衆議院

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第10号 平成20年4月22日(火曜日)

会議録本文へ
平成二十年四月二十二日(火曜日)

    午前九時三十分開議

 出席委員

   委員長 下村 博文君

   理事 倉田 雅年君 理事 実川 幸夫君

   理事 柴山 昌彦君 理事 早川 忠孝君

   理事 水野 賢一君 理事 加藤 公一君

   理事 細川 律夫君 理事 大口 善徳君

      赤池 誠章君    稲田 朋美君

      近江屋信広君    後藤田正純君

      清水鴻一郎君    七条  明君

      杉浦 正健君    棚橋 泰文君

      長勢 甚遠君    古川 禎久君

      馬渡 龍治君    武藤 容治君

      森山 眞弓君    矢野 隆司君

      保岡 興治君    柳本 卓治君

      石関 貴史君    市村浩一郎君

      枝野 幸男君    鈴木 克昌君

      中井  洽君    古本伸一郎君

      保坂 展人君    滝   実君

    …………………………………

   法務大臣政務官      古川 禎久君

   参考人

   (東京大学教授)     山下 友信君

   参考人

   (社団法人生命保険協会一般委員長)

   (日本生命保険相互会社取締役常務執行役員)    筒井 義信君

   参考人

   (三井住友海上火災保険株式会社取締役専務執行役員)

   (社団法人日本損害保険協会一般委員会委員長)   柄澤 康喜君

   参考人

   (社団法人日本共済協会基本問題委員会委員長)   今尾 和実君

   参考人

   (日本弁護士連合会消費者問題対策委員会副委員長) 坂 勇一郎君

   法務委員会専門員     小菅 修一君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月二十二日

 辞任         補欠選任

  河村たかし君     市村浩一郎君

同日

 辞任         補欠選任

  市村浩一郎君     鈴木 克昌君

同日

 辞任         補欠選任

  鈴木 克昌君     河村たかし君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 保険法案(内閣提出第六五号)

 保険法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案(内閣提出第六六号)


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     ――――◇―――――

下村委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、保険法案及び保険法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案の両案を一括して議題といたします。

 本日は、両案審査のため、参考人として、東京大学教授山下友信君、社団法人生命保険協会一般委員長・日本生命保険相互会社取締役常務執行役員筒井義信君、三井住友海上火災保険株式会社取締役専務執行役員・社団法人日本損害保険協会一般委員会委員長柄澤康喜君、社団法人日本共済協会基本問題委員会委員長今尾和実君、日本弁護士連合会消費者問題対策委員会副委員長坂勇一郎君、以上五名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多忙の中御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見を賜れば幸いに存じます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、山下参考人、筒井参考人、柄澤参考人、今尾参考人、坂参考人の順に、それぞれ十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず山下参考人にお願いいたします。

山下参考人 東京大学の山下でございます。

 本日は、法務委員会におきまして、保険法案等に関する意見を申し上げる機会を与えていただきまして、大変光栄に存じておる次第でございます。

 我が国の保険契約に関する基本法は、商法でございますが、明治三十二年の制定時から約百年間、ほとんど改正を加えられずに今日に至ってまいりましたが、保険法案は、これを全面的に見直し、現代の保険契約に適合した保険契約に関する基本法を制定しようとするものでございます。

 私は、保険法案の要綱案を審議いたしました法制審議会保険法部会に参加しておりましたが、この保険法案の意義というのは次に申し上げます五点に整理することができ、これらの五点から考えて、保険法案は保険契約に関する民事基本法として適切な内容となっているものと考えるものでございます。

 以下、順次申し上げさせていただきます。

 第一に、現代的な保険取引に適合した規律の整備ということでございます。

 約百年前の保険取引と今日の保険取引の実態は大きく変わっておりまして、また、保険契約に関する法理論もやはり大きく変わっております。商法の規定には、現代の理論にも実務にも適合していない部分が含まれております。今日広く普及しております傷害疾病保険に関する規定が商法には存在しないということはその一例でございまして、保険法案では傷害疾病保険の重要性にかんがみまして、新たな契約類型として規定を設けることとしております。

 また、損害保険におきましては、制定当時は、保険契約成立後に保険加入者が少しでも実際にこうむる損害を超えて保険金による利得を得る、そういう可能性がある契約については、その超える可能性のある部分をあらかじめ無効とする、こういう規定を置いております。超過保険や重複保険に関する規定がそうでございます。これらは利得禁止原則という保険法特有の理論に基づくものでございますが、非常に古い時代の理論に基づく硬直的な規律となっておりまして、実務ではこれと異なる考え方で処理されているわけでございます。保険法案は、このような硬直的な規律を柔軟化し、保険に対する合理的なニーズに対して柔軟に対応できるようにしておるわけでございます。

 第二に、保険契約者保護の強化でございます。

 保険約款をごらんになるとわかりますように、保険契約というのは極めて難解な契約でございまして、消費者のみならず事業者である保険契約者にとっても理解が困難でございますし、内容も保険契約者の利益を十分に考慮したものとなっていないこともございます。法律において、保険契約における契約当事者間の権利義務のあり方についての合理的な規定を示すということは、次の第三点で申し上げる強行規定とする場合に限らず、任意規定とする場合でも大きな意味がございます。保険法案では、このような保険契約者の保護の強化ということを多面的に図っております。最もわかりやすい例といたしまして、告知義務に関する規定が挙げられるかと思います。

 告知義務は、保険に関して最も紛争になりやすい事項なのでございますが、そのうちでも、保険加入者が営業職員とか外務員と呼ばれるような募集従事者に、告知すべき既往症などを告げたにもかかわらず、この募集従事者が、それは告知しないでよろしいというふうなアドバイスをすることがあります。

 このような場合に、法律論としては、やはり募集従事者には告知を受ける権限というのが、特に生命保険の分野ではございませんので、告知をしたことにならない、告知義務違反が成立することになるわけでございます。これはいかにも不当な結論ではないかということで、裁判になりますと、告知義務違反がそういう場合には成立しないという解釈論をとることもございますが、やはり立法的に解決した方がよいということで、保険法案では告知妨害に関する明文の規定を設けているわけでございます。

 その他、保険法案では、全般的に契約者保護の内容を盛り込んだ規定の見直しをしているところでございます。

 第三に、片面的強行規定性の導入でございます。

 商法の規定は任意規定ということでございまして、商法の規定よりも保険契約者側に不利益な合意も禁止されないということに従来はなっておりますが、特に契約者保護の要請の高い規定については、この法律の規定よりも契約者側に不利益な内容の合意をしても無効というふうにする必要がございます。これは、借地借家法でございますとか各種の消費者保護法で広く使われている手法でございます。保険法案でも、契約者保護の必要性が高い規定について、片面的強行規定というものにしておるわけでございます。

 ただ、この片面的強行規定性が適用される範囲を、契約者が消費者である場合に限るのか、事業者である場合にも及ぼすのかという問題がございます。零細な事業者は、やはり強行法による保護が必要ではないかという問題がございます。ただ、零細かどうかを売上高とか資本金というふうな数値基準を用いて保険法案で規定することは技術的に困難でございます。

 また、企業活動に伴うリスクにつきましては、片面的強行規定により契約内容が余り制約を受けますと、国際的な再保険への出再に支障が生じるなど、さまざまな実務上の問題が生じ得るということでございまして、保険法案では、海上、航空、原子力保険、この三つについては当然に片面的強行規定の適用除外とするとともに、事業活動に伴い生ずる損害を対象とする損害保険について、片面的強行規定の適用除外としております。

 これは、逆に言えば、事業者が契約者となる保険でも、対象とするリスクが消費者向けの保険のリスクと実質的に変わらないようなものについては事業者を保護するということで、適切な解決ではないかと思っております。

 第四の点でございますが、保険契約当事者以外の第三者との法律関係の規定の整備でございます。

 商法は、非常に古いままなのですが、それでは契約者の保護が非常に不十分かというと、これは各種の行政的な規制とか裁判所の判例による規制あるいは事業者の自主規制によって、実際に使われている保険約款というのは相当の改善が図られているわけでございます。しかし、これは保険契約当事者間の法律関係であるからこそできることでございまして、契約当事者以外の第三者との法律関係については、法律の規定なくして勝手に権利義務というものをつくり出すことができないという限界がございます。そのことが最もわかりやすい例は、責任保険の被害者の地位についてでございます。

 責任保険と申しますのは、自動車についての自賠責保険でございますとか任意保険を考えていただければわかりますように、保険加入者が万一他人に損害を与える行為をして損害賠償責任を負った場合に、加害者である保険加入者の損害をてん補する保険でございます。加害者の損害をてん補する保険でございますから、保険金請求権も加害者の権利となります。

 そこで、例えば加害者が事故を起こして責任を負った後に破産した場合を考えれば、保険金請求権も加害者の財産である、したがって破産財団に属することになって、被害者とその他の債権者に平等に分配されることになります。責任保険は、加害者の損害をてん補する保険であるということは当然でございますが、それのみでなく、やはり社会的には被害者の救済という機能も果たさなければならないというのが国際的には一般的な理解になってございまして、責任保険の保険金が専ら被害者に渡るようにする、こういうふうにする必要がございます。

 ところが、我が国では、この面の法律の整備が従来不十分であったため、せっかくメーカーが製造物責任保険、PL保険と申しますが、こういうものに加入していたにもかかわらず、加害事故を起こした後、破産してしまったため、保険金が被害者に渡らないという非常に問題のあるケースが生じたりしております。

 今回の保険法案では、被害者が加害者の有する保険金請求権に特別先取特権を有することにして優先的な弁済を受けられる、こういう形で問題を解決しているところでありまして、こういう第三者との法律関係の整備ということが今回の保険法案の非常に大きな意義であると考えてございます。

 第五点でございますが、保険契約と共済契約の一元的な規律でございます。

 商法は、営利を目的とする保険者の行う保険契約が本来的な適用対象でございまして、ただ、制定当時から営利を目的とするものではございませんが、相互保険会社の行う相互保険にもこれを準用するものとしております。しかし、共済というのは非営利の制度でございますから、共済契約について法律規定は従来存在しない、例外を除きまして存在しないということになっておりました。もっとも、商法の学説といたしましては、共済も保険と同じような大数の法則などの保険技術を用いて運営され、契約内容も保険契約と実質的に変わらないものについては、解釈上、商法の規定が原則的には類推適用されるのが一般的であります。

 保険法案は、保険そのものの定義は明文化しておらず、解釈にゆだねておりますが、実質が保険に当たるものを契約として行う限りでは、保険契約であれ、共済契約であれ、一元的に適用されるものとしております。これは、実質が保険契約である限り同じルールを適用して契約者の保護などを図る必要があるということ、それから、共済が今日非常に盛んに行われるようになり、これについての契約法がないということは適切でないという判断によるものでございます。

