衆議院

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第6号 平成14年11月20日(水曜日)

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平成十四年十一月二十日(水曜日)
    午前十時一分開議
 出席委員
   委員長 池田 元久君
   理事 今村 雅弘君 理事 嘉数 知賢君
   理事 河野 太郎君 理事 水野 賢一君
   理事 首藤 信彦君 理事 中川 正春君
   理事 上田  勇君 理事 藤島 正之君
      伊藤 公介君    植竹 繁雄君
      高村 正彦君    下地 幹郎君
      新藤 義孝君    武部  勤君
      土屋 品子君    松野 博一君
      松宮  勲君    伊藤 英成君
      金子善次郎君    桑原  豊君
      前田 雄吉君    吉田 公一君
      丸谷 佳織君    松本 善明君
      東門美津子君    松浪健四郎君
      鹿野 道彦君    柿澤 弘治君
    …………………………………
   外務大臣政務官      新藤 義孝君
   外務大臣政務官      土屋 品子君
   参考人
   (特命全権大使朝鮮半島エ
   ネルギー開発機構担当)
   (日朝国交正常化のための
   本会談日本政府代表)   鈴木 勝也君
   参考人
   (拓殖大学国際開発学部教
   授)           森本  敏君
   外務委員会専門員     辻本  甫君
    ―――――――――――――
委員の異動
十一月二十日
 辞任         補欠選任
  中本 太衛君     松野 博一君
同日
 辞任         補欠選任
  松野 博一君     中本 太衛君
    ―――――――――――――
十一月十八日
 国際法や国連憲章に反する米国のイラク攻撃反対に関する請願(藤木洋子君紹介)(第二九九号)
は本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 国際情勢に関する件(北朝鮮問題)


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     ――――◇―――――
池田委員長 これより会議を開きます。
 この際、委員長から御報告申し上げます。
 去る十五日の理事懇談会において、本日青山健熙氏、鈴木勝也氏、森本敏氏の三名を参考人として外務委員会に招致し、意見を聴取することを決定しておりましたが、昨夜の理事懇談会において、青山氏については本日は参考人招致を行わないことに協議決定いたしました。そして、青山氏の参考人招致については、引き続き理事会等で協議していくことにいたしました。
 この間、与党側は、一たん合意した青山氏と鈴木氏の参考人招致について中止、延期を主張し、本日の委員会の開会が危ぶまれる事態となっていましたが、昨夜の理事懇談会で与党側は、このような事態を引き起こした責任はすべて与党側にあるとして陳謝いたしました。
 委員長としては、今後このような事態が起こらないように、発言には責任を持つことを基本に、委員会の運営に万全を期していきたいと存じます。
 なお、この過程で委員部の中立性に疑義が生じたことは、委員長としては極めて遺憾であり、関係者を厳しく注意いたしました。
 いずれにせよ、国会として重い責任があることをお互い自覚し、任務を果たしていきたいと存じます。
 各位の御協力をお願いし、報告とさせていただきます。
     ――――◇―――――
池田委員長 次に、国際情勢に関する件、特に北朝鮮問題について調査を進めてまいりたいと思います。
 本件調査のため、ただいま参考人として特命全権大使朝鮮半島エネルギー開発機構担当・日朝国交正常化のための本会談日本政府代表鈴木勝也氏の御出席をいただき、意見を聞くことにしております。
 議事の順序について申し上げます。
 まず、鈴木参考人から十分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対しお答えをいただきたいと存じます。
 なお、念のため申し上げますが、発言の際は委員長の許可を得ることになっております。
 それでは、鈴木参考人にお願いをいたします。
鈴木参考人 日朝国交正常化交渉担当大使の鈴木勝也でございます。池田委員長初め委員の皆様にごあいさつ申し上げます。
 初めに、私が政府代表として臨んだ先月二十九日から三十日にかけてのマレーシアのクアラルンプールで開催されました第十二回日朝国交正常化交渉本会談について、簡単に御報告申し上げます。
 先般の交渉においては、日本側は、拉致問題、核問題を初めとする安全保障上の問題を最優先課題として臨み、協議においては、これらの問題について特に時間をかけて議論を行いました。
 拉致問題につきましては、五名の被害者の家族の安全の確保、早期帰国と帰国日程の確定について、日本側より繰り返し北朝鮮側の前向きな対応を強く求めました。また、生存が確認されていない拉致被害者についても、事実解明を引き続き強く求めるとともに、拉致被害者の御家族から出された疑問点等を踏まえた追加照会事項を手交し、速やかで誠意のある回答を求めました。
 核問題につきましては、先月発出されましたメキシコのロスカボスにおける日米韓三国首脳会談の共同声明を踏まえ、日本側より、日朝平壌宣言に従い、朝鮮半島の核問題の包括的な解決のために、関連するすべての国際的合意を遵守すること、これを強く求めるとともに、ウラン濃縮プログラムの検証可能な形による即時撤廃等を強く求めた次第であります。
 これらに対して、北朝鮮側は、国交正常化交渉においては正常化それ自体及び経済協力が中核的問題であるとしつつも、日朝平壌宣言に従い懸案問題について解決する必要があるという点については理解を示しました。他方、拉致被害者御家族の帰国について日程を確定することができず、また、核問題でも具体的な進展が得られなかったことは残念であります。
 次に、拉致問題でございますが、正常化交渉後の拉致問題に関する交渉状況について御説明申し上げます。
 政府といたしましては、五人の拉致被害者の方々が自由な意思決定を行うための環境を設定するため、家族全員の日本への帰国が不可欠かつ急務であると考えており、現在、現地に残っておられる御家族について、早期帰国と帰国日程の確定を北朝鮮側に対し強く求めているところでございます。
 これに対し、北朝鮮側は、五名を一度北朝鮮に戻すべきだとの立場を崩しておらず、今後の北朝鮮の出方は予断できませんけれども、政府といたしましては、引き続き粘り強く交渉に当たっていきたいと考えております。
 核問題について申し上げます。
 一方、北朝鮮による核開発問題は、国際的な平和と安定、核不拡散体制にかかわる問題であるとともに、我が国自身の安全保障にとって重大な懸念であります。
 去る十四日には、KEDO理事会がニューヨークで開かれまして、北朝鮮に対し、核開発計画を目に見えるかつ検証可能な形で迅速に撤廃するよう求めるとともに、十一月の重油供給は行うが、十二月の供給は停止し、将来の重油の供給は、北朝鮮がウラン濃縮プログラムを完全に撤廃するための具体的かつ信頼できる行動をとることにかかっていることを明らかにして、北朝鮮に前向きな対応をとるよう強く促すことを趣旨とする声明を発出いたしました。
 これは、日韓のみならず、米国、EUも含めたすべての理事会メンバーの一致した考えに基づくものであり、我が国としては、北朝鮮側がこの声明を重く受けとめ、核開発計画の即時撤廃に向け速やかに具体的な行動をとることを強く期待しているところであります。また、我が国は、米韓両国と緊密に連携しつつ、引き続き、北朝鮮側に対し、核開発問題に関する前向きな対応を強く求めていく考えであります。
 今後の交渉についてでありますけれども、政府といたしましては、日朝平壌宣言に従って今後とも国交正常化交渉に粘り強く取り組み、拉致問題や核問題等の諸懸案の解決を目指していく考えであります。
 なお、次回の国交正常化交渉の開催時期につきましては、さきの本会談の際、北朝鮮側より十一月末の開催につき提案があったのに対し、我が方としては、これを持ち帰り、現在、諸般の状況を勘案しつつ検討しているところでございます。
 以上でございます。(拍手)
池田委員長 ありがとうございました。
 これにて鈴木参考人の意見の開陳は終わりました。
    ―――――――――――――
池田委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。中川正春君。
中川(正)委員 民主党の中川正春でございます。
 冒頭、委員長からも先ほどお話がございましたように、きょうの参考人質疑に至る経過の中で、私たちが主張しておりました青山参考人にここに来ていただくことができなかったということ、このことに対して非常に遺憾に思いますし、率直に言って、外務省の都合、いわゆる外務省に不利な証言がされるから、だからここに来てほしくないというような、そういう圧力に屈した与党理事の皆さんに強く抗議を申し上げたいと思います。国益を当然優先させるべきところでありまして、省益がここでもまた優先されて、政治がその言うことを聞いた、そんな恥ずかしい結果になったということを心から遺憾に思う次第であります。
 そして、鈴木大使、よく来ていただきました。ありがとうございました。
 大使に来ていただくことについても、非常に苦労いたしました。だめだだめだ、こう言うのですね。大使、どうですか。あちらこちらで、一般の議員連盟には説明をし、そしてマスコミにも大いに説明責任を果たしていただいておる。そんな中で、この委員会には出ることはだめなんだという、恐らく、大使の気持ちじゃなくて周りのそういう話があるんだろうと思うんですが、大使自身はどうお考えですか。この委員会に出てきたということで説明責任を果たしていただくということ、これを恐らくは積極的に評価していただいているんだろうと思うんですが、大使という職務の中でここに出席をしていただくということ、これはいいことじゃないですか、どうですか。
鈴木参考人 私は、国家公務員の一人でございますので、国会の御指示があれば、このように参考人として出席させていただくことは当然の責務と考えております。
中川(正)委員 それでは、早速に中身に入っていきたいというふうに思います。
 北朝鮮との交渉が非常に硬直化してきているということで、それをいかに打開していくかという課題があるかというふうに思うんですね。そんな中で、まず拉致問題なんですが、ある新聞のインタビューの中で、この拉致問題について向こうで先般交渉されたときに、北朝鮮の交渉団は柔軟性のある対処方針を持っていなかった、五人を一たん北朝鮮に戻すという段取りは、先方のかなり上層部で決定したことで、交渉では変更できない事情があったのだろう、そういうふうに現場で感じられた、こういうコメントがあります。
