衆議院

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第18号 平成15年5月27日(火曜日)

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平成十五年五月二十七日(火曜日)
    午後一時十七分開議
 出席委員
   委員長 山本 有二君
   理事 佐藤 剛男君 理事 塩崎 恭久君
   理事 園田 博之君 理事 吉田 幸弘君
   理事 河村たかし君 理事 山花 郁夫君
   理事 漆原 良夫君 理事 石原健太郎君
      太田 誠一君    小西  理君
      左藤  章君    下村 博文君
      中野  清君    平沢 勝栄君
      保利 耕輔君    保岡 興治君
      吉川 貴盛君    吉野 正芳君
      今野  東君    中村 哲治君
      永田 寿康君    水島 広子君
      山内  功君    上田  勇君
      木島日出夫君    瀬古由起子君
      保坂 展人君
    …………………………………
   法務大臣         森山 眞弓君
   法務副大臣        増田 敏男君
   法務大臣政務官      中野  清君
   最高裁判所事務総局民事局
   長
   兼最高裁判所事務総局行政
   局長           園尾 隆司君
   政府参考人
   (司法制度改革推進本部事
   務局長)         山崎  潮君
   政府参考人
   (法務省民事局長)    房村 精一君
   法務委員会専門員     横田 猛雄君
    ―――――――――――――
委員の異動
五月二十七日
 辞任         補欠選任
  鎌田さゆり君     今野  東君
  日野 市朗君     永田 寿康君
  不破 哲三君     瀬古由起子君
同日
 辞任         補欠選任
  今野  東君     鎌田さゆり君
  永田 寿康君     日野 市朗君
  瀬古由起子君     不破 哲三君
    ―――――――――――――
五月二十六日
 児童保護に名を借りた創作物の規制反対に関する請願(原陽子君紹介)(第二三七五号)
 法務局・更生保護官署・入国管理官署及び少年院施設の増員に関する請願(赤嶺政賢君紹介)(第二三七六号)
 同(石井郁子君紹介)(第二三七七号)
 同(小沢和秋君紹介)(第二三七八号)
 同(大幡基夫君紹介)(第二三七九号)
 同(大森猛君紹介)(第二三八〇号)
 同(木島日出夫君紹介)(第二三八一号)
 同(児玉健次君紹介)(第二三八二号)
 同(穀田恵二君紹介)(第二三八三号)
 同(佐々木憲昭君紹介)(第二三八四号)
 同(志位和夫君紹介)(第二三八五号)
 同(塩川鉄也君紹介)(第二三八六号)
 同(瀬古由起子君紹介)(第二三八七号)
 同(中林よし子君紹介)(第二三八八号)
 同(中村哲治君紹介)(第二三八九号)
 同(春名直章君紹介)(第二三九〇号)
 同(藤木洋子君紹介)(第二三九一号)
 同(松本善明君紹介)(第二三九二号)
 同(矢島恒夫君紹介)(第二三九三号)
 同(山内功君紹介)(第二三九四号)
 同(山口富男君紹介)(第二三九五号)
 同(吉井英勝君紹介)(第二三九六号)
は本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 政府参考人出頭要求に関する件
 仲裁法案(内閣提出第一〇〇号)


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     ――――◇―――――
山本委員長 これより会議を開きます。
 内閣提出、仲裁法案を議題といたします。
 この際、お諮りいたします。
 本案審査のため、本日、政府参考人として司法制度改革推進本部事務局長山崎潮君及び法務省民事局長房村精一君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
山本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
    ―――――――――――――
山本委員長 次に、お諮りいたします。
 本日、最高裁判所事務総局園尾民事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
山本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
    ―――――――――――――
山本委員長 これより質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。山花郁夫君。
山花委員 山花郁夫でございます。
 仲裁法案についての質疑をさせていただきたいと思います。
 今回提案されておりますこの仲裁法案ですけれども、もともとこれはモデル法があって、それに対して司法制度改革審議会などで議論がされてこういう形で出てきたものと承知をいたしておりますが、副本部長たる森山大臣にお伺いしたいと思います。この司法制度改革審議会の意見書でも、仲裁制度の整備と利用促進ということがうたわれております。今回の立法に際して、国としてこの仲裁制度を民事司法制度の全体の中でどういう位置づけと考えておられるのか、この点についてお伺いしたいと思います。
森山国務大臣 司法制度改革審議会の意見におきましては、社会で生じる紛争について、事案の性格や当事者の事情に応じた多様な紛争解決方法を整備するということは、司法を国民に近いものにする、紛争の深刻化を防止する等の上で大きな意味を有するとの認識のもと、司法の中核たる裁判機能の充実に格別の努力を傾注すべきことに加えて、ADRが国民にとって裁判と並ぶ魅力的な選択肢となるよう、その拡充、活性化を図るべきであるとされております。
 仲裁は、裁判外の紛争解決手段、ADRの代表的なものでございまして、当事者が裁判所以外の第三者に争いについての判断をゆだねて、その判断に服することを合意して、その合意に基づき紛争を最終的に解決するという制度でございます。今回の立法は、仲裁が国民にとって裁判と並ぶ魅力的な選択肢となりますよう、仲裁制度の拡充、活性化を図るものであると考えます。
山花委員 今の御答弁にもありましたけれども、裁判というのが司法の中核にあるとして、そのほかにもADR、従来は裁判外での民事紛争の解決というのが一時は余り高く評価されていなかったような時期もあったと思います。つまり、日本人は権利意識が低くて、裁判に訴えるということをなかなかしないというような評価もされていた時期もありますけれども、今は少し考え方が違ってきて、ADRなども積極的な位置づけをしていこう、こういった流れの中で今回のものが提案をされてきたんだと思います。
 ところで、今回のこの仲裁法案ですけれども、もともとは公催仲裁法というのが我が国にもあって、形はそれの改正の形をとっておりますけれども、実質的にはモデル法に倣って、新法に匹敵すると言うとちょっと大げさかもしれませんけれども、それぐらいの大改正だというふうに承知をいたしております。したがって、今後、この仲裁法の運用に当たって、この国会での議論なども参照されるケースも出てくるのではないかと思うわけであります。
 その上で、司法制度改革推進本部の方で「仲裁法制に関する中間とりまとめ」というのが一時公表されまして、そのときに、今後の検討事項だとか、あるいは、こういう案があるけれどもどうしましょうかということで各界に意見を募ったりであるとか、さらに言えば、中間まとめの以降にもまた修正というか新たな事項が出てきたりしているわけでありますので、この辺の経緯などを中心にお伺いをしていきたいと思います。
 まず、モデル法の方を基準にして言いますと、モデル法の一条関係ですけれども、新仲裁法の適用範囲について、対象となる仲裁の種類だとか、あるいは地域的、場所的な適用範囲について提案がなされて、この法案の中身にも盛り込まれているところがありますが、この中間まとめの段階では、例外として、仲裁地が未定である場合にも適用される規定であるとか、仲裁地のいかんを問わず適用される規定などの有無については、なお検討を要するとされておりました。
 どういった検討がなされて、そして今回はどういった提案になっているかということについて御説明いただきたいと思います。
山崎政府参考人 ただいま御指摘の点につきましては、さまざまな形でこの法案の中に取り入れられているというところでございます。
 まず、原則は何かということでございますけれども、原則としては、仲裁地が日本にある場合にこの仲裁法案、本法案が適用されるという原則がございます。これにつきましては、法案の三条一項でその原則をうたっているということになります。
 ただ、この原則を貫くとやはり不都合な場合も生じてくるということがございまして、例えば、当事者が仲裁人を選任することができない場合には裁判所に対して仲裁人の選任の申し立てをすることができるとされているわけでございますが、仲裁地が国内にある場合に仲裁法が適用されるという原則を貫きますと、仲裁地がまだ定まっていない、未定のもの、こういう場合には仲裁人が選任できなくなってしまうということになりまして、仲裁手続が進められないという場合も生じてまいります。
 こういう点がございますので、私どもの検討会におきましては、こういう不都合を避けるべきであるということから検討がされまして、その結果として、仲裁地が未定である場合にも仲裁人の選任あるいは忌避、解任、こういう手続については裁判所に対する申し立てをすることができるというふうに規定をしたわけでございます。これが八条の条文になるわけでございます。八条の一項の冒頭の方に書いてございますが、「仲裁地が定まっていない場合であって、」云々と書かれておりますが、ここでまず規定をしているということでございます。
 それから次に、例えば裁判所の保全処分の利用あるいは仲裁合意がある場合には訴訟が原則としては利用できなくなるという効果とか、こういうものにつきましては、これはもう基本的な話でございまして、仲裁地のいかんを問わず適用される必要があるということでございます。例えば、保全処分は、外国で仲裁が行われたものであっても、その執行する財産が日本にあるということになれば、その財産を凍結する必要がございますので、そうなりますと、仲裁地のいかんを問わず利用ができるようにしておくということになります。
 それから、仲裁というのはそもそも、これは合意が結ばれれば原則としては裁判が行えないという効果、これは基本的なものでございますので、仲裁地のいかんを問わずこれはもう適用がされるということでございますので、この点では三条の二項でございます、ここで定まっているわけでございます。ここに書いてある十四条、十五条が、今私が申し上げたものでございます。
 それから、仲裁判断が行われるわけですが、それの承認、執行の規定でございますけれども、これは仲裁地が国内外いずれにある場合でも適用されるべきものということでございまして、外国で行われた仲裁判断の承認、執行、これは当然日本にも参るわけですので、それから日本の中で行われた仲裁判断の承認、執行の問題も当然出てくるわけでございますので、これは仲裁地がどこであるかを問わない。仲裁は、現実に判断が行われたらもう仲裁地は定まっておりますので、ここの場面では仲裁地が定まっていないという問題は出てこないということでございまして、この点が三条の三項で規定をされているということでございますので、原則は確かに仲裁地ということになるわけでございますけれども、その不都合を避けるべくいろいろな規定を置いた、こういうところでございます。
山花委員 わかりました。
 また、モデル法を基準にいたしますと三条の関係ということになりますけれども、今のことも含めて非常に技術的なことが多いんですけれども、書面による通知の制度というものが採用されております。仲裁手続で書面による通知というのが一つ特徴的なものなのかなという印象を受けておりますが、ここでも、通知の相手方の営業所とか住居所等は判明しているけれども、通知すべき文書の配達を試みた際に、通知の相手方が不在であったときまたはその受領を拒絶した場合の取り扱いについて、中間まとめの段階ではまだ、なお検討を要するとされていたわけであります。
 この点について、いかなる検討がなされて、そして今回どういった形でこの法案の提案の形になっているのかということについてお尋ねします。
山崎政府参考人 ただいま御指摘の点を実現すべく規定が置かれたのが、十二条の規定でございます。
 この内容でございますけれども、書面による通知として一般的には、書留郵便の一種でございます配達証明郵便、これが利用されているわけでございますけれども、書留郵便は、名あて人が不在の場合あるいは名あて人の受領拒否、拒絶、こういうことが行われますと差出人に還付されるということになりまして、そうなりますと、当然に通知の効力が生ずるとは言いがたい事態が生じるわけでございます。
 そうだからといって、普通郵便やあるいは書面を持参してやる方法ということになりますと、通知について、確実で明確な証明が困難になるというまた逆のデメリットがあるということになります。
 そこで、こういう不利益を避けるために、書面による通知が可能ではございますけれども、その証明資料を得ることが困難な場合におきまして、裁判所が、裁判所による送達を行う必要があると認めるときに、発信人の申し立てによって、書面の送達を行うものとすることにいたしまして、お手伝いをさせていただくということで、先ほど申し上げました十二条二項にそのことが規定をされているというところでございます。
山花委員 今度は、仲裁契約に関する事項についてお尋ねしたいと思います。
