衆議院

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第22号 平成13年4月6日(金曜日)

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平成十三年四月六日(金曜日)

    ―――――――――――――

  平成十三年四月六日

    午後一時 本会議

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本日の会議に付した案件

 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律案(参議院提出)

 道路交通法の一部を改正する法律案(内閣提出)及び危険な運転により人を死傷させる行為の処罰に関する法律案(細川律夫君外二名提出)の趣旨説明及び質疑




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    午後一時三分開議

議長(綿貫民輔君) これより会議を開きます。

     ――――◇―――――

小此木八郎君 議案上程に関する緊急動議を提出いたします。

 参議院提出、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律案を議題とし、委員長の報告を求め、その審議を進められることを望みます。

議長(綿貫民輔君) 小此木八郎君の動議に御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(綿貫民輔君) 御異議なしと認めます。

    ―――――――――――――

 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律案(参議院提出)

議長(綿貫民輔君) 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。法務委員長保利耕輔君。

    ―――――――――――――

 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔保利耕輔君登壇〕

保利耕輔君 ただいま議題となりました法律案について、法務委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 本案は、配偶者からの暴力が犯罪となる行為であるにもかかわらず、被害者の救済が必ずしも十分に行われておらず、また、配偶者が暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を行うことは、個人の尊厳を害し、男女平等の実現の妨げとなっていることにかんがみ、このような状況を改善し、人権の擁護と男女平等の実現を図るため、配偶者からの暴力を防止し、被害者を保護するための施策を講じようとするもので、その主な内容は次のとおりであります。

 第一に、国及び地方公共団体は、配偶者からの暴力を防止し、被害者を保護する責務を有するものとすること、

 第二に、都道府県は、婦人相談所その他の適切な施設において、当該各施設が配偶者暴力相談支援センターとしての機能を果たすようにするものとし、同センターは、被害者に対し、相談、カウンセリング、一時保護等を行うものとすること、

 第三に、配偶者からの暴力を受けている者を発見した者は、配偶者暴力相談支援センターまたは警察官に通報するよう努めなければならないものとすること、

 第四に、被害者がさらなる配偶者からの暴力により生命または身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときは、裁判所は、被害者の申し立てにより、当該配偶者に対し、被害者への接近禁止等を命ずるものとし、この命令に違反した者は処罰するものとしております。

 本案は、去る四月四日参議院より送付され、同日本委員会に付託されたものであります。

 委員会においては、本日提出者参議院共生社会に関する調査会長から提案理由の説明を聴取した後、質疑を行い、採決の結果、本案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと決しました。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(綿貫民輔君) 採決いたします。

 本案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(綿貫民輔君) 御異議なしと認めます。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。

     ――――◇―――――

 道路交通法の一部を改正する法律案(内閣提出)及び危険な運転により人を死傷させる行為の処罰に関する法律案(細川律夫君外二名提出)の趣旨説明

議長(綿貫民輔君) この際、内閣提出、道路交通法の一部を改正する法律案及び細川律夫君外二名提出、危険な運転により人を死傷させる行為の処罰に関する法律案について、趣旨の説明を順次求めます。国務大臣伊吹文明君。

    〔国務大臣伊吹文明君登壇〕

国務大臣(伊吹文明君) 道路交通法の一部を改正する法律案の趣旨を御説明申し上げます。

 この法律案は、最近における道路交通をめぐる情勢にかんがみ、運転免許証の有効期間の延長及びその他の運転免許証の更新を受ける者の負担の軽減のための規定の整備を行うとともに、あわせて、運転者の安全対策等を推進するための規定を整備すること等をその内容といたしております。

 以下、各項目ごとにその概要を御説明申し上げます。

 第一は、運転免許証の更新を受ける者の負担を軽減するための規定の整備であります。

 その一は、一般運転者に係る免許証の有効期間を、現行の三年から、原則として五年に延長するものであります。

 その二は、免許証の更新期間を、現行の誕生日までの一カ月間から、誕生日を挟んだ二カ月間に延長するものであります。

 その三は、免許証の更新を受けようとする者のうち、優良運転者については、住所地を管轄する公安委員会以外の公安委員会を経由して更新申請を行うことができることとするものであります。

