衆議院

メインへスキップ



第2号 平成29年3月23日(木曜日)

会議録本文へ
平成二十九年三月二十三日(木曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   会長 森  英介君

   幹事 上川 陽子君 幹事 中谷  元君

   幹事 根本  匠君 幹事 平沢 勝栄君

   幹事 船田  元君 幹事 古屋 圭司君

   幹事 武正 公一君 幹事 辻元 清美君

   幹事 北側 一雄君

      青山 周平君    赤枝 恒雄君

      安藤  裕君    伊藤 達也君

      池田 佳隆君    衛藤征士郎君

      大塚 高司君    大見  正君

      鬼木  誠君    後藤田正純君

      佐々木 紀君    佐藤ゆかり君

      園田 博之君    田畑 裕明君

      高木 宏壽君    辻  清人君

      土屋 正忠君    野田  毅君

      福山  守君    星野 剛士君

      三ッ林裕巳君    宮崎 政久君

      村井 英樹君    保岡 興治君

      山際大志郎君    山下 貴司君

      山田 賢司君    奥野総一郎君

      岸本 周平君    北神 圭朗君

      後藤 祐一君    中川 正春君

      古本伸一郎君    升田世喜男君

      山尾志桜里君    太田 昭宏君

      斉藤 鉄夫君    遠山 清彦君

      赤嶺 政賢君    大平 喜信君

      足立 康史君    小沢 鋭仁君

      照屋 寛徳君

    …………………………………

   参考人

   (首都大学東京教授)   木村 草太君

   参考人

   (弁護士)        永井 幸寿君

   参考人

   (防衛大学校教授)    松浦 一夫君

   衆議院憲法審査会事務局長 阿部 哲也君

    ―――――――――――――

委員の異動

三月二十三日

 辞任         補欠選任

  村井 英樹君     青山 周平君

  山際大志郎君     大見  正君

  山田 賢司君     三ッ林裕巳君

  枝野 幸男君     升田世喜男君

  細野 豪志君     後藤 祐一君

同日

 辞任         補欠選任

  青山 周平君     村井 英樹君

  大見  正君     山際大志郎君

  三ッ林裕巳君     山田 賢司君

  後藤 祐一君     細野 豪志君

  升田世喜男君     枝野 幸男君

    ―――――――――――――

三月二十三日

 立憲主義の原則を堅持し、憲法九条を守り、生かすことに関する請願(田村貴昭君紹介)(第四九九号)

 同(藤野保史君紹介)(第五〇〇号)

 同(赤嶺政賢君紹介)(第五八六号)

は本憲法審査会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(参政権の保障をめぐる諸問題(緊急事態における国会議員の任期の特例、解散権の在り方等))


このページのトップに戻る

     ――――◇―――――

森会長 これより会議を開きます。

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件、特に参政権の保障をめぐる諸問題(緊急事態における国会議員の任期の特例、解散権の在り方等)について調査を進めます。

 本日は、本件調査のため、参考人として首都大学東京教授木村草太君、弁護士永井幸寿君及び防衛大学校教授松浦一夫君に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に一言御挨拶を申し上げます。

 本日は、御多用中にもかかわらず御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。

 本日は、去る十六日の自由討議に引き続き、特に緊急事態における国会議員の任期の特例、解散権の在り方等についてさらに議論を深めるため、幹事会の総意に基づいた御専門の方々を参考人としてお招きしております。参考人それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、調査の参考にいたしたいと存じます。

 本日の議事の順序について申し上げます。

 まず、木村参考人、永井参考人、松浦参考人の順に、それぞれ二十分以内で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑に対しお答え願いたいと存じます。

 なお、発言する際はその都度会長の許可を得ることとなっております。また、参考人は委員に対し質疑することはできないこととなっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。

 御発言は着席のままでお願いいたします。

 それでは、まず木村参考人、お願いいたします。

木村参考人 本日は、貴重な機会をいただき、ありがとうございます。

 私の方からは、内閣の衆議院解散権についてお話をさせていただこうと思います。

 憲法が制定された当初は、衆議院に自律解散権があるのか、また、解散権行使のための条件はいかなるものかをめぐり、国会実務でも、また学説でも激しい議論が交わされたところでございました。

 しかし、現在では、皆様も御存じのように、衆議院に自律解散権はないと理解されております。また、内閣が解散権を行使できるのは、内閣不信任案が可決したケースに限られず、解散の大義があれば内閣の自由な判断で解散権が行使できるとする、いわゆる七条解散説が実務上定着している状態かと思われます。

 また、学説を見ましても、七条解散を違憲とする憲法学説はさほど多くないと言われております。もっとも、近年、学界では、解散権をめぐる議論が再び活性化してきており、解散権の行使に何らかの制限をかける解釈ないし憲法改正を行うべきとの議論もふえてきているところでございます。

 議論が活性化するきっかけとなったのは、二〇〇五年のいわゆる郵政解散でありました。衆議院で可決した郵政民営化関連法案が参議院で否決されたことを理由に、小泉内閣が衆議院を解散いたしました。重要法案を可決した側、すなわち内閣の意向に沿った側である衆議院が解散されるという事態には違和感を禁じ得ないものがありました。その合憲性や立憲制について、学界でもそれを受け、議論が重ねられてきたところでございます。

 また、二〇一四年の解散についても、かなりの任期を残した時点での解散であり、また、首相が示した解散の理由が、増税先送りの是非を問うからいわゆる経済政策を問うというふうに変遷するなど、その説明が明確でなかったために、恣意的な解散権の行使ではないかという議論が提起されたところでございました。

 さらに、日本の実務から離れ、世界の議会の解散権制限の動きなどの検討からも、内閣の自由な解散権については理論的な批判が出てきているところでございます。つまり、ドイツではボン基本法の制定された一九四九年当初から、またイギリスでは二〇一一年より、内閣の解散権を明文で、憲法または法律で制限しているところでございます。

 その理由は、内閣に自由な解散権を与えた場合、例えば政権に不利な統計が発表される前の段階や野党の選挙の準備ができていない段階など、与党に有利なタイミングを選んでの党利党略での解散が横行する可能性があり、何らかの歯どめが必要だと考えられたものと、それが主な要因であるというふうに考えることができます。

 そこで、解散権を制限すべきか否かを検討する前提として、そもそも衆議院の解散権とは何のためにある制度なのかということを検討してみたいと思います。

 君主制の時代、あるいは君主主権と呼ばれる時代にありましては、君主が、国民代表たる議会に圧力をかけるために解散権を行使するという時代がありました。昔の君主主権の時代においては、議会の解散権は議会に対する君主からの懲罰という色彩があったという指摘もあるところでございます。しかし、現在の国民主権原理を採用する現行憲法下における解散権は、国民全体のために、より民主的な政治決定を行うために行使されるべきであることは論をまたないと思われます。

 この観点から、議会の解散には大きく分けて二つの機能があるとされております。

 すなわち、第一の機能は、内閣と議会が対立した場合、主権者国民にその対立の裁断をしてもらう、そうした機能でございます。内閣と議会の対立については、内閣不信任案が議会で可決された場合や信任決議が否決された場合、あるいは内閣が信任をかけた重要法案が否決された場合なども含まれます。こうした場合に、内閣の方針に沿う議員を選ぶのか、それとも議会の方針に沿う議員を選ぶのか、その結果によって国民に裁断を下してもらうことができるというのが解散権の機能であります。

 また、解散の第二の機能は、国政選挙で問われなかった重要な争点が新たに選挙後に発生した場合に、国民の意思を明確にするために、国民投票の代替として選挙を実施する機能です。これは、内閣と議会が必ずしも対立していない状態であっても、これまで民意の示されたことがない重要な論点が発生した場合を想定したものであります。

 解散にこれらの機能があることからすれば、内閣と議会の対立が生じた場合と重要な争点が発生した場合には解散の大義があると言えるものと思われます。

 そのほかに、内閣の基本的性格が変更された場合や選挙法の大改正が行われた場合、あるいは任期満了が迫っている場合など、そうした場合には解散を認める大義があるという議論もあります。しかし、これらは、突き詰めれば、今申し上げました二つのいずれかに分類可能ではないかというふうに思われます。

 では、実務を離れて、現行憲法の条文を見たときに、どのような場合に解散権の行使が認められるかという点について解釈をしてみたいと思います。

 皆さんも御存じのとおり、憲法が明示的に解散権の行使を想定しているのは、内閣不信任案が可決された場合ないし信任決議が否決された場合の憲法六十九条のみであります。この文言から、解散権の行使は六十九条の場合に限られるという見解、解釈にも一定の支持があるところでございます。

 しかし他方で、学説の多くは、憲法七条の文言または議院内閣制という制度を理由に、解散権の行使は六十九条の場合に限定されないとの見解も採用しております。

 こうした六十九条非限定説をとる学説も、純粋な党利党略での解散など、大義のない解散まで合憲と評価しているわけではありません。もっとも、憲法には解散権を制限する手がかりとなる文言がありません。このため、学説は、前例や最高裁判例の積み重ねにより、解散権を制限する慣行や判例、習律を形成すべきと指摘をしてきたところでありました。

 しかしながら、残念なことに、冒頭に挙げた解散実務の前例を見る限り、解散権行使を制限する慣行や習律が確立されているとは評価しがたく、また、最高裁は解散権行使の合憲性について判断を避ける態度をとっているのも皆さんの御存じのとおりのところでございます。

 このように、解散権の行使を限定する慣行や習律が十分に形成されなかった歴史を踏まえると、現状、何らかの対応をとるべき必要があると思われます。

 それには二つのアプローチがあるというふうに考えられます。

 まず第一は、現行憲法を前提とした上で、解散権の行使について法律で手続的な限定をかけるものであります。諸外国の憲法を見ても、解散権を行使する場合に、議長の意見表明の手続を設けたり、解散権発生の引き金となる内閣信任の動議から採決までに一定の時間をあけることを要求するものがあります。

 現行憲法下で解散の前例が慣行や習律を形成できなかった一因は、内閣が解散の理由を議会で丁寧に説明したり、公式の解散理由を文書化し、明確にする手続がなかったところに大きな原因があるというふうに思われます。法律で、解散権を行使する場合には、解散の宣言から解散まで一定の時間を置き、衆議院で解散理由についての審議を行うなどの手続を設ければ、少なくとも解散理由が不明確なまま総選挙に突入するという事態は防ぐことができるように思われます。

 こうした法律をつくる場合、解散権の行使を法律で制限することは合憲かということが問われることになりますが、この点、もともと憲法七条は内閣に完全に自由な解散権を認めているわけではなく、合理的な制約を法律で設けることは許されるという憲法解釈に立つのであれば、こうした法律に違憲の疑いは全く生じません。

 また、仮に憲法が内閣に自由な解散権を与えているという解釈をとったとしても、今述べた法律は、内閣の解散権それ自体を制限するものではなく、慎重な手続を要求するだけのもので、憲法違反とは評価されないものと思われます。

 実際、憲法が国家機関に与えた権限を法律で手続的に制限をする、あるいは慎重な手続を設けるというのはさまざまな例があるところでございまして、国会が立法を行う場合に国会法上の手続を踏む、これは当然のことでありますし、最高裁が判決を書く、司法権を行使する場合、あるいは違憲立法審査権を行使する場合に裁判所法や各種訴訟法の手続を踏むということも、これもまた当然のことであります。内閣の解散権についてもこれと同様な考えに立ち、その手続に慎重な歯どめ、手続を設けることは、憲法の理念を実現するためにも全く問題がないのではないかというふうに考えられます。

 憲法審査会の任務は、憲法改正そのものについての検討だけでなく、憲法の理念を実現するための制度の整備についての検討も当然含まれていることと思われます。衆議院の解散権の議論を行うのであれば、ぜひ、法律による解散手続の整備についても御検討いただきたいというふうに考えております。

 次に、解散権に合理的な制限をかける第二のアプローチとしては、現行憲法を改正し、解散権の行使条件を明文化することが考えられます。

 そのための手法としてわかりやすいのは、先ほど触れましたとおり、ドイツのボン基本法やイギリスの議会任期固定法のように、解散権の行使を限定する文言を設けることであります。

 ドイツのボン基本法におきましては、首相が提出いたします首相の信任決議、これが否決された場合にのみ解散権が行使できるとされておりますし、イギリスの議会任期固定法においては、基本的には不信任が可決された場合にのみ解散ができるということが決められているわけであります。

 もっとも、このように、いわゆる日本国憲法六十九条型のみに解散権の行使を制限いたしますと、解散が国民投票の代替的な機能を果たせなくなるという問題は生じることと思われます。ですから、もしも六十九条型の解散に限定をするのであれば、それとあわせて、内閣や国会が重要案件を国民投票に諮る手続などを導入することも検討に値することと思われます。

 国民投票への諮問手続は、解散のない参議院と内閣の意思が対立した郵政解散のような事態の調停、あるいはイギリスにおけるEU離脱問題のように、与野党、各政党の内部でもそれぞれに深刻な意見対立があり、政党単位での意思決定を主な意思決定の手法としております解散・総選挙ではうまく意思決定ができない場合の決定手続としても機能することがあります。この点では、国民投票制度は非常に魅力があり、検討に値する制度と思われます。

 ただし、国民投票制度を導入する場合、その国民投票の結果にどのような効力を持たせるのかについては、国会を唯一の立法機関とする憲法四十一条との関係が大きな問題となります。国会や内閣を拘束するようなものにするのか、それとも諮問的なものにとどめるのかなど、日本国憲法の統治機構の根本的な部分にかかわる議論が必要となり、この点について合意を得るのはかなり大変かとは思われますが、しかし、解散権の制限の場合にはあわせて検討をすべき制度であろうとは思います。

 以上のように、党利党略での解散を抑制するために、解散権には何らかの制限をかけていくことが合理的と考えます。

 以上、解散権についての意見陳述を終えたいと思います。(拍手)

森会長 ありがとうございました。

 次に、永井参考人、お願いいたします。

永井参考人 私は、阪神・淡路大震災で事務所が全壊して以来、二十二年間、被災者支援にかかわってきた者です。その立場でお話をいたします。

 第一に、災害を理由に緊急事態条項を憲法に設けるべきかということです。

 私は、災害を理由にした緊急事態条項を憲法に創設することには反対です。

 緊急事態条項とは、国家緊急権を憲法に創設する条項です。国家緊急権とは、戦争、内乱、大規模災害など、平時の統治機構では対処できない非常事態に、国家の存立を維持するために人権保障と権力分立を停止する制度です。

