衆議院

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第8号 平成13年10月19日(金曜日)

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平成十三年十月十九日(金曜日)

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  平成十三年十月十九日

    午後一時 本会議

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本日の会議に付した案件

 銀行等の株式等の保有の制限等に関する法律案(内閣提出)の趣旨説明及び質疑




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    午後一時三分開議

議長(綿貫民輔君) これより会議を開きます。

     ――――◇―――――

 銀行等の株式等の保有の制限等に関する法律案(内閣提出)の趣旨説明

議長(綿貫民輔君) この際、内閣提出、銀行等の株式等の保有の制限等に関する法律案について、趣旨の説明を求めます。国務大臣柳澤伯夫君。

    〔国務大臣柳澤伯夫君登壇〕

国務大臣(柳澤伯夫君) ただいま議題となりました銀行等の株式等の保有の制限等に関する法律案につきまして、その趣旨を御説明申し上げます。

 我が国の銀行等は相当程度の株式を保有しているため、株価の変動が銀行等の財務面の健全性や、ひいては銀行等に対する信認及び金融システムの安定性に影響を与えかねない状態にあります。

 このような状況にかんがみ、銀行等による株式等の保有を制限するとともに、その制限の実施に伴う銀行等による保有株式の処分の円滑を図るため、この法律案を提出することとした次第であります。

 以下、その大要を申し上げます。

 第一に、銀行等及びその子会社等は、その自己資本に相当する額を超えて株式等を保有してはならないこととしております。なお、この措置は平成十六年九月三十日から適用することとしておりますが、一定以上の株式等を保有している銀行等及びその子会社等が主務大臣の承認を受けたときは、その適用を一定期間猶予することとしております。

 第二に、この制限の実施に伴う銀行等による保有株式の短期間かつ大量の処分により、株式の価格の著しい下落を通じて信用秩序の維持に重大な支障が生ずることがないようにするため、銀行等保有株式取得機構を設立し、同機構が株式の買い取り等の業務を行うことにより銀行保有株式の処分の円滑を図るなど、所要の措置を講ずることとしております。

 以上、銀行等の株式等の保有の制限等に関する法律案につきまして、その趣旨を御説明申し上げた次第であります。(拍手)

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 銀行等の株式等の保有の制限等に関する法律案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑

議長(綿貫民輔君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。順次これを許します。江崎洋一郎君。

    〔江崎洋一郎君登壇〕

江崎洋一郎君 私は、民主党・無所属クラブを代表して、ただいま議題となりました銀行等の株式等の保有の制限及び株式取得機構に関する法律案について、質問をいたします。(拍手)

 失われた十年と言われる九〇年代、歴代自民党政権は、市場原理に対する強度の介入を繰り返してまいりました。その典型は、株価PKO、プライス・キーピング・オペレーション、株価維持操作に代表される政府介入であり、その結果、市場原理はゆがめられ、金融機関も真の競争力を失い、不良債権問題は我が国経済にとって最大の重荷となるに至りました。

 このような環境のもと、銀行等保有株式取得機構による銀行保有株式の買い取りを企図した本法律案が政府から提出されました。本法案は、企業と銀行との間に戦後形成された株式持ち合い関係を新しい時代の中でより合理的関係に改める観点から、株式持ち合い関係の解消を促進することに目的が置かれております。

 株式持ち合い関係を解消することにより、一つには、株式市場の効率化、活性化を図れること、そして、時価会計時代における銀行のバランスシートの健全化、言いかえれば、銀行の自己資本に対し過大に保有している株式を銀行の体力に見合った株式数まで減らすことなどの観点から望ましいことではあります。

 しかし、銀行による株式の大量売却が特定の期間に集中した場合、市場のプライスメカニズムをゆがめるおそれが強いと考えられます。それは、株価が企業業績などから算出される公正な価値、いわゆるフェアバリューを大きく下回って形成されてしまう状況などを言います。

