衆議院

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第14号 平成19年5月23日(水曜日)

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平成十九年五月二十三日(水曜日)

    午後一時三十分開議

 出席委員

   委員長 山口 泰明君

   理事 小野寺五典君 理事 嘉数 知賢君

   理事 三原 朝彦君 理事 やまぎわ大志郎君

   理事 山中 あき子君 理事 長島 昭久君

   理事 山口  壯君 理事 丸谷 佳織君

      愛知 和男君    伊藤 公介君

      猪口 邦子君    宇野  治君

      小野 次郎君    河野 太郎君

      高村 正彦君    篠田 陽介君

      新藤 義孝君    鈴木 馨祐君

      松島みどり君    三ッ矢憲生君

      山内 康一君    内山  晃君

      長妻  昭君    原口 一博君

      松木 謙公君    笠  浩史君

      鷲尾英一郎君    東  順治君

      笠井  亮君    照屋 寛徳君

    …………………………………

   外務大臣         麻生 太郎君

   厚生労働副大臣      武見 敬三君

   防衛副大臣        木村 隆秀君

   外務大臣政務官      松島みどり君

   環境大臣政務官      北川 知克君

   政府参考人

   (外務省大臣官房審議官) 佐渡島志郎君

   政府参考人

   (外務省大臣官房審議官) 草賀 純男君

   政府参考人

   (外務省大臣官房審議官) 猪俣 弘司君

   政府参考人

   (外務省大臣官房参事官) 大江  博君

   政府参考人

   (外務省総合外交政策局軍縮不拡散・科学部長)   中根  猛君

   政府参考人

   (外務省中東アフリカ局長)            奥田 紀宏君

   政府参考人

   (厚生労働省大臣官房審議官)           宮坂  亘君

   政府参考人

   (厚生労働省大臣官房審議官)           森山  寛君

   政府参考人

   (厚生労働省労働基準局安全衛生部長)       小野  晃君

   政府参考人

   (国土交通省鉄道局次長) 大口 清一君

   政府参考人

   (国土交通省航空・鉄道事故調査委員会事務局長)  各務 正人君

   政府参考人

   (海上保安庁警備救難部長)            石橋 幹夫君

   政府参考人

   (環境省大臣官房審議官) 谷津龍太郎君

   政府参考人

   (防衛省防衛参事官)   小川 秀樹君

   政府参考人

   (防衛省大臣官房審議官) 山内 正和君

   政府参考人

   (防衛省防衛政策局長)  大古 和雄君

   政府参考人

   (防衛省運用企画局長)  山崎信之郎君

   政府参考人

   (防衛施設庁長官)    北原 巖男君

   外務委員会専門員     前田 光政君

    ―――――――――――――

委員の異動

五月二十三日

 辞任         補欠選任

  笹木 竜三君     内山  晃君

  田中眞紀子君     松木 謙公君

  長妻  昭君     原口 一博君

  前原 誠司君     鷲尾英一郎君

同日

 辞任         補欠選任

  内山  晃君     笹木 竜三君

  原口 一博君     長妻  昭君

  松木 謙公君     田中眞紀子君

  鷲尾英一郎君     前原 誠司君

    ―――――――――――――

五月二十三日

 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とフランス共和国政府との間の条約を改正する議定書の締結について承認を求めるの件(条約第一一号)(参議院送付)

 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とフィリピン共和国との間の条約を改正する議定書の締結について承認を求めるの件(条約第一二号)(参議院送付)

 社会保障に関する日本国とオーストラリアとの間の協定の締結について承認を求めるの件(条約第一三号)(参議院送付)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 千九百七十二年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の千九百九十六年の議定書の締結について承認を求めるの件(条約第九号)

 職業上の安全及び健康を促進するための枠組みに関する条約(第百八十七号)の締結について承認を求めるの件(条約第一〇号)


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     ――――◇―――――

山口委員長 これより会議を開きます。

 千九百七十二年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の千九百九十六年の議定書の締結について承認を求めるの件及び職業上の安全及び健康を促進するための枠組みに関する条約(第百八十七号)の締結について承認を求めるの件の両件を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 両件審査のため、本日、政府参考人として外務省大臣官房審議官佐渡島志郎君、大臣官房審議官草賀純男君、大臣官房審議官猪俣弘司君、大臣官房参事官大江博君、総合外交政策局軍縮不拡散・科学部長中根猛君、中東アフリカ局長奥田紀宏君、厚生労働省大臣官房審議官宮坂亘君、大臣官房審議官森山寛君、労働基準局安全衛生部長小野晃君、国土交通省鉄道局次長大口清一君、航空・鉄道事故調査委員会事務局長各務正人君、海上保安庁警備救難部長石橋幹夫君、環境省大臣官房審議官谷津龍太郎君、防衛省防衛参事官小川秀樹君、大臣官房審議官山内正和君、防衛政策局長大古和雄君、運用企画局長山崎信之郎君、防衛施設庁長官北原巖男君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

山口委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

山口委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。笠浩史君。

笠委員 民主党の笠浩史でございます。

 きょうは、外務大臣以下、各省の副大臣、政務官の皆様にもおいでをいただきまして、今案件となっております二つのこの案件について順次質問させていただきたいと思います。

 まず、ILO関係なんですけれども、この百八十七号に関する条約についてお伺いをいたしたいと思うんです。

 まさにこの条約は、労働者の安全あるいは健康を守っていくということで、今、ILOの報告においても、戦争や紛争で死ぬよりもはるかに多い、世界で年間二百二十万人以上もの人たちが労働災害で命を奪われているというのが実態でございます。

 我が国においても、この労働災害による死傷者数は年間五十五万人にも上っているわけで、先般、厚生労働省の発表でもありましたように、昨年度を見ても、さらに加えて、仕事のストレスなどによるうつ病など心の病あるいは精神障害といったところで労災認定を受けた人が過去最高になっている。こうした中には、過労自殺者というんですか、こういう方も過去最高ということで、労働者の健康の問題というものは相変わらず深刻な状況にあるということは、恐らく皆様方同じ認識をお持ちかと思います。

 そういう中において、今回の百八十七号について、これは職業上の安全及び健康を促進するための枠組みに関する条約ということでございますが、珍しく我が国が他国に先駆けてこれを批准していこうということになっているわけでございます。

 まず冒頭に、今回、ほかの国が批准をしていない中、率先して我が国が締結を目指すその理由について外務大臣にお伺いをいたしたいと思います。

麻生国務大臣 これは笠先生御存じのように、この条約は、昨年に採択をされた条約ではありますけれども、この条約ができるに当たりましては、かなり日本は、最初からこの条約の枠組みづくりに日本が先頭を切って取り組んできた内容のものであります。したがって、そういった状況でありますので、これは、安全とか健康管理とかいうのが、昔と違って、意識が随分変わってきていると思いますね。

 私ども、石炭屋なんというのに長いことおりましたので、事故はつきものみたいな職場でしたから、石炭というところは。そういった意味では、事故とか災害というのは、自然災害を含めて、いろいろよく起きる仕事現場にいましたけれども、今はなかなかそういった鉱山の監督現場というようなものとは大分変わってきておりますし、町中の工場とか、いろいろな意味で一つ変わってきたのが、安全になってきたのが一つ。もう一つは、こちら側に、精神的なストレスなんというものからくるので、過剰労働とかいろいろな表現がありますけれども、そういったものを含めて、質が変わってきているんだと思います。

 そういった意味では、この種の意識のないところというのは、まだまだ世界じゅう幾つもあるような感じもいたしますので、その点は、日本の場合は、働く現場の環境が変わってきた、社会が変わってきた、これに伴って起きます病気とかけがの内容も、傷害の関係も、随分内容が変わってきていると思っておりますので、私どもとしては、こういったものはぜひ、こういった締結をして促進を促して、各国にこういった問題に関して意識をということが最初からこれに取り組んだ大きな背景であります。

笠委員 私ども民主党といたしましても、今回、率先して、今大臣がおっしゃったように、この条項について批准をしていくということについては、これはもう本当に大いに賛成をするところでございますけれども、まず、この百八十七号の内容に入ります前に、ただ本当に、この件に関してのみならず、労働者の諸問題、これを国際社会の中で、やはり共通の認識を持ちながら、国内においてもさまざまな課題にしっかりと取り組んでいかねばならないというのは、これは当然のことだと思っております。

 ILOについては、日本も、アメリカに次いで第二位の分担金を負担しておりますし、財政面では大きな貢献を果たしているのかなと。ただ、しかしながら、この事務局で働く日本人の職員は、千七百五十七名のうち三十七名ぐらいですか、こういうふうに少ない現状もあるわけで、今後、このILOの中で主導的な一定の役割というものを果たしていこうというのであれば、やはりこうしたことについても検討をしていくことを考えていかなければならないのではないかということも思っております。

 そして、何より問題なのは、このILO条約で示されているさまざまな国際労働基準の批准へ向けて、やはり我が国が積極的に、しっかりとまさに範を示し、取り組んでいく姿勢を見せていくということが大事だと思うんです。

 現在、ILOで採択されている百八十七の条約のうち、我が国が批准しているのは、今回のこの百八十七号が批准されれば四十八ということになるんだと思います。OECD諸国の平均批准数が七十二ということですから、かなりこれは少ないなという感じがするわけでございます。

 今後、ILOの活動に主体的に、そしてまた主導的な役割を果たしていこうとするのであれば、もう少しほかの、今批准をしていない中で、すべてとは言いません、これは国内法との関係、いろいろな問題があるものもたくさんありますし、これを全部批准することというのは私も無理だと思いますけれども、国内法整備を果たした上で、もう少し積極的に批准をしていってもいいのではないかと考えておりますけれども、その点についての大臣の今後へ向けた決意をお聞かせいただきたいと思います。

麻生国務大臣 今、御指摘になりましたように、百八十七あるんだと思いますが、今、四十七締結をいたしております。残り百四十ということになろうと思いますが、そのうちで、私どもの分析では、これはもう古くて今の時代には全然関係ないなというものがまず八十五。残り約五十五あるんだと思いますが、これは、今、笠先生御指摘になりましたように、国内法との関係で、法律の整合性というところがひっかかっている。だから、これは他省庁との関係もありますので、そこのところをきちんと整理しなくちゃいかぬところだと思っております。

 したがって、この問題は、我々としては、条約を締結した場合は、これは確実にそれを履行、施行せねばならぬということになろうと思いますので、その意味では、これは速やかに締結というものをした後は、うまくきちんと現実に実行せしめねばならぬというところの関係もありますので、他の法律との整合性というところがひっかかってずっと来ているものもありますが、いずれにいたしましても、そういったものを少しずつであろうとも確実にやっていかねばならぬものなのではないかと思っております。

笠委員 中でも、特に、労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言の四原則を構成しております八条約については、これは最優先でやはり検討して取り組んでいかなければならない、本来、批准すべき中核的条約と位置づけられているわけでございますけれども、我が国は、この中で二つ、百五号条約と百十一号条約について批准をしておりません。

 きょうお手元にお配りをしております資料の一をごらんいただきたいんですけれども、全加盟国百八十カ国の中で、百五号条約については現在百六十七国が批准をしており、十三カ国、このブルネイ以下ずっとここに書いておりますけれども、十三カ国が批准をしていない。G8の加盟国の中でもこれは日本だけでございます。また、第百十一号条約については、現在百六十五カ国が批准をしていて、十五カ国、米国と日本がG8の加盟国では批准をしていないということになっているわけでございます。

 この二つの中核的な条約については、さまざま国内法との関連でということは、これまでも委員会の中でも政府の答弁もございますけれども、先進国の中で日本がそろそろこれは乗り越えて、国内法の整備を行った上で、やはり批准へ向けてしっかりと努力をしていく、締結へ向けて努力をしていくという姿勢を見せるべきではないかと思うんですけれども、今後の取り組んでいくその姿勢あるいは見通しなどについて、外務大臣にお伺いをいたしたいと思います。

松島大臣政務官 今、もうこの二つの項目については笠委員の方が詳しく御存じだと思いますが、結論から申し上げますと、まさに先ほどおっしゃいましたように、国内法制との整合性について、やはり現状ではまだ検討すべき点が多い、ですから、その締結については慎重に検討していきたいということになってまいります。

 御存じのとおり、この百五号の方は、この条約で定めておりますのは同盟罷業、ストライキに参加したことに対する制裁としての強制労働を禁止している。これに対して日本の国内法では、国家公務員法その他、幾つかございますが、争議行為を共謀したり、あおったり、唆したりする者に対して懲役刑を規定している。懲役刑というのは強制労働を含むわけでございますから、そのように整合性がつけられていない。この法律の整備ということがございますので、慎重に検討する必要があると思っております。

 もう一つの方については、確かにおっしゃいますように、こうやって国の名前をずらっと並べていただきますと、ほかは途上国ばかりで、何で日本だけ先進国で入っていないのかということでございますけれども、これは締約国が、雇用及び職業につき人種、皮膚の色、性、つまり男女の違いですね、宗教、政治的見解、国民的出身または社会的出身に基づく差別をなくすために、具体的に法律その他をつくっていなきゃいけないというのが条約の中身であります。

 それに対して我が国の場合は、憲法で法の下の平等を定めております。上位規定の憲法で定めておりますが、個別の労働に関する法制の中では、例えば男女雇用機会均等法のようなものはあるけれども、ほかのすべてについて、採用や待遇の機会均等について具体的につくった法律がございません。憲法に定められていても具体的に法律がないと、日本の場合は条約を結ばないということに今のところなっておりますので、慎重に検討しながら結論を出していきたいと思っております。

笠委員 今御説明があったわけでございますけれども、私、当然先ほど大臣の答弁にもありましたように、このILOの中のいろいろな条約については、確かにその条約自体が今の時代に古くなっているもの、あるいは今の時代に合っていないものもあると思うんですね、日本が批准をしていない中で。

 ただ、一方で、やはり今、例えば百十一号のことをおっしゃいましたけれども、本来やはり憲法というのは我が国で最高の規範でございますから、それに基づいて、まさにこの憲法の規定に対してこの百十一号のこの考えというもの、差別をなくしていくということ、この点については、全くその理念というものは共通しているわけですよね。そのもとでの具体的な法整備ができていないということは、ある意味では私はこれは怠慢だったと思うんですよね。

 ですから、やはり日本として、我が国としてもそこのところを検討して、しっかりとこれから前向きに取り組んでいくんだというような決意をぜひ大臣にお示しいただければと思いますけれども、いかがでしょうか。

麻生国務大臣 笠先生、これはなかなか難しいところですよ。基本的には、ほかの法律との関係と法体系のあれがありますので、そこのところとの整合性を考えないと、条約と国内法とが乖離する、そういったことになりますと、条約は締結したけれども現実に国内では施行できないということになるケースがふえてきますので、そういったところは、やはりこれは私ども所管する国内法の法律は少し違いますので、他の省庁との連絡調整等々、きちんとした上でないとなかなかできないというのが現実問題だと存じます。

笠委員 私、確かにこの手の条約を批准するときに、このILOに限らずですけれども、どうしても他省庁との中での調整というものが、個別法になってくると出てくるわけですね。ここにまさに日本のやはり縦割り行政と言われる部分の、時間が非常にかかる、あるいは手間がかかっていく、あるいはなかなか責任体制という中で前へ進んでいかない、そういうものをすごく感じるわけですね。

 ですから、確かに時間はかかるし、丁寧に慎重にやらなければならないわけですけれども、やはりそこへ向けた環境整備を行っていくんだという、その一つの意思のもとに、まさに政治のリーダーシップでもって取り組んでいただきたい、そのことをお願いしておきたいと思います。

 そこで、今回のこの百八十七号条約について、私、ちょっと具体的にお伺いをさせていただきます。

 この条約の前文の中で、ディーセントワークという言葉があるわけです。これを今回「適切な仕事」というふうに訳されているわけでございますけれども、この意味についてどのように理解をされているのか。まず外務大臣にお伺いをいたしたいと思います。

