に貢献することを目的とする。

 (定義)

第二条 この法律において「地球温暖化」とは、人の活動に伴って発生する温室効果ガスが大気中の温室効果ガスの濃度を増加させることにより、地球全体として、地表及び大気の温度が追加的に上昇する現象をいう。

2 この法律において「低炭素社会」とは、環境・エネルギー技術を生かした製品等の生産及び普及、革新的な技術の研究開発の促進、産業構造、社会システム及び生活様式の変革等により、大気中の温室効果ガスの濃度が一定の水準で安定化するとともに、安定化するまでの間になお避けることができない地球温暖化の影響による被害が最小となるよう、温室効果ガスの排出の量の削減、温室効果ガスの吸収作用の保全及び強化並びに地球温暖化に対する適応(以下「温室効果ガスの排出の量の削減等」という。)が行われ、もって創造的で活力ある持続的な発展が可能となる社会をいい、「低炭素社会づくり」とは、低炭素社会を形成することをいう。

3 この法律において「温室効果ガス」とは、次に掲げる物質をいう。

 一 二酸化炭素

 二 メタン

 三 一酸化二窒素

 四 ハイドロフルオロカーボンのうち政令で定めるもの

 五 パーフルオロカーボンのうち政令で定めるもの

 六 六ふっ化硫黄

4 この法律において「温室効果ガスの排出」とは、人の活動に伴って発生する温室効果ガスを大気中に排出し、放出し若しくは漏出させ、又は他人から供給された電気若しくは熱(燃料又は電気を熱源とするものに限る。)を使用することをいう。

5 この法律において「温室効果ガスの吸収作用」とは、植物の光合成等を通じて温室効果ガスを大気中から除去する作用をいう。

6 この法律において「地球温暖化に対する適応」とは、地球温暖化が生態系、人の生命若しくは健康又は生活環境(人の生活に密接な関係のある財産を含む。)、経済社会等に及ぼす影響による被害の防止又は軽減を図ることをいう。

 (すべての者による適切な役割分担等の下での取組等の促進)

第三条 低炭素社会づくりは、国、地方公共団体、事業者、国民等の適切な役割分担と適正かつ公平な負担の下に、かつ、各々の理解及び取組を促進することにより、行われなければならない。

 (科学的知見及び予防原則に基づく低炭素社会づくりの推進)

第四条 低炭素社会づくりは、最新の科学的知見及び予防原則に基づき、中長期的な目標及び低炭素社会の在り方を定めた上で、総合的かつ計画的に行われなければならない。

 (多様な国民の利益の増進への寄与)

第五条 低炭素社会づくりは、そのための取組が、地球温暖化の防止及びその影響による被害の防止又は軽減に加え、新たな産業及び雇用の機会の創出、産業の国際競争力の強化、地域の活性化、エネルギー自給率の向上、国民の健康の保持その他の多様な国民の利益の増進に寄与し得るという認識の下、地球環境の保全と経済社会の持続的な発展との両立を図りつつ、行われなければならない。

 (施策の有機的連携及び多様な措置の適切な組み合わせによる対策の推進)

第六条 低炭素社会づくりは、温室効果ガスの排出の量の削減等に関する施策が一体的、効果的かつ効率的に実施されるよう、施策相互の有機的な連携を図るとともに、多様な措置を適切に組み合わせることにより、行われなければならない。

 (地球温暖化に対する適応のための対策の推進)

第七条 低炭素社会づくりは、地球温暖化に対する適応のための対策を総合的かつ計画的に推進することにより、行われなければならない。

 (国際的枠組みの構築及び国際協力の推進)

第八条 低炭素社会づくりは、温室効果ガスを大量に排出するすべての主要な経済国(以下「主要経済国」という。)が参加する衡平かつ実効的な国際的枠組みの構築を図るとともに、国際協力を積極的に推進することにより、行われなければならない。

 (経済の持続的な発展及びエネルギーの安定的な供給の確保への配慮)

第九条 低炭素社会づくりは、経済の持続的な発展及びエネルギーの安定的な供給の確保に配慮しつつ、行われなければならない。

 (国の責務)

