衆議院

メインへスキップ



第11号 平成13年11月16日(金曜日)

会議録本文へ
平成十三年十一月十六日(金曜日)

    午前十時三十一分開議

 出席委員

   委員長 保利 耕輔君

   理事 奥谷  通君 理事 塩崎 恭久君

   理事 田村 憲久君 理事 長勢 甚遠君

   理事 佐々木秀典君 理事 平岡 秀夫君

   理事 漆原 良夫君 理事 西村 眞悟君

      今村 雅弘君    太田 誠一君

      北村 直人君    熊代 昭彦君

      河野 太郎君    左藤  章君

      鈴木 恒夫君    棚橋 泰文君

      谷川 和穗君    谷本 龍哉君

      増原 義剛君    松宮  勲君

      山本 明彦君    吉野 正芳君

      渡辺 喜美君    枝野 幸男君

      仙谷 由人君    肥田美代子君

      水島 広子君    山内  功君

      山花 郁夫君    青山 二三君

      藤井 裕久君    木島日出夫君

      瀬古由起子君    植田 至紀君

      徳田 虎雄君

    …………………………………

   法務大臣         森山 眞弓君

   法務副大臣        横内 正明君

   最高裁判所事務総局人事局

   長            金築 誠志君

   政府参考人

   (法務省大臣官房訟務総括

   審議官)         都築  弘君

   政府参考人

   (法務省大臣官房司法法制

   部長)          房村 精一君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    山崎  潮君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    古田 佑紀君

   法務委員会専門員     横田 猛雄君

    ―――――――――――――

委員の異動

十一月十六日

 辞任         補欠選任

  荒井 広幸君     谷本 龍哉君

  笹川  堯君     北村 直人君

  棚橋 泰文君     河野 太郎君

  中川 昭一君     増原 義剛君

  西田  司君     今村 雅弘君

  不破 哲三君     瀬古由起子君

同日

 辞任         補欠選任

  今村 雅弘君     西田  司君

  北村 直人君     笹川  堯君

  河野 太郎君     棚橋 泰文君

  谷本 龍哉君     荒井 広幸君

  増原 義剛君     中川 昭一君

  瀬古由起子君     不破 哲三君

    ―――――――――――――

十一月十五日

 出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案(内閣提出第一四号)(参議院送付)

同月十六日

 犯罪捜査のための通信傍受法の廃止に関する請願(辻元清美君紹介)(第三二八号)

 同(羽田孜君紹介)(第三二九号)

 同(水島広子君紹介)(第三四一号)

 同(大島令子君紹介)(第四二五号)

 同(木島日出夫君紹介)(第四四五号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 裁判官の育児休業に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出第一九号)

 出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案(内閣提出第一四号)(参議院送付)




このページのトップに戻る

     ――――◇―――――

保利委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、裁判官の育児休業に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として法務省大臣官房訟務総括審議官都築弘君、大臣官房司法法制部長房村精一君、民事局長山崎潮君及び刑事局長古田佑紀君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

保利委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

保利委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所金築人事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

保利委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

保利委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。水島広子君。

水島委員 民主党の水島広子でございます。

 裁判官の育児休業制度というものは司法の場における男女共同参画を進めるものであると思いますし、大変歓迎すべきものだと思います。本日は、この育児休業に関する質問に入ります前に、まず冒頭に、男女共同参画の象徴とも言える民法改正について若干質問をさせていただきたいと思います。

 五月十八日にも私はこの法務委員会で森山大臣に質問をさせていただきまして、大変前向きな御答弁をいただきました。その後、内閣府の世論調査の結果も出ました。また先日は、自民党の山崎幹事長からも前向きな発言があったとのことです。さらに、きのうの新聞では十四日に政府案骨子が明らかになったということが報道されておりましたけれども、内閣府の世論調査の結果を受けて、現時点での政府としての対応はどうなっているのか、法務大臣にお尋ねしたいと思います。

森山国務大臣 先生が今おっしゃいましたように、いろいろな動きがその後ございまして、世論調査、さらには、内閣府にあります男女共同参画会議の専門調査会等でのまとめもできまして、それにも、民法の改正についてぜひ取り組むようにということを特に言っていただいております。それを受けて、男女共同参画担当大臣である官房長官のコメントもございまして、次第に多くの方の御意見が収集されつつあるかなというふうに考えているところでございます。

 今までいろいろと御説明に努力をしてまいりました成果も次第に上がってまいりまして、疑問を持っておられた方々の御理解も進んできたかなと思いますし、きのう、また先週、ここのところ続けて自民党の中の法務部会も具体的にこれを取り上げて議論をしていただいているようでございますので、それらの御議論をぜひ集約していただきまして、かねて私が願っておりましたような方向でできるだけ早く具体化ができればいいなというふうに思っているところでございます。

 御存じのように、今国会の会期末も次第に近づきつつありますので、この国会で必ずということを今申し上げることは難しいのでございますが、最後まで望みを捨てないで頑張りたいというふうに思っております。

水島委員 ぜひその姿勢でさらに進めていただきたいと思うのですが、きのうの新聞では子供の姓をどうするかということも大きく報道されておりまして、法制審議会の答申の段階では子供の姓は婚姻時に決めるということであったけれども、それを出生時に決めることができるというのが今回の政府案の骨子だというように書かれておりました。そのあたりも、今どのような検討段階にあるのかを教えていただければと思います。

森山国務大臣 選択的夫婦別姓の問題で一番具体的に懸念されるのが子供の氏をどうするのかということで、それが一番のネックというか問題点であったわけでございます。それでいろいろと工夫をいたしまして、審議会の御答申は尊重しなければいけないのですけれども、あのとおりではなくて、少し柔軟性を持たせた方がいいのではないか、それによって御理解を得やすくなるのではないかというふうに思いまして、報じられているような内容にちょっと工夫をしたというのが現状でございます。

 ですから、まだまだ案の、しかも骨子でございますので、これからいろいろ皆さんのお知恵も拝借しなければならないとは思いますけれども、生まれたときの子供の名前というのはできるだけ同じ姓が望ましいのではないかというふうに思っております。

水島委員 そうしますと、確認させていただきますと、出生時に決め直すこともできるけれども、ただ、兄弟間では名字は統一されていることが望ましいのではないか、今の段階ではそのような状態になっているというふうに理解してよろしいのでしょうか。

森山国務大臣 そのような御理解をいただいて結構でございますが、例えば、ことしの八月に発表されました世論調査におきましても、選択的夫婦別姓には大変御賛成の方がふえましたが、その中でも子供の氏は統一するべきであるという御意見が多数を占めておりまして、やはりその辺のところが皆さんの考えかなというふうに私も感じております。

水島委員 よく聞きます御意見には、子供の姓が兄弟間で異なっているとかわいそうだ、そのようなことを言われるのをよく耳にするわけですけれども、このかわいそうかどうかというのは、それ自体にそういう価値があるのではなくて、周りの人がかわいそうだと言うとかわいそうになるというのが現実だと思っております。今までこの選択的夫婦別姓を認めたがらなかった方たちの中には、両親の名字が異なっていると子供がかわいそうだという意見もかなり根強くございましたけれども、例えば中国のように原則的に別姓という国では、別に両親の姓が異なることがかわいそうなわけではないということからも、これは、両親の名字が一緒かどうかということではなくて、周りのその他大勢の人たちと同じかどうかというところが本質的な問題なのじゃないかと思っております。