 モデル法の七条一項であるとか一条五項の関係ですけれども、この仲裁の対象となる紛争の要件、紛争の仲裁適格、民事訴訟法のときには当事者適格と呼ばれるものなんでしょうか、これについて、A案とB案とあって、中間まとめの段階では、仲裁契約というのは、「処分可能性又は和解可能性が認められる権利又は義務に関する紛争について締結することができるものとする」、処分権主義になぞらえた形の考え方なんでしょうか。B案については、「新仲裁法には、仲裁適格に関する一般的規定を設けないこととする」というような形で、両論併記となっています。
 B案の方が枠を広くとるような形だったわけですけれども、今回のこの法案の方では、A案の方で提案されているようです。これについては、どのような検討をされて、恐らく、どちらもメリット、デメリットがあって、どちらもというか、両案検討された結果、一方を採用しているわけですから、片っ方はちょっと不都合があるということで落ちていったのかなと推察するんですけれども、このあたりの、今回提案されている趣旨についてお伺いします。
山崎政府参考人 ただいまの御指摘の点、意見の分かれが当然あるわけでございます。それで、この法案では、十三条一項で、ただいま御指摘いただきましたA案ですか、これを採用したということになるわけでございます。
 このA案がまず提唱されている理由でございますけれども、仲裁の対象は明確にすべきであるということと、仲裁は当事者自治に基づく紛争解決制度であるということから、当事者が和解することができる、自分から処分ができる、そういう民事上の紛争が対象となる、こういう考え方でございます。
 それで、これを問わないという考え方になりますと、例えば身分上の問題、これについても第三者の判断にゆだねるということにもなってしまうわけでございます。あるいは、例がいいのかどうかわかりませんけれども、特許権の争いに関して、これがAとBが争っているという場合に、最終的には審決、審判で決まるわけでございますけれども、それを当事者間の仲裁申し立てによって第三者が判断をする、それでいいかということにもなってしまいますので、これはやはり妥当ではないだろうということから、原案のような考え方を採用させていただいた、こういうことでございます。
山花委員 また、モデル法七条二項の関係なんですけれども、仲裁契約については書面でなければならない、つまり、要式契約ということのあれでしょうか、口頭での合意ではいけないわけですけれども、この点について、どういう趣旨で書面に限定されたんでしょうか。
山崎政府参考人 この点につきましては、現行法ではこの規定がないということでございますので、口頭でもいいということになるわけでございます。ただ、現在の世界全体の考え方、それから仲裁の持つ意味、重さ、こういうことを考えたときには、やはり将来の紛争、争いを取り除くためにも、書面の方がいいという判断をしたわけでございます。
 仲裁につきましては、訴権の喪失という重大な効果、仲裁合意が行われますと基本的には裁判所で訴えることができなくなるということになります。もちろん、例外はございます。裁判において、相手方が、仲裁契約があるという、いわゆる妨訴抗弁と言っておりますけれども、この主張をしない場合にはそのまま裁判できるということになりますけれども、主張がある限りは裁判ができない、こういう重大な効果を伴うということになります。そうなりますと、やはりその真意を担保したり、あるいは内容の明確性を図るという意味で、やはり書面でやっていただきたいということで、書面を要求するということでございます。
 モデル法も同様の立場をとっておりまして、世界全部がとは言いませんけれども、かなりのところでこの考え方を採用しているということでございます。
山花委員 書面性というのは、これは、今までは規定はなかったんですけれども、ほかの民事訴訟の手続の中で、書面が要求されるケースが結構あります。それと同様の趣旨で、書面があるかないかということが新たな紛争の火種となるということを予防する趣旨だと承りました。
 ところで、これも中間まとめの段階では、仲裁条項を含む文書が引用される場合についてどのように考えるかということで、これについてもA案、B案とあって――失礼しました、そのもう一つ前のところです。「次のような媒体等は、仲裁契約における書面要件を満たすものとすることはどうか。」ということで、ア、イ、ウとありましたが、これがそれぞれ、今回の法案の中に入ってきているようであります。
 「両当事者の署名した文書、当事者間で交換された文書」であるとか、「電子的、光学的若しくはこれらと類似する方法で作成され、送受信される等した情報であり、合意の記録となり、又は後の参照に供することのできるもの(例えばテレックス、電報、ファクシミリ、電子データ交換、電子メールなど)」、「仲裁申立書及び答弁書が交換され、それらの書面において、一方当事者が仲裁契約の存在を主張し、他方当事者がこれを否認していない場合」、こういったものが中間まとめでは提起をされておりました。
 物によっては、電子メールなどということで、電子メールは問題ないですかね、一般人の人が考えたときに、いわゆる契約書というような、あるいは仲裁契約書になるんでしょうか、そういったようなかっちりしたものでなくてもよいというものになっていますけれども、このあたりの立法趣旨についてお尋ねします。
山崎政府参考人 仲裁の利用が、極めて近い当事者間で行われるということであれば、それは書面をお互いに交わすことは可能でございますけれども、かなり遠い当事者間で、一々集まって、あるいは書面を往復して、署名をして判こを押してやるということが時間的にも間に合わないとか、そういう取引もございます。それから、世界の各地との取引もございまして、特に海外の商取引におきましては、仲裁が利用されることがかなりあるわけでございます。
 そうなった場合に、それでは全部書面で一々往復してやれということになっても極めて不便であるということでございまして、今後は、書面というか記録が残るもの、そういう媒体で仲裁合意を行えば有効にしていくという世界の流れもございまして、こういう新しい手段、これにも対応できるようなものにしようというふうに考えまして、法文でも認めておりますけれども、ファクシミリだとか電子メール、こういうものについても広く認めるというふうにしたわけでございます。
 世界の現在の流れでございますけれども、仲裁のモデル法がございますけれども、このモデル法を今改正しようという動きがございますが、そこでもこのような傾向を議論されております。ただ、それはまだ成案に至っておりません。
 私どもは、そのところを逆に先取りをして、いずれこういう時代になるということから、全部取り込んで決めた、こういうことでございます。
山花委員 そういった立法趣旨からいいますと、これは解釈論になるんだと思うんですが、この十三条にいろいろと挙げられていますが、何と申したらよろしいのか、つまり、余り厳密に狭く解釈すべきではなくて、要するに形に残ればいいという趣旨でしょうから、余り縮小解釈をすべきではない、あるいは例示的にとらえてよいという趣旨のものであるということでよろしいでしょうか。
山崎政府参考人 ただいま御指摘のとおりでございまして、何らかの形に残るというものであれば広く認めていく。要するに、書面を要求したのは、将来争いになったときに何もないという状態では紛争が拡大するということから、何かのものを残そうという趣旨でございますので、それは広く認めていくべきではないかというふうに考えております。
山花委員 要するに、書面性を要求するといったときに、これはニュアンスで、感じ方の問題かもしれませんけれども、割ときつく感じるようなことが多いんですけれども、むしろこれは、口頭による合意だけでは足りない、何らかのものが残ればという趣旨だということだと思います。
 ところで、済みません、先ほど少し先走ってしまいましたけれども、仲裁条項を含む文書が引用されている場合についてどう考えるかということで、中間まとめの段階では、A案、B案とあって、「当事者間の取引等の契約において、仲裁条項を含む文書を引用している場合には、その契約が書面でされ、かつ、その引用が当該仲裁条項を当該取引等の契約の一部とする趣旨のものである場合には、書面による仲裁契約があるものとする。」
 B案の方では、「当事者間の取引等の契約又は独立の仲裁契約において、仲裁条項を含む文書を引用している場合には、その引用が当該仲裁条項を当該取引等の契約又は独立の仲裁契約の一部とする趣旨のものである限り、当該取引等の契約又は独立の仲裁契約が口頭若しくは意思の実現たる行為により、又はその他の書面以外の手段で締結された場合であっても、書面による仲裁契約があるものとする。」
 A案、B案とあったわけですけれども、これはどういった検討の経過から今回の法案のような形になったのかということについて、お聞かせください。
山崎政府参考人 ただいま御指摘ございましたけれども、A案というのは、これは現在のモデル法で採用している考え方でございまして、仲裁条項を含む文書、これを引用した契約、これも書面でなければならないということを言っているわけでございます。B案の方は、これはもちろん、引用する仲裁条項を含む文書、この引用は引用なんですけれども、本体の方の契約、これについて書面だけじゃなくて口頭でもいい、それを許容するものという考え方でございまして、この考え方は現在UNCITRALでも検討中というふうに伺っておりますけれども、いまだ結論は出ていないということでございます。
 今回、それで、私どもとしましてはA案を採用したということでございまして、仲裁条項を含む文書が別途あるとして、それを引用したとしても、それを引用するかどうかというところを口頭で行えば、あった、言った、言わないという問題も生じてしまうわけで、やはり不確定性というのは相変わらずつきまとうわけでございますので、私どもとしては、そこも書面で、きちっと本体の契約は書面でやりなさいという考え方を採用したわけでございます。
 結局、当該契約が書面で行われまして、仲裁条項が記載された別の書面を当該契約の一部を構成するものとして引用するときは、その当該契約を仲裁合意つきのものとみなして、仲裁条項が記載された別の書面を添付していなくても、引用すれば添付していなくても仲裁合意の書面性を満たすということにしたわけでございます。これが十三条三項ということでございます。
山花委員 今の話と少し関連するんだと思うんですけれども、十三条の六項で、これはモデル法十六条にも規定があるような話なんですけれども、仲裁合意を含む契約があって、仲裁合意以外の、いわば当事者の意識からすれば本体的契約の方が無効であるとか取り消しであるとか、そういった場合であっても、仲裁合意は当然には無効とはならないとされております。
 ということは、法的性質からすると、これは、仲裁合意は恐らく、仲裁の合意というか民法上の契約になるんでしょうか、無因契約であるという構成になるのかなと。ただ、無因とまで言ってしまうと、この法文の読み方からすると、「当然には、その効力を妨げられない。」ですから、これは効力を妨げられるケースも出てくるのかなと読めるんですけれども、この立法趣旨は、いかなる趣旨の条項なのかについてお尋ねします。
山崎政府参考人 確かに、ここはなかなか、やや理解しにくいというところでございますけれども、本体となる契約にいろいろ錯誤があったり、あるいは取り消しの事由があったり解除の事由があるとした場合でも、仲裁の合意、これだけはなくならない、こういうことでございます。
 これは、仲裁のそもそもの性格からきているんだろうと思いますけれども、AとBが仲裁合意をいたしまして、将来この契約から生ずる紛争については仲裁で解決をしていこうという合意をするわけですね。そこのところに本当に錯誤があるということになれば、これはそもそも仲裁合意が成り立つかどうかという問題にはなりますけれども、そこは別にそうではない。もっと別の、本体となる契約の中身、これに錯誤がある、取り消しの原因があるということが対象になるわけですけれども、その場合であっても、それから、うまくいった場合にも、例えば、取引をして代金を払ってもらう、そのときの支払いの関係について仲裁でやるというのはあるでしょうし、錯誤だから物を戻せ、こういう場合にも仲裁でやるとか、それは、一切この契約から生ずる紛争については仲裁でやりましょうという合意をしているわけですから、やはりそこを尊重して、他の部分が無効であってもこの解決方法でやっていく、これが仲裁の本来的なあるべき姿だろうということから、このような考え方を採用したということでございます。
山花委員 それでは、モデル法八条の関係についてお尋ねをしたいと思います。妨訴の抗弁に関することです。
 妨訴の抗弁ということですから、民事訴訟、訴えを提起されて、被告の側が、いやいや仲裁の合意があるので、こういったケースだと思うんですけれども、この妨訴の抗弁として仲裁契約の存在を主張することができる時期について、中間まとめのような形で法案になっているわけですけれども、中間まとめの段階では、「仲裁契約が存することを妨訴抗弁として主張することができる期間の終期に関し、被告は、訴訟の口頭弁論等において、留保なく本案について答弁したときは、妨訴抗弁として仲裁契約の存在を主張することができなくなるものとすることはどうか。」というような検討がされていたわけですけれども、この点についての立法趣旨をお尋ねします。
山崎政府参考人 妨訴抗弁であるということは、これは今回の法案で明記したわけでございますけれども、今までの仲裁法、その中でも、解釈上は当然であるというふうに認められていたものでございます。
 この点で、今委員御指摘のとおり、ほぼその内容が取り入れられているわけでございますが、形式的には「留保なく」というところが落ちているということにはなろうかと思いますけれども、この留保というのは条文ではないんですけれども、留保する旨の主張をしているのであれば、本案についての答弁をする前に主張していることとなるわけで、意味上はそうなるわけでございますので、あえて書かなかったということだけでございまして、実質は、私どもの中間取りまとめで言っているものと全く同じでございます。
