衆議院

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第一九〇回

衆第五〇

   幼児教育振興法案

目次

 前文

 第一章 総則(第一条−第八条)

 第二章 幼児教育振興基本方針等(第九条・第十条)

 第三章 基本的施策(第十一条−第十七条)

 附則

 幼児期において、人は、その保護者や周囲の大人との愛情ある関わりの中で守られているという安心感に支えられ、自発的な遊びを通じて生涯にわたる人格形成の基礎を築いていく。そのために適切な環境を整え、子供の心身の調和のとれた発達を促すことが、幼児教育の重要な役割である。

 幼児教育は、幼稚園、保育所、認定こども園といった幼児教育の機能を有する施設をはじめ、家庭、地域等の多様な場において行われており、それらの全ての場を通じて、質の高い幼児教育が行われなければならない。

 しかるに、急速な少子化の進行並びに家庭及び地域を取り巻く状況の変化により、適切な環境の下での幼児教育が従来よりも困難になっている。また、人口構造の変化、国際化及び技術の進展等の社会経済情勢の変化に伴い、自立し、他者と協働しながら創造的に生きていくために必要な能力を身に付けられるよう、質の高い幼児教育を受ける必要性が高まっている。

 全ての子供の健やかな育ちを目指し、質の高い幼児教育の実現のための幼児教育の振興に取り組むことは、社会において最も重要な課題の一つであり、国及び地方公共団体はもとより、幼児教育に関わる全ての者が相互に協力しながらそれぞれの役割を果たしていくことが必要である。

 ここに、教育基本法の精神にのっとり、幼児教育の振興について、その基本理念を明らかにするとともに、幼児教育の振興に関する施策を総合的に推進するため、この法律を制定する。

   第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、幼児教育の振興に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体及び幼児教育の機能を有する施設(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する幼稚園、児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第三十九条第一項に規定する保育所及び就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成十八年法律第七十七号)第二条第六項に規定する認定こども園に限る。以下「幼児教育施設」という。)の設置者の責務等を明らかにし、並びに基本方針の策定について定めるとともに、幼児教育の振興に関する施策の基本となる事項を定めることにより、幼児教育の振興を図ることを目的とする。

 (基本理念)

第二条 幼児教育の振興に当たっては、幼児教育の水準の維持向上が図られなければならない。

2 幼児教育の振興に当たっては、全ての子供がひとしく幼児教育を受けることができるような環境の整備が図られなければならない。

3 幼児教育の振興に当たっては、障害のある子供がその特性を踏まえた十分な幼児教育を受けられるよう配慮されなければならない。

4 幼児教育の振興に当たっては、幼児教育が義務教育及びその後の教育の基礎を培うものであることに鑑み、幼児教育と小学校における教育との円滑な接続に配慮されなければならない。

5 幼児教育の振興に当たっては、幼児教育に携わる者の自主性が十分に尊重されなければならない。

 (国の責務)

第三条 国は、前条の基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、幼児教育の振興に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

 (地方公共団体の責務)

第四条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、国と協力しつつ、その地域の実情に応じた幼児教育の振興に関する施策を策定し、及び実施する責務を有する。

2 地方公共団体の関係機関は、幼児教育の振興に関する施策の円滑な実施が促進されるよう、相互に連携を図りながら協力するよう努めなければならない。

 (幼児教育施設の設置者の責務)

第五条 幼児教育施設の設置者は、基本理念にのっとり、その提供する幼児教育の質の向上に努めるとともに、家庭及び地域における幼児教育の支援を行うよう努めるものとする。

 (保護者の役割)

第六条 父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、幼児教育の振興に関する施策を活用すること等により、その子に対する幼児教育の充実に努めるものとする。

 (関係者相互の連携及び協力)

第七条 国、地方公共団体、幼児教育施設、家庭、地域住民等は、基本理念の実現を図るため、相互に連携を図りながら協力するよう努めるものとする。

 (法制上の措置等)

第八条 国及び地方公共団体は、幼児教育の振興に関する施策を実施するため必要な法制上、財政上又は税制上の措置その他の措置を講じなければならない。

   第二章 幼児教育振興基本方針等

 (幼児教育振興基本方針)

第九条 政府は、幼児教育の振興に関する施策を総合的に推進するための基本的な方針(以下「幼児教育振興基本方針」という。)を定めるものとする。

2 幼児教育振興基本方針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。

 一 幼児教育の振興の意義及び基本的な方向に関する事項

 二 幼児教育の振興の目標に関する事項

 三 幼児教育の振興に関する施策に関する事項

 四 その他幼児教育の振興に関し必要な事項

3 幼児教育振興基本方針は、教育基本法(平成十八年法律第百二十号)第十七条第一項の基本的な計画、子ども・子育て支援法(平成二十四年法律第六十五号)第六十条第一項の基本指針その他の法律の規定による計画又は指針であって幼児教育に関する事項を定めるものと調和が保たれたものでなければならない。

