衆議院

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第7号 平成28年10月25日(火曜日)

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平成二十八年十月二十五日(火曜日)

    午前九時四分開議

 出席委員

   委員長 塩谷  立君

   理事うえの賢一郎君 理事 江藤  拓君

   理事 菅原 一秀君 理事 西村 康稔君

   理事 森山  裕君 理事 上田  勇君

      あべ 俊子君    赤澤 亮正君

      池田 道孝君    大西 宏幸君

      加藤 寛治君    勝沼 栄明君

      黄川田仁志君    北村 誠吾君

      坂本 哲志君    武部  新君

      武村 展英君    寺田  稔君

      中川 郁子君    中村 裕之君

      ふくだ峰之君    福田 達夫君

      福山  守君    古川  康君

      前川  恵君    宮川 典子君

     山本ともひろ君    渡辺 孝一君

      稲津  久君    岡本 三成君

      真山 祐一君    小沢 鋭仁君

      松浪 健太君

    …………………………………

   内閣府大臣政務官     武村 展英君

   参考人

   (公立大学法人奈良県立医科大学医学部公衆衛生学講座教授)         今村 知明君

   参考人

   (慶應義塾大学総合政策学部教授)         渡邊 頼純君

   衆議院調査局環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別調査室長      辻本 頼昭君

    ―――――――――――――

委員の異動

十月二十四日

 辞任         補欠選任

  田村 貴昭君     笠井  亮君

同月二十五日

 辞任         補欠選任

  中川 康洋君     真山 祐一君

同日

 辞任         補欠選任

  真山 祐一君     中川 康洋君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 環太平洋パートナーシップ協定の締結について承認を求めるの件(第百九十回国会条約第八号)

 環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案(内閣提出、第百九十回国会閣法第四七号)


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     ――――◇―――――

塩谷委員長 これより会議を開きます。

 第百九十回国会、内閣提出、環太平洋パートナーシップ協定の締結について承認を求めるの件及び環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案の両案件を議題といたします。

 本日は、両案件審査のため、参考人として、公立大学法人奈良県立医科大学医学部公衆衛生学講座教授今村知明君、慶應義塾大学総合政策学部教授渡邊頼純君、以上二名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に一言御挨拶を申し上げます。

 本日は、御多用のところ本委員会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。参考人各位には、食の安全等につきまして、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、審査の参考にしていきたいと存じます。よろしくお願い申し上げます。

 それでは、議事の順序について御説明申し上げます。

 まず最初に、参考人各位からお一人十五分程度で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。委員の質疑時間は限られておりますので、お答えはできるだけ簡潔明瞭にお願いいたします。

 なお、念のため申し上げますが、御発言の際はその都度委員長の許可を受けることとなっております。また、参考人は委員に対して質疑することはできないことになっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。

 それでは、まず今村参考人にお願いいたします。

今村参考人 平成十九年より奈良県立医科大学で公衆衛生を研究しております今村と申します。

 本日は、このような意見陳述の機会をいただきましたこと、心から感謝を申し上げます。

 私は、日ごろ大学で食品保健や健康政策、医療政策などを研究している者でございまして、そのようなことから、公衆衛生、食品保健にかかわる問題ということで、きょうお声をかけていただいたんだと理解しております。

 まず、意見陳述の最初に、私が考える食品の安全の考え方についてお話しできればと思います。

 食品にリスクがどのようにあるかということでございますけれども、まず、全ての食品にはリスクがございます。ゼロリスクという食品はございません。例えば発がん性というものを考えてみても、発がん性の強い物質と弱い物質はありますけれども、全てのものに発がん性の可能性があります。したがいまして、リスクそのものを食品は持っているというふうに考えていただきたいと思います。

 では、ゼロリスクを目指すとすれば何が起こるかというと、食べることをやめるしかないわけでして、食べることをやめると、当然死んでしまう。すると、どちらのリスクをとるかということになります。

 では、リスクをとるとなったときに何ができるかということを考えていきますと、リスクを最小限に抑えるということが唯一の方法でございます。この唯一の抑える方法として、今、国際的に考えられているのがリスク評価という考え方でございまして、このリスク評価は三つの概念から成り立ちます。一つはリスク評価、そして一つがリスク管理、一つがリスクコミュニケーションです。

 これは、まず、リスク評価は、科学的にどんなリスクがあるかということを徹底的に見ようというのがリスク評価。そして、科学的に評価したものを、極力リスクを抑えようというものがリスク管理。それでもリスクは残ります。では、リスクが残った部分についてどうするかということは、リスクコミュニケーションという概念で、このリスクが残りますけれどもよろしいですかということを合意を取りつけるという、この三つの概念のもとに食品の基準などを決めてはどうかということが国際的に言われているわけでございます。

 したがいまして、このリスク評価という新しい概念に基づいて、今、世界じゅうが動いているという状況であります。

 そこで、我が国の食品安全の今の仕組みを振り返ってみますと、今からもう十五年ぐらい前でしょうか、牛乳の食中毒事件があったり、BSEの事件があったり、国民の食品に関する関心が非常に高まった時期がございました。その時期に、その高まりに応えるべく、食品安全基本法という法律が施行されて、その中で、我が国の食品安全もこのリスク分析の考え方に基づいて行うべきということが法律の中に定められたというふうに理解しております。

 この食品安全基本法の中には、国で基準を決めていく際にはリスク分析の考え方を必ず使うこと、そして、このリスク分析の際には最新の科学をもとに評価を行っていくことが定められております。それに基づきまして食品安全委員会という組織が立ち上がりまして、これは厚生省や農水省といったリスク管理機関とは独立した、科学的に食品のリスクを評価する機関として新しくつくられたわけでございまして、この評価に基づいて、食品のリスク管理機関である厚生省や農水省が実際に基準を定めたり監視をしたりということをしている、そのような関係になっていると思います。

 その意味では、まさに我が国も、このリスク分析の考え方に基づいて制度がつくられて、組織がつくられているという状況であります。

 これは海外でも同じような仕組みがつくられておりまして、例えばEUですと、EFSAというリスク評価機関が外部にございまして、そのもとに食品の基準がつくられているという状況がございます。

 では、国際的に見たときに、食品の安全基準というのはどのように定められているかということを考えていきますと、今、FAOとWHOが共同でコーデックスという国際規格基準委員会をつくっておりまして、この国際規格基準委員会が世界的に見たときに食品の基準を定めているということでございます。

 今、日本の食品の事情を見たときに、国内で食品がつくられる率というのは四割、海外から六割が輸入食品として入ってきているという状況ですので、海外の食品を日本で安全に食べるための仕組みという意味でも、国際的に合意が得られた基準があって、それに基づいて輸入が行われるという仕組みづくりは重要であるというふうに考えております。

 その意味では、このコーデックスの役割は非常に大きくて、コーデックスで定められた基準に基づいて、日本を初め各国が輸入食品の基準を定め、それに基づいて安全性を確保しているという状況がございます。

 コーデックス自身も、先ほどお話ししましたリスク分析の考え方に基づいて実施されておりまして、そこでの科学的な評価機関はJECFAなどの専門家会議などがありまして、そこでリスク評価したものをコーデックスでも国際基準として定めているというふうに考えております。

 TPPとの関係で申しますと、TPPの中では、WTOの中のSPS協定を遵守するものであれば、各国の基準の差というのは認める内容になったというふうに理解しております。

 このSPS協定というのはどういうものかと申しますと、十分な科学的根拠に立脚して措置を行うこと、そして、原則国際基準に基づいて措置を実施することが定められているものでございまして、このSPS協定の言うところの国際基準は、先ほど申し上げましたコーデックス基準でございます。したがいまして、コーデックス基準に基づいて基準をつくっている分には、その内容について変更することは必要がないものになっているというふうに理解しております。

 これまで、我が国ではリスク評価を科学的な基準で独立した機関が行っているということも考えますと、まさにSPSが求めている基準を我々の国は持っていて、それに基づいて食品の基準などが定められておりますので、SPS協定にのっとった規格基準であるということを考えていけば、コーデックスとも合っているということを考えていけば、このTPPの枠組みの中で、ほとんど食品の基準に関しては影響を受けないのではないかというふうに考えております。

 今後、我が国でもSPS協定に基づいて規格基準が定められていくと思いますし、コーデックスの基準も遵守しながら進めていくと思いますので、今の食品安全委員会でリスク評価を科学的にする仕組みと、そして、それをもとに厚生省や農水省といったリスク管理機関が実際の施策を打っていく枠組みがあって、そして、コーデックスを通じて国際基準との調和を図るというふうな環境があれば、TPPによる影響はほとんどなく、我が国の食品安全の規格基準、そして安全性の監視といったようなものは担保されるというふうに考えております。