麻生国務大臣 これは、新世紀、新しい二十一世紀におきますILOという組織の活動方向を示す概念として、新たに打ち出されたものであります。

 これは、訳には結構いろいろな悩みがありました。これは通常、普通の会話で、ヒー・イズ・ア・ディーセント・マンなんというと、あれは適切な男であるなんという表現が当たりますかね、あのやろう、適当なやろうだという話はありますけれども、適切なやつだなんという表現はなかなかありません。

 ディーセントライフとかいろいろ表現があるんですが、これは正直申し上げて、辞書を引きますとこういう言葉になりますので、あの電子辞書等々、いろいろやってみると大体この適切という言葉が出てくるので、いろいろ悩んだんですが、この報告で言う「適切な仕事」というのが、仕事における基本的な権利が保護され、十分な収入を生み出し、適切な社会的保護を伴い社会対話のある生産的な仕事を指し、かつ、すべての者が収入を得る機会を得るという意味で、仕事が十分にあることも意味する、これは文章を訳すとこういうことになりますので、それをどういう表現でディーセントという言葉を法文化するかというのは、いろいろ悩んで、これは大分いろいろ議論のあったところです。

 ちょっとしかるべき言葉がありませんので、これまたディーセントな仕事というのでやろうかという意見もありましたけれども、ディーセントというのは余り、今普通使われている日本語化した英語と少し、まだそこまでいっているような雰囲気ではありませんので、いろいろ悩んだ末、この「適切な」というのでやらせていただくということになったんですが、しかるべき訳、アイデアをお持ちでしたら、私どもとしては、ぜひ参考にさせていただければと存じます。

笠委員 今大臣の方からしかるべきということなので、私もちょっとこの後お話をさせていただきたいんです。

 今おっしゃったように、確かに、二十一世紀の戦略的な目標の中で、権利が保護され、十分な収入を生み、適切な社会保護が供与された生産的な仕事、これをどう一言でわかりやすく伝えるのかというようなことになると思うんですけれども、大臣、いい言葉があればこれは置きかえてもいいというふうに、ちょっと確認なんですけれども、そういうことでよろしいんでしょうか。今せっかく言っていただいたので。

麻生国務大臣 これは、一回法律が通った後、ちょっとおまえ、もっといいのがあったからこれに直せと。笠先生、それはなかなか簡単にはいきませんので、この法文の和訳だけは直せということになると、もう一回全部で討議をしていただくなりなんなり、かなりな作業が要ることになろうと存じます。

笠委員 私は、委員会で合意ができれば、これは、どちらかというと、どう訳すか、どう表現するかということなので、まだ法律は通っていないので十分可能かと思うんですけれども、物理的な、事務的な作業というのは発生するんでしょう。

 そこで、外務省が「適切な仕事」と訳した背景というか、外務省が訳したものを内閣法制局の方がそれで結構ですよということだと思うんですが、これは参考人の方で結構なんでございますけれども、辞書を引いたらやはり「適切な」ということだったので、「適切な仕事」ということで訳をされたんでしょうか、お伺いをいたしたいと思います。

大江政府参考人 我々が訳をつくる場合には、その文脈、それから趣旨、目的、そういうものに照らして、条約の正文テキストを誠実に解釈して、そのような解釈に基づいて、正文テキストの内容を可能な限り忠実に日本語訳に反映する、こういうことが一応原則でございます。そういう原則に基づいて、「適切な仕事」というふうに訳したわけでございます。

 なお、このディーセントワークという言葉ですけれども、これは、もともとは一九九九年のILOの事務局長報告で提示された概念なわけですけれども、その概念に照らしても、「適切な仕事」という訳は、この概念をあらわすのに適当なものであったというふうに考えております。

笠委員 ちょっとこの言葉にこだわらせていただきたいんですが、きょうは厚生労働副大臣にもお見えになっていただいております。これは議事にしっかり残したいので、きょうおいでいただいたわけですが、この「適切な仕事」とは具体的にどういうことなのか、どういう意味合いにおいて「適切な仕事」という言葉、この言葉の定義をわかりやすく答弁をいただければと思います。

武見副大臣 ただいま外務省の方からも御答弁があったように、そもそもILOの事務局長報告一九九九年の中で、ディーセントワークという言葉を使った一つの考え方が提示されたわけでございます。これを受けて、この正文をも含めて、翻訳について考え方が整理されたというふうに承っているわけであります。

 そこで、政府としては、「適切な仕事」というものは、第一に、働く機会があり、働きに応じた収入が得られること、第二に、働く上での権利が確保され、職場で発言が行いやすく、それが認められること、第三に、家族の生活が安定しており、自己の鍛錬もできること、第四に、公正な扱い、男女平等な扱いを受けることといった、人々が働きながら生活している間に抱く願望の集大成であると整理をしております。

 いわば「適切な仕事」というものは、雇用、労働に関する各種施策によって目指すべき仕事、そして、その働き方のあり方の総体を示すものとして考えているところでございます。

笠委員 私も、この一枚の、これは厚生労働省がつくられたペーパーかと思いますけれども、「ディーセント・ワークについて」という、これが政府内の統一見解かと思いますけれども、今お話があったように、「適切な仕事」と聞いただけでは、やはり今の副大臣のおっしゃったような意味合いがどうしても出てこないわけですね。私がちょっと解釈力が乏しいのかもしれませんけれども、「適切な仕事」と言われても、今おっしゃったようなことがどうなのかなと、つながってこない。

 ただ、それは、この条文の中で、なかなか今から「適切な仕事」という言葉を置きかえるのは難しいということでございましたけれども、私は、一つ大事なことは、はっきり言って、このディーセントワークというのは、私もそんなになじみのある言葉ではございませんし、まだ国民の中でもそんなに多くの方が知っているという言葉ではないと思っています。

 ですから、これから、こうした言葉がいろいろなところで、例えば政府の広報物であったり、あるいはいろいろな書籍等々の中で、文章の中で出てきて、ディーセントワークというものがすんなりと国民に受け入れられる言葉になったときに、それはどういうことなんだというようなことをしっかりとここで定義をしていくことと、今後、例えば、これは厚生労働大臣も、ちょうど平成十八年ですか、五月十一日に参議院の厚生委員会で、当時の川崎厚生労働大臣は、「人間らしい仕事のことであり、まず仕事があることが基本であるが、その仕事は、権利、社会保護、社会対話が確保され、自由と平等、働く人々の生活の安全保障のある仕事であるとされております。」と答弁され、今まさに武見副大臣がおっしゃったことを少し話し言葉にされておるのかなと認識しております。

 そして、先日、厚生労働委員会の中で、柳澤大臣が「人間たるにふさわしい仕事」とおっしゃったんですね。これは、まだ「適切な仕事」よりも、私、随分こちらの方がわかりやすいのかなと。

 ただ、もうちょっとわかりやすくした方がいいんじゃないかということで、例えば、人間らしい働きがいのある仕事というような形に言葉の意味というものを定義づけたらいかがかと思うんですけれども、先ほどの厚生労働省からいただきましたペーパーの中に、るる武見副大臣がおっしゃった説明の下に米印がついて、「「ディーセント・ワーク」とは、「社会的にも倫理的にも適切な仕事」という意味であるが、ここでは単に「適切な仕事」ということにする。」というふうになっているわけですね。

 この「社会的にも倫理的にも適切な仕事」というところを、ぜひ、人間らしい働きがいのある仕事、あるいは、そういったことをもう少し、そのままじゃなくてもいいんですけれども、何か工夫をされて、ぜひ今後の政府のいろいろ発行する刊行物等々の中で、やはりこれは米印は必要だと思うんですよ。ディーセントワーク、例えば括弧何々。

 ぜひそういう共通の見解を出していただき、何か役所ごとに、例えば外務省から出る文書あるいは書籍等々にはまた「適切な仕事」だけだったり、あるいは厚生労働省から出るものについては、今のような「社会的にも倫理的にも適切な仕事」とかではなくて、やはり共通のわかりやすい、置きかえられる言葉をぜひ検討していただきたいと思うんですが、いかがでしょうか。

麻生国務大臣 米印をくっつけて注釈をつける、括弧書きをつける等々、努力を各省いろいろ、役所によって多分表現の仕方が、労働省としてはこうとか、おっしゃるように、いろいろ表現が出てくる可能性はあるかなとは、この訳は本当に悩んだ訳でしたので、長い訳をつけるわけにいきませんものですから、なるべく短いものにというので、この種の表現に最終的に落ちついたんです。

 いずれにいたしましても、この定義が定着するまでの間、しかるべき、「適切な仕事」を注釈としてというようなことは、いろいろ各省でやってみなきゃいかぬところでしょうけれども、すべての文書に全部くっつけろと言われても、なかなかそうはいかないところもあろうかと思いますが、きちんとした、そういった誤解を生むというようなことのないように努力はしなきゃならぬと思います。

笠委員 ぜひ武見副大臣にも同じことをお伺いしたいんですが、そんなに別に、全員が集まってそのために会議してどうこうというほどの大げさな話ではないと思うので、もう少しわかりやすい、そしてその意味が伝わるような言葉をぜひ考えていただいて、少し関係省庁の中で、では、今後、ディーセントワークについて三行、四行説明するときは先ほどのILOの説明等々でいいんでしょうけれども、それを一言括弧であらわすときには、単なる「適切な仕事」ではなくて、本当に人間らしい働きがいのある仕事であるとか、柳澤大臣がおっしゃっている「人間たるにふさわしい仕事」とか、そういったことをベースにして御検討をいただきたいと思うんですが、厚生労働副大臣の方にもお伺いをしておきたいと思います。

武見副大臣 まず、「適切な仕事」というこの言葉、翻訳をしたその意味、目的は、まず第一に、条約の文言として正確にとらえることがあって、そして、その意味するところは、まずそれがセマンティックに、意味論的にどういう概念によって構成された言葉になるのかという点ではないかと思います。

 そういう点で、先ほど御答弁させていただいた概念構成、これがきちんと各関係省庁の間で共有されるということがまず第一に極めて重要であって、その一つの象徴的用語として「適切な仕事」という言葉が使われ、そして定着することが私はまず必要なことだろうというふうに思います。

 そしてその上で、これが幅広く国民に周知徹底して、その「適切な仕事」というまず基本的な概念がきちんと国民に理解していただく努力をすること。そしてその中で、御指摘のようなあいまいさがもし引き続き残るとしたら、そのときは改めて米印のようなわかりやすい説明の仕方をそこで再度工夫して考えるという検討の余地は私はあるだろうというふうに思います。

笠委員 ぜひ、外務大臣あるいは厚生労働副大臣の方にもそのことを要請しておきたいと思います。

 次に、ロンドン条約一九九六年議定書に話題をかえたいと思います。

 武見副大臣におかれましては、ありがとうございました。

 今回の一九九六年の議定書についてなんですけれども、我が国は、当然ながら、地球上の七〇%を海が占めておる、そういう中で、四方をまさに海に囲まれた日本として、海洋国家というものも昨今よく使われる言葉になり、まさに海洋国家であるべきであるということを標榜している中で、国際的な責任を果たすために、本来ならば各国にしっかりとこの議定書の締結を積極的に働きかけていくぐらいの立場だと思うんですけれども、本議定書の採択から国会提出まで十年間かかっているわけでございます。ちょっと長いなと私は思うんですが、この十年という月日を要した理由というものを簡潔にお答えいただければと思います。

麻生国務大臣 これは、笠先生、基本的には、この新しい海洋投棄ということに関しての禁止がされる廃棄物、いわゆる不発弾なんというのはよく例に引かれますけれども、不発弾などについては、まず陸上処分、海洋投棄の禁止というのをどうするかというのにかなり時間を要した一つの例です。

 そういった意味で、必要となった新しい許可制度を確立するために、これは、基本的には国際会議でかかるのに約四年かかっております。加えて、周知期間を最低三年を要する、それだけでもう既に七年を要しておるというのであって、これは、日本だけで十年かかったというわけではないという前提をぜひ御理解いただければと思っております。

 したがいまして、これまでこういった七年を経ました後、新しい議定書によって必要となる日本国内の体制というものの制度について、これはそれこそ、これを引き揚げたりするときの海上保安庁、また、いろいろな港湾等々、いろいろあるんですけれども、そういったものの関係いたします省庁と鋭意協議を行った結果、本議定書を締結する準備が整ったということでありまして、実質、国内でかかりましたのは約三年弱ぐらいだったと思いますので、その他はいわゆる国際的なところに七年を要したという点を御理解いただければと思います。

 ただ、これは関係するところが、日本に関しては、隣の国というだけじゃなくて、かなりあちこちから流れてくる分等々、いろいろありましたのがその背景と御理解いただければと存じます。

笠委員 今大臣が、陸上のこの不発弾等々の一例として陸上処分、こういったものについても言及があったわけですが、これについてはちょっと詳しく後ほどお伺いをいたしますけれども、果たして日本は、これまで海を大切にしていこう、海の環境というものをしっかり考えていこうという意思があったのかなと過去いろいろ調べてみますと、あるいは今の現状等々からすると、他の先進国に比べて、例えば環境の問題についての積極的な姿勢は、地球温暖化に対する対策を含めて一定の役割を果たしていると思うんですが、事こうした海に対するさまざまな環境保全という面では、ややというかかなり立ちおくれてきたんじゃないかなという感を私は持っております。

 一九九九年ですか、発表されております下水汚泥を海洋投棄している国は、まさに日本と韓国だけですね。産業廃棄物等の海洋投棄も、もちろんうそをついて正確な報告をしていない国もあるかもしれませんけれども、やはり日本が一番多かった。これは、非常に不名誉な多分歴史だと思うんですね。

 そうした中で、今回一九九六の議定書で海洋投棄を検討することができることになっている、例えば、まだ相変わらず投棄をすることができる建設汚泥とかあるいは赤泥、こういったものについても、やはり、少なくとも産業廃棄物の海洋投棄については、今後期限を定めて完全に禁止していくんだ。そして、その処理の仕方においては日本は高い技術を、いろいろと再利用、再生利用等々についても持っているわけですから、やはりそのことを目標を定めて、今後完全に禁止をしていくという方向性を打ち出していくべきだと私は考えておりますけれども、その点について環境省の方にお伺いいたしたいと思います。

北川(知)大臣政務官 笠委員御指摘のこの産業廃棄物等、そして建設汚泥、そして赤泥と下水汚泥の件でありますけれども、御指摘のとおり、お隣の韓国と日本、一九九九年においては、日本では四百八十一万トン、隣の韓国では六百四十三万トンのこういう海洋投棄があったわけでありますけれども、今御指摘の下水汚泥につきましては、御承知のとおり、この四月から投入禁止になっております。そして、建設汚泥及び赤泥につきましては、ロンドン条約九六年議定書において、不活性な地質学的無機物質に該当すると判断をされておりまして、海洋投入処分が検討できる物質として扱われているところであります。

 平成十六年に改正をされました海洋汚染防止法におきましても、廃棄物の海洋投入処分に当たっては、海洋投入処分以外に適切な処分の方法がないこと、すなわち海洋投入処分の削減努力が十分されていること、また、排出海域に与える環境影響の評価結果等に関する審査を行い、適切な場合に限り、環境大臣が許可を与える制度を新設して、この四月から施行をされているところであります。

 今後、我が国といたしましては、ロンドン条約九六年議定書にのっとり、廃棄物は陸上処理が原則と考えており、環境大臣による審査及び許可発給を厳格に行い、海洋投入処分量の削減に努めてまいりたいと考えております。

 なお、御指摘の赤泥につきましては、平成十五年四月のロンドン条約締約国会議におきまして、我が国は二〇一五年末までに海洋投入処分を中止すると表明しているところであります。

 以上であります。

笠委員 特に産廃、産業廃棄物等々は、不法投棄の問題も含めて、かなりこれは深刻な問題だと認識をしております。この議定書を批准しても確かに道は残るんですけれども、本当に環境立国として、これからまた地球環境の問題あるいは地球温暖化といった問題について、これは今の内閣も、しっかりとそのリーダーシップをとっていくんだということを総理もおっしゃっているわけですから、まずは自分たちができることをきちんと、これは他国よりも、他の先進国よりもむしろ今おくれているわけですね。ですから、その先を、少なくともこの海洋投棄について環境立国にふさわしい姿勢というものを示していただきたいと思います。

