衆議院

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第2号 平成17年2月24日(木曜日)

会議録本文へ
平成十七年二月二十四日(木曜日)

    午前九時一分開議

 出席委員

   委員長 甘利  明君

   理事 伊藤 公介君 理事 金子 一義君

   理事 渡海紀三朗君 理事 松岡 利勝君

   理事 茂木 敏充君 理事 佐々木秀典君

   理事 島   聡君 理事 田中 慶秋君

   理事 石井 啓一君

      伊吹 文明君    石原 伸晃君

      宇野  治君    植竹 繁雄君

      尾身 幸次君    大島 理森君

      河村 建夫君    小泉 龍司君

      後藤田正純君    谷川 弥一君

      中馬 弘毅君    津島 雄二君

      中山 泰秀君    西銘恒三郎君

      根本  匠君    萩野 浩基君

      村井  仁君    森田  一君

      石田 勝之君    生方 幸夫君

      加藤 尚彦君    吉良 州司君

      津川 祥吾君    辻   惠君

      中井  洽君    中塚 一宏君

      永田 寿康君    長妻  昭君

      原口 一博君    樋高  剛君

      米澤  隆君    佐藤 茂樹君

      坂口  力君    田端 正広君

      佐々木憲昭君    横光 克彦君

    …………………………………

   公述人

   (東京大学社会科学研究所教授)          河合 正弘君

   公述人

   (日本労働組合総連合会副事務局長)        久保田泰雄君

   公述人

   (BNPパリバ証券会社経済調査部長チーフエコノミスト)          河野龍太郎君

   公述人

   (独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所参事)           酒井 啓子君

   財務大臣政務官      倉田 雅年君

   予算委員会専門員     清土 恒雄君

    ―――――――――――――

本日の公聴会で意見を聞いた案件

 平成十七年度一般会計予算

 平成十七年度特別会計予算

 平成十七年度政府関係機関予算


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     ――――◇―――――

甘利委員長 これより会議を開きます。

 平成十七年度一般会計予算、平成十七年度特別会計予算、平成十七年度政府関係機関予算、以上三案について公聴会を開きます。

 この際、公述人各位に一言ごあいさつを申し上げます。

 公述人各位におかれましては、御多用中にもかかわらず御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。平成十七年度総予算に対する御意見を拝聴いたしまして、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、どうか忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願いを申し上げます。

 御意見を賜る順序といたしましては、まず河合公述人、次に久保田公述人、次に河野公述人、次に酒井公述人の順序で、お一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 それでは、河合公述人にお願いいたします。

河合公述人 おはようございます。東京大学の河合正弘でございます。本日はこのような機会を与えていただきまして、大変ありがとうございます。

 まず冒頭に申し上げたいことは、平成十七年度予算に賛成の立場から陳述させていただきます。

 本日の私のテーマは、国際経済問題、国際通貨問題であります。円、ドル、ユーロ、人民元の問題について、少しお時間をいただきたいと思います。

 ユーロは、一九九九年に発足いたしました。ユーロは、その後、EUの東方拡大等を通じまして、非常な勢いで拡大しております。国際通貨ドルが少しずつ侵食されているかのように見えます。その中で、中国は猛烈な勢いで台頭しております。人民元は一体どうなるのか、その中で、日本の役割、円の役割は一体何なのだろうかということにつきましてお話しさせていただきたいと思います。

 まず最初に、ユーロ圏の拡大についてであります。

 ユーロは一九九九年に導入されましたけれども、そこに至る道は、ヨーロッパにおきます国際協調、域内経済統合の動きでありました。一九七一年までは、旧ブレトンウッズ体制のもとで、各国はドルに通貨をペッグするという形をとっておりました。その結果、ヨーロッパ通貨は、それぞれの間でも相互に安定した関係を持っておりました。

 しかし、一九七三年に先進国が全般的フロート制に移行した結果、各国は対ドルレートの安定化から外れることになりました。それに伴いまして、ヨーロッパでは、これではいけない、お互いの通貨が変動してしまってはいけないということで、いわゆるスネーク制度、お互いの為替レートを安定化させる制度を採用いたしました。そして、それが、一九七九年の欧州通貨制度といいます、お互いの為替レートをもっと厳格に安定化させるといった制度をつくってまいりました。その中では、為替安定のための短期流動性のメカニズムをつくるとか、共通通貨単位、いわゆるECU、欧州通貨単位でございますが、といったものをつくるということで域内協調を進めてきました。

 一九九九年の単一通貨ユーロの導入と、それによります中央銀行、当初は十一、後に十二の中央銀行を統合して、欧州中央銀行、ECBをつくるということになってまいりました。その中で、何といいましても、ドイツのブンデスバンクが演じました役割といいますのは非常に大きなものがありました。安定的な金融政策を行うことによってヨーロッパを主導してきたわけであります。

 そして、二〇〇四年、去年の五月には、新たに東方十カ国を加えまして、今はEUは二十五カ国体制になっております。その中では、ユーロが厳然たる国際通貨でありますし、その周辺諸国にもユーロの影響は非常に強く及んでおります。ユーロ通貨圏が拡大しつつあるということでございます。昨年末にはロシアも、対ドル安定化政策から対ユーロ安定化政策へと移っております。

 次に、国際通貨ドルの問題を取り上げてみたいと思います。

 アメリカ大陸では、ヨーロッパほどではありませんが、NAFTA、北米自由貿易地域を、米州自由貿易地域、いわゆるFTAAといったものに拡大していく、南北アメリカを一つの自由貿易地域にするという動きが動いております。

 アメリカ大陸では、制度的に通貨統合を目指そうという動きにはまだ至っておりませんが、南北アメリカは事実上のドル経済圏、ドル圏でございます。中南米諸国の多くは、今は為替フロート制に移っておりますが、しかし、米ドルが何といっても一番重要な国際的な価値基準でございます。そして、アメリカ大陸、中南米だけではなくて、ほかの発展途上国の多くも米ドルを国際的な価値基準とみなしております。近年、一九九七年、アジアで通貨危機が起こりましたが、それまでのアジア各国も米ドルを国際的な価値基準とみなしておりました。

 そうした中で、今、アメリカの経常収支赤字が拡大しているという問題が起きております。これはお手元の図三に出ておりますが、去年は、恐らく、アメリカの経常収支赤字は対GDP比で五%程度になったのではないかというふうに思われます。もし、この経常収支赤字がこのまま拡大すると一体米ドルはどうなってしまうのだろうかといった反応が、市場の中で最近出てきております。このまま経常収支赤字が拡大していきますと、これはアメリカにとりまして、対外純資産ポジション、国際投資ポジションと申しますが、これが非常に悪化していく。今は、アメリカは世界最大の対外純負債国であります。

 図四にアメリカの国際投資ポジションと日本の国際投資ポジションが書かれておりますが、アメリカの場合、今は二五%程度の対外純負債ポジション、対GDP比二五%の、いわば外の世界に対します借金がございます。日本の場合は、対外純資産があります。外に対して資産を持っております。これは、日本のGDPの三五%程度に今なっております。

 アメリカの経常収支赤字が続きますと、このアメリカの借金がどんどん拡大していくのではないかと言われております。これが行き過ぎますと、ドルは大幅に下がってしまうのではないか。その反対側としまして、円は相当上がってしまうのではないか、円高になってしまうのではないかといった懸念が持たれているわけでございます。そういう状況になりますと、アメリカの経常収支赤字は維持可能ではないということになります。

 私は、このアメリカの状況に関しまして、もう少し楽観的に考えております。

 アメリカ経済は依然として成長を続けております。アメリカ経済の柔軟性というものが非常に高い。潜在成長率では、アメリカは日本やヨーロッパを大きく上回っております。そういった成長性の高いところに資本がやってくる、経常収支の赤字ということは、海外から資本がやってくる。あるいはアメリカが借金をするということでございますが、借金をするだけの価値があるというふうに外の投資家がみなしている。

 第二番目は、アメリカは確かに純負債国化しておりますが、アメリカの海外に支払います投資収益、借金に対して払います利子あるいは配当等は比較的少ない。それに対しまして、アメリカが海外に投資している場合に得る収益、これは非常に大きなものがあります。したがいまして、アメリカの投資収益の収支は赤字にはなっておりません。アメリカは最大の純借金国でございますが、投資収益収支は黒字だという若干奇妙なことが起きておりますが、これはアメリカが海外で非常にたくさん稼いでいるということを示しています。

 三番目には、アメリカの経常収支赤字の一つの原因は、アメリカの拡大しつつある財政赤字でございますが、これは、アメリカはいろいろな場で財政赤字の縮小ということを国際公約として打ち出しております。かなり真剣に考えているというふうに思われます。

 第四番目は、ここ数年、実は既にドル安は起こっております。これは、図一ですとか図二、図二は実効実質為替レートでございますが、アメリカ・ドルは二〇〇二年から下がり始めております。そして、特にユーロに対して大きく下がっておりますし、円に対してもかなり下がっております。近々、その経常収支調整効果、ドル安によります調整効果、つまり経常収支の赤字の拡大が余り続かないということが起きてくるのではないかというふうに思われます。そして、通貨調整がもし必要であるとなった場合は、かなり、もう既にユーロ、円に対して通貨調整はなされております。人民元など新興市場諸国の為替に対して、まだ通貨調整がされる余地は大きいのかと思っております。

 国際通貨ドル、これは依然として世界の国際通貨、基軸通貨でございます。しかし、それはユーロの拡大によりまして構造的に侵食されつつあります。大きい目で見ますと、ドルがだんだん退潮していくということは、構造的にそうなるであろうというふうに思われますが、現在の経常収支の状況がそのまま急激なドル安あるいは円高といったものにすぐつながっていくというふうには思われません。

 次に、中国人民元のお話をさせていただきたいと思います。

 中国は、皆様御案内のように、大変爆発的な成長を続けております。ゴールドマン・サックスが出しました予測によりますと、二〇四〇年代には中国経済の規模はアメリカを上回るだろう、あるいは二〇二〇年ごろには日本経済の規模を上回るだろうというふうに言われております。これは、中国の市場経済への移行が順調に進む、あるいは社会的、政治的な安定性が維持されるといったことを前提にしますと、こういったシナリオが出てくるのも当然かもしれません。

 中国は、人民元を現在米ドルに事実上固定しております。大体一ドル八・二七元、八・二八元の間でございます。ところが、中国の人民元の対ドルレートの柔軟化といったものは、これはこれからは必然であるというふうに私は考えております。対ドルレートの固定化を長く続けることはできないということでございます。

 中国は、市場経済化とともに、国際資本移動の自由化を、緩やかなスピードではありますが、進めております。そして、中国のように規模の大きな経済にとりましては、自律的な金融政策、すなわち、自分の国の景気安定のために、あるいはインフレのコントロールのために独自の金融政策を持つということは必要でございます。仮に、これからますます国際資本移動の自由化が中国で進んでくる、そういう中で独自の金融政策を持とうとしますと、為替レートの柔軟化は必然、これは避けることができない問題でございます。

 そして今、足元では、中国人民元は過小評価されている、つまり安過ぎるというふうに考えております。人民元のレートが柔軟化されるとしましたら、これは人民元の切り上げが必要であるということでございます。

 その一つの理由は、外貨準備が構造的に増大しているということでございます。経常収支は若干の黒字、そして資本流入、資本収支も黒字、直接投資等で資本が入ってきています。あるいは、誤差脱漏といいます統計ではとらえることができない形で短期資金の流入も入っております。そういった中で外貨準備がふえている状況でございます。

 そして同時に、中国の中では金融機関の貸し出しがふえております。その中で経済過熱問題が出てくる。昨年には、中国は金利を引き上げるということも行いました。しかし、金利を引き上げますと、海外からますます資本が入ってくるということになります。そして、資本が入ってきて外貨準備がふえる、あるいは短期流動性がふえるということで、景気過熱を抑えることができない状況になってしまう可能性が非常に大きいと思われます。この状況は、実は一九九七年のアジア通貨危機に陥りましたアジア各国が、危機の前に遭遇していた状況とかなり似ております。中国のこの問題を解決するためには、そして健全な経済運営を行うためには、人民元の切り上げといったものが必要であるということでございます。

 もう少し構造的な観点からいたしますと、中国の場合、いわゆる購買力平価説といった考え方が経済学で行われますが、為替レートは各国の物価費を反映するものであるという考え方ですけれども、これは図五に書かれておりますが、世界全体の平均から見ますと、世界全体の平均は太い曲線で書かれております。そして、中国はこの太い曲線の上の方に、中国と書いてありませんが、黒いマークがあります。大体所得が四千五百ドル。PPPレート、購買力平価レート当たりで、一人当たり国民総所得が今中国は四千五百ドルあたり、実際には名目レートでは一千ドルあたりですけれども。その中国は、この平均線よりもかなり上にあります。かなり上にあるといいますのは、かなり通貨が過小評価されている、三〇%ほど過小評価されていると思われます。

 中国としましては、直ちに為替フロートに移るということは余り現実的ではありません。むしろ、小刻みな切り上げを許す形で、私はこれをクローリングワイダーバンドというふうに呼んでおりますが、比較的大きな幅をつくりまして、その中でレートの変動を許しつつ切り上げをしていく。そして、その中の中心レートも、時間とともに次第に緩やかに切り上げていくという方向に移ることによって為替の切り上げを行う、数年かけて三〇%ほど切り上げていくといったことがいいのではないかというふうに思っております。

 そして同時に、為替レートの安定化の対象を対米ドルから移していく、いわゆる通貨バスケット、円ですとかユーロですとかドルのバスケットに対して安定化させるといいますか、それを為替の尺度として切り上げていくということが望ましいのではないかと思われます。

 最後に、東アジアの金融協調の問題と円の役割について、残りのお時間をいただきたいと思います。

 東アジアにおきましては、金融協調がここ七、八年ほど高まっております。これは、一九九七年、九八年のアジア通貨危機の結果、東アジアで、こういう通貨危機を二度と起こしたくないという思いで金融協調が始まっております。アジアで通貨危機が起きましたときには、タイで起きた通貨危機が、フィリピン、マレーシア、インドネシア、韓国等にすぐ波及していってしまいました。これは、東アジアの中の相互依存の程度がかなり高いということを示しております。

 その中で、通貨危機時におきまして、日本は非常に大きな役割を果たしました。タイに対する経済支援、これは、タイが一九九七年七月に通貨危機に遭いまして、八月にこの経済支援がなされました。また、日本は、一九九七年九月に、アジア通貨基金構想、AMF構想といったものを打ち出しまして、何とか制度づくりを始めようとしました。これは今のところ実現されていません。新宮沢構想によります危機国への経済支援というものを行いました。これは、アジアでは大変感謝されています。東アジア諸国から日本に対する信頼度が非常に高まっているということを実感いたします。

 こういった状況の中で、二〇〇〇年からは、ASEANプラス3、ASEAN十カ国と日中韓の三カ国の間で金融協調が非常に目覚ましく進んでおります。チェンマイ・イニシアチブといいます為替スワップ協定でございますが、一たんある国で通貨問題が起きたときに、流動性を融通し合おうという枠組みでございます。あるいは、サーベイランスのシステム、お互い域内の経済情勢をちゃんと監視していこう。そして、二〇〇三年からはアジア債券市場構想といったものが出てきております。

 こういったことは、東アジアにおきます経済的な相互依存が格段に高まっているということを反映した動きでもあります。貿易面、直接投資の面、金融面でも、日本を含みます東アジアは相互の経済的な依存が高まっております。日本を中心とします直接投資が、東アジアの域内で、垂直的な産業内貿易、同じ産業の中で部品や製品を交換し合うといった国際貿易が拡大しております。そして、域内の景気循環もかなり連動性を持つようになってきております。日本や韓国、主要なASEAN諸国の間では、景気の同調化がかなり見られるようになってきました。

 現在の東アジアの経済的な相互依存の程度は、ヨーロッパの経済的な相互依存の程度と実はそれほど遜色のない状況まで来ております。こういった中では、東アジアの中におきまして、一層の金融協調あるいはいろいろな経済協調が必要でありますし、相互の為替レートを安定化させていくといったことも必要でございます。