 日本国憲法は国家緊急権を置いていませんが、その趣旨は、昭和二十一年七月十五日、帝国憲法改正案委員会の議事録の中での政府の答弁で明らかにされております。国家緊急権の濫用の危険からあえて憲法には国家緊急権は設けないが、緊急事態には平常時から法律などで準備するというものです。

 では、災害関連の法規は整備されているのでしょうか。これは大変よく整備されております。

 例えば、内閣は、災害緊急事態には、国会のコントロールのもとで、四つの項目に限り罰則つきの政令制定権が認められております。また、内閣総理大臣は、関係指定行政機関の長、地方公共団体の長などに対する指示権が認められ、防衛大臣に対する自衛隊の部隊派遣要請ができ、警察庁長官を直接指揮監督して一時的に警察を統制するなど、権力が集中するシステムとなっております。

 また、人権の制限に関して見ると、都道府県知事に、医療関係者に対する従事命令、財産権の管理、使用、物資の保管命令、収用の権限、職員の立入検査などが認められ、これらを罰則つきで強制しています。さらに、市町村長に対しても、瓦れきの撤去などにつき強制権が十分認められております。

 では、被災者にとって一番重要な国のルールというのは何でしょう。これは、憲法ではなく、それよりも下位のルールである法律、通達、条例などです。

 例えば、仮設住宅に断熱材が入るのか、あるいは復興住宅に入居するには連帯保証人が必要か、これらは被災者にとって大変重要な問題ではありますが、法の運用や条例の問題であって、憲法の問題ではありません。

 災害対策の原則は何でしょう。これは、医療の専門家あるいは建築の専門家など、災害の専門家が口をそろえて言うのは、準備していないことはできないということです。

 国家緊急権は、災害が発生した後、泥縄式に権力を集中する制度です。しかし、災害後にどのような権力を強力に集中しても対処することはできません。東日本大震災で国や自治体の不手際というものが言われましたが、その多くが事前に準備していなかったことが原因です。例えば、原発事故で、原発から四・五キロの双葉病院などでは、寝たきりの高齢者が避難の前後の混乱で五十人亡くなりました。

 これは、なぜこういうことが起きたのでしょう。法律の制度では、国は防災基本計画、都道府県、市町村はこれに基づいて地域防災計画を策定する義務があり、そして、指定行政機関、自治体の長は防災教育の実施に努め、防災訓練の実施義務が認められています。

 しかし、国、自治体、事業者において、事実上、災害で原発事故は起こらないということになっていたんです。つまり、事前に、県境を越えた避難者の避難経路、あるいは渋滞のときのサブの経路、あるいは事前のドライバーや車両の確保、そして、避難した後の長期の生活の場の確保の計画、あるいはその訓練、これについての自治体の連携や住民参加がなかったことが原因です。

 法律の適正な運用による事前の準備がなかったことが原因であり、緊急事態条項を創設しても対処することはできません。

 では、国と市町村の役割分担について被災市町村はどう考えているのでしょうか。このグラフの資料をごらんいただきたいと思います。

 私は、平成二十七年七月から九月まで、被災三県、岩手、宮城、福島の市町村を訪問して首長にヒアリングを行い、また、日本弁護士連合会は九月に三十七市町村にアンケートを実施し、二十四市町村から回答を得ました。

 アンケートでは、国と市町村の役割分担について、市町村の権限は強化すべきか、現状維持にすべきか、軽減すべきかと聞きました。現状とは、災害対策基本法による第一次的な災害対策の権限は市町村にあり、国はその後方支援を行うということです。

 そのアンケートの結果は、権限強化というのが二九%、現状維持が六七%、権限軽減が四%でした。つまり、これらを総合すると、市町村は第一次的権限を持つ、または権限を強化するというのが九六%でした。

 なぜこのような結果になるんでしょう。関東大震災では死者の八〇%が焼死したということです。阪神・淡路大震災では死者の八〇%が圧死しました。自宅に押し潰されたんです。東日本大震災では死者の八〇%以上が溺死しました。津波に流されたんです。このように、同じ災害というものは二つとしてありません。

 そして、一つの災害でも、時間の経過によって、命を救う七十二時間以内、避難所、仮設住宅の設置、あるいは復興住宅の設置などの過程でニーズは刻々と変わっていきます。このニーズに関する情報が直ちに入り、これに対して最も効果的な対処ができるのは国ではありません。被災者に一番近い市町村です。逆に、国がこれに対処すると、情報が入らず、また公平性、画一性が求められてしまい、妥当性を欠く対応をしてしまうことになります。

 では、国の役割は何か。これは後方支援です。人、物、金を出すことです。

 人について言えば、マンパワーや専門性の補完のための職員の派遣です。物は、被災地の求めに応じて物資を送ることです。そして、金、これが一番重要です。市町村を信用して予算の裁量を認めるということです。

 問題なのは、市町村に予算や災害対応の裁量を認めないことです。国の許認可権など法制度、運用が平常時対応であり、縦割り行政であることです。そこで首長は国との折衝に膨大な時間と労力を費やしてしまい、この時間は被災者のために費やしたいというのが首長の願いです。

 福島県の浪江町長は、被災者のために一時的な医療施設をつくろうとしました。しかし、これは医療法、建築基準法、消防法、景観法に違反するということで反対されました。

 災害対策は、このような災害時に包括的な適用除外法令をつくることによって対処すべきものです。

 また、東日本大震災では、多くの官庁が法律の弾力的運用について通知を送りました。しかし、その数は、一自治体に千通送られたんです。被災自治体はこれに対応することは到底できませんでした。

 これらは、平常時から過去の災害を調査検討して、災害時の適用除外の法律や法律の特例について恒久的な法律を制定すべきことです。そして、これは皆さんがいらっしゃる国会が行うべきことです。

 また、自治体は、いつ起こるかわからない災害のために費用や時間をかけて準備するというのは現実には困難な面があります。そこで、災害時には自治体は何をどうしていいかわからないということがあります。

 このノウハウを持っているのは過去の被災経験のある自治体であり、国ではありません。東日本大震災でも、神戸市や新潟県など被災経験のある自治体の職員が派遣され、適切な対応を初動期から実施することができました。これをシステム化したのが関西広域連合であり、また災害対策基本法三十条二項の職員派遣の調整の制度であります。国が行うべきことは、これらの職員派遣について予算面で後方支援することであります。

 東日本大震災では、災害対策について憲法が障害になることが明らかになったという意見が繰り返し述べられたことがありました。そこで、先ほどのアンケートでは、災害対策について憲法は障害になりましたか、なったとすれば、具体的にどんな事例ですか、憲法の何条が障害になりましたかということを質問しました。すると、障害にならなかったという回答が九六%、なったという回答が四%でした。

 障害になったという一自治体は、瓦れきに含まれる車両は所有者の同意が得られないので処理できなかった、憲法の財産権の改正が必要だと回答しました。しかし、憲法はもともと財産権に一定の法律の制限を認めております。そして、災害対策基本法六十四条二項は、市町村長は災害を受けた工作物または物件などに必要な措置をとれるとしています。この必要な措置には最小限の破壊も含まれます。瓦れきの車両は所有者の同意を受けずに瓦れき置き場に搬送することができ、市場価値がなければ廃棄することができます。失礼ながら、この一自治体は法律のことを御存じなかったということです。

 国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の国会事故調査報告書でも、憲法が災害対策の障害になったという記載はありません。あるいは、災害対策に政府の権力を集中すべきだ、あるいは人権の大幅制約が必要だという記載もありません。憲法改正ではなく、原子力規制法規という法律の制度の改正を提言しているのです。また、新しい規制組織の設置を提案していますが、政府からの強い独立性を求めており、権力の集中とは真逆のことを述べているのです。この報告からも、憲法改正の立法事実、改正の正当性を支える社会的事実は認められません。

 災害対策で最も重要なのは現場です。目の前にいる個々の被災者を救済するためにはどうすればいいのか、それが全ての出発点です。国家にどのような権力を持たせるかが出発点ではありません。災害対策は、被災者から話を聞き、被災の現場を見て、そして課題を抽出して、将来の災害を予想して策定するものです。そして、災害が発生したときは、被災者に最も近い自治体がこの準備に基づいて行動すべきものです。

 災害をだしにして憲法を変えてはいけない、これは東日本大震災での被災者の言葉です。立法府の皆様には、ぜひこの言葉を理解していただきたいと思います。

 以上から、災害を理由にした緊急事態条項を憲法に創設することに私は反対します。

 第二に、緊急事態における国会議員の任期について申し上げます。

 衆議院議員の任期は四年、または衆議院解散のときは期間満了前、これは憲法四十五条に書かれております。参議院議員の任期は六年、これは憲法四十六条に書かれています。そこで、大規模災害が選挙のときに発生した場合のために、憲法を改正して議員の任期を延長すべきかが議論されています。特に、衆議院の解散や任期満了が問題となります。

 結論から申し上げますと、私は、憲法を改正して議員の任期を延長することに反対です。

 まず、憲法は大規模災害時の制度を二つ設けています。一つは、憲法五十四条二項の参議院の緊急集会です。衆議院が解散されたときで、国に緊急の必要があるとき、内閣は参議院の緊急集会を求めることができます。緊急集会でとられた措置は、次の国会開会の後十日以内に衆議院の同意がない場合は効力を失います。

 二つ目は、憲法七十三条六号の法律による政令への罰則委任です。永田町での直下型地震が発生した場合のように、参議院の緊急集会も請求できない場合は、内閣は法律に基づいて政令で対処することになり、政令に実効性を持たせるためには罰則が必要となります。他方で、内閣の権力の濫用の危険があるので、特に法律の委任がないと政令に罰則が設けられないとする制度です。

 これを受けて、災害対策基本法の厳格な要件のもとで、緊急時に内閣は罰則つきの政令、緊急政令が制定できます。

 では、衆議院解散中に大規模災害が発生したときはどう考えるべきでしょう。

 先ほどのように、内閣は参議院の緊急集会を求めて対処できます。また、災害緊急事態においては、国会閉会中や衆議院解散中で臨時国会や緊急集会の措置を待ついとまがない場合でも、災害対策基本法による緊急政令で対処できます。

 では、衆議院の任期満了時に大規模災害が発生したときはどうすべきでしょう。

 参議院の緊急集会の規定は、文言上は、衆議院解散のときと定めています。何らかのニーズがあった場合、憲法は最高法規でありますので、まず法律で対処することを考え、それができない場合は憲法の解釈で対処することを考え、それができないときに初めて憲法改正を検討すべきです。

 まず、この場合、公職選挙法三十一条で、議員の任期満了の三十日前までに選挙を実施すると定めています。そこで、任期満了時に災害があったとしても、次の議員が選出されているので、この場合は問題がありません。

 では、この三十一条の選挙の公示直前に災害があって選挙ができないとき、そのときは次の議員が選出されないことになりますが、その場合はどうすべきでしょうか。この場合は憲法の解釈となります。

 参議院の緊急集会は、衆議院が解散され、議員がいなくなった場合に、参議院に国会を代替させる制度です。そして、任期満了の場合も衆議院議員がいなくなるという事態は解散の場合と同じです。したがって、同一事項については同じ扱いをすべきですので、この場合も緊急集会の規定を適用すべきものと考えます。

 これに対しては、少数の参議院議員、例えば、ダブル選挙のときは全議員の一八%の議員になってしまう、これで議決をすることになる、あるいは被災地の民意を反映する議員がいないのではないかという意見があります。

 しかし、緊急集会による措置というのは、これは暫定的なものでありまして、事態が回復後に速やかに衆議院の総選挙を行って、国会開会後十日以内に衆議院の同意を得るということで対処できます。被災地の民意の反映はそこで行うことができるわけです。

 また、被災地域については、公職選挙法五十七条は、天災その他避けることのできない事故により投票所において投票を行うことができないとき、被災地域の都道府県選挙管理委員会が投票期日を延期するという繰り延べ投票を規定しています。これによって対処することが可能です。

 これに対しては、繰り延べ投票では、一部選挙区では開票できず、比例代表区の議員が確定しないということが考えられますが、比例代表区の議員は衆議院議員の三分の二を超えることはないので、定足数である三分の一を満たし、衆議院は活動することができます。

 ここで私が一番申し上げたいことは、被災地域の住民の意思を国会に反映することは大切でありますけれども、災害対策の法律は平常時から国会において整備しておくべきものであるということであります。先ほど申し上げたとおり、災害対策の原則は、準備していないことはできないということです。災害対策の法律の制度は、平常時から過去の災害を検討して、そして、十分時間をかけて準備しておくべきものであり、災害が発生してから準備すべきではないというふうに考えます。

 以上から、緊急事態における国会議員の任期の問題は、参議院の緊急集会、公職選挙法の繰り延べ投票で対処でき、また、平常時から災害対策は行っておくべきであるという点からも、憲法改正による議員の任期延長には反対いたします。

 以上です。(拍手)

森会長 ありがとうございました。

 次に、松浦参考人、お願いいたします。

松浦参考人 本日は、意見発表の機会を与えていただきまして、ありがとうございます。

 私は、憲法に緊急事態条項は必要であると考え、その中に、緊急事態における国会議員の任期延長と議会解散権の制限を盛り込むことに賛成の立場から、主に比較憲法的視点から意見を述べさせていただきます。

 自民党が平成二十四年に憲法改正草案を発表して以来、その九十八条、九十九条にある緊急事態条項が内閣独裁条項であるとして批判を受けています。特に、自然災害を緊急事態に含め、政府への権力集中を認めさせることについては、災害対応の必要を口実にすれば国民の理解を得られやすい、改憲への突破口にできるといった自民党の下心を指摘する論者もあります。

 こうした論者の中には、諸外国の緊急事態条項のほとんどは戦時対応を目的としており、自然災害を緊急事態として明文化するものは少ないと主張し、大規模災害対応の必要を改憲の糸口としようとする姿勢を批判する者があります。

 しかし、諸外国の例が少ないことを挙げて、日本でも災害緊急事態を憲法上想定する必要はないと主張することは、若干的外れであろうと思います。日本ほど大災害が多発する国はまれであり、特に大地震が周期的に発生する我が国においては、諸外国にはない災害緊急事態条項の必要が認められるものと考えます。仮に諸外国の憲法に災害緊急事態の規定が少ないとしても、国家の中枢機能が脅かされるほどの大規模自然災害が発生する可能性が少ないからであることも考えられます。

