衆議院

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第6号 平成28年10月21日(金曜日)

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平成二十八年十月二十一日(金曜日)

    午前九時七分開議

 出席委員

   委員長 塩谷  立君

   理事 うえの賢一郎君 理事 江藤  拓君

   理事 菅原 一秀君 理事 西村 康稔君

   理事 森山  裕君 理事 上田  勇君

      あべ 俊子君    赤澤 亮正君

      池田 道孝君    大串 正樹君

      大西 宏幸君    加藤 寛治君

      勝沼 栄明君    黄川田仁志君

      北村 誠吾君    坂本 哲志君

      武村 展英君    寺田  稔君

      中川 郁子君    中村 裕之君

      福田 達夫君    福山  守君

      古川  康君    前川  恵君

      宮川 典子君   山本ともひろ君

      渡辺 孝一君    稲津  久君

      岡本 三成君    中川 康洋君

      小沢 鋭仁君    松浪 健太君

    …………………………………

   内閣府大臣政務官     武村 展英君

   参考人

   (学習院女子大学国際文化交流学部教授)      荘林幹太郎君

   参考人

   (東京大学大学院農学生命科学研究科教授)     中嶋 康博君

   衆議院調査局環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別調査室長      辻本 頼昭君

    ―――――――――――――

委員の異動

十月二十一日

 辞任         補欠選任

  武部  新君     大串 正樹君

  笠井  亮君     田村 貴昭君

同日

 辞任         補欠選任

  大串 正樹君     武部  新君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 環太平洋パートナーシップ協定の締結について承認を求めるの件(第百九十回国会条約第八号)

 環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案(内閣提出、第百九十回国会閣法第四七号)


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     ――――◇―――――

塩谷委員長 これより会議を開きます。

 第百九十回国会、内閣提出、環太平洋パートナーシップ協定の締結について承認を求めるの件及び環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案の両案件を議題といたします。

 本日は、両案件審査のため、参考人として、学習院女子大学国際文化交流学部教授荘林幹太郎君、東京大学大学院農学生命科学研究科教授中嶋康博君、以上二名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に一言御挨拶を申し上げます。

 本日は、御多用のところ本委員会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。参考人各位には、農業につきまして、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、審査の参考にいたしたいと存じます。よろしくお願い申し上げます。

 それでは、議事の順序について御説明申し上げます。

 まず最初に、参考人各位からお一人十五分程度で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。委員の質疑時間は限られておりますので、お答えはできるだけ簡潔明瞭にお願いいたします。

 なお、念のため申し上げますが、御発言の際はその都度委員長の許可を受けることとなっております。また、参考人は委員に対して質疑することはできないことになっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。

 それでは、まず荘林参考人にお願いいたします。

荘林参考人 学習院女子大学国際文化交流学部の荘林と申します。

 まず冒頭、本日、このような場で意見を述べさせていただく機会をいただきましたこと、心より御礼申し上げます。

 私自身は、農政における政策目的と政策手法の整合性が重要という観点に大変強い関心を持って勉強してまいりました。したがって、本日は、主として、そのような政策論的な観点から意見を述べさせていただきます。また、そのような性質上、やや概念的な話になるかと存じます。その点を御容赦いただければと思います。

 お手元にお配りしております一枚紙、これの八項目に沿って意見を申し上げます。

 まず、一点目でございます。

 そもそも、自由貿易により農産物の輸入が増大し国内農業生産が低下した場合、多面的機能や食料安全保障のような農産物の価格に反映されない外部性が存在する場合には、国内農業生産に対して適切な支援を行うことは極めて重要なわけでございます。

 私が知る限り、そのことについて最も包括的かつ国際的に議論したのはOECDでございます。私自身、その仕事に大変深いかかわりを持ったわけでございますが、まず最初に、そこでの議論についての私なりの解釈を申し上げるというのが、きょうの流れからはいいのではないかというふうに思います。

 OECDでの議論の大きな結論は、関税を通じた価格支持よりも供給曲線を低下させる効果のあるさまざまな形態の財政による支援の方が、多面的機能あるいは食料安全保障を守る上で効率的あるいは効果的であるということでございます。

 具体的には、二つの側面がございます。

 一つ目は、私ども、経済学の上では総余剰と呼んでいるわけでございますけれども、消費者の余剰、生産者の余剰、それらをトータルした総余剰という概念、これを、関税を通じた価格支持よりも財政を通じた支援の方が大きくすることができるということでございます。

 なお、ここで言う財政支援にはさまざまな形態の財政支援が含まれます。例えば、基幹的な農業水利施設の維持管理に対する支援などもここに含まれるわけでございます。

 関税よりも価格を下げた上で財政支援することが望ましいと考えるもう一つの理由は、支援の負担の逆進性を回避できるということでございます。

 これは、多面的機能に関する多くの社会的需要、これは所得弾力的である可能性があります。すなわち、所得が高い方ほどその需要が高いということでございます。特に環境的な多面的機能については、恐らくそういう傾向が強いというふうに思います。

 一方で、価格支持は、御承知のように、農産物の消費者が、価格を通じて多面的機能の発揮あるいは食料安全保障の確保に貢献するものでございます。価格を通じての場合には、相対的でございますけれども、低所得者層の御負担が大きくなるわけでございます。

 そうしますと、比較的高所得者層の社会的需要が高いものを守るために、低所得者層の方の相対的な負担を増すという可能性があるということから、その懸念のない財政支援の方が、その観点でも望ましいとされるものでございます。

 二つ目に参ります。

 では、財政による支援を行う場合において、政策のシークエンシング、順序づけと私ども呼んでおりますが、これが極めて重要であるということでございます。

 生産性の向上政策を実施する前に財政支援を行うと、生産性の向上が阻害される懸念がございます。それを考えると、仮に財政的な支援を行うとしても、生産性向上対策と一体的に行うこと、少なくとも財政支援が先行するということがないようにする必要があるというふうに考えます。

 また、生産性向上対策を一体的に、あるいは先行して行うことにより、財政支援を行う際の金額を抑制的に運用することが可能になるというメリットもあるわけでございます。

 三つ目に参ります。

 では、その財政的な支援を行う際に大きな問題となるのが、関税引き下げの影響予測に伴う不確実性の存在でございます。それを考えますと、多面的機能や食料安全保障に影響を与える可能性を十分に探知できるように、一般的に自由化は漸進的に、グラデュアルに行うことが望ましいというふうに考えるものでございます。具体的には、関税の段階的な引き下げというのがこのような政策論的な観点に立つと望ましいというふうに思うわけでございます。

 その上で、影響を把握するためのモニタリング体制の確立というのが大変重要であるというふうに考えます。そのモニタリング体制があれば、悪影響を観測すればそこですぐに確実な対策を講じることができるわけでございます。

 四点目。

 以上の議論を踏まえますと、あるいは以上の観点に立ちますと、TPPの品目別のいわゆる勝ち負けよりも、結果として多面的機能や食料安保に影響が及ぶ場合に、漸進的に、グラデュアルに関税が低下する過程で影響を的確に把握するシステムのもとで、それに基づく適切な国内対策をいかに打つかという議論の方がやはり重要ではないかと私自身は考えるところでございます。

 五番目に参ります。

 その際、財政支援を行う場合に、その目的を社会全体で明確に共有することが、政策の安定化のためにやはり何よりも重要なことだと思います。私自身は、個人的には、財政支援の最終的な目的は、やはり多面的機能や食料安全保障の確保というところに帰結するというふうに考えるものでございます。

 仮にそのような目的を持つ財政支援だとすると、その財政支援を、補助というネガティブなイメージを惹起するような捉え方をするのではなくて、多面的機能、あるいは正の外部性と呼んでもいいかもしれません、それらの供給に対する報酬と捉えるべきではないかというふうに考えます。

 このことについては、例えばEUでも、従前は、農家に対するそのようなさまざまな支援を所得支持という説明で行っていたわけですけれども、最近の傾向としては、EUは多面的機能という用語は最近余り使わないのでございますけれども、公共財という用語を使っておりますが、意味するところは私自身はほとんど同じだと考えておりますが、公共財の提供に対する報酬というふうに考える考え方がより一般的になってきているように私自身は思います。

 六番目に参ります。

 今申し上げたように、仮に多面的機能や食料安全保障が最終的な政策目的と考える場合に、それに応じた政策体系の確立、これが、納税者の皆さんの理解を得ること、そしてそれを通じて政策を安定することのために中期的には極めて重要ではないかと思います。

 この点について、具体的には、いかなる経営体も、多面的機能や食料安全保障の観点から、ある種望まれる、必要な常識的な農法というのを採用していただく必要があるというふうに思います。

