衆議院

メインへスキップ



第32号 平成14年5月14日(火曜日)

会議録本文へ
平成十四年五月十四日(火曜日)
    ―――――――――――――
  平成十四年五月十四日
    午後一時 本会議
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 川口外務大臣の瀋陽総領事館事件に関する報告及び質疑


このページのトップに戻る

    午後一時七分開議
議長(綿貫民輔君) これより会議を開きます。
     ――――◇―――――
 国務大臣の発言(瀋陽総領事館事件に関する報告)
議長(綿貫民輔君) 外務大臣から、瀋陽総領事館事件に関する報告について発言を求められております。これを許します。外務大臣川口順子君。
    〔国務大臣川口順子君登壇〕
国務大臣(川口順子君) 瀋陽総領事館事件については、五月十日、衆議院本会議において、私から、我が国政府の対応等を報告させていただきました。本日は、その後の動向について、議員各位及び国民の皆様に改めて御説明したいと思います。
 十日夜、中国政府は、外交部報道官談話を発表しました。これによれば、中国側は、武装警察の総領事館への立ち入り及び関係者の連行につき、日本側の同意を得て行った旨主張しています。
 日本側は、これまでも事実関係をしっかりと調べており、このような中国側の発表とは見解を異にしているものです。一方、事実関係を徹底的に解明するため、小野領事移住部長ほかを現地に派遣し、十一日から本事件に関する事実関係の調査を実施しました。その調査結果については、昨十三日夕刻の記者会見において、私から報告させていただいたところでございます。
 今回の調査結果により、総領事館の対応についても、危機意識の希薄さ、指揮命令系統の不備、物理的警備体制の不備などの問題が明らかになりました。議員各位及び国民の皆様の外務省に対する信頼を失わないためにも、こうした問題点については厳しく反省した上で、今後、必要な改善策等を早急に講じていく考えです。引き続き、御理解、御支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
 なお、当時の事実関係については、今回の調査の結果、武装警察官が最初に総領事館敷地内に立ち入った際、また、総領事館査証待合室に入り込んだ男性二名を連行した際、さらに、関係者五名を最終的に連行した際のいずれについても、日本側が同意を与えた事実はありません。
 また、総領事館員は、最終的に中国の武装警察官に物理的抵抗を行いませんでしたが、これは不測の事態を避けるためであって、中国側に対して同意を与えたことを意味するものではありません。
 総領事館の安全は、総領事館と現地警察との協力により維持されるものであり、武装警察は、瀋陽総領事館の安全確保の任務についております。今回の事件では、この調査結果から明らかなとおり、ウィーン条約に基づく公館の立ち入りに際して必要な同意がないまま、武装警察が立ち入ったことが問題と考えています。
 今後は、今回の調査結果を踏まえ、中国側の主張に反論していく考えであり、小野領事移住部長ほかは、本日午前、中国外交部に対して、改めて我が方考え方を説明したところです。
 今回の事件につきましては、中国との間で事実関係の確認及び再発防止を含め、毅然と対処していく考えです。他方、中国側に連行された五名の処遇をめぐっては、人道上の観点が配慮されることが重要です。すなわち、何人であれ、いかなる場合においても、みずからが迫害を受けるおそれのある国、地域に送還されてはならないとの要請が満たされることが、何よりも重要です。こうした観点からも、今後の中国政府の対応を、我が国を含む国際社会全体がともに注視していくことが重要と考えます。
 以上のとおり、我が国としては、引き続き、国際法上及び人道上の観点から、冷静かつ毅然として対処しつつ、中国側との協議を通じ、本問題の早期解決に向けて全力を尽くしていく考えです。皆様の御支援、御理解を改めて心よりお願い申し上げる次第です。(拍手)
     ――――◇―――――
 国務大臣の発言(瀋陽総領事館事件に関する報告)に対する質疑
議長(綿貫民輔君) ただいまの発言に対して質疑の通告があります。順次これを許します。茂木敏充君。
    〔茂木敏充君登壇〕
茂木敏充君 私は、自由民主党を代表し、今般の在瀋陽総領事館事件に関して、緊急に質問を行います。(拍手)
 五月八日午後、中華人民共和国瀋陽市の我が国の総領事館において、北朝鮮からの亡命者と言われる、男性二名と幼児を含む女性三名が総領事館の敷地内に入り、これを中国武装警察官が不法に引き戻すという事件が発生しました。
 武装警察官により総領事館の門扉から引き離される女性の姿は、ビデオ映像とともにメディアを通じて広く世界に報道され、国民の間にも大きな反響を巻き起こしました。特に、メディアを通じて報道された、武装警察官と領事館への駆け込みを図った女性二人とのもみ合いの傍らで茫然と立ち尽くす幼い女の子の姿は、多くの人の心を痛める光景であったと思います。
 また、総領事館内へ入った男性二人が、我が方の総領事館員の同意を得ることなく総領事館に立ち入った中国側武装警察官によって、建物内の査証申請待合室において身柄を拘束され、連行された事実は、人道上の問題と同時に、我が国の総領事館の不可侵が侵された重大な法的問題として、国民の深い憂慮と懸念、さらに、外務省に対する一層の不信を巻き起こしました。
 私は、本件問題は、人権外交の新たな旗を掲げるべき我が国外交の威信を著しく傷つけると同時に、人道上の側面及び国際法上の側面から重大な論点を有する問題であると深く認識いたしますが、本件に対する総理の基本認識について、まずお尋ねをいたします。
 すべての国民が、そして世界が、我が国の対応を注視している問題であります。我が国としては、毅然たる態度で本件に当たり、まず何よりも人道的立場から、連行された五人が朝鮮民主主義人民共和国に送り返されるようなことがないよう、あらゆる外交手段を行使し、その安全と身柄の確保を含めたしかるべき対応を引き出すべく、最大限の努力を行うべきであると考えますが、今後の政府の対応について、総理大臣に明確な方針を伺います。
 八日に事件が発生してから、現地在外公館の対応を含めた外務省のこれまでの対応について、多くの国民の間に厳しい意見が存在しています。この問題について、外務大臣にお伺いいたします。
 まず、今回の問題は、国益を担うべき我が国外交当局の緊張感の欠落、危機意識の希薄さを露呈し、在外公館の危機管理のあり方について大きな問題を投げかけた事件であったと思います。例えば、北朝鮮からの難民申請希望者が、国境を接する中国において、第三国の公館へ駆け込む事態が頻発する状況において、我が国の総領事館は、さしたる緊張感もなければ、緊急事態への対応準備も全く怠っていました。
 今回の事件を一過性の問題ととらえることなく、全世界における我が国の在外公館の危機管理対処能力や情報収集能力の強化、さらに、警備体制の改善を一層図っていくことが重要です。早急かつ抜本的な対応が必要であると考えますが、外務大臣の御認識をお伺いいたします。
 また、本件事件については、中国政府は、十日に、外交部報道官談話の形で、中国側武装警察官は我が方の副領事の同意を得た後、入館し、五名を連行することについても、日本側が同意したのはもちろん、何と感謝の意まで表明したとの調査結果を公表しております。日中双方の発表は大きく食い違っていますが、本件の一連の事実認識として、中国側武装警察の立ち入りや連行について、我が方の総領事館関係者の同意がなされたのか否か、また、現場での抗議は行ったのか否かについて、外務大臣の明確な答弁を求めます。
 最近、外務省ではたび重なる不祥事が発生し、国民から、外務省のあり方について厳しい声が提起されています。今回の事件でも、関係職員の対応の不備が指摘されているところですが、現場限りの甘い処分で済む問題ではありません。外務省全体として、管理責任も含め、厳しい措置が必要と考えますが、今後の対応について外務大臣のお考えを伺います。
 今回の事件の背後にある問題として、外務省職員の特権意識についても言及せざるを得ません。領事上の特権及び免除の目的は、同条約にもうたわれているとおり、任務の能率的な遂行を確保することにあるにもかかわらず、外務省員は、外交官個人に付与された特権と勘違いをいたしております。こういった誤った特権意識の改革について、外務大臣の改革姿勢を伺いたいと思います。
