衆議院

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第4号 平成27年4月1日(水曜日)

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平成二十七年四月一日(水曜日)

    午前十一時二十一分開議

 出席委員

   委員長 奥野 信亮君

   理事 安藤  裕君 理事 井野 俊郎君

   理事 伊藤 忠彦君 理事 柴山 昌彦君

   理事 盛山 正仁君 理事 山尾志桜里君

   理事 井出 庸生君 理事 遠山 清彦君

      大串 正樹君    大塚  拓君

      門  博文君    菅家 一郎君

      今野 智博君    白須賀貴樹君

      辻  清人君    冨樫 博之君

      藤原  崇君    古田 圭一君

      前川  恵君    宮川 典子君

      宮崎 謙介君    宮澤 博行君

      宮路 拓馬君    簗  和生君

      山口  壯君    山下 貴司君

      若狭  勝君    大串 博志君

      黒岩 宇洋君    階   猛君

      津村 啓介君    中島 克仁君

      山井 和則君    坂本祐之輔君

      重徳 和彦君    大口 善徳君

      國重  徹君    清水 忠史君

      畑野 君枝君

    …………………………………

   法務大臣         上川 陽子君

   法務副大臣

   兼内閣府副大臣      葉梨 康弘君

   国土交通副大臣      西村 明宏君

   法務大臣政務官      大塚  拓君

   外務大臣政務官      中根 一幸君

   政府参考人

   (内閣官房内閣審議官)  北村 博文君

   政府参考人

   (総務省大臣官房審議官) 橋本 嘉一君

   政府参考人

   (総務省自治行政局選挙部長)           稲山 博司君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    深山 卓也君

   政府参考人

   (外務省大臣官房参事官) 水越 英明君

   政府参考人

   (外務省大臣官房参事官) 吉田 朋之君

   政府参考人

   (水産庁漁政部長)    水田 正和君

   政府参考人

   (国土交通省海事局次長) 櫻井 俊樹君

   法務委員会専門員     矢部 明宏君

    ―――――――――――――

委員の異動

三月三十一日

 辞任         補欠選任

  ふくだ峰之君     簗  和生君

四月一日

 辞任         補欠選任

  辻  清人君     大串 正樹君

  山口  壯君     前川  恵君

  山下 貴司君     白須賀貴樹君

  鈴木 貴子君     中島 克仁君

  柚木 道義君     山井 和則君

同日

 辞任         補欠選任

  大串 正樹君     辻  清人君

  白須賀貴樹君     山下 貴司君

  前川  恵君     山口  壯君

  中島 克仁君     鈴木 貴子君

  山井 和則君     大串 博志君

同日

 辞任         補欠選任

  大串 博志君     津村 啓介君

同日

 辞任         補欠選任

  津村 啓介君     柚木 道義君

同日

 理事ふくだ峰之君三月三十一日委員辞任につき、その補欠として伊藤忠彦君が理事に当選した。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 理事の補欠選任

 政府参考人出頭要求に関する件

 船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出第七号)


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     ――――◇―――――

奥野委員長 これより会議を開きます。

 冒頭、大臣がまだ参議院の予算委員会に出席している模様でありますので、理事の補欠選任についてお諮りいたします。

 委員の異動に伴い、現在理事が一名欠員となっております。その補欠選任につきましては、先例により、委員長において指名するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥野委員長 御異議なしと認めます。

 それでは、理事に伊藤忠彦君を指名いたします。

     ――――◇―――――

奥野委員長 内閣提出、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として内閣官房内閣審議官北村博文君、総務省大臣官房審議官橋本嘉一君、総務省自治行政局選挙部長稲山博司君、法務省民事局長深山卓也君、外務省大臣官房参事官水越英明君、外務省大臣官房参事官吉田朋之君、水産庁漁政部長水田正和君及び国土交通省海事局次長櫻井俊樹君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥野委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。盛山正仁君。

盛山委員 おはようございます。自由民主党の盛山正仁でございます。

 それでは、船主責任制限法の改正について質問をさせていただきたいと思います。

 紀元前のフェニキアの時代から、地中海では帆船による海上交易が行われておりました。シェークスピアが「ヴェニスの商人」で記載しているように、海運は危険と隣り合わせであり、帰帆すると莫大な利益が得られるものの、事故に遭遇すると破産するような状況でありました。そのため、海商法という法分野や、ロンドンのロイズコーヒーショップに集まった客によって近代的な損害保険制度をつくり上げたように、海運は古くからの歴史を有しております。

 いかだや丸木舟、帆船から、産業革命による蒸気船、ディーゼルエンジンへと、船舶そして航行の技術が格段に進歩し、大船に乗った気持ちなどと形容されるように、現在の海運は安全なものとなっておりますが、それでも、地球上の気象、海象の猛威を完全に克服することは不可能であります。また、人為的なミスによる海難事故も、完全になくすことは不可能であります。

 そうであるからこそ、昭和三十二年には海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約が採択され、その後も、千九百七十六年の海事債権についての責任の制限に関する条約などが採択され、我が国は、それらを締結して、昭和五十年に船舶の所有者等の責任の制限に関する法律を成立させております。

 一方、タンカーについては、昭和四十二年には、大型タンカーであるトーリーキャニオン号がドーバー海峡で座礁して積み荷である大量の原油が流れ出す事故が発生して、昭和四十四年には、油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約、そして二年後の昭和四十六年には、油による汚染損害の補償のための国際基金の設立に関する条約が採択され、我が国でも、同じ昭和四十六年に新潟港沖で、タンカー、ジュリアナ号が座礁して積み荷の原油が流出する事故が発生したこともあり、我が国は、それらの条約を締結して、昭和五十年に油濁損害賠償保障法を制定しております。

 また、衝突その他の海難事故を防止するため、明治二十二年に海上における衝突の予防規則がワシントンで採択されて、海上での航行ルールを定めて以降、昭和四十七年に、政府間海事協議機構で、千九百七十二年の海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約が採択され、その後、数次の改正がなされております。

 我が国では、昭和二十八年に海上衝突予防法が制定され、その後、改正を行っているほか、特に船舶の航行がふくそうし、海難事故発生の危険性が高い海域における航行を規制するため、昭和四十七年に海上交通安全法を制定し、海上衝突予防法の特別法として定めているところであります。

 さて、無限責任を負わせないために船主の責任を制限することは、被害者対策の観点から問題はないのかということでございます。

 タンカー事故については、積み荷の原油の荷主である石油会社の負担によりまして国際油濁補償基金が設けられて、最大一千億円を超す相当の規模の被害をカバーするような国際的枠組みが構築されています。

 しかしながら、タンカー以外の事故につきましては、きょうも問題になっております船主責任制限法のカバーする分野でありますが、近年でいいますと、平成二十年三月五日に明石海峡で衝突事故が起こり、ベリーズ船籍の千四百六十六トンの貨物船ゴールドリーダーが沈没しました。沈没した船舶から燃料油が流出して、これは、タンカーの積み荷の油ではない、普通の貨物船の燃料油ですが、漁業被害額は約六十億円、周辺自治体の油除染経費が約十五億五千万と言われております。しかしながら、船舶の責任限度額は一億七千万円でありました。

 翌平成二十一年三月十一日には、オーストラリアでパシフィック・アドベンチャラーの事故が発生し、被害額は約二十四億円、船主責任限度額は約五億円ということでありました。

 これらの事故を踏まえ、オーストラリアなどの提案を受けて、IMOが責任限度額改正案を採択し、今回の船主責任制限法改正に至っていると承知しておりますが、明石海峡の事故を受けて、翌平成二十一年に、国土交通省に、広く関係者を集めた船舶燃料油被害の補償制度に関する検討会が設置され、平成二十三年二月に、船舶燃料油被害の補償制度に関する検討会中間取りまとめがまとめられたと承知しております。

 まず、国土交通省に伺いたいのですが、この平成二十三年の中間取りまとめ以降、国土交通省としてどのように関係各省とともに被害者救済に取り組まれているのか、そこについて伺いたいと思います。

櫻井政府参考人 お答え申し上げます。

 国土交通省の取り組みについて御質問をいただきました。

 先生御指摘の検討会におきましては、被害者救済の方策につきまして、船主責任制限条約の簡易改正手続による責任限度額の引き上げのほか、船主責任制限条約の全面改正、バンカー条約において燃料被害に特化した責任限度額の設定、そして基金制度の創設も含む複数の補償制度について検討いたしました。

 この中で、タンカーの油のような基金制度の創設につきましては、拠出を求め得る者を探しましたけれども、いずれも拠出義務を課す十分な理由に乏しく、基金創設は困難との結論に至りました。

 並行して、国際海事機関におきましては、条約の簡易改正手続に基づく責任限度額の改正に絞って検討することが決まったため、国土交通省としましては、確実に責任限度額が引き上げられるようIMOにおきまして調整に努め、今次改正が実現したところでございます。

 海運業の国際性に鑑みれば、補償制度の創設も国際的枠組みの中で取り組むことを前提とすべきと考えております。現在までのところ、今次責任限度額の引き上げ改正の採択以降、IMOに対して責任限度額を超える事故の報告はございません。

 燃料油によります被害の額が責任限度額を超える場合における被害者の救済については、本改正後もなお重要な課題であると認識しております。このため、IMOの場において、国際的な事故や制度改正の考え方について情報収集に努め、各国の動向を踏まえつつ、適切な対応をしてまいる所存でございます。

盛山委員 国際的枠組みでということは、それは理想でございます。それはそうあるべきだとは思うんですが、しかしながら、被害者への救済をどのようにしていくのか、国内的にももっとしっかり対応すべきではないか、私はそう思うわけですね。

 今回の船主責任制限法改正と並行して、来年に向けて、商法第三編海商の全面改正の作業が進められているところであります。その中で船舶先取特権についての議論をなされているわけですが、漁業者の方からは、漁業者の被害について誰に請求していけばいいのか、損害賠償については限度額が設けられている一方で、十分な補償が政府からなされていない、泣き寝入りをしろということなのか、それにしては余りに被害額が大き過ぎるじゃないか、政府は漁業者に首をくくれということなのか、こういう悲痛な声が上がっています。

 このような漁業被害に対して農林水産省としてどのように対応していくのか、お答えください。

水田政府参考人 ただいま御質問いただいた件についてでございますけれども、明石海峡での事故のように、委員御指摘のとおり、責任限度額を超えることによりまして、被害額相当の損害賠償を受けられない事態が生じております。こうした事態につきましては、水産庁といたしましても、漁業者の生計にかかわる重大なものであると認識しておりまして、漁業共済等を活用して漁業被害者への支援を行っているところでございます。

 明石海峡の事故の当時、この事故で被害を受けられました兵庫県のノリ養殖業者の方におかれましては、共済への加入率が低く、また、補償の低い契約を選択していた方が多かったことでございまして、十分に被害をカバーすることができなかったわけでございますが、現在では、兵庫のノリ養殖業者の方々の共済加入率は九割を超えておりまして、補償額の高い契約が選択されていると承知しております。

 また、平成二十一年度からは、漁業共済の対象とならない油の防除費用につきましても、国と県の積み立てによりまして一定の補填を行う仕組みを設けたところでございます。

 今後とも、水産庁といたしましては、関係省庁、関係団体と連携しつつ、漁業共済の加入促進に努めまして、こうした制度の活用によりまして、漁業者への影響軽減にしっかりと取り組んでまいりたいと考えております。

盛山委員 漁業者だけではなくて、油除染対策を講じた兵庫県などの地元地方公共団体からも、政府が責任の限度を設定するなら政府が満額の賠償をすべきである、油防除措置の二分の一については、国交省所管の外国船舶油等防除対策費補助金が補正予算措置されたところであるが、地方負担の二分の一は、特別交付税措置を行うとされているものの、交付額全体の中に含まれていると整理されているのか、明確に個別の措置状況が示されていない、こんなふうな声が私にも寄せられているところであります。

 地方公共団体の被害に対して総務省としてどのように対応していくつもりでしょうか。

橋本政府参考人 お答えいたします。

 船舶事故により燃料油が流出し、その除去を地方団体が行った場合、除去費用を船舶所有者等に請求することになりますが、船主責任制限法により、船舶所有者等が負う責任が制限されております。結果として、地方団体に財政負担が生じることがございます。

 このような地方団体が実施する油の除去費用につきましては、一定の要件のもと、先生御指摘されましたように、国土交通省所管の国庫補助事業、これは補助率二分の一でございますが、その対象とされております。

 総務省といたしましては、国庫補助事業に伴う地方負担分、また、補助を受けずに地方単独事業で実施した場合の地方負担分につきましては、特別交付税措置、これは県分が五割、市分が八割、これを講じているところでございます。

 なお、平成二十年に発生いたしました明石海峡における事故におきましても、関係地方団体が油の除去に要した費用、これは十五億円かかっておりますが、国庫補助金が七億円支出され、残りの地方負担分につきましては、特別交付税を五億円、措置いたしております。

 今後とも、関係省庁と連携を図りながら、引き続き適切な地方財政措置を講じてまいります。

盛山委員 今お答えでございますけれども、兵庫県、地元ともよくお話をしていただきたいと思います。どうも、ちょっと認識の差があるように感じられてなりません。

 それから、水産庁さんのお話も、共済制度でカバーできるじゃないかというお答えでありましたけれども、それはどうなのかなと思います。やはり、被害が起こったときにどのようにそれをカバーしていくのか、自主的な共済制度でということとはまた問題の質が違うんじゃないかと私には考えられます。

 さて、最後に大臣に伺いたいと思うんです。

 昭和五十年に、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律が昭和五十年の法律第九十四号として、そして油濁損害賠償保障法が同じ年の法律第九十五号として、双子の法律として制定されているわけです。

 船舶の所有者等の責任の制限に関する法律は、民法の特例法として法務省が所管しておられるわけですけれども、残念ながら、法務省が海運と海難事故の実態についてしっかり把握しておられるとはなかなか思われないところでもございます。船舶油濁損害賠償保障法を所管する国土交通省等他の省庁とよく御相談されて、被害者救済に万全の措置をとられるようお願いしたいと思います。

 国際条約の改正に伴う国内法の改正という機械的な扱いではなく、一旦海難事故が発生した場合の第三者被害、特に環境被害や漁業被害等の被害者対策にしっかり取り組んでいただきたい、こう願うものであります。

 政府としてどのようにされるのか。昭和四十七年五月に衆議院の交特委で附帯決議が、そして同年六月に参議院交特委で附帯決議がなされております。また、先ほどの平成二十三年の国交省の中間取りまとめにどのように政府全体として対応されていくのか。商法改正の船舶先取特権の改正内容を含め、政府の考えを伺いたいと思いますし、法と政治は被害者を救済するためにあるのだという認識を政府全体で共有していただけるように、上川大臣、ぜひ御指導いただきたいと考える次第です。