 これを一般的には、先進諸国では、財政支援の受給条件としてのクロスコンプライアンスと呼称いたします。明確なクロスコンプライアンスを設置する、あるいは緩やかな規制であってもいいのかもしれません。いずれにしろ、それによって幅広く、一律の、ある種の基礎的なレベルというのをそろえる必要があるというふうに思います。そうすることによって、納税者の方たちも、多面的機能や食料安全保障を供給してくださっていることに対して支援をしているんだという理解がきれいに共有されるのではないかというふうに思います。

 また、それに加えて、必要に応じて、クロスコンプライアンス、あるいは今申し上げた一定のライン以上の環境改善、あるいは多面的機能の水準を向上させる農法の改善に対して、環境支払いというものを積極的に適用すべきではないかというふうに思います。

 環境支払いの農業予算に占める割合、我が国は大体〇・一%ぐらいでございます。ほかの先進諸国、OECD諸国は、少ない国でも数%、多い国ですと二〇%ぐらいになっております。そのことを考えても、環境支払いの強化というのが極めて重要だと思います。

 七番目でございます。

 より広い視野に立つとすると、強い農業というものと非農家にとって魅力的な農村景観、環境の実現を結びつけるための政策の強化が極めて重要なのではないかと思います。特に水田地帯では、非農家の方の居住がなければ集落を維持することは難しいわけでございます。非農家の方々が居住を続ける、あるいは新たに居住する重要な大前提条件の一つは、やはり農村ならではの景観や自然環境であるというふうに考えると、この点は一層重要であると思います。

 この点で、特に水田地帯でございますけれども、重要なのは連担化ではないかと思います。御承知のように、連担化は大規模な経営体の効率性を格段に向上させるわけでございます。それに加えて、連担化ができれば、恐らく多面的機能の発揮上もよりよい効果がもたらされると思うわけでございます。

 例えば、同一の経営体の方が三十ヘクタールを連担化して耕していると、ここは学問的な根拠はないのでございますけれども、恐らく景観あるいは自然環境というのはよくなる可能性があるわけでございます。そうすると、連担化を通じて、担い手の方と地域住民、土地所有をしていらっしゃる非農家の地域住民の方たちが、連担化の利益を両方、ウイン・ウインで得られるというふうなこともあるわけでございます。

 これについては、ここ数年来、私自身、滋賀県の彦根市にある、ある集落を随分追っておりまして、そこが理想的なモデルだというふうに考えております。

 最後、八点目でございます。

 これについては、これまでの議論とやや視点が異なるのでございますが、担い手の方の経営費という観点では、担い手にどうしてもコントロールできない部分というのがございます。それは何かというと、基幹的水利施設、上流のダムとか頭首工、基幹的な用水路、これの維持管理、更新のためのコストでございます。これは、担い手個々の方の経営努力ではコントロール不可能なところでございます。

 この点について、先ほど来申し上げておりますさまざまな形態の財政支援という枠組みで検討するというのがやはり大変重要な課題なのではないかと思います。個人的には、基幹的な用排水路施設の更新などの意思決定については、土地改良法の原点に立ち返って、耕作者負担、耕作者原則というのが再度、より吟味される必要があるのではないかというふうに思います。

 いずれにしましても、私自身は、強い農業というものと、田園回帰というふうな言葉に代表されるような、美しい農村で居住してみたい、そこで人生を過ごしてみたいという方たちを両立する方法をいかに見つけるのかというのが、農政の観点の上で大変重要なことだというふうに考えております。

 私の意見陳述は以上でございます。ありがとうございました。(拍手)

塩谷委員長 ありがとうございました。

 次に、中嶋参考人にお願いいたします。

中嶋参考人 東京大学の中嶋でございます。

 本日は、このような発言の機会をいただきまして、ありがとうございます。

 私は、昨年三月に発表されました食料・農業・農村基本計画の取りまとめにかかわってまいりました。そのときの経験、そのとき考えたことをあわせながら、本日の意見陳述をさせていただきたいと思っております。

 まず初めに申し上げたいのは、TPP協定がもたらす懸念と可能性とをそれぞれ適切に把握した上で、前者の懸念をできるだけ小さくし、後者の可能性の領域をいかに広げていくかということが今後の取り組みのポイントであるということでございます。

 ただし、農業分野だけに限りましてもTPP協定は数多くの分野に影響を及ぼすものであり、その全体像が容易に理解できないことからさまざまな懸念をもたらすということは言うまでもございません。その複雑な姿を理解した上で、プラスの面とマイナスの面とを総合的に評価しようという姿勢が重要だと思っております。

 そのような視点に立った上のことでありますが、TPP協定の影響と成果については、協定の内容と国内対策の両方を政策パッケージとして一体で評価すべきだと思います。ある種の分離不可能性があるということでございます。

 今回のTPP協定の内容は、総合的に見て、各国のセンシティビティーに配慮したものになっていると考えております。我が国は、国会決議の後ろ盾もあって、他国に比べて農産品における関税撤廃の例外を数多く確保しております。ただ、それでも避けられないネガティブな影響については、対策が設定されていて、影響を中和するための備えが用意されているということでございます。

 これまでの貿易交渉を見てまいりますと、どの国でも国内対策なしの交渉の妥結はなかったと言えます。今回用意された国内対策は、我が国の農と食の実態に配慮した内容で構成されていると私は評価しております。

 その前提となるのが、農林水産業・地域の活力創造プラン、それから食料・農業・農村基本計画等において進められている一連の成長戦略、構造改革、そして自給率向上に関する諸施策でございます。TPP対策はそれらの施策と整合的であるべきです。

 TPP協定によって起こり得る懸念を払拭し、より一層改革を促進することを期待しております。そのような立場を貫くことで、TPPの国内対策は単なる保護手段に陥ることにはならないというふうに信じております。その内容について、以下でお話をしたいと思っております。

 まずは、対策で考慮すべき論点です。

 国会決議では、農林水産物の重要品目については引き続き再生産可能となるように交渉すべきであるとされました。

 将来も国民に安定的に食料を供給できるように、農業は再生産可能でなければなりません。現在の食料自給率水準に懸念を示す国民は多く、自給率を大きく左右する重要品目は、これからも再生産されるべきです。

 ただ、再生産可能のための対策がもし現状維持を志向するだけならば、ある種、静態的視点にとどまっていると言わざるを得ません。この後すぐに課題を指摘したいと思いますが、現状維持志向というのは、これからの日本農業にとって不安定な施策につながるのではないかと思っております。

 ただ、まず悪い影響が遮断され、将来にわたって現在の環境が維持されると関係者に理解していただくということは、初めの対策としては非常に重要だと思っております。それは期待形成にかかわるからでございます。

 TPPの影響が実際に大きくあらわれるのは、およそ十年ほど先になるのではないでしょうか。しかし、その将来の事態を予想したとき、人々は、今現在の行動をどうするのか、長期的な視点から考えることもあると思います。

 特に、ちょうど機械や施設の更新投資を行おうと思っている生産者の方々は、もしかすると、この懸念のために投資をやめてしまうかもしれません。新規に就農することを考えていた若者が思いとどまってしまうかもしれません。

 このようなことから、将来の生産の減少という事態が前倒しで起こってしまうのかもしれないのです。そのようなことが起きないように、不安を払拭し、将来の展望に結びつく期待形成の構築が大事だと思っています。

 米については、政府備蓄米制度を利用し、国別枠の輸入量に相当する国産米を買い入れることで、新たな輸入分を実質隔離するわけでございますが、それは国産米市場への影響を遮断する有効な対策だと思っております。

 アメリカ、オーストラリア合わせて最終的に約八万トンの輸入枠となりますけれども、これは現在の一年間の国産米需要の減少分に相当いたします。このまま放置しておけば、マーケットの縮小を一年早めるという印象を生産者や流通業者に植えつけてしまうことになります。

 ただ、影響を遮断するだけの単なる中和策では、頑強な対策とはなりません。再生産からさらに一歩進めて、農業が持続可能となるための対策とするべきです。そのためには、動態的視点を導入しなければいけません。動態的視点というものを取り入れて、農業を取り巻く状況を理解し、今後の農業のベースラインを意識すべきです。

 言うまでもないことですが、日本農業のベースラインを考える上で最も重視すべきことは人口の減少であり、これは農業に非常に大きなマイナスの影響をもたらします。国内の食料消費が減少し続けること、生産年齢人口がますます減り、人手不足が深刻になることが指摘できます。

 外的環境は常に変化します。したがって、現状維持をかたくなに守るような施策は、このような社会の変化に対応できず、有効に機能しなくなるかもしれません。逆に、対策面で後手に回る問題を起こすことも考えられます。施策が懐の深いものになっているかどうか、動態的視点から評価しておくべきでしょう。そのためには、構造改革への目配りが求められます。

