衆議院

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第16号 平成23年6月15日(水曜日)

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平成二十三年六月十五日(水曜日)

    午前十時三十分開議

 出席委員

   委員長 奥田  建君

   理事 滝   実君 理事 辻   惠君

   理事 橋本 清仁君 理事 樋口 俊一君

   理事 牧野 聖修君 理事 稲田 朋美君

   理事 平沢 勝栄君 理事 大口 善徳君

      相原 史乃君    石田 三示君

      大泉ひろこ君    川越 孝洋君

      京野 公子君    熊谷 貞俊君

      黒岩 宇洋君    黒田  雄君

      桑原  功君    階   猛君

      橘  秀徳君    中島 政希君

      中屋 大介君    野木  実君

      三輪 信昭君    山崎 摩耶君

      湯原 俊二君    河井 克行君

      北村 茂男君    柴山 昌彦君

      棚橋 泰文君    永岡 桂子君

      柳本 卓治君    漆原 良夫君

      園田 博之君    城内  実君

      横粂 勝仁君

    …………………………………

   法務大臣         江田 五月君

   法務大臣政務官      黒岩 宇洋君

   財務大臣政務官      尾立 源幸君

   政府参考人

   (内閣法制局第一部長)  横畠 裕介君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    原   優君

   法務委員会専門員     生駒  守君

    ―――――――――――――

委員の異動

六月十五日

 辞任         補欠選任

  井戸まさえ君     湯原 俊二君

  水野 智彦君     石田 三示君

  山崎 摩耶君     中屋 大介君

  森  英介君     永岡 桂子君

同日

 辞任         補欠選任

  石田 三示君     水野 智彦君

  中屋 大介君     山崎 摩耶君

  湯原 俊二君     井戸まさえ君

  永岡 桂子君     森  英介君

    ―――――――――――――

六月六日

 国籍選択制度の廃止に関する請願(相原史乃君紹介)(第七一四号)

 同(稲見哲男君紹介)(第七一五号)

 同(鳩山由紀夫君紹介)(第七七九号)

 成人の重国籍容認に関する請願(相原史乃君紹介)(第七一六号)

 同(稲見哲男君紹介)(第七一七号)

 同(鳩山由紀夫君紹介)(第七八〇号)

 選択的夫婦別姓の導入など民法の改正を求めることに関する請願(阿部知子君紹介)(第七三二号)

同月八日

 法務局・更生保護官署・入国管理官署及び少年院施設の増員に関する請願(漆原良夫君紹介)(第九六三号)

 同(大口善徳君紹介)(第九六四号)

 同(滝実君紹介)(第九六五号)

 国籍選択制度の廃止に関する請願(石川知裕君紹介)(第九六六号)

 成人の重国籍容認に関する請願(石川知裕君紹介)(第九六七号)

同月十三日

 複国籍の容認に関する請願(土肥隆一君紹介)(第一〇八三号)

 法務局・更生保護官署・入国管理官署及び少年院施設の増員に関する請願(京野公子君紹介)(第一〇八四号)

 同(柴山昌彦君紹介)(第一〇八五号)

 同(城内実君紹介)(第一一九四号)

同月十五日

 国籍選択制度の廃止に関する請願(山崎摩耶君紹介)(第一三六一号)

 成人の重国籍容認に関する請願(山崎摩耶君紹介)(第一三六二号)

 児童買春・児童ポルノ禁止法改正問題に関して、拙速を避け、極めて慎重な取り扱いを求めることに関する請願(城内実君紹介)(第一四五一号)

 法務局・更生保護官署・入国管理官署及び少年院施設の増員に関する請願(赤嶺政賢君紹介)(第一四五二号)

 同(笠井亮君紹介)(第一四五三号)

 同(穀田恵二君紹介)(第一四五四号)

 同(佐々木憲昭君紹介)(第一四五五号)

 同(志位和夫君紹介)(第一四五六号)

 同(塩川鉄也君紹介)(第一四五七号)

 同(高橋千鶴子君紹介)(第一四五八号)

 同(宮本岳志君紹介)(第一四五九号)

 同(吉井英勝君紹介)(第一四六〇号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件

 東日本大震災に伴う相続の承認又は放棄をすべき期間に係る民法の特例に関する法律案起草の件


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     ――――◇―――――

奥田委員長 これより会議を開きます。

 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件について調査を進めます。

 この際、お諮りいたします。

 各件調査のため、本日、政府参考人として内閣法制局第一部長横畠裕介君、法務省民事局長原優君の出席を求め、説明を聴取したいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

奥田委員長 東日本大震災に伴う相続の承認又は放棄をすべき期間に係る民法の特例に関する法律案起草の件について議事を進めます。

 本件につきまして、辻惠君外一名から、お手元に配付しておりますとおりの東日本大震災に伴う相続の承認又は放棄をすべき期間に係る民法の特例に関する法律案の草案を成案とし、本委員会提出の法律案として決定すべしとの動議が提出されております。

 提出者から趣旨の説明を求めます。階猛君。

階委員 東日本大震災に伴う相続の承認又は放棄をすべき期間に係る民法の特例に関する法律案の起草案につきまして、提案者を代表して、その趣旨及び概要を御説明申し上げます。

 本年三月十一日の東日本大震災によって甚大な被害が発生し、多くの被災者はいまだ生活再建の見通しが立たず、混乱状況が続いております。

 このような中、現行の民法では、相続人は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから三カ月以内に、相続について、単純もしくは限定の承認または放棄をしなければならないと規定し、家庭裁判所で伸長の申し立て手続を経ない限り、単純承認したものとみなされております。

 しかしながら、このような被災地の現状においては、民法に定める三カ月の期間中に相続の限定承認、放棄、期間の伸長の申し立て手続等を行うことは困難な状況にあり、相続人が相続の承認または放棄をするかどうかの十分な熟慮期間を確保する必要性が指摘されております。

 そこで、この法律案は、東日本大震災の被災者であって平成二十二年十二月十一日以後に自己のために相続の開始があったことを知ったものについて、相続の承認または放棄をすべき期間を、平成二十三年十一月三十日まで延長するものであります。

 なお、この法律は、公布の日から施行することとしております。また、一定の場合を除き、この法律の施行日前に民法第九百二十一条第二号の規定により単純承認をしたものとみなされた相続人についても適用することとしております。

