衆議院

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第18号 平成14年6月14日(金曜日)

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平成十四年六月十四日(金曜日)
    午前九時十分開議
 出席委員
   委員長 大石 正光君
   理事 熊谷 市雄君 理事 西野あきら君
   理事 柳本 卓治君 理事 山本 公一君
   理事 奥田  建君 理事 牧  義夫君
   理事 西  博義君 理事 樋高  剛君
      小渕 優子君    奥谷  通君
      亀井 久興君    木村 隆秀君
      小泉 龍司君    小林 興起君
      阪上 善秀君    菱田 嘉明君
      三ッ林隆志君    山本 有二君
      小林  守君    近藤 昭一君
      鮫島 宗明君    田端 正広君
      藤木 洋子君    金子 哲夫君
    …………………………………
   環境大臣政務官      奥谷  通君
   参考人
   (宇都宮大学農学部教授) 小金澤正昭君
   参考人
   (日本獣医畜産大学野生動
   物学教室専任講師)    羽山 伸一君
   参考人
   (社団法人大日本猟友会専
   務理事)         小熊  實君
   参考人
   (地球生物会議代表)   野上ふさ子君
   環境委員会専門員     飽田 賢一君
    ―――――――――――――
六月十二日
 鳥獣保護法の改正及び野生生物保護法の制定に関する請願(五十嵐文彦君紹介)(第五四三〇号)
 同(井上和雄君紹介)(第五四三一号)
 同(今田保典君紹介)(第五四三二号)
 同(中津川博郷君紹介)(第五四三三号)
 同(長浜博行君紹介)(第五四三四号)
 同(肥田美代子君紹介)(第五四三五号)
 同(細川律夫君紹介)(第五四三六号)
 同(池田元久君紹介)(第五六二六号)
 同(鎌田さゆり君紹介)(第五六二七号)
 同(後藤斎君紹介)(第五六二八号)
 同(三井辨雄君紹介)(第五六二九号)
 同(北橋健治君紹介)(第五八九二号)
 同(松沢成文君紹介)(第五八九三号)
同月十三日
 鳥獣保護法の改正及び野生生物保護法の制定に関する請願(松原仁君紹介)(第六〇五八号)
 同(金田誠一君紹介)(第六三二九号)
 同(桑原豊君紹介)(第六三三〇号)
 同(近藤昭一君紹介)(第六三三一号)
は本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律案(内閣提出第八一号)(参議院送付)


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     ――――◇―――――
大石委員長 これより会議を開きます。
 内閣提出、参議院送付、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律案を議題といたします。
 本案審査のため、本日、参考人として、宇都宮大学農学部教授小金澤正昭君、日本獣医畜産大学野生動物学教室専任講師羽山伸一君、社団法人大日本猟友会専務理事小熊實君、地球生物会議代表野上ふさ子さん、以上四名の方に御出席いただいております。
 この際、参考人の皆様に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多用中のところ本委員会に出席いただきまして、まことにありがとうございます。参考人の皆様におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、審査の参考にしてまいりたいと存じます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 次に、議事の順序でありますが、小金澤参考人、羽山参考人、小熊参考人、野上参考人の順に、お一人十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。
 なお、念のため申し上げますが、御発言の際は委員長の許可を得ることになっております。
 それでは、小金澤参考人にお願いいたします。
小金澤参考人 宇都宮大学の小金澤です。
 今回提出されている鳥獣保護及び狩猟の適正化に関する法律案について、私は、野生鳥獣の保護管理の観点から、基本的に賛成の立場で意見を述べさせていただきたいと思っております。
 この法律は、我が国の野生生物の保護を直接的な目的とした法律として、文化財保護法及び絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律とともに、極めて重要な法律であると認識しております。
 とりわけ、今回改正案が提出された鳥獣保護法は、その対象とする範囲が非常に広く、また、人間と野生動物、そして土地という三者の相互関係を、具体的には、鳥獣による生活環境の問題や、農林業被害あるいは生態系に係る被害の防止、さらには狩猟、あるいは野生動物の生息地の保全といった相互関係の問題を包括的に扱う法律として、極めて影響力の強いものというふうに位置づけられます。
 今回の改定では、一番目に、従来の片仮名書きの文語体の条文を、わかりやすい法律とするために、平仮名書きの口語体の条文に改めたこと、それから、狩猟免許に係る障害者の欠格条項の見直し、三番目としては、水鳥の鉛中毒の防止のための鉛散弾の使用を制限する区域の設定、さらには、鳥獣の捕殺個体の放置の防止といった措置を講ずることが盛り込まれております。
 今回、私が意見を述べさせていただく点は、一番目が鳥獣の範囲の問題です。それから二番目としては、特定鳥獣保護管理計画に係る問題を取り上げたいと思っております。
 一番目に挙げる鳥獣保護法が保護する鳥獣の範囲ですが、今回の法律では、これまであいまいであった鳥獣を鳥類及び哺乳類に属する野生動物というふうに定義しました。この定義づけは、すべての鳥類と哺乳類がこの法律の枠組みの中で保全されるという極めて重要な意味を持つものであり、高く評価されると考えております。
 とりわけ、これまで農林水産業の振興あるいは被害という形で具体的に出てくるであろう対立する図式で法の対象外に置かれていたネズミ類やモグラ類、食虫目ですけれども、このほかに、海生哺乳類、アザラシですとかジュゴンなどが鳥獣保護法の対象に組み込まれたことは大変大きな前進であるというふうに、私自身高く評価しております。
 しかし、その一方で、第八十条において、環境衛生の維持に重大な支障を及ぼすおそれのある鳥獣、または他の法令により捕殺、捕獲について適切な保護管理がなされている鳥獣については、具体的にはトドが挙げられるわけですが、その対象から外されようとしております。そういう点で、私自身、率直なところ、大変残念に思っております。
 きょうは、特に海獣類の専門である羽山先生がお見えになっていますので、私自身はこの問題についてこれ以上触れませんが、私なりにこの問題を考えますと、この問題の根本には、いわゆる害獣、益獣論という形での人間中心の考え方が依然残っているというふうに指摘せざるを得ません。人間の生活にとって有害なものはできるだけ排除し、影響の少ない状態に置こうという考え方が根底に流れているように思えてならないからです。それは、実は海獣類に限ったことではなくて、陸生の哺乳類についても共通の問題です。
 しかし、今日私たちの価値観は、この人間中心の物の考え方から、たとえ私たちの生活にとって不都合なものであっても、生物の多様性の保全あるいは生態系の保全という観点から、野生動物を保全しようという考え方に徐々にですが移り変わりつつあります。そういった点で、この問題については、今後さらに議論が必要であろうというふうに私自身は思っております。
 次に、特定鳥獣保護管理計画に絡む問題として、今回の改正で取り上げられた鳥獣の捕獲種類の把握という問題があります。
 今回の改正では、鳥獣の生息状況を的確に把握するために、鳥獣の捕獲等の許可を受けた者または狩猟者に対し、捕獲等をした鳥獣についての必要な報告が義務づけられています。この改正は、前回の鳥獣保護法の改正で創設された特定鳥獣保護管理計画の策定、実行に係る点で、大変重要な点であろうと私自身は思っております。特定鳥獣保護管理計画をより円滑に進める上で、また、狩猟者の知識の向上という点で、高く評価されるというふうに判断しております。
 この狩猟結果の報告の義務づけは、従来、狩猟免許状の返納時に行われる報告を義務化したものであるというふうに判断しております。これまでの狩猟報告は、捕獲した種類と頭数が主に報告されてきました。
 一方、特定鳥獣保護管理計画の策定に伴い、例えば私が関係しております栃木県の鳥獣保護事業計画の中では、捕獲した鳥獣類の種類や名称、数だけではなくて、特定鳥獣管理計画に基づく鳥獣、具体的に言いますとシカがそれに該当しますが、捕獲した場所ですとか性、年齢、角のポイント数などを報告者が報告するように協力を求めております。これは、鳥獣保護管理計画をより科学的なデータを収集することにより科学的に進めるために実行しようとして、栃木県が任意に進めたものです。
 その一方で、管理計画の中で狩猟による個体数調整をより促進するために、法改正に基づき狩猟規制を大きく緩和する措置がとられました。この結果、栃木県並びに群馬県に分布するいわゆる日光・利根地域個体群のシカにつきましては、栃木県側の資料では、平成十一年度まではおよそ千七百頭の駆除数といいますか個体数調整数で前後しておりましたけれども、平成十二年度には、法改正に基づく規制緩和に基づいて三千三百頭、それから平成十三年度は、前年ですが、およそ三千頭前後という形で飛躍的に増加しております。これは、個体数を調整するという点では極めてこの法改正が有効に働いたというふうに判断しております。
 しかし、その一方で、管理計画の重要な柱の一つであるモニタリングという側面では、狩猟報告が義務化されていないために、十分なデータ、すなわち捕獲した場所や性、年齢を知ることができないで、データ回収に大変不都合が生じるというところがありました。
 したがいまして、今回の法改正は、この点を改善し、より正確でかつ科学的なデータに基づく特定計画の推進に大きく貢献するだろうというふうに高く評価しております。
 しかしながら、これは次に述べる特定鳥獣管理計画を推進する体制づくりと関係するのですが、次の問題として、このようなデータを狩猟者へ還元あるいは県民に還元するいわゆる普及啓蒙という形、あるいは、この特定鳥獣保護管理計画を広く県民に知ってもらうというような必要性があるにもかかわらず、現在まだそこまで至っていないという大きな問題があります。この問題については、やはりハンターから情報が上がってきた段階でそれを特定鳥獣保護管理計画に反映するだけではなくて、その結果を広く一般の方たちに知ってもらうということが重要だというふうに考えますので、この点についても今後検討していかなきゃならない課題かというふうに私自身思っております。
 私は、特定鳥獣保護管理計画が、これまでの我が国の鳥獣保護の歴史の中で極めて画期的な計画制度であるというふうに高く評価しております。しかし、この計画制度自体の理解は必ずしも十分には進んでいないのも実態です。また、任意の制度であるために、動物の分布から判断すれば必然的に協力体制を組む必要のある隣接県同士が、各自治体の独立性から直ちに協力がとれないといった問題も依然として残っております。
 幸い、栃木県、群馬県、長野県に関しましては、特に群馬県が中心となって、シカの保全並びにクマの保護管理という形での計画制度を、お互いの県同士が情報交換し、より円滑に進めるという体制が整いつつあります。
 しかし、その一方で、行政担当者が毎年のように交代する事態も起きております。検討委員としてそういった事態を目の当たりにすると、この事業の継続性は一体だれが保証するのか、あるいは事業自体をだれが担っているのかということの理解に苦しむことが起きています。私自身、このような目まぐるしい人事の交代はぜひとも避けて、少なくとも五年程度あるいは計画期間中は、専門性を持った担当者が事業の継続性を支える体制づくりを担うという必要性があるというふうに考えております。
 一方、鳥獣行政は、ある意味で非定型的な業務が非常に多い業務です。その場その場で対応を求められるといった極めて高度な業務ですので、特定の個人に集中するということも一面では避けなければならないだろうと思っております。そういう点で、この鳥獣保護事業計画を進めるに当たっての体制づくりというのは、行政の中においても極めて重要な問題だろうというふうに思っております。
 最後に、特定計画を支える狩猟者について触れさせていただきたいと思います。
 現行の特定計画では、特にシカのような個体数調整を主体とする管理計画においては、狩猟者は極めて高い社会性を持って従事していると言って差し支えないと思います。しかし、その実態は、ほとんどがボランティアに近い協力を強いられていると言っても差し支えないのかというふうに思っております。
 現在、狩猟者の著しい減少というものは多くの識者の指摘するところです。欧米でも、ディア・ポピュレーション・アップ、ハンター・ポピュレーション・ダウンというように言われております。日本でも、ハンターの人口の減少と高齢化は、今後の野生鳥獣の保護管理に大きな支障を生じさせる可能性があります。
 一方、とりわけライフル銃を所持する狩猟者は、長い経験年数と、それから野生動物並びに銃に関する高度な知識を必要としています。このようなライフル銃を所持するといった高度な技術を持った狩猟従事者については、本人の意思を尊重するということは言うまでもありませんが、保護管理計画の担い手として位置づける、専門家として位置づける必要があるのではないかと私は考えております。
 このほかにも、外来種の問題ですとか放鳥の問題、あるいは給餌に伴う野生動物への影響、さらには高速道路網の発展充実に伴う野生動物の交通事故の多発といった、鳥獣保護法の中で見直していかなければならない問題も数多くありますが、これについてはきょうは省略させていただきます。
