衆議院

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第16号 平成14年5月29日(水曜日)

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平成十四年五月二十九日(水曜日)
    午前九時一分開議
 出席委員
   委員長 吉田 公一君
   理事 浅野 勝人君 理事 石破  茂君
   理事 坂井 隆憲君 理事 西川 公也君
   理事 首藤 信彦君 理事 中川 正春君
   理事 上田  勇君 理事 土田 龍司君
      今村 雅弘君    岩永 峯一君
      小坂 憲次君    高村 正彦君
      高木  毅君    丹羽 雄哉君
      西川 京子君    細田 博之君
      増原 義剛君    松野 博一君
      宮澤 洋一君    望月 義夫君
      伊藤 英成君    金子善次郎君
      木下  厚君    桑原  豊君
      藤村  修君    前田 雄吉君
      丸谷 佳織君    松本 善明君
      東門美津子君    松浪健四郎君
      鹿野 道彦君    柿澤 弘治君
    …………………………………
   外務大臣         川口 順子君
   外務副大臣        植竹 繁雄君
   外務大臣政務官      今村 雅弘君
   外務大臣政務官      松浪健四郎君
   政府参考人
   (法務省入国管理局長)  中尾  巧君
   政府参考人
   (外務省大臣官房審議官) 林  景一君
   政府参考人
   (外務省大臣官房文化交流
   部長)          横田  淳君
   政府参考人
   (外務省総合外交政策局軍
   備管理・科学審議官)   宮本 雄二君
   政府参考人
   (外務省アジア大洋州局長
   )            田中  均君
   政府参考人
   (外務省欧州局長)    齋藤 泰雄君
   政府参考人
   (外務省経済局長)   佐々江賢一郎君
   政府参考人
   (文化庁次長)      銭谷 眞美君
   外務委員会専門員     辻本  甫君
    ―――――――――――――
委員の異動
五月二十九日
 辞任         補欠選任
  中本 太衛君     高木  毅君
  原田 義昭君     岩永 峯一君
  細田 博之君     松野 博一君
  水野 賢一君     増原 義剛君
  宮澤 洋一君     西川 京子君
  伊藤 英成君     藤村  修君
同日
 辞任         補欠選任
  岩永 峯一君     原田 義昭君
  高木  毅君     中本 太衛君
  西川 京子君     宮澤 洋一君
  増原 義剛君     水野 賢一君
  松野 博一君     細田 博之君
  藤村  修君     伊藤 英成君
    ―――――――――――――
五月二十八日
 実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約の締結について承認を求めるの件(条約第一〇号)
 千九百六十七年七月十四日にストックホルムで署名された世界知的所有権機関を設立する条約第九条(3)の改正の受諾について承認を求めるの件(条約第一一号)
 文化財の不法な輸入、輸出及び所有権移転を禁止し及び防止する手段に関する条約の締結について承認を求めるの件(条約第一八号)
同月二十九日
 沖縄の新米軍基地建設反対に関する請願(児玉健次君紹介)(第三五九〇号)
は本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 政府参考人出頭要求に関する件
 実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約の締結について承認を求めるの件(条約第一〇号)
 千九百六十七年七月十四日にストックホルムで署名された世界知的所有権機関を設立する条約第九条(3)の改正の受諾について承認を求めるの件(条約第一一号)
 文化財の不法な輸入、輸出及び所有権移転を禁止し及び防止する手段に関する条約の締結について承認を求めるの件(条約第一八号)


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     ――――◇―――――
吉田委員長 これより会議を開きます。
 実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約の締結について承認を求めるの件、千九百六十七年七月十四日にストックホルムで署名された世界知的所有権機関を設立する条約第九条(3)の改正の受諾について承認を求めるの件及び文化財の不法な輸入、輸出及び所有権移転を禁止し及び防止する手段に関する条約の締結について承認を求めるの件の各件を議題といたします。
 政府から順次趣旨の説明を聴取いたします。外務大臣川口順子君。
    ―――――――――――――
 実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約の締結について承認を求めるの件
 千九百六十七年七月十四日にストックホルムで署名された世界知的所有権機関を設立する条約第九条(3)の改正の受諾について承認を求めるの件
 文化財の不法な輸入、輸出及び所有権移転を禁止し及び防止する手段に関する条約の締結について承認を求めるの件
    〔本号末尾に掲載〕
    ―――――――――――――
川口国務大臣 ただいま議題となりました実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約の締結について承認を求めるの件につきまして、提案理由を御説明いたします。
 この条約は、平成八年十二月にジュネーブで開催された国際会議において採択されたものであります。
 この条約は、情報関連技術の発達等に対応して、実演家及びレコード製作者に係る著作隣接権を一層効果的に保護することを目的とするものであります。
 我が国がこの条約を締結することは、世界の実演及びレコードについての国際的な保護の強化に資するものであり、著作隣接権の分野における国際協力を促進するとの見地から有意義であると認められます。
 よって、ここに、この条約の締結について御承認を求める次第であります。
 次に、千九百六十七年七月十四日にストックホルムで署名された世界知的所有権機関を設立する条約第九条(3)の改正の受諾について承認を求めるの件につきまして、提案理由を御説明いたします。
 この改正は、平成十一年九月にジュネーブで開催された世界知的所有権機関の締約国会議において採択されたものであります。
 この改正は、世界知的所有権機関事務局長の任期を制限することを内容とするものであります。
 我が国がこの改正を受諾してその早期発効に寄与することは、世界知的所有権機関の運営の円滑化に貢献するとの見地から有意義であると認められます。
 よって、ここに、この改正の受諾について御承認を求める次第であります。
 次に、文化財の不法な輸入、輸出及び所有権移転を禁止し及び防止する手段に関する条約の締結について承認を求めるの件につきまして、提案理由を御説明いたします。
 この条約は、昭和四十五年十一月にパリで開催された国際連合教育科学文化機関の第十六回総会において採択されたものであります。
 この条約は、不法な文化財取引を実効的に禁止し及び防止することを目的とするものであります。
 我が国がこの条約を締結することは、文化財保護の分野における国際協力に寄与する見地から有意義であると認められます。
 よって、ここに、この条約の締結について御承認を求める次第であります。
 以上三件につき、何とぞ、御審議の上、速やかに御承認いただきますようお願いいたします。
吉田委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。
    ―――――――――――――
吉田委員長 この際、お諮りいたします。
 各件審査のため、本日、政府参考人として外務省大臣官房審議官林景一君、大臣官房文化交流部長横田淳君、総合外交政策局軍備管理・科学審議官宮本雄二君、アジア大洋州局長田中均君、欧州局長齋藤泰雄君、経済局長佐々江賢一郎君、法務省入国管理局長中尾巧君、文化庁次長銭谷眞美君の出席を求め、それぞれ説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
吉田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
    ―――――――――――――
吉田委員長 これより質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。最初に、首藤信彦君。
首藤委員 外務大臣、おはようございます。民主党の首藤信彦です。
 きょうは、のっけから、すがすがしい朝ですが、私としては非常に気分の悪い質問を先にしなければいけない、そうしたつらいつらい思いを持っております。それは、言うまでもなく、昨今ジャーナリズムなどで取り上げられている新ガーナ大使の認証の問題でございます。もうすぐ天皇の認証ということで正式に決定するということでありますが、これに関しては大変私は関心を持っているんです。
 外務大臣御存じのとおりに、私はアフリカ問題に長く関係しておりまして、ガーナというのはどういう国か、よく知っております。これはアフリカの中核国でございまして、外務省がこれから取り組もうとしているTICADに関しても、もとのローリングスという指導者のもとで新しい体制が発足した、アフリカの将来の中核となるような国なんですね。ですから、ここにどういう大使が今度行かれるかということでは、非常に関心を持っております。
 浅井和子さんという方がそこに大使として赴任されるということで、それは、こんな難しいところへ、またこんなに重要なところに一体どういう経歴の方が行かれるのかというふうに関心を持っておりましたら、どうも外務省の方でない。それならば、きっとアフリカに造詣の深い、あるいは研究者なのかと、私もアフリカに長く関係しておりますが、どうして私が知らなかったかなと思いながら、データベースを拝見させていただきました。
 いろいろなデータベースを、ありとあらゆる情報を検査するわけでございます。新聞記事もそうですし、それから、この方は弁護士だということで、恐らく弁護士さんが書かれる、ジュリストとかいろいろな専門の法律雑誌なんかもございます。もうありとあらゆるものをチェックしたんです。全く出てこないんですよ。全く業績が出てこない。唯一の業績として出るのは、何か市販本の翻訳者の中の一部ということで名前が出てくる。
 専門的でもない、アフリカといったら全く知らない、こんな方がどうして、これからまさに日本がTICADを主催していく、アフリカの最も重要な国であるガーナの大使にならなければならないのか。一体どういう選考プロセスでこれが選ばれていったのか、それをぜひ明らかにしていただきたいと思うんです。
 外務大臣、この件に関しては、前の猪口さんのときでも、果たしてどうして軍縮大使なのか、どうしてこの方なのか、いろいろな女性の学者もたくさんおられます、軍縮問題に関係している方もたくさんおられます、どうしてこの方なのかということを質問しているうちに、あっという間に決まってしまって、実際に大使として赴任してしまった。
 こんなことは、外務省改革の立場からいってもおかしいじゃないですか。今、外務省が問われ、大使の役割が問われ、今また瀋陽の問題で、まさに阿南大使の資質が問われている。こういうような状況の中で、国民が何らチェックすることなしに、だれかが決めたことによって、多少の人気稼ぎで、女性だから何だからといって、どんどん決まってしまう。これこそまさに外務省の最も恥ずかしいところじゃないですか。外務省は、改革しようというのに一つも改革できていないじゃないですか。しかも、改革していくのは、ますますどんどん何か怪しげな人になっていくじゃないですか。
 一体どういうプロセスでこの方が選ばれてきたのか、まずそこを詳細に御説明をお願いしたいと思います。
川口国務大臣 浅井大使につきましては、この方は非常に国際経験豊かな弁護士でいらっしゃいます。国際問題にも非常に造詣が深い方でして、国際関係に対する知識あるいは高等学校のときの留学経験も含めて、高等教育をアメリカやイギリスで受けていらっしゃる。そういった意味で、外国語能力もありますし、海外生活経験もあるといった点で申し分がない。アフリカにも、今までいらしたことがおありでいらっしゃいます。
 こうしたさまざまなことを勘案いたしまして、委員がおっしゃったように、ガーナは近年、アフリカで民主化や経済改革に取り組んでいる重要な国でございますので、この英語圏に属するガーナにこの方に赴任していただくということが非常にいいというふうに判断をさせていただいたわけでございます。
首藤委員 最初に訂正させていただきます。
 私は今まで、天皇の認証がもうすぐだから、早くこれをやらなきゃいけないということを言い続けてまいりました。もう天皇の認証は五月十四日に済んだそうです。私は、このことに関しても間違った情報を得ていた。それをこの席で、間違っていたためにこういったことを、大変皆さんに申しわけないと思う。我々に対しては情報すら正しく伝わっていない。もう既に済んだそうです。
 今外務大臣はおっしゃいましたね、高校のときに留学した。一体どれだけの数の人が今高校でアメリカに留学しますか。アフリカに行った人なんというのはたくさんいますよ。それは、エジプトのピラミッドを見に行った人もいるし、それから国際会議で南アフリカへ行く人もいるし、たくさんいるじゃないですか。国際関係に造詣が深い、冗談言っちゃいけないですよ。私も長くやっていますが、このことは知らないですよ、はっきり言って。一体どういう基準でこの方が選ばれたのか。
 例えば、リストを出してください、百人とか千人とか。その中でなぜこの人が選ばれたのか、それを明確にしてください。そうしていただかないと、高校のときに留学した、アフリカへ行ったことがある、こんなことで選ばれるんなら、何万人だって選べますよ。どうしてこの方なのか。しかも、この方がすばらしくてならともかく、もう既に週刊誌で取り上げられるような方を、なぜよりによって外務省が選ばなければならなかったのか、そこの基準を明確に言ってください。基準が重要なんです。
川口国務大臣 この方の経歴について御関心がおありでいらっしゃいますようなので。
 高等学校時代は、アメリカン・フィールド・サービスの五期生として留学をしていらっしゃいます。最近でこそ高校で留学をする人というのは非常に多いわけでございますけれども、この年代、アメリカに高校で留学をできるということは本当になかったことでして、ちなみに私はAFSの四期生ですけれども、日本全体で五十人しかいなかった、そういう時代にアメリカに留学した方でいらっしゃいます。
 それから、ほかの高等教育を外国でということでいいますと、ハーバードの大学のロースクール、これはディグリーを取ったということではなくて、弁護士のためのセミナーに参加をしたということでございますが、それから、英国の大学の修士課程の修了をしていらっしゃる。(首藤委員「どこですか」と呼ぶ)ブラッドフォード・ユニバーシティー、デパートメント・オブ・ピーススタディーズ。
首藤委員 もう一度確認しますけれども、ブラッドフォードのピーススタディーズというのは、それは有名なところで、大変よく知っているところですけれども、そこのマスターを修了されたということですね。
川口国務大臣 修士課程修了でMPhと書いてありますから、多分Mフィルだと思います。
首藤委員 では、この方が、先ほど外務大臣、いろいろなところで、記者会見でもアフリカに大変造詣が深いとおっしゃっていましたけれども、アフリカのどういうふうに造詣が深いんですか。例えば、アフリカのボツワナに二年間住んでいた、ルワンダでボランティアを三年間やっていた、ケニアで政府顧問をしていた、どういう形でこの方がアフリカに造詣が深いんでしょうか。正確に言ってください。
川口国務大臣 私どもは、これから民間の人や他省の人、要するに外務省以外の人、こういう方々を多数大使に任用したいと考えております。本省の幹部のポジションもそういうことですけれども。
 それで、いろいろな方がこの点についていろいろな御提言をくださっていますけれども、人によっては、例えば二割とか、例えば三割とかあるいは四割とか、そういう人を大使に外から任用すべきであるという御意見もございます。そういった中で私どもは、きちんとその基準をつくって大使に任用するということが非常に重要であるというふうに思っております。それで基準もつくっております。
 どういう基準を持っているかということで申し上げますと、一つは、外交について高い見識を有すること、また、長期間の海外出張や海外生活に耐えられる健康状態にあること、三番目に、一定の外国語能力を有すること、四番目に、一定期間の海外在住経験を有すること、五番目に、就任に当たり、一切の営利企業その他の報酬を得ている団体の役職を辞することができること、六番目に、在外公館長の場合は、就任時点で原則として六十三歳以下であることというような基準に基づきまして、外務省として適性を考えた上で、これを外務大臣が決定をし、外務大臣の申し出で内閣が決める、そういうプロセスを経てやっているわけでございます。この基準にのっとっているということが、大使としての適性を考えるということで重要だと考えております。