 そして、外務大臣にお伺いをしたいんですけれども、当然海というものは、日本だけで海の環境を守るということはできません。とりわけ中国、あるいはロシア、そして韓国あるいは台湾等々、近隣の諸国と共同して、北太平洋の地域の海洋汚染を防ぐ取り組みというものをしっかりと、監視体制等々も含めながら具体的な対策を講じていく必要があると考えておりますけれども、その点についての現状と、そして今後の、日本として、政府として考えている施策についてちょっとお話を伺いたいと思います。

麻生国務大臣 通称NOWPAP、ノースウエスト・パシフィック・アクション・プランだと思いますが、NOWPAPと称する国連の機構の中に、北西太平洋のいわゆる海行動計画というのがございます。これに入っております、いわゆる多国間レベルとか二国間レベルとかいろいろあるんですが、この汚染の防止に取り組んでおりまして、日本のほかに中国とかロシアとか韓国が既に参加をいたしております。

 具体的な取り組みとしては、その地域の油の流出、ナホトカ号の事件があったのは御存じのとおりなんで、そういった緊急時の計画案の策定とか、それから海洋の、御存じのように、漂着ごみというのが日本海沿岸に、これは非常に大きな問題になっておりますけれども、こういったものの取り組みがあっておりまして、今、名前を見ますと文字が違いますので、これはおたくのものでしょうといういろいろな判断のしようがありますけれども、これがまたインターナショナルになってきますと、出した人は本人じゃなくて、全然別の人が捨てているかもしれませんので、そういった意味で、これは調査をある程度協力してやらないとできませんし、そういった意味では、原因究明に努める等々、いろいろ多国間での計画等々が今、なかなか急には進む話ではありませんけれども、結構この問題は大きな問題になりつつあります。

 そういった意味では、渤海湾の話を含めていろいろございますので、そういったものが流れ流れて日本海側に上がってまいりますので、そういったことも考えて、我々としては、一国でとてもできるものではございません。多国間での取り組みというのを進めておるというのが現状でございます。

笠委員 とりわけ、中国については、やはり国内的にもまだそこあたりの取り組みというものは私はかなりおくれているように思うんですね。もう大量の、いろいろな形での、これは別に中国政府が認めてということじゃなくても、やはり海の汚染につながるような懸念がありますので、その辺についてもしっかりと監視体制というものをとっていくように、これは要請をしておきたいと思いますけれども、とりわけ中国に対して何か特に取り組んでいく、あるいはこの点について今後働きかけていく、そういうお考えがあればお願いをいたします。

麻生国務大臣 過日の李肇星外交部長の最後の訪日だったと記憶しますが、このときにこの問題は我々の方で提案をいたしております。二〇〇八年以降、いわゆる無償援助というか円借がなくなりますので、それ以後の日中の関係の中において、我々としては環境に対する支援というのをやる用意がある。

 ちなみに、渤海湾というところは、国連で、とれた魚は食べる魚ではないというような評価が何か、たしかことし初めだったかに出たと記憶しますので、渤海湾というところは、揚子江の河口でもありますが、かなり深刻なことになっているのではないか。そういった意味では、揚子江に流れ込んできているものというのは、これは上流まで上っていきますと何百キロということになろうと思いますが、そこに流れ込んでくる不法投棄等々、重金属を含めましていろいろなものが流れ込んできてああいう結果になる。真っ黒な形になっております。

 日本も昔、かつて東京湾というところは死の海みたいに言われたけれども、今ではいろいろな魚が泳ぐところまで回復させるということに成功した経験というものが我々にはあるので、そういったものはぜひ生かして使われるべきではないか、我々の経験こそそちらが使われるべきものなのではないのかという話もして、双方でこの話は正式に話を進めるべきだという話をしたというのを、私の一番最近の中国との直接の対話はこれですけれども、そういったことも今、昔と比べてかなり深刻に受けとめて聞く用意があるという感じが今の両国間におけます実態というように御理解いただければと存じます。

 ただ、これは、そこに流し込んでいる人たちをとめさせるためには、日本もかつて、いろいろな不法廃棄物といいますけれども、当時は当たり前に出たもので量も少なかったものですから、太平洋まで流れ込めば海が何とかしてくれるというのが、出す方が多くなり過ぎていますので、海の方もとてもそんなものまで面倒見切れぬということになってきているんだと思います。

 いずれにいたしましても、こういったものはきちんと人工的に化学的に対応できるというものもあろうと思いますので、そこらのところは、我々としてもその技術を提供する等々の話をやっていく必要があろうと存じます。

笠委員 ぜひその点については本当に取り組みを、とりわけ中国については、我々の生活も本当にかなり影響を受けることになりますので、よろしくお願いをいたしたいと思います。

 そして、今、この後不発弾のことをお伺いしたいんですが、まさに海に捨てれば何とかなるという、私、これは象徴的な例だと思うんですね。不発弾の処理というのは各国が抱えている問題なんですけれども、日本ぐらいですよね。今回、この四月から陸上での処分に限られる、海洋投棄というものができなくなったわけでございますけれども、本当に、アメリカですら一九七〇年にはやめているわけですね。ほかにないですよ、ほとんど、不発弾について海洋投棄をしてきた、しているというのは。そういう意味では、本当に何を考えているのかなというような気がいたすわけでございます。

 ことしの四月から不発弾の処理について海洋投棄ができなくなったわけでございますけれども、今後、きょうお手元にもお配りをさせていただいております資料でも、これまで相当なトン数が、不発弾について陸上処理でなく海洋投棄をされておりました。同じように、不用弾や不良弾、この資料は防衛省の方で用意していただいたんですが、若干ちょっと数字が違うのかなというところもあるんですが、きょうそのまま出しておりますけれども、この海洋投棄、これが全部できなくなる。これは大変なことだと思うんですね、今まで海に捨てることに頼ってきた。

 これからどうやってこれらの不発弾をまさに陸上処分していくのか。もう現在行われているのか、あるいは今後、いつからどういう形で行っていくのか、その点についてまずお伺いをいたしたいと思います。

木村副大臣 先生御指摘のように、改正海防法によってこの四月から海洋投棄ができなくなったわけでございまして、今、陸上処理を安全にしていくために、環境省を中心として関係省庁がどのようにしていくのか、その手順等々を検討しているところでございます。

 不発弾の処理というのは、先生御承知のように、現場で安全化措置、信管の除去等を行った上で、一時的に陸上自衛隊の弾薬支処等で保管をし、これまではそれを海上自衛隊へお願いして海洋投棄をしていたわけでありますけれども、それができなくなったということでございまして、民間に委託をして処理していただく、その安全をいかに確保していくかということで今検討を鋭意行っているところでございます。

笠委員 ちょっと確認をいたします。

 ことしの四月から不発弾の海洋投棄ができなくなるということはいつ決まったんでしょうか。

山崎政府参考人 これは、ロンドン条約の議定書に基づきまして、四月一日以降海洋投棄ができなくなるということで、関係省庁と処理体制を協議しました結果、四月一日以降、今副大臣の方から答弁申し上げたように、民間に委託をして陸上処理していく体制が決定したということでございます。

笠委員 いつ決まったのかと。要するに、ことしの四月から海洋投棄ができなくなることがいつ決まったのかということをお伺いしているんです。

山崎政府参考人 恐縮でございますが、調べて後でちょっと答弁させていただきたいと思います。

谷津政府参考人 お答え申し上げます。

 平成十六年に海洋汚染防止法が改正になりまして、施行令の改正が昨年十月に行われました。そこで決まっております。

笠委員 つまりは、もう平成十六年にはその方向性というものは決まっているわけですよね、これはできなくなるんだと。

 今の段階で、ことし、現にこの四月からもう海洋投棄ができなくなっているにもかかわらず、いつから陸上で処理をしていく、民間の業者を使って委託をしてこれからはやっていくんだと。一部自衛隊でも、訓練も含めて、やることはそのままのスキームで残るんでしょうけれども、それが今のこの時点で全くスケジュール等も明確になっていないということは、では、この間、何をやってきたのか。

 要するに、私は、これをお伺いしたら、関係省庁の連絡会議というものでいろいろと各省庁間の協議を進めているんですということをお伺いいたしました。この関係省庁の連絡会議というものが、具体的な、いろいろな取り組みの方法であるとか、あるいはスケジュールであるとか、そこあたりを調整していく場ということでよろしいのか、ちょっと確認をさせていただきたいと思います。

谷津政府参考人 先生御指摘の関係省庁会議でございます。正式名称は、ロンドン条約九六年議定書の締結のために必要となる不発弾の陸上処理に関する関係省庁連絡会議という名称でございます。

 目的でございますが……(笠委員「いいです、目的は。ここでいいのかということだけ教えてください」と呼ぶ)はい。この場で関係省庁がよく連絡をとって対処してまいります。

笠委員 今そういうお答えがあったんですけれども、これが去年の八月八日に設置をされて、そして、いただいた資料で、第一回目の会議、十七時五十分から十八時十分、二十分間だけやっているんですね。それ以降、一切開かれていない。事務的には、事務的なレベルで議論は調整しているという説明でしたけれども、まさに何をやっているのかということですよね。

 毎年毎年これだけ大量の、今まで海洋投棄していた不発弾、あるいは不用弾、不良弾も含むものですけれども、これだけのものが常に出てくるわけですよね。そうしたら当然、もうわかっていることなんだから、本来であれば、もうこの四月からしっかりと民間の業者も選定をされて、そして、その施設に送ってそれを処理していくということがもう行われているのが私は当たり前だと思うし、少なくとも、では、この夏ぐらいからは、七月ぐらいからは、今こういう計画で進めておりますので、だから、しっかりとこういうスケジュールのもとでやっていきますということがもう決まっていないとおかしいんじゃないですか。

 その点どうですか、防衛副大臣。

木村副大臣 これから民間の方でこのような不発弾の処理をするということは初めてでございますから、しっかりと安全面のことを確保していかなければならない。

 ただ、これから民間へ委託をいたしますにしましても、民間業者がしっかりと必要な施設等々の体制固めもしていただかなければならない。そして、その処理にも時間がかかるということでございますから、平成十九年度の不発弾につきましては、二十二年度以内に処理をしていくべく、今準備を進めているところでございます。その間は、しっかりとした管理のもとで自衛隊の弾薬支処等々で一時保管をしていくということで今進めているところでございます。

笠委員 今、民間に任せるということで安全性を確保していく、これで本当に安全性を確保できますか。私は、それで一点、あわせてお伺いしたいんですけれども、万が一事故が起こったときの責任省庁は、これはどこになるんでしょうか。そのことを明確にお答えいただきたいと思います。

木村副大臣 どのような形で事故が起きるのかということがわからない今の段階で責任の所在というのを明確にすることは大変困難でありますけれども、ただ、安全面の確保をしっかりするために、例えば、安全化措置をしたものでなければ民間委託をしないとか、また自衛隊の方で輸送や保管のためにこん包材を用意して、それを使っていただくとか、また技術的な知見を有する陸上自衛官が指導や監督をする、そんなことが必要ですよねということも含めて今検討を進めているところでございます。先生がおっしゃるとおりに、民間委託をしていくわけでありますから、しっかりと安全面を確保できるように、そのための今検討を進めているところでございます。

笠委員 ということは、このスキームが固まって、実際に、二十二年でしたね、平成二十二年からこの処理を、ことし、十九年度以降の分について、十九年、二十年、二十一年の分、三年間分は保管をしていく。そして、要するに、全部処理できないわけですよね。当然、保管が長くなっていくわけですよね。

 二十二年から民間に対して不発弾については全部任せていく、そういうことでよろしいわけですよね。

山崎政府参考人 陸上処理に当たる不発弾等につきましては、安全化措置を施した上に、年二回ぐらい、今年度から、民間業者の方に委託して保管をしていただくようにというふうに考えております。

笠委員 時間が迫ってまいりましたのでお伺いしますけれども、まず一点は、では、不発弾の処理が実際にこれから二十二年以降始まっていったときには、これは最終的な責任は防衛省のもとで行うということでよろしいでしょうか。

山崎政府参考人 これは、先ほど副大臣の方から答弁がありましたように、原因等についても一概に言えないものですから、基本的には、その時々によって、その状況に応じて判断をしていくものというふうに考えております。

笠委員 その時々の判断というのは、まさにこれは責任をどこも負わないということにも等しいわけです。

 要するに、いろいろな形でどう処理をするかとか、そういうことについては環境省のいろいろな話もあるでしょうけれども、どこの国だって不発弾、不用弾の処理はほとんどが国防省ですよ。そんな共管事業にしているような国はありません。ですから、この処理が始まれば、当然これはその安全性の確保も含めてやはり自衛隊の協力ということも必要になってくるわけですから、やはりそこは防衛省であるということをぜひ明確にしていただきたいと思います。

 それからもう一点、民間業者へこれから委託するということでございましたが、恐らく、現在もう既に不用弾の処理を行っている民間企業が十三社、過去五年の実績でございます。ある意味では、特殊な技術やそれだけの施設をつくる力がなければ、これは普通の企業ができることではございません。専門的な技術力を持ったところじゃないといけないわけですが、ある程度限られた、その対象となる社が出てくると思うんです。

 これは明確にお答えいただきたいんですけれども、私もきのう資料をいただきまして、防衛省の方から天下っていたりというような会社も結構ございます。ですから、今後の事業の会社の、一年ごとの契約になると思いますけれども、ぜひ選定についてはいろいろと厳しい目で、防衛施設庁の問題もございました、天下りをしているようなところ、そういうところには発注をしない、そして、随意契約ではなく、当然ながら一般競争入札で行うというようなことで考えられているのかどうか、その点を確認させていただきたいと思います。

山崎政府参考人 不発弾の陸上処理を委託する民間業者を決定する方法につきましては、当然のことながら、まず競争入札を原則として、安全性の確保等も踏まえて決定をしていきたいというふうに考えております。

笠委員 時間が参りましたので終わらせていただきますが、こういう非常に狭い世界というか、割と閉鎖されたあれなので、今現在引き受けている業者等々はこの後私も調べさせていただきたいと思いますので、その透明性と国民に理解を得るようなしっかりとした手続をぜひお願い申し上げたいと思います。

 どうもありがとうございました。

山口委員長 次に、原口一博君。

原口委員 民主党の原口一博でございます。

 二条約そして外交上の課題について、外務大臣を中心にお伺いしていきたいと思います。

 まず、職業安全衛生枠組み条約でございますが、労働安全衛生というものは、ILOの中でも特に重要な分野であり、働く人たちの権利、これを保障する上で大きな課題を含んだものであるというふうに思います。

 その中で、これは指摘だけにとどめますが、今回枠組み条約がこういう形になって採択をされて、我が国がその先頭に立って、途上国についてもしっかりと締結されていくように、そういう役割を、特にODAを積極的に活用して途上国における労働安全衛生の向上に積極的に協力していく、こういう姿勢が必要であるというふうに思います。

 私、民主党で規制改革の座長を長くやらせていただきましたが、もともと規制というものは労働者のためにある。十八世紀に出てきたこの規制の概念というのは、事後的に、働く人たちを後から救済するのであれば、社会が複雑になり、産業が高度化してその被害を救済し切れない、ここから規制の概念というものが生まれてきました。健全な市場は、働く人たちの労働安全衛生がきっちり保障されている市場である、このことを指摘しておきたいと思います。

 そして、なおそこで、国内法の整備をしていく上でぜひ二つ指摘をしておきたいのは、一つは、機械は壊れ、そして人間は過ちを犯す、そういう存在であるということであります。ヒューマンエラーというものに対して、国がしっかりとした研究、そしてきっちりした認識の上に立った労働安全衛生というものをやっていかなければいけない、このことを指摘しておきたいと思います。