 第二は、運転者の安全対策等の推進を図るための規定の整備であります。

 その一は、第二種免許の技能試験を主として道路において行うこと等とするとともに、代行運転普通自動車を運転しようとする者は、第二種免許を受けなければならないこととするものであります。

 その二は、障害者に係る免許の欠格事由の見直しを行うものであります。

 その三は、高齢者講習の対象の拡大その他の高齢の運転者の保護等に関する規定の整備であります。

 その四は、免許証の電磁的方法による記録に関する規定の整備であります。

 第三は、悪質、危険な運転者に対する対策等を強化するための規定の整備であり、救護義務違反、酒酔い運転、共同危険行為、無免許運転等をした者に対する罰則を引き上げるものであります。

 第四は、その他交通の安全及び円滑を図るための規定の整備であります。

 その一は、身体障害者等の通行の保護を図るための規定の整備であります。

 その二は、交通情報の提供に関する規定の整備であります。

 なお、この法律の施行日は、代行運転普通自動車を運転する者に第二種免許の取得を義務づける規定については、公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日、その他の部分については、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日といたしております。

 以上が、道路交通法の一部を改正する法律案の趣旨でございます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(綿貫民輔君) 提出者細川律夫君。

    〔細川律夫君登壇〕

細川律夫君 ただいま議題となりました危険な運転により人を死傷させる行為の処罰に関する法律案の趣旨を御説明申し上げます。

 一昨年の十一月、東京世田谷の東名高速道路におきまして、酒酔い運転のトラックに乗用車が追突され、乗用車は炎上し、一歳と三歳の幼い姉妹が焼死するという痛ましい交通事故が起きました。加害者は飲酒運転の常習者で、この日もウイスキーや缶入りしょうちゅう飲料を飲み、蛇行運転を繰り返した上での事故でありました。ところが、裁判所は、この加害者の運転手に対し、業務上過失致死により懲役四年という、いかにも軽い判決を下しました。

 また、昨年四月、酒気帯び、無免許、無保険、無車検の車が、取り締まりに遭うや、猛スピードで逃げた上に、歩道上に乗り上げて、たまたま通行していた大学生二人を即死させるという交通事故がございました。二人は、大学に入学したばかりの新入生でございました。この加害者は、八年前に当て逃げ事故により免許を取り消されたにもかかわらず、運転を続け、五年前にも無免許運転で行政処分を受けた者であります。この悪質な運転者に対しても、業務上過失致死と道路交通法違反による懲役五年六カ月という刑しか科せられなかったところでございました。実は、五年六カ月というのは、現行法の最高刑でございます。

 その後、これらの事故の遺族の方が中心となり、刑法の業務上過失致死罪の法定刑の上限五年というのはいかにも低過ぎるのではないかという訴えが、全国から二十六万件以上の署名が集まったところでございます。

 このような悪質な運転行為による犯罪を過失ということのみでとらえてよいのだろうか、むしろ故意犯に近いのではないか、あるいは、自動車のなかった時代にできた刑法の業務上過失致死罪によって現在の車社会における犯罪を処罰するのが正しいのか、こういったさまざまな疑問と、被害に遭った方々の想像を絶する悲しみに心を動かされ、ほとんどの世論もこれを支持して、早期の法改正を求めたのであります。

 さらに、東名高速事件の控訴審判決では、東京高等裁判所は、一審の懲役四年を支持し、控訴を棄却はいたしましたけれども、これらの点について異例の言及をいたしました。そこでは、飲酒運転等により死傷事故を起こした場合に関する特別類型の犯罪構成要件の新設、関連規定の法定刑の引き上げ等の立法的な手当てをもってするのが本来のあり方、このように判決の中で言及したのでございます。

 これら世論などの大きなうねりに対しまして、警察庁は、昨年十二月、道路交通法改正案の試案を示す中で、酒酔い運転、麻薬等運転等に起因して人を死傷させた者に対する新たな罰則規定を創設しという言葉で、いわば危険運転致死傷罪の創設に言及して、パブリックコメントを求めたのであります。しかし、このパブリックコメントでほとんど反対意見はなかったにもかかわらず、この試案は退けられました。ただいま伊吹大臣から趣旨説明がございました道路交通法改正案からは、この部分がすっぽりと消えてしまっているのであります。

