衆議院

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第1号 平成21年2月16日(月曜日)

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平成二十一年二月十六日(月曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 衛藤征士郎君

   理事 岩永 峯一君 理事 小島 敏男君

   理事 佐田玄一郎君 理事 鈴木 恒夫君

   理事 田野瀬良太郎君 理事 山本  拓君

   理事 枝野 幸男君 理事 菅  直人君

   理事 富田 茂之君

      井上 喜一君    伊藤 公介君

      石田 真敏君    臼井日出男君

      小野寺五典君    尾身 幸次君

      近江屋信広君    大野 功統君

      木村 隆秀君    岸田 文雄君

      小池百合子君    斉藤斗志二君

      坂本 剛二君    下村 博文君

      菅原 一秀君    園田 博之君

      中馬 弘毅君    土屋 正忠君

      中野 正志君    仲村 正治君

      根本  匠君    野田  毅君

      葉梨 康弘君    原田 令嗣君

      深谷 隆司君    三原 朝彦君

      盛山 正仁君  やまぎわ大志郎君

      山中あき子君   吉田六左エ門君

      渡辺 博道君    大島  敦君

      逢坂 誠二君    川内 博史君

      小宮山洋子君    仙谷 由人君

      筒井 信隆君    中川 正春君

      細野 豪志君    馬淵 澄夫君

      笠  浩史君    和田 隆志君

      渡部 恒三君    池坊 保子君

      江田 康幸君    笠井  亮君

      吉井 英勝君    阿部 知子君

      日森 文尋君    糸川 正晃君

    …………………………………

   公述人

   (独立行政法人大学評価・学位授与機構評価研究部准教授)          田中 弥生君

   公述人

   (三菱UFJ証券株式会社チーフエコノミスト)   水野 和夫君

   公述人

   (みずほ総合研究所株式会社専務執行役員チーフエコノミスト)        中島 厚志君

   公述人

   (NPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局長)          湯浅  誠君

   公述人

   (跡見学園女子大学マネジメント学部准教授)    中林美恵子君

   公述人

   (全国保険医団体連合会会長)           住江 憲勇君

   公述人

   (株式会社リクルートワークス研究所所長)     大久保幸夫君

   公述人

   (元東京中央郵便局長)  神岡 篤司君

   予算委員会専門員     井上 茂男君

    ―――――――――――――

本日の公聴会で意見を聞いた案件

 平成二十一年度一般会計予算

 平成二十一年度特別会計予算

 平成二十一年度政府関係機関予算


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     ――――◇―――――

衛藤委員長 これより会議を開きます。

 平成二十一年度一般会計予算、平成二十一年度特別会計予算、平成二十一年度政府関係機関予算、以上三案について公聴会を開きます。

 この際、公述人各位に一言ごあいさつを申し上げます。

 公述人各位におかれましては、御多用中にもかかわらず御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。平成二十一年度総予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、どうか忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願い申し上げます。

 御意見を賜る順序といたしましては、まず田中弥生公述人、次に水野和夫公述人、次に中島厚志公述人、次に湯浅誠公述人の順序で、お一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 それでは、田中公述人にお願いいたします。

田中公述人 本日は大変貴重な機会を賜りまして、まことにありがとうございます。私、公述人を務めさせていただきます、大学評価・学位授与機構の田中弥生と申します。

 きょうは、「政府が担う公共領域と市民が自発的に担う公共領域 行政効率化の先に求められるもの」というタイトルで説明をさせていただきたいと思います。

 お手元の資料を一枚おめくりください。

 きょうの説明の全体の構成でありますが、まずプロローグ、そして二番目に、官から民への政策とNPO十年、そして三番目として、政策における視点・発想の転換の必要性という、この三点を柱に御説明申し上げたいと思います。

 次のページをごらんください。

 まず、今回の予算の内容、特に「徹底した無駄の削減」、これを拝見していますと、いかに我が国の財政状況が厳しいものであるかということが改めてわかり、身が引き締まる思いであります。

 しかしながら、さらに私が憂慮する点が二点ございます。それは、一つは、将来の財政規律というものをどう維持、確保していくのかということであります。そして、二点目としては、今回の政策の内容が、サービスの提供量をふやす傾向にありながら、その負担のあり方については明確な答えが出し切れていないという点であります。

 次のページをおめくりください。

 この懸念を抱いているのは、どうやら私だけではないようです。私も参加している認定NPO法人、言論NPOでは、歴代政権の百日評価というものを行っています。そして、麻生政権についても百日評価を、これは有識者のアンケートを通して行っております。

 その結果は全般に厳しいものでありましたが、その中で、一つ高い評価を得ているものがあります。それが、消費税増税を全治三年後に位置づけたということで、四一・四%の方がこれは肯定できるというふうに高い評価をしています。この結果をやや逆説的に解釈させていただければ、まさに受益に対する負担をどのように確保していくのかということに対して、そこに政治がどのように解を見出すのかということがはっきりしていない、これに対して懸念を抱いているのではないかというふうに解釈できるのではないかと思います。

 次のページをごらんください。

 これまで、財政制度審議会初めさまざまな場で、財政規律あるいは受益と負担に関する議論が行われてきました。しかし、これまでの議論というのは、サービスの供給側、つまり政府側からの議論が中心に行われていたということであります。しかし、私は、その先には需要側、すなわち国民側からの議論も必要ではないかと思います。それは、私たち一人一人の受益と負担に対する認識をどう醸成していくのかということであり、その先には、自立と公共心というものをどうはぐくんでいくのかということであります。そのためには、私は、市民が自発的に担う公共領域というものをいかに豊かにしていくかということが課題ではないかと思います。

 したがいまして、本日は、この需要側、すなわち国民側の視点から、市民が自発的に担う公共領域と、その旗手役として期待されたNPOの課題について御説明申し上げたいと思います。

 次のページをごらんください。

 まず、NPOの役割でありますが、経営学の父と言われたピーター・ドラッカーは、NPOには大きく二つの役割があると述べました。一つは、社会的なサービスを提供することによって人々の生活の質を向上させるという役割であります。そして第二の役割は、人々に、寄附やボランティアなど社会参加の機会を通して、そのNPOが取り組んでいる問題が自分の問題でもあるととらえ、そしてその活動を通して、自分たちもこの社会に役に立っているのだということを実感してもらう、そのような役割であります。それゆえに、ドラッカーは、NPOのことを市民性創造機関というふうに名づけました。

 実際に、このボランティアに参加している方々にインタビューをしてみますと、政策の動向や税金の使途に対して、より高い関心を示す傾向があります。そして、このような人々は、納税と投票という国民としての義務を果たしているだけでなく、それに加え、みずから公益に貢献する人々でもあります。

 次のページをごらんください。

 では、この十年どうであったかということであります。

 NPO法が施行されて、昨年十二月一日で十周年を迎えましたが、その量的な成長は著しく、法人数は三万六千三百に至っております。旧公益法人制度が百年を経たところで二万五千でありますので、その成長ぶりがうかがえるかと思います。

 しかしながら、課題も明らかになっています。

 第一に、財政的に困難で容易に自立ができないということであります。

 第二に、社会的な信用の問題であります。違法行為、脱法行為というのは全く論外でありますが、それだけでなく、NPO法の目的と精神とはおよそ異なるような団体と思われる団体が、法人制度を使ってNPOを設立しているというケースも散見されるようになりました。これは明らかに、このセクターの社会的なイメージを悪化させます。

 そして第三に、行政の下請化の問題であります。

 NPO法人は、収入規模二千万円を超えるぐらいから、収入の七割以上を収益事業で占める傾向があります。そして、その大半というのは、行政からの委託金であると推定されます。しかし、その委託金というのは大変安く、例えば常勤一人当たりの年額、年俸を百二十万円や百五十万円に設定しろというような要求が行政側からなされているケースも散見されます。そのために、このような安い委託を受けた団体の経営がますます悪化するというようなケースも見られます。

 このように、行政からの委託金に過度に依存した結果、NPO側の組織の性質にも変調を来しています。幾つか特徴がありますが、一つは、NPOが持つ創意工夫力、これは社会的なイノベーション力とも言われていますが、それが失われ、そして寄附やボランティアを集めなくなっていくという特徴であります。

 次のページをごらんください。

 これは、NPOの収入規模の分布を示したものであります。

 次のページをごらんください。

 これは、NPOの収入構造を示したものであります。これで事業収入の比率が高いということがおわかりになるかと思います。

 次のページをごらんください。

 さて、先ほど申し上げたドラッカーの非営利組織の二つの役割について、日本のNPOはこの十年、どのようにその役割を果たしてきたのでしょうか。

 まず第一の役割でありますが、社会サービスを提供するという役割であります。ここについては、NPO自身が最もエネルギーを投じ、そして、質、量ともに、私は一定の成果を上げてきたと思います。

 しかしながら、第二の役割、市民性創造については大きな課題を残しました。例えば、五四・五%のNPO法人が、寄附をゼロ円、つまり集めていないという実態があります。それから、ボランティアというのはアマチュアの小規模な団体が行うものだといって、みずから切り離していく、差別化するような言動というのがNPO側から見られるということがあります。

 次のページをごらんください。これは、寄附金が、集めていない、集まっていないということを示したグラフであります。

 次のページ、十二ページをごらんください。ここは官から民へという政策の話をしたいと思います。

 NPOが急速にその数を拡大した十年間というのは、同時に、公益の、政府部門の改革を大きく進行させてきた時期でもありました。まさに、行財政支出削減とともに、民間が公共サービスを担うことを可能にするための一連の制度というのが施行されました。

 次のページは、市場化テスト、PFI、特区法あるいは指定管理者制度の一覧を述べたものであります。この指定管理者制度を除きまして、これらの制度は、担い手、すなわち企業や民間非営利組織、それと行政との間の委託契約関係を基本としております。

 また、そのほか、自治体では、協働という、ある種のはやり、キャッチフレーズのもとで、安いアウトソーシングとしてNPOに行政を委託するというケースもふえていった時期でありました。

 次のページをごらんください。これは、今申し上げた各制度の一覧であります。

 さらに一ページおめくりください。十四ページです。

 しかし、この行政機能のアウトソーシングというのはまさに行政の外延化でありまして、言い方をかえれば、行政機能が周辺に広がったということであります。しかしながら、非営利的な民間の活動が自立して公共を担うという事例は、この十年、余り広がっていなかったと思います。まさに、行政業務の効率化の努力はなされましたけれども、安い労働力を提供したことによって起こったNPOの行政の下請化の問題というのは、市民社会を含めた、民間の公共の担い手を視野に入れた制度設計というのがうまくなされていなかったことを示唆しています。

 厳しい言い方を申し上げれば、行政の効率化だけを行えば、公共領域の設計が自動的にでき上がるという錯覚があったのではないかと私は思います。本当に市民が公共領域を担うことを期待していたのであれば、市民が自発的に担う公共領域をどのようにイメージし、そしてどのように環境を整備するかということを今後の制度設計に含めていくべきであろうと思います。

 次のページをごらんください。この問題を図でお示ししたいと思います。

 四角い枠が上下二段に分かれていますが、この上段部分は、政府が徴税して公共サービスとしてそれを国民に配分する、租税をベースにした公共領域であります。一般に私たちが想定しているのはこの公共ゾーンであります。しかしながら、下段の四角の部分、もう一つの公共領域があります。それは、つまり、政府を迂回せずに、市民が自発的に寄附やボランティアなどでリソースを提供して、そしてサービスを排出する分野であります。

 官から民へのアウトソーシングというのは、あくまでも租税をベースにして政府が担う公共領域の中で行われていたことであります。しかしながら、さきのNPOの現状が示しているように、市民が自発的に担う公共領域というのは、大きくその課題を残しました。

 次のページをごらんください。そうであれば、私は、今後の政策の課題の一つに、目標として、市民が自発的に担う公共領域の充実というものを挙げたいと思います。

 この十年間、政府が担う公共領域の再編、再構築については多大なエネルギーを投じ、努力を続けられてきたと思います。しかしながら、そこから浮上したのは、市民が自発的に担う公共領域をいかに豊かにしていくかという課題であります。

 例えば、現在、非営利セクターの収入構造は寄附比率が八%しかありません。しかし、これを今後三〇%にまで引き伸ばすというのも一つの具体的な目標値ではないかと思います。

 次のページをごらんください。

 しかしながら、この目標を達成するためには、政策の視点の大きな転換が必要だと私は思います。つまり、量を追う政策から質を追う政策への転換が必要だということです。

 この十年、NPOの数をふやしてきましたが、それらの多くが、自立ができないということで要件緩和をして、ハードルを低くして、そして寄附免税の対象数をふやすアプローチをとってきました。しかしながら、今後は、自立したより強いNPOを育成し、促進する、そして、それを皆が目指して切磋琢磨するような好循環をつくっていかなければいけないのではないでしょうか。まさにこれが質を求める政策ということであると思います。

 この十年間というのは、NPOをスタートさせた時期でありますので、NPOの揺籃期であったと思います。NPO法は一九九八年の十二月、そして、NPO法人に寄附免税資格を付与する認定NPO法人については二〇〇一年に施行されました。そして、現在に至るまで、NPO法に関しては主な改正は一回、そして認定NPO法に関しては主な改正は五回行われていますが、その改正の内容の基本というのは要件緩和であります。

 したがって、この十年というのは、NPO法制度に関しては要件緩和を行いながら、他方で、行政効率化という政策のもとでNPOへの行政委託をふやした、その結果として行政の下請化を招いたということではないでしょうか。

 しかし、これだけでは市民が自発的に担う公共領域は容易に育たないということは、NPOの現状が物語っています。

 次のページをごらんください。

 質を求める政策というのは、市民社会をベースに正当な手続のもとで、きちんと成果を上げた団体に人、物、お金といったリソースが集まるための社会環境を整えるための政策だと思います。では、質を高めるためにはどのような政策的な手段が必要でしょうか。私は、新たな政策を投じるというよりも、現行の寄附免税制度、すなわち認定NPO法人を見直すことによってそれが可能になるのではないかと思います。

 少し具体的に申し上げます。

 寄附免税制度というのは、すなわち、認定NPO法人については、収入に占める寄附比率が一定の基準を満たしていることによってその団体が公益性があると評価する仕組みを採用しています。つまり、より多くの市民から寄附という支持を集めた団体こそが公益性があるという考えのもとにつくられた評価システムであります。

 私は、この評価システムの背景にある思想、考え方というものをより評価するべきであると思います。その上で、税制上のインセンティブ等をより厚くして、この評価の仕組みとインセンティブとの連動性をより強め、そして寄附などの民間資金をベースにした好循環をつくっていくということは可能ではないかと思います。

 本日は、行政効率化の先にある議論として、需要側、国民側からの視点ということで、市民が自発的に担う公共領域について御説明申し上げました。そして、今後、この領域をも制度設計に含めていくことが必要であること、そして、その旗手役として期待されているNPOについては大きな政策の視点の転換が必要である、この二点の柱をもとに御説明させていただきました。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

衛藤委員長 どうもありがとうございました。

 次に、水野和夫公述人にお願いいたします。

水野公述人 三菱UFJ証券の水野と申します。

 本日は、私から、主に日本が置かれております経済環境について御報告申し上げたいと思います。

 お手元の資料に、「構造不況の長期化と循環不況の構造化」というふうにタイトルを示してあります資料で申し上げたいと思います。

 構造不況の長期化というのは、この二〇〇二年からの景気回復、六十九カ月続きました景気回復におきましても、中小企業でありかつ非製造業というのは、九〇年からずっと現在に至るまで不況が続いているという状況であります。そして、二〇〇二年からイザナギ景気を超える景気回復が起きました。それは主に大企業そして製造業がリードする景気回復でありましたが、今起きている欧米の金融危機に端を発する世界同時不況によりまして、日本のとらの子、成長の源泉でありました大企業製造業も構造不況化するような可能性が出てきているんじゃないかなということを申し上げたいと思います。

 表紙のところに三つほど申し上げたいことが書いてありまして、最初に、まず景気の現状について、二ページ目と三ページ目で申し上げたいと思います。

 二ページ目のところに、景気の現状というのは、恐らく、〇八年度をスタートとしまして、五年間でGDPというのは一二%も減ってしまう可能性が出てきているんじゃないかなと思います。金額に直しますと、六十七兆円にも達する大きさになります。

 そう考えております理由は、今回の欧米のサブプライムローンに端を発する金融危機によりまして、アメリカとヨーロッパ、それぞれ合わせまして八兆ドル、約四兆ドルずつの過剰債務がアメリカとヨーロッパで生じたと思います。この過剰債務を解消するには、主に家計が負っている債務でありますから、消費を抑制して借金を返すのが基本だと思います。一部、公的資金注入で債務免除ということになると思いますが、それは後で増税という形で、欧米の家計に負担という形で回ってくると思います。

 そうなりますと、この八兆ドルを返すには、速いペースで返したとしても、ヨーロッパとアメリカで五年間かかると思いますので、それは同時に日本の景気も、輸出主導の景気回復でありましたから、欧米向けの輸出が伸びないという状況が生じてくる可能性が高いと思います。

 先ほど、累計一二%で六十七兆円というGDPが失われる可能性が高いというふうに考えておりますが、〇八年度と〇九年一―三月、現時点で、もう四十五兆円の減少が既に起きているんじゃないかなと思います。そうなりますと、まだと言った方がいいと思いますが、二十兆円以上の需要の減少が起きるということになると思います。

 そこで、三番目の黒点のところになるわけですけれども、〇八年度は三・二%も減少し、そして来年度の〇九年度におきましては、一年間、〇九年度のスタートであります四―六月期から前期比伸び率ゼロで横ばいに推移したとしましても、それだけで五%減という大きな落ち込みになってしまいます。相当後半からV字形回復をしませんとマイナス幅が縮小しない、そういうふうな状況になってきております。日本のGDPが最も大きく落ち込んだのは、もう戦前にさかのぼらないとないということになりまして、関東大震災がありました一九二三年の四・六%というとき以来であります。したがいまして、よくグリーンスパン前議長がおっしゃっている百年に一度というのは、まさにそういう事態に日本も巻き込まれているということだと思います。

 下のところに二つありますが、今回の不況というのは、一番下になりますが、主に機械工業の需要の縮小で生産減と、輸出が大きく減ったことによって三%というような落ち込みになっていると思います。中小企業の方におきましては、下から二行目になりますが、九〇年をピークにしまして、いまだに景気が回復していないという状況が続いていると思います。

 三ページ目をごらんいただきますと、いかに今回の景気回復におきまして機械工業の貢献度が高かったのかというのを棒グラフで示してあります。これは、産業別のGDP寄与度になります。

 ボックスのすぐ下に、〇二年の二月から景気が回復して、GDP成長率は年率で二・一%成長しておりますが、機械工業の貢献度、貢献率は、寄与率になりますが、そこに九六と書いてありますが、これを八二に訂正いただきたいと思います。グラフの中に書いてあります八一・九%というのが正しい数字であります。機械工業が八二%成長に貢献しているということでありますから、それを需要項目別で見ますと、そのすぐ下の輸出と設備投資の寄与率になりまして、これが九六%になります。

 このグラフの中の黄色いところの流通といったところは、もう既に、九九年の景気回復と〇二年以降の景気回復、二回の景気回復においてもマイナス成長という状況であります。景気を牽引しているのは、機械工業とサービス業ということになります。

 今回は、特に機械工業の、具体的には機械工業というのは、このグラフの下に示してありますが、一般機械、電気機械、輸送機械、精密機械、この四つの産業でGDPの一四%を占めております。ウエートは一四%ですけれども、成長に対する貢献は八二%ということになります。今回の輸出の大幅減によりまして、機械工業だけの輸出の減少及び生産の減少によりましてGDPを年換算で四・六%も押し下げてしまうという、そういう大きさになってきております。

 次に、四ページ目と五ページ目で、今回の欧米に端を発します不況によりまして、日本経済にどういう問題点が明らかになったかということを申し上げたいと思います。

 四ページ目のグラフは左右に、左側が大企業製造業の実質付加価値、一人当たりに直しましたGDPであります。そして、右側は中小の非製造業の一人当たり実質GDPになります。

 景気の山と谷は、ほとんど左側の大企業製造業で説明できます。これは景気がいいと一〇%成長し、不況になりますと一〇%前後マイナス成長になります。したがいまして、景気が山と谷をつけるのは、ほとんど大企業製造業の生産活動で決まってくるということになりますが、その大企業製造業が、この点線のような形で大幅に一人当たりの実質付加価値が年率換算で二二%も下がっているというような状況になってきております。

 そして一方、右側の中小の非製造業をごらんいただきたいと思いますが、ピークは九〇年であります。九〇年から趨勢的にこの水準が右下がりという状況が続いております。景気の回復期におきましても、中小企業でかつ非製造業というのは、九〇年から趨勢的に右下がりの傾向というのは変わりません。したがいまして、雇用者の六割を占めます中小の非製造業だけで仮に景気の山と谷をつけるとしますと、九〇年から現在にかけてずっと不況が続いているという状況だと思います。

 そうした大企業と中小企業の傾向を、五ページ目のテーブルで、どういう特徴があるかということをまとめました。

 まず、大企業製造業でありますが、テーブルの上段に、九〇年代以前と、九〇年代半ば以降から現在までの成長率をごらんいただきたいと思います。いずれも一二%で、どちらも日本の大企業製造業は成長率には変わりありません。ということは、九〇年の日本のバブル崩壊の影響はほとんど受けていないということになります。どちらも九〇年を挟んで成長率は一二%です。

 ただ、問題は不況期におきますマイナス幅でありまして、非常に九〇年代半ば以降というのは不況期における落ち込みが目立ってきました。

 それ以前は六・七%の落ち込みだったんですが、九〇年代半ば以降グローバル化が進展しますと、大企業製造業の不況期における落ち込みが、三回の不況期におきまして平均一三%も落ちるという状況になってきております。特に今回は二〇%以上落ちておりますので、日本経済がより外国の影響を受けるようになり、しかも不況のときに、より打撃が大きくなってしまうという経済構造になってきております。

 一方、下の数字になりますけれども、中小企業非製造業、資本金が一億円未満の中小の非製造業におきましては、一九八六年、これは日本でバブルが起きる直前までの平均的な成長率が〇・七%でありました。一方、九〇年からは趨勢的な成長率がマイナス〇・九ということで、この段階で大企業と中小企業の間に国内での格差が広がっていくという問題が起きるようになったと思います。

 今度はこのテーブルの「今後」と書いてあります右側のところをごらんいただきたいと思います。大企業製造業というのは、今回の不況におきまして、このままずっと不況の間耐えるというようなことをして、不況が五年間、終わった後六年目になりますと、再び欧米向けの輸出がふえるというような環境が生じれば、また一二%成長ということで、仮に中小の非製造業がマイナスで推移したとしましても、日本経済は平均値として見れば景気が回復していくということになると思います。恐らく欧米の経済というのは、過剰債務の返済が終わった後、これまでのように三%の成長で世界経済を引っ張っていくのは難しいと思いますので、そうなりますと、この不況の間に輸出先を欧米からアジアに切りかえるというようなことが必要になってくるだろうと思います。

 そして、中小企業非製造業も、今のままでありますと、九〇年から三回の景気回復があっても、一人当たりのGDP水準が下がり続けているという状況でありますから、次の景気回復におきまして、ようやく二十三年の不況を経て持ち上がっていくという可能性は非常に少ないと思います。

 そうしますと、何らかの変化が起きないと上昇トレンドあるいは安定という状況に向かわないだろうと思います。それが、恐らくこれから新興国の台頭、特にアジア経済圏というのが成長してくることになると思いますので、そのときに、日本の中小の非製造業がどれだけアジアの内需拡大を日本の内需拡大というふうにとらえることができるかということにかかわってくるんじゃないかなと思います。

 そして最後に、六ページ目と七ページ目で、今、今回のサブプライムローン問題に端を発する金融危機と実体経済の世界的不況ということに直面しまして、先ほどの日本の大企業と中小企業の問題もそうでありますけれども、どういった問題が今回浮かび上がってきたのかということを最後に申し上げたいと思います。

 六ページ目の一番下の、三つ黒点があるんですけれども、三番目の黒点をごらんいただきたいと思います。

 一九九〇年代半ば、あるいはもう少しさかのぼって一九七四年以降になりますが、この一九七四年というのは、オイルショックの直後であったり、大きな政府から、ケインズ主義から新自由主義へというふうに大きな転換があった時期であります。あるいは外為市場の固定相場制から変動相場制へというのが七三年にありました。そこからグローバル化がスタートし、特に九五年から〇七年にかけましては、金融のグローバリゼーションというのが非常に進んだと思います。

 その過程で、先進国では百兆ドルの金融資産がふえました。先進国といいましても、この百兆ドルの内訳は、欧米で七十兆ドルになります。日本では五兆ドルぐらいしか恐らくふえていないと思います。この〇七年と〇八年、〇九年にかけまして、恐らく、金融のグローバリゼーションというのはこれ以上拡大していくという可能性は少なくなってきたと思います。

 そうなりますと何が起きるかといいますと、今度は実体経済でのグローバリゼーションがより加速していくということになると思います。新興国が、近代化によるテークオフが始まって、実物投資の機会がふえていくということになると思います。

 そうなったときに、矢印のところ、「交易条件の逆転」というふうに書いてあります。これは日本にとって、あるいは韓国や台湾も同じだということになると思いますが、安い資源を輸入して高い工業製品を売る、輸出するというのが日本型モデルの特徴だったと思います。これによって日本が事実上世界一の生活水準を築き上げるということだったと思いますが、これから起きるであろうことは、新興国の近代化というのは、それだけ資源はもう今までのように安くならないということになりますし、それから、新興国で世帯当たりの所得がようやく五千ドルになってくる直前でありますから、五千ドルの中産階級の人に余り高い輸出品は売れない、輸出できないということになりますから、高く仕入れて安く売るというような環境に変わってきました。

 そういった外的な環境に日本がどういうふうに合わせていくかということが非常にこの数年間で大事になってくる、そういう時期に差しかかっているんじゃないかなというふうに考えております。

 私からは以上であります。(拍手)

衛藤委員長 ありがとうございました。

 次に、中島厚志公述人にお願いいたします。

中島公述人 みずほ総合研究所の中島でございます。

 お手元の資料を御用意しておりますけれども、本日は、内外の景気情勢と来年度予算についての見方ということで申し上げたいというふうに思います。

 まず、資料の一ページ目でございますが、海外経済の状況でございます。

 金融危機は大変深刻でありますので、内外経済は厳しい後退局面にあります。

 世界経済を見てみますと、欧米経済の落ち込みだけではありませんで、原油資源価格の急落あるいはグローバルマネーが収縮するということによりまして、今までグローバルマネーがもたらしてきた世界的な不動産ブームであるとか、あるいは新興国ブーム、資源国ブーム、こういうものが一たんすべて終息する、こういう動きに金融面からなっているわけでありまして、新興国景気も一気に悪化という状況にあります。