 最後に、人事制度の問題点に触れます。
 外務省における人事制度は、語学を中心として人事が組まれています。チャイナスクール、ロシアンスクールなど、当該語学の研修を行った人間中心の固定的人事に陥っています。このため、今回のように特定の国との間で問題が起こった場合でも、毅然とした態度で主張すべきを主張し得ないという体質ができ上がっているのではないかとの懸念を有しますが、外務大臣の人事制度に対する御認識をお伺いいたします。
 今回の事件が投げかけた教訓は、極めて重く、かつ、多方面に及びます。これを今後の改革の礎とし、総理、外務大臣のリーダーシップのもとで外務省改革を断行し、我が国の外交活動や在外公館に対する国民の信頼を一日も早く取り戻されることを切に希望しつつ、私の質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕
内閣総理大臣(小泉純一郎君) 茂木議員にお答えいたします。
 瀋陽総領事館事件についての基本認識に関してであります。
 中国側の武装警察が、我が方の同意なく我が方総領事館に侵入したこと、最終的に関係者全員を中国側公安部門へ連行したことは、国際法及び人道上の観点から、極めて問題であり、非常に遺憾であると考えています。
 我が国としては、国際法上及び人道上の観点から、冷静に毅然として対処しつつ、中国側との協議を通じ、本問題の早期解決に向けて全力を尽くしていく考えであります。
 五人の安全と身柄の確保を含めた今後の政府の対応についてであります。
 我が国としては、中国側に対し、五人の関係者の引き渡しを求めているところであります。いずれにせよ、これら関係者の人道上の要請が満たされる必要があると考えております。
 残余の質問については、関係大臣から答弁させます。(拍手)
    〔国務大臣川口順子君登壇〕
国務大臣(川口順子君) まず、今回の問題につきまして、今後の対応等についてのお尋ねがございました。
 今回の問題では、瀋陽総領事館における危機意識が希薄であったとの意識面の問題に加え、指揮命令系統の問題、警備面の問題など、体制上の問題が明らかになったと考えております。その結果として、今回の事件で、総領事館の不可侵権の侵害が生じるなど、あってはならない事態となり、深く反省しております。
 二度とこのようなことがあってはならないので、私は、我が国の在外公館がさまざまな緊急の事態等に十分対処できるよう、在外公館の対処能力、警備能力、情報収集能力を根本から見直し、必要な改善等を早急に講じていく考えです。
 中国側武装警察の総領事館内への立ち入りに対する我が方同意についてのお尋ねがありました。
 昨日発表しました調査結果において指摘しましたとおり、我が方からは、中国側武装警察の立ち入りにつき、総領事館関係者の同意がなされたとの事実はありません。
 今般の事件を踏まえた今後の対応についてのお尋ねがありました。
 昨日発表した調査結果において指摘したとおり、今回の総領事館の対応についても、意識面、指揮命令系統、警備面等において、種々の問題が明らかになったところでございます。こうした問題点につきましても、猛省をした上で、今後、改善等の措置を早急に講じていきたいと考えております。
 外務省員の特権意識についてのお尋ねがありました。
 今回の事件に関し、明らかになった問題点といたしまして、外務省員の意識があります。外務省員の誤った特権的意識の改革については、「変える会」において、種々議論いただいております。既に中間報告をいただいておりますが、七月末に予定されています最終報告を待つことなく、できるものから、特に意識面の改善についての措置を進めていきたいと思います。
 外務省の人事制度についてのお尋ねがございました。
 在外公館を含む外務省の人事においては、各国との緊密で良好な関係を維持増進する上では各職員個人のレベルでの人脈形成も重要である等との観点から、各職員の専門語学を重視してきております。
 しかし、同時に、各職員の専門語学のみで人事が決定されるべきではなく、各職員の研修語学にかかわらず、本人の能力、適性に応じ、適材適所の配置に努めてきているところです。
 今回の事態を踏まえ、現在の制度の長所、短所を十分に検討し、さまざまな方の御意見を拝聴しながら、人事制度改革に全力を挙げていく所存でございます。(拍手)
    ―――――――――――――
議長(綿貫民輔君) 中川正春君。
    〔中川正春君登壇〕
中川正春君 民主党の中川正春です。
 瀋陽の日本総領事館事件に関する外務大臣報告に対して、民主党・無所属クラブを代表して、質問をいたします。(拍手)
 中国警察官が、不法な侵入と難民の強制連行という行為をもって日本領事館の不可侵権を侵害したことに対して、まず、中国政府に対し抗議を行うものであります。(拍手)
 民主党は、国際社会の重要なパートナーである中国が、国際法にのっとり、この五人の北朝鮮家族を日本領事館に引き戻すべきだと訴えております。同時に、領事館内への強引な侵入により、日本の不可侵権を侵したことに対し、中国政府は、即刻、謝罪をすべきであります。(拍手)
 また、小泉内閣は、中国政府に対し、毅然たる態度を貫いてこの問題に対応すべきこと、人道的な立場から、家族の亡命希望を尊重し、最終的には第三国の受け入れを可能にするために、我が国政府が中国と精力的に話し合っていくことを強く望むものであります。
 こうした思いを前提に、まず、小泉総理、中国政府に対してこれからどのような主張を貫いていこうとしているのか、具体的に聞かせていただきたいと思います。
 事件発生後の一連のやりとりの中で、中国政府は、あくまでも、領事館の同意のもとに治安を確保するために侵入し、五人を連行したと主張しております。
 私は、ここで、日本の主張をはっきりとしなければならないと思うのであります。
 ポイントは二点。まず、領事館に入り込んだ二人を武装警官が連れ出そうとしたときに、担当していた宮下副領事が同意を与えた事実があったかどうか。中国は、了承を得たと言っております。この点について、はっきりさせること。第二は、警察官詰所から五人を連行していくときに、これも副領事が同意を与えたと、中国は言っております。この二点に対して、しっかりとした、説得力のある反論をすべきであります。
 事件の様子を生々しく報道する連日のテレビ画面を見て、多くの国民がどれほどの悔しさをかみしめていることか。そして、日本の外務省の余りの頼りなさかげんに、どれほどの焦燥感を持って事態の推移を見守っていることか。
 私は、今回、この国民の感情にさらに火をつけたのは、小泉総理の煮え切らない初期対応だったように思います。(拍手)結論が出ない総理にこの国が守れるか、このことが一連の対応から国民の心にはっきりと認識されたことを、私はここで指摘したいと思います。(拍手)
 川口大臣にお尋ねします。
 ここ数カ月の間に、スペイン大使館やアメリカ大使館などに北朝鮮からの難民が相次いで亡命する事件が続きました。外務省としては、このことを受けて、当然、在外公館に対して、その対応につき具体的な指示をしていると考えられます。いつ、どのような形で指示をしたのか、また、それを徹底させるために、現場ではどのような対応をしていたのか、はっきりと答えていただきたい。
 さらに、私は、今回の事件に関して、マスコミの手でビデオ撮影が周到に準備され、韓国の報道機関から全世界に流された事実に着目をしております。この事件を陰で演出した韓国系NGOは、ビデオ放映によって何を訴えるつもりでいたかということであります。
 結果的には、日本の領事館ののうてんきと外務省の危機管理対応の欠如だけがクローズアップされてしまいましたが、どう考えても、彼らが日本の醜態を世界にさらす目的だけでこんなことをしたとは、思えないのであります。彼らが訴えたかったこと、それは本当はほかにあった。それは、中国が難民に対して、残らず北朝鮮本国への強制送還という厳しい対応をしている、その非人道的な中国の政策を世界の世論に訴えて転換させたい、このことではなかったかと思うのであります。私は、基本的に、彼らの意思は正しいと思います。そしてさらに、これは日本に対しても、この思いは共通したところがあるのであります。