第十条 国は、世界全体の温室効果ガスの排出の量の削減等を図るため、主要経済国が参加する衡平かつ実効的な国際的枠組みの構築に向けた取組を推進する責務を有する。

2 国は、第三条から前条までに定める低炭素社会づくりについての基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、低炭素社会づくりに関する基本的かつ総合的な施策を策定し、及び実施する責務を有する。

3 国は、地方公共団体、事業者、第十三条第一項の独立行政法人等、国民又は民間の団体が行う低炭素社会づくりに関する取組の効果が最大限に発揮されるよう、情報の提供その他の必要な措置を講ずる責務を有する。

 (地方公共団体の責務)

第十一条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、低炭素社会づくりに関し、地方公共団体相互の広域的な連携を図りつつ、国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

2 地方公共団体は、その区域の事業者、住民又は民間の団体が行う低炭素社会づくりに関する取組の効果が最大限に発揮されるよう、情報の提供その他の必要な措置を講ずる責務を有する。

 (事業者の責務)

第十二条 事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動を行うに当たっては、製品の製造、輸入、輸出若しくは販売又は役務若しくはエネルギーの提供等に係る温室効果ガスの排出の量の削減等のための措置(他の者の温室効果ガスの排出の量の削減等に寄与するための措置を含む。)を講ずるとともに、国及び地方公共団体が実施する低炭素社会づくりに関する施策に協力する責務を有する。

2 事業者は、前項に規定する措置の実施状況等に関する情報の提供を行う責務を有する。

 (独立行政法人等の責務)

第十三条 独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。)及び特殊法人(法律により直接に設立された法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人であって、総務省設置法(平成十一年法律第九十一号)第四条第十五号の規定の適用を受けるものをいう。)(以下「独立行政法人等」という。)は、基本理念にのっとり、自らの事務及び事業に関し、温室効果ガスの排出の量の削減等のための措置(他の者の温室効果ガスの排出の量の削減等に寄与するための措置を含む。)を講ずるとともに、国及び地方公共団体が実施する低炭素社会づくりに関する施策に協力する責務を有する。

2 独立行政法人等は、前項に規定する措置の実施状況等に関する情報の提供を行う責務を有する。

 (国民及び民間の団体の責務)

第十四条 国民は、基本理念にのっとり、その日常生活において、温室効果ガスの排出の量の削減等に資する製品、役務及びエネルギーを選択すること等の温室効果ガスの排出の量の削減等のための措置(他の者の温室効果ガスの排出の量の削減等に寄与するための措置を含む。)を講ずる責務を有する。

2 国民及び民間の団体は、基本理念にのっとり、低炭素社会づくりに関する活動を自ら行うとともに、国及び地方公共団体が実施する低炭素社会づくりに関する施策に協力する責務を有する。

 (相互の連携及び協力)

第十五条 国、地方公共団体、事業者、独立行政法人等、国民及び民間の団体は、低炭素社会づくりに関し、相互に、その果たす役割を理解するとともに、適正かつ公平な負担の下に、連携を図りながら協力して取り組むものとする。

 (クールアース・デー)

第十六条 事業者、国民等の間に広く低炭素社会づくりについての関心と理解を深めるとともに、積極的に低炭素社会づくりに関する活動を行う意欲を高めるため、クールアース・デーを設ける。

2 クールアース・デーは、七月七日とする。

3 国及び地方公共団体は、クールアース・デーの趣旨にふさわしい事業を実施するように努めなければならない。

 (法制上の措置等)

第十七条 政府は、低炭素社会づくりに関する施策を実施するため必要な法制上、財政上、税制上又は金融上の措置その他の措置を講じなければならない。

   第二章 中長期的な目標

第十八条 国は、温室効果ガスの排出量に関する長期的な目標として、世界全体の一年間の温室効果ガスの排出量を、二千五十年(平成六十二年)までに、二千五年(平成十七年)における温室効果ガスの排出量からその百分の五十に相当する量以上を削減した量にすることを目指し、主要経済国の参加の下、我が国の一年間の温室効果ガスの排出量を、二千五十年(平成六十二年)までに、二千五年(平成十七年)における温室効果ガスの排出量からその百分の八十に相当する量を削減した量にし、それ以後においてもその量を上回らないようにしなければならない。

