衆議院

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第33号 平成13年5月29日(火曜日)

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平成十三年五月二十九日(火曜日)

    ―――――――――――――

 議事日程 第十八号

  平成十三年五月二十九日

    午後一時開議

 第一 商工会法の一部を改正する法律案(内閣提出)

 第二 道路交通法の一部を改正する法律案(内閣提出)

 第三 自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律案(内閣提出)

 第四 危険な運転により人を死傷させる行為の処罰に関する法律案(細川律夫君外二名提出)

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 日程第一 商工会法の一部を改正する法律案(内閣提出)

 日程第二 道路交通法の一部を改正する法律案(内閣提出)

 日程第三 自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律案(内閣提出)

 日程第四 危険な運転により人を死傷させる行為の処罰に関する法律案(細川律夫君外二名提出)

 地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出)、学校教育法の一部を改正する法律案(内閣提出)及び社会教育法の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明及び質疑




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    午後一時三分開議

議長(綿貫民輔君) これより会議を開きます。

     ――――◇―――――

 日程第一 商工会法の一部を改正する法律案(内閣提出)

議長(綿貫民輔君) 日程第一、商工会法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。経済産業委員長山本有二君。

    ―――――――――――――

 商工会法の一部を改正する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔山本有二君登壇〕

山本有二君 ただいま議題となりました法律案につきまして、経済産業委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 本案は、近年の商工業者をめぐる経済環境の変化にかんがみ、商工会の事業の効率的かつ効果的な実施を図るため、商工会の合併に関する規定の整備を行う等の措置を講じようとするものであります。

 その主な内容は、

 第一に、商工会の合併に際して現行の清算による手続のもとでの民事法上、税法上の負担を軽減するため、合併の手続、時期及び効果等について所要の規定の整備を行うこと、

 第二に、商工会の設立後に市町村の廃置分合があった場合において、廃置分合後の市町村の区域に存続する商工会の一部が統合し、当該市町村の区域の一部を地区とすることとなる合併を認める特例を設けること

等であります。

 本案は、去る五月十八日本委員会に付託され、同月二十三日平沼経済産業大臣から提案理由の説明を聴取いたしました。同月二十五日質疑を行い、採決を行った結果、本案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと議決いたしました。

 なお、本案に対し附帯決議が付されました。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(綿貫民輔君) 採決いたします。

 本案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(綿貫民輔君) 御異議なしと認めます。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。

     ――――◇―――――

 日程第二 道路交通法の一部を改正する法律案(内閣提出)

 日程第三 自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律案(内閣提出)

 日程第四 危険な運転により人を死傷させる行為の処罰に関する法律案(細川律夫君外二名提出)

議長(綿貫民輔君) 日程第二、内閣提出、道路交通法の一部を改正する法律案、日程第三、自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律案、日程第四、細川律夫君外二名提出、危険な運転により人を死傷させる行為の処罰に関する法律案、右三案を一括して議題といたします。

 委員長の報告を求めます。内閣委員長横路孝弘君。

    ―――――――――――――

 道路交通法の一部を改正する法律案及び同報告書

 自動車運行代行業の業務の適正化に関する法律案及び同報告書

 危険な運転により人を死傷させる行為の処罰に関する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔横路孝弘君登壇〕

横路孝弘君 ただいま議題となりました三法律案につきまして、内閣委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 まず、道路交通法の一部を改正する法律案について申し上げます。

 本案は、最近における道路交通をめぐる情勢にかんがみ、運転免許証の有効期間の延長など、免許の更新を受ける者の負担を軽減するための規定の整備を行うとともに、代行運転普通自動車を運転する者に対する第二種免許取得の義務づけ、障害者に係る免許の欠格事由の見直し及び悪質な違反行為に対する罰則の強化など、運転者対策の推進を図るための規定の整備を行おうとするものであります。

 次に、自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律案について申し上げます。

 本案は、自動車運転代行業務の適正な運営を確保し、もって交通の安全及び利用者の保護を図るため、自動車運転代行業を営む者は、欠格事由に該当しないことについて都道府県公安委員会の認定を受けなければならないこととするなど、所要の措置を講じようとするものであります。

 次に、細川律夫君外二名提出の危険な運転により人を死傷させる行為の処罰に関する法律案について申し上げます。

 本案は、酒酔い運転等の危険な運転により交通事故を起こして人を死傷させた者について、新たに危険運転致死傷罪を創設し、罰則の強化等を行おうとするものであります。

 以上三法律案のうち、道路交通法の一部を改正する法律案及び危険な運転により人を死傷させる行為の処罰に関する法律案の両案は、去る四月六日本会議において趣旨説明及び質疑が行われ、自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律案とともに、同日本委員会に付託されものであります。

 本委員会におきましては、去る四月六日伊吹国家公安委員会委員長及び提出者細川律夫君から三法律案についてそれぞれ提案理由の説明を聴取した後、同月十一日から質疑に入り、五月二十三日には道路交通法の一部を改正する法律案について参考人から意見を聴取するなど、慎重に審査を行ってまいりました結果、去る二十五日三法律案について質疑を終了いたしました。

 質疑終了後、まず、道路交通法の一部を改正する法律案について、民主党・無所属クラブ、日本共産党及び社会民主党・市民連合の各派共同提案に係る修正案が提出され、その趣旨の説明を聴取した後、討論を行い、採決いたしましたところ、修正案は賛成少数をもって否決され、本案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと決しました。

 次に、自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律案について採決いたしましたところ、本案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと決しました。

 次に、危険な運転により人を死傷させる行為の処罰に関する法律案について採決いたしましたところ、本案は賛成少数をもって否決すべきものと決した次第であります。

 なお、道路交通法の一部を改正する法律案及び自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律案の両案に対しそれぞれ附帯決議が付されました。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(綿貫民輔君) これより採決に入ります。

 まず、日程第二及び第三の両案を一括して採決いたします。

 両案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(綿貫民輔君) 御異議なしと認めます。よって、両案とも委員長報告のとおり可決いたしました。

 次に、日程第四、細川律夫君外二名提出、危険な運転により人を死傷させる行為の処罰に関する法律案につき採決いたします。

 本案の委員長の報告は否決であります。この際、原案について採決いたします。

 本案を原案のとおり可決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(綿貫民輔君) 起立少数。よって、本案は否決されました。

     ――――◇―――――

 地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出)、学校教育法の一部を改正する法律案(内閣提出)及び社会教育法の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明

議長(綿貫民輔君) この際、内閣提出、地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案、学校教育法の一部を改正する法律案及び社会教育法の一部を改正する法律案について、趣旨の説明を求めます。文部科学大臣遠山敦子君。

    〔国務大臣遠山敦子君登壇〕

国務大臣(遠山敦子君) ただいま議題となりました三法案につきまして、その趣旨を御説明申し上げます。

 今日の教育改革を進めていくためには、学校教育、社会教育及び地方教育行政の各般にわたる改革を進めていくことが必要であります。このような観点から、今回、地方教育行政の組織及び運営に関する法律、学校教育法及び社会教育法の三法について改正法案を提出することとした次第であります。

 まず、地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案につきまして御説明申し上げます。

 地方分権の時代にふさわしい地方教育行政制度を実現するためには、教育委員会が、地域住民や保護者の意向をより一層的確に把握し、その信頼にこたえて責任を果たすよう改善を図ることが必要であります。

 この法律案は、このような観点から、第一に、教育委員会の活性化を図るため、教育委員会の委員の構成に配慮すべきことや、教育委員会の会議を原則公開とすること、また、教育行政に関する相談体制の整備を図ることとするとともに、教職員の人事に関する校長の意見をより一層反映させることについて、所要の措置を講ずることとしております。

 第二に、都道府県教育委員会は、児童生徒に対する指導が不適切であり、研修等必要な措置が講じられたとしても指導を適切に行うことのできない市町村の県費負担教職員を免職し、引き続いて都道府県の教員以外の職に採用することができるようにしております。

 第三に、教育委員会が、地域住民や保護者の意向、生徒の進路希望等を踏まえながら、公立高等学校の通学区域をより弾力的に設定できるようにするため、これに係る規定を削除し、通学区域の設定を教育委員会の主体的判断にゆだねることとしております。

 次に、学校教育法の一部を改正する法律案につきまして御説明申し上げます。

 学校教育については、児童生徒の社会性や豊かな人間性をはぐくむ観点から、また、一人一人の能力、適性に応じた教育を進め、その能力の伸長を図る観点から、さらには、児童生徒の問題行動への適切な対応を図るなどの観点から、その改善及び充実を図ることが必要であります。

 このため、この法律案は、第一に、小学校、中学校、高等学校等において、社会奉仕体験活動、自然体験活動等の体験活動の充実に努めるとともに、その実施に当たり、関係団体及び関係機関との連携に配慮することとしております。

 第二に、小学校及び中学校における出席停止制度について要件を明確化し、手続に関する規定を整備するとともに、出席停止期間中の学習の支援等の措置を講ずることとしております。

 第三に、大学が特にすぐれた資質を有すると認める者は、高等学校を卒業した者等でなくても、対象分野を問わず、当該大学に入学させることができることとするとともに、大学院へも優秀な成績をおさめた者が飛び入学できることとするほか、大学には夜間において授業を行う研究科及び通信による教育を行う研究科を置くことができることを明確化し、あわせて、名誉教授について所要の改正を行うこととしております。

 第四に、盲学校、聾学校及び養護学校の寄宿舎に置かれる寮母の名称を寄宿舎指導員に改めるものであります。

 次に、社会教育法の一部を改正する法律案につきまして御説明申し上げます。

 近年の都市化、核家族化等に伴い、家庭や地域の教育力の低下が懸念されておりますが、二十一世紀を担う心豊かな、たくましい子供たちをはぐくむためには、家庭や地域の教育機能を高めることが不可欠となっております。

 この法律案は、このような観点から、第一に、教育委員会の事務として、家庭教育に関する学習の機会を提供するための講座の開設等の事務を規定するとともに、社会教育委員等に家庭教育の向上に資する活動を行う者を委嘱することができるようにしております。

 第二に、教育委員会の事務として、青少年に対し社会奉仕体験活動、自然体験活動その他の体験活動の機会を提供する事業の実施等の事務を規定することといたしております。

 第三に、社会教育主事となるための実務経験の要件を緩和し、社会教育に関係のある事業における業務であって文部科学大臣が指定するものに従事した期間を評価できるようにすることといたしております。