 今、この問題についてどういうチャネルを使っているか。大使のこのコメントからいうと、これは事務的な交渉じゃなくて、かなり上の方で政治的決断をしないとここの打開、解消ができないというようなことなんだろう、当然そういうことなんだろうというふうに私は理解をしたんですけれども、今どのチャネルでこれを交渉され続けているのか、改めて聞かせていただきたいと思います。
鈴木参考人 今御指摘のございました私の新聞とのインタビューでのコメントというのは、確かに、思い出してみますとそんなことを言ったような記憶がございます。ただ、そのときに明確に申し添えたかどうかはわかりませんけれども、これは、先方に聞くわけにもいかない話で、あくまでも私が現場で見た限りの推測として申し上げたことでございます。
 それから、今どういうチャネルで現状の打開のためにやっておるのかという御質問だと思いますけれども、これはまことに申しわけないことでございますが、今外交交渉のさなかにあるわけでございまして、ここで一々申し上げることだけはちょっと御勘弁いただきたいと思います。水面下でいろいろと努力をしていることだけは申し上げておきたいと思います。
中川(正)委員 その上に立って改めてお尋ねをしたいんですが、この五人の家族をまず日本に原状復帰させるというか日本に戻して、そこからすべての交渉が始まるという基本姿勢というのは、これはそのまま堅持をし、変わらないわけですね。
鈴木参考人 北朝鮮に残されております五人の方々にかかわる家族の方々の問題ですが、やはり、家族全体として自由な意思に基づいて将来のことを決めるためには、それができるような環境の設定が非常に重要であるということで、残っている家族の方々にもまず日本に帰っていただくということを政府として決定いたしたわけでございまして、これは世論の支持も得ていると思いますし、政府として、今これを変えるとかそういうことが検討されているということは一切ないものと私は承知しております。
中川(正)委員 次に、安全保障協議なんですが、これについては、十一月中に行うということが前回の交渉の中ではっきりしておるわけでありますが、これは拉致問題とは切り離して交渉、いわゆる安全保障あるいは核の問題を中心にしたミサイル、それに不審船等々があるかと思いますが、これの交渉というのは確実にこの十一月中に入るということで理解をしていいんですか。
鈴木参考人 おっしゃいましたとおり、クアラルンプールの交渉に際しましては、十一月中に日朝安全保障協議の第一回を開催して安全保障協議のメカニズムを立ち上げるということで一応合意をしたわけでございますけれども、その後の北朝鮮側からのいろいろな情報、特に、朝鮮中央通信ですか、ああいった公開の報道等によりますと、いろいろと拉致問題と結びつけたりとかいうようなこともあるようでございます。
 先ほどのお尋ねの、間違いなく十一月中に開催できるのかという点につきましては、私どもはそのつもりで準備をするわけでございますけれども、相手のあることでもございまして、間違いなくそうかと御質問されても、私としては、そのつもりでやっていますということは申し上げられますが、結果としてどうなるかについては判断いたしかねるところでございます。
中川(正)委員 先ほど朝鮮通信の話が出ましたけれども、その中で、ミサイルの実験について、一応、平壌宣言では無期延期をするというようなことは言ったけれども、これはなしの話だ、もう一度これについては再考して、ミサイルの実験もあり得るというふうな報道が出ていました。
 これについては、いわゆる交渉当事者として、今、これをどのように受け取られて、先ほどの安全保障交渉との絡みで分析をしておられるか、改めて聞かせていただきたいと思います。
鈴木参考人 私も、ミサイル発射の凍結を解除するという北朝鮮側からの報道があったことは承知をいたしておりますし、これと拉致被害者五名との問題をひっかけて報道しているということのようでございます。
 まさに、こういう問題もあるからこそ、両国の専門家が集まって率直に意見交換する場として安全保障協議というものが必要だと考えて、それを提案し、向こうも一応合意して、立ち上げることになっていたわけであります。
 ただ、交渉に携わる人間の一人として申し上げますと、北朝鮮側からのさまざまなおどしめいたメッセージに対して、一々反応をするということは適当ではないんじゃないかなという気がいたします。
中川(正)委員 そのとおりでして、ここでこそ毅然たる態度でひとつ臨んでいただきたいというふうに思います。
 もう一つ、その中で、これから経済交渉あるいは人道支援、この中身が、特に冬場になって、向こうの国民自体は非常に苦しい状況にあるということ、そのことが報道されているだけに、具体的なものとして、国際的ないわゆる人権を思う人たちの間から出てくるだろうというふうに思います。特に人道ということですね、経済支援はともかくとして。
 その点については、日本政府としてはどのように臨んでいくのか。この人道支援ということについても、もう完全に切り離して、拉致問題の解決なくしては人道支援もないということでいくのかどうか。ここのことについても、最後に確かめておきたいというふうに思います。
鈴木参考人 大変申しわけございませんけれども、私は、交渉の窓口を務めている人間でございまして、背後で政策を練る立場にはございませんので、今の御質問には、私はイエスともノーともお答えすべきでないと思いますので、御勘弁いただきたいと思います。
中川(正)委員 以上、ありがとうございました。
池田委員長 次に、藤島正之君。
藤島委員 自由党の藤島正之でございます。
 まず、きょうは本当は青山さんにおいでいただく予定だったんですけれども、来れなかったということなんですが、鈴木参考人は、向こうに行かれるときもそうですし、今もそうですけれども、いろいろな情報を集めていらっしゃっていると思うんです。青山さんは、「北朝鮮という悪魔」、こういう本を書いているんですけれども、地上の楽園だと思っておったら、とんでもない地獄だった、こういうことなんですけれども、鈴木参考人は、この青山さんについて、どんなふうに承知しておられますか。
鈴木参考人 大変恥ずかしいことでございますけれども、不勉強で、私は、青山さんという方については、今おっしゃられた本が存在することは知っておりますけれども、残念ながらまだ読んでおりませんし、青山さんという方の人となり、あるいは背後関係等については、寡聞にして承知しておりません。
藤島委員 それでは、交渉相手の北朝鮮、この国について、参考人はどういうふうな認識をお持ちでいらっしゃいましたか。
鈴木参考人 これまた、私の交渉相手でございますので、こういう場で、記録に残る形で、いいの悪いのということを云々することは控えなければならないと思っておりますけれども、クアラルンプールで二日間の交渉をいたしました印象としては、やはり、日本と相当基本的な価値観の違う相手であるということを感じましたし、また、今後の交渉においても、そういうことは頭の隅に置きながらやる必要があるのではないかということだけは申し上げたいと思います。
藤島委員 といいますのは、やはり、この本にもあるように、要するに、地上の楽園どころか地獄みたいなことを平然とやっているとんでもない国である、そういう認識がないと、これは生易しいことじゃうまくいかない、こういうふうに私も思いますので、ちょっとお尋ねしたわけでございます。
 それから、外交交渉ですから、水面下に置いておく必要のあるものもたくさんあるでしょうし、あるいは、オープンにして、国民の支持を背景に交渉を進めていくという方法もいろいろあると思うのです。私は、今回の交渉については、鈴木大使は非常にオープンに国民の前に明らかにして、それが国民の中で大変いろいろな意味で議論を呼び、それがバックになってこれからまた次の交渉へと移っていくという意味で、非常に大使はオープンにされたな、こういうふうに思っておるわけでありますが、これまでオープンにされていないもので、何か、この場で国民の前に、こんなこともある、あるいはこういうことはオープンにしておいた方がいいというようなことがもしおありであれば、お聞かせ願いたいと思います。
鈴木参考人 藤島委員には大変申しわけないのですけれども、私なりの最善の判断に基づいて、オープンにしてもいいと思うものは、それこそ国民の御理解を得るという必要性もあって、できる限りお話ししたつもりでございます。したがいまして、その裏として、お話ししていないことにつきましては、やはりオープンにできない事情があるからでございまして、特に今、交渉の進行中ということもございますので、ひとつ御理解いただきたいと思います。
藤島委員 結構でございます。
 それでは、内容を幾つかちょっとお尋ねしたいと思いますけれども、五人の家族がお帰りいただいたわけですけれども、このほかに七十人から八十人ぐらい拉致があったんじゃないかというふうに言われているわけです。この点については、大使はどのように認識した上で北朝鮮との交渉をされたのか、お尋ねしたいと思います。
鈴木参考人 七十人ないし八十人という数字にいかなる根拠があるかについては私も承知をしておりませんし、また、そういう数字を北朝鮮側に対して出したこともございません。
 ただ、クアラルンプールで拉致問題について話をしましたときに、その時点で判明しておりました十件十五人ですか、これについてはもちろん数字を出して話しておりますが、それだけではない可能性も濃厚である、今後、判明次第そちらに調査をお願いするものもいろいろあると思うからという予告というか、一般論としてはそういう予告をしておきました。
藤島委員 それに対して、向こうサイドはどういうふうな反応だったんでしょうか。
鈴木参考人 これも別のところでもうお話ししていることだと思いますが、拉致問題についての先方の反応というのは、かなりしゃくし定規と申しますか硬直したものだったわけでございまして、今まだその十件十五人には含まれていない人たちのことについても明確な回答は一切ございませんで、決まり文句と申しますか、もともとはきれいに解決しようと思っていたのに、約束が守られなかったので問題が複雑化したというようなことを繰り返し言っておりました。
藤島委員 それから、五人の家族の向こうにおる人の関係なんですけれども、私は、最初は一緒に帰ってもいいような話があったということから、約束を破ったというところに今度は固執し出してそこだけを言っているというので、非常に何かすっきりしないような感じがするんです。もともと自由な意思で帰していいというのであれば、約束を破った破らないという問題じゃなくて、すんなりこちら側の要請に応じてもいいと思うんですけれども、どうもそこに向こうの交渉が、我が方の言い分に関係なくそこに全部集中してきているというのは、向こうにもう交渉のカードがなくなってきているというふうな感じがするんですけれども、大使はその点についてはどういうふうに御認識でいらっしゃいますか。