山花委員 この妨訴の抗弁の効果で、十四条によりますと、「訴えを却下しなければならない。」という形になっていますけれども、つまりは、訴訟要件であるという趣旨でよろしいんですね。
山崎政府参考人 これは確かに訴訟要件の一つでございまして、主張がない限りは判断をしない、そういう種類のものということでございます。(山花委員「抗弁ですからね」と呼ぶ)はい、妨訴抗弁ですから、まさにそのとおりでございます。
山花委員 モデル法でいいますと、十一条の一項の関係についてお尋ねしたいと思います。
 二つの点についてお伺いしたいと思いますが、中間まとめの段階では、仲裁人の資格について、「自然人でなければならないものとするが、その余の資格制限は設けないものとすることはどうか」というような検討をされていましたけれども、この点、どういった経緯で今回この法律の形になったのかということについて御説明ください。
山崎政府参考人 中間取りまとめでは、自然人でなければならないものとするが、その余の資格制限を設けないものとするがどうかと、こういう聞き方、二つしております。
 まず、自然人かどうかという点につきましては、本法案では、自然人であればだれでも仲裁人に選任することができるということで、自然人を前提にして考えているということでございます。これは、なぜ自然人に限定するのかということでございますけれども、仲裁廷の構成員として仲裁判断をすること自体、これはもう自然人を前提にしていると言わざるを得ないわけでございまして、例えば忌避事由等の規定がございますけれども、この忌避事由等についてもやはり自然人を前提にして考えているということでございまして、これは裁判で考えていただければ、この仲裁人を裁判官と置きかえていただければ一番わかりやすいのかと思いますけれども、団体を指定されても、団体のだれがやるのかということになりますし、それじゃ、忌避事由も、団体のだれについてあるのかということにもなるわけでございまして、極めてそこのところは、団体であると難しい問題もあるということから、自然人に限ったわけでございます。
 それでは、資格の問題でございますけれども、資格についてもやはり、資格の制限に関する規定はございませんで、適性と能力を備える限り、自然人であればだれでも仲裁人に選定することができるという建前をとっているわけでございます。ただ、この法文にもございますけれども、当事者の合意があれば、これはまた別途だということでございまして、当事者の合意によって仲裁人となるために一定の資格を必要とする、こういう要件を設けることも可能であるということでございます。
 例えば、ちょっと例を申し上げたいと思いますけれども、現在、建設工事紛争に関して、建設工事紛争審査会、これが結構利用されている。そんなに数は多くないんですが、日本の中では利用されているものという代表でございます。ここによる仲裁手続があるわけでございますが、これは建設業法で定まっております。この条文の中に、例えば仲裁人の欠格事由を決めているものがあります。例えば、破産者で復権を受けていない者とか、そういうような規定を置いているものもございますし、仲裁人の資格として、仲裁人の一人は弁護士でなければならないとか、そういうふうな形で法律で置いているものも当然ございますし、当事者間で合意して決めても差し支えない、こういうものでございます。
山花委員 趣旨は、それはそれとしてわかるんですが、ただこれは、今までの仲裁の利用実態とは別に、今後、ごくごく普通の、一般の人も仲裁契約を結びましょうかというケースも出てくるという位置づけが、恐らく冒頭の法務大臣のような、つまりADRをもっと評価しましょうという話なんだと思うんです。
 そうすると、今後出てきそうなのは、仲裁契約というのをそこまで理解されていれば、仲裁人というのは自然人なんだということでいいんでしょうけれども、ただ、一般の方は、よく理解していないと、例えば、仲裁は、では自分たちの所属している団体にやってもらいましょうとか、例えばの話ですよ、例えば、では日弁連にやってもらいましょうとか、そういったような合意をするケースも出てくるのではないか。
 この中間まとめのときにも、「仲裁契約において法人その他の団体が仲裁人として指定された場合について、どのように考えるか」ということで、A案とB案とがあって、これを無効とするかどうかについて、解釈にゆだねて、格別の規定を設けないということでどうかという意見と、「仲裁契約自体が無効になることを回避するため、法人その他の団体に仲裁人選定権限を付与したものとみなす旨の規定を設けるものとする」、みなし規定を設けたらどうか、こんなような議論があったようですけれども、今回、これはたしかA案の方になっていますよね。どういった経緯でみなし規定は設けなかったということなのか、その趣旨をお答えください。
山崎政府参考人 ただいま御指摘のとおり、A案は、自然人に限るので、特別の規定は置かないということでございます。法人その他の団体が仲裁人と指定された場合、仲裁契約が無効かどうかについて、解釈にゆだねるということで、特別な規定を置かないということでございます。B案の方は、それであると不都合な場合も生じ得るので、法人その他の団体に仲裁人の選定権を付与したというふうにみなす規定を置くかどうか、この問題であったわけでございます。
 これにつきましては、法人その他が仲裁人と指定されるという実務、これはもうほとんどというか、私どもは余り聞いたことがないんですけれども、もともとが多くないという上に、このような合意をするという例が今までもないということから、その当事者の合理的意思を解釈すれば足りるのであって、特別の規定を設ける必要はないんではないかと。例えば、それが本当に荒唐無稽なものであれば無効ということもあり得ますし、あるいは、そこの代表者にゆだねたんだとか、そのときの事情によって解釈にゆだねればいいのではないかということで、あえて規定は置かないというふうに選択をしたわけでございます。
山花委員 ただ、今までの例が余りないというお話もありましたけれども、それを言ったら、そもそもこの仲裁というものの利用がいわば特定の業界に限られているというか、そういったことなので、どうなのかなと思ったわけです。
 いずれにしても、解釈にゆだねられるということで、一つのケースとして、その団体の代表者にゆだねたと解釈するケースも、それがすべてじゃないでしょうけれども、あるということですので、それはそれとして了解をいたしました。
 モデル法十二条、十三条の関係なんですけれども、忌避事由について規定があって、中間まとめのような形で、今回、法案の方でも提案をされております。
 忌避事由については、例えば刑事訴訟法と民事訴訟法で若干違いがあったりとか、そういった指摘もかねてよりあるところですけれども、この忌避事由を定めた趣旨であるとか、あるいは具体例についてどういったものを想定されているのか、その点についてお尋ねいたします。
山崎政府参考人 忌避の原因、手続等につきましては、十八条、十九条で規定をしているところでございます。この法案では、当事者の合意により定められた仲裁人の要件を具備していないとき、あるいは、仲裁人にその公正性または独立性を疑うに足りる相当な理由があるときには、当事者は当該仲裁人を忌避することができるとしているわけでございます。
 例えば「当事者の合意により定められた仲裁人の要件を具備しないとき。」先ほど建設工事紛争審査会で申し上げましたが、あれは、一名は必ず弁護士が入らなければならないという規定があるわけですけれども、ただ、仮に当事者で合意をしたというときに入っていないということは当然具備していないということになるわけですので、その人が弁護士だといって入ったわけですけれども、それは弁護士じゃないということになれば、それは当然忌避事由になるわけでございます。そういうようなことを言っている。
 それからあと、公正性また独立性を疑う事由というところでございます。これは、当事者の信任に基づいて仲裁判断をして紛争を解決するという重大な職務を仲裁人は負うわけでございます。したがいまして、当事者から独立した中立的な立場で公正に仲裁手続を行う必要があるということでございまして、それを制度的に担保するものということになるわけでございます。
 例えば具体例として言えば、当事者の顧問弁護士であった者とかあるいは親族関係にあった者、それから、仲裁人が事件または当事者と一定の関係があるということから公正な仲裁判断が期待できない場合、あるいは、それまでの仲裁人の具体的な行動等からその公正性、独立性を欠く場合ということでございまして、いずれも仲裁人の公正性または独立性について正当な疑いを生じさせる場合、こういうことでございます。
山花委員 その忌避のところなんですけれども、十八条の四項に非常に変わった条項がございます。失礼、四項もそうですけれども三項もそうですね。仲裁人の方から、自己の公正性に疑いを生じさせるような事実については開示しなければいけない、こういった条項があります。
 民事訴訟のケースですと、裁判官に例えば除斥だとか忌避だとか回避というのがあって、除斥は法律上当然に除かれて、忌避は当事者の申し立てによって、回避は裁判官の方からやるものですけれども、そういったこととパラレルに考えると、忌避と回避の何か中間的なような条項が入っていますね。つまり、仲裁人の方から自分はこうなんだと。
 この三項、四項についての立法趣旨はどういう趣旨なんでしょうか。
山崎政府参考人 ただいま御指摘ございましたように、何か中間的な性格を持つものでございます。
 十八条につきましては、モデル法に倣った中間取りまとめ、この考え方を踏まえているわけでございますけれども、仲裁人の就任依頼を受けた者は「自己の公正性又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある事実」を開示すべきということにしているわけでございまして、この理由は、当事者に仲裁人選任や忌避申し立てに関する判断材料を提供いたしまして、仲裁人が当事者から独立した中立な立場で公正な仲裁手続を行うことができるようにする趣旨でございます。
 したがいまして、これが後になって判明して、せっかく行われる仲裁が途中でだめになるとか、そういうことを事前に避けるということで、手続がスムーズに進行するようにということから設けられたものでございます。
山花委員 モデル法の十六条の関係についてお尋ねをしたいと思います。
 仲裁廷の判断について裁判所に対する不服申し立てについてなんですけれども、原則からいえば、仲裁というのは、その解決について仲裁人にゆだねて、それで終局的な紛争の解決を図るという制度ですから、原則として裁判所に何か不服を申し立てるということはないんでしょうが、ただ、仲裁権限の有無に関する仲裁廷自身の判断についての裁判所に対する不服申し立てということについて、これはどういった検討をされた上で今回の法案になったのか。その検討の経過などについて御説明いただきたいと思います。
山崎政府参考人 この仲裁の権限の有無に関しての仲裁廷自身の判断についての裁判所に対する不服申し立てでございますけれども、これについてはA案、B案が掲げられていたわけでございます。A案では、仲裁廷が仲裁権限を有していないとして終了決定をした場合には、裁判所に対して仲裁権限の有無についての判断を求める道を認めていないのに対しまして、B案は、仲裁権限がないとの判断を前提として仲裁手続が終了した場合でも、裁判所に対し仲裁廷の仲裁権限の有無についての決定を求める申し立てができるものとする、こういうことになるわけでございます。モデル法はこのA案を採用しているわけでございます。
 また実質も、そもそも裁判所の決定というのは強制力はないわけでございまして、仲裁廷に任意の履行を促すものにすぎないという性格のものでございまして、仲裁廷において自己に仲裁権限がないと判断したのであれば、その仲裁手続を続行してやれと言うことは非常に難しいことでございますし、そもそも、もともと裁判に訴えることができるわけでございますので、そこで、仲裁廷の方でみずからに権限がないと言ったら原則に戻って裁判の方でやっていただく、こういう方がいいのではないかということで考えまして、この点については、不服申し立ては認めないという方向で統一をしたということでございます。
山花委員 若干また技術的なことになってきますけれども、モデル法二十一条の関係についてお尋ねをしたいと思います。
 仲裁手続の開始時期についてどう考えるかということで、これも検討された上で今回の提案となっているんでしょうけれども、この開始時期についてはいろいろな段階を想定することができるんですけれども、どういった趣旨で今回の法案の形になったのかということについてお尋ねします。
山崎政府参考人 この法案の二十九条一項でございますけれども、これは中間取りまとめに沿いまして、「仲裁手続は、当事者間に別段の合意がない限り、特定の民事上の紛争について、一方の当事者が他方の当事者に対し、これを仲裁手続に付する旨の通知をした日に開始する。」ということを決めたわけでございます。これはモデル法の内容にも沿っているものでございますが、なぜこれを決めるかということでございますけれども、この開始の日が、時効の中断のときにその開始の時期になるということからこの規定を設けているわけでございます。
 この規定は、こういう内容が最も当事者の意思に合致をしているということ、それから、公平にもかなうというふうに考えられることでございます。これが仲裁機関において、仲裁に付する申し出書が仲裁機関に提出されたということによって仲裁手続が開始するという場合もあるわけでございますが、そういう場合には、その別段の合意があるということとして、仲裁機関に仲裁に付するその申し出書が提出されたときに仲裁手続が開始をする、こういうふうに考えたわけでございます。