 そこで、次の、構造改革との整合性についてお話をいたします。

 第一に指摘したいのは、合意された関税撤廃等の状況からすると、構造改革を進める上での準備のための時間は確保されたと思っております。

 農林水産品については、ライン数で見て、即時撤廃率は、日本以外の十一カ国平均が八五・一%のところ、我が国は五二・九%です。二年から十一年目までの撤廃率は、十一カ国平均一一・八%、我が国は二五・七%。十二年目以降での撤廃率は、十一カ国の平均が一・六%のところ、我が国は三・七%ということになっております。

 構造改革を進めるには一定の時間が必要でございます。安定した条件のもとで時間的猶予を与えることは、改革のための必要条件だと言えるのではないでしょうか。

 既に指摘したことの繰り返しですが、懸念を払拭することが、安心して投資をするための経済的基礎を提供いたします。よく言われるように、これからの日本にとって、どのようなイノベーションを起こすのか、深く考えていくべきです。このことは、農業分野も例外ではございません。イノベーションを起こすためには、投資を伴わなければいけないわけです。

 しかし、この二十年の間、我が国農業は投資を減らし続けました。UR合意後の平成七年の農業機械、施設、動物、植物などへの投資額を一〇〇といたしますと、その水準は年々減少し、平成二十年ごろには六〇を下回るまでになりました。

 御案内のように、UR対策では土地改良投資が実施され、農業の基盤は大いに整備され、その後の農業の下支えをしていきました。しかし、そのようなインフラ投資に続く機械や施設の投資が盛り上がらなかったわけであります。加えて、後継者は少なくなり、耕作放棄地もふえていきました。

 そういったことの背景には、将来への不安があったことは間違いありません。貿易自由化の影響に加えて、円高がどんどん進み、割安な農産物の輸入がふえる結果となりました。

 円高が高じたということで、もう一つ重要な問題を引き起こしたことを指摘しなければいけません。それは、国内農産物の輸出をできなくしたということであります。貿易自由化は本来、相互利益をもたらすべきですが、輸出の可能性を断ってしまったということは、農業分野に自由化による利益の実感を得られなくなったということだと思います。

 実は、この裏側で、もう一つ大きな問題が発生しておりました。それは、平成七年あたりを境に、国全体の食料消費が減り始めたことであります。

 平成七年の国内食料消費額は八十三・一兆円でありましたが、平成十七年は七十八・四兆円になってしまいました。十年間に五兆円近くが蒸発してしまったわけです。

 そのために農産物の販売が伸びなくなりますが、マーケットが縮んだことで価格も低下基調となります。円高による安い輸入農産物は、そのことに拍車をかけました。

 当時、誰もマーケットが縮み始めたということには気がつかなかったのではないでしょうか。頑張ってみてもなぜか手応えがない、昔に比べると売りにくくなってきたという印象を感じ始めたのではないかと思っております。

 そのような環境の悪化が投資の減少を引き起こし、そして最終的には農業生産の減少へと結びついていったのだと思います。その結果、消費が低下したにもかかわらず、生産がそれにつられるように減少して、残念ながら、自給率が向上することはございませんでした。

 同じ轍を踏んではいけません。UR合意のときと異なり、今回はマーケットが縮んでいることを全ての関係者が自覚しているはずです。何とかマーケットの縮小をとどめるべく、農業界、食品産業界が一体となって対策に取り組むべきだと思います。

 攻めの農林水産業施策では、生産現場の強化に続いて、バリューチェーンの構築、需要フロンティアの拡大を進めるという枠組みを提示しております。マーケットが縮むに任せていては、単に生産をふやしただけでは価格が下がるだけに終わってしまいます。積極的に消費に関与し、盛り上げていくことで初めて生産振興に成果がもたらされます。そうしなければ、自給率の向上も期待できません。

 外的環境が変化しても安定した収入が期待できるようにする措置は、今後の生産振興を誘導することになると思います。特に生産の縮小が懸念されている畜産部門において、牛マルキンや豚マルキンなどに期待するところは大きいと言えます。

 このように、消費と生産を結びつける取り組みが重要です。そのためには、農業界と食品を中心とした産業界とが連携して、積極的な取り組みを進めるべきだと思います。

 その観点から、農林水産分野におけるTPP対策である「農政新時代」で示された十二の検討の継続項目に注目しております。いずれも重要でありますが、やはり戦略的輸出体制の整備には大いに期待しているところであります。

 本年五月には農林水産業の輸出力強化戦略が取りまとめられ、平成三十二年には輸出額一兆円を前倒しで達成することがうたわれております。内向きだった農業界、産業界を新しい発想へ導き、制度の改正を積極的に進めていると評価しております。

 為替相場は不安定であります。今後も、あるときには円高へ振れることがあるかもしれませんが、それを乗り越えるだけの制度的バックアップを期待したいと思っております。今回の法案の一つである特定農林水産物等の名称の保護制度は、そのための手段の一つとして大いに期待しております。

 介護食分野などで、国内マーケットを盛り上げる努力も進められております。それに加えて、海外の莫大な市場へのアクセスを切り開くことを怠ってはいけません。

 もちろん、この取り組みによって、短い期間で劇的に変化するかどうかはわかりません。しかし、一つ一つの品目での地道な取り組みを積み重ねていかなければ、国内生産と海外市場を結びつけるという大きな潮流をつくることにはならないと思います。そのような制度的準備があって初めてTPPを有効に活用できるのだと言えるでしょう。

 最後です。繰り返しになりますが、農業界と産業界の協働が今後の取り組みにとって大事であります。

 ただ、食品産業の多くの企業は中小企業です。例えば、その方々がどのように輸出に取り組むのか。幸いにして、総合的なTPP関連政策大綱において新輸出大国コンソーシアムという政策が用意されていますが、この枠組みを利用して中小企業の食品メーカーの皆さんが活躍できればと期待しております。

 しかし、輸出する食品の原材料が輸入農産品では意味がありません。原料全てとは言いませんが、コアになる原料に国産農産物を利用していただきたいと思っております。そのためには、食品メーカーにとって、国内の農業生産者が信頼できるパートナーに育つことが必須です。輸出戦略のためにも、国内農業の強化があわせて行われなければなりません。

 このような取り組みを進める中で、食料自給率を向上させること、世界に誇る和食文化を守り育て、そしてあわせて世界へ発信していくことが、国民から評価されることではないかと考えております。

 このように、国民からの信頼、産業界からの信頼をかち得るような対策を総合的に進めていただきたいということを最後に申し上げて、私の陳述を終わりにしたいと思います。

 どうもありがとうございました。(拍手)

塩谷委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人の意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

塩谷委員長 これより参考人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。うえの賢一郎君。

うえの委員 自由民主党のうえの賢一郎でございます。

 両参考人におかれましては、大変貴重な御意見をお示しいただきまして、本当にありがとうございます。貴重なお時間を頂戴しておりますことにも感謝を申し上げたいというふうに思います。

 それでは、早速質問の方に入らせていただきたいと思います。

 今回のTPP協定につきましては、国内での大変さまざまな議論、そして、海外との大変厳しい交渉を乗り越えて今日に至っているわけでございます。

 先ほど来お話のありましたとおり、このTPPについて、これは日本全体あるいは日本の農業にとっても大変大きなインパクトのあるものではないかというふうに思っているところでございますが、先ほど中嶋参考人の方から、協定内容とそれから国内対策の両者を政策パッケージとして、これを一体的に評価するということが必要だというお話がありました。私も全くそのとおりだというふうに思います。

 そこでお伺いをいたしますのは、両参考人にお伺いをいたしますが、とりわけ、先ほどお話のあった不安の払拭であったり、あるいは期待形成、あるいは動態的視点、そういった観点からいって、今回の協定内容、それから国内対策、両者をあわせてどのように評価されるのか、簡潔に、両参考人にお伺いをしたいというふうに思います。

荘林参考人 私も中嶋先生と同じように、あるいは私自身も申し上げましたように、自由化をする、関税を下げるということと国内対策、常にセットで論じるべきだというふうに考えます。

 私自身は、先ほど申し上げたように、どちらかというと、関税が下がるという方は、いろいろな国際的な交渉事の中で、ある種外的な与件としてもう考えざるを得ないのではないか。そうしますと、その外的な与件に対して国内対策をどう評価するかということになるかと思います。

 まず、生産性向上対策については、大変積極的に打っておられるということで、私は高く評価するものでございます。一方で、今後悪影響が出た場合にどうするかということについては、基本的には、悪影響をきちんと把握するという体制のもとで適切に措置するという、その枠組み自体が重要であるというふうに思います。

 ですから、そういう意味で、これは、今評価するというよりも、今後長い期間にわたって恒常的に見ていかなければならない事項ではないかというふうに思います。

 以上でございます。

中嶋参考人 対策として出されたものに関しましては、現時点の条件を前提にいたしまして、環境を前提にしまして、維持できるということを明確に示しているんじゃないかと思います。