 自分と異なる他者をいかに認められるかということが、またその多様性を尊重できるかということが今の日本社会において死活問題ではないか、この閉塞的な状況を打破していくためには、多様性を尊重し合うということが社会を復活させるキーポイントになるのではないかと私は思っております。

 事この問題に関しましては、既に、おじいさんのおうちの養子になったりですとか、いろいろな事情で兄弟間で名字が異なっているというケースも現実には少なくないわけですけれども、では、そういった子供たちはかわいそうなのかということにもなってくるわけでして、そのあたりの、かわいそうかかわいそうではないかというあたり、大臣の個人的な御意見で結構ですので、お聞かせいただけますでしょうか。

森山国務大臣 水島先生のおっしゃりたいことも私も理解はできますが、この法律改正に関してということで申し上げれば、やはり子供の氏は一つの姓にまとまっていた方が世間には受け入れられやすい、多くの方に御納得いただきやすいというふうに思っております。

水島委員 この問題で大切なこの法改正をつぶしてしまうわけにもいかない、大臣のそういうお気持ちもよく理解できるところですけれども、ただ、現実には本当にさまざまな家庭によってさまざまな事情があるわけでございまして、私自身も先日二番目の子供を産んだばかりですけれども、私自身は、子供の名字を、異なっていなければいけないというよりは、あえて全部そろえていく合理的な理由を全く思いつかないというようなところもございまして、またそれぞれの家庭の事情というのもございますので、ぜひ、法改正の暁には、家庭でもちゃんと何らかの手段でみずからが思うような家庭像を実現できる、そのような御配慮をいただければとこの場でお願いを申し上げたいと思います。

 さて次に、本題の、裁判官の育児休業についてお伺いしたいと思います。

 まず、裁判官の育児休業制度が始まりましてから大分たちますけれども、今までに男性裁判官の育児休業取得は一人だけと聞いておりますけれども、そのデータは本当でございましょうか。できましたら、女性裁判官の育児休業の今までの延べ数と男性裁判官の延べ数ということで教えていただきたいのです。

金築最高裁判所長官代理者 この育児休業制度が施行されましたのは平成四年の四月一日からでございます。それから本年の九月一日現在まででほぼ十年弱でございますが、育児休業をとった裁判官は合計百十四人でございます。その後、現在までにまた数人ふえております。

 男女別で申しますと、今申し上げました九月一日までの百十四人は全員女性の裁判官でございまして、その後現在までに取得した数名の中の一名が男性でございます。

水島委員 ということは、パーセンテージにしますと、男性の取得率というのは、一名と百十数名でございますので、当然一%未満ということになるわけでございますけれども、なぜ男性の裁判官の取得がこんなに少ないのか。つい最近まではゼロであったわけですけれども、その理由をどのように分析しておられますでしょうか。

金築最高裁判所長官代理者 夫がとるか妻がとるか、これは個々の裁判官の家庭事情で、夫婦で話し合ったりしてお決めになっていることだと思います。

 夫と妻とどちらがとるかということを、どういう理由でそうしたのかということを調査しているかということなんですけれども、これは家庭のプライバシーのことでもありますので、今までそういうことを調査したことはございません。分析は、家庭事情によるのだろうなという以上に、ちょっと私どもの方ではいたしかねておる。

 いずれにいたしましても、これまでの育休自体の取得状況から見ましても、裁判所において子供を持った裁判官が育休をとりにくいという環境にはないというふうに考えておりまして、男性裁判官についてもこの点は基本的には当てはまるのではないかというふうに思っております。

水島委員 後ほど法務大臣にもお伺いはしたいんですけれども、今、男性の育休取得が全体の一%未満、そのような現状を見て、これは家庭の事情、話し合いの結果であって、特に男性がとりにくいということではないんじゃないか、そのような御答弁をいただいたわけでございます。

 裁判官の方というのは、実際の裁判の現場でそういう、例えば男性と女性でこれだけ傾向に差がある場合に、これは女性差別に当たるんだろうかとか、職場として何らかの配慮が足りないんじゃないかとか、そういったことを判断されるお立場にあるんだと思うのですけれども、では実際に、裁判官の方というのは、現実の裁判の場で、ある企業が男性の育休取得が全然ないというような場合に、これもそれぞれの家庭の話し合いの結果だったんでしょうねというような判決を出されているんでしょうか。そのあたりの意識はそんなことでよろしいんでしょうか。

金築最高裁判所長官代理者 仮定の裁判事件での結論の問題で、ちょっと私の立場でお答えするということが難しいかと思います。

 先ほど申し上げましたのは、家庭事情によるんだろうというのはあくまでも推測でございまして、男性がとりにくい状況にはないというのはいわば制度的な面を申し上げましたので、それはいろいろ社会的な、それ以外のいろいろな事情で男性の取得率が低いという理由はもちろんいろいろなところにあるかというふうに思います。

水島委員 そのいろいろな理由について、ぜひこれから法務大臣に裁判所の方に御指導いただきたいと思うところでございます。

 先日も、民間企業を対象とした育児休業、介護休業法が改正をされまして、その中で、やはり男性の育児休業取得が非常に現状で低いということを厚生労働省としてもきちんと問題意識として持たれまして、男性の育休取得促進に向けて調査をして必要な措置を講ずるですとか、そのようなことが附帯決議にも盛り込まれているわけでございます。ですから、今の御答弁を聞いた限りでは、どうも厚生労働省の方が裁判所よりも現実をよく御存じなのかなという感じもいたすわけです。ただ、今、御答弁でおっしゃいましたように、制度としてはできているけれども社会的ないろいろな影響があるのではないかという御答弁で、まさにそのとおりで、それは社会のあらゆる領域について言えることだと思うのです。

 労働行政にも非常にお詳しくいらっしゃる法務大臣の御意見といたしまして、裁判官の男性の育休取得がこれほど低いということ、そこにどのような社会的な要因が働いているか、そのあたりを分析していただきまして、ぜひ御指導いただきたいと思うのです。

森山国務大臣 裁判官に限らず、先ほど先生も御指摘になりましたように、民間の企業におきましても男性が育児休業をおとりになるという例は非常に少のうございますね。それはやはり基本的には、男性は仕事をして女性が家庭を守るという、長年続いてきた一種の固定観念といいますか、それが今でもなお根深く多くの人の心の中にある、そういうことが一番基本だろうと思います。最近は随分そうではないという主張はもちろんありますし、社会的にも理解は進んではきておりますけれども、まだ一〇〇%、全く両方ともが自由に考えるというようなことが十分できていないということは率直に認めなければいけないと思います。

 私も、今お話を伺っていて思い出したのですけれども、十年余り前に育児休業制度の最初の法律案をつくるとき、男性、女性、どちらかがとるという内容にしておりまして、それを報告したときに、そこにいた議員の皆さんがええっと驚いた、そのときの声を今でも思い出しております。議員の皆さんも、男性もとる可能性がある育児休業ということは思いつかなかったようでございますが、今はそういうことはない。だから、随分世の中変わってきたと思いますけれども、そういう長い間の思い込みがなお尾を引いているということは否めないと思います。そういうことに、裁判官ばかりでなく、世間一般の男性方が多少縛られていらっしゃるということはお気の毒なことだと思うわけでございます。

