衆議院

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第一八九回

衆第二七号

   領域等の警備に関する法律案

 (目的)

第一条 この法律は、警察機関及び自衛隊が事態に応じて適切な役割分担の下で迅速に行動できるようにするため、領域警備基本方針の策定、領域警備区域における自衛隊の行動及び権限その他の必要な事項について定めることにより、領域等における公共の秩序を維持し、もって国民の安全の確保に資することを目的とする。

 (定義)

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

 一 領海等 我が国の領海及びその周辺の政令で定める海域をいう。

 二 離島等 国境周辺の離島その他の政令で定める陸域をいう。

 三 領空 我が国の領域の上空をいう。

 四 領域等 領海等及び離島等並びに領空をいう。

 五 警察機関 警察及び海上保安庁をいう。

 六 領域警備区域 第五条第一項の規定により指定された区域をいう。

 (基本原則)

第三条 領海等及び離島等における公共の秩序の維持のための活動は、警察機関をもって行うことを基本とし、警察機関をもっては公共の秩序を維持することができないと認められる事態が発生した場合には、自衛隊が、警察機関との適切な役割分担を踏まえて、当該事態に対処するものとする。

2 領空における公共の秩序の維持のための活動は、自衛隊をもって行うことを基本とする。

3 警察機関、自衛隊その他の関係行政機関は、領域等における公共の秩序の維持に関し、必要かつ十分な体制を維持しつつ、正確な情報を共有する等相互に緊密な連携を図りながら協力しなければならない。

4 この法律の施行に当たっては、関係行政機関の活動により事態が更に緊迫することのないよう留意するとともに、この法律に基づき実施する措置は、対処することが必要な行為に対して均衡のとれた対抗措置として相当と認められる範囲内において行われなければならない。

5 この法律の施行に当たっては、我が国が締結した条約その他の国際約束の誠実な履行を妨げることがないよう留意するとともに、確立された国際法規を遵守しなければならない。

 (領域警備基本方針)

第四条 政府は、五年を一期として、領域等の警備に関する基本的な方針(以下「領域警備基本方針」という。)を定めるものとする。

2 領域警備基本方針に定める事項は、次のとおりとする。

 一 領域等の警備に関する基本的な事項

 二 警察機関の能力強化のための基本的な事項

 三 警察機関、自衛隊その他領海等及び離島等における公共の秩序の維持に当たる関係機関の連携に関する基本的な事項

 四 領域警備区域に関する通則的事項

  イ 領域警備区域において実施する活動の基本となる事項

  ロ 自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第七十八条第一項及び第八十一条第二項に規定する出動(以下「治安出動」という。)並びに同法第八十二条に規定する行動(以下「海上警備行動」という。)の手続に関する事項

 五 領域警備区域ごとに実施する活動で前号イのほかに実施するものがある場合は、その旨

 六 自衛隊法第八十四条に規定する措置に関する事項

3 内閣総理大臣は、領域警備基本方針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。

4 内閣総理大臣は、前項の閣議の決定があったときは、領域警備基本方針に定められた部隊等(自衛隊法第八条の部隊等をいう。)が実施する第二項第四号又は第五号に係る活動の実施前に、当該領域警備基本方針につき、国会の承認を得なければならない。ただし、国会が閉会中の場合又は衆議院が解散されている場合には、その後最初に召集される国会において、速やかに、その承認を求めなければならない。

5 内閣総理大臣は、第三項の閣議の決定があったときは、直ちに、領域警備基本方針を公示してその周知を図らなければならない。

6 内閣総理大臣は、第四項の規定に基づく領域警備基本方針の承認があったときは、直ちに、その旨を公示しなければならない。

7 第四項ただし書の規定に基づく場合において不承認の議決があったときは、領域警備区域に係る自衛隊の行動(第七条第一項の措置並びに第十条の適用を受けて行われる治安出動及び海上警備行動に限る。)は、速やかに、終了されなければならない。

8 第三項、第五項及び第六項の規定は、領域警備基本方針の変更について準用する。

9 前項に規定するほか、内閣総理大臣は、領域警備基本方針を変更する場合には、次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定めるところによらなければならない。

 一 第二項第五号において第四号イのほかに活動を実施する旨を定めるものである場合 当該変更の日から二十日以内に国会に付議して、当該変更につき、国会の承認を求めなければならない。ただし、国会が閉会中の場合又は衆議院が解散されている場合には、その後最初に召集される国会において、速やかに、その承認を求めなければならない。

 二 前号に規定する場合以外の場合 当該変更につき、速やかに、国会に報告しなければならない。

10 第七項の規定は、前項第一号の場合において不承認の議決があったときについて準用する。この場合において、第七項中「第七条第一項」とあるのは、「変更後の第二項第五号に係る第七条第一項」と読み替えるものとする。

 (領域警備区域)