山花委員 時効中断の効力とも絡んでいるわけですけれども、このモデル法二十一条の関係で、A案、B案検討された際に、どういった経過から今回のような提案になったのか。消滅時効の中断とかその時期についての立法趣旨について、もう一度ちょっと詳しくお尋ねをしたいと思います。
 あと、それと、通告はしていないんですけれども、通知をした日に時効中断効があるわけですけれども、この通知というのは書面によることが必要でしょうか。通常は内容証明などなのかなと。ただ、仲裁手続を開始しますよというのはそんなに争いが深刻になっていないケースもありますから、必ずしも当事者の意思としては、内容証明みたいなものを出さないで、それこそメールだとかほかの手段で利用するケースもあるんじゃないかと思いますけれども、この点についてはどうなっているんでしょうか。
山崎政府参考人 まず、時効中断の効力について、今回法文でうたっているわけでございますが、これは現在でも、現在法律に規定はないんですけれども、同じように解釈されております。この仲裁法には規定がないわけですけれども、別途の法律のところにその規定がございまして、この解釈に合わせるということでございます。ですから、そういう意味で、新しい規定というか、全く新しい規定ではないわけです。
 その趣旨は、要は、その仲裁手続をやっている間に、これがちょっと時間が長引いたという場合にそこで権利が消滅してしまうということであると、安んじてその仲裁の判断を仰ぐことができなくなるということから、これは裁判と並ぶ紛争解決手段でございますので、どちらを選ぶかという選択はございますけれども、そちらを選んでも裁判の訴えの提起と同様に時効を中断するということにしなければ仲裁が活性化しない、使ってもらえないという配慮から、このような規定を置いたわけでございます。
 それでは、どこからスタートするかということでございますけれども、仲裁は、合意が行われましていざ紛争が発生をするという場合に、片方の当事者、AならAからBの方に、私の方は仲裁人、これを選びますのでそちらで選んでくださいというような通知をするわけでございます。この通知が行くと、そこを開始というふうに見るわけでございまして、これについては、お互いにそういう通知が行った行かないということはそれほど書面に残してやるほどではなくて、割合その点は争いない場合が多いわけでございますので、そこのところは書面を要求しておりませんけれども、その通知が到達した時点から消滅時効の中断が行われるということでございます。
山花委員 ただ、仲裁これからやりましょうということ自体については恐らく争いはなかったとしても、それはそれとして、例えば、後で民事で消滅時効が争われるようなケースというのは、それは争いになっているわけですから、何か書面を、もうちょっときっちりとしたものを残した方がいいのかなという印象は受けないでもないですが、ただ、それを言うと民法上の消滅時効の一般原則もそうなんでしょうから、感想だけということにしたいと思います。
 ただ、ちょっと技術的な話かもしれませんけれども、例えば仲裁の申し立てをして、それで、つまり通知があって、そうすると時効中断したことには一たんはなるのですけれども、その仲裁の申し立ての後、仲裁の合意が取り消された、あるいは取り消しというのか、解除というのか、撤回というのか、いろいろなケースがあるんでしょうけれども、そうしたケースではこの時効中断の効力はどうなるんでしょうか。
山崎政府参考人 仲裁合意が取り消された場合は、仲裁手続を続行することができなくなるわけでございますので、その仲裁手続の終了決定がされるということになろうかと思います。そうしますと、仲裁手続が仲裁判断によらずに終了したものとして、時効中断効は生じなかったことになるというふうに解されているわけでございまして、そのことを明記したのが二十九条二項ただし書きであるということでございます。
山花委員 これ、また後日少し細かく聞きたいと思うんですけれども、本体たる契約とは別に仲裁の合意が独立した契約として存在して、それで、例えば仲裁がその契約自体に詐欺とか錯誤とかであれば無効とか取り消し原因ですので、遡及しますから、時効中断効がなくなるというのはまだ理論的にはわかるんですけれども、一たんある程度進んでいって、例えば、仲裁人がもうこれは私の権限ではないということを言い出したりして結局終了するようなケースというのはあるんじゃないかと思うんですけれども、ごめんなさい、それについては、また金曜日委員会がありますので、その折に少し詰めて聞きたいと思います。
 ところで、仲裁に付する申し出を書面によって行うべきものとするべきかどうかについてはなお検討を要するというのが中間まとめの段階の話だったわけですけれども、この点はどういう検討がなされて、今回どういった法律の形になっているのかということについてお尋ねいたします。
山崎政府参考人 中間取りまとめでは、書面で行うべきかどうかということを問うているわけでございます。この法案二十九条の一項では「仲裁手続は、当事者間に別段の合意がない限り、特定の民事上の紛争について、一方の当事者が他方の当事者に対し、これを仲裁手続に付する旨の通知をした日に開始する。」ということでございまして、この通知については、先ほども申し上げましたけれども、特段の様式を要求しない、これは民法上の問題もいろいろございますけれども、口頭によるものも有効であるとしているわけでございます。
 先ほど申し上げましたが、若干それにつけ加えさせていただきますと、これもモデル法がこのような立場をとっているということと、例えば、オンラインによって仲裁の開始の申し出をするとかそういうものも多々あるわけでございまして、書面ということではなくてほかの媒体による申し出、今後の社会を考えればこういうものを認めていくということにもなろうかと思いますので、ここはあえて書面によるという方式はとらなかったということでございます。
山花委員 時間が来ましたので終わりにしたいと思います。済みません、これの倍をはるかに超える量の通告をしていたんですが、時間が参りましたので終わります。
山本委員長 石原健太郎君。
石原(健)委員 仲裁制度はそのほかの紛争解決手段とどのように違うのか、説明していただけたらと思います。
山崎政府参考人 まず、裁判と比較をいたすわけですけれども、仲裁は、仲裁人に紛争の解決をゆだねるということでございまして、その仲裁判断に従う旨の仲裁合意を基礎とする制度であるということになります。仲裁判断が確定判決と同一の効力を有するという点では、民事裁判の判決と共通するというところになるわけでございますけれども、まず違うのは、裁判ではすべての者を対象にし得るわけでございますけれども、仲裁の場合はそれと異なり、仲裁の利用は当事者間に仲裁の合意がある場合に限られるという点が違ってくるということでございます。それから、手続のルールも、仲裁は原則として当事者が定めるということができるという点に大きな特徴を持っているわけでございます。私的自治の原則に従っているわけでございます。
 そういうところが形式的にはいろいろ違うということになりますけれども、実質的にどういうふうに違うかということでございますけれども、第一に、当事者が仲裁人をみずから選任できるということでございます。これによりまして、例えば、専門的知見を要する紛争についても、専門家を仲裁人に選任すれば適正な解決が得られやすいという特徴を持っているわけでございます。裁判を起こす場合に裁判官を選ぶというわけにはまいりませんので、その点でここは違うということが一つ言えるかと思います。
 それから第二には、仲裁はいわゆる上訴制度がないということでございまして、手続に非常に柔軟性があるということと相まって、紛争の迅速な解決が期待されるということでございます。
 これは、この条文の中に仲裁判断の取り消しという規定もあるわけでございますが、これは取り消しの事由が一定されておりまして、例えば公序良俗に反するとかそもそも仲裁に適しないものについて判断をしちゃったとか、そういう場合について裁判所に不満を言える、取り消してもらえるという制度でございますけれども、その仲裁判断の内容について不満があっても、これはもうそこで終わりということで、裁判所に不満だから取り消してもらいたいと言うことはできないというもので、ある意味じゃ一審限りの手続ということでございます。そういう意味では、早くなるということも当然あるということです。ただ、やり方によっては遅くなるというものももちろんございますけれども、そういう制度設計であるということです。
 それから第三の特徴は、これは非公開で行われるということでございまして、そうなりますと、例えば営業秘密やそれからプライバシーの保護が可能になるということでございまして、当事者にとって、法廷ですべての事実を明らかにするのではなくて、こういう手続を利用して紛争を解決してほしいという希望もあるわけでございまして、そういうことにも適した手続である、こういうような特徴があろうかというふうに思っております。
 それから、これは、ADR、裁判外紛争処理の一つ、その代表的なものでございます。そのもう一つ代表的なものとして調停という手続がございます。この調停という点は、自主的な紛争解決制度であるという点では仲裁と共通するところがございますけれども、その紛争解決にはその内容について当事者が合意することが必要であるということになりまして、また、その合意の効力も、裁判所で行う調停、これは判決と同じような効力があるわけでございますけれども、それを除きますと通常の民法上の和解ということでございまして、強制執行をするとかそういうことはできないというものでございます。
 そういう点では、仲裁につきましては第三者の判断にゆだねるわけでございますけれども、これを執行しようとする場合には、執行裁判所の執行の決定をもらいまして、最終的には強制執行ができる、こういう効力があるということで、調停とそこで大きく食い違ってくるということでございまして、そういう点で、ADRの中でも一番解決を強く行っていくパターンの解決方法であるということになろうかと思います。
石原(健)委員 詳しい説明をいただいて、仲裁の性格というものもよくわかりましたが、これまで仲裁が余り活用されなかった理由はどういうところにあるのでしょうか。
山崎政府参考人 これは、明治二十三年に現行法ができて以来、形式改正以外は全く改正をしていないという代物でございまして、何でそんなにほっておかれたのかということにもなるわけでございますけれども、やはり、どうしても日本人にはなじみがないというのがまず出発点にあろうと思います。何かやはり物事を解決してもらうためには、お上と言っちゃおかしいんですけれども、裁判所でぴしっと決めてほしいという感覚がどうもあるんじゃないですかね、日本人には。ですから、なかなか使わない。これが根底にあるのかなというふうに私は思います。それは推察でございますので、本当にそうかどうか、わかりませんけれども。
 それから、そうなりますと、余り使われないものですから、仲裁人の候補者、これもやはり十分ではないというふうに、どっちが鶏か卵かという問題はございますけれども、そういう問題になる、ますます使われなくなるという状況になります。
 それから、国際的な仲裁、最近はかなり行われていると思いますが、なかなかこれも日本の企業が嫌がったのは、言語の問題があるということでございまして、多分、外国と取引をした場合には、どの言語で仲裁を行うかといったら英語になるだろうと思います。日本人は語学に非常に弱いものですから、そういうところでなかなかこれを使わなかったということでございますけれども、最近はもう日本の方も英語が相当上手になっておりますので、使えるようになっておりますので、最近は仲裁を結構活用して行われるということになりますが、なかなか日本での仲裁は行われない、ロンドン、パリ、ニューヨークとか、そういうところで仲裁を行っているという例が多いというふうに聞いております。
 そういう中で、今回は、現行法の仲裁法、これを改正するわけでございますが、現行法の法律は片仮名で書かれておりまして非常にわかりにくい、それから使い勝手も悪い、要するに世界的な流れとは少し違う規定を置いているということもございまして、やはり仲裁が利用されてこなかったということになろうかと思います。
 一番使い勝手が悪いのは、典型的に申し上げれば、現在の仲裁法は、当事者が仲裁人の人数を定めれば別ですけれども、合意しないときは、原則として仲裁人は二人という規定を置いているわけでございます。AとBが仲裁契約を結んで、それぞれが仲裁人を選定するわけでございます。この二人で仲裁を行います。意見が可否同数のときはそこで仲裁が終了してしまう、こういう規定になっているわけでございます。これは明治十年にドイツの法律ができたのをそのまま入れたものでございまして、現在、世界の潮流は三人でございます。
 要は、二人でやっていますと可否同数になるのは当たり前ですね、普通でいけば。そうすると、そこで仲裁は終わっちゃうんですね。これじゃもう本当に使ってみても意味がないということにもなりますし、世界の国々が日本と仲裁合意をして日本で仲裁をやろうという気にならないんだろうと思いますね。こういう点が非常に問題があるということで、今までずっと指摘がございました。
 私どもも、政府としては、法務省を中心にかなり前から改正をしなければならないということは意識はしておりましたけれども、その間、民事法制の大幅な変革、特に手続法の変革という波がございまして、なかなかやる時間がなかったということで、最終的に今回提出ができたということでございます。
 なお、私的なことながら申しわけございませんけれども、UNCITRALのモデル法、これが成立しましたのが昭和六十年でございまして、その会議に出席していたのが私でございます。その当時からやらなければならないという意識はずっとございましたけれども、なかなかできなかったということで、今回、国際的な仲裁と国内的仲裁、それを含めまして独立の法律ができるということで、私もほっとしているというところはございますが、ぜひ御承認をいただきたいと思います。