 以上が、本起草案の趣旨及び概要であります。

 何とぞ速やかに御賛同いただきますようお願い申し上げます。

    ―――――――――――――

 東日本大震災に伴う相続の承認又は放棄をすべき期間に係る民法の特例に関する法律案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

奥田委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

 本件について発言を求められておりますので、順次これを許します。大口善徳君。

大口委員 公明党の大口でございます。

 まず、今回の法案につきまして、私どもは賛成をしたいと思っておりますし、また、これはもっと早く提出すべきではなかったのかな、こう思っております。

 東日本大震災から三カ月以上経過をいたしました。六月十三日時点でも、死者一万五千四百二十四名、また行方不明が七千九百三十一名、相続というのが非常に多く開始をしている、こういう状況でございます。

 そういう点で、やはり相続財産の調査をすることは困難ですし、また、家庭裁判所で伸長の手続をするということも困難でございますし、そういう点では、十分な熟慮期間、これが必要だ。そういうことで、一律延長をする今回の法案について、私どもは賛成したいと思っておるところでございます。

 ただ、本法案につきまして、六月七日、参議院法務委員会で、大臣は非常に慎重な答弁をされて、立法府でお願いしたい、こういうことでございました。これは民事基本法でございますから、本来、閣法で提出すべきではなかったのかなと。こういう未曾有の非常時でございますから、やはり法務省が保守的であってはいけないんですよ。この六月十一日を徒過したということは、これは法務大臣にも私は責任があると思うんですね。なぜ閣法として提出をされなかったのか、お伺いしたいと思います。

江田国務大臣 大口委員の今のおしかりを真摯に受けとめたいと思います。

 ただ、民法が相続熟慮期間、こういう制度を置いております概要というのは今提出者の方から御説明があったとおりでございますが、これは、相続による効果の帰属の不確定な状態が続くと、結果として他の相続人や利害関係人の利害を害したり、あるいは法律関係の早期安定についての公共的要請に反したりするおそれがあるということで、三カ月と。

 しかし、御指摘のようないろいろな困難な事態が生ずる、とりわけ今回は東日本大震災という状況があって、そのような場合には利害関係人の請求によって、家庭裁判所においてこの期間を伸長できるということにしておりまして、早期安定等の要請と、個別の事案において不当な結論にならないような要請と、その二つの間の調整として個別の対応ということを考えているわけで、自動的に熟慮期間を延長するということには、他の相続人や利害関係人の利害を害するおそれがあるんじゃないかという懸念もございます。

 特に委員おっしゃる民事基本法でございますから、基本法を預かる法務省としては、これはやはり慎重な検討をさせてもらいたいということで、もちろん、立法府においてそうした立法府としての慎重な検討の上に立法をされることについて法務省として異議を唱えるということではございませんが、法務省、つまり内閣提出法案とはしなかったということでございまして、ぜひ御理解をいただきたいと思います。

大口委員 全く理解できないんですよね。これはやはり閣法として出すべきだということを、我が党の参議院の木庭委員も六月七日の委員会でも主張したわけでございます。もう三カ月たっているわけですから、慎重に検討するといっても、もう十分時間はあったわけですよ。六月十一日というのは一つの大きなメルクマールであったわけですから、それに向かって法務大臣がリーダーシップを発揮しないで、法務省の役人体質にべったりの状況になっているということで、私は反省していただきたいと思うんです。

 ですから、閣法で提出できなかった理由にはならない。やはり六月十一日を目指して、慎重に検討しつつも閣法で出すべきだったと思いますが、いかがですか。

江田国務大臣 御指摘を重く受けとめておきたいと思います。

大口委員 こういうことを繰り返さないでいただきたいと思います。(発言する者あり)

奥田委員長 御静粛に。

大口委員 次に、今回の法案につきましては、相続人が被災者である場合を適用対象とした。被相続人が被災者である場合、あるいは相続財産が被災地にある場合は適用されない、この理由についてが一点。

 また、二点目に、この東日本大震災に際し災害救助法が適用された市町村の区域に発災日に住所を有していた者とありますが、この住所を有していた者の住所、これは民法二十二条による住所、住所の知れない場合には、民法二十三条により、居所を有していれば住民登録の有無を問わないと解してよいのか。この二点、お伺いします。

階委員 大口委員にお答えいたします。

 まず前段の、「自己のために相続の開始があったことを知ったもの」というふうに条文では書いておりますが、いわば相続人が被災者である場合のみを適用対象としているのはなぜかということでございます。

 そもそも、民法上では、熟慮期間については伸長の申し立てというものもできるわけです。ですから、原則的には、伸長の申し立てができる人はそれによっていただく。しかしながら、被災地にいる相続人の方々、この方に対して、家庭裁判所に行って伸長の申し立てをしろというのは余りにも酷ではないか。そのような意味において、今回の適用対象は、相続人が被災者である場合というふうにしたわけであります。

辻委員 災害救助法が適用された市町村の区域に発災日に住所を有していた者が対象であるということは、住民登録の有無とは直接は関係がありません。住所というのは、民法上、「各人の生活の本拠をその者の住所とする。」というふうになっておりますから、生活の事実上の中心である場所が住所でありまして、住民登録というのはそれを推定させる有力な資料ではありますけれども、それに限られるものではありません。

 また、住所が知れない場合には、居所を住所とするというのが民法二十三条一項にありますので、これもまた住民登録とは関係ないということであります。

大口委員 次に、本法案では、平成二十二年十二月の十一日以後に自己のために相続の開始を知ったものを対象としたわけであります。その理由。それから、熟慮期間の延長期間を平成二十三年十一月三十日までとした理由についてお伺いしたいと思います。特に、十一月三十日までというと、被災地の復興状況によっては、まだなかなか、熟慮期間を延ばしてほしいということが出てきた場合もあります。そういうことを踏まえてお答え願いたいと思います。

階委員 今の二つの質問、大変重要な点でございます。

 まず、二十二年十二月十一日以後とした理由でございますけれども、震災で亡くなった方に限らず、その前に亡くなった方についても、相続熟慮期間進行中に三月十一日を迎えた、このような熟慮期間進行中に震災の被害に遭われた相続人については、やはり震災で生活が混乱しているだろうということで、残りの熟慮期間の長い短いにかかわらず、一律に延長の対象とし、十一月三十日を期限としたものでございます。

