衆議院

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第1号 平成16年2月26日(木曜日)

会議録本文へ
平成十六年二月二十六日(木曜日)

    午前九時一分開議

 出席委員

   委員長 笹川  堯君

   理事 大野 功統君 理事 北村 直人君

   理事 杉浦 正健君 理事 園田 博之君

   理事 松岡 利勝君 理事 玄葉光一郎君

   理事 筒井 信隆君 理事 細川 律夫君

   理事 谷口 隆義君

      伊吹 文明君    宇野  治君

      植竹 繁雄君    大島 理森君

      加藤 勝信君    倉田 雅年君

      小泉 龍司君    小杉  隆君

      鈴木 俊一君    滝   実君

      玉沢徳一郎君    中馬 弘毅君

      津島 雄二君    中山 成彬君

      西川 京子君    萩野 浩基君

      蓮実  進君    二田 孝治君

      町村 信孝君    井上 和雄君

      池田 元久君    石田 勝之君

      生方 幸夫君    岡島 一正君

      海江田万里君    河村たかし君

      吉良 州司君    小泉 俊明君

      小林千代美君    鮫島 宗明君

      首藤 信彦君    達増 拓也君

      中津川博郷君    永田 寿康君

      長浜 博行君    鉢呂 吉雄君

      平岡 秀夫君    石田 祝稔君

      遠藤 乙彦君    高木 陽介君

      佐々木憲昭君    照屋 寛徳君

    …………………………………

   公述人

   (中央大学法学部教授)  貝塚 啓明君

   公述人

   (独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所参事)           酒井 啓子君

   公述人

   (慶應義塾大学経済学部教授)           吉野 直行君

   公述人

   (慶應義塾大学経済学部教授)           金子  勝君

   公述人

   (社会福祉法人プロップ・ステーション理事長)   竹中 ナミ君

   公述人

   (日本労働組合総連合会事務局長)         草野 忠義君

   公述人

   (東京大学大学院経済学研究科教授)        奥野 正寛君

   公述人

   (全国労働組合総連合事務局長)          坂内 三夫君

   内閣府大臣政務官     西川 公也君

   総務大臣政務官      平沢 勝栄君

   法務大臣政務官      中野  清君

   外務大臣政務官      田中 和徳君

   財務大臣政務官      山下 英利君

   文部科学大臣政務官    田村 憲久君

   文部科学大臣政務官    馳   浩君

   経済産業大臣政務官    江田 康幸君

   経済産業大臣政務官    菅  義偉君

   国土交通大臣政務官    佐藤 茂樹君

   国土交通大臣政務官    鶴保 庸介君

   環境大臣政務官      砂田 圭佑君

   予算委員会専門員     清土 恒雄君

    ―――――――――――――

委員の異動

二月二十六日

 辞任         補欠選任

  津島 雄二君     加藤 勝信君

  町村 信孝君     宇野  治君

  鉢呂 吉雄君     小林千代美君

  平岡 秀夫君     長浜 博行君

  藤井 裕久君     岡島 一正君

同日

 辞任         補欠選任

  宇野  治君     町村 信孝君

  加藤 勝信君     津島 雄二君

  岡島 一正君     藤井 裕久君

  小林千代美君     鉢呂 吉雄君

  長浜 博行君     平岡 秀夫君

    ―――――――――――――

本日の公聴会で意見を聞いた案件

 平成十六年度一般会計予算

 平成十六年度特別会計予算

 平成十六年度政府関係機関予算


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     ――――◇―――――

笹川委員長 これより会議を開きます。

 平成十六年度一般会計予算、平成十六年度特別会計予算、平成十六年度政府関係機関予算、以上三案について公聴会を開きます。

 この際、公述人各位に一言ごあいさつ申し上げます。

 おはようございます。

 公述人各位におかれましては、御多用中にもかかわらず御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。平成十六年度総予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、どうか忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願い申し上げます。

 御意見を賜る順序といたしましては、まず貝塚公述人、次に酒井公述人、次に吉野公述人、次に金子公述人の順序で、お一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきたいと存じます。その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 それでは、貝塚公述人にお願いいたします。

貝塚公述人 おはようございます。

 私は、この公述人はかなり経験の回数が多くて、久しぶりに出席させていただきまして大変光栄に存じます。

 最初に、予算案の全体に関して申し上げますと、細かい点、いろいろな問題があるとは存じますが、基本的に与党案に賛成という意見を持っております。あとは、私はいろいろ審議会に関係しておりますが、各種審議会あるいは各省庁の御意見とはある意味では独立な、個人的な意見を述べさせていただきたいと存じます。

 最初に、日本の財政は、相当財政赤字がふえておりまして、先進諸国では、数字のとり方は多少違いはありますが、国債の残高は、GDPに占める比重は一番高いという感じでございます。専門的な最近の若い方々の考えあるいは諸外国の専門家の考えでは、これは社会保障の制度もみんなそうなんですが、持続可能性という言葉をよく使いまして、要するに、制度が持続可能であるかどうかという点が非常に重要な基準であります。

 財政の場合は、持続可能かどうかというのは、一言で申しますと、財政赤字があること自身はそれ自身問題があるわけじゃなくて、むしろ、先になったときに財政赤字がどんどんどんどんふえ続ける、そうなると持続可能ではないという考え方でございます。

 日本の財政は、現在、財政赤字が非常に大きいわけでして、さかのぼれば、一九九〇年代の最初のころは、イタリアが財政赤字が相対的に大きい、それからアメリカもかなり問題でありました。日本は限界線上ぐらいにあるというふうに言われておりました。十年ぐらいたった間にアメリカの財政赤字はかなりよくなったんですが、最近は、ブッシュ大統領の減税で、また財政赤字が相当ふえるという見通しでございます。

 日本に関しましては、残念ながら、御存じのようにどんどんふえてきている状況で、ぎりぎりか、あるいはグレーゾーンか、少し危ないか、これは意見が分かれますが、持続可能性についてやはり疑問が持たれているということは承認せざるを得ないという状況ではないかと思います。

 その場合、財政赤字を減らすやり方は、財政支出、歳出をカットするか、それとも税収入をふやすかという二つのやり方が当然あるわけですが、元来は、歳出を減らすのが本当は一番いいといえばいいのであります。ただし、減らすというのは、少しずつ減らすということはできますが、大幅に、短い間に減らすということは、現実的には非常に困難と思われます。

 ですから、歳出のカットは基本的には非常に重要なんですが、ある段階で歳入をふやさなくちゃいかぬ、歳入というのは税収入をふやさなくちゃいかぬというふうに思っております。これは増税ということでありまして、条件としては、やはり景気がある程度よくなるということが条件ではないかと思います。いろいろな御議論があると思いますが、私の個人的な意見では、所得税の定率減税部分はもとへ戻してから、その先に消費税その他の税収入を考えるということではないかと思います。

 そういうわけで、財政の持続可能性については、日本はやはり疑問符がついているということは否定できませんで、今後、この点が一番重要なポイントであります。

 一つの点だけ申し上げれば、日本の国債の評価というのは、国内の市場では別に問題はないんですが、外国の市場といいますか、あるいは外国の格付機関というのは、必ずしもそのまま信頼できるかどうかというのは別の問題でありますが、しかし、クエスチョンマークがついているということは否定し得ないと思います。

 二番目には、社会保障制度について多少申し上げたいと思います。

 社会保障制度で何が一番重要かというのは、公的年金、医療保険、介護保険、それから雇用保険などでありますが、私の意見では、やはり年金が一番重要だろうと思います。

 というのは、年金のレベルが、給付の水準がどの水準にあるかということによって、ほかの社会保障の、例えば自己負担をふやすということが最近は結構ふえておりまして、これは病気にかかった人ですが、医療保険ですと一応三割ということになります。その他の保険も結構自己負担があります。

 ですから、もし年金の水準が非常に下がるとすれば、自己負担というのも平均的には相当の大きな負担になるし、個別の人には相当重い負担になります。年金をどの程度の水準にセットするかということは、社会保障制度の中で一番重要な部分じゃないかというふうに思っております。

 現在の日本の状況は、外国の学者も言っておりますが、昔は賃金が物すごく伸びておりまして、だから所得がどんどんどんどんふえている状況ですね。金利はそれに比べれば低いわけです。ということは、これは昔の話ですが、後になればなるほど所得水準がだんだん上がってきて、要するに、生活水準も上がってくるというわけですね。したがって、後の世代が払うということは、それほど難しい状況ではなかった。

 ところが、現在はどういう点が違っているかといいますと、わかりやすくいえば、金利の収入といいますか、社会保障の年金は基金がございまして、それで運用しているわけですが、その収入と賃金の伸びを比べると、賃金の伸びが今はほとんどマイナスに近いですね。

 簡単に言えば、払う人の所得の伸びは非常に低いわけですね。低いかあるいはマイナスになっている。それに対して、確かに利子は低いことは低いんですが、デフレの世の中ですので、金利は実質的にはかなり高いのであります。

 したがって、運用する金利の方が高いというケースは、原理的には、学者の理屈としては、やはり積立型の方が当然ですが有利になるんですね。日本の年金制度は、基本的には賦課方式に近くて、それをある程度変えなくちゃいかぬという状況に来ております。

 ですから、いろいろな御提案はあるわけですが、例えばの話、スウェーデン型というのは非常に有名なやり方ですが、スウェーデンという国は、ある意味では非常に熱心に社会保障をやってきて、いろいろな改革をしたのですが、とどのつまり、スウェーデンは、年金をどうしようかと考えたときに、六十五歳のところで一つ区切っちゃうんですね。区切って、それから先のところは、高齢化率といいますか、お年寄りの人数が予想よりも高くなったら、もうそこでの給付を今度は頭割りにしちゃうということです。ということは、当然、六十五歳以上では予想よりも人口の高齢化が進めば年金の給付は下がる、そういう形をとりました。これはスウェーデン方式というので、非常に有名であります。

 ですから、現在の年金は、やはり基本的には、高齢化の率とか年齢構成の話、そういうことと独立といいますか、経済学者の言われるには中立的と言いますが、要するに、年齢構成とかそういうことに全部依存して年金制度をやっていると非常に見通しは暗い。だから、年齢とか高齢化の率、そういうものと一応分けた形で制度をセットする必要があるのではないかと思います。これは本当は結構難しい話ですが、やはり積立型のものを年金制度の中に何らかの意味で入れていかないとうまくいかぬのじゃないかというのが、私の意見でございます。

 それから、あとは、細かい歳出の項目はいろいろございますが、多分、地方財政の問題というのはいろいろ議論されておりまして、地方財政の問題というのは非常に複雑でして、少し話は脱線に近いんですが、いろいろなお役所がありまして、現在は総務省ということですが、その中に自治省が統合されて総務省になっていますが、ここに自治省の方も、あるいはOBの方もおられるかもしれませんが、自治省の方の元来の御意見というのは、制度の話は非常に克明にやられて、制度論では物すごく強いといいますか、我々経済学者は本当は余り制度は強くはないんですが、そういう考え方のもとで運営されております。したがいまして、地方財政は、制度は非常に複雑です。

 今問題になっておりますのは、いろいろなことがありますが、やはり総体的に見ると、もちろん国は非常に財政赤字が多いんですが、地方財政も、よく見ると本当は相当大変だという状況に来ております。その大変だというところをどこで直せばいいのかというのも、いろいろなやり方がありますが、一つは地方交付税の話であります。

 地方交付税は、これも制度としては非常に複雑ですが、統計だけ見ていると、少なくとも一九九七年か八年ぐらいまでどんどんどんどん地方交付税はふえているわけです。ですから、日本の全体としての歳入あるいは税収入がふえていかない中で、地方交付税の部分は突出してふえているということです。

 したがいまして、地方財政はこういう状況ではぐあいが悪いんじゃないかということは、現在の総務省の担当の方も多分そうお考えだと思いますが、やはり交付税を何らかの意味で削減していかざるを得ないし、ある程度削減されつつありますが、これは必要なことだと存じます。

 それから、補助金の問題がございまして、この補助金の問題も非常に複雑であります。ただ、地方財政については、現在は、原則としては、地方分権の時代だということが言われておりまして、交付税をある程度減らすこともその線に沿いますが、補助金は特に地方分権にとっては重要であります。補助金というのは、中央省庁が権限を持っていて、地方にそれを配分するということですが、補助金の部分をある程度下げる、私は余り正確にはあれですが、今回もたしか一兆円の補助金を一週間以内の間に減らせという話がありまして、補助金はかなりの程度削減されたと思います。

 ただ、補助金を削減した場合に地方の方はどうしたらいいのかという問題があります。これは税金の問題が、次に当然、地方税の問題がありまして、地方の財源は、ほとんど大部分は国の税金がそのまま地方の税収につながる形をとっています。住民税というのは、国の所得税とか法人税、それとほとんど同じ、税率は違いますが同じような形で、だから、国税で取った部分が後で地方税で、率はかなり低いんですが、地方の収入になるということであります。

 地方分権の立場からすれば、私は、日本ではまだそういう段階に来ていないと思いますが、やはり地方分権というのは、最後は、税金を取るのに関して、地方政府、都道府県あるいは市町村が自主的な力を持つというのが地方分権の一番重要なポイントで、ただし、これはなかなか難しいんです。やはり地方が、それなりに税率も少しずつ違うということがあってもいいし、そうであることが、実を言うと、地方分権ということの一番重要なポイントではないかなと。したがって、そうであれば、地方自治体も税収をふやすことに関して非常に熱心になるのではないかというふうに考えております。

 ですから、三位一体と言われている改革は、三位一体という言葉はだれが言われたかということで時々、いや、私が最初に言ったんだと、いろいろな話がありましたが、元来はキリスト教の話なんだと思いますが、三位一体の話は……(発言する者あり)いや、今はちょっとあれですが、そういう言葉で、意味は、地方財政のシステムを一つだけを変えてはぐあいが悪いので、同時に、ここでは交付税、補助金、それから税金の話ですね、この三つを同時に連動させて変える必要があるという意味だと思いますが、そういう点で、私は発想法としては非常に重要であるのではないかと思います。

 国の財政についても、ほかに、既に問題になっておりますが、特別会計をどうするかという問題があります。

 ここで議論されているのはちょっと話がずれますが、主として一般会計を議論されていて、特別会計というのは、ある意味ではたくさんの勘定がありまして、いろいろなものがありまして、塩川前財務大臣は、比喩というんですか、例えがなかなかおもしろい。たしか、母屋でおかゆをすすっていて離れですき焼きを食っているという表現をされておりましたが、それはある意味では当たっておりまして、今手をつけ始めた段階でありますので、今後とも特別会計の話も重要ではないかと思います。

 全体として、現在の日本の予算編成は、非常に日本の財政がクリティカル、英語ではクリティカル、本当に今の時点でいろいろ頑張らないといけないという点が非常にたくさんあるわけでありますが、全体として、何とか予算をなるべくその大筋を外さないで編成するという点で、ぎりぎりのところでやっているんじゃないかというのが私の正直な印象でございます。

 余り時間もございませんので、大体二十分程度ということでございますから、これで私の意見陳述を終わります。(拍手)

笹川委員長 ありがとうございました。

 次に、酒井公述人にお願いいたします。

酒井公述人 ただいま御紹介にあずかりました酒井でございます。

 本日は、来年度予算編成に関しまして、私、特段の賛否の意見を持ち得るわけではございません。ただ、予算編成に当たりまして、現在進められております対イラク支援、この対イラク支援がどれだけコスト及びリスクがかかるものかということに関して、一定の了解があった方がよろしいのかなというふうに考えまして、イラク情勢に関して、どの程度イラク支援のコストが高いのかという点についての御説明をさせていただきたいと存じます。

 お手元の方にお配りしておりますのは二枚のレジュメでございまして、こちらでは、今申し上げましたような日本の対イラク支援が今後どのようなリスクとコストをかける必要が出てくるのかという点をまとめたレジュメでございます。それに参考資料といたしまして資料を三点ばかりつけさせていただいておりますので、適宜御参照いただければと存じます。

 まず、現在のイラク、特に南部、自衛隊が派遣されておりますサマワを中心といたしました南部における情勢がどのような状況であるのかということについて、一でまとめさせていただいております。しばしば報道等で言われておりますように、サマワは、サマワの周辺である南部地域においては、昨年までは比較的安定した治安を維持しておりましたけれども、昨年の末からことしの初めにかけて治安がむしろ悪化する傾向にあるということが見てとれるかと存じます。

 その具体的な最近の事例につきましては、こちらの方のレジュメに挙げさせていただいておりますけれども、とりわけサマワでは失業者のデモ、反米勢力と思われるような迫撃砲の攻撃、あるいはイスラム勢力と思われるようなビデオ店への襲撃といったさまざまな要素による治安の悪化というものが見られております。

 そうした最近の治安の悪化に加えまして、とりわけ南部地域において留意しなければいけないのは、イラクの南部地域といいますのは、比較的これまで社会的、政治的に構造的な問題を抱えてきたという点を留意する必要があろうかと存じます。

 イラクの南部地域の地名に関しましては、資料一で地図をつけさせていただいておりますので、御参照いただければと思います。とりわけ南部地域の中でもナジャフやカルバラといったイスラム教のシーア派の聖地においては、これまでも、歴史的にも現在においても、繰り返しシーア派内部の派閥抗争が展開されてきた、そうした政治抗争にしばしば巻き込まれる地域であるという問題がございます。

 さらには、その南に下りまして、ちょうどチグリス川とユーフラテス川の間に挟まれた地域、かつて農村地域であった地域でございますけれども、アマラという東部から湿地帯を経て中部ユーフラテス流域、こういった流域は歴史的に農村地域であったということもありまして、大土地所有制度が非常に進んだ地域でございます。その分、貧富の格差の非常に大きな、農民反乱のしばしば起こった地域であると。さらに、そうした状況が、一九八〇年代以降になりますと、その当時進行しておりましたイラン・イラク戦争などで大量の脱走兵がこうした南部地域に逃げ込むことによって、一種のゲリラの養成地、ゲリラ訓練基地のような様相を呈してきたという問題がございます。

 そうしたことを考えますと、いわゆるイラク国内で現在しばしば話題にされておりますような、いわゆる反米テロと言われるようなそうした行動は、南部地域におきましては比較的少ないわけですけれども、むしろ、構造的な社会経済的な問題、あるいは最近の経済的な停滞による失業者の問題といったような側面からの治安の悪化というものが懸念されようかと思います。

 そうしたリスクをどのように回避していくかということが必要になってくるわけですけれども、さらに、特に留意すべき点は、やはりサマワの状況であろうかと思います。

 現在、サマワで自衛隊が活動を進めているわけですけれども、いまだに幾つかの、恐らく今後解決しなければならない問題を抱えております。その最大の問題は、現在もまだ交渉中というふうに言われております自衛隊宿営地の借地料をめぐるトラブル、これは報道等で、どちらかといいますと、半ばエピソード的に語られるケースが多いわけですけれども、実はかなり深刻な問題を残す危険性があるというふうに私は理解しております。

 まず第一に、この宿営地に当たる地域の借地に関して、どこまで領地の性格について調査がなされたかということについては若干疑問を持っております。

 といいますのは、現在宿営地にしております地域は、部族領地の中でも保有地に当たります。つまり、一種の私有地でございます。これはイラクにおきましては十九世紀末から、日本でいえば墾田永年私有令のような土地制度が定着しておりまして、一部には国有地がございますけれども、多くの地はタプ地と呼ばれる保有地の扱いになっております。

 当然のことでございますけれども、国有地に比べまして、半ば私有地である保有地に関しては、地代が高くなるのは当然であるということでございまして、これは他の外国軍が一体どのような形で借地をしているのか、それぞれのケースがあろうかと思いますけども、必ずしもどれもが私有地を借りているわけではない。恐らく国有地をそのまま借りて、安い値段で借地しているようなケースもあるかと思いますので、日本の自衛隊の場合は、そもそもコストがかなり高い土地を借りる形になっているということをまず理解する必要があろうかと存じます。

 そうした前提に加えまして、二番目に挙げておきたいのは、戦後、イラクでいかに物価が上昇しているかということをやはり踏まえる必要があろうかと思います。この物価上昇に関しては、現在も進行中でございますから、なかなか定点的な数字を挙げることが難しいわけですけれども、御参考までに断片的な数字を挙げさせていただいております。

 例えば、戦前においては、これは私などが現地で聞いた話によれば、小学校の教師などは月一ドルや二ドル程度の給与で十分満足して働いていた。それが戦後直後には、これはCPAが交通警察を雇い上げるにおいて、月額三十ドルという金額を提示したときもございます。しかしながら、現在、イラク警察に対して支給されている給与は百四十七ドルという数字が挙がっておりまして、これでも十分ではないということで警察から辞職する者もふえているという情報もございます。それだけを単純に比較いたしましても、戦前から現在まで数十倍から数百倍という物価の高騰があるという中で、それを踏まえた価格設定をしていく必要があろうかと思います。

 さらに、三つ目の問題として重要な点は、部族社会の特徴でございますけれども、土地を借りる、その部族の土地に入るということは、土地そのものの値段を意味しているわけではございません。これは土地に入ることによってその部族の庇護を得る、そのもとで一定の安全保障を得るということを意味しておりますから、土地代だけではなくて、プラスアルファ安全保障代というものが含まれた契約金というふうに考えてよろしいかと思います。

 逆に言えば、この借地料が安く落ちついたところで、それは逆に不安を呼びかねない。すなわち、純粋な土地代だけにおさまってしまえば、それに付随してくるべき安全保障代というものがむしろ節約されてしまったということで、逆に周辺の部族から自衛隊に対する庇護が得られないという危険にさらされるという可能性があろうかと思います。そうした借地料の問題については、これがこじれることになりますと、地元の部族社会との関係を大きく壊す、かえってその後、収拾のつかない事態に陥る危険性を、やはり想定しておいた方がよろしいのかと思います。

 それに関しまして、二番目の点といたしまして、そうした周辺の部族社会とどのようにバランスをとっていくかというのは大変難しい問題がございます。

 これにつきましては、資料といたしまして、資料二、資料三という形で、そもそも部族社会がどのような存在であるのか、ちょっと長文になりましたけれども、引用文献を挙げさせていただいておりますので、そちらの方を後ほど御参照いただければと思います。一言で申し上げまして、部族社会といいますのは、長所でいえば、客人に対するもてなし、気前のよさという江戸っ子のような性格を持っている。しかし、それに対して十分な応答、こたえが返せないということになりますと、逆に短所が出てまいります。

 部族社会の短所は、略奪、襲撃といったような、力で相手を制圧するというような性格を強く持っております。特に、同害報復と言われる報復慣行がございますので、相手の集団に対して、自分たちの名誉を傷つけられた、あるいは自分たちの構成員を傷つけられたということになりますと、相手に対して相応の補償を求める。それは基本的には同じ命の代価であるわけですけれども、それを金銭で補うこともございますが、金銭の場合はかなり高い金額が想定されるというような状況になっております。

 そうした部族といかに友好な関係を維持していくかということで重要になるのは、では、どれだけの数の部族を相手に友好関係を維持する必要があるのかということになろうかと思います。これも先日来、サマワの部族長を日本に招聘するという話がございますけれども、大変難しいのは、では、どこからどこまでを有力部族とみなして招聘するのか、どこからどこまでを友好的に扱うというふうに判断するのかというのは、大変困難な作業であろうかと思います。

 資料におつけしておりますのは、資料三で、手元にございます資料の中で、数えられる限りのサマワ周辺の部族の名前を挙げております。これは日本の家制度と同じでございまして、果たして、部族集団を大きくとらえるのか、それとも細かい種族までとらえるのかによって、数は、数十から、下手をしますと数百にまで上るということになります。そうした部族に対して完全に平等に扱うことも無理がございます。かといって、特定部族に偏向した協力関係を維持するということは大変難しいことになりますので、そうした判断を下すのは極めて困難であろうかと存じます。

 以上のように、サマワ中心で自衛隊が周辺の部族社会とどのような形で友好な関係を維持していくかということの難しさを申し上げてまいりましたけれども、三つ目の点といたしまして、そうした部族社会を超えて、現在、イラクの南部地域が抱えております政治的な流動化の現象についても十分留意をする必要がございます。

 先日、国連の調査団がイラクに入りまして、イラクで現在、直接選挙をするのは時期尚早であるという判断を下されたということがございます。それに対して、イラクのシーア派の宗教権威でありますシスターニ師という人は一定の理解を示し、直接選挙を現在この時点で行うことは大変難しいということについてはある程度の了解を得られたというふうに聞いております。

 しかしながら、実態として、シーア派の居住しておりますイラクの南部地域をそれぞれ見ておりますと、そうした直接選挙は後延ばしであるという意見に対して、必ずしも全面的にそれに承服したわけではないという様相が見られる。すなわち、少しずつでも選挙によって地盤を固めていこうというような動きがさまざまな地域で見られるという状況がございます。

 とりわけ、最近では、気になりますのは、ナシリヤという、昨年イタリア軍がテロ攻撃に遭って大変な被害を出した地域でございますけれども、このナシリヤのあるディカール県におきまして、住民による自発的な市町村選挙の実行という経緯が見られます。

 このナシリヤという地域は、かつて自衛隊がサマワにしようかナシリヤにしようかと悩んだほど、比較的安定していると言われながら、イタリア軍が攻撃されるというような政治的な不安定性も抱えている地域でございますけれども、大変興味深いのは、ことしの一月ごろから、ナシリヤの各政治勢力、宗教勢力、部族勢力あるいは知事、行政機構といったようなさまざまな各派がまとまりまして、中央のCPA、連合軍暫定機構が直接選挙は無理だというのであれば、自発的にみずから選挙をしていくことができるのではないかということで、一月以降、多くの市町村で直接選挙を始めております。

 大変興味深いのは、こうした自発的な選挙によって、先ほど申し上げましたようなナシリヤでのイタリア軍攻撃のような突発的な政治的な抗争、こういったものをむしろ事前に予防することができるという判断をこのナシリヤの人々は持っているようでございます。事実、ナシリヤで実行されました選挙においては、どちらかといいますと、穏健派が選ばれておりまして、宗教的にも政治的にも、強硬派は比較的抑えられた形で進んでいるという実験的なケースがございます。

 こうしたナシリヤでの成功が徐々に周辺の地域にも広がりを見せる可能性がある。ナシリヤでは、今、市町村の直接選挙から始まりまして、県全体の地方評議会も選挙でやるべきだというような動きが高まっておりまして、CPAなどと若干緊張状態をつくり上げているわけですけれども、こうした住民の選挙を求める草の根的な動きがサマワにも波及しないとは限らない。とりわけ、暫定政権が六月の末に設立されるというような動きを見越して、さまざまな形で各派閥抗争が激化しているところがございます。

 最近では、サマワの地域を、ハキーム派と言われるイラク・イスラム最高革命評議会というグループとダアワ党、いずれもシーア派の宗教政党でございますけれども、この二大宗教政党がみずからの軍事組織を使って制圧しているという報道もございます。その意味では、サマワも、今後展開するであろう政治抗争の中に巻き込まれないとは限らないという危機感がございます。

 こうした問題に対して、こういったリスクを回避するためには、どうしてもサマワで自衛隊の活動を維持運営していくだけでは済まないという問題がございます。政治的あるいは包括的な経済計画の策定等々の面で、日本が積極的な国際貢献をしていく必要性が出てくる。その場合にどの程度の支出を必要とするのかということは十分見越しておく必要があろうかと存じます。

 若干、最後にコメントとして、どの程度リスクを回避した復興ができるかということで、今申し上げましたような南部のナシリヤでの動きなどを見ながら、ある程度参考にすべきケースもあろうかと思いまして、最後に一言二言申し上げておりますけれども、ちょうど時間となっておりますので、これにて私の方の御報告は終わらせていただきたいと思います。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

笹川委員長 ありがとうございました。

 次に、吉野公述人にお願い申し上げます。

吉野公述人 おはようございます。よろしくお願いいたします。

 お手元に二枚ほどレジュメがございますので、これを中心にお話しさせていただきたいと思います。

 私は、予算案に関しましては、いろいろこれから問題はあるとは思いますが、賛成でございます。ただ、今後、日本を考える場合には、この一番目にございます国際競争力という点から、先生方も含めて、考えていただければと思います。

 一つエピソードを申し上げたいと思いますが、昨年の秋に中国で会議がございました。中国の北京は今、上海から何とか金融市場を自分の地域に持ってきたい、こういう動きがございます。その会議にイリノイ州の議員の方が来られておりました。日本からは私一人でありまして、アメリカから十人ぐらい来ておりました。そのイリノイ州の議員の方は、北京にそういう国際金融市場をつくるのであれば、我々イリノイ州のシカゴが中心になって助けてあげると。そこに一緒に来られている方が、シカゴの先物取引所の前会長と現会長、それからシカゴの弁護士、シカゴの会計事務所、こういう方たちと、それから学者が全部集まって、九人がそこに来ておりました。私一人が日本からでありました。

 それで、どういうことかといいますと、中国の北京は上海に随分金融市場が負けているものですから、何とか北京にもつくりたい、それをアメリカは支援するんだ、こういう形で、イリノイ州の先生は、自分のところのシカゴの人たちの経済活動を発展させるために中国に行きます。

 日本は今、金融業が非常に弱いですから、そういうところになかなかインフラの整備ができません。そうしますと、アメリカは、自分たち流のやり方の法律や会計制度で北京の金融市場を全部整備する、そこでアメリカの金融業が稼げる、その金融業がまたシカゴに収益をもたらし、その先生にとってもいい、こういうことであります。

 私は、今後、日本の先生方を含めて、やはりいかに海外から稼げるか、それから、政治家の先生方が、国際競争力を持って海外で負けないような形で日本全体を引き上げていくかということがまず重要だと思います。

 それから二番目は、そればかりじゃないんですが、官僚の国際競争力もあると思います。これは先生方も御存じだと思うんですが、国際会議に出ますと、フランス人というのは、英語はうまくないんですが、必ずいちゃもんをつけるわけです。最近ですと、中国人も必ずアメリカの言うとおりには言わないわけです。ところが、日本の多くの官僚の方は、黙って座ってうんうんと、極端な例ですけれども、こういう形で帰ってこられる。そうしますと、やはり、国際的なルール、いろいろなものが日本に不利になって決まってきてしまうと思います。ですから、そういう意味では、官僚の方もやはり海外のいろいろな会議で日本のために国際競争力を発揮していただくということだと思います。

 それから、我々学者も、民間、特に、これからお話しする民間の金融業もそうだと思います。金融業に関しましては、現在、不良債権を抱えてしまっておりますので、その処理のこと、処理のことという面が一つあると思います。ただ、日本の金融業を再生させるためにはどうやって収益を将来上げたらいいか、こういう前向きの考え方も見ていきませんと、後ろ向きばかりになってしまうと思います。その中で、やはり日本の金融業も国際競争力だと思います。

 アメリカとかイギリスの金融業を見てみますと、彼らの場合には、やはり世界的なネットの中から、どこで運用したら一番もうかるか、こういうことを見ながら運用収益をどんどん上げようとしております。

 下の方に図がございますが、この図を見ていただきますと、縦軸が貸し出しからの収入でございます。横軸が手数料収入でございます。日本の銀行を見ていただきますと、全部左に寄っております。つまり、ほとんどが貸し出しだけから収入をもうけている。右の手数料というのは、海外に情報を提供したり、いろいろなものをつくることによって情報から収入を得る、こういうものがアメリカの金融機関はほとんどであります。ところが、日本は、これだけ日本がゼロ金利であるところで国内でほぼ貸し出し、その中から収益を稼ごうとしても、うまくいくはずがないわけです。