 もう一つは、先刻、安倍総理とも予算委員会で議論をさせていただきましたが、各国、労働教育というものに大変先進国は力を入れています。なぜ労働教育に力を入れるかというと、そもそも、労働者の権利を学ぶことがなければ、自分の権利が侵害されていることさえ労働者にはわからないからであります。働く人の権利を守る、保障するというのはすべての政治の職につく者の務めであるということを指摘しておきたいというふうに思います。

 特に、この条約の中でも、特定危害からの保護、これは一九六〇年の百十五号、放射線防護条約、放射性物質を取り扱う労働者の保護を目的とする、この放射線の問題についても後で少し議論をしておきたいというふうに思います。

 また、先ほど御議論がありましたけれども、労働者の健康と安全に対する使用者責任を果たさせ、快適な職場づくりを進め、労使対等の安全衛生対策の推進、労働者参加による安全衛生対策を強化していく、こういうことを政府は、本条約の実施のため、職場での安全衛生管理体制の確立を一層具体化されるように、このことを求めておきたいというふうに思います。

 また、アスベストや職業の最低年齢条約など、採択から批准まで二十年とか三十年を要したものもございます。時期を逸することなく条約を締結する必要があるということも、あわせて申し上げておきたいと思います。

 さて、もう一つの条約については後で議論をするとして、国政の課題について少し麻生大臣と基本的な議論を交わしてまいりたいと思います。

 先週、お隣の答弁席に座らせていただいて大変光栄でございました、いろいろな御指導をいただいて。久間大臣やいろいろな方についても、麻生大臣なりの御示唆をいただいたことをこの場をかりてお礼申し上げたいと思います。

 ただ、そこで、やはり私たちは、イラク特措法を議論する中でも、世論が振れるからな、ある一方向に日本の世論が一気に振れる、そういう危険性についてもお話をさせていただきました。

 まず、麻生大臣の歴史認識について伺いたいと思います。

 私は、二年前に、読売新聞の渡辺恒雄さんが主催をされた検証・戦争責任というセミナーにパネリストとして参加させていただいて、なぜあの戦争に突入し、無謀な戦争と言う人がいますけれども、国民がファシズムのような方向に流れていってしまうような状況に対して抗し切れず、結果、三年八カ月、亡国の危機を迎えるまでに至ったのか、なぜなのかということをずっと議論してきました。

 麻生大臣の御所見をまず伺いたい。なぜあのような戦争に突入してしまったのか、そしてなぜそれをやめることができなかったのか、大臣のお口から伺いたいと思います。

麻生国務大臣 満州事変から日支事変にかけて、続いて大東亜戦争、終わった後、太平洋戦争という名前になっておりますけれども、ここに、戦線が拡大していった背景というものに関しましては、これは実にさまざまな議論があるんだと存じますので、原口先生、ここで、この外務委員会で外務大臣として見解を述べるというのはなかなか難しいところだと思いますが、これに関して言わせていただければ、さきの村山談話でしたか、それからもう一回は小泉総理の談話の二つが政府の公式見解ということになろうと存じます。

 ただ、この種の戦争に突入していく背景の中にあって、憲法上の不備があった点はそれは幾つかいろいろ指摘されているところでもあろうとは思いますが、やはり軍をとめ切らなかった政治家の責任は大きかったろう、私は基本的にそう思います。

原口委員 私も同じ認識を持っています。

 帝国議会の議事録に当たりましたけれども、軍が何を外でやっているのか、それから、多くの御前会議に出てくる資料が両論併記でございましたが、まさに統治の危機といったものを議会制民主主義がカバーできなかった、むしろ引きずられていったという、今大臣がお話のところが大きなポイントなのかなと思います。

 昭和十二年に、文部省は「国体の本義」という本を出しています。かなりいい本なんですが、この「国体の本義」には、当時台頭してくるナチス・ドイツ、ファシズムが記述されています。ヨーロッパの近代化に伴ってそういう全体主義が出てきた、ある意味では精神の行き着くところ、荒廃という言葉ではございませんでしたけれども、大変大きな警鐘を鳴らしています。しかし、そのことを文部省が発表した昭和十二年のすぐ直後に、我が国は日独伊三国同盟を結んで、結局、そのファシストと手を組んでいくということがあったわけでございます。

 なぜこういうことを外相にお話しするかというと、参議院選挙を控えて、私たちは、いわゆる民主的な統制、それから憲法にどう向き合えばいいか、このことについて共通の認識を議論しておきたかったからでございます。

 憲法改正をめぐる議論についても、今回の参議院選挙で憲法改正をいわゆる争点にすべきだ、こういう意見もございますが、麻生外務大臣の基本的な現在の御認識を伺いたい。これは国務大臣としてでも結構でございます。

    〔委員長退席、やまぎわ委員長代理着席〕

麻生国務大臣 何を論点としようと思っても、国民の方の意識は、憲法改正を論点にしようとしているのか、経済格差もしくは地域格差を論点にしようとしているのか、もしくはといって、国民の受けとめ方によって、幾ら政党同士がそれを言っても、現場というか有権者の方の反応というのは違ってそれが論点にならなかったというのは、これまで数々あります。これをしたいと思っていても、なかなかならなかったということになるのが現実の選挙というものだ、これまでの経験からそう思いますので、なかなか今、そういった問題がなり得るであろうかというのは、今から二カ月の間に、正直申し上げて予測はちょっと立ちにくいと存じます。

原口委員 大変興味深い御答弁だと思います。やはり選挙の主役は国民ですから、国民の側がどうお考えになるか、これから二カ月後、どのように展開していくか、私たちもよくわからない状況でございます。

 そこで、憲法改正をめぐる議論に関連して、いわゆる解釈改憲の是非について伺いたいと思います。

 私たちもいろいろなところへ行く、特にアメリカの友人たちと話すと、憲法の集団的自衛権云々、これを考えるのは日本人の、日本の国の主体的な判断であると言いながら、一部の古くからの友人には、こういう議論をする人もいます。集団的自衛権というのはすべての国に認められた自衛権だから、これを行使できる方が自国に対する脅威あいは同盟国に対する脅威が減るのか、それを行使できない方がふえるのか、そういう現実的なところから発想して集団的自衛権の問題というのは議論をしなければいけないんじゃないか。アメリカの友人らしい、非常にプラグマティックな議論をする人が一方にいる。

 もう一つは、そういうプラグマティックな立場に立てば、何も憲法を変えてどうこうするということよりも、解釈改憲で早急な危機に対応できるようにしておく方が国民、国家のためではないかという議論も一方で成り立つでしょう。

 もう一つは、やはり国是である平和憲法九条、この九条のもとでいうと、それを拡大解釈していくことは、先ほど申し上げたように、ある意味では、非常に流されやすい世論ということから、そういうものがあった、一義的にそういう体質を私たちがもし持っているとしたら、そこは非常に慎重に行くべきだ、こういういろいろな議論があると思います。

 麻生大臣はどのようなスタンスにお立ちになりますか。解釈改憲というものも辞さずというお立場でしょうか、それとも、やはり憲法を変えて、本当に集団的自衛権が必要であればそこは明記をすべきだというお立場でしょうか。今研究中だというのはわかっておりますので、よろしくお願いします。

麻生国務大臣 この憲法改正という問題に関しましては、敗戦後六十年、特にこのところでいきますと、国民投票法という法律に関連いたしましてさまざまな場でこれは今論議が行われておりますので、引き続き行われていくことになろうと思いますが、今御指摘のありましたいわゆる解釈改憲というものに関しましては、これは具体的な例というのを引かないとなかなか是非についてコメントはできにくいというか、するのは適当でないと思いますが、意識の変化というのはやはり大きかったと思いますね。

 少なくとも、今のような論議が二十年前にできたかといえば、かなり難しかったと存じます。それが今、このような話になってきた。昔はこのような話を言うだけで、大体、麻生太郎は右翼といってやられたものですけれども、最近は穏健・中道派ぐらいに格下げになったような感じか、格上げになったかはわかりませんけれども、そういうぐあいになってきたのが昨今の情勢のように思います。世論が物すごく変化しているんだと思います。

 特に、原口先生、私は日本海側にいますからわかるんですけれども、日本海側の方が顕著に変わったのは、一九九八年の八月三十一日の例の騒ぎ、ノドンに続きましたテポドンの第一の騒ぎ、あれ以後の大きな変化かな、私ら、日本海側に住んでいる有権者を抱えております方からいくと、そんな感じがしております。

 したがいまして、これは、ちょっと今の解釈改憲がいいのかどちらがいいのかというのは、少なくとも、憲法を守って国が滅ぶというわけにいきませんので、国を守るために憲法があるのであって、この憲法を守って国が滅ぶというのはちょっと順番が逆のような感じがするのは多分同じだと思いますので、今置かれております状況というのは、少なくとも、あり得べき将来を見通してきちんとしたものにしておくというのが私ども政治家としての務めなんだと存じます。

 その前提に立って考えますときに、今、緊急状態の状況が、ちょっと多分、あの一連の核実験等々の騒ぎからかなりわっとなってきているという意識は多くの国民が持っておられるように感じますので、この問題に関しては、時間的なものとかいうものもいろいろ考えて議論がされないかぬのかなという感じが率直な実感です。

原口委員 麻生大臣がおっしゃるように、私も、二年前の本会議でしたか、ちょうど湾岸戦争時の小泉総理の国会演説を引いて、冒頭、どなたの意見とは言わず演説をいたしました。そうしたら、私が言っていると勘違いをされた与党席から、おまえはいつから社会党になったんだ、引っ込めという大きなやじが来ました。それは私の発言ではなくて、小泉総理が湾岸戦争時に、日本の若者を中東に派遣して、そんなことをする必要は全くないということをおっしゃったという、本会議での発言でございました。

 ですから、あのとき、私は非常に麻生大臣と同じことを、それがいいとか悪いとか言っているのではなくて、感じました。十数年しかたっていないけれども、これほど大きく変わるのかと。これほど大きく変わるとすれば、やはりその変わることも見越して、その手前で、ここから先はやらないぞというしっかりとした冷静な議論を平時において積み重ねておくことが必要なのではないかというふうに強く感じるわけでございます。

 さてそこで、核の問題、先ほどの放射線防護条約を引いて核の問題について少し議論を進めていきたいと思います。

 私は、現在、NPT体制というのは大きく三つの点で挑戦を受けているというふうに感じています。

 一つは法令遵守の問題で、NPTに参加している、あるいは一度参加しながら法遵守を行わない国にどのように対応していくか、こういういわゆる法遵守への挑戦。それからもう一つは、NPTの抜け穴を使って、ウランを使ったりプルトニウムを使用したりして、平和利用のためといいながら実際は軍事転用を図っているのではないか、こういう抜け穴に対する挑戦。それからもう一つは、これもさんざん議論をさせていただきましたが、非対称性の脅威の存在。そもそも、こういう核関連物質がテロリストに渡って、放射性物質を使い、大規模な被害をもたらす危険性。この三つの挑戦から、私たちの核廃絶、核軍縮体制を守っていかなきゃいかぬ、このように認識をしておりますが、麻生大臣の基本認識を伺いたいと思います。

麻生国務大臣 基本的には、今、認識は共有されていると思います。もう少し分け方はいろいろあろうかと思いますけれども、今大きく分けてその三つは、系列的には、分け方としては間違っていないと存じます。

原口委員 ダーティーボムまで含めると、それこそ三万発、四万発と言われている世界の核、これがテロリストに渡っていず、テロリストがそれをテロに使っていない現状の方がむしろ希有なことである、そう言う評論家さえいるぐらいですから、私たちは一刻も早く核軍縮、核廃絶を行う、このことがとても大事じゃないか。

 長期的にも短期的にも抜け穴をふさぐことが重要で、核燃料が安定的に供給できるシステムを一方で構築しながら、原発のための燃料にアクセスできることになりますから、そのためにその国々がいわゆる機微な技術を使わずにアクセスできる多国的な保障の枠組み、これをつくる必要がある。また、世界的な核廃絶、核の傘ではなくて非核の傘を実現して、核物質、放射性物質であれテロリストがアクセスしにくくすること、これがとても大切であるというふうに思います。

 そこで、きょうこの委員会で二つ明らかにしておきたいことがございます。

 一つは、隠された被曝者とも言える存在でございます。ようやっと今、アメリカのさまざまな文書が出てまいりました。第五福竜丸事件、これは私どもがまだ生まれる前に起きたビキニでの水爆実験における被曝でございますが、これは、まだアメリカ政府は公式には、これがいわゆる核実験の影響であるということを当初認めてはいませんでした。大気中の核実験は多くの被曝者を生みました。その後、地下核実験が主になってからも、核実験の影響は高度の軍事上の機密でもありますことから、ほとんど明らかにされていません。昨年、北朝鮮が核実験を行ったと言われていますけれども、地下核実験の影響について、これは核汚染を凝集させ、被害を拡大させているんではないか、こう言う専門家さえいるところでございます。

 先ほど申し上げましたロンゲラップ島の水爆実験など、被曝の事実そのものが隠されていて、そして、私たちはその隠された被曝者の存在についてきっちり明らかにする必要があるんではないか、このように考えておりますが、麻生大臣の御所見を伺いたいと思います。

    〔やまぎわ委員長代理退席、山中委員長代理着席〕

麻生国務大臣 これは、我々は被爆国と言うと唯一の被爆国とすぐ皆言うものなんですが、例のチェルノブイリというのがありますので、今ではウクライナも独立しておりますので、ウクライナも被曝国ということになろうかと存じます。

 その意味では、このウクライナの話に限らず、これはコントロール、管理がかなりずさんだったために、もしくは技術がそれほど進歩していなかったために、もしくはその種に対する危機管理能力が十分でなかったために、いろいろな理由があろうかと存じますが、いずれにいたしましても、そういった被曝の実態というのは、我々の知らないところでもある。

 きのう結構BBC等々で話題になっておりましたロシアのポロニウム210の件も、あれも一種の、ラジウムというか、いわゆる核を使った一種の毒薬というのが正確だと思いますが、そちらを使っての殺人ということになろうと思いますし、そういったものが持ち歩かれるというような状態というのは、これは明らかに、我々としては危機を感じない方がおかしいのであって、そういった意味では、きのうイギリスの外務大臣とその話をしたばかりでありますけれども、こういった実態というのはもっときちんと明らかになってしかるべきだと存じます。

原口委員 アメリカでも、アーカイビスト、あるいは被曝の事実をしっかり明らかにしようという動きが出てまいりました。

 例えば、ネバダの核実験場の風下にある州、その人たちを名誉ある風下の人々と言うそうでございますが、そこにおける核実験の影響というものも、米国自身によって検証されてきつつあるというふうに思っています。核実験はそれが行われた地域、自国であれば自国の国民にも大きな被害をもたらすことを世界はもっと真摯に議論すべきだというふうに思います。

 もう一つ明らかにしなければならないのは、核兵器の脅威についての認識であります。

 私も、数次にわたる被爆者訴訟を被害者の皆さん、被爆者の皆さんとつぶさに検証してまいりましたけれども、検証すればするほど、やはり隠された事実に突き当たります。私たちが今放射線の安全基準と言っているものも、どのようにしてできたのか、そのことを考えると、私は果たして今のままの枠組みでいいんだろうかという疑問を非常に強くいたしました。

 これは事務方で結構ですから、ABCCができた経緯について、まずお尋ねをしたいと思います。

宮坂政府参考人 お答え申し上げます。

 ABCC、原爆傷害調査委員会は、広島、長崎の原爆放射線被曝者におきます放射線の医学的、生物学的晩発影響の長期的調査を行うことを目的といたしまして、一九四七年に米国学士院により設立をされたところであります。

 一九四八年、次の年でございますが、厚生省の国立予防衛生研究所は正式にこのABCCの調査プログラムに参加をいたしまして、共同で調査研究活動を実施しているところであります。

 さらに、一九五五年から、国勢調査時に行われました原爆被爆者調査から得られた資料をもとに、基本的な調査集団を設定いたしまして、原爆被爆者の健康に関する追跡調査を行ってきたところでございます。