 共済事業サイドからは、非営利主義で運営されることや、組合員自治が行われていることなどの特質がよく挙げられますが、このような特質に基づく契約上の規律を必要以上に制約することにはなっていない、そういうのが保険法案の内容であるというふうに考えております。また、共済事業に関する行政的な監督につきましては、保険法案の適用とは別問題であるという整理がされているところでございます。

 以上の五点が、私が保険法案の意義として考えているところでございますが、保険法案が保険及び共済に関する消費者保護などの課題をすべて解決できるものかといえば、そうではないと思います。保険法案は、民事の基本法としての性格から、すべての保険・共済契約に適用される契約ルールを規定することになるのでございまして、そのような保険法案と、保険業者及び共済事業者の行政的監督を行う保険業法や、各種協同組合法による事業者の事業活動のきめ細かい規制あるいは事業者の自主規制というものが複合的に相まって、我が国の保険、共済に関する消費者保護が実現されるべきものと考えております。

 現に保険法案の制定の過程で、保険法案に盛り込まれなかったのではありますが、消費者保護上の課題とされた事項がございまして、こういう事項については、今後、金融審議会の場で検討が行われることになっているところでございます。

 以上、私の意見でございます。(拍手)

下村委員長 どうもありがとうございました。

 次に、筒井参考人にお願いいたします。

筒井参考人 生命保険協会一般委員会の委員長を務めております日本生命の筒井でございます。

 本日は、保険法案の御審議に当たりまして、私ども生命保険協会の考えを述べさせていただく機会をちょうだいいたしました。厚く御礼を申し上げます。

 まず初めに、生命保険協会の一般委員会の位置づけについて簡単に御説明をしたいと思います。

 一般委員会といいますのは、生命保険業にかかわる施策全般、とりわけ各社の経営企画領域に係る課題を取り扱う組織でございます。例えば、法制度や税制度に係る業界意見の取りまとめなどを行っておりまして、今般の保険法案についても当委員会を中心に検討を重ねているところでございます。

 本日は、保険法案に対する私ども生命保険協会としての考えを申し上げるのが趣旨ではございますが、その前に、保険金や給付金等の支払いの問題に関しまして、お客様や関係の皆様方に大変な御迷惑、御心配をおかけいたしましたことにつき、まずは深くおわび申し上げたいと思います。

 支払い問題につきましては、金融庁からの全生命保険会社に対する報告徴求命令を受けまして、各社において保険金や給付金等の支払い調査を行いました。そして、昨年の十二月七日までに全三十八社が調査結果を金融庁に報告しております。

 適時適切なお支払いは、当然、保険会社の基本的な務めであり、現在、各社においてお客様に追加のお支払いを急いで進めるとともに、二度と同じ御迷惑をおかけしないという決意のもとに再発防止策を立て、その徹底に取り組んでいるところでございます。

 生命保険協会といたしましても、お客様の信頼回復を図ることが最大の課題であると強く認識をし、また各社の取り組みを後押しする趣旨から、再発防止に向けた取り組みを推し進めているところでございます。

 再発防止策は、具体的には、契約時からお支払いまでの業務に関する各種のガイドラインの見直し、各社の査定担当者や営業職員への教育の充実、苦情対応体制の強化、診断書の電子化の推進などでございます。

 この中でも、診断書の電子化につきましては、生命保険のみならず、損害保険、共済を初めとし、関係諸団体の御賛同もいただく中で再発防止策の柱として積極的な取り組みを進めているところでございます。

 二度と同じ御迷惑はおかけしないという強い決意を持って取り組んでまいりますので、先生方におかれましては、引き続き御指導、御鞭撻をいただきますよう、何とぞよろしくお願いを申し上げます。

 それでは、本題に入らせていただきます。

 まず、保険法案に対する私どもの基本的な考えを述べさせていただき、続いて、法案の具体的な提案内容についての私どもの考えを簡潔に申し上げたいと思います。

 今回の法案の改正趣旨につきましては、御契約者の保護や保険の健全性の維持等の観点から、規律の内容の現代化を図るとともに、国民に理解しやすい法制とするため、現代語化するものと伺っております。

 御高承のとおり、生命保険は広く我が国に定着しておりまして、多くの国民の皆様に御契約をいただいております。生命保険への世帯加入率は、平成十八年に実施した調査におきまして八七・五%に達しております。また、平成十八年度における個人保険と個人年金の保険金、年金、給付金のお支払い実績は、件数ベースで約一千七百万件、金額ベースでは約八兆円に上っております。

 このように、我が国において生命保険事業は、社会保障制度と並ぶ二本柱として、国民生活を支える重要な社会インフラとなっております。こういう中で、保険契約についての民事的な基本ルールである保険法を見直し、その現代化を図る意義は極めて大きいと考えております。

 また、保険法が現代にふさわしいものに生まれ変わることは、これからの生命保険業の健全な発展の礎となるものでございます。そのためには、御契約者保護と保険の健全性の維持、この二つがバランスのとれたものとなることが必要であると考えております。

 この点、法案におきましては、これまでになかった全く新しい制度、例えば、保険給付の履行期、いわゆる支払い時期に関する規律や、被保険者による解除請求権、保険金受取人の意思による契約存続制度、いわゆる介入権の規律など、新たな制度の導入が提案をされております。

 したがいまして、御契約者保護という保険法案の意義を前向きに受けとめるとともに、そこでとられている保険の健全性維持のための措置をあわせて考えれば、法案全体といたしましてはバランスのとれた妥当なものであると考えております。

 一方で、法案への対応は、私どもにとっては新しい実務の構築や従来の実務の大幅な変更を伴うものとなり、今後、保険法が成立した場合、私どもも施行に向けて準備を進めていくことになります。

 その際、具体的には保険法の趣旨や内容をきちんと受けとめ、生命保険協会や各社において約款や事務の見直しを行い、必要な体制整備を図るとともに、お客様サービスの充実に努めてまいりたいと考えております。

 ただ、今回の法案を受けて、漏れなく丁寧にお客様対応を行っていくためには、十分な時間をかけて万全の体制整備を行うことが重要であると考えております。

 したがって、保険法の施行日につきましては、法案では、公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日と御提案をいただいておりますが、それを踏まえまして、施行までに十分な準備期間を設けていただくよう、御配慮をお願いいたしたいと存じます。

 続いて、法案の具体的な御提案内容のうち、生命保険協会として特に重要なポイントとして認識をしている項目を五点挙げさせていただきたいと思います。

 一点目は告知ルールの整備、二点目は被保険者による解除請求権の新設、三点目は保険給付の履行期に関する規律の新設、四点目は保険金受取人の意思による契約存続制度、いわゆる介入権の規律の新設、五点目は傷害疾病定額保険に関する規律の新設でございます。

 以下、五項目について考えを申し上げたいと思います。

 まず第一点目、告知ルールの整備につきましては、法案では、まず、告知義務を自発的な申告義務から質問応答義務へ改めることが提案をされております。これは、お客様から自発的に重要事項をお申し出いただく方法から保険会社がお尋ねした項目についてお答えいただくことで十分とすることにより、お客様が正しく告知いただけるよう配慮されたものでございます。

 また、告知妨害に関する規律を新設し、原則として、営業職員による告知妨害があった場合、例えばお客様が営業職員に病気であることを伝えたところが、その病気は告知しない方がよいというふうに言われたため保険会社に告知しなかったという場合ですが、このような場合は保険会社は告知義務違反を理由に契約を解除することができないとすることが提案をされております。

 お客様から正しく告知いただくことは、保険の健全性を維持する観点から不可欠でございます。また、告知に際して営業職員がお客様の告知を妨害することは絶対にあってはなりません。私どもといたしましても、法案の御提案の趣旨をよく踏まえ、お客様にとってよりわかりやすい告知のあり方について検討を行い、また営業職員に対する指導、教育も徹底して行ってまいりたいと考えております。

 二点目、被保険者による解除請求権の新設について申し上げます。

 法案では、被保険者保護の観点から、契約当事者ではない被保険者に保険契約の解除請求を認めるという新たな制度の導入が提案されています。

 生命保険契約では、被保険者が御契約者と異なる場合、契約締結の際には必ず被保険者の方から同意をいただくことといたしております。これを受けて法案では、被保険者が同意をするに当たって基礎とした事情が著しく変更した場合、例えば離婚等で親族関係が終了した場合などには被保険者は保険契約の解除を請求することができるとされております。

 法案では、被保険者が解除請求を行う相手方は保険会社ではなく御契約者とされております。この点につきましては、保険会社は被保険者から直接お申し出をいただいても御契約者と被保険者の間の個別の御事情を知り得ず、かえって御契約者や被保険者の方に御迷惑をおかけしてしまうこともあり、こういったことに配慮した妥当な御提案であると受けとめております。

 三点目、保険給付の履行期に関する規律の新設についてでございます。

 法案では、迅速な保険金のお支払いを確保する観点及びモラルリスク排除の観点から、適正な調査を行った上で迅速な支払いを行うことのルール化が提案されております。

 具体的には、適正な保険金の支払いのために不可欠な調査に要する時間的猶予を保険会社に認めつつ、その調査に客観的に必要な相当の期間が経過した後は、保険会社は遅滞責任を負うこととされております。

 お客様からの御請求に対して迅速にお支払いすることは保険会社としての基本であり、法案の趣旨を踏まえて、これまで以上にお支払いの一層の迅速化に努めてまいりたいと考えております。一方で、保険の健全性維持の観点から、モラルリスク懸念のある場合には必要な調査をしっかりと実施してまいりたいと考えております。

 四点目は、保険金受取人の意思による契約存続制度、いわゆる介入権の規律の新設についてでございます。

 法案では、生命保険が保険金受取人の生活を保障する役割を担っている点を踏まえまして、保険金受取人の意思による契約存続制度の新設が提案をされております。

 具体的には、御契約者の差し押さえ債権者などが取り立て権に基づいて保険契約の解除を行った場合、保険金受取人が御契約者の同意を得て差し押さえ債権者などに解約返戻金相当額を支払えば契約解除の効力は生じず、保険契約の存続を認めるとされております。保険金受取人が介入権を行使できる期間は、保険会社が差し押さえ通知を受けてから一カ月に限られており、この点、差し押さえ債権者の立場にも一定の配慮がなされていることから、妥当な規律であると考えております。

 最後に五点目です。傷害疾病定額保険に関する規律の新設についてでございます。

 法案では、傷害疾病定額保険に関する規律の新設が提案をされております。

 現行商法にはこの傷害疾病保険契約に関する規律はございませんが、医療保険、がん保険等の傷害疾病保険、いわゆる第三分野と称しておるものでございますが、こういった分野が広く普及した今日では、保険法の中に独立した規律を新設することは大きな意義があるものと考えております。