 御清聴、ありがとうございました。(拍手)
大石委員長 ありがとうございました。
 次に、羽山参考人にお願いいたします。
羽山参考人 日本獣医畜産大学の羽山でございます。
 最初に、今回の法案審議に当たりまして意見陳述の機会を与えていただきましたことに、心より御礼申し上げます。
 私は、これまで二十年ほど、野生動物被害問題を初めとしたさまざまな野生動物問題の解決に取り組んでまいりました。この経験を踏まえまして、今回の改正案について意見を述べさせていただきます。
 なお、補助的に画面を使って説明させていただきます。
 このたびの鳥獣保護法改正案は、本法律の持つ多くの構造的な欠陥の見直しは先送りはされているものの、幾つもの時代的要請を受けとめた点で画期的なものと評価されます。特に、本改正案第一条の「目的」で、我が国の法律としては憲政史上初めて、生物の多様性の確保というのを掲げたことは称賛に値するものと考えます。
 しかし、このような画期的な改正案であるにもかかわらず、ただ一つの条文のために、甚だしくその評価をおとしめる結果となりました。したがいまして、私としては、大変不本意ではありますが、本改正案に反対の立場から意見を述べさせていただきます。
 その問題の条文とは、改正案第八十条の適用除外規定です。これは、環境省令で定めた動物種に鳥獣保護法のすべての規定を適用しないとしております。しかし、これは、先ほど述べました第一条の「目的」で掲げている生物の多様性の確保という崇高な理念を真っ向から否定するものであります。
 そもそも、我が国が批准しております生物多様性条約の前文では、生物の多様性が有する内在的な価値を意識しとうたわれております。すなわち、あらゆる生物に対して、その存在自体に価値を求めるものであります。
 したがって、この改正案は、生物の多様性の確保を目的に掲げながら、一部の野生動物をこの法律から完全に排除するという論理的に大きな矛盾があり、また法律としての整合性がありません。しかも、この条文を削除しても、関係省庁の施策を含めて何ら支障がないことをこれから御説明させていただきます。
 まず、改正案第八十条の、環境衛生の維持に重大な支障を及ぼすおそれのある鳥獣についてでありますが、国会での御答弁では、この対象となる鳥獣は、主にドブネズミ、クマネズミなどが想定されているようであります。確かに、これらの動物については、環境衛生上好ましくない問題は多々あることは理解できます。当然、家屋内などから徹底した排除を行うということは公衆衛生上も重要と考えられます。しかし、生物の多様性を確保するという観点に立てば、たとえそうした問題があるとはいえ、これらの動物の存在自体を否定することは許されないと考えます。
 これらの問題を解決するには、従来同様に、家屋内などで自由に捕獲できる状態を確保すれば支障がないわけであります。すなわち、改正案第十三条の捕獲許可に限った適用除外規定をこれらの動物にも拡大すれば十分であり、殊さらに取り上げて、第八十条で鳥獣保護法の対象から完全に排除するという根拠は見当たりません。
 次に、改正案第八十条では、他の法令により捕獲等について適切な保護管理がなされている鳥獣を本法律の適用除外にすると規定しております。ここで、他の法令で適切に保護管理という意味は、鳥獣保護法と同等の保護管理措置が担保されている状態と解され、また、他の法令とは、水産資源保護法、漁業法などが想定されています。
 しかし、冒頭に申し上げましたように、そもそも生物の多様性の確保を目的とした法令が我が国ではほかに存在しない以上、鳥獣保護法と同等の保護管理措置は期待できないはずであります。むしろ、私のこれまでの経験では、現段階で、生物種を法令によって切り分けて、単一の主体が保護管理に当たるのは実効性に乏しく、関係行政機関、民間団体、専門家などの多様な主体が連携してこそ、生物の多様性の確保が可能になると考えます。
 ここでは、その具体的な取り組み例として、私が過去二十年間かかわってまいりました北海道襟裳岬のゼニガタアザラシについて御紹介させていただきます。
 レッドリストで絶滅危惧種に指定されているゼニガタアザラシは、北海道に生息し、我が国で唯一繁殖するアザラシであります。このアザラシは、これまで全く行政的には保護対策がとられてきませんでした。一九七〇年代にはその生息頭数が百数十頭という絶滅寸前の状態になり、一九七四年には文化財保護審議会が、国の天然記念物に指定するよう文化庁長官へ答申をしています。ところが、このアザラシによる漁業被害が深刻であるということで地元からの反対が強く、以来二十八年間、天然記念物指定はたなざらしにされております。
 私たち研究者は、漁業被害対策を講じなければこのアザラシを絶滅のふちから救うことはできないと、当時から再三にわたって水産庁等に対して適切な保護管理を要請してまいりました。しかし、きょう現在、何ら対策は講じられておりません。
 しかし、その後、北海道えりも町では、被害を受けている漁業者、観光業者、主婦など多様な人々によって、アザラシと人間が共存共栄できる地域社会づくりを目指す活動が始まりました。十年前に結成されたえりもシールクラブという団体は、アザラシの生態や漁業被害の実態調査に始まり、子供たちへの環境教育といった地元に根づいたユニークな活動が評価されて、朝日新聞海の環境賞を受賞するなど、全国的にも注目されております。
 しかし、こういった活動に至るには、襟裳の人々が乗り越えてきた苦難の歴史を語らないわけにはまいりません。
 実は、ゼニガタアザラシが絶滅寸前となっているにもかかわらず漁業被害が問題となっていたころ、襟裳ではいそ焼けによる漁獲量の減少に苦しんでおりました。襟裳岬周辺は、今から四十年ほど前、森林の乱伐や過剰な放牧などによって、襟裳砂漠と呼ばれるような状況となっておりました。こうした陸上の砂漠化は海の砂漠化をも引き起こしてしまいました。そこで、襟裳の人々は、もう一度陸と海の森を取り戻すために、国有林と一体となって植林に取り組み始めました。そして現在、海も陸も見違えるように回復してきたのです。
 画面をごらんください。
 これは世界的な水中写真家の倉沢栄一さんが撮影された現在の襟裳岬の水中映像です。このように、ジャングルのように密生して再生した昆布の森の中をたくさんのアザラシあるいは魚たちが泳いでおります。
 二十年前私が調査を始めたころに比べ、現在の漁獲量は約十倍にふえております。同時に、この絶滅危惧種ゼニガタアザラシも、その個体数は約三倍に回復いたしました、もちろん現在でも絶滅危惧種の状態には変わらないわけですが。当然、被害もその分ふえているわけですけれども、相対的な被害量が漁獲量の増加によって減少し、前述のような活動さえ生まれているのであります。
 そして、襟裳で多くの人が学んだことは、海も森も川も野生動物たちもすべて切り離せないものなのだということです。水と命は循環しているからです。私たちの社会は、行政の都合で自然を縦割りにしてしまいました。しかし、生物の多様性を確保して豊かな社会を築くには、多様な主体が協力して取り組むことこそが必要なのであります。
 実は、多様な主体が参加し、被害対策や生息環境管理などを含めた野生動物を保護管理する民主的かつ科学的、計画的な仕組みというのは、今のところ我が国の法令では、鳥獣保護法の特定鳥獣保護管理計画制度しか存在しません。ぜひともこの仕組みを海獣類の保護管理へ適用していくことを期待したいと思います。
 さて、この襟裳の事例を踏まえ、これまでの衆参両院での議論で再三話題となったトドについて考えてみたいと思います。
 トドは、アザラシに近い仲間で、なおかつ絶滅危惧種であるにもかかわらず、改正案の第八十条で適用除外対象種に挙げられております。その根拠として、漁業法により適切に保護管理されているということなのですが、ここではまず、そのような事実がないことを指摘しておかなければなりません。
 日本に来遊するトドは、主に千島列島及び北方四島で繁殖する個体群で、一九六〇年代には二万頭以上が生息していたものですけれども、現在では五千頭足らずほどに激減してしまいました。これらの原因は、我が国で一九五八年以来続けられてきた駆除によるものと考えられております。
 このような状況から、トドは国際自然保護連合及び環境省のレッドリストで絶滅危惧種に指定され、ロシア及び米国では手厚い保護が行われております。
 我が国でも、一九九四年からは漁業法に基づいて年間百十六頭の捕獲枠を定めましたが、これらに何ら科学的根拠はありません。しかも、捕獲の影響評価など、鳥獣保護法で求められている科学的かつ計画的な保護管理は行われず、実際に、これまで一度も捕獲枠が見直されたことはありません。
 先般の参議院での水産庁による御答弁では、水産庁ではトドを絶滅の危機に瀕している種とは認識していない、希少種であるということでありましたが、水産庁のレッドリストは一九八九年のデータに基づいているもので、その上、水産庁の評価基準は国際基準とは異なっております。こうした認識は我が国の野生生物保護政策に対する国際的な信用を失墜させるものとして、ここで御指摘しておきたいと思います。
 さらに、水産庁の御答弁によりますと、北海道日本海中部での研究者の報告から、トドは過去十年間で増加傾向にあるとの見解を示されておりますが、これはデータを曲解されております。
 現在、我が国へのトドの来遊頭数はわずか五百頭です。この二十年ほどで太平洋側の来遊群はほぼ絶滅し、わずかに残った集団が近年日本海中部に集中しているにすぎません。画面の赤く丸でくくった部分です。しかも、これらの集団というのは南千島の限られた集団由来のものと考えられまして、現在のような駆除が継続されれば、早晩、絶滅してしまいます。
 画面でごらんのように、南千島の非常に限られた場所で繁殖したものが日本に来遊しているということを示したものです。これはロシア側の標識調査によって明らかになった結果であります。
 もちろん、北海道の日本海側ではトドによる激甚な被害が発生していることは事実であります。このグラフのように、この地域の漁獲量は過去十年間で約三割も減少し、相対的な被害率は二五%にも上ります。しかし、こうした激甚な被害はトドだけの問題なのでしょうか。
 この映像は、日本海で駆除されたトドの死体が沈んでいる現場です。つまり、ここでトドによる漁業被害が起こり、当然漁業者もここで漁を営んでいる、そういう場所なわけです。陸揚げされた駆除個体のおよそ二倍がこのように水没していると考えられておりますが、その実態は明らかではありません。
 しかし、きょう見ていただきたいのはトドの死体ではありません。背景の海に注目していただきたいと思います。先ほどの襟裳の映像と全く違うということが御理解いただけます。つまり、海自体が死んでしまっているわけです。つまり、いそ焼けの現象であります。かつての襟裳の海と全く同じ現象が起こっているというふうに考えております。
 このようないそ焼けによって漁獲が減少している現場で、トドと漁業者が共倒れとなっていることが御理解いただけたと思います。海をこのままにしておいて、仮にトドを絶滅させても、漁業の再生は望めません。もはやトドの駆除に依存する被害対策は限界で、総合的な取り組みが必要であります。
 これらの施策を効果的に実行するには、水産行政だけでは対応が困難です。もちろん、環境省だけでもトドは守れません。これまでお話ししてきましたように、生物種を法令によって切り分けて保護管理に当たるのは実効性に乏しいのであります。したがって、環境省も水産庁も、あるいは林野庁も国土交通省も、さらには関係行政機関、民間団体、専門家など多様な主体が連携してこそ、生物の多様性の確保が可能になると考えます。
 その意味からも、今回の改正案第八十条はこの際削除すべきで、先生方におかれましては、慎重なる御審議をよろしくお願いしたいと思います。
 以上です。ありがとうございました。(拍手)
大石委員長 ありがとうございました。
 次に、小熊参考人にお願いいたします。
小熊参考人 私は、社団法人大日本猟友会の小熊でございます。
 今回審議されております法律には狩猟が非常に深く密接にかかわっておりますので、私のところの団体とあるいは狩猟について、冒頭に若干述べさせていただきます。
 まず最初に、私どもの設立目的でございますが、「狩猟道徳の向上、野生鳥獣の保護、有害鳥獣の駆除及び狩猟の適正化を図り、もって狩猟の健全な発達と生活環境の改善に資する」、こういう目的を持って活動いたしております。
 すなわち、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律を遵守し、狩猟のルール、マナーを向上させるとともに、安全な狩猟を実現することを目標にしており、加えて鳥獣保護行政にも積極的に協力いたしているところでございます。
 また、傘下の猟友会員は、都道府県から要請がありますれば、鳥獣保護員を引き受けたり、有害鳥獣駆除の駆除隊にも参加するなど、猟友会全体として鳥獣保護の仕組みの実施に協力いたしているところでございます。
 最近の狩猟者の現状でございますが、狩猟免許取得者は、昭和四十五年が一番多くおりまして、五十三万人でございました。最近では二十二、三万人で推移し、ピーク時の四割程度になっております。
 年齢構成を見ますと、五十歳以上は、四十五年時には二割程度でございましたが、現在は七割にも達しております。高齢化が進行し、課題となっております。
 減少傾向の主な原因としては、獲物の減少や近年のレジャーの多様化等が挙げられると考えておりますが、特に二十歳代などの若い人の減少が大きくなっております。このような状況が続くと、現在猟友会員が引き受けております駆除隊などの編成が難しくなってきますので、私どもとしては、狩猟者の数の回復のために現在取り組んでいるところでございます。
 先ほど少し触れましたが、猟友会員は各地で鳥獣保護員を引き受けているという実態がございますが、また、有害鳥獣駆除の駆除隊員も猟友会員が引き受けております。