 以上であります。

原口委員 そうなんですね。このABCCは原爆投下時の一九四五年から企画をされ、そして今御答弁にあったように、四七年、広島ABCCが設立されて、そして、二十八万四千人の広島、長崎におられた方、これは一九五〇年の国勢調査に基づいて成人健康調査を行って、十九万五千人に面接調査をし、その後、二年に一遍の疫学調査、それから被爆地点、爆心地方向に対する向きとか遮へい物の有無とかいうものを、ID番号をつけて三年に一回、亡くなった原因の報告が厚生省から出ているというふうに存じています。

 これだけ膨大な調査はほかに例がなく、現在の国際的放射線の安全基準はこの調査を基準にしている。つまり、ICRPの基準が原発の放射線の安全基準になっている、このように考えますが、この理解でよろしいでしょうか。

宮坂政府参考人 お答え申し上げます。

 先生おっしゃっておりますのは、長崎と広島に投下されました原子爆弾の放射線量を評価する方式というのが、DS86というのがございます。これは日米の共同研究によって開発をされたものでございますが、御指摘のとおり、このDS86につきましては、世界の放射線防護の基準を勧告いたしておりますICRPに用いられるなど、科学的に信頼性の高いものとされているところであります。

 以上であります。

原口委員 いや、DS86に行く、その手前がありますよね。DS86は、86という数字が示すように一九八六年に、それまでの影響調査ではいわゆるネグレクトされてきた、カウントされてこなかったものを新たに足してDS86になっているので、ABCCができてそのままDS86ができたわけではない。何となれば、ABCCができたのは四七年、DS86は八六年にできている。その手前があるでしょう。

宮坂政府参考人 失礼いたしました。

 おっしゃるとおり、まず最初に、今のDS86の前に、先生御指摘のように、広島、長崎の被爆の資料、それから一九五〇年代のネバダの核実験等の線量測定の研究成果をもとにいたしました空中放射線量としてT65Dというのが用いられたところでございますが、これについて再評価が行われて、DS86になったというものであります。

原口委員 どういう再評価が行われましたか。

宮坂政府参考人 ちょっと専門的になりますが、実はT65Dができた後に、一九七六年に原爆からの放射線エネルギースペクトルについて計算をした結果、中性子の線量、放射線の一種でございますが、中性子の線量がT65Dに比べてかなり低いんではないかというような指摘、それから、そういう指摘のほかに、新たなコンピューター等々が開発をされましたので、新しい線量計算というものがいろいろ行われまして、それでこのT65Dを見直してDS86にしようということで、日米の共同研究がなされたというふうに理解しております。

原口委員 私は、麻生外務大臣、このABCCができた経緯も、当時はやはりよくわからなかったんです。ところが、ABCCの中の内部資料も出てきて、結果、これは極端な物言いをすることを極力避けますが、原爆を落とした人たちがその原爆の影響をできるだけ小さく世間に見せたいという意図がやはりいろいろなところに感じられる、そういう資料が今私たちの手元に届くようになってきました。このことが大きいんですよ。つまり、先ほどT65DからDS86に変更させた理由、それでT65Dではなかったものが、要するに基準が上がったわけです。

 ただ、私は、これでも不十分ではないんだろうかと強く思っているわけです。それは、先ほど麻生大臣がくしくもおっしゃった内部被曝の問題。地上六百メーターで原子力爆弾を爆発させているから、放射性物質はそのまま空中へ舞って、直接的な放射性物質の影響というのは過少に見積もられているんではないだろうか、私はそう感じざるを得ない。その後に入った人たち、例えば呉から広島に入った兵隊さんたち、死の灰を浴び、黒い雨を身に受け、そしてその黒い雨を、水を飲んだ人たち、その人たちのいわゆる内部被曝についてはほとんどネグレクトしてきているんじゃないか、私はそのことを強く疑っている者の一人であります。残留放射能と内部被曝について、殊さらそこを、この間の被爆者訴訟、原爆訴訟裁判の経緯を見ても、明らかにその影響はないという大きな力によってねじ曲げられてきたんではないか。

 これは厚生省に伺いますが、今の政府は低線量を理由に被爆者認定を拒んでいます。低線量、つまり放射線の量が少ないというだけで被曝の被害というのは本当に出ないんだろうか。本当なんだろうか。徹底した解明が必要ではないか。四つの被爆者側が勝利した訴訟から学ぶことは、閾値からは判断しない、閾値が低いからということで判断しない、その人の疾病の状態で総合的に判断する、こういう教訓ではなかったかというふうに思います。

 私は、爆心地に入っても何時間いても被曝をしていないという論理は、それそのものがおかしいんじゃないか。例えば、八時間たった後に〇・一ミリのほこりを皮膚に浴びて、一カ月たてばそれはもう四グレイとなる。たとえ低線量であっても、特定の臓器が集中的に放射能の影響を受ければ、そのこと自体大変大きな影響を与えるんではないか。死の灰や黒い雨を浴びた人までどうして被曝していないと言えるのか、納得のいくデータは出てきていないというふうに思います。

 現に、これは一九九七年の欧州議会、ストラスブール決議を受けて設立された放射線リスク欧州委員会、ECRRは、一九八九年までの核実験や原子力利用と事故がもたらした放射能汚染は、六千五百万人もの死亡原因となっているとの報告書を出しています。いわゆる、先ほどもおっしゃいました、現在、法的に制定されている放射線防護委員会、ICRPのリスクモデルが本当に正しいんだろうか、内部被曝や残留放射能の影響をネグレクトして、そしてそれで放射線の安全基準をつくるということが本当に合理的なんだろうか。検証を試みる必要があるんではないかと思いますが、厚生労働省、いかがでしょうか。

宮坂政府参考人 お答え申し上げます。

 原爆症の認定訴訟についてでございますが、そもそも原爆症の認定につきましては、原爆者援護法に基づきまして、一定の、有識者らが集まった会議の意見を踏まえて厚生労働大臣が認定をするということになっております。その審査会におきましては、審査の方針というものを設けておりまして、原爆症かどうかということの判定というのは、まさに放射線と当該疾病の関係に関する科学的な知見、これに基づいて行われているわけでございまして、まさにその点が訴訟でいろいろと争われているところでございます。

 我々といたしましては、今持ち得る最高の知見というものを用いてこの審査の方針というものができているという理解のもとに、従来の一審判決でございますが、これにつきましては、医学、放射線医学の上での一般的な理解と異なるということから、それぞれ控訴をいたしまして、上級審の判断を仰いでいるという状況であります。

原口委員 官僚の方ですから、そういう官僚答弁をするのは当たり前かもわからないけれども、しかし、私はそれで本当にいいんだろうかということを、ぜひ、きょうは厚生関係の政治家を呼んでいません。ここにいらっしゃる政治家の皆さんと情報を共有して、実際に今、科学的知見とおっしゃいますが、65をつくったときも86をつくったときも、それこそ一九六五年の長崎のある学者の二十数例のものをもってして、そして内部被曝はないと結論づけているんじゃないですか。

 私は、そのことが、これほど情報が開示されてきた、アメリカの中でも原子力安全委員会の中でさまざまな検証がチャレンジされているときに、同じようなことをやっていていいんですか。もう戦争から、あの被爆から六十一年がたって、今なおその人たちは苦しんでいる。いや、今なお苦しんでいるだけではなくて、先ほどこの条約に絡んで放射線防護の条約の話をしましたけれども、放射線の安全基準そのものが、日本の被爆のこのデータなんですよ。

 そのデータのとり方がゆがんでいれば、今なお医療機関や、私たちも毎週九州に帰るのに飛行機に乗ります、麻生大臣とも何回も御一緒しました、そこで必ず空港の係の方が来ていただいて、一回一回レントゲンを通りますね。そういうものだって、基準が違っていれば、データのとり方が違えば、今は安全だと言われているものも本当に大丈夫だったかと。先ほど私が御紹介申し上げたように、実際に二〇〇三年のリスク欧州委員会では、ICRPの基準はリスク管理としては不十分である、こういうことを言っているわけじゃないでしょうか。

 虚心坦懐に、新たなデータを集めて検証するというおつもりはありませんか。もう一回お尋ねを申し上げたいと思います。

宮坂政府参考人 先ほども申し上げましたが、審査の方針というものに基づきまして、科学的な知見の集大成としての審査の方針というものに基づいて認定行為を行っているわけでございます。ただ、この審査の方針も、新たな知見が得られれば、随時それを変えていくという一項が入ってございます。

 我々といたしましても、今回の地裁の判決、幾つか出ました。そこで、このような判決が出ておりますということをまた審査会に御報告もいたしました。その中で、今この審査の方針を変えるだけのまだ新たな知見はないというようなお話を承っている状況であります。

 以上であります。

原口委員 私は、政府が積極的にそういう情報を集めて、新たな基準づくりをやろうとしているとはとても思えないから、立法府の中で指摘をしている。そのことだけ申し上げて、次の課題について、核の問題についてさらに議論を進めたいと思います。

 よく、核兵器を保有したものの、その後核廃絶を行った国はない、一回核保有してしまえばそれで終わりだという議論がありますが、これは全く間違った議論だと思います。いかがですか。

松島大臣政務官 委員のおっしゃるとおりでございまして、幾つかのその後廃絶の例がございます。

 一点目といたしまして、旧ソ連の戦略核兵器が配備されていました三カ国、ウクライナ、カザフスタン、ベラルーシであります。これらの三カ国は、ソ連の崩壊後、領域内のすべての核兵器を撤去し、それぞれ九五年から九六年にかけてロシアへ核弾頭を移送しました。また、九三年から九四年にかけまして、NPT体制に非核兵器国として入っております。このことについては、当事者でありますウクライナ、カザフスタン、ベラルーシ、それにロシアとアメリカを加えての五カ国で協議して合意したことに基づくものでございます。これが一つ目の例です。

 二つ目の例としては、南アフリカ共和国の例が挙げられます。南アフリカ共和国は、一たん核兵器を開発したというふうに発表もいたしました。その後、一九九三年に、当時のデクラーク大統領が核兵器計画の廃棄を宣言しております。そしてまた、IAEAに一九九一年に入りまして、IAEAの査察を受けて、IAEAも、九三年のデクラーク大統領の宣言時点におきましては南アフリカ共和国に軍事転用されていることはないということを査察によって検証しております。

 さらに、三点目としましては、これは完全な核廃絶ではございませんが、イギリスにおきましても、昨年十二月、潜水艦発射型ミサイル・トライデントを含む核抑止施設は維持する、しかしその一方で、運用可能な核弾頭の数についてはおよそ二割減らすということを決定しております。

 このように幾つも例がございます。

原口委員 御答弁ありがとうございました。

 今政務官が御答弁なさったように、たくさんの核廃絶事案があるわけで、イギリスについても、トライデントプラウシェアといって、いわゆる国民の皆さんが核のない平和な安全な状況の中で生きる権利ということをめぐって、大きな世界的な行動にまで広がっている、このように認識をしています。ですから、我が国は、核の傘を議論するのではなくて、非核の傘を広げる努力をすべきであると強く指摘しておきたいと思います。

 そこで、一つお尋ねをしたいのは、民生用の原子力協力に関する米印合意に関し、日本の立場は、これは前の予算委員会でも質問しましたが、あれから幾つか時がたちました。あのときと同じ状況なのか。私は、米印合意の枠組みでもIAEAの保障措置がかからない原子力施設が存在する、このことは何を意味するんだろうか。インドへの国際的な原子力協力によって、インドは自国産のウランを使って、より多くの核兵器を生産できるのではないかという指摘もございますが、どのような御認識をおとりになっているのか。いや、今も注意深くそれを見守っていますという御認識なのか。外務大臣にお尋ねをいたしたいと思います。

麻生国務大臣 日本としては、インドの戦略的重要性というのは十分に認識しているんですが、今言われました原子力の活用というもの、今平和利用とかいろいろな表現がありますが、この活用に関しましても、多分、今から十数年、二十年を経て、中国を抜くほどの人口爆発がインドは起きると予想されております。

 したがいまして、それに必要なエネルギーというのは多分膨大なものなのであって、それを石油に頼る、もしくは石炭に頼るというのは、これは例の温暖化の話と真っ正面からぶつかることにもなろうと思いますので、しかるべきエネルギーの需要を手当てする必要性も私どもは理解をしておりますが、今言われました点は問題であります。

 インドは、原子力発電所が幾つかありますけれども、その発電所を幾つかはきちんと開放しますとか、いろいろなことを言っておりますし、事実そういったことをしてもらわなくては困ると思っておりますが、同じやるにしても、丸々ガラス張りでやっている日本のような状況になるのか、そうじゃないような形でいこうとするのかというのが非常に問題なところであります。

 これは、いわゆるIAEA理事会の承認のためIAEA理事会で議論されるということになるんだと思いますが、ぜひこういったものはきちんとした、ガラス張りというか、そういったものにしていかないかぬということであろうと思いますので、この点に関しては、見守っているより、もっと積極的にこれに関与していくというのが今の姿勢であります。

原口委員 積極的にどのように関与するかということが大事だと思います。今外務大臣が御答弁なさったように、私どもが承知している限りにおいてインドには二十二基原子力施設がある。そのうちIAEAが保障措置を行うものは三分の二、八基がいわゆる保障措置の外にある。これはどっちから見るか。

 これが事実だと仮定して議論をしますが、三分の二をIAEAの保障措置のもとに置いて、そして、ある意味では民生用の原子力ということで、インドは最古の民主主義国家であるし、あるいは、あの敗戦のときも日本に大変な支持をしてくれた。そういう戦略的なインドとの重要性、これからのインドの発展の可能性、我が国の国益、こういったことを考えて、三分の二の保障措置をポジティブに見るのか。そうではなくて、八基については、軍事転用、まさに軍事用核物質に、核爆弾に変えられるんだから、そのこともちゃんと保障をしなさい、そのことをアメリカやあるいはIAEAに強く言っていくかによって、全然その方向が違うんですね。どっちの方向で外務大臣は積極的に関与すると御答弁なさったのか、少しお尋ねしたいと思います。

麻生国務大臣 今御指摘のありましたように、原子力発電用の施設二十二のうち十四というものを民生用に応じるということになっておりますので、そういった意味では、残りについても軍事用プログラムに影響を与えるものではないと言っております言葉がそのまま信用できるか否かというのは、これは、あそこもいわゆる開かれた政府でありまして、少なくとも世界最大の民主主義国家として選挙をやっている国ですから、ひっくり返る可能性というのは常にあると思っておかねばならぬ。

 したがって、政権がかわり得るという可能性は、これまでやってきた政策が変わるということは常に頭に入れておかなきゃいかぬものだと私どもは考えておりますので、ついこの間までは、ここは間違いなくソ連の影響下にある最も強い巨大国であったんですから、そういった現実とか歴史というのを安易に忘れるのは私は不用意だと思います。

 そういったものは、日本だってIAEAの監視員を入れて、これだけ開かれたものをやって、きちんとこれまで、IAEAの中で多分最も優等生だと思いますが、そういった形でやってきた日本はおかげさまで原子力に関しては信用を得ておりますので、こういったものは我々のようなものにすべきだというようなことを主張するのが日本の立場だと存じます。

原口委員 おっしゃるように、さまざまなルールを守る方が利益になるということをしっかりと示していくことがとても大事であると思います。

 イランは、いわゆる農業研修施設というふうに言っていたところで核開発についての機微な、例えば遠心分離器といったものを隠していた。あるいは、二〇〇二年に発覚をしたとされていますが、カーン博士との関連も、いわゆる核物質を取引しているネットワークとの関連についても今取りざたされているところでございます。

 私たちは、こういう問題に対しても、しっかりとした核廃絶を行うこと。核兵器をつくるということは、核実験をしなきゃいけない。核実験については、みずからの国民も危険にさらす、ましてや世界の平和を危険にさらすものだということを強く指摘しておきたいというふうに思います。

 さて、もう時間が迫りましたので、北朝鮮の問題については、私は、BDAの問題がなぜここまで迷走しているのかが一向に見えません。バンコ・デルタ・アジアの問題は、本来六者会合とは関係のない話だったはずです。北朝鮮がこれを六者会合、六者合意と結びつけるような形で、核のいわゆる凍結の約束を、もうとうの昔に期限は過ぎているわけで、なぜこのことを守らないのか。アメリカが国際法と正義というか、そのルールを、ある意味では超法規的なことをやりながら資金の凍結解除といったことをしたにもかかわらず、なぜこのような問題が起きているのか。報道では何もわかりませんので、外務大臣の御所見を伺いたいと思います。