 新興国景気につきましては、グローバルマネーが収縮して抜けたということに加えまして、現在、日本も同じでありますけれども、欧米景気の悪化に伴います輸出の減速ということも景気の悪化を一段と著しくしているということであります。

 左側の表は、IMFが一月二十八日に発表いたしました世界経済見通しでございます。

 こちらをごらんいただきますと、世界経済、ことしの予測につきましては、戦後最悪の成長率ということになります〇・五%を示しております。また、日米欧ともにマイナス成長でありますが、とりわけ日本の成長の悪化というものが大きい、こういう姿になっております。

 これには背景がありまして、その下、アジアのNIES諸国、韓国、台湾、シンガポール、香港といった地域をごらんいただきますと、ここも、成長センターではありますけれども、著しくことしの成長率は悪くなる、こういう見方になっております。

 すなわち、その背景にありますのは、相対的に内需にウエートがある国、ここは、グローバルマネーの落ち込みないしは欧米経済の悪化によります輸出の落ち込み、ここら辺を内需によって下支えて景気悪化は緩やかだという一方、成長自体への輸出依存度が高い、しかも組み立て加工業種の輸出にウエートがある、こういった日本ないしはNIES諸国につきましては大変厳しい景気悪化になる、こういうふうに見ているということでございます。

 右のグラフは、アメリカの家計の債務比率の推移でございます。

 アメリカ経済は過大に金融機関と家計の債務が膨れ上がり、それを現在調整している、こういう局面にあるわけでございますが、このグラフは、家計の一九五二年以降、現在までの可処分所得に対する債務の比率を書き出しているものでございます。

 ごらんいただきますように、債務比率は年々傾向的に上がってきているわけでありますが、それにしても、足元、さらに直近でのトレンドに対して三割も債務が上振れる、こういう状況になっておりまして、いかにも過大なこの債務を調整することは不可避だということであります。

 右の方に試算が伸びておりますが、これは過去二十年間の平均の所得の伸び、年率五%でありますけれども、これをもってこの過剰な債務の比率を下げていくとしたときに、いつになればトレンド線上に戻るかということを試算したものでございます。ここにありますように、適正化時期は二〇一三年、少なくともことし、来年に決着がつくという感じではないということであります。

 したがいまして、ほかに金融機関も大変大きな債務を抱え、その調整局面にあるということをも加えますと、足元、オバマ政権のもとで新たな経済対策がまとまってきておりますが、それ自体、規模が大変大きいということで期待されるんですけれども、ことしのアメリカの大きなマイナス成長は不可避、こういうふうに思われるところでございます。

 二ページ目に進んでいただきますと、日本の状況でございます。

 近年、日本はますます外需主導のウエートを高めて成長してまいりました。それが、足元、世界需要の急激な落ち込み、そして昨年、主要十五通貨に対しましての加重平均をいたしますと、約三割に上る円高によりまして、厳しい展開になっております。

 左側のグラフは、在庫ないしは輸出等を勘案して、国内外の出荷、それから第三次産業の活動の動きを示したものでございます。

 ごらんいただきますと、大きく盛り上がっておりました輸出向けの鉱工業出荷、一番上のグラフでありますが、これが特に昨年の九月以降、大変な勢いで悪化をしているということでございます。そして、それにつられる形で国内に波及をしてきておりまして、実線の折れ線グラフ、国内の鉱工業の出荷、こちらの方も、悪化度合い、輸出ほどではないにしても大きく悪化をしているという形でございます。一方、非製造業、サービス業等の第三次産業の活動でございますが、こちらの方につきましては、足元までのところについては落ち込みは相対的には小さい、こういう形になっております。

 ただ、右のグラフをごらんいただきますと、右のグラフ、消費総合指数というふうに書いております。こちらは、需給両面から消費の動向を包括的にとらえる指数でございまして、内閣府が発表しているものでございますが、ごらんいただきますと、昨年になりましてから悪化をしている。とりわけ昨年の秋口以降、悪化幅が大きくなっております。

 全体として、第三次産業活動は今のところ落ち込みが小さいということではございますが、足元での雇用、所得環境の悪化、それから株価の下落といったこともありまして、消費者マインドは大きく悪化しております。その結果、個人消費にも下押し圧力がかかっているということでございます。内訳で見ますと、とりわけ自動車等の高額商品等への支出中心に絞られてきておりまして、自動車販売あるいは百貨店販売は一段とこの数字以上に低迷をしているという形になっております。

 このような状況を踏まえますと、内外需の急落に伴う景気の後退は著しいということでございまして、当然、各国とも積極的な経済金融対策を行っておりますし、なお行っていくのが不可避、不可欠、こういう状況にあります。

 三ページ目をごらんいただきますと、今まで申し上げました内外の景気情勢に基づきまして、平成二十一年度の一般会計予算についての見方を申し上げます。

 現在の厳しい景気状況にかんがみますと、基本的には、この文章のところに書いてありますように、三点の方向での施策が不可欠、こういうふうに考えております。

 一点目は、国民生活を守り、国民に安心感を与えるセーフティーネットの構築でございます。

 足元の急激な景気悪化では、雇用など、国民生活を守り、国民に安心感を与えるセーフティーネットの構築が不可欠なんですが、先ほども申し上げましたように、大きく下振れをしている、また下支えが極めて重要な消費者マインドを支えるという意味でも大きな意味がある、こういうふうに考えております。

 また、二点目でありますが、需要を下支えする需要創出策も不可欠でございます。こちらにつきましては、内外需要が一気に落ちておりますので、あらゆる手段を使った需要創出が不可欠だということになります。

 そして三点目、経済の新たな展開を見据えた政策も必要ということでございます。

 アメリカは、グリーン・ニューディール政策で、新エネルギー・環境分野で次世代産業を育成しようというふうに動き出しております。当然、需要創造、今必要な局面ではありますが、また財政資金を投入するということも必要な局面になっておりますけれども、それに加えまして、将来の日本経済の成長力、展開につながる施策を行っていく必要もある、こういうふうに考えております。

 平成二十一年度一般会計予算、それから第二次補正予算及び昨年十二月に示されました雇用対策とともに、国内景気の急落、雇用情勢の悪化に対応するという形になっております。

 その内容を簡単に掲げましたのがこの三ページ目の表の枠内でございます。今申し上げました三点、すなわち、国民生活を守り、国民に安心感を与えるセーフティーネットの構築、それから、需要を下支えする需要創出策、そして、経済の新たな展開を見据えた政策、この三点に分けて記述をしておりますが、いずれにつきましても内容が盛り込まれているということでございます。

 まず、一点目のセーフティーネットの構築でございますが、重点課題推進枠として三千三百三十億円を設定し、うち一千億円が主として社会保障あるいは中小企業対策などに充てられているという点、それから、地方交付税増額で措置されておりますが、地域雇用創出推進費といたしまして五千億円を設定しているという点、その他、雇用維持支援、非正規労働者等の支援、あるいは中小企業支援措置などが盛り込まれておりまして、セーフティーネットの構築に向けた動きというものが評価できる内容というふうに考えております。

 さらに、内容といたしましても、雇用保険給付の見直しであるとか住宅・生活支援、中小企業等の雇用維持支援というものも入っている、さらに、中小企業向け資金繰り支援なども入っているという点も適切だというふうに思っております。

 二点目の需要下支えでございます。

 こちらの方につきましては、今回の来年度予算一般歳出規模五十一兆七千三百十億円、これは、初めて一般歳出規模としては五十兆円台に乗せたものということでございます。また、一般歳出と地方交付税等の規模六十八・三兆円、この規模自体戦後最大でございますし、また、〇八年度の当初一般会計予算から比べますと五・四兆円の伸び額になっておりまして、こちらの方も戦後最大の伸び額でございます。

 また、各国比較をいたしましても、今回の来年度予算に盛り込まれております財政措置、二次補正と合わせますと約十兆円余りございまして、GDP比で一・七%の規模となっております。また、一次補正と合わせた金融危機への対応の一連の財政措置で見ますと、十二兆円、GDP比で二%の規模というふうになっております。

 こちらをその他主要国の金融危機にかかわる財政措置と比較いたしますと、まずEUでございますが、足元、EU二十七カ国平均でそのGDP比〇・八五%の数字となっておりまして、その中の最大なのがドイツでございますが、一・四%規模でございます。また、アメリカでございますが、足元、経済対策がまとまるという形になっておりますけれども、アメリカの議会予算局が一月三十日に下院案についてその財政収支への効果を試算しております。また、二月二日に上院案につきまして同様の推計をしております。この両方を平均した数値で申し上げますと、〇九年度のアメリカの会計予算で見ますと、GDP比で見ますと一・四%の、財政悪化、すなわち財政措置、こういう措置の効果ということが言われております。

 こういうような欧米主要国の数字と比較いたしますと、日本の二次補正と来年度予算を合わせたGDP比一・七%規模、さらには一次補正も合わせて二%規模、いずれも凌駕をしているということでございますので、財政措置として勘案いたしました場合に相応の効果があるというふうに見られるわけでございます。

 また、三ページ目の二の二段目の横線でありますが、経済緊急対応予備費一兆円が雇用、中小企業金融、社会資本整備等に充当されるために創設されておりますし、地方交付税の増額、さらに住宅ローン減税、投資減税、中小法人等への軽減税率等の減税措置、また地域の自立・活性化予算など、景気に即応する措置が盛られているということも需要を下支えするというふうに見られます。

 三点目の経済の新たな展開を見据えた措置でございますが、大変厳しい経済情勢の中で、全体として科学技術関係の予算増額という方向でございまして、内訳を見ましても、基礎研究、最先端の研究開発支援、エネルギー革新技術の開発支援などが盛り込まれているというところでございます。

 次に、四ページ目でございます。

 もちろん、経済危機への対応が最優先という現時点の局面ではございますけれども、他方で、財政赤字、すなわち新規国債発行額を極力ふやさない努力も必要ということは当然でございます。こちらの方につきましては、その四ページ目の表の中に書いてありますけれども、三点申し上げたいと思います。

 一点目は、財政投融資特別会計から金利変動準備金の一部、四・二兆円を一般会計に繰り入れて、新規国債の発行額をその分抑制したという点であります。また、二番目としては、同じく特別会計の外国為替資金特別会計あるいはその他特別会計等から合計で約二・五兆円を一般会計に同じく繰り入れまして、こちらも新規国債の発行額をその分抑制しているということでございます。さらに、三番目でございますが、その他、借換債、財投債の減額などで国債発行総額の増加を約六兆円にとどめているということでございまして、その意味では、全体として予算がふえるという中にありまして、赤字国債の新規の発行は極力抑制するという姿勢も出ている、こういうふうに見ております。

 今後とも、内外経済の先行きは予断を許さない状況にあります。今まで切れ目のない連続的な施策実行がされてきたということでございますけれども、今後とも経済状況を見ながら、ぜひ適切に経済対策を打っていっていただきたい、こう思う次第でございます。

 以上です。どうもありがとうございました。(拍手)

衛藤委員長 ありがとうございました。

 次に、湯浅誠公述人にお願いいたします。

湯浅公述人 おはようございます。よろしくお願いします。

 私、年末年始に年越しの派遣村というところの村長を務めたんですが、こういう活動をやっているのは九五年からですから、十四年ぐらいになります。もやいという団体で今は事務局長をやっておるんですけれども、派遣村の方は終わりましたが、もやいの方は、相談日になると、やはり今でも百件ぐらい電話がかかってきてパンク状態です。あした、自民党の議員さんの方にも視察に来ていただくことになっておりますが、そういう状態ですね。

 この間新潟に行ったら、新潟でも、いのちの電話の方が、やはりパンク状態だ、電話がずっと鳴り続けだと言っていました。つながると、ようやくつながったと言われるんですね。

 福井の東尋坊、あそこで見守りをしている茂さんという、地元の警察署の元副署長さんですけれども、その方が一カ月に保護した方が八人、うち五人が派遣切りの被害者。こんなことはいまだかつてなかったとおっしゃっている。

 それから、去年の十二月の二十四日に、私たち、年越しの電話相談会というのをやったんですけれども、そのときは、一日十四時間の間にかかってきた電話が二万件です。クリスマスイブの一番晴れやかな時期なんですけれども、それどころじゃないという状態ですね。年を越せないという電話が山のようにかかってきてしまう。そういう事態になっているということです。ですから、かなり大変な人たちが膨大に生まれていて、これをどう支えていくのかということを全体で考えていかないと、国民生活はもたないと思います。

 それで、レジュメの方に入りますと、二ページに書いたことですけれども、私は、今の社会は滑り台のようになってしまっている、滑り台社会だと言っています。それはどういう意味かというと、滑り出すととまらないんですね。するっと底まで行ってしまう。制度はないわけじゃないんです。制度はあるんですが、漏れちゃうんですね。たくさんの人が漏れちゃっています。それは、実際に現実の人間に対応するような、きめ細かい形になっていない。それを、本人がだらしないんだというところで切り捨てないでいただいて、もうちょっと、どうやったら支えられるかというふうに考えていただきたいと思います。

 労働して生活できるという状態がどんどん壊れてきちゃった、これは皆さん御存じのとおりで、今回の派遣切りのようなことが起こると、もう八割、九割、十割ですからね。無遅刻無欠勤でやっていて、一度も仕事で大したミスを犯したことがないという人まで、さよならと言われているわけですね。

 何でその間にお金をためられなかったんだとよく聞くんですけれども、三ページに載せたのは、私たちのところに相談に来た方の給与明細で、ちょっと印刷状態が悪いので現物がほとんど見られなくて申しわけないんですけれども、右側に出しておいたのは、この方は毎月皆勤手当をもらっている。つまり、一度も休んだことなんかないんです。

 だけれども、最初の月が、十月から始まって、額面で十四万円ですね。寮費等が五万六千円取られて、結局仮払いを受けないと生活がもたない。これは、最初にその工場に行くまでの交通費だったかもしれません。そういう中で、手取りは三万四千円です。仮払いを入れても八万円です。翌月は二十日でした。十二月になると十二日に減っているんですね。そういう中で、前借りしていかないと生活がもたなくなっちゃっているので、十二月の給与は三万一千円です。仮払いされたお金を入れても七万円ですね。

 この状態で、さよならといって出される。それは、すぐお金がなくなっちゃうわけです。それを、なくなった、では、おまえがためていなかったのが悪いのかで済むかということですね。

 では、そうすると失業保険ですね。例えば、厚生労働省、一月三十日に、十二万四千人の人が今後も含めて切られる可能性がある、でも九九%の人は雇用保険に入っていますというデータでした。

 ですが、四ページを見ていただくと、これは産経新聞です。一月十六日に記者さんが取材の苦労話みたいなコラムを書いていて、線を引いておいたところですが、詳しく説明はしませんが、「雇用保険まで行き着かないのが現実だった。」と。実際、取材しようと思っていろいろな人に話を聞くと、雇用保険まで行き着かない、そういう現実があるんだということを書いておられるんですね。これは、私たちのところに相談に来る方たちの現実でもあるわけです。

 そうすると、つなぎの融資が得られるか。雇用保険を受け取るまでの間、生活資金のつなぎがあるかということになりますね。では、それはないのかというと、やはりあるんです。社会福祉協議会というところが緊急小口貸し付けというのをつくっていますが、五ページを見ていただくと、これは現役の社協の職員さんが書いてくれたものですが、その方が働いている自治体では、年間相談件数総計七百八十九件あるうち、貸付件数は十件足らず。一%しか借りられていない。九九%が断られてしまっています。

 そういう状態ですと、結局、二枚目のセーフティーネットでとめてもらえないので、生活保護に行っちゃうんですね。生活保護へ行くのはだれも喜んでいない。それはぜひ誤解のないようにしていただきたい。本人たちだって、受けたくて受けるわけじゃないんです。だけれども、手前でとめてくれなかったら、生きていこうと思ったら、では、それ以外どうしたらいいんだという話になってしまうんですね。

 そういう結果、生活保護がふえていますが、しかし同時に、それ以上の人たちが漏れちゃっています。これは、例えば、今、同志社に行かれている橘木さんの試算ですと、八百万人ぐらいの人が漏れちゃっているんですね。六百万人から八百万人の人が漏れちゃっているというのが、おおむね学者さんの一致しているところです。

 そうしますと、貧困に行っちゃうんですね。問題は、この貧困になった人たちは、生きていくということです。非正規労働者が物のように捨てられていると言われています。実際、物のように捨てられるんですけれども、でも、物のように捨てられた人たちは人間ですから、生きていくんですね。では、生きていこうとなるとどうなるかというと、いろいろなパターンがあります。自殺、犯罪、ホームレス。まあ、家族のもとに帰れる方はいいでしょう。

 そしてもう一つは、私は、ノーと言えない労働者になるんだと言っています。例えば、派遣村に来た方たちがすぐに仕事につこうと思ったら、ではどういう仕事があるかということですね。まず、ハローワークに行っても意味がないんです。なぜかというと、月給仕事だったら、最初の給料が入るまでの生活費がもたないですから。それでハローワークに行けなくなるんです。アルバイトニュースも基本的には日給月給ですから、ああいうのでもだめです。最近、日払いのものもふえましたけれども。

 では、どういう仕事だったらつけるかというと、スポーツ新聞とかで寮つき、日払いと書いてある、そういう仕事以外、行きようがないんですね。それで、寮つき、日払いという仕事は、一般的には余りいい仕事じゃないです。できれば避けたい。でも、そういう中で避けられなくなる。

 そうなることによって何が起こるかということです。労働市場の中に、私はこういう人たちをノーと言えない労働者だと言っているんですけれども、例えば雇用保険がついているか、社会保険がついているか、そんなことは見えないわけです。きょう収入を得ないと自分が食えないので、とりあえずきょう、つまり極端な話、日給についてもどうも言えなくなってしまいます。

 そういう中で、ノーと言えない労働者がふえていくと、労働市場の質が壊れていくんですよ。だって、低賃金でどんな条件でも働くという人がどんどんふえていったら、だれがまともな賃金で人を雇おうと思いますか。そうやって労働条件ががたがたに崩れていってしまうと私は思っています。

 なので、貧困の放置というのは、労働市場が壊れてきた結果として貧困がふえてきているんですけれども、そこだけで終わらないんですね。貧困がふえたら、それは労働市場を壊す原因にもなる。つまり、そこは循環しているわけです。貧困というのは、労働市場が壊れた結果であると同時に労働市場を壊す原因なんですね。この循環を見ないと、その人たちが頑張れば何とかなるんだというところでは、社会全体の地盤沈下はとまらないと私は思っています。

 六ページを見ていただくと、そういう中で私たちがやったのは、さっきと同じような図ですけれども、私たちがやれたのはごくごくわずか、たった五百人の人たちに、右側の、派遣村というのをやって階段をつくったんです。貧困状態に陥った人たちが、滑り台を逆から駆け上れと言っても普通の人は無理ですから。できる人はいいんですよ、ほっておいたってできるから。だけれども、普通の人は無理ですので、階段をつくったんですね。寝られる場所を確保して、食事をとれるようにして、それで緊急小口を受け、生活保護を受け、アパートに入った。

 これは、たくさん批判をもらいました。何だ、あいつら働く気がないのかと言われました。だけれども、実際は、自立して仕事を見つけようと思ったら、そのためにはお金が要ります。就職活動をするためのお金、面接に行くための交通費、洗濯をするためのお金。着たものも、ずっと一月着っ放しのもので面接に行ったって受かるわけがないですから。そういうお金が雇用保険から漏れちゃうと出てこないんですね。

 そして、さらにアパートに入ることによってハローワークに通えるようになります。生活の下支えを受けて居所を定めていれば、ハローワークで仕事が探せるようになるんですね。そうすると何が起こるかというと、余りにもひどい条件の仕事だったら、自分は行けない、行かないと言うことができるようになる。それによって労働市場の質というのが保たれるんだと私は思っているんです。

 つまり、セーフティーネットというのは、どうしようもないだめな人間を、しようがないから食わしてやる、そういうものじゃないんですね。セーフティーネットというのは、そういうのがあって初めて社会がうまく回っていく、労働市場の質が一定に保たれる、そういうものだと私は思っています。

 もともと、思い起こしたって、十九世紀の社会保障立法を最初に始めたのはドイツのビスマルクですか、富国強兵のためにやったわけですね。戦後すぐ、イギリスのビバリッジ報告ですか、揺りかごから墓場まで。あれは、対共産圏との関係の中で、資本主義も国力を強めなきゃいけないという話でやったわけですね。セーフティーネットというのはもともとそういうものだ。要するに、一人一人がぼろぞうきんのように使われていくような社会は、社会全体として弱くなっちゃうんですよ。

 なので、社会全体を強くするために、やはり底上げが必要だと私は思っています。それは決して無駄なお金ではない。そうじゃなくて、人々が生活していく、それによって次のステップが見えてくる、頑張れる、それによって消費が進んでいく。

 例えば、私、ずっとこういう活動をやっていましたから、多分何万人という野宿の人、ホームレスの人に会ってきたと思いますが、よく言われるんです。野宿なんかでごろごろしていないで、仕事をしてお金をためてアパートに入ればいいじゃないかと言われるんですけれども、私が会った中で、自分でお金をためてアパートに入った人というのは二人しかいないんですね。では、あとの人はどうしようもない人たちかというと、私が見る限り、人間的な努力ではそんなことはできないですよ。冬場、一日二日路上で寝たら、私もしょっちゅうやっていましたけれども、日中、頭がぼおっとなっちゃって就職活動どころじゃないんですね、夜寝られないから。なので、そういう中でやるというのは、これは普通の人間的な努力ではそんなことはできません。

 でも、すごく例外的にやっちゃえる人がいるんですね。では、その人はどうなったかということなんですけれども、私が一人知っている人は、五十六歳だったかな、路上にいながら五十万ためて、自分のお金でアパートに入りました。私、彼に保証人を頼まれて保証人になったんですけれども、びっくりしました。こんな人がいるんだと思ってどぎもを抜かれました。だけれども、その人は、余りにもそのときの無理がたたって、肝臓を壊しちゃって、その後ずっと入退院。それで今、それ以降はずっと働けなくなって生活保護です。

 五十六歳で、この後何年生きるかわかりません。二十年かもしれない、三十年かもしれない、ひょっとしたら四十年かもしれない。四十年間ずっと生活保護ですよ。そのためにかかるお金と、早目にちょっとサポートしてあげて、働けるうちに仕事をして、税金を払ってもらって、消費してもらうようになるのと、どっちが社会全体にとって得か、私は見えていると思うんですね。そういうふうなお金の使い方をぜひお願いしたいというのが、私からのお願いです。

 結局、六ページの右側に書いたのは、私たちが派遣村でやったようないわば救貧、貧困状態に陥った人たちに階段をつけて上れるようにしました。だけれども、本当に必要なのは、左側の滑り台に階段をつけることだ、防貧だと思います。貧困状態に陥る前に防ぐことですね。

 そのためには、労働市場の中と外で、労働市場の中の規制も必要だし、外のセーフティーネットも必要です。そこの、労働市場の中の質と社会保障の質というのは連動しています。例えば、最低賃金が生活保護基準と連動するようになったのと同じで、社会保障の質が落ちていけば労働市場も底なしになります。社会保障の質が上がっていけば労働市場の質も上がっていきます。推移は一緒なんですね。そういうところでいろいろな施策が必要になるだろうと思います。

 ここの矢印で書いたのが、私が考えるようなさまざまな施策です。今、大きな補正が打たれて、たくさんのお金がこの危機を乗り越えるために使われるということになっています。ぜひとも、こうしたことにもお金を回していただいて、人々の生活の底上げに向けていただきたいと思っています。

 それで、その中と外がリンクしているという話は七ページのことにも言えて、よくこれは出てくるんですが、左側にあるのは、正社員の年功型の賃金カーブと非正規のフラット型の賃金カーブ、この二つのグラフがよく出てきます。これで、では、どうやってこの状態を解消するんだということになると、間をとろうという話になるんですけれども、私はそのためには条件があると言っていまして、右下のグラフを見ていただければわかると思うんですけれども、日本の消費支出は山型なんですね。山型の消費支出ですから、賃金はある程度山型を描いてくれないと生活できないということになります。つまり、年功型賃金の背景には年功型支出があるんですね。

 そのときに、人の生活というのは収入と支出のバランスで成り立っていますから、収入で均等待遇を実現しようとして、正規と非正規の山が一緒になっていくというためには、支出も抑えていかないといけません。そうじゃないと、山型がこのままだと、正規も非正規も暮らせなくなる。それは、労働市場の中の、今いろいろもめている労働条件の整合性をどうやってとるかということと、支出の山型を下げていく、つまりセーフティーネットを強化していくということですね。日本の大学の費用は、残念ながら世界一高いです。その大学の費用をちょっと下げてくれれば、そこまで収入が上がっていかなくても生活はできる、子供を大学に行かせられます。そういうふうな収入と支出のバランスをとっていく、そのためには労働市場の中と外をセットで見ていく必要があるんじゃないかと思います。

 そういう中で、たくさんの政策、案が出されていますが、私からぜひともきょう改めてお願いしたいのは、八ページに書いておきましたけれども、三月までにやってもらいたいことがあります。来年度予算のこの委員会で言うのは恐縮ですけれども。

 よく言われているように、三月、大量の人が切られます。それは、もうとめようがない現状ですね。厚労省は十二万四千人と言っていますが、製造業派遣や請負の会社は四十万人だと言っています。十二万四千人という数字も、毎月毎月ふえていっていますから、また今後もふえていくでしょう。そうすると、かなりの、少なくとも万単位の人が路頭に迷うことになります。そうなったときに、ではその人たちをどうするのかということですね。

 ほっておくと自殺はぼんとふえるでしょう。そうなって、だれも喜ばない、だれもうれしくないです。だとしたら、今全体が大変な中ですけれども、だからこそ全体で支えるしかないんじゃないかと思います。そうやって社会復帰できるようにしていただきたい。

 そのためには、シェルターや総合相談窓口をつくっていただきたいと思います。これは、大都市圏だけということになると、自治体が、うちに集まってきちゃうといって嫌がるので、やはり全国各地につくっていただきたいんですね。全自治体が等分に負担するような形をとらないと、うちだけに集まってきちゃうというような、それでなかなか各自治体が動けないという事態がクリアできません。

 それから、やはり雇用保険制度から漏れちゃう人たちが大量にいますので、そこの法改正等は四月以降必要だと思いますけれども、その前に、漏れちゃっている人に何らかの手当てを考えていただきたい。そのために基金のようなものを創設していただきたいと思っています。きょうは時間がないので詳しく話せませんが、十一ページ以降に、それについての、私たち素人がつくったアイデアが書いてあります。ぜひ、たたいてちゃんとしたものにしていただきたいと思います。