 先ほどお米のお話をいたしましたけれども、国産米のマーケットは維持される、そこに対して生産をしていけるといったことは大事であります。ただ、動態的視点ということを考えますと、例えば、お米の消費は年々八万トン減ってまいります。そうしたらどうするのかというのは、今回のTPP対策と改めてまた違うことも考えていかなきゃいけないと思っています。

 いずれにしても、現状は維持されるんだということを明確に示すことは、生産者にとってわかりやすいメッセージになっているということで、私は評価しておる次第であります。

うえの委員 ありがとうございました。

 今お話の中で、モニタリング体制であったり、あるいは動態的視点というお話がございました。これはある意味、これから継続しての取り組みが大事だということを御示唆いただいているものだと思います。

 その中で、荘林参考人の方から、先ほどのお話の中で、多面的機能あるいは食料安保、こうしたものをどう考えるか、また、納税者の理解というようなお話もございました。

 このような多面的機能や食料安保というのは本当にこれから大事だと思いますし、そうしたものを国民の皆さんに十分わかっていただく努力というものも必要だと思います。

 そうした点から申し上げまして、どのようなモニタリング体制をつくっていくのか、あるいは、その中でどういった情報を国民の皆さんとの間で共有していくことが必要なのかという点につきまして御示唆をいただければと思います。これは荘林参考人にお願いしたいと思います。

荘林参考人 食料安全保障あるいは多面的機能の確保が最終的な政策目的だとすると、モニタリングについても、その点にフォーカスしたモニタリングが重要だと思います。

 具体的には、土地利用の状況、あるいは土壌の状況、あるいは水資源の状況、そういったものについて、それらがきちんと保全されるような農業再生産が起こっているのかどうか、そこが恐らく重要なモニタリングのポイントになるのではないかというふうに思います。

 以上でございます。

うえの委員 ありがとうございました。

 そのような観点を踏まえて、今後モニタリングというものをしっかりやっていくということも大事かと思います。

 それと、荘林参考人にあわせてお伺いをしたいと思います。

 以前、滋賀県庁にも御出向いただいていたと思いますし、私は滋賀県の選出でございます。先ほど、ちょうど彦根市のお話がありました。農家の皆さんと非農家の皆さんがウイン・ウインの関係性を構築すると。これは、ある意味、これからの地域社会にとっても非常に重要な側面ではないかなというふうに思っております。

 今、参考人が実際現地に入られてさまざまな取り組みをされているというふうに思いますが、そうした中で、実証的にお感じいただいている点、あるいは、これから十年、二十年先の地域社会あるいは農村社会のあり方として、こういったものが望ましいということがございましたら、ぜひ御教示をいただきたいと思います。

荘林参考人 今議員から御紹介いただきましたように、かつて滋賀県に三年間お世話になっておりました。

 私が最近大変注目している集落は、彦根市にある集落でございます。約九十ヘクタールの農地の八十ヘクタールが、既に六戸の担い手の方たちに貸し出されております。全国の多くの集落で見られるように、相対で貸し出されていますので、六戸の担い手の方々の借りている農地は分散していました。

 そこで、約百三十戸の非農家になられた地権者の方たちが、この六戸の方たちが自分たちの農地を守っていってくださる方だろうというふうな思いを中心にして、六戸の方たちなら誰に貸してもいいじゃないかという包括的な合意をされました。その包括的な合意があれば、文字どおり、翌日からきれいな連担化が実現されたわけでございます。一番大きな方は、三十ヘクタールをほぼ完璧に連担化しております。集落営農では決して珍しいことではないんですが、個別の経営体で三十ヘクタールをきれいに連担化というのは、いまだに希有な事例だというふうに思います。

 このモデルのすばらしいところは、その集落では実際にそこまではまだ行われていないんですけれども、ポテンシャルとしてすばらしいところは、例えば、うちの集落では五十ヘクタール、こういう仕組みで連担化した農地を貸し出せますというと、借りる方にとっては大変魅力的なわけです。そうすると、貸す方として、では、そのかわり、五十ヘクタールを連担化して貸すかわりに、景観に配慮した、あるいは環境に配慮した、そういうふうな農法をとってくれないでしょうかというふうにすることが可能ではないかと思います。

 そうすると、概念的に、先ほど申し上げましたように、連担化の利益を、一部は生産者の方たちが生産性の効率化、改善ということで得て、一部は地域住民の方たちが地域の景色とか地域の自然環境の改善という形で得る。これがまさにウイン・ウイン、今後の水田地帯の、農村のある種のモデルになってほしいなと個人的には大変強く思っております。

うえの委員 ありがとうございました。

 そのような動きが全国的にも拡大をしていく、広がっていくということもまた大事ではないかなというふうに今思いました。この点につきましては、また私なりにも勉強させていただきたいというふうに思っております。

 それでは、中嶋参考人の方にお伺いをさせていただきたいと思います。

 先ほど、現状においてのTPP合意あるいは国内対策について、おおむね評価をいただくということであったかというふうに思っております。

 その中で、先ほどいみじくもお話がございました、TPPの今回の効果といいますか結果といいますか、十年先にあらわれるのではないかというようなお話がありましたけれども、先ほどの質問とも若干重なりますが、十年先に、日本の農業であったりあるいは地域社会であったり、これはどういった姿というのを想定し、あるいはそれに向かって努力をしていくのか、その点につきまして御教示いただければというふうに思います。

中嶋参考人 十年先になりますと、人口減少がかなり進むと思っております。消費が減る、それから特に担い手が不足する、それから高齢化が進むということでございます。

 特に、生産力が低下するということを懸念いたします。これは、コストアップにつながるか、それとも、それに取り組むような新しい動きが出るかということが、私は注目しているところでございますけれども、今の政策が進められていくならば、これを克服するような動きも出てくるのではないか。例えば、トラクターを自動で運転するような、そういう動きが見られます。そうであるならば、人手不足というものも、その部分に関しては解消できるのではないか。そこら辺に私は期待しております。

うえの委員 ありがとうございます。

 今いみじくもお話をいただきました、AIの活用であったり、あるいはビッグデータの活用であったり、先ほどイノベーションというお話がございましたが、これから日本全体が、第四次産業革命と言われている大きな世界的潮流の中でしっかりとした立ち位置を確保していくということも、日本全体では必要なことだというふうに思っております。

 そうした中で、先ほど参考人の方からお話がございましたイノベーションのお話ですね。なかなか農業分野でのイノベーションというのは、これまで余り議論といいますか、されてこなかったようにも思いますが、今例示としてお話をいただきました自動運転ですか、そうしたこともあろうかと思いますし、この農業分野において、これから先、例えば十年先、イノベーションはどんどん進んでいくだろうと思います。

 そうしたことを進めるという点から、どういった政策が必要だというふうにお考えになるのか、あるいはどういった取り組みが必要だとお考えになるのかにつきまして御教示いただきたいと思います。

中嶋参考人 先ほどAIの活用ということにも触れられましたけれども、情報技術をどのように生産の現場に組み込んでいくかということが非常に重要だと思っております。

 それから、先ほどのお話の中で、私は、生産者と消費者がつながることが大事だということも指摘いたしました。そこにおいても情報技術というのは非常に重要だと思っております。消費者が何を考え、何を欲しているのかを的確に生産者がキャッチし、そして生産に結びつける。それは、今どうつくるかという問題だけではなく、五年後、十年後の新しいものをつくっていくためにも、それは非常に重要だと思っております。

 それから、もう一つつけ加えさせていただきたいのですが、農業という活動を考えるときに、圃場で栽培をするということだけではなく、例えば、収穫した後にどのように調製するか加工するか、保管し販売していくのか、そういった活動も連続して考えていかなければ、よりよいものをつくり、届けることはできないと思っております。それは、ある種のバリューチェーンを構築するということでございますけれども、そこにも情報技術というのが重要になってくると私は考えております。

 そういう意味では、第四次産業革命の核、コアになるのは、IoTやAIや、そういった情報技術でございますが、それを農業分野にも幅広く普及させていく、そして、新しい技術を開発していくという取り組みを進めていただきたいと思っております。

うえの委員 ありがとうございました。

 今の点、非常に興味深い視点だと思います。政府全体としても第四次産業革命に取り組むということですが、その中で農業分野、今回のTPPの問題を一つの契機として、さらに日本の農業を強くしていくためにも、あるいは国民の皆さんとのつながりをより確かなものにしていくためにも、そうしたことを十分活用していくということは大事だというふうに今思いました。ありがとうございます。

