衆議院

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第12号 平成15年6月3日(火曜日)

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平成十五年六月三日(火曜日)
    午前九時三十分開議
 出席委員
   委員長 松本  龍君
   理事 稲葉 大和君 理事 田村 憲久君
   理事 西野あきら君 理事 柳本 卓治君
   理事 近藤 昭一君 理事 牧  義夫君
   理事 田端 正広君 理事 高橋 嘉信君
      小渕 優子君    木村 太郎君
      阪上 善秀君    鈴木 恒夫君
      野田  毅君    鳩山 邦夫君
      菱田 嘉明君    星野 行男君
      松浪 健太君    三ッ林隆志君
      水野 賢一君    望月 義夫君
      山本 公一君    小林  守君
      小宮山洋子君    鮫島 宗明君
      長浜 博行君    青山 二三君
      中井  洽君    藤木 洋子君
      中川 智子君
    …………………………………
   環境大臣政務官      望月 義夫君
   参考人
   (株式会社三菱化学安全科
   学研究所リスク評価研究セ
   ンター部長研究員)    加藤 順子君
   参考人
   (東京大学大学院農学生命
   科学研究科教授)     鷲谷いづみ君
   参考人
   (財団法人世界自然保護基
   金ジャパン自然保護室シニ
   ア・オフィサー)     村田 幸雄君
   参考人
   (東京大学名誉教授)   岩槻 邦男君
   環境委員会専門員     藤井 忠義君
    ―――――――――――――
六月二日
 自動車排出ガスによる大気汚染公害被害者に対する救済制度の創設に関する請願(小宮山洋子君紹介)(第二七六一号)
 同(石毛えい子君紹介)(第二八二六号)
 同(小林守君紹介)(第二八二七号)
 同(小宮山洋子君紹介)(第二八二八号)
 同(石毛えい子君紹介)(第二八七五号)
 同(小林守君紹介)(第二八七六号)
 同(佐藤謙一郎君紹介)(第二八七七号)
 同(瀬古由起子君紹介)(第二八七八号)
 同(藤木洋子君紹介)(第二八七九号)
 同(山口富男君紹介)(第二八八〇号)
は本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律案(内閣提出第一一四号)(参議院送付)


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     ――――◇―――――
松本委員長 これより会議を開きます。
 内閣提出、参議院送付、遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律案を議題といたします。
 本案審査のため、本日、参考人として、東京大学名誉教授岩槻邦男さん、まだ到着をされておりませんが、後ほどお見えになると思います。株式会社三菱化学安全科学研究所リスク評価研究センター部長研究員加藤順子さん、東京大学大学院農学生命科学研究科教授鷲谷いづみさん、財団法人世界自然保護基金ジャパン自然保護室シニア・オフィサー村田幸雄さん、以上四名の方に御出席をいただいております。
 この際、参考人の皆さんに一言ごあいさつ申し上げます。
 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。参考人の皆様におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、審査の参考にしてまいりたいと存じます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 次に、議事の順序でありますが、加藤参考人、鷲谷参考人、村田参考人、岩槻参考人の順に、お一人十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。
 なお、念のため申し上げますが、御発言の際は委員長の許可を得ることになっております。
 それでは、加藤参考人にお願いいたします。
加藤参考人 おはようございます。
 株式会社三菱化学安全科学研究所の加藤でございます。
 私は、大学、大学院で生物学の研究をしておりましたのですが、その後、現在の会社に入りまして、化学物質、バイオテクノロジーの安全性の研究に携わっております。
 今回の法案のキーワードでございます遺伝子組み換え技術につきましては、私が大学院におりました一九七五年までの時点ではまだ余り普及しておりませんで、そういうわけで、私自身は組み換えDNA実験というのは実際にやったことはございませんですけれども、一九八六年ぐらいから世界で遺伝子組み換え生物の野外試験というのが始まりまして、そのころからお役所などから頼まれまして継続的に調査をしているという関係で、きょうこういう機会をいただいたものというふうに理解しております。どうぞよろしくお願いいたします。
 本日は、遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律案に関連しまして、私の意見を述べさせていただきたいと思います。
 この法律の目的の一つですけれども、生物多様性条約のもとでのバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書を我が国が締結するために必要な措置をとるということであります。
 カルタヘナ議定書は、遺伝子組み換え生物等の利用に当たって、国境を越えた移動が生物多様性の保全や持続可能な利用に有害な影響を及ぼさないようにするための手続等を定めたものです。現在でも、我が国でも遺伝子組み換え生物というのは輸入されておりますけれども、今後、我が国の方で開発したものを輸出するというような事態ももちろん起こってくる可能性がございます。そういうふうに遺伝子組み換え生物の利用が進んで、国際貿易も盛んになっていくという状況で、遺伝子組み換え生物等の安全な利用を国際協力のもとで進める、そういう観点からカルタヘナ議定書を締結することは、我が国にとって非常に重要なことであるというふうに考えております。
 それからもう一つ、この法律の目的としまして、こちらの方が大きくクローズアップされているわけですけれども、カルタヘナ議定書の的確かつ円滑な実施を確保することによって、遺伝子組み換え生物等の使用によって我が国の生物の多様性が損なわれることがないようにすること、そういうことがございます。
 現在、我が国では、環境中で産業利用することを目的とした遺伝子組み換え生物の安全性というのは、指針のもとで確保されております。開発を行った者が指針に従って安全性を評価して、その結果を所管官庁に提出する、所管官庁がその評価結果を審査して、妥当であれば安全を確認する、そういう仕組みでございます。
 現在、環境中での利用の安全性の確認が済んでいる遺伝子組み換え生物というのは、いずれも作物でありまして、例えば、除草剤耐性の大豆、菜種、トウモロコシですとか、害虫抵抗性のトウモロコシですとか、あるいは病気抵抗性の稲とかメロンとかキュウリとかそういうもの、それから、成分の品質を高めた大豆、稲、トマト、色変わりのカーネーション、日もちをよくしたカーネーション。一部分だけをお話ししましたけれども、そういうものが開発されております。
 開発の方法としましては、遺伝子組み換え技術という技術が使われているわけですけれども、つくられているもの自体としましては、今までの品種改良によっても目標とされているような特性の改良であるというふうに言うことができるかと思います。
 一方、これから開発されていこうとするものの中には、例えば医薬品や工業原料をつくるような組み換え作物ですとか、あるいは重金属を吸収する環境浄化用の植物ですとか微生物ですとか、そういうような今まで利用実績のないようなもの、あるいはほとんどないような用途に使われるようなものの開発が進められています。それから、遺伝子組み換えサケのように、サケの品種改良というような経験は実際上ないわけでして、そういう品種改良の経験がなくて、しかも移動性が高いようなものもこれから出てくる可能性がある。
 そういうふうに考えますと、環境に導入して利用するための遺伝子組み換え生物の開発が進んで、新規性の高いものがこれから開発され、そして利用される、そういうようなことが視野に入ってくる今の時点でこのような法律が制定されるということは、生物多様性の保全という観点から非常に重要なことだろう、時宜を得たことであろうというふうに考えております。
 遺伝子組み換え技術の開発の歴史をちょっとお話ししたいと思うんですけれども、この技術が生まれましたのは一九七三年のことですけれども、非常に慎重な開発の経過をたどっております。
 最初は、異なる種類の生物から遺伝子を組み込んでつくった遺伝子組み換え生物というのは、予測もできないような性質を持つんじゃないかというふうに考えられました。最初に研究が行われておりましたのは大腸菌なんですけれども、そういうものを組み換えたら予想もつかないような性質を持って、例えば人の健康や環境に有害な影響を与えるんじゃないか、そういうことが心配されたわけです。そこで、実際に有害な影響が起こったという事実があったわけではないんですけれども、危険性があるかもしれないということで、七三年に開発されて、七四年には一たんその実験が中止されました。
 そして、翌年の一九七五年にカリフォルニア州のアシロマで世界の科学者百三十人ぐらいが集まって、遺伝子組み換え実験の潜在的な危険性に対処するにはどうしたらいいかということを討議する国際会議が開かれております。その会議で、組み換えた遺伝子やその遺伝子を含む生物が施設外に出ない、それを物理的封じ込めといっていますけれども、そういう方策をとる、あるいは組み換えた生物が外に出ても生きられない、それを生物学的封じ込めといいますけれども、そういうような封じ込めをした条件のもとで使いましょうということになりました。そういう枠組みがつくられまして、一九七六年にガイドラインに定められまして、そのもとで利用が図られたということです。
 最初のガイドラインというのは非常に内容の厳しいもので、その封じ込めというのも非常に厳しい封じ込めを要求していたものなんですが、その後で、そのガイドラインの中で実験をした経験でもって、遺伝子や遺伝子の働き方についていろいろな科学的な知見が積み重ねられまして、それをもとにガイドラインが順次緩和されていって、そして現在に至っているわけです。
 現在においては、この技術は基礎生物学の分野ではなくてはならない技術になっておりますし、実際に、生物医学研究の基盤技術として非常に普通に使われております。それから、ヒトの血栓溶解剤とかホルモンとか、いろいろな医薬品がこういう技術を使って開発されている、そういうことです。
 今度、遺伝子組み換え生物を環境中に出すということについては、最初のガイドラインではやってはいけない実験になっていたわけです。ところが、だんだん安全性を個別に評価して使ってもいいというふうに変わっていきまして、アメリカでは、一九八五年に最初の野外試験が行われておりまして、二〇〇一年になって一年間で千件というような野外試験が行われております。それから、商業栽培が始められたのは一九九二年のことですけれども、現在では五千万ヘクタールを超えるような栽培という規模になっています。
 遺伝子組み換え生物の野外での利用で、野生生物種で地域個体群が縮小したとかあるいは形質の変化が起こっているとか、そういう具体的な生物多様性影響が実際に生じているというその明確な証拠は今のところございません。ただ、きちんとしたリスク評価をしないと、そしてそれに基づいたリスク管理をしないと、生物多様性に問題が起こるかもしれないというような予兆というのは全くないというわけではない。そういうことで、そのためのリスク評価、リスク管理は非常に重要である、当然のことであるというふうに考えます。
 そういうために、その道筋を用意して安全を確保しながら進めるというこの法律の趣旨につきましては、今現在、新しい、新規性の高い組み換え生物の開発が環境中で利用するために進められようという段階で、非常に重要なことであるというふうに考えております。
 次に、組み換え生物の野外での利用に関するリスク評価についての意見をちょっとお話ししたいと思います。
 遺伝子組み換え生物を野外で利用する場合のリスクについて、OECDなどの国際的な議論の場で合意されている点が幾つかございます。
 一つは、遺伝子組み換え技術や遺伝子組み換えを行うこと自体に特有なリスクはない、そういうことです。
 例えば、遺伝子組み換え技術は従来から行われてきた作物の品種改良に比べて全く新しい種類のリスクを及ぼすものではないわけです。遺伝子組み換え技術を用いる場合も、従来の品種改良を用いる場合も、遺伝子を変化させてその生物の特性を変化させる、そういう意味では共通しているわけです。そして、環境に出したときにリスクを及ぼし得るものというのは、その変化した特性である。そういうことで、その意味では、遺伝子改変技術あるいは遺伝子組み換えを行うこと自体が特別な新しい種類のリスクをもたらすものではないということは、国際的な場面で合意されています。
 アメリカの科学アカデミーも、一九八七年、八九年、二〇〇〇年それから二〇〇二年と、繰り返し繰り返しこの問題について検討を加えておりますけれども、この考えはその都度支持されているということです。
 そういうふうに考えますと、従来の品種改良の場合には、新しい品種をつくったときに、まずリスクを評価して、リスク管理の方法を考えてから栽培を始めるというふうなことは全くやっていないわけですから、遺伝子組み換え生物については特に慎重な対応が行われなきゃいけないのはなぜだろうというふうになるわけですけれども、その理由としましては、遺伝子組み換え技術によってこれまでの品種改良で行われなかったような幅広い性質の変化というものを生じさせることができる、そういう意味では、環境中で利用した場合に生物多様性への影響を生じるかどうかをより幅広い観点から慎重に評価しなければならない場合があるだろう、そういうことです。
 それから、世界的に合意されていることの第二の点としましては、遺伝子組み換え生物のリスクは一つ一つ具体的に調べなければいけないということです。
 よく、遺伝子組み換え生物は安全ですか、危険ですか、そういうような質問を受けることがあるんですけれども、一般的に論じることはできない問題でして、一つ一つ考える必要がある。
 それは、遺伝子組み換え生物の環境中での使用のリスクというのが、遺伝子組み換えをする前の生物の性質、組み換えることによって起こるその生物の特性の変化、その生物を利用する環境それから使用方法、その三つのファクターの相互作用によって決まってくるということです。遺伝子組み換えをする前の生物の生態学的な性質に、非常に侵入性の高いものからそうでないものまで、いろいろな幅のものがあります。それから、組み換えによって起こる特性の変化もいろいろなものがある。それから、使う環境も、農業環境の畑のようなところから、かなり自然環境、あるいは海洋のような水のようなところもあるかもしれない。
