衆議院

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第24号 平成17年6月15日(水曜日)

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平成十七年六月十五日(水曜日)

    午前九時三十分開議

 出席委員

   委員長 塩崎 恭久君

   理事 田村 憲久君 理事 平沢 勝栄君

   理事 吉野 正芳君 理事 津川 祥吾君

   理事 伴野  豊君 理事 山内おさむ君

   理事 漆原 良夫君

      秋葉 賢也君    左藤  章君

      笹川  堯君    柴山 昌彦君

      谷  公一君    浜田 靖一君

      早川 忠孝君    松島みどり君

      水野 賢一君    森山 眞弓君

      保岡 興治君    柳本 卓治君

      加藤 公一君    小林千代美君

      佐々木秀典君    樽井 良和君

      藤田 一枝君    松野 信夫君

      江田 康幸君    富田 茂之君

    …………………………………

   法務大臣         南野知惠子君

   法務副大臣        滝   実君

   法務大臣政務官      富田 茂之君

   最高裁判所事務総局総務局長            園尾 隆司君

   最高裁判所事務総局刑事局長            大谷 直人君

   政府参考人

   (内閣府政策統括官)   山本信一郎君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    寺田 逸郎君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    大林  宏君

   政府参考人

   (法務省矯正局長)    横田 尤孝君

   政府参考人

   (法務省保護局長)    麻生 光洋君

   政府参考人

   (法務省入国管理局長)  三浦 正晴君

   政府参考人

   (厚生労働省雇用均等・児童家庭局長)       伍藤 忠春君

   法務委員会専門員     小菅 修一君

    ―――――――――――――

委員の異動

六月十五日

 辞任         補欠選任

  井上 信治君     浜田 靖一君

  仙谷 由人君     藤田 一枝君

同日

 辞任         補欠選任

  浜田 靖一君     井上 信治君

  藤田 一枝君     仙谷 由人君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件


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     ――――◇―――――

塩崎委員長 これより会議を開きます。

 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件について調査を進めます。

 この際、お諮りいたします。

 各件調査のため、本日、政府参考人として内閣府政策統括官山本信一郎君、法務省民事局長寺田逸郎君、法務省刑事局長大林宏君、法務省矯正局長横田尤孝君、法務省保護局長麻生光洋君、法務省入国管理局長三浦正晴君、厚生労働省雇用均等・児童家庭局長伍藤忠春君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

塩崎委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局園尾総務局長及び大谷刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

塩崎委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。谷公一君。

谷委員 きょうは、三十分、質問の時間を与えられましたので、青少年の育成、非行少年、犯罪少年、それらをめぐる問題について、ふだんからどういうふうになっているか疑問に思っていたこと、あるいはぜひ力を入れて今後取り組んでほしい、そういったことを何点かお尋ねしたいというふうに思います。

 まず、青少年育成施策大綱についてであります。

 おととしの十二月に青少年育成推進本部は、この今手にしているわけですが、三十五ページにわたる青少年育成のための各般の幅広い取り組むべき課題、基本的方向などについて定めているわけでございますけれども、その中で、少年非行対策についてもいろいろ記述があります。そして、「少年非行対策への総合的取組」ということの中に、少年非行事例等についての継続的な調査研究、具体的な非行防止のためのモデル開発等に積極的に取り組むということが書いてございます。

 私は、少年非行だけにとどまらないんですけれども、自然災害でも、あるいは私の地元といいますか隣接している選挙区でことしの四月二十五日に起こりましたJR西日本のあの悲惨な事故など、いろいろな事例を今後の教訓に生かすには、災害とか事故とかあるいは犯罪とか、そういったものを、どういう事実関係であったのかということをきちんと把握して、そしてなぜそういうことが起こったのか、把握と検証ということが必要不可欠だと思うわけであります。

 そういう意味で、今お話しさせていただいた少年非行事例などについての継続的な調査研究等々がどういうふうに進められているのか、そういう具体的な事例をきちんと検証した上で進むような方向になっているのかどうかということが気になるところでございます。この点についての現在の取り組みなり方向性について、まずお答え願いたいというふうに思います。

山本政府参考人 谷委員にお答えをいたします。

 今御指摘いただきましたように、一昨年に策定いたしました青少年育成施策大綱の中で、少年の非行事例等に関して継続的な調査研究を行うということが盛り込まれておるところでございます。

 各省庁におきまして、それぞれ、このような少年の非行事例等につきまして、調査研究をこれまでも行っているところでございます。

 私ども内閣府におきましても、本年度、各省庁と連携共同いたしまして、少年による事案の再発予防と少年非行の防止に資する、こういう目的で調査研究を行うということで、現在、鋭意準備を進めております。

 具体的な内容につきましては現在検討中でございますけれども、今先生おっしゃいました、私どもの基本的なねらい、その点につきましては、少年犯罪、少年非行と、少年の発達段階等々で、あるいは環境も含めて、いろいろなケースがあるとは思いますけれども、その状況とか、先生おっしゃいましたような実態とか、そういったものを可能な限り分析を行いまして、それを踏まえまして、なぜ事件が起きたのか、あるいは少年を取り巻く環境や内面の問題、あるいは非行の前兆行動といったようなものにどういうものがあったのか、こういったことなどにつきましてしっかり把握をまずする。そうしまして、そういったようないろいろなケースなりパターンなり、そういったものに対応できる具体的、効果的な対策を示すという観点から調査をしたいというぐあいに考えております。

 したがって、その成果は、自治体のいろいろな機関でございますとか、あるいは地域、学校、そういったような現場で少年に接して苦労しておられます皆さん方が日常の青少年への対応の中で生かせる、そういったような内容のものにしていきたいというぐあいに考えておるところでございまして、今後、関係の省庁と協議をしまして、そういう観点から詳細に詰めて、ぜひ実りのあるものをやりたいというぐあいに考えております。

谷委員 今答弁いただいたわけですが、ぜひ具体的な事例に即して十分調査研究を進めていただきたいというふうに思います。

 神戸で子供が首を切られた事件がございましたけれども、私も同じニュータウンに、広いニュータウンでしたから、神戸の須磨区の北部にあるニュータウンですが、そこに私も当時住んでおりまして、非常にショックを受けた覚えがございます。

 ただ、その神戸の事件とか、この前の長崎の事件とか佐世保の事件、そういったものが十分、なかなかプライバシーの問題もありますので難しいところがあろうかと思いますけれども、全国の現場で生かされているんだろうかという疑問は今でも持っております。プライバシーの関連で難しいところはあるかもわかりませんが、しかし、一つの事件というのは構造を明らかにする、事件は構造を明らかにするとたしかフランスの社会学者の言葉にあったかと思いますが、やはりそういったものはいろいろな問題点がそこで噴出しているということも事実でございますので、ぜひ積極的な取り組みをお願いしたいというふうに思います。

 次の問題に移ります。非行少年の処遇のことでございます。

 きょうは少年法の審議ではないんですけれども、きのう、衆議院本会議の方で大臣が趣旨説明をされたわけでございますが、しかし、行うべきことはそういう少年法の改正ではなくて、児童相談所の福祉的な対応を強化する、人的にも物的にもいろいろな体制を強化することでそういう触法少年への対応というのは十分対応できるんだというふうに強く主張される方、日弁連などもそうかもわかりませんが、そういう考え方がございますけれども、それについての厚生労働省の所見、児童相談所なり児童自立支援施設を所管している厚生労働省のお考えをお伺いしたいと思います。

伍藤政府参考人 少年非行の背景を見ますと、子供の成育歴でありますとか家庭環境、こういったものが非常に大きく影響しているということで、従来から児童相談所を中心に福祉的な対応に力を入れてきたところでございます。

 そういった観点から、私ども、近年、児童相談所における児童福祉司、これは自治体の業務でありますから交付税上の措置になりますが、この五年間ぐらいで五割ぐらいの増加を図るようなこともやってまいりましたし、それから平成十四年度からは、職員の資質の向上のために専門の研修機関をつくるといったようなことで、質、量ともに、まだまだ足りないという御批判はありますが、近年、かなり努力をしてきたつもりでございます。

 ただ、今回提案をされております少年法の改正の中で、特にいろいろな、警察の調査の明確化といったことを中心に、今御指摘のあったような御意見もありますが、私どもの児童相談所を中心にやっております調査というのは、今申し上げましたように、子供の成育歴とか家庭環境、そういったものを中心にして、立ち直りをどういったふうにサポートしていくかという観点からの調査が中心でありますし、今回提案をされております警察の調査といったものは、事実関係を明らかにするというようなことで事件の全体像をもう少し明確にしていく必要があるのではないか、こういういろいろな方面からの指摘にこたえて提案をされているというふうに私ども承知をしております。

 私どもとしては、こういった、より子供やその事実関係が、全体像が明らかになるといったことが、私ども、児童相談所がやっております子供の処遇とかそういうものの適正化、適正な処遇といったものにできるだけ結びつけていくという努力をすることによって、少しでも、一歩でも前進できるのではないかというふうに考えております。

 いずれにしても、児童相談所の基本的な体質強化というものが課題であるということは、従来から私どもも念頭に置いておりますので、そういった面での努力もやっていきたいというふうに考えております。

谷委員 今答弁の中にありました児童相談所なり児童自立支援施設の職員のことなんですけれども、相当専門的な、児童福祉司なりあるいは心理判定員が充実してきているということは承知しているわけでございますけれども、ただ、その充実のスピードよりもいろいろな難しい問題がふえている、それ以上にふえている。深刻な薬物依存であるとか発達障害の問題とか、そういうことはもう少し専門性が高くないと難しいのではないか。

 現に今、児童福祉司ですと、たしか大学で教育学、社会学それから心理学ですか、専攻した学生であればその資格を取れるはずですけれども、単にそれだけではない、もう少し高いレベルの専門の職員を採るように指導するとか、あるいはそういう仕組みをつくるとかいうことがこれから必要になってくるのではないかというふうに私は思っているわけですが、そういう児童相談所なり児童自立支援施設の体制強化、特に専門職員の質、量両面にわたる充実方策についてお考えをお伺いしたいと思います。

伍藤政府参考人 児童相談所あるいは自立支援施設における専門性の強化ということでございますが、先ほどお答え申し上げましたが、一つは、量的に非常に人員が足りないというようなことを指摘されておりますので、そういった面での増強を図っているということを申し上げましたが、御指摘のような観点から、さらに専門性を高めるということもこれまたもう一つの大きな課題でございます。

 昨年の児童福祉法の改正で、私ども提案をして成立させていただきまして、四月から実施をしておりますが、この中では、一つ、児童相談所、全国に百八十二カ所でございますから、極めて数も限られておるということで、軽微な相談その他のいろいろな事業につきまして市町村との連携を図るということで、窓口は基本的に市町村で、ある程度の軽微なものは対応していただくということで、児童相談所が対応するケースの専門性といいますか、ある程度集約化を図るというようなことを今やっておるわけであります。

 その中で、そのケースに適正に対応していくために専門性を強化するということで、先ほど申し上げました専門の研修機関をつくるといったこととあわせて、今御指摘のありましたような児童福祉司の入り口のところで、教育学、心理学、そういった者だけに限られておりますが、これを、看護師でありますとか、そのほか教育に従事した者とか、ある程度いろいろなジャンルの方に幅広く道を開くということで、門戸をまず広げるということをして、さらにその上で現場の実習を積んでいただく、あるいは専門の研修を受けていただく。組み合わせて、門戸を開きながら、専門性も高めていただくということで、なかなかこれは難しい課題でございますが、そういった方向から私どもも今一生懸命取り組んでおるところでございます。

谷委員 ありがとうございます。

 福祉的対応というのは、今の仕組みでは地方自治体が行うべきこととなっている。そうなれば、今大きな流れは地方分権ですから、私が懸念するところは、このままでは自治体によって大きな差が出ると思うんです。ただ、これはそう差が出ていいものではないというふうに思いますので、ぜひ今後とも、引き続きの積極的な取り組みをお願いしたいというふうに思います。

 次に、少年非行を抑止する力ということについてお尋ねしたいというふうに思います。

 大きくは、やはり社会全体がそういう少年非行を抑止するということが必要かと思いますけれども、社会が非行を抑止する力というのは大変弱まっているということがよく言われます。

