衆議院

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第2号 平成19年10月24日(水曜日)

会議録本文へ
平成十九年十月二十四日(水曜日)

    午前十時三十一分開議

 出席委員

   委員長 下村 博文君

   理事 倉田 雅年君 理事 実川 幸夫君

   理事 柴山 昌彦君 理事 早川 忠孝君

   理事 水野 賢一君 理事 加藤 公一君

   理事 細川 律夫君 理事 大口 善徳君

      赤池 誠章君    稲田 朋美君

      後藤田正純君    清水鴻一郎君

      七条  明君    杉浦 正健君

      杉田 元司君    武田 良太君

      棚橋 泰文君    中森ふくよ君

      長勢 甚遠君    古川 禎久君

      馬渡 龍治君    武藤 容治君

      森山 眞弓君    矢野 隆司君

      保岡 興治君    柳本 卓治君

      石関 貴史君    枝野 幸男君

      河村たかし君    中井  洽君

      古本伸一郎君    神崎 武法君

      保坂 展人君    滝   実君

    …………………………………

   法務大臣         鳩山 邦夫君

   法務副大臣        河井 克行君

   法務大臣政務官      古川 禎久君

   政府参考人

   (警察庁生活安全局長)  片桐  裕君

   政府参考人

   (警察庁刑事局長)    米田  壯君

   政府参考人

   (法務省大臣官房長)   池上 政幸君

   政府参考人

   (法務省大臣官房司法法制部長)          菊池 洋一君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    倉吉  敬君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    大野恒太郎君

   政府参考人

   (法務省矯正局長)    梶木  壽君

   政府参考人

   (法務省保護局長)    藤田 昇三君

   政府参考人

   (法務省人権擁護局長)  富田 善範君

   政府参考人

   (法務省入国管理局長)  稲見 敏夫君

   政府参考人

   (厚生労働省大臣官房審議官)           宮坂  亘君

   政府参考人

   (厚生労働省大臣官房審議官)           草野 隆彦君

   政府参考人

   (経済産業省大臣官房審議官)           瀬戸比呂志君

   法務委員会専門員     小菅 修一君

    ―――――――――――――

委員の異動

十月二十四日

 辞任         補欠選任

  近江屋信広君     中森ふくよ君

  棚橋 泰文君     杉田 元司君

同日

 辞任         補欠選任

  杉田 元司君     棚橋 泰文君

  中森ふくよ君     近江屋信広君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件


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     ――――◇―――――

下村委員長 これより会議を開きます。

 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件について調査を進めます。

 この際、お諮りいたします。

 各件調査のため、本日、政府参考人として警察庁生活安全局長片桐裕君、警察庁刑事局長米田壯君、法務省大臣官房長池上政幸君、法務省大臣官房司法法制部長菊池洋一君、法務省民事局長倉吉敬君、法務省刑事局長大野恒太郎君、法務省矯正局長梶木壽君、法務省保護局長藤田昇三君、法務省人権擁護局長富田善範君、法務省入国管理局長稲見敏夫君、厚生労働省大臣官房審議官宮坂亘君、厚生労働省大臣官房審議官草野隆彦君、経済産業省大臣官房審議官瀬戸比呂志君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

下村委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

下村委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。神崎武法君。

神崎委員 公明党の神崎武法でございます。

 鳩山法務大臣、御就任まことにおめでとうございます。大臣はバイタリティーあふれる方でいらっしゃいますから、法務行政に力量を発揮されますことを期待いたしております。

 まず、大臣の死刑制度についての発言についてお伺いをいたしたいと思います。

 ほかの刑は検察官が指揮をいたしますけれども、死刑だけが法務大臣の命令にすることにいたしましたのは、回復不能な刑の執行への慎重さを担保し、制度を成り立たせるために必要であり、再審請求や心身状態を総合的に判断するためである、このように考えられるわけでございます。

 ところで、大臣は、九月二十五日午前、内閣総辞職後の記者会見で、法相が絡まなくても自動的に、客観的に進むような方法を考えたらどうかなどと発言されました。その後、再任を受けて改めて記者会見をして、極刑を執行する重大なことをするわけだから、法相が総合的判断をしないといけないということはわかる、勉強会をしたいと述べられ、現在勉強会を開かれているというふうに承知をいたしております。

 大臣のさきの所信表明で、大臣の言わんとすることはおおむね明らかになったと思いますけれども、改めて、一連の発言の真意についてお伺いをいたしたいと思います。

鳩山国務大臣 神崎先生のような大先輩に御質問をいただくことをまことに光栄に存じます。

 私は、やや多弁に過ぎる性癖がございまして、言葉が適当でない、そういう傾向はあるのかもしれないと日々反省をいたしておりますし、人徳を十分に積んだ人が法務大臣をやるべきである、こう思うときに、まだまだ積んでいる徳の量が少ないものですから、いろいろ誤解を受ける場合もございます。

 きょうは死刑についての御質問がほかの方からも予定されておりますので、大前提だけお話をちょっとしたいと思うんです。

 それは、私は人命を決して軽視しているわけではございません。人命を重く見るからこそ、私は、死刑というものの執行について、今のままでいいのであろうかという率直な疑問を持ちます。

 つまり、でき得るならば、人の命を奪うような犯罪がゼロになればいいと痛切に願うわけでございまして、平成十四年をピークとして犯罪の件数自体は若干減少しているとはいうものの、凶悪犯罪は後を絶たず、決して減らず、人命軽視の風潮はますます広がるばかりで、毎日のように、お子さんが殺された、通りがかりで殺されたというような事件が報道される。

 私は、人命を重んじるがゆえに、全く善良な国民の、あるいは小さなお子さんの命が決して奪われないように、そういう世の中をつくりたいという思いから、死刑の問題についても真剣に考えているという点でございます。

 もう一つ、前提としてお話をしておきたいことは、保坂展人先生からも、死刑廃止論というのか、死刑執行停止論というのか、世界には百三十カ国ぐらい死刑を事実上廃止している国がある、そういうようなことでじっくり話し合いをしましょうやというお申し出がありましたので、いつでもじっくり先生の御意見を承りましょうと。

 この間も、EUトロイカというんでしょうか、御承知のように、EUは死刑を基本的に廃止している、前議長国と現議長国と次期議長国、代表してポルトガルの大使さんから、じっくり死刑廃止論について説明を受け、日本もどうですかということで、いろいろお話をして、勉強になりました。

 そういうことには謙虚に耳を傾けますが、私の人格まで否定する人からの話を聞く必要は全くないと思っておりますけれども、立派な死刑廃止論にはいつでも耳を傾けようと思っております。

 ただ、死刑の執行というのは、不可逆的なもので、命を奪うわけでありますから、慎重にも慎重でなければならない。したがって、恩赦の可能性があるかどうかという慎重な検討も必要である。今、神崎先生お話しのように、心神喪失状態であれば死刑は執行されない。もちろん、再審請求が出ている場合はそれを検討しますし、再審が開始されるという可能性についても真剣に考えなくちゃいけない。非常上告についても考えなくちゃいけない。ありとあらゆることを考えて、しかも、逮捕から死刑確定までのすべての記録を全部法務省の役人が読んで、これで間違いないといって初めて大臣のところに上がってくるんだろう、そういうふうに思うわけであります。

 したがって、粛々と行われることが大切なのでありますけれども、法務大臣の個人的な、あるいは政治家としての姿勢の問題で、どの大臣はどの死刑確定者をいつ執行するんだろう、今度の大臣は何人ぐらいだろうというようなことがやたら話題になる。そのことによって、大臣によって死刑執行のありようが左右されているという状況が、決していいとは私は思わないわけでありまして、粛々と行われるためには、何かもっといい方法がないだろうか。

 少なくとも、刑事訴訟法が要請している、死刑の執行は法務大臣の命令による、しかも、確定から半年以内と。こんなことを言うと多分法務省のお役人は困ると言うでしょうけれども、それが実態に合わなければ、精査するために半年という規定が余りに短過ぎるならば、これを国会にお諮りして、それを若干延ばすというような方法もあるかもしれない。いずれにいたしましても、刑事訴訟法が要請している事態と全く違っているというのがいいことであろうか。

 これは、私の兄、民主党の幹事長でございますが、民主党がということは言いません。ただ、私の兄あたりは、どうして、おまえは法の番人でありながら、そういう刑事訴訟法が要求している事態を放置しているんだというふうに二度ほど言われたことがあるわけであります。

 私は、多少乱暴な物言いをしてしまったので、批判を受けたりはいたしましたが、例えばインターネットで、鳩山邦夫の死刑執行自動化論に賛否を問うというアンケートが出ておった。私は自動化と、そこまで極端に言っているわけじゃないんですが、言葉じりをとらえれば死刑自動化論、賛成八四%、反対一三%、わからないが何%か。私は、それを見て、うれしいとは全然思いませんでした。そこまで今の世論が、国民が凶悪犯罪や人の命を奪う犯罪の続出に憂えているんだな、そんなふうに思ったわけでございまして、今後また、神崎大先輩のお話等を承って、一生懸命勉強してまいります。

神崎委員 大臣の言論の趣旨はよくわかりました。ただ、大臣というお立場でございますので、くれぐれも発言は慎重にお願いをいたしたいと思います。

 ところで、大臣は今勉強会をされているということを言われましたが、勉強会の性格とか位置づけ、これはどういうものなんでしょうか。また、いつごろまでに結論を出す御予定なんでしょうか。

鳩山国務大臣 勉強会は、これは当然法務省内部での話でございまして、もちろんそれは外部から意見を聞いてもいいんですが、現在のところは、刑事局あるいは矯正局、保護局の局長さんクラスに集まってもらって、最も詳しい課長級の方々から、例えば、刑事訴訟法の規定の趣旨はどうなっているのか、実態はどうなっている、死刑執行に至る具体的な手続はどうなっている、法務大臣は一体何を今まで判断してきたのか、あるいは死刑囚というんでしょうか、死刑判決を受けて確定した方が、面会とか文通とかどういう状況になっているのかとか、そういうこともいろいろと勉強してまいりましたし、恩赦との関連等についても勉強し、これはもっともっと内部で勉強しなくちゃいけないことが多いと思っておりまして、いつまでということは、現時点ではちょっと、こういう重大な問題でございますので、時期を明示することは差し控えさせていただきたいと思います。

神崎委員 死刑の執行はこれは大変重大なものでございますので、慎重な御判断をよろしくお願いいたしたいと思います。

 次に、やみサイト問題についてお尋ねをいたします。

 本年八月、インターネットのやみサイトで知り合った三人組が、名古屋市内で通りかかった女性を拉致し、惨殺した事件は、社会に大きな衝撃を与えました。このほかにも、平成十五年十月、東京都内の男性が刺された事件、犯人の少年の、仕事を探している、何でもやりますというネットの書き込みを見た男性が、借金苦から保険金目当てにみずからの殺害を少年に依頼した嘱託殺人未遂事件でありました。さらに、平成十七年十二月、長野県松本市で、無職の男性が派遣社員の男に殺害されました。被害者の長男と孫が、闇の職業安定所で知り合った派遣社員の男に被害者の殺害を二百万円の報酬で依頼したという事件であります。また、ことしの四月、二十一歳の女性が窒息死した事件は、携帯電話の自殺サイトを通じて殺害を頼まれた千葉県市原市の電気工による嘱託殺人事件とわかったところでございます。

 こういったやみサイト問題に、関係省庁は全力でこの取り締まり等の対処方に取り組んでいただきたいと思うわけでありますけれども、インターネットを利用した違法・有害情報、大変目に余るものがあるわけでございますが、この対策としては、情報の把握、警察当局を中心とする取り締まり、それから違法・有害情報の削除、それから教育、広報啓発が重要でありますし、さらに、現行の法制度で足りないというのであれば、これは必要な法整備も大事だと思うわけでございます。

 違法・有害情報の把握につきましては、財団法人インターネット協会が昨年六月に開設したインターネット・ホットラインセンターが一般利用者からの通報を受け付けているというふうに承知しております。また、警察の実施しておりますサイバーパトロールを民間委託することも検討されているところでございますが、警察におきます把握の体制としては現状で十分と言えるのかどうか、その点について警察当局にお伺いをいたしたいと思います。

片桐政府参考人 お答え申し上げます。

 警察では、インターネット上の違法・有害情報を把握するために、今御指摘がございましたようなサイバーパトロールを実施しているところでございますけれども、ただ、インターネット上の情報は大変膨大でございますので、警察の力だけでは不十分だと考えております。

 そこで、民間の皆様方のお力をかりるべく、警察が特定の方に委嘱をしまして、サイバーパトロールを行っていただき、その情報を提供していただくサイバーパトロールモニター制度というものを今運用しております。

 このほか、今御指摘がありましたように、平成十八年度からは、警察庁が委託した団体が、インターネット協会でございますけれども、インターネットの利用者から広く違法・有害情報に関する通報を受けるインターネットホットライン制度も運用を開始したところでございます。

 さらに、来年度におきましては、民間の特定の団体にサイバーパトロールを委託する制度の新設とか、また、ホットラインセンターの体制の充実というものを図ってまいりたいということで、予算の要求を今しているところでございます。

 警察としましては、こういった制度を活用しまして、インターネット上の違法・有害情報の把握に努めてまいりたいと考えております。

神崎委員 ぜひ、既に現状において把握の体制が十分かどうか検討しながら、十分把握ができるような体制づくりをお願いいたしたいと思います。

 それから、取り締まりの方ですけれども、警察の取り締まりの実情はどうなんでしょうか。何か取り締まり上ネックになっている、あるいは問題になっている点があるのかないのか、その点についてお伺いをいたします。

片桐政府参考人 取り締まりということでございまして、御指摘は恐らく違法情報の方だというふうに考えております。

 インターネット上の違法情報については、私ども、捜査を通じて取り締まるということもやっているわけでございますけれども、これのためには違法情報を発信した者を特定することがぜひとも不可欠でございます。しかし、発信元を特定するためには、通信記録、いわゆるログでございますが、これが保存されていないといった場合であるとか、また、保存期間が過ぎて消去されてしまったといったような場合には大変難しい問題がございます。

 また、発信元のコンピューター等がある程度特定されましても、インターネットカフェであるとか、また、本人の身分確認が不要なプリペイド式データ通信カードというものがございますけれども、こういったものを利用されますと、これまた非常に困難な問題に立ち至るということでございます。

 このほかに、外国のネットワークを経由したり、また外国のサーバーを使うといったような形で、容易に身元がわからないようにするといったような傾向もあって、大変捜査上は難しい問題を抱えているというのが実態でございます。

神崎委員 さらに、ホットラインセンターを活用しました削除の働きかけ、これは大体年間何件ぐらい行われて、結果はどういうふうになっているんでしょうか。現状についてお知らせいただきたいと思います。

片桐政府参考人 お答え申し上げます。

 有害情報についてお答え申し上げますと、まず、インターネット・ホットラインセンターは昨年六月から運用を開始したのでございますけれども、本年の五月三十一日までの一年間で、合計で六万十件の通報を受けております。このうち、有害情報と判定しましたのは二千五百六十二件でございます。

 ホットラインセンターでは、このうち、既に削除されていたりとか、また外国のサーバーに情報があるとかいうものを除きまして、千二百九十七件について、サイトの開設者とかプロバイダー等に対しまして削除の依頼を行ったところでございますけれども、その結果、九百七十九件、全体の七五・五%が削除されたというふうに承知をいたしております。

神崎委員 なかなかこの問題は、表現の自由との関係もありますので、難しい問題もあろうかと思います。ただ、先ほど警察当局からの御答弁でも、やみのサイト、匿名性というところが特徴であるところから、いろいろ難しい問題点がある。なかなか十分取り締まりをしにくい現状もあるわけでございますが、その意味から、新たな法整備の必要性を主張する意見もあります。

 ただ、具体的にどういう法整備を主張するかというのは、いろいろな文献を見ましても、なかなかよくわからない。今のままじゃ困る、何とかならないのかというもどかしさはわかるんですけれども、具体的な方向性はまだ出てきていないんです。

 新たな法整備の必要性を求める御意見については、警察当局はどういうふうにお考えになっておりますでしょうか。

片桐政府参考人 お答え申し上げます。

 違法・有害情報の法的規制は大変難しい問題があると存じますけれども、方法としては大きく分けて二つあり得て、個々の情報に対する規制をかける方法と、あと、情報の集積体であるところのサイト自体に規制をかける方法と、両方あり得るのかなというふうに考えております。

 まず、個々の情報のうち、違法情報について申し上げますと、これは捜査によって取り締まるということが現在でもできるということでございます。ただ、しかしながら、何せ情報が膨大でございますので、すべてを捜査という方法で解決することはできませんので、一定の情報につきましては、削除の要請を現在行っているところでございます。しかしながら、削除自体はプロバイダー等の任意の協力にゆだねられているということから、すべてが削除されているわけではないという問題がございます。

 また、捜査という面で申し上げますと、先ほど申し上げましたように、発信者の特定のためにはログの保存というものがぜひとも必要なのでございますけれども、現実には必ずしもそうなっていないという実態があるという問題がございます。

 次に、個々の情報のうちの有害情報でございますが、例えば、インターネット・ホットラインセンターでは、ガイドラインを定めまして、これに基づいて削除の要請を行っているところでございます。これにつきましても、今申し上げましたように、削除するかどうかはプロバイダー等の任意の協力にゆだねられておりますことから、すべてが削除されているわけではないといった問題がございます。このほか、法規制といった場合には、そもそも規制対象である有害情報というものをどうとらえるかという難しい問題があるのではないかと考えております。

 次に、情報の集積体ともいうべきサイトの規制でございますが、例えば、御指摘のいわゆるやみサイトと言われるものの中にも、違法情報、有害情報のほかに、そうではない情報もたくさんございまして、混在しているという実態がございますので、なかなかサイト自体をとらえての規制というのは難しい問題があるのではないのかなというふうに考えております。

 いずれにしましても、インターネット上の違法・有害情報対策は、警察だけでは解決が難しい問題も多いわけでございますので、今後とも、関係省庁とか関係機関、団体と連携しまして、あり方について検討してまいりたいと考えております。

神崎委員 ぜひとも、法務当局も含めまして、関係省庁でこの問題、いろいろな角度から勉強していただきたい、このように思います。

 次に、我が国の検視、解剖制度についてお伺いをいたします。

 大相撲の序の口力士、斉藤俊さんの急死事件で、愛知県警の初動捜査のミスが指摘されております。ぶつかりけいこ後、倒れた斉藤さんが病院に救急車で運ばれて死亡、医師は死因を急性心不全と診断、警察官が事件性なしと判断、遺体は新潟の両親のもとに帰宅いたしましたが、不審に思った両親が新潟県警に相談し、行政解剖となって、この事件の全体が明らかになってきたわけであります。こういった見落とされる死因の問題が今日大きな問題点になっておりまして、単にこの事件にとどまらないわけでございます。

 それから、検視ミスを指摘されている愛知県警が二〇〇六年中に取り扱った変死体のうち、検視官による検視はわずか六・三%しか行われておらず、一般には専門知識を持っていない警察署員らが検視に当たっている、これが現状だときょうの新聞にも報道されているところでございます。