2 国は、国際交渉による合意に基づき、温室効果ガスの排出量及び吸収量に関する中期的な目標を設定するものとする。この場合において、当該排出量に係る目標のうち国内における温室効果ガスの排出の削減に係るものについては、当該一年間の温室効果ガスの排出量を、二千二十年(平成三十二年)までに、二千五年(平成十七年)における温室効果ガスの排出量からその百分の十五に相当する量を削減した量にし、それ以後においてもその量を上回らないようにするものとする。

   第三章 低炭素社会づくり国家戦略

 (低炭素社会づくり国家戦略)

第十九条 政府は、低炭素社会づくりを我が国の経済社会の発展の重要な基盤の一つとして位置付けるとともに、低炭素社会づくりに関する施策の長期的、総合的かつ計画的な推進を図るため、速やかに、低炭素社会づくりに関する基本的な計画(以下「低炭素社会づくり国家戦略」という。)を定めなければならない。

2 低炭素社会づくり国家戦略は、次に掲げる事項について定めるものとする。

 一 低炭素社会の在り方

 二 低炭素社会づくりに関する施策についての基本的な方針

 三 前条第一項の目標を達成するための中間的な年次における目標

 四 前条の目標を達成するために必要な措置の実施に関する目標

 五 前号の目標を達成するために必要な国及び地方公共団体の施策に関する事項

 六 前各号に掲げるもののほか、低炭素社会づくりに関する施策を長期的、総合的かつ計画的に推進するために必要な事項

3 内閣総理大臣は、低炭素社会づくり国家戦略の案につき閣議の決定を求めなければならない。

4 内閣総理大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、低炭素社会づくり国家戦略を国会に報告するとともに、インターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならない。

5 政府は、おおむね五年ごとに、及び必要に応じ、低炭素社会づくり国家戦略に検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更しなければならない。

6 第三項及び第四項の規定は、低炭素社会づくり国家戦略の変更について準用する。

 (低炭素社会づくり国家戦略と国の他の施策との関係)

第二十条 低炭素社会づくり国家戦略以外の国の施策は、低炭素社会づくりに関しては、当該施策の目的の達成との調和を図りつつ、低炭素社会づくり国家戦略を基本とするものとする。

   第四章 基本的施策

    第一節 国の施策

 (規制措置、経済的措置、自主的な取組の促進に関する措置及び情報の提供に関する措置の適切な組合せによる施策の実施)

第二十一条 国は、温室効果ガスの排出の量の削減等を効果的かつ効率的に行うため、規制措置、経済的措置、自主的な取組の促進に関する措置及び情報の提供に関する措置を適切に組み合わせることにより、低炭素社会づくりに関する施策を実施するものとする。

 (国の施策の策定に当たっての配慮)

第二十二条 国は、温室効果ガスの排出等に影響を及ぼすと認められる施策を策定するに当たっては、低炭素社会づくりについて配慮しなければならないものとする。

 (国の率先実行)

第二十三条 国は、自らの事務及び事業に関し、温室効果ガスの排出の量の削減等を図るため、率先して温室効果ガスの排出の量の削減等に資する製品、役務及びエネルギーの利用、緑化の推進その他の必要な措置を講ずるものとする。

2 国は、前項に規定する措置を最大限に講じてもなお排出される温室効果ガスの排出の量について、当該措置を補完するものとして、国内におけるカーボン・オフセット(自らの温室効果ガスの排出の量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出の量の全部又は一部について、他の者の活動により削減され又は吸収された温室効果ガスの量に対し対価を支払うこと等により、当該削減又は吸収の量をもって相殺する仕組みをいう。以下同じ。)の利用その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

 (利用可能な技術の普及及び革新的な技術の研究開発の促進)

第二十四条 国は、温室効果ガスの排出の量の削減等に資する利用可能な技術の最大限の普及を図るとともに、革新的な技術の研究開発の促進その他の必要な措置を講ずるものとする。

 (環境教育の振興等)

第二十五条 国は、事業者、国民等が低炭素社会づくりについての理解を深めるとともに、これらの者の低炭素社会づくりに関する活動を行う意欲が増進され、その活動が自発的に行われるよう、環境の保全に関する教育及び学習(以下「環境教育」という。)の振興、広報活動の充実その他の必要な措置を講ずるものとする。

 (統計の整備等)