 また、個別の規律につきまして、傷害疾病定額保険契約は人にかかる保険かつ定額保険である点におきまして生命保険と共通することから、原則として生命保険契約と同様の規律とされており、これも妥当な内容であると考えております。

 以上が、生命保険協会としての法案に対する考え方でございます。御審議に際しまして、私どもの考えを御参考としていただければ大変ありがたいことと考えております。

 以上でございます。ありがとうございました。(拍手)

下村委員長 どうもありがとうございました。

 次に、柄澤参考人にお願いいたします。

柄澤参考人 日本損害保険協会一般委員会委員長の柄澤でございます。

 本日は、保険法案の御審議に当たり意見を述べさせていただく機会をちょうだいいたしまして、厚く御礼申し上げます。

 保険法案に関する意見陳述に先立ちまして、一昨年来、付随的保険金のお支払い漏れ、保険金の不適切な不払い、火災保険等の保険料誤りなどの問題によりまして皆様に多大な御迷惑をおかけしましたことにつきまして、損害保険業界を代表いたしまして改めて深くおわび申し上げます。

 これらの問題のうち、付随的保険金のお支払い漏れ及び保険金の不適切な不払いにつきましては、昨年六月末までに調査を終了いたしまして、損保各社ともおおむねお支払い手続を完了するとともに、お支払い漏れを防止するシステムの開発や保険金お支払いに関する医師、弁護士等から構成する第三者委員会の設置等、再発防止体制の整備を進めております。

 火災保険等の保険料誤りにつきましては、各社において、すべての御契約を対象として、御加入時や継続手続の際に保険料にかかわるすべての項目について点検を実施しております。誤りがあった御契約につきましては、その内容を是正するとともに、差額の保険料を返戻させていただいております。点検終了後も、お客様のニーズに合った補償内容となっているかなどの確認手続を引き続き実施してまいります。

 日本損害保険協会におきましても、外部有識者をメンバーとする「消費者の声」諮問会議を設置して、お客様の立場からさまざまな御意見、御提言をちょうだいし、保険商品のわかりやすさの指針づくりや募集人の資質向上などの各種施策のラインナップがそろいつつあります。

 今後は、これら施策を着実に実施し、その実効性を高め、さらなる品質向上に努めてまいりたいというふうに考えております。

 さて、それでは、私ども損害保険業界の保険法案に関する考え方につきまして申し述べさせていただきます。

 御高承のとおり、現在の保険法は、保険契約者と保険会社との権利義務関係を規律する契約ルールとして商法の中に規定されております。一八九九年に制定されて以来、一九一一年に一部改正がございましたが、百年近く見直しが行われておりませんでした。今回の改正では、この間の社会環境の変化に対応して規定が整備されるとともに、百年前には販売されていなかった傷害疾病保険や責任保険の規定が新設されております。

 内容に関する主なポイントといたしましては、利用者保護の規定が整備されていること、一方、社会経済の変化に対応した新商品の開発など、多様なニーズに対応し得る柔軟な規律とされていること、また、保険犯罪を予防し、保険制度の健全な運営に資する規定が盛り込まれていることと認識しております。

 まず、利用者保護の規定につきまして御説明申し上げます。

 消費者は保険に対して、わかりやすい保険商品を購入したい、万一事故が発生した場合には早く確実に保険金を受け取りたいという期待を持っていると考えられます。これらの期待を踏まえまして、さまざまな規定が整備されております。

 一つ目は、契約締結時の規律でございます告知義務の取り扱いが変更されていることです。告知義務とは、保険の御契約に当たって、その危険の程度を判断するために重要な情報を保険契約者から申告いただく義務のことをいいます。

 現行法におきましては、保険契約者が、重要な事項であればみずから保険会社に告知する自主申告義務として規定されておりますが、保険法案におきましては、保険会社が提示する質問項目について告知すれば足りる質問応答義務に変更されています。自主申告義務のもとでは何が危険に関する重要な事項であるか保険契約者サイドで判断することは難しく、保険会社が重要な事項を判断した上で告知を求めた方が合理的であり、かつ、保険契約者の負担が軽減されることから、質問応答義務に変更されたものと理解しております。

 保険会社におきましては、保険契約申込書の告知事項の明確化、質問方法、表示方法の工夫、保険約款の簡素化、わかりやすさなどのさらなる検討が必要であるというふうに認識しております。

 二つ目に、保険金をお支払いする時期に関する規定の新設が挙げられます。

 保険法案では、保険金のお支払いが保険約款に定めた期限内であっても、保険金お支払いのために必要な確認を行うための期間を超えるときは、原則として遅延損害金を加えてお支払いすることとされております。現在の一般的な保険約款におきましても、調査終了後遅滞なくお支払いするということとしておりますが、保険種類や事故の種類、必要な調査の内容に応じて合理的な期間内にお支払いが完了できるよう、お支払いのプロセス管理を強化するなどの対応が求められているというふうに理解しております。

 三つ目は、保険期間の途中で危険が増加した場合の通知の規定が整備されていることが挙げられます。

 現行法におきましては、著しい危険の増加について保険契約が失効することのみを規定しておりますが、保険法案では、増加した危険に応じて追加保険料を支払うことにより保険契約が継続できる場合は事後通知でよいということになります。

 なお、これらの規定は、利用者保護の観点から、保険会社が保険契約者に対して不利な変更をすることができない片面的強行規定とされています。

 もう一点、新規に盛り込まれる責任保険の規定といたしまして、被害者が保険金請求権に対する先取特権を持つとされたことは、責任保険の被害者救済機能の拡充という点で重要なポイントであるというふうに考えております。

 例えば、製造物責任事故を起こした企業がその事故が原因で倒産してしまった場合、現行法では、責任保険の保険金は被害者に渡らず、倒産した企業の債権者で分配されることとなり、責任保険が持つ被害者救済機能が十分に発揮されない可能性がございました。保険法案では、このような場合におきましても被害者が優先的に保険金を受け取ることができるよう、先取特権による保護を規定しております。

 損害保険会社におきましては、保険約款の改定とともに損害サービスにおける実務ルールの整備を行い、円滑なお支払いの準備を進めてまいりたいというふうに考えております。

 ただいま申し上げたことのほか、重複保険、保険金及び保険料返還請求権の時効などの規定も保険契約者にとって有利な規定に変更されております。

 例えば、同じ建物に複数の保険会社と火災保険を契約したような場合を重複保険といいまして、事故があった場合にはそれぞれの保険会社にそれぞれの分担割合を御請求いただくのが現在の実務でございます。これに対しまして、保険契約者等の利便性の向上のために、いずれか一社の保険会社に請求すれば保険会社の分担は保険会社の間で決済するように保険金のお支払い方法が変更されております。また、時効につきましては、従来の二年が三年に延長されております。

 保険会社におきましては、保険会社間の保険金分担実務の変更であるとか、あるいは保険金お支払い実務の管理強化などを進めてまいりたいというふうに考えております。

 次に、社会経済の変化に対応した新商品の開発など、多様なニーズに対応し得る柔軟性について申し上げます。

 経済社会の変化に伴いまして新たなリスクが生まれ、またそのリスクも多様化しております。特に、事業活動に関するリスクは多様かつ特殊なものがございまして、オーダーメードによる保険引き受けのニーズがございます。これらに対応できるよう、保険法案では、事業リスクに関する契約につきましては消費者契約と区別して契約の柔軟性が認められております。

 保険犯罪を予防して保険制度の健全な運営を確保するために、故意の事故発生であるとか詐欺など、重大な事由が判明した場合の解除権や、保険金支払いに必要な調査に協力しない契約者には保険会社が遅滞の責任を負わないということが規定されております。

 損害保険は、我が国経済社会において欠くことのできない公共性の高いシステムであるというふうに認識しております。一方、高額な保険金を受け取る可能性があることから、保険金詐欺などの事案が発生しているのも、これもまた事実でございます。

 このような保険の不正利用目的を適切に排除することは、保険というシステムを適切に維持運営していく上で不可欠でございます。一方で、保険契約者にとって厳し過ぎる規定とならないよう、配慮していくということが重要であるというふうに認識しております。

 重大事由による解除につきましては、故意の事故であるとか詐欺など、悪意性の著しいものに限定されておりますし、保険契約者等が事故の調査に協力しない場合であっても、保険金をお支払いしないというのではなく、遅延利息の支払いをしないこと等にとどめられております。

 私ども損害保険業界といたしましては、利用者保護、保険制度の健全な運営等に資するこの保険法案を今通常国会においてぜひとも成立していただくことを希望しております。

 また、保険法改正への準備を通じまして、盛り込まれた利用者保護の趣旨を最大限に尊重し、お客様と確かなきずなで結ばれる損害保険として皆様に御理解いただけるよう、日本損害保険協会並びに会員各社一丸となって取り組みを進めてまいる所存でございます。

 最後になりましたが、皆様の一層の御指導、御支援のほどよろしくお願い申し上げます。

 ありがとうございました。(拍手)

下村委員長 どうもありがとうございました。

 次に、今尾参考人にお願いいたします。

今尾参考人 共済団体を代表いたしまして、当委員会においてこのような機会を設けていただいたことに対しまして、改めて感謝申し上げます。

 御意見を申し上げる前に、社団法人日本共済協会について紹介させていただきます。

 戦後、日本では数多くの共済団体が生まれ、発展してまいりましたが、これら共済団体の連携と協調を促進する場として、社団法人日本共済協会が一九九二年四月に発足いたしました。日本共済協会は、協同組合が行う共済事業の健全な発展を図り、もって地域社会における農林漁業者、中小企業者、勤労者等の生活の安定及び福祉の向上に貢献することを目的としております。

 現在、会員は、JA共済連、全労済、日本生協連、全国生協連、日火連等十四会員で、それぞれ所管庁は農林水産省、厚生労働省、中小企業庁等、幅広い構成団体となっております。

 次に、共済団体の事業は、二〇〇六年度におきまして、会員数六千八百十七団体、契約件数が一億五千三百十九万件、組合員数は六千九百五十八万人、受け入れ共済掛金が六兆八千億円余、支払い共済金が四兆三千四百五十億円ということで、我が国の保障事業の中で相当重要な地位を占めているというふうに考えております。

 本保険法案に対する日本共済協会の考え方を申し上げます。

 日本共済協会としては、この保険法案に対して、次のとおり考え方を表明いたしたい。

 まず一点目、この保険法案につきましては、共済契約にも適用することを含めて、必要な措置ということで評価しております。

 保険法案の見直しのポイントであります規律内容の現代化は、広く社会に定着している保険、共済契約に関し、契約ルールを現代社会に見合った適正な内容とするものでありまして、その内容である契約者の保護、保険契約上のトラブルの防止、健全性の維持、高齢化社会や高度情報化社会への対応等の視点から規律内容を見直し、これにあわせまして、約款をそれぞれ今後平明化していくという作業があろうかと思いますが、共済団体としても基本的に必要な措置として評価いたしたい。

