衆議院

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第11号 平成22年5月11日(火曜日)

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平成二十二年五月十一日(火曜日)

    午前九時三十分開議

 出席委員

   委員長 滝   実君

   理事 阿知波吉信君 理事 石関 貴史君

   理事 辻   惠君 理事 樋高  剛君

   理事 山尾志桜里君 理事 稲田 朋美君

   理事 森  英介君 理事 大口 善徳君

      井戸まさえ君    石森 久嗣君

      岡田 康裕君    加藤 公一君

      熊谷 貞俊君    桑原  功君

      坂口 岳洋君    竹田 光明君

      中島 政希君    永江 孝子君

      長島 一由君    野木  実君

      藤田 憲彦君    細野 豪志君

      山口 和之君    山崎  誠君

      横粂 勝仁君    河井 克行君

      柴山 昌彦君    棚橋 泰文君

      馳   浩君    山口 俊一君

      遠山 清彦君    園田 博之君

      城内  実君

    …………………………………

   法務大臣         千葉 景子君

   内閣官房副長官      松野 頼久君

   法務副大臣        加藤 公一君

   法務大臣政務官      中村 哲治君

   外務大臣政務官      西村智奈美君

   最高裁判所事務総局民事局長

   兼最高裁判所事務総局行政局長           林  道晴君

   最高裁判所事務総局家庭局長            豊澤 佳弘君

   政府参考人

   (内閣府大臣官房遺棄化学兵器処理担当室長)    伊藤 盛夫君

   政府参考人

   (外務省大臣官房参事官) 石兼 公博君

   法務委員会専門員     生駒  守君

    ―――――――――――――

委員の異動

五月十一日

 辞任         補欠選任

  橘  秀徳君     岡田 康裕君

  永江 孝子君     井戸まさえ君

同日

 辞任         補欠選任

  井戸まさえ君     永江 孝子君

  岡田 康裕君     橘  秀徳君

    ―――――――――――――

五月十一日

 民事訴訟法及び民事保全法の一部を改正する法律案(内閣提出第三四号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件


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     ――――◇―――――

滝委員長 これより会議を開きます。

 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件について調査を進めます。

 この際、お諮りいたします。

 各件調査のため、本日、政府参考人として内閣府大臣官房遺棄化学兵器処理担当室長伊藤盛夫君、外務省大臣官房参事官石兼公博君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

滝委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

滝委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局林民事局長兼行政局長及び豊澤家庭局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

滝委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

滝委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。石関貴史君。

石関委員 おはようございます。久しぶりに質問の機会をいただきまして、ありがとうございます。

 大きく二点について御質問申し上げたいと思います。まず一つ目は、夫婦別氏制度について御質問申し上げたいと思います。二点目については、公証人の制度について御質問申し上げたいと思っています。

 まず第一に夫婦別氏制度ですが、これは連休中の新聞報道にも「対立激化 終盤国会」、読売新聞ですが、「重要法案の審議状況」というのがございまして、政治主導確立法案とか、国会提出と審議入り、それから見通し等が出ているんですが、幾つかある中で、選択的夫婦別姓導入、民法等改正案ですが、これについては「未提出」、審議入りの見通しも「?」というふうになっております。

 これは、提出をして成立を図ろうというのが内閣の態度だというふうに承知をしておりますので、これまでの大臣御自身のお取り組み、それから今の閣内の状況について御説明いただきたいと思います。

千葉国務大臣 ありがとうございます。

 民法改正につきましては、この間多くの皆さんからの高い要請もございます。またそれから法制審議会での答申も踏まえて、時間も経過をいたしております、何とかこの国会に御提出をさせていただいて皆さんの御議論を賜りたいということで、私も、閣内さまざまな意見調整をさせていただき、あるいはそれぞれの関係部署でも御議論を今していただいているというふうに承知をいたしております。

 そういうことも踏まえまして、国会が終わるまでにぜひ御提起させていただくことができるように、これまでどおり、あるいはそれ以上に、今いろいろな調整を進めているところでございます。そう容易ではございませんけれども、ぜひきちっと対処をさせていただきたいというふうに考えております。

石関委員 ぜひ、そのいろいろな調整について、少し踏み込んで御説明をいただきたいと思って御質問申し上げました。

 というのは、閣内に、内閣として一致をしておりますので、もちろん賛成の方が大多数だというふうに承知をしておりますが、特に国民新党の亀井大臣などは、私はポスターを見ましたら、これは手を振り上げて反対というふうなポスターまでつくっちゃっているんですね。こんな人がいて果たしてこれが提出できるのかどうか、大変私も不安に思っているんですが、こういう方々との調整等は一体どのようになっているのか、ちょっともう少し踏み込んで教えていただけると助かります。

千葉国務大臣 なかなかここですべてを申し上げるというわけにはまいりませんけれども、内閣、それぞれの関係の方々も含めて、今、いろいろな御意見をお持ちの皆さんとの調整は図らせていただいているという状況でございます。

石関委員 わかりました。今の内閣の状況と取り組みについて御説明ありがとうございました。

 それで、先ほど多くの方々の御要望というお話がございました。生活上大変な不便があるとかいう声も私も伺っておりますので、これはこの問題に限らず、我々は、日本国に住んで不便というものはできるだけ解消するように努力をしなきゃいけない、当然のことだと思います。

 ただ、多くの声というお話でございましたが、特にこの声という部分、民意というか、国民の皆さんのどれだけの方々が切実にこのことを望んでおられるのか、そういったことについて、既に法務省、平成十三年と十八年に世論調査を行われている。そのデータをもとにされて、そういった国民の声という受けとめをされているのかなというふうに思いますが、そういうことでよろしいでしょうか。

千葉国務大臣 世論調査ももちろん一つの御意見の集約であろうというふうに考えております。

 しかし、それ以外にも、例えば内閣府に設けられております男女共同参画会議、そういうところにも多くの意見が寄せられ、そしてこういう制度を検討せよ、こういうことも議論をされておりますし、それから、直接に私のもとや、法務省あるいは関係の皆さんのところに、ぜひ見直しをというお声も届いているということも承知をいたしております。

石関委員 大臣おっしゃるとおりで、世論調査もあり、あるいはいろいろなチャンネルから、大臣のところへも、あるいは党の所属議員のところへも、いろいろな声が寄せられているというふうに承知をしております。

 そこで、先ほど申し上げた世論調査、この平成十三年と十八年に行われた世論調査に絞って少し御質問申し上げたいと思います。

 まず、この世論調査、質問の内容についてですが、私自身は、これはあらゆる世論調査がそうだと思うんですね、質問の仕方によって答えが変わってきたり、政党の支持等についても新聞社によってばらつきがあると。これは質問の仕方による、問いかけによるということは我々も承知をしていることですが、この別氏制度についても、回答者の意見というのが認識をされた上で、正確にそれが答えられるようになっていたかというところについて、少し私も疑問がございますので、このことについて御質問申し上げます。

 というのは、回答の選択肢には、賛成派なのか反対派なのか、一読しただけではよくわからないというものがあるのではないかなというふうに思います。

 まず、夫婦は必ず同じ名字を名乗るべきで、法律改正の必要がない、こういう答えをされている方は、これは明らかに反対の立場の方々だろうというふうに思われます。また、夫婦はそれぞれ婚前の名字を名乗れるように法律を改めても構わない、これはいわゆる賛成の、推進してもらいたいという方々だというふうに思います。

 ただ他方、夫婦は同じ名字を名乗るべきだけれども、婚前の名字を通称使用できるように法律を改めることは構わないのではないか、こういう回答の方も相当多数いらっしゃるんですね。この方々については、賛成なのか反対なのか、実は私はよくわからないんですが、この方々、相当な数ですよね。大臣はどのように受けとめられていらっしゃるでしょうか。

千葉国務大臣 この皆さんは、やはりそれぞれ、通称という形ではございますけれども、夫婦が別な氏を外へ名乗るということも認められるのではないかという考え方はお持ちなのではないかというふうに思います。

 ただ、それを法律という形でやった方がいいのか、あるいは事実上通称という形で名乗るのがいいのか、それもあわせて含まれているのではないかというふうに受けとめております。

石関委員 大臣、そのように御認識をされているということですが、私、ぜひこの三つ目のカテゴリーというか、通称使用を認めたらどうだと思われている方々、この方々を特にターゲットにして、もう少しわかりやすい質問や、それから御意見を聴取するような、そういう機会をぜひつくっていただきたいというふうに思っております。

 平成十三年で、今のいわゆる通称使用でいいのではないかという方々は二三%、十八年では二五%ということですので、二〇%以上。大臣の方に御認識はさっき伺いましたけれども、実はよくわからないという方々の意見というものも重くとらえて、この方々に絞るということまでは申し上げませんが、この方々により重きを置いた質問、わかりやすい質問等をつくって、ぜひ世論調査というものをやっていただければありがたいなというふうに思います。

 また、そもそも、こういう質問とかいうものは、本人が身近に感じていないとなかなかよくわからない。適当とまでは言いませんが、そうなのかなという程度で答えるというのが大体大まかな傾向だというふうに思いますので、これは、問題意識を持っていただいた上でこういう質問をするのと、そうでないものでは全然また答えも変わってくるだろうというふうに思います。

 ぜひ大臣御在任中のうちに、ライフワークとして取り組まれているというふうに私は承知をしておりますので、ぜひ最大限にこういう努力をしていただいて、世論の動向を把握するとともに、こういう制度になるとこうなりますよ、こういうことに、広報や周知等にも最大限努めていただきたいというふうに思います。

 この別姓問題の本質というのは、私のとらえ方としては、やはり戸籍制度というものは何なのかとか、あとは、夫婦とか家族とは何なのか、こういった問題に大きくかかわるものだというふうに思いますので、さらに踏み込んで、こういう広い観点から、ぜひ広報やあるいは調査等を行っていただきたい。大臣御在任中に、ぜひこういう努力を最大限お願いしたいというふうに思っております。

 もう一つ。これは雑誌のインタビューで、直接私は伺っていませんが、枝野幸男さんがこういうことをおっしゃっているんですね。「政権交代を実現させた民意は夫婦別姓についてのものではない。(自民党が)郵政で得た民意で後期高齢者医療制度をやったのと同じにはしたくない。押し切って制度は作れても、別姓を選択する人が社会的に追いやられては意味がありません」と。やはり、社会の多くの方が納得した上で、こういったものを推し進めるのであれば、覚悟を持ってやっていただきたいというふうに思います。お願いを申し上げます。

 二点目の公証人についての質問を続けさせていただきます。

 この公証人、試験はあるんですけれども、慣例として、三十年以上の実務経験を有する裁判官、検察官、弁護士等から任命をされているということでありますが、公証人試験というものがあるやに伺っているんですが、何でこれは行われてこなかったんでしょうか。

千葉国務大臣 公証人の制度でございますけれども、二種類の形になっております。

 一つは法曹有資格者についての資格、それからもう一つが特任と言われる公証人の資格ということになります。この特任について、試験というのでしょうか、そういうものを設けて、そして選任に当たっている、こういう実情でございます。

石関委員 それでは、今、公証人の方々というのは全国に何人いて、それぞれの出身というのは、今お話ありましたが、いわゆる法曹経験者とかいろいろあると思うんですが、それぞれ割合とか人数、どのようになっていますか。

千葉国務大臣 今、公証人の総数は五百一名、先ほど申し上げました法曹有資格者、公証人法第十三条に基づく公証人が三百三十六名、六七・一%。それから、公証人法第十三条ノ二に基づく特任の公証人、これが百六十五名、三二・九%ということでございます。

 この特任の公証人の出身の内訳ですけれども、法務局の出身の方が百三十四名、検察庁、検察事務官等の出身が二十四名、それから裁判所の事務官等の経験者が六名、それから民間の出身者、司法書士さん等でございますが、一名でございます。

石関委員 これは特に弁護士出身の方の人数というのをお伺いしたいということと、特任公証人の中で、法人の法務に関し通算十五年以上の実務経験がある方、こういう方も資格があるというふうに聞いておりますが、こういった方々は何人いらっしゃいますか。

千葉国務大臣 まず、法曹資格者の中で弁護士の出身というのはゼロ名でございます。

 それから、今御指摘がありました経験十五年という、これは先ほど申し上げました特任の、法務局の出身とか、それから検察庁の検察事務官あるいは裁判所の事務官等、こういう方々がそういう経験を持つということになっております。

石関委員 ありがとうございます。

 時間が限られておりますのでこの程度にしたいと思いますが、弁護士がゼロということですか。これはちょっと驚きました。それと、実務経験者の方々、これは資格があるということですので、ぜひ、こういう方々にもっと広報や周知をしていただければ、こういう方々が応募をしてくださるという機会は必ず私は拡大すると思うんですね。それから、いわゆる役所出身の方々が相当な数を占めているということも今の御答弁でわかりましたので、いわゆる天下りだというふうに言われないように、多くの有資格者の方々に門戸を開放して、ぜひ機会を広げるというふうにしていただきたいと思います。

 特に、手数料でこの公証人の方々は収入を得ているということですが、都市部だと数千万にも及ぶ手数料を得ている方もいらっしゃるというふうに聞いております。そういう方々が特定の出身の人に占められる、天下りだということを言われないように、ぜひこのことについても門戸開放の努力をお願いしたいと思います。

 ありがとうございました。

滝委員長 次に、井戸まさえ君。

井戸委員 民主党の井戸まさえでございます。

 きょうは、筆頭理事初め、皆様の御配慮で質問の機会をいただきました。ありがとうございます。

 私からは、民法七百七十二条における無戸籍問題について質問させていただきます。

 明治時代につくられました民法の嫡出推定規定によって出生届が未了になっている子供たちが多数存在することが、二〇〇六年末の報道をきっかけに社会問題化をいたしました。

 この社会問題化が一気にしたというのは理由がありまして、無戸籍になる予備軍というか、そういったお子さんたちは、調停、裁判をしているだけでも年間三千人ぐらいいます。お子さんたちが三千人いるということは、この問題にかかわる大人たちは、両親とそして前夫という、全部で四人これにかかわることがあるわけですけれども、そうすると、平成だけで二十四万人の方々が何らかの形で調停の場に出ていたり、もしくは裁判をしている。もっと昭和にさかのぼっていけば、多分五十万人、六十万人とこの経験をなさっていらっしゃる方が日本にはいらっしゃるという、皆さんそういうファウンデーションの中でこういった問題が、ああ、そうだった、そうだったということで社会問題化としてとらえられたのではないかと思っています。

 そうしたことを受けまして、二〇〇七年の五月には、長勢法務大臣の時代でございますけれども、実質の法改正とも言われております、離婚後懐胎について医師の証明書の添付で救済をしていくということが行われました。

 きょうは、資料を皆様にお渡しもしているんですけれども、以後、二年十カ月で一千百十一人という子供たちが救済をされています。しかし、この離婚後懐胎というのは全体の一割とも言われていまして、逆に考えれば、この二年十カ月の間でも、一万人のお子さんたちは無戸籍に一時的にはなったか、もしくは長期的になっているということになります。

