衆議院

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第3号 平成13年10月2日(火曜日)

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平成十三年十月二日(火曜日)

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 議事日程 第三号

  平成十三年十月二日

    午後二時開議

 一 国務大臣の演説に対する質疑(前会の続)

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本日の会議に付した案件

 国務大臣の演説に対する質疑(前会の続)

 議員請暇の件

 野中広務君の故議員小西哲君に対する追悼演説




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    午後二時三分開議

議長(綿貫民輔君) これより会議を開きます。

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 国務大臣の演説に対する質疑 (前会の続)

議長(綿貫民輔君) 国務大臣の演説に対する質疑を継続いたします。東祥三君。

    〔東祥三君登壇〕

東祥三君 私は、自由党を代表して、小泉総理の所信表明演説に対して質問いたします。(拍手)

 まず初めに、去る九月十一日、ニューヨーク、ワシントンDC、ペンシルベニアで発生した同時多発テロは、米国のみならず地球社会に対する残忍かつ卑劣な攻撃であり、強い憤りを覚えます。と同時に、犠牲となられました皆様に深く哀悼の意を表しますとともに、御家族の皆様や、なお行方不明となっておられる方々、関係者の皆様に心よりお見舞い申し上げます。

 極めて厳しく激動する内外の課題に対する自民、公明、保守の小泉連立政権の対応は、適切かつ迅速な責任ある政治判断や政策決定を行えず、国民の不安と国際社会からの不信を募らせ、国家の衰退を増長させていることは、まことに遺憾であります。

 テロ問題に対する無原則な対応を初め、深刻な景気後退に対する鈍感な反応、狂牛病への無責任な姿勢、外務省の信じがたい不祥事、元郵政省の役所ぐるみの選挙違反、医療費値上げに見る社会保障の愚策、絵そらごとの構造改革など、場当たり、ごまかし、問題先送りの事例は枚挙にいとまがありません。(拍手)

 まず、同時多発テロ事件にかかわる日本の軍事行動について伺います。

 総理が、所信表明演説において、テロと断固闘う決意を表明されたことは評価します。しかし、さきに発表された軍事支援を含む七項目に関して、その理念、原則、基本的な考え方について全く言及されなかったことは失望せざるを得ません。

 特にその中で、政府が提出する予定のいわゆる米軍等支援法案の憲法上の根拠はどこにあるのか。これまでの政府答弁との整合性は図れるのか。口を開けば、憲法の枠内、武力行使と一体化しないと繰り返し言いながら、実は、国民にわからないように実質的な憲法解釈の変更を行うのではないか。自衛隊という日本の唯一の軍事組織を動かすことは政治の究極の判断であり、その判断を無原則かつなし崩しに行おうとする政府の態度は、決して許されるものではありません。小泉総理の御見解を伺います。

 自由党の安全保障に関する基本原則は明確であり、一貫しております。すなわち、日本国憲法において、武力の行使を含む自衛隊の軍事行動が認められるのは、一、個別的であれ集団的であれ、我が国が直接侵略を受けた場合、あるいは、放置すれば武力攻撃に至るおそれのある周辺事態における自衛権の発動、二、国連の武力行使容認決議がなされ、その要請に基づく平和活動に限られるというものであります。

 この見地から申し上げるならば、国際社会への挑戦であるテロという行為に対して国連加盟国が一致協力して闘っていく姿勢を示すことが何よりも重要であります。九月十二日の安保理決議はテロ行為に対する非難決議でありますが、新たに武力行使容認の決議が行われれば、その活動に我が国も積極的に協力しなければなりません。しかし、そうではなくて、米国が単独で行う個別的自衛権の行使に対して日本が軍事的に支援しようとするのであれば、これは集団的自衛権の行使に当たり、これまでの政府の憲法解釈では許されないということであります。

 今回、憲法の解釈を変更せず自衛隊を海外へ派遣するというならば、湾岸戦争の際、海部内閣のもとで憲法上できなかった自衛隊による物資協力や輸送協力が、なぜ今日突然、憲法上可能になるのですか。海部内閣のもとで自衛隊がサウジアラビアに赴くことが憲法に違反したのに、今日、自衛隊がインド洋やパキスタンに赴くことがどうして合憲なのですか。お答えください。

 総理、あなたを縛るのは、究極的には、ただ憲法だけであります。その憲法の解釈を役人にゆだねれば、総理の権威はない。あなたの考えを、小泉内閣の考えを、国民にわかるように、あなた自身の言葉で語っていただきたいのであります。

 また、総理は、九月十九日の対米支援措置発表の記者会見において、国連安保理決議第一三六八号に言及されました。この国連安保理決議は、アメリカ同時多発テロを国際の平和と安定に対する脅威と認定しています。しかし、この決議は、米国の軍事力行使まで認めるものではありません。国連安保理は、国連加盟国に対して、いまだ軍事行動を認める決議を下していないのです。

 米国は、あくまでも国連憲章に基づく自衛権の発動によって今回の軍事措置をとろうとしています。米国の行動をあたかも国連決議によって認められたものであるかのように説明し、新法を国連協力のための法案のように見せかけるのは、国民を欺くものです。

 国連協力のための法案というのであれば、政府は、国連安保理にさらなる武力行使容認決議を求めるべきであります。新法は、対米等協力法案であり、国連協力法案ではないことを明言されるべきだと思います。総理の御見解を賜りたいと思います。

 総理にお伺いします。

 湾岸戦争の際に、内閣法制局は、どこの国の国際法の教科書にも、憲法の教科書にも載っていない、武力行使と一体化する兵たん支援は憲法上許されないという政治的解釈を、しかも国を誤る解釈を、役人の独断でつけ加えました。

 例えば、わかりやすく申し上げれば、後方、つまり戦闘が行われていないところでは、B52爆撃機に基地を貸しても武力行使と一体化しないので合憲、前線、つまり戦闘が行われているところでは、水や食料、さらには医療行為を施せば武力行使と一体化するので違憲という解釈であります。

 武力行使一体化に関する議論は、一人の軍事、外交の専門家もいない、安全保障の実務に全く無知な内閣法制局という部局が、わずか十年前の湾岸戦争の際に、自衛隊による物資・輸送協力を阻むために、空想の世界でつくり上げた政策であります。それが今や、日米同盟に対する最大の不協和音にまで肥大化しました。そして、湾岸戦争以来、国際的な危機に直面するたびに、一体化論を挟んで、日米同盟重視か、責任をとらない立場に逃げ込むべきかという基本的な路線対立が政府部内に生じ、政治と国論が分裂し、最高首脳が意味もなく右往左往するという状況が現出しているのです。これは、日本の安全保障にとって極めて危機的な状況であります。

 総理が米国と同盟を約束しながら、有事に及んで自分だけの安全を考えて逃げ惑うというようなひきょうなまねは決してしないというのであれば、一体化論を捨て去るべきであります。総理にその用意がありますか。それとも、この難問から目を背けて、歴代政権の過ちをそのまま手つかずにほうっておかれるつもりですか。総理の御決意をお聞かせ願いたいと思うのであります。

 さらに、一体化論との関係で総理にお尋ねします。

 ガイドライン国会当時、私は、小渕総理に対して、医療行為だけは武力行使と一体化しないことを直ちに認めるべきであると主張しました。

 ジュネーブ条約やその議定書に代表される国際人道法規は、医療部隊に特殊な地位を与えています。医療部隊は、敵味方の区別なく、戦場で傷病兵を治癒することが義務とされております。その代償として、医療部隊には厚い法的な保護が与えられています。白地に赤い十字をつけた施設を攻撃することは、死刑に値するB級、C級の戦争犯罪です。医療部隊の要員、施設、資材、輸送も同様に特別な保護が与えられます。これが、十九世紀から百年かけてはぐくまれてきた国際人道法の世界です。国際人道法は、国際赤十字社創立の父であるアンリ・デュナンがソルフェリーノの戦場を訪れるまで、だれも可能と思わなかった戦場医療を、崇高な人道の理念のもとで、戦闘活動から切り離すことによって実現してきたのです。

 しかし、内閣法制局は、湾岸戦争のときに、医療部隊が武力行使と一体化するというような、国際的に全く非常識な論理を日本国憲法の解釈であるとしてでっち上げました。命をかけて行う戦場での医療行為が憲法違反だと、憲法のどこに書いてあるというのですか。第九条のどこに書いてあるのですか。

 これほど国際的に非常識で、愚劣な議論はない。ナイチンゲールの気高い行為が日本国憲法に反するというのなら、日本国憲法は十九世紀の戦争の時代に国際人道法を逆行させるものです。日本国民は、だれもそのような愚かな政府の憲法運用を欲していないと私は思います。そのような解釈は、国際人道法規の理念と我が国の平和憲法の精神を冒涜するものであるからです。そうはさせないためにも、今までの誤った政府の憲法解釈を改めるべきであると考えますが、現内閣の最高責任者であります小泉総理の御所見を承りたいと思います。(拍手)

 経済、財政、行政の構造改革についてお伺いいたします。

 今回の米国同時多発テロによって、米国を中心に世界経済は深刻な悪影響を受けることになりますが、その深刻さを総理はどのくらい大きなものと認識しておられますか。本年の米国経済並びに世界経済の成長率の予測をお示しください。

 そのような深刻な世界経済のもとで、日本が行える国際貢献の一つに、真の構造改革を断行することによって、世界経済の安定と成長を支えていくことがあります。

 総理就任以来、変わる変わると絶叫されている割には、世の中、何も変わっておりません。景気だけが急速に落ち込み、株価が下落し、失業率が上昇して、深刻な雇用危機を迎えております。これは構造改革に伴う痛みではありません。何も実施しない、できないでいる小泉内閣の無策が我が国の景気を悪化させているのであります。また、景気が悪化したから補正予算でも編成するかという発想自体が、従来の自民党政治と全く変わるところがありません。何のビジョンもない、その場しのぎ、場当たり、先送りにほかならないのであります。景気悪化の原因について、総理の御所見をお伺いいたします。

 総理自身、構造改革なくして景気回復なしとしていた以上、今行うべきは、補正予算ではなく、構造改革の前倒しにほかなりません。また、構造改革自体が景気対策になるものも多くあります。

 例えば、電気通信等の先端分野や、これから需要増が見込まれる社会保障分野を中心に規制の撤廃、緩和を実施することにより、経済を活性化させていくことが可能です。また、政府が独占している事務事業を民間に開放することにより、新しい産業、雇用を創出することが可能になります。

 かつて、電電公社、NTTが独占していた携帯電話を他の会社にも開放したことにより、成長産業、膨大な雇用を創出することができました。同様のチャレンジを今すぐに行うべきであります。

 従来型の景気対策は金がないからできないし、新しい発想の景気対策は自民党、役所のしがらみががんじがらめで実施できない、金もなければ知恵もないのが小泉内閣の実態であります。景気悪化への対応策について、総理の御所見を伺います。

 次に、国債発行を三十兆円以内に抑制する方針について伺います。

 国債発行を抑制しなければならないのは言うまでもありません。しかしながら、小泉無策内閣によってここまで景気が落ち込み、税収も落ち込んでいく現状において、この公約を守りつつ不良債権を二、三年以内に処理することや、今年度成長率をマイナスにしないことなどは実現可能なのですか。

 特に不良債権問題については、景気悪化の影響もあり、確実にその額がふえているのであります。公的資金による資本注入を否定しておられるが、そのことなしに本当に不良債権処理が可能なのでしょうか。仮に、整理回収機構による不良債権の買い上げのみで対処するとしても、その資金調達は国債増発による以外にはあり得ません。

 総理は、八月十五日の靖国神社公式参拝を、諸般の事情に配慮して、いとも簡単に前倒しし、十三日に参拝されました。そのこと自体の是非は別として、総理大臣の発言がこんなに軽くてよいはずがありません。今回も、こんなに景気が悪くなるとは思わなかったとして、みずから設定した国債発行額上限を撤廃されてしまうのではないですか。お答えをいただきたいのであります。また、本年度、目標が達成されなかった場合、来年度についてはいかがされるおつもりか、お伺いいたします。

 私ども自由党は、本当の構造改革、日本の仕組みを変えるため、五つの法案をこの臨時国会に提出いたします。このうち四法案が、官僚の、お金と規制と権限でがんじがらめになっている規制社会、管理社会を改め、自立した個人がみずからの責任と能力に応じて自由に活動できる、公平で開かれた自立社会をつくるためのものであります。

 まず第一は、自由な経済活動を阻害し、行政指導の根拠ともなっている、いわゆる業法は原則廃止し、統一ルールを定めることによって、経済を活性化させるための法案であります。これにより、明治以来我が国が行ってきた、官が民に一々指導する社会を改め、民間の創意工夫が十二分に生かされるようにいたします。

 第二は、特殊法人を三年以内に廃止・民営化を行うことを法律で定めます。小泉内閣は各役所に特殊法人の廃止案を提出させておりますが、遅々として改革は進んでおりません。自由党は、まず政治のリーダーシップで廃止を決めることといたします。

 第三は、国と地方の役割分担を明確にした上で、国の通達行政、ひもつき行政、自民党の利権政治を改めて、地方のことは地方が、地元住民と相談しながらすべてができるように、その第一歩として、国から地方への各種事業費補助金を廃止し、一括して自主財源として地方に交付する制度をつくるための法案を提出いたします。

 第四は、所得課税について、各種の人的控除は原則廃止するとともに、税率構造の簡素化と税率引き下げを実施し、全国民がたとえ少額でも社会への参加料を、源泉徴収ではなく、申告制によって自主的に納める制度をつくるための法案を提出いたします。これにより負担がふえる方々については、手当をもって対応することといたします。官が民からお金を吸い上げて使い道を決めるのではなく、国民がみずからの才覚と自己責任で金の使い道を決めることができるよう、制度改革を実施すべきであります。

 この四つの提案について、総理の御所見を伺います。

 社会保障についてお聞きいたします。

 経済財政諮問会議から出された骨太の方針では、医療費の総額抑制を打ち出しておりました。私ども自由党は、構造改革とは仕組みを改めることであり、今までの制度、特に社会保険方式を温存するのであれば、負担を引き上げ、給付水準を引き下げるしかないと指摘しておりました。

 厚生労働省から提出された医療制度改革案は、まさに、健康保険の本人負担を二割から三割に引き上げ、保険料を月収基準から年収基準に引き上げ、また、高齢者医療の対象年齢を引き上げるというものでしかありません。年金も介護も、改革と称して負担の増加と給付の引き下げを繰り返してきました。これでは、国民から国の社会保障制度への不信が募り、景気にも悪い影響を与えることは明白であります。

 日本は世界に例を見ない速さで人口構成が変化する中で、それに見合う社会保障のビジョンを明確にし、社会を担う人々の負担累増の懸念を払拭し、他方、給付水準引き下げへの心配を取り除くことにより、国民全体が安心と安定を確保して生涯設計を描きやすくすることが大切であります。そして、社会保障の安心と安定は、国民が自信を持って自由に新しい活動や仕事にチャレンジすることができる、いわば社会政策であり、経済政策でもあるのです。

 私ども自由党は、消費税の使い道を基礎年金、高齢者医療、介護といった基礎的社会保障の財源に限定することで、世代間の負担の均衡と国民全体で支え合うシステムをつくり、あわせて、財政基盤を安定させ、持続可能な社会保障システムを構築すべきと主張しております。これに対するお考えをお聞かせください。