麻生国務大臣 しゃべれるところとしゃべれない範囲がありますので、あらかじめお断りしておきます。

 少なくとも、この話は六者協議とは関係ない、アメリカと北朝鮮における二国間の問題であります。これはもうはっきりしております。バンコ・デルタ・アジアにあります約二千五百万ドルと言われております北朝鮮の預金口座が、アメリカの一連の財務省法令、いわゆる国内法によってこの金が凍結をされるということになりました。したがって、その金が銀行から引き出せないということになったということです。これが解けない限りは六者協議にも応じないというのが、昨年末からことし前半にかけての話です。

 その上で、去る二月の十三日に行われました六者協議においてこの問題は凍結の解除ということになったのは御存じのとおりなんですが、解除になったらそれで話は六者協議に進むかと思ったら、今度はそれが送金をされるようにしろという話だったので、アメリカは、凍結を解除して送金する手伝いまでおれたちはする責任は全くないといって、当然のこととしてこれを却下するということになりましたし、他国も当然だろうなと思っておりましたが、これがしつこく送金だ、送金だということになりましたものですから、その送金の問題が今はまだ片づかずにいっております。

 すなわち、為替とか送金とかいうのは銀行業務の大きな仕事でありますが、バンコ・デルタ・アジアに関しましては、この送金手続というものが、少なくともアメリカの銀行との取引ができないことになりますので、そういう意味では非常に大きな影響を銀行業務として受けることになりました。

 そこで、送金をこの金だけ別の銀行でやってくれないかといって中国銀行等々いろいろな銀行に頼みましたけれども、皆そういったダーティーマネーに手をかす気はないと全部はねて、日本の銀行にも話があったとか、いろいろうわさは出ておりますけれども、そういった形がありました。

 そこで、今アメリカは、国務省は財務省と話をして、これだけ例外にしてくれという話を今財務省、国務省の間で話をしていると思いますが、そこに、財務省としてこれをのんでも、次に法務省としてこれは不正であるということで、今度は法務省としてはこれはのめないという話になって、アメリカの国内法上の話ですから、これは。そこで国務省と関係ない段階でいろいろいっておるというのが今の置かれている状況です。

 その状況下にあって、先週の十五日になりますけれども、北朝鮮のスポークスマンというのが、資金の送金が実現すれば、これはバンコ・デルタ・アジアの二千五百万ドルに関しての話、直ちに二・一三合意、いわゆる六者合意のことですが、核施設の稼働中止措置を講ずる用意があると表明をしたと承知をしております。これは表に出ましたので。

 ただ一方、同時に同じようなタイミングで、従来のように、今までのように、というのは今回のバンコ・デルタ・アジアの話がとまる前、従来のように資金を自由に送金できるようにせよというのが我々が当初から要求してきた制裁解除であると。早い話が、凍結解除から送金、次からすべて送金と、だんだんハードルが上がってきている、もしくは要求が上がってきているということになっているという言葉は、我々としては無視できない。これは表に出た言葉ですから。そう思っておりますのが今の現状です。

 私どもとしては、いわゆる当事者ではありませんのでいろいろ申し上げる立場にはありませんけれども、少なくとも、こういった話が今、我々表で感じられるところでありまして、交渉はかなり難しいところまで押し上がってきたかな。国務省だけではなくて財務省、法務省も入れて、最終的には大統領府までときっとなるんでしょうけれども、かなりのものまで煮詰まってきつつあるかなとは思っておりますが、では、これが解決したら次のレベルにまた上がったらどうなるという話が、我々としてはうかつにこれで六者協議がすぐスタートできるかのような錯覚に陥ることは厳に戒めておかないといかぬのだと思っております。

 初期段階の措置というものに対しては、明らかに約束の期限は切れておりますので、そういったものに対しては、今後とも引き続き圧力をかけて事を進めていく努力をしなければならぬと思っております。

原口委員 詳細に御答弁いただいてありがとうございます。

 私は、そもそも、自称二百億ドルの経済規模を持つ国が二千五百万ドルのキャッシュになぜここまで執着しなきゃいけないのか、そのことがよくわからない。

 それからもう一つは、何を米朝で合意したかわかりませんけれども、今大臣がお答えになったように、次々と要求をつり上げてきている。本来この二千五百万ドルのお金というのは、政権を維持するための、これはある方によればホットキャッシュだったのではないか。つまり、昔は幹部をなだめるのにたばこやウイスキーでよかった。今や、それこそフォルクスワーゲンとかパサートを購入して、そういうものを持たせないと言うことを聞かなくなっている。政権の弱さの証左でないかという評論家の方もいらっしゃいます。

 また、これも事実かどうかわかりませんが、結局、ここまでハードルを上げてきているということは、本当に核廃絶をする、核のいわゆる凍結をする意思があるんだろうか、あるいは、その意思を政権の内部で固めることができているんだろうか、そこまで疑いたくもないことを疑わなければいけない。

 私は、北朝鮮にはぜひ、核保有のメリットというのはもうないわけで、アメリカが敵対政策もやめる、凍結解除もするということまで言っているこの段階で、一刻も早い約束の履行を強く求めたいというふうに思います。

 また、日本政府については、これは当初、拉致問題の解決なくしていわゆる援助なしというようなお話が、このところ、答弁を伺っていると、進展なくして援助なし、こちらはハードルが落ちてきているんですよ。そのことには大きな危惧を指摘しておきたいというふうに思います。

 さて、残りの時間でもう一つ。国政の課題の中で、イラク特措法に対する附帯決議で、「イラク戦争を支持した当時の政府判断について検証を行うと共に、」というふうな附帯決議を賛成多数で決めさせていただきました。私は、これはとても大きな附帯決議であるというふうに思います。

 少なくとも二つの意味で検証をしていただきたい。当時、外務省は、これは麻生大臣ではなかったですが、川口大臣でしたが、いわゆる国連決議の有権解釈についても、武力行使が行われるまでは、判断する、それを発表する立場にないというようなことを言っていた。なぜこんなことを言わなければいけなかったのか検証をしていただきたいし、さらに言えば、国家安全保障会議、今日本版NSCと言われていますが、日本版NSCどころも何も、これほど多くの安全保障上の重要課題を決断するのに対して、国家安全保障会議が開かれた形跡はありません。なぜ開いていないのか。この二つについて御答弁を求めたいと思います。

麻生国務大臣 まず、安全保障会議が開催されなかったことについての御質問がありましたけれども、安保会議というのは、御存じのように、第二条で、内閣総理大臣は次の事項について会議に諮らなければならないというので、一の国防の基本方針とか防衛計画の大綱とか、ずらっとあるんですけれども、それはいずれも当たらないんであって、第二条の二項に当たります、前項に定めるもののほか、国防に関する重要事項及び等々ずらっと書いて、必要に応じ総理大臣に意見を述べることができる、ひっかかるなら多分ここぐらいかなと思っております。

 いずれも戦闘が一応終結した後ということになりますので、これは、我々としては国連憲章に基づいて賛意を表したという形になっておりますので、いわゆる日本が直接関与するということにはなりませんので、今そのような判断がなされたというように理解をいたしております。

 済みません、最初の……

原口委員 もう一つは、要するに有権解釈を外務省が言わなかった、国連決議の有権解釈について述べる立場にないと言っていたということですが、もう時間がないですから。

 さっき前段の、国家安全保障会議を開かなかったというのは、私は、これはやはり国家安全保障会議のつくり方にも問題があるんだろうし、もうちょっと言えば、まさに日本の安全そのもの、テロリストにねらわれるかねらわれないか、そういう大きな決断に対して、それを開くセンスがなかったというふうに言わざるを得ません。

 最後に、もう一つの条約についても、NOWPAPのお話がありましたけれども、やはり漂着ごみの中で医療系のごみ、これは二次被害をもたらす危険性がございます。ぜひそういうことも含めて検討をいただきたいということを申し添えて、国家安全保障会議ともう一つの有権解釈について御答弁があれば、どうぞ大臣からお願いしたいと思います。

麻生国務大臣 有権解釈、会議について、ちょっと短時間にぱっと言うのは誤解を招きますので、これはちょっと避けます。

 ただ、安保会議について、一応、安保会議の上の閣議はきちんと通したという点だけは補足をしておかぬと誤解を招きますので、それだけ補足させていただきます。

原口委員 ありがとうございます。終わります。

山中委員長代理 次に、笠井亮君。

笠井委員 日本共産党の笠井亮です。

 本日の案件の一つである、職業上の安全及び健康を促進するための枠組みに関する条約の締結に関連して、我が国の労働安全衛生に関する法令は、労働安全衛生法、作業環境測定法、じん肺法、労災防止団体法などがあります。これらの法律と、それから具体的な基準や規制措置などを数えてみますと、これは私も驚きましたが、実に二千百三十条もあるということで、その意味では、我が国ではかなりの水準で安全衛生の基準や規制などが整備をされている。しかし、それらがどう周知徹底をされて、そして企業側が遵守しているかどうか、あるいは行政監督が行き渡っているかどうかはまた別の問題がこれはあるということだと思うんです。

 これらの法令は、生産設備の進歩、扱う材料や薬剤などの変化に伴って絶えず点検をされて、そして、本条約が要請しているように、国内政策、国内制度、国内計画の面で見直される必要があると思います。そういう意味も込めて、この条約の締結に賛成するものであります。この際、いわゆるロンドン条約議定書の締結にも賛成であることを申し上げておきたいと思います。

 きょうは、その上に立って、労働者の安全、健康にとって、労働安全衛生法などの充実整備とともに最も重要な要素である労働時間の問題をめぐって、関連するILOの条約にもかかわって質問をしたいと思います。

 まず外務省に伺いますが、ILO条約のうち、労働時間の規制や短縮、また年次有給休暇など労働時間に関する条約というのは全体で何本あって、そのうち我が国が締結、批准している条約の本数は何本か、数字で結構ですが、端的に答えてください。

大江政府参考人 労働時間及び休日に関するILO条約は、全部で二十三本ございます。そのうち我が国が締結しているものはございません。

笠井委員 ゼロということであります。いわゆる主要国、先進国と言われる、G8というふうに例えば言いましょう。こういう国々の中では、それぞれ労働時間や休日に関する条約の批准状況というのはどうなっていますでしょうか。数字を端的にこれもお願いします。

大江政府参考人 日本については、先ほど申し上げたようにゼロでございます。それから、米国についてもゼロでございます。それから、イギリスは四締結しまして、そのうち四全部破棄しました。フランスは十締結して三破棄しております。ドイツは二締結しておりまして、そのうち一破棄しております。イタリアは九締結して四破棄しております。カナダは二締結しております。ロシアは四締結しております。

 以上でございます。

笠井委員 それぞれ、かつてつくったものとの関係でいろいろ事情はあるとしても、今ありましたように、二十三本のうちゼロというのはアメリカと日本だけであります。

 それで、このILO条約というのは国際労働基準であって、労働条件における、よく言われますが、国際騎士道といいますかナイトという形で言われます。

 そこで、麻生大臣に伺いたいんですが、日本は労働時間に関する国際条約を一本も批准していない、締結していないということでありますが、これはいわば我が国が国際騎士道から外れてしまっているんじゃないか、日本の企業だけじゃなくて、政府そのものがソシアルダンピングをやっている、長時間労働や低賃金で世界に打って出て、そういうことをやっているんじゃないかというふうにそしりや非難を受けることにならないか。大臣、どうお考えになりますでしょうか。

麻生国務大臣 一番最初に外務大臣に適用してくれないかなと今思いながら聞いていたんですが、正直申し上げて、これはなかなか難しいところだと思います。

 労働安全衛生というものを確保するということは、これは適切な労働時間というものといわゆる休日を確保するという、二律背反するように見えるんですが、現実問題として、休日というのを適時に与えないと労働効率も上がらない。これは会社で作業現場を持った経験のある人ならだれでも知っている話だと思いますが、そういった意味では、適切な休日、休養がないと生産性も上がらないということになろうというのが現実だと思いますので、ここらのところのバランスを確保するというのは大事なところだ、私は基本的にそう思っております。

笠井委員 そういう点から見ると、一つも批准していないというのが日本の現実であります。

 大体我が国は、一九一九年に、今から八十八年前になりますが、ILO第一回の総会のもとで採択された第一号条約というのがまさにこの労働時間に関連する問題で、工業的企業における労働時間を一日八時間かつ一週四十八時間に制限する条約というのでありますが、これすら批准してこなかったし、できていないという状況であります。これは古くて関係ないという条約じゃなくて、見てみればその趣旨は明確でありますが、日本がやれていないというのは、今でも労働基準法の三十六条で時間外労働の上限を規制していないということがありまして、長時間労働を抑制するというふうになっていないという国内法、それから国内の状況がある。まさにそういう姿勢が一貫してないということがかかわっていると私は思うんです。

 そこで、厚生労働省がお見えだと思うので伺いますが、我が国の労働時間の短縮という問題について言うと、どこまで進んでいるか、今到達点、数字としては何というふうに言われるんでしょうか。

森山政府参考人 お答え申し上げます。

 労働時間につきましては、長時間労働等問題になっているところでございまして、時間を短くするということで指導監督を進めてございまして、現在、全産業の一般労働者の年間の総労働時間、これは十七年の賃金構造基本統計調査によりますと、二千百四十八時間という状況になっているところでございます。

笠井委員 二千百四十八時間ということであります。

 それで、私もこれはかつて厚生労働委員会でも尋ねましたが、この問題でいいますと、よく厚生労働省は実労働時間でいうと千八百三十四とかということを言われるんですが、それはパートや非正規の方々も含めたような状況なので、やはり正規の社員というか、要するに正規雇用者、一般の正規常用労働者について言うと、二千時間を超えているという状況になっている。これは、非常に多くの時間があるわけであります。労働している。

 さらに伺いますが、我が国の年休、年次有給休暇の取得日数、取得率の問題でありますけれども、それがどうなっているか、また、他の先進国と比較するとどういう状況に日本があるか、お答えをいただきたいと思います。

森山政府参考人 まず、我が国の年休の関係でございますが、これはもう先生御案内のように、使用者は、その雇い入れの日から起算して六カ月間継続勤務し、全労働日の八割以上出勤した労働者に対しまして十日をまず与えなきゃいけない。そして、段階的に付与日数を増しておりますけれども、雇い入れから二年六カ月までは一年につき一労働日、それから二年六カ月経過後は一年につき二労働日増加して、六年六カ月経過で上限の二十日というふうになっております。

 その付与日数の関係でございますが、まずこれは先生今御指摘のように、非常に年休の取得率が低下をしてきております。全体の付与日数、十七年度でいきますと、平均ですから十八日の付与日数に対しまして、取得日数は八・四日ということでございまして、パーセントにしますと四六・六%ということで、五〇%を切っているという状況でございます。

 それから、諸外国における年休の付与日数の関係でございますが、ドイツにおきましては、六カ月以上継続勤務した労働者には年に二十四日以上。それから、フランスにおきましては、一カ月の継続勤務につき二・五労働日、上限は三十日でございます。それから、イギリスにおきましては年に四週間となっております。なお、アメリカにおきましては、年休についての法令上の規定はないというふうに理解しているところでございます。

笠井委員 ヨーロッパについて、例えば取得状況はどのぐらいになっていますか。

森山政府参考人 申しわけありません、それは把握しておりません。

笠井委員 把握していないということなんですが、私もヨーロッパでいろいろ、各地に住んでいたことも含めて経験がありますが、とるのが当たり前ということで、それを改めて調べるまでもないというような状況になっている。日本では逆に、先ほどありましたが、取得率が四六・六%という数字になっているという問題があります。

 私は先週の当委員会で、ILOの九十三回総会をめぐって若年雇用に関する決議を取り上げて、きょうも議論がありましたが、ディーセントワーク、あのときも私は人間らしい仕事とか人間らしい労働という言い方をして議論させてもらいましたが、こういうことを取り上げさせていただきました。

