衆議院

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第1号 平成24年3月2日(金曜日)

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平成二十四年三月二日(金曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 中井  洽君

   理事 笹木 竜三君 理事 武正 公一君

   理事 西村智奈美君 理事 鉢呂 吉雄君

   理事 若井 康彦君 理事 若泉 征三君

   理事 石破  茂君 理事 小池百合子君

   理事 高木 陽介君

      相原 史乃君    石関 貴史君

      磯谷香代子君    今井 雅人君

      打越あかし君    江端 貴子君

      大西 健介君    奥野総一郎君

      金森  正君    櫛渕 万里君

      近藤 和也君    佐々木隆博君

      阪口 直人君    杉本かずみ君

      平  智之君    高邑  勉君

      玉木雄一郎君    仁木 博文君

      橋本 博明君    橋本  勉君

      花咲 宏基君    馬淵 澄夫君

      村越 祐民君    室井 秀子君

      本村賢太郎君    山岡 達丸君

      山崎  誠君    山田 良司君

      湯原 俊二君    渡部 恒三君

      赤澤 亮正君    伊東 良孝君

      小里 泰弘君    金子 一義君

      金田 勝年君    佐田玄一郎君

      橘 慶一郎君    野田  毅君

      馳   浩君    山本 幸三君

      東  順治君    笠井  亮君

      宮本 岳志君    石田 三示君

      内山  晃君    三輪 信昭君

      阿部 知子君    柿澤 未途君

      山内 康一君    田中 康夫君

      中島 正純君    浅野 貴博君

      石川 知裕君   松木けんこう君

    …………………………………

   公述人

   (奈良市長)       仲川 げん君

   公述人

   (公益財団法人日本国際フォーラム理事長)     伊藤 憲一君

   公述人

   (社団法人日本経済団体連合会経済政策委員会企画部会長)

   (株式会社東芝取締役監査委員会委員長)      村岡富美雄君

   公述人

   (株式会社日本総合研究所理事)          湯元 健治君

   公述人

   (青山学院大学法学部教授)            三木 義一君

   公述人

   (株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長) 小室 淑恵君

   公述人

   (日本金融財政研究所所長)            菊池 英博君

   公述人

   (立正大学法学部客員教授)            浦野 広明君

   予算委員会専門員     春日  昇君

    ―――――――――――――

委員の異動

三月二日

 辞任         補欠選任

  大西 健介君     奥野総一郎君

  岸本 周平君     阪口 直人君

  馬淵 澄夫君     平  智之君

  湯原 俊二君     本村賢太郎君

  笠井  亮君     宮本 岳志君

  内山  晃君     石田 三示君

  山内 康一君     柿澤 未途君

  中島 正純君     田中 康夫君

  松木けんこう君    浅野 貴博君

同日

 辞任         補欠選任

  奥野総一郎君     大西 健介君

  阪口 直人君     相原 史乃君

  平  智之君     高邑  勉君

  本村賢太郎君     湯原 俊二君

  宮本 岳志君     笠井  亮君

  石田 三示君     三輪 信昭君

  柿澤 未途君     山内 康一君

  田中 康夫君     中島 正純君

  浅野 貴博君     石川 知裕君

同日

 辞任         補欠選任

  相原 史乃君     磯谷香代子君

  高邑  勉君     橋本  勉君

  三輪 信昭君     内山  晃君

  石川 知裕君     松木けんこう君

同日

 辞任         補欠選任

  磯谷香代子君     岸本 周平君

  橋本  勉君     馬淵 澄夫君

    ―――――――――――――

本日の公聴会で意見を聞いた案件

 平成二十四年度一般会計予算

 平成二十四年度特別会計予算

 平成二十四年度政府関係機関予算


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     ――――◇―――――

中井委員長 これより会議を開きます。

 平成二十四年度一般会計予算、平成二十四年度特別会計予算、平成二十四年度政府関係機関予算、以上三案について公聴会を開きます。

 この際、公述人各位に一言御挨拶を申し上げます。

 公述人各位におかれましては、御多用中にもかかわらずまげて御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。平成二十四年度総予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願いいたします。

 御意見を賜る順序といたしまして、まず仲川げん公述人、次に伊藤憲一公述人、次に村岡富美雄公述人、次に湯元健治公述人の順序で、お一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 それでは、仲川公述人にお願いいたします。

仲川公述人 ただいま御紹介いただきました奈良市長の仲川げんと申します。

 本日は、このような席で意見を述べさせていただく機会を頂戴いたしまして、大変感謝いたしているところでございます。

 私が奈良市長に就任いたしましたのは、二十一年の七月三十一日でございます。民主党政権がスタートして、その同じ期間、私も市長として仕事をさせていただいているという立場でございます。本日は、奈良市の立場ということとあわせまして、この公聴会で地方の首長が意見を申し述べる機会はめったにございませんので、現場の基礎自治体の首長の声を代弁できればという思いで立たせていただいております。

 本日は、大きく三点についてお話を申し上げたいと思います。

 まず初めに、国と地方の行革努力の差ということについてお話をさせていただきたいと思います。

 国も地方も、長引く不況の中で、大きな税収減、税収難に行き当たっております。その中において、社会保障費の大幅な増という中でいかに財源を生み出すのかということは非常に大きなテーマでございます。この結果、日々の市民生活、国民生活を運営するために、やはり一時的に起債によって財源を賄わなければならない現状がございます。

 結果といたしまして、二十三年度末では約一千兆円を超える国の借金が見込まれているわけでございますが、これは明らかに将来世代への負担の先送りであり、我々現役世代の大きな責任として、しっかりとこの状況を解決していかなければなりません。

 このような状況に対しまして、まず、地方におきましては、職員の人員の削減や給与の独自カット、また事業の見直しなど、さまざまな行革にこれまでも取り組んできたところでございます。

 まず、職員の削減について申し上げますけれども、全国の市町村の職員数の合計は、平成十七年度で約百四十三万三千人でございましたが、平成二十二年度におきましては百二十八万九千人となっており、五年間で十四万人、約一〇%の削減が図られているところでございます。また、同期間で、奈良県内の市町村全体では約一二・七%、奈良市におきましても八・六%の削減を図ったところでございます。

 しかし一方で、国における人員削減の実態を見ますと、平成十七年度の約三十二万六千八百人が平成二十二年には約二十九万七千五百人となってございますが、この中の社会保険庁廃止分一万二千人を除きますと、実質的な国による人員削減の割合は五・五%の削減にとどまっているのが現状でございます。

 また、地方自治体におけます独自の給与削減の状況を見てまいりますと、平成二十二年四月一日現在で、約千七百の市町村のうちおよそ六割が、いわゆる人事院勧告に加えた追加的な独自の給与カットに取り組んでいるところでございます。多いところでは、管理職手当の一〇%以上、また給料についても五%から一〇%のカットを行っているというところもございます。また、最近では、公務員の退職金のカットにまで踏み込んでいる自治体も出てきております。

 私どもの奈良市におきましても、特別職だけではなく一般職も含め、これまでも手当のカットを行ってまいりましたが、来年度以降は、やはり財源難の状況の中で、さらなる切り込みをしていかなければならない状況であると認識いたしております。

 国におきましても、先日、おおむね八%のカットを二年限定で行うということが決められたようでございますけれども、これまでの国の給与のカットということにつきましては、人事院勧告を上回る独自のカットというものは一切行われてこなかったのが実情でございます。