 現在明らかになっている銀行株式取得機構のスキームを前提にすれば、今後約三年間で恐らく処分されるであろう銀行等の保有する株式十数兆円を一たん、一時預かりの倉庫のような形で引き受けた上で、それを十年間かけて再放出するものであり、それなりの激減緩和効果を有するものと思われます。しかし、銀行株式取得機構の存在自体が株価の押し上げ効果を持つものではなく、株式市場活性化にもつながりません。

 今後、一万円近辺の展開が続く危機的状況にある株式市場を活性化していくには、千四百兆円にも上る個人金融資産を初め、内外の資金の取り込みを積極的に図っていくことは喫緊の課題と言えます。

 今国会においては、政府は証券税制の見直し等を挙げておりますが、これだけでは株式市場の抜本的改革には至りません。今、株式市場に個人金融資産を取り込むに当たり、国民の将来に対する不安を払拭する策が必要と考えますが、塩川財務大臣と竹中経済財政担当大臣に、それぞれお伺い申し上げます。

 大臣は、一万円近辺の取引が続く現状の株式市場をどのように認識されておられますか、また、今後、株式市場活性化に向けどのような抜本策をお持ちなのか、具体的に御提示願いたいと思います。

 次に、以下、本法律案の内容について、順次お伺いいたします。

 まず、この法案のスキームが本当に活用されるのかについてお伺い申し上げます。

 本法律案は、森前内閣の政策を継承したものであります。初め、構想が出たときは、形を変えたPKOではないかという厳しい批判にさらされてきました。金融庁も否定的見解を繰り返し、法案化が決まってからも、表向き民間が自主的にやるものであるという形にしようと努めてきた経緯が漏れ伝わってまいります。このスキームを利用する主体である銀行が、そもそも積極的に活用するのか、疑問に感じざるを得ません。

 この株式取得機構の利用は、あくまでも任意であります。したがって、利用するインセンティブが銀行側になければ利用されないことになってしまうでしょう。

 現在のスキームでは、銀行が株式取得機構に株を売却したときの譲渡益課税の軽減措置がない一方で、株式売却の都度、売却額の八%の劣後拠出金の負担が求められます。つまり、株式を市場で売却したときは一〇〇のお金を受け取れるのに対し、株式取得機構に売却したときは、八%分が差し引かれ、九二のお金しか受け取れない、そういう仕組みになっております。

 また、そもそも持ち合い解消売りが難しいのは、なかなか取引先の売却同意を得られないことがあります。企業にとって株式の持ち合い関係を維持してきた背景は、安定株主の確保でありました。銀行株式取得機構は、株式を持ち切る最終投資家ではありません。単なる一時預かりの倉庫でしかないため、安定株主を失う企業は売却には抵抗するものと考えられます。

 株式取得機構が、企業と銀行の持ち合い解消を円滑に進め、市場売却を補完するセーフティーネットの役割を担うのであれば、銀行に活用されるインセンティブを与える必要があると考えますが、柳澤金融大臣に御意見を伺います。

 次に、株式取得機構そのものについてお伺い申し上げます。

 機構は、法律に基づき設立される認可法人であります。特殊法人及び認可法人については、小泉総理から、廃止・民営化を前提にゼロベースから見直すよう指示があり、今年度中に特殊法人等整理合理化計画を策定すべく作業を進めているはずであります。その作業のさなかに新たな認可法人を設立することは、本来、行政改革と整合的ではありません。また、他の特殊法人等と同様、機構が天下り官僚の受け皿になる懸念もあります。

 これらの点につき、石原行政改革担当大臣の御見解をお聞かせ願いたいと思います。

 次に、機構を通じた取引の公正性が確保できるかどうかという問題です。

 機構には銀行界から役職員が派遣されるとお聞きしています。すなわち、銀行から株を買い取る機構は銀行の支配下にあり、機構は、金融再編により普通銀行とグループ化された信託銀行に株式の管理を委託することになるわけです。こうした中で、果たして、どのようにして公正な買い取り価格をルール化するのか、また厳正に守るのか、懸念がないとは言えません。

 また、倒産したマイカルが個人投資家向けに九百億円の社債を発行したときも、社債管理会社となった銀行が融資を回収していたのではないかという話もございます。

 インサイダー取引、相場操縦、総会屋への損失補てんなど、証券市場の信頼を失わせるアンフェアな行為は、過去、枚挙にいとまがありません。公正性を確保するための機構の組織運営とコンプライアンスはどのようにお考えですか。この点について、柳澤金融担当大臣から御説明を受けたいと思います。