 鳥獣保護員は、鳥獣保護法に基づく取り締まりや都道府県の鳥獣保護区の巡視、鳥獣の生息上の調査、子供たちへの普及啓蒙等であります。一年間の活動日数といたしましては、おおむね五十日ぐらい出動いたしておりまして、当該都道府県から一日当たり三千円程度の謝金をいただいております。現在、全国に三千五百人ほど鳥獣保護員が任命されていると聞いておりますが、その九割程度が狩猟者になっております。この中には、野鳥保護団体の会員になっている方もたくさんおります。
 鳥獣保護員として活動するには、時間的に余裕がないとなかなかできませんので、農業や自営業の方がかなりの数を占めております。鳥獣保護員の多くが狩猟者であるということにいろいろの御意見もありますけれども、活動内容や配置のことを考えますと、あるいはやむを得ないことであると思います。
 有害駆除への協力については、その対応はほとんど狩猟者が実施の面で担っているのが事実でございます。狩猟者は、狩猟が職業というものではありませんから、ある意味ではボランティア的に対応いたしております。駆除隊員の報酬は地域によってさまざまでありまして、銃の弾代程度のケースもありますれば、イノシシ等一頭捕獲した場合の金額を定めた、いわゆる成功報酬方式のような方法をとっておる都道府県もございます。
 少し話が変わりますけれども、狩猟者は実際に狩猟をするときに狩猟者登録を受けなければなりませんが、そのときに、狩猟者登録税と入猟税を納めております。免許の種類などによって税金は若干異なりますが、一般的な銃猟の場合、散弾銃、ライフル銃を使う場合でございますが、狩猟者登録税が一万円、それから入猟税が六千五百円でございます。狩猟者登録税は都道府県の一般税でございますが、入猟税は、鳥獣の保護、狩猟のための目的税でございます。
 入猟税制度が導入されましたのは昭和三十八年でございまして、そのときの趣旨はキジなどを放鳥する費用に充てるということになっておったわけでございますが、現在は、広く鳥獣保護の行政費として使われておるのが実態でございます。年間の入猟税の総額が十三億でございます。鳥獣保護と狩猟に関する都道府県の総予算が五十億円でございますので、鳥獣保護の経費の四分の一程度が入猟税で賄われていることになります。
 猟友会の活動といたしましては、このほかに、キジやヤマドリ、ウズラの放鳥事業も行っております。狩猟が安定的に安全に継続できるよう努力しているところでございます。
 さて、ちょっと前置きが長くなって申しわけありませんでしたが、私は、今回の法律案に対して基本的に賛成の立場で意見を述べさせていただきます。
 主に賛成する理由といたしまして、一つは、大正七年にできた現行の鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律が読みにくく、なかなか難解な法律で、解釈の難しい法律でございましたものが、平仮名書きとなり読みやすくなった点で、私ども法律に基づいて狩猟をやる者といたしましては、なじみの深い法案になったものとして歓迎しております。
 二つ目として、鉛製散弾の規制の充実や狩猟で捕獲した鳥獣を山野に放置することを禁止することについては、私ども狩猟者にとっては非常に厳しい面もございます。しかし、やはり生態系という、自然環境を保全していくという重要な面からいたしますれば、やむを得ない措置かもということでございます。
 三つ目が、捕獲データの報告義務化でございます。今までは都道府県ごとに種類別に捕獲数を報告しておりましたのを、もう少し細かく、捕獲場所も指定するようにちょっと聞いておりますが、そういうデータをとっていただくということは、その後の科学的管理に活用していただく。もう一つ、特に私どもがゲームの確保のためにキジなりヤマドリを放鳥しておりますが、やはり捕獲するということはすんでいることでございますから、そこがその鳥獣の一番生息適地だということがわかるわけでございますから、その後の保護増殖に非常に役立つデータが得られるものと思っております。
 大日本猟友会といたしましては、これら新しい仕組みを会員が遵守するように、当会といたしましても指導してまいりたいと考えております。また、もとより安全狩猟、適正狩猟の推進にも取り組んでまいりたいと思っております。
 今回の改正で触れられておりませんけれども、狩猟免許の種類は、網・わな猟、第一種、第二種と、今度、甲、乙、丙を呼び名を変えております。しかし、免許の有効期間の三年が、当方がお願いしておりましたけれども、改正されておりません。したがいまして、例えば、今三年の更新期間でございますので、三年間無事故である、あるいは有害鳥獣駆除等に積極的に協力した者に対しては、優良狩猟者ということで免許の有効期間を五年にしていただきたいということの検討をお願いしたいと思っております。
 最後にもう一点。今回の改正法案とは直接関係ございませんが、各地で実態が明らかになりました犬のみによる捕獲を禁止することについて、今年の猟期から実施されるということを聞いておりますが、これは私どもが前々から環境省にお願いしておりました事項でありまして、それが早急に実施されるということで非常に評価するものでございます。今後とも、狩猟の適正化に向けて、制度の改善などを柔軟な姿勢で弾力的に行っていただくことを切にお願いするものでございます。
 以上、今回の鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律の審議の際に参考人として意見を述べさせていただきまして、大変ありがたく存じております。御清聴ありがとうございました。(拍手)
大石委員長 ありがとうございました。
 次に、野上参考人にお願いいたします。
野上参考人 野上と申します。
 私は、人間中心の環境問題の幅を広げて、地球の生き物たちの側から見た環境問題ということに取り組んでおります地球生物会議の代表をしております。今回、自分たちの生死にかかわる問題であっても発言権のない日本の数百万、数千万の野生動物の運命にかかわる鳥獣保護法の改正に際しまして、意見を述べる機会を与えられたことに感謝申し上げます。
 鳥獣保護法は、野生鳥獣の捕獲を規制することによって保護を図ることを主目的にしておりますが、現実には、平成十一年度の統計によると、狩猟と有害鳥獣駆除を合わせて約三百十万匹の鳥獣が捕殺されています。これほど多くの野生動物が人間の都合で生命を奪われているわけですが、現行法ではその保護が適切になされておりません。残念ながら、今回の鳥獣保護法改正は私たちが望む包括的な野生生物保護法制ではないことから、本改正案に反対の立場で意見を述べさせていただきます。
 まず、年間百万匹もが生命を奪われている現在の有害鳥獣駆除のあり方には大きな問題があると考えています。
 私は、ことしの四月に京都府に有害駆除の許可状況について情報開示請求をして、驚いたことがあります。
 猿の駆除の許可期間を見ると、毎年、年度初めの四月一日に許可が出されます。許可期間は約一カ月で、有効期限が来るとすぐに次の一カ月の許可が出ます。そうやって、年度末の三月二十六日まで許可の延長を行っています。一年じゅう有害駆除の許可が出ているわけです。被害があるから駆除をしているというわけではないようです。驚くべきことに、京都府では平成十一年度の猿の駆除の許可総数は千四百六十八頭にも及び、これは京都府内の猿の全生息数を上回っています。
 クマについて言うと、例えば京都府の美山町では、クマの駆除の許可を猟期と積雪期を除く全期間、毎月五頭の駆除の許可を出しています。実際、平成十二年度に五頭、十三年度に七頭のクマを駆除しているので、もう許可はゼロになってもいいはずですが、相変わらず年を通じて毎月五頭の捕獲許可が出され続けています。これは要するに、被害があろうがなかろうが、駆除しようがしまいが、年間一定数の捕獲枠が決められているということです。
 この映像のクマは、福井県名田庄村で、有害駆除目的で、おりで捕獲されました。杉の皮はぎをするという理由ですが、胃の内容物を調べたところ杉の皮は発見されず、歯型も異なっており、ぬれぎぬだったということが判明したそうです。しかし、この地域では、猟期と積雪期を除く一年じゅう、中にハチみつなどを入れてクマを誘い込むこのようなおりが設置されています。
 京都の美山町、福井県の名田庄村、滋賀県の朽木村一帯は北近畿のクマの地域個体群であり、絶滅が心配されています。しかし、関係三県の連絡協議会も設置されておらず、このような駆除一辺倒のやり方が続いています。野生鳥獣の生息環境は、人工林化、秋の実りの多い少ない、気候の影響などで毎年変化し、それに対応して被害の態様も変わっているはずですが、現実には、生息環境の調査もなく、年中行事のように有害駆除で毎年捕獲枠をこなすという手法が続いています。
 野生鳥獣をいたずらに殺傷するばかりで、しかも何ら効果は上がらず、ただでさえ乏しい地方自治体の財源を浪費するという現状を変えるためには、有害鳥獣駆除のあり方を抜本的に変える制度の創設が必要かと思います。
 当会では、昨年、北海道から鹿児島まで、猿を駆除している全国五百市町村にアンケート調査を行いました。その調査結果によると、平成十一年度に全国で駆除された猿は一万頭を超え、その駆除費には二億円がかけられていました。駆除費の大半は、猟友会への手当と一頭当たりの報奨金です。
 全国平均で猿一頭当たり二万円程度の報奨金がかけられています。それを目当てで捕獲業者があらわれ、実験動物用に密売して二重の利益を得ていた事実は、十一日の当委員会で御指摘のあったとおりです。ここでもやはり、被害の実態の客観的評価に基づく適切な被害対策がとられていないがために、ずさんな駆除が行われたり、密売業者の暗躍を許し、行政ぐるみで違法行為の温床となっていることが判明しました。
 また、動物を捕獲する手段ですが、クマについては、銃と、おりが一年じゅう許可されており、猿はこれに加えてわなも許可されています。有害駆除は、原則一年じゅう、場所を選ばず行うことが許されています。鳥獣保護区でも駆除は行われます。どこから銃弾が飛んでくるかわからないという状況は、人にとっても危険ですが、捕獲おりとわなが一年じゅう山野に設置されているという状況は、野生鳥獣を無差別殺傷するに等しいものです。
 また、本来イノシシをとるべきわなにクマがかかった場合には、間違って捕獲されたということで、混獲、錯誤捕獲とされ、罰則もないばかりか届け出の必要もなく、統計にも記載されません。
 くくりわなについてですが、この混獲がいかに多いかということをくくりわなの例で申し上げます。
 くくりわなは、細いワイヤが動物の足や胴体にかかり、逃げようとしてもがけばもがくほど、かかった部位を締めつけます。足にかかった場合はちぎれてしまうこともあります。くくりわなは、針金の手づくりのものから発信機つきの高性能のものまでありますが、いずれも動物を無差別捕獲するもので、地域の生態系に大きな悪影響を及ぼします。
 山梨県では、平成十一年度にクマを三十七頭有害駆除しています。そのほかに、イノシシ用のくくりわなに十五頭ものクマがかかったことが学会で発表されています。誤って捕獲されたのですから、わなから外して逃がしてやるべきですが、実際に逃がせたのは五頭で、八頭は殺処分されました。
 兵庫県では、平成十二年度に十五頭のクマが捕獲されていますが、そのうちイノシシ用のわなにかかったもの五頭、違法なくくりわなにかかり捕殺されたものが一頭、交通事故で三頭が死んでいるとのことです。
 山梨県、兵庫県ともクマは狩猟禁止になっていますが、全捕獲数の三〇%以上もが誤ってわなで捕獲されています。しかも、この数は統計に載りません。
 いずれも孤立した個体群で、このような状態が続けば遠からず絶滅してしまいます。くくりわな自体を禁止するとともに、クマがかかったら自力で脱出できるようなはこわなを早急に普及させるべきと思います。
 動物を無差別殺傷するわなには、ほかに、小動物を対象としたとらばさみがあります。昨年十二月には、荒川の河川敷に仕掛けられた四個の違法なわなに絶滅のおそれのあるオオタカがかかり、死亡しました。ことしの一月には、やはり絶滅危惧種のツシマヤマネコが三匹もとらばさみにかかって死んでいます。
 数の少ない希少種でさえこれほどわなにかかっているということは、その他の鳥獣は言うまでもありません。地域の新聞では、犬や猫がかかって、飼い主の怒りが報じられています。すべてのケースで、発見されたわなには標識がない、つまり違法捕獲となっています。
 このとらばさみは、金物店やホームセンターなどで一個千円前後でだれでもが自由に購入できます。店頭でわなの許可証の提示を求められることもほとんどありません。通信販売でも自由に購入できます。もともとは毛皮をとるために考案されたわなですが、乱獲によって毛皮動物が激減したことや、その残虐性などの理由で、ヨーロッパ諸国では十年以上も前にこのようなわなを全面禁止しました。
 地球生物会議で二〇〇〇年六月にとらばさみの禁止を求める署名を呼びかけたところ、二カ月足らずで全国から二万名の署名が集まりまして、当時の環境庁に提出いたしました。このような多くの国民の声を受け、ぜひ、とらばさみ、くくりわなが一刻も早く禁止されるように心から願っています。
 十一日の当委員会で、違法なわなを発見したときは鳥獣保護員に通報するというお答えがありました。警察にも通報すべきですが、鳥獣保護法で最も罪が重い行為は密猟と違法捕獲です。
 人けのない山野で行われる狩猟や駆除を監視するために鳥獣保護員制が置かれています。現在、全国の市町村に約一名の割合で、三千三百八十名程度の鳥獣保護員が置かれていますが、残念ながら、現在、この制度もほとんど形骸化しています。
 私どもの調べでは、三重県を除く全都道府県では、鳥獣保護員は狩猟者団体からの推薦で決められていることがわかりました。県によっては、鳥獣保護員の九九%がハンターです。また、ハンターの高齢化に伴い保護員も高齢化し、五十歳以上の人が八五%を占めています。
 鳥獣保護員は年五十回程度の出動が義務づけられていますが、一年間の手当は、全国平均で十七万円程度です。研修も年に一回あればいい方で、全体研修のない県も多く、保護員同士の情報交換も不足しています。研修参加費は自己負担という県もあります。研修の講師は行政担当者がほとんどで、現場研修は行われません。