首藤委員 委員長、ちょっとおかしいじゃないですか。私はアフリカのことを聞いているんですよ。おかしいじゃないですか。注意してくださいよ。
吉田委員長 いや、だけれども、経歴を説明しているから。
首藤委員 経歴じゃなくて、アフリカのどういう局面に関係しましたかと。先ほど言ったでしょう、ルワンダで何かやったのか、あるいはケニアで政府顧問をしていたのか。アフリカの大使で行く国が、アフリカをばかにしているわけじゃないでしょう。アフリカではこんなことで、ああ、こういう方が来られたんだ、ケニアでは政府顧問もやっていたんだ、あるいは現地でボランティア活動をずっとやっていたんだという方がなるわけですよ。
 アフリカに詳しい方と記者会見でおっしゃっているんですが、一体どういう形でアフリカに対して本当に詳しいと外務大臣が胸を張って言われる方なんですか。
川口国務大臣 浅井弁護士からは、アフリカに行った経験があります、仕事をした経験がありますということを伺っていますけれども、私がなぜさっき基準を申し上げたかというと、アフリカに詳しい人でなければアフリカの大使になれないというのは、委員の御判断、御基準でいらっしゃいましょうけれども、私どもの基準は、先ほど申し上げた基準で選んでいる、そういうことを申し上げているわけです。
首藤委員 私は、その基準を聞いているんじゃない。アフリカでどんな活動をされていたのか、詳しいというふうに言っているような方だったら、どういうふうな活動が詳しいのか、そこをお聞きしているわけですよ。
吉田委員長 外務大臣、それが質問の趣旨のようですから。
 外務大臣。
川口国務大臣 浅井弁護士からは、アフリカに行ったことがある、仕事をしたことがあるということを聞いているということを先ほど申しました。
首藤委員 だから、これも私も先ほど申し上げましたが、アフリカに行った人はたくさんいる。みんな行ったことがある。中には、ソンドゥ・ミリウダムまで行った人もいるんですよ。しかし、本当にただの旅行で、ナイロビへ行きました、国立公園で象を見ました、四百ミリのカメラを持っていって、サイを撮りましたという人だってたくさんいるんですよ。
 アフリカの大使として、日本の顔として、今問題を抱えている外務省改革の目玉として、どういう資格で行かれまして、どういう活動をされていましたかということを聞いているんですよ。いかがですか。それを知っていてそういうふうに答えられたんでしょう、いろいろ記者会見でも。アフリカに行ったことがあるということを聞いただけで、そんなこと記者会見で言えるはずないじゃないですか。これは日本国の、アフリカの中核国に対しての日本の顔なんです。どういう活動をされていたんですか。
川口国務大臣 先ほど御答弁したとおりでございます。
首藤委員 答えになっていないですよ。なぜこの方がアフリカの大使となるか、その資格を聞いているわけですよ。だから、アフリカの大使というのは、ほかの大使ではない、軍縮大使でもない、一般的な大使ではない、太平洋の島の大使でもない、なぜアフリカの中核国の大使となるのか、どういう活動をアフリカでされていますかということを聞いているんです。いかがですか。
川口国務大臣 私どもが大使を選ぶ基準でございますけれども、先ほど六点ほど申し上げさせていただいたわけでございます。そういった基準に基づいて私どもで選考をし、選んだということでございます。
首藤委員 いや、委員長、おかしいよ、これは。答えていないですよ。アフリカでどういう活動をされていたかということを知らないはずがないでしょう、経歴だって見て、いろいろ聞いて調査するんだから。日本じゅうがみんな批判の目を、矛先を向けているんだから、知らないはずがないじゃないですか。どうしてそれを外務大臣はおっしゃられないんですか。私はわからない。アフリカでどういう活動をされていたのか、どういう評価を受けているのか、そういうことがはっきりわからなかったら、我々だっておかしいと思わざるを得ないじゃないですか。
 もう一度お聞きします。アフリカに関してどういう活動を具体的にやられたのか。行ったというのは何万人も何十万人もいるんです。ガーナ大使の資格の基盤となるようなどういう活動をされているか。後ろからメモ来ているでしょう。
吉田委員長 大臣、アフリカでの活動があるかないかという質問でございますので、それだけ答弁してください。
 外務大臣。
川口国務大臣 先ほどお答えをいたしましたので三回目の答弁になりますけれども、アフリカに行ったことがある、出張したことがあるということを申し上げているわけです。
首藤委員 その程度のことが公開できないで、外務省改革なんておこがましいじゃないですか。これからは透明性が必要だ、外務省は透明性が必要だと言っているのに、アフリカへ行った、アフリカのどこなんですか。アフリカの例えばチュニジアへ行ったって、アフリカですよ、これは。モロッコへ遊びに行ったって、これはアフリカですよ。だから、アフリカで一体どういうことをやったのかもわからないままそういうことをやっていたんじゃ、一つも外務省改革にならない。
 じゃ、次の問題を聞きます。
 この方は、仕手筋とかいろいろ関係がある、これは私はまた次回いろいろ聞いていきたいと思うんです。今問題となるのは、そうではなくて、まず、この方が、私は、政と官との関係あるいは政官業の癒着という点でお聞きしているわけですが、外務省改革の中で、特定の政治家の影響が加わる可能性があることは好ましくないということはもう何度も何度も言っておられます。
 この方は中谷防衛庁長官の御親戚の方だそうですが、これは官報でございますか、官報を拝見しますと、中谷防衛庁長官の隆元会ですか、このうちの個人の寄附というのを見ますと、中谷さん、中谷さん、中谷さんと、中谷さんの親族の方がおられまして、浅井さん、浅井さん、この浅井さんの御夫婦で二百万、一年で寄附されています。これは実に五分の二です。この中谷さんの隆元会の五分の二を出されている方なんですね。それからさらに、中谷元を育てる会、ここにも百万献金されています。物すごい巨額の金額を、中谷さんの資金管理団体の、政治的な団体の三分の一から五分の一を出されている方、これがどうして政治的な影響力と関係ないんですか。
 大臣は、外国の企業とも関係しておられたから、通産省におられたからよく御存じでしょうが、多国籍企業の場合は親戚から物を購入しちゃいけないというガイドラインがあるわけですよ。それぐらい厳しくみんなやっているわけですよ。どうしてこの方が、政治の世界で、こういうふうなお金をたくさん寄附されている方が任命になるんですか。ある意味でこれは猟官行為だと言われてもしようがないじゃないですか。外務大臣、見解はいかがですか。
川口国務大臣 この方は中谷防衛庁長官のおば様に当たられる方でいらっしゃって、この方はもう六十歳でいらっしゃいますけれども、中谷防衛庁長官には、中谷さんが、大臣が防衛庁長官になるまで長年にわたって寄附はしたということを本人から伺っております。
 それから、ちなみに、先ほど、アフリカでどこに出張に行ったんだという御問い合わせでございましたので、そこをもし御希望でしたら申し上げますけれども、ガーナ、ナイジェリアです。
首藤委員 なぜアフリカのことが急に、言われなかったかわかりませんが、どういうことをやられたのか。
 外務委員長、委員長、ぜひ記憶していただきたいんですが、このことに関してはやはり透明性が必要だし、今後のこともあり、民間大使をこれから採用していくことに関しても、透明性が必要です。ですから、この任官に当たっては、どういう基準で、どのような人のグループから、どうしてこの方が選ばれていくのか、これを明確に証拠として出していただきたい。
 この方の経歴も、私もブラッドフォードの修士というのは初めてお聞きしましたよ。全然出てこないですからね。あれを見ても、経歴書に出てこないんですよ。おかしいですよね。普通だったら、ブラッドフォードの修士といったら、我こそは平和学といって最初に書くんですよ。おかしいんですよね。
 ですから、この方は、どういう基準で、アフリカにどういう造詣があって、今、ナイジェリア、ガーナへ行かれたと言いますが、どういう活動をされていたのか。ナイジェリア、ガーナというと、一方はいいかもしれないんですけれども、我々の考えは、ナイジェリアというと、もう石油利権ですよ。もうナイジェリアというだけで、なぜこの方はそこへ行かれたのかといって不思議になってしまう。
 ですから、一体どういう形でこの方が選ばれてきたのか、明確に、外務大臣、提出してください。よろしいですね。
川口国務大臣 まず、委員がおっしゃられるように、私も、民間から登用する場合、適材適所でなければいけないし、その基準は明確でなければいけないと思っております。そういう意味で、先ほど基準については非常に大まかに申し上げましたし、中には、内部にはもっときちんとした基準も持っております。
 その上で、そういうことはきちんとして、それにのっとって人にお願いをする、そして内閣で決定をするということは大事だと思っておりますけれども、大使を任命するという行為自体、これは推薦をするというのは外務大臣の権限でございます。それから、それを内閣に推薦をするというのが外務大臣の仕事でございまして、決定をするのは内閣でございます。そういうプロセスをきちんと経ているということでございますので、今申し上げた以上、この決定のプロセスについて国会にお出しをしなければいけないということはないと考えております。
首藤委員 今お聞きになったとおり。皆さんもお聞きになった。そのことこそが外務省改革をしようという我々の希望じゃないですか。形式的に決めたらそれでいいというんじゃなくて、内部の決定だけでじゃなくて、それを透明性を高めて国民が理解できるようにしていこうというのが外務省改革じゃないですか。
 外務大臣、就任して以来、外務省改革に取り組まれていると言われているけれども、一つも取り組まれていないじゃないですか。幾つかのそんな報告書を出して、外務省改革をした、したと言うけれども、現実には外務省は一つも変わっていないじゃないですか。そのことが今のいろいろな問題を引き起こしているわけですよ。私は、これはもう毎回毎回、朝の一番に質問させていただきます、この方の問題に関しては。
 外務大臣、今問われているのは日本の顔なんですよ。いいですか。日本の中の、日本を代表するような、本当に清潔で、日本の将来を期待されているような方が外務大臣として、そしてまた日本の大使として海外に行く必要があるわけですよ。
 今この方が言われているのは、本当に事実かどうかわかりませんが、仕手戦と関係してきた、不動産と関係してきた、あるいは許永中と関係してきたという話があります。もしそういうことがあれば、これは、アメリカの中において、ブラックリストの中に載るということなんですよ。場合によってはペルソナ・ノン・グラータですよ、本当に。そういう危機感を外務省が持っていなかったら大変ですよ。これが場合によっては国際社会からペルソナ・ノン・グラータになる可能性だってあるんですよ。ですから、そういう危機感を持ってこの件を徹底的に検証していきたい。そしてまた、外務省としては、なぜこの方なのかということを明確にしていただきたいと思います。
 今時間がなくなりましたので、これをここで終わりますが、今後も、外務省改革の一環として、外務省の透明性を高めるためにも、この問題を追及していきたいと思います。
 以上で終わります。
吉田委員長 次に、木下厚君。
木下委員 おはようございます。民主党の木下厚でございます。
 私自身は、ロシアの支援委員会、この問題についてしつこく質問をさせていただきたいと思います。
 先般、支援委員会の財務報告を外務省さんから出していただきました。これは幾つかありますが、その中で財務状況を見ますと、平成五年の支援委員会設立時に約三百四十七億円を拠出し、その後、毎年十億円前後の予算を追加しているわけですが、その内訳を見ますと、実に、平成五年で二百四十一億七千七百万円、平成六年に百八十一億五千万円、平成七年度百五十三億円、このように毎年百億円を超える繰越金が加算され、結局、平成十二年百五十七億六千七百万円、今、これだけの金が事務局長の高野さんの個人口座に入っている。
 なぜ、こういう形で繰越金が出ているのに、毎年毎年十億円を超える予算が出ていったのか、それを説明してください。
齋藤政府参考人 繰越金が出ているのはなぜかという御質問でございましたけれども、先生御指摘のとおり、これは当初二年間にわたります補正予算でこの委員会の活動が始まりまして、それ以降、通常予算で手当てされているわけでございますけれども、ロシアあるいは四島に対する支援を機動的に行うという観点から、ある程度繰り越しがあるということは前提として考えられていたわけでございますけれども、長い、この過去十年間近くの推移で見ますと、繰越額は着実に減少していっているということが指摘できるかと思います。
木下委員 冗談言っちゃいけないですよ。着実に減少しているといって、平成十二年度で百五十七億六千七百万円残っているわけですよ。
 しかも、支援委員会を廃止する。しかも、その金が高野さんの、先般、私もこの問題で、個人口座だけれども支援委員会のあれになっているという話なんですが、しかし、支援委員会設置に関する協定によれば、その第五条に、「委員会名義の勘定を日本国政府によって指定される日本国の外国為替公認銀行に開設する。」こう規定されていますよね。これはこの前も議論したんですが、幾ら支援委員会事務局長であっても、最終的にやはり高野さんの個人口座に入っているわけでしょう、百五十七億六千七百万円。
齋藤政府参考人 まず、現時点におきます預金残高について御説明をさせていただきますと、毎年三月三十一日付で監査法人のチェックを受けてきているわけでございますが、昨年度については、監査法人の正式な報告、まだ事務局の方に出ていないようでございますけれども、二〇〇二年三月末現在の保有預金は、円価百四十二億一千六百万円、これとドル預金二十八万三千ドルでございます。
 それから、この銀行口座でございますが、支援委員会事務局長高野保夫という名義の口座になっていることは御指摘のとおりでございます。これは以前にも御説明差し上げたかと思いますけれども、支援委員会事務局に法人格がございませんで、法的には権利能力なき社団というふうに認識されておりますので、日本の銀行から見ますと、任意団体である支援委員会事務局が法人名義の口座を開設することができないという事情がございまして、団体名、役職等の肩書のついた個人名義の口座になっているというのが実情でございます。
 ただし、口座資金の出し入れは高野保夫個人の印鑑で行われているわけではございませんで、委員会事務局の公印が必要でございまして、また、この公印の保管も委員会事務局の幹部職員の間の厳格な手続を経て行われているということでございまして、高野個人が自由にできるという口座では毛頭ございませんし、また、高野保夫個人の名義の口座とは完全に峻別されているというふうに認識しております。
木下委員 大臣、この協定五条、これに違反している、協定違反じゃないですか。個人口座で、そういう形で今現在百四十二億円強の金が、幾ら支援委員会事務局長と肩書がついていても、高野保夫さんの個人口座になっていることは間違いないので、そこは協定違反じゃございませんか。大臣、答えてください。
川口国務大臣 協定上は、確かに委員会名義の勘定というふうになっているわけでございまして、事務局としては、委員会名義の勘定をつくりたかったという意図は十分にあったわけですけれども、銀行の方で、先ほど齋藤局長が申し上げましたように、権利能力なき社団ということで、この委員会名義の預金口座をつくることを認めてもらえなかったということがあるわけでございます。ということで、そういう結果になったというふうに理解しております。
木下委員 いや、理由はどうであれ、やはりこれは協定違反なんです。
 それともう一つ、なぜこれだけの繰越金が毎年出ていったか。このからくりが、実は、この支援委員会の活動に関する調査報告書で新日本監査法人が指摘しているわけですね。
 例えば平成十年度拠出金額の決定方法、これを見ますと、例えば平成十年度には、国後島、択捉島、色丹島への発電施設、それから色丹島桟橋補修工事、択捉島向けの自航式はしけ、それから日本センター拡充、極東航空管制設備の近代化支援など、合計百二十億七千八百万円の拠出が決まったわけですね。ところが、支援委員会は、事前に要求していた予算を、こっそり少しずつ削ってプールしているわけですね。
 例えば、発電施設や桟橋、はしけなどの北方四島住民支援の予算は、要求額が五十九億千五百万円で、満額認められた。ところが、実際に使ったのは五十億二千八百万円で、八億八千七百万円は個人口座の方にプールしているわけですね。それから日本センターの拡充費、予算が十五億六千万円なのに、実際は十三億二千六百万円、残りをまたプールする。あるいは極東管制設備の近代化支援、予算が五億四千九百万円、実際は四億六千六百万円、その一部をまたプールする。あるいは対ロシア緊急人道支援、予算が三十六億円ですが、実際に使ったのは三十億六千万円。
 そうやって、要するに予算を満額要求していながら、実際に使ったのは、その約一五%を戻しているわけですね、プールしているわけです。ですから、総額で、この百二十億円の予算のうち十八億一千百万円がその年にプールされているわけですね。
 本来ならば、そうした余剰金はやはり国庫に返さなきゃいけない。ところが、国際機関ということでそのままプールされて、それが積もり積もって、さらに毎年予算を十億円前後もらってくる、これがたまったのが現在の百四十二億円じゃございませんか。そういう大きな予算を要求して、実際は使うのを少なくしながら徐々に削っていってプールしていく、こういうシステムがなぜ行われたんですか。