水島委員 ありがとうございます。

 その時代から、私からしますとある意味では想像もつかないような時代からパイオニアとしてこの領域に取り組んでこられた大臣に、本当に心から敬意を表するものでございます。

 それで、大分よくなってきて、今はもうこの議場からも笑い声が出るくらいに、それが当たり前のことになってきているという一方で、まだまだパーセンテージとしては上がってこないわけでございまして、先ほども裁判所の方に申し上げたように、まず、正当性を判断していく司法の場からそういう感覚をきちんと持っていっていただきたいものであると思っておりますけれども、裁判所として、男性裁判官も育児休業を取得すべきだというような啓発活動はされておりますでしょうか。

金築最高裁判所長官代理者 育児休業制度についての裁判官に対する啓発活動につきましては、裁判官に任官した直後に新任判事補の集中特別研修というのがございますが、その際に裁判所職員制度の概要を説明して、その中で育児休業制度に関する法律でありますとかいろいろな規則でありますとか、そういうものを配付いたしまして説明をしております。その中でもちろん男性もとれるということは説明しておりまして、こういう形で裁判官に対する周知徹底を図っております。また、そのほかの若手判事補に対する研修中でも、育児休業制度やその問題点に関する講演も設けております。

水島委員 裁判官になられるような方たちですから大変聡明な方でいらっしゃるのじゃないかと思いますが、そのような現時点での指導の結果これしかとらないということは、理解力の問題というよりも、どちらかというと啓発の手段の方の問題ではないかなという気もしておりまして、ぜひ今後もっと積極的に、いろいろ書いてある中にそれも書いてあるというのではなくて、その問題意識を持って啓発活動に取り組んでいただきたいと思っております。

 裁判官は、差別の問題ですとかまた公序良俗などを判断するお立場ですので、高い見識を持っていることが期待されているわけでございまして、男性の育児休業取得がほとんどないというような状況を見て問題意識を持たないということは、裁判官としてやや問題があるのではないかとも私は思っております。ジェンダーや人権という観点からは一女性として首をかしげざるを得ない判決も目についておりまして、まずは、自分自身の職業領域に問題意識を持って改善していくような姿勢がぜひ必要であると思いますけれども、いかがでございましょうか。

金築最高裁判所長官代理者 委員御指摘のとおり、まさにそういう点について裁判官は十分な意識を持って取り組んでいかなければならないというふうに考えております。

水島委員 ぜひよろしくお願いいたします。

 また、この件も含めまして全体的なジェンダー教育が必要ではないかということを、先日、司法制度改革のときにも質問の中で取り上げさせていただきましたけれども、その後、裁判所として、そのジェンダー教育の必要性をどのように考えられて、どういうふうに実践していこうとされているかをお尋ねいたします。

金築最高裁判所長官代理者 ジェンダー教育についてでございますが、裁判官は、日々具体的な事件を扱っておりますので、その具体的な事件、あるいは裁判官個人の日常の社会生活もございますが、そういうものを通して、各自、自己研さんで、裁判官としてふさわしい人格、識見の涵養に努めていくということが基本でございます。

 裁判所といたしましては、そういう自己研さんを助けるために多くの研修を設けているところでございまして、男女共同参画社会の実現を目指す現在の社会におきましてジェンダーという概念が非常に重要なものとなっているというふうに承知しておりますので、裁判官に対する各種研修、研究会におきまして、国際人権規約、日本国内の差別問題、人権擁護推進審議会の動きなどを中心とした講義、セクシュアルハラスメントの防止等に関する講義、また、少年事件や家事事件の問題研究などのように、女性の権利保護または福祉に関する具体的な諸問題を含んだテーマを取り扱ったカリキュラム、こういったものが実施されております。これに加えまして、最近では、DV法に関する講義を実施いたしましたほか、男女共同参画社会のあり方を中心とする講演も新たに設けております。

 今後とも、ジェンダーの視点の重要性にかんがみまして、裁判官に対するこの面からの研修をより一層充実させるように努力していきたいと思っております。

水島委員 ありがとうございました。

 さて次に、育児休業を取得したことを理由とする不利益取り扱いの禁止でございますけれども、この育児休業法の第六条におきまして「裁判官は、育児休業を理由として、不利益な取扱いを受けない」とされております。裁判官本人が不利益取り扱いを受けたと思った場合の申し立ての手続が具体的にどうなっているのかをちょっと教えていただきたいと思います。

金築最高裁判所長官代理者 裁判官育児休業法六条にいいます「不利益な取扱い」は、裁判官の意思に反する免官、転官、転所、職務の停止等が考えられるわけでございますが、こうしたことは、裁判官につきましては原則として「その意思に反して、免官、転官、転所、職務の停止又は報酬の減額をされることはない」というふうに規定されておりますので、そういう取り扱いは本来あり得ないところではございます。

 しかし、仮に育児休業を取得した裁判官が育児休業を取得したこと自体を理由としてそういった不利益な取り扱いを受けたということになりました場合には、それが行政処分に当たります場合には、行政不服審査法に基づく異議申し立て、あるいは行政事件訴訟法に基づく抗告訴訟の提起をすることができるというふうに解されております。また、その不利益な取り扱いが行政処分に当たらないという場合には、権限を有する者に事実上の申し出をするとか損害賠償請求等の民事訴訟を提起するといったことも考えられるということになります。

 以上でございます。

水島委員 そうしますと、不利益な取り扱いをする主体も裁判所であって、訴訟を起こしたときに判断するのも裁判所である、そのような構造と理解してよろしいのでしょうか。

金築最高裁判所長官代理者 同じ裁判所でございましても、司法行政上の立場で処分をする裁判所と、裁判になりましたときはそれを訴えとして取り扱う、訴訟を取り扱う裁判所でございますので、これは一応概念的には別のものでございますが、委員がおっしゃるような意味でしたら、同じ裁判所が両方に関与するということではございます。

水島委員 本当は、人事を決めている主体と不利益を判断する主体が同じだというのは一般的におかしいと考えられるわけで、もちろん違う裁判所が扱うにしても、最終的な責任というのは最高裁に帰属しているというふうに理解してよろしいわけですね。

金築最高裁判所長官代理者 そのとおりでございまして、行政処分を行うのも司法行政に責任を負う立場としての最高裁判所、裁判になりましたときはこれは裁判体を構成する最高裁判所、こういうことになると思います。

水島委員 そうであればあるほど、その透明性や正当性というものがわかりやすくなっていなければいけないと思うのですけれども、裁判官の方は一般企業などの不利益取り扱いを裁判で判断するお立場であるわけですから、ぜひその見本となるような、透明性のある、不利益取り扱いの具体的な処理というのをしていただければと思います。

 次に、復帰の問題ですけれども、育児休業を取得した裁判官が復帰する場合には、休み始めたときのポジションに復帰するのでしょうか、それとも同期の他の裁判官と同じポジションに復帰するのでしょうか、それをお伺いしたいのと、同じテーマですけれども、経験九年の判事補が育休に入られた場合に、三年間取得をして、三年後にどのような立場に復帰されるのかということをお答えいただきたいと思います。