 法務省は、二〇〇七年、平成十九年に実態調査というものをしていまして、無作為抽出をした六千四百九十三件から、二〇〇五年、平成十七年のこの問題にかかわる子供たちの数というものを二千八百件と発表いたしておりますけれども、単年度のこうした数ではなくて、現在、累計で無戸籍児もしくは無戸籍者の数は何人いると法務省の方では把握をなさっているのでしょうか、もしくは推定なさっているのでしょうか。

千葉国務大臣 無戸籍になっているお子さんの数については、把握はいたしておりません。

井戸委員 私は、それは非常に問題だと思っているんですね。というのは、戸籍を掌握するというのは法務省の役割でもありますし、出生届というのは基本的に生まれてから十四日間で出さなければならないんですね。何らかの事情でそれを出せないというものに関して、きっちりと実態調査をしていただいて、それが速やかに出せるようにしていかなければ、やはり生まれたお子さんたち、先ほどもちょっと数を申しましたけれども、例えば五十人とか百人とかのレベルではなくて、本当に一万人とか二万人とか、そういったお子さんたちが、現在でももしかすると戸籍をとっていない可能性もある。

 きょうは、資料の方にもう一つ、この嫡出推定というものを外して、本来のお父さんを父とした出生届が出せるようにするための調停の数の推移というものもお渡しをさせていただいています。

 ピンクのマーカーの下が、この問題が顕在化をしていろいろな措置をとられた後半なんですけれども、平成二十年におきましては、鳩山法務大臣のもとで、一番下の認知調停という形で、前夫を絡ませなくても調停ができるよという形のことが周知徹底を図られたわけです。二十年、二十一年の数字を見ていただいたらおわかりかと思うんですけれども、ここで飛躍的にこれがふえていて、その上の親子関係不存在というのは前夫を絡ませなければならないんですけれども、こちらの方は劇的に減っている。

 今までのやり方であると、やはり前夫に対して、あなたの子供ではないんですねと。特に離婚の直後、離婚後三百日に子供が生まれているということは、当然ながら離婚から間もないんですね。まだまだ傷ついたお母様方が前夫に対して調停をしていくというのは非常に大変なケースともなっています。

 これで見ていくと、しかしながら、こうした調停とか裁判を経たとしても、積み残されているお子さんたち、解決がついていない方たちの数というものも推計できます。大体、認知では八十件から百件ぐらいかな、親子関係でも二百五十から三百、嫡出推定でも十前後。つまり、司法の場でも解決がつかない、無戸籍が長期化しているケースというものも全体の一割から二割あるのではないかと思われます。

 こうしたことも含めまして、大臣、ぜひとも実態の調査というものを行っていただきたいんですけれども、いかがでしょうか。

千葉国務大臣 お子さんについて戸籍がないということは、子の福祉の面からでも大変問題でございます。そういう意味では、よく実情を認識するということが大事だというふうに思うんですけれども、先ほど法務省が試算した約三千人、あれは、離婚後三百日以内に出生した子の出生届ということの推定値ということになりますので、必ずしも戸籍のあるなしということには直結していないということになります。

 どういう形で戸籍のないお子さんの数を推定するかということは、一人一人のプライベートなことにもかかわりますので、なかなか強制的に知らせろということもできないわけです。ただ、出生の数とか、あるいは今申し上げましたような離婚後三百日以内に出生した出生届がどれぐらいあるかとか、そういうことも含めて一定の推定はできるのかなというふうに思いますが、その実態を直接どういう形で調査をするかということはなかなか難しいところはあると思います。

 ただ、やはりそういう実態を認識するということは大変重要なことであろうというふうに思いますので、また念頭に置かせていただきたいというふうに思います。

井戸委員 多分、こうして調停の結果なんかを見ていくと五百人だとか、毎年これは積み残されて、ずっと無戸籍でいる、ほかに方法がなくて、どうしようもないという方たちというのがやはりいらっしゃるのではないかと私は思っています。

 先般、先週の金曜日に、当事者の方と大臣ともお会いをいただきました。それは、やむを得ないケース、離婚前に妊娠をしてしまって、このように調停や裁判ではどうしようもないケースでした。

 平成十九年、この離婚の方は救済をされたといったときに、千葉大臣も、当時の長勢法務大臣に対して、参議院の法務委員会の方で、何とか離婚前を救わないと、この問題の全面解決には至らないんだということも御質問をなさっていて、長勢大臣の方も、社会通念上やむを得ないケースというものも離婚前の懐胎にはあるということも認識をなさっていて、それに対して、与党の議論も踏まえながら法務省としても応援をしていくという答弁がありました。私はそれを力強く聞いたんですけれども、しかしながら、その答弁から、実際にはなかなか動いてきていないというのが現実でありまして、何とか対処をしていただきたい。

 そして、具体的に皆様にもお伝えをしていきたいと思うんですけれども、やむを得ないケースというのはどういうケースかといいますと、例えば民法上、この問題を言うとすぐに不貞の問題とか出てくるんですけれども、もう既に婚姻が破綻して、そして違う男性との間に子供をもうける、こういったことに関しては、民法上では不貞というものは問われないケースになっています。

 離婚が長引いて、特にDVケースだとか、あとは、大臣にもお会いをいただきました十七歳の男子高校生のケースがありましたけれども、前夫とも、行方がわからない、連絡がとれない。そして現夫、本当のお父さんは失踪してしまって、捜索願を出してから十一年間、もうどこにいるのかわからない。そうすると、今の体系の中でいると、これは、どうしてもお父さんたちを相手に調停、裁判をしなければいけないので、ここがいなくなってしまうとどうしようもないんですね。

 大阪の事例では、事実上の父がもう亡くなってしまった、長期化する中では、その訴える相手がいなくなってしまう、こういったケースも出てきているんです。こういったものに対して、やはり何らかの救済制度が必要だと私は思っています。

 諸外国の例を見ますと、例えばフランスでは、出生届の父欄のところを空欄で出せるようになっているんですね。実際に、法律的には、例えばその父親と推定をされる者はいるかもしれないけれども、長期間にわたって養育もしていない、そうしたことがわかっているケースに関しては、そういった対応というのも必要なのではないか。

 また、国際結婚なんかですと、日本のように、再婚禁止期間がない国との間でこうした問題が起こりますと、嫡出推定が重なるので、そうすると、父親がわからないという形での届け出、父未定という形での届け出ができるんですね。

 こうした形で、私は、社会通念上やむを得ないケース、特にDVなどが絡んだケースや長期化したケースに関しては、出生届の提出と、こうした父親を決めるという調停、裁判との、これを常に一致させなければならないというのではなくて、そうした届け出も認めていくべきではないのかなと思うんですけれども、大臣、いかがでしょうか。

千葉国務大臣 今、大変いろいろな実情にかんがみた御提起をいただいたものだというふうに思っております。ただ、どのような形で親子関係、父子関係を定めることがいいのか、あるいはそれと切り離して、出生届、そして戸籍をつくるということが一体どういう意味があるのか、いろいろ議論をしなければいけない。それからまた、いろいろな御意見の分かれるところでもあろうかというふうに思っております。

 今の現状ですと、訴訟で決着をしていただくしかないわけですけれども、子供さんの福祉という面から、これは今後、できるだけ議論をさせていただく課題ではないかというふうに思っております。

井戸委員 でも、本当に今、どうしようもないという方たちが困られています。この方たちが言う一つの声の中に、例えば、一生懸命育てていても戸籍がとれない、子供を遺棄すると、捨て子ちゃんにすると、そのお子さんというのは戸籍が就籍という形でもらえますよね。それと、貞操のこともいろいろ言われるんですけれども、実際には婚姻制度の中で、こちらでは家庭を持ちながら、認知という形で別の方とのお子さんを持って父親になることが、今認知制度の中では認められているんです。

 この問題にかかわる離婚後三百日の問題のお母様方というのは、そうではなくて、婚姻制度、終わったのであれば、きっちりとけじめをつけたいと思っているんですね。だらだらとそうした、こちらでも一方では婚姻を継続しながら違う人の子供を持つということではなくて、一回ちゃんと清算をして、そして新しい家庭をつくりたいと思っている。逆に言ったらば、婚姻制度に対して非常な信頼と、そこに価値を持っているからこそ、逆にこの問題を引き受けてしまっているような形なんです。

 私は、この婚姻制度というもののきっちりとした担保も含めて対処いただきたいなというふうにも思っていますので、どうぞよろしくお願いをいたします。

 そして、無戸籍の問題は、この離婚後の問題だけではなくて、生殖医療の現場でも非常に広がっています。代理出産をしても、例えば六十歳以上のおばあちゃまが産んだとなると、そこで今度は、そのおばあちゃんが本当に産んだのかといって、しばらく検査みたいな調査が行われるので、その間は無戸籍になってしまったりだとか、先般、性同一性障害の方の、嫡出子として認めていただきたいという話もありましたけれども、こうしたところにも対処をしていかなければいけないと思いますけれども、現在、法務省としてどのような取り組みをしていらっしゃるのか、教えていただければと思います。

千葉国務大臣 この問題は、やはり生殖補助医療によって出生したお子さんの法律上の親子関係をどうするかという問題でございます。

 これについては、生殖補助医療をどこまで認めるのか、どういうことを法的にきちっと認めていくのかということともかかわりますので、そういうことを、関係機関のいろいろな御議論も促しつつ今議論をさせていただいているところでございますので、生殖補助医療という面の議論を少し進展していただく、こういうことの上に立って抜本的な見直しをしなければならないというふうに思っております。

井戸委員 十五分という短い間だったので、なかなか本質のところまで行けないんですけれども、諸外国の例を見ても、離婚後三百日の問題にしては母に嫡出否認権というものをきっちりと持たせるというのが、お隣の韓国でもフランスでもほかの国でもやっていることです。ぜひともここはお願いをしたいですし、そうした医療の発展が国民の幸せにつながっているケースでまたこうした無戸籍というものが生まれている現状に対して、なるべく早くに、早期に解決を目指して取り組んでいただきたいことをお願いいたしまして、私の質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

滝委員長 次に、稲田朋美君。

稲田委員 おはようございます。自由民主党の稲田朋美です。

 本日は、一時間半という、本当に野党ならではの質疑時間をいただいたことに大変感謝申し上げます。また、松野官房副長官それから西村智奈美政務官にもお越しいただきまして、ありがとうございます。

 さて、本日私は、弁護士時代から大変疑問に思っておりました、戦後補償裁判についての被告である国の訴訟方針についてお伺いをいたしたいと思います。

 まず大臣にお伺いをいたしますが、この戦後補償裁判、日本の戦時中の加害行為について損害賠償等を請求されておられる方々の裁判ですけれども、この裁判について、被告である国の訴訟方針はどなたがお決めになっているでしょうか。

千葉国務大臣 この裁判につきましては、法務省が、私が、国のいわば代理人といいましょうか、当事者という形で訴訟の遂行はさせていただくわけですけれども、内容的にどのように対処をしていくかということについては、これは政府が一体となって、どのような対処方針を持っていくかということで決められるものであるというふうに私は考えております。そういう政府全体としての考え方に基づいて、法務省としては法律的な観点からそれを訴訟の場で提起していく、あるいはいろいろな反論をしていく、こういう体制になっているというふうに認識しております。

稲田委員 政治主導を訴えられて政権を交代された民主党政権なんですが、国が訴えられている訴訟の訴訟方針について、今、政府一体となってというお話でしたけれども、最終的に、どのようにこの訴訟を争うかということについては法務大臣がその訴訟方針をお決めになるべきではないでしょうか。

千葉国務大臣 もちろん、どのような形でその法廷に対応していくかということは、法務大臣、私のもとで最終的な方針を決めるということになりますが、その内容、具体的な相手方に対する政府としての考え方、こういうものについては、政府全体として統一した考え方を持って訴訟に臨むということになると思います。それを法的に、それから法廷という場でどのように展開をしていくかということについては、当然のことながら、法務大臣、私のもとで決定をすることだというふうに承知をしております。

稲田委員 現在、国が被告となっている戦後補償裁判は係属事件で何件あり、また、どのような訴訟方針で臨まれているのでしょうか。

 もう少し具体的に申しますと、事実関係についての認否はどうされているのか、また、当事者尋問や証人尋問において反対尋問をされているのかどうか、そういった点についてお伺いをいたしたいと思います。

千葉国務大臣 まず、どのような訴訟が係属をしているかということでございますけれども……(稲田委員「何件」と呼ぶ)最高裁判所に係属している事件が七件、それから高等裁判所、高裁に係属している事件が二件、それから地裁に係属している事件が四件ございます。

 基本的な訴訟の考え方、これについては、戦後、戦時中の不法行為責任を問われているというものについては、その当時前提となっていた国家無答責という考え方、除斥期間の経過、それから平和条約等による請求権放棄等の主張をさせていただいておりまして、基本的には、事実関係を争うとか、あるいは証拠を提出して争うということではなくて、そもそもそういう事実関係を争う必要はないという基本的な考え方に立って訴訟を遂行しているということでございます。

稲田委員 私も、国が事実関係を争った事件というのは毒ガス訴訟の控訴審以外には知りません。なぜ事実関係を争わないのか。また、証人尋問や当事者尋問も行われておりますけれども、反対尋問はされないんです。なぜ反対尋問もせず、事実関係も争われないのか。認否すらされません。その点はどうしてでしょうか。

千葉国務大臣 今申し上げましたようなことの繰り返しになりますけれども、主に、原告の請求というのが戦時中の不法行為責任を問うということでございます。しかし、それに対しては、その当時前提となっていた国家無答責、これは、国家賠償法施行前は国または公共団体の権力的作用について国の賠償責任は否定されていたという実体法上の法理がございます、これを適用して主張している。それから、除斥期間の経過、これは御承知のとおりでございます。それから、平和条約等により請求権が放棄をされているんだ。こういうことがございますので、こういうことを主張することによって、もう事実関係に入るまでもなく、当然のことながら、これらの理由から請求は棄却をされるべきだという主張をしているということでございます。

稲田委員 今大臣がおっしゃったことは大変正論で、本当に、事実関係を確定するまでもなく、事実関係について証人尋問や当事者尋問をするまでもなく、法律的にこの問題を解決できる裁判なんです。

 しかし、御承知のとおり、この種の戦後補償裁判では、事実関係まで踏み込んで証拠調べをし、そして裁判所の判断として事実関係を確定いたしております。

 大臣も弁護士でいらっしゃいますから御承知のとおり、弁論主義というのがあって、当事者が明らかに争わない事実は、結局は認めたことになってしまう。そして、戦後補償裁判において、原告らの主張する事実関係、大変悲惨な事実関係を主張され、そしてまた意見陳述や当事者尋問でもお答えになっているわけですけれども、その事実が真実か否かという検証を十分に経ることなく事実として確定していくということになれば、こういった事態は日本の名誉という国益を害することになると私は思うんですが、その点、大臣のお考えはいかがでしょうか。

千葉国務大臣 訴訟については、今おっしゃいましたような弁論主義ということになりますので、しかし、国の主張といたしましては、事実関係について、ではどのように本当に検証するのかというようなこともございます。

 そういうことができない状況の中で、やはり単に事実関係に入ってそれを争うということではなくして、そもそもそこまで入る必要がないということで反論をさせていただいている、請求棄却を求めているということでございますので、これがやはり国としての訴訟を遂行していく上での基本的な姿勢ということで御理解をいただけるものではないかというふうに思います。