齋藤政府参考人 支援委員会事務局の事務経費につきまして、毎年の通常予算によります手当てが行われておりますけれども、支援事業の拡大が図られていった中で、通常予算のみによる手当てでは不足を来したというのが実情であったようでございまして、この不足分を補てんするために、これまでの補正予算による拠出分の一部、先生御指摘のとおり約一五%を事業促進費ということで活用してきたことは事実のようでございます。
 ただ、これは意図的にそういうふうにプールしていって繰り越しにしたということでは必ずしもないというふうに私は理解しておりまして、事業促進費が事業予算の一部であることを踏まえまして、支出に当たりましては事業実施に直接関係のある経費に用いるように努めてきたというふうに事務局から聞いております。
 支援委員会事務局におきまして、各予算項目から一律一五%減額いたしまして、技術支援案件分ですとか、あるいは先ほど申し上げました事業促進費の充当分として振り分けてきたという実情があるようでございますが、これは、予算要求上の項目といいますか、それと支出が必ずしも整合していなかったということで、きちっとそれを事業促進費という形で出して要求すればよかったんだろうと思いますし、支援委員会を廃止していくわけですからこれからの予算要求ということにはならないかもしれませんけれども、やはり実際の支出に即した形での予算要求を行っていっていた方がよかったのではないかという点は、私どもとしても感じております。
木下委員 もしそれが事実だとすれば、最初からその部分を予算要求していけばよかったじゃなくて、これは明らかに、そういう形で恒常的に一五%よその方へ持っていくとすれば、これが通常化していたとすれば、予算費目のつけかえじゃないですか。どうですか、大臣。そんな形で、はっきり予算費目で請求できるものを常に多目に予算要求して、一つの事業に対して、そして一つずつ一五%ずつ削ってよそへ持っていく、こんなことはいいんですか。
齋藤政府参考人 これは技術的に申し上げますと、国の予算から国際機関である支援委員会に拠出されたものでございまして、委員会事務局による運用の問題であろうかと思いますけれども、いずれにいたしましても、予算要求をする段階で、実際の運用に見合った形での予算要求をしておいた方がよかったのではないかというふうに感じております。
木下委員 大臣、どうですか、これは国民なりあるいは我々をだますためのテクニックじゃないですか。どうですか、大臣。そんないいかげんな予算を立てられては困りますよ。最初から一五%を当てにして、そこから削ってよそへ持っていくなんというのを予算で全部やられたら、これはたまったものじゃない。何のために予算審議しているんですか。大臣、どうですか。
川口国務大臣 国際機関であるので、日本国政府から出るときは拠出金という形で出て、その限りにおいては、一つのまとまった金額としてそれだけが委員会に移る、そういう考え方なんだろうと思います。
 ただ、当然その拠出金が必要となる背景、裏づけとしての幾つかのプロジェクトというのがあったわけですから、今齋藤局長が言いましたように、そういった裏づけをきちんと拠出額に反映をするか、あるいは後で余ったようなことがあったとしたらばそれがないようなことにするという、もう少し違った考え方をするということもあり得たと私は思います。
木下委員 違った考え方じゃなくて、むしろ、国民の皆さんからいただいている税金をそんなに簡単に、一五%ずつ削ってよそへ持っていけばいいなんという安易な考え方をやっているから、例えばその後の、今問題になっている国後島のディーゼル発電、これは当初、一九九八年九月に、事前にコンサルティング会社など三社が調査しているわけでしょう。九八年九月ですよ、事前に。
 そのときには、既存の施設の改修で十分だと報告しているわけですね。そのときの総括責任者が、背任容疑で逮捕された外務省の元ロシア支援室課長補佐の前島陽容疑者。そしてこのときの見積もりが、外壁改修工事の費用約三億三千万円と見積もった。翌九九年七月には、今度は東京電力の調査団が派遣されて、同社の報告書も、新設は必要ない、むしろ今の外壁を修理して今の方を使った方が供給能力も増加し、経済力もある、望ましいという結論を出している。ところが、九九年十二月七日に省内で、突然新しいものに取りかえる、そして二十一億円になっているんじゃないですか。なぜこういう形に突然変更になったのか、その経緯をちょっと説明してください。
齋藤政府参考人 御指摘のとおり、この国後島のディーゼル発電施設につきましては複数の調査が行われておりまして、この調査の結果もそれぞれ内容が異なっているということは指摘せざるを得ません。早晩発電設備の更新が必要不可欠であるというものから、増強の必要性はないと考えられるとか、あるいは補修で対応することが経済的であり望ましいというものに至るまでいろいろなものがあったわけでございますけれども、これは、当時、二〇〇〇年までに平和条約を締結するように全力を尽くすというクラスノヤルスク合意を踏まえまして、平和条約締結交渉のモメンタムを一層高めるために四島住民支援が拡大されていったわけでございますけれども、そういった中にありまして、国後島のディーゼル発電所の設置が必要であるとの判断を行ったということであろうかと思います。
 技術的な観点からの報告は先ほど申し上げたとおりでございますけれども、そういった政策上の判断からやったということだと思いますけれども、しかしながら、現時点において振り返ってみますと、本件の実施が本当に望ましい姿でなされていたか否かという点については反省すべき点もあるかと思いますし、いずれにいたしましても、北方四島住民支援のあり方につきましては、今後、支援委員会を廃止し、新しい枠組みをつくる方向でロシア側ほかと協議を進めてまいりたい、また、その新しい枠組みの中で抜本的にこの四島住民支援の規模及び形態等について見直ししてまいりたい、こういうふうに考えておるところでございます。
木下委員 いや、今、北方四島が返ってくるあれだったから少し、大まけじゃないけれども、たくさん支援したみたいなことを言ったけれども、返ってきてないじゃないですか。むしろ、もとの政策ミスでしょう。どうですか、大臣、政策のミスじゃありませんか。そんな甘い考えで、三億円で済むものを二十一億円やった。北方領土が返ってくるだろう、そんな甘いことをやっているからロシアからこけにされるんですよ。どうですか、大臣、政策ミスでしょう。
川口国務大臣 この発電所の設置について、本来の望ましい姿でなされていなかったかもしれないというのは、今局長が言ったとおりだと私は思いますけれども、この北方四島の支援というのが領土交渉の中でどういう役割を持つのか、要するにこの政策の評価、特定ディーゼル発電所ということではなくて、一般に北方四島の住民支援というのが領土交渉の中でどういう役割を果たすべきなのかというのは、これはなかなか議論をする必要があると思いますけれども、評価はそう簡単にできる話ではないと思っております。
 いろいろな考え方があると思いますけれども、例えば、昨日、尾身大臣がお帰りになられておっしゃっていらっしゃることですけれども、北方四島、これは北方四島全部に行かれたわけではもちろんないわけですけれども、行かれたところで住民の方とお話をして、非常に日本の支援を感謝している、日本を近く感じているということを尾身大臣もおっしゃっていらしたわけですけれども、例えばそういうふうに住民の方に日本について感じてもらうようになるということ、これは北方四島の支援の政策の目的ではないかと私は思います。
 そういう意味で、本件が、個別個別の点について言うということではございませんけれども、この北方四島支援の政策というのは私はそれなりの意味を持っているのではないかと考えています。
木下委員 いや、私自身も昨年色丹島へ行って見ていますから、住民の皆さんと会っていますから。それは、支援して、ありがとうございました、感謝しています、当たり前の話ですよ。それは向こう側のことであって、要するに、日本側がなぜ三億円で済むものを二十一億円も大盤振る舞いしなきゃいけないのか、それを言っているのですよ。
吉田委員長 木下先生、質問中恐縮ですが、大臣が参議院の本会議に出なきゃいけませんので。
木下委員 結構でございます。どうぞ。この問題は、また改めて追及させていただきます。
 もう一つ、今、国際機関として支援委員会それから日露青年交流委員会、それと同時に、日露核兵器廃棄協力委員会、こういうのがございます。これを見ますと、宮澤政権下の九三年に東京で開かれた主要七カ国閣僚合同会議で、ロシアへの人道支援を打ち出し、その一方で、旧ソ連諸国にある核兵器の廃棄を促進する国際協力の一環として四つの委員会を設立しています。総額一億ドルの拠出をしています。これは、所管は外務省総合外交政策局の軍備管理軍縮課でございますね。
 このうち、設立時に一億ドル、約百十七億円拠出した後、その予算を使い切っていないのに、小渕内閣当時の二〇〇〇年三月、今度は九九年度補正予算としてまた百三十三億九千六百八十万円を拠出、合計で二百五十億九千六百万円が拠出されています。この資料がこれでございます。これは外務省さんからいただいた資料でございます。
 これを見ますと、日露核兵器廃棄協力委員会、それからもう一つが日本とベラルーシ核不拡散協力委員会、それともう一つは日本とウクライナ核兵器廃棄協力委員会、もう一つが日本とカザフスタン核兵器廃棄協力委員会、この四つあるわけですね。これに対して、実際に事業をしたのは幾らになっていますか。総額で二百五十億九千六百万円ですよ。これだけ日本側が拠出して、実際に今日まで事業規模として予算消化したのは幾らになりますか。
宮本政府参考人 執行額は、二百五十億を出しましたうち、八億五千七百万強でございまして、未執行額は百六十五億円強ございます。
木下委員 もう一度言ってください。執行額は幾らですか。
宮本政府参考人 これは四つの委員会を……(木下委員「はい、まとめて」と呼ぶ)それは八億五千……(木下委員「八億」と呼ぶ)済みません、八十五億です。申しわけございません。
木下委員 残高は幾らですか。
宮本政府参考人 残高が百六十五億でございます。
木下委員 実際に、二百五十億円、約二百五十一億円ですよ、それだけ拠出しながら、この十年間で八十五億円しか使っていない。あと残り全部プールしてあるんじゃないですか。どうするんですか、そのプール金は。
宮本政府参考人 先ほど経緯のところで御説明になりましたように、まず九一年に米ソの核軍備協定、START1ができまして、大量の核兵器が廃棄されるようになりました。そのころソ連が崩壊をいたしまして、カザフスタン等核兵器を保有している国が新たに出てまいりまして、そういう核をどうするか、そういうことで第一回目のあれをやって、二回目は、クリントン大統領が強い核削減、脅威削減ということでやっておりまして……(発言する者あり)そういう大きな目的を持った事業であるということを御指摘いたしたいと思います。
 実施の面について申し上げます。実施の面は、委員会のもとに総務会と技術事務局という二つが構成されております。総務会は、これは国際機関ということでございますので、ロシア側の……(木下委員「そんなこと聞いていない、答えてくださいよ、この余剰金はどうするの」と呼ぶ)
 では、結論的に申し上げます。
 極めて重要な案件であり、この案件自体は続ける必要があるのではないかというふうに判断いたしております。実施上、問題がございます。とりわけ、ロシア側の体制、内部の協調体制等々に多く問題がございます。こういうところを改善することによって進めていくことしかない。委員会そのものについても、まさに御指摘のとおり、支援委員会と類似の国際機関でございますので、同様の問題を抱えております。これも徹底的に改善をし、必要な措置をとらなきゃいかぬというふうに思っております。
木下委員 それはおかしいですよ。十年もかかって実際につくったのは、ウラジオストク、二〇〇〇年四月に液体放射性廃棄物処理施設「すずらん」、これを建設しただけでしょう、四十二億円で。あとは、技術協力だの検査システムだの、そういったことで供与しているだけですよ。
 もしロシア側の体制が整わないんなら、やめたらどうですか。何で我々の税金を百六十五億円もプールしながら、それで毎年毎年予算化しておくんですか。恐らく、十年間の利子だけで何十億円になっているんじゃないですか。こんなむだなことをやる。もしロシア側が日本のお金を使い切れないんだったら、やめたらどうですか。
宮本政府参考人 私どもの実施上の問題点を整理いたしまして、ロシア側の善処を求めているところでございます。ロシア側の対応いかんで、今委員御指摘の点も含めて、私どもとしては真剣に考えたいと思います。
木下委員 いや、もともとこの設立がずさんなんですよ。これは、日ロのその問題にしても、あるいはウクライナ、カザフスタン、ベラルーシ、それぞれの委員会の構成要員を見ても、代表は、例えばロシアでいえば、ロシア特命全権大使と、それから向こうが、ロシア側が一人。日本側から一人、ロシア側から一人、二人しかいないんですよ。それから、ウクライナも同じです。ウクライナの全権大使と、それから向こうの大使、これは大使じゃなくて局長ですか。要するに、日本側から一人、それから相手国側が一人、二人だけでこれだけの核廃絶という大問題を実質できますか。
 こんなところへどんどん金をつぎ込んで、消化できないのは当たり前じゃないですか。どうですか。
宮本政府参考人 実施体制に問題があるという御指摘は、そのとおりだと私どもも思っております。したがって、この点について抜本的な措置をとらない限り、実効のあるこれからの協力はできないなというふうに思っております。
 他方、ロシアとの案件の確定から実施がいかに難しいかということの一つの例を申し上げますと、九九年に軍縮と環境保護のための日露共同作業というプログラムを出しまして、その中で、例えば、原子力潜水艦から使用済み燃料を搬出しコンテナに搬入する作業であるとか云々ということで、五つの具体的なプロジェクトがそこで明記されたわけでございますが、今日、その実行の可能性があるのはたった二つという状況でございます。
 したがいまして、核とか、こういう極めて特殊な分野で、日本という国が協力できるプログラムの確定自体に非常に大きな困難を有している。
 他方、これは何で始めたかというと、日本海の環境を守る。ロシア、ソ連の潜水艦から吐き出される放射性廃棄物、これの問題が実は我々の原潜解体の協力の始まりになったわけでございますので、そういう意義はある。しかしながら、実施に大きな困難を抱えているということでございます。
木下委員 いや、意義は、それは当然ありますよ。私もロシアへ行ってきました、それからハバロフスクへ行ってきました。確かに、向こうは核廃絶の問題、環境問題を含めて大変大きな問題になっています。趣旨はよくたって、実際に使われなきゃ何の意味もないんです。
 だったら、一たんここで停止して、あるいは見直して、今後の対応をきちんとしてください。今後、どういう形で見直して、いつまでにどういう形にするか、お話ししてください。
宮本政府参考人 大臣からも徹底的な検討を命じられております。具体的な時期ということは、役人ですからなかなか言いにくうございますが、私としては、可及的速やかに、一刻も早く結論を出して御報告したいと思っております。
木下委員 期待しています。
 この問題はまた再三追及させていただきますので、時間でございますので終わりにさせていただきます。ありがとうございました。
吉田委員長 この際、休憩いたします。
    午前十時二分休憩
     ――――◇―――――
    午前十時十四分開議
吉田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質疑を続行いたします。中川正春君。
中川(正)委員 それでは、引き続いて質問をしていきます。
 まず、条約についてでありますが、WIPOの、今回限定された問題ですけれども、本来は、日本がかつてたどってきた道といいますか、アメリカとの関係で、それぞれの技術を吸収していく過程で、やはり発展途上国と先進国との問題があったということですね。それが今回は、特に日本の場合は、中国を初め新興国で、大いに前とは逆転した悩みというのを持って、それに対して対応していくという意味では私たちは賛成をしていきたいというふうに思うんですけれども、その上に立ってどういう認識をしているか、そこのところをひとつお尋ねしたいところがあるんです。
 それは、この条約とWTO関連で、知的所有権あるいはパテント技術等々、こうしたものを私たち先進国が守っていくということによって定量的にはどんな影響があると見込んでいるのか。日本にとって、これが金額にあらわすとどれぐらいのメリットになっていって、逆に中国、特に中国でありますが、その辺で、どれぐらいの不利益として、いわゆる経済的な影響として見込まれてくるのか。こういう試算は当然あるだろうと思うんですけれども、やったことはありますか、ありませんか。
川口国務大臣 やったことはないということでございます。
中川(正)委員 それは、普通こんな議論をするときには、まずそこを目的にしてやるわけでありますから、当然試算をやって、こうした形でそれぞれがメリットがあるんだという議論をすべきなんですよね。そこのところを、お粗末だと指摘するしかないんだと思うんですが、こんなことでは本来は議論もできないといって委員会がとまってもいいぐらいの話でありますが、指摘をしておきたいというふうに思います。