 そうすると、では、どういう形で右の方向に日本の金融業を持っていけるかということだと思います。それはまさに、日本の金融業のやはり国際競争力の強化だと思います。国際競争力の強化のためには四つか五つあると思いますが、一つは、世界的な情報ネットをつくることだと思います。では、いろいろな金融をどこで運用したら一番いいんだろうか、これはやはり欧米の金融機関は非常に持っております。

 それから二番目は、地域のプロフェッショナルをつくるということだと思います。これは、日本はいろいろな職業全部ですが、ゼネラリストという方が皆さん出世されまして、プロフェッショナルという方は、どちらかというと、これまでは冷遇されたところがあると思います。しかし、今後アジアに日本の金融機関がいろいろ協力していくためには、それぞれの国の専門家をつくる。ですから、大学のときにその国に留学し、そこの言語がしゃべれる、そこの産業も知り、それから政治家の方あるいは学者とのネットワークもある、そういう方がまず各地域にいることだと思います。

 それから三番目は、金融業の研究開発あるいはRアンドD、こういうものだと思います。よく科学技術の研究開発といいますと、製造業中心であります。ところが、御承知のように、日本の製造業は一九六〇年代は大体三五%の付加価値を持っておりましたが、現在では二五%しか付加価値がございません。つまり、製造業の都合のいいところは外に出ていく、そのために製造業全体のシェアが三五%から二五%へ減ってきているわけです。

 ところが、日本はその製造業の減少を補う産業がないわけです。イギリスの場合は、製造業が下がってくるところを金融サービス業で稼ぐことによって彼らはイギリスの再生を図ったわけですが、日本はそれがないわけです。ですから、私は、その中の一つは、やはり金融業が国際競争力を持つ、そういうことによって、さらには内部組織がインセンティブをもっと行員の方に与える、こういう内部の改革も必要だと思います。

 今度はアジアのお話を少しさせていただきたいと思います。先ほどアジアの中国のお話をさせていただきましたが、私は二十年ぐらいアジアを、留学生も含めて回っておりますが、二十年前は、アジアの国には日本は絶対負けないなというふうに思いました。

 そこは二つか三つ理由がございまして、まず、あの国は暑いわけであります。ですから、私があちらへ行きますと、大体日本と同じペースで仕事をしようとすると疲れます。だから、まあこれは大丈夫だろうと。それから二番目は、本とかいろいろな研究の書類がなかったものですから、この二つがあれば、幾ら日本の学生がぐうたらになっても負けないだろう、こう思っていたわけです。

 ところが、最近行きますと、まず、冷房を使っております。マハティール首相などは、日本に負けないようにがんがん冷房を使って暑さを克服しろ、こういうわけですから、すべて冷房です。それから、では、本は要るかといいますと、最近はインターネットがありますので、本がなくても英語さえできれば海外の情報というのは全部入るわけです。

 それでいて、例えば中国なんかへ行きますと、人民大学で講義しますと、これぐらいの広いところでしたけれども、五十人の学生が真剣になって聞くわけですね。彼らの質問は、なぜ日本はあんなに強かったのに今は悪くなっているのか、それを教えてくれ、こういうわけです。私なりにいろいろ答えを言うわけですが、そうすると、目を輝かせて聞いているわけです。

 日本に帰ってきますと、慶応大学ですが、半分ぐらいが寝ている、こういうことでありまして、やはりやる気が全然違うわけですね。(発言する者あり)半分起きていると。私が授業の最初に、私の授業は海外でやるとみんな非常に喜んでやってくれるんだよと言うんですけれども、何言ってやがるんだいという形で学生にはばかにされます。そういう意味では、教育における国際競争力ということもぜひ必要だと思います。

 教育に関して少し忘れられているところは、日本の場合には、落ちこぼれがいるということを前提とした教育じゃありません。ですから、日本の場合には、制度が今まで、いい子供が多かったわけですけれども、社会が違ってくれば、落ちこぼれを前提としてどういうふうに教育したらいいかということがまず必要だと思います。

 それから、教育はやはり超長期的な社会資本でありますので、予算をカットする中でも、義務教育を含めた教育というのは絶対に必要だと私は思います。

 特に、もう一つは、現在の小中学校というのは八時から三時の教育です。昔は夫婦共稼ぎではありませんでしたから、女性が家庭にいるわけです。あるいはおじいさん、おばあさんがいるわけです。そのために、三時から夜まではだれか家庭で見る人がいたわけです。

 ところが、夫婦共稼ぎになれば、三時から夜の七時までをだれかが見なくちゃいけないわけです。それが小学校、中学校の教育にないわけです。そうすれば、塾とかどこかに通わせなければ子供たちがうまく育てられないわけです。ですから、やはりそこも発想の転換で、社会が変わった場合には教育制度をどう変えるかということもぜひ考えていただいて、三時から七時の教育をどうするのかと。それを、塾が悪い、それから予備校が悪いと言っても仕方がないわけですから、そういう形でやっていただきたいと思います。

 それから、アメリカの教育は伸ばす教育ということです。私もそうだったんですけれども、おまえはここがいいんだ、こういうわけです。日本は、おまえのここはできない、こういう形で、日本の場合にはディスカレッジといいますか、そういう形ですが、アメリカは、励ます、インカレッジする性格があるんですね。だから、そういう面でも、ぜひ教育に関しましても、国際競争力をつけることによって、子供たちがアジアの子供たちに負けない、そういうようなインセンティブをつけていただければというふうに思います。

 それから次に、郵便貯金のお話と、あと大量国債の問題に関してお話しさせていただきたいと思います。

 最初に貝塚先生からもお話がございましたが、一九九〇年には、日本の財政赤字のGDP比率は六〇%でございました。当時はイタリアが一〇〇%を超えておりまして、私が授業でよく学生に、イタリア人は怠け者なんでこんなに財政赤字が大きい、日本はこういうことになることはないでしょう、こう言ったわけでありますが、現在を見ますと、イタリアは一〇〇%そこそこで、日本は一五〇%を超えております。この話を私、イタリア人がいると思わないでマレーシアでしましたら、イタリア人がちょうど一人参加者にいまして、日本の方がもっとひどいじゃないか、こういうふうに後で言われました。

 では、どうやれば、国際競争力とか大量赤字の問題を防げるかということだと思いますが、やはりそれは税収をふやすこと。税収をふやすためには、日本の産業が強くなり、それから一人一人の国民が強くなることによって生産性を上げて、それが税収に返ってくるということだと思います。

 そういう意味では、私が最初に申し上げました、いろいろな分野での国際競争力をつけることによって日本経済をもう一度再構築する、それによって、成長率を上げることによって税収をふやしていく、こういうことが一番いいやり方で、それが予算の赤字を減らしていくということではないかと私は思います。

 実は、国債の大量発行の問題も、私はアジアで使っていける問題だと思います。アジアの金融危機が一九九七年に起こりました。アジアでなぜ金融危機が起こったかといいますと、一つは為替の問題、それから国内が銀行中心であります。国内の金融市場が銀行中心であるというところが多いと思いますが、そこの銀行セクターがうまく働かなくなりましたので、アジアではお金がうまく回らなくなり、アジアの金融危機後に各国が低迷したわけであります。

 そこで、日本あるいはタイ、韓国を中心にしながら、アジアの銀行中心の市場から債券市場をもう少し発達させよう、こういう形で、日本を中心にいろいろ皆さんが努力されてこられました。それで最近、アジアの債券市場が大分育ってきたわけですが、ここでまた欧米系の金融機関が早速入ってまいっております。その債券市場を通じながら自分たちが商売をしようというわけです。

 一番危険なのは、せっかくテニスコートを日本人とかタイ人、アジア人がつくった、ところが今度は、それができた途端にプレーをするのは欧米系の金融機関で、日本は全然そこから稼げない。こうなりますと、何のためにいろいろ日本がアジアと一緒になって発達させたのかということになります。

 では、このアジアの債券市場を日本の金融業なり日本の方々が利用するにはどうしたらいいかということです。

 一つは、日本は現在、債券市場が非常にふえておりまして、国債もそうですし、地方債もふえております。このことから、日本の債券市場は、諸外国と比べますと、相当発達してきております。例えば個人向け国債を発行いたしましたり、国債の種類も随分多様にしております。

 こういうことが、本当はアジア各国に対して技術援助として協力できるわけです。そうすると、アジア各国の債券市場も日本に非常に近い形で発展させてあげることができます。そういうふうにやりますと、今度は、アジアのネットワークも日本の金融業なり日本の業界がやりやすい形で債券を扱える、こういうことになります。ですから、そういう意味では、せっかく使える市場を、欧米系だけではなくて、日本の金融機関もそこで稼げるようにする、こういうことが重要ではないかと思います。

 関連いたしますが、郵便貯金を今後どうするかという問題も、実は私は日本の金融業を強める方向に使えるというふうに思います。現在、郵便貯金は、約二百三十兆円という預金を独自で集めながら、国債中心に運用いたしております。ところが、これに対してはいろいろ賛否両論がございまして、国民の利便性があるからいいではないか、そういう議論と、民間ができることは民間にやらせなくてはいけないじゃないか、こういうことがございます。

 私は、それを両方うまく融合させるにはどうしたらいいかと考えておりました。一つは、郵便局のネットワークを通じながら民間の金融商品を販売する、こういうことだと思います。つまり、郵便局の窓口を通じて、民間の預金、貯金、保険、それから債券、投資信託、株式あるいは個人向け国債、こういうものをすべて販売する。そういたしますと、これまで貯蓄中心であった国民が、郵便局に行くといろいろな商品が買えるわけであります。郵便局はそこから手数料を取れる。こういうことになりますので、一番いいのは、ネットワークを利用しながら民間の金融商品が販売できるということだと思います。

 これを実は新聞に書かせていただきましたら、まず電話がかかってきたのは外資系の保険会社です。吉野さんの意見はいい、何とか自分の商品をこういうネットワークを使って売りたい、そうすると、これまた外資系をもうけさせてしまうかなと。やはり、こういういろいろなやり方を、日本の金融機関の方々がどういう形で使えるかということだと思います。

 私は、日本の金融業はこれまで、集めるところと運用するところと両方に精力を注いでこられたと思います。やはり日本の金融業を再構築するのには、どうやっていい運用をしたらいいか、こういうことにもっと精力を注いでいただいて、それを、海外の情報を使いながら、世界全体での運用を考えていただく。例えば、極端なケースですけれども、集める方は郵便局のネットワークにお願いする、こういうやり方だってあると思います。そうすることによって、分業をしながら自分の金融業を引き上げていくということではないかと思います。

 最後に、公共投資と地方の問題をお話しさせていただきたいと思います。

 二ページ目に図がございますので、ちょっとこれを見ていただければと思います。英語で書かせていただいて恐縮なんですが、縦軸がそれぞれの社会資本の限界生産性を挙げております。横軸は民間の資本ストックを社会資本ストックで割ったものでございます。横軸に、一のところに、恐縮ですが縦線をちょっと引いていただきますと、議論がこれからしやすいと思いますが、この一よりも右にある地域は、それぞれの地域の民間の資本ストックの方が社会資本ストックよりも大きい、こういう地域であります。左の地域は、民間資本ストックの方が社会資本ストックよりも少ない。

 つまり、左の地域は、幾ら公共投資をしても民間の投資が来ない地域です。それから、一より右の地域は、公共投資をすることによって、民間がそこでいろいろな業務をすることによって、民間の資本が入ってくるということです。民間の資本が入ることによって、生産性が上がるわけです。

 つまり、公共投資で今後、先生方に考えていただきたいのは、左にある地域をどうすれば右に持っていけるか、こういうことです。公共投資がどうすれば民間の産業なり民間の人々を呼べるか、そういうことを考えていただいて、日本が全部左から右に来れば、公共投資の効率性も上がりますし、それから社会資本よりも民間資本がふえるわけですから、自律経済ができると思います。

 当初に申し上げましたイリノイ州の議員の方のように、やはり海外から物を持ってくる、あるいは海外からも稼げるものを持ってくる、こういうようなことも通じながら、ぜひいいインフラを各地域につくっていただきまして、左の地域を右に持っていく公共投資、インフラをつくるということを考えていただければと思います。

 それからもう一つは、地方の経済の問題でありますが、最近、地方債がふえております。

 一ページ目に戻っていただきますと、一番最後の五というところでございます。地域発展のための歳入債券、これは英語ではレベニューボンドというのがございます。これを少し使えるのではないかと私は思います。これからちょっと説明させていただきますが、このレベニューボンドは、それぞれの事業別にこの債券を発行いたします。例えば、空港をつくるために空港のための債券を発行いたします。もしこの空港が非常にうまくいけば、百万円投資された方は百二十万円で収益が返ってまいります。ところが、この空港が非常に悪くなったとしますと、百万円が八十万円しか返ってこない。こういうのがこの歳入債券、収入債券です。

 つまり、これを使いますと、地元にとって本当に必要であれば、住民の方は少しぐらい損をしてもその空港をつくればいい。あるいは、いい事業であれば、どんな事業であってもそこにお金が来るわけです。さらに、その事業に関しましては、外部効果というのがありますので、そこの税収を後で投資家に入れてあげるということもできると思います。

 アメリカでは、デンバーの空港というのはこれでできました。それから、ウェストミンスター市という隣の市がございますが、ここも私、ヒアリングいたしましたが、地元のゴルフ場でございますね、こういうのも、こういう債券でつくっております。

 ですから、ナショナルミニマムのところまでは、地方税あるいは地方交付税、こういうもので見ていく。しかし、それ以上の事業に関しては、こういう歳入債。それぞれいいものであれば、その県が幾ら状況が悪くてもこういうものがつくれます。そういう意味では、いろいろなことを各地域で考えれば、いい事業であれば必ずその債券が売れますし、そういうものがつくれる、しかも、余り変なものであればそれにブレーキがかかるということではないかと思います。

 以上、私は、今後、日本に関しましては、すべての分野で国際競争力を考え、それからいろいろな制度を直すことによってインセンティブが働くようにいたしまして、日本経済がさらにまた再生できればというふうに願っております。

 きょうはありがとうございました。(拍手)

笹川委員長 どうもありがとうございました。

 次に、金子公述人にお願い申し上げます。

金子公述人 金子でございます。

 私の立場は、政府の予算案に対して、基本的に反対の立場からお話をさせていただきたいと思うんです。

 財政運営が苦しい状況の中で、反対のための反対をしても仕方がないということで、私自身は、より建設的に、問題のとらえ方をしっかりしよう、それから、何をなすべきかということについて自分の考え方をはっきりさせたいということが、ここで述べるときの基本的な立場であります。

 御存じのように、国と地方の長期債務の残高は七百十九兆円にならんとしておりまして、GDPの一・四倍を超えるという状況になっております。そういう中で、税や保険料あるいは健康保険における患者負担の増大というように国民負担が増しておりますので、増税による、負担増による可処分所得の低下が景気によく働くわけはありませんので、現状の中では、一種のわなというか、トラップにはまりつつあるという現状認識を持っております。

 そのとき、実は、対GDP比で見た財政赤字の水準というのが、いわゆるサステーナブル、持続可能かどうかの一般的基準とされております。しかし、私は、こういう数字そのものには、余り決定的な意味があるというふうには思っておりません。確かに、水準としては苦しいんですが、実は、こういう状態になると、成長率だとか金利だとか、さまざまな数字を置きかえることによって、結果を幾らでもつくることができます。つまり、サステーナブルであるというふうに結論することもできますし、サステーナブルでないというふうに結論することも可能であります。

 私は、問題は、システムそのものがもたなくなっている、つまり、制度の仕組みそのものがもたなくなっているというところに根本的なところがあるだろうと。その特徴を一言で言いますと、私は、粉飾の国家体制というふうに呼んでおります。あるいは、粉飾国家という呼び方をしております。

 ややセンセーショナルな言い方になりますが、簡単に定義的な説明をいたしますと、当面当座をもたすために、民間部門であれば、子会社あるいはその先にある関連会社に赤字を飛ばしていく、あるいは不良債権を飛ばしていく、そして当面をもたせる。公共部門であれば、特別会計や特殊法人に赤字をためて、本体の数字の水準をある程度粉飾するということでもたせる体制であります。

 これは、高度成長があった時代には、実は有効に機能しておりました。というのは、そういう隠れた部門に非常に不況のときに借金をさせて当面をもたせる、景気がよくなるとその部分を返していくというやり方をやっていけば、民間部門であれ公共部門であれ、本体の経営方針や政策の方針を大きく変更することなく、持続性を保つことができたわけです。

 ところが、九〇年代に入って、バブルがはじけて以降は、この隠れた借金が返せなくなってしまう。返せなくなってしまうと、どんどん隠れたところで借金が累積しますと、損を切ること、株式市場でよく損切りという言葉がありますが、いわゆる損切りをすることができなくなります。なぜかといえば、責任問題が浮上してしまうからであります。

 この国の無責任体質というのはそこにありまして、無責任体質があるために、隠れた赤字を表に出せないものですから、ますます隠れて借金をして、当面当座を乗り切る、いつの間にかそれが返せない水準になってしまうと、どこまでも突き進んでいくしかないというのが、実は粉飾国家の現状であろうかと思います。

 対GDP比で見た基準よりは、こういう体質を続けていって、どこまでもち得るんだろうか。非常に不謹慎な言い方かもしれませんが、バブルを数回やらないととても返せないような水準、もちろん、バブルをやりましたら、その後はじけますのでよくはならないんですが、実は、そういう水準にまで到達しているということが非常に大きな問題だというふうに私は考えているわけです。

 つまり、どこかでリセットボタンを押さないと、先ほどのお話にもありましたように、前向きになれないんです。後ろ向きの処理を、隠しておりますから、ずっと簿外ですね、いわゆる帳簿外、オフバランスのところに引っ張られながら前向きのことができない状態が続いているというのが、私の現状の判断であります。

 例えば、銀行の問題を取り上げても、繰り延べ税金資産は目いっぱいに使っております。この状況の中で、不良債権が子会社に飛ばされ、なおかつ、その先の関連会社に飛ばされますと、連結から消えていきます。しかも、この国の場合には、悪いことに、長銀や石川銀行の事例に示されるように、つぶれない限り、こういう不正会計は表に出てきません。ということは、当たり前のことですが、つぶれない限り助かるのであれば、この先にある隠した不良債権や借金を延々と続けて生き延びようとするのは、ある意味で当然のことであります。

 例えば、仮に私が銀行の頭取でありましたら、バンザイをして、実はこんなにひどいです、銀行全体を救うためにリセットボタンを押してくださいと言ったら、私はお縄になります、刑事罰を適用されることになります。もし逃げ切って借金を隠したまま逃れれば、元頭取であり、元会長であり、そしてその名誉のもとにたくさんの資産を保全されるわけです。どちらを選ぶかといえば、後者を選ぶのが当然であります。

 市場経済は、公正なルールがなければ回りません。残念ながら、この国は、隠れた部分の不良債権や債務というものが膨大に上っておりまして、実は、その部分が国民の前に公に情報開示されていないということが、国民の政策判断を誤らせる最大の問題になっております。

 実は、これは公共部門においても同じ構図が繰り返されているというのが私の判断であります。特殊法人の問題であれ、特別会計の問題であれ、同じような構図が、民間の銀行部門と同じことが行われております。残念ながら、情報開示が行われていないために、特殊法人における不良債権や債務超過の額は、さまざまな推計が行き交っているだけで、正確な数字が本当のところはわかりません。

 実際に、債務超過というときにも、あるいは不良債権というときにも、特殊法人の資産評価が非常に難しいという技術的な問題がもちろんあることは言うまでもありませんが、六十兆あるとか百三十兆を超えているというような推計もありますし、債務超過については三十五兆円という星岳雄、土居丈朗らの推計がありますが、実は、これは、政府が利子補給している部分は政策的な経費なんだ、コストなんだという言い方で、もっと小さいんだという言い方がされたり、その推計については、国民の財産が運用されているにもかかわらず、正確な数字が確定されておりません。

 個別の問題になりますが、道路公団改革においても、実はこの問題が最大の問題でありました。川本裕子委員は、四公団をサステーナブルにするには八兆円の公的な資金が必要であるというふうに当初明言しておりました。道路公団において、内部告発によって、債務超過があるという数字が出ました。しかし、いつの間にかこの問題は、政府において、この問題が本質的ではなく、総裁の人事の問題であるというふうにすりかえられてしまいました。今はまだ完全な案が確定しておりませんが、保有機構において、大量の借金が、四十兆近い借金が一緒にされております。

 実は、アクアラインは七万台以上通らなければ採算がとれなかったのに、実際には一万台超であります。一体、この計画を立てたのはだれであり、それを正当化した学者はだれであり、それを決定した政治家はだれであるのかということの責任が一切問われないまま、一兆円近い道路目的税源が本州四国連絡架橋に投入されているという事態であります。銀行の、前向きでない、まさに後ろ向きな合併と同じことが繰り返されているというのが私の判断であります。

 このままいくと、国鉄清算事業団の二の舞になる可能性がある。あのときも、十六兆円の国民負担が残ることは明示されておりましたが、土地の売却で架空の数字をつくって、バブルの中でそれが挫折をして、そして結果、純債務残高が二十六から二十七兆に上って、結局、処理できないまま特別会計に、表に出すという、これと同じことが繰り返される。

 つまり、隠れた借金をつなぎながら粉飾国家を続けていくことで、今の財政体制、当面の数字を賄っていくようなやり方が、成長がある程度とんざした段階で今後も可能かどうかということが実は判断として厳しく問われているというのが、私の主張の基本的な部分であります。

 そう考えますと、郵貯民営化が一つの争点になっておりますが、私は極めて奇妙な気がします。特殊法人に大量の不良債権が眠っている状況で、民営化という経営形態だけを変えたところで、実は、大量の不良債権が確定できないまま民間銀行と同じことになってしまう可能性が十分にあるわけですし、大量に特殊法人で運用している年金の問題も同じことになるわけです。

 年金の積立金の三分の二は特殊法人で運用されておりますが、少子高齢化や成長率の低下に伴う運用利回りの低下だけではなく、運用先が焦げついているかもしれないという不安は、グリーンピア問題だけにとどまりませんで、実は特殊法人にあります。こういう状態で、国民の財産が運用されている先について明示的な情報の開示がなければ、将来の不安がますます増大することになるのは明白であります。

 実は、この特殊法人のあり方は、特別会計においても同じような事態になっております。旧国鉄の問題は先ほど述べましたが、地方交付税特別会計も、現行のシステムを前提にしていると、ことしはついに隠れ借金が五十兆円を超えるという事態であります。

 実は、国鉄の債務が問題になったのは、二十六から二十七兆円であります。五十兆という額はとても返済可能な額だとは思えないわけです。国の予算規模が約八十兆円でありますから、この制度そのものがもうもたなくなっているということをはっきり認めないまま、ずるずると責任回避を繰り返していくと、システム全体がもたなくなる、こういう危機を抱えている。

 地方分権化が急務なのは、実はシステムがもたないからなのであって、現状の数字のつじつま合わせで何とかなるということでずるずると続けていくことが危険なのだということを示しているわけです。

 外国為替資金特別会計でアメリカの双子の赤字を徹底的に支えるというやり方も、当然のことながら、外為特別会計は簿価で明示されておりますので、含み益が大量に含まれております。これを延々と続けていくという体制を示しているんですが、これは特別会計の中でゆとりのあるところを一つ一つ食いつぶしていく。

 実は、特殊法人の中においても同じように、国鉄がだめなら道路関係公団、だめになれば次ということを繰り返して、もたなくなると表に出して税金を投入する、そして民営化をする、こういうことの繰り返しでありまして、構造改革なるものが粉飾国家の責任転嫁の仕組みを支えるものになってしまっているというのが、残念ながら私の現状における判断なわけです。

 問題は、それで持続可能であればいい、あるいはそれで当面当座もつような事態であればいいんですが、既にさまざまなひずみが出て、国民に不安を与える状況になっているというのが現状だろうというふうに思います。

 一つは、先ほど申し上げたように、年金の問題であります。実は、特殊法人の運用先が焦げついているだけではなく、未積立金というのが現状では約四百五十兆円近くに上りつつある。以前、財源問題で検討されたときは四百兆だったわけです。わずか五年の間に、着実に五十兆円も未積立金が積み上がっている。これは、少子高齢化だけではなく、運用利回りの低下であり、そして見通しの甘さが、だんだんだんだんこの未積立金をさらに大きく伸ばしております。これは失敗でないということであれば、当初からこういうふうに未積立金がどんどん積もることが前提になっているならば、今回のような保険料引き上げや給付の引き下げのような提案をしないで済んだはずであります。

 ところが、今回の提案は、三十代、四十代以下の層に猛烈なしわ寄せをする、二〇二二年までに一八・三%まで保険料を引き上げて、給付水準がいつの間にか全体で五〇%ということになります。そういう形を繰り返していきますと、一八%もの企業負担、労使折半ですので、企業も負担をするということになりますと、正規雇用を雇うインセンティブを失います。当然のことながら、通常より二割増しの賃金を払うよりは、できるだけアウトソーシングし、できるだけ不安定就業の人たち、つまり、保険料負担を負わない人たちを雇う方が望ましいからです。

 当然、このことを防ぐために、週二十時間以上働く人たちを網にかけましょうという形の提案を政府はしておりますが、実は、これは異様な細切れ労働を進めることになります。あるスーパーマーケットに二十時間勤め、別のコンビニエンスストアに二十時間勤める、二十時間以下はいい。これは法律上違反であっても、各企業がほかにどこで働いているかということをチェックすることは不可能でありますから、知らなかったと言えば済むことでありますから、延々とそういう細切れ労働化が進んでいくわけです。

 将来の世代は、今でもフリーターは二百万人を超え、契約や派遣労働も二百万人を超える状況になっております。公式の統計よりも、実際には、リクルートであるとか幾つかの民間会社がやっている調査はもっとシビアな数字が出ているわけですが、こういう数字を考えていきますと、この人たちが四十になって正規雇用につけるとは、私は到底考えられないわけです。

 現状で、この不況の状態でこういうことを続けていきますと、ますます不安定な就業層がふえていって、その人たちが四十になったときに、私たちは、年金を払いもしないし、実は受給者としても資格を持っていない、しかも、不安定な就業層というのを大量に生み出していくということになりかねないわけです。こういう形を避けるには、もはや、積立方式を前提にして責任逃れを続けて、未積立金を膨大に抱えながら、その解消のためにさらに若い世代に負担を押しつけていくというやり方が、サステーナブルでないことはもう明白だと思うんです。

 私は、貯金を基本にするような、つまり、保険料を基本にし、いわゆる一人一人が強制貯金であるかのようなそういう考え方ではなくて、世代間扶養を基本にした税方式に転換するべきだろうというふうな意見を持っているわけです。

 先ほど、スウェーデン方式の欠点についていろいろ述べられたと思うんですが、拠出税方式という所得に比例する税金に転換し、成長スライド、いわゆる一人当たりの国民所得にスライドし、積立金を取り崩していく。恐らく、それでも未積立金の部分は解消されません。年金課税が必要になったり、あるいは消費税の増税が一部必要になるかもしれません。

 しかし、その額を明示し、国民にはっきりと政策の信を問うということが必要な時期に来ていると私は思います。つまり、責任逃れをしながら、いずれ成長があれば解消するという形で次々と隠れた部分に未払いの借金を積み立てていくことは、国民に安心を与えないし、今の不安状況をますますあおることになるだろう。どこかでリセットボタンを押さなければいけないというのが、実は私の考え方であります。

 現状の案では、残念ながら夫婦共稼ぎの人たちは一番被害を受けるわけです。若い三十代、四十代で結婚をし、共働きで一生懸命やろうとしている人たちに被害が及ぶ、そういう年金制度の改革は、不安定就業層とともに、ジェンダーの視点からも、世界の動向にも反したものであろうというふうに私は思います。

 もう一つ、もう時間がありませんので、地方分権のお話について申し上げます。

 当初八割というふうに言われていましたが、一兆円のカット、地方交付税も二兆円のカット、そして税源が六千八百億円というやり方、しかも補助金は、アンファンデッドマンデートと言われますが、財源なき指令という言い方をされますが、いわゆる法律による縛りがあって、補助金をカットしても各省庁の権限は強く残るような分野に限定されております。

 当面当座の数字のつじつまを合わせるために地方にしわ寄せをやっていくというやり方で、今の地域経済の疲弊状況は地域の金融機関にもはね返り、中小企業にもはね返り、そしてシャッター商店街に見られるような、欧米諸国で八〇年代に起きたインナーシティー問題と同じような状況が地域で確実に起きつつある。

 そういう状況の中で、いかにして自律的な経済の循環を取り戻すかという観点からいえば、きちんとした財源の移譲、それから地方交付税における借金問題をいかなる意味でストップし、新しい制度において弱小な団体をどのように支援していくかという新しい調整制度をそろそろ構築しなければいけない時期に差しかかっているんではないかというふうに私は思っているわけです。

 もう時間がなくなりましたので、最後に私が言いたいことは、数字上の対GDP比より深刻なのは、粉飾国家という仕組みがつくり出した、いわば現状の矛盾の糊塗の仕組みそのものがもたなくなっているのであり、現行のシステムを前提にして、隠れたところで借金を積み増しして当面当座を乗り切るというやり方、あるいは数字のつじつま合わせに終始するというやり方はもはや通用しないだろう、どこかで損を明示し、何よりも、国民の財産が運用されている以上、国民に隠れた部分の借金の情報を開示し、そこで責任を明確にした上で、新たに財政の仕組み、金融の仕組みも含めてリセットボタンを押して日本経済を立て直していく、そういう再出発をするような大胆な改革が今求められているんだろうというのが私の意見でございます。

 どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)

笹川委員長 どうもありがとうございました。

    ―――――――――――――

笹川委員長 これより公述人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。萩野浩基君。

萩野委員 公述人の皆さん、おはようございます。朝早くから、個々の委員会では聞けないような話も、また本音の話もかなりお話ししていただきまして、本当に勉強になりました。

 貝塚先生には、財政から、そしてまた経済の方が御専門なんでしょうけれども、国の方では社会保障に関しても大変お力添えをいただいておりまして、その分野まで及んでお話しいただき、ありがとうございました。

 また、酒井公述人には、何度か私もお話を聞かせていただきまして、こういう状態になってしまいましたよね、そういうときに、インドの古い経典の中に、毒矢が射られた、そうしたら、これはなぜ射られたのか、だれが射たのか、それよりも、まずその毒を抜いてその人を助ける、こういうことが出ておりますが、現状はああいう状態にあるので、日本が今何をなすべきかということを考えさせられました。

 それから吉野先生、国際競争力の重要性ということを大変わかりやすくお話ししていただき、ちょっと夢を失いかけているんですが、まだまだ日本再生のインセンティブ、そういうようなものはあるんだということでお話しいただきました。今大変話題になっております郵政の問題についてもちょっとお触れいただき、これについては、私、後で時間があったら、またちょっとお聞きいたしたいと思います。

 金子先生には、もうしょっちゅう先生のお話は聞いておりますが、ごもっともの点も多々あります。年金改革もこれで完全だとは私自身も思っていない点も数々あります、税方式というのは、私も昔から考えてきた一人でございますから。いずれにしても、現状のつじつま合わせではなく、もっと積極的にということで、意義深くお話を聞かせていただきました。