 二点目でありますが、この保険法案においては、保険契約と同等の内容を有する共済契約に関しまして、保険契約と同様に適用の対象となるというふうに整理されておると伺っております。したがって、従来、共済契約につきましての契約ルールは、民法並びに一部商法の類推適用をしてまいりました。この保険法案によりまして、共済契約についても基本的な契約ルールが明確に定められ、かつ、保険契約と共済契約が対等なものとして位置づけられているものというふうに考えております。

 三点目に、この保険法案は、あくまで契約ルールを規律する法律でありまして、監督のあり方を規定するものではないということについて、さきの二回の法務委員会においても明らかにされているところだというふうに理解しております。

 協同組合が行う共済の根拠法には、農業協同組合法、消費生活協同組合法、中小企業等協同組合法等がありまして、先ほど申し上げましたように所管庁もそれぞれあり、歴史的に特徴を持った組織として発展してきているというふうに考えております。

 また、協同組合の特徴としまして、組合員が出資して事業を利用する、運営が組合員というメンバー同士の組織として成り立っている、これらの組織のよい部分は積極的に維持発展させていくことが我が国の社会の安全にとっても有意義なことだというふうに考えております。

 日本共済協会と会員の各団体は、保険法案のもとで、きちんとした契約ルールを整備して、契約者すなわち組合員の保護と利便性の向上に一層の努力を積み重ねていきたいというふうに考えております。その上で、協同組合の特性を堅持しながら、組合員によって設立され、運営されている自主的、自発的な組織として日本の社会に貢献していきたいと考えているところであります。

 なお、法律の施行時期についてであります。

 組合員に保険法案の内容を十分に理解していただく必要があること、約款や自治規範である共済規程をこの法律に基づいて整備していく必要がある、これらのことにつきまして、総会や総代会など、各協同組合団体の組織運営ルールに基づいた機関決定が必要になっているわけでありまして、この法の施行につきましては十分な時間を設定していただきたいというふうに考えております。

 最後に、今後とも、相互扶助の精神や組合自治、非営利といった協同組合運営の特徴発揮に努め、我が国に根づいた共済制度の発展によりまして、組合員の自助、共助による保障の確立に努めてまいりたいというふうに考えておりますので、先生方の特段の御理解と御指導を賜りたいと思います。

 ありがとうございました。(拍手)

下村委員長 どうもありがとうございました。

 次に、坂参考人にお願いいたします。

坂参考人 弁護士の坂でございます。

 現在、日本弁護士連合会の消費者問題対策委員会の副委員長をしております。本日は、発言の機会を与えていただきまして、ありがとうございます。

 日本弁護士連合会は、今回の保険法の見直しに関して、昨年九月に保険法の見直しに関する中間試案についての意見書、さらに、ことし二月に保険業法の改正に関する意見書を公表しております。

 本日の私の意見は、これらの意見書をも踏まえつつ、主として消費者保護、契約者ら保護の観点から述べさせていただきます。

 まず申し上げたいことは、保険金不払いの問題や保険に関するトラブルの現状を踏まえた御検討をぜひお願いしたいという点であります。

 先ごろ報道されましたところを見ましても、国民生活センターが集計した苦情相談の件数は、二〇〇七年度において一万六千件を超える見通しである、三年間で倍近くになっている、こういう報道がされております。また、平成十七年以降、生命保険会社における保険金の不適切な不払いを初めとして、生命保険会社の保険金等の支払い漏れ、損害保険会社の付随的な保険金の支払い漏れ、第三分野における不適切な不払い等が次々と明らかになってまいりました。

 こうした問題は一時的な問題であると見る向きもあるようですが、これらの問題は、保険商品の特性や保険の現状に基づく構造的な背景を持った問題であることを十分御検討いただきたいというふうに考えております。

 もともと保険商品は目に見えない商品ですので、契約者、消費者らにとって理解が容易な商品ではありません。そして、近年、その商品内容はますます複雑化、多様化しており、消費者、契約者らにはますますわかりにくくなっております。また、保険会社は、保険商品をみずから開発するなど保険について十分な知識や経験、情報を蓄積している企業体であるのに対して、多くの場合、消費者、契約者らは、専門的な知識を有しない個人や中小企業、団体であります。一連の不払い問題はこうした構造を背景としているものであり、決して一時的な問題と見るべきではありません。

 こうした問題は、多くは保険業法において対応すべき部分もありますが、しかし、保険契約法においても、こうした構造的な問題を踏まえて、保険契約者等の保護を検討すべきであります。今回、法案の提案理由とされている保険契約者らの保護も、このような構造的な背景を踏まえてとらえられるべきものと考えます。

 このような観点から、今回の法案において新しく告知妨害に関する規定が整備されたことは、消費者、契約者らにとって歓迎すべきことであります。立法とともに、ぜひ保険会社各社においても、これを一つの契機として、さらなる業務改善が行われることを期待したいと考えております。

 次に、今回の法案においても、保険契約法における基本的なルール、保険会社が適切な危険測定を行うための告知義務に関する規定や、保険金の不正請求等のモラルハザードに対応するための免責事由や、重大事由解除に関する規定が設けられております。

 これらは、保険集団を適切に構成し、維持していくための大切な規定ではあります。しかし、一歩間違うと、不当な不払いの道具になりかねません。実際、保険金の不適切な不払いの事例においては、告知義務違反や重大事由解除を乱用する形で不適切な不払いが行われてきました。

 保険契約者側にとって、保険事故が発生したときに適切かつ確実に保険金が支払われることは極めて重要であります。このことは、保険の本質的な機能です。今回の保険法においても、制度が不当な不払いの理由として乱用されることがないよう配慮の上、モラルハザード防止の必要とのバランスを適切にとる必要があります。

 この点について、法制審議会保険法部会の議事録を拝見いたしますと、解釈に関する議論の中で注目される確認が幾つか行われております。

 一つは、告知義務違反についてであります。契約者側が故意または重大な過失によって告知義務に違反した場合には、保険金は支払われません。法制審議会保険法部会では、この重大な過失の意義について、これは故意に非常に近い場合である、故意と言われても仕方がないような注意義務違反が非常に甚だしい状態、こういう限定された場合を指すものであるということが確認されております。

 また、免責事由について、保険契約者らが故意または重大な過失によって損害を発生させたとき等には保険金は支払わないとされていますが、この免責事由における重大な過失についても、故意に非常に近い、こういう解釈を前提とするものであるということの説明が行われております。

 保険契約者らの保護を図り、また制度の乱用を許さないためにも、これらの解釈は極めて重要というふうに考えます。

 次に、法案の検討に際して、なお御留意、御検討をお願いしたい点を四点申し上げたいと思います。

 第一に、支払い時期に関する点です。この点は、ぜひ慎重に御議論いただきたいと考えております。

 法案では契約者保護の規定の一つとして提案されていますが、提案の規定は、一歩間違うと、かえって契約者保護を後退させるおそれがあるとの心配があります。法案では、保険金の支払い時期について具体的な規定を置かず、相当な期間という抽象的な基準しか定められておりません。また、この相当な期間に関する立証責任は保険契約者側が負うとされているようであります。この条文を保険契約者側が使いこなすことは、必ずしも容易ではありません。

 他方、保険相談の現場では、保険会社側が調査と称してなかなか保険金を支払ってくれない、こういう声を耳にします。

 こうした心配を払拭するためには、保険法において、支払い期限についての明確な期限を定めることが望ましいと考えております。この点、日本弁護士連合会は、昨年秋の中間試案に対する意見として、三十日という期間を明確にすることを求めていたところであります。

 第二に、重大事由による解除についてです。保険契約者らにおいて保険会社の信頼を損なう重大な事由が生じたときには、保険会社は保険契約を解除し、保険金を支払わないとすることができるとされています。

 この重大事由解除について、損害保険を例にとりますと、これは三十条一号、二号に定められておりますけれども、ここに具体的な規定が置かれております。保険金取得を目的として故意に損害を発生させた場合あるいは詐欺による保険請求の場合に、こうした重大事由解除ができるという定めが置かれています。これに加えて、同条の三号では一般的な包括規定が置かれています。この三号については、定めが抽象的であることから、乱用が心配されます。このような包括規定を設けるのであれば、一号あるいは二号に匹敵するほどの重大な事由に限定する表現とするべきであります。あるいは、最低限その趣旨を解釈で明らかにしておくべきと考えます。

 第三に、今回の法案では、被保険者が同意をしないまま保険契約が締結された場合や、同意による契約でも保険契約時とは状況が変化した場合に、被保険者は契約の解除請求ができるとされました。

 この規定は、被保険者の自己決定権の尊重、モラルハザードの防止の観点から、非常に重要な規定です。しかし、この規定が十分にワークするためには、最低限被保険者が保険契約の存在を知ることが必要であります。したがって、被保険者の同意を得ずに保険契約が締結された場合には、保険会社が被保険者に対してこれを通知するなどして、被保険者に契約がされたことを知る機会を確保するべきであります。

 なお、今回の法案は、現在商法の一部に規定されている保険契約法を、保険法という単行法にしております。こうした法律の形式により、消費者契約法の適用関係は、これまでとは基本的に変わるものではないと考えられます。この点は、法制審議会保険法部会では議論の前提となっていたところかというふうには考えますけれども、立法においても念のために明らかにしておくべきと考えます。

 次に、今回、保険法の見直しに伴い行われてきた保険業法の見直しあるいは保険監督について、三点意見を述べさせていただきます。

 第一に、保険金の迅速かつ適切な支払いを確保するためにも、保険業法において、保険会社が保険事故について迅速かつ適切に調査を行うべき義務を負っていること、これをぜひ立法で明確にすべきと考えます。

 第二に、保険法の見直しにおいても論点とされているところですが、未成年者に保険を掛けることの是非についてです。

 この問題は、保険業法ないし保険監督において対処を検討するとして、保険法では特段の規定を設けないということにされました。金融審議会第二部会の報告では、「未成年者の死亡保険についてはモラルリスクが高いものがあるため、何らかの対応を図るべきであるとの意見が大勢であった。」と報告されているところであります。

 この間の経過からも、これは保険業法で対応される問題かとは思いますが、未成年に高額の保険を掛けることは利益相反の問題があり得るということも指摘されているところであり、保険業法ないし保険監督において早期に適切な対応が行われるべきであると考えます。

 第三に、ことしの一月の金融審議会第二部会報告では、保険金の支払い、解約返戻金、保険会社の説明義務等、これらの重要な論点について引き続き検討すべきであるとされております。こうした重要な論点については、早期に議論を具体化すべきであると考えます。

 最後に、保険業界の皆さんにもこれは御検討いただいている点かと思いますけれども、法制審議会でも議論になった点について、一点述べさせていただきます。責任開始前発病不担保条項についての問題です。