 そういう意味で、その組み合わせは非常に多岐にわたっていますので、一般的に論じるのではなくて、具体的に一つ一つその場面に応じて考えていかなければいけない、それがもう一つの重要な合意事項です。
 それからもう一つ、最後に、リスク評価についての要望ということですけれども、遺伝子組み換え生物が開発された時点から今日まで、いろいろな科学的な知見に基づいて、安全性に対する考え方というのは変化してきています。
 最初のガイドラインの変更のところでもお話ししましたように、新しい知見によってその安全性の考え方が変化して、それを取り入れてまた少しずつ進む、そういうようなことをやってきています。ですから、最初にやった、非常に心配だと思って非常にがちがちに固めていたものも、そんなに心配でないということがわかってきて緩められてきている、そういう経緯があります。
 今度、一方、新たな経験によって、今までそんなに心配していなかったことが、心配かもしれないなと思うことが出てくる可能性も否定できないというわけで、そういう意味では、リスク評価については、新たな科学的な知見を取り入れていけるような非常に柔軟性の高いやり方をとるということが必要であると思います。それから、そのための研究ということも不断に進めて、新たな知見を取り入れていくということをやっていく必要があるというふうに考えます。
 それからその次に、リスク管理についての意見をちょっとお話しします。
 アメリカで遺伝子組み換え生物の野外試験が初めて行われようとしたときが一九八五年の時点ですけれども、そのころ、アメリカでは安全性について議論がかなりございました。それは、遺伝子組み換え生物を野外に出す場合には安全じゃなきゃ出しちゃいけない、そういうような議論が一つありました。けれども、今度、安全性をどうやって調べるか、野外に出さないで実験室の中で安全性が調べられるかというと、そんなことはできないという議論もございました。
 それを組み合わせますと、もう金輪際外へは出せないということになるわけですけれども、そういうことではなくて、絶対安全でなければできないというふうにやってしまいますと、実験もできませんし、イノベーションというのはそこでもうすっかりとまってしまうわけですね。ですけれども、やはりイノベーションというのは社会の発展に不可欠なものですから、不確実な中で、ちょっとわからないところがあるときにどうやって安全を確保して発展を考えるかというのが、この問題に限らず重要な問題になってくるわけです。
 アメリカでは、こういう問題の解決策として、リスクを管理しつつ慎重に少しずつ進めていく、そういうやり方をとったわけです。つまり、小さな規模で利用して、その過程で安全性に関するいろいろな情報を集めて、その情報を生かして次第に利用を拡大していく、そういうようなやり方をとりました。ですから、最初にやられたものは非常に小さな規模の試験で、その間にいろいろな情報をとっております。それから、緊急事態が起こったときにはそれをとめる方法というようなことも考えながら進めております。ですけれども、そういうようなやり方で少しずつその情報をふやし、評価できるようになって、だんだん広く外へ進めてきて、現在利用できるようになっているものがかなりできてきたということです。
 環境中で利用する遺伝子組み換え生物のリスク評価で一番難しいのは、生態系が複雑であって、組み換え生物と生態系の相互作用というのも複雑であって、そしてその評価にはいろいろな不確実性がある、そういうことです。このような不確実性に対応するために、そういう意味では、利用を開始した後もリスクを管理するための方策ができる、そういうことが重要かというふうに考えています。
 今回の法案では、承認のときに予想することができなかったような環境の変化や承認後に得られた科学的な知見によって、使用規程に従って使用した場合でも生物多様性影響が生じるおそれがあるということが認められた場合には、リスクを管理するための手段が一たん利用した後でもとれるということが規定されています。この点が今までの指針と非常に大きく違う点で、やはりこの点は高く評価できる点だというふうに考えています。
 ただ、こういう生物多様性影響が……
松本委員長 参考人に申し上げます。
 お時間が超過しておりますので、そろそろおまとめをお願いします。
加藤参考人 はい、済みません。急ぎます。
 早い段階で把握するために注意深い観察をする必要があるということで、モニタリングのシステムを築くということが大事だろうと思います。それを、例えば開発者と栽培者が契約に基づいて観察するとか、そういうような方法で監視を義務づけるというようなことも場合によっては必要かなと。
 それから、生物多様性影響を生じるおそれというのは、組み換え生物に限った話ではなくて、移入種問題でもありますし、そういう意味では、より幅広い視野からの監視のシステムというのをつくることも大事であろうと思います。
 それから、こういう利用を進めていくというときに、国民の方たちがその利用に対して安心していられるというためには、やはり、どういうリスク評価が行われ、どういうリスク管理が行われているかということの情報が十分に国民の方たちに伝わることが大事だと思いますので、そういう意味では、わかりやすい情報の公開、それから透明性の確保ということも、この利用を進めていくために不可欠の重要な点であると思います。
 以上でございます。時間をオーバーしまして申しわけございませんでした。失礼いたします。(拍手)
松本委員長 ありがとうございました。
 次に、鷲谷参考人にお願いいたします。
鷲谷参考人 おはようございます。
 きょうはこのような陳述の機会をお与えいただき、ありがとうございました。私は、保全生態学の分野の研究者としての立場から、この法律が扱う生物多様性影響評価について、お手元にお配りしてあります資料に基づいて意見を述べさせていただきます。
 なお、保全生態学とは、生物多様性の保全、自然再生をも含む生態系の管理のための生態学の研究分野、つまり自然との共生という社会的目標をサポートするための新しい生態学の研究分野です。
 生物多様性の保全は、単に生物の種類数を多く確保するというようなことではありません。進化の歴史を共有する生物種とその環境要素から成る調整済みの関係ネットワークとも言える、動的で均衡のとれた生態系というシステム、言いかえれば、歴史に試されて動的な安定性を保つようになった健全な生態系を維持するために、在来の遺伝子、種、生態系を適切に保全し、持続的に利用していくということを意味します。
 なお、この生態系という言葉ですが、生物多様性条約においては、植物、動物または微生物の群集とこれを取り巻く非生物的な環境とが相互に作用して一つの機能的な単位をなす動的な複合体と定義されています。
 自然資源とサービスの持続的提供を通じて、人々の安全、健康で精神的に満ち足りた生活、持続的な生産活動を保障するのが健全な生態系と言えます。
 ところが、開発の世紀とも言える二十世紀には、土地改変、生物資源の不適切な利用、環境汚染などが加速し、地域からの種の絶滅や環境要素の変化が著しく進み、多くの地域で生態系が単純で不安定なものとなってしまいました。一層加速しつつある不健全化の傾向を抑制し、損なわれた機能や要素の回復を図ることは、人類の持続可能性の確保のための最優先課題とも言えます。
 生物多様性は、自然の恵みを生み出す源であると同時に、健全性を判断する目安、指標です。絶滅が心配される種が増加するということは、それだけ生態系の不健全化が進行していることを意味します。
 ここしばらくの間、経済性と効率性だけに目を向けた人間活動が優勢であり、限界をわきまえない生物資源の利用、森林やウエットランドなどの開発に伴う地域的大量絶滅、ごく少数の作物や樹木だけから成る人工的生態系の拡大、広域的な富栄養化や汚染が進行し、局所的な種の絶滅が相次ぎ、生態系の単純化、均質化が進みました。そのため、地球規模でも地域でも生態系の健全性は大きく損なわれており、このままでは持続可能性を確保することが難しくなっています。
 そこで、不健全化がさらに危険な領域にまで進むことを防ぐため、経済性、効率性にも増して、生物多様性への配慮を重視することが必要になっています。
 ここで、生態系の不健全化と外来種、外来種というのは生態系にとっての新規生物という意味ですけれども、その関係について述べます。
 外来種、すなわち人為的に本来の生息域外にもたらされて定着する生物種の侵入は、生態系の不健全化、単純化の結果でもある一方で、新たな原因ともなって不健全化を加速します。
 侵略的外来種、英語ではインベーシブ・エイリアン・スピーシスと言われていますけれども、それが不健全化した生態系に蔓延し、捕食、食害、病害、競争、交雑、生殖攪乱、物理的環境改変などを通じて在来種の局所的絶滅をもたらし、生物多様性を損なうことは、最近では世界じゅうで重大な問題として認識されるようになってきました。
 一部の外来種の侵略性は、次のような理由で生態学的な必然と言えます。
 それは、外来種が、競争力や繁殖力などにおいて、近縁あるいは類似の在来種にまさるということです。その理由は、人間による選抜と環境による選抜の両方の関門をくぐり抜けて野生化した、いわばエリートとも言える強い生物であるということ、また、生態的解放といって、新天地において病原菌や天敵などから免れているということが第一の理由です。
 また、第二の理由は、在来種と外来種の間では種間関係が進化的に未調整であるため、競合する生物、えさとなる生物、寄生される、病気になる方の生物ですけれども、それらへの影響に歯どめがききません。そのため、資源の独占、食べ尽くし、致死的疫病の流行などといった問題が起こりやすいものです。
 新規病原生物や新規ウイルスが私たちの社会に大変厄介な問題を引き起こすことを考えると、このことは理解しやすいと思います。エイズやSARSなどが恐ろしいのは、それらの新規ウイルスと私たちが出会ってからの日が浅いからです。それに対して、普通の風邪などは、私どもと進化的になれ合っていますので、それほど致命的な影響が及ぶことはありません。
 このようなことから、外来種の問題は、生物多様性を脅かす主要な要因の一つとして認識されています。生物多様性条約では、八条(h)において、生息域内保全のために締約国がとるべき措置として、外来種による影響の防止が掲げられています。そして、生物多様性条約第六回締約国会議では、そのための指針原則が採択されています。一方、同じ八条の(g)に、ここで扱っている生きた改変生物、LMOによる影響の防止について述べられています。それに依拠してカルタヘナ議定書が採択され、今回の法案につながったわけです。生物多様性条約では、外来種の影響とLMOの影響は同様のものとして扱われているわけです。
 さて、LMOは、生態系にとっての新規生物であり、特殊な外来種と見ることができます。特殊性は、当該生物にとっての新規遺伝子を持つこと、遺伝的な特性を人為的に操作されているという点です。
 遺伝子組み換え生物は、使われ始めてから時間が短いので、まだ影響についての具体的な知見が少ないものですが、外来種については、さまざまな事例があり、十分とは言えないまでも、多方面からの研究が行われています。LMOの生物多様性評価は、侵略的外来種に関して得られている情報を十分に活用して実施することが必要だと思われます。
 例えば、生物多様性影響が顕在化するのにどのぐらいの時間がかかるかということですが、侵入直後から影響があらわれるというよりは、かなり時間がたってから問題が起こり始めるのが普通です。初めは目立たず、あるときから急にふえ始めて影響が大きくなるというものが少なくありません。
 日本の事例で見てみますと、今問題になっていますが、ブルーギルは侵入してから四十年、畑や果樹園の厄介な雑草となっているハルジオンは百年ぐらいたってから目立った影響を及ぼすようになりました。それは、新たな環境に適応したためです。肉食のブルーギルが水草をえさとすることができるようになってから、ハルジオンは除草剤への抵抗性を獲得してから、爆発的にふえ始め、影響が大きくなりました。このように、侵入した生態系における適応進化を経て、急速な増加や顕著な影響が起こり始めるのが普通です。
 人為的に大量に持ち込まれ、長期にわたって使われていると、まれな突然変異が蓄積し、自然選択による適応進化が起こりやすいものです。また、農薬、抗生物質などを連続的に使用するなど、人為的淘汰圧が強いほど早く変化が起こります。
 そこで、その新規生物が生物多様性への影響を及ぼすかどうかに関しては、量と時間と淘汰圧の法則といったものが成り立つと言えます。
 すなわち、大量に長期にわたって同じ新規生物を導入し、一定の淘汰圧をかけ続けると、爆発的増加や生態系への甚大な影響をもたらしやすいということです。長期と言いましたが、それはその生物の世代時間によって異なり、昆虫、細菌、ウイルスなど世代時間が短いものは、私たちの感覚からいえば相当短時間のうちに進化が起こります。
 予測、評価のポイントです。
 まず、遺伝子組み換えを施した生物の侵略性を考慮する必要があります。
 侵略性の予測ですが、高い移動・分散能力、ある程度大きな競争力、繁殖力、その種または近縁種や生態的に類似の種が侵略的外来種になった例がある場合には、要注意ということになります。ただ、遺伝子操作により環境への適応性が高まる可能性に注目する必要があります。
 次に、遺伝子そのものの生態系への侵略性を考慮しなければなりません。
 遺伝子組み換えを施した生物から別の生物に遺伝子が伝達されて、その伝達された生物が外来種としての侵略性を高める可能性の予測です。遺伝子が他の生物に伝達される可能性として、交雑可能性、つまり雑種をつくる可能性と、トランスポゾン、ウイルスなどを介して遺伝子が全く異なる生物に水平伝達される可能性を評価しなければなりません。
 また、比較的把握しやすい直接的な影響としては、生産される毒素などによる生物殺傷効果があり、それについては既に報告もあります。ただし、そのような毒素については、むしろ、それが害虫などに抵抗性を進化させる効果の方を心配する必要があると思います。
 次に、評価が大変難しいと思われるのは、複合的要因の一つとしてLMOが影響を与えるということです。
 LMOあるいはLMOから遺伝子を伝達された生物が競合、捕食、病害などを通じて野生動植物の個体群の絶滅可能性を高める効果です。生育場所の縮小、分断孤立化、汚染、外来種の影響など、既に多様な要因がふくそうして働くことで絶滅の危険が高まっているような場合ですが、このような評価をどのように合理的に行うかについては、今後に大きな課題が残されています。
 自然現象一般の予測と同様、予測には不確実性が伴います。環境変化や自身の適応進化により爆発的に増殖したり性質を変える点で、純粋な物理的現象に比べて予測の不確実性はさらに大きいと言わなければなりません。
 例えば、伝染病の予防、根絶の難しさは、病原体が急速に予測不可能な方向に進化するためです。これまで抗生物質や抗ウイルス剤の投与は短期間のうちに薬剤抵抗性を進化させてきました。また、異なる薬剤の併用は多剤耐性菌を進化させました。人間と病原体や害虫などとの軍拡競争においては、病原体や害虫は進化を武器に、人間は化学物質を武器に戦ってきましたが、今では、手詰まり状態に陥っているのは人間の方です。寿命が短く、短時間に多くの世代を重ねる生物は、進化のスピードが速く、人が強力な手段をとればとるほど、強力な病原体や害虫を進化させる結果になります。