 ところで、我が国には、沿革、目的、主体等を全く異にします二つの検視制度がありまして、一つは、刑訴法二百二十九条に基づく検視、刑訴法二百二十五条に基づく司法解剖であります。もう一つは、死体解剖保存法七条、八条に基づく行政解剖。行政検視、行政解剖、司法検視、司法解剖という二つの制度があるわけですね。そして、この二つの検視制度は、制度上相互に独立して存在し、体系的ではないというふうに言われております。これは、中根憲一さんの「我が国の検死制度」という論文にも指摘されているところでございます。

 欧米では、検視といえば、犯罪死に限らず、広く原因究明と再発予防、情報開示が主眼のシステムというのが共通認識になっているというふうに承知をいたしております。

 最近、検視の問題、死因究明が十分できていないという問題点がいろいろなところで明らかになってきております。私は、二つの制度ができている、そこに一つの問題点があるんじゃないか、そういうふうにも思うわけでございますけれども、我が国の検視制度を根本的に問い直す必要があるという意見もあります。

 この点について、法務当局はどのようにお考えでしょうか。

河井副大臣 神崎先生にお答え申し上げます。

 まず初めに、斉藤俊さんの御家族に対しまして、心からお悔やみを申し上げたいと存じます。

 今先生御指摘いただきましたが、現在、我が国におきましては、死因が明らかでない死体につきまして、二つの方法、すなわち、死体解剖保存法に基づく医師による検案や解剖、そして、変死体につきましては、刑事訴訟法に基づく検察官等による検視や司法解剖が行われておりまして、それぞれの目的に応じて、異なる専門的な知見を有する機関によって、死因の究明のための努力がなされております。もちろん、死因の究明が適正に行われなければならないことは当然のことでありまして、このような死因究明の専門性等にかんがみると、現行の制度にも合理性があるものと考えております。

 法務省としましては、今後とも現行制度を適切に運用することにより、より緊密な連絡、協力をつくりながら死因の究明の適正を図ってまいりたいと考えておりまして、関係する諸機関におかれましては、体制をより一層充実していただくことが重要だというふうに考えております。

神崎委員 これからまた指摘をいたしますけれども、果たして運用だけでうまくいくのかどうか、これは法務当局においても、運用で今後うまくいくのか、あるいは死因究明制度、これを一元化しないとうまくいかないのか、そういう点を含めて、幅広く勉強していただきたいというふうに思うわけであります。

 検視の対象となります死体、これは異状死体でありますけれども、法律に異状死ないしは異状死体の定義を定めた規定がないわけです。刑訴法上は、変死体または変死の疑いのある死体ということで、異状死体とは違うんですね。ですから、そういう定義がないというところがあります。そして、さらに、異状死体のスクリーニングに医師が介在することが担保されていないんじゃないか、こういう問題点も指摘されています。

 また、私はこれまでも、欧米に比べて日本は解剖の割合が少ないんじゃないかということを指摘してまいりましたけれども、専門医でも解剖しない限り犯罪死や事故死を見逃す危険性があるのに、経験の浅い医師や警察官が外表から、表から見て死因や犯罪性を判断し、結局解剖の必要性も判断している、これが現状ではないか、こういう指摘もあります。

 こういった問題点について、どういうふうにお考えでございましょうか。

米田政府参考人 医師の経験、能力につきましては、ちょっと私ども、コメントしづらいところがございますけれども、実際問題として、国家試験を通ってこられたとはいえ、それは個々に法医という面での能力には相当差があろうと思います。

 そういう中で、警察官、司法検視であれ行政検視であれ、まず最初に臨場するわけでございまして、その中で、死体を単に見る、あるいは、医師の意見を聞くだけではなくて、死体の置かれている状況、さまざまな情報を総合して犯罪性あるいは犯罪の可能性があるかどうかというのを判断しなければならない。

 したがいまして、警察官の経験、知識というのは大変重要でございまして、そのために各都道府県警察、警察官の研修をやっておりますし、特に検視の中核になる検視官、いわゆる刑事調査官につきましては、国の方でも研修をしております。

 それから、刑事調査官が本来全件臨場できればいいんですが、今そこまでの体制はありませんので、刑事調査官の指導を得ながら現場の検視をやるというように各県は運用しているところでございまして、今後ともそのように、運用面でございますけれども、検視の充実、そして誤認検視の絶無を期して努力してまいりたいと考えております。

神崎委員 変死体が発見されましたとき、通常は警察嘱託医、多くは開業医が検視に立ち会いますけれども、警察の言うことを聞いてくれる開業医が検視に立ち会って外表のみの判断で病死とすることが求められている、これが現状だ、こういう専門家の指摘もあります。

 他方、鑑定の力が落ちているという指摘もあります。県警と法医学教室の医師とが緊張感のない状態で鑑定がなされている、こういう指摘であります。

 死因が微妙な事件につきまして、鑑定の正確性を担保するため、一人の医師の鑑定だけではなく、第三者の専門医に鑑定を依頼することもやはり今後は考えるべきではないかと思います。これは法務当局に、最後の質問としてお伺いします。

大野政府参考人 お答えいたします。

 先生御指摘のとおり、死因の判断が微妙な事案でありますけれども、現状におきましても、司法解剖の結果に疑問点がある場合等には、必要に応じまして別の医師の意見を求めるなど所要の捜査を行っておりまして、それによって犯罪による死亡であるかどうかを適切に判断しているというように承知しております。

神崎委員 終わります。

下村委員長 次に、早川忠孝君。

早川委員 自由民主党の早川忠孝でございます。

 まずは、法務大臣、御就任おめでとうございます。福田総理は、自立と共生をその政策の基本にしながら、丁寧にぬくもりのある温かい改革を進め、政治に対する国民の信頼を取り戻すということを第一にされております。私も共感をするところであります。

 福田内閣は、謙虚に、かつ、与野党の立場を離れ、国民にとってよりよい政策を実現するために、話し合いを大事にしながら、必要な改革は一切後退させないという断固たる決意を秘められた、まさに仕事師がそろった内閣であろうと存じております。

 鳩山法務大臣には、この難局に当たりまして、司法・法務行政の長としてのお役目をお引き受けいただき、ありがたく感謝しております。歴代の内閣が取り組み、明治維新や戦後の大改革に匹敵すると言われる大きな成果を上げてまいりました司法改革を後退させることなく、さらに前進、加速するために全力を尽くしていただきたいと願う次第であります。

 今次の司法改革については、さまざまな視点からの評価がなされるところでありますけれども、私自身の考え方をまず示しておきたいと思います。

 司法改革の理念は、少しわかりにくい表現でありますけれども、社会の隅々まで法の支配を行き届かせるということにあると思います。司法は国民に開かれ、国民の役に立つものでなければならない、法のもとの平等がその根幹をなすものであって、公平で公正で、しかも透明なルールが貫徹されなければならないというふうに考えております。

 これまでは、官がすべてを決める時代でありました。国民の自立を前提にして、事前規制から事後チェックの社会に転換を図ろうとするのが司法改革であろうと思います。社会的な弱者にも十分配慮し、その権利利益、名誉を尊重するものでなければならないと思っております。

 国民の司法参加は、これまでは法曹の専門家が独占してまいりました司法に国民が参加することにより、司法をより国民に身近でわかりやすく、利用しやすいものにするための改革であろうと思います。一年半後には裁判員制度がスタートいたしますけれども、私たちは、国民が実現してよかったと実感できるような、心底国民が歓迎するような制度にしていかなければならない、この改革を失敗に終わらせてはならないと改めて覚悟をしているところであります。

 さらには、法科大学院制度を発足させ、司法試験合格者の大量増員を実現いたしました。これも社会の隅々まで法の支配を貫徹するためであります。

 あらゆる分野で規範を遵守し、コンプライアンスの体制を確立することが求められているところであります。しかし、残念ながら、政治家の政治資金規正法の収支報告書の不適切記載あるいは違法な献金の収受、官製談合を初めとする公共工事をめぐる談合事件あるいは耐震強度偽装事件やさまざまな職員の偽装事件などが続発しておりまして、いまだ我が国は法令遵守、コンプライアンスの基盤が十分確立していないと言わざるを得ないわけであります。このような状況のもとでは、法曹養成制度の改革の手を緩めてはならないというふうに考えているところであります。

 さらに、国民に身近な司法を実現するためには、司法の担い手をふやすとともに、いつでも、どこでも、だれでも司法へのアクセスができるようにすることが不可欠であります。日本司法センター、法テラスは、司法のネットを日本の隅々まで張りめぐらせていくという視点から、まさに今次の司法改革の目玉に位置づけられるものであり、その活動の一層の充実と拡大が求められているところであります。

 さらに、少年事件の弁護士付添人制度や被疑者に対する国選弁護制度の拡充とともに、これまでほとんど国政の場で考慮されてこなかった犯罪被害者に国選弁護人をつけ、その権利利益の実現を図るということも、国民のために真に役立つ司法を実現するという上では重要な改革になろうと考えております。

 これまで自民党は、世界に誇るべき司法、世界の最高水準を行く司法をつくり上げようという理想に燃えて司法制度改革に強力に取り組んでまいったところであります。法務大臣には、ぜひその理想の実現に向けて全力で取り組んでいただきたいというふうに思います。

 そこで、法務大臣に、司法制度、ひいては日本の法制度全体を見渡して、大きな視点から法務行政全般の重要な課題について御質問をさせていただきたいと思います。

 きょうは、その質問に先立って、実は死刑問題についての法務大臣の御発言について、いささかどうであるかと、ショックを感じたことがありましたので、御質問をしようと思いました。しかし、先ほど神崎委員の御質問に本当に丁寧にお答えいただきました。やはり一人一人のとうとい命にかかわる問題である、しかし法の求めるところによって法の執行は厳正に行っていかなければならない、そういう状況の中で、誤ったメッセージを国民に発信するようなことがあっては、これは遺憾な事態になると思いますので、どうぞよろしくお願いをしたいと思います。

 そこで、司法改革の残された課題について御質問を申し上げます。

 先ほども申し上げましたように、国民にとって身近で早くて頼りがいのある司法の実現に向けて、法テラスや裁判員制度の導入、法曹養成制度の改革を初めとした大規模な司法改革の先頭に立って、我が党は、政府あるいは裁判所との連携のもとで大きな成果を生み出してきたと思っているところであります。しかし、司法制度改革はまだ道半ばであります。国民の利益のために、必要な改革は継続をしていかなければならないと考えているところであります。

 法務大臣は、政府の中で司法改革に取り組むための中心的存在でございます。現在までに実現された司法制度改革の成果と今後の取り組みについて、まず法務大臣の御所見をお伺いいたします。

鳩山国務大臣 早川先生は、法曹であり、専門家であられ、与党の中で司法制度改革の牽引車のお一人であられたわけでありましょうから、これからもぜひ、与党という場で、あるいはこの委員会というような場で、司法制度改革がさらに進んでいくようにお力をちょうだいできればありがたいというふうに思っております。

 もう先生から十分な御説明がありまして、もし一言で申し上げるならば、枠組みというのか、入れ物はつくってきたし、こういう入れ物ができるということが確定をしてきているわけですから、これからは中身が充実するように頑張るのが我々の仕事なのかな、そう思います。

 特に、法テラスについていえば、これは既に始動しておるわけでありますけれども、先ほど先生から御指摘があったように、法テラスが国民と司法の間の距離を近づける、それは国選弁護のこともある、少年に国選でつけるということもあるでしょうし、あるいは被害者が公判に参加する際に資力がなければ国選の弁護士を使いたい、こういうときも中心的になるのはやはり法テラスなんだろう、こう思いまして、そういう意味では、先生方の十分な御意見やアドバイスをいただいて、法テラスがもっともっと活躍できるようにしていきたいというふうに思っております。

 また、裁判員制度につきましては、私は裁判員制度、失礼ながら辞退させていただきますという政令をこれから具体的に定めていくということで、パブコメも求めていくわけでありましょうし、そうした中でも、やはり裁判員制度が国民になじまなければ、全く、何のためにやったかということになるわけですから、国民が意欲的に参加したくなる裁判員制度あるいは裁判員制度によって裁判と国民がもっと近づく、そういうふうにするためには、具体的に細かいところではどういうことを規定したらいいのか、これは一年数カ月後に迫っておりますが、まさに入れ物の中身をきちんとしなければならないということだと思っております。

 裁判の迅速化ということでは、二年以内に一審を終えていこうということで、成果が出ていると思っております。

 また、早川先生御指摘の法曹養成制度、法科大学院との関係等についても、多少、試験をめぐる疑わしい事件等が起きたりいろいろあったりしておりますので、この辺も、本来法科大学院というものをつくった意味、今七十四校あるんだと思いますが、どこにあるのかという原点に立ち返って、それが司法試験あるいは司法修習制度との絡みの中で順調に機能するように努力をしていかなくちゃならないだろうというふうに思っております。

 いわば、不易と流行という意味であれば、当然、司法というもの、あるいは司法以外に法務省が行っている仕事の中で不易な部分というのもあると思いますが、やはり時代に合った形に司法を変えていくというのは、まさにこれは不易と流行の流行の部分でございまして、先生にはこれからも、新しい制度がなじんで機能を発揮できるように、ぜひともアドバイスを賜りたいと思います。

早川委員 ありがとうございます。

 大臣が自分の言葉で一生懸命司法改革のことについて触れていただく、大変ありがたく思っております。

 裁判員制度の関係で一言申し上げますと、これまでは刑事裁判が形骸化されていると言われておりました。早稲田大学の百二十五周年記念の裁判員裁判の模擬裁判に出て、ずっと傍聴をしてまいりました。これは大臣にもぜひ御経験をいただきたいのでありますけれども、今まで当然のように思ってきた裁判というものが裁判員制度に変わることによって大きく変わります。

 それは、裁判官が実は法廷で裁かないで、記録を持ち帰って、調書を読んで判決を書く、こういったことが当然のようになっている。結果的には、弁護人も、国選弁護の場合は、昔の話でありますけれども、国選の割り当てを受けて、その裁判の当日まで被告人に会わない、当日初めて被告人に会っている、それで決まり切った文句で弁論を終えてしまう、こんなこともまかり通っていた時代もあったようであります。それはなぜかというと、法廷で裁判をしていないからであります。どんなにいろいろなことを当事者が申し立てても、後で記録を精査すればいい、こういうふうな習慣になってしまいます。結果的には、裁判が死んでしまいます。

 そういうことで、国民が裁判に参加するということは、結果的には、国民にわかりやすい言葉で国民にわかりやすい裁判を行わなければならない、裁判官もそうでありますけれども、検察官も弁護士も、まさに傍聴席に向かって、あるいは被告人に向かって、わかりやすくその場で質問をし、あるいは意見を言わなければならないというふうに変わるわけであります。

 ですから、この裁判員制度を失敗させてはならないというふうに思っておりますので、よろしくお願いいたします。

 冤罪被害の根絶のことについてお伺いをいたします。

 大臣は、所信の中で、世界一安全な国日本の復活を掲げられ、治安の回復に全力を尽くすと言っておられます。確かに、国民が安心して安全に生活できることは真に豊かな生活の大前提であります。そのためにも、刑事事件の捜査、公判においては、真の犯人が厳正に処罰されるべきであることは当然であります。しかし、その一方において、無辜の者が処罰されるということは絶対にあってはならないと思っております。

 残念なことに、本年に入ってから、富山県の氷見市内で発生いたしました強姦等事件に関して、実刑判決が確定し刑の執行を終了した方が実は犯人ではなかった、他に真犯人が存在することが明らかになったという事件がありました。

 また、本年の二月には、鹿児島地方裁判所で、これは公職選挙法違反事件につきまして、十二名の被告人の方々全員に対して無罪の判決が言い渡されたところであります。

 刑事司法が十分にその機能を果たすためには、国民から信頼されることが不可欠であります。また、国家がみずからこのような重大な人権侵害を犯す、こんなことはあってはならないことだと思います。今回のような事態は、国民の刑事司法に対する信頼を損なうものであり、恐らく法務大臣としても重く受けとめられていることと存じます。

 そこで、法務大臣におかれては、冤罪被害者を出さない、無辜の者が処罰されないようにするために、具体的にどのような取り組みをなされるおつもりなのか、お尋ねをしたいと思います。

 また、あわせて、刑事事件の捜査、公判活動のあり方にかかわる事柄として、これはことしの五月に国連の拷問禁止委員会によって、いわゆる勧告というか最終見解が示されており、その中で、警察に身柄を拘束されている被疑者の取り調べについて、すべての取り調べの録音、録画などを実施すべきだという見解が示されたところであります。

 そのような拷問禁止委員会の見解に対して、法務省としてどのように対応されていくのか、これもあわせてお伺いをしたいと思います。

鳩山国務大臣 先ほどの神崎先生の御質問は、検視というやり方が二つに分かれておって、実際、きょうの新聞に報道されていたように、検視官という人が百四十数名しかいなくて、変死体が十五万件ある、もし全部やると一人千件、一日三件、こんなのあり得ないことですね、こんな人員でできるかということで。

 先ほどの、この間から新聞に報道されている事件について、具体的に私はコメントはいたしませんけれども、いわば犯罪であるのに犯罪であることが見逃されてしまうということが治安上大変大きな問題である。

 しかし、今、早川先生がおっしゃったように、犯罪を犯していない者がぬれぎぬを着せられて、実際、刑期まで終えてしまうという冤罪の事件、冤罪という言葉は余り軽々に使ってはいけないんだと思いますけれども、そういうことは、無辜の者が処罰されるということは絶対にあってはならない。無罪になればぬれぎぬだったということで済みますけれども、実際、服役を終えてしまってからというようなことは絶対あってはならないということでございます。

 前大臣の時代ですけれども、検事長会同において、この事態は重く受けとめなくちゃならない、どうしてそうなったか十分検証して、国民に信頼される検察にならなくちゃいかぬよということをおっしゃっていただいたようでございます。

 それから、最高検察庁においては、先生御指摘のような事件を受け、捜査、公判活動の問題点を調査、検討し、八月に、調査、検討の結果とそれに基づく今後講ずるべき方策について、報告書を取りまとめて公表したところでございます。

 早い話が、自白があって、それを信用したけれども、ほかの証拠と組み合わせてみたらその自白が本当でないことがわかったという形でしょうから、自白以外のさまざまな証拠も全部きちんと調べるように一層努力すべきというふうに考えればいいかと私は思っております。

 したがって、つい先日開催されました全国次席検事会同において、私は、冤罪ということは絶対あってはいけないと思うし、こうした事件が起きたということを真摯に受けとめて、信頼にこたえることができる検察になってくださいというようにお願いをしたところでございます。

 それから、早川先生のもう一つの、いわゆる拷問禁止委員会によるいわゆる最終見解の中で、すべての取り調べの録音、録画についてどうだ、こういうことでありますが、この可視化の問題というのは、民主党さんにもいろいろ御意見があり、既に出された法案もあり、検討中の法案もあるというふうに聞いております。

 これは、要は、可視化、録画するか録音するかということよりも、最大の目的は、間違いがない、事実、真実が正しく把握されて、正しく刑罰が科されるということですね。あるいは、それこそぬれぎぬであればこれが無罪になる、それが目的なので、そのために可視化を全面的にやったらどうかということなんですが、我が国の刑事手続においては、やはり取り調べというものの比重が高いわけですね。外国のように黙秘すれば不利になるというのではなくて、黙秘することも認められている。そういうような状況の中で、やはり微妙なやりとりとかプライバシーに触れるところとかあるわけですね。