第二十六条 国は、温室効果ガスの排出及び吸収の量の状況、低炭素社会づくりのために必要な措置の進捗状況等の低炭素社会づくりに関する統計の整備及び充実、集計及びその結果の迅速な公表その他の必要な措置を講ずるものとする。

 (科学的知見の充実等)

第二十七条 国は、大気中における温室効果ガスの濃度変化の状況並びにこれに関連する気候の変動及び生態系の状況等を把握するための観測及び監視の推進、地球温暖化の影響による被害及び温室効果ガスの排出の量の削減等に関する措置の実施が経済社会、国民生活等に及ぼす効果又は影響に関する分析等の低炭素社会づくりに関する研究の推進、試験研究の体制の整備、研究者の養成その他の必要な措置を講ずるものとする。

 (各分野等における施策の推進及び連携の強化)

第二十八条 国は、エネルギーの需給、工場又は事業場、建築物、機械器具、交通、社会資本の整備、都市及び地域づくり、農林水産その他の各分野等における施策について、当該施策の目的の達成との調和を図りつつ、施策相互の有機的な連携の下に、温室効果ガスの排出の量の削減等を促進するために必要な措置を講ずるものとする。

 (温室効果ガスの吸収作用の保全及び強化)

第二十九条 国は、温室効果ガスの吸収作用の保全及び強化を図るため、森林の整備及び保全、緑地の保全及び緑化の推進、農地の管理、海洋における対策その他の必要な措置を講ずるものとする。

 (地球温暖化に対する適応のための対策の推進)

第三十条 国は、地球温暖化に対する適応のための対策を推進するため、生物の多様性の保全、国民の生命及び健康の保持、生活環境の保全、農林漁業の生産力の維持、社会資本の整備、災害による被害の防止その他の必要な措置を総合的かつ計画的に講ずるものとする。

 (国際社会の取組への寄与)

第三十一条 国は、世界全体の温室効果ガスの排出の量の削減等を図るため、国際的枠組みの構築及びその下での取組の実施、国際協力の推進その他の必要な措置を講ずるものとする。

    第二節 地方公共団体の施策

第三十二条 地方公共団体は、前節に定める国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の区域の自然的社会的条件に応じた低炭素社会づくりのために必要な施策を、これらの総合的かつ計画的な推進を図りつつ実施するものとする。

   第五章 低炭素社会づくり特別行動期間

    第一節 通則

第三十三条 政府は、早期に低炭素社会を実現することが、地球温暖化の防止及びその影響による被害の防止又は軽減に加え、新たな産業及び雇用の機会の創出、産業の国際競争力の強化、地域の活性化等の国民の利益の増進を図る上で重要であること並びに地方公共団体、事業者、国民等による低炭素社会づくりに関する先進的な取組の促進及びその支援等が必要であることにかんがみ、この法律の施行後十年間を、低炭素社会づくりのための特別行動期間とし、当該期間内に、次節に定める施策について、検討を行い、その結果に基づき、必要な措置を講ずるものとする。

    第二節 低炭素社会づくり特別行動期間に係る施策

 (再生可能エネルギーの需給の拡大)

第三十四条 政府は、二千二十年(平成三十二年)を目途に最終エネルギー消費(エネルギーの生産から消費までの一連の行程において最終段階で消費されるエネルギーをいう。)の量の百分の二十に相当する量を再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱、空気中の熱、水力、バイオマスその他のエネルギー源のうち、永続的に利用することができるものを利用して得られる電気、熱又は燃料をいう。以下同じ。)とすることを目指し、再生可能エネルギーの供給に関する目標を設定し、再生可能エネルギーの利用に要する費用の円滑かつ適正な転嫁についての国民の理解と協力の下、電気事業者による再生可能エネルギーの利用の促進、固定価格買取制度(再生可能エネルギーのうち電気について一定の期間一定の価格で電気事業者に買い取らせる制度をいう。)の拡充、電力系統の高度化の促進等を通じて再生可能エネルギーの供給を拡大するとともに、国又は地方公共団体が設置する庁舎、学校、病院その他の建築物における再生可能エネルギーの利用の推進、住宅、事務所、店舗、工場その他の建築物における再生可能エネルギーの利用の促進、地域における再生可能エネルギーの利用に対する地域住民等による投資の支援等を通じて再生可能エネルギーの需要を増進する。

 (原子力発電の促進)