 不確実性には次のような二つの要素があり、影響評価の制度においては、それらに対して適切に対処することが必要です。
 まず第一に、対象の複雑性、可変性ということです。
 これは、多様な要素と関係性から成る生物多様性や生態系、絶えず進化する生物といった複雑で変わりやすい対象を評価しなければならないことによる、不可避的な不確実性です。これに対処するためには、予想外の事態への対処法の確保が重要です。万一影響があらわれた場合に、それを取り除く具体的な手段の有無、その生物を根絶、封じ込めあるいは制御するための実行可能で有効な手段があるかどうかを評価において重視する必要があると思われます。また、予防的な取り組みを重視することも必要です。それは、十分な確証がなくとも、影響が疑われるときには慎重な選択をするということです。
 次に、知見不足への対処です。
 生物多様性影響、生態系における遺伝子の挙動、ミクロな進化、それは比較的短い時間で起こる適応進化を意味しますが、それらに関する評価の核心にかかわる科学的知見が現状では不十分です。必要な科学的知見をふやすための研究の強化が求められる一方で、新たな知見に応じた方針変更の保障がなされていなければなりません。
 最後に、評価の確実性を今後高めていくために強化すべき研究について一言だけ触れておきます。
 評価においては、環境に放出されるLMOとその地域の生物多様性、すなわち、評価の対象あるいは指標とする種や生態系、多様性維持にかかわるプロセスなどですけれども、それら両方に関する十分な科学的知見が必要です。さらに、生態系レベルでの遺伝子の動きや振る舞い、交雑や水平伝達についての十分な知見も欠かせません。
 ところが、現状では、LMO利用のためのバイテクの研究が隆盛をきわめているのに対して、生物多様性影響評価の基礎となる生態学的、進化学的、生態遺伝学的な研究はわずかにしか進められていません。このような研究投資のアンバランスを解消し、十分な知見の蓄積を図ることは評価の確実性を高めるために必須であると考えます。
 資料には強化すべき研究のテーマを挙げておきましたので、御参考にしていただければと思います。
 以上で私の陳述を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)
松本委員長 ありがとうございました。
 次に、村田参考人にお願いいたします。
村田参考人 おはようございます。私、財団法人世界自然保護基金ジャパンの村田と申します。
 私自身は、遺伝子組み換え問題を専ら取り組んできたというわけではございません。私自身の今の担当は、化学物質問題でございます。化学物質の環境リスクという問題に今かなり関心を持っておりまして、この法案についても当初のころからずっと関心を持って見守ってきたものですから、今回お呼びいただけたのかなと理解しております。
 まず初めに、これから申し上げることは必ずしも私の所属している世界自然保護基金の意見を代表するものということではございませんので、あくまでも私個人の、この問題を市民の側から見てきた一個人として述べさせていただきたいと思います。
 まず初めに、この法案に対する考え方、基本的に三点ございます。
 一つは、生物多様性保全の観点から、LMOの使用について、これまで指針という不安定な形で我が国ではコントロールされていたということですが、それがきちんとした法案となって、法律となること、それから、そのことが我が国のカルタヘナ議定書締結へ直接結びつくという点において、私はこれを歓迎、支持したいと思っております。
 ただ、今提出されている法案の中身を見る範囲では幾つか危惧をするところがございまして、それが二点ほどに集約されると思います。
 一つは、本当にそのリスクを、生物多様性への影響を今の段階でコントロール、管理できるのか、ここに述べられているようなやり方で本当にできるのかという点が一つ。
 それからもう一つ、これからの、二十一世紀の環境法、環境に関しては、市民への情報公開、それから意思決定への市民参加というものが、やはり切っても切れない非常に不可欠な要素になっているはずです。そのことがこの法案の中にはっきり明示されていないというところが、二つ目の気になる部分でございます。
 以下、今述べたことを少し補足させていただきたいと思います。
 この問題に対する市民の関心というのは、私が今述べたような観点を持つ者はそれほど多くないかもしれません。影響というと、多くの人は、GM作物を通じて自分や子供たちの健康にどう影響するかという関心から、環境へどういう影響があるかという、非常に幅広い関心の幅があります。それはまず、どんな対象に影響があるかということでの関心の幅です。
 それからもう一つ、そもそもこういった組み換え技術自体、何か人間としてやるべきではないのではないか、そんなことをしていいのかという本当に根源的な疑問を持つ方と、人類、自分たちにメリットがあるのであれば、それは気をつけながらやっていけばいいのではないかという、これもまた、人によってかなり幅がある考え方を持っていらっしゃると思います。
 それからもう一つ、こういった技術が社会にどういう影響を与えるかという観点から関心を持っている方もいらっしゃいます。こういう組み換え技術ができるのは当然ながら資本力のある多国籍企業で、世界のマーケットを念頭に置いて初めて開発できるということですから、それが社会にどういうインパクトを与えるかということは切っても切り離せない問題だという観点から、これが種子の独占につながるとか、それから、各途上国に限りませんけれども、日本でも、長年伝統的に育種してきた在来種がこういったものによって駆逐されてしまうのではないかという心配を持つ方、それから反対側に、逆に、遺伝子組み換え技術によって、例えば世界の食料問題は解決できるのではないかといった考えを持つ方もいらっしゃると思います。
 私個人は、技術にはいろいろな側面がございますが、やはり大事なのは、単にそれがいい悪いということ、その技術だけを見るのではなくて、これから持続可能な社会の中にこういった技術はどうおさめられるのかという観点が非常に重要だと思います。例えば、単に収量が倍になる作物ができた、これで本当に食料問題が解決できるのかと。しかし、食料問題というのは単に食料が不足しているだけではないことは、もう皆さんも御承知だと思います。やはり、こういった技術をこれからあるべき持続可能な社会の中にどう組み入れられるのか、入れられないのか、その辺をきっちり検討していかなければ、単純に技術そのものを議論しても、なかなか実のある議論にはならないのではないかなというふうに思っております。
 次に、生物多様性影響評価とその管理をどうするのかという点についてお話しさせていただきます。
 遺伝子組み換え技術というのは、これまで幾つかもう実際に行われていますけれども、少し離れて見ると、まだまだ技術としても浅いし、経験もほかの分野の技術から比べるとまだまだわずかだと思います。使用されている分野も、特定の作物なり非常に限られた分野です。過去の今までの結果を見て将来を見通すには、まだまだ経験、実績が不足しています。ですから、今まで大丈夫だったからよかろう、今までこうだったから大丈夫だろうというのは、私は非常に危険な気がします。
 そもそも生物多様性ということに対する我々の理解というのも、どこまで本当に知っているのか。
 仮に、例えばの話ですが、私がこの生物多様性の問題に関心を持った十数年前ごろには、我々人類が知っている生物種は百四十万から百五十万種しかいない、ただ実際にはその十倍ぐらいいるのではないかと。ですから、一〇%程度しか我々は知らないんだよというふうに習ってきたわけですが、最近になって、いや、千五百万どころではない、億、もっと大きいかもしれない。そうなると、一〇%どころか一・数%しか、種のことでさえ知れていないわけですね。事ほどさように、どこまで知らないのかというところをきちんと把握した上でなければ、本当にアセスメント、評価ができるのかという気がします。
 だからといって、では評価してもむだだと言うつもりはございません。大事なのは、何を知らないかということをきちんと把握した上で、それではここでできる評価というのはどの程度のものかということを、やはり関係者が全員認識することが重要だと思います。一般の市民は、学者の先生方、専門家によってリスク評価されたと思うと、ああ、これはもう大丈夫だと受け取らざるを得ません。やはり、評価によってわからない部分はどの部分かということもあわせて提示するようなシステムでないと、国民の安心、参加を促すことは難しいのではないかと思っています。そういった面で、この法案、もう少し煮詰めていただければというふうに思っております。
 それから、最後に市民参加ということですが、環境問題に我々がうまく対応していくには、やはり社会の構成員すべてが意思決定に参加するということは非常に重要なことですし、特にこのような遺伝子組み換え技術のような、非常に立場によって意見、考え方が違う問題であればこそ、どういうプロセスでどうお互いに譲り合って結論に達したのかということがわかるようでなければ、やはり一度決まったことに対する各分野の参加なり協力が得られないと思います。そういった意味で、すべての分野の環境に関しては情報公開と市民参加は重要なんですが、特にこういったコントラバーシャルな問題については、私は強調したいと思っております。
 最後に、ここで私が述べた以外に、市民の団体の方、いろいろな団体と私はお話をさせていただいていますので、その中には、私とは多少立場が違いますけれども、この法案が通ることによって、日本の国土で、彼らにとって疑問が非常にあると思われる作物が国内の至るところに作付されるのではないかということを非常に心配している意見もあります。ですから、この法案を考えるときには、その辺のことも一応念頭に置きながら、どうやって互いに理解し合って本当にいい法律にするかということを検討していただければというふうに思っています。
 これで私の意見を終わりとします。(拍手)
松本委員長 ありがとうございました。
 次に、岩槻参考人にお願いいたします。
岩槻参考人 おはようございます。
 大変おくれて参りまして、ぶざまな格好をしてしまいまして申しわけありませんでした。ふだん、私が乗っております東急田園都市線は割合正確に来るんですけれども、それで、きょうも、大切な時間ですから十分時間の余裕を持って出てきたつもりなんですけれども、何かきょうは運悪く車両故障を起こして、三十分ほどおくれて到着したものですから、おくれてしまいました。申しわけありません。話を始めるときに、イギリスの大学教授はしばしば巧みなユーモアで話を始めるけれども、日本の大学教授は大抵言いわけから話を始めると言われますけれども、その典型的な例になってしまいました。
 そういうわけで、最初に話をさせていただく予定で、イントロダクトリーな話をさせてもらおうと思っていたんですけれども、既に三人の参考人の方から具体的なことを含めてお話が出ましたので、むしろそのお話の背景を、科学的にといいますか、生物学的にどういうふうに理解したらいいのかというような形の話にさせていただきたいと思います。
 生物学について御造詣の深い方には多分釈迦に説法になるかと思いますけれども、大抵こういう場の方々というのは、学校のときには一生懸命に生物学を勉強されたかもしれませんけれども、二十年、三十年前の生物学の知識というのは、実は今お話しするようなことには余りお役に立ちませんので、リフレッシュメントをやっていらっしゃらない方のために、多少お耳ざわりかもしれませんけれども、易しいことから話をさせていただくことになるかもしれません。よろしくお願いします。
 今話題になっておりますこの長い名前の法律案は、御案内のように、バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書に基づいて国内的な整備をするということなんですけれども、バイオセーフティーの問題というのは、いわゆる生物多様性条約で定められた筋書きに従っています。生物多様性条約というのは、もう締結されて十年以上になりますけれども、御承知のように、生物多様性ということを、遺伝子レベルの生物多様性と種レベルの生物多様性と生態系レベルの生物多様性という形の整理をしております。
 そういうことすべてについての話にはとても言及する時間がありませんので、種多様性についての話にだけちょっと言及させていただきますと、先ほど村田参考人から御紹介がありましたように、アリストテレス以来営々と築き上げてきた博物学の知見でいいますと、百四十万とか百五十万とかの種が現代地球上に生育するということが認知されているわけですけれども、先ほどの話にありましたように、最近では、実際生きているのは億を超える数だということが我々専門家の中ではほとんど常識になっています。もちろん、慎重な方があって、せいぜい二、三千万だという言い方をしますけれども、その方々でもせいぜい二、三千万はいるという、百五十万という既知の種数からいうと非常に膨大な数値になってしまいます。
 しかも、それだけの種数を記録していたから生物多様性がどれだけわかっているかということになりますと、御存じのように、ごく最近やっとヒトの全ゲノムが解読されました。では、ヒトの全ゲノムが解読されたからヒトがわかったのかといいますと、そうではなくて、これからやっとヒトの研究が始まると言ってもいいようなもの、純粋に生物学的な研究というのはこれから始まると言ってもいいような部分があるわけですね。
 そのほかの百四十九万幾らか、さらに知られていない億に達する種数について言いますと、名前さえつけていないわけですから、とてもそのDNAのシークエンシングなんかはやられていないというのが事実で、我々はそういう知識に基づいてさまざまなことを考察しているということなんですね。
 生物多様性が非常に大切だから守りましょうという話はしばしば言われますけれども、なぜ大切かということになりますと、しばしば、遺伝子資源としての重要性であるとか、それからもちろん環境に与える生物多様性の持っている意味だとかということが言われるんですけれども、そういうことからもう一歩突っ込んで、なぜその生物多様性が生じてきているのかということを考えてみますと、これは言うまでもなく、三十数億年の進化の歴史の結果、億を超えるかもしれないぐらいの生物多様性が、種多様性が生じているということです。
 御存じのように、三十数億年前に生物が地球上に発生したときというのは、DNAのタイプはたった一つのタイプだったわけですね。もちろん、DNAというのは発生した途端に変異をつくるという性質を持っていますから、単一の姿だったというのは瞬間だけであって、もう既にでき上がったときに変異をつくり始めているということではありますけれども、それが三十数億年の歴史を経て、今申し上げましたように億を超える数に分化しているということなんですね。
 実は、そういう数字というのは、頭の中では理解されているようなんですけれども、なかなか体感できないものなので、もう少し実際的に体感していただきますと、例えば、我々の体というのは六十兆ほどの細胞が積み重なってできているわけです。ところが、私たちの体を考えてみますと、これは、一番最初、母胎内にあったときには、受精卵一個の細胞から出発しているわけです。一個の細胞から出発して六十兆の細胞になっている。実は、三十数億年かけて生物が一つのDNAのタイプから億を超える種にまで分化しているということと非常によく似ている部分があるわけですね。