稲田委員 ただ、そういう国の態度が、判決の中に次々と原告主張どおりの事実があったこととして書き込まれること、私は、これは日本の国益を大変害することであり、その事態がひいては、後ほど質問いたしますけれども、米国における従軍慰安婦非難決議にもつながっているということになるのだと思います。

 さて、戦後補償裁判に携わっている、国の、被告訟務検事は一体何人いて、そして戦後補償裁判以外の国が被告になっている事件についても代理人を務めているのかどうか、その点についてお伺いをいたします。

千葉国務大臣 戦後補償関係の裁判を担当している訟務検事ですけれども、現在、先ほど申し上げましたような係属中の裁判については、法務省本省の官房参事官以下三名、それから法務局訟務部の部付検事四名が代理人に指定をされておるという状況です。

稲田委員 そうしますと、本当にそれだけの人数で事実関係まで争うということになると、大変な負担があると私は思います。したがいまして、そういった人員の面、予算の面といったことも含めて戦後補償裁判については考えていただきたいと思います。

 さて、平成十九年四月二十七日に最高裁が出した二つの判決についてお伺いをいたしたいと思います。

 これは、結局は戦後補償裁判で請求を棄却して、その理由づけとして、サンフランシスコ平和条約、そして日中共同声明などによって個人的な賠償請求はできないんだと最高裁が判断をして、これで戦後補償裁判についての将来の見通しというか、ほぼ決着がついたというふうに言われているわけでありますけれども、この最高裁が示されたサンフランシスコ平和条約十四条と日中共同声明に関する判断について、大臣の御意見をお伺いいたします。

千葉国務大臣 私の意見というよりは、この判決によりまして、サンフランシスコ平和条約を踏まえ、日中戦争の遂行中に生じた中国国民の日本国または日本国民に対する請求権というのは、日中共同声明五項の請求権放棄によって、裁判上、訴求する権能を失ったという判断が下されたわけでございます。

 一つは、サンフランシスコ平和条約、これについては、国あるいは個人の請求も含めて放棄がされているということになります。これに対して、日中共同声明の場合には、「中華人民共和国政府は、」「日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する。」ということで、個人ということについては直接触れられておりません。

 この判決は、そういう意味では、個人の請求権も、サンフランシスコ平和条約を踏まえて、裁判上、請求する権能を失っているんだということを判断したものだというふうに私は受けとめさせていただいております。

稲田委員 大臣、平和条約が締結をされて、国同士の賠償責任は、賠償について決着がつけば、それ以降は個人的な請求は認めるべきではない、そういう最高裁の判断についてどのようにお考えでしょうか。妥当かどうか。

千葉国務大臣 これは裁判所の御判断ですので、私が妥当かどうかということではありませんけれども、そのような判断が出たということに基づいてさまざまな対応がとられる必要があるというふうに考えます。

稲田委員 最高裁は横に置いて、国際社会における正義として、私も、平和条約が締結をされて国同士で賠償責任が確定をされれば、それ以降に個人的な戦争における被害を請求することはかえって国際法上の正義にはかなっていないと考えていますが、その点、大臣はどのようにお考えでしょうか。

千葉国務大臣 これについては、先ほどもあれをさせていただきましたが、サンフランシスコ平和条約と、日中共同声明で決められた請求権の放棄の宣言ということとはいささか違いがあるんだろうというふうに思っております。やはり、国として請求権を放棄したということで、個人の請求権もすべて放棄をしたというふうに考えるべきなのかどうか、これにはいろいろな御意見があるように思います。

 ただ、最高裁としては、サンフランシスコ平和条約、これの趣旨を考えれば、国が放棄をしたということをもって個人の請求権も放棄をされているんだ、こう考えるべし、こういう判断を出されたものだというふうに私は認識をいたしております。

稲田委員 私は、最高裁の判断ではなくて、大臣のその点についての意見を聞きたかったんですけれども。

 西村政務官にお伺いをいたします。

 このサンフランシスコ平和条約十四条によってどの程度賠償がされたのか、そしてそれで十分だと考えているのか。また、最高裁が示した、サンフランシスコ平和条約もしくは日中共同声明によって国同士の賠償責任が確定すれば個人の賠償は請求すべきでないという考え方について、御意見をお伺いいたします。

西村大臣政務官 最高裁の判決については、それはそれとして、外務大臣政務官として申し上げるべき立場にはないと存じますが、請求権の問題でございます。

 サンフランシスコ平和条約十四条と日華平和条約の関係からまず申し上げますと、日華平和条約第十一条及びサンフランシスコ平和条約第十四条(b)により、中国及びその国民の日本国及びその国民に対する請求権は放棄されております。一九七二年の日中共同声明第五項に言うところの戦争賠償の請求は、中国及びその国民の日本国及びその国民に対する請求権を含むものとして、中華人民共和国政府がその放棄を宣言したものでございます。

 したがって、さきの大戦に係る日中間における請求権の問題につきましては、個人の請求権の問題も含めて、一九七二年の日中共同声明発出後、存在しておらず、このような認識は中国側も同様であるというふうに認識をしております。

稲田委員 このサンフランシスコ平和条約の締結によって日本がどの程度賠償をしたのかということについては、東京高裁の平成十三年十月十一日の判決の中で大変詳しく書かれております。

 少し紹介をしますと、そのサンフランシスコ平和条約の規定に従って、連合国に対して次のような支払いをした。「フィリピンに対しては五億五千万ドル、ベトナムに対しては三千九百万ドル相当の役務及び生産物を提供した。」「連合国領域内にある約四十億ドルの日本人資産は連合国政府に没収され、その収益は各国の国民に分配された。この約四十億ドルは、日本円にして一兆四千四百億円に相当し、これは昭和二十六年の我が国の一般会計の歳入約八千九百五十四億円を大きく上回る額であった。」「中立国及び連合国の敵国にある日本財産と等価の資金として、総額四百五十万ポンドの現金を赤十字国際委員会に引き渡し、同委員会を介して、十四か国、」「合計二十万人に上る日本軍元捕虜であった者等に分配された。」「他にも、我が国は、中国や朝鮮に対しても在外資産の処分を承認した。」「終戦当時、朝鮮及び中国に存在した日本財産は、当時の貨幣価値で、朝鮮が七百二億五千六百万円、台湾が四百二十五億四千二百万円、中華民国東北が千四百六十五億三千二百万円、華北が五百五十四億三千七百万円、華中・華南が三百六十七億千八百万円に上った。」と。

 この後に、吉田茂総理の平和条約受諾演説を紹介されて、そして、我が国は、「前例のない、苛酷ともいえる条件を受け入れ、誠実にその履行を果たした」そして「吉田総理の平和条約受諾演説にもあるとおり、連合国による占領状態から早期に独立し、主権国家として、国際社会に復帰して、連合国と友好関係に入るため」に、その過酷な賠償を果たしたのだということが書かれております。

 また、「このように、連合国国民の個人としての請求権を含めて、一切の請求権が放棄されたのは、我が国が、敗戦により、海外の領土の没収だけでなく、連合国内のみならず、中国、台湾、朝鮮等にあった一般国民の在外資産まで接収され、さらに中立国にあった日本国民の財産までもが賠償の原資とされるといった過酷な負担の見返りであった。」「それは、将来における日本の復興と国際社会への貢献を期待しての措置であった」というふうに書かれております。

 このように、大変過酷な賠償条件を受け入れ、それを誠実に履行して独立国に復帰をした以上は、やはり私は、個人の賠償請求を認めることは、むしろ国際社会の正義にはかなわないと思っておりますが、その点、もう一度法務大臣の見解をお伺いいたします。

千葉国務大臣 現在、もう御承知のとおりですけれども、これまでの裁判例、それから最高裁判決等にもよりまして、個人の請求権を行使することはできないのだという判断が出されておりますので、当然のことながら、個人の請求ということを認める必要はないというふうに考えております。

稲田委員 また、アメリカのカリフォルニア州の地方裁判所が、平成十二年に、日本軍の捕虜となった米国兵士からの日本企業に対する請求において、それを棄却して、サンフランシスコ平和条約十四条を引き合いに出して、次のように言っております。

 「日本との平和条約は、本件訴訟において原告が主張している請求のような将来の請求を無効にする限りにおいて、原告の完全な補償を将来の平和と引き換えたのである。歴史はこの取引が賢明であったことを証明している。純粋に経済的な意味における原告の苦難に対する完全な補償は、元捕虜及び他の無数の戦争生存者に対しては拒否されたが、自由な社会及びより平和な世界における彼ら自身とその子孫の計り知れない生命の恵みと繁栄は、賠償という債務に対する利払いとなっている」というふうに判示をして、やはり平和条約で賠償責任が解決した以上、個人的な請求を認めるべきでないと書いております。私は、大変これは正当なことだと思っています。

 さて、最高裁にお伺いをいたしますが、この最高裁判例がある以上、結論は決まっているのに、なぜ、例えば事実関係について確定するための証人尋問、当事者尋問を行っているのか、どんな意味があるのか、その点についてお伺いをいたしたいと思います。

林最高裁判所長官代理者 議員からお尋ねのあった件は、個別の事件の判決あるいは進行にかかわるお尋ねでありますので、最高裁の事務当局としては、やはり裁判の独立の観点から、回答することについては差し控えさせていただきたいと思います。

稲田委員 個別の事件について伺っているのではなくて、最高裁がこのような平和条約によって解決済みであるという判決をした以上、これからは、事実関係について確定する必要はない、むしろ、訴状を見て請求棄却なり却下ができるはずだと思いますが、その点はいかがですか。

林最高裁判所長官代理者 繰り返しになって申しわけありませんが、今のような最高裁の個別の事件の判決あるいはそれを踏まえた形での運用ということについてのお尋ねでありますので、やはりこれは最高裁の事務当局としては回答するのにふさわしくない事項だと思いますので、回答を差し控えさせていただきたいと思います。

稲田委員 それでは、大臣にお伺いをいたします。

 このように、結論が決まっているにもかかわらず、事実審理に裁判所が入ることについて、国としてはどのようなお考えでしょうか。

千葉国務大臣 司法の行使について、私から申し上げる立場にはございません。

稲田委員 それはおかしいですね。国の訴訟方針は法務大臣が決めていらっしゃるはずでありまして、そして、この種の裁判で、国の代理人は、必ず、結論が法律問題で決まる以上、事実関係の証拠調べに入るべきではないという主張をしているはずであります。

 もう一度大臣にお答えをお願いします。

千葉国務大臣 当事者としては、当然のことながら、国の主張として、事実関係の審理に入るべきではないと申し上げるのは当然のことだというふうに思います。

 ただ、それを裁判所がどう御判断されるかというのは、私の立場で申し上げるものではございません。

稲田委員 裁判所がどう思うかについて聞いているんじゃなくて、大臣は、この種の事件において、結論が決まっているにもかかわらず、事実関係について証拠調べに入ることについてどのようなお考えなのか。国は、そのような事実関係確定をする必要はないという考えだからこそ、認否もせずに法律論に終始されていると思うんですが、その点についての大臣のお考えをお伺いいたします。

千葉国務大臣 あくまでも、それは司法の独立、そしてそれぞれの裁判体が判断をされることでございまして、国の主張、立場として、事実関係に入らずに請求を棄却するように、これは主張として当然のことながら申し上げるという立場でございます。

 個々の司法に対して、国、行政の立場で介入をするということはあってはならないというふうに思います。

稲田委員 介入とかそういうことではなくて、やはり国の訴訟方針を大臣は決めていらっしゃって、国が、結論が決まっているにもかかわらず、事実関係について証拠調べに入ろうとする裁判所の訴訟指揮は私はおかしいと思っておりますので、その点はきちんとこれからも主張をしていただきたいと思いますし、そして、その主張が入れられずに、事実関係の証人尋問にも入り、事実関係の確定を裁判所がするのであれば、やはり国家の名誉のためにも、きちんと事実関係については争っていただきたいと思います。

 次に、従軍慰安婦の問題についてお伺いをいたします。

 戦後補償裁判でもこの慰安婦の問題は取り上げられておりまして、国が全く事実関係を争っていないがために、大変不当なことが判決の中に書き込まれております。

 例えば、ある判決では、「日本軍構成員らによって、駐屯地近くに住む中国人女性(少女を含む。)を強制的に拉致・連行して強姦し、監禁状態にして連日強姦を繰り返す行為、いわゆる慰安婦状態にする事件があった。」ということが事実として書き込まれております。また、ある事件におきましては、「警察官によって、ささいなことを咎められて警察署に連行されて、拷問され、福岡と聞いている地に連れて行かれ、毎日何十人もの軍人に性行為を強要された。約二年後、神戸、大阪と聞いている地の各慰安所に移動した。慰安所で梅毒に罹患させられ子どもの産めない身体になった。」これも、国が全く事実関係の認否もせず、争いもしないがために、真実として判決書に書かれております。

 その結果、米国下院において、平成十九年七月三十日に決議された慰安婦非難決議があります。きょう、資料で、ホンダ・アメリカ下院議員提案の決議ということで和訳をつけておりますけれども、ここに書かれた事実関係について日本政府としてどのような反論をしたのか、外務省にお伺いをいたします。

西村大臣政務官 お答えいたします。

 御質問でありますけれども、基本的な立場から申し上げますと、慰安婦問題についての政府の基本的な立場は、平成五年八月四日の河野官房長官談話のとおりでございます。

 また、米国の下院における本件決議でありますけれども、こうした慰安婦問題についての日本政府の基本的な立場や、また真摯な対応、そういったものを踏まえていないものと考えられましたことから、米国側関係者の理解が得られるように、我が国の関係者から働きかけ、説明を行ったところでございます。

稲田委員 この中に書かれている事実関係について、それが事実かどうかについての反論をされたかどうかについてお伺いをしたいと思います。

 例えば、「日本国政府による強制的軍売春である「慰安婦」制度は、その残忍さと規模において、輪姦、強制的中絶、屈辱的行為、性的暴力が含まれるかつて例のないものであり、身体の損傷、死亡、結果としての自殺を伴う二十世紀最大の人身売買事案の一つであった」というようなことが書かれておりますが、これを真実ではないという反論をされたかどうか、外務政務官にお伺いをいたします。

西村大臣政務官 重ねてでございますが、慰安婦問題についての政府の立場は、平成五年八月四日の河野官房長官談話のとおりでありまして、現政権においてもこれを受け継いでおります。

 具体的にどういう反論をどの項目に対してしたかということでございますけれども、これも重ねてになりますが、こうした我が国の基本的な立場や真摯な対応を踏まえていないものだというふうに考えましたので、その点について理解が得られるように働きかけを行ったということでございます。それで御理解をいただければと思います。

稲田委員 官房副長官に同じ質問をいたします。

 この決議に書かれている、今私が読み上げた部分について、これが真実であるかどうか、政府の見解をお伺いいたします。

松野内閣官房副長官 今、委員がいろいろ表現をされたその言葉、表現についてどうこうと言う立場にはないんですけれども、今、西村政務官が御答弁させていただいたように、政府としては、基本的な立場としましては、この平成五年の八月四日河野談話を現政権においても踏襲するということでございます。