 このような体制では、多様化している鳥獣保護業務に対応できるはずがありません。狩猟者に限定された推薦制を廃止し、広く保護活動に熱意と関心、知識を持つ人材を公募すべきだと思います。また、現場研修や情報交換などを充実させて、人材育成を図るべきと思います。
 各都道府県でもこれについての問題意識はあり、鳥獣保護員制度の充実を図りたいとしているところは三四%もありました。
 北海道の担当者からはこのような意見が寄せられています。発生の態様が多様化している野生動物と人とのあつれきへの対応、より高度な調査研究実施の必要性等から、知識、技能、身分のいずれにおいても、従来より高い専門性が求められている。今後、すぐれた担い手を体系的に育成していくことが行政に求められる。各都道府県があまねく対応するためには、国の法整備による制度創設が必要であると考えるとのことです。
 一方、三重県では、鳥獣保護員と自然環境保全指導員を兼任として一般公募にした結果、大変希望者が多く、年齢は若返りし、ハンターに偏ることなく多様な人材が参加して、活動に活気が出てきたと聞いています。
 形骸化した推薦制を廃止し、自然保護や野生動物保護に熱意を有する地域の人々から広く公募して、具体的な目に見える活動に参加できる制度として鳥獣保護員を再編成すべきと考えます。そのことによって、地域の人々が新しい視野で野生動物に関心を持ち、その価値を再発見できることになると思います。今、ボランティアでも、自然や野生動物にかかわる仕事をしたいという若い人々は大変多くなっています。そのような人々が現場体験や研修に参加できるような制度も別途必要と思います。
 有害駆除においても、長らくハンターに依存し過ぎたことの弊害が今あらわれているように思います。野生動物とのトラブルが生じている地域では、邪魔な生き物は頼んで殺してもらえばよいといった風潮となり、地域ぐるみで取り組むべき有効な被害対策をおくらせ、また、科学的な保護管理の手法の普及を阻んできたように思われます。野生動物は国民の共有財産であり、その保護のためには、都市部の人々も費用と人手を負担するのは当然と思います。野生動物を狩猟者と地元の人々だけの問題とするのではなく、関心を持つ私たち皆がそれぞれの場で広くかかわれるような仕組みをつくっていければと願っています。
 鳥獣保護法の原型は、百二十年も前にできた狩猟規制法ですが、現状では、変化する時代の諸問題に対処できず、各所で機能不全の状態に陥っていると思われます。二年後における本法の抜本的改正に向けて、広く各界から活発な議論が起こり、二十一世紀における野生生物保護の基本的法制度として整備されることを強く願って、参考人意見とさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)
大石委員長 ありがとうございました。
 以上で参考人の意見の開陳は終わりました。
    ―――――――――――――
大石委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。小泉龍司君。
小泉(龍)委員 おはようございます。自由民主党の小泉龍司でございます。
 きょうは、四人の先生方、大変お忙しい中お越しをいただきまして、また、貴重なお話をちょうだいしましたこと、心から厚く御礼を申し上げる次第でございます。
 私は、質問に当たりまして、どういう質問をしようかと先生方のプロフィールを一生懸命勉強させていただきました。その中で目にとまったのが、羽山先生が書かれました包括的な生物多様性保全制度の設計図、アプローチの方法、大変すばらしい論文だなと心にとまりました。きょうそのお話が出るかと思いましたら、十分なお話がその点ありませんでしたので、私からその問題について三つほど絞って御質問をさせていただいて、その後、そのやりとりをお聞きいただく中で、小金澤先生あるいは野上先生に、お時間がありましたら、三つ私が羽山先生に御質問しますので、御感想なりお考えをその後お伺いできればというふうに思うわけでございます。
 羽山先生、先ほど陳述の中で、今回の鳥獣法改正案の中の法目的に生物多様性の確保が入った、大変画期的だ、評価すべきだと。私もそう思うわけでございますけれども、これは第一歩ですね。第一歩だというふうに位置づける必要があると思います。
 言うまでもなく、日本には包括的な法制度はない。あるいは、そもそもどういう考え方で制度設計をして、これは時間がかかるかもしれませんけれども、生物多様性という大きな問題に取り組むかという、その理念といいますか、そういう枠組みの議論も十分には行われてきていなかったように思うわけでございます。当然、これは全省庁、全行政分野にかかわる問題でございます、先ほど御指摘がありましたとおり。ですから、予算あるいは権限、そして組織の面で、一環境省の枠内に入る、おさまり切る問題ではないわけですけれども、今回の法改正、鳥獣法の改正案を一つの契機として、あるいはステップとして、全体像をつくっていくその努力を加速する必要があるというふうに思うわけでございます。
 前置きが長くなりましたけれども、先生は、その中で、いわゆる種アプローチ、特定の種に着目して、これを具体的な指標として、現実の生態系は大変複雑でございますから、一つのものをそのメルクマールとして、種を見つけてきて、そして規制をしましょう、あるいは保全をしましょう。これは鳥獣法もそのアプローチでございますし、種の保存法もそのアプローチでございます。
 一方で、我々がはかり知れない複雑な体系を持つ生態系そのものを、全体をとらえてアプローチしようという生態系アプローチ、限られたエリアでございますけれども、自然公園法、これはこういうアプローチだと思うんですね。この二つがありますよとおっしゃいました。
 しかし、これをまず第一に統合する必要がある。統合するときに、主として種アプローチでやるべきだというふうに先生はおっしゃいますが、専門家の意見をいろいろ聞いてみますと、かなり批判的な意見も種アプローチに対してはあるようでございます。どうして種アプローチを中心にするのか、具体的な仕組みも含めて、簡潔に御説明をいただければありがたいと思います。
羽山参考人 御質問いただきまして、ありがとうございました。
 今御指摘いただきましたことにつきましては、当然、生態系アプローチとそれから種アプローチ、両方必要なんであります。
 ところが、現実問題といたしまして、人間が勝手に線を引いてその中で保護の対応をするという自然公園法のような形がとられているのが一般的ではありますけれども、それではこういった生態系アプローチだけでその手つかずの自然あるいは限られたエリアの自然というのが保全できるのか。これは、我々人間が広大な面積をそういったものに提供できるのであれば、おっしゃるように、生態系アプローチだけで野生生物あるいは自然生態系は保全できるわけです。
 ところが、現実問題としまして、そういった広大な場所というものは存在いたしません。我が国で最大の自然保護区でありますのが北海道の大雪山国立公園でありますけれども、これでも到底足らない。およそ我が国の野生生物を丸ごと手つかずで保全するとすれば、恐らく関東平野クラス、大体数万平方キロの単位の保護地域を設定しなければ不可能であろうというふうに考えております。
 ですから、そういう現実性がない中で、では、どういう形で今保全の手がついていない場所を優先的に保全措置をしていくのかということになりますと、特定の種にこだわらざるを得ない、注目せざるを得ないというのが、最も現実的で、かつ実効的な手法だろうというふうに思っております。
 そうなりますと、生物種というのは多様におりますので、当然、その中で優先順位をつけなければならない。当然、絶滅危惧種の保全というのが最優先されるべきであろうというふうに思います。
 ですから、現在我が国のレッドリストには二千六百種類もの野生生物種が掲載されているわけで、これ一つ一つに注目して保護の施策を考えていくというだけでも膨大な仕事になるというふうに考えるわけです。ただ、その過程で、失われてしまった自然をどう再生させるのかとか、そういった我々がやるべき優先順位が出てきて、そして初めて必要な施策が見えてくるということになるんだろうと思います。
 ですから、もちろん、生態系丸ごと保全しなければだめだという批判的な御意見はもっともだと思いますけれども、現状を見きわめた場合、むしろ種アプローチにこだわるべきだというのが私の主張であります。
小泉(龍)委員 ありがとうございました。
 先生がもう一つその論文の中でおっしゃっているのは、この委員会の議論の中でも出てきた議論ではあるわけですけれども、捕獲禁止というような規制的な抑え込み型の手法だけではなくて、もっと幅広く、逆に、野生生物の生息環境の改善に積極的なインセンティブを与える、あるいはNGOとか土地所有者、こういう方々と緩やかな協定を結ぶ、それをそういうインセンティブと組み合わせる、もっと複雑な体系に対応するには行政側ももっと複雑な手法を持つべきだ、複数の手法を持つべきだということをおっしゃっておられますが、しかし、その非規制的な手法というものをどういうふうに位置づけるのか。これは規制的手法の補完なんでしょうか。それとも、代替的な措置として我々は考えていけばいいのか。そこは両方なのかもしれませんけれども、どういうふうな整理をされますでしょうか、お願いいたします。
羽山参考人 規制的手法は不必要だということではなくて、むしろそれぞれの種によって対応すべき措置というのは異なるだろう。それを現在の法令では一律的に対応しているわけですね。ですから、むしろ今のように、例えば種の保存法のような法律は相当厳しい規制がかかっております。
 そうしますと、もっと規制を緩めても回復させられるような絶滅危惧種というのはたくさんあると私は考えておりまして、ですから、そういったものについては、個別的に考えながら、現状に応じて規制を緩めていくということが必要だろうと思います。
 ですから、当然それに対応して、非規制的な手法、インセンティブというのをその個別ケースに合わせて考えていく。ですから、これはまさにオーダーメードで種ごとに考えていくべき問題だろうというふうに考えております。
小泉(龍)委員 ありがとうございました。
 三番目の質問でございます。
 地方自治が果たすべき役割、地方分権が進む中で、野生生物保護において地方自治が果たすべき役割が大きい、ポイントだということはコンセンサスがあるわけでございますけれども、都道府県レベルで見ますと、例えば絶滅危惧種にかかわる条例を制定しているのが今七都道府県でございますが、これはもっとどんどん広がっていくべきだ、これはおおよそ議論が収れんしていくと思います。
 しかし、一方で、その下の市町村に権限をおろすということについては、この法案の審議の中でも意見が出ましたけれども、指摘がありましたけれども、計画的な、あるいは科学的な保護管理の実効性がむしろ損なわれる、こういう指摘もあるわけでございまして、国と都道府県と市町村と、これも先生おっしゃるように種ごとに違うんだということになるかもしれませんが、どういう頭の整理をして制度というものを考えていくべきなのか。すぐ答えは出ないかもしれませんけれども、お気づきの点があれば御指摘をいただきたいと思います。
羽山参考人 まず、絶滅危惧種に焦点を当てた場合で考えますと、国レベル、それから都道府県レベル、それから市町村レベル、これはそれぞれ違いがあります。ですから、それぞれのスケールに応じて種ごとに考えていかざるを得ないというのが現状でありますけれども、基本的な考え方としては、先ほど二点でお示ししたように、どのスケールを選んでも、それぞれの自治体あるいは国、こういった主体が幾つかの手法を組み合わせてオーダーメードで考えていくということが必要になるだろうと思います。
 例えば、野生鳥獣、狩猟対象種も含めまして、今回の鳥獣保護法の対象種に関しましても、都道府県単位で考えて十分なもの、あるいは市町村単位で考えて十分なものというのもあると思います。ただ、例えば、移動性の高い鳥のようなもの、それから大型のクマのような哺乳類、こういったものについては、広域的なスケールでの連携システムというものがどうしても必要になります。
 残念ながら、今回の改正案にはそういうものがきちんと措置されておりませんので、私としてはそれぞれの種に応じて柔軟に対応できる仕組みというのをつくっていく必要があるというふうに考えております。
小泉(龍)委員 ありがとうございました。
 限られた時間でございますので、二十二分まで時間があるようでございますので、恐縮ですけれども、小金澤先生と野上先生、一分半ずつぐらいで、今の三つの論点、感想があればお聞かせをいただきたいと思います。
小金澤参考人 先ほどの三点について、手短にお話しします。
 まず、生態系の保護かそれとも種のアプローチかという点ですが、生態系そのものは概念でして、実際に私たちが目に見える対象としては種が対象になりますので、私は種をアプローチの対象にすべきだろうと思っております。それを引いて、またその場合においても、その生態系の中においてキーになる種を選ぶといった選択は、やはりその必要性は高じてくるだろうと思っております。
 それから、捕獲禁止のいろいろなインセンティブに対応してという話でございますが、これは、実は、例えば特定鳥獣保護管理計画の中でもあらわれてくるんですが、規制的に個体数をどんどん下げていくやり方、つまりシカ型の管理方法と、生息地域を保全しなければならないクマや猿といった種とは、やはり別に考えなければならないだろうと私は思っております。そういう点で、その種の状況に応じた形でその対応を考えるべきだろうと思っております。
 それから、絶滅危惧種等々の市町村への権限移譲は、これは面積を考えればできるだけ広い方がいいので、その種に応じた形にならざるを得ませんが、基本的にはより大きなレベル、広い地域のレベルを考えた方がいいと思います。
 以上です。