 第四に、国及び地方公共団体が、社会教育に関する任務を行うに当たって、学校教育との連携の確保に努めるとともに、家庭教育の向上に資することとなるよう必要な配慮をするものとする旨を規定することといたしております。

 以上が、地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案、学校教育法の一部を改正する法律案及び社会教育法の一部を改正する法律案の趣旨でございます。(拍手)

     ――――◇―――――

 地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出)、学校教育法の一部を改正する法律案(内閣提出)及び社会教育法の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑

議長(綿貫民輔君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。順次これを許します。大石尚子君。

    〔大石尚子君登壇〕

大石尚子君 民主党の大石尚子でございます。

 民主党・無所属クラブを代表して、地方教育行政の組織及び運営に関する法律、学校教育法、社会教育法、この一部を改正する法律案に関連いたしまして、小泉総理大臣と遠山文部科学大臣に質問させていただきます。(拍手)

 まず、小泉総理大臣にお尋ねいたします。

 小泉内閣は「聖域なき構造改革」に取り組む改革断行内閣であると称しておられますが、総理は、我が国の教育の現状をどのように把握され、教育の分野において断行すべき改革とはいかなるものとお考えでしょうか。

 一方、総理は、去る五月九日の本会議で、鳩山由紀夫民主党代表の質問に対して、森内閣の政策のうち、いいものは継続していく、変えるべきものは変えていくと答弁しておられます。

 森前総理は、本国会を教育改革国会と位置づけたいと述べておられました。さらに、IT革命を今国会の重要政策として掲げられました。その結果、教育の分野においても、新しい情報通信機器やデジタル映像メディアを積極的に導入することになりました。小泉総理も、所信表明演説において、日本が五年以内に世界最先端のIT国家となることを目指すと述べておられます。

 情報通信技術革新の光は、当然のこと、影を落としますが、教育の世界にこそ、その影が強く落ちてきて、次代に大きな災いを残すのではないかと心配いたしております。

 それでは、IT革命が教育の分野に及ぼす影の部分とは何か。私が一番恐れておりますのは、今後、いや応なく一般の子供の生活環境にもIT導入の波が押し寄せてきて、児童も一層多くの時間をパソコンと過ごすようになり、心身の成長発達にマイナスの影響を及ぼすのではないかということにございます。例えば、視力や体力、運動能力の低下、感性・情緒の発達障害、人間関係障害、情動の抑止力の低下、虚構の世界と現実の世界との混同による問題行動の増加。このような社会病理をしっかりと見定めた上で、子供たちに及ぼす負の部分を補うに足るだけの健全育成のプログラムを意図的につくり出さなければならない時代がまさに来ていると考えます。

 IT機器そのものやIT革命の、子供の成長発達に及ぼす影響に関する広範な調査研究成果の上に立って、小学校教育の場にIT革命を持ち込むべきと考えますが、これらの問題も含めてお答えいただきたいと思います。

 次に、総理に、教育改革の目玉法案として提出されている教育三法について伺います。

 どうも私には、この三法が現在の教育の危機を救う根本療法となる改革法案とは実感できなくて、むしろ教育現場の諸問題に対する対症療法的法案に思えてならないのです。対症療法では、いつまでたっても真の教育改革にはなりません。小泉総理の忌憚ない御意見をお聞かせください。

 次に、遠山文部科学大臣にお尋ねいたします。

 大臣は、昭和三十七年、文部省に入られて以来、女性初のキャリアとして教育行政の中枢で、身をもって戦後教育の変遷を体験してこられました。このたび、小泉内閣の一員として、文部科学行政全般にわたり、積極的かつ大胆な改革を速やかに進めていく決意を示されたことは、大変重要な意味を持っていると思うのです。今こそ、遠山大臣でなければなし得ない、日本の教育改革に取り組んでいただけるものと楽しみにしております。

 そこで、次の五点についてお尋ねいたします。

 一点目。申すまでもなく、我が国の憲法第二十六条は、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」とうたい、教育基本法第三条においては、「すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであつて」と記されております。

 「能力に応じて」と法に明記されているにもかかわらず、我が国の学校教育は、なぜここまで画一的になり、出口平等論に発展し、競い合いを否定してしまったのか。今日の教育の危機的状況を生んだ背景の一つがそこにあるのではないでしょうか。大臣は、その原因をどう把握され、総括しておられるのか、お聞きいたします。

 子供は宝、磨けば磨くほど、それぞれすてきな光を放つ玉と私は思っております。

 二点目。されど、一人一人の子供の能力、個性などの違いに目を向ければ向けるほど、ないがしろにされてはならないことは、だれもが共通に理解し、守らなければならない社会のルール、規範、モラル、マナー、行動様式などを身につけることだと思います。その重要性に目が向けられてこなかった。この問題は、基礎学力の習熟と同等に取り組むべき重要な課題と感じております。

 現代のモラルの荒廃は、自然界とともに生き、目に見えないものを大切にしてきた日本の生活文化や知恵を切り捨てて、長い人類の流れの中での命のバトンタッチをないがしろにしてきたことのもたらした負の遺産だと言えるのではないでしょうか。モラルの荒廃について、その原因と具体的対策についてお考えをお聞かせください。

 三点目。体験学習の重要性は、私も日ごろから痛感いたしております。現実の体験から得られる感動の積み重ねこそ、感性や情緒の発達、さらには、偏りない人格の形成に重要な意味を持つと考えております。

 私は、常日ごろから、三つの感動体験のチャンスを意図的に教育の過程にカリキュラムとして用意すべきだと主張しております。三つの感動体験とは、人間関係から得る感動、自然の持つ人知を超えた大きな力や美しさから受ける感動、そしてもう一つ挙げたいのは、芸術作品から受ける感動でございます。言いかえれば、人、自然、芸術の美しさに出会ったときに、心が震え、洗われる。この作用がバランスのとれた人間形成に貴重な効果をもたらす、このことを重視して、私は、これらの体験活動を意義づけたいと考えております。

 殊さらに社会奉仕体験と銘打たなくても、社会体験、人間関係体験ではいけないのでしょうか。大臣の御見解はいかがですか。

 四点目。いわゆる指導不適切で改善の可能性が認められない教員を、任命権を有する地方公共団体の職員に、本人の同意なくして転職させることができるという法案の内容についてお尋ねいたします。

 子供たちの人生に及ぼすダメージを少しでも少なくする意味では、一歩前進かと思います。しかし、該当する教員の立場に立てば、その処遇が妥当であると納得できる、信頼性の高い公正な評価基準が必要でありましょう。さらに、不適格教員を受け入れる側に立てば、職員定数の削減が求められている中で、市町村教育委員会の要望にどこまで応じることができるのでしょうか。

 財源の裏づけもなく、都道府県・政令市教育委員会等が不適格教員のリハビリセンターになるというのがこの法改正のもたらす現実ではないかと危惧いたしております。大臣はどのように認識しておられますでしょうか。

 五点目。総じてこの教育三法は、一、二点を除いて、地方によっては既に現行法により実行している内容を後追いして法制化するものであって、さきに指摘いたしたように、根本的な教育改革法案とは考えにくいものです。

 教育の命は、そこに携わる人、人材です。子供たちの教育に携わる人材を、現職の研修も含めて、どう育成できるか、この課題を解決できる抜本的改革法案が欲しかったと思います。残念です。文部科学大臣のお考え並びにこれからの取り組みについてお聞かせください。

 なお、私たち民主党の教育基本問題特別調査会では、本年二月、「二十一世紀の教育のあり方について」と題した中間報告をまとめました。その中で、二十一世紀型の教育を実現するには、社会全体にわたる幅広い視点が必要であり、教育を日本社会、国際社会の観点から位置づける、新しい時代にふさわしい、総合的教育法体系の必要性を指摘いたしております。

 青少年育成の基本は家庭ですが、国及び地方自治体、地域社会、企業等には支援の義務があり、責任があることを法により明記すべきであると私は考えます。

 その意味では、教育に限らず、青少年の保護育成を基本とする法制度を整備したり、さらには、現在、民主党も提出に向けて準備中である芸術文化基本法等も制定しながら、教育や教育環境に関連する法体系全体を見直し、過不足を論じていくべきだと考えております。小泉総理大臣はいかがお考えでございましょうか。

 最後に、私たち民主党一同、小泉内閣と競い合って、二十一世紀を思う真の日本の教育改革に取り組んでまいることをお誓いして、私の質問を終わります。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 大石議員にお答えいたします。

 我が国の教育の現状及び教育改革、さらには、教育三法は対症療法であり、真の教育改革にはならないのではないかという御指摘とお尋ねでございます。

 長年、教育を専門にされてこられた大石議員でありますので、よくおわかりのことだと思いますが、教育論というものは、百人寄れば百人、教育論があると言われるぐらい、いろいろな方が独特の見解を持っていると思いますが、大ざっぱに言って、やはり人間として、現在生きているのは自分一人の力ではない、多くの人に支えられてこの社会に自分は生きているんだという感謝の気持ちを持ちながら、どうやって自分の国に誇りと自信を持って生きていけるか。

 特に、私ども子供のころ、先生や先輩から教えられたことは、望ましい人間というのは公私相半ばできる人間なんだということを言われて、なるほどなと。どういうことか。人生、自分が楽しむと同時に、公のために尽くすことに喜びを感ずることができる人間、これが公私相半ばできる人間なんだと、子供のころ、よく言われました。(拍手)本当にそうだなと。

 そういう意味において、我々は、人格向上というのが教育の一つの大きな目標だと思いますが、そのような人材が日本国に大いに輩出されるような教育改革を目指さなきゃいけないと思っています。

 大変さまざまな問題が生じている今日でございますが、大きな、遠大な目標を持ちながらも、今言ったような御指摘の問題、同感できるところが多いわけでありますので、いろいろ、教育改革でも協力できる点は協力をしていただきたいと思います。

 当面、今回の法案は、教育改革国民会議からの報告を受けまして、教育改革の中で早急に対応すべきものについて取りまとめたものでありまして、いずれも、時宜を得た、重要なものと認識しております。

 本法案のみならず、真の教育改革を実現するため、残された施策についても、今後、適切に対応していくようお互い努力していきたいと思います。

 IT革命が教育分野に及ぼす影の部分についてであります。

 情報化の影の部分への対応については、中央教育審議会答申等の指摘を踏まえまして、小学校教育において、コンピューターなどの情報手段の活用に当たって人間関係や児童の心身の健康への影響などに十分配慮するよう指導しております。