 だから、自白の任意性というものを証明するために実験的にこれを、先導的試行をしているというのは事実だろうと思いますが、最初から、もう警察に捕まったときから全部可視化すれば、やはり言おうかと思っていることを言わなくなってしまうとか、そういうおそれがあるものですから、残念ながら、全面的というところには私はまだ心は寄っていってはいないわけでございます。

 司法制度改革審議会意見においても、刑事手続全体における被疑者の取り調べの機能、役割との関係で慎重な検討が必要であるとされており、法務省としてはさまざまな観点から慎重な検討が必要であると考えております、これが公式見解ということになるわけですね。

 ですから、拷問を許さないということは、これは流行でなくて不易のことであって、自白を強要するような形で拷問がなされてはいけないということは断固として守っていかなくちゃなりませんが、では、今直ちに逮捕からすべて可視化かと言われますと、はい、やってみましょうというふうに言える状況にはありません。

早川委員 これは、まだ実際の捜査というものについて、あるいは裁判というものについて十分検討しないと結論は出せないことだと思いますので、これから御検討賜りたいと思うんですが、ただ、我々政治にかかわる者として、例えば鹿児島の志布志の事件なんというのは切実な問題なんですね。

 要するに、今の裁判の中では、言ってみれば供述調書、きれいにつくられた供述録取書、これが証拠になってくる。そうすると、実際の供述のしぶりと作文でつくられた供述録取書、これのそごというのがあるんですけれども、これまでの裁判官というのは、そういった被疑者、被告人との接点が非常に少ない、そうすると、これだけきれいに矛盾なく書かれているものであれば、その方が正しいだろうと信用して、法廷で言われることについてはなかなかそれを信用しない、できない、こういう習慣があります。

 先ほど、いわゆる無辜の者を処罰してはならないと言っていることの中で、自白を求めているというその自白の調書だったり、あるいは十分の補充捜査をしていないまま結果的には予断の中で捜査が進められている、これが結果的にはいわゆる無辜の者を処罰する、冤罪を生む大きな原因の一つになっている。

 そういう意味では、こういった取り調べの過程についてしっかりと録音、録画するという諸外国における制度というものは十分検討していかなきゃならない。ただ、その一方において、正義を実現できないような、要するに処罰すべき犯罪者を世の中に放置している、これも許されない。そういった兼ね合いの中で我々は検討を進めていかなければならない問題であるというふうに考えているところでありますので、どうぞ、そういった観点から、法務省当局においても、裁判所や、あるいは弁護士会や、あるいは警察庁との協議の場で主導していただきたいというふうに思っているところでございます。

 最後に、司法試験合格者問題についても御質問をしたいと思います。

 先ほど、法曹養成制度の問題については、司法改革の残された課題の中で言及をいただきましたので、どちらかといいますと、司法試験の合格者の数の問題についての法務大臣の御発言について触れさせていただきたいと思います。

 司法研修所を終了しても就職先がないとか、あるいは二回試験の不合格者が増加しているということから、司法試験合格者の質が下がっているから司法試験の合格者数を減らすべきであるという意見が一部出ている、あるいは司法試験の合格者を三千人とするのはちょっと多過ぎるのではないかというふうな法務大臣の御所見も新聞等で拝見したところであります。

 しかしながら、司法制度改革は、我が国における法曹が社会のニーズ、需要を満たしていないというような問題意識から始まったものでありまして、これからも質の面でも量の面でも法曹人口を増大して充実をさせるということが必要であろうと思っているところであります。

 特に、今までの裁判にのみ依拠するのではない、裁判だけではなくて、例えば、ADR等の裁判外の紛争手続とか、あるいは公務員の世界に入って、これは国家公務員、地方公務員に入って、いわゆるさまざまな法制度をつくり上げる、こういった形で担っていくとか、あるいは教育の現場でも法の理念というものをあまねく普及するとか、あるいは企業の場合は、まさにさまざまな偽装事件の発覚に明らかなとおり、いわゆる法令遵守、規範遵守、コンプライアンスということが求められている状況の中で、会社法の改正等もあって、こういった体制の充実というのを整備していかなければならない。

 そういうことを考えると、実はまだまだそういった立派な法曹を必要とする分野というのが広がっている。それに対しての十分の手当てがないままに現段階において司法試験の合格者数について、多過ぎるとか少な過ぎるとかという結論を出すのはまだ早いのではないだろうか。

 そうでないと、せっかく希望を持って、高い志を持って法曹になるための法科大学院に入られた社会人の経験者あるいは若い方々、その希望の道が閉ざされるようになってまいりますので、その辺について、法務大臣の御所見を改めてお伺いしたいと思います。

鳩山国務大臣 これも大変難しい問題であるということはよく認識しておりまして、私が卒業するころは、司法試験の合格者は五百人だったかな、大体それぐらいだったかな。これは、もともとそういう枠を決めることがいいかどうかという、教育の世界でいうと絶対評価か相対評価かみたいな話はあるわけですね。だから、質と量の問題というのは常に大問題であって、それと同時に、社会の需要のようなものも考えていかなくちゃならない。

 そこで、法科大学院という制度は、法科大学院と司法試験の有機的な連携ということが描かれていて、そのことによって、多様な人材、場合によっては社会経験を積んだような人も法曹への道が開けていく、そういう崇高な理念があるだろうというふうに思うわけでございます。それで、先生御承知のように、旧試験と新試験がまだ同時並行してきている。ことしで法科大学院の方は、法学部出身というか、法学を既に修学した者が、つまり二年コースが二期目、三年コースがことし第一期目ということでございます。

 ですから、そういうような形で、これは当然閣議決定もされておって、平成二十二年度には三千人ぐらいというふうになっているこの計画は、私は、閣議決定されているものですから、それは仕方がない、仕方がないというか、それはそれでいい。しかし、そこからずっと三千人を続けた場合に法曹人口がどうなるかということを考えていくと、人口何人当たり一人、そういうような数字もありますね。七百人に一人ぐらいになるのかな、こうなっていくとですね。ただ、外国の弁護士の数と日本の弁護士の数を比較した、単純な比較というのは余り意味がないので、つまり司法書士、行政書士、土地家屋調査士、弁理士、その他外国でいうと弁護士さんみたいな方が日本では別の士になっているというケースもあるから、なかなか非常に難しい問題だと思います。

 私は、新しい需要があるのはよくわかります。先生おっしゃったように、例えば、この間も新聞を見ましたら、企業の顧問弁護士というのは多いけれども、企業内弁護士というのは少ないんだそうですね、意外と。企業のコンプライアンスということでいえば、企業内弁護士の方がそれは多分いいんじゃないかなという気もするし、役所の世界に、うちの法務省というところはもう検事があふれ返っておりますけれども、通常の役所で、例えば公取だとか証券取引監視委員会とか、いろいろなそういうところにもっと法曹がいてもいいのかもしれないし、先生は今教育の場とまでおっしゃいましたね、教育の場にもいた方がいいかもしれないと思うし、それから、もちろん国際的ないろいろな難しい案件があるから、法曹に対する需要、弁護士に対する需要というのがふえていることは認めるわけです。

 それでも、現在ゼロワンという地域が結構ある、つまり、弁護士がゼロか一人しかいない、無医村みたいなところがあるということも聞いておりますから、まあ、ふやしてきていることはいいだろうと思うんですが、これがずっと三千人でいくと、人口が減少してきますし、我が国は基本的に訴訟文化ではないと私は思うんですね。私の家のすぐ近くの方が、実は司法修習が終わったんだけれども勤めるところがなくて困っているという、実際そういう状況も起きてきているわけでありますから、需給関係というのもよく見ていかなくちゃならないと思うので、非常に難しいのです。

 私は、三千人にいくまでは認めようと思っていますが、そのままずっと三千人でいくと、我が国が訴訟社会であっていいとは思わないものですから、例えば、どこかで救急車の音がすると、さて交通事故だなというので、いろいろな弁護士さんがおれに仕事をよこせといって大挙集まるような、そういう国であってほしくないと私は思うので、いろいろまた御指導をお願いいたします。

早川委員 丁寧に御答弁いただいて、ありがとうございました。

 時間が参りましたので、終了させていただきます。

下村委員長 次に、馬渡龍治君。

馬渡委員 自由民主党の馬渡龍治でございます。

 まずは、鳩山法務大臣、このたびの御就任おめでとうございます。鳩山門下生の一人として心からお祝いを申し上げる次第でございます。

 この間法務委員になったばかりでこの質問のお時間をいただきました。本当にありがたいと思います。

 そこで、いろいろ質問させていただくつもりでおりますが、先ほどから大臣の御答弁が本当に御丁寧で、幾つかの質問が相当割愛しないとできないかなという心配がありますので、その節は、大臣及び法務当局の皆さん、御容赦ください。

 昭和六十一年に鳩山邦夫代議士の秘書とさせていただいて、二十数年たちました。その中でいろいろ教えていただきましたが、特に私の心に残っている言葉があるんです。それは、人生に勝ち負けがあるんだとしたら、その勝者とは、人生の中でいっぱいいい思い出をつくること、だから、子供たちにいっぱいいい思い出をつくってほしいし、自分でそのいい思い出をつくれる子供たちをつくっていきたい、たしか文部大臣のときのお言葉であったかと思います。

 しかし、幾ら頑張って、自分でいい思い出をつくって幸せになろうとしていても、例えば殺人という凶悪な犯罪によってその人の努力が一瞬のうちに奪われてしまって、命とともに、被害者の関係者は、ずっとその怒りや悲しみが続くわけであります。死刑は反対、犯罪者でも人権がある、そう言う方がいらっしゃるが、でも、殺人事件に巻き込まれた遺族からすれば、そんなきれいごとでは済まない感情があることも事実であろうかと思います。

 今、刑事訴訟法において、先ほど大臣も御説明なされました、その執行の命令は確定後六カ月以内にと。実際には、今平均で七年と五カ月。そして、今死刑執行を待つ方が百四人ですか、いらっしゃるという話を聞きました。今、日本の国にこうやって死刑制度があって、この状態というのが果たして正常であるのかどうか、私はそこに疑問を持っています。

 水野先生が今幹事長をお務めいただいている、鳩山邦夫会長率いる動物愛護管理議連というのがあります。これは、動物たちの虐待を許さず、小さな命も大切にしていこう。鳩山法務大臣は御自身で畑をやっていますから、自然からいただいた命も全部大切にしていく。何というか、アニミズムというか、至るところにその霊を見て、感謝の気持ちを忘れない。大根一本の命もニンジン一本の命も大切にする方がこの死刑制度問題に対して問題提起をされたことは、私は大きな反響、波紋を投げかけたと思います。

 九月二十五日の大臣発言についてはもう神崎先生が言っていただいたのでこれは申し上げませんが、でも、いいことを言っていただきました。法務大臣として、この死刑制度の問題を論じるに当たって、やはり誤解を受けるような不適切な発言は慎んでいただいて、今後、慎重に言葉を選んでこの問題に取り組んでいただきたい、そう思うわけでございます。

 刑罰法規が存在して、実際に処罰が行われて刑罰法規が機能してこそ、犯罪を計画する者に対しては直接的な威嚇をなして、そして一般市民に対しては法への信頼を形成する効果を与えると一般予防論にはあります。また、刑罰は応報としての見方があります。ですから、刑罰をもって犯人に苦痛を与える、こういう見方もあるわけです。

 ですから、死刑執行によって社会から犯罪者を永久に隔離していく、このことによって、実は命を奪われた、その遺族の方たちの苦痛も和らぐこともあるんじゃないか、私はそういう見方をしています。

 そこで、質問させていただきます。本当は三問やろうと思ったんですけれども、時間がなくなりそうなので。

 法務大臣に責任をおっかぶせるような形でなくて、自動的に進むような方法はないかという言葉がありました。大臣は、この死刑執行を命令する責任についてどうお考えになっておられるか、お聞かせください。

鳩山国務大臣 なぜ法務大臣が命令をする形にしているのかということは、それは矯正局とか保護局とか刑事局とかいろいろある、いろいろあるんですが、やはり恩赦の可能性というのがあるかどうか、再審の可能性があるかどうか。

 さっき神崎先生からお話があった、死刑囚が心神喪失の状態になっていけば、これは恐らく、犯罪の三要素みたいな、構成要件該当性、違法性、責任の、もう責任の方でしょう。だから、これはもちろん、犯罪を犯すときには責任能力があっても、死刑囚になってから心神喪失であるならば、これは死刑は執行しないというようなことがある。

 もちろん、万が一にも間違いがあってはいけないから、逮捕から全部読む、調書等は、あるいは証拠を見直して読み返せということもやって、不可逆的な刑ですから、絶対、万が一にも間違いがあっちゃいかぬという状態で死刑を行うので、だから、法務省のトップである法務大臣に命令をする権利というよりも義務を与えているんだろう、私はそういうふうに読み取る。だから、それはそれでいいと思う。

 しかし、法務大臣というものが全部を読み返すわけではない。結局は法務省内の専門家の判断が、この人はこうだ、ああだというふうな形で出てくる。ところが、法務大臣によっては、自分は絶対に死刑を執行しませんという世界観か宗教観か人生観かお持ちの方がいるとすれば、その間は死刑が執行されない。かつても、三年以上死刑が執行されないで、後藤田法務大臣が、やはり制度がある以上きちんとしなくちゃならぬといって判を押したという故事もある。

 そういうことを考えた場合に、法務大臣の思想、信条というか性格によって執行されるかされないかが著しく変化するというものはいかがなものか。本来、粛々と厳粛に、慎重にも慎重の配慮を加えて行われるべきものではないか、そういうふうに考えているわけで、私は、法務大臣としての責任を逃れたいなどというふうに思っているのではありません。ですが、例えば役所の中の専門家が全部意見が合ったならば、これは、自動的にと言うとまた物議を醸すかもしれませんが、執行の命令を下すのが当然というような形になった方がいい。

 先ほど申し上げましたように、世論が、死刑制度の存続についても八割以上の賛成がある。また、非常に粗っぽい、鳩山法相の死刑自動化論に賛成が八四%、こんなのぞっとしますよ。それほどまでに日本人は、馬渡委員おっしゃるところの、人の命を奪うことに対する怒りが大きい民族なのではないか。私は、それはそれですばらしい民族だというふうに考えております。

馬渡委員 ありがとうございました。

 仮に今後ずっと、法務大臣に就任された方が命令を下さないとすると、一体日本の死刑制度というのは何なのだろうということになろうと思いますので、今回の勉強会でぜひとも一つの指針を出していただければと思います。

 次に、今から二十年前に、イタリアの裁判で三百人を超えるマフィアの判決を出した判事が爆弾で殺されてしまったという事件があって、それがもとになって、国際的な組織犯罪防止のための条約、すなわち国際組織犯罪防止条約ができたわけですけれども、これに関連をして質問させていただきます。

 日本の国は、平成十五年の国会で、この条約を締結することを承認しました。それからもう四年もたっているわけでありますが、G8の中でまだ未締結なのはこの日本の国だけです。例えば、米国のあの九・一一のテロや、麻薬の輸入の事犯、そういったことの撲滅を願っていくとすれば、この条約は早急に締結すべきだと考えます。そのためには国内法の整備が必要だということで、その一つが組織的な犯罪の共謀罪の新設であります。これに対してはかなり間違った認識があるようなので、ここの場で正しい内容を改めてお聞きしたい、そう思っております。

 まずは、組織的な犯罪の共謀罪というのはどういうものなのか、その内容を簡潔に教えていただけませんでしょうか。

鳩山国務大臣 我が国の法制の中にも、共謀とか予備とかそうしたものを罰する、個別の限定的なものはあるわけですね。あるいは、共謀共同正犯という理屈、理論も存在はしているわけです。

 要するに、この条約刑法と言われるもの、つまり条約を締結するための国内法の整備として考えられております組織的な犯罪の共謀罪というものは、条約が定める重大な犯罪、すなわち死刑、無期または長期四年以上の懲役、禁錮の刑が定められている犯罪に当たる行為であって、かつ、組織的な犯罪集団が関与する、関与するといっても、その場合には、遂行を共謀した者を共謀罪として処罰するわけですが、それはかなり具体的、現実的に合意をして重大犯罪をやってやろうという、その具体的、現実的な合意というものが条件になると思いますので、決して野方図に広がるものではなくて、非常に限定的に解釈されるべきものと思っております。

馬渡委員 今のに関連することなんですが、この組織的な犯罪の共謀罪、一般の市民や、例えば労働組合などの正当な目的で活動している団体のさまざまな行為にも適用されてしまうのではないかという懸念も聞いたことがありますが、そのような懸念についてどのようにお答えになりますでしょうか。

鳩山国務大臣 一般市民や労働組合等の正当な行為が組織的な犯罪の共謀罪になるということは、全く考えられないと思っております。

 だから、余り具体的な例を言うのは嫌ですけれども、暴力団がそれこそ組織を挙げてあれをやってやろうというような形で計画を具体的に練って合意する、あるいは、振り込め詐欺集団というんでしょうか、組織的な詐欺集団が合意をして詐欺をどんどんやってやろうという、それも具体的に合意して初めて共謀罪になるわけですから、一般の市民とか労働組合が普通に活動しておられて組織的な犯罪の共謀罪になるということは、全くあり得ない。特に労働組合は、組織でしょう。しかし、そういう今申し上げたような重大犯罪の合意をするということはあり得ませんから、全く御心配不要でございます。

馬渡委員 我が国の現行刑事法には、予備罪、共謀罪などの罰則や共謀共同正犯の理論、テロ行為による処罰規定、銃の所持による処罰規定があるので、この組織的な犯罪の共謀罪を新設しなくても、現行のまま何も法整備しなくてもこの国際組織犯罪防止条約を批准することができるとの見解がありますが、これについてはどうでしょう。

鳩山国務大臣 結論から申し上げれば、それでは漏れがいっぱい出てしまうので、重大な犯罪でも、今、馬渡委員御指摘の予備罪、共謀罪、部分的にありますけれども、それでは、重大な犯罪で組織的に合意をして共謀するといっても、漏れてしまうものが大変多いわけでありますから、したがって、条約を締結するためにはきちんと、組織的犯罪の共謀罪、一定の重大犯罪におけるものですが、これを厳密に法整備しなければいけないというふうに考えております。

 つまり、今、馬渡委員御指摘のような予備罪、共謀罪、現に存在している法制では組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪のすべてをカバーできないので、新しい法律が必要であるということ。

 それから、共謀共同正犯という理論は、私も大学時代習ったのはもうとうに記憶がかすんでおかしくなっておりますけれども、共謀共同正犯の理論というのは、犯罪の実行の着手があって初めて成立するものですから、これでは共謀を処罰することはできないわけでございます。

馬渡委員 ぜひこの条約刑法の早期成立に向けて、大臣、頑張っていただきたいと思います。

 さて、次に移ります。

 平成八年に地域改善対策協議会、同じ年に人権擁護施策推進法に対する衆参法務委員会の附帯決議、平成十三年には人権擁護推進審議会の答申、そして国連の規約人権委員会からの勧告などにこたえるものとして、平成十四年に人権擁護法案は提出されましたが、報道機関の取材を規制するメディア規制条項などの批判が強くて、十五年の衆議院解散とともにこれは廃案になりました。人権の侵害や差別、虐待に苦しむ人々に救済の手を差し伸べ、憲法が掲げる基本的人権の尊重や法のもとでの平等を具現化することは、まことにいいことだと思います。