 次に、農業問題についてお伺いいたします。

 農業は国家形成の基本であります。食料は人間が生活していくため必要不可欠のものであり、国は、国民に対し、将来にわたって良質な食料を安定的に供給する責務があります。

 そもそも、狂牛病のような問題が我が国で起こった背景には、金さえ出せば食べ物は幾らでも手に入るという観点に立った無責任な場当たり農政により、我が国の食料自給率が低下し、輸入農産物に食生活の大部分を頼らざるを得ない状況下に置かれていることにも大きな一因があります。この点について、総理はどのように責任を感じておられるのか、伺います。

 政府及び農水省には危機感が感じられません。世界における先進諸国の農政を見ても、来るべき世界的な食料不足に備え、カロリーベースでの一〇〇%自給に向け必死で取り組んでおり、現にどの国も目標にほぼ近づきつつあるというのに、我が国だけは、圧倒的に低い、わずか四〇%の自給しか確保されていないのが実情であります。

 今後、この状況を打破するためには、まず、最低でも、主食となる穀物自給率だけでも自給率を一〇〇%に近づける必要があります。

 具体的には、昨年の口蹄疫や今回の狂牛病の教訓を生かし、我が国の家畜用の飼料、資材の国内自給体制を強化するため、これまでの水田農業政策を見直し、水田農業と畜産農業の連携を図り、自給率の向上に向け農政の根本的な転換が必要です。

 この際、減反制度は直ちに廃止するとともに、そこで生じる余剰米については備蓄米として政府が買い入れ備蓄する、価格政策の実施による転作の奨励を行うなどの抜本的な農業・食料政策の転換を図り、国内自給率の強化を図るべきだと考えます。総理及び農水大臣の見解をお伺いいたします。

 最後に、政治改革について伺います。

 先月末、自民党の高祖憲治氏が参議院議員を辞職しましたが、自派の運動員から十六名もの逮捕者を出した以上、連座制が確定していないとはいえ、政治家として道義的責任をとって辞職することは当然のことであります。

 ただ、高祖氏が辞職したからといって問題が解決されたわけではありません。この問題は、旧郵政省という公的機関を通じ、全国的、組織的な選挙違反が行われていたことが重大なのであり、ひいては、業界代表の官僚を数多く立候補させ、政官業癒着による利権構造をなりふり構わず守るという自民党の体質そのものが問われているのであります。

 小泉総理は、事あるごとに、自民党の体質は私が変える、改革には時間がかかると述べております。しかし、さきの参議院選挙においては、高祖氏に代表されるような役所、団体の出身者を数多く公認し、あまつさえ、今回の旧郵政省による全国的、組織的な選挙違反問題では、連座制が確定していないから議員辞職は求めないと、最後まで高祖氏をかばい続けたのであります。

 このような態度、言動をとる小泉総理のもとで、自民党の体質改善や政治改革が実現されるとは到底思われません。総裁としての責任をどう感じておられるのか、お伺いいたします。

 小泉総理が本当に自民党の体質改善や政治改革を実現しようと考えているのであれば、言葉だけではなく、具体的な行動をもって示すべきであります。

 さて、記憶に新しいことでありますが、昨年九月に、与党三党は、唐突にも、参議院の比例代表区の選挙制度に非拘束名簿式比例名簿を導入することを打ち出しました。これは、当時、与党が、現状では次期参議院選挙では負けると判断し、党利党略のまま、数を頼みに、恥も外聞もなく押し通したことでありました。

 今また、これと同じことが衆議院の選挙制度についてもされるのではないかという懸念が広がっているのであります。

 現在、衆議院選挙区画定審議会による国勢調査をもとにした衆議院選挙区の見直し作業が行われておりますが、その最中に、自民、公明、保守の与党三党の衆議院選挙制度改革協議会は、大都市部における中選挙区の復活を容認することで合意いたしました。

 これが与党三党の正式な合意になり、法案を提出することとなるのであれば、ゆゆしき事態であります。さきの参議院選挙制度改革と同様に、選挙で負けるから自党に有利な選挙制度を導入する、連立政権維持を目的として選挙制度を改革するというのであれば、国民を愚弄した行為であり、民主主義も何もあったものではありません。

 総理及び与党の方々は、平成六年に政治改革関連法案を成立させたときの改革の原点と理念をいま一度思い起こし、許されない理念なき選挙制度の改革をやめ、むしろ、自由党が提案し継続扱いにされている、国会議員の定数削減法案について真剣に検討すべきであります。総理の御所見を伺いたいと思います。

 終わりに当たりまして、議員並びに国民の皆さん、わずか半世紀ちょっと前の昭和史の初期を思い出してください。太平洋戦争の遠因となった経済恐慌、場当たりの外交政策が引き起こした満州事変等は、すべて政党や政治家の不見識と無責任さにあったと私は思います。今日の状況がいかにこの時期に酷似しているか、多くの識者が指摘するところであります。

 私は、歴史の悲劇を予感せざるを得ないのであります。なし崩し、なれ合い、その場しのぎ、場当たり、先送り、何でもありの自民党政治をやめなければ悲劇は繰り返されるに違いないと申し上げ、私の代表質問を終わります。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 東議員にお答えいたします。

 最初に、今回提出される予定のテロ対策法案に関する御質問でございます。

 まだ法案が提出されておりませんので、御質問に沿うかどうかわかりませんが、大体次のような趣旨での御質問だと私なりに理解させていただきます。

 今回のテロはニューヨーク、アメリカで起こりましたけれども、これは米国に対してのみの攻撃ではない、自由、平和、民主主義を愛する全世界、人類への攻撃であるということから、今、米国のみならず多くの国々が協力してこのテロと対決しなきゃならないということで、その対応をしているわけであります。

 そういう状況において、日本としては、憲法前文にあります、自国のことのみにとらわれて他国を無視してはならない、国際協調のもとでいかにそれぞれの国力に応じてテロに立ち向かおうかということで、日本としても、この問題は人ごとではない、我が国のみずからの問題だというふうにとらえて、国際社会の中で、国際協調のもと、名誉ある地位を占めたいとうたっているように、名誉ある行動をとらなきゃいけないという考えであります。

 と同時に、憲法九条で武力行使を禁じております。国際紛争を解決する手段として武力行使を禁じている。しかし、国際社会の中で、国際協調のもと、どのように自由と平和と民主主義を守るためにこの問題に対処するかという観点から、私は、今回、いずれ近いうちに提出するテロ対策法案につきましては、日本の憲法の範囲内でできる限りの支援、協力を国際社会と協力しながらやっていかなきゃならない、日本の国力、日本の機能、あらゆる機能を活用して、これからの国際社会での日本としての責任を果たしていきたいと思います。

 なぜ具体的なことを言わないか。法案が出ていないからであります。これまでの政府の憲法解釈を尊重しながらも、自衛隊が今までの現行法では活用できない場合は、新たな法律によって自衛隊に対して新たな任務を与えることも必要ではないかなと思っております。(拍手)

 新法は国連協力法案ではないことを明言すべきじゃないかというお尋ねであります。

 今回の同時多発テロ事件を受けて、国連安保理においては、今回のテロ事件を国際の平和及び安全に対する脅威であると認め、テロの実行者及び支援者等の処罰並びにテロ行為の防止のための国際社会の努力を求めること等を内容とする決議が採択されています。

 我が国としても、こうした安保理決議を踏まえた国際社会の取り組みに主体的に貢献していく考えであり、そのような観点に立って法律案の作成に取り組み、一日も早い法案成立を目指してまいるつもりでございます。

 武力の行使との一体化及び医療行為と憲法解釈との関係についてお尋ねがありました。

 武力の行使との一体化に関する政府の従来からの基本的考え方に変わりはありません。

 テロ攻撃に対する諸外国の活動の支援のあり方については、今後、いろいろ予想し得る事態を考えつつ、憲法の範囲内でできる限りの支援、協力は何かという観点から、御指摘の点も含め、意義のある支援、協力ができるよう、早急に検討していきたいと思います。

 米国同時多発テロを踏まえた本年の米国経済、世界経済の成長率の予測についてのお尋ねであります。

 世界経済は、成長が同時的に減速しております。また、先般の米国における同時多発テロ事件により、先行きが一層不透明な状況となっており、今後、米国経済にマイナスの影響があらわれてくる可能性があり、各国の経済動向にも注視が必要であります。

 日本としても、世界経済及び日本経済システムに混乱が生じないよう、米国を初めとする各国と協調し、状況の変化に応じた適切な対応を図ります。

 今後、構造改革を推進するに当たっては、改革に伴う痛みを和らげる必要がありまして、このため、十三年度補正予算は、従来型の公共事業の追加ではなく、雇用対策に重点を置くこととしております。

 景気悪化への対応策についてであります。

 景気回復が先だ、構造改革は後回しだという議論もありますが、私はそうはとりません。改革なくして成長なし、この方針のもとに、今後、大幅な規制改革を含む構造改革の道筋を示し、補正予算等でこの構造改革を加速するような施策を実施に移してまいります。従来型の公共事業の追加は厳に慎み、雇用対策に重点を置くことにしております。

 国債発行を三十兆円以内に抑制しつつ不良債権を二、三年以内に処理することなどの実現可能性についてのお尋ねであります。

 改革なくして成長なしとの決意のもと、今般の改革先行プログラムにおいて、主要行に対する検査を強化するとともに、整理回収機構等を活用して不良債権の買い取りを進めるなどにより、不良債権の最終処理に迅速かつ果断に取り組み、集中調整期間が終了する三年後には不良債権問題を正常化することを目指し、全力を尽くします。

 また、税収が五十兆円にとどまる中で国債を三十兆円発行するということは、決して緊縮予算とは言えません。私は、国債発行額を三十兆円以下に抑えることを目標にする、この方針の中で取り組んでまいります。

 不良債権問題についてのお尋ねであります。

 不良債権の最終処理については、今般の改革先行プログラムに盛り込まれた各般の施策を果断に実施することにより、遅くとも集中調整期間が終了する三年後には、不良債権問題を正常化します。

 公的資本増強については、預金保険法上、金融危機に対応するための措置としてこれを行うことが可能となっているところですが、現在、主要行の自己資本比率は十分な水準にあり、資本不足に陥ることはなく、資本増強が必要な状況にはないと考えております。

 なお、金融再生法に基づくRCCによる不良債権の買い取りについては、預金保険機構金融再生勘定の政府保証枠を活用し、改革先行プログラムに沿って積極的に実施することとしております。

 国債発行上限額についてのお尋ねです。

 十三年度補正予算においては、税収が五十兆円程度でとどまる中では国債発行を三十兆円以下に抑えることが適切であり、政府としては、十四年度予算と同様、国債発行額三十兆円以下との方針で取り組んでまいります。

 経済を活性化させる法案についてのお尋ねであります。

 自由党が提出した法案の内容はまだ承知しておりませんが、競争や技術革新を促すことなどにより、消費者、生活者本位の経済社会システムをつくり、経済の活性化を図ることは重要であります。

 このため、政府としては、引き続き、民間事業者の自由な経済活動を阻害する規制を撤廃するとともに、市場機能が十分発揮されるような新たなルールづくりを含んだ規制改革を積極的に推進してまいりたいと思います。

 自由党が今国会で提出する予定の特殊法人等の改革に関する法案についてのお尋ねであります。

 今回の特殊法人等改革は、簡素、効率的、透明な政府を実現する行政の構造改革の一環であり、現在、ゼロベースからの徹底した見直しを行っているところであります。年内には全法人の事業及び組織形態の見直し内容を定める特殊法人等整理合理化計画を策定するとともに、平成十四年度予算から財政支出の大胆な削減を目指すこととしております。

 特殊法人等の改革についてはさまざまな御意見があるかと思いますが、自由党が提出を予定される法案についても、具体的な提案を待ってその内容を検討してまいりたいと思います。

 補助金の廃止及び財源の地方一括交付に関する法案についてのお尋ねです。

 提出される法案の詳細は承知しておりませんが、補助金等については、平成十四年度予算編成においても、国庫補助金の縮減に努めるとともに、地方公共団体の自主性を尊重する統合補助金の拡充を図るなど、その整理合理化を進めることとしており、社会経済情勢の変化、国と地方の役割分担のあり方等を踏まえつつ、地方分権を推進する観点から、一層の見直しに努めてまいります。

 個人所得課税のあり方についてのお尋ねであります。

 個人所得課税における各種の人的控除を簡素化するという趣旨は理解できますが、人的控除は、納税者のさまざまな事情に配慮した適正な税負担を求めているところであり、これを廃止することは税負担の調整機能を損なうという問題があります。また、税率については、国際的に見ても決して高くない水準となっており、所得再配分機能の重要性を踏まえる必要があります。

 いずれにせよ、個人所得課税のあり方については、社会経済の構造変化を踏まえ、公平、中立、簡素の観点から、国民的な議論の中で検討されるべき事柄であると思います。

 消費税の使途を基礎的社会保障の財源に限定してはどうかとのお尋ねであります。

 これは、三%の消費税が導入されたとき以来、いろいろ話題になる問題でございます。

 この問題について、社会保障の財源を賄うについては今の五%ではとても間に合わない、そうすると、消費税の引き上げに対してまた一方では強い反対の声が起こる、消費税を五%にとどめると社会保障関係の予算は抑えなきゃならない、社会保障関係をふやすとなると消費税を上げなきゃならない、こういう問題があります。

 まずは、歳出の徹底的なむだ、見直しをして、今後、我々お互いが支え合う社会保障制度はどういう形で、給付と負担の均衡をどうやってとっていくかという中で、この消費税の問題と社会保険方式等社会保障全般の問題について議論していく問題だと思います。

 いずれにしても、これからの経済社会の構造変化、財政状況等を踏まえつつ、国民的な議論によって検討されるべき課題だと思っております。

 食料自給率についてのお尋ねでございます。

 我が国の食料自給率が低下してきたのは、米の消費が減少する一方で、畜産物等の消費が増加するなど、我が国の食生活が変化してきたことや、国内の農業生産がこのような変化に十分に対応できていないことが主な要因であると考えております。

 国民に対して食料を安定的に供給していくことは国の基本的な責務であると考えており、今後、食料自給率の向上に向け、関係者が一体となって努力しなければならず、政府としても、生産から消費にわたる各般の施策を推進していく考えであります。

 農業・食料政策の転換についてのお尋ねであります。

 我が国の農業は、国民に対する食料の安定供給はもとより、国土の保全や都市住民に対する憩いの場の提供など、多面的な機能を有しております。

 このような農業を将来にわたり発展させていくため、食料自給率の向上に向け、全農家への一律政策をやめ、意欲と能力のある経営体に農業経営の規模拡大や法人化の推進などの施策を集中化するとともに、米の生産・流通システムを見直すなど、農業の構造改革を進めてまいります。

 高祖氏の辞職に関連したお尋ねがありました。

 さきの参議院選挙に際し、現職の国家公務員が公選法違反の容疑で逮捕されるという事態に至ったことは、まことに遺憾であります。本件については、現在、なお捜査が継続中であると承知しており、捜査による全容解明を待って、当事者への行政処分とあわせ、適切に対処すべきものと考えております。

 また、自民党は、役所や団体の出身者も含めて、国会議員としてふさわしい人を候補者として選んでおり、国会議員となった以上は、単に役所や団体の代表ではなく、幅広い国民の声を代表する、国民全体の代表者であるという自覚を持って議員は活動されていると思います。

 衆議院選挙制度改革についてのお尋ねがありました。

 この問題については、与党三党の間で設置された衆議院選挙制度改革協議会において協議が進められており、去る九月二十日、現行制度の改革案について合意がなされました。この合意は重いものと認識しており、現在、与党三党それぞれにおいて党内手続に入っているところであると承知しています。