 次に、いわゆる行革に関してでございますけれども、国も地方も、事業仕分けなど、これまでにない新たな財源確保のための取り組みを行っているのは周知のところでございます。

 本市におきましても、平成二十一年度、二十二年度、二年間にわたりまして事業仕分けを行い、さまざまな財源確保に努めてきたところでございます。その結果といたしまして、二年間で約五十億円の財源を捻出するに至ったわけでございます。

 他方、平成二十三年八月二十六日のマニフェストの中間検証によりますと、国における、三度にわたって昨夏までに行われました事業仕分けでは、平成二十二年度に約一兆、二十三年度に三千五百億、また、二十一年度、二十二年度の国家公務員人件費削減を合わせまして、一・五兆円の削減を行ったとされております。これは、国の二十二年度、二十三年度の一般会計予算総額に対する比率でいえばわずか一%弱ということにとどまっており、私ども一地方自治体の行革努力に比べても、半分にも満たない状況であると言えるわけでございます。

 地方におきましては、これまでも徹底した行革を断行し、財源捻出に取り組んできたところでございますけれども、やはりこの地方の努力というところに比べれば、国における財源確保、行革の取り組みというのはまだまだ十分ではないと言えるのではないかと考えているところでございます。

 続きまして、二点目といたしまして、現在の国の制度によって地方の現場の基礎自治体がどのような状況であるのか、特に、国によって地方が振り回されている状況ということについて少しお話をさせていただきたいと思います。

 例えば、子ども手当というものについてでございますけれども、制度創設以来、手当額や制度にたび重なる修正が加えられております。もちろん、少子化対策、子育て支援をしっかりと進めるという観点は国も地方も同じ思いでございますけれども、実は、この制度の変更に伴って、現場の基礎自治体では非常に大きな混乱が発生をいたしております。

 例えば、制度が変更されるたびに、いわゆるシステムの改修経費が発生いたしております。奈良市におきましては、平成二十一年度には一千百九十七万円、平成二十三年度には二百八十三万五千円、平成二十四年度には四百万円の予定となっており、わずかこの三年の間で、合計額が一千八百八十万五千円もシステムの改修経費がかかっているということでございます。

 また、あわせまして、手当の支給に伴う人件費などの事務費でございますけれども、子ども手当事務取扱交付金として一定の負担は国から頂戴しているところでございますけれども、その全てをカバーされているものではなく、私どもにおきましても、実態では、平成二十三年度では約三千九百万円コストがかかっておりますが、実際に国から交付を頂戴しておりますのは約三千五百万円ということで、わずか四百万ではございますけれども、この金額の差は地方の負担として積み重なっているところがございます。

 これは子ども手当だけの問題ではなく、国におけるさまざまな政策の変更、制度設計の更新、こういったタイミングに合わせて、システム会社をもうけさせるかのようなさまざまなシステムの改修が都度都度行われる。そして、それに伴う人件費などさまざまな間接経費は、少しずつではございますけれども、地方自治体には積み重なって重荷となっている現状がございます。

 次に、子宮頸がん等ワクチン接種事業についても同様のことがございます。

 まず、この事業の補助スキームでございますけれども、必要経費のカバー率が九割ということで、一割は自己負担いただくということになってございます。しかし、国における論争の中でも、また各政党の主張の中でも、無料でワクチン接種が受けられるというようなことが喧伝された経緯もございまして、実際に事業をとり行います基礎自治体の窓口には、利用者や保護者の方から、無料ではなかったのかというような問い合わせも多々寄せられるわけでございます。

 また、この財源のうち、四五%は交付金、四五%は交付税、残る一割が自己負担となってございます。この地方交付税で交付されると計画されている四五%分でございますが、これはその他の交付税と同じものでございまして、実体を伴って地方にしっかりと財源が移譲されるのかということについては、非常に疑わしいという問題がございます。

 さらに、もう一つの問題は、この交付金が都道府県に基金として造成されるということでございます。

 私ども奈良市は、人口三十万を超える中核市でございます。政令市並みの権限をと、これまでも中核市長会等を通して、国に、また総務大臣に御意見を申し上げてきたところでございますけれども、なかなか地方が独自の裁量、独自の責任において事業をとり行うという状況には至っていない現状がございます。

 この交付金のお金の流れ方にいたしましても、基礎自治体がみずからの判断で運用するということではなく、都道府県の許可を得なければ事業を進めることができない。例えば、奈良県内においては、県内の十二市で財源、いわゆる市の持ち出し分の財源を勘案したところ、高一までではなく中三までの対象でなければ財源がもたないという結論に至りました。しかし、最終的には、県の意向もありまして、奈良市でも高一まで対象拡大をいたしました。

 このように、基礎自治体を中心とした現場を預かる私たちが、物事を考え、執行しようとしても、いわゆる中間自治体、また国の方針とそごがあれば、そこに従わなければならない。現場とかけ離れた意思決定をしていかなければならない現状があるわけでございます。

 そして、もう一つが、いわゆる財源対策というところにおいての国と地方の借金の仕組みでございますけれども、既に御承知のように、いわゆる臨時財政対策債というものが地方では非常に伸びております。私どもでも、この五年間で、いわゆる起債総額自体、臨財債を除いたものについては、ここ数年、毎年約二%の起債残高の削減を行っておりますが、いわゆるこの臨財債に相当する部分が五年間で約二倍に増加いたしております。これは本来であれば交付税として地方に財源措置がされるべきものでありますが、それを地方の借金という形で見かけを取り繕って国の責任を地方に押しつけているものであり、私どもも、この制度設計については今後大きく論議をしていただく必要があると考えているところでございます。

 最後に、三点目といたしまして、国の仕組みに地方が従うということをいかに変えていくのかということをお話しさせていただきます。

 今までるる申し上げてまいりました案件につきましても、やはり大きな問題は、国が現場からかけ離れたところで制度設計を行い、地方の自治体がそれに従うという大きなこの仕組みがいまだ改善されていないというところに私は問題の根源があると考えております。

 民主党政権が発足いたしましたときに、私は、当時の鳩山総理の誕生に対してこうコメントをいたしました。国が仕組みをつくり地方が従うというこの仕組みを大きく変えてほしい、これこそが民主党政権に期待されている最も大きな役割である、そのように答えた記憶がございます。

 国と地方の協議の場がスタートしたことは評価されるところだと思います。しかし一方で、私どものようないわゆる市というところに関しましては、全国市長会の森会長が一人でその声を代弁するという仕組みになってございます。

 現在、私どものようないわゆる市は、全国で八百九市ございますが、人口比で申しますと一億一千四百万人、全人口に占める割合で申しますと約九〇%を占めております。しかし、この九〇%の声を代弁できる首長はわずか一人でございます。また、人口三百六十万を超える横浜市から人口数千人しかいない市まで、大きな規模から小さな規模まで、幅広い現場の声を一人の代表者が代弁するというのは非常に難しいところがございます。

 私は、少なくとも、政令市、中核市、特例市、それぞれの都市区分ごとに、この国と地方の協議の場に代表者を入れていただく。また、今行われている第三十次の地方制度調査会においても、こういった形で現場の声を少しでも多く取り入れていただくということがやはり重要であると考えているところでございます。

 この国と地方の役割の見直しというところにおいては、やはり行き着くところは、権限と財源をどのように配分していくのかということでございます。もちろん、このあたりについては、戦略交付金など、少しずつ取り組みが進んできているところもございますが、来年度、平成二十四年度に関しても、この特例交付金が政令指定都市どまりになってしまったということについては、私どもも中核市として非常に残念な思いがいたしているところでございます。