 次に、特別勘定による買い取り資金に対し二兆円の政府保証を付与することについてお伺いをいたします。

 言うまでもなく、株は、上がることもあれば下がることもあります。であれば、機構に株式を売却する銀行は、できるだけ株価が下がりそうな株式ばかりを選ぼうとするインセンティブが働きます。その結果、機構の財産はどんどんと食いつぶされ、いずれ債務超過に陥る可能性も、決して否定できません。

 本法律案では、機構の解散時に機構が債務超過であれば、その不足分を政府が補てんすることとされております。要は、最大二兆円の国民負担が発生するおそれがあるわけです。一方で、もし機構に財産が残れば銀行に分配されます。もうけは銀行、損は政府という分配構造で、果たして納税者は納得するのでしょうか。柳澤金融担当大臣の御見解をお伺いいたします。

 次に、株式取得機構が買い取った株式についてお伺いします。

 一度買い取った株式は、どのような判断基準で再売却されるのでしょうか。また、どのようなタイミングで売却されるのでしょうか。

 経済が右肩上がりならいざ知らず、現状の経済環境では、株式市場の上値は低く推移すると思われます。株価が低迷する中、株式取得機構の動向については、株式市場の関心事であります。今後、売却の判断基準を公表するのか、また、公表するのであれば、どこまでお考えになっているのか、柳澤金融担当大臣にお伺いいたします。

 金融システムの安定と信認を回復するために、必要悪として機構を設立するということ自体はあり得ると考えます。しかしながら、そうであれば、政府は、その必要性をはっきりと、わかりやすく国民に説明する義務があると思います。そして、そうした説明は、単なる総論に終始するものではなく、どのようにすれば機構が活用されるのか、公正性が確保できるのか、政府と民間金融機関との間に納得のいくリスクの分担が図られるのかといった具体的各論についても、しっかりとこの国会の場で議論を重ね、明確にしていく必要があると思います。

 整理回収機構、RCCの機能拡充にせよ、この株式取得機構の設立にせよ、中途半端な機能しか担えないようなものをつくったのでは、不良債権問題の解決を図るためにあえて政府が介入する意味は乏しいと言わざるを得ません。

 不良債権問題の抜本的な解決なくして、景気回復はあり得ません。こうした考え方自体に与野党の差はないと思います。ただ、問題解決のための具体的手段とその活用方法については、大いに議論の余地があるところであります。

 そうした観点から、私ども民主党は、株式取得機構を含め、現在、政府・与党が提案ないし検討している諸施策の是非について、この国会の場で真剣な議論を闘わせ、国民の納得のいく決着をつけていきたいと思っております。

 私の今国会に臨む覚悟をお伝え申し上げて、質問を終わらせていただきます。(拍手)

    〔国務大臣柳澤伯夫君登壇〕

国務大臣(柳澤伯夫君) 江崎議員から、広範な、しかし基本的な数々の御質疑をいただきましたが、同議員からは、株式取得機構について一定の御理解をいただいたようなふうにもお聞きいたしまして、この点については心から感謝を申し上げる次第であります。

 第一番目に、株式取得機構が活用されるのかとのお尋ねでございます。

 株式保有制限の導入に伴いまして、銀行等は市場へ保有株式を売却することとなります。その場合、相場の状況等によっては銀行による市場売却が円滑に進まないこともあるわけでありまして、そのような事態に備えて、取得機構は、いわば補完的な制度、すなわちセーフティーネットとして設置されるものであります。それがセーフティーネットとして存在するということで、我々としては十分意義のあるものだと考えております。

 また、これとあわせて、機構は、証券市場の構造改革に資するとの観点から、ETF、投資信託の組成や、発行会社による自社株取得のための買い取り等を積極的に行うことといたしております。