 しかしながら、この法案には幾つかの心配、懸念がありました。現に、メディア規制条項を凍結した上で平成十七年の通常国会に再度提出する予定でありましたが、人権侵害の定義があいまいで政治家の発言も対象になる可能性があるなど、乱用されるおそれがあるとか、人権擁護委員の構成について日本人に限定するべきだとの意見があったり、人権委員会の権限が強過ぎるのではないかなどの異論が続出して、結局、提出できませんでした。

 そこで、お伺いします。

 この人権擁護法案に対する所感について、大臣はいかがお考えでしょうか。

鳩山国務大臣 私は人権派だと自称いたしておるわけでありまして、不当な差別のようなものがなぜ根絶できないのかということについては常に怒りを禁じ得ない、そういう思いで今日まで生きてまいりました。

 私の父が初めて参議院選挙に出るときに、政策の根本をつくるときに、じゃ、私に書かせてくれと言って、正直者がばかを見ない世の中をつくる、一人でも不幸な人がいたらそれは幸せな世の中ではないなんということを、祖父鳩山一郎の友愛思想に基づいて父の参議院の選挙に掲げさせてもらった。それが昭和四十八年、九年のころのことでございます。

 もちろん、それは理想論をうたったものでありますが、世の中に全くいわれのない差別が存在するということは事実でありますから、現在でも、人権侵犯事件の調査、救済という仕事は法務省の仕事であって、人権擁護委員の皆様方、一万数千人おられて活躍をしていただいております。

 ですが、被害者の実効的な救済を図るという意味で人権擁護法案が提出をされたわけでございます。そのいきさつは馬渡委員から御説明があったとおりでございまして、私は、その際、与党内でもさまざまな議論があって、問題点も幾つか指摘をされたわけで、この問題点を、当時反対をされた方に理解をしていただくとか、あるいはクリアできる方法を考えまして、人権擁護法案は国会に再提出をしたいというふうに考えております。

 しかしながら、中身については、これは与党の中にいろいろ御議論がございますので、与党の御議論を踏まえて中身を決めていきたい。この国に人権擁護法がない、これだけの立派な祖国日本に人権擁護法がないというのは実に情けないことではないかと思っております。

馬渡委員 これはかなり慎重に審議を重ねていただきますように、よろしくお願いいたします。

 さて、最後の質問となると思います。

 さきの法務委員会の大臣あいさつで、世界一安全な国日本の復活と述べていらっしゃいました。治安のいい国をつくる対策の一つとしては、積極的に再犯の防止を図ることも一つの手だてだと思います。

 そこで、最後の治安のとりでと言われている刑務所がその機能を十分に果たすことが必要だと思いますし、それを支える刑務官の皆さんの士気の高揚、そして、厳格な勤務をもって正しい矯正処遇ができるようにしなければならないと思います。受刑者が規則正しい生活ができて、そして充実した矯正教育を受けられる適正な収容環境と刑務官の執務環境の整備を図る必要があるんじゃないでしょうか。

 ところが、現在では、全国の刑務所に収容される受刑者が急増して、過剰収容になっていると聞きました。劣悪な収容環境のために、受刑者同士、または受刑者と刑務官との間でトラブルが起きている、こういったことを聞くと、本来刑務所のあるべき使命が果たせなくなっているんじゃないか、そういう心配があるんです。

 そこで、お尋ねします。

 現在、刑務所などにおける被収容者の収容環境や、刑務官の執務環境、居住環境はどのようなことになっているのか、その現状を教えていただきたい。もし悪い状態だとしたら、どのように改善していくのか、教えてください。

鳩山国務大臣 後半のことは私には答える能力はありませんが、この間、三人そろってだったと思いますけれども、副大臣、政務官と一緒に府中へ行きまして、過剰収容の実態を見ました。そうしましたら、その翌日、殴り合いがあって、一人亡くなりました。

 これは、やはり馬渡委員のおっしゃる過剰収容、その収容状況、この環境の悪さと無関係ではない、こう思っておりまして、また、美祢のPFIの刑務所、それからこの間は喜連川のオープニングに行ってまいりましたけれども、再犯率を減らすためにどうするかということは、全力を傾けてやらなければならない最大の仕事だと思っております。

梶木政府参考人 若干、数字的な面を御説明させていただきます。

 まず、刑務所の関係でございますが、委員御指摘のとおり、過剰収容状態が継続しているところであります。本年度につきましては、今大臣から申し上げましたように、美祢、喜連川、そして播磨、これらの三つのPFI施設を開設いたしました。これらを含めまして、今年度末までに七千五百人の収容能力の拡充を図るという予定にしております。また、来年度、平成二十年でございますが、同じようにPFIの手法を活用いたしまして、島根あさひ社会復帰促進センターを運営開始する予定でございます。ここの収容能力、二千人ということでございますので、過剰収容の緩和、解消に向けて大きな力になってくれるというふうに考えております。

 次に、職員の宿舎の関係でございます。

 法務省が所管をしております矯正職員の宿舎、約一万一千戸ほどございます。その約一〇%強ぐらいが、経年によりまして老朽化しております。そこで、我々の方といたしましても、これは継続的、そして計画的な整備が必要だということで、毎年、建てかえの要求を出し、これに努めているところでございます。

馬渡委員 大臣、刑務官の方というのは、施設内に住むか、または何かあったときすぐ駆けつけることができるところに住まなければいけないという条件があるんです。ですから、御自身の気持ちでどの家がいいと選べない状況にあるので、劣悪な今状況があると私は聞いていますので、ここのところ、ぜひ、治安のいい国をつくる観点でも、お考えください。

 最後に、すばらしいお言葉をこの間の法務委員会でおっしゃっていました。残虐で忌まわしい事件、親殺し、子殺しなど、悲惨な事件の続発と殺伐な世相は、和の文明、そして美と慈悲の文明と呼ばれる縄文以来の我が国の固有の伝統が危機に瀕している、まさにそのとおりだと思います。今、多くの国民の皆さんが、いつ自分が、いつ自分の家族が凶悪な犯罪に巻き込まれて命を奪われるんじゃないか、そんな不安におののいていると思います。

 ですから、鳩山法務大臣、ぜひすばらしいリーダーシップをとって、副大臣、政務官と力を合わせて、世界一治安のいい国をつくっていただきますようお願いを申し上げまして、私の質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

下村委員長 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午後零時五分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時一分開議

下村委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 質疑を続行いたします。中井洽君。

中井委員 民主党の中井洽です。

 午前中、大臣の所信に対する与党の皆さんの質疑を聞いておりまして、随分静かな委員会になったなと。先国会、法務委員会に久しぶりに所属しましたら、やじと怒号と強行採決の連続でありました。どうであったかはいろいろ思いはありますが、お互い、国政の最高機関でありますから、十分議論を尽くして、法案審議、こういったものを進めていってほしいと思います。

 同時にまた、参議院で与野党逆転。与野党逆転は過去二回ほど参議院ではありましたが、そのときでも自民党さんが第一党、今回は民主党が第一党、議長さんを私ども民主党が出す、こういう画期的なことになりました。これは、どういう状況になるのか、だれもわかりません。僕は、選挙区で有権者の皆さんに、未知との遭遇だ、こう言っています。これをうまく、本当にうまく国民の政治不信というものを回復するために運用ができたらいい、そのためには本当に知恵を絞らなきゃだめだと僕は思っています。

 まだまだお互い、そういう大変な国会になるという認識がちょっと足りないかなと思いながら、それぞれの国会運営を見詰めておりますが、どうぞ、この法務委員会におきまして、我が党の出そうといたしております可視化の法案あるいは先ほどから与党内調整を一遍やるんだとおっしゃっております人権擁護法案、これらの法案、人権擁護の法案につきましても、民主党ももう一度どういう形があるのか議論をし直そうということになっています。

 あのときには、私は民主党におりませんでした。しかし、私は、民社党、新進党、自由党と来る中で、ずっと同和対策の責任者をやってまいりました。あるいは、同和対策ということだけじゃなしに、別のステップへ上ろう、野中さんも大変御苦労なすった法案であります。運動体もあれで本当に満足かどうかというと、つらいところはあったけれども、まあまあいいじゃないか、自社さ政権でございましたから、そういう状況にありました。

 しかし、あのときに名古屋刑務所の問題で、ここにおられます我が党の河村君なんかを含めて、法務省、人権を守るところが人権を無視しておるじゃないかというので猛烈な反発が出て、法務省があれを担当するということは絶対まかりならぬ、こういう動きになりましたし、その後、自民党の中では、人権擁護委員の中に外国人が入ったらどうするんだとか、特に拉致事件等でナーバスになっている時期でありましたからそういう議論もあって、思いもかけずできなかった。

 これは、本当に仕切り直しできるのかという難しさを僕は感じています。しかし、こういう国会の状況だけに、やりようによってはやれる、それを一歩間違えるとまただめになる、こう思っております。そういう意味で、与党内の調整とかそういうことでなしに、ああいう大事な法案は国会で調整をする、こんな思いで一度お取り組みをいただきたい。

 また、可視化の法案も、取り調べ当局あるいは検察当局、いろいろと議論はあるんでしょう。私どもの党内でも、可視化だけで本当にいいのかと。国民がこれだけ各種犯罪に対していらついて、厳罰を求めているような空気もある中で、諸外国も可視化はいっぱいやっているし、弁護士の立ち会いもやっている。しかし、それは、司法取引もやる、おとり捜査もやる、電話の傍受ということに関してもそれぞれルールを決めている、取り調べ側の方法あるいはノウハウというのもちゃんと確保してやっている。ここら辺を含めて本当に、裁判員制度が再来年始まるわけですから、それまでに間に合うように一遍考えていくということが大事じゃないかと僕は思っています。

 鳩山法務大臣に、この二つの点、与野党が衆参で違う意思を持っている国会の状況の中で、どうお考えになるか、お尋ねをいたします。

鳩山国務大臣 中井先生のような大先輩から御質問をいただいているわけですけれども、先生が法務大臣をなさっておられたときに、私は労働大臣をいたしておった。余り長い期間ではありませんでしたけれども、非常に懐かしい思いがいたしますし、きょうは中井節をたっぷり聞かせていただけるんだろう、こう思うわけであります。

 参議院選挙の結果があのような形になって、与野党伯仲という言葉はよく昔からありましたが、伯仲ではなくて、衆議院では与党が圧倒的に多くて、三倍近くあるのか、二・何倍かある、参議院の方は民主党が大きく第一党になる、こういうねじれ状況というのが生じて、先生は未知との遭遇とおっしゃったけれども、これは福田総理ですらそういう思いをお持ちであろう。経験のないことですから、どうしたらいいのかわからない。

 ただ、要は、一番大事なことは、政党というのは、国民を幸せにする、あるいは日本という国をよりよくする、生活をよくする、不安を取り除く、そのための手段にすぎない。そういう意味でいえば、政党というのも、ノンフィクションかフィクションかといえば、政治はフィクションであると言われますが、フィクションの存在なんだろう。国民を本当に幸せに導くんだったら、それはサトウでもカリントウでも何でもいいんですけれども、国をよくする政党が必要だ。

 私は、そういう中で、ねじれ状況というものが国民の幸せを増進する方向に働く道はないだろうか、それを真剣に考えなくてはならないと思ったんです、あの選挙結果を見たときに。

 そしてまた、個人的な話ではありますが、そのことを兄に手紙を書いたんです。参議院選挙で勝利したことはおめでとうと申し上げます。ただ、かといって、衆議院で民主党が選挙で勝って政権をとるなどというのは、そう簡単に実現する道とも思いません。こういうねじれ状況が、当分、衆議院選挙を経ても続いていく可能性がある。そういう中で、これが国民にとってプラスになるのかどうかを国民は見ている。嫌な言い方かもしれないけれども、民主党がただ政局だけをやる、政治じゃなくて政局に集中して、法律も何も通らない、通らない、通らない。混乱要因になれば、国民は直ちにあなたの政党を見放すのではありませんか。こういう手紙を書いたんですね。

 だから、何かいい方法はないだろうかといったら、返事が来まして、言うことはよくわかる、このねじれ状況が国民にとってプラスになるように、兄弟のパイプは細いパイプじゃなくてうんと太いパイプにしようではないか、こういうふうに書いてあって、とりあえず、お互い共通の友愛という考え方があるんだったら、松下政経塾のように、選挙へ出たい、政治へ出たいという人たちの集団ではなくて、そういう選挙へ出たいという人ではなくて、もっと政治を理解して、何らかの形で政治に発言をしたいという有為の青年を集めて、兄弟そろって友愛塾をつくろう、こういう提案が逆にありまして、それで、早速合意して、友愛塾を来年からつくる、こういうことなんです。

 そういう意味でいえば、私は、今中井先生からお話があった可視化の法案にしても人権擁護関係の法案にしても、与野党で十分話し合って、それはお互い譲りにくい点もあったとしても、国民にとってプラスになるように、何とかみんなで努力するのが国会議員の役割であり、本委員会の役割でもある、法務大臣の役割でもあると思っております。

中井委員 御党の幹事長さん初め、国会で演説をなさると、民主党は現実的対応を、民主党は大人の対応を、あるいは政局ばかりやるな、こういうことを言われるんですね。これは、そのままお返し申し上げておく。民主党はもともと大人ですし、もともと現実対応をしておりますし、ちゃんと日本のことを考えて、政局だけじゃなしにやっている。政局で党を運営し、そして国会の政策を主張しているということではない。

 このことを、まず自民党自体が頭の中で発想の転換をするべきだ。衆議院で圧勝していることが、いまだにこびりついていないか。次の選挙、そんなの簡単に僕らは勝ちますよ、そんなことをあなたはおっしゃるけれども。そういうふうに僕らは思っています。それは、いつやるかとか、いろいろあるんでしょうが。そこら辺も含めて、自民党自体がやはり体質あるいは発想というものを大いに変えるべきだ、このことを申し上げておきたいと思います。

 それからもう一つは、先ほど、朝も鳩山幹事長に会いましたし、昼もちょっと会っておりまして、質問するんだと申し上げておきました。

 お二人ともお育ちがよろしくて、頭もよろしくて、どちらが愚弟賢兄か愚兄賢弟かわかりませんが、よく似ていらっしゃるなと思うのは、よくおしゃべりになる。先ほど、午前中の答弁でも自分で韜晦なさっておったようでありますが。そして、意味のない美辞麗句をお使いになる。御当人は意味があると思っていらっしゃるのかもわかりませんが、よくわからない。僕はそう思って楽しく聞いております。

 大臣の所信の中でも、先ほど馬渡さんでしたか、お話がありましたが、すばらしいとおっしゃった。僕は、どこがすばらしいのかわかりません。和みの文明と読むのですか、和の文明、美と慈悲の文明と呼ばれる縄文以来の我が国の固有の伝統、こんなの全然縄文以来じゃないでしょう。どうしてこれが縄文以来の我が国の固有の伝統か、僕はわかりません。

 あるいは、あなたは時々森の文化だと言われる。これは、宗教で、日本人独特で残してきたんだとおっしゃる。お伊勢さんなんかは、万古不斧の森が残っている、鎮守の森もある、それはそのとおりでございます。しかし、日本は、やはり中国、朝鮮半島と鉄を使う民族が来て、鉄のために木を切り尽くして日本へ、そして日本から先は森がないから、世界で唯一、木を植える民族として今日まで緑を残してきた。ヨーロッパも大体そういう形で、木がなくなるというときに石炭が出たから、ヨーロッパのあのいろいろな森々が残ったと僕は思っています。これは、宗教で森が残ったわけでもないだろう、こんなふうにも思うんですね、僕は。

 それから、あなたは、文部大臣のときにも、この間の文教の質問のときでも、不易と流行という言葉を使われる。不易と流行というのは、あなたに言うまでもないですが、私の郷里の生んだ偉大なる俳聖松尾芭蕉の発想であります。これは、芸術の世界であって、法の世界や教育の世界で不易流行というのがいけるのかどうかというのは、僕はわかりません。しかし、松尾芭蕉の不易流行というのは、違うようだけれども根幹は一つなんだよということを言っておるんですね。あなたは全く違うという形で使われているけれども、僕は、ちょっと用語の使い方も違うんじゃないか、こう思うんです。

 日本の治安の分析あるいは社会秩序の現状を憂えられるという気持ちはわかるけれども、大臣所信にこういうお言葉を使って、縄文以来の我が国の固有の伝統が危機に瀕しているなんというのは、少ししゃべり過ぎ、美辞麗句の使い過ぎじゃないかと思いますが、お気持ち、お心、僕の言うことが違うようでしたら、どうぞ御答弁ください。

鳩山国務大臣 不易と流行については、今先生から松尾芭蕉の話を承って、ああ、もともとはそういう使い方であったのかなと思うと、少しこれから気をつけていかなければならないと思っております。

 実は、和の文明というのは、これは正確ではないので、和をなす文明と書けばよかったかなと。和をなす文明とか美と慈悲の文明というのは、実は学術的にかなり使われる言葉でございまして、それは私が少しのめり込み過ぎているのかもしれませんが、いわゆる国際日本文化研究センター、梅原猛先生とか安田喜憲先生あるいは同じ系譜の川勝平太さん、そういうような方々が使われる発想からとったものでございまして、例えば、和をなす文明に対する言葉としては、敵をつくる文明という言葉が日文研、国際日本文化研究センター等では使われておるわけです。

 敵をつくる文明というのは、ちょっと極端な言い方をしますと、常に敵をつくっておかないと頑張れないというか、彼らの論文等を読むと、悪の枢軸という決めつけ方等は、そういう文明の質をあらわしているのではないかというようなことが盛んに今言われるわけでございます。

 なぜ縄文以来なのかというのは、これは十分に御理解いただきたいのです。

 今の日本の小学校や中学校の歴史教科書は縄文についての理解が基本的にないわけですが、要するに、今から一万年ぐらい前に縄文時代というのがある。我々は、立派な文明があった、縄文文明とこれを読む。すなわち、ギュンツ、ミンデル、リス、ウルムという四回の氷河期が終わったのが一万四千五百年ぐらい前であって、そこからいわゆる現代の気候になったときに縄文文明が生まれる。対応するのが、黄河文明でない長江文明でございます。

 この長江文明と縄文文明は交流があったことが明らかになっておりまして、ともに特徴は、徹底的な和をなす文明、共生の文明でございまして、全く戦争というものがない世界ですから、鉄器もないんですが、武器というものをつくろうとしない、共生するんですから武器というものが不要であった。そういう状況の中からそれぞれが、長江流域で稲作漁労文明が盛んになって、日本にも伝播してくる。

 弥生時代以降の日本というのは戦等もあるわけですから、むしろ縄文人たちの徹底した平和志向が和をなす日本文明の源泉にある、こういうことで、またしゃべり過ぎでしょうか、そこで、私も、あえて弥生ではなくて縄文以来の文明、これは中国の長江文明の文献をお読みいただけると非常にわかりやすいかと思いまして、そういう和をなす文明、これは、美と慈悲の文明、つまり闘争の文明ではないということを美と慈悲の文明という表現をしているわけでございまして、非常に平和で命たっとぶ文明だと御理解ください。

中井委員 戦争好きで命をたっとばない文明というのはめったとないんでして、みんな平和に生きて、幸せに暮らしたいということであったと思いますから、それが縄文以来、日本固有の文明だなんというのは、僕もちょっと、いろいろな本を読んだことがありますが、聞いたことも見たこともないな、こう考えております。個人の文化論、文明論をいろいろと言われるのはいいが、法務行政とはちょっと違うんじゃないか、あえてこういったことを申し上げておきたいし、それを聞かされる役人さんも迷惑ですから、ほどほどにされておくことを重ねてお勧めいたします。