上川国務大臣 過去にも海難事故によりましてさまざまな被害があったということで、それにふさわしい体制あるいは法制度のあり方ということについて御指摘がございました。

 今回の改正によりまして、船主責任制限法におきまして責任限度額の引き上げがなされた後におきましてもなお、漁業被害等の額が責任限度額を超える場合における被害者の救済は大変重要であるというふうに思っております。

 先ほど国土交通省からは、国際的な事故あるいは制度改正の考え方に関する情報収集に努めた、そして外国の動向を踏まえながら対応していくという答弁がありましたし、また、農林水産省もさまざまな取り組みをしているということでございます。

 国際的、国内的な救済措置等がございますので、政府全体として適切な施策をとるべく、頑張っていきたいというふうに思っております。

盛山委員 ありがとうございました。

奥野委員長 これにて盛山君の質疑は終了しました。

 次に、黒岩宇洋君。

黒岩委員 民主党の黒岩宇洋でございます。

 それでは、船主責任制限法一部改正について御質問をさせていただきます。

 今の議論にもあったように、この条約の目的は、そもそも海難事故というものは大変甚大なる損害を生じる、それを全て船主に責任を負わせるということになると、確かに、海上企業に参入する、この参入の萎縮効果が働いてしまう、何とかそれを防止しようと。さらには、海上企業を保護しようという観点からこの条約が採択された。このように認識しておりますし、その目的には合理性があると思っています。

 ただ、悩ましいのは、やはり船主の責任を制限すればするほど、逆に、被害者の救済、保護が手薄になるという、これはまさに見合いの関係になって、利益とすれば相反する、二律背反するわけですから、この微妙なバランスのもとにこの条約そして国内法が成り立っているという観点から、総論について何点かお聞きし、その後、各論について二点ほどお聞きをしたいと思っております。

 まず総論なんですけれども、今の責任限度額、今回、九六年改正時に比べて、二〇一二年改正では一・五一倍に限度が引き上げられる。七万トンクラスの物損、人損ですと百二十五億円から百八十九億円に上がる、このような目安になっておるんです。

 ここでお聞きしたいんですけれども、まず、船主の側から見てみましょう。船主の側が、では、一・五一倍といったものを妥当と考えられるのかどうか。

 具体的には、船主は五割増しの損害賠償を払うわけではありません。現実には、P&I保険という、船主同士がお金を出す船主責任相互保険組合というものがありまして、結局は、そこに対する保険料がどう上がるのかということが船主にとって自分の直接の持ち出しになる。

 過去の改正においては、大きなものですと六倍程度引き上げられたこともあるわけですけれども、今回の一・五一倍の限度額の引き上げによってこのP&I保険の保険料というものが引き上げられると見込まれているのかどうか、この点についてお答えください。

深山政府参考人 船舶所有者は、今御指摘のP&I責任保険に加入しているのが通常でございます。今回の改正の影響について複数の保険事業者に伺いましたが、責任限度額を超えるような事故の発生が割合的に極めて少ないということもあって、この改正で直ちに保険料を引き上げることは予定していないというのが見込みでございます。

黒岩委員 そうなんですよね。今回の改正によって船主側の負担は当面は上がらない、こういうことなんです。逆に言えば、このP&I保険自体にまだ余裕があるという状況なんですね、今言ったように責任制限の申し立ての件数が大変限られていますから。

 では次に、被害者側から見てみましょう。果たしてこの一・五一倍というものが被害者にとって妥当な数字なのか。これはなかなか難しいんですよね。

 私、こういう観点でお聞きしたいんですよ。これは法務省にも確認しましたけれども、過去十年間、直近ですと平成二十五年までなんですけれども、船主が責任制限事件として裁判所に新しく申し立てた件数というのがこの十年間で三十二件です。平均、年三件ですね。ですから、余り多くない。直近だと、二件、二件、二件ぐらいだったと記憶しています。

 それで、お聞きしたいんですけれども、被害者側からすれば、一・五一倍になって、では、いざ自分が被害を受けたときにどれほどカバーできるのか。これは、将来のことはもちろんわかりません、海難事故の規模はわかりません。ただ、知りたいのは、少なくとも過去十年の三十二件、これが、責任限度額は設定されているわけですから、それを総被害額が一体どれほど上回っているのか、これをお聞かせいただきたい。これは、民事局長、お願いします。

深山政府参考人 今御指摘のあった件数はそのとおりでございますが、それぞれの事件について、責任限度額と被害額、損害賠償額とがどれほど乖離していたのかということについての統計的なデータを持ち合わせておりませんので、数字的なところはわかりかねます。(発言する者あり)

黒岩委員 そうなんですよ。それが大問題だと思っているんですね。

 例えば、この後の燃料油についての質問の中に入ってくるんですけれども、この燃料油については、先ほどのP&Iの、主要な十三のP&Iを集めたP&Iの国際グループが、燃料油による被害の件数は二〇〇〇年から二〇〇九年の約十年で五百九十五件としっかりと数字を出して、そのうち責任限度額を超えた事故が八件あったと。

 しかも、その一件ずつにおいて、限度額の何倍かというのを出しているんですね。実は、明石の事故が三十三・五倍。これは、五十二億円ととるか、先ほどの盛山委員のように六十億ととるかによって変わりますけれども、五十二億と捉えた場合は三十三・五倍であると。他の七件は一・八倍から四・三倍なんですね。

 そうすると、今回、一・五一倍になれば、全てをカバーできるのはこの八件のどこにもないんですけれども、例えば一・八倍だった事件だったら、一・五一倍ということは、ああ、総被害額の八割までは負担できるんだな、こういうイメージが湧くわけですよ。

 そして、重要なことは、いかに条約を受けた国内法とはいえ、我が国で法律をつくるわけですから、立法事実を積み上げなければ、国内法の改正などというものは議論ができないじゃありませんか。

 その点について、大臣、今、私は平易な言葉で説明しているので、十分に御理解いただけていると思います。決して事務方の必要はありません。今言ったように、大事な法改正を議論するときに、被害者側にとってこの一・五一倍が妥当かどうかを判断する、このことを立法事実として説明する責任があるんじゃないですか。大臣、その点についてお答えください。

上川国務大臣 先ほど委員から、責任限度額の引き上げに際しましては、被害者の保護と船舶の所有者の保護との均衡が重要であるというふうな御指摘がございましたけれども、そのとおりであるというふうに思っております。

 今回の責任限度額の引き上げにつきましては、IMOにおきましての審議を経た上でということで、前回の改正時からの物価上昇分を踏まえて一・五一倍という引き上げ率が決定されたというふうに承知をしているところでございます。

 被害者の保護と船舶所有者の保護との均衡の観点ということで審議がなされたというふうに聞いておりまして、今回の法改正におきましても、このような考え方に沿った形でつくっているということでございます。国際条約の改正に合わせたものということでございます。

 先ほど来お話がありました賠償責任保険につきましては、さまざまなヒアリングをいたした結果、最終的には直ちに保険料の引き上げには至らないということもございまして、そうしたことの判断の中で今のような状況に至ったというふうに思っております。

黒岩委員 大臣、それは私、前段の部分で説明したでしょう。条約締約国とすれば、各国の物価の案分によって一・五一倍と決めたら、その一・五一倍は動かせないことぐらいはわかっているし、そのことを説明しました。

 ただ、国内法を改正するに当たっては、被害者となり得る人たちに対して、国内法の立法事実として、それはある程度の統計をもってその説明をする責任があるでしょうと言っているわけですよ。その責任についてどうお考えか。ペーパーは要らないですよ、書いてありませんから。お答えください。

奥野委員長 上川大臣、できるだけ短く。

上川国務大臣 今回、国内法の改正についてお願いをしているところでございますが、あくまで、国際条約の中で日本の国の責任を果たす、そういう枠組みの中でのものであるというふうに思っております。

 先ほどの損害につきまして、責任限度額以上の漁業的なもの、あるいは被害があるということにつきましては、対応についてはそれぞれ検討しておるところでございます。

黒岩委員 さっき盛山委員もおっしゃいましたよね。条約の改正に伴う国内法の改正ということだけにとらわれず、関係者には大変重要な影響を及ぼすわけですから、真摯な議論をしましょう。

 ということは、少なくとも所管省庁である法務省としてしっかりとしたバックデータもとり、だって、いいですか、私が言うのもなんですけれども、実務的には、さっき言った責任制限の申し立てがあれば、その裁判が起これば、まず裁判所は何をするかというと、損害賠償を請求する被害者が複数いる、その複数について、一人一人の損害額を確定させなきゃいけないんですよ。確定させた額が責任制限額よりも多い場合は、例えば被害額が百億で制限が五十億だとすれば、この二分の一を各被害者に案分して掛けて分配する、こういう作業を行っているわけですから、今言った、年三件の、二十五年なら二件の責任制限の申し立てについて、被害額と制限額の乖離がどれだけだったか、これを調べることは、実務上至極簡単なことだし、やろうと思ったら一日、二日でできる話なんですよ、確認すればいいだけなんですから。それを怠りながら今この法務委員会の場に挑んでいるということ自体がいかに問題であるかということだけはよく御認識してください。条約だからということで軽んじているんだったら、こんな議論は必要ないですよ。そのことはよく御認識ください。

 では、次に移りましょう、もうこれは時間がかかっちゃうので。

 次に、国際裁判管轄についてお聞きいたします。

 これは、基本的には、船籍のある国、いわゆる旗国ですね。次に、締約国の領海内で事故が起きると、その締約国において裁判管轄が認められる。もう一つ、用船、すなわち、日本の海上企業が使用している船の場合だったら、日本企業は我が国に対して裁判を申し立てる、裁判管轄権がある。基本的にはこの三つだということでお聞きしておるんです。

 これを前提に、では、一つの当てはめですけれども、公海において、公海ですから、これは先ほど言った締約国の領海内ではございません。そして、では、日本としましょう。日本の国の船、これはほとんど用船ですから、日本の船が締約国でない国の船と事故を起こした、こういうケースがあったとしましょう。

 この場合に、今申し上げたとおり、日本の船主、海上企業は、日本の裁判所に責任制限の申し立てはできます。ただ一方、事故に遭った側は、当然、自国の裁判所に損害賠償請求をするわけですよ。その場合、これは損害賠償請求を起こした国での裁判でありますから、その国の国内法にのっとってこの裁判は進められるわけです。そして、結果として、日本で起こした責任制限の申し立ては何の効力も発揮しない、何の効力も持たないということになるんです。こういうことです。

 私の問題意識は、その場合、今言ったように締約国でない国のルールにのっとるわけですから、そのルールいかんによっては物すごく船主に責任の負担がかかる場合もある。逆の場合もあるらしいですね。アメリカなどは、まあ、余り細かいことはやめた。今言ったように、不利になったり有利になったりする、すごく不安定な状況になるわけですよ。

 そこで、お願いは、我が国、海洋大国日本として、今までも、IMO、国際海事機関に対してもさまざまな主張をしてきたわけですから、今、締約国というのは四十九カ国一地域、しかも、米国や中国や韓国は入っていないわけです。ですから、非常に不安定な状況になっていることは、海洋大国日本としては、やはり非常にまずい現状であるわけです。

 ですから、IMOに対して、やはり締約国をふやす、それを日本が主導権を持ってどんどん進めていっていただきたい。このことについて前向きな御答弁をお願いいたします。

奥野委員長 先にちょっと……(黒岩委員「いや、いいです。こんなもの、民事局長の答える話じゃない」と呼ぶ)えらい細かい話だから、ちょっと一回……(黒岩委員「全然細かくない」と呼ぶ)事実をちょっと言ってよ。それで、わかった上で答えた方がいいと思うよ。

 どうぞ、民事局長。

深山政府参考人 今委員が例に挙げましたアメリカ、あるいは中国、韓国という我が国と結びつきの強い国がこの国際条約の締約国でないのは御指摘のとおりです。

 これらの国々に対して国際条約の締結を促すべきかということは、外交政策的な判断に属することでもあり、法務省として外交政策をどうするべきかということをお答えする立場にはないと思いますが、ただ、国内の船主責任制限手続を所管している立場からして、国際的な制度の協調がされていくこと、これは一般論として望ましいことだというふうに考えております。

黒岩委員 それは、IMOに実際に行っているのは国交省の人間でありますしね。ただ、もちろん外務省の職員として出向して行っているわけですけれども。

 ただ、今言ったように、私が申し上げているのは、所管する法務省としても、政府全体としてもということに対して、局長が前向きな答弁、本当は大臣にしてほしかったんですけれども、前向きな答弁をいただきましたので、これで終わりにしますよ。

 では、各論に行きましょう。

 まず一点目は、この制限条約は、物損においても人損においても同じく制限がかかるというものになっています。ただ、人的な部分については、私の考えでは、やはり補償を手厚くしていくべきなのかなと。

 そこで、お聞きしたいんですけれども、まず、全体に被害者保護の流れが、これは我が国の商法と言ってもいいし、条約を前提として商法が変わってくるわけですけれども、もともとは商法の委付主義として、なかなかなじみがないですけれども、委付主義というのは、簡単に言えば、これは、原則は無制限の原則ではありますけれども、実際には、事故を起こしたときには、例えばその船及び運送賃とか、要するに現物を限度にして相手に補償する、こういう委付主義という概念があったわけですけれども、これが一九五七年の条約制定によって、我が国も、金額責任主義、すなわち、トン数に応じて上限額を決める、こういう金額責任主義という考え方に変わってきた。

 これは、被害者救済、保護には手厚くなったという理解でよろしいですね。イエスかノーかでお答えください。

上川国務大臣 損害のタイプによりまして差があるということでございますので、イエスになるケースもあれば、ノーになるケースもあるというふうに思います。

黒岩委員 ケース・バイ・ケースだということはわかっているんですけれども、これは法務省に聞いても、当然、今言ったように、国の法律の考え方でも、被害者救済、保護に手厚い方に流れている。現状としても、ケース・バイ・ケースだって、確実に手厚くなっていますよ。委付主義などというものに比べたらはるかに手厚くなっていますよ。

 では、条約において、今言ったように、被害者救済、保護全体ではなく、人的な保護について、私はちょっと経過を申し上げます。

 一九五七年の条約制定時において、内航旅客船、すなわち国内の船の旅客においては、基本的には条約は、全ての物、人に制限をかけなさいという条約ですから。ただ、条約にオプションとして、今言った内航旅客船においては制限がないというオプションをつけました。

 次に、九六年改正のときには、内航船だけじゃ足りないよ、すなわち、内航船だろうが外航船だろうが外国籍であろうが、自船に乗っている旅客においては制限を取っ払うということを、日本が主導して、条約も改正されましたし、二〇〇五年の国内法改正でもこうなりました。