 簡単でございますけれども、私の意見の表明とさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)

塩谷委員長 ありがとうございました。

 次に、渡邊参考人にお願いいたします。

渡邊参考人 委員長、どうもありがとうございます。

 慶應義塾大学の渡邊頼純でございます。

 きょうは、こういう非常に重要な会議にお呼びくださいまして、まことにありがとうございます。

 私の方からも、時間が限られておりますので、十五分ぐらいを頂戴いたしまして、TPPの評価、そしてその意義についてお話を申し上げたいと思います。

 お手元の資料の一枚目、少し図式がございますけれども、これは何を申し上げたいかと申しますと、世界は、ヨーロッパではEUを中心に一つの経済圏がございます。

 それから、大西洋を渡りましてアメリカに行きますと、北米には北米自由貿易地域、NAFTAがございます。そして、中米には中米自由貿易地域というのもございます。さらには、南アメリカ大陸に参りますと、メルコスール、南米共同市場、ブラジル、アルゼンチン等が入っております。そして、アンデスを渡って太平洋側に行きますと太平洋同盟という、これは、メキシコ、コロンビア、チリ、そしてペルー、こういった四カ国が南米におきまして太平洋同盟というのを結んでおります。

 そして、太平洋を渡りますと、東アジアにおきましてはRCEP、包括的な経済連携の枠組みが、ASEAN十カ国とさらに日中韓三カ国、そこに豪州、ニュージー、そしてインドを入れた全部で十六カ国の枠組みができております。

 こういうふうに、各地域、欧州地域、米州地域、アジア地域、それぞれ非常に地域統合が活発に行われている、そういう現状がございます。

 そういう中で、特に、地域と地域を結ぶ地域間協力の枠組みとして、おなじみのAPECがございます。このAPEC、そして、そのAPECの成功を見て、ヨーロッパがアジアとやはりそういう経済協力の関係を結びたいということで、一九九六年からASEMができております。一九八九年からスタートしたAPEC、一九九六年からスタートしたASEM、そして、それに加えて、アメリカとEUとの間でも、トランスアトランティックの経済関係というのがございます。トランスアトランティック・エコノミック・カウンシルなんて呼んでおります。

 非常に興味深いのは、こういう地域間の協力の枠組みから、今では、APECからTPPが出てまいりました。そして、ASEMの枠組みの中からは、日本とEUのEPAが現在交渉中でございます。間もなくその終結を迎えるのではないかと言われております。そして、アメリカとEUとの間では、トランスアトランティックというのがございまして、これは、TTIP、ティーティップと呼んでおります。

 このように、地域間の協力の枠組みが、近年では非常に深いFTAの関係を結ぼうとしている、これが非常に重要なことでございます。

 なかんずく我が国日本にとりましては、TPPを通じてアメリカとFTAをやる、そして、日・EUのバイでEUとFTAをやる、そして、RCEPや日中韓の三国間のFTAで、中国や韓国、ASEANともFTAのネットワークを拡充していくというふうに、戦後日本を考えますときに、これほど通商政策というものが、日本がある意味イニシアチブをとって、日本の国益に沿った形で通商体制を組めるというのは、やはり歴史の中で非常にユニークなところに今日日本は来ているということを改めて申し上げたいと思います。

 次の、資料の三ページでございますが、そこに若干歴史的な経緯というのを追っております。

 昨年十月の五日、ないしは日本時間ですと十月の六日になりますが、TPPの大筋合意ができております。この大筋合意、二〇一五年という年は、まず戦後七十年ということで、戦後七十年にして初めて、アジア太平洋地域に貿易と投資の新たな枠組みができたということは非常によかったと思います。

 もう一つ、日本がガットに入りましたのが一九五五年でございます。日本が貿易の自由化に向けて歩み出した、その一九五五年から六十年の記念の年にTPPはまとまっております。

 そして、次も重要でございます。プラザ合意、これは一九八五年の九月でございます。そこから三十年。何でこの三十年が重要かといいますと、まさにその三十年の間に、日本を中心としたアジア地域における生産ネットワーク、バリューチェーンができたからでございます。

 そして、当初はFTAはございませんでした。EPAもございませんでした。日本はこの十年から十五年の間に、このFTA、EPAをいわば網のように、ネットのようにかけて、まさにセーフティーネットとしてこの地域にかけて、プラザ合意以来の日本からの海外直接投資、そして海外直接投資で得られた生産ネットワークというものをより強固なものにするためにこのTPPができたと言って決して過言ではないと思います。

 そしてその次は、WTO設立から二十年ということでございます。残念ながら、WTOは二十年たちましたが、ドーハ・ラウンドという交渉は停滞しております。ですから、いわばその真空状態を抜けるためにTPPという大きな合意が得られた、こういうふうに考えていいと思います。

 最後に、日・メキシコのEPA発効から十年でございます。私ども、この時期に、外務省の経済局の参事官としまして、この日・メキシコEPAの首席交渉官を務めさせていただきました。

 この日・メキシコのEPAというのは、実は、日本にとって二番目の経済連携協定でございます。シンガポールに次いで二件目。しかしながら、真の意味で、農産品が絡んだEPAという意味ではこれが初めてでございます。当時は、豚肉がやはり非常に重要なイシューでございました。食の安全も含めて、この豚肉のイシューがあったわけでございますが、これを日本は乗り越えて、日・メキシコのEPAをまさに二〇〇五年に発効させているわけでございます。

 そういうふうに考えてまいりますと、TPPが昨年合意に至ったということはいかに我が国にとって重要であるかということがおわかりいただけるかと思います。

 一枚めくっていただきますと、TPPアトランタ合意の評価ということで、高いレベルの自由化、これはもう一〇〇%に近い自由化が工業品関税ではなし得たということでございます。

 そして次に、新たな通商ルールというふうに書いてございますが、特に国有企業に対する規制、あるいは競争原理の導入ということが図られた、これも非常に大きなことでございます。さらには、WTOで交渉しようとしてなかなかできなかった労働あるいは環境についても一定の規律ができたということも重要でございます。

 それからもう一つ挙げますと、政府調達協定、こちらも、実は、WTOの政府調達協定に入っていたTPPの加盟国というのは、我が国を含めましてアメリカとカナダとシンガポール、この四カ国しかございませんでした。近年ニュージーランドが入りましたので、十二分の五カ国が現在ではWTOの政府調達協定の署名国ということになりますが、東南アジアで申しますと、マレーシアやベトナムはこういったWTOの政府調達協定の署名国ではございません。したがいまして、これまではWTOの政府調達協定の義務に服さなかったわけでございますが、今後はTPPの政府調達チャプターの義務を負うということになります。一部ではございますけれども、政府調達市場を開放できたというのも大きなメリットだと思います。

 ビジネスに優しいルールというのが三つ目でございます。

 これは、特に原産地。日本の生産ネットワークは必ずしも、いつも二〇%、三〇%という高い付加価値をASEAN諸国でつけているわけではありません。場合によっては、五%しかない、一〇%しか付加価値をつけていないかもしれない。そういうものであっても、TPPのメンバー国である限りは、それを全部積み上げていって、累積の原則、原産地を累積ルールでもって確定していくということができた。この完全累積制度の導入ができたというのは、日本の生産ネットワークをまさにシームレスにつないでいく上で極めて重要ということになるわけでございます。

 そのほかにも、中小企業への配慮でありますとか、最速で六時間で貨物を引き取ることができるというようなこと、これも非常に大きかったと思います。

 それからまた、食の安全という本日のテーマで申しますと、先ほど既に御説明がございましたように、WTOの植物、動物の検疫をめぐりますSPS協定、これを再確認いたしまして、偽装された保護主義というものを抑えつつも食の安全を確保するということが実現できたわけでございます。

 そこで問われておりますのは、手続の透明性、あるいは説明責任がちゃんと果たされているかということだろうと思いますが、これについては、WTOのSPSが発効してもう既に二十年たっておりますが、我が国はこれまでチャレンジされたことはありません。我が国からSPSについてチャレンジしたことはあります。

 ですから、そういう意味では、SPSのルールが再度アジア太平洋地域で確認をされたというのは、日本の食の安全にとっても、それは輸入の局面においても輸出の局面においても、極めて意義が深かった、そのように考えております。