 これらの適切な運営により、機構は、銀行等による株式の円滑な処分に資するものと考えているところであります。

 第二番目は、機構の公正性の確保についてお尋ねがありました。

 機構の役職員等に対しましては本法律で守秘義務が課されておりますほか、機構の業務に関する重要事項については、業務の適正な運営を確保する観点から、機構の役員に加え、金融に関する専門的な知識と経験を有する第三者をもメンバーに加えた運営委員会で審議することとされております。こうしたことを通じまして、機構の業務の公正性を確保してまいりたい、このように考えております。

 機構が解散する際の利益と損失の配分についてのお尋ねでございます。

 本法案では、万一機構に損失が生じた場合、まずは金融機関の拠出した、価格の八%、売却時拠出金によって補てんをし、さらに不足する場合には、当初拠出金によって補てんした上で、それでもなお不足する場合に初めて、政府による補てんが行われることとなっております。

 他方、利益が生じた場合には、拠出金に相当する金額までは金融機関に配当いたしますが、なお残余財産がある場合には国庫に納付させることとしております。

 このように、官民の間における利益と損失の分配は均衡のとれたものとなっておりまして、もうけは銀行、損は政府という御指摘は当たらないものと考えております。

 株式取得機構が買い取った株式の売却についてのお尋ねでございます。

 株式の売却に当たっては、損失の回避や市場へのインパクト等に配慮しつつ売却を進めていく必要があるものと考えております。このような考え方を盛り込んだ売却の基本方針については、運営委員会の審議を経て決定し、公表することを予定いたしております。

 ただ、株式売却の具体的な判断基準やタイミングにつきましては、仕手取引の材料とされたりするなどの弊害も考えられますので、これを公表することは適当でないと考えております。

 以上、お答えを申し上げました。(拍手)

    〔国務大臣石原伸晃君登壇〕

国務大臣(石原伸晃君) 江崎議員から私への御質問は二点であったと思います。

 まず第一点目でございますが、行政改革についてのお尋ねでございます。

 特殊法人につきましては、全法人の事務事業及び組織形態についてゼロベースからの見直しを行っているところでございます。今回、認可法人として設立される銀行等保有株式取得機構については、本法律案の附則において、法律施行後三年以内に、特殊法人等改革基本法第三条に規定する基本理念を勘案し、見直しを行う旨規定しているところであり、その際、徹底した見直しを行うこととなると私は考えております。その点から申しまして、行政改革との整合性はとれていると考えております。

 また、もう一点、天下りについてのお尋ねでございます。

 特殊法人等自体の改革にあわせ、特殊法人等への再就職について、国民の批判を招かないよう、厳格かつ明確なルールを設定すべく、現在、鋭意検討中でございまして、江崎議員御指摘の点は十分に配慮してまいりたいと考えております。(拍手)

    〔国務大臣塩川正十郎君登壇〕

国務大臣(塩川正十郎君) 私に対するお尋ねは、一万円近辺の取引が続く株式の現状を今後どのようにして活性化していくかというお尋ねであったと思っております。

 我が国の株価は、確かに、一般企業の業績の低下等がございまして低調ぎみに推移しておることはございましたが、さらに加えて、先般のテロ事件発生後、一時、日経平均が一万円を割るという状態になったことは残念でございましたが、しかしながら、九月下旬以降、やや持ち直してまいりました状況でございます。

 ついては、証券市場の活性化のためには、目先の株価対策といった視点だけではなくして、構造的にやはり変えていく必要がございまして、そのためには、貯蓄優遇から投資優遇への金融のあり方の切りかえが必要であろうと思っておりまして、そのためには、国民一般の方々が安心して、透明性、公平性の高い市場を構築する必要がある、そのような証券市場に変えていきたいと現在、念願しております。

 それと並行いたしまして、現在問題となっておりますのは、個人投資家の証券市場への信頼性向上のためのインフラ整備と同時に、金融庁が進めておりますいろいろな施策を積極的にサポートしていくためにも、財務省といたしましては、証券税制について思い切った改革を進めていきたいと思っておりまして、その一つといたしまして、株式譲渡益課税を、平成十五年一月から申告分離課税への一本化等の措置を講ずるとともに、緊急かつ異例の措置といたしまして、平成十四年末までに新たに購入した上場株式については、その購入額が一千万円までの譲渡益を、一定の要件のもと、つまり二年間保有するということでございますが、そのもとにおいて非課税とする措置を講じたいと考えております。