野上参考人 種と個と生態系ということですが、人々が一番目につくのはやはり個なんですけれども、その背景には、その地域の個体群というものがありまして、それからさらに種があります。それをすべてを支えているものが生態系であると思います。
 しかし、一般の人々が野生鳥獣と具体的にかかわるときは、それぞれの目の前にある個なわけですね。生態系について考えるときは、やはり一つの知識といいますか、そこの現場で長く働いている人たちの体験ですとかあるいは理解によって学ぶ知識、環境教育のようなもの、そういうものをセットにしながら、個を見ながら種を見、生態系を学んでいくというようなシステムが必要ではないかと思っています。
 それから、地方自治体への分権のことですが、私どもがニホンザルのアンケートをしたときに、市町村からの自由意見というものをいただいたのですけれども、その五〇%以上が、地域では、市町村ではこういう鳥獣保護行政に対処できない、財政的にも、人手もいない、ですから、ぜひ県レベル、国レベルの支援が欲しいという痛切な訴えがたくさんありました。
 現実に、市町村が対応できないがために、現場で密猟ですとか違法捕獲、そういうものが頻発しているんだと思います。行政ぐるみで違法行為が行われているということもしばしばあります。
 やはり全体的なレベルを底上げしていくという意味で、鳥獣保護員ですとか地域ボランティア制ですとか、さまざまな地域住民が参加できるシステムをつくりながら、地方自治体の行政を充実させていく仕組みに働きかけていくべきではないかと思っています。
小泉(龍)委員 大変ありがとうございました。
 終わります。
大石委員長 鮫島宗明君。
鮫島委員 民主党の鮫島宗明と申します。
 私は、東京が選挙区なものですから、余り日ごろ野生生物と触れ合う機会がない。そういう意味では、特にきょうの小熊さんの話はめったに聞けない話だものですから、大変興味深く聞かせていただきました。
 また、四人の先生方、それぞれ数十年のフィールドワークを初めとして多くの御見識をお持ちながら、わずか十五分ずつという時間で、なかなか十分な御意見をお伺いすることができなかったことを代表しておわびいたしますが、限られた時間ですので、幾つかのポイントだけお伺いいたします。
 最初に、羽山先生、非常にはっきりと八十条は削除すべきだということをおっしゃいましたが、八十条は、衛生上好ましくない動物それから他の法令で担保されているものは除くと。
 先ほどのゼニガタアザラシについても、一応水産資源法では対象になっているけれども、水産庁は何もしない。ですから、この八十条削除の主張の裏には、他の法令で担保されているといっても、それはどうせ機能しないということが前提になっている御意見なんでしょうか。あるいは、水産資源法が本来の趣旨に基づいて機能すれば、この八十条があってもいいのか。その点だけちょっとお伺いしたいのです。
羽山参考人 お答え申し上げます。
 水産資源保護法、あるいはトドの場合のような漁業法、これは、目的はあくまでも漁業、水産業の発展であります。
 ですから、目的がそのために遂行されるわけですから、当然のことながら、それに対して妨げとなるような動物、これは排除されなければならないということになりますので、今やられているような海の動物に対する施策というのは、この水産資源関係の法律の枠組みであれば、私は、いたし方ない、当然の帰結としてこういった施策がやられてきたんだろうというふうに考えております。
 ですから、目的が違うわけですから、その中で幾らきっちりとやったところで、私は、生物の多様性の保全には役に立たないという理解をしております。
 それからもう一つ、鳥獣保護法と水産関係の法律の決定的な違いは、鳥獣保護法というのは、すべての動物を対象として、基本的に捕獲を許可制にしております。ところが、水産関係の法令では、特定の種を指定して、その種に対しての捕獲を規制し、それ以外は自由であります。
 つまり、ほとんどの海生の生き物については捕獲の規制すらかからないというのが実態でありまして、これは実は、鳥獣保護法が大正七年に改正されましたけれども、それ以前にありました狩猟法の考え方と基本的に同じであります。ということは、水産関係の法令では、言葉の選び方を考えなければいけませんけれども、明治時代と同じ発想でいまだにやられている。それが、人口が少ない、乱獲が少ないという時代であればそれで構わなかったと私は思いますけれども、現代のような環境の状況を考えますと、むしろ鳥獣保護法のようにすべての種に対して目配りが可能な仕組みをつくるということの方が大事だろうというふうに思っております。
鮫島委員 それから、先生がもう一つ、実際に襟裳の方々の努力を紹介しながら、かなり広いセクターの方々が山もにらんで広範な運動で、まず一次資源である植物を豊かにし、それからもう一度アザラシの里をよみがえらせた例を御紹介してくださいました。霞ケ浦なんかでアサザプロジェクトとして市民たちが取り組んでいるのも同じケースだと思いますが、こういう運動をバックアップする話と八十条が邪魔だという話とは、直接は関係ない話ですか。それとも、これもやはり八十条が邪魔になるというふうにお考えなんでしょうか。
羽山参考人 ほかの法令を使って、横割りの、つまり多様な主体が参加できるような仕組みがつくれるのであれば、それは一つ可能性はあるかなというふうに思います。
 ただ、今回取り上げましたトドの問題というのは、直接的に捕獲の規制をかけない限り到底保全措置はとれませんので、これは鳥獣保護法をおいてほかにない。なおかつ、鳥獣保護法だけが、現在のところ、こういった多様な主体がかかわれる特定鳥獣保護管理計画制度というすぐれた制度を九九年改正に創設されたわけですから、それを使うことが適切であるというふうに考えます。
 ですから、そのためには鳥獣保護法の対象種でなければ仕方がありませんので、この法令から除外するということを定めた八十条は当然削除すべきだというふうに考えております。
鮫島委員 確かに、今のことは、ある意味では、水産資源法は現在も水産生物として漁業の対象となっているものが本来その対象になるべきでして、明治の初めに毛皮用にとっていたものを今水産資源法の対象にしておくこと自身も実はおかしいのではないか、それの対象にならないものについては、当然、野生生物保護の方に移ってくるべきなんじゃないかという感じはいたします。
 小金澤先生は、この八十条についてはどんなふうに評価されておられるのでしょうか。
小金澤参考人 八十条の中には、いわゆる家屋に生息するネズミ類が含まれておりますので、私は、基本的には、トドの問題については、今回の法律の改定の中でも他の哺乳類と同じような扱いをすべきだろうというふうに考えております。
 ただし、八十条を削除するということは必要ないんじゃないかなというふうに考えております。
鮫島委員 小金澤先生に、別の観点から、先生は大変長く日光のフィールド調査、それから尾瀬のシカの害などについての調査、報告をずっとしていただけていると思いますが、一つお伺いしたいのは、やはり八〇年代以後随分農業の環境が変わって、過疎化が急激に進行したり、そういう意味の中山間地域の農業、林業の衰退あるいは荒廃ということが、例えばシカの群れが爆発的にふえて今まで来なかったようなところにまで来るという、一般的には、農業と野生生物との関係というと食害というようなことばかりで語られるんですが、逆に、農業のアクティビティーが低下することによってそれまでの野生生物の分布なり暮らし方が変わってくるという視点から、農業が荒れてきていることとの関係で、どんな御見解をお持ちでしょうか。
小金澤参考人 各地で野生鳥獣による被害問題が多発している中で、例えば中国地方におきましては、イノシシあるいはクマといった動物たちが、放棄した畑、水田を利用することによってその生息域を広げる、あるいは個体数を増加させるというような問題が起きております。また、日光地域におきましても、ニホンザルがよりふもとへおりていくという現象が起きております。
 これは、当初は私どもも、もともとの生息地である山の中での変化が大きな原因かなというふうに思っていたわけですけれども、実際にニホンザルに小型の電波発信機を装着して追跡してみますと、猿たちはどんどんみずからふもとの方へおりていくということがわかってきました。
 これは、言うなれば農地が猿たちにとって非常にいい食物環境、えさ場になっているんだということのあらわれでして、また、そこで実際に私たちが見聞きする人と野生動物との関係を見ますと、ほとんどの農家の人たちは昼間畑に出ていないというようなこと、猿たちにとってみれば、まさに、農作物であろうと、また山の中にある食べ物であろうと区別はつきませんので、彼らは畑に栽培されている野菜を食物として次々に確保していく、獲得していくということを覚えていく、そういった中でより被害が頻繁に起きるということが、これまでの観察の中から明らかになりました。
 そういう点で、農業地域での過疎化ですとか、それから地域の活力の低下というものは、野生動物の生存にとっても極めて重大な問題というふうに私はとらえております。
鮫島委員 どうもありがとうございました。
 小熊さんにもお伺いしたいんですが、多分いろいろな偏見だとか誤解だとか、すごく世の中にたくさんあるような気がします。鳥獣保護員の九割がハンターだと言うと、一般的に聞くと何となく矛盾するような感じもしますし、狩猟の種類、昔から言われている、スポーツハンティングと、それから生活のための狩猟と、あるいは駆除のための狩猟、これがごちゃまぜに考えられていて、いろいろな誤解や何かも受けることがあると思うのですが、今言ったスポーツハンティング、生活ハンティング、駆除ハンティングという世界でいうと、今でも生活狩猟というのはあるんでしょうか。
小熊参考人 イノシシなどの場合に、捕獲したものを市場に出すのが結構あると思います。飼育したイノシシもございますけれども、伊豆半島あたりでとったものは売買されている、私が聞く限り。それから兵庫県の六甲山ですか、あの辺も相当山におりまして、市場に出ております。
 ただ、出している提供者が、それが生活の相当部分を占めているかは、これはわかりません。
鮫島委員 あと、特に駆除のためのハンティングという意味では、先ほど羽山先生もおっしゃっていましたが、非常に社会性の強い活動だ。そういう意味では、野上さんからも、ほとんど、年間十七万ぐらいしか払われていないという話でしたが、例えばオーストラリアとかニュージーランドでは、ある意味では非常にちゃんとした社会的な位置づけが行われている制度があるのではないかと思いますが、何かそういう内容については小熊さんは聞き及んでおりますでしょうか。
小熊参考人 今、鳥獣保護員は狩猟者が相当を占めているということですが、私が申し上げましたのですが、やはり勤め人はなかなかできませんし、自由な行動をとれる者ができるということと、もう一つは、狩猟期間でありますと、狩猟をよく知らないと指導取り締まりができませんから、その辺で比較的狩猟者が多くなっているんだろうと思います。ただ、その他の野鳥に非常に関心を持っている方もおられることは承知しております。
 それから、レベルアップの話でございます。鳥獣保護員は、今の野上参考人もおっしゃいましたが、五十日程度で一日三千円ですか、計算すると年間十五万円でございます。これはとても子供の小遣いにもならない程度でございますから、その程度でレベルアップを図るということはなかなか難しいんだろうと思います。その辺どうやったらいいか、ちょっと案は持ち合わせておりません。
鮫島委員 済みません、いろいろあっち飛びこっち飛びして恐縮なんですけれども、最後に野上さんにお伺いします。
 かねてから、先ほどの最初の例でも、京都の近郊で一年じゅう猿をとっている、あるいは一年じゅうクマをとっているという話がありました。狩猟のエリア、ハンティングのエリアが、もちろん空間的な範囲と、それから年間のいつの期間許されているかという時間的な範囲とありますが、時間的、空間的に広過ぎるという御意見をお持ちだと思いますが、本来そういうエリア、時間的、空間的とあると思いますが、どういうふうにして決められるべきだというふうにお考えでしょうか。これで最後にします。
野上参考人 狩猟については、狩猟をする人は免許制であり、狩猟をしてもいい鳥獣は決められています。それから狩猟してもいい用具、そういうものは決められているのですが、狩猟する場所については法律上規定がないわけです。とってはいけないという場所のみが決められておりまして、鳥獣保護区ですとか都市部における銃猟禁止区域、それからとり過ぎたので少し休まなければいけないという休猟区、それが大体国土の二〇%弱だと聞いています。
 そのほかの地域においては、全域どこでも狩猟が可能です。そのためにいろいろな地域で狩猟事故が起こっておりまして、農作業中の方が発砲をされ銃弾を受けて死亡したとか、そういうものが国が出している鳥獣統計に載っています。平成十一年度に多分死者が八人程度、銃弾を受けて死んでいるかと思います。
 ですから、私どもは狩猟する場所を決めるべきであると思います。今までのように狩猟はどこでもいいということではなくて、狩猟は限られた場所でやっていただきたい。そして、そのほかの地域では、人々が山歩きをしたり、ハイキングをしたり、里山の保全活動をしたり、いろいろな形で山野を利用するわけですから、そういう人たちが安全に生活できるように狩猟の場を制限する必要があるというふうに考えております。
鮫島委員 どうもありがとうございました。
大石委員長 西博義君。
西委員 公明党の西博義でございます。
 四人の参考人の皆さん、本当にきょうはお忙しいところおいでいただきまして、心から感謝申し上げます。一つ一つ興味深い貴重な御提言ありがとうございました。順次お聞きをしていきたいと思います。
 まず、小金澤参考人にお伺いしたいんですが、一つは、先ほどのお話の中で、特定鳥獣保護管理計画を実行する中で、担当者がくるくるかわってしまうのでふさわしくないんじゃないか、こういうお話がございました。これだけではないんですけれども、今全体、先生が幅広くこの計画にかかわって実行も御担当いただいて、御苦労なさっているんですが、この仕組みの上で、やってみて、この担当者の問題以外にほかいろいろ不都合なこと、これがもしございましたらお教えをいただきたい、こう思いますが、何か御意見ございますか。