 それから、三点目と四点目については、現行法上も違法です。

 余り知られていないのは四点目の方ですが、寮からの退去というのは、派遣会社が周辺家賃相場と同じぐらい家賃を取っているとき、寮費を取っているときは借地借家法の適用を受けるので違法です。これは最高裁の判例、判決があります。ですから、さっきお見せしたような、寮費を五万円も六万円も取っているような派遣会社が、仕事がなくなったからさようならだよといって追い出すのは、これは違法なんですね。普通の大家さんは、家賃滞納が一月、二月あっても簡単には追い出せないというところで御苦労されているわけです。同じような規制を人材派遣会社も受けているんですね。

 だけれども、そのことが知られていない、本人たちにも知らされていない、なので、しようがないといって追い出されている。それが生活の状態を非常に深刻化させてしまっている、ホームレス状態にさせてしまっているというのは御存じのとおりです。それを何とか、これは現行法でも十分規制されていることですので、皆さんに伝えていただいて、三月、寮を追い出されている人が一人でも減るように、ぜひ御尽力いただきたいと思います。

 どうもありがとうございました。(拍手)

衛藤委員長 どうもありがとうございました。

    ―――――――――――――

衛藤委員長 これより公述人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。坂本剛二君。

坂本(剛)委員 自由民主党の坂本剛二でございます。

 公述人の皆様方には、けさ早くから、まことに御苦労さまです。それぞれの立場で御意見をいただきました。非常に感銘深く拝聴しております。これから幾つか時間内で質問させていただきたいと思います。

 お話にありましたように、リーマン・ブラザーズの破綻に端を発して、アメリカ発の金融危機、世界同時不況、これは我が国の実体経済にも明らかに影響を及ぼしてきております。けさの発表ですと、昨年十月から十二月期のGDPが三十五年ぶりに二けたのマイナス、マイナス一二・七%だということでございます。まことに大きな影響が出てきているなと思っております。

 麻生総理は、世界で最も早く経済回復をしたい、こういう意気込みで、今般、総額七十五兆円規模の景気対策予算を組んでおります。平成二十年度第一次補正予算、平成二十年度の第二次補正予算、そして新年度の、平成二十一年度の予算、これを合わせて三段ロケットで景気回復に臨んでいきたい、こういうことでありますが、これにつきましていかなる評価を持っていらっしゃるか、水野公述人と中島公述人にそれぞれお聞かせいただきたいと思います。

水野公述人 七十五兆円の景気対策でありますけれども、うち財政措置が十二兆円程度ということであると思います。

 今、景気の落ち込みというのは、この一―三月で、GDPベースで恐らく四十五兆円ぐらい落ち込んでいると思います。これは、ちょうど今発表になりました十―十二月期のGDPマイナス一二・七よりも、恐らく一―三月というのはもう少しマイナス幅が大きいという前提であります。そうなりますと、四十五兆円の需要減に対して十二兆円というのは景気回復に対して力不足だと私は思いますし、と申し上げますと、じゃ、四十五兆円真水ベースで景気対策をすればいいじゃないかというと、恐らくそれも余り効果がないと思います。

 それはどうしてそう思うかと申し上げますと、先ほどの、九〇年から、日本の六割の雇用者が働いている中小の非製造業においては、十二年間にわたって百四十兆円規模の追加対策をし、その半分ぐらい、真水が七十兆円ぐらいだとしますと、七十兆円も真水をずっと継続的に支出しながら中小の非製造業は下がり続けているという現実があると思いますので、その構造をむしろ直すような方法をしないと、結局、ことし七十五兆円、来年百兆円、再来年百二十兆円というような景気対策を、また九二年からと同じようなことをずっと続けていかざるを得なくなるのではないかなというふうに考えております。

中島公述人 私自身は、七十五兆円規模の三段ロケットというお話なんですけれども、こちらの方は基本的には評価しております。

 その理由は、今回の日本での景気悪化というのは、専ら海外需要の減少、輸出の急落からもたらされてきている、そこに国内の消費者マインドが想定以上に下振れる、こういう状況がある、こういうふうに見ております。

 したがいまして、現在の状況につきましては、何より消費者マインドを下支えるための大きな財政措置、金融措置というものが必要だ、こういうことでありますし、また、三段ロケットというふうにおっしゃいましたけれども、月を追うごとに経済情勢が大変大きく変化をしているということが今回の特徴でありますので、それに対してスムーズに対応していくということが必要だというふうに思っております。

 したがいまして、三回措置を行うという大きな措置であったわけでございますが、こちらの方については基本的には適切であったんじゃないかというふうに思っておりますし、また、内需を下支えるということの基本は、先ほどもちょっと申し上げましたけれども、マインドをいかに現状以上に下振れさせない、下支えするか、ここがポイントというふうに考えておりますので、大きな対策を打っていただくというのは大いに意味があるというふうに思っております。

 ただ、現在の経済情勢は、大変に悪化のスピードが今までになく著しく速いというのが特徴でもございますので、今後につきましても適切に対応を、さらに必要があれば対策を打っていっていただきたい、こう思う次第でございます。

坂本(剛)委員 次に、受益と負担についてお伺いしたいと思います。

 田中公述人、中島公述人、湯浅公述人に伺います。

 麻生総理は、当面は景気回復、中期的には財政再建、中長期的には改革による経済成長、こういう考え方に立ちまして、持続可能な中福祉・中負担の社会保障制度を構築していく、そういう意味で中期プログラムを作成いたしたわけであります。しかし、少子高齢化の影響等もありまして、社会保障費がえらく伸びてきていますし、今後ともこの伸びはますます強まる、こう考えられます。

 一方、我が国の国民負担率、これは世界の主要国の中でもえらく低いわけでございますね。ここに、受益と負担のバランスが崩れてくる、こういう状況にあると私は思いますが、我が国が目指すべき、あるいは、あるべき受益と負担の関係、姿というのはどういうものであるのか、伺いたいと思います。

田中公述人 貴重な質問をありがとうございます。

 受益と負担に係りましては、私は国民側の視点から申し上げたいと思うんですが、おっしゃるとおりでありまして、寄附と国民負担の関係、三十六カ国を比較した国際分析があります。これはOECDと途上国を数カ国含んだものなんですが、これによりますと、ジニ係数が高いほど寄附をする率が高くなるという傾向があるんですが、日本はジニ係数が比較的高いにもかかわらず寄附をしておりません、低いです。そして、社会保障負担率が高くなるほど寄附の比率は負の相関を示して低くなるんですけれども、日本の場合には、社会保障負担率も低いんですけれども、寄附も低いということであります。

 ちなみに、韓国も同じような傾向を示しているんですが、これは私なりに解釈をしますと、寄附をする以前に、やはり受益と負担に対する国民の感覚というのがかなり薄くなっているということが国際的に見ても言えると思います。

 そういう意味で、実際に現場を見てみますと、一部の例ではありますけれども、実は公共的なサービス、社会的なサービスというのはただだと思い込んでいる方が結構多いんです。ここを、実際にコストがかかるのだということをいかに認識してもらうのかというのは、幾つかの方法が必要です。教育という方法もあるんですが、先ほど申し上げましたように、実際に、例えば湯浅さんのNPOだとかでいろいろな活動の現場にボランティアとして、寄附者として参加していますと、これだけの問題にはこれだけのコストがかかるのだということで、実感できるんですね。

 私は、そういう場をいかにつくっていくのかという意味で、まさに市民が自発的に公共を担う場をいかに豊かにつくっていくかというところが根本的には受益と負担の答えになっていくんじゃないかと思います。

中島公述人 現在の受益と負担についてなんですけれども、確かに、社会保障費につきましては、高齢化が年ごとに進んでおりますので、下げるということについては限界が出てきていると思います。また、日本自体、少子化も進んでおりまして、人口が減少に転じているということも、社会保障全体を支える人口という観点から見ても、不安がますます高まるという状況にあります。

 したがいまして、私自身といたしましては、受益の水準が今後一段と落ちるということがないようにするためにも、負担を高めていくことが必要だと思っておりますし、また、負担を高めるということ自体は、所得再配分を進めるということでもありますので、このこと自体、日本経済全体で考えますと、成長率を必ずしも落とすという方向にはならないというふうにも考えております。むしろ、日本が内需型経済、内需主導型の経済に向かっていくということが、現在の外需主導で大きな問題が露出している現状では必要という観点も含めますと、やはり負担を高める、中福祉・中負担という形に持っていくことがぜひとも必要だというふうに思います。

湯浅公述人 私も、最終的には中収入・中支出型の社会を目指すしかないと思っています、中負担と言ってもいいんですかね。

 先ほどのところでも少し話しましたけれども、支出の山をもう少し下げていかないと労働市場の中の均等待遇というのはつくりようがないので、支出の山を下げるためにはある程度負担が高くなるのは、これは結果的にはもうやむを得ないだろうと思っています。

 ただ、消費税に関して言うと、社会保障費は確かにGDP平均より低い、消費税も低いので、だから社会保障をある程度GDP平均まで上げるためには消費税も上げなきゃいけないという話で、それはそれでわかるんですけれども、やはり幾つか条件があると思っています。

 まず一つは、低所得者の負担増にはしないという約束をしていただくということが必要だと思います。ある程度、三%から五%に上げたときにも、所得税減税など行われていましたけれども、あのときは社会保険料がどんどん上がっていくというのがノーマークだったと思うんですね。なので、結果的にかなり生活がきつくなって、国民生活基礎調査などでも、生活が苦しいと答えている人が五六%ですから、やはりそれはむげにはできません。

 そういうふうに考えると、低所得者の負担増にしないというのを絶対条件として、まずこれをセットできちんと言うということじゃないと、庶民からすると、どっちに転んでも負担増になっちゃうんです、今の選択だと。社会保障がこのままだと、社会保険料が上がっていって、これは負担増。でも、それを上げるためには消費税を上げろ、消費税を上げるんだったら負担増。どっちに転んでも負担増の選択だと、やはり選べないということになっちゃうんだと思います。

 もう一つは、では、なぜ今まで日本の社会、社会保障費がこんなに少なかったのにそれなりに回ってきたのかということになると、私はやはり公共事業だと思うんですね。公共事業が実際、特に地方経済については社会保障的な機能を持っていたと思います。

 ですから、そこはもうちょっと明確に、公共事業をある程度社会保障的なお金として使うんだということを、ある程度地元に落ちるような何か縛りをかけたり、そういうのが公契約条例のようなものとしてあったらより望ましいと思います。そうやって、公共事業のお金の使い方そのものを組みかえていくということもしないと、実際には追いつかない。

 そういう中で、公共事業費は依然としてOECD平均よりもずっと高いですから、お金の使い方を組みかえながら、幾つかをそっちからも社会保障費に回していく、そういう二段構えの改革、改造をやって、それで何とか、とにかく生きていけるための支援、安心して生活できるための支援というのをつくっていただければと。そうすれば、多くの人も、消費税の話も含めて理解が得られていくのではないかと思います。

 以上です。

坂本(剛)委員 田中公述人から、NPOのボランティアをやらせろという話もございました。

 それで、田中先生にNPOについてちょっとお伺いしたいと思いますが、先ほど、数が飛躍的にふえているというお話もありました。日本のNPOの果たしている役割について、どのように評価しておるか。さらに、先ほど、市民が自発的に担うべき公共領域、こういうお話がございましたけれども、これは具体的にどのような分野が想定されておるのか、お話をいただければと思います。

田中公述人 ありがとうございます。

 まず、一つ目の御質問ですが、この十年のNPOの成果をどのように評価しているかということであります。先ほど御説明申し上げたんですが、非営利組織には、サービスを提供する役割と、それからもう一つは、今先生がおっしゃった、受益と負担だとか、それから自立心、公共心を養うという市民性創造の役割、この二つがあります。

 サービスを提供するという役割については一定の成果は上げたと申し上げたんですが、少し詳しく申し上げますと、例えば、全国に七百ほどの子育てひろばというのがあるんですが、これはほとんどNPOが担っております。それから、介護事業者も、三%ぐらいですがNPOが担っております。これは、ほかにもさまざまな、十七分野ほどあるんですが、数が少なくても質的な面で、例えば新たなモデルを提供するというところでも一定の活躍をしています。

 例えば、私もかかわっているようなところでありますが、ホームレス支援、自立支援をやっているところがあるんです。これは先ほども説明にありましたが、生活保護をして居住を確保するだけではなくて、そこに、社会復帰をするためのメンタルなケアだとか就労支援、トレーニング、こういったものをトータルに行えているというのはなかなか行政では見受けられませんで、こういうのがやはり民間非営利ならではできることだろうと思います。

 そのほかにも、環境面でも、霞ケ浦を一つのムーブメントとして環境問題を訴えていったというようなNPOもありまして、ここは、私は、数は少なくてもきらりと光るようなものを出したという意味で、質的な成果も上げたと思います。

 それからもう一つ、市民が自発的に担う公共領域をもう少し具体的に説明してほしいということなんですが、一つ、難民を支援するあるNPOのリーダーの方の言葉をもって事例を御紹介したいんですけれども、このリーダーの方がおっしゃったのは、自分たちが難民を支援するというミッションを達成するだけであれば、恐らく政府の補助金をとってきた方が効率的に仕事ができる、それでもなおかつ寄附を収入の五割以上占めるように収入戦略を立てているのは、まさに自分たちの自立性を維持するためであり、もう一つは寄附者を貢献者に変えるという自分たちのミッションがあるからだということを明言されています。

 そのほか、東京に東京おもちゃ美術館というのが昨年四月に、これは新宿にある中学校を廃校した跡をおもちゃ美術館に変えました。これは八千万円で変えましたが、自分たちで借金をし、そして一口館長制度という、一口で館長、一万円払うと館長になれるんですが、そういう形で寄附を二千数百万円集めて、おもちゃ美術館を自分たちの力で運営しています。ちなみに、新宿区に年間一千万円の家賃を自分たちで払ってこれを行っているというものでありまして、まさに自分たちが自発的に担って行う活動というものがあり得るということであります。

坂本(剛)委員 それでは次に、財政再建についてお伺いしますが、国と地方合わせての長期債務残高が平成二十一年度末で五百八兆円と言われております。これはGDP比では一五八%になると見込まれておりますけれども、主要先進国の中でも非常に高い水準にあるわけでございまして、大変厳しいな、そんな思いをいたしております。

 この状況を踏まえて、今後どのように財政再建を進めていけばいいのか、水野公述人、それから中島公述人、簡単に申し上げていただきたいと思います。

衛藤委員長 公述人水野和夫君、時間に制限がありますので、簡潔にお願いします。

水野公述人 私は、財政再建につきましては、今の歳出歳入構造というのが、大きな時代の変化の構造に恐らく対応し切れていないような状況にもうなってきていると思いますので、そういう意味では、歳出歳入構造をもう一度見直した上で、その後は、それでも借金の残高というのは今の歳入構造では恐らく賄い切れないということになると思いますので、そのときは私は消費税導入がやむを得ないんじゃないかなというふうに思っております。それは、複数税率での導入ということが望ましいんじゃないかなと思っております。

中島公述人 財政再建、ぜひとも必要なんですが、二点だけ簡単に申し上げます。

 一つは、OECDの税負担率、日本は大変低いということでありますので、やはり税負担の面でもう少し考える必要があるだろうということです。

 二つ目は、日本経済の成長率が低い、それによりまして税収の自然増が乏しいということがありますので、この両面にわたりまして、税収を上げる、かつ日本の成長率も構造的に引き上げるということで、財政再建を図ることが必要だというふうに思っております。

坂本(剛)委員 どうもありがとうございました。

衛藤委員長 次に、仙谷由人君。

仙谷委員 民主党の仙谷でございます。

 時間が余りございませんので、端的にお伺いをしていきます。

 まず、経済、予算に対する評価も含めてでありますが、私自身は、きょうの、十―十二月の成長率がマイナス一二・七%、こういう発表をされたということで、多少衝撃が走っておるようでありますが、これは大方のエコノミストの皆さん方にとっては所与の条件で、この一―三が再び一三%、一四%マイナスになるであろうということも、ほぼ、我々はそれを前提に物を考えなければいけないんだな、この数カ月、そういうふうに考えてきたところでございますので、それほどの驚きはないわけでありますが。

 一昨日、二月十四日土曜日の日経新聞で、上場企業の経常利益、これは四月から十二月までの決算の最終集計をもとにしたものが発表されまして、とりわけ、金融を含む全産業合計のところを見ておりましたら、これは、十二月までですと四兆七千二百八十五億円、マイナス七四・七%。それから、ことしの二〇〇九年の三月期決算を、これは予測値でもあるわけでありますが、二兆二千五億円、つまり、マイナス九〇%という数字が出ておりました。これには少々衝撃を受けまして、つまり、昨年はこれの十倍ですから二十二兆円の最終損益が、つまり利益があったのが、現時点ではマイナス九〇%の二兆二千億円になっている。そうすると、当然のことながら、法人税が同じような比率で連動して下がるのではないかということを考えたわけであります。

 それで、この土曜日の二月十四日の新聞に載っております二月十三日の日経平均、それからPERが六十五倍、それから一株当たりの時価が多分七百十五円ぐらいだったでしょうかという、破天荒な、つまり、経済を分析している方から見るととても考えられないような大きさの振幅、むちゃくちゃな数字が出ておるわけであります。

 私は、これは法人税が一体全体どのぐらいになるというふうに予測をされているのか。つまり、一―三の成長率の問題もありますし、そのことが四月にもたらす影響もあると思いますが、まず、水野さん、中島さん、この点についていかがお考えでありましょうか。

水野公述人 法人税につきましては、上場企業、全産業の中の製造業は、この日経新聞の報道ですと赤字になっているということでありますから、上場企業のしかも製造業からは法人税が恐らくゼロということになって、あと、非製造業からは九割減というような数字になってくると思いますので、そうしますと、法人税のところは、何兆円減少というのはちょっと予想していませんけれども、大幅な税収減というふうにならざるを得ないんじゃないかな、それは来年度もさらに、恐らく厳しい状態が続くんじゃないかなというふうに考えております。

中島公述人 私の方も、法人税の計算はしていないんですが、少なくとも、現在の状況、月を追うごとに景気悪化が著しくなっておりますので、今年度以上に来年度が厳しくなる、こういうふうに見ております。

 ちなみに、大企業、中小企業という形で経常利益を分けますと、非製造業の落ち込みというのは今年度並みの一〇%台後半ぐらいの下落かなというふうに思っておりますが、製造業、とりわけ大企業につきましては、やはり八割ぐらい落ちるというふうにウオッチしております。ちなみに、中小企業ですと、落ち方自体につきましても大企業に即応いたしまして、製造業は同じぐらい、非製造業はやや大企業よりも中小企業の方が少ない、こういう形で見ております。

仙谷委員 私は、今年度予算の大問題は、予算を組む前提として、ことしの一月十九日に経済財政の中長期方針と十年展望というものをつくった。その中で、端的に数字でいいますと、二〇〇九年度の名目GDPは五百十兆円になるだろう、二〇一〇年度は五百十九兆円になるだろう、あるいは二〇一一年度は五百三十兆円になるだろう、これが世界経済順調回復シナリオのもとでの数字であります。先ほど水野さんがおっしゃった、四十五兆円、要するに名目GDPが減っちゃうんだ、こういう話になりますと、このシナリオの根底が完全に崩れるんではないかというふうに私は見ております。

 それで、先ほど、これを法人税の方からいいますと、昨年の、つまり今年度の法人税収入予測は十六兆円だったわけでありますが、これが六兆円マイナスで、これを補正予算で補っておる。ことしは、その六兆円マイナスの十兆円という法人税収の予定で予算を組んでおる。だけれども、多分、今のお話を、余りあからさまにおっしゃいませんでしたけれども、私のこの数字を前提にする限り、つまり二〇〇九年三月期末決算の数字を前提にする限り、九〇%マイナスということに連動するかどうかは別にして、少なくとも十兆円が二兆円ぐらいになるんではないか、私はそういうふうに頭の中で計算をしております。

 つまり、何がお伺いしたいかといいますと、この中期展望なるもので想定した姿というのは、果たして現時点において妥当性があるのか、この点についてお伺いしたいと思います。

水野公述人 今御指摘の、名目GDPが、〇九年から、さらに一〇年、一一年度と五百三十兆円の方に向かっていくというのは、私は相当厳しい状況にあると思います。

 もう既に、きょうの一二・七%を入れて、一―三月が、ほかの指標からほぼ同じぐらい落ち込むという、あるいはそれ以上だと思いますが、それで計算して、実質ベースで四十五兆円なんですけれども、名目でもほとんどデフレーター伸びていないですから、名目も同じだと思います。そうしますと、四十五兆円を取り返して、これから新しい年度の〇九年度、一一年度と、今度は五十兆円プラス。そして、五十兆円二年間でプラスになっていくということは、ことしの夏ぐらいからV字形に欧米が回復していくということを前提にしない限り、非常に私は難しい状況になってきているというふうに考えております。

中島公述人 今おっしゃられたGDPなんですけれども、政府の見通しが策定されましたのがことしの一月の中旬でございます。それで、その中におきましては、来年度後半の民間需要の持ち直しということが想定されております。

 確かに景気の状況というのは日々深刻な状況にありますけれども、ただ、底入れということで考えますと、少なくとも欧米につきましてはことしの半ば過ぎぐらい、これは経済対策も含めてということで見込まれております。日本につきましては、それに沿いまして、輸出主導でございますので、輸出の面から、年度後半ぐらいには少なくとも底入れはするだろう、こういうふうに見ているということでございまして、私ども自身の見方もこれに呼応しております。

 一方、GDPの額、それから法人税の額ということですけれども、現在の状況につきましては、月々深刻度が増しておりますので、一月近くたった現状におきまして、特に、GDPの発表が本日ありました現状におきまして下振れをしているということは、これは間違いございません。

 他方、法人税の方なんですが、十兆円が二兆円になるのではないかというお話でございますけれども、国内の方につきましては、確かに赤字企業が出てくるということはありますが、他方で黒字企業、特に内需型あるいは輸入企業という中には黒字を維持する企業も何割かあるわけでございます。したがいまして、プラスマイナスいたしますと大きく利益が減るという数字になりますが、黒字企業はそれに呼応いたしまして法人税を払うということになりますので、極端に大きく減るというふうには考えてはおりません。

仙谷委員 両説あるわけでありますが、私は、要するに、成長率至上主義とか数量の、名目GDPをどのぐらいに穴埋めしなきゃいかぬとかという財政経済政策そのものがやはり問われている時期になってきたなと改めて思っておるわけであります。

 田中さんにこれからお伺いするわけですが、つまり、新しい公共をつくり出すんだ、そういうコンセプトでこの間随分御活動を、あるいは研究をされてきたようでございまして、敬意を表したいと思うのでありますが、おっしゃられたことの中で、なぜNPOが下請化せざるを得なかったのか、あるいは、なぜ自立性のあるNPOが育たなかったのか。ある意味で、きょうおいでいただいている湯浅さんのNPO法人は極めて自立的な活動を展開しているということでありますけれども、なぜこうなってしまったのか。つまり、安上がりの行政サービスといいましょうか、公共サービスの代替物として安上がりにやろうということで使われてしまったと。これは、特に地方都市といいましょうか地域社会に行くとそういう傾向を私もひしひしと感じるんですが、この行政の下請化、あるいは、どうして自立的なNPOが今のところ立ちどまっているというか停滞しているのか、この点についてもう少し突っ込んだお話をいただければと思います。つまり、何をすればもう少しNPOが元気を出して、自立的な、自主的なNPOが生まれるのかということをお伺いしたいと思います。

 この点、湯浅さんにもお伺いしたいと思うんです。

田中公述人 御質問ありがとうございます。

 下請化ですから、元請と下請がありますので、結局、事業を発注した側の行政側にも、それからNPO側にも原因があると思います。

 行政側に関しましては、まさにこの十年というのは官から民へということで、できるだけ行政業務を効率化して支出を削減しなければいけなかったので、アウトソーシングをせざるを得なかった。そのときに、比較的安く発注ができる対象という中に、しかも公共的なゾーンで一緒に働いているのがNPOでありますので、アウトソーシングの対象となりやすかったというのがあります。

 ただ、実際に地方に行きますと、本当に安い下請というのが目につきまして、私が知っているところでも、九州の地方ですけれども、百二十万円で、ある施設の館長をやってくれ、常勤をやってくれという話で、その積算の根拠は何かと聞いたら、役所の中の非常勤の一番下のランクの単価で計算されているんですね。それではとても生きていけないということで、一たんは断ったというケースもあるんですけれども、一つは行政側の問題があったと思います。

 それから、NPO側の問題でありますが、やはり自己資金をなかなか集められなくて、確かに、寄附を一つ一つ集めるというのはとても手間がかかることなんですね。それで、行政のお金であれば、百万、二百万、あるいはもっと大きな金額をまとまって一回で集めることができますので、そこに飛びついたというところがあると思います。

 それからもう一つは、やはり日本人のメンタリティーとして、お上の仕事をするということはお墨つきをいただけるということで、何となくそれで信用を獲得できたんだと思いがちであったということが一つあると思います。

 ほかにもいろいろ原因はあるんですけれども、原因としてこれを列挙したいと思います。

 では、どうしたらいいのかということなんですが、私はアウトソーシングそのものを否定するつもりはありません。まず、行政の委託とか協働そのものが悪いというわけではなくて、やり方を見直すべきだと思います。

 それは、一つは、まさに価格の妥当性というのをもう一回見直してほしいということで、実際に市場化テストは、NPOは受けていませんけれども、こういうものをリサーチしても、企業もとても予定価格を下回れなくて、結局ギブアップしてしまった、落札できなかったというケースも散見されるところ。やはり、官から民へはよかったんですけれども、価格の妥当性についてもう一回議論をしていただきたいということであります。

 その上で、NPOはどう自立していくのかということなんですが、私は、租税をベースにしたゾーンだけで活動していては自立はできないと思います。自分たちの足元というのはかなり資金源に左右されるところであるんですが、市民からもボランティアのような無償の役務それから寄附を集めることによって、初めて民を下敷き、ベースにして自立ができるだろうと思います。

湯浅公述人 ありがとうございます。

 私たちの経験を言うと、内々に三回ほど委託の話はあったんですが、やはりお断りしたんですね。それは、とにかく一〇〇%青写真がもう決まっていて、それのとおりにやらないとだめで、こちらはいろいろ意見を出したんだけれども、結局全部けられてしまって、行政サイドがつくった青写真に一〇〇%乗るか、それかゼロかというような感じだったので、残念ながらお断りしたというようなことがありました。