 ここでもう一つ、本題といいますか、私が本来通告をしてあった問題に移っていきたいというふうに思います。
 瀋陽の問題でありますが、それぞれ一段落をした中で、まだこれから中国との詰めは残っているんでしょうけれども、中国との詰めと同時に、もう一つ、前回の参議院での答弁の中で川口大臣も、特に総領事の行動に対して非常に厳しい答弁、見方をされておるということ、このことも認識をさせていただいたんですけれども、その前に、あのとき初動でどういうやりとりがあったのかということ、このことをもう少しはっきりとここで確かめておきたいというふうに思うんです。
 二時前後に事件が起きて、それで宮下副領事からまず第一報が入った先というのは総領事だと理解しているんですが、それでいいかどうかということと、それから、そのとき総領事は具体的にどういう指示をしているかということ、まずここをどのように聞き取りをされているか、お尋ねをします。
田中政府参考人 お尋ねの点でございますけれども、査証担当副領事から、第一報は総領事に対してなされたということでございます。
 それは、武装警察が総領事館に入ったということと、北朝鮮の出身者の可能性があるということについても言及をしたということでございまして、総領事からは、とにかく在中国大使館の公使に連絡するように指示があったということでございます。
中川(正)委員 時間は、いつごろだというふうに聞き取られましたか。
田中政府参考人 恐らく二時二十分ごろであったということでございます。
中川(正)委員 その後、大使館の高橋公使に連絡をするようにという指示を得て、宮下副領事は北京の大使館の方へ向いて連絡をしていますね。このときのやりとりというのは、どのように聴取をされていますか。
田中政府参考人 それは、総領事への報告と同様のものであったというふうに承知をしております。
中川(正)委員 高橋公使からは、どういう指示が出ていましたか。
田中政府参考人 高橋公使の方は、状況を聞いてその把握に努めたということだと思います。
中川(正)委員 その後、たしか私たちの聞き取りでは、ここで高橋公使は、追って連絡をする、そのように言って、本省への連絡の確認もしているはずなんですね。その後、宮下副領事が本省に連絡を入れています。この経過というのはどのようにつかんでおられますか。
田中政府参考人 本省に対する連絡というのは、二時半ごろ、総領事から中国課の補佐に対して第一報の内容を伝達したということでございますし、時を移さず、査証担当の副領事から北東アジア課の補佐の方に連絡をしたというふうに承知しております。
中川(正)委員 総領事からの連絡に対して、これは中国課だと思うんですが、中国課はだれがどのような指示をしていますか。
田中政府参考人 中国課の課長補佐でございますけれども、武装警察官が我が方の同意なく総領事館内に立ち入ったということであれば、これは国際法上の問題があるということにつき、総領事との間では確認をした、追って連絡をするということであったと承知しております。
中川(正)委員 そして、その後、二時半ぐらいに、もう一回、宮下副領事から総領事へ向いて連絡をしているはずなんですね。この連絡については把握をしておられますか。
田中政府参考人 警備担当の副領事から総領事に対して、北朝鮮からの家族であるということの状況報告があったというふうに承知をしております。
中川(正)委員 次に、北京の大使館へ向いて、高橋公使に対して報告があった。それに対して高橋公使は、大使館の中で協議を行っているはずなんですね。その協議のメンバーと、それから、そのときどのような議論がなされたかということですね。それともう一つ、大使がこの協議に加わっていたというふうに認識していますけれども、そのときの大使の指示はどういうものでありますか。
田中政府参考人 高橋公使は、館内で、この件の関係者であろうという政務班担当の公使であるとか、その担当者であるとか、数名の人との間で、その当時の状況について報告をした。その場には阿南大使もいたということでございます。基本的には、状況の把握に努めろということがその会合の結論であったように聞いております。
中川(正)委員 今度は本省の方でありますが、これは中国課の中で議論がされたと思うんですね。これはどのレベルで議論をしたのか、対応について打ち合わせをしたのかということと、それから、そこから大臣への連絡については、どういう結論を出して、大臣にいつ、どういう形で報告をしたか。もう一つ、官邸への連絡、これはどのようにやったか。そこのところを説明してください。
田中政府参考人 東京につきましては、中国課の担当補佐、それから北東アジア課の担当補佐は、それぞれ課長に対して現状についての報告を行った。その中で、いろいろ考えるべき点についてそれぞれの課の中で議論を行ったということでございまして、その結果を踏まえて、アジア大洋州局長の私の部屋に参りまして、両課長ほぼ同時に私の部屋に参ったわけでございますが、そこでそのときまでの経過ということを聞きまして、これはウィーン条約上の同意なく立ち入ったケースだから抗議をしろということと、五名の身柄を戻せという、この二つの指示をいたしたわけでございます。
 それから、大臣につきましては、そういう指示を行う前にお諮りしたわけではございません。現場というか、そういう緊急事態であるという判断のもとで私が指示をしたわけでございまして、一連のことについては、そういう指示をしたということについては、事後報告の形でございます。
中川(正)委員 いつ大臣には報告をしましたか。
田中政府参考人 外務大臣との関係では、国会出席中ということもございまして、秘書官を通じて五時ごろ、委員会が終了したころに報告をしたということでございます。
 それから、官邸の小泉総理に対しましては、三時半ごろ、秘書官を通じて連絡をしたということでございます。
中川(正)委員 官邸が三時半、それから大臣が五時ですか。これは逆さまじゃないんですか。どうしてこういうことになったんですか。
田中政府参考人 大臣が国会に御出席中であったということが一つの要因であったというふうに思いますけれども、他方、国会等にメモを入れる形で御報告をすべきであったというふうに考えております。
中川(正)委員 どうも先に総理大臣の方へ向いていっちゃったということなんですけれども、そんなことも含めて、今回の初動の中で、何をすべきかという現場に対しての指示、これは本来はだれがすべきであったというふうに大臣は認識をされていますか。
川口国務大臣 今回の事件で、とりわけ初動の段階で、いろいろな方に御指摘をいただいていますようなさまざまな問題があったということは、私も全くそう思います。
 それで、その指示の件ですけれども、これは総領事館の中で起こったことですから、当然に、その総領事館の長というものがまず一義的に判断をする立場にあった。その上で、総領事館の長は本省に連絡をして、さらに必要な指示を仰ぐ、そういうことであるべきだったというふうに思います。機構上はそういう形になるべきであると私は考えています。
中川(正)委員 確かに、初動の第一義的な判断というのは総領事だと思うんですね。先ほど、聴取された現場のお話からでも出ていますように、まず総領事は指示をしなかったんですね。報告を聞いて、あと、それに基づいて、北京の大使館に連絡をしたか、していなかったら北京の大使館に連絡をしろと、それで切っているんですね。指示をしていないんですよ。これについて川口大臣、総領事のそうした意味での責任者としての義務を果たしているというふうにお考えですか。
川口国務大臣 総領事が違う行動をとるべきであったであろうという印象については昨日申し上げたとおりですけれども、本件全体として、だれがどの問題について責任を持つかということについては、この一件にめどがついた段階で、私は、その総括をしてきちんと改善策につなげる必要があると思っておりまして、その過程で、だれが本来果たすべき責任を果たしていなかったかということもきちんと議論ができるのではないかと思っています。
中川(正)委員 もう一度答えてください。副領事が報告をした、しかも、その報告の内容というのは、北朝鮮の脱北者であるということも含めて、そのときに既に認識をしていますから、当然、さっきの答弁のように、そのことも含めて報告をしていますね。それに対して、総領事は聞きおくだけであった、しかも、北京に連絡をしろと。指示の内容はそれだけですよね。それに対して川口大臣はどういうふうに判断をされていますか。この指示は正しいものであったのか、それとも、責任を持っている者としては初動で間違っていたのか、私は間違っていたと思うんですが、どのように思われますか。
川口国務大臣 総領事のそのときの行動についての私の感想は昨日申し上げたとおりでございますけれども、この総領事が、やはりこれは館の館長で、その中にあることについては責任があるわけですから、館長としての判断を適切に行い、そして、その総領事館というのは直接に本省につながっているわけですから、外務大臣、すなわちその事務局である本省に連絡をするということが物事の順序であったと私は思います。
中川(正)委員 ちゃんと答えてください。何回も同じことを聞かなきゃいけないんですね。
 もう一つは、北京の大使館ですけれども、北京の大使館へ向いて連絡をしろということは、それなりに北京の大使館での役割を意識しているからこそ、連絡をしろという話になったと思うんですね。その中で、大使がこういう事件のときにどのような立場で臨むべきなのか。どうお考えですか。
川口国務大臣 これは、組織上の権限からいけば、総領事館と大使館というのは横並びの関係にあるということが組織上の関係です。
 それから、大使が総領事館から相談を受けたということに対しては、まあ状況が、もちろんその当事者じゃないから把握をするということが最初にあるべきだと思いますけれども、その上で適切な助言をするというのが大使の立場だと思います。
中川(正)委員 この場合も、阿南大使は状況を把握していた。これが脱北者、北朝鮮からの難民であったということも把握をしていたということですね。そのことに対して、本来であれば、その時点で領事館に、この五人を取り戻す、それで自分たちがコントロールをしていく、難民として扱うというふうな指示をやはり大使もすべきであったというふうに思うんですが、ここでしていませんね。これについてはどう考えられていますか。
川口国務大臣 大使館にこのお話が伝わったというのが二時二十分ごろということでして、その過程で、どういう現場についての情報の把握の仕方を大使館としてしたのか、そのあたり、それから、どういう会議の中身であったのかということについて精査をしてみる必要があると思います。
中川(正)委員 いや、精査してみるって、さっきの答弁があったように、この二時二十分ごろというのは、領事館の中に先に入っていた二人の男を武装警察官が追っていって、連行をして外に出して、警察詰所へ入れたところなんですよ。それを後から宮下副領事がついてきて、その時点から、総領事と大使館、それから本省の連絡を始めている、そういうことなんです。そのときに馬木副領事が帰ってきて、馬木副領事は警察の詰所の方に向かった、そこでコントロールをしていたということ、そういう状況の中で起こっていることなんです。
 その状況では、宮下さんは既に、この人たちが北朝鮮の難民だ、亡命者だということを把握していて、そのことを報告した。さっきの答弁の中で、調べた結果も出ているというお話でした。だから、それを報告もしている。北京もそれを把握しながら、中で協議をしている。ここに入っている返事は、協議をするから、現状を維持する形で待てということで、馬木さんにもそういう指示をしているというふうなことですね。
 そういう状況の中で、この大使、これが指示をしていないということは、これは大使の職責を全うしていないということじゃないんですか。
川口国務大臣 その事実関係の把握について、委員がおっしゃられたように、きちんと把握をしている……(中川(正)委員「しているじゃないですか。さっき答弁したじゃないですか」と呼ぶ)要するに、二人は入っていたということはわかっていたわけですけれども、五人が入っていたというのは、その時点では恐らくわからなかったということだろうと思いますけれども……(中川(正)委員「いやいや、わかっている、わかっている」と呼ぶ)門の中に。(中川(正)委員「いや、門の中、外は関係なしに、この人たちが難民だというのはわかっている」と呼ぶ)
 いずれにいたしましても、もしその大使がきちんと情勢を把握しているということを前提にいたしますと、それはウィーン条約についての助言をするということの方がより適切だったと私は思います。
中川(正)委員 次に、本省の問題ですね。中で協議をしながら、まず報告をしたのは官邸だということですね。これについて、なぜ官邸にまず話を持っていったか。そのときの判断というのはどういうことだったんですか。
田中政府参考人 意識的に官邸に先に御報告をするということでは全くなかったと思います。通常の、こういう危機の状況において、もちろんどれだけの時間的な余裕があるかということにもよりますけれども、それぞれ手分けをした中で、大臣秘書官、総理秘書官、官房長官秘書官と、そういうような形でほぼ同時に伝えるというのが原則でございます。
 ただ、結果として、外務大臣御自身に伝わったのは五時過ぎであったということでございますし、これは、結果から見れば、国会の中にでもメモを入れるべきケースであったというふうに考えます。
中川(正)委員 三時半というと、まだ初動なんですね。そこで、官邸からはどのような指示がありましたか。
田中政府参考人 その際の御指示は、秘書官を通じての御指示は、事実関係をよく把握をしろ、かつ、冷静かつ慎重に対処するように指示を受けたということでございます。
中川(正)委員 その冷静かつ慎重にという指示をどのように解釈をしましたか。それは現場に対してはどういう意味合いを持っているんだということなんですか。
田中政府参考人 こういうことというのは、後から見ますと時間的にこういうことが起こっていたということでございますけれども、当時は予測ができない中でいろいろな出来事が起こっていた。こういう事態においては、少なくとも、例えば私はアジア局長でございますけれども、その報告を受けて私の判断で指示をするということが必要なことだと思っておりますし、そういうことを、すべての状況が移り変わっていく中で、事細かな御指示を仰いでやっていくような時間的な状況ではなかったというふうに判断をいたしております。
 ですから、そういう意味でいけば、総理の御指示も、事実関係をきちんと見て冷静かつ慎重にやりなさいということは、まさに国際法上の問題であるとか、あるいは人道上の問題もあれば、それから、もう既にみんな外に出たときでございますから、その事態の推移というものをよく見きわめて処理をするという一般論でございまして、それを具体的な指示の形でしたのは私でございます。
中川(正)委員 その田中局長の指示が現場に具体的におりて、それに基づいて現場がどういう行動をした、その時間と中身ですね。本省からの現場に対する指示の中身、これはどういうものだったんですか。
田中政府参考人 当時の判断として、まず現場に指示を伝えるのが先決であるということでございまして、担当の課長は、現場の携帯電話に対して何回も電話を試みた、そのときに携帯電話にはつながらなかった。それは、いろいろなところと連絡をとっていて話し中になっていたんだろうというふうに後から推測をいたしますけれども、結果的に現場に指示が伝わったのは、既に公安当局が五名を連行した直後であった。
 したがって、その指示というのは、私がいたしました指示というのは、まだ武装警察が詰所にいる、その後事態が緊迫していったということでございますけれども、結果として、その指示に基づいて現地の公安当局等に現場で抗議の申し入れを行ったということでございます。
中川(正)委員 現場の聞き取りでは、指示が届いたのは三時過ぎ、既に五人が公安によって連れ去られて、もうその現場にはいなかった、だから、現場としては一段落ついたところへ向いて本省から連絡があったというふうに私たちの聞き取りでは理解をしたんですが、そういうことじゃないんですか。
田中政府参考人 今私が申し上げましたように、現場に電話連絡を試みた、しかしながらそれが通じなかった、最終的に通じたのは、委員が御指摘のとおり、既に武装警察が五名の者を連行していった後であったということだと思います。
中川(正)委員 二時三十分に、そのころの時間に本省に第一報が入って、これはもっと早かったかもしれない、総領事の方から入った電話が先行していますから、もっと早いかもしれない。その時間から三時過ぎまで、恐らく四十分ぐらいの時間的余裕があった。その間に、さっきの話では、電話が通じなかったということによって本省の指示が現場に届かなかったというのが外務省の報告書の中にも出ていますので、そのとおりの答弁をされたんでしょうけれども、現実的にそんなこと考えられない。
 携帯電話は、それはあっちこっちのやりとりで話し中であったという可能性もあるけれども、しかし、現実、それであっても、北京だとか総領事はしょっちゅう電話はつながっているんです。それだけはつながっていて本省だけはつながらないという、これが一つわからない。それからもう一つは、館内に電話いっぱいあるんですね、領事館内に。領事館内から現場までというのは走って一分もかからない。そういうところへもつながらなかったという理屈が通じるのかどうか。