 ですから、世界の条約の流れは、人的補償については手厚くしている流れだ、この理解でよろしいですね。

上川国務大臣 そのように理解をしております。

黒岩委員 そこでまた、この人的補償がどのくらいが妥当なのかというのが、さっき言った悩ましい問題なんですけれども、では、今度は我が国の他の法制度と比較してみましょうか。具体的に言うと、損害賠償額に上限を設けられている法律、制度が我が国には四つあります。いいです、私が答えますから。

 一つは商法。これは、陸上、海上の運送に対して五百八十条と七百六十六条に規定されていて、今言った運送品に対しては、その運送品の価格を上限としています。

 二つ目、これは法務省の管轄ですね、国際海上物品運送法。これは、今も言ったように、国際海上で運送される運送品に関して、一個について十一万円または一キログラム当たり三百三十円のうち高い方を選べるという、これは宝石だったら十一万じゃどうしようもないなと思いますけれども、こういう上限がかかっています。

 三番目、これからが重要なんですね。今、我々は船の話をしていましたけれども、では、飛行機はどうなんだと。これは、国際航空運送についてはモントリオール条約によって規定されている。これは日本の国会でも承認されましたが、モントリオール条約の規定自体が非常に詳細であるがために、これは法務省も関与して、今、その規定のまま運用されています。そして、その上限額というのは一キログラム当たり三千二百円だと。すなわち、飛行機についてはモントリオール条約がそういった制限をかけている。

 そして四つ目は、今度は鉄道です。これは国交省所管ですけれども、鉄道営業法。これについては、これも運送品に限り一キログラム当たり四万円の制限をかけている。

 私が申し上げたいのは、物に制限をかけていることを強調したいのではないんです。どの法律も全て、人には制限をかけていない、無制限なんですよ。人には全部無制限。

 そこで、大臣、お聞きしたいんですよ。法律がどうとかじゃなくて、今言ったように、飛行機や鉄道だと人には制限がかからないんだけれども、船の場合は、自船の旅客と自船の乗組員以外ですと、人がどんなに被害を受けようが、上限がかかってしまう。このことは、不均衡であり不合理であるとはお考えになりませんか。

上川国務大臣 物的損害、人的損害、特に人的損害について責任限度額はかけないということについての流れについては、そのような方向性というのは非常に大事だというふうに思っています。

 今、先ほど来のお話ですと、自国船の旅客に対しては制限をかけない、しかし、そうでない場合については国際条約でかけているということでございますので、そういう意味では、全体として大きな損害が発生するときの対応については、海難事故については今のような制限が課されているということについて、これから海事関係の条約の中でもいろいろな議論があろうかと思いますが、そのことは非常に大事なことだというふうに思っております。

黒岩委員 済みません、私の理解力不足なのか、私の質問に対して答えていらっしゃるように私にはどうも聞こえないんですが、簡単に、今言った、鉄道と飛行機に対して、船だけに制限がかかっているということに対して不均衡だと思わないんですか、大臣。

上川国務大臣 船の場合に特殊で認めるかどうかということだと思いますけれども、人的な……(黒岩委員「そうじゃない、不均衡じゃないかと言っているんです」と呼ぶ)

 船の場合には特殊な事情があるというふうに思っております。

黒岩委員 どんな事情ですか。

上川国務大臣 条約上の議論の中で、自国の運航する船舶の旅客の人数については予測可能である、しかしながら、他の船舶の旅客の人数については予測ができない、その人的損害の賠償のリスクについて把握することはなかなか難しい、こういう実務的な問題もございまして、今のような対応になっているというふうに思います。

黒岩委員 今のは聞いていますよ。でも、鉄道も飛行機も一緒でしょう。飛行機だって一緒でしょう。小型セスナが大型旅客機とぶつかる可能性もあるでしょう。船だけ特段の事由なんかありませんよ。しかも、今言ったように、責任制限の上限を超える例なんていうのは本当に限られているわけですから。何の特殊な事情もない。そのことはもう誰もが納得していることですから、これ以上大臣の答弁を求めなくても、余りにもこれは不均衡だ。

 重要なことなんですよ、この先。先のことを言っているんですよ。今、条約で決められたかどうかという紋切り調の話ではない。これから我が国がどういうアクションを起こしていくかという話を私はしているんですよ。だから、問題点を指摘している。

 そして、今は他の制度との比較をしましたけれども、やはり、同じ今の制限条約、制限法の中だけでも、さっきも大臣が言ったけれども、自船の旅客に対しては制限がかからないけれども、ぶつけられた相手の旅客、同じ人ですよ、ここには制限がかけられるんですよ。これも余りにも不均衡で不合理じゃありませんか。そう思われませんか。

上川国務大臣 海難事故についていろいろ新しい動きがございますけれども、海難事故のさまざまな事例等をしっかりと踏まえた形で、今のようなケースについてどう対応するかということは、真剣に考えていかなければいけないというふうに思います。

黒岩委員 これは、先ほどの総論の最後の要請と同じ要請だと受けとめてください、別に法務大臣として受けなくてもいいですけれども。

 九六年に今言ったオプションをつけるときも、日本がIMOに対して主導して、せめて自船の旅客については無制限だと。できるわけですよ、条約だって。ですから、今後、海洋大国日本が主導して、せめて人的制限は撤廃するというオプションをつける努力はしていただきたい。

 くどいようですけれども、今言った船主については、今、P&Iも余裕があります。そして、上限を超える例も少ないです。ですから、そんなに船主に負担がかかるわけでもないんです。

 そして、さっき私が強調しましたけれども、世界の趨勢は、被害者保護にある程度厚みを増していこうという流れがあるわけですよ。これは、今、鉄道においても、そして飛行機においても、条約において人的制限が撤廃されているわけですから。モントリオール条約も以前は人的制限があったんですよ。これが取っ払われたんですよ。

 ですから、当然、この船主責任制限条約においても、日本の努力によって、局長うなずいていますけれども、できるわけですから、その努力をしていっていただくことをお願いします。大臣含めて、国交副大臣もいらっしゃっていますし、政府として、当然、今言ったいろいろな不均衡があるわけですから、せめて人的な部分についてはオプションとして取っ払っていいという、このオプションを次の改正時には日本が主導して、ぜひとも進めていただきたい。

 イエスだったら答えてください。うなずいているなら答えてください、議事録に載せたいから。どうぞ、法務大臣。

 いやいや、局長なんかが答えられるわけないでしょう、こんな国際的なこと。

奥野委員長 先に短くしちゃった方がいいって。

黒岩委員 国際的なことなんか無理ですよ。(発言する者あり)

奥野委員長 そう、整理して。事務方が先に。

黒岩委員 もういいです、時間の無駄。結構です。

 大臣、せっかく大臣が政治判断のできる機会なんですよ、委員会の場というのは。そこでしっかりと前向きな発言をしてくれれば、国民で、これによって非常に納得できる人たちもいるという、その場なんですから、ぜひその機会を使っていただきたいですよ。

 では、時間がないので、二点目の論点に行きます。

 これも先ほどの議論にあったんですけれども、明石の事故によってよくわかったことは、自分の船の自分の燃料、この燃料油の被害、これに対する手当てというのは非常に手薄なんだと。原油タンカーが積んでいる原油そのものは相当手厚くなっていますけれども、今言った燃料油、これについては非常に手薄だと。

 これも、質問すると答弁が長くなりそうなので私の方から言いますけれども、これは私、タンカー条約、タンカー基金と呼んでいますけれども、油による損害賠償条約と油による損害賠償基金という、タンカー条約とタンカー基金によって、原油タンカーについては、燃料油についても、これは条約によって、今の船主責任制限法の上限額よりも約一・二倍から一・五倍上積みされています。そして、基金の方はもっとはるかにすごくて、これは、今言ったように、上限が一千億レベルですから、トン数で見ると八倍から十倍上積みされているんですね、燃料油が漏れた場合でも。

 ただ、では、一般船舶、これは、旅客船であったり貨物船であったり、しかも、今、原油タンカーとあえて言っていますけれども、LNGを乗せたようなタンカーは原油タンカーに含まれませんから、あくまでも一般船舶です。

 これら一般船舶の燃料油について、では、どういう条約があって、どういう国内法が担保されているかというと、条約については、先ほどもどなたかが答えられたバンカー条約、これは、油、燃料に対する損賠条約ですね。バンカー条約というものができています。ただ、我が国はこれには入っていません。

 バンカー条約というのは何を規定しているかというと、実際には、燃料油による被害についての限度額は船主責任制限条約と同じ額ですから、何の上積みもありません。何があるかというと、燃料油によって損害を与えたときの、P&I保険の加入を義務づけているというだけの条約なんですね。

 今言ったように我が国は未締結で、日本は、二〇〇四年の油賠法の改正で船舶油賠法になりましたが、この船舶油賠法の段階で、今言った燃料油に対してP&I保険の義務づけを我が国内法で行っているという状況です。

 そして、結果として、わかりますね、今言った一般船舶の燃料油の被害に対しては、条約においても、そして国内法においても、何の上積みもされていないんですよ。だから、明石のように、実際に五十二億の被害があったけれども、船主制限がかかって一億七千万円の限度額だった。三十三・五倍の乖離があるわけですね。こういうことが起きているわけですよ。

 そして、この事故をもとに、先ほどもありました、〇九年に国交省のもとに検討会が開かれ、そしてその後、中間取りまとめがとり行われました。二〇一一年でしたかね。

 そのときに、六つ提起されているんですよ、この燃料油の補償制度に対してこうしたらいいんじゃないかと。六つのうち二番目の提起に集約された。これが何かといえば、実は今議論をしている、要は、燃料油とか関係ない、物的、人的関係ない、船主責任制限条約で一律引き上げるということで対応しようということで、六つの提起のうち二番目の提起が結論づけられた。

 でも、結果として一・五一倍ですから、三十三・五倍の被害をこうむったあの明石の事故にとってみれば、わかりやすい言い方で言うと、焼け石に水みたいな話なわけですよ。せっかく一一年に検討して、一二年の改正を待ったら一・五一倍で、ほとんど焼け石に水だったということが現状です。

 となれば、先ほども、他の提起、あえて三つ言いますけれども、四つかな、それについて、すごくいい提起をされているんですよ。

 まず一番目。これは、先ほど言ったバンカー条約で、バンカー条約は限度額が船主責任限度額と一緒ですから、そうではなく、バンカー条約で独自の制限額の上限を設定しようじゃないか、こういう提起が国交省においてされているんですね。これを副大臣にお聞きします。

 だったら、今言ったように、2番の対応策では明らかに不十分だったわけですから、せっかくの取りまとめの提起、1番があるわけですから、バンカー条約に加入し、堂々と独自の燃料油による損害に対する制限を、上限を上げていく、こういう、検討会の意向を尊重し、それに対して実践していただけないでしょうか。お答えください。

西村(明)副大臣 今委員御指摘のありましたのは、中間取りまとめにおいて出た第一番目の条項だと思います。

 まず、これのメリットは、今委員がおっしゃったように、甚大な被害が生じる燃料油による油濁事故に関して被害者救済に資するという意味においては、非常に大きなメリットがあると思います。

 しかしながら、この検討会におきまして、それ以外のデメリットについても十分検討されました。その一つが、バンカー条約自体が二〇〇八年に発効したばかりでありまして、改正につきましては、締約国の理解を得ることは現状ではなかなか難しいであろうということ。そしてもう一つが、我が国自体がバンカー条約を批准していない状況でございまして、バンカー条約より我が国の法律の方がトン数制限においてより厳格にできるような形になっておりますので、この部分も踏まえて、今、バンカー条約よりも我が国の方が非常に丁寧になっております。

 簡単に言いますと……(黒岩委員「もういいです。よくわかりました」と呼ぶ)いいですか。

 その状況の中で、しっかりと検討を進めてまいりたいと思っております。

黒岩委員 我が国が先に進んだといっても、やはり世界と合わせる必要があるわけですから、世界のルールに入っていって我が国がルールをつくっていくというこの意義は、副大臣も御理解いただいたと思いますので。ありがとうございます。

 では、もう一つ、こういう指摘がありました。これは、船主責任制限条約の中で、物的損害とは別建てで、環境汚染損害に対してはやはり上限をもっと引き上げるべきだという指摘もありました。私は、これも非常にリーズナブルな話だと思っていますし、これをIMOに働きかけていく、まさにこれは国交省としての責任だと思いますが、この点についてはいかがですか。

西村(明)副大臣 今お話がありましたように、被害者の救済、これはしっかり実現していかなければならないというふうに考えております。ただ、海運業の国際性、そしてまたその状況に鑑みまして、国際的な枠組みとしてしっかりと取り組んでいくことが必要であるというふうに考えております。

 そうした中で、国際海事機関、IMOの場において、国際的な事故や制度改正の考え方につきましては、さらに情報収集を進めて、そして各国の動向を踏まえつつ、適切に対応してまいりたいというふうに考えております。

黒岩委員 答弁としてはそうなるのかもしれません。

 ただ、今言ったように、やはり環境汚染損害というのは甚大なものですから。今言ったように、P&Iもまだ余裕がある。だから、船主に過度な負担を負わせようとは私は冒頭から言っていません。でも、その合理的な範囲の中で、やはり今言った、我が国で明石のように甚大なる被害を受けた人たちがいるわけですから、それに対する対応を進めていくという前向きな姿勢を。ですよね、副大臣。ありがとうございます。

 では、もう時間がないので、三点目。はしょります。

 国際基金の創設、国内基金の創設。国内の場合、独自の国内基金を創設したらどうだと。要するに、タンカー基金のような、ああいうものをつくったらどうだということも取りまとめで提起されているんですよ。

 これも、聞けば、いやいや、原油タンカーの会社に比べれば、一般船舶だと会社の数が少ないし、どこに拠出先を求めるかなんということが議論だと言っていますけれども、拠出先がどこかを決めるなんて決め事でありますし、今言ったように、たとえ規模が小さい海上企業であったって、その規模によって案分して拠出してもらえばいいだけの話ですから、国内の独自基金ができない理由はないと思うんですが、どうですか、独自基金の創設については前向きにお考えいただけませんか。

西村(明)副大臣 委員の問題意識は重々承知しております。

 そうした中で、今、国際基金また国内基金の話も検討会中間取りまとめで十分やらせていただきましたが、今委員も御指摘されたように、燃料油の製造販売者、そしてまた貨物の受取人や海上輸送人など、どの者に拠出義務を課すのかということに関しては十分な理由がないという状況でもございますし、また、国内基金の拠出を海外にのみ事業を有する船主や燃料油販売者に強制することが困難であるということでございまして、国内の事業者のみが負担することになる。こんな状況もございますので、そうした問題点を踏まえながら、しっかりと国際的枠組みの中で検討してまいりたいと思います。