 そこで、南野大臣にお尋ねしたいんですが、まず基本的に、大臣は看護師でもございますし、政治家として、なぜ社会のそういう非行を抑止する力が弱くなってきたのか、どの程度弱くなってきたのか、その辺の感覚的なことも、感覚的な質問で恐縮なんですけれども、その辺の基本的な認識についてお尋ねしたいというふうに思います。

南野国務大臣 私見を申し上げることもできるかなと思っておりますが、少年非行の現状というのは、本当に、先生もるるおっしゃっておられますように、もう大変深刻なものであろうかなというふうに思っております。

 そういうような少年非行の抑止力をどのように図るのかということもあろうかと思いますが、まず、子供が生まれて、家庭の中でどのようにその子供を育てていくのかというときに、親御さんと子供さんとの対話があるのかどうか、親の気持ちをどれだけつないでいくことができるのかということも一つの原因ではあろうかなと思っております。

 少年の側にも、またはその環境を取り巻く問題点もいろいろな要因があると思いますが、まず第一に、今申し上げたような家族のあり方というところで、いいこと、悪いことということをしっかりと教育されれば、自分の生き方の方向性というものを家族の中で培ってもらえる一つの問題点はあろうかな。

 さらに、そこから学校教育というようなところの中でも、学校の中でどのようにその子供が良識を持って大人になっていくか、そのポイントも一つあろうかな。特に学校教育の中では、担任の先生とかいろいろな方がおられますけれども、養護教諭という、心と体を側面的にチェックしようという方が職員としておられますので、その方との連携という問題で子供のあり方ということも考えていくことができるのではないかなと思っております。

 それから、社会に出れば、隣の人は何する人かということがなかなか今の社会環境の中では見えてこない。そういう家族を含めた社会の人々の連帯というものがどのように培っていけるのかな、これはきずなとも言えるのかもわかりませんが、そういうような一つ一つの要因が重なっていっているのではないかなと思っております。

 その背景としては、急速な社会変化の中、または地域社会や家庭における人間関係の希薄、地域社会や家族が従来持っていた犯罪抑止力ということについての、これは教育力とも言えるのではないかなと思っておりますが、そういうことの濃度の部分といいますか、濃度の濃いさ薄さというようなところを私は先生がおっしゃる程度と考えたいというふうに思っているわけですけれども、このような深刻な状況を呼び起こしたということも、一つそういう濃度の薄さということにあるのではないかなと思っております。

谷委員 ありがとうございました。

 今大臣が言われましたように、家庭、学校、社会、いろいろなところでそれぞれが、いろいろな難しい面もあろうかと思いますけれども、取り組んでいく必要があるのかなというふうに思っているところでございます。

 政府の方は、おととしの十二月に犯罪対策閣僚会議で、「犯罪に強い社会の実現のための行動計画 「世界一安全な国、日本」の復活を目指して」というのを立てられました。では、それに基づいて、社会が非行を抑止するために、更生保護制度の充実強化に具体的にどういうふうに取り組んでこられたのかということ。あわせて、法務省の第一線のプロである保護観察官の充実も含めて、どういうふうに取り組んできたのかということについてお答えをお願いしたいと思います。

麻生政府参考人 まず、地域社会全体で少年非行にどう取り組んできたかという観点でございますが、更生保護の分野におきましては、保護司の地域活動の一環といたしまして、家庭、学校、地域社会が一体となって中学生の問題行動に適切に対処するとともに、中学生の非行を未然に防止する取り組みといたしまして、中学生サポート・アクションプランというものを実施してまいりました。

 これは具体的には、非行問題に関する豊富な知識と処遇経験をお持ちの保護司さんが中学校へ直接伺いまして、非行問題や薬物問題をテーマにした非行防止教室あるいは薬物乱用防止教室、これを実施してまいりました。そのほか、生徒指導担当の先生との合同の事例研究会を開催するなどいたしまして、種々の方法によりまして中学校と連携した非行防止活動の推進に努めてまいったところでございます。

 この点につきましては、今後とも、地域社会において保護司が学校等と連携して非行防止活動に取り組むよう努力をしてまいりたいと考えております。

 それから二点目の、これを担当しております保護観察官の状況でございますけれども、まず数字の方から申し上げさせていただきますと、平成十七年度で、保護観察所に置かれております保護観察官の定員は約一千名でございます。

 これらの保護観察官と保護司さんとの協働体制によって保護観察を行っているところでございますけれども、このうち、管理職等を除く第一線で実際の保護観察事件の処理に当たっている保護観察官は約六百三十名でございます。一年間に保護観察所で取り扱います保護観察事件というのは、年間で約十四万件となっております。これを六百三十人で割りますと、大体一人当たり二百二十一件程度昨年は取り扱った、こういう状況にございます。

 これを十年前の平成七年と比較いたしますと、保護観察官一人が年間取り扱った事件は、十年前は二百五十件程度でございました。数的には減少しておるのでございますけれども、職員の事件の負担ということを考えてみますと、事案の内容でありますとか処遇の具体的な方法、それから、保護観察所における事務処理体制のほか環境調整事件というものもございます。こういうほかに処理する事件もありますので、取り扱う件数のみで一概には比較することはできないのではないかと考えております。

 特に昨今は、事案の内容が複雑困難な事件がふえております。それから、特別な処遇上の配慮を必要とする事案も増加しております。再犯を防止する観点から、直接的かつ強力な処遇が強く求められている状況にございますし、地域社会の協力がますます得がたい状況にありますので、私どもとしては、今後とも、保護観察官の事務負担が増加するというふうに考えておりますので、その体制の充実に努めてまいりたいと思っております。

谷委員 特に保護観察官について、前にもお話ししたかもわかりませんが、都道府県警察の充実に比べてはるかに弱いといいますか、充実度といいますか、ぜひお願いしたいと思いますし、我々もその点について一生懸命頑張らなければならないのかなというふうに思っているところでございます。

 さて、問題を起こしたといいますか、触法少年の処遇のことでありますけれども、先ほど神戸事件のお話をさせていただきました。私の住んでいるすぐ近くで起きたわけですが、その事件を契機にいたしまして、特に重大事犯を犯した少年を教育するためのプログラム、長期処遇の処遇課程の新たなG3と言われるプログラムが平成九年につくられたというふうに聞いております。

 では、つくって具体的にどういう効果があったんだろうか。つくって、本当に目に見えると言ったらおかしいんですけれども、つくっただけではなくて、どういう効果があり何が課題なのか、それも含めて御答弁をお願いしたいというふうに思います。

横田政府参考人 お答えいたします。

 ただいま委員御指摘のように、いわゆる神戸の事件をきっかけにいたしまして、平成九年にこのG3、私ども、アルファベットのGに数字の3をつけ加えてジースリーというふうに部内で呼んでおりますけれども、そういう一つの処遇課程を設けました。これは、少年院の処遇課程の中で生活訓練課程というものがございまして、その中の一つの段階といいますか、分類の一つでございます。

 今先生もおっしゃいましたように、これは、非行の重大性等によりまして少年の持つ問題性が極めて複雑、深刻であるために、その矯正と社会復帰を図る上で特別の処遇を必要とする者、そういった少年を対象に行っているもので、まず数字的なことを申し上げますと、平成十六年度末までに合計四十七名の少年がこのG3の対象としてこの課程に編入されております。罪名を申し上げますと、殺人、強盗殺人、傷害致死、強姦といった、やはり重大な生命犯、身体犯がその多くを占めています。

 その処遇の内容でございますけれども、一つには、非行の重大性を深く認識させ、被害者及びその家族に対する謝罪の気持ちを育てるために、被害者の視点を取り入れた教育を徹底して行うということ。第二点といたしまして、生命のたっとさを認識させ、豊かな人間性を育てるための指導を積極的に実施する。それから三点目といたしまして、心理療法などを活用するなどいたしまして、少年の持つ問題性の解決や、共感性、責任感、思いやりの気持ちの育成に努めているということであります。

 効果というお尋ねでございますけれども、これもまた、先生もおわかりと思いますけれども、なかなかこういう教育の効果というのが数量的に把握しにくいもので、具体的にどうこうということはなかなか申し上げにくいわけですけれども、私どもといたしましては、例えば、被害者の視点を取り入れた教育でいいますと、職員による個別面接、集団討議などを通じまして、非行に正面から向き合わせる。そして、さまざまな手法がございますけれども、いわゆる役割交換書簡法あるいは課題作文、課題図書、視聴覚教材の活用などを行いまして、被害者の痛みや苦しみを理解し、共感できるような働きかけをする、そして被害者の置かれた状況をより深く理解させる。そしてさらには、現在は、実際の被害者や関係団体の方をお招きいたしまして、そして講演などを行っていただきまして、生の声をお聞かせいただくということもしております。

 そんなことで、私どもといたしましては、現在の状況に応じて、こういった重大な非行をした少年に対しまして、できる限りあらゆる手法を用いまして、そして特別の処遇を行っております。現場の教官の、もちろんこれは感覚でございますけれども、それぞれ相応の手ごたえというものも受けておりますし、今後とも、私ども、さらによりよい方向は何か模索しながら、この課程の充実に努めてまいりたいと考えております。

谷委員 ありがとうございました。

 私も、多摩少年院を、きょうはおられませんけれども、松島先生などと一緒に何人かで視察に行かせていただいたんですけれども、そこで少年たちの教育の最後のとりでだという教官の方のお話も聞きまして、感銘を受けたところでございます。ぜひ、今後ともの引き続きの取り組みと、それから、きょうはちょっと質問できなかったんですけれども、処遇の一つとして、いわゆるボランティアなどを少年に命じる社会奉仕命令、そういうことの制度導入も今後の検討課題に加えていただくよう要望いたしまして、質問を終えたいと思います。

 ありがとうございました。

塩崎委員長 次に、小林千代美さん。

小林(千)委員 おはようございます。民主党の小林千代美です。

 きょうは、一般質疑、裁判員制度導入に向けて、この点について質問をさせていただきたいと思います。

 その導入部分に、マイケル・ジャクソンは無罪判決が下されました。これは、私は別にアメリカンポップスですとかに興味があるわけでもない、マイケル・ジャクソンのファンなわけでもないんですけれども、私じゃなくても、かなり多くの皆さんが興味を持っていた裁判だったのではないかなと思います。あれだけの世界的に有名なスターが起こした児童への性的虐待に関する裁判だということで、全世界的にこれは注目をした裁判だったのではないかなと思いますし、陪審員の皆さんも大変お疲れになったと思いますし、これは初公判から三カ月間ですか、三カ月間、毎日ではないでしょうけれどもずっと裁判所に通われた陪審員の皆さんも、その事件の重大性というのもありまして、大変荷が重かったのではないかな、大変大きな御苦労があったのではないかなというふうに考えております。

 有罪か無罪かというのは別にいたしまして、この裁判の件は、裁判員制度を周知させるに当たり、マイケル・ジャクソンや少年に対しては申しわけないですけれども、日本でも大きな影響を与えた評決ではなかったかなというふうに感じております。

 それで、大臣には、質問通告していなくて申しわけないんですけれども、別にマイケル・ジャクソン、有罪、無罪はどうでも結構です。裁判員制度が二〇〇九年五月までに始まりますけれども、この裁判員制度の意義、そしてその裁判員の役割というものをどのようにお考えになっているか、大臣のお考えをお聞かせいただきたいと思います。

南野国務大臣 先生が最初にお話しになられたマイケル・ジャクソンの問題点も興味深く、これは裁判員制度との関連で今お話しになられましたけれども、マイケル・ジャクソンを裁かれたその陪審員という方は、アメリカの十二人の素人の人だけであります。我が国で今裁判員制度を設けようとしているのは、六人の一般の方々ですけれども、三人は専門官がおられる。そういうところで、評決という課題には多少影響が違ってきているのではないかなと思いますけれども。

 裁判員制度を取り入れるということは、やはり司法という問題を国民の方々にわかりやすく、国民の方々のレベルで、そういう重大な殺人等を犯した方々に対してどう共感していくのか、またはどのように考えを持っていくのか、自分の素人としての感覚をそこにぶつけていくことによってもっともっと司法が身近になってくるのではないかな、それが一番大きな効果であろうかというふうに思っております。

小林(千)委員 確かに、アメリカの陪審員制度と日本で始まる裁判員制度は、制度も違いますし、並べて比べることは一概にできないのかもしれませんけれども、大臣がおっしゃったように、普通の素人である市民の感覚を評決の中に生かしていく、市民の常識で判断するというのは、私は大変大きな役割を果たすと思っておりますし、そういった意識をぜひ市民の方にもお持ちいただきたいというふうに思っております。