 もう一つ。その十一月三十日とした理由でございますけれども、私ども、政府・与党の一員としましては、政府の見解として、仮設住宅が大体お盆明けにはできるということで、八月末には多くの被災者にとって生活の安定が見込める。したがいまして、生活の安定がなされてから通常の熟慮期間であります三カ月間、これを見込みまして、八月末プラス三カ月ということで十一月末ということにいたしました。

大口委員 次に、今回、本法案の附則の二項本文で、施行日前に相続の承認または放棄すべき期間の経過により単純承認とみなされた相続人について遡及適用するとしているわけです。そして、ただし書きがあるわけです。一般に、法令の遡及適用が許されるというのはどういう場合なのか。内閣法制局、お願いします。

横畠政府参考人 お答えいたします。

 法令の遡及適用とは、法令をその施行よりも前の、過去の時点にまでさかのぼり、過去の事象に対して適用することでありますが、これにより、既に発生しあるいは成立している状態に対して、当該法令が後から作用して法律関係が変更されることになります。

 そもそも、憲法三十九条により禁止されているいわゆる事後法による処罰など刑罰法令の遡及適用は別論といたしまして、それ以外の一般の法令の遡及適用につきましては、先ほど申し述べたような事情がございますので、遡及の必要性を初めとして、遡及適用の対象や範囲が適正か、また、特に遡及適用によって何らかの不利益を受ける者がある場合には、その者の権利利益を不当に侵害するものではないかどうかなどを見きわめる必要があるものと考えております。

大口委員 それで、本法案につきましては、被災者である相続人による相続放棄等の期間の延長を図るものでありますけれども、既に民法所定の三カ月という期間を経過している場合にもさかのぼって延長を認めるという点で、憲法上の問題があるのではないか、こういう指摘があるわけでございます。

 特に、被相続人の債権者が相続を前提として相続人の固有の財産を差し押さえたり、あるいは、相続人からこの相続人の固有の財産を原資として弁済を受け取るような場合に、その相続放棄によって覆される場合の不利益についてどう考えるか、お答えを願いたいと思います。

辻委員 不遡及というのは原則であって、遡及というのは例外的であるということでありますけれども、憲法二十九条で財産権の保障がうたわれていて、その観点で問題点があるのではないかという御指摘だと思いますが、財産権の保障も絶対的なものではなくて、合理的な範囲内で制約されるというふうに考えられると思います。

 ですから、この問題については、遡及を認める必要性と、それによって奪われる憲法二十九条の保障の、一方の必要性がどの程度であったのかということの比較考量で判断をすべき問題だろうというふうに思うわけであります。

 熟慮期間の徒過によって被相続人の債務を相続するということは、いわば予期せぬ不利益をこうむる事態が多数想定されるということでありますけれども、債権者はもともと、貸借関係に入った場合に、被相続人の財産を念頭に置いて取引関係に入ったものでありますから、相続といういわば予期せぬ偶然の事情によって新たな弁済が余分に期待できるということになったとしても、その期待権というのはさほど高いものとは評価できないと言っていいのではないかと思います。

 一方で、相続人の財産による弁済。当初の債権者の期待は、それはそれで確保されているわけでありますから、それの比較考量。特に、今回のような未曾有の大震災という事態の中で、熟慮期間を十分に保障されないということ、そこを何とか救済しなければいけないという必要性が大きく上回るものであろうというふうに考えるものであります。そういう意味で、受忍範囲の問題であろうというふうに思います。

 しかし、相続人が本法施行前に相続財産の処分をしており、遡及適用されると原状回復が必要となるケースや、本法施行前に単純承認をするなど債権者の期待がそれなりに特に高まっている場合は不利益遡及の対象外ということでありますから、その点はしっかり調整をした上で立法しているというふうに考えております。

大口委員 法務大臣も、この利害関係人の利害を害したりということをおっしゃっているわけですから、今同じ問いについて法務大臣としてお答え願いたいと思います。

 あと、基準が明確でないと現場は困ります。そこら辺もお願いいたします。

江田国務大臣 今提出者の方から御答弁がありましたが、法律関係の安定ということに懸念が生ずるんじゃないかということと、もう一つは、この困難な状況の中で救済をしなきゃいけないんじゃないかという利益と、これをどういうふうに考量するかということであって、これはもう立法府の方の政策判断であると考えております。

 具体的な場合にどうかということについて、特に不明確になるということはないと思っております。

大口委員 次に、熟慮期間経過後、本法案の施行前に、熟慮期間経過のため相続放棄することができないと思い、そのことを表示して単純承認に相当する行為をした。例えば、無限に被相続人の権利義務を承継する意思で、被相続人の債務について支払いの意思表示をしたり、あるいは相続人の固有の財産を原資として、そこから弁済したような場合、これは民法九十五条の要素の錯誤による無効の主張ができるのか。そして、仮に無効となった場合、本法案の附則二項の適用をどう考えるのか、お伺いしたいと思います。

江田国務大臣 本法律案のような法律が制定された場合に、これができるということについて錯誤があったということが問題になるわけで、これは一定の相続についての意思表示をした場合に、その意思表示をするについての動機の錯誤に当たる場合があり得るということでございますが、動機の錯誤については、動機が表示されて法律行為の内容になっておれば、これは錯誤無効を主張することができるとされているわけでありますが、個別の事案における相続人の認識であるとか、あるいは法律行為が行われた際のいろいろな事実関係に応じてそこは変わってくるので、最終的には裁判所によって判断されるべきものであると思っております。

辻委員 最終的にはやはり裁判所の判断によって決まるということでありますが、当該法律行為をしたときの事実関係の認識や法的判断については誤りがないということから、錯誤無効だという蓋然性は低いものだというふうに思いますけれども、仮に錯誤無効だというふうになった場合には、熟慮期間は十一月三十日となるというふうに考えていいと思います。

大口委員 この相続放棄につきましては、やはり周知徹底を皆さんにしていただかなきゃいけないと思います。私どもは二重ローン問題で、党の座長をやっておるわけでございますけれども、今回の法案が成立をした場合、やはり周知徹底が必要だと思います。