 去る五月二十日、その後ですが、これはマスコミでも取り上げられましたが、都内の明治公園で、働く若者らによる、全国の青年が集まるということで大集会二〇〇七というのが開かれて、三千三百人が集まる、そして、過酷な労働条件改善を訴えて、みずからが労働組合をつくって取り組んでいる経験など、交流をされました。

 その集会でも中心的なテーマとなったのが三つありまして、一つはやはり短期契約を特徴とする非正規雇用の問題、それから二つ目には、ワーキングプアと今言われますが、そういう低賃金の労働者の増大、それとともに、今議論しております不払い残業を含めた長時間労働の蔓延、まさにこの三つに今日の我が国の労働問題も集約されているというふうに今見ていいというふうに思います。

 そこで、具体的な問題なんですけれども、私のところに、民営鉄道、私鉄の労働者の方々から直接の訴えがございました。運転手を含めて大変に長時間の労働になっているという実態であります。

 そこで、国土交通省にまず聞きますが、JR西日本の福知山線の大事故が発生してから二年余りがたちました。この事故の原因究明というのは今どういう段階にあるのか。

 もう一点なんですが、鉄道事故が発生した場合に、事故調査委員会が事故原因の究明に当たるわけでありますけれども、その際の調査の中で、運転手の労働時間や労働条件というのはその対象事項に入っているのかどうか。この二点についてお答えください。

    〔山中委員長代理退席、委員長着席〕

各務政府参考人 お答えを申し上げます。

 まず最初の福知山線の事故の調査の状況でございますが、昨年の暮れに事実関係の調査報告書というのを公表させていただきまして、ことしの二月に関係者それから学識経験者の方々から意見を聴取しております。その結果などを踏まえまして、現在、最終報告書の取りまとめに向けて委員会で審議をしている、こういう段階でございます。

 それから、第二点目でございますが、航空・鉄道事故調査委員会というものは、事故の原因究明を行うとともに、事故の再発防止に寄与するため、さまざまな観点からの事故調査を実施するということになっております。したがいまして、このような趣旨を踏まえまして、事故の原因に関連すると考えられる場合には、御質問をいただきました運転手の労働時間等についても調査を行い、事故の原因究明を図るという体制で臨んでいるところでございます。

笠井委員 さらに、国土交通省に伺います。我が国の鉄道運転手の労働時間の実態というのを国交省としては把握をしているか、また、外国の運転手の労働時間の状況というのはどういうふうになっていると認識しているか、お答えください。

大口政府参考人 お答え申し上げます。

 鉄道事業に従事いたします労働者の勤務の形態につきましては、労働基準法に基づきまして使用者側が就業規則で定め、把握しているものというふうに承知しております。事業者はそうした法規にのっとって適切に管理するものというふうに考えております。

 そういうことから、私どもとして、外国の状況については把握しておりません。

笠井委員 国交省鉄道局としても、使用者がやっているから自分たちはつかんでいない、外国も知らないということであります。

 では、厚生労働省に伺いますが、つかんでいるでしょうか。

森山政府参考人 個別の事案につきましては監督指導を行っているところでございますけれども、全体の労働時間数を申し上げますと、先ほどの十七年における賃金構造基本統計調査によれば、電車運転手の年間の総実労働時間は二千六十四時間というふうになってございます。

笠井委員 それは賃金構造ということでありますから、それはまさに使用者側からとった、要するに幾ら払ったかということとのかかわりでありまして、サービス残業での実態を反映したものではないということだと思うんですよ。

 そこで、配付資料をごらんいただきたいと思います。国立国会図書館がまとめた数字でありますが、そこに状況が、一覧がございます。上の方がJRですが、例えばJRの東日本は千八百四十七時間という数字がございます。そして、民鉄関係でいけば、東京メトロと東武が大体同じ程度の千八百七十二時間、千八百五十六時間ということでありますが、その下をずっと見ていただきますと、例えば、京成がトップで二千四百三十八時間、その次が京王で二千三百八十九時間。私鉄関係の多くは二千時間を超えて二千二百時間台ということで、非常に高くなっております。運転士の労働時間であります。

 アメリカを見ますと二千八十時間、イギリスが年換算二千五十四時間、フランスが千六百四十三時間ということであります。こうやって比較してみますと、京成とか京王それから西鉄などは、際立ってといいますか、頭抜いて長時間労働となっております。

 そこで、大臣、地元に私鉄もあるとは思うんですが、多くの乗客の命を預かるという運転士の方々の労働時間が極めて長時間である、それから冒頭の方にありましたが、我が国の一般的な年間の平均労働時間よりも多いという実態があるところがかなりあるわけですね。これをどう思われますか。

麻生国務大臣 いわゆる民間の電鉄会社の勤務時間についての感想を今資料を見てどう思うかと言われても、ちょっと何ともお答えのしようがありません。労働時間というのは、拘束時間のまた内容がどうなっているかとか、いろいろ難しい問題があるのはよく知っておりますので、うかつなことはちょっと言えぬなと思いました。

 ただ、数字を見れば、二千時間と千八百時間というのは、二百時間の差があるというのはJRと私鉄の違い、JRは今私鉄ですけれども、そういったものの違い、ちょっといろいろなあれがあるのかなと、正直、今初めて見ましたので、何ともそれ以上感想はございません。

笠井委員 極めて長時間である、人の命を預かるという形で、やはり多数の乗客の方が乗っている電車を運転されているわけです。もちろん、現場の運転士の皆さんは、幾ら長時間過密であっても、やはり使命感を持って全力で頑張っているというふうに私は思います。皆さんそうだと思うんです。

 だけれども、やはり人間ですから、事務労働をしている方とまた違って、本当にちょっとした、一分一秒とか一刻ということで大惨事になりかねないということも抱えながら、本当に緊張してやっていらっしゃる。そういう意味では、やはり人間ですから体力にも気力にも限界があるということになると、この数字を見てある方が言ったんです。これを見て、率直に言って自分の通っている通勤の電車に乗るのが怖くなったという感想は、私は当然だと思うほどの問題ではないかというふうに思うんです。

 国土交通省に伺いますけれども、国土交通省としても、安心、安全の輸送を確保する、これはまさに管轄のところですから主管のところでありますが、そういう観点からも、関係省庁と連携をして、今後は運転士の皆さんの労働時間の実態をやはりつかむべきじゃないか。つまり、使用者がつかんでいるからそれで我々はやっていませんというんじゃなくて、やはり公共交通ですから、そういうことに対してはきちっとつかむということをやるべきじゃないかと思うんですが、いかがですか。

大口政府参考人 お答え申し上げます。

 労働時間の問題につきましては、一義的には労働関係法令に沿って所管行政庁の指導監督が行われるべきというふうに考えております。

 なお、運転士個々の管理という観点においては、私ども、鉄道営業法に基づきまして、鉄道に関する技術上の基準を定める省令というのがございます。ここで、「鉄道事業者は、列車等の運転に直接関係する作業を行う係員が知識及び技能を十分に発揮できない状態にあると認めるときは、その作業を行わせてはならない。」こうされておりまして、鉄道事業者においては、それぞれ点呼時において、運転士の体調などについてそうした観点から十分確認をしているというふうに承知しております。

 以上です。

笠井委員 個々の管理は使用者がきちっとやるというのは、それは当然の話であって、ただ、やはりこれだけ長い実態があると、これはこれまでの事故の教訓をあれするまでもなく、事故が起こってからでは遅いわけです。先ほども再発防止ということも事故調査の話でありましたが、まさに公共交通機関なんですから、国の責任できちっとここのところは実態をつかんで、それに適切な形でどうしたらいいのかということを考えるべきだ、対策を打つべきだと私は思います。

 では、具体的に伺いますが、今でも長時間労働ということでなっています、例えばこの中で京王電鉄であります。

 さらに、ことし二月、運転士の残業協定、いわゆる特別条項に基づく残業協定時間が延長をされました。これまで月間八十時間、年間七百五十時間だったものを、月間百時間、年間八百五十時間まで延長をしたわけであります。期間は、この三月から七月までの五カ月ということになっておりますが、残業協定時間延長の理由は、要員不足だ、人がいないんだということになっております。

 厚生労働省に伺います。

 いわゆる労働基準法の三十六条に基づくとする三六協定でありますが、平成十六年四月から、私もここに大臣告示の問題の文書を持ってきておりますけれども、特別条項つき協定を結ぶ場合に、「特別の事情」ということで書かれておって、そこでは、一時的または突発的な事由である必要があるということになっていて、そういう場合については特別の事情だからということでできるようなことになっています。しかし、そこでも臨時的ということで認められるものとして例示的にあるのは、予算、決算業務、それからボーナス商戦に伴う業務の繁忙、納期の逼迫、大規模なクレームへの対応、機械のトラブルへの対応ということが例示的に書かれております。

 鉄道の運転士の場合に例示的にはないわけだし、こういう趣旨からいうと入らないと思うんですよ。京王電鉄の協定延長の理由というのは要員不足というふうにしていますけれども、これは厚生労働省が言っている臨時的な理由ということに合致するんでしょうか。

森山政府参考人 個別の事案につきましてはお答えを差し控えさせていただきますけれども、先生まさに今御指摘いただきましたように、時間外労働協定の特別条項というものにつきましては、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わざるを得ない特別の事情が生じた場合に認められてございます。

 その特別条項つきの協定を締結する必要性、あるいはその場合の延長時間、あるいは特別の事情、こういうものにつきましては、まさに当該事業場の実情をよく知っておられる労使がお話し合いをされて決定されているものだというふうに理解しているところでございます。

笠井委員 例示的に事案を挙げていますが、こういうことを想定して、こういうこともあり得るということで一般論としてはあるんですか。運転士についても、要員不足だからやることがあると。

森山政府参考人 今のは例示でございまして、具体的には、それぞれの事業場が抱えておる事情、それからまた、先ほど申し上げました必要性、あと、特別の事情というものは、個別に判断をしていく必要があるというふうに考えております。

笠井委員 もともと、労基法の三十六条では時間外労働が青天井だということで大臣告示を出した。そして、「特別の事情」、「臨時的なもの」ということで、一時的、突発的なものに限定するとしてきたわけで、それを現場のそれぞれの状況でということでどんどん広げて認めていったら、それこそ無限定になってしまうわけであります。

 長時間過密労働で病気になったり退職ということになれば、ますます、この場合でいえば要員不足ということになって、その悪循環を生むだけであります。現実に、労災が今増加をして、最近の東京労働局の発表でも、二〇〇六年の死亡を含む死傷災害というのは、全体としても五年ぶりに一万件を超えて、告訴、告発件数もふえているということであります。この点は本当に重大な問題だと思います。

 私も直接聞きました京王電鉄の運転士の皆さんの労働実態というのは、大変に厳しいものであります。私も驚きました。

 泊まり、早朝勤務というのがふえまして、例えば、泊まり明けでまた泊まりという、運転士の方が二泊三日で業務に当たっているという方も、そういう場合も相当あると。また、運転士の皆さんにとっての業務ダイヤといいますか、私鉄の場合、始業表ということで、運転するときに持って、運転席に行かれるわけですが、これでも、例えば井の頭線の終点の渋谷駅で、着いてから三分三十秒で電車が出発する、その折り返しをそのまま同じ運転士がするということで、慌ててホームを吉祥寺側まで移動して、運転席に飛び乗るということもあるということであります。JR東日本の現場の方に聞いたら、いや、うちはせめて終点に行ったら次の電車だよ、その電車にすぐ折り返しで乗らないよという話もありました。

 こんな長時間過密労働をしていて、万一の事故につながったらどうするか、現場の運転士の皆さんみずからが一番そのことを感じているわけであります。多数の人命を預かる輸送の現場にあってはならないことが今、先ほど現場の状況に応じてと言われたけれども、現場で起こっている。そして、これは京王電鉄にとどまらない可能性がある問題だと思います。

 こういう点からも、長時間残業というのは厳しく規制すべきだ。そして、労基法三十六条を改正して、厚生労働大臣が残業協定の限度時間を告示で示しているわけですが、これを法定化すべきだ。特別条項を設けて逃げ道を設けるなどというやり方は廃止すべきだということを私は強く言いたいと思います。

 特に、厚生労働省に一点だけ確認をしておきたいんですが、ましてや、多数の人命を預かる運転士のような職種の労働者の場合については、この特別協定の適用から除外をする、これぐらいやるべきだと思うんですけれども、その点はいかがでしょうか。検討するということも含めて。

森山政府参考人 私どもの労働基準監督機関、これはもちろん個別に監督を行いまして、問題が認められた場合には必要な指導を行っているところでございますが、先生御指摘の鉄道事業に関しましては、毎年この監督指導を行っております。

 平成十七年には、鉄道等事業に対しまして、五百七十七件の監督指導を実施しているところでございます。そのうち、違反率といいますのが、百八十五件で三二%の違反がございまして、労働時間に関するものも当然含まれております。

 そういう中で、私ども、違反率が高いという中で、現実的に、現在の労働基準法、それから先生今御指摘の限度基準、こういうものをしっかりと遵守させるということをまず徹底させていきたいと考えているところでございます。

笠井委員 私が聞いている点について、鉄道の運転士の場合については、やはり人命を預かるんだ、ああいう事故を繰り返しちゃいけないということで、特別協定の適用から除外することについても検討するというぐらいは言えないんですか。

森山政府参考人 繰り返しになりますけれども、先ほど申し上げましたように、現在の労働基準法それから限度基準、こういうものに違反をしている、それをまず私どもとしては指導をして適法なものにしていくということを考えて、適切に監督指導してまいりたいというふうに考えております。

笠井委員 繰り返しになりますが、これは人命にかかわることで、事故があったわけですから、そして、その原因調査の中でも、やはり労働時間の問題も含めて調べるということを言われているわけですから、これは本当にこれから繰り返させちゃいけない問題として言いたいと思います。

 それから、指導していると言われましたので、一点伺いたいんですが、京王電鉄については、この特別協定延長問題以外に、残業代の割り増し料金の不払い問題もあります。労働基準法の定める変形労働時間制が適用されていない鉄道乗務員の場合、一日八時間を超えた労働時間に対しては割り増し賃金を支払わなければなりませんけれども、支払われていないと労働者自身が言っている。

 また、労働基準法の百六条の就業規則の問題があります。「常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、」これは私も前、予算委員会の分科会でも取り上げたことがあるんですが、こういう方法によって労働者に周知しなければならないと定めておりますけれども、現場では、現実には、就業規則がどこにあるかわからない状況だということであります。

 このような法違反の事実について、現場の労働者は、ことし二月に、労働基準法百四条に基づいて管轄の監督署に申告をいたしております。

 厚生労働省に伺いますが、使用者が守るべき初歩的な義務さえ遵守していないわけでありますけれども、監督機関は適正に処理したんでしょうか。いかがですか。

森山政府参考人 個別の事案についてはお答えを差し控えさせていただきますけれども、一般的に申し上げれば、労働者等から申告が行われた場合には、申告監督を実施するなどにより適正に対処をしているところでございます。

笠井委員 この場合も適正かつ厳正に処理するように強く求めておきたいと思います。

 麻生大臣、今やりとりをさせていただきまして、お聞きのように、我が国の労働者の労働時間は長い。そして、今、人命を預かるという立場の鉄道労働者の皆さんの現実についてやりとりを、質疑をいたしました。やはり全体としても短縮していかなきゃいけないし、この分野でもどうするのかということが強く求められている問題だと思うんです。

 ILOの八十八年の歴史というのは、別の言い方をすれば、まず最初が労働時間の問題であったように、労働時間短縮の歴史と言ってもいい、こういうふうにも言われております。ILOは国際労働機関憲章で、私も読みました、世界の永続する平和というのは社会正義を基礎としてのみ確立できる、そのために労働条件の改善は急務だということを初めとして、崇高な目的を掲げながら、そして発足をしこれまでやってきた。国際的な取り組み、共同の取り組みも含めてやってきた。そして、それぞれも努力してきたということであります。