稲田委員 どうして政府としてどうこう言う立場にないんですか。

 きちんとこの決議の中に、日本国政府は、「強制的軍売春である「慰安婦」制度」をやった、そして「その残忍さと規模において、輪姦、強制的中絶、屈辱的行為、性的暴力が含まれるかつて例のないものであり、身体の損傷、死亡、結果としての自殺を伴う二十世紀最大の人身売買事案」だったと書かれている、この事実についての政府の見解をお伺いいたしているわけですが、どうしてそれについて答える立場にないのか、その点も含めてお伺いいたします。

松野内閣官房副長官 今おっしゃった言葉の概念ということが必ずしも明らかではないということでございます。

稲田委員 今のお答え、わからないんです。日本国政府による強制的軍売春である慰安婦制度があったのかどうかを含めて、今ここに書かれている、私が読み上げた部分が真実であると政府は認識をしているかどうか、この点についてお答えください。

松野内閣官房副長官 先ほどもお答えさせていただきましたように、重ねてお答え申し上げますけれども、政府の立場としては、平成五年八月の河野談話を踏襲ということがすべてでございます。

稲田委員 答えになっていないんですよ。平成五年の河野談話にこんなことは書かれていないでしょう。ですから、これが真実かどうかといったら、これは真実ではないと言うべきなんですよ。

 私は、自民党が与党の時代に、麻生外務大臣に同じ質問をいたしました。それは真実ではないというお答えをされましたけれども、今の民主党政権では、これは真実である、そういう認識ですか。

松野内閣官房副長官 真実か真実でないということを申し上げているわけではございません。

稲田委員 そんな態度だったら国の名誉を守れませんわねと言わざるを得ないと思います。

 この慰安婦問題の核は、やはり、慰安婦制度という悲惨な制度が、慰安所という悲惨な制度があったこと自体は疑いのない事実だけれども、日本国政府が、日本帝国軍隊が国策としてアジアの若い女性に強制売春をさせたかどうか、強制して、国の国策としてやったかどうかというところが核なんですけれども、では、その点についての政府の見解をお伺いします。

松野内閣官房副長官 先ほどからお答えをさせていただいているように、事実関係云々ということよりも、政府としては平成五年の河野談話を踏襲するという立場でございます。

稲田委員 ですから、平成五年の河野談話では、帝国軍隊ないし日本国政府が国策としてアジアの若い女性に強制売春をさせるための慰安所を設置したかどうか、この点についてどう言っているんですか。

松野内閣官房副長官 繰り返させていただきますけれども、河野談話を踏襲するということで、現政権の立場でございます。

稲田委員 河野談話の内容について、河野談話を出したときの石原信雄元官房副長官が、二〇〇五年に産経新聞のインタビュー記事として書かれておりまして、その中で、「われわれは、いかなる意味でも、日本政府の指揮命令の下に強制したということを認めたわけではない。」というふうに書かれております。また、「韓国側が慰安婦はすべて強制だとか、日本政府が政府として強制したことを認めたとか、誇大に宣伝して使われるのは、あまりにひどい。韓国政府関係者の言い分は、(当時と)ぜんぜん違った形になっている。」ということを書かれております。

 この官房副長官のインタビュー記事、今御紹介をいたしましたけれども、それを踏まえて、この河野談話は、日本国政府が国策として強制的に慰安所を設置したものであるということを認めたものなのかどうか、お答えをいただきたいと思います。

松野内閣官房副長官 この河野談話を出すまでの間も、内閣官房においてさまざまな歴史的な調査が行われたという事実は承知してございますけれども、そういうことを含めて河野談話が出されたものというふうに承知をしてございます。

稲田委員 議論してもらちが明かないのでやめますけれども、やはり、こういった日本の国の名誉にかかわる、全く真実とは違う、まさしく私たちの先輩が強姦殺人犯の集まりだったというようなことについてはきちんと反論していかないと、日本の国の名誉は守れないと私は思います。

 これについて、また資料をつけておりますが、ワシントン・ポストに作曲家のすぎやまこういちさんが意見広告を出しました。この広告には衆参の国会議員が賛同者として名を連ねております。民主党の先生方でも名を連ねておられますし、当委員会の筆頭理事の石関先生や、松原仁さんなども賛同者として名を連ねられております。

 この意見広告は事実を摘示するという形をとっていて、例えば、軍部の名前を不正に利用したり誘拐に類する方法を用いたりしてはいけないという指示を軍部が出していた、まさしく強制的に集めたりとか誘拐したりとか、そういった戦後補償裁判の判決に書かれているようなことをやってはいけないという指示を軍部が出されていた証拠を記載しているわけですが、このワシントン・ポストに事実を摘示している、この点についての政府の見解を官房副長官にお伺いいたします。

松野内閣官房副長官 今の御質問に関してですけれども、民間の方がいろいろな立場で行っている活動について、政府としてコメントすることは差し控えたいと思います。

 繰り返しますけれども、政府の立場としては、平成五年の河野談話を踏襲するというものでございます。

稲田委員 確かに民間の方がやっている意見広告なんですけれども、その中に、強制性を否定する当時の資料を写真入りで摘示をしたり、そういった日本の名誉を守るための証拠を出している。この点について政府が全く無関心であるというのは私はおかしいと思うんです。

 また、すぎやまこういちさんというのは有名な作曲家なんです。すぎやまさんにお尋ねしましたところ、この広告を出すのに日本円で二千万円の私財を投じられたそうです。日本の名誉を守る。いわれなき、事実に基づかない批判、そしてそれに基づいて決議がなされようとしている、それについて反論するのは、本来日本の国益である名誉を守る日本政府のやるべきことで、私人が私財を投じて行わなければならないというのが私はおかしいと思うんです。

 この時代は安倍政権下ですから民主党政権じゃないんですけれども、そこを批判するのではなくて、こういった日本の国の名誉を守る意見広告などを私人に任せるのではなくて、きちんと政府が調査をして反論すべきだと思いますが、いかがでしょうか、官房副長官。

松野内閣官房副長官 その意見広告が出た当時、私もそれを拝見いたしましたし、そのことを、当時は政府の立場ではございませんけれどもしっかり承知をしているところでございますけれども、今、政府の立場として、そのことについてコメント云々ということに関しては、お答えを差し控えさせていただく立場でございます。

稲田委員 当時、日本の慰安婦非難決議が出されようとしていた同じ時期に、同じ米国下院に、九十年前のアルメニア人虐殺について、トルコを非難する決議案が出されようとしました。これに対してトルコは猛反発をして、そして、仮にこのような決議が採択されることがあれば、政府としても自国内のインジルリク基地などの米軍による使用を禁止あるいは制限すると警告をして、自分の国の名誉を守るために、自分の国の安全保障をかけてまで抗議をしたんです。

 私は、これは正しい政府のあり方だと思いますけれども、このトルコの決議は最終的にどうなったのか、西村政務官にお伺いをいたします。

西村大臣政務官 お答えいたします。

 トルコの件、すなわち米国議会でのアルメニア人虐殺に関する決議案でありますけれども、二〇〇七年十月十日、米下院外交委員会において、比較的僅差だったようでございますが、賛成多数で採択をされましたが、その後、下院の本会議においては議論されなかったと承知をしております。

 ことしの三月四日に、再び米下院外交委員会においてアルメニア人虐殺に関する決議案が可決されましたけれども、現時点においては、米下院本会議に上程されていないと承知をいたしております。

稲田委員 トルコの場合は、自国の安全保障までかけて名誉を守る、そういった活動をしたがために、本会議ではもう議論もされず、流れてしまっているんです。それに反して、日本は、河野談話に書かれているとおりですとか、「最大の人身売買事案」だとまで書かれているにもかかわらず、事実を反論しないことによってこれが決議されてしまう。この違いをぜひ認識をいただきたいと思います。

 また、この下院決議の後、同じような決議がほかの国でもされています。

 オランダの決議が二〇〇七年十一月二十日に行われていますけれども、その決議の中で、十一月七日、日本の衆議院議長が、ワシントン・ポスト紙の広告について六月二十六日に下院議長が送った書簡に対する返答として送付した書面、並びにその書面において、当該広告に同議長が同調していないことを承知しているということがオランダの決議の中に書かれているわけです。

 ワシントン・ポスト紙の、すぎやまこういちさんが私財を二千万投じて日本の国の名誉を守るために意見広告をしたことについて、衆議院議長が、それには同調していないんだという手紙をオランダの下院議長に送った、この事実を外務省は承知をされているでしょうか。

西村大臣政務官 お尋ねのメッセージの件でございますけれども、オランダ下院のフェルベート下院議長から河野衆議院議長にあてられた書簡に対する返答として、河野衆議院議長からフェルベート下院議長にあてて送ったものであると承知いたしております。

 その中身につきましてですが、すべてここで申し上げるのもなんですけれども、そういった、あてて送った書簡であるということは承知をいたしております。

稲田委員 送られる前に、その内容について外務省は承知をされていたのかどうか、お伺いをいたします。

西村大臣政務官 申しわけありません。今答弁できませんので、後で調べてお答えをしたいと思います。

稲田委員 日本の衆議院議長が、こういった、大変日本の名誉にかかわる事柄について意見を書簡で述べられることについて、外務省ないし政府が知っていないとすれば、私はそれは大変な問題だと思いますので、その点はまたお答えをいただきたいと思います。

 官房副長官、これで。ありがとうございます。

 次に、毒ガス訴訟についてお伺いをいたします。

 毒ガス訴訟、先ほど私も言いましたように、一審では全く事実関係を争っていなかった。ところが、国側は、第一次、第二次の毒ガス訴訟について、控訴審に行って初めて事実関係を争い出されたわけです。これに対して、原告側は、時期におくれた主張であるから却下すべきだという主張までされているわけですけれども、なぜ一審で事実関係を争わず、控訴審になって初めて事実関係を争われたのか、その点についてお伺いをいたします。

千葉国務大臣 毒ガス訴訟につきましては、今御指摘がありましたように、先行訴訟の一審判決において、国賠法施行後の化学兵器の放置行為に国賠法の適用が認められて敗訴をしたということでございます。

 この事案については、こういう国賠法施行後の放置行為という形で判決が出されているということでございますので、念のために、必要な範囲で事実関係に関する主張、立証をしているということでございます。

 主張の内容は、控訴審において、毒ガス兵器等は旧日本軍が遺棄したものではない、被害発生について結果回避可能性がないという主張をさせていただいていると承知しております。

稲田委員 控訴審に入ってから、国側が、この遺棄化学兵器が日本側のものではない、仮に日本軍のものだとしても、これは武装解除によってソ連に引き渡されて、毒ガス兵器の遺棄はソ連軍によるものであるという主張をきちんとされたことは、私は正しいと思うんです。

 ただ、正しいけれども、何で一審でこの事実を主張しなかったのか。一審で一つ裁判に負けていますから、それで慌てたのかもしれませんけれども、やはり事実関係について判断されるような事案については、きちんと一審から事実関係を争っていただきたいと思います。

 この一次、二次訴訟の後に三次訴訟も起きております。チチハル市で事故が起きて、そして、これに対しては、日本政府が中国政府に賠償金三億円、一人当たり五百五十万円が支払われているということが朝日新聞の報道に書かれております。

 外務省にお伺いをいたしますが、このチチハル市の事件にはどうして三億円をお払いになったのか。また、その三億円の根拠はどこにあるのか。また、一人当たり五百五十万円支払われているということでありますけれども、この五百五十万円という金額が中国においてどの程度の価値があるものかを示すために、中国の都市部と農村部の平均年収は日本円にして幾らかについてお伺いをいたします。

西村大臣政務官 お答えいたします。

 二〇〇三年のチチハルにおける遺棄化学兵器による事故との関連で、我が国は、遺棄化学兵器処理事業に係る経費といたしまして三億円を中国政府に対して支払うこと、また、中国はこの費用について、中国政府の責任において関係諸方面に適切に配分することを文書において表明をいたしました。

 確認のため申し上げますと、この支払いは、あくまで本件事件との関連で遺棄化学兵器の処理事業に係る費用として支払われたものでありまして、さきの大戦の請求権に関する補償ないしその代替措置との位置づけではございません。

 そこで、三億円でございますけれども、外務省の支出した経費は一億五千万円です。それは、チチハル市における遺棄化学兵器の現地調査に対する中国側協力に係る実費を支払うものでございました。内閣府の支出した経費は一億五千万円でございます。遺棄化学兵器処理事業の一環として、同事業の遂行に欠かすことのできない医療体制確立事業の実施に当たり、医療データの提供など中国側の協力に対する実費を支払うものと承知をしております。

 そして、この経費に関連して、平均五百五十万円配分されたということについての報道に関してでございますけれども、本件との関係で我が国が支払った経費は、あくまでも遺棄化学兵器処理事業に係る経費として中国政府に対して支払ったものであり、また、中国はこの経費について、中国政府の責任において関係諸方面に適切に配分する旨、文書において表明をしております。その上で、おのおのの被害者に幾らの金額が配分されたかについて、我が国としてはお答えする立場にはございません。

稲田委員 今お答えがなかった、五百五十万円がどれぐらいの価値かということでありますけれども、私、ちょっと新聞報道などを調べますと、二〇〇九年の中国都市部の平均年収が一万七千百七十五元、日本円にして二十二万三千円です。そして、農村部住民の平均年収は五千百五十三元、日本円にして六万七千円だそうです。そうしますと、一人当たり五百五十万円という金額は、中国の都市部の平均年収の約二十五年分、そして農村部だと約八十二年分の年収分のお金が支払われているということになっております。その上で、今第三次訴訟として日本政府に対する賠償の裁判が起きているわけです。

 遺棄化学兵器の廃棄を日本が行うという覚書を締結いたしておりますけれども、どういった経緯でその覚書を交わしたのか。また、覚書を交わすときに、先ほど私が申し上げましたような、国が毒ガス訴訟で事実関係を争う主張としてやっている、中国に埋まっている毒ガスがすべて日本軍のものだとは言えないとか、そしてそれは、武装解除してソ連軍に引き渡したり国民党軍に引き渡したりして、それがソ連軍ないし国民党によって遺棄されたものであって、日本軍が遺棄したものではないとかいう、そういった主張について、どういう調査をし、そしてその結果こういう覚書を締結されたのか、その点についてお伺いをいたします。

石兼政府参考人 中国との間の遺棄化学兵器覚書の経緯と調査に関するお尋ねでございます。

 まず、経緯についてでございますが、中国に残置されております旧日本軍の化学兵器につきましては、我が国は平成三年から実態把握のための現地調査を実施いたしました。また、化学兵器禁止条約の発効が間近となりました平成九年の四月からは、日中共同作業グループの会合を開催いたしまして、遺棄化学兵器処理に関する基本的な考え方や段取り等につきまして中国側と協議を行った次第でございます。

 その後、本件処理の枠組みにつきまして、日中間で一致した認識を確認したいという中国側の意向がございまして、これを受けまして協議を行いました結果、平成十一年七月三十日、日中両国政府で覚書に署名した次第でございます。

 以上が覚書の経緯でございます。

 次に、調査結果でございますが、両国政府が行いました累次の共同調査を経まして、中国国内に大量の旧日本軍の遺棄化学兵器の存在を確認いたしました。また、これらの遺棄化学兵器を旧日本軍が残置することにつき中国側の同意が存在していたということを示す根拠も見出されませんでした。