 いずれにせよ、衆議院の選挙制度は、議会政治の根幹にかかわる問題であり、各党各会派において十分な議論をいただくべきものと考えております。

 残余の質問については、関係大臣から答弁させます。(拍手)

    〔国務大臣武部勤君登壇〕

国務大臣(武部勤君) 東議員の御質問にお答えいたします。

 農業・食料政策の転換について厳しい御指摘をちょうだいいたしましたが、多々、的を射ていると思う点もありまして、傾聴させていただきました。

 私は、農林水産業についても構造改革を進め、農山漁村の新たなる可能性を切り開くという名に値する政策転換が必要だ、かように考えております。

 農業については、平成二十二年までに四五%の食料自給率目標の達成を図ることが重要な課題であります。

 このため、全農家への一律政策をやめます。意欲と能力のある経営体が農業生産の相当部分を担う望ましい農業構造の確立を図るため、これらの経営体に対し、今後、農業経営の規模拡大や法人化の推進などの施策の重点化、集中化を進めてまいりたいと考えます。

 また、生産調整の見直し、稲作農家の経営を安定させるための制度や計画流通制度の見直しなど、米の生産・流通システムの抜本的な見直しが必要と考えております。

 このような考えを基本に、農業の構造改革を強力に進めてまいる所存であります。

 なお、米の備蓄の積み上げなどの御指摘につきましては、需要に応じた生産の推進、適切な価格形成の実現、財政の効率的発動の面などから、慎重に検討しなければならない問題だと考えております。

 以上です。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(綿貫民輔君) 志位和夫君。

    〔志位和夫君登壇〕

志位和夫君 日本共産党を代表して、小泉首相に質問します。(拍手)

 九月十一日に米国で起こった大規模なテロ事件は、無差別に多数の市民を殺りくした憎むべき犯罪行為です。

 テロ行為がどのような政治的、宗教的、思想的、民族的理由によっても正当化され得ないことは、国際社会でも繰り返し確認されてきた原則であり、テロを根絶することは、二十一世紀に人類が平和的に生存していく根本条件の一つであります。

 私は、改めて卑劣なテロリストの蛮行を糾弾するとともに、テロの犠牲者と御家族、関係者の皆さんに心からの哀悼とお見舞いを申し上げるものです。

 今、世界に問われている問題は、テロを根絶する手段として、どのような手段が法と道理にかなっているか、また、真に有効であるかという問題です。

 九月十七日に、我が党は、不破議長と私の連名での書簡を、世界約百三十カ国の政府首脳あてに送りました。その中で私たちは、テロ根絶のためには、軍事力による報復でなく、国際社会の共同の努力によって、法に基づく裁きを図ることこそ必要であると提唱いたしました。

 この点で、今、米軍を中心として大規模な報復戦争の準備が進められ、戦争開始が切迫していることに、私たちは深い憂慮を持っております。

 何よりも、テロ犯罪に対して軍事力で報復するならば、罪のない多数の市民が新たな犠牲者となることは避けられません。攻撃対象とされているアフガニスタンは、二十年以上に及ぶ内戦で経済が破壊され、干ばつによる飢餓で苦しめられてきた地域です。報復戦争の危険が高まる中で、国境が閉鎖され、国際機関の食糧援助が途絶え、飢餓が急速に深刻化しております。

 九月二十四日、ユニセフなど国連の五つの機関は、共同声明を発表し、今、アフガニスタンで五百万人以上の民間人が生存の危機にあること、その二割は五歳未満の子供たちであり、その多くは既に生死の境にあると訴えています。こうしたもとで武力攻撃が実行されれば、おびただしい新たな犠牲者がつくられることは必至であると、国連機関からも強い警告の声が上がっております。

 無差別に多数の市民を殺害したテロは、憎みても余りあるものです。しかし、それへの報復として、罪なき多数の市民、子供たちを新たな犠牲者とすることも許されないのではないでしょうか。それは、新たな憎しみを生み、テロと報復の悪循環をつくり出し、テロ根絶に向けた世界の団結を壊し、テロ根絶にも効果がないばかりか、事態を一層の泥沼に導く危険があります。

 この憂慮は、私たちだけのものではありません。最近、アメリカの世論調査会社、ギャラップ社が世界の三十一カ国で世論調査を行っていますが、米国とイスラエルを除く二十九カ国では、武力攻撃に反対する声が多数であります。ヨーロッパ諸国を見ても、武力攻撃に賛成する声は二割前後にすぎず、八割前後は犯人の身柄の引き渡しと法による裁きを求めています。

 首相に伺いますが、あなたは、報復戦争がもたらすこうした危険をどのように認識しておられるのですか。テロ根絶のためには、罪なき市民に犠牲者が出てもやむを得ないと考えておられるのですか。明確な答弁を求めます。(拍手)

 それでは、どうやって問題を解決するのか。私たちは、今必要なことは、性急に報復戦争に訴えることではなく、国連が中心となり、国連憲章と国際法に基づいて、テロリストとその支援者を追い詰め、法に基づく裁きを下すことだと考えます。

 第一に、だれがテロ犯罪の容疑者であり支援者であるかを、事実と証拠によって可能な限り特定するための、国際的に協力した努力を行うことであります。

 米国は、ビンラディンとそのグループによる犯行と断定し、タリバンを同罪とみなして攻撃を加えようとしておりますが、国際社会に対して事実と証拠を可能な限り明らかにすべきではないでしょうか。事実と証拠によって犯罪者を特定し、国連を初め国際社会の共通の認識にすることは、問題解決の大前提ではないでしょうか。

 第二に、これらの勢力が明らかになったならば、彼らを法による裁きの支配下に置くために、国連を中心に国際社会が協力してあらゆる努力を尽くすことです。

 米国外の容疑者ならば身柄の引き渡しの要求が必要となりますが、それを拒否した場合には、国連が主体になって、経済制裁などの集団的な強制措置も含め、人道上の慎重な考慮を払いながら、可能なあらゆる手段を行使することも必要となるでしょう。

 第三に、容疑者が逮捕されたならば、厳正な裁判によって真相の究明と処罰を図ることです。

 今回のテロ事件は、大がかりな国際テロ組織が関与したものであるとされていますが、それだけに、法に基づく裁判によってこそ、この組織の全貌を明らかにし、根絶することも可能となります。テロ事件が国際社会全体への攻撃であることに照らして、国連のもとに特別の国際法廷を設置することも検討すべきだと考えます。

 以上が私たちの提案でありますが、国連のもとに国際社会が一致協力し、法と理性に基づいて粘り強く対応することこそが、無法なテロ集団を国際的に包囲し、地球上から一掃する最も確かな道であると私は確信するものであります。(拍手)

 日本政府は、国際紛争の平和解決を根本精神とする憲法九条を持つ国として、そうした立場で国連と国際社会に働きかけるべきではありませんか。総理の見解を求めます。

 テロ犯罪の容疑者については、被害を受けた国に引き渡して法の裁きにかける、これは国際条約にも明記された世界のルールです。既にそれを適用した実例もあります。

 一九八八年に、イギリスのロッカビー村上空で、パンアメリカン機がテロリストに爆破された事件が起こりましたが、国連による経済制裁を含む粘り強い努力の結果、リビア政府が容疑者とされた二人の人物の引き渡しに応じ、今、裁判が始まっています。日本政府は、この事件の容疑者の引き渡しに当たって、すべての当事者が行ってきた忍耐強い努力を高く評価するという外務大臣の談話を出しています。

 今回のテロ事件は、はるかに規模が大きいものですが、この事件に対しても、法に基づく司法的解決を何よりも最優先させた対応を行うことを妨げる理由はないはずであります。首相の答弁を求めます。(拍手)

 首相は、米軍が軍事報復に踏み切った際に自衛隊の参加を可能とする新規立法を進める方針を明らかにしています。

 政府の対応の最大の問題は、米国が報復戦争を進めることを無条件の前提にして、その枠の中で日本がこの戦争にどう協力するかという対応に終始していることであります。

 首相は、日本として主体的に方針を決めたと繰り返していますが、政府の方針は、米国政府高官に、旗を見せよと要求を突きつけられ、軍事協力ができなかったら湾岸戦争の二の舞になるという焦りから慌ただしく決定されたもので、テロ根絶のために、どのような手段が法と道理にかなっており、また真に有効なものかの主体的検討を行った形跡は、率直に言って全く見られません。

 首相にただしたい第一の問題は、米軍が軍事力行使を行う国際法上の根拠を日本政府としてどう認識し、判断しているのかという問題です。

 国連憲章のもとでは、加盟国の武力行使は原則的に禁止され、例外として認められているのは、侵略に対する緊急の措置としての自衛反撃と、国連が憲章第七章に基づいて軍事制裁を決定した場合に限られます。

 テロ事件の翌日に採択された国連安保理事会決議一三六八は、テロ攻撃の実行犯、組織者、支援者を法に照らして処罰することを求めているものであり、米国の軍事力行使を容認する内容はどこにもありません。

 一九七〇年に国連総会で採択され、国連憲章に準じる重要な宣言とみなされている友好関係原則宣言は、武力行使を伴う復仇行為、すなわち、あだ討ちの行為を明確に禁止しています。

 米国は、自衛権の名で戦争を行おうとしていますが、国連憲章で認められている自衛権は、国連安保理事会が必要な措置をとるまでの緊急の対応に限られており、今回のように、既に国連安保理事会がテロ根絶に向けた行動を開始しているもとで、個々の加盟国が勝手な武力行使に訴えることは許されていません。

 首相は、政府が新規立法の方針を決めた翌日、九月二十日に行われた野党との党首会談で、私が米軍の軍事力行使の国際法上の根拠をただしたのに対して、その根拠を示さず、こう答えました。それはアメリカが判断するだろう、それを見て日本政府も主体的に判断していく。しかし、普通は、そうした判断は主体的とは言わないのではないでしょうか。

 事は、日本の自衛隊を海外に派兵する問題です。米軍の報復戦争への参加の方針を決めながら、その国際法上の根拠について主体的判断を持たず、米国の判断任せという態度は、主権国家ならおよそ通用しない無責任な態度ではありませんか。

 総理に改めて伺います。米軍が軍事力行使を行う国際法上の根拠がどこにあると認識しているのですか。根拠があるというのならば、国連憲章あるいは国連安保理決議の条文を具体的に示していただきたい。明確な答弁を求めるものであります。(拍手)

 私たちは、米軍の軍事力行使も、それへの日本の参加も、今日の国際社会が承認している原則に照らして、国際法上の根拠を持たないと考えます。無法なテロリストに対して、国際社会は法をもってこたえるべきであります。法に根拠を持たない対応をすることは無法者を利する結果になるだけであるということを、私は警告せざるを得ないのであります。

 第二は、憲法の平和原則との関係をどう考えているのかという問題です。

 政府が進めている新規立法は、米軍が報復戦争に踏み切った際に、自衛隊を、医療、輸送、補給等の支援活動を実施する目的で派遣するというものです。派遣の範囲は、地球的規模に無制限となり、相手国が了解するなら他国の領土でも可能とされています。

 首相は、武力行使と一体にならない範囲で行うので憲法違反ではないと繰り返しています。しかし、武器弾薬、兵員の輸送、燃料や食料の補給、傷病兵の医療など、政府が後方支援と呼ぶ兵たん活動が、国際法上も、また実際の戦争でも、武力行使の一部とみなされ、相手方の攻撃目標とされることは、ガイドライン法の際の国会論戦で既に明らかにされている決着済みの問題であります。

 武力行使と一体でない兵たん活動など、存在しないのです。戦場に、前方と後方を区別する道路標識が立っているわけではありません。ましてやテロとの戦いで、その区別はいよいよ無意味であります。そのことは、首相自身が、今度は自衛隊には危険なところにも行ってもらうと明言していることからも明らかではありませんか。

 ガイドライン法のときには、政府は、危険なところには行かないから武力行使と一体化しないという詭弁を弄してきましたが、危険なところにも行ってもらうということになれば、もはや、この詭弁さえ成り立たないではありませんか。

 いよいよ破綻があらわになったこうした詭弁を弄して憲法違反の海外派兵を合理化することは、もはや通用しないと考えますが、いかがですか。

 新規立法は、国際法に根拠がない報復戦争への参戦を目的とするという点でも、憲法九条をずたずたに引き裂くという点でも、二重に許されるものではありません。日本共産党は、憲法違反の報復戦争法案をきっぱり中止することを強く求めるものであります。(拍手)

 次に、国民生活についてですが、私は、ここでは特に、今国民が不安を強めている二つの切実な問題に絞って首相の見解を伺いたいと思います。

 第一は、雇用の問題です。

 完全失業率は史上最悪の五%、三百三十六万人に上っています。働き口を求めながら求職活動をあきらめている潜在失業者を含めれば一〇%を超え、十人に一人が失業者という深刻な実態です。しかも、重大なことは、大企業による空前の人減らし、リストラのあらしが失業増に拍車をかけているという問題であります。

 首相は、先日の予算委員会で、我が党議員が、大企業が今リストラ競争に走り、雇用に対する社会的責任を放棄している実態を示し、これをどう考えるかと質問したのに対して、こう答弁されました。経営者として雇用を守る社会的責任があるが、同時に、会社を倒産させてはいけないという責任もある。

 そこで、首相に伺いますが、今、大規模なリストラ計画を進めている主要な大企業で、それをやらなければ倒産の危機に瀕している企業がありますか。一つでもあれば、具体的に挙げてください。

 今の大リストラ計画を主導しているのは、大手の電機産業や通信産業など、いわゆるIT関連企業であります。つい最近まで、ITブームに乗って巨額の利益を上げ、巨額のもうけをため込んできた大企業が、IT不況で少し見込み違いになったからといって、みずからの経営責任を棚上げにして、ツケを労働者と下請中小企業に押しつけるなど、身勝手、無責任のきわみではないでしょうか。

 今、政治に求められているのは、大企業のリストラを野放しにし応援する、そういう政治をやめ、ヨーロッパでは当たり前の雇用を守るルールをつくることであります。

 一つは、解雇規制のルールです。

 主要国の中で、日本ほど首切り、リストラが野放しにされている国はありません。ヨーロッパの多くの国々には解雇制限法があります。さらに、ことし六月には、大企業が大規模なリストラを行う際には、事前に労働者側に情報を提供し、合意を目的とした協議を義務づけるEU指令が、閣僚理事会で合意されています。日本でも解雇規制のルールをつくるべきではありませんか。

 二つ目は、賃下げなしの労働時間の短縮による雇用の分かち合い、ワークシェアリングを雇用対策の柱に位置づけるべきであるということであります。

 フランスでもドイツでも、労働時間短縮による雇用拡大の政策は大きな成果を上げています。政府の対策にはこの問題が全く考慮されていませんが、どうしてこの有効な対策を拒否するのですか。

 現場を見ますと、多くの大企業では、サービス残業、ただ働きや、有給休暇をとらせないことを前提にしたリストラが進められています。私は提案したいのですが、緊急の措置として、リストラ計画を進めている大企業について、サービス残業や有給休暇について労働基準法が守られているかどうかを調査し、是正を図るべきだと考えますが、いかがですか。

 国連の社会権規約委員会は、八月三十一日、日本政府に勧告書を送り、日本政府が過剰な労働時間を許していることに対し深い懸念を表明し、労働時間を削減する法的、行政的措置をとることを勧告しています。日本政府はこの勧告にこたえる義務があります。勧告を踏まえて、どのような実効ある具体的措置をとろうとしているのか、首相の答弁を求めます。