 現在その法律案を整備いたしまして、今国会に提出いたしますので、その際、何とぞよろしく御審議のほどお願い申し上げたいと存じます。(拍手)

    〔国務大臣竹中平蔵君登壇〕

国務大臣(竹中平蔵君) 江崎議員から私には二点の御質問をいただいております。

 まず、株式市場活性化のためには国民の将来不安を払拭する必要があるという御指摘でございました。

 日本の経済は大変厳しい状況にありますが、その背景には国民の将来に対する不安感があるという点は、全く同感でございます。本格的な景気回復のためには、したがって、我が国の構造問題への取り組みが不可欠であるというふうに考えております。

 こうした認識のもとで、構造改革の方向性につきましては、六月の末に基本方針、いわゆる骨太の方針を取りまとめ、さらに、構造改革の道筋を示すための改革工程表を、いわば改革の指針として取りまとめたところでございます。

 また、改革先行プログラムにおいては、経済の活性化や新産業の創出につながる制度改革、雇用対策、中小企業対策、そして、構造改革に直結する緊急性が高い施策を織り込み、十月中に取りまとめるということを予定しております。

 さらには、もう一つ重要な点としては、年内を目途に中期的な経済財政計画を策定して、経済財政の中長期的なビジョンをお示ししたいというふうに思っております。

 国民の将来不安につきましては、このような構造改革への取り組みを着実に進めることにより取り除いていきたいというふうに考える次第であります。

 第二の質問は、株式市場の動向に対する認識と市場の活性化に向けた抜本策でございます。

 日本の株価は、昨年の春以降、下落基調で推移しておりまして、ことしの七月以降は、特に企業業績の悪化、さらには同時多発テロの影響などもありまして、一段と下落しました。その後、十月に入ってテロ以前の水準に戻っておりますけれども、今後とも、この株式市場の動向については注視をしてまいりたいと思っております。

 他方、株式市場の活性化は、これは言うまでもなく重要な課題でありまして、今月中に取りまとめる予定であります改革先行プログラムにおいても、個人投資家の証券市場への信頼向上のためのインフラ整備等、証券市場の構造改革のための施策を織り込む予定にしております。

 政府としては、改革なくして成長なしとの決意のもとで、日本の経済の基本的成長力を高めるための構造改革を着実に推進しているところであります。このような構造改革の断行こそが重要である。株価というのは、企業なり経済なりが将来に生み出す収益、付加価値を現在価値に置きかえたものでありますから、そのファンダメンタルなところを強くする構造改革こそが最も抜本的な構造改革である、株価対策でもあるというふうに考えております。(拍手)

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議長(綿貫民輔君) 佐々木憲昭君。

    〔佐々木憲昭君登壇〕

佐々木憲昭君 私は、日本共産党を代表して、銀行等の株式保有制限等に関する法律案に対し、柳澤金融担当大臣に質問します。(拍手)

 本法律案の最大の問題点は、銀行保有株式取得機構を創設し、銀行支援のために新たな税金投入を行おうとしていることであります。これは、森内閣の緊急経済対策で掲げられ、骨太方針に受け継がれた一連の銀行支援策の一つであります。

 この法案は、銀行に対して株式保有の制限を新たに課し、その株式を買い取った機構が市場の動向を見ながら売却を進めるというものであります。その際、機構の買い取り資金の借り入れに政府保証をつけたり、株が下がって損失が出れば税金で穴埋めをするという仕組みになっております。これは結局、国民負担につながるものであります。

 柳澤大臣、銀行が抱える株のリスクをなぜ国民が肩がわりしなければならないのでしょうか、一体、国民にどのような責任があるというのでしょうか、はっきりお答え願いたい。(拍手)