 小泉総理、あなたは、今回のことを一つの節目にして、出入国管理及び難民認定法を全面的に見直して、日本国内で人道的な難民受け入れの枠を拡大する方向への政策転換を進める気持ちはありませんか。(拍手)
 さらに、私は、この際、日本、中国と韓国にアメリカを加えた四国による、北朝鮮難民問題に関する国際協調会議を北京で開くことを提唱します。北朝鮮に対するこうした大きな枠組みを考えて、その上に日本外交の戦略を組み立てるダイナミズムを、私は、今の外務省にぜひとも求めていきたいのであります。(拍手)
 最後に、外務省のパフォーマンスは限りなく低下していることが、はっきりとしてきました。職員は、周辺の時代の動きに鈍感きわまりなく、危機管理に対する管理職レベルの情報収集能力の欠如と判断の甘さ、そして、相手国に対する交渉能力の限界。このために、この事件の問題の本質が、現場で担当者が言った言わないの水かけ論に矮小化されてしまったことは、まことに悲劇であります。
 川口大臣、人心一新のためにも、今回の問題では、関係者の厳格な処分を要求します。さらに、大臣自身の責任についても、みずから厳しく律することが必要であります。外務省再生のためにも、我が党は、大臣御自身の辞任を要求するものであります。(拍手)
 最後にこのことを申し上げ、外務省と日本外交の再生を心から願って、私の質問を終わります。ありがとうございました。(拍手)
    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕
内閣総理大臣(小泉純一郎君) 中川議員にお答えいたします。
 瀋陽総領事館事件について、日中両国の主張に関するお尋ねであります。
 中国側の武装警察が、我が方の同意なく我が方総領事館に侵入したこと、最終的に関係者全員を中国側公安部門へ連行してしまったことは、関係の国際法及び人道上の観点から、極めて問題であり、遺憾であると考えております。これに対して、中国側は、これらの行動につき我が方が同意を与えていたと主張していますが、昨日の我が方調査結果でも明らかなとおり、そのような事実はありません。我が方は、同調査結果に基づき、本日午前、北京において、中国側に改めて反論を行いました。
 我が国としては、国際法上及び人道上の観点から、引き続き、冷静に毅然として対処しつつ、中国側との協議を通じ、本問題の早期解決に向けて全力を尽くしていく考えであります。
 国民の気持ちを謙虚に受けとめるべきということについてでございます。
 今回の事件では、調査の結果、意識面、指揮命令系統、警備面等において、種々の問題が明らかになっています。こうした問題点につきましては、国民の声に謙虚に耳を傾けつつ、今後、改善点等を早急に講じてまいりたいと考えております。
 難民受け入れ枠拡大への政策転換についてでございます。
 難民認定については、従来より、国際的な取り決めである難民条約等にのっとり、適正な運用に配意していると承知しています。国の内外における人道、人権に関する意識の動向に十分配慮しつつ、今後とも、難民受け入れのあり方について考えてまいりたいと思います。
 残余の質問については、関係大臣から答弁させます。(拍手)
    〔国務大臣川口順子君登壇〕
国務大臣(川口順子君) 瀋陽総領事館事件への対応に関する国民感情をどう受けとめるかという点についてのお尋ねがありました。
 私自身、報道を通じて、抵抗する二人の女性と立ち尽くす子供の表情を見まして、胸のつぶれる思いがいたしました。あのときになぜ違う対応ができなかったのかと、多くの国民の方々が思っていらっしゃることと思います。
 本件に関する我が国の対応について、国民の間で厳しい声があることについては謙虚に受けとめており、今般の調査で明らかになった問題については、猛省の上、今後、改善策を早急に講じてまいります。
 北朝鮮からの脱出者の亡命事件への対応についてのお尋ねがございました。
 御指摘のとおり、外務省では、最近になり北朝鮮から中国への脱北者の数が急増し、本年三月には、中国において、北朝鮮からの亡命者による第三国公館侵入事件があったことを踏まえまして、実際に脱北者が侵入した場合を念頭に、対処ぶりを準備し、関係公館に伝達したところです。
 しかしながら、今回、脱北者に関する案件については、中国側武装警察による我が方総領事館の不可侵の侵害があったという事実を踏まえ、外務省としては、今後の対処ぶりについて、関係在外公館に広く指示したところです。
 北朝鮮問題に関する日中韓米四カ国による国際協調会議開催についての御提案がございました。
 我が国としては、対北朝鮮政策については、日米韓の三カ国が緊密に連携し、安全保障上の問題や人道上の問題の解決に向け対話を推進していくことが重要と考えており、こうした観点から、これまで、北朝鮮問題に関する日米韓三国調整グループ会合、略してTCOGといいますが、等の場で対北朝鮮政策の調整を行ってまいりました。また、中国とも、北朝鮮情勢についての意見交換を随時行っております。
 御提案の国際協調会議がいかなるものか、つまびらかではありませんが、いずれにせよ、我が国は、韓米両国との緊密な連携を維持しつつ、日朝国交正常化交渉等の進展に粘り強く取り組む等の努力を通じまして、安全保障上及び人道上の諸問題の解決を目指していく考えでおります。
 瀋陽総領事館事件をめぐる処分、責任についてのお尋ねがありました。
 今般の調査結果をも踏まえ、中国側との折衝を含め、国際法、人道上の観点から、毅然かつ冷静に対処しつつ、問題を早期解決することが第一の責任であると考えております。(拍手)
    ―――――――――――――
議長(綿貫民輔君) 上田勇君。
    〔上田勇君登壇〕
上田勇君 去る八日に、瀋陽総領事館に中国の武装警察官が侵入し、亡命を希望していた、幼児一名を含む五名の北朝鮮籍と思われる者を拘束するという事件が発生いたしましたが、私は、公明党を代表して、この事件に係る事実関係及び我が国の対応について、質問をいたします。(拍手)
 領事関係に関するウィーン条約第三十一条には、領事館の公館の不可侵が定められており、今回の中国当局の行為はこの規定に違反するものと理解しています。同条約は外交関係の基本的なルールを定めたもので、両国間の信頼と友好のためにも、この条約を遵守することは不可欠であります。
 政府として、本事件の全容を明らかにするとともに、条約に反した中国政府の謝罪とその責任を明らかにすることを強く要求すべきであります。小泉総理も川口外務大臣も、当初から、毅然とした態度で中国側との交渉に臨むことを明言していますが、この際、総理みずからがリーダーシップを発揮して、我が国の主張を中国側に明確に伝えて、問題の解決に全力で当たるべきと考えますが、改めて、総理の御決意をお伺いいたします。
 この事件について、我が国と中国側とでは、事実関係の認識に相当な隔たりがあります。中国外交部は、警察官が総領事館副領事の同意を得た後、館内に立ち入り、同意のもとで連行し、かつ、領事館側から警察官に感謝を表明されたと、すべての行為が日本側の同意のもとで行われたと発表しています。昨日は、中国側の調査結果として、具体的なやりとりなども含めて、再度、同様の見解が発表されています。
 これらは、外務省が現地調査を行った上で昨日発表した調査結果と大きく食い違っています。こうした中国側の見解についての総理並びに外務大臣の御認識をお伺いいたします。
 また、中国外交部は、九八年五月に我が国の警察官数名が在日中国大使館に立ち入った事件を取り上げ、二つの事件を同一に取り扱い、今回の事件の正当化を図ろうとしています。
 私は、この二つの事件は本質的に性格が異なるものであり、中国側のこうした主張は認められないものだと考えますが、外務大臣の御見解を求めます。
 今回の事件で、在外公館の危機管理体制も大きな問題となっています。身元のはっきりしない者が五名も、門の開口部から、総領事館の敷地内だけではなく、建物の中にまで侵入しました。仮に、これらの者がテロリストや犯罪者であったとしても、いとも簡単に館内に侵入することができ、大事件になったことでしょう。また、門の周辺で騒ぎが起きていることに気づいた後に、建物の中まで武装警察官が侵入することをなぜ防げなかったのでしょうか。