 以上でございます。

稲田委員 ところが、覚書を締結した後に、毒ガスを含めて武装解除により中国側もしくはソ連側に引き渡したという書類が見つかったのではありませんか。

石兼政府参考人 今先生御指摘の点は、先ほどの第二次毒ガス訴訟の中で引用されている、以下のような部分ではないかと存じます。

 すなわち、大本営の軍令等においては、すべての兵器を降伏に伴ってソ連軍に引き渡すように命令されており、また、旧満州地区において毒ガス兵器の大規模かつ組織的な遺棄行為が行われた証拠がないため、一部旧日本軍兵士による毒ガス兵器及び砲弾の具体的な遺棄状況を政府が把握することは不可能であった、この点かと存じます。

 しかしながら、この主張は、いわゆる事故の予見可能性、毒ガスの遺棄兵器から発生した事故の予見可能性にかかわる主張でございまして、他方で、この兵器の所有権が当然に中国に移り、中国が当該化学兵器の遺棄に関して化学兵器禁止条約に言う同意を与えたと言うことまではできません。

 したがいまして、これをもってして、我が国が負う条約上の廃棄義務を否定することはできないというふうに考えております。

稲田委員 質問に対する答えじゃないんですよ。

 私の質問は、覚書を締結した後に、毒ガスを武装解除により中国側もしくはソ連側に引き渡したということを確認できる書類が見つかったんじゃないんですかという質問をしたんです。

石兼政府参考人 お答え申し上げます。

 戦後六十年以上経過した時点におきまして、仮に引き渡しが行われたといたしましても、御指摘の資料、いわゆる引き渡し目録でございますが、これに記載のある一部の個別具体的な兵器について、現在その所在を特定することは実際上不可能でございます。

 また、中国で発見された旧日本軍の化学兵器は、現時点において、各砲弾あるいは各発煙筒ごとに特定、区別できる表示等が見つかっているわけではございません。

 したがいまして、一部の兵器の引き渡しに関する資料の存在のみをもって、化学兵器禁止条約に基づき我が国が負う義務全体を否定することは、条約上の義務を誠実に果たすという観点から適切ではないというふうに考えております。

稲田委員 質問に答えてください。覚書を締結した後に、毒ガスを武装解除により引き渡したことを確認できる書類が見つかったんじゃないんですかということについて、端的に答えてくださいよ。

石兼政府参考人 お答え申し上げます。

 そういう資料が見つかったことは事実でございます。

稲田委員 そうなんですよ。

 だから、どの程度の調査をして、膨大な中国国内に埋まっている日本の毒ガス兵器を全部日本側の費用でもって処理する、そういう覚書を締結をされたのか疑問なんです。後から武装解除によって引き渡した書類が見つかる程度の、そんな調査でもって、こんな、日本の国益に関する、費用もそうです、名誉もそうなんですよ、それを害するような書類を締結をする。また、条約もそうです、そんなことに署名するという態度が私はおかしいと思います。

 「中国における遺棄化学兵器調査報告」、外務省に、一九九三年に化学兵器禁止条約に我が国が署名する前にどんな調査をしたのかということをお尋ねして、出てきた書類が、今皆さん方のお手元にお渡ししている書類なんです。

 これは、「はじめに」と、結論だけが書いてあって、あと、一ページ、二ページ、三ページ、四ページ、五ページ、六ページ、七ページと全部黒塗りして、どんな調査をしたか全くわからないようなものを外務省は出してくるんです。私、これは国会を非常にばかにしていると思いますが、外務省の見解をお伺いいたします。

石兼政府参考人 お答え申し上げます。

 御指摘の調査は、一九九一年六月に、吉林省の敦化地区を初めまして河北省石家荘地区の遺棄化学兵器の埋設あるいは発見現場を中国側関係者とともに視察し、意見交換を実施したものでございます。

 本件の調査報告書につきましては、個人に関する情報や、公にしないことを前提とした中国政府とのやりとりに関する内容といった、情報公開法第五条一号、三号及び六号の不開示事由に該当する情報につきまして一部不開示とした点でございますので、そのように御理解いただければと存じます。

稲田委員 しかし、この調査報告書の中に書かれているにもかかわらずこの委員会に公表できないというのは私はおかしいと思いますので、委員長、この調査報告書、黒塗り部分もきちんとわかるようにしたものの提出を求めます。

滝委員長 理事会でまた協議をさせていただきます。

稲田委員 この覚書に基づく化学兵器の廃棄処理の進捗状況とその見通し、またそれに対する費用はどれぐらいかかるのでしょうか。

伊藤政府参考人 稲田先生に答弁させていただきます。

 覚書に基づきます化学兵器の廃棄処理の進捗状況でございますが、おおむね二つに分けて御説明をさせていただきたいと思います。

 大量の遺棄化学兵器が埋設されていると推定されております吉林省のハルバ嶺におきましては、これまで試験発掘や調査をしておりまして、まだ本格的な発掘に入っておりません。今年度予算で試験廃棄処理装置を導入しまして、それの調達に向けた準備をしているところでございます。

 他方、ハルバ嶺以外におきまして、中国各地から発掘、回収しました遺棄化学兵器、これはこれまで約四万七千発を発掘、回収し、中国各地の保管庫に保管しておりますが、これらにつきましては、まず、江蘇省南京におきまして、移動式の処理施設整備におきまして廃棄処理を開始すべく現在鋭意作業を進めておるところでございます。現実には、その設備の装備品等が中国に搬入されて、今、据えつけをしようとして進めているところでございます。

 それから、今年度予算におきまして、新たに北部に移動式の処理設備、装置を導入、調達すべく準備を進めているところでございます。

 それから、今後の見通しでございますが、実際に廃棄を始める、あるいはこれから新たな発掘、回収等が行われるということを考えますと、総額の見通しを申し上げるということはなかなか難しいことを御理解いただきたいと思います。

稲田委員 どんなふうに、どれぐらい費用がかかるかわからない。ちまたでは一兆円かかるとも言われておりますけれども、そんな莫大な費用のかかる、しかも、すべて日本軍が遺棄した兵器であるということを認めて処理を約束してしまう。そして、その根拠になった調査報告書は黒塗りのものであって、そして覚書を締結した後に武装解除で引き渡した書類も出てくる。こんないいかげんなことで条約を締結したり覚書を交わしたりすることはやめていただきたいと私は思います。

 そして、一方でそういう覚書を交わしていて、そして他方で、国は、ソ連軍に引き渡したものであって日本軍が遺棄したものではないんだということを裁判で主張したとしても、それはなかなか認められない。外務省の方で覚書を締結して、全部日本軍が遺棄したものだと認めているのに、幾ら国の方で、控訴審で、それは日本軍が遺棄したものではないんだという主張をし、立証しようとしても、非常に難しいものであり、日本の名誉を守ることについても大変問題だということを御指摘したいと思っております。

 と同時に、やはり大臣、戦後補償裁判で国が全く事実関係を争わない、そして認否もしないんです。不知とも言わない、争うとも言わない、認めるとも言わない。これは私は問題だと思うんです。事実を争わないことが、国の名誉を毀損する事実を判決の中に書き込まれるということがあります。

 と同時に、仮にもしそれが真実なら、それを認めなければならないという意味において、訴訟を起こしている原告及び代理人、一生懸命裁判を起こしている人たちに対しても不誠実な態度だと私は思いますが、最後にもう一度大臣の見解をお伺いいたします。

千葉国務大臣 これは訴訟上どのような争い方をするかということにもなろうかと思いますけれども、基本的には、先ほど申し上げましたような、事実関係、これに入るまでもなく、これまでのサンフランシスコ平和条約あるいは除斥期間等々の観点から、そこまで議論をする必要はない、こういう主張をこの間はさせていただいているということで、私はその姿勢でよろしいというふうに考えております。

稲田委員 裁判所が、今大臣がおっしゃったように事実関係に入ることなく判決を下すのであればそのとおりなんですけれども、結局は事実関係の判断をするのであれば、日本の国の名誉という国益を守るためにも、また、原告らの請求に対して、その主張する事実関係に対して誠実に対応するためにも、認否をして事実関係を争っていただきたいと私は思います。

 次に、民法七百七十二条の問題に移らせていただきます。

 先ほど井戸まさえ先生の方からもさまざまな質問がありましたけれども、民法は、一夫一婦、婚姻秩序を維持するために、法律婚を法的に保護されるべき正当な婚姻としております。その帰結として、法律婚の婚姻関係が成立している間に妻が懐胎した子は夫の子と強く推定をしているわけですが、大臣に、この民法七百七十二条の趣旨とそして存在意義、また、現在なおこの規定に意味があると考えておられるかどうかについてお伺いをいたします。

千葉国務大臣 民法七百七十二条についてのお尋ねでございます。

 この七百七十二条の規定というのは、一つに、妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定し、そして二つ目に、婚姻成立の日から二百日経過後または婚姻解消の日から三百日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定をする、こういう内容でございます。

 この制度の位置づけでございますけれども、法律上の父子関係をどのように設定するかという、家族法の根幹をなしているというふうに私は理解をいたしております。とりわけ、子の福祉ということを考えたときに、できるだけ早期に親子関係を確定するという意味で、この七百七十二条の意義というものは存在をしているというふうに理解をいたしております。

滝委員長 速記をとめてください。

    〔速記中止〕

滝委員長 速記を起こしてください。

 稲田君。

稲田委員 今大臣がおっしゃったことと同時に、やはり不必要に家庭内のプライバシーに入るべきではない。夫が婚姻中に妻が懐胎した子を自分の子だと思って育てているところに、他人がいきなり入ってきて、DNA鑑定などを見せて、ちょっと待った、その子はあなたの子じゃなくておれの子なんだなどということを許さない。民法における父子関係というのは、単に血のつながりだけではなくて、やはり、自分の妻が産んだ、懐妊した子を自分の子だと認めて育てている場合には、そこに余計なプライバシーの侵害を許すべきではないという考え方があると思います。

 先ほど無戸籍児の問題が起きておりましたけれども、正確には私は無戸籍児というよりも未届け児だと思います。前夫の子供として出生届を出すことが嫌だとかできないという方々が届け出を出さないで無戸籍になっている、正確には未届け児だと思うんですけれども、離婚後三百日以内に生まれた子に対する民法七百七十二条の前夫の嫡出推定を外すことができる方法について、現行制度を前提にして、副大臣、御説明ください。

加藤副大臣 現行の制度におきましては、二つの方法がございます。

 一つには、懐胎時期の証明による方法でございまして、離婚後の懐胎であるということが証明できる場合、これは、医師の証明書をつけて戸籍窓口に届け出ることによりまして、前の夫を父としない出生届が受理をされるということになってございます。平成十九年の五月七日に民事局長の通達で出されております。

 それ以外の場合におきましては、家庭裁判所におきまして、親子関係不存在の確認または認知の調停などの手続をとるということによりまして、前夫の子でない扱いをすることが可能でございます。

稲田委員 今副大臣から御説明いただいたように、離婚後の懐胎についてはもう通達で解決をいたしております。また、前夫に対して親子関係不存在、それから、後の、真実の親に対しては認知の調停もできるということであります。

 私は、自民党内でこの問題が議論されていたときに、最高裁に、一体この調停にどれぐらい時間と費用がかかるのかという質問をいたしましたら、大体、期間として一カ月から数カ月、費用としては千二百円ぐらいなんだというお答えをされておりました。

 最高裁にお伺いをいたしますが、前夫に対する親子関係不存在確認の調停と、真実の父に対する認知調停の申し立ての要件の違い、具体的に言いますと、親子関係不存在の場合、外観的に夫婦関係が存在しない場合という要件が最高裁でも必要になっています。同じ家に住んでいて家庭内別居という場合には親子関係不存在調停は結局認められないのではないかと思うんですけれども、その要件の違いについて、それから認知調停についての申し立ての費用と期間についてもお伺いをいたします。

豊澤最高裁判所長官代理者 お答えをいたします。

 前夫に対する親子関係不存在確認、これにつきましては、調停で行われる場合といいますのは、家事審判法二十三条の合意に相当する審判ということでございますので、手続的な要件といたしましては、当事者間に合意が成立して、身分関係の発生の原因事実の有無について争いがないこと、そして、家庭裁判所が必要な事実の調査をして、家事調停委員の意見を聞き、それが正当であると認めること、こういった手続になっております。申立人は子供、法定代理人がその母というのが通常です。

 そして、親子関係不存在確認の調停の場合には、相手方は委員のおっしゃるとおり母の前夫でありまして、審判の対象としては、嫡出の推定が及ばないこと、これにつきましては、最高裁判所の判例にあるとおり、七百七十二条の期間内であっても、懐胎すべき時期に既に夫婦が事実上離婚をして夫婦の実態が失われているとか、遠隔地に居住して夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかだ、そういった事情が必要だというふうに解されているところは委員の御指摘のとおりでございます。

 もう一つ、認知の調停の関係で、申し立ての審理の期間とか費用についてのお尋ねがございました。これについては、統計的に把握しているものはございませんが、期間につきましては、先ほどの親子関係の不存在確認の場合とそう大きくは異ならないというふうに思われます。費用につきましても、申し立て費用は千二百円ということでございますし、仮に鑑定等が行われる場合であれば、鑑定の費用として十万円程度が必要になる、このような状況でございます。これについても、親子関係の不存在確認の調停の場合と同じでございます。

稲田委員 認知調停の場合には、子供の母親と真実の父が婚姻していることが条件なのか、それとも婚姻していない場合でもできるのか、また、親子関係不存在に必要な、最高裁の条件であるような外観上夫婦の実態がないというような要件を必要としているかどうか、その点についてお伺いいたします。

豊澤最高裁判所長官代理者 お答えをいたします。

 認知の調停の場合におきましても、昭和四十四年五月二十九日の最高裁の判例がありますけれども、そこで示されておりますとおり、同じく客観的に外観上夫婦としての実態が失われている、そういった要件が必要となるという点におきまして、つまり嫡出の推定が外れる、及ばないということが明らかになっていなくちゃいけない、そこにつきましては親子関係不存在確認の場合と同様でございます。(稲田委員「婚姻は条件」と呼ぶ)

 その点につきましては、法律上、嫡出でない子につきましては血縁上の父が認知をすることができるとされておりまして、子の母親と血縁上の父が婚姻していることは認知を行う上での要件ではありません。したがって、子の母親と血縁上の父とが婚姻をしていなくても、認知の調停を申し立てることは可能となっております。

稲田委員 大臣は、ことしの予算委員会の二月二十六日に、七百七十二条ということもまたあわせて御提起することができるならば、私にとっても、大変必要なことだと思うが、なかなか一歩一歩ということもある、ただ、改正が必要だ、それから今の通達のままでなかなか十分でない部分があるということもよくわかっているので、何とか歩みが進むよう、ぜひ大きなお力になっていただければというふうに思っているとおっしゃっておりますけれども、大臣は、現在の法制度のどこが問題で、またどのような方向性で改正をすべきであるとお考えでしょうか。

千葉国務大臣 まだ私も方向性とかそういうことを、確たるものをまとめているわけではございません。ただし、先般に御議論がありましたように、この規定のさまざまな運用あるいは通達等でこの間いろいろな手だてはしてまいりましたけれども、先ほど稲田委員は無戸籍ではなくて未届けとおっしゃいましたが、そういう事態に立ち至っているお子さんなどもおられるということを考えたときに、何らか法的な措置を検討する必要もあるのではないか、こう感じているところでもございます。

