衆議院

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第1号 平成13年2月27日(火曜日)

会議録本文へ
平成十三年二月二十七日(火曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 野呂田芳成君

   理事 北村 直人君 理事 久間 章生君

   理事 小林 興起君 理事 自見庄三郎君

   理事 細田 博之君 理事 池田 元久君

   理事 佐藤 観樹君 理事 原口 一博君

   理事 谷口 隆義君

      池田 行彦君    石川 要三君

      奥野 誠亮君    亀井 善之君

      栗原 博久君    塩川正十郎君

      田中眞紀子君    高鳥  修君

      谷川 和穗君    津島 雄二君

      中山 正暉君    丹羽 雄哉君

      西野あきら君    葉梨 信行君

      萩野 浩基君    松野 博一君

      三塚  博君    水野 賢一君

      宮澤 洋一君    宮本 一三君

      八代 英太君    五十嵐文彦君

      岩國 哲人君    生方 幸夫君

      海江田万里君    金子善次郎君

      城島 正光君    仙谷 由人君

      中田  宏君    伴野  豊君

      平岡 秀夫君    松野 頼久君

      白保 台一君    若松 謙維君

      鈴木 淑夫君    達増 拓也君

      中井  洽君    佐々木憲昭君

      山口 富男君    辻元 清美君

      横光 克彦君    井上 喜一君

      森田 健作君

    …………………………………

   公述人

   (野村総合研究所主席研究

   員)        リチャード・クー君

   公述人

   (野村総合研究所上席エコ

   ノミスト)        植草 一秀君

   公述人

   (大阪府立大学経済学部教

   授・経済学部長)     宮本 勝浩君

   公述人

   (全国労働組合総連合副議

   長)           鈴木  彰君

   公述人

   (日本労働組合総連合会会

   長)           鷲尾 悦也君

   公述人

   (文京女子大学経営学部教

   授)           菊池 英博君

   公述人

   (KPMGフィナンシャル

   株式会社代表取締役社長) 木村  剛君

   公述人

   (政策研究大学院大学助教

   授)           大田 弘子君

   内閣府副大臣       坂井 隆憲君

   内閣府副大臣       仲村 正治君

   総務副大臣        小坂 憲次君

   国土交通副大臣      泉  信也君

   財務大臣政務官      大野 松茂君

   国土交通大臣政務官    岩井 國臣君

   予算委員会専門員     大西  勉君

    ―――――――――――――

委員の異動

二月二十七日

 辞任         補欠選任

  大原 一三君     水野 賢一君

  三塚  博君     松野 博一君

  宮本 一三君     西野あきら君

  金子善次郎君     伴野  豊君

同日

 辞任         補欠選任

  西野あきら君     宮本 一三君

  松野 博一君     三塚  博君

  水野 賢一君     宮澤 洋一君

  伴野  豊君     金子善次郎君

同日

 辞任         補欠選任

  宮澤 洋一君     大原 一三君

    ―――――――――――――

本日の公聴会で意見を聞いた案件

 平成十三年度一般会計予算

 平成十三年度特別会計予算

 平成十三年度政府関係機関予算




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     ――――◇―――――

野呂田委員長 これより会議を開きます。

 平成十三年度一般会計予算、平成十三年度特別会計予算、平成十三年度政府関係機関予算、以上三案について公聴会を開きます。

 この際、公述人の皆様方に一言ごあいさつを申し上げます。

 公述人各位におかれましては、本日御多忙のところを御出席を賜りまして、まことにありがとうございました。平成十三年度の総予算について皆さんの御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと思います。どうぞ忌憚のない御意見をお聞かせいただきますよう心からお願い申し上げます。本日はありがとうございました。

 御意見を承る順序といたしましては、まずクー公述人、次に植草公述人、次に宮本公述人、次に鈴木公述人の順序で、お一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 それでは、クー公述人にお願いいたします。

クー公述人 リチャード・クーと申します。本日は、一エコノミストとしてこのような機会をいただいたことを大変光栄に思います。

 現在の日本経済の置かれている状況ですけれども、私は、実体経済の苦境もさることながら、国民の心理的、精神的な不安、これも非常に大きなものがあるんではないかという気がします。自分たちがこれまでやってきたことに対して自信が持てない、また将来に対しても自信がないという漠然な不安が、今の日本経済の大きなマイナス要因になっているんではないかという気がします。

 これらの問題をひもとくには、まず、日本経済がどのような病気にかかっているのかということを先に押さえないと、病名もわからないのに処方せんを書くわけにはいかないわけで、そういう観点から見ますと、昨今のマスコミにはいろいろな意見があります。これは構造問題ではないかとか政府の政策が間違っていたんではないかとか、いろいろなことが言われているわけですけれども、私は、今の状況は、バランスシート不況という何十年に一回起きるか起きないかという極めてまれな不況に陥っているんではないかという気がします。

 なぜこのような状況に陥ったかということですけれども、それにはまず、日本の経済の基本的な構造、高度成長が四十数年続いたその基本的な構造を押さえておく必要があると思います。戦後からそれこそ一九八〇年代の最後の一日まで、日本経済というのは二つの大きな車輪で回っていたような気がします。それは、高貯蓄と高投資という二つの車輪であります。

 日本の家計の皆さんは一生懸命貯金をして、それを企業が一生懸命借りて投資へ回していた。日本の貯蓄率が高いことは世界的にも知られているわけですけれども、これは同時に投資率も非常に高かったということであります。こうして潤沢な資金を家計が企業に調達した結果、急速に生産能力が拡大し、これが資本ストックの拡充を介して、日本はわずか数十年の間にまた世界のナンバーツーの経済にのし上がったわけであります。

 ところが、一九九〇年のそれこそ最初の一日から、株価の暴落に始まる資産価格の暴落という事態が発生しました。資産価格はどんどん下がっていったわけですけれども、八〇年代のそれこそ最後の一日まで積み上げたあの負債、借金、それがそのまま残ったままで資産価格が下がっていったわけであります。そうすると、負債は残っているのに資産価格がどんどん下がっていくということは、企業も、そして多くの個人も、大半の金融機関も大変な事態に置かれてしまったわけで、多くの場合は債務超過というような状況に置かれてしまったわけであります。

 個人の場合ですと、所得があって住宅ローンを払えればそれで何とか生活は維持できるわけですけれども、企業の場合は、外部の人からあなたの企業は債務超過じゃないかと指摘されたらこれで一巻の終わりですから、外に発表している数字はともかくとして、中にいる人たちは、必死に債務超過の状況から脱却しようという形で借金返済に回っているわけであります。どうやって借金返済をするかというと、当然消費を抑えて投資を抑えて、その余ったキャッシュフローを借金返済に回すという行動をとるわけですが、これをみんなが同時にやったらどうなるか、ここからバランスシート不況という事態が始まるわけであります。

 つまり、皆さんは決して間違ったことをやってきたわけではない。正しいこと、バランスシートが傷んでいる企業が一生懸命バランスシートを直そうということは正しい行動なんですが、これをみんながやりますと、当然消費は落ち、投資は落ちることになります。消費が落ちて投資が落ちると、景気はますます悪くなる。景気がますます悪くなりますと、資産価格はもっと下がる。資産価格がもっと下がると、日本の皆さんはまじめですから、もっと頑張らなくちゃいけないとやるわけですが、もっと頑張ると、ますます消費は落ちて、投資は落ちて、景気は悪くなる。このような悪循環、これがバランスシート不況ということではなかったかという気がします。

 これがどのくらい深刻な事態なのかということですけれども、お配りしました資料の一ページ目の下に、資産価格がどのくらい下がったかというグラフが載せてありますが、東証株価指数で見ますとピーク時からマイナス五六%、日経平均で見るともっと下がっておりますが。商業用不動産はマイナス八二%、ゴルフ会員権におきましては九一%と、大変な富が失われたわけであります。

 森総理がダボス会議で千兆円の富が失われたと言われたわけですけれども、この資産価格がまさにその富の損失を生んだわけで、これが今、日本経済を大変苦しめている基本にあるんではないかという気がします。

 一千兆円といいますとGDP二年分であります。二年分ということは、例えば自動車の生産でいきますと、年間の生産台数が一千万台ということは、二千万台の自動車が吹っ飛んで、住宅着工が年間例えば百四十万戸あるとすれば、その二年分が吹っ飛んだ、三百万戸近くが吹っ飛んだということになるわけですが、ただ、これは見えないんですね。表面的には見えない。例えば、神戸の震災で十万戸が全壊したわけですけれども、これは見えるわけであります。テレビの映像で見て、これは大変だ、何かしなくちゃいけないということが見えるわけですが、バランスシート不況は見えない。

 ただ、これは見えないからといって、ないわけではなくて、実際は企業行動に大変大きな調整を強いているわけで、このような状況は一九三〇年代のアメリカに最後に起きたということであります。あのときもアメリカ大恐慌ということになってしまったわけですが、あのときのアメリカの株価、これも十分の一になってしまった。

 ここで企業の行動がどういうふうに変わっていったかということですけれども、一ページ目の上のグラフをごらんになっていただきますと、これは過去十年間の日本経済の動きを、物の動きからではなくてお金の動きの方から見たものであります。このグラフはゼロのところに線が引いてありますが、ゼロより上が資金を供給している側、ゼロより下が資金を借りて使っている側ということになります。これをごらんになっていただきますと、一番上に家計というのがありますが、ここは、景気の非常によかった一九九〇年から景気の非常に悪くなった昨今まで、全く行動は変わっていない。GDP比で七、八%、ずっと貯金しているわけであります。この貯金好きというのは遺伝子かなと言われるくらい、景気の振れにかかわらず貯金がずっと続いてきているわけですけれども。

 その下が一般政府。一九九〇年のときにはまだ景気は非常によかったわけですから、一般政府財政はまだ黒字であったわけであります。黒字ということは、資金を資本市場に提供しているというふうに考えられるわけです。その下が海外。海外は、日本がずっと大きな経常黒字を出しておりますから、海外から見ると、それを受け入れている方で、資本を輸入しているわけですから、彼らは赤字となります。一番下に非金融法人企業。これはまさに一般企業ですけれども、当時の一般企業は、GDP比一〇%のお金を借りて、いろいろなものに投資していたわけであります。

 ところが、その後の状況を見ますと、家計は先ほども申しましたように大きな変化はなし、海外も大きな変化はないわけですけれども、企業行動がマイナスの一〇%から一九九九年にはプラスの五%弱というところまで、大変な変化を見せたわけであります。

 つまり、今までお金を借りていた人たちが借りるのをやめて、最近ではもう返す方に回ってしまっている。そうすると、二つあった大きな車輪の一つが全く機能しなくなったわけで、家計は一生懸命貯金しているのに、企業は全くお金を借りようとしない。そうなりますと、これはGDP比で一四%の変化というふうに指摘させていただいたわけですけれども、実際に一四%、七十兆円ぐらいの今まであった需要がなくなってしまったわけであります。私は、これが、日本経済をここまで低迷させてしまった最大の原因ではないか。家計の行動、海外の行動、大きな変化はない、しかし企業の行動には大変大きな変化が発生したわけで、このくらい大きな変化があれば、本来であれば大恐慌になっても不思議はなかったわけで、先ほど申しましたように、一九三〇年代のアメリカ、こういう全く同じような状況になって、大恐慌に陥ってしまったわけであります。

 ところが、日本の場合は、この間、民間がお金を使えなくなっている中で政府が使ってくれたということで、当初財政黒字を出していた政府が、景気が悪くなる、そうすると景気対策を打つという形でこの穴埋めをしてきた、それが今まで日本経済を支えてきたのではないかという気がします。

 そういう意味では、政府の支出がぎりぎりのところで、十年間で七十五兆円分のギャップ、これが表面化してデフレスパイラルに陥るのを防いできたのではないかという気がします。そういう意味では、財政はきいていなかったのではなくて、大変大きな役割を担っていたという気がします。

 このことを理解するには、もう一つ、政策の手段であります金融政策についても一言言及しなければならないわけですが、この間、一九九〇年から直近まで、金利は、一時八%あったものがゼロまで下落したわけであります。ところが、それだけ金利が下がったにもかかわらず、なかなか反応が見られなかった。全く見られなかったと言ってもいいくらい金融政策が無力化されてしまったわけですけれども、これにはそれなりの理由があります。

 といいますのは、バランスシート不況になりますと、企業は、これまでのように利益の拡大化、最大化という行動から借金の最小化という方向へ行動様式を変えているわけで、そうなりますと、幾ら金利を下げても、皆さん借金を返したくてしようがない。返したくてしようがないというか、返さなくてはいけないわけで、そういう方々は、金利が下がっても、じゃお金を借りて使おうという発想にならないわけですね。また、なってもらっても困る。特に、バランスシートの壊れている、下手すると債務超過のような企業が、金利が下がったというだけでお金を借りて使ってしまうというのも困るわけであります。さらにお金を借りるということは、さらに負債がふえてしまうということですから、バランスシートの改善にはつながらない。そういうことから、今のような状況ではなかなか金融政策がきかないということであります。

 ただ、そうはいっても、一時随分貸し渋りというのが言われたではないかと。貸し渋りは、これは供給要因ですから、そういうときに金融政策として何かできなかったのかという指摘は当然出てくるわけですけれども、お配りしました資料の次のページをごらんになっていただきますと、資金需要、資金調達の金額と短期金利を上のグラフに示してあります。これは、先ほどごらんになっていただいた企業の指標をもう少し細かく見たものですけれども、ごらんのように、金利が、一時八%あったものがゼロまでいくにもかかわらず、資金需要は全く回復しない。

 この間、じゃ、金融機関の行動はどうなっていたのかということは下のグラフをごらんになっていただきたいのですが、これは借り手側から見た金融機関の貸し出し態度であります。銀行というのは、聞きに行くと、いや、我々は一生懸命金を貸そうとしております、頭取の下に委員会を設けて金を貸そうとしています、有望な借り手を探していますと必ず言うのですが、借り手側から見ますと、随分銀行というのは好き勝手に貸出基準を変えているわけであります。また最近は、監督庁に言われて変えているというケースもあるわけですが。

 借り手側から見た金融機関の貸し出し態度、これは、ゼロよりも上になりますと、積極的に貸そうとしているということを借り手側が認めているわけで、ゼロより下になりますと厳しいということですが、ごらんのように、厳しい時期が九〇年、九一年、金利が非常に高かった時期と、それから九七年、九八年の貸し渋り期というのはあるわけですが、それ以外の時期はかなり、借り手企業は、銀行は積極的にお金を貸そうとしていたと認めているわけであります。

 例えば、九五年、九六年、ほとんどバブル期と同じぐらい銀行は積極的に金を貸そうとしていた。にもかかわらず、上のグラフをごらんになっていただきますと、彼らは借りていなかったということは、これは需要側の要因であって、供給側の要因ではなかった。こういうときには、私は金融政策に期待してもしようがないのではないかという気がします。

 強いて言いますと、借り手の皆さんは正しい行動をとっておられる。バランスシートが壊れている企業が早くそれを修復しようとするのは正しいわけで、そこに無理やり、金を借りろ、インフレになるから金を借りろと言っても、彼らからしてみれば、まず第一にバランスシートをきれいにして、それから行動を起こすということはあっても、まだインフレにもなっていないのにインフレにかけてお金を借りて何かやろうという行動は、責任のある経営者の行動ではないという気がします。

 こういう状況になりますと、通常の不況にはない、絶対的に需要が不足するという事態が発生します。これはどういうことかと申しますと、通常の世界ですと、これは通常の不況も含めてですが、例えば私に千円の所得があれば、自分で例えば八百円使って、残りの二百円は金融機関に貯金をする。金融機関はその二百円をまただれかに貸して、借りた人はまたそれを何かに使って、そこにまた二百円の支出が発生するわけであります。そうすると、八百円プラス二百円、千円で、また経済が回っていく。千円の所得に対して千円の消費。

 もしも金融機関が二百円分貸せなかったら、そこで金利を下げればいいわけであります。全国的な問題だったら、日本銀行が下げて、そうすると必ずだれかが、この金利なら何かやってみようということでお金を借りて使う。それでまたお金が使われて経済が回っていくということなんですが、バランスシート不況に陥りますと、ちょっと違う状況になります。

 例えば、千円の所得があった人たちは、まず七百円しか使わない、八百円使っていた人たちが七百円しか使わない。それでまず消費が落ちてしまうわけですが、残りの三百円をどうするか。これはみんな借金返済に回すわけであります。

 ところが、みんなが同時にこれをやっているわけですから、金融機関は、これを全部返してもらっても、貸す相手がいない。貸す相手がいなくなりますと、それでも一生懸命、国債を買ったり、消費者金融にお金を流したり、いろいろやりながら、例えば二百円何とか貸したとしても百円分残ってしまったとします。そうすると、次の局面では、七百円プラス二百円、つまり九百円しか需要が発生しないわけですから、九掛けになっちゃうわけですね。そうすると、その次はさらに九掛けになる。八百十円、七百三十円、六百六十円、こういう形でどんどん経済がシュリンクしていってしまうという危険性があるわけです。これは、その足りない部分、これがゼロ金利でも埋まらなかったというところから発生する問題で、一九三〇年代、アメリカが大恐慌に陥ったときは、まさにそういうプロセスで大恐慌に陥ってしまったわけであります。

 そういう観点から見ますと、一部の資産価格が十分の一になるほど大きなダメージを受けたこの日本経済が十年間ゼロ成長を維持してきたということは大変な成果でありまして、これはまさに皆さんが財政という形でデフレスパイラルが始まるぎりぎりのところをまず百円で埋めてくれた。そこを百円で埋めますと、また千円の支出になりますから経済が回っていく、また次の局面で九百円になったときにまた政府が百円出してくれて、ぎりぎりのところでデフレスパイラルが始まるのを抑えてきたということではなかったかという気がします。そういう意味では、財政の担ってきた役割というのは大変大きかったという気がします。

 結局、今の財政が担っているということは、これで景気をよくするということではなくて、とにかく人々の所得を維持して、維持された所得の中から人々は一生懸命借金返済をやっているというふうに理解すべきではないか。財政をやったからすぐ景気がよくなる、みんなそう思って、私も一時そう思ったことはありますけれども、実際の財政の役割はそうではなかった。財政の役割は、とにかく人々の所得を維持してきた、千円に対して千円の支出が発生するようにしてきた。それがあれば、人々は所得がありますから借金返済を続ける。それで少しずつ今バランスシートはきれいになっていて、今かなりきれいになってきております。ただ、まだ問題が残っているわけで。ところが、ここで所得を切ってしまいますと、借金返済の原資もなくなるわけで、そうなると連鎖的に先ほどお話ししましたような事態が発生してしまう。

 そういう観点から見ますと、今回の予算、私はもう少し上乗せしていただきたいという気がします。五兆円から十兆円ぐらい真水部分で上乗せしないと、今アメリカ経済の急速な減速、それにIT関連が勢いを失っているという、半年前だれも想定していなかったような事態が発生しているわけですから、ここはそれなりの対応が必要ではないかという気がします。

 確かに財政赤字は非常に大きいわけですけれども、一方で財政のコスト、国民的コストであります金利、これは人類史上最低であります。きのうの国債金利の利回りは一・四%、大恐慌のとき、アメリカの失業率が二十何%になったときの一番低いときの金利が一・八五%ですから、今の日本の金利がいかに低いかということは御理解いただけると思います。

 確かに多くの方は財政赤字の大きさを大変懸念されておりますが、実際の国民の行動、これが市場にあらわれている行動だとすれば、今の国民の行動は、財政をもっと出して景気を下支えすべきだという行動が逆にあらわれているんではないか、これが一・四%の金利にあらわれているんではないかという気がします。

 今の日本の最大の問題は借り手がいないということで、唯一の借り手が今政府ということになっておりますから、それを活用して、低い金利で資金調達ができるときに、まだ日本に残っている必要な社会資本、将来必要になるであろう社会資本を充実していく最大の機会ではないかという気がします。

 以上です。(拍手)

野呂田委員長 ありがとうございました。

 次に、植草公述人にお願いいたします。

植草公述人 おはようございます。野村総合研究所の植草でございます。よろしくお願いいたします。

 初めに、大変恐縮でございますが、立場上の問題もありますので、きょうは政治的に中立な立場でお話しさせていただくということを御了解いただければというふうに思います。

 お手元に「参考資料」という横長の資料を用意させていただいておりますので、こちらを御参照いただきながらお話をさせていただきたいと思います。一ページ目に一から七番まで項目を書いてございますけれども、七点お話を申し上げさせていただきたいと思います。

 きょうは予算案についての意見陳述ということでございますけれども、予算そのものが経済政策の集大成ということでありますので、きょうは経済政策全般についての私なりの意見ということでお話をさせていただきたいと思います。

 一九九〇年代を通じまして、日本の不況が長期化しております。これを失われた十年とか失われた九〇年代、こういう表現も使われているわけで、まず、経済政策に課せられました課題としては、この長期不況をいかに克服するかということではないかというふうに思います。

 お手元の資料二ページ目をごらんいただきますと、一九九二年以降の日経平均株価の推移がございます。ごらんのとおり、九年間の推移でありますけれども、株価は一万三千円から二万三千円という、極めて狭いレンジの中で一進一退を繰り返して現在に至っております。

 このグラフの中に、丸数字で番号を一番から十番までつけておりますけれども、その偶数の番号、二番、四番、六番、八番そして十番と、九二年以降株価が暴落した局面が今回含めまして五回ございます。この五回の株価急落局面は日本経済の危機というふうに表現された局面であります。

 この五回の局面にいかに対応してこの危機を乗り切ってきたかということでありますが、九二年はここにございますように十・七兆円の景気対策が決定されております。これは当時でいいますと史上最大の景気対策でありました。

 そして四番でありますが、九四年の二月、十五兆二千五百億円の景気対策、これも史上最大の景気対策であります。

 九五年でありますけれども、六番でありますが、十四兆二千二百億円の景気対策、そして七月と九月に日本銀行が短期金利を引き下げまして、公定歩合を〇・五%に引き下げた局面であります。つまり、財政、金融両面から政策を総動員したということであります。

 そして九八年でございますけれども、九八年十月に金融問題の処理のために総額にしまして六十兆円の公的資金を確保、十一月には二十三兆九千億の景気対策を決定、さらに年が明けまして九九年二月にゼロ金利政策の決定、こういうことで対応しておりまして、過去四回の株価急落局面はいずれも、財政を中心としまして財政金融政策、マクロの政策で対応しております。

 景気対策の累計が百四十兆円に及び、依然として日本経済の低迷が続いているということから、景気対策は効果がない、財政赤字を累増させるという弊害が強調されておりますけれども、実際に過去の動きを細かく検証いたしますと、景気対策そのものは極めて有効に効果を発揮しているということが観測されるわけです。

 九三年でありますが、株価は二万一千円に反発し、政府からは景気回復宣言の発表までありました。九四年も二万一千五百円まで株価は反発し、猛暑という支えもありまして、景気回復にはずみがついていった局面であります。九六年は株価が二万二千円台まで上昇しまして、日本経済が三・五%の成長を回復した年であります。つまり、九六年に一たん日本は景気回復から拡大に転じる、そこまで事態の改善を得ております。昨年でございますけれども、株価はやはり二万円を突破しまして、景気は緩やかながら着実に改善を遂げてきたということでありまして、過去、この四度の対応を見ますと、マクロの政策対応はいずれも極めて有効に効果を発揮している、こういうふうに表現することができるわけであります。

 それでは問題はどこにあったかということでありますけれども、このグラフで申しますと一、三、五、七、九と奇数の番号のところに問題が存在しております。細かい点、御説明する時間がございませんので省略させていただきますけれども。

 三番の冷夏という天候要因を除きますと、特に五番と七番に典型的に示されておりますのは、日本経済の改善が始まり、株価が上昇し、景気回復が七合目から九合目まで差しかかる、そういうところに至った時点で、時期尚早に景気を悪化させる政策対応がとられている。これが日本経済長期低迷の本当の原因になっているということであります。

 五番の事例におきましては、金融政策が時期尚早に金融引き締めに動き始めたということであります。七番でありますけれども、日本経済がやっと軌道に乗ったところで非常に大規模な増税が策定されまして、これが実施されていくわけであります。私は九七年二月の公聴会に出席いたしまして、この増税を実施すると大変なことになるということをこの席で申し上げたことがございますが、九七年以降、ごらんのとおりの状況になっているわけであります。

 昨年春以降の展開でありますけれども、森政権発足後、ごらんのとおり株価が大幅に下落をしておりますけれども、今回もやはり過去の事例と同じように、マクロの政策が緊縮方向に大きく方向を転換したということが事態の悪化を招いている、こういうふうに考えております。

 先ほどの項目でいいますと二点目の項目になりますけれども、その第一は、金融政策の方向転換ということがございます。

 二ページ目のグラフの一番右側にゼロ金利解除ということを記してございますが、去年の八月に日本銀行がゼロ金利解除の決定をいたしました。これはゼロ金利という非常に特殊な状況を解除したものだという説明でありましたが、市場としましては、金利引き下げ政策が金利引き上げ政策に転じた、こういう金融政策の方向転換と受けとめた向きが非常に強かった、このように思います。

 株価がピークをつけておりますのは四月十二日でございますが、この日は速水日銀総裁がゼロ金利解除について公式の場で初めて言及した日でございまして、この日を境に株価が下落に転じております。八月に実際に金利引き上げを行いまして、そこから株価の下落が本格化している。さらにもう一点申しますと、九九年二月にゼロ金利政策の実施を決定しておりますが、この時点から株価が急反発している。こうした状況を踏まえますと、金融政策の方向転換の意味が極めて大きかった、こういうことを申し上げられるのではないかと思います。

 それからもう一つの問題は、ちょっと先に四ページをごらんいただきたいと思いますけれども、財政政策の運営でありますが、財政政策の中身についての批判がいろいろ強まっております。公共事業が十分有効に活用されていないのではないかとか、こうした資金配分の問題について批判が高まっているということは事実であります。

 これは、財政政策の機能ということに照らして申しますと、いわゆる財政政策の資源配分機能、財政資金をいかなる分野に配分するか、こういう問題で、この点には大きな問題が存在しているかと思います。もう一点、財政政策の機能としまして、景気安定化、マクロの面で財政がいかに景気を支えていくか、こういう視点が資源配分とは別の視点として必要であります。

 四ページに概念図ということで図解しておりますのは、財政政策の規模の推移を記したものであります。

 下にありますのが時間の経過で、九九年、二〇〇〇年、二〇〇一年。年度の当初予算、年度は四月から三月の対応でございますので少しずらしてございますが、おおむね、特に一般歳出ベースで見ましても横ばいの推移であります。毎年恒例のように十月、十一月ごろに景気対策が策定され、それに伴いまして補正予算が編成されておりますが、この補正予算に伴う資金の支出が行われるのは翌年の一月から十二月にかけて、こういう解釈でこの概念図をつくっております。

 九八年十一月の二十三・九兆円の対策、九九年十一月の十八兆円の対策、そして昨年秋の総額事業規模にして十一兆円の対策。その真水ということをここに私なりの区分けで表示してございますけれども、トータルの財政規模は、ごらんのとおり、昨年からことしにかけて約五兆円の減少になるのではないかということで、財政政策がかなり踏み込んだ緊縮の姿になっております。

 日本経済が景気回復の七合目に差しかかって、これからいよいよ景気回復軌道に乗るかという時点におきまして量の面でこのような圧縮策をとりますと、過去繰り返してきたような事態の悪化が生じてしまう、こういうことが懸念されてきたわけでございますけれども、先ほど二ページ目でごらんいただきました株価のグラフでございますが、昨年四月以降の株価の下落は、先ほど申しました金融政策の方向転換、そして財政面からの緊縮政策の決定、これを映した動きになっているということで、日本経済をしっかりと回復軌道に乗せるためには、景気回復が七合目に差しかかった時点で時期尚早の引き締め策をとることは適切ではないのではないか、私はこのように考えているところであります。

 三ページをごらんいただきたいと思いますが、三ページにございますのは、株価と景気がどのような関係を示しているかということを図解しております。

 上段に日経平均株価の推移がございます。下段には鉱工業生産指数の推移を記してございます。景気の短期的な動きを追うために、まず各種の経済統計を活用するわけでありますが、経済の動きを最も忠実に反映していると考えられますのが鉱工業生産指数の動きであります。これは、実は時間軸を六カ月ずらして両者を比較しておりますが、六カ月ずらしますと極めて類似した動きを示しております。

 上段が株価でありますが、九六年六月、これは消費税の増税を閣議決定したタイミングでございます。ここで株価がピークをつけ、ちょうど半年後の九七年一月に景気がピークをつけております。株価がボトムをつけましたのが九八年秋でございますけれども、これは小渕政権が大がかりな政策対応を決定したタイミングであります。景気が底をつけましたのが、ちょうど半年後の九九年四月でございまして、この後景気は緩やかな改善を続けてまいりました。

 そういう中で、昨年春以降、先ほど申しましたような財政、金融両面から緊縮策がとられまして、その結果株価が下落しているわけでございますけれども、その結果、私は、昨年後半、秋以降、再び景気が悪化する懸念が強い、この株式市場が発している警告メッセージに耳を傾けて、景気が悪化しないための政策対応をとる必要がある、そういうことも主張してまいりましたけれども、残念ながらそのような政策対応にはなりませんで、現時点としましては、この後景気が再び下方圧力を受けていく、そういう懸念が強いのではないか、このように考えております。

 一ページ目に戻らせていただきますけれども、一ページ目の四番でございますが、そういう中で、この日本経済の長期低迷にいかに対応していくかということでありますが、よく言われておりますのは、金融問題の解決が先である、こういう見解がしばしば聞かれるわけでありますが、私は、この見解は誤りだというふうに考えております。

 といいますのは、先ほどもクー公述人が意見陳述の中で述べておられましたけれども、日本で最大の問題は現在、金融の問題であります。資産価格の下落が進行し、特に債務を抱えた主体が苦難に陥っている状況にあります。この状況から抜け出すためには、一言で言いますと、資産価格の全般的な下落に歯どめをかける、これが最も重要な点であります。

 いかにしてこの資産価格の下落傾向に歯どめをかけるかということでありますが、資産といいますのは、現在から将来、その物が持つ、生み出す効用の現在価値で、細かい説明は省きますけれども、資産価格の下落に歯どめをかける最も有効な施策は、経済そのものを改善軌道に誘導するということであります。経済を改善軌道に誘導することによりまして、株価、不動産価格の下落に明確に歯どめがかかる。資産価格の下落に明確に歯どめがかかった時点で初めて金融問題の解決は可能になってくるわけであります。現在のように、景気の悪化、それに伴います資産価格の下落傾向に歯どめをかけない中で金融問題を処理しようとしましても、それは事実上不可能ではないか、このように考えるわけであります。

 したがいまして、五番に書いておりますように、正しい処方せんは、まずフローベースの経済活動を改善の軌道に誘導する、二%なり三%なりの経済成長軌道をまず確実に確保する、これを優先すべきであるというふうに思います。景気回復軌道の確保によりまして、株価の方向に大きな変化が生じてまいります。恐らく一年程度のタイムラグを伴いまして、不動産価格の下落にも歯どめがかかる。こうした形で景気の改善をまず誘導し、その上で資産市場の方向に明確に方向転換を実現させれば、その上で金融問題の解決も可能になってくる。金融問題の処理が先ではなく、景気を回復軌道に誘導することがまず求められているというふうに思います。

 その点に関連いたしまして、資料の五ページでございますけれども、日米の比較ということで一つ申し上げておきたいと思います。

 上段にアメリカの株価がございます。九〇年から九二年にかけましての米国は、やはり不動産、金融不況が極めて深刻な局面でありました。米国は、九二年、ここを転換点として九〇年代の長期上昇というところに向かってまいります。九二年の最大のポイントは、景気回復が七合目に差しかかった時点で、FRBが七月と九月に二度利下げをしております。最も重要な点は、政策当局が景気回復を実現することをまず最優先の課題として位置づけたということであります。この景気回復優先の政策姿勢によりまして、まず株価が上昇し、その後の景気回復が実現し、その後、税収の回復により財政収支の改善、また資産価格の底入れによりまして金融問題の解消と、まさに順風満帆の動きになったわけでございます。