 なぜ消えてしまったのかと申しますと、刑法などを所管いたします法務省が、致死傷罪は道路交通法にはなじまず、刑法の体系で考慮すべきだ、そういう意見を述べたからであります。役所の権限争い、縄張り争いによって、遺族の皆さんや世論の声が追いやられたと言っても過言ではありません。

 国民各層からは、一刻も早い法制化を求める声が上がっております。政府が遅滞している以上、このような声にこたえるのが立法府の責務でございます。それが、ここに本案を提案した最大の理由であります。

 なお、交通事故の撲滅につきましては、車歩道の分離、信号等の施設整備、事故原因の調査の徹底、車両の安全性の向上、道路構造上の安全対策等、あらゆる方策を追求すべきであり、また、交通事故の被害者につきましても、相談、指導、刑事手続への関与等、可能な限りの支援対策を講じるべきであると訴えてまいりたいと思います。

 次に、本法案の内容を簡単に御説明いたします。

 第一に、危険運転致死傷罪を創設し、道路交通法の酒酔い運転、麻薬等運転、暴走族などによる共同危険行為、無免許運転、酒気帯び運転、過労運転等の規定に該当する違反行為をし、よって交通事故を起こして人を死傷させた者は、十年以下の懲役もしくは禁錮、百万円以下の罰金に処するものであります。刑法第二百十一条に定める業務上過失致死罪の法定刑、五年以下の懲役もしくは禁錮、五十万円以下の罰金と比べ、法定刑を引き上げるものでございます。

 第二に、従来は、道路交通法上、どんな悪質な事故を起こした場合でも、再び運転免許を取得できない期間は五年以内の指定された期間とされておりますが、本法案の罪を犯した者については、この期間を十年以内の指定された期間とするものであります。

 その他、所要の規定に関する整備を行うことといたしております。

 本法案は、本則がたった一項の特別法ではありますが、この法案に込められた交通事故被害者、遺族の方々の心情をぜひお察しくださり、全会派の御賛同により本法案を成立させていただきますようよろしくお願いを申し上げまして、趣旨の説明といたします。(拍手)

     ――――◇―――――

 道路交通法の一部を改正する法律案(内閣提出)及び危険な運転により人を死傷させる行為の処罰に関する法律案(細川律夫君外二名提出)の趣旨説明に対する質疑

議長(綿貫民輔君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。これを許します。今野東君。

    〔今野東君登壇〕

今野東君 民主党の今野東です。

 私は、民主党・無所属クラブを代表して、内閣提出、道路交通法の一部を改正する法律案及び民主党・無所属クラブ提出の危険な運転により人を死傷させる行為の処罰に関する法律案について質問します。(拍手)

 質問に当たって、交通事故で亡くなられた方々の御冥福をお祈りし、質問をさせていただきます。

 交通事故は、年々ふえる一方です。昨年一年間でおよそ九十三万二千件発生し、亡くなった方も一万四百三人いらっしゃいます。第六次交通安全基本計画は、年間の交通事故死者数を九千人以下とすることを目標としましたが、これは達成されませんでした。また、第七次交通安全基本計画は、一層多くの死傷者が生じる可能性があると予想しています。

 では、今後どのような政策が重要と考えておられるのか、官房長官と民主党・無所属クラブの法案提出者にお尋ねします。

 一昨年十一月二十八日の東名高速道路での悲惨な事故であります。趣旨説明にもありましたが、飲酒運転を常習とするプロのドライバーが運転する大型トラックが、井上さん一家四人が乗る車に追突し、後部座席に乗っていた三歳の長女奏子ちゃんと、間もなく二歳になろうとしていた次女周子ちゃんの命を奪いました。