 ただ、まだ十分に、いろいろな皆さんからの御議論が存在をするところでもあり、論点も、それから家族の、親子関係の確定の根幹にもかかわるということでもあろうというふうに思いますので、ぜひこれから議論を活発に進めていければというふうに思っております。

稲田委員 自民党政権下でこの問題が議論をされたときには、法務省令で、父の書面、在監証明書、母の陳述書などの書面とそれからDNA鑑定書で、戸籍窓口で前夫の推定を外して、後婚の夫の子供として出生届ができるようにしようという案が検討をされておりました。

 これに対して、私も、DNA鑑定というものを安易に法制度の中に持ち込むことは大変問題であるし、それから、日本の民法が単に血のつながりだけではなくて父子関係というものをとらえていることからしても、窓口でDNA鑑定を要件にすることには反対でありました。

 また、日本医師会も、「戸籍窓口でDNA鑑定により父子関係を認めることについては、七百七十二条の趣旨に反するうえ、このように広くDNA鑑定で親子関係を定める考えが浸透すれば、DNA鑑定をもとに、かえって親子関係についての紛争を惹起することにならないか、医学の進歩がかえって母の不貞を明らかにして家族関係を混乱させることにならないか、さらに、個人の一定不変のDNAの個人情報が明らかになることで個人のプライバシーが侵害されないか、医師としての立場から憂慮する。」という懸念を示しておられて、私もまさしくそのとおりだと思っていたわけですけれども、DNA鑑定書を持ち込むことについての大臣の御見解をお伺いいたします。

千葉国務大臣 DNA鑑定につきましては、日々進展をしているというものでございますので、これから未来ずっとこれを活用しないということになるのかどうかはわかりませんが、私も、今の現状では、DNA鑑定を窓口できちっと確認をするというようなことというのは大変難しいことだというふうに思いますので、そういう観点からも、それから、仮にDNA鑑定の結果で科学的に血縁上の親子関係が否定される、そうすると嫡出推定が覆されるということになるわけですので、そうなると今度は法律上の父子関係をいつまでも確定できないということになってしまい、またこれも子供さんの福祉には必ずしも即しないのではないか。

 こういうことを考えるときには、現状の中でDNA鑑定を取り入れるということは、私も問題が大きいのではないかというふうに考えております。

稲田委員 それでは、例えば陳述書などで戸籍窓口で認めるという方向性があると思うんですけれども、ただ、現在の制度の中でも、先ほど副大臣が御説明いただいたように、前夫を介さず認知調停などを利用して比較的簡単に裁判所で後の夫の子供と認めていただけるのに、なぜ戸籍窓口で推定を外す法改正が必要なのかなと私は思うわけです。

 それをすることによって確かに便利にはなるかもしれませんが、民法の嫡出推定の規定をなし崩しにすることへの懸念と比べますと、私は窓口で陳述書などだけで認めていくという方向も問題ではないかと思うのですが、その点、大臣の御見解をお伺いいたします。

千葉国務大臣 私も、何か手だてができないものだろうかということで、確かに陳述書をもって推定を否定するということも一つの考え方ではないか、こういうことを考えてみたりしてまいりました。

 ただ、陳述書ですとなかなか真実性の担保が、陳述書というのは、この人がこういう書面をつくりました、陳述をしていますということは証明されても、中身についての担保というのはできないわけですので、これで嫡出推定を外す制度にするというのはなかなか難しいところはあるかなというふうに思います。やはり父子関係をどういう形で定めるのかという非常に大きな根幹にかかわる問題ということでもございますので、陳述書だけで何か覆すというやり方というのはなかなか難しいのかなという認識に今は立っております。

 ただ、改めて父子関係のあり方、定め方というのを今後考えていくということは一つの課題なのではないかというふうには思っております。

稲田委員 その点も大臣の認識と私も共通している部分があるんですが、かつて自民党で議論されたときには、離婚後三百日以内に生まれた子で前夫の嫡出推定を外すことができるのは、母親が真実の父と婚姻している場合だけだったんです。でも、かわいそうな事例、DVということを言い出しますと、婚姻中に懐胎をして婚姻中に生まれる場合というのもあるのではないかと思うんですが、そういった点も含め、やはり議論が必要だと私は思っております。

 婚姻中、妻が夫以外の男性の子を懐胎するということについては、さまざまな事情があって、一概にそれが不貞だと言い切れない部分はあると思います。実際に破綻していた場合ですとか、離婚になかなか夫が応じてくれない場合ですとか、さまざまな事情があるわけですけれども、ただ、法律婚継続中の夫以外の子の懐胎という、法的に見て例外的な場合の個々の救済というのは、私は、戸籍窓口でやるのではなくて、やはり司法の場で、個々の事情に応じて、子の保護を含めて図るべきで、安易に原則と例外をなし崩しにして、そのことによって原則である嫡出推定という規定を空洞化してしまうようなことがあってはならないのではないかと思っております。原則は原則として、例外を保護するのは裁判所でというのが本来のあり方で、市役所の戸籍窓口で行うということは、現実問題としても、先ほど大臣が指摘されたように、その陳述書が真実なのかどうかという新たな紛争のもとにもなり、私は、本末転倒であるということを申し上げたいと思います。

 もちろん、目の前のかわいそうな無戸籍の子の救済は必要なんだけれども、でも、やはりそこは一手間といいますか、裁判所の救済を図るべきで、そして、それを、余りに簡便さを要求するがために嫡出推定の規定の法制度の原則をなし崩しにしたり、新たな紛争の種にすることは問題ではないかと思っておりますので、本当に改正が必要かどうかということをぜひ政務三役で十分に議論をお願いしたいと思っております。

 一時間半、長いと思ったんですけれども、あっという間で、夫婦別姓のことや法整備支援のこともお伺いをいたしたかったんですけれども、また次回の機会に譲らせていただきます。

 本日はどうもありがとうございました。

滝委員長 次に、遠山清彦君。

遠山委員 公明党の遠山清彦でございます。

 私は、先月八日に、辞職をされました神崎武法衆議院議員の後任として繰り上がり当選をさせていただきました。当委員会では初めて質疑に立たせていただきますが、二年前、私は参議院で法務委員長をさせていただいておりまして、現法務大臣の千葉景子先生は当時民主党の筆頭理事でございまして、大変お世話になりました。この場をおかりして御礼申し上げるとともに、遅まきながら、法務大臣への御就任大変おめでとうございます。

 質疑に移らせていただきます。

 最初の質問は、民主党内における検察審査会への批判、見直しの動きについてであります。

 先般、小沢幹事長に対して、検察審査会から、全会一致で起訴相当の議決が出されました。これは、民主党も賛成をして二〇〇四年五月に国会で成立をした改正検察審査会法を受けての制度でございまして、その趣旨は、検察が独占してきた起訴、不起訴の判断に一般国民の民意を反映しようというものでございました。ところが、小沢幹事長への議決が出た直後に、民主党内でこの制度を見直そうという動きが出てきており、私は率直に、大変あきれるとともに非常に憂慮いたしております。

 引用で恐縮ですが、四月三十日の読売新聞朝刊に、作家の高村薫さんのコメントが掲載されておりました。あえて引用させていただきます。民主党の「議連の主張は、都合の悪い結果が出たら、法律を変えてしまえばいいという発想。」だ。「法治国家の一員としての見識さえ疑いたくなる。こんな議論をする政党を国民は冷めた目で見ているはずだ」。全く同感でございます。民主党は、野党から与党になりまして、多数によって少々おごり高ぶっているのではないかと、このことを通じて感じております。

 ちなみに千葉大臣は、この件に関して、ぶら下がりでしょうか、それぞれ皆さんの意見で私がとやかく言うものではないと御発言をされているそうですが、正直理解ができません。

 もし、千葉大臣が今野党の議員であれば、与党の中でこのような動きがあれば、恐らくこういう委員会の場で痛烈に批判をされているのではないかと思います。この場で、この検察審査会を見直そうという民主党内の動き、また、大臣御自身が検察審査会のあり方を本当に見直すべきとお考えなのかどうか、御答弁をいただきたいと思います。

    〔委員長退席、樋高委員長代理着席〕

千葉国務大臣 今御指摘がございましたような議員の集まりがあって、そして、その会合の中で見直しを求めるような意見が出ているという、それ自体については承知をいたしております。ただ、これは個々の議員の皆さんの活動ですので、それについて私は何か申し上げるということはいたしません。

 ただ、検察審査会法は改正をされまして、ようやくスタートをしたといいましょうか、そういうところでございますので、私は、やはりこれから検証して、その運用とかそういうものをこれからようやくしていくときではないかというふうに思います。そういう意味では、今直ちに改正をするというだけの基礎といいましょうか、材料はないというふうに私は考えております。

遠山委員 わかりました。ぜひ、こういうことは慎重にやっていただきたい。特に、裁判員制度も国民の中にだんだん定着をしてきていて、検察の判断にも民意を反映させようということで、民主党も賛成をして、自公政権の時代ですが、せっかく導入した制度でございますので、その趣旨を失うことなく、お願いをしたいと思います。

 次に、お配りをしている資料の一番と二番を見ていただきたいと思いますけれども、児童権利条約の第九条の一について日本政府が行っております解釈宣言と、それに関連する問題についてお伺いをしたいと思います。

 大臣はよく御承知だと思いますが、児童の権利条約、これは日本も批准をしております。第九条の一は、ちょっと読みますが、

  締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。ただし、権限のある当局が司法の審査に従うことを条件として適用のある法律及び手続に従いその分離が児童の最善の利益のために必要であると決定する場合は、この限りでない。このような決定は、父母が児童を虐待し若しくは放置する場合又は父母が別居しており児童の居住地を決定しなければならない場合のような特定の場合において必要となることがある。

こういう条文でございますので、基本的には児童を保護する立場から、父母から分離をされないということをうたった条文になっております。

 ところが、日本政府がつけました解釈宣言、二のところにつけてありますが、該当する九条一項のところはこうなっております。「日本国政府は、児童の権利に関する条約第九条一は、出入国管理法に基づく退去強制の結果として児童が父母から分離される場合に適用されるものではないと解釈するものであることを宣言する。」という内容になっております。

 率直に、この解釈宣言自体が、一部の法律の専門家の間では、児童の権利条約そのものの精神、趣旨に反しているんじゃないかと。つまり、児童が父母の意思に反して分離されないことを確保するとうたっているのに、解釈宣言では、出入国管理法で退去強制になった場合、分離してもいいということを政府として宣言しているんですね。

 私は、これは正直言って、民主党の政策に照らしても、ちょっとこの解釈宣言は見直してもいいのではないかというふうに考えております。もちろん、解釈宣言は条約上の関係でございますから所管は一義的には外務省になるわけですが、私も外務大臣政務官をやっていました、こういう法務省が所管する国内の事項にかかわる解釈宣言を条約関係で結ぶ場合というのは、当然、中身については外務省は法務省としっかり相談をして決めているはずなんですね。

 ですから、その所掌事項は法務大臣のもとの中身でございますので、ぜひ法務大臣として、この解釈宣言を見直すおつもりがないかどうか、お伺いをしたいと思います。

    〔樋高委員長代理退席、委員長着席〕

千葉国務大臣 大変重要な、重い御指摘をいただいたものだと感じております。ぜひ、これからいろいろな、本当にこれが抵触するものかどうかということを私も真剣に考えてまいりたいというふうに思っております。

 ただ、今現状では、この趣旨を生かすべく、でき得る限り特別在留であるとかそういうところの運用において、親子の分離ということができるだけ回避できるように、こういう努力はさせていただいておりますけれども、根幹にかかわることでもございます。重く受けとめて、私も勉強させていただきたいというふうに思っております。

遠山委員 今の大臣の御答弁、前向きだったと受けとめます。

 私も、きょうも時間のある限り、ちょっと後段は難民認定の問題をお聞きいたしますけれども、やはりこういう解釈宣言がありますと、最終的に私ども政治家が、人道的立場、あるいは私たちが注目をしている非常に難しい状況にある外国人一家のケースについて、紋切り型の判断を役所が、官僚がした場合に、こういう解釈宣言があると、それがもうそういう紋切り型の官僚的判断の根拠になっちゃうんですね。幾ら今、民主党政権が政治主導だといって、政務三役だといっても、こういうものを突きつけられたらなかなか反論できませんよ。だから、こういう部分についても、今、政権交代して見直すんだという気概をぜひ持っていただきたいと思います。

 続きまして、カルデロン・ノリコさんの一家の問題について伺いたいと思います。

 詳細は千葉法務大臣御自身がよく御存じだと思いますので申し上げませんけれども、ノリコさんは現在中学二年生、両親と引き離され、たった一人で日本在住の親戚の御家庭で暮らしております。御両親は、不法入国及び不法滞在を理由に、昨年の四月に退去強制されたわけでございます。

 この問題について千葉大臣は、昨年三月二十四日、参議院の法務委員会で次のように述べられております。ちなみに、それを聞いていたのは森当時法務大臣でございます。

 ちょっと引用させていただきます。長くなりますが、当時は委員でございますが、千葉大臣のお言葉ですが、

 入ってくる仕方は確かにいろいろあったというふうに思うんですけれども、その滞在においては犯罪を犯しているわけではない、犯罪集団とかということではない、そういう意味では非常に日本にとっても力になってもらい、あるいはお互いに尊重し合いながら生活をしているという、こういう事実が現に存在してしまっている。こういうことをこのノリコさん一家の問題も私たちに突き付けたような気がいたします。

  そういう意味では、

これは中略していますが、

 どこかで一度、例えば、よく言われておりますように、一定のこういう本当に生活の拠点を持ち、そして日本の本当に力にもなってきたという皆さんをアムネスティーのような形できちっと一度滞在を認め、そしてこれから先こういう条件で日本は皆さんと一緒に暮らしていく、そういう社会をつくっていくんですよと、こういう方向をきちっと提起をしていく、こういう時期が私は来ているのではないかというふうに思っております。

私は率直に、非常にすばらしい御提案を、千葉大臣、当時野党議員としておっしゃっているわけでございますが、今法務大臣というお立場に実際なられたわけでございまして、まさにこの中で御主張されているような、不法入国の形、そしてその後不法滞在、しかし一定程度の期間があって日本の中で定着して暮らしを立てている、お子様もいて、このカルデロン・ノリコさんの場合は中学校まで、訴訟になった段階では小学校だったと思いますけれども、こういう状況の場合、一定の判断基準とか条件というのは考えなきゃいけないかもしれません、だれでも無条件に出しますよということは私も適正ではないと思うわけですけれども、個別のケースによってはそういったアムネスティーを出すというようなことを法務大臣として考えておられるかどうか、御答弁いただきたいと思います。

千葉国務大臣 御指摘をいただきまして、逆にありがとうございます。

 私も、これから日本の社会の中で外国の皆さんを、どのような形で来ていただき、あるいはまた日本の社会の中でどういう形で、本当に共生できる形での居住を、生活をしていただくかという、少しそういう先のことを考えていかなければいけない、こういうときが来ているようには思います。