第三十五条 政府は、発電の過程で二酸化炭素を排出しない原子力発電施設等についてその安全が確保されることを前提として、自らも関与しつつ、原子力発電施設の設備の利用率を向上させ、並びに原子力発電施設の新設及び増設を促進するとともに、核燃料サイクルの確立及び高速増殖炉サイクルの早期の実用化を目指す。

 (石炭火力発電に係る温室効果ガスの排出の抑制)

第三十六条 政府は、電気の安定的な供給を確保しつつ、クリーンコール技術(石炭の利用に伴う温室効果ガスの排出その他の環境への負荷を抑制し、その有効かつ適切な利用を図るための技術をいう。)の活用の推進、世界最高水準の発電効率の維持又は向上等を図ることにより、石炭火力発電に係る温室効果ガスの排出の一層の抑制に努めることを促すとともに、石炭ガス化複合発電、二酸化炭素の回収及び貯留等に係る技術の開発を促進する。

 (工場又は事業場、建築物、電気機械器具及び輸送用機械器具の低炭素化)

第三十七条 政府は、工場又は事業場、建築物、日常生活において利用する電気機械器具及び自動車等の輸送用機械器具に係る温室効果ガスの排出の量の削減等を促進するため、エネルギーの使用の合理化、温室効果ガスの排出の量の削減等に資する製品、役務及びエネルギーの利用の促進、機械器具等の使用の方法の改善、事業者相互の連携による対策の促進、既存の建築物の改善、質の高い建築物の長期的な利用の促進等を図るための措置を拡充するとともに、温室効果ガスの排出の量の削減等に資する建築物、機械器具等の普及を促進する。

 (交通分野の対策の促進)

第三十八条 政府は、単位輸送量当たりの温室効果ガスの排出の量がより少ない燃料等の利用の促進、電気自動車等に係るエネルギーの供給設備等の整備等により、自動車の利用に伴う温室効果ガスの排出の量の削減を促進するとともに、鉄道、船舶等による物資の流通の促進、公共交通機関の利用者の利便の増進、歩道及び自転車道の整備等により、モーダルシフト(自動車から温室効果ガスの排出の量がより少ない交通手段への転換をいう。)を促進する。

 (グリーンITの利用の促進)

第三十九条 政府は、情報通信システムの利用に伴う温室効果ガスの排出の量の削減を促進するとともに、情報通信技術の利用により、エネルギーの使用、人の往来及び物資の流通並びに物資の生産及び消費の合理化等を促進する。

 (低炭素型の都市及び地域づくりの推進)

第四十条 政府は、都市計画、農業振興地域整備計画その他の土地利用に関する施策に低炭素社会づくりに関する施策を位置付けるとともに、地域全体の温室効果ガスの排出の量の削減等と地域の活性化とを共に実現することができるよう、中心市街地への不必要な又は急を要しない自動車の乗入れの抑制、公共交通機関を中心とした集約型の都市構造の構築、エネルギーの共同利用、廃熱の回収利用、緑地の保全及び緑化の推進等により、先進的な都市及び地域づくりを推進する。

 (代替フロン等三ガスに係る対策の推進)

第四十一条 政府は、代替フロン等三ガス(第二条第三項第四号から第六号までに掲げる物質をいう。)の適正かつ確実な回収及び破壊、生産及び使用の抑制に資する代替する物質の開発並びに使用可能な代替する物質を使用した製品の普及により、その排出の量の削減を促進する。

 (森林等による温室効果ガスの吸収作用の保全及び強化の推進並びにバイオマスの利用等の促進)

第四十二条 政府は、間伐等の実施による森林等の適正な整備及び保全を推進し、並びに国産の木材等を利用した住宅及び公共の建築物等の普及並びに間伐された木材及び下水汚泥等の未利用の又は利用の程度が低いバイオマスの有効な利用を促進するとともに、農林水産物の生産、流通、加工等に伴う温室効果ガスの排出の量の削減等を促進する。

 (税制のグリーン化の推進)

第四十三条 政府は、低炭素化を促進する観点から、国民経済及び産業の国際競争力に与える影響等を踏まえつつ、経済社会及び国民の生活行動の変化を招来するよう、税制全体の一層のグリーン化(環境への負荷の低減に資するための見直しをいう。)を推進する。