黒岩委員 いろいろな問題がありながらも、前向きに検討するということで承りましたし、今言ったように取り決め事でありますから、それは政府が責任を持って決めればいいわけです。

 そして、くどいようですけれども、責任制限の事案がとにかく年間二つで、だから、明石のような事故が起きるというのは、ともすれば本当に十数年に一回なわけですから、それに掛ける独自保険の仕組みというのはそんなに莫大なお金が必要とは考えられないんですよね。ただ、いざというときに、保険だって二十億円、三十億円もあるわけですから、対応ができないわけはない。だから、できない理由を挙げてもらうのは簡単かもしれませんけれども、できる理由をしっかりと、副大臣、やはり政治家として方向性を示していただきたいと思います。

 今、燃料油に対してはさまざまな問題点を指摘しました。改めて、検討会について、三つの提起、国際基金も含めれば四つの提起、大変重要だということを指摘しました。この提起を受けて、やはり国交省として、IMOに対して、これが実現するようにぜひ後押しをしていただきたいということを要請させていただきます。

 時間になりました。きょうは、人的な制限についてという問題点、非常に大きな問題点だということを御理解いただいたと思います。また、燃料油というものは、これは原油と一緒で、いざとなったら環境汚染、漁業汚染、すごい状況になる。これに対しての手当てがなかなかできていないという問題を指摘させていただきました。

 きょうは時間がないので各論二つですけれども、この法改正には大変大きな影響が含まれていますので、ぜひこの課題について真剣に取り組んで、そして前進させていただくことをお願い申し上げまして、私からの質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

奥野委員長 これにて黒岩君の質疑は終了しました。

 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午後零時十九分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時開議

奥野委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 質疑を続行いたします。階猛君。

階委員 民主党の階猛です。

 本題に入ります前に、前回の質疑で山尾委員が最後に質問したいわゆる政治と金の問題について、何点か確認させていただきたいと思います。

 前回のおさらいというか、確認しますと、政治資金規正法二十二条の三で、国から補助金の交付決定を受けた会社は、以後一年間、政治活動への寄附をすることが禁止されていまして、同法二十六条の二により、違反者は三年以下の禁錮または五十万円以下の罰金が科せられるということになっています。

 しかしながら、国交省所管の広域物資拠点施設整備費補助金の交付を受けた、大臣の、資金管理団体ではなくて、一区総支部でしたか、政党支部で寄附を受けたものについては、大臣の答弁によると、政治資金規正法二十二条の三の例外事由である「その他性質上利益を伴わないもの」に当たるということで違法性はないという趣旨でした。

 しかしながら、きょうお配りしています資料一というのを見ていただきたいんですが、「その他性質上利益を伴わないもの」ということで、三つほど類型が挙がっております。

 一つ目は、「国が利子補給金を低利融資を行う融資者に交付するとき」というようなパターンでありまして、これは、融資者への利益になるものではなくて融資を受けている者に利益が帰属するから、性質上利益を伴わないんだというのが一点目の類型。

 それから、この資料一の二つ目の類型、「はじめから欠損又は損失の予想されるような事務又は事業を国が会社その他の法人に運営させる場合、」、これはその他性質上利益を伴わないんだということを言っております。

 それから三つ目としては、「本来、国が行うべき事務又は事業を会社その他の法人が行う場合」、これもその他性質上利益を伴わないものなんだというふうに言っております。

 今回問題になっている広域物資拠点施設整備費補助金というのは、会社に利益が全く帰属しないかというと、必ずしもそうは言えないと思っていまして、鈴与さんという寄附者側の弁護士さんがその他性質上利益を伴わないということと判断したようですけれども、私はちょっと疑義があると思っています。

 これについて、私は、でき得ればそういう判断に至った弁護士意見を開示してもらいたいと思うんですが、大臣、御協力をいただけませんでしょうか。大臣、お願いします。

上川国務大臣 当該企業でございますが、その弁護士さんにつきましては、当該企業が御判断されるということでございますので、私の方からその旨のことについて申し上げるということはできない立場でございます。

階委員 最終的な判断はもちろん会社側だと思うんですけれども、大臣も一方当事者として、先ほどの大臣所信でもあえてこの件について触れられたわけですから、その会社に対して働きかけていただいて、でき得ればこの場に出していただくようなことを御協力いただければと思うんですが、御協力いただけませんでしょうか。

上川国務大臣 大変繰り返しになるようで恐縮でございますが、当該企業の御判断ということでございますので、その御判断にお任せすることであって、私の方からそれをというような立場ではございません。

階委員 大臣として、この間の所信でこれは違法性はないんだと言っていただいた以上、その裏づけとなる弁護士意見というものは、出した方が大臣にとってもいいと思いますよ。

 最終的な判断は会社にあるというのはそのとおりなんですけれども、大臣のお立場から会社に対して働きかけをして、そして、でき得ればこの場に出していただくようにするというところまではやっていただいていいかと思うんですが、どうでしょうか。

上川国務大臣 今回のことにつきまして、私なりに真摯に向き合って、そして疑義が生じたことに対して説明責任を尽くすということで発言させていただいたところでございます。

 あくまで当該企業の部分の弁護士さんということでございますので、私の方からそれに対して申し入れをするというような形で促していくということはなかなか難しいというふうに考えております。

階委員 では、御協力はいただけないということでよろしいですか。

上川国務大臣 私の方からその旨のことについて促すという形のものにつきましては、私の今の立場でいきますと、なかなか難しいというふうに考えております。

階委員 では、この委員会として、後ほど理事会でこの点については協議していただければと思います。

奥野委員長 理事会で検討します。

階委員 そこで、この件について、総務省にも来ていただいておりますので、質問させていただきます。

 資料二の方を見ていただきたいんですが、三月十二日の衆議院予算委員会で、我が党の長妻委員から、この例外規定について、解釈を高市総務大臣に尋ねたということがあったと思います。資料の二ページ目の一番下の段からそのくだりがありますけれども、次のページ、三ページ目に行っていただいて、真ん中の段の最初から五、六行目のあたりですけれども、事前に時間をいただいて、個別具体のことについてお問い合わせがあった場合には、総務省はしっかりとお答えをいたしておりますということを大臣がおっしゃっています。

 それで、私、事前に、この質問に先立って、もう大分前になるんですけれども、例外規定に国交省のこの補助金が当たるかどうかということを尋ねて、ちゃんと答えを用意しておくようにというふうに言っておきました。

 そこでお尋ねしますけれども、今回のこの広域物資拠点施設整備費補助金は政治資金規正法の例外規定に当たるのかどうかということについて、総務省からお答え願います。

稲山政府参考人 お答え申し上げます。

 政治資金規正法におきます、一定の補助金等の交付決定を受けた会社その他の法人からの寄附の制約に係る例外の扱いのお尋ねでございます。

 お尋ねは、既になされました具体の補助金につきましてのお尋ねでございますが、政治資金規正法第二十二条の三の第一項の規定に違反した場合には一定の罰則が設けられておりまして、既に寄附がされたものが同項に抵触するか否かにつきましては、司法の場におきまして、個別具体の事案に即して判断されるべき性格であると考えておりますので、総務省としてはお答えを差し控えさせていただきたいと存じます。

 大臣が予算委員会の中でお答えをしております件につきましては、そうした個々のケースについてのことではございませんで、あらかじめ、一定の寄附を行われる前に補助金を特定いただきまして、余裕を持って、御照会、相談があった場合には、制度を所管する省庁といたしまして、一定の考え方を示している、そういうことを御答弁させていただいたものでございます。

階委員 それでは、仮にですけれども、私がある会社を経営しているとして、この国交省からの補助金をもらったとします。補助金をもらって、私が応援するある政治家に対して寄附をしようかな、でもひょっとしたらこの規定に抵触するかもしれないというときに、違法か合法かということを判断する上で総務省に聞いたら、これは違法か合法かということをちゃんと教えていただけるんでしょうか。

稲山政府参考人 先ほども御答弁申し上げましたとおり、総務省としての一定の考え方を、会社その他の法人が御判断されるに当たっての参考ということでお示ししている例はございますが、お尋ねの件は、今御指摘があります個別具体の補助金の関係で、既になされたものがどうかということが指摘されている、その補助金につきましてお尋ねがあったときどうかというお尋ねでございますので、その点については、同様に差し控えさせていただくべきものと考えております。

奥野委員長 質問が理解されていないよ。もう一度言ってください。

階委員 別に既になされたものじゃなくて、この補助金というのはまだあるわけですね。申請すればもらえる補助金なわけですよ。そういう補助金を、これから申請して、もらえた。もらえた際に、自分が応援する政治家に対して寄附をしたいんだけれども、政治資金規正法にひっかかりませんかというふうに聞いたという仮定の場合を聞いているんですね。

 質問する人としては、やはり事前に、これは刑罰もありますから、合法か違法かというのをちゃんと確認したいわけですよね。どこに確認したらいいのかというときに、先日の高市大臣の答弁を見る限り、事前に時間をいただいて、個別具体のことについてお問い合わせがあった場合には、総務省はしっかりとお答えをしておりますというふうに明言しているわけですよ。

 今の部長の答弁は、高市総務大臣と反するんじゃないですか。

奥野委員長 では、もう一度しっかり答えてください。

稲山政府参考人 いや、同じことを御答弁申し上げているつもりでございますが。

 一般論として事前にいろいろお尋ねがあったときには、制度を所管する立場でございますので、一つの判断の御参考ということでお答えをさせていただいている例はございます。

 お尋ねは、例えば国交省の補助金を指摘されまして、それが違反かどうかというようなお尋ねも今ありました。それについて今後どうかということをお尋ねがあったときにはどうするんだということと理解いたしましたので、それについては、過去になされたものとほぼ同じようなことでございますので、答弁は差し控えるべきものではないかということを申し上げたものでございます。

階委員 最後のところがよくわからないんですけれども、なぜ差し控えなくてはいけないのか。

 質問者は、重大な問題ですから、やはり責任ある答えをもらった上でじゃないと判断できないじゃないですか、寄附するかどうか。だから聞いているのに対して、お答えは差し控えると言われると、では、どうすればいいんだという話になるんですよ。

 高市総務大臣は、事前に時間をいただいて、個別具体的なことについて問い合わせがあった場合は、総務省はしっかりと答えると言っているから、私は今聞いているわけですよ。なのに、答えを差し控えるというのは、何かおかしくないですか。

奥野委員長 今の質問の趣旨は、この国交省のケースをいうんじゃなくて、一般論で問い合わせたら、時間を与えるから答えてくれますかというのが質問だろうと僕は思います。それに答えてください。余計なことは言わなくていいです。

稲山政府参考人 一般的には、大臣が予算委員会で答弁させていただいたような取り扱いをさせていただいておるところでございます。

階委員 では、これからは、補助金についてこれは合法か違法かというお尋ねがあった場合には、しっかり答えるということで理解します。

 この件については、私はやはり、どうしてその他性質上利益を伴わないものなのかというのが必ずしも明らかではないと思っています。大臣が先日のこの委員会で最後におっしゃっていたのは、余り当事者意識がないというか、これは各党会派で御議論いただきみたいなお話だったと思うんですけれども、事は刑罰法規なので、罪刑法定主義というのが憲法上三十一条で定められているわけですよ。刑罰法規は明確性がなくてはいけない、曖昧なものであってはいけないという大原則があるわけだから、こういう曖昧な文言、解釈の幅が広いような文言についてはなくしていくべきだというふうに私は考えます。

 黒岩委員などが中心となって、先ごろ民主党では、問題となった二十二条の三の改正の方針というのをまとめまして、こういう曖昧な例外事由については削除すべきだということをまとめたわけであります。

 大臣も、刑罰法規を所管する責任者として、こうしたことについては取り組むべきだと思うんですが、御所見を伺います。

上川国務大臣 政治資金規正法の所管ということで、今、総務省が管轄しているということでございます。

 今、罪刑法定主義にのっとってしっかりと曖昧な部分をというお話がありましたけれども、そのことにつきましても、あわせて、国会そして各政党間で十分に御議論いただきたいというふうに思っております。

 私のあのケースにつきましても、今のような、こうした時間をとってということになっているという事態そのものは、私自身、これから適正にしっかりと対応していくということについて、いろいろ確認をするとかというような、現行の部分で適正に判断しなければいけない、そういうことにつきましては、改めて襟を正していかなきゃいけない、こういう思いでございますので、国会の中で十分に御議論をいただきたいというふうに思っております。

階委員 今大臣もおっしゃいましたけれども、こういう時間をとってこの例外事由に当たるかどうかというのをけんけんがくがく議論しなくちゃいけないということ自体が、私は、この例外事由というものをなくする合理的な理由になると思うんですね。当事者として、今まさにこういう議論、実は法案の方が、重要な点がいっぱいあるのにこういうことが議論の対象になってしまうということを考えて、ぜひ、刑罰法規を所管する大臣として、刑罰法規をより明確にする上で、さっき言ったような提言は真摯に受けとめていただいて、積極的に、これは総務省の所管の法律かもしれませんが、刑罰を定めるということでいえば、法務大臣としても積極的に取り組むべきものだと思いますよ。

 積極的に取り組むかどうか、最後にその決意だけお聞かせください。

上川国務大臣 決意ということでございますが、やはり所掌案件ということでいきますと、法務省ではないということでございまして、総務省の方の法案ということで、今のようなことも含めてしっかりと御議論をいただきたいというふうに思っております。

階委員 いや、それだと、何のためにこの場で時間をとったのかというのはわからないわけです。みずからもこういう法律の曖昧さのおかげで大変な負担を強いられているということを重々お感じになったわけですから、ここはしっかり、大臣は法務大臣であると同時に国務大臣ですよ、内閣の一員として物を申すべき立場だし、まして刑罰法規を所管しているわけですよ。問題の当事者として負担も生じたであろうし、また、国務大臣として、刑罰法規を所管する大臣として物を言うべき立場でもあるし、だからこそ、私は、この例外事由というものは、曖昧模糊としているわけだから、撤廃の方向で努力すべきだということを申し上げているんです。

 もう一度お尋ねします。

上川国務大臣 法の精神、法律にのっとってしっかりと適用するということが透明性の高い形で実現することができるようにしていくという意味では、現状の問題点について階委員からも今明確にお話がありましたけれども、いろいろな御議論があろうかと思いますし、私もそういう意味で、これから法律にのっとってしっかりと適正に動くという意味でも、透明性高く動いていきたいなと思っておりますが、その課題その他につきましては、しっかりと国会の中で御議論をいただきたいというふうに思っております。