鈴木参考人 先方がいかなる考慮というか動機でそのことについてこだわっているのかというのは、あくまで推測の域を出ないわけでございますね。
 そういう前提でのお話でございますけれども、先方は、今日本に帰ってきておられる五人についても、それから向こうに残っている御家族についても、最終的には日本にみんな永住帰国してもらっていいんだということを繰り返し言うわけですね。ただ、一つ重要な条件がありまして、それぞれの人について、本人の自由な判断によるんだということなんです。その辺に何か、自由な判断をすれば日本へ帰るとは言わないという推定に基づいているのかなという気も、特に御家族の方については北朝鮮で生まれて育ったということもありますから、そういう推定に基づいているのかなという気もしますけれども、あくまでも私の推測でございまして、真相はいろいろとわからない点があることは間違いありません。
藤島委員 この点については、中途半端な妥協はしないで、やはりきちっとした方がいいというのが国民全般の方向だろうというふうに思います。
 それから、先ほど御説明ありましたけれども、今後の進め方なんですけれども、今のままだと膠着状態に陥って、何かきっかけがないと進まないようなもどかしさといじいじしたものがあるんですけれども、この点についてはどういうふうな感じをお持ちなんでしょうか、今後について。
鈴木参考人 今後の進め方につきましては、まさに外交政策そのものにかかわることでございますから、今の段階であれこれ申し上げるのは控えさせていただきたいと思います。
 ただ、全体の交渉の背景として考えれば、日本ももちろん、日本の納得のいくような形であるならば正常化交渉は進めるべきだということだからこそやっているわけですけれども、北朝鮮側にも交渉を進めねばならない理由は背景としてはあるというふうに私は判断しております。
    〔委員長退席、中川(正)委員長代理着席〕
藤島委員 ここは両方我慢比べみたいなところがあるので、今最後におっしゃったように、向こうの方にやはりその必要性がだんだん出てくるんだろうというふうに実は感じますので、本当に粘り強くやっていただくしかないんじゃないかなというふうに感じます。
 それから、KEDOの打ち合わせに先般行かれましたね。その点について、何かお話しすることがあればお願いしたいと思います。
鈴木参考人 先般、十一月の十四日でございますけれども、ニューヨークでKEDOの理事会がございまして、私、トンボ返りで行ってまいりました。そこで北朝鮮の核開発の問題を集中的に取り上げて、それに対するKEDOとしての対応ということでステートメントが出たことは御承知のとおりでございます。
 マスコミで注目を集めたのは、十一月分の重油の輸送がどうなるかということでございましたが、これについては、御承知のとおり、予定どおり供給するということになっている。ただし、十二月以降のものについては、北朝鮮の反応を見ながら、まず停止をして、それを解除するかどうかは北朝鮮側の反応待ちということになったわけでございます。
 これは、私は、十一月の理事会の決定としては、まあまあ日本として納得のできるところでおさまったなという感じを持っておりますけれども、今後のことを考えますと、いろいろと難しい問題がまだ出てくる可能性が強いわけでございまして、今後の対応をしっかり考えなければならない。これは、日本国内の取りまとめもございますし、それから関係国との相談もございますけれども、しっかりやらねばと思っているところであります。
藤島委員 この問題は、国民の大変強い気持ちを背景に、腰を据えて粘り強く頑張っていただきたいと思います。
 ありがとうございました。
中川(正)委員長代理 次に、松本善明君。
松本(善)委員 鈴木参考人に伺いますが、御存じと思いますが、私たちの党は、北朝鮮という国が、私たちの考えている国際的な常識とかなり違った考えを持っている国だということは承知をしておるのでありますが……
中川(正)委員長代理 もう少し大きな声でお願いできますか。
松本(善)委員 私たちの日本共産党は、北朝鮮という国が、私たちの考えている国際常識とかなり違ったものを持っている国だということを承知はしているんですけれども、やはりこの問題は交渉しないでは解決をしないという考え方を主張して、この日朝平壌宣言については強く支持する、こういう立場であることは御存じと思いますけれども、小泉総理も、北朝鮮との敵対関係を友好関係に変えるということは非常に重要なことだというふうに言っておられました。
 交渉の先端に立っておられる鈴木参考人とされて、いわばアジアにおける大変重大な交渉に当たっておられる、これについて臨まれている態度、基本方針、そういうものについての決意のようなものをまず伺いたいと思います。
鈴木参考人 私も、日朝正常化交渉というものを担当させていただくことになってまず考えましたことは、これは、一政府、一政権だけの関係を処理する話ではない、やはり、国と国と申しますか、国民と国民との末永い関係というものがかかっている話だということをみずからにも言い聞かせて、そういう基本を忘れないように対応することにしているつもりでございます。
 それは、なぜそう申しますかというと、かつて、日韓正常化をしたときにも、あるいは日中正常化したときにも、先方はかなり日本とは体制の異なる、自由も何もないような国であったわけでございますけれども、その後の日中関係あるいは日韓関係を見てまいりますと、本当にわずか数十年の間に大変な発展をしてきたし、先方にとってもこちらにとってもプラスになったということがあるわけでございますから、今目の前にある先方の政権だけを考えてこういう息の長い正常化のような話を進めてはならないということを、みずからに言い聞かせている次第でございます。
    〔中川(正)委員長代理退席、委員長着席〕
松本(善)委員 核問題を最優先の問題として取り組んでおられるというお話でございました。北朝鮮が今核カードを使い始めている、これは非常に危険なことではないかというふうに私は思います。その中で、KEDOの果たす役割というのは非常に重要だと思いますが、KEDOの見直しというのはその危機を拡大するんではないかというふうに思いますが、この核問題、KEDO問題、全体についてどのように考えておられるか、伺いたいと思います。
鈴木参考人 KEDOにつきましては、釈迦に説法になるかもしれませんけれども、過去八年間、KEDOがあったために北朝鮮のプルトニウム生産というものが阻止できていたということは間違いない事実でございまして、特に北朝鮮の直近に位置いたします日本としては、プルトニウムであれ濃縮ウランであれ、北朝鮮の核開発ということについては是が非でも阻止しなければならないという立場にあるわけでございますから、KEDOはやはり我が国あるいは韓国にとってみれば非常に重要な役割を果たしてきたし、今後も、何とか現在の危機を乗り越えて、維持し、また強化していきたいと思っておりますけれども、ただいまの局面は大変難しい局面であるということも残念ながら事実でございます。
松本(善)委員 韓国の金大中大統領が、北朝鮮が米国との間で不可侵条約の締結を求めていることに関して、ブッシュ大統領が十五日に特別声明を通じて北韓を侵攻する意思がないことを再確認した、これは北韓の不可侵条約締結という要求と関連し重要な意味がある、こういうふうに述べられたということが報道をされております。
 参考人はどのようにお考えになりますか。
鈴木参考人 大変申しわけございませんけれども、今のお話はかなり大きな政策の問題だと思いますし、私は、さっきも申しましたけれども、日朝正常化交渉の窓口という役割に限定して務めさせていただいておりますので、今の問題については、私の個人的な感触がないわけではございませんけれども、この場で申し上げるのは適当ではないんじゃないかと思います。
松本(善)委員 拉致問題というのはなかなか、日本の国民にとっては非常に大きな関心事でありますが、今の段階では、先ほどもちょっと触れられましたが、言うならば膠着状態のようになっているんではないかというふうに思います。この問題を打開していくという見通し、相手の対応等々、話のできることがあれば話をしてほしいと思います。
鈴木参考人 これも、日朝正常化交渉の真っただ中における話でございますので、私が今ここで具体的にああだのこうだのと申し上げるのは控えさせていただきたいと思います。
 ただ、やはり辛抱強く、しかもささいなシグナルも見逃さないようにしながら打開の道を探っていかなければならないんじゃないか。これは日朝交渉に限りませんけれども、大体外交交渉というのはそういったものではないかと思いますし、また、みずからにも言い聞かせている次第でございます。
松本(善)委員 外交交渉は紆余曲折のあるものであるということは当然なんでありますけれども、日朝平壌宣言は、両国の関心のある諸問題を包括的に交渉して全体を解決するという精神でつくられていると思いますが、そういうことに関しての見通しあるいは北朝鮮側の認識等についてお話をいただきたいと思います。
鈴木参考人 平壌宣言が日朝国交正常化を包括的な形で解決するということになっているのはおっしゃるとおりでございまして、少なくとも、クアラルンプールでの二日間の交渉を通じて見ますと、日朝双方の重点事項についてはかなりの隔たりがあったと思いますけれども、先方も、包括的な解決である以上は日本側の言い分も聞かなければならないということで、かなり辛抱強く私の言うことを、これは具体的に言いますと拉致の問題とか安全保障の問題なんですけれども、そういったものについて私が繰り返し繰り返し言うことをかなり辛抱強く聞いてくれたという気はいたしております。
松本(善)委員 最後に、交渉の最先端におられる方として、日本の国会や日本の国民に要望することがあれば聞かせていただきたいと思います。
鈴木参考人 せっかくの機会でございますから、生意気なようでございますが、一言申し上げさせていただきたいんですけれども、外交交渉、これはいつ結末に達するのかわかりませんけれども、外交交渉の結末というのは、大体歴史をごらんになればよくおわかりになると思いますが、ほとんど半分譲って手を握るというのがセットパターンでございまして、軍事のように全勝ということはまずないわけですね。相手も持って帰れるような形でないと手を握れないということになるわけですから、ひとつそこのところは、外交交渉の特質ということで、国民の皆様にもできれば御理解をいただいておいた方がいいんじゃないかという気がいたしますので、その点だけ申し上げさせていただきます。
松本(善)委員 どうもありがとうございました。終わります。