 (国内排出量取引に係る方針の決定)

第四十四条 政府は、国内における温室効果ガスの排出量取引に係る試行的実施の状況の評価を踏まえて、対応についての方針を決定し、当該方針に基づき、必要な措置を講ずるものとする。

 (事業活動に係る温室効果ガスの排出の量等の情報の開示の促進)

第四十五条 政府は、低炭素社会づくりに配慮した事業活動が経済社会の幅広い主体から評価されるよう、温室効果ガスの排出の量その他の事業活動に伴って排出する温室効果ガスに係る情報の開示を促進する。

 (製品等に係る温室効果ガスの排出の量の算定方法の確立等)

第四十六条 政府は、製品の製造から輸送、利用及び廃棄に至る一連の国の内外における行程並びに役務に係る温室効果ガスの排出の量並びに他の者の温室効果ガスの排出の量の削減等に対する寄与の程度の算定及び表示の方法等を確立し、その方法の国際的な標準への反映を図るとともに、温室効果ガスの排出の量の削減等に資する製品、役務及びエネルギーの購入及び利用並びに温室効果ガスの排出の量の削減等に配慮した契約を推進する。

 (カーボン・オフセットの推進)

第四十七条 政府は、カーボン・オフセットに係る削減され又は吸収された温室効果ガスの量の算定、認証等に関する基準を設定するとともに、その利用に必要な情報の提供等により、カーボン・オフセットの利用を促進する。

 (事業者による取組の促進)

第四十八条 政府は、温室効果ガスの排出の量の削減等に資する新たな事業の創出を促進するとともに、中小企業者、農林水産業者等が行う温室効果ガスの排出の量の削減等に資する施設又は設備の設置又は整備その他の取組への投融資等を促進する。

 (革新的な技術の研究開発及び普及の促進)

第四十九条 政府は、太陽光発電装置、蓄電池、電力系統、燃料電池、鉄鋼の製造、自動車、情報通信等に係る温室効果ガスの排出の量の削減等に著しい効果を有する革新的な技術の計画的な研究開発及び普及を促進する。

 (環境教育の推進)

第五十条 政府は、家庭、学校、職場、地域その他のあらゆる場における環境教育の充実が図られるよう、教材の開発、人材の育成、環境に配慮した学校施設及び学習環境の整備等を促進する。

 (国民運動の推進)

第五十一条 政府は、地球温暖化の状況、事業活動及び日常生活に伴う温室効果ガスの排出の状況、その排出の量の削減等に有効な取組等に関する情報の提供並びに事業者、国民等による協働の取組の促進等により、事業者、国民等の間に、低炭素社会づくりについての関心と理解を深めるとともに、国民一人一人の自主的な行動による低炭素社会づくりに関する国民運動の展開を促進する。

 (地球温暖化に対する適応策の推進)

第五十二条 政府は、地球温暖化の影響に関する観測及び監視の体制を強化するとともに、生物多様性の保全、感染症等の予防、農作物の品種改良、洪水、高潮、渇水、干ばつ、土砂災害等による被害の防止等の地球温暖化に対する適応のための対策を総合的かつ計画的に推進する。

 (低炭素社会づくりのための国際貢献)

第五十三条 政府は、低炭素社会づくりに関する国際的枠組みづくりを主導するとともに、この枠組みに責任を共有して参加する開発途上地域の温室効果ガスの排出の量の削減等に寄与するよう、技術協力及び資金供与、社会資本整備、人材育成等に係る協力を推進する。

   第六章 低炭素社会づくりを推進するための体制の整備

第五十四条 低炭素社会づくり国家戦略を長期的、総合的かつ計画的に実施するため、別に法律で定めるところにより、政府に、低炭素社会づくり国家戦略推進本部を設置するものとする。

2 前項の低炭素社会づくり国家戦略推進本部の名称については、同項の法律においてこれと異なるものとすることを妨げない。

   附 則

 (施行期日)

第一条 この法律は、公布の日から起算して一月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

 (検討)

第二条 政府は、地球温暖化に関する科学的知見の充実の程度、地球温暖化の影響による被害の状況、経済社会の動向、低炭素社会づくりに関する国際的動向等を勘案しつつ、この法律の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

 (地球温暖化対策の推進に関する法律の一部改正)