 どうも、客観的に見ていると、これは省内協議に時間がかかった、あるいは官邸とのやりとりの中で忙殺されて現場どころじゃなかった、そういう省内の状況があって、さっき三時半に官邸につながったという話が出ましたけれども、その結論が出た時間に本省から現場へ向いて連絡をするという時間が大体符合しているんです。
 ですから、これはずっと一連見ていると、総領事にしても大使にしても、あるいは現場の皆さん方にしても、みんなまず第一報を得たときに何を考えたか。それは、自分で判断することじゃなくて、全部上へ向いて連絡して尋ねる、どういう対応をしたらいいのか確認をするということに、全員の意思がそっち向いていっているんですよ。しかも、宮下副領事さえそうなんです。二人が連れ去られて外へ出されて、あの三人と合流して詰所へ向いて入れられた瞬間に、宮下副領事の頭の中が何で埋まっていたかというと、総領事に連絡をしなきゃいけないと。現場から含めて全部、上へ向いて連絡しなきゃいけないと。
 ところが、上から来た判断というのは何だったかといったら、これは、追って連絡をする、現状を維持しろ、あっちこっちへ連絡をしたかどうか、これだけなんです。だから現場の馬木副領事としては、体を張って、両手を上げて、だめだだめだと言っているだけで、これで初動が終わってしまった。宮下副領事にしても、唖然として見ていたというだけで終わった。こういう結果じゃないんですか。大臣、どう思われますか。
田中政府参考人 委員の御指摘のうち何点か、事実関係についてお答えをさせていただきます。
 二時半過ぎに担当の者が本省で電話を受けたということでございますし、この二十分なら二十分、十五分なら十五分、その結論が出るまでにかかった時間をどういうふうにとらえるかという問題はあると思います。現場で起こっていることをすべて承知してやっているわけではない、それはウィーン条約の基本的な条文であるとか、あるいは例外事項であるとか、あるいはその場の状況であるとかいうのを総合的に勘案せざるを得ないというのは、それは事実としてあると思います。
 ですから、結果から見れば、時間がかかり過ぎているではないかという御批判はもちろん受けますけれども、しかしながら、官邸への連絡とか大臣への連絡にしても、それは役割分担をみんなしながらやっていたということだと思います。
 ただ、委員御指摘のように、そういう現場がいろいろ動いている状況の中で的確な判断ができたかどうかということについては、それは調査報告書の中にも具体的な問題意識として書かれておりますけれども、意識、認識の問題であるとか、指揮命令系統の問題であるとか、その他の問題があることは間違いがないし、私たちは、その点について非常に強い反省をしながら、今後の再発防止につなげていかなければいけないというのが私たちの責任であろうというふうに思います。
中川(正)委員 さっきの答弁になると、もう言いわけなんですよ。そういう議論をするんじゃなくて、初動では、今まず何をしなければならないかという判断からいけば、これは亡命者だとわかっているわけですから、それは領事館がコントロールをしなければならない、そのことを言え、そういう指示でしょう。その指示、その日本の国家としての意思表示が、だれ一人として初動でできていないんです。そこのところが、これは中国のサイドにつけ入られる一番の原因になっているということだと思うんですよ。
 そういう意味で、これは大臣も含めて、さっきから話を聞いていると、これは新しい事実だと思うんですが、先に官邸の方に連絡して、大臣の方は五時ぐらいになったというふうな話ですね。これも外務省の中は狂っていると思うんですよ。それはやはり大臣が最終的には責任を持つわけですから、ここへ向いて話が届いていないで、何で官邸に先に行くのか。これは大臣、抗議をしなければいけない。抗議というよりも、中の人たちのマインドに対して、しっかりと憤りを覚えなければいけない話だというふうに思うんです。そんなことも含めて、大臣自身の責任もまた含めて、どのようにこれは処理をされていきますか。
川口国務大臣 先ほど来、中川委員が問題意識として持っていらっしゃるように、初動の問題があるということを私も言っていますけれども、日本の、ある意味では非常に有効に働いてきたコンセンサスシステムがベースになって意思決定が行われるということが常であるという社会の中で、本当に危機管理、いざ何か起こったときに危機管理の体制がうまく機能するだろうかということは、外務省はもちろんのこと、みんなが考えなければいけない問題だと思います。
 それで、この点について、今回さまざまな改善のための措置をとっている中で、危機管理のための、この意味での改善ということでは、より明確に現場、この場合は総領事ですけれども、現場の館長の判断に多くをゆだねるということを決め、それを通達しています。まだほかにもいろいろ、今後精査をした上でやるべきことはあると思いますけれども、そういった改善はどんどんとっていきたいと思います。これは日本国として非常に大きな問題だと思っています。
 それから、私が聞いたのが五時である、私はこれは遺憾だと思います。まさに委員がおっしゃるとおりだと思います。
 責任問題についても、これは私、前から申し上げていますけれども、この問題の処理をし、解決をし、そして改善策をつくっていくということが私の責任だと考えています。
中川(正)委員 時間が来ましたから、指摘をしておきたいと思いますが、次の改善策に行く前に、この辺の、だれが何をすべきであったか、どういう指示をそこで、初動で与えるべきであったか、それを与えていなかったということ、これはやはり責任がしっかり問われることであります。そのことを基本にしながら、まず責任問題をはっきりさせて、その上で改善策に結びつけていくということでないと、本来の、外務省が生き返っていく、再生をしていく、そういう力になっていかないということ、このことを指摘させていただいて、時間が来ましたので、私の質問を終わります。
 ありがとうございました。
吉田委員長 次に、土田龍司君。
土田委員 条約案件が三本出ておりますので、簡単に、一問ずつだけ質問させていただきます。
 まず、WIPOの問題、世界知的所有権機関、この件については、ただ事務局長の任期を制限するというだけの内容でございます。
 これに対しては、先ほど外務大臣は提案理由説明において、WIPOの運営の円滑化に貢献する上で非常に有意義であるというふうにおっしゃっているわけですけれども、長年務めた事務局長がいる。二十五年やったらしいのですが、この二十五年もやった前任者に何か問題があったからこういった制限をすることになったのか。あるいは、事務局長の任期を制限するだけで、現在急速に変動しているIT革命に対応する組織となることができるかどうか。そういったことを、総合的な御説明をお願いいたします。
佐々江政府参考人 お答え申し上げます。
 事務局長の任期につきましては、先生御指摘のとおり、前任者が非常に長い期間務めておったということで、これに批判があったことは事実でございまして、組織の運営の活性化のためにも、トップがある程度の期間で交代する、リフレッシュすることは重要だということが背景にございまして、このような改正に至ったということでございます。
 それから二点目の、IT革命に対する対応ということでございますけれども、WIPOの方でも、IT革命が急速に進んでいるということを踏まえまして、この対応の努力を行ってきております。
 一つは、このような条約も含めまして、新時代のデジタル化に対応した、ネットワーク化に対応した条約の作成作業、起草作業というのを漸次行ってきているわけでございますけれども、そのほかにも、データベースの保護あるいはインターネット上の商標の保護等について、WIPOで活発な議論を行っているということでございます。
 それから組織的にも、予算あるいは体制、これは特に電子出願の問題等でございますけれども、WIPOも、新しい時代の要請に対応する努力を行っているということでございます。
土田委員 WIPOは、特許権の保護のための活動も行っているわけでございますが、最近、中国において、我が国の企業が出願した特許の審査が進まないでたなざらしとなっている事例が大きな問題となっているようです。特に、電気通信機器の分野における中国の特許審査処理の長期化が目立っており、DVDのビデオフォーマットや液晶表示装置、モバイル機器、光ディスクの記録再生技術に関する特許などが、出願から七年以上たってもまだ登録できていないという状況があるようでございます。
 中国では、家電製品や二輪車など、日本製品の模造品が多数製造され、日本製品のシェアを奪っておって、特許認定のおくれが我が国の企業に深刻な被害を与えているという感じがいたします。中国もまたWIPOの加盟国であって、公正な特許審査を行い特許権を保護する義務があるはずでありますけれども、この問題について中国の対応はどうなっているのか。また、WIPOは、このような問題について何らかの行動をとることができるのかどうか。
佐々江政府参考人 中国の問題につきましては、ただいま先生御指摘のとおり、特許審査において非常に著しく時間がかかっているということで、特許庁が本年三月に我が国企業に対して行いましたヒアリングにおいても、そのような結果が出ておりまして、さまざまの問題を生じているという苦情が寄せられておるということでございます。
 これを踏まえまして、本年三月、我が方の不満や懸念を、外交ルートを通じて中国側に申し入れを行っております。先方からは、この問題については重点事項として積極的に取り組んでいるということ、それから、審査官の増員を行う等の努力を行っているけれども、数年来の累積した申請案件の処理に苦慮しているということで、努力していきたいということでございます。
 我々としても、この問題について、中国側の前向きの対応を促すべく、引き続き日中間で話し合いを行っていきたいというふうに思っております。
 それからもう一つ、WIPOの問題についてのお尋ねでございますが、WIPOは、基本的には加盟国の特許庁の審査にかかわる問題を直接行っているということはございませんけれども、中国も含めまして、各国に対して各種の技術の面で協力を行っているということでございます。
 具体的には、例えば、インターネット上で無料で特許に関する先行技術を検索できる環境を提供したり、あるいは専門家を派遣しているということでございまして、こういうような努力を通じまして、中国を含めた各国の特許庁における審査の促進を側面的に支援しているということでございます。
土田委員 今の答弁からは努力をしているという感じしか受け取られませんけれども、やはり中国に対して要請や抗議をしなきゃならないというふうに私は思います。
 また、昨年から中国もWTOに加盟したわけでございまして、中国に対してもWTO協定上の紛争処理手続が活用できるんじゃないかと思うんですね。この問題の解決について、中国側から誠意ある対応がなされない場合には、WTOへの提訴も考えていいんじゃないかと思うんですが、この点はどうでしょうか。
佐々江政府参考人 WTOへの提訴の可能性のお尋ねでございますけれども、先ほど申しましたとおり、中国に対しては、これまでさまざまな機会に強い申し入れをしておりまして、今後とも二国間でこの問題を解決するよう努力していきたいというふうに思っております。
 WTOに提訴するかどうかということは、一般論として言えば、全体的な事情を勘案しながら決定するということでございますけれども、二国間でただいま述べましたような努力を行っているような今の段階において、将来の我が国のWTO上の行動について予断するようなことを今現在申し上げることは差し控えさせていただきたいと思います。
土田委員 もう一問、文化財の件でございます。
 文化財は、我が国の長い歴史の中で生まれ、はぐくまれ、今日に守り伝えてきた貴重な国民的な財産であるわけですが、我が国の歴史、文化等の正しい理解のために非常に重要であると同時に、将来の文化の発展向上のための基礎をなすものであるというふうに思います。そのために我が国もその保存に力を注いできているわけでございますが、その一方において、今日、我が国に対して、盗難文化財天国という非常に不名誉なレッテルを張られているようでございます。
 また、フランス議会外交委員会に提出された報告書においても、フランスの文化財が毎年たくさん盗難に遭っているが、その正確な被害額の把握が困難な理由の一つに、盗難文化財はスイスなどを経過してアメリカや日本などの通貨の強い土地に流入することが挙げられているようです。盗難文化財は、しばしば善意の取得者の転売に関して柔軟な法制度を有する国、例えば日本やスイスなどに向かっているというふうに指摘されているわけですね。
 この人類共通の遺産を各国が協力して守るべき時代を迎えた今日、文化の外交分野における役割を重視する我が国がこのような指摘を受けていることについて、大臣はどういうふうに考えられますか。
川口国務大臣 我が国において、文化財についてどのような不法取引が行われているかということについて、実態が必ずしもわからないわけでございますけれども、いずれにしても、各国にある文化財や文化遺産が盗難等に遭ってその地域から外に流出をしていくということは、その地域の文化遺産を貧困化させるという意味で、非常に問題があると私は思います。
 それではどうしたらいいかということですけれども、不法取引の問題からその国を守るために必要なのは国際協力であると私は思います。したがいまして、我が国としても、この条約の締結を含めまして、国際協力については今後とも真剣に取り組んでいく必要があると思っています。
土田委員 次に、中国の瀋陽問題に入ります。
 この北朝鮮亡命事件、二十二日に中国が独自の判断で五人を韓国に送り届けたということで、大きな山を越えたというふうに感じるわけでございますが、きょうに至るまでの報道の流れを見てみますと、まず、十九日に杉浦副大臣が中国のトウカセン外相と会ったときに、トウカセン外相は、瀋陽事件はいい方向で解決すると思うと言ったわけですね。その翌日、政府は、中国側に束縛されている五人の身元や亡命の意思を出国前に日本政府が確認することを事実上断念し、早期出国を優先させる方針を固めたというふうに記事が続きました。
 そして、福田官房長官は、二十日の午前の記者会見で、中国・瀋陽のこの事件について、人道問題が時間がたつにつれて大きくなってくると述べて、五人が第三国へ出国することを優先するということを示し、安倍官房副長官も同じような発言をしております。いわゆるこうした日本政府の路線変更を確認した中国が、二十一日夜、五人を出国させるというふうに日本側に通報をしてきたわけですね。
 こういった一連の流れを見ておりますと、不可侵権の侵害をめぐって、我が国が中国に謝罪と再発防止の保証を求めることをおさめることを条件に、中国側が韓国への出国を通報してきたというふうに感じられるわけです。これは、膠着したあの事態で、二十日、二十一、二十二とそういった状態の流れの中でこういった措置をとったということについては、理解できないわけじゃないんですけれども、人道問題が片づいたといっても、我が国が中国に対して、いわゆる謝罪と再発防止のための保証、今後どういうふうな形で求めていくのか、お尋ねしたいと思います。
川口国務大臣 中国との関係でこの問題について申しますと、私どもは最初から一貫いたしまして、ウィーン条約三十一条違反ということがあった、我が国としては同意を与えていないということを明確に言ってきたわけでございます。それで、その過程で、人道上の問題、五人の人道上の要請が満たされるということが最優先であるということも中国に伝えてきたわけでございます。
 先ほど、トウカセンが、問題がうまく解決するというふうに言ったと委員の御発言がございましたけれども、杉浦副大臣とトウカセン外交部長が十九日に会ったときには、中国は冷静に大局的に見て対処してきているということと、それから、五人については、いつものように、法律と国際慣行に従い人道的考慮に立って対処をするということが、トウカセン外交部長がこのときに言われたことでございます。
 したがいまして、中国が五人を出すということを独自に判断したというふうにおっしゃいましたけれども、我が国としては、人道上の要請が満たされることが最優先であるということは中国に対して累次申し入れてきたわけでございまして、問題の早期解決に向けて全力を尽くしてきたわけでございます。それで、この五人の方の出国が実現をしたわけでございますけれども、中国側は、その決定に際して、我が国の立場に対して配慮をしたと考えております。
 事実認識の問題につきましては、これは日中の間で立場の相違がございます。我が国がこの問題をうやむやにするということを条件に、人道上の観点で五名を出してくださいという話があったと委員はおっしゃいましたけれども、そういうことは全くございませんで、私どもとしては、不可侵が侵害されたことに関して、我が国の主張を毅然として貫いていく考えでおります。再発問題についても、これは重要な問題でございますが、こういった問題も含めて、中国との間では、日中関係の大局を踏まえて冷静に対処をしていきたいと考えております。
土田委員 トウカセン外交部長は、十九日には、大事なことはいい方向で解決すると思うというふうに言ったんです。つまり、この時点で大体先の予定はできていたんじゃないかというふうに私は感じるんです。
 それから、人道上の問題としておさめることを条件に日本が何ら約束はしていないとおっしゃるけれども、私はそういった約束があったんじゃないかなというふうに想像しますよ。その方がむしろわかりやすいというような感じがするんですけれども。
 それと同時に、今、今後とも謝罪と再発防止の保証を求めていくんだと言うんですが、具体的にはどういうふうなことをやるんですか。