 この責任開始前発病不担保条項は、保険会社の責任開始前に発病しているものについて保険金は支払わないとする条項であります。この条項については、若干問題が生じております。

 契約時に、当時本人が症状についての自覚症状を持っていなかった場合、こういった場合についても、後で保険金が支払われないということが言われる。あるいは、契約時に当時の症状について正しく告知していたところ、保険を引き受けてもらったので安心をしていた。ところが、保険金を請求した段になって、告知義務違反はないけれども、責任開始前発病不担保条項により保険金は支払えませんよと言われる。あるいは、告知をしなくても入れますとされている保険で、保険金が出ると思って加入をしたのに、この条項を理由に、後に保険金が支払われないという事態に遭遇する。こうした事態はいずれも、保険契約者の期待に反することになれば、保険契約者にとっては酷な結果となるものであります。

 この問題については、法制審議会保険法部会では、問題がある点では認識は共有されたものとお聞きしておりますが、保険法で一般的な規制を行うことは技術的に難しいとの議論があり、また業界の方でも適切な対応を行うという発言がありましたことから、保険法に盛り込むことは見送られております。この点につきましては、ぜひ業界の適切な対応を求めるとともに、保険業法、監督法においても適切な対応を求めたいと考えております。

 以上です。どうもありがとうございました。(拍手)

下村委員長 どうもありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

下村委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。柴山昌彦君。

柴山委員 ありがとうございます。

 まず、本日、参考人の皆様方には、法務委員会に御出席をいただき、貴重な御発言を賜ったことを心からお礼を申し上げたいと思います。

 まず、山下先生にお伺いしたいと思います。

 今回の保険法改正の大きなコンセプトとして、いわゆる第三分野に関しての規定の新設ですとか、あるいは共済契約への拡大など、カバーする範囲を広げているということが挙げられるかと思います。

 ただ、これだけ保険商品が多様化している中で、いまだに伝統的な損害保険あるいは生命保険の枠組みということはしっかりと維持している。御案内のとおり、年末の税制改正では、保険料控除の範囲で生命保険、損害保険の壁をどう考えるかということが大変大きなテーマとなりました。また、今回の保険法と保険業法との間で傷害疾病保険の範囲がずれているというようなことも指摘されている部分であります。この点についてどのようにお考えになるかということを、まず冒頭お伺いしたいと思います。

 そして、二点目なんですけれども、共済契約の規律の問題なんですけれども、先ほど今尾参考人の方からも御指摘がありましたとおり、共済契約の中には、もちろん数理計算を前提とする大規模なものもありますけれども、自助的、相互扶助的な要素を強く持つものなど、非常に多様な種類があるかと承知をしております。

 こういった部分を、例えば少額短期というような観点に着目して、契約ルールの異なるものを設定するというようなことも十分考えられ得たのではないかなと思うんですけれども、この点についてどういう議論がされたのかということをぜひお伺いしたいというように思っております。

山下参考人 ありがとうございます。

 御質問の今回の保険法案で適用対象としておる保険あるいは共済の類型と、例えば業法であるとか税法における保険の類型との関係という点でございますが、特に業法の面につきましては、今回、第三分野の保険、傷害疾病保険に関する規定を設けようということで、これは従来、保険業法の方では約十年前の全面改正で傷害疾病保険、第三分野の保険の類型化も図ったわけでございます。それとの関係をどうするかということを一応慎重に審議いたしまして、やはり今回の保険法案では業法とは少し異なる類型化を図っているわけでございます。

 これは、契約として考えますと、保険会社であるとか、共済事業を営んでいる組合、これがどういうふうな事業者であるかということよりも、契約内容、すなわち保険契約者、共済契約者と保険者、共済者との間の私法上の権利義務という関係で考えれば、事業者がどういうものであるかということよりは、契約内容がどうかということが決定的に重要である、こういうことでございまして、そういう面から考えると、保険法案のように、傷害疾病定額保険契約という類型を立て、それからもう一つ、損害保険契約の中に傷害疾病損害保険契約、こういう形の類型に分けて整理するのが適切であろうということになったわけでございます。

 これに対して、保険業法でありますとか各種の共済事業法、特に保険業法の方は生損保の分離という、事業者がどこまで業務を営んでいいのかということについて、やはり監督の観点から類型化を図る必要があるわけでございまして、そういう観点から、従来、保険業法でとってきた類型化というものを、改めて金融審議会の場でも維持してよいかどうかということを検討いたしまして、やはり業法上は従来の枠組みを維持するということが必要であろう、その上で、両者が食い違った場合に何か実務上深刻な問題が生じないかということを精査したわけでございますが、特段、この点で問題は生じないだろうという判断で今回のような法案になったものでございます。

 それから二点目の、共済契約を今回の保険法案で規定するに当たりまして、例えば少額短期というふうな契約類型を取り出して、一般の保険、共済契約とは別の規律を設けてはどうかという点でございますが、保険法というのは、この法案をずっとごらんいただきますと、やはり民事の基本法でございまして、例えば損害保険契約あるいは生命保険契約というものを、いわば保険金額で規律を分けていくというふうなことは民事の法律では基本的には技術的に難しいだろうということでございます。

 そうすると、保険契約、共済契約を一元的に規律するということになろうかと思いますが、そのときに、少額短期の保険契約に契約法の面でも強い規制を及ぼして、そういう少額短期の利便性の高い共済が実施しにくくなるというふうなことがあれば、それはそれで問題かと思います。

 先ほども意見として申し述べましたように、この保険法案の要綱案をつくる法制審議会の部会では、実際の共済事業者の代表の方にもメンバーとして加わっていただいて、実際行われている少額短期の共済契約も含めて、実務上不都合が生じないかどうかということを慎重に検討して、その結果、特に問題ないだろう、こういうことで今回のような法案になっているわけでございます。

 非常に少額の見舞金を支払うような、相互扶助制度のようなものは、そもそもこの保険法案に言う保険契約には該当しない、またその種の制度については従来どおり可能になるという区分けで、そこの具体的な境というのは今後の解釈で明らかにされていくのではないかと思っております。

柴山委員 ありがとうございます。

 続きまして、先ほど来、問題として取り上げられております保険金の不払い問題に関連してお伺いしたいと思います。

 確かに、今回のルール、消費者の保護として告知についてのルールの整備、例えば保険者からの質問に回答すればよいという形でのルール設計、また募集人による告知妨害があった場合の支払いというような形で整備をされたことは確かに高く評価するべきであろうかと思います。

 しかし、今御説明があったように、今後重大な過失による免責をどうするか、あるいは調査に必要な期間というものをどうとらえるか、重大事由解除、こういった問題についてきちんと詰めていくべきだという御指摘もあるところですし、また、私は、そもそも今回の不払い問題のもう一つの大きな背景としては、やはり説明義務の問題があるのではないかなというように思っております。

 例えば、今、最後、坂参考人の方から御指摘があった、責任開始前の発病、こちらについて負担をしないというような問題についても、これをあらかじめきちんと説明していたのかどうかということは私は非常に重要な問題ではないかなと思っておりますし、また一般に、特約について、これをきちんと説明しなかったことによる不払いの問題等についても大きく指摘をされているところでもございます。

 こうした説明義務に関して、もちろん消費者契約法あるいは金融商品取引法等の規律なども考えられるかと思うんですけれども、やはり保険法できちんと明定すべきではないかという議論が当然出てきてしかるべきだと思うんです。これについてどのようにお考えか、また、事業者として、この説明義務、不払い等に関する取り組みが一体どのようなものになっているのかということについて、まず生命保険協会の方から御説明をいただきたいと思います。

筒井参考人 お答えをいたします。

 改めて、お支払い問題で大変な御迷惑をおかけいたしまして、本当に申しわけございません。やはり、適切、迅速にお支払いに努めるということは、我々は保険のプロでございますので、そういう自覚のもとに、当然の責務として、こういう問題が二度と起こらないということで取り組んでまいりたいと考えております。

 いろいろな再発防止策を組み立てて現在取り組んでいるところでございますが、その最大の柱は、今先生御指摘のとおり、お客様に対する御説明というものをもっと充実し、強化をしていかなければいけないということを重要な柱として今取り組んでいるところでございます。

 特に、生命保険の営業職員については、かねてから言われておりましたが、ややもすれば新契約をいただくということに傾斜がかかっているんじゃないかというふうな側面も確かにございましたので、こういう新契約に偏ったような評価体系を大きく変えまして、お客様のアフターサービス、特に御加入いただいている保険契約の内容を定期的にお知らせするでありますとか、あるいは万が一そういう事故が起こったときにどういうふうなお支払いの手続、請求が必要なのかということについての説明、そういった活動も評価するような形で取り組んでいるところでございます。

 象徴的な活動としては、御契約内容確認活動、これは弊社日本生命の例でございますが、定期的にお客様を御訪問して、先ほど申し上げたようなお客様への御説明ということを重点に取り組んでいるところでございます。

 今回の法案の御趣旨も、そういう説明義務の強化というところは当然趣旨としてございますので、引き続き、今やっている取り組みをさらに強く推進していきたいと考えております。

 以上でございます。

柴山委員 続きまして、損害保険協会の方にもお伺いしたいと思うんです。

 特に、これは損害保険協会さんに限ったことではないんですけれども、今、保険会社相互間の合併あるいは統合が活発に行われているところでございます。そのような中で、商品あるいは約款の統合ということが本当にスムーズにいっているのか。もしこの部分で問題があるのであれば、それが、先ほど御説明のあった説明義務、特に約款の説明のようなところに影響してくるのではないかという指摘があろうかと思います。これについてどのように対処されているかということを、まずお伺いしたいと思います。

 また、損害保険の場合に、事故があった場合に、ともすると、ユーザーサイドからすれば、請求主義がかかり過ぎているんじゃないかと。今回の法律十四条で、事故についての通知義務が課されていて、これ自体はやむを得ない部分かと思うんですけれども、それにしても、ユーザーサイドからは会社の不親切性ということがややもすると指摘をされている部分かと思います。これについてどのような対応をされているのかということについて、ぜひお伺いしたいと思います。

柄澤参考人 先生御指摘の点、真摯に業界として受けとめたいというふうにまず考えます。

 この間のいろいろな問題につきまして、合併の問題が影響したのではないかという点につきましては、一定程度先生御指摘の点はあろうかというふうに思います。

 保険料規模で上位の六社、損保、いずれも合併を経験しております。私ども三井住友海上も二〇〇一年十月に合併いたしました。また、幾つかの統合話も巷間うわさされているという業界でございます。

 当社の場合で申し上げれば、既に統合のプロセスは終了いたしまして、三井住友海上としての商品の開発、システムの高度化等に取り組んでおります。旧両社の統合のプロセスにおいては、苦労したことは少なくございませんでしたが、御指摘の商品、約款につきましては、統合プロセスの一環として、統合後の新商品を開発し、御契約者が満期を迎えるごとに移行をお願いし、商品の一体化を進めることができました。