 下段の日本でありますけれども、九二年から九四年にかけて、九〇年から九二年のアメリカと非常に似た動きをたどりましたけれども、その後、九四年は金融政策が時期尚早に引き締め方向に動く、九六年は財政が強度の緊縮策を採用する、そして昨年の春以降、再び財政金融政策が緊縮方向に転じるということで、日本経済浮上のチャンスをふいにしている、こういうことでございます。

 もう一度一ページに戻らせていただきますけれども、そういう中で、私は、まず景気を二%なり三%の日本経済の供給力に見合う形に、景気回復軌道に誘導するということが重要だと思いますが、その際、現在のもう一つの大きな問題であります財政の問題でありますけれども、財政の問題については三段階の対応が必要だと思います。

 まず第一には、景気回復を優先し、税収の回復を図る。景気回復に安心感が持てた時点で、五年程度の時間をかけて歳出全般の根本的な見直しを行う。これには、一般財政あるいは社会保障財政あるいは公共事業、さまざまなテーマがあると思います。これらをやり終えた段階で、最終的には私は増税ということも必要になるというふうに思いますが、まず景気回復を優先し、その上で歳出構造の見直しに抜本的に取り組む、これが、米国の事例を見ましても、財政健全化をもたらす最も重要な点であると思います。

 最後に、「デフレスパイラルを回避するための方策」ということを書いておりますけれども、現在、金融政策の追加的な措置についての論議が生じております。私は、結論としまして、余地は非常に限られておりますが、短期金利の引き下げ、あるいはいわゆる量的な金融緩和ということを検討すべきだというふうに思います。

 しかしながら、現在のように非常に経済が停滞している状況におきましては金融政策の有効性というのは非常に限定的でございますので、この金融政策の措置とあわせて、財政面から景気を支援する政策を併用する。これによりまして、世の中に資金需要が生まれ、資金需要が生まれる中で金融緩和が維持されますと、マネーサプライの増大が生じていく。その結果、現在のこの深刻なデフレスパイラルに陥りかねない状況が是正されるというように思いますので、金融政策の対応と並び、内容の吟味は当然必要でございますけれども、財政面での対応、景気を支援する方向での対応ということが緊急の検討課題ではないかというふうに考えております。

 以上でございます。(拍手)

野呂田委員長 ありがとうございました。

 次に、宮本公述人にお願いいたします。

宮本公述人 大阪府立大学の宮本でございます。平成十三年度の予算に関しまして、私の考えを述べさせていただくのを大変光栄に思っております。

 景気の回復と財政再建という同時に達成することが非常に困難である、そういう目的を抱えた中での予算案の作成は大変難しいことであろうというふうに考えております。日本経済全般につきましては、ただいまリチャード・クー先生、それから植草先生が御専門で、また非常に立派な御意見を述べられましたので、大阪から参りました私は、地方経済、地方分権の側面から平成十三年度の予算について私見を述べさせていただきたいというふうに考えております。

 まず最初に、基本的な日本経済に関する展望といいますか、そういうものについて若干触れさせていただきます。

 私は、日本というのは、個人とか組織が発展するためには、日本人の性格を考えますと、短期的には悲観でいい、しかし長期的には楽観でいかないといけないのではないかというふうに考えております。アメリカ経済が非常に成長いたしました九〇年代は、アメリカ人というのは大体、短期楽観、長期も楽観だったんじゃないか。日本は今は、短期でも悲観で長期でも悲観だ、そういうマスコミあたりの論調が感じられるわけでございます。

 日本の経済発展のこれまでのパターンといいますのを考えてみますと、戦後、先進諸国に追いつけ追い越せというふうなことでやってきまして、このパターンが一応は成功した。例えば自動車であるとか家電産業とか、そういうふうな生産物というのは大体そういうパターンでうまくやってきたのではないか。現在、景気が停滞しておりまして、IT産業、情報関係でアメリカに非常に差をつけられたということは、ある意味では、日本型の追いつけ追い越せのチャンスの到来であるというふうにとらえた方がいいのではないか、余り悲観的になる必要はないのではないかというふうに考えております。

 しかし、何もしないで手をこまねいていたのではなかなかこの不況を脱出することはできませんので、やはり目先の問題というのを少しずつ解決していかなければいけない、しかし長期的には楽観的な考えというものが必要、大切ではないかというふうに考えております。目先の問題を解決するには、例えば税制改革であるとか、それから、先ほどクー先生、植草先生も言われましたように、財政政策というのはある程度効果があった。私もそういうふうに思っておりますけれども、しかし、歳出の項目の見直しとか金融の量的な緩和、それから国民の厚生増大や社会の活性化を阻害しておりますような規制の撤廃とか緩和、社会のニーズが高い、また効率性の高い産業、そういうものの育成というものが必要であろうかと思います。

 続きまして、私がきょうお話をさせていただきたい地方財政について少しお話をさせていただきます。

 平成十三年度の予算についての財務大臣の提案理由説明要旨にも述べられております一般会計項目の一つ、地方財政についてでございます。

 横長の数字の書いてあります資料をちょっとごらんいただきたいと思います。これは、各都道府県の税金、それから地方交付税などの一人当たりの金額を書いてございます。これは、そこにございますように平成十年度の国税庁のデータから出したものでございます。

 一番最初の縦の列でございますけれども、これは国税三税、つまり各都道府県が一人当たり、法人税、個人所得税、消費税をどれだけ国に納めたか。これは全部一人当たり、人口で割ってございます。二番目が地方税です。これは全部一人当たり、その当時の人口で割ってございます。これは地方に残るものでございます。三番目が一人当たりの地方譲与税、四番目が一人当たりの地方交付税交付金、五番目が一人当たりの国庫支出金ということになっております。六番目の欄は、地方譲与税、地方交付税交付金、国庫支出金を合計いたしまして、各都道府県、これは市町村も全部含んでおりますけれども、都道府県に一人当たりどれだけ国からのサポートがあったかという金額でございます。七番目の縦の列でございますけれども、これは地方税、つまり地方に残っておるお金と国から与えられたお金、それが一人当たり幾らになっておるかという合計金額でございます。一番最後は、国に対して地方自治体が出したお金と国からもらったお金の差額を書いてございます。

 これをごらんいただきますと、まず、県民一人当たり納める税金、国に納める国税の額というのは、多い方から見ますと、当然東京都、大阪府、愛知県、京都府、神奈川県の順でございます。次いで、私が問題にしたいのは実は七番目の欄ですけれども、一応六番目を見ていただきますと、国から与えられる一人当たりの地方譲与税、地方交付税交付金、国庫支出金の総額というのは、上からいきますと島根県、高知県、鳥取県、沖縄県、鹿児島県の順で国から一人当たりたくさんの補助金といいますか、それをもらっておるということでございます。

 そして、問題にしたいのは実は第七番目の列でございまして、地方税と国からもらう、サポートされる資金でございますけれども、この合計が一人当たり幾らになるかということが問題でございます。この列の数字でございますけれども、これは県民一人当たりが享受する国及び地方自治体から与えられる公共サービスの金額ということになります。この順位は、上から島根県、高知県、鳥取県、福井県、徳島県というふうになってございます。そして、国と地方自治体から与えられますトータルの公共サービスを一人当たり受け取る金額が最も少ないのが、下から埼玉県、千葉県、神奈川県、愛知県、静岡県、大阪府、こういう順番になってございます。

 国税の納税額がベストファイブであります都道府県のうち、東京都を除きまして、大阪府、愛知県、京都府、神奈川県というのは、県民一人当たり受け取る公共サービスの額が全国平均にも届いていない、そういう実態がございます。多くの国税を納めた県民が全国平均にも満たない公共サービスしか受け取っていないというのはいかがなものかというふうな気がいたします。もし、個人所得に関しましてこのような結果が発生いたしますと、これはゆゆしきことになるのではないかというふうに考えております。少なくとも高額納税の県民は、一人一人全国平均程度の公共サービスを受け取る権利があるのではないかというふうに考えております。

 戦後の復興期からしばらくの間は、社会資本の充実などを図るために、豊かでない地方とかそういうところに手厚く税の再分配を行う必要はあったかと思います。しかし、現在、右肩上がりの経済が終わりました今日、高額納税都道府県の財政悪化が非常に著しい、そういう実態を直視いたしますと、税の再分配のシステムの再考、税制そのものを考え直すべきときではないかというふうに考えております。

 続きまして、地方の活性化につきまして若干述べさせていただきます。

 政府は、地方の活性化を図るために、昨年の四月に地方分権一括法というものを成立させました。二十一世紀は地方の時代であるというふうに言われておりますけれども、現状ではその実現というのはなかなか容易ではないというふうに考えております。地方の活性化には、一層の中央政府の地方への権限の移譲とか、税制の改革などが必要ではないかというふうに考えております。

 一つ例を挙げさせていただきます。現在、銀行を中心といたしまして、金融機関の再編成が進展しております。この金融再編が進みますと、いわゆる地方都市のメーンストリートがどういうふうになるかということをちょっとお考えいただきたい。

 東京におられますと日本橋とか、私は大阪から参りましたから、大阪では御堂筋というところがメーンストリートでございまして、そこには銀行とか保険会社が軒を連ねております。しかし、今進展しておりますところの金融再編成が進みますと、参考の資料にも書いてございますように、日本の主要金融機関というのは四つのグループに再編成されるであろうというふうに考えられております。みずほグループ、三井・住友グループ、三菱グループ、UFJグループでございます。

 もし、都市のメーンストリートの一角に、例えば角のコーナーのところでございますけれども、そこに日本興業銀行、第一勧業銀行、富士銀行が軒を並べておりましたら、これらの銀行はすべてみずほグループでございますので、合理化とか経費節減を目指すということであれば、一行のみ残る、それで十分であるというふうに考えられますと、残りの二行の店舗は閉店されるというおそれがございます。住友銀行とさくら銀行が近くにあれば、また、住友海上火災と三井海上火災が近くにあっても同じこと、どちらか一店は閉鎖されるというふうなことが起こってくる可能性がございます。三菱グループ、UFJグループについても同じことが起こるのではないか。こう考えますと、金融再編成が進みますと、都市のメーンストリートの大きな金融機関のかなりの数が閉店に追い込まれるというおそれがございます。

 東京では、空き店舗になったその銀行の跡に他の企業とか店舗が入る、また、そういう入っていただくものを見つけるのは比較的簡単であろうかとは思いますけれども、地方では、そういう大きな空き店舗、銀行跡に入っていただくような店を見つけるということは非常に大変なことでございます。それでなくても、現在、地方では、百貨店、スーパーの閉店、消費の停滞などによりまして、都市の活性化、地方都市の経済の活性化が失われております。金融機関の再編成が進展いたしますと、一層地方都市の空洞化というものが進むおそれがございます。

 空洞化を阻止するためには、地方の商工会議所とか商店街が協力して、その空き店舗になりました銀行とか保険会社の代替の企業、代替の店舗を見つける必要がございますけれども、地元の地方自治体も、この空洞化を阻止する何らかの対策を立てなければならないのではないかというふうに考えております。

 しかし、地方自治体が行えることは非常に限られているというふうに考えられます。例えば、メーンストリートを活性化しようとして補助金を出したり、また固定資産税を下げるというふうなことは非常に困難でございます。

 また、たとえ固定資産税を仮に例えば三年だけ軽減しますよというふうなことをやりました場合に、おたくは標準税率よりも低い固定資産税でやっていけるのであればということで、地方交付税が減額されるというふうなことが起こるかもしれません。そうしますと、地方自治体は、税収は入ってこない、地方交付税は削減されるということがあれば、そういうふうな政策はとても打ち出せないというふうなことになる。したがいまして、このままほっておきますと、地方都市、地方経済というものはどんどんと空洞化する、衰退するというおそれがございます。

 私のお願いしたいことは、二十一世紀に日本経済が活性化するためには、東京を中心とした地域の活性化、これも非常に大事ではございますけれども、地方においてもそれぞれの独自性を持って地方経済が活性化する必要があろうかと思っておる次第でございます。そのためには、予算面とか税制面などで地方がもう少し自主性を持てるようなシステムを構築していただきたいというふうに考えておる次第でございます。

 以上で私の発言を終わらせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。(拍手)

野呂田委員長 ありがとうございました。

 次に、鈴木公述人にお願いいたします。

鈴木公述人 大変御苦労さまです。

 私、全労連に所属をしております鈴木と申します。このような形で発言の場を与えていただき、大変感謝をしております。

 私たち労働者、国民は、二十世紀末の十年間、財界、大企業が行ってきた激しいリストラ、合理化という問題、これに対する政府と行政による後押しという問題、こういう戦後かつてなかったような状況のもとで、大変な辛酸をなめてきたという思いがしております。そういう意味で、残念ながら、私は、政治的にも経済的にも中立の立場で発言というわけにはなかなかいかないかと思いますけれども、お許しいただきたいと思います。

 二十一世紀最初の二〇〇一年度予算、ぜひともこれまでの状況を正して、人と企業と行政がお互いに信頼をし合って、共同して新世紀に臨むものになるように、ぜひともお願いをしたいというふうに思います。

 一つ目、財界、大企業が行ってきたことについて触れたいと思うわけですが、バブル崩壊を契機にしまして、それまでの労使間の慣行だとか、あるいは労働法規を踏みにじってしまうレベルの勢いで、リストラと人減らしと働くルールの破壊ということを推し進めました。それは、職場と地域にいわば失業地獄というふうに言わなければならない実態を招いています。

 総務省の労働力調査による完全失業者、一九九九年に三百十七万人となっております。十年前の百四十二万人から毎年十八万人ずつふえて、二・二倍にふえた勘定になります。この三百十七万の失業者の中の非自発的離職者は十年前の三倍の百二万人、三十歳未満の青年の完全失業者は百二十三万人、これらがリストラ、人減らし、あるいは新規採用凍結ということのすさまじさを物語っていると思います。

 東京の春闘共闘が都内十七カ所の職安前などで実施したアンケートには、六五%の人々が解雇などによって失業した、あるいは雇用保険給付が終わってもまだ二七%が一年以上仕事を探している、七八%が四十歳以上という高齢層なのに高年齢ほど仕事がない、仕事を探しながら貧しくなっていく、生活できない、保険が切れたら自殺せざるを得ない、こういう深刻な実態と、就職口を何としても確保してほしい、雇用保険給付を延長してほしい、失業中の税金は免除してほしいなどの切実な要求が寄せられております。

 こうした失業地獄は、雇用そのものを不安定にしているという問題があると思います。九九年までの十年間で、パート労働者は六百二万人から千百三十四万人に、毎年五十三万人ずつふえて二倍になりました。労働者全体が六十三万人ずつふえたうちの八四%はパート労働者の増加だったわけであります。

 また、同じこの失業地獄は、職場を無法地帯にしているという問題も生み出しています。お手元に全労連の「働くみんなの要求アンケート」というものの集約結果をお配りさせていただいておりますが、収入が減った人四五%、疲労を訴える人が八七%、七割近い労働者が生活難を訴えている。さらに重大なことでありますけれども、半分以上の労働者が法律違反のサービス残業、ただ働きをしているということがここに物語られています。逆らえば失業だ、こういう状況を背景にして職場が無法地帯になっているという状況であるわけです。

 二つ目の問題として、これらに対して公正であるべき政府はどういう態度をとってきたかという問題をお話ししたいと思います。

 財界、大企業の雇用破壊と、申し上げましたような働くルールの破壊を、政府は取り締まったとは言えない。それだけではなくて、以下のような四つほどの内容でそれをむしろ後押ししたのではないか。

 第一点は、労働基準法を初め労働法制の規制緩和と改悪を繰り返しました。金融再生法、産業再生法、民事再生法、会社分割法、こういうものを次から次に制定して、財界、大企業のリストラ、合理化を積極的に支援したと言わざるを得ません。それが労働者にもたらした雇用破壊、賃金破壊、労働条件破壊の実態は、今お話ししたとおりであります。

 第二に、政府は、社会保障充実のためというふうに、結果的には偽ったことになりましたが、導入をしました消費税と、膨大な国債発行、これらによって、ゼネコン奉仕型の公共事業や不況対策あるいは銀行への税金投入、こういうものに力を入れてこられました。

 導入初年度に五兆円だった消費税は、十年後の九九年には三倍近い十三兆円に膨張しましたが、逆に、当時四二%だった法人税率は、九九年までに四回、一二%にわたって減税をされて、今三〇%。法人税納入の主役である大企業は、九〇年当時十九兆円であった法人税を、九九年には半分の十兆円に節約することができるようになっています。金融産業の場合は、超低金利で、毎年五兆円近い利子所得を結果的には手に入れた、その上で七十兆円もの税金投入を受けていこうというふうにしています。

 こうして、結果的に、資本金十億円以上の大企業、六千社ほどありますけれども、この六千社だけでその内部留保を八八年の七十四兆円から九九年の百五十四兆円に、ほぼ倍増をさせております。

 第三でありますが、政府は、この施策の財源を調達するためにも、八八年に社会保障財源の二四%を負担していた国庫負担を、今一九%まで削ってまいりました。八九年に労使三十五兆円であった社会保険料の負担額を、逆に一・六倍の五十五兆円に拡大をしてきました。

 職場での賃金・雇用破壊で苦しむ勤労者世帯の可処分所得は、これらの結果、八九年の月四十二万円から四十八万円に、十年間かかってわずか一四%の伸びに抑えられております。

 さらに、今、高齢者の介護保険料、医療費負担、年金の賃金スライドの停止、雇用保険料の引き上げ、合計三兆円もの新しい負担が家計にのしかかろうとしています。とりわけ、受け取り予定の年金を一方的に数百万円から一千万円以上削減した昨年の年金改悪は、国に対する労働者、国民の信頼を足元から揺るがす状態を生み出しているというふうに思います。

 第四でありますけれども、政府は、労働者、国民の批判に耳をかさないで、これらの施策を盛り込んだ予算をこれまでも成立をさせてこられました。今も与党の皆さんは、財政の使い方をめぐる疑惑が深まっている真っただ中で、それを解明しないままに従来型の公共事業による大企業後押しの予算の審議を最優先するということを主張しておられます。

 しかし、文字どおり急浮上いたしました米原子力潜水艦事故は、国民の命に危害が加えられてもなお政府はアメリカの大統領に抗議さえしない、森首相は、脱税疑惑のゴルフ場に閉じこもってしまってかけゴルフに興じていたなどという無責任な疑惑を国民の中にさらしているわけであります。それは、KSDの疑惑、機密費の疑惑と相まって、この政府に本当に予算を任せていいんだろうか、国民の命と国の政治を預けておけるんだろうかという疑惑をあふれさせているわけであります。このような疑惑の究明、責任の追及ということは、予算審議の前提条件にさえなっているのではないかというふうに思うわけであります。

 以上の状況把握を申し上げました上で、三番目でありますが、これらの状況の上でのことを申し上げたいと思います。

 財界、大企業のリストラと政府による後押しということが進められましたけれども、それらは、結局、大企業の利益は増加をさせましたけれども、その経営あるいは物づくりというものを破綻させ、GDPの六割を占める個人消費を低下させ、結局は戦後最悪、最長の深刻な不況のもとで日本経済そのものを行き詰まりに追い込んでいるというふうに言わざるを得ないと思います。

 この局面を打開するには、財界、大企業の強行してきた今までのやり方を社会的に規制するとともに、政府による四つの後押しを根本から改める、そして国民と政府、行政との信頼関係を取り戻す、これが必要だと思います。そのためには、暮らしと営業の破壊の中で懸命に生きてきた労働者、国民の切実な要求をよく聞いていただきたい。そして、十分に審議を重ねて生活と福祉を優先する予算に組み替えていただく必要があると思います。

 最後でありますけれども、私は、労働者の立場からの要求を中心にして、具体的かつ最低限の予算組み替えの要求について申し上げたいと思います。

 一つは、働くルールを回復させ確立するという方向を促進する予算を組んでいただきたい。雇用を拡大していただきたい。

 全労連と国民春闘共闘委員会は、この春から、賃金の底上げあるいは解雇の規制、サービス残業の一掃という三つの課題を掲げて署名運動に取り組んでおります。署名用紙をお手元にお配りいたしましたけれども、これをごらんいただくとお気づきになると思いますけれども、一方的な賃金引き下げや差別待遇をしないでほしい、一方的な解雇を規制してほしい、ただ働きやサービス残業をやめてほしい、これらはすべて既に法律が禁じているものばかりであります。

 実は、この三つの課題はいずれも、この間、財界と大企業が結果的に踏みにじり、そして政府、行政もこれに力を貸して破壊をしてきた働くルールをぎりぎり最低限のレベルで回復させたいというものであって、ぜひともここにおられる皆さんの御署名もいただきたいところであります。

 これらの課題を財界、大企業への社会的規制の基礎に据えて、緊急地域雇用特別交付金制度の拡充、解雇規制、労働時間短縮、サービス残業根絶そして雇用拡大、改悪雇用保険法の四月実施の中止まで含めた適切な改善と、新卒失業者への失業手当の給付などなどの措置を具体化していただきたいというふうに思います。

 これらは、日本経済の行き詰まりを打開する上でも大きな効果を発揮するものだと思います。例えば、完全失業者の三分の二に当たる二百万人に仮に年収五百万円の雇用を確保できれば、年十兆円の賃金所得が生まれます。これは直接二百万人の暮らしを支えるし、税金や社会保険料の収入も拡大するし、消費購買力も拡大をいたします。下手な不況対策よりはよほど効果があるわけであります。

 二つ目に、浪費型の公共事業の削減と消費税減税、社会保障の拡充をぜひとも行っていただきたい。

 二〇〇一年度政府予算案は、巨額の国債を発行し、ゼネコン奉仕型の巨額の公共事業費を浪費するという従来型の域を出ていない。そのために、長引く不況の基礎にある個人消費の拡大への対策がほとんどない、不況を一層深刻にする予算案である、こういうふうに言わざるを得ないと思います。

 押しても押してもだめなときには引くものであります。財政再建に向かって借金と公共事業を大幅に抑えることを基本に、食料品非課税など消費税の減税、老人医療改悪や年金改悪を中止する、基礎年金の国庫負担割合二分の一を即時実施する、無年金障害者を直ちに救済する、国庫負担の拡大による介護保険制度の緊急改善を行う、確定拠出型年金の導入をやめるなどなどを予算化していただきたいというふうに思います。社会保障の拡充に本腰を入れることも、下手な税金投入よりも効果的な不況対策であります。政府、行政が暮らしと営業を守る姿勢を明らかにして、政府に対する信頼をかちとること、このときこそ、労働者、国民は自己防衛のかたい殻を破ってその消費購買力を真っすぐに発揮することができるのではないでしょうか。

 三番目であります。内閣官房機密費、防衛費などの大幅な削減をお願いしたいと思います。

 KSD、機密費疑惑の徹底究明の世論を予算審議をおくらせるものだというふうにねじ曲げて予算審議最優先というのは、やはり誤りではないかというふうに思います。どんな予算を組んでみても、それが政府の無責任、無能力というふうなことで運用されたり、党利党略、私利私欲のために使われてしまったのでは、労働者、国民は到底これを納得するわけにはいかないからであります。納得でき信頼できる予算をつくる、そのためにも、予算の使い方にかかわる自民党、連立与党の皆さんの金権腐敗の疑惑をあくまでも解明していただきたいというふうに思います。

 与党の皆さんが唱える予算審議最優先論は、森首相の首のすげかえなどを視野に入れて事態収拾を図るために、その前に大急ぎで予算を成立させてしまうのだという疑いを私たちに抱かせてしまいます。しかし、今国民が疑惑の究明を求め、退陣を迫っているのは、ひとり森首相ではなくて、自公保連立内閣そのものなのでありますから、与党の皆さんはこの疑惑を解明しないままここを素通りするというわけには決していかないんだというふうに思います。

 それらのことも解明をしながら、国民と合意形成のできる、暮らしと福祉を優先する予算をぜひとも確立していただく、そのために審議を尽くしていただきたいということを申し上げて、私の発言といたします。どうもありがとうございました。(拍手)

野呂田委員長 ありがとうございました。

    ―――――――――――――

野呂田委員長 これより公述人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。水野賢一君。

水野委員 自由民主党の水野賢一でございます。公述人の諸先生方におかれましては、大変お忙しい中おいでいただいたこと、また貴重な御意見をお聞かせいただいたこと、まず感謝、御礼を申し上げたいと思います。

 さて、日本経済の現状というのは、緩やかな景気回復軌道にあるとかなんとか言われながらも、しかし、個人消費の伸び悩みとか雇用の情勢の悪化とか、非常にしっくりとしない面があるわけでございます。しっくりとしないどころか、今月の月例経済報告では景気判断が下方修正されるなど、非常に低迷と言っていい状況があるかと思うわけであります。

 こうした景気の厳しい状況、一方、言うまでもない非常に財政悪化の状況という中で、この数年間、景気回復優先なのか、はたまた財政構造改革優先なのかという議論が多くあったかと思います。そのバリエーションとしては、両方一緒にやるんだとか、いやいや二兎を追う者は一兎をも得ずなんだ、いろいろなそういうような議論があったと思うわけです。

 植草公述人にお伺いしたいわけですけれども、先生、今のお話の中で景気回復優先なんだというお話があったと思うわけです。その観点からされまして、今審議されている予算案についてどう評価されているのかについてまず植草先生にお伺いさせていただき、そして、クー先生にお伺いしたいのは、先生の先ほどの御発言の中で、現在バランスシート不況の中にある、その中での財政の役割というものが大切なんだというお話がございましたけれども、もし今後財政構造改革のような路線に転換するとすれば、いつごろ、もしくはどういうような状況に財政状況がなればそういう財政再建という方向により軸足を転じていくのか、もしお考えがあれば、最初に植草先生、またクー先生にお尋ねいたしたいと思います。

植草公述人 私は先ほど景気回復優先ということを申し上げましたけれども、これは決して財政の健全性回復が重要でないということを申し上げたわけではありません。財政の健全性回復もやはり国民的に大きな課題だというふうに認識をしております。もう一方で、国民生活の安定という視点から、景気の回復ということも重要な課題だと。

 しばしばこの二つの問題は、二者択一、景気か財政か、こういうとらえ方がなされておりますが、私は、まず、景気も財政も、これで合意を得る必要がある、こういうふうに考えております。ただ、重要な点は、景気を回復し、財政の健全性を回復するための方策はどうあるべきか、その手順の問題だというふうに考えているわけであります。

 先ほどちょっと触れられませんでした、一言だけつけ加えさせていただきます。

 米国の事例でありますが、米国で九二年度が財政赤字のピークで、その後急激に財政赤字が減少し、現在財政黒字に転換しておりますが、九二年から九五年にかけての財政赤字減少の約七割は、景気回復による財政赤字の減少であります、いわゆる循環的な赤字の減少。当然構造調整に対する努力もあったわけで、これが三割ぐらいを占めておりますけれども、まず第一には景気回復による財政健全化の動きが広がり、九五年から九八年にかけましての財政赤字減少におきましては、その約七割が構造改革による財政赤字減少、こういうことになっておりまして、米国の事例を取り上げてみましても、まず景気を回復軌道に誘導し、それがしっかりと確保された段階で構造改革に本腰を入れて取り組む、この結果、見事に財政を黒字に転換させた、こういうことであります。

 そういう点で、財政の健全性回復が重要でないということではなしに、まず景気を回復させ、その上で構造改革に取り組むべきだということであります。

 その中で、この十三年度予算についての評価ということでございますが、これも話すとちょっと長くなりますのでポイントだけ申し上げます。

 既に十二年度予算について補正予算が編成されて、その後に十三年度の当初予算の策定に入って、その審議が今行われておるわけでありますけれども、この十三年度予算は、十二年度の補正後で比較いたしますと七・九%の減少ということになっておりまして、そういう点では、実績ベースといいますか、既に策定の終えております補正予算の編成後の状況で比較しますと、十三年度予算はかなりの緊縮になっております。

 ただ、実際には補正予算の執行がずれ込みまして、先ほど図解しましたように、十二年度の補正予算は十三年に入りましてからの執行ということになりますので極めて財政状況の推移を見るのが難しくなっておりますので、この点については、予算編成の仕組みそのものを根本的に見直していくということも含めた対応が必要ではないかと思います。

 御質問の点に結論だけ申しますと、十三年度予算は、補正後に比較してかなりの緊縮色になっておりますので、回復軌道に向かい始めた日本経済に対しては、かなりマイナスの影響が出るのではないか、そういうことを懸念しております。

クー公述人 いつごろ日本の財政を再建の方向へ向けるべきかという御質問だったと思いますが、私は、まず、日本のバランスシートの全体の状況は、あと二年ほどすれば大分改善に向かうのではないかという気がしております。

 この試算については、お配りしました資料の四ページ目に、今の日本のバランスシートの状況と、それから埋めなければいけない過剰債務を埋めるのにあと何年かかるかという試算を載せておりますが、それによりますと、一応使える数字が一九九七年までしかないのですけれども、そこから五・八年、つまり二〇〇三年のちょっと手前までというくらいの計算になります。

 このくらいになると、大分バランスシートはきれいになるはずで、一九七〇年から八六年までの平均値ぐらいには戻る。それよりもいい企業もたくさんあれば、それよりも悪いのもたくさんあるわけですけれども、平均的には、平時の世界、バブルになる前の世界のバランスシートに戻るのではないかという気がします。

 したがって、その辺からこのような議論が出てきてもいいのではないかと思うわけですが、ただ、実際のところ、経済というのは生き物ですし、ここでもまたちょっと景気の減速が見られているということで、今から二〇〇三年でこうしようとかいうのを決めるのはちょっとどうかなと。やはりその時点での病人の回復ぐあいといいますか、脈拍から体温まで調べて、そこで判断されるのがいいのではないかという気がします。例えば、その時点での金利がどういうふうになっているのか。本当に回復して民間の資金需要が回復してきておれば、その時点で金利はかなり上がってきているはずであります。

 そういう状況があれば財政再建に向かっても大丈夫ということになると思いますが、ここで一つ気になりますのは、過去十年間のバランスシート調整というのが多くの企業にとって余りにも苦しい経験であったということから、今かなり設備投資等は出ておりますけれども、そういう企業の経営者の皆さん、絶対借金やらない、もうあの過去十年間の苦しみは二度と味わいたくない、孫の代まで借金は許さぬと言っているくらいキャッシュフロー経営にこだわっております。

 最近、本屋に行きますと、キャッシュフロー経営という本がいっぱいあふれております。キャッシュフロー経営というのは、自分たちにあるキャッシュフローの中で設備投資をやる、お金を借りないという考え方でありますが、これは貯蓄率の低いアメリカでは当然なことだと思いますけれども、これだけ貯蓄率の高い日本で企業がみんなキャッシュフロー経営をやってしまったら、いつになっても民間のデフレギャップが埋まらない、いつになっても財政支出が必要であるという大変な事態になります。今はまだバランスシートが壊れていますから彼らに支出を期待するのは不可能なわけですけれども、バランスシートがきれいになっても企業がキャッシュフロー経営にこだわってしまったら、これは日本の財政にとって大変な問題になります。

 それを解除する、そういう事態に陥らないようにするためにも、ここではちょっと別の意味ですけれども、構造改革、規制緩和で、バランスシートがきれいになった企業が、どうしてもこれは投資しないと大きな損をするだろうと思うくらいのビジネスチャンスをつくっていく、そのような規制緩和、投資環境の改善というのがぜひ必要ではないか。

 したがって、財政で景気を下支えしなければいけない、早くバランスシートをきれいにしなければいけないというのは当然ですけれども、それと同時に、バランスシートがきれいになった企業が投資をしたくなるような、お金を借りても投資をしたくなるようなビジネスチャンスをつくっていくということをぜひ同時進行させていただいて、それがだんだん軌道に乗ってきたところで財政再建に向かう、このような順番でやるべきではないかという気がします。

 そういうシグナルを実際にマーケットが金利上昇で送ってきた暁には、私は日本で最大の財政再建論者になろうと思っておりますが、今はそういう状況ではない。恐らく、最低一、二年は今みたいな状況が続くのではないかという気がします。

水野委員 ありがとうございました。

野呂田委員長 次に、谷口隆義君。

谷口委員 公明党の谷口でございます。本日は、公述人の先生方におかれましては、大変お忙しい中公聴会に出席をいただきまして、ありがとうございます。また、先ほどは大変貴重な御意見を聞かせていただきまして、ありがとうございました。