 何しろ私に与えられている、もう私、今しゃべっている間に五分たってしまいまして、二十分しかないので、あと残り十五分しかないので、それぞれ今申し上げたように、先生方に、私も学者の端くれでございますから、時間があれば十分いろいろ議論もしたいんですが、そうも時間が許してくれませんので、まず最初の貝塚先生にお尋ねいたしたいと思います。

 とにかく、今国会を見ていまして、やはり年金問題が一番のキーポイントになって動いております。

 先生は社会保障審議会の会長というのもやっていただきまして、特に介護保険、これは、私など、介護保険を推進した一人でありますが、あのときには、哲学、哲学と言うとちょっと大げさですが、自助、共助、公助、この三つの柱をもとにして、日本の社会福祉そして社会保障というものを明治以降のものから変えていこうという理念のもとに、介護保険制度が一応突破口でスタートしたわけです。これには先生にも大変お力添えをいただいたわけでございます。

 そういう点に関しまして、特に社会保障、先生もきょうおっしゃっておられましたが、医療、年金、介護、生活保護、こういうのを踏まえて、社会保障の抜本改革に向けて、今回半歩、私、一歩とは申しませんが、半歩は進み出したと思うんです。先ほどは短い時間でしたので、もうちょっとその点、ひとつ絞って補足していただければと思います。よろしくお願いします。

貝塚公述人 社会保障の話は非常に複雑でありますが、私は、やはり基本的には年金が非常に重要だと思っております。年金をセットして、それ以外の社会保障がどの程度自己負担でやっていけるかとかいうこともある程度決まります。

 それから、介護の話は、介護保険というのは、多分、ドイツ以外には日本しかありませんで、非常に積極的なメリットははっきりあったということなんですね。それはどういうことかというと、今までは、日本はどちらかといえば、家の中でお年寄りを見てやらなくちゃいかぬ、それが当たり前の話だということになっておりましたが、それでは、年齢の高齢化が進みますと、九十の人を六十か七十に近い人が見るということは実質的に不可能であります。したがって、介護はやはりもう少しコミュニティー全体としてサポートすべきだと。要するに、別の言葉で言えば、介護を社会化する、社会的な助け合いの中に入れるという点で、これは新しい考え方で、非常にメリットがあったと思います。ただし、財源といいますか経費が非常にかかり過ぎて、軽いところが非常にふえまして、軽いところの認定というのは結構難しいんですね。ですから、そこの部分の問題がありますが、そういう意味では、積極的な意味があると思います。

 年金のことは、私の本当の本音は、年金の給付水準は高くなくてもいいということであります。高くなくてもいいというのはどういうことかといいますと、年金は、過去何回も年金の再計算をやりまして、毎回、五年ごとに数字が変わってきたわけですね。だから、思っていたことと実際がどんどん変わりまして、結局、私は、年金の給付水準はある程度低くてもいいんですが、それを確実に保障するというのが非常に重要で、確実に保障するためには与野党の政策協定を結んでくださいと。

 ですから、年金の不信はなぜあるかというと、将来どうなるかわからないということがあって、今までの経過があって、国会議員の皆様方は、その点は、社会保障の一番重要なポイントについては、与野党間の政策協定の中に入れて、ということは、その線は、仮に政党間の消長があってもそれを守るということが国民の側ではっきりしていれば、不信はなくなるんじゃないかというふうに思いますが、そういう話であります。

 それから、もう一点だけつけ加えますと、生活保護の制度は、今まで考慮の外側にあったんですが、今のような時代になりますと、社会保険の網の目から落ちた人が相当いるわけですね。最後は結局どうなるかといったら、やはり生活保護の問題になります。ですから、生活保護というものをもう一度再検討して、最後の最終的な支え、これは本当は望ましくはないんですが、やはり保険制度から、網から落ちた人がどうしてもいるということを十分考えて今後やらなくちゃいかぬのじゃないかと思います。

 私は、とりあえずそういうことです。

萩野委員 私も今、大学の方で介護保険に関与した関係もありまして、介護の方の、特に高齢者の痴呆というものについて、拠点として仙台でやっているんですが、余り言われていないんですが、今世界と比べての日本の介護保険制度の一番の特徴というのは、痴呆を中に入れるか入れないか、それと保険の主体を自治体に置くかどうか、その辺が大きな議論だったんですが、私は、痴呆を入れなければ、やはり日本が福祉先進国としての欧米よりも先に一歩行くと。

 外国の方を調べてみますと、痴呆はお金がかかるからそれだけは別の保険とかやっていますが、日本はそれを中に入れたので、今先生ちょっとおっしゃいましたけれども、どの辺のところで区切っていくかというのは非常に大きい問題になっているんですが、先生もちょっとかかわられたので、痴呆制度を介護保険制度の中に入れたわけですけれども、どういうようにこれから、これが一番お金を食うと思うんですが、いかがでございましょうか、どうしたらいいかと悩んでいるんですけれども。

貝塚公述人 痴呆の問題はかなり複雑な問題で、お医者さんに聞いても、痴呆というのは、一体、そもそも原因が何であってということがどの程度までわかっているのか、それ自身がわからないということがあって、認定の問題が非常に難しいんですね。わかりやすく言えば、お年寄りの方は、認定に来られますと、そのときはえらく緊張されてちゃんと答えをされるわけですが、しばらくたつと必ずしもそうでない。

 そういうふうなことがありまして、痴呆の認定はかなり難しいんですが、これは、今後とも、やはりある種のマニュアルをちゃんとつくって、それは多分、厚生労働省さんもお考えになっていると思いますが、非常に重要ですが、かなり難しい問題であるということを承知の上でやる必要があるのじゃないかということだけ、ちょっと申し上げておきます。

萩野委員 では、吉野先生、郵便局についてお触れになりましたので、郵便局に集める仕事、これは金融機関、こういうのと関係してくるわけですね、きょうもちょっと触れていらっしゃいました。貸し付けとか審査とか債権管理、こういうのをさせた場合に、一体どういう問題が起こるかというのは、大きい問題だろうと思うんです。

 ちょっと考えましたのは、銀行の支店の位置づけ、それから今度は、行員の雇用は一体どうなっていくんだろうか、この辺の不安が非常に大きいものがあると思います。それからもう一つは、多分、支店のない外資の依頼を受ける郵便局というように言われるんではないか、そういうイメージになるんではないか、そのように感じております。

 そうした場合、多額の国債ですね、これの引き受けが一体どうなっていくか。俗な言い方をしますと、もしかしたらハゲタカみたいなのが来て持っていくのではないか、そういうような不安も考えられるので、まずその点、もう余り時間がございませんが、大きい質問ですけれども、お願いいたします。

吉野公述人 まず最後の、大量の国債をこれまで郵便貯金が抱えたりしていたわけですけれども、それに対しましては、個人向け国債というのが昨年から販売されております。ですから、私は、郵便局の窓口を通じて個人向け国債を販売することは、やはり国民に対して一つの、国債を購入していただくということになりますし、それから、それによって、これまでと違う、定額貯金ではない、途中で換金をしたり、やはり債券に対して我々国民がなれていくという面でも代替できるのではないかと思います。

 では、これまでとは違って、郵便局に貸し付けとかいろいろなものをしてもらったらどうかということですが、現在でもオーバーバンキングで日本の銀行は悩んでおります。そこにまた巨大な銀行がもう一つ入ってきますと、お互いにもう大変な競争になると思います。

 ですから、郵便局の場合にはいろいろな金融商品を販売する、そして日本の金融業の方も、集めるところはある程度郵便局に任せ、運用で稼いで国民のために高い金利収入を払ってあげる、こういうことが私は必要じゃないかと思います。だから、そういう意味では、サービスを提供する、または公共サービスも含めたさまざまなネットワークを使ったサービスというのは幾らでも考えられると思います。

 ですから、預貯金以外のさまざまなネットワークを使ったサービスを提供することによって、雇用も確保し、それから民間金融業にも助けになるというやり方が一番いいのではないかと思います。

萩野委員 この点についてもまだまだ議論いたしたいんですが、まだあとたくさんの質問者の方がいらっしゃいますので、私はこのぐらいにしておきます。

 ありがとうございました。

笹川委員長 次に、谷口隆義君。

谷口委員 公明党の谷口隆義でございます。

 公述人の先生方には、大変お忙しい中、本日御出席を賜りまして、ありがとうございます。

 私に与えられた時間は十分間でございますので、早速お伺いをさせていただきたいと思いますが、まず初めに、吉野公述人にお伺いをいたしたいと思います。

 先生、大変おもしろいお話を今二十分間していただいたわけでありますけれども、国の戦略性みたいなこともあったんだろうと思います。また、金融機関のことを若干お触れになられました。我が国の金融機関というのは預貸だけで勝負している、確かにそういうことでございまして、海外の金融機関に比べますと、本当にそういう意味では、経営格差といいますか、経営力がないというような状況ではないかと思うわけでございます。

 しかし、金融というのは、そうかといってつぶしてしまうというわけにはまいりません。オアシスの地下に通っておる水脈みたいなものですから、そこはしっかり守っていかなければならないわけであります。しかし、国際競争力をつけてもらうというのは、大変重要な問題でございます。むだな資金を投入するわけにはまいりませんので、大変重要なことだと思っておるわけでございます。

 そういう観点があるわけですけれども、私が質問するのはそれと若干違う観点でございますが、アジアのことについて言及をされました。アジアの債券市場、今、国としても、今までの対応とは一味も二味も異なった形でやっております。ASEANの国、また、日中韓という国が集まって、一九九〇年代に起こった通貨危機を二度と起こさないというようなことで、域内で調達し、これを運用していこうではないか、こういうような動きでございます。そういうアジア債券市場、これは一方では非常に潜在的な成長力があると言われておるアジアの景気の回復を引き起こすというような意味合いも持っているんだろうと思います。

 アジア債券市場というのは、当面はソブリン債だとか政府機関債から入って、最終的にはアジア各国の民間企業が資金調達ができるように、金融資本市場を整備するというような観点で行われるわけでございます。これは、従来、AMF構想というのがありまして、御存じのとおり、アメリカからある種の圧力もかかって、今チェンマイ・イニシアチブという形で六カ国間で通貨スワップも行われておるわけでありますけれども、このようなアジア債券市場については、米欧も非常に賛意を持って見ておるようでございます。

 そのような観点で、アジア債券市場について、先生の御見解をお伺いいたしたいと思います。

吉野公述人 今谷口先生がおっしゃいましたように、まず、なぜアジアの債券市場が必要かということでございますが、アジアの国々はやはり銀行中心の世界でございまして、そういたしますと、金融危機が起こりまして、日本と同じように銀行セクターが大打撃を受け、そこから貸し出しがなかなか回らない、こういうことが一つございました。

 それからもう一つは、アジアの、特にお金持ちの層の方々は、自分の国に預金をしませんで、海外に預金をする。そのために、お金が海外に流れ、そのお金が今度はアジア各国にヘッジファンドのような形で戻ってくる。

 こういうことが二つございまして、銀行中心の世界と、それからアジア域内でお金が回らない、この二つを何とか解消することによって、先生がおっしゃいましたように、アジアの経済成長を支えられないか、こういうことが大きなアジア債券市場の目的だったと思います。

 そういう意味では、先ほど私が述べさせていただいたときに、政治家の先生、官僚の方の国際競争力と申し上げましたが、アジアの債券市場に関しては、国際競争力が非常にあった、唯一の例外と言っては失礼ですが、少ない例ではないかと私は思います。そういう意味では、このアジアの債券市場がやっと持ち上がってきたわけです。

 そこで、今欧米の人たちは、では、その債券市場を使って自分たちも稼がせてもらおう、こういう形に入ってきているわけであります。この中で必要なことは、やはりその中でも日本の金融業が切磋琢磨しながら、このアジア債券市場を通じ日本にいい債券を紹介する、あるいは日本の貯蓄もアジアの中でうまく運用できるようにする、こういうことによって、日本の高い貯蓄率がアジアに回り、あるいはアジアのお金がお互いに行き来するということが、今後、お互いの成長につながっていくのではないかと思います。

 その中で、幾つか残された課題というのがあると思います。

 まず最初は、先ほど先生おっしゃいましたように、ソブリン物なりあるいは大きなプロジェクト、そういうものから債券を発行していただき、そして、インフラの整備あるいは電力の整備、こういうことが第一番目のステップだと思います。

 それから第二番目のステップは、それを大企業なり民間の企業の債券の発行を通じて行う。

 それから、一番最後の目的は、中小企業、特にアジアでは中小企業が多いわけですが、中小企業がこういう債券を発行でき、そしてそれが、アジアの債券市場を通じて、銀行ばかりでなく市場から調達できるということだと思います。

 そこで一つ重要なことは、債券を発行するときに、だれかが少し信用保証を与えるということだと思います。ただ、この信用保証の与え方も、日本の特別信用保証のように一〇〇%与えてしまいますと、これはモラルハザードを起こしてしまいますので、八五%とか九〇%、そういう形で債券を回すということだと思います。

 その次は、企業の社債。この場合には、大企業の場合にはある程度格付ができておりますので、大企業の社債の発行というのはその次に容易なところだと思います。

 最後は、日本も含めまして、中小企業が、銀行借り入ればかりでなく、いかに債券市場から資金を調達できるか、こういうことだと思います。特に、アジアの国々は中小企業がほとんどでありますので、各国とも最後には、アジアの債券市場を中小企業の債券で回してほしいということであります。

 このためには、大きくいきますと二つぐらい重要なことがあると思います。

 一つは、それぞれの中小企業がどういうような形の状況にあるのか。つまり、中小企業の一種の格付が必要ではないかと思います。そのためには、各国の中小企業に関するデータの整備、その統計の整備が必要だと思います。

 それから二番目は、その中小企業の発行した債券をそこでうまく証券化し、市場に回す仕組みが必要だと思います。ぜひ、こういうところで日本の金融業が活躍してくださいまして、アメリカあるいは欧米の金融機関と切磋琢磨し、ここからうまく日本の資金を回し、稼げる社会にする、こういうことがアジアにとっても日本にとってもいいことではないかと思います。

谷口委員 吉野先生、もう一問、ちょっと答えにくいかもわかりませんが、アメリカ経済に先生は非常に精通されておりますので、お伺いしたいんです。

 アメリカは、御存じのとおり、九七年当時は経常収支赤字が千二百億ドル台、それが、もう昨今は五千億ドルを超えております。四倍程度ふえておるわけでございますけれども、そんなこともありまして、アメリカの産業構造が徐々に移りつつある、製造業からサービス業にシフトしつつあるというような状況でございます。

 そんな状況の中でドルが安くなりますと、本来なら輸入から国内にシフトするわけですけれども、現行は、国内に代替品がないということもありまして、輸入を減らすわけにいかない、こういう状況がございまして、悪循環に陥っておると言われておるわけでございます。

 ある方は、もうこの数年以内にあのスミソニアン合意、もしくはプラザ合意といったようなことが起こり得る可能性がある、このようにおっしゃっておられる方もいらっしゃいますが、先生の御見解をお聞きしたいと思います。

吉野公述人 非常に難しい問題であると思うんですが、私は、アメリカ経済というのはやはり底力はあるというふうに思います。

 一番最初のときに、あのイリノイ州の議員の先生方が、海外からいかに自分たちの産業が発展できるかという形で海外に行っていらっしゃるわけです。そういう意味では、アメリカは、やはり軍事力も持っておりますし、いろいろな見方を見ていますと、世界的な戦略の中からアジアをどう位置づけ、日本をどう位置づけるかということを考えていると思います。

 その中で、やはり金融技術に関しましても彼らはなるべく先端を行きながら、よく我々は、産業技術、研究開発といいますと、製造業だけを思うわけですけれども、アメリカは金融業を一つの重要な戦略としながら考えているというふうに思います。

 ですから、そういう意味では、ドル安あるいはアメリカの経常収支の赤字の問題はあるとは思いますけれども、彼ら自身は、自分たちの産業をやはりいかに強くするか、その中で技術、金融を中心とした産業を打ち立てるという意味では、私は今でも非常に大きな戦略を持ってやっていると思います。

 そういう意味では、大きな流れの中では赤字の問題はあるかもしれませんけれども、個々の戦略を含めますと、アメリカの経済の底力というのは相当強いものがあるのではないかと思います。

谷口委員 ちょっと時間があれなんですが、最後に酒井公述人にお伺いいたしたいわけでございます。

 イラク支援のリスクとコストについて、先生はお話をされたわけでございます。非常に詳細なお話で、参考になったわけでありますけれども、一方で、北東アジアの地政学的リスクだとか、また、先日アナン事務総長が我が国に来られまして、我が国の自衛隊の人道支援に対して非常に評価をされたわけでございます。

 特に、コストの問題というのは総合的に考える必要があるんだろうと。イラクの支援の直接的なコストと、あと全般的な国益という観点での評価、このようなことを私は思うわけでございますが、先生、そのあたりはどのようにお考えでしょうか。

酒井公述人 ただいまの御指摘でございますけれども、私は、中東情勢を中心に見ておりますので、中東情勢において日本がどの程度のコストとリスクを必要とするかということを考えております。それを総合的に北東アジア情勢あるいは対米関係等々の全体の情勢の中で判断されるのは、また別の、国際政治全般をごらんになる方々の総合的な判断をお伺いしなければいけないと思っております。

 私は、本日のお話で申し上げたかったことは、対イラク支援は、リスクを考えれば、これは相当コストのかかる支援にならざるを得ない、これを本格的にやらなければ、つまり、リスクを回避することを全部含めて本格的にやる場合には相当なコストがかかる支援体制にならざるを得ないということを申し上げたかった。それだけのコストをかけるだけの予算措置がなされているのかどうなのかというところについて熟考いただきたいという意味で、きょうのお話を差し上げたということで御理解いただければよろしいかと思います。

谷口委員 それでは、これで終わらせていただきます。

笹川委員長 次に、吉良州司君。

吉良委員 大変貴重なお話、どうもありがとうございました。

 経済の問題とイラクの問題についてお伺いしたいと思います。

 私自身は、まず、金子先生の現状分析、すなわち、現在の国のあり方というのはまさに粉飾国家であり、小泉政権が掲げる構造改革というのはその粉飾国家を糊塗するための役割を担っている、この国の形を改めるには、情報開示、そしてリセットボタンを押して再出発する必要があるという御意見に極めて感銘を受けたわけでございます。

 一方、吉野先生の話の中で、国際競争力の強化の必要性ということについても私自身は共感を持ちました。ただ、吉野先生が提言された、またお話しされたことと、それがどうして現在の予算案に賛成なのかということは、正直、どう結びつくのかということは理解できませんでした。そして、吉野先生のお話の中には、日本経済の復活のためには、ある意味では金融力の増強が必要だという見解と承りました。

 私自身は、実は、金融より、日本というのはやはり物づくりにこだわるべきではないかという考え方を持っております。米国流の、いわば金融至上主義とでもいいましょうか、そういうことによる経済成長、発展について疑問を持つものであります。

 また、これはきょうのお話ではありませんでしたが、金子先生が常々世界経済の分析という中で、現在の世界経済というのはバブルをつないでいるだけだという指摘に、米国流の金融至上主義というものが一翼を担っているんではないか、かように思っている次第でございます。

 というのは、実は、私自身は、九五年から二〇〇〇年九月まで米国におりまして、先ほど吉野先生の話でも出ましたけれども、アジアの金融危機に至るまでの間というか、それを挟んで米国の金融機関、または世界銀行、IFC、国際金融公社等と一緒に、米国企業、日本企業と一緒にアジアのいわゆるインフラ整備を、BOTとかBOOと呼ばれる、いわば海外版のPFIの仕組みでプロジェクトを立ち上げる仕事をずっとやっておりました。電力でありセメント、それから高速道路等、インフラ整備を民間の資金とノウハウを利用してプロジェクトを仕上げる、こういうことをやっていたわけでございます。

 その中でつくづく感じておりましたことは、本来なら発展途上国には発展途上国の発展段階がある、インフラ整備の身の丈に合った発展段階がある。ところが、米国流の金融技術といいますか金融手法によって、本来なら五年後、十年後につくらなければいけないインフラ整備を、米国流の金融手法により、全部将来の需要を先食いしてしまった。または、本来なら身の丈に合った欲望でいいはずを、現在の欲望に火をつけてしまう、こういう効果を担っています。

 世間では、アジア危機というものが単に短期資金の急遽引き揚げというふうに言われていますけれども、私はそういう実務にずっと携わっていた経験から、先ほど言いました将来需要の先食い、それから身の丈に合わない投資というものをあおってしまった、これは、先ほど言いました世界全体のバブルを誘発してしまったんではないか、その結果の一つのあらわれがアジア危機ではないか、こういうふうに思っているわけでございます。

 そういう意味で、ごく簡単でいいんですけれども、今言ったアジア危機の問題点の一つとしての私の認識についての吉野先生の見解をお伺いできればと思っています。

吉野公述人 ありがとうございます。

 おっしゃいましたように、やはり私が見ていますと、先ほどの世界銀行とかそういうところが、随分、欧米を中心とした考え方から、自分たちの経済発展のやり方が世界全部でいいんだ、こういうような考え方があると思います。

 私は、実は、アジアにはアジア自身の成長の仕方があると思いまして、その意味では、日本的な成長の仕方というのは随分影響力があったはずなんです。ところが、残念ながら一九九〇年から日本経済が低迷しているものですから、なかなか、それまでアジア的な成長ということを日本が言っていたことが世界に通用しなくなったという面はあると思います。

 それからもう一つ、先生がおっしゃいましたアメリカ流の、あるいは先食いをしながら余りにも早い発展ではないかということに関しましては、私もそう思いますが、そこで重要なことは、アジア各国の内部の方が、もっと世界に対して自分たちの発展の仕方はこうあるべきだということを言うべきだと思います。それをうのみにしながらそれに従っていくということ自身がよくないと思います。

 アジア通貨危機のすぐ直後のことですが、インドネシアは非常に大混乱になりました。ところが、タイとか韓国は割合、その後急に回復いたしました。その二つの大きな理由は、インドネシアは海外のIMFや世界銀行の言うことをそのままうのみにし、そして聞いたことでありますし、韓国とかタイは逆に、自分たちの中を知りながらそれを外圧として受けて、うまい形でそれを融合させたと思います。

 ですから、そういう意味では、今後の成長の中では、自分たちの国の中からどう発展させるべきかということをきちんと世界に言い、その中から世銀やIMFとのうまい融合ということがぜひ必要ではないかと思います。

吉良委員 ありがとうございます。

 次に、金子先生にお伺いいたします。

 先ほどのお話で、やはり粉飾国家というものの現状を改め、リセットボタンを押して再出発するということをおっしゃっていただいたわけでございます。先生の持論では、現在の経済運営が続けば、日本の地方の中山間地の集落崩壊、それから、先ほども御指摘ございましたけれども、地方都市、大都市も含めてインナーシティー問題が生じてきて、これはもう日本全体に壊滅的な打撃を与えてしまう。これは、バブル以降、資産デフレから始まり、消費デフレ、輸入デフレ、そして最後はもう地域デフレに至ってしまう、このことについて大変な危機感を先生は抱いておられるというふうに了解をしております。

 その意味で、地域再生の具体策について、今政府案で出されました三位一体の計画というのは、私及びもちろん民主党系は極めて不十分だという見解を持っておりますけれども、地域再生の必要性とその具体策、そして現在の三位一体にかわる地方分権、地方主権のあり方について御見解をいただければなと思っております。

金子公述人 御質問の趣旨を十分に踏まえているかどうかわかりませんが、一つは、なぜ地域のデフレに対して非常に危機感を持つかというと、これは歴史です。

 一九三〇年代がそうだったんですが、あらゆる国で、地域が衰退していくと、ちょうど山でいうと、すそ野がどんどん落ち込んでくる。国際的な貿易が非常に縮小していくような局面になったときに、国内需要に頼らなきゃいけないのにもかかわらず、財政で支え切れなくなって縮小していくというプロセスが続いて、非常に大きな困難にぶち当たったという感覚です。

 もう一つは、実は一九七〇年代の末から起き始めた欧米諸国におけるインナーシティー問題への連想です。多くの場合、都心が空洞化して移民が集中する、何か不況になると、たちまち移民暴動が発生して社会の治安が悪化するというような事態に直面して、ようやく克服されつつあるんですが、実にその克服に、戦略を立てて二十年かかっているわけです。

 例えば、私はイギリスに当時調査に行きましたけれども、一九七六年にインナーシティー問題に関する政府の調査が出て初めてそのことが自覚されて取り組んでいる。ところが、私は、残念ながら、今の状況ではそういう問題そのものが自覚されていない、政治の分野で自覚されていないことに非常に危機感を覚えております。

 もう少しはっきり言いますが、歴史的な流れとして起きている地域経済の衰退は、一時的な不況によって起きているんではなくて、町や村の崩壊という現象である。これはちょうど多くの欧米諸国が直面したのと同じ問題に直面しているんだという認識がないことであります。裏返して見ると、地方分権の目的そのものの議論が十分になされていないと私は思います。

 つまり、各人が、分権というのはいいものだという旗印に全員が賛成するんですが、目的そのものがしっかり議論されていないので、あるときは中央政府の、国の財政をカットするために、補助金をカットするための分権であるというふうな認識であり、片方は、地域経済そのものをどのように再建するかという観点からの分権論であり、もっと政治学や行政学からいうと、民主主義とか行政上の人々の権限の問題あるいは参加の問題として論じられているだけで、実は目的が明確になっていない。今は地域経済が衰退をしているんではなくて、実は欧米諸国がオイルショック後に直面したのと同じ事態に直面している。この国は幸か不幸か長い間成長を保ってきたので、こういう事態に初めて直面しているので、全くそういう自覚がないことに、私は非常に危機感を覚えているということであります。

 そういうふうに考えますと、ちょっと国会の場にふさわしくないかもしれませんが、よく通称田中政治と言われるような政治があります。これは、実は極めてよくできていました、私は利益政治に対して非常に批判的ですけれども。というのは、経済学のテキストには全く載っていないことですが、不況の時期に公共事業をし、工場を誘致し、そこに道路を通すというやり方は、ちょうど東京から半年、一年おくれで地域に経済が波及するので、実は不思議なビルトインスタビライザーができていたわけです。つまり、東京と地方の景気がずれることによって、非常に安定的に機能しながら、国内市場を広げて安定的に確保するという機能を持っていたんですが、残念ながら、どちらも機能しなくなった。

 二つ。一つは、財政赤字で公共事業が十分できない。それから、工場がどんどん中国へ出ていくという形で機能しなくなった。新しい仕組みをつくらなければいけないんですよという、本格的な意味での国の統治の仕組みそのものを経済的な理由から変えていかなきゃいけない、そういう改革の視点が残念ながら政府の案にはなくて、財務省主導の、いわば数字のつじつま合わせとしてのカットが進んでいるために、補助金だけがただ削られていくという非常に奇妙な事態になって、経済のインナーシティー問題はますます深刻になってしまう。

 関東周辺でさえ、県庁所在地のシャッター商店街は異様な勢いで広がっていて、町の中心が空洞化しますと、町がどんどんドーナツ化して、一種の活気がなくなってきて、地域経済全体がぐるぐる回っていくということができないんですね。

 私は、農水はBSE以降比較的よくやっていると思うんですが、地産地消であるとか、加工に乗り出して付加価値をつけたり、非常に多様な形で地域で回していく。安全な食品をつくって、地産地消ですからコストを高めて、つまり、コストが高い分だけ、その流通コストを下げる分だけでうまくカバーし、近くで消費できるので安心して食べられる。それから、もう農業だけでは食べていけないので、それを加工してどんどん出していく。

 実は、農産物は、一方で、アジアにどんどん輸出する状況さえ生まれているわけです。自給率は低下しながら、そういう不思議な、乖離的な状況が生まれているのは、地域で自律的に一生懸命やっているところが点のように生まれている。それをサポートするには、中小企業もそうなんですが、地域でまず自律的な雇用をつくる必要がある。高齢化やあるいは環境にいいような、そういう小さな公共事業を自分たちの参加で、町づくりでやっていく必要がある。

 つまり、インナーシティーを食いとめるという明確な問題意識のもとに、自分たちが自分たちで決める。大きな公共事業はもう意味がないし、必要もないけれども、公共事業が依然として必要なのは、今ある課題はインナーシティーだからです。そこで底割れしない非貿易財であるような産業において雇用をつくり出す。私は、奇をてらって海外のまねをする必要はなくて、高齢化のニーズに従って徹底したニーズを追求していけば、実は国際的に通用する製品がつくられると考えているわけです、楽天的に見えるかもしれませんが。

 例えば、フィンランドのノキアは、明らかに、雪の中で、森林で、人口が希薄であるからこそ、九〇年代の冒頭から多くの人が携帯を使っているわけです。それと同じように、ニーズを徹底的に地域を信じてつくる。そこから立ち上がるような、そういう産業を自分たちでつくっていく。そうすると、実はそんなに大きなお金が要らなくても、徹底した製品がつくられる。

 そのために、今まで田中政治が合理的な仕組みとして機能してきましたが、もはや機能しないとすれば、もう一度、新しくそういう産業を起こせるような体制をサポートできるような体制に全体を変えていかなければいけない。それが本当の分権の目的であって、財政のつじつまを合わせるのではなく、今ある現実の問題にもっと対応しながら、しかも、国家戦略というんでしょうか、そういうものにしっかり結びついたような分権の理念が必要だろうというふうに私は思っているわけです。残念ながらそうなっていないために、地方の中山間地はどんどんどんどん衰退して……(発言する者あり)あっ、そうですね。それも私はやっております。

 最初にできた竹田市の九重野地区における中山間地を見ていますが、多くの地域を見て回ればわかるように、ぽつぽつと挙家離村をしていくと、水が回らなくなる、それから害虫が発生するという形で、村落そのもの、集落そのものが維持できなくなって、休耕田が年間で十万ヘクタール近く発生するというような状況に何ら終止符が打てていない状況は変わらないわけです。そうなると、もう一度地域自身が立て直せるような形で仕組みを変えていくということが、先ほど述べたような趣旨に当たっているわけです。

 そういう意味で、分権の目的そのものから、国会においてきちんと現状を見きわめた議論をしていただきたいということを、私の席から言うのはおかしいですが、お願いしたいというふうに思っています。

 どうも、ちょっと長くなりました。

吉良委員 ありがとうございます。

 それから、先ほど、やはり金子先生の方で年金問題について触れていただきました。金子先生の持論の中では、やはり日本の経済が停滞している最大の原因が将来不安、それは年金制度に対する不信感、こういうことで、年金制度の抜本改革を提唱しておられると了解しております。

 民主党が提案をしております、本当にナショナルミニマムとしての基礎年金は、もう全額税でやるべきなんだ、それと比例報酬と組み合わせて、今ある複雑な年金制度を一本化する、こういうことと、先生の持論と非常に近いと了解しておりますけれども、年金制度の抜本改革についての先生の持論をお聞かせいただけますでしょうか。

金子公述人 年金改革の問題について民主党が一歩踏み出したことは、私は非常に評価しているんですが、残念ながら、もう少し早い時点でその案が実現するならば実現可能であった。しかし、五年ごとの見直しのたびに未積立金が大量に積み立ってしまっている。その時点で基礎年金を消費税に置きかえるだけだと、残念ながら、実はこの未積立金がかえって将来の世代に相当不安を与える原因をつくってしまう。

 というのは、現状で年金給付を受けている人たちの給付水準を現実に下げない限り、未積立金はますます積もっている状況ですから、所得比例部分も本当に保障できるかどうか怪しくなってしまっているというのが私の現状認識です。そのくらい深刻に、未積立金が見直しのたびに額が目を見張るように膨らんでいくという不安を覚えています。したがって、その不安は、裏返してみると、今のような政府案でやっていっても、これで終わるのかという不安、多くの若い世代にそういう不安を引き起こしているわけです、終わらないとする。