 第二は、社会保障、とりわけ医療制度の問題です。

 小泉内閣は、サラリーマンなどが加入する健康保険の本人負担を二割から三割に引き上げ、老人保健制度の適用年齢を段階的に現行の七十歳から七十五歳に引き上げるなど、空前の医療費負担増の政策を進めようとしています。何よりも危惧されるのは、この負担増が、お金の心配で医療を受けられなくなる受診抑制を深刻化させ、国民的な規模での健康悪化をもたらすという問題です。

 私は、一九九七年九月に橋本内閣のもとで健保本人負担を一割から二割に引き上げる医療費負担増が強行された際、当時厚生大臣だった小泉さんと予算委員会で議論したことを思い出します。私は、負担増によって、糖尿病や高血圧など慢性疾患の患者さんを中心に必要な医療が抑制、中断されるという事態が広がりつつあることを、事実を示してただしました。小泉さんの答えは、必要な医療が抑制されているとは思っていないの一点張りでした。

 しかし、その後の経過を見れば、厚生労働省の調査でも、働き盛りの年齢層の外来患者数は一二・四%も減少しているではありませんか。この上、さらに医療の負担をふやすことが国民の命と健康にどのような影響を及ぼすと認識しているのか、首相に伺いたいのであります。

 国民の命を、そして健康を危険にさらしてまで、医療費の負担増を強行する道理があるでしょうか。

 第一に、日本の国民医療費は、その経済力に比べて決して高くはありません。

 日本の医療費は、対GDP比で見ますと、OECD二十九カ国の中で二十位です。サミット七カ国の中で六位です。経済力に比べて低いのが現状です。あたかも医療にお金を使い過ぎているかのように描き、患者負担増によって医療費抑制を図ることは、全く根拠がないではありませんか。

 第二に、医療保険の赤字の原因は、焦点とされている老人医療費について言えば、国庫負担割合を削減してきたことにあります。

 一九八三年度と二〇〇一年度を比較して、老人医療費に占める国庫負担の割合は一三%も削減されました。これを計画的にもとに戻し、国の責任を果たすべきではありませんか。そのための財源は、異常に膨張した公共事業の浪費に抜本的にメスを入れることで賄うべきであります。

 第三に、医療費の効率化を言うなら、世界一高い薬価、薬の値段にメスを入れる改革こそ断行すべきであります。

 七月に発表された政府の産業構造審議会の中間取りまとめでは、日本の医療費に占める薬剤費比率二〇・一%を欧米諸国並みに一六%に引き下げることによって、医療費を一兆四千五百億円削減できると試算しています。この改革を実行しただけでも、負担増は必要なくなるではありませんか。

 以上、三点について首相の答弁を求めるものであります。

 憲法二十五条には国民の生存権がうたわれ、社会保障を増進するのは国の責任であることを明記しております。テロ問題にかかわっての平和の問題についても、雇用や社会保障など暮らしの問題についても、二十一世紀の日本には憲法を生かした政治こそ求められているということを強調して、質問を終わるものであります。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 東議員の質問について答弁漏れがございましたので、補足させていただきます。

 湾岸戦争の際に、海部内閣のもとで憲法上できなかった自衛隊による物資協力や輸送協力がなぜできるかとのお尋ねですが、これは、武力行使や他国の武力行使と一体となる行為をしない限り自衛隊の海外派遣は憲法違反とはならないものであり、これを憲法違反とする見解を政府が示したことはありません。この点については、いわゆる湾岸戦争の際にも明らかにしているところであります。

 志位議員にお答えいたします。

 テロに対する大規模な報復戦争がもたらす危険に関する認識についてのお尋ねであります。

 テロに対してアメリカのみならず全世界が協力して毅然として対応していこう、我々日本も、このようなテロに対する対応については、主体的に、我が国みずからの問題として取り組むつもりでございます。

 したがって、このようなテロに対する闘いは、およそ報復戦争と呼ぶべき性質のものではないのです。テロ組織に向けた世界的な取り組みとしてとらえるべきでありまして、我々は世界の国々と一致団結して、単にテロに対する闘いは武力行使だけじゃない、外交努力、あるいはテロに対する資産凍結、あるいは経済面の協力、難民の支援に対する協力、医療活動、いろいろあるわけです。武力攻撃だけじゃない、武力行使だけじゃない、あらゆることからテロに対して毅然として立ち向かっていかなきゃならないというふうに私は認識しております。(発言する者あり)質問に答えております。(拍手)

 今回のテロ事件の犯人特定に係る事実と証拠を国際社会に提示するよう米国に求めていくべきではないかとのお尋ねであります。

 日米間では、事件発生以来、本件事件に関し、ウサマ・ビンラディンに関する情報交換や事件への対応を含め、緊密に連絡をとっています。先月二十五日の日米首脳会談においても、ウサマ・ビンラディンについて触れるとともに、本件事件への対応につき、今後とも緊密に連絡をとっていくことを確認しております。

 テロに対しては国連のもとで国際社会が一致協力して対応すべきではないかとのお尋ねでございました。

 もちろん、米国でのテロについては、このようなことが二度と起きないよう、関係各国とともに断固たる決意で立ち向かう考えであります。

 国連安保理においては、今回のテロ事件を国際の平和及び安全に対する脅威であると認め、テロの実行者及び支援者等の処罰並びにテロ行為の防止、抑圧のための国際社会の努力を求めること等を内容とする決議が採択されています。我が国としても、安保理決議を踏まえ、このような国際社会の取り組みに積極的に協力していく考えであります。

 今回のテロに対し司法的解決を最優先すべきではないかということについてのお尋ねであります。

 ブッシュ大統領は、九月十一日の国民向け演説の中で、情報機関、法執行機関に対して、これらの行為に責任を有する者を見出し、裁きを受けさせるため全力を尽くすよう指示した旨述べています。こうした方針のもと、米国政府は、本件テロの主要な容疑者と考えているウサマ・ビンラディンの引き渡しをタリバンに求めております。

 我が国としては、さきに述べたとおり、安保理決議一三六八を踏まえ、国際社会の取り組みに積極的に協力していく考えであります。

 米国の軍事力行使の国際法上の根拠についての我が国としての判断のあり方についてお尋ねがございました。

 米国がいかなる行動をとるか現段階で明らかではありませんが、今回の事件に関し採択された国連安保理決議は、自衛権が国連加盟国の固有の権利であることを確認するとともに、先般の米国におけるテロ攻撃を国際の平和及び安全に対する脅威と認めています。

 今後、米国による軍事行動が行われる場合には、米国から得られる各種情報を踏まえて判断し、主体的に我が国としての対応を決定するのであります。米国の判断任せとの御指摘は全く当たらないものであります。各国がこのテロに対応する措置というのは、それぞれ国情にもよるでしょう。国力にもよると思います。その国が主体的に考えるべきことだと思います。

 我が国は、毅然として、国際協調のもとで、テロにひるまず、テロを二度と起こしてはいけない、テロ根絶のために国際協調のもとで努力をしていきたいと思います。

 米軍が軍事力行使を行う場合の国際法上の根拠についてお尋ねがありました。

 米国が今後いかなる行動をとるか明らかでありませんが、その上で申し上げれば、今回の同時多発テロ事件に関し採択された安保理決議一三六八及び決議一三七三は、国連憲章第五十一条で規定されている自衛権が各国固有の権利であることについて改めて言及しています。これらの決議は、今般のテロに対応して米国等が個別的または集団的自衛権を行使し得ることを確認したものと考えられます。

 テロとの戦いでは前方と後方の区別が無意味であるとの御指摘及び自衛隊の派遣について憲法違反との御指摘がありました。

 自衛隊の活動地域も含めたテロ攻撃に対応する諸外国の活動の支援のあり方については、今後、いろいろ予測し得る事態を考えつつ、憲法の範囲内でできる限りの支援、協力は何かという観点から、早急に検討してまいりたいと考えております。

 いずれにせよ、武力の行使との一体化に関する政府の従来からの基本的考え方に変わりはありません。

 大企業のリストラに対する考え方についてのお尋ねがありました。

 個々の企業の経営の状況について言及するのは差し控えさせていただきますが、経済社会が大きく転換する中で、企業がその存続を図るために雇用調整を余儀なくされる場合があります。しかしながら、そうした場合においても、企業としては、失業の予防や雇用の安定に努力すべきものと考えております。

 IT関連企業のリストラ計画についてのお尋ねであります。

 各企業は、リストラを進める際には、雇用面について可能な限り配置転換や職種転換により対応しており、下請中小企業については、その関係を一方的に断ち切るのではなく、親会社、子会社ともにコスト削減に向けた努力を行っているものと理解しております。各企業は、雇用の維持等に向け最大限の努力を行っているものと考えております。

 解雇規制のルールについてのお尋ねであります。

 解雇については、いわゆる整理解雇の四要件や、合理的な理由を必要とするという裁判例により対処されてきているところであります。しかしながら、経済社会の構造変化等に伴い雇用の流動化が進む中で、労働関係をめぐる紛争の防止の観点から、解雇基準やルールを明確にすることは大切なことだと考えております。そのため、厚生労働省において、今後、労使を初め関係者の意見を十分聞きながら検討していく必要があると考えます。

 ワークシェアリングを雇用対策の柱に位置づけるべきであるとのお尋ねがありました。

 政府としては、現下の厳しい雇用情勢を踏まえ、先般、総合雇用対策を取りまとめたところであります。

 さらに、ワークシェアリングによる雇用対策という議論もあります。これについては、労働時間を短縮してワークシェアリングにより雇用を確保することについて、労使間に考え方の相違のあるところであります。このため、まず労使間を初めとして十分な議論を深めていただくことが必要であると考えます。

 サービス残業と年次有給休暇についてのお尋ねであります。

 いわゆるサービス残業については、厚生労働省において、ことし四月に通達を発出し、その内容について周知、指導を行っており、また、年次有給休暇については、その取得促進を図っているところであります。

 いずれにしても、労働基準関係法令に照らして問題が認められる場合には、関係機関において適切に対処してまいります。

 労働時間短縮に関する国連の社会権規約委員会の勧告についてのお尋ねであります。

 委員会は、締結国が労働時間を削減するために必要な立法上及び行政上の措置をとることを勧告しています。

 政府としては、目標としている年間総実労働時間千八百時間の達成、定着に向けて、年次有給休暇の取得促進及び所定外労働の削減に重点を置き、今後とも労働時間短縮に取り組んでまいります。

 医療制度改革の影響についてのお尋ねであります。

 平成九年以降の累次の医療制度改革は、必要な医療を抑制することではございません。医療保険制度、国民皆保険制度を堅持しなきゃならない。制度の破綻を防ぎ、健康な人にも保険料を負担していただく、そして、いざ病気になったらできるだけ軽い負担で病気の治療ができる、この世界でも高度の水準をいっている現在の日本の国民皆保険制度を堅持するために行われたものであります。

 高齢化の進展に伴い医療費が増大する一方、経済が低迷する中では、給付は厚く負担は軽くというわけにはまいりません。高齢少子社会にあって、お互いが、健康な者も病気になった者も支え合う精神でこの医療制度を今後も見直していく必要があると思います。

 国民医療費についてのお尋ねであります。

 医療サービスの水準は、国民の健康寿命など、国民の健康がどれだけ守られているかによってはかられるべきものであって、医療費の額や対GDP比の大きさだけではかるのは適当ではありません。

 なお、議員は、我が国の国民医療費の対GDP比が経済力に比して低いと指摘していますが、国民一人当たりの医療費は、我が国は、OECD加盟国のうち第七位で、サミット参加国七カ国中第三位であることを申し添えます。

 いずれにしても、将来にわたり医療制度を持続可能で安定的、効率的な制度へと再構築していくためには、むだを省き、医療の質を確保しながら、給付と負担の両面にわたる大幅な改革が必要であると私も認識しております。

 老人医療費の国庫負担についてお尋ねがありました。

 老人医療費の国庫負担は、一般歳出との関係で見れば、制度創設時と比較して、国の一般歳出の予算額が約一・五倍の伸びであるのに対し、老人医療費の国庫負担は約二・四倍の伸びで、その額は約三・五兆円となっております。

 今後一層、高齢化の進展が見込まれる中で、高齢者医療制度を持続可能で安定的な制度とするためには、保険料、公費、患者負担の適切な組み合わせにより安定的な財源を確保していくことが必要であり、こうした観点から、今後年末に向けまして、政府・与党内で十分議論を尽くして、必要な改革を実行に移してまいりたいと思います。

 薬価についてのお尋ねであります。

 薬価につきましては、昨年四月の薬価改定における価格ルールの見直しや価格決定手続の透明化など、これまでさまざまな適正化策を講じてきたところであり、その結果、薬剤比率は過去十年間で三〇%から二〇%へと大幅に低下するとともに、薬剤費の総額も過去四年間で約一兆三千億円減少したところであります。

 今後とも、給付と負担の両面にわたる改革の一環として、引き続き、薬価の見直しや薬剤使用の適正化に積極的に取り組んでまいります。

 以上であります。(拍手)

    ―――――――――――――

    〔議長退席、副議長着席〕

副議長(渡部恒三君) 土井たか子君。

    〔土井たか子君登壇〕

土井たか子君 私は、社会民主党・市民連合を代表いたしまして、小泉内閣総理大臣の所信表明演説に対して質問をいたします。(拍手)

 初めに、私は、この九月十一日、ニューヨークとワシントン及びペンシルベニアで発生いたしました無差別テロの犠牲となられたアメリカ国民及び日本国民を含む七十八に及ぶ国々の方々に対して、心からなる哀悼の意を表明いたします。

 搭乗した民間機が乗っ取られ、無理やり自爆攻撃の道連れにされた方々、いつもの朝のオフィスが瞬時に火炎地獄と化し、火災とビルの崩壊にのみ込まれていった方々、そして、救援に向かって命を絶たれてしまった消防士、警察官の方々、さまざまな夢と希望と家族への思いを持っていたに違いないこの人々の人生は、いきなり理不尽に断ち切られてしまいました。この方々の悔しさと怒り、そして御家族、友人、同僚たちの悲しみと嘆きを私は分かち合うものであります。

 犠牲者六千五百人以上と言われる無残さに、私は戦慄し、言葉を失いました。こうしたテロは、その背後にいかなる動機や信念や事情があろうと、決して許されるものではないと私は考えます。

 テロは、すべての人々の平和と安全を脅かし、暴力の排除を願ってさまざまなルールを築き上げてきた人類社会に対する挑戦であります。日本も国際社会と協力しつつ、まさに主体的にこれと闘っていかなければならないのは当然のことであります。(拍手)

 ところで、このテロに対する取り組みをどうするか、これこそが、当初、雇用をテーマに考えていたはずのこの第百五十三回臨時国会の最大のテーマとなりました。国民もマスコミも、この点に注目をしております。政府からすれば、米軍支援に自衛隊を派遣するという、憲法上も実際上も最大の争点となるであろう新法ほかの三法案が準備されているにもかかわらず、総理の所信表明演説には、その理念も考え方も、あるいは具体的な中身についても全く触れられておりません。これは一体どうしたことでしょう。不可解であり、無責任と言わざるを得ません。

 九月二十五日のブッシュ米大統領との会談では、小泉総理は、この米軍支援立法の約束さえしておられます。米国大統領には説明しても、日本国民には説明しないということなんでしょうか。国民軽視、国会軽視も甚だしいと言わなければなりません。