 この極めて悪質な酒酔い運転のドライバーは、業務上過失致死傷罪と道路交通法違反の容疑で起訴されたのですが、求刑は五年、判決は四年でした。しかも、この一審判決に異議を唱えた検察側の控訴は退けられました。法定の上限は七年であったにもかかわらず、求刑五年、判決四年は、残された家族の悲しみに比べると余りにも軽過ぎます。

 また、去年の四月、神奈川県座間市で、無免許、酒気帯び、車検がない、強制保険にも入っていないという乗用車が歩道に乗り上げて、そこを歩いていた大学生二人を死亡させたケース、これは、法定限度いっぱいの懲役五年六カ月の実刑判決を言い渡されたものの、輝く未来を突然遮断され、人生を切断された二人の大学生の命を考えれば、これも余りにも軽過ぎる量刑であります。

 私は、先日、井上さんのお宅を訪ねました。小さな位牌はこの私に何を言おうとしているのだろうと胸が痛みました。井上さんのお話によれば、遺族のつらさは、家族を失っただけではありません。慰めの言葉をかけてくれる友人たちの行為も、そのままストレートに受けられない。親や家族が優しく言ってくれることも、そのままに受け取れない。ぎくしゃくした関係になってしまう。親や兄弟の優しさも、そのようにしか受け取れない。犯人への憎しみも増し、私的報復を考える自分に苦しみます。

 ここに、座間市で亡くなった大学生の鈴木君のお母さん、鈴木共子さんが書いた詩があります。御紹介します。

    天使だなんて言わないで

                鈴木 共子

  私は天使なんかじゃない

  天使なら

  愛する夫と息子の命を

  守ることができたはず



  私は天使なんかじゃない

  天使なら

  友達の私に寄せる心を

  理解できるはず



  私は天使なんかじゃない

  天使なら

  罪を憎んで

  人を憎まずと言えるはず



  私は天使なんかじゃない

  自責の念にかられ

  友にいたく失望し

  息子を奪いし奴のこと

  ひと思いに

  殺してやりたい



  私が天使であるならば

  それはきっと

  地獄の天使だ

残された家族の偽らざる心境ではないでしょうか。

 悪質な運転行為の結果、人を死亡させた場合には、刑法百九十九条の殺人罪を適用すべきであると主張する専門家もいるほどです。無免許運転や酒酔い運転を始めたときを行為に着手した時点と認定すれば、犯行の意思の存在は十分に立証が可能だという主張です。

 そもそも、悪質な運転行為によって起きた事故のドライバーを業務上過失致死犯として扱うことが無理なのではないでしょうか。業務上過失犯に適用される現行刑法は、明治四十年に制定されたものです。当時の日本に車は少なく、今日のような悪質な運転者による交通事故など全く予測し得なかった時代につくられた刑法であります。何回か改正されたとはいっても、今の時代に適用するのはやはり無理があります。速やかに特別立法の措置をとるべきであると思いますが、法務大臣の見解を求めます。

 全国から二十六万件の署名が集まっています。法務省で準備をしているということは承知しておりますが、法務省、一体何をもたもたしているんだという問いかけであります。お答えください。

 特別立法の措置をとるべきだという観点から、民主党・無所属クラブから出ている、危険な運転により人を死傷させる行為の処罰に関する法律案は評価したいと思いますが、この中の、交通事故を起こして人を死亡させ、または傷つけた者は、十年以下の懲役もしくは禁錮または百万円以下の罰金に処するという点は、悪質なものを想定したとき、これで十分なのでしょうか。お尋ねします。

 また、この法律案の中の、免許の欠格期間等の特例についてですが、この法律案の対象者については免許取得禁止期間を十年にしていますが、その理由についてお示しください。

 一方、政府から出ている道路交通法改正案も、例えば飲酒運転の場合、二年以下の懲役または十万円以下の罰金から、三年以下の懲役または五十万円以下の罰金と、わずかな上限の引き上げだという気が私はするのですが、これでよしとされた根拠をお示しください。国家公安委員長にお尋ねします。

 次に、障害者等に係る欠格条項の見直しについてです。

 今回、身体的能力及び知的能力についてはすべて試験で見ることとしたという点は評価しますが、特定の病気の者については免許を与えないとしています。

 欠格条項については、必要最小限でなければなりません。改正案はその範囲がまだ広いのではないかと思いますが、これを国民にどのように説明されるでしょうか。国家公安委員長にお尋ねします。