 それから同時に、今までの制度は、一つの職業に継続的についている人ほど有利に働くようになっています。残念ながら、今の年金生活者は、異様に格差が広がっております。大企業に勤めてフルに厚生年金をもらって、企業年金をもらって、個人年金をもらうと、実は一千万円近くもらっている人たちがいます。片方で、国民年金だけだと六十万から八十万、フルに納めない人はもっと低い。無年金者も大量にいるわけです。こういう異様な格差が広がっているわけです。

 この格差を放置することはなかなか難しいんですが、実は、既得権益という形で現にもらっている高齢者の人たちの年金給付を切り下げることがなかなかできないので、現実的には若い世代にその負担が全部いってしまいます。若い世代は、残念ながら転職が多くなってくる、やめることが多い、あるいはもともと自営業者であるというような人たちは、フリーターであれ、何であれ、国民年金に加入せざるを得ません。

 ところが、そういう人たちは、もう年金制度に対して信頼を失っておりますので、四割近くが納めない状況になっている。そうすると、他の年金からそれを補てんしなければいけない、あるいは税で補てんしなければいけないという悪循環に陥っているわけです。

 そういうふうに考えると、未積立金も含めて、現状の中で最もリアルに現状を断ち切って改革できる提案は何だろうか、それから加入者が、とりわけて若い世代も含めて非常に不安を抱くような状態、特定の階層や特定の人たちに不利になるような事態、こういう事態を回避するにはどうしたらいいのか、こういう改革の視点が二番目に必要になってきます。

 つまり、財政パフォーマンスで現実的なものと、同時に現にある問題を解決するという不安をどのように除去していくか、この二つが非常に重要な点だろうと思います。

 その意味で、民主党案の中で、前者は余り満たしていないが、後者の点はある程度満たしているという点で評価をしたわけです。つまり、フリーターであれ何であれ、私のように、所得比例税にし、アメリカもそうですが、企業は、ペイロールタックスといいますが、賃金税にする。つまり、正規労働であろうが非正規労働であろうが、企業は、払っている賃金総額に税がかかる、比例税がかかるという形になります。

 これは、実は、国際会計基準上のいわゆる年金債務の表示にも全く合致していて、企業にとっては困らない形になります。しかも同時に、企業側から見れば、とりわけて非正規雇用だけを雇うインセンティブは生まれないわけです。

 同時に、払っている側からいうと、国で年金が一元化されますから、職業を移動しようが会社を変わろうが、年金はつながっていくことになります。支払い額をベースにしてもらいながら、高齢化のピークにおいてそれがつり合えばいいわけです。そこから逆算すればいい。そのときに、一人当たりの国民所得の増加、つまり現役世代の所得の伸びに応じて、上がれば給付も上がるし、下がれば年金の給付も下がるという形で、財政の入り口と出口を一致させる。

 問題は、先ほど申し上げましたように、このようにした場合でも、つまり現役世代、これから払っていく所得比例税は未積立金の分も払っていくわけですね、賦課方式ですので、世代間扶養で。しかし、それでも未積立金はなお残る状況になるんではないか、これは正確に計算しないとわからないんですが。非常に難しいのは、運用利回りの設定であるとか高齢化の比率の設定なんですが、この部分を確定していくことが大事だ。

 そうすると、実は、消費税はこの高齢化のピークを乗り切れば、我々の案であれば年金問題は終わるわけです。つまり、払っているものともらうものがつり合う時点で終わるわけですから。その一定の期間だけどれだけ財源が必要なのかを早く明示して、国民に明示的な負担を求めていく。

 そのとき、先ほど申し上げたように、高齢者の負担が非常に重くなるのは避けなければいけないので、年金課税をしっかりして、高額の所得をもらっている人たちからはきちんと税を取る、そういう方式。所得税でしっかり捕捉する必要がある。それでもなお足りない分は幾ら消費税が必要であるかということを早目に確定しないと、現状のままずるずる続けていきますと、また五年後、また十年後、成長率や高齢化の比率の計算が狂うたびに未積立金がまたふえる、計算が狂うたびにまた不安をあおるということになる。つまり、年金の改革について三番目に重要なのは、エンド、ここで終わるんだというはっきりした限度を明確にすることです。

 我々の案であれば、高齢化のピークがずれても、ずれた期間だけ増税が必要だということであって、永遠に消費税を引き上げなければいけないということはなくなるわけです。そうすると、実はかなり年金制度は安定してくることになります。

 しかし、それでも、現状の年金給付の額より若い世代は多分カーブが寝る形になります。基礎年金ではなく、一元化された年金でミニマム年金は設けますが。そうすると、やはり現物給付、つまり、現金給付で老後を支えるという体制が完全に安心を得られるかどうか。まだ不安が完全に取り除けないとしたならば、基本的には地域を中心にした医療や介護のシステム、地域医療やあるいは地域の介護のシステムというものを、寝たきりにならない、そういう現物給付、医療の供給システムを含めて根本的に立て直していく必要があるんだと思うんです。

 残念ながら、介護保険はサステーナブルではないと私は思っています。なぜならば、中山間地で無理やり介護保険をやっていますが、よく私は冗談でこう言います。高齢者を対象にしていくんだけれども、要介護になる人ばかりを集めて保険をつくるというのは、暴走族を集めて自動車保険をつくるようなものだ。つまり、保険はリスクを分散することですから、全国保険でなければいけないわけです。これが地方自治のもとに行われているのは、非常に奇妙です。全国保険プラス地方税による横出しか、完全な税による現物給付を支える地方税の方式か、どちらかしか論理的にはあり得ないはずなのに、この国では極めて奇妙な仕組みがひとり歩きしているということになります。

 したがって、現物給付もぜひ、同時に年金問題とあわせて改革を考えていただきたいというふうに思います。

 どうも、長引いて済みません。

吉良委員 詳細な説明、どうもありがとうございました。

 時間がなくなってまいりましたが、酒井先生にお尋ねします。

 非常に雑駁な質問になるかもしれませんけれども、先ほど、部族社会と向き合うことの難しさということについて、冒頭、説明をしていただきました。

 私はいろいろ世界を渡り歩いて、外国の人と夜話すときよく話題になるのが、アメリカ人の人のよさというか身勝手さというか、彼らが掲げる自由と民主主義というのがとにかく至上の価値なんだ、これ以外に、これをしのぐものはないんだということで、どこでもここでもそれを押しつけようとするアメリカ人の考え方、態度を皮肉ることで非常に夜のお酒の場が盛り上がるわけでございます。

 先ほどのお話を聞いても、やはり何千年という歴史を抱え、またこういう部族社会を抱えたイラクにおいて、すごく言いづらい質問かもしれませんけれども、アメリカが掲げるいわゆる自由と民主主義、この民主主義というのは本当に生きるのか、一番ベストの統治形態なのか。

 私は、実はもう随分前に、梅棹忠夫元国立博物館長の「文明の生態史観」というものに非常に感銘を受けた人間で、そこでは、ヨーロッパ及び日本というのは民主主義の土壌があるけれども、イスラム世界、インド世界、中国世界、ロシア世界、ここにおいては歴史上、いいか悪いか別にして、一人の為政者とその他、こういう二元化の政治形態というのが常であるし、現実そうだし、それがいわば安定しているというような論文を読んだこともございます。

 そういう中において、今度の六月に迎える主権移譲、その際のイラクにおけるベストの、またはセカンドベストの統治形態というのは一体どういうものであるのかということを、ちょっと大きな話で恐縮ですけれども、酒井先生にお伺いできればと思っております。

酒井公述人 今後のイラクのベストの統治体系ということでございますけれども、御質問の中に、自由と民主主義といったアメリカ的あるいは欧米的な理念がイラクにそぐわないのではないかという御疑問があったかと存じますけれども、現在イラクで問題になっておりますのは、まず、自由と民主主義をアメリカが提供していないということに対するイラク人の不満が今の社会治安の悪化をもたらしているということが一点でございます。

 ですから、むしろイラク人の側から自由と民主主義を求めている。であるがゆえに、直接選挙というようなことを、時期尚早ではあるけれども、テクニカルにいろいろな問題はあるけれども、そういったものを要求している。それをむしろ押しつけている格好になっているのが、アメリカの今の復興政策であります。

 これも、政治的な面でももちろんでございますけれども、経済的にも今国内の復興支援の中で一番問題になっておりますのは、イラクの企業の望むような形での復興支援活動が行われていない。すなわち、ある意味では自由というものをないがしろにした形で復興事業自体をアメリカ企業が独占的に行っている。この独占的に行っているがゆえに、今の復興計画自体が非常にいびつな形で行われている。

 すなわち、最も効率的に行われなければいけない電力の復旧あるいは燃料、ディーゼルなどの生産などを行う製油所の復旧、こうしたものが、真っ先に行われるべきところが後回し後回しにされている。つまり、今一番問題になっておりますのは、イラク国内の地元の意見を吸い上げる民主主義の不在であり、そうしたやり方をするのをむしろアメリカが阻害しているということになります。

 ですから、ベストの統治形態は何かと言われれば、これは明らかに議会制民主主義であり、その中で、差別のない形で自由な政党活動を認めるということであります。すなわち、アメリカの常に懸念いたしますイスラム政党、こうしたイスラム勢力が今後の政体の中で台頭してくることがアメリカの利害にとって悪影響を与えるのではないかというような懸念があろうかと思いますけれども、こうした、むしろ自由を阻害するような、特定の政党に対する特定の懸念といったものを排除した形で、むしろ完全な自由で民主的な政体を築くということはイラク国民が望むことであり、かつ、一番望ましい形態であると私は考えております。

吉良委員 時間は終わりなんですが、もう一点だけ。

 先ほどのお話で、部族のよしあしの中で、部族が望むような選挙結果が出れば皆さん従うけれども、自分たちが望む結果じゃなければかえって混乱を招くだけじゃないかという懸念がありますけれども、その点だけ最後にお願いします。

酒井公述人 おっしゃるとおり、確かに今の部族政治、特に地方部における部族政治というのは、申し上げましたように、短所として、力にすぐ依存するというような部分がございます。そういう意味では、今後、これまで余りにも中央集権化されていたイラクの政体を地方分権にしていかなければいけないという点がございます。

 そういう意味で、緊急に必要とされるのは、イラクの地方公務員あるいは地方行政をいかに教育レベルで先進国が支援していくかというような点が非常に重要になってくるかと思います。

 もちろん、今の部族の政治をそのまま認める、そのまま政治の場に取り込んでいくというのは大変難しくなってまいりますので、その意味では、日本の戦後の民主化の教育経験であるとか、地方分権体制の確立といったような制度的な経験というものをイラクに輸出していくことこそが、恐らく今の復興支援において一番求められていることではなかろうかと思います。

 以上です。

吉良委員 これで質問を終わります。ありがとうございました。

笹川委員長 佐々木憲昭君。

佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。

 きょうは、大変貴重な御意見を公述人の皆さんからお聞かせをいただきまして、本当にありがとうございます。

 まず、イラク支援に関連いたしまして、酒井公述人にお尋ねをいたします。

 私どもは、イラクに対する自衛隊派兵には反対という立場をとっておりますが、今度政府の予算案の中に、イラク復興支援ということで、補正予算と合わせますとかなり巨額の予算が組まれているわけであります。昨年の十月に開催されました復興支援国会合で、当面十五億ドル、さらに中期的な支援として三十五億ドル、合わせて五十億ドル、これがまずは今年度補正予算で一千百八十八億円と、大変大規模な予算を計上しているわけです。その約半分が直接的な支援。

 この受け皿でありますけれども、先ほどのお話ですと、イラクの現状というのは大変流動的で、しかも極めて深刻化しつつある、こういう状況であります。私どもは、国会の議論の中でも、一体、その受け皿となるものはどういうものであるのか、この点について、私は財務金融委員会でも質問いたしましたし、また予算委員会でも議論が行われました。しかし、なかなか政府の回答が、こういうところにこのように幾ら幾らの金額を支援するんだ、その受け皿の組織というものがどういうものか、これがはっきりしないわけでございます。例えば、サマワ市評議会というものが一体存在するのかしないのかということでさえ、明確ではない。

 そういう現状について、酒井公述人はイラクの現状を大変詳しく御存じでありますので、これだけ多額の金額の支援が行われるということでありますが、一体その受け皿となり得るものがどのような形でイラクに存在をするのか、その現状についてぜひお聞かせをいただきたいと思います。

酒井公述人 御質問、これは日本を含め各国共通かと思いますけれども、こうした復興支援が一体イラク国内でどういった受け皿に向けられているのかという御質問だと思います。

 御指摘のありましたように、現在、主に受け皿になっておりますのは市評議会、各地で存在しているような市評議会が中心になっておりますけれども、これはなぜかといいますと、ひとえに現在イラクに正統な主権のある政権が存在しないということに尽きております。ですから、やむなく無償援助というような形で、地方のNGO団体であるとか市評議会といったような草の根レベルの相手を対象にして援助が行われているものというふうに私は理解しております。

 しかしながら、御指摘がありましたように、この市評議会自体も、それではどれだけ正統性を持つものなのかということを問いますと、これも全く正統性がないという部分がかなりございます。といいますのは、この市評議会の多くは、アメリカがイラクに入りまして進攻していく過程で、その土地その土地の有力者、あるいはアメリカがこれまで協力関係にあったような人々を集めてつくった、そういう評議会でございます。これは先ほどちょっと陳述の方でも申し上げましたけれども、場所によっては、国民の間で、いや、そんな押しつけの評議会ではよくないということで、途中、繰り返し繰り返し、自分の手で評議会員を選んでいこうというような草の根民主主義に基づいてできた評議会なども実際にあります。しかしながら、今、サマワを含めて多くの市評議会は、地元の住民からどの程度信頼を得ているかというのは、必ずしも全幅の信頼を得られるようなものではないというところが多うございます。

 そうした、現在、制度的に、何といっても正統な政権がないということでイラクの政府にお金をおろすことができないという以上、このように地元の地方自治体に持っていくしかないという制度的な難点がございますから、その意味で、幾らお金をつぎ込もうとしたところで受け皿がないというのが現状でございますから、先ほど申しましたように、とりもなおさず戦後の政権、主権のある政権をどのようにつくっていくかということに対しても、日本は必ずしも全く無関心ではいられないはずである、こういったものを早急につくる方向で日本も努力していく必要があるというのが一点でございます。

 と同時に、暫定政権ができればいいというものではございません。先ほど申しましたように、国民の間では、直接選挙でみずから選びたいという機運が非常に強く出ておりますので、急ぐが余り、同じように上から任命するだけの暫定政権というような形では、そうしたところにお金をつぎ込んでも、逆に国民の反発を受けて、全く国民から評価されない援助になってしまうというような難点もあるかと存じます。

 以上であります。

佐々木(憲)委員 それともう一点、現地の状況というものは非常に失業者が多い、したがって、日本に対して雇用の面での期待が非常に高いということをよく報道でもされているわけであります。自衛隊というものは自己完結的な組織であるというふうに言われていまして、現地では、自衛隊が来るということは余りよく理解がされていないのではないか。雇用の面で過大な期待があって、自衛隊が行くことによって必ずしもその期待が実現するというふうには限らないというふうに私どもは思うわけであります。

 したがって、本来であれば、私どもの見解を申し上げましたら、国連を中心とした枠組みをつくり、イラクの直接的な選挙などによってイラク人の意思の反映した政府がつくられ、その上、もちろん自衛隊や米軍は撤退をして、そういう中で、日本は非軍事的な面での人道復興支援をきちっと行うというのが筋だと私は思っておりますけれども、しかし、現実はそういうふうになっておりません。

 自衛隊が今行く形で支援という形を政府はとっているわけでありますが、このことが、現地の基本的なニーズであります失業の解決ですとか、あるいは経済そのものの復興ということとかなり矛盾が出てくるのではないかというふうに思うわけであります。その点は一体どのようにお考えか、お聞かせいただきたいと思います。

酒井公述人 今の点でございますけれども、おっしゃるとおり、サマワで日本が歓迎されているということは、自衛隊が何をやるかということをしっかり了解した上で歓迎しているかどうかというのは大変疑問でございます。逆に、地元では大変期待が高まっておりますけれども、実際、その期待といいますのは、経済の全体的な底上げということに尽きるかと思います。

 こうした期待が高まっている背景には、日本の自衛隊や政府ではなくて、むしろ民間企業、七〇年代から八〇年代にイラクの重立ったインフラ設備をほとんど日本企業がつくってきたという経験に基づいて、イラク国民は、そういった日本企業の同じようなイラク経済の底支えというようなものが再来するのではないかという期待を持っているわけです。

 ですから、その意味では、現在サマワで高まっている期待に決して自衛隊がこたえられるような状況にはない。むしろ、高まってしまった以上は、それにこたえるためには、自衛隊ではない、本来それにこたえられるような体制を新たに別の形で整えていく必要が出てくる。それは、ある意味では、日本企業を出す出さないは別にいたしましても、具体的には、バスラなどを中心としたイラクの産業施設が集中しているコンビナート、石油製油所や発電所といったようなものを、これは日本を含め国際的に早急に改善していく必要があるわけです。

 そのために、御指摘のありましたような国連中心の復興支援体制ということでございますけれども、私は、必ずしも国連でなければならないというわけではないと思います。しかしながら、いずれにしても、今のようなアメリカを中心とした、あるいはアメリカ企業が復興事業を独占して、独占しているがゆえに非効率的な形に陥ってしまっているような体制そのものを見直して、より国際的な、世銀でも結構ですし、国連でも結構かと思いますけれども、国際的にいかに効率的であり、早く復興ができるような体制がとれるかということをオーバーホールする必要があるというふうに思っております。

 そうしたオーバーホールの作業の中に日本も積極的に関与していく、そういう外交努力によって復興事業を進めていくことが真っ先に必要とされるかと存じます。

佐々木(憲)委員 大変ありがとうございました。

 金子公述人にお聞きをしたいんですが、今の景気の現状というのは、確かに一時的に年率換算で七%成長という非常に高い数字が出ているわけですけれども、しかし、その実態はどうなのかという点であります。やはり、輸出中心に、中国向けの貿易あるいはアメリカの好況というものに支えられた、そういう輸出関連企業の活況というのが中心でありまして、しかも、それに関連する設備投資が伸びている。その反面で、個人消費を中心として消費の低迷というものは依然として深刻だろうと思うんです。

 そこで、こういう経済の現状の中で、財政の役割でありますが、先ほど、粉飾国家である、そういうお話がありました。その結果、むだなところに抜本的なメスを入れるよりも、むしろ国民負担の方にかなり重点が移動しているのではないか。年金その他、増税ですね。

 昨年来、我々、この二年間だけをとりましても、政府の予算案で、平年度ベースでいいますと、合わせて七兆円を超える負担増になるというふうに考えておりますが、今の景気の現状と、それから予算の役割といいますか、これを私どもは個人消費にもっと支援をする形に変えるべきだと思いますけれども、金子先生の御意見を伺いたいと思います。

金子公述人 私は、今の時点では、景気の現状の判断というのは、別に予想屋ではありませんですが、非常に恐れているのは、予算をどう組み直すかという当面の問題よりは、私が発想しているのは、今どういうリスクがあるか、それに耐えられるかどうか。

 実は、輸出主導の景気回復が波及していないのはなぜかというのを考える。それからもう一つは、この輸出主導の景気ですので、外が悪くなったときにはたちまちつぶれてしまう。この二つのリスクがあります。

 外側で見たときには、中国経済はやはりバブルぎみであります。これは判断は難しいですが、このバブルがうまく収束してくれるかはだれも予測できないわけですが、常にそういうリスクはある。それから、アメリカを、膨大な双子の赤字を出してもたせているという体制を、世界じゅうがうまく支え続けられるかどうか、とりわけ大統領選以降、そういう体制がうまく機能するかどうかというのに非常に疑問を持っています。

 御指摘の点は、実は、内側に政策として、今までは輸出主導でいったのが中小企業や個人や地域に波及する政策経路があったということなんです。それは、先ほど申し上げたように、田中角栄さんがつくった仕組みは、実は地方へ波及する経路でありました。ところが、それが実は、個人は年金や雇用が不安、あるいは中小企業を支えるような、地方が地域を支えるような枠組みが崩れるということで、なかなか国内に波及していかなくなっている。

 したがって、単に予算を組み替えるだけではなく、新しい個人や地域、中小企業に波及するようなメカニズムをどうつくるか、こういう観点が必要なので、予算の重点をそういうふうに置くかどうかではなく、仕組みそのものを変えなければ、もうもたないのではないかというのが私の意見なんですね。その点をちょっと御了解いただければと思います。

佐々木(憲)委員 ありがとうございました。

笹川委員長 照屋寛徳君。

照屋委員 社会民主党の照屋寛徳でございます。

 きょうは、公述人の皆さん方の大変貴重な御意見を拝聴することができ、心から感謝を申し上げます。

 少ない質問時間でございますので進めさせていただきたいと思いますが、最初に、酒井公述人にお伺いをいたします。

 私は、これまで予算委員会やイラクの特別委員会で、何度か外務省あるいは防衛庁の考え方をただしてまいりましたけれども、その中でも、今陸上自衛隊が宿営地を建設しておりますね。このサマワにおける自衛隊の宿営地の賃借料の問題、これはうまくいくのかなということを何度か質問をしたら、いや、それはうまくいきますよということをずっと言っておられるわけであります。ところが、何かいまだに賃料について合意が得られない、こういうマスコミの報道に接しておるわけであります。

 マスコミの報道によりますと、オランダの宿営地の建設でも賃料をめぐってトラブルがあったということでありますが、賃料の交渉問題の決着の仕方によっては、私は治安情勢にも影響を及ぼすのではないかというふうに心配をしているんですが、いかがでしょうか。

酒井公述人 サマワの自衛隊の宿営地の賃料でございますけれども、先ほどの陳述でも申し上げましたとおり、賃料の交渉が決裂するということは、今後に大変大きな問題を残すだろうというふうに私は思っております。

 そして、先ほどちょっと申し上げましたけれども、自衛隊が宿営地にしているところは、一種、半ば私有地のような状況でございますから、私が聞いている限りでは、オランダ軍が借りております土地は国有地扱いだというふうに聞いておりますので、そもそもオランダ軍の陣地にしておりますところと、単価が違ってきているのではないかというふうに思っております。これについては現場で確認した話ではございませんので、推測の域を出ませんけれども、必ずしもオランダ軍と同じ金額でいいというようなたぐいの土地の性格ではないということでございます。

 さらに、これも一部の報道でございますけれども、オランダ軍の場合は、やはり武力的な強制力をもって土地の交渉に一定の決着を見たというような報道もなされておりますので、オランダ軍の場合もかなりトラブルを抱えているということがわかると思います。

 先ほど申し上げましたように、これはただの土地の値段ではございませんので、万が一安い金額で決着がついたといたしましても、その場合は、ただの土地の値段で決着がついたということであって、その土地に対するその部族の庇護であるとか安全保障といったようなものは抜きで、ただ土地だけ貸してもらうというような形になりますから、その土地がある部族の手から離れたということになりますと、別の部族の略奪の対象に当然なるというようなことになりますし、そういった形で決着がつかなかった場合は、今度はその一方で、地主の側はその土地の所有権を強調いたしますから、実力行使で自衛隊を排除しにかかるとか、あるいはその作業に対する妨害行動に出るとかいうような危険性も、最悪の場合、想定し得る問題になるかと存じます。

照屋委員 昨年の暮れにサマワを中心とする部族の会議みたいなのがあって、それで自衛隊、特に陸上自衛隊がサマワに宿営地をつくることになると、自衛隊を部族が守ってあげよう、警護する警護隊をつくるんだという報道がございました。同時に、その警護をする費用の負担をめぐって、何か過大な請求を自衛隊になしているんだという一部報道もございましたけれども、おっしゃるように、イラクの部族社会という一つの社会の特質の中で、部族は非常に親密な、一種の親族団体というか、そういう機能もあるし、同時に武装しているわけですね。

 この警護問題というのはどのような状況にあるんでしょうか。おわかりでしたらお教えください。

酒井公述人 具体的に、今のサマワで部族がどういう形で警護を行っているかという情報は、残念ながら私は持ち合わせておりません。ただ、一般論といたしまして、部族が武装してみずからの土地をみずから自立的に守っていくというような集団であるということは、先ほどお配りいたしました資料の中でも触れているかと存じます。

 それと、部族社会で特徴的なのは客人に対するもてなしということを長所で挙げさせていただきましたけれども、この客人であるかどうかの判断というものが、一定期間を過ぎるとただの客人ではなくなってしまうという点がございます。すなわち、自衛隊を部族社会で庇護しよう、守っていこうというような動きがあるとすれば、それは、自衛隊あるいは日本が、サマワの部族社会に利益をもたらす客人であるというふうにみなされたがゆえに、それに対する十分な庇護ともてなしを行おうというような判断だったんだろうと思います。

 しかしながら、それが、実は客人ではなくて外敵である、害をなす、あるいはそこにいても全く守る価値のない存在であるというふうにみなされた場合は、ほかの外国軍と同じようにいわゆる外敵であって、外国からの侵略者であるというふうにみなされてしまう危険性がある。

 これは、部族社会のよく言われる慣習として、三日間は無条件に客人をもてなすけれども、三日すれば敵か味方かが判別する、判別した段階で追い出すものは追い出すというようなしきたりがあるというふうによく伝えられますけれども、そうした対象として自衛隊が客人であり続けるためには、それ相応の富と経済的な利益というものをもたらす必要がやはり出てくるんだろうと存じます。

照屋委員 金子公述人にお伺いをいたします。

 昨年の五月でしたでしょうか、沖縄で県民向けの憲法講演会で、私も金子公述人の講演を聞いたことがございます。同時に、その会場で買い求めた「月光仮面の経済学」という本も読ませていただきましたし、何冊かの本や論文をこれまで読ませていただきました。御案内のように、平成十六年度予算は、新規の国債発行額が三年間連続増加の三十六兆五千九百億円ということで、過去最高になっております。ところが、税収の見込みは、これはもう四年連続の減少で四十一兆七千四百七十億円の見込みで、国債の依存度は四四・六%。

 私は、予算委員会で、小泉総理、関係大臣に、これじゃ国家財政は破綻をしていると言わざるを得ないという趣旨のことを言いましたが、きょうの公述人のお話を聞いて、粉飾財政、粉飾国家のシステムということからすると、今後もこの粉飾国家のシステムを続ける限り、破綻というのは公にならないのかなという思いもいたしましたが、そのことについて。

 それから、竹中財政大臣にいわゆるプライマリーバランスの見込みを聞きましたら、やはり胸を張って、二〇一〇年代初頭には黒字化する、予算委員会でもこういうふうな答弁がありましたけれども、このあたりについて金子公述人のお考えをお聞かせください。

金子公述人 まず、現状の歳入と歳出、あるいは国債依存度のバランスは、この先、急激に回復するというふうにはとても思えないわけです。

 それで、実は二〇一〇年という数字は六年後であります。これはだれもわからなくて、竹中先生が最初に参加した経済戦略会議の最終報告に従えば、二〇〇二年に実は二%の成長が実現しているはずであります。

 こういう数字は、いろいろな仮定がたくさんあり過ぎて、実際にどうなるかということについて、確たる答えを、こういうふうに数字が出ているから確実にそうなるというふうには言えない状況が実はここ十年以上ずっと続いているわけで、ほとんど数字としては信用できなくなっているというのが現実です。

 私は、当面当座をもたすために、破綻が公にならないように、いろいろなゆとりのあるところで隠して赤字を累積していく仕組みで当面もたせていくやり方は、当面当座はもつけれども後が非常に怖い。つまり、ゼネコンが債権放棄をした結果、最終的につぶれるのと同じように、実は全く反転する契機を失ってしまうということを非常に憂えています。

 プライマリーバランスだけが二〇一〇年に本当によくなるかどうかはだれもわかりませんが、私は、もうこういう現状の財政の仕組みそのものがもたない証拠であると。したがって、大胆な分権や年金制度や経済の本体である財政の仕組みから年金は取り外して独立の政府にする、あるいは地方は、地方政府と呼ぶのにふさわしいように、今までの仕組みを根本的に変えて、三つの政府と私たちは言っていますが、そういう体制に変換しないといけない時期に来ている。

 私は、そういう意味で、このままの数字はもたない、したがって、仕組みを根本的に変えないといけません、こういうスタンスではっきりしているわけです。

照屋委員 金子公述人にお伺いいたしますけれども、粉飾国家システム、そして非常に国家財政が厳しい中で、もう一つの大きな問題は、雇用問題というか、失業者が極めて多いという状況にございますね。特に若年労働者の二十代の人たちの失業率が高い。沖縄などにおいても失業率は全国の約二倍です。特に二十代の失業者というのはもう物すごく多いわけですね。

 もう既に二十代の人ではフリーターもふえていますけれども、そもそも、もう求職活動しても仕事にありつけないということであきらめてしまった人というのもいっぱいおるやに聞いております。国家財政の厳しさと雇用失業問題についてどのようにお考えでしょうか。

金子公述人 雇用問題に関しては、世界的に、企業の収益が上がっても雇用がなかなか回復しない体質というのは、九〇年代以降ますます強まっています。実は、アメリカにおいても同じでありますし、ヨーロッパにおいても非常に似たような傾向になっています。

 これは、現状の中で、不況の中で雇用が削減されているだけではなく、私はずっと言っていますけれども、いわゆるキャッシュフロー経営の結果、最も固定費化しやすい労働を流動化させる傾向が非常に強まっている。それに対して、政府は認識が非常に甘いので、ますます年金制度でそういう方向を助長している。

 問題は、若年層が、フリーターだとか契約だとか、熟練が蓄積しない領域で雇用される傾向が非常に強くて、失業率が改善されても、ほとんど正規雇用はふえずに、非正規雇用ばかりがふえるという傾向をこのまま助長していきますと、四十になったり五十になったりしたときに、個人が何か転職をしたり何か安定的な職についていくという仕組みがこの国から消えていってしまうことが非常に大きい。そのときには生活保護に依存して生きていくような人たちが大量に出てくる。

 私はそのことを非常に心配していて、当面当座、そんなに公共事業で雇用をふやすということがもう有効性がなくなる、あるいは財政赤字でできなくなってきている中で、年金を一元化するだけではなく、ジョブキャリアをきちんと積み立てていったり、先ほどからも出てきましたけれども、教育制度で、大学でもう一回再キャリアを積んでもまた再就職できるような、労働市場のルールというものをその上に積み上げていくような形にして、一人一人の若者が、自分がどういう仕事をしたり、どういうキャリアを身につければ安定的な職あるいは自分の目指すものにつけるのかという目安になるルールをつくっていくことが非常に重要になっている。そうしないと、個人は努力しても常に臨時雇用しかないという状況であれば、若い人のモラールも低下しますし、活力も低下する。そういう単なる雇用の数だけではない、もっと深い問題が今若い人の雇用問題になっているのではないかというのが私の認識であります。

照屋委員 終わります。

笹川委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。

 公述人の皆様、きょうは大変お忙しい中おいでいただき、また、貴重な御意見を賜りまして、まことにありがとうございました。委員会を代表して、予算委員長の笹川でございますが、厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。(拍手)

 午後一時から公聴会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午前十一時五十五分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時開議

笹川委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 平成十六年度総予算についての公聴会を続行いたします。