 午前中も御議論がありましたが、死刑の制度について、二十五日に、もうおやめになると思ったのでいろいろなことを言われたのかどうか、僕はよくわかりません。また、ここにも非常に回りくどく、勉強してまいりたいと考えています、こういうふうにお述べになっています。この勉強の間、あなたは法務大臣として、死刑執行の書類が回ってきたら、これはこれでお考えはおありでしょうが、執行を許可する、こういうおつもりであるのかどうか、これがまず第一点の確認であります。

 それから、あなたがこの間から申されていることは、諸外国で、要するに死刑というものを残している国で、それを執行するのは法曹だ、裁判所だ、大臣なら大臣は、法務大臣なり司法大臣は恩赦という権限は持っておる、特赦も持っておる、しかし執行は違うだろう、こういう思いでこの日本の死刑制度の仕組み全体が違う、こう言われているのか。一体何がおっしゃりたくてああいうことを言われたのか、御説明ください。

鳩山国務大臣 凶悪犯罪が減らない。今では、インターネットを使った形で自殺幇助だか殺人だか、そういうことも平気で起きる。親の子殺し、子の親殺し、この間も幼女が殺されていく。しかも、首のない猫とか首のないハト、私はまだ首はありますけれども、首のないハトが転がっておったとか、そんなことがきょうの新聞にも出ておる。何か非常に命を軽視する風潮が強い中で、人を死に至らしめる、人の命を奪う殺人という行為をとにかくできるだけ減らして、ゼロに近づけるということが何よりも中心にあるわけです。

 それは、死刑制度を廃止した後犯罪がふえたとか、減ったとか、別にふえるわけがないとか、いろいろな理屈は山のように聞かされておりますけれども、しかし、やはり刑法全体に犯罪抑止効果というものがあるとするならば、応報という考え方もあるし、人を何人殺してもみずからの命は大丈夫だという考え方に私は今くみするものではないわけです。

 ただ、私自身、先生の冒頭の部分について申し上げれば、法務大臣としての責任を逃れるものではありません。現在の制度がある限り、それが回ってくれば、それがきちんと精査されているものであるかどうかを私が判断しなければいけないでしょう。

 つまり、再審の可能性はないのか、非常上告ということはあり得ないのか、心神喪失の状態にないと言えるか、あるいは今先生おっしゃった恩赦という可能性が全くないと言えるかというようなことを判断して、現行法の刑事訴訟法の規定に基づいて私は決断しなければならない、こういうふうに考えております。

 ですが、神崎先生の御質問にお答えしましたように、私は、こういう問題については世論というものは非常に大きな重みを持っていると思います。ですから、凶悪な犯罪に対して死刑をもって処する、死刑を存置すべきだという意見が世論的にはむしろふえつつあるという状況は大きいと思います。

 私は、死刑廃止論者、アムネスティ・インターナショナルの方々のお話でも、いつでも心を無にしてお聞かせいただこうと思っております。そしてまた、それが日本の世論になってくれば話は全然別だと思いますが、現在のように、凶悪犯罪が決して減らない、そういう中で、国民が、凶悪な犯罪に対しては死刑をもって処するべしという意見が圧倒的な多数であるという状況の中で、刑事訴訟法が規定している、法務大臣が死刑の命令をせよ、確定から半年以内にしろという状況が全く崩れて、法務大臣になった途端に、あなたは一体何人ぐらい死刑の判こを押しますかということが平気でマスコミから聞かれる、あるいはそれが話題になる、そのことによって死刑の執行が進んだり、全く滞ったりするのはいかがなものか、本来、これがもう少し粛々と進むような道はないであろうかということが発想の原点にございます。

中井委員 法務大臣になりまして二番目ぐらいに死刑確定者の名簿を見せられるんだという記憶を持っております。

 私は、個人的に言えば、やはり日本は、死刑廃止を言う前に、終身刑、無期懲役ですね、これをきちっと制度として直すべきだ。

 無期懲役というのは、一般の国民の皆さんは大体、本当に一生刑務所に入っているとお思いだけれども、十五、六年で出てくる人もいらっしゃる。もちろん、矯正されるわけですから、立派に矯正して出てこられるわけですから、これは結構なこと。しかし、一般の国民は、そういう無期懲役というのを死刑に次ぐ重たいものだという中で、ずっと刑務所に入っていると思っていますから、そこのところに、死刑と一般刑罰との間に物すごい乖離がある、こう思っております。これをまず先に直すべきだ。

 同時に、アメリカなんかは二百年とか八十年とかいう刑があって、恩赦になっても半分だ、それで一生刑務所から出られない、こういうシステムもある。それらも含めて、刑罰全体を考え、もっと周りを整備してから死刑の問題については議論をすべきだ、こう思っています。

 同時にもう一つは、私は、国会議員みんなが、死刑廃止、死刑賛成、死刑やるべし、いろいろと議論があると思いますが、死刑廃止だ、死刑をすべきでないという人は法務大臣を受けちゃだめだ、任命されてもそれは断るべきだと思っておるんです。ところが、残念ながら、死刑をするのは嫌だけれども法務大臣はやりたいという人がおつきになる。本当はつらいことだし、重たいことであります。そういう意味で、政治家はもう少しお互い、大臣になるという重み、また法務大臣に就任をするという重さ、こういったものを考えるべきである、あえてこういったことを申し上げておきたいと思います。

 発言を少し、回りくどく直されているようですから余り申しませんが、しかし、ここで述べられている、僕が恩赦と言ったのではなしに、あなたの所信の中に恩赦の可能性等というのがあるわけです。

 しかし、もう二十年以上、死刑の方の恩赦の申請というのは出ていない、出ても却下されるということで出ていない、こういう状況にあります。一時、恩赦等で、死刑の方も実は対象になったりしておったんですね。ところが、選挙違反事件等で、恩赦ですぐ出てくるじゃないかとか、恩赦という形で罪を逃れるのは何だという猛烈な世論の中で、恩赦の制限というものが非常に厳しくなって、以来二十年ぐらいたっています。したがって、死刑制度と恩赦の制度というのが、今、現実には日本では機能していない、こういうことも頭の中にお入れいただいてひとつ頑張ってほしい、このように思います。

 もう一つついでに、刑務所の問題で先ほど御議論がありました。来年になりますと七千二百人ぐらい定数がふえて、刑務所の定数というのもおかしな話ですが、トータル七万数千人ということで、何とか過密状況を脱却できそうだという話がありました。

 しかし、これからもふえ続けますから、刑務所をつくり続けて何とか間に合わすということも一つです。PFIなんかをやって、できる限り安くでやっていただこうというのも一つです。

 しかし、それに伴って、法務大臣、刑務官をふやさなきゃならない。そうすると、法務省の総定員ということに関して、入国管理も、二十四時間空港といえば、もうたちまちにふやさなきゃならない。検事さん、それからこちらは違いますが、最高裁の判事さん等々の定数、こういったことも全部だとなってきますと、法務省の定数、大変なことになります。

 そういう意味では、もう少し矯正ということを充実させて、仮釈放の要件を緩めたらどうだ。大体、今、九割ぐらい刑期を勤めないと出られない、よっぽどの人は六割、七割で出てくる人もいらっしゃるようですが、ここら辺、もう少しやり方があるんじゃないかと僕は思っていますが、法務大臣としてお考え、いかがですか。

鳩山国務大臣 刑務所の過剰収容問題は、収容率というのを見ますと、今、十九年の数字はありませんが、十八年で、刑務所の場合、つまり既決が一一五%です。未決が五六・九と非常に十八年は低かったものですから、全体は一〇二・四%となっている。しかしながら、刑務所の方、つまり拘置所を除いた刑務所の方は一一〇%後半というような数字が並んでいる。

 美祢ができた、喜連川ができた、播磨ができるというようなことで、美祢で千人でしょうか、この間、私は喜連川に行きましたが、二千人ですから、そういった意味では期待はできるんですが、収容人員がまだずっとふえているわけですから、刑務所をふやしても、収容人員、つまりどんどん新しく入ってくるのが多くて、またすぐいっぱいになっちゃうというのが今の実態なのかな。

 そう思いますと、今回の犯罪白書でも触れておりますように、やはり矯正という事柄をきちんとやることによって再犯率を下げるということが何よりも大事だろう。犯罪白書、ちょっと雑な読み方かもしれませんけれども、三割ぐらいの再犯、再々犯の人が全体の七割ぐらいの犯罪を犯すという非常に情けない状況になっている。

 私も、正直言って、中井先生に白状すると、府中の刑務所へ行きました。あそこは二千何百人も入っている。平均何回目ですか、つまり、何回目の人が多いんですかと言ったら、平均で四・五とかいう数字を聞いて、そんなにかと思いました。二・五とか、せめて三ぐらいだと思っておったわけです、頭の中では。それが、四・五とか四・六というような数字を聞きますと、出たらまたこんにちはと戻ってくるのかなという感じですよ。

 そういう意味で、中井先生おっしゃるように、矯正ということをしっかりやると同時に、仮釈放という制度があるわけですね。これは、受刑者に、行動が非常に良好である、改悛の状があるかどうかということなんでしょうが、個別に判断しなくちゃいけないわけですから。

 ただ、収容率が高くなっちゃって満杯だから仮釈放をふやすという論理で物を考えることはできないと思いますが、先生おっしゃるように、仮釈放という制度は、励みにもなる非常に有用な制度ですから、これをめり張りのある運用に変えていくということは大事だというふうに思っております。

中井委員 バブル崩壊以降、やはり不景気でしたから、社会へ出ても食えない、また長寿社会になりましたから、結構、お年寄りの方が出られたら対応できなくてまた刑務所へ戻られる、戻った方が安全だと。それから、病気をしている人が、医者代も払えないから刑務所の病院の方がいいと言うとか、いろいろなうわさは聞きます。そういったことが四・何倍という数値にもなってくるんだと思います。有効求人倍率等が少し上がってきましたから、その辺も含めてやりようがある。どうぞ、トータル的に、おっしゃるように総合的な形で御検討いただきますようお願いいたします。

 それから、過般用事がありまして、公安調査庁にお越しをいただきまして、いろいろな話を承りました。そういたしましたところ、このごろはテロ対策をやっているんだ、こういうお話でございました。幾つかテロ支援のグループと思われる人たちも、他の関係省庁と協力して国外追放処分にしたりして効果を上げています、具体例は別にいたしまして、こういうお話をいただきました。

 僕はそこではたと考えて、いろいろ思うんですが、よくわかりません。公安調査庁というのは、破防法とオウム対策、この二つが、法的に調査をする対象として与えられている法的根拠だと思うんですね。いつ国際テロというのが公安調査庁の調査対象として認められたのか、また、その法的根拠は一体どこにあるんだろう。

 テロ対策をやるというのは結構ですよ、大いにやってくれたらいい。しかし、爆破テロ等をやろうとする過激な集団に対して武器も何もない集団が調査するというようなことで本当に対策ができるのかというようなことを含めて、非常に複雑な思いがあります。

 私は寡聞にして公安庁がそういったことをやるという命令を受けたという話も余り聞いていませんし、経過と経緯等をお知らせいただければと思います。

鳩山国務大臣 公安調査庁というお役所は、もともと、過激な左翼とか、そうしたところに注目をして調査しておられたというふうに私はとらえておりますけれども、もちろん、さまざまな組織犯罪的な事柄について調査をしていると思っております。

 ですが、やはり今は国際テロということが非常に大きな脅威になってまいりましたし、松本サリン事件とか地下鉄サリン事件というのも一種の無差別テロのような様相を示したというふうに思います。また、国際的に今さまざまなテロが行われておりますことは、アフガニスタンだ、あるいはイラクだ、いろいろな例が幾らでもあるわけでございまして、そういう国際テロがいつ日本を襲うか、それはわからない。まことに厳しい社会情勢、国際情勢であることは間違いがない。

 ですから、破防法の二十七条で、基本的にはテロ対策も、そのための調査もやらせていただく、こういうふうに考えております。(中井委員「二十七条、読んでくれる」と呼ぶ)「公安調査官は、この法律による規制に関し、第三条に規定する基準の範囲内において、必要な調査をすることができる。」というのが破防法二十七条の規定でございます。(中井委員「それがどうして国際テロと関係あるの」と呼ぶ)三条というのは、「この法律による規制及び規制のための調査は、第一条に規定する目的を達成するために必要な最小限度においてのみ行うべきであつて、いやしくも権限を逸脱して、思想、信教」……(中井委員「いや、それは違う」と呼ぶ)

中井委員 多分、三条ということは、公安調査庁は、破壊活動防止法の規定による破壊的団体の規制に関する調査及び処分の請求並びに無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律の規定による無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する調査、処分の請求及び規制措置を行い、もって、公共の云々、これを言うんですか。これに合わせて、二十七条で、その範囲だと読んでおやりになっておる、こういうことですか。

鳩山国務大臣 破壊活動防止法第四条で、「この法律で「暴力主義的破壊活動」とは、次に掲げる行為をいう。」という定義がなされておって、それによってできるものと考えております。

中井委員 破防法なんて、もう何十年も前の法律でしょう。これをもとに公安庁がやってきた対象団体あるいは国というのがあるわけで、わかっているわけですね。テロというのは国でもなければ何でもない、団体かどうかもわからない、テロの定義もわからない。どうしてこの法律でそういうことが読めるのか、公安庁がやれるのか。僕は、やって悪いとは言いません、大いにやっていただいたらいいが、やるにはやるで権限というものをきちっと持ってやるべきだと思いますが、どうもあいまいじゃないか。

 テロ防止に破防法を使うなんという話、僕は聞いたことがありません。

鳩山国務大臣 法務省の解釈としては、国際テロ団体のように国外に本拠または主たる活動が認められる団体であっても、その下部組織等の活動が国内で認められる場合は同下部組織等が規制の対象となり得る、それに加え、破防法等による調査の対象には暴力主義的破壊活動を行うおそれのある団体も含まれるところ、こういう解釈をいたしているようでございます。

中井委員 何も古いことを蒸し返すつもりはありませんが、そういう解釈で公安庁が何でもいけるとなったら、何でもやれますよ。きちっと、国際テロのどういうところのどういうものを規制するんだ、調査対象とするんだということを決められて対応すべきであると僕は思います。

 公安庁だけじゃなしに、警察だってみんなやっているんでしょう。僕は、公安庁が情報機関としてこれからも発展していっていただくことを願っておる一人ですよ。しかし、あいまいな形で勝手解釈、拡大解釈の中で、出てきた事件に対してこれでいけ、これでいけと自分たちだけでやっていくというのは違うんじゃないか。

 今度は増員要求もなさっていらっしゃる、予算で。今までは、減、減、減だったんですね、公安庁は。ここ数年、増、増になっておる。こういうことを内緒でやるから、何かおかしな目で疑われると僕は思います。

 せっかくの御努力が変なふうに思われないように、きちっとした解釈、そして、無理だというなら法律をつくって堂々とやっていただく、こういったことをお願い申し上げておきます。

 それから、もう一つ大臣にお尋ねしたい文言がこのあいさつの中にあります。

 三ページの方で、治安の回復を図り、真に安全で安心な社会を実現するには、犯罪の被害に遭われた方々の苦しみや悲しみに思いをいたすことが必要であると考えます、これも必要なんです。この必要なのが、治安の回復を図り、安全で安心な社会を実現するのとどう結びつくのか、具体的に何をおっしゃるのか、教えてください。

鳩山国務大臣 犯罪の被害者を救済するというか、生きていくのに非常に御苦労される場合が多いから、これをお手伝いするということは非常に大事な仕事だと思っておりまして、推進会議という名前だったか、ちょっと正確ではありませんが、官房長官をキャップとしてそのような会議が設置をされておりまして、そこでまたさまざまな検討会が行われております。

 先ほど申し上げましたように、例えば、犯罪の被害者が直接その刑事裁判にタッチをして被告人に質問をしたりするような制度ができてきた。しかし、素人でございますから、何の助けもなくうまく質問ができるわけでもないかもしれない。そういう場合に、いわば刑事裁判の国選弁護のような形で弁護士をつけてもらえないだろうか、そういう場合には、法テラスが協力をして、国の予算でそういうふうにできるようになれば、より犯罪の被害者にとっていい国ができるであろう。それは、広い目で見て、被害に遭っちゃった後ということにはなりますけれども、いい国家というふうになるんだろうと考えています。

中井委員 お手伝いをされる、それはもう当然で、国会でも熱心な議論の中で、先国会、法案が成立をしたわけでございます。しかし、治安の回復を図り、真に安全で安心な社会というのとちょっと違うんじゃないかと、そう思われませんか、僕は思います。

 そういった意味で、用語を十分気をつけてお使いになられて、治安の回復を図り、安全で安心な社会を実現するというのには法務省で一体何をするのか、もう少しお詰めをいただくべきだ、このように考えています。

 それからもう一つ、あと数分ですので、この質問に移ります。

 六ページのところに、司法試験の合格者数のこと、先ほど他の委員の質問に対してもお答えになっておられます。しかし、ここには、三千人では多過ぎるのではないかという観点から検討すべき問題であるとはっきり言われております。

 弁護士さん、司法関係者の、世界一難しい試験を通って、自分たちは法と正義のために働いている、このプライドの高さ、モラルの高さ、これは尊敬すべきことだと僕は思っています。

 しかし、私の住んでいます町は人口十万、お隣の町は人口八万、今有効求人倍率はもう一・七ぐらいですよ、外国人だけで八千人ぐらい働いていらっしゃいます。そういう町で、四十年間弁護士一人ですよ。お隣も、ゼロだったのがようやく一になりました。あなたはさっき無医村と一緒にしてくれたけれども、こんな迷惑な話はありません。来てくれないですよ。

 僕ら国会議員で陳情をいろいろ受けますが、そのうちの多くは、弁護士を紹介しろですよ。みんな東京や大阪や名古屋で探さなきゃならない。こういう状況の中で、弁護士さんがふえる、大いに結構なことだと僕は思っています。

 弁護士さんがふえて、同時に検事さん、裁判官もふやす。また同時に、公共事業体あるいは訴訟の多い病院、こういったところに弁護士さんがお勤めになる。さっきもお話ありました、普通の会社へお勤めになる。それを、みんな弁護士資格を持っておるから特別待遇しなきゃならぬと思うから雇いにくいので、普通の給料で雇えばいいわけですよ、僕はそう思います。そういう社会になっていけばいいんだ。それが訴訟社会になるということでは決してない。

 しかし、対人関係が物すごく希薄になってきた世の中で、ありとあらゆることが訴えられる。また、訴える権利もある。また、訴えられたら自分も弁護しなきゃならない。当然、弁護士さんというのが要るわけです。人口が減るということがありますが、それに反比例してどんどん件数がふえて、需要がふえている。司法センターみたいなものをつくらなければ到底やっていけない地域もいっぱいある。

 こういう中で、ようやく苦労、工夫して、司法試験の合格者をふやす。そして、二十二年には、二万五千ぐらいですか、なるようにしようというところへ来ている。一応五万人ぐらいまでは目指そうじゃないかとやっているんですよ。そういうことを閣議決定して、みんなで改革をやってきた。