 また、コンピューター等を通した体験は、あくまで間接体験であり、疑似体験であります。実際の社会体験、自然体験などの直接体験こそが重要であるという認識を持ちながら、学校教育における体験活動を充実し、豊かな人間性や社会性の育成に努めてまいりたいと思います。

 また、教育に関する法体系の見直しについてであります。

 教育全般についてさまざまな問題が生じておる今日、教育の根本にさかのぼった改革を進めていく必要があるという御指摘は、同感であります。

 現在、文部科学省におきまして、教育改革国民会議の最終報告を受け、教育改革を全体的、総合的にとらえた二十一世紀教育新生プランを策定し、教育改革を進めているところでありまして、まずは、今国会に提出した教育改革関連法案の成立に全力を尽くしていくことが重要であると考えております。

 残余の質問については、関係大臣から答弁させます。(拍手)

    〔国務大臣遠山敦子君登壇〕

国務大臣(遠山敦子君) 大石尚子議員の御質問にお答え申し上げます。

 まず、我が国の学校教育が画一的になった原因についてのお尋ねでございます。

 これまで、我が国の教育は、国家社会の発展に大きな役割を果たしてきたものの、欧米の先進諸国に急速に追いつこうとする中で、教育の機会均等や効率性を重視する余り、ともすれば画一的なものとなっている面があることは、確かでございます。

 このため、政府としても、児童生徒の個性や能力に応じたきめ細かな教育を実現する観点から、教育改革の推進に努力してまいっているところであります。

 今後は、さらに、新しい学習指導要領の実施や教職員定数の改善によって、個に応じた指導を推進するなど、各般の施策に取り組み、一人一人の個性や能力を最大限に伸ばす教育の充実に努力してまいります。

 次に、今日のモラルの荒廃の原因と、その具体的対策についてのお尋ねであります。

 社会のモラルの低下については、少子化や都市化の進展を背景とした家庭や地域の教育力の低下あるいは豊かな時代における生活体験、自然体験の不足、社会性の欠如など、さまざまな要因があると考えられます。この問題は、子供だけの問題ではなく、大人を含む社会全体の問題と認識しております。

 このため、何よりも、子供を育てるべき我々大人がみずから責任を自覚し、学校、家庭、地域社会が一体となって、道徳教育の充実、学校内外を通じた体験活動の推進、家庭教育の充実など、子供たちの心の教育を推進するための諸施策に積極的に取り組んでまいりたいと考えております。

 さらに、体験学習に関する御質問でございます。

 これからの教育においては、児童生徒の社会性や思いやりの心など、豊かな人間性をはぐくむことが極めて重要であります。

 このため、新しい学習指導要領におきましては、社会奉仕の精神を涵養する体験、自然体験、幼児、高齢者等との触れ合い、芸術作品のよさや美しさを感じ取る鑑賞など、さまざまな体験学習について充実を図ったところであります。

 また、今回の法改正におきましては、今日の児童生徒をめぐる状況を踏まえて、社会奉仕体験活動と自然体験活動を初めさまざまな体験活動について、広くその充実を図ることといたしております。各学校におきましては、それぞれの実態に応じ、御指摘の社会体験、人間関係体験を含め、さまざまな体験活動が工夫されることが大切であると考えております。

 次に、指導が不適切な教員の転職に関する認識についてのお尋ねであります。

 本法律案では、都道府県教育委員会の行う教員以外の職への転職の措置が適正かつ公正に行われますよう、指導が不適切であるかどうか等を判断するための手続を教育委員会規則で定めることとしております。

 また、本法律案は、都道府県の教員以外の職について、その適性や能力を有する者を定数の範囲内で転職させようとするものでありまして、御指摘のように、都道府県教育委員会が教員のリハビリセンターになるとは考えておりません。

 このたびの教育改革三法案についての御質問でございます。

 今回の法案は、教育改革国民会議の提言等を受け、早急に対応すべきものについて、法改正を図ろうとしております。

 この中には、既に現場の努力によって進められてきている施策も一部にはありますが、飛び入学や、指導が不適切な教員を教員以外の職に転職させるための措置など、今回の法改正によって現行制度の改善を図ったり、新たに対応が可能となるような措置が盛り込まれておりまして、これからの教育改革を推進していくための極めて重要な法案であると考えております。

 今回の法改正を通じ、現在の教育が抱えるさまざまな課題に適切に対処してまいりたいと考えます。

 最後に、子供たちの教育に携わる人材の育成についてのお尋ねであります。

 学校教育の成否は、その直接の担い手である教員の資質、能力に負うことが極めて大きく、その資質、能力の向上のためには、養成、採用、研修の各段階を通じた施策の体系的な推進が必要でございます。

 このため、教員としての実践的な能力の育成などを重視した教員養成の改善、さまざまな社会経験の評価など、人物を重視する方向での教員採用の改善、教職経験や専門に応じた研修や社会体験研修の充実、さらには、大学院修学休業制度の活用などによる教員の自主的な研修の奨励等に取り組んでいるところでございます。

 以上でございます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(綿貫民輔君) 西博義君。

    〔西博義君登壇〕

西博義君 公明党の西博義でございます。

 私は、公明党、自由民主党、保守党を代表して、学校教育法の一部を改正する法律案など、教育関連三法案に関連して質問をいたします。(拍手)

 先日、「開花した「学びの社会」」というタイトルの論文を読みました。それは、学びの社会への道を歩むスウェーデンの取り組みを東京大学教授の神野直彦さんが紹介したものです。きょうは、その学びの社会への取り組みを踏まえながら、教育改革のあり方について総理及び大臣の考えをお伺いし、続いて、法律案についてお尋ねしたいと思います。

 一九九〇年代は、スウェーデンも、日本と同様に不況に見舞われました。景気を回復するとともに財政を再建するという、今の日本にも共通する、非常に難しい政策的な課題に対して、スウェーデンでは、国民の能力を高める公共サービスへの財政支出を重視しました。経済成長と雇用の確保、そして社会的正義、すなわち所得の平等な分配を同時に実現しようとするには、国民が学ぶことによってそれぞれの能力を高めるしかないと考えたからであります。人が学ぶことによって能力を高めれば、雇用され、所得間格差も縮小して、生産性も向上していくということでございます。

 さて、私がスウェーデンの取り組みに注目しているのは、学びの社会が経済成長のために目指されたわけではないという点、つまり、経済成長という目的の手段として、人間の学び、すなわち教育を位置づけてはいないということであります。日本では、学びは、目的ではなく手段として位置づけられる傾向がありました。今でも、学びは、経済成長の重要な手段として論じられることが多いと思います。

 人間が人間として生きることは、学ぶことであります。人間が人間である限り、だれもが学ぶ欲求を持っています。スウェーデンでは、人間が人間として成長していくプロセスである学びこそが、社会の目的として位置づけられているわけでございます。

 この学びの社会の構築という視点がこれからの教育改革には重要ではないかと考えておりますが、小泉総理大臣の御意見をお伺いしたいと思います。

 手段としての教育は、画一的な知識を詰め込む、知識偏重の学校教育によって担われてきました。公明党は、教育のための社会という教育観のもと、これまでの学校任せの体質を見直し、家庭、地域が支える、開かれた学校の構築を提案しています。そして、知恵や創造性または豊かな人間性は、家庭や地域の人たちの生活に学び、さまざまな人々とともに生きることによって培われるとの観点から、知恵創出型の教育を提案しています。より具体的には、学習内容としては、職業体験やボランティア活動、自然体験など、体験学習の普及、拡充を積極的に図る必要があると考えております。

 レイチェル・カーソンは、「センス・オブ・ワンダー」という著作で、知ることは感じることの半分も重要ではない、また、自然が繰り返すリフレイン、夜の次に朝が来て、冬が去れば春になるという確かさ、その中には、限りなく私たちをいやしてくれる何かがあるのですと述べておりますが、現在の子供たちに不足しがちな体験学習の機会を提供するため、今回の学校教育法、社会教育法の改正では、学校が体験学習の充実に努め、市町村教育委員会はそのための支援をすることとしております。

 多くの団体が参加している自然体験活動推進協議会などNPO等の協力を得ながら、今後、政府は、指導員の育成や、既存の公園、自然の家などの施設を有効利用できるよう、積極的に基盤整備に取り組んでいくべきではないかと思いますが、御意見をお伺いしたいと思います。(拍手)

 次に、出席停止について質問いたします。

 現行の学校教育法第二十六条には、市町村教育委員会は、保護者に対して、児童の出席停止を命ずることができると規定されています。義務教育を受ける子供に対しては、義務教育を保障するという観点から、停学や退学は認められていません。こうした意味で、出席停止は、あくまで義務教育制度の例外であり、子供の教育を受ける権利を制限するという性質を持つものであり、慎重な取り扱いを要する措置であります。

 したがって、出席停止に至らぬように、事前に児童生徒への指導を十分行えるよう、学校支援策の充実を図ることが最優先課題であると思います。そのために、問題行動に取り組む学校への支援策を充実することが必要となりますが、地域サポート機関の設置など、学校支援策にどのように取り組むのか、文部科学大臣に御説明をいただきたいと存じます。

 また、やむを得ず出席停止措置を行う場合には保護者の意見を聴取することを法律に明記することで、手続をより厳格にいたしました。保護者の意見聴取はどのような意味を持つのかについても、あわせて説明していただきたいと思います。

 さらに、理由、期間等の文書交付など、教育委員会の説明責任を明確にいたしましたが、こうした規定により、これまでは学校長への権限委任や口頭での処分など、はっきりとした根拠なしに運用で行われてきたケースもありましたが、今後はそうしたあいまいな運用はできないことを、文部科学大臣に改めて確認をしておきたいと思います。

 教員の配置転換に関して質問いたします。

 年頭から全国各地で私どもが行ってきた教育対話の中で、子供たちからの意見で最も多かったことは、教員に関する問題でした。今回、地方教育行政組織及び運営に関する法律の一部改正案では、指導力が不足し十分な適格性を持たない教員を免職した上で、都道府県の職員として採用することとしております。