小金澤参考人 特定鳥獣計画を企画策定し、実際に実行するという過程の中で、行政の担当者がくるくるというか、それこそ短い期間でかわっていくというのは、非常に間々あることなんですが、一番私自身が恐れているのは、計画を立てたままになってしまっている、つまり実行に着手するのに非常に時間がかかる、あるいは実行し切れないという問題が起きてくるんではないかなという心配を正直持っております。
 これは、計画自体は調査研究に基づいて立てるわけですけれども、実際に、具体的に運用といいますか動かしていきますと、個体数調整をしようという形になったときに、それの担い手がいなくなるといった問題がまず第一にありますし、それから、ある地域をその個体数調整の対象地域にしようとした場合に、特に北関東の場合には多雪地もありますので、人の力ではどうにもならない、つまり、雪が一メーター以上も超えて、シカは雪の少ないところに越冬しているんですが、そこへ行くために一日じゅうかかってしまうというような山奥もあります。そういったところでは計画どおりには進まないという問題も、これは実行してみる中で解決していかなければならない問題ですけれども、大きな問題として上がるんではないかなと思っております。
西委員 もう一つ、大変積極的に計画をつくっておられますことも含めて、関連してお伺いしたいんですが、先ほど野上参考人の方から、有害鳥獣駆除が各現場現場で行われているというお話がありました。それから、それに関して小金澤参考人は、どこでどういうふうな種類が捕獲または駆除されたかということをきちっと把握しているというお話がございましたが、その有害鳥獣駆除で駆除された個体数が、ずっと積算して、刻々と計画に沿った形で、どこでどういうふうなものが減っているのかということは、現実としてこの計画の中では今のところ生かされているというふうに見てよろしいんでしょうか。
小金澤参考人 正直申し上げて幾つか整理しなければならない問題があるかと思います。
 特定鳥獣計画においては、有害駆除という制度は上ってきませんので、個体数調整という形で実行しております。したがいまして、年度ごとに計画を立てて、シカならシカの個体数を調整するということを実行した場合に、どの地域でどの程度の数をコントロールしたかというのは、行政が主体的に行っている個体数調整であれば手にとるようにわかりますし、また、どういった個体であるか、性、年齢ですとか栄養状態まで把握されます。
 ところが、先ほど申し上げましたように、狩猟によるものについては、それがなかなか上がってこない。今回の法改正はそれをサポートするという改正で、私は高く評価したいと思っております。
 それから、有害駆除につきましては、これは大変難しい問題を多々抱えておりまして、恐らく猿の問題が一番問題になると思いますけれども、法律の本来の目的であれば、他のあらゆる方法を講じた上でも被害が防げない場合に講じるべき手段であるということですから、かなり超法規的な性格を持った対処方法であるというふうに認識しております。そういう意味では、厳格にやらなければならないだろうというふうに考えております。
西委員 次に、羽山参考人にお伺いしたいと思います。
 先ほど、映像を含めて、大変衝撃的なといいますか、私どもなかなか今まで理解できていなかったような御説明をいただきました。特にトドのことを先生は随分長い間御研究なされている、こういうふうにお伺いしましたけれども、この具体的な被害対策、これについて、先生、もし御存じでしたら、もちろん御存じでしょうけれども、具体的にもう少し御説明いただきたいと思います。
羽山参考人 トドの被害というのは、大きく二つに分けられます。
 一つは、魚そのものが食べられてしまうという漁獲量に対する影響の問題、それからもう一つは、これはアザラシなどとは決定的に違いますけれども、体が非常に大きいために、漁具、特に高額な定置網のような網を破ってしまう、あるいは刺し網のような細い目の網を簡単に破ってしまうということで、場合によっては一回で数百万円という漁具の被害が出てしまいます。
 ですから、そのためには、一つの対策といたしまして、網を強化する、強くするということが必要になりますけれども、それによりまして網の糸が太くなります。それによって魚に網が見えてしまいますので、漁獲が減るわけですね。ただ、破れにくくなるという問題がありますので、だから、この漁獲の減少部分については一定の所得補償なり休業補償なりというようなことが、私は、絶滅危惧種の保全対策としてはどうしても必要になるだろうというふうに思います。
 それからもう一つ、簡単に破られてしまう刺し網のようなものですと、これは強くするといっても限界がありますし、網の改良だけでは対応し切れない。最近では、漁業者の中に、東南アジアあたりから安く手に入る網をたくさん買っておいて、破られたらもうそれをどんどんかえていくというような対応をされている方もいらっしゃるようです。ですから、例えば行政側がそういった網を買っておいて、そして、もし破られたという申請があればその網を支給するという方法もあるかと思います。
 ただ、いずれにしましても、先ほどのような海の環境の状態では保全対策が効果を奏しませんので、やはり漁獲そのものをふやすような努力、これは長期的なものになりますけれども、それをやりつつ今申し上げたような幾つかのインセンティブを与えていく、こういうものとセットで考えていけばいいんではないかと思います。
西委員 時間が少なくなってきました。あと、今度は羽山参考人と、若干それに関連して小熊参考人にもお答えいただくことになるかと思います。
 実は、きょうの農業新聞にも「イノシシなど侵攻」、こういうことで農業の被害の側面から一面トップに出ておりました。あっ、きょう関連する問題だなという問題意識を持ってやってきたんですが、羽山先生は「鳥獣保護法改正の経緯と評価」という論文の中で、この野生鳥獣の被害の損失についてのお考えを述べておられます。これは、ほかのところでも、審議会等でも議論されたことということで、前提でお話をいただいているんですが、そういう意味で、先生はこういうふうにここでは述べられているんです。「生物多様性国家戦略でも野生動物は国民共有の財産」、こういう位置づけで、「それを保全するために、農林地を生息地として提供したり、」また「そのために生じた減収分をサラリーとして保障するのは国家として当然の責務」であろう、こういうお考えを述べておられます。
 私も非常に、これは将来的には我々もこういう考え方を十分考慮していく余地があるなと私自身は思っているんですが、このことについて参考人の意見をもう少し要約して、もう余り時間がないんですが、お答えいただきたいな。関連して、猟友会の代表の小熊さんにも一言お願いを申し上げたいと思います。
羽山参考人 野生鳥獣が国民の共有財産であるということでありますので、これはむしろ存在すること自体が国民に対しての環境サービスである。ですから、サービスの受益者としての国民がそれに対価を支払うというのは当然のことだろうと思います。
 しかも、先般行われました国民の世論調査によりましても、九割近い国民がこういった被害対策に一定の公的資金を投入するということを支持しております。ですから、これはもう支持があるわけですから、制度化していくべきであろうというのが私の考えであります。
小熊参考人 原則的には羽山参考人の意見に賛成でございます。
西委員 最後に、野上参考人にお伺いをいたします。
 私も、地元紀伊半島の野生のクマの保護に少しお手伝いをさせていただいているだけに、先ほどの具体的なお話、大変感銘しながら伺っておりました。特に、私の地元でも、くくりわなにクマがかかって、そしてそれが、だれもとる人が、とるというのは外す人がいなくて、結局殺してしまう以外に手がないというようなことが事件として起こったように聞いておりますけれども、皆さん方が実態を調べられて、くくりわなそのものが、猟として、一種の狩猟なんでしょうけれども、必ず必要なものかという言い方はおかしいのかもしれませんが、その位置づけ、そのあたり、どうしてもこのくくりわなという狩猟が存在する必要がある、狩猟の一種として必要があるのかどうかというあたりの御見解をお願いしたいと思います。
野上参考人 わな猟自体が、先ほどのハンターの高齢化が進んでいることと並行していまして、わな猟がふえていると言われています。つまり、仕掛けて、あと見回りに行くだけなので楽なんですね、銃を持って動物の後を追いかけ回す猟ではなくて待ち伏せ型ですから。しかし、そのために、わなは一日三十個というふうに規制されているんですが、見回りに行かない、あるいは発見できないためにむなしく餓死するとか、クマなどでもそういう例があるそうです。
 くくりわな自体は、無差別捕獲をするおそれがあるので、私は禁止すべきだと思います。どうしてもイノシシをとらなければいけないということであれば、そういう地域に限っては、栃木県の猟友会が、イノシシは逃げられないけれども、クマは逃げ出せるというはこわなを開発しています。そういうふうな代替案を考えて、くくりわなはやめていく方向で考えていくべきだと思っています。
西委員 具体的な御提言、ありがとうございました。
 以上で終わります。
大石委員長 樋高剛君。
樋高委員 おはようございます。自由党の樋高剛でございます。
 きょうは、四人の参考人の先生方、お忙しい中を御高説を賜りまして、本当にありがとうございました。また、平素の御尽力、御活躍に対しまして、心から敬意を申し上げます。
 まず、野上参考人にお伺いをさせていただきたいと思います。
 とらばさみ、くくりわなの話なんですけれども、私も前回、委員会での質疑を通じまして、これは危険じゃないか、これは禁止猟具に指定すべきじゃないかということを議論いたしましたら、環境省さん、大臣は、そういう方向に向けて検討を始めようということを公言していただいているわけなのでありますが、いわゆる違法使用の増加が懸念をされている状況の中で、やはり取り締まりが困難である、また、簡単に手に入ってしまうという問題もあるのでありますが、このとらばさみとくくりわな、規制に向けて、私は必要だという考え方でありますけれども、改めましてそのお考えを、御所見を伺いたいと思います。
野上参考人 わなの禁止につきましては、十年ほど前に、かすみ網というわなが、販売も流通も禁止されています。かすみ網も同じく野生の鳥を無差別捕獲する非常に危険な道具であるということで、長い間野鳥の保護団体が活動してきて廃止になったわけです。
 先ほど見ていただきました映像ですが、あれはヨーロッパで撮影されたものでして、あの映像がやはりヨーロッパの人々の心を打ちまして、大変な数のやめてほしいという声が起こって、EU全域でとらばさみを廃止したわけです。
 その当時、私はやはりとらばさみの廃止にかかわっておりまして、当時の環境庁の担当者にお話をしに行ったことがあるんですが、かすみ網が廃止になって、次はぜひとらばさみをお願いしますと言いましたら、その予定ですというふうに当時の担当者ははっきりおっしゃっていただいていたんですね。この十年間何らその話が進まなかったということは非常に残念です。私どもは何度も署名を集めたりお願いをしているわけですが、この機会にぜひ、とらばさみは全廃という方向で考えていただきたいと思います。
 先ほどお話がありましたように、だれでもが自由に買える、自由に設置できる、そして非常に小型で持ち運びが簡単ということです。一回わなを設置して忘れてしまうという例も多くて、無関係な野生鳥獣が各地でかかっているという情報が私どもの会にも多数寄せられていますので、そういう事実があるということの上に、廃止をしていただきたいと願っております。
樋高委員 ありがとうございます。
 先日、委員会が終わりました後に、民主党の奥田委員の方からとらばさみをこうやって会館の部屋に持ってこられまして、私、自分で仕掛けて、ペットボトルか何かでこうやってやってみたら、物すごい勢いでばあんと閉まって、物すごい殺傷力というか、それを見て改めて、ああ、これは危険だな、これはもう本当に、子供が万一そこの住宅地に仕掛けられている中で手でも挟んだら、これは指を落としちゃう、足を本当に大けがしてしまうということで、本当に私も改めて認識をした次第なのでありますが、この問題は本当にどこの政党も別に対立する問題じゃないと思いますので、これはみんなで力を合わせて取り組んでいかなくちゃいけない。
 先ほどおっしゃいました、十年も放置されてと、まさしくそういう先送り先送り行政を正していくのがやはり我々国会議員の仕事であるというふうに思っておりますので、しっかりとやっていきたいというふうに思います。
 羽山先生に伺いたいと思います。
 縦割り行政ということもありますけれども、いわゆる海生哺乳類につきまして、私、前回の委員会でも質問させていただいて、やはり海生哺乳類の保全ということも私はとても重要な部分であるというふうに思うのでありますが、先ほど来、八十条の削除の問題もありました。私は同感でありますけれども、環境省に何ができて、一方で水産庁にできないことは何であるかということにつきまして御教授いただきたいと思います。
羽山参考人 例えばトドを例に挙げますと、トドは陸上で繁殖いたします。そしてまた、日本に来遊してきた場合でも、岩礁帯、場合によっては砂地などに上陸いたしますので、そういった繁殖地、そして越冬地、こうした場所を保全措置しない限りは、彼らの生存というのは確保できない。そうなりますと、これを水産関係の法令で対応させようということは不可能でありますので、ですから私は、これを当然環境省は担当すればいいだろう。
 当然、今まで渡り鳥その他で環境省は大変な実績を持たれている。二国間の条約その他で対応されてきておるわけですから、同じように海産哺乳類についても対応すべきだし、私は先ほどから削除ということをかなり強い言い方をしておりますけれども、これはあくまでも環境省だけでやれということではなくて、環境省も水産庁もみんな一緒にやらなければ守れないんだ、被害もなくせないんだという意味で申し上げているので、御理解いただきたいと思います。