 損害保険商品は、主力の自動車保険を初め一年契約が中心であることもございまして、比較的早期に移行が進んだ面もあろうかというふうに思います。システム面の統合も大きな課題でしたが、安全性を重視して慎重に準備を進めることで、大きなトラブルを来すことなく統合できたというふうに考えております。

 しかしながら、一方的に統合の事務の混乱等において一部契約者の皆さんに御迷惑をおかけしたことは事実だというふうに思いますので、これを真摯に受けとめて、このようなことがないよう、取り組んでまいりたいというふうに考えます。

 また、先生御指摘の請求主義の問題でございますけれども、基本的に各社積極的な請求案内に努めておりまして、例えば三井住友海上におきましては、事故を受け付けた際に、お支払いの可能性がある保険金のすべてを御案内申し上げているところでございます。また、地震などの災害が発生した場合におきましては、お客様のお申し出を待つことなく、保険会社が被災地域のお客様を訪問するなどして、被害状況の把握、保険金のお支払いの御案内を申し上げる活動を行っております。

 このように、損害保険の公共性、社会的意義にかんがみまして取り組んでいるところでございますので、よろしく御指導をお願いしたいというふうに思います。

 以上でございます。

柴山委員 質問がまだ全然終わっていないんですけれども、十五分で質疑時間がもう終了してしまいましたので、あとは残りの先生方にお任せしたいというように思っております。

 きょうは本当にありがとうございました。

下村委員長 次に、古本伸一郎君。

古本委員 おはようございます。民主党の古本伸一郎と申します。

 それぞれの参考人におかれましては、公務御多用の中、当委員会にお越しをいただきまして、そしてまた貴重なる意見を開陳いただきましたことに、私からも感謝を申し上げる次第であります。

 そしてまた、きょうは、学界、それからまさになりわいとされておられます業界、さらには消費者といういわばユーザーの立場に立った、各般にわたる御意見を拝聴いたしたわけでありますので、ぜひそれぞれの立場からさらなる質疑を深めたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 まず、先ほどいただいた御意見の中で、恐らく制度設計をなさり、そして商品を開発し、お言葉をかりれば、新商品の開発、柔軟な規律となっているという表現ぶりも業界からはあったかと思うんですが、一方で、その客観的に必要な相当な期間、これについても、むしろ今回の法のたてつけによって具体的にそれぞれ約款で書き込むということになり、これまであいまいだった部分が排除できるようになった、そう業界側は評価されておるというふうに聞こえました。

 他方、消費者側の日弁連の御意見によれば、今回の法案の改善すべき項目の第一に、この支払い時期に関しまして、相当なる期間というのは明確な期間を定めるべきである、具体的に三十日という、これは恐らく損保の方だと思いますが、生命保険に関しては五日という御意見をお持ちだというふうに伺っておりますが、ここは、実は同じ法律の議論をしているのに百八十度何やら評価が異なるように思えてならないわけであります。

 そこで、ニュートラルな学識経験者から、どういうふうに聞かれたか、御意見を聞きたいと思います。

山下参考人 この点は、私どもは保険法の研究を長くやっていますが、履行期がいつでいつから遅延利息をつけるかというのは、私の若いころはそれほど問題ではなかったんですけれども、近年、低金利との関係で、また不払い問題というのも噴出して、非常に保険法部会の審議の中でもホットな論争があったところでございます。

 もちろん、明確に何日という期日を置いてそこを履行期とするということができれば非常にはっきりしたルールにできるわけでございますが、やはり保険法案がそうなっていないのは、保険契約にも多様な類型がある、それから、同じ保険契約でも現在非常に複雑になっておって、多様な保険金、保険給付というものが行われることになっております。

 そういう契約類型あるいは保険金、保険給付の類型というふうなものを考えていきますと、保険会社が保険金の支払いの請求を受けて、それに対してどういうふうに調査をして適切に保険金を払うか、その調査として必要な事項も千差万別でございまして、そういう意味では、一つの期間で、何十日とか何日というふうなことを決めるのは、技術的には到底これは無理だろうということになっております。

 ただ、法律規定上は、これは相当の期間というふうになっておりますが、そのままでは明確でないというのは明らかでございまして、そこは今後とも、各業界、各会社で非常に具体的、客観的な履行期というのを定めて、それが実際の契約で使われる、そういう案が出てくるような段階で世の中からいろいろな意見が出て、こういう調査事由であれば、このぐらいの期間ならいいですよとか、あるいは、そうでない、もうちょっと短い方がいいんじゃないか、そういう意見が今後闘わされて、よい慣行的な約款ができるのではないかなと私個人は思っております。

古本委員 実際の現場の、まさにお言葉をかりれば、本来、保険というのは公共性の高いシステムである、要は公の器である、そういう自負も持っておられる業界にあって、一連の不払い事案というのは本当に残念なことであったわけでありますが、他方で、当然、競争なさっておられるでしょうから、巷間、あそこの会社はどうも払いが悪いぞなんていう話が出ると、営業の前線の人は困るわけであります。

 そういう意味では、実際に言われるほどに支払いがそんなに遅いものなのかどうなのか、実態を少し教えていただきたいんです、それぞれ生保と損保で。日弁連の皆さんは、三十日と五日というところでそれぞれ損保と生保で区切っておられますが、実際にこれを上回るような、期間を超えるような支払いに至るような事案というのは、全体の契約数の大体何割ぐらいあるんでしょうか。

筒井参考人 お答えをいたします。

 約款においては、原則として五日もしくは五営業日以内に支払うというふうに決められております。

 それで、生命保険会社全体の数字はございませんが、弊社日本生命においては、直近の実績データでいきますと、約九割の御契約につきましては、五営業日以内でお支払いをしているという実績がございます。逆に、残り一割については、いろいろな事実の確認とかが必要であるということで、五営業日を超えているという実態でございます。

 先ほど山下先生の御指摘にもございましたが、一定の日数を決められるということについて私どもの考え方を申し上げますと、事実確認が必要なケースがあるというふうに先ほど申し上げましたが、やはり御契約の種類だとか保険事故の内容だとか、そういったことで千差万別でございまして、そういうことから法定せずに相当の期間とされたものというふうに理解しております。

 これで一定の日数が法定されてしまいますと、私どもとしては一番考えておかなければいけないのは、モラルリスクが懸念される事案が出てきたときに、最終の期限が切られてしまいますと、十分に調査ができないままに保険金を支払わなければならなくなるケースが発生するということでございます。

 それからもう一つは、事実確認というふうに申し上げたんですが、これも、個人情報保護というふうな観点から、被保険者の方の同意をいただかなくてはならないとか、あるいは関係各位に事実確認をするときになかなかはかがいかないとか、そういったちょっと難しいケースも生じてきております。

 したがって、一定日数を法定化されますと、端的にはモラルリスクということで、保険制度の健全性を維持する上で不都合なケースが生じるということはぜひ御理解をいただきたいと存じております。

 ただ、いずれにしても、九割は現在でも五営業日以内で支払っておりますし、今回の支払い問題、それから法の趣旨を踏まえて、適切、迅速にお支払いを進めていきたいというふうに考えております。

古本委員 ありがとうございます。

 それぞれ意見を聞きたいので、委員長、大変恐縮ですが、尋ねたことだけお願いしたいと思います。大体平均どのくらいかということだけお願いします。

柄澤参考人 平均的な支払い日数についての損害保険会社全体のデータはございませんので、三井住友海上、個社の場合で御了承いただきたいと思います。

 請求をいただいてから支払いまでの平均的な日数については、主要商品については平均十日程度でございます。また、ほとんどの商品、事案について、請求から約款の定めのある三十日以内にお支払いを終えております。

 一定程度終えていない事例というのは、例えば、自動車事故の請求がありまして、警察の捜査が続いているような状況、あるいは建物が倒壊したということで、危険であって当局から立入禁止をされている中で調査が行えないような事例、あるいは美術品の盗難等で専門家の鑑定が必要なケース、このようなケースでございまして、ほとんどまれなケースでございます。

 以上でございます。

古本委員 お待たせしました。ぜひ日弁連の意見を聞きたいんです。

 少なくとも、ほとんどのケースが三十日、五日の中におさまっている、おさまっている中でレアケースがあるんだ、こういう御説明だったんですが、そのレアケースの中に、いわゆるモラルリスクですとか、あってはならない保険金殺人であったりとか、そういうことがあるんだ、こう業界の方は今言っておられます。他方で、日弁連から先ほどありました、調査と称して保険金を支払わない、こんなことが本当にあるのかどうかということは大変な議論、ポイントになると思うんですね。

 ですから、契約の自由を阻害するものではない、大学の先生がそうおっしゃった。でも、実態というか現場を見ておられるのは、日弁連の消費者保護の立場。反論がありましたら、ぜひ拝聴したいと思います。

坂参考人 ありがとうございます。

 実態ということでいいますと、私ども、具体的な相談事例ですとかそういうものを見る限りでは、やはり調査を理由としてなかなか払ってくれないという相談は結構ございます。

 この問題は、実は私も非常に難しい問題だというふうに思っておりますが、非常に懸念されますのは、さきに最高裁の方で、この支払い時期の約款に関する判決が出ております。平成九年の三月二十五日の判決において、約款の表現は、請求手続から三十日以内に保険金を支払う、ただし、この期間内に必要な調査を終えることができないときには調査終了後遅滞なく保険金を支払う、こういう定めの条項について、この条項は三十日の期限を決めたものである、こういう解釈をすべきだと。期限については、この条項について三十日、こういう解釈をしております。

 今回、この保険法の新しい記述が入ることによって、現在その解釈を前提としてきておる実務なり動きというものが緩やかになってしまうのではないか、こういうことを私ども非常に懸念しているわけであります。具体的には、例えば、約款の定め方が変わったりはしないだろうか、あるいは実務の扱いが、相当な期間は調べてもいいんだということで長くなったりはしないだろうか、こういうことを非常に懸念しております。

 ですから、ぜひ、そうした懸念がないような形で立法を進めていただけないか。私どもといたしましては、具体的な日数を区切るということが一番明確であるというふうに考えております。あと、アプローチとしては、先ほど若干触れましたが、例えば迅速かつ適切に調査を行う、こういった義務を課すようなアプローチもあり得ましょうし、その他いろいろな観点から、ぜひ慎重に御議論いただければというふうに考えておる次第であります。

 ありがとうございました。

古本委員 今、ふだん消費者の相談に乗っておられる弁護士の先生がこういうふうにおっしゃっているわけですが、一方で、三十日と五日というたがをはめることがかえって多様な商品開発を阻害したり、ひいては公の器である保険という商品を開発するたがになったりとか、いろいろなデメリットも考えられると思います。