 在外公館の警備体制に大きな問題があることが明らかになったと考えますが、外務大臣の御認識と今後の改善についての方針をお伺いいたします。
 拘束された五名は、北朝鮮で迫害を受けてきたため、米国への亡命を希望していると報じられています。人道上の見地から、五名の者が北朝鮮に送還されるような事態だけは絶対に避けなければなりません。政府は、身柄の引き渡しを求めておりますが、それが実現した場合には、我が国への入国、定住を認めるのか、我が国を経由して米国など彼らが希望する国への渡航を支援するのか、政府の対処方針を総理にお伺いいたします。
 中国側は、拘束した五名の者の第三国への出国を認めることにより決着を図ろうとしているのではないかとの憶測があります。彼らの身の安全を確保することが最優先ではありますが、そのことによって条約に違反したこの事件が決着するものではないと考えます。
 世界じゅうが日本の対応を注目しています。事件の全容を解明し、国際ルールに照らして責任を明確にする必要があると考えますが、総理の御見解をお伺いいたします。
 最後に、本年は日中国交回復三十周年の佳節に当たり、さまざまな友好行事が行われております。両国の友好を深めていくべきであることは当然ではありますが、我が国として、言うべきことはしっかり言う、そういう姿勢によって初めて本当の信頼関係が深まると思います。
 政府として毅然とした態度で本件の解決に臨むとともに、中国側にも良識ある対応を強く求め、私の質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕
内閣総理大臣(小泉純一郎君) 上田議員にお答えいたします。
 瀋陽総領事館事件の問題解決に向けた決意でございます。
 今回の中国側の行為は、我が国総領事館の不可侵を侵害するものであり、極めて問題であり、遺憾であると考えております。
 今後とも、国際法及び人道上の観点から、冷静に毅然と対処しつつ、中国側との協議を通じ、本問題の早期解決に向けて全力を尽くしてまいります。
 瀋陽総領事館事件についての中国側の見解に関するお尋ねであります。
 中国側は、武装警察官の総領事館立ち入り及び関係者五名の連行について、我が国が同意を与え、感謝を表明した旨主張していますが、このような主張は事実に反します。昨日発表された調査結果を踏まえ、今後とも、中国側にしかるべく反論していく考えであります。
 五名の引き渡しが実現した場合の対処方針についてでございます。
 我が国の要請に従って中国が日本側に対し五名を引き渡した場合には、我が方としては、まず、これら五名の人定事項等の事実関係を確認し、同人の希望等を聴取することになります。その上で、当該者の生命または身体の安全が適切に確保されるか等の人道的観点や関係国との関係等を総合的に考慮して、具体的な対応につき、検討することになります。
 五人の身の安全の確保のみならず、事件の全容を解明し、国際ルールに照らして責任を明確化することが必要ではないかというお尋ねであります。
 既に述べたように、今回、中国側の武装警察が我が方の同意なく我が方総領事館に立ち入ったことは、国際法の定める領事機関の公館の不可侵に反し、非常に遺憾であります。
 我が国としては、今後とも、事件の全容を解明するとともに、国際法及び人道上の観点から、冷静に毅然と対処していきたいと思います。
 残余の質問については、関係大臣から答弁させます。(拍手)
    〔国務大臣川口順子君登壇〕
国務大臣(川口順子君) 瀋陽総領事館事件についての中国側の見解に関するお尋ねがございました。
 五月十日、私は、小野領事移住部長を中国に派遣して、本件に係る事実関係の調査に当たらせましたが、このような調査を踏まえて昨日発表した調査結果でも明確に示しているとおり、中国側のそのような主張は事実に反するものです。本日午前九時半から、これは現地時間でございますが、北京においても、小野領事移住部長が、今回の調査結果を踏まえまして、中国側に対し反論しているところでございます。
 瀋陽総領事館事件に関して、九八年五月の事件との関連についてのお尋ねがありました。
 九八年五月の日本側警察官の在京中国大使館への立ち入り事件は、大使館職員により入館を拒否されたにもかかわらず大使館内敷地に侵入した男性を、日本側警察官が大使館側職員に協力して、身柄を確保したものです。一方、瀋陽総領事館事件では、日本側と訪問者の間で何らの意思疎通も行うことができないまま、中国側武装警察官が総領事館内に立ち入った上、訪問者を連行したものです。
 また、九八年の事件では、日本側の行為につきまして、中国側からは、現場では何ら異議申し立てはなく、警察官が侵入者の身柄を確保したこと自体には理解が示されています。一方、瀋陽総領事館事件では、日本側の制止にもかかわらず、訪問者を中国側公安部門へ連行したものです。
 したがいまして、御指摘のとおり、両事件は全く性格の異なるものであり、これらを比較することは不適当であると考えます。
 在外公館の警備体制についてのお尋ねでございます。
 本事件においては、総領事館の対応に問題があったことは否定できず、謙虚に反省した上で、意識面、指揮命令系統面、警備面の諸問題に関し、厳しく見直していきたいと考えます。
 通常、在外公館の出入りゲートは閉鎖した上で、来館者に対し、門衛所に配置された警備員が、その訪問目的と身分証明書等を確認し、所要の検査などを行った上で入構を認めることといたしております。
 在瀋陽総領事館の場合、査証等に訪れる来館者の利便性を勘案しまして、現地の判断でゲートの一部を開放していたために侵入を許す結果となりました。査証待合室を含め総領事館の警備は、仮に、敷地内にテロリストが侵入するといったことがあったとしても、直ちに館員に危害が及ばない構造となっております。(拍手)
    ―――――――――――――
議長(綿貫民輔君) 土田龍司君。
    〔土田龍司君登壇〕
土田龍司君 私は、自由党を代表して、ただいまの瀋陽総領事館事件に関する外務大臣報告に対して、質問いたします。(拍手)
 我が国外交の根幹にかかわる、国際条約上、国際人道上許されない、重大な失態が報告されました。日本が主権国家としてとらなければならない根本的な姿勢を外務省がどれだけ真剣に認識しているのか、疑わざるを得ません。
 中国の警察官が日本側の同意なしに領事館内部に立ち入ったのは、領事関係に関するウィーン条約が定める「領事機関の公館の不可侵」に対する明確な違反行為であります。そうであるならば、総領事館は、実力をもってしても、警察官をその場から即刻、退去させるべきでありました。しかるに、現場では、退去させる行動をとらなかったばかりか、制止することもなく拱手傍観し、中国からは、同意を与えられた、感謝の意を表されたと言われて、これを否定する始末であります。
 テレビ映像では、警官が敷地の外に引きずり出すのを職員が傍観し、警官の帽子を拾い渡すなど、日本の主権と亡命希望者の人道に反する総領事館員の行為が明確に映し出され、これが全世界に向けて配信されてしまったのであります。報告には、「物理的に抵抗しなかったことは、不測の事態を避けるため」であったとありましたが、不測の事態がまさに起こったのです。主権を侵されたことに対する何たる認識の欠如でありましょうか。
 いやしくも外交官たる者、いざというときに、主権国家日本を代表して、毅然として振る舞うという矜持、これがなければ外交官の資格はありません。(拍手)それなくして、我が国は、世界から信頼され、尊敬され、必要とされることはありません。この事件によって、日本は人権と自由をないがしろにし、中国の顔色をうかがってばかりいる、どうしようもない国家であるとの印象を全世界の人々に持たれてしまったのであります。
 「機失うべからず、時再び来たらず」とは、皮肉にも、中国のトウショウヘイ元国家主席の座右の銘でありますが、犯した過ちは取り返すことはできません。まず、この事件を引き起こした責任をどう考えておられるのか、総理並びに外務大臣にお尋ねいたします。
 一説には、日本、米国、スペインなど各国の公館は、北朝鮮住民が駆け込むことを事前に察知していたといいます。にもかかわらず、あのような対応しかとれなかったとするならば、在外公館など必要ありません。事を荒立てぬよう、中国側と事前に談合していたなどということは、まさかなかったと思いますが、外務大臣から明確にお答えいただきたいと思います。