 国から地方に対して、いわゆる事務事業代行をさせられるものにつきましては、国のナショナルミニマムとして取り組まれている、特に社会保障関係事業、こういったものについては、やはり全額を国の財源として担保していくことが私は必要であると考えております。

 地方分権、地域主権をいかに実現するのかという論点の中で、全ての責任を地方に押しつければそれで解決するというふうに考えられる部分がございますけれども、私はそうではないと考えております。

 地方が独自に、地域の事情に合わせて、その創意工夫と責任の範囲において取り組むものについては、もちろん、権限と財源そして責任を明確に地方に移譲するということが重要であります。

 しかし一方で、国が政策をつくり、国の主導によって取り組まれる事業、もしくは、社会保障のように、日本全国一律、全ての国民にひとしく権利として保障されるべきものについては、やはりこれは地方間の、自治体間の財政格差また取り組み温度の差ということにおいて、国民の受ける権利に大きな差があってはいけないというふうに考えております。

 こういったことを考えますと、国と地方の役割分担、いわゆる国と地方の仕分けというものをしっかりと行っていくことが重要でございます。

 今、各地でもいわゆる大都市制度についての論議が活発になってございます。二重行政、三重行政と言われ、これまでもその改善が大きく望まれてきたにもかかわらず、それぞれの自治体また都市区分ごとのさまざまな利害関係を整理することができず、今の現状に至っている。私どもの地元の基礎自治体一つ見ましても、さまざまな業務において、中間自治体や国との重複が目立ってございます。

 こういったものを、これまでの前例を全く取っ払って、もう一度ゼロからつくり直していくということが今の日本に最も求められていることである、私は、現場を預かる首長の一人として、まさにそのように考えているところでございます。

 もう一度、各省庁間の重複、また国、県、市というこの三重行政の重複している部分をしっかりと洗い直すということを、国だけではなく、国と地方がともに知恵を出し合って解決していくことが重要であると私は考えております。そういう意味におきましては、地方の首長をもっと活用してほしいというのが私の思いでございます。

 先ほど申し上げたように、さまざまな行革など、国よりも地方の方が、現場におりますので実情が見えているところがございます。また、改革の取り組みについても、さまざまなトライアルを行っておりますので、その経験値や現場の感覚というものを活用していただける部分は多々あるかと思っております。

 ぜひ、これからの国の仕組みづくりということにおいては、補完性の原則に改めて立ち戻っていただき、私たち基礎自治体、現場で地域の住民と正面から向き合っている現場をまず第一と考え、そこではできないものを中間自治体また国において行っていくというこの原理原則をしっかりと徹底していただき、国における財源確保、また国と地方の役割分担をしっかりと見直していただきたいと考えているところでございます。

 私からの意見は以上でございます。意見を申し上げる機会をいただきまして、まことにありがとうございました。(拍手)

中井委員長 ありがとうございました。

 次に、伊藤公述人にお願いいたします。

伊藤公述人 公益財団法人日本国際フォーラム理事長の伊藤憲一でございます。

 貴重な発言の機会をお与えいただきまして、大変光栄に存じます。

 本日は、平成二十四年度予算案の御審議に当たり、日本の外交、安全保障政策のあるべき姿について、特に対米、対中政策を中心として、日ごろ私の考えておりますことの一端を披露し、御参考に供することができればと存ずる次第であります。

 私が理事長を務めております日本国際フォーラムは、外交、国際問題を専門とするシンクタンクとして、随時調査研究活動を行うとともに、この二十五年間に三十五本の政策提言を発表してまいりました。

 二〇〇九年十月には「積極的平和主義と日米同盟のあり方」について、また、本年一月には「膨張する中国と日本の対応」について、それぞれ約一年間にわたる審議の末、政策提言を行っております。

 その全文は、当時、複数の全国紙の紙上において意見広告として発表しましたが、同時に、当時の鳩山由紀夫、野田佳彦両総理大臣にもお届けいたしました。それに加えて、本日こうして衆議院予算委員会の皆様にも直接御説明する機会を得ましたことは、大変ありがたく、かつ光栄に存ずる次第であります。

 米国と中国は、政治、経済の両面において世界第一位と第二位の大国であるだけでなく、ともに我が国の隣国として、国際社会における日本の立場に決定的な影響を与えております。日本としては、米国と中国にどのように向き合うかという問題こそがその死命を制する問題であると言わなければなりません。

 しかし、問題をさらに複雑にしているのは、そのような米中両国と日本の関係は、単なる二国間関係の集積として捉え切ることのできない背景の広がりを持っているということであります。そこには世界大、地球大の潮流が渦巻いており、その大きな流れの中で日米関係あるいは日中関係を考えていかねばならないということであります。

 このような世界大、地球大の潮流の方向感覚を完全に読み間違えたのが、戦前の日本の指導者たちでした。

 当時、第一次世界大戦という未曽有の悲惨さを経験した人類は、このような悲劇を二度と繰り返さないために、戦争を非合法化するという一歩を踏み出したのでした。それは、国際連盟の設立や不戦条約の締結という形で具体化されました。確かにそれは、ためらいがちな、未熟な第一歩ではありましたが、それが第二次世界大戦後、国際連合に発展し、さらに冷戦後の今日の世界的な集団安全保障体制に成長していることを見るならば、それはやはり、今日に至る世界大、地球大の潮流の源流であったのです。

 しかし、満州事変から日中戦争への流れをつくった日本の軍事官僚たちは、そのようには考えませんでした。彼らの歴史観は、一九二一年の彼らのバーデンバーデンの密約に示されています。欧州戦争の意味を観察するために欧州に派遣された永田鉄山などの日本軍人たちは、来るべき世界戦争に備えて、国家総力戦体制の構築を急ぐことこそが日本の進むべき道であると考えたのです。それはやがて、三国同盟の締結を通じてドイツに接近し、日本の運命をヒトラーの手に委ねる結果となりました。歴史の大きな流れを読み間違うことは、亡国の道に直結しているのです。

 では、今の世界の潮流は、どの方向に向かって、どのように流れているのでしょうか。

 私どもの提言「膨張する中国と日本の対応」は、二〇一〇年九月の尖閣諸島沖における中国漁船による海上保安庁巡視艇への体当たり事件及び引き続いて起こったレアアースの対日輸出禁止、中国に滞在する日本人の逮捕、勾留などの中国の一連の対日強硬措置について、日本と日本人に大きな衝撃を与えると同時に、その対中不信感を増大させたと断じています。しかし、それに続く一節において、この提言は次のようにも述べております。いささか長文になりますが、引用させていただきます。

  このような状況においては、問題の小状況に反応する前に、まず大状況を把握することが肝要です。世界は、第一次大戦後に「戦争の非合法化」を達成しましたが、第二次大戦後には「相互確証破壊」の成立に伴い実質的に大国間戦争が不可能になりました。それでも冷戦期には、米ソ二大陣営が対立する「勢力均衡」政治が行われましたが、冷戦後の世界では、米ソ対立は解消され、自由・民主主義・市場経済・不戦などの理念が普遍化しました。その中核的な担い手はNATOや日米同盟に結集した先進民主主義諸国です。「人間の安全保障」や「保護する責任」などが国際社会の理念として提起されるなかで、その理念の担い手となった先進民主主義諸国は「不戦共同体」あるいは「集団安全保障共同体」と呼ぶことができます。冷戦後の世界では、各国は狭義の国益を超えて、地球規模の課題に取り組むことを求められていますが、その課題に正面から取り組む用意のある「ポストモダン」段階の諸国が「不戦共同体」諸国であるのに対し、必ずしもそのような用意のない「モダン」段階の諸国として中国やロシアなどが存在し、抵抗しています。