 そういう言い方からしますと、もう既にシェークスピアが、もうけのために胸の肉一ポンドを提供するというのをやゆしているわけですけれども、それと同じで、私たちの今地球上に生育している億を超える種というのは、もともとは一個のものから出発してきて、それ全体が常に不可分離の、いかに不可分離であるかということを説明している時間はありませんけれども、不可分離の関係を持って生きてきているから、今の地球上の生態系というのが成立しているということなんであります。生物多様性が大切だというのは、実はそういうところにその生物学的な背景があるわけですね。
 人口がどんどんふえてきて、いろいろなエネルギー消費もふえていくということになりますと、そういう生物多様性を維持していくためには、ただ生物多様性を守っていきましょうといって見守っていくだけではどうしようもないわけで、それをいかに有効に活用するか、サステーナブルに活用するかというのが生物多様性条約の基本的な考え方だと思うんですけれども、それをサステーナブルに活用するためには、私たちの持っている科学技術というのを有効に利用しないといけないという側面がある。
 もちろん、その科学技術というのは、先ほども言っておりますように、よく進んではいるんですけれども、しかし、その基本となる科学というのは非常にまだ知見の乏しいものなわけです。だから非常に手探りの状態で、しかし、結果としては、非常に進んでいる科学技術を利用して私たちはその生物多様性をサステーナブルに利用しようという考え方が生物多様性条約の基本的な考え方であって、カルタヘナ条約というのも、だからその基本的な考え方にのっとってつくられているということなんですね。
 ですから、今、バイオテクノロジーで人為的につくられた生物というのが一体どういうものかということをもう少し詰めてみますと、生物の進化の過程の間で、実は、DNAの変異というだけではなくて、例えば、こういう名前を出した方がいいのかどうか、私たちの細胞の中には、ミトコンドリアという、生きていく上で絶対不可欠な大切なオルガネラがありますし、それから、私たちがこうやって生きていられますのは植物が光合成してくれるおかげなんですけれども、植物の細胞には葉緑体という非常に大切なオルガネラがありますけれども、こういうものは、進化の過程で実はほかの細胞が細胞の中に潜り込んできて、要するに細胞融合をやって、それで進化をしてきたというのが、もう今では確かな事実として知られているわけです。
 実際にそのように細胞融合的な進化が、ミトコンドリアや葉緑体のように典型的な例ではなくて、非常にしばしば生物界の中には起こっている。さらに言いますと、有性生殖をするようになってから生物の進化のスピードは非常に速くなったわけですけれども、有性生殖というのは、同種内ではありますけれども二つの細胞が接続するということです。
 ですから、そういう細胞の中の遺伝子の操作というのは自然界でも既にさまざまに起こっている現象なんです。もちろん、自然界の中に起こっている現象で、コロナウイルスの中に変なものが出てくるとか、それから、人間にとって不可欠な大腸菌の中にもO157のような変異が出てくるとかということが自然界でもしばしば起こっているわけですけれども、自然界の中では、そういうふうに進化に非常に有効に働いた有効な、テクノロジーとこれは言いませんけれども、細胞融合のような、遺伝子組み換えのようなことが起こっているということも事実なんです。
 そういうことを前提として、ですから、テクニカルに進んでいると言いながら、まだまだ未発達の状態の科学技術を有効に活用しながら、しかもそうやってつくり上げたものを今の科学技術を総動員してチェックをしながらつくられているのが遺伝子組み換え生物だということなんです。
 ただ、そうやって慎重に見守られながらつくられてはいますけれども、科学技術というのが、先ほどから何度も言いますように、一〇〇%すべてを知っているものではない。いろいろな問題が起こったときにしばしば専門家集団に聞けばわかると言われますけれども、専門家集団というのは、実は、いかにわかっていないかということが一番よくわかっている集団であって、ここまではわかっています、そこから先はわからないんですよということは言えるんですけれども、すべてのことに答えが出てくるというようなものではない。そういう期待しかしていただかない方がいいんです。
 そういうものですから、今や非常に慎重に科学技術を動員してチェックをしながらつくり上げられている技術ではありますけれども、まだ何が起こるか一〇〇%確実に言えるわけではないということで、これから生物多様性に対する影響に対するモニタリングというようなものが非常に重要であるということが強調されるということなんです。
 ですから、非常に短い時間ですから抜き書き的な言い方しかできませんけれども、実際進められていることというのは、未知のことに挑戦して、慎重に害が起こらないということをチェックしながら進められている。そして、逆に言いますと、それを進めていかないと急速な人口増加は支えられない。
 むしろ、急速に自然に、生物多様性に対する影響を逆に与えてしまうという危険性さえあるときに、技術を活用することによって生物多様性のサステーナブルユースということを有効に生かそう、そういう視点で進められている技術なんですけれども、その技術が一〇〇%確実でないということになりますと、それがもたらすかもしれない危惧に対してできるだけ慎重な態度をとりましょうという形がカルタヘナ議定書に示されていることであり、今回の法案もそれに沿うような形で慎重にまとめられたものであるというふうに私どもは理解しているんですけれども、そういうことを生物学というバックグラウンドを含めて御紹介させていただいて、陳述を終わりにさせていただきます。どうもありがとうございます。(拍手)
松本委員長 ありがとうございました。
 以上で参考人の意見の開陳は終わりました。
    ―――――――――――――
松本委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。菱田嘉明君。
菱田委員 おはようございます。自由民主党の菱田嘉明でございます。
 四人の参考人の先生方には、大変お忙しいところをこの委員会に御出席をいただきまして、ただいまそれぞれの立場から大変貴重な御意見を賜りましたこと、まずお礼を申し上げたいと思います。
 それでは、質問時間が十五分ということでございますので早速お伺いをいたしたいと思いますけれども、これについての知識、非常に希薄でございまして、せっかく専門家の先生方においでをいただきましたけれども、大変雑駁な質問になることをお許しいただきたい、このように思います。
 遺伝子組み換え技術自体、これはさまざまな分野で幅広い可能性を持った技術でありまして、二十一世紀の科学技術の大きな柱の一つになる、このように見込まれておりますし、私もそのように思うわけでございます。お話のございましたとおり、日本でも、大学等の研究機関あるいは独立行政法人の各種の試験研究機関などで農業の分野あるいは医薬品の分野、こういうところで大変活発に研究開発が行われておるところでございます。私どもも、先般、委員会の視察で筑波の国立環境研究所で、ごくごく一部でございますけれども、その研究の姿を拝見いたしたわけでございます。
 こうして研究あるいは開発が進む一方で、お話のございましたとおり、遺伝子組み換え生物を利用することについての安全性の問題ということがございまして、その最たるものの一つが生物の多様性の保全になる、こういうことでございます。
 遺伝子組み換え技術のもたらすメリット、それと生態系への影響防止、この二つのバランスをうまく保っていくことが必要ということになるわけでございますけれども、この両者の折り合いをつけながら遺伝子組み換え技術の利用を認めていくためには、私どもはどのような態度でこれに臨んでいくべきなのか。遺伝子組み換え技術のメリットとリスク、このギャップをどのように埋めていくのか。
 四人の先生方からまさにこの問題について今いろいろ御意見を伺ったところでございますけれども、これは今後の遺伝子組み換え技術のあり方を考える上で一番基本になる、このように考えますので、改めて、生物に関する研究を進めておられるお二人の先生、分類学の岩槻先生と生態学の鷲谷先生にお伺いをさせていただきたいと思います。
岩槻参考人 先ほどお話しさせていただいたことと非常に関係があるかと思いますけれども、基本的には、技術を非常に高めるということと、それからどんなに高めてもそこに生じてくるリスクというのがあるので、その起こり得るリスクは何かということを予想してそれに対する保全をして、さらにそれが実際使われるようになったときに、使われ始めてから害を起こさないかのモニタリングを続けていく、その筋書きに尽きると思うんです。
 今の日本の遺伝子組み換え実験に関する規制というのは相当厳しいものでして、遺伝子組み換えで非常に成績を上げている優秀な研究者の間でも、規制が厳し過ぎて、こんなのでは本当の遺伝子組み換えの研究はできないなんてこぼす人もあるぐらい厳しい状況になっていると思うんですけれども。
 これは、私は個人的には、もっともっと厳しくてもいいぐらいという側面もあるんじゃないかというふうに思っているんです。そういう厳しい条件の中でそれに耐えて新しい技術がつくり上げられていって、そのつくり上げられていったものが野外に放出されるまでには相当厳しい時間的な段階を経て放出されるということなので、そのこと自体は今の科学の力でいえば最善の保障がされているということだと思うんです。
 ただ、先ほども申しましたように、科学というのは一〇〇%知っているわけではないですから、そこから先何が起こるかというのは、自然界にでも変なものが生じてくるわけですから、そういうものに対する何かきっかけになってくるというのが、どこでどういうふうに生じるかわからないことですから、このモニタリングはきっちりしないと、広がってしまってからではもうしようがないという側面がある、そういう慎重さが必要だということを強調させていただきたいと思います。
鷲谷参考人 LMOを利用していく人のメリットというのは、こういう役に立つというのはどなたにとってもすごくわかりやすいものだと思うんですけれども、デメリットというのはとても見えにくくて、また、私たち専門家の立場からいっても予測には不確実性がかなり伴うというふうに思っております。ですから法案の中にもそれに対処する仕組みがつくられているんではないかと思います。
 デメリットは見えにくいんですけれども、どんな点に注意したらいいかというようなことは、恐らく、きょうの陳述でも強調させていただきましたが、外来種がもたらした影響を見ていくとある程度予測がつくかなというふうに思います。
 と申しますのも、外来種も同じようにとてもメリットが何かあるということで意図的に導入されていって、その導入の効果を果たす一方で、生物多様性や人の健康などに大きな影響を与えてしまうというようなものが少なくないのではないかと思うのですね。
 これはちょっと例を挙げた方がいいかもしれませんが、工事をしたときに、裸地ができた状態のところを緑化したりするために外来の牧草を大量に使っています。それで、その外来の牧草が工事したところから周りに広がって、川だとか土手だとか空き地などが外来牧草だらけになってしまうという事態が今生じているんですね。
 そのことによって、生物多様性への影響というのは、もともと少し明るい、草などが生えていないようなところを生活の場としていたものが、全部草地になってしまいますので生活できなくなって絶滅のおそれが高まっているものも幾つかあるんですけれども、それだけではなくて、例えば市街地の中の川の土手がみんな同じタイプの牧草に覆われてしまっていますので、花粉症が集団で発症したりということが起こり始めているんです。
 皆さんもよく認識されていると思うんですけれども、杉やヒノキの時期じゃないとき、春から初夏にかけての花粉症というのは、今すごく多くなっているんですね。元気なお子さんが草原で遊ぶと花粉症になるというような非常に不健全なことが生じ始めていると思うんですけれども、だれもしばらく前はそんなことは全く認識しておりませんで、外国産の早く育つ牧草を使えば工事などの後の緑化を効率よく進められるという観点だけから、大量に導入されてきたわけですね。
 そういうことが起こる、複雑な関係性で成り立っている生態系ですから、何か私たちがまだ予測していないような問題というのが起こる可能性を常に認識しているということが、新しいもの、新しい技術を使っていく上では重要なことなのではないかと思います。
 それから、あくまでも慎重に進めるということも大切だと思います。
 以上です。
菱田委員 ありがとうございました。
 先生方のお答えの中にもございましたけれども、遺伝子組み換え生物が、環境に対して、あるいは生物の生態系に対してどのような影響を及ぼすのか、こういう点につきましては、中には、その影響がすぐに出てくるのではなく、かなり時間がたってからあらわれてくる、こういうものもあるので、いわゆる影響を予測したり評価したりするということはなかなか難しい、こういうことでございます。
 ただ、一定のリスクはございましても、このリスクをしっかりと管理した上で、利用メリットの高い遺伝子組み換え生物を利用していく、このことは社会的選択の一つとして有用であろうと思いますし、また必要であろう、このように思うわけでございます。
 アメリカの場合は、研究の分野でも、あるいはまたその技術の成果を実用化する面でも、非常に積極的だというふうに聞いております。しかし、同じ先進国でも、EU諸国の場合は、アメリカと違って利用の面では非常に慎重な立場に立っておる、このように聞いておるわけでございます。
 EU諸国では、この技術を利用するかどうか、その選択はどのようにしているのか。今回のこの法案で採用しようとしておる手順とEU諸国の手順、これには余り大きな差はないというふうに考えていいのかどうか。この点について、加藤先生にお伺いをいたしたいと思います。
加藤参考人 私の理解しております範囲では、EUでとろうとしているプロセスと我が国でとろうとしているプロセスと、余り大きな変化はないであろうというふうに思っています。
 EUとアメリカでこの組み換え生物の商業化等について見解が非常に違っておりますのは、やはり文化的な背景もございまして、アメリカは技術革新に対して非常に熱心であること、それから農業の形態がアメリカとヨーロッパで非常に違って、ヨーロッパの人たちは自然に対する愛着がより深いとか、そういうふうなことがございます。
 ヨーロッパでは、そういう背景もございまして、非常に慎重な体制をとっております。例えば、商業化をした後もモニタリングを義務づけるというようなことは、ヨーロッパの指令では明記しております。
 その点は、我が国で今検討しております法案の中でも、そういうことが必要な場合にはとれるような措置になっております。そういう意味で、ヨーロッパのやり方と、どちらかというと近いというふうに考えております。
菱田委員 どうもありがとうございました。
 私は、遺伝子組み換え技術の研究開発、これは当然積極的に進めていくべきだ、このように思っておりますし、また、慎重を期しつつも、技術の実用化も着実に進めていくべきだ、このように考えております。