階委員 運用を適切にするかどうかという話を聞いているんじゃないです。法律の内容に問題があって、刑罰法規の明確性、罪刑法定主義に照らしてみてこれは直さなくてはいけないのではないかということで、今後の立法作業を求めているわけですよ。そこに積極的に取り組んでくださいということに対して、大臣のお考えを伺っているわけです。

 大臣として、ここまでこういう議論を通じても、なおこれはやる気がないんですか。やる気があるかどうか、お答えください。

上川国務大臣 御意見につきましては、真摯に受けとめたいというふうに思っております。

階委員 ぜひ真摯に受けとめて、積極的な対応をお願いします。そうでなければ、また同じような問題が繰り返されて、ほかの大臣がいろいろ御負担がかかるということもあるわけでして、我々としても、そういうことで国会審議を延々とやるというのは本意ではありません。ぜひ積極的にお願いします。

 そこで、本題に入ります。

 今回の法案なんですけれども、私は、この法案の審議の手続、それから法案の内容、それぞれについて憲法上問題があるのではないかというふうに考えています。

 まず、今回の法案の前提となる、略称、責任制限条約、こちらの合憲性についてお尋ねします。

 憲法七十三条三号というのがあります。憲法七十三条で「内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。」ということで、第三号、「条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。」こういう条文があるわけですね。

 今回、責任制限条約は国会の承認を経ていない。これはなぜなのかということを、きょうは外務省からもお越しいただいていますので、端的に御答弁をお願いします。

中根大臣政務官 ありがとうございます。

 御指摘のとおり、千九百七十六年の海事債権についての責任の制限に関する条約を改正する千九百九十六年の議定書第八条においては、実質的な通貨価値の変動等に迅速にかつ適切に対応し得るようにするために、一定の変動幅にとどまる責任限度額の改正について、簡易な改正手続が採用されているところでございます。

 すなわち、そのような責任限度額の改正については、IMOの法律委員会において当該改正案が採択された後、一定期間内に全締約国の四分の一以上がIMOに対して当該改正を受諾しない旨の通知を行わない限り、当該改正は各締約国により受諾されたものとみなされ、全ての締約国を拘束することとなります。

 本議定書の締結に当たっては、このような改正の方式を採用している条約であるということを含め、憲法第七十三条第三号ただし書きの規定に基づき、平成十七年に、その締結につき国会の御承認をいただいているところでございます。

 したがって、本議定書及び議定書の規定に基づき行われた改正が憲法七十三条三号との関係で問題があるのではというふうに考えてはおりません。

 なお、このような簡易な改正手続が採用される条約については、政府として、従来から、本条約と同様の対応をとっているところでございます。

 以上です。

階委員 私も一応法律を学んできたんですが、この憲法七十三条三号の解釈として、一定の条約の内容であれば、その後改正するときに個別に国会の承認を得る必要はないというようなことは寡聞にして知りませんでした。

 今回この質問をするに当たって、外務省に、こういう一回一回の改正について国会の承認を得る必要はないという解釈ができる根拠を示せと言ったところ、私がいただいたのは、国際法事例研究会、慶応義塾大学出版会の「条約法」という本をいただいた。

 そこで何と書いてあるかというと、条約の改正の国会承認ということなんですが、まず、「改正に関する日本の国内手続に関しては、国会承認条約の改正は国会の承認を原則としている。」、ここまでは憲法どおりだと思うんですが、「ただし、」とありまして、「当初の条約中に授権規定がおかれているような場合には、授権の範囲内で改正する際には行政府限りで処理を行っている旨の国会答弁がある。」ということで、これは理由になっていないというか、国会答弁でこう言っているからいいんだということなんですよ。

 それで、国会答弁を見てみますと、これは一九八一年の四月二十二日の衆議院外務委員会の答弁なんですが、「当初国会の御承認をいただきました条約の修正、改正は、改めてまた国会の御承認をいただくということで、それを原則といたしております。」「当初の条約の中で授権規定がございまして、その授権規定を含めて国会の御承認をいただいている場合に、その授権の範囲内での改正というものについては、これは行政府限りで処理するということはやっております。」ということで、これは、事実を言っているだけで、理論的な根拠はどこにも示されていないんですね。

 七十三条三号の文言に反してあえて改正では国会承認が要らないよというのであれば、それに対するもっと理論的な説明があってしかるべきだと思うんですが、この点については、外務省、それから法務大臣にもお尋ねします、これは憲法の重要な条文の話なので。こういうことでいいんでしょうか。

中根大臣政務官 先ほど階委員は、国会の承認を求めないことが許されるのかという趣旨の御質問だったと思います。

 まず、本議定書に規定されるような簡易な改正手続に基づく改正は、我が国として、それを締結するという行為をとることなく我が国についての効力が生じるため、内閣として、憲法第七十三条第三号の規定に言う条約を締結するという行為は行っておりません。

 したがって、このような簡易な改正手続が採用された条約については、個々の改正についてそれごとに逐一国会の承認を求めるのではなく、そのような簡易な法改正手続が採用された条約であるということを踏まえ、各条約自体の締結に当たり、憲法第七十三条第三号のただし書きの規定に基づき、国会の承認を求めてきているものでございます。

 したがって、このような簡易な改正手続による個々の改正について逐次国会の承認を求めていないことが、憲法上問題があるとは考えておりません。

上川国務大臣 ただいま条約と憲法との関係につきまして、条約を所管する外務省からお答えをいただいたということでございます。

 その答弁でございますけれども、九六年の議定書を締結するに際しては、将来、IMOにおける簡易な改正手続によることができるとされていることも含めて国会の承認を得ているということでございまして、今回の責任限度額の引き上げにつきましては、この九六年議定書に基づく簡易な手続ということでございますので、別途の国会の承認を経ることは要しないということと解しておりますので、憲法に違反することにはならない、今回の条約改正が再度国会承認を経ていないことにつきましては憲法に違反することにはならないというふうに考えております。

階委員 私がこの条約、九六年議定書ですか、こちらを見ましたところ、これは白い表紙の本の中にも書かれていますけれども、今問題となっている条文というのは八条の七項だと思うんですね。もし違っていたら御指摘いただければと思うんですが、そうですよね。

 八条七項では、まず、「機関は、四の規定に従って採択された改正をすべての締約国に通告する。改正は、通告の日の後十八箇月の期間が満了した時に受諾されたものとみなされる。ただし、その期間内に、改正の採択の時に締約国であった国の四分の一以上が事務局長に対しその改正を受諾しない旨の通知を行った場合には、その改正は、拒否され、効力を生じない。」と。

 ただし書き以下はさっき御説明があったかと思うんですが、そもそも、承認を要しないということはどこにも書いていません。全ての締約国に通告して、通告の後十八カ月の期間が満了したときに受諾されたものとみなされるですから、この十八カ月の間に承認を求めるということも可能だと思うんですね。

 条約の承認というのは、事後にやってもいいし、事前にやってもいいわけですから、この十八カ月の間に国会の承認を求めるということをやるべきではないかと思うんですけれども、憲法上許されるということと、やらなくていいということは、また別の話だと思います。

 憲法上、承認を求めるという手続を省略できるというふうに仮に解釈されたとしても、この条約の文言上は承認を排除するということにはなっていませんので、なぜ十八カ月の間そういう手続をとらなかったのか。私はとるべきだったと思いますが、この点について、外務省、御見解をお願いします。

水越政府参考人 お答えいたします。

 本議定書は、簡易な改正手続が採用された条約であるということを含め、議定書自体の締結に当たり、憲法第七十三条第三号のただし書きの規定に基づき、国会の承認をいただいているものでございます。

 具体的には、本議定書第八条七項で、機関は「採択された改正をすべての締約国に通告する。改正は、通告の日の後十八箇月の期間が満了した時に受諾されたものとみなされる。ただし、その期間内に、改正の採択の時に締約国であった国の四分の一以上が事務局長に対しその改正を受諾しない旨の通知を行った場合には、その改正は、拒否され、効力を生じない。」旨、規定しております。

 今回の改正は、そのような形で、今のような規定も含めて国会の御承認をいただいたものでございまして、ここで、このときに、通告をして十八カ月の期間が満了したときには受諾したものとみなされるということでございます。したがって、改めて国会にお諮りしなかった次第でございます。

階委員 質問の答えになっていなくて、仮に今おっしゃった条文が締結されたとしても、十八カ月の間に国会の承認をやろうと思えばできたわけですよ。なぜそれをやらないのか。

 憲法を守るという観点からいうと、こういう簡易な条約の改正の手続があったとしても、実は、この法務委員会で今この法案が審議されているのはどういう理由かというと、この提案理由説明にも書いていますけれども、「平成二十七年六月八日に、全ての締約国について効力を生じることとされているため、各締約国は、その国内法において、船舶の所有者等の責任の限度額を引き上げる改正を行う義務を負っております。」というところで、今こういう議論を、この法案の審議をしているわけですよ。

 ですから、我々としては、条約についてその承認といった形で全く関与していないにもかかわらず、条約がこうなったんだから法律を法務委員会で上げてくれというのは納得がいかないわけですよ。ちゃんと国会で承認の手続を経たなら、その条約がこうなっていますから国会で法律をつくるというのはわかるんだけれども、この条約でも簡易な手続は定めているけれども、わざわざ、あえて承認は全く必要ないというのではなくて、十八カ月という猶予期間があるわけですよ。だから、その期間に承認を得ればよかったんじゃないか、そこで承認を得た上で今回の法案の審議に移ればよかったのではないか、これが憲法にのっとった正しい手続ではないかと思うわけです。

 私は、法務大臣、この点について、こういう中途半端なやり方での法案の審議をこの場で行うというのは法務委員会のあり方としてよくないと思っています。ですから、ちゃんと条約について適正な憲法にのっとった手続を踏まえた上で、条約が改正されたのだから法案の審議をお願いしますというのがあるべき姿だと思いますよ。

 この点について、大臣、御見解をお願いします。

上川国務大臣 今回お願いをいたしております改正ということでございますが、これまでの国際条約におきましてのさまざまな御議論、フレームワークというか、そういうものを前提とした上で今回お願いをしているということでございます。今おっしゃったような御意見等、御指摘もあろうかと思いますけれども、この件に関しましては、そのような流れの中で位置づけられているものということでございまして、その上で御審議をいただきたいというお願いを申し上げたところでございます。

階委員 大臣の、憲法に対する感覚といいますか、立法府の権限に対する感覚というのがここで問われると思うんですね。

 やはり条約上も国会の承認を経る必要がないとまでは言われていないわけです。国会の承認を経るかどうかはこれは政府の判断に委ねられている中で、今回は、国会の承認を経ずして十八カ月経過しようとしているので、それに間に合わせるために法律をつくるということになっています。

 憲法七十三条の三号、あるいは、立法府が国会単独立法という、憲法四十一条にもありますけれども、他の政府の機関とかの干渉なく国会が自分たちで立法するんだ、こういう国会単独立法の原則という観点に照らしてみても、私は、今回の立法の経緯はおかしいと思いますよ。憲法四十一条、憲法七十三条三号を尊重するのであれば、私はこういうやり方は改めるべきだと思います。

 法務大臣、国内法の最高責任者、憲法についても知見があるということで、ちゃんとしっかりした考え方を示すべきだと思いますが、再度御答弁をお願いします。

上川国務大臣 今の憲法についての御質問の中で出てきている件につきましての解釈ということでございます。

 その点については、法務大臣としては一般的な解釈をする立場にないということでございますが、今回、船責法との関係ということで御質問をいただきまして、今のここまで至ったフレームワークの中で考えてみますと、憲法の中で授権されたということで御承認をいただいた上で簡易な改正という手続の中で位置づけられている、この部分につきましては、その流れに沿って今回動いているということについては、そのとおりだというふうに思っております。

 それに対して、そもそもということでございますけれども、その点につきましては、大変大事な御指摘ということでございます。これにつきましても、真摯に受けとめてまいりたいというふうに思っております。

階委員 手続についても憲法上疑義があるということを御指摘しましたし、また、内容についても私は問題があると思っています。

 例えば、先ほど来指摘がありますけれども、これは債務者の責任を限定するという法律ですけれども、裏を返せば、債権者の権利を制限するという法律でもあるわけですね。

 債権者の権利を制限する制度としてほかにどんなものがあるかということで調べたところ、我が国において裁判所の手続により債務者の責任が制限される制度としては、今回の船主責任制限法、それから先ほども取り上げられていた船舶油濁損害賠償保障法、それから破産法、民事再生法等の倒産法があるということで、法務省の事務方から答えを得ております。

 ここで破産法というのも挙げられておりますけれども、破産法などでは、債務者が免責を受ける、要するに、自分の財産を全部払ってもなおそれで弁済ができない場合に責任を免れるということについて、憲法上、憲法二十九条の財産権の保障に照らして、債権者の権利を制限するということで合憲かどうかということが争われているんですね。それぐらい、これは重要な法律なんですよ。

 まして、今回の債務者の責任が制限されるのは、破産の場合だと自分の財産を全部債権者への弁済に充てた上で責任を制限するということですが、今回は、別にそこまで、自分の財産を全部弁済に充てて、それから責任を制限するということでもないですよね。そういう意味では、より債権者に対しては厳しいということも言えるわけです。

 だから、私は、憲法二十九条との関係でもこれは重要な議論があり得る、疑義があり得ると思っています。

 憲法二十九条との関係について、大臣が合憲だと考える理由をお聞かせください。

奥野委員長 時間ですから、なるべく簡単に答えてください。

上川国務大臣 ただいま、被害者の損害賠償請求権、これが制約されるということで、被害者にとって大変厳しい内容ではないか、こういう御指摘がございました。

 今回の船主責任制限法におきましては、海運業そのものが危険性の高い産業であるということ、また、海運業そのものの国際性、あるいは、故意などによって海難事故が発生した場合におきましてはこの責任を制限することができないというような観点から、こちらにつきまして最高裁の昭和五十五年の大法廷の判決というものがございまして、その意味で、今おっしゃった二十九条というところにつきましては、これについてはその侵害には当たらないという判決があるということでございますが、大変大事な視点というふうには考えております。大変重要な指摘だというふうに考えております。

階委員 これで終わりますけれども、さまざま憲法上の論点を指摘しましたので、私としては、もっと慎重な審議が必要だと考えております。

 以上で終わります。

奥野委員長 次に、井出庸生君。

井出委員 維新の党、信州長野の井出庸生です。きょうもよろしくお願いをいたします。

 冒頭、本論に入る前に、先日、三月二十日に、大臣の所信に対する質疑で私の方から質問させていただいた少年法の件について一点伺います。

 前回、少年法の六十一条、犯罪の容疑がかかっている少年、未成年の実名、個人情報を報道してはいかぬと。そのことが、さきの川崎の中学生の殺害事件においては、インターネットでも、もっと早い段階から、まだ逮捕前にもかかわらず、その後逮捕された少年の個人情報が流れたことを指摘いたしました。