 今日の日本の最大の強みは、世界大、地球大の潮流の上に乗っていることだと思います。今日の日本は、ポストモダン段階の諸国の一つとして、それらの諸国とともに不戦共同体とでも呼ぶべき実態を形成しております。日本は、日本一国で中国と向き合っているのではなく、不戦共同体諸国とともに中国と向き合っているのです。そのような連帯意識を他の不戦共同体諸国と共有することこそが日本外交の原点でなければならないと私は思っております。

 冷戦終えん後のビッグバンの中で、グローバル化する世界経済のガバナンスの担い手はG8からG20に拡大しましたが、同じように世界の平和と秩序を形成し、維持する不戦共同体の担い手も、NATOや日米同盟に結集した先進民主主義諸国から拡大して、将来はモダン段階の諸国をも取り込んでいく必要があります。中国やロシアも例外ではありません。それを関与政策と呼ぶとすれば、関与政策こそは、日本あるいは不戦共同体の対中政策の基本でなければなりません。

 しかしながら、ここで我々日本人には自問しなければならない問いがあると思います。それは、今日の日本の最大の強みは世界大、地球大の潮流の上に乗っていることだと我々が言うときに、我々日本人は、我々はフリーライダー、無賃乗車者ではないと言い切れるのかということです。

 一九九〇年の湾岸戦争勃発に当たり、日本では国連平和協力法案が国会に提出されましたが、戦争か平和か、いつか来た道を繰り返すな、若者を戦場に送るなという大合唱の中で、この法案は廃案に追い込まれました。

 当時、私は、この公聴会において意見を述べる機会を与えられ、これは戦争ではないんだ、侵略という犯罪行為に対する国際社会の警察行為なんだと主張しましたが、そんなことを言う公述人は私一人でした。

 あれから二十年以上が経過しました。その後、カンボジアを皮切りに、イラクやインド洋など各地において自衛隊が世界の平和を維持するための国際的な努力に貢献しているのを見るのはうれしいことですが、それにもかかわらず、そのような世界平和維持のための活動にできればかかわりたくないという気持ちの日本人が多いのも、また否定できない事実だと思います。

 ところで、話題を日米関係に移しますと、その原点は一九五一年のサンフランシスコ講和条約の調印にさかのぼります。日本は、憲法第九条の非武装条項を維持したままの独立を選んだために、日米安全保障条約を同時に結ばざるを得ず、それが、よかれあしかれ、今日の日米関係の現実につながっているわけであります。

 日米安保条約を破棄するのであれば、残された選択肢は、非武装中立路線と改憲自主武装路線の二者択一以外にありません。憲法第九条の平和主義を護持し続けるためにも、日米同盟の堅持は日本の基本的な立場でなければなりません。

 しかし、それにしても、あるいはそのゆえにこそ、日本の平和主義は積極的平和主義でなければならないのです。消極的平和主義であってはならないのです。

 これまでの日本の平和主義は、自国が加害者にならなければそれでよしとする消極的平和主義でした。日本は、あれもしない、これもしないという否定形でしか防衛を語らず、平和を論じませんでした。日本は何をしたいのか、するのかは、世界にとって不明であるだけでなく、日本人自身にとってさえ曖昧模糊としたものであり続けてきました。

 米国が、そのような日本であっても、あのような安保条約であれば結んでもよいだろうと考えたのは、それなりの国益の計算があったからでしょうが、日米関係とそれを取り囲む世界環境は、今急速に変化しています。日米関係はいつまでもこのままでよいのかという問いが、今日の日米関係に投げかけられている問題の本質であると思います。

 その問いとは、さきに私が、ここで我々日本人には自問しなければならない問いがあると思います、それは、今日の日本の最大の強みは世界大、地球大の潮流の上に乗っていることだと我々が言うときに、我々日本人は、我々はフリーライダー、無賃乗車者ではないと言い切れるのかということですと申し上げたときの、あの自問しなければならない問いと表裏一体の関係にあるのです。

 冷戦時代の人類にとって、安全保障上の最大の脅威は米ソ核戦争の脅威であり、ソ連の脅威を封じ込めることがNATOや日米同盟の最大の目的でした。しかし、ソ連が崩壊した冷戦後の世界においては、人類の安全保障上の脅威はいろいろな意味で拡散しており、NATOは、その目的をもはや加盟国の領域防衛に限定せず、領域外の平和や安定への貢献もその目的に含まれるとの同盟の再定義を行いました。日米同盟さえも、その目的を再定義し、地域の平和への貢献を目的につけ加えました。

 NATOや日米同盟に結集した先進民主主義諸国の世界平和に対するコミットメントこそは、不戦共同体と私が名づける二十一世紀の世界大、地球大の不可逆的な潮流そのものであります。この潮流により多くの諸国を引き込む努力が関与政策であり、そのような努力を支える理念が積極的平和主義であります。私どもが発表した二つの政策提言、つまり「積極的平和主義と日米同盟のあり方」及び「膨張する中国と日本の対応」は、このような考え方に基づいて構想されたものであります。

 オバマ政権下の米国は、イラク、アフガニスタンからの撤兵とタイミングを合わせて、アジアへの回帰という戦略転換を打ち出しております。この戦略転換については、膨張する中国を意識したものであると言われます。その見方は間違っていないと思いますが、中国を見る米国の目は、冷戦時代にソ連を見ていた米国の目とは全く異なることだけは最後に一言申し述べておきたいところであります。

 中国が過去二十年以上にわたり二桁台の国防費増を続け、特にその海洋進出が米国に対しアクセス拒否を主張するようなレベルのものとなっていることについては、放置しておいてよい理由はなく、日米同盟としてリスクヘッジの対応は必要ですが、日米中三カ国の経済的相互依存関係もまた決定的な段階に入っています。

 中国は、その国力伸長のために、軍事力を心理的、政治的に利用することをちゅうちょしないでしょうが、だからといって、米国を相手にその軍事力を物理的、軍事的に使用することは考えていないと思います。それは、冷戦時代のソ連にとってさえも、越えてはならない一線でした。

 中国を国際社会に関与させる以外の選択肢は日米ともにないと言わざるを得ないのです。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

中井委員長 ありがとうございました。

 次に、村岡公述人にお願いいたします。

村岡公述人 ただいま御紹介にあずかりました、経団連の経済政策委員会企画部会長を務めております東芝の村岡でございます。

 本日は、予算委員会の審議におきまして私どもの考え方を述べさせていただく機会を頂戴いたしまして、まことにありがとうございます。

 初めに、日本経済が置かれております状況について申し上げた後に、今後の発展に向けた経済政策に関する経済界の考え方とその評価、それから政治への要望につきまして意見を申し述べたいと存じます。

 まず、日本経済が直面しています課題について、大きく五点に整理をして申し上げたいと存じます。

 まず第一でございますけれども、二十年近くに及びます低成長、いわゆる失われた二十年の問題でございます。

 日本経済は、バブル崩壊後、その調整に手間取る一方、経済のグローバル化が進む中にあって、その流れにふさわしい事業環境を国内に構築することができずに、海外市場の成長を十分に取り込むことができませんでした。その結果としまして、巨額の需給ギャップを長らく埋めることができずに、いまだにデフレに苦しんでいる状態であります。