 でも、そうだとすると、今、田中さんがずっとおっしゃっていたように、やはり私たちは寄附で回すしかなくて、確かにそれは日本のように寄附文化がないところではきついです。もやいも非常勤のスタッフが何人かいる程度ですから、みんな月十万で、今の年間百二十万でやってくれという話と、委託を受けても百二十万、自分たちでやろうと思っても百二十万、似ているな、どっちもきついという感じなんですけれども。

 ただ、もやいは、去年はかなりたくさんの寄附をいただいて、派遣村をやったときも相当寄附をいただきました。

 そういう意味では、やはり、こういう状況はおかしい、何とかしなきゃという人たちの気持ちをある程度形にできればお金は集まると思って、それが、今田中さんがおっしゃったような公共ということなのかなとも思いましたけれども。私たちはそれを通じて社会の信頼ですね、私、非常に深刻なのは社会不信みたいなものが広がっているということであって、社会に対する信頼、自分が何か言うことをだれかが受けとめてくれるとか、自分のことをだれかが気にかけてくれているとか、そういう社会の信頼を回復していくのが私たちの仕事の一つだろうと思っていますので、それをやることで何とか寄附も含めた理解を得ていきたいと思います。ただ、税控除など法制度上の支援はそれは欲しいですので、やはりそれも含めて検討していただければと思います。

 ありがとうございます。

仙谷委員 実は、湯浅さんおっしゃる防貧の問題、救貧の問題も、私自身は役所的に何か対応策をとれば何とかなるというふうに最近感じていないんですね。

 つまり、一つは、二〇〇七年の段階で既に多重債務者の問題について、これは総理大臣官房で対策本部をつくって、生活再建だったか再生、セーフティーネット貸し付けをこうしよう、これは都道府県に丸投げしたんですね。一つは相談窓口が大事だ、まさにきょうおっしゃっているように、どこへ相談に行ったらいいのか、これが大事だ。これは、多重債務者の問題のみならず、今度はそれが雇用というか生活そのもの、居住にまで及んできたということでありましょうが、相談。

 そして、具体的にお金を、少額のものを貸し付ける。日本版グラミン銀行をつくるべきであるということは金融庁までそのときに言ったんだけれども、これはだれも実行ができない。ただ、二十年前から存在する岩手の信用生協というところだけがやっているという。十五億円東京都が予算をつけたのに、たった三件しかこの一年半で貸付額がない、何なんだと。多分、ここは今湯浅さんがおっしゃられた、NPOと共同で行うにしても、官僚的基準をつくって身動きとれないようなひもつきにして委託をしようとするものだから、委託を受けた方も身動きのしようがない、結局進まないということなんだろうと思うんですね。

 そういうことを踏まえて、湯浅さんに、先ほどの基金をつくってくれ、基金をつくって、だれがどのように基金を使いながらやればいいのか。基金の額が、頭の中で計算してみますと、一人当たり二十万円ぐらいランニングコストを含めて用意すればいいのかな、十万人ならたった二百億だなと、ぽんぽんと頭の中に来ているんですが、大体見通し、その金額とか、あるいはどのようなやり方で相談に応じ、緊急の貸し付けに応じ、やればいいのか、これをちょっとお伺いしたいんですが。田中さんもうなずいていらっしゃるので、NPOの観点からお話をいただければと思います。

湯浅公述人 ありがとうございます。

 確かに行政だとなかなかうまくいかない面があるというのはありまして、私たちは、もやいでアパートに入るときの保証人提供をやっておりますが、八年近く、七年ぐらいで千四百世帯の住所不定状態の人の連帯保証人になってきました。この数というのは、東京都や二十三区が行っている民間住宅の入居支援サービスの全部を足したよりも多いんですね、私たち一団体の方が。では、トラブルがすごい、無審査でもうトラブルに満ちあふれているかというと、事故率みたいなものは極めて少ない。東京都がやっているホームレス対策事業のあれよりも少ないです。

 つまり、ある程度きめ細かく対応することができると、言っているほどのお金もかからないし、トラブルにもならないというところで、そういう知恵を生かしていただいて基金のことも考えていただければと思うんです。

 十一ページに先ほど出したような図で考えていますが、私たち自身が大きなお金を分配することはとてもできませんので、それは国が私たちの意見も聞いてくれるような形で枠組みをつくっていただきたいと思っています。

 実際、何に使うかということなんですけれども、やはり雇用保険から漏れちゃっている人が相当おられるんですね。これは現場にいるとすぐわかるんですけれども、それは、現場の実態を知らないと、制度はあるじゃないかということでなかなか見えないんですが、しかし、実際はそうです。

 その人たちが、雇用保険を受けている人たちとの均衡などを考えたら十五万から二十万とかという金額になるんでしょうが、そういうものでとりあえず、ある程度の期間生活を支えられる、そういうことがあれば、生活保護まで行かなくて済むわけですね。そうやって、また仕事につける。

 今行われている就職安定資金貸し付けも、相当いい実績を残しておられます。私もあれは評価しているんですが、いかんせん、最初にそろえる書類の関係とかがあって、二週間とか三週間、結局かかっちゃうんです。その間の生活費がもたないという事態がありますので、これに対するつなぎのお金ですね。

 それから、あとはセーフティーネット資金貸し付け、緊急小口のお話をしましたが、先ほどおっしゃられたように、せっかく一昨年九月に十万円まで上げて、もっと公的融資制度を整えようと言ったんだけれども、実績はさっき言ったようにほとんど広がっていない。これでは、それこそどこからもお金が借りられなくて貧困状態の人は、やみ金に行くしかないような状態になってしまいます。なので、そこを支えるためには、やはりそういうつなぎのお金なども充実させる必要がある。

 そうやって、現場では、ここに穴があいちゃっているというのが見えていますから、ぜひ聞いていただいて、そこの穴を埋めていただくような使い方をしていただければ、私は、何か五百億も一千億も要らないだろうと思っています。

衛藤委員長 公述人田中弥生君、時間に制限がありますので、簡潔にお答えをお願いします。

田中公述人 はい、わかりました。

 まず、二つに分けて御説明申し上げたいんですが、日本版グラミン銀行の失敗については、何かよくわかるような気がするんですが、多分、形をつくって魂が入らなかったんだろうなと思います。グラミン銀行がうまくいったのは、形というよりも、まさに住民のボトムアップからつくっていた内発的なものだったのですね。そこをどこまで拾い取ることができたのかというのが疑問であります。

 そして、基金の運用でありますが、理想的には、NPOで頑張って、民間のイニシアチブで頑張るという器が一番ベストでしょうけれども、それがかなわないとすれば、やはり官民共同の何か基金だと思います。日本には幾つかそのような例がNGOにもありますが、一つ私が課題だと思うのは、そのときの収入の比率を、今、官が九割、民が一割ぐらいのような状況では、やはり民のイニシアチブというのは発揮できませんので、民間からの寄附の比率というのを五割、六割以上担保するという形での共同の基金のあり方というのはあるかもしれません。

仙谷委員 四人の参考人の皆さん方には、貴重な意見をいただきまして、ありがとうございました。

 終わります。

衛藤委員長 次に、吉井英勝君。

吉井委員 日本共産党の吉井英勝でございます。

 きょうは、四人の公述人の皆さん、大変お忙しいところ、ありがとうございます。

 最初、私は、水野参考人にお伺いしたいというふうに思います。

 今、アメリカ発の金融危機ということで、ずっとこの間言われておりますが、よく考えてみると、アメリカの巨大複合金融機関が、サブプライムローンにしてもあるいはCDSにしても、CDSなんか、今からどこで地雷が爆発するかわからないような危ないものですから、損失が次々広がるかと思いますけれども、なぜそういうふうなものに手を出すことができたかということを考えたときに、やはり資金の流れがあるわけですね。

 日本の場合は、輸出依存でやってきましたから、輸出で随分貿易黒字を生み出したわけですが、しかし、貿易黒字がふえれば円高になる、円高にも耐えられるようにということで、過密労働とか下請単価の切り下げとかをやってきて、ぐるぐるそういうふうに回ってきたということを、もう十年余り前になりますが、野村総研の方がトヨタ自動車研究で悪魔のサイクルというふうに言っておられましたけれども。

 その後、労働の方は、九九年の労働者派遣法の規制緩和によって、結局、正規の労働者のリストラと非正規に置きかえるということで賃金コストをどんどん下げてしまう。それでまた輸出体力をつけてどんどん輸出をふやすということで、そのやり方は、一方では、国内では下請企業や働く人の国民の所得を伸ばさなかったわけですから、内需で切り抜けるというのは大変。一方、貿易黒字が、これが国内で税、その他できちんと戻ってきて、所得再配分ということでここに回っておれば、それはそれで内需の力をつけることになったかと思いますが、しかし、その貿易黒字で生み出されたものが、直接間接の形で結局今回の金融危機を招いた原因となった資金として流れていったのではないか。

 それは、もちろん、超低金利政策によって円キャリートレードなど、水野公述人は、日本の政策はオウンゴールだということを書いておられましたけれども、やはりこういう点では今回の危機というのは、単にアメリカ発、アメリカの巨大複合金融機関の問題だという人ごとの話じゃなくて、日本自身の経済金融政策の大きな責任が問われてくるというふうに思うんですが、この点についてのお考えを伺います。

水野公述人 今御指摘いただいた点については、私はもうそのように考えております。

 どういうことかと申し上げますと、アメリカが世界じゅうからお金をかき集めて、そして他国の貯蓄を自由に使えるようになったというのが、恐らく金融の自由化のアメリカから見た意義だったと思います。その、他国のお金を自由に使えるようになったからこそ、恐らくアメリカは消費主導の景気拡大になったと思います。それにグローバル化ですから、呼応する形で、日本、韓国、台湾といった国が、中国も含めまして、輸出主導型の経済になっていきました。

 したがいまして、今起きていることはアメリカ発の金融危機、そういうとらえ方なんですけれども、それは、グローバル化しますと、アメリカの住宅ブームが拡大していった過程というのは、アメリカがお金を集めることができたのはアメリカに投資する人がいたわけでありますから、それが基本的には輸出国であったということだと思います。そういう意味では、アメリカ発というふうにとらえますと、それ自体がまた今後の対処方法を私は誤ってしまうんじゃないかなというふうに考えております。

吉井委員 次に、湯浅公述人にお伺いしたいというふうに思います。

 私、ちょうどこの労働者派遣法の規制緩和の、もともと八五年のときから問題にしていたんですけれども、非常に大きな問題を改めて見ようと思って、九九年五月七日の労働委員会のやりとりを見ておりましたら、ちょうど二月十四日付の朝日新聞の、大阪版の方では一面トップで「派遣自由化 政治のツケ」と。「労働者保護破壊」、当時は甘利さんが労働大臣だったんですが、「大臣一笑」というふうに見出しでも紹介されております。

 このとき寺前議員の方から、労働法で労働者保護してきた、根本原則はILOのフィラデルフィア宣言、労働は商品ではない、こういうことだ、今回の改正法案で市場原理導入するということで、労働者の権利保護はできなくなる、労働者保護を破壊するという質問をやっているのに対して、今は別な大臣になっていますが、当時の甘利さんはこのときは労働大臣として、先生のお話を伺っておりまして、およそ究極的に悲観的に考えるとそういうお話が伺えるのかなと感心しておりますというふうに言ったものですから、「労働者保護破壊」「大臣一笑」というふうに見出しでは書かれたわけですが。

 そこで、公述人に伺っておきたいのは、大臣が一笑したような究極的に悲観的どころか、現実に進行していることは、労働者保護の破壊であり、労働者の権利の破壊とか人間としての存在の破壊、人格の否定など、究極の人間性の破壊が進んでいるというのは実態ではないかというふうに思うわけですが、最初に、あなたのお取り組みの実情から、派遣切りの実態、持っている問題についてお話を伺いたいと思います。

湯浅公述人 派遣労働については、私のレジュメの十ページに問題点を指摘したんですけれども、結局、派遣先と派遣元の間が商取引で、圧倒的にやはり派遣元が弱いわけですね。なので、人材派遣会社の方も言っておられますが、中途解約されても、損害賠償を本来ならできるんだけれども、とてもじゃないが、要するにお得意様に損害賠償はできないというところで、物が言えないというふうにおっしゃっています。

 そうすると、派遣元の利ざやは、当然ですが薄くなってくる。その薄くなった利ざやをどこで確保しようかとなると、結局は、雇用保険に入れないとか高い寮費を取るとか、グッドウィルのデータ装備費が有名になりましたけれども、データ装備費を取るとか、ああやって本人たちから吸い上げて吸い上げていくしかないということになっちゃって、そうしないと派遣元が生き残れないという構造になっている。

 その派遣元の問題もいろいろありますが、やはりこの力関係の三角関係の図式を、しかも一番実権を握っている派遣先に対して労働者は何も言えない。この構造に手をつけないと、この派遣労働は出口が見えないと思います。

 なので、私は、今盛んに言われるようになりました製造業派遣の禁止、賛成です。賛成ですが、それだけで、特定の業種を禁止すれば何か全部が丸くおさまるとか、特定の業種を解禁したら全部がだめになるとか、そういう問題ではなくて、やはりきちんと派遣先が労働者に対して責任を負う、一種の雇用責任を負う。

 それは、例えば建設業界では元請責任というのが昔からありまして、下請が違法なことをやったその責任は、元請の建設業者がさかのぼって追及されても、それはちゃんと責任を負わないといけないというのがある。

 それと同じような、派遣先の労働者に対する直接責任というのがしっかり規定される、それが四月以降の派遣法改正の中でも大事なポイントではないかと思っています。製造業派遣禁止等々と加えて、そういうことも検討していただきたいと思います。

吉井委員 同じこの九九年の労働委員会では、寺前議員の質問に対して、渡邊職安局長は、派遣労働についての法改正というのは、常用代替の防止と派遣労働者の雇用の確保を調整する規定だとか、まあ適当なことを言っていたわけですけれども、実態は全くそうじゃなかった、法案を通すための方便だったということはもう既に明らかになっていると思います。

 この点では、もともと八五年のこの法がつくられるときに、人貸し法あるいはピンはね合理化法ではないかという指摘などを行って、こういう法律そのものに八五年段階から反対をしたわけです。九九年の派遣法以前に戻すこともそうですし、今ある法律を使って現行法に反することをやめさせるのは当然として、九九年以前にとりあえず戻す、しかし、やはり根本的には、八五年の問題を明らかにして整理していかないとだめだと思うんですが、最後に一言、雇用のセーフティーネットをどのように立て直すか、張り直すかということについての御意見を伺っておきたいと思います。

衛藤委員長 公述人湯浅誠君、時間が来ております。簡潔にお願いいたします。

湯浅公述人 簡潔に話すには難しいですね。

 雇用のセーフティーネットをどう張るか。労働して生活できるという条件を回復するしかないと思います。以前から労働しても生活できなかった人たちはいました、日雇いや母子の方たち。だけれども、その人たちも含めて今度はちゃんと底上げしていくんだというふうにしないと、結局、そういう存在がいるということをてこに、おまえら、もらい過ぎだといって切り下げられていく。

 このスパイラルをとめる、そのために最低賃金の引き上げや労働者派遣法の抜本的な改正、それから派遣切りの防止、公契約条例の制定等々、ぜひとも前向きに検討いただきたいと思っています。

吉井委員 ありがとうございました。質問を終わります。

衛藤委員長 次に、阿部知子君。

阿部(知)委員 社会民主党・市民連合の阿部知子です。

 私に与えられた時間が十分ですので、きょう四人の公述人の皆さんの大変参考になるお話をいただきましたが、もしかして皆さんにお聞きできない分はお許しください。

 冒頭、水野公述人にお伺いいたします。

 公述人のレジュメ等々も拝見して非常に参考、勉強になりましたが、特に、先ほど来、何人かの皆さんの御質問で、我が国のGDP、ことしもまたいつまで続くでしょうか、当面なかなかこれが深刻であるという中で、さっき水野公述人は、単に景気対策としてこれから何十兆というお金を打ったとしても、それが果たしてどういうふうに有効であるのか懸念されるというふうな御指摘でした。

 私もまさにそう思いますし、そこに水野公述人が御提案されている、アジアとの関係を視野に置くということとあわせて、これから我が国にとってアジアを広く、我が国の内需がアジアの内需であるというふうな視野を持つと考えた場合に、金融の面からはどのような対策が必要であろうか。あと、私自身はやはりこれから環境問題で、これまでの産業構造を変えていくとすれば、環境分野でのアジアの諸国との協力ということがこの難局を乗り切る一つの処方せんと思っておりますが、そうした点について御見解があればお願いいたします。

水野公述人 まず、アジアとの関係を強化していくという点で、金融面からどのような対策が大事かということにつきましては、今後アジアが近代化によるテークオフを始めるということになりますと、恐らく所得水準は世帯当たり五千ドル以下の人たちからスタートをしていくことになると思います。そうしますと、これまでのように、日本の輸出企業というのは特に輸出先が欧米でありましたから、所得水準が三万ドルとか四万ドルの人に対して輸出するということで、製造業大企業は対応できていたと思います。

 今後は、アジアの新興国が近代化していくということになりますと、所得水準もまだばらばらでありますし、それから価値観もかなり多様化していると思いますので、日本がアジアとの連帯、連携を強めていく経済圏をつくっていくということになるとすれば、それは規模の小さい企業も、いわゆる中小企業も輸出企業に変わっていく、あるいは中小企業がアジアの内需を自分たちの内需としてとらえていくということになると思います。

 そうしますと、金融面からの対策という点につきましては、特に中小企業が海外に進出できるようなことについて金融機関がどのように支援できるか、あるいは、公的な金融機関が、大企業中心じゃなくて中小企業中心の、しかも海外向け融資にどれだけ政府保証等を含めてかかわっていくことができるかということが大事になってくるんじゃないかなと思います。

 それから、二点目の環境問題につきましては、アジアが近代化していく過程で環境問題をクリアしませんと、どこかで一九七三年のようなオイルショックに匹敵するようなショックが走って、近代化そのものが頓挫してしまう可能性があると思いますので、この分野についても、日本はアジアとの連帯を強めていくのに非常に切り札になるんじゃないかなというふうに考えております。

阿部(知)委員 次に、湯浅公述人にお伺いいたします。

 せんだって私、たまたまテレビを見ていて、竹中元郵政民営化担当大臣が、非正規の皆さんのいわゆる派遣労働、あるいは年末の日比谷公園の問題は勤労者のわずか二・数%じゃないか、派遣労働で働く人は全体五千五百万勤労者と見て二・数%である、だからどうなんだ、そういうふうな論調であったんですね。でも、私はすごくそれを懸念して、それは正社員の問題にも当然大きな影響を及ぼしているし、単にそこに、首を切られてかわいそうに、年末に職もない、家もない、食べ物もない、数%の人間の問題じゃないんじゃないかというふうに投げかけているんだと思うんですね。

 正社員対非正規という構造で済むのかどうか、もう少し私は本質的と思いますので、そのあたりをもう一度お願いいたします。

湯浅公述人 ありがとうございます。

 先ほど貧困スパイラルの話をしましたが、私、今度三月に本を出すんです。対談本なんですが、タイトルは「中間層が没落する」というもので、アメリカはもう既にそうなってきてしまっていますが、貧困の拡大というのは、さっき言ったように、労働市場が壊れた結果であると同時に労働市場を壊す原因ですから、そこはスパイラルを描いていますので、問題は戻ってくるんですね。

 ですから、周辺が地盤沈下していけばいくほど、公務員なんか典型的だと思いますけれども、二十年前のバブルのころ、私が学生だったころは、公務員というのは一番何かうだつの上がらない、ぱっとしない、手にこういう黒いのを巻いたおじさんのイメージで、そういう職業だというイメージだったと思うんですけれども、今や特権階級の代表格のように扱われて、あんなに守られている人たちはいないみたいに言われて、それは、公務員は変わっていないんだけれども、周辺が地盤沈下しちゃったからですね。また、例えば今、自治体公務員の三割は非正規らしいですけれども、学校の先生もそうだし、民間の正社員も変わらないですね、どんどん低処遇化は進んでいってしまう。それは全体の地盤沈下に帰結してしまうんだと思っています。

 なので、どこかで歯どめをかけないと、さっきも言ったように、セーフティーネットがなければ労働市場も底なしですから、これは最終的にだれも得しない。絶対にだれも得しません。そのことに歯どめをかけるということでいうと、例えば正社員はもらい過ぎで非正規は働かないんだ、こういう対立をやっていたら絶対に世の中はよくならないというふうに思います。

阿部(知)委員 まさに御指摘のとおりで、セーフティーネットから排除された非正規と、一見セーフティーネットがあるように見えながら、教育費や住宅費や、本当に、賃金が上がっても実質の手取りの少ない正社員となれば総体貧困化。ワークシェアというのも総貧困化になっては意味がないので、今の御指摘は非常に重要に受けとめます。

 最後に一つ、先ほども御質問の中にありましたが、就労支援基金のような形で支援基金をつくるということは、私は本当に、田中さんの御指摘のNPOの手法も入れながら、そしてさらに、これから重要な職種転換を行っていくためにも重要だと思うんですね。今、簡単に、派遣を切られちゃったから、それでは介護をやりなさいとか、では農業をやりなさいとか、何か勝手な都合で振りかえていくんじゃなくて、しっかりと就労していただいて職種転換できるような基金であってほしいと思いますが、そのあたりの御意見を短くお願いします。

衛藤委員長 公述人湯浅誠君、簡潔にお願い申し上げます。

湯浅公述人 はい。

 いわゆるミスマッチ論については、本人たちが、では今まで一週間しか続かなかった人がどうやったら一月続く、どうやったら二月続くのかという観点から、だれが悪い、本人にやる気があるのかないのかという議論のレベルを抜けて、制度的にどう整えていくかを考える時期。そうじゃないと、内需転換も図れないし、人の失業から就労への移行も果たせない。

 そこについては、とにかく私、先ほども申し上げましたが、三月までに何らかの形でスタートを切っていただくということが重要です。というのは、やはりそれは政治的にも重要だと思うんですね。つまり、政治はそこを考えていますよというメッセージがちゃんと届くということが重要で、形は小さくても、とにかく四月に入る前に何らかの形でスタートを切っていただきたい。これは重ねてお願いしておきます。

阿部(知)委員 ありがとうございました。終わります。

衛藤委員長 次に、糸川正晃君。

糸川委員 国民新党の糸川正晃でございます。

 本日は、公述人の皆様、大変御多忙の中、当委員会にお越しいただきまして、また大変貴重な御意見、ありがとうございました。私も十分の持ち時間でございますので、数点質問をさせていただければというふうに思っております。

 今の未曾有の経済危機という中での質問になっていくわけでございますが、そういう中で麻生総理大臣が、消費税の増税というものを公言されていらっしゃいます。平成二十三年までにこの法整備を、景気回復というものが前提だというふうにも言っておりますけれども、そういう中で主張というものをされております。

 この不況期において増税の論議というのは、まず私は論外だなというふうにも思っているわけでございますが、そうでなくてもこの増税というのが、回復基調ということに対して水を差すのではないかというふうにも思います。また、適当でない時期にこういう議論をするだけでも、政治的な影響というものによって景気回復の芽を摘んでしまう、こういう懸念もございます。

 この消費税の増税論議、それから増税の実施、こういうものが我が国の将来の経済に与える影響の予測というのを、水野公述人と中島公述人にお伺いしたいなというふうに思っております。

水野公述人 消費税の論議につきましては、確かに長い目で見れば私は必要だと思いますが、今のような景気悪化の状況下で、何も言う必要は全くないんじゃないかなと私は思います。もし消費税の引き上げについておっしゃるのであれば、それは、二〇〇二年から二〇〇七年の六十九カ月の戦後最大の景気回復のときに既に道筋をつけて実施していなければいけなかったと思いますが、それが恐らく一番増税しやすいタイミングだったと思います。

 それができなかった上に今度はもっと景気が悪い状況で、三年よりは恐らく五年ぐらいかかるんじゃないかと私は思っているんですけれども、そういう状況下でおっしゃるというのは、もしそのときできなかった場合には、景気状況という前提条件をつけながらも、それでやはり景気が悪かったからということになると、景気見通しに対する見方も余り適切ではなかったということになって、逆に信頼をなくしてしまう可能性があると思いますので、今はおっしゃらない方がいいんじゃないかなというふうに私は考えております。

中島公述人 私自身は、むしろおっしゃってよかったというふうに思っております。といいますのは、幾つかありまして、一つは、歳出増を図るという形であれば、一方でどのような形で負担を増すのか、ここはやはりワンセットでおっしゃっていただかなければいけないというふうに思います。

 それからもう一つは、日本の財政赤字が大変大きいものですから、このままさらに拡大をさせて、他方での負担増というものがない形でいきますと、国債の金利に影響していく、日本の金利全体が上がりかねないという状況にもつながりやすくなりますので、この観点からもそこら辺は言った方がいい。

 ただし、現状においては、当たり前の話なんですが、こういう厳しい経済状況下、すぐに増税ということにはなりませんので、数年後、しかもそのときの状況を勘案してという形にまさに思う次第でございまして、まさにそのとおりになっているということだと思います。

糸川委員 ありがとうございます。

 続いて、湯浅公述人にお伺いしたいんですが、これは、実は先日、私、雇用の対策の当委員会での質問の中で麻生総理にも質問したところでもあるんですけれども、今、非正規労働者というのが非常にふえてきている中で、この人たちというのは、恐らく国民年金というのを掛けることが非常に困難であるのではないかなと。

 そういう中で、老後の生活というのが彼らにも待っているわけですね。その際にはやはり、厚生労働省が発表している例では、大体二十三万から七万ぐらいでしょうか、一世帯当たりですけれども、そのぐらいの生活費が必要になってくるのではないかということなんですが、到底、国民年金を満額掛けたって、一カ月に受け取れる金額というのが六万六千円です。そういう環境の中で、貯蓄に回すことができない、今食べるだけでも精いっぱいなのにという環境になってきていると思うんです。

 これを、彼らの老後の不安というもの、今最先端で接するというふうに思っていますが、そういう環境の中でさまざまな不安があると思うんですが、そういうことに対して、湯浅公述人がどういうふうに受けとめられていらっしゃって、今後国としてどういうような対策をしていくべきなのかということについての御意見をいただければなというふうに思います。

湯浅公述人 ありがとうございます。

 ほぼ例外なくと言っていいと思いますが、将来に対する不安、老後の不安までは考えられない。つまり、一月後とか二月後の生活、あるいはきょうあすの生活がもうきゅうきゅうで、どうにもならなくなってきていますから、とてもじゃないが老後のことまで考えられないというのが実態です。

