衆議院

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第11号 平成26年4月11日(金曜日)

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平成二十六年四月十一日(金曜日)

    午前十時一分開議

 出席委員

   委員長 江崎 鐵磨君

   理事 大塚  拓君 理事 土屋 正忠君

   理事 ふくだ峰之君 理事 盛山 正仁君

   理事 吉野 正芳君 理事 階   猛君

   理事 西田  譲君 理事 遠山 清彦君

      青山 周平君    安藤  裕君

      池田 道孝君    小田原 潔君

      大見  正君    神山 佐市君

      菅家 一郎君    黄川田仁志君

      小島 敏文君    小林 茂樹君

      古賀  篤君    今野 智博君

      末吉 光徳君    橋本  岳君

      鳩山 邦夫君    平口  洋君

      福山  守君    三ッ林裕巳君

      郡  和子君    横路 孝弘君

      高橋 みほ君    大口 善徳君

      椎名  毅君    鈴木 貴子君

    …………………………………

   議員           階   猛君

   法務大臣         谷垣 禎一君

   法務副大臣        奥野 信亮君

   法務大臣政務官      平口  洋君

   政府参考人

   (金融庁総務企画局審議官)            氷見野良三君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    深山 卓也君

   法務委員会専門員     矢部 明宏君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月十一日

 辞任         補欠選任

  門  博文君     小林 茂樹君

  菅家 一郎君     青山 周平君

  宮澤 博行君     福山  守君

同日

 辞任         補欠選任

  青山 周平君     菅家 一郎君

  小林 茂樹君     門  博文君

  福山  守君     宮澤 博行君

    ―――――――――――――

四月十日

 会社法の一部を改正する法律案(階猛君外一名提出、衆法第一五号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 参考人出頭要求に関する件

 会社法の一部を改正する法律案(内閣提出、第百八十五回国会閣法第二二号)

 会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出、第百八十五回国会閣法第二三号)

 会社法の一部を改正する法律案(階猛君外一名提出、衆法第一五号)


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     ――――◇―――――

江崎委員長 これより会議を開きます。

 第百八十五回国会、内閣提出、会社法の一部を改正する法律案及び会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案並びに階猛君外一名提出、会社法の一部を改正する法律案の各案を一括して議題といたします。

 まず、階猛君外一名提出、会社法の一部を改正する法律案について提出者から趣旨の説明を聴取いたします。階猛君。

    ―――――――――――――

 会社法の一部を改正する法律案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

階議員 ただいま議題となりました会社法の一部を改正する法律案につきまして、民主党・無所属クラブを代表して、その趣旨及び概要を御説明申し上げます。

 最近の我が国における株式会社の不祥事の実態に鑑みますと、取締役会が内部出身者のみで構成されていることによる法令遵守の不徹底がその主たる原因と考えられ、社外取締役の導入による企業統治の強化は喫緊の課題であります。

 また、経済界の現状を見ましても、日経平均株価に採用されている企業のうち昨年六月に株主総会を開催した主要企業二百社の八九%が社外取締役を導入し、社外取締役を選任している会社は東証上場会社の五四・七%に達しており、社外取締役の選任の義務化を受け入れる素地はあると言えます。

 他方、政府提出の会社法の一部を改正する法律案においては、社外取締役の選任の義務づけは見送られ、社外取締役を選任しない場合には株主総会での説明が課せられるとはいうものの、その内容は不十分であります。

 そこで、最近の我が国における株式会社の不祥事の実態に鑑み、企業統治の一層の強化を図るため、株式を上場している大会社に対して社外取締役の選任を義務づける必要があります。

 次に、本法案の概要につきまして御説明申し上げます。

 第一に、公開会社でないもの及び委員会設置会社を除く大会社のうち、金融商品取引法第二十四条第一項の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない株式会社で、同項各号に掲げる有価証券のいずれかに該当する株券の発行者であるものを特定大会社とし、特定大会社においては、取締役のうち一人以上は、社外取締役でなければならないものとしております。

 また、特定大会社以外の株式会社が特定大会社となった場合においては、当該株式会社については、特定大会社となった日の属する事業年度の終了後最初に招集される定時株主総会の終結のときまでは、社外取締役の選任の義務化の規定は、適用しないものとしております。

 第二に、株式会社の設立の登記において、当該株式会社が特定大会社であるときは、その旨及び取締役のうち社外取締役であるものについては社外取締役である旨を、登記しなければならないものとしております。

 第三に、この法律は、公布の日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行するとともに、所要の経過措置を設けることとしております。

 以上が、本法案の趣旨及び概要であります。

 何とぞ、御審議の上、御賛同くださいますようお願い申し上げます。

江崎委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

江崎委員長 この際、お諮りいたします。

 各案審査のため、本日、政府参考人として金融庁総務企画局審議官氷見野良三君及び法務省民事局長深山卓也君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

江崎委員長 御異議なしと認めます。そのように決しました。

    ―――――――――――――

江崎委員長 これより各案を一括して質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。初めに、小田原潔委員。

小田原委員 自由民主党の小田原潔であります。

 本日も、質問の機会をいただき、まことにありがとうございます。

 会社法の一部を改正する法律案については、「日本再興戦略 ジャパン・イズ・バック」でうたわれていることはもとより、世界の投資家を魅了し、安心して投資できる環境を整備するという観点からも、我が国企業が国際競争に打ちかち、また、自然な淘汰を促し、起業を促進するという観点からも極めて重要と考えます。

 しかしながら、時折、我が国企業の経営者が関与した不祥事が株主を初めとする多くのステークホルダーの利益を害し、内外の投資家をがっかりさせた事案が出ます。食品偽装ですとか、破棄するはずの材料を再利用したりとか、世間を騒がせた有名な光学会社の案件では、海外の買収事案に係る損失を隠蔽いたしました。残念なのは、多くの事案は内部告発から発覚をしたことであります。経営トップに、強い悪意というか心の弱さがありました。資質、経験から卓越した能力があるはずの経営陣よりも、現場の従業員の方が人の心、倫理があつかったということは情けない限りであります。私は、突き詰めれば、幾ら制度を改めても、経営者の職業人としての倫理と自尊心がなければ不祥事はなくならないのではないかと感じています。

 本日、私からは、組織再編等における株主の保護及び詐害的会社分割等における債権者の保護について質問させていただきます。

 まずは、会社の九〇%以上の株を持つに至った大株主、これは特別支配株主でありますが、会社を非公開にするため、これはよくマネジメント・バイアウト、MBOなどという取引に使われますが、キャッシュアウトしようとする、すなわち少数株主を追い出す場合の少数株主の保護が十分なされているかであります。

 この追い出し方には三つの手法があります。現金で買い取る、株式併合で端数を生じさせる、また、種類株式発行会社に定款変更をいたしまして全部取得条項つき種類株式を取得する。このいずれの手法をするにせよ、突き詰めれば問題は二つであります。

 一つは、株の買い取り価格が高い低いのいかんにかかわらず、株主の意思に反して株を奪われるということ。もう一つは、その買い取り価格が不当に安い場合であります。

 そうであれば、投資を続ける利益を保護することと、買い取り価格の正しさを担保するべきだと思います。

 組織再編について、事前に株主の損害を保護する手段が、略式組織再編、この略式組織再編はそもそも株主に対する影響度が軽微であるということですから、株主保護の議論に本当になじむのかというところがありますから、これを除き、なかったことを考えれば、これは大きな前進だと思います。

 さて、組織再編の根源的な問題は、利益相反的な取引だということであります。

 取締役と株主との間で利害関係がある場合、当の取締役がどう行動するべきか。取締役の善管注意義務そして忠実義務に照らして、これは会社法の三百五十五条、民法の六百四十四条に定められていると認識をしておりますが、キャッシュアウトの際に、取締役は最善の価格が実現されるように交渉するべき義務を当然負うべきだと私は思います。

 では、組織再編において、法令違反の要件の法令というものには、取締役の善管注意義務、忠実義務違反は含まれているか、教えてください。

深山政府参考人 今のお尋ねの前提から少しお話をさせていただきますが、現行法において、株主による差しとめ請求が認められている、今お話に出た略式組織再編につきまして、その要件とされている法令または定款の違反という文言、これにつきましては、会社を規範の名宛て人とする法令または定款の違反を意味している。取締役の善管注意義務あるいは忠実義務というものの違反というのはこの種のものに当たらないということで、これは含まれないと一般に解されております。

 このことからしますと、全く同じ文言ではありますが、新設する通常の組織再編についての差しとめ請求の要件である法令または定款の違反につきましても、これと同様に、取締役の善管注意義務や忠実義務の違反というのは含まれないというふうに解釈されます。

小田原委員 取締役の違法行為差しとめ請求、これは会社法の三百六十条に定められているものと理解をしていますが、この要件とされる法令違反の法令には、取締役の善管注意義務、忠実義務が含まれているのに、なぜ組織再編における法令に善管注意義務、忠実義務が含まれていないのか、理論的検証も含めて教えていただければと思います。

深山政府参考人 取締役の違法行為を差しとめる場合には、取締役がみずから負っている義務に違反をして会社に重大な損害を与えるから差しとめる、そういう制度でございます。

 今問題になっている組織再編のところでの法令、定款違反というのは、会社が組織再編をする際に従わなくちゃいけないルールに従っていないということですので、やや局面が違うために、法令、定款違反といったときの前提となる法令の内容の範囲に差がある、こういうことでございます。

小田原委員 そもそも論に戻って、もう一度考え直してみたいと思います。

 企業買収事例で世界に先駆けているということから、私たちが会社法において参考にしているはずのデラウェア州法では、取締役は、会社を経営、指揮し、裁判上の行為をする権限を持ちます。この当の取締役の権限に対して、取締役は、会社と株主に対して、信認義務、フィデューシャリーデューティーを負います。これは、注意義務、デューティー・オブ・ケアと、忠実義務、デューティー・オブ・ロイヤルティーをその重要な構成要素としますが、注意義務というのは、重大な決定をする場合に、それに先立って十分な情報収集をしたか、こういう義務であります。これに対して、忠実義務は、取締役が会社と株主の最善の利益のために行動し、取締役の利益を優先させてはならないという義務を言うと解釈します。また、注意義務よりも忠実義務の方が株主や会社の利益を保護するという観点からは重要な義務でありますから、利益相反取引の際に用いられるのは忠実義務であります。

 これらの取締役の義務違反を決定する際の基本的な判断基準というのは、最も厳しい基準では、完全な公正基準、エンタイア・フェアネス・ルールというふうに呼びます。また、最も緩い基準は、経営判断原則、ビジネス・ジャッジメント・ルールであるとされています。こっちの方は、恐らく、私はこの仕事をずっとやっているプロなんだから、素人はすっ込んでいろということではないかと思います。

 その中間的な折り合いとして、株主に対して、合理的に入手し得る最高価格、ザ・ハイエスト・プライス・リーズナブリー・アベーラブル・ツー・ストックホルダーズという、この価格を提供するレブロン義務が存在します。このレブロン・ルールは、企業買収において、もはやバイブルとなっている原則というふうに思います。