 それから、中嶋参考人にお伺いをしたいんですが、マーケットの拡大というお話をいただいています。

 今、食料産業自体の需要が収縮をしている。人口減ということもひょっとしたらあるかもしれませんし、デフレということもあろうかと思います。

 そうした中で、やはり国内のマーケットをこれから拡大していく。先ほど、産業界とのつながり、協働というお話がございましたけれども、それを実現していくために、具体的な制度的な準備、先ほども少しお触れになられましたけれども、具体的にどういった取り組みをしていくことが必要かということを一つお伺いしたいと思います。

 もう一つは、今、私ども政府・与党として、農林水産物の海外輸出ということに相当力を入れております。一兆円を目指して今取り組んでいるところでございまして、これも年々、その拡大が安倍内閣になって実現をしているところでもございます。

 海外マーケットの関係につきましても先ほどお話がございました。さまざまな制度的な障壁があったりして、なかなか難しい分野もひょっとしたらあるのではないかというふうに思いますが、全体として、先ほど新輸出大国コンソーシアムのお話もいただきましたけれども、制度的な枠組みとしてどういったことをこれから考えられるのか、あるいは改善をしていくことが望ましいのか。

 その二つについて、国内マーケットそれから海外マーケットについてお話をいただきたいというふうに思います。

中嶋参考人 まず、国内マーケットでございますが、これも先ほどお話をさせていただきました介護食のような分野が非常に有望だと思っております。

 そういったものというのは、今まで家庭の中で自分たちが賄ってきたものを産業に任せるというような取り組み、そういう転換だと思っております。家庭の技術で対応していたものを産業の技術で対応する。それは、ある種の生産性を高める行為だと思っております。そこで解放された時間や、ある種労働といったものをさまざまな分野に活用していく。介護の問題は、そういう割り切った議論だけではなく、いろいろな深刻な議論はあると思いますけれども、それゆえに介護食に対しては非常に期待が高まっています。

 同じようなことが、多分、幅広く見れば出てくるのではないかと思っておりますので、まだまだ掘り起こしは可能ではないかと思っております。

 それから、海外マーケットへの取り組みですが、やはり検疫問題をどういうふうに克服していくかというのは非常に大きいと思っております。放射性物質の問題もそうでありますが、それだけではない、今まで多く指摘されてきたような検疫問題、これに地道に取り組み、日本の食を受け入れていただくということが必要です。

 それから、日本の食のすばらしさというのは、販売しているところの品質の高さだと思っております。その品質の高さというのは、つくった後どのように取り扱うか、そしてどのように販売するかという、ある種のバリューチェーンをきちんとつくることによって維持されることでありますので、そういった流通業者のネットワークづくりといったことも取り組んでいく必要があるのではないかなと思っております。

うえの委員 どうもありがとうございます。それぞれに貴重な御意見を頂戴いたしまして、大変ありがとうございました。

 それでは、最後に荘林参考人にお伺いをしたいと思います。

 先ほどのお話の中で、基幹的水利施設の維持管理のための新たな制度的な枠組みの検討が重要だというようなお話がございました。

 これは実際、土地改良のさまざまな施設、現地でお伺いをしますと、やはりその維持が非常に困難だというお話が至るところで出ているというふうに思いますし、また、その負担のあり方もどうしていくかというような議論も行われているというふうに思っております。

 そうした中で、この点について、もし具体的にこうした方がいいということがございましたら御教示いただきたいというふうに思います。

荘林参考人 議員御指摘のように、基幹水利施設の維持管理、更新の問題は、私自身は大変深刻な問題だというふうに思っております。そのためにかかる費用の負担をどう適正化していくか。もちろんコスト削減の話は絶対的な前提として、いずれにしろ、それでもコストはかかるわけでございます。

 そのコスト負担をどうするかなのでございますが、私自身の一つのアイデアは、先ほど申し上げましたように、連担化がどんどん進んでいけば、今まで、水道と同じように、使った量に応じて農家の方に払っていただくというシステムは不可能だったわけです。分散していますと、それぞれの田んぼ一枚ごとで水量をはからなきゃいけないわけですから、それは不可能であった。ただ、連担化しますと、それが恐らく技術的には、あるいは制度的にも可能となると思います。

 そうすると、使った量に応じた、あるいは何らかの使った実績に応じて担い手の方に相応の負担をしていただく、それの負担が過大になるようであれば、先ほどの文脈の中で財政支援を考えるというやり方が、個人的には一番すっきりするのではないかというふうに思います。

 ただ、いずれにしろ、この点については幅広い検討が必要だというふうに思います。

うえの委員 時間になりましたので、これで終わらせていただきますが、本当に貴重な御意見をありがとうございました。

塩谷委員長 次に、上田勇君。

上田委員 公明党の上田勇でございます。

 きょうは、中嶋先生、そして荘林先生には、大変御多忙中のところ参考人として御出席をいただきまして、大変貴重な御意見を伺うことができましたこと、改めて厚く御礼を申し上げたいというふうに思います。

 せっかく貴重な御意見を伺う機会でありますけれども、ごらんのとおり、ちょっと欠席者がおりまして、大変そうした失礼は深くおわびをしたいというふうに思います。

 非常に残念なことですけれども、私たちは、やはり、このTPPというのは、きょうは農業ということをテーマとさせていただいておりますけれども、農林水産業を初め、国民生活、日本経済、あらゆる分野に深くかかわっていることなので、できるだけきょうのような有識者の方々にも貴重な御意見を伺い、また、これから、地方にもやはり影響が出ますので、地方の方々の御意見も伺うようなそういう地方公聴会も設定をさせていただくなど、幅広く意見を伺いながら審議を進めていきたいというふうに考えているところであります。

 これからもぜひ、そういった慎重な審議に努めていきたいというふうに考えているところでございますので、またいろいろな場面で御意見等を伺う機会もあるかもしれませんけれども、ひとつよろしくお願いしたいというふうに思います。

 やはり、今度のTPP初め経済連携協定というのは、先ほども先生のお話にもありましたけれども、どうしても、メリットを受けるセクターがあればデメリットを受けるセクターがある。これは、このTPPに参加をしている国はどこも同じでありまして、アメリカでも同じ、日本でも同様なことがあります。

 特に、我が国の場合には、やはり、産業構造の観点から一番そうした懸念がある部分というのが農林水産業ということで、そういった懸念に対するさまざまな対策も講じて、今回それがパッケージとして、この協定とそういう農林水産業に特に配慮した、そういったパッケージとして今回提案をさせていただいているわけでございます。

 そこで、きょういろいろと貴重な御意見を伺うことができましたけれども、まず荘林先生にお伺いしたいというふうに思うんですが、荘林先生の方から、農村景観、自然環境が大切だと。これはもう全く私もそのとおりだというふうに思っております。ただやはり、他方、そういった景観や自然と農業生産の効率性という部分とのバランスというのが、非常にある意味難しい面があります。

 基盤整備をして大区画化する、水路もどんどんパイプライン化をしていくと、効率性は上がるけれども、果たしてそれは私たちが思い描いている農村の風景なのかといったところというのは、必ずしもそうではないんじゃないのかなという面がございます。

 これから、そういった意味で、景観、自然というのは農林水産業の持っている多面的な機能の最も重要なものの一つであるというふうに思っているんですけれども、それと農業生産の効率性、どういうふうにバランスをとっていくのかということが非常に重要だというふうに思っております。

 先ほど、連担性を高めて集約していくということもございましたけれども、全体的に、この景観や環境と効率性、どういう調和を図っていくのか、少し御説明いただければというふうに思います。

荘林参考人 議員御指摘のとおり、農業生産性の、効率性の向上と、景観あるいは自然環境の保全というのは、先ほど申し上げた連担化に伴うウイン・ウインのように必ずしもなるとは限らないわけでございます。むしろ、トレードオフ、片方を立てれば片方が立たなくなるケースの方が私自身も多いのではないかと思います。

 まず、重要なのは、そういう悩みに直面しているのは我が国だけではないということだと思います。これは、およそ全ての先進諸国の農業あるいは農村政策においての共通の越えなければならないハードルだと思います。

 私自身は、そのバランスをとる最大の有効なツールが環境支払いだというふうに考えております。環境支払いは、例えば、景観とか環境に対して通常よりもさらに一歩超えた農法をとっていただく農家にコストが発生する、そのコストをそのまま放置すると、生産性と環境のトレードオフになるわけです。そのコストを財政で負担することによって農家の方に負担をかけないということによってトレードオフ関係を解消するというのが、私は、この問題についての最も重要な王道ではないかというふうに考えております。

上田委員 ありがとうございます。

 農村の風景、環境と効率性というのは全体でバランスをとるのは非常に難しい、やはりそういうところを十分配慮しながら、いいところをうまく残していくということが重要なんじゃないかというふうに私も思っております。