川口国務大臣 これは、先ほど申しましたように、我が国の立場を毅然として貫きながら、日中関係の大局を踏まえて冷静に対処をしていくということでございます。
土田委員 いや、精神論じゃないんですよ。冷静にやるんじゃないんですよ。そういうことを聞いているんじゃない。世界がずっと注目しているんです。日本がどういった態度をとるのか、中国がどういった態度をとるのか、注目しているわけですね。あるいは日本国民も、あのビデオを何十回と見せられて、外務省の対応はひどいじゃないかというふうに国民は印象を持っているわけです。
 だから、毅然とした態度とか冷静にとかじゃなくて、今後とも謝罪と再発防止の保証を求めていくという決意を大臣はおっしゃったわけですから、具体的にどういうふうにしていくんですかと聞いているんです。
川口国務大臣 まさに我が国の不可侵が侵害されたということについては、これは毅然として貫かなければいけないと考えております。その上で、日中関係の大局を踏まえて冷静に対処をしていくということを申し上げているわけです。
土田委員 どうも外務大臣の話を聞いていますと、南米のペルーの大使館事件がございましたね。ペルー政府が強行突入をしたわけですが、そのときに日本政府は、事前に通告をして了解を得てくれというふうに言っていた。しかし、それは通報されないで作戦が強行された。公館のこの不可侵侵害について、時の橋本総理大臣は、遺憾だということは申し上げた上で、自分は理解するという趣旨の話をフジモリ大統領に伝えた。
 今回の瀋陽事件を見てみますと、中国側による人道的な処置が行われたから、人道的なことは守られたから、遺憾だけれども、こちらにも手抜かりがあった、仕方なかったという結論で処理するような所存、そういったふうに聞こえるんですけれども、大臣、そうじゃございませんか。
川口国務大臣 この問題について、前から申し上げていますように、初動の段階でさまざまな問題が我が方にあったということは事実だと思います。ただ、そういったことはいろいろありますが、そのことは、我が方が中国に対してこの問題について同意を与えなかったということを変えるものでは全くないということでございます。したがいまして、そういった我が方の主張は毅然として貫くということを申し上げているわけです。
土田委員 具体的な話が出てこないんですから、これからおやりになっていくんだと思いますので、ぜひその方向でお願いしたいと思いますが、同時に、先ほどからも出ておりましたけれども、責任問題、処分については、これはやはりきちっとやらないことにはだめだと思うんです。
 去年の一月一日に例の機密費の使い込み事件、松尾事件が発覚して以来さまざまな問題が出てきた。外務省は、そのたびにといいますか、処分を発表されるんですが、それがまた非常に甘い。我々から見ると、もう処分にならないような処分になってしまっているわけでございますが、今回の問題、阿南大使、あるいは現場の副領事あるいは総領事、こういった方々の処分についてもきちっとしていかないと、外務省改革というのにはならないと思いますよ。
 私は、前回も言いましたように、大胆な機構改革と人事に対して信賞必罰をしていかないことには変わらないわけですから、この事件について、処分はどんなふうに考えておられますか。
川口国務大臣 これだけ世の中をお騒がせした大きな事件でもございまして、外務省として、私は前から申し上げていますように、反省する、猛省するところはある案件でございます。ということでございますので、これは、この件についてめどがついた時点で、全体をきちんと総括して、改善策をきちんとまた出す必要があると私は思っておりまして、その過程で処分については考えたいと思っております。委員おっしゃられるように、処分がなしでこれが済むというふうには私は思っておりません。
土田委員 そのめどがつく時点というのはいつかということが一点と、ぜひ今回の件については、厳重注意ぐらいじゃなくて、もっと重い処分をしてほしいということを考えるんですが、その点はどうでしょう。
川口国務大臣 めどがついた時点でと申しましたのは、これはまさにまだ進行中の案件でございますので、めどがついた時点でということを申し上げているわけでございます。
 それで、処分の程度ということをおっしゃられましたけれども、これはまさに、その総括をして、精査をして、いろいろ考える過程で出てくる話だと思っております。
土田委員 次に警備体制のことなんですが、今回の事件が発生するということを想定されていたと思うんですね。あるいは、これと全く同じでなくても、似たような事件が発生する可能性について、どこまで外務省は想定をしていたのか。あるいは、こういった情報収集をだれが行って、だれがそういった基礎的な情報分析を行ったのか。あるいはまた、外務本省あるいは北京大使館、瀋陽総領事館、それぞれの役割関係、それについて御説明ください。
川口国務大臣 在外公館の警備というのは、ずっとテロ事件なんかもございまして、非常に重要なことでございます。この警備計画というのは、接受国の官憲、この協力を得ることなしにはできないわけでございまして、そういったことを前提にして、在外公館の警備に万全を期すということになっているわけでございます。
 したがいまして、今回のように、接受国側の官憲によって総領事館あるいは在外公館の不可侵が侵害されるということについては、これは非常に異例な事態でございますので、そういうことを念頭に置いた警備の措置ということは規定はいたしておりませんでした。
 それから、情報収集ですけれども、今回の問題点の一つとして、情報収集が十分であったかということについて、特にNGOの方々の情報について十分であったかということは、きちんと反省をしていく必要があると思っていますけれども、基本的に情報収集は、外務省としてはもちろん一番大事なところでございますから、これはずっと努力をして、さまざまな情報をとるということはやってきているわけでございます。そして、それはそれぞれのところが情報をとっているわけでして、それぞれの在外公館でとった情報については、本省に連絡があるということはもちろんですし、同時に、関係の他の在外公館というところにも同じ情報は連絡がされるという仕組みになっております。
土田委員 公館への出入りの件なんですが、主要国は自国の武装した警備要員を派遣しているわけでございますけれども、日本はしていないということですけれども、この点について、日本も実力行使ができる人、そういったのを配備するという考えはないんでしょうか。
川口国務大臣 我が国の警備の仕方というのは、これは日本人の警備担当者が指揮監督をする中で、そのもとで現地の警備員に警備をさせているということでございます。こういった体制をとっているのは日本だけではないということですけれども、今回非常に問題があったわけでございますので、今回のことを踏まえて、幾つかの点では既に改善を指示し、改善を始めております。
 ということで、質問にお答えしましたでしょうか。
土田委員 質問通告していましたので、多分次の質問を御存じだと思うんですけれども、在外公館警備対策官の件です。
 警察庁、防衛庁、法務省、公安調査庁、内閣調査室、民間会社、それから採用された在外公館警備対策官がその警備を担当しているわけですね。これはどういった職務を具体的にするんでしょうか。
川口国務大臣 この在外公館警備対策官の主たる職務内容というのは、在外公館の警備に関する企画立案、それから治安情報の収集等ということになっております。
土田委員 この人たちは、採用に当たって、ああいった能力を有しているかどうかという問題と、あるいは訓練をされるんでしょうか。
川口国務大臣 この人たち、警備対策官になる人は、警備分野での知見がある人たちの中から選んでいます。例えば県警の御出身の方ですとかそういうことですが、その警備対策官に対しては、赴任前に約二カ月間研修、教育をやっていまして、この中身は、外務講義、語学、在外公館警備にかかわる座学、実習、演習といったようなことでございます。
土田委員 以上で終わります。ありがとうございました。
吉田委員長 次に、松本善明君。
松本(善)委員 きょうは条約審議の日ですが、理事会の合意に基づいて、一般質疑も多少行います。
 今外務省は、本当に報道の大部分が外務省というぐらい、外務省有事と言ってもいいぐらいたくさんの問題を抱えていると思います。私は、きょうは、その中で対ロシア外交の問題をちょっと伺います。
 これは、ロシア外交とのかかわりで利権を追ったり不正があったりということもありますが、同時に、それとの関係で対ロシア外交の根本が問われて、やはり日本の対ロシア外交を根本的に立て直すという問題があるのではないかと思います。
 三月十九日に我が党が発表いたしまして、私が翌日二十日に質問をいたしました鈴木議員とロシュコフ・ロシアの外務次官との会談記録につきまして、五月の十九日の朝日新聞で、本田優編集委員の署名入りで、この文書は改ざんされたものであり、本物はロシア課にあるという記事が出されました。ロシア課にはそういう文書がありますか。
齋藤政府参考人 この出所不明の文書につきまして、外務省としてその内容や存否につき確認することは差し控えさせていただきますけれども、会談のメモにつきましても、先方との関係もございまして、外務省としてその存否につきコメントすることは差し控えさせていただきたいと思います。
松本(善)委員 外務大臣に伺いますが、これは出所不明ということで、この間も外務大臣は、私たちの党の発表した文書について答弁がありました。しかし、民主党の同僚委員も、これは調べればわかるじゃないかと。これは前書きには、逮捕された佐藤氏のところに保管していたもの、今もロシア課にあるということが報道されています。
 私は、これは答弁を差し控えるというようなことでは済まないんじゃないか。対ロ外交の根本にかかわる。やはりこの問題については、どちらが本当のものであるかわかりませんけれども、やはり国民の前に明らかにして、何が本当だったのか、何が行われたのかということを明らかにする。そうして、対ロ外交についての根本を考える、国民と一緒に考える。私は、外交は、秘密で何かおかしなことをやっているというような状況では、絶対に国民の支持は得られない。やはり、国民の前に明らかにして、国民の支持を得ながら外交を進めなければ、これは成功しないと思うんです。
 そういう意味で、この点について、やはり態度を改めて調査をするという考えはありませんか。
川口国務大臣 基本的に、外交を進めていくときに、それが国民の皆様の理解を得ながら進めていかなければいい外交ができないということは、私は委員おっしゃるとおりだと思います。
 という基本的な考え方は私も持っておりますけれども、三月十九日に共産党が公表したこの資料、これについては、私どもとしては、どこから出てきた資料かということについて全く出所不明でございまして、これについてはコメントをするということはできないわけでございます。
 それから、先ほど、もう一つの文書が外務省にあるのではないかということをおっしゃっていらっしゃるわけですけれども、十二月の二十五日に行われた鈴木議員とイワノフ安保会議書記の会談、これにつきましては、これは鈴木議員が一議員として非公式に行ったものであると私は承知をいたしております。ロシア側との関係もございますので、その内容については政府としてはコメントができないということでございます。
松本(善)委員 私は、国民の支持を得るためには、やはり秘密外交ではだめだと思うんですよ。出所不明と言うけれども、出所は言っているんだから、調べれば事実であったかどうかというのはわかるわけなんですよ。外務省で調べれば、どちらが本当の文書なのか、なぜそういうものができているのか、改ざんされたとすれば、どちらが改ざんされたかわかりませんけれども、それはどういうことだったのか、こういうことを明らかにしていかなければ、国民の支持は得られないんです。
 あの瀋陽の事件もそうですよ。事実についてやはりきちっとしていないから、毅然とした態度がとれないんですよ。やはり真実が一番強いんですよ。それをちゃんと究明しながら、外交を進めなければならないと思います。
 この問題は、それだけにとどまらない。同じ日の朝日新聞の一面トップは「「二島先行」九七年に構想 外務省、橋本首相に極秘三案 不法占拠論から転換」、こういう見出しで報道されているわけですよ。こういうことまで言われているのに、黙って、これはコメントはできませんと、これでは到底支持は得られませんよ。
 私、きょう、この中身について細かく聞く時間はありませんけれども、北方領土はソ連に不法に占拠をされたものと考えているのか。日本の全国紙で「不法占拠論から転換」とまで書かれている。ソ連が不法に占拠をした、私どもはそう考えていますが、外務大臣はその考えはないんですか、あるんですかということを聞いておきましょう。
川口国務大臣 北方四島は、これはずっと我が国固有の領土であったわけでございまして、一度もほかの国の領土になったことがない土地でございます。したがいまして、現在、ロシアがこれを不法に占拠している、まさにそういうことだと思います。
松本(善)委員 はっきりしてくださいね。固有領土論と不法占拠論とは、似ているようで、正確に言えば、ちょっと違うんですよ。不法占拠だということを認められますか。
川口国務大臣 北方四島のロシア側の占拠につきましては、これは法的な根拠がなくして行われている占拠であるという意味で、不法占拠であると申し上げているわけです。
松本(善)委員 この問題もまた改めてやることにして、条約について質疑をしたいと思います。
 文化財の不法輸入禁止条約についてでありますが、これはユネスコの総会で一九七〇年に採択をされて、一九七二年に発効しています。現在までのところ、九十二カ国が締約国になっている。主要先進国では、未批准は少数派です。
 この文化財の不法な移転を禁止するという、これは当たり前の話で、泥棒をしちゃいかぬということなんですから。そういう中身を決めている条約を我が国が批准するのに、何で三十年以上もかかったんですか。この問題について、我が国の外務省としてはどういうふうに考えているのか。外務大臣は、就任後、そう時間がたっていませんけれども、何でこの当たり前の、泥棒しちゃいけないというこの条約の批准に三十年以上かかるんですか。外務大臣に伺います。
川口国務大臣 まず、我が国はこの条約は望ましいものであると考えておりまして、この採択を支持いたしました。
 この条約につきましては、これを締結するためには、それを担保する国内法がなければいけないということでございまして、一言で申し上げれば、その国内法の担保がなかった、そこの段階で時間がかかったということでございます。
 それから、さらに、この条約の担保措置についての各国の実施状況、これについて調査をする必要があったということも長期時間がかかった理由と承知しています。
松本(善)委員 我が国がこれを批准する、国内法がなかったと言うけれども、やはり条約としては三十年以上前にはあったわけでしょう。だから、そのイニシアをとるのは外務省じゃないですか。三十年間、文化財の泥棒をしてはいかぬという条約を我が国が批准しなかったということについて、外務大臣は何の反省もないですか、外務省はこういうことでいいのかと。
 外務省は、こういう条約ができている、国内法をつくれということで、外務大臣は閣僚の一人なんですから、それは当然発言をし、国内法をつくるべきだ。国内法がないからできませんでしたと、これは私、外務大臣の答弁としては極めて無責任だと思います。
 そういうことだから、外務省、腐敗事件や不正事件がいっぱい起こるんですよ。頭がしっかりしなければ、私はだめだと思うんですよ。小さな条約だと思うかもしれないけれども、これは外務省の今の体質の一つの表現ですよ。あなたは何の反省もありませんか。三十年も、この泥棒しちゃいけないという条約が批准されていないということについて、日本は恥ずかしいと思いませんか。
川口国務大臣 先ほどひっくるめて言いましたので、担保措置がなかったということを申しましたけれども、これは、どのスキームを使って担保をするかということも含めて、したがいまして、存在をする中で何を使うかという部分の議論も含めてということで申しましたので、若干、きちんと申し上げさせていただきますけれども。
 それで、三十年かかったということについては、これは私は長くかかったと思います。この問題の重要性にかんがみて、三十年というのは随分長かったというのは全く委員がおっしゃるとおりだと思います。
 それで、では、その中で外務省の責任は何かということですけれども、私はこの点についても聞きましたけれども、外務省としてとるべきリーダーシップはきちんととってきた。これは、外務省ひとりだけで物事を決められるわけではありませんで、例えば民法の改正をするということであれば、法務省なりというところが合意をして、しかるべき審議会も動かしてというすべてのプロセスが必要になるわけでございまして、そういう意味で、三十年かかったというのが長過ぎるということでいえば、このことについては政府の中の関係省庁全部が責任をシェアする、そういうことであると私は思います。
松本(善)委員 それはもちろん政府全体の責任ですよ。だけれども、外務省がイニシアをとるべきものです。民法の改正ももちろん、今やられておりますけれども、しかし、民法の改正ができなければ批准ができないというものでもありません。私は、やはりもっと、それこそ毅然として、今までの外務省の態度を批判して、それを改善するという決意が表明されなければだめだと思います。