 利益相反のない場合には、取締役は通常信用できますから、基本的に、注意義務を充足していたかどうかだけが問題とされるでしょう。取締役の判断が尊重され、プロとしての経営判断原則を適用して、司法は積極的に介入しないということであろうと思います。

 しかしながら、利益相反のある場合には、会社及び株主の利益の最大化に向けて努力していないおそれがありますから、忠実義務の問題として、司法が積極的に介入し、取締役の行為準則については完全な公正基準によって審査するはずであります。

 さて、キャッシュアウトの行為は、支配株主が買い手になり、かつ、売り手の取締役会を支配していますから、自己取引的な構造でありましょう。だからこそ、厳格な基準である完全な公正基準によって審査されるのが原則ではないでしょうか。

 また、このデラウェア州法は、会社の取締役が取引の双方に立つ場合、取締役は取引について最大の誠実と最も慎重な公正さを証明しなければならないというふうにしています。

 その上で、締め出しによる合併は、完全な公正基準によらなければならない。これは、公正な取引、フェアディーリングと、公正な価格、フェアプライスをその内容とするというふうにしています。

 公正な取引であったかどうかは、取引の時期や、誰が主導で、どのような構造の取引を、どういう交渉の経緯で行ったか、取締役への情報開示ですとか、取締役と株主による承認がどういうふうに得られたかなどの事情によって判断をされるとされます。また、公正な価格、フェアプライスであったかどうかについては、私自身の前職である投資銀行などを雇って、経済学的に、またファイナンスの理論の観点から判断をされます。そこでは、会社の資産価値や市場価値、収益や将来の収益予想、その他、会社の株価の本来的な価値に影響を及ぼす全ての要素が考慮されるとしました。

 また、利益相反のある場合は事業目的基準は廃止するとも述べています。

 今のお話のように、法令の中に含まれないとするのであれば、取締役の善管注意義務、忠実義務は、株主に対しては直接向けられていないということになります。であれば、取締役は、善管注意義務、忠実義務の内容として、キャッシュアウトされる少数の株主に対し、最善の価格が実現されるように交渉すべき義務までは負わないというふうに考えられます。

 ということは、価格の当、不当を理由として組織再編の差しとめ制度を用いて締め出される株主を救済するのは困難だということでしょうか、教えてください。

深山政府参考人 先ほど申し上げたとおり、通常の組織再編についての差しとめ請求の要件である法令違反に入るのは、会社を規範の名宛て人とする法令違反に限られますので、株主に交付される対価が不相当であるということは、取締役の善管注意義務や忠実義務違反とはなり得ると考えられますけれども、会社を名宛て人とする法令違反と解することはできません。

 現行法において、株主による差しとめ請求が認められている略式組織再編の話が前提として御説明しましたが、そこでも、法令、定款違反と対価の不相当というのは別の差しとめ事由だというふうに書き分けられております。したがいまして、組織再編の対価が不相当であるということは、通常の組織再編の差しとめ請求の要件である法令または定款の違反に含まれず、このことを理由として差しとめ請求をすることはできないというふうに解されます。

小田原委員 何ともやるせない気持ちがあるのでありますが、法が善管注意義務を含まないからといって、組織再編に関して取締役が善管注意義務を果たさなくていいということになってしまったら、もう我が国の企業倫理は終わりであります。世界からの信認というような次元ではなくなるでありましょう。

 少し前向きに考えたいと思います。

 誰に経営決定権を任せるのが会社の利益の最大化に資するかという観点で見ますと、会社における株主の剰余部分の最大化を通じてグループ全体としての株主の利益を最大化する、これが取締役の忠実義務の内容でありましょう。したがって、組織再編においての取締役の行動準則としても、株主の剰余部分の最大化が、株主が受領する買収対価の最大化よりも、これは買い手の方でありますね、最大化よりも優先されるべきだということでありましょう。

 そうであれば、組織再編に関しては、会社が債務超過である場合を除いては、支配株主と買収対象会社の株主の利益が相反する場合、取締役がどういう行動をするべきかについても、あくまでも株主の剰余部分の最大化の達成のために取締役が適正をとったかどうかが忠実義務違反かどうかにおいて判断される、このように考えれば少しは救われるというふうに思います。

 さて次に、詐害的会社分割等における債権者の保護について質問をさせていただきます。

 この法案は、従前は濫用的会社分割と呼ばれてきた会社分割の濫用事例に対して、分割会社に残った債権者が、承継会社等に対して直接債務の支払いなどを求めることができる制度として創設されるものと理解をいたします。

 会社が債務超過の場合に、事業に必要な資産と取引先の債務だけを承継会社に承継して、金融機関からの借入金などを一切分割会社に残すという事案、このような会社分割が残存債権者に何ら通知をすることなく行われる事例、全く金融機関に説明せずに行う事案がふえた。したがって、詐害行為取消権や破産などの否認権の行使など、裁判例がふえていたというのが背景ではないかというふうに思います。

 法案では、吸収分割会社または新設分割会社(以下「分割会社」という。)が吸収分割承継会社または新設分割設立会社(以下「承継会社等」という。)に承継されない債務の債権者(以下「残存債権者」という。)を害することを知って会社分割をした場合には、残存債権者は、承継会社等に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができるものとする、こう書いてあります。

 さて、この要件ですが、残存債権者を害することを知って会社分割をした場合とされている、この害することを知ってという要件をどのように理解したらいいのか、教えていただきたいと思います。

深山政府参考人 今御指摘がありました詐害的会社分割に関する改正法の七百五十九条四項等にあります債権者を害するという要件は、民法上の詐害行為取消権における債権者を害するという要件を参考としたものでございます。

 そして、民法の詐害行為取消権における債権者を害するということの意味は、一般的に、債務者の財産減少行為によってその責任財産が減少することにより、債権の共同担保に不足を生じ、または既に不足している共同担保をさらに減少させ、そのために債権者に完全な弁済をすることができなくなることを言うと解されております。

 ごく典型的に言えば、当該行為、財産処分行為によって債務超過となってしまうという場合がこれに該当すると解されております。

 したがいまして、今お尋ねの改正法の七百五十九条四項の債権者を害するという要件につきましても、これと同様に解することになりまして、典型的には、分割会社が会社分割によって債務超過となる場合が債権者を害するという要件に当たることになります。

小田原委員 今の御回答でありますが、会社分割に対する詐害行為取消権訴訟の裁判例等を踏まえて解釈をしていくことになるのであれば、従来、濫用的会社分割と呼ばれてきた会社分割の濫用事例に対して、詐害行為取消権に関する民法四百二十六条と同じような規律というふうに思われますが、見解をいただきたいと思います。

深山政府参考人 確かに、要件の面では、今御説明したとおり、重なっております。ただ、効果の点において、詐害行為取消権を行使した場合には、財産処分行為自体が効力を取り消されてしまって、財産が会社へ戻ってくる。債権者はそれを差し押さえて、換価をして回収するということになります。

 今回、改正法で設けようとしている請求権というのは、承継会社の方に移転した財産と自分の債権額を限度として直接請求権を発生させるということで、より簡易な請求権を発生させるという点で効果がやや異なることがあります。

小田原委員 ありがとうございます。

 そうしますと、今までと事実認定の基準は同じだけれども、裁判を起こすことなく請求をすることができるというのが今回の改正のポイントだと解してよろしいでしょうか。

深山政府参考人 御指摘のように、民法上の詐害行為取消権の行使は裁判を起こして行使するしかございませんが、今回は、直接の請求権を認めておりますので、もちろん争われれば裁判にはなりますけれども、裁判を起こすことなくこの権利を行使することが可能になるという点も大きなメリットでございます。

小田原委員 ありがとうございます。

 ここまでは大変すっきりいたしまして、故意に会社を債務超過に陥れて、ばばを引かせるという不届き者の行為が防止されやすくなるのではないかという希望も持てるわけです。

 今申し上げました直接履行請求の制度というのは、債権者の個別回収のための制度でありましょう。一方、詐害行為取消権というのは、債権者全ての利益のため、債権者の引き当てとなる責任財産を保全するための制度でありましょう。したがいまして、個別の債権回収のための直接請求の制度とは発想が異なると思います。

 そうしますと、分割会社が破産等をしたとき、承継会社は通常の会社ですから、債権者は個別に承継会社に直接履行請求をしていいはずでありましょう。

 分割会社の倒産手続を考えますと、破産管財人などの否認権の行使と競合して、残余財産のとり合いになって、いち早く直接履行請求をした一部の債権者が回収に成功してしまった場合、破産管財人は、否認権を行使してもその残りからしか回収はできません。結局、債権者間に不平等が生じることにはならないでしょうか。

深山政府参考人 今話題になっております、分割に伴って承継会社に対して直接請求権が発生する場合、こういう場合に、破産手続が開始してしまいますと、破産手続開始後はこの直接請求権は行使できないというルールを設けております。

 もっとも、先生が今おっしゃったように、その前に自分で行使をして、その後に破産手続が始まるということもあり得ます。そうなりますと、最初に行使したことによって回収を既にしてしまった後、破産になり、残りしか、否認権を行使しても戻ってこないという事態は生じ得ます。

 ただ、現行法においても、類似の利益状況の場合が生ずることになっておりまして、やや細かな話になりますけれども、吸収分割会社がいわゆる人的分割をする場合、つまり、吸収分割の効力発生日に、承継会社の株式を剰余金の配当によって分割会社の株主に交付するというタイプの会社分割を行う場合には、承継されない債権者は吸収分割に異議を述べられるということになっております。

 この場合に、承継されない債権者が各別の催告を分割会社から受けなかったときには、今回と同じような直接請求権が発生するというのは現行制度でもございます。このときにも、否認権との競合ということはあり得るわけですが、現行の会社法は、類似の状況であるこの場合について調整規定を設けておりません。

 したがって、この点は法制審議会でも議論にはなったのですが、今言われたようなことが生じ得る、財産のとり合いというのが後発的に生じるということはあり得るということで議論になったのですが、現在も、同様の利益状況のときに、破産の否認権との調整規定を設けていないということも勘案し、また、どう調整するかが極めて技術的に困難だということもあり、結局のところ、先に直接請求権を行使する要件があって行使して回収した人が事実上優先する面があったとしても、勤勉な債権者として保護されるということでやむなしということで、特段の調整規定を置いてはおりません。

小田原委員 ありがとうございます。ただいま、先に直接請求をしてから破産手続をすることもあるというお話でありました。

 ただ、それは、債権者が一人の場合はいいですけれども、複数の債権者がいて、仮に、直接請求をしたのが一部の債権者で、先に回収が成功してから分割会社の破産手続が開始になった場合、破産管財人は、承継会社などに対して否認権を行使しても残りからしか回収ができません。やはり債権者の間で不平等が発生することにはならないでしょうか。

 また、この場合、直接請求の結果回収したその一部の方々の回収自体を否認いたしまして、残存債権者から取り戻すなどの対応がもしできるのであれば必要だと思いますが、分割会社の破産管財人がこのような否認をすることができるのか、教えてください。