 大臣からは、少年法六十一条の趣旨に鑑みると、個人によりますインターネット上の情報流布の行為などにつきましても、この禁止の対象として含まれているというふうに私は考えておりますという御答弁をいただいて、私は、今、こういうときだからこそ、ぜひそうしたスタンスを、しっかり政府として、インターネット上でのそういった情報の流布というものが少年法六十一条の趣旨に抵触するということを発信していただきたいとお願いさせていただきましたが、まず、そのお願いがかなえられたのかどうかというところを伺いたいと思います。

上川国務大臣 先日御質問をいただきました少年法の六十一条の規定ということでございます。

 「新聞紙その他の出版物」ということで六十一条に規定されている部分については、直接的には同条による禁止の対象とされていないということでございますが、しかし、その趣旨ということに鑑みてみますと、少年の特定に関する情報が広く社会に伝わり、少年の社会生活に影響を与えることを防ぎ、その更生に資する、こうした少年法の趣旨からいたしますと、インターネット上での情報流布行為につきましても、しっかりとこの趣旨に沿った形で尊重されるべきではないか、こういう思いを込めて先日のやりとりをさせていただきました。

 その意味では、インターネット上のそうした配信されたものについてプロバイダーの方がしっかりと対応していくということについて、対応してまいりたいというふうに思っているところでございます。

 そして、法務省におきましては、人権擁護の機関がございまして、日ごろから、インターネットを悪用した人権侵害はなくしていこうということでの啓発活動について、強調事項の一つとして掲げておるところでございます。

 インターネットに係る問題につきましては、さまざまな課題がありますし、また、相談もふえているということでございますので、こうしたことによりましての人権侵害が起こらないようにということもあわせて取り組んでまいりたいと思っております。

井出委員 私が端的にお願いをしたいのは、こういう少年法の趣旨に抵触するような情報がインターネット上で広く流布して、それが、インターネット上はもちろんですが、広く議論があった。そういうときに、インターネット上でそういう情報が流布することに対する政府のスタンスを、ぜひ具体的な場所で示していただきたい。

 例えば、法務省のホームページもございますし、大臣のホームページの中に大臣としての活動報告を掲載されているようなコーナーもあると思います。もっと言いますと、そういう情報というものは、最近ですと、ツイッターという分野において非常な勢いで拡散していくんですが、法務省もツイッターの公式アカウントを持っている。しかし、その公式アカウントを見ても、満開の桜と赤れんがの建物とか、確かに、桜も時期を見て発信されていると思うんですが、もっともっと、それよりはるかに、この少年法六十一条とインターネットの関係というものを、そういうところで法務省としての公式見解をぜひ示していただきたいと思います。

 まだ間に合うと思いますので、ぜひやっていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

上川国務大臣 ただいま御指摘いただきました件も含めて、法務省としての情報発信ということにつきまして、今後よく検討してまいりたいと思っております。

井出委員 今、少年法のあり方、もう少し罪を厳しくした方がいいとか、そういう議論があるんですが、そういう議論に臨むに当たって、ぜひ、そういう政府のスタンスをきちっと広く示した上で議論が進んでいってほしい、そういうことを願っております。

 では、船主責任制限法の質問に入ります。

 昨日、質問をつくるに当たって、法務省と国交省と外務省と、行ったり来たり、何度かやりとりをさせていただいておりまして、まず、一つ私が端的に疑問に思ったのが、一体この法律はどこが責任を持っているんだと。当然、所管はわかっておるんですが、どうも、その三つの省庁にいろいろお話を聞いておりますと、三つの省庁でそれぞれ役割分担があるものの、その役割分担が、これから指摘をさせていただきますが、むしろちょっとマイナスに働いているところもあるのではないかと思います。

 まず、この法律、この条約は、我が省こそが担当だ、責任を持つ、そういう省庁の方、どなたでも結構です、御答弁をお願いします。

深山政府参考人 船主責任制限制度について定めているこの船主責任制限法は、もともと商法にあった我が国の責任制限制度にかわって、国際条約の締結に伴って、それにかわるものとして単行法で制定されたものでございます。もともと民事基本法制の一部として商法に存在した制度が、条約の批准に伴って単行法として別の法律になった、こういう経緯から考えますと、当然、法務省の所管法令であると思っております。

井出委員 ぜひよろしくお願いをいたします。

 今御答弁いただいた上で話を進めたいと思うのですが、IMO、国際海事機関による一九九六年の議定書の締約国数が四十九カ国。昭和五十七年に日本が七六年条約を締結した当時は、締約国は五カ国だったという答弁も過去にありました。一方で、七六年条約には入っているが、九六年議定書を締約していない国も二十ある。

 まず伺いたいのは、海のことですので、当然、国際的な取り組みというものが必要だろうと、それは先ほど別の委員の先生方もるる御指摘がありましたが、私も同様に、他国の条約参加を促す取り組みが必要だと。特に、我が国と密接な関係にあるアメリカ、中国、韓国、このあたりが、今現状、日本に追いついていない、国内法独自の対応をされているというところが私はいかがかと思っておりまして、ぜひ他国の条約参加を進めていっていただきたいと思いますが、答弁をお願いします。

水越政府参考人 お答え申します。

 御指摘のとおり、日本と関係の深い国で、船主責任制限制度に関する国際条約を締結していない国としては、米国、中国、韓国などが挙げられます。他方、いずれの国も、国内法で独自の船主責任制限制度を設けて対処しているとも承知しております。

 他方、外務省としては、一般論として、条約の実効性、普遍性を高めるためにも、可能な限り多くの国が条約を締結することが重要であると認識しております。

井出委員 同じ質問を法務省にも伺いたいのですが、先ほどの委員とのやりとりの中で、法務省は外交上のことをコメントする立場にない、そういう話がありまして、私は、そこがまず外務省と法務省の役割分担のちょっとよろしからぬところかなと思っているんですが、いま一度法務省にもスタンスを伺います。

深山政府参考人 確かに、今委員の御指摘のあったような答弁を先ほどいたしましたけれども、その趣旨は、外交政策として他国に一定の条約の加盟を働きかけるかどうかということ自体は法務省のつかさどる仕事ではないだろうと。

 ただ、もちろん、この種の民事法制にかかわる条約について、外務省、あるいは国土交通省も含めてですが、その対外的なさまざまな働きかけについて、政府の一員としてそれぞれ協調し合う、あるいは相談をするということは当然しておりますし、それから、先ほど申し上げたんですが、こういった、条約に基づく法制を持っている我が国の立場からすると、他国も条約を批准して、同様の法制をもって国際的に統一されていくということ自体は、一般的に望ましいことだと思っております。

 決して無連絡でそれぞれ勝手にやればいいという趣旨ではございませんので、政府の一員として背後でそれぞれ相談し合う、協調し合うのは当然のことだと思っております。

井出委員 過去にも、平成十七年四月十二日の参議院の法務委員会で、当時の法務大臣政務官が今の御趣旨の話をしております。前半をちょっと割愛させていただいて、「我が国の行い得る努力としては、一九九六年の議定書が定める制度がより普遍的なものとなるよう、多くの国が締結することが重要である旨を国際的に主張してまいるべきものと考えております。具体的には、IMO、国際海事機関の法律委員会でそのような主張をしていく必要がある」と。

 これはその当時の法務大臣政務官がお答えになられているんですが、ちょっと私も、どちらの省庁に聞いたらいいか、はかりかねておりますが、この間、実際に、国際海事機関の法律委員会で他国に参加を促すようなことというのは、具体的に日本として行動をとられてきたのかを伺います。

櫻井政府参考人 お答え申し上げます。

 過去、具体的に、いつ、どういう形で働きかけをしたかについては、手元に資料がございませんので、もう一度確認をさせていただきたいと思いますけれども、国土交通省といたしましては、先ほど御答弁をさせていただきましたとおり、海運業の国際性に鑑みれば、国際的枠組みで取り組むということが大前提だと考えております。

 そして、IMO、これは海運業にとって非常に重要な国際ルールメーキングの機関でございます。条約の実効性を高めるためにも、可能な限り多くの国が条約を締結することが重要であると認識しております。

 今お話にありましたIMOの法律委員会におきまして、今までの経緯については、詳細は今手元に資料がございませんけれども、今後の方針といたしましては、関係省庁と連携しまして、まずIMOの場において情報収集に努め、あるいは同じような考えを持つような国がないのかどうかも見定め、そういうようなことを踏まえながら、適切に関係省庁と連携して対応してまいりたい、こういうふうに考えております。

井出委員 国土交通省の方から御答弁をいただくことになったんですが、そうしましたら、引き続き、流れで国土交通省に伺っていきたいのです。

 先ほども議論がありました船主責任制限制度と油濁損害賠償保障制度、この二つの制度の違いなんですが、さきの議論に出ましたので端的に申し上げれば、タンカーについては、大きな油漏れがあって責任限度額を超えたときに、基金等で賠償していく仕組みがある、しかし一方、船にはない。この状態を適正と考えていられるかどうか、いま一度伺います。

櫻井政府参考人 お答え申し上げます。

 油のタンカーの油賠の保障制度につきましては国土交通省が所管でございますので、御答弁をさせていただきます。

 今御質問ございましたように、油タンカーからの油濁事故につきましては、条約があり、また、責任制限額を上回るものについて、荷主たる石油の受取人からの拠出でもって足りない部分を補うといったような基金制度があるわけでございます。

 一方、御指摘のとおり、いわゆる燃料油についてはそのような基金制度はございません。明石のゴールドリーダー号の事件を踏まえまして、先ほども委員から御指摘がございましたけれども、国土交通省におきましては、関係省庁にも御参加をいただきまして、船舶燃料油被害の補償制度に関する検討会というものを開催しておりました。

 その中では、今回議論になってございます船主責任条約の簡易改正手続により責任限度額を上げるといったような被害者救済策以外に、国内基金制度あるいは国際基金制度といったものの創設も検討してまいりました。

 ただ、そのときには、基金制度をつくるためには、先ほどの油タンカーのときの油の受取人といったような形で、負担を正当化した形でしっかりと拠出義務を課すといったような者を見つけることが必要でございましたけれども、その者について、いろいろな可能性を模索してまいりました。先ほど副大臣からも答弁をさせていただきましたけれども、荷送り人といったもの、あるいは受取人といったもの、一般の貨物でございますけれども、それについての負担ができないかということも検討してございましたけれども、なかなか十分な理由が難しいということで、基金創設は困難との結論に至ったわけでございます。

 ただ、今回の改正におきましても、引き続き、責任限度額を超える損害があるといった可能性はございますし、それについては、しっかりと重要な問題として取り組んでいかなきゃならないというふうに思っておりますので、関係省庁といろいろと協力しながら、また検討を深めてまいりたいというふうに思っております。

井出委員 今お話のあった平成二十三年二月に取りまとめられました中間取りまとめなんですが、その最後のところに非常に興味深いことが書いてありまして、いろいろ検討を重ねてきて、その上で、「そもそも責任限度額を超える船舶燃料油の被害者救済について次のような事情を同時に考慮しなければならないため、その解決が困難となっているのである。すなわち、」と。その理由として、「一つは、船主責任制限制度は、国際的性格の強い海運業について、わが国だけがこの制度を採用しないことは実際上困難であるという理由により、採用されているものである。現時点において、船舶所有者の責任全般についてこれと異なる政策判断を取るべき理由は見出されないこと。」ここからなんですけれども、「これを大きく変更するためには、条約そのものの改正等をわが国が主導して行っていくか、または条約による枠組みからわが国が離脱することを必要とすることとなるが、いずれも実現がきわめて難しい」と。

 私は、条約から離脱することは、確かにこの文言のとおり極めて難しいと思うんですが、条約そのものの改正等を我が国が主導していく、または働きかけていくということは、それは十分可能だと思うんですが、そこを、条約を所管されている外務省に御意見を伺いたいと思います。

櫻井政府参考人 お答え申し上げます。

 私どものところでありました検討会での取りまとめでございますので、私の方から答弁をさせていただきたいと思っております。

 先生御指摘のとおり、この中間取りまとめにおきましては、読み上げさせていただきますと、「条約そのものの改正等をわが国が主導して行っていくか、または条約による枠組みからわが国が離脱することを必要とすることとなるが、いずれも実現がきわめて難しいこと。」ということでございました。

 この検討会の場におきましては、いろいろな、それぞれに起きました事故の件数ですとか、あるいは、当時、バンカー条約といったものが発効して間もないといったような事情がございました。そのような大きな流れの中で条約の改正等を我が国が主導して行っていくといったことについては、なかなか困難な事情があったというふうに思います。

 ただ、その後のいろいろな、現在のところもまだ大きな事故が発生したというような報告はございませんけれども、そのような大きな事故の発生ですとか、あるいは貨幣価値の変動というようなものにつきましては、あるいは、条約そのものについてこの検討会でも議論しましたように、油の損害だけを取り出して限度額を引き上げるといったようなこともございます。

 ただ、これはあくまでも国際的枠組みでございますので、幾ら我が国が主導するといっても、同じように賛同してくれる国がなければできないわけでございますので、私どもとしましては、今回の条約改正を行おうとしたときに、明石の事故が起きたときに、まず、国際的にその制限額を超えている事故がどれだけあるのかということをIMOで調査しようということを私どもから提案いたしまして、それが今回の改正に結びついたということもございますので、まずはしっかりと情報収集をする、関係国の考え方を聞く、そして、どういう形で取りまとめたらいいかというようなことも、関係省庁とも協力しながら、外務省ともよく調整をしながら、検討を深めてまいりたいというふうに思います。

井出委員 この中間取りまとめをされたときに、いろいろな検討項目があって、それに対して実現は難しいという結論が出て、先ほど私が読み上げたところは、この中間取りまとめの一番最後のところ、「今後の進め方」という項目でその話がありまして、繰り返しになりますが、国際的な性格の強い海運業で、日本だけがこの制度を採用できないということはまず困難だからこの制度が採用されている、それを変えるためには条約そのものの改正と条約からの離脱という、先ほど紹介したところなんですが、いずれも実現が難しい。

 これは、今後の進め方について、条約から離脱するということは、私も、文字どおりちょっとネガティブですし、難しいかなと思うんですけれども、条約の改正を我が国がイニシアチブをとっていくということは、私は十分可能じゃないかと思うんですけれども、そこがどうして、今後の進め方として、そもそも条約の改正を主導していくということが、実現は極めて難しいと、この段階で断じてしまっているのかを伺いたいんです。