 だけれども、あなたは、どういう考えか知らないけれども、ぼんぼんとしゃべったついでに、三千人は多過ぎると。これはちょっと不見識だと言わざるを得ない。どれだけ苦労してここへ持ってきたかということもおわかりいただかなきゃならない。

 今までのシステムを変えていくというのは大変なことだったんです。例えば、私が法務大臣のときには、法律改正というのは、最高裁と弁護士会と法務省が一致しなきゃ国会へ出せなかったんですよ。そこに有名な東大出の先生がおられて、法律改正をしようと思ったら、その先生が、君にそんなことを僕は教えたかと言うものですから、だれも法改正を言えないんです。その古い古い法律の中でみんな苦労してやってきたのを改めようということを含めて、司法・法務関係の法律なんかも、国会で議員立法でもやるようになってきた。ようやく、世の中の変化にも追いつくような法律ができてきた。最高裁は最高裁、検察は検察、それぞれ苦労しながらやっている。

 一番の要因は資格者の不足ですよ。だから、あなたがやるべきことは、財務省や総理大臣と交渉して裁判官や検察官の数をふやすことであって、始まったばかりの弁護士さん、司法試験の合格者、三千人は多いなんということを言うべきではないと僕は思うんですが、どうでしょうか。

鳩山国務大臣 先生のお話の趣旨はよく理解できます。ですが、私は、法曹とはそもそも何であるかということを言えばもう時間が過ぎてしまいますからそれはいたしませんが、質と量の問題がまず両方あるな、それから社会的な需要と供給の問題もあるなと。

 私が学生時代のころ、司法試験という、今先生がおっしゃった、日本で最も難しい試験に受かる方が大体五百人ぐらいだった。ことしは二千三百ぐらいになったかと思います。これを二十二年に三千人にする。これは、もちろん、法科大学院という制度をつくる、今七十四校ある、そういう司法制度改革の一環であることもよくわかる。国際的な事件もある。コンプライアンスという観点で企業内の弁護士がもっといていいんじゃないか。あるいは、先生がおっしゃったようなゼロワン地域というのもある、この辺は法テラスが頑張って何か解決の道をつけられないかと考えておりますが。

 私が危機感を持ちましたのは、例えば、現在、法曹三者の総数が、三万はもちろんいないわけですが、二万八千、九千というオーダーだろうと思うんですね。これをずっと続けていきますと十三万人を超すようになるんですよ。(中井委員「それはいつまでに」と呼ぶ)二〇五〇年ぐらいにね。(中井委員「あなた、生きていないよ」と呼ぶ)いやいや、私は生きていません。生きていませんが、だけれども、瞬く間にこれは七万になり、八万になりと。

 私は、そのことを考えると、日本は本来訴訟社会ではないんですから、訴訟はふえるだろうけれども、本来日本は和をなす文明ですから、訴訟社会ではないので、三千までは閣議決定ですから、私もそれはそれでいいと思う。しかし、そこからずっと三千を続けると信じられない数の法曹人口になりますよということで問題を提起しておるわけでございます。

中井委員 二十二年に五万人に法曹人口をする、そこまで持っていけるかどうかという今状況にあります。そのときにあなたは法務大臣をしていないのでありますから、それを今ごろから言うことはないと僕は思っております。あえて申し上げておきたいと思います。

 最後に、サイバー犯罪といいますか、コンピューターを使った目も当てられない事件が続発をしている。

 数年前、実は、私の郷里三重県でも、心中を誘い合ってやったという事件が三件ぐらい重なったことがございます。平成十五年でございます。今回、また何か、三人で誘い合って女の人を殺して七万円奪ったという事件等が出ています。

 こういうことに対する防止あるいは予防ということを盛んに言われますが、本当に難しいことだと思います。こういう事件に対して、検察として、取り締まり当局も警察などと一緒に相談して、何かやろうとしているのか、具体的に何か手をかけていらっしゃるのか、これだけお尋ねをします。

鳩山国務大臣 科学技術の発達が目覚ましくて、とにかくサイバー犯罪、インターネット犯罪、例えば、人の事務処理を誤らせる目的で電磁的記録を不正につくったような場合は電磁的記録不正作出罪、電子計算機に虚偽の情報を与えるなどして財産上不法の利益を得た場合には電子計算機使用詐欺罪、不正に他人のパスワード等を入力して電子計算機を作動させるなどした場合にはいわゆる不正アクセス禁止法違反の罪というような対処はあるわけですが、実際にはこれらを超えた恐ろしい事件が起きていますね。

 この間、福田総理大臣から閣議か閣僚懇談会の席で、例えば、自殺させてやるから金払えなんというような事件もあった、これはゆゆしいことであって、政府全体で取り組むことが必要であるから、特にみんな頑張れということで、これは多分、自殺担当閣僚というのも岸田大臣がやっておられるかと思いまして、岸田大臣中心に行うことになるんだろうか、こんなふうに思っております。

 コンピューターウイルスの作成、供用等の罪の新設とか、条約刑法の中にはそういうものが入っているわけです。わいせつ物頒布等の罪の構成要件の拡充とか、そういうことも今計画いたしておりますが、これは、先ほどの総理の御指示もありますから、内閣全体で真剣に取り組まなくちゃいけないことと思っております。

 なお、大先輩にお言葉を返すようで大変失礼ではございますが、失礼を承知であえて申し上げるならば、私自身、自分が死んだ後の世の中に責任を持つというのが未来への責任というものではないだろうか、私が政治家をやめた後、私が死んだ後、少しでもこの世の中がよくなっているように、環境問題等、未来への責任を果たしていきたい、私の政治哲学でございます。

中井委員 お言葉をまた返して恐縮ですが、本当にこれは、今の大学院制度がいいか悪いかの検証も要るでしょう。しかし、弁護士さん、司法試験の合格者をふやすということについて猛烈な抵抗がある中でやってきたことでございます。その抵抗をまたあおるような御発言は慎まれるべきだ。まして、大臣所信に、多過ぎるということを前提にこれからやっていくなんというのは書き込み過ぎだ。所信表明をするまでに一月あったから、あなた、暇でいろいろなことをし過ぎだとつけ加えて、質問を終わります。

 ありがとうございました。

下村委員長 次に、細川律夫君。

細川委員 民主党の細川でございます。

 鳩山大臣の所信及び法務行政に関して何点か伺っていきたいと思います。

 既に何人かの委員の先生方からいろいろな質問がございましたので、それらの質問と重なり合う部分もあろうかと思いますけれども、その点はお許しをいただきまして、質問をさせていただきます。

 これまでの法務大臣の所信あるいは施政方針などを聞きますと、必ず、安全な国をつくるといった文言に接します。今回も、大臣からはこのことに所信で触れられておるところでございます。

 数年前から、安全な国日本といういわゆる安全神話は既に崩壊をしておりまして、犯罪の増加が問題視されてまいりました。ここ二、三年では若干犯罪の認知件数が減っておりますけれども、しかし、凶悪犯罪などはまだまだふえ続けておりまして、大臣の所信にありました世界一安全な国の復活、そういうところまではまだ到底至っていないところでございます。

 言うまでもなく、安全な社会をつくるということは政治の根幹であり、安心、安全の確保は市民生活の前提でもございます。その意味でいえば、法務行政は、警察とともに、国民の安全を守る上で、政治の中でも大変大事な分野であるというふうに私も認識をいたしております。

 しかし、先ほどもお話がありましたように、ことしもまた信じられないような事件が引き続き起こっております。

 八月の二十五日は、先ほどお話のありましたように、やみサイトで知り合った三人組が女性を拉致して強盗殺人に及んだという事件もございました。インターネットのサイト管理者に対する規制などが問題になっておりますけれども、しかし、もっともっと奥深いところの社会の病理というものを感じさせるものでございます。

 また、九月四日には、私の選挙区でもありましたけれども、草加市というところでは、三十歳の男が七十八歳の男性を刃物で刺殺するという事件が起こりました。捕まって警察でどんな供述をしたかといいますと、殺人願望が抑えられなかった、だれでもよかったというようなことを供述していると言われております。

 さらに、十月十六日には、加古川市の方で、小学二年生、七歳の女児が自宅のすぐそばで刺殺されるという事件が起こって、いまだ犯人が捕まっていないということで、全国で小さい子供を持つ親に大変不安を与えております。

 こういう凶悪事件が続発をいたしております。先ほども中井先生からの質問にもありましたけれども、こういうことを大臣としてはどのようにお考えなのか、なぜこういうような事件が起こってくるのかというような率直な感想も含めて、お伺いをいたします。

鳩山国務大臣 今細川先生からお話しの御意見でもあり御質問でもある点は、法務行政にとって最も重要な部分だと考えております。

 と申しますのは、やみの職安みたいな変なサイトがあって、それが強盗殺人事件になる。先生のお地元でのお話は、本当に悪寒が走る、寒けがするような怖い話で、だれでもいいから殺したかった、そういう事件がある。加古川の件は、きょうニュースを見ておりませんが、まだ犯人は捕まっていないのではないか。

 本当に、こういう凶悪殺人事件が頻発をする。細川先生御指摘のとおり、それはいろいろな統計があると思うんですが、実際、犯罪というものの認知件数は、確かに平成十四年がピークで減っている。減っているが、凶悪事件が減らないというか、ますます人命軽視の風潮というのか、奇怪な事件も起きるということで、どうやってこれを減らしていったらいいのか。先ほど死刑論議の中で、殺人事件、人の命を絶つような事件をゼロにしたいというのが私の最大の願いでありますと申し上げたけれども、現実にこういう事件が起きている。

 例えば、教育の問題もあるかもしれない。社会全体が何か物質主義、拝金主義に走っていくような風潮もあるかもしれない。あるいは、再犯を減らすのが矯正の最大の役割でありながら、再犯率の低まりという傾向が顕著にあらわれてこない。さまざまな問題があるんだろう。それらを総合的に考えて、犯罪を減らす、凶悪犯罪を根絶する、そういう世の中をつくるために、今後、細川先生のアドバイスやお力を存分に賜りたいという率直な気持ちでございます。

 特に、細川先生におかれては、我々とか北海道の吉川貴盛とか、みんな祖父の友愛運動の継承者でありまして、それに細川先生の妹さんに加わっていただいてずっと長く活動をさせていただいたものですから、先生とは他人のような気がしませんので、どうぞよろしくお願いいたします。

細川委員 個人的なことも出されたので、今から鋭い追及をしようと用意をしていたのでありますけれども、ちょっとそういうわけにはいかないような雰囲気でもありますけれども、しかし、今御答弁をいただきました、安全な国づくりには犯罪を抑止していく、犯罪を抑止していけば、当然、安心な社会になっていく。そのためには、教育であるとかあるいは宗教であるとか、いろいろな方策も考えられるということでございますけれども、その抑止の件についてはちょっとおきまして、きょうは、犯罪の抑止も大変重要でありますけれども、犯罪の発見もおろそかにすべきではないという観点で、ちょっと質問もしてみたいと思います。

 そこで、私が話題にしたいと思いますのは、マスコミでも大きく取り上げられた時津風部屋の事件でございます。午前中、神崎委員の方からも質問がございました。重ねてのところもありますけれども、御質問をさせていただきたいと思います。

 大相撲の序の口力士であった斉藤俊さん、しこ名、時太山が、けいこの後で急死した問題でございます。この事件についてはいろいろな切り口から報道もされておりますけれども、私は死因究明という観点から議論をしてみたいというふうに思います。

 当時、愛知県警の犬山署は、これは全く事件性はない、こういうように判断をいたしまして、司法検視、つまり刑事訴訟法の二百二十九条に規定する検視をせずに、結局、その結果、司法解剖も行わなかったということでございます。刑訴法の二百二十九条は、「変死者又は変死の疑のある死体があるときは、その所在地を管轄する地方検察庁又は区検察庁の検察官は、検視をしなければならない。」第二項として、「検察官は、検察事務官又は司法警察員に前項の処分をさせることができる。」こういう規定になっております。

 私は、過去に何度もこの死因究明については質問をしてまいりました。例えば、去年の六月十三日にも当委員会で質問をいたしまして、当時の警察庁刑事局長は、「犯罪に起因する疑いのあるものにつきましては、これを司法解剖を行いまして、真相といいますか死因を解明し、犯罪捜査の一助とする、こういうことであろうと思っております。」こういう答弁をして、私が指摘をした司法解剖の重要性を肯定されました。

 私は、検視については、ただ単に外から見るだけではなくて、外表検査だけではわからないというようなこともあるから、できるだけ検視を、司法解剖をすべきだというようなこともこれまで主張してきたところでございます。そして警察庁は、私が質問するたびに、各都道府県警察には疑念があれば司法解剖するように言っている、こういうふうに私に答えておられました。

 しかし、この時津風部屋の斉藤俊さんの事件は、外表、外から見ただけでも、犯罪性の疑いは十分な事件だと私は思うんですよ。これがなぜ事件性がないということで検視も司法解剖もされなかったのか、特に司法解剖がされなかったのか、こういうことが私はまことに疑問であり、問題にしたいというふうに思っております。

 そこで、犬山署は、刑事調査官、いわゆる検視官をこの斉藤俊さんを調べたときに呼んだのかどうか、また、その病院の方では法医学的な専門家がきちっと検案をしたのか、このことについてお伺いをいたします。

米田政府参考人 犬山署におきましては、臨場いたしまして、現場見分、それから死体の検案、そして関係者の事情聴取を行いまして、またその医師の判断も加味をいたしまして、病死とそのときは判断をしたわけでございます。これは結果として誤っておりまして、もっと慎重な対応が必要ではなかったかと思うところでございます。

 したがいまして、病死ということで判断をいたしましたので、刑事調査官は呼んでいないということでございます。

 それから、犬山中央病院におきまして医師が遺体の検案をしたわけでございますけれども、これは内科の医師でございます。医師である以上、当然国家試験に通っているわけで、必要な知識はお持ちだと思いますが、その法医学的知見がどの程度かについては、ちょっと私どもでは判断いたしかねるところでございます。

細川委員 刑事調査官も呼んでいない。医師も、一般の医師が検案をした。それでは、どうしてこれが事件性なしという判断になったんですか。病死という判断があったから、それでもう全く事件性なしという判断をされたんでしょうか。警察としては、この点はどう考えているんですか。

米田政府参考人 もとより、非自然死体がありますと、警察官が臨場をいたしまして、これは、最初は司法検視というわけではございません、そこで周りの状況、遺体の状況等を見て判断をするわけでございますけれども、今回の場合、これは結果として間違っておったということでございます。

細川委員 間違っておった、こういう判断でございます。

 それでは、なぜこれは間違ったかというようなことについては検討されているんですか。

米田政府参考人 先ほども言いましたように、御遺体あるいは現場、その他周囲の状況について調査をいたしたわけであります。それから、検案医の方も、単に外表を見ただけではなくて、CT検査もしましたし、レントゲンもかけております。そういったことで、先ほども言いましたように、病死というように判断をいたしたわけであります。

 問題は、遺体を見ただけですぐ判断できるかといいますと、この御遺体のことではなくて一般論でございますけれども、死亡した直後と何日かたってからとでは、なかなかやはり遺体の状況なんかも違いまして、死亡した直後に臨場する警察官としてはより慎重に判断をしなければならないということもございますし、それと、遺体の状況だけではなくて、周りのいろいろな情報を集めて総合的に判断しなければいけない。

 今回の場合は、その辺が、本人たちは一生懸命やったんでしょうが、結果としては間違っておったということではなかろうかと思います。

細川委員 遺体が、時間がたっているかたっていないかによっていろいろ違うとか、そういうようなことも、普通の素人の警察ではわからないじゃないですか。だから、調査官が行って、そういうところをきちっと専門的な立場から判断をする、こういう必要があるわけですよ。そういうことが今回はできていなかったということで、こんな結果になったんだろうというように思います。

 先ほども、例えば、CTとかレントゲンを撮った、そして病死というような判断だったからというようなことをおっしゃいますけれども、しかし、外表、外から見ても、この件についてはだれもがおかしいと判断をされた事件ではないかと私は思います。

 事件性なしというふうに判断をされたならば、普通は、それが火葬をされてしまって何も後には残らない、こういうことになるわけでありますけれども、しかし、斉藤さんに関しては、時津風部屋の親方の方から火葬にして送ろうかという申し出もあったらしいんですけれども、それを断って、遺体が新潟の方に帰ってきて、それを見てもうびっくりして、これは何だ、一体これはどうしたんだという親の気持ちで、なぜ死んだんだ、この原因をどうしても親として突きとめたい、こういうことで、わざわざ行政解剖をお願いして新潟大学の方で解剖をされた、こういうことなんです。

 解剖をしていなかったならば、これは全く事件にならなかった、こういうことになろうと思います。そういうことで、新潟大学の解剖をしたお医者さんも、名古屋の方で解剖をしなかったのは間違いだったというふうにも言っております。

 そこで、これからお話をいたしますけれども、死因究明、どうして、どういう原因で死亡したのか。死因を究明するためには、まず警察の方のしっかりした調査と、法医学の知識のある医師がこれまたしっかり判断をする、こういうことが必要でございます。この斉藤さんの事件につきましては、いずれも欠けていたということで、事件性なしになったということであります。

 そこで、この件については、事件性がないと判断した経過にもいろいろ疑問もあるわけでございます。病院側は事件性の有無について判断ができたのか、あるいは警察の主導で事件性なしと結論づけたのか、死因の種類が病死ということなので、病院の判断がその大きな判断材料になったというような先ほどのお話もありましたけれども、そうであっても、事件性の有無というのは警察が判断しているために、これまでのいろいろなケースでも、警察の事件性の有無ということで、その意向に医師が動かされるケースも多いというふうに伺っております。

 そこで、現行の制度では、先ほどもちょっと申し上げましたけれども、警察が非犯罪死体と判断をいたしますと、火葬されまして、この場合には証拠は隠滅をされてしまいます。本件の場合も、先ほども言いましたように、行政解剖をしていなかったならば、この世にこういう問題は出てこなかった、犯罪そのものが見逃されたということでございます。

 警察庁長官は、十八日、記者会見で、この事件に対する反省とともに、こういうふうに言っています。多少なりとも犯罪の疑いがあれば司法解剖をするよう指導してきたが、今後もそうしていく、検視を担当する刑事調査官をふやすとともに、研修や教養、資機材の充実を図る必要がある、こういうふうに記者会見で述べたということが報道をされております。

 しかし、これまで何度も司法解剖をするように指導をしてきた結果がこの事件でございます。つまり、現場の警察官には浸透していないということでございます。つまりは、制度の変更あるいは条件整備をして、きちっと警察官が調査をするという必要があるにもかかわらず、してきていなかったというふうに私は思います。

 その一つが、刑事調査官の増員ということでございます。委員の皆さんには資料もお配りをいたしておりますから、ごらんいただきたいと思います。

 警察庁の資料によりますと、警察の取り扱い死体は平成十八年で十四万九千二百三十九体だったのに対し、刑事調査官の臨場数は一万六千七百五十六回、単純に割り算をいたしますと、およそ一一%しか専門的な知識を持った者が見ていないということになります。これでは、見逃しが出るのも当然じゃないかというふうに思います。