深山政府参考人 今申し上げたとおり、順番が、一部の債権者に限定をしますと、一部の債権者が直接請求で自分の債権は回収して、残りにもたくさん債権者がおられる状況で破産手続が開始して、管財人が財産移転行為を否認して財産を取り戻すときには少なくなっちゃっているじゃないかと。したがって、そこで債権者間の平等が害される場合があるのではないかというのは、それは御指摘のとおりです。

 先ほどもちょっと申し上げましたが、そこの調整をどう図るかというのは現行法にもある問題で、なかなか解決が困難で、そうしばしば生ずることがないということもありまして、今はもうそこは特段手当てをしておりません。

 ただ、いろいろなタイプがありまして、否認の場合には、否認した財産移転行為で移った財産をさらに転得する、もう一回取得する、例えば、債権回収行為として代物弁済を受けるというようなことがあり得ます。否認で移った財産がさらに転々譲渡して債権回収に充てられている、こういう場合には、転得者の否認という制度が破産法にございまして、そういう場合に限っては、その要件を満たせば、財産移転行為、代物弁済行為を否認する余地がございます。

 そうではなくて、単純に収益からの回収ということになりますと、それを否認するというのは、否認というのはもともと破産者がした財産処分行為を否認する制度なものですから、その否認の対象として回収行為を捉えるというのは困難だろうと思います。

小田原委員 ありがとうございます。

 何とも切ないというか、法の整備はここまでは進んだんだけれども、やはり、仮に強い悪意と故意を持って、会社を分割させた後に破産手続をわざととってやろうという心ないふらちな経営者の行為があった場合、かわいそうな債権者同士が血で血を洗う骨肉の争いを繰り広げるというのは何とも胸が痛い限りであります。

 時間も差し迫ってまいりましたので、最後に、名経営者でいらっしゃった副大臣から、この法改正を通じて、我が国の経営者に、職業人としての倫理と自尊心を忘れず、魂のこもった仕事を続けてもらうことを促す決意がおありでしたら、お言葉を頂戴したいと存じます。

奥野副大臣 この会社法というのは、今世の中が、資本市場が非常にグローバル化している中で、世界の人から、正しい判断をして正しい投資をしてもらって満足してもらうということを考えなくてはいけない。そのために、日本の会社法ももっとグローバルな形で対応できるような形にしていかなくてはいけないんだろう、そういうことでつくっているわけであります。

 したがって、今、小田原先生の御高説をずっと伺っておったわけでありますが、大筋はやはりコーポレートガバナンスの強化というものを目的にしたものでありまして、それに加えて、やはり企業人が、しっかりとした性根を据えたグローバルに評価できるような経営をしていくということが一番の肝だろう、私はそう思っているんです。

 私のちょっと拙い経験ですけれども、少しお話をさせていただきますと、私は今から十五年ぐらい前にトップについたんですが、そのときに、日本の大企業である親会社の資本を切って、イギリスのファンドのマネーを入れて、そして私がファンドからいろいろなグローバルな標準というものを教えてもらいました。

 その大前提は、先ほどちょっと言葉にも出ていましたけれども、それまでは、私の会社も、株主のために仕事をすればいい、あるいは、従業員のために仕事をすればいいという考え方だったんですけれども、それがステークホルダーなんだということを入れかえてもらったんです。ステークホルダーというのは、単に株主だけではないし、従業員だけでもなく、そこへかかわっている多くの人たち、さらには社会全般だ、こういう理屈でコーポレートガバナンスを組みなさい、こういうことを言われました。

 そして、取締役も外部の人を、過半数とまではいきませんでしたけれども、数人入れさせてもらいました。そして、報酬委員会とか指名委員会とか、私の親会社の中には、ボーナスを自分で八割強、ひとり占めするような会社でありますけれども、そんなことではだめなんだ、やはり協力してくれた人間がしっかりとボーナスを分配できるようにするんだ、そういうようなことも含めて、やはりそういう正しい判断をできるような経営者がトップにいなくてはいけない。

 そういうことを考えていくと、ちょっと余談になりますけれども、日本の企業の中には、サラリーマン時代に、平の会社員から課長になり、部長になり、役員になり、それで社長になる、この理屈は、私は間違っていると思うんです。基本的には、社長のできる人というのは、本当に育ててくれるんだったら今言った理屈でいいんですけれども、やはりトップマネジメントというのは違った感覚を持った人であるべきだろうと思います。

 そういうような感覚からいうと、本当に今のこの会社法でいいのかというと、私は反対しますよと言ってありますから。それはそれとして、もっときっちりとした会社法にしていかないと、日本の投資市場というのは世界から評価されないだろうな、こう思っている次第であります。

 これで答えになっているかどうか、わかりません。

小田原委員 ありがとうございました。質問を終わります。

江崎委員長 次に、安藤裕委員。

安藤委員 おはようございます。自由民主党の安藤裕でございます。

 本日は、質問の機会をいただきまして、ありがとうございます。副大臣のすばらしい答弁の後にちょっと聞きにくいですけれども、早速質問に入らせていただきたいと思います。

 まず、会計監査人の選任と解任についてお伺いをしたいと思います。

 会計監査人の選任、解任、また不再任については株主総会の決議事項であって、これは今回の改正でも変更はないというふうに聞いておりますけれども、株主総会に提案をする議案の内容についての権限を取締役から監査役に移すということですけれども、その目的と従来の内容からの変更点についてお答えをいただきたいと思います。

奥野副大臣 ちまたではねじれとかと言われているらしいですが、取締役会が今までは会計監査人を決められるということで、ただし、その大前提としては、監査役会の了解をとって株主総会に取締役会が提案する、こういう理屈になっていたと思いますけれども、往々にして、取締役会が勝手に決めちゃって、監査役会の了解をとらないでぱっと出しちゃうというような会社も多々あったように思います。そういうことではやはり形骸化しちゃいますから、そういうことではなくて、今度は、会計監査人については監査役会が株主総会に提案できるようにしようじゃないか。したがって、監査役会で会計監査人を選出、案をつくって、それを取締役会を通じて株主総会の方に提案していけるように変えるということが肝だろうと思います。

安藤委員 ありがとうございます。

 これは、会計監査人の独立性を確保するという観点から、取締役から会計監査人に関する議案を決定するということについては問題があるということで、監査役会にその権限を移すというふうに理解をしております。

 それでは、会計監査人に対する報酬の決定権については取締役会に残ったままということになっております。このことについては、会計監査人の独立性を確保するということに対しての障害にならないのかどうか、それについての政府の見解をお願いいたします。

深山政府参考人 今御指摘のとおり、現行法では、会計監査人の報酬等の決定は取締役または取締役会の権限としつつ、監査役あるいは監査役会は、会計監査人の報酬等の決定についての同意権を有するのみでございます。これに対しては、これも御指摘のあったとおりですが、いわゆるインセンティブのねじれが存在するのではないか、会計監査人の独立性確保のためには、この権限も監査役あるいは監査役会の権限とすべきでないかという指摘があるのも十分承知しております。

 もっとも、会計監査人の報酬の決定ということになりますと、先ほどの選解任に関する議案の内容の決定とは異なりまして、財務に関する経営判断に密接に関連します。企業経営の資金繰り等々にも直接響く話でございます。したがって、経営に関与していない監査役や監査役会がその報酬を決定するというのはやはり適切でない面があるのではないかということ。

 また、今回の改正で、インセンティブのねじれのうちの半分ですけれども、会計監査人の選解任に関する議案の内容の決定権が、監査役、監査役会に付与されました。このこともあわせ考えますと、今後は、監査役等が会計監査人の報酬等の同意権についてもより適切に行使することが期待できるのではないか、それを通じて、会計監査人の独立性がこの報酬の面でも、少なくとも今以上に確保されるんじゃないかというようなことが考えられます。

 といったようなことで、会計監査人の報酬の決定については、現行法の規律を維持することとしているところでございます。

安藤委員 ありがとうございます。

 これについてはいろいろな意見があると思いますし、まず求められるのは、やはり公認会計士の皆さん、監査法人の皆様のモラルだと思います。このように、報酬額決定権が取締役に握られているから厳しい意見が言えないというようなことでは、やはり会計監査人としての、職業会計人としてのプライドというものが本当は許さないというふうなことだと思いますし、これは、公認会計士の皆様にぜひとも期待をして、報酬の決定権が取締役にあっても厳しい意見を言うというような業界であってほしいというふうに思います。

 それから次に、今回の会社法の改正で、社外取締役と社外監査役の要件について、従来よりも厳格化をしているということでございますけれども、今までの要件ではどこが足りなかったのか、そしてそれをどのように改善していくのか、その内容についてお答えをお願いいたします。

奥野副大臣 社外取締役あるいは社外監査役というのは、外の立場からその会社を公正に、また正確に判断をして対応させるということが機能だろうと思います。

 しかしながら、今、社外監査役という中にはややグレーなものがありまして、例えば、親会社それから子会社、それに兄弟会社というのがあります。そういう親会社とか兄弟会社が、一番下の子会社の役員になってしまうと、やはり兄弟会社や親会社のことを考えながら子会社の管理をするということになりますから、そこにはひょっとしたら立場の違う判断をしてしまうようなケースがあり得ると思います。

 そういう意味で、親会社とか子会社とか兄弟会社とかといったものは、一切それぞれが取締役を兼任するということをできないようにして、それは社外取締役とは言わない、社外監査役とは言わないというふうにしようということでけじめをつけたというのが今回の処置であります。

安藤委員 ありがとうございます。

 これもいろいろな意見があって、親会社の取締役また関係者が子会社の取締役につくということが、本当にその子会社の役に立たないのかといったら、そうじゃないケースも中にはあると思うんですけれども、今回はそれについて一定の線を引っ張って、完全に第三者、客観的に見て第三者というふうに区切っていったということだと思います。これはこれで一つの意味があることだと思います。言葉のとおり、社外というふうに受け取れるようになったという改正で、これはこれですごく意味のあることであるというふうに私も理解をしております。

 次に、親子会社に関する規定の整備の一環で、親会社の株主が完全子会社の取締役の責任を追及する制度、いわゆる多重株主代表訴訟制度というものが創設されるということになりますけれども、この制度の趣旨とその内容について、まずお答えをいただきたいと思います。

奥野副大臣 多重代表訴訟制度というのは、企業グループの頂点に位置する株式会社の株主が、その子会社や孫会社の取締役の責任について代表訴訟を提起することができる制度をいいます。

 現行法では、株式会社の株主は、当該株式会社の取締役に対して代表訴訟を提起することができますけれども、当該株式会社の子会社の取締役に対してはこれを提起できないというふうなルールになっておって、このような企業グループについては、実際に事業活動を行う完全子会社の企業価値が、その完全親会社である持ち株会社の企業価値に大きな影響を与えることになるわけであります。