4 政府は、幼児教育振興基本方針を定めたときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。

5 前項の規定は、幼児教育振興基本方針の変更について準用する。

 (地方幼児教育振興基本方針)

第十条 地方公共団体は、幼児教育振興基本方針を参酌し、その地域の実情に応じ、当該地方公共団体における幼児教育の振興に関する施策を総合的に推進するための基本的な方針(以下この条において「地方幼児教育振興基本方針」という。)を定めるよう努めるものとする。

2 地方公共団体は、地方幼児教育振興基本方針を定めたときは、遅滞なく、これを公表するよう努めるものとする。

3 前項の規定は、地方幼児教育振興基本方針の変更について準用する。

   第三章 基本的施策

 (幼児教育の内容及び方法の改善及び充実)

第十一条 国及び地方公共団体は、幼児教育の内容及び方法の改善及び充実を図るため、幼児教育施設における幼児教育の基準の見直し、幼児教育施設の施設及び設備の整備に対する支援、参考となる資料等の情報提供、教材の開発その他の必要な施策を講ずるよう努めるものとする。

 (人材の確保等)

第十二条 国及び地方公共団体は、地方公共団体以外の者が設置する幼児教育施設を中心として、幼児教育施設の教職員を確保し、養成し、及びその資質を向上させるため、各幼児教育施設における賃金その他の待遇の実態を考慮した待遇の改善、適切な配置、研修の充実その他の必要な施策を講ずるよう努めるものとする。

 (質の評価の促進)

第十三条 国及び地方公共団体は、幼児教育施設においてその提供する幼児教育の質の評価が行われるよう、必要な手法の開発及びその成果の普及その他の必要な施策を講ずるよう努めるものとする。

 (家庭及び地域における幼児教育の支援等)

第十四条 国及び地方公共団体は、家庭及び地域における幼児教育の支援を行うため、保護者に対する学習の機会及び情報の提供、関係機関相互の連携の強化その他の必要な施策を講ずるよう努めるものとする。

2 国及び地方公共団体は、幼児教育施設が行う家庭及び地域における幼児教育の支援が適切に行われるよう、必要な施策を講ずるよう努めるものとする。

 (調査研究の推進)

第十五条 国は、幼児教育に関する諸科学を総合して実際的及び基礎的な研究を推進し、これらの研究の成果を活用して幼児教育の振興に関する施策の効果的な推進を図るものとする。この場合において、研究体制の整備、国、大学その他の研究機関、幼児教育施設等の間の連携の強化その他の必要な施策を講ずるものとする。

2 国は、幼児教育の実施状況に関する情報並びに幼児教育の質の向上を図るための調査研究の成果及び取組の状況に関する情報その他の幼児教育に関する国の内外の情報の収集、整理及び活用について必要な施策を講ずるものとする。

 (地方公共団体における幼児教育の振興に関する施策の実施体制の整備)

第十六条 市町村は、幼児教育施設に対し専門的知識又は技能に基づき助言その他の支援を行う者の確保等に努めるものとする。

2 都道府県は、市町村が講ずる前項の措置の実施の状況を踏まえ、同項に規定する者の確保等に努めるものとする。

3 都道府県は、各市町村を通ずる広域的な見地から、幼児教育に関する調査研究、幼児教育に携わる者の研修、当該都道府県の区域内の市町村及び幼児教育施設に対する情報の提供及び助言その他必要な施策を総合的に実施するための拠点としての機能を担う体制の整備を行うよう努めるものとする。

 (無償化の推進)

第十七条 国及び地方公共団体は、幼児教育施設における幼児教育に係る経済的負担を軽減し、幼児教育の機会均等を図るため、幼児教育施設における幼児教育を無償とすることに向けた措置を、これに要する財源を確保しつつ段階的に推進するものとする。

   附 則

 (施行期日)

1 この法律は、公布の日から施行する。

 (検討)

2 政府は、小学校就学の始期に達するまでの者に対する幼児教育の状況に鑑み、これらの者の全てが、その必要に応じ、幼児教育施設において幼児教育を受ける機会を提供されることとなるよう検討を行うものとする。


     理 由

 幼児教育の振興を図るため、幼児教育の振興に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体及び幼児教育施設の設置者の責務等を明らかにし、並びに基本方針の策定について定めるとともに、幼児教育の振興に関する施策の基本となる事項を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

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