 しかし、東アジアでは、そういった面での制度化はまだ十分進んでおりません。FTA、自由貿易協定は、交渉が行われていますが、スピードが遅いといった問題があります。東アジア全域をカバーする自由貿易協定といったものはまだございません。為替レート協調もありません。域内為替レートの安定といった問題が必要でございます。そして、それを行うには、人民元の柔軟化、人民元が柔軟になりまして、東アジアの通貨が同じように外の世界に対して動くようになるといったことが必要かと思います。

 そういった中で、通貨協調のためには、これは長い目では東アジアの通貨統合につながる潜在性を持っておりますが、そういった通貨協調あるいは経済協調におきましては、ヨーロッパにおけるかつてのドイツのように、日本の東アジアにおけるリーダーシップが求められているかと思います。日本経済を活性化させるとともに、財政を健全化させて活力のある日本経済をつくっていくということによって、日本のリーダーシップを支えていく必要があるのではないかと思っております。

 どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)

甘利委員長 ありがとうございました。

 次に、久保田公述人にお願いいたします。

久保田公述人 連合副事務局長を務めております久保田と申します。よろしくお願いします。

 本日は、働く者を代表いたしまして、勤労者が置かれております状況、特に雇用と生活実態がどうなっているのかということにつきましてお訴えさせていただき、私どもの情勢認識を話させていただきたいと思います。その上で、政府の経済財政運営への要望につきまして申し上げたいと思います。

 とりわけ強調したいことは三点でございます。

 一つは定率減税の廃止縮小問題、二つ目に雇用対策の問題、そして三つ目に社会保障制度の改革の三点につきまして、連合としての主張をお訴えさせていただきたいと思います。この予算委員会における審議におきましてぜひとも反映をさせていただきたいということで参っておりますので、よろしくお願いしたいと思います。

 定率減税の廃止縮小につきましては、反対でございます。今のサラリーマンのあるいは勤労者の生活実態ということを直視していただきまして、拙速を避けるといいますか、このタイミングは本当に必要なのかどうかということについて、もう一度再考いただきたいという立場でございます。

 雇用対策の問題につきまして、この予算で最大の問題意識を持っておりますのは、雇用問題はもう終わったという認識が政府の中にあるのではないか。これは現場と大変大きなギャップがあります。後で申し上げますが、雇用の中身の問題、そして、今後の日本社会のあり方として、今こそ雇用問題をしっかりやっていく時期にあるというふうに考えております。

 三つ目の、社会保障制度改革は、もはや待ったなしだというふうに思っております。ぜひ、国会の責任においてあるいは政治家の責任において、サラリーマンの将来不安の解消ということについて全力を挙げていただきたいという立場でございます。

 まず、勤労者の生活実態につきまして、お手元に、連合総研のアンケート、あるいは定率減税縮小廃止の連合の主張を、資料を用意させていただきました。お時間もございませんので後で目を通していただきたいのですが、端的に、勤労者の生活実態が今どうなのかということについて申し上げたいと思います。

 昨年九月に実施されました日銀の生活意識に関するアンケート調査では、約半数の人が、一年前と比べて現在の暮らし向きは悪くなっていると答えております。また、一年前と比べて収入が減ったという人も約五割弱。財布のひもを締め続けているわけでございます。

 その理由としては、六割を超える人たちが、年金や社会保険の給付が今後少なくなるんじゃないかという不安を抱えています。また、六割弱の人が、将来の仕事や収入への不安があると答えています。また、四割強の人たちが、将来増税されるのではないか、社会保障費の負担が引き上げられるのではないかという不安を持っているということが明らかになっております。

 内需主導型の経済に向かうために、まず、今最も大事なことは、民のかまどといいますか、個人消費の圧倒的多数を占める、そして、日本の雇用労働者の八割がサラリーマンでありますが、そのサラリーマンの日常の生活の安定と、雇用の不安をしっかり解消し、しかも、将来への、社会保障を含めた老後の不安を、安心できるそういう制度をつくるということが第一義にあるべきではないかと考えています。

 連合のシンクタンク、連合総研がやりましたこの手元のアンケートでも、今申し上げた職場、賃金の実態は如実に出ております。勤め先での仕事の先行きや労働条件が下がるんじゃないかと思っている人は、回答者の何と六割を占めております。自分が将来失業するんじゃないかと不安におびえる人も五人に一人の割合でおりますし、従業員百人未満の企業では約三割が失業不安を抱えております。雇用の不安というのは実は全く解消されていないというのが実態でございます。

 所得もそうです。勤労者世帯の可処分所得は五年連続で下がり続けているというのが政府のデータでも明らかになっています。私どもの調査でも、自分の賃金が一年前と比べて減ったという人が三割を超えております。

 一方で、職場での働き方のアンバランスが拡大をしています。長期失業者が大変ふえている一方で、今職についている人たちは、ぎりぎりの人数で仕事をしております関係から、実は大変忙しい。不払い残業、いわゆるサービス残業の横行はとまっておりません。

 連合が昨年十一月に不払い残業相談ダイヤルというのをやりましたけれども、もう朝から晩まで電話がひっきりなしでございます。連合総研のアンケートでも、きっちり残業代が支払われているという回答を寄せた方は五割以下でございまして、労基法違反とも言える行為が、企業規模にかかわらず依然として存在をしております。一たん残業の打刻をして、その後仕事をするなんというひどい例もこの相談ダイヤルには寄せられておりました。

 連合としても、徹底して労働組合としての改善の努力をいたしますが、それでも改善されない場合は内部告発辞さずということを明言しながら今職場で取り組んでいる最中でございますが、法の遵守の立場から、労働基準監督行政をぜひ強化していただきたいというふうに思っております。

 政府は、一貫して景気は堅調に回復していると主張されておりますが、私どもの実感と全く違います。今、我々の実感は、企業の業績回復が自分の生活の改善に結びついていないということに尽きるわけでございます。OECDの労働組合諮問委員会の会議で、経済総局長も、日本の経済の問題は企業の所得が家計部門に移転していないことに尽きるという指摘をされております。全くそのとおりだと思っています。働く者に、今、景気回復の実感はありません。生活が向上していっているという実感がない、そこに最大の課題がございます。

 政府の経済財政運営につきまして、小泉政権の成果は何か。さまざまな成果が上がっていると言われていますが、問題を先送りし、しかも国民に痛みを押しつけて、構造改革という名の市場万能主義が横行していったのではないかという懸念を持っております。財政再建も大事でありますが、余りに最優先にし過ぎますとさまざまなデメリットも出てまいります。

 しかも、今、我々労働組合の問題意識の最大のポイントは二極化でございます。この日本を支えてきた分厚い中間層といいますか、一億総中流社会と言われましたが、それが崩れかけているというのが言われているところでございます。あらゆる分野において二極化がひどくなり、産業間、あるいは同じ産業でも企業の間で、企業規模間、大企業と中小企業、そして地域の間においても格差がますます広がっております。働く者の間でも、いわゆる雇用形態間によって格差がどんどん開いています。正規社員と言われる典型社員と、パートやアルバイトや派遣労働者の非典型社員の間の格差はますます広がっています。そして、それを後押ししてきたのは、実は規制緩和という名の政府の政策ではなかったかというふうに思います。

 勤労者の雇用や生活、社会保障への将来不安が続く限り、景気の本格的な自律回復は望めないというのが連合の主張でございます。ぜひ耳を傾けていただきたいと思います。

 政府の構造改革は、まず国民に痛みありきでやってしまっているのではないか、抜本的な改革は先送りという感がぬぐえません。我が国の経済を持続的な成長軌道に乗せるためには、まず、雇用、生活の安定と将来不安の解消を最優先とすべきだと考えます。自律的な景気回復を確実に実現した上で、財政構造の抜本的な改革を断行し、中長期的な財政再建を目指していくべきであると考えています。

 そのためには、安心して暮らし、働ける環境をつくるための政策であり、予算であるべきだと考えます。特に、雇用創出や格差是正につながる政策を最優先に打ち出していただきたいと思います。国民が納得できる税制や社会保障制度の抜本改革を早期に実現して国民の将来不安を解消することこそが、今求められているのではないでしょうか。

 そういう観点から、定率減税問題と雇用対策と社会保障制度の三点につきまして御意見を申し上げたいと思います。

 まず、定率減税の廃止縮減問題ですが、お手元に資料を用意いたしました。国民が雇用、生活不安を抱えて、将来不安も解消されないまま、貯蓄を取り崩しながらの生活を余儀なくされている中で、税や社会保険料などの国民負担だけが相次いで引き上げられているということについて、極めて問題ではないかと考えております。特に、定率減税の二〇〇六年一月からの段階的縮小廃止が今回の政府予算案に盛り込まれているということにつきましては、強く反対の立場から御意見を申し上げたいと思います。

 指摘すべきことは二点です。一つは景気への影響、二つ目は、所得税以外の恒久的減税の取り扱いが、もう条件が終わっているのかどうかという問題でございます。

 所得税、住民税の定率減税について定めました一九九九年の恒久的減税法では、景気が回復したら見直すということになっておりますが、今、景気回復だと言われても、それは実感なき景気回復でありまして、定率減税を縮小廃止することは、医療費や配偶者特別控除の廃止、年金保険料や雇用保険料の相次ぐ負担増でただでさえ負担感を感じている勤労者の家計を直撃して、消費が冷え込んでしまいかねないという懸念を持っています。

 とりわけ、景気回復から取り残されている地域経済、地方の経済は大きなマイナスになりかねないと懸念をしております。今、連合は、定率減税問題で街頭に出ております。とりわけ、地方に行きますと、サラリーマンの方々から大変大きな反応がございます。連合頑張ってくれ、生活大変だという声は、地方に行けば行くほど非常に強いものがございます。

 二つ目に、定率減税問題ですが、恒久的減税法では、所得税、住民税の最高税率及び法人税率の引き下げも措置をされたわけでございます。これも所得税の抜本的な見直しとセットであると書かれているわけでございまして、政府の説明では、恒久的減税を廃止する条件がそろったと言っておりますが、では、それならば、最高税率や法人税率についても議論があってしかるべきじゃないか。しかし、この間、そうした議論は全く行われておりませんし、政府が示されているのは、所得税、住民税の定率減税だけの廃止縮小案になっております。国民が納得できるだけの議論も説明も全く欠けているんじゃないかというふうに思います。

 税制の抜本的改革を言うのであれば、ジニ係数に顕著にあらわれているように、拡大しつつある格差をどう是正するかという視点が貫かれなければならないと考えています。明らかに我が国では税の所得再配分機能が落ちているのではないか。これを是正するための税制改革、所得税の累進機能をもう一回高める、そういう見直しがあってこそ、恒久的減税法は見直しをされる時期に来たと言えるのではないかと思います。

 連合は、労働者の所得増に確実につながる景気回復への道筋はまだ見えていないということ、そして、税制が持つ所得再配分機能を高める視点からの抜本的改革が行われていないこと、この二点から、恒久的減税見直しの条件はまだ満たされていないと考えております。したがって、二〇〇六年一月からの定率減税の廃止縮小は何としてもすべきではないということをもう一度強調させていただきたいと思います。

 二点目は雇用問題です。

 雇用問題につきまして、先ほど申しましたけれども、雇用問題はもう終わったという感覚があるのではないかという最大の危機感を持っております。そういう意味で、この政府予算は、雇用対策予算は全く不十分だと言わざるを得ません。大幅な拡充を求めていきたいと思います。

 二つありますが、第一は雇用の二極化の問題、第二は若年者雇用の問題でございます。

 雇用の二極化の問題ですが、総務省の労働力調査でも、九八年からの五年間で、典型労働者、いわゆる正規従業員は三百七十二万人も減っておりますが、パート、派遣、契約、請負などの非典型労働者は逆に四百十万人もふえています。フリーターも二百十七万人を数えまして、将来の経済成長や社会保障制度への悪影響が懸念されています。

 これらの非典型労働者の数の中には、労働契約を結ばずに契約上は請負や業務委託契約となっている人たち、すなわち、実態は極めて労働者に近い個人請負や委託労働者が多くおられます。また、パートタイム労働者の中には、生活費を稼ぐために多重就労を行っている場合もございます。政府の統計では就業者がふえていると言っておりますが、中身はこういう問題でございまして、雇用問題は解決したというのはとんでもない認識のギャップ、誤解でございます。

 連合は、非典型労働者がふえることはけしからぬ、雇用の多様化が進むことはけしからぬと必ずしも言っているわけではございません。働く側からすれば、選択肢の拡大という側面がございます。ただ、そのためにはしっかりしたルールをしっかり確保してもらいたい。そのキーワードは均等待遇でございます。

 我が国は、ILO百号条約、これは男女同一価値労働同一報酬の条約ですが、これを既に批准しています。すべての労働者に、公正な賃金、あるいはいかなる差別もない同一価値の労働者についての同一報酬を規定している。政府はこれを誠実に実現すべき国際的責任も負っていると思います。

 連合も、均等待遇の実現をこの春季生活闘争の中で最重点課題として位置づけておりまして、パートタイマーの組織化、条件改善、今職場で盛んに取り組んでおります。同時に、パート・有期契約労働法の制定を求めておりまして、昨年六月に民主党が提出をしていただきましたパート労働法の実現を切に願うものでございます。均等待遇というルールをしっかりした上で雇用形態の多様化やそういうものに対応するということがなければ、どこまでも二極化は進んでいく、そして、将来の社会保障や若い人たちの生涯にわたる生活というものはこれから大変なことになっていくんじゃないかという危惧を持っております。

 若年者雇用問題に移ります。

 この部分は、政府とも問題の意識は同じであろうと期待しておりますけれども、問題は、対策が十分かどうかということでございます。

 フリーターの急増やニートの存在というのは、我が国の中長期の競争力や社会保障や担税力や社会の活力さらには治安など、さまざまな問題につながりかねない深刻な問題だと思っております。UFJ総研の試算によりますと、税収や消費などの経済的な損失は十兆円以上というふうにされています。若年者問題は、社会全体として取り組むことが重要であると考えています。

 フリーター対策でございますが、フリーターは働く意思がございますので、雇用機会の確保が重要となります。さきに連合と日本経団連のトップ懇談会でも確認したところでございますが、若年者対策の必要性については労使ともに問題意識を持っておりますので、政府としても、余力のある企業に対して、若年者の雇用を促進するような施策をぜひ強化していただきたいと思います。トライアル雇用やインターンシップ、キャリアコンサルタントの養成、増員につきましては大幅に拡充していただきたいと思います。

 ジョブカフェにつきましても、現在、各都道府県に一カ所設置とされておりますが、その設置数をもっとふやしていただきたい。広域行政三百カ所ぐらいにふやしていただきたい。そして、相談機能と紹介機能がきちんとリンクをしたワンストップサービスが提供されるように機能強化を図るべきだと思います。

 ニート問題への対応については、これは大変難しい問題だと思っておりますが、昔のように、おやじの背中を見て育つような環境条件が非常に薄れています。ただ、やはり親が雇用と生活の不安におびえるような環境の中では、その子供たちが将来に希望が持てないということになっていくのではないかというふうに考えております。

 最も大事なことは、学校教育における職業観や勤労観の醸成ということがやはり中核になるのではないかというふうに思っております。既に幾つかの県で行われていますが、中学校や高校の授業で一週間くらい職場体験をさせる試みが行われています。こうしたものへの支援を拡充させることは大変重要だと思います。受け入れ先の企業を探すのに今苦労しているようでございますが、企業に対するインセンティブなども考えていただきまして、連合としても、教育現場への講師派遣や若年者の仕事探し支援など、労働組合としても協力できるところは積極的に協力をしてまいりたいというふうに思います。

 その点で、地域労使就職支援機構というのを、予算をつけていただきまして、今労使で運営しておりますが、ここをどう活用するかという視点をお訴えさせていただきたいと思います。学生やニート等に職場経験をさせる受け入れ側企業との橋渡しをする、そして、若年者への勤労意識の啓発や適職相談を行うコーディネート機関として、この地域労使就職支援機構はふさわしい組織ではないかと考えております。既に一部の機構では実施しているところもございまして、各県の労使共同で若年者対策に取り組む機関の一つとしてこの地域労使就職支援機構を位置づけていただくとともに、十分な継続した予算措置をお願い申し上げたいと思います。

 最後、三つ目の視点です。社会保障制度の抜本改革について申し上げたいと思います。

 昨年の年金制度の改革におきましては、結局、年金保険料の引き上げと給付の削減だけが決定をされまして、制度の抜本改革を見送られたということは極めて残念だ、問題であったと考えております。厚生年金の空洞化、国民年金の空洞化はとまっておりません。その結果、社会保障制度に対する国民の信頼が全く回復されずに、国民年金の未納率は一層拡大している現状にあるんじゃないかというふうに思っています。