 さらに、国会の議論も待たず、自衛艦をインド洋に派遣する方向で防衛庁が調整しているという報道がありました。これは、米国の発動する戦争に実質的に参加するということを意味します。場合によっては国民の生命財産を危険にさらしかねない可能性のある決定を、また憲法上も大いに疑義がある決定を、一省庁が先走って検討しているとすれば、日本国民にとってゆゆしい大問題だと言わざるを得ません。これは誤報ですか。検討がなされていたのが真実とすれば、その責任者はどの省庁のだれですか。総理、お答えください。

 テロ関連三法案とは、米軍支援の新法案であり、自衛隊法改正案であり、武器使用基準を緩和するPKO法改正案であります。すべてが自衛隊絡みの法案です。テロリズムに対する闘いが、どうして戦争や軍事力の行使が前面に出ないとできないと小泉総理は考えておられるのか。遺憾ながら、この問題を利用して、政府は、従来の軍事にかかわる憲法の制約を振り払ってしまおうと考えておられるのではないかとさえ、私は疑わざるを得ないのであります。私がメディアの取材に答えて、悪乗りではないかと述べたのは、そういう意味であります。

 もとに戻って、まずは、ニューヨークとワシントンを襲ったテロとは何であったかについて考えてみる必要があります。

 ブッシュ大統領は、テロ攻撃の直後、これは新しい戦争だと述べ、その相手は、アルカイダというテログループであり、その指導者であるサウジ出身のオサマ・ビンラディン氏であると名指しました。そして、この戦争は外交、諜報、司法、経済、兵器など、利用できるすべてを動員して戦われると述べました。

 問題は、この新しい戦争とは何かということです。被害が非常に巨大であったこと、政治的、経済的な中枢部が攻撃されたことなどから、米国がこれを戦争という比喩で表現したとすれば、それは理解できます。しかし、比喩ではなく、文字どおりの戦争と理解して対処するなら、多くの誤りとさらなる悲劇を生み出しかねないと私は恐れるのです。

 日本も、過去にこうした無差別テロを経験したことがあります。例えば、三菱重工爆破事件や地下鉄サリン事件などです。いずれも多くの死者と重軽傷者を出し、現場はまさに悲惨な戦場そのものでした。しかし、これらは、被害の規模は大きくても、犯罪であって戦争ではありません。もちろん、日本はこれを犯罪として捜査し、容疑者を逮捕し、法に従って裁き、あるいは裁きつつあります。

 犯罪に対しては、法に基づいて捜査し、証拠を固め、容疑者を逮捕し、法に基づいて裁くというのが近代国家のいわば基礎認識であります。それによって社会に正義が回復されると考えるのが法治社会です。もとより、被害に対する報復は認められません。

 一方、戦争となれば、平時の法には一切制約されないことになります。法を超越した無制限の暴力がこれにかわります。武力のさなかにあって法は沈黙する、全くこの言葉のとおりですよ。

 小泉総理は、今回の事態をどのように認識しておられますか。犯罪と考えますか、戦争と考えますか。

 犯罪であれば、まずは捜査を行い、容疑の証拠を固めるべきであって、特定の国への武力行使などはあり得ないと考えますが、どうお考えですか。凄惨な暴力に対して、さらに凄惨な暴力でこたえるのは文明社会のやり方ではないと考えますが、いかがお考えでしょうか。

 仮に戦争と考えた場合にも、問題は残ります。

 国際社会は、国家の自衛権は認めていますが、報復の戦争などは認めていません。国連憲章並びに一九七〇年の国連総会決議により、武力を用いたあだ討ちは禁止されています。自衛権の行使に際しても、まず緊急性と均衡性という要件を満たす必要があり、国連安保理に報告する義務を負っております。武力の行使に当たっても多くの制約が課せられているというのが、過去百年にわたって人類が努力してきた成果であり、国際社会の約束であります。こうした制約が一たん踏み破られれば、国際社会の秩序はこれから大混乱する可能性があります。

 仮に米国がアフガニスタンのタリバンを武力攻撃するとした場合、これはどういう戦争ということになるのでしょうか。自衛戦争でしょうか。それでは、自衛権発動のための緊急性はあるのでしょうか。総理はどう判断されているのですか。お答えいただきたいと思います。

 国連安保理のテロ非難決議のどこを読んでも、アフガニスタンやタリバン政権を攻撃してもいいなどとは書いていません。あらゆる必要な措置をとるという主体は国連であり、個別の国家ではありません。この場合、国連決議なしの武力の行使は国際法に違反します。

 また、米国の武力行使が自衛権の発動というのであれば、それに対する協力は、後方支援といえども、明らかに集団的自衛権の行使ということになります。事実、北大西洋条約機構、NATOの判断はそのようなものだったのではないですか。しかし、日本の場合、集団的自衛権の行使は憲法によって禁止されています。米軍支援のために自衛隊をインド洋にまで派遣するなど、どの観点から見ても、初めから不可能なことではないでしょうか。

 テロリズムに対してどのような手段でどう闘うか、また米国の戦争にどこまで協力するかについて、世界の各国はそれぞれ悩んでいるように私には見えます。それどころか、米国内部でも、あるいはブッシュ政権内部でも意見が分かれているというのが実際ではないでしょうか。湾岸戦争と違って、このテロに対する闘いは、相手が見えず、武力行使の正当化が難しいだけに、格段に複雑で困難なものであることが次第に明らかになりつつあります。

 武力の行使について、世界各国でも、米国内部でも、もちろん日本でも、慎重な意見が次第に多く見受けられるようになってきました。その中で、小泉政権の対応は、浮き足立ち、しかも、余りに軍事と日米同盟に偏り過ぎていると私には思えてなりません。

 テロへの糾弾とテロ組織の根絶については、国際社会はほとんど一致しております。ただ、どのような方法をとるかについては、それぞれの国や社会の制約や能力に従って決定し、実施するしかないし、米国も国際社会もそれ以上を求めてはいないと私は考えます。それは、九月十二日の国連安保理決議を見ても、また、九月二十日に発表されたG8の共同声明を見ても明らかであります。

 日本には日本の規範があり、原則があります。それは日本国憲法であります。日本は、武力による威嚇または武力の行使をしてはならないと決められており、社会全体が戦争をしない、できない仕組みになっているのです。この社会が米国に追随して軍事的対応をするなど、初めから無理なんです。そして、そのことを恥じる必要など全くないと私は思っております。テロ、テロ組織への対策は、軍事的なもの、日米安保にかかわること以外にも山ほどあると考えるからです。

 例えば、司法、警察の捜査協力、情報の協力、対話を促進する外交的な協力、テロ組織の資金源を断ち切る金融面の協力、武器の流通を阻み、抑制していく協力、航空の安全のための協力などがそれです。何より日本政府は、アフガニスタン和平のために今まで外交関係を大事にしてきたのではありませんか。アフガンであれパレスチナであれ、対話と和解のために、中立で野心のない日本ができることは多いと思います。

 テロリズムを防止し、また公正に裁いていくための国際的な司法の枠組みを提起することも、大いなる国際的貢献となるでしょう。国際刑事裁判所の設置に関する条約に日米が協力して積極的に取り組むことも、不可欠な問題ではありませんか。国連では昨日から総会が開かれています。国連の月と言われるこの十月にも、国連の場で率先してこの努力ができるではありませんか。

 米軍の報復攻撃があることを予想し、それに無批判に追随、協力するというのではなくて、戦争を起こさせない努力をすることも、日本が要請されている役割の一つではないでしょうか。それは将来、必ず米国民からの理解を得る日が来ることを私は信じます。

 アフガニスタンやタリバン政権に対する米国の武力攻撃が仮にあり得るにしても、現在のところ、その武力の質もレベルも、その目標も期間も、全く明らかになっていません。それが明らかになっていないからこそ、NATOの加盟国でさえ軍事協力の具体的な中身を決めかねているのです。米軍の武力行使の形態がはっきりしていない段階で、なぜ日本政府は、その米軍の後方支援をすることを早々と決めているのでしょうか。小泉政権は、米国にすべてを白紙委任するおつもりですか。

 今回のテロに対するオサマ・ビンラディン氏やアルカイダの関与についてのはっきりした証拠さえ、私たちはまだ米国から見せられてはおりません。まさか、証拠も提示せずに米国が武力行使することなどあり得ないと私は思いますが、ましてや、証拠を示されもせずに、その武力行使を日本が支援するなどあり得ることでしょうか。お答えいただきたいと思います。

 このような法律が一たんできてしまえば、いかにそれが時限立法としてつくられたとしても、やがては、米軍の必要に応じて、自衛隊は世界の果てまで支援に行くことになりかねません。小泉総理は、自衛隊をそのようにするおつもりですか。

 小泉総理は、靖国神社に参拝されたとき、近隣諸国からの批判に答えて、日本が二度と戦争しないよう祈ったと語られました。その舌の根も乾かぬうちに戦争の片棒を担ごうとされるのでしょうか。危険を伴っても自衛隊に活動してもらうとは、どういうことでしょう。巻き込まれて戦死者が出てもやむを得ないということでしょうか。反撃して戦争に参加してもいいということでしょうか。この際、小泉総理のお考えを正直に語っていただきたい。重大な問題です。

 危機であればあるだけ、緊急であればあるだけ、原則に立ち返り、その原則を守ることが重要であります。総理、それが憲法であり、憲法の規範というものではありませんか。危機のときに投げ捨ててしまうようなものは、規範とは呼べません。原則とは呼べません。

 総理は、今回、憲法を熟読されたと聞きます。改めて言うまでもなく、憲法は、緊急の事態において為政者の行動を縛る規範として存在しています。そして、総理大臣は、憲法を最も遵守しなければならない義務があります。先日の所信表明では憲法の前文を都合よく引用されましたが、その前文には、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、」とあることをどうか忘れず、憲法の精神に沿って施策を進めていただきたいと思います。(拍手)

 こういう緊急を要する問題では、まず、与野党が一致でき、国民みんなが納得でき、協力できることから始めるのが筋ではないかと私は思います。自衛隊や憲法のかかわる難問から浮き足立って無理に始めれば、必ず対立が生じ、政府は説明がつかなくなって、海部内閣時代に廃案となった国連平和協力法案のような結末を迎えることになることを、私はあらかじめ警告しておきます。

 実際、自衛隊を在日米軍基地などの重要施設の警備に当てることができるようにする自衛隊法改正案は、与党内部はもとより、自民党の中からでさえ疑問の声が噴出しているじゃありませんか。国民に銃を向けるのか、まるで戒厳令のようではないかという声。もともと自衛隊は自分たちの部隊警備の任務も権限も持っていないのに、なぜその任務も権限も持っている米軍施設を警備するのか、こっけいではないかという声すらあります。自民党の中にですよ。総理は、現在、警察の力で警備できないようなどんな事態があるとお考えなんでしょうか。

 もう一つ、テロ関連でお尋ねしたいのは、パキスタンに対する制裁の解除であります。

 この制裁は、九八年に行われた核実験に対して実施されたものです。いわば、日本の非核政策、核不拡散政策の一環としてなされたものです。パキスタンは、いまだ核兵器不拡散条約、NPTに加盟せず、核政策を変更してもいません。なぜ制裁を解除し、四千万ドルの援助を行うのでしょうか。日本の非核政策は変更されたと理解していいのですか、はっきりしていただきたいと思います。

 小泉総理はどれほど意識しておられるかわかりませんが、今回、日本が自衛隊を派遣するかもしれないことについて複雑な感情を抱いているのは、韓国、中国など近隣諸国であります。日本が軍事力を海外に送ることは、将来、東アジア地域の非常に大きな不安定要因となるであろうと、韓国のある学者は警告しています。なぜだと総理はお考えですか。

 それは、東アジア地域において、日本が信頼されるパートナーとなっていないからです。ことしに入ってから、歴史教科書問題と靖国神社参拝問題によって、それまで比較的良好な関係を保っていた韓国、中国と日本の関係は大きく損なわれてしまいました。そして、今もなお関係は修復されておりません。

 私は、最近、韓国を訪問し、金大中大統領と会談してまいりました。そのとき大統領が言われたのは、ひもの結び目はそれを結んだ人がほどくものだということであります。韓国であれ中国であれ、日本との関係をこのままにしておいていいとは決して考えておりません。むしろ、良好な隣人関係を築きたいと願っているわけです。しかし、握手をするためには、まず問題を引き起こした側がそれを解決する姿勢を示す必要があるということです。このままでは、来年のワールドカップを気持ちよく開催することはできないのではないかと私は心配しております。

 韓国では、日韓関係は、九八年の日韓パートナー宣言以前の関係に逆戻りしたと言われています。小泉総理は、この共同宣言を再確認するつもりがおありになりますか。あるいは、九五年の村山総理談話の歴史認識から後退しないことを内外に宣言されることができますか。歴史教科書について、それらの宣言の精神にのっとって、近隣諸国に配慮すると約束することができるでしょうか。来年以降の靖国神社への参拝についても、より慎重に判断する必要があるのは当然です。

 所信表明演説で、未来志向の協力関係と述べられましたが、総理の明確な態度表明なしには、未来志向どころか、総理の望まれている首脳会談さえできない現状をどう認識されているか、お答えいただきたいと思います。

 最後に、構造改革にかかわる問題について、時間の関係で一点だけお尋ねいたします。

 雇用の問題です。戦後最悪の失業率五%が続いています。しかし、この数字も、求職をあきらめてしまった人などを加えますとさらに大きくなり、若年層や中高年、女性などははるかに五%より高いと言われます、失業率が。求職と求人のミスマッチがあるだけなどという小泉総理の楽観的な認識はどこから出てくるのか、全く現状を把握しておられないとしか言いようがありません。

 安定した仕事なしに、どうして将来を設計したり子供を育てたりできるでしょうか。年金や健康保険も、安定した仕事があってこそ考えられるのであります。構造改革が進み、不良債権の処理が進めば、大失業時代が来ると言われております。ITバブルが崩壊し、電機産業などが次々と大規模なリストラを発表している中で、相変わらずe―Japanなどと言っている場面ではないでしょう。

 私は、現在の雇用流動化、不安定化政策を改めて、思い切って、失業保険などのセーフティーネットを強化し、ワークシェアリングを進め、福祉、介護、環境、教育、保育などの分野でより積極的な雇用の拡大を図る、このことがどうしても必要だと考えますが、いかが総理は考えておられるかをお聞かせいただきたいと思います。

 質問の終わりに、皆さんにお伝えしたい詩の一節があります。

 かつてテロリストの凶弾に倒れたジョン・レノンさんのパートナー、オノ・ヨーコさんが、この九月二十三日のニューヨーク・タイムズ紙に、レノンさんの曲「イマジン」の一節を載せた全面広告を出されました。この広告は、一面真っ白な中にわずか八つの言葉が書いてあるだけです。

  Imagine all the people living life in peace

  人々が平和に暮らすことを想像しよう

 終わります。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 土井議員にお答えいたします。

 テロへの対応に係る法案に関連して、国民に説明が不十分ではないかとの御質問でございます。

 これはまだ法案を提出していないのです。そして、この法案の取りまとめについて今、鋭意検討をしているところでありまして、私は、できるだけ早くこの法案を取りまとめて今国会に提出いたしまして、十分審議を尽くしていきたいと考えております。そういうことによって国民軽視といった御批判を回避できるのではないかと思いますので、この法案の審議で、今のような御意見も十分展開され、また、私どもの意見も聞いていただきたいと思います。

 自衛艦のインド洋への派遣についてのお尋ねであります。

 情報収集のための自衛隊艦艇の派遣については、先日、私から発表した七項目の措置において、情報収集のために自衛隊艦艇を速やかに派遣するとされており、これを受けて、現在、防衛庁において、派遣の具体的海域、派遣すべき艦艇等について検討を行っているところであります。したがって、一省庁が先走って検討しているとの御指摘は当たらないと考えております。