 そういう中で、日本が国際社会で信頼をされて、尊敬される国になっていくという上では、もちろん国内法との関係でのいろいろな整備の問題もありますが、やはりそういう点では、国際労働基準であるILO諸条約、労働時間の問題を初めとして、諸条約を全体的に積極的に批准するという努力をやはり一層やっていく必要があるということだと思うんですが、大臣、この点での見解と決意、いかがでしょうか。

麻生国務大臣 先ほど、百八十七本の法律の中で、批准をいたしますと、これで四十七が四十八になるんだと思いますが四十八、そのうち、いわゆるちょっと今の時代にはもう全然合っておらぬというのが八十五、残り約五十四が残るんだと思いますが、その中の問題で、今言われましたように、他の法律、国内法との関係で、なかなかすり合わせが難しい。

 法律が、我々としては、例えば違反をした場合は懲役刑に処せられるというのは体罰ではないかということになったり、いろいろ難しい問題が残っておりますので、簡単にはできないところも幾つかあるがためにこれまでずっとなってきたというようなこれまでの経緯は、もう笠井先生、よく御存じのとおりであります。

 そういったものを含めまして、日本として、少なくとも時代の要請に合わせて、ILOができましたいわゆる第一次欧州大戦、あの前後の話と今とは恐ろしく状況は違ってきておりますし、いろいろな意味で、状況としては、今までと、いわゆる単純労働が長期間拘束されるというような事態というのは随分変わったとは思います。変わったとは思いますけれども、まだ多くの問題が、労働条件としていろいろな問題が残っているというのはまた事実でもあろうと存じますので、こういった問題を含めて、これは各企業によるところも非常に多いと思いますけれども、努力というものはしていかねばならぬものだと思っております。

笠井委員 今大臣も言われましたが、ILOは第二次大戦の終わる直前に、一九四四年五月十日にフィラデルフィア宣言という形で、ILOの目的に関することについて宣言を上げて、その根本原則として四つのことを言っています。

 第一は、労働は商品ではない、第二に、表現及び結社の自由は不断の進歩のために欠くことができない、第三に、一部の貧困は全体の繁栄にとって危険である、そして第四に、欠乏に対する戦いの不屈で継続的かつ協調的な国際的努力の遂行ということを掲げて、改めて戦後またやってきたわけであります。

 労働者の生活と権利を守るためにも、そしてまた国民の安心と安全を確保する上でも、国際労働基準の条約の締結、批准というのがやはり本当に不可欠だということを重ねて強調しまして、質問を終わります。

山口委員長 次に、照屋寛徳君。

照屋委員 社会民主党の照屋寛徳です。

 最初に、議題となりました条約第九号との関連で質問いたします。

 本議定書は、条約による海洋汚染の防止措置を一層強化するため、船舶等からの投棄を原則として禁止することを主たる内容とするものと理解しており、賛成の立場であります。

 さて、沖縄戦の実相を形容する言葉はさまざまでありますが、その中で、沖縄戦は鉄の暴風であったと語られております。沖縄戦で使用された砲弾などは約二十万トンと見られており、その五%の約一万トンが不発弾として残されたと言われております。

 そこで、防衛省に訪ねます。一九七二年の沖縄の本土復帰前に、住民によって処理された不発弾、米軍によって処理された不発弾はそれぞれ何トンに上るでしょうか。

山崎政府参考人 恐縮でございますが、私ども、復帰前の処理の数値については把握をしておりません。沖縄の復帰後の処理数につきましては、千五百四十二トンでございます。

照屋委員 それでは、本土復帰後は、不発弾を処理する法的責任者はだれで、具体的に処理する機関はどこでしょうか。

山崎政府参考人 ちょっと答弁が長くなって恐縮でございますが、戦後直後から昭和三十三年に至るまでは通産省が所管をしておりまして、その後、省庁間の協議によりまして、戦後処理の一環として、「自衛隊は、当分の間、防衛大臣の命を受け、陸上において発見された不発弾その他の火薬類の除去及び処理を行うことができる。」ということで、自衛隊法附則第四項において定められております。したがいまして、これは機雷等の除去と違いまして、当分の間という形になっております。

照屋委員 本土復帰後、平成十七年度までに処理された不発弾は何トンでしょうか。

山口委員長 山崎運用企画局長、出るときははっきり手を挙げてから出てください。

山崎政府参考人 先ほど申し上げた千五百四十二トンを含めまして、平成十八年度までの処理数は五千七百二十二トンでございます。

照屋委員 沖縄では、いまだに不発弾が発見され、その処理のために住民が避難し年中無休の企業が臨時休業に追い込まれるという笑えない事態がしばしばあります。

 残された不発弾を処理するのに五十年とも六十年とも言われておりますが、防衛省はあと何年かかると考えておりますか。

山崎政府参考人 沖縄におきます不発弾の埋設量につきましては、戦時中の爆弾等の使用量について確実な資料が存在をしないため、その正確な数量の推計、その処理に要する年数をお答えすることは困難でございます。

照屋委員 それは、不発弾で地中深く埋まっているわけだから正確な推定は難しいでしょう。私が言いたいのは、戦後六十二年たってもまだ、これからもあと五、六十年も不発弾の処理に時間を要する、それほど悲惨な戦争が沖縄で展開された、地上戦で展開された、こういうことを強く防衛省もわかってもらいたい。

 さて、本議定書締結によって、二〇〇七年四月一日以降、不発弾の海洋投棄処分が禁止されることになります。政府は、自衛隊の処理能力を超えるであろう不発弾を具体的にどのように陸上処分するのか、その体制を尋ねます。

山崎政府参考人 これは、具体的には、事業の企画それから予算の計上は環境省でございます。それで、その事業の実施につきましては、防衛省に環境省の方から、支出委任の上、防衛省の行政責任のもと陸上処理を執行するということになっております。

照屋委員 環境省もお呼びしてありますが、ちょっと質問順序を変えまして、先に北原長官にお尋ねいたします。

 先日の当委員会でも尋ねましたが、今回、五月十八日から五月二十日までの辺野古海域での事前調査に海上自衛隊の掃海母艦「ぶんご」が出動しました。住民運動に海上自衛隊が出動するのは初めてであり、かつて旧日本軍による住民虐殺、集団自決の強制などを強いられた県民から強い抗議と反発の声が上がっております。

 まず、長官に尋ねたいのは、去る五月二十一日、私が那覇防衛施設局佐藤局長に抗議、要請に行った際、局長は、北原長官名で海上自衛隊へ出動要請をしたと言明しておりました。いつ、どのような目的で、いかなる法的根拠に基づく要請なのか、明確にお答えください。

北原政府参考人 照屋寛徳先生に御答弁申し上げます。

 今回、防衛省といたしまして、普天間飛行場の移設を行うために必要となりますサンゴですとかあるいは海藻草類、ジュゴン、あるいは海象などの状況の各種データを得るために、私どもといたしましては、環境影響評価法に基づく調査とは別個に、まず海上においてサンゴなどの現況調査を行っているところでございます。

 それで、私どもが今行っているこの調査でございますけれども、これは根拠といたしましては、防衛省の、私どもの所掌事務として、防衛省設置法に規定されております、駐留軍等の使用に供する施設及び区域の決定、取得及び提供に関することという設置法の第四条第十九号に基づいて行いますところの普天間飛行場の移設の一環として、私どもが自主的に行っているところでございます。

 そこで、現在、御指摘いただきました現況調査につきましては、これを行う上では海底に機材を置く必要がございますので、あらかじめ沖縄県と公共用財産使用に係る協議を行いまして、その同意を得て行っているところでございます。

 それで、先生御指摘の点でございますけれども、今回の機材の設置作業につきまして、私、防衛施設庁長官といたしまして、民間の業者だけではなくて、海上自衛隊の保有いたします潜水能力を活用することによって、その現況調査を限られた期間の中で円滑かつ十分に実施することができるものと考えまして、いつということにつきましては、五月の十一日に、私、防衛施設庁長官から海上幕僚長に対しまして支援を依頼したものでございます。

 それで、先生、その根拠ということも御指摘いただきました。これらにつきまして、先生御承知のように、国の行政機関の間では、国家行政組織法第二条第二項の規定の精神を踏まえまして、いわゆる官庁間協力といたしまして、本来の任務に支障が生じない範囲で他の国の行政機関に対する協力を行ってきておりまして、防衛省内の機関相互の関係においてもこの趣旨は妥当するものと考えております。

 防衛省の所掌事務の遂行に際して、防衛省内の各機関相互の協力がこれまでも行われているところでございまして、先生御承知の沖縄県の県道一〇四号線越え実弾射撃訓練の分散実施につきましても、米軍の訓練に伴います所要の射場安全情報の提供ですとか、技術的な支援ですとか、演習場施設の維持管理あるいは緊急医療などにつきまして、これまでも防衛施設庁の方から陸上自衛隊に支援を依頼しているところでございます。

照屋委員 今長官は、調査目的の根拠について防衛省設置法第四条の所掌事務十九号を根拠に上げました。確かに防衛省設置法四条には、所掌事務として一号から三十三号まで書いてある。

 ところが、その調査根拠について、久間大臣は十八日の記者会見で、根拠について防衛省設置法四条十八号だ、こう言っている。このことは、大臣の言っていることと長官の言うことと違う。それぐらいあいまいな解釈、それから解釈拡大で自衛隊の活動を拡大していく、こういうことが許されていいはずがありません。

 しかも、掃海母艦の主たる装備や任務からしても、掃海母艦「ぶんご」を辺野古に派遣して、そして沖縄県民や多くの国民を威圧するというのは許されることではない。長官に改めて、防衛省設置法の根拠、なぜ大臣と長官で違うのか、はっきりお答えください。

北原政府参考人 私がただいまこの席で御答弁申し上げたことと、それから私どもの大臣がお話しあるいは国会等でお話ししていることは同じ考え方に立っております。

照屋委員 長官、大臣ははっきり四条十八号と言っている。根拠があいまいなんです。私は、きのう一晩じゅう設置法四条十九号を読みましたよ。縦からも斜めからも裏からも表からも読んだ。三十五年弁護士をやった僕でも、そんな解釈にはならぬ。本当に四条十九号でいいんですか。

北原政府参考人 御答弁申し上げます。

 大臣が今の記者会見等の場でおっしゃったということについて、具体的な条文の第四条第十八号とおっしゃったのか、そこは私確認はとれておりませんけれども、大臣が言わんとしたことは私が今ここで答弁したことと同じでございまして、第四条第十九号、そしてその考え方は全く大臣と同じでございます。

 そして、そこを繰り返しますと、防衛省の所掌事務、第四条第十九号には、「条約に基づいて日本国にある外国軍隊(以下この条において「駐留軍」という。)の使用に供する施設及び区域の決定、取得及び提供並びに駐留軍に提供した施設及び区域の使用条件の変更及び返還に関すること。」それを根拠にいたしているところであります。

照屋委員 国家行政組織法二条二項の官庁間協力の問題にしても、たくさんの問題を含んでいる。私は官庁間協力ではやれぬと思う。防衛施設庁は防衛省の外局なんです。きょうはそのことはおいておきましょう。

 長官、配りました資料を見てください。今度の調査で生きたサンゴが大量に破壊されました。サンゴの調査目的で設置した機器のために、現実に大規模なサンゴの破壊、損傷が生じている。それはそうでしょう。未明、暗いうちから作業を始めて、サンゴも知らない海上自衛隊が潜水して機器設置をやる。

 長官、このサンゴ破壊、こんなに大きな鉄管を、鉄筋を生きたサンゴにぶち込んでいる、これをどう思いますか。

北原政府参考人 御答弁申し上げます。

 私ども、サンゴの着床具などの機材の設置に当たりましては、沖縄県からもサンゴへの影響を低減するよう配慮を求められております。こうしたことを踏まえまして、私どもといたしましても、まず、四月の二十四日から実施した現況調査の機材設置のための現場確認といったことを行いました。その現場確認におきまして、サンゴの分布などの状況を確認いたしまして、可能な限りサンゴへの影響を低減させられるような場所を選定いたしまして、五月十八日から機材の設置作業を行ったところでございます。

 それで、今先生、席上に御配付していただきました写真等を拝見いたしておりますけれども、私どもといたしましては、今申し上げました考え方のもとに実施をしてまいりまして、サンゴを大幅に破壊したとか、あるいは損傷したとは考えておりませんけれども、今後とも、この調査を実施するに当たりましては、環境に十分配慮して対処してまいりたい、そのように考えているところでございます。

照屋委員 佐藤那覇施設局長は、この写真を見て調査をすると約束したんです。

 長官、一番下の写真を見てください。これはビデオカメラを設置したところですが、ここのところはジュゴンの通り道なんです。ジュゴンの通り道にこんな機器を設置したら、ジュゴンを通せんぼうしているのと同じじゃありませんか。長官、調査しますか。

北原政府参考人 御答弁申し上げます。

 機材を設置した場所の現状につきましては確認をすることといたしております。

 それから、先生今配付いただきました、この一番下の写真でございますが、これはまさに水中ビデオカメラでございます。それで、この真ん中の上の方の黒い丸がございますが、これは、この黒いものの青い方へ向いているのが正面でございまして、この写真に写っているのは後ろ姿でございます。

 私どもがこのビデオを設置するに当たりましては、ジュゴンなどの通り道と言われておりますリーフの切れ目、いわばこの青いところでございますが、切れ目には置くことはしない。ジュゴンはリーフの切れ目から藻場に入ってくるということでございますので、切れ目にはこういうものは置いておりません。切れ目がこの青い方でございますので、その切れ目の周辺部にこの機材を設置したところでございます。

 いずれにいたしましても、大事なことは、ジュゴンなどの海生生物の来遊に影響がないよう十分注意してまいりたい、そのように考えております。

照屋委員 長官、那覇防衛施設局から海域調査をやりたいと言ったときに県が同意をした、その際に、県から調査に当たっての配慮事項が示されたはずであります。具体的には、調査の具体的な調査工程、調査期間、調査時期、調査機器設置方法、環境配慮の内容については、決定次第、県に報告をすること、こういう条件になっておるはずです。

 ところが、調査方法も工程も沖縄県に全く報告していない。県もけさの関係会議で、施設局に対して、調査方法や工程を早く出すように求めていくと決定をしております。

 長官、さっき指摘したサンゴの破壊、損傷を含めて、この設置方法や工程を、当委員会にも、もちろん沖縄県にも、報告できますでしょうか。

 また、委員長、これはぜひ当委員会に提出するように求めてもらいたいと思います。

山口委員長 理事会で協議いたします。

 北原長官、簡潔に。

北原政府参考人 御答弁申し上げます。

 沖縄県からは、配慮事項として今先生がおっしゃった等の内容が入ってきております。

 この点につきましては、よく県と報告の仕方等については御調整をしてまいりたいと考えているところであります。

照屋委員 もう終わりますけれども、長官……

山口委員長 質疑時間が過ぎておりますので、簡単にお願いします。

照屋委員 はい。豊かな自然体系を守っていく、ジュゴンを守っていくのは国際社会の責務なんです。辺野古には人類より先にジュゴンがすんだんです。そのことも忘れないで、特に、今回のサンゴ破壊についてはきちんと沖縄県に報告してください。委員会にも資料を出してください。

山口委員長 これにて両件に対する質疑は終局いたしました。

    ―――――――――――――

山口委員長 これより両件に対する討論に入るのでありますが、その申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。

 まず、千九百七十二年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の千九百九十六年の議定書の締結について承認を求めるの件について採決いたします。

 本件は承認すべきものと決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

山口委員長 起立総員。よって、本件は承認すべきものと決しました。

 次に、職業上の安全及び健康を促進するための枠組みに関する条約(第百八十七号)の締結について承認を求めるの件について採決いたします。

 本件は承認すべきものと決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

山口委員長 起立総員。よって、本件は承認すべきものと決しました。

 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました両件に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

山口委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

    ―――――――――――――

山口委員長 次回は、来る二十五日金曜日午前九時十分理事会、午前九時二十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後四時三十六分散会


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