 政府として、早く、わかりやすく、正確な広報をお願いしたいと思いますが、大臣のお考えをお伺いします。

江田国務大臣 これは、法務省としては、成立した場合には最大限の措置を講じて周知をしてまいります。

大口委員 ありがとうございました。以上で終わります。

奥田委員長 質問者の方にお願いいたします。

 議員立法でありますので、提出者への質疑か、あるいは政府、大臣を初めとする政府への質疑か、その点をはっきりとして質疑をしていただきたいと思います。

 次に、桑原功君。

桑原委員 民主党の桑原功でございます。

 きょうは、質問の機会をいただいて大変感謝をしております。

 まず、提出者に対して質問をいたします。

 大震災が発生してからもう三カ月がたちました。きょうの新聞報道でも、震災の被災者は、死者が一万五千四百二十九人、行方不明者も七千七百八十一人いらっしゃる。避難されている方は八万人以上いらっしゃる。その七千七百八十一人のうち、身元が確認できないような遺体が既に二千人を超えるような現状であるという報道もされています。

 そういう中では、まさにこの遺体の確認が、例えば、これから遺体が発見されたとしても、ますます遺体の状況が、損傷が激しくなったり、身元の確認ができなくなる状況はこれからもっとさらにひどくなるのではないかという状況があります。

 そうした中で、やはり家族は、いつかはきっとお父さんかお母さんか、あるいは子供、元気な声でうちへ帰ってくるよ、そういう皆さんはたくさん、そういう気持ちで亡くなった方を迎えている毎日ではないかというふうに思っています。

 そういう中で、本当にあの震災が信じられないという、いまだもってそうした心に大きな傷を持っている方もたくさんいらっしゃるわけなんですが、その問題の中で、やはり相続の問題とかというのはきちっと処理をしなければいけないという現実の中に生きているわけですから、今回の提案された法律が、あるいは保険や保険金の受け取りとか、あるいはローンの問題とか、そして加えて相続の問題、そういう現実がたくさんあります。

 そこで、提案者にお伺いをいたしますけれども、この法案の前に民法九百十五条の規定により既に熟慮期間の延長の手続をされた方は、この法案上の取り扱いについてはどういうふうになるんでしょうかということがまず一点です。

 続いて、延長が認められた末期が今回の十一月三十日より以前の期日であった場合、あるいは期日後であった場合、そのケースについてはどんなふうな考え方なのか、提案者にまずお尋ねします。

階委員 桑原委員にお答えいたします。

 まず、熟慮期間が延長される前に伸長の手続をしていた場合の取り扱いということでございますが、後の質問とも重なるわけでございますけれども、私どもとしましては、その熟慮期間の伸長後の末日が、我々がこの法案で延長しようとしている十一月三十日よりも前であれば、これはなお十一月三十日までの期間は法律によって延ばしてあげる、これは当然、そのようにした方が相続人にとってはプラスであろうと考えております。

 また逆に、伸長後の期間が十一月三十日を超えているような場合、十二月あるいは来年の一月という場合には、十一月三十日、この法案の期限が来たからといって、そこで熟慮期間が終わるというのは相続人にとってむしろ不利でありますから、延長後、みずから伸長の手続をとった、伸長後の十二月なり一月なりという期間にしたいと思っております。

 それで、その理論構成ということでございますけれども、三点ぐらい考えておりますが、まず、この法律の本則第一項の規定は、既に家庭裁判所によりなされた熟慮期間伸長の決定に影響を及ぼすというようなたてつけにはなっていないということです。

 したがって、二点目でございますけれども、伸長後の期間の末日が平成二十三年十一月三十日以後のケースであれば、本法施行後もその期間は維持されるのが当然であると。

 さらに、三点目として、伸長後の期間の末日が平成二十三年十一月三十日以前である場合には、本法がそのような被災者も区別せず救済する趣旨であることにかんがみ、この法案による延長後の十一月三十日まで延びるということになろうかと考えております。

桑原委員 そのゆえ、この法案では、民法上の本則三カ月以内というのを、あえて十一月三十日までという括弧書きにしたということでよろしいわけですね。

 次に、やはり私も連休中に宮城県の石巻の現場に行ってまいりました。私は群馬県出身ですから、海なし県ですから、海の恐ろしさというのは全く理解できなかったんですが、まざまざとこの目で確認をしまして、本当に自然災害というのは恐ろしいものだなというふうに現実の問題としてしっかり受けとめてまいりました。ああいう瓦れきの中とか、私どもごく普通に生活している人間では、どんなことが起こっているのだろうかという本当に想像もできないような事態が発生しているケースも間々あるのではないかなというふうに思いました。

 さらに、テレビや報道されますように、子供たちがお父さんやお母さんを待っている、そういうケースもたくさんあるわけで、そういう子供たちも、やはりこの法律を適用して、相続の問題も直面するわけですから、例えば法定代理人がいないような未成年の被災者の場合には、この法律上ではどんなような配慮がなされているかについてお尋ねをしたいと思います。

階委員 法定代理人が不在の未成年者が相続人になった場合ということでございますけれども、まず、民法九百十七条によって、相続人が未成年者である場合には、その熟慮期間は、法定代理人が相続の開始を知ったときから起算するということになっております。そして、未成年者の親権者がいずれもお亡くなりになり、かつ法定代理人がいなくなった場合におきましては、法定代理人が新たに選任されるまでの間は熟慮期間は進行しないと解されております。

 したがいまして、今委員の御指摘になったようなケースについても十分な配慮がなされているということでございまして、法定代理人が不在の未成年者について、どんどん熟慮期間が進行してしまうということはないというふうにお考えいただいて結構でございます。

桑原委員 ありがとうございました。

 次に、大臣にお尋ねをしたいんですが、二月の二十二日にこの席で大臣が所信の表明をなさった中に、「もともと地上に道はない。みんなが歩けば道になる。」という言葉を私は感慨深く聞いておりました。私の同じ地元には、大臣のお父さんと一緒に志をともにした田辺誠大先輩がいらっしゃる地域であります。そうした点で、これから道をつくっていくのは我々の責任もあるのかなというふうなことで感慨深く聞いておりました。

 大臣にお伺いしたいのは、相続人が被災者である場合に適用されるもの、この法律でありますが、ややもすると、相続財産が被災地にある場合とか被相続人が被災者である場合にも適用されるというふうに誤解されるようなケースもあるのではないかなというふうなことも考えられます。この法案の施行前あるいは施行後に相続財産の処分をしようとする、処分をしてしまうなども考えられますけれども、法案の目指す成果の被災者への周知について、どのようにお取り組みになるのか。