 公述人の皆様にごあいさつ申し上げます。

 本日は、大変御多用のところを当委員会に御出席賜りまして、まことにありがとうございます。平成十六年度の総予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にさせていただきたい、このように考えておりますので、忌憚のない御意見をよろしくお願いします。ありがとうございます。

 御意見を賜る順序といたしましては、まず竹中公述人、次に草野公述人、次に奥野公述人、次に坂内公述人の順序で、お一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 それでは、竹中公述人にお願いいたします。

竹中公述人 皆さん、初めまして。私、プロップ・ステーションの竹中ナミと申します。ニックネーム、ナミねえといいます。よろしくお願いいたします。神戸から来ました。(発言する者あり)ありがとうございます。

 プロップ・ステーションは何の活動をやっているかといいますと、一応社会福祉法人ということなんですが、今までの社会福祉の概念とは非常に違いまして、コンピューター、ITなど最新の科学技術を活用することによって、障害をお持ちの方、とりわけその障害が重くて、家族の介護が必要であったり、あるいは施設にいらっしゃるとか、進行性の御障害で病院のベッドの上にいらっしゃる、そのような方も含めて、今まで主に福祉の対象といいますか、受け手とされてきた方々が社会とつながって自分の力を発揮する、つまり、働くことができるような日本にしようということで、十三年前に生み出した活動です。

 ちっちゃなボランティアグループとして踏み出したんですけれども、おかげさまで、世界じゅうのといいますか、すべてのITの、例えばパソコンをつくっていらっしゃる方、ソフトウエアを開発している皆さん方の御支援をいただき、また障害をお持ちのたくさんの方々自身がこの活動に参画してくださるということで、今まで働くことが無理だと言われた人たちがたくさん就労できるような状態を生み出してきました。

 まだまだこの活動については知られていないんですけれども、ぜひ、きょうのこのような機会をいただきまして、一層彼らが、福祉の受け手として存在するだけではなくて、社会の支え手ともなれるような政策、あるいは予算の議論を進めていただきたく思いまして、きょうこのように発言をさせていただきます。

 今回の十六年度の予算につきましては、私自身、財政制度審議会で昨年度からもう二期務めさせていただいておりまして、その中で自分なりの思いは発言させていただいておりますし、障害を持つ人たちが社会の支え手にもなれる予算の組み方をという私の意見も取り上げていただいておりますので、基本的に賛成、承認の立場で発言をさせていただくんですが、ただ、やはり日本がこれからますます厳しい少子高齢社会に突入する中で、一人でもたくさんの人が社会の支え手であってくださるということは、私は欠かせないことなのじゃないかと思います。

 なぜ私がそのようなことを考えたかといいますと、実は私、子供が二人おりまして、下の娘、女の子が二月に三十一歳になりましたが、彼女は三十一年前に、重症心身障害ということで大変重い脳の障害を持って授かりました。彼女は、現在も家族の見分けがつかない重度の痴呆症状のお年寄りと同じような状態で、全面介護が必要な状態でおります。

 少子高齢社会の進展に伴って、彼女のような重症心身の人、あるいは重い痴呆を持たれるような方というのは、間違いなく比率的にふえてまいります。まして、高齢の方もふえてまいります。そのときに、一部の若い人たちだけに支え手になっていただくのではなくて、この人はちょっと働くの無理ちゃうかと今まで言われていたような人たちも、もし御本人が自分は働きたいと思われるのであれば、ぜひ社会に進出していただけるような制度を考えていただければうれしく思います。

 私の娘は、現在、社会福祉施設、国立の療養所なんですが、そこでお世話になっております。二十になるまでは、私が平均睡眠時間毎夜二時間、三時間という状態で介護をしておりましたが、たまたま事情もありまして、十年ほど前からその施設にお世話になっているんですが、彼女のような者を、人間を人間として認めて社会が生存させるためには、実は大変な人手と予算の裏づけがいるのだということを実感いたしました。

 そうしたときに、やはり日本が、決して経済的に崩れてしまうことのない、あるいはみんなが支え合おうというような意識を持った国であり続けていただきたい。それには、もうそろそろここらで、福祉は弱者に手当てをするのだという考え方だけではなくて、今、弱者と呼ばれている人たちの中にも、実は社会に貢献をしたり、わずかではあっても力を発揮できる人がいるという視点に立って、その人たちの力をすべて引き出していただくような政策を、ぜひきょうお集まりの皆さんに御議論をいただきたいというふうに思います。

 私たちプロップ・ステーションは、十三年前にわずか数人の、私とそれから大変重い障害を持つスタッフとで始めました。しかしながら、今も言いましたように、さまざまな、コンピューター業界、政治をされている方あるいは地方自治だとか国の、政府の官僚をなさっている方とか、本当に多方面の皆さんがチームワークを組んで応援をしてくださることによって、一人、五人、十人、そして百人あるいはもう千人に近い形で、納税できるチャレンジドを生み出してきた次第です。

 私たちが、現場の国民の側からの提案として、あるいはモデルケースとして築いてきましたこのプロップの活動を、皆さん方の、これからの政策をなさっていく、あるいは政治活動をなさっていく一つのモデルといいますか、うまい事例として見ていただいて、ぜひぜひ現場ものぞいていただきたいし、御見学も御意見もこの後もいただきたいと思いますが、そういう可能性について、現場も真剣に取り組んできましたので、それを今度は社会のシステムにしていっていただきたいなと思います。

 ちょっと余談になりますが、実は私たち、国内で活動しておりますが、インターネットを使っていて、世界じゅうと連携をしています。日本が福祉のお手本にしてきましたアメリカやスウェーデンでは、実は四十年近く前から国是を変えました。それはどういうふうに国是を変えたかというと、弱者に何か手当てするのを社会福祉と呼ぶのではなくて、弱者を弱者でなくしていくことを社会福祉と呼ぼうというふうに国是を変えました。つまり、タックスイーターと言われる人たちをどれだけタックスペイヤーにできるのかというふうに、それを国是に、スウェーデンも実はアメリカも方向転換しています。

 アメリカでは、国防総省の中に、大変重い障害を持つ人が最高の科学技術を使うことによって官僚になったり、教師になったり、一般企業のトップリーダーになっていったりする組織があるんですが、私たちはアメリカとはそのキャップという組織と連携をしています。そして、スウェーデンでは、やはりタックスペイヤーにしようということで、サムハルという、国立といいますか国策によって生まれた福祉事業団があります。そこでは、三万数千人の社員のうちの二万八千人、九千人が障害者である、なおかつその人たちは、障害の重い人から順番に、どのようにしたらこの人の力が発揮できるかという、さまざまな工夫によってお仕事につくというような組織がありますが、そのサムハルという福祉事業団とも連携しております。

 私は、障害者の人に、確かにかわいそうな人もいれば大変だなという人もいますけれども、でも、かわいそう、大変で、その人が実は持っている可能性にふたをされてしまう方がもっとかわいそうなんだというふうに思います。ですので、ぜひ、可能性の部分に着目をする政策に、日本ももうそろそろ転換をしていただきたいと思います。そして、大変障害の重い皆さんが、社会にみずからの力を少しでも発揮できる、あるいはお仕事をしタックスペイヤーになれる日本になったときに初めて、私は、私が先に死んでも自分の娘が社会に守っていただける日本になるのではないかと思います。

 ですから、私がやってきたこの活動というのは、別に正義でも善でもなく、ある意味、重度の障害児の母ちゃんのわがままということではあるんですが、このわがままに対して、少子高齢社会を考えるたくさんの皆さんが、御一緒に輪になっていただいて活動を進めているわけです。

 きょうは、このような形で御発言の機会をいただいて、大変うれしく思っております。

 では、現実にどういうふうなお仕事をどんな方ができるかということなんですが、今、コンピューターを使うことで、例えば、そのコンピューターの操作が、指が全く動かなくても、まばたきだけであったり、口の中のべろ、舌がわずかに動くのであったり、あるいは首がわずかに左右に動くのであったり、アメリカのペンタゴンでは既に脳波というところまで研究が進んでおりますけれども、ありとあらゆる、その人の意思が少しでも表現できる場所があれば、それをすべてコンピューターを操作するスイッチにすることが科学的にはもう可能になっております。

 これぐらい進んでおりますので、私たちプロップ・ステーションのスタッフも、進行性の筋ジストロフィーが激しく進んで、もう家族の介護がなければ寝返りも打てないという状態の方ですが、その方が、自宅のパソコンからプロップ・ステーションのサーバーと呼ばれるネットワーク管理の機械の中へ電脳的に入ってきて、その向こうにいらっしゃる何百人の方々に御自分でメールアドレスを発行し、質問に答え、あるいはさまざまな勉強を指導し、私たちは企業や自治体からいただいたお仕事をそういう方にアウトソースするわけですが、それをきちっと切り分けてチェックをするというようなお仕事もしております。

 また、ある一人の青年は、四国のいわゆる療護施設におりますが、彼は御両親の介護のもとにプロップ・ステーションで勉強をしてプロになったんですが、お父さんが亡くなられ、お母さんが痴呆状態になられるということで、介護も御無理になって施設に入られたわけです。ですけれども、彼は、介護を受けながら働いていた経験がありますので、ぜひその施設の中でも働き続けたいということで、強い意志を持って、その施設設置者といろいろと御相談になって、現在は、その施設の自分の居室から電脳的にプロップ・ステーションとつながって、テレビ会議等を使って打ち合わせもし、あるいはコンピューターのネットワークでさまざまな方に、先ほどの彼と同じように、指導もすればお仕事もしています。

 ただ、重要なことは、その人たちが皆どこか支えてもらうことが必要だということなんですね。今までは、支えられる、あるいは介護が必要な人というのは支え手にはなれないというのがやはり福祉の根本の概念としてあったのですけれども、私たちのこの活動から導き出されたことは、介護を受けながらも、その人の力を世の中に発揮していただくことはできるという結論でした。

 と考えると、例えば、私が今ここでこういうふうに達者な口と強い心臓とでお話をさせていただいているんですが、もし、この達者な口が使えなくなり強い心臓の苔がとれてしまったとしても、さまざまな電脳技術で、例えばまばたきのうるさいおばさんになれたりするという時代が来た。それは恐らく、今の障害者だけではなく、すべての日本の人にとって、高齢を迎える、あるいはどこで事故が起きるかわからぬよというこの時代に生きるすべての人にとって、非常に大きな朗報なのではないか。つまり、障害を持つ人たちが働くということは、彼らを救済することではなくて、彼ら自身が社会を救う側に回れるということだというふうに私は確信しております。

 アメリカでは、最近、障害者をハンディキャプトとかディセーブルパーソンというふうに呼ぶのをやめようという運動が起きました。それは、ハンディキャプトとかディセーブルという言葉が、その障害のマイナスの部分だけに着目して、可能性の部分を見ていないということに基づいています。そして、ザ・チャレンジドという新しい言葉を生み出しました。これは、挑戦という使命や課題やあるいはチャンスを与えられた人たちという意味なんですが、実は人間には、はかり知れない、自分の課題に向き合う力が備わっていて、その課題が大きい人にはその力がたくさん与えられているんやでという、非常に人間の可能性のところにエールを送る言葉として、アメリカの人たちが生み出した言葉です。

 ですので、プロップ・ステーションでは、障害者という言葉を、決して言葉狩り的に拒否するわけではないんですが、この新しいチャレンジドという、可能性の部分に着目した言葉を使わせていただいて、「チャレンジドを納税者にできる日本」というキャッチフレーズを掲げています。つまり、彼らが納税者になるのは、決して、障害者、おまえらだけ頑張れよというんではなくて、国じゅうがそういう方向性に、先ほど言いました、四十年前にアメリカやスウェーデンが国是を、国の方針を変えたように、日本が変えることによって初めて実現することですので、このような、「チャレンジドを納税者にできる日本」というような、ある意味過激なキャッチフレーズをつけさせていただいたわけです。

 こういうキャッチフレーズを掲げて、最初はたくさんおしかりがありました。なぜなら、福祉団体というものは、税金からどれだけ仲間に対して取ってこれるのかということ、それがその福祉組織のリーダーの役割であったり、価値であったわけですから、税金を払おうという運動は大変非難を受けました。

 ですけれども、これも、考えてみると、世の中の多くの人が、例えば憲法の規定によって働く権利と義務と納税の義務をうたわれているときに、あんたら働かぬでいいよとか、税金払わぬでいいんやでと言われているとしたら、私はそちらの方がむしろ差別ではないんだろうかという気持ちを持ちました。なぜなら、私の娘が今、社会の中で生存できているのも、たくさんの人が税を納めてくださっているからなんですね。そして、それを維持しようと思うと、一人でもたくさんの人が税にきちっと関心を持たれて、そして、自分もタックスペイヤーになり得るところと社会に支えてもらうところと、両方とを考えざるを得ないのだろうというふうに思います。

 ちょっと一個だけ質問したいんですが、きょうここにいらっしゃっている皆さんで、御飯が食べたいときに、自分でもみをまいて、稲を育てて、稲刈りをして、脱穀して、精米した御飯を食べている方、どれぐらいいらっしゃる。――おられませんよね。もう一個だけ聞きますが、魚を食べたいときに、刺身でも煮つけでもいいんですが、釣りざおを持って海とか山へ行く方。――おってないですよね。

 事ほどさように、文化が進み、科学が進み、流通が進み、社会の制度が進めば進むほど、人間は、自分一人の力で食べることすら、生きることすらしてないんですね。ですけれども、目の前に障害を持つ人がいた瞬間に、なぜか、自分たちは全能感があって、この人はここができない、あの人はあれができないといって数え出す、これが日本の障害者福祉の現状です。ぜひここのところを、きょうは皆さんに、自分だっていっぱい人の助けをもろうてるやんかという視点で、あるいはもっと助けが必要な自分になるかもわからぬという視点で議論していただきたく思います。

 私、自分ではちょっと存じなかったんですが、きょうは与党の方の御推薦でここに立たせていただいているそうです。来て初めて知りました。ただ、私は、現実に今、すべての人が力を発揮して支え合うユニバーサル社会の法案をつくろうということで、与党議員さんたちと一緒に勉強会をやっているんですけれども、実は、プロップ・ステーションには、共産党から自民党まですべての政党の皆さんに関心を持っていただいて、プロップ・ステーションの活動の現場を見に来ていただきました。ですので、赤旗も公明新聞も、それから自由新報も社会新報も、すべての政党の機関紙でプロップの活動を一度取り上げていただいたことがあります。そういう意味では、すべての人が社会を支える一員になれるようにという課題は、決して特定政党、あるいは与党、野党を問わず議論をしていただいていい時代が来たのではないかというふうに思っております。

 ということで、私に与えられた時間の二十分が来ましたので、これで発言を終わりたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。(拍手)

笹川委員長 ありがとうございました。

 次に、草野公述人にお願いいたします。

草野公述人 御紹介いただきました労働組合連合の事務局長をやっております草野と申します。

 本日は、このような機会を与えていただきましたことに心から感謝を申し上げたいというふうに思います。

 事務局の方から、今次予算に対して賛成か反対かをまず冒頭、明確に述べろというお話がございました。

 きょう、幾つか資料を持ってまいりましたが、このような、第百五十九通常国会に対する「連合の重点政策要求」というのがお手元に行っているかと思いますが、これを後ほどごらんいただければおわかりいただけますように、私どもは、今次予算に対しては組み替えの要求を持っております。そのことで、私どものスタンスをまず明確にさせていただきたい、こういうふうに思っております。

 まず、予算について申し上げます前に、私たち働く者、勤労者の生活実態の現状について若干御報告を申し上げたい、こういうふうに思っております。それに続きまして、政府予算案の中で対策を講ずべき内容について御提案をさせていただきたい、このように思っております。

 既にこれは先生方御案内のとおり、今月の十八日に内閣府が発表いたしました四半期別の国内総生産の速報によりますと、昨年の十―十二月期は、前期比で一・七%、年率換算では七%という大変高い成長を示したということでございます。しかしながら、私どもが全国の組合員の仲間あるいは中小企業の経営者の皆様方からお話をお伺いいたしますと、なかなか現場の実感としてはそれが伴っていないというのが、率直なところではないかというふうに思っております。

 日本経済新聞の統計によりますと、企業収益も増加はいたしておりますが、その企業収益の六〇%は二〇%の企業が稼ぎ出している。そういう意味では、業種間あるいは企業規模間、そして地域間でかなり大きなばらつきがあるのではないか、このように認識をいたしております。今次の企業収益の主な内容は、リストラという名の大量の人員削減と、その残った人たちによりますコストダウンを中心とした懸命な努力、そういうものによって今三月期の企業収益は成り立っているのではないか、このように思っているわけでございます。

 また一方、国民の暮らし向きにつきましては、二〇〇三年九月に行われました日銀の生活意識に関するアンケート調査を見ますと、五六・六%の方が、実際に一年前と比べて収入が減った、このように答えておりますし、約半分、四六・六%の方々が、一年前と比べて支出を減らさざるを得ない、このように答えておるわけであります。その中でも、支出を減らしている背景につきましては、一番大きいのが年金や社会保険の給付への不安、二番目が将来の仕事や収入への不安、こういう結果が出ていると承知いたしております。

 また、私ども連合が昨年末からことしの一月にかけて行いました緊急雇用実態調査におきましても、約二割の企業が過去一年間に残念ながら賃金カットを行っている、ほぼ全業種にわたりまして、正規従業員を削減してパートあるいは派遣労働者に置きかえている、こういう傾向が顕著に出ているわけでございます。また、八割もの中小零細企業が、過去三年間において若年労働者の採用を行っていない、このように答えているわけでございます。

 そういう意味で申し上げますと、現在の景気回復あるいは企業業績の回復というのは、雇用、リストラ、そして一〇%にも上ると言われております若年者の失業率、そういう勤労者の生活の不安と心配、犠牲の上に成り立っているものではないか、このように考えているところでございまして、そういう背景から、多くの国民の方々が、雇用や社会保障への将来不安を踏まえて支出を減らしているということを、改めて強く認識をしているところでございます。

 そして、日銀の家計の金融資産に関する世論調査によりますと、貯蓄がゼロという世帯が年々ふえ続けておりまして、昨年は二割を超えたということでございます。

 今後も、こういうリストラ効果に依存した企業経営が続いていけば、雇用なき景気回復ということになるのではないか、このように考えておりますし、結果として経済全般を萎縮させてしまいかねないという危険を持っているのではないか、このように思っております。

 続きまして、経済財政運営と二〇〇四年度の政府予算案につきまして、一定の見解を述べさせていただきたい、このように思っております。

 今大事なことは、先ほど申し上げましたやっと動き始めた民需を、労働者、国民の生活と雇用の改善、向上に直結させていく、そして、地域社会を活性化させる生活主導型の好循環へどのようにつなげていくのかということを基本に置いた経済財政運営が今求められているのではないか、このように考えているところでございます。

 小泉内閣の経済財政運営につきましては、先生方御案内のとおり、二〇〇一年六月のいわゆる骨太の方針、経済財政運営の基本方針から一貫して規制緩和など市場原理を優先するサプライサイドの構造改革と、初めに財政収支の改善を目的といたしましたプライマリーバランスの均衡論に基づいて出されております。昨年六月の骨太方針二〇〇三や、ことし一月に策定されました「改革と展望―二〇〇三年度改定」におきましても、この方針が一貫して貫かれているのではないか、このように思っているところでございまして、この方針には、現下の総需要の抑制を招く原因となっております国民の生活と雇用に対する将来への不安を抜本的に解消する対策がとられていない、このままでは、経済を本格的な回復軌道に乗せるのは難しいのではないか、このように考えておるところでございます。

 私どもといたしましては、生活と雇用の将来不安の解消につながる対策を最重点に行っていくべきだ、そして、地域経済の活性化と産業の空洞化の克服をてこに、内需拡大と失業率の引き下げを通して自律的な成長軌道の基盤を固めていく、その中で、財政健全化を目指す立場から、二〇〇四年度政府予算案につきましては、生活と雇用の改善に必要な抜本的な社会保障制度の改革や、雇用創出などの雇用対策、並びに公正、公平な税制改革を反映したものに組み替えていただくように、ぜひ求めてまいりたいと思っております。

 二〇〇四年度の政府予算案につきまして、幾つかの問題点を指摘させていただきたいと思います。

 まず第一は、初めから総額を実質的に二〇〇三年度程度に抑制させるということを目的とされておりまして、一般歳出では、約八千億円の社会保障費の増加を、公共事業関係費や文教関係費、さらには防衛関係費やODAなどの経費削減ということで、財政的につじつまを合わせるということで編成されていると理解をいたしております。そういう意味では、国民が求めております雇用創出・安定策、そして安心と信頼の社会保障制度改革、公平と公正な税制改革、住宅投資促進などの消費拡大策が盛り込まれていない、このように認識をしているところであります。

 それから第二の点では、非常に強調されましたいわゆる三位一体の改革でございますが、実際には、地方への税源移譲を、暫定措置としての所得譲与税と義務教育費国庫負担金のうちの退職手当等を一般財源化することで、合わせて約六千五百億円を実施するにとどまっていると聞き及んでおります。およそ一兆円の補助金削減と九千億円の地方交付税の削減を先行させているわけでありまして、このように初めに削減ありきの改革では、地域の暮らしが一層厳しいものにならざるを得ないと考えております。本当の意味の地方分権の実現が遠のくのではないかと危惧をいたしております。

 三位一体の改革につきましては、補助金や地方交付税の削減からではなくて、国税と地方税との税源の配分を見直すことから始めていく必要があるのではないか、このように考えております。

 第三には、公共事業についてでございますが、実際には事業別のシェアはほとんど変わっていない、このように考えております。看板のかけかえ事業が多い重点分野の実態検証を十分に行わないで、新たな重点四分野への配分が決められているのではないかと思っております。新たに導入されました府省間の連携強化や重複排除などを目的とした政策群の設定やモデル事業の指定につきましては、その趣旨は理解できますが、厳格な政策評価機関が存在しない現状におきましては、実効性や責任体制という面で疑問が残るのではないか、このように考えております。

 私どもは、公共事業の見直しに当たりましては、以前から、一律的な事業量の削減ではなくて、介護や保育、教育、環境保全、バリアフリー化など、国民のニーズに基づく事業を中心に重点化をしていくということが大事でございますし、そして、そのことによる雇用創出量をはっきりと示しながら進めることが必要ではないか、このように考えております。そのためにも、立法府におきまして、日本版のGAOといいますか、行財政監視評価委員会を設置して、公共事業の将来の維持運営費も含めた厳格な評価、審査、そして情報公開を行って、その結果を政策の立案、執行に反映させることが必要だ、このように考えているところであります。

 最後に、第四点は歳入についてでございます。

 これまで有効な景気対策がとられてこなかったために、かえって財政赤字が拡大し、結果として国債発行が過去最高の三十六兆を超える額に達していると聞き及んでおります。税収につきましては、政府は、国民に負担を押しつける前に、クロヨン問題など、不公平税制の是正による抜本的な税制改革を早急に実施していただくようにお願いをしたいと思っております。

 続きまして、若年者の雇用対策等について若干触れさせていただきます。

 予算案では、若年者対策の目玉といたしまして、日本版デュアルシステムを導入するということを聞き及んでおりますし、七十五億円程度がそこに計上されていると聞いておりますが、その対象は実は四万人でございます。学卒の未就職者が、二〇〇一年度で見ますと、高等学校卒業者で十三万人、大学卒業者で十四万人いると聞いておりますし、二〇〇三年版の国民生活白書では、二〇〇一年のフリーターが四百十七万人もいる、こういうのが実態でございまして、そういう中で、対象が四万人というのは余りにも少な過ぎるのではないか、このように考えております。せめて、毎年新たに出てくる新卒未就職者二十七万人を吸収できるような、生活支援手当の支給を含めた予算措置を講じるべきではないか、このように考えているところでございます。今のままでは、趣旨のとおりに機能するかどうか、危惧を持たざるを得ないと思います。

 一方、日本よりも進んでいると言われておりますドイツのデュアルシステムでは、受け入れ場がないという問題も一方で起こっているようでございます。受け皿がなければせっかくの職業訓練も無に帰すおそれがありますので、デュアルシステムの実効性を上げるために、産業政策と連動するような施策が必要だ、このように考えております。

 今月十九日の日本経済新聞によりますと、東京版デュアルシステムに首都圏近郊の製造業や機械関連の七十四社が参加を表明したという記事が出ておりました。こういった動きと連携いたしまして、国としても、産業政策を発動させるような環境づくりを積極的に進めていただきたいと思っております。

 政府の若年者雇用対策につきましては、例えばジョブカフェであるとかヤングハローワーク、ヤングジョブスポット、ジョブサポーター、ヤングキャリアコンサルタント、メニューはたくさん出ておりますが、予算措置も細切れで少のうございます。めり張りをつけた予算配分を含めまして、それぞれの施策が実効性が上がるようにぜひ工夫をしていただきたい、このように思っております。

 各国の若年雇用対策につきましては、先生方御案内のとおりだと思いますが、OECDのエンプロイメントアウトルックによりますと、そのGDPに対する若年雇用対策の費用の比率を発表いたしております。一九九九年の数値でございますけれども、フランスの若年雇用対策費のGDP比は〇・四%、イギリスが〇・一八%、ドイツはちょっと低くて〇・〇八%でございますが、日本は〇・〇〇三%ということになっております。単純に比較をいたしますと、フランスとは百倍以上、ドイツと比べましても三十倍近い差があるわけでございます。この分野での日本のおくれは歴然としているのではないかというふうに思っております。そういった意味では、ぜひとも若年者の雇用対策をさらに充実していただくようにお願いをしたいと思っております。

 続きまして、中小企業に対する融資でございます。冒頭にも申し上げましたように、景気回復のマクロ数値は上がっておりますが、中小零細企業は大変苦しんでいるというのが今の状況でございます。そういう意味では、無担保融資でも国が保証するような中小企業向け融資を後押しすることが必要ではないか、このように思っているところでございます。

 いずれにいたしましても、私どもは、先ほど申し上げましたように、景気回復の芽を本格的な成長軌道へとつなげていくポイントに地域社会の活性化を位置づけるべきだと考えております。それぞれの地域における雇用や生活と密接にかかわっております中小企業をもとに、今まで、産官学をどう機能させていくかというふうに議論がされていると思いますが、私どもは、これに金融機関と労働組合も含めました産官学金労、こういうネットワークを構築して地域経済の活性化を推進していくことが今必要なのではないか、このように思っているわけでございます。私どもも、実態調査とかシンポジウムの開催などを進めておりますけれども、政府にも積極的に関与していただければ大変ありがたい、このように考えております。

 最後になりますが、年金の問題について少しお話をさせていただきたいと思います。

 もうこれも先生方、御案内のとおりでありますが、今国会最大の課題は年金改革ではないか、このように私どもは認識をいたしております。今、国民の年金に対する不信感というのはピークに達しているのではないかというふうに思っております。国民年金の保険料の未納者は四割を超えておりますし、私どものシンクタンクであります連合総研の調査によりましても、七割以上の方が、年金制度を信頼できない、このように答えているのが実態でございます。これは御案内のとおり、年金制度が、改革の見直しのたびに年金水準の切り下げと保険料の引き上げを繰り返してきたという、過去の事実に基づいた意見だろうというふうに思っております。

 そういった意味からいいますと、今回出されました政府の年金法案につきましては、国民の年金不信を払拭することは私はできないということではないかと思いますし、さらに強く言えば、年金不信を増幅させてしまうのではないか、このように考えております。

 まず第一に、国民年金の保険料未納者が四割にも達するいわゆる空洞化を解消するための抜本改革、これが今回は、従来のスキームを維持するということで、改革案が示されていないというふうに思っております。そして、基礎年金の国庫負担割合の三分の一から二分の一への引き上げ、あるいはパート労働者への厚生年金の適用拡大、さらには三号被保険者の制度の改革なども今回は盛り込まれておりません。そういった意味では、私どもは、本格的な年金制度の改革を進めていくべきだ、このように思っているところでございます。

 第二には、基礎年金の国庫負担割合の二分の一への引き上げにつきましては、必要財源の二・七兆円のうち、年金課税等の見直しで千六百億円が示されているのは承知いたしておりますが、それ以外は結論は先送りにされたというふうに理解をいたしております。前回の二〇〇〇年の改正では、二〇〇四年度までに二分の一に引き上げるということになっていたというふうに私どもは理解し、認識をいたしております。そういった意味では、この約束をしっかりと果たしていただきたい、このように思っております。

 さらに、財源対策といたしまして、所得税の定率減税の縮減、廃止を今後の検討項目とされているというふうに理解をしておりますが、これが実施されれば、現役世代にとりましては所得税と保険料アップの二重の負担増となります。したがいまして、これについては私どもは反対の立場をとらせていただきたいというふうに思います。

 さらに、今回の政府の年金課税等の見直し案では、所得税や住民税に加えまして、国民健康保険料や介護保険料の大幅な負担増をもたらすことになります。国民健康保険料等への影響を極力抑える措置及び老年者控除の段階的縮小などの措置が絶対に必要だ、このように考えております。

 第三は、負担と給付につきまして、保険料水準固定方式とマクロ経済スライドを導入するといたしておりますが、その中身は、厚生年金の保険料率を毎年〇・三五四%ずつ引き上げて一八・三%にする、逆に給付水準は、所得代替率で現在の五九・三%を五〇・二%まで、単純計算をいたしますと、一五%も水準を下げるということになるわけでありまして、このマクロ経済スライドによる給付削減は、基礎年金と報酬比例年金、さらには現在の年金受給者にも適用されますので、今でも低い国民年金や障害年金、中小企業労働者、単身女性等の年金は一層低下してしまいます。とても老後生活における保障の柱にすることはできなくなってまいります。そこについても、ぜひともお考えをいただきたいというふうに思っているところであります。

 第四には、三号被保険者制度の見直しやパート労働者への厚生年金の適用拡大など、女性と年金にかかわる問題も先送りされております。三号被保険者制度の改革も長年の課題でありますが、これも具体的な方向性は何も示されていないと考えております。そういう意味からいいましても、私どもは、基礎年金につきましては税方式化をとるべきだ、このように考えております。そのことによりまして、ここにおきます三号被保険者問題については解消するのではないか、このように思います。

 さらに、パート労働者の厚生年金への適用拡大につきましては、政府の各種審議会等でも提言されておりますが、業界団体の強い反対を受けて五年先まで先送りされてしまいました。これでは、若者やフリーターなども含め、厚生年金未加入者がますます増大し、厚生年金制度の空洞化を進行させることになるのではないか、このように考えておるところであります。

 そういった意味で、トータルで申し上げますと、勤労者、国民の生活不安、将来不安を払拭する予算への組み替え、若年雇用対策の抜本強化、そして年金制度の抜本改革をしていただきますようにお願いを申し上げまして、意見にさせていただきたいと思います。

 どうもありがとうございました。(拍手)

笹川委員長 ありがとうございました。

 次に、奥野公述人にお願いいたします。

奥野公述人 東京大学大学院経済学研究科の奥野正寛でございます。本日は、このような意見陳述の機会を与えていただきまして、大変ありがとうございます。

 本日は、事務局から、政府予算案に対して賛成か反対かの立場をはっきりした上で陳述をするようにというお話がございました。私は、一つには、政府税制調査会の委員をしているということもございまして、政府予算案に基本的には賛成という立場から、主に日本の財政、特に税制の問題を中心に、今後の日本経済の経済運営について意見を述べさせていただきたいというふうに思います。