 私は、教育は人と人との触れ合いの中でこそ触発されるもので、子供にとって本当に必要なものは、よい教育者であると思っております。それは、子供にとって教師が最大の教育環境だからです。子供たちは、伸びよう、成長しようという力にあふれています。その内なる力を触発できる教師を育成することが重要な課題であると思います。

 こうした考えから、教師がみずからを磨き、成長する機会として、教員の長期研修制度の導入を早くから訴えてまいりました。今度の新しい教職員定数配置改善計画に長期社会体験研修に関する定数が盛り込まれましたので、教員の皆様にはこの制度を大いに活用していただきたいと思います。

 しかし、中には、残念ながら、教員に不向きな人もいることも事実です。子供に与える教員の影響がよかれあしかれ大きいだけに、不適格な教員の問題は見過ごすことはできません。当然、慎重な配慮は必要でありますが、不向きな教員に対して転職させる道を開いたことは、一歩前進であると思います。仮に教員としては不向きであっても、他の仕事で頭角をあらわす可能性は十分あります。新しい場所で新しい仕事をチャンスととらえ、生きがいを見つけていただければと思っております。

 その意味から、教育委員会所管事務に限らず、できる限り広い範囲で配置転換されるよう、政府は関係機関とよく協議していただきたいと文部科学大臣にお願い申し上げます。どうお考えか、御答弁願いたいと思います。

 教育者ドロシー・ロー・ノルトがつくった、「子は親の鏡」という詩があります。その一部を紹介したいと思います。

  けなされて育つと、子どもは人をけなすようになる

  とげとげした家庭で育つと、子どもは乱暴になる

  不安な気持ちで育てると、子どもも不安になる



  励ましてあげれば、子どもは自信を持つようになる

  広い心で接すれば、キレる子にはならない

  誉めてあげれば、子どもは明るい子に育つ

  愛してあげれば、子どもは人を愛することを学ぶ

  認めてあげれば、子どもは自分が好きになる



  守ってあげれば、子どもは強い子に育つ

  和気あいあいとした家庭で育てば、子どもはこの世の中がいいところだと思えるようになる

 この詩には、非常に豊かな知恵が多くちりばめられていると思います。

 現在、いじめ、不登校、学級崩壊など、子供たちの問題行動を背景にして、教育論議が活発に行われております。私は、こうした子供たちの問題行動や、さらには児童虐待問題など、子供をめぐる問題に根本的に対処するためには、学校教育改革だけに偏らず、家庭での子育てにも力点を置く必要があると考えております。

 社会教育法改正では、市町村教育委員会が、家庭教育に関する学習の機会を提供する集会などに関する事務を行うこととなっております。学びの社会では、だれもが学習者です。大家族の中で、子育ての先輩であるおばあちゃんやおじいちゃんから、新米のお母さん、お父さんがいろいろな知恵、知識を学んだように、子育てや家庭教育について学んでほしいと思います。

 そのためのよい機会を提供するため、教育委員会だけでなく、関係する機関とともに、子育て、家庭教育支援の一層の充実を図るよう、最後に強く文部科学大臣に要請して、私の質問を終わります。

 ありがとうございました。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 西議員にお答えいたします。

 学びの社会の構築という視点が重要ではないかとお尋ねであります。

 同感であります。

 私の好きな言葉に、「少くして学べば壮にして為すあり、壮にして学べば老いて衰えず、老いて学べば死して朽ちず」という言葉があります。江戸時代の佐藤一斎の言葉であります。

 「少くして学べば壮にして為すあり」、なすありというのは有為、若いうちに学べば、壮年になって、大人になって有為な人材になる。「壮にして」、大人になって学べば「老いて衰えず」、年とっても衰えない。「老いて学べば死して朽ちず」、年とって学べば死んでも腐らない。これはまさに学びの重要性を指摘した言葉で、私の大好きな言葉であります。(拍手)学びの社会の構築というのもこのことを御指摘しているのではないかと思いまして、うなずきながら拝聴しておりました。

 学ぶ意欲のある人ができるだけ学ぶことができるような機会を提供する、これは政府としても大変重要なことであると思います。その振興策に今後とも鋭意努めていきたいと思います。

 残余の質問は、関係大臣に答弁させます。(拍手)

    〔国務大臣遠山敦子君登壇〕

国務大臣(遠山敦子君) 西博義議員の御質問にお答え申し上げます。

 総理の御答弁で尽きているようには思いますけれども、個別の御質問でございますので、順次お答え申し上げます。

 まず、体験学習の機会を提供するため積極的に基盤整備に取り組むべきではないかとのお尋ねであります。

 御指摘のように、子供たちの社会性や豊かな人間性をはぐくむためには、体験活動の機会を充実することが極めて重要と考えます。

 このため、関係省庁とも連携しつつ、全国子どもプラン等を通じ、子供たちの自然体験活動や社会奉仕体験活動などの機会を充実するための施策を推進しているところであります。また、民間団体が行う自然体験活動のリーダー登録制度に対する支援など、指導者の育成に努めているところであります。

 今後とも、体験活動の機会を充実するための基盤整備に努めてまいりたいと考えております。

 次に、地域サポート機関の設置などについてのお尋ねであります。

 児童生徒の問題行動に対応するためには、学校、家庭、地域が一体となった取り組みを進めることが重要であります。

 このため、御指摘のように、問題行動を起こす児童生徒に対しましては、個々の問題行動の状況に応じて、学校、教育委員会、関係機関の職員から成るサポートチームを組織し、継続的に児童生徒への指導、支援に当たることが効果的であると考えております。

 我が省といたしましても、今後、このような児童生徒に対する支援を行う地域のシステムづくりについて、積極的な支援をしてまいりたいと考えております。

 次に、出席停止措置に係る保護者の意見聴取についての御質問であります。

 出席停止制度は、教育を受ける権利にかかわる重大な処分であり、出席停止を命ずるに当たっては、この措置の公正を確保し、児童生徒側の権利保護を図ることが重要であります。

 通常、当該児童生徒や保護者に対しましては、出席停止に至るまでの指導の過程におきまして、その意見を繰り返し聞いているところでありますが、今回の改正におきましては、出席停止を命ずる段階におきましても、法令に基づく意見聴取の手続を義務づけたものでございます。

 これらによりまして、出席停止を命ぜられる保護者の意向がよりよく聴取されますとともに、この制度についての保護者の理解も深められることになり、その結果、出席停止制度の適正な運用がなされるものと考えております。

 出席停止の手続についてのお尋ねであります。

 処分の伝達に当たりましては、現状では口頭による場合が少なくないと承知いたしておりますが、出席停止制度の一層適切な運用を期するため、今回の法改正によりまして、理由及び期間を記載した文書の交付を義務づけることとしたところでございます。

 なお、出席停止の措置は市町村教育委員会が行うこととされておりまして、校長に権限を委任する場合は、教育委員会規則等の明確な根拠が必要であります。今回の法改正を契機としまして、適切な手続により出席停止の措置が講じられるよう指導してまいりたいと考えます。

 さらに、教員の配置転換についてのお尋ねであります。

 市町村立の小中学校等の教員につきましては、都道府県教育委員会が任命権者として、採用、人事異動、研修等を行っております。

 これらの教員のうち、指導が不適切な教員が生じた場合には、都道府県教育委員会が責任を負うべきであることから、本法律案における転職先は都道府県教育委員会が任命権を有する職といたしてはおりますが、転職後は、その者の能力、適性等によっては知事部局等に出向させることも可能であると考えます。

 最後に、関係する機関とともに子育て、家庭教育支援の一層の充実を図るべきとのお尋ねであります。

 子供の問題行動や児童虐待などに対処するためには、御指摘のとおり、学校教育の改革とともに、家庭教育への支援を充実させることが重要であると考えております。西議員が引用されました「子は親の鏡」の詩が意味するところは、私も心から賛同するものであるからです。

 我が省におきましては、これまでも、厚生労働省と連携して、家庭教育手帳等の作成、配布、子育てサポーターの配置などによりまして、親に対する情報の提供や、地域で子育てを支援する体制の整備に努めているところであります。

 また、今年度から新たに、就学時健診や市町村の保健センター等における乳幼児健診等の機会を活用した子育て講座を全国的に実施することといたしております。

 今後とも、関係機関と連携して、社会全体として子育て・家庭教育支援施策の充実が図られるよう努めてまいります。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(綿貫民輔君) 樋高剛君。

    〔樋高剛君登壇〕

樋高剛君 自由党の樋高剛でございます。

 私は、自由党を代表して、ただいま提案のありましたいわゆる教育三法案に対して質問を行います。(拍手)

 教育の根本は、人間の尊厳の大切さを子孫に伝えることにあります。この観点から、私は冒頭に、ハンセン病判決に関する小泉総理の考え方をただしたいと思います。

 熊本地方裁判所のハンセン病判決は、人間の尊厳を確立させることにかかわる極めて重要な判決であり、立法府や行政府のあり方に画期的な反省を求めていることを踏まえると、その教育的価値ははかり知れません。この判決に対し小泉総理が控訴を断念したことは、立派な判断だと評価するものであります。

 しかし、控訴断念に当たって小泉総理がコメントした、極めて異例な判断ですがという部分は、重大な問題を含んでいます。小泉総理は、行政本来の当然の判断であるとなぜ言えないのでしょうか。この点について、まず総理にお伺いします。

 政府が準備していたのは、和解のための控訴というものでした。これは、人間の尊厳をお金で買い、熊本地裁の判決を消そうとすることにほかなりません。二十五日の首相談話には、「本来であれば、政府としては、控訴の手続を採り、」「上級審の判断を仰ぐこととせざるを得ないところです。」との部分があります。これこそ異例で異常なもので、これほど憲法の精神とハンセン病判決をないがしろにしたものはありません。

 小泉総理が極めて異例な判断とマスコミに発表し、テレビも新聞も、自民党幹事長さえ、超法規的判断を小泉総理の恩情や政治判断で行ったという趣旨のことを言っております。人間の尊厳に関する問題を恩情や政治判断で行ったとするなら、これほど元患者の方々や家族の人権を冒涜するものはありません。(拍手)

 法が国家のみのために存在するものなら、首相談話のとおりです。法が人間、国民のために存在するものなら、憲法が守るべき最高の価値は、人間の尊厳にあります。控訴断念は、法の原理、法の支配から見ても当然のことであります。小泉総理の判断は、行政本来の姿を示したにすぎません。マスメディアもしっかりしていただきたい。法や政治の真実は何かを見詰め直してほしいものであります。