石原(健)委員 仲裁の現状についてお尋ねします。
 現在、国内の主な仲裁機関にはどのようなものがあり、それら仲裁機関の取扱件数はどのようになっているでしょうか。今後どのような分野で活用されることが考えられるのか、お話しいただけたらと思います。
山崎政府参考人 現在我が国にございます例えば民間の常設機関を申し上げますと、日本商事仲裁協会、これは前は国際商事仲裁協会といっておりまして、国際的な取引に関してやっておりましたけれども、「国際」がとれましたので、我が国国内のものについても行うということでございます。それから日本海運集会所、それから日本知的財産仲裁センター、それから各単位弁護士会の仲裁センター等があるわけでございます。それから、公的な機関といたしまして、建設工事紛争審査会、これは建設業法に基づくものでございまして、これがございます。それから労働委員会、それから公害等調整委員会、こういうものが公的な機関としてあるということでございます。
 建設工事紛争審査会、件数の上からでも従来からかなりの実績を上げているということでございます。これは完全な網羅的な統計がないので、完全に正確かどうかはちょっと御勘弁をいただきたいと思いますけれども、平成十三年で見ますと、建設工事紛争審査会、これが三十五件、それから日本商事仲裁協会七件、日本海運集会所六件、それから弁護士会仲裁センター十三件、こういうような実績でございます。
 これは、ちなみに申し上げますと、諸外国では結構数が多いわけでございまして、例えばアメリカ仲裁協会、AAAといっておりますけれども、ここですと、二〇〇一年でございますが、六百四十九件という数字でございます。そのほかも世界のいろいろな仲裁センターございますけれども、何百件台という状況でございまして、日本としては非常に少ない。少ない中でも、建設工事の紛争審査会、これがかなりの機能をしている、こういう状況でございます。
石原(健)委員 第十五条で、仲裁手続の開始前または進行中に、裁判所に対して保全処分の申し立てをすることを妨げないものとするとありますけれども、この規定は仲裁本来の趣旨、目的にそぐわない感じもいたしますが、どうしてこのような規定が置かれているのでしょうか。
山崎政府参考人 確かに御指摘のとおり、もともと合意の上で自治的にやりなさいという中で強制力を使うということになるわけでございますが、この法案でも規定を置いておりますけれども、仲裁判断が行われまして、これを執行しようとする場合に、任意にその履行に応じてくれればそれにこしたことはないわけでございますけれども、最終的にそれに従っていただけないということになれば、執行決定というのを裁判所にもらいまして、まあ一定の除外事由がありますけれども、そこに当たらない限りは決定がもらえるわけでございます。決定がもらえますと強制執行することができるということで、財産等を差し押さえるわけですね。それで競売にかける、こういう形になります。
 そうなりますと、最後、そういう手段を持っているところで、財産はせっかくあるのに、話し合いをする前とかあるいは話し合いをしている最中、これで財産が移転されてしまうということになれば、最終的な履行が確保されるかどうか、ちょっとわからないわけですね。これではやはりちょっと紛争解決としては足りない。最終的には、仲裁は当事者の合意でやっていただきますけれども、足りないところはやはり国家がお手伝いをするというシステムでございますので、そうなりますとやはり、事前に財産を凍結しておくという意味の保全処分、これはその利用を認めなければおかしいということになるわけでございまして、そういう関係からこの規定を置いているということになろうかと思います。
 例を挙げれば、売買契約の当事者がその当該売買契約から生ずる紛争について仲裁合意を締結いたしまして、仲裁によって売り主が買い主に対してその代金の支払いを求めようとしている場合については、この代金債権を保全するために、買い主の所有の例えば不動産に仮差し押さえ命令、これをかけて保全をしていくということが可能である、こういうことでございます。
石原(健)委員 第二十七条の関係ですが、「遅滞なく」という言葉が使われていますけれども、これはどのくらいの期間を指すのでしょうか。
山崎政府参考人 確かに御指摘のとおり、当事者間の異議を述べるべき場合、それが期限の定めがあるという場合については、その期限までに異議を述べなければならないと括弧書きでそういうことが書かれております。それで、では、期限について定めがない場合、そういう場合についてはどうかというと、遅滞なく異議を述べる必要がある、こういうふうにうたっております。
 これは、同じような文言は、民事訴訟法の九十条にも置かれておりまして、そこで「遅滞なく」という意味は、異議を述べ得る最初の機会に直ちに、こういう意味だというふうに言われているわけでございます。例えば、当事者に対する期日の呼び出し状を送達しないまま期日を開き、証拠調べをした場合には、その次回の期日に、そこで異議を述べなければもう遅滞したことになるということでございます。
 この仲裁法でいった場合はどういうことが例えば考えられるかということでございますが、これは比較的、場合によってはあるんじゃないかと思うんですけれども、当事者が仲裁合意で使用する言語を日本語であるということで定めたということで始まって、口頭の審理期日があるわけですけれども、そこでいきなり相手が英語で始めてきたという場合、そういう場合にも、直ちにそこで異議を述べないと遅滞をしたことになって、後、英語でやられてしまうおそれもあるということでございます。そういう例が仲裁の中では考えられるということでございます。
石原(健)委員 二十八条の第三項の規定を置いた理由をお聞かせください。
山崎政府参考人 まず、二十八条の規定でございますけれども、仲裁地は当事者が合意によって定めるところによるということになるわけでございますが、これは、仲裁地が定まりますと、裁判所の協力を得たい場合もその仲裁地の裁判所とか、仲裁地というのがいろいろなものの基点になってくるわけでございます。
 そこで、定めたところで仲裁のいろいろ審理手続を行っていくということになるわけでございますけれども、当事者それから仲裁人、複数いる場合、それからあるいは証人等の所在地が異なるというような場合、そうなりますと、審理や仲裁人間の評議を仲裁地のみで行うということになりますと、その都度関係者が参集するということが必要になってくるわけでございます。そうなりますと、かえって審理が遅延してしまうというおそれもあるということから、場合によってはそれで過大な費用がかかるということにもなるわけでございます。
 そこで、こういうようなことを避けるため、当事者間に別段の合意がある場合を除いて、仲裁廷の判断により、仲裁地以外の場所で審理等を行うことができるということにしたわけでございます。当事者の便宜と迅速のため、こういう理由でございます。
石原(健)委員 三十一条三項の関係ですけれども、「時機に後れてされたもの」というのは全くケース・バイ・ケースと考えてよろしいのでしょうか。
山崎政府参考人 基本的にはケース・バイ・ケースということになろうかと思います。
 例えば、それを抽象的にちょっと申し上げますと、通常の事案であれば、変更または追加をすべき適切であったと考えられる時期、これを過ぎちゃったという場合になろうかと思います。それからまた、それまでの仲裁手続の状況や、その時点まで当該変更または追加がされなかった正当な理由があるかどうか、その理由の有無、これを考えなきゃいかぬということになります。それから、変更または追加を許した場合の仲裁手続の遅延の有無、あるいは反対当事者との公平、真相解明のために変更または追加を許すことの必要性、こういうものが総合勘案されるということになろうかと思います。
 これでも非常に抽象的でわかりにくいと思いますが、具体的に申し上げますと、仲裁手続の中で、当事者双方の陳述に基づいて争点が整理をされた、証拠調べも終了したという段階において当事者から陳述の変更または追加がされたような場合、こういうような場合は、せっかくそれでやってきたのにこれで手続がおくれてしまうということで、そこで主張が制限をされるということもあろうかと思います。
石原(健)委員 三十四条には鑑定人の規定がありますけれども、仲裁手続における鑑定人はどのような立場で鑑定を行うのでしょうか。
山崎政府参考人 現在では、仲裁が用いられる範囲、非常にこれは拡大しておりまして、専門分野の細分化も進んでいるという状況でございます。仲裁人が常に十分な範囲の専門知識を保持するということは困難な時代になっております。そこで、仲裁人が必ずしも十分な専門知識を有しない問題点について、他の者を鑑定人に選任することによってその知識等を補充するということを認めるのがこの規定でございます。
 この鑑定人は、仲裁人を援助する立場の者でございます。したがいまして、仲裁人と同様に公正中立な立場で自己の専門的知識を仲裁人に提供する、こういう立場にある者でございます。こういう制度を設けて、速やかにいい判断ができるようにということでございます。
石原(健)委員 仲裁人なり仲裁廷が選ぶ場合に、基準みたいなものは特別考えられなくてよろしいんですか。
山崎政府参考人 これはケース・バイ・ケースでございますので、特段基準があるというわけではございませんが、そこの専門的知識に一番匹敵するお人、それから、これは任意で協力していただくわけでございますので、任意に協力していただける方、こういうことになろうかと思います。
 それから、先ほど申し上げましたように、中立公正な立場で鑑定を行える人、こういうことだろうと思います。
石原(健)委員 三十五条の関係の裁判所により実施する証拠調べですけれども、仲裁廷のほかに裁判所が証拠調べができるとしているのはどうしてなんでしょうか。
山崎政府参考人 仲裁廷は、当事者の仲裁合意に基づいて審理、判断をするという立場でございますので、伝統的に、仲裁廷には訴訟において認められるような強制的な権限、これは認めないということで仲裁というのは一般的に考えられているわけでございます。
 しかしながら、仲裁合意の対象の紛争であっても、訴訟におけるのと同様の事案の解明、この手段を十分に保障する必要があるということになります。全くそれができないということになると、真相解明ができなくなる、判断もできなくなるということでございます。
 例えば、第三者から事情を聴取するような場合には、任意に協力してくれない限り、仲裁手続においては事情聴取することができないわけであります。これでは正しい判断ができないということになりますので、そういう場合には、裁判所の方も後見的にお手伝いをするということで、裁判所の方に申し入れて証拠調べをしてもらえるということにしているわけでございます。
 そういう関係からこのような規定を置いているということで、これは新しい規定ではなくて、現行法でも置いているものだということでございます。
石原(健)委員 終わります。ありがとうございました。
山本委員長 木島日出夫君。
木島委員 日本共産党の木島日出夫です。
 法務大臣にお聞きしますが、仲裁の本質というものをどうとらえていますか。
森山国務大臣 仲裁は、当事者が、裁判所以外の第三者に争いを判断させ、その判断に服することを合意し、その合意に基づき紛争を最終的に解決する制度でございまして、その本質は当事者自身による裁判外の紛争解決手段、いわゆるADRでございます。
 司法制度改革審議会の意見におきまして指摘されましたように、社会で生じる紛争につきまして、事案の性格や当事者の事情に応じた多様な紛争解決方法を整備することは、司法を国民に近いものといたしまして、紛争の深刻化を防止する上で大きな意味があると存じます。そこで、司法の中核たる裁判機能の充実と並んで、ADRが国民にとって魅力的な選択肢となるようにその拡充、活性化を図るべきであると考えるわけでございます。
木島委員 答弁はADRということですが、単なるADRではないですね。仲裁の本質は私設裁判だ、これはもう民事法学者の共通した認識です。両当事者間の民事上の紛争解決を裁判以外の仲裁廷に委任し、そこの裁定にすべてゆだねる。もっと言いますと、裁判を受ける権利を放棄する、そこに本質があるんじゃないかと思います。
 両当事者の仲裁合意による裁判を受ける権利の放棄。だから、一たん仲裁合意がありますと、仲裁廷にすべてをゆだね、どんな仲裁廷の判断がなされようと裁判を起こせない、それが仲裁の本質だと思うんです。
 そこで、突っ込んで聞きますが、憲法三十二条には「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。」という大原則があります。しかし、この憲法上の権利を民事の両当事者が自主的に放棄するというところに仲裁の本質があるんじゃないか。そうしますと、仲裁の合意というものを安易に認定されますと、裁判を受ける権利が侵害されることにつながりかねない、そういうおそれを持った制度だということを私は感じるんですが、法務大臣はそういう危惧を持たれませんか。
森山国務大臣 確かに、両当事者が合意いたしまして、裁判ではなく仲裁にゆだねよう、その決定に従おうということでありますので、裁判にはしないという意味で、おっしゃるような問題がないとは言えないと思います。
木島委員 そこで、そういう根本的な問題を持っているというのが仲裁合意ですから、法案第二条は定義が非常に大事だ。
 「この法律において「仲裁合意」とは、既に生じた民事上の紛争又は将来において生ずる一定の法律関係に関する民事上の紛争の全部又は一部の解決を一人又は二人以上の仲裁人にゆだね、かつ、その判断に服する旨の合意をいう。」
 現に発生している紛争解決だけじゃなくて、将来において生ずる一定の法律関係に関する民事上の紛争の全部、一部の解決をゆだねていくということも仲裁合意の中に含ましめているわけであります。そこが非常に大きな問題をはらんでいるんじゃないかと思います。