 一枚めくっていただきますと、日本にとってのメリットということで御説明を申し上げております。

 日本にとっては究極の貿易のパートナーたるアメリカとの究極のFTAとしてのTPP、間接的にアメリカと、TPPをもって日米の自由貿易取り決めができたというふうに申し上げていいのではないか。それはまた、中国の勃興が著しい中、日米の経済安保ということ、政治、軍事面での日米安保に加えて、経済面での安保ができたというのは非常によかった、そういうふうに考えます。

 それから、先ほど申しましたプラザ合意でできた生産ネットワークというものを、FTA、EPAで、これまで日本は十五件のEPAを発効させることによって進めてまいりましたが、TPPでさらに包括的に、包摂した形でこれを実現できたというのもすばらしいことではないかと思っております。

 さらに、このページでいいますと一番最後のところ、つまり、日本の農産品の輸出拡大、このために環境が改善された、SPSが確認されたことは、日本が輸入するときもその規律に服することが求められますが、日本が輸出するときも相手国に対して植物検疫衛生措置というものについて要求をしていくことができます。

 ですから、そういう意味では、関税撤廃とあわせてSPSのルールが確認されているというのは大きなメリットであろうかと思います。

 あと二分ぐらいかと思いますが、少し急ぎます。

 日本政府の交渉についての評価でございます。

 私どもは、日本はゲームチェンジャーとなったと思います。TPPでは例外なき関税撤廃ということを言われましたが、日本が入ったことによって、この例外というのが限定的にせよ認められることになったということは非常に大きかったと思います。

 ですから、確かに日本の痛みである農業、そしてアメリカの痛みあるいはセンシティビティーである自動車、このセンシティビティーとセンシティビティーのトレードオフというのが行われたわけでございますけれども、ただ、先生方にアピールしたいのは、この中で八七%の自動車の部品につきましては関税の即時撤廃がアメリカとの関係においてとれている、これが非常に大きいわけですね。

 つまり、アメリカでの生産は現在二百五十万台超でございます。日本からの対米輸出は百八十万台にとどまっております。ですから、実はアメリカでつくっている生産台数の方が多い。そこで必要とされる部品について関税撤廃がとれたというのは非常によかったというふうに思います。

 最後でございますけれども、TPP、そういうふうに考えてまいりますと、国際政治経済、インターナショナルポリティカルエコノミーの観点からいってもこれは非常に重要である。特に、中国の台頭、それによって不安定性、不確実性が増してきている世界経済、国際貿易におきまして、まずアジア太平洋、GDPの四割を占めるところでかかるルールができたのは非常によかったと思います。

 そして、それにとどまりません。中国のこれからの発展のモデルにつきましても、TPPは一つのモデルあるいはテンプレートというものを示している。中国が中所得国のわなという、大体GDP一人当たり六千ドルというところを超えることができるかどうか、これはまさに中国の近代化、なかんずく国営企業の改革というところにその真価が問われているわけでございます。

 そういうときに、TPPの特に国営企業に対する規律の問題のところで、中国がもしこれで受け入れることができるようであれば、中国の発展モデル自体が変わってくる。そういう意味で、中国にとってはTPPは非常にチャレンジングではありますけれども、何とかTPPに中国が入れるような環境を日本も協力をしてつくっていくということが重要であろうと思います。

 最後に、日本にとりましては、日本がミドルパワーに終わってしまうのか、それとも、やはりグローバルパワーとしてこれからも活躍を続けるのかというのは、まさにこのTPPにかかっているということがございますので、ぜひこのTPPについての御理解を深めていただければと思います。

 以上でございます。どうもありがとうございました。(拍手)

塩谷委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人の意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

塩谷委員長 これより参考人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。あべ俊子君。

あべ委員 おはようございます。

 本日は、今村先生、渡邊先生におかれましては、お忙しい中このTPPの委員会に御出席いただきまして、いろいろな御意見をいただきまして、大変ありがとうございました。

 特に、食に対する不安、これは私ども毎日生活の中で食べていく中、本当に重要な部分だと私は思っております。特に、フードディフェンスで有名でいらっしゃいます今村先生が、今のリスク評価、管理、またリスクコミュニケーションの重要性を言っていただき、また、科学的評価をしっかりやっていくこと、今のコーデックスにおける基準を遵守していく、国際基準を守っていく、国内の食品の安全性についてお話をいただきました。

 そうした中、まだまだ食べる側としては不安がある。また、食品が本当に安全なのかというところの透明性、また説明責任の部分に関しては、まだまだ国民がわからない部分があるんだと思っております。その点に関しましての今村先生の御見解をお伺いしたいと思います。

今村参考人 お答えします。

 今御質問いただきましたように、食品のリスクの評価、管理というのは非常に難しいところがございまして、私が最初、食品にゼロリスクはないというお話をしたように、最終的にはリスクが残ってしまうわけです。ですので、それをいかに国民の皆さんに理解していただいて、のみ込んでいただくかというところが一番大きなポイントになるというふうに考えております。

 リスクをたくさん残せば基準は緩くなって、リスクを減らせば基準は厳しくなる、そのかわり、例えば輸入食品であればかなりのものが入ってこられなくなるというふうな、てんびんの上に成り立っているというふうに考えております。国民の側から見て許容できる範囲であって、そして、例えば我が国であれば、輸入に当たって差しさわりがない、国民が飢えることがない範囲でちゃんと確保できるような基準になるというところのバランスをとっていくというところが、食品の安全管理の難しい面であります。

 したがいまして、国民の皆様が不安に思う部分が残るというのはある意味やむを得ないわけですけれども、逆に、その部分に対してちゃんと説明をしていって理解を得ていく努力をしていくべきだと思いますし、また、そのための努力というのは十年ほど前に比べて格段に進んでいるというふうに思いますので、そういった意味では施策としては進んでおりますし、今後も努力するべきことだというふうに考えております。

あべ委員 今でも海外から六割の食品を輸入している中、これまでも日本政府はしっかりと食の安全を守っていくためにやってまいりました。もっともっとやらなければいけないことがある中、TPP、私どもは、この協定の概要に関しまして、SPS、衛生植物の検疫に関しましては、特に説明責任の明確化、各国のSPS措置の透明性の向上を図る内容を規定しているところでもございます。

 国内においては、さらなる強化をしていきながら、この安全基準をしっかり遵守していく。そうした中において、科学的根拠、ここの部分の研究をもっともっとしていかなければいけない。また、国際的な科学基準が、必ずしも各国がしっかりと国際基準の研究の出し方、根拠によるのかというところもあると思っております。

 こういうことに対しましての科学的根拠の研究ということに関して、ぜひとも御意見をいただきたいと思います。

今村参考人 お答えいたします。

 食品のリスクに関しての科学的研究、今各国でも進められておりますけれども、なかなか難しい面がございます。

 それはなぜかと申しますと、食品のリスクというのは科学的に解明が、とられていない部分がたくさんあるからです。食品の安全性の観点からいうと、食べ物全体が安全だという保証は全くございません。例えばトウモロコシ一つをとってみても、トウモロコシが安全かどうかというのは、長年の食経験で死んだ人が少なかったということ以外に何の保証もありません。各民族で食べてきたものの中で死んだ人の少なかったもの上位百品目を食べているというような中でございます。

 すると、どうやって食品の安全性を評価するかというと、今までの食べ物と比べてそんなにリスクがふえているかふえていないかという観点で見ていくしかないわけです。これを的確な科学技術で評価する方法というのはありませんで、今最新の科学技術を使ってわかるところまで解明して、そこから先はわからないという状況であります。

 私の知る限り、この食品の分野というのは最先端の科学を使って研究が進んでおりますけれども、科学の進歩の限界が今まさにリスクを評価することの限界につながっているというふうに考えておりまして、より一層研究は進めるべきだと考えておりますけれども、同時に、科学の限界に伴う評価の限界ということもあるというふうに考えております。

あべ委員 食の安全に関しましては、体にいいものと思っていた食品が実は発がん性があったり、科学の進化によって本当に日々刻々と変わっていくものだというふうに理解をしているところでございます。

 こうした中にあって、TPPに関しては、食の安全が脅かされるのではないかという不安が国民の中に蔓延しているところでございます。私は本当にこのことに関しては、TPPの戦略的意義、これを渡邊先生が前面に出されておりまして、自由で開放的な貿易戦略であるということの中で、このように食の不安だけが前面に出されてきたということに関して、参考人の御意見をお伺いしたいというふうに思います。