 次に、我が国在外公館の警備体制について伺います。
 この事件に関するテレビや新聞の報道を見る限り、職員が連行を防ぐため駆けつけるなどの対応はとられておりません。また、近くの米国領事館に北朝鮮住民が駆け込んだにもかかわらず、中国警察官による制止などは行われておりません。
 事実関係が直ちに首相官邸に報告されず、事件発生から約二時間たってから第一報が寄せられた。しかも、その時点でもなお、亡命未遂があったという事実関係のみが報告され、肝心の、中国武装警察官の領事館内侵入という事実は、報告されていなかったということであります。報告が不十分であったと善意の解釈をするにせよ、小泉総理は、初動段階の発言で、慎重な対応を繰り返し強調し、中国に対する厳しい姿勢を打ち出すことはありませんでした。
 外務大臣は、この事件に関して、毅然たる対応をとると何度も表明されておりますが、毅然たる対応とは何を指すのでありましょうか。世界は、日本がどうするか注視しております。この問題で今後の対応を誤れば、百年の国益に影響を及ぼすと言っても、過言ではありません。
 外務大臣、毅然たる対応とは、責任をとって外務大臣を辞任する、総領事館関係者の処分を行う、ウィーン条約を犯した中国側警察官の責任を追及する、中国側に、謝罪と、同様の暴挙を再び繰り返さないとの確約を求める、在中国日本大使を召還する、中国在日公館における接受国としての警備を拒否する、対中国へのODA供与を拒否するあるいは削減するなどが考えられますが、具体的に、何をどうされるおつもりなのか、外務大臣の明確な御答弁を求めたいと思います。(拍手)
 また、あわせて、連行された北朝鮮住民の総領事館への引き戻し、あるいは第三国への引き渡しを可能にするために、どのような覚悟で臨むのか、小泉総理大臣の御決意をお聞かせください。
 最後に、福田官房長官は、記者会見で、我が国が難民や亡命者を受け入れればどんどん亡命者が出てくる、受け入れが問題の解決になるのか、根本は難民を出す国、政府の問題だと述べたと言われておりますが、このような政治亡命の受け入れ、難民の受け入れに消極的な姿勢が、今回、亡命者にはさわらぬ神にたたりなしという大使館の対応にあらわれたのではありませんか。(拍手)
 日本に政治亡命の意図を持つ人たちや難民申請者に対してどういうスタンスで臨むのか、我が国の基本的な考え方を小泉総理にお尋ねして、私の質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕
内閣総理大臣(小泉純一郎君) 土田議員にお答えいたします。
 瀋陽総領事館事件に関する責任問題についてです。
 まずは、我が国在外公館の不可侵権の侵害の問題、関係者の人道的取り扱いにつき、中国側との折衝も含め、問題に全力で取り組むことが重要と考えております。
 総領事館の対応の問題点、今後の措置については、調査結果も踏まえて検討することになりますが、外務大臣は、事件発生以来、的確な対応を指示してきていると認識しております。
 五名の関係者の今後の扱いに関する決意でございます。
 我が国としては、中国側に対し、五人の関係者の引き渡しを求めているところです。いずれにせよ、これら関係者の人道上の要請が満たされる必要があるとの考えのもと、全力を尽くしてまいります。
 我が国の難民申請者に対する基本的な考え方についてであります。
 難民認定申請については、従来より、個別に審査の上、難民として認定すべき者は認定していると承知しております。今後とも、難民認定の適正な運用に配意するとともに、政府としては、人道的な観点を踏まえて、細心の配慮を行ってまいりたいと考えております。
 残余の質問については、関係大臣から答弁させます。(拍手)
    〔国務大臣川口順子君登壇〕
国務大臣(川口順子君) 瀋陽総領事館事件に関する責任についてのお尋ねがありました。
 現在、今般の調査結果をも踏まえ、中国側との折衝を含め、国際法及び人道上の観点から、毅然かつ冷静に対処しつつ、問題を早期に解決することが第一の責任であると考えております。
 北朝鮮住民が総領事館に駆け込むことを事前に察知していたにもかかわらず、事件の発生を許してしまったのではないかとのお尋ねがありました。
 外務省としては、今般の事案を事前に察知していたということはありません。
 しかしながら、本件事案の調査結果にあるとおり、北朝鮮との国境に近い瀋陽には多数の北朝鮮関係者がいると言われ、そのため一種の緊張状態にあるにもかかわらず、こうした緊張状態ゆえに各国総領事館に対する警備も厳重であるという状況への一種のなれが存在し、在瀋陽総領事館では、今回のような事態が発生するかもしれないとの危機意識が比較的希薄であったと言わざるを得ません。この点については、真摯に受けとめなければならないと思います。
 今後、外務省としては、今回の事案の教訓を踏まえ、今後の対応に遺漏なきを期していきたいと考えます。
 毅然たる態度をとるという点についてのお尋ねがございました。
 我が方といたしましては、国際法及び人道上の観点から、今回の調査の結果を含め、言うべきことはしっかりと中国側に言い、毅然かつ冷静に対処しつつ、中国側との協議を通じ、本問題の早期解決に向けて全力を尽くしてまいる所存でございます。(拍手)
    ―――――――――――――
    〔議長退席、副議長着席〕
副議長(渡部恒三君) 松本善明君。
    〔松本善明君登壇〕
松本善明君 私は、日本共産党を代表して、中国・瀋陽総領事館で起きた事件についての外務大臣の報告と、昨日発表された外務省の調査結果に関して質問をいたします。(拍手)
 この問題は、対中国外交だけではなく、韓国、北朝鮮との関係や日本外交の基本姿勢にもかかわるものであります。そのためにも、今何よりも重要なことは、事実の徹底的な解明であります。
 そこで、以下の諸点について、総理並びに外務大臣の答弁を求めるものであります。
 まず、瀋陽市は、北朝鮮に隣接する省内にあり、中国の朝鮮族社会の拠点と言われており、今までもこのような事件が起こっているところであります。調査報告を読みますと、日本総領事館の対応、認識は、そういうところの在外公館だという認識が果たしてあったのかどうか、極めて疑わしいと言わざるを得ません。今回の事態を踏まえて、総理はどのようにこの実態を受けとめているのか、答弁を求めるものであります。(拍手)
 外務省報告では、中国側への抗議は、北朝鮮から脱出した五人の身柄が中国側に渡った後以外にはありません。現場での状況報告には、抗議という言葉が全くありません。一体、現場では、日本側は中国の警察官に対して明確な言葉で抗議の意思表示をしたのですか、もししたとすれば、それはいつなのか、その抗議はどういう内容のものだったのか、明らかにしていただきたいと思います。
 さらに、問題になっている、中国側警察の領事館敷地への立ち入りについてであります。
 外務省報告では、中国側に同意を与えていないと言っておりますが、では、明確な言葉での拒否の意思表示はしたのでありますか、したとすれば、その内容はどういうものだったのですか、質問いたします。
 報告によれば、日本側は、当初、単なる査証をめぐるトラブルと思っていたが、二時十五分過ぎごろ、北朝鮮出身者である可能性があることを認識し、査証担当副領事が総領事館事務所に駆け戻ったとあります。では、中国側はどう認識していたのですか。北朝鮮から脱出した人たちと思っていたのかどうか、日本側は中国の警察部隊に現地でこのことを確認していますか。説明を求めるものであります。
 ところで、調査報告全体を見ると、受け身に終始したのは現場だけではなく、外務本省自身にも大きな問題があったと指摘せざるを得ません。
 午後二時二十分ごろ、領事館内に入った五人が詰所に収容された後、総領事が連絡をとったとき、外務省の担当者の指示は、「とりあえず国際法上の問題点を指摘しつつ、追って連絡する」というものでありました。警備担当副領事が北朝鮮から脱出した人たちであることを確認した後にも、指示を求めた査証担当副領事に対して本省関係者が与えた指示は、「更なる指示があるまで現状を維持せよ」というものでありました。
 そこで、伺いますが、この「追って連絡」や「更なる指示」はあったのですか、あったとすれば、いつ、だれが、だれに対して行ったのですか、答弁を求めるものであります。(拍手)