 何より、今引用されました最高裁の判例は、まさにあいまいな解釈ができるただし書きがついているところの、そのただし書きのあいまいさを指摘したというふうに私は理解をしているわけですが、むしろ、今回、あいまいなところをきちっと書くようにという指導が別途、それぞれ約款は認可事項でありますので、当局からあるという前提で法制審の議論もなされていたというふうに伺っておるんです。

 当然、それぞれの業界におかれましてはそういった約款づくりに努めていく、こういうことでよろしいのでしょうか。

筒井参考人 今回の法案の趣旨を踏まえまして、これから約款づくりというものを成立しましたら進めていくわけですけれども、御指摘のことからいきますと、例えば、過去の支払いの事例をずっと集積いたしまして、これを類型化して、この類型ごとに日数を考えていくとか、そういうふうな作業がこれから社内で進められていくのではないかと思っておりまして、先生御指摘のとおり、約款でどれだけの規定ができるかということを今後検討してまいりたいと考えております。

柄澤参考人 御指摘のように、法案の趣旨も、この最高裁の判決に沿った趣旨を踏まえた内容であるというふうに認識しております。

 私どもといたしましては、商品ごとの相当な期間に応じた日数を定めることができるのか、それぞれの商品の約款についてどのような改定を行うか、このような御指摘の趣旨も踏まえて鋭意取り組んでまいりたいと考えておりますので、御理解をお願い申し上げたいと思います。

古本委員 参考人の皆様、ありがとうございました。終わります。

下村委員長 次に、大口善徳君。

大口委員 公明党の大口でございます。

 本日は、山下参考人、筒井参考人、柄澤参考人、今尾参考人、坂参考人、各参考人の先生方、本当に御苦労さまでございます。

 まず、山下参考人にお伺いをしたいと思いますけれども、山下参考人が「アクチュアリージャーナル」というところで、保険法の改革の基本的な視点ということで、保険契約者の保護、将来的な視野で考えること、契約法と監督法の守備範囲をどう見るか、そしてモラルリスクにばかり目を向けないということ、この四点を論文で発表されておられます。

 今、各生保、損保等が支払い漏れあるいは不適切な不払い、それは説明義務ということもありますし、いろいろ管理が不適切であったというようなこともあったと思うんですが、こういう不払い問題という視点が保険法改革との関係でどうであったのかということをお伺いしたいと思います。

山下参考人 ありがとうございます。

 「アクチュアリージャーナル」という雑誌に私書きましたのは、保険法の改正が始まるちょうど直前ぐらいの時期で、日本の保険契約に関する民事基本法として、これからの将来に十分耐え得るものをつくっていく、そのときに契約者の保護というのを十分図った内容にして、諸外国の保険契約法と遜色のないものにする必要があるというのを申し上げたところでございます。

 そうやって審議が始まりまして、その過程で、ちょうど御指摘のような不払い問題、その他の保険に関する消費者問題というのが発生いたしました。

 正直申しまして、例えば先ほどから御質問いただいております保険金の支払い時期の問題などは、従来、私も長年保険法の立法の試案をつくったりというような研究をしていたのですが、そこではそれほど大きい問題ではないのかなと思ったのですが、こういう現在の状況が生じまして非常に大きな議論を巻き起こした、そういうことがございました。

 そのほかにも、先ほど来御質問の中にも出てまいります未成年者の保険の問題とか、従来の消費者問題では余り取り上げられてこなかった問題というのが非常に意見がたくさん出まして、そのうち、保険法で規律するのが適切な事項についてはそれを盛り込み、技術的に難しい事項については、これから保険業法に基づく監督、共済の監督、そういうあたりを通じて実現していくというふうなところでございました。

 それぞれの守備範囲ごとに、現在生じている深刻な問題について対応できる方向に向かっているのではないかというふうに私個人は思っておる次第でございます。

大口委員 その中で、今回、何といいましても告知義務の問題が非常に重要な改正であろう、こう思っています。自発的な申告義務から、質問応答義務ということになったわけであります。

 ただ、この点につきまして、危険に関する重要な事実について、質問応答義務になるということによって、例えば保険者の質問項目が細かくなったり、あるいは近親者の病歴なども、必ずしも重要とは思われないような事項についてまで告知を求めるとか、告知義務違反を問われる懸念があるようなことがありますので、告知事項の範囲をある程度法文上明確にすべきという意見もあったと思うわけでございます。

 こういう告知事項の範囲を定めることについてどうお考えであったのかということを山下教授にお伺いしたいのと、告知義務違反について、契約者の重大な過失があった場合でも、保険者を全部免責としないで、保険金の減額にとどめるといういわゆるプロラタ主義の考え方もあったと思いますが、結論的にはオール・オア・ナッシング主義が採用されました。このプロラタ主義を主張している意見も多かったと思いますけれども、この点についてお伺いしたいと思います。

山下参考人 まず、告知義務の対象となる重要な事実、事項というのを具体的に法定すべきではないかという御質問でございますが、これまた先ほどの履行期の問題と同じで、保険契約というのは非常に多様なものがございまして、また、それぞれの保険契約ごとに保険会社がどういう要素に着目して危険の選択を行うかということが、それぞれ別の契約ごとに違った考慮が必要になるわけでございます。

 そういうことで、法律の規定といたしましては、保険法の四条にございますような一般的な重要性の基準というのを決めざるを得ない。これは、諸外国の保険契約法でも大体、契約法の規律としてはこういうことにならざるを得ないのかなと思っております。

 あと、具体的にどういうことまで告知を求めるかというあたりになると、また保険業法の監督とか自主規制あたりで適切な対応がされる必要があるのではないかと思っております。例えば告知書の記載事項なども、かねてよりいろいろな自主的なガイドラインをつくるとかそういう形で、余り告知事項が拡散しないようになっていると思っております。

 それから、告知義務違反があった場合の効果について、御指摘のオール・オア・ナッシング、告知義務違反が成立すると保険金がゼロ、そういう原則とプロラタ主義、故意ではない、重過失の違反があった程度である、こういう場合には保険金を減額して一部払う、そういう原則、外国では二つの立法の仕方がございます。

 私個人もプロラタ主義というのはこの際検討してはどうかということを考えたわけでございますが、法制審議会の部会では、これは非常にわかりにくいと。少しでももらえるとなるとやはり告知義務違反を誘発するのではないか、そういう事業者側の懸念とともに、消費者側から見ても、では、どれだけもらえるか、その基準は非常に決め方が難しいというようなことがあって、日弁連の方ではプロラタを御支持になっているかもしれませんが、消費者サイドでもまだこれはちょっと、にわかに賛成できないという御意見もあるということを総合的に勘案しまして、今回は見送りをしたものでございます。

大口委員 自発的申告主義から質問応答義務に変更したということで、これが契約者に過度の負担にならないように、やはり危険における重要な事項ということについてわかりやすく、そしてまた後で問題が起きないようにやっていかなきゃいけない。そういう点では、生保また損保、そして共済の各業界の方々、いろいろと検討されておると思います。

 そこで、この決定につきまして、生保と損保からお伺いしたいと思います。簡単にお願いします。

筒井参考人 お答えいたします。

 法案の御趣旨も踏まえまして、今後、告知書の見直しを検討していく必要があろうかというふうに考えております。

 先生から今御指摘ございましたように、とにかくお客様に過度の負担を課してはいけないというところが重要だと思っています。質問応答義務に変更されたからといっていたずらに質問をふやすということではなくて、正しく告知いただけるように、一つ一つの質問がわかりやすいものになっているかどうかということについて、あくまでお客様の視点に立つことが重要であると考えております。そういう視点から取り組んでまいりたいと考えております。

柄澤参考人 例えば、自動車保険の場合ですと、自動車の用途であるとか車種、登録番号、使用目的などの情報、さらに被保険者の氏名、年齢などの情報を申込書の中に告知事項として既に御記入いただいております。

 これらは保険料を決めるために必要な事項でございますが、保険法が改正されたからといって、これらの事項が特にふえるわけではございませんので、お客様に大きな御負担をお願いすることはないというふうに考えております。そう努めるべきだというふうに考えております。むしろ、申込書の中におきまして、この部分に、これは重要な告知事項なので正しく記載してくださいとわかりやすく問いかけをする必要があるというふうに考えております。

 先生の御指摘の趣旨を踏まえて取り組んでまいりたい、御理解をお願いしたいと思います。

大口委員 あと、新聞では大変話題になったことがございますが、現物給付について。

 生命保険契約あるいは傷害疾病定額保険契約については、こういう現物給付ということによって、高齢化社会において、例えば介護サービスの提供とかあるいは老人ホームへの入居権を付与するというものを考えたらどうかと。これを保険法で規定しないということになりますと、こういうような給付を定める契約に保険法が直接適用されないということで逆に無規制になって、かえって消費者の保護の観点からよろしくない、こういう御指摘もあったわけでございます。

 これにつきまして、山下教授にお伺いしたいと思います。

山下参考人 生命保険契約あるいは傷害疾病定額保険契約の一種として現物給付を行う保険というのを認めるかどうか、これも大論争になった点でございます。

 例えば、何十年先かに老人ホームへ入る権利というふうなものを定型化して販売するのですが、これは技術的に非常に難しい面があって、本当に売っている保険会社が何十年か先にそういう老人ホームを実際に提供できるのか、そのためにはどういう監督をすればいいのか、当然これを考えなくてはいけないわけでございます。

 保険業法の方で、こういうサービスを提供するような保険についてどういうふうな監督をしたらいいのか、これから非常にインフレが起きた場合どうするかとか、そういう非常に難しい問題があって、少なくとも現在は解決策が見出されていない。そういうこともあって、業法的にはこれを直ちに認めるのは無理である。

 ただ、そうであっても、保険法の方で高齢化社会を見据えてこういう契約類型を認めておくことは有意義なことではないかというのが一方の意見でございますが、保険法というのは、先ほど来申し上げておりますように、契約内容を非常に一般化した形で規定いたしますので、こういう現物給付の契約ならいいです、こういうのはだめです、そういうきめの細かい規定ぶりがなかなか難しい。

 そういうことになると、仮に、生命保険として現物給付を行うのも可能というふうに一言で書いてしまいますと、むしろ、それが契約法上可能であれば、それはだれがやってもいいんだろう。保険業法で監督されればそれでもいいのかもしれませんが、それはないということです。

 そうすると、何もないものが突然行えるようになるというアナウンス効果、悪質な事業者などにこういう事業に目を向けるアナウンス効果があるということが懸念されまして、業法の整備が将来考えられるまではこういう給付の保険というものを見送る、契約法上も見送る、こういう決定をしたわけでございます。

大口委員 最後、未成年の死亡保険につきまして、日弁連がいろいろ意見をおっしゃっておられます。これは業法の問題、監督法の問題でもあるかもしれませんが、問題点について御指摘があればと思います。