池田委員長 次に、東門美津子さん。
東門委員 社会民主党の東門美津子でございます。
 鈴木大使には、本当にきょうは御苦労さまでございます。
 先ほどから同僚委員からいろいろありますけれども、私も二、三質問させていただきます。
 大使は、先月末クアラルンプールにおいて行われました日朝国交正常化交渉に、日本人の拉致問題あるいは核の開発問題などについて、政府の代表として北朝鮮側との交渉に臨まれました。その結果が、日本にとって最重要かつ喫緊の課題である拉致問題についてはほとんど進展がなかったことは非常に残念ではございますが、我が方の主張を一歩も曲げないその大使の姿勢は毅然としたものであったと一定の評価をしております。
 しかし、残念なのは、日朝首脳会談以降ですが、この問題に対する首相の姿が全然と言っていいほど見えてこなかったことです。
 大使は、正常化交渉に当たっては、我が方、特に首相の意向を十二分に把握した上で行動される必要があると思いますが、前回の交渉の前に、首相からは具体的にどのような指示があり、それをどのように実行に移されたのか、お伺いいたしたいと思います。
鈴木参考人 クアラルンプールに参りますに先立ちまして、もちろん総理、官房長官等にもお会いして、事務的にまとまった対処方針はもちろんもう既にございましたけれども、特に心得べきことということについてはお伺いも立てましたし、それなりに御指示はいただいて行ったつもりでございます。
 こういう場で申し上げてもよろしいかと思いますのは、やはりせっかく総理が金正日総書記との間で、幾多のリスクを乗り越えて正常化交渉の扉を開いたわけですから、それをしっかりやってくれというのがまず第一でございますし、交渉というものはやはり辛抱強く続けていくことも大事だということもたしかおっしゃられたような気がいたします。
 私は、それを体しまして誠心誠意交渉してきたつもりでございますし、また今後とも、交渉に臨んでは、まさにそういう、辛抱強く続けていくということで、こちらから扉を閉ざすということは極力避けるということでやっていきたいと思っております。
東門委員 交渉を終えられた先月の三十一日、都内のホテルで大使は拉致被害者の御家族とお会いになり、交渉の内容を説明なさいましたね。そのときの説明では、北朝鮮に対して、帰国した五人とその御家族とが第三国で対面する方法を水面下で打診したが、北朝鮮側からは断られたと説明しておられるという報道がございました。
 しかし、十一月五日の拉致議連の会合に出席された場合では、水面下で打診したが断られたというのは、大使の錯覚であったと訂正しておられます。交渉に政府代表として出席された大使が、交渉における最重要課題である拉致問題に対して錯覚を起こすというのは、本当に不自然だなと思います。
 帰国した五人とその御家族との対面について、北朝鮮とは実際にどのようなやりとりが行われたのか、御説明いただけたらと思います。錯覚ということがちょっと理解できないということです。
鈴木参考人 まことに不覚の至りでございまして、これは私の錯覚であったということはうそでも何でもないことでございまして、それについてのおしかりはどなたからでも甘受する覚悟でございます。
東門委員 錯覚であったということだけでもうこれは終わりですか、それ以外はないと。実際のやりとりがどのように行われたのか、少し御説明ください、北朝鮮側との交渉の。
鈴木参考人 交渉の中身にかかわることでございますので、詳細はひとつ勘弁していただきたいと思うのでございますが、もう公開情報にもなっておりますが、私がいろいろなところで説明をしたときにも、拉致問題については、二日間の交渉の中で繰り返し繰り返しその問題に立ち戻って、五人の問題、あるいは死亡したとされていた八名にかかわる情報、それからさらには、まだ特定されていないけれどもそのほかにもいろいろいるであろう拉致疑惑者と申しますか、そういった人々の情報についてもしつこく聞いていったわけでございます。
 それに対する北朝鮮側の反応というのは、これももう公開の場でいろいろ申し上げておりますけれども、非常に硬直した返答の機械的な繰り返しであったということでございます。
東門委員 時間の都合で最後の質問になろうかと思いますが、大使は、日朝交渉の政府代表であるだけではなくて、KEDO担当の大使でもありまして、今月十四日に行われましたKEDO理事会にももちろん出席されました。
 理事会の協議においては、声明文の文面の調整に手間取り、合意された声明文では、十二月からの重油供給凍結などのほかに、北朝鮮が核開発を放棄しない場合にその他のKEDOの活動も見直すとしています。
 今回の理事会では、KEDOの枠組みを重視してあくまでも対話による解決を目指す日韓と、重油供給はもちろんのこと、軽水炉建設も凍結すべきという米国との間でかなりの意見の相違があったとも報道されています。
 KEDOの理事会における各国の主張がどのようなものであったのか、また、声明に言うその他のKEDOの活動の見直しについてどのようなことが想定されているのか、対北朝鮮外交に対して、国民に正確な情報を伝え、世論を喚起していくという観点からお答えいただきたいと思います。
鈴木参考人 これも大変申しわけないのですが、御承知かと思いますけれども、KEDOの理事会の議論というのは非公開の場で行われておりまして、特に、その場でよその国がどういうことを言ったかというのはお互いに外へは出さないという紳士協定みたいなものがございますので、今の御質問の点については余り具体的にお答えするわけにはいかないと思いますが、当初は二日かかるかと言われていたのが一日で議論を終えて、御承知のようなステートメントが全会一致で出てきたわけでございますから、意見の対立があるのは当たり前の話でございますし、理事会の場での議論にいろいろと激しい面もあったとしても、これは普通複数国が集まれば当たり前の話ですから、結果がまとまった形で出てきている以上、そういうことだったと御了承いただきたいということでございます。
 それから、先ほど御質問いただきましたその他の活動とは何かというのは、これは現時点では、その他の活動に何が入るのか入らないのかというあたりは一切決まっておりません。重油とその他という分け方をしたわけでございますから、重油はその他には入っていないのは当たり前でございますけれども、その他の活動といっても、KEDOはいろいろな活動をしておりますので、それのうちのどれが入るのか、あるいは全部が入るのか、その辺については突っ込んだ議論は一切行われておりません。
東門委員 本当に大使には御苦労さまでございます。時間ですので終わりますが、大きな任務ですから、これからも頑張っていただきたいと思います。
 どうもありがとうございました。
池田委員長 これにて鈴木参考人に対する質疑は終了いたしました。
 鈴木参考人、本日はまことにありがとうございました。大変重要な任務につかれております。しっかりと任務を果たされていくことを期待いたします。
 速記をとめてください。
    〔速記中止〕
池田委員長 速記を起こしてください。
    ―――――――――――――
池田委員長 引き続き議事を進めます。
 国際情勢に関する件調査のため、ただいま参考人として拓殖大学国際開発学部教授森本敏氏の御出席をいただき、御意見を承ることにしております。
 この際、森本参考人に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。何とぞ忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。
 次に、議事の順序について申し上げます。
 まず、森本参考人から十分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対しお答えをいただきたいと存じます。
 なお、念のため申し上げますが、発言の際は委員長の許可を得ることとなっております。
 それでは、森本参考人にお願いをいたします。
森本参考人 当委員会に参考人としてお招きいただき、大変光栄です。
 時間が限られておりますので、鈴木大使が当面する日朝関係の外交あるいは外交交渉の側面からお話をされましたので、私は、特に北朝鮮及び当面する日朝関係を日本の安全保障という側面から、幾つかの点につき所見を述べてみたいと思います。
 言うまでもなく、現在の北朝鮮の金正日体制は、大変困難な状況に直面しつつも、依然としてその体制の生き残りを最優先に掲げていろいろな政策を進めているのではないかと考えますが、その持っている性格からして、大変軍事力に依存した体質あるいは権力基盤というものを保持しながら体制生き残りを確保しようとしているのではないかと思います。
 北朝鮮の核開発については、どのような動機でいつごろから始まったのかということについては必ずしも定かではありませんが、推測するに、七〇年代の末、韓国朴政権が末期に韓国として核開発計画を有していたことをアメリカが察知し、朴正熙大統領暗殺後に誕生した全斗煥政権を支援、支持する見返りとして、韓国の核開発計画を断念させた経緯があると理解しています。これを北朝鮮は素早く察知し、北朝鮮としても韓国に対抗するため、特に経済的には、七〇年代、既に北朝鮮は韓国経済に追いつかないということが明らかになっていた時点で、通常戦力のバランスを核開発という手段によって相殺するという方法を北朝鮮としてはとったのではないかと考えます。
 もしこの推論が正しいとすれば、北朝鮮の核開発計画は八〇年代の初頭から始まったものであり、しかもそれは、北朝鮮の現在の権力基盤とその体質からして、北朝鮮の体制が生き残るために不可欠のプログラムであったに違いないと考えます。
 ところが、この北朝鮮の核開発計画をどこかの段階で察知したアメリカが、情報を分析した結果、北朝鮮に核開発計画の放棄を迫り、北朝鮮が九三年、NPTから脱退しようとして起きた米朝交渉が、翌九四年十月、米朝枠組み合意に達するまで、一度、九四年の五月から六月、国連安保理で必要な安保理決議が創案されたことがあり、それが我々の俗に言う北朝鮮危機というものであったと承知します。
 この枠組み合意は、北朝鮮から見て今日どういう意味を持っているかということは必ずしも定かではなく、依然として、北朝鮮から見て、枠組み合意の中で軽水炉の供与とそれから五十万トンの重油の供与というのは北朝鮮にとって魅力があるのか。あるいは、この計画そのものが今や魅力がないものになっており、したがって、プルトニウムではなく、ウラン型の核開発を進めることが北朝鮮にとって何らか必要な状況が出てきたということも考えられます。
 ということは、北朝鮮は、いわばアメリカと交渉するためのてこをつくるためにウラン型の核開発計画を進めているのでは必ずしもなく、北朝鮮の体制が生き残るために、いずれにしてもウラン型かプルトニウム型のいずれかの核開発計画というものは不可欠な手段であるともし考えているとすれば、これを放棄させるということはなかなか難しい手段になるのではないかと考えます。