 実際の事務は市町村が担当するということになるだろうと思うんですが、何しろ初めての市町村の扱いになるわけですから、そうしたなれないケース、あるいは今回の法案を、どのように市町村への協力の要請あるいは助言をしていくのか、その先、住民に対してこういう制度があるんですよというふうな周知は、やはり政府の責任として、きちっと皆さんに御理解をいただけるような取り組みをしていかなければいけないのではないかというふうに思いますけれども、その点についてお尋ねをいたします。

江田国務大臣 委員御指摘のような誤解が生ずる場合もあるかと思います。そうした誤解が生じないように、これはもちろん、この法律案が成立すれば、精いっぱいの周知をしていかなきゃならない。市町村に周知方をお願いするばかりではいけないので、法務省においても、例えば法務省のホームページであるとか、あるいは被災地、そして被災者を受け入れている自治体を管轄する地方法務局、これを通じた周知、さらにまた、その他の手段による広報のあり方についても検討して、間違いのないように周知方を図っていきたいと思っております。

 例えば、避難所における壁新聞であるとか、あるいは被災者の生活支援ハンドブックであるとか、あるいは法務局には説明用のチラシを配布するといったこともございますし、また、法テラスの携帯電話用サイトであるとか、法テラスの相談窓口のチラシであるとか、あるいは内閣官房広報室を通じての地方紙への掲載とかラジオ放送とか、とにかくそうした手段を駆使して周知を図ってまいります。

桑原委員 いずれにしても、この法律の適用、あるいは民法の規定についても、困っている方がたくさんいらっしゃるわけですから、そうした方々の救済のためにやはり法律というのはあるわけで、実際に困っている人をなるべく悩ませないような形で、自治体の行政の窓口も丁寧に住民の皆さんに説明をしていくということは、これまた大変必要なことだろうというふうに思っています。

 現場に行きまして、各避難所で、全国から、県の職員だとかあるいは市の職員、避難所にも本当にたくさんいらっしゃいました。そういう方は、自分の仕事もなげうって現地に行って、避難されている皆さんの世話もしているわけですから、そういう方も含めて、新しい、本当に一度も経験したことのないような事務を、役場が、申述書によってあるいは附属の書類によって、もしかしたら生きているかもしれないという方の死亡の認定をするわけですから、それはやはり実際の事務としてもとても重い仕事だろうというふうに思いますから、そういう点も含めて、各市町村にも住民の皆さんにも丁寧な説明をしていただき、何しろ震災被災者が困らないような形で運用をぜひお願いをして、質問を終わります。

 ありがとうございました。

奥田委員長 次に、柴山昌彦君。

柴山委員 自由民主党の柴山昌彦です。

 今回、私たち自由民主党の第三次提言におきまして、相続の承認または放棄をすべき熟慮期間を延長してほしいという要望を出していたところでしたので、こうして対応していただいたことには率直に感謝を申し上げたいと思います。

 ただ、先ほどもお話がございましたとおり、私どもの提言は五月中に既にされておりますので、時間的に大変時間がかかり過ぎているんじゃないかなということには不満を申し上げたいと思います。

 さらに、幾つか伺いたい点がございます。

 まず、今回の大震災で多数の相続が発生してしまって、その相続人の救済のために一律の熟慮期間延長処理をする必要性があることはわかります。しかし、震災の前に相続が発生していて、通常であればあと一日で相続放棄のできる三カ月が経過してしまうはずだった方が、たまたま三・一一の災害があったからといって、こうした震災で相続が発生した方々と全く同じ救済を受けるというのは、公平の観点から問題だとお思いになりませんか。提出者、いかがでしょうか。

階委員 柴山委員にお答えします。

 今の点は、提案者としても、立案段階で悩んだ点でございます。震災前に相続の放棄の熟慮期間が進行中の方々を救済の対象にすべきかどうか、かつ、今御指摘のような残り一日というような人まで救済の対象にすべきかどうか、その点は悩んだわけでございますけれども、たとえ残り一日であっても、その最後の一日に大災害が起こった、そして、相続する財産、それまではプラスだったかもしれない、しかし、震災によって家も店舗も漁船も何もかも流されて、今度は、プラスだと思っていたのが大きくマイナスになっているかもしれない、そのように状況が大きく変化し得る今回の大災害でございます。

 したがいまして、熟慮期間が現に進行中だった方々についてもこの際救済対象にすべきではないかというように考えまして、このような立案をさせていただきました。

柴山委員 最後の部分は理由になっていませんからね。

 というのは、震災前に例えば単純承認をした人は、これでは救われないんですよ。単純承認をした後、この震災によって財産が失われたということと、さっき言った一日残っているという利害状況というのがそんなに違うのかということは、今、階議員が御指摘になった最後の理由によっては、私はちょっとやはり不均衡というのは説明できないんじゃないかなと思いますので、まずその点を申し上げたいと思います。

 それともう一点。民法の時効であれば、期間の途中でも、一定の事情があれば、リセットをして、改めてすべての進行を始めるという中断制度というものはございます。しかし、天災などの場合は、そういった障害がなくなってから二週間は時効が完成しないという意味での時効停止制度が認められているにすぎず、これと同様に考えた場合には、先ほど私が申し上げたように、震災前に相続開始を知った被災相続人に関しては、災害復興、ひとまず、一段落させる日を法定した後、より短期に権利関係を確定させることとすべきではないでしょうか。あるいは、相続を知ったのが震災の前後を問わず、震災から一定の日までに一律に残存期間の進行を停止させる、こういうふうにすることが簡明かとも思われるんですが、以上のような二つの道については考えられないんでしょうか。

階委員 まず、震災前に相続の開始を知った人について二通りのやり方、一つは、一定期間を置いて、三カ月というよりも短期に権利関係を確定するということでございますけれども、それについては、私どもは、確かに御指摘のようなことも考えられるかと思いますけれども、やはり一律に制度を構築するということがわかりやすいのではないかということでございます。

 それからもう一点、震災前に、平時の状況で熟慮期間が一カ月なり二カ月なり進行していたわけでございますから、その部分についてはもうカウントせずに、残った、残存期間の分だけ熟慮期間を延長すればいいのではないか。例えば、我々の考え方に沿えば、八月末から残り期間一カ月なり二カ月ということで考えればいいのではないかということでございますが、いろいろ委員の御指摘も踏まえてまた議論もさせていただきましたけれども、やはり、相続を知った日がいつであるかということが、震災の結果によって証明するのがなかなか難しいこともあるのではないかという問題があるかと思います。