 ただし、このためには、リスク評価とリスク管理、これが十分に行われること、そして何よりも、常に国民に対して説明と情報開示が十分に行われること、このことは絶対欠かすことができない。各先生方も、きょうのお話、共通をいたしておると思いますけれども、その点を強く指摘し、また要望して、質問を終わらせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
松本委員長 鮫島宗明君。
鮫島委員 民主党の鮫島宗明と申します。四人の参考人の方々には、お忙しい中をお越しいただいて、ありがとうございます。また、貴重な御意見を聞かせていただいて、ありがとうございました。岩槻先生も、時間内にお越しをいただいて、ありがとうございます。
 私は、主に農業の分野、開放系利用の分野についてお伺いしたいと思います。
 政治の立場からいいますと、きょうもこういう場でのやりとり、若干むなしいものがあるんです。とにかくアメリカが一切、最初からカルタヘナ条約には入らない、十年前の生物多様性条約も後ろ向き、地球温暖化防止条約にも入りません。大体、世界じゅうの遺伝子組み換え作物の四分の三近くが作付けられているアメリカが入らない、遺伝子組み換え品種のセールスに最も熱心なアメリカが入らない、四分の三のシェアを持っているアメリカが入らない条約をこういう場で、大変だ大変だと議論していくことにどんな意味があるのかという気がします。
 加藤先生、岩槻先生、多分、そういう専門家同士の交流といいますか、私は、アメリカの政治的な判断と、研究者、学者の良識、良心とはだんだんずれてきているんじゃないかという気がいたします。地球温暖化防止についても、一番しっかりしたデータを出し予測をしっかり出すのはいつもアメリカの研究者ですし、最も早くから警告を発してきたのもアメリカです。それから、GMOの扱いなんかについても、良識的、良心的な発言を早くからしていたのはやはりアメリカの仲間です。
 そういう意味では、今のアメリカの国としての姿勢と専門家の姿勢がずれ始めているんじゃないかと思いますが、その辺、いろいろな国際交流の中で、岩槻先生、加藤先生、どんなふうにお感じになっているのかを、ちょっと専門の分野を離れてお伺いしたいと思います。
岩槻参考人 最初の陳述のところで本当はそのことにも言及しようかと思っていたんですけれども、まさに今御指摘のとおりで、私ども、ふだん研究者仲間として議論していますときには、御承知のように、生物多様性条約を積極的につくるように推進したのも、中心的なのはアメリカの研究者たちでしたし、こういう問題を提起したのもそうでした。
 それから、生物多様性に対する危機というので一番シンボリックなことは絶滅危惧種みたいなものであらわれているんですけれども、そういうことを最初に指摘したのも、もちろんヨーロッパの研究者もそうですけれども、アメリカの研究者がデータとしては非常に有力なものを提供してきて、一貫してその研究者として良心的な活動をしているということに関しては、私どもも、むしろそういう仲間から影響を受けている部分が非常に大きいというふうに理解していますので、おっしゃるとおりです。
 ですから、最近でも、私ども、例えば私の親友の一人は大統領の科学技術諮問会議の委員の一人なんですけれども、そういう連中にも、なぜアメリカは生物多様性条約を批准できないのかということを盛んに議論することがあるんですけれども、彼らは、研究者のレベルでは今以上の影響力を発揮することができないのが残念だという言い方をします。その意味では、日本でも研究者の意見が必ずしも反映されているとは言えませんけれども。アメリカでは、生物多様性に関してはその落差が非常に大きいということを極めて残念に思っています。
 だから、我々の立場としては、研究者サイドにそういうふうにプッシュしていって、何かアメリカの世論そのものを変えてもらうようなことを努力しなければいけないというふうに思っています。
 ただ、冒頭におっしゃった、だからこのことを議論するのはむなしいということではなくて、やはりアメリカ、非常に影響力の大きい国が除外されているのは残念なんですけれども、しかし、地球全体がそういう方向に向かっていくということが、やはりアメリカに対する、その方向に向かせる一つの力でもあると思いますので、決してむなしいと思わずに、ぜひ積極的に御検討いただきたいと思います。
加藤参考人 私は、残念ながら、個人的にアメリカの研究者と生物多様性条約の批准関連についての討議をしたことがございませんので、一般的なお話になるかと思いますけれども、組み換え作物の商業栽培もアメリカが一番最初でしたし、そういう意味では、世界をリードしているということは確かでございまして、その過程で、最初の段階は、かなりアメリカが組み換え作物の商業化を国全体として非常に推進しようとしている、そういう気配が規則のつくり方あるいはやり方から何となくうかがえるところがございました。
 そういう意味では、初期のころに評価された組み換え作物につきましては、私どもの目から見ますと、少なくとも今法案で考えようとして、その前の段階でいろいろな審議会で検討したりしておりましたものから比べますと、リスク評価が甘いなと思われるようなものもあったことは確かでございます。
 そういうことがありまして、ただ、最近になりまして、アメリカの科学アカデミーも、基本のコアのところは先ほどお話ししたように同じなんですけれども、生態系に対する影響あるいは生物多様性への影響ということに関しては、生態学者がその議論に加わることが多くなってまいりまして、かなりトーンがより慎重な方向に動いてきているなというふうに私は理解しております。
 そういう意味では、国の戦略は戦略としまして、一方で、科学者のレベルでは、常にそのときの科学の問題に対して科学的にきっちり検討して答えを出そうとしている姿勢はアメリカでは見えております。そういう意味では、アメリカの科学アカデミーの報告書などは、出るたびに非常に勉強になる点がございまして、今、新しい生物多様性への影響ということに対しても、より慎重な検討が進められているなというふうに私も理解しております。
 科学アカデミーのようなかなり行政にも影響力を持ち得るような場所ではありますけれども、そういうところの検討が実際にアメリカが国家として生物多様性条約批准というところにつながるのかどうかということは、私はちょっとその辺は理解しておりませんけれども、少なくともサイエンスの分野ではきちんと検討はしているということは言える、そのことは敬意を表すべきことかなというふうに理解しております。
鮫島委員 十五分しかないものですから、済みません、なるべく短い御答弁をお願いしたいんです。
 私は、個人的には、まだ遺伝子組み換えの作物を食用に供するのは早過ぎるというふうに思っています。余計な遺伝子が入っているということもありますし、スクリーニングの過程で遺伝子の入った細胞だけを選び出すために、どうしても抗生物質耐性の遺伝子を入れておかなきゃいけない。それは入っていてもしようがないんですが、あと、Btトキシンとか、構造たんぱくとか、除草剤を分解する酵素の遺伝子とか、ほとんど食欲のわかない遺伝子ばかりがほうり込まれているんです。
 もうちょっと技術が進めば、せめて可食部分、例えばトウモロコシでいえば実の中、バレイショでいってもチューバーの中、可食部分では発現しないぐらいのスイッチがなぜモンサントともあろう会社でつくられないのか。だから、食べる対象にするには、せめて可食部分では導入遺伝子は発現しませんというスイッチぐらいつけなさい、それから、途中で使った抗生物質耐性の遺伝子が途中で脱落するくらいの技術がないんですか、私は、そのくらいの技術ができて初めて食用の世界にこういう植物は出てくるべきだというふうに個人的には思っています。
 アメリカの主張は一貫していて、つまり、遺伝子組み換えをしたからといって新しい種類のリスクを及ぼすものではない、それから植物本来の性質を変えるものではない。トウモロコシは遺伝子組み換えしたってトウモロコシ、トマトは遺伝子組み換えしたってトマトだ、だから、生物多様性とも関係ないというのがアメリカの一貫した主張です。
 ところが、アメリカの主張も矛盾していまして、トウモロコシが従来のトウモロコシという性質だけだったら、実は新規性と有用性がないわけだから。
 遺伝子組み換え植物の性能をチェックする中で、新たな毒性物質が産生する危険性はありませんかという欄がありますが、例えばBtトキシンをほうり込んだら、新たな毒性物質を産生する性質を付与したわけだから、遺伝子組み換えによって毒性物質を産生する性質が付与されましたというふうに書かなくちゃいけないんですが、普通はそれを書くとバツになるんですね。そういうところを際どくすり抜けて、トウモロコシはトウモロコシなんだけれども、これまでのトウモロコシとは一味違うよという苦しい道をアメリカはアメリカなりに歩んでいると思いますが。
 ところが、鷲谷先生のように若干言い過ぎると問題もあるのかなと思うんです。
 つまり、遺伝子組み換え植物というのは、帰化植物とか導入植物とかと同じように、非常に生態系にとって違和感のある、新規性のある植物だ。ところが、一番遺伝子組み換え植物のチェックの厳しいのは、繁殖様式に変化がありましたかとか、雑草性に変化がありましたかとか、ここのところを逸脱していたら、まず絶対新しい品種としては認められないわけで、そういうガードがかかっているにもかかわらず、遺伝子組み換えの品種というのは外来種と同じだというふうに論理を立てられるのはなぜかというのがちょっと理解できないんです。もうちょっとその辺、作物としてのガードがかかっているにもかかわらずそういう危険性を訴える論拠を。
鷲谷参考人 私は、具体的に今問題になっている作物というのをイメージしてお話ししたということではありませんで、もっと一般的に、さまざまな遺伝子組み換え生物というものを想定した場合に、その評価の仕組みをどうつくっていくかということを考えると、経験が乏しいものですから、外来種と同じだと言っているわけではなくて、外来種問題で起こったこと、つまり、生態系になかったものが入ってきたときにどんなことが起こるかということを考える上で、同じことが起こるかどうかはともかくとして、外来種問題を参考にするのは意義深いんではないかということなんです。
 もっと遺伝子組み換え生物に関して知見が多くありましたら、それを基礎にしてお話しするのが適切であったかと思うんですけれども、ない現状で、比較的共通性の高い問題ということで外来種の問題を取り上げました。同じというふうに説明したわけではございません。
鮫島委員 人類はなかなか賢い歴史を持っていて、いわゆる作物というのは非常にそれなりの生物的封じ込めの性質を持っていて、いろいろな定義の仕方がありますが、私は、一番わかりやすい定義は、人間と共生関係にある植物を作物と定義するというのがあって、つまり、人間の助けがなくなると、非常に自然の中で弱くて消えてしまう。ですから、常に人間とともに、人間の手助けがあって存在するのが作物です。
 そういう意味では、作物に特定の遺伝子を入れても、作物という本来の性質、人間の手助けがないと消えてしまうという性質が失われていない限りは、私は、先生のように余り外来種と近づけて見るのはいかがなものかという気がしますし、日本の農業は稲を初めとしてワサビ以外はほとんどすべて外来種で成り立っていますので、そういう歴史も一応念頭に入れないといけないんじゃないかと思います。
 最後に一つだけお伺いしますが、アメリカのスターリンク・トウモロコシで、私は大体、他殖性のもので遺伝子組み換えをやったものを開放系利用するというのは十年は早いんじゃないかと思いますが、案の定、スターリンクで使ったCry9Cという遺伝子が、殺虫性のたんぱくをつくる遺伝子ですが、それが、メキシコの野生種に入ったのがCry9Cかどうかはわからないんですが、一応人工的な遺伝子がもうメキシコの野生種にまで入っちゃいました。
 これは、私は、人類の歴史始まって以来のジーンポリューション、遺伝子汚染という現象が最初に起こったんだと思います。これは、私は、アメリカは大変罪が深くて、だから、今これを除去する方法、不測の事態が起こったときに、それを解消できる方法がなければいけないというのが大原則だと思いますが、スターリンクによって汚染が始まってしまったCry9Cをトウモロコシ生態系から除去する技術はありますでしょうか。お二人の先生に、岩槻先生と加藤先生にお伺いしたいんです。
岩槻参考人 具体的なそういう事例について、それに対する補償措置があるかという質問に、今、僕は科学的に……(鮫島委員「原理的に」と呼ぶ)原理的にはそれはいろいろあると思いますけれども、それは先ほど鷲谷参考人がおっしゃった外来種の導入の場合と同じで、外来種を導入した場合にいろいろな害、災厄を及ぼしますけれども、それに対する撲滅の仕方というのは個別にそれぞれ違うわけですね。ですから、遺伝子ポリューションでも、それは外来種が入ってきたのと同じで、ポリューションが起こったときにそれを除く技術というのは、いつできるかわかりませんけれども、科学的には可能だと思います。
 ただ、それはきょう、あす、すぐ間に合うかどうかと言われると、その時点に関してはちょっとお答えすることはできません。
加藤参考人 私も、技術的なところはちょっと十分理解しておりませんけれども、例えばそういう栽培種、入ってしまったものを取り除いてもとのものをふやしていく、置きかえていくという方法しかないのかなというふうに素人考えでは思います。
鮫島委員 もう時間ですので、最後に一問だけお伺いします。
 遺伝子組換え農作物等の環境リスク管理に関する懇談会報告書、平成十四年九月、これは鷲谷先生も多分メンバーだったと思いますが、この最後のところに「意図せざる少量混入の取扱い」と。例えば、遺伝子組み換えじゃないものを輸入しても意図せざる混入がありますということについてどうしましょうかというのを規定しているところがあるんですが、これはかなりアメリカに遠慮して、腰の引けた書き方になっているんですね。アメリカで商業利用されているものならば、多少非組み換え集団の中にまざっていてもこれは許容範囲じゃないかという結論になっていますが、鷲谷先生が参加していてこういう結論が出たのは、やや不思議な気がします。ぜひ今後ともこういう姿勢を注意していただきたいと思います。
 どうもありがとうございました。
松本委員長 田端正広君。
田端委員 公明党の田端でございます。
 きょうは四人の先生方、大変にお忙しいところ、ありがとうございます。
 早速ですが、岩槻先生にまずお尋ねしたいと思います。
 大変微妙な問題といいますか、また非常に幅の広い、奥の深い学問でもあると思いますが、そういう意味で、先ほど先生のお話だと、億を超える生物種、種がある、そして三十億年という生態学の歴史といいますかそういう流れがある、そういう中で、すべてのそれらの情報を縦、横、斜めにまざり合って解明して、そして生態学というものがあるんだ、こういうお話だと思うんです。そうしますと、これから遺伝子資源といいますか、それの開発と、そして環境の保全という大きなテーマの中で新しい種がまた開発されていく。そうしますと、生物多様性の二十一世紀という時代がますますこれは膨らんでいくのかなと思います。