第三条 地球温暖化対策の推進に関する法律(平成十年法律第百十七号)の一部を次のように改正する。

  目次中「吸収作用」を「温室効果ガスの吸収作用」に改める。

  第二条第一項を次のように改める。

   この法律において「地球温暖化」、「温室効果ガス」、「温室効果ガスの排出」及び「温室効果ガスの吸収作用」の意義は、それぞれ低炭素社会づくり推進基本法(平成二十二年法律第▼▼▼号)第二条第一項、第三項、第四項及び第五項に規定する当該用語の意義による。

  第二条第二項中「吸収作用」を「温室効果ガスの吸収作用」に改め、同条第三項及び第四項を削り、同条第五項を同条第三項とし、同条第六項を同条第四項とする。

  第三条第三項中「吸収作用」を「温室効果ガスの吸収作用」に、同条第四項中「前条第六項第三号及び第四号」を「前条第四項第三号及び第四号」に改める。

  第四条第二項及び第二十条の二第一項中「吸収作用」を「温室効果ガスの吸収作用」に改める。

  第二十条の三第一項中「吸収作用」を「温室効果ガスの吸収作用」に改め、同条第三項第一号中「エネルギー」を「エネルギー源」に改める。

  第五章の章名中「吸収作用」を「温室効果ガスの吸収作用」に改める。

  第三十一条第三項第二号中「第二条第六項各号」を「第二条第四項各号」に改める。

 (農業協同組合法等の一部改正)

第四条 次に掲げる法律の規定中「第二条第六項」を「第二条第四項」に改める。

 一 農業協同組合法(昭和二十二年法律第百三十二号)第十条第六項第十三号

 二 金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第八十七条の二第一項ただし書

 三 中小企業等協同組合法(昭和二十四年法律第百八十一号)第九条の八第二項第十七号

 四 信用金庫法(昭和二十六年法律第二百三十八号)第五十三条第三項第十三号

 五 長期信用銀行法(昭和二十七年法律第百八十七号)第六条第二項第三号

 六 労働金庫法(昭和二十八年法律第二百二十七号)第五十八条第二項第十八号

 七 銀行法(昭和五十六年法律第五十九号)第十条第二項第十四号

 八 保険業法(平成七年法律第百五号)第九十八条第一項第八号

 九 農林中央金庫法(平成十三年法律第九十三号)第五十四条第四項第十六号

 十 株式会社商工組合中央金庫法(平成十九年法律第七十四号)第二十一条第四項第十八号

 十一 商品取引所法及び商品投資に係る事業の規制に関する法律の一部を改正する法律(平成二十一年法律第七十四号)第二条中商品取引所法(昭和二十五年法律第二百三十九号)第三条にただし書を加える改正規定

 (特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律の一部改正)

第五条 特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律(平成十三年法律第六十四号)の一部を次のように改正する。

  第一条中「地球温暖化対策の推進に関する法律(平成十年法律第百十七号)」を「低炭素社会づくり推進基本法(平成二十二年法律第▼▼▼号)」に改める。

  第二条第一項中「地球温暖化対策の推進に関する法律」を「低炭素社会づくり推進基本法」に改める。

 (独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構法の一部改正)

第六条 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構法(平成十四年法律第百四十五号)の一部を次のように改正する。

  第十五条第二項第二号中「地球温暖化対策の推進に関する法律(平成十年法律第百十七号)」を「低炭素社会づくり推進基本法(平成二十二年法律第▼▼▼号)」に改める。


     理 由

 地球温暖化が地球環境並びに人の生命及び健康に深刻な影響を及ぼすものであること、世界最先端の低炭素社会を実現することが国民の利益の増進に寄与すること、低炭素社会づくりに当たっては、地球環境の保全と経済社会の持続的な発展とが共に進むように取り組むことが重要であること、及び我が国が世界全体の温室効果ガスの排出の量の削減等に貢献することが重要であることにかんがみ、低炭素社会づくりに関する施策を長期的、総合的かつ計画的に推進するため、低炭素社会づくりについて、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体、事業者、独立行政法人等、国民及び民間の団体の責務を明らかにするとともに、中長期的な目標の設定、低炭素社会づくり国家戦略の策定その他の低炭素社会づくりに関する施策の基本となる事項を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

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