 私は、出身が大阪でございまして、地域経済ということからまず初めにお聞きをさせていただきたいというように思います。

 先ほど、宮本先生、宮本公述人のお話の中にもございましたが、地方財政の問題もございまして、お話をされておりませんでしたが、いただいた資料の中に大阪経済の現状というのがございまして、平成十二年の十二月現在で、スーパーの売り上げが対前年比で全国平均マイナス八・二%、大阪ではマイナス一一・四%、有効求人倍率が全国で〇・六六倍、大阪では〇・五四倍、完全失業率が全国では四・八%、近畿地方では五・八%、企業倒産件数対前年比では全国平均マイナス二・一%、大阪では一三・二%の増、このような指標といいますか、現状の資料がございました。

 今回、十三年度予算は、我々予算をつくった一員でございますけれども、先ほどから緊縮予算であるというようなお話がございましたが、我々のところは景気優先を念頭に入れた予算をつくったわけでございます。

 昨年、我が国の経済も若干回復基調にというような状況があったわけでございますが、年首の米国経済の状況を見ておりますと、一月三日、四日にも連続して金利が引き下げられた、数回にわたってフェデラルファンドレートまた公定歩合も引き下げられておるわけでございます。予想以上に米国経済の状況が深刻だ。

 そのようなことで、輸出産業を中心として、我が国の景気もまたこのところ若干の陰りを見せておるような状況の中で、私は、特に地域経済、特に大阪経済のことをお話をさせていただきたいわけでございますが、大阪というのは、いろいろ地方はございますけれども、今まで、東京に対する大阪、ツーコアみたいな形があったんだろうというように思うわけでございます。その状況の中で、どんどん民間企業も東京に本店を移したり、また一方で行政機関もほとんど東京に集中しておりますから、どんどん東京一点集中が進んでおるわけでございます。これは、いろいろな意味で私は問題があるのではないかと。

 例えば、平成七年でございましたか、六年前に阪神・淡路大震災が起こりました。あのときに、私は大阪でございますが、隣の神戸では大変な状況であったわけでございますけれども、仮に東京でああいうような震災が起こった場合に、今の行政の集中度合い、また経済の集中度合いから考えますと、大変なパニックになるだろう。

 各金融機関では、ツーセンターシステムということで、コンピューターのシステムがダウンしたときに、東京でダウンしても大阪でいけるというような体制を整えておるようでございますけれども、我が国の経済全体も、危機管理という観点からも、やはり西日本の中心の大阪、また東京と、こういうようなことの対応を図るべきではないか、このように思っておるわけでございます。

 まず初めに宮本公述人にお聞きしたいわけでございますが、最近の経済の低迷、特に大阪経済の低迷の原因はどういうところにあるのか、お聞きをいたしたいというように思います。

宮本公述人 お答えさせていただきます。

 ただいま谷口先生から御指摘ございましたように、大阪経済といいますか、非常に落ち込みがひどうございます。それは、谷口先生もおっしゃいましたように、大阪から発生いたしましたいわゆる企業といいますか大企業が、どんどんと本店等を大阪から東京へ移すというふうなことが起こっておりまして、例えば、私どもの大学で卒業いたしましても、三分の一ぐらいは実は東京で就職をする、そういうふうな実態も起こってきております。

 それは、ある意味で中央集権のスパイラルというのが起こっているのかと。つまり、大企業が東京に集中する、そうすると、今申し上げましたように雇用もそちらの方へどうしても集中します、そうすると消費がふえる、そうするとまた当然その消費を目当てに産業、企業が興る、そういう状況が起こっているわけです。他方、大阪といいますか、地方を考えてみますと、どんどんと中央へ企業、それから雇用が出ていく、逆にだんだんと空洞化をしてくるというふうなことでございます。

 したがいまして、これをどこかで歯どめをかけるということが必要であろうかと思いますけれども、今の現状では、実は一極集中といいますか、そういう方向がなかなかとまらないのではないかというふうに私は考えております。

 それをとめるといいますか、地方の活性化を図るためには、ある程度、最初は公的なサポートが必要であろうかと。つまり、起業、それからその企業が投資を行う、そういう経済活性化を図る環境の整備といいますか、そういうところで、どうしてもある程度は、最初は公的なサポートが何らかの形で必要であり、それによって民間企業がそこで育っていく。そして、ある程度まで来れば、民間の力により地方の活性化が図られるということになろうかと思っております。

 先ほど申し上げましたように、多分、私、大阪におりますので、大阪御出身の先生もここにいらっしゃいますけれども、金融再編が進みますと、御堂筋の大手銀行、半分ぐらいは閉店するのではないかと。それでなくても今そごうも閉店しておりますので、あそこが非常に空洞化する。このままほっていきますと、ますます大阪の中心街が空洞化する。大阪だけではなくて、地方の大都市においても同様の現象が発生するのではないかというふうに考えております。

 地方の民間企業の活性化を図るためにも、まず、最初の、起業または投資の導入を図るためのある程度自治体のサポートというものが必要であろうというふうに考えております。

 以上でございます。

谷口委員 ありがとうございました。

 金融再編のところで、私も、今おっしゃっていただいて、こんなこともあるんだなというふうに思ったわけでございますが、大手金融機関は百店以上の店舗があるわけでございますから、全部合わせますと大手金融機関は一千店以上の店舗数になるわけで、それをリストラして店舗を閉めるということになりますと、かなりやはり地域経済に与える影響も大きい、また東京における影響も大きいのではないか、このように考えております。

 金融の問題が出ましたので、あと若干時間がございますので。

 直接償却、最近出ております。先日のパレルモのG7でも日本の金融の問題が出たようでございますけれども、植草公述人のお話では、まず景気を立て直さないと、金融の問題はその後なんだというようなお話がございました。

 しかし一方で、御存じのとおり、具体的な業種で申し上げますと、例えば建設業におきましてはやはり大変な状況になっている。一時九十兆円ぐらいのマーケットが半分ぐらいになるんじゃないかと言われている。

 そういう状況の中で、景気優先で、金融の問題は後でいいということになってまいりますと、これは、先行的にこれをやるということではなくて、もし直接償却せざるを得ない状況になった場合の問題があるんだろうと思います。

 これは、セーフティーネットを張っていったらそれでいいんだということになるのかどうかということもありますけれども、私は、むしろ、こういう状況の中で、景気の回復と同時に、もう十年近くなっております産業界における過剰債務、金融機関における不良債権の問題、この問題を何らかの形で道筋をつける必要がある、このように考えておるわけでございますが、植草公述人、またクー公述人、何かございましたら、これについてもお答えをいただきたいと思います。

植草公述人 金融の問題につきましては、金融問題の早期処理が重要であるという点については、私も全く異論はございません。

 先ほど申し上げましたのは、まず、直接償却の問題もそうでありますけれども、最終的には金融機関の不良債権を完全に金融機関から切り離すということが必要でありますので、そういう処理は必要だと思います。ただ、現状におきましては、毎期のように金融機関が不良債権の処理を進めておりますけれども、不良債権そのものがなかなか減少しない。と申しますのは、不良債権の処理をしましても、資産価格の下落が進行することによりまして新たに不良債権が発生してまいります。

 したがいまして、不良債権の処理を進めることは重要でありますが、資産価格の下落全般に歯どめをかける政策をまず確実に確保しませんと、金融問題の処理そのものは、実際に処理を進めましても問題の解決には至らないのではないか。

 金融問題の処理につきましては、処理に伴う責任の明確化といったことも含めた検討が重要だと思いますけれども、全体として問題を解決するためには、経済全体の回復を確保し、その中で、資産価格の下落に明確に歯どめをかけるという政策を確保する中で進めることが必要ではないか、そういうことで申し上げたわけでございます。

クー公述人 直接償却ということが最近言われていて、とにかく早く不良債権を金融機関から切り離すべきだという指摘は、私も内外のいろいろなところで耳にしております。私自身、アメリカの中央銀行におりまして、そういうことをやってきた一人でありますけれども、ただ、この点については、先ほどの植草公述人の指摘もありましたとおり、やはり景気最優先で今はやらないと、日本じゅうにこの問題があるということを考えますと、余り急いで銀行をきれいにしようとしますと今度は経済全体がもたなくなるというリスクが今の日本にはあります。同じような状況に置かれたアメリカも、こういう局面に直面したときには非常にゆっくりと不良債権を処理してまいりました。

 日本によく紹介されるSアンドLの問題、これは皆さんも御存じだと思いますが、貯蓄貸付組合の問題のときには、これは実際に非常に短い時間に、一九八九年から一年というところに全部きれいにしてしまおうという行動をアメリカはとって、この話が日本に随分紹介されておりますので、多くの方々は日本もそうやるべきという話になっておりますが、SアンドLの問題というのはアメリカの全資産の五%でした。残りの九五%はそういう状況になっていなかった。SアンドLという非常に特殊な金融機関に発生した極めて特殊な問題であった。五%の問題であるときに、しかも九五%が健全なときにはどんどん切り離して売ってしまうということもできたわけですけれども、そうでなくて、もっと大規模に問題が発生した例えば八二年の中南米問題。

 これは、アメリカの何千という銀行がはまってしまった、メキシコ、ベネズエラ、アルゼンチン、その辺、中南米融資ですけれども、そのときは、早急に償却するのではなくて、むしろ、何千行という護送船団をみずからニューヨーク連銀がつくりまして、それで十数年かけて少しずつ償却していきました。それは余りにも問題が大きかったので、マニュアルどおりに償却を進めたらアメリカ経済ももたなかっただろうし、全世界の金融もあの時点で崩壊したんではないかという気がします。

 そのときには、当然、日本の銀行もアラブの銀行もカナダの銀行も、全部護送船団に加えて少しずつゆっくりとやっていったわけですけれども、そういうことも配慮に入れて直接償却という議論を進めていただきたいというふうに思います。

谷口委員 どうもありがとうございました。

野呂田委員長 次に、井上喜一君。

井上(喜)委員 保守党の井上喜一でございます。きょうは、公述人の皆さん、お忙しいところをお越しいただきまして公述していただきましたことを御礼を申し上げる次第であります。私は、クー公述人と植草公述人にお聞きをいたしたい、こんなふうに思います。

 両公述人のマクロ経済についての見方というのはほぼ共通したものがあるんじゃないか、私はそういう印象を受けたのでございます。また、当面の景気対策といたしましても、どうも金融政策では限界があるのではないか、したがいまして、財政政策におきまして、もう少し状況を見ながら弾力的に運用していったらどうなのか、こんな御趣旨だったと思うのであります。

 そこで、まずクー公述人にお伺いをいたしたいのでありますが、今、金融政策、財政政策ともに政策手段としては大変限られた状況下にあると私は思うのであります。したがいまして、そういう中で、例えば財政政策につきましては、中の事業を組みかえるとか、あるいは税制政策を援用するとか、あるいは行政指導等々を用いまして、全力を挙げて景気対策に取り組むということだと思うのであります。御趣旨はわかるのでありますけれども、財政政策、もう少し事業費を積み上げたらどうかという今の御主張、そのほかの方法として何があるのか。非常に限られた政策手段の中で考えられるとすれば、財政政策はさておきまして、どういうことが考えられるのかということをお伺いしたいと思います。

 それから、植草公述人につきましては、金融政策につきましてはクー公述人と若干違っているように思うのでありまして、特に日銀の貸出金利につきまして大変厳しく日銀を批判しておられるお立場だと思うのでありますけれども、金融政策の効果ということをもうちょっとわかりやすく御説明いただきたいということ。それから、資産価格の下落の歯どめをする必要があると。もちろん、本格的には景気を回復していくということでありますけれども、それとは別にどういうような方法があるのか、お教えをいただきたいと思います。

クー公述人 大変限られた財政という御指摘で、財政以外に何ができるかという御質問だったと思いますが、それに答える前に、まず、限られたという認識は今非常に国民の間にも広がっていて、これが大きな手詰まり感みたいなものを生んでいるのではないかという気が私はします。

 でも、実際にマーケットに身を置いて、国債がどういう買われ方をしているかというのを見ると、手詰まりとはほど遠い状況で、今、国債の価格は史上最高値であります。国民は必死に国債を買っている。これがもしも国債はもう買いたくない、こんな資産は買いたくないという状況になれば、それは本当の手詰まり感だと思いますが、今国債の価格は下がるどころか上がる一方で、必死に皆さんが買っているということは、そんなに限界だ限界だと言われない方がむしろいいのではないかという気がします。まだ十分余力があると私は思いますし、一時のイタリアとかアメリカのように十何%まで金利がいったわけではない、今一・四%であります。

 それで、財政以外にということなんですけれども、恐らく御指摘されたのは、公共事業以外にと。つまり、税制も財政の中に入りますから、税制面ではまだいろいろなことができるのではないかというふうに私は思います。例えば、土地の値段、これが下がり続けるうちは金融に手をつけてもどうしようもない。植草公述人がもう既にそういう指摘をされておりますけれども、ここにまだいろいろな手だてがあるのではないか。

 例えば、バブルつぶしの真っ最中に、ワンルームマンションとか、とにかく不動産投資を抑えようということで、土地にかかわる金利負担は経費と認めない、上物については認めるけれども土地に対しては認めないというようなことを一九九〇年代の初めにやったわけですけれども、これは結果として、大変多くの人たち、特にお金を使える人たちに対してすさまじい増税という結果になりまして、それが結果として不動産価格を大幅に下げるということももたらしたわけであります。

 私は、この辺の税金をもとの形に戻してあげるということは、当時だまし討ちに遭ったと思っている人たちに対しても大きなプラスになるんじゃないか。特に、あのとき本来あるべき姿は、この日以降買った人たちに対しては税金はこうしましょう、以前買った人たちの税金はさわらないというふうにやれば大きなダメージは発生しなかったと私は思いますが、あのときは、昔買った人まで全部そういうふうにしてしまったわけですね。そこで、不動産市場は大暴落を演じて、結果として景気も大変悪くなってしまったわけですが、私は、ここだけは直してもいいのではないかという気がします。これは、お金を使える人たち、それなりの所得を持った人たちにお金が使えるようにするわけですから、景気にも大きなプラスだろうと思います。

 また、全く財政以外では、土地の有効利用。

 私は、日本の土地が、現時点でもこれだけ高いにもかかわらず、有効利用が十分進んでいない。容積率の問題、日照権の問題、こういうところが……。本来であればもっと有効利用されて、日本の皆さんはもっと広い家に住めるはずなのに、そうなっていないということが内需を必要以上に抑えてしまっているのではないか、それがまた、輸出に大きく偏った、ちょっとバランスのとれていない経済を生んでしまったのではないかという気がします。したがって、土地の有効利用、ここも大きく進めていただきたいと思います。

 最後に、やはり日本は先進国であります。先進国ということは、必需品は全部そろっているわけですから、そうすると、消費を伸ばすと言っても必需品以外、悪い言葉で言えばぜいたく品を買ってもらうしかないということになりますが、そういうものは、それで遊べる時間がないと消費は伸びないわけで、そういう意味では、可処分所得だけではなく、ある人が言う可処分時間というのもぜひふやす方向で考えていただきたいというふうに思います。

 やはり先進国になればなるほど、そういう方向で時間をつくっていかないと、消費が頭打ちになってしまう。日本は、それを逆に輸出に求めて、いわゆるライフスタイルを先進国に見合ったものに変えていかなかった。これが一つ大きな構造問題を引き起こしてしまったんじゃないか。したがって、ここを、もっとそういうものがエンジョイできるようなライフスタイルに持っていけば、私は、まだまだ日本の消費は伸びる可能性はあるのではないかというふうに思います。

植草公述人 まず、金融政策について三点申し上げたいと思います。

 まず重要な点は、金融政策が持っておりますシグナル効果とかあるいはアナウンスメント効果の重要性ということであります。

 今回、アメリカが公定歩合を、一月三日と四日と二日連続で下げ、また月内にもう一度下げる、こういう行動をとっておりますけれども、やはり市場の半歩先を行って果断に行動する、こういう政策の演出効果を重視した対応というのが重要だと思います。

 日本のゼロ金利解除につきましては、ゼロ金利の状態におきますと短資会社の経営が非常に圧迫される、これがゼロ金利解除の大きな理由であったということを聞いておりますけれども、もしそういうことを判断するのであれば、これは九九年二月にゼロ金利を実施する前に考えるべきことであります。ゼロ金利を実施した上で、昨年夏の段階でこれを解除したわけですが、当時は物価も下落しておりましたし、資産価格の下落も進行しております。さらに、バランスシート不況で倒れそうな企業もたくさん存在している、景気もまだ不安定。この時点において、果たしてゼロ金利解除というのは本当に正しい選択であったのかどうか。演出効果ということも含めた総括あるいは評価ということが重要だと思います。

 それから二番目に、実際にこれから金融緩和政策の効果をいかに引き出していくかという点でありますが、現在、マネーサプライの伸びが非常に低い、そうした中で物価の下落傾向が進行しております。この状況に歯どめをかけるということが必要だと私は思いますけれども、マネーサプライを増加させるために、日本銀行として必要な金融緩和措置、金利の引き下げですとかあるいは買いオペの増額といったことは必要だと思います。

 ただ、現時点では、民間の資金需要が非常に停滞している状況でありますので、仮に、これは専門用語ですけれども、ベースマネーを供給しましてもマネーサプライの増加につながらない可能性が高い、このように思います。したがいまして、金融政策はこういう時点ではなかなか効果を発揮しにくいので、金融緩和政策を進めると同時に、民間の資金需要が生まれてくるような景気の改善方向を引き出す政策、これが必要だというふうに思います。

 それから、資産価格の下落についてでありますが、やはり基本は経済の先行きに対する見通しを改善させる、これが、株価におきましても、地価におきましても、価格下落に歯どめをかける施策だと思います。

 ただ、強いて一つ申しますと、やはり不動産の取引を活発化させるために、不動産の取引コストの低下、そのための税制等の検討といったような措置が非常に重要ではないかというふうに考えております。

 以上でございます。

井上(喜)委員 どうもありがとうございました。

野呂田委員長 次に、仙谷由人君。

仙谷委員 お四方の公述人におかれましては、大変貴重なお時間をお使いいただきまして、日本経済の分析を中心にしてお話をいただきました。私からも感謝を申し上げたいと存じます。

 少々失礼なことをお伺いすることになるかもわかりませんが、ここはなるべく議論が対論的になった方がいいと思いますので、失礼を省みず質問をさせていただきたいと存じます。

 先ほどのお話の中で、クー公述人それから植草公述人ともに資産価格の下落を大変問題にされておったというふうに聞きました。この資産価格を考えるときに、私、もう一つ大きいファクターとして、いわゆる経済がグローバライズされたこの時代においては、ドルベースで考えてみる、あるいは世界的な価格との関係で考えるということがなければ、日本的に、資産が一千兆円吹っ飛んだんだ、九百兆円吹っ飛んだんだ、こういうふうにおっしゃられても、資産価格の下落がある意味でとまらない。

 例えば土地について申し上げると、土地は必然的に収益還元価格に収れんをしていかざるを得ない、こういうふうに考えるんですね。そうだとすると、還元される収益というのは、当然のことながら、外国人投資家にとってはといいましょうか、あるいは世界的な金融の流れにとっては、そういうリターンがあるかないかということで決まってくるはずだと思うんですね。つまり、ドルベースで、あるいはユーロベースでその収益還元価格を計算すると、現在の日本の土地なりあるいはビルの家賃なりが高いか低いかということが決まってくると思うんですね。

 さてそこで、土地は、一九九〇年には最も高くて二千四百五十五兆円だった、日本全部の土地を評価すると。現在、千六百兆円である、こういうことに大体なっておるようであります。九九年レベルで千六百兆円ということになっておるようであります。そうだといたしますと、これは対GDP比三倍ぐらいになるんですね、今日本の場合に。つまり、国民が稼ぎ出す、つくり出す付加価値の三倍もまだ土地がするんだ。欧米標準でいきますと、せいぜい対GDP比一・五倍ぐらいが土地の価格だ。つまり、その価格で土地を貸せば妥当なリターンがある、その程度に土地の価格がおさまっていないと、土地を買ったり使ったりする、つまり土地に対する投資をするということにならないということを聞くんでありますが。現実には欧米は対GDP比一倍ぐらいの土地価格だというふうに言われておりますけれども。

 そういうことからいいますと、土地はまだまだ下がる。つまり、幾らいろいろな政策的なことをやって土地の下落を防ごうとしても、必然的な傾向として、グローバライズされたこの時代においては、やはり収益性が同じようなところまでいかないと調整が済まないんだという考え方があるんではないか、いや、そういう考え方があると私は思うんですが、クーさんと植草さん、いかがでございますか。

クー公述人 日本の土地価格についての御質問だったと思いますが、ドルベースで見たらどうかという御指摘なんですけれども、日本の場合は、土地を借りた人は円で支払いますから、やはり土地の値段も円で、家賃の方も円でありますから、私は円でのリターンというのが重要だと思います。

 今でも日本の土地の価格がGDP比に対して大き過ぎるではないかという御指摘はそのとおりだと思いますが、私は、最終的にどういう方向でこれが収れんしていくのかといいますと、土地の値段というのは最終的になくなるということになると思います。欧米で、一応GDP上に土地の値段は出てきますけれども、実際に土地の取引に目を向けますと、まず土地の値段というのはないんですね。この更地幾らと言っても答えは返ってこない、つまり、ないわけであります。そこに三十階のビルを建てて、家賃を計算して、全部で幾らという計算はありますが、土地だけでどうのと言われても、これはほとんど答えが出てこない。恐らく日本も最終的にはそうなるんだろうなという気がします。

 では、なぜ日本で土地の値段というのがあるのかというと、これは先ほどもちょっと触れさせていただきましたとおり、日本の場合には、とんでもない、世界基準を完全に外れた、土地に対する利用規制がありまして、容積率、日照権問題、建ぺい率といろいろ、これだけ土地が少ない国では想像できないくらい厳しいところに、そういうものが抑えられている。

 そうすると、どうしても土地がないと――土地には床面積という代替物があって、欧米では全部床面積で計算するわけですが、日本の場合はどうしても床面積が需要に追いつけないような状況が何十年も続いちゃったわけであります。これが土地のバブルをつくっていったわけですけれども。そうすると、どうしても床面積の代替物が足りないとなれば、みんな土地が必要になるわけで、これが土地神話というのをつくってしまったのではないか。

 しかし、今回こういう形で土地の価格が暴落して、やはり土地神話というのは神話であったということがはっきりしたわけですから、私は、少しずつ、床面積を計算した、まさに収益還元価格という形になっていくだろう、したがって、最終的には土地の価格というのは消えてしまう、なくなってしまうというのが最終的な収れんした形ではないかというふうに思います。

 それでは、まだGDP比で見て高いんだから、もっともっと土地の値段が下がるのかというと、家賃も円で払われておるわけで、家賃に対しての地価はどうかというふうに考えると、これは必ずしもどんどん下がらなければならないという状況ではない。日本の場合は、土地の値段も高いんですが家賃も結構高い。

 家賃ということでいいますと、実は一九九六年ごろ、海外の投資家が日本の土地を買いに大挙してやってきました。こういう方々、英語でアセットストリッパーといいます。ストリッパーというのは服を脱ぐわけではなくて、そういう土地を買って、もう一回ばらして、うまく組み合わせて高く売るという人たちのことをアセットストリッパーといいますが、こういう人たちが大挙日本に来て、日本の土地を買いあさろうとしていました。一部買った方もおられます。それはあのときの収益還元価格で十分ペイするということを彼らは感じたわけで、つまり、そのときの家賃に対してもう土地の値段は十分下がっていたということであります。

 それで随分来たわけですけれども、残念ながら、その後、財政再建の方に向かってしまって、五期連続マイナス成長という大変な事態になって土地の値段がまた下がり、家賃も下がる。こういう状況になりますと、物を買えなくなっちゃうんですね。つまり、将来幾ら収益を生むかというのが、不況の中では、特にあのくらい深刻な不況になりますと読めなくなってしまう。将来の収益が読めなくなると、とても取引できませんから、みんな帰ってしまいまして、それがさらに地価の下落を加速させてしまったという気がします。

 しかし、今ぐらいの水準であれば、かなりまたこういう方々も戻ってくるんではないか。それは、景気が安定している、将来の収益が読めるというのが大前提でありますけれども、これが見えてくれば、日本政府もそういう政策を、今後とも今の政策をとり続けるだろうという安心感が戻ってくれば、こういう方々が戻ってきて、そこで今の家賃と計算して、買えるか買えないかという判断がなされるんではないか。私は、もうそろそろそういう人たちが戻ってくる水準になってきているのではないかという気がします。

植草公述人 日本の地価の総額がGDP比で高いという御指摘でございますけれども、地価の決定そのものは、先生御指摘のように収益還元法によってそのベースが決まってくる、これは私も異論はございません。

 かつての日本、特にバブル期の日本の地価におきましては、収益還元法で説明のつかない価格水準が設定されていた。これは、非常に希少な資源であるということと、いわゆる右肩上がりの神話といいますか、価格上昇の予想が理論値からかなり乖離した価格を形成させていたというふうに思います。

 ただ、最近、REITという、いわゆる不動産投資信託市場、こういうものが日本でも創設されて、不動産を分売していく、こういうことが進んでおりますけれども、最近の事例におきましては、新規に土地を取得し、そこに建造物を建てて、それを賃貸に回したときのリターン、これが金利をかなり上回るような状況がかなり広範に生じてきておりますので、不動産に対するリターンが長期金利に比べてかなり高い状態になってきているということは、日本の地価も、そういう収益還元法に基づく説明でかなり説明可能な状況に近づいているのではないか、私はそのように判断しております。

 外国人の動向でありますけれども、外国人はここ数年、日本の大幅に下落した不動産に対して投資をしよう、こうした動きを実は強めております。それは、リターンという点で、投資利回りということでいえば、採算に合う状況になってきたということだと思いますが、ただ、それでもまだ外国の投資家がちゅうちょしておりますのは、そうはいいましても、今度は価格そのものが下方にオーバーシュートする、理論値よりもかなり下に突き進んでしまう、当面の価格下落のおそれがあること。それから、特に外国から投資する場合には為替についての見通し、円高になればリターンが生じるわけですけれども、円安になればその逆ということで、外国の投資家が日本の不動産投資に慎重姿勢を依然として維持しておりますのは、不動産価格の一連の下落のおそれと為替に対する見通しの不確定性、こういうことによっているのではないか。

 そういう点で、日本の不動産価格は、これは物件にもよるわけでありますが、全体としては理論的に説明のつく水準にかなり近づいているのではないか、私はそのように判断しております。

仙谷委員 次に、株価についてお伺いするわけでありますが、御両人ともきょうはおっしゃいませんでしたけれども、いわゆる小手先の株価対策みたいな話は、金庫株であれPKOであれ、多分否定をされるのではないかというふうに思います。

 日本の最も優良、超超優良会社のトヨタの時価総額を今手元に持っておるのですが、ドル換算しますと、一千二百九十四億ドルぐらいになるのですね。いわゆるビッグスリーと言われるGM、フォード、ダイムラー・クライスラー、これの時価総額を計算しますと、一千百七十一億ドルぐらい。つまり、ビッグスリーの時価総額合計とトヨタの時価総額合計、つまり東京証券取引所のトヨタをドル換算しますと、大体そのぐらいになる、こういうことが言われておるのですね。

 ところが、利益の予測を見ますと、ビッグスリー合計で二百十五億ドル、トヨタは三十一億ドル。つまり七分の一ぐらいしかトヨタはない。あれだけ日本で立派な会社だ、無借金経営だと言われておるトヨタでも、利益が七分の一である。そうすると、いわゆる株価収益率みたいな判断基準でいくと、まだまだ日本の株価は高い、外国人投資家から見ると、絶対額としては高い、こういう判断がされるのではないだろうか。

 もう株式については、売買の金額でいうと、マーケットではほぼ半分ぐらいが外国人投資家だというふうに言われておるわけでありますから、とりわけ企業の収益が奇跡的に改善されてくるということ以外には株価が飛躍的に上がるということはないのではないか、こういう予測を私は立てておるのですが、両先生いかがでございますか。

クー公述人 日本の株価が飛躍的に上がることはないのではないかという御指摘だったわけですけれども、まず、私、野村証券のチーフエコノミストとして全世界の外人投資家に日本の説明をして、あわよくば日本の株を買ってもらうというのが本業なわけですけれども、海外の投資家が日本の株を買っている理由は幾つかありますが、もしも、先ほど御指摘された株価収益率、PERみたいなものだけ見ていれば当然買えないわけであります。でも彼らは買っている。どこにあるのかといいますと、それは、一つはやはり為替なんですね。

 円はやはり非常に強い通貨であるということ。日本の貿易黒字、一月はちょっと赤字になっておりましたけれども、全般で見ればまだ世界最大の貿易黒字国であるということで、円はずっとここ三十年間強かった。ちょっと若干弱い振れはありましたけれども、基本的には非常に強い通貨であるということ。そうすると、やはり円の資産を持っていなければ大きな流れに乗りおくれるのではないかという気持ちを持っている外人投資家は非常に多い。そういうところから見ますと、では、円の資産を持つのに、株を買うか債券を買うか。債券の利回りは何と一・四%ですから、これは幾ら何でも買えないのですね。そうすると、ちょっとでもおもしろい株を買いましょうということで、かなり株式投資に入ってきているのではないかという気がします。

 確かに、トヨタとGM、フォード、クライスラーと比べると御指摘のような数字になるのですけれども、ただ、アメリカでも、IT関連ですとかそういうところではかなり、トヨタ以上に株価を説明できないPERがついたこともあるわけで、必ずしもPERだけで投資家が判断しているわけではない。

 まして日本の場合は今、実際の実力、技術力に比べてかなり株価が安いのではないかという、オールドエコノミーですね、どうもマスコミはニューエコノミーばかり注目しておりますけれども、実はオールドエコノミーの外人持ち株比率、特に、いい企業は急激に上がっております。彼らは、そういう意味では、まさにバーゲンセール、つまり、今だれも見向きもしていない、持ち合いの解消でかなり一時的に供給過剰になっている株をしっかりと買い集めているわけで、そういうのを見ていますと、もう少し日本の機関投資家の皆さん、個人投資家の皆さん、頑張ってほしいな、やはり一番いいところをまた逆張りの外人にとられていってしまうのかなと。そういう話を海外でしているのもこの私ですので、ちょっと何とも言えないのですけれども。

 ただ、最近は、国内で一生懸命こういう話をしましても、やはり余りにも、特に機関投資家の皆さん、この資産価格の暴落で体力がなくなってしまった。株を買うというのは、どうしてもリスクをとれる体力が必要であります。ある程度下がってもそれを受け入れられる体力がなかったら株などを買ってはいけないわけで、そういう状況に今、多くの日本の投資家の皆さんはないので、結局、幾ら外交をやって勧めても、なかなか買っていただけない。そうすると、海外に言って買ってもらって今の株価を支えるしかないということになるわけで、そこはちょっと残念だなという気はします。

 実際に日本の企業で頑張って構造改革も進めているところはたくさんありますから、そういうところをもっと日本の投資家も見直していただきたいなという気がします。

 政策という点で一言つけ加えさせていただきますと、この点では、やはり為替レートというのは非常に注意していただきたいと思います。

 もしも日本の株式市場を日本の投資家が支えているのであれば、円安というのは一つ大きな選択肢であります。ここで円安にして、輸出から、先ほどお話ししましたデフレギャップを埋めていく。これは今、アジアの国々がみんなやっていることで、彼らはもともと大きな貿易黒字がなかったものですから、一部貿易赤字になっていましたから、通貨をうんと下げて、それで今、彼らのバランスシート問題は、輸出という形で解消に向けて動いているわけでありますが、日本の場合は、もともとがすごい貿易黒字なので、その選択肢がないのですね。それで円が強かったわけですけれども。

 ここで円安に持っていこうということになりますと、日本の株式市場、何が起きるかわからない。もちろん、外人が売る前にぱんと円を下げてしまって、向こうが朝起きたときにはもう円安だったということであれば売るチャンスを奪い取るということもできるかもしれませんが、これだけ景気が低迷していて企業収益もぱっとしない、構造改革もおくれている日本の株を外人が買い続けた非常に大きな理由はやはり為替レートでありますから、安易な円安政策というのは要注意ではないかという気がします。