 それは、どういう対策をということでいえば、私は、やはり老後のことを考えられるぐらいの余裕を持たせてあげてほしいと思っています。それで、自分がそういうものを払って老後の支えをつくらなきゃいけないと思っても、実際には、自分のきょう食うお金もない人が年金を払えるわけがないので、制度が空洞化していってしまいます。

 ですから、そこは本人がもうちょっと努力すれば何とかなるはずなんだと言ってもこれは問題が解決しないので、問題を解決させる方向で、雇用保険とかをきちんと整備していただいて、労働市場の状態をもうちょっとよくしていただいて、払えるような国にしていただきたいと思います。

糸川委員 湯浅公述人、最前線にいらっしゃいますので、またそういう不安等がございましたら、ぜひ御指導いただければというふうに思います。

 最後に田中公述人にお伺いしたいんですけれども、公述人は、著述において、NPOの主要な問題点の一つを、その財源の弱さであるというふうに指摘をされていらっしゃると思います。多くのNPOというのが行政からの委託費を主要な収入源としていることをまた指摘もされていらっしゃいます。

 このNPOの数が増加してきたのは、NPO法の制定に加えて小さな政府の政策というのが大きく影響しているわけでございますが、現在の政府の政策では、長期の展望それから制度設計、こういうものもないままに、官や公というものが担ってきた公共サービス、こういうものも縮小して、その部分というのをNPOに丸投げしているということも多いのではないかなというふうに考えます。この小さな政府ということ、これがもたらしている弊害、それから真に必要とされる政策というのはどういうものなのかということをお聞かせいただけますでしょうか。

田中公述人 ありがとうございます。

 小さな政府の弊害ということなんですが、データ的に見ますと、日本というのはもともとそんなに大きな政府では、公務員の数等を見ても大きくないんですけれども、この十年間で行政が直接担う業務というのを縮小してきたことは確かであります。先ほども申し上げたんですが、アウトソーシングでありますので、行政の機能が周辺に広がったということだと思います。

 では、そこを、さっき丸投げというふうにおっしゃったんですけれども、まさにアウトソーシングさえすれば自動的にだれかが公共を担ってくれるという錯覚が私はあったと思います。やはり担い手側が、一体だれがどのような条件であったら担えるのか、あるいはどういう選択肢を、公共サービスを国民に提示できるのかというところまでも含めての制度設計が今後は必要であると思います。

 それに関連した小さな政府のいろいろなひずみというのは、今も議論されているようなことも出てきていますけれども、まさに担い手側の企業も含めて民間側について見れば、今のアウトソーシングの丸投げのされ方では容易に経営ができない団体もあるだろうということであります。

糸川委員 大変貴重な御意見をありがとうございました。終わります。

衛藤委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。

 公述人田中弥生君、水野和夫君、中島厚志君、湯浅誠君各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。(拍手)

 午後一時から公聴会を再開することとし、この際、休憩といたします。

    午前十一時四十分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時開議

衛藤委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 平成二十一年度総予算についての公聴会を続行いたします。

 この際、公述人各位に一言ごあいさつを申し上げます。

 公述人各位におかれましては、御多用中にもかかわらず御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。平成二十一年度総予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、どうか忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願い申し上げます。

 御意見を賜る順序といたしましては、まず中林美恵子公述人、次に住江憲勇公述人、次に大久保幸夫公述人、次に神岡篤司公述人の順序で、一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 それでは、中林美恵子公述人にお願いいたします。

中林公述人 大変ありがとうございます。

 きょうは、このような場で、国会の外の人間として意見を述べさせていただく機会を得ましたこと、大変ありがたく、光栄に存じます。どうぞよろしくお願いいたします。

 さて、簡単なレジュメを用意させていただきました。「二十一年度総予算についての意見陳述」という、「参考資料」というものがそれに当たります。どうぞよろしくお願いいたします。

 私はいつも、女子大、跡見学園女子大学というところで、公共政策及び日本の財政などを教えるという担当をしております。その中でいろいろ感じることもございますので、少しそれを後に紹介させていただくつもりでおります。どうぞよろしくお願いいたします。

 まず予算の問題なんですけれども、年々、非常に時代の変化というのは激しくて、こういったことは私がアメリカの上院の予算委員会に十年ほど勤めておりましたときにもよくあったことですが、それぞれの、やはり時代や国の事情がありますので、これにいかに対応するかということが予算にとっては非常に重要なことであるというふうに基本認識を持っております。

 その中で、来年度の予算、これは、特に世界の経済が激動しているという大きな特徴があるというふうに言えると思います。その中で、けさほど内閣府から国内総生産の年率換算の数字が出ました。一二・七%減ということで、かなりの大きな下落というふうになっています。アメリカの方が二十七年ぶりで三・八%減ということですね。ユーロ換算で、ヨーロッパにしましても年率五・七%減ということですから、日本は、実は、アメリカが震源地だ震源地だと言っている間に、欧米よりも実体経済のインパクトを大きく受けているということが見てとれる。非常にけさのニュースというのは打撃の大きいものであったというふうに思います。

 そういった中で予算をどう考えるかということが、財政問題をとらえる上で非常に重要なことだと思いますけれども、まず、既に補正予算、一次、二次、こちらでも審議されていることと思いますが、一つ私が感じましたのは、やはり公債に頼らずに何とか財源を見つけようとした努力、この辺は評価してよろしいだろうというふうに思います。ただ、財政投融資特別会計からということで、本来であれば、若い、将来の世代の赤字負担、赤字を支払う負担を少なくするために繰り越されるものも使われたという問題点も残りますが、何分にも、けさの国内総生産が示すように、非常に危機的な状況でありますので、そうも言っていられないという状況ではあろうかと思います。

 お手元の参考資料の棒グラフをごらんいただきますと、特別会計からどういうふうにお金が使われたのかということが一目瞭然でわかっていただけるのではないかと思います。

 また、基礎年金国庫負担割合を二分の一に引き上げということで、社会保障を何とか手当てしようという努力も行っております。ただし、平成二十一年度から二十二年度の二年間ということで、これもまだまだ本当に目先のことにすぎませんが、何分にも財政赤字の大きなものを抱えている日本ですから、臨時的ではあっても、こういった財源の手当てというものをどこからか探してきて努力をしたという跡が見てとれるのではないかというふうに思います。

 それから、ちょっと細かい図で二十一年度一般歳出概算というのがありますけれども、これで見てとれますように、やはり社会保障関係費は重点的に何とかしようという気持ちがこの数字にあらわれておりまして、三角がマイナスといたしますと、やはりマイナスとプラスのめり張りというものもそれなりに取り入れられているということになろうかと思います。

 ただし、この予算にも大変問題が多く残されているというふうに私は思います。と申しますのは、やはり国債費、それから借金ですね、債務残高、こういったものが非常に大きく膨らむ一方である。ただし、ことしそれを言っていては先に進めないということもあろうかと思いますが、このことを十分認識しておく必要はあろうかと思いますので、あえてこの場をおかりして、外部の人間として、この点を指摘させていただきたいというふうに思います。

 その後の図表にもありますように、国及び地方の長期債務残高という表がございます。その右下に一五七・五%というふうに書いてありますが、これが国と地方を合わせた債務残高、つまり積もり積もった借金のGDPに対する比率ですね。これほど大きな積もり積もった借金を抱えている国というのは、実は世界、先進諸国の中でも日本が最も多いということになります。

 次のページの右下の折れ線グラフをごらんいただけるとおわかりになると思いますけれども、細かい数字はその上の表にあらわしてございますが、折れ線グラフの方では日本に丸がつけてございます。このように、債務残高、つまり過去からの蓄積の借金というものを見ていきますと、日本は断トツにため込んでいるということがわかります。

 このような状況だからこそ、本来であれば、こうやって景気が落ち込んでいる日本は真っ先にたくさんの財政出動をしたいところなはずです。ところが、アメリカよりもかなり少ない額で今は検討しなければならない事態になっています。これはやはり、どう考えても、こういった日本が背負ってしまっている重荷というのがかなり影響しているのではないかと考えざるを得ません。

 次のページをごらんいただきますと、アメリカの景気刺激策、二月十四日に議会を通過いたしました。それから、日本では第一次、第二次というふうに、アメリカと大体、少し歩調は遅いかもしれませんけれども、似たような形で景気刺激策といったものを考えてやっているわけですね。こういったものを二〇〇九年の、平成二十一年度の予算編成の中でも、景気刺激といったものを取り入れながら検討している最中でいらっしゃるというふうに思いますが、やはり、アメリカと比較いたしましても、金額面でも見劣りする部分がありますし、さらには、もちろんスピード面でも見劣りする部分があるのではないかというふうに感じます。

 ただ、アメリカと日本の議会のシステムあるいは行政府のシステムは違いますので、単純にスピードだけでははかることができないと思いますが、どうしてそのように早くできたのかは、もし御質問のあられる先生がいらっしゃれば詳しく御説明したいとは思いますが。

 それはさておきまして、アメリカも、何とか景気を回復させよう、今回の景気刺激策が早く実行されることが何よりも大事だというふうに言われておりますので、やはり世界各国、スピード感というものを重視しているのが現在の世界状況だというふうに思います。

 さて、その次のページで、最後から二枚目のページなんですけれども、定額給付金という言い方はよくないのかもしれません。定額というよりも、それぞれ段階がありますので。ただ、アメリカ版定額給付金というものが、実は去年、アメリカで実際に実行されました。これは日本のことではありませんので、あらかじめそれをお含みおきいただきたいと思います。アメリカのことです。

 実は、十一月にアメリカに私も行っておりまして、古巣の予算委員会におりました。そのときに、ジョン・テイラー・スタンフォード大学教授が公述人としていらしていまして、そのときにこの表を提出されておりましたので、ちょっと借りて持ってきたものです。

 その上の図に、ちょっと鬼の角のようにとがっている部分があります。これは、実際に定額給付金といいますか、そういった小切手が国民に送られたとき、国民のポケットにはこれだけ余計なお金が入ったはずであるという試算です。その下の図が、実際に国民が使ったお金ということになります。確かに少し影響を受けて盛り上がってはいるんですけれども、全く同じような形で急激に上がっていないのがちょっと心配の種だというのがジョン・テイラー教授の御意見でした。

 これは意見というよりも事実を数字で並べただけですので、ましてやアメリカのケースですから、必ずしも日本に適用できるとは思いません。したがって、私も学生にいろいろ説明するときは、皆さん、お金をもらったらすぐにその日に無駄遣いをしてください、ふだんだったら買わないものを買わないととてもお国のためにならないということを言っているんですけれども、果たしてどういうふうに素早く使ってくれるかがやはりかぎになるのではないかと思います。

 そして、実は、私が担当しております日本の財政というクラスで、ちょうど今、期末試験やレポートを集めているところです。それで、学生が一人、おもしろいレポートを書いて出してきました。

 今の財政問題、どんなところが問題だと思うかというテーマでいろいろな学生に書かせているんですけれども、彼女は、これだけ日本の財政赤字、累積赤字が大きいということを私たち国民が知らないことが大問題だと。授業をとるまで全く知らなかったし、それがどういうふうに解決されようとしているのかということについても全く知らなかった、自分たちの無知も大変問題であるし、さらには、私たちがこれから仕事をする大人になって、あるいはその次の世代に負担が残らないように、長い目でしっかりと方策を立てていただきたいものだというふうに、二十そこそこの女子大生が書いておりました。かなり本音がその中に含められていると思います。長いレポートでしたので、かいつまんで申し上げますと、そんなことになりますけれども。

 いろいろな意味で、一般の女子大生にとっても非常に将来を憂える状況が先の先には待っているということで、もし今激動する経済状況であるならば素早く対応をとること、そして、その後どういうふうにするのかという長期プランも念頭に入れた審議をしていただくこと、こういったことがぜひとも予算委員会の先生方にお願いしたいことであるというふうに存じております。

 それから、アメリカとの違いです。

 どうしてこんなに累積赤字が膨らんでしまったのかということを考えますに、やはり政治の怠慢ということに苦言を呈さなければならないのではないかというふうに思っております。景気が少しでもよくなったころに歳出カットあるいは税収を上げるということなどについての議論を詰める機会もなかなかないまま、こういった経済状況に突入してしまいました。

 私がアメリカの予算委員会におりました九三年から二〇〇二年までのころは、ちょうど、その財政赤字をどうやって均衡するかということで政治バトルが繰り広げられ、そして政府の機能が一部停止して、アメリカの海外にある大使館も閉鎖されてしまうような事態が起きたことを経験しているんですけれども、それほど政治が自分の首をかけて、あるいはその後落選した先生方もたくさんいらっしゃいますけれども、そういったことも含めて、大変厳しい中で正論を唱える方々がいらっしゃって、もちろん生き残っている先生方もたくさんいらっしゃいますが、そういった厳しい中で行っていたことを経験しております。

 本当に大変な問題だと思いますけれども、今過去のことを振り返っても既にどうしようもなくて、もう遅かったとしか言いようがないんですけれども、歴史にイフはないと言いますが、本当に、少しでもいいときに、もう少し将来的なことを考えて、いろいろな歳出カットや制度改革、こういったもの、長期的なものを含めた議論が必要になるのではないか。もしこれから財政がよくなるような兆しが見えてきましたら、ぜひそれをスピードアップして制度改革などを進めていただきたいし、また逆に、このような危機だからこそ、そういったことを考えるチャンスなのかもしれません。大きな大きな制度改革、政治がリーダーシップを発揮して、将来の世代に責任を負っていくというようなことをぜひ念頭に置いた予算編成をお願いしたいものだというふうに思っております。

 アメリカでは早い時期に経済刺激策なども通ったということで、うらやましいという言葉も聞かれますが、確かに、制度が違いますし、党議拘束も日本とは全然違いますので、この辺については、またチャンスがあれば触れたいというふうに思います。

 総じて日本の財政問題、長期的には非常に危機感を持つべき状況である、そして、短期的には現在の景気の問題が最も解決しなければならない問題である。その中で、かなり工夫をした、そしてめり張りをつけた予算編成になっているところは評価したいというふうには思いますが、まだまだ踏み込み不足の点が否めない。これが私の今回の予算編成に関する意見でございます。

 少し時間がありますので、一言、どうしてアメリカの景気刺激策、こんなに早く通ったのかということなんですが、日本でももっと超党派で作業ができれば日本の景気を救うことができるのではないかということがございますが、やはりアメリカと日本の制度自体が違います。

 上院と下院というものがありますけれども、上院では百人いる議員の中の六十議席、これが賛成しなければ何事も法案は通りません。今回、実はぎりぎりの六十議席だったわけですね。オハイオ州から選出されているブラウン上院議員がお母様の御葬儀で帰っていらっしゃるところを待って、ようやく最後の六十票目がとれたというくらい、もう首の皮一枚の状況でした。ですから、オバマ大統領にとっても、それほど簡単にこれがなし遂げられたというわけではありません。

 さらに、上院では、メーン州選出のスーザン・コリンズという女性の議員さんと、それからオリンピア・スノーという、これまた女性の議員さんがメーン州から、どちらかというとリベラルな州なんですけれども、選出されておりまして、この二人が共和党でありながら民主党と一緒に投票したということで、ぎりぎり六十票になっております。ある意味、彼女たちがそれでパニッシュメントといいますか、制裁されるかというと、そんなことは全くないので、党議拘束などの面からいたしましても日本とアメリカは全く状況が違います。

 そういった意味で、日本には日本の協力の仕方があるでしょうし、それから、どういうふうにしたら一番国民のために早い審議ができるのかということは、また別の工夫の仕方があると思います。何も政府専用機をブラウン上院議員がいるオハイオ州まで飛ばさなくても、日本には日本のやり方があると思いますので、それはぜひ加味しながらスピーディーな審議をお願いできたらというふうに思います。

 以上で、ちょうど時間も近くなってまいりましたので、私の意見陳述とさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)

衛藤委員長 ありがとうございました。

 次に、住江憲勇公述人にお願いいたします。

住江公述人 私、全国保険医団体連合会といいまして、町の開業保険医を中心とする、ですから勤務医の方も入っていただいております十万三千名の会員を擁する会長、住江憲勇でございます。本日、こういう発言の場を与えていただいたことに厚く感謝申し上げます。

 皆さんに配付させていただいています「給付金のバラまきでなく、医療・介護分野で実効力ある経済対策を要求する 景気悪化の下で国民の健康を守る緊急提言」に沿って意見陳述したいと思っております。

 実は、一月十四日に、私ども全国保険医団体連合会、日本医療労働組合連合会、全日本民主医療機関連合会、日本生活協同組合連合会医療部会、新日本医師協会、日本患者同盟、この六団体が集まる医療団体連絡会議として緊急に記者会見させていただきました。

 一月十四日というのはどういう日かといいますと、私ども医療関係団体として、あの年越し派遣村、そしてそれ以前からの世界金融同時危機、そういうところで本当に雇用と賃金がずたずたにされていた、そういう状態で、国民の生活改善に向けて第二次補正予算がどう明らかにされ、審議されるか、本当に期待もし、注目もしておりました。ところが、わずか三日の衆議院での審議、そして強行的に委員会採決、そして本会議で可決されました。これを見て、その翌日、十四日に、これでは本当に真に実効性のある、国民生活破壊から救う、そういう緊急的な施策になっていないという立場で発表させていただきました。これをもとに話を進めさせていただきます。

 それに先立つ十一月、G20サミットでは、まさに今回の世界同時金融危機、これはカジノ資本主義によると断罪され、今こそ、世界各国、内需を拡大し、実体経済を強くすべし、そう提唱されました。そして、つい先日のG7サミットでも、まさに国民生活改善のための財政出動、そして減税策を各国とるように、そういうことも提唱された。

 そういうことを踏まえて考えてみますと、さかのぼること二〇〇七年の国民生活基礎調査によると、生活意識が大変苦しい、そういう方が二四・〇%、やや苦しい三三・二%で、五七・二%の方が苦しいと答えております。

 そして、これも二〇〇七年の発表ですけれども、関連資料という、この資料の四枚目を見ていただきたいと思います。四枚目では、社会保障分野の雇用誘発効果が全産業分野に比べて断トツであるということを示した図です。

 その次のページ、これが日本医療政策機構のデータでございますけれども、必要なときに医療を受けられない、そういう不安を抱えている方が低所得層では七三%、深刻な病気にかかったときに医療費を払えない、そういう不安を抱いている方が低所得層では八四%、そして、下の棒グラフですけれども、二番目のところの、ぐあいが悪いところがあるのに医療機関に行かなかったことがあるという方が実に四〇%、そういう今の実態がございます。

 国民の生活基盤が動揺し、悪化し続けていることを、今多くの方々が実感しております。今、個人消費の低迷、不況の深刻化、雇用情勢の一層の悪化という悪循環が始まっている中、国民生活を守るための実効性のある経済対策が緊急に求められています。

 平成二十年度厚生労働白書には、社会保障関係事業の総波及効果は全産業平均よりも高いことが指摘されております。社会保障の拡充策は、国民の命と健康を守るだけでなく、個人消費を高め、新たな雇用を生み出す景気対策でもあります。

 私は、社会保障費を毎年二千二百億円削減するとの閣議決定を撤回し、国民の命と健康と暮らしを重視する政策への転換を求めるものでございます。その上で、景気悪化から国民の健康を守り、実効性のある経済対策ともなる緊急提言を提案するものでございます。

 第一の対策は、無保険者をなくし、窓口負担を軽減し、だれもが安心して受診し、治療できるようにすることでございます。医療費の窓口負担が原則三割となっているもとで、深刻な受診抑制が生じております。日本医療政策機構の、先ほど紹介しました、日本の過酷な、三割負担という窓口負担の過酷さがございます。患者の実効負担率は、OECD統計、これは〇四年度で申しわけないんですけれども、日本の一七%に対し、イギリスは二・四%、スウェーデンは三・〇%、フランスは一一・七%程度でございます。

 緊急対策として、一つは、医療費の窓口負担が三割となっている人についてはすべて二割に引き下げる。二つ目には、子育て支援策として、少なくとも医科は就学前まで、歯科は義務教育終了まで、国の制度として子供の医療費を無料にすることを求めます。また、国民健康保険料の滞納世帯は今四百五十三万世帯、そして短期保険証百二十四万世帯、そして滞納による資格証明書の発行世帯は三十四万世帯を超え、その資格証明書による受診控えのために疾病が重症化し死亡する事例が全国で多発しております。

 〇六年度の国保加入世帯の平均年収は百六十六万七千円ですけれども、平均で年間十四万四千八百七十円を国保料として負担しております。ちなみに、私の出身である大阪の北河内地区、実に二百万の所得で親子四人暮らし、そういう方に四十数万円の国保料がかかっているという実態がございます。高齢者夫婦二人世帯の場合の生活保護水準は、家賃、医療等の実費相当を省いて、東京都で年間百四十六万円、地方郡部では年間百十三万円程度であり、平均的な国保世帯でも、保険料負担によって生活保護水準並みの生活になってしまいます。

 緊急対策として、資格証明書の発行をやめるとともに、保険料滞納の原因となっている高額な国保料を引き下げること。そのために、医療費の四五%、これが国庫負担でございましたけれども、今現在は医療給付費の四三%、これは医療費に換算しますと三六%です。そこまで引き下げられた国庫負担を、一九八三年の水準、四五%に戻すべきでございます。

 さらに、三月末までに失職させられる非正規雇用者は、厚生労働省調査で十二万五千人、業界団体の調査では四十万人に達するとも言われている。一方的な解雇により職住を奪われた人やネットカフェ難民など、無保険状態に置かれている人々に受診、加療の機会を保障する措置を緊急に行うべきでございます。

 第二の対策は、後期高齢者医療制度を廃止して、高齢者の負担増と差別医療をやめることでございます。

 政府は保険料の期限つき引き下げなどの措置を行ってまいりましたが、将来は大幅な保険料の連続引き上げが待ち受けております。本年四月からは、七十五歳以上の後期高齢者にも資格証明書が発行される事態となります。その対象者は二十万人とも言われております。

 また、高齢者の特性を口実に、差別医療を強いることは許されることではございません。老後の不安を解消することは、現役世代の消費拡大にもつながることになります。高齢者医療のあるべき姿については、改めて国民的な議論を進め、高齢者が安心して医療が受けられる制度をつくるべきでございます。

 第三の対策は、医療、介護崩壊に歯どめをかけるために、医療費抑制策を抜本的に転換することでございます。

 妊産婦の病院受け入れ不能の事例に象徴されるように、医師不足は地方だけでなく全国で深刻な事態となっております。これに加えて、地方財政危機による公立病院の廃止縮小など、地域医療は崩壊の危機にあります。この原因は、三十年近くにわたって続けられてきた医療費抑制策であり、骨太の方針による二〇〇二年からの社会保障費の一兆六千二百億円もの削減にございます。

 医療費抑制策を抜本的に転換し、国が責任を持って地域の医療体制を整備するとともに、人材を確保し得る診療報酬に引き上げるべきでございます。急性期治療を脱した患者の入院医療確保のためにも、介護療養病床廃止、医療療養病床削減を中止するよう求めます。

 また、地域医療の確保のためには、医療と介護の連携が不可欠でございます。介護職員の低賃金、過重労働は政府も認め、一人二万円程度の処遇改善を図るというが、介護報酬の三%引き上げだけでは実現性に説得力を持ちません。介護崩壊に歯どめをかけるために、国が責任を持って介護報酬を大幅に引き上げ、保険料、利用料を軽減することが必要でございます。あわせて、地域医療を支えている零細診療所、中小病院の医療と経営を守り、一人の廃業者も出さないために、二〇一一年四月からの診療報酬オンライン請求の義務化撤回、自主共済を保険業法の適用除外とすることを強く求めたいと思います。

 以上の緊急対策を実施する上で、来年度予算案の抜本的な組み替えを求めるものでございます。

 政府の中期プログラムには、景気回復を前提としながらも、消費税増税計画が盛り込まれました。世界同時不況のもとで、EUやイギリスでは消費税率を引き下げる計画でございます。イギリスは既に引き下げられております。一九九七年の消費税率五%に引き上げと健保改悪による九兆円の国民負担増で、当時回復傾向にあった景気を一気に悪化させた教訓に学び、消費税増税計画はきっぱり撤回すべきであると考えております。消費税で社会保障費をすべて賄うとすれば、我が国の社会保障費八十四兆円のうち税金は三十兆円で、この部分を消費税で賄うだけでも消費税率は一二から一三%となる勘定でございます。

 今必要なことは、国の歳入歳出を抜本的に見直すことでございます。憲法から導き出せば、歳出は二つの原則があります。一つは、市場原理に任せれば、国民一人一人に行き渡りようがない国民の公衆衛生行政費用であり、治安・防災行政費用、教育・福祉行政費用であります。歳出で第二は、当初所得では生活困難、やはりそういう低金額化を打開すべく、所得再分配機能としての社会保障費用。そして歳入では、優遇税制を撤廃し、総合累進課税とすべきであります。この三原則以外にないはずでございます。

 そして、大企業と大資産家に応分な負担を求めるべきでございます。約四百三十社ある大企業は、バブル期以上の利益を上げながら、法人税率は九〇年以降引き下げられたままであり、内部留保は、これは〇七年度末ですけれども、二百三十兆円までに膨れ上がっております。大企業の社会的責任を問う声が上がっているのは当然至極でございます。例えば、法人税率を消費税導入以前の水準に戻し、研究開発減税などの政策減税を正せば、約七兆円の財源が出るとの試算もございます。きょうの資料の最後から二ページのところにその試算を挙げております。

 最後に申し上げたいのは、国民が納めた租税と社会保険料の総額から、社会保障の給付としてどれだけ国民に還元されているか、国民全体の収支勘定である社会保障への還元率が問われるべきということでございます。日本の還元率が四一%に対し、ドイツ、イギリスが約五九%、スウェーデンでは七五%に上っております。外需に依存を強めた日本経済を見直し、内需拡大をとの声が高まりつつある中、社会保障分野については日本経済への貢献が大きいことが示されております。

 実効性ある経済対策としての国民の健康を守る緊急提言の実現を切に切に切望し、私の意見陳述とさせていただきます。

 どうもありがとうございました。(拍手)

衛藤委員長 ありがとうございました。

 次に、大久保幸夫公述人にお願いいたします。

大久保公述人 リクルートワークス研究所の大久保と申します。

 本日は、このような機会をいただきまして、ありがとうございます。

 私は、雇用の問題と、それから企業の人事の問題を主に研究しておりますので、本日は、雇用情勢がこの後どうなりそうなのかという見通しと、もう一つは、それに伴って行われる雇用対策について、私なりの考え方を申し上げたいというふうに思っております。