 そこで、法務大臣に聞きますが、そこに危惧を感じたんでしょう、この法案は、附則におきまして二つの例外をつくりました。
 一つは、消費者と事業者との間の仲裁合意を解除できるという条文を入れました、附則で。それからもう一つ、個別労働関係紛争についての仲裁合意は無効とした。いずれも将来の争いに関するこうした合意です。まだどんな争いが発生するかわからない段階で消費者と事業者とが契約をした、その中に仲裁合意があったときは解除できる。将来の労使間の紛争がある、しかし今はない、そういう段階で労使が仲裁合意をした、そういうのは無効だという歯どめをかけました。
 大臣に聞きます。何でこの歯どめがかかったのでしょう。
森山国務大臣 仲裁は、今おっしゃいますように、仲裁人の判断に服するという合意に基づく制度でございますので、仲裁人の判断に不服があっても、後で裁判で争うことができないわけでございます。
 この点、消費者は、物品の購入等の契約の際に、仲裁の意味を理解していないという方が多うございますし、仲裁の意味を仮に理解しておりましても、事業者との交渉力の格差から、仲裁合意を結ばざるを得ない場合が多いというふうに思われます。
 また、労働者は、労働契約を締結する際に、仲裁の意味を知らないということが多く、仲裁の意味が仮にわかっていても、事業主との交渉力の格差から、事業主の提示した内容で仲裁合意を結ばざるを得ない場合が多いのではないかと思われます。
 そこで、この法律案では、消費者と事業者間の仲裁及び個別労働関係紛争に関する仲裁について特則を設けることにしたものでございまして、これらについて特則を設けることにすれば十分ではないかと考えたわけでございます。
木島委員 要するに、こういうことですね。消費者と事業者の間には大変大きな力関係の格差がある。労働者と雇用する事業主との間にも大変な力関係の格差がある。そういう力関係の格差がある両当事者が、まだ将来どんな争いが発生するかわからない段階で、仲裁に服しますなんという合意が結ばれたとすれば、後になって実際紛争が起きた、こんなもの、裁判で自分の権利を守らなきゃいかぬと思っても、裁判を受ける権利が失われてしまう。
 そういうのは余りにも、社会的弱者の方ですね、消費者と事業主なら消費者が弱者、労使なら労働者が弱者、弱者の方の裁判を受ける権利だけは保全しよう、そういう立法の趣旨が辛うじて附則に盛り込まれた、そう聞いていいですか。
森山国務大臣 おっしゃるとおりでございます。
木島委員 そうしますと、我が国において力関係が圧倒的に格差のあるのは、消費者契約法に基づく消費者と事業主、あるいは労使関係の労働者と事業主だけではありません。事業をやっている企業対企業の取引でも、圧倒的力関係の格差のある契約がたくさん日本社会にあります。
 挙げてみましょうか。製造業、下請契約。圧倒的な力のある発注者と、全く個人事業主と言っていいような力のない事業主とが下請関係に入ります。流通もそうです。運送なんかもそうでしょう。圧倒的力のある大きな発注者と、まあ白トラックを持っているような、そういう事業主たる運送事業者との結ぶ契約、圧倒的力関係の差がありますね。
 そうすると、この仲裁法でせっかく消費者契約法に基づく消費者対事業者の場合は解除ができる、労使関係の場合は将来の紛争についての仲裁合意が無効だ、そこまで社会的弱者を救済しよう、守ってあげようという配慮をしたのなら、そういう圧倒的力関係の差のある大企業と本当に零細企業とが結ぶ、あるいは結ばざるを得ないような下請契約とか、流通もそうですよ、コンビニ契約なんてそうでしょう、そういうのも、まだ将来どんな紛争が発生するかわからないような段階で結ばざるを得ないような、結んでしまうような仲裁合意は、無効ないしは取り消すことができるという救済措置を入れるべきではなかったか。何でそういうのを入れなかったのでしょう。
森山国務大臣 契約の当事者がいずれも事業者の場合につきましては、消費者契約には該当いたしませんし、附則第三条による保護を受けることはできないということになっております。これは、事業者間の契約については、当事者がいずれも事業に関して締結するものでございまして、事業者間の契約を一般的に保護する規定はないということによるものでございます。
木島委員 だから、私は言うんですよ。両当事者は確かに事業者だと。下請契約なんかそうですよ。圧倒的力を持った発注者、本当にしがない工賃稼ぎして日々生活をしているような零細弱小の事業者とが契約を結ぶんです。製造契約でしょう、部品をつくる契約。しかし、下請の方は、契約書に判こを押さなければ仕事がもらえないから、あしたから生活できない。今、日本の下請業者、みんなそういう状況で苦しんでいますね。そういう下請契約書の一番末尾に、この契約に関して発生した将来の紛争についての解決は裁判をしてはならぬ、仲裁でやるというような一項目が書かれていた、それが不服だといって、契約締結を拒絶できないでしょう。契約締結を拒絶したら、あしたから生活できない、生きていくことができないという状況に置かれているんですからね。
 ですから、今大臣は、事業者が両当事者の場合には附則による救済はないんだとおっしゃいましたが、余りにもそれは、対等、平等の力を持った事業者同士の仲裁合意ならいいですよ、私は。そんなの文句言いません、裁判は嫌だというので仲裁廷に任せるという合意、結構ですよ。あるいは、今、現に機能しているのは国際間の商事取引でしょう。そういう国際取引をするような、言ってみれば社会的力のある日本の企業とアメリカの企業が仲裁合意を結んで、仲裁廷に判断をゆだねて、日本の裁判所やアメリカの裁判所で裁判を受けることはやめようというのは、いいですよ。
 しかし、そういう圧倒的力関係の差のある事業者同士の場合は、消費者と事業者との契約と、ほとんど実質、同じじゃないですか。労使間とも、実質、力関係の差といえば同じじゃないですか。どうしてそこまで手当てしてあげなかったんでしょうか。これからでも遅くないから、そういう附則をつくるべきじゃないですか。
森山国務大臣 契約にはいろいろなものがございまして、先生のおっしゃるようなものも現にあると思いますし、個人と大企業というのもありますし、いろいろなレベルのいろいろな人がおりますので、どこかでけじめといいますか、仕切りをしなければならないということになりますと、とりあえずこのようなやり方が適当なのではないかということで考えられたわけでございます。
木島委員 私はなぜこういうことを言うかというと、やはり契約が取り結ばれる、こういう大企業と零細との間で結ぶ契約なんというのは、大体大企業が契約書をつくっているんですよ、ひな形を。約款といいますわ、非常に何十条とある、大企業に有利なことが、ずっと条文がありますよ。その末尾に、仲裁合意を結ぶなんというようなことを書かれるんです。
 そういう基本たる契約、下請契約またコンビニ契約その他その他、そういう契約を結ばざるを得ないような、不満でも、将来争いが起きたら裁判を受けたいと思っていても、そういう仲裁合意があるということゆえに、契約を拒絶できないぐらいに力関係の弱い当事者が心ならずも結ばざるを得ないような仲裁合意は、これは仲裁合意として無効ないし取り消しできるということにしてもいいんじゃないですか。あるいは、そうなりませんか、そうできませんか。
 では、これは事務局長に。そうなると言ってくれれば非常に結構なことだけれども。そういう仲裁合意は無効だと。
山崎政府参考人 基本的に、先ほど大臣から御答弁させていただきましたけれども、委員が御指摘の事業者間の格差、これは、では事業者間でどういう基準で格差があるかということをはっきり線が引けないんですね、まず。それから、やはり事業者は、独自で行動を判断して動けるということが前提なのが事業者でございます。そこで、そういう基準は置いていない。
 仮に、今委員が御指摘のとおり、では本当に詐欺とか強迫的な状況の中で意思表示をしたということになれば、そういう影響があるようなものについては民法上の規定があるということで、それが無効であるとか取り消せる、そういうようなことになるわけでございまして、そこは一般の民法上の仕切りにゆだねる、こういうふうに考えたわけでございます。
木島委員 事は裁判を受ける権利、憲法三十二条ですべての国民に保障された権利が、心ならずも締結せざるを得ない仲裁合意、これはもっと言えば下請契約の中に盛り込まれるような仲裁合意に書き込まれている。それを今、事業者間の契約だから有効だなんという答弁では、私は、この法案の中心部分に憲法違反のそしりも受けかねないような重大問題が秘められているということを指摘して、そればかりやっているわけにいきませんから、次の質問に移ります。
 では、この附則に、消費者契約における仲裁合意と個別労働関係に関する仲裁合意を無効あるいは解除できるとしたんですが、それは結構なんですが、「当分の間」なんという余分な四文字がついていますね。何でこんなものを「当分の間」にするんですか。そんな力関係が差があるのなら、最初から永久に無効、解除できるとしたらいいんじゃないですか。「当分の間」というのはどのぐらいの長さなんですか。
森山国務大臣 現在の国内における仲裁制度の利用は非常に少のうございまして、仲裁制度が国民に広く理解されているとは言えないのが現状でございます。
 そこで、仲裁制度の利用状況の推移とかADR機関の発展を踏まえまして、仲裁についての理解の深まりの程度を前提といたしまして、消費者契約及び個別労働関係紛争の特性やその紛争処理のあり方について検討いたしました上で恒久的な措置を検討する必要があると考えられるわけでございます。この措置については、今後、内閣府国民生活局及び厚生労働省においてそれぞれ検討されるものと承知しております。
 「当分の間」という期間につきましては今後の検討ということになりますけれども、担当部局におかれましては、先ほども挙げましたいろいろな点を考えあわせられまして、相当の時期に見直しをされるのではないかというふうに期待しております。
木島委員 次に、では、つくられる仲裁廷が何によって仲裁判断を下すかの、仲裁判断における準拠すべき法について聞きます。法案第三十六条であります。
 これが裁判であれば、法と証拠に基づいて厳格な判決が下されるんですね。それが不服なら当事者は二審、三審と最高裁まで自分の権利主張ができる、しかし仲裁はそれが全くない。
 それで、仲裁廷は何に基づいて判断するのか。三十六条には一項で、仲裁廷が仲裁判断において準拠すべき法は当事者が合意によって定めるところによると。何に基づいて仲裁判断をするのかのその判断の準拠法も当事者の合意だと。それは仲裁の本質だから、それでいいでしょう。
 この法というのは何ですか。日本法による、あるいはアメリカ法による、そういう大きな日本法によるというものなんですか。それとも、日本国内の争いに関して、例えば民法があり、商法があり、民事特例法があり、さまざまな社会立法があります。社会的弱者を救済するたくさんの法があります。当事者は仲裁合意において特定していいんですか。
森山国務大臣 仲裁廷が仲裁判断において準拠すべき法というのは、第一に当事者が合意した法になります。ですから、例えば仲裁の対象となる契約上の紛争についてフランス法を準拠すべき法律とするという合意ができましたら、その契約の効力についてはフランス法が準拠法となるというようなぐあいでございます。
 ただし、当事者の合意が我が国の強行法規に違反する場合には、その合意に基づいて仲裁判断をすることはできませんし、そういう制約はございますけれども、基本的には当事者の合意ということになるわけでございます。
木島委員 はあ、そうですか。
 それでは、当事者が合意しても絶対そういうものに準拠してはならぬという合意は、日本の場合、強行法規に反する約束をしても、それはだめだということだけですか。強行法規だけですか。
 もう商法は適用しない、民法でいこうとか、あるいは、強行法規とまでは言えないけれども、社会的弱者を救済する法体系はたくさんありますね、日本に。行政法規もあるでしょう、民事法規もあるでしょう、商事法規もあるでしょう、社会的弱者を救済するための法律だが強行法規とまでは解釈できないもの、そういうのを排除するという仲裁合意をしたら、それは有効ですか。そんなものに拘束されたら、社会的弱者はどうなるんでしょう。強行法規違反だけですか。
山崎政府参考人 基本的には、ここの仲裁判断の取り消しのところにはっきり書かれておりますけれども、公序良俗違反のものはいかぬということが書かれておりますけれども、それ以外の点については取り消しの事由にもなっておりませんので、それは当事者間の合意で行われるわけでございますので、そこを制限するものはないというふうに理解をしております。
木島委員 そうすると、これは大変な問題が生ずるわけでありまして、大臣、さっき、社会的強者と社会的弱者との間で取り結ばれる仲裁合意も有効だ、消費者でなければ、力関係の差があっても事業者間の取引契約なら将来発生する紛争に関する仲裁合意も有効だと。ただ、その仲裁合意は、強行法規に反するような法律で仲裁をしてはいかぬぞということだけだということですね。
 今確かに事務局長おっしゃったように、法案でいくと、仲裁の取り消し、四十四条と、仲裁判断の承認という裁判所がやる承認、四十五条、このところに、公序良俗に反することはいかぬと。公序良俗に反する仲裁判断に対しては取り消し請求もできるし、裁判所は執行文の付与といいますか、強制執行ができる、そういう承認、仲裁判断の承認をしなくてもいいと、公序良俗に反する場合のみが書かれているんですよ。何か私はよくわからないですね。
 では、強行規定ではない、いろいろな社会的弱者を守る法が、日本にはたくさん法体系がある、そういうものは全部公序良俗違反として、日本にあるさまざまな社会的弱者を救済する法律に反するような仲裁判断が下ったときには、四十四条の公序良俗に反する仲裁判断として取り消しできますか。あるいは四十五条に基づいて、そういう仲裁判断には裁判所は承認しない、執行できないというところで救済されることになるんでしょうか。全然この法律ではわかりません。答弁してください。