 我々は、よく、北朝鮮の核開発計画というのは交渉のてこに使う、あるいはつくるという理由で説明をしますが、もしこの理屈が正しいとすれば、交渉が成り立って核開発計画を放棄する用意があるのかということについて、私の答えは、どうもそうではないのではないかと考えます。
 ミサイル開発についても同様で、外貨を獲得するために一連のミサイル開発を進めてきたという説明は、すべての内容あるいは理由を説明していることでは必ずしもなく、北朝鮮としては、いずれにせよ、核兵器の開発計画とミサイルの開発というのは体制が生き残るために不可欠な手段であると考えている節があると考えます。
 そうしますと、結局、今アメリカがイラクというものをどのようにするのかということはなかなか予断を許しませんし、これはイラクが安保理決議一四四一に基づく査察をどのように誠実に履行するかによりますが、仮にアメリカがイラクに将来軍事行動を起こすということになった場合、これが北朝鮮の対応にどのような影響を与えるかということを考えた場合、今回、KEDOのプロジェクトを一応は凍結し、重油の供与並びに軽水炉の工事をストップさせるということが北朝鮮の対応にどういう影響を与えるかということを考えた場合、北朝鮮は、現在かなり追い込まれて逃げ道のない状態になっているのではないかと考えます。
 したがって、この逃げ道のない北朝鮮が、周りの国に、いわばおどかしといいますか威嚇をかけてくるのか、あるいはアメリカが交渉のテーブルに着くまでじっと待つのか、その北朝鮮の出方を我々は見きわめなければならないのですが、しかし、どちらの方法をとるにせよ、来年前半に北東アジアというものがある種の緊張関係になるということは我々として十分に念頭に置く必要があり、その意味において、将来においてイラクにいろいろな協力をするという場合に、日本の周辺を含む北東アジアの安全を同時にどのように確保しながら日本が国際的な貢献をしていくかということをトータルで考えなければならないという状況に今日あるのではないかと思います。
 したがって、北朝鮮というものを日本の安全保障から考えるときに、北朝鮮だけを考えるわけにはいかないわけで、アメリカがグローバルに進めようとしている大量破壊兵器の開発問題あるいはテロとの関連をトータルで勘案しながら日本の政策、日本のあるべき方向というものを模索する必要があるのではないかと考えます。
 以上が、現時点で私が北朝鮮の現在の政権の体質を日本の安全保障という側面から見た場合の問題提起でございます。
 以上でございます。ありがとうございました。(拍手)
池田委員長 ありがとうございました。
 これにて森本参考人の意見の開陳は終わりました。
    ―――――――――――――
池田委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。上田勇君。
上田(勇)委員 おはようございます。
 森本先生には、今大変貴重なお話をいただきまして、ありがとうございます。また、さまざまなところで森本先生の我が国の安全保障に対しますいろいろなお話を拝聴させていただきまして、いつも大変参考にさせていただいているわけでございます。
 きょうは、特に北朝鮮と日本との関係について今お話をしていただいたんですけれども、まず先生に一つお伺いしたいのが、北朝鮮の今の金正日の独裁体制のもとでこうした体制を支えているのは、どうもやはり軍事力とそれから警察力ではないかというふうに思うんです。そうすると、今は一般には金正日総書記一人が非常に権力を掌握しているというふうにも言われているんですけれども、果たして、政策の意思決定過程、特に対外政策の意思決定過程において、こうした軍部あるいは警察、秘密警察と言われておりますけれども、などがどういうような影響力を持っているのか。その辺、もし先生の御見解があれば伺いたいというふうに思います。
森本参考人 私は、実は、安全保障とか防衛政策について長くかかわってきたのですが、北朝鮮そのものについては必ずしも専門というわけではありませんので、今の先生の御質問について必ずしも御満足いただけるような回答をできないのですが、北朝鮮の政策決定のプロセスも多くのなぞがあり、我々はすべてのことを知り得る状態にないと思いますが、何となく私の感じは、北朝鮮の軍あるいは治安機関というのは北朝鮮の対外政策には余りかかわっていないのではないか。
 つまり、どういう意味かというと、北朝鮮の軍というものと金正日という体制はいわばある種の持ちつ持たれつの関係にはなっているものの、対外政策決定のプロセスそのものに北朝鮮の軍は大きなかかわりとか関与を必ずしも持っていない。ただ、軍としてどのような、例えば兵器の開発あるいは活動をするかということについては、政権の中枢に大きな影響力を持っているに違いないと思います。
 したがって、北朝鮮の軍は、俗な言葉で言うと、対外的な関係を余り配慮せず、考慮せずに、みずからのプライオリティーで軍事的な活動をするという状態がしばしば見られるということなのではないかと考えます。
上田(勇)委員 今お話をいただいたんですけれども、ちょうど六月のワールドカップが開催されているときに、南北間で海上で武力衝突が起きました。一時は、非常に緊迫した事態に発展するのではないかということも懸念されたんですけれども、幸い、そう大きく発展することはなかったんですが、この事態が、いろいろな評価が行われているんですけれども、今先生のお話を伺うと、そういうような対外的な配慮がないまま、偶発的なのか挑発したのかというのは別にいたしまして、そういう軍部の判断による行動であったのかなというふうにも思われるんです。そうすると、そういうような緊張関係というか武力衝突とというのは、やはり今後とも起きる可能性が十分あるということを想定しなければいけないだろうというふうに思うんです。
 今回はうまく政治的におさめられたという部分もあるんですけれども、今先生のお話では、来年は緊張感が北東アジア地域に高まるというようなお話もありました。緊張感が高まった中でそういうような偶発的な事件が起きた場合に、本当に安全保障というか、そういうものが大きな事態に発展する可能性というのはどういうふうにお考えでしょうか。
森本参考人 私は、現在の北朝鮮というのが、冒頭にお話し申し上げましたように、食糧であれエネルギーであれ大変困難な状態に直面している、それは今日に限ったことではなく、かなり構造的な問題を含んでいるのではないかと思います。しかし、枠組み合意のもとで供与されるはずになっている重油が全く入ってこないということになりますと、これから冬季を迎える北朝鮮としてはなかなか厳しい状態が出てきて、出口も入り口もないという状態に少しずつ追い込まれるのではないかと思います。
 過去にこのような状態に置かれた北朝鮮が、しばしば周辺の国に対してある種の軍事的な不安定状況をつくり出して、そのことによって周りの国を交渉のテーブルに着かせたり、あるいは必要な物資その他の支援や協力を間接的に求めたりすることによって生き残りを図ってきた。いわゆる瀬戸際政策というものを依然として続けて、そういう北朝鮮の従来の外交のやり方からして、少し追い込まれた状態にある北朝鮮が、例は余りよくないのですが、日本の周辺などで例えばミサイルの発射実験、現在はモラトリアムをそのまま続けていることになっているのですが、このところ、このモラトリアムの継続というのはなかなかできないといいますか、約束できないということを北朝鮮が言っていることは何を意味するか。
 必ずしも正しくはないかもしれませんが、そういう事態というものを我々はある程度考えておかないといけない。それだけで周りの韓国や日本が緊張状態になるということはある程度考えないといけないので、その場合、日本の防衛力を、多数ではありませんが、他の地域に簡単に動かすことはできるだけ控え目にし、日本の周辺の安全保障というものをきちっと確保して、北朝鮮のあり得べき混乱状態というものを確実に抑止し、対応する体制を維持しながら、日本としていろいろな貢献を考えないといけないという趣旨のことを申し上げたわけであります。
 したがって、北朝鮮がこの地域を非常に大きな混乱に陥れるとかということを申し上げているのではなく、周りの国に、ある種の外交上のおどかしの手段として軍事力を部分的に使うということは過去に見られた例でもありますので、そういうことを我々は今後半年間ぐらいの間にある程度注意をしないといけないということを申し上げた次第でございます。
上田(勇)委員 今先生の方から、来年にかけて北東アジアの地域の緊迫度が高まる可能性があるという話でございましたし、KEDOの枠組みについても、今の北朝鮮の経済状態がこれまで以上に悪化するということが十分予想されるというふうに思います。今でも相当な北朝鮮の人たちが脱北者という形で中国に流出しているんですけれども、さらにそういうように緊張感も高まる、経済実態も悪くなるということになると、そういう難民がもっと多く発生するということを想定しなければいけないんではないかというふうに思うんです。
 もちろん、一義的には一番国境を接している中国に逃れる人たちが多いんだというふうに思うんですけれども、それだけ中国の国境に対する警戒感も非常に強まっている中で、場合によっては日本もそういうような流出先として想定しなければならないんではないかということを思うんですが、日本として、そういった事態に備えてどういうような備えがあればいいか、もし先生の御見解を伺えればというふうに思います。
森本参考人 ここからは全く推測なのですが、先ほど申し上げましたように、北朝鮮がこれから、アメリカのイラク作戦というものを横目で見ながら、この周りにある種の不安定要因をつくって、できればアメリカを交渉のテーブルに着かせたいということを考えるとすれば、現在の日米韓の状態を見ると、アメリカは専らイラクの方にというか、中東湾岸に努力を集中させているという状況になり、空母も、現在はペルシャ湾に一隻移動しつつある。他方、アメリカは、伝えられるところによれば、弾道ミサイルの発射に備えて、在日米軍に、本土から弾道ミサイルの探知用の特殊な、情報収集用の航空機もしくは艦艇を移動させているわけで、その意味では、我が国としては、そういったミサイル発射というものが確実に探知できるように、でき得れば日本の周辺の情報収集を強化するということをまず第一に考えておく必要があり、その場合、イージス艦の運用というのは大変重要な手段になるのではないかと考えます。
 長期的には、やはり、いずれの時期にかミサイル防衛というものをきちっと考えなければならない時期が来て、そろそろ私はミサイル防衛というものを、国として開発の手順を踏む、検討を真剣にする時期に来ているのではないかと考えます。