 さて、悪質なドライバーが職務中に交通事故を引き起こしたとすれば、彼を雇っている使用者の責任も問われなければなりません。使用者の責任を明確にすることは、職場の環境を整え、事故を未然に防ぐことにつながります。ところが、現在の法律では、それもまた十分ではありません。

 例えば、国土交通省が管轄する貨物自動車運送業者のもとで働くドライバーが飲酒運転をして死傷に至る交通事故を起こした場合、つまり、青ナンバーのトラックが飲酒運転によって死亡事故を起こした場合、当然、このドライバーが勤務する会社は使用者責任を問われます。行政処分を受けます。

 しかし、貨物輸送をなりわいとしていない会社の白ナンバーの営業トラック、例えば自分の会社の工場から自社の製品を積んで毎日運送するような、そういう白ナンバーのトラックです。これが同じように飲酒運転をして死亡事故を起こしたような場合は、使用者責任が問われないことになっています。

 青ナンバーのトラックは国土交通省の所管であり、白ナンバーのトラックは警察庁の所管です。同じような事故を起こしても、所管の役所によって使用者責任を問われたり問われなかったりするというのは、縦割り行政の矛盾のあらわれです。直ちに改善すべきと思います。内閣官房長官及び国家公安委員長に伺います。

 そのほかにも、交通行政にはさまざまな矛盾があります。

 一九九九年に起きた人身事故は八十五万件に上りますが、この年、検察庁が処理した交通関係の業務上過失致死傷七十六万件のうち、起訴されたのは、わずか一二%です。百人のうち八十八人は不起訴処分で、罰金も科されません。しかし、駐車違反のような軽微な違反には反則金が科されます。このような矛盾を放置しておくのは、国民感情として受け入れがたいものがあります。こうした点も是正する考えはありますか。法務大臣にお尋ねします。

 私は、きょう、ここに立って、罰則の強化のみを声高に叫ぶつもりはありません。交通事故によって亡くなられた方々も、きょうは先ほどの井上さんも傍聴においでですが、遺族の方々も、先ほどの鈴木共子さんの詩にあったような感情を抑えて、二度とこのような悲しい事故が起きないようにと、ひたすら願っているわけであります。遺族のそういう気持ちを受けて、私たちの社会は、悲惨な交通事故が起きないように、できる限りの環境整備をしなければなりません。

 交通事故増加の原因の一つは、お年寄り、高齢者の増加です。我が国は、欧米諸国と比べて、特に高齢者の事故が多い。高齢者や子供たちの安全のためにも、歩道整備をしましょう、市街地に駐車場もつくりましょうという社会資本整備が必要です。

 しかし、先日成立した平成十三年度予算では、交通安全に寄与する道路の改築事業は四千億円にすぎず、道路事業費全体七兆六千億円のわずか五%にとどまっています。むだな公共事業が行われる一方、住民のニーズに合った、きめ細かい公共事業は進んでいません。公共事業は国民の幸せのために行われなければならないのであって、与党自民党の選挙のために行われてはならないのです。(拍手)

 さらに、公共事業の財源や決定権は地方に移譲しなければなりません。例えば、国が直接行う道路事業は国道一号線から十八号線に限定して、それ以外は、地方自治体に一括交付金を交付して、地方の自主性に任せるのです。当然、縦割り行政による二重投資の原因となっている、十六分野ごとに定められている公共事業の中長期計画は統合すべきです。さらに、道路特定財源制度など、公共事業関連税制のあり方について抜本的に見直すべきではないでしょうか。

 公共事業のあり方を考えて、交通安全対策を念頭に置いた社会資本整備をおやりになるつもりはありますか。これをおやりになれば都市部の票が入ると思うのですが、内閣官房長官にお尋ねします。