 そして、経済の長期低迷によりまして、日本は次々と課題を突きつけられることになっております。例えば、世界から見て、日本の存在感あるいは国際競争力、こういったものが低下をし、国内外の企業による日本への本格的な投資が減少いたしました。また、投資が少なくなれば、当然、新しい雇用も生まれなくなってきます。とりわけ、若い世代の雇用あるいは所得が不安定になってまいります。

 第二は、本格的な少子高齢化の影響であります。

 先日公表されました国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口によりますと、人口減少や少子高齢化が加速していく実態が浮き彫りになっております。

 経済成長と人口問題は、需要面でも供給面でも、切っても切れない関係にございます。とりわけ、すぐれた人材を国際競争力の源泉としてきた日本にとりましては、供給面において、いわゆる働き手の減少が重要な意味を持ってまいります。また、高齢化が一段と進めば、多くの人手に頼らざるを得ない医療やあるいは介護、こういった分野で大きな影響を受けてまいります。

 近年、国民の間でもこうした問題に対する危機感が共有されるようにはなりましたけれども、多様な働き方に対応した柔軟な労働市場の改革あるいは環境整備など、こういった具体的なアクションという段階ではまだ国民全体の足並みがそろいにくいというのが現状であると存じます。

 第三は、財政問題と社会保障制度の行き詰まりであります。

 一般会計における社会保障関係費は、急速に進行する少子高齢化によりまして、増加の一途をたどっております。巨額の財政赤字を背景とした国債費とともに、確実に財政を圧迫して、歳出の自由度を低下させております。一方、歳入面におきましても、二〇〇九年以降、経済の低迷を背景に税収が減少し、公債金を下回る状況が続いております。

 また、現行の社会保障制度は、戦後の高成長と人口増加を前提としました賦課方式となっているわけですけれども、これは、一人の高齢者を支える現役世代の数が、制度の設計当時と比べて、四分の一程度まで減少しております。こうした状況下では、明らかに限界に来ているというふうに言わざるを得ません。

 あわせて、勤労者にとって、社会保障の受益と負担に関する世代間の不公平に対する不満、あるいは制度の持続可能性への不安、こういったものはかつてないほど高まっております。そして、その不安が、実体経済においても、消費マインドを冷やし、内需の改善をおくらせるという一因にもなっております。

 仮に、今後とも現役世代あるいは企業の負担に依存する現行制度を続けるというならば、企業活力やそこで働く従業員のやる気を低下させるだけでなくて、若者の就業機会、ひいては雇用そのものも失われていくということになりかねません。その結果、経済成長が阻害され、社会保障制度を支える力がかえって弱まっていくという負のスパイラルを招くことにつながるというふうに思っております。

 第四は、震災対応のおくれであります。

 日本経済は、世界同時不況から立ち直り、回復の兆しを見せ始めたやさきに東日本大震災に見舞われました。しかし、企業にとっては、震災の影響がある中でも供給責任を果たし続けなければ、国際的な競争に生き残ることができない、雇用も維持ができない、こういった責任感と危機感のもとに各社が業界の枠を超えて懸命な努力を続けたことによりまして、被災した生産拠点とサプライチェーン、この復旧は当初の想定よりも急速に進んだというふうに思っております。

 一方で、復旧復興の第一歩となる瓦れきの処理はなかなか進まずに、本格的な復興に向けた第三次補正予算の成立も昨年の十一月まで待たざるを得なかった。さらには、司令塔となる復興庁も、最近になってようやく設置をされる運びとなりました。経済界としましては、今後、復興庁のもと、これまでのおくれを挽回して、被災された方々の思いに応えるような生活再建や復興に向けた施策がスピーディーに実施されるということを強く期待しているところであります。

 最後の五点目は、エネルギー問題であります。

 昨年の大震災を受けまして、日本は、エネルギー政策の再構築という新たな課題を背負うことになりました。電力は日常生活や企業活動を支える土台であり、安定的な供給と安価なコスト、これは日本の再生を実現する上で必要不可欠な要素であります。

 昨年夏は、電力不足による大規模停電を回避するために、緊急避難的に大幅な節電が必要となって、国民や企業に大きな負担が生じました。政府には、国民が安心して暮らせるよう、また企業が国内で計画的に事業を運営できるよう、電力の安定供給と経済性のあるコストの実現に向けた対策を引き続きお願いしたいと存じます。

 こうした短期的な政策に加えまして、中長期的なエネルギー政策につきましても、現実的かつ多面的な視点から慎重に分析と検討を行い、日本の発展に役立つような実現性のある政策を提示してほしいと考えております。

 仮に昨年のような混乱が生じるようなこととなれば、企業は、行き過ぎた円高、高い法人実効税率や重い社会保険料負担、TPPを初めとする経済連携協定のおくれ、硬直的な労働市場、不合理な環境規制などの五重苦に加えまして六重苦に直面するということになり、生産拠点の海外移転を必要以上に加速せざるを得ない状況に追い込まれることから、国内拠点の空洞化に拍車がかかるおそれがございます。

 海外移転を企業活動のグローバル化の動きとして当然視する見方もございますけれども、移転が行き過ぎれば、国内における雇用維持が困難になり、地域経済は確実に疲弊をします。日本全体としても、中長期的な経済成長のエンジンとなる、技術力を初めとする産業競争力の基盤を失いかねないというふうに考えております。

 それでは次に、こうした課題を目の前にして、再び力強い持続的な経済成長を実現していくために何をなすべきかということにつきまして、大きく二点申し上げたいと存じます。

 第一は、成長戦略の実行であります。

 日本経済を早期に立て直し、再びダイナミックな経済成長を実現していくためには、経済の牽引役である企業が、みずから知恵を絞り、行動を起こす必要がございます。そして、企業が主体となってイノベーションを次々と起こすことによって日本経済が成長して初めて、新たな雇用機会の創出、財政の健全化、持続的な社会保障制度の確立、さらには震災からの早期復興、こういった重要課題に、より有効な対策を講じることができるというふうに存じます。

 そのためには、何よりもまず、企業が自由な創意工夫に基づき、そのポテンシャルを十二分に発揮できるような環境整備が重要となります。

 その際のポイントは二つございます。一つは、イノベーションを支えるための研究開発予算の拡充と税制面での支援、新たな成長が期待される分野における規制緩和であります。もう一つは、海外経済の成長を日本経済に取り込んでいくというための経済連携協定の推進であります。

 世界各国は、自国の発展に向け、競ってFTAやEPAの締結を通じた経済連携の推進に取り組んでおります。日本も、少子高齢化に伴い内需の大きな伸びが期待しにくい中にあっては、こうした潮流におくれることなく、主要な貿易・投資相手国との間で高いレベルの経済連携を実現し、海外市場の成長を取り込んでいくというふうにしなければいけないと思います。とりわけ、世界の成長センターとなっておりますアジア太平洋地域における経済連携の推進は日本経済の再生と持続的成長を実現するための必須条件であり、TPPへの早期参加は喫緊の課題であると存じます。

 実際に、こうした政策メニューは既に新成長戦略として取りまとめられており、実現に向けた工程表も示されております。企業経営では、経営理念のもとに将来の姿を描いた中期経営計画を立てまして、これに基づいて工程表を策定します。工程表は作成するけれどもそれが実行されなければ、経営は成り立ちません。したがって、経営者はその執行に全力を挙げています。政府におかれましても、引き続き、新成長戦略で示した工程表に沿って目標の実現に努めるべきであると存じます。