 また一方、韓国の方を見ますと、大統領選挙が来月控え、どのような政権ができるか必ずしもわかりませんが、しかし、今までの政策とはいささか趣を異にする政権が誕生するとすれば、韓国から見れば北朝鮮にかなり強い対応に出るという可能性があり、そういう意味では、北朝鮮がこの韓国や日本に意図的に威圧的な行動に出るという可能性は以前よりも増しつつあるのではないかと思います。
 という意味は、これから日韓間の協力というものを相当にきちっとしておかないといけないし、また、日本周辺の米国軍隊との連携とか協力関係も緊密にしておかないといけないし、もちろん先生の御指摘のように、北朝鮮の中から出てくる人に対する対応というのも考えないといけない。広い意味での日本周辺の危機管理というものの体制を、これからアメリカが中東湾岸でいろいろな活動をする間、日本としても北東アジアの周りの体制を強化しておく必要があるのではないかと考えます。
上田(勇)委員 終わります。
池田委員長 次に、桑原豊君。
桑原委員 森本先生には、我が党の部門会議等でもいろいろと有意義な御示唆をいただいておりまして、この機会に、いろいろ教えていただいておることに感謝を申し上げたいと思います。
 今、北朝鮮そのものが、金正日のこの独裁的な体制をどう維持していくかということから、核の開発等を中心にしたさまざまな安保の体制が、先軍体制と申しましょうか、そういうものがつくられている。ですから、そういった状況の中ですから、いろいろな取引材料というよりも、むしろこれを一つの国家存立の基盤に置いている、こういう考え方を今お示しになられたわけです。
 そういう国であるわけですけれども、今回の日朝交渉の中では、例えば、今まで否定していた拉致の問題あるいは核についても、一応話し合いはしよう、こういうところまで来た。私は、やはり相当厳しい状況の中で背に腹はかえられないという一面もやはりあるんだろう、こういうふうに思うわけですね。
 こういう体制の国と一つの正常化をなし遂げていくときには、非常にさまざまな手段を我々も使わなければならないわけですし、この国をめぐるさまざまな国との関係をどう活用していくかということも大変重要だろうと思います。そういう意味では、韓国の役割、そしてアメリカの役割、そして日米韓の連携、非常に大事だと思いますし、加えて、今度の日朝交渉が実現をする一つの力にもなったかと思いますが、例えば、金正日とプーチンとの接触、会談、あるいは中国のいろいろな意味での影響力、そういうものも私は働いたんではないか、こういうふうに思うわけですね。
 そういう意味で、この中ロが北朝鮮に与える影響力、これをどううまくこの交渉の成功に結びつけていくかということも大変重要だと思いますので、その点で先生の何かお考えがあればお聞かせいただきたいと思います。
    〔委員長退席、中川(正)委員長代理着席〕
森本参考人 北朝鮮という問題は、いわば朝鮮半島が南北に分断されているという事実はさきの大戦の負の遺産で、この負の遺産を我々は今日でも北東アジアに残しているわけでありますが、他方、北東アジアというのは、日本、アメリカ、中国、ロシア、そして朝鮮半島という非常に重要な担い手が国益を接するというか、唯一接点のある世界でも珍しい極めて特殊な地域でもあるわけで、日、米、韓国というふうに我々はよく言いますけれども、全く先生の御指摘のように、ロシアとか中国の役割というのは大変重要で、このロシアや中国への働きかけというものを我々は十分に念頭に置いて北朝鮮へのいろいろな外交というのを考えないといけないんだろうと思います。その点は全く同感でございます。
 ただ、その場合に、従来の北朝鮮とロシアの関係、それから北朝鮮と中国の関係というものを過去の歴史にさかのぼって見ますと、冷戦期までは大変緊密な関係で、ある種のスポンサー的な役割を二つの国が果たしてきて、今日でもその性格は変わらないのですが、ロシアは、どちらかというと北朝鮮のスポンサーにはもはや今日なり得ないという状態になっており、中国は、それが少し重荷になりつつあるということなのではないかと私は考えます。つまり、この両国から見ても、北朝鮮が自分で自分の国をマネージし、他の国に依存しないで自主的にやっていけるような国の状態、安定した状態、それをロシアも中国も期待しているのではないかと考えます。
 そういう意味で、中国やロシアが持っておる役割よりも、日本や韓国やアメリカが持っておる役割の方がむしろ大きいというふうに私は日ごろから考えているわけでございます。
桑原委員 アメリカは今、外交やあるいは武力行使をも含めたあり方を、イラクを中心にしたあるいはテロ対応というようなところに重点を置いている、こういうふうに私は思うんですけれども、今のところ見た限りでは、アメリカもKEDOの問題などを通じて北朝鮮に対して非常に厳しい対応に出つつありますけれども、先ほどお話もございましたが、イラクというものをにらみながら、北朝鮮にアメリカはこれからどう対応していくのか。この二つの間の対応にどういった関連があり、あるいは違いがあるのか。
 北朝鮮に対して、同じような武力による一つの解決方法を見出そうとした場合に、私は、韓国との問題、これは将来的な南北統一の問題にもつながるわけですし、あるいは日本との関係、非常にアメリカも慎重にならざるを得ないところが多々あるだろうと思うんですけれども、そういう意味で、その間の対応の仕方にどういう違いと関連があるのかということを教えていただきたいと思います。
森本参考人 これは正直なところ、アメリカが北朝鮮をどのようにしようとしているのかということについて、アメリカの中ではまだ政策が確定していないと思いますので、したがって全くの推測でしかないわけですけれども、例えばイラクと北朝鮮を単純に比較してみますと、双方の国が化学兵器禁止条約に加盟しておらずに化学兵器を持っている可能性がある、双方が生物兵器禁止条約に加盟して両方が保有している可能性があるとすれば、この二つの点ではそう変わらない。
 核兵器の開発については、双方がNPTに入っていて、イラクがまだ核兵器の開発に手を染めているかもしれないが、今日核兵器を持っているという可能性はほとんどない。北朝鮮はわからないが、核兵器の開発を進めているということを認めた事実がもし本当の状態というか真実であると仮にすれば、成績表を比べると、北朝鮮の方が大量破壊兵器の開発という点では少し悪いという議論がアメリカ共和党の中に多くあることは御案内のとおりであります。
 一方、テロとの関係については、両方ともよくわからないわけであります。いろいろと情況証拠をアメリカやイギリスが並べていますが、テロとどのような関連になるかということをはっきりと証拠立てて、我々に対し説得力のあるような形で示されてはまだいないと思います。
 しかし、しからば大量破壊兵器の開発に仮に両国ともかかわっているとすれば、テロとの関連性がどちらが多くなるか、あるいは将来可能性がどうなるかということについても、これは全く推測ですが、北朝鮮の方がむしろ、単純に言えば外貨を獲得するために簡単にテロに譲り渡す、売り渡すという可能性が大きいとする見方と、そうではなく、従来からアルカイーダその他のテロの組織等の接触状況を見る限り、既にイラクの政権とテロの組織は何らかのつながりがあるので、北朝鮮は今までテロとそのような接触の形跡というのは余りないので、イラクの方がむしろ質が悪いという議論と、両方あると思います。
 いずれにしても、すべてがまだはっきりとしない状況の中で物事を議論しないといけないわけですが、アメリカがイラクを最優先にしようと考えていることはほぼ間違いないとすれば、その次に北朝鮮にどう対応するかということについては、今冒頭申し上げたようにまだわからない。わからないんですが、私の推測は、アメリカはこのテロと大量破壊兵器の結びつきというものに、これからいかなる困難があろうとも、あるいはいかなる期間がかかろうとも、この世の中からすべてエリミネートするというかなくすまで闘うと決心を固めていると仮にすれば、かなり長期にわたる戦略的なオペレーションが行われると思います。
 すると、それは北朝鮮に対する軍事攻撃を意味するのかという問いに対して、私は必ずしもそうではないと。その理由は、第一は、やはり在韓米軍の存在というものが非常に大きく、三万六千人がいわば北朝鮮の兵器の射程の中にいる、この人質にとられているという状態をアメリカとしてどう考えるかという点が第一であります。
 もう一つは、北朝鮮の持っておる大量破壊兵器の開発という体質は、必ずしも軍事攻撃をしたから解決できるというものではなく、何らかの交渉やあるいは圧力をかけることによって政権からそういった不安材料をぬぐい去る、取り去ることがもしできれば、軍事的な手段を使わずに目的を達することができるということになると思います。また、そういう手段をアメリカは模索するのではないかと考えます。
 問題は、そういった状況になって、なおかつ金正日体制が生存し得るかという問いに対する答えが私にはないという点でございます。
 以上でございます。
    〔中川(正)委員長代理退席、委員長着席〕
桑原委員 大変貴重な御意見、ありがとうございました。
池田委員長 次に、藤島正之君。
藤島委員 自由党の藤島正之でございます。
 まず、我が国の安全保障にとって、本当に北朝鮮の核というのは大事な問題だと思うんですけれども、先般の平壌宣言の際に、総理はこの問題について知っていながら、国民の前に明らかにしないまま平壌宣言に署名したということだとしますと、これは国民に対する重大な背信行為だと思うんですね。まあ総理に言わせると、それじゃ平壌宣言がなかったままでよかったのかとすぐ開き直るわけですけれども、その点について、外交の専門家としての参考人はどういうふうにお考えになりますか。
森本参考人 北朝鮮の核開発計画というものが、どの時点でどのようにアメリカ側から日本に通報されていたのかということを、必ずしも私は正確に承知しないで以下の議論を進めるのですが、仮に、この日朝首脳会談の前にアメリカ側から北朝鮮が核開発計画にかかわっているとの疑惑について情報が知らされていたとしても、十月の三日及び四日、ジム・ケリー次官補が訪朝した際に北朝鮮に提示したような細部にわたる情報が日本側に通報されていたとは私には思えないのです。
 つまり、一般論として北朝鮮が核開発にかかわっている疑惑があるという情報がもたらされたことはまず間違いないとしても、そこまで細かいデータが日本側にあったかどうかわからないわけで、私は、どれだけ日本側がそれを分析し、日本側としてもそれを確認する手段を持っていたかにかかると思います。何となく、私は、疑惑があるけれどもアメリカからの説明だけで十分に確認はできないという、何といいますか、不透明な状態で日朝首脳会談が行われたのではないかと思います。