 私ども連合にとって、昨年の年金制度改革の唯一の収穫は、労使代表が入って、連合の笹森会長が入っておりますが、年金、医療、介護の社会保障制度を総合的かつ一体的に見直すための社会保障制度のあり方に関する懇談会を設置していただいたことだと考えております。この懇談会において、実効ある検討と、その結果を最大限に尊重した社会保障制度の抜本改革を実現することをお願いいたしたいと思います。

 もう時間がございません。連合としては、社会保険料の一五%を超える以内に抜本改革をすべしだというふうに考えておりまして、この懇談会に並行して、この国会におきましても、党派を超えた検討の場を設置されるよう切にお願いを申し上げたいと思います。サラリーマン、勤労者は本当に将来不安の解消を願っております。国会の先生方の決断と、そして、現在の社会保障制度の問題点につきまして本当に真剣に考えていただきまして、ぜひこの国会の場で安心できる社会保障制度の改革をなし遂げていただきたいというふうに思います。

 もう一つ、この国会におきましては介護保険改正案が審議されることになっておりますが、この改正法案には、被保険者、給付対象者の拡大について附則に検討条項がついておりますが、この内容では、二〇〇九年度からの適用拡大があいまいになったままでございます。昨年の年金制度改革における先送り体質と同じことが出ているのではないかと危惧をいたします。

 連合は、制度発足当初から、被保険者、すなわち四十歳以上の被保険者と六十五歳以上の給付対象者につきまして、普遍主義という視点から、年齢で限定すべきではないとずっと一貫して主張し続けてまいりました。ぜひ、二〇〇九年度に適用拡大を行うことを明確にしていただきたいというふうに思います。被保険者の範囲につきましては、四十歳以上から二十歳以上への拡大の道筋をこの国会でつけていただきたいと切に要望いたしたいと思います。

 以上、勤労者の厳しい雇用、生活実態を踏まえまして、働く者を代表して、この政府予算案を勤労者国民の生活不安、将来不安を払拭する予算に組み替えていただきたいということを申し上げまして、連合を代表して意見といたします。

 ありがとうございました。(拍手)

甘利委員長 ありがとうございました。

 次に、河野公述人にお願いいたします。

河野公述人 御指名をいただきましたBNPパリバ証券東京支店の経済調査部長・チーフエコノミストであります河野龍太郎であります。

 本日は、平成十七年度予算案について意見を述べさせていただきたいと思います。

 まず最初に、予算案全体に関して意見を述べさせていただきたいと思います。いろいろ細かい問題点はあろうかと思いますが、基本的には与党案に対して賛成の立場であります。

 既に日本の公的債務の水準は、持続可能性が問題になるほど大きく膨らんでおります。このため、可能であれば、できるだけ早い時期から財政再建を行うべきだということが考えられます。ただし、現在の日本経済の状況をかんがみますと、デフレ脱却の兆しが見えてきたといっても、まだ完全に立ち直ったとは言えない状況であります。マクロ経済の状況を踏まえますと、大幅な歳出の削減あるいは大幅な増税を実施するには、もう少し体力を回復してからというふうになろうかと思います。

 とはいえ、体力が回復するまで何もしないかというと、そういうのも妥当ではないというふうに考えております。デフレであったとしても、可能な財政再建というのはあります。それは、歳出の中身を入れかえるということです。歳出の中身を改革していくということであります。仮に歳出額の全体が一定でありましても、あるいは財政赤字の規模が同じでありましても、必要性の低くなった歳出を削減していって、一方で必要性のより高い歳出に入れかえていくということで、より望ましい歳出構造に近づけていくというふうなことは可能だと考えております。

 こうした観点からしますと、平成十七年度予算は、マクロ経済の状況を勘案して、全体の歳出規模をほぼ横ばいに抑制する中で、従来よりもめり張りをつけた予算配分になっているという点では、歳出構造の見直しを進めているということで適切だというふうに考えております。

 今回、十七年度予算案については、定率減税の縮減が盛り込まれているわけです。将来については全廃が必要かというふうに思いますが、現在のマクロ経済への悪影響を考えますと、十七年度予算案については半減にとどめたという点でも妥当だというふうに考えております。また、マクロ経済の情勢次第では、実施を再検討するということも与党サイドでは念頭に置いているというふうに聞いておりますので、こちらも妥当な措置だというふうに考えております。

 ただ、問題は、周知のとおり、マクロ経済、足元減速しているのではないかということで、この観点で、定率減税の縮減は妥当かということについてもう少し考えてみたいと思います。

 御存じのとおり、二〇〇四年の十―十二月のGDPは、前期比でマイナス〇・一%ということになりました。二〇〇四年四―六月期の前期比マイナス〇・二%、七―九月期のマイナス〇・三%に続いて、三四半期連続のマイナス成長となっております。統計の性格上、恐らく、いずれも小幅なマイナスでありましたので、正確なところは、ゼロ成長が続いたというふうに言った方がいいんだと思います。

 こうした状況のもとで、定率減税の半減、縮減を行っても大丈夫かという意見も十分あるかと思われます。この点について、今から意見を述べたいと思います。

 まず、結論を先に述べますと、経済統計を詳しく見てみますと、既に足元で景気回復の兆しなるものが見え始めております。ですから、現在の景気減速は恐らく一時的で、深刻な後退には陥らないというふうに予測しております。事後的に見ると、この一―三月期から実は景気回復が始まっていたという評価になる可能性も十分あり得ます。ですから、定率減税の半減の実施というのは二〇〇六年の一月からということになりますが、それをきっかけに景気が深刻な後退に陥る可能性は小さいというふうに考えております。

 もう少し経済についてお話をしたいと思います。

 皆様のお手元に日本経済の見通しという資料がございますが、こちらの資料四ページを開いていただきたいと思います。

 今回の景気の減速のきっかけは何だったかといいますと、昨年の四―六月期にアメリカの景気減速が起こったことが背景でありました。この影響で、日本を含み世界各国のアメリカ向けの輸出が減速したということで、日本の景気が七―九月期から減速したということが背景になっております。

 この四ページ目のグラフを見ますと、鉱工業生産と輸出のグラフが出ておりますが、輸出が昨年の七―九月期に改善がとまった途端に、生産が七―九月、十二月、連続で減速したということがこのグラフでわかると思います。大体、輸出が上がると、生産がほぼ同時あるいは一四半期後に上昇し、輸出が減速しますと、同時あるいはほぼ一四半期後に生産が減速していくということになっております。

 ですが、今回の景気減速のきっかけとなりましたアメリカにつきましては、減速自体が非常に一時的に終わっておりまして、既に昨年の七―九月から回復が始まっております。その影響もありまして、このグラフが示しているとおりですが、日本の輸出は十―十二月から既に緩やかに回復しております。輸出と生産の連動性を考えますと、この一―三月から生産は回復に転じてくるというふうに考えられます。

 つまり、今回の日本経済の減速のきっかけとなったショック自体が非常に小さかったということもありますし、そのショックの震源地でありますアメリカの減速も既に終わっているということを考えると、今回の日本の景気減速は非常に軽微なのではないかというふうに考えられます。これが一つの理由であります。

 もう一つ、日本経済の今回の減速が非常に軽微ではないかと考える理由があります。それは、日本経済自身が九〇年代に比べて相当改善してきたということであります。幾つか要因があるのですが、私自身、一番大きな変化は、企業や家計が持っていましたデフレ予想あるいは資産デフレ予想というのが足元で大きく後退してきているということがあるのだろうと思います。私自身、日本経済の失われた十年と呼ばれる長期低迷の最大の原因は、企業や家計でデフレ予想が定着していたということがあったと考えております。

 つまり、どういうことかといいますと、企業では、まだまだ価格が下がって売り上げが減るから設備投資をふやさない、あるいは採用をふやさない、あるいは家計では、まだまだ値段が下がるから、値段が下がった後に消費すればいいんだから消費は先送りするというのがデフレ予想の定着で、景気を抑制していた要因なわけですが、このデフレ予想がかなり足元後退してきたということであります。

 この点、もう少しお話をしたいと思います。

 グラフの六ページを見ていただきたいと思います。日本銀行の発表します全国企業短期経済観測調査、いわゆる短観というのがあるんですが、この中に販売価格判断という項目があります。企業は、自分の会社の製品に対して、あるいは自分の会社のサービスについて価格が上がるか下がるかということを答えているわけなんですが、この六ページ目の左側のグラフを見ますと、こちらは先行き自社製品の値段が下がっていくという割合ですが、二〇〇二年をピークに減少しているということがわかると思います。

 一方で、右側のグラフ、こちらは価格が先行き上がっていくという予想ですが、二〇〇三年の後半から、価格が上がるというふうに見込む企業がふえております。昨年後半、景気減速が起こったわけですけれども、このデフレ予想の後退という状況が基本的には変わっていなかったということがわかると思います。

 今お話ししましたとおりですが、少し前までは、デフレ予想が非常に強いから売り上げの増加の見通しが立たない、だから企業は、手元の資金がふえても、借金の返済に回して設備投資や採用をふやさなかったわけですが、それが状況が変わってきたんだというわけであります。

 最近も、企業経営者の方とお話をしますと、借金を返すのがもったいなくなり始めたというふうにおっしゃっているんですね。どういうことかといいますと、借入金利が下がっているわけじゃないんです。ですが、価格が下落するという予想が後退していって、売り上げがふえるという見通しが出てきた。そして、そうした中で銀行金利を見ると、今借りているお金を見ると、金利はそんなに高くない。これは返すのはもったいない、それならば使おうということで設備投資をされ始めています。これが最近の設備投資の回復の背景であります。

 雇用でも全く同じことが起こっておりまして、雇用が回復しているというのも、このデフレ予想の後退が非常に影響しているということであります。

 ただ、そうはいっても、本当に企業が設備投資あるいは採用をふやす状況になっているのか、過剰雇用、過剰設備はどこに行ったんだということですが、実はここも相当改善しているということであります。

 これは七ページ目のグラフを見ていただければ明らかだと思います。七ページ目のグラフは、左側に、企業が生産設備について過剰か不足かを答えたものですが、設備の過剰感は非常になくなっているというのがわかると思います。九〇年代の水準に比べても、非常に低い状況までやってきているということです。ですから、環境は相当変わっているんだということです。

 右側のグラフは、より気になります雇用状況です。企業が考える雇用過剰感、不足感を見ますと、過剰感はほとんどない、ゼロになっているわけです。雇用過剰だというふうに思い込んでいらっしゃる方も多いんですけれども、実は、企業が考える雇用の過剰感はほとんどゼロになっております。実際に、こちらは全規模、全産業のデータを見たものですが、非製造業だけ取り出しますと、大企業、中堅、中小企業、いずれも雇用不足という状況になっております。そうすると、企業のいわゆる今までの大きな問題、設備の過剰問題、雇用の過剰問題はほとんどなくなっている、むしろ足りなくなって、設備投資をふやす、雇用をふやすという状況までやってきているんだというわけであります。

 もう一つ、次の八ページ目のグラフを見ていただきたいと思います。こちらは企業の業績の動向を示しているグラフです。このグラフには、労働分配率ということで、企業の生み出した付加価値のうち、労働者の取り分が出ております。この労働者の取り分が下がっているということは、当然、企業の収益が回復してきているということです。

 九〇年代、大きな問題は、売り上げがふえない中で労働者の取り分がふえてきたということで、企業がもうかっていなかった、成長のエンジンである企業が全くもうかっていなかったということが大きな問題だったわけですが、二〇〇三年の後半から、製造業のみならず非製造業の労働分配率も下がり始めたということです。まさに企業業績が改善をし始めたということであります。

 そうすると、過剰雇用がむしろ不足になってきた、あるいは過剰設備がむしろ非常に和らいできた状況のもとで企業業績が改善しておりますので、現在の企業業績の改善がエンジンとなって設備投資がふえ始めた、そしてようやく雇用に回復が向かい始めたという状況であります。

 ただ、こういった状況だと、雇用に全く、家計部門に恩恵が行っていないのではないかというふうに見られると思いますが、実は、ついに家計部門への恩恵も始まり始めたというのが次の九ページ目のグラフであります。

 雇用情勢は実は相当改善しておりまして、左側のグラフを見ていただければわかるとおりですが、二〇〇三年に三百六十万人いた失業者、こちらは六十万人既に減りまして、三百万人まで減っております。雇用情勢は相当改善しているんだという状況です。

 一方で、家計がそれをどう受けとめているかということなんですが、右側のグラフが、消費者がどのように雇用状況を考えるかということであります。九〇年代で最も改善している状況まで行っているということです。つまり、二〇〇一年、二年に日本国じゅうを覆いました失職リスクなるものは相当後退しております。

 つまり、周りで採用がふえている、失業者が減っているという状況なので、雇用情勢は相当改善しているんだということであります。これは、あらゆる家計部門に聞いたセンチメントインデックスで、雇用情勢の改善から、消費者の不安感は後退、あるいは消費者の態度は改善しているというのがいずれの統計からも出ております。そういった意味で、消費を取り巻く環境は改善しております。

 ただ、問題は、御存じのとおり、GDP統計を見ますと、七―九月、十―十二月期、いずれも消費は若干の減少だったわけで、この雇用情勢あるいは消費環境の改善とどう整合的なのかというわけであります。

 実は、昨年の七―九月あるいは十―十二月の消費の低迷、一番大きかった要因は、皆さん御存じのとおり、日本に相次いで上陸した台風の影響と、暖冬で冬物衣料が売れなかった、こちらが非常に大きく影響しております。ですが、今申しましたとおり、雇用情勢が非常に改善して、家計部門のセンチメントも非常に底がたい状況が続いておりますので、今回のGDP統計で雇用者所得の下げどまりも確認されておりますので、個人消費も早晩改善に向かってくるだろうというふうに考えられます。

 ここまでの話をまとめますと、景気は既に明るい兆しも見え始めておりますので、定率減税の半減を行っても、それをきっかけに景気が大きく悪化する可能性は小さいと思います。もちろん、将来、不測の事態が生じたときには再検討するということも視野に入れておくべきだというふうに考えております。

 これまでお話ししましたように、デフレ予想はかなり後退してきておりまして、日本経済も徐々に正常な状態に近づいております。ですから、十七年度予算案の議論だけではなくて、今後の財政再建のためにどのような政策をとるべきか、そろそろ十年先、二十年先をにらんだ戦略を明確に打ち出す時期になったのではないかというふうに私自身考えております。

 ですので、最後に、今後の財政再建のあり方について、私の考えを述べさせていただきたいと思います。

 まず、毎年一般会計歳出で八十兆円強、そして歳入が四十兆円強しかなくて、国債依存度が四〇%というふうな現在の状況を考えると、景気回復で自然増収が図れるとか、歳出削減だけで財政再建が可能だという見方はちょっと難しいんだというふうに思います。いずれは消費税率の引き上げなどの増税も検討すべきだというふうに考えますし、日本の場合、諸外国に比べますと、日本の家計部門の税負担は決して重いとは言えないということもあります。ですから、課税所得最低限の引き下げも必要だと思います。

 ただ、現在の歳出構造を続けたままでは、国民の多くは増税を決してすんなりとは支持しないということも考えておかないといけないと思います。つまり、増税を行うのであれば、増税の前提として、十七年度予算案で行われた見直し以上に徹底的な歳出構造の見直しが必要だというふうに思われます。

 それで、財政再建の本来の目的というのは、公的債務を持続可能な水準まで引き下げるということもあるわけですが、それだけではなくて、ある種、すっかり固定化してしまった歳出を削減して、限られた財政資金を時代の要請に応じた歳出へと振りかえるということがあります。本当に必要な歳出だというふうに国民が考えるのであれば、国民は納得して税金を払うと思います。

 また、本格的な歳出削減を行う際には、国民に対して国がどこまで公共サービスを提供するのか、あるいはどこまで社会保障を出すのかという最低限保障すべき水準、いわゆるナショナルミニマムの水準も改めて打ち出す必要があると思います。

 現在の公共サービスは、私から見ますと、本来あるべきナショナルミニマムの水準を超えたものまで国が供給しているのではないかというふうに考えます。少なくとも、ナショナルミニマムを超えたサービスについては、対価を払ってもよいと思う方が、対価を払った上でサービスを受け取るような仕組みにすべきだというふうに考えます。少なくとも受益と負担の原則を重視した制度にしなければ、財政再建は達成できないというふうに考えております。