 小泉総理がコメントした極めて異例な判断という部分と、首相談話の「上級審の判断を仰ぐこととせざるを得ない」の部分について、取り消すべきだと考えますが、改めて小泉総理の所見を伺いたいと思います。(拍手)

 和解のための控訴、すなわち、お金で人間の尊厳問題を処理しようという構想から、控訴断念、救済措置の発表に至るプロセスは、政府・与党がハンセン病判決を巧妙に政治的に利用したものと言わざるを得ません。これらのことにかかわった政府・与党の関係者は、本当の人間の尊厳の意味を理解しているのかどうか、疑問であります。

 さて、小泉総理、教育三法案は森前総理の肝いりで構想され、提案されたものです。森前総理は文教族として著名であります。また、最近、あなたが離脱された森派の会長に復帰なさいました。

 私は、日本の教育を荒廃させた責任は自民党の文教族にあると推測しております。文部官僚と癒着して文教利権を求め、自己中心主義と金銭万能主義を容認する教育を広めたのはこの人たちであることを多くの国民は知っております。この人たちは、日本の教育をゆがめてきたことを反省すべきであります。

 また、日本の政治を堕落させたのは自民党の派閥政治だということは、小泉総理を初め、心ある自民党の人たちが一番知っていることであります。

 小泉総理、あなたが本当に、自民党を変え、日本を変えたいと言うのであるならば、まず、森前首相に、派閥を解消すべきだと提案すべきだと思いますが、いかがでしょうか。

 砂漠の国アラブのことわざに、言葉は雲、行いは雨というのがあります。日本には言行一致という明治維新の革命の思想があります。総理就任約一カ月という間に、あなたは随分と改革という言葉の雲を言い放たれました。果たして雲を雨とできるのかどうかを、国民だけでなく世界がかたずをのんで見詰めています。あなたがこの期待を裏切れば、日本がどうなるか、想像を絶します。自由党は、この言葉の雲が砂漠における恵みの大雨となることを期待しています。

 小泉総理では本物の改革はできないとの見方がありますけれども、私はそうは思いません。軽率な結論はまだ言うべきでないと思います。しかし、あなたの政権が他の派閥との政策合意などで、事実上、自民党の派閥政治の思惑で成立したことも否定できないのであります。

 約半世紀、我が国では自民党政治が続いてきました。その間、自民党文化が定着し、日本国憲法より心理的に上位の規範として機能し、それが利益と税金のばらまきによって、偏った豊かな国の成功に役立ったことも事実であります。

 教育は国家の根幹に当たるものです。教育を論じる場合、国家の根幹にかかわるものを論じなければなりません。しかし、残念ながら、過去五十年にわたる自民党文化が、今日の教育の荒廃や日本の衰退の原因になっていると思います。

 自民党文化には、三つの原理があります。一つ目は、なれ合い主義です。二つ目は、なし崩し主義です。三つ目は、何でもあり主義です。これを日本の三な主義といいますけれども、日本の教育を崩壊させた元凶ではないでしょうか。小沢自由党党首はこの三な主義と十年間闘い続け、ようやく国民に小沢改革の真意が理解されるようになったのであります。

 小泉総理、あなたの政権がこの自民党文化の上に立つ限り、本物の改革を期待することはできないと思います。諸外国も厳しい眼力を持って、我が国を見詰めております。総理は、自民党文化を崩し、新しい健全な政治文化をつくるおつもりがあるのですか、お答えいただきたい。

 また、自民党文化に基づいて森前首相が構想した教育三法は、小泉政権では審議を凍結し、改めて構想し、提案し直すべきではないでしょうか。総理の所見を伺いたいと思います。

 自由党は、日本一新という政治理念と基本政策を提示し、日本の再生に全力を挙げております。最も中心として力を入れていることは、日本人の心と誇りを取り戻すことであります。そして、戦後保守政治が置き去りにしてきた教育や地域共同体の崩壊から日本を立ち直らせることであります。そして日本を、自己中心的社会から規律ある自由に基づく開かれた社会に改めることを主張しております。

 そこで、教育基本法についてお伺いします。

 戦後教育の指針である教育基本法をめぐって、強い改正論があります。小泉総理は教育基本法のどの部分を評価し、どの部分に問題があるのか、所見を伺いたいと思います。

 教育基本法に書かれている論理を批判、否定するつもりはありませんが、人類の福祉と個人の価値といった、類と個についての規定はありますけれども、これだけでは人間は育っていけません。その類と個の間に、家庭や勤務先、故郷や社会共同体である、種の役割が必要であります。この種を、青少年にしつけを通じて人間形成の基本を学ばせる場とすべきであります。

 これらが教育基本法に欠落しており、その整備改正が必要と思いますが、文部科学大臣の所見をお伺いします。

 次に、奉仕活動の義務づけについてであります。

 学校教育における奉仕活動の実施は、個人の自発性の基礎を養うものであります。批判もありますけれども、学校において、子供たちにボランティアの意義や基礎を学ばせ、子供たちがボランティアに進んで参加できるようになるための土壌形成を行うことは、当然のことであります。

 しかし、私は、別の観点から、この奉仕活動の義務づけだけでは不十分であると考えます。

 自由党は、毎週末を道徳の日として、子供と親、そして教師などが地域単位で一緒になって、歴史や伝統や文化を学んだり、スポーツをしたり、奉仕活動をするなどして、道徳や社会生活のルールを学ぶ場をつくる、人間同士の触れ合いの中で自然にルールや責任感を身につけていくという政策を打ち出しております。

 この際、自由党の主張する道徳の日を創設するべきと考えますけれども、総理及び文部科学大臣の御見解を伺います。

 次に、義務教育のあり方について伺います。

 子供は国家社会の宝であります。義務教育の整備は国家発展の礎です。基礎学力を学ぶとともに、日本の歴史と伝統と文化を知り、社会共同体で生活するルールを身につけ、よき日本人となることが期待されます。

 そのため、自由党は、義務教育についてすべて国が責任を持つこととし、特に、教師を単なる教育労働者としてではなく、崇高な役割を担うものとし、身分を保障し、誇りを持って職務に専念できるようにすべきであると考えています。

 これは、義務教育を国が管理しようとするものではありません。教育行政は民主的運営が生命であり、官僚の管理する教育委員会制度を教育オンブズマン制度に改組し、地方の文化や特色を生かす、自由な教育にするべきであるとの改革案を自由党は主張していますが、総理及び文部科学大臣の見解をお伺いいたします。

 最後に、一言申し上げます。

 今回、鳴り物入りで出された三改正案は、教育のあり方及び日本人のあり方がどうあるべきかという問題に全く答えておらず、改革の名には値しないものであります。

 総理の主張される構造改革や景気回復は、確かに大切であります。しかし、今ここで日本人の心と誇りを取り戻すようにしなければ、日本人の精神的荒廃は進み、日本は日本人の心の中から崩壊していく可能性すら含んでおります。

 今後、私たち日本人がまず考え、実行しなければならないことは、新たな国家百年の大計である教育方針を明確にし、他に依存しない自立した精神を確立し、国民が主役の社会を実現させることであります。

 自由党は、日本一新を目指し、国民が主役の社会を構築するために全力を尽くすことを表明して、質問を終わります。ありがとうございました。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 樋高議員にお答えいたします。

 ハンセン病判決についてでございます。

 判決の、国会議員の立法活動に関する判断や民法の解釈などに関しての問題点については、政府声明で政府の立場を明らかにしたところでございます。私は、このハンセン病問題の早期かつ全面的な解決を図ることが最も必要なことであると判断して控訴を行わないこととしたものでありまして、適切な判断であったと考えております。

 森前首相に派閥を解消すべしと提案すべきとのお尋ねであります。

 私は、三人集まれば派閥ができると言われる社会、これは政界といわずどの社会でも、仲間づくり、グループづくりが派閥と言われれば、派閥は永久になくならないと思います。

 しかし、政界において派閥の弊害を除去するという意味において、派閥の論理よりも国民の論理だということを言ってきました。これからもこの視点が大事だと思いまして、たとえ派閥があったとしても、人事や資金等の面において余り意味のないものにして、党全体の活性化のために党改革をすることによって、私は、派閥の論理よりも国民の論理を重視する自民党になっていくのではないかということを期待しております。

 また、自民党文化を変えるつもりがあるかということであります。

 自民党文化という言葉は初めて聞きましたけれども、人の見方によっていろいろあると思いますが、私は、これからの自民党は改革に雄々しく立ち向かっていく自民党でなくてはならない、痛みを恐れず、既得権益の壁にひるまず、過去の経験にとらわれず、恐れず、ひるまず、とらわれずの姿勢を貫いて、国民のための政党である、これがやはり自民党でなくてはならないという視点で改革を進めていきたいと思います。(拍手)

 森前総理が進めてこられた教育改革は、豊かな人間性の育成や多様な個性、才能を伸ばす教育を進めるとともに、教育改革関連法案の取りまとめなど、教育分野における大事な改革であります。私としても、この森前総理の方針を引き継いで教育改革を断行する決意でありまして、まずは、教育改革関連法案の今国会における成立に全力を尽くしていきたいと考えております。

 教育基本法についてであります。

 戦後の我が国教育の理念と基本原則を規定しているものでありまして、ここに示された個人の尊厳や人格の完成などの基本的な考え方は、今後とも重要であります。

 他方、昨年十二月の教育改革国民会議の最終報告においては、新しい時代の教育基本法を考える際の観点として、新しい時代を生きる日本人の育成、伝統、文化など次代に継承すべきものの尊重、発展、教育振興基本計画の策定等を規定することの三点が示されたところであります。

 私としては、教育基本法の見直しについては、教育改革国民会議の最終報告を踏まえ、中央教育審議会等で幅広く国民的な議論を深め、しっかりと取り組んで成果を得てまいりたいと考えております。

 道徳の日を創設すべきとのお尋ねであります。

 子供たちが、学校教育のみならず、地域住民との交流の中で、地域の歴史や文化を学んだり、スポーツや社会奉仕体験活動を通じて社会のルールや責任感を身につけていくことは、大変重要であると考えております。その際、子供たちが道徳教育の重要性を認識する上においては、大人自身が信頼に足る存在でなければならないことは言うまでもありません。