金築最高裁判所長官代理者 復帰するときのポジションという御質問で、判事補が育児休業をとりまして、任期内であればまた判事補に戻る、それから、育児休業中に異動をさせるということは普通は考えられませんので、例えばある裁判所に配置されている裁判官であれば、同じその裁判所の裁判官として戻るということになると思います。ですから、原則として同じポジションに戻るということになりましょうか。

 今例としてお尋ねになりました、九年目の判事補が三年間育児休業を取得してどういう形で戻るのかという御質問だったかと思いますが、この場合は、途中で、判事補の任期が十年で終了いたしまして判事へ任命する、俗称は再任と申しておりますが、この問題がちょっと絡みますので、こうした点についても育児休業を取得することによる不利益を負わせないという基本的な姿勢で考えていくべきものかと思いますけれども、再任自体については、これは裁判官に対しての新しい任命でございますので、いろいろなほかの問題もございまして、総合的な見地から判断して決定していかなければならない。ですから、九年目で三年やった場合にはどういう形で戻るかということを一律に申し上げるということがなかなかできないんじゃないかと思っております。

水島委員 ただ、その理由が育休を取得したということだけであれば、むしろ一律にお答えいただけることなんじゃないかと思うんですけれども、今の御答弁だと、何がおっしゃりたいのかというか、では現実にどうなるのかということが、そこで不利益取り扱いとみなされるかどうかというようなことも含めまして、ちょっとよくわからなかったのですけれども、質問時間がもう終わりでございますので、ぜひ、そのあたりについてはもう少し詳しくわかるようにしていただきたいということ。

 また、裁判官の方が、みずからがまずそのような不利益取り扱いということを考えていただくことによって、普通の民間企業で働いている人の不利益取り扱いに関しましても当たり前の感覚が持てるのではないかとも思っております。裁判官に普通の市民としての感覚を持っていただくためにも、育児のみならず、普通の生活をどんどんしていただきたいと思っております。

 また、政策決定の場のみならず司法の現場での男女共同参画は、社会全体の男女共同参画を進めていくものであると思っておりますので、ぜひ今後とも必要な施策を講じていただけますように法務大臣にも改めてお願いを申し上げまして、質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

保利委員長 次に、西村眞悟君。

西村委員 先ほどのお話を聞いておりましたら、いろいろなこともしゃべりたいように思いますけれども、限られた時間ですからきょうは法案に関してのみ御質問させていただきます。

 さて、この裁判官の育児休業の法案なんですけれども、ではその裁判官とは何ぞやということになりますと、これは結局、司法の権威をある意味では究極において支える、これはもう裁判官の識見でしかないわけですね。先ほど、普通の人のような感覚というふうなお話も聞いておりましたけれども、実はこの司法の権威というのは、普通の人を裁く立場にあるわけですから、単に普通の人と同じようにということでは裁判官の最終的な職務は果たせないんだろうと思います。

 そこでお聞きしますが、裁判官の現実的な職務は、これは実は、一般行政事務また民間会社のサラリーマンと違い、一つの請負仕事なんだ。この事件を請け負って、訴訟指揮から、それからその優先順位も決めていく、そしていかなる判決を書くか、そしていつ書くかということを決めますと、これは請負仕事に近いものだ。したがって、ある意味では、自由な裁判官の裁量にゆだねられた部分が多いし、反面、司法の権威を考えると非常に厳しい仕事である、このように私は思いますが、御認識はいかがでございますか。

金築最高裁判所長官代理者 まことに御指摘のとおりだと思います。

 裁判官は、法令の範囲、もちろんこれに従って裁判を行いますけれども、その範囲内で、仕事のやり方、判決内容はもちろん全責任で行いますし、訴訟指揮につきましても適切と自分が考えるところで行っていくということで、非常に広い裁量権を有しております。請負仕事という言葉がございましたが、確かに、事件の処理について非常に大きな裁量権を任されている、そういう意味で、非常に重い責任を負っており、厳しい仕事だと認識しております。

西村委員 裁判官が、事件を請け負って司法の権威を一身に背負うという意味で、厳しい。しかし、請負であるから裁判官の自由な裁量は大いにあるんだという前提で、裁判官には宅調日という、自宅において調査する日と書くんでしょうか、在宅起案日というんでしょうか、そういう日が与えられておって、それを自由に、自分の仕事をどう処理するかに使えるわけですね。裁判官も人の子でありますし、出産される、また配偶者が出産されるということにおいて、この宅調日を拡大利用してその事態に対処するという方向での対処方法は裁判所はとられておるのか、またとるのが可能なのか。

 請負仕事であれば、弁護士の業務とよく似ておるんですね。私の知り合いの弁護士さんは、四人のお子さんを出産されながら、自分でいわゆる宅調日をつくり、やりくりして立派な業務を遂行されておりました。尊敬すべき方でした。そういうふうな方は周りにいろいろおるわけですね。

 だから、一般行政事務、一般民間会社の勤務者と違う業務内容と重い厳しい内容の裁判官において、私が今申し上げたような宅調日の活用、そして、配てん事件数を工夫するということでの対処方はやっておられたのかどうか、そしてそれによって裁判官の育児というものが守られる体制がつくれるのかどうか、この点についての御認識をお伺いします。

金築最高裁判所長官代理者 いわゆる宅調というものは、これは昔、裁判所の施設、部屋、机等も十分でなかった時期に、非開廷日には家で判決を書いたり記録を検討したりするということで事実上かなり行われていた制度でございまして、現在でも、例えば判決を集中して書く、特に長い大きな判決を書くときなどは、役所へ参りますとどうしても電話がかかってきたりいろいろな人が来たりして、十分落ち着いて、妨げられずにできにくいということで、事実上自宅でそういう仕事をする。これが宅調と言われているものでございますが、これは、今申し上げましたように、あくまでも仕事のために必要なときにするということで、育児というようなものを宅調制度を利用してやるというのは、ちょっと考えられないのではないか。

 仕事、育児を担う裁判官について、育児休業制度以外の面で裁判所がどういう配慮、努力をするかという点では、事件の分担などは各裁判所が事務分配で自律的に決めておりますが、そういう場合にある程度何かの配慮をしているというケースもあるかもしれませんし、任地でございますと、育児について協力してくれる親御さんがおりますと、できるだけその近くに配置してあげるとか、そういうふうないろいろな配慮はしております。

西村委員 裁判官の職務の特殊性、また裁判所の勤務の状況、今述べられた前提で、裁判官の三年の育児休業の延長が必要だというふうな結論に達せられているのだと思っておりまして、私も法案に賛同しておるわけでございます。

 さて、裁判官の人口の中での女性裁判官の割合、それは増加傾向にあるのかどうか、今どれぐらいの割合がおられるのか、ちょっとお聞きいたします。

金築最高裁判所長官代理者 まず現在から申し上げますと、十月十七日現在の数でございますが、全裁判官三千六人のうち、女性は三百七十九人、一二・六%でございます。内訳を申し上げますと、判事が千四百十四人中百二十九人で九・一%、判事補が八百人中百九十七人で二四・六%、簡裁判事が七百九十二人中五十三人で六・七%。今申し上げましたように、判事補の割合が圧倒的に高うございます。ということは、つまり、最近の若い方の女性の比率が非常にふえておりまして、非常に増加傾向にあるということでございます。