 また、日本再生戦略の策定に当たっても、まずは新成長戦略の施策のフォローアップを行うということで制度面の課題を整理し、その解決に向けた対策を練る必要がございます。その際に留意すべきは、個々の施策のレビューだけでなく、日本全体としての評価、例えば、新成長戦略で掲げました立地競争力がおよそ二年前の戦略策定時と比べて強化されているかどうか、こういったことなども検証する必要があると存じます。

 第二は、社会保障と税財政一体改革の着実な推進であります。

 先ほど申し上げましたとおり、社会保障制度における世代間格差の拡大を防ぎ、同時に財政健全化への道筋をつけていくことは、経済成長を実現していく上でも、次の世代が将来に対して希望を持てるようにするためにも、重要な課題であります。同時に、我々世代が果たすべき責務の一つでもあります。

 日本の財政は、債務危機が続いております欧州各国と比べても厳しい状況にあり、一刻も早く財政の健全化に着手する必要がございます。その際、社会保障給付の徹底した効率化、重点化と、消費税を含む税制の抜本改革は避けて通れないと存じます。万一、こうした対策で後手に回り、市場の信認を失うような緊急事態に陥りますと、いや応なく、社会保障給付の削減を初めとする大幅な歳出削減と大規模な増税を迫られ、生活や雇用に大きな影響が出ることは必至であります。

 こうした中、政府におかれましては、二月に社会保障・税一体改革大綱を閣議決定され、消費税率の引き上げ時期や上げ幅などを盛り込んだことは、将来に向けた重要な一歩であったと存じます。経済界としましては、政府、与野党の協力のもと、社会保障給付の効率化、重点化に一段と踏み込み、現役世代に過度な社会保険料の負担を求める現行制度を早急に見直していただきたいというふうに考えております。

 最後に、これまで申し上げた施策の実行に当たりまして、三点お願いしたいことがございます。

 一つは、経済成長の重要性に対する再確認であります。

 国民の生活はさまざまな形で経済成長によって支えられているという点は、御理解をいただいているとおりであります。また、失われた二十年の間に、雇用情勢の悪化や厳しい財政事情など、経済成長が実現しなかったことによるデメリットも十分に認識されていることと存じます。

 経済界が経済成長の必要性を訴えますのは、単に経済的な側面のみを重視しているからではございません。むしろ、企業に身を置いている立場から申し上げれば、企業活動の活性化を通じて経済成長を促進し、現在の生活をさらによくするというために、ひいては国益を守っていくといった思いの方が強いという点であります。

 二つ目は、日本の経済社会を取り巻く環境が急激に変化している点であります。

 企業は、生き残りをかけて、みずからのアンテナを高くし、事業環境の変化を日々察知するよう努力をしております。リーマン・ショックの事例を挙げるまでもなく、日本経済は、世界経済との結びつきをますます強めている中で、事業環境の基盤をなす政策面においてもこうした変化に対する認識をきちんと把握しなければ、時宜にかなった対応をとることはできないと存じます。制度面での優位性を他国に先んじられるならば、自国の制度をより大胆に変えない限り、企業にとっては魅力的には映りません。

 そして三つ目は、スピード感、あるいは見える形での具体的行動であります。

 先ほど申し上げました日本経済が直面する課題、これは相互に関連があるため、何か一つの対策を講じれば経済が飛躍的に成長するというものではありません。むしろ、成長を阻害する要因を着実に解決していくという明確な姿勢を示して、スピード感を持って行動へと移すことが大切であります。

 最近、成長戦略の一つでありますパッケージ型インフラ輸出の動きが見られまして、経済界としても歓迎をしておりますけれども、今後は、こうした成長戦略で掲げられました芽をふやし、目に見える形で前進をさせるということが重要であると存じます。そして、その積み重ねが、国民や企業が将来に対して抱く漠然とした不安、これを軽減させる一方で、消費や投資行動を促し、将来につながる新たな芽を生み出すといった好循環を形成していくものと存じます。

 以上申し上げました点につきまして予算面での特段の御高配を賜りたく、私からの意見陳述を終わります。ありがとうございました。(拍手)

中井委員長 ありがとうございました。

 次に、湯元公述人にお願いいたします。

湯元公述人 ただいま御紹介をいただきました日本総合研究所の湯元でございます。

 本日は、非常に重要な場で発言の機会を頂戴いたしまして、大変光栄に存じております。

 私の方からは、政府が閣議決定いたしました社会保障・税の一体改革大綱につきまして、エコノミストという立場から、その内容の評価、あるいはこの改革を進めていくに当たりましての課題、そういったものにつきまして私見を申し上げさせていただきたいと思っております。

 お手元の方にちょっと資料をお配りさせていただいておりますが、一ページに、大綱の全体的な評価と四つの論点ということで書かせていただいております。

 全体的には、少子高齢化あるいは格差拡大、こういった大きな環境変化が進む中で、医療、介護、年金のみならず、子育てというところまで対象を広げる形で社会保障費の安定財源確保を目指している、また、それが財政健全化に向けた第一歩を踏み出す形にもなっているという意味では、高く評価したいというふうに考えております。

 他方で、社会保障・税の一体改革と銘は打っているわけでございますが、どうしても消費税の引き上げということが、マスコミも含めて、前面に出てしまっている印象があるのではないかと思います。

 一体改革でございますから、あるべき社会保障の理念、ビジョンはどういうものなのかということが、国民一人一人が実感できる形で、より明確に打ち出されていることが期待されるわけですが、その印象のところは少し乏しいかなというのが正直な私の実感でございます。

 それゆえに、個別のさまざまな改革、これはそれぞれが必要な改革だと思いますけれども、なぜそれが必要なのか、あるいは、どういった優先順位でその改革を実行していくのかということについては、やはりまだ国民にまで十分届いていないような感じになっているのではないかなと思います。この点につきましては、後ほどまた詳しく申し上げたいと思います。

 それから、消費税と社会保障をめぐりましてはさまざまな論点が提示されているわけでございますけれども、私は、四つに論点を絞りまして、以下お話をさせていただきたいと思っております。

 一つ目の論点が、消費税の使い道。五%引き上げる場合に、それを何に使うのかということでございます。

 これはやはり国民の理解と納得をしっかり得るためには極めて重要なポイントでございますし、それから、後ほどまた御説明したいと思いますが、消費税の引き上げが経済にどういった影響を与えるのかという観点からも、この使い道というのは非常に重要な意味を持っているというふうに考える次第でございます。

 それから二点目でございますが、今回は、二〇一五年までに五%引き上げて一〇%にするという大綱でございますが、もっと先まで見据えた際に、一〇%で十分であるということでは決してなくて、一〇%というのは第一ステップにすぎないということかと思います。全体的な見取り図を持って一五年度以降の第二ステップまで見据えた議論を第一ステップの議論をする際に考えていかないと、社会保障と税の一体改革をしていくことは非常に難しいのではないかと思う次第でございます。

 それから三点目が、先ほどもちょっと触れましたが、社会保障の将来像でございます。

 税制とともに、社会保障のあり方といいますのは、やはり日本の国の形を示すという意味で極めて重要かと思います。

 それから論点の第四番目は、消費税率の引き上げの影響。どういうタイミングで引き上げるのが適切なのか、あるいは引き上げに当たっての、まさに国民の理解と納得を得る上での前提条件とは何かといったようなことについてお話をしたいと存じます。