渡邊参考人 あべ先生、どうも御質問ありがとうございます。

 やはり食の安全の問題は、実はウルグアイ・ラウンドのときから議論をされてきております。私がこの場に立ちましたのは、実は、一九九四年のウルグアイ・ラウンドが終わった後の参考人意見陳述、WTO特別委員会というのがございまして、その場でお話を申し上げたわけですが、安心と安全の間には非常に大きな距離がございます。やはり今は消費者はみんな安心を求めます。そして、安心を一定程度提供しなきゃいけない、これが多分行政の任務だと思います。しかし、他方では、安全ということについての基準もございます。

 ですから、要は、社会が求める安心、これはもうとことん追求されるであろう安心と、そして科学的な根拠に基づいた安全、これを行政的にどうそのつり合いをとっていくかというところがポイントで、まさに、先ほど申しましたように、SPS、あるいはテクニカル・バリア・ツー・トレードということで貿易に対する技術的障壁、これも食の安全に関係してくると思います。といいますのは、表示等がこのTBTになってまいります。

 ですから、そういうことからいいますと、このSPSもTBTも、実は、食の安全と安心について非常に微妙なバランスをとってきた、そういう協定であると思います。

 そういう中で、これまで日本のSPSについて諸外国から特にチャレンジをされたことがないというのは、これは日本にとっては安心材料ではないか。つまり、WTOのSPS以上のものがTPPに入ったとすればこれは問題かもしれません。そこはよく精査する必要があるかもしれない。しかし、WTOのSPSというものを再確認した形のものが今回のTPPのSPSチャプターになっておりますので、そういう意味では、WTO以来のこのSPSの経験に鑑み、特にこれは問題なく、むしろ、戦略的なTPPの意義というものを追求していくその差しさわりにはならない、こういうふうに確認を申し上げたいと思います。

 以上です。ありがとうございました。

あべ委員 今回のTPPの議論におきましては、食の安全、安心とともに、日本の農業の問題が出ているわけでございます。

 本当に、今の農業の中で国内の農業が閉塞感に満ちていく中、TPPがどちらの方向に行くのか全くわからない。自分たちの次世代がしっかりと農業を続けていくために、一体何をしていかなければいけないのか、何が必要なのかということの議論が混在しているのだと私は思っております。

 海外から既に六割輸入している食品に依存している中、また、中山間地区の農地の方々がこれから自分たちの農業がどうなっていくのかという中、先般も新潟県でトマト農家の若者たちにお会いいたしました。これまでの農業では自分たちの農業はどうなるんだと思っていた中、明るい方向性が見えてきたという話がございました。

 今まで、国内で食品を使っていき、また、輸出することも余り前面に出していなかった農業であります。食品の安全性とあわせて、TPPの農業の方向性が不安であるということも意見として聞かれるわけでございますが、やはりここに関しては、日本の経済全体がどうなっていくのか、日本国がどこへ行くのかということとあわせた日本の農業のあり方、食の安全だというふうに私は考えております。

 これに関しまして、渡邊参考人の御意見を伺わせてください。

渡邊参考人 先生、どうもありがとうございます。まさにきょうはその点を御議論申し上げたいと思ってここに来ております。

 といいますのは、やはりこれまで、ウルグアイ・ラウンドまでの日本というのは、これ以上輸入するのは嫌だ、そのかわり日本からも輸出もしないから、どうか余り枕元をばたばた歩かないでくれというような形で、輸入に対して制限的な政策を打ってきたかと思います。

 しかし、TPPでは、輸入もふえるかもしれないけれども、それ以上に輸出もふやすというメンタリティーが出てきたと思います。これは、実際に私どもが、いろいろTPPに対して農家からの不安があったり、あるいは反対があったりして、農家をいろいろ訪れさせていただきました。長野県の川上村でありますとか、北海道の十勝の方でありますとか。

 そうしますと、その中で一つわかってきたことがございます。それは、これから、TPPでSPSの協定などについて、諸外国、TPPのメンバー国にもしっかりとSPSを守ってもらうということがある中、日本から、例えば日本の牛肉であるとか豚肉であるとかミルクであるとか、そういったようなものを輸出していくときに、食の安全をめぐるグローバルなある種の枠組み、例えばそれはGAPといいます。これは、グッド・アグリカルチュラル・プラクティスでGAPですね。そして、それの世界的なものとしてグローバルGAPというのがございます。

 それから、HACCPというのもございます。これは、ハザーダス・アナリシス・アンド・クリティカル・コントロール・ポイント、まさに食品の製造から加工工程のあらゆる段階で発生するおそれのある汚染の危害、これをあらかじめ分析するというものでございます。このHACCPにもグローバルHACCPというのがございます。

 このように、GAPとかHACCPのグローバルな規格を日本の農業生産物が獲得していくということが非常に重要なんですね。

 そこで、ぜひその部分に予算的手当てをしていただいて、日本の農家がグローバルGAPでありますとかグローバルHACCPを悠々ととって、そして、世界の農産物市場にチャレンジをしていくというような、そういう環境をぜひおつくりいただければ、まさにウイン・ウインの関係がつくれるんだろう、こういうふうに考える次第でございます。

 ありがとうございます。

あべ委員 ありがとうございます。

 そうした中にあって、私は、食の安全に関しまして、また安心に関しまして、本当に、フードディフェンスの今村先生からも御指導いただきましたように、この科学的根拠を含めたリスク評価また管理、コミュニケーションが重要だと思っております。

 そうした中にあって、やはり食の安全、安心、国民にとっては一番関心のあるところでございまして、国内体制をどのように進めていくのか、さらにどう進化させていくのかということが私は重要であるというふうに思っております。

 今村先生に、これをさらに進めていくために、今の体制も十分にしておりますが、必要なことがあるとすれば、ひとつ御見解をお伺いしたいと思います。

今村参考人 御質問ありがとうございます。

 食品の安全性は、国民の関心が高まっておりまして、対策が重要というふうに考えております。

 ただ、実際に国民の皆さんからこれをやってくださいということを受ける立場としては、今の人数や今の研究者の体制では全然足りないという状況がありまして、ニーズや関心の高まりに伴う人の体制や研究体制の確保ということをやっていかないと、限られた人数でやれることには物理的な限界があって、私も力の限りは頑張りたいと思うんですけれども、やはり限界がありますので、そういった面からの補強というのは重要であるというふうに考えております。

あべ委員 先生がおっしゃるとおり、今、大学改革も進んでいく中、なかなか基礎研究も含めた研究予算がしっかりととれないところは私どもも課題だと思っておりまして、しかしながら、今回のTPPにあわせまして、私は、食の安全、安心に関しては、しっかりと国民がわかりやすくなっていく必要な研究がなされることも重要だと思っているところでございます。

 また、そうした中、やはり国会においては、このTPP、どうなるんだろうかという不安を国民が持っている中、透明性の高い議論をしっかりと進めていくということが私は重要課題だと思っておりまして、どのように説明していくのか、透明性をどのように高めていくのかということは国会の議論あってこそだと思うところでございます。

 そうした中にあって、また渡邊先生に、この戦略的な意義、自由で開放的な貿易戦略としてのTPPの意義、食品の安全、安心に関して、関連いたしまして最後にお聞きしたいというふうに思います。

渡邊参考人 どうもありがとうございます。

 まさに、私は、TPPというのは日本の農業が大きく変われるチャンスになったと思います。もう既に、いろいろなところへ行きまして農業の関係者とお会いしますと、彼らのマインドセットが大分変わってきました。そして、私は、行けば行くほどその確信を得ております。

 ですから、TPPというのは、実は、日本の農業を崩壊させたり、あるいは日本の農業をおとしめるものではなくて、むしろTPPを一つのプラットホームとして、日本の国内だけでは消費者もどんどん減ってまいります。今、日本とオーストラリアの、日豪のEPAを使って、海外から日本の例えば乳製品市場にも熱い視線が送られていて、そして、日本製のミルクを使ったものを今度オーストラリアやニュージーランドの会社を使って中国へ売っていこうといったような、非常にダイナミックな展開が起ころうとしております。

 ぜひ、このTPPの関連法案を通していただきまして、日本の将来の農業の発展のために前向きの姿勢で国会で御議論いただければなと心から願う次第でございます。

 ありがとうございます。

あべ委員 日本の農業は、地方にとっては、地域にとっては重要なものでございます。そうした中、人口減少時代を迎え、各国が保護主義になっていく中、日本の経済がどこへ行くのか、日本の農業がどこへ行くのか、それをしっかりと不安を払拭していく形で私どもは国会の中で生産的に議論していく、これこそが私ども委員会の役割であると思っております。