 そこでお尋ねしたいのは、こういう流れが、どんどんこれから科学が進んで、技術革新が進んで、産業技術がどんどん発達していけば、いろいろな形で新しい品種が開発されていく。そうすると、例えば三十年後の世界といいますか、三十年後の日本はどういうふうな状況になっているんだろうな、こういうことを考えるんですが、イメージとしてどういうふうなお考えであるか、ちょっとお聞かせ願いたいと思います。
岩槻参考人 今の高度に進歩した科学技術が発展したから新しい種が創成されてくるというだけではなくて、二千数百年前に狩猟採集から農耕牧畜へという大きい新石器時代の変換がありまして、そのときに初めての自然破壊というのが始まっているわけですけれども、それ以後に新しい種というのは物すごくたくさんでき上がっているんですね。ですから、そういう多様性がふえてくるというような現象は、何も新しい遺伝子組み換えの技術だけではなくて、歴史的にもそういうふうに、必ずしも人間がやっているだけではないんですけれども、生じているということが一方。
 それからもう一つ、科学技術で遺伝子の導入をしなくても、先ほど冒頭の陳述のときにちょっと申し上げましたように、自然界でも、異種の細胞の間で遺伝子の合流というようなことは進化の中ではさまざまに起こってきていることなんですね。ですから、そこへ人の科学技術が加わってきたということで、その多様化も、それから一方では絶滅種を生じるという減少の方も、劣化の方もともに生じているわけです。
 例えば絶滅危惧種のことなどについていいますと、日本もやっと何年前でしたかから、種の保存法のようなものがつくられていろいろ対策が立てられるようになったんですけれども、それより以前ですと、ほとんどそういうことは無視されていて、それこそ十年おきに進んでくる絶滅危惧種の増大というのが非常に危ない状態にあったんですが、今それは一応の手は打たれていますけれども。そういうような具体的な例も含めて、科学的な知見に基づいた対応がどんどん進められていきますと、多少の変動というのは、歴史的な流れの中で必ず生じてくるものですから、三十年後に生じると思いますが、手さえ打てば心配することはないと思うんですけれども、放置しておけば非常に危険だという、余り答えにならない答えになりますけれども、そういうふうに申し上げます。
田端委員 そういう意味では、大変不確実な要素が大変大きいなという感じは我々素人としても感じるわけであります。それだけに、この問題というのは慎重性を要するのだろう、そう思っております。
 そこで、鷲谷先生にお尋ねしたいと思いますが、先生は、わかりやすく言われるためにと思いますが、外来種の規制の話を通して、ある種似ているところがあるんだという趣旨のお話でございます。それで、外来種による生物多様性の侵食性の問題については規制改革推進会議の第一次答申にもあったとおりでありまして、これはぜひきちっとしなければならない問題点ではあろうと思いますが、悪い方の結果として、リスク評価が、例えば恩恵を受けるのは一部の業者であって、広範囲において、あるいは代々において好ましくない結果、影響を受ける可能性もある、こういうこともこの外来種を通してのお話であったと思うんですけれども、そういう心配というのは相当あるのかどうか、どういうふうにお考えになっているんでしょうか。
鷲谷参考人 今これからすぐにでも利用されるようになる遺伝子組み換え作物等が野生化をして、それで生態系に甚大な影響を及ぼす可能性が非常に高いとは、きっと言えないと思います。
 生物多様性影響評価の制度をつくるわけですから、いろいろなことを想定して制度をつくらなければいけないという意味では、いろいろな種類の遺伝子組み換え生物を大量に利用しているうちには、外来種で起こったようなことが起こらないとも限らないと思います。そういう利便性の高いものというのは、どうしても大量に使われがちですね。そうすると、その地域の生態系がかなり単純化されてしまったりということもありまして、今では予想できないような関係性というのが生じることもあると思うんですね。
 だから、そういう不確実性の高いことというのは例示をしてお話しすることはできない。だけれども、起こってしまうと非常に困ったことだということになりがち、今までの外来種等の例だと、そういうことが起こってきましたので、起こってから慌てない仕組みをしっかりつくっていくということは大事だと思います。
田端委員 昨年、私たち、自然再生推進法案というのを鷲谷先生にもいろいろ御指導いただきながら議員立法でつくりましたが、例えば、外来種の絶滅あるいは規制ということについては、そういう自然再生事業と絡めてやっていくということは可能ではないかと思うんですが、先生、その辺はどうでしょうか。
鷲谷参考人 法律にのっとった自然再生事業というわけではまだないと思うんですが、各地でいろいろな自然再生の取り組みが進められているんですけれども、その中では、外来種が最もその健全性を脅かして、生態系を脅かしているという認識のもとに、外来種対策を主なテーマとして自然再生を進めているところもあります。ですから、自然再生という仕組みで外来種の対策をしていくというのはとても有効だと思います。
 単に外来種を取り除くということではなくて、また在来種の間の健全な関係が取り戻せるようにするとか、総合的な視野から自然を再生していくことが必要だと思いますので、自然再生の枠組みで外来種対策というのはとても有効ではないかと思います。
田端委員 ありがとうございます。
 それで、遺伝子組み換え生物については、この生物学的な侵入のリスク評価というのは大変大事な問題点だと思いますが、引き続いて鷲谷先生にお尋ねしたいことは、そういう侵入性をどう予測していくかということになるんだと思います。
 GMOというんですかLMOというんですか、短期的な考え方と少し時間をかけた視点での考え方とで変わってくるのかと思いますが、例えば、先ほど何かちらっとおっしゃっていたようですが、食害抵抗性といいますかあるいは病害の抵抗性という点で、相手もやはりだんだん強くなっていくわけですね。そうしますと、新しい品種、そしてその品種が相手の方にもまた影響を与えて、相手も強くなる、こういう相関関係にあると思いますが、何か軍拡競争のような感じで、こっちが新しい技術をつくれば向こうもまた新しい技術で対抗してくるという感じの、そういう生態学的な力学というのが自然の中にはあるんだろうというふうに感じます。
 そうしますと、例えば農薬などでもやはりそういうことはこの発展形態の中であったんだろうと思うんですけれども、生物の多様性というその豊かな生態学、そして遺伝子組み換え生物という科学の粋を集めた技術、この二つの共生というものはどういうふうに考えていったらいいのか。もうずっとそういう力関係で、新しいものをつくる、また新しい抵抗力を生む、また新しいものと、こういうのがずっと続いていくのかどうか。そこのところの考え方はどういうふうに考えればいいんでしょう。
鷲谷参考人 農業における困った生物として害虫だとか雑草がありますが、今までの考え方、遺伝子組み換え作物をつくってということも同じなんですけれども、力でそれを抑え込む、強い影響を及ぼすような害虫が出てきたら、強い薬でそれをたたくというようなことでやってきたと思うんですが、お話を先ほどもちょっとさせていただいたんですけれども、それではやはり人間の側に勝ち目がないと思います。どんどん新たな抵抗性が進化したり、また違うようなものができてしまうことになりますので。
 それで、生態学の立場から見て一番望ましいのは、もっと複雑な生態系が作物を育てる場にも存在をして、いろいろな生物がいることによって一種類の害虫だけがふえてしまうということがなくなるような、そういう共生の論理で害虫等の問題に対処していくべきではないかと私は思っております。
 そういう意味では、遺伝子組み換え作物には余り期待していません。生態学的には、ちょっとそれほど効果が高いものではないんじゃないか、メリットとして、皆さんはすごくメリットを感じていらっしゃるようなんですけれども。それは個人的な意見です。
田端委員 生態学の先生のお立場からの御発言だと、そういうふうに認識したいと思います。
 また、加藤先生は、そういう意味では実際に現場で実験されている、そういう立場ということのようでございます。
 遺伝子組み換え作物は、そういう意味では、例えば人間にとって食品としての安全性ということと環境への負荷の問題、こういう二つの大きな要素が、つまり不確実な問題としてあるんだろう、こういうふうに思います。
 それで、そういう意味の科学性ということと予防原則、このバランスをどうとっていくかということが大きな、新しい産業技術といいますか、こういう先端技術において問われている問題ではないかなというふうに感じます。そういう意味では、健康とか環境へのリスクを含めた広い視野での情報をどこまで開示していくかということが、やはり市民、国民にとって一番安心できる要素だろう、こう考えるんですが、加藤先生、どういうふうなお考えでしょうか。
加藤参考人 私も、陳述の中でも簡単に申しましたように、技術というのは社会の支持がないとやはり発展していかれませんで、この技術が、メリットの非常に高いものもあるし、それほどでもないものもあるかもしれない。それから環境への影響が問題にならないようなものももちろんあり得るわけでして、それが、環境に対する問題がもしかしてあるかもしれないというようなものと一緒になって、両方が市民に不安を与えますと、すべてが受け入れられないということになりますので、やはり一つ一つ個別に、その問題点に即した評価をして、その評価に従った管理が行われ、しかも、そのプロセスが全部開示されて国民に理解されるというようなことがあって初めて進み得ると思っています。そのことは非常に大事だろうというふうに思っています。
田端委員 ありがとうございました。
 以上で終わります。
松本委員長 高橋嘉信君。
高橋(嘉)委員 自由党の高橋嘉信でございます。本当にきょうはお忙しい中、参考人の皆様方、ありがとうございます。
 まず私がお聞きしたいのは、今回の法律案は、カルタヘナの議定書の批准に当たって、生物多様性確保の担保法と思うんですが、ここの中で、第一線で御活躍の皆様方ですから、この法律上どこが一番問題なのか。
 一言ずつだけで結構ですから、例えば、リスク評価ならリスク評価に問題があると思う、学識経験者の選定基準にあるとか、承認プロセスがおかしい、リスク管理がおかしい、モニタリングが問題だ、知見不足だ、環境省の役割の明確化に問題があるんじゃないか、情報公開だ。いろいろ議論される中で、大体こういったものが大きな点なのかなと僕は考えているんですが、参考人の方々はどこに問題点が一番おありとお考えか、一言ずつで結構でございますので、お願いします。
岩槻参考人 端的に申し上げて、科学の世界で一番不安を感じることは、モニタリングが本当にきっちりやれるかどうかということなんですね、ほかのところは相当手を打たれてはいるんですけれども。
 モニタリングに関しては、今、慎重にやるべきだということがあるんですけれども、具体的にどう慎重にやるべきか、それを科学的にどうやるかということが、まだ確実性が乏しいと思っています。
加藤参考人 どれが一番心配、どれが一番というふうに言われますと非常に難しいわけです。
 例えばリスク評価にしましても、具体的にどういう項目でどうするというようなことは、現在の法案の中には書かれておりません。それからリスク管理にしましても、個別の評価がありませんと管理のやり方がわかりませんので、そこまでは法案に書かれておりません。モニタリングにしましても、個別のものがわかってからでないと、必要なモニタリングはどういうものであるかということがわかりませんので、そういう意味では、どれについても確実にやる必要があるというふうにしか申し上げられない。非常に不十分ですけれども、済みません。
鷲谷参考人 法律案としては、不確実性に対処するような仕組みというのが提案されていると思います。
 それで、実際にそういう評価を具体的にどうしていくか、どういう専門家がそこに参加するか、あるいは市民の方々の御意見をお聞きするような場としてどんなところを設定するか、モニタリングについてもそうなんですけれども、どんな計画で実際にモニタリングするかというようなことで、法の精神が生きてくるかどうかというのは大きく変わってしまうと思います。
 慎重な評価ができるような仕組みを、法律ができた後か、並行して行われているのかもしれませんけれども、それをしっかりしていただけたらと思います。
村田参考人 先ほど二点だけ述べさせていただきましたけれども、別な観点からいいますと、この問題は、不可逆的といいますか、後でうまくなかったとわかったときには後戻りできない。化学物質の問題であれば、その時点から被害を広げるのを最小限に防ぐことは可能ですけれども、生物多様性への影響という場合は、気づいたときはもう手おくれという可能性があるということです。
高橋(嘉)委員 それでは、ちょっと疑問点を具体的にお伺いします。
 例えば、六省が共管する内容となっておりますけれども、環境省は、生物多様性の確保という点では横断的な観点、リーダーシップが必要と私は考えるわけですが、その点、加藤参考人はどのようにお考えでしょうか。
加藤参考人 私、この前の、環境省に対する答申をつくる審議会の小委員会の中に参加させていただいているんですけれども、その中では、生物多様性影響がどういうプロセスで起こってくるだろうかという検討をいたしまして、どういうところを押さえることが大事であろうかという検討をいたしました。
 やはり、横断的といいますか、環境省の委員会で特にそこのところを集中的に検討しておりますので、そこで盛り込まれた考え方というのが、各省庁がこれからどういう形で具体的なリスク評価のシステムを提案されてくるのかは存じませんけれども、中環審で検討されました、科学的にどういうふうなプロセスで起こりそうかというスキームを示しておりますので、それが尊重されるといいというふうに個人的には考えております。
    〔委員長退席、近藤(昭)委員長代理着席〕
高橋(嘉)委員 では、岩槻参考人にお伺いしたいんですが、情報公開に対して、知的財産との絡みから、かなり狭められたようなものになるという法案の内容と私は受けとめておりますが、御見解はどのようにお持ちでしょうか。
岩槻参考人 企業秘密に関する部分はともかくとして、情報公開がこのことに関してはそんなに狭められたというふうに――その意味では、この問題というのは、情報が公開されないとリスク評価もできませんし、モニタリングもできないということだと思いますので、基本的には、企業秘密に関するような部分を除いては公開されるということだと思いますので、そんなに危惧は感じていないんですけれども。
高橋(嘉)委員 では、例えばモニタリングについての心配が先ほどお伺いした際にいろいろお話ございましたが、主務大臣が承認の変更や廃止を検討しようとするときに承認取得者に情報を求めることができる、ただこれの規定にすぎないんじゃないかという考え方も持たれないわけではない内容になっていますが、例えば、ほかの事業者への譲渡や流通段階でどんどん出ていって無制限になった状態で、先ほど村田参考人がお話しになりましたけれども、本当に、フィードバックしようとする時点でもう回収が不可能じゃないか、回復が不可能じゃないかというような懸念があるわけですけれども、その点については、村田参考人、どう思われますか。