 報告書には、外務本省から、「抗議の上、五名の身柄を総領事館構内に戻すよう指示を試みたが、電話が通じなかった。」ということが記載されておりますが、これは一回だけでありますか。結局、事件発生中には、外務本省は現場の行動について積極的な指示は出さなかったままに終わったのですか、答弁を求めます。
 報告書によりますと、指示らしきものとして唯一記載されているのは、最後の段階で、公使から査証担当副領事に、また、総領事から警備担当副領事に出されたもので、「無理はするな、最終的には連行されても仕方がない」というものであります。外務本省はこの指示に関与しているのかどうか、関与しているのであれば、いつ、どのような形で、だれが関与したのか、明確な答弁を求めます。
 日本側が正式に抗議したとして記録されているのは、第一回目は、外務本省の指示に基づいて午後三時四十分ごろ、瀋陽の当局者に、第二回目は、外務本省の訓令に基づいて午後五時四十分ごろ、北京の中国外交部に行ったというものでありますが、この指示と訓令は、いつ、だれが、だれに出したのですか、答弁を求めるものであります。
 私は、現場と本省のこうした消極的な態度の背景には、こうした問題に対処する方針を明確に持っていなかったという問題があるのではないかと思います。今、マニュアル作成が問題になっており、総理もその指示を出したということでありますが、方針がなければマニュアルなどつくりようがありません。日本政府は、北朝鮮から脱出した人たちが出先の外交機関に出国の援助を求めてきたとき、これを受け入れる方針なのか、この問題で在外公館が根拠とすることのできる何らかの基準があるのかどうか、現在の政府の方針を明らかにすることを求めるものであります。(拍手)
 一般的に、難民問題について、日本が難民の受け入れの門が最も狭い国であることは、世界でも定評があるところであります。この状態の打開こそが急務ではありませんか。今回の事件からの教訓を生かして、難民問題での抜本的な改革を行う考えがあるのかどうか、総理の答弁を求めて、私の質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕
内閣総理大臣(小泉純一郎君) 松本議員にお答えいたします。
 瀋陽総領事館事件について、同総領事館の危機意識が足りなかったということに関するお尋ねでございます。
 北朝鮮との国境に近い瀋陽には多数の北朝鮮関係者がいると言われ、そのため、一種の緊張状態にあるとも言われます。一方、こうした状況への一種のなれが存在し、そのため、我が国総領事館においても今回のような事態が発生するかもしれないとの危機意識が比較的希薄であったことは否めないと考えます。各在外公館が緊急事態への対応に関する意識をしっかりと持つ必要があると考えます。
 北朝鮮からの脱出者に対する対応についてでございます。
 政府としては、本年三月以降、北朝鮮から脱出する者の事案が頻発していることも踏まえ、実際にこれらの者が在外公館に侵入した場合を念頭に、対処を準備し、関係公館に伝達していました。さらに、今回の事案を踏まえ、今後の対応について関係在外公館に広く指示したところであります。
 なお、これらの者が我が国在外公館に入った場合の扱いについて、一般論を申し上げれば、関係者の人定等の事実関係や希望等を確認した上で、当該者の身体の安全確保等の人道的観点や関係国との関係等を総合的に考慮し、具体的対応を検討することとなります。
 難民受け入れについて抜本的に見直すべきではないかとのお尋ねであります。
 難民認定申請については、従来より、個別に審査の上、難民として認定すべき者は認定していると承知しております。今後とも、難民認定の適正な運用に配意するとともに、政府としては、人道的な観点を踏まえ、細心の配慮を行ってまいりたいと考えております。
 残余の質問については、関係大臣から答弁させます。(拍手)
    〔国務大臣川口順子君登壇〕
国務大臣(川口順子君) 七問の御質問がございました。
 まず、中国側への抗議についてのお尋ねがありました。
 関係者五名が武装警察詰所に収容された後、現場にいた総領事館の館員は、両手を広げて武装警察詰所入り口に立ちふさがり、武装警察の動きを制止し、武装警察を詰所内部へ押し戻すなどしており、こうした行為を通じ、抗議の意思を示しました。
 中国側警察の領事館敷地立ち入りに対する拒否の意思表示についてのお尋ねがありました。
 中国側の武装警察の立ち入りにつき、我が方総領事館関係者の同意がなされたとの事実はありません。中国側警察の総領事館立ち入りの際、我が方総領事館員は、いずれもそのことを明確に認識しておらず、したがって、現場での明確な拒否の意思表示を行う状況にはありませんでした。
 中国公安当局に連行された関係者五名について中国側がどう認識していたのかという点についてお尋ねがありましたが、詳細を承知しておらず、また、この点につき、中国の警察部隊には確認はしておりません。
 瀋陽総領事館事件に関する外務本省からの連絡及び指示についてのお尋ねがありました。
 外務本省から総領事及び査証担当副領事それぞれに対する最初の指示がなされた後、外務本省から瀋陽総領事館に対し、累次指示を試みたが、しばらく電話が通じませんでした。その後、現地時間午後三時過ぎに、外務本省関係課から在瀋陽総領事館副領事に対し、武装警察官が同意なく館内に立ち入ったことについての国際法違反に対する抗議と関係者の引き渡しにつき申し入れを行うよう、電話で指示が行われました。
 外務省から総領事館に対しての抗議の指示に関するお尋ねがありました。
 外務本省で、日本時間午後三時五十分ごろから、現場の領事館員に対して、御指摘の抗議の指示を出すべく電話連絡を何度も試みていましたが、最終的に五名が武装警察に連行された直後に、現場の査証担当副領事と連絡がとれました。その後、こうした指示に基づき、警備担当領事が現地公安当局に抗議と申し入れを行いました。
 六番目に、公使及び総領事の指示に関する外務本省の関与の有無につきお尋ねがありましたが、御指摘の指示は、いずれも、現地の緊急の状況に応じてそれぞれがみずからの判断に基づき出したものであり、その内容につき、外務本省は直接関与しておりません。
 最後に、瀋陽総領事館事件に関する中国側への抗議に関連し、外務本省からの指示及び訓令についてのお尋ねがありました。
 第一回目の抗議に関する指示は、現地時間午後三時過ぎに、堀之内アジア大洋州局中国課長から馬木在瀋陽総領事館副領事に対してなされました。第二回目の抗議に関する外務大臣発在中国大使あて訓令については、現地時間午後六時半ごろ発出されました。(拍手)
    ―――――――――――――
副議長(渡部恒三君) 植田至紀君。
    〔植田至紀君登壇〕
植田至紀君 社会民主党・市民連合の植田至紀です。
 去る五月八日、中国・瀋陽の日本総領事館において、北朝鮮国籍と見られる男女五名が中国公安当局に拘束された問題、外務省の命名によれば瀋陽総領事館事件について、私は、社会民主党・市民連合を代表して、小泉総理、福田官房長官、川口外務大臣に質問いたします。(拍手)
 言うまでもなく、事件の事実関係からして、中国公安当局の対応は、ウィーン条約第三十一条に違反していることは明らかであり、抗議することは至極当然であります。
 しかし、それ以上に問われるのは、領事館の側が、我が国の当然守られるべき主権を守るべく適切に対処したのかであります。何よりも、今回の事件は、外交問題である以前に、中国公安当局が我が国の主権を侵害したという事実以前に、我が国の在外公館が主権を明け渡したかごとき事実こそが問題とされなければならないのであります。(拍手)
 昨日、外務省から調査結果が公表されました。その内容は、まさに、主権を明け渡した事実を実に丁寧に明らかにしたものであります。しきりと、日本側が同意を与えた事実はないなどと述べておりますが、本来当たり前のことをわざわざ強調しなければならないことを恥ずべきではないでしょうか。
 問題は、その場で何ら抗議をしなかったことであります。まず、この点について総理の御見解をお伺いいたします。
 続いて、外務大臣にお伺いします。