 もし、ケリー次官補が訪朝の際に北朝鮮側に示したと同等の情報が日本側に通報されていたとすれば、先生の御指摘のように、もう少し平壌宣言の表現については考慮する余地があったのかもしれません。しかし、その場合、あのジム・ケリーが行く前に、日朝首脳会談の場で日本側が、単にアメリカ側から提供された情報をベースに北朝鮮に核開発問題を指摘するということになりますので、それは、外交のやり方としても、あるいは国家としての情報の扱い方という点からしても、少し道理に合わないのではないかなと思います。
 そういう意味では、ある程度知ってはいたが、しかしそれは十分確認できるとして、あの平壌宣言の表現ができたのではないか、このように考えているわけです。
 以上です。
藤島委員 私は、もう少し厳しい表現を盛り込んだ方がよかったんじゃないかな、そんな感じがするわけです。
 次に、核にしても、生物化学兵器にしましても、輸送手段がないとこれは兵器にならないわけですけれども、このあたりについて、参考人は北朝鮮の輸送手段についてどのように把握しておられますか。
森本参考人 御承知のとおり、生物化学兵器というのは運搬手段というのが非常に重要で、運搬手段とともに取り扱い方というのが大変難しくて、取り扱いを間違うと、取り扱いをする人がもちろん危険に遭遇するわけです。
 ただし、ミサイルに搭載する方法は核兵器よりもはるかに簡単であり、ある種壊れやすい容器というか、キャニスターの中に詰めて、ミサイルの弾頭部分に収納するという方法をとれば、核兵器のように小型化するという高度な技術を要しないという点では、北朝鮮がもし生物化学兵器を保有しているとすれば、開発している弾道ミサイルの弾頭部分に載せることはさほど難しいことではないと考えます。
藤島委員 現在、その手段を持っておるとお考えですか。まだ今の段階では我が国に的確に落とせるようなレベルの輸送手段はないというふうにお考えですか。
森本参考人 推測ですが、私は、両方とも運搬手段を持っていると思いますが、その精度はミサイルの精度に依存するわけです。
 他方、化学兵器については、さほどミサイルの精度が、ピンポイントでなくても影響力が広範に及ぶので、したがって、乱暴な言い方をすれば、精度が悪くても相手の国に甚大な心理的影響あるいは被害を及ぼすことができるが、生物兵器については、かなり正確に落ちないと、時間がたつと空中に散布し、あるいは太陽熱などで死滅するという性格がありますので、都市の中心に落としたり、あるいは水源やダムなどに落として、いわば我々が飲料水として飲む、あるいは地下水の中に入ってくるといったことでないと被害の程度が大きくならないわけです。
 その意味においては、化学兵器、生物兵器の精度だとか被害とかというのは、運搬手段たるミサイルの精度に大きく依存しているということなのではないかと考えます。
藤島委員 もう一つ、ミサイルの関係で、先ほど上田委員の方からも質問があったんですが、もし日本に向けて発射された場合、本格的にやられた場合に、我が国は何らかの対抗手段を現在持っているというふうに考えるべきですか。全く現段階では対抗のしようがないというふうにお考えですか。
森本参考人 生物、化学兵器、双方とも、かかる兵器が弾道ミサイルに搭載されて、我が国の本土に発射されて落ちるということになった場合には、ほとんど対抗手段がないのではないかと考えます。
 もちろん、この場合、生物兵器や化学兵器の内容といいますか、質によると思いますが、アメリカは去年のテロ事件以降、例えば炭疽菌あるいは天然痘のテロというものを想定し、大量のワクチンをため込んでいますが、日本には必ずしもそのような用意がまだ十分あるわけではなく、恐らく、もし人口密集地にそういう攻撃が仮に行われるとすれば、大変大きな混乱になることはまず間違いないのではないかと考えます。
藤島委員 今おっしゃったような準備も本来しておかなくてはいけないんじゃないかなという感じはしますけれども、時間が来ましたので、最後にもう一つだけ。
 対抗手段として我が国も核兵器を持つべきだといったような意見もあるわけですけれども、こういう意見について参考人はどういうふうにお考えになりますか、最後にお伺いします。
森本参考人 今までの議論と先生の今の御質問とは少し次元の違う話なので、全然別のコンテキストだと考えて、御質問の趣旨を、日本が核兵器を保有するというオプションについてどうかという御質問だと受けとめてお答えしますけれども、私の答えはノーであります。
 その理由は、大きく分けると三つあって、一つは、日本が核保有するということ自身が日米同盟の終末を意味するということであり、これは国家の生存にかかわる選択であって、私は、日本の国民はそういう選択をしないのではないかというふうにまず第一に考えます。
 第二は、ほとんど考えられないんですが、仮にそういう決定が行われるということが将来あり得るとしても、そのような開発計画に加わる、あるいは努力する科学者は日本には出てこない可能性がある。日本のいわゆるこの分野での科学者というのは大変リベラルでありまして、こういった原子力開発にかかわった多くの技術集団というのは、特別に核兵器というものに対する非常に敏感な感覚というものを持っていますので、そのようなプロセスが将来、仮に政治的な意図として行われるとしても、そういう計画に加わる人がいるとは私には到底思えないわけであります。
 それから第三に、従来日本が結んできたいろいろな国際約束、あるいは従来のいろいろな条約、協定、あるいは国内のいわゆる法的な枠組みの中で、日本が核のオプションをとるということは、むしろ日本の国家の安全保障にとって害でしかないというふうに思いますので、私は、将来においても日本の国民がそういう選択をすることは考えられないと思うんです。
 むしろ、それにかわる、もっと効果的に本来の目的を達成するような通常兵器の技術を開発するということや、あるいは核の抑止というものを将来どう考えるかという点では、まさに核の抑止というものの理論が物すごい勢いで変化あるいは変質しつつありますので、そういった核というものが持っておる役割とか、あるいは抑止の機能というものをもう一度見直す、そういうことにむしろ努力を傾注させるべきなのではないか、かように考えております。
 以上です。
藤島委員 ありがとうございました。
池田委員長 次に、松本善明君。
松本(善)委員 森本参考人に伺いますが、まず第一に、日朝平壌宣言についての参考人のいろいろな御発言がございますが、基本的にこの日朝平壌宣言を支持しておられるのかどうか。その辺を含めて、この平壌宣言についての御意見を伺いたいと思います。
森本参考人 私は、今回の平壌宣言は、今後行われる日朝交渉と日本の政策のすべての基本であり、基礎であると考えております。
松本(善)委員 先ほど鈴木大使から伺ったのでありますが、日本政府は核問題を最優先の問題として交渉している、こういうことを言われました。この点について、北朝鮮が核カードをちらつかせ始めたということは非常に危険なことではないかというふうに思います。KEDOの見直しというのはその危機を拡大していくのではないか、こういうふうにも思いますが、この核問題とKEDOの問題についての御意見を伺いたいと思います。
森本参考人 私は、鈴木大使が参考人で質疑をやっておられたときにいませんでしたので、申しわけない、聞いていないのですが。
 私は、交渉の担当大使に反論する気は全くないのですが、日朝の交渉というのは、我々にとって、拉致問題、それから核やミサイルを含む広い意味での安全保障問題、それから経済協力、三つが同じレベルで議論されるべきもので、どれかがどれかに優先するというふうには従来から考えていなかったわけで、三つがまさにパッケージとなって国交正常化交渉が進められるべきであり、またそのように交渉されているものだと考えていたわけです。
 さて、そのコンテキストで、先生の御指摘のように、そもそも核開発問題について、今回のKEDOに関する措置は北朝鮮をいわば追い込むといいますか、むしろ困難な状態にするだけではないかという指摘は、一面において全くそうだと思います。しかし、従来から北朝鮮の外交というのは、自分たちの持っているカード、特にこの場合はミサイル発射のモラトリアムあるいは自分たちの進めてきた核開発計画というものを外交のカードに使って、日、米、韓国という三カ国の分断と国内における世論の分断を図りつつ、みずからを優位な立場にすることによって必要な目的を達するという外交の方法を従来からとってきたわけです。
 それに対して、現在のアメリカの共和党政権は、そのような北朝鮮側の対応に一切妥協しない、つまり従来の約束を破った北朝鮮が必要な是正をとるまでの間は対話に応じないという比較的強い態度に出ているわけで、私は、それは結果として日朝交渉を有利な立場にするという判断を我が国政府がされたので、今回の決定に至ったのではないかと考えます。
 したがって、北朝鮮を追い込んでいるではないかという指摘は、答えはそうなんです、追い込んでいるんですけれども、追い込んだ結果として、できるだけ早く北朝鮮がただ一つの出口である日朝交渉に前向きに対応してくることを日本としては期待するということしか当面はないのではないか、かように考えているわけです。
松本(善)委員 森本参考人は御存じかどうかわかりませんが、日本共産党は、北朝鮮が私たちの国際常識とかなり違った考えでいるということを承知しているんですが、そういう国ではあるけれども、交渉なしには解決ができないので、この平壌宣言は強く支持するという立場であります。
 北朝鮮が核開発をしていたということは、これは平壌宣言の明白な違反であることはもう言うまでもありません。しかし、この問題は非常に重要な問題で、私は、金大中韓国大統領がこの点に触れられた発言を注目しております。北朝鮮は米国との間で不可侵条約の締結を求めている、このことに関して金大中大統領は、ブッシュ大統領は十五日に特別声明を通じ北韓を侵攻する意思がないことを再確認した、これは北韓の不可侵条約締結という要求と関連し重要な意味があるということを指摘されました。
 森本参考人は、この金大中大統領の発言についてどうお考えですか。
森本参考人 私は基本的に、今御指摘の金大中大統領の御発言そのものに、ほぼ趣旨を同じくするといいますか、賛成するものです。
 他方、北朝鮮は、不可侵条約という交渉のテーブルにアメリカを着かせることを当面する北朝鮮側の目的にしている理由は、一にかかって北朝鮮側が、イラクの次にアメリカが北朝鮮に何らかの軍事的圧力をかけるのではないかという非常に深い懸念を持っていることを証明するのではないかと考えます。
 その意味において、私は、いつの時期にかわかりませんが、むしろアメリカがイラクに対して軍事的にきちっと対応し、大量破壊兵器の問題を解決するために措置をとるということは、北朝鮮にとって非常に大きな示唆と教訓を与えるのではないかと思っているわけで、そういう意味では、この問題はつまり別々の問題ではないのではないかというふうに考えているわけです。