 もう一点、荘林先生にお伺いしたいと思うんですが、先ほどもうえの委員からも話があった基幹水利施設の維持管理の問題。

 我が国の水利施設、とりわけ稲作にかかわる水利施設というのは、長い歴史の中で相当な累積の投資が行われて今の仕組みができているわけでありまして、これを維持管理していく、あるいは更新もしというのも出てきます。これはなかなか容易なことではないというふうに思います。

 ここで、特にこれから、歴史的には日本はずっと農村社会で、ほとんどの方が農民でありましたから、みんな共同でそういった維持管理や更新に当たるということが可能だったんだというふうに思うんですけれども、今はやはり農家と非農家が分離をしているという状況の中で、公共的な役割の極めて強い本当の基幹的な施設、ダム、ため池、あるいは主要な水路、そういったところは公共が担うこととする。一方で、でも、やはりこれは、生産施設でありますから、農家がそれぞれ自分の生産の施設として使っているものについては、それぞれ農家あるいは組合とかで管理をするという方向なんだというふうに思うんです。

 なかなかすみ分けというか区分けというのは難しい面があろうかというふうに思いますけれども、公共としてどこまで責任を持つのか、その辺のお考えがあれば伺えればというふうに思います。

荘林参考人 基幹的水利施設の大きな問題というのは、議員御指摘のように、昔のようにそれぞれの農家の方たちが、自分自身も、あるいは自分の子供たちも農業を継ぐというふうな状況のときには、例えば、通常、公共的な水利施設というのは、十年、二十年の単位で後払いで負担をしていく仕組みになっているわけですけれども、それがある種の合理性を持っていたということだと思います。その前提条件が大きく変わっている中で費用の負担をどうするかということだと思います。

 議員の御質問に対するお答えとしまして、まず、公共的な、純粋な公共財的なもの、恐らく治水ですとかそういう観点のものと、純粋な農業用の施設、農業単独の水利施設、そういったものの区分け、恐らく、個人的には、農業水利系はどちらかというと農業施設として整理できるのではないかと思います。そうすると、問題は、農業水利系の基幹的なものについての費用負担をどうするかということでございます。

 先ほどのお答えと重なるのでございますけれども、多くの根源的な問題の一つは、長期にわたって事後的に負担金を返していくというシステムが農家の方たちに対して大変不安定なものになるのではないかというふうに思います。そのかわりに、やはり、毎年毎年使った実績に応じて毎年毎年払うというシステムにした方が、長期の債務を負うという感覚がなくなりますので、そちらの方がより合理的ではないか。そのときに、財政負担との議論もきちんとしながら、適切な負担金額を決めた上で、それを、事後的な料金制と呼んでいるんですけれども、そういうものに転換していくというのが一つのアイデアとしてあり得るのではないかというふうに思います。

上田委員 ありがとうございます。

 それでは、中嶋先生にお伺いしたいというふうに思うんですけれども、先生の先ほどの御意見の中で、やはり、これからの日本の農業というのは、輸出、海外の市場にしっかりと目を向けていかなければならないという御意見でございました。

 もちろん、今、ほとんどの先進国というのは農産物輸出にかなり力を入れているし、実績も上がってきているわけでありますが、特に日本の場合には、なかなか、アメリカとかオーストラリアのような、大量に穀物を輸出するというようなパターンというのは考えられないので、やはり、どうしても土地の制約のある中でもそういう輸出に取り組んでいるヨーロッパの国々とかの成功事例などを参考にしていかなければならないんだというふうに思います。

 そういったところで、やはりブランド力とか品質に対する信用度というのが非常に重要で、先ほど先生の方からも、品質をどうやって確保していくかということが重要だというお話もございまして、全くそのとおりなんだというふうに思います。

 日本の農産物、食品というのは非常に品質が高い、信頼性が高いということは我々はよく理解しているんだけれども、これを海外に持っていくと、何がいいのか悪いのかというのをちゃんと評価してもらえるかどうかというのは、なかなか難しい面があると思います。

 今は、割かし一番いいレベルのものだけ持っていっているから、すごく評価が高いんだけれども、量がふえていくとなると、ある程度、何か客観基準みたいなもので設定をしていかなければならない。あるいは、産地というのもそうなんだと思うんですけれども、もうちょっと客観的に品質を、正直言ってよくわからない人にもわかってもらえるようなものが必要なんじゃないかというふうに思うんですけれども、その辺、何かアイデアがありましたらお伺いできればと思います。

中嶋参考人 大変大事な御指摘をいただいたと思っております。

 今回の制度の中にGIを入れるというのは、そういった一つのガイダンスになるのではないかなと思っております。その中で、どういう項目が、いいものといいましょうか、そのブランドの構成になっているのかということを積極的にコミュニケーションしていくということが必要ではないかと思っております。

 ワインの事例は、多分、その一つの参考になるのではないかと思うんですけれども、それ以外にも、発酵食品のようなものを、海外の人たちにどのようにそれを知っていただくのかというのは非常に難しいので、指標にすると同時に、その背景にある文化もあわせて説明しなければいけない。

 ただ、私自身、悩ましいと思っておりますのは、文化というものを一や二や三の数字のような指標にすることはかなりできない。そこら辺の新しい発想が求められているんですが、申しわけないんですが、今ちょっとすぐにお答えすることはできませんが、そういったことを考えております。

上田委員 どうもありがとうございます。

 中嶋先生、もう一つお伺いしたいというふうに思うんですけれども、今回のTPP対策の大綱の中で、いろいろな対策を講じているんですけれども、特に、我々が議論している中で、これから農業者の方がいろいろな新しい分野にもチャレンジしてもらう、そうすると、やはり、当然それなりのリスクがあるわけですね。

 今、法人化とか大規模化も進めていくといっても、それでもやはり経営規模としては限界がある中で、財政力、財政基盤も弱い、そうしたときに、どれだけリスクをとってもらえるか。そういうリスクがとれないとなかなか、生産性というか、新しいものの生産にチャレンジできないんだというふうに思って、そんな意味で、今度の対策の中でも、例えば畜産にあっては、先ほど先生もおっしゃいましたけれども、マルキンで収入を安定させようというようなこと。そしてまた、農産物についても収入保険ということをこれは今検討させていただいております。チャレンジして、仮に失敗したとしても、ある程度の、保険というのが、補償ができる、そういったことがないとなかなか家族経営とか小規模な法人がチャレンジできないんだと思うんです。

 今回、そういう対策は講じているんですけれども、これからさらに、チャレンジをさらに進めていくために、何かそういう、安定というんですか、経営の安定、特に生活の安定がある程度見通せるようなアイデアというのがあれば、また教えていただければというふうに思います。

中嶋参考人 なかなか難しい御質問で、すぐに新しい手段を御提示できないんですけれども。

 今、私が課題だと思っておりますのは、新しいことに取り組んだときの例えば収入保険の設計というのは、実は難しいんですね。今検討されているのは、過去五年間の平均を使ってこれだけの収入を補償しましょうという仕組みなんですが、新しい品目を入れると、それに対してはどうやって計算をするのか、そこのところの補償額の設定というのは、実は今議論しているところだと思っております。

 そういったチャレンジを評価する人たちが必要なんじゃないか。それは、例えば、金融機関である場合もありますし、それからファンドのような投資をする方ではないかと思っております。そういった生産者の能力を客観的に評価するような仕組みをまず入れて、その上で、この人たちはこのぐらいのことができるんだというような水準を設定した上で補償していく、そういった取り組みを入れていただくとありがたいなと。

 もちろん、そこには、投資をするという行為も裏側にはあると思います。融資から出資へというのは一つの流れだと思いますが、今言った収入の補償ということとセットで、きちんと評価をして支援していくような民間の取り組みというのも期待しているところでございます。

上田委員 最後にもう一点、先生にお伺いしたいというふうに思うんですけれども、この委員会の中でも、TPPでいろいろなルールが統一される、食品の安全とか農薬とか表示方法とか、ルールが統一をされると、今まで日本が独自に定めていた、場合によってはちょっと国際水準よりも厳しいルールとかが適用しにくくなってくるんじゃないか、それが、国内では今ないさまざまな食の安全に対する懸念があるんじゃないかというような指摘がありました。

 私は、今のルールでも、かなり国際的ないろいろな整合性をとりながらお互いが定めていることであるので、それほど大きな障害にはならないというふうには思っているんですけれども、とはいっても、やはり実際に使っている農薬であるとか添加物というのは違うのは事実なので、そういった懸念というのは先生はどういうふうにお考えになっているのか。また、そういった懸念を払拭するためにどういうことをやらなきゃいけないか。ちょっと専門外かもしれませんけれども、御意見があればお伺いしたいというふうに思います。