 まず、雇用情勢についてなんですが、昨年、二〇〇八年は、本当に雇用情勢が一変した年でありました。その前数年間、ずっと雇用の枠といいますか求人数はふえ続けておりまして、ずっと求人難、求人難と言われ続けていたわけであります。それが、昨年の春ぐらいから急に模様が変わりまして、前年比でマイナスに転じ、その後はほぼ一直線に求人は減り続けております。昨年十二月の単月でいいますと、前年比で二八パーダウンという数字が我々の方の業界ではございますけれども、大変大きな落ち幅になっているわけであります。

 ちなみに、昨年末に、二〇〇九年度の採用、これは新卒採用ではなく、まず中途採用のお話をいたしますが、中途採用の方についてはどのような計画を企業は持っているんだろうかということを調査いたしましたところ、前年比で一七・八パーダウンという採用計画であることが我々の調査で明らかになりました。

 一七・八パーダウンというのは、求人の単年の落ち幅としては極めて大きな数字であります。この落ち幅はバブル崩壊直後の落ち幅を上回っておりまして、さかのぼってみますと、第一次オイルショック直後に一八パーぐらいダウンをしているわけでありますが、ほぼそれと並ぶ、恐らく戦後の落ち幅で最も大きなダウン幅ということになりそうであります。そのような採用抑制が行われようとしている、こういうことになります。

 雇用調整全般について、さらに追加的な企業調査を現在行っているところでありますが、その集計状況から見ますと、既に四割ぐらいの企業では残業時間の規制をやっておるようであります。そして、製造業だけで見ますと、二割ぐらいの企業では、既に一時帰休などを含む稼働日数の調整とか雇用調整を行っているということがわかっております。

 そして、既に大分社会問題になっております派遣切りの問題でございますが、これも、見通しによりますと、三社に一社ぐらいの割合で、今後派遣労働者の契約更改はしないという方針を持っているようであります。相当厳しい状況がこれからやってくるのだろうというふうに思います。

 特に、製造業の派遣の問題が報道をされているわけでありますが、製造業派遣、これは、法律の規制緩和の流れもございまして、その後拡大をいたしまして、恐らく昨年の初めぐらいに非常に、一番大きな人数の派遣労働者が製造業にいたのではないかというふうに思います。多分五十万人弱ぐらいの人が派遣労働者、製造業にいただろうというふうに思いますが、その一年の間にこの数は急速に減りまして、ピーク時の三分の二ぐらいにまで今減ってきております。業界関係者の見方によりますと、恐らく三分の一ぐらいまでそのパイは縮小していくんだろう、こういう見方が支配的であります。

 雇用調整というのは、一番最初に派遣とか請負の労働者が契約をストップされて、更新をされないという状態になりますが、その後に、アルバイト、パートなどの臨時の非正規、あるいは日雇いの非正規の人たちが首を切られるわけであります。このような臨時で働いている非正規の人たちというのが全体で六百万人ぐらいいると思いますので、その人たちが現在失職の危機に直面をしているというふうに考えなければなりません。

 その次の雇用調整の段階まで入ってくるとすると、今度は、繰り返し契約を更新されている常用雇用型の非正規、つまり、比較的長年働いているパートタイマーであるとか契約社員であるとか、こういう人たちが次の調整の対象になるわけでありますが、既に五%程度の企業はこういった人たちの雇いどめを実行しつつあります。また、さらにプラス一〇%程度の企業が今後雇いどめを行っていくという方針を持っているようでありますので、このような常用雇用型の非正規の方々、この人たちは、恐らく一千万人ぐらい人口規模でいうといるんですけれども、その人たちに本格的な雇いどめが行われるようであれば、雇用問題はさらに大きな問題になってまいります。

 そして、その後、正社員のところまで行ってしまうのかどうか。これについては、まだごく少数の企業が早期退職優遇制度などを活用した人員削減を行っている段階でございますけれども、この後の情勢によっては、正社員段階まで行く可能性があるということを申し上げておかなければならないだろうというふうに思います。

 一方、このような厳しい雇用情勢の中で、前回のバブルのときとはちょっと違った動きもございます。その代表的な動きが新卒採用でございます。新卒採用については、このような雇用調整の中にあって、比較的手がたい動きをしております。

 これは、昨年末調査したところによりますと、約半数の企業が、景気の明らかな後退期にあるけれども、新卒採用の数は変えないという回答をしております。これは、実際にかなり多くの会社に直接そのニュアンスについて質問をしてみましたけれども、各社、役員会で随分議論を続けておりまして、バブル崩壊直後にしばらく新卒採用の抑制を行っておりましたが、そのときに組織構造のゆがみがかなりでき上がってしまって、しかも下が入ってこないということで、その上の層の人材育成といいますか、成長に大きな禍根を残してきた。そのことに対する企業の中における反省がかなり行われておりまして、新卒採用については手をつけたくないという気持ちが現在のところ強く働いているようでございます。

 ただ、その後、年度末に向けて利益の下方修正などが行われておりまして、大分そのニュアンスは変わってきているのではないかというふうに感じておりますが、今月、再度改めて当初の予定に変更はないかというふうに聞いたところ、下方修正をするという企業は七%程度ございました。逆に言うと、七%程度ですので、来年春に卒業する新卒の採用については、マスコミで巷間言われているような就職氷河期の再来というほどの落ち込みにはならないだろう、こういう見方を私は持っております。

 ですから、やはり派遣を含む臨時、日雇いの非正規労働者、これは極めて深刻な問題である。そして、場合によっては、常用雇用型のパートタイマーにも手がつくかもしれない。正規の社員については、今のところ、まだ予定をしている企業は極めて少数である。新卒については比較的手がたい。こういったような全体の情勢になっているのではないかというふうに考えております。

 さて、そのような情勢に基づき、雇用対策についての私見を述べさせていただきたいというふうに思います。

 雇用対策の根幹となるものは、三つあると思います。一つは、失業給付。これは、失業期間の長期化などに対応して給付期間を延長するといったような対応を一般的にとるわけであります。そして二つ目は、相対的に求人意欲がある分野への労働移動を円滑にするための職業訓練であります、これを整備していく。そして三本目の柱は、雇用維持を促すような雇用調整助成金を、対象業界、領域を広げていって弾力的に運用していく。

 この三つの雇用対策については、過去何度も不況期に繰り返し行われ、修正を加えられ、そしてその有効性を検証し続けてきたわけでありまして、まず第一段階としては、この三つを本当に十分に機能するようにルールを運用していくということが肝要だろうというふうに思っております。

 ただし、実はこのような雇用対策の枠組みというのは、第一次オイルショック直後、先ほど最も求人の落ち込みが激しかったというふうに申し上げましたけれども、そのころに主に形づくられて現在に至っている雇用対策の枠組みなわけであります。

 そのころと今と本質的に違うのは、非正規の比率が圧倒的に高くなったことであります。つまり、正社員及び常用雇用の人は、この三つの雇用対策をしっかりとることによってある程度カバーすることができるんだけれども、それ以外の非正規、臨時の人たちであるとか派遣の人たちに対しては、そのような枠組みだけでは全体的にセーフティーネットを張ることができない。この人向けにどういう形でセーフティーネットをつくっていくのかというのが一つの課題になるところだろうというふうに思います。

 もちろん、制度をつくるのには時間がかかりますので、当面は、今現在行われているような、例えば、雇用保険の恩恵を受けられない、その加入者でない人たちに対しての融資であるとか、あるいは住宅の補助であるとか、そういったものが必要なんだろうというふうに思いますが、長期的には、これをより制度化していくことが必要になってくるだろうというふうに思います。

 この非正規の問題も含めて、当面の対応の中で私が一番可能性を感じておりますのは、職業訓練のあり方に関する問題であります。

 今回の不況の中でとりわけ落ち込みが激しいのは、御承知のとおり製造業と金融業であります。この二つについては極めて落ち込みが大きい。例えば製造業の生産ラインというのは、今現在、ここで失職をすると、製造業はどこでも今厳しい環境の中で求人がございませんので、同じような職業を求めようとしても職につくことができない状態であります。そうすると、ほかの領域、例えばサービス業の領域などに転職をするという、その領域に専門性をかえるということをやらない限り雇用は確保されない、こういうことになります。

 製造業の就業者がサービス業に動いていくということは、過去の景気の後退期に繰り返し行われ続けてきたことでございまして、その結果、現在のような圧倒的にサービス業に従事している人の比率が高くなってきているわけであります。今回の景気後退の中でも、恐らくそのような労働移動が行われるでありましょうし、そのように行われなければ、これは失業者がさらに大きく出てしまうということになると思います。

 このときに問題になりますのは、今、公的につくっております職業訓練でありますが、これは主に物づくり分野のところに、つまり施設内訓練といいますが、その分野にかなりの部分、手厚くノウハウが集積をされているわけであります。サービス業で新しく就業するための職業訓練というものは、実はそれほど行われておりません。一部委託訓練でもちろん行われてはいるんですけれども、そこが強く整備されているかというと、そうではありません。私は、このような製造業からサービス業への労働移動に伴う職業訓練を公的に整備するということが、非正規労働者も含めた上での雇用対策として非常に重要になるのではないかというふうに考えております。

 ちなみに、製造業の生産ラインで働いていた労働者が、転職してどういう領域に実際就業しているのかというのを過去五年間分全部集計をしてみたんですが、そうしたところ、主な雇用の吸収先は、接客の仕事、販売員、ドライバー、営業、クリーニングの仕事、調理補助、社会福祉職などに多くの人たちが転職をし、職を得ているようであります。

 全く経験のない職業に転職をするということは極めて不安でもありましょうし、恐らく働く場所の地域移動なども伴う可能性が大きいと思いますから、かなり抵抗のあることではないかというふうに感じます。そこで、サービス業のさまざまな領域について職業訓練の場をつくることによって、そこが受け皿となって、求職者にサービス業の新たなスキルを身につけさせ、また新しい領域に進む勇気を持たせるというんでしょうか、そういう対策が有効であろうというふうに思うわけであります。

 このような職業訓練というのは、サービス業というのが非常に細分化された領域でございますので、なるべくそこを多彩に、さまざまな領域についてのコースを設定する。これは期間は短くても構わないと思いますので、そのような施策をとっていってはどうかというふうに思っております。

 また、雇用保険に加入していない非正規雇用者の場合、ハローワークの給付を受けながら相談をするということもなかなか行動の中に入ってきませんので、一つの方法として、現在、新たにつくっておりますジョブカードがございます。

 ジョブカードについては、職業訓練と一体化されたものを今中心に運営しておりますけれども、単独でやる部分もありまして、できれば、非正規で職を失った方々についてまずジョブカードというのをつくっていただいて、その上で具体的にどんな職業に移転できる可能性があるのか、そして職業訓練にどのような受け皿があるのか、そういうところをキャリアコンサルタントがアドバイスをしながら、その後の就業の計画を立てていくということがさらに拡大されるべきではないかというふうに考えております。

 これは、いわば失業者を孤立させないための方法、実際いろいろなことがあるんですが、それはどんなサービスが整備されているのかということを一般の失業者が全部理解するということは極めて難しいので、そこをつなぐ機能というものをしっかりつくることが、予算を有効に生かしていくための重要な方策ではないかというふうに私は考えております。

衛藤委員長 大久保君、時間が参りましたので、まとめてください。

大久保公述人 はい、ありがとうございます。

 改めて、以上で私のお話は終わりにさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)

衛藤委員長 ありがとうございました。

 次に、神岡篤司公述人にお願いいたします。神岡篤司君。(発言する者あり)いやいや、違うんです、五十五分でもう……(発言する者あり)間違いありません。委員長の時間どおりですから、正確にやっていますから。(発言する者あり)いやいや、もう二十分ちゃんと時間過ぎていますから。(発言する者あり)大丈夫です。(発言する者あり)

 ちょっと失礼しました。もうちょっとありますので、精査いたしますので。(発言する者あり)

 失礼をいたしました。お許しください。住江憲勇君。

大久保公述人 では、最後にもう一つだけ申し上げさせていただきたいと思います。

衛藤委員長 失礼いたしました。大久保幸夫君。

大久保公述人 はい。今現在行われている雇用創出の策についてですが、私は、予算配分の中で純粋直接的な雇用創出の方にウエートをかけるのは余りいい方法ではないという意見を持っております。

 これは毎回感じていることなのでありますが、例えば新分野、環境でも医療でもあるいは農業でもバイオでもそうなんですが、そういう分野で新しく雇用創出をしようとしても、第一段階は、まず優秀な人たちがその領域に動いて、そこでイノベーションを起こし産業をつくる、その後にすそ野としての雇用が発生するわけでありまして、産業政策としては極めて有効なんですが、直接的には失業者を吸収することはできません。

 また、そうでない場合は、だれにでも比較的なじみやすい仕事を無理につくり出してそこに雇用するという方法もあるんですが、これは実際にやってみると、本当に必要な仕事でない、成果を期待されていない仕事を担当していることになりますので、どうしてもモラルハザードが発生しますし、労働意欲を大きく落とすことになります。これは、戦後、失業対策事業でやったことの繰り返しになってしまう大変危険なことだというふうに思っています。

 また、今ある雇用創出の多くはアルバイト的なものなんですが、これは実は生活を支えるに至らないということと、市場にもバイトはたくさんありますので、そういう意味で今の三つのパターンにはまってしまうケースが大変多く、直接的な雇用創出策に主な活路を求めるのではなく、先ほど申し上げたような、どちらかといえば職業訓練を中心とした施策と雇用保険を中心とした施策に雇用対策の中心を持っていくべきではないかというふうに私は感じておるところでございます。

 あと、製造業の派遣の禁止問題についてですが、私は製造業の派遣については随分制度的な欠陥があると思いますが、ポイントは、派遣業に参入する派遣事業者について、コンプライアンスが守れない人たちを絶対に入れない、そういう入り口段階における規制は強化するべきだと私は思っておりまして、そのことを派遣法改正で行う。

 もう一つは、派遣先の指針というものが、これは強制力がなくてなかなかうまく機能していないわけでありまして、急に派遣契約を途中解雇するということが行われております。それを回避するための改正ということが中心に行われるべきだというふうに考えております。

 ありがとうございました。(拍手)

衛藤委員長 次に、神岡篤司公述人にお願いいたします。

神岡公述人 ただいま御紹介をいただきました神岡でございます。このような貴重な機会をちょうだいいたしましてお話しできますことを、大変ありがたく存じております。

 私からは、郵政民営化に関することについて申し上げたいというふうに思います。

 御存じのように、郵政民営化法におきましては、第十九条に定めてございますが、三年に一度、本年三月に第一回の見直しが予定されておりますが、郵政民営化委員会の御審議に先立って、目下、自民党の政務調査会のプロジェクトチーム及び民主党及び国民新党の両党で構成をされております郵政事業見直し検証委員会が精力的に御審議くださっておりまして、この際、厚く御礼申し上げますとともに、ぜひいい御結論を導いていただきますよう、心からお願い申し上げる次第でございます。

 平成十九年の十月から民営化をしたわけでございますが、郵政公社も随分力を入れて準備に取り組んでいたようでございますけれども、実際スタートをいたしますと、かなり混乱あるいは戸惑いというふうなものが生じたように私どもも存じておりまして、また、利用者の皆様方にも御不便をおかけしたということをこの機会におわび申し上げておきたいと存じます。

 その後、一年半近くたったわけでございますが、まだまだ完全ではないというふうに存じておりまして、これからも先生方の御指導をよろしく賜りたいと思うわけでございます。

 お客様に対しましては、待ち時間が長くなった、サービスが悪くなった、あるいは求められる証明とか書類が大変多く、厳しくなった、お客様が減ったというふうなことがお客様に対応する問題としては出てございます。

 また、郵便局の運営につきましても、モチベーションがどうも低下をいたしまして、グループの他社との連携がうまくいかないで、中には、御承知のようなふるさと小包について、連携がうまくいかないためにお客様を失ってしまったというふうなことがございまして、これは全郵便局長二万人からアンケートをとりまして、その結果が以上のようなことでございますけれども、郵便局長会から先生方もいろいろとこのような状況についてお聞きになっていることがあろうかと思いますので、これにつきましては詳細は省略をさせていただきたいと思います。

 このような経験からいたしまして、私ども、郵政民営化につきましては大きく分けて二つの要素があるのではないかというふうに存じております。

 最近、麻生総理のお話がテレビに出ていたりしているわけでございますけれども、麻生総理は、私は郵政事業の四分社化に反対したことはあるが、郵政民営化そのものに反対したことはないんだということをおっしゃっておられます。個人的な意見でございますけれども、私も麻生総理と同じく、郵政民営化と郵政事業の四分社化とは分けて考えていただくのがよろしいのではないかと考えております。そして、これも麻生総理と同様なんでございますけれども、民営化はわかるんだが、分社化についてはぜひ見直していただきたいというのがお願いでございます。

 なぜかと申し上げますと、民営化は同じ分野の事業者、民間の事業者と一生懸命サービスを競い合いまして、お客様サービスが向上するという非常にすばらしい動機がそこにございます。しかし、一方、郵便局の四分社化という問題につきましては、事業を四つに分断いたしまして、お客様サービスを低下させ、我々の経営についてもマイナスを招来いたします。このことは、一昨年十月以来、郵便局におきまして数々の御不便あるいはそういう不効率というふうなものが生じましたことにつきまして、如実に体験したことでございます。

 また、平成十三年以来、郵政民営化の問題は国会でも本当に真剣に御議論をちょうだいいたしましてありがとうございましたが、郵政民営化の議論の中では、やはり民営化と分社化の問題は違う発生といいますか、そういう状況になってございます。

 つまり、民営化最初の節目でございますが、このときは世に言ういわゆる竹中五原則という民営化の五原則が発表になりまして、そのときは国民に対する利便性とか活性化の原則とか、あるいはネットワークの活用原則とか、そういうふうなことが五項目ございまして、その五原則のときには郵政事業の四分社化については全く触れてございません。

 ただ、その一年後になりますと、これはかなり御議論もちょうだいしたところでございますけれども、郵政民営化の基本原則というものが出まして、ここで初めて四分社化の問題、もうそのときは既に具体的に五つの会社のつくり方ということまで書いておりまして、ここで初めて四分社化という問題が出てきたわけでございます。

 つまり、この段階では四分社化をしないでほしいということを申し上げたのは、当時の郵政公社の生田総裁と麻生総務大臣、当時郵政担当でございましたけれども、そのお二人が強力に反対をしていただきました。このことは、竹中大臣の回顧録というのがございますが、竹中大臣の回顧録にもかなりのページ数にわたって、いかにこのお二人の考え方を説得していくかというふうなことについて書いてございますが、結局、竹中大臣はこの麻生、生田のお二人を説得するには至りませんで、最後には小泉総理が、竹中大臣の回顧録に出ておりますが、人事権を駆使してでも合意を取りつける決意をして、このお二人に承知させたというふうなことが書いてございます。(発言する者あり)これは竹中先生御自身のお書きになられたものであります。

 私ども、そういう点では、そういうことがあって、しかもそのときには、国会の先生、特に自由民主党の先生方については、民営化はともかくとして、この四分社化につきまして、総務会初め党の機関では大変な議論をちょうだいしていただきまして、つまり、郵政民営化の基本原則につきましては党の総務会その他の機関の了承を得ることなく閣議決定がやられたということも、この回顧録に書いてございます。

 そんなことでございまして……(発言する者あり)大変どうも、あれでございますが、四分社化による問題点というのを次に申し上げますと、四分社化による最大の問題点は、国民の利便性を最大限に向上させるという郵政民営化の基本原則に反しまして、まさに反対の方向に導いているんではないかという点でございます。

 また、事業経営面での非効率もゆるがせにできないところでございます。

 現在生じている現象としては、簡易郵便局が約四百局閉鎖になっている、それで地域社会にも悪影響が生じている。あるいは四事業社の分割ロス、電算システムの分割経費、それから郵便局内を会社別に間仕切りいたしまして、郵便局の同じ屋根の下でございますけれども、カードなどがないと他の課に入れないということですから。事業の繁閑というのは大変、特に年末なんかの場合には違いがございますけれども、そういったところの応援もできないというふうなことがあるかと思われます。またもう一つは、そういう事業がばらばらになったために、郵便局におけるワンストップサービスといいますか、そういったことができなくなって、サービス低下になっている。

 それから、さらに申し上げさせていただいて恐縮でございますが、四つの事業に事業を分割いたしますと、郵便、貯金、保険の事業が郵便局会社に業務の委託をいたしました場合に約五百億円の消費税がかかってまいります。これは郵便事業のわずかな黒字などは完全に飛んでしまうようなものでございますし、さらに申し上げれば、消費税が仮に上がったとしますと、この同じ郵政部内の中で消費税を払う金が、五百億が一千億になり、あるいはそれ以上にもなっていくというふうなことがございまして、私どもは大変懸念をしているところでございます。

 それから、先生方は海外の事例を既にお聞きで、御存じと思いますが、郵政民営化に際しては、事業を分割した国は幾つかございます。幾つかございますが、その典型例としてはドイツとニュージーランドが挙げられるのではないかと思います。

 ドイツは、一九九〇年に郵便、貯金とテレコムの三つの事業に分割をいたしまして民営化を行いまして、その結果、郵便局が二万九千から一万四千局、半分以下に減ってしまったわけでございます。そこで、ドイツ・ポストは、一度分離をいたしました貯金業務、ポストバンクをもう一回買い戻して、郵便局の業務にしているということでございます。

 ニュージーランドも、同じ一九九〇年に郵便、貯金、テレコムの三分割をいたしまして、郵便貯金、ポストバンクについてはオーストラリア・ニュージーランド銀行に売却をしたところでございますが、千二百の郵便局が何と二百五十、八割も激減をいたしました。そのために大変国民の不満というものが高まりまして、その結果、二十一世紀の初めの年、二〇〇一年でございますが、政府は庶民銀行、キウイ銀行という名前にすぐその後に変わりましたが、キウイ銀行を設立せざるを得なくなった、こういう経緯がございます。

 このように、諸外国の点も既に御承知の先生方にさらに申し上げるのは恐縮ではございますが、ぜひその四分社化の問題点を御理解賜りたいと思うわけでございます。

 さらに、我が国の場合には、もう一つ問題がありますのは、郵便局会社という、郵便、貯金、保険の仕事をしていない、自分では全く仕事を持たない会社が設立されているということでございまして、これは、郵便、貯金、保険の三事業から仕事を委託されまして、委託をもらわなければ経営は成り立たないという会社が設立されたことでございます。この郵便局会社につきましては、委託手数料は業務量比例でございますので、現在、郵便も貯金も保険も業務量が民営化前に比べて減りつつあるということでございますが、それで、手数料についても腐心をしているということでございます。

 もう一つ申し上げて恐縮でございますが、委託手数料のうちに占める貯金、保険の割合が我が国の場合には非常に高いわけでございます。既に出ております十九年度の民営会社の決算を見ますと、貯金、保険の両会社から得られている収入というのは八三・二%、つまり、八割を超えているものを郵便局会社は得ているわけでありまして、いかに貯金、保険の業務量が高いかということがおわかりいただけるのではないかと思います。

 この辺が、私どもは、明治以来、全国各地で堅実な生活態度を培ってまいりました日本のすぐれた伝統文化、これが郵便局の文化ではないかというふうに考えているわけでございます。

 ところが、御承知のように、郵政民営化法では、貯金、保険の株を民営化後十年以内に売却するということになっておりますが、郵政持ち株会社の方では、これをできれば短縮して、前倒しをして三年以内に売却をしようという話になっているということを発言しております。こういうふうなことになりますと、郵便局の状況はドイツやニュージーランド以上に破滅的な状況になるのではないかというふうに思っております。

 このような状況にございますので、私からお願い申し上げたいことは、郵政三事業は国民の権利を保障する上で必要で、かつ三事業一体で提供されることがぜひ必要なサービスでございます。また、郵便局のネットワークは国民の基本的な財産でございまして、これを活用して地域の皆さんの生活を支える不可欠な手段にしなければならないというふうに考えて私どもも努めてまいった次第でございます。

 年金を受け取り、貯金や送金をいたし、また、万一の場合、生活の保障という郵便局の簡便な貯蓄手段をあまねく公平に提供できますように、郵政民営化法の総合的な見直しをどうか実行していただきまして、ぜひ、貯金、保険の株式の売却を中止していただきまして、国民に安心と安全をもたらしていただきますよう心からお願い申し上げる次第でございます。

 以上でございます。(拍手)

衛藤委員長 どうもありがとうございました。

    ―――――――――――――

衛藤委員長 これより公述人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。富田茂之君。

富田委員 公明党の富田茂之でございます。

 四人の公述人の先生方には、貴重な御意見、本当にありがとうございました。何点か質問をさせていただきたいと思います。

 まず、大久保公述人にお尋ねをしたいと思います。

 先生の経歴を拝見しまして、私の大学の後輩だということがわかりました。大学の大先輩である尾身先生も後ろにいらっしゃいますが、こんな優秀な後輩が公述人として来ていただきまして、本当にありがとうございます。余り優秀でない先輩からの質問ですが、誠実にお答えいただければと思います。

 これからの雇用状況について、数字を挙げて大変厳しいという御指摘をいただきました。特に非正規の方とか派遣の方の方に厳しい状況が来るのではないか。そういうことに対して、これまで雇用対策として、失業給付、職業訓練、雇用調整助成金の三本柱でやってきたけれども、失業リスクが高い非正規の方や日雇いの方あるいは派遣労働者の方たちには別の形でのセーフティーネットが必要ではないかという御意見をいただきました。その御意見の中で、雇用保険の恩恵を受けない方たちに住宅確保や生活費の貸し付けがまず大事だというふうに言っていただきました。

 先生が日経新聞に投稿されました「経済教室」に書かれていた中にも、これまで政府の方で出された雇用対策について評価していただいた部分がありました。ちょっと取り上げさせていただきます。

 「非正規雇用を中心とした失業給付の対象拡大や延長、製造業や中小企業などの解雇を抑制する雇用調整助成金の拡大、非正規離職者向けの住宅の支援、中小企業の倒産による失業者増を懸念した融資政策などは、現実の課題を踏まえた適切なものだろう。」というふうに書いていただきました。

 実際に、二次補正予算の中に住宅支援とか生活支援を入れたんですが、これを十二月から前倒しして政府としては実施しております。

 厚生労働省の方に数字をいただきましたが、例えば雇用促進住宅、これは、一万三千戸のあきがあるから何とかここを使ったらどうだということを我が党も提言させていただきましたけれども、二月十二日までで三千八百八十一戸が貸し出されているそうであります。

 また、生活費がない、派遣切りに遭ってあすからの生活費がないんだという方たちに就職安定資金融資ということを前倒しで始めました。これも、一月二十八日までの統計しかありませんが、累計で千二百九件、六億七千二百九十二万円の貸し付けがされている。これは、これまでの雇用政策ではなかった緊急、具体的な政策だと思うんですね。