 後でそれも聞きますが、文化庁はどういうふうに考えていますか、この責任について。
銭谷政府参考人 本条約につきましては、先ほど来お話がございましたように、国内法及び実務的に検討を要する課題がございまして、締結がおくれていたわけでございます。
 関係省庁、我が国の国内措置について協議をずっと進めてきたわけでございますけれども、盗まれた外国文化財の輸入規制、その回復措置、我が国の文化財に係る輸出規制の措置等、条約上求められている必要な国内措置が整いましたので、この国会に条約実施のための関係法律案を提出したところでございます。
 文化庁といたしましては、文化財保護行政がどうしても国内の文化財の保護に比重がかかっているということもございまして、結果的に三十年という期間が長過ぎたのは確かと存じております。文化庁としては、今回の条約の締結を契機に、文化国家といたしまして、文化財保護における国際協力に寄与する姿勢を示し、貢献したい、こう考えているところでございます。御理解を賜りたいと存じます。
松本(善)委員 文化庁としての反省も、私はもう極めて浅いと思います。マスコミでは盗難文化財天国と書かれているのですよ。これは本当に日本の恥ですよ。
 どういうことが起こっているか。滋賀県の、これは信楽町というのですか、私立美術館ミホミュージアムが九五年に購入し、展示をしている菩薩立像が、中国山東省で盗難に遭ったものであることが判明をして山東省に無償返還。北陸地方の大学が九五年に購入した聖像画が、キプロスの教会から略奪されたものとして無償返還を要求された。最近でも、アフガニスタンの混乱に伴って収奪に遭っているカブール美術館の美術品やバーミヤン仏教遺跡の美術品が日本に不法に流入していると言われている。
 こういうことが、私は、文化庁の答弁でも本当に真剣に反省しているような様子が全くないのですね。適当な答弁をやっているとしか見えない。反省していますか。はっきり言いなさい。
銭谷政府参考人 先ほども御答弁申し上げたところでございますが、文化庁といたしましては、基本的には、これまで国内にございます文化財をきちんと保護し、それを活用するということがどうしても行政の中心となっておりましたので、世界的に各国の文化財の保護につきまして協力をするという点におきまして必ずしも十分でなかったという反省は持っているわけでございますが、今回の条約の締結を契機といたしまして、さらに一層国際的な文化財の保護に貢献をしてまいりたいと考えている次第でございます。
松本(善)委員 私は、まだまだあると思います。泥棒しちゃいかぬという条約なんですよ。それを国内の文化財保護に目が向いておったからできませんでしたと、この答弁自体が私は日本の恥だと思いますよ。
 まあ、時間もありますから次の質問をしますけれども、外務大臣に言っておきますけれども、民法の改正はこの条約の批准と直接は関係ありません。これは時効の延長の問題でして、ということだけ言っておきましょう。
 それから、なぜ今このユネスコの条約を批准するということになったのか、その経過を説明してもらいたいと思います。
横田政府参考人 お答え申し上げます。
 まず、去年の国連総会におきまして、本条約の早期締結を勧告する旨をうたった文化財の原保有国への返還に関する決議が採択されましたが、このような事例に見られますように、近年、文化財の不法な国際取引の規制に対する国内外の世論の高まりがあるというふうに認識しております。
 さらには、まだ未批准であったイギリスとかスイスなどの諸国も締結に向けて動き出しているという動きがございました。
 さらには、一九九九年のことでございますけれども、我が国からアジアで初めてのユネスコの事務局長たる松浦事務局長が就任いたしまして、それに伴う我が国の貢献に対する期待が高まったというような諸事情が背景として挙げられると思います。
 そのような背景のもとに、鋭意関係省庁と協議いたしました結果、今回提出させていただくに至った次第でございます。
松本(善)委員 日本出身の松浦氏がユネスコの事務局長に就任したと。これは私、これを批准しなかったらそれはもう格好もつかないですよ。
 私、外務大臣に伺いたいが、日本出身のユネスコ事務局長になったこともあり、この問題についてのこれからの外務省の決意といいますか、これからこの問題についてどう対処していくかということを外務大臣から一言聞きたいと思います。
川口国務大臣 文化遺産というのは人類共通の遺産であると思います。それが存在をする地から不法に盗まれない、そしてその売買の対象にならないということは重要であると思っております。
 我が国は、今までも既にその文化財の保護についてそれなりの努力をしてきておりまして、例えばユネスコにある信託基金、ここにお金を出しているということもやっているわけです。こういった努力についても引き続き積極的にやっていく必要があると思いますし、先ほども申しましたように、やはり文化遺産の保護というのは国際協力が重要であるということでございますので、国際協力も一生懸命にやっていきたいというふうに考えております。
松本(善)委員 国際協力も金も出すのも大事ですけれども、やはりこの文化遺産を、世界の文化遺産を大事にするという考え方を徹底していく。最初に一言は言われましたが、そのことをやはり本当に日本が世界の先頭に立ってやっていく、こういうことが必要だろう、金や国際協力という言葉だけの問題ではないということを言って、次の質問に入ろうと思います。
 知的所有権について二本出ていますけれども、実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約について質問をいたします。
 この条約の第一条の第一項、第一条は「他の条約との関係」ですが、第一項にいわゆるローマ条約、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約との関係が規定をされています。これはどういう意味のものでしょうか。特にローマ条約との関係で説明をしていただきたい。
佐々江政府参考人 ローマ条約との関係のお尋ねでございますが、ローマ条約は、先生御承知のとおり、実演家それからレコード製作者並びに放送事業者の権利の保護を目的として、昭和三十六年に作成された著作隣接権に関する基本的な条約であります。
 それに対しまして、今回の実演・レコード条約は、ネットワーク化、デジタル化に対応して実演家とレコード製作者の権利の拡充を図るということでございまして、概してローマ条約よりも手厚い保護を定めているということでございますが、その保護の義務の範囲につきましては、実演のうち、音に関する部分にしか権利が働かない、それから放送機関の権利について規定がないといったことなど、ローマ条約よりも締約国が負う義務の範囲が狭い部分もあるということでございます。
 このような点を踏まえまして、ローマ条約によって締約国間に既に発生している義務について、この条約に加入することによって影響を受けないということを確認的に規定する必要がありまして、この第一条の御指摘の条項は、そのようなことを確認的に規定したということでございます。
松本(善)委員 これは、WIPOで一九九一年に起草作業を開始されて、一九九六年にジュネーブで開催されたWIPOの外交会議で採択されたというふうに聞いていますが、これはかなり長く、何で長くかかったんですか。これは米国との関係で、調整がなかなかあって時間がかかったと聞いていますが、どうしてこのように長くかかったんでしょうか。
佐々江政府参考人 この条約の作成経緯につきましては、時間がかかったことは事実でございます。先ほど先生がおっしゃられましたとおり、一九九三年にこの条約の検討が開始されまして、作成作業に約五年間かかったということでございますが、この基本的な背景、理由は、ネットワーク化、デジタル化に対応した権利の保護のあり方、それから視聴覚的実演の取り扱い等につきまして活発な議論が行われたということでございまして、先生御承知のように、米国はローマ条約に入っていないわけでございますが、必ずしも、米国がローマ条約は入っていないということが理由であるというふうには考えておりません。
松本(善)委員 アメリカの著作権法には、著作隣接権という概念を認めていないんです。アメリカは、今もお話がありましたが、ローマ条約には加盟をしていない。実演家、レコード製作者の権利保護のためにはローマ条約と全く別の条約を作成することを主張した、そのことを反映して一条ができたのではないか。
 その背景には、アメリカが、映画会社やレコード会社とかが国内の有力産業の一つになっていて、これらの業界が実演家が余り強い権利を持つことを好まないことから、実演家の権利保護を強化する条約の加盟に消極的だったのではないか、こういう指摘もありますが、どういうふうに考えていますか。
佐々江政府参考人 この条約の作成経緯自身につきましては、先ほど先生が言われましたように、アメリカの中の業界、特に映画の製作の会社が、強い力と申しますか、持っているということが背景にあって、実演者に対する権利の保護に必ずしも強い賛成の意思を示していなかったということが背景にあることは事実であったというふうに私は思います。
 ですが、アメリカ自身は、この新しい、今お諮りしております条約につきましては、むしろこれに積極的に加入しているということでございまして、既に締結も行っているということでございます。
 むしろ今問題になっておりますのは、先生が言われましたような映像の部分、映画の関係者も含めましたような、そういうものに対する保護に関する条約についてアメリカは相当問題を提起しているということでございまして、その部分については、今別の条約として議論が行われているということでございます。
松本(善)委員 今お話がありましたが、デジタルビデオディスクなどの映像を含む視聴覚的実演の知的所有権は、この条約では保護されないんですね。
佐々江政府参考人 おっしゃるとおりでございます。
松本(善)委員 それは条約の不備ではないか。今も少しお話がありましたが、この条約の不備を補うためにはどういうような動きがあり、日本の外務省はどういうふうな動きをしているのか、説明をしてください。
佐々江政府参考人 ただいま先生がおっしゃられましたとおり、この条約は、映像に関する部分を含めた視聴覚的実演の全体が保護の対象になっていないということでございますが、こういうふうに除外されているという実態を受けまして、この条約が採択されましたときに、視聴覚的実演に関する新条約を採択すべきだという決議があわせて行われております。
 このような決議を踏まえまして、視聴覚的実演に関する条約については、二〇〇〇年の十二月に条約採択のための外交会議が行われております。しかしながら、最終的に合意に至らず、結果として条約の採択が見送られたという経緯がございます。
 この条約につきましては、ことしの九月末に開催予定のWIPO総会におきまして、合意に至らなかった事項の関係者間の協議条項について報告がなされるというふうになっております。
 我が国としましては、この総会で、次回外交会議の日程を定めて、条約が早期に採択されるよう最大限の努力を払ってまいりたいというふうに考えております。
松本(善)委員 時間でもありますので、最後に外務大臣に。
 知的所有権の保護の問題というのは、やはり人類の進歩と発展のために非常に重要なものであろうと思いますし、この問題の進展のために、外務大臣、どういう決意を持っておられるか、お聞きをしたいと思います。
川口国務大臣 委員がおっしゃるように、知的所有権の保護というのは、人類の社会経済的な活動、文化的な活動、これを発展させていく、進展させていくためにも、インフラともいえるべき非常に大事なことだと私も思っております。今後、ますますこの面が充実されますように、私としても努力をしていきたいと思っております。
松本(善)委員 終わります。
吉田委員長 次に、東門美津子君。
    〔委員長退席、首藤委員長代理着席〕
東門委員 私も、条約に入ります前に、二、三、米軍による事故の問題について質問をさせていただきます。
 レミントン嘉手納飛行場司令官が五月の八日に行った米軍機の事故に関する説明会について、前回の外務委員会におきまして大臣は、「政府としましては、米軍が地元の関係者の懸念を、きちんとそれに配慮をして事故の原因等についてみずから説明をしたということについては、それはいいことであると思っておりますけれども、」と答弁しておられました。本当に外務大臣がこのような認識を持っておられるのか、私、今、この時点でも、信じたくないという思いでいっぱいです。
 あの説明会のどこが地元の関係者の懸念に配慮した説明であると言えるのか。照明弾落下事故あるいは燃料漏れ事故は、一歩間違えば住民に重大な被害が出ていた事故なんです。それをレミントン司令官は、単に米軍の経費の観点からの基準で、風防ガラス落下以外の二件は事故ではないと言っているわけです。
 住民にどれほど恐怖感を与えても、そんなことは関係なく、米軍が金を払う必要がある事態でなければ事故ではないと言っているのであって、しかも、その風防ガラス落下事故についての調査結果は公表しないという姿勢を明確に打ち出しているわけです。それを、住民の懸念に配慮した説明で、いいことであると思っているとすらっとおっしゃる川口外務大臣、私はどこの国の外務大臣かなということさえ感じております。
 沖縄県民の負担をよく口にされるんですが、本当にそれがわかっておられる、温かい心を持っておられるのかなと感じるのは私だけではないと思います。もし御自分や御自身の家族がそのような状況に置かれた、そういう場合のことをよく考えていただきたいと思います。
 私、もう一度その件については伺いたい。レミントン司令官の五月八日の説明について、大臣の御認識、伺わせていただきたいと思います。
川口国務大臣 米国側が、こういった、このところ続いているさまざまな幾つかの事故について、非常に問題であると思い、原因究明そして再発をしないような対策について真剣に取り組んでいるということは私は事実だと考えておりまして、そういった米側の考え方についてきちんと説明をするという態度をとったことについて私は評価をしているということです。
 委員がおっしゃっていらっしゃるのは、そのときの内容について、アメリカ側が幾つかのカテゴリーを持っているという話をしたということで、英語の言葉で日本語に直訳すれば、アクシデントというのは事故である、それ以外のことは事故でないという理解になっているということをおっしゃっていらっしゃるんだと思いますけれども、これもこの前私が申し上げましたように、英語の言葉が何であれ、空から物がおっこってくるとかそういうことがあれば、それは事故であるというふうに私としては受けとめているということでございます。その分類についてはアメリカ側の考え方が、それは向こうのルールとして、あるいは基準としてある、そういうことだろうと思います。
東門委員 その説明会に参加をした関係市町村長さんのコメントも多分お読みになっておられると思います。それから、記者、マスコミ関係には、一切質問を受け付けずに、本当に一方的に話して出ていったということも、情報が既に入っておられると思うんですよ。そういう中で、県民の、その関係者の懸念に配慮をした説明会だったと評価をされるということに私は疑問を呈しているんです。
 やはり大臣は沖縄県民の気持ちを全然わかっておられない。ただ口だけで答弁しているだけなのかなと本当に疑いを持ちたくなるような、これまでの御答弁もそうでしたけれども、今回もそれは否めないという感じを持ったことは伝えておきたいと思います。
 今、大臣もおっしゃいましたけれども、本当に米軍は、これまでも事件、事故が起こるたびに遺憾の意は表します。そして再発防止は必ずおっしゃいます、二度と起こらないようにしますと。ですが、一向にそれは改善されていません。その上、今回は照明弾落下事故あるいは燃料漏れ事故を事故として認めない、そういう姿勢を示したということに私はかなり懸念を持っているわけです。これでは従来の姿勢よりさらに後退していると言わざるを得ないと思います。
 政府は、五月十日に山下善彦防衛政務官を嘉手納基地に派遣して、再発防止と関係市町村への速やかな通報、通報が遅かったということもありまして、その速やかな通報を申し入れたようですが、このような米国側の姿勢に対しては、私は大臣レベルで強く抗議をしていただきたいということを申し入れたいと思いますが、いかがでしょうか。
川口国務大臣 この件につきましては、この前ファーゴ太平洋軍司令官が東京にいらしたときに、私からも申し入れをしているわけでございます。
 それから、私のレベルではそういうことですけれども、それ以外のレベルでも、橋本大使ほかから、この点については、まさに委員がおっしゃったように、沖縄県民の不安というものがいかに大きいものがあるかということについて申し入れをしてきているということでございます。
東門委員 ファーゴ太平洋司令官にお会いしたのは、きっとこの一連の事故が起こる前だったと思うんです。やはり日ごろの協議の中で、ただ、こういうことがありますから再発防止はということではなくて、事故が起こったときに、あれだけ連続して起これば、これはあくまでも航空機事故です。そのほかにも、七月にはたくさんございました。そういうときに、やはり外務大臣として速やかに対応されるべきだということを私は申し上げているんですが、いかがですか。もう一度お願いいたします。
    〔首藤委員長代理退席、委員長着席〕
川口国務大臣 私がファーゴ太平洋軍司令官にお会いをしたのは五月の十四日でございまして、一連の事故の後でございます。