 一方で、株式会社の取締役が株式会社に対して損害賠償責任を負っている場合には、株式会社の取締役とその完全親会社の取締役との企業グループ内の人的関係や仲間意識から、完全親会社が株主として代表訴訟を提起して取締役等の損害賠償責任を追及することを怠けるおそれが類型的かつ構造的に存在し、そのため株式会社の損害が賠償されないで、結果として、親会社、ひいては完全親会社の株主が不利益を受けるおそれがあるわけであります。

 そういう意味で、多重代表訴訟の趣旨は、完全親会社の株主を保護するために多重代表訴訟の制度を新設することとし、このようなおそれに対応することとしております。

 文章を読んだから、ちょっとわかりにくかったかもしれません。

安藤委員 ありがとうございました。

 そういうことだと思いますけれども、この株主代表訴訟については、誰でも株主であれば提訴ができるということになると、あらゆる株主がさまざまな理由で訴訟を頻発させるということも考えられますので、これによって会社の業務が妨げられたり、またあるいは取締役のなり手がいなくなるということも考えられます。

 こういったいわゆる濫訴の防止についてはどのような手だてがされているのか、お答えをお願いいたします。

深山政府参考人 御指摘のとおり、多重代表訴訟が濫用的に用いられるということを防止する必要があるものと思っております。

 そのため、この法律案では、多重代表訴訟の提起が、株主等の不正な利益を図り、または、株式会社もしくは最終完全親会社、親会社ですね、等に損害を加えることを目的とする場合には、多重代表訴訟の提起をすることはできないというルールを設けております。

 また、これもちょっと既にお話が出ていましたが、完全親会社等の株主が多重代表訴訟を提起するためには、一%以上の議決権または株式を有していることを要件としております。

 さらに、多重代表訴訟の対象となる取締役等の責任を、重要な完全子会社、つまり親会社から見て重要な完全子会社の取締役の責任に限定をしています。重要でない小さな子会社の役員の責任は追及できないことにしています。

 これらの要件は、濫訴の防止自体を直接目的として設けられたものではないんですけれども、機能的に考えますと、提訴ができる株主を限定し、提訴の対象たる取締役を限定しておりますので、多重代表訴訟の濫用的な提起を抑制する効果を持つことになると思います。

 以上、累々述べましたけれども、こういった措置によって、今御指摘のような点については必要な対策を講じていると思っているところでございます。

安藤委員 ありがとうございます。

 この件についてはパブリックコメントの募集もしていると思いますし、多重株主代表訴訟制度の創設については反対の意見もある程度あったと思いますが、その反対の意見について御紹介いただけますでしょうか。

深山政府参考人 法制審議会で多重代表訴訟制度の導入について検討した際には、御指摘のように幾つかの反対意見がありました。

 その主なものを紹介いたしますと、まず最初のものですが、子会社の取締役等に対する責任が適切に追及されないという問題が生じた場合には、子会社の監督を怠ったことについての親会社の取締役等の責任を親会社の株主が追及すれば足りるのではないか、こういう意見。

 二つ目ですけれども、親会社では事業部の部長クラスに相当するような子会社の取締役にも多重代表訴訟を認めてしまうと、実質的に使用人を代表訴訟の対象とするということになって不当ではないかというような意見。

 さらに、これはもう既に述べましたが、濫訴の危険がやはりあるのではないか。

 こういった反対意見が主なものでございました。

 これに対して、まず最初の論拠であります、子会社の取締役等に対する責任追及が適切に行われなかった場合について、全ての場合について親会社の取締役の責任を追及することが法的に可能かというと、なかなかそうはいかないのではないかというふうなことがまた指摘されました。

 それから、実質的に使用人に当たる人についてまで代表訴訟の範囲を拡張していることにならないかという点につきましては、これも先ほどちょっと申し上げましたが、そういうふうになってしまいますと現行の株主代表訴訟と均衡を失しますので、子会社といっても重要な子会社の役員、取締役等に限るということにして、このバランスを失わないようにした。

 さらに、濫用的な訴え提起につきましては、先ほど言ったようなルールを設けるというようなことで、反対意見への指摘も十分考慮した上で、最終的に今のような形で多重代表訴訟制度が設けられたものでございます。

安藤委員 ありがとうございます。

 今回の会社法の改正で、社外取締役や社外監査役の要件の厳格化、またあるいは株主代表訴訟、それからまた社外取締役の導入の促進など、社外から厳しく取締役の業務を監視して、そして、会社の業績向上のために適切な経営がなされているかどうか緊張感を持って業務に当たるべきであるという発想から、この会社法の改正というものが提案をされていると思います。

 また、さまざまな会社の不祥事が起きるたびに、日本の会社には社外取締役がいないからだめだとか、また、株式の持ち合いが多くてなれ合いになっていて、株主から厳しい要求がないので経営者もぬるま湯につかっているというような指摘もよくされております。

 またあわせて、今回の法改正の趣旨には、いわゆるグローバル化の進展に合わせて、日本の企業も海外のビジネスルールに合わせて成長していくべきだという考え方もあるように思います。海外の投資家、いわば海外の株主にももっと投資がしやすい環境を整えるべきであるというような考え方ですね。

 しかし、海外の投資家の要求に応えるばかりで、これで果たして長期的な企業経営がうまくいくのかということに対して、私自身は少し疑問を感じております。

 例えば、今上場企業では、自己株式を市場で買うということが解禁となりました。本来は、会社が自分の会社の株式を保有するということは理論的にはおかしいと思いますけれども、今はこれが堂々と認められております。そしてまた、四半期決算も導入をされて、短期的に利益を上げるということが特に上場企業の経営者には求められております。

 しかし、余りにもこのような短期で業績を上げることが求められたり、またあるいは株主に過度に利益還元をすることばかりを考えると、結果的には、長期的な視野に立った投資ができなくて、企業の長期的な成長にはマイナスの効果が出てしまうのではないか、そしてまた、株価の上昇とか、経理的な技術によって利益の計上をすることにたけた経営者がもてはやされて、本当の実業に寄与をするような経営者というものが育たなくなっていくのではないかということを危惧しております。

 特に、海外の投資家は、日本の将来のことや日本人の未来のことを考えて投資をするわけではありません。自分の利益の最大化を目的として、日本に対して投資を行ってくるというふうに思います。

 海外の投資家が投資をしやすいようにいろいろな基準を海外の基準に合わせるということは、今言ったような、日本の将来や日本人の未来のことよりも株価の上昇とか配当の増加というものが優先をされて、結果的に日本の将来のためにはならないのではないかということを大変に危惧しております。

 また、あわせて、今回、社外取締役の導入ということも促進されますけれども、例えば、海外ではこういうことが促進されていて、いい企業経営をされているようなイメージをよく語られますけれども、でも、海外に目を向けてみても、エンロンの不祥事があったりとか、記憶に新しいところではリーマン・ショックみたいな大きな不祥事が、そういうところを震源地として発生しているわけです。

 そういったことを考えていくと、ちょっと大きな質問で恐縮なんですけれども、今回の会社法の改正も、いろいろな、海外の基準に合わせるべきだ、いやいや、日本はこうあるべきだという意見がせめぎ合いをした結果、このような改正案が提案をされていると思いますけれども、大臣は、これからの日本の会社法のあり方、また、グローバル化というものに対する会社法の姿勢、それについてはどのような見解をお持ちかということをお答えいただきたいと思います。

谷垣国務大臣 大変難しい御質問で、私、企業経営の経験もありませんので、上手に答えられるかどうか自信がないんですが。

 安藤さんも私も、選挙区は京都ですよね。やはり京都の町にも、私の地元丹波にも、あるいは安藤さんの南山城にも、長い間続いた商家と申しますか、長い間みんなから尊敬されて立派な仕事をやってきた、そういうところがたくさんありますね。そういうところの経営は、短期的な利潤を極大化するということではやってこなかったんだろうと思います。

 三方皆よしとかいう言葉がありますけれども、要は、今の言葉でいうと、たくさんあるステークホルダー、そういった人たちの大きな利害といいますか、そういうものを背景にして、長い間の信用と足場を固めながら進んでいくことの大切さを、それぞれの続いてきた商売のおうちの家訓などでそういうことが言われている例も多いんだろうと思います。

 では、それをすぐに会社法にどう生かしていけばいいかというと、私も自信がないんですが、つまり、企業の継続的な発展、成長のためには、短期的な利益を追求するだけではなくて、長期的視野に立って利益をきちっと積み上げていく、こういう経営を行うことが重要であるのではないかと私自身は思っています。

 ただ、短期的な利害だけではなく長期的なといいますが、双方が矛盾し合う場合もあるのではないかと思います。なかなか難しい判断を必要とするのではないかと思いますが、私は、長い目で見れば、日本の会社法もそういう意味での長期をにらんだ経営ができるようなものであり、そういう長期をにらんだ経営の中で、日本で生まれた企業が国際的な信用もかち得ていくということが望ましいなと思います。

 しかし、これは企業経営をしたことのない者のたわ言にすぎないかなとも思っております。

安藤委員 ありがとうございます。

 これは、会社法の改正とあわせて企業会計の方も検討していかなくてはいけないことだと思います。特に、四半期決算とかが余りにも重視をされていくと、本当に長期的な判断というものがだんだん損なわれていくような気がいたしますし、そういったことについては、これからもいろいろな考え方で、日本の企業、日本の会社法はどうあるべきかということはまた考えていきたいというふうに思っております。

 それから、きょうはもう一つ、今回の会社法の改正とは別の論点について質問をしたいと思っております。

 会社法が新しく施行された平成十八年から、最低資本金制度が撤廃をされました。これまでの規定では、株式会社が一千万円、有限会社は三百万円という最低資本金がないと会社の設立ができずに、これが日本の起業が少ない一つの要因であるということが言われておりました。

 私自身は、新しく事業を始めようとするときに、有限会社で三百万円の最低資本金という線を引いていたのはある程度妥当な基準ではなかったかというふうに思っております。人を雇ったり、パソコンやコピー機などの事務機をそろえたり、あるいは電車に乗ったり、電話を使ったり、通信費などの営業経費を賄うためにも、そのくらいの資金は必要だと思います。

 もともと最低資本金制度が創設された目的は、債権者保護という視点があったと思いますけれども、これが撤廃された理由には、債権者保護よりも日本の経済成長のためには新規開業を促すべきという論調がまさって、結果的に最低資本金制度の廃止ということにつながっていったんだと思いますが、では果たして、最低資本金を撤廃したことによって日本の開業率が上がったのかということをちょっと調べてみたんですけれども、きょう一枚資料を配付させていただきましたが、会社法の施行が平成十八年で、新規の会社の設立の登記の件数を配ってみたんですけれども、ほとんどそんなに変わらないんですよ。

 もし、最低資本金の撤廃というものが新規開業に結びついていないということであれば、これは二つの観点からお答えをいただきたいと思いますけれども、一つは、本来の債権者保護という観点から、それともう一つは、三百万円なり一千万円なりの最低資本金があることによって資金の余裕が本来生まれて、結果としてこれが企業の経営の安定とか発展に資するという観点、この二つの観点があると思うんです。この二つの観点から、私自身は最低資本金制度というものは本当はあった方がいいのではないかというふうに思っておりますが、政府としてはこれについてどのような考えをお持ちか、お答えいただきたいと思います。