 最後に、日本の司法と国民との間の信頼についてです。

 先月、三月二十八日、薬害エイズ事件で東京地裁が元帝京大学副学長安部氏に下した無罪の判決に、私は驚き、大きな失望を感じました。日本の裁判は、なぜこれほど寛大なのでしょうか。命を救ってほしいと頼まれた医師が、その治療を施す上で、わずかでも死の可能性があるのならば最善の方法でそれを回避してほしいと願うのは、医療を受ける側の当然の願いであります。それを怠った医師が、無罪という免罪符をもって、責任を追及されることなく、もとの暮らしに戻っていくとするのならば、その裁判は余りにも市民の感覚と乖離し過ぎてはいないでしょうか。

 その裁判にかかわった判事の一人は、東京大学卒業の医師で、安部被告の後輩だと聞きました。李下に冠を正さず、司法こそみずからを厳しく律し、判決に臨むべきではないでしょうか。あの判決をどうお感じになったでしょうか、法務大臣にお尋ねします。

 三権分立の精神から、立法府が司法を批判することは控えるべきかもしれません。しかし、交通事故裁判を初め昨今の裁判を見るとき、私は、司法を批判するという悲しい選択をしなければならなくなります。

 司法が国民の信頼を取り戻すことを強く願って、私の質問を終わります。(拍手)

    〔国務大臣伊吹文明君登壇〕

国務大臣(伊吹文明君) ただいまの御質問にお答えをいたします。

 私に対しては、三つのお尋ねがありました。

 まず、酒酔い運転の法定刑についてであります。

 懲役刑につきましては、刑法の往来妨害罪及び往来危険罪とのバランスを考慮して、現行の二年以下を三年以下に引き上げております。他方、罰金刑につきましては、悪質な運転の防止を図ろうという観点から、現行の十万円以下を五十万円以下と、大幅に引き上げたものであります。

 次に、運転免許の欠格条項の見直しについてであります。

 今回の改正は、これまで一定の障害のある場合には法律によって一律に運転免許の取得の機会を閉ざしていたものでありますけれども、自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれのある障害等がある場合のみは、公益の観点から、試験等により運転免許を与えないことができるようにするものであります。この結果、障害を持つ人たちでも安全な運転が可能であれば運転免許を取得できることになり、障害のある者も障害のない者も、法律上は均等な扱いを受ける社会になると考えております。

 貨物自動車運送事業用のトラックと自家用トラックとで使用者責任のあり方が異なるのはおかしいとの御意見でありますが、使用者責任とは運送を事業とする者としての責任であり、このような事業者でない自家用のトラックの使用者の責任は問わないとしても、特にバランスを欠くものとは考えてはおりません。(拍手)

    〔国務大臣高村正彦君登壇〕

国務大臣(高村正彦君) 今野議員にお答えを申し上げます。

 まず、悪質な交通事故についての速やかな特別立法の必要性についてお尋ねがありました。

 法務省といたしましても、悪質、重大な事犯の中には、例えば、危険な運転行為であることをわかりながら、このような運転行為を行った結果、人を死傷させた場合など、過失犯として規定されている業務上過失致死傷罪の構成要件や法定刑でとらえることが不相当な事犯があることを十分認識した上で、法整備に向けた検討を、現在、鋭意行っているところであります。

 この問題は、国民生活に密接した重要な問題であり、現に悪質、重大な事犯が後を絶たない状況にあること、被害者や御遺族の方々から早期に法整備を行うようにとの強い要請を受けていることなどから、警察庁等とも意見を交換しつつ、刑法改正等の検討も含めて早期に結論を得て、この秋に臨時国会が開かれるようであれば、これを目途として所要の法整備を行いたいと考えております。

 次に、業務上過失致死傷罪の処理のあり方についてお尋ねがありました。

 業務上過失致死傷事件のうち不起訴となっている事件の多くは、事案軽微な業務上過失傷害事件であり、業務上過失傷害罪は、過失によって人の身体に傷害を与える個人に対する犯罪であるところ、軽微な事案については被害者も加害者の処罰を望まないことが多い状況にあり、車社会と呼ばれることもある今日、この種事犯をすべて処罰することになれば、多数の国民を前科者とすることになり、刑事政策上不適切であること等から、軽微な事案については起訴猶予処分を弾力的に活用しているところでございます。