 それで、この裁判員制度導入に関して世論調査を政府の方が、ことしの二月ですか、行いましたけれども、余りいい結果が出ていなかったようです。

 認知度は随分高くなってきたみたいですね。去年国会で成立したときは、たしか認知度五〇%ぐらいだったのかなというふうに思いますけれども、ことし二月の調査では、裁判員制度が始まりますということについて、大変詳しく知っているか大体知っているというような方を合わせれば七一%、七割以上の方がこういう制度が始まるんだなということは知っていたと。しかしながら、同じように七割の方々が、できれば参加したくない、あるいは絶対嫌だというような答えを挙げていたわけなんです。

 本来ならば、この裁判員制度の導入により、先ほど大臣おっしゃったように、こういった市民の感覚が生かされて司法も変わるということをやっていかなければいけないんですけれども、この世論調査の結果によりますと、一位の答えが、国民は法律の専門家ではないために有罪、無罪や刑の内容について適切ではない判断が出るおそれがあるといったような否定的な意見が一位を占めてしまいまして、例えば、犯罪、治安を自分の問題として考えようですとか、司法に対する国民の理解や信頼を深めようですとか、あるいは刑事裁判の手続や判決をわかりやすくしようというように肯定的な意見というのは一位にはならなかったわけなんですよね。

 これをどういうふうに、肯定的なというよりも、本来の目的となる司法制度というものに持っていくかというものは、これは実施に向けて大変大きな仕事だと思うんですけれども、大臣、この世論調査の結果をごらんになりまして、感想とこれからの対応、対策というものをどのようにお考えでしょうか。

南野国務大臣 今七〇%の問題をお話しになられました。その結果は結果として私たち受けとめていかなければならないんですけれども、あと四年あります。あと四年しかないという考えもあろうかと思いますが、その間に何ができるかということになろうと思います。我々としましても、タウンミーティングその他広報活動、さらにテレビ活動などでもいろいろとさせていただいておりますので、その点がこれからうんと、開始、四年後には七〇%以上の人がやるよと言ってくださるような方向に持っていけるというように今努力しているところでございます。

 そして、お話しになられた、参加したくない、余り参加したくない、さらにまた、有罪、無罪の判断が難しそうだ、人を裁くということをしたくない、これは日本人の今まで持っていたある意味では謙譲の心がそのようにしたのじゃないか。人を裁くのは嫌だ、これはだれでも嫌だと今の通念では考えておられると思いますけれども、逆にそういう方々が自分のふだんの心で人を見ていくということも、一つ大きな効果を及ぼしてくるのではないかなと思っております。

 中村雅俊さん、御存じですよね。今お持ちになっておられます。その中で私が一番気になったのは、ゆうべも私はそれを見ましたけれども、先生の御質問があるというのでそれを見たわけで、今までにも見てまいりました。横浜でも一般公開をしたところであります。そういう中で、彼がお話しになっていた中身、先生御記憶であるかどうかわかりませんが、何一つ他人事ではない、ある日突然、だれかが被害者になり、だれかが加害者になる、そういう意味では無関心であることこそ最大の罪であると言っておられます。

 そういった意味では、今関心を持ちたくないと七割の人が言っておられるということは、これを逆に転換していくことができる、それほど私は日本人はすばらしく、新しい改革というものに目覚めていただける方が多いというふうに思っております。

小林(千)委員 私もそれには期待をしているところなんですけれども。

 私もこれ、きのう見ました。前野沢大臣も出ていらっしゃいまして、結構熱演をされていらっしゃいまして、南野大臣、まあ、大臣はお忙しいでしょうからなかなかあれでしょうけれども、ぜひ出ていただきたかったですね、この裁判員役の一人として。なかなかおもしろい内容のビデオでしたし、これはドラマですから多少でき過ぎというところもあるんですけれども、これについては後で質問もしたいと思います。

 ところで、この世論調査の中に、アンケートを行った「国への要望」というのがございまして、一位に挙げられたのが、「裁判員の安全やプライバシーの保護」というのを第一に挙げられておりました。

 このビデオでもやはり最初そう言っているんですよね。裁判員になられた方が、ひょっとしたら仕返しされるんじゃないかですとか、そういうことを心配しているときに、中村雅俊演じる裁判長が、大丈夫ですよ、信じましょうよというような格好いいことを言っていたんですけれども、本音のところで国民が一番心配をしているところだと思います。

 それが、私の地元の新聞なんですけれども、六月十三日ですからおとといの北海道新聞に出ていた記事なんです。釧路地裁帯広支部の書記官が同姓の別人に誤って書類を送るという事件がありました。このお二人というのは、住所が番地まで一緒、姓が一緒、名前は、漢字が違うけれども読み方が同じだったという方だったそうです。間違って送付を受けた男性は、免責を申し立てた男性という方を知っていたそうですから、そのところに、おたくのが間違って来たよというふうに渡して、支部に連絡をしたということなんです。

 もともとこんな間違いがあってはならない、プライバシーに関することですから。なのに、この書記官は、その間違って送付を受けた男性のもとを訪ねて、商品券を持参して謝罪をしていた。まるで内密にするように口どめ料として払っていたようなふうにもとられるんですけれども、この事件の真相と、あと、こんなことがあっては、国民の要望第一位のプライバシーがしっかり守れるかどうかというのが本当に気になるところです。

 この件に関して、事実確認と、そして認識を伺います。

園尾最高裁判所長官代理者 ただいま御指摘の新聞に報道された内容はおおむね事実でございまして、大変遺憾なことであるというように思っております。

 事実関係について御説明いたしますと、平成十二年に釧路地裁帯広支部において、破産事件の免責決定正本を郵送する際に、事件当事者あてに送る封筒のあて名の一字を書記官が書き間違えましたところ、同じ住所で番地も同じところに住んでおられた、姓が全く同じで名前は字が違うというものの読み方は同じであるという別人に届いてしまったものというものでございます。封筒のあて名の記載を誤ったのは担当書記官の誤記によるミスであったというように考えられるところでございます。

 この件について担当書記官が、この当事者に対して商品券を付した謝罪の手紙を送付したというような事実もございました。このようなことはあってはならないことでございまして、事件当事者の方、それから誤って送付を受けた方に大変御迷惑をおかけしまして、遺憾であるというように思っております。

 また、そのような謝罪の手紙とともに商品券を送るという行為につきましては、これは二千円の商品券ということでございますが、この点については、ただいまのような疑問も出るという問題もありますので、この点も極めて遺憾なことであるということで、監督をする者から厳重に注意を与えておるということでございます。

小林(千)委員 この事件だけではなくて、似たような事件はほかの地裁でも起こっているわけでございますし、今、プライバシーの問題というのは大変深刻な問題になっていて、例えば住民基本台帳を閲覧してダイレクトメールを送る、ダイレクトメールだけだったらまだしも、それが犯罪に使われてしまうというようなことも実際に起こっているわけでございます。

 こういったような問題、いつも二度と起きないようにといいながらこういったことが起きているわけで、事件が起こることももちろん問題なんですけれども、その後の対応を含めて、二度とこのようなことが本当にないように、法務省の御見解をお伺いしたいと思います。

大林政府参考人 私どもが所管する検察庁においては、当然、被疑者、被害者その他の参考人の方に対していろいろな連絡を行うこともあるわけでございます。今委員が御指摘のように、そのようなことで過誤を起こした事例もありますし、その点については、私ども、いろいろな機会に指導あるいは注意喚起をしているところでございますけれども、御指摘のとおり、今後ともさらに気をつけるように指導していきたいと思います。

小林(千)委員 やはりこういうようなことが起こるとやりたくないなというふうに思う人もふえるでしょうから、そういったことのないようにひとつお願いをいたします。

 そして、同じこの世論調査の結果の中に、先ほどは国への要望ナンバーワンでした、裁判官への要望といたしまして挙げられていたことが、わかりやすい言葉を使ってほしい、わかりやすい説明をしてほしい、できればたくさんの書類を読まずに済ませるようにしてほしいというような意見も挙げられておりました。

 これは、私も法曹界の人間ではありませんから、裁判所の中で使われているような特殊な用語というのは、とてもわかりづらいところがあるんですよね。一度私も東京地裁に傍聴に行きまして、銃刀法違反の事件だったんですけれども、これについても、何かやりとりされていることがさっぱりわからなかったというような経緯があります。

 ここの法務委員会の中でもえてして同じようなことが起こることが多くて、大臣が最初に、就任されたごあいさつの中でも、リエゾンオフィサーだとかバイオメトリックスだとか、そんなのもわからなかったわけなんですけれども、こういうような声が市民から挙げられている。特に、公正な裁判をする上で、わかりやすさというものは大変重要な要件であろうというふうに思っております。

 先ほどのマイケル・ジャクソンの評決を引き合いに出しては申しわけないんですけれども、このときも、情況証拠はあったんでしょうけれども、決定的な、確定となるような証拠が出し切れなかったということがこの無罪判決につながったのではないかというような意見も出ているところでして、わかりやすい裁判、これは裁判官だけではなくて弁護人もあるいは検事側も、わかりやすい言葉を使わないと、しっかりした正しい評決、判決はできないのではないかと思います。

 それで、このマイケル・ジャクソンの裁判のときには、可視化は当然アメリカですからやっているんですけれども、この少年が警察官との事情聴取をやったときのビデオテープというものを証拠として検察側が提出をしているんですよね。こういうふうにも利用されているんです。

 この可視化、これは被害者のみならず、私たちは検察、警察側にも当然メリットのあることだと思うんですけれども、この間何回か議論にもなりましたけれども、政府では可視化については余り積極的な意見をお持ちでないような答弁が返ってきております。反対する理由というのは何なんでしょうか、もう一度伺っておきたいと思います。

大林政府参考人 可視化の問題はいろいろ議論されております。捜査機関といたしましては、刑事事件の真相解明を十全ならしめるため、被疑者との信頼関係を築いた上、極めて詳細な取り調べを行っている実情にあり、このような実情のもとで取り調べ状況の録音、録画を義務づけた場合、取り調べ状況のすべてが記録されることから、被疑者との信頼関係を築くことが困難になるとともに、被疑者に供述をためらわせる要因ともなり、その結果、真相を十分解明し得なくなるなどの問題がある、このように考えております。

小林(千)委員 理由は今、二つお述べになったと思うんですけれども、被疑者との信頼関係を傷つけるものになる、それから供述をためらわせるものになる。これは一体何を証拠として、どういった要因があってこのようなことになるというふうに思われているのか、聞きたいと思います。

 信頼関係を傷つけるとおっしゃっていますけれども、例えば裁判の際に自白を強要されたですとか、うその自白を迫られたですとか、そういったことは今までももう山のように起きているわけで、それは信頼関係を築く上で可視化は必要なのではないかと思いますし、供述をためらわせる、例えばテレビカメラが回っていたら畏怖するのではないかですとか、それは今の時代ですから、目につかないようにテレビカメラを設置するですとか、あるいは、検察側も警察側も被疑者側もなれるということも当然あり得るでしょう。なぜこの二つの理由をおっしゃっているのか、よく理解できません。これについてどのようにお考えになるでしょうか。

大林政府参考人 一つの例を挙げさせていただきます。

 例えば、暴力団が組織的にいろいろな重大犯罪を犯す、密輸とかあるいは人を監禁して殺すとかいう事件が仮にあったといたします。その場合に、その手下の人たちが何かの事件で捕まって、その組織のことを言おうとするときがあります。当然、録画の問題が出てきますと、それは身の安全を守るということで捜査官は説得すると思います。

 しかしながら、本人としては、それは自分がしゃべったという生の事実がそのまま録画されているわけですから、当然、そういう状態では述べられないということで逡巡するということはあろうかと思います。

 いろいろなケースが考えられるわけですけれども、例えばの場合、今のような組織犯罪で、上の方の本当の悪い者を捕まえようとするときに、そういうことが捜査の支障になる、上まで到達できなくて事案の真相が解明できないというような場合もあり得るかと思います。それはいろいろな感情的な問題、いろいろあろうかと思いますけれども、例えばの例としてはそういうことが挙げられると思います。

小林(千)委員 今、一つの例をおっしゃっていただきましたけれども、世の中、何か一つのことを始めようとすると、もちろん、お互いにメリット、デメリットというものはあると思うんですよ、当然。どうやってデメリットの部分、マイナス要因をなくしていくかという努力は当然やらなければいけない。