 テロリズムに対する闘いについてのお尋ねであります。

 これは米国の攻撃にとどまらない、これは全世界に対するテロの攻撃だという認識のもとに、我が国も、国際社会と協力しながら、みずからの問題として取り組むということが必要ではないかと思っております。

 先日発表した七項目の措置は、かかる基本的な考え方に基づいて進められているものでありまして、自衛隊の派遣に関する措置を講ずることはその一環なんです。自衛隊だけじゃないのです、日本にできることは。経済面においても、外交面においても、医療面においても、いろいろある。国力の許す限り、国力の現在持っている機能を生かして、国際社会と協調しながらこのテロと対決していこうということでありまして、自衛隊の派遣等はその一環にすぎない、すべてではないということを御理解いただきたいと思います。(拍手)

 米国における同時多発テロに対する認識についてであります。

 民間航空機をハイジャックして多くの人を死に至らしめた行為が、極めて重大な犯罪に当たるということは言うまでもありませんが、国連安保理決議一三六八号が今回の行為を国際の平和及び安全に対する脅威であると認めているとおり、今回の国際テロ行為は、単なる犯罪としてはとらえ切れない側面を有しており、米国のみならず人類全体に対する極めて卑劣な攻撃であると認識しています。

 このようなテロに対する闘いは、テロ根絶に向けた世界的な取り組みとしてとらえるべきであり、我が国としても、我が国自身の問題として主体的に取り組んでいくとともに、テロリズムと闘う米国を強く支持し、世界の国々と一致団結して対応していく決意であります。

 米国による武力の行使の可能性と自衛権についてのお尋ねがございました。

 今回のテロ事件については、米国が今後いかなる行動をとるかは、現在のところ明らかでありません。その上で申し上げれば、今回のテロに関し採択された安保理決議一三六八及び決議一三七三は、国連憲章第五十一条で規定されている自衛権が各国固有の権利であることについて改めて言及しております。その意味で、これらの決議は、今般のテロに対応して米国等が個別的また集団的自衛権を行使し得ることを確認したものと考えられます。

 今回予想される米軍への協力と集団的自衛権との関係についてのお尋ねがありました。

 テロ攻撃に対する諸外国の活動への支援のあり方については、今後、いろいろ予想し得る事態を考えて検討していく必要があります。政府としては、集団的自衛権に関する従来からの考え方に変わりはなく、憲法の範囲内でできる限りの支援、協力は何かという観点から、意義のある支援、協力ができるよう、早急に検討してまいりたいと思います。

 今回予想される米軍の武力行使に対する日本の支援についてのお尋ねがございました。

 今次テロ攻撃は、人類全体に対する卑劣な攻撃であり、国連安保理決議も同テロ攻撃を国際の平和と安全に対する脅威であると認め、国連のすべての加盟国に対して、テロの防止等のために適切な措置をとることを求めています。

 我が国としても、米国等と緊密に情報交換を行いつつ、積極的かつ主体的に、憲法の範囲内でできる限りの適切な支援、協力を行うべきと考えます。

 自衛隊の活動地域についてのお尋ねがありました。

 今回の法案は、テロ根絶のための国際取り組みに積極的に寄与するとの観点から、我が国の主体的な取り組みについて定めようとするものであります。自衛隊の活動地域については、米国政府を初め関係諸国がいかなる行動をとるか明らかでない現段階で具体的に申し上げることは困難ですが、今後、いろいろ予測し得る可能性を考えつつ、憲法の範囲内でできる限りの支援、協力は何かという観点から、早急に検討してまいりたいと考えております。

 自衛隊の支援活動と我が国が戦争に巻き込まれる可能性について質問がございました。

 私が靖国神社に参拝したとき、日本が二度と戦争をしないように祈ったと言われましたが、そのとおりであります。二度とあの悲惨な戦争を起こしてはいけない。(発言する者あり)そこなんです。だから行ったんです。心ならずも戦争に行かなきゃならなかった方々に対する哀悼の念と、二度と戦争を起こしてはいけない。

 戦前、何で戦争を起こしたのか。それは、国際社会から孤立したからなんです。戦争をしない、繁栄のうちに平和を確保するという日本の戦後の国是は、二度と国際社会から孤立しない、国際協調こそが日本の平和と繁栄の基礎であるという観点から、戦後、日本政府はやってきたんですよ。(拍手)

 今、世界がテロと対決しようとするときに、日本だけは、あれはしませんこれはしません、そんなことで世界から日本が名誉ある地位を占めることができるんですか。日本は、国力に応じて、国情に応じて国際社会の一員として責任を果たそうとしているんです。

 ただし、武力行使はいたしません。武力行使はしないが、その他の面で、あらゆる、国力に応じた機能、力を活用して、国際社会と一体となって、国際協調のもとでこのテロと対決しようということを御理解いただきまして、やるべきことをやらないで国際社会から孤立したら日本の平和と繁栄はあり得ないということを銘記していただきたい。(拍手)

 その意味において、私は、憲法の精神に沿って、これから、国際社会の中で名誉ある地位を占めるような行動とは何か、国際社会の一員として責任ある発言と行動をとって、憲法の精神を生かしていきたいと思います。

 在日米軍基地などの警備に関する自衛隊法の改正についてお尋ねがございました。

 国内の治安維持について全般的に責任を有する警察機関が警備態勢を強化して、テロ等の不測の事態に対応することが基本でありますが、一般の警察力をもっては治安を維持することができないと認められる場合には、自衛隊に治安出動を命じ、適切に対処してまいります。

 なお、自衛隊の施設や米軍の施設及び区域などの防衛に関連する施設については、特別の必要があれば、治安出動によることなく自衛隊が警護に当たることができるよう、所要の法改正を検討しているところであります。

 パキスタンへの緊急の経済支援と我が国の同国に対する経済措置の関係についてお尋ねがありました。

 今回行った緊急の経済支援は、パキスタンによる、米国を初めとする国際社会への協力を促進するとの観点からのものであり、平成十年の核実験以来、我が国がパキスタンに対しとってきている経済措置とは別の次元の問題であります。

 核兵器のない世界を一日も早く実現すべく、外交努力を一層強化していくとの我が国の方針に変更はありません。

 我が国の自衛隊派遣に関する近隣諸国の反応についてのお尋ねがありました。

 今般の米国への同時多発テロへの対応に関する我が国の措置は、国際の平和と安全の確保を目的として、テロ根絶に向けた国際的な取り組みに参画するためのものであり、東アジア地域の不安定要因となるものではないと考えております。いずれにせよ、韓国、中国を含む近隣諸国との友好協力関係の重要性を踏まえ、これら各国に対し、我が国の措置について適切に説明してきております。

 日韓共同宣言を再確認するつもりはあるかとのお尋ねであります。

 九八年の日韓共同宣言については、過去を直視し、二十一世紀に向けた未来志向的な日韓パートナーシップの構築を目指した画期的な宣言であると認識しており、政府としては、この宣言に立脚し、引き続き、未来志向の日韓関係の構築を推進していく考えであります。

 私の歴史認識に関するお尋ねがございました。

 私の内閣の歴史認識は、平成七年の内閣総理大臣談話にあるとおりであり、いささかの変更もございません。このような立場は、種々の機会に内外に明確に表明してきております。

 歴史教科書に関するお尋ねであります。

 我が国としては、本件が韓国等近隣諸国との関係の大局に影響を及ぼすことのないよう、今後とも、我が国の立場を粘り強く説明し、理解を求めていく考えです。そして、近隣諸国との相互理解と相互信頼の精神に基づき、友好協力関係の発展のために誠意ある努力を行っていく考えであります。

 未来志向の協力関係についてのお尋ねがございました。

 さきの所信表明演説においても述べたとおり、私は、韓国及び中国との関係では、過去の歴史を直視し、戦争を排し平和を重んずるという我が国の基本的考え方を明確に示しつつ、未来志向の協力関係を構築していかなければならないと考えています。このような考え方のもと、両国の指導者の方々とできるだけ早い機会に、直接、真摯な対話を行いたいと考えております。

 セーフティーネットの強化と、より積極的な雇用の拡大についてお尋ねがありました。

 私は、構造改革を推進するに当たって、改革の痛みを和らげることは政治の責任であると考えており、このため、補助教員、森林作業員等公的部門の雇用の創出や、規制緩和等による新たな雇用の創出、民間活力を活用した雇用のミスマッチの解消、効果的な訓練を実施できるよう訓練延長給付制度の拡充等のセーフティーネットの整備を柱とする総合的な施策パッケージを取りまとめました。

 このうち、直ちに取り組むべきものについては、補正予算を活用しつつ集中的に実施する等、雇用対策に万全を期し、雇用不安の解消に努めてまいりたいと思います。

 以上でございます。(拍手)

    ―――――――――――――

副議長(渡部恒三君) 野田毅君。

    〔野田毅君登壇〕

野田毅君 私は、保守党を代表して、小泉総理の所信表明演説に対し、質問をいたします。(拍手)

 質問に先立ち、先般、米国において発生した同時多発テロによって犠牲となられた方々に対し心から哀悼の意を表しますとともに、米国民を初め多くの被害者の皆様に対し心からのお見舞いを申し上げます。

 今回のテロの特色は、政府や軍関係の施設をターゲットにするだけでなく、民間機をハイジャックし、民間のオフィスビルを攻撃したという、まさに無差別大量殺人そのものであり、何の罪もない人々のとうとい命を一瞬にして奪う、極めて卑劣な犯罪行為であります。これは、米国のみならず日本を含めた世界じゅうの人々に向けられた攻撃であります。

 国連安保理では、テロ攻撃の実行者、組織者及び支援者を法に照らして裁くために、すべての国に対して共同して迅速に取り組むことを求めること、そして、彼らを援助し、支持し、またはかくまう者はその責任が問われることを強調すると決議しております。したがって、今回の我が国の対応は、米国にどのように協力するかという視点だけでなく、国際社会の一員として、また、我が国自体の問題としてどう対応するかということがポイントであります。

 第一は、日本自身がテロ・ゲリラ攻撃から効果的に防御する体制をいかに構築するか、第二は、米軍が行動を起こすときに日本としてどこまでこれに協力するか、第三は、難民支援を含めアフガニスタン周辺国に対する支援に対し日本としてどのような協力をするか、第四は、テロリストに対する資金の流れのチェックなどテロ防止のための国際的協力体制を日本としていかに構築するかということであります。

 第一の点、国内のテロ・ゲリラ対策であります。

 政府は、今回、米軍施設と自衛隊の施設に限定して、自衛隊の警護行動を新たに認めることとしております。私は、治安、警備の責任が第一義的に警察にあるのは当然ですが、警察力だけで対応し切れない場合に備えて、治安出動とは別に、自衛隊も対象を限定することなく警護行動ができるという制度は必要であり、諸外国の例を参考にして早急に整備しておくべきと考えております。いきなり治安出動では、逆に問題を複雑にします。

 今日のテロ・ゲリラの攻撃の方法は多種多様であり、極めて高度な技術を伴っております。また、法体系を整備することと同時に、情報収集・管理体制や、テロ・ゲリラ攻撃に対する実践的訓練と効果的な防御体制を、役所間の垣根を越えて構築することが大切であります。総理の所見を伺います。

 危機管理という点では、有事法制の早急な整備と、防衛庁を独立した省に位置づけることも必要であります。我々は、引き続きその実現のために全力を挙げて努力することを、この機会に申し上げておきます。(拍手)

 第二と第三の点、集団的自衛権に関してであります。

 憲法第九条は、「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と規定しております。

 さて、今回予想される自衛隊の活動は、国連の要請に基づくPKO活動の面と、米軍に対する後方支援の面と両面あります。また、今回の米軍の行動はあくまで、国連の安保理決議で憲章上の自衛権を再確認した上で、その脅威に対してあらゆる手段を用いて闘うことを決意した相手、すなわち、テロ行為を行った犯罪集団及びその支援者に対して向けられるものであって、単なるアメリカの報復戦争ではないと考えます。

 私は、そもそも集団的自衛権の行使は、憲法上、認められると考えておりますが、今回の米軍への協力と集団的自衛権との関係についてどのように整理されておられるのか、総理の明快な答弁を求めます。

 第四の点について、今回は、金融庁がマネーロンダリング対策を拡大適用して金融機関に協力要請をしておりますが、より実効性を高めるためには、国連のテロ資金防止条約及び爆弾テロ防止条約の批准と、銀行法など関連する国内法の整備が必要であります。今国会での承認と、関連法の成立を目指すべきであります。総理はどう対応しようとされているのか、伺います。

 次に、ハイジャック・テロ防止対策に関連して伺います。

 このたびのテロによって、世界の民間航空界は、旅客の減少や航空保険の見直し等により深刻な打撃を受けており、米国ではブッシュ大統領みずから支援策を発表しているのを初め、各国も自国の支援策を相次いで決定しております。

 先週、保守党として政府に申し入れたところでありますが、我が国においても、CIQ体制や検査機器等の充実強化策を早急に講ずるとともに、航空輸送体制の維持に万全を期すため、航空支援策を講ずることが喫緊の課題であります。その一部はけさの閣議で決定されましたが、さらに、緊急を要するものは今年度補正において措置すべきと考えます。総理の見解を伺います。あわせて、国土交通大臣の決意を伺います。

 次は、経済の問題であります。

 バブル崩壊後十余年、我が国経済はいまだ停滞の渦中にあります。不良債権の重圧の中で、金融の仲介機能は低下したままであり、幾ら金融を緩和しても企業への貸し出しは伸びず、再建可能な企業まで倒産の憂き目に遭っております。経済のデフレ化が進み、企業は売り上げの減少に悩む一方、過去の債務の重圧にあえいでおります。企業の海外立地が進み、我が国経済発展の原動力であった製造業の空洞化が急ピッチで進んでおります。

 我が国経済がこのような大変厳しい状況にある最中の、米国におけるテロの発生であります。テロ事件の米国を初め世界経済に与える影響は多方面にわたり、世界同時不況の到来が現実のものとなりつつあります。

 今、世界第二位の経済大国である我が国の責任として、断じて世界経済の足を引っ張ってはなりません。

 構造改革なくして景気回復なしとは、そのとおりです。しかし、改革といっても、幅広い分野にわたっております。今、最優先のテーマは、総理も述べておられるように、不良債権の早期処理であります。

 問題は、不良債権の処理を急げば、足元はデフレ要素が強まることです。したがって、デフレスパイラルに陥らないよう、必要な対策を講じつつ進めることが肝要であります。特に、連鎖倒産を最小限に食いとめる対策をあらかじめ講ずべきであります。

 この点で問題となるのは、商工中金等の政府系金融機関の位置づけであります。民間銀行が本来の役割を果たせない現在、まさに民業の補完としての役割が認識され、必要性が増しております。改革は進めるべきですが、民営化は、今の危機を脱して、民間銀行が本来の機能を回復した段階の問題と考えます。

 住宅金融についても同様です。住宅投資は、四―六月のQEでは、前年比で年率マイナス三八%という異常な低水準であります。もちろん、これだけで即断はできませんが、個人消費が低迷、民間設備投資も減少、公共投資もマイナスという環境では、少なくとも住宅投資をバックアップすることは経済政策として当然のことであります。民間銀行が現在の住宅金融公庫に今直ちに代替することができないことを前提に取り組むべきです。