 一方、御指摘の駐車違反のような交通違反は、交通秩序を維持するためのルールの違反に反則金という前科にならない制裁を科すものであって、両者は性質を異にするものであり、御指摘のような矛盾は全くないものと考えております。

 具体的事件の判決の内容についてコメントを求められましたが、当然のことながら、答弁を差し控えさせていただきます。(拍手)

    〔国務大臣福田康夫君登壇〕

国務大臣(福田康夫君) 今野議員にお答えをいたします。幾つか御質問ございましたので、順次お答えいたします。

 第六次交通安全基本計画に基づく従来の交通安全対策の効果、また、今後の交通安全対策のあり方についてのお尋ねがございました。

 第六次交通安全基本計画につきましては、期間内に年間の交通事故死者数を約千六百人減少させ、一定の成果を上げることができたと考えておりますが、平成十二年の死者数は九千六十六人となり、平成十二年までに九千人以下とすることを目指すという目標を達成できなかったことは、まことに遺憾でございます。

 また、御指摘のように、第七次交通安全基本計画では、二十一世紀当初は、車社会の進展により、一層多くの死傷者が生じることが予想されるとしておりますが、政府としては、第七次交通安全基本計画に基づき、関係各方面と連携を図りながら、高齢者の交通安全対策の推進、シートベルト及びチャイルドシート着用の徹底など、交通事故死傷者を減少させるため、各般の施策を強力に推進してまいる所存でございます。

 次に、使用者責任のバランスを欠くとのお尋ねであります。

 国土交通省所管の貨物自動車運送事業法においては、運送事業の運営の適正化等の観点から、また、警察庁所管の道路交通法においては、ドライバー一般の交通安全の観点から、必要な規制を行っているところであり、それぞれの行政目的を達成するための合理的な制度とされているものと承知いたしております。

 いずれにせよ、現在の厳しい交通情勢のもと、交通事故防止を図るため、内閣を挙げて総合的な交通安全対策に引き続き取り組んでまいる所存でございます。

 次に、交通安全対策についてお尋ねがございました。

 平成十三年度の道路関係予算においては、交通安全施設等整備事業費約四千億円をもって、歩道や駐車場の整備等を行っております。このほか、通過交通の市街地への流入を排除する環状道路などの幹線道路網の整備、踏切の除却、改良など、幅広く交通安全対策に寄与する事業を積極的に取り組んでおります。今後とも、交通安全対策を念頭に置いた社会資本整備を積極的に進めてまいります。

 次に、道路に関する国の直轄管理区間のあり方及び地方分権についてお尋ねがございました。

 我が国の道路網は、高速自動車国道、一般国道、都道府県道、市町村道から構成されておりまして、国、地方の適切な役割分担と相互の密接な連携のもと、整備、管理を行っているところでございます。さらに、国が直轄で管理すべき区間の見直しや補助金の整理合理化については、平成十一年三月に閣議決定された第二次地方分権推進計画に基づき積極的に取り組んでいるところでございます。

 次に、公共事業の長期計画の統合についてお尋ねがございました。

 公共事業の各種長期計画については、事業ごとに、重点や目標、整備期間あるいは財源等を異にしており、これらを捨象するような統合化には困難な面があると考えております。また、現行においても、各種長期計画は、社会資本整備の基本的方向や公共投資の長期にわたるおおむねの規模等を定めている公共投資基本計画と整合をとって策定されているところであります。

 なお、平成十三年度予算においては、本年一月の中央省庁等改革を契機とし、交通、生活排水処理、住宅と福祉等の分野において、従来以上に施策の融合化やハード、ソフト間を含む事業間の連携を推進することとしており、縦割り行政による二重投資といった批判は当たらないと考えております。

 次に、道路特定財源制度のあり方についてお尋ねがございました。

 道路整備については、各地域におけるニーズが依然として高い中、道路利用者による整備費用の負担という受益者負担の理念に基づき、揮発油税等を主たる財源として事業を実施しているところでありますが、こうした特定財源制度は、特定された公共サービスからの受益と負担との間にかなり密接な対応関係が認められる場合には、一定の合理性を持つものと考えております。