 本日はありがとうございました。

塩谷委員長 次に、岡本三成君。

岡本(三)委員 おはようございます。公明党の岡本三成です。

 本日は、今村先生、渡邊先生、貴重な御意見、ありがとうございます。

 まず、渡邊先生に質問させてください。

 私、このTPPの委員会、さきの通常国会も含めましてずっと携わっておりますけれども、議論の中身が国民の皆様への説明に対してはちょっとアンバランスじゃないかなと思っているところがあるんですね。それは何かというと、TPPの全体像に必ずしも十分な議論が及ばず、その一部を占めている業界の話に余りにも大きな時間が割かれているんじゃないかという懸念なんです。

 例えば、自動車業界、自動車部品、これは非常に収益が上がりそうだ。けれども、国民の全員が自動車部品業界や輸出産業に携わっているわけではありません。農業を守らなければいけないし、一部は攻めなければいけないんですが、全員農業に携わっているわけではありません。その意味で、普通の一般の国民の方にとってどういうメリット、デメリットがTPPであるかというのが非常に重要だと思うんですね。

 普通の感覚でいいますと、どの業界で勤めている方も消費者です。消費者としてどういうメリットがあるか、デメリットがあるかと考えたときに、購入の選択肢がふえるというのが、私は、多くの国民にとっての最大のメリットだというふうに思っています。

 例えば、ある方は、安全でおいしい国産の和牛が食べたいという方もいらっしゃれば、いやいや、おなかいっぱい子供に食べさせたいから、若干品質は下がるかもしれないけれども、輸入の牛肉の方を選択する方がいらっしゃるかもしれません。

 今回、この関税撤廃によって、例えば牛肉や豚肉の関税が最終的になくなりますと、牛肉では、そのままその関税分が価格に反映されますと、百グラム約二十円安くなります。豚肉ですと、百グラム四十円安くなります。それを買うかどうかは別にして、消費者の選択肢がふえるということこそがTPPの日本国民全体にとってのメリットだというふうに考えていますが、先生、どのようにお感じでしょうか。

渡邊参考人 岡本先生、どうも御質問ありがとうございます。先生のおっしゃるとおりだと思います。

 実は、自由貿易というのはなかなか厄介ですね。つまり、自由貿易のメリットというのは、国民の幅広い層に、薄く、GDPの何%が上がるといったような形で示されます。何兆円の効果があるといっても、それは非常に薄い。ところが、痛みを感じられるところは、非常にシャープに痛みを感じられる。このアンバランスですね、これがなかなか難しい。

 ですから、まさにTPPについて、一般の方々が、何がメリットがあるんだとなかなか実感しづらいということがある。そんな中で、先生もおっしゃられたように、選択肢をふやしてあげる、これが非常に大きなことだと思います。

 私ども、学生とつき合うことは、もちろん毎日つき合っているわけでございますが、自分の学生時代と比べますと、随分学生の食生活が豊かになったと思います。

 例えば、私ども、自分が昭和五十年代、大学生あるいは大学院生をやっておりましたときに、焼き肉屋に行くなんということはほとんどありませんでした。ところが、最近の学生たちは、平気で、先生、焼き肉に行きましょうと言います。ええっ、そんなお金があるのかと。要するに、学生でも焼き肉屋に行けるような価格にまでおりてきたということだろうと思います。学食でいいますと、カレーライスなんかにしても、昔は本当に肉片を探すのが大変でございましたが、今ではちゃんと入っております。

 そういうふうに考えていきますと、やはり先生が言われたように、彼らも将来、サラリーマンになり、成功していけば、違うタイプの焼き肉が食べられるかもしれない。そういうふうに、購入の選択肢が広がるというのは大変大きなことだろうと思います。

 ありがとうございます。

岡本(三)委員 先生、ありがとうございます。

 例えば、全体のマクロでもう一度確認をいたしますと、政府試算ですとGDPの二・六%、世界銀行の試算でも二・七%、約十四兆円のメリットがあると言われているんですが、これを国民一人頭で割りますと、一人十一万円なんですね。大きな金額です。

 もちろん、その十一万円が全部、例えば消費者としての選択肢で得られるわけではなくて、ある業界に大きな利益が落ちたものも含めているわけですけれども、それが回り回って日本の経済を動かすということを考えれば、国民一人当たりでいうと十一万円のメリットがあって、それは実は、十四兆円という規模といえば、今回のTPP参加国の中で最大の恩恵を受ける国が日本というように政府も国際機関も試算をしているというのが非常に重要なポイントだと思います。

 その中で、あえてきょうは食の安全ということがフォーカスをされておりますので、次は、今村先生にお伺いをしたいんです。

 私、よく農業を守るという議論をこの委員会の中でもされているんですけれども、果たして、これは自公政権の歴史も含めまして、農業って守れてきたんだろうかという問題意識があります。

 先ほどウルグアイ・ラウンドの話がありましたけれども、例えば、一九九四年ぐらい、大規模に農産品が輸出入をされるようになってこの二十年間、農業を守るという名目で約八十兆円の予算をここに日本はつけているんですね。大変な金額です。

 多分、その毎年毎年の政策の中では、これが農家を守っているんだ、そういう気持ちでやってきたと思うんですが、では、振り返ってみて本当に守れたかというと、もしかしたら、そのときに農業に従事されていた方の生活を数年は守れたかもしれないけれども、中長期的な目で振り返ってみると、ほとんど守れていなかったのではないかと総括できるんじゃないかと思っているんですね。

 例えば、二十年間の数字をとりますと、農業の総産出額、二十年前は全体で約十二兆円です。一昨年は八・四兆円、マイナス二六%。耕作の面積を守ろうとよく言われます。二十年前、五百八万ヘクタール、一昨年、四百五十万ヘクタール、マイナス一一%。農家で働いている方にしっかりとした所得を受け取ってほしいと皆さん言います。全体の農家所得、二十年前、五・一兆円、一昨年は二・八兆円、マイナス四四%。全く守れておりません。働いている方の基幹的農業従事者、二十年前、二百六十三万人、一昨年は百六十八万人、マイナス三六%。もうからない業界ですから、新しい人はやはり入ってこないんですね。

 ですから、要は、変わらなければ、TPPがあるないにかかわらず、今までと同じようなことでは、ことし、来年は守れるかもしれないけれども、五年後、十年後には守れなかったというふうな総括にならないような攻めの農業に変えていかなければいけないというのが、今回のTPPの大きなポイントだと思います。

 その上で、先ほど渡邊先生がグローバルGAPに言及をいただきましたが、この件についてぜひ今村先生にも教えていただきたいんですけれども、GAP、グッド・アグリカルチュラル・プラクティス、よい農業生産物の基準みたいなことなんでしょうか、世界の農業市場で農業生産者の中ではスタンダードになっているように聞いています。

 特に、ロンドン・オリンピックのときは、オリンピックの競技会場の中で提供される食料品はグローバルGAPを取得していなければ購入されなかったというところから、もともとヨーロッパで発祥していますけれども、アジアの農業生産法人の一〇%もこのグローバルGAPを取得していますし、日本でも最近話題になっておりまして、ただ、日本でグローバルGAPを取得しているのは全経営体の〇・一五%だそうです。ほとんどまだ何も手つかずなんですね。

 このような国際認証が今後、攻めの農業に対してどういう影響を持っているかということをお伺いしたいんですが、例えばこのグローバルGAPについて言うと、目的は食の安全と持続可能な生産管理、この持続可能というのがキーワードみたいなんですね。

 三つポイントがあって、食の安全性は、ただ単に例えば農薬の基準を第三者がチェックするだけではなくて、その基準以下であるプロセスを確認しながら最終的な安心感も醸成するということ。二つ目は環境の保全で、農薬でいうと、その使った農薬を例えば川や海に流して環境をどのように汚染しているかというポイント。三つ目はそこで働いている労働者の方の安全の確保で、要は、農業というものが継続的に持続できるようなところまで第三者の目でしっかりとチェックをしながら、その方々をより農業生産の中心に置いていって、五年後も十年後も百年後も安定的な農業経営ができるような指針となる、非常に先進的な取り組みだと思っているんです。

 先ほど渡邊先生から、大変重要なポイントなので国で予算の手当てもお願いしたいというふうなアドバイスもいただきました。これは、認証をとるには大体一年から二年かかって、数百万円から一千万円ぐらいかかるそうです。

 ですから、その予算的な手当ては重要だと思うんですが、多くの農業者の方に認識されていない、政治家の中でももしかしたら存在自体を認識していない方がいるかもしれないんですけれども、今村先生に、このグローバルGAP、またHACCPも含めまして、国際認証をどういうふうに日本の攻めの農業に取り込んでいくかということにつきまして御所見を伺えればと思います。