 例えば、法案の内容ではモニタリングの部分が明確になっていないわけですね。ですから、先ほど参考人の方々もモニタリングという言葉を随分言われたと思うんですが、認証取得者に対して回収命令を出すことができる、こういう規定にはなっていますけれども、そういった場合、本当にこれはかなり難しいと僕は思っているんです。
 先ほど村田参考人も同様のことを言われましたので、では、申しわけありません、鷲谷先生にお伺いしますが、そういった点についての御懸念はお持ちでしょうか。
鷲谷参考人 どんなものがどのような場で使われて逸出して広がりつつあるかということで、回収が可能かどうかということは大きく違ってくると思うんですけれども、初期のうちに気がついた場合にはもしかしたらうまく回収できることがあるかもしれませんが、かなり蔓延して、だれの目にも影響が明らかになったような時点だと、もう原状に戻すということは難しいと思います。どうやってその影響を低減するか、そういう取り組みになっていくんじゃないかと思います。
高橋(嘉)委員 では、加藤参考人にお伺いしたいんですが、現在我が国が輸入しているもの、除草剤耐性のものとか、害虫抵抗性のものとか、病気抵抗性のものとか、いろいろ入っているわけでありますが、現在我が国へ輸入されているものについては、十分な科学的知見に基づいて安全であるという考え方に立ってよろしいんでしょうか。その点の御見解をお伺いしたいんです。
加藤参考人 全部というふうに言われると、私、全部チェックしておりませんのでお答えしにくいんですが、例えば、日本に交雑可能なものがあるものがございます。大豆とツルマメの関係というのがよく言われておりますけれども、それが実際に栽培される場所がどうか、そういう栽培管理がどうかということがチェックされれば、現時点では今栽培されていないというふうに理解しているんですけれども、そういうことで、実際の栽培の場面に即した評価ということをもう一度考えてみれば、問題がないということかもしれません。
 例えば、ある特定の野生種がないようなところ、畑で栽培するということであれば、畑というのはかなり管理がされるものですので、そういう意味では大丈夫かもしれません。その場合にもし心配であれば、定点観測のように、どこかのツルマメをずっと遺伝子をチェックしていくというような方策があるかと思います。ただ、作物ですので、作物というか、大豆の場合はそんなに畑で栽培して問題を起こすというようなことはないとは思いますけれども、もし問題があり得るという場所であれば、そういう方法があるかというふうに思います。
高橋(嘉)委員 では、いろいろお伺いしたいんですが、時間ももうありませんので、鷲谷先生に。
 霞ケ浦からの挑戦は今どのようになっているのか。生物多様性の確保という視点から率直な御意見をお伺いしたいんです。
鷲谷参考人 霞ケ浦での自然再生のプロジェクトについての御質問でしょうか。
 湖岸の水辺の植生帯を取り戻す工事が行われまして、それに関しましては、緩傾斜の浜をつくって、そこに湖底の砂をまき出して、その中には絶滅してしまった植物の種がかなり含まれていて、再生できるだろうというもくろみでそういうことを実施したんですけれども、予測どおり、今まで消えていたものも含めて、多様な水生植物がよみがえりつつあるという現状です。市民の方とか私たち研究者などがそのモニタリングを続けております。
    〔近藤(昭)委員長代理退席、委員長着席〕
高橋(嘉)委員 では、最後に岩槻参考人にお伺いしたいのです。
 科学的知見は不足しているという現状のお話もありましたけれども、例えば、承認する際に学識経験者の意見を聞くとあります。どういう仕組みになるかはこれから具体的に政府にお伺いしていきますけれども、学識経験者の例えば生態学的立場、そして遺伝子組み換えの研究者の立場との意見がもし食い違った場合、どのように政府としてはその承認に当たっての判断をすべきか。どのようにお考えでしょうか。
岩槻参考人 どの部分の御質問か、モニタリングということでしたら、そういう意見の対立、しばしば起こることがあり得ると思いますけれども、それはやはり最も慎重な形でまとめるというのが当然だと、この法案の性質からいいますとそういうものだというふうに理解しておりますけれども。
高橋(嘉)委員 つまりそれは、承認する段階でいろいろリスク評価について学識経験者から意見を聞きますよね、そのときに、生態学的立場と例えば遺伝子組み換えの研究者の立場とか、いろいろな人たちの意見があるでしょうが、もし見解が分かれた場合は、新たな追加資料とか追加データを求めるとか、いろいろな方法はあるかもしれませんが、結論が出るまでは判断はするべきではないというお考えなのか……(岩槻参考人「当然それはそうだと思います。リスクが残っているままで何かを進めるというのは非常に誤ったことだと思います」と呼ぶ)はい。例えば、生態学とそれとの研究者との意見が分かれたとしてもですね。そうですか。
岩槻参考人 科学的な議論の違いは、別に生態学の人がこういう立場、遺伝子組み換えの研究者はこういう立場というものじゃないと思いますので、科学的に意見が一致しなくて結論が出ないときには、やはりリスクが十分消せる形でない限りは当然進めてはいけないんだというふうに思います。
高橋(嘉)委員 はい、わかりました。
 ありがとうございました。
松本委員長 藤木洋子さん。
藤木委員 日本共産党の藤木洋子でございます。きょうは、貴重な御意見をお伺いして、本当にありがとうございました。
 時間が限られておりますので、お四方に、村田参考人、それから加藤順子参考人と鷲谷いづみ参考人には二問同じ質問をさせていただいて、最後に岩槻参考人にお尋ねをしたいと思っておりますので、一遍に全部申し上げたいというふうに思っております。
 村田参考人が、申請受理から承認に至るまでの過程で情報公開と意思決定に市民参加をするということがあいまいじゃないかというふうに言われたのは、非常に私は同感でございます。
 市民の関心の幅の広さというのを先ほどおっしゃったんですけれども、例えばアメリカの安全審査でも、人の食用には認可されていなくて家畜飼料にだけ認可をされたはずのスターリンク・コーンが、なぜかアメリカ国内のタコスの皮から出てきたという事件がございましたね。これはやはり日本でも発見されているわけですけれども、輸入コーンの種子でスターリンクの混入が見つかったということも実は日本の市民団体によって明らかにされた問題でした。
 また、農民運動全国連合会という団体があるんですけれども、この市民団体の食品分析センターでは、健康食品、ダイエット食品の検査を行っていまして、モンサント社の除草剤耐性を持つラウンドアップ・レディーの大豆をやはり検出しております。検出されたのは、大手の製菓会社二社、健康食品を扱っている商事会社の粉末たんぱく食品からだったわけですね。この検体からは、除草剤耐性のDNAと、その両隣にある除草剤耐性のDNAを発現、終息させるDNAのすべてが見つかったというふうになっているわけですね。
 ですから、こういう関心の広さというのはかなり活動の分野にまで広がってきているわけでして、そういう市民レベルからの発言というのがぜひやはり保障されて、決定段階に保障されるということが必要だというふうに思うんですね。これは、環境影響評価をやる法律の中には実はちゃんと組み込まれているわけです。
 中環審の野生生物部会の遺伝子改変生物の環境放出利用に際しての影響評価・利用決定フローというのがありまして、このフローの段階では、申請書を受理する段階でもやらなきゃならないというふうになっていまして、その次に、再決定による変更を行う際にもこれは意見を聞かなきゃならないというふうになっているんですね。これを法文にするのを私はちゅうちょしたりあいまいにする必要はいささかもないと思うのですけれども、その点についての御見解を一つは伺いたいと思います。
 それから、鷲谷参考人と加藤参考人に二つある質問ですが、その一つは、安全性審査のシステムとして、OECDが提案している実質的同等性というのがございますね。日本の安全審査では、企業データに基づいた人工胃液や人工腸液に塩酸やトリプシン、ペプシンなど消化酵素とDNA分解酵素などを混合した模擬胃液、腸液で、それに組み換えた遺伝子DNAや組み換えたんぱく質を単独で加えた場合に、数分から数十分で完全に分解する、だから安全が確認されたということになるわけですね。
 しかし、私は、名古屋大学の理学部の助手をしておられる河田昌東氏の論文を読みますと、私たちはプラスミドDNAや組み換えたんぱく質を単独で食べることはあり得ず、多量のたんぱく質やでん粉、それから核酸、繊維質、脂肪などを食べるので、これらが分解を妨げ、未分解のまま胃を通過し、腸に達することはあり得るとしておられます。ですから、判断材料となるデータも専ら開発企業の手にゆだねられていて、都合の悪いデータが出にくいということだけではなくて、先端的な技術であればあるほど、企業の一方的な情報に判断を依存せざるを得ない、そういう現実があるということも指摘しておられます。
 私は、利便性をうたった遺伝子の組み換え生物の開発というのが進んでいるわけですから、実質的同等性という安全性の基準の適用だけでは済まないのではないかという気がするのですが、これについての御見解を伺いたい。
 もう一つは、一九九九年の五月に、Btコーンの花粉を飛散させて、一般の草についた花粉でチョウの幼虫が四四%まで死んでしまった、これはアメリカのコーネル大学の研究成果がたしか「ネイチャー」か何かに発表されていたと思うのですね。その翌年には、アメリカのアイオワ州立大学の実験で、Btコーンの花粉がついた草を食べたチョウの幼虫が約二〇%、二日間で死んでしまったという野外実験の結果がやはり報告されておりました。コーネル大学の実験は実験室内のものだったそうですけれども、アイオワ大学の報告はフィールド実験の結果だったんです。
 一般のトウモロコシの実験では死亡率三%と言われているものをはるかに超えるものだったわけで、これらの実験については日本でもつくば市にあります農水省の研究所で実験が行われておりまして、これは実際に、日本の場合はモンシロチョウとヤマトシジミの幼虫の約三割が死んだ、生き残った幼虫は発育がおくれるという結果が出たという報告があるんです。
 私の素人考えでは、遺伝子組み換えの環境への影響を考える場合に、食物連鎖も含めた広範囲な生態系的安全評価といいますか、そういうことが必要ではないのかというふうに思うのですが、それについてのお考えを伺いたい。
 岩槻参考人には、イギリスの動物学者のグループがノーフォーク州でたしか除草剤耐性遺伝子を組み込んだ砂糖大根を栽培したときに、砂糖大根畑に生えている雑草の種子をえさにしている野鳥に、これはヒバリだったそうですけれども、どのような影響を与えるかという検討をした結果がございました。雑草の種子は少なくとも九〇%減少してヒバリに大きな影響を及ぼすことがわかったということでした。
 そこで、遺伝子組み換え作物の栽培が今度大々的にやられますと、私は生物多様性に大きな影響を及ぼすのではないかということを危惧するのですが、これについての評価をお聞かせいただきたい。よろしくお願いいたします。
村田参考人 ただいま私にいただいた質問は、全くそのとおりだと思っております。
 情報公開の意味は、二つあると思います。
 一つは、私たちの環境にどういうことが起きているかということは、やはりその環境を共有している市民に知る権利がある。それが改変される可能性があるのであれば、その意思決定に参加するのは当然だというのが私の基本的な考えです。もう一つは、モニタリングということを考えても、先ほどお話がありましたように、市民が広く関心を持って注目してこそ、モニタリングも少しでも早い段階で気づかれるものですので、やはり、その二つの面から考えても、非常に重要だと思っています。
 ただ、一つ足かせになるのは、企業秘密ということで、開示される情報が限られる。これはある程度やむを得ないとは思いますが、例えば、最近施行されましたPRTR法、化学物質管理促進法ですが、そこにおける企業秘密の、初年度、二〇〇一年度の実績はゼロでした。これはやはりどういうものを企業秘密とするかということをきちんと定義されているがためですので、この法律においても、そのように、本当に企業秘密はどの部分であるかということをきちんと定義すれば、私どもはある程度見えてくるんじゃないかと思っております。
加藤参考人 私がいただいた質問は二つだと思います。
 一つは、実質的同等性の問題だったかと思います。
 これは、生物多様性というよりは、食品の安全性の問題というふうなことで御質問があったんだと思うんですけれども、実質的同等性を説明するのはなかなか難しいんですけれども、例えば、ある作物にある遺伝子を入れて、それが食品として前の作物とどういうふうに違うかということを考えますと、一つは、入れた遺伝子の影響があるだろう、遺伝子と遺伝子産物ですね。それから、その入れた遺伝子が酵素であったような場合には、もし基質がそこにあれば、そこで何かの変化が起こるかもしれない。それから、そうではなくて、その遺伝子が入った場所によって予想しなかった影響が起こるかもしれない。三つの点が多分問題になるんだろうと思います。
 第一の点については、入れた遺伝子産物の評価というのは今やっておりまして、それは、おっしゃったように、胃液ですとか腸液ですとかということで評価をしているわけですね。そういう、不十分であったというデータがあったというふうにお話がございましたけれども、基本的には、私、データを見ておりませんのでわかりませんですが、そのところについては、審査をされた先生を信頼しております。つまり、お一人の先生が審査をしたわけではなくて、何人もの先生が審査をしておられますので、そういうことで、間違いがあればチェックをされるのではないかというふうに思います。
 今度、入れた遺伝子がほかの酵素に働きかけて、そこの部分も、基質として、基質特異性がどうかということで審査をしております。
 一番わかりにくいのが、入れた遺伝子の場所によって何が起こるかわからない、そういうようなものがどうなっているかというところなんですが、先ほどのお話にもありましたように、作物というのは随分いろいろな品種改良を重ねてやってきているものです。品種改良の過程では、いろいろな遺伝子の変異というのも起こっております。そういうことで、その範囲で起こるよりも高い頻度で、そういうことで何か異常なものが出てくることはないだろうというふうに想定はできるだろうと思います。
 もう一つは、その中に有害なものをつくるような遺伝子が入っているというか、その作物に何か食品として適さないようなものも若干入っているというようなものについては、我々は食べ方でもって安全を確保しているわけで、食品は全部すべて安全というものではないわけですけれども、そのレベルが変動していないかということは調べておりますので、そういう意味では、その実質的同等性による評価というのは、私は破綻していないというふうに考えております。
 それから、もう一つ御質問のありましたチョウチョウの例ですね。これについては、最初の実験は実験室内での実験ということで、野外ではどうかということでアイオワ州立大学で実験をしたわけですけれども、あの場合にも全く自然の状態ではなくて、葉っぱを野外に置いて、その葉っぱを刈り取ってきて実験室の中で幼虫に食べさせた実験であったように記憶しております。もし記憶違いでしたら、申しわけございません。