 そういうことも、少し先の流れを考えながら、それに向けて一定のアムネスティーのようなことを実施するということは、私は一つの考え方だと今でも思っております。例えばどういう条件でとか、あるいは、今はそれを特別在留というような形で、ある意味では個々にやっているわけですね。それをもう少し条件をきちっと整備して、あるいはどの程度の皆さんにそういう日本での滞在をしていただくか、そんなこともあわせながら考えていかなければいけないというふうに思っております。

 ただ、どこかで何かそういう、少し日本での居住をきちっと位置づける、そういうことをしないと、これから先、非常に混乱とか、あるいはアンダーグラウンドで生活をされてしまう、こういうことが大変多くなっていくのではないかと懸念はしております。

遠山委員 ありがとうございます。

 大臣、前向きな御答弁で、かつ具体的には、現状では在留特別許可の運用でということで、後ほど言及しますけれども、確かに近年、特に昨年度は在留特別許可の数が五百人を初めて超えて過去最高ということで、実際にそういう人道的配慮に基づいて在留特別許可を出すことがふえているということがありますので、そこは大臣のおっしゃっていることと合っているわけでございます。

 ただ、実は、このカルデロン・ノリコさんの御両親が今週にも日本を訪問されると伺っております。これは、前政権時代には、残念ながらカルデロンさんの御両親に在留特別許可が出なかった。ただ、娘さんがこちらにいるということで、人道的な立場から恐らく今回の訪日が短期滞在で認められて来られるんだと思いますが、千葉大臣が昨年も御主張された、今も御答弁されたことを踏まえますと、例えば、この御両親に対して改めて在留特別許可を出して、家族三人がそろって暮らせるような形にするということを、個別具体的なケースではありますけれども、国民も大分注目をしていましたこのケースで、今後検討する余地あるいは御用意はあるのかどうか、それを伺いたいと思います。

千葉国務大臣 このカルデロン・ノリコさんの御両親の件につきましては、昨年、残念ながら在留特別許可はできませんでしたけれども、森前大臣が大変御配慮をされて、本来であれば入国には期間が必要なのですけれども、できるだけ早く入国できるような、そういうことを配慮したいとおっしゃったことを私も承知しております。そういうことも受けながら、今回、ノリコさんに会うために来日をする、入国をしたいということで、これを認めさせていただくという形になりました。

 なかなか個別、ではこういうケースについて、再びまた親子が別れないようにできないものかということでございます。御指摘はよくよくわかりますので、今後、こういう個別事案でどの程度そういうことができるのか、あるいは個別事案だといろいろな背景もありますのでなかなか難しいところはあろうと思いますが、子どもの権利条約、そういうものの趣旨を十分に念頭に置いた、そういう対応をしていかなければならないなというふうに考えております。

遠山委員 たまたまでございますけれども、カルデロン・ノリコさんの御両親が訪日をされるというタイミングできょうのやりとりがございますので、いろいろ省内では御意見があるかと思いますけれども、ぜひ大臣のリーダーシップで、なるべく人道的な形で解決ができるようにリーダーシップを発揮していただきたいと思います。

 続いて、提出をさせていただいた資料の三番目でございます。

 民主党の政策集インデックス二〇〇九の中で、民主党は、難民認定行政について、率直に申し上げて、かなりドラスチックな踏み込んだ改革を提案されております。もう時間の関係で全部読むことはいたしません。ここで書かれていることを、千葉大臣として、今、法務大臣の立場でどの程度まで進めようとされているのか、そのことを確認したいと思います。

 まず一点目は、民主党が、野党時代にも、成立はしませんでしたけれども国会に提出をしたこともある、このインデックスの文章でいうと二行目ですが、難民等の保護に関する法律を制定すると。これは、私の理解では、今、難民認定行政にかかわる法令というのは出入国管理法の一部として組み込まれているわけですが、それを切り離して、単独で、別法で難民等の保護に関する法律を制定する、こういう公約でございますが、これについて、今、民主党は政権をとったわけですから、政府提出法案としてこういう法律を出す御用意をされているのかどうか、お伺いをしたいと思います。

千葉国務大臣 率直に申し上げまして、何しろ半年余りということでございます。いろいろな課題を私も取り組ませていただいてまいりましたが、まだまだ、難民のこのような法案、議論をするというところまで至ってはおりません。

 ただ、難民認定法につきましては見直しをするべし、こういう問題もありますし、それから、この考え方で、やはり独立をした難民行政あるいは難民認定を行える、そういうものをつくった方がいいのではないかという考え方、私も大変大事な課題だというふうに今も考えておりますので、ぜひ議論を何らかの形できちっとさせていただくことができたらというふうには思っております。

 ただ、すぐに提出法案というところに至っているわけではございません。

遠山委員 大臣、私は、公明党の中で難民問題プロジェクトチームを二〇〇二年に立ち上げて、そこの責任者で、ずっとライフワーク的に難民問題に取り組んできました。当時の、前の政権の与党の中でも、私は、ややちょっと主流から外れたところで、難民の皆さんあるいは申請者の皆さん、庇護申請者の皆さんの立場に立った形で、党からも政策提言を幾つか出させていただいて、その一部が当時実現をしたという経過があります。そういう立場からは、私はこの民主党の公約を非常に評価しているんです、一部を除いて。

 今大臣が、実は、次に私が聞こうと思ったことを答えられているんですが、難民認定行政を現在の法務省入国管理局から切り離して、内閣府の外局に難民認定委員会という独立した認定行政を専門としたところをつくろうという発想、これは私は非常に大事だと思っております。

 というのは、去年も、実際に難民認定された人の数というのは三十人だけでございます。その前の年の五十七名からかなり減っているわけでありまして、もちろん、在特をいただいた方は五百一人とふえているわけですから、庇護された方の総数というのは上がっているわけですが、難民認定数は極めて低い。

 これは国際社会から見れば、千葉大臣もう御承知のとおり、いわゆる難民と言われる方々だけで九百万人以上いるわけです。難民プラス国内避難民、帰還民、無国籍者、そういう人を全部合わせると、UNHCRが公表していますが、何と世界じゅうでは三千四百万人ぐらいの方々が定住する場所がないという。三千万人以上の方々が人道的に非常に苦しい状況の中で、日本はというと、難民認定は年間三十人。こういう状況を変えなきゃいけないというのは、恐らく千葉大臣は野党議員のころにおっしゃっていた。私も、与党議員ですけれども言っていた。今も、野党ですけれども言っているわけです。

 だから、そういう立場から、今、大臣、私はまた前向きな御答弁だったと思っていますが、法的な対応、法改正の問題、それから機構改革、こういったところで難民認定行政をより適正なものにするという努力をぜひしていただきたいということを申し上げたいと思います。

 済みません、時間の関係で最後に一問。大分、途中を飛ばしまして。

 大臣、これから第三国定住の制度が始まっていくわけでございまして、これは一年間に約三十人を定住難民として受け入れる。つまり、難民条約に照らし合わせて認定するのではなくて、もう最初からクオータというか数を決めて、家族ユニットですから約三十人ということですけれども、タイのミャンマー難民が多い難民キャンプから受け入れるということをもう決められて、今その手続が開始をされているところだというふうに思います。

 私、一つ懸念がありまして、第三国定住自体は私はどんどん推進をすべきだという立場です。ただ、その上で、この第三国定住で入ってくる難民が日本の社会に入ってきますと、実は、日本の社会の中で、庇護された難民、あるいはそれに準ずる外国人の方々が、日本の行政から受ける処遇で三種類のグループに分かれちゃうと思うんですね。

 一つ目のグループは、先ほど来話題に出ています在留特別許可をいただいた方々。この方々は、法的に日本に滞在できますが、難民として認定されていませんから、認定難民としてのあるいは定住難民としての支援はほとんどない。これが一つ目のグループです。

 二つ目のグループは、難民認定された方々。この方々は、一定程度の行政支援がありますが、実は、これから日本政府が始める定住難民が享受するサービスと比べると恐らくちょっと少ないと思うんですね。

 定住難民として、国策として受け入れるミャンマー難民の方々は、条約難民のように厳しい審査を通っていないにもかかわらず、日本語研修や就職訓練や生活支援、いろいろなことを受けることになっているわけですね。

 これは、長期的に見ますと、人道的に庇護された在特の外国人、それから、認定された認定難民、そして、定住政策で受け入れられた定住難民、この三種類のコミュニティーができてきてしまう。そうすると、日本に住む外国人コミュニティーの中で、今は少ないかもしれませんけれども、長くたってくると大きくなってきます。その中で、あつれきとか不協和音とか不平不満の温床になってしまうんじゃないか、こういうふうに思っているんですね。

 ですから、ここをどうするかということが非常に大きな課題だと思うんですが、これへの対応策、対処方針を法務大臣としてお持ちであれば、お伺いをしておきたいと思います。

千葉国務大臣 今御指摘がございましたように、確かに、大きくは三つの類型のような形になっていくのではないかと思います。

 第三国定住については、今、パイロットケースということでございますので、これから先、さらにふやしていく。そして、その後、どういう形で定住をいただくか、こういうことは今後の問題でもあろうかというふうに思っておりますが、いずれにしても、難民認定を受けた者、それから在留特別許可で入国、滞在を認められている者、仕事ができるかできないかというようなことも含めて非常に違いが出てくることは、私も一定の懸念は感ずるところでございます。

 では、共通にどういうことができるのか、あるいは、そういうものを改めてもう少し大きく一つにまとめることができないのかどうか、こんなことが多分御指摘の問題であろうというふうに思いますので、今直ちに、私も方針をまだ固めているわけではございませんが、問題指摘を受けとめさせていただいて、これから、将来に向けた難民行政、こういうものについてしっかりとまた勉強し、あるいは検討をさせていただきたいというふうに思います。

遠山委員 ありがとうございます。

 時間が来ましたので終わりますが、公明党として、またこの点について具体的な提案をさせていただきたいと思っておりますので、ぜひよろしくお願いいたします。

 以上で質疑を終わります。ありがとうございました。

滝委員長 次に、城内実君。

城内委員 城内実でございます。

 本日は、三十分のお時間をいただきまして、ありがとうございます。

 本日は、民法及び戸籍法の一部を改正する法律案の中で、選択的夫婦別姓の問題について取り上げさせていただきたいと思います。また、時間がありましたら、人権救済機関の設置についても昨年に引き続いて質問させていただきたいと思います。

 まず私が申し上げたいのは、私は反対のための反対をするつもりはありません。中立的な立場からいろいろな資料に当たらせていただきました。さきに自民党の稲田朋美議員が質問されましたけれども、その中で、千葉景子大臣が、これは一九九三年ですか、まだ議員になる前の福島みずほ先生と対話形式でおつくりになったブックレットがございます。これも私も最初から最後まで全部読ませていただきました。と同時に、慎重、反対派の意見をしっかりと調べておきました。

 私の結論は、当然、女性の社会的進出、あるいは性差による差別というのは決して許されるものではありませんが、そして同時に、私も多様な価値観を認める立場ではありますが、しかし、日本の国柄、伝統文化、民族性に果たしてこの選択的夫婦別姓が合っているかどうか。私は、これはかなりずれているんじゃないかなと。

 外国でこうだから日本でもこうすべきだというのは、もちろん説得力がありません。私はドイツに十年おりましたけれども、ドイツでは夫婦同姓が原則でありまして、その後、結合姓というか複合姓。ですから、だんなさんと奥さんの、例えばロイトホイサー・シュナレンベルガーと、長くなっちゃうんですけれども、結合したり複合する姓を使う。ですから、別姓は可能ですけれども、原則同姓もしくは結合姓、複合姓というふうに認識しております。また、隣の韓国では、名字、姓は父方の姓をずっと名乗る。ですから、国によっても違います。先ほど日本の国柄と言いましたけれども、やはり日本は共同体を大事にする、和をもってとうとしとなすとする国でありますから、当然個人の尊厳も大事でありますが、私はこれは絶対ではないと思います。

 私の得た印象というか結論は、今の民主党政権が進めようとしている選択的夫婦別姓は、いわゆる親子別姓、子供に親と違う名字を強制する制度である、そして、ひいては、夫婦別姓制度は夫婦別氏制度といいますけれども、別氏じゃなくて家族蔑視制度、要するに家族という概念を蔑視する、そういう制度になりかねないということで、私は非常に憂慮しております。

 さて、そこで質問ですが、なぜ昨年の民主党の政策集、政策インデックス二〇〇九にこの選択的夫婦別姓が入っていて、ところが選挙のマニフェストには入っていなかったのか。

 と申しますのは、これは家族のあり方に非常に大きな影響を与える問題であって、子ども手当を一万三千円にするとか二万六千円にするとか支給しないとかという次元とは全く違う、将来非常に大きなインパクトを与える問題であるんですが、その点について大臣の御認識をお聞きしたいと思います。

千葉国務大臣 今御指摘がございました。私も、これは、家族といいましょうか、それから、御指摘がありました日本の共同体というか、そういうものを大切にする、こういう問題とも大きくかかわる問題だというふうに思います。ただ、家族も非常にいろいろな、多様な家族結合ということもありますし、あるいは、共同体を大事にする、あるいは家族を大事にすることと氏が直結をしているのかということは、必ずしもそうではないのではないかというふうに私は感じます。

 そういう意味では、私も、家族を大切にする、あるいは共同体、ともに支え合っていく、そういう共同体を大事にしていくということを否定するものでは全くございませんので、ぜひ、そういうことを大事にしながら、しかし、それぞれの多様な選択、あるいは女性の社会への参加、そしてそれによる不都合、こういうものを解消して、だれもが元気で働き、あるいは活動できるような、そういう社会の一つの助けになれば、こういう気持ちでございます。

城内委員 今大臣は氏と家族というのは必ずしも直結しないという話をされましたが、実際、世論調査を調べましたところ、本年三月の時事通信調査によりますと、夫婦別姓制度に賛成が三五・五%、反対が五五・八%と過半数を占めている。また、政府である内閣府が行った調査でも、別姓導入構わない三六・六%、必要ない三五%、夫婦同姓を前提とした通称使用のための法改正に賛成二五・一%ですから、必要ないと通称使用のための法改正でいいんじゃないかとを合わせるとやはり過半数を超えておりますので、世論は慎重かつ反対派が多い。

 これはやはり、とりもなおさず、名字、氏というのは家族を大事にするというのと直結しているという認識をお持ちになっている方が多いからと思うんですが、この世論調査について、認識、かつ反対派が多いと大臣は考えていらっしゃいますでしょうか。

千葉国務大臣 世論調査、いろいろな機会に行われておりますので、私も、これは多くの皆さんの一つの考え方であろうというふうに思っております。ただ、民法につきましては、選択的に採用する、選択的に別姓を使うことができるという考え方ですので、そういう意味では、それを十分に御理解いただいているかどうかというところもちょっと心配はいたしております。

 それと、やはりこの問題は世代によっても違います。これから結婚する、あるいは仕事を持ったり、社会での活動と生活と家族と、それをどうやって両立しようかと、いろいろ直面をする皆さんの中ではまた数字も違ってきたりいたします。

 そういう意味では、全員に強制をするという問題ではございませんので、ある意味では、その世論というのは、ほぼ、そういう数字というか、考え方が出てくるのではないかなと率直に受けとめさせていただきたいというふうに思っております。