 他方、特定財源制度は、資源の適正な配分をゆがめ、財政の硬直化を招くおそれもあることから、財政需要の優先度や財政資金の適正な配分といった観点を踏まえながら、その妥当性については常に吟味が必要であると考えております。

 以上でございます。(拍手)

    〔山花郁夫君登壇〕

山花郁夫君 今野議員の御質問にお答え申し上げます。

 まず、交通安全対策について御指摘がございました。

 この重罰化を図る法案というものは、社会的公正の実現のために必要であると考えて提出したものでありますけれども、この法案だけによって直ちに交通事故が劇的になくなるであろうとは考えておりません。

 厚生統計によりますと、年間およそ一万三千人の方が道路交通の事故によって命を落とされております。先ほど、今野議員は一万四百三人という数字を挙げられましたが、これは恐らく警察統計によるものではなかろうかと思います。警察統計は二十四時間を基準といたしておりますから、いわゆる即死の数が一万四百三人ということになるのだと思います。厚生統計によりますと、死の直接的な原因が交通事故であるという点についてでありますので、一万三千人という数字になるわけであります。

 このように、事故件数が依然としてふえ続けているというような現状を見るならば、さらに積極的な事故防止のための措置というものがとられなければならないと思います。

 法案の趣旨説明にもありましたように、まず、歩行者と車を分離する措置を強め、生活道路に可能な限り車を入れないようにするであるとか、あるいは、歩行者と右折車、左折車の同時利用を排した分離信号の普及、あるいは、運転手の刑事責任の追及だけではなく、総合的な原因究明のために現行の事故分析センターをさらに充実強化させるなど、いずれも一歩踏み込んだ施策が必要であろうと考えます。

 また、民主党、社会民主党から、現在、犯罪被害者基本法案が提出されておりますが、一たん事故に遭われた被害者やあるいは遺族の方の相談あるいは指導に当たるといったような支援、こういうことについても充実を図っていかなければいけないと考えます。

 次に、法定刑についての御質問がありました。

 交通事故被害者、遺族の方々からは、極刑をもって臨むべきであるという、そういった御意見も伺っているところでございます。交通事故の被害者の方々、殊に突然愛する家族を失ったという、そういった方々から、加害者に対して極刑を求めるという、そういうお気持ちは十二分に理解できるところでありますが、他方、他の刑罰法規との均衡を図ること、また、加害者の社会復帰に対しても一定の考慮をしなければならないと考えます。

 悪質交通事犯によって死傷の結果を生じさせるという行為は、犯罪類型としては、いわば故意の違法行為をきっかけとして死の結果を生ぜしめるという傷害致死の類型に比較的近いものではないかと考えられます。

 この傷害致死の法定刑は、刑法二百五条によりますと、二年以上の有期懲役ということになっておりますが、それでも、実際に言い渡される刑というものは、その約八割が、執行猶予も含めますと、五年以下ということになっております。悪質な事犯に関しても、残りの二割すべてが、五年を超える、そして十年以下の懲役ということになって処断されているのが現状でありますから、法定刑については十年というところが限度ではなかろうかと考えられますとともに、この範囲内で妥当な量刑を選択するということが肝要ではなかろうかと考えます。

 免許取得禁止期間について御指摘がございました。

 この点についても、交通事故の被害者または遺族の方々から、悪質運転行為によって死傷の結果を生じさせた加害者がわずか数年でまた運転ができるということは納得ができないというような御意見も伺っているところでございます。

 交通事故を少しでも減らすためには、刑罰法規の創設ということによって一般予防を図るということだけではなく、特別予防的な観点から、悪質交通事犯により死傷の結果を生じさせたような、そうした者については、長期にわたって運転行為から遠ざけるということも必要であると考えます。これが、運転免許証取得禁止期間の上限を現行の五年から十年に引き上げる趣旨であります。

 以上です。(拍手)

議長(綿貫民輔君) これにて質疑は終了いたしました。

     ――――◇―――――

議長(綿貫民輔君) 本日は、これにて散会いたします。

    午後一時五十一分散会




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