 先ほどおっしゃった例ですと、例えばそれこそプライバシーの問題もあるんでしょうから、法廷で、公判で使われるということになるとそれは公になるものですけれども、それは例えば、ある一定の、使用に際しては期限を設けるですとか、公にしない部分も設定をするですとか、そういったデメリットというものをなくす努力も行わなければいけないとともに、可視化を行うことによるメリットというものの方が、それは検察、警察側にとっても、あるいは被疑者側にとっても、弁護人側にとってもメリットの大変大きいものだと私は思います。

 ぜひ、デメリットがあるというふうにお考えならば、デメリットというものを少なくする努力というものは当然やっていかなければいけないと思いますけれども、いかがでしょうか。

大林政府参考人 委員がおっしゃられる趣旨は、私どももわかっています。ですから、可視化の問題は、私たちとしても検討課題として考えているところでございます。ですから、今の捜査、取り調べの状況をある程度、どういうものかというものを、例えば裁判員の問題にしても理解していただくという問題は大きな問題かと思います。

 ですから、一つの問題は、弁護士さんがついておられるケースを前提といたしますので、当然、接見の問題はどうだとか、あるいは取り調べの状況について、現在、取り調べについて報告書を書くようになっています。そういうものを必要に応じて提出することにしてありますし、ですから、取り調べの状況というのは、それなりにいろいろな方法でその状況がわかるようなシステムにしていこうという努力はしているところでございます。

 ですから、委員がおっしゃられるように、そういうことも、それは検討課題だと私たちは考えております。

小林(千)委員 さまざまな、公平公正なやり方というものを今苦労されているんだと思いますけれども、やはりわかりやすい方法で、そしてお互いに公正公平なやり方でということを当然念頭に入れた上で、私は、この可視化というものは裁判員制度を導入するに当たりましても必要なものではないかな、ぜひこれからも検討を前向きにしていただきたいというふうに御意見申し上げさせていただきます。

 そして、今回のこの世論調査の結果を見てみますと、裁判に参加したくない理由というのを問うておりまして、その中の一位が、「有罪・無罪などの判断が難しそうだから」が一位だったんですね、四六%でした。二位が「人を裁くということをしたくないから」、これも四六%でした。

 私たち、昨年も審議をしていたんですけれども、もちろんそういう声もあるだろう、それと同時に、ふだん生活をしていて、例えば仕事をしている、家庭の中のさまざまな家事がある、それをどういうふうにクリアしていくかということも大きな問題だろうというふうに思っていたんですけれども、アンケート調査を見てみたら、仕事に差しさわりがあると思うから参加したくないですとか、家事に差しさわりがあると思うから参加したくないというのは、割と意見としては少なかったんですよ。これは私、案外意外に思いましたね。

 ところが、逆に、難しいのは、仕事に差しさわりがある、家事に差しさわりがある、だったら、例えば社会で会社の中でも、こういった公的なものに参加する場合については有給の休みをとらせようですとか、あるいは日当というものをどのぐらい保障するか、あるいは子育て、介護というもののハードルをなくすために預かってもらえるような施設を十分に用意しようですとかということは、お金はかかりますけれども、対策としては割と簡単なことだと思います。

 ところが、この一位、二位に入りました、判断が難しそうだからですとか、人を裁くというのはやりたくないというような人の意識を変えるというのはなかなか難しいことだと思います。先ほど大臣は、あと四年、あと四年なのか、もう四年なのかというふうにおっしゃっていましたけれども、四年間のうちにここのところの努力をしていかなければいけないわけなんですけれども、市民の方々にそういうふうな意識を持っていただくためのこれからの努力というものをしていかなければいけないと思います。

 その一つにこのビデオもあるんだと思いますけれども、これはどのように利用されるんでしょうか。

 私も考えたんですよ。とりあえず自分で見ましたし、秘書と一緒に見ました。なかなかこれはおもしろいなというふうに思いましたので、これをどういうふうに、例えば、私の提案ですけれども、公立の図書館に置いてレンタルできるようにするですとか、民間のビデオショップというとなかなか難しいところがあるのかもしれませんけれども、公立の図書館で貸し出しできるようにするですとか、あるいは学校に配布をして、学校で法教育のために使ってくださいというようなことを行うですとか、こんなこともできるのではないかなと思っております。

 私自身も、これはおもしろいから、私の地元で、後援会の方を集めて上映会なんかをやってもおもしろいかなというふうに思ったんですけれども、やはり著作権関係がございまして、ビデオの裏のパッケージのところに、「有償・無償に拘らず、」「上映等を行うことを禁止致します。」というふうに書いてあるんですよ。その前に、「公共・教育機関での上映、個人が家庭内で視聴すること」はオーケーなんですよね。

 ですから、多分、公立図書館は大丈夫、学校も大丈夫、でも私が地元で後援会の人を集めて裁判員制度理解のためにやりますといったら、だめなのかしら。無償でもだめなんでしょうか。例えば、それが後援会の集まりで、お茶とケーキを出すために五百円取りますというところだったらだめなんですかね。これはどういうふうに使われるのでしょうか。

大林政府参考人 まず、先ほど御提案になったレンタルビデオ店、図書館というものも実は私どもも一応考えておりまして、これができないかどうかということをこれから真剣に考えたいというふうに思っております。

 それから、今の上映の問題でございますが、これは、著作権は私どもの方で譲り受けております。その中においては、これはもともと広報的な目的でつくったものでございますので、無償において上映するということについては何の問題もございませんので、ぜひ御活用願えたらというふうに思っております。

小林(千)委員 承知いたしました。無償において上映することはオーケーということですね。積極的に私もこれで北海道でやろうと思いますので。

 これを見ましたけれども、格好いいんですよね、中村雅俊も。別に二枚目だとかという意味じゃなくて、裁判官の役どころとして格好いいんですよ。それは、ドラマですからおもしろくするためにそういうふうにつくる必要があるのだと思いますけれども、格好いいんですよ。去年、日弁連さんが作成をいたしました同じようなビデオがあるんですけれども、それは石坂浩二で、これも格好いいんですよね、役どころといたしまして。こんな格好いい裁判官がどれだけいるだろうかということを心配して、別に、二枚目だとかハンサムで、そういった意味の格好よさではないんですよ。これは本当に、ビデオをごらんになった方はわかると思うんですけれども。

 裁判官が、嫌だと思っている裁判員に対して、お説教じゃないですけれども、説得するわけなんですよね。みんなで、皆さん一人一人にかかわっていることなんですよというふうに、昔の熱血青春ドラマの主役みたいにやっているんです。

 それと同時に、このドラマを見ますと、裁判官の意識というのも変わっているんですよね。中村雅俊も、以前は子供と話す時間もなかったし、話そうとすると、自分もそこから逃げていた、子供とのかかわりから逃げていたところもある、仕事一辺倒で。ところが、初めて裁判員が参加する裁判をした結果、きょうは早く帰って子供と一緒に飯でも食おうというようなせりふがあって、人生観も裁判官も変わるというような内容だったんです。

 そこまで今の裁判官に、全員に格好よくなって人生観を変えろと言っているわけではありませんけれども、特に開かれた司法というものを実現していくためには、裁判官の意識というのもやはり今までとは同じではいけないだろう、変わっていかなければいけないだろう。

 それで、今裁判官に対するさまざまな研修というものも行われているというふうに伺っておりますけれども、これはどういった目的で、どのような内容を行っている、あるいはこれから四年間に向けて行っていくんでしょうか。

大谷最高裁判所長官代理者 今いろいろ裁判官についてお話がありましたけれども、裁判員裁判というのは、裁判官が裁判員をパートナーとして迎え入れて、いわば一つのチームをつくって、そして一緒に議論をし、結論を出すというところに大きな意義があるわけですが、これは日本の刑事裁判として非常に画期的な、しかし歴史のない新しいことをしなければならないわけで、これに伴って裁判官の意識改革ということも、委員が御指摘のとおり、これから十分行っていかなければならないと考えています。

 そういう意味で、今お尋ねの研修に関してですけれども、司法研修所におきまして、裁判員裁判にふさわしい刑事裁判のあり方というものを議論する研究会を実施することを予定しておりますほか、コミュニケーション能力の体得、向上、冒頭に委員から御指摘がありましたけれども、こういうことを目的として、アナウンサーによる話し方講義やあるいはディベートの実施などのカリキュラムを既に裁判官の研修の中で実施しておりますし、これからもこういった科目については十分充実させていきたいと考えております。

小林(千)委員 これ、今の現職裁判官の判事の方、ごらんになっているでしょうか。

大谷最高裁判所長官代理者 少なくとも私は上映会に参加いたしまして拝見いたしておりますし、それから、これは法務省の方で広く各庁に配っておると思いますので、裁判官もこれから十分見ていく機会はあると思います。

小林(千)委員 せっかくつくったんですから、同じ法務省の中ですから、これがベストだと言っているわけではないですけれども、研修の一環として、これを現職判事の方に見ていただくみたいなことがあっても当然いいのではないかなというふうに思います。

 残された期間が四年間ですので、これからいかに市民の方に理解をしていただくかということに努めていただかなければいけないと思いますし、やはり自分に有罪、無罪というものを本当に正確に判断できるだろうかというのは、マイケル・ジャクソンの判例を見ても明らかのように、本当にクロなのかというのは難しいのかなというような気もいたします。

 それは、マイケル・ジャクソンの裁判のみならず、日本の今までの裁判の中でも冤罪ということもありましたし、本当に言い渡された量刑というものが適切なものであったのかどうなのかということは、これは市民が参加する裁判以外の、今までの裁判官による裁判でも多分同じような問題は起こっていたのではないかな。だからこそ、市民の目線というものを生かす制度をつくったわけでございまして、そういうところで市民に対して畏怖させるようなことが、もっと自信を持ってやってくださいということを積極的にやっていただかなければいけないと思いますし、そこまで、一〇〇%市民に求めているわけでは、完全な正解を求めているわけでもないと思います。

 ぜひ、この辺の、将来に向けての意見を最後に伺いたいと思います。

大林政府参考人 広報の問題につきましては、委員が最初に御指摘もありましたけれども、今から四年、私どもの一応計画としましては、今広く広報する。それから第二段階としては、やはり今度問題になっておられる、層の問題、高齢者の方、女性の方が消極的だという問題があります。あるいは、地域的な問題もあるかもしれません。そういうものを、一応、世論調査等を踏まえて、第二段階では、そういう弱いところといいますか、さらに必要なところを広報していきたい。それから三番目は、仕上げの問題として、もう少し具体化しているでしょうから、そういうものを重点的にやりたい、こういうふうにいろいろ計画しているところでございます。最大限の努力をしてまいりたいと思っております。

小林(千)委員 ぜひ、実施までに向けて、市民に対する広報とともに、やはり関係する法曹三者の皆さん方にも正しく積極的に理解をしていただけるような働きかけを十分していただきたくお願いしまして、質問を終了させていただきます。

塩崎委員長 次に、藤田一枝さん。

藤田(一)委員 おはようございます。民主党の藤田一枝でございます。

 きょうは、一般質疑の機会をいただきましたので、何点か大臣にお尋ねをさせていただきたいというふうに思っています。

 まず、その一つでございますけれども、民法の一部改正、とりわけ夫婦別姓の取り扱いについてお尋ねをしていきたいというふうに思っています。

 この問題、大変時間がかかっている問題であるということは大臣も十分御認識をいただいているというふうに思うんですけれども、平成八年の二月に法制審議会の答申が出された、そして民法の一部を改正する法律案要綱まで作成をされていながら、今日、なぜ進展をしないのかという問題。大変大きな問題でありますけれども、これがなぜ進展をしないのかということについて、大臣、どのように御見解を持っていらっしゃるか、お聞かせをいただきたいと思います。

南野国務大臣 選択的夫婦別氏の民法改正におきましては、法務省といたしましては、平成八年の二月、法制審議会の答申を踏まえながら、少しでも多くの方の御理解を得たいというように努力を続けてきたところでありますけれども、この問題は、婚姻制度や家族のあり方と関連する重要な問題であります。国民各層や関係各方面でさまざまな議論がございます。いまだ各方面の方々の御理解を得ることが難しい状況にあると言わざるを得ない現段階でありますので、このような形であります。