第五条 内閣総理大臣は、領海等及び離島等のうち、武装していることが疑われる者による不法行為が行われる場合その他やむを得ず実力の行使を伴う対処が必要になり得る場合において警察機関の配置の状況、本土からの距離その他の事情により適切な対処に支障を生ずる高い蓋然性があると思料される区域を、五年以内の期間を定めて、告示をもって領域警備区域として指定することができる。

2 内閣総理大臣は、前項の指定に当たっては、国土交通大臣、防衛大臣及び国家公安委員会の間で協議をさせなければならない。

3 領域警備区域の指定は、第一項の規定による告示があった日から、その効力を生ずる。

4 内閣総理大臣が第一項の規定によりした告示については、当該告示の日から二十日以内に国会に付議して、当該告示につき、国会の承認を求めなければならない。ただし、国会が閉会中の場合又は衆議院が解散されている場合には、その後最初に召集される国会において、速やかに、その承認を求めなければならない。

5 内閣総理大臣は、前項の規定に基づく告示の承認があったときは、直ちに、その旨を公示しなければならない。

6 第四項の場合において、不承認の議決があったときは、その告示は、将来に向かってその効力を失う。

7 内閣総理大臣は、領域警備区域についてその指定の必要がなくなったと認めるときは、告示をもって当該指定を解除しなければならない。

8 前条第七項の規定は、第六項の規定による不承認の議決又は前項の規定による指定の解除があった場合について準用する。

 (対処要領)

第六条 国土交通大臣、防衛大臣及び国家公安委員会は、領域警備基本方針に基づき、領域警備区域ごとに、領海等及び離島等において公共の秩序を維持するための行動準則について定めた対処要領を定め、内閣総理大臣の承認を得なければならない。

2 前項の規定は、同項の対処要領の変更があった場合について準用する。

 (領域警備行動)

第七条 防衛大臣は、領域警備区域における公共の秩序を維持するため、自衛隊の部隊に対し、前条第一項に規定する対処要領に基づき、情報の収集、不法行為の発生の予防及び不法行為への対処その他の必要な措置を講じさせることができる。

2 警察官職務執行法(昭和二十三年法律第百三十六号)第二条、第四条並びに第六条第一項、第三項及び第四項の規定は、警察官がその場にいない場合に限り、前項の規定による措置の職務に従事する自衛官の職務の執行について準用する。この場合において、同法第四条第二項中「公安委員会」とあるのは、「防衛大臣の指定する者」と読み替えるものとする。

3 警察官職務執行法第五条及び第七条の規定は、第一項の規定による措置の職務に従事する自衛官の職務の執行について準用する。

4 海上保安庁法(昭和二十三年法律第二十八号)第十六条、第十七条第一項及び第十八条の規定は、第一項の規定による措置の職務に従事する海上自衛隊の三等海曹以上の自衛官の職務の執行について準用する。

5 自衛隊法第八十九条第二項の規定は、第三項において準用する警察官職務執行法第七条の規定により自衛官が武器を使用する場合について準用する。

 (領空侵犯に対する措置)

第八条 防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)その他の法令の規定に違反して領空に侵入したときは、これに対処するため、自衛隊法の定めるところにより、自衛隊の部隊に必要な措置を講じさせることができる。

 (警戒監視の措置)

第九条 防衛大臣は、領域等における公共の秩序の維持を図るため、自衛隊の部隊に対し、必要な情報の収集その他の警戒監視の措置を講じさせることができる。

 (治安出動等の手続の特例)

第十条 内閣総理大臣が領域警備区域について自衛隊法及び領域警備基本方針の定めるところにより治安出動を命ずる場合においては、その命令は、内閣法(昭和二十二年法律第五号)第四条第一項の規定による閣議の決定に基づくものとみなす。

2 内閣総理大臣が領域警備区域について自衛隊法及び領域警備基本方針の定めるところにより防衛大臣が命ずる海上警備行動を承認する場合においては、その承認は、内閣法第四条第一項の規定による閣議の決定に基づくものとみなす。

 (船舶の航行に関する通報)

第十一条 海上保安庁長官は、領域警備区域(我が国の内水又は領海である区域に限る。)における公共の秩序を維持し船舶の衝突の防止を図るため特に必要があると認めるときは、告示により、当該領域警備区域の特定の海域に関し範囲及び期間を定めて、当該特定の海域を航行しようとする船舶(軍艦及び各国政府が所有し又は運航する船舶であって非商業的目的のみに使用されるものを除く。以下この条及び次条第一項において同じ。)の船長等(船長又は船長に代わって船舶を指揮する者をいう。以下この条において同じ。)が、事前に当該船舶の名称、船籍港、船長等の氏名、直前の出発港又は出発地、目的港又は目的地、積荷その他の国土交通省令で定める事項を最寄りの海上保安庁の事務所に通報しなければならないこととすることができる。