 ことし三月、当時の宮澤財務大臣が銀行保有株式買取機構の構想に対して財政資金の投入に積極的な態度をとったとき、柳澤大臣、あなたはこう述べていました。私はできるだけ公的なものが出ていくということは慎むべきだというふうに基本的に考えている、何か、だっと財政資金に寄りかかるようなことはやはり避けるべきだと発言しておられました。ところが、今回提案された内容は、まさに財政資金に寄りかかる仕組みになっているではありませんか。一体、どう説明するのですか。答弁を求めます。

 法案では、機構が解散する際、株価低落で損失が残った場合、銀行が出した拠出金の残金で損失を補うことになっていますが、それでも損失が埋まらなければ、残りはすべて国が負担する、穴埋めするということになっております。

 現在想定されている株式の買い取り限度額は二兆円ですから、そこから割り出した銀行の損失負担額は、売却時拠出金の一千六百億円、それに当初拠出金の百億円の残余金、すなわち、一千六百億円プラスアルファが銀行負担の上限となります。それを超えた損失は、すべて国民にかぶせるという仕組みになっているのです。

 なぜ、銀行の責任に帰すべき負担に上限をつけ、全く責任のない国民の負担は無制限となるのですか。明確な答弁を求めます。(拍手)

 柳澤大臣は、公的資金に対する国民の批判を意識して、盛んに国民負担を最小化すると説明しておられます。しかし、その保証は全くありません。

 金融庁は、政府保証つきの買い取り対象が、国内上場株式または店頭登録株式であって、投資適格である格付トリプルBマイナス以上のものに限定するため、リスクは少ないと説明しています。しかし、先ごろ破綻したマイカルでさえトリプルBであったことを見ても、全く説得力はありません。

 買取機構が引き受けた株式の中から経営破綻する企業が出てくれば、買取機構は一〇〇%の損失をこうむることになるのです。その場合、国民負担は甚大であります。国民負担を最小にするという保証は、一体どこにあるというのでしょうか。国民にわかるようにお答えください。

 国民の預金を受け入れ、決済機能を持つ銀行等の経営の健全性が株価によって左右されることは防がなければなりません。そのために、銀行等の株式保有を規制することは当然のことであります。しかし、その達成は、銀行自身の自己責任で行うべきであり、新たな公的資金による銀行支援策は全く必要がありません。

 大銀行は、これまで、企業との株式の持ち合いによる株式の大量保有によって、大きなメリットを享受してきました。株式含み益に基づく益出し操作は、銀行に多大な収益をもたらしてきたのであります。空前の利益を懐に入れてきた大銀行が、今度は株価が低落して含み損を抱えたから国民に肩がわりしてくれというのは、余りにも虫がよ過ぎる話ではありませんか。

 全国銀行協会の山本会長は、銀行から株式損失のリスクを遮断する工夫の一つとして政府の保証が有効だと述べています。まことに身勝手な話であります。

 今、政府がやるべきことは、新たな銀行支援の仕組みづくりではありません。このような全銀協会長の姿勢をただし、自己責任の原則に基づいて、銀行業界みずからの努力によって、新たな株式保有制限水準を達成するよう促していくこと、これが今なすべき政府の仕事ではありませんか。

 政府は、税金投入の新たな仕組みを導入する理由として、銀行が一斉に株式を売却すれば、株価が著しく変動し信用秩序の維持に重大な支障が生ずる、それを防ぐためだと述べています。しかし、これには大変なごまかしがあります。

 今、株を自己資本比率を大きく超えて保有しているのは、専ら一握りの大銀行であります。金融庁資料によれば、ことし三月末時点の地方銀行と第二地銀の株式保有額は、自己資本相当額の五割台におさまっているのであります。ところが、大手十五行を取り上げますと、株式保有額が自己資本相当額の一・六倍になっており、その超過額は十一兆円に上ります。すなわち、本法案の言う株式保有制限の達成に向けて機構を活用しながら株式の売却を進めなければならないのは、専ら大手銀行だけだと言えるのではありませんか。

 信用秩序の維持などといいますが、その実態は、国が大銀行から株のリスクを引き受け、株価変動による自己資本比率の低下を公的資金の投入で支える大銀行支援策そのものにほかならないではありませんか。