藤田(一)委員 婚姻制度や家族のあり方にかかわる重大な問題なのでということで、各界各層の理解がまだ不十分であるというお話であります。確かに、だからこそ動いていないのだろうというふうにも思うのですけれども、私は、時間がかかっているということについて、法務省としてどのような努力をされているのかということがやはり問題なんだろうというふうに思っています。どんな問題でもやはり賛否はあるわけでして、しかし、これは政策的に推進しなければいけないと判断をしたときには、その反対の意見に対してもちゃんと説明責任を果たして理解を求めていく努力というのを常にやっていらっしゃるはずであります。この問題もそういうことをちゃんとやっていただかなければいけない。それがどれだけこの間なされてきたのかということが今やはり問われているのではないかと思います。

 既にいろいろな形で請願も出されています。私ども民主党は、今回も参議院の方で三党共同で法案を提出いたしています。毎回毎回出させていただいています。全然そこが動いていっていないといういら立ちを非常に思っているわけでありますけれども、それは私どもだけではなくて、現実にこの法律ができることを待っている人たちからすると、もうあきらめに近いような悲鳴が出てきているのではないかというふうに思うんですね。

 そして、この問題に対して世論調査の結果というのも出ています。賛成が反対を上回ったという数字も出てきているわけです。こうした問題に変化があったのか、この間、時間の経過につれてこの問題に対して否定的な要素というものが客観的に上がってきているのかどうなのか、ちょっとその辺を教えていただきたいと思います。

南野国務大臣 平成十二年の十二月、これは男女共同参画基本計画、それを受けまして、世論の動向を把握するために、平成十三年五月、これは内閣府におきまして選択的夫婦別氏制度に関する世論調査が実施されました。この世論調査では、この制度の導入に賛成する意見も以前よりふえてまいりましたけれども、その一方で、今の法律を改める必要はないという意見や、婚姻前の氏を通称として使えるように法律を改めればよいという意見も相当数ございました。国民の意見がなお分かれていることが示されたわけであります。

 そこで、法務省といたしましても、世論調査にあらわれました動向を踏まえまして、国民の理解をさらに深める必要があるというふうに判断いたしておりまして、法務省のホームページ等を通じて制度の周知に努めてきたところであります。

藤田(一)委員 大臣、ぜひ動かしていくという視点を、問題はいろいろあるわけですから、意見が分かれているというふうに御認識されているならば、それをどう整理していくのかということをやはりやっていただきたいという気持ちで、実はきょう私はこの問題を取り上げさせていただいているのですね。

 平成八年からずっともう九年経過をしてしまっているわけです。そして、この問題というのは、平成八年にこういう答申が出た背景には、女性の社会進出に伴って非常に要望が強くなってきたという経過がある、このことはよく御存じのとおりだろうと思います。

 現状は夫婦どちらかの姓を選ぶということになります。圧倒的に女性が男性の姓に変わるということでありまして、もちろん一部には男性が女性の姓に変わる場合もあると思いますけれども、この二つの選択肢しかないということであります。これに対して、選択的な、もう一つの選択肢を提起するということを示している考え方でありまして、選択肢をふやそうということなわけです。現状のままでいいと思う方についてとやかく言っている問題ではないということも、もうそのことはあえて触れなくても御理解はいただいているのだというふうに思うんですね。

 やはり問題は、そのことを政府がどう動かしていくのかということについて、私は、すべてこれはこの間先送りをされているのではないかな、機が熟していないとか、意見が分かれているからということで放置をされてきているというふうに思うのです。

 経過は、今大臣もちょっとお触れいただきましたけれども、男女共同参画社会の実現というのは、二十一世紀の国の最重要課題であるというふうに位置づけられた。そして基本法ができて、基本計画ができて、基本計画は今五年の見直しの時期に入っていまして、いろいろな中間報告も出されて、パブリックコメントを求めているというような状況まで来ているわけです。この基本法に基づいて、先ほど触れられていた男女共同参画会議の基本問題専門調査会が十三年にもこの件の審議の中間まとめというのを出して、制度の導入について指摘をしているわけですよね。

 この男女共同参画会議というのは法務大臣も議員になっていらっしゃるということでありますから、当然にして、やはり動かしていく、推進をしていくというお立場だというふうに思いますが、この立場の問題についてどういうふうにお考えになっていらっしゃるか、御見解を伺いたいと思います。

南野国務大臣 私も、この立場において、いろいろと御意見はお聞きいたしております。両サイドの御意見があるわけでございますので、そういうところをもう少し深く調査するなりしまして、調査も五年ごとにされてきております。時には二年間隔で調査をしたりいたしておりますけれども、そういうことも踏まえながら、皆さんの御意見をそういう方向に持っていけたら、意見が深まればそれはそれでいいことではないかなというふうに思っております。

藤田(一)委員 調査をなさっていらっしゃるということで、その調査の中にいろいろな意見が出てくるのであろうと思いますけれども、反対だと、こういう法律は要らない、改正すべきじゃないのだという形で言っていらっしゃる意見に対して、法務省としてはどういう見解を示されているのか。いや、それはそうじゃない、こういうことでこのことは必要なんだというようなことを、あるいは反対という主張に対してもっともだと思っていらっしゃるのか。どういう見解を示されているのか、少し御説明をいただきたいと思います。

南野国務大臣 法務省としての問題点でありますと、夫婦別姓の導入の問題につきましては、先ほども申し上げましたけれども、国民の理解、さらに関係各方面の一層の御理解が得られるということが一つポイントであろうかなと思っております。

 そういうことを表に出していきながら、法務省のホームページへの掲載、また、タウンミーティングや地方公共団体主催の男女共同参画関係のシンポジウムなどにおいてもチラシを配布する等の啓蒙活動を続けております。チラシをごらんになったことございますよね、そのチラシをそういう会場で配らせていただいたりいたしております。

 また、選択的夫婦別氏に係る民法改正につきましては、国民各層や関係各方面での御議論を踏まえまして、与野党間でこれはもう本当に適切に御議論いただきたいなというふうに思っております。

藤田(一)委員 では、少し具体的に伺いたいのですけれども、反対だという御意見もいろいろあるということでありますけれども、顕著な例というのはどんなものがあるのでしょうか。

寺田政府参考人 これは、先ほども委員の方から強調されましたとおり、当初、この夫婦別氏制度が法制審議会から答申され、国会に法案として提出されそうだという時点での御議論というのは、基本的に、やはり夫婦で氏を異にすることについて大変な反発があったわけでございます。

 しかし、その後、私どもも、これはあくまで選択的な問題で、何も全員に夫婦の別氏を強制するというわけでもないし、委員のおっしゃったように確かに選択肢をふやすという制度なので、そういう御理解を得た上で御判断を願いたいという意味で、さまざまな説明の機会を通じまして御理解を得るためのそういう活動をしてきたわけであります。相当選択的なもので、あくまで強制するものではないような、この問題の性格自体についての御理解は、これは相当進んだというふうに私どもも認識をいたしております。

 にもかかわらず、やはり選択肢をふやすといいましても、取引的行為でありますとさほど抵抗感はないわけでございますけれども、このような身分的行為において、やはりそういう社会的な同一の共同体の中でいろいろな形で形態があり得るということ自体について、なかなか御理解が進まないところもあるわけであります。そういうことをすると、事実上そういう傾向に流れていくのではないかということを懸念される御意見もあるわけでございまして、そういう意味で、必ずしも、選択という理解が進んだとしても、なおこれについての抵抗感が全く消えているわけではないという現状だと私どもは認識をいたしております。

藤田(一)委員 抵抗感が消えていないというお話でありますけれども、もちろん、反対の意見があるということは、言いかえればそういう表現にもなるのかとは思いますけれども、問題は、やはりなぜこういうことが起きてきたのか、希望がふえてきたのかという、その社会的な背景という現状というものをしっかり見ていただいて、それに対してどう対処するのかということが求められているんだろうと思います。

 法制審議会が勝手に答申を出したわけではないはずでありまして、そこにはその必要性、社会の問題というものがあったはずなんですね。そこをしっかりと見きわめていただいて、やはり反対だ、あるいは誤解をされている方々がいらっしゃる、心配をされていらっしゃる方がいるとするならば、そういう意見に対してきちっとした法務省の見解というものをやはり示していただきたい、私はそう思うのです。

 婚姻前の氏で、そして法律婚を希望しているという人たちはたくさんいるんですね。でも、今動いていかないから、事実婚に走ったりとか、通称使用であきらめているとか、そういうこともたくさん出ています。ついきのうかおとといか、ニュース23か何かでもこの問題が取り上げられておりました。夫婦別姓の問題も本当にずっと、私もこの問題がちょうど答申が出たときには、私の立場からするともう時既に遅しみたいな感じで非常に残念に思ったのですけれども、やはりみんな期待をしていた、ところが全然それが進んでいかないということで、あきらめ、いら立ちというか、そういう形で事実婚にも走るとかいう傾向がとても今ふえているような気がしています。

 このままずるずると行くのは、私は絶対によくない。きちっと法務省が、難しいかもしれないけれども、法務省の意思があるのであれば、やはりその意思ということを常に明確にしながら努力を重ねていただきたいと思うのです。

 改めて、この法案要綱まで作成した法務省の意思というものは変わっていないと理解してよろしいのでしょうか。

南野国務大臣 その意思は変わってはおりません。

藤田(一)委員 ありがとうございます。

 意思が変わっていないということですから、しっかり私どもも応援をさせていただきたい、こういうふうに思うのですが、そうしますと、その意思を少しでも前に進めていくための努力の問題になってくると思います。

 先ほどホームページのお話もございました。私もホームページを見てみました。これはホームページからとってきた部分でございますけれども、書かれている文章がなかなか客観的ですね。ここの中で、例えば、反対の意見があることに対して、具体的にそれに対して説明をしていく。よくある質問ということでは、QアンドA、出てきています。疑問に答えようという努力も見えていますけれども、私はもっと積極的な姿勢をぜひこういうところでも見せてほしいなというふうに思います。

 もう一つ、きょう少し取り上げさせていただきたいと思っているのが、これもよく御存じだと思いますが、これは平成十五年版の男女共同参画白書でございます。こちらが「男女共同参画社会の形成の状況」ということを書かれた、これは基本法に基づいて、男女共同参画社会の形成について国会に報告をするということになっておりまして、提出をされている報告書でございます。

 この中に、「男女共同参画の視点に立った社会制度・慣行の見直し」という項目がございます。これは別に十五年、十六年だけを比較するまでもないのですが、ここに書いてある「家族に関する法制の整備」という分野、実は、一言一句たがわない、違わない記載が載っているんですね。もう十五年度、十六年度、全く同じ、一言一句全く違わない、そのまま写してきているという状況で載ってしまっているのです。私は、やはり残念だなと。

 確かに状況は動いていない、厳しいから、文章として書けば同じ書きぶりになるかもしれませんけれども、やはりこういうところに、法務省としてどういう努力をしてきているのかというようなことがもうちょっとわかるように書いてほしい、きちっとした報告としてまとめてほしいというふうに私は思うのです。

 しかも、この報告の中には、平成十七年度に促進させる施策についての記述というものも出てくるのですが、そこを見ていますと、結果報告は一言一句たがわない報告がずっと並んでいるのですけれども、平成十七年に取り組むべき部分のところの「男女共同参画の視点に立った社会制度・慣行の見直し」のところでは、この「家族に関する法制の整備」というのが抜けてしまっているんですね。

 別に意図的に抜かされているというふうには余り思いたくないのですけれども、なかなか動かないので、重点課題としてはいろいろたくさんあるから、影響について調査を進めるというような、あるいは、中立的に働くよう社会制度、慣行についていろいろと見直しを行っていくんだというニュアンスの書きぶりに変わっているということなのかなと、一生懸命行間の中から理解をしたわけでありますけれども、やはり九年たっているこの状況の中で、この問題を動かしていく法務省の意思というものをこういうところで如実にあらわしていただかないと、やはり、何だ、全然動かないじゃないか、あるいは、もうこの話は終わりなのか、だめなのかという話になっていってしまうわけです。逆に言えば、もう項目の中からも何となく薄められているということは、もうやらないということではないかというふうにも受け取れてしまいます。