2 前項の規定により船舶の船長等がしなければならない通報は、当該船舶の所有者又は船長等若しくは所有者の代理人もすることができる。

 (船舶に対する立入検査)

第十二条 海上保安庁長官は、前条第一項の告示に定めた海域及び期間において船舶交通の安全を妨げるような航行を行っていると認められる船舶がある場合において、船舶交通の安全を図るため特に必要があると認めるときは、海上保安官に、当該船舶に立ち入り、書類その他の物件を検査させ、又は当該船舶の乗組員その他の関係者に質問させることができる。

2 前項の規定による立入検査をする海上保安官は、制服を着用し、又はその身分を示す証明書を携帯し、かつ、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない。

3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

 (適切な連絡体制の構築等)

第十三条 政府は、船舶及び航空機の偶発的な衝突等の不測の事態の発生を防止するため、各国政府との間で、国の防衛に関する職務を行う当局、海上における公共の秩序の維持に関する職務を行う当局その他の関係行政機関相互間の意思疎通と相互理解の増進、安全保障の分野における信頼関係の強化及び交流の推進、緊急時の連絡体制の構築その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

 (罰則)

第十四条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。

 一 第十一条第一項の規定による通報をせず、又は虚偽の通報をした者

 二 第十一条第二項の規定による通報に際して虚偽の通報をした者

 三 第十二条第一項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対し虚偽の陳述をした者

 (政令への委任)

第十五条 この法律に定めるもののほか、この法律の実施のための手続その他この法律の施行に関し必要な事項は、政令で定める。

   附 則

 (施行期日)

第一条 この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

 (自衛隊法の一部改正)

第二条 自衛隊法の一部を次のように改正する。

  第八十二条の二の次に次の一条を加える。

  (海上における警備準備行動)

 第八十二条の二の二 防衛大臣は、国土交通大臣から自衛隊の部隊に海上保安庁が行う警備を補完させるよう要請があつた場合において、海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持のため海上における警備をあらかじめ強化しておく必要があると認めるときは、自衛隊の部隊に対し、領域等の警備に関する法律(平成二十七年法律第▼▼▼号)第五条第一項の規定により指定された領域警備区域を除く海上において海上保安庁が行う警備を補完するための行動(次項において「海上における警備準備行動」という。)をとることを命ずることができる。

 2 防衛大臣は、前項の規定により自衛隊の部隊等に対し海上における警備準備行動をとることを命じたときは、速やかにその旨を内閣に報告しなければならない。

  第八十四条の四の次に次の二条を加える。

  (領域警備行動)

 第八十四条の四の二 防衛大臣は、第三条第一項に規定する公共の秩序の維持に係る活動として、領域等の警備に関する法律の定めるところにより、自衛隊の部隊に必要な措置を講じさせることができる。

  (警戒監視の措置)

 第八十四条の四の三 防衛大臣は、領域等の警備に関する法律の定めるところにより、自衛隊の部隊に対し、警戒監視の措置を講じさせることができる。

  第九十三条の二の次に次の一条を加える。

  (海上における警備準備行動の際の権限)

 第九十三条の二の二 海上保安庁法第十六条の規定は、第八十二条の二の二の規定により行動を命ぜられた海上自衛隊の三等海曹以上の自衛官の職務の執行について、同法第十七条第一項及び第十八条の規定は、海上保安官がその場にいない場合に限り、第八十二条の二の二の規定により行動を命ぜられた海上自衛隊の三等海曹以上の自衛官の職務の執行について準用する。

 2 第八十二条の二の二の規定により行動を命ぜられた自衛隊の自衛官は、当該職務を行うに際し、自己又は自己と共に当該職務に従事する隊員若しくは当該職務を行うに伴い自己の管理の下に入つた者の生命又は身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第三十六条又は第三十七条に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。

  第九十四条の六の次に次の一条を加える。

  (領域警備行動の際の権限)

 第九十四条の六の二 第八十四条の四の二に規定する措置の職務に従事する自衛官は、領域等の警備に関する法律の定めるところにより、同法の規定による権限を行使することができる。

 (国家安全保障会議設置法の一部改正)

第三条 国家安全保障会議設置法(昭和六十一年法律第七十一号)の一部を次のように改正する。

  第九条の次に次の一条を加える。

  (領域警備事態連絡調整会議)

 第九条の二 会議に、公共の秩序の維持に当たる関係機関が領域等の警備に関する法律(平成二十七年法律第▼▼▼号)第四条第一項の領域警備基本方針の定めるところにより、情報を共有しつつ、相互に適切に連携を図りながら協力することを確保するため、領域警備事態連絡調整会議を置く。


     理 由

 領域等における公共の秩序を維持し、もって国民の安全の確保に資するため、領域警備基本方針の策定、領域警備区域における自衛隊の行動及び権限その他の必要な事項について定めることにより、警察機関及び自衛隊が事態に応じて適切な役割分担の下で迅速に行動できるようにする必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

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