今村参考人 御質問ありがとうございます。

 今御説明いただきましたGAPは私も大変関心を持っておりまして、農業の現場でこのGAPが広がれば、食品の安全の分野でも大変役立つものであるというふうに考えております。

 GAPの本質を考えてみますと、基本的に人間はエラーをする生き物ですので、そのエラーをいかになくすかということを系統立ててブロックしていくというものであります。これは全くHACCPの方でも同じ考えでございまして、このHACCPとGAPをいかにつなげていくかというところが今後国際認証を続けていく中でも重要であるというふうに思います。

 今、ISOやHACCPやさまざまな国際基準があるんですけれども、特に食品の安全の分野で考えますと、まだこれを使えばいいというものがあるというわけではありません。今一番力を持っているのはISOの22000シリーズでありますけれども、ではそれとGAPがつながっているかというと、まだ十分につながっているという状況にはありません。同じ思想で工程管理をしていこうというものにもかかわらず、まだ十分につながっていないという状況であります。

 日本でも、食品安全の世界ではHACCPを導入しようとしていますし、農業でもGAPを入れようとしていますけれども、ではこの二つはつながっているんですかというと、まだまだつながっているとは言いがたい状況であります。個別にHACCPもGAPも入れていく努力をするべきだと思いますが、これをつないでいく努力ということも必要だと思います。

 これは国際機関においてもまだまだつながっているとは言いがたい状況でありまして、これをつないだような、フードチェーン全体に関する国際基準のようなものができていけば、少なくとも二つの基準が調和がしっかりとれたものになっていけばよいのかなというふうに考えております。

 以上です。

岡本(三)委員 ありがとうございます。

 次に、両先生にお伺いをしたいんです。

 攻めの農業と言葉で言っていますけれども、私たちがやらなければいけない多くの施策の中で、その中心的なものというのは、人材育成に対してどのような機会を提供できるかということなんだと思うんですね。

 例えば日本の場合に、いろいろな事業法人がある中で、農家だけが経営者と労働者と資本家が同じ人がやっている。農家の方が自分でお金を出して、そして自分で生産をして、自分で販売のチャネルまで探しながら乗せていくようなことというのは、やはり人間は不得意、得意がありますので、分業ができるような体制をつくっていくのも重要じゃないかなと思っているんです。

 もっと言うと、農業というものを教える大学はたくさんあると思うんですけれども、農業経営を教えるような学術機関というのはまだまだ少ないんじゃないかなというふうに思っているんですね。

 例えば、生産は得意だけれども、天候が悪くなったときに、売れなくなってしまったときのそういうリスクはとりたくないという農家の方がいてもいいと思うんです。いろいろな販売をするのは得意だけれども、生産自体の技術はないという方もいてもいいと思うんです。そういう方が、組織の中で、ある経営者を中心にその経営体としての収益を上げて、それぞれの役割の方が農業というものに携わる中で、得意分野でしっかりとした所得を上げていくということが重要ではないかなと思っています。

 その意味で、一つ、私は、オランダという国を日本のターゲットにする国だというふうに思っているんです。

 オランダは、国土でいうと日本の九分の一、人口が八分の一、耕地面積は日本の約四割なんですけれども、輸出額でいうと世界第二位。ちなみに、日本は第五十五位です。

 何が一番違うかというと、二つありまして、一つは、農業経営に対しての学術機関がしっかりしていて、そこで学んだ学生というのは、農業の生産の知識だけではなくて、経営、それこそマーケティングであったり資金調達であったり組織運営であったりということに関してしっかりと知見を得るような機会を提供されているのと、もう一つは、ITと農業のフィットがすごくいいので、どのようにITを活用して生産性を高めて所得を上げていくかということに対して徹底した教育がなされているんです。

 このオランダのみならず、世界にはそういう農業経営を主に教えているような学術機関がたくさんあるんですが、日本にはまだその数が少ないという現状を考えたときに、それぞれ大学で学生の皆さんに教鞭をとっていらっしゃる両先生方はどういうふうに思っていらっしゃって、政治の役割または行政の役割、どういう形で、学生にどういう分野の教育を提供することが重要かということを御所見を伺えればと思います。

今村参考人 御質問ありがとうございます。

 農業人材の育成ということで、私が日本の農業を見るに、先生御指摘のとおり、個人経営の方が多うございまして、先ほど御質問いただきましたGAPの考え方は、集団で品質を管理していくために必要な手法でございまして、個人がGAPを使って管理すると大変面倒で、面倒な割に効果が少ないというデメリットがございます。

 では、何でGAPが世界でこれだけ脚光を浴びているかというと、やはり、ほかの国は大規模な、集団としての農業をやっておりまして、その分業をいかに効率的に進めていくか、安全に進めていくかという観点から、どうしても工程管理が必要になってきているという状況だと思います。

 その点、日本では、まだまだ集団で農業をするというところに至っていませんで、集団で農業をやっていただけるからこそ品質管理ができるという手法は確立されているんですけれども、集団そのものが存在しないために、その手法が十分に生かされていないという状況があると思います。

 ただ、食品の安全の分野から見ましても、食品企業は、たくさん資本と人材を持っていて、農業をやれるような環境にあるので、私からは、大規模な農家が出てきて、そこが品質管理をしてくれると、日本の品質基準も安全基準も随分上がっていくというふうに思います。

 その意味では、日本の教育機関は、まだまだ集団としての農業に対してのアプローチは弱いところがありまして、そういったところは、食品安全とあわせて、農業の現場で組織として農業を行うということをもっと学べるような機会があった方がよいというふうに考えております。

 以上です。

渡邊参考人 どうも御質問ありがとうございます。

 私は、先ほども申し上げましたように、二〇〇三年、二〇〇四年と、メキシコとのEPA交渉に首席交渉官で携わることができました。二〇〇三年九月でございますが、カンクンというところで交渉会合をやりました。そのときに、日本側の養豚業者の皆様とメキシコの養豚業者の皆様と御対面をやってみたんですね。何かのダイアログができないかと思ったわけです。

 そのときに、メキシコ側の養豚業者の皆さんは、大体みんながMBA、経営学修士を持っていたり、あるいは、アメリカのどこそこの大学で農業経済学で博士を持っているというような自己紹介が続くんですね。日本側は、皆さん、侍のいでたちで、そして鉢巻きをして、日・メキシコEPA絶対反対、豚肉絶対反対、こう書いてある。ですから、議論が全然かみ合わなかったのを思い出します。今、先生のお話を聞いていて思い出したんですけれども。

 ですから、日本も、知的な農業といいましょうか、あるいは知識集約型農業、これがやはり非常に重要だろうと思います。これからは、農業をやっていらっしゃる方たちも、そういう農業経営を教えるような大学へ行って勉強するというのが一つかなと思います。

 しかし、何よりも重要なのは、やはり農業がもうかる産業になるということが重要だろうと思います。

 例えば、長野県の葉物野菜をつくっていらっしゃるある村、ここなんかは、一人当たりの収入が、税控除前ですけれども、二千五百万円ぐらいある。北海道の方の農家を訪ねますと、子供たちに、おい、誰がうちの農家を継いでくれるかと言ったら、三人いる子供たちがみんな、僕がやる、私がやると手を挙げたそうです。それは、大卒ぐらいの年齢で、大体一人当たり一千三百万の手取り収入があり得るからなんですね。

 ですから、そういう農業が少しずつ日本の中で展開しているということ、これがやはり重要だろうと思います。そして、そういう方々の農業に対する取り組みを共有するような学校があって、そしてそこでそのノウハウなどを教えていく、そういう取り組みが重要かなというふうに考える次第でございます。

 ありがとうございます。

岡本(三)委員 ありがとうございます。

 農業は、もちろん経済性だけでは判断できずに、地域の文化であったり環境で判断をしないといけないことはよくわかっていますけれども、ただ一方で、攻めの農業というのが、農業に従事する方というのは別に社会貢献でやっているわけではないわけですから、五年後、十年後に若者が、もうかるから農業に従事するんだという方々がふえるような政策をしっかりととってまいりたいと思いますので、きょうの先生方の御意見を参考にさせていただきたいと思います。