 この辺、少し御見解をお聞かせいただきたいと思います。

南野国務大臣 そこの記事の問題で、全く一緒だということでございますけれども、先ほども申しましたけれども、世論調査等も計画されておりますので、そこら辺の状況が集まってくればまた内容はうんと変わる方向にも行くのかなと、これは淡い期待になるかなというふうには思っておりますけれども、選択的夫婦別氏、この制度は大変大きな課題でもあろうかと思っております。婚姻制度、または家族のあり方、では両親はそれでいいけれども子供はどうなるのか、いろいろな議論していただかなければならない問題点がある。そこら辺がどうコンセンサスを得られていくのか、まず議員の先生方での御議論がもう少し深まっていっていただきたいと思っております。

 私としましても、この問題については、大方の国民の理解を得ることができるような状況で制度を変えていく、それが一番望ましいことであろうかというふうに思っておりますので、引き続き制度の周知に努めていこうというふうに思っております。国会は国会での御議論、それから国民の方々への周知というものもそれにあわせていく。さらに、アンケートをとりながら、どのような状況であるかということもこれに加えて判断していくということも一つあろうかなと思っております。

藤田(一)委員 大臣が御指摘のように、国会は国会の議論ということで、それは私どももしっかりと主張もしてまいりたいと思いますけれども、しかし、やはりもう一つは政府の意思だというふうに思うんですね。法務省としては意思があるとおっしゃっているわけですから、しかも、さっきの男女共同参画の基本法、基本計画の流れからいっても、男女共同参画推進本部の本部長は総理大臣でいらっしゃいますし、官房長官が取りまとめをなさっていらっしゃるということからしても、内閣としてきちっとこういう問題に対処しなければいけない責務というのが私はやはりあるんだというふうに思うんですね。

 もちろん、そこは国会での議論と車の両輪の部分もあるかもしれませんけれども、私は政府の意思ということをしっかりと明確にしていただきたいと思いますし、そのことは、国民の中にあるいろいろな意見に対してきちっと周知徹底を図っていくということの問題でもあるわけですよね。そこのところの努力の跡、きょうは中身の話でいろいろ余り細かく言うつもりはないんですけれども、施策の実現に向けた法務省としての努力の跡というものを、やはりせめて見える形でしていただきたい。調査されたりチラシを配られたりということが、確かにおやりになっているんだとは思いますけれども、やはり弱いかな、まだまだかなというふうにも思います。その辺をぜひしっかりやっていただきたいと思います。

 私も、法務省はこの間、女性にかかわる問題について、いろいろとお取り組みをいただいているというふうに思います。DVの問題であるとか、先日の人身売買の問題もそうですけれども、ただ、お立場からいって、どちらかというと取り締まりという部分が強く出ていくということもやむを得ないかなという印象も実は持っています。ただ、法律が、あるいは制度が持っている、その中で非常に固定的なイメージをつくり上げている分野というのはたくさんあるわけです。そのことにしっかりとメスを入れていく、そこをきちっと検証していただくということも非常に大事なことなんだというふうに思っておりまして、私は、そういうことをぜひ大臣に御期待申し上げたいというふうに思っています。

 価値観のギャップというのはいろいろあるかもしれませんけれども、それを埋めていく、それが社会に与える影響がどうなのかという、こういうところに着目をして、ぜひ法制度のいろいろな見直しということを男女共同参画の視点からしっかりやっていただきたい。そして、この夫婦別姓については、来年、十七年度の報告の中には、せめてこの記述が変わるように、同じことが絶対に起きないように、具体的に何か努力の跡をきちっと御報告いただけるように、強くお願いをしておきたいと思います。

 時間がなくなってしまいましたので、あと駆け足で、次のことについて少しお尋ねをしたいと思います。

 一つは、中国残留日本人の養子、継子に関する問題でございます。この件、以前もお尋ねをいたしまして、熊本の井上さん御一家の件については、家族の実態に着目をしていただいて、福岡高裁の判決を受け入れていただいたということを大変私もありがたく思っています。さらに、養子、継子の定住者告示ということについても積極的に見直しをしていただくということで、この間、お話が出てきておりますので、これも前進だというふうに受けとめているところでございます。

 それで、きょうは、その見直しの内容あるいは今後の進め方、この点について簡単に御説明をいただきたいと思います。

南野国務大臣 お答え申し上げます。

 法務省におきましては、邦人が中国に残留することとなった歴史的経緯、こういったものにかんがみまして、定住者告示を改正しながら、中国残留邦人の六歳以上の養子、または中国残留邦人の配偶者の婚姻前の子で、六歳に達する以前から中国残留邦人と同居し扶養されていた者について、定住者としての資格付与を可能とするための所要の規定の整備を行うことを検討いたしております。近く、関係省庁との協議及びパブリックコメント手続など、改正のための所要の手続を進めていく予定であります。

 なお、現時点では、関係省庁との協議やパブリックコメントの手続を受けての対応などにどのくらいの時間を要するのかわかりませんので、告示改正の公布がいつになるか申し上げる段階には今のところありませんけれども、できる限り早い段階で公布ができるようにということに努めていきたいと思っております。

藤田(一)委員 ありがとうございます。定住者告示、六歳までの間に手続をとった場合はというお話でございますね。

 問題は、例えばそこに該当しなかった人の問題というのも当然出てくるんだろうというふうに思うんですけれども、この該当しない方々の取り扱いについても、あわせてちょっと御説明いただければと思います。

南野国務大臣 これは、告示によりまして一律に認めることとならない方については、中国残留邦人の関係者の方であることを踏まえまして、個々事案ごとに、実子と同様に育ったか否か、または育ったとすればその経緯、または現在の家族状況、生活状況、それを考慮いたしまして、個々に適切に対応してまいりたいと考えております。

藤田(一)委員 家族の実態に着目をして判断をしていただけるということでありますので、ぜひその点、よろしくお願いをしたいと思います。

 中国残留日本人の方々の問題というのは本当にまだまだたくさんありまして、法務省にかかわる部分でいえば、やはり退去強制にかかわる問題もまだ残っているわけであります。そういった意味で、この問題はもう大臣の方がお詳しいんだろうというふうに思うんですけれども、ぜひ歴史的経過というものを十分踏まえていただいて、そして、これは訴訟にもなっている部分がありまして、七月には判決が出るというようなこともございます。そういった意味で、幅広く、もう一度中国残留日本人の方々の問題について政府としてしっかり対処していただきたい、このことをお願いしておきたいというふうに思っています。

 最後に、本当に限られた時間でありますけれども、マンデート難民に関する対応についてお尋ねをしたいと思っています。

 これは、せんだって、マンデート難民であるクルド難民のKさん親子が強制送還をされたということで、国際的にも大変大きな問題になりました。そして、UNHCRからも懸念が表明をされたわけであります。

 残念ながら、そのときはやはり見解はすれ違っていました。この見解がすれ違っているというところがやはり非常に問題なわけでありますけれども、常々、一〇〇%一致するということではないということもあるんだろうと思います。問題は、難民条約の定義であるとか難民の取り扱いについてUNHCRと政府の見解が異なるというこの状況をできるだけ避けるということが非常に大事であろうと思いますし、そのために緊密な連携とか協議ということが必要だろう。

 政府の方も、この問題が起きてきた強制送還の後に、今後は連携を密にするということを発言されておられましたので、その点は期待をいたしているところでありますけれども、日付としては四月六日付になるのでしょうか、「マンデート難民にかかる対応について」という法務省の見解がございます。この点について、UNHCRに対してどういうふうに政府の考え方というのを説明されたのか、あるいはこの件についてどういう合意がなされているのかということについて伺いたいと思います。

三浦政府参考人 委員御指摘のとおり、難民の問題につきましては、UNHCRとの緊密な連携といいますか意思疎通が重要であることは申すまでもないわけでございまして、私ども、そういう観点から、現在UNHCRとの間でマンデート難民の方々についての個別の解決に向けた努力を行っているところでございます。もちろん、その間に一般的な考え方についての協議も定期的に行っておりまして、週に一度は協議の場を設けるようにしておりますし、そのほか、通常業務の中においても相互に連絡、情報提供等をしておるところでございます。

 そのような取り組みの中で、マンデート難民と認定されている事案につきまして、これまで、処分後の事情等を考慮いたしまして、私どもで人道配慮の観点から在留を特別に許可したという案件もございますし、また、UNHCRの方でいわゆる第三国定住のあっせんをされまして、複数件これがあったということも承知しておるところでございます。

 今後とも、UNHCRとともに積極的な対応をしてまいりたいというふうに思っております。

藤田(一)委員 時間が来てしまいましたので細かくお尋ねできないんですけれども、では、これはUNHCRと合意を見ているというふうに理解をしてよろしいわけですね。そういうふうに私は受け取らせていただきました。

 そして、今御説明がありましたけれども、個別事情がいろいろあって難しい部分もあるんだとは思いますけれども、この中の二と三で書かれている部分、マンデートを尊重する姿勢というものにやはり政府は理解を示しているというふうに私は理解をいたしているところでありますので、ぜひそういうお立場で今後とも取り組んでいただきたいということをお願いしておきたいと思います。

 難民問題、新法になって参与員制度もスタートするということでありますけれども、まだまだ問題は山積をいたしています。人権擁護、そして難民認定申請者の庇護という観点から、これからもきちっと対応をしていただきたいということをお願いして、質問を終わりたいと思います。

 ありがとうございました。

塩崎委員長 次に、松野信夫君。

松野(信)委員 民主党の松野信夫です。

 昨日は、少年法等の一部改正法案、代表質問をさせていただきました。南野大臣にも御答弁いただいて、ありがとうございました。

 きょうは、連日で大変恐縮ですけれども、国籍の問題について、特に無国籍者の問題について御質問をさせていただきたいと思います。

 無国籍者の問題ですけれども、この発生の状況を見てまいりますと、大まかには、戦後、アメリカ軍を中心とした占領が行われて、それで、アメリカを中心とした外国人の父親と日本人の母親というような間で生まれた子供さんが法律のはざまみたいな形で無国籍になってしまった、こういう例があります。

 最近はそうではなくて、日本が経済的に非常に繁栄をしたということで、特にアジアを中心とした女性が日本の方に働きに来られて、日本人の男性と関係を持って子供さんが生まれる。しかし、残念ながら、ある意味では養育というものを放棄してしまってどこかにいなくなってしまう。それがために、結局父親も母親もよくわからないというようなことで無国籍がどうも発生しているのかな。中には、それこそ捨て子みたいな形で、棄児と言われる、非常に無責任な親というものも実際のところはどうも出てきているようで、子供側は全然責任がないわけでありますので、本当に子供さんは気の毒でありまして、そういう子供さんができるだけ余り不利益を受けないような形で安心して日本で生活できるような、こういう方向を目指していかなければいけないんじゃないか、こういうふうに総論的には考えております。

 それで、まず、無国籍者がどういうような状況、どういうような場合に発生をするのか、一般的に法務省の方として考えられる無国籍者の発生のケースと、それから、大まかな発生の数、把握をしておられるのであれば、その辺を明らかにしてください。

南野国務大臣 一般的に、無国籍が発生するケースといたしまして三つほどあるのかなと思っております。

 一つは、父母がともに生地主義を採用する国の国籍を有する者であって子が日本で生まれた場合というのが一つのケース。それから、もう一つのケースは、父が生地主義を採用する国の国籍を有する者、これは日本でもいいわけですけれども、母が父方の系統の血統主義を採用する国の国籍を有する者であって、そして子供が日本で生まれた場合、これが二つ目の問題点であります。それから、三つ目には、国籍を剥奪された者、先生が最後にフィリピンの方のことをお話しになられましたが、そういうような方が他に国籍を持っていない場合、その三つが考えられております。

 さらに、無国籍者の発生数については、これは今のところ掌握しておりませんけれども、平成十五年の十二月でしたでしょうか、外国人登録をしている人の中で無国籍者であるという数は千八百四十六人という数が出ております。

松野(信)委員 発生ケースは今お話しいただいた、大体そういうところが代表的な例だろうというふうに私も承知はしております。

 ただ、ではどれくらい無国籍者が存在しているかという点については、今大臣の方からも、必ずしも正確な数は把握していない、こういうことで、あくまでも外国人登録した中で無国籍者が千八百四十六だ、こういうお話で、無国籍者がどれくらいいるかという数の把握も必ずしも十分にできていない、こういうことのようでありまして、実際のところは、そういう数を正確に把握すること自体、なかなか難しいんだろうというふうに思います。