西村委員 さて、ここでまた冒頭の質問、問題意識に戻ってくるわけですけれども、裁判官というのは、やはり裁判官でしか生きられないんだ、ほかでは全く無能なんだ、こういうのではあかんと思うのですね。裁判官として有能な人が他の仕事についても有能である、また、他の仕事について有能な人は裁判官として有能である、これがやはり司法に求められているところであると思います。

 その意味で、よく公務員について言われるように、おくれず休まず働かず。裁判所に司法修習を終わって入ったから一生ここでしがみつくんだ、特典は何でも利用するんだ、それでおくれず休まず働かずだ、こういうふうな裁判所であれば、何ぼ司法改革の議論をしても、実のない議論をしているわけですね。

 したがって、この機会に、この法案とは直接関係ないかもわかりませんが、裁判所が司法修習を終わった若い方々を裁判官に採用して一生これを裁判官として抱え続けるんだというふうな発想、今申し上げたのは、裁判官としての職業訓練をずっと何年も積み重ねる、その上で優秀な裁判官をつくるということで必要なんでしょうが、その別に、育児を終えた、人生経験のある方々にまた裁判官として来ていただいて司法の権威を高めていただくとか、こういうふうな人事のダイナミックな運用の仕方、これをもう少し推進していただく必要もあるんかな、このように思いますけれども、いかが認識されていますか。

金築最高裁判所長官代理者 裁判官は、休まずおくれず仕事せずではとても務まらない仕事でございますし、また、お話ございましたように、もちろん裁判官としての強い使命感がある人でないと困りますけれども、しかし、裁判官以外の仕事についたときにこの人はどうかと言われる、その仕事にたえないというふうな人ではなくて、ほかの仕事をした場合にも立派にやっていける、つまりそれだけの幅の広さ、たくましさを持つ人たちが裁判の仕事をするというのでなければならないという先生の御指摘については、まことにごもっともだというふうに考えます。

 そういう見地から、社会的に経験を積んだ人を裁判官に採用するということが好ましいという点で、もちろん修習生から採用いたしますときにも、修習生の中にも会社員とか行政官の経験を持っている者もございまして、毎年何人かなっております。しかし、今申しましたようなそういう社会的経験を積んだ者を採用するという点につきましては、弁護士任官を推進していくということがやはり一番現実的で意義のある方策だと考えております。そういうことで、日弁連との協議を今やっておりますけれども、弁護士任官を推進するための具体的方策について、そうした協議を通じて検討を進めたいと考えております。

 また、判事補にいろいろな多様な経験を積ませるということが必要だと考えておりまして、現在、判事補の間に、民間企業での長期研修、行政庁への出向、海外への留学等を行っておりますけれども、これに加えまして、弁護士事務所での弁護士の職務の経験をさせるなど、原則としてすべての判事補が任期中に今申し上げましたようないろいろな経験を積む機会を持つことができるようにする、そういうふうな司法制度改革審議会意見書の趣旨を踏まえまして、具体化に向けて積極的に検討を進めていきたいと考えております。

西村委員 これで質問を終わります。ありがとうございました。

保利委員長 次に、瀬古由起子君。

瀬古委員 日本共産党の瀬古由起子でございます。

 法案質疑に先立ちまして、去る十一月十四日、薬害ヤコブ病裁判について大津、東京両地方裁判所から出された和解の所見について、法務大臣に質問いたします。

 この所見は、薬害ヤコブ病の患者、家族の深刻な被害の実態を直視し、被告企業と国の法的責任を認めたものでございます。さらに、被害の再発防止に向けて、より積極的な職責の遂行を求めております。

 法務大臣、国として、所見を直ちに受け入れて、加害者としての責任を認めて謝罪し、被害者全員の早期全面救済、そして二度とこのような薬害や人権侵害が起きないように、そのための努力をしていただきたいと思うのですけれども、いかがでしょうか。

森山国務大臣 東京と大津の両地裁から和解に関する所見をいただいたところでございます。

 和解への対応につきましては、関係省庁、厚生労働省等でございますが、それと慎重に検討し、協議してまいりたいと考えております。

瀬古委員 厚生労働大臣も、裁判所の意向などもよく尊重したいというふうに言っていらっしゃいます。森山大臣は、ハンセン病訴訟のときにも、直接原告の皆さんにお会いしていただいて、そして感想などもおっしゃられていましたけれども、それなりの対応をしていただいたというふうに思っています。

 これは本当に、原告の皆さんは次々と亡くなっていて、そういう点では一刻も待てないような事態になっているわけですね。そういう意味では、薬害ヤコブ病で突然家族を失った人たち、その遺族の悲しみも大変重いものがありますし、そのことによって家庭も破壊されたという御家庭もたくさんございます。そういう点では、一刻も早く解決をしていただきたいし、同時に、ぜひ、被害者の皆さんにも、家族の皆さんにも、原告の皆さんにもお会いしていただいて、今までの御苦労もこの機会に直接聞いていただきたいと思うのですけれども、その点、いかがでしょうか。

森山国務大臣 先ほど申し上げましたように、厚生労働大臣などともよく御相談して進めていきたいと思っておりますので、被害者の方にお目にかかるということもその中で慎重に考えたいと思っております。

瀬古委員 慎重にというよりも積極的に、より大臣がリードしていただきますようにお願いしたいと思います。

 時間がございませんので、次に参ります。

 育児休業に関する法律の一部改正案の問題ですけれども、今回の改正では一般公務員のような代替要員の確保措置がないのはどうしてでしょうか。三年も育児休業をとった場合の穴埋めは一体どうなるのでしょうか。

金築最高裁判所長官代理者 一般に育児休業は下級裁判所の裁判官について問題になりますので、下級裁判所の裁判官について申し上げますが、下級裁判所の裁判官は任期が十年と憲法上されておりまして、一たん裁判官としての身分を取得した者は憲法上はその身分を保障されておりますので、育児休業の代替が必要な期間だけ裁判官の地位を有するという臨時的任用とか任期つき採用という裁判官というものは憲法上認められない。したがいまして、裁判官については御指摘の制度を導入する余地がないということになると考えられます。

 育児休業を取得している間の穴埋めの問題でございますが、育児休業の場合は、急な病気による病休とは違いまして、取得する裁判官があるかどうかという点や、いつからいつまでとるかということにつきましてかなり早いうちからわかるわけでございます。それで、育休取得予定の裁判官がおりますと、あらかじめその間の補充ができるように人事配置上の手当てをしております。

 これまでのところ、育児休業の取得は、先ほど他の委員の御質問にお答えしましたけれども、毎年十数人程度でございますので、他の裁判官への負担増も全体とすればそれほどのものではない。全体の裁判への事務に支障を来すことなく対処してきたところでございます。

瀬古委員 日本の裁判官の忙しさというのは世界有数だ、ある意味では異常な面もあるというふうに言われているんです。

 東京弁護士会司法改革推進センター編集の「裁判官がたりない日本」、こういう本がございます。この中では、裁判官を退職した弁護士を対象として聞き取り調査が行われております。大変生々しい実態が明らかになっています。