 一方、自然災害により国家が壊滅的打撃を受けた経験がある国の憲法には、災害緊急事態の規定が明文化される場合があります。例えばモルディブ。地震や津波の被害をたびたび経験し、地球温暖化による海面上昇に悩む島嶼国であるモルディブの憲法は、自然災害を緊急事態条項の最初に挙げております。これは二百五十三条であります。

 ポルトガル憲法第十九条二項は、戒厳または緊急事態は、外国軍による侵略が現にあり、あるいはこれが急迫している場合、憲法の民主主義的秩序への重大な脅威または妨害、もしくは公共の災害の場合にのみ、ポルトガルの領土の一部または全部において宣言することができるとして、災害を緊急事態布告の対象に含めております。ポルトガルは一五三一年と一七五五年に大地震があり、リスボンが壊滅的打撃を受けた経験があります。災害を緊急事態に含めるのも、そうした歴史が多少影響しているのかもしれません。

 ところで、緊急事態憲法条項を導入することに反対する論者の中には、法律レベルの対応で十分であると主張する者があります。日本には、防衛、治安、災害対策の各分野で緊急事態対応を定める規定が既にあり、不足があればこれを改善すればよい、緊急時に必要となる人権制限も公共の福祉による制約で説明できる、憲法を改正しなくても緊急事態法律規定の拡充で十分対応できると。

 私も、このような考えを全面否定するつもりはありません。これまでも東日本大震災を含め多くの大規模災害を経験してきた日本では、その反省を生かし、平常時から予想できる緊急事態については、通常の法律を十分に整備すべきだということに全く異論はありません。日本も既に災害対策法制や武力攻撃事態対処法制の整備に努め、制度の改善にも努めてきました。しかし、それでも大災害や他国の武力攻撃などに見舞われた場合には、どうしても想定外の事態は生じ得る可能性はある。

 自然災害に限ってみても、政府が公表した南海トラフ地震による被害推計は、想定外をなくすということで最悪の場合を想定していますが、死者・行方不明者は三十三万人。これは東日本大震災は一万九千人であります。建築物の全壊棟数が約二百三十九万棟と推計しております。これは東日本大震災は十三万棟。津波による浸水面積は千十五平方キロメートル。これは東日本大震災の場合は五百六十一平方キロメートルであります。

 そのようなことからしまして、南海トラフ地震の被害規模は東日本大震災等とは異次元であり、これまでの経験則が通用するとは限りません。首都圏直下型地震が発生し、首都機能や国家の中枢機能が麻痺した場合、これをバックアップすることも困難です。想定できない非常事態に臨機応変の対応に迫られたとき、憲法の通常のルールでは対応できない場合、どのように対応するかの憲法上の制度枠組みは必要です。憲法条項の例外は憲法自体が定めるよりほかないからです。

 そして、日本の場合、憲法の例外を定めるべき事項の一つが、衆議院の議員任期の延長と解散権の制限であります。

 衆議院が解散され、あるいは任期満了により総選挙が必要になったとき、大震災などの混乱を理由に選挙ができないことが仮にあったとしても、参議院の緊急集会があれば国会の機能は維持され、対応はできるという意見がありますが、これには問題もあります。

 既に多くの論者が指摘するように、緊急集会でとられた措置は衆議院選挙後の次の国会開会までの臨時的措置であり、衆院解散から最長でも七十日以内には国会の召集ができることを前提にしております。大災害により選挙が半年以上延期され衆議院が機能しないような最悪の事態を想定するならば、参議院の緊急集会で十分対応できるとは考えにくいと思います。

 衆議院議員の任期延長は、国民の参政権を奪うことになるから行うべきではない、選挙は実施すべきであり、任期の延長を安易に認めるべきではないとする意見もあります。もちろん、非常時においても有権者の投票機会はできる限り確保されるべきであり、可能であれば総選挙が実施されるべきことは言うまでもありません。

 それでも、被災地においては選挙の実施は困難なことがある。その場合は、繰り延べ投票で対処すべきとする意見がありますが、これには繰り延べ投票の対象地域の議員が一定期間不在となる欠陥も指摘されているところであり、繰り延べ期間が長期にわたる場合、被災地及び被災地を含む比例区の住民の選挙権のみが相当期間停止されることになり、問題が残ることは既に指摘されております。

 仮に、現憲法下で大規模災害により緊急事態が発生した場合、むしろ内閣による衆議院解散権の濫用の危険があるとも考えられます。

 政府の緊急事態対応に対し、国会、特に衆議院がこれを支持せず、緊急の必要がある立法措置が円滑にとれなくなった場合、内閣が衆議院を解散し、国会の機能は参議院の緊急集会で代行させ、緊急案件を次々に通過させる、参議院を単なる政府の翼賛機関として利用し、衆議院は総選挙を実施できる見込みもないまま放置、無視されるという事態は考えられないのか。参議院の緊急集会には会期はなく、内閣が提示する緊急案件が全て議決されるまで継続することになりますから、衆議院選挙が可能な状態が回復され特別会が召集されるまで、このような不適切な状態が続くことになります。

 もちろん、災害対応が急務のときに解散に打って出るようなことは異常事態というべきでありますが、議院内閣制の運用の行き詰まりからそのような異常事態が発生する可能性は、完全には否定できないようにも思います。

 自民党改憲案の緊急事態条項は独裁条項であると批判されますが、真に独裁をもくろむ権力者が政権にある場合には、現行憲法のもとでも、緊急事態対応を大義名分として権力の独裁的濫用の可能性は考えられます。むしろ、緊急事態条項を導入し、緊急事態宣言のもとでは、従来の国会両院の機能を維持するため衆議院の解散を禁じ、議員任期を延長して国会が政府を監視する方がよほど安全ではないのか。そうであるからこそ、諸外国の憲法にも、緊急事態における議員任期の延長や議会解散を禁じる憲法規定を定めるものがあるのだと考えます。

 諸外国の例につきましては、事務局が作成しました資料九十二号五十四ページから五十五ページに整理されていますが、少し補足説明をいたします。

 フランス憲法第十六条、大統領の非常措置権は、大統領が非常措置をとる間、国会は当然に集会し、国民議会を解散することができない旨定めます。

 ドイツ基本法第百十五h条は、防衛事態、防衛事態というのは日本で言う武力攻撃事態を意味しますが、この防衛事態の期間中に満了する連邦議会または州議会の議員の任期は、防衛事態の期間は延長され、事態終結後六カ月を経て終了するものと定めています。防衛事態の期間中に連邦大統領の任期が満了した場合にも任期は延長され、事態終結後九カ月を経て終了するものとされています。また、防衛事態の発生に際して連邦議会が集会不能になった場合に備え、連邦議会議員三十二名と連邦参議院議員十六名から構成される合同委員会というものが設置されることになっており、平常時からその委員が任命されておりまして、連邦議会が集会不能となった場合に直ちに活動を開始できる仕組みを憲法上備えております。これは五十三a条であります。

 これ以外にも、緊急事態における議員任期の延長や国会解散禁止を定める国は多くあります。

 例えば、エストニア憲法第百三十一条は、緊急事態または戦争事態において、国会、大統領及び地方政府の代表機関は選挙されることはなく、また任期が当該事態の終結から三カ月以内まで延長されることが規定されております。

 ハンガリー憲法第四十八条七項は、国家危機事態の期間中、国会は自律的にも他律的にも解散することはできないと定めています。そして、緊急事態の期間、選挙は実施されず、新国会のための選挙は緊急事態終結後九十日以内に実施されることになっています。

 スペイン憲法第百十六条によれば、警戒事態、緊急事態及び戒厳のいずれかが宣告されている期間中は、下院の解散が禁じられます。

 先ほど、憲法に災害緊急事態を定める例として挙げたモルディブ憲法八十条も、非常事態のとき、議会選挙の延期と議員任期を延長する旨を定めております。

 ポルトガル憲法も、百七十二条一項で、戒厳または緊急事態が布告されている間は国会を解散することはできないと定めるとともに、その間の憲法改正も禁じております。

 緊急事態における議員任期の延長については、これ以外にも、イタリア憲法六十条、スロベニア憲法八十一条などにも定められるところであります。

 自民党の憲法改正草案九十九条が、緊急事態の期間、衆議院の解散を禁じ、両議院の議員の任期等の特例を設けることとしたのも、政府の緊急事態対応を国会が継続して監視できるよう配慮したものと評価できます。

 もっとも、私は自民党改憲案の全てに賛成しているわけではなく、欠陥があることも既に別の場所で指摘しております。

 自民党案を批判する論者が特に問題視するのは、政府の緊急政令制定権の濫用のおそれです。自民党案では、内閣総理大臣による緊急事態宣言に対する国会の承認手続も、政府による緊急政令の制定と、これに関する国会の事後承認についても、その詳細は法律で定めることになっています。したがって、緊急事態憲法条項を実施する法律が制定されないと明確にならない点が多く残されています。

 例えば、緊急政令について国会の事後承認がいつまでに必要なのか、承認が得られない場合には、緊急政令により既にとられた措置の効力はどうなるかなどについては、自民党案の条文だけでははっきりしない。また、緊急政令にも限界はあるはずで、緊急事態対処に必要であることを名目に何でもできるということにはならないはずです。

 緊急政令は法律と同一の効力を有するとされていますが、ということは、既存の法律を全面改正し、どのような内容にでも変更できるのか、既存の法律を廃止することすらできるのか、改憲案九十八条、九十九条の施行法律すらも緊急政令により改正、廃止できるとすれば問題であります。施行法律が緊急政令により無効化され、あるいは施行法律がそもそも制定されない、このようなことになれば憲法上の政府の緊急立法権だけが残り、これを規律する法がないことになります。ナチス独裁を招いた原因としてしばしば批判されるドイツ・ワイマール共和国憲法四十八条の大統領非常措置権が濫用された一因も、この条項を実施する法律が制定されなかったことにありました。

 私は、自民党改憲案にあるこのような不安を払拭するために、改憲論議と並行して、緊急事態憲法条項の施行法律を緊急事態基本法として案文の詳細を詰めておくべきであると考えます。

 この法律の中で、緊急政令に委任すべき事項を限定列記するとともに、緊急政令ではできないことを定める、例えば、緊急事態においても停止されてはならない特定の基本権を国際人権条約に従い明記するなどが考えられます。そして、緊急事態施行法律自体は、緊急事態宣言下では緊急政令によっては変更できないことを憲法に明記する必要があると考えます。

 二〇〇四年五月、民主、公明、自民三党間で緊急事態基本法の制定について合意がなされております。しかし、その後、この議論が進展したという話は聞きません。広島県議会、福井県議会など多くの地方議会が地方自治法第九十九条に基づき緊急事態基本法の早期制定を求める意見書を提出していますが、いまだに進展はありません。

 当時の民主党の緊急事態基本法骨子案では、国家緊急事態について、我が国に対する外部からの武力攻撃、テロリストによる大規模な攻撃、大規模な自然災害等の国及び国民の安全に重大な影響を及ぼす緊急事態と定義しており、自民党の改憲案第九十八条一項の定義と共通点があります。

 緊急事態憲法条項の導入の是非に関する議論にあわせ、この緊急事態基本法制定への具体的取り組みを期待しつつ、私の意見を終わらせていただきます。

 以上であります。(拍手)

森会長 ありがとうございました。

 以上で各参考人の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

森会長 これより参考人に対する質疑を行います。

 質疑者におかれましては、本日の議題に沿った質問をしていただくようお願いいたします。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。中谷元君。

中谷(元)委員 自由民主党の中谷元であります。

 参考人の皆様には、大変貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございます。

 まず、緊急事態における国会議員の任期の延長に関して、永井参考人にお伺いをいたします。

 永井参考人は、緊急事態には参議院の緊急集会があって、衆議院解散中や任期満了の際も類推適用をして開くことができるという御意見でありますが、人権規範については別として、政治のルールを定めた統治機構の分野におけるこの憲法の規範について軽々に類推適用を認めるということは、憲法の権力、統制力、これを著しく弱めることになってしまい、危険なことになるのではないでしょうか。

 緊急集会の正当性について疑義を残して、その立法に基づいてされた行政処分が不安定なものとなるために、仮に任期満了の際も参議院の緊急集会で対応すべきとするならば、これは憲法改正によって議員任期延長また選挙の延期ができるように明記をするというのが筋ではないでしょうか。

 そして、任期満了の際の参議院の緊急集会を憲法が想定していないということは佐藤幸治教授の「日本国憲法論」にも書かれておりますが、この点での御所見を伺いたいと思います。

 また、御著書で、参議院の緊急集会が任期満了で欠員のときも適用できるとする意見は複数の有力な憲法学者の御意見でもあると紹介されておりますが、どなたが唱えておられるのか教えていただきたいと思います。

 次に、地方で対応するから国家緊急権は要らないということでありますが、やはり、国民の生命財産の保護は、平時のみならず緊急時においても国家の重要な役割でありまして、確かに都道府県には従事命令、保管命令があり、市町村には瓦れきの撤去などの強制権もあります。しかし、憲法に国家の緊急権の規定がないために、国が住民に直接指示、命令する権限が今の法律上ございません。

 大規模災害の際に、役場が消滅をしたり担当者が死亡するなど県庁や市町村が機能できないときや、甚大な被害で地方では対応できない場合、国家として緊急に対処する権限、手続を規定して、国家が存在をし、また、国会が政府の緊急権濫用を防止する機能として憲法に緊急事態条項を明記するというのは必要があり、その際、国会の議決、承認などの機能は維持していかなければならないと考えますが、お尋ねします。今の憲法でも、緊急事態に国が直接瓦れきの処理、従事命令、収用などの行為を行うことができるというお考えでしょうか。

 また、現在、国民保護法では、武力攻撃事態において、住民の要請は全て協力を求めるという形でしか規定をされておりませんが、地方にも求めるとしか書かれておりません。憲法上、国が住民に直接指示、命令するように規定することができるかどうか、この点についてお伺いをいたします。