森山国務大臣 著しく社会的な公正にもとるような判断が下った場合には、先ほど事務局長がお話し申し上げたような公序良俗に反するということになるのではないかというふうに思います。
山崎政府参考人 具体的にどの法律ということを私はちょっと申し上げられませんけれども、民法で一応の原則が決まっていて、それから弱者保護の法律がもしできておるとすれば、それは一種の強行法規的な考え方になるんだろうと思います。ですから、それに照らしてということで、そこを全く排除するような仲裁判断が出たときには、先ほど申し上げました、八号ですか、この問題にもなり得るということだろうと思います。
木島委員 大変大事な答弁ですね。
 例えば、下請代金遅延防止法という法律があるんですよね、下請契約を律する。これは民法じゃないでしょう、社会法でしょう。下代法、下代法と言っています、経済産業省所管でしょうか。不十分でありますが、一定の規制はありますよね。それが強行法規かどうかはちょっとわかりません、私も、まだ勉強していません。しかし、そういういろいろな日本の社会立法には、民事法上の強行法規なのか、私的約束によってねじ曲げていい強行法規でないのか、グレーゾーンとかいろいろあるんですね。
 そうすると、今の事務局長の答弁は、さっき大臣の答弁、最初の答弁は、強行法規違反の仲裁合意はだめだよと言ったけれども、もうちょっと広げてくれるわけですね。強行法規に準ずるような社会的弱者救済の法体系に反するような仲裁合意とか仲裁判断とかいうのは排除できる、もっと言えば、取り消しができるし、執行文を付与しないということを、広げて結構ですね。それなら、大変立派な答弁になる。
山崎政府参考人 要は強行法規の解釈でございまして、それに準ずるということと広げるかどうかはまた別でございます。この法律が強行法規の性格を持つか、そこの判断であるということでございまして、ちょっと具体的な法律については、現在、これだというものをちょっと申し上げることができませんけれども、一般論はそういうふうに御理解をいただきたいと思います。
木島委員 怪しくなってきましたが。
 法案第三十六条の第二項には、要するに、「前項の合意がないときは、仲裁廷は、仲裁手続に付された民事上の紛争に最も密接な関係がある国の法令であって事案に直接適用されるべきものを適用しなければならない。」これは恐らく、当事者が日本の企業と日本の国民の場合なら日本法を適用しようという意味なんでしょう、特別に合意がないときは。そして第三項には、「仲裁廷は、当事者双方の明示された求めがあるときは、前二項の規定にかかわらず、衡平と善により判断するものとする。」とありますね。「善により判断する」なんて、まことに倫理的な言葉が入り込んできたんですが、これはどういうことでしょうか。
森山国務大臣 衡平と善というのは、その事案に適した具体的正義の原理を適用するということだと思います。衡平と善の区別というのは明確ではなくて、あわせて一つの言葉として使われることが普通であると聞いております。
木島委員 そうすると、この仲裁判断において準拠すべき法第三十六条三項の衡平と善という言葉と、仲裁の取り消しを規定した四十四条の公序良俗に反するものは取り消せるという場合の公序良俗という言葉と、四十五条の仲裁判断の承認、執行文の付与ですね、この場合も裁判所は承認しなくてもいいという場合の公序良俗、その公序良俗とこの衡平と善というのはイコールでしょうか、違うんでしょうか。
山崎政府参考人 ちょっと専門的なことでございますので、私の方から答弁させていただきます。
 衡平と善ということは、今大臣からも御答弁ありましたけれども、その事案に適した具体的正義の原理の適用ということでございます。すなわち、準拠法のルールに従って法令を適用した場合に具体的結果が正義に反すると考えられる場合に、その法令を適用せず、事案に応じて妥当な解決を図るということでございます。
 公序良俗の問題は、社会的妥当性のことをいうこととされておりますけれども、公序良俗違反は仲裁判断の取り消し事由の一つであるということですから、こちらの方がはるかに重いといえば重い事由でございまして、衡平と善というところは、その結果が社会的に見て余り妥当とは言えない、平等とは言えない、しかしそれが、平等ではないから衡平と善に基づいてやるわけですけれども、その結果が、では、公序良俗に違反するとまで、それほどの違法性の高いものというわけではないということで、おのずとこの間には差があるというふうに私の方は考えております。
木島委員 では、一つ設問を出してみましょうか。交通事故が起きました、あるいは損害賠償事案が起きました。被害者と加害者が争います。調停になります。いろいろ調停で話し合いをして、被害者の方は、せめて五千万の損害賠償は当たり前だと要求して頑張る。加害者の方は、まあこれは二千万ぐらいがいいところだというので争う。日本の判例体系もある、徹底的にこれが裁判になれば三千万ぐらいの判決がもらえそうだというような事案のときに、五千万か二千万かで争っちゃって、結局調停が不調になる。そして、その段階で仲裁合意ができた、では仲裁廷に任そうといったときに、その仲裁廷の仲裁官が一千万で仲裁しちゃったと。
 要するに、日本の法体系あるいは判例体系から想定される一定の枠ですね、その枠からはるかはみ出したような仲裁の金額を出したというような場合には、公序良俗違反で取り消しできますか。あるいは、そういうことを仲裁廷はやっちゃいかぬ、あるいは判例で予想されるような枠の中で仲裁しなさいよという制約は仲裁廷には課せられるんでしょうか。この法案はどういう基本的スタンスに立っているんですか。
山崎政府参考人 その点につきましては、一千万だからといって公序良俗に違反するというふうには考えられません。そういう判断について最終的にはゆだねたということでございますので、それは幾ら何でも、その一千万が公序良俗違反か、これが十円だということになれば……(木島委員「では、百万の場合」と呼ぶ)それは事案、事案によってでございますけれども、ちょっと百万といっても、どういう事案か、態様なのかをきちっと判断しなければなりませんけれども、仮に二千万から一千万という範囲でそれが公序良俗違反かと言われると、一般的にはそうではないだろうというふうに考えております。
木島委員 時間ですから終わりますが、これは裁判権の放棄でありますし、裁判権を行使できないという仲裁の合意という本質からいって、仲裁合意が本当に対等、平等の両当事者間の真意に基づく合意でなければ、そしてもう一つは、仲裁廷が本当に中立公正の立場に立って仲裁が行われなければ、どんな法律に準拠して仲裁が行われるかあたりもしっかりしたものがなければ、私は、社会的強者のためのものにこの仲裁法が使われる、そして、社会的弱者は知らぬうちに契約書にサインしたら裁判を受ける権利も投げ捨てたような結果になった、そんなことがこの仲裁法から生み出されたら断じてこれは容認できないと思いますので、きょうで終わりじゃありませんから、この次また質問します。きょうのところは終わります。
山本委員長 保坂展人君。
保坂(展)委員 社民党の保坂展人です。
 法務大臣に伺いますけれども、国民にわかりやすく、仲裁というのはなかなかなじみがないという話が出ておりますけれども、仲裁と調停の違いというのをわかりやすく説明するとすれば、どんなことになるんでしょうかね。
森山国務大臣 確かに仲裁というのはなじみがございませんで、百年以上にわたって抜本的な改革もされないでそのまま参ったようなものでございますので、多くの方が御存じないということは普通に考えられることでございます。
 まず、仲裁というのは裁判外の紛争解決手段の一つでございますが、紛争解決について第三者が判断し、その判断に当事者が拘束され、かつ、当該判断に基づく強制執行も認められるのに対しまして、ADRの他の調停等にありましては、紛争解決の内容についても当事者が合意するものであって、かつ、裁判所が行う民事調停等の一部のものを除いて、一般のADRとして行われる調停は民法上の和解の効力を有するにとどまる点が違うかと思います。
保坂(展)委員 なかなか、ちょっとわかりにくかったような気がするんですけれども。要は、当事者を直ちに拘束するところが仲裁であって、当事者間の互いの了諾といいますか、これを求めるところが調停だというような理解かなとは思いますけれども。
 これはきょう議論になっていますが、これだけ放置されてきた、一八九〇年からもう何年たっているんでしょうか、百十年以上たっていた原因というのは、大臣の所感として何が原因だったと思われますか。
森山国務大臣 この仲裁法制の見直しにつきましては、最近の経済活動の国際化に伴いまして、仲裁制度を利用して国際的な紛争を解決することが重要になってきたということが一つございます。昭和六十年に、国際連合の国際商取引法委員会におきまして国際商事仲裁模範法が採択されてからは、各国で仲裁法の制定や改正が活発に行われてまいりました。
 国内においても、紛争の多様化に伴いまして、仲裁制度等の、裁判によらない紛争解決制度を整備する必要性が叫ばれてまいりました。そのような状況から、司法制度改革審議会の意見におきまして仲裁法制の整備が取り上げられたわけでございます。しかし、近年においてこのような法改正の動きが高まるに至るまでは、我が国における仲裁制度の利用が低調であったということもありまして、抜本的な改革がされないままに過ぎてしまったのでございます。
保坂(展)委員 山崎事務局長に伺いますけれども、一九八五年ですか、昭和六十年の会議の場にいらっしゃったということですけれども、私、広辞苑を引いてみたんですけれども、ちょっと聞いてください、どっちについての説明なのか。「争いの間に入り、双方を和解させること。仲直りの取持ち。」「当事者双方の間に第三者が介入して争いをやめさせること。」これは仲裁、調停、いずれを指している広辞苑の解説か、どういうふうに専門家として感じますか。
山崎政府参考人 ただいま読まれました仲裁というのは、けんかの仲裁のような感じで聞こえるんですが、けんかの仲裁というようなイメージでちょっと聞こえるわけでございますが、第三者が入って、どちらかにしろというふうに裁くということになれば、これは仲裁であろうと。それから、お互いに話し合って、これでいきましょうということならば、調停的なものという理解だろうと思います。
保坂(展)委員 これは、私の部屋にある広辞苑がちょっと版が古いので、今改訂されているかもしれないんですけれども、実は逆なんですよ。仲裁は「争いの間に入り、双方を和解させること。仲直りの取持ち。」と書いてあるんですね。調停は「当事者双方の間に第三者が介入して争いをやめさせること。」その次に「仲裁。」と入ってくるんですね。
 これは、だから要するに、これは、一番目に来ている語句解説ですよ、辞書でいえば。法的なところは二番目にちゃんと書いてあります、当事者間の、直ちに拘束するものが――もう後ろに用意されていますね。しかし、日本語として、よく使われる言葉として、夫婦げんかは仲裁に入るのは難しいねとか、隣の境界線紛争を調停してくれる人はいないだろうかとか、仲裁の方が比較的よく使われるかもしれませんが、この権威あるとされる辞書でも、専門家中の専門家が聞いてもちょっと混同するような表記だというと、やはりそれだけ、まだまだ概念として根づいていないということはあるんじゃないんですかね。どうですか。
山崎政府参考人 大変失礼しました。けんかの仲裁というのは一般的に言われる言葉でございますけれども、ここで言う仲裁は、まさに明治二十三年に成立した法律、そこでももう既に仲裁という文言が使われているわけでございまして、英語で言うとアービトレーションでございますけれども、それはもう世界的には共通の文言ということで、それを翻訳したものということでございまして、普通の、社会で言われている仲裁とはちょっとイメージが違うかもしれません。
保坂(展)委員 私、広辞苑をちょっと引いてみたのは、私自身もよくわからなかったから、素朴に、辞書を引いてみれば、どんなふうに書いてあるのかなと思って引いてみたわけですね。そうすると、もう一回繰り返しますけれども、「争いの間に入り、双方を和解させること。仲直りの取持ち。」が仲裁で、調停が「当事者双方の間に第三者が介入して争いをやめさせること。仲裁。」こう書いてあるわけですね。なかなかわかりにくい。
 そしてここで質問なんですが、今回の新法によって、仲裁について、先ほど来の質問にもあったように、多くの国民が改めて知ることになり、そしてまた正確に理解する必要もありということですけれども、明治二十三年来あった仲裁の制度について、何%の国民が認知をしていたか、どのぐらいの人が知っているんだろうかという、何かデータとか調査とかありますでしょうか。あるいは逆に、なければ、どういう実態だと把握されていますか。
房村政府参考人 仲裁をどの程度知っていただいているかということについて法務省等でアンケート調査を行ったということは残念ながらございません。
 ただ、例えばこれは商事法務研究会が会社法務部を対象にいろいろ調査をしたアンケート調査の結果がございます。その中で、紛争解決方法として、例えば仲裁というようなものを過去利用したことがあるかとか認知しているかというようなことを、回答を求めております。
 これはどうしても、法律的な、法務部門を抱えているところを対象にしておりますので、一般国民よりは格段に認知の度合いは高いのではないかとは思っておりますが、その結果で見ますと、例えばアンケートのうち、仲裁を過去利用した経験があるというようなものについてはおおむね一割程度というようなことになっておりますが、認知、仲裁という制度があるかどうかということについては、これはやはり大半のところが知ってはいる。もちろんこれは会社法務を持っているところが対象でございますので、広く一般国民を対象にしたというものになりますと、ちょっと私どももわかりかねますが。