 いわゆるゼネコンの不良債権処理に関連して、保守党は、下請や資材納入業者が連鎖倒産に巻き込まれないように、支払いボンドなどによる支払い保証を制度化することを提唱しております。

 これは、受注企業が途中で倒産しても、下請や資材納入業者が代金を回収できるようにするため、あらかじめ発注段階で損保会社などが支払いを保証する仕組みで、既にアメリカでは一般化していると言われております。日本においても、せめて官公需については、これを導入して連鎖倒産を防ぐべきであります。

 以上の諸点について、総理及び国土交通大臣の答弁を求めます。

 次に、産業空洞化対策について伺います。

 最近、日本の企業が安い労働力を求め、中国を中心とする海外に生産基地を移転し、または、国内での生産をやめて海外で生産されたものを輸入するという動きが幅広い産業分野で本格化しています。企業の海外立地は、国内の投資・雇用機会と経済の活力を奪うと同時に、海外で生産した製品を日本に逆輸入することにより国内産業に大打撃を与えるという、二重の意味で深刻な影響を与えております。

 製造業は日本経済発展の原動力であり、また、農業は食料安全保障の戦略産業でもあります。この現状を、単に市場メカニズムによる調整というだけで放置してしまってよいのでしょうか。経済的規制を撤廃したり、バイオ、ナノ、ITなど、新技術、新産業の創出、環境、エネルギー等への集中投資を行うことも必要です。しかし、これだけではタイムラグもある上に、雇用の吸収力にも限界があります。

 アメリカの長期にわたる繁栄は、単にIT関連や市場原理の徹底と規制緩和によるサプライサイドの強化策だけでなく、主要な国内産業を守るため、スーパー三〇一条を初め、さまざまな手段で産業政策をとってきたこと、プラザ合意以降のドル安政策がベーシックなアメリカ経済を幅広く支えてきたのであります。

 今、我が国は、産業空洞化、すなわち経済基盤の急速な弱体化の進行を前にして、経済安全保障の観点から、総合的な国家的経済戦略をつくるべきであります。総理はどう対応されるのか、伺います。

 世界同時不況への突入を避けるためには、我が国の果たすべき役割と責任は重いものがあります。構造改革を急ぐ上で、優先順位と手順を間違えてはなりません。同時に、改革に伴うデフレ要素を緩和するためには、サプライサイド対策だけでなく、民需を中心として需要対策を講ずること、もってデフレスパイラルに陥ることを避けるべきであります。

 雇用対策としても、失業が発生してからだけでなく、失業を未然に最小限に食いとめることが必要です。行き過ぎた円高の是正や連鎖倒産の防止も需要の下支えのためには必要です。土地などの規制緩和をさらに徹底することも民需創出には有効です。そして、公共事業の拡大だけに頼った需要追加は別として、大都市の再生や地方の活力を引き出すための構造改革に必要な社会資本の整備は、当然進めるべきと考えます。

 総理は、今年度補正予算においても、国債発行額三十兆円以下の方針で臨むと表明されました。財政の節度を大切にする意味として理解します。

 しかし、経済の状況は、まさに危機管理的手法を必要としています。総理、ぜひ、世界経済に対する責任を果たすためにも、自縄自縛になって本末転倒することのないようにしていただきたい。改めて総理の考えを伺います。

 また、我が国は欧米諸国と比べて消費性向は極端に低く、これが現在の約七〇%から七五%になるだけで、GDPは約四%アップすることになります。老後の社会保障について、安定した制度を確立し、将来不安を除去することができれば、消費性向も上がります。

 先般の厚生労働省の医療改革案は、当面五年間の対応策であって、それから先の展望は見えません。我々保守党は、かねてより、消費税を社会保障税とし、その使途を年金、高齢者医療、介護の三分野に限定することを主張しております。これが実現できれば、老後の生活安定が展望でき、消費もふえ、これこそが当面の最大の需要対策にもなるのです。総理及び厚生労働大臣の見解を求めます。

 さて、我が国の国、地方を合わせた借金は約六百六十六兆円、GDPは約五百兆円、確かに、その借金の額といい、GDPに対する比率といい、極端に大きいです。しかし一方で、個人金融資産は千四百兆円。また、基本的に日本は各国に比べて租税負担率が低く、国民の理解と協力が得られるならば、財政収支を改善できる余地は十分あるはずであります。構造改革をなし遂げた後は、決して悲観すべき日本ではないはずです。財政赤字の拡大にむとんちゃくであってはならないが、目先の財政赤字だけに気をとられて、財政のみならず国民の意識まで萎縮させてしまうことは避けなければなりません。総理の所見を伺います。

 次に、狂牛病対策について伺います。

 発生したこと自体はまことに残念でありますが、第一に、さまざまな風評によって不安、動揺が広がらないよう、正確でわかりやすい説明を国民に丁寧にすることが肝要であり、第二に、一刻も早く牛肉の安全宣言を出せるよう必要な措置をとること、第三に、大きな影響が懸念される生産者や流通関係業者の経営安定のための措置をとること、そして、必要とあれば今度の補正予算ででも対応すべきであると考えます。

 以上の点について、総理の見解を伺います。あわせて、農林水産、厚生労働両大臣の決意を伺います。

 最後に申し上げます。

 保守党は、小泉内閣を責任を持って支えます。しかし、何でもイエスということではありません。ノーと言うのではなく、我々が政策提言をして、政策をリードするという気構えを持って臨んでまいりたいと考えております。総理のリーダーシップと同時に、御自身がおっしゃった二つの耳に期待をして、質問を終わります。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 野田議員にお答えいたします。

 テロ・ゲリラ攻撃に対する防御体制の整備についてのお尋ねであります。

 テロ等の不測の事態については、国内の治安維持について全般的に責任を有する警察機関が警備態勢の強化により対応することが基本であります。一般の警察力をもっては治安を維持することができないと認められる場合には、自衛隊に治安出動を命じ、適切に対処してまいります。

 また、自衛隊の施設や米軍の施設及び区域といった防衛に関連する施設について、特別の必要があれば、治安出動によることなく自衛隊が警護に当たることができるようにするための法改正を検討しております。

 法整備のほか、緊急事態に当たっては、関係機関の情報を官邸の内閣情報集約センターに一元的に集中する体制を整備しました。

 また、警察、海上保安庁、自衛隊の間では、相互の協力に関する取り決めや共同訓練等を行い、テロ・ゲリラ攻撃にも即応できる体制の充実に努めております。

 今回予想される米軍への協力と集団的自衛権の関係についてのお尋ねであります。

 テロ攻撃に対する諸外国の活動への支援のあり方については、今後、いろいろ予想し得る事態を考えて検討していく必要があります。政府としては、集団的自衛権に関する従来からの考え方に変わりはなく、憲法の範囲内でできる限りの支援、協力は何かという観点から、意義のある支援、協力ができるよう、早急に検討してまいりたいと思います。

 テロ防止に関する国際協力体制についてのお尋ねです。

 テロと闘うためには、金融・法制面を含め、国際社会があらゆる手段を講じることが重要です。我が国は、そのような努力に積極的に参画します。

 御指摘の未締結条約については、関連する国内法の整備につき鋭意検討を進めており、テロ資金条約については、年内に署名し、早期締結に向けて作業します。爆弾テロ条約については、締結準備作業を一層加速するように指示いたしました。

 テロ対策として空港の保安検査機器等の充実強化策と航空輸送対策についてのお尋ねであります。

 今回のテロを契機に、ハイジャック等の防止に向け、空港における手荷物検査等を強化したほか、不審外国人の出入国をチェックするため、関係機関の連携のもと、出入国審査を強化しているところであります。また、航空運送を安定的に維持するため、本日、航空機へのテロ等により第三者に損害が発生した場合の措置について、閣議決定をいたしました。

 政府としては、ハイジャック等の防止策をより一層充実強化させるためにも、CIQ体制や検査機器等の充実強化等について、必要な措置を検討してまいりたいと考えます。

 商工中金、住宅金融公庫等の政府系金融機関の改革に関してのお尋ねです。

 特殊法人等改革については、すべての法人について、ゼロベースからの徹底した見直しを行うこととしており、いかなる特殊法人等も検討の例外となるものではありません。

 今般の改革は、こうした方針に基づき、行政の構造改革の一環として実施するものでありますが、経済的、社会的、その他緊急的な事態に対し、特殊法人等が真にやむを得ない場合に臨時的、暫定的役割を果たすことはあり得るものと考えます。

 また、住宅金融公庫については、他の法人に先駆けて結論を出すこととしておりますが、いずれにしても、国民生活に対する影響にも配慮しつつ改革を進めてまいります。

 建設産業における下請業者等の連鎖倒産防止についてお尋ねがありました。

 元請が破綻した際の下請業者等の連鎖倒産防止のためには、下請代金の保全が特に重要であります。

 このため、元請による下請代金の早期支払いの指導とあわせ、元請倒産時を含め下請企業への代金支払いの確保を図る下請セーフティーネット債務保証事業の創設等を行ってきたところであります。今後、その一層の活用方策を含め、さらに必要な施策について検討してまいりたいと考えます。

 産業空洞化への取り組みについてのお尋ねであります。

 活力ある産業と雇用を維持するためには、アジア諸国との戦略的な国際分業を構築する一方、我が国の事業環境を国際的に魅力あるものにすることが重要です。このため、高コスト構造の是正、規制改革、新規事業創出のための環境整備等の構造改革を強力に推進し、内外政策を一体的に運用してまいります。

 なお、為替相場については、ファンダメンタルズを反映し、安定的に推移することが重要との基本的考え方のもと、適切に対応してきているところであります。

 世界経済に果たす責任についてであります。

 非常に厳しい世界状況ではありますが、我が国としても、世界経済及び日本経済システムに混乱が生じないよう、米国を初め各国と協調し、状況の変化に応じた適切な対応を図ってまいります。日本の経済の再生は、改革なくして成長なし、この方針のもとに、引き続き改革を推進していく決意であります。

 消費税を社会保障税としてはどうかとのお尋ねであります。

 将来、少子高齢社会、そして年金、医療、介護、この財源をどのように国民の協力のもとによって賄うか、また、安定した社会保障制度を維持するかという問題について、極めて重要な課題であると思っております。

 しかしながら、現時点で消費税を社会保障税として変えることによりますと、消費税を大幅アップしなきゃなりません。現在、できるだけむだのない、簡素で効率的な政府をつくるということに全力を投球しておりまして、将来、社会保障制度を社会保険方式とするのか税方式とするのか、あるいはその組み合わせによるのか、いろいろな議論が出てくると思います。経済社会の構造変化や財政状況を踏まえ、国民的な議論によって検討されるべき課題だと認識しております。

 財政再建に取り組む姿勢に関するお尋ねであります。

 御指摘のとおり、我が国の個人金融資産は千四百兆円あるなど、我が国経済は十分な潜在的成長力を有しております。私は、こうした潜在的な成長力を生かすためにも構造改革が必要である、そして、この改革をできるだけ迅速に推進することによって、将来の財政再建にも、また、いろいろな経済の発展にも生かしていかなきゃならないと思っております。

 今回、平成十四年度予算についても、国債発行額三十兆円以下の目標のもとに、五兆円を削減しつつ重点分野に二兆円を再配分するとの方針で、歳出の思い切った見直しを行う一方、必要な施策については重点的な配分を行ってまいります。

 私は、別に性急な財政再建論者ではございません。五十兆円の税収があるところで、既に六百兆円を超えた国債の重圧に耐えなきゃならない状況で三十兆円の国債発行を認めているのですから、私は、性急な財政論者ではありませんが、今、財政構造改革に向けた改革を進めない限り、国債の借金の利払いで苦しんでしまうような惨めな状況になることを防ぐために、構造改革なくして成長なしということを行っていることを御理解いただきたいと思います。

 狂牛病問題への取り組みの具体策についてお尋ねがありました。

 狂牛病に関しては、国民に不安を与えることのないよう、狂牛病が疑われる牛の肉等が食用にも飼料用にも出回ることがない体制を整備するとともに、十月四日から、主な感染源とされる肉骨粉の輸入と国内での製造、出荷を一時停止し、感染経路を遮断することとしております。

 また、狂牛病の検査体制の整備、牛肉や牛乳の安全性等を説明したパンフレットの配布や関係者に対する説明会の開催など、徹底した情報提供を通じて、政府全体として風評の鎮静化に全力を尽くしているところであります。

 さらに、国民生活及び我が国畜産に及ぼす影響を緩和するため、牛の処分に伴う生産者への支援、関係事業者への緊急融資、正しい知識の普及等を内容とする当面の緊急対策を公表したところであり、その円滑な実施に努めてまいります。

 残余の質問については、関係大臣から答弁させます。(拍手)

    〔国務大臣扇千景君登壇〕

国務大臣(扇千景君) 野田議員から私に対して三つの質問がございました。ほとんど総理がお答えになったところではございますけれども、テロ対策に関しまして、国土交通省におきましてのお答えをさせていただきたいと存じます。

 今回のテロを契機にいたしまして、国土交通省といたしましても、ハイジャック等の防止に向けて、空港における手荷物検査等を強化するなど、保安対策に万全を期しているところでございます。また、航空運送を安定的に維持するために、航空保険の契約の見直しに関しまして、総理が今おっしゃいましたように、本日、航空機へのテロ等により第三者に損害が発生した場合の措置について、閣議決定をさせていただきました。

 国土交通省としましても、今後、航空交通の安全確保を図る観点から、ハイジャック等の防止措置をより一層着実に図っていきたいと思っております。また、検査機器の充実強化等に関しましても、必要な措置を対処してまいりたいと存じております。

 次に、住宅金融公庫についての御質問がございました。

 住宅金融公庫は、戦後建設されました住宅の約三割を、千八百五十九万戸に当たりますけれども、公庫の融資による住宅が占めるなど、国民の住宅取得支援に大きく貢献するとともに、平成九年以降五回の経済対策においても重要な役割を果たしてきたところでございます。

 しかしながら、「聖域なき構造改革」を進めるため、特殊法人についても、民間でできることは民間にゆだねる、その基本原則に立った改革を推進する必要があり、去る九月二十一日、国土交通省として、民営化を前提とした公庫の改革案を総理に御報告したところでございます。

 公庫の改革は、中堅勤労者のマイホーム取得の夢の実現に対する支援、あるいは公庫の利用者の不安を解消するとの視点を踏まえて推進する必要がございます。現在、公庫の利用者五百五十万世帯に不安を与えることのないように配慮しつつ、今後、国民の居住水準の向上など住宅政策上の公的融資の役割や、民間住宅ローンによる代替ができるような方策などについての議論を十分に深めつつ、総理に御報告した改革案の具体的な対策に対して固めていきたいと存じております。

 最後に、下請業者等の連鎖倒産防止についての御質問がございました。

 総理がお答えになりましたように、元請が破綻した際の下請業者等の連鎖倒産防止のためには、御指摘のとおり、下請代金の保全が特に重要でございます。このため、これまでも、元請による下請代金の早期支払いの指導等を行うほか、中小中堅の元請倒産時を含めて下請企業への代金支払いの確保を図るため、下請セーフティーネット債務保証事業の創設等に努めてきたところでございます。

 公共事業の元請企業が倒産した場合に、今、野田議員がおっしゃいましたように、ボンド会社が元請企業にかわって下請企業に代金を支払う、いわゆる支払いボンドの我が国への導入につきましては、対象となる下請債権の迅速な査定や保証機関となる損害保険会社のリスクヘッジなどの実務面の課題の検討が必要と考えておりますけれども、こうした点も含めて、さらに下請代金の保全に関して必要な施策について今後も検討していきたいと存じております。