 さらに、国民のニーズは、昔と大きく異なって、多様化しています。ですから、現在の公共サービスをすべて国がこれまでどおり供給していく必要があるのかどうかというのも再検討する必要があると思います。

 つまり、人によっては、もっとサービスが簡素でよいからコストが少ない方がよいんだというふうに考える人もいますし、一方で、人によっては、もっとお金を払っていいからもっと質の高いサービスが欲しいというふうに考える人もいると思います。しかし、これに国がこたえようとすると、料金も一律でサービス内容も質も一律だということになってしまいます。ですから、さまざまなニーズに対応するためには、そのサービスの供給を民間企業にゆだねていく必要があるということだと思います。

 最後に、今後、人口の減少と高齢化で、例えば労働あるいは貯蓄といった経済資源にはこれまで以上に強い制約がかかってきます。これまでは貯蓄も余っていた、労働も余っていたという議論ですが、これも徐々に減ってくるということです。そうしますと、一方で、現役世代の負担はますますふえてきます。負担そのものを軽減する努力も必要なわけですが、同時に、高まってくる負担を維持可能とするためには、できる限り現役世代の所得あるいは生産性を高める必要があります。

 そのためにどうするかということですが、同じ経済資源を使ってもより高い産出が可能な経済主体に生産を任せていくというのも一つの考えだと思います。つまり、政府が行うのではなくて、民間にできることは民間に任せるということが重要だと思います。日本経済が抱える多くの問題は、生産性を高めることである程度解決していくことが可能だと思われます。

 そして、長期的に生産性を高めるために重要なことは、マクロ経済政策によって物価や雇用といったマクロ経済の安定化を図りつつ、同時に、市場を自由かつ競争的に保つことで、人々の自由な創意と工夫を最大限に引き出してくるということだと思われます。

 経済成長の源泉というのは、あくまでも民間の自由な経済活動の結果から生まれてくるものであって、政府活動の領域の拡大というのは、むしろ一国経済の成長を損なう可能性が高いことを常に認識しておく必要があると思われます。こうした観点からも、財政再建を進めていくことは重要だと思います。

 以上であります。どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)

甘利委員長 ありがとうございました。

 次に、酒井公述人にお願いいたします。

酒井公述人 ただいま御指名いただきましたアジア経済研究所の酒井でございます。

 私は、これまでの三先生方とは若干話題を異にいたしまして、イラク情勢について解説をさせていただきたいと存じます。これに関しましては、予算委員会というこの場におきまして、とりわけ外交、経済協力、防衛といったような議論をしていただく際に基礎的な情報ということで、議論の土台の情報として御参考に聞いていただければというふうに考えて、お話をさせていただきたいと存じます。

 お手元に三枚紙の資料をつけさせていただいております。先の二枚が本日お話しいたします内容になっておりまして、三枚目には、今次イラクで行われました国会の選挙の結果の詳細を記してございます。

 まず、選挙が一月の終わりに実施されたわけですけれども、今後、イラクにおいて、選挙によって選ばれた新たな政権がどのような形でイラクに安定をもたらすことになるのか、あるいは、それに伴い、国際的な治安情勢、特に中東の治安情勢は一体どのように展開していくのかということを中心にお話をしたいと思います。

 この一月の終わりに実施されましたイラクでの国民議会選挙、そして、最近では、それに基づいて新たに首相がそろそろ決まるということになっております。恐らく、来月の前半から半ばにかけては新たな政権の陣容は固まるということになっていくかと思いますが、この選挙の結果の最大の特徴と申しますのは、しばしば新聞などに報じられておりますのは、シーア派勢力が圧勝であるというふうに伝えられております。これは必ずしも正確な表現ではございませんで、今回の選挙の特徴を一言で申し上げるといたしますと、イスラム勢力、つまり宗教政党の過半数の確保ということが一番大きな性格になるかと思います。

 同じシーア派でありましても、現首相であるアラウィ首相のように、極めて強い世俗主義、宗教色を排した世俗主義に基づく国家運営ということを考えていた人たちが惨敗いたしまして、それにかわって、イスラム国家の樹立を目指すイスラム政党、イスラム主義に基づく政党が少なくとも議会の過半数を占めているというのが今のイラクの現状であります。

 そのことが、とりわけシーア派のイスラム勢力が大半を占めるということで、宗派対立を助長することになるのではないか。さらに言えば、このイスラム国家の樹立を求める宗教勢力は、今回の選挙の公約で多国籍軍の撤退日程を明示化せよというような要求を掲げているということを考えますと、米軍を中心とした多国籍軍との関係も、果たして今後安定的に続くかどうかというのは、これまでのようには安定的にはいかないのではないかという懸念が出てまいります。

 そこで、今後、この議会の勢力を反映して、どのような形で新たな移行政権、ことし末まで続く予定になっております移行政権の陣容がどのように決まるかということが注目されております。

 重要なポイントは三点ございます。

 まず一点目には、今申し上げましたように、議会で過半数を占めましたシーア派のイスラム勢力がどこまで人事の主要ポストを握ってくるかという点が最も注目されるわけです。

 この宗教政党を集めました第一党であるイラク統一同盟というところには、三つの大きな政党が入っております。このうち、ここに記してございますけれども、SCIRIというふうに略されておりますけれども、SCIRIという政党、そしてダアワ党というこの二つの政党が、これまで申し上げてきましたような、イスラム国家の樹立を目標とするいわゆる宗教政党ということになります。恐らくは、次回の組閣人事におきましては、こうしたSCIRIあるいはダアワ党という政党の幹部が主要な人事を握ってくるだろうというふうに考えられるわけです。

 こうした宗教政党が人事ポストの主要な部分を独占するというようなことになった場合に、二つの問題点が考えられます。

 一つは、まず、諸政策の宗教化ということになります。これまでの世俗的な法体系から、宗教的な色彩の強い政策が単独過半数で議会で可決できるというような状況になります。これは、後ほど申し上げますけれども、憲法の制定においても重要なポイントになってまいります。特に、これまでも、これまでのイラクの暫定政権においては、こういった宗教勢力は、まず財務省、それから青年スポーツ省、あるいは、今ではございませんけれども戦後直後には厚生省といったような、いわば宗教政党としては基本であるところの生活密着型の省庁をまず押さえるという形で来ておりますから、恐らく次回の人事においても、そういったところ、特に経済省庁を中心に宗教政党が押さえてくるものというふうに考えられます。

 二番目の問題は、イランとの関係でございます。これは、やはりシーア派のイスラム政党であるということを念頭に置きますと、こうした今挙げましたSCIRIなどのような政党は、二十年間にわたってイランに亡命し、イランで政治家、そして軍人といったものを養成、育成を受けてきたという経験も持ちます。ですから、今後、例えば、これも後ほど申し上げますけれども、こうした宗教政党、特に、イランでの亡命経験があり、イランと強いパイプを持つような政治家が国防相あるいは内務相といったような治安関係の職務につくということになりますと、これはイラクの安全保障政策において大きなシフト転換であるということになるかと思います。

 こうしたことに対して、例えば、周辺のアラブ諸国のサウジアラビアやヨルダンといったようなスンニ派の、特に世俗主義の強いシリアやエジプトといった国も含めて、こうしたイラクのイランとの接近あるいはパイプの強化といったものに対して極めて強い危機感を持っているのが現状でございます。

 参考までに、下に、今回首相に指名されるであろうと目されておりますジャアファリ氏の首相就任のデメリット、メリットを挙げさせていただいております。

 簡単に申し上げますと、今申し上げましたように、今回の人事においては、宗教色、イラン色というものが非常にぎらついた人事になるのではないかという懸念が強く出ておりますので、ある意味では、このジャアファリ氏の首相任命というのは、それを少しでも和らげようというようなものであったろうかと思います。すなわち、イスラム政党の中では、ダアワ党という政党は比較的イランとの距離感がある。今申し上げましたSCIRIのような、二十年間亡命してイラン政府に庇護されていたというような環境とは若干違った様相を持つという意味ではメリットになるのかなというふうに思われますが、他方、ダアワ党の党首のジャアファリさんという方は、イラク戦争が起こる直前まで戦争に反対していた人物であります。

 あるいは、アメリカとの関係も、二〇〇〇年になるまでは大変悪かったということになります。あるいは、もう二十年以上も前の話になりますけれども、それこそ、その当時の、一九八〇年代のいわゆるイスラム勢力のテロと言われたような事件にこのダアワ党などが絡んでいるのではないかというような憶測は、特にアメリカの国内ではよくなされていたような政党ですので、果たして、対米関係において、このダアワ党の党首が首相につくということがどの程度友好的な形で進められるのかというのは大変難しい問題になろうかと思われます。

 こうした宗教色、イランとのパイプというようなものが、新しい政権での第一のハードルということになるかと思います。

 二番目のハードルといいますか、ポイントといたしましては、今回の選挙で第二党につきました、少数民族政党であるクルドの勢力の台頭でございます。ちょっと余談になりますけれども、クルド人の人口は、現在、イラクでは、人口の一七%から多く見積もっても二〇%というふうに言われております。ところが、今回の選挙におきましては、クルド政党は二六%という得票数を得ております。この人口比を超えた形での台頭というのは、クルドの勢力が、強い自治、強い独立性といったようなものを今後イラクの国政において要求してくるであろうということが懸念されております。

 特に、こうしたこのクルド勢力、少数民族であるクルドの自治要求の拡大ということにつきましては、イラクという国のみならず、周辺の中東諸国にも大きな影響を与えるというふうに考えられます。

 とりわけ、最も懸念しておりますのが、トルコの反発でございます。トルコは、人口比におきましては、恐らくクルド人口を最も多く中東の中で抱えている国ということになりますから、これまでもクルドの自治を抑えるためにさまざまな対策をとってまいりました。その意味では、イラク国内でクルド勢力が台頭するということで、トルコの出方、トルコの対イラク関係というのが大変微妙な問題になってくるということがございます。

 それだけではなく、見逃されがちなことでございますけれども、現在、大統領候補に名前が挙がっておりますクルド人のタラバーニという政治家がいますけれども、このタラバーニさんが恐らく大統領になるのではないかというふうに予測されております。タラバーニさんは、クルド人で、シーア派ではないわけなんですが、過去の政治過程の中でイランとのパイプを大変強く持っております。タラバーニさんが地盤といたします地域はイラン国境に隣接しておりますので、そういう意味では、第一党であるシーア派イスラム勢力も、第二党でありタラバーニさんを中心としたグループであるクルド勢力も、両方ともイランとは大変太いパイプを持っているということになります。ここで再びイランとのパイプ、これが、ただ単に宗教勢力を通じてだけではなく、民族的な関係も踏まえて、イランの影響力がいやが応でも拡大するというような構造になりかねないということだろうと思います。

 三つ目の点です。これも恐らく日本の対イラク政策においては一番重要なポイントになるかと思いますが、治安対策の転換の可能性ということになります。先ほど申し上げましたように、国防大臣、内務大臣が今後どのような政党によって指揮されていくかということは、今後のイラクの治安情勢を左右する上で大変重要なポイントになります。

 御存じのように、これまでのイラクの治安対策は、親米世俗主義のアラウィ政権のもとで、旧バース党政権に参加したような治安警察あるいは軍人であっても積極的に起用していく、ある意味では、武装勢力に流れていかれるよりは、むしろ政権の中に取り込んで、こういった旧バース党勢力を容認していくという形で治安対策が進められてまいりました。

 他方、今回第一党につきましたイラク統一同盟、とりわけその中でもイスラム勢力であるSCIRIやダアワ党といった勢力は、こうした旧バース党勢力に対して大変強い反発を抱いております。これはクルド勢力についても同じことが申し上げられます。すなわち、第一党、第二党ともに、むしろ治安対策については旧バース党勢力を政権の中枢から排除する、とりわけ治安組織の中から排除するというような政策をこれまでも強く主張しております。そういう意味では、これまでの治安政策が一転して、シーア派、クルド勢力によって牛耳られるというような可能性が出てくる。そうした治安政策の転換に伴う一時的な治安の混乱というようなものが発生することになると、これは大変危険な兆候になりがちであるということになるかと思います。

 それから、しばしば言われますように、今回の選挙では、スンニ派の住民が選挙に投票、参加できておりません。これは、専らスンニ派地域で治安が極端に悪かったということと、それから、スンニ派勢力の中で多くの人々が支持政党なしという回答を出しているということで、積極的に選挙に参加したくなかったということと二つあるかと思いますが、いずれにいたしましても、選挙でこぼれ落ちてしまったスンニ派勢力をどのように新しい政権の中に取り込んでいくかということが重要になろうかと思います。

 時間の関係で、三番目の憲法制定につきましては、先ほどちょっと触れさせていただきました関係で省略いたします。

 ここでは、新たに成立いたしました国民議会の一番の重要な課題が、ことし十月十五日までに憲法を制定する、そして、十月に国民の信任投票によって新たな憲法を制定するということがこの議会の責務になっているわけですけれども、そうした憲法制定において、第一党であるイスラム勢力が憲法におけるイスラム化を要求し、そして第二党であるクルド勢力がクルドの自治といったものを要求する、こうしたある意味では真っ向からぶつかるような要求が、どの程度、あと八カ月の間で調整できていくのかということは大変難しいことになる。

 この憲法の制定が、十月の十五日という日程が定められておりますけれども、万が一これが後ろにずれ込む、おくれるということになりますと、その後の政治日程、すなわち、ことし末までに正式な政権を樹立するというような日程がずれ込み、来年以降に正式政権の設立がおくれてしまうという可能性にもなろうかと思います。

 最後に、これも冒頭で申し上げました、イランとアメリカの関係が現在悪化しておりますけれども、そうしたものがイラクの今後の政権運営にどのように影響を与えるかということになります。

 これも簡単に申し上げますと、今申し上げましたように、イラクでは、シーア派を中心といたしました宗教勢力が中心になって今後の政権づくりをする。少なくとも今のアメリカの政策は、イスラム勢力ではあっても民主的に選ばれた勢力による政権づくりというものをバックアップするという姿勢をとっております。他方、同じようにシーア派のイスラム勢力が政権を握っておりますイランに対しては、これに対する敵対的な関係を続けております。つまり、イランとイラクで、同じ政治勢力に対する政策が整合していないということになります。

 今後の対中東政策ということを考えますと、いかに、こうした中東全体で台頭しておりますイスラム主義勢力に対して、どの程度整合的な協力体制をつくり上げていくかということが火急の課題になろうかと思います。

 時間になりましたので、私の意見は、以上にさせていただきたいと思います。ありがとうございました。(拍手)

甘利委員長 ありがとうございました。

    ―――――――――――――

甘利委員長 これより公述人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。宇野治君。

宇野委員 自由民主党の宇野治でございます。

 本日は、早朝から、四人の公述人の皆様方、大変御苦労さまでございます。また、ただいまは、いろいろな分野にわたりましてお話を聞かせていただいたことを、まずもって御礼を申し上げる次第でございます。

 いろいろなお話がありましたので、ばらばらな話になるかもわかりませんが、御容赦いただきたいと思います。

 まず、河合公述人からお願いをしたいと思っております。

 河合先生は、国際金融の大家ということで、世銀にもおられて、また財務省にもおられたということでございますので、私が何もお話をすることはないのかなという思いなんですが、お話の中にありましたアジアの地域の問題について少し聞かせていただきたいと思います。

 日本にとりまして、今の経済の状況、アジアを忘れてはいけないという思いは私も強く思っております。まして、総理が所信表明の中で東アジア共同体に言及をされて、ここをしっかりやっていくんだということもございましたし、また、ASEANプラス3ということも本格的に動き始めてきているんではないだろうかなという思いもしております。

 そういう中で、今お話しいただきましたアジアの通貨の関係が、中国の人民元のことが非常に大きな部分になるかと思うものですから、まずもってアジア全体の経済において日本がやらなければいけない大きなものは何があるんだろう、まずその辺、少し御示唆いただければと思います。

河合公述人 河合正弘でございます。

 アジアにおきまして日本がやらなくてはいけないこと、まず第一に、日本経済が活力のある経済になって、東アジア経済の成長を引っ張っていくということがまず第一番かと思います。