 皆様御承知のように、一九九〇年、九一年ごろにバブルが崩壊いたしましてから、日本経済というのは、景気循環の問題で、不況、デフレ等に低迷してきた、他方では、御承知のように、経済構造の改革という問題にも直面してきたという、中期的な循環の問題と長期的な構造の問題という二重の問題に直面してきたわけです。

 ついでですが、私の陳述のおおよそはお配りした資料に載っておりますので、資料を御参照いただきながらお聞きいただければと思います。

 先ほど草野公述人の方からもお話がありましたけれども、我が国の経済は、昨年後半ぐらいから、主に設備投資の増加、企業収益の改善等が続いておりまして、幸いにようやく生産が増加に転じてきております。しかしながら、実は雇用情勢は依然厳しいものがありまして、持ち直しの動きが見られておりますけれども、まだまだ先は長いという状況でございます。デフレも、一時は非常に危険視されておりましたけれども、デフレーターの方はまだ十分には改善しておりませんが、消費者物価等を中心に改善してきて、一時の危機的な状況は脱しただろう、中期的にデフレを脱却できる展望は開けてきたというのが現在の景気認識かと認識しております。

 他方では、景気回復を主導しているのは製造業の、それも大企業中心でございまして、これも先ほど御指摘がありましたように、地域的には、東京等の大都市を中心とした回復でございます。したがって、非製造業を初めとして、地方、中小企業などへの広がりにはまだまだ欠けているものがあるというふうに思います。

 それから、景気回復というものも、実は米国、それから特に中国等のアジアの外需に依存しているものがありまして、そういう意味では、まだまだ不確定要因が非常に多いと思います。デフレの改善も、中国の成長に伴う素材価格の上昇というようなものにかなり依存している面もありまして、日本独自の、つまり、国内要因での景気回復ということまではなかなかまだいっていないというふうに認識しております。他方、イラク、北朝鮮などの政治、外交的な問題もたくさん存在していると思います。

 そういう意味で申しますと、中期的に景気回復の見込みがようやく出てきたということではありますけれども、他方では、実は、デフレから脱却すると、これから述べますように、金融政策が転換されて、景気や財政に悪影響を与える可能性もあるというふうなことが懸念されます。

 まとめますと、循環的な意味では景気状況は回復しつつありますけれども、その先行きにはまだまだ不確実性が大きい。さらに、今後の景気回復を妨げないようきめ細やかな対応を図る必要があるけれども、以下で述べるような、財政赤字と国債の累積が構造問題をさらに悪化させる可能性も実はある。そういう意味で、財政構造の改革に取り組んでいくことと、景気循環の回復の芽をうまく組み合わせるということが、緊急の、中期的な課題かというふうに思います。

 財政の問題に戻りますけれども、財政の現状というのは、資料一をごらんいただくとよろしいかと思いますが、景気対策等をこの失われた十年の間に行われてきた関係で、数度の大規模減税が継続しておりまして、税収は極めて低水準にあるということは御承知のとおりだろうと思います。

 資料一の真ん中のグラフにありますように、歳出総額というのがどんどん右肩上がりに上がっている、他方、一般会計税収というのが右下がりに下がっている。この差が財政赤字でございますけれども、中央政府の一般会計赤字というものがどんどん拡大していて、今や一般会計歳出に占める税収の割合というのは、五〇%をわずかに〇・八%上回るにしかすぎない、極めてひどい水準に来ております。

 他方、国と、これに加えて地方というものがあるわけですが、合わせて約七百十九兆円の長期債務残高が存在するということが、下の四角の黒枠で囲ってある部分に書いてあると思います。政府長期債務残高のGDP比率というのは、十六年度末で一四三・六%ぐらいというふうに考えられておりまして、今後もこのまま放置すれば、縮小する可能性は薄い、むしろ増大する見込みがあるということでございます。

 皆様御承知のプライマリーバランスでございますけれども、これが下から四行目ぐらいにありますが、現在約二十三兆円、毎年の赤字がございます。経済財政諮問会議の計画しております二〇一〇年代初頭に赤字を解消するということを行うためには、毎年約二兆五千億円程度の改善が必要です。

 もう一つは、では、それをどういうふうに改善したらいいのかということですが、資料二をごらんいただきたいんですが、我が国の租税負担率というのは、ここに書いてありますように、約二一・一%でございます。これは、例えばアメリカの二六・四%、イギリスの四〇・三%というような数値と比べていただければ一目瞭然ですが、ほかの先進国に比べて極めて低水準でございます。

 その内訳を見ていただければおわかりになりますが、一つが個人所得課税、所得税とか住民税ですが、これが日本の場合には国民所得比六・一%でございまして、アメリカとか欧米の約半分しか払っていないという状況でございます。それからもう一つ、消費課税ですが、これは約七・〇%でございまして、アメリカよりは少し負担していただいておりますけれども、ヨーロッパ諸国の約半分以下でございます。それに社会保障負担を加えたものが、合わせて三五・五%の国民負担率でございます。

 他方、歳出の方、つまり政府活動の大きさを示す潜在的国民負担率と言われているものは財政赤字を含んだ額でございまして、これが実は四五・一%に上っております。その差でございます九・六%というのが、赤字国債等の政府債務の増大で補てんされているということになっております。こういう危機的な状況にあるわけで、多分このまま放置してはおけないだろうということは一方でお考えになるだろうと思いますが、他方、もう一つ、財政の裏側にございますのが金融政策でございます。

 現在、御承知のように、日銀の量的緩和政策によりまして、日銀が大規模な国債購入を行っております。いわば日銀が国債を買い支えているという状況にございます。近い将来、我が国経済がデフレ状態から脱却して名目成長率がプラスに転ずる、デフレから脱却すればそういうことが起こるわけですが、そうなりますと、日銀の量的緩和政策も転換をする可能性がございます。つまり、日銀の国債購入がなくなるわけですね。

 そうすると、市場においては、当然、国債の大きな買い手がいなくなるわけで、現状の、国債残高が大量にあるという状況を踏まえますと、買い手としてはかなり不安を持たざるを得ない状況におる。その結果、国債価格が下落する。ということは、言いかえると、利子率が増大することになる可能性があるわけですが、そういう可能性が強いということになります。ということは、金融市場にも大きな影響が及びますし、利率が上がるということは国債の負担が財政に大きくかかるということでもございまして、マクロ経済政策上でも厳しいかじ取りを迫られるおそれが多いということでございます。

 ついでですが、デフレ脱却というのが起こるのは、うまくいけば多分来年から再来年ぐらいというタイミングだろうと思いますが、循環面でそういうことが起こっている一方、構造面では次のようなことが起こるということでございます。

 一つが、年金制度改革でございます。

 御承知のように、基礎年金の国庫負担割合の引き上げ等という課題もございまして、そのための安定財源を確保する必要がありますし、また高齢化の進展に伴い、医療、介護などの社会保障支出も年々増大する見込みであることは、資料三にもございますし、皆様よく御承知のことだろうと思います。そのために、二〇〇七年度をめどに財源確保の必要ということが出てくるわけでございます。

 他方、これも皆様必要だとお考えになっていらっしゃると思いますし、私もそう思いますが、国、地方ともに厳しい財政状況にありますから、地方への税源移譲を含めた三位一体の改革も行う必要が当然あるだろう。この改革を推進していくためには、自己責任、自己決定の原則に基づいた住民の受益と負担の関係を律する仕組みを構築するとか、国、地方の行政の効率化と財政の健全化を図るということが必要でございますが、いずれにしても、こういうことも二〇〇六年をめどにということでございます。そういうデフレ脱却と構造問題というのが、ほぼ同時に、今から三年後ぐらいに起こってくる。

 このような中で、財政のサステーナビリティーを回復していくことが最も重要なことではないかというふうに思います。円滑な国債の消化を図るための国債管理政策に加えて、より根本的な歳出の徹底的な合理化とか安定的な歳入構造の構築、そういうことが必要になるだろうと思います。そのためにも、実は特殊法人、政府系機関あるいはその他の関連機関の見直しということを徹底的に行う必要もあるのではないかというふうに個人的には思っております。

 そういうような状況を背景にして、では、税制はどうなっているのかということですが、時間が少し押しておりますので、少し省略させていただきながらお話をいたします。

 平成十五年度、十六年度の改正というのは、基本的に次のような意味で成果があった、あるいはそれなりに評価できるものではなかったかというふうに思っております。

 一つが、循環的な景気回復を税制で後押ししてきたということでございます。具体的な措置としましては、昨年度行いました、研究開発、設備投資の減税であるとか相続税、贈与税の一体化とか、貯蓄から投資へという金融商品課税の改正とかいうようなことも行いましたし、その他ここに書いてあるようなことをやってまいりました。それがいわばこの循環的な景気回復の後押しをしてきたというふうに思います。

 他方では、今後の構造改革のための準備をいろいろしてきております。一つは、さまざまな理由でタックスベースが侵食されているようなものを、できるだけタックスベースを広げる方向で、そういう意味では、国民全体の、皆様にバランスのよい負担をとっていただくというような形での改正を、例えば配偶者特別控除の廃止であるとか、高齢者にもう少し負担をしていただくような形の控除の廃止、縮減というようなことをしてまいりました。それから、長期的な消費税とか地方税の改革のためになるような消費税の特例の縮減とか、三位一体の改革の一環としての所得譲与税の創設というようなこともしてきたわけです。

 それを踏まえて、では、これから税制というのはどうなるのかということでございます。まさに先ほど申しましたように、これから二、三年の間に景気がそこそこ回復してくる、そこで長期的には構造改革としての税制改革を行うというタイミングになるのではないかと思います。

 具体的には、先ほどから申し上げているような、デフレ脱却のときに国債の信認低下を導かないように、きちんとした財政のサステーナビリティーが実現するような税制改革を今からもう少し準備するということが第一点でございます。

 具体的には、一つは、これから一、二年の間は個人所得課税を中心にすることが必要ではないかと思います。なぜかといいますと、実はさまざまな税の中で、とりわけ消費税と個人所得税というものの税収をふやしていくことが、今後の財政再建、財政のサステーナビリティーの回復のために必要だと思いますけれども、それを実現するやり方としては二つのやり方があります。一つが税制改革、簡単に言ってしまえば増税ですね。もう一つが自然増収というふうに言われているものです。

 これからの一、二年というのは、デフレから脱却する、それに伴って名目所得がふえてくるということが起きたときに、それに比例して税収がふえるというだけでは、歳出もふえますので財政のサステーナビリティーの回復には余り力がない。むしろ、名目所得がふえたときに税収がふえるような構造を持った税をあらかじめ手当てをしておくということが、自然増収をふやすという意味でも非常にいいわけです。そういう税としては、一つが法人税、もう一つが個人所得税ということがございます。しかし、法人税については、先ほどの資料二を見ていただければわかりますけれども、もう既に諸外国と比べてもかなり高負担をしていただいているところでございます。

 そういうことから考えますと、個人所得税というのは欧米に比べて約半分の負担しかしていない。これは実は、過去十年間、不況対策のために非常に大きな減税をしてきた結果としても、この所得税負担が落ちているということから考えますと、ここの税をもう少し戻していただいて、その上で、そうすることによって景気が回復して、とりわけ名目所得がふえたときに税収がそれ以上にふえる。したがって、いわば財政の先行きについて市場がもう少し安心を感じられるということをする、そういう状況に持っていくということが、まずここ一、二年としては重要なのではないかと思います。

 その具体的なやり方としては、さまざまな控除があるわけですけれども、そのうちのやや時代に合わなくなったもの、あるいは課税ベースが無用に侵食されているというようなものを少し修正することで抑えるということが一つと、もう一つが、これは次の資料四を見ていただければわかりますけれども、税率構造が、現在行われている恒久的減税、定率減税のもとでは非常に低くなっております。

 フランスは付加価値税が非常に負担の大きい国ですから、この国を除けば、日本は、とりわけ給与収入が五百万から千万のあたりの、人口が一番大きいところで税率が非常に低くなっている。この低くなっているものが、実は高所得のところでもある程度そうなわけですけれども、しかも、定率減税によってこの黒い線がやや下にもう一段下がっているということになっておりますから、まずこの定率減税を戻すことをすることによって、さっきから申し上げているような、一言で言えば、税収の所得弾力性ですけれども、それを回復することが必要だろうと思います。ですから、定率減税の廃止ということを考えていただくことがまずは大事だと。

 それから二番目に、消費税でございます。これは資料五にあります、資料五で見ていただければわかりますが、日本は世界の中でも極めて低い。アメリカは例外的に付加価値税がない国で、ただし州単位の売上税がございます、そういう国ですので違いますけれども、極めて低い状況にございます。

 そういう意味で、年金課税というようなことを考えたときには、消費税というものを考えざるを得ないだろうということは皆さんも御了解いただけると思うんです。しかし、所得弾性値はそれほど高い税ではございませんから、むしろ次の二、三年、デフレ脱却が済んだ後にこれを考えるということで、まずは、先ほど申し上げたように、弾性値を上げるための所得税を改善するという方向からやることが望ましいのではないかと思います。

 税制の抜本的改革につきましては、先般の与党税制改正大綱において、平成十七年度及び十八年度においては、「いわゆる恒久的減税の縮減、廃止とあわせ、三位一体改革の中で、国・地方を通じた個人所得課税の抜本的見直しを行う。」ということが一つうたわれて、平成十九年度には、「年金、医療、介護等の社会保障給付全般に要する費用の見通し等を踏まえつつ、あらゆる世代が広く公平に負担を分かち合う観点から、消費税を含む抜本的税制改革を実現する。」という道筋が示されたということでございます。

 これは、皆様、政治の世界にいらっしゃる方の目から見ると、今の総理大臣の公約というものは、政治的なニュアンスが強いというふうにお考えかもしれません。しかし、今私が述べましたように、税収の所得弾力性の問題とかデフレ脱却のタイミング、そういうようなことを考えますと、まずは個人所得税の見直しをする、その後で、これから三年後ぐらいをめどに消費税の抜本改革に移るというのが、実は経済的な意味でも合理性も極めて高い考え方ではないかと思います。

 このようなスケジュールに沿って、徹底した行財政改革を進めるとともに、広く公平に負担を分かち合って、社会共通のサービスを安定的に維持できる税体系の構築に向けて、国民的な議論を行っていただきたいというふうに思います。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

笹川委員長 ありがとうございました。

 次に、坂内公述人にお願いいたします。

坂内公述人 委員長、発言の場をいただきましてありがとうございます。全労連の坂内と申します。

 労働者の立場から意見を申し上げたいと思います。

 今月二十三日の産経新聞は、この三月期決算で過去最高利益を出す大企業が続出をする、前年に比べて、トヨタ自動車が三三・一%、三菱商事が六〇・八%、NTTが一四九・五%、王子製紙が一九五・八%増の最終利益を出すと、産経新聞のトップ記事で報道されておりました。

 その一方では、最高裁判所のまとめによりますと、借金を返済できずに全国の裁判所に自己破産を申し立てた件数が、去年一年間、二十四万二千件以上に上る、十年前の十倍以上になったと。深刻な生活不安に脅かされている多数の国民がいることも、また事実であります。

 したがいまして、こうした状況下で審議いただいているこの二〇〇四年度の政府予算案は、当面する国民生活はもちろんのことでありますが、それにとどまらず、今後の日本経済、社会の進路に重大な影響を及ぼすものであることは言うまでもありません。しかし、私の意見を結論的に申し上げれば、この予算案は、財界の希望には積極的にこたえているが、国民の雇用や暮らしについては極めて冷淡な内容であると言わざるを得ず、結論として、私は、この予算の抜本的な組み替えを求めるものであります。

 その第一は、雇用問題であります。

 政府は、昨年十二月の完全失業率がおよそ二年半ぶりに五%の大台を切った、これを改革の成果が出てきたと強調されています。しかし、我々現場の感覚からいうならば、決してそんな甘い状況ではありません。学校を卒業しても就職口がないとか、中高年の失業者は何度職安に足を運んでも仕事が見つからない、あるいはもう就職活動をあきらめてしまう人たちがふえております。とりわけ地方を中心にして、依然として雇用問題、深刻な事態が続いており、とても雇用の改善を実感できる状況ではありません。

 もちろん、私は、企業が利益を上げることを一概に否定するものではありません。しかし、大企業が過去最高の利益を上げている背景に、リストラによる大量の人減らし、あるいは賃金ダウンに苦しむ多くの仲間、労働者がいることを考えると、果たして今日の日本社会のこの姿が、国民が求める正常な社会正義の方向なのか。綾小路きみまろの漫談ではありませんが、会社の手となり足となり、そして最後は首となりという、大企業栄えて民滅ぶという弱肉強食、差別社会の方向に日本が向かっているような、そんな気がしてなりません。

 言うまでもなく、雇用の安定は、国民の暮らしと社会発展の基盤であり、政治の最も重要な使命であると考えます。ところが、残念ながら、政府がこれまでとってきた雇用対策は、見るべき成果をほとんど上げていないのではないでしょうか。それどころか、商法改正、産業再生法、会社分割などのリストラ支援策によって大量の失業者を生み出し、また労働基準法や労働者派遣法など労働法制の規制緩和によって、不安定雇用労働者を増大させる結果を招いてきたのではないでしょうか。

 さらに、佐世保重工業による三億七千七百万円に上る能力開発給付金の不正受給事件、架空の会社をでっち上げ、従業員を雇用したと偽って、中小企業創出基金をだまし取った鹿児島や大分などのやみ金融業者、岡山や新潟の暴力団組長らによる詐欺事件など、新たな社会問題さえ発生してきたのが現実であります。

 私ども全労連は、国が定めた目標や基準に照らしても人員が不足している分野を中心に、例えば介護、福祉関係で三十七万人、保育、学童保育などで十三万人、医療で十七万人、防災で十五万人、教育で十九万人、住宅建設や学校の改修で五十一万人、環境保全、整備で十五万人、労働相談や求人開拓で一万人など、百六十七万人の雇用創出を要請してまいりましたが、この実現を強く求めるものであります。同時に、厚生労働省みずからが行った実績評価でも、この間の雇用対策の中で最も効果のあった雇用対策として評価をされている緊急地域雇用創出特別交付金について、制度の継続とその予算額の抜本的な増額や運用の改善をお願いしたいと思います。

 草野公述人も触れられましたが、今年度の雇用対策の目玉と言われる若者の自立・挑戦プランなど若年者の雇用対策では、高校生の保護者等に対する意識啓発、進路指導担当者の知識、能力の向上、若年者に対する職場実習の機会確保などが打ち出されていますが、率直に言いまして、これが青年の雇用に直接的な効果があるかどうか疑問であります。

 青年のためのニューディール政策を実施して大きな成果を上げているイギリスの青年雇用対策、あるいは十六歳から二十三歳までの青年を雇い入れた使用者には一人当たり月額二百二十五ユーロの補助を行い、雇用開始後二年目まで社会保険料の雇用主負担を免除するなど、青年雇用契約法の制定によって著しい成果を上げたフランスの青年対策なども参考にしながら、青年に対する実効ある雇用対策を確立することが必要だと思います。

 本予算の組み替えを求める第二の理由は、年金問題であります。

 まず、私は、ことし十月から実施が予定されている年金保険料の引き上げ、給付水準の引き下げを中止すること、そして、マイナス〇・三%の物価スライドの凍結を強く求めたいと思います。

 内閣府が行った、昨年、二〇〇三年六月の国民生活に関する世論調査によれば、生活不安を感じる人が過去最高の六七・二%に上り、その不安の内容としては、老後の生活設計を挙げる人が五〇%、トップになりました。これは二十年前には二割台でありました。その老後不安が、今日では半数の国民が感じるようになっております。この背景に何があるのか。

 この二十年間、年金制度は、一九八五年、八九年に、保険料引き上げと給付の削減が行われました。九四年には、保険料引き上げと基礎年金の支給開始年齢が六十五歳に繰り延べになりました。二〇〇〇年には、報酬比例部分も六十五歳に繰り延べられ、同時に、賃金スライドの凍結が行われました。相次ぐ制度改悪によって、三十代、四十代のサラリーマン夫婦の生涯給付が一千万円以上も減額される状況がつくられてまいりました。国民の半数が老後不安を感じるという事態は、こうした中でつくられてきたのではないでしょうか。

 当面、政府がやるべきことは、保険料の引き上げ、給付削減などの国民負担増ではなく、基礎年金に対する国庫負担を直ちに二分の一に引き上げること、これを完全に実施することであります。このことは、深刻な社会問題となっている国民年金の空洞化を解消するためにも、待ったなしの不可欠の課題だと考えています。しかも、この問題は、一九九四年の国会で全会一致の決議が行われ、二〇〇〇年には、法律によって二〇〇四年までに実施することが盛り込まれた、いわば国民に対する政治の責任であります。

 確かに、国庫負担二分の一に必要な二兆七千億円の財源は小さなものではありません。しかし、税金の使い方を変え、全体で七兆七千億円に上る道路特定財源などの公共事業特定財源を、適切な形で一般財源として活用するなどの措置をとれば、政府・与党が検討されている定率減税の廃止をしなくとも二分の一に引き上げることが可能だと私どもは考えています。

 また、厚生年金、国民年金、共済年金を合わせると二百三十八兆円に上る年金積立金の活用にも問題があると思います。この間、一部を株式運用して六兆円の損失を出した。信託銀行などへの運用手数料だけでも百七十六億円。さらに、さっぱり利用されず、二束三文の形で売却をされているグリーンピアに代表されるように、年金関連施設の建設や運営費に充当される。国民の血税である大事な年金積立金が消えてしまった、しかしその責任の所在が全く不明で、だれも責任をとろうとしない。こういうことは、国民感情として決して容認できないのであります。

 年金の支え手である労働者の雇用と賃金を安定させ、パート労働者などの厚生年金の適用拡大を図り、公共事業優先の税金の使い方に抜本的なメスを入れ、国庫負担を約束どおり増額し、巨額の積立金を段階的に活用して、安心できる年金給付を確保する、それこそが私は政府が真っ先にやるべき改革であり、国民に負担増をお願いして、国は責任を果たさない、こういう政治が国民の年金に対する不信を広げてきたと私は言わざるを得ません。

 第三の問題は、中小企業予算の拡充であります。

 商法改正、産業再生法などのリストラ減税、研究開発・設備投資減税、有価証券取引税の廃止、連結納税制度の導入など、大企業には高収益をもたらす優遇制度がとられてまいりましたが、それに比べると、厳しい環境の中で必死の努力を続けている中小企業に対しては、余りにも冷たいと言わざるを得ません。今年度予算における一般歳出に占める中小企業対策費の割合は、わずか〇・四%程度にすぎません。

 御承知のように、日本の事業所数でいえば九九%が中小零細企業であります。雇用者の数でいっても約七〇%が中小企業で働いています。今、この中小企業の倒産が大きな社会問題となっています。中小企業経営に光を当てることなしに、不況から脱却し、日本経済を活性化させることは困難ではないでしょうか。中小企業予算を抜本的に拡充する予算の組み替えを強く求めたいと思います。

 第四は、自衛隊のイラク派兵と復興支援の問題についてであります。

 イラクが大量破壊兵器を保有しているというイラク戦争に突入した理由そのものが、根拠を持たないことであったということは、今や国際的には当然の常識になっているのではないでしょうか。そのことは、日本政府がいち早くイラクへの先制攻撃を支持したことの主たる理由や、イラクに自衛隊を派遣する根拠も崩れていると私は考えています。したがって、私は、自衛隊のイラク派兵を中止して、現地にいる自衛隊を直ちに撤退させること、本年度予算に計上されている派兵経費は全額削除すること、ODA予算に含まれるイラク復興支援に関する経費についても、国連を中心とした平和の枠組みの中で、有効な復興支援につながるように切りかえていく、このことを主張したいと思います。

 時間の関係で、労働者の立場から特に強調したい点を申し上げましたが、このほかにも、医療や介護の問題、地方交付税の見直しの問題、新たな庶民増税の問題、農業や環境、災害対策など、二〇〇四年度政府予算案は、我々労働者にとって、このままでは認めがたい問題が山積しています。

 労働者は、この間、健康保険、介護保険、雇用保険、年金保険料の引き上げ、医療費の負担増、発泡酒やワイン税の増税、たばこ税の増税、配偶者特別控除の廃止など、激しいリストラと賃下げが続く中で、応能負担の原則に反した大衆課税の痛みを負わされてきました。それにもかかわらず、二〇〇四年度政府予算案の税収は十八年前と同水準の四十一兆七千四百七十億円にとどまり、新規の国債発行が過去最高の三十六兆五千九百億円に膨らんでいます。

 こうした中で、まさに労働者と中小企業の犠牲で大企業がひとり勝ちするというゆがんだ日本社会のあり方を是認する姿が、この予算となってあらわれていると指摘せざるを得ません。まじめに額に汗して働く多くの労働者にとって、将来に希望が持てる予算に組み替えることを本委員会に強く期待して、意見表明といたします。

 ありがとうございました。(拍手)

笹川委員長 どうもありがとうございました。

    ―――――――――――――

笹川委員長 これより公述人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。西川京子君。

西川(京)委員 衆議院議員の西川京子でございます。よろしくお願いいたします。

 きょう、公述人の先生方、本当にお忙しい中をこの席にお越しいただきまして、ありがとうございます。それぞれの先生方のお話、じっくり聞かせていただきまして、本当に思うところがたくさんございました。

 まず、竹中公述人にお伺いいたしますが、実は私、お名前は知っていたんですが、詳しくは知りませんで、それでちょっと本屋に走りました。日本の激しく元気に生きる「二十世紀を彩った女たち」という漫画本が出ておりまして、竹中公述人がその五人の中のお一人に入っている。この漫画を読ませていただいて、なるほどこれはすごい方だなという思いがいたしました。そして、私と余り年齢が変わらないので、どういう方か楽しみにしておりましたら、本当にお若くてパワーあふれる方で、大変勇気づけられました。厳しい御環境の中、人生の過去の中で、それだけパワーを爆発させて前向きなこういう制度をつくっていったということに、本当に敬意を表したいと思います。

 その中で、大変私の印象に残ったのが、タックスイーターからタックスペイヤーへという言葉、本当にまさにそうだと。今、日本という国の政治が抱えている本質をずばり突いた言葉だと私は思いました。日本人全員がこの意識になったら、恐らく日本の財政再建はすぐに成功するのではないかと思いました。

 結局、障害者の方々に、最初のころ、言うなれば差別があった。そして、差別をされることはお互いに不幸だということの中で、私たち健常者はそういう人たちに対する思いやり、理解を示さなきゃいけない。それがもうちょっと進みますと、今度は本当に助けてあげなきゃいけない。常に弱者になる。それで、失礼な言い方ですが、いろいろ障害者の方々も、どうしてもそういう状況になれてしまう。してもらわなければいけない。そして、その中からやっと立ち上がった本当の姿が、お互いに一緒なんだと。それで、熊本県の知事も一生懸命頑張っていますが、要するにユニバーサルサービスという、私、そのユニバーサルという言葉がまさに一体感、一緒であるという考え方だと思うんですね。

 私は、かの有名なケネディの、我々は国家から何かをしてもらうのではなくて国家に何ができるかを考えようという、それはまさに自尊心、誇りを持った人間の生き方の基本だと思います。そういうことを、きょうちょっといろいろ考えさせていただきまして、いいお話を伺わせていただいたなと思います。

 現実に、今パソコンを通じてのそれぞれの中で、どの程度、全国にネットワーク網が遍在しているのか、その辺をちょっと聞かせていただけたらと思います。

竹中公述人 御質問と、それから活動への評価をいただきまして、ありがとうございます。

 私たちがこの活動を始めた十三年前は、パソコンそのものが一般家庭になくて、パソコン通信というのがやっと日本で営業を開始され、ほんのわずかの方だけがそういうものを使っておられた。そのときに、決して私が無理やりパソコンを使おうと言い出したのではなくて、大変重度のチャレンジドの方自身が、この道具こそが自分たちの力を世に出すものになるというふうに確信されたアンケートをたくさん寄せていただいて、それを契機にこういう活動が始まったんですね。ですので、その当時は、全くこういう動きそのものがゼロから出発したと思っていただいて結構だと思います。

 私たちが、たくさんのコンピューター業界の支援をいただいて、チャレンジドの皆さんをコンピューターのセミナーなどで育てていく過程の中で、一九九八年に大臣認可の社会福祉法人格をちょうだいしましたが、現在でもまだ、こういったITを活用した社会福祉法人で大臣認可というのはプロップ・ステーションが日本で唯一です。

 なおかつ、施設や措置を持たない社会福祉法人ですので、私たちには、毎年これだけの補助金が国から出るよというようなことは一切ありません。ですから、自分たちの努力と支援をしてくださる皆さんの浄財、あるいはミッションとで今日まで活動してきました。

 しかしながら、極めて異端であったこういう活動が、この十三年の間に日本全国の各地で、地域のチャレンジドと、それを支援しよう、あるいは働けるようにしようという人たちのグループが幾つも立ち上がりました。そうですね、プロップ以外にも恐らくもう百は超えているんじゃないでしょうか、それは大小さまざまです。ただ、社会福祉法人として取り組んでいるのは、今私たちと、それから東京では東京コロニーさんという社会福祉法人のこの二つですが、こういった考え方と行動に関してはもう全国に広がりました。

 それから、今熊本の潮谷知事のお名前も出ましたが、熊本では、チャレンジド・テレワークプロジェクトということで、私たちもその立ち上げにかかわったんですけれども、重度のチャレンジドの方が、熊本県内の企業のお仕事を受けたり、熊本県からのお仕事を受注したりして、在宅でも働けるというような仕組みも、そういう意味では自治体単位でも広がってきたような次第です。

 ただ、日本では、障害者が働くことを支援する法律というのは法定雇用率の義務化しかないのですね。法定雇用率というのは、やはりある程度その企業に通えるとか、毎日決まった一定時間以上働けるとか、介護は不要であるとか、いろいろな制約があります。

 ですので、今私たちが言っているような状態の方が働くためには、やはり新しい法によるバックアップといいますか、あるいは企業が雇用するだけではなくて、お仕事を彼らにアウトソースしたときにもインセンティブを与える仕組みであるとか、さまざまなことが考えられなければならないんだろうというふうに思っています。

 そういう意味で、私も六年間、在宅障害者就業の研究会、厚労省に立ち上がったところでずっと発言させていただきまして、今やっとそのような方向で省庁も動いてくださっているというところに来まして、これから逆に、私たちのやってきたような活動が全国に広がり、なおかつ働けるチャレンジドがふえる時期になってきたのかなということです。

 ただ、現実には私たちは、今も言いましたように、補助金のない団体ですから、わずか十人程度のスタッフ、しかも、そのスタッフの大半は在宅の重度のチャレンジドというような形でここまでやってきましたけれども、恐らくこの仕組みが、全国あるいは世界じゅうにネットワークがつながれば、もう距離も時間も関係ありませんので、どんどん広がっていって、アジアのチャレンジドの人たちに対しても新しい働き方の提案とかができるんじゃないかなというふうに思っています。

西川(京)委員 竹中公述人、ありがとうございました。

 まさに、障害者の方ばかりでなくて、要するに、なかなか家から離れられないというような人が大勢いるわけですね。例えば、我々もそのうちにはなる老人、要するに、体が不自由になる立場、あるいは介護や子育て中の人、そういう人たちも巻き込んだ、そういう、単に余り自由にあちこち行けないよというだけでつながれる一つの固まりかもしれません。

 本当に今社会福祉、社会保障という問題は、はっきり言えば、一度始まった制度はなかなか縮小できない、とめどなく広がっていくという宿命のようなところがあります。その中で、本当に財政の大きな部分を占めてきてしまっている。今これは本当に、国家財政でも、各地方自治体の財政でも、福祉予算というのは、ある意味では大変な悩みなんですね、これをどうしようかと。その中で、一つの大きな、その解決のキーポイントのようなところを言っていただきまして、本当にありがとうございました。