櫻井政府参考人 お答え申し上げます。

 先生御指摘のとおり、検討会の中間取りまとめでございますけれども、検討会の中間取りまとめを議論していたときに、まさにIMOにおきましては、そのいろいろとあるオプション、例えば条約全体を改正するといったようなオプションがございますけれども、今回のような簡易改正手続によって責任限度額を一律に上げようということで議論の大勢が進んでおりました。

 それを踏まえまして、この中間取りまとめにおきましては、先生がお読みになったところと実は違うところでございますけれども、「海事債権責任制限条約の「責任限度額引き上げ」は、締約国の海運の国際競争力への影響など課題はあるものの実現の可能性の高い方策である。IMOにおいて早期に成案を得るよう我が国としても積極的に参加していくべきである。」というふうに答えてございます。

 それを踏まえまして、責任限度額の一律引き上げといったことについて調整をし、取りまとめをさせていただいたところでございます。

 ただ、このときには、今申し上げましたように、いろいろなオプションがある中で、この責任限度額の一律引き上げが一番成案が得やすいということでございますので、今申し上げたように、はなから難しいことが、引き続き、今現時点において可能かどうかについては、もう一度、関係省庁あるいは有識者を交えてしっかりと検討をする必要があるというふうに思っております。

井出委員 今、成案が得やすいというところで当時それに落ちついたんだというお話がありまして、確かに、この中間取りまとめも、最終取りまとめがないんですよ。最終取りまとめをおつくりになる作業が進んでいるのか、おつくりになるお気持ちがあるかどうかを伺います。

櫻井政府参考人 御答弁申し上げます。

 この検討会のときにも、関係省庁にも御参加をいただきまして検討してございました。委員会からいろいろと御指摘をいただいておりますので、関係省庁とも改めて調整をし、結論を見出したいと思っております。

井出委員 外務省に一点お伺いをしたいんです。

 繰り返しになりますけれども、当時の中間取りまとめの「今後の進め方」というところで、「条約そのものの改正等をわが国が主導して行っていく」、離脱の部分は私もよしとしますのでいいんですけれども、そこが、実現が難しいと言われるのは、外務省の能力に、外務省に対してこれは著しくマイナスの表現だと。ぜひ、条約改正は日本で、外務省でできるんだ、そこは我々が頑張る分野だ、そういうお気持ちでいていただかないと困ると思うんですね。いつまでも、国際的枠組みが、時がたったから同じものに参加するというだけでいいのかという疑問意識がありまして、そこの答弁をお願いします。

水越政府参考人 お答え申し上げます。

 個々の条約につきまして我が国の主導で改正することが難しいかどうか、これはひとえに、その事案ですとか、その問題についての各国の立場にもよるものではありますけれども、もしそれが我が国にとって必要なものということであれば、外務省としては、当然、全力を挙げてその努力をしたいというふうに考えております。

井出委員 これからの条約に対する日本のスタンスといいますか、どのようにこれからのことを考えていられるかを伺いたいのですが、これまでは、そういった大きな事故ですとかインフレによって限度額というものが引き上がってきた。この傾向が続けば、それに追随をしていくのか、それとも、一度検討していただいたように、例えば、一番は油ですね、あと、先ほど、まだ人命に対する責任制限がかかっているといったところの議論もあったかと思いますが、そういう重大部分の責任をしっかりと果たせるような仕組みを提案していくのか。日本としてこの条約に対してどういう方向性、スタンスで臨んでいくかを伺いたいと思います。

水越政府参考人 お答え申し上げます。

 本件につきましては、今後とも、国土交通省、法務省を初め関係省庁と十分に協議の上、今後の対応を決めていきたいと思います。

井出委員 日本は、IMOの第九十七回法律委員会で、日本側の主張として、物損、人損の全てにおいて責任限度額が一律に引き上げられるため付随的な影響が甚大であって、船舶燃料油の汚染損害への賠償、補償の確保という問題への対処としては不適切である、そういうような主張もされていたかと思いますし、また、当時、その九十七回法律委員会で、九六年の議定書の責任限度額の引き上げによって、七六年条約の締約国が九六年議定書の批准をちゅうちょするのではないか、そういう御主張もされていたと思います。

 最初の部分については、タンカーと同じ仕組みをつくるかどうかというところだと思いますし、二番目の批准をちゅうちょというところは、最初に御指摘をさせていただいた、これからどうやって、締約国、この条約をもっともっと広い世界水準のものにしていくかというところだと思うんですが、このお考えというのは、まだこれからもこの方向性でいくということなんでしょうか。そこをもう一度お願いしたいと思います。

櫻井政府参考人 お答え申し上げます。

 IMO第九十七回法律委員会というところで委員御指摘のような発言をしたということでございますけれども、今この時点においてその方針が変わっていないかということにつきましては、先ほど委員から御指摘がございましたが、まず、今の国内の制度設計を踏まえて条約改正といったものを提案するとか、そういう順番になるところでございますので、しっかりと、国内での制度設計について関係省庁と協力をし、その結論に従って対処してまいりたいというふうに考えております。

井出委員 本当に、よく協議をしていただいて。

 この委員会でもそうなんですけれども、どなたが発言されるのか、だから、ちょっと私もどなたにお聞きしていいかわからないという部分もあるんですが、そこはやはり、省庁の責任、あと、最初の法の所管というところだと思いますので、しっかりとやっていただいて、ぜひ、これからこの条約において日本もリーダーシップを発揮していただきたい。

 地球儀を俯瞰する外交ですとか積極的平和主義という言葉をこういう分野で使っていただくのは、私は大いに結構だと思いますし、応援したいと思いますので、そこのところをよろしくお願いいたします。

 あと一点、この条約について細かいところを伺いたいのですが、過去の議論を見たときに、大きな事故を想定して責任限度額を決めたり、そういう議論がなされてきたと思うんですが、海賊に襲われて荷物や人がどうこうなってしまったですとか、例えば、海の境界、国境に接するようなところで船を走らせて拿捕されてしまったとか、ここ数年の事情を見れば、そういう不穏な話も多々出てきております。

 この海賊の件ですとか拿捕された件も、船主にそれを予見する可能性があれば、当然、船主の責任としてここで議論しなければいけないリスクの一つだと思うんですが、このことがなかなか、今まで議論が少なかったというのはどういうことなのか、こういったリスクを議論していくことが必要なのかどうかについて伺いたいと思います。

深山政府参考人 今委員が御指摘になった、海賊による加害行為であるとか、あるいは隣の国から拿捕されてしまうということ、これによって貨物その他に損害が生じた場合に、船主に過失がないという場合ももちろんあると思います。少なからずあると思いますが、ただし、それが予見できていたにもかかわらず、落ち度があって現にそういうことになってしまったという意味で、過失がある場合もあると思います。

 過失がないということになると、船主は損害賠償責任を負わないので、このルールの問題ではなくなってしまう。

 過失がある前提で考えますと、これによって損害を受けた荷主等々の損害賠償責任が責任限度額を超えるということになれば、船主責任制限手続の申し立てがされるということは、もちろん適用の問題としてはあるんですが、日本の例を見ても、そういう例を余り聞いたことがありません、全部を網羅的に調べたわけじゃありませんが。

 ということで、そういう形で、責任限度額を超える損害が起こる、しかも過失があって船主が責任を負わなくちゃいけないというケースがそれほど多くないのではないかということが、そういったケースを典型的に念頭に置いた議論が今まで余りされていないという御指摘はそのとおりのような気がしますけれども、背景事情としてあるんだろうと思います。

井出委員 以前はそれでもよかったと思うんですけれども、特に海賊の問題については、ここ数年いろいろ議論がありますし、領海の、ほかの国と領域が接するところの議論というのもこれからの議論にはしっかりと含めていかなければいけないと思いますし、ほかの国がその議論をしないのであれば、日本が国際的な話し合いの場でそういう意見提起をすることはむしろ私は必要じゃないかなと思うんですが、いかがでしょうか。

深山政府参考人 船主責任制限制度の条約の変遷とか発展を見ますと、やはり実際に国際的に大きな事故なり問題になる事象があって、それを踏まえると、この制度を見直した方がいい、あるいは責任限度額を引き上げた方がいい、こういう形で国際的な議論がされ、それがルール化されてきているという歴史だろうと思います。

 先ほど申し上げたとおり、この種の、先生御指摘のような海賊による加害行為等々の、海賊による被害自体はあると思うんですが、それが船主責任制限制度との関係で国際的に問題になったケースというのはまだありません。ただ、今後あり得るのではないかといったら、そのとおりだと思います。

 したがって、今後そういうことが国際的に問題になれば、それを視野に置いた形でもう一度国際ルールを見直すという議論があり得ることだと思いますが、責任制限制度との関係で海賊行為等々が問題になったことはなかったことが今までの議論であって、今後そういうことがあり得るというのも、それは、可能性の問題としてはそういうこともあり得るのではないかと思っております。

井出委員 よく三つの省庁で議論をしていただいて、このことも頭に置いて今後のことを考えていただければと思います。

 最後に、最近の話題として一つ、本論ではありませんが、きょうは御担当の大臣、副大臣がおられますので、特定秘密のことについて伺いたいと思います。

 その最近の話題というのは、三月三十日に、国会の方で、特定秘密を監視していく情報監視審査会というものが立ち上がりました。ただ、立ち上がったとはいうものの、次回いつ開くのかとか、そういったところは全く決まっていないと言ってもいいような実情でございます。

 そこで、法律に書いてある情報監視審査会の規定などを見れば、情報監視審査会、少なくともここだけは動くだろう、政府側が特定秘密の運用状況を国会に報告するタイミング、そのときに合わせて情報監視審査会にもそういった報告があると思うんです。

 その報告を、今国会に去年の分をというところはたしかもう公になっていると思いますが、その公開の時期、公開に向けた進捗の状況を伺いたいと思います。

葉梨副大臣 井出先生、情報監視審査会の委員に御就任されたということでの御質問かと思います。

 毎年一回、内閣総理大臣が特定秘密の指定件数などを取りまとめて国会に報告をするということが運用基準と法律で決まっております。それで、毎年一回ということで、昨年施行になったわけですので、この通常国会、六月下旬までの会期ということでございますので、今通常国会中には国会への報告をいたしたいというようなスケジュール感で進めております。したがいまして、内閣保全監視委員会及び情報保全諮問会議は、国会報告の時期も見据えて、四月から五月ごろに開催したい、その後に国会報告ということになろうかと思います。

 また、国会報告と情報監視審査会、こちらの報告はまた別に行われる形になりまして、これは、運用基準におきまして、情報監視審査会に対しましては、特定秘密の指定件数を国会に報告する、それ以外にも、特定秘密指定管理簿を取りまとめたものを国会報告に添付して両院の情報監視審査会に報告をするというような形になっておりますので、その作業もまた鋭意進めさせていただいております。

井出委員 今のお話ですと、恐らく、情報監視審査会に報告をいただくものの方が詳細なものが出てくるのかなと思っているんですが、国会への報告と情報監視審査会への報告、これはどっちが先になるかも非常に大事だと思うんですが、そのあたりの想定というのはいかがでしょうか。

北村政府参考人 お答えいたします。

 国会への報告それから情報監視審査会への報告ということでございますが、国会への報告につきましては、私どもの方で作成いたしました報告書というものを事務局の方に提出した段階で国会への報告になるというふうに承っております。

 他方、監視審査会への報告につきましては、具体的にどのような形で報告をした形にするのか、あるいは審査会においての御説明をどういう形にするのかということにつきましては、先般立ち上がっております情報監視審査会の事務局、こちらの方とも御相談させていただきながら、また委員の先生方の御指導も賜りながら決めてまいりたいというふうに考えてございます。

井出委員 済みません、重ねてで恐縮なんですが、中身は恐らく細かいものが情報監視審査会に提示されると思うんですが、国会への報告の方は四月、五月のスケジュール感というお話があったと思うんですけれども、審査会の方が先になるのか後になるのかというのは、審査会のありようといいますか、置かれている存在意義にもかかわると思いますし、あと、冒頭申し上げましたけれども、審査会自体も、次にいつやるかも決まっていない状況ですので、その後先というところは私は非常に重要だと思うんですけれども、もう一度お願いいたします。

奥野委員長 北村内閣審議官、もう時間が来ていますから、なるべく短くお願いします。

北村政府参考人 お答えいたします。

 先ほど申し上げましたように、今後詰めてまいりたいというふうには考えておりますが、基本的には、政府におきまして、閣議決定の上、国会へ提出し、しかるべき後に審査会の方への御報告という形にいたしたいと考えてございます。

井出委員 わかりました。まだちょっと伺いたいことがあったんですが、しかるべき後にというところまではわかったので、心の準備だけはしておきたいと思います。

 終わります。ありがとうございました。

奥野委員長 次に、畑野君枝君。

畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。

 船舶の所有者等の責任の制限に関する法律、いわゆる船主責任制限法の改正案について質問をいたします。

 船主責任制限制度は、民事責任の一般原則に従えば全額を賠償しなければならないが、船主の経済的破綻を防ぐために賠償制限が設けられたもので、一方、被害者保護から見れば、船主責任の制限を引き上げることが大事で、物価上昇や大きな海難事故があるたびに責任限度額を引き上げてきたわけです。

 そこで、上川法務大臣に伺います。

 二〇〇八年の明石海峡船舶多重衝突事故や、二〇〇九年のオーストラリアのクイーンズランド州モーレトン岬七海里付近で発生した船舶燃料油流出事故で、大規模な油汚染被害が生じました。国際海事機関、IMOで今回の一・五一倍の引き上げとなったわけですが、仮に一・五一倍に引き上げるということが行われていたとしたら、過去十年間に責任限度額を超過した海難事故の中で全額補償が可能になったのは何件中何件になると言えるのか、伺いたいと思います。

上川国務大臣 御質問の件でございますが、資料が、日本船主責任相互保険組合、いわゆるJPIクラブが発表したものでございますけれども、過去十年間で被害者の損害額が船主責任制限法の責任限度額を超過した海難事故、これは六件ということでございます。うち、現在の為替レートを前提といたしますと、今回の一・五一倍の責任限度額の引き上げによりまして損害全額補償が可能になるのは二件ということでございます。

畑野委員 今、上川大臣から御答弁がございましたが、今回の法改正が適用されるとなれば、今おっしゃられた二件のような事故は全額補償されるということになるということで、少しは改善されるということだと思います。それを前提にしながら、さらに幾つかの点について伺います。

 昨年、二〇一四年三月十八日に三浦沖で事故がございました。パナマ船籍の貨物船ビーグル3、一万二千六百三十トンと韓国船籍コンテナ船、七千四百六トンが衝突をして、貨物船ビーグル3が沈没をし、大量の油流出事故が起こりました。一年がたちました。ビーグル3の乗組員が七人死亡し、二人が行方不明となっているということで、この被害者にしっかり補償がされなければなりません。