 第二番目は、今の日本の財政状況といいますのは非常に大変な状況になっておりますので、これを何とか健全な方向に移していく。そのことによりまして日本経済の先行きをもっとはっきりしたものにする、これが何よりも一番重要なことかと思います。

 そして、アジア各国に対して日本ができますことは、今東アジア共同体のお話がございましたが、今交渉を続けておりますアジア各国との、特にASEANそして韓国との自由貿易協定をなるべく早く進めていく。そのためには、日本の中の農業問題の構造改革をしっかりやる。そして、ある程度の専門的な労働者の受け入れといったことについても日本はもっと積極的に行っていくということ、これが第三点でございます。

 第四点としましては、日本の経済規模は東アジアの中で一番大きい。六〇%以上を日本は今持っているわけですので、そういった日本経済の大きさに見合ういろいろな形でのリーダーシップを発揮していくことだと思います。このリーダーシップといいますのは、日本はこれまで、ODA等も東アジアに対して行ってきましたし、いろいろな資金援助というものも行ってきましたが、資金援助だけではなくて、日本が持っているいろいろな技術ですとか知見ですとか、東アジアを支えてきましたいろいろな日本の力、いわゆるソフトパワーと言われるものですけれども、そういったものをもっと大きく発揮していくということだと思います。

 そして、最後に、通貨問題に関しましては、今チェンマイ・イニシアチブというものがありますけれども、これをもっと強化していくということがますます必要になっているかと思います。アジア各国は、これからまだまだ対外的にもより開放的な制度に移ってきますので、一九九七年のような通貨危機というものが再来しかねないとも限りません。世界の中のお金の動きから比べますと、チェンマイ・イニシアチブの仕組みというものはまだ限界があります。これをもっと強いものにして、そして、そのための枠組みを日本がリーダーシップをとりながらつくっていくということではないかと思います。

宇野委員 ありがとうございました。

 今、最後のお話にありましたように、日本がイニシアチブをとってこれから引っ張っていくという話があるわけですけれども、漏れ伺うところによりますと、アジアの通貨関係、経済のいろいろな話の中で日本が入り込むと、アメリカなり中国なりが若干不機嫌になるというような思いがあるんですけれども、なぜそんなことになるのかなということと、それを不機嫌にさせないようにするにはどうしたらいいのか、こんなことをちょっと御示唆をお願いします。

河合公述人 アメリカと中国に対する日本の役割でございますが、まず、アメリカに対しましては、これは言うまでもなく、安全保障問題に関しましては日本とアメリカの利害は完全に一致するところだと思います。経済問題に関しましては、東アジアは、たくさんの製品をアメリカにも輸出しておりますし、ヨーロッパにも輸出しております。そして、東アジア地域はアメリカやヨーロッパからも直接投資を受け入れております。

 その意味で、東アジア全体が開放的な経済システムを維持していく、WTOのシステムあるいは国際金融の、これは国際通貨基金、IMFになりますが、グローバルなシステムの中で東アジアがやっていくということは、やはりこれからも重要な問題だと思います。

 ところが、それ以上に、東アジアでは経済的な相互依存が高まっています。ですから、グローバルなシステムの中にいると同時に東アジアの中でも地域的な連携を強めていくということ、この点に関しましては、アメリカ自体は反対はもうしていない状況だというふうに私は理解しております。

 一九九〇年代の初めに、当時のマハティール首相がEAEG、東アジア経済グループをつくったらどうかということを提唱いたしました。当時はアメリカが大変反対して、日本に、それは参加しないでくれという、どうも圧力がかかったと聞いております。そして、日本もその当時は、WTOが重要だ、あるいはAPEC、アジア経済協力のシステムが重要だということで、地域主義的な方向には行きませんでしたけれども、今の時点ではアメリカ自体も余りそういうふうな対応をもうとっていない。地域主義的になるのはしようがないといいますか、そういう認識をアメリカはとっているように思われます。

 中国との関係がやはり一番最大の問題かと思います。中国と日本との間の相互依存関係は非常に高まっておりますし、ASEANあるいはその他の東アジアの中における日本と中国との間のある種の競争といったものも非常に重要かと思います。中国経済はこれからだんだん非常に大きな経済規模になっていきますので、日本は中国とどういう形で健全なリーダーシップを競っていくかということが、日本にとってこれから十分考えていかなくてはならないことだと思います。

 そして、日本と中国の関係は、政治的には若干冷えた関係になっていますが、経済的な相互依存がこれだけ続きますと、政治的な関係も、お互い率直に物事を話していろいろな問題をこれから解決していくということが、長い目で見ますと、日本、中国、アジアにとって非常に大事なことではないかというふうに思っております。

宇野委員 ありがとうございました。

 今お話がありました中国の関係でございます。

 先ほどの公述の話とはちょっと分けさせていただくんですが、先生も国際金融の関係でODAについてもいろいろと御示唆をお持ちと聞いておりますので、ひとつ中国に対するODAの関係について今どのようにお考えかなということ。

 中国のこれからの経済の発展、今大変伸びている。特に、二〇〇八年のオリンピックに向けて今すごい建設ラッシュが始まっていますし、それがために日本の鉄鋼も国内での不足が出てきている、こんな大きな影響になっているわけです。また、二〇一〇年になると今度は上海万博が起こる。これから中国の華の時代なのかなというふうに言われているんですが、私はそこが天かなという思いもしております。

 そういう流れの中で、いつごろまで中国の経済が伸び続けるのかということと、こういうものに応じての日本のODAのあり方というのも少し教えていただければなと思います。

河合公述人 中国と日本の関係、特にODAの関係でございますが、日本はこれまで中国に対して非常に巨額のODAを行ってきまして、中国の市場経済化、中国の経済発展に貢献したことは言うまでもないというふうに認識しております。

 ただ、中国の今の経済成長の程度、非常に急速な経済成長、そして低所得の状況から中所得の国に今既になっている状況、そしてこれから十五年ほどしますと経済規模としまして日本に追いつく、そういった中国に対してこれまでのような形でODAを続けるというのは、余り合理的な選択ではないと思います。

 ただ、中国とのODAを完全にやめてしまうということも余り好ましくないのではないか。まだ一人当たり所得は低い国であります。特にODAとしましては、非常に大きなインフラ投資ですとかそういうものではなくて、もっとソフトな関係、特に人的交流をもっと深める、あるいは中国人の留学生をもっと日本に連れてくる、あるいは若い人たちのあらゆるレベルで日本人と中国人がもっとフランクな形でつき合いをできるような、そういう仕組みをつくるようなODA。

 そしてもう一つは、日本に対して非常に大きな影響があると思われます中国の環境問題があります。これは日本だけではなくてほかの周辺諸国にも、あるいは世界的にも非常に大きな影響を及ぼす問題ですが、環境問題に関して日本がもう少し支援を続けていくということは必要なことではないかというふうに思っております。

 そして、お話しの二〇〇八年オリンピック、二〇一〇年上海万博、私は、そのころまでは中国の経済成長は続くであろうというふうに思っております。

 ただ、今の時点でもう既に、相当な過熱の状況といいますか、投資の対GDP比率、非常に高いものになっております。一九九七年に危機に陥りました東アジアの諸国、危機の前はそれらの諸国は過熱経済でありました。過熱が一気にだめになってしまったわけです。今の中国のいろいろな指標は、もうその当時の東アジア諸国の指標を超えております。銀行融資のGDP比率、あるいは投資の程度、そして投資の収益率が非常に低くなっております。そういった状況は非常に似ております。

 ただ、今の中国はまだ成長余力がありますので、この状況はまだしばらく続くであろう、恐らく万博までは続くであろう。それ以降は、かなりいろいろな意味でのリスクの管理といったものに注意を払っていかなくてはいけないのではないかというふうに思っております。

宇野委員 河合先生、どうもありがとうございました。

 次に、河野公述人に少しお話を伺わせていただきたいと思います。

 河野さんはエコノミストということで、いろいろと文献等々見させていただくと、大変景気に対して上向き傾向で、非常に強気な方というふうに私は理解をしております。特に、きょうの資料のタイトルにも、「二〇〇五年は回復の年に」というタイトルまでつけていただいて、昨年の十二月の朝日新聞なんですが、日銀短観に対する各エコノミストの見方を見たときに、河野先生だけが二〇〇四年の下期も二〇〇五年の上期も上がるんだと言い切っておられるわけであります。

 そういう、我々にとっては非常にうれしい状況なんですが、これの一番のベースは何なのかな。今いろいろお話があったんですが、これだからこの下期も上期もこれからも上がり続けるんだという一つの、ワンポイントでいいんですが、これなんだということを教えていただきたいなということと、今ゼロ成長になってきているわけでありますが、そういう中で、今回あえて定率減税を半減しようという話が出ました。私も、景気が上がれば問題ないというふうに思っております。

 先ほどのお話の中にも、もし景気等々の関係があれば、与党の方では見直しということにも、いいことだという言い方もございました。私もまさにそのとおりで、ぜひことしの末の税制改正のときには、しっかりとした見直しというか議論をしていかなきゃいけないと思っておりますが、すべてこれは景気にかかるわけでありますので、景気が二〇〇五年上期、下期、さらには二〇〇六年以降はどうなのかな、ちょっとその辺の話が少しなかったのかなという思いなので、それもお願いをしたい。

 それと、もう一つは金利の問題です。今はゼロ金利と言われるベースなのでまあまあという先ほどのお話もいろいろありましたけれども、これからは、まあ、そんなことも続かないだろうという思いがあるんですが、大体の予測で結構ですが、少し御示唆いただけますか、お願いいたします。

河野公述人 河野龍太郎です。

 三点御質問いただきました。一点目は、景気を明るく見ている最大のポイントは何かということ、二点目は、二〇〇六年の景気がどうなるかということ、三点目は、今後の金利の動向がどうなるということであります。

 まず一点目でありますが、まさに先ほどもお話ししましたとおりですが、企業あるいは家計部門におきますデフレの予想が非常に後退してきているんだということに尽きると思います。

 実は、九〇年代以降の景気回復を見ますと、二つの特徴がございます。一つは、財政政策が出たときに景気が拡大していた、あるいは財政が出なくなると景気が悪化していた。もう一つは、輸出が回復するときに景気がよくなった、そして、輸出が減速すると景気が悪くなったという状況であります。とりわけ九〇年代の末からは、財政事情が非常に厳しくなりまして、輸出が出ているときだけ景気が回復し、輸出が悪化すると景気がすぐに悪化するという状況になっておりました。

 ですが、実は、御存じのとおり、輸出というのは経済におきまして一〇%程度しかないわけです。たかだか一〇%しかない輸出が日本経済の上昇あるいは下降をなぜ決めていたかといいますと、経済の七五%を占める民間需要、つまり個人消費あるいは設備投資、住宅投資、この部分が、九〇年代、とりわけ後半以降は、デフレの予想が強まったことによってすっかり凍りついていたということがあります。ですから、たかだか一〇%の輸出がよくなると若干景気が上向くけれども、一〇%ですが悪化すると経済全体が落ち込んでいた、これが以前の姿であります。

 ですが、民間内需をすっかり動かなくしていた、閉じ込めていたデフレというのが、とりわけ二〇〇三年の後半から非常に後退してきまして、この結果、個人消費、設備投資、そして住宅投資に動きが見え始めたということが一番大きいんだというふうに思います。

 ですから、日本経済は、簡単なショックですぐに景気後退に陥ってしまうというのが九〇年代の姿でしたが、現在、ショック自体が小さいのであれば、内需が以前に比べますと非常に力強くなってきておりますので、その点が大きく違う。だから、私が、二〇〇五年の一―三からひょっとしたら景気が上向くのではないか、あるいは、そうでなくても早い時期から上向くというふうに見ているわけであります。これが一点目であります。

 そうすると、二〇〇六年、どうなるかということなわけですが、私は、二〇〇五年に続いて二〇〇六年も回復基調が続くというふうに見ております。それは、先ほどお話ししましたとおりですが、まず国内が非常に底がたい状況になっているということに加えまして、一時減速しておりましたアメリカ経済が再び回復してきたからだということがあります。

 そして、もう一つ要因があるわけですが、二〇〇七年以降が強く出てくると思いますが、二〇〇七年、八年、九年にかけて、団塊の世代の方々が六十歳をお迎えされて退職されることになります。よく少子高齢化といいますと景気に対してネガティブな見方ばかりが多いわけですが、実は、団塊の世代の方々が退職されることによって、六十歳をお迎えする方の一部が労働市場から引退されることで人が足りなくなってしまいます。その結果、その補充をしなければいけないということになります。

 私、添付しました資料の最後から二ページ目に、それについて少し分析をしたレポートがあるのですが、二〇〇三年の段階で六千六百六十六万人います日本の労働力人口は、団塊の世代の方々が六十歳をお迎えして六十歳になられた後の二〇一〇年の段階では、百四十三万人も減ることになります。百四十三万人のすべてが補充されるということはまずないでしょうが、仮にその百四十三万人の退職された方を補充するといった場合、現在、失業者数が三百万人になっておりますから、極端な計算でありますが、ここから百四十三万人仮に補充されるということになりますと、現在四・七%の失業率は何と二・六%まで下がってしまうという計算になります。つまり、労働需給が徐々に逼迫していくんだということがあります。

 実は、既に団塊の世代の方々の早期退職などを含めて、そういった退職が起こっているから、その補充で雇用情勢がよくなっているというふうなこともあります。こういったような要因もありまして、二〇〇六年、二〇〇七年、実は思われているよりも明るい状況がやってくるのではないかというふうに考えております。

 三点目の金利の状況ですが、今の話と非常に関係あります。恐らく二〇〇五年、六年の間は、景気の回復が続いても、まだ経済成長の余力というのは、例えば遊休した設備投資もありますし、失業者も三百万人もいますから、簡単には、景気の成長が高まっても、インフレ率が加速していくことはないと思われます。そういった意味では、デフレの予想が後退したからといって、金利がどんどん上がってくるということは短期的にはないと思います。

 ただ、今お話ししましたように、二〇〇七年以降はかなりの人たちの退職が始まります。ということは、まず労働需給が逼迫して、賃金がかなり上がってくるということがあります。さらには、先ほど数字として百四十三万人の方が労働市場から退出されると言いましたが、労働市場から退出されるということは、その方々は、従来は所得をもらっていて消費をされていたわけですが、いただく所得がなくなって、ですけれども消費は続けられるということですから、当然、これまでの蓄積を取り崩されてくることになります。つまり、貯蓄率がかなり低下してくるということであります。

 そうなると何が起こるかということですが、マクロの資金需給が徐々に逼迫してくるので、金融政策次第では、金利が、例えば十年金利というのが現在一・四%ですが、その水準よりも全然違った状況になり得るということがあると思います。ですから、しばらくはそれほど大きく上がるということは思われませんが、二〇〇七年以降、全く状況が変わってしまう可能性が十分あり得るんだということであります。

 以上です。

宇野委員 どうもありがとうございました。

甘利委員長 次に、田端正広君。

田端委員 公明党の田端正広でございます。

 本日は、四人の公述人の先生方、大変に御苦労さまでございます。また、示唆に富んだお話、ありがとうございます。

 まず、同じマサヒロということで河合先生にお願いしたいと思いますが、先生は冒頭、EUのお話をされました。それで、例えばEUは、私、十年前と今と本当に格段の差があるなということをしみじみと感じておりますが、十年前には、果たしてそんな中央銀行なんかできるだろうか、こういう思いでもありました。それが、今や本当に見事にまとまって、そしてまた、昨年は二十五カ国という大変な大世帯にまで広がったわけであります。また、この後、トルコとかノルウェーとか、いろいろなところも手を挙げているようでありますから、その辺の見通しもちょっとお願いしたいなと思います。

 同時に、ではアジアはどうなんだと。ヨーロッパがそこまで、ドイツとフランスが、歴史的に対立していた国が見事に手を組んで、そしてまとめ上げた、こういう新しい行き方を今しているときに、今のままでアジアはこれでいいんだろうか、そういう思いもいたします。

 そこで、先ほど先生がお話しされたわけでございますが、日本におけるリーダーシップ、特にASEANプラス3、日中韓ですね、その状況というのは非常に大事であるという御趣旨でございました。この枠組みは、何も金融問題だけではなく、いろいろな形、政治、経済、文化を含めて大事だろう、私、こう思っているんですが、日本としてどういうふうにやっていくべきかということを先生なりに御所見をお持ちだと思いますので、日本の今後のあり方というものを、ASEANプラス3の枠組みをもとにして、どう日本が役割を、使命を果たしていくかということについてお願いしたいと思います。