松本(善)委員 参考人はいろいろなところでこの問題について発言をされていますが、産経新聞の座談会で、安全保障の問題についてですが、外務省の外交当局者だけではなかなかこれはうまくいかない、米国の情報に頼り過ぎていることも問題だ、同盟国とはいえ情報が操作されている場合もあり、米国の真の意図を理解しないと非常に危なっかしいという趣旨のことを述べておられたと思います。
 これは、どういう米国の情報操作とかそういうことについて述べられたんでしょうか。もう少し詳しく述べられることがあれば、述べてください。
森本参考人 私は一般論としてこの部分は述べたつもりですが、つまり、私が主張したかった趣旨はこういうことです。
 アメリカという国は、国際法上極めて明白なうそをつくということをしない国だというふうに考えています。しかし、言うべきこと、つまり言ってよいことというのを自分たちの国益に合うようにきちっとそこは判断をして述べ、述べた結果として、あるいは情報を他の国に提供した結果として、みずからの国益に合致するような情報というものを自分たちで運用し、管理する能力が極めてすぐれているのではないかと考えます。
 つまり、私が申し上げようとしているのは、ある情報を、全く事実に反することを平気で言う、そういうことはアメリカは決してしないが、どこまで出してよい、どこを出してはよくないということを必ず考え、どういう情報を出せばどういう動きになるかということを考えて、同盟国であれ友好国であれ対応していくということであり、アメリカが持っておる情報がアメリカが知っているすべてである、あるいはそのすべての情報を同盟国に提供してくれるというふうに考えること自身が我々として間違っているという経験を今までずっとしてきたものですから。
 したがって、例えば、私はワシントンの大使館に勤務したのですが、アメリカが同盟国日本に提供する情報は、その裏にアメリカのいかなる意図があるのかということを絶えず我々として考えながら、何ゆえこの情報をアメリカが同盟国日本に現時点でこれだけの量を提供するのかということを常に常に考えながら、情報というものを、国の利益といいますか、国益に合うように活用していくという配慮が非常に必要なのです。
 したがって、特に軍事作戦になりますと、アメリカは、相手の国に対する情報は比較的豊かにといいますか、十分に提供するんですが、みずからの国がどうしようとしているかという情報については、通常の場合ほとんど出さないものであります。したがって、例えばアフガニスタンでやっているオペレーションあるいはイラクでこれからやるオペレーション、相手の国の情報は出しますけれども、自分たちがどうしようとしているかという情報は、同盟国といえども通常は出さないわけです。
 したがって、アメリカが言っていることの裏にどういう意図があるかということを十分考えながら我々はいろいろな政策を決めないといけないという、一般的な注意事項をこの時点で指摘したわけでございます。
松本(善)委員 ありがとうございました。終わります。
池田委員長 次に、東門美津子さん。
東門委員 参考人には本当に御苦労さまでございます。社会民主党の東門美津子です。よろしくお願いいたします。
 去る十四日のKEDOの理事会において、北朝鮮が核開発を放棄しない限り、米朝枠組みに基づく重油の供給を十二月分から凍結するということで合意されました。重油供給の凍結は米国が強く主張したものであり、米国内には軽水炉建設自体も凍結すべきとの議論も根強いと言われています。北朝鮮は米国に対し不可侵条約の締結などを呼びかけていますが、米国は強硬な姿勢を崩しておらず、米国側が譲歩する可能性は低いと思われます。
 参考人は、米国の安全保障戦略にもお詳しい方ですが、今後、米国は北朝鮮に対してどのような方針で臨んでいくと思われますか。具体的にどのような行動に出ると考えられておられるか、お聞かせいただけたらと思います。
森本参考人 これは全く私の個人的な推測ですが、アメリカは、現在、イラクの持っている大量破壊兵器の開発という問題とテロとの関連を解決することを最優先課題にしていますので、この問題が解決するまでは、北朝鮮に対してできるだけ外交上の平和的な解決によってこの問題を進めていきたい、つまり外交上の圧力というのでしょうか、そういうものを北朝鮮にかけながら、できれば北朝鮮が日本とこの問題について真剣に話し合うよう働きかけるという努力をずっと続けると思います。
 しからば、ずっと、今後とも永久にそうかというと、私は必ずしもそうではないと考えます。イラクの問題が決着がついた段階で、アメリカは北朝鮮にどのような対応をしたらいいかということをその時点でレビューする、見直すという時期がいずれの日にか来るのではないかと考えます。
 その場合、どういう政策がとられるかということは全く我々はわからないし、予断を許さないのですが、しかし回答は、さっき申し上げたように、軍事的な手段によってイラクと同じような対応を北朝鮮にする可能性はないなと。しかし、全く、対話と平和的な解決によって問題が解決しない場合には、アメリカの究極的な目標は、北朝鮮が持っている大量破壊兵器の開発という問題をできるだけ低いレベルにするということでなければ意味がないわけで、それを軍事的な手段によらずにやるということはどういう方法があるのかということをその時点で彼らが、つまりアメリカが選択をしていくのではないかと考えます。
 他方、そこまでじっと北朝鮮が忍耐をしながら時期を待つのかというと、私は、そこに日朝交渉が進んでいく余地が一つだけ出てくるわけで、北朝鮮がそこまで待つことができるか、あるいは待つことが北朝鮮にとって本当に得策かどうかということを北朝鮮がどう判断するか、そのことに日朝交渉の行方がかかっているのではないか、かように考えているわけです。
東門委員 参考人は、世界週報の十一月十九日号に「核保有疑惑を活用する北朝鮮」という論文を投稿されております。「北朝鮮が開発計画を認めた理由」として、「否定すると北朝鮮はこれから米国と交渉する場合のてことして利用できなくなる。米国が核開発計画の全体を知っているとは思えないとすれば、米国が北朝鮮の核保有に疑いを持っている限り、これを外交交渉のてこに利用できるという利点がある。」と指摘され、「北朝鮮が核兵器を持っていると米国が疑っている限り、北朝鮮には手が出せないという見方ができる。」と結論づけておられます。
 参考人の見方が正しいとすれば、北朝鮮にとっては、核兵器を保有しているかどうかの疑念を米国に抱かせ続けることがベストの選択肢となるわけですね。そうであれば、我が国が主張している検証可能な形での査察は、北朝鮮にとっては米国との交渉のてこを失うことになり、検証可能な形での査察を北朝鮮が受け入れる可能性はほぼないのではないかと思われますが、いかがでしょうか。
森本参考人 北朝鮮が核問題について査察を受けなければならないというのは、少なくとも、北朝鮮が一九八五年、NPTに加盟をしてIAEAとの保障措置協定を締結したときから国際法上の義務でありますので、もちろん枠組み合意の条件でもありますので、北朝鮮が査察を受けるということは、その場合、プルトニウム型であれウラン型であれ、すべての核関連の施設について無条件で査察を受けるということになると思います。
 他方、現実の問題としては、一般に言われていることは、ウラン型の核開発というのは、査察が専門家によってなされる場合はプルトニウム型よりはるかに発見しやすい。つまり、検証すれば極めて明確に、ウラン型の核開発計画をどこまで進めてきたかということがほぼわかるということになっております。
 その点について言えば、ウラン型の核開発計画は、査察が行われると、その時点ですべてがわかるということなので、ウラン型の核開発計画の査察を受けるということは北朝鮮にとってはなかなか難しい話ということは、先生の全くおっしゃったとおりではないかと私は考えています。
東門委員 最後の質問になりますが、北朝鮮の核開発に関しては、北朝鮮の隣国である中国も、朝鮮半島の非核化を支持するとして、今月四日の日中そして韓国の首脳会談においても平和的協議での解決を強く希望すると表明、北朝鮮の核開発には反対する姿勢を示しています。
 これまで中国は北朝鮮の最大の援助国であったわけですが、ことしに入り、中国で頻発する脱北者の駆け込み事件や、あるいは奄美沖の工作船引き揚げなどにより、両国関係はぎくしゃくしているとの分析もあります。
 北朝鮮との交渉に当たっては、日米韓の連携はもちろんのこと、北朝鮮に大きな影響力を持つ中国の存在を抜きには語れないわけですが、中国の北朝鮮に対する姿勢をどのように分析しておられるか。依然として北朝鮮に対する中国の影響力というのは大きいとお考えでしょうか。
森本参考人 中朝関係及び中国が北朝鮮にどのような影響力を持っているかということについては、推測の域を脱しませんが、現在中国が北朝鮮を見る目というのは、かつてのように思ったとおりにならない、負担の多い存在ということなのではないかと思います。
 他方、現在の北朝鮮が、どういう体制であれ現在の状態にあるということは、少なくとも米韓両国の影響力が直接中朝国境に及ばないという意味においてある種の緩衝地域になっているので、中国の国家の安全保障にとって非常に重要な、つまり戦略的な地域を形成しているということで、中国としても、現在の北朝鮮が崩壊したり、あるいは米韓によって吸収されたりするということは、これは国家の安全保障にとって極めて望ましくない。
 しかも、その場合、自国の中にいる百五十万人とも言われる北朝鮮系の中国人が、少数民族となって中国の国内の安定に大きな問題を提起する可能性もあり、そういう意味では、北朝鮮が中国にとって比較的思うようになる存在で居続けるということが望ましいのですが、問題は、今申し上げたように、思ったとおりにならない、しかも負担の多い国という存在になりつつあるのではないかと思います。
 したがって、影響力というよりか、むしろ大変難しい、扱いにくい存在にもはやなりつつあって、絶えず支援と協力をしなければならないが、しからば指示したとおりにするかというと、なかなか思ったとおりにならない。中国から見れば、そういう関係になりつつあるのではないかと推測します。
 以上でございます。
東門委員 どうもありがとうございました。終わります。
池田委員長 これにて森本参考人に対する質疑は終了いたしました。
 森本参考人におかれましては、貴重な御意見を述べていただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。
 次回は、来る十一月二十二日金曜日午前九時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後零時十三分散会


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