 法務省は法務省なりの、外国人登録の数の中から拾うということで二千人程度、毎年大体二千人程度のようですが、そういう把握もしておられるでしょう。一方、厚生労働省の方も時々調査をしておられて、特に、例えば児童養護施設に預けられている子供さんたちを全国的に調査されて、何百人という子供さんが実は無国籍だというのを厚労省は厚労省なりに把握しておられるということですが、それもある意味では氷山の一角ではないかなというふうに思います。

 中には、外国人の女性が日本で生活をしていて、子供が生まれたけれども、どこにも出生届も何もしないというようなケースもあって、そういうような数というのは現実にはなかなか把握しにくいだろうというふうに思いますが、できるだけ正確な数を、やはりこの問題については厚労省ともいろいろ協議をしていただきながら、余り無国籍者が発生しないように、そういうことでお願いをしたいというふうに思っております。

 それで、やはり無国籍というようなことで国籍がないと、恐らくいろいろな形で不利益が発生をするのではないかというふうに思います。これも、厳密に言えば、厚労省は厚労省所管の場面ではこういう不利益が出てくる、法務省は法務省の所管ではこういう不利益だということで、それはそれぞれの所管庁で、国籍がないがために何らかの不利益が発生するということは当然出てくるだろうと思うんですが、きょうはとりあえず法務省に限ってみて、国籍がないというために実際どういうような不利益が考えられるか、この点はいかがでしょうか。

南野国務大臣 無国籍者でありまして、いずれの国にも属さないという形で不利益ということを考えるならば、自己の権利を持って、権利として居住することができる国がない、自分の権利を持って住む国がないということでございます。さらにまた、不当な扱いを受けましても、外交保護権を行使してくれる国がない。身分を、身柄を守ってくれる国がない。いずれの国の旅券も取得することができないので、外国への移動が制限される、そういう不利益を受けることが考えられております。

松野(信)委員 自分を守ってくれる国がないというのは、これはやはり本人にとってみれば大変なことですね。もし無国籍の方がどこかで遭難にでも遭ったときに、ではその保護権はどこの国に発生して、どこの国がするかといっても、だれも構ってくれない、こういうふうにもなりかねないかなというふうに思っております。

 法務省が所管をしている範囲内で、無国籍者の不利益というのは今大体大臣の方からお話しいただきましたけれども、例えば無国籍という方が日本に現に、先ほどもお話しいただいたように、外国人登録を見ただけでも二千人ぐらいいらっしゃるわけですが、そういう無国籍の人が、もしかすると日本にもおれないということで、例えば強制退去というふうなことは、これは全く考えられないんでしょうか。その辺はいかがでしょうか。

寺田政府参考人 これはちょっと、法務省の所管ではございますが、入国管理局の所管でございますので、私、正確なことは存じ上げませんが、先ほど申し上げましたように、自分の国ならば、当然何らの措置なくしてそこに居住することが確保されているわけでございますけれども、外国籍あるいは無国籍ということになりますと、一定の手続が必要になるわけであります。

 無国籍の場合は、事実上、日本においでになるわけでございますので、場合によっては、犯罪等にかかわって強制退去になるということも、もちろんこれは他の外国人同様あり得ることだろうというふうに私は考えております。

松野(信)委員 仮に、無国籍の人が、日本からもう出ていけと、強制退去だというふうになるとすると、どこに強制退去されるんだろうか。これはなかなか悩ましい問題ではないかな。今局長の答弁で、日本で何らか犯罪でも犯して、退去だというふうになったとき、これは実際、どのようにお考えですか。どこの国に退去させられるんでしょうか。

寺田政府参考人 正確なことは入国管理局の局長に、先ほどまでおりましたが、お尋ねいただきたいところでございますが、私の承知している範囲では、強制退去の場合は、第一義的には国籍国等でございまして、それがない場合に、受け入れ国を他にいろいろ探すということで、受け入れ国があれば、そこの受け入れ国に退去させるということになっていたんではないかなと考えております。

松野(信)委員 そう数はないんだろうと思いますが、ただ、無国籍者がどういう不利益を受けるか、その滞在の問題についてもどうかということについてはきちっと質問通告はしておりますので、ぜひしっかりとした答弁をお願いしたいと思うんです。

 それから、無国籍者の不利益の点で、日本にいる分はそれほど問題はないのかなというふうに思いますが、無国籍者の人が例えば一回外国に渡航される、行かれる。そうすると、では日本に再入国というような形になる場合、その場合、本当に再入国が認められるだろうかどうか、この点はどうですか。

寺田政府参考人 まことに恐縮でございますが、そういう御質問であれば、入国管理局を呼んでいただかなければちょっとわからないところでございますが、私の承知している範囲では、権利としては入国することはできないんではないかなというふうに考えております。

松野(信)委員 ちゃんと質問通告で、国籍がないとどういう不利益があるか、渡航などの権利はどうかというふうにきちんと質問通告を出していますので、今民事局長さんがお答えが余りできないんであれば、今副大臣の方からもありますか、よろしくお願いします。

滝副大臣 場合によっては渡航証明を出すことができますので、それによって、もう一遍再入国は可能だというふうに思います。

松野(信)委員 そうすると、渡航証明ということで、再入国については、日本国籍を持っている人と特段の差異はなく再入国ができる、こういう理解でよろしいですか。

滝副大臣 ですから、渡航証明でそういう条件がついていれば再入国は可能だ、こういうことでございます。

松野(信)委員 今、何か条件がついていれば再入国は可能だという答弁ですが、そうすると、日本の国籍を持っている人あるいは別の外国の籍を持っている人と、何か条件が違ってくるんですか。

滝副大臣 基本的に、無国籍者が外国へ、海外へ出るというのは、これは特別な事情がある場合でございますから、そういう場合、特別な事情を考慮して渡航証明を出すわけですね。したがって、その人がまた再入国しようというときには、それなりの、やはり特別な配慮をする、こういうことでございますから。

 したがって、一般的に、すべての無国籍者に対して渡航証明が出せるとか、あるいは再入国を認めるとか、そういうものではない扱いでございます。

松野(信)委員 無国籍の人が外国に行かれるというのは、何か特別な理由だというふうに今おっしゃったけれども、それは必ずしもそうじゃない。日本にいる無国籍者の人が観光でアメリカに行って、それからまた日本に帰ってくるということだって、普通の人だったらそういう権利は持っているわけですね。そういうことは、無国籍者の人は原則的には認められていないんでしょうか。

滝副大臣 御案内のとおり、要するにパスポートというのが、日本国政府が外国に対して、この人間を保護してくださいというのがパスポートの意味ですね。無国籍の場合には、日本国政府としてはそういうようなパスポート、海外にこの人間を保護してくださいという依頼はできませんから、ただ単に、そこの国へ行ってもいいですよというだけの話なんですね。それが恐らく、パスポートと、正規の旅券と渡航証明の違いでございますから、おのずからその辺の違いは、差は出てくる、こういうことでございます。

松野(信)委員 要するに、正規のパスポートを持っていないということでの、恐らくさまざまな不利益が現実には発生するんだろう。ですから、やはりちょっと外国に観光でも行くというにもなかなか、そう簡単ではないんだろうなというふうに言わざるを得ないと思いますね。

 そうすると、やはり国籍がないということの不利益というのは、これはもう相当のものだというふうに考えるべきだと思いますね。それで、できるだけそういう無国籍者をなくして、国籍を与えるというのを基本的な方向としてはやはり考えていかなきゃいけないだろう。

 それで、無国籍者が日本の国籍を法律上取得できるようにということで、これを調べてみますと、これまでは、そういう無国籍者の人が国を相手に民事訴訟を起こして、国籍確認の裁判を起こすというようなのが一つの方法でありました。

 これについては、割合有名なのですと、平成七年一月二十七日の最高裁の判決がありまして、これは置き去り児の国籍確認請求事件と一般に言われて、新聞にも出ましたので、割合有名な事件です。

 どうもフィリピンの女性のようですけれども、その人が長野県で子供を産んで、その後、その産んだ子供を事実上の養父母であるアメリカ人の牧師夫婦に預けて、本人はどこかにいなくなっちゃった、こういうケースですね。それで、このアメリカ人の牧師夫婦の方が一生懸命育てておられたわけですけれども、国籍がないということで、どうも当初は国籍をフィリピンとして外国人登録されていたようですが、途中から無国籍として登録されていた、こういうケースです。

 それで、このアメリカ人牧師の方がかわりに訴えを起こされて、手続をとられて、第一審が東京地裁、これはこの子供さん、男児の方の請求を認めたわけですが、控訴審、高裁の方は、これを取り消して、請求を棄却した。そこで、最高裁まで持ち込まれて、最高裁では、要するに国籍法二条三号の「父母がともに知れないとき」、これに当たるというようなことで、男児の請求を認めた、こういうことです。

 ですから、民事訴訟の方で、今申し上げたように国籍を確認する訴えを起こして、認めてもらうという方法が一つ。

 それからもう一つは、最近、平成十五年ぐらいから、家庭裁判所において就籍の許可の審判を得て、戸籍をつくってもらう、日本の国籍を取得する。

 どうも、私が調べた限りでは、民事裁判を起こすか、あるいは家庭裁判所で審判をとるか、どちらかでないと、なかなか無国籍の人が日本の国籍を取得するというのは現実的には難しいかなと。特に、父と母が明確にされていない、どこかに行っちゃっていてわからないというような場合は、どうもそういう手続をとらざるを得ないのかなというふうに思っているんですが、もしこれ以外の方法で、いや、ちゃんと国籍は取得できる、無国籍者の人も国籍は取得できますよというような手段があるのであれば、教えていただきたいと思います。

寺田政府参考人 ちょっと前提として申し上げますが、今おっしゃいました、国籍確認事件はもちろん国籍はどこかということがそもそも争点になっている事件でございますけれども、家庭裁判所の就籍許可というのは、制度の建前上は日本人である、日本人であるけれども、戸籍の届け出をするような者がいないという手続上の理由で日本人として登録されない、そういう者について、家庭裁判所が許可をして、その就籍を認めるという制度でありまして、無国籍の者に日本の国籍を与える制度ではございません。

 ただ、現実には、おっしゃるとおり、国籍の確認をいわば同じ手続の中でやって、結果的にそこで日本人であることがわかれば、それは日本人の就籍の制度でありますからそういう制度が使える、こういうことになるわけでありますので、厳密に申し上げますと、まことに恐縮でございますけれども、日本国籍を与える制度ではございませんで、日本国籍を与える制度としては唯一、帰化の可能性があるわけでございます。

松野(信)委員 法的にはそういうことがあろうかと思いますが、現実には無国籍者の方が日本の国籍を取得する方法としては、民事裁判を起こすか、家庭裁判所で審判を求めるか、現実的にはこういう形になっているんだろうというふうに思います。

 それで、最初の方の最高裁の平成七年一月二十七日の判決、これも要するに、国籍法二条三号の「父母がともに知れないとき」というのは一体どういう場合か、その立証はどの程度しなきゃならないか、こういうことで争われたわけで、最終的には私は妥当な判断になっているのではないかなと。つまり、この二条三号について、「父母がともに知れないとき」ということで、もう余り厳密にはしないでよろしいと、国籍取得を主張する側に「父母がともに知れない」という立証責任を余り重く課したって、それは現実には気の毒なことにもなる、こういう判断が働いているのかなというふうに思いまして、これはこれで尊重していける判断だろうというふうに思います。

 その最高裁判決の中に添付されているんですが、上告理由書の中にも、要するに国籍の重要性というふうにうたっているくだりがありまして、これを見ますと、「国籍を個人の権利として捉えると、これらの権利を保障してくれる国家がないという「無国籍」は、人間の尊厳という原点、人権という視点から見て、何よりもまず防止しなければならないことになる。その意味で、個人が国籍を取得する権利は、「人権を享有するための人権」ともいうべき基本的・根源的な性格を有することになる。」こう記載がありまして、大変これは尊重されるべきものだろうというふうに思いますが、大臣はこの点は、今私が読み上げた点についてはどうお考えでしょうか。

南野国務大臣 無国籍である、自分のよりどころとなるすべがないということについては、本当にお気の毒だなというふうに思っておりますし、そういう方々をどのように扱っていくかということも課題として残っているのではないかな、そのように思っております。

松野(信)委員 それで、「父母がともに知れない」というところで、この長野県で発生した男児の置き去りについても、一審の判断と二審の判断が違っていて、最終的には最高裁が決めたわけですけれども、こういうのにも、国の方が被告になってかなり争っておられたように思いますが、余り無理してそんなに争わなくても、それほどエネルギーをかけないでもいいのではないかな、私はそう思っております。