 今のアメリカの財務長官オニール、また、その前のルービン、サマーズ、みんな強いドルを望むと言っておりました。なぜ彼らはそういうことを言っていたかというと、アメリカは今金融市場を外国の資本で支えてもらっている。言ってみればちょっと日本に似たような状況があるわけです。そうすると、彼らが一番恐れているのはアメリカ売りであります。つまり、弱いドルを望むなんて一言言ったら、恐らくドルは大暴落してアメリカ経済はめちゃくちゃになるだろうという危機を彼らは感じ取っているので、実際は恐らく彼らは弱いドルを望んでいるんだと思いますが、そういうことは一言も言わない。

 日本に関しても、日本は、全体は黒字なんですけれども、株式市場という一番重要な心臓部、これを外人に支えてもらっているという状況では、安易な円安政策は非常に危険ではないかという気がします。

植草公述人 為替についての見解と意見は、クー公述人と私は違いますが、それは質問でありませんので、ここでは控えさせていただきます。

 株価の決定でありますけれども、二つ申し上げておきたいことがございます。

 一つは、いわゆる収益還元法というのは株価決定を考える基礎理論でありますが、ここでは、利益成長、それから長期金利、リスクプレミアムと呼ばれる株式投資に要求する超過リターン、これが通常の株価決定の基本ファクターとなるわけですけれども、例えば予想成長率が、米国の場合ですけれども、米国経済は、九〇年代二・五%しか成長しないと見られておりましたが、九六年から二〇〇〇年にかけまして四%成長を五年も続けたわけです。成長率が一・五も引き上がったわけです。

 そうした中で、米国の株価は九二年に二千三百ドルでありましたものが、昨年一万一千七百ドルになった。四倍から五倍の株価上昇が生じましたけれども、一般的に、予想成長率が二%ぐらい変わったとしましたときに、これはいろいろ前提によっても変わりますけれども、株価が二倍程度に変動しても、これは理論的に見てもおかしくないわけであります。

 そういう点でいいますと、日本経済は現在、九〇年代の長期低迷の延長上に一%程度しか成長しないだろうと、これが株価形成の基本に置かれているわけでありますが、例えば五年程度の間三%程度の成長を実現すると、私はこれは日本の供給余力等から考えますと十分可能だと考えておりますけれども、日本経済に対する見通しがそのように転じた場合には、これは理論的な見地から見ましても、株価には非常に大きな上昇力が発生するということは、現状においてもあり得ることだと思います。

 それから、もう一点申し上げますと、いわゆる企業活動で得られました果実を労働と資本に分配するわけでありますけれども、日本の場合には、不況下において労働分配率が上がるという特徴を持っております。これは、不況におきましても、労働者の地位や賃金が、これは先ほどのお話との関連もありますが、諸外国に比べ非常に強く守られておりますので、企業収益が大幅に減少し、労働の取り分はそれほど低下しない、したがって全体に占める労働の取り分が上昇する、こういう傾向がございます。

 逆に、景気拡大期におきまして、賃金がそれほどふえない中で企業収益が大幅にふえてまいりますので、実際にしっかりとした景気拡大局面に入りますと、かなり高いペースでの企業収益の増大が見込まれますので、そうしますと、結果として得られるPERなどもかなり急速に変動してまいります。

 そういうことを踏まえて考えますと、経済が順調に回復軌道に移行する場合には、大幅な株価上昇というのは、理論的な見地から見ても発生し得る、このように考えております。

仙谷委員 そこで、景気、経済成長のことをお伺いしたいわけでありますが、今、私は、平成十一年二月二十六日に経済戦略会議が出した答申を持っております。これには「日本経済は本来二%強の潜在成長力を有している。」「十分な構造改革が断行された場合、日本経済は九九年度以降プラス成長に転じ、二〇〇一年度には二%の潜在成長力軌道に復帰する。」ということが書かれておって、平成十一年、十二年は、とりあえず公共事業でも何でもいいから財政出動して景気回復を支えよう、支えろ、それをやってもいいというふうな答申であったわけであります。

 私は、お二人とも御存じだと思いますが、今の公共投資の構造が、官僚と、要するに公益法人、特殊法人の寄生虫が絡みついて、このこと自身が民間の新規参入とか新規事業を妨げるような構造になっている限り、こういう財政出動をしても必ず効果があらわれないということを、この経済戦略会議の答申を書いた先生方にも申し上げたわけであります。

 現に、名目の成長はほとんど達成できない。それから、二〇〇〇年度の成長を、名目成長率、見通しとしては現時点では〇・八%を〇・〇%に修正をしておるようでありますけれども、とても二年間で二%の成長軌道に乗せて、よく言う官需から民需へバトンタッチする、そういうふうな状況にないことは、植草さんがお持ちになったこの先行指標たるべき株価の動きだけでもはっきりしていると思うのですね。つまり、六カ月、八カ月先行指標だということになってくると、当分は、ついに現在は下降局面に入っているというふうに考えた方がいいのではないか。

 そうすると、これは何が失敗したのか。要するに中途半端に財政出動をやり過ぎたから失敗したのか、あるいは構造改革的な、つまり規制の問題、行政改革であるとか、あるいは、私がさっき申し上げた公共事業、あるいは公益法人、特殊法人のような世界にまずメスを入れて、民間の活動が自由にできる範囲を広げるということでなければ、こういうふうに財政出動を幾らやってもどこかむだに消えてしまうということになるのではないか、こう考えておるわけでございますけれども、その点について、今度はまず植草さん、そしてクーさんと、お伺いいたしたいと存じます。

植草公述人 お答えいたします。

 問題は山積しているというふうに思います。それは、景気の問題もそうでありますし、財政支出の中身の問題もそうであります。私は、公共事業についても、やはり全面的な見直しが必要だと。必要性の乏しいものを省き、本当に必要なところに回す、これが必要だと思います。ただ、その中身の論議とマクロベースの話は分ける必要があるのではないか。

 先ほどの株価のグラフでございますが、去年の四月まで株価は順調に上昇しておりましたが、四月以降下落に転じたわけです。これは先ほども触れましたが、金融政策が金利引き上げに転じたことが一つ。それから、財政政策は、私は現時点において拡張的な財政政策は必要ないと考えておりますが、まだ財政面から景気にブレーキをかけるのは時期尚早だ、こう判断しております。

 予算の取り扱いが、本予算があり、補正予算があり、執行の時期がずれるために、果たして財政が拡張的なのか、中立なのか、緊縮的なのか、この評価が非常に難しくなっていて、それもまた正しく報道もされていないという点もありまして、これが大きな問題だと思いますが、私なりに分析をした結果からいいますと、昨年の春以降、特に第二次森政権発足の後、財政政策の運営の中身がかなり強い緊縮に転じたということで、これが株価を再び下落させている。タイムラグを伴いまして、今また景気を悪化させている。これは、財政政策がきき目がないということではなしに、財政が緊縮に転じた当然の帰結として今そういう状況が生じている、こういうふうに解釈しております。

クー公述人 確かに、財政がここ十年間いろいろな形で出たわけですけれども、なかなか経済が元気を取り戻さなかったということで、財政はきいていないのではないかという指摘がたくさんあるわけですけれども、これは、どこからはかるかの問題がありまして、もしも何もやらなくてもゼロ成長であるということであるのであれば、それは本当に効果がなかったと思います。

 しかし、私、先ほどもお話しさせていただきましたように、もしもやっていなかったら恐らく日本は大恐慌のシナリオになっていたと思います。これだけ資産価値が下がって、下がるべく下がったところももちろんあるわけですけれども、でも、それを買った人からしてみればバランスシートが壊れているわけですから、そこから発生した問題を考えますと、そこからはかると、財政の乗数効果とかいろいろ言われるものは極めて高く出るわけで、そういう意味では、どこからはかるかということを注意してこの議論をしないと、大変間違った結論になってしまうのではないか。

 一時、国際機関でありますIMF、OECD、みんな細かく日本の財政を調べて、全然きいていない、乗数効果が非常に低いという結論を出したわけですが、その話を聞いて政府が財政再建に向かってしまって、結局、経済がめちゃくちゃになってしまったわけですが、その後、彼らが私のところにも来て、計算のベースを間違えた、これは本当に日本国民に対して申しわけないことをしたとまで言われました。つまり、彼らは、何もしなくてもゼロ成長という前提で計算してしまったのが、実際はそうではなかった。何もしなかったらとんでもないことになっていた、そこから計算すべきだったということで財政を見るのが正しいのではないかという気が私はします。

 ただ、財政の内容については、これは一住民としましても、穴を掘って埋めて、穴を掘って埋めて、穴を掘って埋めるようなことがもう周りじゅうで行われているというのを見ると、大変腹が立つわけですが、ただ、これは植草公述人も指摘されておりますように、中身とマクロの問題は分けて考えてみる必要があると思います。

 中身は、これはよければいいにこしたことはないわけですけれども、そのいいプロジェクトが十分見つからない。しかしそれでも、例えば、先ほど申しましたような百円のギャップがあるときに、では、七十円までやって、いいプロジェクトは七十円しかないからもう七十円でやめましょうという選択肢が日本にあるのかといったら、私はないと思います。どんなにいいプロジェクトでも、七十円しかやらなかったら、残った三十円から、先ほどお話ししましたような悪循環が発生してしまう。穴を掘って埋めるようなとんでもない公共事業でも、こういうことをやれとは言いませんけれども、三十円分とにかく埋めれば、千円の所得に対して千円の支出が発生しますから経済は安定するわけです。

 そういう意味では、もちろんいい財政支出の内容にしていただきたいし、まだそういう改善の余地は幾らでもあると思いますが、今のような局面では、このバランスシート不況という局面では、量の方が質に優先するという事態であると思います。通常は絶対こんなことはあり得ないのですけれども、とにかくデフレギャップ、日銀の金融政策で埋められないデフレギャップ、これは財政で埋めるしかない。そうなりますと、量ありきということになるのではないか。

 最後に、新規参入を妨げるという御指摘がありましたが、そこはまさに規制緩和、規制撤廃ということが必要なのではないか。ただ一方で、とにかくゼネコンをつぶさなければ構造改革にならないというような論調が出ているのは、今の日本の局面に対してはどうなのかなと。

 といいますのは、どこかをつぶさなければ新規参入が可能でないというのは、完全雇用の発想であります。完全雇用のときには、どこかをつぶさないと資源も人も別のところへ移せないわけですけれども、今の日本は完全雇用とはほど遠い状況にある。こういう状況でつぶす方ばかり優先しますと、受け皿がないわけですから、さらに景気が悪化してしまうリスクがあるのではないかという気がします。

仙谷委員 終わります。

野呂田委員長 まことに恐れ多いのですが、公述人の皆さんにお願いでございますが、時間が大分超過してきましたので、答弁の方は簡潔にお願いいたしたいと思います。

 次に、鈴木淑夫君。

鈴木(淑)委員 自由党の鈴木淑夫でございます。四人の公述人の方、お忙しい中をお越しいただきまして、まことにありがとうございます。私の質問時間は十分と限られておりますので、クーさんと植草さんに対する質問に限定させていただきます。

 お二方の御意見、共通しておりますのは、財政政策は有効であるという点で、クーさんは、きいていないように見えるが、これをやらなかったらもっと大変なことになったという言い方をしておられます。植草さんは、財政政策の大きな対策が出たとき、あるいは緊縮方向へ振れたときに、ちゃんとその影響がサイクリカルに出ているという形で同じことを言っておられる。私も、そして我が自由党も、その見方は賛成でございます。

 ただ、もちろん地域ばらまき的な公共事業をどんどんふやしていけという意味ではなくて、お二人の公述人も既に言っておられますが、それは、もちろん構造改革によってもっと効率の高いところに公共事業もシフトさせるべきだし、また、民間より二、三割高いと言われているような単価を引き下げるべきだし、そうすれば同じ名目予算だって実質はぐっとふえるわけですしね。それから、中央で決めている補助事業なんかも、もっと地域に自治権を渡して、私どもは、補助事業は、原則として、人口三十万ぐらいから上の自治体には補助金相当額を一括交付して自主的に決めさせろ、その方がよほど効率の高い投資になるよ、こう言っているわけですが、そういう中身の問題はあるわけですが、それはそうとした上で、やはり財政政策は有効だ、それは全く同意見です。

 そこで、一つ御質問させていただきます。そういうことで、何とか、ふらふらしながらここ二年、製造業を中心に回復した。製造業を中心に企業収益もよくなってきた。ところが、クーさんが言われるバランスシートリセッションの状態にありますから、もうかったものを、キャッシュフローで入ってくるものを、一部は設備投資という前向きのものに使っていますが、他の部分は、借入金の返済とか、あるいは値下がりしちゃった資産の損切り売りとか、あるいは不良債権の償却とか、要するに、マクロ経済的には貯蓄行動になっちゃうような、いわば敗戦処理、そっちへ金が回っちゃっておるわけですね。だから、なかなか元気が出ないわけです。

 そこで、質問は、お二方それぞれ、財政政策、金融政策で何とか景気を支えているうちにバランスシートがちょっとずつ直っていくわけですね、そして以前のような勢いが次第に出てくると思うのですが、バランスシートを立て直すために一生懸命財政政策、金融政策で支える期間、あとどのぐらいですかね。

 つまり、これはなぜ聞いているかというと、非常に長いというと、その間どんどん財政赤字が膨らんじゃうけれども大丈夫かねという議論がすぐ出ますから、あとどのくらいだと考えていらっしゃいますか、お一人ずつお答えください。

クー公述人 私は、先ほどもちょっと申し上げさせていただきましたが、資料の四ページ目の試算に基づきますと、九七年から五・八年、ということは二〇〇三年ぐらいまでこういう状況を、とにかく財政で景気を下支えする、所得を下支えしてくれば、その所得を原資に皆さん借金返済を続けて、バランスシートは一九七〇年から八六年までの平均的な姿に戻るんではないか。それは、まだ平均的な姿ですから、物すごくいい企業とそうでない企業は分かれてくると思いますが、平均的にそこまで戻れば、最低過半数の企業は、かなり前向きの発想で動けるようになるんではないかという気がします。したがって、あと二年ぐらいの辛抱かなという気がします。

植草公述人 過去におきましても、景気が、例えば九六年も改善いたしましたし、昨年も改善したわけであります。この時点でいわゆる中立の財政政策を維持していれば、この景気回復が持続し、自律的な回復軌道が確保できたというふうに思いますけれども、景気回復軌道が実現する直前でいわゆる緊縮のブレーキを踏んでしまっている、これで事態を悪化させてしまった、これが大きな問題だというふうに考えております。

 今後の展開でありますが、いわゆる財政の景気自動安定化機能というようなことを踏まえますと、あらかじめ財政についていつまでにどうするということを決めるという基準ではなしに、景気回復が、例えば二年二%以上の成長が実現したのを確認できた時点で若干緊縮に戻していくとか中立を少しきつ目に変える、こういう基準が必要ではないかというふうに思います。

 もし二〇〇一年度、二〇〇二年度が二%以上の成長を実現するのであれば、二〇〇三年度からは政策のスタンスを変えるということは可能だと思いますが、今また事態が悪化しておりますので、結局それも少し先にずれ込むということになってしまっておりますので、重要な点は、これは私なりの暫定的な基準ですが、例えば二%を超す経済成長が二年実現したことが確認できた時点で政策のスタンスを修正していく、こういう基準が重要ではないかなというふうに考えております。

鈴木(淑)委員 ありがとうございました。参考にさせていただきます。

 そこで、二年なり三年なり、中立的なと今植草さんはおっしゃいましたが、それがどういう定義かわかりませんが、仮にプライマリーバランスが横ばいだとしても、赤字はどんどん累積する。クーさんはもう少し積極財政なのかもしれませんが、いずれにしても財政赤字は拡大していくわけですね。それについてどうお考えか。つまり、一般会計の中の国債費の比率はまだどんどん上がっていってしまうでしょう。財政の硬直化が間違いなく起こります。

 それから、私はクラウディングアウトはこんな状態で起きっこない、ISバランスが貯蓄超過のときに起きっこないと思っておりますが、しかし心理的にそういうことを心配して金利がぽんとはね上がるんじゃないかとかいう議論もある。財政赤字拡大としばらくつき合わなきゃいけない。それについてどういうことが必要だと考えていらっしゃいますか、お一人ずつお答えください。

クー公述人 財政赤字の規模がだんだん大きくなってきているというのは間違いない事実でして、これは大変懸念すべき事項でありますが、ただ、この財政赤字がどのくらい経済にとって悪いのかというのは、これは数量だけではなくて価格も見なくちゃいけないと思います。

 その価格、財政赤字の価格というのは、長期金利、まさに国債の金利でありますが、これは今ほとんど人類史上最低水準ということですから、現在では全く心配する必要はない。むしろ国民は今必死に国債を買おうとしている。国民自身が買っている場合も、または簡易保険とか公的機関が、または金融機関が買っているか、間接的に買っているか、いろいろありますけれども、これだけ国債の価格が上がっているということは、今の政策はマーケットが支持している政策であるというふうに思います。

 ところが、一方で危ない危ないということが余りにも広がっているものですから、すごい閉塞感が一方である。しかしマーケットは支持しているというところで、もう少しここは正しく説明をされて、そんなに心配することはない、マーケットは十分支持しているではないかということを言っていただければ、私は大分この閉塞感というのも解消されるのではないかという感じがします。

 一番恐ろしい形はやはり、余りにも財政赤字が大きくなって、そのことにちょっと没頭しちゃって、金利は低くて実際は問題になっていないにもかかわらず、無理な行動を金融当局、つまり日本銀行に強いてしまう。国債を買えとか、こういう話になってしまったときに、一気に日本に対する信頼が全世界的に落ちるリスク、これは一番怖い結末ではないかという気がします。

 財政赤字だけでつぶれた国はほとんどありませんが、それにおびえて金融政策を動員してつぶれた国、これはたくさんあります。中南米のハイパーインフレもみんなそうですが、そういう意味では、私は、本当に財政が行き詰まってにっちもさっちもいかない、金利が一四%あるような状況であれば、いろいろな別のことを考えなければいけないと思いますが、今全くそういう状況になっていないというときに、余り金融政策その他に無理をかけるようなことを考えるのは得策ではないのではないかという気がします。

植草公述人 簡潔に申し上げますが、私は、財政健全化十カ年プログラムというものを提示すべきだと思います。

 まず、景気回復を優先する。二年程度二%程度の成長を確保する。次に、五年程度時間をかけまして根本的な財政構造改革をやる。内容としましては、一般財政、これは地方行政の簡素化それから公共事業の見直し、そして特殊法人、公益法人の改革。さらに、一番重要な点はやはり社会保障財政の改革。これを五年程度しっかりやる。その上で最終的に必要な増税を検討する。これによって十年の時間をかけて財政の健全性を回復するというプログラムを国民の前に提示する、これが非常に重要なことだというふうに思います。

鈴木(淑)委員 お二方とも大変貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございました。

 質問を終わります。

野呂田委員長 次に、佐々木憲昭君。

佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。公述人の皆さん、大変お忙しい中公聴会に御出席をくださいまして、本当にありがとうございます。時間が十分しかありませんので、植草公述人と鈴木公述人のお二人にお尋ねをしたいと思います。

 まず植草さんでありますが、先ほどのお話で、景気回復の軌道に乗れば、資産価格の下落に歯どめをかけ、金融問題もよくなる、こういう筋のお話をされました。後段の議論はちょっと別といたしまして、問題は、前段のどうすれば景気回復軌道に乗せることができるかという点でありまして、この点で大事だと思いますのは、やはり実体経済が基本だと思います。

 示された株価のグラフを拝見いたしますと、九七年の消費税二%引き上げがその後の下落の引き金になっているというのは事実でございますが、その年は、さらにそのほかの負担も合わせまして九兆円負担増ということでありました。それが消費の低迷ということで大変なショックを与えたわけでございます。これが実体経済全体の後退を招くということでありました。最近の状況ですと、設備投資あるいは大手の企業利益は回復しつつある、しかし一番問題なのは家計消費がなかなか伸びないということでございます。

 そこで、景気刺激という場合に、財政のあり方を、これは量的な問題はあるとして、質的な問題として、ネックになっている家計消費をどう支援するか、それをどう引き上げていくかという方向に内容上転換する、これが私は大事だと思っておりますけれども、この点で植草さんの御意見をお聞かせいただきたいと思います。

植草公述人 最近の景気悪化の大きな要因が消費の減少であります。消費の減少は、昨年の後半でいいますと、所得が若干ではありますけれども増加に転じる中で消費が減少している、これが景気再悪化の最大の要因になっているわけであります。

 この消費を改善させるためにいかなる政策が必要か、こういう御質問というふうに承っておりますが、私は、端的に言いますと、先行きに対する不安が非常に強い、これが大きな要因だと思います。この先行き不安は二つの不安がありまして、一つは、目先、改善傾向にある景気が本当に回復軌道に乗るのだろうか、こういう短期の不安。それからもう一つは、年金財政、あるいは財政全般についてでありますが、将来どういうことになるんだろうかと。この二つの不安が消費を減退させている。

 そういうことからしますと、一つはやはり、これは先ほどの繰り返しになりますけれども、改善基調にある景気をしっかりと回復軌道にまで誘導するためのマクロの政策が必要だと。これが今回また緊縮に転じておりますので悪化に転じている、これを是正することが必要だと思います。

 それからもう一つは、長期の不安に対しまして、やはり長期的な日本の財政の健全性回復についての道筋を示す。これは、先ほど申しました十カ年の計画ということが必要だと思いますが、これをやる。

 財政の中身につきましては、公共事業ではなしに、例えば失業者に対する保障を拡充する、離職者支援制度を創設するためにある程度まとまった資金を投入する。こういうような施策を検討することも重要ではないかなというふうに考えております。

佐々木(憲)委員 それでは、鈴木公述人にお聞きをいたしたいと思います。

 消費を拡大するという上で、雇用労働条件の改善、これはやはり決定的に重要だと思いますけれども、一人当たりの労働時間というのは、短縮がこの不況の中でなかなか進まない。ますます過密労働、長時間労働ということも言われているわけであります。その実態がどうなっているのかということ。

 それからもう一つは、サービス残業、これは違法でありますが、これは当然規制すべきですけれども、サービス残業を規制することによって新たな雇用を生み出すということも可能だと思いますが、その点がどうかという点。

 それから最後に、国の雇用政策、対策で、予算との関連でどういうことを緊急にやってほしいというふうに思われるのか。

 この点、まとめてお話をお伺いしたいと思います。

鈴木公述人 佐々木先生おっしゃいますように、この間の労働時間の短縮、千八百時間を目指すというふうなことを言われて久しいわけですけれども、なかなか進んでおりません。

 一九九九年度現在、千八百四十八時間というのが発表されている数字でありますけれども、これには実はサービス残業が含まれておりません。それを全く抜きにした形でも短縮が進まないというふうな状況。私は実はサービス業に関係をしておるわけですけれども、サービス業の分野、商業の分野などでは、三千時間以上働く労働者はざらにいるというふうな状態があります。

 それから、国の職員である国家公務員がすごい実態にあるというふうなことが、霞が関の国家公務員の皆さんの国公共闘のアンケートで明らかにされましたけれども、三万人の方が霞が関一帯で働いていらっしゃるのですが、その人たちの平均的な月の残業時間は四十八時間であるというのですね。しかも、その四十八時間に対してどのぐらいの残業手当が支払われたのか。半分の皆さんが、半分も支払われていないというふうに答えていらっしゃる。こういう実態であるわけです。

 国の職員がこういう状況ですから、推して知るべしというふうなことが状況だというふうに思います。

 それに対して、サービス残業というのは一体どのぐらいあるのだろうということを鈴木英雄さんという研究者の方が試算をして発表されている数字があるのですけれども、それによりますと、千八百四十八時間の九九年度の労働に対して、三百七十四時間の不払い残業というものがあるというふうに計算をされています。これは私たちの実感に非常に近いものがあります。先ほどお話ししました霞が関の状況にも非常に近いものがあるというふうに思います。

 そういうふうな状況の中で、私たちは、やはりサービス残業をなくすということが、法律違反でもありますし、欠かせない課題だと思っているわけです。先ほどもちょっと触れましたけれども、そういうことを克服していくことが、つまりサービス残業を減らしていくことが、国の経済のいわば活性化に大きくつながる。それは、具体的には、三百万人を超えている失業者に仕事の機会を与えるというふうなことになるところが一番大きいのではないかと思います。

 さっきの先生の試算によれば、サービス残業をなくすことによって六百七万人分の雇用を拡大できる。もちろん全面的な安定雇用という形ではないでしょうけれども、雇用を拡大することができる。そうすれば十五兆円ほどのいわば賃金所得が獲得できる。こういうふうなことを試算をされておられます。

 政府の施策で予算をつぎ込むという問題もさることながら、このような施策を徹底することによって大きな経済効果をもたらすことができるというところにぜひとも御着目をいただきたいというふうに思います。

 フランスでは、昨年二月に三十五時間労働制をしいて、この三十五時間労働制に二百六十二万人が移行したそうです。その結果、二万二千の企業で移行が行われたそうですけれども、十八万人の雇用がふえたというふうな報告がされています。こういうことにも学びながら施策をしたいなというふうに思います。

 そして、それに関連して、今予算を確立するに当たってぜひともやっていただきたいという問題に一つ触れさせていただきたいと思います。

 一昨年になりますけれども、九九年度の補正予算で緊急雇用対策ということが組まれて、その一環として、九九年八月から二年間で二千億円という措置が行われました。各都道府県に交付をされたわけですけれども、緊急地域雇用特別交付金であります。

 この交付金、全国で歓迎をされまして、そして、いろいろ問題点はありますけれども、既に一千五百億程度がこの一年半の間に使い果たされているというふうに聞いております。残り五百億しかないという状況で、先ほども申し上げましたように失業状況は改善に向かっていませんから、そういう意味では一層の充実が必要だというふうに思います。

 そういう意味で、この緊急地域雇用特別交付金を大幅に追加する、そして同時に、二〇〇二年度以降も大幅に増額をして継続するという方向を検討していただきたいということ、いろいろ問題があると言いましたのは、例えば、もちろん総額の金額は大きくしないと三百万の失業者に対応できないわけですが、その問題と、それから、就労期間六カ月で打ち切りというふうなことではなくて、これに対する延長措置というのがどうしても必要だと思いますし、これにかかわる対象事業を拡充するということなども重要だというふうに思います。

 それらの改善を含めてぜひとも御検討いただきたい、そういうふうに思っております。

佐々木(憲)委員 どうもありがとうございました。

野呂田委員長 次に、横光克彦君。

横光委員 社民党の横光克彦でございます。きょうは、公述人の皆さん、本当に貴重な御意見ありがとうございます。

 まず、リチャード・クーさんにお尋ねしたいと思うのですが、ここ数年、大変な財政出動を図って、景気回復対策をやってまいりました。私たちも、そのことは一番の景気回復の近道であるという思いを持っておりました。

 しかし、それを数年積み重ねたにもかかわらず、なお現在のような状況、とりわけ平均株価がバブル崩壊後の最安値を更新したり、日本の国債が格下げをされたりというような事態まで今なっているわけです。ですから、私は、財政出動というものが確かに景気回復の近道である、効果を発揮するという思いを持っていたにもかかわらず、なかなかその結果があらわれない。先ほど仙谷先生のお話にございましたように、どこか出動したものが抜けていっているのではないかという気がしたわけですね。

 そうした中、きょうクーさんのお話の中で、バランスシートが壊れた中で借りるサイドがいなくなってしまった、唯一の借り手サイドとして財政の出動というものが非常に効果を発揮したというお話がございましたね。それはわかるのです。非常によくわかるし、その効果の発揮の仕方はGDPの下げどまりをとめる効果は確かにあった。そういった意味で非常に大きかったと思います。話を聞いたらよくわかりました。しかし、GDPをプラスに上げるまでの効果には至っていないわけですね。私はそう思うのです。

 そうしますと、これからあと二、三年こういう形が必要であるというお話でございましたが、結果的に残ってしまうのは国債残高の積み重ねではないかと。先ほど、それは市場が支持している限り不安はないんだというお話でございましたが、経済は生き物でございますし、いつまでも市場が支持するとは限らないわけですね。

 そういったことを考えますと、結果的に国債残高の積み重ね、これはもうこの数年、三十兆を超える国債がなければ予算を組めないという状況になっているわけですね。そうしますと、国、地方を合わせますと、いずれ数年のうちでこれは一千兆に到達するであろう、国民の不安はそこでさらに大きくなる。そうしますと、一番GDPにプラスになる個人消費というものがさらに冷え込むのではないかという気が私はしております。

 そういった意味から、私は、財政出動とともに、一日も早いいわゆる構造改革というものが必要だという気がいたしておりますが、そこのところに対する私の考えに対してのお考えをお聞かせいただければと思います。

クー公述人 確かに財政の規模が非常に大きくなってきたということは気になるわけですけれども、ただ、やはり、一千兆円の富が失われた国であるというところから考えますと、そんな一日二日で景気がよくなるなんて絶対あり得ないですね。

 だから、そこは、我々全員が当初これがバランスシート不況だということに気づかずに、国民に対して、これをやればすぐよくなると言ってきてしまった問題があって、でも、これがバランスシート不況だということであれば、それをもっと国民の皆さんに説明して、こういう病気なんだから、これは治療費は非常に高いけれども、ちゃんとやれば直るんだ、我々は決して間違ったことをやってきたわけではない、国民の皆さんみんな正しいことをやってきたわけですけれども、合成の誤謬ですね、みんなが正しいことをやって借金返済をやっているわけですけれども、みんなが同じことをやってしまうことで経済が悪化してしまう。これに我々は立ち向かっているんだということをまず国民に説明する必要があるんじゃないかという気がします。

 国民の心配がやがて消費の低迷にまで続くのではないかという御指摘ですけれども、私の資料の一番最初にごらんになっていただいたグラフをごらんになっていただいても、国民の貯蓄率というのは、財政が黒字のときも赤字のときも全く変わらない。これは遺伝子の問題かなと思うくらい安定しておるので、私は、そこまで心配していただかなくてもいいのではないかという気がします。

 構造改革については、まさにそのとおりで、まず財政で使われる金、これをいいプロジェクトで残していただければ、これは決してむだにはならないわけですし、さらに、先ほど申しましたように、今バランスシートがきれいになった企業もなかなかお金を借りようとしない。これは、やはりどんどん構造改革を進めて、そういう企業が積極的にお金を借りてでもビジネスチャンスをつかもうというくらい日本を魅力的な投資対象国にしていただく、こういう視点から、強い政策指導をとっていただきたいと思います。

横光委員 植草先生にお尋ねしたいんですが、これだけ財政出動をしながら景気の回復がいま一歩という現状の中で、一つの足かせになっているのは、やはり不良債権だと私は思うんですね。

 バブル崩壊以降、これは国を挙げて、あるいは金融機関、企業挙げて不良債権の処理に取り組んできたわけですが、実質には不良債権は減っていないというお話もございます。三十兆あると言われておりますが、実態はわからないほどあるのではないか。例えば、金融機関が倒産したときに、報告されている不良債権より、実態は何倍もあるいは何十倍もあったという例もあるわけでございます。

 そういったことから考えまして、今回、柳澤大臣が直接償却ということを表明いたしました。これは、ある意味では血を流さなきゃならない企業も出てくるわけですが、ある意味では、延命装置をしながら生き延びていた、あるいは生き延びさせられていた企業を、いわゆる延命装置を外してもらうというような形、大変な厳しい方法だと私は思いますが、このことをやらないと、不良債権の処理はいつまでたっても解決できないような気がするんですね。ですから、今回の柳澤大臣の考えというのは、私は非常に価値があることだなと。

 ただ、そのことによって、雇用の問題なんか大変な事態が発生します。そういったときにこそ財政を出動して対策を練る、そういった思いをしているんですが、この柳澤大臣の直接償却というお考えに対しては、どのようなお考えをお持ちでしょうか。

植草公述人 直接償却というのは、例えて言えば、いわゆる切開手術をして患部を取り除く、こういう措置だと思います。金融問題の解消のためには、最終的にこういう措置が必要だと思います。また、経済の運営の原則としても、自己責任原則というものを貫くために、当事者に責任をとってもらう、これも必要だと思います。