保坂(展)委員 民事局長がお答えになっていただいたアンケートですけれども、これはいわば企業でそういった担当の窓口に立つ方の認知度で、当然それは知っている方も多いし、使ったこともあるというのが一割と。
 事務局長、いかがですかね。今現在で、日本国民、何%ぐらい、これは制度として知っているんでしょうか。
山崎政府参考人 まずお答えするのが不可能な状況だと思いますけれども、これは本当に、ちょっとアンケートをやってみないと、抽出でもやってみないとわからないと思います。
 それにしても、例えば、先ほど来出ております建設工事紛争審査会、これについては大体、建築工事の契約を結ぶ場合には仲裁条項が入っているというふうに思われますので、家を建てる方とか、そういう方についてはある程度は浸透しているということであろうかと思います。あと、また、消費者の問題でも、いろいろセンターとかございまして、そういう中で仲裁とは何であるかということを御存じの方もおられるだろうと。
 ただ、全体としてはすごく少ないであろうというふうに思います。
保坂(展)委員 意外とこれは重要なことで、仲裁というのは、けんかの仲裁という意味ではだれもが知っているんですね、言葉として。子供が一番よく使うかもしれないですね、けんかしますから。仲裁に入ってくれという。
 ただ、制度としてどのくらいの国民が知っているかというのは、ほとんど知らない実態だと、消費者と個別労働紛争について除外されましたけれども、かなり多くの国民がこの制度に、知ってか知らずか、いわば契約当事者になるということはあるわけですから、それはぜひ、次回の質疑までにどのくらいかというのを、あらあらでもいいですから、ちょっと探してもらえないですかね。ないんですかね。どうでしょう。
山崎政府参考人 そのような観点から調査をしたことはございません。探してはみますけれども、なければ、お許しをいただきたいというふうに思います。
保坂(展)委員 はい。
 それでは、先ほど事務局長が、やはり日本にはお上という感覚、これは裁判所ということでは本当は困るんですけれども。お上ということじゃないはずですからね、国民主権ですから。ただ、そういった意識が封建時代以降の意識としてまだ引きずっている部分があって、ということでいうと、調停仲裁機関として先ほど来挙げられている例えば建設工事紛争審査会、これはよく使われているということですけれども、単に公害等調整委員会や都道府県労働局、これは紛争審査会、新しくつくられていますよね。こういったものが使われているのに対して、民間の機関の使いぶりについて質問したいんですね。
 民間の場合、国際商事仲裁協会であるとか日本海運集会所、知的財産仲裁センター、かなり話題を呼んだみたいですけれども、これらの処理件数は直近でどんなものですか。どのぐらいの処理がされていて、活発ですか。あるいは、活発でないとしたら、その理由は何でしょうか。
山崎政府参考人 ちょっと件数を申し上げます。
 平成十三年でございますけれども、海運集会所、これは大正十五年からできているものでございますけれども、仲裁判断に至ったものが六件、取り下げが十四件、それから、そのうちの和解によるものが二件、こういう内容です。
 それから、日本商事仲裁協会でございますけれども、これは昭和二十八年にできたものでございます。仲裁判断に至ったものが七件、取り下げが七件ということでございます。
 それから、日本知的財産仲裁センター、これは平成十年からでございますけれども、仲裁判断がゼロということでございます。
 それから、弁護士会の仲裁センター、これは平成二年からできておりますが、十三年は仲裁判断が十三件という内容でございます。
 このように、民間型の仲裁、利用が少ないということでございます。
 やはり、なかなか、国民の意識が、裁判で決着をしてもらう、そういう意識が強いということ。それから、やはり、実際、仲裁のメリットというんですか、これが知られていないというようなこと。そういうようなことが複合して、なかなか門戸をたたかないという状況が続いているのではないかというふうに考えられます。
保坂(展)委員 それでは、法案に即して少し聞いていきたいと思います。
 これは第十八条の関係ですけれども、忌避の問題ですね。仲裁人に対して忌避ができると。これは、相当の理由があるときというふうにありますけれども、どういう理由を想定してのことなのか。これは十八条の二号の関係で、お願いします。
山崎政府参考人 十八条では、仲裁人に公正性または独立性を疑うに足りる相当な理由があるときは、当事者は仲裁人を忌避することができるということにしているわけでございます。
 この趣旨は、仲裁人は、当事者の信託に基づいて仲裁判断をして紛争を解決するという重大な職責を担うということから、当事者から独立した中立的な立場で公正に仲裁手続を行う必要がある、これを制度的に担保するものである、こういうことになるわけでございます。
 具体例としては、しばしばうたわれるのは、当事者の顧問弁護士であった者とか、あるいは親族関係者である者、それから、仲裁人が事件またはその当事者と一定の関係にあるために公正な仲裁判断が期待できないという場合、それから、それまでの仲裁人の具体的な行動から、どちらかにかなり味方をして、へんぱな判断をするおそれがあるとか、そういうような、いずれも仲裁人の公正性または独立性について正当な疑いを生じさせる場合があるというふうに考えられるわけでございます。
 そういうことから、この規定が置かれたということでございます。
保坂(展)委員 ということは、例えば、高校時代のクラスメートだったとか、同じ会社で一定の期間働いていたとか、そういうのはやはりだめなんですか。
山崎政府参考人 世の中に間々あることでございまして、その関係が、例えば、何か個人的に経済的にどちらかの依存関係にあるとか、そうなりますと、これはやはり平等でない判断をされるおそれがあるというふうにつながるおそれもございます。しかし、そうじゃない限りで、知っているというだけでは、これは、へんぱな判断をするかどうかという当然の理由にはならないということでございます。
保坂(展)委員 これは実際に、十八条の後の方の三、四には、仲裁人への就任の依頼を受けてその交渉に応じようとする者は、自己の公正性、独立性に疑いを生じさせるおそれのある事実を全部開示しろという規定がありますよね。それから、逆に、仲裁人になった方についても、手続の進行中、当事者に対し、今と同様の公正性、独立性に疑いを生じさせるおそれのある事実、これを遅滞なく開示しろ、こういういわば義務が課せられていますけれども、この基準というのはなかなか明快にできないですかね。ケース・バイ・ケースというわけにいかないような気がするんですけれども、どうですか。
山崎政府参考人 これはなかなか、では、具体的にもう少し明確にしろという御指摘だろうと思いますけれども、これはいろいろなケース・バイ・ケースの問題がございまして、これを一定の理由で書くとそれ以外が漏れてしまうというようなこともございますので、ケース・バイ・ケースの中で判断をしていただく。
 ただ、仲裁人になろうとする者は、やはり当事者から見て自分の立場が疑われるだろうと思われるようなものはすべて開示をしていただきたい、その上で公正な判断を仰ぐ、当事者がそれでは困るという判断を与えていただきたいということでございます。
保坂(展)委員 これは、先ほど言った高校時代の同級生あるいは同じ会社で働いていたことがあるということは、やはり開示してほしい条項だと思いますけれども。もう少しそこは次回深めたいと思いますけれども、少し先に進めまして、ちょっと労働の問題について幾つか伺っていきたいと思います。
 先ほど来話題になっているように、労働契約に関する紛争処理に関しては、裁判所、労働委員会、労政事務所あるいは弁護士会や労働組合など、既に社会的な機能を果たしている機関、団体が存在しております。それらのところを頭越しになる形で国内取引関係を網羅する法制を設置するわけですけれども、労働契約に関する紛争解決に関して仲裁法制が優先して、既存の法制度や機関、団体の役割や存在を否定する心配、危険はないのかどうかということをまず感じるんですが、その点はいかがでしょうか。
山崎政府参考人 御指摘のとおり、労働契約に関する紛争の処理ということに関しましては、裁判所、労働委員会、それから労政事務所、弁護士団体、いろいろなものがあるわけでございます。また、労働組合も当然ございますけれども。これまでそれぞれが重要な役割を果たしているわけでございまして、そのことに関して、私ども、全く影響を与えるものではないというふうに考えております。
 附則で置いております個別労働紛争処理でございますけれども、この個別労働関係の紛争に関しましては、将来の紛争に関して仲裁契約は無効である、結んでも無効であるといって排除しているわけでございますので、それで排除になれば、それは当然裁判所等の解決でお願いをするということになろうかと思いますので、そういう意味では従来のものに関して影響を与えるということにはならないというふうに考えております。
保坂(展)委員 ただ、意見としては、やはりこれも、現在はこういった規定を消費者、労働に置いているけれども、将来においてはこれを見直すということも一方で言われていますよね。
 そこで、さらに聞きたいんですけれども、会社が就業規則などの規定に、例えば、労働契約に関して疑義が生じたり紛争が生じた場合は会社の指定する仲裁人を通じて解決するという条項を盛り込むことがあり得るんじゃないか。そういった条項をもし、労働者が雇用されるときに、これはだめですよというようなこと、意見を言うことはほとんど通常できないので、こういったことで就業規則などで解雇、賃金、勤務場所や職種など、あるいは組合活動などをめぐる不利益扱いという実際の紛争が生じたときに、労働者が、会社指定の仲裁人ではなかなか有利な、会社にとっての一方的な解決になってしまうから、例えば団体交渉によって解決したい、あるいは裁判や労働委員会を利用したいと考えても、就業規則をそもそも承認して労働契約を締結しているのだから、これは仲裁人でやりなさいということになってしまわないのかという懸念の声を少し聞いたものですから、その点はいかがでしょうか。
山崎政府参考人 先ほども申し上げましたように、附則の四条でございますけれども、そこで、将来において生ずる個別労働関係紛争を対象とする仲裁合意は、これは無効とするというふうにしておりまして、仮にただいま御指摘のように就業規則等に将来において生ずる個別労働関係紛争を対象とする仲裁条項、これを盛り込んだとしましても、その部分は無効ということになるわけでございます。
 したがいまして、労働者はその仲裁条項に基づいて仲裁を強制されるということはない。また、使用者としても、これが無効だと言われているものをあえて就業規則に入れるかどうかというのは、私は余り考えられないというふうに思っておりますので、裁判所で争うこと、あるいは労働委員会で争うこと、これはもう妨げられませんので、その影響はないというふうに考えております。
保坂(展)委員 そうすると、今のお話ですと、仮にそういった就業規則が作成されてもそもそもだめなんだということですから、個別労使紛争のみならず、労働契約に関する紛争も大体そういう原則で考えてよいという理解でよろしいんでしょうか。それであれば懸念は晴れると思うんですが。
山崎政府参考人 ただいま申し上げましたように、附則四条は個別労働関係紛争というふうに規定をしてありまして、一般の団体で争う、組合と会社側、こういうものについては対象にしていないわけでございます。
 要するに、労働者個人であると、雇われるときにこの仲裁条項が入って、嫌と言えるかという問題がございますね。言えないだろうと、雇ってもらう身分ですから。それから、では雇われている間に何か紛争が起こったときに、このときにも、ではこれでやろうかといったときに、仮にそれが有効であって後で解除できるというような規定にしますと、やはりそれは解除権は行使できないということになりますね。これは、やはり圧倒的にその立場が違うということで、全く無効にしているわけでございます。やはり、それは個人としては非常に弱いからということで、強者弱者の関係である。
 ところが、団体となると、これはきちっと法的な行動もできますし、仲裁ということがどういうことになるかということも当然判断ができる、その上で締結をする話だということで、ここは附則四条の対象にはしていないということでございます。
保坂(展)委員 ちょっと民事局長に一問だけお聞きしたいんです。
 この法律によって、現行の例えば裁判や労働委員会やあるいは団体交渉や、さまざまな労働者の権益を守ったり、あるいは議論したり、あるいは争ったりというようなことがそもそも余り影響を受けることはないんだというように先ほどの答弁では受けとめたんですけれども、仮に就業規則にそういったものが盛り込まれて、そういう会社が出てきたとしましても、労働者が裁判や労働委員会あるいは団体交渉などによってその問題解決を図る、そういった権利が全部、もうこれはサインをしているからだめですよということにはならないと、事務局長答弁を受けてそういうふうに理解してよろしいんでしょうか。
房村政府参考人 この法律の附則四条を拝見いたしますと、労働契約に関するものについて無効ということを明確にうたっておりますので、おっしゃられるような事案について仮に就業規則に定めたとしても無効であることは明らかでありますので、裁判所あるいは労働委員会における救済について何らの変化はないと思っております。
保坂(展)委員 時間になりましたので、また次に譲りたいと思います。終わります。
山本委員長 次回は、明二十八日水曜日午前九時五分理事会、午前九時十五分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後三時四十九分散会


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