 時津風部屋の事件があった愛知県の割合は、全国でもワースト四の六・三%、十六人に一人しかやっておりません。また、特に首都圏では、軒並み割合が低いということになっております。警視庁管内では、この低い理由は、法医学の専門家である監察医による検案が行われているというように思いますけれども、これだって、監察医が捜査権限を持っているわけでもなくて、死因究明に精通した警察職員がかかわっていないのは問題でございます。

 監察医制度がなく、行政解剖がほとんど行われていない千葉、埼玉、また、監察医制度があっても、形骸化したり、いろいろ問題になっている神奈川あるいは愛知の割合が大変低い。こうしたところで犯罪や事故の見逃しが多発することは、これから見ても容易に想像がつくことだろうと思います。

 そこで、先ほどの警察庁長官の会見にもありました刑事調査官の増員、これは、具体的にどれぐらい増員を図っていくのか、お聞かせをいただきたいと思います。

米田政府参考人 刑事調査官につきましては、現在、全国で百四十七名でございます。これは、ここ十年ほどで二十名余りふえてはおりますけれども、警察取り扱い死体が大体十年で一・五倍になっておりますことから、やはりどうしても臨場率というのが下がってまいります。全国では大体一一%余りということでございまして、これは、やはり体制を強化して、できるだけ臨場する、臨場できない場合は警察署を指導して、ファクスなり電話なりで聞きながら、警察署の検視が的確に行われるようにするということが必要ではなかろうかと思います。

 ただ、刑事調査官は、一つは、経験、捜査部門で十年以上の経験を要する。それで、階級も高くないと、やはり警察署に対してそれなりに物が言えませんので、警視あるいは警部ということとしております。それから、警察大学校において法医の専門研究科課程がございまして、これをやはり受講していなければならない。そして、もちろん適任でなければならないということで、今の刑事調査官と同じようなレベルの人をそろえるというのも、急に増員するというのは必ずしもそう簡単なことではありませんけれども、私ども、これは大変重要な問題でありますので、体制強化を図ってまいりたいというふうに考えております。

細川委員 私は、死因究明については、刑事事件だけではなくて、事故死や労働災害などの犯罪に至らない変死についてもしっかり死因究明をすべきだというふうに考えております。

 マスコミでも大きく取り上げられましたが、パロマのガス湯沸かし器が原因で、たくさんの方が亡くなりました。あのパロマの事故につきましても、最初の被害者をきちっと解剖していましたならば、その後の犠牲者は出なかったのでございます。結果的には刑事事件となりましたけれども、広く、こういう事件なども含め死因究明をする中で、初めて民事も含めた解決ができるのではないか。そのためには、刑事以外にも所掌を広げていくということも必要であると思いますので、刑事調査官という言葉自体も変更すべきではないかということを私は考えているところでございます。

 これまで、警察側の調査の体制が十分ではないのではないか、こういうことを聞いてまいりました。今度は、医者が立ち会って検案をするわけなんですけれども、先ほどの私が申し上げました警察庁長官のコメントでは、医師側の問題、検案や解剖をする体制には全く触れていない、この点が私は心配であり、気がかりでもございます。

 死因究明に当たっては、警察の調査体制の充実とともに、検案や解剖、薬物検査などをする設備の整備や、医師や技術者など、人の増員、質の向上も必要であると考えておりますが、その点についてはどういうふうに警察庁の方は考えているんでしょうか。また、そのためには、厚生労働省と法務省あるいは大学法人を所管している文部科学省、こういうところとしっかり連携を図るべきではないかというふうにも考えておりますけれども、この点、いかがでしょうか。

米田政府参考人 警察の死因究明業務は、もちろん私どもで努力しなければならない、さらに向上に努力しなければならないことでございますけれども、これはやはり、法医の先生方あるいはいろいろな設備等々のインフラに支えられておるわけでございます。そういったところを充実するということは、大変好ましいことであろうと考えております。

細川委員 前通常国会で、私が筆頭提案者となりまして、いわゆる死因究明二法案を提出いたしまして、この委員会に継続はいたしております。一つは、非自然死体の死因等の究明の適正な実施に関する法律案でございまして、これは、警察に非犯罪死体も含めてしっかりとした死因究明体制をつくるという法案でございます。もう一つは、法医科学研究所設置法案でございまして、それは、先ほども申し上げてきておりますように、死体の検案、そして解剖、検査などの法医科学的な調査のインフラを整備するための法案でございます。

 以前からたびたび指摘をしておりますように、我が国の死因究明体制というのは貧弱でございまして、大きな改革が必要でございます。私は、現行制度には大きな問題がございまして、ひいては犯罪や事故の見逃しにつながっているということを言い続けてまいりました。今回の時津風部屋の斉藤さんの事件というのは、こうした問題を考える、こうした制度について考える絶好の機会ではないかというふうに思います。

 犯罪の疑いがないというふうにされた場合は、現在、監察医制度がないほとんどの地域では、いわゆる承諾解剖しかできないということになっておりまして、今回の時津風部屋の場合、本当に御遺族の決断で承諾解剖が行われましたけれども、しかし、翻って、別の、例えば児童虐待のような場合のことを考えますと、親の同意というようなことは得られるはずもございませんから、そういう意味からも、解剖を伴った死因究明の制度の充実が必要だというふうに思います。

 そこで、大臣にお伺いいたしますけれども、犯罪と考えられない死体、非犯罪死体、それらも含めてしっかりした死因究明をすることが死者や遺族の権利を守るためにどうしても必要だと考えますけれども、大臣の御見解をお伺いしたいと思います。

鳩山国務大臣 個別の事件についての論評はいたしませんけれども、先生のお話を承っておりまして、ちょっとした不行き届きの面があって、ある意味でいえば、冤罪は絶対にいけないんですが、逆に犯罪を見逃してしまうということも絶対にあってはならないことなんだろう、そういうふうに思うわけでございまして、本来、変死体であるならば検視が行われるわけでありますが、これを変死体と見るか見ないかというところで誤ってしまったら、取り返しのつかないことになる可能性があるというふうに認識をいたしております。

 そこで、先生の提案されておられます死因究明法案を見せていただいた中で、死因究明調査を警察に一元化する、都道府県警察に置かれた死因調査専門職員の指導助言等を受けて非自然死体の死因究明調査を行い、必要に応じて解剖することができる、行政解剖、司法解剖あるいは検視という今の制度は廃止するということ、なるほど一つの考え方だ。しかも、法医科学研究所を設置して、そこで科学調査を行うということでありますから、一つの考え方ではあるというふうには思います。

 ただ、今二つある道が、いわゆる公衆衛生上の、食中毒で死んじゃったとか、何か伝染病の物すごいもので、そういう疑いのある死体の方まで警察が一義的に死因究明調査を行うことになると、逆に危ないことがありはしないかな。

 それから、検視は、御承知のように、警察官がほとんどの場合いたしておりますが、これはあくまでも代行検視であって、本来、検視の権限は検察官にある。それは、検察官が重大犯罪の場合に捜査、公判に責任を有する形になるから、早期の段階から検察官が検視をするという法律の構成になっておるわけですね。そこのところも警察に全部、私は警察を信用しないわけじゃありません、日本の警察は世界で最も信用できる警察だと思っておりますが、検察官の権限を全部警察に与えてしまうということはいかがかななどという幾つかの疑問点もありますので、また先生といろいろお話し合いをさせていただく中で、よりよい道が見つかればと思います。

細川委員 今いろいろと、具体的な懸念というか疑問点なども大臣の方からお話がありましたけれども、例えば、いろいろな、流行の細菌性の病気がはやったり、そういうこともこれには含まれるので、全部一元化するんです。そして、その中で犯罪の疑いがあるということになれば、完全にそれは司法手続の方へ入っていく、こういう仕組みではございますから、一応申し上げておきます。

 なお、詳しいことは、ぜひ研究もしていただきまして、死因究明ということは、犯罪を見逃して、犯人が笑っているようなことにさせてはいけませんし、保険金殺人なんかでは、本当に、死因を見逃したばかりに二人目、三人目が殺されていったという例なんかも今までもたくさんありますから、そういう意味で、しっかり死因を究明していく、こういうことですから、ぜひ政府の方でも御検討をお願いしたい、こういうふうに思っております。

 今度は、先ほどからも出ておりますけれども、冤罪の問題でございます。

 これも本当に、これまで出てまいりました、ことしになって、鹿児島の志布志事件あるいは福岡高裁で二審で無罪になりまして、これも確定をいたしました北方事件、そして富山の事件。これまで何人かの委員の先生がお話しになりましたので重ねては申し上げませんけれども、こういう冤罪が起こるということは、無実の罪を着せられた人は、大変苦しみを味わい、貴重な人生の多くの部分を失って、精神的にも痛手をこうむり、家族の人たちもまた悩み、苦しまれるわけでございます。

 こういうような冤罪事件が、ことし、いわば頻発をいたしましたけれども、この点について、もう一度、大臣のお考えをお聞きしたいと思います。

鳩山国務大臣 先ほどの、犯罪の見逃しというんでしょうか、死体を見て、犯罪に起因すると思われる疑いが全くゼロだというときに初めて、犯罪捜査と切り離して行政解剖をするというようなことであればいいということなんだと思いますね。そういう意味でいうと、その逆で、犯罪の見逃しもいけないのですが、無辜の方に有罪判決を下して、しかも服役が終わってしまうなどというような事柄が絶対にあってはならない、つくづくそう思います。

 本件に入って、志布志事件、これは、十二名の方だったかと思いますが、選挙事犯ですね。それから、富山県の強姦事件等、刑の執行を終了してしまったなどという、その後で真犯人が存在することが発覚、こういうことは絶対あってはいけないということで、最高検において、富山の事件や志布志事件の捜査、公判活動の問題点を調査、検討し、本年八月、報告書を取りまとめて公表しました。自白や客観証拠の慎重な吟味に努めるべきなど、今後講ずるべき方策として指摘されているものと承知しています。

 つまり、やはり日本は取り調べというのが非常に重要であって、そこで自白に重心を置き過ぎると、もっと客観的な証拠に重みを置くべきところを、それが忘れられて自白中心になって、自白したから間違いない、こういうことを注意しなければならないというふうに私は読んでおります。

 したがって、今月、全国次席検事会同というのがつい数日前にありまして、私、そこへ参りまして、捜査、公判のあり方が深刻に問われる事例が発生しているから、こうした事態は真摯に受けとめてください、そして、検察に対する国民の期待と信頼にこたえることができるように努められたいということを、これらの事件を踏まえて、改めて訓示をしてきたところでございます。

細川委員 冤罪の防止策については、当然真剣に考えていかなければならないというふうに思います。

 密室の取り調べ室で長時間にわたって強圧的な捜査が行われているという実態がありまして、自白偏重の捜査手法は何ら変わっていない、このように思います。捜査当局が客観的証拠に基づいた捜査に徹することはもちろんでありますけれども、ただ言葉だけで改善されるものとは思いません。

 そこで、私ども民主党は、百六十四国会に刑事訴訟法の一部を改正する法律案を提出して、現在も当委員会に継続をいたしております。この法案、いろいろ内容もございますけれども、一つ要点を言えば、取り調べの可視化ということでございます。被疑者の供述、取り調べ状況を録音、録画しようというもので、これに違反した自白は証拠とすることができないといった内容でございます。また、民主党では、この今出しております法案を少し変えた形で、今、法案をまたつくっております。

 外国でも、取り調べの可視化は進んでおります。我が国でも試験的に導入をされておりますけれども、やるのなら、一人の被疑者について初めから終わりまで、終始録音、録画をやらなければ意味がないのではないか。

 なぜ取り調べの可視化が大事かといいますと、もちろん冤罪を防止するということもありますけれども、再来年から始まります裁判員制度、これが導入されますと、一般の方が裁判員になる。裁判が長期化すると、その裁判員の方を長期に拘束するということもございます。したがって、自白の信用性が問われますと裁判が長期化するのはこれまでの例でございますから、そういうことのないように、取り調べの可視化をどうしてもやらなければならないんじゃないかなというふうに思っているところでございます。

 そこで、今検察庁の方では試行しているというふうに聞いておりますけれども、どの程度、どのように試行しているのか、簡単に説明をしてください。

大野政府参考人 検察庁におきます取り調べの録音、録画の試行について御説明を申し上げます。

 検察当局では、来るべき裁判員裁判で、自白の任意性について効果的、効率的な立証を行うための方策の一つといたしまして、昨年の七月から、検察官の取り調べの録音、録画を試行しております。

 その具体的な内容でありますけれども、裁判員裁判対象事件のうち、被告人の自白の任意性を迅速、効果的に立証するのに必要性があると認められる事件につきまして、取り調べの機能を損なわない範囲内で、相当と判断された部分について、録音、録画を実施するものと承知しております。

 件数等でございますが、昨年の七月から東京地検におきまして試行が開始されました。その後、これがほかの検察庁にも拡大されておりまして、本年九月末までですと、七十五件実施されているものと承知しております。

細川委員 冤罪をなくすためにも、また裁判員制度を円滑に実施するためにも、全面的な取り調べの可視化を早急に実施しなきゃいかぬ。午前中でしたか、大臣は、全面的な可視化については賛成ではないような御意見であったかと思うんですけれども、私は全面的な取り調べの可視化というのはぜひともやらなければならないというふうに思っておりますが、大臣はどうお考えでしょうか。

鳩山国務大臣 冤罪はなくさなくちゃいけないし、自白の強要があってはいけないし、自白に何か取引性があってもいけないということはよくわかるわけであります。

 ただ、我が国の刑事司法手続というのは、こういう取り調べに非常に多くを依存する。ちょっとこれは議論が違うとおっしゃるかもしれませんけれども、公判請求した場合の有罪率というのは非常に高いですよね。つまり、検察としては、もちろん冤罪はいけないんですけれども、まずこれなら間違いないだろうとかなりの確信を持ってから公判請求をするものですから、有罪率が九九・九%になる。

 それから、ヨーロッパの国でも、例えば有罪率が七割だという国がある。つまり、三〇%は無罪になる。その場合は、日本式なやり方で考えていけば、ちょっと怪しいから公判請求しちゃおうかなというような要素がやはり加わってくるので、そこのところは、仕組みとか制度あるいは伝統に若干の違いがあると見るべきなのかなというふうに思うことがございます。

 全面的な、とにかく逮捕のときから全部録音、録画ということになりますと、やはりプライバシーにかかわる会話ができないとか、非常に被疑者に供述をためらわせる。これは、黙秘したら不利になりますよという制度ならいいんですけれども、黙秘権が認められている状況で、もう黙秘だ、一切しゃべらないというふうな場合にどうすればいいか。

 録音、録画を全部やるということは、やはりいろいろな意味で心理的な影響を被疑者に与えると私は思いますね。我々も、きょうも午前中はテレビカメラが入っておったわけですよ。午後、今はないでしょう。そうすると、やはり多少動作が違ってくるわけですよ、我々でも。それはやはりあるので、人間というのはそういうもので、これが全部最初から映っている、音も全部入っているということであれば、非常に取り調べがやりにくくなる。別に何もおどすわけでもないし、取引するわけでもないが、会話でプライバシーに触れているとか、後から批判されたらとかいうことで、被疑者の方もしゃべらないで粘って粘ってというふうに思ってしまうというふうな部分があると思うものですから。

 したがって、今、録音、録画を試行しておりますのは、可視化の先導的試行ではなくて、自白の任意性を証明する手段として考えて、裁判員制度になったときに、特にそういうふうなものを見ていただいたらいいだろうという発想なんですね。

 ですから、これはいっぱい書いてあるんですけれども、要するに、我が国の刑事手続全体における被疑者の取り調べというものの機能、役割との関係で、全面可視化、本当に逮捕のときから全部可視化した場合にはさまざまな影響があるのではないか、そのことによって真実の究明が阻害されるのではないかというその阻害要素をいろいろ考えるものなので、慎重に、やや慎重な態度をとっているところでございます。

細川委員 テレビが入っていたら緊張する、いいかげんなことも言えない、まさに可視化というのはそういうことであって、強圧的な取り調べをしていない、自白を強要していないということが、テレビが入っていればわかる、そういうことになるということで入れようということなんです。むしろ、テレビに映っているのと同じような効果もある、いい効果があるというふうに思っております。

 この問題も喫緊の課題だというふうに思いますので、ぜひ前向きに検討を願いたいと思います。

 以上で終わります。ありがとうございました。

下村委員長 次に、保坂展人君。

保坂(展)委員 社民党の保坂展人です。

 鳩山大臣に、きょうは死刑の問題を中心に伺っていきたいと思います。

 第二次安倍内閣で法務大臣になられて、そして総辞職をされた後、御発言があったということについては、先ほど来、神崎先生や中井先生からもやりとりがありましたので、その発言自体は非常に驚いたわけですけれども、私は、御存じのとおり、死刑廃止を推進する議員連盟の事務局長ということをやっています。実は、鳩山大臣も御存じかと思うんですが、二〇〇三年に終身刑導入及び死刑制度調査会設置等に関する法律案、これは自民党はまとまらなかったんですけれども、これを各党で議論していただいて、国会の中で死刑の問題を議論する場をまずつくりましょうよ、そして事実上の終身刑を設ける、その議論をしている間は死刑の執行停止をしよう、こういう法案だったんですね。

 鳩山大臣の雑誌でのインタビューとかいろいろ御発言を見ると、死刑制度についてしっかり議論したいんだと。むしろ死刑制度についての議論は、法務省の中ではパンドラの箱というかタブーというか、これをいわば一番嫌がっているんですかね、ちょっと見ましたけれども。そういうことじゃいけないというふうに言われていることについては私も、意見は違いますけれども、非常にそのとおりだと思います。死刑という重い問題について黙ってしまって、議論はしない。

 実は、中村正三郎法務大臣のときに、それまでの法務省は死刑を執行したかどうかも言えないという立場だったんですね。これは再三この委員会でも言いまして、それはおかしいではないですかと。現状は、大阪拘置所で何人、名古屋拘置所で何人、これだけを公表するという仕組みになっています。

 そこで、ぜひ私もお話をしっかりしていきたいと思いますし、きょうは限られた時間ですので、法務省の中の勉強会、先ほども議論がありましたけれども、関係局長の方とか課長さんとか、お集まりになっていると思うんですが……(発言する者あり)まだですね。ぜひ、大臣、私も呼んでいただけませんか。ぜひ、刑事局長や矯正局長とも長年議論してきましたし、そういった異なる考えを持つ人の意見を聞くことについてやぶさかでないとおっしゃっていますので、いかがですか。

鳩山国務大臣 私、神崎先生の御質問に一番長くお答えをしました。それは、私、マスコミ、新聞社の社説なんというのはああいう書き方しかないのかなと。それはやはり彼らも職業ですから、私の話を聞いて書いてくれるわけではありません。そうしますと、法務大臣の資格がないんじゃないかとか、そういうふうな議論がすぐ出てくるわけですが、私、決して思いつきで物を言っているわけではないわけで、私なりに苦しみもあるかもしれませんが、問題を提起することが大事だ。

 仮に、このパンドラの箱のふたは閉めておきたいと法務省は思ったとしても、これはやはり、刑事訴訟法があって、それの要請する事態に全くなっていないとすれば、いろいろな考え方があるわけで、その一つとして死刑というものはもうなくそうではないかというEU的な考え方をお持ちの方がおられて、そして保坂先生がその重要なお役をやっていて、まあ、鳩山さん、話をしようじゃないかということを事務局を通して聞いたものですから、ぜひ先生のお話を承りたいと。