 それで、もう一つの事実上の方法ということで、家庭裁判所で就籍許可の審判を得るというのがあるわけですが、これも家庭裁判所の方を見ますと、例えばフィリピン人のこの女性が母親であることはかなり近い、けれども完全に特定することまではできないというようなことで、やはり「父母がともに知れないとき」というのを、かなり緩やかに、柔軟に対処をして、判断をしているというように思われます。

 平成十五年以降、幾つもの審判が出ておりますが、例えば平成十五年九月十八日の横浜家庭裁判所の審判を見ますと、○○と名乗る女性の消息は不明になっている、同人のパスポートとか同人の出生証明書を入手することができない。ですから、母親は同女である疑いは強くあるというふうに言いながら、結局、「父母がともに知れないとき」に該当する。なお、この家庭裁判所の審判では、国籍がないけれども、この申立人は日本国において生活する以外に生きていく方法がない、ここまでうたっておりまして、それで、就籍を認めるのが相当だ、こういう判断でありまして、やはりある程度、二条三号のこのところをやや広目にとらえて救済をしているのかなと思いますが、これはこれで尊重すべきことだろうと思います。

 ただ、実際のところ、民事裁判を起こすか、あるいは家庭裁判所で審判を受けるか、あるいは、先ほど局長から答弁いただいたように、帰化をするか、どうもその三つしかないのかなと。現実には、例えば戸籍を受け付ける窓口の現場のところで、ある程度家庭裁判所の就籍事例などもありますので、それに似ている、同種事案だ、例えば最高裁判所の先ほど申し上げた判決もありますので、それと同種の事案だというようなことで、何もわざわざ裁判まで、あるいは家庭裁判所の審判まで求めなくても、窓口対応で、つまり行政の判断で受け付けてあげるというようなことは、これは考えられないんでしょうか。いかがですか。

寺田政府参考人 これは、結局のところ、委員がたびたび御指摘になっておられる、国籍法の二条三号の「父母がともに知れないとき」という具体的な実体要件と、それをどう証明するかという問題とのずれがあるところで、私ども、その点に全くずれがないようなケースにおいては、これは行政が一義的に、定型的に判断ができるわけであります。

 ただ、問題になっているケースは、いずれもこの点を、委員のお言葉ですと広目にとおっしゃっておられますけれども、「ともに知れないとき」というのを証拠上どう見るかということの非常に微妙な判断のもとに成り立っているケースが多いわけであります。先ほどの横浜の審判も、これも具体的な事例を見ますと、やはり日本人の男性の子である可能性が強いというような主張があって、そういう事件の中でなされた判断であるという要素も全く無視できないところでもあります。

 いずれにしても、そういう非常に非定型的なケースと私どもは現時点では考えざるを得ないので、現段階でこれを行政的に処理する手続を非常にわかりやすい形でつくるのは、なかなか難しいというのが正直なところでございます。

 ただ、委員がおっしゃいましたように、この「父母がともに知れないとき」ということの証明が、どういうレベルのものが求められるかということが、もう少し裁判でも具体的な考え方が明らかになり、あるいは事例としても積み重なった折には、そういうことが場合によって考えられないわけでもないので、その段階になりましたらまた検討をさせていただきたいと思いますが、いずれにしても、現段階ではまだそういうことで、これが、定型的に証明の問題が片づけられるという段階ではないというように理解をいたしております。

松野(信)委員 今のところはやはり事例の集積を待った上で行政としても対応したいというところの御答弁なのかなという気がいたしますが、そうしますと、例えば、先ほどから引用しております最高裁の平成七年一月二十七日の判決とか、あるいは最近、平成十五年以降幾つか出ております家庭裁判所での審判事例とか、そういうのを見て、民事局長の方から各地方の法務局の方などに対して、一定の通達とか通知とか、一定のガイドラインを示すとか、今のところはまだそこにまでは至っていないんだ、こういうことでしょうか。

寺田政府参考人 もちろん、平成七年の最高裁判決は、これは何といいましても最上級審の御判断でございますし、その「ともに知れないとき」の意味を、父母である可能性が非常に高くても特定するに至らないという一般論を述べておられますから、行政といたしましては、もちろんこれを前提に行政事務を行うわけであります。つまり、戸籍当局もこれに従ってこの二条三号の解釈をしているわけでございます。

 しかしながら、委員がおっしゃっているのは、それのさらに限界事例のようなものが幾つかさらにあるではないかというような御指摘で、それについて、今それを類型的に処理するような段階には至っていないという判断でございますので、したがいまして、行政的にこれを解決できるというのは、現在ではちょっと困難ではないかなというふうに考えているところでございます。

松野(信)委員 法務委員会では、前回私の方が、ことしの四月十三日に東京地裁で言い渡されました、いわゆる出生後認知の子供についての、国籍法の三条が違憲ではないかという判断がありまして、これについて御質問をさせていただきました。

 これについては、どうも民事局長通達が、ある意味でいえば判決が出るたびに継ぎはぎ的に出されて、難しい事例は民事局長のところに持ってこい、自分が判断してやるからというふうになっているのではないか、こう御指摘させていただいたんですが、今回のようなこういう無国籍者の点について、民事局長さんの方から、難しい事例、限界事例については自分のところに持っていらっしゃい、私が適切に判断をしてあげるからと、こういうような通達というのはないんでしょうか。

寺田政府参考人 これはなかなか難しい、問題の性質の違いがあるというふうに思っているわけでございます。

 前回委員が指摘されました、生後認知されたケースについての裁判例と通達の関係と申しますのは、どうしても胎児認知ができない事情に一定の類型性があって、その類型性に基づきまして、ある一定の場合には同じ扱いをしてもいいという通達を出しましたし、その後さらに、期限を明らかに徒過しているものについて、どういうものであれば、期限を守ることについて、できなかったやむを得ない事情があるかということを判断するために、民事局長の方で再び、この場合には非常に類型性が乏しいけれども救済する必要があるということで、民事局の、つまり本省の方の判断をもとに手続をとりなさいという趣旨の通達を出していることは、これはそのとおりであります。

 ただ、この場合は、この場合と申しますのは、今の国籍法二条三号の「父母がともに知れないとき」をめぐる無国籍児の問題においては、結局のところ、「父母がともに知れないとき」の事実認定の問題そのものでございます。

 それで、通達はないのか、あるいは民事局に判断を仰ぐような指示はないのかとおっしゃいますと、それはもちろんないわけではございません。それはどういう意味かと申しますと、父母がともに知れないというのもいろいろなケースがもちろんあり得るわけでありまして、先ほどの裁判例に見られるように、どうもフィリピン人が産んだということがかなり確実だというにもかかわらず、これを「父母がともに知れないとき」として扱っていいのかということになりますと、これは、その段階では行政当局としてはできないだろうという判断になったわけでございますけれども、そういう点での事実認定の微妙なケースというのが本省に上がってくるケースはもちろんあるわけであります。

 そういう意味で、決して、この問題が本省の判断全く抜きに現場で機械的に処理され、およそお子さんの側の不利益にのみ判断されているということはないということをひとつ御理解いただきたいところでございます。

松野(信)委員 この国籍法二条三号の「父母がともに知れないとき」ということで、先ほどから指摘しているように、家庭裁判所の審判では割合柔軟にとらえて、この女性が母親らしい、この男性が父親らしいけれども、特定にまでは至らないので、結局、ともに知れない、こういうことで判断しているようです。

 それはそれで私はもうやむを得ない判断だろうというふうに思うんですが、しかし逆に、一たんこの判断が出て、二条三号に該当するというふうになって、実際のところ日本の国籍が与えられて、戸籍も与えられた。その後で、例えば、このフィリピン人の女性が母親であったということが後からわかった。今はもういろいろな鑑定方法がありますから、後からこの女性が母親であることがわかった、あるいはこの日本人の男性が父親であることがわかったというようなことがもし後日出てきた場合、これはどうなるんでしょうか。

寺田政府参考人 この場合には、改めて国籍法の二条のもとで、本当にこのお子さんに日本国籍があるかどうかという判断をするわけであります。そのきっかけといたしまして、戸籍法の五十九条では、このような場合に、父または母が棄児を引き取った日から一カ月以内に出生の届け出をし、かつ、戸籍の訂正を申請しなければならないという規定が置かれているところでございまして、そのような手続のもとに、改めて国籍の有無を判断するということになるわけでございます。

松野(信)委員 そうだとすると、後になって、実は母親がフィリピン人の女性で、この人が母親だったというようなことがわかる。そうすると、もしかすると、日本において生活をし、日本人として籍も持っているけれども、後から真実が判明して日本の国籍を失ってしまうということも現実にはあり得る、こういうことですか。

寺田政府参考人 国籍の安定性ということは大変大事なことではございますが、しかし、そういう瑕疵がある、判断にもともと間違いがあるという場合に、これを全く覆すことができないというのはやはり適当ではございませんので、そういう場合の国籍の変更というのはあり得ることでございます。

松野(信)委員 あり得ることだろうというのは私もわからないではないんですが、しかし、日本で現実に生活をして、言うならば、もう子供のころからずっと日本にいるなら日本語しかしゃべれない、そういう人がいきなり日本の国籍をなくして外国の国籍になって、日本から場合によっては出ていかなきゃいけない、そういうケースがあるとすれば、これはやはりおかしいことになるのではないかな、そういうのを発生させないような形をとらなければいけないだろうというふうに私は考えているところです。

 時間がなくなりましたので、最後に、帰化のお話を先ほどちょっとされましたので、帰化の点について一点だけお伺いいたします。

 私も弁護士として帰化の申請手続、代理人でやったことがあるんですが、今でも帰化の申請をしますと、日本語のテストを受けさせられるんです。どれくらい読み書きができるかという日本語のテストを帰化の申請をしてきた人にさせているんです。

 ところが、法律上は、日本語がしゃべれることとか日本語の読み書きができることとか、そんな要件はどこにもないんです。だけれども、現実にはそういうテストをして、本人は非常に気にするんです。やはりテストですから、できがよかったか悪かったか、いや先生、もしできが悪くて、これがために帰化ができないんでしょうかとか、非常にこれは心配をされるんです。

 日本語のできぐあいによって帰化を認めるか認めないかというのは、何かそういうような影響が果たして出てきているのかどうか、この辺はどうですか。

寺田政府参考人 帰化をする場合に、やはり御本人がどれだけ日本社会に同化されているかということが非常に重要になるわけでございまして、日本語の読み書き能力というのを一定の水準でお持ちになっているということは一つの同化の重要なファクターだろうというように考えて、そのようなテストと申しますか、調査というのもしているわけでございます。

 現実には、多くの方はもちろん何らかの意味で読み書きの能力はおありになるわけでございますけれども、中には全くおできにならない方もおいでになるわけでございまして、そういう方の存在も現に申請なさる方でもあるという前提で私どもやはり帰化の申請の取り扱い、判断をしなきゃならないということは、ひとつ御理解を賜りたいところでございます。

松野(信)委員 質問時間が来ましたのでもう終わりますが、ただ、私の質問は、そのテストのできぐあいによって帰化の取得が認められるか認められないかというようなことになってくるとすれば、法律上の要件とは少しずれたところで判断がされてしまうのではないか、こういうことなんで、テストのできのぐあいは何か帰化を認めるかどうかの判断材料になっているんですかどうか、この点だけ最後に。

寺田政府参考人 今申しましたように、日本の社会にどれだけ同化しているかということの一つの徴憑として判断の材料にいたしております。

松野(信)委員 時間が来ましたので終わりますが、ちょっとそれはどうかなという気がいたしますので、またその点についてはさらに質問させていただきます。

 きょうは、ありがとうございました。

塩崎委員長 滝法務副大臣から発言を求められておりますので、許します。

滝副大臣 先ほど松野委員の質問の中で、無国籍者に対する海外渡航の関係で私が答弁させていただきましたけれども、正確に答弁をもう一度させていただきたいと思うんです。

 無国籍者であっても、在留許可が認められている無国籍者につきましては、渡航証明じゃなくて再入国許可証を発行することができる、それでその再入国期間内であれば一般の外国人と同様に我が国に再入国ができる、海外へ出るときにそういう再入国許可証を出す、こういうふうなことでございますので、正確には、そういうふうに答弁をし直させていただきます。

塩崎委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    正午散会


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