 ただ、切開手術というのは当然痛みを伴うものでありますので、通常は点滴を与え、輸血をして、麻酔をして切開手術を行う、こういう措置が必要でありますが、点滴もせず、輸血もせず、麻酔もせず、とにかく取り除くことが重要だとメスを入れれば、心不全を起こして死亡してしまう、こういうことも起こりかねませんので、私は、切開手術を行うための準備作業といいますか、その環境づくり、そういう点でやはり、経済そのものにある程度力を与える。輸血をし、点滴をする、それをした並行的にそういう切開手術をするということであれば、これはよい方向に向かうと思いますが、現状におきましては、残念ながら経済全体を改善させる政策がとられていない。むしろ逆に、景気を若干悪化させる方向に政策が動いておりますので、それをそのままにした中で直接償却だけがひとり歩きをしてまいりますと、むしろ予期せぬ混乱というものが生じてしまう、そちらを懸念しているということでございます。

横光委員 終わります。どうもありがとうございました。

野呂田委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。

 公述人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。

 午後一時から公聴会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午前十一時五十六分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時開議

野呂田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 平成十三年度総予算についての公聴会を続行いたします。

 この際、公述人の皆様に一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多用中のところ御出席を賜りまして、本当にありがとうございました。平成十三年度総予算について貴重な御意見を賜り、参考にいたしたいと思います。どうか忌憚のないお考えを御披瀝くださるように心からお願い申し上げます。

 御意見を承る順序といたしましては、まず鷲尾公述人、次に菊池公述人、次に木村公述人、次に大田公述人の順序で、お一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 それでは、鷲尾公述人にお願いいたします。

鷲尾公述人 御紹介賜りました連合の鷲尾でございます。平成十三年度の予算審議につきまして、私のささやかな考え方を申し述べたいと思います。

 まず最初に、予算審議のあり方についてでございますが、一九六〇年代以降、予算の政府原案が修正されましたのはわずか四回でございまして、しかも、そのうち三回は内閣みずからの修正によって再提案されたという部分でございます。

 私は、基本的に、今の政策決定あるいは予算決定の運営上、行政主導から政治主導へという基本的な考え方は大賛成でございます。その場合には、三権分立という立場から、国会の審議の中で予算が成立するというのが基本ではないかというふうに思います。

 したがいまして、もちろん、現在の流れからいいますと、政府におかれましては、政府原案の検討に長時間かけておるので、これが絶対のものであるというふうに御説明されるのは無理からぬことであろうと思いますけれども、基本的に予算自身は国会が決めるべきであるという原則に立って、議論の上修正を図るべきであれば大胆に修正を図るというのが基本ではないか、こんなふうに思っているところでございまして、今年度云々ということもございますけれども、予算審議のあり方について抜本的に検討していただくことを強く要請をするところでございます。

 そして、本年度の予算の問題についてでありますが、ちまたに財政構造改革か景気回復かという二者択一の議論がございます。私は、財政構造改革も進めながら景気対策をすることは可能であるというふうに考えているところでございます。政府の予算案を子細に点検することによって、財政構造改革を進めながら景気対策をすることはできるというふうに思っているところでございます。

 今日の経済が、長期不況から脱却しないまま一進一退を続けているという現状も一方では事実でございますし、それに何らかの手を打たなきゃいけない。さらには、一方では六百六十兆円にわたるような財政赤字を続けているというようなことについては、できるだけ早く解消していかなくちゃいけないという二つの大きな課題があるというのが現実の問題ではないかと思います。

 その中で、まず私は、今の景気低迷の最も大きな理由は消費にあるというふうに考えております。もちろん、景気というのは、御案内のとおり、需給ギャップが大幅に存在することによって起こるわけでありますが、これまで政府支出を行うことによって需要を創出しようという努力を続けておられた。このこと自体は基本的には間違っている政策だというふうに思うわけではありませんけれども、将来のことを考えた場合に、本当にこのまま垂れ流しで政府支出をふやしていいのかどうかというものについては疑念があるわけでございます。何よりもまず、国民生活を安定させることによって消費を回復させるということが重要ではないかというふうに考えているところでございます。

 今年度の政府予算案が、私が申し上げるまでもなく、一般会計につきましては前年当初予算比二・七%の減でありますし、一般歳出でいいますと一・二%増ということで、三年連続の大型予算になっているわけであります。

 しかしながら、私ども、この間、史上最悪の雇用失業状況や先行き不安を解消するための積極対策がこの中に盛り込まれているかどうかということについては疑問を感じざるを得ないわけでありまして、基本的な問題を先送りにした予算案であるというふうに言わざるを得ないと思います。

 御承知のとおり、二〇〇〇年度に入りまして、大企業製造業の設備投資の回復などから緩やかな景気回復が起こっているというふうに思うわけでありますが、一方、公共投資の減少や米国経済の減速などの懸念材料が加わっているわけでありまして、現在の景気回復の足取りはなお不透明であるというふうに判断せざるを得ないと思います。とりわけ、今申し上げましたように、個人消費が低調を脱していないわけでありまして、このこと自体は、企業収益の回復自体が家計所得に反映していないことに加えまして、戦後最悪の雇用失業状況のもとで、雇用不安や生活不安、さらには政治に対する不信というものが加わりまして、明るい展望を国民自体が見出せないというところに大きな要因があるんじゃないかと思います。

 私は、雇用対策こそが景気対策であるということを強調したいと思います。雇用の状況は、御案内のように本当に深刻でありまして、総務省が一月三十一日に発表しました二〇〇〇年の平均完全失業率は四・七%でありまして、戦後最悪でありました九九年と同水準でありました。完全失業者数は三百二十万人というところに到達しているわけでありまして、この三百二十万人という数字は大変大きいものがございます。とりわけ、非自発的失業者が百万人を超えているというような状況でございまして、百万人の首切り者が存在するということについて私たちは重く受けとめなければいけない、こういうふうに考えているところでございます。こうした雇用不安があるからこそ消費が拡大しないという事実を、我々は重く受けとめるべきじゃないかと思います。

 現在、春闘と呼びならされている労使交渉が展開されているわけでありますが、経営者側も、私たちの賃上げ要求に対しまして、雇用を守ることが消費を拡大することになるということを強調しているわけであります。これを一方的に受けとめますと賃上げがなくなってしまうということで、我々は反論しているわけでありまして、雇用も賃上げもというふうに言っているんですが、経営者も雇用確保こそが景気回復には役に立つということを強調しているところでございまして、ぜひとも今年度予算においても、さらに充実した雇用対策を強化していただきたいと思います。

 二点目に、問題は、社会保障の不安がますます募っているというところでございます。

 今回の予算案でも、社会保障費は非常に大きな伸びということになっておりますが、年金につきましては、昨年の国会で、給付水準のカットや支給開始年齢の引き上げなどの改悪が行われたわけでありまして、今後の少子高齢化の老後生活を支えられるかどうかという不安が国民の中に蔓延しているということでございます。

 私も若い人と会話をしますと、これは俗論なんですけれども、私たちが年金を掛けてももうもらえないんではないか、減らされることがあってももらえないことはないよ、年齢の引き上げというか引き下げといいますか、開始年齢が遅くなることがあるけれども、もらえないことはないんだよというふうに言いますけれども、信じていないというのが若い人の現実でございまして、こうした不安感を払拭するということが何よりも大切なんではないかと思います。

 もう一つは、今年度本格的な検討が加えられるというふうに言われております医療制度の問題についても、抜本改革を先送りしているということになっております。

 この実情は惨たんたるものでございまして、健康保険組合の赤字による解散というものが続いているわけであります。赤字組合というのは二〇〇〇年度の予算ベースでは千四百六十七組合でございまして、健康保険組合の八三・一%に当たる赤字組合が存在する。このまま抜本改革を進めない限り、いずれ医療保険制度はパンクするということは明らかでございます。また、政府管掌健保の財政状況についても、二〇〇〇年度の予算については二千七十七億円の赤字ということが予想されているわけでありまして、こうした抜本改革を先送りすればするほど赤字が膨らむということになってしまっておりますので、こうした面について、今回の予算案でも十分考えていただかなきゃいけない、こういうふうに考えるところでございます。

 三点目については、金融システムの問題でございますが、公的資金の注入による金融機関の資本増強やここ数年の低金利政策にもかかわらず、不良債権の実質処理は進んでいないわけでありまして、この問題が景気の行方に大きく影響しているということも事実ではないかというふうに思います。

 また、最近の物価下落でございます。これも、先ほど御紹介いたしました春闘では、経営側から、物価が下がっているんだから賃上げは必要ないんじゃないかという発言もあるわけでありますが、私どもは、消費者物価が下がるということは、基本的には悪いことでないと思いますが、デフレスパイラルをまたさらに助長する危険性があるということでございます。過当競争による物価下落あるいは外国からの輸入攻勢による物価下落によって日本の企業は存続ができなくなる、そうするとまた雇用には悪い影響が起こる、悪い影響が起これば消費拡大に水を差すというような部分がございまして、必ずしも消費拡大、景気回復に役に立たない物価下落があるということについても認識をしていかなきゃいけないというふうに思います。先行き不安からくる消費の引き締めによる要素もありまして、何よりもまず、雇用の改善と先行き不安の解消が抜本的に行われない限り個人消費は盛り上がらない、こういうふうに考えるところでございます。

 私どもは、今回の予算案について、幾つかの要求を掲げております。

 まず、生活関連分野を中心に、国、地方自治体の主導による百四十万人以上の雇用をつくり出すことが基本的な政策に織り込まれるべきではないかと思っています。失業者四十万人規模の離職者職業訓練の実施と新規学卒未就業者二万人に対する職業訓練委託事業を実現するというようなことが織り込まれなければいけないというふうに考えています。

 政府予算案の雇用対策費については、前年当初予算比は一三%増でありますけれども、何よりもこの対策は、失業者の増加に伴い、セーフティーネットを張るということで雇用保険国庫負担金を積み増しただけにすぎず、政府が責任を持って雇用創出をするというような積極的な予算になっていないというところが問題ではないかというふうに思います。

 私たちが試算したところでは、五十歳で失業した、いわゆるリストラされた年収六百八十万円の労働者、四人家族、三人扶養でありますと、年間二百九十七万円の失業コストが予算から出ていく、雇用保険その他から出ていくということになりますので、失業者が一人ふえるたびに、今の標準世帯でいいますと、年間約三百万円弱の政府支出がふえるという計算になります。したがって、積極的な雇用創出をすることが予算の削減にもつながる、こういうふうに考えるわけでございます。

 二番目に、先ほど申し上げましたように、将来、先行き不安の問題でございますが、社会保障基盤を確立するために、基礎年金の国庫負担率の二分の一への引き上げを引き続き私たちは要求しているわけでございます。

 この点については、最近、段階的に二分の一にするという案も出されたようでございますけれども、ぜひこれは二分の一への引き上げについて積極的に進めていただきたい、このように考えておるところであります。また、先ほども申し上げましたように、診療報酬体系の改革や現行の老人保健制度にかわる新しい高齢者医療制度の創設など、医療制度の改革を抜本的に進めていただくことが大事であります。

 政府予算案の中には、少子高齢化対策として、児童手当の支給対象者の拡大や、保育サービスや介護サービスの若干の増加が見られるわけでありますが、私たちが要求したものとはほど遠いというものが見られるわけでありまして、積極的に進めていただきたいと思います。

 さらに、現在、仕事と家庭の両立支援法に現行の育児・介護休業法を改正するように運動を進めているところでございますが、男女がともに育児、介護ができる社会を実現するということ、そのことが基本的に少子高齢化対策になるんではないかというふうに考えておりますし、派遣労働者あるいはパートタイマーなどのすべての労働者に対しまして育児・介護休業制度を適用させるということが必要でありますし、保育所の拡充や労働時間の短縮などを求めていきたいというふうに考えています。

 公共事業でございますが、昨年と同水準の九兆四千億円の公共事業費を計上しているわけでありますが、公共事業にめり張りをつけるということで、日本新生プランということで、公共四千億、非公共三千億円の四分野に対しまして七千億円分について予算がつけられているわけであります。重点化を強調されているわけでありますけれども、中身を拝見いたしますと、もともとの根っこの予算まで含めて考えますと、従来型の土木工事を踏襲したものにすぎないというふうに考えざるを得ないわけでありまして、土木工事等の経済への波及効果が非常に衰えてきているというような実情から考えますと、こうしたものについては、いわば組み合わせといいますか、配分の変更というものを大胆に行うということが必要なんではないかというふうに強く感じているところでございます。

 この点についても、お手元にもパンフレットをお配りしておりますが、私どもの考え方についてはそれをお読み取りいただきたい、こういうふうに考えているところでございます。

 次に、今申し上げました土木工事中心の公共事業でありますが、財政出動を中心とした政府の景気対策については、せっかくお金をかけているにもかかわらず景気対策としての効果が薄いということを言わざるを得ないわけでありまして、いわば、先ほどから申し上げましたように、基本的な国民生活の安定ということによって消費を拡大することが基本的な景気対策であらねばならない、このように考えているところでございます。

 財政構造改革はもちろん早急に着手する必要がありますが、財政構造改革というのは、単なる歳出の削減や収入の増を伴う財政収支の問題ではなく、こうしたことによって逆に景気が悪化するという部分もございますから、財政構造改革と景気回復を両立させるというためには、単に歳出を一律カットする、あるいは歳入をはかるために税金を上げるというようなことについては避けるべきではないか、私はこのように考えているところでございます。

 こうした問題を打開するために、二〇〇一年度の政府予算案については、先ほどから繰り返しておりますが、勤労国民の雇用と生活の不安を解消する対策を中心とした政府予算へ組み替えることを求めるわけでございます。

 現在、二〇〇一年度の政府予算案の四野党の共同組み替え要求案がございますが、連合としては、特に雇用対策や介護保険の基盤拡充、公共事業の組み替えなどについても意見を申し入れたところでございまして、四野党共同組み替え要求を重く受けとめ、我々の切なる思いをお酌み取りいただき、二〇〇一年度政府予算に反映してもらいたいというふうに思います。

 最後になりましたが、政治への国民の信頼を取り戻すことが非常に重要であります。

 KSD汚職の問題については、ものつくり大学の私物化、施政方針演説変更疑惑、アイム・ジャパン疑惑を初め、その全容を解明することが、特に政治家の関与を明らかにするということが重要ではないかと思います。

 私自身は、ものつくり大学そのものがおとしめられたということについて非常に懸念を感じているところでありまして、今後、日本が物づくりを大切にするということは重要でありますけれども、こうしたものについて徹底的に解明をしていただきたいというふうに考えます。

 機密費問題については、松尾元室長個人の犯罪にとどめることなく、こうした問題を生んだ外務省の機構や機密費のあり方にメスを入れ、透明性と必要なチェック体制を確保することを強力に求めるわけであります。

 国民は、単なる特定の政治家の政治倫理の問題や官僚の使い込み問題とは見ていないわけでありまして、こうしたものを生んだ構造的なうみが噴き出したものと見ているわけでございまして、こうした構造腐敗を徹底解明し、政治のゆがみを正すことが喫緊の課題であるというふうに考えているところであります。

 以上、非常に雑駁でありますけれども、私の公述を終わりたいと思います。ありがとうございました。(拍手)

野呂田委員長 ありがとうございました。

 次に、菊池公述人にお願いいたします。

菊池公述人 御紹介いただきました菊池でございます。

 きょうは、私の意見をここで申させていただく機会を与えていただきまして、大変光栄に思っております。私は大学の教員でございますから、中立の立場で、財政金融の理論とかそういう面から私の意見を述べさせていただきたいと思います。

 お手元に資料がございますので、その資料を御参照ください。時間の制約がございますので、私の意見をまとめておきました。それから、数字を説明させていただきますので、途中からパネルを使わせていただきます。

 私の主な公述内容でございますが、まず、平成十三年度予算に対する私の所見を四点に集約して申し上げます。次いで、第一点の日本の財政状況と財政再建について時間を割いて所見を申し上げ、最後に、デフレ経済からの脱却戦略、そういうことについて私見を述べさせていただきます。

 まず第一に、私は、平成十三年度の予算案に賛成であり、一日も早く成立させていただきたいと思います。しかし、なぜこの予算案を六年ぶりの緊縮予算にしなければならなかったのか、私は大変理解に苦しむわけでございます。

 日本の財政は、総債務、つまり借り入れだけで把握しますと、GDP、国内総生産比率で見て主要国の中で最悪でございます。しかし、総債務から金融資産を控除いたしました純債務という観点からGDP比率を見ますと欧米平均並みでございまして、決して悪くはございません。しかも、日本国は資産超過で、債務超過ではございません。しかも、対外的には債権国でありますから、私は決して財政が危機的であるとは思いません。十分まだ支出余力があるのではないかと考えております。

 したがって、日本の財政事情を適正に把握しておれば、平成十三年度予算は積極財政にすべきではなかったのかと考えます。

 第二番目には、株式市場の活性化と金融システムの安定化のためには、銀行が本体で所有しております株式、これを銀行から切り離しまして、株価の下落が金融不安に直接影響を及ぼさないような、そういうシステムを早急に検討すべきであると考えます。

 銀行が収益対策や株式の持ち合い解消のために株式を市場で売却いたしますと、株価が下がります。株価が下がりますと銀行の自己資本が減額いたしまして、ここにはBIS規制というルールがございますので、自己資本が減額した分に相当して、実は一兆減額いたしますと、八%自己資本を維持する銀行でございますと十二・五兆貸し出しを落とさなきゃいかぬということになります。したがって、貸し渋り、信用収縮を招きます。こうなりますと実体経済が一層低迷いたしまして株価がさらに下がる、こういう悪循環が続くわけです。

 現在進んでおりますこの悪循環を断つためには、銀行本体の株式残高を凍結いたしまして別の組織へ移管することだと思います。こうした措置をとれば、株式市場が活性化いたしますし、十年以上も継続する資産デフレを解消する道が開けるのではないかと考えます。この方針を本年三月末までにお決めいただき、銀行の株式保有の弊害に決着をつけていただきたいと思います。

 どういう形がいいかといいますと、現在主要国でとられているシステムとしては、アメリカ型が望ましいのじゃないか。つまり、金融持ち株会社のもとでの銀行子会社、証券子会社、そういう場合には、証券子会社は株式を保有してもよろしい、やってもよろしい、しかし銀行本体は株式は一切持つことは禁止します、それから、あるいは銀行の子会社として証券会社を持ち、その子会社である証券会社は株式を扱ってもよろしい、これが現在、九九年十一月に成立いたしました最新のアメリカの銀行システムでございます。

 それから第三番目には、本年三月末に失効いたします金融機能早期健全化緊急措置法を少なくとも五年間延長していただきたいと思います。

 これは金融システムのセーフティーネットでありまして、この法律の失効が近づいていることが、株価の低迷と金融不安、信用不安の根本的な原因ではないかと思います。この法律は議員立法で成立しておりますので、議員の先生方の御発議をお願いしたいと思います。

 この法律のひな形となりましたアメリカの三三年緊急銀行法は無期限でございまして、実に一九五四年まで二十一年間、セーフティーネットとして続いたわけです。

 それから第四番目には、現在日本で特に重要なことは、マクロ的見地から財政と金融の一元的政策を進めることだと思います。

 現在の日本は、政府が財政支出をふやして必死にデフレ解消に努めているにもかかわらず、金融政策は、デフレ解消どころか引き締め政策をとっていると考えられます。こうした矛盾を解決いたしますには、雇用と経済成長促進法といった法律を制定して、政府が金融と財政の一元的政策を進められるようにするべきではないかと考えます。

 アメリカでは、完全雇用と均衡成長法、フル・エンプロイメント・アンド・バランスド・グロース・アクト、これはハンフリー・ホーキンズ法といって、先生方御存じのとおりと思いますが、こういう法律がございまして、中央銀行は、インフレを抑制しつつも、金利操作と通貨量の増加によって最大限完全雇用と経済成長をもたらすように金融政策を遂行することが義務づけられております。この法律によりまして、連邦準備制度の理事長、中央銀行の総裁である、今ですとグリーンスパン総裁は、年二回、二月と七月に議会で証言いたしまして、政府、議会の意見を十分取り入れて財政と金融の一元的な運営が行われているわけです。日本も、こういった法律を参考にして成案すべきではないかと考えます。

 それでは次に、一番最初に申し上げました日本の財政事情と長期ビジョンというところについて私見を申し上げます。

 私の現状認識といたしましては、デフレ型の金融政策と緊縮予算案が株安、景気失速懸念の原因ではないかと考えております。現在、日本国民の多くは、日本経済の将来に対して不安感を抱いております。この根底には、長期にわたる経済の低迷と過度の悲観論があると思います。

 九八年七月に就任されました小渕前総理は、財政再建策を凍結され、公的資金の注入によって金融危機を乗り切り、積極財政をとって恐慌的不況の克服に全力を尽くされました。特に、九九年秋の補正予算では真水九兆円の支出ということをお決めになり、これが日本経済を大きくマイナス成長からプラス成長に引き上げる原因であったと考えます。平成十二年度予算も積極型で、これで日本経済は成長路線に乗るかと期待されました。

 ところが、昨年の夏ごろから、一部の識者が総債務だけで日本の財政をとらえ、日本の財政事情は危機的であって、破綻寸前であるかのように誇張され、マスコミもその論調を強めたために、やむなく昨年秋の補正予算は真水で四兆円の増加にとどまりました。これで、九九年秋の補正予算に比べて五兆円の減額となります。

 また、平成十三年度の現在御審議いただいております予算案では、六年ぶりの緊縮、減額予算でございまして、金額では前年に比べて二・七兆円の減額ということになっておると思います。ですから、平成十三年の予算支出は前年比で八兆円の減額となり、景気抑制型、むしろデフレ型予算というのが実態ではないかと考えます。株価が一段と低迷し、金融不安が再燃し、景気失速が伝えられる大きな原因はここにあるのではないかと考えております。

 加えて金融政策は、昨年八月のゼロ金利解除によりまして金利の引き上げと量的な引き締めがとられております。このまま何ら手を打たないで放置するとしますと、平成十三年度には経済がマイナス成長に陥るのではないかと私は実は懸念いたしております。本年四月以降の景気動向を十分注視されまして、景気が失速しそうになった場合には早目に補正予算を御検討いただくのがよろしいのではないかと考えます。真水で例えば十兆円支出するといたしましても、平成十三年度の前年比支出増加額はわずか二兆円にすぎません。

 二番目といたしまして、私は、日本の財政は決して危機的ではない、純債務で財政事情を適正に把握すべきであると申し上げました。

 そこで、この純債務というのは具体的に言ってどのような形になっておってどうなのか、御存じと思いますが、ここでパネルを使いまして御説明をさせていただきます。純債務で日本の財政事情を説明してきたというケースは今まで余りないのではないかと思いますので、御説明申し上げます。資料といたしましては、右上の三ページをごらんください。

 まず、手順といたしまして、皆様十分御存じと思いますが、日本の資金循環というのはどうなっているかということでございます。

 家計、企業、それから政府、海外、こういうふうに考えますと、まず、ここに書きました数字でございますが、上に書きました数字は、九九年度、平成十一年度の実数でございます。昨年十二月に出ました経済企画庁の国民経済計算、そこからとっております。括弧内は一年前の数字でございます。

 そういたしますと、金融資産、家計部門には千四百八兆ございます。そのうち、家計が使っておりますのが三百八十四兆ありますから、家計部門の余剰が千二十四兆、それから下に金融機関で別勘定で計上しているものがありますので、実際の余剰は千六十二兆でございまして、これは一年前に比べますと百兆ふえております。大体ここのところ個人金融資産というのは百兆ぐらいずつふえているんですね。

 それがどう回っているか。企業部門の不足に七百四十九兆、それから政府部門の不足では純債務として二百二十八兆あります。実は、政府部門には総債務六百十八兆の負債がございます。しかし、金融資産として三百九十兆持っておりますから、この部分を引きますと二百二十八兆が純債務でございます。それから、残りは海外の債権として八十五兆、こういうふうに回っております。

 ですから、これは極めて健全に処理されておりますから、安定的な資金調達で推移しております。

 次に、その右側の日本政府の貸借対照表でございます。

 これはどういうふうになっているのだろうかということで、特に昨年の十月に大蔵省から、日本国は債務超過であるというような数字が出ましたので、かなり注目を浴びました。しかし、私が計算いたしますと、決して債務超過ではございません。

 どこかといいますと、まず金融資産、この数字も平成十一年度、九九年度の実数でございます。括弧内は一年前でございます。合計しまして資産が八百七十七兆ございます。金融資産が三百九十兆、固定資産が三百三十二兆、土地が百五十五兆、金融資産は全体の四五%、固定資産は三八%、土地は一七%です。これは、ある程度時価評価しておりますけれども、含みもございます。

 一方、負債はどうか。国民経済計算によりますと六百十八兆ございます。これは先ほどの負債に合うわけですね。一方、正味資産というのがこの差額で二百五十九兆ございます。ですから、ここで見る限りは日本は資産超過国です。

 しかし、昨年十月の大蔵省の発表によりますと、負債のところに公的年金と公務員の賞与・退職給与引当金、こういうものを計上しまして、その部分は正味資産を上回る、したがって債務超過である、これが三通りあるというふうに言われております。

 しかし、ここで私が思いますことは、公務員の方々のこういった賞与とか退職給与の引当金というもの、これは税収によってカバーされているわけでございまして、将来にわたっても税金に対する徴収権というものは政府にあるわけです。一方、国民年金でございますが、これも賦課方式をとっておりますし、将来にわたっても保険料の徴収権というものは政府にあります。そういった将来の徴収権というのは資産と考えるべきではないかと思います。

 それを考えますと、この負債というのは、ある意味ではやや疑問を感じます。私自身は、ここに負債として計上するのはいかがなものかと考えております。ですから、いたずらに日本国は政府も負債だというようなことをやや誇張し過ぎるのは、国民をかえってミスリードすることにならないだろうかと私は考えます。

 ついこの前、タクシーに乗りまして運転手さんと話していましたら、国もいよいよ債務超過なんですね、一体この国はどうなるんですかとおっしゃいましたから、ちょうどこれを僕は計算した直後だったんですが、いや、こうこうこうでそんなことないんですよと言ったら、そうですか、だけれどもみんなそう思っていませんよ、こう言っておりました。ですから、いたずらに国民に不安感を醸し出すような考え方はいかがなものかと私は疑問を感じております。

 では、次に参ります。ペーパーは四ページに行ってください。

 ここでは、日本の総債務と純債務というものを九五年から分析してみました。そういたしまして、二〇〇一年度、今の予算案もここに入れてみました。そういたしますと、四ページの左の上のような表になります。特に九九年というところに丸をつけてございますから、九九年で見てみたいと思います。この表は、左が、一番上がGDP、それから総債務、三番目が総債務のGDP比率、それから金融資産、それから純債務、つまり総債務から金融資産を引いたものが純債務ですね。それから一番下はその純債務のGDP比率、こういうふうに表をつくってみました。

 そういたしますと、九九年、実数といたしましては、総債務のGDP比率は一二〇・三%、しかし純債務のGDP比率は四四・三%、この差額、実に七六%ポイントもあります。ここに実は日本の特徴がございます。ほかの国は大体一五%ぐらいなんです。この後御説明いたします。

 そこで、それではなぜ純債務という考えの中に入れる金融資産の内訳というのが余り表に出てこないんだろうかというふうに考えられると思います。これを見ていきますと、それでは、金融資産の内訳はどうかというと、その下の表、左の表の下でございます。図表四、この数字、左が合計でございます。それから右へ行きまして、内訳の最初のところが社会保障基金、その右が外貨準備、貸出金と出資金、いわゆる政府の貸出金とか債権でございますね。

 問題は、社会保障基金というものでございます。これは、御存じのとおり、年金と国民健康保険の残高でございます。これを九六年からずっと二〇〇一年まで見ますと、実は、ほとんど残高としてはもちろん黒字といいますか、かなりの金額がございますし、年々十兆円近く増加しているんですね。

 確かに、現在、健康保険の問題とか国民年金というのは、年齢構成とか将来に向かって問題になっております。ですから、十分今から手を打たなければならないことは確かです。しかし、現時点ではこれは黒字なんです。これが黒字なんだということを知っている国民はどのぐらいいらっしゃるんでしょうか。私も実はこれをやってみて初めて、こんなに黒字なんだなということがわかりました。

 ですから、ここで私が申し上げたいことは、こういった社会保障基金も黒字である。それから、日本は債権国ですし、対外的に外貨準備もあります。既に三千六百億ドル、四十兆を超す外貨準備、史上最高のがあるはずでございます。ですから、そういうものはきちっと国民に正しく伝える。しかし、特に社会保険機構は年齢構成とかいろいろな角度でこれから難しくなるからひとつ協力してもらいたいという前向きのプレゼンテーションをすれば、国民もよくわかるんじゃないか。何か現在では、あれも悪い、これも悪い、日本は沈没するんじゃないかというようなイメージ、まあ、マスコミなんかはそういうのが好きですから、特にこちらにあおられている、これは非常に問題だと私は思いますけれども、いずれにしても、純債務で見ることによってこの辺のことは正確、的確に把握できるのではないかと私は思います。

 それでは、その次の五ページへ行ってください。そこで、日本の財政事情をアメリカ、イギリス、ドイツ、この三国とちょっと比べてみます。そうすると、非常におもしろい数字が出てまいります。

 五ページの左の下をごらんください。まず第一、日本の総債務と純債務のGDP比率、これを国際比較してみましたのがその左の下でございます。ちょうど真ん中の図表六は、総債務の残高の対GDP比率。これで見てみますと、九九年、一番右の方ですね、確かに日本は一二〇・四、ドイツが六二・六、イギリスが五四・〇、アメリカは五九・三、アメリカは特によくなってきていますね。一方、これを純債務で見てみますとその下のような形になっていまして、日本はどうなっていますか、四四・三、ドイツが四七・一。ドイツが実は一番悪いんです。それから、アメリカはよくなって四四・〇、イギリスが三九・七、こういうふうになっております。ですから、純債務で見ますと日本の財政はそんなに危機的ではないと私は思います。

 それから同時に、前回の財政構造改革というのが行われましたのが、九六年に決まって九七年度でございました。そのときに一体純債務はどのぐらいだったのかと見てみますと、その下の表の真ん中のところに二一・三とございますね。実に純債務のGDP比率は二一・三%だったんです。ですから、ほかの国に比べて半分ですね。これは健全財政ではなかったか。

 ですから、当時、九七年の三月だったと思いますが、アメリカのゴア副大統領が日本に来られまして、もっと金融資産があるじゃないかというようなことをおっしゃったようで、新聞で読んだことがありますけれども、このことではなかったのか。そういうことはこれで裏づけられます。

 それでは、日本の財政というのはどういう構造なのか、実は非常に特異な構造があるわけでございます。

 まず、一番上の表をごらんください。上の表は、主要国の経済、財政事情というものを項目別に整理してみました。一番上が経常収支、それでプラスが経常収支のプラス、つまり輸出の方が輸入より多い、それから三角は輸入の方が多い、マイナスでございます。それから、二番目が国内投資と貯蓄、Iが投資でSが貯蓄でございます。だから、IとSで不等式になっておりますが、Iの方が多いということは貯蓄よりも投資の方が多い。それから三番目、財政収支、これは三角がマイナスでプラスが黒字でございます。四番目、対外債務国か債権国か。三角は対外的に債務国です。プラスになっていますのは債権国です。これは日本だけです。それから、五番目が総債務のGDP比率、六番目が純債務のGDP比率、これは先ほどの数字を全部書いてあります。

 そうしますとどういうことが言えるかといいますと、まずアメリカの場合は、これは債務国でございます。しかし、経常収支はずっと輸入の方が多い。国内も貯蓄率がマイナスのような国ですから、投資の方がずっと多いです。それから、下の方を見ますと、総債務と純債務の比率は、総債務が五九・三、純債務のGDP比率が四四・〇ですから、一五・三。こういう一五・三%ポイント、つまりこの数字が両方の見方のギャップでございます。

 それからドイツは、経常収支は全部プラスでございます。しかし、その下の投資と貯蓄を見てみますと、この国は投資の方が多いんですね。これは、統合の結果が影響していると思います。それから、財政は赤字でございます。それから、総債務と純債務を見てみますと、総債務が六二・六、純債務が四七・一ですから、この差額は一五・五ということになります。