永井参考人 御質問いただき、ありがとうございます。

 まず最初の、衆議院議員の任期満了のときに参議院の緊急集会の規定が適用できるかどうかという御質問でございます。

 これについては、先ほど申し上げたとおり、参議院の緊急集会は、衆議院が解散されて議員がいなくなった場合、参議院に国会を代替させるという制度でありまして、この衆議院が解散され議員がいなくなるという状態は任期満了の場合にも同じ事態であるということで、同一事項については同じ扱いをするということであります。これは、もちろん解釈という言い方もされております。北海道大学の名誉教授であり上智大学の名誉教授である高見勝利教授の御説でございます。

 これについて、国会が機能しないときに参議院によってそれを一時的に代替させるということによって大きな人権侵害の危険があるということでもございませんので、中谷委員の危惧されるようなことにはならないというふうに考えております。

 複数の憲法学者が申し上げたと本には書きました。これは事実でありまして、ある大学の名誉教授お二人と、ある大学の教授が意見を述べてくださったのですが、その方々は、まだ論文にしておりませんので名前を出すことは控えてほしいということだったので、著書ではあのような書き方になっております。

 以上でございます。

中谷(元)委員 参議院の緊急集会について、議員がいなくなるということで、衆議院の解散中から特別会が召集されるまで、これは約七十日間を想定した制度でありますが、しかし、東日本大震災のときは、被災地では約八カ月、二百五十日の長期の間、地方選挙が執行できませんでした。そうなりますと、国政選挙ができないということで、被災地のことを知る被災地選出議員が欠いた状態で、本当に適切な立法や行政監視を行うことができるのであろうかどうか。

 そして、繰り延べ投票という手段もありますけれども、しかし、これでは多くの議席が確定しないまま、特に比例区でありますが、一部の国会議員のみで国会を構成することになってしまいまして、比例代表のみで議員を出している少数政党ほど、この影響は大きく受けるのではないか。国政選挙同時実施の原則、こういうものがなくなってしまうわけで、こうして公平な国政の判断ができないのではないか。

 それから、参議院の任期が切れている場合は、総員の二百四十二名の三分の一である八十一名、これが出席できなければ集会ができません。同日選挙が実施できなかった場合は、参議院議員が半分の百二十一名しかいない状態で、しかも暫定的な措置が何カ月も運営をされるということで、やはり国会議員が全国民の代表であるという観点からいきますと、民主的コントロールを欠いてしまい、そして、国民主権の機能、これが果たせないというふうに考えます。

 したがいまして、国会の任期延長はしっかり手当てしておくべきだと考えますが、これはいかがでしょうか。

永井参考人 先ほどの御質問でまだ答えておらなかったところがあります。

 まず、市町村に第一義的な権限を持たせるべきかどうかということなんですが、先ほど言いましたように、市町村に関する問題、災害のときは、県レベルでもない、市町村レベルでもない、もっと狭い地域でのニーズが必要になります。そういうとき、例えば、地域の地形はどのような状態なのか、あるいは高齢化率は何%か、コミュニティーの状態はどうなっているのか、産業は何か、そのようなことに基づいて対応しなければいけないんですね。それも、なるべく迅速に、最も柔軟な方法で。これができるのは、情報が入ってきてそれがわかるのは、やはり被災者に一番近い市町村なんです。国ではないんです。ですから、市町村に権限を持たせるべきだということです。

 熊本地震のとき、四月十四日に前震がありました。そのとき、内閣総理大臣は河野大臣に対して、屋外に避難している人たちに対して屋内に避難するように指示をされました。しかし、そのとき、益城町の体育館の副館長が、これは危険だというので対応しませんでした。そうしたら、二日後の四月十六日に本震が起きて、天井が本当に落ちたんです。あのとき、もしあそこに入っていれば多数の方が亡くなったのは確実です。

 国が行うべきことは、そういうことではなくて、被災地からの要請があったときに、例えば物資を送るとか、あるいは被災地の自治体の長に広い裁量権を認める、予算などを使えるようにするということであります。

 それから、二番目。参議院の緊急集会ということで、それで対処するということになると、一部の地域の住民の意向だけではないのかということをおっしゃいました。しかし、先ほども言いましたけれども、災害対策というのは、準備していないことはできないということでありまして、平常時からその対処はしておかなければいけないわけなんです。

 例えば、今回の東日本大震災の後、災害対策基本法が改正されて、例えば被災者台帳といって、今まで自治体ごとにばらばらに対処していたものを、被災者を単位にした台帳がつくられました。これによって、被災者に対する支援というのが一本化されるという形になったわけです。これが、災害対策基本法が改正されるのには三年七カ月かかっているんですね。やはり法律の制定に関しては、冷静な分析とそして合理的な判断が必要であり、これには時間がかかるということです。

 それから、済みません、あと御質問、ちょっと……。

 大体、以上でございます。

中谷(元)委員 どうもありがとうございました。市町村の機能を欠くとき、どうするかということをお尋ねしましたが。

 次に、解散権についてお伺いします。

 自由な解散に対しては、理由を明確にするために何らかの手続が必要ではないかという御意見でございました。それも一案だと思っておりますが、最近の解散につきましては、最新の民意を下院に届ける、衆議院に届けるというような側面もあろうかと思います。

 そこで、解散権の行使を六十九条の場合に限定するという見解に対しては、芦部東大名誉教授が、政党内閣のもとでは、多数党が支える内閣に対して不信任決議が成立する可能性は極めてまれであるために解散権を行使する場合が著しく限定されてしまうと。また、長谷部早稲田大学教授も、解散制度の目的は、衆議院が民意を反映しているかどうか疑わしい場合に民意を確かめることにあるため、内閣を信任しない旨の決議がある場合に限らず、国政上の重大な問題について民意を確かめるために行われるべきであると御指摘をされております。

 そして、その上、イギリスの例を言われましたが、これは確かに、二〇一一年に、五年に一回の任期満了により解散するということになりましたが、これは、二〇一〇年、前の年の総選挙の結果、保守党と労働党が単独過半数を獲得することができずに、いわゆるハングパーラメントに陥った際にキャスチングボートを握った自由民主党が、保守党との連立協議の過程において、みずからの政策実績を国民に示す時間を確保するためにこの法律の制定を迫ったという政局的な事情があったからだと承知をしております。しかし、この結果、EUの離脱に関しまして、総選挙によって国民の意思を改めて確認するということができなくなっております。また、誤情報に基づく国民投票の結果の是非を試みることができなくなっているという指摘がございます。

 そういうことに関しまして、この解散権に歯どめをかける慣習というのが、我が国においては、ある意味確立しつつあるというふうにも見えるわけでございますが、木村参考人に、法律によって解散の手続を縛るというものについて、これは阻止をし得るものであるかどうかという点について、お考えをお伺いしたいと思います。

木村参考人 済みません、阻止をし得るというのは、何を阻止し得るという御質問なのか……(中谷(元)委員「解散すること」と呼ぶ)はい。

 私が現行憲法下で手続を制定すべきというふうに申し上げた点については、これは解散を阻止し得るものではなく、あくまで解散の理由を明確化するための手続を設けるべきだということでございます。

 内閣不信任決議の可決の場合には、不信任には当然理由があるわけでありますから、これについては、特に特別の手続がなくても解散についての理由は明確であろうかと思いますが、一方で、不信任決議を待たず内閣の側から解散をする場合に、もちろん首相の記者会見等はあるわけですけれども、きちんと議会で解散の理由を内閣が説明する手続はあってもよいのではないかということでございまして、また、それを審議して内閣の側から解散を引っ込めるということはあり得るかもしれませんが、手続を置くことによって解散権の行使を完全に縛る、あるいは国会の同意を要求とする、そういうような法律の整備が現行憲法下で必要だというふうに述べたわけではないということでございます。

中谷(元)委員 最後に、松浦参考人にお伺いしますけれども、こういう緊急事態において、平時以上に権限が集中した行政による権力の濫用や対応措置の内容を国会がチェックして国民の声を反映させる必要がありますが、このような民主的な機能を維持させるために国会がいつでも活動できる状態にしなければならなくて、緊急事態において選挙の実施が困難な場合には国会議員の任期の延長ができるようにしなければなりませんが、もう少し詳しく、こういった参議院緊急集会で対応できるという御意見に対して、それではいかがかという点について参考人にお伺いしたいと思います。

松浦参考人 先ほどの私の意見の中でも述べたわけですけれども、解散あるいは任期満了によって選挙が行われないことによって、議員、特に被災地議員を欠いてしまうという状態が長期にわたって続くということはやはり避けるべきであるということで、参議院の緊急集会でそれを代行するといいましても、これはケース・バイ・ケースではありましょうけれども、どこまでチェック機能が働くのかという問題があります。やはり両院の、特に下院の機能というものを維持していくということが諸外国でも緊急事態条項においては求められているところが多いわけでありまして、参議院だけで長期にわたって国会の意思を代弁させるということはちょっと不適切であろう。

 それから、今の御質問とはちょっと関係ないかもしれませんが、国によっては、国会の機能というものを維持させるだけではなくて、緊急事態調査委員会というようなものを国会の中に設ける、その中で、政府がとった緊急事態の緊急措置、これが憲法に照らして問題がないのかというようなことを調査させる、そのような機関を緊急事態において設けるというようなことを規定する憲法もございます。

 先ほど申しましたドイツの合同委員会のケースはこれとはまた別でありますが、いずれにせよ、特にドイツの場合には、災害ということよりも、戦時にそのような合同委員会のような特別な小委員会を設けて議会の意思を代行させるというようなことをやっている。やはり日本の場合も、首都圏直下型が想定されるようなこともありますし、国会の機能の持続と維持ということについて、現行憲法の枠組みの中とかそういうことにとらわれずにもう少し議論した方がよろしいのではないかというように思います。

中谷(元)委員 どうもありがとうございました。

森会長 次に、奥野総一郎君。

奥野(総)委員 会長、発言させていただきます。民進党の奥野総一郎でございます。

 きょうは、参考人の先生方、貴重な御意見、本当にありがとうございます。

 まず最初に、解散権の制約について伺っていきたいと思うんですけれども、木村参考人の方からは、七条解散を認める立場からも解散権に一定の制約を認めるというのが多くの学説、日本の学界においては多数だというようなお話だったと思います。

 そこで、永井参考人と松浦参考人にそれぞれ伺いたいんですが、解散権の制約、これは必要でしょうか。法律上の措置、憲法上の措置、それぞれあると思いますが、制度として設けるべきだと思われますか。

 それから、松浦参考人にもう一つ追加して、災害時の解散権の制約というふうにおっしゃっていましたが、一般的な解散権の制約を法律あるいは憲法で規定しておけば、こうした災害時の解散権の制約というのは重ねて規定する必要はないかと思いますけれども、いかがでしょうか。それぞれお答え願いたいと思います。

永井参考人 災害時の解散権の制約についてですが、まず、政府の方から行うことに関して言えば、災害時というのは被災者支援活動に最も勢力を使うべき場面であり、予算とか人員など、それに集中しなければいけない場面です。そのようなときに、選挙の方に予算あるいは人員を集中してしまう解散を行うことが適切なことなのかどうかということを考えると、通常は不適切と考えられますので、このような解散は自制するだろうということが考えられます。

 そして、万が一解散権を行使してしまったような場合は、参議院の緊急集会がありますし、あるいは、そのような政権に関しては、選挙の過程で、主権者である国民の意思による解散権の行使の適否についての判断がなされるものと考えます。

 また、国会の方から内閣の不信任決議案を出すという形によって結果として内閣が衆議院を解散するような場合になった場合、このような場合にも、国会のそのような決議に関する適否は、最終的には国民の判断によって行われるものと考えます。

 以上です。

松浦参考人 一般論として、衆議院の解散権を制限すべきであるという御意見なんですが、もちろん、今の制度のもとでも、党利党略による解散をよいという憲法学説はないわけでして、そういった意味では、解散権を濫用するようなことはもちろん慎むべきであるわけですが、制度として、では、六十九条だけの問題にすべきかどうかということになりますと、先ほど中谷幹事の方からも御説明がありましたように、民意を問うて、特に下院にその意思を反映させる、議院内閣制の中で内閣と衆議院、議会が対立した場合に民意を問うというその制度が過度に制約されてしまうというところに問題があるということであります。

 イギリスの例は中谷幹事がおっしゃるとおりだと思うんですが、先ほどドイツの例がちょっと挙がっておりました。ドイツは、ワイマール憲法時代に解散権が濫用されるというようなこともありましたが、一方で、内閣不信任も濫用された部分があるわけで、そういった中で、戦後のボン基本法では、不信任に関しましても建設的不信任という形で、次の首相を決めない限りは不信任はできないんだ、つまり、政権の安定というものを図る上で、解散権も確かに制限されてはおりますけれども、不信任投票のあり方も制限されている。このバランスがやはりあるものですから、解散権の制限というものが機能するわけなんだろうと思います。

 ですので、一般論として、現行憲法のもとでこれは制約すべきかどうかということについては意見は差し控えますが、そういうことで、単に制約すればいいというものではないんだろうと思います。

 それから、一般論として、解散権を制限すれば、緊急事態においてわざわざ制限する規定を置かなくてもいいのではないかという御意見でありますけれども、今、ドイツの例を挙げましたが、ドイツも解散権は制限されているんですが、やはり緊急事態において連邦議会、連邦参議院の意思を継続させるという意味で、任期の延長というものを改めて規定しているわけでありまして、そこはダブルで置いておきませんと、やはり緊急事態だから例外を認めるというようなことにならない、そういう制度設計になっているんだろうと思います。

 以上でございます。

奥野(総)委員 今の御意見ですと、条件つきながら、やはり解散権というのは無制限に発せられるべきじゃないというふうに理解させていただきました。そして、今、任期延長との関係で、そこは確認的に憲法に規定しておくべきだ、こういうお考えだと理解しました。

 それから、永井参考人にもう一度確認しておきたいんですが、一般論として、解散権の制約、法律にしろ憲法にしろ、認めるべきかどうか、先ほど、そこが第一の問いだったんですが、そこを伺っておきたいと思います。

 それから、この問題は木村参考人の方に。国民投票、先ほどのお話の中では、国論を二分するようなイシューについては問うべきであるという解散の機能、これは新しい今日的な意義だと思うんですが、これを、仮に解散権を制限すべきだとすれば、国民投票にかけてはどうか、こういう御提案がありました。