 お手元の資料二ページをお開きいただければと思いますが、最初の論点一、消費税の使い道についてということでございます。

 ここで、大綱の中の御説明はこういうふうに書いてございます。消費税収というのは、官の肥大化には使わず、全て国民に還元するというふうな文言が入っておりまして、その意味では消費税を社会保障目的税化するということが明記されています。私自身、この方針自体は、非常に納得がいく、正しい方針だと思っております。

 他方で、この使い道につきまして財務省等が内訳の説明をしているわけでございますが、その内容を下に少し書かせていただいております。

 一つは、今の社会保障というのはいろいろなひずみもあらわれてきている、そういった問題に対処するために、社会保障を改革したり、あるいは充実していく、こういったところにお金を回すということでありまして、ここには、待機児童の解消ですとか、医療・介護サービスの充実ですとか、低所得者対策等々が入っているわけでございます。その財源として、これはネットの金額ですが二兆七千億円、消費税収にしまして約一%分を振り向けるということが書いてございます。

 そして二番目としまして、社会保障の安定化という言葉を使いまして、これは今の社会保障制度を守ることであるということで、これに十兆八千億円程度、消費税換算で四%程度の分を充てるということであります。

 そして、この社会保障の安定の内訳は何かということで見てまいりますと、一つは、基礎年金国庫負担額の引き上げで、これが二兆九千億円。括弧内は消費税換算を私が試算したものでございます。

 そして二つ目が、後代への負担のツケ回しの軽減というふうに書いてございます。これは一般の国民が見てもわかりにくい表現だろうと思いますが、その意味合いとして、高齢化等による社会保障の増加や安定財源が確保できていない現行の社会保障への対応、こういう説明があります。

 前者の高齢化等による社会保障の増加というのは、いわゆる社会保障は、高齢者の数がふえましてどうしても増加していく部分、それから医療技術の高度化等によりまして増加していく部分であろうかと思います。

 そして、もう一つの、安定財源が確保できていない部分というのは、現在時点で社会保障は消費税で全額賄われていない状況でございます。この穴は一般的にすき間と呼ばれていますけれども、これを埋めていくということでありまして、両者合わせまして七兆円、消費税換算で約二・六%分の財源を充てるというふうになっております。

 ただ、この両者は性格的に似ているようでも少し違う部分がありまして、それぞれどれくらいの割合で充てていくのかということについては何ら言及がされていない状況になっております。

 そして、最後の、消費税引き上げに伴う社会保障の支出の増でございますが、これは、年金の物価スライドですとか、あるいは、医療は原則非課税でございますから、仕入れコストが消費税引き上げによって上がると医療機関に甚大なダメージが及ぶということで、ここも歳出予算で手当てをする、こういうことでこの予算が計上されているということであります。

 以上、こういう形で説明はなされていますが、ここから受けます私も含めた一般国民の印象として、社会保障に充ててこれを国民に全額還元するといった部分はどこに当たるのかというと、最初の、社会保障の充実で一%使うというところではないかなというふうに思います。残りの四%は、やはり、社会保障とはいいましても、社会保障に係る現在の借金の返済、それから、これ以上赤字がふえないようにするための財源手当てでありまして、ちょっと言葉でのイメージと数字の内訳は乖離があるのかな、国民への還元よりも財政健全化目的の方にウエートが置かれているという形になっているのではないかと思います。

 これの是非は、もちろん人によって、そうすべきであるという方もいらっしゃるでしょうし、もっと社会保障の充実に充てるべきだとおっしゃる方もいらっしゃいますので、これは議論のあるところだと思います。

 こうは申しましたが、今現在、二〇一一年度時点で国、地方を合わせました社会保障、これは高齢者関連の三経費のみならず四経費というところで申し上げますと、この金額は三十二兆円に達しているということでございまして、現在の国、地方を合わせた消費税収が十三兆円ということを考えますと、十九兆円も上回っている。このファイナンスがまさに借金で賄われておりまして、これが将来世代へのツケ回しになっている、負担の先送りになっているということでございまして、こういった将来世代に対する責任でございますとか、現在の日本の財政状況の深刻度、こういったものから判断すれば、この財政健全化をしっかり進めていくことは非常に重要な課題であるということを、私自身、全く否定するものではないと思っております。

 私が申し上げたいのは、単に五%の中身云々ということではなくて、この五%の中身にこういういろいろな、将来の消費税引き上げによって対応しないといけない部分が含まれていて、それを一体何にどういう形で優先的に振り向けていくのか、こういった議論が余りなされていないのかなという実感がするわけであります。

 つまり、社会保障の充実をもっと最優先で考えるべきであるという考え方もあるでしょうし、それから、社会保障の不足の穴、やはり今の借金の大きさを考えると、これを埋めていくということを最優先で考えるべきである、あるいは、将来の高齢化に伴って生じる増加は、毎年の予算編成において国債をどこまで発行するのかというせめぎ合いの中で決定していかないといけないことでありますから、これを優先しないといけない、こういう考え方もあろうかと思います。

 いずれにしても、こういう考え方を非常に明確にするということが、まさに国民に理解と納得をしていただく上で重要なのではないかと思う次第でございます。

 そして、次のページでございますが、この点自身は第二の論点にも非常にかかわってくる問題であろうかと思っております。

 二〇一五年までに一〇%に上げるという基本方針が打ち出されたわけでございますが、もっと先を考えれば、それで全てが万事うまくいくと考えておられる方はもう余りいないのではないかなと思うわけでございます。

 では、一五年度以降、五%引き上げだけではなお足りない分というのはどういうものがあるのかをここに示させていただいております。

 一つは、今申し上げたことと重複する面がございますが、自然増。これは毎年一兆円以上の金額がふえていくというものでございますから、これを毎年の予算編成で考えていかないといけないということでございます。

 そして、基礎年金、高齢者医療、介護などの高齢者三経費が十二・八兆円あるわけございますが、これが、五%引き上げである程度は対応いたしますけれども、まだ不足分が残るということでございます。私の計算では三兆円近く残るというふうに考えております。

 そして、さらに消費税の対象を高齢者三経費から社会保障四経費に拡大するということでございますが、この四経費分で、特に三経費を除いた四経費のところ、ここで足りない分も当然出てくるわけでございまして、これについても、実は、計算上は十兆円近い金額が不足するのではないかと思っております。

 それから、最後の四番目は、特に社会保障との関連はございませんが、二〇二〇年度までにプライマリーバランスを黒字化するという政府目標を達成するためにも、財政収支の改善努力が必要になるということでございます。

 四番目を除きます一番、二番、三番で、二〇一五年度以降、トータルでどれくらいの消費税率の引き上げが必要になるかという計算を私なりに試算いたしますと、追加で約七%引き上げが必要になる。これはいろいろな前提条件の置き方によって幅が出てまいりますけれども、一定の前提のもとではさらに七%必要だという計算をさせていただいております。

 そして、四番目の財政健全化のために、これは仮にでございますが、これを全て消費税の引き上げで賄うということであれば、これは経済シナリオを楽観的シナリオにせずに内閣府が提示されております慎重なシナリオで計算をしておりますけれども、消費税換算で見ますとさらに追加で五%の引き上げが必要ということとなりまして、全部対応していきますと二〇%を超えることが計算上明らかになります。