 したがいまして、相続を知った日ということを立証せずとも、しっかり必要な期間は熟慮できるという意味では、八月末から三カ月という期間を設けてあげるというのが震災前の相続人に対しても望ましいのではないかというふうに考えました。

柴山委員 ちなみに、財務省にお伺いしたいんですけれども、国税通則法では、十一条で、災害その他やむを得ない理由によって期限までに申告などをできないときは、政令で定めるところにより、その理由のやんだ日から二カ月以内に限り、当該期限を延長することができると定められています。この手続は、今回の震災に当たってはどのように適用されているのか、また、今回のこの相続に関する熟慮期間の扱いとのバランスをどう考えたらよいのか、御説明ください。

尾立大臣政務官 柴山委員にお答えいたします。

 国税における申告期限の延長、特に災害等に関しての質問でございますが、今委員御指摘のとおり、国税通則法第十一条においては、災害その他やむを得ない理由により申告等の行為をすることができないと認められるときは、政令で定めるところにより、その理由のやんだ日から二月以内に限り、期限を延長することができるとされております。

 この理由のやんだ日ということでございますが、これは、申告等をするのに差し支えないと認められる程度の状態に復した日、この日を起算日といたしまして、国税庁長官または税務署長等が二月以内の日を延長期限の期日と指定することとしております。

 現在どうなっているかということでございますが、震災発生後、三月十五日に、青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県の五県全域をこの延長の対象地域と指定をいたしました。そして、今も継続中でございますが、一部、青森県及び茨城県、これは比較的被害が軽微と判断し、もう申告の準備ができるということで、平成二十三年七月二十九日を延長期限の期日と指定をさせていただいたところでございます。

柴山委員 まず、エリア的には、青森と茨城が今、七月二十九日という形でおしりを区切ったというか、期限を到来させたという扱いにしたんですけれども、災害救助法の適用地域を見ますと、青森は除外されていて、茨城は入っているんですよね。ですので、国税とこの相続とでエリアの不均衡、扱いの不均衡というものが生じてしまう。これは一体どのように考えたらいいのか。ちょっと通告していないんですけれども、もし説明があればお伺いしたい。

 あと、今御説明があったように、要は、申告ができる期間を終わり二カ月間延長するということですから、それは別に、既存の権利関係を、例えば時効の中断のようにフルに延長させる、例えば、相続税の申告期間がそれより長い場合には、それには全く影響しないというようなことで間違いないですか。

尾立大臣政務官 済みません、税法上の扱いだけ私の方から御説明させていただきますが、先ほど青森、茨城の両県のことの質問がございました。実は、なお書きがございまして、この二県についても、個別の申請によって、どうしても申告ができないという場合にはさらなる延長ができるということになっております。

 以上、国税の扱いでございます。(柴山委員「あとの質問に答えてください」と呼ぶ)

階委員 国税のお話だったかと思いますけれども、多分、委員の問題意識をそんたくさせていただきますと、我々の法案は、遡及効というものを設けて、一たん熟慮期間が終わったものについても復活させるとか、あるいは熟慮期間の残存期間が短いか長いかにかかわらず一律延長している、そこが国税とは違うのではないか、こういう問題意識なのかと思います。

 しかし、この点については、先ほどの繰り返しになるかもしれませんけれども、今回の震災によって状況が大きく変わったということで、私どもは一律に十一月三十日というふうに定めさせていただいたということでございます。

柴山委員 よく理解できません。

 次の質問に移らせていただきます。ちょっと先ほどの質疑の中で納得のできない質疑がありましたので、確認をさせていただきます。

 震災後の承認、単純承認でしょうか、個別の事情によるというような御答弁があったかと思うんです、その効果が。要するに、動機の錯誤に当たるけれども、その動機が表示されていないから、それが必ずしも効力を有しないというようなお話だったんですが、これは条文を読むと、明らかに、震災後の法定単純承認については、猶予、延長ですね、相続熟慮期間の延長の保護を受ける、震災後の法定単純承認であれば。要するに、相続人の債権者の保護というものは一歩後ろに下がるとしか読めないですよね。だって、これは当該相続人についても適用されると。

 発災日前の法定単純承認はこの限りではないと書いてあるわけですから、これを反対解釈すると、発災後の法定単純承認事由においては、これは法定単純承認というのは意思表示ではありませんから、要するに、事実関係に対する債権者の保護というものを優先するために、それを承認と同じように扱うというのが法定単純承認ですから、これについては、やはり、発災後にそういう事情が生じた場合は、例えば財産の処分とかそういうものは一律に、やはりもう一回相続放棄をし直すことができるというように解釈しないと、私は、法文にも適合しないし、法定単純承認のもともとの趣旨にも合致しないと思いますので、そこをちょっと確認させてください。

江田国務大臣 熟慮期間経過後に、そして本法律案の施行前に、単純承認を意思表示によって行った場合には、錯誤という問題が出てき得る。ただし、その錯誤は、その場合にはこれは動機の錯誤ですから、表示をされていなければ法律行為の錯誤による無効という問題にはならないので、そこのところの、法律が後からできて、何もしなければ、遡及適用で熟慮期間が十一月の三十日まで延びるということについて錯誤があったということが法律行為にどういうふうに影響するかということは個別の事情によるということを申し上げたのであって、法律行為の錯誤の問題を今申し上げたところでございます。

柴山委員 繰り返しになりますけれども、あくまで法律行為の効力の問題であって、この熟慮期間の延長には当然影響しない、そこは間違いないですね。

江田国務大臣 私が先ほど御説明させていただいたのは、法律行為の効力の問題です。

柴山委員 続きまして、住所の意義についてお伺いしたいと思います。

 今回の法案の文言によれば、東日本大震災におきまして、先ほど申し上げたとおり、災害救助法が適用された市町村の区域に震災時に住所を有していた者となっておりますけれども、この住所の有無の判断に住民票の登録というものは関係がないということを再度確認させていただきたいと思います。

辻委員 住民登録の有無というのは、そこを実質的な住所としているということを推測させる資料としては重要でありますけれども、民法上の住所というのは生活の本拠とするということでありますから、住民登録の有無とは関係なく判断されるということで間違いありません。