 ある方は、私のことを人間でないとおっしゃったんですよ。人間でないと批判する方に何も、そういう方の人権感覚を疑うわけですから、それは別ですが、私はこの間、EUの三人の方がおられますね、次期議長国、前議長国、今の現議長国、その三人の方からもゆっくりお話を承って、なるほど、そういう考え方があるんだなということを私なりに理解をする。

 したがって、勉強会というのは、先ほども申し上げましたように、今どういう状況になっているのか、戦後の歴史的な経緯はどうであるか、あるいは実際、施設の中でどういう日常を過ごしているかということまで勉強いたしておりますが、私はこれは勉強会で、したがっていつまでに結論を出せるという話ではありませんと神崎先生にもお話をしたところであって、当然、死刑廃止論者のお声も聞く機会は持ちたいなと思っております。

保坂(展)委員 ところで、東京拘置所に大臣も視察に行かれて、私、この死刑廃止の立場で、ただ廃止か存置かというだけではもう話がかみ合いませんので、まずは情報公開でしょう、刑場がどうなっているのかぜひ見たいということを三年から四年にわたって言っていたんですね。行刑の改革の議論があって、これも〇三年の七月だったかと思いますが、当法務委員会で、全会、与野党一致して、では見に行きましょうと。東京拘置所が新しく建てかえられたということの中で、刑場も見ました。今なお、刑場はどうだったんですかという取材が私のところに来るんですね。当時スケッチしたことをもとに、こんなぐあいでしたというふうにお答えはしているんですが。

 私は、刑場を見て、やはりここで、実際そのときには使われていなかったんですが、今回使われたということを見て、人の命、これはいろいろな死刑確定囚がいます。もちろん、死刑そのものの議論は、立場がいろいろあるわけですけれども、例えば去年のクリスマスの日に処刑された方は七十五歳でした。車いすだったんですね、リウマチで。ですから、車いすで刑場まで連れてこられて、大臣もごらんになったと思いますが、あの四角いところに立てないわけです。そうすると、どうやって処刑したのか、これは考えてみるだに非常に恐ろしい話ではあります。それまでは最高七十歳でしたけれども。

 絞首刑について一考の余地があるというふうに鳩山大臣はおっしゃっているようですけれども、どういうお考えですか。

鳩山国務大臣 たしか、保坂先生がデッサンされた絵ですよね、あれは。私も見せていただきましたし、私も刑場を見学いたしました。それは、皆さん手を合わせてから入場するわけです。

 私が思い出したのは、フランキー堺さんが主演をして日本全国がしいんとなったという「私は貝になりたい」。その後、所ジョージさんが再演をされたものも見ました。子供心に、刑の執行という恐ろしいドラマ、あの衝撃は忘れ得ないものがあります。そのことをやはり思い浮かべました。クラッカーかチーズかワインか何かを与えられて、教誨師の方がおられて、それで何杯か飲んで執行されたのが「私は貝になりたい」の主人公でありました。

 今はそういうことはしないようではございますけれども、あの刑場で、どんと四角いところがあいておっこちていく。絞首刑ということは刑法十一条に書いてあるわけですから、死刑は絞首をもって行うと。現行法がそうであることは十分認識いたしておりますが、何かもっと安らかという方法が、安らかという表現はどうか、何かないのかなという率直な思いはあります。

 ただ、あれは、だんと落ちるから、首の骨が瞬間に折れて意識を失うから、だから残虐ではないという説もあるそうですけれども、まあ残虐ではないですね、あの憲法の。何をもってむごいかどうかということは多少考える余地があるんじゃないかなというのは、私の問題意識としてはあります。ただ、現行法がそう書いてあることも認めております。

保坂(展)委員 今の大臣のお話を聞いていて、ちょうど半世紀前に、参議院で死刑廃止法案、これは我々の議員連盟がつくっているようなこういう案ではなくて、単純に刑法改正案として出たんですね。

 実は、そのときの議事録を見ると、こういう国会の参考人に拘置所長とかが来られているんですね。我々矯正職員の誇りをかけて、戦後の時代ですから、ちょうど羽仁五郎さんが参議院法務委員だったときに、札幌拘置所に行ったら直訴を受けた。羽仁先生、死刑だけは何とか変えてくださいと。拘置所の職員が運動の主体なんですね。我々は矯正のために誇りを持ってやっている。つまり、矯正の結果死刑というのは何とか変えられないのかというのが半世紀前の議論でした。

 そのことをよく思い出したんですけれども、ぜひそういう議論をこれから大臣ともさせていただきたいし、できれば社会に幅広くそれを、いろいろな宗教者の方とか、そしてヨーロッパ評議会が日本に二十人近いミッションで来られて、我々議員連盟が、死刑存置論の方も含めて、当時森山法務大臣にあいさつをしていただきましたけれども、いらっしゃいますね、そういうこともかつてやりました。ですから、この議論を開いていくということで、ぜひこれからしっかりと議論をさせていただいて、その上でどういうお考えになっていかれるのか、我々も鳩山大臣のお話も聞きたいし、よろしくお願いします。

 もう一点、司法試験の合格者についてなんですが、先日、司法試験関係に携わる、いわゆる法曹育成に携わる人たちの話を聞いていて、どうも出願者が減ってきている、つい最近まで五万人ぐらい出願をしていたんだけれども、漸次減ってきているというのと、大臣もよく御存じだと思いますが、ロースクールというのがどうもでき過ぎたんですね。そして高いでしょう。ですから、中には、社会人で相当貯金をはたいてロースクールに入ったけれども、必ずしも合格ということにはならないという面で、ロースクールに入る人の中にも変化が起きている。

 言ってみれば、それだけの授業料、資金を持っているおうちのお子さんでないと法曹を目指せなくなると、これは、例えば、今のあらゆる刑事、民事、さまざまな事件の中で、社会的な弱者や、あるいは不器用に、非常にそういう情報がないところでもだえている人のところに行って手を差し伸べる弁護士や、それからその種の事件を扱う検事や裁判官、どうなんだろうなと。

 一般のロースクールによらない受験者の数も私はきっちり確保すべきだという議論を当時の法務委員会でもしたんですが、このままいくと、大臣がおっしゃっているように、いわばワーキングプア弁護士、いそ弁ならぬ携帯電話一つで営業というようなことも、これはよっぽど気をつけないとあり得るんじゃないかと私も思います。その点、いかがですか。

鳩山国務大臣 何度かお答えしておりますように、私は、閣議決定による平成二十二年に三千人合格させるということぐらいまではのむかな、やや消極的ですが、のむかなと思っております。もちろん、所信表明、役所が最初の原稿は書きますけれども、こんなのは読めない。つまり、三千人では多過ぎるのではないかという観点から検討するということを書かないと読まない。書かなければどうなりますかと言うから、書かなかったら文章と違うことを言うと言ったんです。それは私の考え方なので。

 だから、先ほど中井先生の御質問にもお答えしたように、いろいろな需要があるのはわかりますけれども、やはり質の問題というのがある。確かに、法科大学院と新司法試験というものは有機的関連を持たせるというような法の趣旨があるでしょう。そのことが、ある意味でいうと、この試験怪しかったんじゃないかという何人かの先生の名前が出てくるのも、有機的な関連にこだわり過ぎている部分もあるわけですね。

 だから、やはり、私はさっき申し上げたように、三千人を続けると物すごい数でふえていく、日本は少な過ぎる少な過ぎると言うけれども、司法書士とか行政書士とか弁理士とか、まだいますいろいろな方々が外国では弁護士の一種のような形になっている場合も多いわけですよね。

 これが、だから、どうせあなたの死んだ後の話だろうと中井先生に言われましたけれども、要するに、平成五十年には十万人を優に超して十三万人になっていくんです、三千人ずっと合格をさせていくと。しかも、その間、残念ながら、少子化というか、人口減少社会は続いていく。そうすると、交通事故が起きると、弁護士さんがみんなで走っていって、この事件はおれにやらせろと。何か外国では、そういうことがあるそうですね。弁護士の数が多過ぎて仕事が少ないとそういうことになる。

 私は、そういう訴訟社会であっていいとは決して思わないのです。そういう意味では、私は、三千人を続けることは多過ぎるのではないか、多過ぎる法曹人口になりはしないかという観点からいろいろ勉強させていただきますので、保坂先生の御意見も今後いろいろお寄せください。

保坂(展)委員 また、続けて議論させてください。ありがとうございました。

下村委員長 次に、滝実君。

滝委員 無所属の滝実でございます。

 皆様方の御配慮をいただきまして、十五分間だけ時間をいただきましたので、大臣の所信の中から何点かを質問させていただきたいと思います。

 まず、所信の中で、きょうの委員会で今まで出てこなかった問題について、少しお話をさせていただきたいと思うんです。

 それは、所信の中にもございました。犯罪被害者の支援基本法に関連して所信の中でお述べになっていたと思うのでございますけれども、これに関連いたしまして、実は、法テラス、司法支援センターが各地域に設置されているわけでございますけれども、その法テラスのPR文書の中に、犯罪被害者の支援団体とのネットワーク化を図る、こういうような趣旨の項目があったかと思うんです。そういうことで、この支援センターの幾つかの話を聞いていますと、確かにPR文書には支援団体とのネットワーク化ということがうたってあるのでございますけれども、具体的にどうしたらいいか、そういう手がかりがどうもつかみにくいということのようでございます。

 もともとこの法テラスは、いわば制度的な枠組みだけは非常にきちんとしているわけでございますけれども、本当にそれじゃ犯罪被害者が相談に行けるかというと、なかなかそこまで達しない人たちがいるわけですね。

 例えば、被害を受けて、病院へ行きたい、あるいは警察に相談に行きたい、あるいは検察庁に相談に行きたい、そう言っても、普通の人は警察とか地検に足を向けるなんということは日常ありませんから、なかなか難しい。そこで、現在、外国にはあると思いますけれども、日本にほとんどないのが、そういう犯罪被害者に同行して、付き添いで警察へ行って、相談に一緒に窓口に行ってもらう、あるいは病院へ一緒に行ってもらう。ましてや、地検なんというのは一人では行けませんから、一緒に行ってもらう。そういういわば団体が日本でもできかかっているんです。

 そういうようなことでございますと、やはり各地域の法テラスが、そういうものとの接点をつくるような配慮を、私は法務省の方で少しガイドラインを示していただいた方がいいんじゃないだろうかと。

 要するに、こういう団体は本当にどこまで本当の団体なのか、いわば普通の民間団体ですから、法テラスの方も判断しかねるところがあると思うんですね。それを、このPR文書の中でネットワーク化といっても、さっぱり見当がつかないんじゃないだろうかな、こういう感じがありますので、ひとつそういう問題を、やはり法務省で少し調べてもらった方がいいと思うんです。

 アメリカなんかは、こういう団体が物すごくたくさんあって、いわば公的な支援も受けているんですね。実際にこういう介添え役で同行するような人たちはボランティアですから、無償なんですけれども、その事務局、電話当番をやるとか、大体二十四時間待機で電話をやっていますから、そういう本体部分については、これは常勤の職員が要りますので、交通反則金でありますとか、あるいは罰金の一部をそういうところへ配って支援をしている。

 そういうふうなことまでやってまいりませんと、実際に犯罪被害者支援基本法ができても、なかなかうまくかみ合うようなところまではいきづらいというのが実態じゃないだろうかと思うんですけれども、大臣の御見解を承りたいと思います。

鳩山国務大臣 基本的に、滝実先生のおっしゃるとおりだと私は思います。

 犯罪被害者の方がいろいろ法的にも助けてもらえる、あるいは経済的な面もあるでしょう。これは、犯罪の被害に遭った方がただひたすらひどい目に遭う社会と、助けられている社会というのは、司法に対する信頼という意味でも大きな違いが出てくるし、それがやはり、今、治安のいい国というのは、治安がよければ被害に遭わないはずだということになりますが、遭っても至れり尽くせりであるということが治安のいい国の条件、安全な国の条件である、そう考えるわけでございます。

 保護司の方々とか更生保護女性会とか、いろいろな団体があります。そういうような方々も、全くボランティアで、実費が若干支払われるかどうか。そういった意味でいえば、今滝実先生が指摘された犯罪被害者に親切に付き添ってくださるような方も、そういう団体、いろいろな支援、やはり被害者支援センターのような名称をお持ちかと思いますが、そういう方も本当に善意でやっておられるわけでしょうから、法テラスがそういう方と密接な連携をとることが何よりも大事で、それは、指導できる部分があれば指導していきたい。

 先ほど申し上げましたように、司法制度改革というので、例えば法テラスという入れ物はきちんとできましたけれども、その中身の充実の一つの方法かと思っております。

滝委員 ぜひお願いを申し上げたいと思います。

 それから二番目には、これはもうこの委員会で何遍も大臣の御意見を承りました、冤罪の問題ですね。これについて、私も一言だけ申し上げたいと思うんです。

 大臣は、自白の任意性、そういうものは冤罪を防止する一つの手だてだという御認識のもとにおっしゃっていると思いますけれども、自白の任意性だけを証明するビデオでは、私は弱いんじゃないかと思うんですね。

 実際の取り調べの中では、恐らく、私は取り調べられた経験がありませんから、どういう言葉遣いで圧力をかけられるのかわかりませんけれども、物の本によると、実際の経験者の本によると、暴力団のアジトに引き込まれたようなそういう中で、大分強い調子で、検事の言うことを認めないと何年でも引っ張っておくぞとか、執行猶予なしでやってやるとか、何でもできると言われますと、どうもみんな気が弱いものですから、やっていなくても、大体それらしい調書をつくってくれるなら判こを押しますみたいな話になってくるんですね。

 したがって、八月に最高検察庁がおまとめになりましたあの文書の中でも、割と正直に書いてあるんですね。地検が処分保留で保釈した、そうしたら、その日のうちに警察が今度は逮捕した。これは戦前の刑事訴訟法ですよね。警察署で二十日なら二十日拘置して、そうして、出てくると次の警察署が待っていて別の警察署へ持っていく。これは戦前の刑事訴訟法ですよね。これを新刑事訴訟法は、そういうことは、要するに警察署を巡回するようなことは刑事訴訟法では今度は認めないんだ、こうやっていたはずなのでございますけれども、あの最高検察庁の志布志事件のところのくだりを見ると、地検は二十日間で処分保留で保釈して、そうしたら、その日のうちに今度は県警が待っていましたとばかりに連れていって逮捕した。

 こういうようなことをされますと、恐らくこれはだれだって、そんなにひどい目に遭うんなら、大したことない事件なんだから、どうせ命までとろうというわけじゃないだろう、認めた方がいいかなとなりますよね。あそこにも書いてありましたように、十二人のうち、最低が八十八日間、最高は三百九十五日間拘置されているんですよね。したがって、どこかでそうやっておどかされたら、おまえ、何年でも引っ張るぞ、鈴木宗男さんなんか二年ぐらい行っているだろうとか、みんな知っていますから、そういうふうにおどかされたら、これは大変だ、簡単に、罰金ぐらいでいくんならいいじゃないか、こういうことになりかねないというのが私の心配なわけです。

 ですから、自白の任意性を証明する部分だけ可視化すればいいじゃないかといったって、それだけでは、裏でというか、別の時間におどかされて、はい、それじゃ撮りますから、そこのところだけ、任意にしゃべっていますということだけをビデオできちんとやってくださいというと、これは任意性もへったくれもないので、全く同じことじゃないだろうか、そういう感じを受けますので、私は、あの最高検の八月の報告書は、割とそこのところは正直に事実関係を出しているのかなと思って、感心しながら読ませていただきました。冤罪を防止するということの中では、やはりそういうことが一番じゃないかなと思うんです。

 専門家は、冤罪というのは何でできるかというと、要するに、捜査当局がいろいろ調べた資料の中で、捜査当局に有利な証拠だけを優良証拠として出す、被告人に対して有利な証拠は出さない、そういう証拠の選択というのはあり得るわけですから、そういう中では、日本の刑事訴訟法は要するに大陸法でございますから、真実の究明を専らにする刑事訴訟法でありながら、警察官が投げた球について、それぞれいいかどうかということを被告人の弁護士と検察庁がもう一遍争う、こういういわば英米法に近いような実際の運用をしているからおかしなことになるんじゃないかと思うのでございますけれども、ひとつ大臣の御見解を承りたいと思うんです。

鳩山国務大臣 我が国の刑事司法手続では、取り調べの要素が非常に強いわけですね。だから、そこで他の証拠も含めて客観性のある証拠と自白の部分と幅広く見て判断しなくちゃならないということが一番の反省点なんだろう。冤罪は絶対にあってはならない。

 そういう意味でいうと、先生からも御指摘をされておりますけれども、例えば、しゃべったら保釈してやるとか、認めたら釈放してやるとかというようなことは、司法取引は認められておりませんので、日本の検察でそういうことがあっては絶対いけないというふうに思って、これらの事件を反省材料にして、証拠というものをきちんと公平、客観的に扱えるようにしなければならないだろう、偏った証拠だけを使うというようなことは避けなければならないと思っております。

滝委員 裁判員制度が出てまいりますと、すべて捜査も、あるいは審理の方もスピーディー、迅速ということを前提にして、恐らく一般国民が目に見えるような合理化をしていくんだろう、そういう意味では私は期待をいたしておりますけれども、やはり法務省ではもうちょっとそこら辺のところを、捜査の基準のところから徹底をしていただく必要があるのではないか、そういう感想を待ちますので、よろしくお願い申し上げたいと思います。

 あと、時間がありませんけれども、先ほど人権擁護法案につきまして、民主党の中井先生の方から今までの経緯の御説明がございました。したがって、それに加えることはありませんけれども、問題は、自民党の中でどうやってこれがまとまるのかということが最大のポイントだと私は思います。恐らく大臣は、大臣の姿勢をもって自民党の中をできるだけ早くまとめていただくというのが、これは何といってもここまでおくれにおくれてきた問題でございますから、よろしくお願いを申し上げたいと思います。

 それからもう一つ、実はこれは法務委員会ですから余り関係ないんですけれども、防衛省の前次官の公務員倫理に違反する事件、私は、これはもうちょっと早く政府全体としてこの問題についてきちんと対応できなかったのかどうかということについて疑問を持っているんです。

 というのは、あの前次官の問題については、この春から一部の雑誌でもう公表しているんですよね、書いているんですよね。したがって、だれかが見ている、だから捜査当局は当然見ていると思うのでございますけれども、それに対してほとんど、政府の機構としては、司法当局以外は恐らくノータッチで、退職金も払ってきたということが、これは何となく国家の組織、機構としてはおかしいんじゃないだろうかなという印象を持つわけでございます。

 特に、業者とゴルフをやったなんというのは、ちゃんと公務員倫理法に違反するということは書いてあるわけですからね。書いてあるし、それから、それに対して、そういう事実があれば、人事院に設けた公務員倫理審査会にだれかが訴えないかぬわけですね。そうすると、公務員倫理審査会が調査に乗り出さないかぬわけです。そういうような手続が全くここまで行われておらずに、今になってみたら、いや退職金を返せとか、何か国家の機構としてどこかに欠陥があるように思います。

 私は、法務大臣も内閣の一員でいらっしゃいますから、政府全体として国家の重要問題については全員でウオッチする、そういうようなことをやはり率先してリードしていただかないといけないんじゃないだろうかなということを申し上げまして、終わりたいと思います。

 ありがとうございました。

下村委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後三時三十六分散会


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