 イギリスはどうか。イギリスは、九七年以外は経常収支は赤字です。それから国内はどうかといいますと、この国は九八年までは貯蓄の方が多かったのですね。そこで実は財政赤字をやったのです。それで、積極的な財政をやりました結果、九九年には内需が喚起されて、同時に財政も黒字になった。この両方の先ほどのポイントは一四・三。ですから、ほかの国は大体一四、五%ポイントの差しかありません。

 一方、日本はどうか。これは非常に特異な性格を持っておりまして、国際収支は全部プラスでございます。それから国内はというと、貯蓄の方がはるかに多い。これがずっと続いております。財政は赤字です。対外的には債権国です。両者の比率は実に七六%、非常に大きいわけですね。

 ここから見ますと、非常に日本の特徴がはっきりしてまいります。どういうふうにはっきりしてくるかといいますと、右下の日本の特徴を見ていただきたい。

 三番目には、九七年度の財政を出した時点では、先ほど申し上げました。

 四番目の、財政構造の点から見て均衡財政ということはあり得ない国だ。それは、右の一番上に財政理論ということをちょっと書きましたけれども、通常、経常収支が赤字の場合には国内は投資の方がふえる、経常収支が黒字でございますと貯蓄の方が多い。それから、ドーマーの定理ということで、債務コストよりも経済成長率が高ければ債務は自然と消えていく。当たり前のようなことですが、こういうようなことが言えます。ですから、日本について言えることは、こういうような財政構造から見ますと、下の方の四番目、財政構造の点から見て均衡財政というのは日本に当てはまりません。

 五番目には、常に輸出超過国で、今後ともこの動向が期待され、国内は貯蓄が投資を上回るので、ほかの国以上に政府が公共投資で資金を民間へ還元する政策が必要である。

 それから六番目には、国民負担率は主要国の中で最低です。これはその左上の下のところに書いてあります。日本はGDPの比率で一・三から一・四、アメリカが二%、欧州が三%という形になるわけです。

 こういう面から、私は、日本はそう危機的ではないということでございます。

 最後に、時間が超過して恐縮ですが、日本の財政再建についての基本的な考え方といたしましては、まず、構造改革ということと財政再建を切り離してきちっと考えるべきであろうと思います。

 財政構造改革というのは、税収の増加対策、それから効率の低い支出は削減するということで現在既に実施中ですし、これをもっと強めるべきだ。それから、財政再建というのは、やはり景気が回復して三%以上の成長が持続できるようになって、しかもそれが軌道に乗ってから行うのが望ましい。今まで経験的に見まして、ほかの国でも、景気下降期で財政再建改革で成功した例はございません。

 二番目は、社会資本の充実が必要な国でございますから、政府が公共投資を継続しなければならない国です。ですから、四百兆円ぐらいの国債残高は常にあっていいのではないか。これはよい財政赤字であって、次の世代に引き継いでもいいのではないかと思います。

 それから三番目には、社会保障基金は現在黒字です。将来にわたっての問題は既に検討中であり、過度の心配は無用である。この辺は国民にもこういう事態をしっかりと説明すべきではないか。景気を回復して増加した所得の中から徐々に負担率を上げる、こういう考えが望ましいのではないかと思います。

 最後に、デフレ経済からどう脱却するかということですが、現在の日本は、総力を結集してデフレ経済からの脱却を考え、実行すべきであると考えます。政府は、明確なビジョンを示し、国民の不安感を解消していただきたいと思っています。

 目標は、やはりGDPの三%以上の成長。財政支出はまだ十分可能で余地がございます。金融政策を早急に成長型に変え、銀行の不良債権と株式保有の抜本的解決を並行して進め、また、物価下落を食いとめるためには、セーフガードの発動、円安誘導などを実行してもよいと思います。こういうものを総合して継続して実施することが必要ではないかと私は思います。政府の予算にそういった面での具体化をぜひお願い申し上げたいと思います。

 どうも失礼いたしました。(拍手)

野呂田委員長 どうもありがとうございました。

 次に、木村公述人にお願いいたします。

木村公述人 ただいま御指名を受けましたKPMGフィナンシャルの木村でございます。私は、金融専門のコンサルティングをしている立場から、事実に即しましてお話をさせていただければと思っております。

 先生方のお手元に、「日本経済と金融の行方」という横長の資料を配付しておりますけれども、その資料に沿いまして、私なりに今の経済と金融の状況を分析させていただきたいと思うわけでございます。

 まず一ページ目を開いていただきまして、「公表不良債権の推移」というグラフがございます。

 これは、先ほどG7でも指摘されましたように、海外の目は相当厳しゅうございまして、日本の金融システムの問題はかなりまだ重いのではないかと思われておるところでございます。事実、公表されておるだけの不良債権を見ましても、金額がなかなか減らないということでございますし、その下の折れ線グラフを見ていただきますと、貸出金に占める不良債権の比率が年とともに上昇をしておる。残念ながら、バブル崩壊と言われて十年後に至って不良債権比率が上がっておるということは悲劇と言わざるを得ないわけでございます。

 事実、アメリカが非常に苦しかった一九八〇年代後半から九〇年にかけまして、アメリカにおきましても銀行危機というのは起こっておりましたけれども、このとき、六%以上から一〇%の不良債権比率というのは相当危険であるというふうにみなされておったことを考え合わせれば、現状の日本の金融の実態が軽々に楽観視できるものではないということは明らかなように思われるわけでございます。

 それでは、海外はどのように見ておるのかということを次のページで改めて確認させていただきますと、彼らが必ず議論をするのは金融とGDPの関係でございます。すなわち、金融と経済規模の関係でございます。

 実際、ついこの間、S&P、スタンダード・プアーズという格付会社が日本の国債を格下げしたときもこの理屈を使っておりましたけれども、日本の不良債権のGDPに占める比率は相当高いということを言わざるを得ないわけでございます。六%内外という数字、これは海外から見ますと相当厳しい局面にあるというふうに思っておりますし、彼らの見方は、これは公表しただけではないか、まだ未公表の残高があるのではないかというふうな見方をする向きも少なからずありますので、日本の不良債権の問題、このインパクトは非常に重いと考えておるわけでございます。

 といいますのも、アメリカの最悪期、あのシティバンクがつぶれる、バンク・オブ・アメリカがつぶれると言われたときの公表不良債権がGDPに占める比率は実は三%にすぎませんでした。日本の昭和恐慌におけるときも二・五%から三%にすぎなかった、こういう研究が出ております。今は、不良債権、いろいろと定義がございますけれども、一番狭い定義、リスク管理債権の定義で見ても日本のGDPの六%近くあるというのは、昭和恐慌あるいはアメリカの最悪期の二倍のインパクトがあるというふうに見られてもいたし方ない面があるわけでございます。

 その結果として、なかなか銀行が立ち直ってこないということで、日本は低金利政策を続けてまいりました。それは三ページ目、次のページを見ていただきますと、先生方よく御存じのとおりでございますが、これは、プライムレートということで最優遇の貸出金利をとっておりますけれども、あのバブルを起こしたということで相当批判された低金利政策、短期で三%ちょっと上、それから長期で五%から六%、これをたかだか二年間続けただけでバブルは起こったわけでございます。

 では、足元がどのような金利体系にあるかといえば、皆様方よく御存じのとおり、短期については一%を切る水準が五年間続き、長期については二%内外の水準がこれまた五年間続いておる。その低金利の結果、銀行の収益は支えられておりまして、右上に業務純益、銀行の通常の取引から得られる収益ということで見ますと、実は、バブル期で相当銀行がもうかっておった一九八八年当時よりも相当長い期間、銀行は高収益を続けておるわけでございます。それで何とかこの不良債権のインパクトをしのいできた、こういうふうな状況があったわけでございます。

 しからば、経済はどうかといいますと、その次のページを見ていただきますと、当然、低金利ということでございますので、お金はじゃぶじゃぶ出てくる。実際、じゃぶじゃぶと出てきておるわけでございます。これは、M2プラスCDという一般的なマネーをはかるときに使われる指標を実体経済、GDPで割った数字でございますが、バブル期、確かにお金は多うございまして、実体経済の一一〇%ございました。しかし、足元を見ていただきますと、このバブル期を超えてお金が余っている。二〇%増し、三〇%増しのお金は現にマーケットにあるということでございます。

 その下のアメリカの指標と比較していただきますとこの違いがはっきりとわかると思いますけれども、アメリカではIT革命が進んでおり、当然、マネーが必要となる局面も少なくなっていくということで、実は実体経済に対するお金の割合は減っておりますし、少なくとも横ばい圏内ということが言えるわけでございます。そういう意味で、昨年起こった日本のネットバブルとアメリカのナスダックに象徴されるネットバブルは明らかに質が違い、日本の場合は相当金融のバブルであったということを言わざるを得ないわけでございます。

 そして、次のページを見ていただきますと、そういう意味でお金は余っているのになぜ景気がよくなってこないのか、こういうお話になるわけでございます。

 これは、皆様方よく御存じのように、銀行の貸し出しがふえない、この一点に尽きるわけでございまして、既に三年間余り、日本の銀行は前年比マイナスの貸し出しをしておるわけでございます。それでは、お金はどこに行っておるかといいますと、その下のグラフを見ていただければ明らかなとおり、ゼロ金利をスタートしてから日本の銀行のポートフォリオは国債ばかりということで、国債をどんどん買っておる、こういう形になっておるわけでございます。

 その結果何がわかるかといえば、次のページでございまして、日本銀行から銀行に散っているお金のことをベースマネーと申します。そして、銀行から民間に行っているお金のことをマネーサプライというわけでございますが、このマネーサプライをベースマネーで割ったもの、これを信用乗数と申します。銀行が元気であれば、本当に機能していれば、この水準というのはどんどん膨らんでいく。通常でいえば十二倍とか十一倍という数字になるわけでございますが、お手元の資料で見ていただければおわかりのとおり、ここもと銀行の信用乗数は減る一方だ。すなわち、銀行は銀行としての機能を果たしておらないという問題があるわけでございます。事実、その下のキャッシュとGDPの比較、お金と本当の経済規模の比較を見ていただきますと、あのバブル期、ジュラルミンで現ナマを買ってそれで土地を売買していたときよりも、実はGDPで見ますと日本のマーケットにお金はあふれておる、そういう数字が出てきておるわけでございます。

 次のページに行きまして、しかしながら、デフレというものは続いておるというふうな状況でございます。相当やはり厳しい。これだけのじゃぶじゃぶのお金をもってしてもなかなか解決がつかない。銀行も相当支えられておるはずでございますけれども、マーケットの見方は厳しゅうございます。皆さんも覚えていらっしゃる九七年の十一月、山一証券がつぶれ、そして北海道拓殖銀行がつぶれた、そして預金者が取りつけを起こした、あのときの株価水準よりも今日本の銀行の株価は低いということでございます。この現実を直視せざるを得ないと思われるわけでございます。

 以上のような状況を簡単にまとめたのが、次のページでございます。

 日本は今、大きな不良債権と過剰な、じゃぶじゃぶのお金によってバランスをしておると考えるのが正当であると私は考えております。不良債権があるものですからデフレ懸念が払拭できません。デフレ懸念が払拭できませんから財政赤字を垂れ流さざるを得ない。あるいは、不良債権がありますので銀行への公的資金を入れざるを得ない。本当であれば、国債がたくさん出て国債の値崩れが起こってもおかしくないところなんでございますけれども、お金が余りにも大量に供給されているがゆえに、しかも銀行が、本来の機能である貸し出しをふやすということではなくて、国債を買うことによってその機能を代替していることによって、国債を買う人がたくさんいらっしゃる、そこで微妙に均衡しておるというのが日本の危うい現実であるということでございます。

 また、本当であれば、これだけじゃぶじゃぶにお金が出ますと、バブルというのは起こり得ます。実際、東京の表参道は既に路線価の三倍、あるいはここの近く、山王の近くの土地でいいますと、NTTドコモさんが入られただけで相当周りの地価が上がる、そういう、点のバブルは実際起こっておるわけでございます。そういう意味で、お金は余っている、しかし、デフレ懸念が不良債権によって増殖されているがためにバブルにはなかなかなりにくい、これもありがたい均衡が続いておるわけでございます。

 そういう意味で、問題は、この均衡が果たしてどこまで続くか、こういうところにポイントが来るわけでございます。普通の国であれば、これだけのじゃぶじゃぶの過剰流動性、定期預金をしても一%もいかない悲しい金融の現実に遭いますと、対外投資、ドル預金あるいはユーロに向かっていくわけでございまして、円安傾向になるわけでございますが、日本の場合は円高信仰がまだまだなお強く、一方的な円安にはまだなっておらない、こういう状況にあるわけでございます。

 では、この状況は本当に続いていく、そういうふうに考えていいのかというところを次に申し上げたいと思います。

 九ページを開いていただきますと、右の上に書いてございますように、公定歩合あるいは無担保コールということで政策金利を見ていただきますと、いまだに低金利であるということは否定できない現実であるわけでございます。低金利で喜ぶ人間がいれば、当然悲しむ人間もいるわけでございまして、今、その代表選手が生保ということでございます。ここでは、代表する大手生保十社、この利ざやの損失というのは年間で約一・五兆と言われておりますけれども、片や銀行の経常利益は十行で一・五兆ということでございますので、ほぼ同じ金額が生保から銀行に所得移転をされておるというのが日本の実態でございます。

 問題は、このような状況を本当に続けていって、生保のみならず、日本の年金財政、これが本当にもつのだろうかということは真剣に考えなければいけないわけでございまして、先ほど申し上げたバランス論で言うならば、これまで日本は綱渡りをするピエロだというふうに私はよく言っておりますけれども、不良債権と過剰流動性で何とかバランスをしてきた。そのうちに財政赤字という荷物までふえた。それをお金をふやして何とかバランスしてきたんですけれども、足元に生保あるいは年金の逆ざや問題というのが襲いかかってきておる。このままいきますとバランスを崩すかもしれませんし、綱さえ切れてしまうかもしれない、そういうふうに私は考えるわけでございます。

 そして、次のページを見ていただきますと、国債の発行高が徐々にふえておるということは皆様方よく御存じのとおりでございますけれども、中でも最近、マーケット関係者が注目をしておりますのは、アイルランドという国がございます。イギリスの西にある、ギネスビールで有名な国でございますけれども、この国が日本の低金利に目をつけまして、今円建て外債を出していらっしゃいます。円の通貨で調達をして円で金利を支払う。どこの国におきましても、ホームグラウンドで戦う、そういうチームは一番強いわけでございます。日本の国債は日本でこそ一番強い、これは当たり前であります。しかしながら、最近悲しい事件が起こっております。それは、たかだかアイルランドの円建て外債に日本の国債の金利が負けておる、日本の金利の方が高い。これは国辱と言わざるを得ないと私は考えます。

 そういう意味で、確かに国内的には平静を保っているように見える国債マーケットではございますけれども、海外の目はより厳しくなってきておる、このことはぜひ委員会の先生方にはわかっていただきたいと思うわけでございます。

 さらに、次のページを開いていただきまして、このようなことを申し上げますと必ず資金循環の話が出てくるわけでございまして、家計は確かに三十五兆円という大幅な資金余剰にございます。そして、一般事業法人も三十兆近い資金余剰にある。全く需要がないんだ、お金を借りる人がいないんだ、だからこれはもう政府で吸収するしかないんじゃないか、こういうふうなお話がよくされるわけでございますけれども、本当に一般事業法人の需資がないのであれば新規の貸し出しのレートは当然下がっているはずでありますし、本当にないというのであればゼロになるはずでございます。

 しかしながら、現実は違っております。右側に新規貸出約定平均金利、三カ月の移動平均のものを載せておりますけれども、昨年の四月あるいは二月ぐらいを底といたしまして実は上昇に転じておるということが現実問題としてあるわけでございます。これをどのように考えるかということが解決されませんと、単に、需資がないから財政で吸収していいんだ、こういう議論にはなり得ないわけであります。

 また、次のページを開いていただきますと、確かに日本の国民はお金持ちでございます。一千三百八十八兆、これだけの金融資産を持っていらっしゃる。負債は三百八十五兆。差し引き一千兆の資産を持っているわけでございます。公的債務は国と地方を合わせて六百六十六兆ですから、差し引きしても三百三十八兆。だから大丈夫なんだ、こういうふうな話になっておるわけでございますが、これは非常に失礼な議論だと私は考えるわけでございます。

 なぜならば、この純資産は国民のものであって、日本政府のものではないからであります。これをもし日本政府のものだとするならば、日本政府は自分の自由に消費税を上げ、勝手に国民の資産を収奪することができると言っているのと同じだからでございます。

 したがいまして、説明をするのであれば、右側のとおり、消費税は二〇〇一年度、十兆、十年間で百一兆、それを税率三三%まで上げてようやくこの六百六十六兆が払え、それは国民一人一人の家計の資産を六六%取ることなんですよ、この事実を言わなければならないわけでございます。

 最後に、私から一言だけお願いとして申し上げたいわけでございますけれども、日本の経済は残念ながら相当厳しい状況にあるということは言わざるを得ないと思います。例えて言えば、水道管の中にごみが詰まっておる、そのごみを取り除くことなしに日本の経済が円滑に動くことはあり得ません。ぜひ、ごみである不良債権をきっちりと処理し、そのためには財政というカンフル剤、金融という輸血というものは必要だという局面もあると思いますが、この不良債権問題を処理することなく日本の本格的な景気回復がないということをお願い申し上げて、私の公述とさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)

野呂田委員長 ありがとうございました。

 次に、大田公述人にお願いいたします。

大田公述人 大田でございます。来年度の予算案と現在の課題につきまして意見を申し上げます。

 まず、来年度の予算案の規模ですけれども、当初予算比でおおむね今年度予算を踏襲したことは私は妥当だと思います。これで三年連続してほぼ三十兆円の歳入欠損が続きますけれども、まだ歳出規模縮小に踏み切る状態にはありません。ただ、その量的規模は維持しましても、中身を変えることは十分に可能なわけです。予算の質という面では、来年度予算には評価できる点と批判したい点とがございます。

 まず、評価できる点ですけれども、幾つか将来につながる改革に着手がなされております。

 まず第一に、公共事業の事後的な見直しが始まったということです。それから二番目に、地方自治体に赤字地方債を発行させるということで自治体の財政状況がわかりやすくなった、この措置がとられたことです。それから三番目に、経営状態の悪い特殊法人に無利子融資を行うということで負債の膨張を食いとめる試みが始まったという、この三点があります。

 問題は、この着手がなされたというにすぎないことです。日本新生特別枠も、歳出総額の〇・八%にとどまっています。今、その歳出の分野で改革を要する大きい分野は三つあります。一般会計のベースでいいますと、社会保障、公共事業、地方財政、この三つが主に改革を必要とする分野ですけれども、いずれも本格的な改革にはほど遠い状態にあります。

 歳出構造の改革というのは口で言うほど簡単ではありませんで、大変難しい課題ではありますけれども、もう本格的な見直しを始める時期を迎えております。この十年の間に世界と日本に起こった経済構造の変化に現在の歳出構造は対応しておりません。第一に、IT革命が急速に進行しているということ、第二に、国際的な競争構造が変化して、特にアジアと水平的な競争関係に入ったということ、それから第三に、国内的には高齢化がいよいよ本格化してきたという、この経済構造の変化に歳出はどう対応していくのか、これに対応する骨太の議論が今求められております。歳出構造と歳入の構造を政治の力で変えていくという骨太の議論が今求められています。

 ここで確認しておきたいんですけれども、財政改革に取りかかるということは、すぐに歳出規模を縮小するということではありません。まずシナリオを提示するということです。このシナリオづくりもそう短期ではできませんので、まずシナリオを提示する。最近のS&Pの日本国債格下げも、足元の問題というよりも、将来のシナリオが提示されていないというところを、提示を督促しているというふうに思われます。

 したがいまして、今の日本経済にとって重要なことは、短期的に予算を組み替えることではなくて、構造的な問題の議論に早く着手して展望を示し、参議院選挙で国民の判断を仰ぐことだと考えます。参議院選挙の後はしばらく選挙がありませんので、これを逃しますと国民の判断を問う機会がございません。

 その歳出改革のシナリオをつくるに当たりまして、ぜひとも議論しておかねばならないポイントを三点申し上げます。

 まず第一点は、地方財政における国の役割を最小限にとどめるということです。

 地方財政の改革なくして国の財政の改革もありません。地方財政の改革では、特に地方交付税の抜本的な見直しが不可欠です。地方財政を強く、健全にするためには、各自治体の長がみずから住民に増税を要求して住民の評価に直接さらされる、住民の側も費用との関連で行政サービスを考えるという仕組みをつくることが必要です。そのためには、国を通して財源の均衡化を図っているというこの地方交付税制度の抜本見直しが不可欠です。

 先ほど、一般会計の歳出分野で改革が必要なのは公共事業、社会保障、地方財政、この三つを挙げましたけれども、このうち公共事業と地方財政は密接に関係しております。これまで、公共事業が、地方の財政調整であったり地方経済の活性化という目的のために必要性を度外視して使われているという面がございます。もちろん、地域間の財政力格差を放置していいとは全く申しません。申しませんけれども、やはり、国のやるべき役割は最低限の保障、ナショナルミニマムにとどめるべきです。

 地方が財政に責任を持つ状態にするには、まず第一に、現在の地方交付税を廃止して、ナショナルミニマムを確保するための新しい財政調整制度をつくること、第二に、国税から地方税に税源を移譲すること、それから三番目に、地方自治体に大幅な課税自主権を与えること、この三点セットです。この三点セットのいずれも欠くことはできないわけで、この三点セットの改革が必要です。地方交付税の見直しは政治的な抵抗は大変強いんですけれども、これをこのままにしておいては合併も進みませんし、財政の健全化もそれから経済の活性化も進みません。今の地方交付税とセットの地方分権はあり得ないということを強調しておきます。

 それから、二番目の重要ポイントですけれども、将来に持続可能な社会保障制度にするということです。

 人口構成が一定ですと、高齢者に手厚い制度をつくれば、だれしもいずれは年をとりますので、各世代とも同じ給付を受けるわけですけれども、日本のように人口構成がアンバランスで急速に高齢化が進む国では、高齢者に手厚い制度をつくりますと、それは将来の現役世代の負担増を意味します。したがいまして、世代間の公平性ということを重視して制度をつくる必要があります。社会保障制度は国家が国民に対して行う長い約束です。ここで若者の不信を生むという制度は決してよくありません。

 それから、ポイントの三番目ですが、税制の全体像を示すということです。

 これからの高齢化社会の税制をどういう中核的な制度で担っていくのか。消費税であるとすれば将来の税率は何%になっていくのか、もし所得税にするとすれば税率構造をどうしていくのか、この具体的な数字を入れての将来像を示す時期が来ております。

 今申し上げましたような歳出構造の改革というのは、単に財政収支を改善させるためだけのものではありません。最大の目的は、今の日本が持っている資源を最大限に生かすための枠組みをつくるということです。資源といいますのは人材であり、資金であり、それから技術力、そういったものです。

 先ほど申し上げました地方交付税の改革も、単に地方の財政問題を改善するということではなくて、目的は、地域がみずから持っている資源を最大限に生かして地域間で競争しながら地域の魅力をつくっていく、ここに目的があります。そのためには、国の配分に安易に依存するのではなくて、それぞれの地域が背水の陣で経済戦略を立てるということが必要で、ここに目的があります。

 それから税の改革も、これまでは、一言で言いますと取りやすいところから取る税という性格がありましたけれども、これからは、企業や個人の意欲を喚起する、そして能力を存分に活用するという観点から見直される必要があります。

 社会保障制度の改革にしましても、日本が初めて直面する人口が減少する社会、この人口が減少する社会の中でいかに豊かな生活の質を実現していくのかということを模索する過程の問題の一つが社会保障制度です。日本が人口が減少する中で質の高い生活を維持するすぐれた経済社会のシステムをつくり得るならば、これは後に続くアジアですとか欧米のモデルになるはずで、私は、この問題は二十一世紀の日本が行う国際貢献の一つだと思っております。

 以上申し上げましたような構造的な問題への本格的な取り組みが始まれば、私ども国民は、ようやく私どもの不安の根源にある問題に政府が取り組み始めたと理解して、政府への信任が高まります。これは、景気にもいい影響を与えるはずと思います。今後の財政シナリオを、政府のみならず、すべての政党が包括的に、そして数字を伴った具体的な案として御提示いただいて、選挙で国民の判断にゆだねてくださることを期待いたします。そして、再来年度の予算編成に着手するまでに大きな方向を決めていく必要があると思います。

 ありがとうございました。(拍手)

野呂田委員長 ありがとうございました。

    ―――――――――――――

野呂田委員長 これより公述人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。宮澤洋一君。

宮澤(洋)委員 自由民主党の宮澤洋一でございます。

 本日は、各公述人の皆様、大変お忙しい中を時間を割いて御出席いただき、また貴重な御意見をいただきましたことを感謝いたしております。

 今いろいろお話を伺っておりまして、私は、十三年度予算につきましては、大変景気の足元が悪いという中で、景気にも配慮しつつ、また経済構造改革を促すという面も持ちながらということで、大変苦労しながらいい予算をつくり上げたなという気がしておりますけれども、それぞれの方、また木村公述人はおっしゃいませんでしたけれども、予算に対してそれほど厳しい御意見が出なかったな、かなり日本が厳しい中で、またこれから構造改革を進めていくという中で、来年度の予算ということで評価していただいているんだなという気がいたしました。

 そこで一つ、いろいろな御意見の中でまず最初に伺いたかったのが、デフレという問題が、菊池公述人また木村公述人からもお話がありました。また一方で、鷲尾公述人も、消費が伸びないという、大変この消費の問題ということをおっしゃいましたけれども、あした買えばきょうより安いというときにはなかなか皆さん消費がふえない、一カ月後、一年後の方が高くなるというんで消費が伸びるという面があることは確かで、やはりデフレの脱却ということが我が国にとって今大変重要なことになっていると私は思っております。

 その中で、例えば物価目標といいますか、ターゲティングといいますか、それは二%から三%というのか、三%プラスマイナスというのか、いろいろな意見があると思いますけれども、日銀中心にそういう物価のターゲティングをやっていったらどうかという意見があり、私も考えてみなければいけない大変貴重な意見だと思っておりますけれども、この点につきまして、菊池公述人に御意見をちょっと伺わせていただければありがたいと思います。

菊池公述人 私の意見を申し上げたいと思います。

 確かに、デフレ経済からの脱却、最優先課題でございまして、金融政策としてどういうことをすべきなのかということですね。

 現在は、御案内のとおり、やはり金利の引き上げがあったということと、それから通貨量が大幅に落ちております。御存じと思いますが、マネーサプライのベースで見ますと、もう既に前年に比べまして二%ぎりぎり、あるいは二%割るぐらいのところまで来ております。ですから、九九年二月にゼロ金利を入れましたときよりもかえって低いぐらいのところに来ております。ですから、やはり通貨供給量をもっとふやさなきゃいけないわけですけれども、そのときに目標をどういうふうに考えていくかということなんですね。

 それで、物価の一つのターゲティングを設けるという考え方はどこから来ているかといいますと、やはり基本的には、一九三〇年代のアメリカがあれだけ大恐慌になった、一体何が原因だったんだろうかということです。

 それは、一つは、信用収縮を極端に起こして銀行の破綻をどんどん放任してしまった。これはいかぬというんで、三三年三月に就任しましたルーズベルト大統領が、そこからニューディール、金融改革、銀行改革をやって、公的資金も入れて金融機能を立て直してきたわけですね。そのときに、同時に金融機能を立て直す、つまり不良債権処理を徹底して、これは本当に政府主導です。裏話を聞きますと、本当に乗り込んでいって不良債権を処理していったわけですが、そういうことをした。

 一方、やはりマネーサプライを前年に比べて一〇%以上毎年ふやしていく。しかも、そういう経済恐慌といいますか、恐慌的な経済ですから、今と似ているんですけれども、銀行の貸し出しは伸びないわけですよ。銀行の貸し出しが伸びないということは、マイナスにむしろなっている。そうすると、マネーサプライが減ってきますから、それを上回るいわゆるベースマネー、中央銀行の資金の放出をしなきゃいけないんですね、資金の増加を。それで、それによって最終的にマネーサプライが一〇%になる。

 今でも、私はマネーサプライが一〇%になるように中央銀行がもっとベースマネーをふやすべきだと思います。そうしますと、一二、三%ふやさなきゃだめだと思います。そういうことを考えるべきだ。

 それと同時に、物価のターゲティングについて、これはいろいろ議論が分かれているようでございますが、やはり恐慌的な不況のときにどうだったかという歴史的な教訓を考えますと、まさに一九三〇年代のアメリカ、それから日本では一九三〇年から三一年の金解禁のデフレがございましたね。その後、三二年からの高橋是清の積極財政。やはり、あのときは積極財政とそれからマネーの供給、ベースマネーというのは一〇%以上ふやしております、それによって結局物価を引き上げていこう、こういうことだったんです。

 それで、現在、日本でこの物価のターゲティングについてやや議論が分かれていますのは、そういう歴史的な認識が、やや失礼な言い方になるかもしれないけれども、やや乏しくないかなというふうに考えます。これを主張される方は、そういう歴史的な認識というものに随分立っております。

 だから、三〇年代、それから昭和の恐慌のあのころの大きな原因は、物価が必要以上に、本当に下がっちゃった。本当は、物価というのはある程度安定して、下がるのは余り望ましくない、むしろノミナルなGDPというのが増加していかなければ、結果的に出てくるのは債務の増加だけですから、そういう意味で物価のターゲティングというものに対してはもっと真剣に取り組んでいただきたい。

 私は、やはり現在の、例えば九〇年代後半のアメリカなんかを見ますと、結局アメリカはどういうふうにやってきたかといいますと、御案内のとおりグリーンスパンは、物価が二%を切ってきます、一%近くの増加しかないと金を緩めるんですね。それによって物価をむしろ二%から上げる。だから、実質成長が五パーといっても、物価は二%から二・五%ぐらいに増加しているんです。

 ですから、経済を成長路線に持っていくためには適度の、そのぐらいの物価上昇が必要なんですね。こういうふうに考えております。

宮澤(洋)委員 持ち時間が十分なものですから、急いで御質問しなければ。

 社会保障についてもいろいろ御意見承りました。

 大田公述人から、将来持続可能な社会保障制度を維持、また世代間の公平性というお話があって、まさにそのとおりだろうと思います。また、鷲尾公述人からも、将来の不安感を払拭することが一番大事であるという御意見がございました。

 その中でちょっと一つ気になりましたのが、鷲尾公述人から、年金につきまして、不安感を払拭するという前に、昨年の年金改正は改悪である、支給年齢の引き上げ等改悪があったということなんですが、私は、正直言いまして引き上げはいたし方ない、しかし、もらえるまでの間どういう仕事につけるのか、報酬を得るのかというところこそ大事であって、引き上げ自体は改悪でないと思っておりましたものですから、その点についてひとつ公述人の御意見を聞きたいと思います。

鷲尾公述人 私は、今お話があった宮澤先生のお話どおりであれば年金制度を修正することはやむを得なかったかと思いますが、今まず何よりも、年金がもらえる年齢と雇用との接続が制度として確立していない、まずそれを確立することによって年金制度の財政問題について考えるべきであった、こういうふうに思っておりますので、去年の段階では改悪ではなかったか、こういうふうに思っております。

宮澤(洋)委員 ありがとうございました。この話を始めますと恐らく時間がなくなってしまいますので。

 最後に、大田公述人の方から、地方の自律といいますか、そういうお話がありまして、私もまさに長期的に見たらそのとおりだろうと思っております。

 ただ、現実問題、近くで見ていますと、首長さん、市長さん、町長さんというのは、やはり有権者が身近なせいか、つい大盤振る舞いになるとか、また、職員としても組合と、つるんでいるとは言いませんが、仲がよかったりということでなかなか行政改革がしにくいという面が多々見受けられて、その辺について地方の自律を促す中でどういうふうに考えていったらいいのか、御意見をいただきたいと思います。

大田公述人 税は政治の基本だと思います。国政では増税のときに内閣がつぶれるわけですけれども、地方はそのルートが絶たれておりまして、地方消費税一%導入しましたときも、住民から行政改革が先じゃないかというような批判が起こらなかったわけですね。