柴山委員 それでは、震災時に単身赴任をしておられた方が相続人になった場合というのはいかがでしょうか。また、介護のためにその地に滞在をしておられたというような方はいかがでしょうか。

辻委員 お答えします。

 いずれも、具体的な事情によって裁判所により判断されるということでありましょう。

 単身赴任の場合には、やはり、赴任期間の長短とか、家族のもとへの往来の頻度等の事情を勘案して判定することになりますし、介護のための滞在の場合も、その滞在期間等を勘案して判断する。いずれにせよ、個別の事案における具体的事情を具体的に判断して、裁判所により認定されるものと考えております。

柴山委員 それはいかがなんでしょうか。

 今言ったような、個別の事情によって住所かどうかを判断するというその考え方自体は私は正しいと思うんですけれども、いかなる疎明資料があればそのような住所地性というものが判断されるかということでございます。

辻委員 例えば、郵便物が届いているとか光熱費の支払いをしているとかいうようなものも具体的な判断材料でありましょうし、通勤証明や通学証明というものがその地域でとれるということであれば、それも具体的な資料として有益であります。また、近所の人とか友人、知人が、確かにそこに住んでいたとか日常生活をしていたという、例えば陳述書をとったり証言をしていただくということが具体的な判断材料となると思います。

柴山委員 しかし、先ほどの階議員の御答弁によると、そういった個別の、例えば、相続が発生したかどうかというものがわかった時期というものを判断する資料が流されてしまったから一律三カ月間にするという御説明があったわけですね。

 相続を知ったということの疎明資料はなくなっちゃったけれども、住所地かどうかということを判断する例えば光熱費等の領収書は持っているということを考えるのは、私はちょっとおかしい立論じゃないかなというように思うんですけれども、いかがでしょう。

階委員 私が今考えますに、やはり、相続を知ったかどうかというのはすぐれてプライベートなことで、なかなか自分以外に証拠資料を持っている人は少ないのではないか。

 一方で、どこに住んでいるかということは、先ほど辻委員もお答えになりましたけれども、学校であり職場であり、あるいは隣近所の人であり、周りの人から証明していただける可能性が高いのではないかということで、私どもとしては、委員御指摘の点について、特段矛盾はないのかなと思っております。

柴山委員 ひとり暮らしの方もいるでしょうし、周りの方々がみんな津波で流されてしまったというような方もいらっしゃるでしょうから、私は、それは程度問題だと思いますよ。

 次の質問に行きますけれども、これは、発災時には当該エリアに住んでいたけれども、事後的に域外の仮設住宅に避難をしたというような方々については含まれるんでしょうか。

辻委員 発災時にそこを生活の本拠としていたかどうかが判断の基準です。

柴山委員 先ほども桑原委員の方から御質問がありましたけれども、遠く離れたところに避難をされておられる方々は、今回のこういった処理についてほとんどわからないと思うんですね。ですので、それに対する周知徹底方法というものが非常に重要になると思うんですけれども、こういった域外に避難しておられる方々への周知というのはどのようにされるおつもりなんでしょうか。

辻委員 例えば、私の選挙区の堺にも、被災地の方々が約百世帯の規模で避難されておられます。ですから、全国あちらこちらに避難をされている被災者の方々には、やはり最終的には市町村で具体的に周知徹底を図る必要があるだろう。

 ですから、法務省の方でウエブサイト等々で周知されることとあわせて、先ほど桑原委員への大臣の御回答にもありましたけれども、とりわけ市町村に対してその周知を徹底させるということが重要かなと考えております。

柴山委員 くれぐれも、不都合、また救済の手が漏れないようにお願いをしたいと思います。

 私の質問は以上です。ありがとうございました。

奥田委員長 次に、城内実君。

城内委員 城内実でございます。

 本日は、東日本大震災に伴う相続の承認又は放棄をすべき期間に係る民法の特例に関する法律案について、簡単に質問させていただきたいと思います。

 先ほど、提出者の方から趣旨説明がありました。私も、さらに、五月二十六日付の日弁連の「相続放棄等の熟慮期間の伸長に関する意見書」というのも読ませていただきました。

 結論を申しますと、基本的に賛成であります。特に、震災でいまだに八千名を超える行方不明者がおりまして、被災者の方は、相続どころではなくて、生活を何とかするので精いっぱいなわけであります。しかし、相続というものは発生するわけでありまして、また、相続人の意図しない法定単純承認が物すごい数発生するおそれがあるわけですから、この問題はやはり避けて通れないというふうに思っております。ゆえに、私は、民法九百十五条で規定されております三カ月という熟慮期間は確かに短過ぎるということで、先ほど申しましたように賛成であります。

 この点に関連しまして、私は、被災地の弁護士会の皆さんが、相続で、特に熟慮期間の伸長の申し立てについて被災者の皆さんに広報活動をしているということは、非常に評価しております。

 また、先ほど江田大臣もおっしゃいましたけれども、いろいろな形で周知徹底をしたいと。この法律が通っても、被災者の方が知らなければ、何か絵にかいたもちになりますね。ですから、避難所の壁新聞とかおっしゃいましたし、ハンドブック、チラシ、法テラスの携帯電話用サイト、さらにはラジオ放送という話をされておりますけれども、あらゆる手段を使って、大臣、地方法務局という話もありましたけれども、とにかく徹底していただかないと後の祭りになってしまうんじゃないかと、私は非常に心配しているわけであります。

 しかし、この中で幾つか、既に各委員が疑問点を呈しまして、もうほとんど絞られていますが、重なるところがあるんですが、私も、憲法二十九条の関連で、熟慮期間を立法によって一律に自動的に伸長するというのは、やはり問題なしとしないんですね。相続人が一人でないケースも結構あるわけでございまして、特に共同相続者が被災地以外に居住している場合、法律はどうも適用されないようですが、そういった方々に不利益を生じさせてしまうのではないか。著しい不均衡が生じるということであります。

 例えば、被災地のAさんという方はもうちょっと熟慮して後回しにしたいけれども、被災地外のBさんは一刻も早く遺産の全部あるいは一部をお金にかえたい、そういうケースも出てくるんじゃないかと思いますし、また、他の利害関係人、特に債権者の利益を侵害するおそれも指摘されておるところでございます。