 本日はありがとうございました。

塩谷委員長 次に、松浪健太君。

松浪委員 日本維新の会の松浪健太であります。

 冒頭お二人の先生方に、本当にこの参考人質疑というのは先生方にお越しをいただく最も大事な会でありまして、私の方も国会議員を十年以上やっているんですけれども、片肺と我々の世界で言いますけれども、我々以外の野党が出席をしていない御無礼、また冒頭、大変見苦しいパフォーマンスをお見せして、もう本当に出ないなら来なきゃいいんですけれども、おつき合いをいただきましたこと、心よりおわびを申し上げる次第であります。

 さて、私も、先般の総括質疑の際に食の安全の問題を集中的に取り上げさせていただきまして、前回は農業だったんですが、今回は食の安全ということで、大変意義深い大切なテーマをいただいたと思っております。

 食への影響、生活への影響、本当にわかりません。前回の質疑では、目に見えるところでは、日本人の体もどんどん変わっております、私の娘が、身長は私より低いけれども足は私より長いという例をもって、大変人間の体の変容というのは速いものだと。

 また、厚生労働省は今公式には認めておりませんけれども、いわゆる精子の数が半減しているというような説も長年報道されているわけでありまして、なかなかこうした、恐らく、我々の体への影響というのは大変複雑な、複雑系のもので、一つのものだけでそれを言えるということではない。

 ここにまさに、今村先生がおっしゃった、全ての食品にはリスクがある、これは大変わかりやすい表現で、よく薬の議論をするときには全ての薬にはリスクがあると言っているんですが、我々は、食品は本当に安全なものだと思っているわけでありますけれども、この食品のリスクというのが、心配が、これからどんどんと国民の間で高まってこようと思います。

 前回は、私は、ですから、肥育飼料のラクトパミン等の問題、それから肥育ホルモンの問題、さらには乳量を多くする牛ソマトトロピン、BSTの問題、さらには大豆の遺伝子組み換えといったものを取り上げさせていただいて、いずれも、日本国内ではつくることがない、許可をされているものも実質上使えないもの、または、アメリカではつくれて、特にソマトトロピンは、もう釈迦に説法になりますけれども、カナダやオーストラリアですら使わないものというのが入っている。

 こうした中で、まず、今村先生がお詳しいコーデックスの話が先ほど出てまいりました。このコーデックスでもこうした残留基準というのが、今ネットで調べると、六十五回のコーデックス連絡協議会が平成二十七年九月四日、厚労省、農林水産省で出ていますけれども、こうしたところでも、不満の声、不安の声というのは取り上げられていまして、当然だと思うんですね。

 特に、これは科学的といいながら、コーデックスでは、たしか賛成六十九対反対六十七という非常に僅差で決まっている。科学がこんな多数決でやる。私は、まさに一対一というのは政治の理論であって、本当の安全性というのは、たとえ一対九十九でも一が正しいことはあると思うんですけれども、国際的に、本当に唯一全世界に通じる規格であるコーデックスが六十九対六十七とかこうした僅差で決まること、これは本当に科学的と言えるのかどうかをまず伺いたいと思います。今村先生、お願いします。

今村参考人 御質問ありがとうございます。

 科学の本質に迫る質問をいただきまして、ありがとうございます。

 なかなかお答えが難しいところですけれども、科学的かどうかという意味で見たら、私は科学の一部であるというふうに考えております。

 実際、自分が科学者としてさまざまな研究をやっていく中で、最初、新しい発見をしますと、少数派になるわけですね。その少数派の中で合意形成をしていって、多数派を占めた時点で真実になるというふうな経過がありまして、どこかで過半数を超えるというところが科学であります。

 ただ、食品は、先ほど申しましたように、科学的には非常に難しいところでして、全てが新しい発見で解決するわけではありませんので、多数派の方が入れかわったりするというのが今の現状であります。国際的に見ても、国で見たらどちらが多数派かということはあるわけですけれども、それを各国で見たときには僅差になるということはよくございまして、こういう現象も科学の一部であって、これを克服していかなければいけないところが食品の安全の難しいところだというふうに考えております。

松浪委員 多数派で入れかわってもいいんですけれども、例えばこういうコーデックスの決め方というのが、過半数じゃなくて、国会でも憲法改正とかこういうものは三分の二なんですけれども、実際は私はリスクについては抑制的であるべきだと思うので、こういうルールも実は三分の二とかの方がいいんじゃないですか。簡潔にお願いします。

今村参考人 私も国際機関、何回か議論に参加させていただいて、基本的には過半数でないと合意がとれないという国際機関がほとんどですので、コーデックスもそれに倣わざるを得ないのかなというふうに思います。

松浪委員 過半数で決められているようでは、やはりなかなか食の安心感というのは出ないのも当然かなというふうに私は思うわけであります。

 こういう国際評価の問題があるんですけれども、前回も私は遺伝子組み換え食品の表示の問題等を出させていただいて、我が国では大豆等、遺伝子組み換えは表示義務があるんですけれども、スーパーで幾ら駆けずり回っても、遺伝子組み換えであるという表示はありません。組み換えでないものについては任意で書ける。特にしょうゆとか大豆は余計ややこしい話が、これはたんぱく質が組み換わっているから書かなくていいんだというけれども、入れていない場合は任意表示でいいというので、遺伝子組み換えでないという商品は山ほど山ほど見つかるんですけれども、これが見つからないというような現状。

 こうした日本の現在の食品表示のあり方というのは、非常に私はわかりにくい。表示義務をつけているのに表示されているものが一切見当たらない、これが国民の皆さんの食品に対する不安の原因なのかなと思いますけれども、こうした国内の現状について、今村先生、いかが思われますか。

今村参考人 御質問ありがとうございます。

 食品の、特に遺伝子組み換え食品の表示のややこしさについては御指摘のとおりだと思いますし、もっともっとわかりやすくするべきだというふうに思います。ただ、現実に、遺伝子組み換え食品は物すごく国民から嫌がられていまして、書いたら売れないというふうな状況があるので、なかなか書いてくれないという状況があると思います。

 その中で、私、表示で特に重要なのは、最終的には検出できるかどうかということが物すごく重要なんだというふうに思います。それは、取り締まることができない法律をつくってしまうと、実際に空法律になってしまって、何の効果もなくなってしまうというところがあると思います。そういった意味では、どこまでが検出できるかというところが最終的には表示をするラインであると思います。

 ただ、それは安全性の観点からということですので、品質の保証という意味からどこまで提供するかというのは別の問題だというふうに考えます。

松浪委員 いや、この問題、これ以上突っ込むのをやめようかなと思ったんですが、今の点でいえば、検出されないと言う方がよくいらっしゃるんですよ。でも、実際、EUではこれは義務がありまして、私は、検出できないからじゃなくて、遺伝子組み換えの大豆が今大体国内の八割を占めているのにそれを見ることができないというアンバランスから考えれば、そうしたものについては、特に八割なので、それが必ず入っているわけですから、EUのように流通からの基準で入れてもいいんじゃないでしょうか。

 EUについてはどう思われますか。

今村参考人 EUの基準について、私から見て非常に不可解な、厳しい基準がたくさんあって、EUの担当者とも何回も話したことがあります。その中で、EUも、厳しい基準をつくってしまって苦労している、検知方法の確立にすごく苦労しているというお話は伺っております。

 ですので、どの辺まで検知の精度を求めるかというところが、今、各国で基準をつくっていることそのものになっていると思いますし、精度の高い検知法を求めれば当然緩くなって、精度が緩くても構わないということであれば当然厳しくなる、そんなふうな関係だと思います。

松浪委員 次の問題はお二方に伺いますけれども、先生、今、EUの基準は不可解だとおっしゃいましたけれども、不可解な基準によって便益を受けているのは、私はEUの住民だと思うんですね。

 それは、結局、WTOでいろいろな問題があっても、こうした基準があることによって、オーストラリアもアメリカも、先ほどのBST、肥育ホルモンとか、あと、飼料であるラクトパミン等を使用した、ホルモンがこれだけ攪乱されていて、冒頭申し上げたように、人間の精子すら減少しているんじゃないかというぐらいさまざまなホルモンに囲まれている中で、ホルモンフリーを輸出しなければならないという特別プログラムをEUではアメリカやオーストラリアと組んでいるわけです。

 私は、日本も実はこういうものをTPPの中でも組めるぐらいの方が、国民はしっかりと安心するし、これこそ、先生おっしゃった、リスクは見えないわけですから、リスクの低減というのには資するものだと思います。

 こうした特別プログラムを私は組むべきだと思いますけれども、今村先生にはお考えを、そして渡邊先生には、こうした特別プログラムが日本はTPP下で組めるのかどうかということをまず伺いたいと思います。