 国民投票について、ほかの国はどういう定めをして、どういう効力を認めているのか。国論を二分するような問題について、あるいは、どのような問題について国民投票にかけられることになっていて、その効力はどういうふうなものか、例があったら御教示願いたいと思います。

永井参考人 解散権一般についてのお話でありますと、これは政府と国会との関係をどのように考えるかということと、また、衆議院と参議院との関係をどのように考えるべきかということも問題になりますし、また、政府と参議院との関係もどのように考えるかということも問題になりまして、これは大変深い問題でありまして、統治機構全体にかかわってくる問題になりますので、申しわけありませんが、ちょっときょうは発言を控えさせていただきたいと思います。

木村参考人 国民投票についてのお尋ねでありますけれども、たしか、お隣の韓国には、大統領が国民投票にかけるという手続はあったかと思いますし、また、EU関係におきましては、EUの加入に際して、国によりますけれども、国民投票で判断をするということはしばしばあることでありまして、また、先ほど中谷幹事からも御指摘があったように、イギリスでは、EU離脱に関しては国民投票という形で、もちろん国民投票だけで全てが、手続が終わるわけではないわけですけれども、決定が行われるということはあったということでございます。

奥野(総)委員 ありがとうございます。

 次に、国家緊急権の話、緊急事態の話に移りたいと思います。

 日本国憲法は、その制定時に、金森国務大臣答弁というのが残っていまして、いわゆる国家緊急権については定めないんだ、行政権の自由な判断の余地をできるだけ少なくするように制度設計をしたと答弁があります。そして、平素からきちんと立法措置を講じておくことで十分だ、あらかたこういうことを答弁されています。

 政府も、この答弁をこれまで踏襲してきたということであります。武力攻撃事態への対処に関する法律、このときも、こういう金森答弁を踏襲する形で、現行憲法の範囲内で権利義務の制限を定めていく、こういうことで来たと思います。

 松浦参考人に伺いたいんですけれども、先ほど永井参考人の方から、東日本大震災のときに憲法は障害になったか、こういうアンケートをとったところ、障害になったというのは一自治体だけであって、ほとんどの自治体は、障害はなかった、こう答えているわけですね。そうなると、果たして憲法を変える必要があるのか、改めてここで憲法を変えるだけの立法事実があるのか、何か状況は変わったのかということなんですが、その点についてどうお考えかということと、それからもう一点、いわゆる緊急政令ですね。緊急政令について、自民党案は広過ぎるというお考えのようですが、そもそも、憲法にそれを規定しておく必要があるのか、今支障がないとすれば、今の制度で十分であって、新たに一般的な緊急政令の根拠規定を憲法に設ける必要があるのかということを伺いたいと思います。

松浦参考人 お答えになるかどうかわかりませんが、その立法事実がない、要するに、憲法に緊急事態条項を導入する必要性を裏づける社会的な事実がないという点については永井参考人の方から御指摘があったわけなんですが、先ほども申しましたように、戦後我々が経験してきた従来の災害であるとか、戦争はもうしておりませんから、災害緊急事態、こういったものについて、法律レベルで枠組みができているということについては何の異論もございません。また、武力攻撃事態、戦争はしないにしましても、まだ武力攻撃を受ける可能性はありますから、それについての備えをしているということも、これは異論はございません。

 ただし、災害というのはやはり想定外のことが起こり得るわけで、やはり、東日本大震災の後で災害対策基本法が改正されたりという必要が生じたのも、発生当時、そうした対応に法的な不備があったから後で直したわけでありまして、災害発生当時に法的な不備があったことは、これは間違いないんだろうと思います。後でそれを十分に検討して修復していくということは、これはそれまでも努力してまいりましたし、徐々に完備されていくものなんだろうと思います。

 しかし、東日本大震災のようなときに憲法が支障にはならなかったといいましても、先ほども申しましたけれども、南海トラフ地震の被害想定というものは、これはもう東日本大震災や阪神・淡路大震災の規模とは格段に違います。しかも、首都機能や、あるいは中央官庁の機能等にも損害が生じるというようなことは従来の枠組みでは想定できなかったことでありまして、それに対して柔軟に対応するということは立法事実の問題とはまた別の問題なんだろうと思います。

 一応、最悪、想定外をなくすということで政府も被害推計を出しているわけでありまして、それに応じて予想できることを法律で整備していくという努力は当然必要になってくるだろうと思います。

 ただ、その発動の枠組み、これは議員任期の問題とか議院解散権の制限であるとかも含めまして、憲法の例外を認めるべきだという点に関しましては、やはり憲法改正が必要なんだろうと思います。どういう被害を想定するか、その規模がどの程度のものであるか、また憲法の規定にその措置が抵触する可能性がないのかどうかということをやはり検討する上から、緊急事態条項というものが必要なんだろうということであります。

奥野(総)委員 私、自民党の改憲草案を見ましたけれども、緊急事態もその他の法律で定める場合と極めて広いですし、松浦参考人自体もお認めのように緊急政令の範囲も極めて曖昧であります。

 ですから、こうした一般的な緊急事態条項、これは日本国憲法に私は必要ないと思うんですが、木村参考人、その点について伺いたいと思いますが、いかがでしょうか。

木村参考人 自民党草案につきましては、緊急政令の対象事項が個別具体的に列挙されていないという点はかなり深刻な問題であろうということは、私もそう思っておりますし、多くの憲法学者が指摘するところでございます。

 ただ、あの草案では、法律の定めるところにより、法律と同等の効力を定める政令を制定できるとなっておりまして、その前提として「法律の定めるところにより、」というふうに書いてありまして、法律で定めるところによるというところの意味が、それ自体がよくわからない条項になっております。

 したがって、あの草案については、そもそも曖昧で濫用の危険が大きいという点とは別に、意味内容を明確化するためにあの文言の意味というのをもっと詰めないと、そもそも議論ができない条項であろうとは思っております。

奥野(総)委員 時間もなくなってまいりましたので、最後に一点伺いたいんですけれども、この議論の中で一番議論になっているのは、スポットライトが当たっているのは、国会議員の任期の特例延長であります。これが皆さんにすとんとくる、納得されやすいのは、東日本大震災のときに県会議員の任期を延長した、こういう事例があるからですね。

 先ほど来議論になっていますけれども、もちろん、緊急集会を開けば国会の意思決定はできるわけでありますけれども、しかし、被災地の当事者である議員がいなくて議論ができるのか。もちろん、法律で定めておけばそうなんですが、ただ、予算の措置とかもありますし、できれば当事者である地域の議員が国会に出て議論した方がいいんじゃないか、国民主権の、あるいは地域の代表としての観点からもいいんじゃないか、こういうことだと思うんです。

 こうした観点から、議員の任期の特例的延長、長期にわたる場合、長期間選挙が行い得ないような場合に限定しますが、選挙が行われるまでの間の特例的延長を認めるべきかどうか、これについて、それぞれ三人の参考人から伺って終わりにしたいと思います。

木村参考人 任期の特例的な延長につきましては、もちろん反対意見もあれば賛成意見もあるということで議論がされているところかと思われます。

 まず、この点については、任期を延長できるという場合と、解散されてしまって地位を失った人を復活させなければいけない場合とで正統性の疑義という点ではかなり違うのではないかというのは、この憲法審査会において枝野委員においても指摘があったところかと思いますし、実際、特例延長の手続をデザインしようとすると、かなり困難な面が多々出てくることとは思われます。

 また、特例延長する場合には、誰が延長の期間というものを判断するのかという問題が出てきますし、内閣が好きに決定できるという点は当然濫用の危険が大きく、他方で、国会議員にしても、これはみずからの任期を延長できるということですから、これもお手盛りの危険があると指摘をされております。

 しかし他方で、内閣や国会が任期の延長に関与しないということも考えにくく、もしやるのであれば、こうした国会、内閣の関与とともに、それが適切であったかどうかについての裁判所の関与が不可欠であろうということが指摘されております。

 また、裁判所が関与する場合には、統治行為論などを理由に判断を回避することのないようにきちんと憲法に明記し、また、裁判官の人事について恣意のないように、現在の規定をより裁判官人事について透明化するといった対応をしないと、任期の延長は非常に濫用されやすい制度になるであろうというふうに指摘をされておりますので、この議論を進める場合には、どのように歯どめをかけるのかという議論もあわせて行っていただきたいと考えております。

永井参考人 先ほど最初に申し上げたとおり、衆議院議員の任期も参議院議員の任期も憲法で定められております。ですから、特例延長ということは憲法を改正して任期を延ばすことであろうと思いますが、それに私は反対です。

 先ほど申し上げたとおり、災害関連法規というのは平常時から準備しておくべきものであり、災害が発生した後に対処すべきものではないと考えます。

 それからまた、法規の制定に関しては冷静な分析それから合理的な判断が必要であり、時間がかかるものであります。

 そしてまた、早期に衆議院議員の選挙をやりたいというニーズに応えるのであれば、これは、「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。」ということで、憲法四十七条では憲法問題ではなく法律問題であるというふうに定めております。したがって、憲法ではなく法律で対処すべきであると考えます。

 以上です。

松浦参考人 先ほど、任期延長、解散権の制限が必要かどうか、これは必要であるという立場から意見を申させていただきましたので、繰り返しになりますので避けますけれども。

 一つ。先ほど、議員任期は誰がどういう形で決めるのか、延長するのを誰が決めるのか、その必要性をどこが判断するのかということでありましたが、自民党の改憲案でも、緊急事態宣言の妥当性については、国会が機能していればの話ですが、国会がこれに同意する必要があるわけで、その同意がなければこれは失効するわけでありますから、政府が単独で決めるというわけではないんだろうと思います。

 緊急事態宣言の期間中、その任期が延長されるということであって、政府が提案し、それに対して議会が同意をするという枠組みが維持されていれば、その濫用の危険性はないんだろうと思います。

 逆に、衆議院が解散されてしまうということになればチェックがきかないということで、であるからこそ、諸外国の憲法でも、任期の延長、議会解散権の制限というものを緊急事態において規定しているものだろうと思います。

奥野(総)委員 ありがとうございました。

森会長 次に、斉藤鉄夫君。

斉藤(鉄)委員 公明党の斉藤鉄夫でございます。

 きょうは、参考人の先生方、ありがとうございます。

 早速質問させていただきます。

 まず初めに、松浦参考人に、ドイツの緊急事態条項導入の際の合意形成についてお伺いいたします。

 ドイツ憲法の緊急事態条項は、十年ほどの長きにわたる議論を経て、一九六八年に追加されたと承知しております。

 この議論の過程では、最初に提出された改正案では、基本権を制限することのできる緊急命令の制定権を連邦政府に認める内容であったため、多くの会派に反対されて廃案になるなどして、最終的には、政府による緊急命令の制定を認めず議会の役割を重視する、一九六七年に提出された改正案が諸修正を経て成立したと聞いております。

 憲法改正に当たっては、幅広い合意を形成することが重要だと考えます。ドイツにおける緊急事態条項の導入においては、どのような経緯を経て幅広い合意形成が図られたのか、また、そこから我が国の憲法改正論議が学ぶべき点について、ドイツ憲法における緊急事態条項の専門家である松浦先生にそのポイントを御教示いただければと思います。

松浦参考人 これは、一九六八年の六月二十四日の十七次改正で、いわゆる緊急事態憲法という名称で、当時の基本法の条項の五分の一を改正する、あるいは新設するというような大改正が行われた。これは、キージンガー内閣、大連立内閣でありますが、大連立であったからこそできたというところがありますが、それに先立つ十年ほどの間、今、斉藤委員が御指摘のように、長い間の議論がありました。

 当初は、ワイマール憲法四十八条のような、政府に緊急政令を言ってみれば包括委任するような、そんなことも考えられていたようでありますけれども、御指摘のように、議会からこれは非常に嫌われたという面があります。

 最終的に、現在の緊急事態憲法条項の中で、政府に緊急政令を包括委任するのではなくて、あらかじめ、防衛事態、つまり防衛上の緊急事態、日本で言う武力攻撃事態あるいは武力攻撃予測事態に該当するところでありますけれども、これが議会の三分の二によって認定されたときに初めて緊急政令、もう既にできているんですね、法律の中で、法規命令といいますけれども、これがもうある程度できているんですね。

 法律レベルでは、例えば、食糧確保法であるとか、あるいは交通確保法であるとか、水資源の確保法であるとか、経済金融確保法、いろいろな確保法、保全法ともいいますが、そういうものがもうできている。これは、議会がもうあらかじめ法律をつくってあるわけですね。その中で、法規命令、政令に委任すべきことを限定列記している。その限定列記した中で、緊急事態が起こったらこれこれこういうことをやりますよという法規命令を、もうある程度はつくってあるんですね。

 ですから、完全な包括委任ではないわけでありまして、議会が既にそうした緊急事態にのみ適用される法規命令の根拠を提供しておく、ただし、それは緊急事態が認定されなければ発動はしないという形をとっておるわけです。

 ですから、先ほど来、永井参考人の方からも、こういった検討というのは時間がかかるんだ、ですから、事が起こってからであっても何年もかかるものだとおっしゃいましたけれども、ドイツの場合、ある程度、もう戦時に必要な措置というものはイメージされている。その中で、議会もそれを、ここまでは認めましょうという枠組みをつくってある。政府がそれに対して法規命令をあらかじめ用意しておく。ただ、それでも想定外のことは起こりますから、法律の枠組みの中で新たな法規命令をつくっていくという枠組みをつくっているわけです。

 ですから、私が先ほど、緊急事態条項を導入すると同時に緊急事態基本法を制定しろ、その中で緊急政令に委任すべきことを限定列記しておけというのは、ドイツ型のやり方を応用できるのではないかというところで御提案をさせていただいたわけであります。

斉藤(鉄)委員 次に、繰り延べ投票、被災地で行う繰り延べ投票について、木村参考人と松浦参考人にお伺いいたします。

 選挙ができないから被災地では繰り延べ投票ということが今の制度でもう定められているんですが、この繰り延べ投票という方式について、これは私は選挙の公平性という観点から大いに懸念があるのではないかと考えております。

 本来、一つの選挙は一斉に投票、そして開票が行われるべきものであります。一部の地域では、他の地域の投開票の結果を見てから後日投票するということでは、有権者の投票行動も選挙運動のやり方も大きく変わってしまうのではないでしょうか。