 このためには、国が一律に、御提案の道徳の日を定めるのではなく、各地方公共団体においてさまざまな工夫を行い、親や教師を含む地域住民に対して、子供たちのさまざまな体験活動が充実するよう協力を求めるなど、地域で子供を育てる環境づくりを促していきたいと思います。

 教育委員会制度についてです。

 地域に根差した特色ある教育行政を展開することは、今後ますます重要になると考えます。

 このため、今回の法案により、教育行政に地域住民や保護者の意見や要望をより的確に反映させるよう、教育委員の多様な構成への配慮、教育行政に関する相談体制の整備を図ることとしており、これにより、教育委員会がより地域に開かれたものとなるよう改革を進め、教育委員会の活性化を図ってまいります。

 残余の質問については、関係大臣から答弁させます。(拍手)

    〔国務大臣遠山敦子君登壇〕

国務大臣(遠山敦子君) 樋高剛議員の御質問にお答え申し上げます。

 まず、教育基本法についてのお尋ねであります。

 教育基本法の見直しについての基本的な考え方は、総理がお答えしたとおりであります。教育全般についてさまざまな問題が生じている今日、教育の根本にさかのぼった改革を進めていくためには、制定以来半世紀を経た教育基本法の見直しが必要であると考えています。

 私としましても、教育基本法の見直しについては、教育改革国民会議の最終報告を踏まえ、省内で検討を行った上で、中央教育審議会等で幅広く国民的な議論を深めるなど、しっかりと取り組み、成果を得てまいりたいと考えております。

 次に、道徳の日を創設すべきではないかとのお尋ねであります。

 地域において、親や教師を含め、地域住民の幅広い協力を得て、子供たちにさまざまな体験活動を行わせることは、まことに有意義であると考えます。

 このため、今回の社会教育法の改正案におきまして、教育委員会の事務に、社会奉仕体験活動等の体験活動の機会の提供等の事務を明記したところでありまして、これにより、さまざまな体験活動の促進が期待されるところであります。

 御指摘の道徳の日の創設につきましては、既に小泉総理からお答えいたしましたように、国が一律に定めるのではなく、各地方公共団体におきまして、子供たちが体験活動を通じて社会のルールや責任感を身につけることができますよう、さまざまな取り組みや工夫が促進されることが重要でありまして、その環境づくりに努めてまいりたいと存じます。(拍手)

    ―――――――――――――

    〔議長退席、副議長着席〕

副議長(渡部恒三君) 児玉健次君。

    〔児玉健次君登壇〕

児玉健次君 私は、日本共産党を代表して、学校教育法の一部を改正する法律案、社会教育法の一部を改正する法律案及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案について、小泉総理と遠山文部科学大臣に質問します。(拍手)

 不登校、いじめ、学級崩壊など、子供と教育をめぐる状況は深刻さを加えています。とりわけ、学力の危機というべき実態が、子供たちのさまざまな発達のゆがみや社会的な逸脱をもたらす根源となっています。これらは、自民党政府、文部省が長年続けてきた、競争主義、管理主義の強化という教育政策によってつくり出されたものであります。

 すべての子供に基礎的な学力を保障することは、国民の最も切実な教育への願いであり、憲法、教育基本法が学校教育に要請しているものです。現在、国民的な課題となっている教育の民主的な改革は、この願い、要請にこたえることを基本にして進められるべきです。まず、このことについて、総理の見解を伺います。

 議題となっている教育三法案は、昨年十二月、首相の私的諮問機関にすぎない教育改革国民会議の報告を受け、森前首相がその席上で、文部省に対して関係法の早急な取りまとめを指示したことによって国会に提出されました。

 学校教育法、社会教育法、地方教育委員会に関する法律、この三法は、教育基本法に基づく教育法体系の中心をなすものです。これらの重要な教育法の改変を、前首相の私的諮問機関の意向を受けて性急に、一挙に図ろうとする態度は、二十一世紀の日本を方向づけるというべき学校教育の改革の進め方として最もふさわしくありません。このような性急、拙速な態度は、直ちに改めるべきです。総理の答弁を求めます。

 法案に即して質問します。

 高校の通学区域の指定に関する規定の削除と、大学、大学院への飛び入学拡大の問題です。

 高校学区制の廃止は、全県一学区に道を開き、高校を全県的な規模で序列化し、大学、大学院への飛び入学の拡大と相まって、競争教育、ふるい分け教育を激化させます。生徒の集まりにくい高校は統廃合の対象とされるでしょう。

 高校の学区制は、高校の格差是正と地域に根差した高校を育てる上で制度の根幹をなすものです。これまで文部省は、通学区域の設定に際し、全県一区に定めることは許されないと解すべきであるとしてきました。今なぜ、これを放棄するのか。文部科学大臣、答えてください。

 一九九七年、飛び入学の一部導入の際、日本数学会、日本物理教育学会は、高校二年で才能を判定することは不可能であり、偏差値による序列化が一層進むことを懸念し、早期の大学入学よりも大切なことは、知識、教養のバランスのとれた成長であるとする声明、要望書を提出しました。

 一九九八年六月、国連子どもの権利委員会は、日本では、極度に競争的な教育制度によるストレスのため、子供が発達のゆがみにさらされていると懸念を表明し、過度なストレス及び不登校を防止し、かつ、それと闘うための適切な措置をとることを日本政府に勧告しました。

 小泉総理、主要国政府への勧告の中で、教育制度の根本に触れて、その不適格性がこのように厳しく批判されたのは日本のみです。高校学区制の廃止、飛び入学拡大は、この勧告に反し、日本の教育制度をさらに競争的なものにするのではありませんか。総理の答弁を求めます。

 学校教育法、社会教育法の二法案に盛り込まれた社会奉仕活動の強制が子供たちをどこに導こうとしているか、この問題です。

 学校教育において適切に体験活動を実施することは、子供の人格形成にとって有意義であり、現に、多くの学校でさまざまな創意的な努力が進められています。

 ところが、今回、学校教育法に第十八条の二を新たに設け、教育の目標の達成に資するためとして社会奉仕体験活動を特記したのは、教育改革国民会議の意向を学校教育に直接持ち込むことをねらったものです。その根底には、子供を飼いならし、訓練し、たたき直す、強制することが学校教育の基本的機能だとする教育改革国民会議の場における主張があります。時代錯誤も甚だしいと言わなければなりません。

 もとより、子供は強制の対象ではありません。子どもの権利条約は、子供が年齢及び成熟に従い権利を行使することを保障しています。子供を権利の主体として尊重してこそ、子供の成長発達を中心に据えた学校教育の豊かな発展が望めます。

 本来、奉仕活動は、子供の自発的意思に基づいて行われるべきです。強制による奉仕体験活動は苦役となり、人間形成にとって有意義な体験活動から子供たちを引き離す結果につながるのではありませんか。文部科学大臣、答えてください。

 政府、文部省は、問題を起こす子供への出席停止措置の要件を法定化するために、学校教育法を改めようとしています。

 現在でも、他の児童の教育に妨げがあると認める場合、出席停止は可能です。それは、あくまでも教育的観点から、緊急避難的措置として行われるべきです。

 今、緊急に必要なことは、三十人以下学級を速やかに実現し、大規模校を解消して、子供、父母と教師、学校のつながりを深め、子供同士の連帯感を温かく育てることです。教育改革国民会議が、問題を起こす子供への教育をあいまいにしない、このことを強調した、それをそのまま受けて法律を改めようとしているのではありませんか。

 出席停止命令の要件を新たに法定化しました。そこには、出席停止の期間に関する定め、子供、父母の異議提出に関する手続が示されておりません。これでは、その発動を行政的、機械的に学校に促すことになり、子供が義務教育を受ける権利を制限することにつながる危険があります。これは教育の基本問題です。総理の見解を問います。(拍手)

 教育委員会が、子供に対する指導が不適切であると判断した教師を、本人の同意なしに免職、配置転換することを可能とする今回の法律の改定は、教職員に対する管理主義を一層強化する意図を露骨に示すものです。

 「まず排除ありきでなく」、これは、この問題に触れたある全国紙社説の表題です。子供への対応で弱さを抱える教師は存在します。ここではっきりさせなければならないのは、教師の反社会的行為、体罰等は現行法で対処すべき問題であるということです。教師の間に近年急増している精神疾患等は、早期の適切な医療によって回復を図ることができます。この問題と指導力云々の問題を混同させてはなりません。

 現在、多くの父母、国民が望んでいるのは、人間味にあふれ、教師や父母とともに真剣に切磋琢磨する、子供の教育に情熱を傾ける、そのような教師です。

 教師が自主的に研修を進める機会、条件を豊かにし、学校において教師が同僚とともに授業その他の教育活動を互いに批評し、支援し合う取り組みが進んでいます。教師と父母との共同による学校づくりの努力が、各地で注目されています。これらの取り組みを通じて、教師の教育の専門家としての力量が生き生きと発揮されることが実証されているではありませんか。教育行政がこれを支えるか否か、これが問われています。文部科学大臣の答弁を求めます。

 教師の仕事は、子供の人格の完成を目指して行われる、極めて高度で、多面的な内容を持つものです。学校の教育はすぐれて集団的な営みであり、年月を経てその真の効果が示されます。一人一人の教師を切り離し、短い期間を単位にして、指導が不適切であること、研修等の必要な措置が講じられたとしてもなお指導を適切に行うことができないと、だれが、どのようにして判断できるのですか。

 まず排除ありき、この強圧的な態度が、熱意に燃える教師を萎縮させ、伸び伸びとした教育力の発揮を阻害するのではないかとの危惧が広がっています。文部科学大臣の答弁を求めます。

 教師を経験した石川啄木は、その作品「足跡」の中で、教育者には、教育の精神をもって教える人と教育の形式で教える人と二種類あると問いかけました。小泉総理、あなたの学校時代を振り返って、あの先生に接してよかったと感じる先生は、前者のタイプですか、それとも後者ですか。どちらを伸ばすことが子供の幸せにつながるか、そこに問題の本質があります。総理の所感をお聞きします。

 文部科学大臣に聞きます。

 教育基本法第六条には、全体の奉仕者である「教員の身分は、尊重され、その待遇の適正が、期せられなければならない。」と明記されています。これにこたえて教育行政がなすべきことは何か、教育の条理に沿って答弁してください。