深山政府参考人 今御指摘があったとおり、最低資本金制度というのは二つの側面があって、株式会社あるいは有限会社を設立する際に少なくとも幾らのお金を出資しなくちゃいけないか、スタート時点での規制だということと、それから、企業経営していく上で、剰余金の配当をするときの配当可能額を規制するということによって一千万円の純資産を確保する、これは債権者保護に資する目的でこういうことになっていた。この二つの趣旨があったわけです。

 それで、会社法で確かに最低資本金制度を廃止しておりますけれども、債権者の保護を図るという点については、一定額の純資産の確保を図るという意味で、現在の会社法においても三百万円、これは有限会社の最低資本金を参考にしたものですが、三百万円以上の純資産がなければ配当はできないというルールという形は残っております。

 それから、一千万円の最低資本金があれば、資金的余裕が生まれて経営が安定するのではないかという御指摘もありました。ただ、これも釈迦に説法ではございますが、一千万円の資本金制度があったとしても、その額の資金が現に会社に存在するとは限らない。これは計数上の問題でございますので、この制度によって資金的余裕が生まれて経営が安定するというふうに直ちに言えるかというと、なかなかそうも言えないのではないかという気もいたします。

 もともと最低資本金制度は、それが起業の阻害要因になっているという指摘があり、また、何がしかの、何百万かの純資産がありながら、一千万円を下回っているということで資本欠損が生じてしまって配当が一切できないということが不合理ではないかというようなこと、さらに、債権者の保護は、先ほど言った三百万円という形で純資産の保持を義務づけることによって相応なレベルではないか、こんな議論が全部合わさって廃止をされております。

 確かに、お示しの資料のとおり、会社法施行後、起業数がふえているわけではないというのは、株式会社だけを見ればふえているんですが、会社全部を見ると横ばいではないか、それはそのとおりでございます。

 ただ、これは、法規制、会社法による規制がどうかということももちろん関係はあると思いますが、何といってもリーマン・ショックがこの後あって、それによる景気の落ち込みというのが非常に大きな原因になっている面もあるのではないか。現に少しずつ最近はふえているというようなこともございますので、今直ちに会社法で廃止した一千万円の最低資本金制度を復活させることが妥当かというと、そうは言えないのではないかというのが現段階での考えでございます。

安藤委員 ありがとうございます。

 今すぐに復活ということにはいかないと思いますけれども、ただ私、言ってみれば、新しく開業するときに三百万円ぐらいの資金が集められなかったら、なかなか会社としての発展というものも本来望めないんじゃないかということも、正直なところ、思います。

 それからまた、一つの親心といいますか、三百万円ぐらいの資金がないと、会社が生まれた瞬間に債務超過になるわけですよね。会社の設立費用を払った瞬間にその企業は債務超過になっていくということになります。

 やはりこれは本来の企業経営の姿としてはおかしいと思いますし、個人経営からやっと有限会社にできたよね、ある程度会社の経営がうまくいったら、今度は株式会社に進化することができたよねというようなモチベーションがあった方が、日本の新しい企業家の魂というものが本当に正しく成長していくような気がいたしますけれども、これは、すぐにこういうことができるというふうには思いませんけれども、ぜひとも今後検討していきたいというふうに思っております。

 質問を終わります。ありがとうございました。

江崎委員長 次に、大塚拓委員。

大塚(拓)委員 自由民主党の大塚拓でございます。

 本日は、これまでの審議でも明らかになってきましたように、今回の会社法の改正案は、大変多岐にわたる内容を含んだものとなっておるところでございます。

 特に、キャッシュアウト、組織再編のところ、あるいは我が国の資本市場の特性とグローバルな資本主義の収れんというものをどのように調整していくか、こういった論点は今後も継続的に検討していかなければいけない重要な課題だろうというふうに認識をしているところでございます。

 一方、会社法あるいはコーポレートガバナンスというものの本質は、先ほど副大臣の答弁にもございましたけれども、さまざまなステークホルダーが会社にはかかわっているわけでございます。こういうさまざまなステークホルダーの利益相反というものを調整していく、こういう一般ルールが会社法というものだろうと思いますけれども、今回の改正を通じてこの過程を調整することで一定の政策目的を達成していこう、こういうことが今回の改正になっているのではないか、このように思うところでございます。

 そこで、まず大臣に、今回の会社法改正の目的についてお伺いをしたいと思います。

谷垣国務大臣 会社法は、平成十七年に成立して、平成十八年五月から施行されているわけですが、会社法におけるコーポレートガバナンスに関する規律につきましては、経営者からの影響を受けない社外取締役、そういった機能を活用するとか、あるいは取締役に対する監査、監督のあり方を見直すべきである等々の指摘がされているわけです。

 それで、この指摘の背景には、日本企業では十分コーポレートガバナンスが行われてこなかった、このことが外国企業と比較して収益力の低さにもつながっているし、株価も低迷している原因となっている、内外の投資家の不信感がそこに集まってきているんだという御指摘がずっとございました。また、我が国の会社法制においては、従前から、親子会社に関する規律等の整備が不十分であるという指摘もあったところでございます。

 今度の改正法案は、こういう状況のもとで、コーポレートガバナンスを強化することによって、コンプライアンスの強化及び企業経営の効率性の向上を図る、それと同時に、親子会社に関する規律を整備していく、これを目的として会社法の一部を改正するということでございます。

 この改正によりまして、日本企業に対する内外の投資家からの信頼を高めるように持っていきたい、日本企業に対する投資が促進され、ひいては日本経済の成長につながる方向に持っていきたい、こういうことが今回の改正の目的であろうかと存じます。

大塚(拓)委員 今週も、オリンパスが信託銀行六行から損害賠償請求を求められるというようなニュースが流れておりました。こういうオリンパスあるいは大王製紙といったコンプライアンス上の問題、不祥事というものが相次いでいるために、そういうところにどうしても焦点が当たりがちなんですけれども、今大臣の答弁にありましたように、いかに日本企業の効率性を上げていくのか、収益力を上げていくのか、また、それを通じて内外の投資家の信頼を担保し日本経済の成長につなげていくか、これが実は非常に大きな柱だと思っております。

 不祥事に関連する企業、一部の企業は大変残念なことがございますけれども、大多数のその他の上場企業については、実は、こちらの方が収益力の強化、経営の機動性、こういったところに資するということがより大きな目的として会社法によって担保されるべきところだろう、このように思っているところでございます。

 そこで、ちょっと今回の会社法の改正に至る経緯を少し事務方から確認をさせていただきたいと思います。

深山政府参考人 平成十八年五月に会社法が施行されたわけですけれども、その後、実務において会社法が運用される中で改正を検討すべきさまざまな事項が生じてきたことなどを受けまして、そもそもは平成二十二年二月二十四日ですけれども、当時の千葉景子法務大臣から法制審議会に対して、会社法制について、会社が社会的、経済的に重要な役割を果たしていることに照らして会社を取り巻く幅広い利害関係者からの一層の信頼を確保する観点から、企業統治のあり方や親子会社に関する規律等を見直す必要があると思われるので、その要綱を示されたい、こういった諮問がされました。

 これを受けて、法制審議会に専門部会として会社法制部会が設置されて、検討が進められたところです。部会では、諮問後に生じた、今ちょっとお話に出たような企業不祥事なども踏まえて議論が重ねられた結果、平成二十四年の八月一日、会社法制の見直しに関する要綱案が取りまとめられまして、これが同じ二十四年の九月には、法制審議会の総会で要綱としてまとめられて、当時の滝実法務大臣に答申がされました。

 この答申を受けまして、我々民事局の方で早期に法案提出を目指して条文化の作業を進めておりましたが、当時の国会の状況や法務省が提出を予定していた他の法案との関係等から、平成二十四年の臨時国会、さらに昨年の通常国会と続けて法案の提出が見送られるということになりました。

 その間、会社法の改正につきましては、日本再興戦略、これは昨年六月の閣議決定ですけれども、この日本再興戦略で、「会社法を改正し、外部の視点から、社内のしがらみや利害関係に縛られず監督できる社外取締役の導入を促進する。」というような記載がされる。また、自由民主党の日本経済再生本部の中間提言、これは昨年五月ですけれども、こちらにおいても、「公開会社に関しては、少なくとも一人の独立社外取締役導入を確実なものとするよう、政府において年内に適切な施策を講じることを要請する。」というような記載が盛り込まれるなど、早期の法案提出が求められる状況にございました。

 こういった状況を経て、昨年十一月二十九日、会社法の一部を改正する法律案と関連整備法案を百八十五回国会臨時会に提出するに至った、こういう経緯でございます。

大塚(拓)委員 平成二十二年から平成二十四年にかけて法制審で要綱が取りまとめられてきた、こういうことでございます。

 民主党政権下でございまして、ちょうど筆頭が戻っていらっしゃいましたけれども、民主党政権下で法制審によって検討され、答申をされたことを、政権交代がその間に挟まりましたので臨時会に提出できなかった。そこに自民党のエッセンスを入れる期間としても半年ほど必要だったのかというふうにも思いますけれども、こうした経緯を経て今回の改正案ができているという意味で、民主党と自民党の、ある意味、共同作業と言えるようなところもあるのかな、こんなふうに思っているところでございます。

 今、短い時間軸の中での経緯をちょっと振り返ったわけですけれども、もうちょっと時間のスコープを広げて振り返ってみたいと思います。

 我が国においては、長くメーンバンクによるモニタリングというものを中心としたガバナンスの原理というのが定着をしてきたところだろうというふうに思っております。戦後、財閥解体などもございましたので、そういう中で、支配構造というものの流動化が非常に進みました。そういう中で、株式の持ち合いということが広まりました。

 こういう結果、株主のエージェントとしての社外取締役というものは、もちろん一部の、昔、財閥系の企業であったところにおいては相互に役員の派遣というようなこともあったわけでございますけれども、それは、本来、社外取締役に期待される役割とは少し違ったものであると考えるならば、株主エージェントとしての社外取締役というものは日本ではいなくなって、内部昇格による内部者による支配というものが確立してきた、先ほど副大臣も御指摘になられたところでございます。

 この結果として、ガバナンスは、メーンバンクが債権者の代表ということで会社をモニターして、問題が起きたときには役員を送り込んで債権の保全を図る、こういう形で機能してきたものだろうと思います。当然、債権者代表としての観点からのガバナンスということですから、なかなか収益力の向上ということにはつながっていかないということもあったのかと思います。

 それと、監査役という制度があったわけでございますけれども、長く監査役がなかなか機能しないと言われる時代が続いたわけでございます。一時は、これは昔の話でございますけれども、監査役が一年を二日で暮らすいい男と言われていたという話もあるわけでございまして、そのイメージが今も残ってしまっているのかなというふうにも思います。