河合公述人 EUにおけるドイツとフランスの和解、これが今のEUの経済統合の基本になっているわけです。振り返りまして、アジアではまだそこまで進んでいない。失礼いたしました。その前に、EUの今後の拡大あるいは今後の深化という点につきまして若干触れさせていただきたいと思います。

 EUは、これからも拡大し続ける、そういうプログラムを持っております。十カ国加盟いたしましたが、その十カ国の中に入っていない、入れなかった国、ルーマニア等が控えております。非常に大きな問題としましてトルコなどの問題もあります。しかし、EUはこれから拡大し続けていく、したがいまして、EUの経済圏、ユーロの経済圏はこれからも拡大し続けていくということは疑いのないところだと思います。

 それに伴いまして、今のユーロ圏の中には十二カ国しか入っておりませんが、その中に入ってくる国もこれからふえていくだろうというふうに思います。イギリスは今のところ距離を置いておりますが、長い目で見ますと、やはりイギリスも入ってこざるを得ないのではないかというふうに思っております。

 アジアは、そういう点からしますと、まだばらばらになっております。しかし、経済的な結びつきは非常に強くなっております。アジアでもっと地域的な連携を深めていくためには、日本と中国が、やはりある時点できちんとした和解をしなくてはいけないだろうというふうに思っております。それがなくして、アジアにおける経済統合あるいは東アジア共同体というものは恐らく難しいのではないかというふうに思っております。

 そういった点で、日本はこれからもリーダーシップをとっていく必要があるかと思います。おっしゃるように、金融だけではなくて、経済、政治、文化、いろいろな面で日本のリーダーシップというものは発揮していかなくてはならないと思います。

 一番重要なことは、先ほどもちょっと申し上げましたが、日本経済をもっとオープンなものにしていくということなんだろうと思います。ヨーロッパにおきましては、財やサービス、情報、金だけではなくて、人の移動が非常に活発になっております。日本におきましても、人の移動をもっと活発にする。東アジアの人々をもう少し法的にきちんとした形で受け入れていく。そして、当然のことですが、日本人も、シルバー世代がだんだん中国に移っていったりとか、ほかの東アジア、東南アジア諸国に移っていったりしています。そういったことも含めまして、人的な交流をもっと深めていく。日本自体をもっとオープンなものにして、財・サービス、物、金だけではなくて、人も引きつけていく。そして、日本自体を、東京だけではありません、東京、大阪、日本全体を魅力的な経済活動の場所にする。そして、日本の中に、アジアの人たち、アジアの企業を呼び込む、そういったことも極めて重要なことではないかと思っております。

 以上です。

田端委員 ありがとうございました。

 私の時間は十分間しかないので、あと、河野先生にお願いしたいと思います。雇用情勢も改善の兆しがあり、日本経済もいい方向に今流れているということで、定率減税の半減ということで、これは今こういう判断をしたことは妥当である、こういう御所見でございました。そういう中で、今後の長期的な日本のあるべきビジョンというものを持って、新しい受益と負担のルールをつくるべきだ、こういう御示唆もありました。

 そういう意味で、できるだけ民の活力を生かすべきだということなんですが、具体的に民の活力をどういうふうにしていくかということが、これは本当に問われる問題だと思いますので、その姿というもの、形というものをちょっとお話しいただければ大変参考になるかと思いますので、よろしくお願いしたいと思います。

河野公述人 一国の経済成長は三つの要素から成り立っているというふうに言われております。一つは労働人口、そしてもう一つは資本ストック、そしてもう一つは、人々の創意と工夫からもたらされる、ちょっと専門的な用語になるんですが、全要素生産性、この三つからであります。

 そして、御存じのとおり、労働力人口というのは、先ほどもお話ししましたが、今後減少していきます。そして、貯蓄が徐々に低下していきますので、資本ストックも今後国内で十分賄えるかどうかわからないという状況です。もちろん、海外から資本を調達してくるということもあると思います。やはり、今後一番重要なものが、人々の創意工夫からもたらされる生産性の上昇というわけであります。なおかつ、今後さまざまな負担がふえていきますので、できる限り現役世代の所得なり生産性を高めていくということが非常に重要な状況であります。

 この中で、具体的にどのような姿を目指すべきかということなのですが、実は、残念ながら、これは政府にもわかりません、国にもわかりませんし、民間にも実は、事後的にはわかるにしても、事前にはわからないんだということなんです。わからないというのは、ここは非常に重要なポイントでありまして、だれにもわからない、だけれども、最も高い収益を得ようとする競争、そこから最もよいもの、あるいは最も消費者が欲するものが生まれてくるというような発想が重要だというふうに思います。

 つまり、どういうことかといいますと、少子高齢化、そういったさまざまな問題があるけれども、政府がそのために何ができるかというと、何かそのために政府が新しいことをやるということではないんだということであります。基本的には、先ほどもお話ししましたが、経済成長率を高めるために最も重要なことは、マクロ経済、物価や雇用の安定を図りつつも、市場を自由かつ競争的な状況に保って、その上で人々の自由な創意あるいは工夫、そこから成長というものは生まれてくるわけであります。ですから、政府が支援するというよりも、政府の活動の領域を拡大させることはむしろ成長を阻害することになりますので、実は、邪魔をしないという発想が最も重要なのではないかと思います。

 ただ、ここで一つ、現在やるべきことがあります。といいますのが、多くの社会制度は、人口が増加することを前提につくられたものが非常に多いです。それらを放置したままですと、人々の自由な創意や工夫を阻害することになりかねません。そういった意味では、こうした財政問題や年金制度問題を少子高齢化のもとでも持続可能なものに切りかえていくということは必要だと思います。そうすると、多くの人が望む、消費者が欲する経済社会になっているんだろうというふうに思います。

 以上です。

田端委員 ありがとうございました。

甘利委員長 次に、津川祥吾君。

津川委員 民主党の津川祥吾でございます。

 きょうは、四人の公述人の皆さん、大変お忙しい中お出ましをいただきまして、また、大変貴重なお話を聞かせていただきまして、ありがとうございました。

 四人の公述人の方々のお話を伺いますと、それぞれの方と時間をかけてお話をさせていただきたいなという思いを本当に強くいたしましたが、時間も限られておりますので、何点かに絞りまして御質問させていただきます。

 また、私はなるべく一つの質問を複数の方にお答えいただきたいなというふうにいつも思っているものですから、ひょっとしたら御専門の範囲から外れる部分もあるかもしれませんが、どうぞ忌憚のない率直な御意見を御開陳いただければありがたいなと思います。

 まず、今回の平成十七年度予算につきまして、河合先生と河野先生からは賛成という表明もいただいたわけでございますけれども、河野先生からはその理由についても若干御説明をいただきましたが、今回の平成十七年度予算についてということで、具体的な御意見、賛成であるならばどこが賛成なのか、あるいは、例えば、何か問題があるけれども大方で賛成なのか、何点ぐらいなのかといった表現でももちろん構いませんが、こういったことにつきまして、河野先生には今若干お話をいただきましたので、河合先生、久保田先生それから酒井先生からそれぞれ御意見をいただければありがたいなと思います。

河合公述人 平成十七年度予算案、賛成の立場を申し上げました。

 一言で申し上げますと、日本経済にとって非常に重要なことは、経済成長を持続するということと、もう一つ、ここまで膨らんだ財政状況を何とか改善していくという二つの問題を同時に解決していかなくてはいけないということかと思います。

 一九九七年の財政改革は、途中でとんざしました。経済状況が非常に悪くなったわけですが、私も、現在の経済情勢は、この財政によって若干引き締めぎみの方向に行くということですけれども、経済の成長が崩れるということはない、むしろ経済は回復基調に乗っているということで、この両者は両立する、そしてこういう道をとっていかなくてはいけないということが理由でございます。

 以上です。

久保田公述人 御質問ありがとうございます。

 連合の立場からは、この平成十七年度予算は合格点をつけられないというふうに思っております。

 幾つか申し上げましたけれども、やはり地域と雇用を元気にする予算、そして、今、日本の圧倒的に分厚い中間層であるサラリーマン、勤労者が、生活の安定と雇用の安定、そして将来の不安を解消するという方向で信頼が置けるものになっているかどうかという点では極めて不十分であり、問題が多いというふうに感じております。

 したがいまして、ぜひ予算を修正する、あるいは組み替えをするという方向で、この予算審議でも十分な議論を尽くしていただきたいという立場でございます。

 以上です。

酒井公述人 先ほど公述の冒頭にも申し上げましたけれども、私は、この予算委員会における議論において、前提となる状況把握、現状認識というものに関して十分な情報を得た上で御議論いただきたいということで公述させていただきましたので、予算案そのものに対する賛否については意見を差し控えたいと思います。

津川委員 ありがとうございます。

 河合公述人からお話がありました、日本の経済の潜在的な成長力といいましょうか、力強さというものがまだまだあるということについては、私どもも全く同感でございます。ただし、今現在の日本の状況、こういったものを見たときには、政府の見解よりも私どもは一段厳しく見ております。政府の側としては、成長段階の若干踊り場かなというような見解であろうかと思いますが、私どもは、残念ながらまだまだやらなければならないことがあろうかと思っております。

 その中に、幾つかあるわけでありますけれども、例えば、基本的に、デフレの予想が少し後退してきたと河野先生から指摘がございました。確かにその傾向はあろうかと思いますが、ではデフレの危険性がなくなったのか、あるいは既にこれがインフレの方向に向かっているのかというと、必ずしもそこまで行っていない。例えて言うならば、私どもは、まさにそこまで行く段階、あるいはそれが明らかになった段階、その段階でする政策と、今の段階、まさに、踊り場かもしれないけれども、この踊り場からまた下りに入るかもしれないという踊り場の段階でやることというのは少し違ってくるのかなと思います。

 それから、財政の状況からいって、むだ遣いをなくすとかあるいは効率化をするということだけでは財政の再建はなかなか難しい、まさにそのとおりであります。最終的に、近い将来、そう遠くない将来、国民に負担をお願いしていかなきゃいけないことも私ども否定をしておりません。ただし、国民に負担をお願いする以上は、その前に削るべきところは相当削らなければならないと私どもは思っております。

 今回提出をされております十七年度予算を見ても、実はそう胸を張れるほど削れてはいないと思っております。政府の言い方によりますと、めり張りをつけたという言い方をいたします。先ほどちょうど河野公述人も、歳出にめり張りがあるのではないかというようなことをおっしゃいましたが、具体的にどういっためり張りがつけられているといったところで評価をされているか、河野公述人にお答えをいただければと思います。

河野公述人 あくまでも従来との比較ということをまずお話ししたいと思います。

 従来、財政再建というふうな話になりますと、歳出の一律カットということだったんですね。歳出の一律カットといいますのは、全体が削減できるのでいいのではないかという見方もありますが、実は、要るところも要らないところも一律にカットするということになりまして、またふやすことができるように経済状況がなると、要るところも要らないところも同じようにふえるということで、実は、従来の一律カットというスタンスは、固定化したといいますか、既得権益的になった歳出を固定化させるということにつながっていたという思いがあります。

 ですが、例えば今回、歳出の一覧表を見ました場合、大きく減らしているところもありますが、大きくふやしているというところも実際に数字として出てきております。ですから、私自身もまだまだ削ることができる部分もあるというふうには思っておりますが、従来全く一律のカットであったということから比べると大きな進歩ではないのかなというふうなことで、賛成の立場をとらせていただきました。

 以上です。

津川委員 確かにそういう努力が見られるのも否定はしませんが、私ども、この国会の予算委員会の中で、政府から予算の中身を一生懸命出してもらおうと努力するんですね。それがなかなか出していただけなくて、なかなか細かいところまで見られないんですが、その大ざっぱなデータであっても、削るべきところを削っていないというところがはっきりしている。これは大変大きな問題だと私どもは思っております。

 例えば、今いただいた、一律のカットだと、例えば一律一割カットをすると、必要なところも一割カット、むだも一割カットするけれども、逆に言えば九割残ってしまう、こういう話であろうかと思います。ただ、この全体の予算の中に、今まさにおっしゃっていただいたところですが、既得権と言われる部分で、守りたいという意思が働いている部分がございまして、そういったところの特徴を集中的に見てまいりますと、全体の縮減をする中で、実は既得権の部分はほとんど減らない。逆に、どうなるかというと、本当に必要なところがむしろ大幅に削られてしまう、非効率な部分が非常に残りやすいという部分がございます。まさにその非効率の部分が既得権、私どもの政治家の言葉で言うと既得権でございますけれども、そこの部分が非常に顕著に、明らかに残っている。このやり方は、残念ながら、これまでのやり方と大きく変わったという評価は私どもとしてはできないというところでございます。

 一つ具体的な政策について伺いますが、久保田公述人、三点先ほど指摘をいただきましたが、その中の若年者雇用の問題について伺います。

 政府としても、若年者雇用については、今回新たな施策も含めて予算をつけた、予算書の中に含まれております。ただし、果たしてこれがうまくいくのかどうか。結果的にどうなるかは、これは結果を見てみなければわからないところでありますけれども、現段階で政府の若年者雇用対策についてどのような見解を持たれているか、お答えをいただければと思います。

久保田公述人 若年者雇用といってもたくさん切り口があると思いますが、大きく焦点をそこに当てようとしているということについては評価をいたしますし、我々もそう考えておりますが、いかんせん今のままでは非常に不十分だというふうに考えております。

 まず、デュアルシステムの問題等々につきましては、連合は大幅拡充を要請しておりますけれども、その一番のポイントは、やはり生活をちゃんと保障しながら、働きながら学ぶといいますか、そのことをやらなければ、首都圏を中心にした、自宅から通う高校生といいますか、そういう人たちはそれでいいかもしれないけれども、みずから生活をしながらやらなければならない、それはアルバイト等々もやめてそうしなければならないということで、本当にそれが持続的に可能なのかどうかという視点で、予算の増額要求といいますか、そういうことをやっております。

 それから、もう一つの視点は、大変心配いたしますフリーター、ニート、そういう若者の雇用の問題につきまして、先進国の中で、日本は企業任せと家庭任せでやってきたのではないかというふうに考えておりまして、諸外国と比べても、若年者雇用に対するGDPにおける予算のかけ方が圧倒的に少ないといいますか、そういう数字データも出ているわけです。例えば、OECDが毎年発表していますエンプロイメントアウトルックによりますと、九九年時点ですが、フランスは若年雇用対策でGDP比〇・四%、イギリスは〇・一五%、ドイツは〇・〇八ですが、日本は○・〇〇三%。フランスは百倍以上、ドイツと比べても三十倍近い差があるということでございます。

 去年のダボス会議等々で世界の国際競争力ということを言われましたが、一位はノルウェーです。スウェーデンはたしか三位だったと思いますが、北欧諸国がたくさん入っています。教育と職業能力開発に国が非常に力を入れて、学校教育、そして会社に入った中での職業・生涯教育、そういうことにまさに国家戦略として力を入れております。

 二十一世紀の日本を背負っていくのは最終的にはやはり人材だという意味からしますと、ちょっと景気がよくなった、就業率が高くなったみたいなことで、ここで力をそいでというのは大変な問題になってくるのではないか。若者の雇用対策は十年、二十年後の日本の問題でもありますし、その若者が大きくなったときの社会保障やそういうのは一体どうなっているのかという意味からしても、国家戦略として教育にもっと力を入れるべきではないか。要は、職業能力開発を一貫したものとして政策を強化すべきじゃないかという意見でございます。

 以上です。

津川委員 ありがとうございます。

 雇用状況については、久保田公述人と河野公述人で若干見解が違うのかなというふうに思うところであります。

 河野公述人にお伺いをしますが、個人消費が現在まだ伸びていないという見解ではよろしいかと思いますが、早晩伸びていくのではないかというような御見解を先ほどいただきました。

 経済成長のエンジンは企業であるということを先ほど公述人がおっしゃいました。私どももまさにそのとおりだと思います。政府ではない、企業である。しかし、日本経済の成長のエンジンは、企業は企業でも中小企業、零細企業ではないか。中小企業、零細企業について、現在どういう状況に置かれているか。