 このような観点から、憲法二十九条の保障する財産権の侵害に当たるのではないかという意見があると、これはもう繰り返しきょうお話を聞いたわけですけれども、この点についてもう一度しっかりと説明をいただきたいんですけれども、提出者の方、お願いいたします。

階委員 城内委員の質問にお答えします。

 今、共同相続人の利益、あるいは債権者の利益について、配慮が十分なのかどうかという問題意識の御提示がありました。

 共同相続人について言えば、今、例として挙げられたような、ほかの共同相続人が財産を早く換金してそれを使いたいんだというようなケースであれば、熟慮期間が延長されましても、被災地の相続人も単純承認すると思うんですね。問題は、借金を引き継いでいるケースでございまして、その場合は、他の共同相続人も熟慮期間が延長されて困るということはないと思います。

 一方、債権者の利益について、これは先ほど辻委員から御説明があったとおりでございますが、確かに、債権者としては一刻も早く弁済を受けたいわけでございまして、その利益にも配慮しなくてはいけないということはごもっともでございますが、翻って考えてみますと、そもそも相続という偶然の事情で相続人からも弁済を受けられるというふうに債権者はなるわけでありまして、偶然の利益ということをある程度犠牲にしても、これは二十九条の財産権の侵害とまでは言えないのではないかということと、もう一つは、熟慮期間が延長されて、最終的に被災地の相続人の方が相続放棄などをされたと仮にしましたとしても、もともと債権者が引き当て財産として期待していた被相続人の財産による弁済ということは引き続き守られている、このことで債権者の当初の期待は保護されているということでございます。

 あと、もう一点。これは今回の法律でも配慮しているところでございますけれども、この法律施行前に弁済などを既に被災地の相続人がしているケースでは不利益遡及の対象外としている。

 以上のような点から、憲法二十九条の財産権の侵害には当たらないのではないかと考えております。

城内委員 いずれにしましても、そういった観点から債権者の利益が侵害されたのだと主張する者が出て訴訟が多発しないことを期待しているわけですけれども。

 そもそも論で、最高裁が三月十三日付で、既に、法定期間、熟慮期間等の伸長につき弾力的な運用をするということを各裁判所へ通知したんですね。中には、こういった措置をしなくても裁判所が個別のケースで適宜弾力的な運用をすれば十分であるという、私はどちらかというと、いや、それはちょっと十分じゃないかなと思うんですが、こういった立場の方に対して合理的にちょっと反論していただきたいんですけれども、お願いします。

階委員 確かに、伸長の申し立てをして、それに対して裁判所が柔軟に対応するのであれば相続人は特段困らないのではないか。これは、言われてみればなるほどなと思うところもありますが、そもそも、生活の実態として、被災地の相続人の方々が家庭裁判所にわざわざ行って手続をする余裕があるのだろうか、こういうところから今回の特別立法は出発しているということでございます。

 したがいまして、もちろん、伸長の申し立てがあれば、裁判所に対しては、柔軟な対応をしていただきたいんですが、それはそれとして、私どもは、この立法の必要性はあるのではないかと思っております。

城内委員 時間もないので、最後に、既に指摘された、いわゆる憲法三十九条の関連の問題です。

 昨年十二月十一日に相続開始を知ったものにまでさかのぼって適用する、これについての問題が本委員会でも指摘されておりますが、日弁連の五月二十六日の意見書でも、調べてみたら、ここまでの遡及については言及していないんですが、やはりここの委員会でも指摘があったように、現行法の枠内で熟慮期間の弾力的な運用を認めることで十分対処できるんじゃないかと私は思いまして、かえって債権者から訴訟を起こされたりするような可能性が出てきて、よかれと思ってやったんだけれども非常に無用な混乱を生むようなこともありますし、この点について、提出者の方からもう一度しっかりとした説明をいただきたいんですけれども。

階委員 今委員からは、遡及効を設けることによって、債権者の利益といいますか、期待していたものが覆されてしまう、こういう問題意識を言われたと思います。

 まず、遡及効については、私どもは、これが効果を発揮する場面が二つあると思っていまして、まず一つは、震災後に相続が発生した方々、残念ながら、先ほども御指摘がありましたとおり、六月十一日までにこの法案は成立しませんでした。今、これからなるべく早く成立するとしても、肝心な三月十一日あるいは十二日にお亡くなりになって、それをすぐ知った相続人の方々については適用がなされないということになりますと、多くの方が、知らないうちに借金を相続してしまう、こういう問題があります。したがって、震災後の相続人に対して適用するためには、何としてもこの遡及効は認めなくてはならない。

 それからもう一点、震災前の方々については遡及効は要るのかどうかということでございますが、これも先ほど御指摘がありましたけれども、震災前の方々も、相続の熟慮期間が進行中に、ある日突然震災に遭ったわけであります。その前までは、別に、熟慮期間が終わったとしても、そんなに不利益はなかった方が多いと思います。なぜならば、財産もあれば借金もある、あるいは財産だけあって借金はほとんどない、こういう方も多かったと思うんですが、震災によって状況が一変した可能性があります。それまでは財産の方が借金よりも多かったという方であっても、震災によって借金だけが残ったということがふえているのではないか。そうした場合に、熟慮期間を当初予定どおり終わらせて、それでそのままにしておきますと、こういった方たちにとっても予期せぬ不利益が生じるのではないかというように考えたわけでございます。

 したがいまして、遡及効というものは必要でございまして、この遡及効を認めたとしても、債権者の利益ということはさほど害されないのではないかというふうに考えております。

城内委員 今、提出者の階委員からの答弁がありました。聞いてみるとそうかなという気もしますけれども、ただやはり、憲法の保障されている二十九条、三十九条の権利の侵害だということで訴訟が起こる可能性があると私は思うんですね。ですから、こういったことを踏まえて、まずは運用してみて、その後どう対応するかというのも考えなきゃいけないのではないかなと思います。

 もう時間がないので、これで質問を終わります。ありがとうございました。

奥田委員長 これにて発言は終了いたしました。

 お諮りいたします。

 東日本大震災に伴う相続の承認又は放棄をすべき期間に係る民法の特例に関する法律案起草の件につきましては、お手元に配付しております起草案を委員会の成案とし、これを委員会提出法律案と決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

奥田委員長 起立総員。よって、そのように決しました。

 なお、ただいま決定いたしました法律案の提出手続等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時四十二分散会


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