 続きまして、奥野公述人にお願いしたいと思います。

 先ほどまでお兄様がそこで心配そうに座っていらっしゃいまして、ああ、やっぱり似ていらっしゃるんだなと思いまして、しっかり聞かせていただいておりました。おしゃべりしていて、ちょっと聞き漏らしたところもあります、恐縮でございますが。

 今デフレ脱却と構造改革を同時並行的に行うこと、これはまさに至難のわざだと私は思うんです。最近のこのデフレ、まあ世界的な傾向だと思うんですが、これは単に経済状況だけの問題ではないだろう、ある意味ではマクロ経済というような視点の産業的経済論というんでしょうか、そういうものの崩壊の一歩ではないかなという気持ちが私はしているんですね。

 単に経済世界だけで話せることではなくて、一つの社会現象のような、結局、需要と供給があって、それが連動していったら、市場が、神の見えざる手か何だか知りませんが、そういうことで動いていくというようなことがもう機能しなくなってきた社会だという中で、本当に経済政策なり財政を運営していくのは、大変厳しい状況があると思います。

 その中で、このプライマリーバランスの赤字の解消という問題をちょっとお聞きしたいと思います。

 今それが二十三兆円ある中で、二〇一〇年初頭までに解消するには毎年二兆五千億円の改善をしていかなければいけないということで、地方にとっては、はっきり言って、いきなり一兆円の地方交付税の削減という話が出てきたんですね。そういう中で、先生なんかがおっしゃっている、二〇一〇年初頭までに解消するという一つの方向の中での話なんだろうと思うんですが、三位一体の改革という中で、所得譲与税の創設その他、先生も評価すべきところは多々あるというお話もありましたけれども、地方分権と、国の方で財政構造改革をするということの、国の方は何とか少しずつでもなることが、実際には、地方の方でそれを一緒に連動してやるには、余りにそれが、激変緩和なりなんなりしないと、その前に地方財政はつぶれてしまうのではないかというような現実もありますが、その点について、ちょっと一言お聞かせください。

奥野公述人 どうも御指摘ありがとうございました。

 西川議員からの御質問ですけれども、御指摘のように、私が一番申し上げたかったことは、これから二、三年の間にうまくいけばデフレ脱却ができるんだけれども、それは他方では財政再建といいますか、構造改革とほぼ同時期に来るので、そこをうまく切り抜けるのは、御指摘のとおり本当に至難のわざだと思うんですね。失敗をしますと、もう一遍デフレに戻ってしまう。今度はもう財政の余力がございませんので、小渕、森内閣のような積極的な財政施策はとれない。そうすると、日本としては国力を消耗していって、立ち直るのは非常に難しくなるだろう。

 他方では、逆の方に失敗をする可能性もありまして、デフレからは出られたんだけれども、国債の方の、財政がどんどん悪くなっていって、国債がどんどん増発されていく。それを市場で吸収できないから、結局、金融で引き受けなくてはいけないというようなことに、なってほしくない話ですけれども、ひょっとしたら、なり得る可能性もゼロではございません。そうすると、今度はインフレになるということがあって、これまた非常に難しい世界に行く。

 そういう意味では、これから二、三年後ぐらいに来るのは、多分タイミングがかぎでございまして、このときにいかに財政金融政策をうまく機能させて、いわば非常に狭いトンネルをうまく抜けていけるか、これをこれから二、三年の間にきちんと仕組んでいかなくてはいけない。こういうことをやっていただくのは皆様のお仕事でございまして、そういう意味では、私は、皆様のこれからの二、三年の経済運営、それに伴う財政の仕組みづくりに本当に今期待しているというのが率直なところでございます。

 その意味で、プライマリーバランスについての御指摘もございましたけれども、毎年二兆五千億と申しました。別に毎年二兆五千億ずつではなくて、時に応じて景気の状況を見ながら、時には多く、時には少なく、しかし平均でこのぐらいを改善していっていただく必要はどうしてもある。そうでないと、日本の政府に対する、あるいは日本の経済に対する国際的な信用がなくなってしまう。それは、さっき申し上げたような、結局トンネルから出られないというところに戻ってしまうということですから、ここでぜひ、そこのうまい仕組み方が大事だと。

 ただ、先ほど強調いたしましたけれども、大事なのは、平均毎年二兆五千億円というのを、税制の改革でやるのか、自然増収でやるのか。これもしかし、どういうタイミングでやるのか。どういうふうな仕組みで組んだらどういうタイミングで来て、うまくトンネルから出られるのかということを、きちんと今から考えておいていただきたい、その準備をしておいていただきたいということを申し上げたかったということでございます。

 その上ででございますけれども、御質問の地方財政でございますけれども、きょうのほかの公述人の話などをお聞きしていても、地方財政に中央財政のしわ寄せがいっているというようなお話がありますけれども、それは決して正しくはございません。先ほど申しましたけれども、政府債務残高が非常に大きいと申しましたけれども、これは実は中央政府だけではなくて、地方政府の債務残高を合わせて非常に大きくなっている。むしろ、地方政府の債務残高とか赤字とか財政状況というのは、政府財政の陰に隠れて見えなくなっている分だけ、実は余りよく見えていない。しかし、本質はもっと大変なところがあるということだろうと思います。

 地方分権をするとその分がよくなるだろうというのは、一面の真実だろうと思うんですね。つまり、国よりも地方の方が住民に近いから、それだけ地方分権でやった方が財政のコントロールがききますよというのが普通の議論でございます。ただ、それはアメリカなんかの民主主義がきちんと機能している国ではそうですけれども、日本の場合に、別に機能していないとは申しませんけれども、地方分権をした方が地方政府のコントロールがよくできるかというと、必ずしもそうではないかもしれない。例えば、地方公務員の給与水準なんかを見ていただければ、結構高いわけですね。

 ですから、そういう意味でも、地方分権をやるときに、財政の規律もきちんと考えながら、言いかえると、例えば税を分与するというようなことをきちんとやりながら、中央、地方、両方をきちんと考えながらコントロールしていくということが大事だろうと思います。

西川(京)委員 ありがとうございました。

 地方と中央とのせめぎ合いというのでしょうか、今、大変両方苦慮している状況の中で、例えば、今回の国民年金の未徴収率の問題なども四割できていない。これはひとえに国の年金制度への不信感だ、若者の不信感だということになっているんですが、実は、徴収方法を変えたということが大きな原因、半分以上を占めているんですね。地方制度調査会の中でも、国の仕事は国、地方は地方だということで、地方自治体が全部肩がわりしてやっていたこと、本当に地域のおばちゃんたちが集めてくれていたがゆえにみんながちゃんとお金を払っていた、忘れもしない。そのところが実は、七割、八割あったのを、六割まで下げてしまった一番大きな原因なんですね、そこのところをほとんど日本の新聞も指摘しませんけれども。

 結局、地方分権というものの危うさですね。本当の、現実に即した、地方の声を聞いた地方分権でなければ、国の一生懸命努力したことが実効性がなくなるという問題をはらんでいると思いますので、時々においていろいろとアドバイスをきちっとしていただきたいと思います。

 ありがとうございました。

 それから、もう一つ、草野公述人にお伺いいたします。年金制度の問題で、基礎年金を全額税方式にと、自民党の案とやや対立する考え方だと思いますけれども、この年金制度、賦課方式の中で、何といっても、日本人のモラルハザードを起こさない制度にしなければいけないというのが私の一番の願いでございます。まともに働いてきちんと保険料を払っている人には、国が責任を持ってきちんと面倒を見るよと。パチンコしていろいろ遊んで、何をやっていても、最終的には最低限国が保障する制度と、人間の誇りとして一体どっちがいいんだという、その思いを私はやはり捨て切れないでおります。

 そういう中で、基礎年金を全部税方式でというには、やはり消費税を値上げするということを明言すべきだと思うんです。恐らく十兆円規模の税源が必要だと思うんですね。そのことと、それからやはり、今の自助努力、モラルハザードの問題、このことをどうお考えになるか、ぜひお聞かせいただきたいと思います。

草野公述人 今の御質問でございますが、まず私ども、基礎年金については税方式にするという考え方は、先ほど申し上げたとおりでございます。

 これも基本的には、モラルハザードというお話がございましたが、基礎年金の額は、今御案内のとおり一人六万五千円、夫婦二人世帯で十三万円という数字でございます。これは、これから少子高齢化社会に向かうに当たりまして、社会全体として老後の生活の基本になる部分は相互に助け合っていこう、そういう社会を築き上げていくべきではないか。そういう意味では、例えばそれが物すごく高いものになればモラルハザードという心配もあろうかと思いますが、そこのところを私は、これからの高齢化社会で相互に国民全体で助け合うというところでは、基本をそこに置いていくべきだ、こういうふうに考えております。

 それから、負担の問題でございますけれども、これは私どもははっきりしておりまして、まずは、先ほど申し上げましたように、国民年金法附則にありますように、二分の一はまず、きちっとそこは対応していただきたい。

 残り二分の一をどうしていくかということにつきましては、私どもは、年金目的間接税として三%というのを提起いたしております。これは、消費税と置きかえていただいても結構でございますが、これでいきますと、全体の基礎年金の部分があと六分の一不足ということになってまいります。これにつきましては、今、企業が労使折半のうち基礎年金の部分として出しているものはそのまま出してください、今まで以上に出していただく必要はありません、ただ、これを保険料ではなくて税という形で、社会保障税という形で出していただきましょうと。そうしますと、残りの六分の一が、私どもの計算ではそこが穴埋めできるわけでありますので、今申し上げましたような形で基礎年金の部分の財源はきちっと手当てできるのではないか、このように思っております。

西川(京)委員 ありがとうございました。質問を終わらせていただきます。

笹川委員長 次に、石田祝稔君。

石田(祝)委員 公明党の石田祝稔です。

 四人の公述人の皆さん、きょうは大変貴重な御意見、ありがとうございました。限られた時間ですので、全員の皆さんに御質問ができないかもしれませんが、そのときはお許しをいただきたいと思います。

 私は、まず竹中公述人にお伺いをしたいんですけれども、実は、私も議員になる前は都立の養護学校に勤めておりまして、そのときに、やはり障害を持った子供さん、チャレンジドというふうにおっしゃいましたけれども、親御さんが一番心配しているのは、自分が亡くなった後、自分の子供はどうやって生きていけばいいんだ、このことが一番悩みだ、こういうことをあるときおっしゃったことは今でも鮮明に覚えております。

 そういう意味で、そういう子供さんたちが、逆に、今まで社会から面倒を見てもらう立場から、税を通して、また自分の活動を通して社会に貢献をしていく、こういうことは私は大変すばらしいことであると思っております。

 先ほど御質問の御回答の中で、そういう形で自分たちの仲間が働くに際して、支援をしてくれる法制が法定雇用率の問題だけしかない、こうおっしゃっておりましたが、では、具体的にイメージするものとして、どういう法律があればもっともっとチャレンジできる、そういうものがありましたら、ちょっと教えていただけますか。

竹中公述人 具体的な御質問をいただいて大変うれしく思います。ありがとうございます。

 法定雇用率というのは、一定数以上の社員をお持ちの企業に、現在は一・八%なんですが、障害者を雇用しなさいということを法律で義務づけて、この雇用率に未達成の部分を納付金、世間ではよく罰金と言うておりますけれども、この罰金を払いなさいという制度ですね。

 現在、大企業の八割は未達成で罰金を払っている。どちらかというと、中小の方が雇用率に関して割と高いというような状況なんです。では、この罰金が一体、何に使われているかというと、年間二百五十億ぐらいになりますが、この雇用率制度を維持するためだけに使われているんですね。つまり、日本では、本当に障害を持っている方が働くというのは、雇用率の制度の中でポイントとしてやりとりをするしかないというのが現実なんですね。

 ですから、私どもに企業の人事の担当の方なんかも御相談にもいらっしゃいますけれども、大概、ポイントが足らないで行政からえらい怒られているので、ええ人ちょっとおりませんかみたいなことを言われますね。それで、どんなお仕事ができる方が必要ですかと。私たちは、一生懸命皆さん技術を磨いているわけですから、そのような御質問をしますと、どんな人というより、とりあえず二ポイントみたいな感じで、人間は数字ちゃうやろと思うんですが、そのようなことに唖然となってしまう。

 そして、障害を持っている方の側も、自分自身のさまざまなことを磨くチャンスが少ないがために、磨いて、そのことで自分をアピールするというより、おまえのところの企業は雇用率足りひんねんから雇わんかいみたいな議論になって、お互いが数字のやりとりになる。これは何て不幸なんだろうというふうに私は感じておりました。ですから、その人の身の丈に合った働き方が最もよくできる方法を、自分たちで生み出すしかないんだという結論に達しました。

 それは、プロップ・ステーションという組織が、まず、その方がコンピューターの技術を磨かれるセミナーをやり、そこに、一流のプロフェッショナルのコンピューターの使い手の人たちにボランティアで先生などをしていただき、そして、一人一人の人の技術レベルをきちっと確認していただいて、そして、動ける人間や私のように口の達者な人間が仕事はいただきに行く。補助金要らぬから仕事をくれということで、企業や自治体や国にお話をさせていただく。そうして、プロップ・ステーションが責任を持って納期、価格、グレードは守りますからという契約をして、さまざまなクライアントからお仕事をいただく。そして、いただいたお仕事を、自宅やあるいは施設の中や病院のベッドの上ででも働けるように、きちっとその方のできるお仕事の中身と量とかに応じて配分をして、それをまたきちっとプロップで集約をして、責任を持ってチェックをしてお返しをする。つまり、働く側のチャレンジドにとっては、自分の体調をコントロールしながら自分のできる範囲の仕事をきちっとやり遂げるという働き方ができ、企業にとっては、重度のチャレンジドに対して、仕事が途中でだめにならへんかという不安がなく出していただける、この仕組みをこの十三年間かかってつくり上げてきたわけです。

 こういうものをバックアップする制度というのは、実は今現在、全くありませんが、例えば、雇用率未達成企業が罰金を払うのではなく、仕事をアウトソースする。きちっと仕事をアウトソースしたときに、雇用率達成企業に政府調達とか自治体調達のインセンティブがつくわけですが、それと同じように、一定量のお仕事をアウトソースしたところにもそういうインセンティブがつくとか、あるいは、フランスだとかアメリカ、イギリスなどで行われているのは、そのチャレンジドの人たちが技術習得をする、つまり、自分を磨いていくレッスンをする部分に企業として支援をしたときに社会責任を果たしたとみなす制度とか、いろいろな方法があるんですね。

 日本には雇用率制度の一個しかない。この一個が悪かったわけではないんです。この一個があったために、少なくとも進んではきたんですが、でも、今こんないろいろな働き方ができる状態になって、その制度だけではもう足りないのだろうという時代が来たと思います。

 それからもう一つは、ITを使わない、例えば、作業所とか授産施設とかで働いていらっしゃる知的とか精神とかいろいろな方々ですが、この方々の物づくりに関しては、ITのプロではなくて、物づくりのプロフェッショナルと組むということをしています。一流のデザイナーであったり、一流のマーケティングの人であったり、一流の販路を持たれる企業とタイアップをすることによって、つまり障害を持った人が一生懸命つくったから買ってねというチャリティーの売り方ではなくて、きちっとプロフェッショナルの人と組むことで本当に売れ筋商品にして、プロの販路に乗せていく。

 ですから、作業所に毎日通って、月に何千円か一万円かもらってきて、お母ちゃんは施設使用料を二、三万円払うんだよというような不思議な福祉就労の場を一日も早く脱して、ある意味、その場所で、作業所でもいいんですが、そこで親子で一緒にきちっとしたお仕事ができるような、それはプロとの連携をするといったようなことですね。ただ、これに関しても、何らそのサポートをする制度もシステムもない。

 ですから、私たちがすべてのことを、別に税金を投入する形ではなく、ミッションと支援者の一連の手をつなぐ形で実験的につくり上げてきましたので、次は、私はこれを、政治をやっている皆さんや行政の施策をする皆さんにバトンタッチをする時期が来たのかなと思っています。ぜひこれを受けとめていただければうれしいなというふうに思います。

石田(祝)委員 貴重な御意見、ありがとうございました。

 それで、一言付言しますと、今回の年金制度改革で、障害年金を受けていらっしゃる方も、働いて年金保険料を納めていただいたら、それがもらうときに、今まではなかったわけですけれどもプラスして、働いた分もまた年金としてはね返ってくるという制度になっておりますので、ぜひそういう方も、一生懸命タックスペイヤー、保険料の支払いの方もやって、また自分たちがそういう年代になったときにもらえる、こういう喜びもぜひ味わっていただきたいと思います。

 最後になりますけれども、定率減税につきまして奥野委員と草野委員からそれぞれ正反対の御意見がございましたけれども、申しわけありません、時間の関係でごく簡単ではありますけれども、廃止の理由と残さなきゃいけない理由を、一言ずつお願いしたいと思います。

草野公述人 一つには、定率減税が入ってきた背景というのをやはり考えていく必要があるのではないかというふうに思います。これは、一部の増税と減税とのセットで入ってきたというのが一つあると思いますので、そこは十分お考えをいただきたいというのがまず第一です。

 それから、もう一つの背景としては、景気対策上の減税という意味もあったというふうにお伺いしておりますので、その筋からいうと、今回、廃止というのはその筋が通らないのではないか、このように思っております。

奥野公述人 そもそも定率減税を導入したときに、これは緊急の、景気の状況が非常に悪いので、一時的というわけではございませんけれども、現状にかんがみてということが一つと、抜本的な改革を行うまでということがございまして、いろいろな税制に関してそろそろ抜本的な改革をお考えになり始めているということがございます。

 そういうことから考えると、所得税を、先ほど申し上げましたような所得の税収弾力性を回復するという意味で、やはり見直す時期に来た、そういうタイミングであるというのが私が申し上げたかったことでございます。

石田(祝)委員 どうもありがとうございました。お一人、坂内さん、ちょっと聞けませんでした、申しわけありません。

 どうもありがとうございました。

笹川委員長 次に、井上和雄君。

井上(和)委員 民主党の衆議院議員の井上和雄と申します。

 本日は、公述人の皆様、大変お忙しい中おいでいただき、また貴重な御意見をいただきまして、まことにありがとうございます。

 まず、草野公述人にお伺いいたします。

 先ほどのお話の中で、今回の政府の予算に関して、予算の組み替えの必要があるんじゃないか、そういうことをおっしゃいました。私たち民主党も、昨年に引き続きまして、ことしも、平成十六年度予算につきまして、霞が関の手をかりず、私たち議員が国の予算案というものをつくりました。そうやって、この予算委員会におきまして、国民の皆さんに一つの選択肢として提示をしているわけでございます。

 それで、この予算案の基本的な考え方というのは、潜在需要を掘り起こす、将来不安をなくす、仕事を生み出す、地域の個性を生かす、必要な資金を循環させるということでございます。そして、これまでの官中心の社会ではなくて、民間企業、地域、国民が主役となって、一人一人の能力を十分に発揮できるような社会、また安心して暮らせるセーフティーネットが充実した社会、こういった社会を達成するための予算というものを編成したわけでございます。

 そこで、草野公述人にお伺いしたいんですが、こういった私たちの基本的な考え方、そして民主党の予算案、ごらんになっているとは思うんですが、御感想がございましたら、お伺いしたいと思います。

草野公述人 今、委員の方から、民主党の予算案についての感想といいますか感じはどうかというふうなお話がございました。

 まず第一点で申し上げたいのは、政府が出された予算について、ここはいい、ここは悪いという議論だけではなしに、きちっとした政党としての、あるいは野党としての案を提起して、それを国民の前でこの予算委員会を中心に議論をされるということは、私は国民から見ても大変いいことであるというふうに思っておりますので、まずはそういう努力に対しては敬意を表したい、こういうふうに思っております。

 それから二つ目には、今委員御指摘のように、基本的な考え方の中に、まさに地域あるいは民間中心に安心して暮らせる社会をつくっていくんだ、こういう理念がありまして、その中でセーフティーネットということをきちっと網羅していただいた、これについても大変いいことではないかと思います。

 さらに、私どもも常日ごろから申し上げておるわけでありますが、雇用に対しての数字をきちっと挙げていただきたい。そういう点では、今回の民主党さんの予算の中では、百二十五万人の雇用創出策というのがきちんと整理をされて出されている、こういう点でも、私どもが従来から申し上げてきたことについての反映ではないかなというふうに思っておりまして、これも感謝を申し上げたいというふうに思っております。

 さらには、ローン利子控除制度の創設であるとか、地方への財源移譲の問題、まさに地方分権に必要な基本的なところが網羅されているのではないかな、こういうふうに思っております。

井上(和)委員 引き続き草野公述人にお伺いします。

 今、雇用の問題に関して私たち民主党が非常に努力をしているということをおっしゃっていただきましたけれども、今、雇用問題、本当にもう大変な状況にあります。

 私個人が思うには、やはり失業率が高いということ、その中でも特に若年層の失業率が非常に高いということ、これはもう本当にヨーロッパ型になってきているなというふうな印象を持っております。そしてまた、フリーターが二百万人いる。失業しているだけじゃなくて、正規の仕事につかないでアルバイトを繰り返しているような方も非常にふえている。やはりこれは日本の将来を担う若者たち、私、本当に心配だなというふうに思っております。

 そういった意味で、政府の方もデュアルシステムというものを提案していらして、四万人ぐらいの青年の方に対しての施策をやるわけでございますが、私たち民主党は、もうそれを三十万人ぐらいの方、予算規模も千二百億ぐらいをつけるという姿勢を示しております。

 そこで、若年者対策の目玉であるデュアルシステムの導入に関して、一体どういうことをやれば一番実効性があるのかという御意見をいただきたいと思います。そしてまた、この非常に大事な若年層の雇用の問題に関して、ほかに何かいいアイデアがございましたら、お伺いしたいと思います。

草野公述人 先ほど冒頭でも申し上げましたように、若年者雇用対策というのは大変重要な点だということは、委員御指摘のとおりでございます。

 私も前々から申し上げておるんですが、日本には、御案内のとおり、資源が非常に少ない中で国力をつける、あるいは国際競争力を強化していくという意味では、ヒューマンパワーの総和をどう上げていくかということが最大の課題だろうというふうに思います。残念ながら、労働力人口が減りつつある中で一人一人のヒューマンパワーが下がっていけば、これは相乗効果でマイナスになりますので、いかに一人一人の能力を上げていくかということが極めて重要だ。そういう中で、今先生御指摘のように、フリーターの方が、統計によっていろいろございますけれども、私どもの調査では四百十七万人というようなデータもございます。

 先般、大阪へ行きましたら、大阪方面で若い人が見ている週刊誌というのがありまして、それを、地方連合会の人がおもしろいからちょっと見たらということで、新幹線の中で見てまいりました。フリーター特集というのが出ておりました。やはり二十五歳から二十七歳になりますと、フリーターの方々も非常に不安になってくる、将来に対して不安を持つ、こういう心情がたくさん吐露されておりました。これは政治の力によりましても早く対策を打つ必要があるのではないか。

 そういう意味では、デュアルシステム、先ほど申し上げましたように、四万人、なおかつ生活的な保障というのは全くないわけでありますので、親御さんのところから通っているパラサイトと言われている人たちのところが少しそれを利用するかなというような感じがありますので、ここは、御指摘のように、十分な手当てをしていただくということが大変重要だというふうに思っております。

 それから、ワンストップサービスというのも今盛んに言われておりますけれども、先般、労働政策審議会でも申し上げてまいりましたが、若い人たちが気楽に相談できるような雰囲気づくりというのも極めて重要だし、そういう意味では、一つ一つの政策をきめ細かく、使う側の立場に立っていろいろな施策を行っていく、こういうことが非常に重要ではないか。

 そういうときに、教育訓練、職業訓練をやるときに、中小企業のところが大変痛んでおりまして、あるいは廃業に追い込まれているところもございますので、そういう設備だとかをどうやってそこに活用していくのかということも、私は、若年対策の一つの具体的方法論として効果のあるやり方ではないかな、こういうふうに思っております。

井上(和)委員 引き続き草野公述人に、年金の問題に関してお伺いしたいと思います。

 私たち民主党は、今国会におきましても、年金問題が今国会の議論の中心だということで、当委員会におきましても、年金の問題を、政府に対してさまざまな観点から追及してまいりました。私も、先ほどお配りいただきましたこの年金改革の連合の資料を拝見いたしまして、空洞化の問題、私自身も委員会でもたびたび国民年金の空洞化の問題を指摘させていただきました。

 そしてまた、基礎年金の税方式、私たち民主党は、全く同じではありませんが、すべての国民が安心して暮らせる社会を築いていくためには、私たちは、最低限の生活保障としての国民基礎年金、そういったものをつくって、財源を税で賄い、高齢者の生活保障を図っていく必要があるんじゃないかということを考えております。そうやることによって、無年金者や年金の空洞化というものを解消できる。

 二階部分に関しては、所得比例方式として、納付した保険料に応じて年金額を支給する、受益と負担の関係を明確にするようなきちっとした制度にしたいということで、これはスウェーデンの方式に倣っているんですけれども、私たち民主党の年金改革案というものを提示しております。こういった私たちの民主党の年金改革案に関して、ぜひ御意見をお伺いしたいと思います。

草野公述人 今御指摘のように、私ども連合の案といたしましても、今の二階建て、一階部分、二階部分についてはそのスキームは維持するという点では、今政府から出されている案と基本的には同じでありますが、その方式が基本的に違うということだろうと思います。

 先ほど申し上げましたように、基礎年金の部分は消費税を含めて全額税方式でやっていく、二階建て部分は報酬比例によるスキームでやっていこうというのが私どもの案でございます。

 私どもの試算によりますと、所得代替率を維持するということでいきましても、二階建ての部分は一四・六%の保険料で基本的に対応できる、端数を少し切り上げまして一五%ということで公表させていただいております。そうすれば、皆さんが納得していただける負担の範囲内ではないか。

 私ども、いつも負担をしない、しないと言われておりますが、ここにおきましては、消費税の増額三%は、我々もみずから痛みを感じましょう、さらに二階建ての部分におきましても、今一階を含めて一三・五八%を一五%ということで、みずからの負担は覚悟いたしますということで、安心できる年金制度をつくっていこう、こういうふうに思っております。

 そういう意味では、今井上先生御指摘のように、民主党の場合には、最低保障年金というところは基本的に税方式でやっていこうということでございますので、基本的な考え方とスキームは私どもと基本的には似ている、そう大きな違和感はない、こういうふうに思っております。

井上(和)委員 私の個人的な考えなんですけれども、やはり社会というのは、いろいろな人がいるんですよね。自立してどんどんやっていける人もいるし、だけれども、そういうふうにできない、また、幾ら努力しても報われない人が必ず出てきます。これはどういう組織でもそうなんです。会社だって、大体、一生懸命仕事をしているのは二割か三割で、真ん中の五割ぐらいの人は……(発言する者あり)私個人の意見なんで、御了承ください。まあ真ん中の人はちゃんとやっている。どうしても一、二割の人は、なかなかやっていけないというような人も必ずいる。組織というのは必ずそういうもので、やはり、私は、社会というのもそういうものだと思うんですよ。だから、そういう中で、お互いに助け合う社会をつくっていく必要があるんではないかなというふうに思っております。

 次に、まず草野公述人に、税の年金課税に関してお伺いしたいと思います。

 二〇〇四年度の税制改革案では、老年者控除五十万円の廃止と六十五歳以上の年金受給者の公的年金控除の最低保障額を百四十万から百二十万に引き下げるということが打ち出されています。これらの改正案は、所得税については二〇〇五年度から、住民税については二〇〇六年度から実施されるということですね。この増税に関して、連合はどういうふうにお考えになっていますか。

草野公述人 老齢年金の課税につきましては、正直申し上げて、私どもの中でもさまざまな意見がございます。

 連合には、引退をされた方で構成をする高退連という組織もございまして、これは現実に年金を受けておられる方で、今より税がふえるということについて反対と言われるのは当然でございます。私どもは、現役世代との関係でいえば、今回の年金課税についてはやむなしというのを基本的な態度としておりますが、ただ、その使途は年金の中で消化をしていただきたい。これはもう大前提でございます。

 ただ、今回、調べましたら、住民税の税額が基準になりまして、いわゆる国民健康保険であるとか介護保険、こういうものが全部取られることになります。私どもの試算によりますと、年間二百万から二百五十万円ぐらいの年金を受けておられる方、この層が多分一番多い層ではないかと思いますが、そこでいいますと、いわゆる社会保険料の負担分を計算いたしますと、月に一万円以上の増額、年間で十四万強の増額になってまいります。これは今の年金水準からいうと、余りにも急激に負担増になり過ぎる。そこはいろいろなスキームを考えていただいて、激変緩和という措置をとっていただかなければ、大変なことになるのではないかと思いますので、今先生御指摘の老年者控除につきましても、五十万円の廃止でいくのか、その中間段階をとっていくのか、ここは大いに工夫の余地があるところではないか、このように思っております。

井上(和)委員 この年金課税の問題に関して、奥野公述人にもお伺いしたいと思います。

 先ほど、所得税の課税に関して、日本の税制体系でいくと税収の所得弾力性が低いということをおっしゃっていました。私も非常にそう思うんですね。そういった観点から、今回の年金課税に関して、先生はどういうふうにお考えになりますか。

奥野公述人 一つは、実は所得税にはさまざまな控除がございまして、所得税を払っている方は就業者のうちの四分の三でしかなくて、四分の一の方は払っておられないということは御存じだろうと思うのですね。

 そういう人たちの中に、典型的に高齢者の方々というのが一つおられる。こういう方々のうち、実はかなりたくさんの資産を持っていられて、所得もそういうところからたくさんあるような方についても、さまざまな控除があるという状況であるわけですね。こういう方が例えば非課税になっているというのは、やはり国民公平上望ましくないのではないかというのが私の印象でございます。そういう意味で、今回の控除を廃止したからといって、若い方々の同じような夫婦で給与所得の方々よりも、実は最低課税額といいますか、これは決してそれより下回ったわけではないわけで、だから、高齢者の方は若年よりも税上は相変わらず優遇はされている、今まで無用に優遇されていたものが弱くなっただけだということだと思います。

 それから、今も草野公述人がおっしゃられた、こういうことをすると、社会保障料とかそういうところで余計な負担がふえるから困るのではないかと、おっしゃることは当然だと思うんですね。例えば配偶者控除というのを我々は問題にするわけですが、そういうときに、専業主婦というのは、税が専業主婦をつくっているというような言い方をされる方があって、なぜかというと、配偶者控除というものが、ある税額を超えると得られなくなる、それが嫌だからパートの人たちも百十万円以上は実は働かないというようなことをしばしば言われるわけですね。ところが、こういうことは実は税法上はきちんと手当てをしてあるわけです。それが配偶者特別控除というものであって、ちゃんと段階的にその控除の額が減るようになっているわけですね。

 ところが、それにもかかわらず、やはり百十万円の壁というのはあるわけです。それはなぜかというと、社会保障料であるとか給与の配偶者手当とかいうものが、税法上の配偶者控除に当てはまるかどうかということに連動しているがために、主婦の方がパートでもなかなか働かないという現状があるわけですね。

 それと実は同じようなことであって、さまざまな社会保障料とか、そういうことの仕組みが税法の仕組みに全部連動している。それがあるがために、税法を一生懸命直してもいろいろな問題が起きるわけですね。それはまさに草野さんがおっしゃったとおりだと思うのです。