 現在の監査役は全く違うということは、これははっきり申し上げておく必要があろうかと思います。しっかり機能しておりますし、特に内部統制メカニズムというものが整備をされてきましたので、こういったものにしっかりアクセスをしながら、現在の監査役は機能しているわけですけれども、世の中の認識としてはどうも昔のイメージが残っている、こういうことかというふうに思っております。

 そういう中で、メーンバンクシステムというものが、バブルの崩壊、金融危機などを経て機能しなくなってきた。そして、持ち合いも解消され、また、グローバル化というものもこの間進展をしてきたということで、これまでとは異なるガバナンスの原理というものが日本企業にも求められるようになってきたんだと思います。

 この新しいガバナンスの要求に対して適用していくというこの過程が一連の商法、会社法の改正ということであったというふうに考えているところでございます。

 ただ、実際には、変化した実情と制度の間での不整合というものが起きて、それが低い収益力につながっていたり、累次にわたる不祥事ということにもつながってきている、こういう側面があった。そういう中で、株主のエージェントという形で、新しいガバナンスの原理としての社外取締役の導入の促進ということが求められてきている、必要性が浮上してきたというのが今回の改正に至る大きなスコープでの経緯なのかなというふうに思っております。

 そういう流れの中での今回の改正案でございますけれども、ポイントは、コンプライ・オア・エクスプレーンというルールを導入したということが一つの特徴となっていると思います。すなわち、社外取締役を置かない上場企業等には、置くことが相当でない理由を株主総会で説明することを法文に明示して、そしてまた、同時に、法施行後二年で、必要があると認めるときには、設置義務づけ等所要の措置を講ずるという見直し条項も附則に盛り込んでいるところでございます。

 いろいろな議論がございました。これは法文で直接義務づけをするべきだ、こういう議論も有力説として一つあったわけでございますけれども、一方で、今回の改正案のたてつけについて、これはコンプライ・オア・エクスプレーンというルールも非常に厳格に求める部分がございますので、本改正によって事実上義務づけに等しい効果があるというふうに指摘する声も世の中であるわけでございます。

 こうしたことを踏まえて、大臣に、今回の改正案の狙い、こうしたたてつけになっていることも含めてでございますけれども、そして、これによって期待される効果といったものを御教示いただければと思います。

谷垣国務大臣 今度の改正法は、社外取締役の選任を義務づけるということにはしておりません。これは、ここまで来る議論の中で、現時点で社外取締役の選任を義務づけると、かえってそれぞれの会社の状況に適した体制の構築がうまくいかなくなるんだというような御意見がかなりあったからでございます。

 しかし、大きな流れから見まして、取締役会の業務執行者に対する監督機能を高めていく、強化していくということは必要でございますし、そのためには、社外取締役の活用ということをやはり考える必要があるということがございます。

 そこで、改正法案では、社外取締役を置いていない上場会社等の取締役に、定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明する義務を課すということとしております。これによって、その会社の個別の事情に照らして、社外取締役を置くことが相当でないという積極的な理由を説明できない会社については、社外取締役を置くということが強く促されることになっていると思います。

 また、東証、東京証券取引所におきましては、上場会社は、取締役である独立役員を少なくとも一名以上確保するように努めなきゃならないという旨の規定をことしの二月から上場規則に入れております。こういう規律は、先ほど委員もおっしゃいましたけれども、ヨーロッパ諸国で採用されているコンプライ・オア・エクスプレーン・ルールを参考としてこのようなものをつくってきたわけでございます。

 改正法案の施行によりまして、我が国の企業経営者に社外取締役を置くことが望ましいという意識が醸成されていくということを私どもも期待しております。

 改正法案では、さらに、附則に検討条項を設けまして、改正法の施行後二年を経過した場合に、この施行の結果を検証して、その結果に応じて、必要があると認めるときは、社外取締役の選任の義務づけ等所要の措置を講ずることとしているわけでございます。

 以上のようなポイントを踏まえまして、改正法案が社外取締役の選任を事実上義務づけているというような見方もないわけではございません。私も、社外取締役を置くべく企業にその選任を強く促すという意味では、そういう評価もあり得るものと考えておりますし、今までの流れを見ておりましても、かなりそういう動きが表面化しているように見ております。

大塚(拓)委員 今大臣から御説明がありましたように、日本の実情ということを踏まえたときに、さまざまな議論があったということでございます。

 制度というのは、なかなか一朝一夕に変わることはできないところがあると思います。会社法一つとってみましても、例えば、そのほかのいろいろな制度、労働システムでありますとか、背景にある家族、それを支える家族制度、社会システム、こういったもの全体が一つのセットとなって国、社会、経済というものが機能しておりますので、これを会社法のところだけ抜き出してやるということがなかなかうまくいくとは限らないという側面がある、歴史的経路依存性というふうに言うこともできるかもしれませんけれども、こうしたいろいろな社会的状況、ほかの制度との調和というものを欠くと予定どおりに制度も機能しないということになってしまうと思います。

 義務づけを直接やることが大丈夫な会社も大半だと思いますけれども、そうでない会社あるいは好ましくない会社というものが中にあるときに、それを強制しますと、それが低収益につながってみたり、モラールの低下につながってみたり、あるいは潜脱行為を呼ぶという別の問題を生む原因にもなりかねない、そういう意味で、今回の改正案、私はバランスのとれたいい改正案になっているのではないかというふうにも思っているところでございます。

 さらには、施行後二年というある程度現実的な時間軸で大きな方向づけをしている。意識改革が進むことについて期待をするという趣旨の御答弁もあったわけでございますけれども、これが事実上義務づけに等しいと評されているゆえんかなというわけでございます。

 そういう評価もある今回の改正案ですけれども、昨年、閣議決定をし、世に法案が示されたわけでございますけれども、それを受けて、実際、上場企業での社外取締役の導入状況がどのようになっているか、直近の状況を金融庁から確認したいと思います。

氷見野政府参考人 一番最近の傾向を示すものといたしまして、この三月に株主総会を終えました東証一部上場企業について見ますと、東証の直近の集計では、三月の総会を経まして、社外取締役を選任している会社の比率は六六%から七六%へ、また独立取締役を選任している会社の比率は四七%から六一%へといずれも顕著に増加しているところでございます。

大塚(拓)委員 今確認をさせていただきましたように、今回の法が示されることによって確実に意識改革というものが進み、また、実情としても特に独立取締役が四七から六一%ということで大きく増加をしているということについては、今回の改正法による意識改革というか大きな方向づけというものが一定の効果を得てきている、こういうことを示すものだろうというふうに思っております。

 これが実際にこれから施行されるに当たって、しっかり予定された機能を果たしていただかなければいけないわけでございますけれども、今回のコンプライ・オア・エクスプレーンというルールは、法文そのもののみならず、関連の省令でありますとか、ソフトローであります上場規則といったものと組み合わせで効果を発揮するようにデザインをされているところでございます。

 置くことが相当でない理由の説明を求めるわけですけれども、これが形式的な説明にとどまることでは意味がないわけでございまして、この積極的な理由というのを株主に対して合理的に、また説得的に説明をできなければいけないと思います。これを省令でどのように担保していくかというのが一点。

 それから、東証の上場規則におきましては、今お手元に資料を配付させていただいております。東証の資料でございます。

 この資料にありますように、六項目を準備するということになっております。一つ目が上場規則の改正、独立取締役の選任努力義務ですね、二つ目が独立性の要件厳格化、三つ目が上場審査における独立取締役設置に係る審査の強化、四つ目が新株価指数、これはJPX四〇〇でございますが、ここで複数の独立取締役選任を加点要素にする、五つ目がコーポレートガバナンス報告書で任意の委員会設置状況を開示する、六点目が監査等委員会設置会社への移行を促す開示面での方策、これを措置することとなっております。

 これが施行までに措置をされて、トータルで機能を発揮するということになっているわけでございますけれども、この六項目の準備状況がどうなっているかを金融庁に、また省令でどのようにコンプライ・オア・エクスプレーンを担保していくかについて法務省にお伺いをしたいと思います。

深山政府参考人 まず、法務省令の方から御説明いたします。

 この法律が成立した暁には、法務省令で、事業報告、それから株主総会参考書類においても、社外取締役を置くことが相当でない理由の記載を求めるということを検討しております。

 この相当でない理由というのは、各会社によって、またその時々の会社の状況によって異なるものでございますので、一定の例文をただ書けばいいという類いのものではございません。したがって、個々の株式会社のその時点の事情に応じて記載しなければならない旨を省令の文言として定めることによって、そういった類型的な文言の記載で足りるという誤解を招かないような工夫をすることを今検討しているところでございます。

氷見野政府参考人 東証における対応でございます。

 御指摘の項目のうち、独立取締役選任についての努力義務規定を置く、独立取締役の要件を明確化する、独立取締役設置に関しての上場審査を強化する、新株式指数の銘柄選定において複数の独立取締役が選任されていることを加点要素とするといった点については、既に実施済みでございます。

 また、これらに加え、開示面の取り組みの強化につきましても作業を進めているところと承知いたしております。

大塚(拓)委員 施行までにしっかり機能するように準備を進めていただきたいというふうに思っております。

 今、最後に出てきました、監査等委員会設置会社への移行を促すという話がありましたけれども、この監査等委員会設置会社というのは、これまでの監査役設置会社あるいは委員会設置会社に加えて、今回、第三の類型ということで新たに導入をすることとなったところでございます。

 世の中いろいろな会社があるわけでございまして、かつて、人生いろいろ、会社もいろいろというふうにおっしゃった方もいらっしゃったわけでございますけれども、成長段階だったり、業種だったり、立地条件だったり、いろいろあるわけでございます。最適解は会社によって違うということで、求められるガバナンスの水準が確保されている限りにおいて、いろいろな機関設計というものを柔軟に選べた方がいいというふうに私は思うわけでございますけれども、今回導入されるこの監査等委員会設置会社制度、これによってどのような効用を期待されているか、大臣からお伺いしたいと思います。

谷垣国務大臣 今回、監査等委員会設置会社というものを導入するわけですが、これは、取締役で構成され、かつ、社外取締役が過半数を占める監査等委員会というのを設けまして、これが監査を行うことによって、業務執行者に対する監督機能を強化していくとともに、社外監査役との重複感を生ぜしめることなく社外取締役を導入することを可能にしようというものでございまして、多くの会社で採用されることを期待しているわけです。

 しかし他方で、監査等委員会設置会社が、従来の監査役設置会社それから委員会設置会社と併存する三つ目の会社類型として導入されるということになりますと、私も、今回の答弁の準備をしながら、難しいなと思いながら実は答弁をさせていただいているわけでございまして、外国人の投資家や導入を検討している企業から、さて、今までの制度と一体どういうところが違っていて、どういうところが特徴なのかわかりにくいなというお声が出るのも、まあ無理からぬところがあるように思います。

 しかし、それは条文をしっかり読んでいただけば法律の専門家ならわからないわけではない。だから、まず、外国人投資家が監査等委員会設置会社制度をよく理解していただくように、改正後の会社法の英訳を早くつくって公表するということが大事だろうと思いますし、導入を検討している企業の理解に役立つように、わかりやすい解説等も公表していくことが必要だろうと思います。そういう制度の周知及び広報、ここは非常に努力の必要なところだと思っております。