今村参考人 こういうラクトパミンや肥育ホルモンといった問題は非常に不安をかき立てるものなので、私個人がこれを好きというわけではないんですけれども、でも、リスクという観点から見たときに、どれだけリスクがあるかというのは、現在の科学でわかる範囲でしかわからないというのが現状だと思います。

 例えば、ホルモンであれば、女性ホルモンが、エストロゲンが代表的なわけですけれども、大豆の中にはイソフラボンという非常にエストロゲン作用の強いものがあります。私の目から見ると、例えば豆腐の中に含まれるエストロゲン作用というのはなかなか強烈なものでありまして、それと残留してくるような肥育ホルモンなんかの量では、比べ物にならないぐらい大量の女性ホルモンを我々はとっている。

 ですので、リスクだけの観点でいうと、食べ物の中で日本人は物すごくたくさん女性ホルモンをとっている国ですので、リスクのふえ方は、ヨーロッパの国々から比べると、ふえ方としては少ないのかなというふうに思います。

 ですので、ヨーロッパの国がふえる度合いが大きいということを考えれば、向こうではそれを防御するべきだというふうに考えるんでしょうし、日本ではもともとたくさんとっていて余り影響がないと国民が思っているんだったら、そんなに強くやらなくてもいいんじゃないかなというふうに思います。

 以上です。

渡邊参考人 SPSの関係でいいますと、食の安全、安心の問題、もうウルグアイ・ラウンドのころから長く議論をしてきているのは先生も御案内のとおりでございます。

 SPSの第五条には予防原則という一項がございまして、EUは予防原則を非常に厳しく考えております。ですから、国民に対する安心を提供するという観点から、この予防原則を比較的幅を持たせて解釈しています。それに対して、アメリカあるいは新大陸の方の国は、比較的この予防原則を厳しく精査する。科学的根拠をちゃんと出さないと、予防原則だけでは制限できないというようなことを言っております。

 他方、もう一つのそういう基準認証に関する協定でありますTBT、技術的な貿易の障壁の方では、強制規格等の策定については、情報開示あるいは要望の提出といったようなことについて、しっかり透明性を確保し、しっかり説明をするようにということが言われているわけでございます。

 この両方を考えますと、恐らく、先生がおっしゃられた特別プログラムのようなものは、日本におきましても、それを制定することは可能だろうと思っております。つまり、そこではちゃんとした科学的な証拠というものが示され、しかも、TBT協定、TBTのチャプターに従って、情報開示とかあるいは要望の提出というようなことがきちっと許される、パブリックコメントみたいなことも含めて、議論が開かれた形で行われるということが担保されれば可能だろう、そういうふうに考えております。

 以上です。

松浪委員 両先生、ありがとうございました。

 先ほど薬の問題に触れましたけれども、海外では、例えばワクチンなんかをつくっていても、ちょっとした細かいちりみたいなものは不問に付されるんですけれども、日本の場合は、何だこれはということで大変な問題になる。これは明らかに日本人の細やかな文化、例えば製薬、薬をつくるにしても、その部材に吹く吹きかけ方とかでも、海外だと多少むらがあってもいいけれども、日本は本当に精緻にやるというぐらい精緻な国民性なので、私はそこが日本人が非常に受け入れられないのも自然だと思うんです。

 今村先生、手短になんですけれども、特に牛ソマトトロピン等は、日本は天下りの問題がありますけれども、向こうはリボルビングドアなので、天上がって天下る。特にこのソマトトロピンの場合は、たしか記憶によると、FDAでこれを承認した担当者が、元某社にいらっしゃって、そしてこのソマトトロピンを出している某社からFDAに行って、その担当者がこれは安全だと言って、そして今度はやめたら天下るという、一粒で二度おいしいみたいなことをやっているような現状。

 これがアメリカでもよく知られているので、向こうでもオーガニックな製品が、オーガニックなものが出てくると、食も、向こうもノンホルモンはプレミア肉になっていますから、食の格差を広げてしまう。お金のある者が健康なものを食べて、では貧しい者はホルモンフリーを食えませんよみたいなことにもなりかねないと私は思って、その辺が日本に特に合わない問題だというふうに思っているんです。

 こうした天上がり、天下りみたいな問題について、手短に、今村先生、多分御存じだと思うので、その辺、伺っておきたいと思います。アメリカにおいて。

今村参考人 こういった審査に携わる者が天下りや天上りといったようなことは望ましくないと思います。ただ、現状として、この審査をするための人間が不足していまして、どうしても限られた人数で回しているという状況があって、私もたくさんの委員会に入れられていまして、もうこれ以上回らないという状況が続いております。

 ですので、こういったことの人材育成がまずは大変重要であるというふうに考えます。

松浪委員 ありがとうございました。私、日本のことを言ったんじゃなくて、アメリカのことを言っていますので、伺いたいと思って。

 次は渡邊先生に伺いたいんですけれども、我々、食の安全保障といっても自給率の問題かぐらいなんですけれども、どちらかというとアメリカなんかでは、これはもはや安全保障、武器だ、食料は武器だなんという言い方をされるわけでありますけれども、日本においては、やはり我々、平和ぼけしているせいか、これが戦略物資だという感覚が非常に少ないと思うんです。

 まず、食料の安全保障を、日本を見ていて、これはなかなか日本は甘いなとか、いや十分だよとか、御意見がありましたら、安全保障の観点からお願いします。

渡邊参考人 松浪先生、どうもありがとうございます。

 食の安全というのはなかなか大事ですが、食料安保も非常に重要だと思います。いわゆるフードセキュリティー。大事なことは、恐らく、フードセキュリティーを総合的な安全保障から切り離さないことが重要だろうというふうに思います。

 特に日本の農業、随分石油を使う農業ですね。ですから、石油がそもそも、インド洋を渡って、あるいはマラッカ海峡を通って日本に来なくなるようなそういう状況、つまり、安全保障上の危機が到来したときには、日本の農業もそもそも息の根をとめられてしまう可能性があるわけですね。ですから、食料安保だけを総合安保から切り離してやるという議論は余り意味がないというふうに考えております。

 ですから、そういう中で考えますと、全体の安保体制の中で食の安保をどう確保していくか。

 そういうことからいいますと、恐らく供給源を多角化するということが多分重要だろうと思います。

 ですから、BSEの問題が起こったらアメリカから牛肉が入ってこないというようなこと、そういうことも考えて、オーストラリアやニュージーランドといったようなところを供給源としておくというようなこともございます。豚肉でも、アメリカ、カナダ、そしてデンマーク、メキシコといったように、供給先は相当多様化しています。ですから、そういうことが多分重要だろうと思います。

 例えば、日本の場合、畜産のために、ほとんど関税ゼロで飼料用穀物を輸入しておりますが、これなどにつきましても、ブラジルとかアルゼンチンと、相当遠いところですけれども、日本から見て地球の裏側の、そういったような国々まで広げて供給源を多角化しておくということは、とても重要だろうと思います。

 特に、今、中国で、中華料理というと、大体ポーク、豚肉を使うことが多かったんですが、最近中国へ行きますと、先生方も多分お気づきだと思いますが、牛肉料理、それも相当質のいい牛肉料理を出すようになってきていますね。

 そうしますと、一キロの豚肉をつくるのに、大体四キロの飼料用穀物が要ります。一キロのビーフをつくるのに、七キロの飼料用穀物が要ります。この状況で、十三億と言われる中国の人口の豊かな層がどんどん牛肉にシフトしていきますと、飼料用穀物が足らなくなってしまいますね。

 ですから、そういうことを考えますと、食の安全ということ、あるいは食の安保ということを全体の安保の中で考えていくということが極めて重要だということが、多分、我々はわかってくるのではないかなと思う次第です。

 ありがとうございました。

松浪委員 両先生、ありがとうございました。

 私個人としては、やはり人間も牛肉もドーピングはしない方がいいし、いわんや遺伝子なんかを人間なんか組み換えられないんですから、除草剤をぶっかけてもいいような大豆なんというのは、つくること自体、神への冒涜だとは思いますけれども、こうした価値観を我々はしっかりと日本の安全保障に組み込んでいくことが大事だと思います。

 ありがとうございました。

塩谷委員長 以上をもちまして参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、参考人各位に一言御挨拶申し上げます。

 参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。(拍手)

 この際、御報告申し上げます。

 予定しておりました昨二十四日の委員派遣につきましては、明二十六日に行うことといたしますので、御了承願います。

 この際、休憩いたします。

    午前十時三十二分休憩

     ――――◇―――――

    〔休憩後は会議を開くに至らなかった〕


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