 私、昨年末に連合千葉の会長さんのところにごあいさつに行きましたら、何十年も労働運動をやってきたけれども、政府が考えた雇用政策で住宅と生活費を現実的に応援してくれた政策は初めてじゃないかというふうに評価をいただきました。

 そういった意味で、先生から御指摘いただきましたように、こういったことを今、政府・与党は一生懸命やっているんですが、そこに加えて職業訓練が大事だという御指摘を今いただきました。この先生の「経済教室」の論文でも、施設内訓練はこれまであるけれどもというふうに先ほど述べていただきましたが、施設内訓練の場合、一人当たり八十万の経費で六カ月の訓練を提供して八二%の確率で就職している、かなり高い成果を出している。そういった意味で、製造業からサービス業への労働移動を円滑にするための職業訓練の整備というふうに先ほど御指摘いただいたんですが、大変大事だと思うんですね。

 今回、派遣切り等があって、いろいろテレビ等に出てこられる、製造業に従事されていた派遣切りに遭った労働者の皆さんの意見を聞いていると、製造業の現場でやはりまだ働きたいというふうに言っていらっしゃる方が多かったと思うんですね。ほかの職種になかなか行く勇気がない。スキルもないし、自分の能力にも不安だということで。

 そういった意味で、先ほどの大久保先生の提言は非常に大事だなというふうに思います。多彩なコースを用意して、またジョブカードもうまく使ってということですけれども、これまで製造業の現場で物をつくっていた方が、幾ら職業訓練を受けたからといって、サービス業でお客様相手の仕事をするというのはなかなか難しいと思うんです。そういった方たちへの職業訓練のあり方というか、もう少し具体的にこんなことをしたらどうだというのがありましたら、ぜひ御指摘をいただきたいというふうに思います。

大久保公述人 ただいまの先生からの、サービス業にかわるといってもなかなか難しいのではないかという御質問がございましたけれども、まず私が思うには、サービス業って一体どんな仕事の質を求められているかということがまずわからない。

 多分、何かお客さんにおじぎをしているような仕事というイメージがかなり強くて、実際には、接客一つとっても、その方々がすごいたくさんノウハウを持っていて、例えばレストランの中の席を御案内するだけでも、どういう人をどこに案内すると客単価が上がったりとか、お客さんの満足度が高まるかとか、そういう一つ一つの積み重ねの中にサービス業というのはでき上がっております。

 私は、職業訓練を、製造業で展開しているように三カ月とか六カ月とか長いものではなくて、一週間から一カ月ぐらいの短いものにして、なるべく幾つかのサービス業の現場を実感できるような形で、仕事を実感できるということと入り口のスキルを覚えるということが両立したような職業訓練を整備すれば、かなりそういうものについて現実的な実感を持って、これだったらやってみようというふうに思う方がいるのではないかと考えておりますので、ちょっと製造業の職業訓練とは長さも種類も違ったものを用意するのがいいのではないかというふうに考えております。

富田委員 ありがとうございました。

 あと、大久保先生の方で、時間がなくて最後をちょっとはしょられたんじゃないかなと思うんですが、派遣業法の改正の問題で、派遣業者の方の入り口のところをきちんとした人たちにさせなきゃだめだという御趣旨の発言と、あと、派遣先の方が途中解約しないように、そういったことをきちんとやっていかなきゃいけないんだという二つの御指摘がありました。

 今、この法改正が問題になっておりますので、入り口の部分と派遣先でのあり方ということについて御提言がありましたら、もう少しお話をいただければと思います。

大久保公述人 派遣法の改正の問題でございますが、派遣法自体は、大変まだ未熟なといいますか、法律的な整備でいうと、まだ十分ではない部分がたくさんあると思います。

 その中の代表的な問題が私の申し上げた二つだというふうに思っておりまして、派遣業に参入するというのは比較的簡単なんですね。ですが、実際には人材ビジネスで、しかもたくさんの人を雇用するビジネスでありますから、本当にコンプライアンスが守れるかどうかということも大事ですし、派遣業というのは訓練する機能を持っていて初めて派遣業としてきちんとした仕事ができるわけでありますが、そういう機能をちゃんと持っているのかとか、あるいは、景気が後退したときにほかのところの産業にあっせんをするような、そういう基盤となるような資本力を持っているのかとか、幾つかの観点でしっかりとした審査をした上でないと派遣業をやるべきではないというふうに私は思っておりますので、これは業界の自主規制というよりは、法律の観点で免許制の見直しをするべきではないかというふうに考えているところでございます。

 それから、派遣先の責任というものは、私は派遣法の根幹議論だというふうに思っておりまして、派遣元である派遣会社が負う責任とは別に、派遣先の企業が負う責任は非常に大きくて、第二の雇用主として考えてこの問題については整備し、法律の本文で書くべき問題だろうというふうに思っております。

富田委員 ありがとうございました。

 今の大久保先生の御意見、そのとおりだと思うんですが、派遣元でちょっと私の方にお話をいただいた方がいらっしゃるんです。小さな派遣元で、主婦の方がパートで働きたいけれども自分では交渉できない、そういった方たちだけ預かっている会社ですという方から、余り厳しくされちゃうと自分たちはできませんと。その派遣元に対する需要もやはりあるわけですね。そういった意味で、いろいろな段階で考えながら、今の先生の御提言をしっかり受けとめて改正問題をとらえていくべきじゃないかなというふうに感じました。ありがとうございました。

 続きまして、中林公述人にお尋ねをしたいと思います。

 アメリカと日本は大分違うんだというお話がありました。十年間、上院の予算委員会におられたということで、さまざまなところで御提言されている文章も読ませていただきました。日本の国会の各委員会でも公述人として来られて、さまざまな御意見を述べられたのも全部読ませていただきましたが、やはりスピード感がないという御指摘を大分されていました。今回もそういう御指摘をいただいて、本当に大事だなというふうに思いました。

 もう一つは、アメリカで予算をつくる際には、長期のいろいろな指標をもとにして、五年とか十年先にはこういう方向になりますよ、それをきちんと国会の場で議論した上でことしの予算をつくっていく。仮に、その予想というのは当たらないこともあるけれども、毎年その次の五年を考えて決議をし直していくというような御指摘がありました。

 日本の国会では会計単年度主義がありますので、なかなかその年々の予算でしか議論ができないので、五年とか十年先に日本の国はこういう状況になるというのをきちんと議論のテーブルにのせた上で、与野党できちんと議論する必要があると思うんですが、アメリカではそのあたりはどんなふうにされていたのか、ちょっと教えていただければというふうに思います。

中林公述人 御質問大変ありがとうございます。

 本当に日本と根本的にシステムが違いますので、どこをどういうふうに取り入れたらいいのかというところは非常に難しいんですが、アメリカの場合は予算決議というものがありまして、これは、上院も下院も含めたすべての議員が参加して投票をして、議員の中の規約として決めるものです。これが五年先、十年先の大きなパッケージ、そして制度改革というものも含めた合意事項になります。ここで決議されると、当然ながら、議員たちは全員それに縛られるということになるわけです。ただし、法律ではないので大統領のサインは要らないというのが予算決議です。

 実は、オバマ大統領はことし就任されたばかりで、本来であれば二月の最初の月曜日に大統領の予算教書というものを出さなければなりません。ところが、歴代の大統領もそうでしたが、新しく就任したばかりのときは、まだまだ予算書をつくる時間がございませんので、少しおくれます。恐らくオバマ大統領も、今回の景気刺激策を優先させた結果、二月の下旬ぐらいにサマリーを出して、本当の大統領の予算教書は三月、四月ごろになるのではないかというふうに言われておりますが、この大統領の予算教書が出てきた段階が、先ほど申し上げました議会の予算決議が走り始める段階です。

 現在、日本では平成二十一年度の予算を審議することになっていますね。それを早く、三月いっぱいに通さなければ四月からお金が出ないということになると思いますが、アメリカでは、二月の第一月曜日に出る大統領の予算教書というのは二〇一〇年度の予算になります。ですから、かなり早い段階で議会にリクエストを出して、それを、一年とまでは言いませんが、一年近くかけて議会で審議して、形を変えて、制度改革をも含めた議論をするということなんです。

 そのためには、先ほど御指摘いただきましたように、長期的な見通しというものがどうしても欠かせません。したがって、ホワイトハウスにあるOMBという大統領の右腕になる予算局とは別に、議会がCBO、議会予算局というのを持って、この長期的な財政収支の問題などを取り上げて、メンバーの方々がきちっと議論できるようにしているというのが予算決議です。

 ありがとうございました。

富田委員 中林先生、ありがとうございました。大変勉強になる御指摘で、そのまますぐこの予算委員会でとはなかなかできないと思うんですが、大変参考になる御意見でした。

 もう一つ、先生から、国、地方を合わせた債務残高のGDP比が二十一年度末で一五七%になるという御指摘をいただきました。先生は財政審のメンバーでもいらっしゃいますし、私が財務副大臣をやっていたときに先生からいろいろ御意見をいただいたのを覚えておりますが、学生さんが、こんな大変な状況というのを論文に書かれていたという御指摘をいただきました。国民の皆さんは、今、日本がGDP比、どれだけの債務残高があるのかというのは、数字を聞いてもなかなかぴんとこないと思うんですね。

 先ほど、国債費が大変だという御指摘もいただきましたけれども、ちょっと大まかな数字ですが、今、国債の利払いが例えば十兆円規模だとすると、十年後、二十兆を超えるというふうに、たしか私の記憶ではあるんですが、二十兆円の借金の利息を払う国というのは、なかなか、ちょっと想像ができない。でも、十年後には間違いなく、今のままいけば、そういう状況になりますね。

 そういったときに、国民の皆さんに今の状況をどういうふうに理解していただいて、国会の予算審議のあり方がどうあるべきだという、議員と国民の間にやはりまだ乖離があるんじゃないかなというふうに思います。そこを何かつないでいく手段とか、そういうことについて、先生の御意見があったらお聞かせ願いたいと思います。

中林公述人 学生のレポートを実は手に持ってきたんですけれども、スウェーデンなどの様子はすごくうらやましい、だけれども、自分たちにそれだけの負担になってしまっては困るというようなことも記述してありました。

 先生御指摘のとおり、やはり若い人たちは、そこはかとない不安は感じているようでございます。ただし、数字だけ見てもわからないというのはそのとおりで、これは、国民一人一人にしみ渡るような議論の場が国会であって、その国会の議論そのものが民主主義の教育効果として一人一人に伝播していくというのが非常に大事な問題であると思います。

 もちろん、教育現場におきましても、こういったことを若いうちに理解できるような素地をつくっておくという責任はあると思いますけれども、とにかく、世界の状況、経済の状況は目まぐるしく変わりますので、それをタイムリーに国会で議論していただくということが重要であって、それにはやはり、アメリカに倣うとすればですけれども、予算決議のように、五年先、十年先、または五十年先まで、実は予算決議の審議の中では議論しています。それをどうするのかというのを一人一人のメンバーの方々が審議していくチャンスがないこと自体が非常に不幸なことなのかもしれません。

 国民から選ばれた代表のメンバーの先生方が、これを苦しいながらも選択するというのを国民が見る機会がありませんので、それを見ない限り知らないと思いますし、学生も、私も知らなかったという声が非常に、財政のクラスをとるまで知らなかったということですので、一般国民にしてみれば、当然知らないという人が多いのではないかと思います。そこでこそ、やはり国会の審議といったものが有用になるのではないかというふうに感じております。

富田委員 済みません、あと一分しかありませんので、お二人の公述人に質問できないんですが、先ほど大久保先生の「経済教室」のお話をさせていただきましたが、その中に、雇用問題についても、企業の社会的責任という御指摘がありました。企業がどういったことを社会から期待されているかというのを考えて従業員計画を立てるべきだ、もう本当に御指摘のとおりだと思います。

 この委員会で、実は先週、青森と大分に地方公聴会で行きまして、大分班は委員長を団長にして大分キヤノンに行ってまいりました。大分キヤノンの専務さんでしたか、企業の責任を考えた場合に、社会の期待は雇用維持だということで、大分キヤノンはかなり批判を受けたけれども、きちんと雇用維持に向けて努力していますというような話がありました。

 大久保先生から御指摘いただいた、社会がどういうふうに雇用問題を考えているかというのをこの予算委員会でもしっかり議論させていただいて、先生方の御意見を予算に反映させていきたいと思いますので、本日は本当にありがとうございました。

 以上で終わります。

衛藤委員長 次に、逢坂誠二君。

逢坂委員 民主党の逢坂誠二でございます。

 四人の公述人の皆様、本当に御苦労さまでございます。貴重な御意見を聞かせていただきました。ありがたく思います。

 それでは、私から四人の先生、それぞれ順を追ってお伺いをさせていただきたいと思いますが、まず最初に中林先生の方にお伺いさせていただきます。

 私、長い間、自治体の現場で予算編成をやっておりました。二十年近く自治体の現場で予算編成をやった経験がございますけれども、その目線から見ると、国の予算編成というのは、私が思うところで三つ何か変なところがあるなというふうに思っているんですね。

 一つは、今の質疑の中にもございましたけれども、予算議論をする時間というのは極めて短い、限られているし、しかも予算の中身に本質的に入った議論をする場面が公式の場ではなかなかない。とにかく予算議論の時間が短過ぎる、これが一つ大きな問題だと私は思うんですね。

 それからもう一つが、マクロ的に見た場合に、これも先ほど御指摘が一部ございましたけれども、ことしの予算はどうあるべきかというような大きな方向づけの議論というのは余りないような気がするんです。各省積み上げの予算を持ってきて、しかも各省の縦割りの予算配分比は毎年度そんなに変わらない、いわゆる縦割り予算がんじがらめの中でやっていく、だから大きな政策的な方向感を打ち出すというようなことが予算の中でできないという、これも大きな問題だというふうに思うんですね。

 それから三つ目の問題点は、マクロ的に大きな方向感が出せないのであるならば、ミクロ的に、積み上げ予算の詳細が公開されているかといえば、これも公開されていないわけです。

 マクロの面から見てもミクロの面から見ても日本の予算審議は問題がある、しかも予算審議時間が短いというふうに私は考えているんですけれども、このあたりいかがでしょうか。

中林公述人 私も、日本の民主主義にとって、予算審議の時間が短いというのは非常に残念なことだというふうに常々感じております。

 また、地方と中央の問題ですけれども、地方政府がやはり現場でいろいろなことがわかるという部分は多いと思うんですね。ですから、アメリカほどまで連邦制にというふうになると余りにも極端な話になりますが、方向性としては、これからもっと地方の現場に、予算編成、身近な問題に関してはしていただくという方向性を持って考えていくべきであると思います。

 本当に細かいその日その日の仕事をこなしていくと、あっという間に一年が過ぎてしまいまして、次の年の予算をつくらなければということで時間が過ぎていくものなんですが、どこかで一歩立ちどまって、それこそ本当に大きな目で、国民のために資する予算をつくるのにはどういうふうな予算編成のプロセスをとるべきかということを、国民の代表の先生の皆さん方にぜひ、これは結構時間もかかりますし、制度的なものもありますので非常に難しいと思いますが、そういうところに食い込んでいただかないと、このような経済危機に直面したときに本当に使うべきお金がないという状況になってまいりますし、恐らく来年、再来年、先々になればなるほど、金庫をあけてみたらお金がなかったということになってしまうと思うんですね。そうしますと、本当に国民に必要な政策というものを打ち出すことができません。

 アメリカが大変だ、大変だという新聞記事などを読みますけれども、どう考えても、さすがにアメリカは九〇年代半ばに財政均衡を単年度ですけれども頑張ってやりました。ですから、累積赤字を見ますと、実はずっと日本よりましな状況なんですね。

 日本が世界に貢献するために、いろいろな財政出動をしましょう、国際機関に財政出動をしましょうという意見もありますが、本当に日本の金庫にそんなに、財政にお金があるんですかというふうになって足元を見ますと、実はアメリカよりはずっとないという状況なものですから、その辺はうっかりしてしまいがちなんですけれども、長期的な審議をするようになるときちっと見えるようになりますし、国民にも伝わるようになるのではないかと思います。

 ただ、アメリカのシステムは、予算決議だけではなくて、その後も十二の歳出法案などございますけれども、もし時間があればまた御説明させていただきたいと思います。

 ありがとうございました。

逢坂委員 貴重なお話をありがとうございます。

 そこで、ことしの予算を見たときに、その大きな方向感という観点でいいますと、中林先生も御用意いただきました「世界経済の見通し」という資料を見させていただきますと、例えば、IMFの二〇〇九年度のGDP実質成長率、これは三角の〇・二、細かく言うと多分〇・二六なんだと思いますけれども、IMFはそう言っているわけですね。ところが、日本の政府はこれは〇%だというふうに言っているわけで、この大きな方向感、経済のとらまえ方としても相当に問題があるのではないかというふうに感ずるわけですが、このあたり、いかがでしょうか。

中林公述人 経済成長の見通しというのは非常に難しくて、これは本当に、物事が終わってみないとどちらが正しかったということは言いづらいものがあるんです。

 アメリカにおりましたときに、アメリカではかなりいろいろな機関が経済予測を出します。まず、大統領の予算教書などをつくるOMBというところが出してきます。それから、議会のCBOが出します。そのほかにも、ブルーチップと言われるような民間の機関が出す数字もあります。

 では、どれが一番正しかったかというのを、財政均衡が争われた九〇年代半ばに相当論争したことがございました。その中で、CBOというのが中道派であって政党に偏りのない組織なので正しいのではないかという暗黙の予測があったんですが、実はその後、クリントン政権、思わぬITバブルなどいろいろございまして、結局、大統領府、つまり政党に偏った組織が出したものが正しかったということになってしまいました。

 ですから、必ずしも日本政府が出したものが間違っているというのは、後になってみないとちょっとこれはわからないと思いますが、ただ、やはり予算編成をする上で成長見通しというのは基盤になるものなんですね。ですから、これが狂ってしまいますと、どれくらいのお金を出すのか、将来的にどういう国の形を予想するのかというところにまで狂いが生じてきます。したがって、制度を決めていく上でも大事なことですので、できれば、本来であれば、一つだけではなくて、例えば幾つかの方向の違う経済指標などもいろいろ見る必要があるのではないかというふうに感じています。

逢坂委員 ありがとうございました。たくさん中林先生には聞きたいことがあるんですけれども、もし後でまた時間があればお伺いさせていただきます。

 次に、住江先生にお伺いしたいと思うんですが、住江先生にいただきましたペーパーの一番最初に「給付金のバラまきでなく、」ということが書いてあるわけです。直接この内容には関与しないわけですが、定額給付金についてお伺いしたいと思うんです。

 実は、御案内のとおり、定額給付金に先立って、平成十一年に地域振興券というものが配られたことがございました。あのとき、地域振興券の結果は、これは政府の調査でありますけれども、実際に新規の消費押し上げに使われた額は三二%だったという政府の調査結果が出ているわけですね。

 地域振興券は、地域を限定して、しかも期間も限定したいわゆる商品券的なものですから、まさにそこで使わなければ、期間が過ぎればただの紙くずになってしまうわけですね。そういう意味では、そこで使うんだという誘引効果というのは随分あったものだというふうに思うわけです。

 一方で、今回の定額給付金は一万二千円、まさに現金を口座に振り込むということなわけでありますけれども、果たして地域振興券に比べてどれほどの新規の消費の押し上げ効果があるのかというようなところは、私は地域振興券よりも少ないんじゃないかなという気がするわけでありますけれども、その点いかがかということと、もしこの二兆円というお金があるのであれば、まさにほかの分野にという御指摘を多分お持ちなんだと思うんですが、現状の中ではどういう分野に優先的にお使いになるべきだとお考えでしょうか。

住江公述人 まず、定額給付金二兆円、これはたしか私の記憶では、政府発表でもGDPを引き上げるのは〇・二%の引き上げ。ということは、GDP五百兆円とすると一兆円ですね。二兆円ばらまいて一兆円しかGDPを上げない、そういう経済効果と言わざるを得ないですし、まず、それ以前にも、やはり今こそ、国民の生活困難、とりわけ医療、社会保障分野での困難さのところに手当てしていただくことこそが喫緊の課題だと私は思っております。

 私、きょう説明させていただきましたように、この資料でいいますと最後から三ページ目からですね、国庫負担を国保医療費の四五%に戻すのに必要な財源が八千四百億、これ自体ちょっと雑駁な計算ですけれども。医療保険の窓口負担を三割を二割にする、一割減らすということで一兆円。そして、未就学児までの医療費無料化に必要な財源、これが一千五百億。そして、五歳から十四歳の歯科における患者負担の無料化によって四百五十億。これを足しますと二兆円ちょっとです。

 ですから、私ども医療関係者としてはこういう提案をさせていただく、またいろいろな分野での提案もあろうかと思いますけれども。そういうところにこそ使って、本当に国民生活の根源である命、健康、そしてひいては暮らしを守るという立場で、より有効的な、実効性のある使い方を御検討いただきたいと思っております。

逢坂委員 定額給付金の経済押し上げ効果については、政府が〇・二だと言っている。二兆円のうち一兆がそっちへ回るんだろうという政府の見通しですが、二兆のうち一兆ということは、五〇%がそちらへ回るということですから、地域振興券のときよりも多い見積もりをしているわけですね。

 現金が口座に振り込まれるということになれば、私はやはり、直接新規の消費に振り向ける方は地域振興券より少ないんじゃないかなというふうに感ずるものですから、多分私の予想では〇・二よりもさらに低いだろうというふうに言わざるを得ない。それよりも、ほかのものに予算として、お金の塊として使うのがやはり筋かなというふうに思っております。

 さてそこで、住江先生にもう一つお伺いしたいんですが、実は私、毎週日曜日の夜に月曜の予算委員会に備えて帰ってくるわけですね、東京へ戻ってくるわけです。その飛行機で、函館からの最終便にいつも一緒に乗り合わせる方がいるんです。それは、首都圏の産婦人科の病院に勤務されているお医者さんが、ウイークデーは東京で働いて、週末になると函館の総合病院のお産のお手伝い、ヘルプに行くわけですね。函館圏というのは人口が三十五万ほどおる、まあまあの人口集中エリアでございますけれども、そこの地域においてもそれぐらいのことをしなければ実は今お産の対応ができないという現実になっているわけです。その先生は、だから、ウイークデーからウイークエンドから、ずっと働きずくめなんですね。

 それから、私の高校のときの同級生で、ある大学病院に勤務している医師がいるんですが、彼が言うには、先般メールが来たら、三十六時間働きずくめで、しかも、それで家へ帰れるかと思ったらまた急患が来て家へ帰れない、こういう状況があるわけです。

 この医療崩壊を招いた原因というか、これはもちろん確かに、社会保障費を五年で一兆一千億抑制するとか、昨今そういうことはありますけれども、それももちろん一つだと思いますが、もっと大きな根源的な原因というのは、先生、どこにあるとお考えでしょうか。

住江公述人 先ほど陳述でも述べさせていただきましたように、まず第一に、低医療費政策、低診療報酬政策、そこに尽きると思います。そしてもう一つは、一九八四年でしたか、そしてまたさらに一九九七年ですか、医師養成を抑制する閣議決定、それによって今日の医師不足を招いている。

 第一の低診療報酬政策、低医療費政策ということについては、それによって必要な人的配置も保障し得ない今の医療経営の困難を来している、そういうところからくる医師不足、そして、絶対的に医師の総数をふやさなかった医師養成抑制策、その二点に尽きると思います。

逢坂委員 どうもありがとうございました。

 そういう観点からしてみますと、やはり、これまでの予算配分のあり方というのは、先ほどの中林先生の質問にもかかわるわけですが、大胆な予算配分の転換というのができない日本の予算議論にいろいろ問題があるのだなという気がせざるを得ないわけでありますけれども、時間があればまた後でお伺いさせていただきます。

 次に、大久保公述人にお伺いをしますが、少し観点が変わるんですけれども、今、雇用の状況については非常に厳しいというお話がされている。これはもう巷間、いろいろな方がそうだろうなというふうに思っているわけですね。

 ところが、その一方で、国民から今随分批判を受けている雇用の分野、雇用とは言わないんですけれども、仕事のつき方をしている人がいる。それはいわゆる天下りでありますとかわたりと言われるもので、いわゆる霞が関の上級の公務員の人が省庁のあっせんやあっせん外によって、早目に退職をして次のポストへ行く、そして、それを次々渡り歩いて退職金やらたくさんの報酬をもらうというようなこと。しかも、それが定常化、ルート化しているというようなことでマスコミや国民の皆様から随分御批判をいただくわけです。

 この天下りやわたりについて、ちょっと分野は違うかもしれないんですけれども、雇用に苦しんでいる人がいる、職がなくて苦しんでいる人がいる一方でそういうことが行われているということに対して、どのような御認識をお持ちでしょうか。

大久保公述人 公務員の人事制度というのは大変古い人事制度でございまして、もともと民間企業が公務員の人事制度をまねて、もともとの財閥企業というのは人事制度をつくってきたわけであります。ですから、同期が上に上がるとみんな出ていくとか、あるいは定年退職後に幾つかの、例えば民間であればグループ会社の役員を順次経験していくというのは、民間企業においても過去については一時期あったわけであります。それが合理的な方法でないということで民間の場合はどんどん人事制度が変わっていき、役員のあり方も変わっていき現在に至っているという中で、なぜ公務員制度だけがずっとここまで残ってきたのかというのが、まず一つ、私は非常に大きな不思議に思っていることなんです。

 ただ、私は、天下りの問題というのは、一番最後の出口の問題のところだけを議論するというのは余りいい方法ではないと思っていまして、一番最初に採用されてから途中の処遇の段階、昇進の段階、そして最後出るところの段階まで、全体の公務員人事システムというものを見直す必要があるんだろうと。

 つまり、一定の年数、定年退職の年齢まででしっかりと仕事も完了するし、またその中できっちりとした報酬も受けるんだというものが前提になっていないために、サブシステムとしてのそういうものができ上がったんだというふうに思っておりまして、私は、今の公務員の人事制度については、かなり抜本的なところから全体を議論する必要があるんだろうというふうに感じております。

逢坂委員 今度はまた別の観点から大久保公述人にお伺いしますが、今、全国的に仕事がない、あるいは首切りが多いと言われている中で、一方でこんな現象もあるのは御存じかと思います。