 例えば、投開票が済んだ地域の結果が非常に接戦となったときに、残された繰り延べ投票の選挙区の結果次第で選挙全体の結果がひっくり返るということも考えられないことではありません。その場合、全国から注目を集めるこの選挙区では、集中して特別の選挙運動が行われ、有権者も、既に出ている結果を踏まえて、本来の投票先とは異なる政党、候補者に投票することもあるのではないでしょうか。

 期日前投票の場合は、投票日より前に投票を行いますが、開票については、投票日の投票が終わってから、これと同時に行われます。選挙は一斉に行うべきという原則が守られていると言ってよいと思います。

 選挙の公平性の中には、このいわば選挙一斉の原則というべきものが当然の前提とされているのではないかと私は考えます。この点、繰り延べ投票は、ごく一部の例外的地域のみで行われるのであればまだしも、選挙を実施できない地域が相当の広がりを持っている場合、また比例代表のように影響が広範囲に及ぶ選挙制度のもとでは、選挙が実施できるようになってから一斉に選挙を実施すべきであると考えます。

 また、私自身は比例代表から選出されておりますが、比例代表と選挙区選挙は私は別々のものではない、一体のものだ、それが今の選挙制度の基本的な考え方でございます。

 そういうことを考えれば、非常に繰り延べ投票というのは問題ではないかと思いますが、この点について、木村参考人、松浦参考人のお考えをお聞かせ願えればと思います。

木村参考人 繰り延べ投票については、公平の観点から、政策的に問題があろうという御指摘は理解できるところでございます。

 他方、憲法論的にどのような考えになるかということでありますが、憲法上の選挙に関する要請は、普通選挙、平等選挙、直接選挙、秘密投票、自由選挙といった五つの要請があるというふうにされておりまして、この平等選挙の要請の中に、必ずしも一斉に選挙が行われるべきという要請までは含まれていないという解釈が学説では多いのではないかと思います。したがいまして、一部の選挙で一斉に選挙が行われない、繰り延べ投票が行われるということが即座に憲法違反の疑義を生じるものではないと考えるのが一般的であり、また、これは国会の立法実務でもそのように解釈をされているのではないかというふうに思われます。

 したがいまして、即座に憲法違反の疑いが生じるわけではありませんが、政策的に、そのようなものはできるだけ控えるべきだというふうに考えるのであれば、先ほど永井先生も御指摘されたように、選挙の方法については法律でさまざまな工夫ができるわけでありますから、事前にきちんと、そのようなことができるだけないような仕組みを整えておくべきであろうというふうに思います。

松浦参考人 繰り延べ投票の妥当性について、もちろん憲法の選挙制度に関しての文理解釈の問題というのはさておきまして、選挙結果が一部について出ない、後から投票する、その投票行動がもう既に出た結果を反映してしまうという問題につきましては、斉藤委員の御懸念はもっともであろうと思います。私もその趣旨で、先ほど、繰り延べ投票はすべきではないということを申し上げたわけなんです。

 これは今回の大統領選挙ではないんですが、アメリカの大統領選挙で、以前、こういうことを聞いたことがあります。西海岸と東海岸で時差がある。二時間ですか、時差があって、一方はもう投票結果が出てしまって、その結果を報道してしまったものですから、それが後の投票行動に影響を与えたというようなことが生じたということを聞いております。

 ですから、二時間ですらそれだけの影響があるということでありますから、もし仮にこれが数カ月ということになりますと、選挙の平等性の観点もそうなんですけれども、政治的な、議席の問題に直結する問題でありますから、やはり一括してやるというのが大原則なんだろうと思います。

 これは、憲法解釈の問題あるいは公職選挙法の解釈の問題とは別に、政治的な問題として疑義がある。斉藤委員のおっしゃることは当然のことだろうと思います。

斉藤(鉄)委員 次に、永井参考人と松浦参考人に、緊急事態における権限集中、人権制限等についてお伺いします。

 緊急事態条項を設けるとの議論には、以上のような大災害により国会議員の選挙を行うことができない場合にどうするのかという点のほかに、内閣総理大臣への権限集中や国民の権利の制限の根拠を規定すべきだとの意見があります。

 しかし、国会議員の任期や解散に伴う総選挙の期日が憲法に数字で明記されており、その特例を定めるには憲法改正によるほかないと思われるのとは異なり、現行憲法のもとで必要な危機管理法制は既に相当程度整備されており、さらに必要であれば、法改正による対応が可能であると考えます。

 緊急事態における内閣総理大臣への権限集中や国民の権利の制限を憲法典に明記する必要はなく、明記すれば、かえって濫用のおそれもあるのではないかと考えますが、この点、永井参考人、松浦参考人に御所見をお伺いいたします。

永井参考人 おっしゃるとおり、大変危険なものだと考えます。

 昭和二十一年七月十五日の帝国憲法改正案委員会の中での金森国務大臣の答弁、その中で、緊急事態条項を設けないということの趣旨が明確に言われております。

 四つありますね。

 一つ目は、民主主義である。民主主義を徹底させて国民の権利を十分擁護するためには、非常事態の政府の一存で行う措置は極力防止しなければいけない。

 二番目が、立憲主義です。非常という言葉を口実にして政府の自由判断を大幅に残しておくと、どんな精緻な憲法も破壊されてしまうと、明確に破壊という言葉を使っています。

 そして三番目は、憲法上の制度です。特殊な事態があれば、臨時国会を召集する、あるいは参議院の緊急集会を招集する。

 四番目が、先ほどから私が申し上げております、法律などによる準備です。特殊な事態に関しては、平常時から法律などの制定によって、濫用されない形で準備しておくんだ、こういうふうに述べております。

 ですから、この趣旨は、いつの時代でも当然適用されるべきものであるというふうに考えます。

 先ほど松浦参考人がおっしゃっていたことなんですが、想定外の事態が起きたときにどうするんだということなんですね。

 想定外の事態といって制度を設けたときに、想定外の事態のためにその先に制度を設けるとすると、これは想定内になるんですね。だから、さらにその先に、想定外を考えて、ここに制度を設ける、そうすると、これも想定内になるんです。そうすると、さらに設けなきゃいけない。

 このような形で、結局は、想定外の事態とすると、権限がどんどん強くなっていってしまうわけです。そこが危険である、だから、そのようなことはもとから設けないんだ、そして、それに関しては事前に法律によって対処しておくんだというのが憲法のスタンスであるというふうに考えます。

松浦参考人 政府への権力の集中が非常に危険である、緊急事態を理由にして、政府の権力、特に国会が有する立法権を大幅に内閣に集中させるといったようなことが危険であるということは、誰も否定しておりません。

 先ほどドイツの例を挙げましたが、ドイツも戦後、三権分立制の枠組みというものを極力維持していく、緊急事態だからといって三権分立の例外を認めるということはやめようというところで、先ほど言ったような委任立法の制度を設けたわけであります。

 もちろん、でも、想定外のことが起こる。想定外のことが起こり得るから、それを事前に想定して法律をつくる、それを繰り返していけば、結局、平時のといいますか、一般の法律によって政府に権力がさらに移譲されてしまうのではないかということも考えられはしますけれども、やはり三権分立制の例外を極力認めないような形で緊急事態条項というものを考えていく、あるいはそれを志向する法律というものを考えていくという姿勢、スタンスは変えてはならないんだろうとは思います。

 人権制限についてなんですが、憲法では公共の福祉による制約というものを認めているんだ、ですから、緊急時であれば、憲法上の公共の福祉による制約というものを解釈して、それで制限を認められるのではないかというお話なんですが、一つ懸念をしますのは、緊急事態というのは平時ではないわけなんですね。平時でないときの人権の制限と、それから平時の公共の福祉による制約というものとを同じレベルで議論していいのかどうかという問題です。

 やはり平時は平時で、ある手続を経て、有事といいますか緊急事態になる。平時と有事の区別がなくなってしまいますと、結局、平時の有事化のようなものを招くのではないか。それを公共の福祉という漠然とした概念でもってカバーしてしまうというのには、憲法解釈としてちょっとどうかなというところはあります。

 従来から、公共の福祉による制約というのは、非常に、人権相互間の衝突の解消であるとか、政策目的によって人権を制限する原理としては解釈してはならないという、消極的な解釈が一般的であったように思われますので、その辺、緊急時でも公共の福祉による制約でカバーできるというところについてはちょっと抵抗があるところであります。

斉藤(鉄)委員 ありがとうございました。終わります。

森会長 次に、大平喜信君。

大平委員 日本共産党の大平喜信です。

 参考人の皆様、貴重な御意見、ありがとうございました。

 質問させていただきます。

 災害時における緊急事態が議論をされておりますが、自民党の改憲草案の同条項では、災害だけではなく、むしろ戦争や内乱が先に挙げられております。そして、その本質は憲法原則である権力の分立と人権制限であり、まさに憲法停止条項だと私は考えております。

 永井参考人は御著書の中で、この自民党改憲草案における緊急事態条項を、政府の独裁を認める極めて危険な内容と書かれておられますが、その理由を詳しくお聞かせください。あわせて、災害対処のために内閣に権限を集中させることが果たして有効な手段なのかについても御意見を伺います。

 木村参考人にも、自民党草案の緊急事態条項についてどのように考えておられるか、御意見を伺いたいと思います。

永井参考人 自民党案は、内閣総理大臣は緊急事態に緊急事態の宣言を行う、そのとき、内閣は法律と同じ効力の政令を制定できる、内閣総理大臣は財政の処分ができる、予算が議決できるというふうに定めています。

 まず、目的についてなんですが、緊急事態の要件は法律で定められるとしています。そうすると、最初に憲法に大規模災害の場合と規定していたとしても、後に、戦争とかテロとかストライキとかあるいは大規模なデモとか、どんどん挿入していくことが国会の過半数の議決によって可能なわけです。

 それから、措置の期間、これについての制限がありません。このような特別なことに関して制限がないというのは大変危険であると考えます。

 逆に、百日を基準に持続することを予定しておりますが、参議院の緊急集会さえ請求できない場合にこれを実施するということは一応考えられますけれども、過去の参議院の緊急集会、二回ありましたが、最初は請求から五日目、二回目は請求から四日目に招集できています。百日というのは余りにも長過ぎるのではないかと思います。

 それから、内閣は法律と同一の効力、同等の効力を有する政令を制定できるとしていますが、これについて、国会が機能しない場合という限定がありません。国会が閉会とか、衆議院が解散して、なお臨時国会あるいは参議院の緊急集会が求められない場合という限定がないわけです。大日本帝国憲法の緊急勅令さえ、議会閉会のときと限定したわけですが、国会会期中でも制定できるということになってしまいます。

 そして、これは、事後に国会の承認を要するとしていますが、承認が得られない場合に効力を失うという規定がありません。財政処分についても同じです。大日本帝国憲法の緊急勅令さえ、事後に議会の承認が得られない場合は将来に向かって効力を失うという規定がありました。要するに、政府の立法と予算議決に対して国会の統制が全く及ばないということになります。

 そして、政令で規定できる対象に限定がありません。全ての事項について政令が制定できて、緊急事態と無関係な政令も制定できるわけです。

 例えば、熊本地震で緊急事態だといった場合、熊本地震と無関係な事項について、法律と同一の効力がある政令が制定できるということです。ですから、刑事訴訟法の改正もできる、公職選挙法の改正もできる、あるいは、前に出た安保法制のようなものも制定できてしまうということになるわけです。

 これは、実質的には内閣に対して国会の立法権を全権委任する法律ではないかということで、私の方でそのようなことを書かせていただきました。私のお隣にいる木村先生は、内閣独裁条項というふうに書かれていたと思います。

 以上です。

木村参考人 自民党草案における緊急事態条項については、ここまで松浦先生、永井先生からも御指摘がありましたように、まず、やはり、法律にかわる効力、法律と同等の効力を持つ政令を発せられるという点については、事項の限定もなく、非常に危険であるというふうに指摘をされているところであります。

 また、地方自治体への指示の規定が地方自治の否定につながりかねないこと、あるいは、国民の権利保障を保障ではなく尊重レベルに抑えるというような規定もまた人権保障を後退させるであろうということでありまして、文言について、自民党草案の文言のままでありますと、これは、緊急事態条項の導入に賛成する方から見ても大変危険なものに見えるということは否定できないことであろうかと思います。

 私は、こちらにいらっしゃる自民党の議員の方も含めて、この草案にかかわった自民党の方々と意見交換をさせていただく機会を幾つかいただいたことがありますが、こうした指摘を自民党の方々に聞きますと、そこまで強いことは考えていないとか、濫用への歯どめが必要なのは当然であるということもまたしばしば強調されるところでございます。

 したがいまして、善意で解釈をすれば、これは自民党の先生方が考えている内容に比べて文言がかなりきついものになってしまっているという可能性はございますので、そうなのであれば、これはもう一度自民党の中で検討をして、疑念のないような、きちんとした緊急事態条項として提案し直さないと、やはり疑念を向けられたままになってしまい、残念なことになるということを指摘しておきたいと思います。

大平委員 ありがとうございました。

 続いて、永井参考人、木村参考人にお伺いいたします。

 国会議員の任期延長を憲法に明記すべきだという意見がありますが、私は、それは国民の選挙権の停止にほかならないと考えております。選挙権の停止により民意を問う機会を奪うことは、まさに国民主権の侵害ではないでしょうか。

 その点で重大なのは、戦前、明治憲法では、先ほど来ありますが、衆議院の任期は法律で定められていたため、一九四一年に特例法により任期を延長することで、戦争を遂行するための挙国一致体制がつくられたことです。

 この歴史の反省から、金森大臣は憲法制定議会において、国会議員の任期をみずから延ばすということは甚だ不適当であり、選挙によって、国会が国民と表裏一体化しているかどうか、現実にあらわされなければならぬと、国会が国民の代表として存在することの重要性を強調しています。だからこそ、国民主権が確立した戦後の日本では、いっときの権力者の思惑で簡単に任期が動かせないよう、憲法に明記したのだと思います。

 この選挙権の停止と憲法の制定過程に関する御見解をお二人にお伺いいたします。

永井参考人 学者ではございませんので、余り詳しいことはちょっと理解しておりませんが、まず、任期の延長が国民の選挙に関する権限を奪うのではないか、それはおっしゃるとおりであるというふうに考えております。

 そして、本来予定されたときに選挙を行うということで、国民の方もそれに関して情報を集めている、そして議員の方もそれに対する情報を提供しているわけです。そのようなことに関して、任期の延長があるということは、それに反するものであります。