 同時に、漁業でも甚大な被害を受けたというふうに思いますが、漁業者の損害や補償はどのようになっているのでしょうか。

    〔委員長退席、柴山委員長代理着席〕

水田政府参考人 お答えいたします。

 昨年三月に三浦沖で発生いたしました外国船衝突沈没事故におきましては、貨物船から重油が流出しまして、千葉県及び神奈川県において、ノリ養殖業、定置網、ヒジキ漁などが操業停止となるなどの漁業被害が発生したところでございます。

 被害額や補償額につきましては、現在も関係者間で交渉中であり、確定していないと聞いております。

 こうした事故のようなケースは、加害者が明らかでありますので、損害賠償により解決されることが基本でございますが、水産庁といたしましても、漁業者の生計にかかわる重大なものだというふうに認識をしているところでございまして、漁業共済を活用いたしまして、漁業被害者への支援を行っているところでございます。

 具体的には、千葉県のノリ養殖業者に対しまして約一千九百万円の共済金が支払われたほか、本日、漁業共済団体から聞いたところでは、さらに千葉県の定置網の漁業者の方に一千三百万円の共済金支払いが行われたところでございまして、これまでのところ、支払われた共済金は約三千二百万円というふうになっているところでございます。

畑野委員 それでは、この事故ですが、船主責任制限額はどうなっていますか。

深山政府参考人 先ほど御説明がありましたとおり、この船舶衝突事故は、七千四百六トンの韓国籍船と一万二千六百三十トンのパナマ籍船との衝突事故でございます。

 このうち、まず、韓国籍船については、既に我が国の裁判所に責任制限の申し立てがされておりまして、申し立て時の為替レートで責任限度額は五億円強と承知しております。

 他方、パナマ籍船については、責任制限の申し立てがされているということはちょっと承知しておりませんけれども、仮に現在の為替レートで計算いたしますと、責任限度額は八億七千万円強になるものと承知しております。

畑野委員 三浦沖の事故では、今後の交渉ということで今わからないということですけれども、しかし、責任制限額よりも甚大な被害が予想されるというふうに思うんです。

 七年前の二〇〇八年、明石海峡で起きた多重衝突事故ですが、ゴールドリーダー号が沈没し、その乗組員三人が死亡、一人が行方不明となりました。そのときの漁業関係の被害額について伺います。

水田政府参考人 お答えいたします。

 御質問いただきました平成二十年の明石海峡の事故でございますが、その漁業関係の被害額につきまして地元の漁業者団体に改めてお聞きしましたところ、総額で約四十億円でございます。その内訳につきましては、ノリ養殖業における被害額が二十四億円、イカナゴ漁など漁船漁業における被害額が約十三億円、防除、清掃作業に要した費用が二億円とのことでございます。

畑野委員 それでは、この明石の事故では責任制限額はどうなっていますか。

深山政府参考人 この明石海峡沖の多重衝突事故は、四百九十六トンの日本船籍の作業船と千四百六十六トンのベリーズ船籍の貨物船、それから二千九百四十八トンの日本船籍のタンカーの三隻の衝突事故でございます。

 それで、これは船の大きさによって責任限度額が違うわけですけれども、全ての船舶につきまして責任制限の申し立てが裁判所にされております。申し立て時の為替レートによる責任限度額は、日本船籍の作業船とベリーズ船籍の貨物船がそれぞれ約一億七千万円、日本船籍のタンカーが少し大きいので二億六千万円弱ということで、三隻の合計をいたしますと約六億円ということになります。

畑野委員 そうしますと、明石の事故での漁業関係の被害でも四十億円の損害、それに対して責任限度額は三隻で六億円ということですから、開きは余りにも大きいというふうに言わざるを得ません。

 それでは、責任制限法で補償されなかった兵庫県漁連の被害に対してはどのような対処がされているのか、そしてまた現地ではどのような影響が及ぼされているのか、把握はされていますか。

水田政府参考人 お答えいたします。

 明石海峡での事故のケースでございますが、責任制限額を被害額が超えたということでございまして、漁業者の方が被害額相当の損害賠償を受けられなかったところでございます。

 水産庁といたしましては、このような事態は漁業者の生計にかかわる重大なものだというふうに認識をしておりまして、明石海峡での事故の際には、漁業共済による共済金約五億円が支払われたところでございまして、こういったことで漁業者への支援を行ったところでございます。

 ただ、当時、この事故で被害を受けた兵庫県のノリ養殖業者の方々は漁業共済の加入率が低くて、また、かつ補償額の低い契約を選択していた漁業者が多かったことから、十分に被害をカバーできなかったところでございます。

 現在では、兵庫県のノリ養殖業者の共済加入率は九割を超えておりまして、補償額の高い契約が選択されているというふうに承知をしております。

 水産庁といたしましては、関係省庁、関係団体と連携しつつ、漁業共済の加入促進の取り組みを進めまして、こうした制度の活用によりまして、漁業者の被害軽減にしっかりと取り組んでいきたいというふうに考えております。

畑野委員 当時、もう本当に廃業せざるを得ないという状況が生まれたわけで、これでは本当に足りないと思うんです。

 二〇〇八年の明石海峡多重衝突事故を受けて、日本がどのような取り組みをしたのかということですが、船主責任制限について引き上げを求めたのかということです。IMO第九十四回法律委員会に対して、どのような対応を求めたのですか。

    〔柴山委員長代理退席、委員長着席〕

櫻井政府参考人 お答え申し上げます。

 二〇〇八年三月の明石事故を受けまして、同年、二〇〇八年の十月に開催されました国際海事機関の第九十四回法律委員会におきまして、日本からは、この明石事故の被害を報告し、世界じゅうで起こった船主責任限度額を超える燃料油の被害実態についてIMOにおいて情報収集をするということを提案いたしました。

 本提案を受けまして、IMOのオブザーバー資格を有します世界的な船主責任保険組合グループが、これはP&Iクラブでございますけれども、調査を行いまして、グループ傘下の保険組合に加入する船舶による燃料油の流出事故は二〇〇〇年から二〇〇九年までに五百九十五件発生していること、そして、この九六年議定書の船主責任限度額を超過するのは七件であるということが二〇〇九年の第九十六回法律委員会及び二〇一〇年の第九十七回法律委員会において報告されております。

畑野委員 その一九九六年議定書の責任限度額を超過する七件の事故、先ほども少しお話がありましたが、船名と事故発生国、当該事故の被害額の責任限度額に対する割合について、それぞれ伺います。

櫻井政府参考人 お答え申し上げます。

 七件のものについて、古い順に御説明いたします。

 一件目は、ブラジルで起きましたビクーニャ号という事件がございます。御指摘の被害額の責任限度額に対する割合は約四倍でございます。

 二件目は、ベネズエラで起きましたマースク・ホリーヘッド号の事故で、責任限度額に対する割合は約三倍の被害額でございました。

 三件目は、日本で起きましたクサン号の事件で、割合は約二倍でございました。

 四件目は、ノルウェーで起きましたサーバー号の事件で、被害額は約三倍でございました。

 そして五件目は、ギリシャで起きましたシーダイヤモンド号の事件でございます。これは、被害額の割合は約三倍でございます。

 六件目は、スペインで起きましたドン・ペドロ号の事件でございまして、限度額に対する割合は約二倍でございます。

 七件目は、二〇〇八年に明石で起きたゴールドリーダー号の事故でございまして、そのときの被害額についてはちょっと幅がございましたけれども、割合は約三十倍から四十倍ということで報告されてございます。

畑野委員 そうしますと、このゴールドリーダー号が三十倍から四十倍と、突出して高いわけですね。ですから、この調査の結果は本法案で引き上げられる一・五一倍を上回っているということです。

 そこで、伺いますが、過去十年間で責任限度額を超過した海難事故、P&I保険加入という調査資料によると、今回一・五一倍の改正をしても、責任限度額が損害額を上回っているのは川崎で発生したC号とA号だけで、明石の事故を含め、六隻中四隻は損害額よりも責任限度額が下回っているというふうになっておりますが、そのとおりでよろしいですか。

深山政府参考人 先ほど法務大臣からも御説明したとおり、現在の為替レートを前提といたしますと、今御指摘があったとおり、今回の一・五一倍の責任限度額の引き上げによって損害全額の補償が可能になるのが二件、明石沖の事件も含むその余の四件については責任限度額を上回る計算に相変わらずなってしまう、こういうことでございます。

畑野委員 ですから、今回の条約改正に基づく法改正をしても、まだ、燃料油流出によって被害をこうむった場合に制限額を超えることがあり得るということは明白です。

 国土交通省に伺いますが、明石の事故の翌年の二〇〇九年に、我が党の穀田議員が、明石の事故で被害が甚大で、何ら責任のない漁業者を泣き寝入りさせないようにという質問を行いましたが、その後の対応はいかがですか。

櫻井政府参考人 お答え申し上げます。

 二〇〇九年六月の衆議院の国土交通委員会におきまして、穀田先生から、責任制限があって被害に対し十分に補償し得ない、こういう点を見直すべきだという趣旨の御質問をいただきました。

 これに対しまして、海事局より、始まったばかりのIMOでの議論をリードして、国際的な枠組みの構築に努めてまいりますとお答えしております。この時点におきまして、先ほど御答弁申し上げました、どれだけ大きい被害の事故が出ているのかを国際的にしっかり調査しようということをIMOに対して言っておりまして、それを踏まえまして、始まったばかりのIMOの議論をリードするというお話をさせていただきました。

 そして、さらに具体的に、二〇〇九年の十一月、本日の委員会でもお取り上げでございますけれども、国土交通省におきましては、関係省庁及び有識者から成ります船舶燃料油被害の補償制度に関する検討会というものを開催いたしまして、検討してまいりました。

 そして、被害者の救済の方策につきましては、繰り返しでございますけれども、船主責任制限条約の簡易改正手続による責任限度額の引き上げ、これは今回の改正でございますけれども、この方策のほか、船主責任制限条約の全面改正、バンカー条約において燃料油被害に特化した責任限度額の設定、そして、国内及び国際的な基金制度の創設も含む複数の補償制度について検討いたしました。

 本日も委員会で御指摘ございましたように、油タンカーには荷主である油の受取人を拠出者とする国際油濁補償基金に基づく補償制度があることを踏まえまして、船舶の燃料油の被害に対する基金制度の創設について検討したわけでございますけれども、タンカーの場合におきます油の受取人といったような拠出を求める者の検討につきましては、負担を正当化し、負担を義務化するには十分な理由に乏しいということで、基金創設は困難との結論にその時点では至っております。

 ただ、そのとき、同時に、先ほど申し上げました被害の実態ということを踏まえまして、国際海事機関におきましては、条約の簡易改正手続に基づく責任限度額の改正に絞って検討するといったことがございましたので、我が国は確実にこの改正の動きがまとまり、責任限度額が引き上げられるように調整を進め、今次改正が実現したところでございます。

 私ども、海運業の国際性に鑑みれば、補償制度の創設も国際的枠組みとして取り組むことを前提とすべきと考えております。

 現在のところ、今次責任限度額の引き上げ改正の採択以降、IMOに対しまして新たな責任限度額を超える事故被害の報告はありません。

 ただ、燃料油による被害の額が責任限度額を超える場合における被害者の救済はなお重要な課題であると認識しておりますので、本日も御議論いただきましたけれども、関係省庁ともしっかりと協力をし、また、IMOにおきます、国際的な事故の動向や加盟国の制度改正の考え方について情報収集を進め、適切に対応してまいりたいと思っております。

畑野委員 関係省庁が本当にこのことに真剣に取り組んでやる必要があると思うんですね。

 私は、昨年の三浦沖の事故の直後に、神奈川県三浦市にも伺いました。その岩場では、重油が確認できまして、それをすくうと本当に強いにおいが鼻をつきました。地元の漁協は、ヒジキ漁は中止です、油の漏出を広げないように緊急に対策を打ってほしいと。この事故の前にとったものも、やはり風評被害など含めて大変な事態になったわけです。

 それから、千葉県の富津市からは、やはり、漏出をとめるための費用をどこが持つのかがはっきりしないから本当におくれてしまう、これは何とかならないのかという問題が指摘されて、地元の漁協からも、二週間以上漁に出られないと。定置網の話がありましたけれども、そのお金も物すごくかかると。

 その補償が今論争になるわけですけれども、出るまで生活費をどうするんだ、国に本当に要望したいという声が当時出されたわけです。

 そこで、上川大臣に伺いますけれども、今、船舶の巨大化や高速化で、油濁の拡大や船の残骸撤去の重大性というのは増しております。そして、きょうお話しした三浦沖やあるいは明石海峡の事故によって、被害者の方々は本当に苦労をされています。そういう点で、被害者の保護を、あらゆる知恵も集めて日本で拡充すべきだというふうに思いますけれども、上川大臣の御認識はいかがでしょうか。

上川国務大臣 ただいま委員から、具体的な海難事故に関する御質問をいただきました。また、今後、船舶が大型化する、あるいは高速化する、いろいろな進歩がありまして、海難事故につきましてもしっかりと取り組んでいくということについての問いがございました。

 今回、改正をお願いしているところでございます、責任限度額の引き上げをお願いしているわけでありますが、その引き上げが仮になされた後におきましても、漁業被害等の額が責任限度額を超える場合というのが生じてくるということにつきましては、先ほど来のお話のとおりであるということでございます。

 先ほど来、国土交通省、また水産庁の方から、今どういう形で取り組んでいるのか、また、これからどう取り組むのかというお話がございましたけれども、法務省といたしましても、この法律の所掌ということでございますし、また、そうしたこれまでの事件、事故、さらにそれに対しての国際的な動きということもございますので、そういったことをしっかりと踏まえた上で、被害に対してはしっかりと救済ができるように、さらに進めてまいりたいというふうに思っております。

畑野委員 今、上川大臣から、被害については本当にしっかり救済していくようにしていきたいというふうにおっしゃっていただきました。

 オーストラリアは、IMOに、当初、二・三倍の引き上げを提案いたしました。オーストラリアのような環境重視国は、海難事故に対して汚染者負担の原則を第一義的に位置づけております。

 日本の漁業でいえば、海面を使ったノリや養殖を初めとして、被害が広く及び、甚大になるわけですから、その対策、そして被害者保護をしっかりと行う、このことを重ねて強く求めて、私の質問を終わります。

奥野委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 これより討論に入るのでありますが、その申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。

 内閣提出、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の一部を改正する法律案について採決いたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

奥野委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥野委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

    ―――――――――――――

奥野委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後二時五十分散会


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