 あわせて、ここで指摘しておかなければならないのは、今回の方策の中には、政府がこれまで繰り返してきた公的資金による株価買い支え、PKOの発想があることです。公的資金による株価操作は、公正な市場の形成をゆがめるものであります。実際、この間、実施してきたさまざまなPKO政策は、今日の状況が示しているように、結局のところ、失敗しているではありませんか。

 そもそも、今、小泉内閣がやっていることは、不良債権処理で失業と倒産をふやし、社会保障、医療などの面で国民負担を増大させる政策であります。政府自身が、マイナス成長もやむなしと述べ、当面の景気を悪くする政策を実行しているわけであります。株価は、経済の実態を映す鏡であります。政府自身が株価を下げるような政策を実施していながら、その穴埋めを国民に求めるなど、言語道断であります。(拍手)

 今、必要なのは、公的資金による株価対策ではありません。個人消費を応援して実体経済の改善を図り、企業の業績を改善することこそ、真の株価対策ではありませんか。

 さらに重大なのは、今後の一層の国民負担増に道を開いていることであります。

 そもそも、政府保証枠は法定事項ではなく、予算案に計上し、政令を改正すれば幾らでも拡大できるものであります。本法案には、検討条項が盛り込まれており、法律施行後三年以内に、法律の施行状況等を勘案して、株式保有制限と機構制度について検討を加え、必要があると認めるときは所要の措置を講ずることと明記しています。

 柳澤大臣にお聞きをいたします。二兆円では足りなくなったとして、今後、政府保証枠を拡大することはないと明言できますか、明確にお答えください。

 最後に、本法案による銀行等の株式保有制限の内容についてお聞きをします。

 これまでも、銀行が単一の事業会社の株式を五%を超えて保有することを禁止する規制は行われてきました。しかし、総量では無制限に認められてきたのであります。本法案は、銀行の株式保有に対する総量規制を初めて課すものであります。しかし、その上限を自己資本相当額としています。

 欧米の例で見ると、最も厳しい米国では、グラス・スティーガル法により、銀行本体の株式保有は原則として禁止され、昨年施行された金融近代化法により、金融持ち株会社の子会社にのみ一定限度内での保有を認めているにすぎません。また、ドイツでは、銀行が事業会社の株式を保有することは認めているものの、事業会社に対する出資額の総額は自己資本の額の六〇%を超えてはならないと規定しています。

 これらの国際的な水準と本法案の規制内容を比べて、識者からは、国際的な潮流も踏まえると、自己資本の範囲内にとどめるだけではまだ十分ではないとの指摘もなされております。

 今回の法案では、なぜ、株式保有制限の上限を自己資本相当額としたのでしょうか。また、規制は当分の間の措置であるとされていますが、将来は規制撤廃を考えているのでしょうか。株価変動のリスクから銀行経営の健全性を確保するためには、規制の充実こそが求められているのではありませんか。答弁を求めます。

 今回の公的資金投入策に対して、各方面から強い批判が上がっております。新聞の社説でも、こんな法案をすんなり認めるわけにはいかない、国によるしりぬぐいそのものではないかといった厳しい見解が表明されています。

 これまで、政府は、住専処理への税金投入以来、公的資金七十兆円による銀行支援策に至るまで、公的資金による至れり尽くせりの銀行支援を拡大してきました。政府の七十兆円銀行支援策に基づいて、ことし三月末までに約二十七兆六千億円の公的資金が使用され、約九兆円の国民負担が既に確定しているのであります。本法案は、その上にまたもや新たな税金投入を上乗せしようというものであります。政府には国民負担の痛みに対する感覚が完全に欠如していると言わざるを得ません。

 小泉内閣が打ち出している大銀行支援は、これだけではありません。骨太方針では、新たな国民負担増に道を開く、整理回収機構による健全銀行の不良債権買い取り業務の拡大も打ち出されております。これでは、日本の銀行は政府の丸抱えであり、護送船団行政そのものではありませんか。

 国民には耐えがたい痛みと負担だけを押しつけ、大銀行には次々と手厚い支援策を拡大する、このような逆立ちした政策を根本的に改めてこそ、日本の金融機関の国際的な信用を回復させることになるのであります。このことを指摘して、私の質問を終わります。(拍手)