 私ども国会議員が現場を歩いて、中小企業、零細企業の皆さんのお話を伺う限りにおいては、最悪の時期は脱したよという方も中にはいらっしゃいますが、多くの方は、全くよくなっていない、それどころか悪くなっているという意見の方が圧倒的であります。さらに、データを見ても、中小企業、零細企業に関して、現在の状況が底を脱したというようなデータはなかなか見受けられないというふうに私どもは見ておりますけれども、その辺のところ、御見解をいただければと思います。

河野公述人 過去十年の景気回復が起こった場合に、よくなっていると言われたのは、多くの場合、輸出を担う製造業セクターでありました。とりわけ製造業セクターの中でも大企業製造業セクターだったというわけであります。ですが、今回、大きな変化の中で、とりわけ回復のおくれていた中小、とりわけ非製造業にも回復の兆しが見え始めているというのは事実だと思います。

 といいますのが、結局、大企業製造業あるいは製造業セクターがよかったというのは、先ほどもお話ししましたとおり、輸出がよくなるとメリットを受けるからであります。ですが、経済の約七割は非製造業セクターであります。この非製造業セクターが今までなかなかよくならなかった理由は、何分国内の需要がほとんどふえなかったということがあります。ですが、先ほど何度かお話ししましたとおり、デフレ予想の後退に伴って売り上げが実際にふえ始めてきております。

 その結果、例えば昨年十二月に発表されました日本銀行の短観で、輸出の減速に伴いまして大企業製造業は悪化したわけですが、一方で、国内のデフレ予想の後退の影響で、中小非製造業はそうした中でも改善が始まっております。そうした意味では、もちろん改善がおくれているというのも事実でありますが、一時の一番ひどい状況の中からは回復が起こってきているということがあると思います。

 とりわけ、非製造業の中でも圧倒的多数を占めます中小非製造業でありますが、基本的には、製造業が、景気が回復しても設備投資をふやす一方でなかなか採用をふやさないですが、基本的に採用をふやすのはどこかといいますと、非製造業部門なんですね。この非製造業部門に若干の明るさが出てきたからこそ、今採用がふえ始めているという事実があると思います。ですから、程度、水準という意味ではまだまだ回復がおくれているという言い方もできますが、方向としては改善が起こってきているということであります。

 それを端的に示す証拠としまして、実は、九〇年代の二度の景気回復と言われるのは、例えば南関東圏あるいは東海圏の一部の地域に回復が偏っていたわけで、有力な輸出セクターがないようなところはなかなか回復が見られなかったわけでありますが、今回の景気回復は、回復のペースが非常におくれているとはいいつつも、有力な製造業セクターのないような地域、例えば四国でありますとか北海道も、水準感を言うとまだ悪いわけですけれども、方向としては上向いてきているというのが事実だと思います。

 以上です。

津川委員 これは分析で、先生の方が当然専門家でいらっしゃいますからそういう分析をされるんだと思いますが、私の方は、言ってみれば底にへばりついているという状況でありまして、これを中小零細企業に関して改善とは見ないのではないか。これはまさに私どもが肌で感じる部分と一致をするからだと思います。私どもも回れる範囲も限られておりますから、どちらが正しいということではありませんが、いずれにしても、中小零細企業を取り巻く環境はまだまだ非常に厳しい状況であるということは間違いないと思います。

 金利政策について若干伺いたいと思いますが、企業が成長のエンジンだということは確かにそのとおりでございますが、もう一つ、金利について家計から見なければならないのかな。家計から見た金利というのは、これまで余り多くはメーンには議論されてこなかったろうと思います。

 現在の超低金利政策、いわゆるゼロ金利政策を、一つ、若干偏った見方かもしれませんけれども、私ども、家計から見ますと、この十年間で家計の財布から失われた利子、これは一体どのくらいあるだろうか。これも仮定の推計でありますけれども、まあ三十兆から四十兆、少なくともそのぐらいはあるだろう。そのぐらいの金額を、言ってみれば家計から、これはどこに移したかは議論があるところでありますが、一時的には少なくとも銀行に移したわけですね。

 私どもは、この政策が果たしてこれでいいのだろうか。それは、家計の最終的な負担を減らしているんだという議論ももちろん最終的にできないわけではありませんけれども、それをするのであるならば、家計に対してというのはおかしいんですが、国民に対して、そういう政策をとるんだ、皆さん方が受け取るはずの金利をこういった形で使わせていただいて、それは結果的に皆さん方のためになるんです、こういう説明があれば、それはそれで政策として筋が通っておりますが、残念ながらそういう説明はされておりません。

 そもそもわかりにくい説明だという部分もあるのかもしれませんが、今のまさにゼロ金利政策と言われる金利の状況について、河合先生と河野先生から御見解をいただければと思います。

河合公述人 ゼロ金利は、確かに預金者に対しては余り有利なことではないわけですね。

 二つ申し上げたいんですけれども、一つは、ゼロ金利政策をとることによって、あるいは低金利政策をとることによって経済全体の回復を促す目的があった。デフレをなくしたり、持続的な経済成長を回復させるということが目的である、とすれば、これは、長い目で見ますと、預金者を含めました国民にとってプラスになるであろう。

 二番目の点は、預金者は、低金利あるいはゼロ金利であるならば、恐らく預金に固執するのではなくて、リスクはあるけれどもより高い収益性を生む、そういった投資機会にお金を移していく方がより合理的ではないか。そういうふうに預金者がしないというのは、そういうリスクを余り負いたくないという選択をしていた可能性があるのではないかというふうに思います。

 経済政策として、預金者に対して、こういうマイナスのインパクトがあるけれども、しかしこれは国のためになることですというふうに説明する仕方はそれなりに意味があると思いますけれども、預金者は預金以外にもいろいろな選択があるということも指摘しておきたいと思います。

河野公述人 あらゆる経済政策が、メリットがあると同時に副作用があるというのは事実だと思います。表面的に見た場合、家計部門から企業あるいは金融市場を通じて政府部門に利子所得の移転が起こったというのも事実だと思います。

 ですが、最も重要な点は、金利が低下する、ゼロ金利になることによって企業活動なりが支えられることによって、最終的に家計部門の雇用が支えられていたという点からすると、全体のメリットとデメリットを比較考量しますとメリットの方が大きかったということだと思います。そして、なおかつ、そういった説明をもっと十分にすべきだったというふうに思います。

 先ほど私が、中長期的な成長率を高めるのはあくまでも人々の創意工夫であるということを申し上げました。そういった意味では、マクロ経済政策によって中長期の成長率が高まるわけではありません。ですが、九〇年代の我々の長期低迷を見ると明らかなように、マクロ経済の安定化を失敗すると、構造改革を幾ら頑張っても、人々の自由な創意と工夫を促すことがやはり難しくなります。そういった意味で、金融政策に頼るというのはいたし方ないですし、そういった説明を十分にするということも必要なんだろうというふうに考えます。

 以上です。

津川委員 私どもは、まさに国家財政を語りながらも、同時に家計の視点から見なければならないということも相当あろうかなと思っています。今おっしゃっていただきましたが、まさに人々の英知、工夫、あるいはそういったところから生まれてくるさまざまな新しい技術、そういったものが経済を発展させていく、これはまさに基本だと思います。

 ただ、景気が回復していかない一つの原因でもあろうかと思いますが、私どもは、今、若い人も中堅の方々も含めて、将来に対する不安がある。それは、景気、デフレに対する不安というよりも、むしろ不安定化要素が非常に多くなった、労働環境が変わった。一度就職をすれば、まじめに頑張っていればとりあえず定年退職まで働けるという環境が非常に薄れてきたということの不安というものは非常に大きいと思いますし、そういったことに対して家計がどう動いたかというのも私どもは非常に注目をしなきゃいけないことだなと思っておりますので、金利政策についても、まさに家計から見てどうかという視点を伺わせていただきました。

 最後に、酒井公述人にお伺いをいたしますが、非常に詳しい視点から研究をされていると伺っておりますが、私どもがある意味非常に不思議に感じるのが、アメリカのイラク政策について、アメリカは何をしたいんだろう。これは湾岸戦争のときから言われてきたことでありますし、また、九・一一のときにも、声は小さかったですがやはり言われてきたことだと思うんですが、まさに冷戦が崩壊して以降、アメリカの世界戦略が非常に変わりつつあるのではないだろうか。

 その一環として、一国で世界の唯一の超大国であろうとするよりも、かつてのモンロー主義に近いような、少しずつ手を引く、全く無関心ではないけれども、例えば間接的に支配をしようとする。北朝鮮に対する政策なんか、まさにそれで説明できる部分、まさに中国にやらせようとしているというのが非常にわかりやすいところだと思うんです。

 このイラクあるいは中東地域に対するアメリカの政策ですが、例えば、フセインを倒してイラクに民主的な国家をつくれば、当然のことながら、反米的な、イスラム色の強い民主国家ができることはだれが考えても普通のことだと思います。現在の流れもまさにそういった流れに沿っているのかな。細かくはいろいろと、そうはさせじという政策をとったようにも見えますが、しかし、大きな流れを見ていると、最終的にはこういったところに落ちつくことは避けられないのかな。

 アメリカが民主国家をつくっていくというのは今回初めてではありませんから、そう苦手とはしていないと思いますけれども、なぜ今回こういった政策をとろうとしているのか。イラクの現場もさることながら、アメリカがこのイラク政策をどのように考えているのかということについて御示唆をいただければと思います。

酒井公述人 御質問ありがとうございました。

 私自身はアメリカの政治政策の専門ではございませんので、今次のアメリカの対イラク政策に見られるポイントを多少御説明させていただきたいと思います。

 御指摘ございましたように、今、アメリカの対イラク政策あるいは対中東政策全般が、何をしたいのかということが非常に不明確な状態で進められている。これは恐らく、何か意図があって何をしたいかよくわからないというような政策になっているというよりも、本当に何をしたいのかよくわからないというような状況なのではないかと思います。あるいは、もっと言ってしまえば、恐らく、長期的な戦略を立てる部署と短期的な戦略を立てる部署、あるいは経済的な利益を追求する場、あるいは軍事的な政策を追求する場というようなもののさまざまな利害調整がアメリカの国内でも余りできていないのかな、恐らく党の間でも違うし、党の中のさまざまな派閥の中でも違うのかなというような印象を受けます。

 恐らく問題は、そうしたことをアメリカ自身がうまく、統合的な、整合性のある政策をとってもらえればわかりやすいわけなんですけれども、どうもそこのところが、アメリカだけで考えているとてんでんばらばらの状態で、最終的には責任を放棄して手を引くというような方向に行きかねない。その意味では、やはり国際社会が、そういったアメリカの抱えるさまざまな矛盾を周りから整合性をつけるような形で推進していくというようなやり方をとっていく必要があるのかな。

 ただ、それがアメリカがなかなか今は耳をかさないというような状態にあるかもしれませんけれども、先日もブッシュ大統領自身がヨーロッパを回られたように、二期目ということで、国際社会との協調関係を多少なりとも再構築していくという流れの中で、少し国際社会の方から働きかけを行っていくことでアメリカにその方向性をむしろつけていくというやり方が望ましいのかなというふうに私は思っております。

津川委員 終わります。ありがとうございました。

甘利委員長 次に、佐々木憲昭君。

佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。

 きょうは大変貴重な御意見を聞かせていただきまして、ありがとうございます。時間がありませんので、全員にはお聞きできないんですけれども、まず久保田公述人にお伺いいたします。

 所得税の定率減税の縮減廃止に反対であると、これは我々も全くそのとおりで、そういう立場でありまして、この点では大いに共通性があるなというふうにお聞きをいたしました。

 そこで、少し角度を変えまして、二〇〇七年度に増税ということが検討されている消費税の問題です。これは逆進性を持った税制であって、これを増税いたしますと、その逆進性が一層拡大をして所得の低い階層に大きな打撃になるということもありまして、私たちは増税には反対でありますけれども、公述人は、逆進性があるというこの税の性格について、そのような認識をお持ちかどうかというのが一つであります。そして同時に、この引き上げに連合としては賛成なのか反対なのかという点をお聞かせいただきたいというふうに思います。

久保田公述人 消費税は、それだけを取り出せば、逆進性を持つという性格は持っているというふうに理解をしております。

 ただ、まず基本的には、現在の勤労者、サラリーマンがいかに公平で公正な社会をつくっていくか、とりわけ税の負担についてどういう社会をつくっていくかということをトータルで設計しなければならない、そういう時期に来ているんだろうと思います。過去から、労働組合も、負担はできるだけ少なく、給付は多くということで言ってきた時代もありますが、そのことで済むほど事は容易ではないというふうに思っております。

 その中で、連合が今消費税問題を取り上げているのは社会保障に関連することでございまして、時間もございませんので簡単に言いますが、年金の改革につきまして、連合はしっかりとした政策を打ち出しております。基礎年金の税方式化を言っておりまして、その上に二階建ての報酬比例年金をやるべきだ。その基礎年金の税方式化は、現在の二分の一の国庫負担の上に年金目的消費税ということを三%の範囲の中で創設をいたしまして、あと基礎年金部分の六分の一だけは間が残りますが、それは、従来の企業の負担といいますか保険料負担と同等なものでございまして、一種の社会保障税として企業は負担すべきであるという考え方を持っております。

 年金目的消費税という具体的な政策を持ちながら、一人一人の国民が、老いも若きもそれぞれが負担をしながら、しかもそれが確実に自分の老後生活に返ってくる、そういう仕組みを打ち立てることは今後必要ではないかというふうに考えておりますので、消費税一般論議をするつもりはございませんが、そういう具体的な設計図を持って社会保障の将来のあり方について政策論議をすべきである、こういう立場でございます。

佐々木(憲)委員 次に、酒井公述人に伺います。

 先ほどのイラクにおける選挙後の国内政治の構造について、実に鮮やかに描き出されておりまして、私は、聞いて大変感心をいたしました。今後、憲法を制定し、その憲法に基づいて、年末には正式のイラク国民から選出された議会、政府を樹立する、こういうことになっていくということが言われております。

 こういう手順を聞いておりますと、何か政治システムが着実に安定した方向に進んでいるかのように見えますけれども、ただ、問題は、イラクの治安、あるいはイラク国民の間の対立といいますか、そういう問題は、この政治システムの全体としての構築と同時に安定した方向に行くものなのか、そうではなく、実際にはより激しく対立する方向に行くものなのか。治安の行方といいますか、その点についての御見解を伺いたいと思います。

酒井公述人 御質問ありがとうございました。

 治安に関しての御質問でございますけれども、二点、不安な要因があるかと思います。

 一点につきましては、先ほどの説明でも若干触れましたけれども、今後、治安政策、特に治安を維持する母体の党派性が変わっていく可能性があるということであります。

 今後、これからシーア派のイスラム勢力、そしてクルド勢力といったような第一党、第二党が与党について、そして国防組織、治安組織を運営していくということになりますと、注意しなければいけないのは、こうしたイスラム勢力はいずれもゲリラ時代の民兵勢力を持っております。これは、そういう意味では、イラク戦争まではイランを拠点に、あるいはクルド地域を拠点にフセイン政権の正規軍に対してゲリラ戦を展開してきたような政党でございますから、シーア派イスラム勢力も、あるいはクルド勢力も、ともにみずからの民兵組織を持っております。そして、こうした民兵組織は、本来ならば解体して国軍の中に吸収されなければいけないということになっておりますが、いまだにまだ十分に解体ができていないということが言われております。

 先ほど申し上げましたように、今後、軍や治安組織が、国民のだれから見ても中立的で、どの党派にも寄らないような形で治安組織が確立されていけば、治安の安定に十分つながるというふうに考えられるわけですが、残念ながら、もしこの第一党、第二党が党派性を非常に強く出した形で治安部隊を再編していくということになりますと、こうした民兵の性格の非常に強い、言ってみれば、違う党派に対してこれまでのような形でのゲリラ戦術を展開するような正規軍になりかねないということを考えると、今後の治安政策がどういうふうに変わるかによって、かえって非常に不安定要因をもたらすということがあるかと思います。

 二つ目の点といたしましては、今回の選挙で圧倒的にこぼれ落ちてしまいましたスンニ派勢力、このスンニ派勢力の多くが、かつて軍の中核を担っていた、あるいはそれこそバース党員として政権の中枢を担っていたということがございますので、非常に短絡的な発想をすれば、選挙で参加できなかった、あるいは正式な政党システムの中で意見を申し述べるような機会を与えられなかったということが、翻って、それでは軍事クーデターによって今後政権を奪取するという道の方が近道であるというような考え方になりかねない。