 それは、水産加工場とかあるいは縫製の世界だとか、そういうところでは、実は必ずしも日本の労働者の方が集まらない。それで、これは本当によいかどうか、いろいろ課題は多いんですが、外国人の研修生の制度というのがございまして、それを利用して外国から来た方がその仕事を一部担っていく。そして、あれは最大で三年程度までしか延長できないわけでありますけれども、その人たちの労働力に頼らなければその業界が維持できないというような分野もあるわけですね。一方で、でも、日本人の皆さんが職がないというふうに言っている。

 こういうアンバランスといいましょうか、ミスマッチといいましょうか、少し変な現象だなというふうに思うところがあるわけですが、このあたりについて、今後どういう方向へ改善をしていくべきか、もし何か御見識があればお伺いしたいと思います。

大久保公述人 先生御指摘のような、日本人が就労したがらない領域の職業というのは随分たくさんありまして、実際には、物づくりの領域でも結構な領域が外国人に頼らないと、日本人はやりたくないと。よく昔から三K業種というふうな言われ方をしますけれども、いわばこれは全体の就業構造の中にかなりミスマッチが生じてきている。

 つまり、それは、大学の進学率がこれほど高くなってきているわけでありますが、大学で卒業生に暗黙に期待されていることというのは、広い意味でのホワイトカラーの就業というものが期待されて、その予備軍が教育の中で養成されているという状況であります。本来であれば、実際には高校の中でも工業高校であるとか高専であるとか、そういうところを通じて日本の中の重要な役割を担っていくというルートがあっていいんですが、私は、ある種、安易に大学進学をすることだけが一つの道筋としてつくられてきた、その結果として、教育の中で培われてきた志向と現実の仕事との間に大きなミスマッチが生じてきているという問題があって、こういうことになってきているのではないかというふうに感じております。

逢坂委員 その意味において、大久保公述人、私は、要するに、三月で学校を卒業して四月に新規就職、一括採用という、この日本ならではの慣行といいましょうか、これにそろそろ限界が来ているのではないかなと。

 学校を卒業して即みんながそろって就職というようなことではなくて、そこの、学校を卒業してから就職までの間にまた何かのステップなり、いや、それは個人によっていろいろ違うと思うんですが、すぐ就職する方もいれば、そうでない方もいるというような、そういう時代に入ってきているのではないかなというふうに思うわけですが、この点はいかがでしょうか。

大久保公述人 私は、今の先生の御指摘の段階でいきますと、大学に入る前に、例えば、ある就業経験を積んで、その上で自分の行きたい大学に行くか、もうちょっと仕事をし続けるかを決める、そういうようなことが整備されて、全員が高校を卒業したらすぐに大学に進学をしなくてもいいのではないかと。むしろ、大学に行く目的をもっとはっきりさせてから大学に進学した方がいいのではないかというふうに思っておりまして、そちらの整備は重要だと思いますが、新卒一括採用は若年の失業率を低下させるすぐれた方法だと私は思っていまして、これを否定するのは、雇用的にいうと、余りいいことではないかなというふうに感じております。

逢坂委員 それでは、次に神岡公述人にお伺いします。

 実は、私は田舎生まれ田舎育ちで、自分の実家が小さな酒やたばこを売る商売をやっていまして、その傍ら、郵便切手の売りさばきもやっておりました。だから、郵便局とは子供のころから非常に近い関係にいたわけでありまして、地域の郵便局というのはどんな役割を果たしてきたかというのは、私なりに理解をしているつもりであります。

 今回、郵政の分割・民営化によって四分社化されて民営化されたわけでございますけれども、私は、国民の皆さんが郵便局に求めている役割というのは、いわゆる一般の生命保険会社の役割だとか、あるいは、いわゆる銀行法の適用になる一般の、普通の銀行の役割を求めているのではないというふうに思うんですね。もっと簡便な、やあやあ、おじさんどうも的な、そういう、ある種簡単な保険であり、簡単な貯金でありということを求めているんじゃないかなというふうに思うんですが、長い郵便のお仕事の中で、このあたり、どうお考えになりますでしょうか。

神岡公述人 先生の大変御理解ある御発言を伺いまして、私も本当に似たような感じをいたします。

 私も群馬県の片田舎で育ちまして、育ちましたときには、郵便局のお姉さんやらお兄さんに紙や鉛筆をもらって、郵便局で大変かわいがっていただいたというふうなことがございまして、そういった意味では、やはり一般の銀行、一般の運送会社、あるいは一般の保険の会社とは郵便局の場合は若干違うのではないかというふうに、先生と同じように感じているわけでございます。

 実態を申し上げますと、郵便局の、今の郵便局株式会社でございますか、これは人数が非常に少ないわけでございます。どんなふうなことかといいますと、五人以下の局が全体の八割になっております。四人の局で七割になってございます。つまり、本当にそこら辺の小売業と同じぐらいの規模でございまして、私は、他の機関に御説明をいたしますときは、巨大なる中小企業、こういうふうなことを申し上げますと割合よくわかっていただけたんじゃないかと思います。

 そういった意味で、大きな機関であります銀行、あるいは大きな資本を持っております保険会社というものと全く同じ検査基準によりまして郵便局を検査していただく、そういった点につきましては、本当に、金庫をあけるにも必ず二人立ち会わないと金庫があけられない、こういう状況でございますので、何かそういう検査基準あるいは業務運行の基準というものも、これはコンプライアンスということも大事でございますけれども、やはりそういったことを、一味違った検査というふうなものをしていただけたらありがたいな、こういうふうに思っているわけでございます。

逢坂委員 そこで、ちょっと原理原則というか原点の話をさせていただきたいと思うんです。

 今回の郵政の分割・民営化に当たって、平成十六年から十七年の秋にかけまして、郵政民営化準備室という政府の担当部署がアメリカと十八回にわたって交渉をしているという事実がございます。しかし残念ながら、このアメリカと交渉している内容、どんなことをどうやって話し合ったのかということについては全く公開されていない。それは、内容が軽易だったとか、何かいろいろな理由をつけて公開していない。あるいは、もうメモがないとか書類がないとかということを言っているようなんですが、このそもそもの出発点のところで、どうも心がもやもやして晴れないなという気持ちを私は多くの郵便局の関係者の方からはお聞きするんですけれども、このあたりについて、神岡公述人、いかが意見を持っておられるでしょうか。

神岡公述人 私もその衝にあったわけではございませんので、先生にお答えができるような詳細なあれはございません。

 ただ、私どもも先生の疑問と同じようなことを感じておりましたので、アメリカの大使館のホームページで年次経済要望書というのが発表になります、これはもうかなり長い間発表されているわけでございますが、そういったものを拝見いたしますと、かなり詳しい、かつ、今の民営化を促進するようなお話が載ってございまして、そういった意味では、ああ、やはりこういうふうな危険性があるんだなということを感じたというふうなことで、本当に、細かい話では、正確な話ではなくて恐縮でございますが、そんなことを感じた次第でございます。

逢坂委員 もう時間もないようですので、これで終わります。

 どうもありがとうございました。

衛藤委員長 次に、笠井亮君。

笠井委員 日本共産党の笠井亮です。

 きょうは、中林公述人、そして住江公述人、大久保公述人、神岡公述人、お忙しいところ、大変貴重な御意見、ありがとうございました。

 私、それぞれ、いろいろ伺いたいこと、議論させていただきたいことはたくさんあるんですが、極めて限られた時間ですので、まず住江公述人に伺いたいと思います。

 社会保障費を毎年二千二百億円も削減してきたことが、景気の悪化とともに、今日の医師不足などを生んでいる大きな要因であることは、公述人が言われたとおりだと思います。私たちも、この路線は転換をして、削減された一兆六千二百億円をもとに戻して、これは野党四党でも共同で提案をしてきたわけですが、後期高齢者医療制度廃止などに使うべきだと考えております。

 ところが、政府は、二〇〇九年度の総予算でも、多少の取り繕いはしておりますけれども、しかし、この抑制路線自体は維持をしております。それだけじゃなくて、社会保障の機能強化ということで、消費税増税ということで、とんでもない方向を打ち出しているということでありますが、住江公述人は、今この社会保障機能の強化をするためには何が一番大事、大切だと思っておられるでしょうか。

住江公述人 御指摘いただきましたように、〇九年度では、社会保障費二千二百億削減が実質二百三十億円。これは本当に、国民、そしてまた、あらゆる分野の御指摘、そして運動、そういうことによって、そういうところに政府も考えざるを得なかったと。しかし、骨太方針、二千二百億削減という、その看板自体は残念ながらまだおろされておりませんので、来年度、一〇年度、これについては私どももまた厳しい局面が予想されると懸念しております。

 そういうところで、社会保障国民会議でも、社会保障強化論ですか、そういうところを同時に議論もされているんですけれども、しかし、社会保障強化というその言葉からくるまず第一は、まずもってやっていただかなければならないことは、社会保障の機能そのものの強化でございます。すなわち、再分配機能としての社会保障の持っている役割を高めていただく。

 一つに、子供の貧困率というのがございまして、年平均所得の半分の世帯の子供さんの貧困率ですけれども、これは実に驚くべきことに、再分配後にはかえって貧困率が上がるというデータがございます。これはもう、再分配機能としてはあってはならないことだと思っておりますけれども、そういうことから考えますと、今こそ、社会保障の機能ということから、再分配機能を強化していただくべき。これは、先ほど言いましたように、租税と社会保険料を支払って、その人に幾ら社会保障給付として還元されているのかというその率を、今、日本は四一・六%ですけれども、これをOECD諸国のイギリスやドイツ並みの六〇%に引き上げることこそが喫緊の課題だと思っております。

笠井委員 もう一問ですが、お話を伺いながら、地域医療を守る上で開業医の皆さんの果たしている役割が非常に大きいと改めて感じております。しかしながら、政府の方は、診療報酬の請求のオンライン化を完全義務化するなど、開業医の皆さんにとっては新たな財政負担というのが求められて、地域医療に困難をもたらす政策が進められていると思います。

 住江公述人は、地域で頑張って開業医の皆さんが果たしている役割とのかかわりで、その頑張りや努力を阻害、妨げているものはどこにあるのか、そして、それとの関係で何が今課題かということについて考えていらっしゃるか、伺いたいと思います。

住江公述人 陳述で述べましたように、この三十年来の医療、社会保障の改悪によって、医療現場、医療機関の門戸から改悪のたびに遠ざけられていく患者さんを、今、医療の現場の我々としてその人たちを見ているわけですけれども、その事態については、本当にじくじたる思いで毎日診療しているわけでございます。

 ですから、喫緊に必要な項目、先ほど陳述させてもらったことに尽きるわけですけれども、しかし、そういうことが実現もして、さらに地域で開業保険医として地域医療に専念するために、今、阻害となる課題が二つございます。

 一つは、御指摘のように、レセプトのオンライン義務化をされようとしている。これは、来年四月にはレセコンのある医療機関では義務化が実施され、再来年四月には全医療機関でオンライン請求が義務化されようとしているんです。これは私どもの調査でも、そういうことになりますと、高齢の先生方、それは若い先生と違って患者さんは少ないでしょうけれども、長年地域に根差して、本当に地域の住民の方々のために頑張っておられる高齢の先生方が、ITにも弱く、こういうレセプトオンライン義務化によって閉院、廃院せざるを得ないという先生方の声が一〇%を超える、そういうアンケート、これは日本医師会のアンケートでもそうでございますけれども、そういう事態を生みかねない。

 それは先ほど先生の質問にもございましたように、本当に今の医療崩壊に輪をかける事態になりますので、何としても、これは単なる省令で今来ているわけですけれども、こんな省令がまかり通るということ、やはり国会審議の中できちっと、そういう省令はまかりならぬ、そういうところの御議論をぜひともよろしくお願いしたいと思っております。

 それと、レセプトオンライン自体の持つ危険性、患者にとっての秘密、個人情報が漏えいする、医療の標準化に使われる、そしてまた行く行くは医療機関と保険者との直接契約になるとか、そして医療データが民間の資本に利活用される、そういう危険な問題点もありますけれども、今、差し当たって義務化については撤回していただきたい。

 そして二点目が、自主共済。

 これは今、地域医療、病気になって療養に専念するべく休診にしましても、代診医を立てて、そして地域医療の継続を、地域での医療機関としての医療の再生産をすべく、そういう手だてとして私ども休業補償制度というのを持っているわけですけれども、これが、二〇〇五年度の、あのときの保険業法の改正は、ただオレンジ共済のようなそういう犯罪を取り締まるべき、無認可保険業を取り締まるべき、保険業法の改正だったはずです。

 しかし、その取り締まりでは、旧の保険業法できっちり取り締まれるはずだったんですけれども、そういう世論をバックにして新保険業法というのが制定されたんだけれども、その中で、ACCJとか、そしてまた年次改革要望書のように、そういうアメリカの資本、そしてまた日本の国内の生保資本、そういうところのシェアを拡大するための要望でもあったと思いますけれども、そういうところで新保険業法が改正され、やはり自主共済というところに今大きく困難を来しております。

 これについても、自主共済の継続を実現させていただくように、適用除外を何とぞよろしくお願い申し上げたいと思っております。

笠井委員 もう時間が来てしまいまして、神岡公述人、ニュージーランドのお話もなさって、私も現地に行って実際見てきたものですから、そういうこととのかかわりでもいろいろ伺いたかったし、中林公述人、大久保公述人にも御質問があったんですけれども、またの機会にということで御容赦をお願いしたいと思います。

 ありがとうございました。

衛藤委員長 次に、日森文尋君。

日森委員 社民党の日森文尋でございます。

 先に中林先生にお伺いしたいと思うんですが、〇九年度、来年度の予算について、一定、めり張りがある、あるが、しかし、もう少し踏み込み不足の点もあるのではないかというお話をされました。これをちょっと具体的に、どこにどう踏み込んだらもう少しめり張りがきくのかということをお聞きしたいんです。

 それと、それに関連して、先ほど先生もおっしゃいましたけれども、GDP、年率換算で一二・七%、与謝野大臣は戦後最大の危機だというふうにおっしゃっておりました。先日は蚊が刺したようなと言ったような気がしたんですが、戦後最大の危機だというふうにおっしゃっておりました。輸出が一三・九%、これは戦後最大のマイナスになっている。それから、設備投資が五・三%マイナス。個人消費が〇・四%マイナスになった、これは大きいと思うんですね。

 こう考えていくと、これは今まで、外需主導、余りにも外需に偏った経済構造になって、もろくなっている。二〇〇六年以降の経済白書の中で、それにちょっと触れて反省して、これは内需拡大をしていかなきゃだめだ、内需主導の経済に転換をしていかないと大変なことになるということが言われ始めて、昨年の金融サミットや、つい先日のG7の財務大臣と中央銀行担当者会議、ここでもそれが確認された。

 ただ、保護主義、バイ・アメリカンというちょっと危ない話も出ているんですが、いずれにしても、こういう内需拡大をしなければいけないという我々の最大課題であると思うんですが、これと来年度の予算の関連、感想があったらお聞かせいただきたいと思います。

中林公述人 ありがとうございます。

 踏み込み切れていない部分という最初の御質問ですけれども、踏み込み切れない理由があるというふうに私は思っておりまして、本来であれば、例えば社会保障で必要とされる部分にもっと資源を投入するとか、ある見方によれば、そこは非常に成長産業である、働く人もたくさんいるという見方もあります。あるいは、教育に力を入れる。さまざまな方法が、これは民意に基づいて考えられると思いますが、幾らアイデアがあっても踏み込み切れない理由は、やはり日本にその財源といったものが見当たらないということであり、これは、過去、長年蓄積してきた、ある意味で日本の方向性をきちっととらえた制度改革やそういった議論をなかなか踏み込んでしてこられなかったことのツケではないかというのが私の趣旨でございます。

 それから、景気の問題と毎年通さなければいけない予算の問題ですけれども、スピード感がないと私が申し上げましたのは、景気刺激のためのスピード感はどうしても必要なわけです。これは、国会を通すだけではなくて、いかに早く支出するかということも問われてきますし、それから、それがいかに市場に早くインパクトを与えるかということも問われてきます。

 また一方で、年度年度につくっていく予算というのは、日本の場合は非常に審議期間が短いものですから、その中に多分に景気刺激策的なものを入れるという発想ができるんですけれども、アメリカの場合は逆に、私が触れました国家ですのでここで言及させていただくのですが、一年近く前に次の予算をつくって、構想を行政府が考えて、そして議会の方でさらに何カ月もかけて審議をしますので、かなり基本的なところを押さえるのが年度年度の予算になります。

 ですから、国の方向性、財政収支のバランス、それから財政をコントロールするためにはどのような制度改革が必要なのか、こういったものはやはり一朝一夕には決めることができない分野の重いものですので、これをしっかりと審議するということに力を費やしまして、緊急刺激策というのはまた別に審議していくということになります。

 これは、必ずしも制度改革に直結するものでは、または予算を編成するためのプロセスなどにも直結するものではありません。ブッシュ大統領も随分イラク戦争の戦費を計上しましたけれども、これも、年間予算というよりは、本当に補正予算で組んでいった。これは、恒常的に、イラクの戦争が長年続くというものに組み込んでしまうと計算のそごが生じてしまう、これはやはり緊急であるという理念のもと、そういうことをしたわけです。

 その辺を少し区別して、スピード感と社会の必要性、そして逆に、年度年度の予算の中でどのような制度を組み込んでその一年分を考えていくのか、これはしっかり議論しなければならないものだと思いますので、そこを区別しないとちょっと難しい、こんがらがった話になってしまうのではないかなというふうに思います。

日森委員 どうもありがとうございました。

 住江先生にお伺いしたいんですが、公立病院が今危機に直面している。その原因は、先ほどお話しになった社会保障費全体の削減の問題とか医師の問題があると思うんですが。公立病院が休診になったり、あるいは民営化される、あるいは非公務員型の独立行政法人に移行していく。関東地方でもかなりの病院がそういう事態になっているんですが、この問題について先生はどうお考えなのか、お聞かせいただきたいと思います。

住江公述人 先生御指摘のように、本当にそういう厳しい状況を今つくり出しているんですけれども、やはり、公立病院改革ガイドライン、そしてまた財政健全化法、こういうところで一切合財それをくくってしまうということじゃなしに、きちっとその地域での公立病院の役割、そういうところで、予算も含めた手当てというのは、もちろん自治体の手当てと国からの、今こそそういうところでの国の責任の役割の発揮が求められていると思っております。

日森委員 どうもありがとうございました。

 大久保先生にお伺いしたいんですが、雇用対策で職業訓練の話をなさいました。私も全くそのとおりだと思うんです。

 ヨーロッパ、EUではずっと、トランポリン型というんでしょうか、落ちてもまたもとに戻っていくぐらいぽんと跳び上がって、そのための職業訓練をちゃんとやっているんだというお話がございました。

 恐らく先生もお詳しいと思うんですが、このEUなどで行われている職業訓練と、それから今我が国で必要としているもの、どうそしゃくをして十分なものにしていくのか、先生のお考え。それから、いずれにしても、職業訓練を受けて、例えばサービス業、幅広いということなんですが、そこに行ってもまた派遣であったら今と同じような状況になるので、EUも昨年の十月に、これはちょっとこだわっているんですが、労働者派遣の指令を採択して、均等待遇をここでもやろう、今までの均等待遇プラス労働者派遣の均等待遇、派遣先労働者との均等待遇をやろうということをお決めになったわけですね。

 この辺の感想、ありましたら、最後にお聞きしたいと思います。

大久保公述人 御指摘の職業訓練、ヨーロッパでやっている職業訓練なんかと日本で比べた場合に、私は、一つ日本で検討すべきかなとずっと思っているのは、職業訓練を行う。その結果としてスキルが上がる、これは企業内訓練も同じことなんですけれども、スキルが上がる。そうすると、期待される報酬の額が上がる。つまり、能力が上がればそれに比例して報酬が上がるんだという構造、それは恐らく均等待遇の問題もつながる問題だと思うんですけれども、そこの部分が制度的に言うと日本の一番弱いところで、恐らく一人一人の職務が明確でなかったのでこの問題が日本では発展してこなかったんだと思いますが、いわゆる職業能力をどう客観的に評価して、それに見合う給与をつけていくのか、この物差しがあるかないかによって職業訓練が生きるかどうかが決まってくるんだというふうに考えております。

 それから、派遣の問題は、ヨーロッパの派遣と日本の派遣というのはかなり性格が違うものですね。というのは、例えばドイツなんかでは、一年を超えて派遣をし続けると特定派遣にかえなきゃいけないということがありますけれども、実際に特定派遣にかわった人はほとんどいない。つまり、そのぐらい短いものなんです。日本の場合は恒常的に長い派遣労働というのが定着したので、その上の派遣としてどう考えるかというのは、ヨーロッパの考え方とはちょっと分けて考えざるを得ないかなというふうには感じております。

日森委員 郵政の話は全くおっしゃるとおりで、私ども、今もう時間がありません。申しわけございません、神岡先生のお話、そのとおりだと受けとめて、しっかり頑張りたいと決意だけ申し上げて終わりたいと思います。

衛藤委員長 次に、糸川正晃君。

糸川委員 国民新党の糸川正晃でございます。

 本日は、公述人の皆様方、大変貴重な御意見、ありがとうございます。

 まず、神岡公述人に質問をさせていただきたいというふうに思っております。

 先ほどの公述の中でも問題点というのを具体的にお話しされていらっしゃいましたけれども、平成十九年の十月以降、郵政公社が四分社化、そして株式会社化されまして、現在まで約一年半たっているわけでございます。郵政民営化法の成立以降、現在まで実際どのような影響があって、そしてどのような問題点が顕在化しているかということをもう一回具体的にお聞きしたいというふうに思っております。

神岡公述人 御説明を申し上げます。

 先ほど冒頭に申し上げましたのは、十九年の十月から民営化をいたしまして、それまでには随分準備をしてきた。もう本当に職員も大変な努力をしてきてくれたというふうに思っていたわけですが、ふたをあけてみますと決してそうではなかったということでございまして、やはり一番私どもが残念に思いますのは、お客様に対するサービスが逆に悪くなったんではないかというふうなことがございます。

 これはいろいろな原因があるかと思いますけれども、一つは、かなりいろいろな証明書類が多くなりまして、かつ難しくなったということが一番最初に出てきた問題でございます。

 例えば、よく出る話で、先生もお耳になさっているかもしれませんけれども、本人確認、例えば五十万円の自分の預金を払い戻しいたしますのに本人確認をしなければいけないということなものですから、これは国の検査基準によるものと承知しておりますけれども、そうしますと、例えば隣の御主人であっても、郵便局は書類主義を貫徹しないといけないものですから、証明、本人確認を欲しいと。本人確認で写しを持っていきましたら、写しはだめなので本物の本人確認を持ってきてくれと。こういうふうな話など、これは一つの例でございますが、そういったことがございまして、従来の郵便局と随分違ったではないか、地域に根差す郵便局ならなおもっと弾力的にできないのかというふうな話が随分出てまいりました。

 そういうふうなことなものですから、窓口も込んでまいりまして、窓口の行列が長くなって、かつ、先ほどの四分社化の弊害がそこに出ているのではないかと思うんです。例えばふるさと小包を、郵便局会社と郵便会社と分けたものですから、郵便局会社、郵便局の窓口には外務員が全然いなくなりまして、例えばサクランボのふるさと小包がたくさんできたからとりに来てくれと言っても、外務員がいないものですから、とりに来れなくなってしまって、結局、サクランボを腐らすわけにいかないものですから、郵便局との関係は前はあったんでしょうけれども、ほかの運送業者にお願いするとか、そういうふうなことが山ほどございます。

 これは語りますとちょっとお時間も足らなくなるぐらいのことかもしれませんが、そういうふうなことで、また郵便局長会の方からも二万人の郵便局の局長にアンケートをしておったりしますので、それはごらんをいただければ幸いかと存じます。

糸川委員 ありがとうございます。

 もう一問、神岡公述人にお伺いしたいと思うんですが、神岡公述人は、昭和二十年に逓信院に採用になられてからずっと郵政一本でいらっしゃったというふうに認識をしておりまして、昭和六十年には四国の郵政監察局長もされていらっしゃって、その後には東京中央郵便局長もされていらっしゃる。要は、地方も中央のこともよくよく御理解をされていらっしゃるというふうに思っています。

 よく言われますのは、やはりサービスが低下したとか、民営化によってマイナスの点ばかりが挙がってくるわけですけれども、では、民営化したことによってのメリット、この点について公述人にお伺いしたいのと、また、郵政民営化委員会、これは三年ごとに民営化の見直しを行うということも言っております。ことしがその年でもございます。公述人が例えばこの見直しを行うのであれば、どういうふうに変えていったらいいかということの御提言があれば、この点もお伺いしたいというふうに思います。

神岡公述人 お答え申し上げます。

 私が、長い間の経験の中で、民営化にという非常に大きなあれを感じたんですが、その中にもやはり、先生がおっしゃるように、民営化のプラスというものは確かにあるということを感じた次第でございます。

 何かといいますと、全く同じような民間の立場に立って競争をしてサービスをする、サービスのいい方の事業者に軍配が上がる、こういうことはやはり事業にとってもかなりプラスになることではなかろうかと思っております。競争のやり方はいろいろあろうかと思います。

 ただ、競争の場合でも、余り利潤追求ばかりが目立ちますと、これはやみというものが出ますので、その辺の限度は、あるいは地域のいろいろな状況も踏まえてしていただきたいなというふうに思っているわけでございます。

 私の民営化、分社化に対するお願いと申しますのは、一番大きなことは、貯金あるいは保険の株を売却しないでいただきたいということでございます。株の売却をした場合、現在の民営化法には全然それに対する保証というのがございません。あまねくサービスを提供すべきであるというふうなことが書いてございました簡易保険法あるいは郵便貯金法もなくなりましたから、全く自由競争の市場の中に生きているわけでございますから、そういった意味では、株を売った場合にどのようなことになるか。住民の方々が、郵便のネットワーク、郵便局を通じて御便利になさっていると言っていただける、そういったことも提供できなくなるというふうに思いますので、郵便局のユニバーサルサービスとよく言うんですが、郵便局の郵便のサービスだけは、これはあまねく公平に提供しなきゃいかぬということは残ってございますが、それと同じように、貯金、保険のサービスもあまねく公平に提供していただけるように、ぜひ先生方にお願い申し上げまして、郵政民営化法の見直しの一番大事なところをお願い申し上げる次第でございます。

糸川委員 ありがとうございました。

 ほかの三人の公述人の皆様方に本当は質問したかったんですけれども、ちょっと時間の関係で質問できませんでしたことをおわび申し上げます。

 本日はありがとうございました。終わります。

衛藤委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。

 公述人中林美恵子君、住江憲勇君、大久保幸夫君、神岡篤司君各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。(拍手)

 以上をもちまして公聴会は終了いたしました。

 公聴会は、これにて散会いたします。

    午後三時三十二分散会


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