 では、それを税法の方で変えるのを激変緩和したらいいかというと、そうではないと思うのですね。これはやはり社会保障の仕組みの方を変えていただかなくてはいけない。手当の仕組みを変えていただかなくてはいけない。こういうことをやられるのが、まさに政治であり、行政だと思うのですよ。そういうことをもう少しきちんとぜひお考えいただきたいと思います。

井上(和)委員 私たち民主党は、御高齢者の方、特に資産のある方は、税で取るよりはもう給付そのものを、特に税の部分はなくしていった方がいいんじゃないか、そういう考えなんですよね。ただ、まさしく先生おっしゃったような抜本的な改革がされなきゃいけないという観点で、今そういうことを訴えているわけでございます。

 次に、竹中公述人に年金問題に関してお伺いするんですが、先ほど国民年金の空洞化という問題、特に若い方がもう入らないということを申し上げたんですけれども、そうなってきますと、例えば、無年金である、また年金に入っていないという方が障害になった場合、障害年金をもらえないとか、そういうことが現実に起こり得ると思うんですね。こういった年金問題に関して、何か御意見をお持ちでしたら、ぜひお聞かせいただければと思います。

竹中公述人 私は年金問題は残念ながら専門家ではないので、お答えがそれに正しく当てはまるかどうかわからないんですが、私たちがともに働こうと言っている介護の必要な人たちは、ほとんどの方が障害基礎年金というのをいただかれています。今おっしゃったように、例えば、学生時代に無年金の状態で障害者になられた、無年金であると障害基礎年金がいただけていないという方も現実にはいらっしゃいます。働きたいとおっしゃっているのはどちらにもいらっしゃいます。ですので、その方が年金をもらっているにしろ、もらっていないにしろ、やはり働ける状態にしようということが、まず私たちの一番の課題です。

 それと、例えば、日本では身体障害の一級障害というのが最も重い障害なのですが、この障害で基礎年金が毎月約九万弱、その人に支給をされます。これは実は、このような状態の障害者というふうに規定をし、そしてそういう人たちにそれだけの基礎年金を支給するのだという国は、世界広しといえども日本だけです。それだけのことをある意味、やっているんですね。

 ただし、これはげたなんですね。これのげたを履かせてあげます。では、そのげたの上に自分の力で何らかの働きで収入を積めるかというと、このチャンスがないんですね。ですから、問題はこちらが大きいと思っています。げたしか上げませんと言われて、この上に積むチャンスがないときに人間はどうなるかというと、げたを高くしてくれという議論になるわけですね。

 今まで福祉というのは、どちらかというとこのげたを高くしてくれになってきたんですけれども、でも、私たちがやってきたのは、その年金で自分のできることを磨こう、磨くために自己投資をしよう。それは、プロップで勉強される方が、そんなに高い金額ではないですが、受講費を払われてプロになっていかれたのと同じように、今までその磨くチャンスすらなかった。ですから、私は、ぜひ自己投資ができるたくさんのチャンスを差し上げていただくことがこの年金を最も生かす方法だというふうに思っていますし、これは障害者に限らず高齢者でも全く同じことなのではないか。そういう意味では、自分を発揮するチャンスを、もっともっと選択肢をふやすというふうにお考えいただければうれしく思います。

井上(和)委員 とても貴重な御意見、ありがとうございました。ぜひ私も、神戸でいらっしゃいますか、一度お伺いして施設を見学させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

 次に、草野公述人に、年金のことに関して引き続きお伺いしたいんです。

 国民の年金不信というものは本当に今高まっています。その理由の一つに、マスコミでもよく報道されている、国民の皆さんが納めた年金の掛金が、社会保険料がきちんと使われていないんじゃないかと。それはもうよく言われているような、グリーンピアとか言われるああいう施設ですね。だから、自分たちの払った年金が何かわけのわからない施設に化けていて、それが、要するに高級官僚の天下り先になっている。では、一体何のために年金に入るんだ、そして、払ったってどうせ返ってこないんだろうというような印象を国民が持っているわけですね。

 当委員会におきましても、私たちも、年金福祉施設等の問題や、そしてまた年金の運用問題、では、これは株にやっていいのか、株に入れれば、当然ハイリスク・ハイリターンですから、損をする場合がある、こういった非常に多くの問題があるわけですね。このグリーンピア等の年金福祉施設や、また年金の運用のあり方というものに関してどういうふうにお考えか、御意見をいただければと思います。

草野公述人 先ほど坂内公述人からもお話がございましたし、今先生から御案内のものは、昨日、この予算委員会の席でこの問題についてかなり激しく討論があったというのは、私もテレビで拝見をいたしました。

 国民の年金不信の問題の一番大きいのは、やはり今まで過去何回も給付を下げ、保険料を上げるということを繰り返してきて、将来的に年金の財政が大変だということをまず先にやって、だから負担はしようがないんだということをプロパガンダしてきた、そこに一番大きな背景があるのではないか、こういうふうに思っております。

 したがいまして、今回もやはり保険料は上げますよ、給付は下げますよとなりますと、国民の皆さんは前と全く同じだと。ますます少子高齢化が進むので、そこについてはますます不信感が募る。それに加えて、今委員御指摘の、では、年金の掛金や積立金は一体どういうふうに使われているのかということで、昨日もここで議論がございましたグリーンピアの問題、天下りの問題あるいは積立金の運用の問題等も含めて、国民の不信感を極めて増長させている一つの大きな背景だというふうに私も理解をいたしております。

 したがって、グリーンピアの問題あるいは一般経費に使われている年金の掛金の問題等については、これはきちっと国民の前に責任を明らかにし、これからの対応をきっちりと明らかにする。そのときに、やはり責任はどこにあったのかということを明確にすることが極めて大事な点ではないか、私はこういうふうに思っております。

 運用の問題については、専門家の皆さんが知恵を絞りながらやっているんだろうと思いますので、非常に難しい面はあろうと思いますが、私どもも、この審議会の中に委員を送り込んで、株については、今の時点ではできるだけ、数年前からでございますが、縮小した方がいいのではないかという意見を述べさせていただきましたが、残念ながら多勢に無勢で、私どもの意見はその審議会の中では取り入れられなかったというふうに報告を受けております。

井上(和)委員 竹中公述人に、同じ問題ですけれども、年金に対する不信感というもの、恐らくいろいろな面でもお感じになっていると思うんですが、何か御意見ございましたら、お伺いできますか。

竹中公述人 不信感といいますか、払っていない方が多々いらっしゃるということに関しては、やはり何らかの策を国民全体で考えないといけないんだろうなというふうには思っています。ただ、先ほどから言いますように、制度の欠陥も現実にあるわけですよね。そうしたときに、ではどんな制度に直していくのかというのが、今さっき言ったように、支え手をどういうふうにふやすのかという議論だと思うんですね。

 これはちょっと話がそれますけれども、小学生とかそんな子供のときに、社会経済の話とか税の話とか年金の話とか、全然習わないですよね。私はこれはすごくおかしいと思っていて、あるいはそれは障害を持つ人とない人がなかなか一緒に勉強できないのも一緒なんですが、世の中、現実として直視しないといけない問題を幼いころから学ぶ機会がほとんどないということは、私はすごく変だと思っています。

 そして、年金だとか税に関しても言うならば、例えばチャレンジドの皆さんは、どこかに雇用されるわけじゃないですから、先ほど言ったように確定申告されるわけですね。ですけれども、確定申告をどうやってしたらいいかも知らない方も多い。つまり、フリーターをやっている人たちも、フリーターなんだけれども、フリーターの収入を確定申告されているか。多分、そういう発想も持たない方が多いんじゃないかしら。ですから、これはやはりもっと幼いころから、働いて税を納めるのは当然であり、それには確定申告というような方法があって、どんなふうにするとかいうようなことも学ぶ部分も含めて、国民全員で税の問題や保険の問題を考えていくのが必要じゃないかなというふうに思います。

井上(和)委員 ありがとうございます。

 また草野公述人にお伺いしたいんですけれども、今回の年金改革なんですが、政府は、抜本的か根本的かよくわかりませんが、そういうことをおっしゃっているんですね。持続可能な制度にするということで、負担の上限を決めて、それに伴って当然、給付が削減されるということだと思います。

 今後の少子高齢化社会の中で、年金などの社会保障制度の給付と負担についてどういうふうにお考えになっているのか、また、今たびたび言われていますが、世代間の不公平というものをどういうふうに考えていったらいいのか、御意見ございましたら、お伺いしたいと思います。

草野公述人 よく言われますことに、年金の給付額が高いのではないかという話がよく出てまいりますが、多分に厚生年金基金であるとか、企業年金を含めて話をされるケースが大変多いのではないかというふうに思っております。

 モデル年金が、先生御案内のとおり二十三万八千円と言われておりますけれども、このモデル年金をもらえる人というのは極めて限られた人でありまして、たしか二〇〇一年のデータだと思いますが、二十年以上掛金を納めていて年金を受給された方の男子の平均がたしか二十万五千円、女性の場合ですと、たしか十一万円強だったというふうに記憶をいたしております。

 そういうことでいきますと、例えば、例が余りよくないかもしれませんが、大企業と言われる一流企業に大学を卒業して入って、標準的なプロモートをして、例えば部長あるいは役員一歩手前ぐらいで六十歳でめでたく定年退職をした人の年金が、モデル年金にほんのちょっとプラスアルファ程度、こういう年金が実態でございますので、この辺をもう少し国民の皆さんとしっかり議論をして、負担と給付の関係はしっかり整理していくべきだろう。

 それから、もう一つ申し上げますと、少子高齢化になりますので、支え手に比べて支えられる人がふえるというお話がございます。これは奥野先生が専門家だと思いますが、従属人口という、いわゆる子供たちの人数と高齢者の人数、それに対する働き手、現役世代の比率というのは百年間、五十年前も五十年先もこの数値は変わらない、そういう文が、東京大学の神野先生がこの前お書きになったところに出ておりました。

 そういう意味では、過去の若い世代が多い時代と高齢者が多い次の世代を考えた場合にどちらが容易かといえば、それは教育費やそういうのがかからない次の世代の方がはるかに容易なのではないか、こういう主張をされておりまして、私どもも大変参考になるな、こういうふうに思ったところであります。

井上(和)委員 時間でございますのでこれで終わりますが、きょうは公述人の皆様、どうもありがとうございました。

笹川委員長 次に、佐々木憲昭君。

佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。

 きょうは大変貴重な御意見を賜りまして、ありがとうございます。四人の公述人の皆さんにいろいろ質問が出ておりますが、坂内公述人にはまだ質問が出ておりませんので、きょうはぜひ集中的に私から質問させていただきたいと思います。

 私は、今の経済状況というのは、二極分化というものが大変進んでいるのではないかというふうに思っております。大企業は大変なV字形回復で利益を急増させておりますが、なかなか中小企業は大変な状況にある。この大企業の利益の拡大の理由として、リストラ効果ということがいろいろ言われております。同時にまた輸出依存型でありまして、アメリカと中国に対して輸出が伸びている、その関連で設備投資も一定の拡大をしている、こういう状況だと思うんです。

 したがいまして、ここで大事なことは、この予算がどういう役割を果たしていくかということだろうと思うわけでございます。いわば、利益を上げている大企業にさらに利益を保証するような予算を組むのか、それとも、大変な家計の、火の車の状況の国民に対してどういう支援をしていくのか、この角度から問題を考えなければならないのではないかと思うわけであります。

 残念ながら、昨年あるいはことしの予算の内容を見ますと、税金の面でも負担の面でも、大企業向けの減税は結構やっているんですけれども、どうも、国民向けには負担増と増税というのがかなり連続的にふえているのではないかという印象を持っているわけでございます。

 そこで、坂内公述人にお伺いをいたしますけれども、今のような財政の構造といいますか、この点についてどのようにお考えか。特に、国民負担、先ほどお話をいただきましたけれども、大変ふえているわけですが、例えば、橋本内閣で九兆円負担増というのがありましたね。このときは大変なショックがありました。しかし、小泉内閣になっても結構負担がふえておりまして、橋本内閣のときには四兆円の特別減税がありましたから、若干緩和された面があるんです。しかし、小泉内閣になりましてから、緩和の措置がほとんど国民に対してないままに、負担増の方が相当連続的にふえていくという感じがあります。

 こういう点で、どのような認識、お考えをお持ちか、坂内公述人の見解をお聞きしたいと思います。

坂内公述人 簡潔にお答えしたいと思うんですが、私どもの調べでは、日本では、国民が納めた税金がどれくらい社会保障の公費負担として戻ってくるか。諸外国でいいますと、例えば、ドイツでは四四%、イギリスでは四三%も公費負担として戻ってまいりますけれども、日本では三〇%足らず、わずか二九%というふうに承知をしております。イギリスなどの三分の二でしかないわけで、私は、予算の配分を思い切って社会保障に焦点を当てた予算に組み替えるべきだという考え方を持っております。

佐々木(憲)委員 社会保障を中心に予算を組み替えるということを、今御指摘いただいたわけであります。

 例えば、年金の問題につきましても、財政的にいろいろな議論があります、財政上のですね。しかし同時に、これは、支え手といいますか年金を支える雇用がやはり安定していなければ、財政上の措置だけで根本的に改善することにはなかなかなりにくい。したがって、雇用の面での支え手の確保というのが私は非常に重要な柱ではないかと考えるわけでございます。

 そういう点で、私ども、先日、二月二十三日に、政府予算案の抜本的な組み替えを求める予算の組み替え案を提案しておりまして、その中で、雇用の安定ということで、とりわけ正規雇用の拡大ということを強調させていただいたわけでございます。

 その中で、サービス残業の根絶、これは非常に大事だと思います。あるいは長時間労働の是正、このことによって雇用の大幅な拡大というものがつくられるというふうに私たちは考えております。

 それから、公的分野、先ほど坂内公述人も触れられましたけれども、福祉ですとか医療ですとか防災、教育、これは現実には人手不足でありまして、こういう分野でやはり国や自治体がしっかりと雇用を拡大するということが大変重要ではないかというふうに思います。

 それから、若者に雇用という点でいいますと、やはり政府と、それから大企業のリストラ規制というのは非常に大事だと思っておりますが、この辺の雇用の拡大策、坂内公述人としては政府に対してどのような施策を望んでおられるのか、もう一度この点での見解をお伺いしたいと思います。

坂内公述人 年金を初めとする社会保障制度を持続可能な制度として確立するというためにも、その土台が雇用あるいは雇用と賃金であるという御指摘は全く同感であります。

 先ほど来、国民の年金不信にかかわって、国民年金保険料の納入者が全体では六二・八%に上る、草野公述人からもお話がありました。厚生労働省が発表した二〇〇二年の国民年金保険料の納入率の調査によりますと、全体では六二・八%でありますが、二十歳代の若者の納入率は五〇%を割り込んでいるという実態にございます。

 国民年金に加入している人たちと申しますのは、一部にはもちろん自営業者の方々もおられますけれども、やはりその多くはフリーターと言われるような人たちが国民年金に加入をしているわけです。本来であれば厚生年金に加入しているべき労働者であるけれども、その厚生年金からは、言葉は適切かどうかわかりませんが、追い出される形になっている人たち、しかも、パートやアルバイトで働く若者、三十四歳以下の青年たちの約六割は年収が百万円以下、こういう実態にございます。

 したがいまして、国民年金の納入率が非常に低いという問題の背景には、先ほど私が申し述べましたようなこの間のたび重なる年金制度の改悪という問題もございますが、もう一方では、実際に働いている労働者の雇用や生活の悪化というものがあることも見ておかなければならないと思うんです。

 年収が百万円未満というような中で、一カ月一万三千三百円、この保険料負担というのは非常に重いものになると思います。大体、いつ失業するかもわからない生活を送っている青年たちが、最低でも二十五年間保険料を払い続けないともらえない年金のために、この一万三千三百円の保険料を毎月納付する、そういう気分になるだろうかという実態面からの見直しも必要かというふうに考えております。

 御質問の趣旨とは必ずしも一致しませんけれども、そういう側面から、国民年金の滞納問題も見ていかなければいけないというふうに私は考えております。

佐々木(憲)委員 雇用というものが非常に大事だということで、雇用拡大政策というのは、やはり政府とそれから大手の企業の責任というのは非常に大きいというふうに私どもは考えております。

 草野公述人にも一言お伺いします。やはり、今の大企業の利益の急増の反面で、先ほどもお話がございましたが、雇用の面ではかなり深刻な事態が生まれております。少ない労働者の中でサービス残業も非常に蔓延しておりまして、大変な状況にあると思うので、その点の、サービス残業規制といいますか、これは大変大事だと思うんですが、どのような考え方、あるいは政府に何を求めるか、一言お話をいただきたいと思います。

草野公述人 今、先生御指摘のように、私どもはサービス残業という呼び方はしておりませんで、不払い残業というふうに言っております。どうも日本人はサービスはただだと思っている、これはけしからぬ話だということで、不払い残業というふうに呼ばせていただいておりますが、連合としては、一昨年の秋からこの問題についてのキャンペーンを張ってまいりました。各政党にもお願いを申し上げましたし、また、担当官庁であります厚生労働省の方にも足しげく向かいまして、さまざまなお話し合いをさせていただきました。当然のことながら、これは労働基準法違反でありますから、まずは使用者側にということで、日本経団連、商工会議所、それから経済同友会ともこのような話をさせていただきました。

 経営側とは、基本的には全く一致しております。経営側も、これはまさに法律違反で、あってはならないことだというところまでは明確に言っていただいてはいるんですが、結果としては、残念ながら、今、ふえているというかかなり高い水準にあると言った方が正確ではないかというふうに思います。

 少し効果が出てきたかなと思いますのは、マスコミの皆さん方にもかなりそういう特集記事を書いていただくようになりましたし、厚生労働省の方の指摘で、たしか半年間で七十億から八十億ぐらいの是正命令、支払い命令が出ているというふうにも聞いております。ただ、いかんせん、やっぱり労働組合みずからがそこをきちっとチェックしなきゃならないのが本来の筋だというふうに思いますので、私どもとしては、今春季生活闘争の中でもしっかりとしたその対応をしてまいりたいというふうに思っております。

佐々木(憲)委員 ありがとうございました。

 坂内公述人にもう一度お伺いします。このサービス残業是正については、やはり法的な規制も必要ではないかと私は思うんですが、その点でのお考え方。それから、先ほど、緊急地域雇用創出制度の延長、拡充ということもおっしゃいました。この制度の特徴といいますか利点といいますか、それをどのように把握されておられるのか、最後にこの点について、二点お伺いしたいと思います。

坂内公述人 先生御指摘のように、ルールなき資本主義と我々は呼びますが、異常な日本の社会を象徴する一つが、やはりこのサービス残業、不払い残業問題と過労死の問題だろうというふうに思います。

 今、週四十時間労働制と言われますけれども、実際には男性労働者の五人に一人は週六十時間ぐらい働いているという統計もございます。国会の努力もありますし、我々の運動もありましたが、この二年半ぐらいの間に総額で二百五十億円を超える不払い残業代が、労働基準監督署などの立入調査もありまして改善をされましたけれども、まだまだ本当に氷山の一角だと思います。このサービス残業がもしきちんと規制をされれば、それだけで百六十万人の新しい雇用が生まれるという試算もございます。

 したがいまして、サービス残業、不払い残業そのものが違法であるということはもちろんでありますけれども、不払い残業が横行している社会の現状にかんがみて、それに適切に対応する立法措置が必要だというふうに全労連としても考えております。

 緊急地域雇用創出特別交付金のことでございますが、これまで厚生労働省がさまざまな雇用対策を打ち出してきた中では、これはかなり効果のあった対策だというふうに厚労省自身が評価をしております。この最大すぐれている点は、私は、国が予算をちゃんと確立して、地方自治体にその予算を配分して、それぞれの地方自治体ごとに、地域の雇用状況の実情に合った雇用創出事業を創出できるということに大変大きな特徴があるだろうと思います。したがいまして、国であれこれ全部決めてやるということではなしに、それぞれの地方に、失業でもいろいろな特徴がございますから、それに合って、そこの地域の労働者あるいはNGOの方々ともよく話し合って、これが実行できるところに大変特徴があると思うんです。

 しかし、残念ながら、予算の規模全体が少ないということと、その運用をめぐって言えば、雇用期間が半年間に限定をされるというようなさまざまな問題がございますので、ぜひこの予算の増額と運用制度の改善によって、今の失業状況の克服に役立てていければというふうに考えております。

佐々木(憲)委員 どうもありがとうございました。

笹川委員長 次に、照屋寛徳君。

照屋委員 社会民主党の照屋寛徳でございます。

 きょうは、公述人の皆さん方に、大変貴重で有意義な御意見を拝聴することができました。心から感謝を申し上げたいと思っております。

 竹中公述人に、お伺いをするというかお礼を申し上げたいと思いますが、私は正直、プロップ・ステーションという社会福祉法人の存在、そして意見陳述の中で述べられておりました活動内容を知りませんでした。私自身、沖縄でいろいろ障害者の皆さんの自立を支援するような活動にかかわっておるんですが、おっしゃっておりましたように、まばたきだとか舌の動きだとか首が少しでも動く、少しでもそういう表現できる部位があれば、その可能性を生かしていく、こういう考え方で活動を続けておられるということについて大変感激をいたしました。

 御承知のように、沖縄は、一九四五年から一九七二年まで施政権が日本から分断されておりまして、アメリカの支配下にあった関係で、法整備面で、社会福祉にかかわる制度の整備が非常におくれておるわけですね。同時にまた、本土から離れた島嶼県というか、そういう地理的な不利性というのがこれまでありましたけれども、お話にありました、パソコンを使ったりあるいはコンピューターを使ったりという限りにおいては、島嶼県あるいは本土から離れているという不利性は克服できるのではないかな、私はこういうふうに思っておるんですが、もし沖縄のような地理的不利性の中で、具体的にこういう方法をとったらいいんじゃないかということを、竹中公述人の経験の中で御意見をお伺いすることができればありがたいなと思います。

竹中公述人 御質問ありがとうございます。

 さまざまな政党の皆さんがプロップの活動に関心を持っていただいて御質問いただいたこと、本当に感謝いたします。

 沖縄は、私も二回ぐらい講演に行きました。一度は肢体不自由関係の皆さんのお招きで、二度目は知的ハンディをお持ちの親の会の皆さんのお招きでした。三度目が、ことし三月の末ぐらいにもう一度沖縄の方へ講演に行かせていただく予定になっておりまして、決して沖縄が無縁の地ではなく、私にとって物すごく温かく迎えていただいた土地だったんですね。

 現実に沖縄は、例えば、私たち神戸に本部がありますが、距離があいているんですけれども、コンピューターネットワークでつながると、それこそ隣にいるのと全く同じなんですね。ですから、私が講演に行かせていただいてこういうお話をして、わあ、できるんやと気がついた方が、たまたまパソコンを使っていらっしゃった重度のチャレンジドなんですが、もう神戸に戻って翌日には元気が出たとかいうメールが来ておりました。その会話ができるということは、次は、今度はそのネットワークを使って勉強できる機会をつくればいいということなんですね。

 例えば、インターネットを使うところまでは、全国各地で地域のボランティアの方とかいろいろな方で勉強をしていただいて、そこから次に、今度はプロップ・ステーションがやっているプロフェッショナルな勉強につないでいただくというような形で、段階を踏んでプロになっていただくというようなことが可能です。そして、プロップのようなお仕事につなぐ機能までを持っていらっしゃらないグループが全国にたくさんあったとしても、そこで地域のお仕事に関してはやっていただいて、全国レベルとか国際的なお仕事に関しては、またプロップのような組織を活用していただくとか、いろいろな方法が考えられます。

 ただ、ここに問題が大きく一つありまして、それは、親の意識なんです。本人の意識と同時に親の意識なんですね。親御さんが、この子らはできへん、無理やと思っている人がすごく多いんです。ですから、まずパソコンのような道具をさわらせてあげてちょうだいと言っても、いや、この子ら、こんなの無理、無理、無理、こんなに高いものさわらせてつぶれたらあかんとか言って、チャンスを差し上げないとか、世間の冷たい風に当てたくないから作業所でいいんやとか、やはりおっしゃってしまうんですね。親の気持ちとしては、私も母ちゃんですからわかりますけれども、逆にそれが、彼らが本当の意味で社会に力を発揮できない一つの壁になっていることも事実です。ですから、私は親として、お母ちゃん同士の意識改革もやりながら、やはりこういう物事をともに進めていきたい、これは現場の考え方ですね。

 ですけれども、今も言いましたように、例えばコンピューター同士をつなぐということに関して、三年ぐらい前からですか、総務省と一緒に、遠隔で教育ができるとか、遠隔で仕事ができるとかいう実証実験も続けてきました。そして、おかげさまで、世間がブロードバンドという太い回線になりまして、これによって、今までできなかったさまざまなコンピューターの勉強の種類が一気にできるようになったんですね。ですけれども、このブロードバンドが、遠隔地といいますか僻地ほど、何かつながるのが遅いということで、実際はそれがやりたいんだけれども、まだつながっていないからというような方がいらっしゃいます。ですけれども、少なくともあと一年半とか二年後ぐらいには、光ファイバー網を全国に引くとか、いろいろ国策的にも言われていますから、私は、すべての方が学びたいと思ったときに学びたいと思う場所で勉強できる日が来るのだろうなと。

 ですから、ぜひ皆さん、議員さんでいらっしゃるので、恐らく地域のたくさんの障害者の方や御家族から御相談を受けられると思うんです。そのときに、こういう方法があるんだよということとか、プロップみたいなところへ、電話一本でもいいし、見学でもいいし、一遍相談してごらんというふうに言ってやっていただきましたら、それだけでその方に新しい可能性が広がるということもあると思いますので、ぜひお願いしたいと思います。

照屋委員 ありがとうございました。

 草野公述人にお尋ねをいたします。

 若年労働者の雇用問題というか、極めて異常な失業率の問題については、先ほども民主党の委員からお尋ねがございました。私もいろいろ尋ねたいなと思っておりましたが、重複を避けたいというふうに思っております。

 私の住んでいる沖縄県は、失業率は全国平均の約二倍です。おまけに、全国的な傾向と一緒でございまして、若年労働者の失業率がこれまた極めて高いという状況にございます。

 それから、きょうお聞きしたいのは、増加するフリーターの問題ですね。きょうの草野公述人の意見陳述の中では、四百十七万人という驚くべき数字が発表されたわけでありますが、フリーターがふえる原因について、公述人はどのように考えておられるのか。

 いわゆる終身雇用制度というのが崩壊をする。一方では、労働そのものに対する意識が変わってきたのかなというふうにも思うんですが、このフリーターが本当に異常なほどふえている原因、あるいはまたそれに対する対策等についての御意見をお聞かせいただきたいと思います。

草野公述人 今先生御指摘のように、ある専門家の調査によりますと、フリーターは三つに分類できるというふうに言われております。

 一つは、モラトリアム型といいまして、要するに、何をしていいかわからないのでとりあえずアルバイトでもするかというのが大体四割ぐらいおられるそうであります。あとは、本来、就職をしたいんだけれども今のような状況下では就職先がない、したがって、やむを得ずフリーターになっているというやむを得ず型というのが大体五割というふうに言われております。では、残り一割は何かといいますと、例えば、私は絵かきになりたいとか、歌手になりたいとか、ソフトエンジニアになりたい、そういう、夢を追いながら、その資格あるいは自分の芽が出るまでの間アルバイトで生計を支えるという、夢追い型というふうに言われているようでありますが、これが一割と言われております。

 したがいまして、やはり一番大きなのは、二番目に申し上げた五割のことであります。やりたいけれども、就職先がない。だから、ここが、政治と企業と一体となって、どうやってその就職の場をつくっていくかということをやはり考えていかなきゃならないと思いますし、そのときに、きょうは触れる時間がございませんでしたけれども、ワークシェアリングというような手法もその中で考えていくべきではないかな、こういうふうに思っております。

照屋委員 若年者の雇用問題と同じように、日本は、どの先進国もかつて経験したことのない速いスピードで少子高齢化の社会を迎えまして、高年齢雇用の安定確保の問題というのも極めて深刻だし、早いうちに有効な対策を講じなければいけないのではないかというふうに考えております。

 特に、厚生年金の支給開始年齢の引き上げと関連して、定年年齢の引き上げ問題、これをどのように私たちは考えていけばいいのかなと。連合では、希望者全員の継続雇用を原則義務化する法制化ということを方針に掲げておるようでございますが、この高年齢者雇用の安定確保についての御意見をお聞かせいただきたいと思います。

草野公述人 一人一人働いている方から見ますと、定年になって年金支給開始年齢までの間に相当の空白期間があるというのは、やはり人生設計の中では耐えられないことでありますので、そこはやはり接続性あるいは連続性を持つというのは当然のことではないか、こういうふうに思っております。

 しかし一方では、こういう状況でございますので、一律に定年を延長するということが最も望ましいわけではありますけれども、私どもは、そこはいろいろな工夫によって継続雇用という形をとればいいのではないか。

 私は自動車産業の出身でありますけれども、十数年前にも自動車の中の組合で議論があったときに、私は、一律定年制はとらないということで、希望者全員が雇用できるような、雇用継続あるいは再雇用制度をいろいろ工夫して入れていこうということで、制度は随分入れたんですが、こういう御時世でございますので、実際にはなかなか活用されていない。希望者のほんの一部しかやっていないというところが大半でありますので、そこはやはり法制度によって一定の義務化をぜひ図っていただきたい、こういうふうに思っております。

照屋委員 最後に、草野公述人に、例の三位一体の改革との関係でお伺いをしたいと思います。

 午前中の公聴会でも、公述人の金子勝教授から、この三位一体の改革に関連をして、補助金をカットしても各省庁の権限は残しておるんだという指摘だとか、地方へきちんと財源移譲すべきである、こういう意見が述べられておりました。

 沖縄のように非常に財政基盤の弱い市町村では、平成十六年度の予算編成に当たって、もう半数以上の市町村が予算を組むのに四苦八苦している。宮古の平良市に至っては、第一次内示でもう当初から赤字予算を組んで大騒ぎになるというふうなこともございました。

 結局は、地方へ税財源をしっかり移譲しないままの現状の三位一体改革が進んでいくと、まさに財政基盤の弱い地方に痛みを強いてしまう。そのことが結果的に地方の地域経済に甚大な悪影響を及ぼすのではないかというふうに思っておりますが、三位一体の改革についてお考えをお伺いしたいと思います。

草野公述人 時間もないようでありますので、簡単に申し上げたいと思いますが、今、照屋先生がおっしゃったとおりだというふうに私どもも認識をしております。

 時期が時期でございますので、私も今、地方にいろいろ会議で出かけることが多うございますが、今御指摘のように、沖縄県のみならず、全国各地で、特に市町村の皆さん方が頭を抱えている。そういう意味では、今お伺いしました午前中の金子勝先生がおっしゃったように、まさに地方の自主財源をどうしていくのかということがまず基本にあった上でやりませんと、単に補助金のカットその他でいくと、地方はまさに痛んで、今でも痛んでおりますが、さらにその痛みが増幅をしてしまうのではないか、こういうふうに思っております。

照屋委員 以上です。

笹川委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。

 公述人の皆様、御多用のところ、本日、委員会に出席し、長時間御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございます。心から厚くお礼を申し上げます。

 明二十七日の公聴会は、午前九時から開会することとし、本日の公聴会は、これにて散会いたします。

    午後三時五十二分散会


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