 そういう意味では、今回、政治システムが着実に進んでいくということは望ましいことですけれども、その政治システムが国民の広範な勢力を代表するようなものにならなければ、逆に、取りこぼされた人々の間で、より武力によって政権を再奪取するというような方向性が出てこないとは限らないという問題があろうかと思います。

佐々木(憲)委員 ありがとうございました。

 自衛隊の問題ですけれども、昨年十二月に一年間の派遣延長というのが決められたわけですが、我々これは反対だったわけですけれども、昨年の四月に初めて迫撃砲による攻撃が自衛隊に対して行われて、それが徐々にふえてきている。特に、十月末に続いた攻撃というのは、宿営地内に破壊力の強いロケット砲の攻撃ということで、大変危険な状況になったというふうに聞いております。

 このような自衛隊に対する攻撃の発生度の高まりといいますか、その背後に一体どういうものがあるのか。その理由をどのようにお感じになっているか。また、自衛隊に対するイラク国民の意識というものは、一体、以前と最近はどのように変わっているのか。この点についてお聞かせいただきたいと思います。

酒井公述人 自衛隊に対するイラク国民の反応、そして攻撃が高まっている背景ということの御質問でございます。

 まず、攻撃の背景につきましては、いまだにその背景ははっきりとはわからないという状況だろうと思います。

 ただ、攻撃の内容そのものを見ておりますと、やはり地元の人々の間に何らかの攻撃をサポートする者がなければなかなかできないような、近くに迫った攻撃になりつつあるという印象を受けます。その意味で懸念されますのは、地元住民の間で自衛隊に対する不満が高まるということになると、これは大変危険な状況になるということがあると思います。

 そこで、住民の自衛隊に対する意識の変化でございますけれども、基本的に、この間に出されております世論調査等々を見る限りでは、一般的にはまだまだ非常に高い評価を得ているということであります。

 ただ、高い評価を得ている一方で、自衛隊の活動が十分ではない。これは当初から言われてきたことではございますけれども、給水活動や学校の修復といったものにとどまらず、例えば一番深刻な問題である発電所の建設であるとか、生活により密着した形での援助をもっと早く、もっと効率的に行ってほしいというような希望が高まっておりますから、そうした希望がかなえられないことによって、反発というか不満が上がってきているということがあろうかと思います。

 そういう意味では、先ほど言いました、攻撃の回数がふえている、そして攻撃が近くなっているということが地元の反応だとすると、そうした地元の不満足感、十分に自衛隊の活動から利益を得られていないという不満感がこうした攻撃につながっているという可能性は否定できないと思います。

佐々木(憲)委員 昨年十一月に米軍がファルージャに対する総攻撃というのを行いました。これは大変な規模だったと聞いておりますけれども、米軍、イラク軍合わせて最大一万五千人を投入したというふうに聞いておりますが、大変なことだと思うんです。

 その実態というものがなかなか表に出ておりませんので、病院を攻撃したとかいろいろな話もありますが、公述人が知っておられる範囲で、この実態がどのようなものであったのか、それから、これがイラク全体の今後に与える影響といいますか、これをどのようにお感じになっているか、お聞かせいただきたいと思います。

酒井公述人 ファルージャの状況につきましては、私が知り得る限りでもなかなか具体的な情報が伝わってきていないというのが事実でございます。これは、御指摘にもありましたように、最初に病院が米軍側のコントロールのもとに置かれましたので、病院に運ばれた被害者の総数が一般に流れてこないということが一つの理由かと思います。

 ファルージャの掃討作戦がその後のイラク情勢に与える影響、あるいは今現在与えている影響ということで言いますと、一言申し上げておきたいのは、このファルージャ作戦によって、いわゆる武装テロ勢力が根絶されているわけではない、逆に、よりポイントを絞った形で攻撃を強めているということがございます。

 ファルージャ自体は今はまだ廃墟状態になっておりまして、難民生活を続けている住民が大変多い。このファルージャを含めて、前回の選挙では、アンバール県というファルージャのございます県では投票率がわずか二%であった。これは、行きたくなかったから行かなかったという二%ではなくて、行こうにも難民状態にあって行けなかったというようなアンバランスが生じたものと思います。

 そうしたファルージャ自体が回復していないということに加えて、ファルージャが活動拠点にならなくなったということで、別の地域にテロ勢力が活動を移しているということがございます。

 その別の地域というのが北のモスルというところでございますけれども、このモスルというイラクでの第三番目の大都市に対して、米軍は何度もこれまで、ファルージャと同じような掃討作戦をかけなければいけない、このまま放置していては町自体が大変危険なことになるという認識を持っておりましたが、逆に、ファルージャでの経験を考えて、モスルに掃討作戦を起こすと米軍側の被害が大変大きなものになるという判断の上に、現在は、米軍は具体的な行動を起こさず、基本的に地元の警察、治安部隊に任せているという状態ですので、残念ながら、ファルージャ後、各地に不安要因が拡散した状態で、今のところ打つ手がない状態にあるというのが現状だろうかと思います。

    〔委員長退席、茂木委員長代理着席〕

佐々木(憲)委員 ありがとうございました。

茂木委員長代理 次に、横光克彦君。

横光委員 社民党の横光克彦でございます。

 きょうは、公述人の皆さん、本当に貴重な御意見ありがとうございました。私も、時間の関係で全員にいろいろとお尋ねすることはできませんが、よろしくお願いいたします。

 まず、河野公述人にお尋ねをいたしますが、河野さんは、現在の景気状況、確かに景気減速ではあるが軽微である、そして、二〇〇六年に向けて回復基調は続くであろうという予測をされております。ですから、定率減税、二〇〇六年の一月一日からの実施には賛成である、妥当であるというような御意見を申されました。

 しかし、これは大変大きな増税になるわけで、それ以前にさまざまな税、保険料の負担増がもう始まっているわけですね。そして、二〇〇六年とはいえ、それが決定すれば、法案が決定すれば、国民のマインドはそれに向かってどんどん冷え込むんですね。さまざまな分野で、これは定率減税だけの問題ではない。そういった思いで、私はちょっと心配をいたしております。

 あくまでも、確固たる景気が回復した段階で行ってもいいのではないか、今ではなくてもいいのではないか、そういう思いを持っておるんですが、いま一度河野公述人の御意見をお聞かせください。

河野公述人 仮に景気が私が想定するよりも悪い状況になるという状況であれば、当然その段階では検討し直すということもあり得るべきだというふうに思います。

 実際に、九七年の財政構造改革、その段階では、そういった経済状況次第では変更するという考え方がなかったがゆえに大変なことになったわけですが、今回、既に定率減税の縮減を決定している段階では、そういったことも十分考慮に置いているという意味で、賛成しているということであります。

 以上です。

横光委員 であるならば、なお、ちゃんとした、そんな途中で変えることを予測してまで今行うべきではないのではないかというのが私の意見なんです。

 一方、勤労者の代表であります久保田さんのお話では、景気に対する考えとしては、実感なき景気回復であるというお言葉がございました。

 その根拠として、いただいております資料で三ページの、内閣府の試算で出されております潜在成長率の推移、これを見ますと本当に、定率減税が導入されました、いわゆる最悪の状況のときに景気回復という大きな目的のために導入されたこの定率減税の状況と、そして現在の二〇〇四年の状況とほとんど変わってないんですね。こういったときに半減するということは、まさに実感なき景気回復を、さらに実感を遠くするものであろうという気がするわけでございます。

 かてて加えて、六ページの可処分所得、これが実際、生活者のところには非常に打撃を与えておるんですね。可処分所得は現在下がり続けているわけですね、定率減税導入された時点から比べると。これは一番いわゆる個人消費に影響を与える額でございますので、こういった状況からすると、やはり今定率減税に明確に反対を鮮明にしている気持ちがよくわかるわけでございます。

 そういった中で、これらの税金、税の問題の前に、大変大きな、今なお続いているわけですが、年金の問題でございます。

 この年金につきまして、抜本改革だといって強行採決をして現在施行されているわけですが、結果的にはこれは抜本改革でも何でもない、一時しのぎの改革であるということは国民のほとんどが知っているわけですね。ですから、各紙の世論調査で、国民は今なお本当の年金抜本改革をしてほしいという声が一番高いんですよ。

 そういった中で、現在施行されております年金法につきましてのお考え、そして現在の状況、そしてさらに、本来あるべき年金法の姿等をお示しいただければと思うんですが、いかがでしょうか。

久保田公述人 定率減税問題についてはもう繰り返しませんが、ここに書いてある、資料をお示ししたとおりでございます。ぜひ実感を持って経済運営をしていただきたいということを、切に申し上げたいと思います。

 年金の問題につきましては、連合が一番今懸念をしておりますのは、結局悪循環に入っているのではないか。給付を切り下げ負担を上げるというのを、過去の五年ごとの見直しのまた同じことを結局やってしまって、しかも昨年の国会運営等々を通じまして、国民は一層いわゆる不信感を持ってしまったということは非常に大きな不幸だと思っております。

 しかも、何回もきょう強調しておりますが、非典型雇用がどんどん膨らんでおります。その人たちが十年後、二十年後に、社会保障政策の支える側の基盤がどんどんと掘り崩されつつあるということを、歯どめがかかっていないというふうに見ておりますので、何としてもこの抜本改革を、年金、介護、医療、これをパッチワークではなくて、社会保障一体の改革を、しかも社会保険料でどこまで取るのか、税をどこまでかませるのかという、先ほど申しました年金目的消費税のあり方ということもしっかり踏まえた上で、タブーをなくして議論をすべき時期にやはり来ているのではないか。しかも、保険料が二〇〇八年の九月に一五%を超えてしまいますので、期限はそれまでである。二〇〇八年までに、年金を含めた社会保障制度の抜本改革を最後の機会としてやるべきではないかというふうに考えております。

 以上です。

    〔茂木委員長代理退席、委員長着席〕

横光委員 今お話がございましたように、社会保障全体を考えますと、膨大な形の経費がかかってきているのが現実でございます。ですから、これは年金だけの問題ではない、医療、介護含めての、おっしゃる社会保障制度の一体改革の必要性があるのは論をまちません。

 政労使の社会保障制度のあり方に関する懇談会というのがございますが、ここに連合から笹森会長が参加されております。ここの中で、この社会保障制度の一体改革について特に訴えている点は、どのようなところでしょうか。

久保田公述人 今申し上げたようなことと繰り返しになるかもしれませんけれども、年金、介護、医療、トータルで、しかも今までパッチワークでやってきた嫌いがあるのではないか。それを一体改革として、しかも負担の問題は、社会保険料と税をどのように組み合わせるかということを含めて、安心と信頼のといいますか、将来にわたって自分の老後あるいは自分の子供たちの老後を含めて、これで安心だということをどう設計するか、民意も問われると思います。

 時間がございませんので、一五%以上に保険料がならないうちに改革をする、そのためには、社会保障のあり方懇談会を中心に議論はしていただきたいと思いますが、最終的には国会の場でやはり政治家が法律で決めていくべき問題ではないかというふうに思いますので、ぜひ車の両輪のような形で、このあり方懇には労働組合だけではなくて経営側も入っておりますから、ぜひ、政労使といいますか、この日本を構成するさまざまなステークホルダーが一体となりまして、安心できるそういう設計図をつくり上げていくべきではないかと思いますので、ぜひ国会の場でもよろしくお願いをしたいというふうに思います。

 以上です。

横光委員 どうもありがとうございました。

 酒井公述人にお尋ねをいたします。

 先ほど詳しくイラクの現在の状況、あるいはこれから予測される状況をお話しされましたが、正直言って非常にわかりません。混乱をしているなということだけしかわからないんですね。

 そういった中で、ちょっとこれから大事だなという気がしたのは、やはり今後イラクが安定していくためには、今回の選挙から、事実上参加しなかった、もっと言えば、排除されたに近いスンニ派、この一派をどのように政治プロセスに取り込んでいくかというのが、非常にこれからのイラクの安定のかぎになるという気がしたわけでございます。選挙の結果は結果として尊重されなくてはならないわけですが、このスンニ派を取り込むためには具体的にどのような方策が考えられるのか、もしお考えがあれば。ここは非常に私は、これからのイラクは大事じゃないかなという気がするんですけれども、どうでしょうか。

酒井公述人 スンニ派の取り込みということでございますけれども、御指摘いただきましたように、確かに前回の選挙におきましてはスンニ派の政党が非常に得票率が低い、そして投票率自体も非常に低いということでございます。

 ただ、留意すべき点は、実は、スンニ派の政党でボイコットした政党は大変少ないわけです。ボイコットした宗教組織がございますけれども、その宗教組織の持つ支持率は大体三割程度でございますので、七割方の非宗教的な住民たちは、ここにも下線が引いてございますけれども、支持政党がないということで選挙に行かなかったということの方が多い。つまり、スンニ派の政党は選挙には出てはいたわけだけれども、十分支持を得られなかったということになります。

 ある意味で、スンニ派の間では、いわゆる政党結成の経験がこれまで余りない、むしろ個人政治家として、個人の名望家あるいは都市の知識人というふうな形で政権中枢に活躍してきた人物が多いということになりますから、ではスンニ派の比率が少ないので、閣僚にこの人を入れてやれとかあの人を入れてやれというような形で入れたとしても、もともとその人たちは支持されていない人たちになりますので、閣僚にピックアップすることで物事が解決するとはなかなか思えない状況かと思います。

 御指摘のとおり、ではこのスンニ派をどのように安定させていくかということは、そうしたトップクラスの政治家のレベルではなくて、むしろ中堅層で、官僚なり、あるいはさまざまな軍にしても何にしても、国家機関の中間レベルの、役人レベルでの登用を確保するというやり方が望ましいのではないかと思います。すなわち、過去にスンニ派でフセイン政権のもとで務めていたような局長クラスあるいは次官クラスといったような人々が相変わらず職に戻れていないというふうな環境がございますので、雇用対策も含めて、そうしたトップレベルではない中間レベルでのスンニ派の雇用を確保するということが肝要になるかと思います。

横光委員 先ほどもちょっと質問されましたが、イラクへの自衛隊の貢献なんですが、本当に役立っているのかという状況に今あるのではないか、十分貢献してきたわけですが。こうした中、今度オランダ軍が撤退する、そしてイギリス軍さらにはオーストラリア軍が、警護といいますか、そういった形でサポートするわけですね。そういうことを考えると、何のためにこの自衛隊という武装部隊である必要があったのかと考えざるを得ないわけです。

 現実に、支援の中心であった給水活動もODAを中心にした民間に移行しつつあるわけでございますし、これからオーストラリア軍等がサポートする状況になるとかえって出口が見えにくくなる。これまではオランダ軍、これからはイギリス軍、オーストラリア軍、いろいろな人たちのおかげで活動していたわけですが、そういった状況になると、逆に周りを固められて身動きできなくなるのじゃないかという素人的な考えもあるんですが、本当のイラクのための貢献は、もう自衛隊の役割としては十分ではなかったかと思うんですが、その点、いかがでしょうか。

酒井公述人 自衛隊に限らず、今のイラクにおいて最も有効な協力のパターンといいますのは、外国軍にしても外国企業にしても、そうしたものが中心になってイラク国内で活動するというのではなくて、むしろイラク国内にある企業なりイラク国内の組織を活用して、彼らに復興をゆだねるというようなやり方が一番効率的であり、かつ雇用対策になり、そして彼らのあすの復興への意欲を駆り立てるというようなことになるかと思います。

 むしろ、これまでの難点といたしましては、外国企業が入ってきてしまったがために、特にこれは英米企業でございますけれども、英米企業が入ってきてしまったがために、これまでの工事などの修復のノウハウが、現地のノウハウと外国企業のノウハウが食い違って復興が途中でとんざしたというようなケースが幾つか見られますので、むしろ、こういう状態であるからこそ、現地のイラク企業を中心にした復興計画を改めて練り直すというようなことが必要になってくるかと思います。

横光委員 ありがとうございました。終わります。

甘利委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。

 公述人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表し、厚く御礼を申し上げます。ありがとうございました。(拍手)

 以上をもちまして公聴会は終了いたしました。

 午後一時から委員会を開会することとし、公聴会は、これにて散会いたします。

    午後零時十一分散会


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