 また、被災地についての、被災地域の住民の意思を反映するために任期延長すべきだという議論がありますが、被災地域の住民の意思を反映するのであれば、災害が発生した後の議員を選出すべきであって、その前の議員の任期を延長することは、これはおかしなことであるというふうに考えております。

 それからまた、戦前のことなんですが、確かに任期が延長されたということがございました。これに関しては、簡単に言えば、このような国の緊急事態において選挙などで相争うような状態はすべきではないということで、国全体がその緊急事態に向けて一致して活動すべきだという趣旨からこれは延長されたものでございます。

 これに関しては、この結果、どのようなことになったのか。緊急事態が遂行される、そして戦時体制になるということについて、この任期の延長が大きく寄与したことでありますので、私は、この過去の教訓からしても、そのような任期の延長ということは大変危険であるというふうに考えております。

木村参考人 今御指摘いただきましたように、制定過程においては、任期の延長というものが権力の濫用につながるということへの意識は強くあったものというふうに思われます。

 また、現在、任期の延長が提案される場合には、その歯どめのかけ方についての議論があわせ提案されることが私は乏しいと思っておりますので、こうした提案をされる方におきましては、ぜひとも、どうやって不当な濫用に歯どめをかけるのかという具体的な提案もあわせてしていただきたいというふうには考えております。

 また、国民主権の侵害であるという点でありますが、当然これは、任期をきちんと守り選挙が行われることが、どのような憲法規定を置くとしても、憲法上の原則となるということは当然の前提であろうかと思います。

 また、先ほど来強調されておりますように、選挙の時期や方法を法律で工夫することによって緊急事態に対応しやすい選挙の仕組みをつくることはまだまだ可能であろうというふうに思われますし、また、今のように自由な解散権の行使が認められている状況におかれましては、解散が自由に行われるということは、当然、選挙の回数がふえ、選挙が災害に当たってしまう可能性も高くなるということでございますから、解散権の制限ということは、今皆さんが御懸念されているような災害と選挙が重なってしまうという危険を減らす面でも、非常に有効な方法であろうということを指摘しておきたいと思います。

大平委員 ありがとうございます。

 続いて、松浦参考人と永井参考人にお伺いいたします。

 松浦参考人は、いただいた資料の中で、ドイツでの緊急事態における憲法規定では、自然災害への対処は、一義的には各ラントの任務であり、連邦の役割は、ラントによる措置の補完だというふうに述べておられますが、この点について具体的に教えてください。

 また、永井参考人も諸外国の憲法の緊急事態条項にお詳しいと思いますが、諸外国で、自然災害時に国に権限を集中させたり、あるいは議会の任期を延長するといった憲法の規定があるのかどうか、教えてください。

松浦参考人 まず、ドイツの現在の基本法、憲法の中で、災害対応についてどのように規定されているのかということでありますが、そもそも災害対応に関しましては、ドイツは連邦国家でありますから、各州、ラントと言っておりますが、各州が立法権を有しております。

 したがいまして、連邦憲法あるいは連邦法で災害対応を細かく定めるということはしておりません。各州の、これは災害防護法という名称でありますけれども、各州がそういった法律をつくりまして対応しております。

 ただし、州の権限でありましても、やはり広域災害になりますと、各州単独、ばらばらで対応するというわけにはまいりません。そこで、やはり連邦レベルでの調整というものが必要になります。

 つまり、基本としては各州が災害対応についての権限を持っているけれども、広域災害、あるいは一つのラント、州の中で起こった激甚災害について、その州だけでは対応できない、ほかの州の援助を求めるということも必要になってまいります。

 基本法の三十五条が災害緊急事態について定めておるんですが、このような条文です。

 その該当部分だけを抜き出しまして申しますと、自然災害または特に重大な事故の際の援助のために、ラントは、ほかのラントの警察力、ほかの行政官庁の人員及び施設並びに連邦国境警備隊及び軍隊の人員及び施設の提供を求めることができる、これが第二項。

 それから第三項、自然災害または事故が複数のラントの領域に危険を及ぼす場合には、連邦政府は、これに有効な対処をするために必要となる限りにおいて、ラント政府に対し、他のラントに警察力を提供するよう指図し、並びに警察力を支援するために連邦国境警備隊及び軍隊の部隊を出動させることができる。

 つまり、州を基本としつつも、連邦が、一つの州だけに任せておいたらこれは収拾がつかないという場合に、ほかの州に要員を提供しろ、警察力を提供しろということを指図する。あるいは、複数のラントに被害が生じる場合には、これは連邦がリーダーシップをとって、連邦機関から要員を派遣するというふうなことを例外として憲法に定めているわけであります。そういった意味で、州の権限ではありますけれども、連邦の行うべきことは多いということが言えます。

 二〇〇二年でしたか、エルベ川とドナウ川が氾濫を起こしまして、広域災害になったケースがあります。このときには、連邦軍の兵士が四万五千人派遣されて、かなり大規模な災害対応をしたことがありますけれども、首都圏の機能が滞る、大都市圏の機能を喪失するというようなものではございません。基本的には、ドイツの場合には、洪水災害が主なもの、あるいは雪害ですね。地震災害はほとんど検討されておりません。そういった意味で、災害といいましても、日本ほどの激甚災害というものは想定していないんだろうと思います。

 ただし、戦争事態、戦争の場合には、これは連邦の権限として、戦時における非戦闘員の保護、日本で言う国民保護でありますが、これは連邦の権限です。ですから、連邦の権限において、戦時における文民保護、住民保護というものは連邦法で定めております。

 ついでに言っておきますと、九・一一、アメリカの同時多発テロ以降、戦時における文民保護というものと災害時における住民保護というもの、これが融合する傾向を示しておりまして、そういった意味では、連邦と州の協力体制というものは一層強化されたということが言えると思います。

永井参考人 比較するのであれば、主要四カ国、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランス、そういうのを比較することが大事だと思うんですが、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカを見ると、災害の国家緊急権を憲法で定めるのはドイツだけです。あとは法律で定めています。日本も法律で定めています。

 ドイツの基本法です。それは、先ほど松浦参考人がおっしゃったとおり、三十五条二項で、被災州の他の州に対する支援要請、それから基本法三十五条三項の広域の災害のときの規定ですね。あと、十一条二項に移動の自由の制限が規定されています。憲法で定めているといっても、どれほどすごいことかというと、たったこれだけしか定めていないんです。あとは州に権限を委ねている。

 今言ったドイツのこの制度、日本のように、先ほど申し上げたように、内閣に一時的な罰則つきの政令制定権が発生するとか、あるいは人権の強度の制限があるとか、そんな規定はないわけなんですね。ドイツのこの制度に関しては、相互支援規定であって、日本では既に災害対策基本法や自衛隊法や警察法、災害救助法などで実現されております。

 先ほど松浦参考人おっしゃったとおり、州が主体になる、そして、それに対しては、国が場合によっては補完するというのは、先ほど私が申し上げたとおりなんですね。要するに、被災地域の自治体が第一次的な権限を持って、それを国が後方支援するという形になるわけなんです。

 日本の場合も、第一次的な権限は市町村が持つ、その後方支援を都道府県が行う、さらにその後方支援を国が行うという構造になっています。しかし、市町村が機能しなくなったら、そのときは都道府県がそれを代行するという規定があります。さらに、市町村が機能しない、都道府県も機能しない、そして、避難者が広域に及んだときは、国がこれに関して代行を行うという規定もあります。ですから、構造としては、同じ発想をしているんですね。

 ほかの、フランス、イギリス、アメリカの法律の制度を見ても、第一次的な権限は市町村が持つんだ、国はこれを補完するという傾向は変わりません。

大平委員 ありがとうございました。

森会長 次に、足立康史君。

足立委員 日本維新の会の足立康史でございます。

 参考人の先生方、きょうはありがとうございます。

 私たち日本維新の会は、本日のテーマである緊急事態条項等について、立場を明確にまだ決めておりません。一方、既に憲法改正草案については公表しておりまして、その中で、今も話題になりました国と地方の関係、道州制等の統治機構改革について、詳細な、具体的な提案をさせていただいています。また、憲法裁判所についても三本柱の一つとして提示をさせていただいております。

 こうした立場から、きょうは質問をさせていただきたいと思います。

 まず、永井参考人に伺いますが、永井参考人は先ほど、災害対策については、準備していないことはできないんだと。これはまさに御見識である、こう思いますが、なぜ準備ができていないのか。

 今、いろいろな法律が既にあるという御指摘もいただきましたが、実際、弾力的運用の通知が千通流れて、あふれ返った、そういう大震災の経験を踏まえて、やはり国会がやるべきことがまだまだあるんだ、こういう御指摘であったと思いますが、一方で、なぜそれが今の国会にできていないのかといえば、それは、憲法に緊急事態に関する規定がないから、違憲を恐れて抑制的になっているからではないかという指摘が、あり得るかどうかわかりません、私は、永井参考人の意見に対してはそういう意見を持ちました。

 国会というのはなかなか難しいところで、先般の平和安全法制を見ても、憲法適合性をめぐってあれだけの大混乱になる今の国会において、永井参考人がおっしゃるような十分な準備が、今の憲法のまま、できるのかどうか。どうお考えでしょうか。

永井参考人 まず、自治体レベルでなぜなかなか準備ができていないのか。これは、先ほど申し上げたとおり、いつ起こるかわからない災害のために時間と労力、お金を費やすよりは、やはり目の前にある課題、それに対して対処するということが優先されてしまうからということなんですね。特に、職員の数、今はどんどん減らされています。そして、自治体も統合されてしまっているということで、なかなかそこに手が回らないということになります。

 そうすると、千通の通知が来たとき、災害が起きたとき千通の通知が来て、それは弾力的な運用で、これは間違いなく省庁は善意でやっているんですが、大変なことになるわけですね。そうすると、それに関して整理して、災害のときに直ちに使えるようにするのはどこかといえば、これは立法府の仕事であるということになるわけです。

 先ほどから申し上げているとおり、緊急事態条項がないから立法府が動けないというよりは、災害対策をするにはどうすればいいのか、それは、現場が一番重要であるということです。そして、現地に行って被災者の話を聞いて、現地を見て、どのような課題があるか、それについて検討して、そしてその対策を立てる、それが一番大事なことなんです。

 それをぜひやっていただきたい。やっていないとは言いません。でも、立法府にはぜひそれをやっていただきたいんです。そうすれば、どんどん変わってきます。

足立委員 ありがとうございます。

 関連して松浦参考人に伺いますが、松浦参考人も、緊急事態条項の必要性、これを御指摘になられるとともに、あわせて、緊急事態基本法でしたか、その関連の法整備をしっかりと並行して行うことによって、例えば緊急政令等の解釈とかについても確定していけるんじゃないか、こういう御指摘であったかと思いますが、私は、まだ立法府がどこまで法律でできるのかということを突き詰めて議論をしていないと感じています。

 そういう意味では、松浦参考人も、緊急事態条項、憲法改正の必要性を御主張なされているわけですが、例えば、この憲法審査会で緊急事態条項を、憲法を改正するかどうかを議論する前に、まず立法府で、立法府というか国会で、法律レベルでどこまでできるのかということ、あるいは、憲法解釈の変更も含めて現行憲法下でどこまで緊急事態に対応できるのかということをまず議論すべきではないか、私がそう申し上げると、それは賛成だと言っていただけるかどうか。

松浦参考人 賛成であります。

 要は、法律でできることはそれでやればいいので、先ほど来言っておりますように、いろいろな被害想定がある、こういうケースにおいてはこういう措置が必要だから法律でこれを定めましょう、政令を整備しましょう、その話をまずする。法律でできることは、とりあえず全部やっておく。

 その上で、法律ではちょっとこれは難しいね、この議員任期の問題もそうですけれども、こういう問題が出てきたときに、やはり緊急事態条項が必要ではないか、憲法の例外を認めるべきではないか、ただ、そこには、権力の濫用があってはならないので国会による歯どめが必要であるとか、そういう議論をすればいいのであって、順序としては、やはり法律レベルの整備というものを先行して、あるいは憲法論議と並行してやっていくということが必要なんだろうと思います。

 その点においては、足立委員と全く意見は同じでありますし、また、永井参考人の御意見も、基本的にはそういうことではないかという気がするんです。

 ついでと言ってはなんですけれども、先ほど道州制の問題がちょっと出ましたので、ちょっと触れておきたいと思うんです。

 先ほど永井参考人の方から、要は、災害対応というのは基礎自治体から始まるんだ、基礎自治体がまず手を打たなければいけない、そこから都道府県、それから国だ、そういうお話がありましたけれども、まさにそのとおりであります。

 ただし、日本の場合、その場合にちょっと足かせになりますのは、行政単位が非常に狭いという点ですね。

 先ほど、ドイツのケースは、全部で十六州あるわけですけれども、連邦国家でありますから、ですから、地方にその権限を移譲して、災害対応のための法律をそれぞれつくるということもできます。州それぞれに裁判所もありますし、議会もあるし、政府もあるわけです。

 ところが、日本の場合には、単一国家でありますから、そのような連邦国家ではないわけですね。行政単位も都道府県、数が非常に多いわけです。それほど広くもない。そういうところで広域災害が起こったときに、非常に混乱を来すというところがあるわけです。

 ですから、道州制によって行政単位というものを広域化して、その上で権限を移譲するということを災害対応においても考えるべきではないかというように考えております。

足立委員 ありがとうございます。

 引き続いて松浦参考人に質問させていただきますが、木村参考人にもぜひ御意見を賜りたいんですが、木村参考人は、冒頭、解散権の話を中心にされましたので、私からは質問しませんが、もしこの議論を聞いていただいて特段の御意見がありましたら、最後、ちょっと時間をとりますので、御意見を賜れればと思います。先に、永井参考人、そして松浦参考人に質問をさせていただいております。

 松浦参考人に引き続いて御質問は、今、道州制の話をさせていただきましたが、また、していただきましたが、もう一つ、私どもは憲法裁判所の提案をしています。

 安保法制の国会審議を見ていただいてもわかるように、一体、国会でどこまで法律で措置できるかは、実はわからないんですね。内閣が憲法解釈を変更し、立法府で過半数で法律を制定すれば、何でもできちゃうわけです。したがって、我々は、この安保法制、平和安全法制の経験から、憲法裁判所なくして有意義な議論ができないという立場から、憲法裁判所の創設を提案しています。