樋高委員 続きまして羽山先生に伺いたいのでありますが、そういった観点に立ちまして、環境省さんと水産庁さんのいわゆる海獣類の切り分けの部分、これは可能なのかどうかという部分につきまして、お教えをいただきたいと思います。
羽山参考人 可能かということでお尋ねでありますけれども、これはもう本当に事務的な形で恐らく取り扱われていくことになると思いますけれども、私自身は、要するに実効性があるかどうかということだと思いますけれども、まずは環境省が関与するということを担保しておかなければ何も実効性は生まれないわけです。今回の八十条というのはそれすらを最初から否定してしまう条文ですので、そこが問題だというふうに申し上げているわけです。
 実際に、こういった環境省その他の幾つもの省庁が共同して今対策に当たっている実例がもうございます。例えば、全国で約十六億円に上る内水面漁業の被害が出ているというカワウという鳥がおりますけれども、この動物については、もう既に国土交通省、それから水産庁、そして環境省、そして研究者、NGO、こういったものが協力しまして、今、特定計画を前提に話し合いを進めているという段階ですので、同じようなことを海獣類でもやられればいいんだろうというふうに思います。
樋高委員 環境省がどういう行政を行うかということにつきましては、本当に私もよく申し上げているんでありますが、別に、鳥獣、自然、環境保全に限らず、どのテーマにおいても、環境省がいろいろなところ、ほかの役所にかかわることでもどんどんかかわっていくということがまずないと、やはりだめなんじゃないかということをもう再三申し上げているんでありますけれども、なかなかそこの部分で、それは自分たちもある意味で責任が生じちゃうからなんでしょうか、もちろん思いはあっても、いろいろな役所同士の縦割りによる弊害があって、本当に悩まされる案件なんであります。
 それでは、今回のいわゆる海生哺乳類、いわゆる海獣類に際しまして、羽山先生に続いてお伺いいたしますけれども、また違う視点からいいますと、環境省さんと水産庁さん、両方が二重に所管をするということによってどういった問題が逆に考え得るのか、想定し得るのかにつきましてお教えをいただきたいと思います。
羽山参考人 私自身は、問題は特に生じない、むしろお互いに協力することでよりいい保全措置がとれるだろうというふうに考えております。
 例えば、今回、ジュゴンについては、水産資源保護法の数少ない指定種でありますけれども、これをまた鳥獣保護法で二重に保護していこうということを現実にやられるわけですね。ですから、そうしますと、第八十条で、他の法令、水産資源保護法の対象種を外すというように読み取れるわけですけれども、現実にはジュゴンを共同でやられるわけです。
 ジュゴンにとっては、保護措置というのは、一番問題になるのは捕獲の禁止とかといった問題ではありませんで、例えば赤土の流出をどう防止して生息域である藻場を守るかとか、埋め立てをどう阻止するかとか、あるいは混獲をどう防止するかとか、そういったさまざまな施策が必要で、これらは従来の水産関係の法令では対応し切れないというのが私の考えです。
樋高委員 いわゆる法のすき間の部分だと思うんでありますけれども、やはり自然をきちっと保全するんだということ、今も本当に問題点が多過ぎるんじゃないかというふうに私は思っております。
 あと、済みません、重ね重ねですが、羽山先生にお伺いいたしますが、以前、論文を拝見させていただきましたときに、今回のこの法律案、改正に当たりまして、その前にいわゆる審議会で答申がなされた。その審議会で答申をした中で、例えば特定計画制度については今回手当てがなされたけれども、それ以外の、例えばですが、狩猟及び有害鳥獣駆除における科学性、計画性の充実、あるいは科学的、計画的な保護管理を担当する行政機関の組織や人員の充実、調査研究の整備については生かされなかったということで、この部分をぜひとも法律レベルで対応されるべき点であったと考えるというふうに論文の中ではおっしゃっておいでであります。
 これらはいずれも鳥獣保護行政における病理現象の最大の原因とかねてから指摘され、しかも予算を含めた立法措置抜きに事態は動かないと見られてきた点だからというふうにもおっしゃっておいででありますが、このあたりを、済みませんが、詳しく改めてお尋ねさせていただきたいと思います。
羽山参考人 詳しく全部読んでいただきましたので、もうそのとおりであります。
 ただ、今回の改正に当たっても、この問題については対応しておりませんので、これはもう抜本改正以外にないだろうというふうに私は考えております。
樋高委員 今回これで審議にまた入っていくとは思いますけれども、やはり抜本改革をしっかりやらなくちゃいけないということをきょうは学んだような気がいたします。
 きょうはお忙しいところ、本当にありがとうございました。
大石委員長 藤木洋子さん。
藤木委員 日本共産党の藤木洋子でございます。
 きょうは、朝早くからお越しをいただきまして、本当にありがとうございました。早速ですが、羽山参考人からお伺いをしてまいりたいと思います。
 きょうは、主に八十条問題で、そこに絞ってお話がございましたけれども、前回の法改正のときに、たしか「環境と公害」誌に、法改正についての見解をいろいろまとめていらっしゃったのを私拝見させていただきました。
 そのときに幾つか問題点を指摘されていらっしゃいましたけれども、その中で、法改正に当たって、国や地方自治体に極めて人材も不足して体制もなくて研究機関もないという中で、計画を下におろすということがやられていいだろうかというような、そういう疑問点をお出しになっていらっしゃいまして、私もそれを三年前に論じてきたんですけれども、国や地方自治体の鳥獣保護の体制が不十分なままで都道府県への特定鳥獣保護管理制度というのを導入したために、捕獲だとか狩猟期間の緩和あるいは雌もとってもいいとか、こういったことを行うようになっていますので、個体数管理に偏るという傾向が非常に出ているんではないかということを私は危惧しているわけです。
 個体数管理に偏った対策となっていて、過剰な狩猟や駆除になっているのではないかというふうに思いますので、その点、もしお調べになっていらっしゃったらお示しもいただきながら、御感想を含めてお答えいただきたい。
 それからもう一点は、ニホンザルのような大型の哺乳類の場合、群れもしくは個体の生息域というのは複数の市町村にまたがっているというのは当たり前のことでございまして、適正な地域個体群の保護管理をするためには、市町村という単位で対応するのは不可能ではないかというふうに思うわけです。その点も前回触れていらっしゃったんですけれども、しかし実際にはもうそうなっておりますので、そういった矛盾が起こっているのではないかということについてひとつお答えいただきたいと思うんですね。
 それから、今、さきの同僚議員からの質問もありましたけれども、科学的な研究体制というのはかなり充実しなきゃならないということも前回の答申で出されていながら、それが十分に盛り込まれてこなかったというような点があるわけですけれども、野生動物の保護管理をハンターだけに担わせるというのは、私はとても無理だろうというふうに思うわけですね。
 保護管理のための調査研究体制の整備だとか人材の確保だとか、さらには鳥獣保護員の増員も必要であろうと思いますので、その育成が九九年以降改善されてきたのかどうかという問題でございます。私が環境省からいただいた資料によりますと、数の点しかわからなかったんですけれども、極めて微増なんですね。こんなことで果たして間に合うのかといった点、この三点についてお伺いをしたいというふうに思います。
羽山参考人 まずは、第一の御質問は、改正後の、九九年以降の三年余りでどういった成果があったのかということだろうかと思いますけれども、これは、特定計画制度の創設によって大きな動きが生じた。私はむしろ、プラスの動きがあった、地方自治体が積極的に野生鳥獣の問題に科学的、計画的に取り組み始めたという点では大変評価しております。
 ただ、次の、二番目の、市町村の権限移譲の問題と絡みまして、特に猿のような動物を、つまり狩猟対象種ではない動物の捕獲許可権限が市町村におりてしまったために、特定計画をせっかくつくっても、市町村がなかなか制御できない、市町村の御判断に対して制約を加えていくことが非常に難しい、あるいは、リアルタイムで情報を求めながら、それに対応することが難しいといった問題が現実に生じております。
 逆に言えば、猿のような動物は、シカと違いまして総量規制がありませんので、特定計画をつくるモチベーションが生じない。むしろ市町村が自由に有害駆除をやりたいということになってしまいますので、この辺の対応が非常にまずかったというふうに考えております。
 それから、最後の人材についてですけれども、都道府県によりましては、相当の対応がされてきている、評価すべきところも出てきております。
 例えば兵庫県は、今度森林と野生動物を専門に研究する研究所を設立するということになりまして、しかもここでは、県の職員を人材育成していくという仕組みを検討しております。
 ですから、こういった動きが出てきたことは前回の改正の成果だろうと思いますけれども、例えば動物愛護法のようなものを考えますと、あの法律では、条文の中に、専門的な知識を持った職員を行政が置くことができるというような書き方をされています。私も、鳥獣保護法の中にそういったものを加えて、やはりこれはプロフェッショナルがやるべき仕事でありますので、そういう職域の位置づけというのを明確化していく、国がそれを促していくということが求められるんではないかと思います。
 以上、簡単ですけれども。
藤木委員 それでは、野上参考人にお尋ねをさせていただきたいというふうに思います。
 画像で現場からの告発を拝見させていただいて、非常にショッキングな映像を拝見したわけですけれども、お伺いしたいのは、幾つかある中で、まず最初に猟具の問題で伺いたいというふうに思うんですね。
 特に、私、この間もちょっと質問の中でも申し上げたんですけれども、最近、電波発信機などが非常に精密といいますか精巧にできているということを伺っているわけです。本来であれば、この電波発信機を取りつけるというのは、猿の生息域を調査するとか、それから移動を調べるとか、どういう時期にどういうところへ出ていくのかとか、その群れがどんなふうに、まざり合ってすんでいるところと、それから全くそこの域から出ない群れがあるとか、そういうことを専門的に調査をするために使われる道具ではないかというふうに思うんですね。これがもし猟具として使われましたら、一網打尽にすることも可能ではないのか、その点が一つなんです。
 なぜそういうことを聞くかといいますと、せんだっての質問で私が申し上げましたのは、大学などで実験用の猿を非常に必要としているという需要が一つあります。ところが、それが専門的にそういう需要を満たさなければならないというシステムになっていないために、野生の猿を捕獲して、それがまた商売になるというようなことが非常に問題ではないかと思うのですけれども、この点についてまずお尋ねをしたいと思います。
野上参考人 電波発信機の問題ですが、電波発信機は、現在のところ、猟具としては認められていません。この悪用が大変懸念されると私も考えております。
 まず第一に、今の狩猟の有害駆除のあり方は、先ほど猿のところでも述べましたように、非常に漠然と、ことしは五十頭、ことしは百頭というふうに、実際はとれないために捕獲枠を多く設定してあります。それが電波発信機を使って群れごと捕獲できるようになりますと、あっという間にその捕獲枠百頭を全部とるということができるようになります。そのために、その地域の猿が絶滅するということは研究者の中でも懸念されています。それから、イノシシについてもそうですね。
 今、ニホンザルは群れで動くために、猿のリーダーに電波発信機をつけて、猿が集落に近寄ってくるとみんなで追い払おうという早期接近警報システムというのを開発されているわけですが、これを逆に有害駆除の方に悪用されますと、今猿の群れがどこを動いているかということが手にとるようにわかってしまいまして、そこで一網打尽にとるということも起こり得ます。
 最近の電気器具の開発は非常に高性能になっておりまして、小さな発信機でかなり広く周波数が飛ぶということがありますので、先ほど来、犬を使った猟を禁止するということがありましたが、この機会に、電波発信機についても、今後その悪用が懸念されるところから、ぜひ野生動物の生態の研究調査以外は禁止するという方向に持っていっていただきたいと思います。
 あと、もう一つ問題なのは、イノシシですとかクマに、有害駆除で捕獲しまして、電波発信機を取りつけて放獣するそうです。そうして、一年たって、秋になって太ったころに発信機をたどってとってしまう。いわば野生で放し飼いをして収穫するというような悪用が現に起こっているそうです。
 それからさらに、電波発信機を使って研究している研究者のところに地元のハンターの方が来て、周波数を教えろといっておどしてくるということもあるそうです。
 現実にこのような事態が起こっておりますので、電波発信機については、その使用を厳しく制限するべきであると考えています。
藤木委員 もう一点、野上参考人にお伺いをしたいと思うんですけれども、先ほど、鳥獣保護員のほとんどが狩猟家である、これは九割という話もあるわけですけれども、しかも高齢化をしていると。しかし、三重県の場合は、公募をしたら随分たくさんの応募者があったという話なんですけれども、これは制度的に改革をする必要があるのではないか。やる県はできるけれども、そうでないところは何もやらないということではだめなのではないかと思うのですけれども、その必要性がないかどうかということが一つ。
 それからもう一つ、先ほども申し上げましたけれども、人材育成の必要性というのは環境省としても否定していないわけですけれども、それが進まないんですね、育成が進まない。その最大のネックは何だというふうにお考えでしょうか。