 教育三法案の内容は、全体として、これまで自民党政府、文部省が続けてきた競争と管理の教育政策を一段と強化するものです。父母、教職員、広範な国民が抱く学校教育の民主的改革への切実な願いに逆行し、子供と教育をめぐる深刻な状況をさらに困難なものにするものであることは明白です。私は、これらの法案の撤回を厳しく要求するものです。

 日本共産党は、すべての子供に基礎的な学力を保障することを中心とした学校教育の民主的改革を国民的な規模で前進させるためにあらゆる努力を尽くすことを表明して、質問を終わります。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 児玉議員にお答えいたします。

 基礎的な学力を保障するための教育改革についてのお尋ねであります。

 国民の学校教育への信頼を取り戻すためには、何よりも、一人一人の子供たちに基礎、基本を確実に身につけさせ、みずから学び、みずから考え、よりよく問題を解決する力を育成していくことが極めて重要であります。

 このため、少人数指導や習熟度別指導の推進により、わかる授業で基礎学力の向上を図るなど、国民の待望する教育改革の実現に取り組んでまいります。

 教育三法と教育改革国民会議との関係についてです。

 教育改革国民会議は、内閣総理大臣のもとに設けられた懇談会であり、教育の根本にさかのぼって幅広く議論が行われ、昨年十二月、報告が提出されました。この報告を踏まえ、特に緊急に対応すべき事項について、教育改革関連法案として今国会に提出したところであります。

 私としては、教育に対する国民の皆様の信頼にこたえるため、本法案の今国会における成立を初め、教育改革の果断な実行に全力を尽くしてまいります。

 高校の学区制及び大学の飛び入学に関するお尋ねです。

 高校の学区制は、今後、その設定について、地域の実情等を踏まえた各教育委員会の判断にゆだねることとしたものであり、受験競争が激化せぬよう、面接や推薦入試の実施など、入学者選抜の多様化等を促してまいります。

 また、大学への飛び入学制度は、特定の分野で特にすぐれた資質を有する者について、その資質を伸ばす道を開くためのものであり、教育の場における競争を激化させるものではないと考えます。

 出席停止制度に関する御質問であります。

 深刻な問題行動を起こす児童生徒については、日ごろの生徒指導の充実のためのさまざまな努力にもかかわらず、他の児童生徒の教育が妨げられている場合には、その教育を受ける権利を保障するため、出席停止を講ずることも必要ではないかと考えます。

 問題行動を起こす児童生徒に対しては、早期からの指導を一層充実するとともに、今回の法改正により、出席停止の要件及び手続の明確化、学習支援の充実を図ることを通じ、その一層適切な運用を期してまいります。

 教師像についてのお尋ねです。

 学校教育の本質は、教員と児童生徒との人格的触れ合いにあり、学校教育の成否は、教員の資質、能力に負うところが極めて大きいと考えております。求められる教員とは、教育者としての使命感にあふれ、現場の課題に適切に対応し、子供の悩みを受けとめ、適切な指導ができる、力量ある教員だと思います。政府としては、このような教員の育成に今後も努力していかなければならないと考えます。

 残余の質問については、関係大臣から答弁させます。(拍手)

    〔国務大臣遠山敦子君登壇〕

国務大臣(遠山敦子君) 児玉議員の御質問にお答えする前に、先ほど樋高議員の、教員の身分保障及び教育オンブズマン制度についての御質問に対する答弁が漏れておりましたので、まず、これに対しお答え申し上げます。

 教員の身分を保障し、職務に専念できるようにすることは重要でありまして、公立学校の教員につきましては、地方公務員法により一定の身分保障がなされております。

 また、教育オンブズマン制度の御提言がありましたが、住民の意向を的確に反映し、地域の特色を生かした教育行政を展開する上で、住民の中から任命された教育委員の合議により基本方針等を決定する教育委員会制度が果たす役割は、ますます重要になると考えます。

 こうした教育委員会の活性化を図るために、今回の法案では、三つの点を規定しようとしております。第一に、教育委員の構成を多様にするための配慮義務、第二に、教育委員会の会議の原則公開、第三点は、教育行政に関する相談窓口の明確化などであります。

 今後とも、教育委員会が地域に根差した、特色ある教育行政を展開することとなるよう努めてまいります。

 以下、児玉健次議員の御質問に対し、順次お答え申し上げます。

 まず、高校の学区制についてのお尋ねであります。

 公立高等学校の通学区域につきましては、政府の規制改革委員会におきまして、その設定等を都道府県等の自主的な判断にゆだねるべきである旨の指摘がなされますとともに、各都道府県において、特色ある学校等の設置が進み、多様な通学区域が設定されるようになってきております。これらを踏まえて、今後は、通学区域の設定については、地域の実情等を踏まえた各教育委員会の判断にゆだねることとしたものであります。

 次に、奉仕体験活動についてのお尋ねでございます。

 今回の学校教育法の改正は、児童生徒の社会性や豊かな人間性をはぐくむ観点から、小中高等学校等において、社会奉仕体験活動、自然体験活動等の体験活動の充実に努め、それらの活動の促進を図ることを目的としております。

 社会奉仕体験活動については、他の体験活動と同様、教師の適切な指導のもと、各学校の教育活動として体験させるものであります。これらの指導は、教育指導上の課題として進めるものであって、教え導くという指導の姿勢で臨むことが必要であると考えます。

 第三に、教師が教育の専門家としての力量を発揮することに対する支援についての御質問であります。

 教員については、その職務の特殊性にかんがみ、教育公務員特例法において、「その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならない。」とされておりまして、教員が自主的に研修に取り組むことは、極めて重要であります。一方、国や教育委員会等におきましては、初任者研修を初め、教職経験に応じた研修や長期社会体験研修等の職務研修を実施し、効果を上げてきております。

 教員の資質向上につきましては、このように、教員の自主的な研修と職務研修の両者が相まって実施されることが必要でありまして、今後ともその充実に努めてまいります。

 次に、指導が不適切である等の判断についてのお尋ねであります。

 本法律案が定める要件に該当するかどうかの判断は、任命権者である各都道府県教育委員会が行うものであります。また、その判断が適正かつ公平に行われるように、これらの要件に該当するかどうかを判断するための手続については、都道府県の教育委員会がそれぞれ教育委員会規則で定めることとしておりまして、その規則にのっとり判断されることとなります。

 今回の措置がもたらす教員への影響についてのお尋ねであります。

 教員の職務は児童生徒の人格形成に重大な影響を与え得るものであることから、指導が不適切な教員への対応は、適切な教育を確保する上で重要な課題であります。

 このような観点から、本法律案におきましては、対象となる教員を、まず、児童または生徒に対する指導が不適切であること、次に、研修等の措置が講じられてもなお適切に指導を行うことができないこと、このいずれの要件にも該当する者に限定をいたしております。また、この措置が適正かつ公平に行使されるように、要件に該当するかどうかを判断するための手続については、教育委員会規則で定めることにいたしております。

 本法律案は、このような内容を盛り込んだものでありまして、いたずらに教員を萎縮させたり、伸び伸びとした教育力の発揮を阻害するようなことはないものと考えております。

 最後に、教員の身分や待遇について教育行政がなすべきことについての御質問であります。

 教育基本法第六条で規定されておりますように、学校教育の直接の担い手であります教員は、自己の使命を自覚し、職務の遂行に努めなければならないこととされておりまして、そのためには、教員の身分と待遇の適正を図ることが重要であります。

 このような観点から、教育公務員特例法等によりまして、教員の任免等の身分取り扱いをその職務の特殊性に即したものとするとともに、いわゆる人材確保法等により待遇の改善を図ってきているところであり、今後とも、その改善、充実に努めてまいります。(拍手)

    ―――――――――――――

副議長(渡部恒三君) 山内惠子君。

    〔山内惠子君登壇〕

山内惠子君 社会民主党・市民連合の山内惠子でございます。

 教育改革関連三法案に対する質問をいたします。(拍手)

 初めに、小泉総理大臣に伺います。

 熊本地方裁判所におけるハンセン病国家賠償請求訴訟で、国会は立法の不作為責任を問われた判決であり、政府が控訴の見送りを決めたことは当然のことでした。控訴の後に和解をという案が検討された背景には、他の訴訟に波及することを恐れてとか、官の論理があると言われましたが、政治は最大の教育です。

 隔離政策は違憲であり、著しい人権侵害であったことを重く受けとめ、国会、行政挙げて、人間の尊厳、人が人として生きる権利を回復すること、そのために取り組むことは、いじめとか不登校で苦しんでいる子供たちや、さまざまな要因で閉塞状況にある子供たちにとって、人権とは、思いやりとはと百回繰り返して話すよりも、教育効果への波及は大きいのです。道理の通る世は人々を明るくします。

 その意味で、KSD疑惑や官邸機密費などの疑惑が晴れていない状況を放置することは、子供たちの社会正義に対する逆効果をもたらすことを申し添えておきます。(拍手)

 総理の所信表明には、日本人としての誇りと自覚を持ち、新たなる国づくりを担う人材を育てるための教育改革に取り組む、教育基本法の見直しについては幅広く国民的な議論を深めていくという二点について表明されていますが、日本人としてどんな誇りを持たせたいのでしょうか、新たなる国づくりとはどんな国を想定しているのでしょうか。

 もし、総理の考えられる新たな国づくりというのが、ひたすら民営化を進め、市場原理による競争原理の導入による経済の活性化を目指し、日の丸・君が代、靖国などの伝統と規範に基づく国づくりを進め、集団的自衛権の行使を進めようとするものでしたら、これまで、アジアの人々との和解を進め、平和憲法のもとに築いてきた日本の平和の体制を否定することになります。近隣のアジアの人々は言うまでもなく、世界の人々が望む道でもないと思います。

 私は、議員活動を始めてやがて一年になりますが、この短い期間に三人目の文部にかかわる大臣になられた遠山大臣にお聞きいたします。

 今回の教育改革関連三法案は、首相の私的諮問機関にすぎない教育改革国民会議の報告を、文部科学省の関係審議会である中央教育審議会を通さずに法制化するものであり、納得できるものではありません。手続的に問題があります。法的根拠はどこにあるのでしょうか、お聞かせください。