 大体、多い人では四百件も年間持っているという方がいらっしゃる。少ない人でも二百件担当している。それで、余り忙しいためにどうなるかというと、記録を十分読まないで訴訟を進行する、こういう例も報告されていたり、忙しいため訴訟の進め方に何らかの影響があると回答した者が約八割にも上っていると書かれています。複雑なものは後回しにする、和解を無理やりに押しつけるといった、こういう証言もされているわけでございます。

 裁判官をふやさないで、例えば育休をとった分を、人数が少ないからといって割り振りする場合でも、今でも大変な状態の中で割り振りするということになると、さらに裁判上支障が出てくるんではないかというふうに思うんですね。そういう意味で、私は、今の裁判官自身も大変少ないし、もっともっと余裕を持って裁判をやっていくということが必要だと思います。

 そういう意味では、ある意味では日常的に定員の配置の中に、一定の人数、病気の方もいらっしゃるし、こういう介護や育児の休業をとる方もいらっしゃいますから、どんどんこれから女性が進出してくるという場合には、一定の余裕を持って裁判官の配置も考えていかないと、もっと持ち分を少なくしないと、結局、育児休業といっても、ほかの同僚の皆さんに迷惑がかかるのでとれないという事態になるんじゃないでしょうか。その点いかがですか。

金築最高裁判所長官代理者 裁判官の増員につきましては、司法制度改革審議会の場でも、今後、審理内容の改善等のために相当増員をするということを申し上げております。そうした面について今後とも努力してまいりたいと思っております。

瀬古委員 裁判所における男女共同参画の問題は、以前も私も取り上げさせていただきました。七月には、裁判所職員の女性職員の採用、登用の拡大に関する意識調査が行われました。それなりに努力されているということを認めたいと思います。管理職、女性職員、退職者を対象にアンケート調査がされているわけですけれども、ここには、女性がどうすれば働き続けることができるか、女性の力をどう生かすかという点で、示唆される点が大変多いというふうに私は思っています。

 女性の能力の活用について、十分には活用していない、こういう割合が、管理職の方で六三・四%もこう考えていらっしゃる。女性職員自身でいいますと五八・七%が、女性の能力について十分活用していないんじゃないかと答えられております。

 裁判所が女性の能力を十分に活用できていない原因は何か。管理職、一般職員とも、産前産後休暇の際に後補充の体制が不十分であること、こういうふうに言っています。出産、育児、介護等の事情に配慮した人事制度が未整備である、こういう声が多く占めているわけですね。

 女性が一層能力を発揮するためにはどうしたらいいかということも聞いています。そこで女性職員は、託児所や保育施設の整備、出産・育児期の代替要員の確保、育児、介護の支援、こういうふうになっていまして、女性が能力を生かして働き続ける上で、出産、育児、介護などの制度上の改善、また制度外も含めた改善、切実な声がこのアンケートの中によく出ていると思います。

 このアンケートの内容をどのように分析して、改善に向けて今後どのように取り組まれようとしているのか、お聞かせいただきたいと思います。

金築最高裁判所長官代理者 お尋ねの意識調査につきましては、現在、その集計結果の分析や女性職員の現状の分析をさらに進めながら、さまざまな問題点などにつきまして多角的な検討を鋭意行っている段階でございます。

 裁判所におきましては、二万人以上の一般職員が在籍しておりまして、しかも、これが全国各地に配置されておりますために、検討すべき点が多岐にわたっておりまして、今後さらに、各庁の実情や職員の意見などを取り入れた上で、女性職員の働きやすい職場環境づくりを図っていきたいと考えております。

 御指摘の保育所の不足とか後補充の不足といった問題点に関するものも含めまして、どのような方策をどのような方法で取り入れていくことができるのか、あらゆる角度からの検討を鋭意行っていく所存でございます。

瀬古委員 職員についてはこのようなアンケート調査をしていただいたんですけれども、裁判官については、実際にどのような今現状にあるのか、把握、分析、検討、こういうものについて、どのように行われているでしょうか。アンケートなど裁判官についてはやったことがございますでしょうか。

金築最高裁判所長官代理者 裁判官につきましては、年に一度、異動その他の事項に関する希望などを記載したカードを提出してもらっておりまして、その中で育児等の個別の事情について詳細に述べてもらっております。配属庁では、このカードを参考に、随時その裁判官と個別面談も行いまして本人の個別事情や希望を具体的に聞きまして、そうした情報がまた最高裁にも集約されて、異動を初めとするいろいろな諸施策の参考としているところでございます。

 そういった実情にございますために、現在のところは、お尋ねのような実態調査を行う具体的な予定を持っておりませんけれども、今後、我が国における男女共同参画実現に向けての各方面の動きや裁判所における女性裁判官に関するいろいろな状況に注意を十分に払いまして、その中で、そうした調査の実施をするかどうか、あるいはどういう調査をするかといったことについて検討してまいりたいと思っております。

瀬古委員 女性がどういう立場に置かれているかという問題は、裁判所のみならず、いろいろな職場でもありますし、民間の場合は、とりわけ賃金差別という問題が大変大きゅうございます。そういうものをしっかり裁判官がつかんで裁判に当たるということも、先ほどの、育児休業についての考え方というか、こういう問題についてもよくつかんで対応するということが裁判官にも求められていると思います。

 司法修習の段階から男女共同参画、男女差別をなくす人権教育プログラムというものが必要ですし、アメリカなどではジェンダー教育というのが司法研修の段階から位置づけられています。いろいろな人権規約を勉強する中で少し女性の問題やDVをやるということではなくて、きちんとジェンダー教育のプログラムという形で修習の段階から位置づけられているのですね。

 その点で、国際規約人権委員会では日本の政府に対して、裁判官、検察官についての人権についての教育及び研修プログラムを改善すべきだということを厳しく勧告までしているわけですね。

 その点、いろいろな人権の問題がありますが、とりわけ女性の人権、ジェンダー教育について、どのような改善をこれからされようとしているのかをお伺いしたいと思います。

金築最高裁判所長官代理者 最初の司法修習におけるジェンダー教育の点でございますが、司法修習におきましては、講義や講演の中でジェンダーの問題や配偶者間の暴力等をテーマとして取り扱っておりますほか、犯罪被害者の保護に関するカリキュラムも実施しております。

 それから、もう一点の国際規約人権委員会の関係でございますが、規約人権委員会の日本政府報告に対する最終見解におきまして、我が国における女性に対する差別の問題が指摘されているということは承知しております。

 裁判所といたしましては、今申し上げましたような研修等を通じて、この問題に対する裁判官の意識を高める努力をさらに続けていくほか、女性職員の積極的登用、女性職員の働きやすい職場環境づくりといった面でも今後とも積極的に取り組んでいきたいと考えております。

瀬古委員 そうしますと、規約人権委員会で指摘されている教育及び研修プログラムの改善という点では、はっきりと踏み込んだ改善は出される御予定ですか。

金築最高裁判所長官代理者 そういった点についても今後十分検討してまいりたいと思います。

瀬古委員 裁判官が、子供を産み育て、そして介護するなど、市民的なそういういろいろな経験や苦労を身につける、そういうものが裁判官にとっても大変重要な意味を私は今後持っていくのだろうと思います。