大塚(拓)委員 御指摘のように、この制度が導入されるということによって海外の投資家から、実はもともと海外の投資家は日本の監査役制度というのがなかなか理解できない、特に、英訳すると、今オーディターということになっておりますので、これで本当にコーポレートガバナンスが担保できているかということについて、特に英米系の皆さんからすると、自分の国で採用されているガバナンス原理と違うということでなかなか理解されないということがあり、委員会設置会社というものを過去に導入したわけですけれども、委員会設置会社は委員会設置会社で日本の国情になかなか合わない、社外取締役というものが定着をしていない、あるいは、取締役というものが流動化する、いろいろな会社からいろいろな会社にプロの経営者として転勤をする、転勤というかヘッドハンティングされていくというようなカルチャーが日本ではないという中で、なかなか人材確保も難しい。ということで、委員会設置会社の導入が進まない。

 こういうことの中で、今回の監査等委員会設置会社というものが、日本の実情を捉え、なおかつ、二人以上の社外取締役が必要ということになりますので、これによって社外取締役の導入が日本企業に合った適切なペースで進んでいく、こういう効用も期待をされて導入されているものというふうに承知をしているわけでございます。

 私も、この監査等委員会設置会社、うまく制度が活用されれば、非常に日本の実情に合っていていいのではないか、こういうふうに思うわけですけれども、逆に、類型がふえたということでなかなか理解されないというところが現時点では非常に残念だなと思っているところでございますが、まだスタートをされていないという段階でございますので、今後のこの制度の周知徹底、広報、こういった努力というものが非常に重要になってくると思います。

 英訳、解説等、これから準備を進められるということで御答弁もあったわけでございますけれども、今後、この監査等委員会設置会社がしっかりと定着していくように法務省としても努力をされるということを、いま一度大臣から御答弁いただければと思います。

谷垣国務大臣 同じ繰り返しになりますが、やはり日本の会社経営の風土の特殊性もあります。

 ただ、法律ですから、そこにきちっと書いてあって、その制度の仕組みをよく理解すれば、理解していただけるだろうと思いますので、その周知、広報には意を用いてまいりたいと思っております。

大塚(拓)委員 これについては、法務省のみならず、上場規則等においてもしっかりと促進を後押ししていくということが必要だろうと思います。先ほどの六項目めでございますけれども、それも一つでございますし、また、金融庁、東証等で広報努力、投資家への理解促進ということを図っていただくことも非常に重要と思っておりますので、これについては金融庁にお願いだけさせていただきます。

 今回、この改正案が通ったとして、施行後二年で見直しということもあるわけでございます。その後の進展、どうなるかという実情をよく踏まえて、今後もさらなるコーポレートガバナンスの強化、言いかえれば、ステークホルダー間の利益相反を最適に調整して社会経済全体の効用を最大化していく、こういう会社法の体系をつくっていくために、与党としても努力をしてまいりたいと思います。

 以上で質問を終わります。

江崎委員長 次に、遠山清彦委員。

遠山委員 公明党の遠山でございます。

 きょうは与党の議員からの質問だけということでございまして、私が最後の質疑者でございます。よろしくお願いいたします。

 私の前の自民党の三名の委員からの御質問とも重なる部分もございますが、党を代表しての質疑でございますので、重なる部分については御容赦をいただきたいと思います。

 まず一点目でございますが、私ども公明党の中でも、この法案、丁寧に議論させていただきまして、結論から申し上げますと、コーポレートガバナンス強化のために必要な法改正だという結論に至ったわけでございます。

 きょうは、最初に、社外取締役の導入、けさも多くの質疑が既に交わされておりますけれども、これについてまず何点かお伺いをしたいと思います。

 私も、外部の目による監視、監督を強化するということについては基本的に賛成の立場でございます。

 まず民事局長に、一般論として、社外取締役の導入を促進することのメリットにつきまして、御見解をいただきたいと思います。

深山政府参考人 株式会社におきましては、取締役会が、代表取締役を初めとする業務執行者の選定、解職等の権限を通じて、業務執行者を監督する機能を果たしております。

 しかし、例えばその会社の従業員から取締役になった者は、それまでの会社内における人間関係などから、取締役会の決議における議決権の行使をする際にも代表取締役に対する遠慮が生ずる、代表取締役を初めとする業務執行者に対する十分な監督をすることができないおそれがございます。

 これに対しまして、社外取締役は、業務執行者から独立した立場にあることがその要件とされておりますので、代表取締役に対して遠慮をしたり、あるいは社内のしがらみにとらわれることなく、取締役会において忌憚のない意見を述べ、また、議決権の行使等をすることを期待することができると思われます。

 このように、社外取締役を置くことには、取締役会の業務執行者に対する監督機能の強化という大きなメリットがあるものと思っております。

遠山委員 ありがとうございます。

 今、民事局長から御説明があったように、独立性の強い取締役が入ることで監督強化につながるということなんですが、いろいろ関係の新聞等を読んでおりましたら、この社外取締役導入のメリット、これは法制審の中でも出てきたと思いますが、その一つとして、今は言及がありませんでしたけれども、よく、経営の透明性向上でありますとか、あるいは経営改善等による収益率の向上というものも散見されます。たまにですけれども、専門家の中には、社外取締役を導入している企業が多い欧米と日本を比較しまして、株主資本比率が倍違う、こういった指摘もあるわけでございます。

 しかし、その一方で、この質問は大臣にお伺いをしたいと思いますが、社外取締役が果たせる機能、役割には限界があるという指摘もございます。例えば、社外取締役と社内取締役では、特に社外取締役が非常勤の場合には、会社について持ち得る情報に格差があるということでございますとか、あるいは、社外取締役は、独立はしているんだけれども、他業種、他社から来た方であって、その会社の事業内容に精通していない等の理由から、余り積極的な貢献ができないケースもあり得るのではないか、こういう主張があるわけでございます。

 このように、社外取締役の限界というか、役割にかかわる少し懐疑的な見解もあることを踏まえて、それでも社外取締役の導入を推進する理由があるという点について、法務大臣の御見解を伺いたいと思います。

谷垣国務大臣 私も、極めて大物と申し上げていいかもしれませんが、ある社外取締役をしておられる方に、この議論が起こっておりますときに、社外取締役というのはどんなものでしょうかと聞いたことがあるんです。そうしたら、容易じゃありませんよ、たまにちょっと出ていって、説明を聞いて、何らかの責任を果たせといったって、なかなか担い切れるものではないというような御返事をいただきました。

 ところが、その席におられる別の方に言わせますと、いやいや、そうじゃないんですよ、こういう大物に説明をしなきゃならないと、自分の部下みたいな取締役に説明しようと思えば誰も緊張しませんよ、こういう人に説明しなきゃならないと思うと、海千山千の経営者でも相当緊張するんですよ、そこによさがあるんですという御議論もあって、なるほど、そういうものかなと思ったことがございました。

 社外取締役は、会社の業務をみずから執行するわけじゃございません。業務執行者からは独立した立場から、業務執行者による執行の状況を評価して、業務執行者の選解任を含めた取締役会の決議に際して議決権を行使する、そういうことで業務執行者を監督することが期待されているわけであります。

 こういう社外取締役の役割に照らせば、確かに非常勤が多いです、それから、必ずしも会社の状況に精通しているわけではないことも事実でしょう。しかし、全体的に見て、私は、有用な機能を果たす、これは間違いのないところではないかというふうに思っております、緊張するということも含めまして。(発言する者あり)

遠山委員 今、他の委員から、小物の社外取締役の場合、緊張しないんじゃないかという御指摘がありましたが、しかし、大臣の先ほどの御説明は、一般国民感覚でいうと一番わかりやすい御説明だったかなという意味で、評価をさせていただきたいと思います。

 大臣も結論的には有用性が高いということをおっしゃったこの社外取締役でございますが、先ほども御答弁されていましたけれども、では、そこまですばらしい、有用性の高いポジションだということであれば、なぜ今回義務づけ自体を見送ったのか、その点について御説明をいただきたいと思います。

谷垣国務大臣 これは、法制審議会の議論でも相当甲論乙駁あって、重要な検討課題として相当熾烈な議論があったところでございます。

 法制審議会の部会では、社外取締役の導入について、社外取締役に監視される立場にある業務執行者の自律性に期待することには限界があるといったようなことを理由として、義務づけに賛成する意見、それから、義務づけるとかえって会社の規模、業種、業態等に適した企業統治体制の構築を阻害する、社外取締役の導入は各会社の自由な選択に任せるべきであるというような議論がございまして、相当これは激しい対立でございました。

 その結果、これを義務づけるということは、どうもコンセンサスが得られていないなということで、法制審議会の法務大臣に対する、私に対する答申では、義務づけは盛り込まれていなかったわけでございます。

 これを踏まえまして、今度の規定は、社外取締役の選任を義務づける形にはしておりませんが、先ほど大塚委員にも御答弁したところでございますが、実質的には義務づけに相当近い形にはなっているかなというふうに思っております。

遠山委員 まさに今大臣が最後のところでおっしゃった点について少しお伺いをしたいと思います。

 今回、義務づけ自体は見送られた。ちなみに、私個人としては、義務づけを見送ったことを実は評価しております。完全に義務づける、全ての会社に業態とか規模を無視して一律に義務づけるのはいかがなものかという考えを私自身は持っておりますので、今回の改正案、そういう意味でも賛成なわけでございます。

 他方で、この改正案が国会に提出される直前に、与党、特に自民党内からの御意見を受けて修正が行われて、義務づけ自体は見送るものの、社外取締役を置かないという選択をした会社は、社外取締役を置くことが相当でない理由を事業報告及び株主総会参考書類の記載事項とすることが、これから改正される法務省令によって求められることになっているわけでございます。そのことを先ほど大臣が簡潔におっしゃったんだと思います。

 そこで、民事局長に少し答えづらい質問をあえて申し上げますけれども、この社外取締役を置くことが相当でない理由というのはどういう理由が認められ得るのか、考え方だけでも示していただければと思います。

深山政府参考人 社外取締役を置かない株式会社がどういった理由から社外取締役を置いていないのかというのは、各会社の個別の事情によって異なることだと思います。

 そこで、各株式会社で、その個別の事情に応じて社外取締役を置くことが相当でない理由を説明することになるわけですが、どういうふうに説明をすれば許容されるということをここで一概に述べるというのは、なかなか事柄の性質上難しいですし、また、それが妙に援用されて、こう書けばいいということになっているようだというのも変な話だと思います。

 ですから、一般論だけ申し上げますと、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明するわけですから、社外取締役を単に置かない理由を説明するだけでは不十分です。例えば、社外監査役が当社には二人おりまして、社外者による監査、監督としては十分に機能しておりますといったような、社外監査役、これは公開大会社は皆、社外監査役が二人おりますが、それを説明するだけでは社外取締役を置くことが必要でない理由の説明にすぎませんで、相当でないというところまでの説明になっていないというふうに思います。