    〔国務大臣柳澤伯夫君登壇〕

国務大臣(柳澤伯夫君) まず第一に、銀行の株式保有制限と国民負担との関係についてお尋ねがありました。

 本法案では、金融システムの構造改革に向けて、銀行等の株式保有のリスクを限定するために保有制限を課すことといたしております。機構は、これに伴う銀行等による株式売却が円滑に進められるように、公的支援を背景としたセーフティーネットとして設立されるものでありまして、それは公共性を有する信用秩序の維持のために必要なものであると考えております。

 次に、財政資金に寄りかかっているのではないか、あるいは、国民負担は無制限ではないか、さらには、国民負担を最小化する保証はあるのかとのお尋ねがございました。

 機構に公的支援を行う場合であっても、最終的には国民負担に極力つながらないようにすることが重要であると考えております。

 このような考え方のもとで、買い取りは、可能な限り国民負担につながらないと考えられるETFや投資信託の組成、さらには自社株取得を目的とした勘定によることといたしておりますほか、政府保証を付するセーフティーネットとしての買い取りについても、買い取りの対象株式を限定していること、買い取りの開始には運営委員会の決議を要すること、銀行等からあらかじめ株式の売却額の八%に相当する売却時拠出金を拠出させることとしていることなど、諸方策を講じているところであります。

 次に、銀行業界はみずからの努力によって保有制限を達成すべきではないかとのお尋ねでございました。

 政府といたしましても、まさに銀行等は、みずからの努力によって、株式を市場に計画的に売却し、保有制限を達成するように努めていくべきものと考えております。

 しかし、それのみにゆだねるときは、銀行等による株式の短期間かつ大量の処分により株価の著しい変動を通じて信用秩序の維持に重大な支障が生ずるおそれがあるために、そのような事態を避けるため、市場売却を補完するセーフティーネットとして機構を設立するものであります。

 機構を活用するのは大手行だけではないか、また、機構の実態は大銀行支援ではないかとのお尋ねがございました。

 我が国の金融システムは、事実として、大手行を中心に、それとの強い関連のもとで、地銀等を含め一体のものとして構成されていることは御案内のとおりであります。直接的には主に大手行に関係する施策ではあっても、それは地銀等の安定にも資することであることは当然であります。現に、機構の設立についても、このような考え方のもとで、できる限り多数の銀行の参加が期待されているところであります。

 公的資金による株価対策はやめるべきであるという御指摘がありました。

 機構は、銀行等による株式処分が円滑に進められるように、セーフティーネットとしての機能を果たすものであります。また、銀行等が保有株式を機構に売却するか、市場に売却するかは任意となっているのでありまして、機構が一定の株価水準を維持するような仕組みにはなっておりません。したがって、株価対策という御指摘は当たらないものと考えております。

 次に、政府保証枠に関するお尋ねでございます。

 最近の銀行等による株式の市場売却実績等を勘案すれば、政府保証枠は当面二兆円で足りるものと考えております。

 ただし、株式市場の動向等を現時点ですべて見通すことは極めて困難でありまして、このことから、機構のセーフティーネットとしての機能を考慮すれば、将来必要があれば見直しを行い得るという規定を置いていることを御理解賜りたいと思います。

 株式保有制限の上限についてのお尋ねでございます。

 問題は、株式の価格変動リスクを銀行のリスク管理能力の範囲内にとどめる必要があるということであります。

 しかし、現在のところ、国際基準といたしましても、銀行等が適切に株式に係る価格変動リスクを把握する方式がまだ確定しておりません。このため、このような状況を踏まえて、株式の保有量について規制をすることとし、その上限を自己資本相当額としたものでございます。

 今後とも、社会経済情勢の変化等に対応しつつ、自己資本比率規制等の方式の構築の進展度合いに応じまして、本制度の見直しも含めて、銀行等の経営の健全性の確保を図っていく所存であります。

 以上であります。(拍手)

議長(綿貫民輔君) これにて質疑は終了いたしました。

     ――――◇―――――

議長(綿貫民輔君) 本日は、これにて散会いたします。

    午後一時五十三分散会




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