野上参考人 鳥獣保護員を公募制にすることは、都道府県の裁量でできることですので、三重県が二〇〇〇年に始めまして、とても成功しているということを三重県の担当者の方から伺いました。ですから、これを例にして、各都道府県でも公募制等を採用し、ハンターに偏ることのないようにしていただきたいと思います。
 それから、人材育成については、やはり環境教育といいますか、野生動物を守りたいと思う人たちが、それにかかわって仕事をしたりボランティア活動をする場所がないということが一番の大きなネックになっていると思います。環境省の中に、文部省ですとかその他の施策と協力して、そういう若い人々がいろいろな活動に、山野で自然にかかわる仕事に参加できるような制度を、環境省、文部省あるいはそのほかの事業省庁と協力してやっていくような体制づくりが非常に重要であると思います。
 また、そういういいアイデアを持っているところはとても成功して地域の活性化につながっていますし、ニホンザルを追い払うボランティアというのがあるんですが、そういうものを応募している自治体もあります。それから、長野県ではやはりニホンザルを追い払う要員を職員として雇おうということで公募したところ、競争率が非常に高くて、若い人たちが大変殺到したという話です。
 そのように、やりたいという人たちの意欲を育てるような仕組みづくり、これをいろいろな分野で考えていくことが必要であると思います。
藤木委員 それでは、小熊参考人にお尋ねをしたいと思うんですけれども、鳥獣保護員の九割を狩猟家の方たちが占めている。それは別に五割をほかの方たちが入ってきたっていいわけですね。困るんですか。それをちょっとお答えいただきたいと思うんです。
小熊参考人 当方は、別段どの方がやっていただいても、それは一向に構いません。
藤木委員 それでは、その辺では特に対立をしているというわけではありませんので、今、野上参考人がおっしゃったような方法で、ふえていくということは歓迎していただけるのではないかというふうに思います。
 時間になりましたので、これで終わらせていただきますけれども、本当にきょうはいろいろとありがとうございました。
大石委員長 金子哲夫君。
金子(哲)委員 社会民主党・市民連合の金子でございます。
 きょうは、四人の参考人の皆さんには、御出席をいただき、貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございました。最後の質問者になりますので、質問はできるだけ簡単にしながらお答えをお願いしたいと思います。
 羽山参考人に最初にお伺いしたいんですけれども、私は先日の委員会で、トドの捕獲のことで、海底に沈んでいる話をお聞きして、環境省に、今まで調査していないならちゃんと調査をしろということを言ったんです。それはある程度の費用もかかると思いますけれども、そういうことについて、調査の方法等で先生の方で見解とか、こういうことをやればできるんだというようなことがあればお教えいただきたいと思います。
羽山参考人 一九九四年から現在の捕獲枠の設定が始まっておりますけれども、それ以前は自由にとることができました。ただ、実はトドというのは死んでしまうと沈む性質があります。ですから、陸揚げするのが非常に難しいという動物です。
 当時までは、一九九三年までは、何頭陸揚げして、そして何頭が沈んだ、あるいは何頭が逃亡したというようなデータについては実際に集められております、これはあくまでも自主申告ということでありますけれども。ですから、そのデータは存在しますので、当然、それと同じようなことを今でもやれば、ある程度の把握はできるというふうに考えております。
 ただ、これはほかの野生鳥獣全般に言えることですけれども、実際の正確な数を把握するのは非常に難しいというふうに考えております。
金子(哲)委員 小金澤参考人にお伺いしたいんですけれども、一つは、羽山参考人もお話が出ました森林の重要性ということが、これは地上も海も含めて非常に重要な役割をしているということでその重要性が言われておりますし、参考文の中にも、地球温暖化の問題と絡めて、地球温暖化対策の中でこういう自然保護ということも進んでいくだろうというお話がありました。
 実は、ちょっと心配しておりますのは、森林の吸収源対策ということが言われて、これは最近のマスコミの報道で私は知る限りですので、詳しい資料を聞いておりませんけれども、森林はある程度手を加えなきゃいけない、そうしなければ吸収源としてカウントされないということがあって、そのためには林道をもっと整備しなければ実際の対策はできないと。これは環境省が林野庁と連携しながら担当になるんですけれども、一方で生物の保護と、一方でそのことが進みますと、これまでも林道の問題というのは、林道開発が自然生態系の破壊につながったということでかなりいろいろ問題になってきているんですけれども、その点について、そういう自然のいわば保護、再生と地球温暖化対策との中で、私はちょっとその記事を読みながら、一方で危惧を持って読んだわけですけれども、その辺についてもしお考えがあればお聞かせいただきたいと思います。
小金澤参考人 お答えします。
 林道の問題とそれに伴う生物への影響という問題は一律には私どもは考えておりませんで、森林の維持管理において林道は必要なものというふうに認識しておりますし、適切な管理のもとに林道を設計するということと野生動物の保全が矛盾するということはないのかなというふうに考えております。
 ただし、多くの場合、例えば大規模林道ですとか、これまでの経緯を見ますと、生息域をかなり分断するとかそういった問題がありますので、十分な配慮を行えば決して矛盾はしないだろうと思っております。
金子(哲)委員 羽山参考人に同じ質問をちょっとさせていただきたいと思いますけれども、今の問題で、林道と山林の関係を、もし御意見があれば。
羽山参考人 これは程度問題ではないかなということだと思います。
 構造によっては、今、小金澤先生が御指摘になったように、生息域の分断ということにつながってしまいますので、それが配慮されていないようなものが大規模につくられるということになれば、私は、野生動物にとっては非常に、特に小型の生き物にとっては致命的な影響が出るというふうに考えております。
金子(哲)委員 小金澤参考人にお伺いしたいんですけれども、先ほどのお話の中で、例えば野生生物の保護にかかわって、県を超えて広域の取り組みが必要だということでお話がありまして、群馬県を中心とした取り組みの例をお話しいただきましたけれども、全国的にはそういうことが、今の群馬県とその周辺各県との連携以外にどれぐらい例を御承知かどうかということと、私はやはり、広域ということになると、かなり国がもっとイニシアを発揮するというか、国が中心になってかかわっていかなければならないというふうに思うんですけれども、その点二つについてお答えいただければと思います。
小金澤参考人 まず、県域を超えた形での野生動物の保護管理ということが実際にどこで行われているかということですが、シカに関して言いませば、栃木県と群馬県あるいは長野県という形での連携、さらに、尾瀬ケ原をめぐる保全の問題では、あそこにシカが入っておりますけれども、尾瀬は群馬、福島、新潟という三つの県で構成されている場所ですが、ここに関しては、それにプラス栃木県という形で、シカの関係で、実際には四つの県が共同してシカの管理の問題について取り組むという事例が起きております。
 そのほかに、例えば中国地方のツキノワグマの管理の問題についても、同じように県域を超えた形で取り組んでいるというふうに理解しております。
 また、そういったことを実行するに当たっては、やはり環境省の主導的な役割というのは十分あるのではないかなと私は思っております。
金子(哲)委員 小熊参考人にお伺いしたいんですけれども、先ほど来、いわば狩猟の方法の中のくくりわなとかとらばさみの話が出ておりまして、我々も、ああいう映像を見ますと、やはりこれは狩猟方法として禁止すべきではないかというふうに考えるわけですけれども、そのことについて、狩猟される側から見て、こういう二つの方法がもし禁止になったときどういうふうに影響というか考えられるのか、それをやられると非常に困るということなのか、その辺についてちょっとお伺いをしたいと思います。
小熊参考人 くくりわなにつきましては、当方の内部でもいろいろ議論がされております。ただ、中に農林業をやっている狩猟者もおりまして、その方の方々がなかなか非常に難色を示しているのが事実でございます。農業被害がございますので、そちらの方がですね。
金子(哲)委員 それから、そのくくりわなに実際に混獲の問題が指摘をされておりますけれども、その点については、狩猟される側でも、実際に現場の中で体験としてやはりそういうことがかなりあるというふうにお考えなのかどうかということ、それからもう一つは、とらばさみのお話もちょっと出ておりまして、くくりわなの問題はありましたけれども、とらばさみの問題についても、もし御意見があればお伺いしたいと思います。
小熊参考人 とらばさみにつきましても、いろいろ議論は過去にやった例がございます。
 ただ、これはキツネとかタヌキとか小動物の捕獲に有効だということで残されているんだろうと思いますけれども、いろいろ免許を持たない者がスーパーで買ってくるとかいうのは論外の話でございまして、狩猟の中では、ある部分では捕獲の効用がある、ただ狩猟全体とすればそう重要性がないかもわかりません。
金子(哲)委員 重ねてお話しして、ということは、例えば販売上の問題で、ある程度規制、例えば狩猟許可免許を持っている人たちだけにするとかそういうことをやれば、かなりそういう問題、今のとらばさみなどについての事故というか被害ということは避けることができるというふうにお考えでしょうか。
小熊参考人 例えば登録証を提示することによって販売するとかいうことになれば、かなり有効だろうと思います。
金子(哲)委員 ありがとうございました。
 羽山参考人にお伺いしたいのですけれども、私、先般の委員会のときにも、たまたま私、広島の出身なものですから瀬戸内海のスナメリのお話をしましたけれども、私も先ほどお話を聞いて、広島の場合、広島県沖のスナメリ回遊が減ったのはまさに海砂利採取が原因だというふうに思っておりますけれども、捕獲制限ということだけでは不可能だというお話、そのとおりだと思います。
 その点について、水産庁と環境省とでは全くある意味でちょっと視点が違うということが常に言われておりますけれども、先ほども質問がありましたけれども、その辺のことについて、もっとどういう、一番大事な視点といいますか、その辺について、できれば短く教えていただきたいと思います。
羽山参考人 スナメリのような絶滅のおそれのある種が保護の最優先になるわけですから、これは当然といいますか、本来であれば種の保存法で対応すべきことだろうと思います。
 ただ、残念ながら我が国の種の保存法は、五十七種類しか指定されない、非常に規制ばかりの厳しい法律ですので、アメリカのような回復をさせるための総合的な計画をつくれるというような仕組みに変えていって、その中で関係省庁あるいは多様な主体がそれぞれの役割を果たせるような、そういう仕組みづくりを目指すべきだろうというふうに考えております。
金子(哲)委員 ありがとうございます。
 野上参考人にお伺いしたいのですけれども、先ほど鳥獣保護員のお話が出てまいりました。人数を聞くのも大変あれなんですけれども、私も不勉強なところがあるんですけれども、大体これから、当面これぐらいはもっと人数が必要ではないか、また先ほども質問が出ましたけれども、そのための研修の問題も含めてあると思います。
 それから、ちょっとお聞きすると、何かこの間からの論議を聞きますと、大体市町村の数のような感じになっておりますけれども、私は、さっきの話と一緒で、広域的なものということがありますし、また重要度が地域によって違うんじゃないかということもあるんで、例えば県の全体で人数をやっていくとかいうようなことが必要ではないかと思うんですけれども、その点について、今のありようを改善していくという方向で、御提言があればお伺いしたいと思います。
野上参考人 各市町村に一人という割り当ては非常に形式的で、形骸化していると思います。山村等、鳥獣被害が多いところ、それから都市部ですとか野生動物自体がいないところでは、当然その保護員の活動も異なってきますし、普及啓発活動の役割も異なってくると思います。ですから、実態に即して臨機応変に、人が多く必要なところには多く配置する、そのようなことが必要であると思います。
 また、現実には、推薦制であるために、地域の有力者がほとんどなっていまして、その人に文句を言えないということがあるそうです。ですから、三重県では、地域に限定されず、自分がある程度希望する地域の鳥獣保護員になることができるという制度にしたそうです。そういうふうに、多面的にいろいろな制度を組み合わせていくことが必要であるかと思います。
 それから、ボランティア的に行う制度と、専門的に高度な科学的な知識を持ってやらなければいけない人たちとは別個にしまして、そういう人たちは最低でも各県に一人か二人は必要であろうと思います。それから、地域でボランティア的に参加できる方々はもっともっと多くしまして、今の十倍くらいあってもいいのではないかというふうに思います。
金子(哲)委員 時間が参りましたので、終わりたいと思います。本日はありがとうございました。
大石委員長 以上をもちまして参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人の皆様におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。
 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。
    午前十一時三十五分散会


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