城内委員 いや、私も実際、中立的な立場から、選択的夫婦別姓でいいんじゃないかなと思っていたんですが、これは調べれば調べるほど、例えば民法第七百五十条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」と。要するに、もう既に選択できるんですね。ですから、何であえてこういう改正をする必要があるのかなということが一つと、そもそもその世論調査も、私のようにいろいろな賛否の意見を聞いた方がもし出たとすると、私の感じでは、もっと慎重派、反対派がふえるのではないかと。

 きょう、民主党の石関委員も、いろいろな意見があるから十分議論すべしと。私は、慎重な立場というふうに勝手に理解したんですけれども、済みません、勝手に決めつけて。そういう御意見もありましたし、名前はあえてほかには言いませんけれども、私がいろいろな方と接触して、民主党の、名前は言いませんけれども、いや、これは大変だよとおっしゃる方も結構いらっしゃるんですね。ですから、私はここら辺はやはり議論を十分尽くすことが大事だと思います。

 あと、大臣にお聞きしたいのは、ちょっと私も勉強不足なんですが、今度の参議院選挙の公約にこれを入れるんですか。そこをちょっとぜひ具体的にお聞きしたいんですけれども。まだ検討中というんじゃなくて、ぜひ入れたいと思うとか、いや、いろいろな反対意見があるから慎重に考えたいというか、せめてどちらかにお答えいただきたいんですけれども、お願いします。

千葉国務大臣 今度の公約をどういう形で、どの項目もどんなぐらいな数でまとめるかということも、私もまだよくは承知をしておりませんのでわかりませんけれども、民主党として、ぜひこれは実現の方向に考えているというふうに、私はできたらよいかなと思っております。

城内委員 済みません。それは、千葉景子法務大臣としてですか、それとも参議院議員の千葉景子議員としてのお立場か。ちょっとそこら辺をはっきりお願いしたいなと思います。

千葉国務大臣 これは議員としてもでございますし、法務大臣としても、法務省、意見を取りまとめて、当然この国会にということで法案の準備をしているものでございますので、大臣という立場でも同様でございます。

城内委員 私は、ことしに入りまして、国民新党の若手の森田高さん、亀井亜紀子さんという二人の若手の参議院議員の方と夜お会いして、この選択的夫婦別姓の問題などについて、個々、かくかくしかじかで、これはぜひ与党として慎重な立場であるべきではないかと言ったら、もう私の説明を全部する前に、もう十分わかっている、これは我々として反対しますよと。案の定、その後、亀井静香国民新党代表も、今閣僚で、大臣でいらっしゃいますよね、非常に強く反対しておられます。

 この点について、与党の大臣がかくも強く反対しているにもかかわらず、押し通すつもりなのでしょうか。

千葉国務大臣 これは、それぞれ御意見をお出しいただいている方もいらっしゃいます。ただ、でき得るだけ、お互い理解、納得が、御共有ができるのであれば、ぜひそういう方向にできればということで、私なりに努力をさせていただいているということでございます。

城内委員 ぜひ閣内不一致ということがないように、そしてさらに、党内でいろいろな意見があるということをぜひ御認識していただきたいというふうに申し上げます。

 もう一点、この夫婦別姓の推進派の根拠として、不便だから、不便できわまりないから、そういう声もあるんですね。私は確かにそういう側面はあるのではないかなと思ってちょっと調べてみたら、例えば公務員について、もう既に平成十三年から通称を使うことが認められるようになった。あるいは、国家資格に基づく仕事、例えば弁護士、税理士についても旧姓の通称使用が認められるようになった。

 ですから、選択的夫婦別姓を実現しないと社会進出ができないなどという主張は私はおかしいと思いますし、現に、今話題になっている民主党のヤワラちゃんこと田村亮子さんは、谷亮子という名前で金メダルをとっているわけですから、まさに、名前が同一じゃないと社会的進出で不利だということには必ずしもならないんじゃないかなと私は思うんですが、その点についてどのようにお考えでしょうか。

千葉国務大臣 確かに、この間のいろいろな皆さんの活動によりまして、通称使用とか、あるいは、そういうものによってかなり生活あるいは社会的な活動もしやすくなっているということは私も承知をいたしております。

 ただ、例えば、最終的な公的な認証をするための、パスポートであるとか、あるいは、当然のことですけれども、いろいろな住民票とかそういうものも含めて、これは通称ということではできませんので、考えてみると、通称があり、それから戸籍名があり、そして、自分が使いたいもともとの氏、こういう何か幾つも重なり合ってしまう、こういうこともあろうというふうに思います。

 それから、確かに、単に不便だからというのは少し勝手な言い分かなと思いますけれども、やはり実際の生活というか活動の中で、それが非常にプレッシャーになったり、あるいは相手との人間関係、あるいは仕事上のつき合いがそこで一つ何か壁をつくったりしているということも聞くところでもあります。

 それは、ほとんどが、先ほど委員おっしゃったように、法律では夫または妻の氏でいい、だから逆もあるんだということになります。ほとんどが女性が変えているんですけれども、男性の皆さんでも、やはり逆な立場になると大変いろいろ御苦労があるというふうにもお聞きをいたします。

 そういうこともあわせて、これはぜひみんなで、大丈夫だね、そうやったからといって困ることはないんだ、むしろみんなが生きやすくなる、こういう気持ちになれれば私は大変好ましいなというふうに思っております。

城内委員 私も大臣と同じで、今、みんなが生きやすいように、やはり多様な価値観を認めるべきだと思うんですが、さはさりながら、この選択的夫婦別姓、民主党案については、ちょっとこれはやり過ぎじゃないかなと。例えば通称を使用できるように法改正をする、例えば夫婦同姓を前提として戸籍法を改正するとか、そういうことを私はむしろ率先してすべきであると思います。

 ですから、この後議論します人権侵害救済機関についても、この選択的夫婦別姓についても、実際存在する問題に対する対処法として、簡単にわかりやすく言うと、ゴキブリとかネズミを捕まえるのに、ごきぶりホイホイやネズミ取りではなくて、火炎放射器とか機関銃とか核兵器を使ってやるような、何かちょっと違うんじゃないかなという感じがするんですね。

 私は今、民主党さんの行政のいろいろな事業仕分けとかを見ておりますけれども、どちらかというと否定的ですが、そういうことをおやりになっているにもかかわらず、こういう制度を導入すると、実際のニーズを何百倍も超えた行政コストがかかったり、いろいろな制度や書類の形式も変えたりとか、これは行政コストがすごくふえると思うんですね。

 ですから、これをもしおやりになるんだったら、まさに今仕分けをされているんですが、どれだけのコストがかかりますよと、いろいろな用紙を変えたり、それに伴う行政事務というのがふえるはずですから、法務省はそこら辺はもう当然計算されているんでしょうか。そこをお聞きしたいんですけれども。

千葉国務大臣 コストについて厳密な計算をしているわけではございません。ただ、これは、いわば制度を変えることによって、これから先に向けて、例えば手続を、用紙を変えるということはあるかもしれませんが、そういう問題ですので、私は、そのコストについて、そう極端なコストにはつながらないのではないかというふうに考えておりますが、それは全くゼロということではないということは当然だと思います。

城内委員 今、事業仕分けの仕分け人の方が本当に切り詰めて、それが正しいかどうかは別として、やっている中に、極端なコストにならないと思うというようなあいまいな答弁ですと、私はいかがなものかと思います。

 ぜひ、どれだけコストがかかるかというのをやはり概算でもちょっと調べていただきたいと思うんですね。今まさにそういう時代なわけですから、それをぜひお願いしたいと思います。

 そして、選択的夫婦別姓について最後の質問ですけれども、実は、四月十五日の政府、これは平野官房長官が議長をされております男女共同参画会議の中間整理という報告が出ましたが、それを見ますと、現行の男女共同参画基本計画には「国民の議論が深まるよう引き続き努める。」となっているんですが、この第三次に向けての中間整理という報告書を見ますと、「家族に関する法制について、夫婦や家族の在り方の多様化や女子差別撤廃委員会の最終見解も踏まえ、選択的夫婦別氏制度を含む民法改正が必要である。また、時代の変化等に応じ、家族法制の在り方について広く課題の検討を行う。」と物すごく前向きに、「国民の議論が深まるよう引き続き努める。」と言っておきながら、全然国民の議論は深まっていないのに、ここまでどうして踏み込んで書いてあるのか、私は本当に理解に苦しむんですけれども、その点、大臣の御認識をお聞きしたいんですけれども。

千葉国務大臣 これは、男女共同参画会議、その議員の皆さんの御議論の中でこのような方向が打ち出されているものだと承知をしておりますので、私からその皆さんに対して云々ということではございませんが、今の時代状況とかあるいは実情、こういうものを踏まえて、こういう結論といいましょうか方向を出されたものではないか、私はそういう形で受けとめさせていただいております。

城内委員 私はむしろ、時代状況、実情というのは、やはり、行き過ぎた個人主義を改めて、家族のきずなを大事にしようというような、私の肌感覚ですよ、そういう状況であるように感じます。

 そして、済みません、さっきこれが最後と言いましたが、もう一点、私が非常に懸念するのは、もし仮に、選択的夫婦別姓が、このまま改正案が通ってしまうと、要するに、先ほども言いましたように、子供は、気がついたら自分の親が別々の名字なわけですね。学校のクラスの中に、親が、同じ名字の同姓派の人たちと別姓派の人たちと、二グループに分かれてしまうということを想像すると、すごくぞっとしてしまうんですけれども、逆に無用な差別や区別を惹起しかねないんじゃないかなと。私は、そこら辺はやはり、ぜひ子供の視点に立って、自分はもうとにかくこの名字をつけたいんだという親の幸福追求だけじゃなくて、その子供の目線に下がっていただいて、百二十センチぐらい、それで私は考えていただくことも大事じゃないかなと思います。

 いろいろなメールとか御意見が来ていると思います、大臣のところに。こんなの抗議文だよと、大臣はそういう方じゃないと私は信じておりますけれども、やはりそういった意見も読んでいただいて、私もそういう痛切な声というのをたくさん読みまして、慎重派に、反対派になったんですけれども、ぜひその点を大臣にお願いして、慎重かつ広い御議論を与党内でも、そして国民間でもした上で、私は反対ですけれども、進めていただきたいと思います。

 時間がありませんが、次に人権救済機関の設置について質問させていただきます。

 私は、十一月十七日、この法務委員会で大臣に既に質問させていただきましたが、この中身のポイントは、中央人権委員会という物すごく巨大な権限を持った機関を自民党当時は法務省の外局に置くという、これも私は大反対だったんですけれども、これを内閣府に置くと。総理直轄、あるいは幹事長直轄にするんでしょうか、今、政治主導、与党主導とおっしゃっていますから。こうなると、政権与党の権力の恣意的な行使が行われる可能性があり、司法のチェックが及びにくい、日本国憲法の三権分立の精神にも反すると、済みません、法律の専門家じゃない素人の私でもそう感じる次第でございます。

 また、人権侵害の定義があいまいである、それが二点目。

 三点目は、法務省の人権擁護局の調査によりますと、実際に法律上の助言や関係行政機関や関連の公私の団体を紹介することで解決した事案が九三・五%を占めたと。ですから、実際、本当に深刻かつ重大な人権侵害は、年にせいぜい二けたか一けた程度しかないのではないかというようなことを申し上げたんですね。

 これも同じなんですね、選択的夫婦別姓と。ゴキブリやネズミを捕まえるのに、何か物すごく巨大な装備をして、何かでかいマンションをつくって、そこに追い込んで、そのマンションに入ったネズミを核攻撃するような、そんな何か印象が私にはあるんですね。ですから、何でこんな巨大な機関をわざわざ国民の税金を使って、今この事業仕分けがはやっているときにやるのだろうかという観点から質問したいと思うんです。

 実際、去年十一月十七日に私が質問してから、多分いろいろな御意見が来ていると思いますけれども、大臣は引き続き推進派なんでしょうか。それとも、いろいろな意見を聞いてみたところ、もう少し議論をした方がいいかなと思うようになりましたでしょうか。そこをちょっとお答えいただきたいんですけれども。

千葉国務大臣 推進とか推進でないとかということではなくして、これは、私も、この間の御議論を踏まえて、人権救済機関、国のさまざまな権限から独立をした形で人権侵害の救済機関をつくるということを一つの大きな大臣としての取り組み課題にさせていただいておりますので、推進派といえば、当然のことながら推進方でございます。

城内委員 私は反対派なんですけれども、議論がかみ合うようにできるだけ努力したいと思っているんですが、やはりいろいろな問題点がありますよね。多分、大臣も十分御承知だと思うんです。

 そういったことをやはり一つ一つクリアしていただいて、私は、冒頭申しましたように、反対のための反対、足を引っ張りたいという気は毛頭なくて、国民の幸せ、そして健全な社会を育成するために、やはり真っ当な、社会通念上認められる範囲でやるべきであって、何か最初に巨大な権限を持っている人権救済機関を、ほかの国にはほとんどないにもかかわらず何で日本がやらなきゃいけないのかということも含めて、よく国民の間で議論して、わかっていない方は多分大勢いらっしゃると思うので、その点、これはやはり日本の社会のあり方に直結するという話ですから、何か補助金を一%減らす、ふやすという話と全然違う次元の話なので、ぜひ十分議論をしていただきたいということを申し上げておきます。

 また、もし本当に命がけでやりたいのであれば、私はこれは参議院選挙の公約にすべきだと思うんですよ。民法の一部改正、選択的夫婦別姓や、嫡子、非嫡子の相続の同等化とか、あるいはこの人権侵害救済機関を設置するということについては、私はこれは堂々と公約に掲げるべきであって、もしこれを、いろいろな意見があるから、火中のクリを拾いたくない、票を減らしたくないという、そんな信念がないようでは、私はむしろだめだと思うんですよ。もし本当に大臣がこれはやるべきだと思うのであれば、ぜひ大臣が率先して、堂々と民主党の参議院公約の目玉の一つとして、別にこれは皮肉で言っているんじゃないですよ、ぜひ入れていただいて、やはり国民に議論を惹起していただきたい。

 入れないで、参議院選挙が終わったらこっそり、これは自民党時代にも言えることなんですけれども、何か法務省が適当につくって法務部会で通そうとしたら私が気がついて反対して、大もめにもめたというのが五年前の経緯なんですけれども、そういうこそくなことじゃなくて、やはり堂々と俎上にのせて議論をして、選挙の公約ぐらいに掲げていただいてやっていただきたいなと思いますが、この点について御意見を大臣からお聞きして、私の質問とさせていただきます。

千葉国務大臣 既にこれは衆議院の昨年の選挙の折にも政策としてきちっと掲げさせていただいてきたというものでございますので、別にこそっとやろうなぞという、こういうことはございません。しっかりと政策として挙げさせていただくことができれば明快だと思っております。

城内委員 これで質問を終わりますが、もうお答えはいいですけれども、インデックス二〇〇九という政策集は、これは細かくて国民が気がつかないわけですね。やはり、国民の皆さんが気がつく形で、ではどういう賛否があるのかというのは十分議論した上で、だからその点は公約の目玉の柱の一つとして入れていただくぐらいの覚悟を持っていただきたいと私は思う次第でございます。

 きょうはどうもありがとうございました。

滝委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時三十分散会


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