 今回の教育改革は、ゆとりと個性をスローガンに掲げて進められてきた臨時教育審議会以降の流れとは、明らかに違う方向に向かっています。

 例えば、第十四期、十五期、十六期の中央教育審議会による教育改革にも問題はありましたが、曲がりなりにも、子供の側からの視点で、生きる力をとか新しい学力観など、学ぶ側の論理による改革でした。そして、ゆとりと個性とか、子供の興味、関心というキーワードに象徴されるように、子供中心的な考え方を基調としていました。それに対して、今回の教育改革案は、教える側、大人の側の論理や、復古的な道徳主義、社会的な効率主義やエリート主義的な能力主義を重視しています。

 国民会議の報告書によれば、子供はひ弱で欲望を抑えられず、苦しみに耐える力、自制心を発揮する意思を失っているとして、子供を否定的にとらえ、いじめ、不登校などを子供の責任と親の責任にあると強調しています。

 わがままになった子供を国家が押さえつけようとする教育改革は、問題があります。今回の法案には、義務化という言葉はありませんが、奉仕活動の導入や、問題を起こす子供の出席停止や指導が不適切な教員の他職種への転職等々の導入がそれに当たります。これが導入された場合、だれが公平で厳正な客観的判断を下せるのでしょうか。人事面で上ばかり見ているような教職員がふえ、管理職の独善をより助長させることになるような改革が進められるならば、日本の教育はますますゆがんだものになる心配があります。

 先ほど申しましたが、政治は最大の教育です。今、やじを飛ばされているような状況を全国の有権者や子供たちが見て、どう思われるでしょうか。言論の府である国会で、人の話をかき消すようなやじを飛ばすことが、成人式での若者たちに影響を与えないとは限りません。まして、この国会の議題は、子供たちにかかわる教育改革関連法案ではありませんか。ともに心して審議に当たろうではありませんか。(拍手)

 文部科学大臣、今回の教育改革によって、子供たちは元気を取り戻せるとお考えでしょうか、この法案を実現できたときの学校、教職員、子供たちはどのように変わっているとお考えでしょうか、お聞かせください。

 大臣、なぜ子供が問題行動を起こすことになったのか、その背景や原因を究明されたのでしょうか。国民会議の報告書には記述されていません。もし究明されていないのであれば、出席停止要件を強化する前に、究明し、正すべきだと思います。いかがでしょうか。

 子供の問題行動の原因は、戦後の教育にあるのではなく、学校教育や家庭生活を経済の論理でじゅうりんした経済優先の社会にあります。(拍手)

 国連の子ども権利委員会が、先ほどもありましたが、日本の教育に対して、競争の激しい教育制度が子供にストレスを与え、遊びの時間がない、休息の時間がないことによって発達障害や学校忌避につながることを懸念すると厳しく指摘したのです。この指摘をしっかりと政府は受けとめて教育のあり方を是正しなければならないのにもかかわらず、また今度は習熟度別少人数指導というのを導入するということは、全くこの指摘を受けとめていないと言わざるを得ません。

 子供たちは、子供たちを取り巻く環境の中で、アイデンティティーの基礎となる自己愛をはぐくむことができずにいます。学年が進むにつれて、自己肯定意識が下がっています。その背景に、子供を評価する物差しが極端に成績に一元化されている教育があるからです。子供たちは、一人一人違うけれども、かけがえのない存在として、平等であるという教育を望んでいます。

 今回の教育改革は、このような子供たちの願いにこたえるものにはなっていません。学校現場が抱える問題の解決につながるとは思えません。

 学級崩壊を乗り越えた多くの教職員の仲間が共通して言っているのは、子供たちと肯定的にかかわることの大切さです。子供たちはどの子も、自分の言い分を聞いてほしい、わかってほしい、認められたいという願いがあり、成長したいという思いを持っています。

 きのうの毎日新聞の「教育の森」で紹介された、「結構頼もしい10代、いるゾ」の記事にあるように、自分がいじめられた経験を持っている高校生が、同世代の子供たちの相談を受ける子供専用チャイルドラインを創設したといいます。この取り組みを私の仲間にもやっている人がおり、全国的にこの運動は進んでいます。

 子供たちの内発性に低い目線で働きかけることこそ、教育の重要な仕事です。強制は、子供たちの伸びようとする芽を摘むことになります。(拍手)

 教育について、こんな言葉を聞いたことがあります。一年先を見る人は花を植える、十年先を見る人は木を植える、百年先を見る人は人を育てるというのです。二十一世紀を担う子供たちの教育は、悩んでいる子供たちの声に耳を傾け、百年先を読むことから始めなければならないと思います。決して焦らず、子供たちの伸びようとする力を支援するような教育が、今、求められているのです。(拍手)

 最後に、文部科学大臣、大臣は二十一世紀の出発に当たっての教育改革で、子供たちに何を手渡していきたいとお考えでしょうか。

 大臣と私は、同時代を生きた者として、二十世紀は戦争と平和に人類が苦悩した時代であったことを知っている世代だと思います。

 昨年は、平和の文化国際年でした。第二次世界大戦の反省から一九四五年に創設されたユネスコは、「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。」という、有名な憲章を定めています。そして、ことし、二〇〇一年から十年間を、平和と非暴力の文化十年に決めたそうです。それぞれの教室から、平和の文化を築いていくことが求められています。

 また、子どもの権利宣言も、第一次世界大戦、第二次世界大戦の後、戦争という最悪の利益を子供たちに与えてきたことを反省して発せられたものです。

 二十一世紀を担う子供たちに残すものは、平和であり、憲法です。そして、世界の憲法と言われる子どもの権利条約を、あらゆる教育の場に根づかせ、具体化することこそが、子供の最善の利益につながります。すべての子供たちに、よりよき人生へのあこがれを贈りたいものです。

 文部科学大臣には、子供たちが平和な世界に羽ばたいていくための教育改革となるよう強く希望して、質問を終わります。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 山内議員にお答えいたします。

 日本人としての誇りと国づくりについてであります。

 日本人に生まれてよかったなという、誇りに思えるような気持ちを持ってもらうということは、大変大事な教育だと思います。また、今日の日本の平和と繁栄というものが先人たちの血のにじむような努力によって築かれたんだなという、先人に対する素直な敬意と感謝の気持ちを持っていただくということも、大変重要なことではないかと思います。(拍手)

 感謝の気持ちを持たない人は、何をやっても不平に思える、不満に思えるという言葉がありますが、子供のうちから、今生きているのは自分一人の力じゃない、多くの方々の努力によって支えられているんだなと、親に対して、先輩に対して、社会に対して感謝の気持ちと敬意を持って新しい社会に立ち向かっていけるような人づくり、そして、環境づくりが大事ではないかと思います。(拍手)

 何よりもまず、みずから助ける精神とみずから律する精神を持って、一度や二度の失敗にくじけないで、みずからの役割を見出すことができるような社会を実現していくのが、政治の場でも、教育の場でも大事ではないかと思います。(拍手)

 教育基本法については、新しい時代の教育基本法を考える際の観点として、新しい時代を生きる日本人の育成、伝統、文化など次代に継承すべきものの尊重、発展、教育振興基本計画の策定等を規定すること、この三点が昨年十二月の教育改革国民会議の最終報告においてなされました。

 私としては、教育基本法の見直しについては、教育改革国民会議のこの最終報告を踏まえ、中央教育審議会等で幅広く国民的な議論を深め、しっかりと取り組んで成果を得てまいりたいと考えております。

 残余の質問については、関係大臣に答弁させます。(拍手)

    〔国務大臣遠山敦子君登壇〕

国務大臣(遠山敦子君) 山内惠子議員の御質問に対してお答え申し上げます。

 まず、教育三法と教育改革国民会議との関係についてのお尋ねであります。

 教育改革国民会議は、内閣総理大臣のもとに設けられた懇談会でありまして、すぐれた英知を集め、教育の根本にさかのぼって幅広く議論が行われたものでありまして、昨年十二月、報告が提出されたところであります。

 文部科学省におきましては、この報告を踏まえて、本年一月二十五日、今後取り組むべき教育改革の全体像を示す二十一世紀教育新生プランを策定したところであります。教育に対する国民の皆様の信頼にこたえるためには、迅速な改革の実行が不可欠でありまして、このプランを踏まえて、特に緊急に対応すべき事項については、教育改革関連法案として今国会に提出したところであります。

 次に、いじめ、不登校の原因についてのお尋ねであります。

 いじめ、不登校の原因、背景については、家庭のしつけや学校のあり方、地域社会における連帯感の希薄化、青少年を取り巻く環境の悪化など、大人社会のあり方を含め、複雑に要因が絡み合い、発生していると考えられます。

 したがって、いじめ、不登校は、それぞれの事例に即し、学校において、校長を中心に全教職員が一致協力した生徒指導体制の確立を図るとともに、家庭や関係機関とも連携をし、十分に対応することが重要であると考えております。

 さらに、教育現場や子供たちの生活への影響についてのお尋ねであります。

 教育改革関連法案は、社会奉仕体験活動や自然体験活動を初め、さまざまな体験活動の機会を充実し、児童生徒の社会性や豊かな人間性がはぐくまれること、二つ目には、出席停止がより適切に運用され、対象となる児童生徒への指導の一層の充実が図られるとともに、他の児童生徒の教育を受ける権利が保障されること、三つ目には、児童生徒への指導が不適切な教員を他の職に転職させることを可能とすることにより指導に当たることのないようにすることなどを目指したものであります。

 これらの法案は、二十一世紀教育新生プランの一部をなすものでありまして、他の施策と総合的に実施されることによって、教育現場の抱える諸課題の解決に資するものと考えております。

 最後に、教育改革で子供たちに何を手渡していきたいのかというお尋ねであります。

 総理が述べられておりますように、一人一人が日本人としての誇りと自信を持っていけるよう、そのための真の生きる力を子供たちに与えることを目指して教育改革を進めてまいります。

 そのため、子供たちが学ぶことの楽しさを身につけ、それぞれの個性や才能を最大限伸ばしていくとともに、他者への思いやりを含む善悪の判断基準を心の中にしっかりと持つことができるよう努めてまいります。そうした力を与えることが子供の未来にとってまことに大切と考えるからであります。その際、先人が培ってきた我が国の文化を継承するとともに、新しい時代を生き抜く力を育成していくという視点が重要であると考えております。

 以上、答弁を申し上げました。(拍手)

副議長(渡部恒三君) これにて質疑は終了いたしました。

     ――――◇―――――

副議長(渡部恒三君) 本日は、これにて散会いたします。

    午後三時十五分散会




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