 外務大臣は、事件をいつ知ったのでしょうか。私が知る範囲では、その第一報は事件発生から実に二時間が経過していたということですが、それは事実でしょうか。まさか、大臣が委員会に出ておったので報告がおくれたとは言いわけにはなりません。かかる体制で危機管理が機能していると、まさか外務大臣も断言はなさらないとは存じますが、御見解をお伺いいたします。同時に、第一報を聞いてまず何を指示したのか、これもお伺いします。
 さて、調査結果に沿って、外務大臣に引き続きお伺いします。
 まず第一に、総領事館入り口で女性二名、幼児一名が取り押さえられた際の状況について、副領事は中国側の武装警察官が敷地内に入っていたという「認識はなかった。」と報告にありますけれども、副領事は、どこまでが敷地内で、どこからが敷地外かを知らないのでしょうか。当時の状況を冷静に見ていなければ、調査結果にあるような事実経過は述べることはできないはずです。にもかかわらず、最も重要な問題になると「認識はなかった。」などとごまかしていること自体、調査結果の正当性を疑うに十分だと考えますが、見解をお伺いいたします。
 第二に、査証待合室に入った男性二名が取り押さえられた際の状況についても、武装警官が敷地内に入ったのを「気づいていなかった。」とか、「言葉を発する間もなく」連行されたとかありますけれども、このことは、主権を侵されながらもなすすべがなかったということをいみじくも示しています。外務大臣はいかに総括されるのか、御見解を伺います。
 第三に、五名が連行された際の状況について、第一報を受けた総領事が本省に連絡をとったところ、本省の担当者は「とりあえず国際法上の問題を指摘しつつ、追って連絡する旨述べた。」とありますが、まず、本省担当者はだれなのか、明らかにしていただきたい。
 さて、その上で、総領事に対して国際法上の問題を指摘したなどというのも、実にばかげています。総領事がウィーン条約を知らなかったのでそのレクチャーをしていたとでも言うおつもりでしょうか。それとも、この段階では総領事は事実関係を正確に把握していなかったのか。それならば、不正確な情報で本省が指示をしていたことを立証することになりますけれども、御説明をお願いいたします。
 また、公使は「無理はするな、最終的には連行されても仕方がないと述べた。」とあるけれども、これが事実とするのであれば、耳を疑うのは私だけではないでしょう。かかる認識を公使が持ったということは、我が国の主権を守らなければならないということを知らなかったのか、それとも、主権を明け渡すと判断したのか、どちらかしかありません。公使の判断は一体どちらだったのか、明らかにしてください。
 蛇足ながら、主権を守る行為は何も物理的に押しとどめることに限りませんから、総領事館員の身の危険をおもんぱかったなどという答弁は通用しないことをつけ加えておきます。
 次に、官房長官に伺います。
 きのうの会見で、外務大臣には全く責任がないと述べられましたが、では、今回の事態は一体だれが責任をとるべきか、具体的にその役職名もしくは固有名詞を明らかにしてください。
 最後に、総理に二点だけ伺います。
 一つ目は、総理も外務大臣の更迭を否定されましたけれども、もしそうならば、総領事館側の対応は一点の曇りもなく、我が国の主権を守るために身を挺して働いたと御判断されているということでしょうか。そうでなければ、本来、慎重に判断すべき閣僚の出処進退について明確に語ることはできないと考えますが、御見解をお伺いします。
 さて、最後に総理にお伺いしたいのは、調査結果を通じて全く触れられていない問題、すなわち、人権意識の欠如であります。子供が泣き叫ぶ中で、ただそれを傍観するのみで、子供に駆け寄ろうともしなかったことは、映像によって明らかであります。かかる事実は我が国政府の人権意識の貧困を国際社会に知らしめたものであると考えますが、総理、いかがですか。
 人権に係る認識は、後になって言葉で語るものではなく、とっさの判断の中で如実に表現されるものではないでしょうか。今回の事件の真摯な反省を本当になさるのであれば、職員はもちろん、特定の職業に従事する者への人権意識の涵養に向けて改めて取り組む決意がおありかどうか、この点を最後に総理にお伺いし、私の質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕
内閣総理大臣(小泉純一郎君) 植田議員にお答えいたします。
 瀋陽総領事館事件に関し、日本側の現場での抗議についてでございます。
 現場にいた総領事館員は、突然のことであった上、事態の正確な状況を把握することを最優先したため、現場での抗議には至りませんでした。
 一方、関係者五名が武装警察詰所に収容された際は、総領事館員は、現状維持のため、詰所入り口に立ちふさがり、身ぶりで武装警察の動きを制止し、詰所内部へ押し戻すなどの行為を通じ、抗議の意思を示したものと考えます。
 瀋陽総領事館事件に関し、同総領事館の対応についてでございます。
 本件については、現地調査を通じて、総領事館側が中国側の行為に対し同意を与えていなかったことが改めて明確になったと考えています。
 一方、外務省の調査結果にもあるとおり、同総領事館の対応については、意識面、指揮命令系統及び警備面において、種々の問題が存在していると承知しております。こうした問題点については、外務省において、今後、必要な改善等を早急に講じていくべきものと考えております。
 特定の職業に従事する者への人権意識の涵養に向けた取り組みについてでございます。
 現在、各省庁において、人権問題を正しく認識し、適切な対応が行えるよう、研修が実施されているものと承知しています。関係職員が人権と人道的取り扱いに対して一層適切な認識を持つよう、こうした取り組みについては、今後、さらに充実強化が図られるべきものと考えております。
 残余の質問については、関係大臣から答弁させます。(拍手)
    〔国務大臣川口順子君登壇〕
国務大臣(川口順子君) まず、私がいつ本件の第一報を受けたのか等につき、お尋ねがありました。
 八日午後は、国会出席中でございましたので、十七時に委員会が終了した直後に、秘書官より、本件について説明を受けました。
 国会出席中でございましたので、私が本件を知ったのは発生から約二時間後となりましたけれども、いずれにせよ、迅速な連絡体制を確立することが重要なことは、言うまでもありません。本件の第一報を受け、私からは、まず、事実関係を明らかにすることが重要である旨の指示をいたしました。
 査証担当副領事の認識との関連で、調査結果の正当性に疑義があるのではないかとのお尋ねがありました。
 総領事館敷地内に入り込んだ子供を含む女性三名を引きずり出すために、武装警察官は一たん同敷地内に入りましたが、査証担当副領事が正門付近に到着したころには、武装警察官らは既に門扉付近にまで下がっており、同副領事は、彼らが総領事館敷地内に立ち入ったという認識はありませんでした。
 なお、本件調査結果は、関係者から慎重に聞き取りを行った結果を取りまとめたものであり、当時の状況を正確に反映しているものと考えています。
 瀋陽総領事館事件に関しまして、査証待合室での状況につき、お尋ねがありました。
 査証担当副領事が正門付近から査証待合室に戻る際、五、六名の武装警察官が総領事館敷地内に入ってきましたが、副領事の背後から入ってきたため、副領事は、これら武装警察官に気づきませんでした。その後、査証待合室において、武装警察官は、副領事が言葉を発する間もなく、男性二名を連行していきました。
 これら武装警察官の行為は、我が方の同意なしに総領事館内に立ち入り、男性を連行したものであり、極めて問題であり、非常に遺憾であると考えます。
 国際法上の問題に関する指摘についてのお尋ねがありました。
 御指摘の本省担当者は、アジア大洋州局中国課の岩本課長補佐です。
 岩本課長補佐は、総領事からの第一報を受け、武装警察官が我が方の同意なく総領事館内に立ち入ったのであれば、これは国際法上問題であることにつき、総領事との間で確認を行ったものであり、総領事は、国際法上の問題については正確に把握していました。
 瀋陽総領事館事件における在中国大公使の判断についてのお尋ねがありました。
 当時、関係者五名が収容されていた武装警察詰所前には、応援のため二十名以上の武装警察官が集結するなど、現場の状況は緊迫しつつあったものと承知しています。