中嶋参考人 大事な論点だと思っております。

 食の安全も含めて、新しい取り組みというのがどんどん入ってまいります。それは、新しい科学に基づく、新しい技術に基づく適用、それの応用ということなんですが、それは日進月歩で、今まで知らなかったようなことを生産者の方たちが使っていかなければいけない。科学者ではありませんので、どういう意味があるのかとか、どういうことに気をつけなければいけないのかというようなこと、それはそうたやすく理解はできないと思います。

 それを支援するような仕組みが必要で、それは、行政であったり、例えば生産者団体であったり、それから納入する業者さんだと思います。その方たちがきちんとコミュニケーションをとって、どのように使っていったらいいのかということに対応していく必要がございます。それが、十分に理解して利用することによって、結果、消費者に対して安全で安心なものを提供できるということでございますので、幅広い基盤づくりというものを私は期待しております。

 過去の動きを見ますと、本当にこの数年、新しい技術が出てまいりました。私、大学におりますけれども、そして農学部の中で過去理系だったんですが、こんなこともあるのかということを日々発見することがありますので、現場に行くと本当に戸惑うことが多いんじゃないかと思っております。そういった点への御配慮をいただければと思っております。

上田委員 両先生には、大変貴重な御意見をいただきまして、また質問にも答えていただきまして、大変にありがとうございました。

 時間になりましたので、これで終わらせていただきます。ありがとうございます。

塩谷委員長 次に、松浪健太君。

松浪委員 日本維新の会の松浪健太と申します。

 本日は、お二人の先生、まことにありがとうございます。

 また、冒頭ですけれども、本来、参考人質疑というのは、参考人の先生方にこうしてお願いをして来ていただく立場にあって、最近片手落ちという言葉は使ってはいけないんですが、国会では片肺という言葉はよく使われるんですが、参考人質疑にあっては、私は、こういうことは本当にあってはならない、国会の大変恥ずかしい姿をお見せしたということに、心より委員の一人としておわびを申し上げる次第であります。

 とはいえ、きょうは野党は我が党二人だけということですので、質疑をしっかりとさせていただきたいと思います。

 まずもって、先般、私もこの総括質疑の場で食の安全の問題を取り上げさせていただいたわけであります。牛、豚等で、成長肥育ホルモン、エストロゲンであるとか、成長肥育飼料ラクトパミンであるとか、それから、乳量を約二割ふやす効果があるとされるrBSTという遺伝子組み換えのこうしたホルモン、まあ組み換えていないものもありますけれども、さらには、大豆等の遺伝子組み換え食品を取り上げさせていただきました。

 これをどうして取り上げたかといいますと、そもそも海外では使用されているこうしたものが、国内では禁止されている、また、認可がおりていないという、そもそもの使われ方がフェアではない。

 お肉でいえば、オリンピックでいえば、ドーピングした選手とドーピングしていない選手が一緒に競っているようなものでありますし、遺伝子組み換えに至っては、これは本当に、最近漫画で「テラフォーマーズ」というのがあるんですけれども、漫画の「テラフォーマーズ」というのは、主人公が、人間がいろいろな虫の力を組み込んで戦うというようなストーリーですけれども、相手はゴキブリ人間が出てくるんですね。このゴキブリ人間みたいなものと真っ当な食物が戦う。

 まずもって、私は、この農産物を見て、畜産、そしてまた、こうした遺伝子組み換えのトウモロコシであれ大豆等であれ、そもそもの能力が違うものが同じところで競う、これはもともとフェアトレードと言えるのかどうかという基本的な認識をお二人の先生に伺いたいと思います。

荘林参考人 大変重要な御指摘だと思います。

 ただ、正直に告白させていただきますと、私は、食の安全についてはここで何か私見を申し上げるような能力を有しておりませんので、ということで御容赦いただければというふうに思います。

中嶋参考人 私は、若干、食の安全にかかわる研究をしておりまして、御指摘の点、非常に難しいということも自覚しております。

 例えば、成長ホルモンの問題もございますし、あと抗生物質をどういうふうに使うかというような、豚の肥育等にも、現場の方々は非常に悩んでいらっしゃるというのも伺っております。

 これは、SPS協定も含めた国際的な基準の中で解決しなければいけないと思っております。特に、化学物質の利用等に関しては、やはり標準化は必要だと思いますので、国によって格差があるというのは解消していく方向で交渉を進めていただきたい。

 ただ、それを受け入れられるかどうか、国民の需要というものも気にしなければいけませんので、丁寧なコミュニケーションと科学的な検討、これを積み重ねた上でハーモナイズしていくことを進めていただければと思っております。

松浪委員 国際的なハーモナイゼーションは非常に大事なんですけれども、先般、私も指摘させていただいたのは、ヨーロッパなどでは成長ホルモンを絶対入れてはいけないと。

 仄聞したところによると、さまざまな実験をしているところで、もう本当に若いうちからそういうのを浴びた子供たちが大変毛が生えるのが早かったとか、そういった問題があるので、今回のTPPの国の中でのルールと、実際、EUに対しては、オーストラリア、アメリカ等もホルモンフリーのこうしたものを出すという特別なプログラムを組んでいるということなので、私もやはり、まさに先ほど消費者のお話がありましたけれども、消費者、我々の価値観というのがこれから大事になってくると思います。

 特に、このTPPにおいて、科学的な理由が必要だとされるわけですけれども、イスラム教の国に豚を輸入しろと言ってもナンセンスな話でありまして、やはり私は、消費者の意識を変えていくという意味でも、こうしたハーモナイゼーションとかそれぐらいの緩い感じではなかなか国際戦略を組めないんじゃないかなというふうに思っております。

 先ほど、多面的機能についてお二人ともお触れになったかと思います。

 私の方も、もともとは厚生労働行政が専門で、長年携わってきているもので、二〇二五年には、正直言って、団塊の世代が後期高齢者に突入してまいります。そして、二〇四二年問題、まさに二〇四二年に日本の高齢者がピークアウトをしていくということになります。

 私は、今の日本の社会というのは撤退戦と一緒だと。今、国会ではずっと、年金は上げ続けるべきだとか、下がる数値がどうだとかいってもめているんですけれども、実際問題、戦争でも事業でも、撤退戦という、撤退するフェーズというのはあろうかと思います。スプリンクラーのついたこんな立派な施設というのを二〇四二年に合わせてつくれば、当然ピークアウトした後は余剰になってしまう、それぐらい私は厳しい状況だと思うんですね。

 ですから、今、人口的に言えば、七十五とか、七十代の団塊の世代の皆さんを一とすれば、日本国で二十から二十四ぐらいの方は〇・六しかない。そして、これは大体県庁所在地では平均の〇・六ぐらいあるんですけれども、農村部に行くとこれが〇・三に落ちてくる。私は、もはや環境に配慮をするだけで今の全てを維持することというのはなかなか難しくなっているんだろうなと思います。

 こうした人口の観点から見て、私も、先般の江藤拓先生の御質問、棚田等は非常に守っていかなきゃいけないと思いますけれども、社会保障においても農政においても、まさに撤退戦で、全てを守ることはできないんだろうというふうに思います。

 そうした観点から、余りどこを捨ててというのは国会では言いにくいわけでありますけれども、選択と集中というのは多面的機能においてもあり得るのかそうでないのか、お二人に伺いたいと思います。

荘林参考人 私自身、OECDのときに多面的機能の議論に深くかかわりまして、先ほど申し上げたように、必要なときには関税による価格よりも財政の方がいいと。

 先ほど申し上げなかった、もう一つ財政がいいと考える点は、ターゲットできるからでございます。多面的機能が本当に社会的に重要で、そこは絶対守らなきゃいけないというときに、そこにターゲットした政策を打てるのは財政だけでございます。

 そういう点では、例えば、我が国でよく取り上げられる多面的機能の一つは、洪水防止機能なわけでございます。洪水防止機能も、大変強い洪水防止機能を持っているところというのは、一般的な常識としては、下流に大きな都市、あるいは下流に人口密集地帯がある上流部の水田なわけでございます。例えば、では、河口に近い、海に近いような水田に洪水防止機能が物理的にはあるわけなんですけれども、それに対する社会的需要があるのかというと、それはないところもあると思います。

 そういう意味では、多面的機能についても濃淡は当然のことながらある。それに応じた施策というのは私は極めて重要だというふうに思います。

中嶋参考人 水田が持っているすばらしさというのは、本当にこれをこの後もずっと維持すべきだと私も思っております。

 ただ、めり張りをつけることは確かに重要で、生産資源としてどう活用していくかということと、それから環境便益を発生させるものとしてどう活用していくかということは、場所場所によって少し計画的に分けて考えるべきではないかなと思っております。今までのようなやり方ではやはり持続可能ではないという認識を持っております。

 ただ、一つ指摘したいのは、私たちが今見ている農村の風景というのは、例えば五十年前に見ている風景とはかなり違っております。土地改良事業が入り、効率的な生産ができる体制に直しました。しかし、それでもすばらしい景色はございます。そういった景観に配慮した土木技術の開発というのはあるということも認識しておく必要がありますので、もしかすると、両立するような技術が生まれる可能性がございます。