 それからもう一つは、そもそも農薬のかわりに使おうとしていたものなわけですね。ですから、そういう意味では、Btを使わなかった場合にはかわりに農薬が散布されたかもしれないわけですね。そのときに、農薬を散布すれば、またやはりチョウチョウにそういう影響があったかもしれないわけで、それが置きかえようとしている技術に対してリスクが高くなっているということは許せないことだろうと思います。置きかえようとしている技術に対して、リスクが高くなっていないかどうかというところが問題になるだろう。
 例えば、日本の場合ですと、モンシロチョウが死んだという、たくさん食べさせれば死ぬわけですけれども、その場合に、例えばそこに農薬をまけば、モンシロチョウもやはり死んだかもしれないわけで、モンシロチョウが一匹たりとも死んでいけないというふうに評価をしようとするのは、やはり、この場合、難しいかな。
 もう一つは、それでは現実にどれくらいのリスクがあるのか。アメリカの場合ですと、トウモロコシを……
松本委員長 参考人、簡潔にお願いいたします。
加藤参考人 済みません。
 栽培した畑の周辺にそういう作物があった場合にどれくらいのリスクがあるかという計算をしまして、リスク計算ではそれほど高くないと。あの実験があった後、研究者が栽培面積等から計算をして、リスクは高くないというふうには言っております。ただ、それもその事例だけですので、場所場所でみんな条件は違うと思いますが。
鷲谷参考人 最初に例に挙げられた、食品として摂取した場合の問題点なんですけれども、生物多様性条約ということとか議定書の内容を考えますと、直接食品として利用したときの問題というのはもしかしたらここには含まれないで、また別の安全性を確保するための法律を変えるとか、そういうようなことが必要になっていくのではないかと思います。
 それで、名古屋大学の方の研究内容というのは確かに妥当で、むき出しの遺伝子で実験するのと、実際の食品の中にあって摂取したときの効果と違うのは当然だと思いますので、評価するのに適切な手法で実験をするべきではないかと思います。
 また、そのことに関して、市民の方のお持ちの知見ということをおっしゃっていましたが、生物多様性評価をするに当たって、やはり専門家というのは非常に限られております。私がここに出てこなければならないのも、生態学の中で、こういう遺伝子組み換え生物などに関して、その影響を研究されている方というのはほとんどいらっしゃらないんです。そういうことも考えますと、関心の高い市民の方がお持ちの科学的な情報なども活用していくということは必要になってくるのではないかと思います。
 それから、二番目の毒素の問題なんですけれども、葉を虫に食べられないように、そちらに毒素が発現するということを目標にして、育種、遺伝子組み換えがされたとしても、花粉などにその毒素が発現してしまうということがありまして、それがまだ何か十分コントロールされていないようで、その花粉が飛散して、例えば大量にその作物が栽培されていますと、特殊な保全しなければならないチョウ類の食草にその花粉が大量にかかって、わずかしか食草がないというような場面がもしあったとしますと、ある種のチョウの絶滅可能性を高めるということもあるのではないかと思います。
 そういう毒素の人の健康への影響でしたら、恐らく生物多様性保全というこの枠組みの中で回避することができるのではないかと考えております。
岩槻参考人 お挙げいただいた具体的な事例のことは知らないんですけれども、しかし、そういうことは十分起こり得ることであるというふうに理解することができます。
 といいますのは、先ほど生物多様性に関する知見が乏しいということを申し上げましたけれども、これは別に生物多様性に関することだけではなくて、生体内現象のことについても、我々まだ知っていることは、いろいろなことは知っているんですけれども、まだまだ全体から見るとごくわずかなことである。ですから、遺伝子組み換えが期待したのと違うところにさまざまな影響を及ぼすということは十分あり得ることです。
 ですから、今度の評価にしても、それからモニタリングにしても、そういうところ、何が起こっても大丈夫なような体制はどう組めるかということを具体的に考えたというものだと理解しております。
藤木委員 ありがとうございました。
松本委員長 中川智子さん。
中川(智)委員 社会民主党・市民連合の中川智子です。きょうは、お忙しい中、ありがとうございました。
 まず最初に、私も自然体で生きるということを人生のモットーにしておりまして、そしていわゆる想像力を持って議員活動をしなければいけないと思うんですが、この遺伝子組み換えのものに関しては、その想像の及ばない事態ということに対して、やはり次世代にどのような影響を与えるのかということで、大変心配しております。
 やはり食べるものは表示で選びたいということで、国会の中でも随分その問題を取り上げてまいりました。きょうのこの問題に対しても、私も、一生懸命勉強しても、すればするほどよくわからなくなったややこしい問題ですので、ちょっととんちんかんな質問にもなるかもしれませんが、お話を伺いたいと思います。
 まず最初に、今回、私これは非常に解せないんですが、やはり、日本は一番農作物の輸入国でありまして、その輸出国であるアメリカが、この生物多様性条約またカルタヘナに対して参加していない。実際、そういうふうにいろいろつくって、輸出もして、他国に食べてもらっているならば、参加というのがまず前提になるのではないかと私自身は思います。
 短いお話で結構ですので、参加していない国からの輸入に際しては、やはり参加が条件だよということを言わなきゃいけないと私は思いますが、それに対しての御意見を、四人の方々、一言ずつお願いします。
岩槻参考人 私、外交的にどういうふうに言ったらいいのかということはわかりませんけれども、先ほどもどなたかの御質問にお答えしましたように、アメリカにそういうプレッシャーをかけるというのは、我々、科学者サイドとしてはそういうふうにやっているわけですけれども、それは当然必要なことで、外交的にどうしたらいいかというのはここでおまとめいただいて、ぜひそういうふうにお願いしたいと思います。
加藤参考人 私も、外交的な手続としてどういうことがあり得るのかわかりません。参加が望ましいというふうに思っておりますので、そういうことは折に触れて言うことはできるかもしれませんが、それがそういう仕組みとしてどういうふうに効力を持つようになるのかは、ちょっと私も全然わかりません。
鷲谷参考人 同じようなお答えになってしまいますが、アメリカ合衆国にぜひ生物多様性条約に加盟していただきたいとは思います。
 恐らく、遺伝子組み換え作物等の利用ということの経済的なことが優先されて、科学的な知見は蓄積しているのにもかかわらず、経済と環境ということで経済の方がずっと優先されている結果なのではないかと思います。
村田参考人 アメリカのNGOも、生物多様性条約それから気候変動の問題、非常にアメリカ国内で強い運動をしていますが、やはり結果的に力のバランスでこういう現状になっているんだと思います。
 それで、私は、この問題に関しては、世界の輸入大国である日本がこのカルタヘナ条約を締結するということはやはり間接的に大きなインパクトになるのではないかと思っております。
中川(智)委員 ありがとうございます。
 本当に、参加が前提であるべきだという御意見をちょうだいしてから、やはり環境省、外務省、頑張っていかなきゃいけないということで、そのような御意見をちょうだいしたところでございます。
 続きまして、鷲谷参考人、先ほどから、研究、アメリカ、諸外国におきましても、一九七三年からの取り組みでございますから、まだまだ世界全体から歴史が浅い、そのような知見が積み重ねられていないと。私も、余り焦らずに、小さな――大きな研究所でもいいんですが、屋根やらいろいろあるところで研究を積み重ねて、一般の圃場に出ていくということは、五十年、百年早いと思っているんですが、その専門家も、ただ、いわゆる生物多様性の専門家やさまざまな遺伝子関係だけではなく、遺伝子学や生態学や経済学、また人文科学の問題、また哲学、さまざまなところでの学者の横の連携というのがやはりとても大事ではないかと思うのですね。
 先ほどの、研究者の層、また育成に対しましてのお話がございましたが、このような分野、どのようなところでのこれに対する議論なり専門家の育成というのが必要と思われていらっしゃるかどうか。
鷲谷参考人 遺伝子組み換え生物に関しては、これまでは、恐らくその開発に関係しているバイオテクノロジーの研究者にしか主な関心、持っていらっしゃる部分というのはなかったんだと思います。生態系の専門家等、影響を評価するのに必要な専門分野はほとんど関心を今まだ持っていない段階だと思います。
 ですから、こういう評価をきちっとやっていくに当たっては、市民の方の方がきっと関心が高いと思うんですけれども、まず研究者にも関心を持ってもらうと同時に、きょうの資料にも書かせていただいたんですけれども、評価をしていくに当たって欠けている部分の研究分野に関しては、研究者がふえるような仕組みというのも必要になるんじゃないかと思っています。だから、まだまだ評価の側の研究者の体制というのがアンバランスだと思います。
中川(智)委員 ありがとうございます。
 私も、遺伝子組み換え食品の表示の問題はほとんどNGOの方々とともにやってきまして、いろいろな情報もそちらから得ることが多かったんです。
 続いて、加藤参考人に伺いたいと思います。
 この遺伝子組み換え問題では、研究者としましては、名古屋大学の河田昌東先生にこの間いろいろお教えを願っているんですが、河田先生からいただいたペーパーの中に、除草剤耐性大豆の大きな生産地でありますイリノイ州やネブラスカ州などのアメリカの中西部では、今、除草剤の効かない雑草がはびこって問題になっている、ニューヨーク・タイムズの報道によりますと、農家の半数が耐性雑草を目にしている、そのためますます除草剤の散布量が増加し、当初一回の散布でよいと言われた除草剤散布は、場所によっては三回散布が普通になっているということなんですね。雑草が突然変異を起こして、またあるいは近縁種雑草との交配による遺伝子流出の結果であるということです。
 また、カナダにおける実験では、異なる三種類の除草剤耐性菜種を近接して栽培した結果、三年目にはすべての除草剤が効かない超雑草の出現が観察されたということでございまして、もう十分御存じかもしれませんが、私どもが心配しているのはやはり、このような状況になってしまって、むしろ除草剤をもっともっと広く散布しなければいけない、また、それが目に見えない形で、見た目はトウモロコシでも大豆でも一緒なものですから、どれが遺伝子組み換えでどれがということになります。
 このような心配に対して、やはり今回そのような、圃場できっちりというか、ある程度枠組みを決めて進めるに当たっても、一番心配されるこのようなことに対しての御見解を教えていただきたいと思います。
加藤参考人 先ほど鷲谷先生がおっしゃっていらっしゃいましたように、やはり殺虫剤でも除草剤でも、多量に使って圧力をかければ、それに対する抵抗性を持つものが出てくるということで、軍拡戦争と先生が言っていらっしゃいましたけれども、それは起こり得ることで、害虫ではよく知られていることですね。ですから、アメリカの場合には、Btコーンを植えるときに、抵抗性が発生しないように、この遺伝子が入っていないトウモロコシを一緒に植えるようにというような仕組みにしております。それが功を奏しているかどうかというところまでは私はちょっと存じませんけれども、ですから、そういう意味では、使うに当たって管理をすることが絶対的に必要になってくる部分があると思います。
 除草剤の作物のお話、私はちょっと存じませんで、大変お恥ずかしいんですが、ですけれども、やはりどれだけの量をどういう頻度でまくかということによって、それが起こるか起こらないかは変わってくるわけですから、そういう意味では栽培の管理が適切に行われなければいけないはずで、それがリスク評価とリスク管理がセットになって初めてうまくいくことかなというふうに思います。
中川(智)委員 それでは、鷲谷参考人、申しわけございませんが、もう一度。
 この河田先生のお話の中で、一つの目的のために十種類以上の生物の遺伝子混合も今珍しくない、大体四つ五つから、もう十種類も。そうなると、何が何だか本当にわけがわからなくなりますが、こうした組み換え遺伝子が花粉の飛散や人為的作為によって野外生物の中に入り込めば、自然生態系の植物の遺伝子構成というのは現在のものと全く違ったものになるというふうにおっしゃっていますし、私も本当にそのとおりだと思うんです。これが第二世代、第三世代というふうに遺伝子組み換えが始まれば、昆虫、そして土の中の微生物、また鳥、いろいろな形で、動物と植物、そして細菌、その遺伝子の壁が取り払われて、地球がはぐくんできた進化による種の壁というのは人間によって根本的に破壊されて、現存生物の種というものはもう意味をなさなくなる。これが一番根源的な心配であります。
 これに関してのお答えというのは一言では無理かと思いますが、やはり種の壁を越え、そして圃場で、自然界の中でというふうになりますと、動物や、ただもう植物、植物だけではなくて、そのようにいろいろなところへの影響ということに対しての一言をお願いいたします。
鷲谷参考人 遺伝子組み換え生物から野生の生物等に遺伝子が移る仕組みとして、交雑のほかにウイルスなどを介して遺伝子が運ばれる可能性というのが考えられます。それに関しては、遺伝子組み換え生物をつくるに当たってもそういうものを利用したりもしているものですから、そういう意味では、遺伝子組み換えされた遺伝子は動きやすいというふうに言えなくもないのではないかと思います。
 ただ、ウイルスなどを介して自然界でどのように遺伝子がやりとりされているか、植物の遺伝子がウイルスを介してその液を吸った昆虫に伝わってとか、あるいは植物の遺伝子が微生物にというような動きというのはダイナミックに起こっているはずなんですけれども、それに関する研究というのが非常に少ないものですから、それに関するイメージを今私たちは正確に描くことができないんですね。
 御心配になっている、種の壁を取り外してというのは、わずかに自然界でも起こっていたものなんですけれども、そこに遺伝子組み換えの技術が加わることによってそれが促進されたりすることがあるのかどうか、そのようなことに関してもしっかり研究をしていかなければいけないんだと思います。
 今は、知見をいろいろつなぎ合わせると、可能性があるかもしれないということぐらいしか言えないんですが、ぜひ、遺伝子の水平伝達の研究などもしっかりと進めていくようにしなければならないんじゃないかと思っております。
中川(智)委員 もっとたくさん伺いたかったのですが、きょうはありがとうございました。
松本委員長 以上をもちまして参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人の皆様におかれましては、貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼申し上げます。
 次回は、来る六日金曜日午前九時二十分理事会、午前九時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後零時七分散会


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