 以上でございます。(拍手)

    〔国務大臣武部勤君登壇〕

国務大臣(武部勤君) 保守党野田党首の御質問にお答えいたします。

 いわゆる狂牛病、BSEに係る風評被害の防止、牛肉の安全宣言、経営安定のための対応についてのお尋ねであります。

 今回の事態を踏まえ、農林水産省と厚生労働省が連携して、まず、中枢神経症状のある牛すべてを検査し、焼却処分とすることとしました。また、屠畜場における三十カ月齢以上のすべての牛について、徹底的な検査を行ってから出荷させることといたしました。今後は、BSEが疑われる牛が屠畜場から食用としても飼料原料としても出回ることのないシステムを確立したところであります。もとより、食肉や牛肉、乳製品は一〇〇%安全でありますが、今回の措置によって、国民の皆様に、人の健康に影響を与えることのない体制になったということをぜひ御理解いただきたいと存じます。

 先週二十八日には、厚生労働省と共催で、約四百人の消費者、流通・食品産業、農業団体の方々にお集まりをいただき、BSEが疑われる牛の肉等が食用にも飼料用にも出回ることがない体制が確立したことを直接御説明するとともに、今後の対応について、さまざまな御意見をお聞きし、極力丁寧に対応してまいりたいと存じます。

 今、国民の皆様は、肉骨粉の経路や給与の実態などについて疑問視している、また、肉骨粉の誤用や流用があったことを心配しているように考えます。こうした国民の皆様の不安を解消するために、BSEの主な感染源とされている肉骨粉については、十月四日から、すべての国からの輸入、国内における製造、出荷について一時全面的に停止することを決定した次第であります。これにより、完全にBSEの感染を遮断する体制ができました。

 また、今回の事態により現に深刻な影響を受けておられる生産者等に対する緊急対策として、経営が困難となる関連産業や肉用牛農家に対する緊急融資、国産牛肉等の安全性のPR等の措置を決定、公表し、その円滑な実施に努めていくこととしております。

 しかし、今後、さまざまな課題が出てくると思います。これらは各般にわたって検討中でありますので、今後なすべき課題に対し万全を期してまいります。

 BSEが疑われる牛の肉等が食用にも飼料用にも出回ることがないことをわかりやすく説明したパンフレットを一千万部作成し、牛肉、牛乳、乳製品は一〇〇%安全であることを小売店等で幅広くPRしているところであります。

 今後も、あらゆる媒体を通じて迅速かつ正確な情報を公開し、厚生労働省を初め政府全体として風評の鎮静化に全力を尽くしてまいります。また、感染経路や飼料給与の実態等、残されたすべての問題について、その究明と対応に万全を期してまいる次第であります。

 今後ともの御指導、御鞭撻をお願いいたしたいと存じます。

 以上です。(拍手)

    〔国務大臣坂口力君登壇〕

国務大臣(坂口力君) 野田党首から御質問をいただきました。

 まず、消費税と社会保障税のお話がございました。年来の御主張でありますことも、よく存じ上げております。

 社会保障のために消費税を充てることは私は異論はありませんが、消費税だけで社会保障を賄うには、高齢化社会の進展等を考えて、いささか難しいのではないかというのが私の考え方でございます。社会保険方式を基本といたしまして、公費と利用者負担をどのように組み合わせていくかというその組み合わせの中の課題でございましたならば、謙虚に耳を傾けなければならないと考えているところでございます。

 基礎年金の国庫負担を三分の一から二分の一に引き上げる課題もございまして、総合的な検討が必要でございまして、御指導をお願いを申し上げたいと存じます。

 狂牛病につきましての御質問がございました。

 ただいま農林水産大臣からもお答えのあったとおりでございますが、医薬品や健康食品あるいは化粧品などの原材料輸入につきましては、今年の一月から、BSE発生国からのものは禁止をいたしております。しかし、今回、国内においてBSEが発生しましたので、外国からのものと同様、国内の原材料使用も制限をいたします。危険性のあるものを厳格に排除することが、さまざまの風評を抑制するために最も重要なことであると考えております。

 十月中、できるだけ早く、三十カ月以上の牛を屠殺いたします場合にBSE検査をすべてに行い、不安をなくしたいと思います。食肉の安全確保とともに、医薬品、健康食品の安全に全力を傾ける決意でございます。

 以上でございます。(拍手)

副議長(渡部恒三君) これにて国務大臣の演説に対する質疑は終了いたしました。

     ――――◇―――――

    〔副議長退席、議長着席〕

 議員請暇の件

議長(綿貫民輔君) 議員請暇の件につきお諮りいたします。

 橋本龍太郎君から、十月四日から十二日まで九日間、請暇の申し出があります。これを許可するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(綿貫民輔君) 御異議なしと認めます。よって、許可することに決まりました。

     ――――◇―――――

議長(綿貫民輔君) 御報告することがあります。

 議員小西哲君は、去る七月二十三日逝去されました。まことに哀悼痛惜の至りにたえません。

 小西哲君に対する弔詞は、議長において去る九月一日既に贈呈いたしております。これを朗読いたします。

    〔総員起立〕

 衆議院は 議員正五位勲四等小西哲君の長逝を哀悼し つつしんで弔詞をささげます

    ―――――――――――――

 故議員小西哲君に対する追悼演説

議長(綿貫民輔君) この際、弔意を表するため、野中広務君から発言を求められております。これを許します。野中広務君。

    〔野中広務君登壇〕

野中広務君 ただいま議長から御報告がありましたとおり、本院議員小西哲君は、去る七月二十三日、国立国際医療センターにおいて御逝去されました。五十一歳という余りにも突然で思いも寄らなかった小西君の訃報に、私は、言い尽くせぬ驚きと深い哀惜を禁じ得ませんでした。

 ここに私は、皆様の御同意を得て、議員一同を代表し、謹んで哀悼の言葉を申し述べたいと存じます。

 小西哲君は、昭和二十四年九月十三日、滋賀県近江八幡市において、父和彦氏、母政子さんの長男としてお生まれになりました。

 多感な少年期をはぐくんでくれたのは、御両親の慈愛に満ちた薫陶はもちろんのこと、滋賀の湖(うみ)、そして、そのたもとに広がる近江八幡の豊かな自然の恵みと、そこに暮らす人々の人情味あふれる深い郷土愛でありました。

 学業の傍ら、よく魚釣りに興じ、そして郷土に親しんでおられたこの時期を思い起こしながら、後にあなたが、琵琶湖とその周辺の地域の自然環境を守ることに心血を注がれたこともうなずけるのであります。

 春はモロコ、夏はフナ、昔釣っていた魚がいなくなってしまったとしきりに残念がっておられましたが、少年時代を通じてのこの豊かな体験があったればこそであり、二十一世紀の子供たちにも遺してやりたいと考えられたのも、至極当然のことでありましょう。

 長じてあなたは、県立彦根東高等学校を経て東京大学法学部に進まれ、昭和四十八年、同大学を卒業後、警察庁に入省されました。そして、宮崎県警察本部長、九州管区総務部長など各地警察本部での要職を歴任され、さらに、この間、厚生省、運輸省と二度にわたって他の国家行政に携わる機会も得られました。獅子奮迅の働きをされ、その才量を遺憾なく発揮された二十三年間ではありましたが、平成八年八月、警察庁交通規制課長を最後に、官僚生活に別れを告げられたのであります。

 私と小西君との出会いは、昭和五十五年八月、京都府警察本部捜査二課長に就任のあいさつのために、当時、京都府副知事でありました私を訪ねてくださったときであります。三十歳という若さで京都府警察捜査の先頭に立つ決意を語る姿に、まぶしいような感動を覚えたことを今も忘れることができません。

 人の世の出会いというのは不思議なものであります。私が自治大臣・国家公安委員長在任の際、小西君の地元、滋賀二区の県議会議員、市町村議員の有志の方々がお越しになり、警察庁交通局交通規制課長でありました小西君をぜひ次期衆議院選挙に出馬させたいと強い要請がありました。厳しい選挙区事情を十分承知しておりました私は、警察庁幹部として将来を嘱望されている小西君を出馬させることに反対でありました。厳しい選挙区だけに当選の見込みがないと言う私に、地元の皆さんは、「私たちの議員歳費の一部を出し合ってでも小西君の生活を支え、必ず必勝を期します。」と強い熱意を示されました。

 この地元の熱意と、かねてより郷土滋賀のために尽くしたいと考えておられたあなたは、自由民主党滋賀県第二選挙区支部長に就任され、地元県議を初めとする支持者たちの強い出馬要請を受けて立候補を決意、第四十一回総選挙に臨まれたのでありますが、善戦むなしく惜敗に終わったのでありました。

 選挙の二カ月前の帰郷であり、準備の十分でなかったあなたは、この結果をみずからに課せられた試練と考えられ、再度の挑戦を期してじっくりと腰を落ちつけ、地元と触れ合う道を地歩固めとして選ばれたのでありました。そして、地元の伝統行事や生活に密着した地域活動などを通じて、地域社会の人々の生活にこそ政治の原点があるとの思いを一層深くされますとともに、高齢者世代の増加を目の当たりにされて、郷土の地域発展のかぎは、その子供たちが地元で働き、定着できる環境づくりにあると確信されておりました。

 昨年一月の月刊誌の中で年頭の抱負を語っておられましたが、あなたは、「今年は二十一世紀の日本の国家の青写真をつくる年にしたい。この百年間、明治維新・戦後のマッカーサーによる改革と、二度の大改革で世界第二の経済大国となったが、ここに来て政治経済が破綻し、新たなシステム・改革が今必要になっている。今度の改革は私達国民一人一人の不断の努力によって成し遂げなければならない。」と述べられ、そして、今年は総選挙の年、二十一世紀における活力ある自立国家の建設のための足がかりになるようにしたいと力強く結ばれ、決意のほどを披瀝しておられました。

 このように、みずから掲げる政治目標に向かってたゆまぬ歩みを続けておられたあなたでしたが、家庭にあっては愛妻家としても知られているところでありました。そして、よく御夫妻そろってカラオケ大会に参加して、地元の人たちとの交流を深められるなど、そのおしどりぶりは羨望の的でもありました。最初の選挙を通じて四年余り、常に奥様とともに選挙区を歩く姿に多くの人たちは感動したと聞きました。

 平成十二年六月、衆議院が解散され、第四十二回総選挙が公示されるや、あなたは満を持して立候補されたのであります。

 生まじめとも言えるほど実直な政治家だった生前のあなたを知る者の一人として、あなたの真摯な訴えが、いかに多くの人々の共感を得たことか、街を行く人々の歩みをとめたことか、日やけしたその笑顔とともに、つい昨日のことのように思い浮かべることができるのであります。

 捲土重来を期しての三年有余、世代交代を訴えられた主張と掲げる公約は、その誠実なお人柄とともに各界各層から幅広く理解を得るに至り、見事、当選の栄を手中におさめられたのであります。(拍手)

 あなたは、顔をくしゃくしゃにして喜びの声を上げながらも、「これからも皆さんの目線に立った政治を心がけてまいります。」とみずからを引き締めておられたお姿が、何とすがすがしく我々に強く印象づけてくれたことでしょう。

 かくして、本院に議席を得られたあなたは、地方行政委員会、青少年問題に関する特別委員会に籍を置かれ、ひたすら公約とみずからの理想政治の実現を目指して、突き進んでおられたのであります。

 去年八月四日、地方行政委員会で初めて質疑に立たれたあなたは、地方分権推進の必要性を唱えて、権限移譲と地方税財源の充実確保を主張されておりました。

 また、介護保険、廃棄物処理などの諸問題、さらに、本格化する少子高齢化社会到来に向けての対応策などについて、培った持論を踏まえて、極めて熱心に議論を展開されたのであります。とりわけ環境問題では、琵琶湖の総合的保全施策などを紹介され、滋賀県の地域特性に富んだ環境政策をもっと進められるよう、地方財源確保のための環境税制を整備してはどうかと訴えておられました。また、市町村合併推進に伴って、地方財政の健全化を早急に図るための講ずるべき施策等についても、果敢に挑んでおられました。みずから歩んできた警察行政についても、期待を込めて質問をされました。

 具体的な施策を伴った説得力のあるその論陣は、与野党の別なく高い評価を得ておられたのであります。

 不撓不屈、目標に向かって一路邁進しようとした若き政治家小西哲のまさに真骨頂であったと申せましょう。(拍手)

 この質疑のあった第百四十九回国会閉会後間もなく、体調不良を訴えられ、入院されたと伺いましたが、持ち前の若さとバイタリティーにあふれたあなたのことですから、きっとすぐによくなり、元気な顔を見せてくれるものと信じつつ、一日も早い御快癒を心から願っていたのであります。

 昨年十一月十九日夜十二時ごろ、奥様からあなたの病状の悪化の御連絡を受け病院に駆けつけましたときは、既に危篤の状態であり、厳しい政治家の道を歩ませたことが、あなたの命を削ってしまったのかと思うと申しわけなく、さぞ苦しかったであろうと奇跡を祈るのみでありました。しかし、その奇跡が起きたのでした。まさに青天の霹靂とはこのことでありましょう。

 十二月上旬、あなたは意識を回復し、その後、めきめきと快方に向かい、ことしに入って、歩行訓練を始め、リハビリに励まれるようになり、春先には退院もできるのではないかと期待が持てるようになりました。

 時々病院をお訪ねした私に、あなたらしくベッドの上に正座して、力強く地元滋賀の課題や我が国の政治のあり方について熱っぽく語ってくれていました。

 そのようなあなたが、本年七月二十三日、御家族の必死の御看護もむなしく、不帰の客となられたと聞かされ、我と我が耳を疑ったのであります。

 齢五十一歳。早過ぎるといえば余りにも早過ぎるあなたの訃報は、地元近江八幡はもちろん、滋賀二区を初め、あなたを知る多くの人々にどれほど大きな衝撃となって伝えられたことでありましょう。

 弔問に訪れる市民は引きも切らさず、「これからの日本の政治をともに考え、一緒に改革しようと話していたのに……残念でたまりません。」と肩を落として帰られる方の悲痛な後ろ姿に、改めて、人の世の無常を思い知らされたのであります。

 思えば、昨年の総選挙で大激戦の末、議席を得られてまだ一年有余、張り切って政治に携わっておられたやさきであっただけに、あなたの無念さはいかばかりだったことでありましょうか。

 幾多の試練を経て、これから政治家としての本領を存分に発揮しようとしている今このとき、志半ばにしてあなたは忽然として去っていかれました。

 あなたの御霊は、今、緑深く、幼いころより遊び、親しんできた八幡山から、さらに遠くへと思いをはせ、ふるさとの野を、山を、そして碧き湖(うみ)の行く方を静かに見守っていることでありましょう。

 どうか、小西君、安らかにお眠りください。

 あなたが理想とされていた政治の実現のために、微力でありますが、私どもが全力を挙げて取り組んでまいりたいと存じます。

 私は、ここに、小西哲君の御逝去を悼み、謹んで御冥福をお祈りいたしますとともに、小西君を今日まで支えてこられ、厳しい選挙や病魔と闘うあなたに常に付き添ってこられた奥様を初め、御家族の皆様の胸中に思いをいたし、深く哀悼の意を表し、小西哲君を愛し、支えてくださった多くの皆様に心から厚く御礼を申し上げまして、追悼の言葉とさせていただきます。(拍手)

     ――――◇―――――

議長(綿貫民輔君) 本日は、これにて散会いたします。

    午後五時九分散会




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