 そういう意味では、一層市民感覚を豊かにしていくという意味でも、そういうジェンダーの考え方、人権の考え方を日常的に身につけられる、そういうような裁判官の環境をしっかり準備していただきたいし、また、そのための御努力をぜひお願いしたいと思います。

 以上、終わります。ありがとうございました。

保利委員長 次に、植田至紀君。

植田委員 社会民主党・市民連合の植田至紀です。

 今回の裁判官の育児休業法改正は全面的に賛成でございます。幾ばくか私なりの問題関心でお伺いをしようとしていた点も、さきの、この間の質疑の中でかなり明らかになっているなというふうに思うわけですが、概括的に一点だけお伺いしたいのです。

 この質疑でも、例えば今回の法律が改正されること、また、既に平成四年度からやられているわけですが、実際研修等々でそうしたものがあるんだよということの周知徹底も図られておるようですし、法案の六条でしたかにありますように、不利益取り扱いというものは当然あり得ない、これは法律上あり得ない話でしょうけれども、そういう意味で、まだ男女共同参画社会を形成、実現していく上で道半ばの中で、やはり裁判所という一つの空間がそうしたものを先取りする環境、人権が保障されている環境というものをつくっていかなければならないだろうと思います。

 そういう意味では、そうした職場がしっかりと人権が保障されているんだ。例えば、権利として保障されていても、それをやりづらい雰囲気があったらだめなわけです。また、不利益とは文句を言えないけれども、どうも育休をとったことが自分の昇進に響いているんやないかと主観的に思うような場面があってもやはりまずいだろうと思います。

 そういう意味で、裁判所における人権教育の推進等々についてもせんだっても尋ねたところでございますけれども、今後、その辺、これを契機にしてより推進していただきたいという観点で、今後の御決意なり御見解なりをお伺いしたいと思います。

金築最高裁判所長官代理者 育児休業が権利であるという点を含めまして、現在も裁判所職員全体に対する啓発等を行っているところでございます。

 また、育児休業をとったこと自体を理由とする不利益取り扱いが行われることは、決してあってはならないことだと考えております。

 現在の育児休業の取得状況を見ましても、裁判所が育児休業をとりにくい環境にあるとは考えられませんけれども、今後とも、今申し上げましたような観点に立ちまして、さらに権利の行使が十全になされるように環境整備に努めていきたいと思っております。

植田委員 はい、ありがとうございます。その環境整備の進捗状況は、また適宜、一般質疑なりなんなりでお伺いできる機会があろうかと思いますので、その都度点検させていただきたいと思います。

 この裁判官育児休業法というのが、当然、男女共同参画社会を形成するその一環の中に位置づけられる、そういう問題意識に立ちながら、全体の男女共同参画社会を築いていくという中で、申しわけございませんが、今回の法案とは直接関係しないのですが、課題としては、全体の中でとらえるとするならば、この場で民法の改正にかかわる法務大臣の御見解について何点かお伺いすることはお許しいただけるのではないかと思います。

 既に冒頭の質疑でもその御決意の一端はお伺いしておるわけですが、政府が骨子をまとめたという一方で、政府・与党が今国会での提出は見送りなどという記事も新聞では報道されておるようです。恐らく法務大臣は、非常にいろいろと複雑な、また悔しい思いもされているだろうかと思いますけれども、やはりここは、私ども社民党の立場といたしましても、まずは法務大臣のかたい御決意をお聞かせいただきたいと思います。

森山国務大臣 私が就任以来、この問題について、たびたび先生方から御質問をいただきまして、そのたびにいろいろなお答えをしてまいりました。

 半年余りたちました間にいろいろなことがございまして、途中で世論調査をいたしまして、その発表がございましたり、その後、男女共同参画会議の方で専門調査会のまとめが出たり、その折々にいろいろな反響がありまして、各党の御意見、特に与党の皆様方の御意見、さらに政府関係者のコメント、いろいろなものがございました。

 新聞等は、その折々の発言をとらえまして、見送りかと書いてみたり、いや、やはり出すんだと書いてみたり、いろいろございまして、私としては、できるだけ皆さんに御理解をいただいて、何とかまとめられるものならまとめて出していただきたいものだ、出せるようになりたいものだという気持ちは変わっておりません。現在もまだ努力中でございますけれども、最近の新聞紙上でごらんになりますように、やや具体的に、少しずつですが、動き始めてきたかなと思いまして、その行方を見守っているわけでございます。

 この国会は残りだんだん少なくなってまいりましたけれども、しかし、まだ少しありますので、その間に何とかできるものならという望みを捨てないで、頑張っていきたいというふうに思っております。

植田委員 改めて力強い御決意をお伺いいたしました。

 そこで、ちょっとお伺いしたいのは、この間の民法、選択的夫婦別姓の反対論で、よく、日本の伝統的な家族のありようを破壊しちゃうじゃないかという反対論がある。きょう、残りわずかな時間で、できれば法務大臣と共有したいのは、そういう反対論というのはそもそも事実の上では根拠のない間違った論であるということがもし共有できればと思ってお伺いしたいのですが、家族のありようというのは歴史的に多様でございます。

 例えば、アメリカの先住民族のイロコイ族を調べたモルガンの「古代社会」という本がありますけれども、それをベースにしながらエンゲルスが「家族・私有財産及び国家の起源」というものを著すわけですが、当時は母系性社会なわけですよね。そしてまた、プナルア婚といって、男が女のところに通う、そしてそこで生まれた子供は女のもとで育てられる、そういう母系性社会があったわけです。しかもそれは、戦前の一時期まで、これは柳田か折口信夫か忘れましたけれども、若衆宿がある、そこに男が通う、そして女性が妊娠するときに、だれの子だというのは女性の側が決める権利があったというのが、これは事実として、戦前ぐらいまではそういう風習が残っていた地域もあったわけです。

 また、万葉集の時代でも、これはいい歌なんですが、但馬皇女というのが穂積皇子という彼氏に贈った和歌があります。相聞歌と言います。

  人言をしげみ言痛みおのが世にいまだ渡らぬ朝川渡る

要するに、世間がやんや二人の仲のことを言うので、今までは堂々と会っていたんだけれども、こっそり会いに行って、生まれて初めて朝、川を渡って帰るんだと。川を渡って帰る主体は但馬皇女、女性です。万葉集の時代というのは、女性が男のところへ通うということも不自然ではなかった、そうしたありようがあるわけでございます。

 そういう意味で、時代が下ってから婿入り婚等も出てくるわけですが、日本の歴史においても、家族のありようというものは、それぞれの時代の特徴があって多様であるということについては、当然そうですよね。どうぞ。

森山国務大臣 大変御研究いただいて、勉強させていただきましたが、おっしゃるとおり、私どもが学校で習ったことを思い出しましても、日本の歴史だけ見ましても、昔から今のようなあり方であったわけではなくて、その時代その時代によっていろいろ変化してきたということを習った覚えがございます。

植田委員 次に、夫婦同姓というものも、これは日本の歴史において必ずしも古くから行われているような慣習、風習ではなかった。明治三十一年の民法からそういうふうになったわけです。なぜならば、明治九年の内務省令では、結婚すれば女性は生家の姓を名乗るというふうに、要するに別姓だったわけです。明治九年、大久保利通内務卿の時代ですよね。そういうこともあったわけです。これは事実です。