 そういうわけで、私は、やはり税を取るということを基本に据えない限り、地方の財政改革、行政改革は行われないと思っております。ですから、まずは国からの配分を大幅に減らして、地方がみずから税を取る体制にすることが必要と思っております。

宮澤(洋)委員 そうしますと、地方がみずから税をと、私も基本的には賛成なんですけれども、目の前の現実を考えたときに、例えば日本海側の人口が大変少ない地域等々、いろいろ東京と比べて大変なアンバランスがくる。一方で、ごく近くのことでいいましても、隣の町ではこれだけの福祉政策でいろいろなお金をくれるのに、うちの町は何で出してくれないのかという有権者が大変多い中で、では、本当に、どの程度のタームといいますか期間を見てこの政策を進めていくのかなと思っております。その辺についていかがでございますか。

大田公述人 地方分権というのは、地方間の格差が生まれることだと思います。ただ、日本のどの地域に住んでいても守られねばならないナショナルミニマムは国が供給する、その上は地方の自律にゆだねるという制度が望ましいわけで、これは均衡、隣と一緒でなきゃいけないという横並びの発想を脱却できるかどうかということにかかっておりますので、短期にはうまくいかないと思いますけれども、十年ほどかけて均衡という考え方から脱却し、個性をつくっていく、そもそもそれが地方分権であると思っております。

宮澤(洋)委員 どうもありがとうございました。

野呂田委員長 次に、白保台一君。

白保委員 公明党の白保台一でございます。

 公述人の皆様方には、お忙しい中を大変御苦労さまでございます。限られた二十分以内の公述で、申し述べる皆さん方の方も大変お急ぎでお話をされた、こう思いますので、足りない部分はどうぞ私の質問でお答えになっていただければと思います。

 けさから四人の先生、またお昼からも皆さん方においでいただいてお話を伺っておるわけでございますが、不況不況、こういうふうに言われていても、その不況そのものがどういう不況なのかということが明確じゃないと、これは病名がわからなければ処方せんがつくれないじゃないか、こういうようなお話がありました。

 そういったお話の中で、要するに、今の予算については緊縮の予算というのはまだ時期尚早なんじゃないか、もっと積極的な形をとる方がいいだろうというような御意見等もございましたが、まず菊池公述人に、その辺のことについての御意見がございましたらお伺いしたいと思います。

菊池公述人 それでは、私の意見を申し上げます。

 確かに、支出ベースにいたしまして、平成十三年度予算といいますのは、前年に比べてわずか二・三兆円の減額にすぎません。それじゃこれは大した減額じゃないのじゃないか、緊縮じゃないのじゃないかという御意見もあろうかと思いますけれども、私が一番思いますのは、その前の九八年、九年、二〇〇〇年、ずっと積極予算で、辛うじてマイナス成長からはい上がってきたわけですね。ようやくはい上がってプラスに上がってきた。それで、今の平成十二年度予算も、実はこれは積極予算で、前年比三・八%でございました。それで前半はうまく推移したわけですね。

 ところが、途中から金利の問題、それから先ほどの債務問題というものが急速にクローズアップして、何か非常に社会的なムードが悪くなってきた。いわゆる引き締めみたいで、これは大丈夫かというようなこと。これは私に言わせれば、先ほど申し上げたとおり、全く総債務しか見ていない一方的なものでありまして、財政学的な面から見ましても決して包括的な見解ではないと思います。一面的な見解で、それだけでどんどん今にもつぶれそうなという議論をされる方もいらっしゃるのですが、私ははっきり申し上げてこういう意見は間違いだと思います。

 ですから、私が来年度予算について緊縮ぎみなのは問題だと申し上げたいのは、せっかくこれだけ伸ばしてきたムードをこれでやはり停滞型にしてしまうのじゃないか。そうではなくて、少なくとも中立型、といいますのは昨年並みの増加ぐらいの形に、あるいは減額しない形にしておいて、それでやはり予算の姿勢というものが、市場といいますか国民に対して非常に大きな影響力を与えると思います。やはり、株式市場なんかでどんどん下がってきている。特に昨年の十二月ぐらいから一段と下がりましたけれども、これは政局がどうかという意見もありますけれども、私は、一番大きいのは、この緊縮予算が決定された十二月の中旬でございますね、それからぐっと下がっております。やはりそういうことがあるんじゃないか。

 ですから、私の意見としては、先ほど申し上げたような面から、そんなに財政支出が余力がないことはありません、まだ十分ありますから、積極予算でしてよかったんじゃないか。それから、予算の持つ意義というものは非常に大きいと思います。その辺を考えて先ほどのような意見を申させていただいたわけでございます。

白保委員 同じような質問ですが、木村先生の来年度予算に対する評価については伺っていなかったと思いますが、この評価についていかがでしょうか。

木村公述人 それでは、私の評価を申し上げさせていただきたいと思います。

 私の評価は、単純なマクロ財政政策で今回の景気の不況を乗り切ることはできないというのが私の見方でございまして、不良債権問題を片づけることなくマクロ政策のみに頼った場合には財政の問題も出てくる可能性は大きい、そう思っております。

白保委員 大田公述人に伺いますが、先ほど、評価についてはるるお話がございました。

 一番目の質問に戻りますけれども、もっと積極的なという意見についてはどのようにお考えになりますか。

大田公述人 私は、これ以上拡大させるべきではないと思っております。今の歳出構造を抱えたままで規模を拡大しても経済には決してよい影響を与えない。総需要拡大政策の効果というのは減少してきております。むしろ、構造的な問題に着手すること、特に不良債権の最終処理に着手することが必要であると私は思います。不良債権の最終処理に着手する過程であるいは財政支出をふやすということはあり得ると思いますが、予算はこれ以上拡大させる必要はないと考えております。

白保委員 鷲尾公述人にまだお聞きしておりませんが、今のこともあわせてお聞きしたいと思います。

 先ほど予算の問題について、ちょっと国会の方に対して注文をつけられましたので、審議のあり方についてどういうような抜本改革が必要かということが一つと、もう時間がありませんから、もう一つは今の評価の問題について、もっと積極的にという意見に対してどのようにお考えなのかということをお聞きしたい。

鷲尾公述人 まず、予算の総額の問題でありますけれども、総額の問題はどちらとも言えない部分がございますので、これはこれでよろしいのじゃないかと思います。

 問題は、私が申し上げましたのは、不況の原因が、需給ギャップが大幅にある、これを政府支出で埋めるためにどうしたらいいかということを考えた場合に、今回の公共事業中心の予算編成であった場合には需要創出に十分足り得ない、こういうふうに思っておりまして、その意味からいうと中身を変えるべきじゃないかということを申し上げているところでございます。

 それから、最初に御質問のございました予算審議のあり方の問題ですが、これは国会の審議の抜本的な改革をしないとできないというふうに思っています。

 アメリカの例でいいますと、議院内閣制ではありませんので例にはならないとは思いますけれども、アメリカの場合には、約半年間かかって予算審議を行う。したがって、日本のケースの場合でも、いわば大蔵折衝をやるような部分についてある程度残しておいて、それで政府原案と野党の議論とを闘わせて、政府からも、あるいは与党の議員の方々からも野党の議員の方々も意見を出し合って、その上で修正していくという作業が必要なのではないか。このことこそ、行政から政治が分野を取り戻すという部分じゃないかというふうに思っています。

白保委員 最後になりますが、菊池公述人に。

 先ほど、非常に抑制的な御意見もあったのですけれども、中には、五兆円ないし十兆円、むしろ上乗せした方がいいんじゃないか、こういうような御意見もございますが、数字的なことはなんですが、そういった御意見に対してはどういうふうに思われますか。

菊池公述人 私は、個人的な意見として許していただければ、補正予算の段階で真水十兆円ぐらい思い切って出してはどうかと思います。

 その理由は、先ほど申し上げましたとおり、平成十三年度に入りましてからの政府の予算の支出は、これがどんどん進んでまいりますと、このまま放置しておきますと、前年に比べて八兆円のマイナスになるんですね。その五兆円というのは、秋の補正予算、これが一昨年は真水十兆、九兆五、六千万です。それから昨年が五兆ですから、ここで四兆から五兆マイナス。それから、今御審議いただいている予算は前年と比べて二・七兆円のマイナス。合計しますから約八兆円のマイナス。ですから、真水で十兆出しても、実は実際に出るネットでは二兆にすぎないんです。

 ですから、私の意見としては、景気が減速、いろいろな指標がやや悪化のようなムードになってきています。これは、非常に怖いのは、やはり経営者の側の経営姿勢というものが非常に萎縮していく可能性が強いんですね。ですから、そういう懸念が出てきたら、やはり直ちにこういう補正予算を組む、十兆を真水で出す。それで、財政上はこうだから心配無用だというふうにして落ち込みを最小限にする、この御努力をいただいてはいかがかと思います。

 以上です。

白保委員 終わります。

野呂田委員長 次に、井上喜一君。

井上(喜)委員 保守党の井上喜一でございます。公述人の皆さん方、きょうは本当に御苦労さまでございます。御礼を申し上げます。

 私は、鷲尾公述人、木村公述人、それと大田公述人のお三方に御質問いたしたいと思うんです。

 鷲尾公述人に、財政再建と景気対策を両立させていくというのは、これは耳ざわりはいいんだけれども、なかなか仕事上がりがしにくいと思うんです。働く者の立場からいいますと、雇用を確保していく、あるいは拡大をしていく、賃金を上げていくということ、そのためにやはり景気対策をきっちりしないといけない、景気がよくなっていかないといけないということだと思うんですね。

 しかし、今の財政を見ますと、非効率的な点もありますし、もう少し中身を変えていくべきようなところもあると思うのでありますけれども、これは財政を効率化するということでありまして、決して再建じゃないんですね。

 鷲尾公述人が言われる財政再建というのは何なのか、景気対策と本当に両立できるのか。我々は、やはり景気対策を優先していくべきじゃないか、もちろん、財政の中身は効率化していかないといけないんですけれども、そう考えております。

 それから木村公述人には、最終的には不良債権の処理というのを一番ポイントに挙げられていると思うのでありますけれども、不良債権の処理の仕方につきましては、今、大きく分けまして二つあります。一つは、かなりドラスチックにやっていけという考え方と、いや、日本の経済の体質はそんなに強くないから、それも考えながら状況に合ったような形で進めていくべきだ、こういう御意見がございますね。木村公述人はどういうお考えをお持ちなのか、その理由をあわせてお伺いしたいと思います。

 大田公述人のお話は非常にごもっともだと思うんです。参議院の選挙がありますから、そこで将来のビジョンを打ち立てて選挙をすべきだという、ごもっともだと思うのでありますけれども、なかなか難しいということでおくれおくれになってきているのは事実なんですが、そういう意味でも、学者の皆さん方に、より具体的に、こうだというような御意見を出していただくことも私は必要じゃないかと思うんですね。

 それで、三つのビジョンのうち二番、三番に挙げられましたのは、世代間の調整等々、難しい問題がありますが、一番最初に言われました交付税のあり方につきましては、比較的取り組みやすい問題だと思うのでありまして、交付税交付金をどのように今変えていくべきか、これについてもう少し具体的に御意見をお伺いいたしたいと思います。

鷲尾公述人 先生おっしゃるとおり、財政再建と景気対策を両立させるのはかなり難しいことであるというのは私どもも承知しております。

 ただ、問題は、財政再建といいますと、すぐ、歳出の一律カット、あるいは増収をするために税金を上げるというようなことに走りがちであります。そうではなくて、私は、個々の費目を十分検討すればもっともっと需要を創出できるような事業に歳出を回すことができるのではないか、こういうことだと思います。その結果として、仮に財政再建に必ずしも寄与しなくても景気が回復して税収が順調に伸びていくということが可能だ、こういうふうに思いますので、長期に考えた場合には、一律に歳出をカットするような、あるいは増税を図るような財政再建方式ではなくて、個々の費目を点検すれば、公共事業の問題もそうでありますけれども、さまざまな不要不急の公共事業を削減することもできるでしょうし、もちろん、私どもに関係があります社会保障の問題についても、そうした総合化をすることによってむだをなくすことも可能ではないか、このように考えております。

木村公述人 先生からの私に対する質問は、いわゆるハードランディングかソフトランディングかという問題だと思いますので、私の考え方を述べさせていただきたいと思っております。

 残念ながら、銀行危機あるいは不良債権問題に直面した国というのはたくさんございます。世界の三分の二の国が経験しているわけでございます。この三分の二の国は三年から五年で問題の発見から処理まで終わっておるわけでございますけれども、その方法は二つしかございません。一つは、抜本的な処理、すなわちハードランディングをやった後にV字形回復をする。もう一つは、景気をよくすることによって問題債権をなくしていくという方法でございます。

 先ほど申し上げた三分の二の国はすべて前者でございます。日本のみが後者の対策をとって、十年たっても出口が見えないという状況でございますので、私は、残念ながら、デフレの影響を甘受してでもこの手術は進めなければならない。しかしながら、そこで血が流れる場合、あるいは失業者がふえる場合については、思い切った財政出動はやむを得ない、あるいは思い切った金融政策もやむを得ない。しかしながら、手術のない財政出動、手術のない金融緩和は、害悪あって一利もないと考えております。

大田公述人 現在の地方交付税制度にかわってどういう財政調整制度をつくるかということですが、大きな方向は二つあります。

 一つは、歳出面でナショナルミニマムを決める。例えば警察官は何人であるとか一学級何人の学校をつくるというような、個々の歳出で決めていく方法があります。これは歳出面の保障ですね。

 もう一つは、ドイツでやっております共同税のような形で、地方で配分する税を集めて、それを例えば人口割というような単純な指標で各地方に割る。これは最低限の歳入だけを保障する。それを、警察官何人の市にするか、一学級を何人にするかはそれぞれの地方が考えるということで、歳入面の保障だけをする。この二つの方法があると思います。

 現在は、地方財政計画で歳入と歳出の両方を保障しているわけで、この歳入歳出両方を保障しながら地方分権といっている国は、世界じゅうどこにもありません。

井上(喜)委員 若干時間がありますので、菊池公述人にもお聞きをいたします。

 株式市場の活性化ということにちょっと触れられておりますね。アメリカの立法の制度、何か銀行が子会社をつくる、それに株式を所有させるというような話がありましたが、その程度のことでは私は日本の株式市場というのはなかなか活性化しないと思うんですね。だから、株式市場の活性化対策として、経済とか、全体がこれは非常に密接な関連がありまして、そういう経済原則の上に乗っかったものじゃないといけないと思うのでありますけれども、そういうものとして他にどういう活性化対策があるか、お持ちであればお聞かせをいただきたいと思います。

    〔委員長退席、自見委員長代理着席〕

菊池公述人 お答えいたします。私の意見を申させていただきます。

 先ほどは所見の中の一つに、銀行が保有しておる株式をやはり銀行保有からまず切り離すことをぜひ考えるべきだということを申し上げました。それは、ではどういうふうになるかといいますと、御質問があるかと思いましたので、ここにちょっとパネルを用意してまいりました。

 現在どうなっているかといいますと、銀行本体が株式を持っておりまして、あとは出資先で証券子会社とか金融子会社がございますけれども、こちらは、証券子会社といっても、証券のいわゆるブローキングだとか独自の証券会社機能をやっているだけで、問題は銀行本体で持っている株なんですね。これが下がってきますと自己資本がマイナスになりますから、マイナスになると、御案内のとおりBIS規制というのがありまして、八%の自己資本を守らなければいけない。ということは、逆に言いますと、一兆円自己資本が減ったとします。そうすると、十二・五倍の十二・五兆円の資産を移さなければいけない。だから、本体で持っていると、株価の低下がそのまま貸し出し機能に影響を及ぼす。これは非常に大きい効果です。今もう既にこの効果はあります。

 それから、九七年から九八年にかけまして、日本で大幅な信用収縮があってマイナス成長になりました。あのときは、完全にこの影響が出て、株価が下落してそれが信用収縮に陥った。これで五十兆円の信用収縮がございました。私は事前にそういうことを予測したんですが、結果としてはずばり当たりました。まあ、非常に単純な理屈ですが、そうなっている。

 そこで、私が思うことは、やはり銀行本体から切り離さなければいけないんですね。ではどうするかというと、このパネルで見て、証券子会社へ持ってくる、持ち株会社の場合ですね。それでも同じじゃないかといいますと、違いは、まず第一に、株価が下がりましても、銀行自身が本体で株式を持っている場合と違いまして、直接この貸し出しにはすぐは影響しません。

 それで、もっと望ましいのは、これはアメリカ型と書きましたけれども、九九年十一月からアメリカではどうなっているかといいますと、銀行持ち株会社が株式を保有できませんし、この間出資していまして、銀行子会社、証券子会社とあります。その銀行子会社は株式は持てないんですが、証券子会社が株式を持っていいですよと。そして、ここで調整をしているわけです。そうすると、間接的には、証券子会社が例えば損が出ます、そうすると銀行には影響もあるわけですね。

 そこで問題なのは、今おっしゃったとおり、移すだけでいいかどうか、それが今御質問の趣旨でございます。

 そして、これにつきましては、銀行が現在持っております株式は約四十兆でございます。四十兆の株が、時価会計ですとか収益対策で売りに出そうということですから、大変な圧力になっている。それから、買い手も非常に少ないということですから、このまま放置しておきますと長期低迷になる。しかも、金融機能に悪影響を及ぼす。マイナス成長ということにもなりかねません。

 そこで、やはり切り離したときに、一たん正式に切り離すにしても、受け皿が必要になるんですね。受け皿機関をどういうふうにつくるか。それで、そのときに、四十兆円というのはかなりのお金でございますから、やはりその受け皿として機関をつくって、そこに公的資金といいますか、これは公的資金といっても税金とかいうことではなくて、政府が保証して保証債を出して資金を調達する、その資金は民間から調達する、そういうような形をして、それと同時に民間の出資等を一緒にしたような形のものをつくって、しかも銀行が今にも売ろう売ろうとしている株式を一たん凍結する必要があると思います。それでは市場機能に反するじゃないかという御意見があると思いますが、私は、日本の資本主義というのはもはやそういうところまで来ているんだろうと思います。

 二年前に銀行に公的資金を入れました。このときもいろいろ意見がありましたけれども、このときには銀行自身が既にもう実質破綻状態だったんですね。それを公的資金を入れて何とかして出血をとめて、それで何とかマイナス成長からはい上がったわけです。それで、さらに今暗雲として残っているのが銀行の株式保有ですから、これに対して一つの機関をつくって、私の個人の意見としては、公的資金的なあるいは政府保証債的なものを出す機関をつくって官民協力してやらざるを得ない時期にもはや来ているのではないかと思います。

井上(喜)委員 どうもありがとうございました。それでは終わります。

自見委員長代理 次に、平岡秀夫君。

平岡委員 民主党の平岡秀夫でございます。

 きょうは、公述人の皆さんから大変興味あるお話を伺いまして、ありがとうございました。できれば、きょうの公述人の皆さん全員からまたいろいろとお話を伺わせていただきたいと思いますので、順を追ってちょっと質問させていただきたいと思います。

 まず、鷲尾公述人に対してでございますけれども、最後に、政治への信頼の回復が必要であるということで、この予算委員会でも、KSD事件に絡んでものつくり大学の予算措置のあり方とかあるいは機密費の問題というようなことが議論されました。こういったことについて、我々、必ずしもこの予算委員会で本当の意味での実態解明がまだできていないということに対してじくじたる思いを持っておるのでございますけれども、これからも引き続きこうした問題について解明に努め、それをさらに国政の場、あるいは予算に、どうあるべきかという議論に結びつけていきたいというふうに思っておりますので、どうぞ御容赦いただければと思います。

 それで、最初の質問なんでございますけれども、鷲尾公述人は先ほど、雇用対策こそが景気対策であるということを説明されました。雇用対策といっても、やはり時代に応じていろいろな対策が考えられるんではないかというふうに思うんです。これまで景気対策というとすぐに公共事業というふうに言われてきたわけでありますけれども、まず、現時点において、公共事業による景気対策、これが雇用創出に対してどのような効果を及ぼすであろうか、影響を及ぼすというふうに見ておられるかということを聞いてみたいと思います。

 というのも、実は九二年八月から経済対策として百二十九兆円の事業規模での予算がつぎ込まれているわけですけれども、それにもかかわらず失業率については、一時四・九%、現在でも四%後半の失業率があるというふうなことで、必ずしも公共事業による景気対策、雇用創出というのはうまくいっていなかったんではないかというような見方を私としてはしているということでございます。

 それと、雇用対策に関して、これからの政府の雇用対策の方向性というのはどうあるべきか。先ほど、時代に応じた対策であるべきと申し上げましたけれども、現在、経済構造改革というようなことも言われております。それから、地方分権化が進んでくる中で、地方における雇用対策というものもその地域の特殊性に応じたものでなければならないということもあろうと思います。さらには、今現在、若年者がなかなか新規採用が受けられない。あるいは、雇用の形態も、パートとか派遣あるいは契約労働者といったような形での雇用関係になってきている。

 こういうような状況を見てみますと、これからの政府の雇用対策というのは一体どのようにあるべきかというふうに考えておられるかというところについて、まずお聞かせ願いたいと思います。

鷲尾公述人 お答えをいたします。

 まず第一に、公共事業予算の雇用創出の問題であります。

 この問題については、今先生御指摘のとおり、これまで大量な公共事業が景気対策として投入されましたが、雇用の環境は悪化するばかりであります。それだけを結びつけるわけにいきませんけれども、それだけ予算を支出しながら雇用状況が改善できなかったというのは、今までのような公共事業による雇用創出の効果というのはそれほど大きくない。全くないとは言いません。もちろん、公共事業をなくすれば雇用に影響があるというマイナスの部分はありますけれども、しかしながら、従来のような大きな効果を与えているものではないということを申し上げたいと思います。

 特に、今日の雇用失業状況を考えた場合に、最も大きな要因としてミスマッチが挙げられます。この統計を見ますと、まだ二〇〇〇年度は十一月までしか出ておりませんが、新規求人数に対する就職件数です。要するに、これを充足率というふうにいいますが、充足率は、九八年度でわずか二八・七%、九九年度が二九・二%、二〇〇〇年の十月が二四・七、二〇〇〇年の十一月が二四・三というふうに低下しています。これは、いかに求人が仮にあったとしても、それに伴う技能、技術を持っている求職者がいないということがこの充足率にあらわれているというふうに思います。

 したがいまして、これからの雇用対策というのは、まず何よりも雇用創出をいかに考えていくか、雇用創出を考えていくと同時に、そのための技能、技術の習得を職業訓練等で行わなければいけない、こういうふうに考えているところでありまして、その意味からいいますと、後ろ向きの単なる失業対策ではなく、雇用を創出する対策と、それに伴う技術を持った技能者を育成するという予算を強力につけ、対策を強力に進めるということが大変重要ではないか、このように考えています。

 お手元にお配りいたしました連合の重点政策の一ページに、百四十万人の雇用創出計画がございます。私どもの計算でございますけれども、分野としてはこれだけの分野があって、ある程度の雇用が創出できるということでございます。この分野においても、それに適合できる技能、技術を習得している人がいないというところが現在の一番の大きな問題ではないか、このように考えているところでございます。

平岡委員 重ねて鷲尾公述人にお伺いしたいと思うんですけれども、きょう午前中もどなたか公述人の方が、これからのいろいろな景気対策の中では、可処分所得をふやしていくという努力に加えてというか、それのほかに可処分時間をふやしていくというような政策をとっていくべきではないかというような話がありました。多分、可処分時間がふえてくるといろいろな個人消費の拡大につながっていくということもあろうかと思いますけれども、この点についてどのようにお考えになっておられますでしょうか。

鷲尾公述人 先生御指摘のとおり、可処分時間をふやすということは、景気にはいい影響を与えるだろうというふうに思います。

 そして、今の消費者の消費動向でありますが、物をたくさん買うというよりも、時間を有効に使って、例えばレジャーその他で楽しみを得る時間も人生にとっては必要だという感覚になってございますし、また、そうした可処分時間を通じて、先ほど申し上げました職業訓練等に使うという、いわば生涯教育に使っていく時間に回すということもできるんではないかと思います。

 それとあわせて一つ申し上げたいことでありますけれども、先ほど御質問の中にもございましたように、パートタイマーや派遣労働者という非正規従業員が増大しています。これはアメリカの例なりヨーロッパの例でもそうでありますけれども、確かに諸外国においても非正規従業員が増大して、このことが雇用を確保する場になっていることは事実でございます。しかしながら、アメリカの場合は抜きにいたしまして、ヨーロッパの場合にはオランダ・モデルというものが非常に有名になっておりますけれども、これはまず大前提として、時間当たり賃金は同一にしなければいけないという条件があるわけでございます。

 したがって、例えば女性労働者の活用ということで、M字形を解消するためにどうしたらいいか。その間だけは短時間労働でやりたい、そうした需要に応ずる必要があるというふうに思いますけれども、この場合でも、時間当たり賃金を同一にすることによって短時間労働を選択する。高齢者や女性などはそういう方々が多いというふうに思いますから、そのことによって雇用の場をつくり、家庭生活は安定、安全を確保し、かつ男と女が両立して働き、生活できる社会をつくることができる、こういうふうに思いますので、このことも可処分時間の問題とかかわり合いがあるのではないか、こういうふうに考えております。

平岡委員 それでは、菊池公述人にお伺いいたしたいと思います。

 菊池公述人のお話、きょう初めて私お伺いしたものですから、私の考えとは大分違うので、もっともっと本当は議論をしたいなという気がするんですけれども、とりあえずきょうは二つぐらいに問題を絞ってお聞かせ願いたいと思います。

 まず一つは、この公述の中に、銀行の株式保有を禁止するあるいは銀行から切り離すというような御提言があるんですけれども、これは実は、今問題になっている株価対策という面から見たときには一体どういう影響があるのか、移し方の問題とかいろいろあろうかと思うんですけれども、その点ちょっと説明していただきたい。

 それからもう一つは、ここの二ページのところに「銀行保有の株式残高を凍結し、」というような、ちょっとその凍結の意味がよくわからないんです。本当の意味での株式市場の活性化にこれがつながっていくのかというように考えてみると、どうも今の日本の株式市場が持っているさまざまな問題についての本質的な解決にはつながっていかないんではないかというような感想をちょっと受けたのでございますけれども、その点についてどう思われますでしょうか。

菊池公述人 それでは、今の件についてでございますが、最初の銀行の株式保有、つまり銀行が持っている株式を早く銀行本体から切り離した方がいいということは、私は実は、一番最初、このことを新聞に書いたのが九五年の十二月十八日の日本経済新聞でございました。これは、ちょうど日本経済新聞さんの記者の方にお会いしてそのお話をしましたら、おもしろいね、ちょっと書いたらということで書かせていただきました。

 そのときから実は私の問題意識は、まず株式市場対策というよりは、金融システムにとって、銀行が本体で株を持っていることは、結局信用収縮を呼び起こしてマネーサプライの減少になる、それから銀行の本来の機能である信用創造機能を減退させる、これがまずいんだ。

 それで、例えば銀行が株式を本体で持っているのは、実はドイツは持っております。しかし、ドイツは、九三年の一月に、第二次金融改革のときに銀行法を改正いたしまして、自己資本の六〇%しか持ってはいけません、それからそのときの残高で凍結してしまいました。それと同時に、銀行がいわゆる益出し行為をやって資金を得て、その資金によって不良債権を解決するとか、いずれにしても収益的なかさ上げをすることはしません。これは行政指導でやっております。

 ですから、そういうことによって、銀行が本体で持っている株式、持っているために株価の影響が直接銀行の収益に影響を及ぼす、それが金融システムに悪い影響を及ぼすのだ、それが実を言いますと私の発想の原点でございます。

 では、持っている株式はどうするのということになってくるわけでございます。私の考えでは、徐々に落としていくとかいうことも考えられたんですが、実を言いますと、余りにもその保有残高が多いものですから、現在、大体銀行の自己資本の一・五倍ぐらいを株式で保有しているというようなケースもございますので、結局その問題が景気の動向にとって大きなマイナスになってきた。つまり、株価がどんどん上がっていくような状況であれば自然と切り離しができたかもしれません。しかしながら、それが、どんどん株価が下がり、同時に、九七、八年のように株価が下がりまして、それが直接信用収縮を起こしたということになってしまったんですね。

 一方、株式市場対策については、現在いろいろな角度で検討がなされておりますし、それから具体的にそういう案をもう二年以上前に御提案なさっている方もいらっしゃいます。したがって、そういう方向で考えますと、銀行が持っている株式というのは、やはりバブルの後遺症のいわば残滓といいますか、最後に残った問題になってきているんですね。

 それで、現在、持ち合い解消というようなことで相互に金庫株で調整しようとかいろいろありますけれども、銀行は過少資本ですから、銀行が企業と持っている株式を相互に調整し合う、消し合うということはできません。したがって、最終的に銀行が持つ株だけがいわば大きなしこりとして残るわけです。これが最近、時価会計等の関係で売りに出されますから、大きなマイナスになる。株価が下がると、また再び金融システムのマイナスになる。

 そこで、私は、これをまず金融システム安定化の見地から切り離そう。切り離すときに、一たん例えば三月まで凍結して、残高は動かさないで切り離して、それで同時にどこかへ移して一時的に凍結しておく。同時に、ではそれをどうするのかというときに当たっては、それの受け皿をちゃんとつくらなきゃいけない。その受け皿が、先ほどちょっと申し上げましたとおり、やはり一部公的な資金をつくって入れるのかどうか。私はある程度そういうふうな配慮もして、それを凍結して、そこに一時的に切り離して、凍結した残高のまま残しておいてもいいと思うんです。

 そうするとどうなるかといいますと、市場からはそういう過剰株式というものが一たん離されますから、結局、株価は上がります。株価が上がってくるということは、資金の流動が飛びますから、結局、資産デフレを解消するには、株価をまず復活させて株価を流動させる。上がるもの下がるものがあっていいんですが、みんなが株式市場に目を向けて、上がるものがあればやはり買っていく。それによって結局、土地の底値感も出てきて資産デフレも解消できるんじゃないか。その一つの決め手が銀行の株式の凍結であり、その凍結に対してそのような、民間だけではできない部分に政府も関与して、官民一体となってやるべきじゃないかというのが私の見解です。

平岡委員 ちょっと時間がないので、できれば簡単にお答えいただければと思うんです。

 もう一つ、これはどうしても聞かなきゃいけないということで、また菊池公述人でございますけれども、いただいた資料の六ページというか、マル3と書いてあるところに「日本政府の貸借対照表」というのが書いてありまして、ここに、負債、公的年金あるいは公務員の賞与・退職給与引当金というものについては、徴税権とか保険料徴収権があるので資産見合いがあるんだというようなことで、これを債務として認識すべきではないというような趣旨のことを言われておるんです。

 ここは、この前大蔵省が出しました国の貸借対照表の中でも、公的年金をどんなふうに計算するかというのはいろいろありますけれども、一つでは二百九十兆円、もう一つでは八百兆円というような負債を認識すべきであるという議論もありました。それから、公務員の賞与・退職給与引当金についても、大蔵省の貸借対照表では二十九兆円が計上されております。

 ということで、ちょっと考えてみると、この徴税権とか保険料徴収権、先ほど木村公述人も言われておったんですけれども、確かにそういうものはありますけれども、これで本当に調達しようとすると、現在でも、平成十三年度予算では、八十三兆円の歳出に対して五十四兆円の租税収入しかない、二十九兆円も不足しているという状況、あるいは社会保障について言うと、現在一四%強の社会保険料負担率がいずれ二〇二五年には二八%まで上昇していかなければならない、そういう状況が見えている中で、あくまでもこれを見合いの資産が立っているんだというような認識をすることは極めて不自然な考え方ではないかというふうに思うんです。ちょっと失礼な言い方をして済みません。

 もう一つ、その八〇%ポイント、日本だけが開差があるというふうに書いてあるんですけれども、これも多分、日本がこれから少子高齢化を急速に迎える中において、それだけの社会保障基金というものがなければ将来の社会保障がきちんとできていないということの一つのあらわれであって、一五%の差しかない、八〇%も差があるということではなくて、将来の日本の姿がこれをあらわしているというふうに認識すべきであって、ここをもってして純債務が同じだということで単純に議論するのはちょっとおかしいんじゃないかというふうに私は思うんですけれども、いかがでございましょうか。