坂参考人 ありがとうございます。

 この問題は、やはり未成年の保護をどう図っていくか、そういう観点からの議論と、保険についてもそういうニーズがあるではないかという意見がございまして、このバランスをどうとっていくかという問題かというふうに考えております。

 ただ、このニーズということは、いろいろお話をお伺いしておりますと、どうも死亡保険に対するニーズということではなくて、傷害保険あるいは疾病保険、こういったものに対するニーズであるように思われます。そういった保障をきちんとしていく、そういった商品開発も含めてやっていくということが求められているのかもしれませんが、未成年者の死亡保険については、どうもニーズというものはそんなに高くないのではないか。

 そうしますと、逆に、いろいろな子供をめぐる状況、子供に対するいろいろな事件が多発しておりますし、金融審でも指摘されておりますように、未成年者に対してはモラルハザードが起きやすいということはやはり否定できないと思います。したがって各国においてもいろいろな規制がされているわけで、こういった観点から、やはり未成年の死亡保険については、しかるべき対処といいますか規制といいますか、そういったものをやっていく必要があるのではないかというふうに考えているところであります。

大口委員 時間が参りました。ありがとうございました。

下村委員長 次に、保坂展人君。

保坂(展)委員 社民党の保坂展人です。

 まず、山下参考人に伺いたいんです。

 いわゆる重大事由による解除についてなんですが、今回、保険会社による重大事由の解除に当たって、例えば期間を限定してはどうかというか、期間は一体無制限でいけるのかどうかというような議論があるわけなんです。また同時に、重大事由の規定ぶりがかなり幅広く解釈できるのではないか。例えば、明らかな詐欺が認められる場合であるとか、保険目的の事故をわざと起こした場合などに絞っていいんではないかという話がございます。

 この重大事由による解除に当たって、これが認められた場合に、次の事故というか、その契約者に発生した次の事故について保険金が支払われないというような扱いもあると聞いていまして、これはちょっと制裁に当たるんじゃないかというような声もあるんですが、そのあたりについて、お考えをお願いしたいと思います。

山下参考人 この重大事由による保険者の解除権というのは認められたのが比較的新しい権利でございまして、保険サービスを提供している保険会社が自分の方からサービスを打ち切るというのはそんな簡単に認められるはずの権利ではないんですが、今から二十年か三十年近く前にいろいろモラルリスク事案が生じまして、替え玉殺人をたくらんだりとか、あるいは疾病保険で、仮病の入院を繰り返すという不正請求の事案というのが多発しました。ドイツではそういう場合に保険会社が、いよいよとなれば契約を解除して契約を終了することができる権利があるということを参考にしたりして、日本でも学説がこれを認めるようになり、また約款でも規定されるようになったものでございます。

 今回は、やはりこういう重大な契約者の権利を制約する保険会社の権利でございますから、そういうものについてはしっかりと法律の規定に直して、合理的な行使事由というのを決めるべきであろうということで立案がされているわけでございます。

 具体的な二つの解除事由を並べた後、その他継続しがたい重大な事由というような一般的な事由を置いているわけですが、まさにこういう非常の権利が必要になるというのは、本当にそれまで予想していなかったようなタイプのモラルリスクとか不正請求の事案が生じるわけでございまして、これをあらかじめ、こういう場合はできる、できないというようなことを全部書き分けるのはなかなか難しい、やはりそういう抽象的な部分も残しておかなくてはいけないという部分がございます。

 ただ、そうなった場合に、不当に保険会社が行使されるというのはもちろん許されないことでございまして、この法案の条文の文言をごらんになれば、法律家であれば、これは相当厳しい行使事由が定められているというふうに理解するのではないかと思います。

 ただ、それにしても、乱用というのがあり得るかもしれないという点でございますが、これも例えば、従来ですと、生命保険協会の方の自主規制として、約款のこういう解除事由というものをガイドラインをつくって自主的に運用してきたと聞いておりまして、どういう場合に具体的に行使できるか、これをなるべく類型化して事前に明確にする、乱用がないようにする、これは自主規制と相まって今後とも維持されていくべきではないかなというふうに思っておる次第でございます。

保坂(展)委員 続いて、筒井参考人に今の点についてお聞きしたいんです。

 平成十二年から十六年までの五年間の不適切な保険金不払いの千四百八十八件のうち、約款に規定するところの重大事由解除の不適切な適用が百六十件ということをあるデータで見ているわけなんですが、これまで、今印象に残っている範囲で結構ですから、どういう重大事由の解除で不適切な適用がかつてあったのかということについてお話しいただけますか。

筒井参考人 お答えいたします。

 実務において、やはり個別の事情を勘案してケース・バイ・ケースの判断となっておりますが、典型的なケースは、一時点で非常に重複して加入されるとか集中して加入される、それが、収入に比べてその支払い保険料が非常に過大になっているような場合でございます。

 それと、現行実務において非常にこれは慎重に運営をしておりまして、ちなみに、十八年度でこの重大事由解除は事案として二つ、十九年度は、これは四月から十二月まででございますが、事案としては三つ適用しておりまして、おのずから殺害、詐欺につながる懸念が高いかなり限定されたものというふうに理解をしております。

 先ほど山下先生から生命保険協会のガイドラインという御指摘がありましたが、ここではこの重大事由解除の規定は、「モラルリスク排除を目的とし例外的な適用を前提として導入されたものであって、実際の適用にあたっては、法務部門・弁護士等による法的判断を踏まえて慎重に判断する必要がある。」というふうに決められておりまして、各社これにのっとって慎重に運営を行っているというふうに認識をしております。

 以上でございます。

保坂(展)委員 乱用がないようにしていただきたいと思います。

 次に、柄澤参考人に伺います。

 この委員会で前回、団体保険で、高地トレーニングで亡くなった水泳部の学生の保険についていろいろ、ちょっと考えてみるという質疑をいたしました。

 そこで、これは団体の保険ですから、学校の授業とかクラブで発生した事故については保険が出ているわけなんですが、その際に、例えば保険金の支払いリストを見ると、川で泳いでいた学生がおぼれて亡くなったケースであるとか、部活動の宿泊、泊まり込みの練習中に宿舎で階段を踏み外して転落、こういうようなものに対しては満額保険金が払われているんですね。

 これは一般論で結構なんですが、こういう場合、疑おうとすれば、例えば階段をおりようとするときに何らかの内因性の病気の発作が発症して転落したんじゃないかとか、泳いでいるときにも内因性の病気の何らかの発作が起きて、そして結果として溺死したんじゃないかということも考えられなくはないと思うんです。

 そういった場合、例えば解剖してその死因特定をするようなことをすればはっきり原因はわかると思うんですが、実務の扱いだとそこまでは要求をしていない、そういうふうに事故が起きたのであれば団体保険で支払うというふうに聞いているんです。しかし、そこが問題になった場合には、その保険を受け取る、つまり被害者の学生の遺族ということになりますけれども、立証責任を負うということになるんでしょうか、その辺の実務の扱いと考え方をお願いします。

柄澤参考人 傷害保険における保険金お支払いの認定のことでございますけれども、当然のことながら個々の事故形態によりますが、一般的には、事故の状況及び医師による診断書などによって判断することとなります。法的問題がある場合には弁護士に相談することとしておりまして、また事故状況につきましては、調査機関を活用するなど、事実関係を確認することとしております。死因等に疑義が生じた場合、症状、疾病の有無、影響等の医学上の問題は主治医への確認や専門医に相談しておりますが、保険会社から解剖を求めるものでは当然ございません。司法解剖に付された事案を除きまして、解剖所見を求める実務は行っておりません。

 また、保険金をお支払いしないと判断した場合には、立証責任が保険金請求者にあるのか保険会社にあるのかにかかわらず、保険会社として必要な事実確認を行うとともに、説明責任を十分に果たしてまいりたいというふうに考えております。

 また、当社では、被保険者が死亡された場合で、支払い部門においてお支払いしないという判断をした事案につきましては、外部の医師、弁護士等から構成する支払審査会において再度専門的見地から慎重な判定をしているという実態にございます。御理解いただきたいと思います。

保坂(展)委員 次に、今尾参考人に伺います。

 共済というのは、それぞれの分野で相互扶助の協同組合組織として歴史的に長い時間をかけてつくられてきた大変大切な仕組みであると思います。

 今回の法案、その法のルールの中に入ることは賛成だとおっしゃいましたが、私どもに寄せられる懸念や声の中にも、このことが契機になって、例えば金融庁の全部監督下に置かれて金融機関という形で厳密に扱われたりして、これまでの共済の性格を保てなくなるんじゃないかという声もあるんですね。そこら辺をどうお考えになっているか。

今尾参考人 今回の契約法に関連して、そういう懸念がないのかという御指摘であります。

 共済団体はそれぞれ立法に従って、農業の場合は農協法の中で、それから中小企業の場合は中小企業協同組合法、勤労者、消費者の場合は生協法ということで、それぞれ共済事業の根拠規定を持っております。

 何よりも協同組合が行う共済というのは、共済だけではなくて、販売や、それぞれの事業で違いますが、信用事業をやったり、他の事業をあわせて行っているということであります。それぞれが、組合員が出資して事業を利用する。出資というのは、株式会社に出資してその配当を得るということが目的ではなくて、事業を利用するために出資してということですので、その事業剰余も、一般的に協同組合原則は利用高配当ということで、出資金額で配当するんじゃない、こういう原則で運営しております。

 したがって、私どもの共済団体の事業というのは、出資して、運営をみずからやって、利用する、こういう三位一体の事業なり組織の特性を持っておりますので、事業の監督とは明確に異なるということで何回も委員会等でも確認されておりますし、そういったことで、今回の契約については、この現代化で、共済の加入者も自分たちの契約がどういった法的根拠で権利義務が定められているかということを、適用されるということで、そこは監督法とは厳に異なるものだと受けとめて、進めてまいりたいというふうに思っています。

保坂(展)委員 最後に、坂参考人に伺います。

 冒頭に聞いた重大事由による解除のところで、山下先生、筒井参考人にお答えいただいたんですが、弁護士会として、あるいは坂参考人として、この点についてどう考えていらっしゃるかを最後にお聞きして、終わります。

坂参考人 ありがとうございます。

 この重大事由解除につきましては、私ども心配しているのは、その乱用の危険でございます。

 これにつきましては、いろいろな形で、これを適用する場合はどういう場合かということが、先ほどお話がありましたガイドライン等も含めて明確化されていく、そしてそういう乱用は許されないという条件が整備されることが大事であろうというふうに考えております。

 私どもとしては、法文上等において明確化するということも検討課題ではないかと考えておりますが、そういったことも含めて御検討願えればと考えております。

 以上です。

保坂(展)委員 それでは、終わります。どうもありがとうございました。

下村委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人の方々には、貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。(拍手)

 次回は、来る二十五日金曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時三十二分散会


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