 こうした状況につき、現場の警備担当副領事から電話連絡を受けた在中国大使館公使は、五名が既に総領事館敷地外に出されていること、また、状況が緊迫の度合いを増す中で、武装警察にこれ以上抵抗して物理的に押しとどめることもできないとの認識のもとに、御指摘のような指示を出したものです。
 したがって、同指示は同公使による主権意識の欠如または主権の明け渡しを示すものではありません。
 以上でお答えは終わりでございます。(拍手)
    〔国務大臣福田康夫君登壇〕
国務大臣(福田康夫君) 植田議員にお答えします。
 瀋陽総領事館事件に関する責任問題についてのお尋ねがございました。
 まずは、我が国在外公館の不可侵権の侵害の問題、関係者の人道的取り扱いにつき、中国側との折衝も含め、この問題に全力で取り組むことが重要と考えております。
 総領事館の対応の問題点、今後の措置については、調査結果も踏まえて検討することになりますが、外務大臣は、事件発生以来、的確な対応を指示してきていると認識しております。いずれにせよ、このような場合には、我が国としては、一致結束して、中国側と折衝し、問題の解決に当たることが肝要であります。(拍手)
    ―――――――――――――
副議長(渡部恒三君) 西川太一郎君。
    〔西川太一郎君登壇〕
西川太一郎君 私は、保守党を代表して、ただいま外務大臣から報告のありました瀋陽総領事館事件の調査報告に関し、総理並びに川口外務大臣に質問いたします。(拍手)
 私どもは、今回の瀋陽総領事館事件は、我が国の主権にかかわる重大な事件であると受けとめております。テレビ放映の、泣き叫ぶ婦女子を中国の武装警察官が強引に連行する姿は、国民の心に大変なショックを与えました。中国側の行為は、在外公館不可侵を定めたウィーン条約に明白に違反するのみならず、我が国に対する主権侵害であります。
 外務省の報告によれば、中国側武装警察官が総領事館内の敷地に侵入する際も、または乱入する際も、公安局に連行する際も、領事館側が同意を与えた事実はないということであり、中国外務省の、武装警察官は副領事の同意を得て領事館に入り、公安当局が五人を連行することに同意したとの談話と真っ向から食い違っております。
 外務省の今回の現地調査は事実関係において全く間違いないのか、また、中国側に同意を与えたというようにとられる言動はなかったのか、川口大臣にお伺いいたします。
 なお、先ほど来、御報告の中で頻繁に、または答弁で、立ち入りという表現を使われておりますけれども、これは明確に乱入であり、侵入であるとおっしゃるべきであると私は思います。
 今回の事件においても明らかになったことは、緊急事態に対する総領事館側の体制の不備の問題であります。
 国民の亡命が相次ぐ北朝鮮の政治情勢のことは、指摘するまでもありません。また、瀋陽は北朝鮮に近く、北朝鮮からの脱出者及びそれを取り締まろうとする北朝鮮当局関係者が多数存在していることは、広く知れ渡っております。さらに、昨年六月、十人の北朝鮮からの亡命者が北京の国連難民高等弁務官事務所に逃げ込んだ事件に見られるように、北朝鮮からの亡命事件は、ここ数年、頻発しているのであります。
 したがって、北朝鮮の政治情勢を真剣に分析し、昨今の亡命事件を分析すれば、我が国の総領事館においても今回のような事件が招来することは、十分予想されたはずであります。
 しかるに、当日は、責任者である総領事も、首席領事も不在であった、総領事は一たん瀋陽に戻った後、事件の処理に当たることなく再び大連に戻った、首席領事に至っては、四月二日以来健康管理休暇中とはいえ、事件が発生し外務省の調査団派遣後帰国するというように、信じられないような事実が報道されております。事実とすれば、緊急事態に対応した危機管理体制は整っていなかったと言わざるを得ません。
 今回の事件を教訓として、政府は、改めて、すべての在外公館について、緊急事態に対応した警備体制、情報収集体制等の整備を図ると同時に、館員の教育訓練を行う等、緊急事態に対応した体制を早急に整え、事件の再発を防止すべきであります。総理並びに外務大臣の決意を伺います。
 また、大事なことは、中国に拘束された北朝鮮の五人の身柄が北朝鮮に送還されることのないよう全力を尽くすということであります。
 北朝鮮に送還されれば、拘束された五人が携行していた書簡において、北朝鮮に戻ることは迫害と拷問と死を意味すると述べているように、極刑が待っているものと推測されます。
 したがって、人道的立場から北朝鮮への送還は何としても防がなければならないと考えますが、総理並びに外務大臣の見解を伺います。(拍手)
 最後に、ことしは日中国交正常化三十周年に当たります。我々は、日中両国関係の健全な発展のために、一層の努力をしなければなりません。そのためには、双方が互いの主権と尊厳を大切にすることが不可欠であります。政府は、今回の事件に関し、感情に走ることなく、国際的ルールに従い、冷静な中にも毅然として問題の解決を図っていくべきであると考えます。
 この場での総理並びに川口外務大臣の御答弁は、国際社会、中国はもとより世界じゅうに伝播されるのであります。このことを十分に認識せられ、閣僚としての血の通った答弁を御期待申し上げ、私の質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕
内閣総理大臣(小泉純一郎君) 西川議員にお答えいたします。
 在外公館の緊急事態対応についてでございます。
 今回の事件を教訓として、すべての在外公館において、しっかりとした危機管理意識のもと、情報収集・警備体制等について見直しを行い、緊急事態に的確に対応することができるよう図ることが何より重要であると考えます。
 五名の関係者の今後の扱いについてでございます。
 我が国としては、中国側に対し、五名の関係者について引き渡しを求めているところであります。いずれにせよ、これら関係者の人道上の要請が満たされる必要があると考えております。
 瀋陽総領事館事件の解決方針についてのお尋ねです。
 今回の中国側の行為は、我が国総領事館の不可侵を侵害するものであり、領事関係に関するウィーン条約に照らして、極めて問題であり、遺憾であると考えております。
 一方、私は、本件発生当初から、冷静な対応が重要であると考えており、引き続き、国際法及び人道上の観点から、冷静に毅然と対処しつつ、本問題の早期解決に向けて全力を尽くしていきたいと考えております。
 残余の質問については、関係大臣から答弁させます。(拍手)
    〔国務大臣川口順子君登壇〕
国務大臣(川口順子君) 三点の御質問がございました。
 まず、外務省の調査の信憑性及び同意の有無についてお尋ねがありました。
 幼児を含む女性三名の総領事館敷地内からの引きずり出し、男性二名の総領事館査証待合室からの連行及び同五名の武装警察詰所からの連行のいずれについても、今次調査の結果、中国側に同意を与えた事実はありません。
 外務省による今回の調査結果は、総領事館員等から当日の対応等につき直接の聞き取り調査を行った上で、当日の状況を取りまとめたものです。
 なお、領事館敷地外にある中国側武装警察詰所において、警備担当副領事が最終的に武装警察官に物理的に抵抗しなかったことは、不測の事態を避けるためであって、中国側に同意を与えたことを意味するものではありません。
 二番目に、緊急事態対応体制についてのお尋ねでございます。
 今回の事件においては、緊急事態対応に関する意識面、指揮命令系統面、警備面に問題があり、猛省をしています。事件の再発を防止するため、御指摘のように、情報収集、警備、さらには館員の教育訓練等を含め、緊急事態に的確に対応し得る体制を早急に整備すべく、厳しく見直しを行う考えです。
 最後に、五名の関係者の今後の扱いにつき、お尋ねがありました。
 我が国としては、中国側に対し、五名の関係者について引き渡しを求めているところです。いずれにせよ、これら関係者に対して、人道上十分な配慮が払われる必要があり、このような考え方に基づいて適切な措置がとられることを確保する必要があると考えております。(拍手)
副議長(渡部恒三君) これにて質疑は終了いたしました。
     ――――◇―――――
副議長(渡部恒三君) 本日は、これにて散会いたします。
    午後二時四十五分散会


このページのトップに戻る
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.