 こういった点を明らかにするために、例えば法務省令で、事業報告または株主総会参考書類において相当でない理由を記載、記録するに当たっては、社外監査役が二人以上いることのみをもってその理由とすることはできないということを明文化して定めることも、現在、まだこれからのことですけれども、検討しているところでございます。

遠山委員 大臣、これは多分、施行された後に、若干、問題になるというよりも、一定程度の積み重ねが確立するまで議論にはなると思いますね。

 つまり、一応義務づけていないので、置かないという選択肢もありますよ、ただし、その場合には理由を説明してくださいということなんですが、今の民事局長のわかったようなわからないような御説明にあるとおり、置くことが相当でない理由というのを実際どう書くかというのは、これはそういう立場に置かれる会社が恐らくあり得るわけですから、少し配意が必要かなと思っている点で、あえて伺ったわけでございます。

 もう一回局長に聞きますが、ちなみに、社外取締役を置かずに、かつ、相当でない理由をしっかり説明しなかった会社に対する罰則等はあるんでしょうか。

深山政府参考人 事業年度の末日において社外取締役を置いていない上場会社等の取締役が、今回の改正後の規定に違反して、定時株主総会で、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなかったということを考えてみますと、その取締役は善管注意義務違反、善管注意義務に違反した状態ということになります。

 また、改正法案が成立した場合には、法務省令で、事業報告それから株主総会参考書類の内容としても、相当でない理由を書いてもらって、株主に開示することを検討しておりますけれども、この事業報告の記載事項である相当でない理由が書いてない、あるいは虚偽のことが書いてあるということになりますと、これは過料の制裁の対象になります。

 また、株主総会の参考書類に相当でない理由を記載しないということになった場合には、これはケース・バイ・ケースではございますけれども、手続の法令違反ということで、決議の瑕疵、取り消し事由になることもあり得るものと思っております。

遠山委員 わかりました。

 そこで、大臣に再び戻ってお伺いをしますが、先ほどちょっと申し上げたんですが、私は、義務づけには慎重な立場でございます。会社のありようも千差万別でございますし、一定の柔軟性を持たせる選択の幅があった方がいいという立場でございます。

 しかし一方で、発行する株式について有価証券報告書を提出しなければならないような公開大企業の場合は、これはより高い透明性が求められるわけでありますから、そのような会社については導入を強く促進するのは当然だという考えも同時に持っております。

 この点で、先ほど大塚委員が資料でお配りになったことと関連するんですが、こういう公開大会社のような企業は、大体上場しておりますので、ですから、法律で全て一律に義務づけるということよりも、この証券取引所の上場規制の中で社外取締役の導入を実態上義務づけるという形のアプローチが最も適切なのではないかというふうに思っておりますが、法務大臣の御見解をいただきたいと思います。

谷垣国務大臣 証券取引所の役割に対する見方というのも国によって随分違うと思うんですが、例えば、アメリカのニューヨークの証券取引所などは、上場会社は取締役の過半数を独立取締役としなければならないというふうに規定しているというふうに承知しております。ですから、法律で義務づけているのではなくて、上場に関するルールとして位置づけている。

 だから、いろいろな考え方があるわけですが、我が国におきましても、社外取締役の選任を義務づけることとした場合、その定め方については、会社法上の義務としてやる場合もあれば、そういう上場のルールの問題としてやっていくこともあり得るだろう、いろいろな選択肢は可能なのではないかと思います。

遠山委員 ありがとうございます。

 次に、これは副大臣にお答えをいただくと事前に伺っておりますが、日本の東証一部上場企業の社外取締役導入率は、現時点で大体六割、六〇%と聞いております。

 従来、経済界では、社外取締役として採用するのにふさわしい人材が不足しているという問題が指摘をされてまいりました。また、一部の企業かもしれませんけれども、先ほど来出ております、社外監査役に加えて社外取締役まで採用せよと言われると、重複感あるいは負担感がありますと、コストの問題を指摘する方もおります。

 今回の改正では、副大臣御承知のとおり、社外取締役の社外性要件が厳格化されて、親会社あるいは兄弟会社のこういう人はだめよとか、近親者はだめよとか、こういうことが厳格化されるわけでございますから、そういう観点からすると、適切な人材がいないという問題は悪化する可能性があるわけですね、今までよりも選択の幅が狭まるわけですから。

 そうなりますと、例えば社外取締役として、誰の目から見てというのはありますけれども、不適格な人物が採用されることがふえるんじゃないか。あるいは、社外取締役にふさわしい人物が限られているので、同一人物が多数の会社の社外取締役に非常勤で就任をする、そうすると、たくさんの会社の社外取締役をやっているので、結局ポストが形骸化してしまう、質が低下してしまう、こういう別の問題が起こるおそれも一部で指摘をされている。私も、多少そういう可能性はあるのかなと考えております。

 これらの点について、つまり、一つは、人材の不足、それから、社外取締役を雇いなさいと言われても、負担感がある会社があるという問題、そして、今回の改正で社外取締役の社外性要件が厳格化されるがゆえに、同じ人物があちこちの企業に社外取締役で採用されて、実は名ばかり、中身がない、こういうことになるのではないかという指摘に対してどのような御見解か、お答えをいただければと思います。

奥野副大臣 大変難しい状況だろうと思うんです。

 コーポレートガバナンスというのは、欧米の方というのは、ひな形はこれよと言ったら、もう全部一律にこれという理屈で展開されているケースが多いように思います。しかし、日本は、コーポレートガバナンスというのはこうだよと言っている環境に今まで全然なかったわけです。だから、会社法を通じて、できるだけコーポレートガバナンスがしっかりした、統治機構を持った会社をつくっていこうという方向に歩み出しているわけですけれども、今すぐ欧米人の言うような方向へ一律にやってしまうということは、全く準備が整っていないわけです。

 そういう意味で、先ほど来言われているように、社外取締役を必須条件にするというのをやめたというのは、やめたと言ったら言い方が悪いかもしれませんが、一時おりているということについては、私は正しい判断だったなと思います。

 ということは、やはり、その国の実態、企業の実態あるいは文化の状況、いろいろな策で、その国に合ったコーポレートガバナンスというものを考えた上で法文化していかないと、絵に描いた餅になってしまう、そんなことではないかなと思います。

 私は、先ほど、十五年前にこういうことをやりましたよということを申し上げたのは、あの段階は、ほとんどどの企業もそんなことをやっていなかったわけですから、よその人を取締役に持ってくるのもできたわけです。

 それからずっと時間軸で見てみると、今皆さん方が御指摘のように、足らないんじゃないかということを原点にして、社長候補だの社外取締役の候補をプールしていって、そしてそれらを供給していくというような団体もどんどんふえてきているわけです。また逆に、企業の中で取締役をやっている人たちが、別の企業、全く関係のない企業へ行って取締役をやるというケースもあるわけでありまして、これはおいおい時間が解決していくのだろうと思います。

 そういう意味で、コーポレートガバナンスをベースにした会社法、それを狙った会社法については、日本の実情に合った形で逐次直していって、最終的に、皆さん方、世界から評価される会社法につくりかえていけばいいのではないか。その間に、今御心配になっていることも全部、準備ができてくるだろうというふうに私は思います。

遠山委員 大変わかりやすい御説明、ありがとうございました。個人的に得心がいきました。

 最後の質問にしたいと思いますけれども、局長は答弁は結構でございますので、大臣に一問して終わりたいと思います。

 先ほども出ていたんですが、多重代表訴訟制度の創設が今回盛り込まれております。これについても法制審で大分反対論が激しく出た。私も個人的にそれを見させていただいて、二点、目にとまりました。

 一つは、親会社では部長クラスである子会社取締役に対して、親会社の株主が代表訴訟を起こすということは、いわば使用人に対して株主代表訴訟を起こしているような話だからおかしいじゃないか、こういう反対論ですね。ぱっと聞けば、なるほどなという、土屋理事がよくおっしゃるせりふのとおりなわけですが。そしてもう一つ、二番目の反対論は、濫訴の懸念がある。この二点だと思います。

 大臣に最後にお伺いしたいのは、実は、海外を見ますと、アメリカなど一部の諸外国には、この多重代表訴訟に相当する制度が存在するとされております。ただし、アメリカの場合は、判例法に基づいて、積み重ねて、事実上この多重代表訴訟を認めているわけでございまして、今回日本が、政府が会社法の中で制定して、制定法の中でこれを明文化するということは、海外でも余りないというふうに私は理解をしております。

 ですから、判例法の解釈で先行しているアメリカでも認めていることを、日本が法律の中で明示的に位置づけることについての妥当性について、大臣の御見解を伺って、終わりたいと思います。

谷垣国務大臣 なかなかこの説明は難しいんです。

 今、遠山さんがおっしゃったように、アメリカでは各州の判例によって多重代表訴訟が認められてきたわけですが、それ以外に多重代表訴訟という制度を設けている国はほとんどないというふうに聞いております。

 それで、なぜこういうことが問題になってきたかということですが、平成九年の独禁法、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の改正というのがありまして、持ち株会社が解禁された。また、平成十一年の商法改正で、株式交換、株式移転の制度が創設された。そういったことによりまして、持ち株会社形態や完全親子会社関係にある企業グループが多数形成されるようになってきたわけでありますが、このような企業グループにおいては、実際に事業活動を行う完全子会社の企業価値がその完全親会社である持ち株会社の企業価値に大きな影響というか決定的な影響を与えるわけです。

 他方で、株式会社の取締役たちが株式会社に対して損害賠償責任を負う場合には、株式会社の取締役とその完全親会社の取締役との間の企業グループ内の人的関係あるいは仲間意識から、完全親会社が株主として代表訴訟を提起して取締役等の損害賠償責任を追及することを懈怠するおそれが類型的、構造的にあるのではないか、そのため株式会社の損害が賠償されず、その結果として、完全親会社、ひいては完全親会社の株主が不利益を受けることがあり得るのではなかろうか。

 そこで、今度の改正法案では、我が国の現状を踏まえまして、完全親会社の株主を保護するために、こういう多重代表訴訟の制度を設けることにした。

 そういうわけでございますので、要するに、成文法上の制度として設けるのは余り先例がないことでございますので、今後どういう運用になるか、楽しみと言ってはいけませんが、我々も今後の運用をよく注視していかなければならないところだと思います。

遠山委員 大臣がまさに最後におっしゃったせりふを私も言おうかなと思っていたんですが、今後の運用次第の面がある改正点だと思っております。

 来週は野党の皆さんの質疑もございますので、しっかり当委員会でこの辺もあらかじめ議論した上で、法律が成立した後に注視をしていかなければいけない点であるということを指摘申し上げまして、私の質疑を終わりたいと思います。

 ありがとうございました。

    ―――――――――――――

江崎委員長 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。

 ただいま議題となっております各案審査のため、来る十八日金曜日、参考人の出席を求め、意見を聴取することとし、その人選等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんでしょうか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

江崎委員長 異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

 次回は、来る十六日水曜日午前十時二十分理事会、午前十時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時五分散会


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