 しかも、歴史で習うときに、源頼朝の妻について、決して源政子とは習いませんよね。北条政子と習います。これは、当時の吾妻鏡には、北条という形では出てこないんですが、源頼家が将軍になったときに、母平政子、従二位平政子で出てくるんです。吾妻鏡というのは、これは鎌倉幕府の正史です。要するに、平政子というのは、北条は桓武平氏ですから平を名乗るんです。源政子と名乗った例は、少なくとも史実においては一つもありません。

 また、悪妻の誉れが高い、応仁の乱の原因にもなった足利義政、八代将軍義政の奥さんは日野富子というふうに歴史上語られていますが、これも当時の史料、「大日本史料」といいまして、東大史料編さん所が編さんしておる中でも日野夫人という形で出てきまして、足利富子というふうな例は一例もないわけでございます。

 しかも、明治九年の段階においてもそういう形で別姓であったというのは、実はむしろ別姓の方が伝統じゃないかということでございます。

 では、何で民法でこういうことになったかというと、やはり明治維新において、言ってみれば、王政復古をして絶対主義的天皇制というものを確立していこうとする過程で、明治政府は当初、太政官と神祇官をこしらえて、廃仏毀釈をやって、神道を国教化して、それでもって人心支配をしようとした。しかし、当時もう民衆の信仰というものは根強くありますから、神道国教化政策は挫折するわけです。

 そこで、帝国憲法、いわゆるプロシア型のそうした帝政というものを山縣有朋であるとか伊藤博文であるとかが志向して、明治憲法をこしらえた。その一環の中で、いわゆる絶対主義的天皇制を補完する役割を持ったのが、明治の二十九年に制定され、三十一年に施行された民法ということでございます。

 そういう意味では、実に、明治維新以降の半封建的な絶対主義的天皇制による近代の日本の支配構造の中で生まれてきたものでありますから、今回、今、戦後、この二十一世紀の地平に立って、民法改正に反対するということ、少なくとも家族を崩壊させるなどということは恐らく当たらないだろうというふうに思いますし、また、新憲法下において両性の本質的平等というものが明確にされている以上、夫婦同姓なるものがその過去の残滓であるというふうに理解するのが至当であると思いますが、その辺については御同意いただけますでしょうか。

森山国務大臣 大変いろいろと御勉強をなさっているので改めて感心いたしましたが、確かに、家族のあり方というのはその時代によって違いますし、また、現在のこのような形ができてきたのもそれなりの理由があるということで、百年余り続いてきたわけですね。

 しかし、日本の長い歴史から見ると、必ずしもそれが本当に伝統的であるとか日本の文化であるとかということを言い切れるものではないというふうに思いますし、そもそも家族のあり方、いい家族というのは、名前が同じであるかないかというようなことではなくて、お互いに愛情を持ち、思いやりがあるというようなことが基本なのではないかと思います。

植田委員 全くそのとおりです。

 それで、いずれにいたしましても、伝統というものは法律によって担保されるものではあり得ないと思います。法律があろうがなかろうが、我々民衆の中に息づいている。

 例えば、秋祭り法なんという法律をつくって、秋には秋祭りをやりなさいなんという法律がなくたって、みんなみこしを担ぎますわね。やはりそれは民衆文化です。そういう意味で、法律が変わったから、変わらないからといって崩壊するような家族は、むしろ家族に問題があるのであって、制度には問題がないであろうというふうに思います。

 そういう意味で、選択的夫婦別姓を導入するということが伝統的な家族のありようを破壊するといった場合、二つの間違いがある。一つは、そもそも、そうした夫婦同姓を強制してきた伝統などというものは日本の歴史上存在しなかったという点、ごく一時期の近代史においてそうしたものがあったという点。それともう一つ、そもそも、今まさに法務大臣が御答弁されましたような、やはり家族のきずなというのはそういうところから生まれる、愛情によって生まれるものでございますから、それによってきずながあるわけでございますから、それが法律どうこうによって壊れるようなものでもあり得ないです。

 というふうに御理解なさっているでしょうから、引き続き、この民法改正に向けても鉄の意思で貫徹をしていただきたいということを御要請申し上げまして、きょうの質問を終わらせていただきます。

保利委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。

    ―――――――――――――

保利委員長 これより討論に入るのでありますが、討論の申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。

 内閣提出、裁判官の育児休業に関する法律の一部を改正する法律案について採決いたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

保利委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

保利委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

     ――――◇―――――

保利委員長 次に、内閣提出、参議院送付、出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 趣旨の説明を聴取いたします。森山法務大臣。

    ―――――――――――――

 出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

森山国務大臣 出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明申し上げます。

 平成十四年五月開催のワールドカップサッカー日韓共催大会を控えてのいわゆるフーリガン対策、緊急の課題となっている外国人犯罪対策及び偽造旅券等の偽変造文書による外国人の不法入国・不法滞在対策を効果的に推進することが求められております。

 この法律案は、このような状況にかんがみ、所要の法的整備を図るとともに、入国審査官による事実の調査に関する規定を整備し、あわせて事務処理の合理化を図るため、出入国管理及び難民認定法の一部を改正するものであります。

 次に、この法律案の主要点について御説明申し上げます。

 第一は、いわゆるフーリガン等への対策としての上陸拒否事由及び退去強制事由の整備であります。我が国で開催される国際的な競技会や会議に関連して暴行等を行うおそれのある者の上陸を拒否し、さらに、国内においてこのような行為を行った者を迅速に国外に退去させるため、上陸拒否事由及び退去強制事由を整備することとするものであります。

 第二は、外国人犯罪対策としての上陸拒否事由及び退去強制事由の整備であります。現行の出入国管理及び難民認定法においては、我が国に在留する外国人が刑法等の刑罰法令に定める罪を犯し有罪判決が確定した場合であっても、薬物事犯等を除き、無期または一年を超える懲役もしくは禁錮の実刑判決を受けた場合でなければ退去強制事由に該当しないこととされています。そこで、外国人犯罪に対してより厳正に対処するため、刑法等に定める一定の罪により懲役または禁錮に処せられた者が退去強制の対象となる範囲を拡大し、あわせて上陸拒否事由を整備することとするものであります。

 第三は、偽変造文書対策としての退去強制事由の整備であります。深刻化している不法入国・不法滞在者対策の一環として、他の外国人を不正に上陸または在留させるため偽変造文書を作成等した者に係る退去強制事由を整備することとするものであります。

 第四は、入国審査官による事実の調査に関する規定の整備であります。外国人の上陸または在留に係る審査においては、提出資料のみでは的確な判断が困難な場合があることから、必要に応じ法務大臣が入国審査官に事実の調査を行わせることができる旨の規定等を整備することとするものであります。

 第五は、法務大臣の権限の委任に関する規定の新設であります。近年の入国管理局における業務量の増加にかんがみ、事務処理の合理化を図るため、法務大臣の権限を地方入国管理局長に委任することができる旨の規定を新設することとするものであります。

 以上が、この法律案の趣旨であります。

 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願い申し上げます。

保利委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時五十三分散会




このページのトップに戻る
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.