東門委員 失礼しました。私はそれ以前のことだと思っていたものですから申し上げましたけれども、やはりそれは、事故が起こると速やかにそれに対応していただくということはとても大事だと思います。大臣の姿が、県民にとっても、日本国民にとっても、本当に国民の立場に立って、県民の立場に立って、アメリカに言うべきことは言うということを見せていただく、その一つであると思います。これがすべてで、これで全部オーケーというわけではないんですけれども、その一つであるということは思いますので、ぜひこれからもそういうような対応をしていただきたいと思います。
 事件、事故が発生した際の早期の通報については、これまでも再三再四申し入れてきましたけれども、米軍側が発生した事態を事故と認めないのであれば、通報についてどんな約束をしても無意味であると言わざるを得ません。やはり、基地において何らかの事態が発生したことを外部から確認された場合には、地方自治体側に立入調査を行う権限を認めなければ、住民の生命、安全な生活を守ることはできないということだと思います。
 そのためには地位協定の見直し、いつも申し上げておりますが、地位協定の見直しが絶対に必要であるかと思いますが、それが直ちにできないのであれば、せめて地方自治体の速やかな立入調査については新たな運用の改善を申し入れるべきであると思いますが、大臣、いかがでしょうか。
川口国務大臣 事件、事故についての通報が十分に早くないという点については、私がこの前沖縄に第一回目に伺いました時点でも伺いましたし、その後も委員を初め何人かの方から伺っております。
 このことについて、米軍側のどなたとお話をしたか記憶していませんけれども、グレッグソン四軍調整官であったか、あるいはファーゴ司令官であったか、ちょっと私覚えていませんが、お話をしましたときに、アメリカ側としては非常に努力をしているということも強調をしていらっしゃいました。ただ、努力はしているけれども、その基地の周辺の方で、米軍がそれを通報する前にもちろん見て知っているということはあるわけですから、だれよりも一番早くということでやることはなかなか難しいというお話があったことを記憶をいたしております。
 もちろん、この通報についての手続については、私から申し上げるまでもなく、委員はよく御存じのとおりでございまして、これについて、さまざまな機会のたびに、もっと早くしてほしいということは申し入れをしてきているということでございます。
東門委員 私の質問は、通報体制を今回はお聞きしているんではないんです。米軍側が発生した事態を事故と認めないということなんですね、今回は。
 そうであれば、通報についてどんな約束があったとしても、これは無意味ではないですか。であれば、やはり外部から、こういう事故があったと確認されたら、速やかにそこの地方自治体の関係者の皆さんが立ち入りできる、調査ができる、そういうことのために運用を改善していく必要があるんじゃないですか。本来ならば地位協定の見直しをしてしっかりとやっていくべきことですが、それができない、できないとおっしゃるのであれば、せめて運用の改善ということでもやはり交渉はするべきじゃないかということを申し上げているのですが、その点をお願いいたします。
川口国務大臣 アメリカ側は、先ほどちょっと言いましたけれども、アクシデントという言葉を全部のカテゴリーについて使っていない。私どもの立場からいえば、事故ということをむしろ逆にカテゴリーに分けて考えていて、そのときのそれぞれのカテゴリーごとに名前を変えているということであると思います。したがって、これは言葉の使い方の問題が、違いがあるということであるかと思います。
 橋本大使が、ラーセン四軍調整官代理、それから稲嶺沖縄県知事と三者で話をした後の記者会見でも、例えばアクシデントではなくてオカーランスと言っている。それは、アクシデントを否定するという言葉では必ずしもない、それも含める言葉であるということを言っているわけで、日本語で言うと事故であるということを否定したということに、事故イコールアクシデントというふうに、翻訳をしますとそういうことになるということですけれども、アメリカ側からいえばそのカテゴリーを分けているということであって、それについてカテゴリー別に、程度は違うけれども、やはり再発防止が大事であるということは考えているということであると思います。
東門委員 いや、英語の訳がカテゴリー別でどうのこうのということはどうでもいいんです、私には。できたら英文もいただきたいんですけれども、その話じゃなくて、やはりそれがしっかり認められた、確認できたんです、外部から。むしろ外部からの通報でわかったということですから、そういうときには、周辺の住民はやはり不安を覚えます、恐怖感を感じます。そういうときには、速やかに立入調査ができる。
 それが事故であろうが、アクシデントであろうが、オカーランスであろうが、イベントであろうが、インシデントであろうが、それはどうでもいいんですよ。そういうことじゃなくて、やはり自分の生命に危険があるかもしれないということであれば地方自治体の皆さんが立ち入りできるような、そういう運用改善をしていただきたい、それを交渉すべきじゃないですかということを申し上げているんです。これは、もう一度この次に続けていきたいと思います。
 時間がありませんので、条約に入りたいと思います。
 まず、文化財不法輸出入等禁止条約についてですが、交通手段の発達、人的交流の増大に伴い、文化財がその原産地から忽然と姿を消し、時としては二度と公の場に姿をあらわさないという事態が頻繁に発生しています。昨年の国連総会では、近年のこのような文化財の不法取引の増加にかんがみ、本条約の早期締結を勧告する旨の決議が採択されていますが、文化財の不法取引の現状についての外務大臣の御認識を伺いたい。
 また、世界レベルでの文化財の不法取引が増加している中、我が国は、先ほど別の委員からも御指摘ありましたが、しばしば盗難文化財天国、あるいは盗難文化財の経由地などと指摘されています。そういうことで、我が国がこれまでに諸外国から文化財等の返還を求められた具体的なケースとその件数、及び返還要請に対してどのように対処をしたのか、説明を願いたいと思います。
川口国務大臣 文化財の不法取引というのは、世界の文化遺産というのがそれぞれの地域にあって意味がある、価値があるという中で、非常に大きな問題であるというふうに私は認識をしています。これを保護していくということは、まさに国際協力が必要な分野でして、その問題に対応するというのがこの条約であると私は考えています。
横田政府参考人 お答え申し上げます。
 我が国におきまして、外国から文化財の返還を求められた具体的な件数でございますけれども、非常に申しわけないんですが、正確には統計等ございませんので把握しておりませんが、最近の事例といたしまして、当方が承知しているものとしては二つございます。
 一つは、滋賀県の甲賀郡の私立美術館のミホミュージアムというのがございますが、そこが平成七年に英国の美術商から購入した所蔵の菩薩立像がございまして、これが平成六年に中国の山東省から盗まれたものと酷似しているということが判明した事件がございます。これに関しましては、平成十三年に美術館と中国政府との交渉が行われたと承知しておりまして、その結果、美術館はその菩薩立像の所有権を無償で中国政府に譲渡することになったと承知しております。
 第二の件でございますが、これは、キプロスで盗難されたものが金沢市立美術工芸大学が購入したイコンではないかということで、平成八年に返還請求を受けた事件がございます。本件に関しましては、大学側は、このイコンが本当に盗品であるかどうか不明であって、それから、仮に盗まれたものであったとしても、大学としては善意取得者であるので返還に応じる必要はない旨主張して、このまま平行線をたどっているというふうに承知しております。
東門委員 今のお話ですと、まだ完全な数字は把握していなくて、二件だけということですか。――はい、わかりました。
 今般、我が国は本条約が求める国内措置について慎重に検討した結果、ようやく批准のための国会での審議という段階にまでたどりついたわけです。しかし、世界に目を転じてみますと、文化財の国際取引規制に関するここ数年の動きには目覚ましいものがあり、今日、諸外国においては、本条約以上により具体的に文化財の返還を促進するUNIDROIT条約の重要性が指摘されております。
 我が国がUNIDROIT条約の批准を検討する場合、本条約と同様に善意取得との関係が問題となると思われますが、UNIDROIT条約批准に対する我が国の方針を伺いたいと思います。
横田政府参考人 UNIDROIT条約は、文化財の返還などに関しまして私法上の問題の解決を目指した条約でございますが、この条約に関しましては、二つばかり問題があると私ども認識しております。
 一つは、対象となる文化財の範囲が非常にあいまいだという点がございます。それから第二は、原保有国の返還請求権の権利行使の期間が非常に長い、五十年という長い期間ということもありまして、長期間、善意取得者の立場を不安定にしてしまうおそれがあるというふうに思っております。
 さらには、締約国数がまだ非常に少ないということがございまして、先進国では例えばイタリアしか締結していないというようなこともありまして、私どもは、今お願いしております条約を先にお諮りしたという次第でございます。
 今後、現在のこの条約の運用などを見まして検討していきたいというふうに思っております。
東門委員 次に、世界知的所有権機関、これはWIPOですか、設立条約改正及び実演・レコード条約について伺います。
 沖縄は非常に音楽が盛んなところであり、最新のポップスから沖縄の伝統を受け継ぐ島うたまで、幅広いジャンルでアーティストが活躍をしております。最近でも、アルゼンチンにおいて、現地の方が日本語で「島唄」を歌って大ヒットとなり、間もなく開かれるサッカーワールドカップの応援ソングとなったということも報道で知りました。
 沖縄の音楽は、それほど質が高く、一度聞いたらほとんどの人を魅了する力があると私は思いますが、これまでは、全国的にレコード、CDが発売されるのはその中の一部だけに限られ、ほとんどは県内の流通にとどまっておりました。しかし、インターネットの普及はこの状況に大きな変化をもたらしまして、大手のレコード会社の力をかりなくても、インターネットにアップロードすれば世界じゅうの人々に聞いてもらうことができるようになり、沖縄の音楽にも明るい未来が広がっているような感じもいたします。
 それゆえに、インターネット上での権利義務を明確にするとともに、利用者にとっても安心してネットからの音楽を楽しめる環境を整えることが重要であり、世界知的所有権機関の役割、同機関が採択した実演・レコード条約の意義は非常に大きいと言えます。
 政府としては、このようなインターネットと音楽のかかわりをどのように評価され、実演・レコード条約の締約国となることによって、どのような観点から実演家、レコード製作者の権利保護に取り組んでいかれるのか。また、その際、利用者側の利便性についてはどのように考えておられるのか。伺いたいと思います。
佐々江政府参考人 まさしく、先生がおっしゃられましたように、インターネットの普及と発達に代表されますデジタル化の進展は、一方で、音楽の分野におきます創作活動を刺激しておりますし、また、その幅広い利用を可能にするという面で非常に大きな意義を有していると思います。しかしながら、同時に他方で、音質の全く劣化していない大量のコピーを容易につくることができるということ、あるいは著作権や著作隣接権者の権利が侵害される可能性もふえるといった、両面の結果をもたらしているということだと思います。
 我が国としましては、このような点を踏まえまして、今回の実演・レコード条約の締約国になることによって、実演家とレコード製作者の権利の保護を拡充するということを目指しているわけでございますが、同時に利用者の利便性にも配慮して、この調和を図っていく必要があるというふうに考えております。
東門委員 とても大事な点だと思いますので、ぜひお願いします。
 次に、コピープロテクションの回避行為等に対する法的な救済について伺います。
 実演・レコード条約は、コピープロテクションの回避行為等に対する法的救済を定めており、第十八条では技術的手段に関する義務を、第十九条では権利管理情報に関する義務を定めています。
 インターネットにより世界じゅうが接続されている現代社会において、一国のみの規制では実演家やレコード製作者の権利を確保できないということは明らかであり、それゆえ、本条約ができるだけ多くの国によって締結され、全世界的にコピープロテクションの回避行為等に対する法的救済が確保されることが必要であります。
 しかし、本条約が全世界の国において締結されたとしても、インターネットの中で権利侵害が発生した場合、被害は一瞬にして全世界に広がってしまい、その後に差しとめ請求などを行っても、権利者の権利回復は実質的に困難なのではないでしょうか。そういうコピープロテクションの回避行為等に対する法的救済の実効性確保の見通しについて、御見解を伺いたいと思います。
佐々江政府参考人 先生御指摘されましたとおり、国境を超えて瞬時に情報をやりとりできるインターネットを用いた侵害の行為につきましては、これを完全に把握したり摘発したりするということは困難であるということは事実だと思います。
 しかし、その一方で、今回の条約もそうでございますが、私権である著作権あるいは著作隣接権の侵害については、権利を持っている者、権利者みずからがこの侵害が行われた行為を発見し、あるいは立証する、それから、損害賠償請求や告訴等、民事、刑事の法的手続を行うというのが基本的な考え方になっているということでございまして、このようなインターネットの時代におきましても、権利者の権利、利益を守るために、できる限り多くの対抗手段を持たせる必要があるということで、WIPOを中心に国際的な条約の作成努力が行われているということでございます。
 特に、今回の条約につきましては、御指摘の点につきまして、インターネット上の送信行為自身を捕捉することは極めて困難であるということで、比較的捕捉、立証のしやすいアップロードの方につきまして新たに権利を付与するということにしたわけでございます。
 このアップロードの行為につきましても、しかしながら、これをまた完全に捕捉するということは困難でございますので、今、この権利者の間で利用が普及しつつあります、先生のおっしゃられましたコピープロテクション、すなわちコピーやアップロードをできなくする技術的措置、あるいは電子透かしと呼ばれるもの、すなわち事後に侵害事実あるいは権利関係を立証しやすくする技術的措置でございますが、このようなものについて回避、改ざんを禁止するという規定を設けているわけでございます。
 先ほども申しましたように、すべての侵害行為について完全に対応することは難しいわけでございますが、このような措置を最大限利用しますことによってできる限り法的救済の実効性を確保しようというのがこの条約の意義でありまして、これに加入することによって一定の効果を期待しているということでございます。
東門委員 はい、わかりました。
 少し時間が残っていますけれども、終わります。ありがとうございました。
吉田委員長 これにて各件に対する質疑は終局いたしました。
    ―――――――――――――
吉田委員長 これより各件に対する討論に入るのでありますが、その申し出がありませんので、直ちに採決をいたします。
 まず、実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約の締結について承認を求めるの件について採決をいたします。
 本件は承認すべきものと決するに賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
吉田委員長 起立総員であります。よって、本件は承認すべきものと決しました。
 次に、千九百六十七年七月十四日にストックホルムで署名された世界知的所有権機関を設立する条約第九条(3)の改正の受諾について承認を求めるの件について採決をいたします。
 本件は承認すべきものと決するに賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
吉田委員長 起立総員であります。よって、本件は承認すべきものと決しました。
 次に、文化財の不法な輸入、輸出及び所有権移転を禁止し及び防止する手段に関する条約の締結について承認を求めるの件につきまして採決をいたします。
 本件は承認すべきものと決するに賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
吉田委員長 起立総員であります。よって、本件は承認すべきものと決しました。
 お諮りをいたします。
 ただいま議決いたしました各件に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
吉田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
    ―――――――――――――
    〔報告書は附録に掲載〕
    ―――――――――――――
吉田委員長 次回は、来る五月三十一日金曜日午前九時二十分理事会、午前九時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会をいたします。
    午後零時二十九分散会


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