 きょう松浦参考人からお話をいただいた内容についても、憲法に憲法裁判所の規定があるかないかで緊急事態条項の定め方は変わってくるのではないかと思いますが、どうでしょうか。

松浦参考人 憲法裁判所というのはいろいろなパターンがありますので、一概には申せないわけですけれども、ドイツの例を申しますと、憲法解釈において、従来は憲法違反だと政府自身が認めていたことを覆す。特に安全保障の分野においては、安全保障というのは生き物でありますから、非常に、国際環境によって憲法による制約というものを変えていかざるを得ない部分もあります。ドイツにおいてもそうでありました。

 冷戦時代に、NATOの外には軍事派兵はしないという憲法解釈、これは違憲であると政府自身が認めておったんですけれども、これを、一九九〇年代、冷戦が終わって国連中心主義だということで、特にバルカン半島で内戦が起こったときにNATOがこれに介入する、ドイツもNATOの一員ですから参加しなければいかぬということで、従来憲法違反だと言っていたことを合憲であるという方向にかじを切ったわけですが、これについては違憲だということで憲法訴訟がたびたび起こりました。

 最終的に、一九九四年の七月十二日の判決で、連邦憲法裁が合憲だと認めました。これは、安全保障に対応するためには憲法解釈を変えざるを得ないという政治的な要請と、にもかかわらず憲法による制約、これが侵略主義に走ったりというようなことがないように、あるいは議会を無視して派兵をすることがないようにということで、憲法裁判所が派兵手続の枠組みを判例の中で示しました。

 このようなことというのは日本においても起こり得る問題でありますし、まさにこの間の平和安全法制の場合、集団的自衛権、従来は一律違憲だと言っていたものを、自衛のための最小限度であればそれは行使できるのではないかと。

 これは、従来、集団的自衛権の行使が違憲だと言っていたのは政府見解であって、司法判断でも何でもないわけです。ですから、政府がそれを変えるということも容易にできてしまう。そこはやはり司法判断というものが積極的に示されるということが重要であって、それを合憲とするか違憲とするかはもちろんケース・バイ・ケースでありましょうけれども、やはりそうした司法の憲法解釈というものを個々の憲法政策の中で示し得る体制というのは、非常に重要な意味を持っているのではないかと思います。

 ちなみに、ドイツは、緊急事態、これは防衛事態、戦時でありますが、憲法裁判所の機能というものは保持しなければいけないということを憲法に明記しております。

足立委員 ありがとうございます。

 あと、松浦参考人の御意見で、日本は災害が多いんだ、こういう前提がまずございました。私は、それに加えて、やはり東京一極集中が極端に進んでいる、これも世界でもまれな首都でありますので、こういうことも恐らく議論には関係してくるだろうな、こういう感想を持ちました。

 その上で、もう時間がありませんので、松浦先生にはもう伺いましたが、永井参考人、特段、松浦参考人がおっしゃったことについて、もしコメントがあれば。それから、木村参考人、一言もいただいていませんので、ぜひコメントをいただければと思います。それで終わりたいと思います。

永井参考人 では、ちょっと短くお話しします。

 憲法裁判所のお話に関しての一般論ではなくて、この間の憲法審査会で維新の会がおっしゃっていた、緊急事態条項の設置を考えるとき、憲法裁判所があればその結論が変わってくるのかというようなことをおっしゃっていましたが、私は、まず、前提として、緊急事態条項を設けることには反対です。

 それから、もう一個。憲法裁判所というものであったとしても、その裁判官の人選をどのようにするのかによって大きく変わってきて、違憲であるという判断をすべきところを、逆に、合憲であるというお墨つきを与えてしまう危険性があるというふうに考えております。

 以上です。

木村参考人 ありがとうございます。

 憲法裁判所についての御指摘がございました。

 憲法裁判所は、先ほど私がお話ししました解散権の合憲性を判断する上で、ドイツではかなり活用された制度でありますし、また、きょう話題になっております緊急時の対応、あるいは自衛隊の海外派遣のような場合の合憲性の判断についても活用できる制度と思われます。しかし、こうした制度をいきなり導入するということはなかなか難しいので、何らかの形で類似の実績を踏むべきものと考えます。

 維新の会として憲法裁判所を提案されるのであれば、当然、このような方々を裁判官にというイメージがあるかと思いますが、そうした方々を参考人に呼べば、別に憲法裁判所をつくらなくても、個々の事象について憲法判断をしてもらえることと思いますので、例えば、災害時の対応があったときあるいは解散があったときに、それについての憲法判断、あるいは法律上の判断を含め総合的な判断をしてもらう場をこういう場で設けて、その実績を積み上げていくこと、これが憲法裁判所の設置につながっていくということはあり得るのではないかということを指摘させていただきたいと思います。

足立委員 ありがとうございます。

 先ほど、終わりますと申し上げましたが、もうちょっと時間がありますので、あと一つだけ、松浦参考人に。

 先ほど、私、東京一極集中ということを申し上げました。法律でできるところはできるだけやってみるべきだという御意見の中に、私はやはり、過度の東京一極集中を分権することも、例えば副首都とか、バックアップについてちゃんと措置することも、そのやるべきことの一つだと思っていますが、これは、ちょっと憲法学者としてではないかもしれませんが、御意見がありましたら、おっしゃっていただければと思います。

松浦参考人 国土強靱化とか、首都機能を移転するという話はもう大分前からあって、分都とか遷都とか、いろいろな案が提案されてはおりますけれども、進んでいるという印象は余り持っていないわけでありますが、やはり、全て東京に集中して、これが壊滅したらもう終わりというような国土計画のあり方というのは、いろいろと問題はあろうかと思います。

 やはりその辺のところは、これはもう政策問題ですから、私が言うべきことではないのですが、そのような観点から計画を立てる、立法措置を考えるということは継続してやっていただきたいな、これは個人的な感想でございます。

足立委員 ありがとうございます。

森会長 次に、照屋寛徳君。

照屋委員 社会民主党の照屋寛徳です。

 最初に、永井参考人にお聞きをします。

 これまでの質問と多少重複するかもしれませんが、具体的な事例に絞ってお答えをお願いします。

 衆議院の解散後、総選挙直前に大規模災害が発生した場合、あるいは衆参ダブル選挙直前に大規模災害があった場合、さらには衆議院議員の任期満了による選挙直前に大規模災害が発生した場合などにおいて、憲法改正の上、任期の特例を定める緊急事態条項を設けることは必要なんでしょうか。

永井参考人 不要であると考えます。

 もともと、本来、衆議院と参議院によって法律と予算は審議、議決されるわけですが、今おっしゃったように、衆議院が解散されたときはどうなるか。これは、憲法上の明文で、参議院の緊急集会があります。

 それから、おっしゃりませんでしたけれども、参議院の通常選挙の直前に大規模災害があったとしても、この場合は、衆議院があるし、参議院は非改選議員二分の一がおります。国会の定足数は三分の一ですので、衆議院、参議院、両方が存在します。

 それから、衆議院と参議院のダブル選挙の場合、これは参議院の任期満了のときに衆議院を解散して衆参同日選挙をする場合ですが、この場合は、衆議院が存在しませんが、参議院があり、非改選議員二分の一がいます。ですから、参議院の緊急集会を求めることができます。

 衆議院の任期満了のときですが、先ほど申し上げたとおり、憲法の明文では、衆議院解散のときに参議院の緊急集会を求められるとありますけれども、もちろん解釈によって、衆議院の任期満了のときも参議院の緊急集会を求めることができるというふうに考えられます。ですから、この場合も審議、議決が可能であるというふうに考えますので、憲法上対処することはできるというふうに考えております。

照屋委員 社民党は、我が国において国家緊急権としての非常事態条項を憲法に盛り込む必要性はなく、そのための改憲には反対の立場であります。

 さて、もう一点、永井参考人にお聞きをしますが、過去三度にわたって国会で廃案になった共謀罪が、テロ等準備罪と名称変更の上、閣議決定されました。最近、二〇二〇年東京オリンピック・パラリンピックへのテロ攻撃の防止を理由に、改憲の上、非常事態条項を設けるべきとの意見がありますが、テロは国家緊急権が発動される非常事態に当たりますでしょうか。

永井参考人 通常の国家緊急権の定義の場合、国家緊急権とは、平常時の統治機構をもってしては対処できない非常事態に適用するという言い方をします。平常時の統治機構というのは何でしょう。それは、国民主権のもとで三権が動くことです。国民が国会議員を選出して、国会が法律をつくって、内閣がその法律を執行して、裁判所がその法律で判決をすることです。

 テロは単なる犯罪であり、平常時の統治機構は通常は機能しております。例えば、アメリカで九・一一がありましたけれども、あれは平常時の統治機構は機能しています。フランスでもテロがありましたが、平常時の統治機構は機能しております。

 テロの場合に国家緊急権を認めるべきかどうかという意見がありますが、私は反対です。

 まず、憲法政策なんですが、テロというのは、自然災害と異なって、必ず起きることではありません。これは政策によって回避することができるものだと考えています。紛争が起きているときの中立性の維持とか、紛争当事者のいずれの側にも立たないようにするとか、あるいは、紛争の平和的な解決のために、側面から解決するための話し合いの場を設けるために努力するとか、そういう形によって回避できると考えます。

 それから、二つ目の理由は、日本国憲法の趣旨です。先ほど言いましたけれども、濫用の危険から国家緊急権は憲法に規定しないが、平常時の対処については法律によって準備しておく。テロに関しては、現時点で見る限り十分な対処がなされていると考えます。

 それから三つ目なんですが、テロも、災害と同じように、準備していないことはできないんですね。テロに関しては、入国させない、それから拠点を国内につくらせない、そしてテロを起こさせないという原則に基づいて我が国は政策を行っています。入国させないということに関しては、危険な人物や武器を入れない、そういうようなことで、これに関しては、情報交換をほかの国と十分行うようなこと、これが重要であります。あるいは、入管法によって制限する、あるいは資金を与えない。

 ですから、このような場合、テロに関しても国家緊急権の制定は必要ないというふうに考えております。

照屋委員 木村参考人と松浦参考人にお伺いしますけれども、憲法学上、テロは国家緊急権が発動をされる非常事態に当たりますか。

木村参考人 憲法学上は、国家緊急権という言葉はさまざまな意味で使われますので、その言葉の意味次第でありまして、それは、何かしら政府が対応しなければいけない事態という意味であれば、当然該当するでしょうし、一方で、憲法違反のことを当然に正当化される事態かと問われれば、それは当然そうではないということになりますので、その御質問については、国家緊急権という言葉の定義次第であるということになろうかと思います。

松浦参考人 私も同じなんですが、もう一つつけ加えますと、テロといいましても、さまざまなものがあります。その烈度、つまり、九・一一のような大規模テロで何千人も亡くなるといったようなこともありますし、また、この間のパリのテロ事件のように銃を乱射して数十名が亡くなるというケースもありましょう。その被害規模によっても違いますし、また、テロが、誰が指導したのかということにおいてもいろいろと変わってこようと思います。外部から第三国によって指導されたのか、あるいは国際テロ組織によって指導されたのか、あるいは国内の反政府勢力によって、国内のみにおいて完結したものなのかということによって法的な評価というものは変わってくると思います。

 そういった意味で、先ほど来言っておりますように、犯罪として国内治安の維持の問題として処理すべき法律上の問題もありましょうが、特に、大規模テロによって国家機能を喪失させるようなものが行われる、これは、現行の武力攻撃事態対処法制の中でも緊急対処事態というものがありまして、これによって、破壊工作が日本において行われている、それについては緊急対処事態で対応するということで法律が整備されております。ただし、それは、第三国によって指導された、外部から指導されたということになりますと、これは武力攻撃事態に発展する可能性もあります。

 ですから、テロの規模、それから、それを誰が指導しているのかということによって適用法令というものが変わってまいりますので、法律でカバーできるところはもちろんそれですればよいし、それでも憲法上の統治ルールに変更を加えるべきだといえば、国家緊急権といいますか、緊急事態の問題に発展しようかと思います。

照屋委員 木村参考人にお伺いをいたします。

 沖縄では、主席公選、いわゆる今の知事公選、それから国政への参政権が、無憲法下のアメリカの軍政下にあって、県民による激しい闘いによってかち取られました。

 参考人は、現在、地元紙に憲法をテーマに評論を書いておられますが、復帰後、今日の沖縄の反憲法下の状況をどのように捉えておりますか。また、辺野古新基地建設の反対運動に見られる、議院内閣制のもとでの民意の尊重のあり方、地方自治の尊重、表現の自由、報道の自由、憲法前文の平和的生存権などについて、どのようにお考えでしょうか。

木村参考人 ありがとうございます。

 中央政府で議院内閣制をとっているといたしましても、日本国憲法は、御指摘がございましたように、地方自治が保障されておりまして、沖縄県という自治体に対しても地方自治の本旨に基づくさまざまな保障が与えられるべきこと、これは憲法を読めば明らかであろうかと思います。

 また、米軍基地問題については、私は、米軍基地問題につきまして大きな問題であるというのは、米軍基地の設置に伴って生じるさまざまな自治権の制限について明確な法律上の根拠を欠いている点が大きな問題であり、それによって自治権の制限が条約に基づいてのみ行われてしまっているという現状に大きな沖縄の基地問題の源流があるというふうに考えております。

 仮に、今行われているような米軍基地の立地自治体に対する自治権の制限を法律で行おうとすれば、これは当然、それが地方自治の本旨にのっとったものであるという要求もかかってきますし、特定の自治体のみ自治権を制限するということになれば、これは憲法九十五条に基づき自治体の住民投票による承認が必要ということにもなってくるわけでありますが、これを条約を根拠に行いますと、これらの憲法九十二条や九十五条の要請がバイパス、脱法、あるいは脱憲されてしまう、そういう問題が生じるわけでありますから、米軍基地問題についてきちんと法律事項として扱っていくこと、これが重要であり、また民意の反映という観点からも重要であり、憲法の文言からもそのような解釈は自然であるというふうに私は考えているところでございます。

照屋委員 ありがとうございました。

森会長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、一言御挨拶を申し上げます。

 参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。憲法審査会を代表して、心から御礼を申し上げます。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時三十三分散会


このページのトップに戻る
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.