 それから、環境に配慮する活動でも、資源保全をする活動においても、やはり人手が非常にかかります。私は、しばらくの間は高齢者の方に大いに期待できるのではないか。

 と申しますのは、人海戦術型の維持管理を今しているからでございます。先ほど、二〇四二年がピークアウトの時期であるとおっしゃいましたけれども、農村部は、私が計算した限りでは、二〇二五年か三〇年までの間でございます。地域によってはもう既にピークアウトしているところもあるので、高齢者の方に頼れるのはいつまでかということを考えながら、頼れなくなったときに資源管理のあり方をどうするのかを今から御相談していただき、必要に応じてパイプライン化するというようなことも進めていただきたいと思います。

 ただ、環境の便益を発揮する、多面的機能を発揮する部分は、多分この後もある程度の人海戦術があった方がいいし、高齢者の方が少なくなったといっても元気な方はまだ残っていらっしゃいますので、その人たちに仕事の場所を与えるという観点でも、ぜひともそういうシステムを考えていただければと思っております。

松浪委員 今最後に御指摘いただいたように、実際私が先ほど申し上げたのは日本国全ての話でありまして、東京はまだ人口もふえているわけで、恐らくピークアウトの時期が、一般に三十年から、下手すれば五十年ぐらいずれているような場所もあるので、今先生おっしゃったことを戦略に組み込んでいくことは非常に大事かと思います。

 もう一点。先般、さまざまな御質問を聞いていると、自由民主党の中でも農協に対する考え方というのも随分と違うものだなというふうに思います。

 私は大阪が選挙区でありまして、専業農家がもう一軒もなくなってきている。しかし、農協は大変立派な建物でありまして、関西でも屈指の経営状況であるということを皆さん誇られるんですけれども、つまりは、農協が私の地元では金融機関として大変な力を持っているというのが現状であります。

 こうした中で、これからの農協のあり方というものについて、お二人の先生、御所見ありましたら伺いたいと思います。

荘林参考人 私自身、農協について細かいフォローをしている人間ではございません。

 ただ、一般論として、農家の皆さんによる団体というのがいろいろつくられてきた、その意味は当然あるわけでございます。土地改良区もそうでございます。

 したがいまして、農協については、私自身は、一般論の域を出なくて大変申しわけないんですけれども、やはり、農協が何のためにつくられたのかという、その根源を常に意識するというのが大変重要なのではないかというふうに思います。

中嶋参考人 私は、農協はもっと新しい姿に変わっていく必要があると思っております。人口も減り、農業にかかわる方が少なくなってきた中で、活躍する方はたくさんいらっしゃるんですが、そういう人たちに選ばれる農協に変わっていく必要がある。農協と一緒にビジネスをやることでその方々がより一層いいパフォーマンスが発揮できるような、そういった体制に変わっていく必要があると思っております。

 ただ、日本の農業の実態を考えますと、法人経営を伸ばすことはもちろんですが、やはり家族経営というものも重要でございます。特に、中山間地域はそういった方々が大宗を占めるのではないか。その人たちをサポートする組織としては、やはり協同組合というのは非常に重要な組織ではないかと思っています。

 ただ、この家族経営も、やはりいい農業をやりたい方はたくさんいらっしゃるわけですから、その人たちに選ばれるような農協に変わっていく。今回の、農協法が改正され、JAグループが新しい取り組みをされているのは、その方向にかなっているのではないかなと私は一応評価をしております。

松浪委員 ありがとうございます。

 先般から私もさまざまな質問をさせていただきまして、TPPの現在の協定は今の仕組みを何ら変更するものではないけれども、新しく仕組みを変更していくと、さまざまに国に対して圧力がかかってくるわけであります。これは私はなかなか否定できないことかなと思うんですけれども。

 私はもともと道州制論者でありまして、かつて自由民主党の道州制推進本部の事務局長をやらせていただいておりました。きょうも、道州制に最も力のあった、専門的な御知識を持っていらっしゃった首長の会の古川先生も来られておりますけれども、なぜ道州制かというと、やはり、九州に応じた農業、東北に応じた農業、こうしたもので、各県の農業試験場の集約なんという意味だけではなくて、ある種の、そうした農地法のあり方も全国一律である必要は実はないと私は思っております。

 我が党は憲法改正を考えておりますけれども、憲法改正をして道州制が入った段においては、今、地方自治については憲法で、地方自治の本旨は、別に法律で定めると書いてあるんですけれども、道州ぐらいの大きさになれば、私、新聞社出身なんですけれども、今、地方には政治部もないんですね。ですから、道州ぐらいになれば九州政治部ぐらいができて、それを九州の皆さんにしっかりとお伝えをして、九州型農業とか九州型農地法というのがあれば、私は、随分と、その地域の皆さんがどういうふうに実験、実験と言うとなんですけれども、先進的なことをやっていくのか、それを皆さん納得の上で未来にかける、そういう政策も可能かと思いますし、やはり日本の国土はこれだけ南北に長いわけでありますから、特に農業などは、それぞれのニーズが違うので、一律の法律である必要はないと思うんです。

 これは、非常に先進的なことをする意味というのもあろうかと思うんですけれども、それとは別に、我が国は別に連邦制を目指すわけではないですけれども、例えば条約刑法を進めましょうなんというのを我々もよく法務委員会なんかでもめるんですけれども、アメリカでは、三州は実はこれには加盟していないんだよ、条約には批准していないんだよというぐらいのものが、結局、国家としてのしなやかさを生んでいるんじゃないか。国一律ではなくて、地方ごとにルールが違うことによって、国家の交渉力というものに私はしなやかさを生んでいくのではないかなというふうに考えております。

 特に、OECDにもおられたということですので、国家の中で違うルールを幾つか自主的に導入したときに、それは国際交渉において、私はある種いい意味でのアローアンスになるんじゃないかというふうに思うんですけれども、この点について、お二方に御意見を伺いたいと思います。

荘林参考人 私自身、農政につきまして、国が一律的に決めるべき分野と地方の特質を反映すべき分野、これは分かれるのだというふうに思います。地方の特質が明確に分かれる分野については、私自身も議員と大変近い考え方を持っているのではないかと思います。

 例えば、先ほど来事例に出しました滋賀県。滋賀県というのは、恐らく農業環境政策において最も我が国の中で先進的な県だというふうに思います。それはなぜそうなったかというと、琵琶湖を抱えているという大変地理的な特徴もありますし、滋賀県の方たち、あるいは滋賀の県庁の方たち、あるいは滋賀県選出の国会議員の先生たち、進取の気性といいますか、常に先を行こう、そういう気性も大変大きくあったのではないかというふうに思います。

 そういう点では、私は、そういうものについて地域が独自の政策を立案できるような体制というのが大変重要だと思います。

 一点、またEUについて申し上げますと、EUの場合には、例えば所得支持のための政策などは比較的中央集権的にやります。それに対して、農村振興、農村あるいは農産物のブランド化といった政策は、各加盟国あるいは加盟国の中の各州に権限を大きく落としております。そのバランスの中で、恐らくEUが国際社会の中で大変強い力を持つというのはあるのではないかと思います。まとまっている中で多様性をがっちり制度的にキープすることによって、地域としての強さを出しているのではないかと思います。

 そういう点で、そういう観点の議論というのは大変重要だというふうに思います。

中嶋参考人 政策を食料、農業、農村の三つの分野に分けて考えたときに、農村政策が一番、今おっしゃった地方分権的なアプローチにフィットするのではないかと思っております。また、最近の地方創生の動きも見てまいりますと、地域地域の独自性というものを大事にする必要もございますので、そういった切り分けができると思います。

 食料の部分、例えば食品の安全というものに関しては、これはナショナルイシューだと思いますので、これは地方分権で扱うというものではないと思います。

 そうなったときに、では農業はどうなのか。農業の多様性というものを考えますと、やはり地方分権の部分は一定の配慮が必要である。ただ、このグローバル化の中で、ある程度のスタンダードが必要になってくる部分については、やはりこれはナショナルな対応も必要。結果、その両方を考えなければいけないということなんですが、一つ一つを見ながら、やはり権限移譲するべきところはしていった方がいいのではないかというのが、私も考えるところでございます。

松浪委員 お二人の先生方、ありがとうございました。地方のあり方も、人口減少の中で大変我々自身が変えていかなきゃいけない問題だと思います。

 ありがとうございました。

塩谷委員長 以上をもちまして参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、参考人各位に一言御挨拶を申し上げます。

 参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。

 この際、休憩いたします。

    午前十時四十四分休憩

     ――――◇―――――

    〔休憩後は会議を開くに至らなかった〕


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