    〔自見委員長代理退席、委員長着席〕

菊池公述人 二点についてお答えいたします。

 私の見解といたしましては、まず第一に、国は、先ほども申しましたとおり、そういう公的年金、それから将来にわたる公務員の給与だとか退職手当というものを債務に計上するのはいかがなものか、こういうふうに私は申し上げたわけです。

 それは、先ほども申し上げましたとおり、政府にはやはり徴税権があります。国が存在しているうちは徴税権があるわけです。それから同時に、公的年金に対しても賦課権があります。では、最近、税収が上がるかどうかわからぬ、年金に対する徴収権というものはだんだんと年代構成等の関係で少なくなってくるじゃないか。それはそうかもしれません。しかしながら、そういう権限がある以上、それはやはり資産の見合いとあるべきで、この段階では考えるべきだと思います。

 それで、ややきざっぽいですが、アメリカには、御存じと思いますけれども、こういうものに対しては、インタンジブルアセットといいまして、将来発生する資産というものは債権に計上すべきであるという会計基準です。日本はちょっと違う。その辺のところは、私は会計の専門家ではありませんから、よくわかりません。

 ですけれども、そういうことを考えれば、やはりこれをいきなり債務として取り上げるのはいかがなものか。これは本当に国民にとっては、いかにも、国まで債務なのかと。新聞の見出しは国も大幅債務超過なんて書かれますから、ますます国民は萎縮していくんですね。ですから、それはむしろ別除して考えるべきじゃないか、それははっきり私は思います。

 ただし、ともにそういう将来の課題については認識をきちっとしてその対策を考えていく。しかも、それは現在既に段階的には考えているわけですから、考えていかなきゃいけないという問題提起はしておいてよろしいと思います。

 それから二番目には、純債務で社会保障基金を入れるのはいかがなものかとおっしゃいます。

 だけれども、今先生も御指摘のとおり、二〇〇〇年ないしは二〇二五年までこの残高は続くわけですね。この残高が消滅するのは二〇〇〇年から二〇二五年と言われています。しかも、この資産はどうやって回っているかというと、大部分は国債を購入して回っているわけですから、そういう意味では、金融資産というのはやはり純債務の大きなベースと考えるべきじゃないかと思います。特に日本はこのウエートが高いわけですね。

 では、欧米ではどうなっているかというと、欧米では、年金関係とかこういう社会保障基金というのは通常の財政の中に含めて考えている場合があります。ということは、現在既に年々十兆円ぐらい残がふえていますが、これは財政黒字と扱っているわけです。

 ですから、そういうことを考えますと、やはりこの資産を入れて考える。しかしながら、将来この資産が徐々に減少していくという問題提起は持たなければいけませんし、それに対して国民の協力も得なければならない。だけれども、いたずらにこれを除いて、さあ、総債務だけで大変だというのは、私はかえって国民を不安に駆り立てるんじゃないか。

 それから、やや僣越な言い方でございますが、国際的に、債務状況を比較する場合には純債務でやるのが一般でございます。私はしばらく海外に勤務したこともございますが、そのときにも必ずそういうことでやっておりました。

 ですから、総債務だけを取り上げて、それがこのまま伸びていくといかにも今に破綻しそうだなどという議論は、私はちょっと実態を反映していないと思いますし、そういうふうに考えます。

平岡委員 もっといろいろと議論していきたいんですけれども、また別途の機会にさせていただいて、次に木村公述人にお伺いしたいんです。

 先ほど午前中の公述人のお話の中には、不良債権問題については、景気回復をやってからその後で取りかかったらいいんじゃないかというようなことを言われておった方がありました。それから、政府は、不良債権については担保とか引き当てが十分にできているので、この問題は基本的には処理済みであるというような説明をしておるわけでございます。

 ただ、そうはいっても、この前のG7では各国から、日本は金融セクターの強化にもっと継続して努力していけというようなことも言われておるわけでございまして、先ほど私が申し上げました公述人の方あるいは政府の意見に対して、先ほど違う意見を述べられたと思いますけれども、そうした政府の意見とかあるいは違う公述人の意見に対しましてはどのようにお考えになりますでしょうか。

木村公述人 お答えいたします。

 確かに、景気を回復させてから不良債権を片づけることができれば、私はそれが一番望ましいと思います。日本はそれを試して十年間むだに棒に振り、しかも不良債権をふやしておるという現状を、日本以外のほかの国は憂えておるということでございます。

 実際、銀行の不良債権の処理額、こちらの方の予想額と実現の数字を比べてみますと、二倍から三倍になっておるというのが実情でございまして、これは、実情を知っているかどうかはともかくとして、第三者の目から見れば予想どおりにきっちりと引き当てが終わっているとは到底思えないような会計処理になっておるから、格付機関はなかなか格上げをしてこないということでございます。

 そのあたりの、外部から見てもきっちりと説明のつくような引き当て、償却になっているのであれば、当然、格付機関を説得して、日本の銀行は既にトリプルBのような形ではなくてダブルAあるいはトリプルAに戻るはずでございますけれども、政府の助力を排除した、そういうサポートを排除した財務格付というのがございますが、これは残念ながらブラジルその他の非常に悪い銀行の格付と同じだ、この事実だけは認識しなければならないと思っておるわけでございます。

平岡委員 先ほど御説明の中で、新規貸出約定平均金利が上昇してきているというような説明がございました。

 我々としては、これだけ大量の国債を発行したら、今度クラウディングアウトというふうな形が生じ、あるいは民間の資金需要がふえたときに、金利の上昇というものを通じて、逆にまた国債の暴落ということを通じて本当に大変な状態になってしまうんではないかということを心配しておるわけでございますけれども、木村公述人におかれては、この辺の国債の暴落の心配、あるいは金利上昇に伴う国債費の財政に与える負担の大きさ、こういう点についてどのようにお考えになっておられますでしょうか。

木村公述人 お答えいたします。

 確かに客観的な情勢は厳しゅうございます。ただ、日本はありがたいことに貯蓄過剰国である、そして非常にまれな高い貯蓄率を誇っておる、そしてほとんどの国債は日本の国内で消化されておるということがございます。そういう意味で、日本の今の国債の発行はしばらく続くことは可能かもしれません。

 しかし、日本が今学ぶべきは、一九九二年、九三年のイタリアの財政危機であろうと思います。そのイタリアの財政危機のとき、イタリアの国債は九五%が国内で消化をされておりました。あるいはカナダも同じです。カナダの財政危機も、カナダの国債を買っていたのは、海外ではなくて、カナダの国民でございました。しかし、その国民が、日本の国が本当に財政を立て直せない、そういうふうにわかったときに、やはり海外に逃亡している。少なくともそのような事例については、我々は謙虚に学ぶべき点があるように私は思っております。

平岡委員 それでは、最後に大田公述人にお聞きしたいと思いますけれども、先ほど、ひとつ税制の全体像を示すべきであるということを言われました。確かにおっしゃるとおりだと思うんですけれども、私は、税制だけじゃなくて、やはり社会保障負担も含めた国民負担をどうするかという全体をまず示すという必要があるのではないかというふうにも思うのですけれども、その点。

 それから、先ほど税制の全体像を示すという中に、消費税なら何%、所得税なら何%というような言い方をされたんですけれども、そういう問題じゃなくて、税制というのは、いろいろな組み合わせ、資産課税と所得課税と消費課税というような組み合わせの問題とか、あるいはそれぞれの持っているいろいろな課税上の問題点、消費税についてもいろいろな課税上の問題点が指摘されております。所得税についても、所得の把握という面についてもいろいろ問題があると思います。そういう意味でいくと、税制についてももうちょっと何か、大田公述人がどのように考えておられるかということについて、もう一問質問したいので、もう一問できるまでの間におさめていただければと思います。

大田公述人 私の言葉不足でした。社会保険料まで含めて負担の構造として議論する必要があります。一点目はそういうことです。

 二点目ですけれども、私の考えは、これからの税は、広く、薄く、シンプルである必要があると思っています。余りに高い限界税率でありますと経済活動にゆがみを与えますので、広く、薄く、シンプルに。これでいいますと、まず、所得税は課税最低限の引き下げ、これが重要な課題です。それから、税率構造はフラットにしていく。そして、消費税を今より引き上げるということが必要です。

 先ほど、具体的な税率を含めてビジョンを示してほしいと申し上げましたのは、消費税を福祉目的化する、あるいは福祉目的税にするという議論は出ているのですけれども、そうしたときに、果たして税率は何%になるのかという議論が出ておりません。私が簡単に計算しただけでも、それで二四%になります。果たしてその税率でいいのかどうかということを、ぜひ各政党にビジョンを示していただきたいと思って申し上げました。

平岡委員 もう一問ほど大田公述人にお聞きしたいのですけれども、先ほど、地方財政についての国の役割を最小限にということでいろいろな御提案をされたように思いますけれども、実は私も、地方財政については基本的には大田公述人と同じ考え方を持っております。

 ただ、やはり問題は、先ほどちょっとお話がありましたけれども、地方に税源というものが偏在しているということが最も大きな問題ではないかなというふうにも思うわけであります。すなわち、実は先ほどの中に、ナショナルミニマムについては国が面倒を見るというような形、それを超える部分については、地方が自分たちの負担を考えて、自分たちがどういう公共サービスを提供するかということを考えていく、これでいいと思うのですね。

 ただ、そうなりますと、今の税体系と全く逆の体系をつくっていかなきゃいけない。つまり、所得税とか法人税といったような景気の動向に非常に左右されるもの、あるいは地方と都会との間で税源が非常にアンバランスなもの、これについて所得再配分機能といいますか、財源調整機能を働かせて、そうではない部分、例えば固定資産税のような資産課税であるとか、あるいは場合によっては人頭税のようなものとか、そういうものについて地方で税源にしていく、財源にしていくというような、非常に根本的な改革が必要になってくるのではないかなというふうに思うのです。

 それで、先ほどちょっとドイツの関係で共同税の話をされましたけれども、実は、この前勉強していましたら、日本の地方財政というのは物すごい赤字ですね。ドイツも、かなり地方分権が進んでいるといえどもやはり赤字なんですね。分権が進んでいる中では赤字の規模が非常に大きい。つまり、どうしてかというと、やはり税収というもの、財源というものを人に頼っているようなケースの場合はどうしても赤字が大きくなってしまうような気がするのですね。そういう意味では、本当にみずから地方が課税権を持つとともに税を徴収する苦労をしなければいけない、そういう仕組みにやはり地方分権における財源というのはなっていかなきゃいけないんだというふうに思っているのです。

 大きく分ければその二つの点なんですけれども、御意見をお聞かせいただければと思います。

大田公述人 共同税は、例えば消費税のようなものを充てることは考えられると思うのですね。今は国の所得税、法人税、お酒、その一定割合、ほぼ三割を向けるという形になっていますので、全体像が非常に見えにくくなっている。共同税として区切られた財源を集めることでそれを配分するということで、配分はそこで透明になります。

 それから、では地方は独自の税としてどういうものを取るか。私は、固定資産税と個人住民税が基本だと思っております。今の地方税は余りに法人課税に依存し過ぎております。おっしゃいましたように、例えば市町村ですと均等割のようなもの、人頭税的なものを基本に据える、それから都道府県ですと一定税率の個人住民税を基本に据える、そして固定資産税は両方で配分するという形が望ましいと思っております。

平岡委員 ありがとうございました。

野呂田委員長 次に、達増拓也君。

達増委員 自由党の達増と申します。公述人の皆様、きょうはありがとうございました。

 さて、まず鷲尾公述人に伺いたいと思います。

 雇用対策こそ景気対策、全くそのとおりだと思います。そして、もう一つ重要な柱として社会保障基盤の構築。これについては自由党の方でも、抜本的な制度改革、社会保障改革を行って、特に今、政府の基本方針では、基礎的社会保障についても保険方式を維持していくということになっているわけでありますけれども、もうばたばた健保組合が破綻に瀕していたり、また、基礎年金、国民年金の空洞化も進んでいるということで、やはりここは税方式を中心にしていかなければならないと考えておりますけれども、この点についてもう一度伺いたいと思います。

鷲尾公述人 お答えいたします。

 先ほど不十分な説明でありましたけれども、私どもは従来から、基礎年金の国庫負担二分の一への引き上げをすべきである、こういう議論をしているわけであります。ただ、この財源確保についてどうするかという問題についてはいろいろな意見があろうかと思います。この点について議論を早期に進めて国民合意を得るということがまず大事ではないか、こんなふうに考えております。

達増委員 社会保障については、大田公述人にも伺いたいと思います。

 大田公述人、先ほど意見陳述の中で、世代間の公平性が大事とおっしゃった。そこにはやはり余り現役世代に過重な負担をかけてはいけないということが示されているんだと思います。もう一つ、これは財政全般についてですけれども、国がナショナルミニマムを保障する。特にこれは、社会保障についていえば、やはり基礎的社会保障、これは医療、年金、それから介護もだと思うのですけれども、特に介護については、保険方式でやれと地方に全部任せるのではなくて、やはり最低限の部分は国の方で財源を手当てするというようなことにもつながっていくと思うのです。自由党は、基礎年金、高齢者医療、あと介護については消費税で国が保障すべきだというふうに考えているんですが、それについてどう思うか、伺いたいと思います。

 一つ、その前提として、企業負担、雇用者の負担については、我々はそれは維持しようと考えておりまして、一種の外形標準課税的な趣旨でそういう企業負担、雇用者負担も残した上での消費税での基礎的社会保障ということですから、八%とか一〇%とかいうところからそんなに離れた消費税にはならないだろうと考えているんですけれども、この点、いかがでしょうか。

大田公述人 今の社会保障制度はよ過ぎてもたないんじゃないかという懸念があります。

 年金について申し上げますが、私はこれは、おっしゃいましたように、ナショナルミニマムにとどめるべきだと思っております。基礎年金の財源は消費税にする、そして二階部分は積立方式に移行して民営化するという意見を持っております。それで、私は企業負担分はなくしていいと思っております。としますと、先ほどの計算は基礎年金の国庫負担分を二分の一に引き上げたときの試算ですので、全額消費税にしますともっと高くなるはずです。八%と一〇%では、私はもたないだろうと思います。

達増委員 そこは、企業負担部分の計算とかあるのですけれども、御指摘はそのままいただきたいと思います。

 次に、木村公述人に伺いたいと思いますけれども、木村公述人の不良債権問題処理への熱意、手術をしてでもという熱意は、銀行のモラルハザード、また金融関係者のさまざまな迷走ぶり、そういうかなりミクロなビヘービアの部分で、マクロでは、景気回復を優先させていけばそれが不良債権処理につながるという理論になるわけですが、やはりミクロで個々のビヘービアを見ていったときに、経営者の責任の追及、また今の銀行の高い給料、ボーナスとか、それから支店その他、設備の合理化とか、そこがまだまだ足りない、そういう問題意識があるのではないかと推測するのですけれども、その辺いかがでしょうか。

木村公述人 経済政策として見ますと、ミクロのビヘービアの問題よりは、やはりマクロの不良債権のインパクトの方が私は大きいように思います。

 ただ、海外から見た場合に、公的資金をもらった銀行が減配も無配もしないということは確かに奇異に映っておる、そういうことはやはり気にとめなければならないと私は考えております。

達増委員 木村公述人に引き続き伺いますけれども、デフレ圧力とインフレ圧力、進めば進むほど両方とも強くなっていくという、そこが木村公述人の現状分析の一つの大きな特徴だと思います。国会、政府周辺にも、コントロールしてインフレに持っていくというさまざまな議論があるわけですけれども、これだけのインフレ圧力がある場合に、かなりそれは危険性があるのではないかと思うのですが、その点はいかがでしょうか。

木村公述人 インフレターゲティング論につきましては、通常、高過ぎたインフレを下げる場合には有効だと言われております。また一方、デフレのときにインフレにしたスウェーデンの例も確かにございますけれども、あくまでも例外的というのが学説のようでございますけれども、一つは、その学説的な問題のみならず、恐らく委員会の先生方におかれましては、実務的に本当に可能なのかという点を追求する必要が私はあろうかと存じます。

 インフレターゲット論を言われる方々は、日本銀行の政策能力に対してかなりの疑問を示していらっしゃいます。バブルの発生もとめられず、バブルの崩壊もコントロールできなかった中央銀行に、なぜインフレというものをコントロールできることを望まれるのか、私は理解ができません。

達増委員 鷲尾公述人にまた戻りたいと思います。

 マクロ政策のみならず、経済の構造改革も進めていかないと今の問題は解決しない、だからこそ雇用対策というのが非常に重要になってくると思います。

 先ほど百四十万人雇用創出策というのを紹介いただいたのですけれども、あとは新しい技能を身につけていく、そういう教育訓練というのが非常に重要になってくると思うのですが、その教育訓練について御意見を伺いたいと思います。

鷲尾公述人 これまで日本経済を支えておりましたのは、やはり労働者あるいは国民の技能、技術が基本になっていたと思います。こうした意味で、これまでだれがそうした教育訓練を担ってきたかというと、これはほとんど企業内の負担でございます。しかしながら、企業内の負担だけで新しい技術、技能転換を進めるということはなかなか難しくなっておりますので、これは政府あるいは地方自治体含めまして、そうしたところの支出が教育訓練に投入されるべきではないか、このように考えております。

 また、自助努力も必要でございますので、その自助努力を促進するような政策を行うことも十分必要なのではないかというふうに考えます。

達増委員 時間が参りました。以上で終わります。

野呂田委員長 次に、佐々木憲昭君。

佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。

 公述人の皆さん、どうも御苦労さまでございます。時間が短いので、お二人にお伺いをいたします。まず木村公述人、引き続き鷲尾公述人にお伺いをしたいと思います。

 先ほど、木村公述人は、不良債権の処理ということを大変強調されておられまして、ごみである不良債権をきっちり処理しなければならない、こうおっしゃいました。ただ、私は、この不良債権ということを見る場合、その内容についてもう少し立ち入って検討する必要があるのではないかというふうに思っております。

 先ほど配付をいただきましたこの「公表不良債権の推移」を見ますと、九七年から急増しているということになっております。これは、不良債権というのは、もともとバブル時代に投機的な活動をした結果生まれた、そういう要素と、さらにその後、長期的な不況に陥り、特に九七年以後の消費不況、この中で需要が低迷し、中小企業が大変な事態になり、そこに貸し込んでいる銀行の貸し出しの回収が非常におくれていく、そういう面のいわばバブル崩壊型不良債権と不況型不良債権、単純に言いますとそういうふうに言えるのではないかと思うわけであります。

 そうしますと、これをごみとして直ちに処理するというふうになりますと、私は、中小企業にとってはかなりきつい状況が生まれるのではないか。この点はやはり区別をして、性格をよく見た上で対応するということが大事だと思いますけれども、その点はどのようにお考えでしょうか。

木村公述人 確かに先生のおっしゃられるとおり、不況型、バブル型、きっちりと分けることができれば、それは非常に好ましい政策の制定はできるかと私は思いますけれども、残念ながら、人間の力でそこまで完璧に区別をすることは難しゅうございます。

 例えば特別保証、これにつきましては、確かに数少ない優良な中小企業は救われたと思いますが、ブローカーに二〇%、三〇%を払って資金を調達した中小企業がもともと優良かと問われると、国民の一人としては大きく疑問に感じざるを得ません。

 しかしながら、不良債権を本当に処理するという過程におきましては、先生の御指摘のとおり、たまたま経営者が悪いだけで残念ながら失業という非常につらい局面に置かれる労働者がたくさん出ることも、状況としては実態があると私は考えておりますので、それに対しては、例えば新しく雇用する企業に対して賃金の二年分の半額を持ってあげるとか、そういう構造改革をするような形で有意義に財政資金を使っていただきたい、決して馬を買うためではなくというふうに申し上げたいと思います。

佐々木(憲)委員 ありがとうございました。

 鷲尾公述人にお伺いをいたします。

 雇用対策が景気対策ということで、雇用の問題が大変私も重要だというふうに思っております。

 そこで、ちょうど二年ほど前、一昨年五月に社会経済生産性本部が、サービス残業を大幅に削減し、ゼロにする、これは法律違反ですからゼロにして当然だと思いますが、その場合の雇用創出効果というのは九十万人、それから残業を削減しますと、所定外労働時間をゼロにして、その分雇用を拡大すると、百七十万人の雇用拡大効果があるというふうな試算を発表されました。

 その試算の前提になっているデータ、これは連合がかなり詳しく調査をされたというふうにお聞きをしておりますけれども、連合が九八年の雇用対策方針の中で、この時間外労働削減による雇用創出、これの取り組みを強化するという提起をされました。私もこの点は大変共感を覚えておりまして、私どもの政策でも、これは大変重要な課題であるというふうに考えております。

 そこで、先ほどお示しをいただいた百四十万人雇用創出という中には、公的分野での創出の試算はされていますけれども、サービス残業の規制、長時間労働の規制、このことによってこれ以外に雇用創出効果もあると思うんですけれども、現時点でこの点はどのようにお考えになり、またどのように試算をされておられるか、この点をお伺いしたいと思います。

鷲尾公述人 この点については、ことしの春季生活闘争、春闘の方針でも同様なことを掲げておりまして、雇用確保のためには、大前提として、まず何よりもサービス残業をゼロにするということではないかと思います。そして、社会経済生産性本部の計算も、それなりに私どもも一緒にやっておりますので、そうした数字が、今お示ししました数字以前に雇用創出ができるものだ、こういうように考えています。

 残業の問題でありますが、これは痛しかゆしの問題がございまして、従来、日本の労使の間では雇用調整機能に使っていたんですね。ですから、不況でもって首切りをする前に残業を減らす、こういうことになっているわけです。

 ところが、現実問題として、今日、緩やかに企業業績が回復して残業時間はふえる動向にあります。これはやはり問題外でありまして、労働組合としても、やはりしっかりとした方針を打ち立てて、その部分でまず雇用を確保するということをした上で、かつ、ミスマッチが多いわけですから、これは新たな分野で雇用創出をする、そうした職業訓練を行うということが必要ではないかと思っております。

佐々木(憲)委員 財政の役割について、引き続きお伺いをしたいと思います。

 現在の不況の最大の特徴といいますか、あるいはまた、今は景気回復過程にあるとも言われていますが、回復しているのは、設備投資と大手の企業の利益が回復しておりますが、しかし、家計消費の方は冷えている。その面を大企業による雇用拡大ということによって支えるという面があると思いますが、同時に財政の役割、これが非常に重要だと思っております。

 そういう意味で、財政の中での家計消費拡大効果といいますか、このことが大変重要だと思いますけれども、どうも私が感じるには、この数年間、先ほど、鷲尾公述人が、国民負担の方がどんどんふえてきて、その結果、消費を抑える大変重要なマイナス要因になっているというふうにおっしゃいました。私もそのとおりだと思うんです。

 そこで、財政の構造を消費拡大型に変える、その場合の基本的な考え方、それからどこに重点を置けば家計消費の拡大につながっていくか、この点をお伺いしたいと思います。

鷲尾公述人 これは、私、先ほど申し上げましたとおり、財政の規模自体をいたずらに拡張するということ自体は、現在の財政構造から許されないというふうに思います。

 私は、先ほど申し上げましたように、個々の項目をしっかりと、今先生御指摘のような形で、雇用創出に向かう、あるいは家計消費の拡大に向かうような予算支出をするというふうに検討した結果として、そのトータルが減るのであればなおよろしいというふうに考えるべきじゃないかと思います。

 その上に立って考えますと、私どもは予算組み替えが必要だというふうに思っておりますが、先ほどから申し上げておりますような、雇用創出対策に対して予算を支出する、あるいは職業能力開発等について支出を増額する、あるいは男女両立支援法についての拡充をするというようなところに予算をふやすということが必要ではないかと思います。

 したがって、生活関連の予算は増加させなければいけない。しかしながら、今まで一向に効果をあらわしていないというふうに思われる土木型の公共事業については大胆に削減する必要がある。また、その雇用創出効果やあるいは家計支出拡大効果を評価するシステムというものをつくってチェックをするということが必要ではないかと思っております。

佐々木(憲)委員 時間が参りましたので、以上で終わります。ありがとうございました。

野呂田委員長 次に、辻元清美君。

辻元委員 社会民主党、社民党の辻元清美です。きょうは、お忙しい中、お越しいただきましてありがとうございました。大変興味深くお話を拝聴いたしました。

 特に私は、経済再建のポイントということで、きょうのお話とも重なるんですけれども、三つのポイントがあるのではないか。一つは不良債権の処理の問題、それから二つ目はあらゆる分野での構造改革の問題、そして三つ目が雇用対策をどう打ち出していくかということが大切だと思っていますので、その点について、何名かの公述人の方々にお伺いをしたいと思います。

 まず一番最初に、不良債権の処理ということで木村公述人の方からお話がありました。先ほど、ハードランディングも辞さずというような御意見だったかと拝聴するんですが、その際には、この後、また鷲尾公述人に雇用の問題はお伺いしたいですが、雇用という問題が出てきますし、私はやはりここをきっちり片づけないといけない。

 先ほど、方向性については出していただいたわけなんですが、そうしますと、木村公述人がお考えの、なぜ今不良債権の処理がおくれているのか、これは私は政治の責任ということも大きいと思っておりますので、その点も含めて、理由、わけというところをお伺いしたいと思います。

木村公述人 不良債権の処理というのは、残念ながら、相当痛みを伴う外科手術でございますから、人間だれしも避けたいと思うのは、官僚たれ、あるいは人々のことを考える政治家の先生であれ、なかなか決断するのは厳しいと私も思うわけでございますが、この十年かかって、そして公表不良債権ですら減らないという現状を目の当たりにして動かなければ、これは政治家ではないと私は考えておる次第でございます。そのためには、その際に起こるデフレプレッシャーに対してどうやって国民を守っていくかというところをあわせてやっていただきたい。

 現状は、不良債権の裏側には不良債務者、問題企業があるわけでございますが、問題企業の経営者はリストラをすることによって何とか生き延びている一方で、リストラをされた労働者は何もカバーをされておらないという状況にあるような感じがいたします。そのあたりの不公平感が醸成される前に、必ず政治家の方々が何らかの対策を打っていただける、私はそう信じております。

辻元委員 今、不良債権の処理と同時にリストラの問題が出てきまして、私はやはり、構造改革も含めて、リストラに対応していく新しい雇用をつくるところに予算を注ぐということは、政治の使命ではないかと考えています。

 そこで、鷲尾公述人にお伺いしたいんですが、先ほど、能力開発、雇用対策の重点ということで二点、失業者四十万人規模の離職者職業訓練の実施や、それから新規学卒未就業者二万人に対する職業訓練委託事業の実施等々は例示としてお挙げになったわけですが、さらに、百四十万人雇用の創出ということをおっしゃっていまして、その具体的なメニュー、果たして雇用が創出できるのかどうかというところが一番懸念ですので、どういう具体策をお考えなのか、お伺いしたいことが一点。

 そして、特に重点としまして、私は四年前に衆議院に当選させていただきましたが、議員立法でNPO法をつくりました。そして、数日前にも、このNPOの税制の優遇措置の法案も議員立法で提出をいたしました。このNPOや、特に女性の起業家支援とか、新しい価値をつくり出していく仕事を生み出すサポートをいかにしていくかということがとても大事だと私は考えています。その点などについても御意見をいただきたいと思います。

 といいますのは、この予算委員会で、与野党激突ではないですけれども、私もいろいろな批判をしたりもしていますが、対案もきちっと私たちはつくっているわけで、特に新しい価値を生み出すところを、こつこつ勉強しながら全国を歩いて法案にして出していくという作業もしておりますので、その点も含めまして御意見を伺いたいと思います。

鷲尾公述人 先ほどからの議論にもございますように、不良債権の問題を筆頭にして、構造改革には当然痛みが伴うと思います。私は、日本の政策自体、先にセーフティーネットというもの、対策を国民に示し、そしてそうした構造改革をやれということのやり方が非常に欠けていると思います。

 先ほど、年金法の改悪の問題について議論したときもそうでありますけれども、年金の問題も、雇用継続があって年金を一年間支給をおくらせるというのであれば、国民は安心すると思うんです。それと全く同じようなことでありまして、これまで繰り返し述べてきたことは、雇用についても同じことが言えると思います。

 雇用対策の問題でありますけれども、すべてを国の予算措置でというわけではない、自助努力もしなきゃいけないと思いますが、お手元の資料にあります百四十万人の雇用創出策の中には、必要な国費の予算規模というものを提示してあります。例えば医療の分野においては、看護職員配置基準の改善等々をするためには、二対一、患者二人に対して看護職員を一人つけるというような方式もそれなりの予算が必要であります。こうした具体策を一つ一つ詰めることによって雇用は確実に生まれるだろう、このように考えているところであります。

 そしてまた、NPO法等については、私ども、全く税法等の改革について賛成でございまして、雇用という意味でも、NPOの人たちが雇用をつくり出す、アメリカではそういうものが非常に多いというふうに聞いておりますので、こうした分野についても、いわゆる一般的に言われる雇用とは違うかもわかりませんけれども、そうしたものが国民一人一人の働きがい、生きがいにつながるようなNPOがたくさんできるということは非常に重要なことではないか、このように考えています。

辻元委員 先ほど大田公述人が、歳出の構造改革というところで公共事業にも触れられています。

 公共事業に切り込むことへの抵抗感が強いのは、一つは、不要不急の公共事業について失業対策的な面があって、どうしても新しい雇用をつくっていくということに大きくシフトして切りかえる決断がなかなかできないという面があると思うんですね。私は、しかし、ここのところは二十一世紀型の社会のデザインに切りかえていくために、痛みも伴うと思うんです。

 そこで、ちょっとお伺いしたいんですが、今まで経済政策といえば、大きな政府か小さな政府というような議論がありましたが、私はもうその議論は古いと思っています。例えばヨーロッパ型の国々を見ましても、経済をシェープアップしながらセーフティーネットを張っていくという第三の道ということを追求していますけれども、私も、やはり日本も新しい社会のビジョンをきちっと、今までのイデオロギーの対立や、それに伴う経済政策の対立を乗り越えてつくっていかなきゃいけない。そのためには、私たち若手の議員がどちらかといったら中心になってそういう新しい価値を代表していくような活動はしていきたいと思っているんです。

 そこで、お伺いしたいんですけれども、先ほどの構造改革の中で、この予算委員会でもさまざまな議論をするわけですが、しかし、予算の執行ということになりますと、それぞれの利害関係が対立しまして、政治が予算のとり合いの場になっている節があるわけです。

 私は、二十世紀型の政治というのは利害関係の調整型の政治でよかったかと思うんですが、高度成長にのっとってきたときはそういう側面が強かったと思いますけれども、これからの政治の役割と政治がどういう形の財政、予算を組むかというのは、グランドデザインをまず示し、昔は族議員なんというものもあったらしいですが、自分が所属する利益の代表ではなく、自分が所属する、いろいろ支援したいと思っている政策で血を流すことがあったとしても、トータルなデザインを組んだ上で調整をかけていかなきゃいけないと思うわけです。

 先ほど三つの構造改革の中に、私はそういう意味では政治の構造改革ということが非常に重要になるのではないかと思っているんですが、率直な御意見をお聞かせください。

大田公述人 先生のおっしゃるとおりで、政治の構造改革、ぜひやっていただきたいと思います。今の私どもの閉塞感は、率直に申し上げて、果たして改革を担い得る政党が日本にあるのかどうかということですので、ぜひ改革をお願いしたいと思います。

 今の問題は、財政だけでは解決できない、税制だけでも解決できない、雇用対策だけでも解決できない、いわば連立方程式になっているわけですね。この連立方程式を解いていくときにこそ政治主導というものが求められております。

 ただ、私どもは、各政党がお出しになるビジョンというものが選挙のときに見えない。第三の道という言葉は、やや危ないと思っております。旗幟鮮明にしたときに票田を失うかもしれない、だから第三の道というようなところで逃げることにも使われますので、ぜひ、旗幟鮮明にしたビジョンというものをお出しいただいて政治の公約に掲げていただければと思います。よろしくお願いします。

辻元委員 すべての政党に向けられた御意見だと承りまして、頑張っていきたいと思います。

 きょうは、本当に皆さんありがとうございました。

野呂田委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。

 公述人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。

 明二十八日は、午前九時から公聴会を開会し、午後三時三十分から委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後三時四十五分散会




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