 その他、新しい年金制度をつくるとか、マニフェスト関係での施策を継続するとか、そういうことをいろいろやりますと、さらに財源が必要になってくるということでございます。

 なお、財政健全化については、私の個人的考え方を申し上げますと、今は、なかなか歳出削減も進めていくのが難しい状況であって、消費税の引き上げはもう不可避であるという論調が多いんですが、私は、社会保障というどうしても経済成長の伸びを上回って伸びる部分については、消費税という、何らかの税収、財源を確保して対応していく。そして、社会保障以外の部分の歳出は、名目経済成長率の伸び率以下に歳出の伸びを抑制していく、つまり、歳出コントロールをしっかりしていく。この両方がしっかりできれば、GDPに対しての財政赤字幅は時間の経過とともに縮小していくということでございます。

 参考資料の方にも載せておりますけれども、スウェーデンの財政制度は、歳出の総額及び二十七分野ごとの歳出の額を、それぞれ、三年間、上限を設定して歳出コントロールをしています。そして、補正予算といったものは基本的にやらない。バジェットマージンという、日本でいうと予備費に当たるもので景気対策等の対応をしていて、それ以上のことは、よほどのショック、危機が起きない限りはやらないというような基本的考え方をとっている。そういうことで、スウェーデンも、実は過去の平均的な財政状況は黒字になっているというような状況でございます。

 それから、今申し上げた、二〇一五年度以降も含めて消費税を引き上げていくのかということはやはり国民の最大の関心事であろうかと思いますので、私の方からは、与野党ともに、その使い道と優先順位について、ぜひ国民にそれぞれの考え方の違いを明確にお示しいただくことを期待したいと思っております。

 それから、次の三点目、社会保障の将来像についてでございます。

 この点についても、私は、与野党の皆様に考え方の違いをよりはっきりと示していただきたいなというふうに考えているわけでございます。

 大綱に書かれていますそれぞれの細かい制度の概要を表にさせていただいておりますけれども、大ざっぱに見ますと、社会保障の充実というのは金額的に三兆八千億円で、ここに掲げてあるようなさまざまな政策が盛り込んでございます。そして、他方で、社会保障の重点化と効率化を行うことによって給付の抑制や負担の増加等も含めて一兆二千億円の財源を新たに生み出すということで、ネットで二兆七千億分の消費税の引き上げ財源と、効率化財源を合わせて三兆八千億円の社会保障の充実を行うということであります。

 この三兆八千億円でどういう社会保障の姿を目指すのかということについて、ちょっと考えてみたいと思うんです。

 第一点は、今までの高齢者中心の社会保障から現役世代の生活保障機能を強化する、こういう視点があろうかと思います。そして、今回の大綱の中では、まさに全世代対応型というようなキャッチフレーズが出ておりますけれども、私は、こういった方向への転換というのは、まさに今の非常に厳しい若年層の失業率、あるいはなかなか雇用機会を見出せない厳しい状況、格差の拡大等々の状況を考えると、当然強化していかないといけない方向であろうかと思います。

 後ろの方に、参考で、またこれもスウェーデンのような子育て支援、それから、いわゆる職業訓練等を含みます積極的労働市場政策、そういった形で若年層に重点的に給付を配分する。例えば、日本の社会保障は七割が高齢者向けでございますけれども、スウェーデンの社会保障は、的確な指標はなかなかありませんけれども、実は大体五割ぐらいでありまして、残りが現役世代向けの社会保障になっているということでございます。

 この改革案はそれに向けた第一歩として私は評価したいと思いますけれども、ただ、そういうスウェーデンを初めとしたヨーロッパ諸国などと比べると、まだまだ十分ではないというふうに考えざるを得ません。

 それから、実は、職業訓練、雇用政策だけではなくて、スウェーデンは教育の方にも非常に力を入れまして、これは当然、義務教育を初めとしまして、中等、大学、大学院教育、ここまで一切無料にして人間の能力を高めるための支出というものを出していまして、そういった教育も実は社会保障の一環であるというような認識、考え方を持って進めているということでございます。そういう視点がまだこの段階では入っていないのは、少し残念な気がいたします。

 それから、二つ目の視点として、まさにこの中身でございますが、所得再配分機能をどこまで高めることが必要なのかということでございます。

 当然、貧困・格差対策を強化するということで、低所得層に対する年金の加算ですとか、受給資格期間の短縮ですとか、保険料の軽減ですとか、こういう政策が設けられています。こういうセーフティーネットの強化というのは、今の状況を鑑みれば、ある程度やっていかないといけない必要な対策だと私は思っておりますけれども、では、それをどこまでやるのか。この線引きの基準というのはやはりそういう大きなグランドデザインを描いた上でやらないと、何か、現状がこうなっているのでそれに手当てをしていく、そういう対応になりますと、制度としての一貫性や公平感の問題や、いろいろなものが失われるおそれが非常にあるのではないかな。

 例えば、スウェーデンやデンマークというのは、ジニ係数が世界一低くて、最も所得再配分が進んでいますが、まさにこういう国のようにするということがコンセンサスであるならば、これはもう負担は今程度の問題ではなくて、大変、国民負担率で六五%とか、そういう負担をしていかないとなかなかできないものでありまして、まさにこれはこの国の形を議論するテーマでありまして、そういうことを議論していかないと結論が出せないテーマではないかなということであります。

 したがって、今回の案では制度ごとの負担調整をしていますけれども、まさにこれをどこまでやるのかというビジョンなしには進めることができない問題ではないかなと思います。

 それから、給付つき税額控除を二〇一五年度以降導入するという予定になっていますが、この低所得層対策の、特に、さまざまな施策とこの給付つき税額控除というのは一体どういう相互関係にあるのか。これはつなぎということなのか、これをやった上でさらに給付つき税額控除をやっていくということなのか、こういう点についてもはっきりしていない部分があると思います。

 いずれにしても、重要なことは、勤労インセンティブ、あるいは保険料支払いのインセンティブ、こういったものを損なわない制度設計にしていかなければ、モラルハザードの助長ですとか社会保障制度そのものの持続可能性にも影響を与えかねないという点で、注意深く検討していく課題ではないかなと思っておるわけでございます。

 ちょっと社会保障のところで長過ぎましたので、次の五ページの方に移りたいと思いますけれども……

中井委員長 湯元公述人、まことに恐縮ですが、時間を大幅に超過しておりますので、少しおまとめをお急ぎください。

湯元公述人 最後のところは、もう基本的に簡単でございますけれども、消費税の引き上げの影響につきまして、最初に申し上げた、何に使うか。つまり、社会保障に充てるのであれば、これは国民に全額還元され、経済には基本的には大きな影響を与えないということでございます。他方で、社会保障といえども財政再建に回すということであれば、これは家計から所得を吸収するということになりますので、一定の影響が出る。

 つまり、私が申し上げたいのは、影響の大きさというのはバランスをどういうふうに考えるかということに依存していますので、そこも踏まえた御議論をしていただければ非常にありがたいというふうに思っております。

 そして、引き上げの幅、タイミング等々につきましても、当然、経済状況の好転というのは必要でございますが、デフレから数十年脱却できない状況の中で、デフレ脱却が視野に入ってこないと家計の所得は当然ふえませんので、家計の痛みが非常に大きくなる、こういうことも考慮していただきたいなと思っております。

 最後に、身を切る改革につきましては私も当然必要だと思っておりますが、ただ、身を切ったから巨額の財源が出るという幻想を国民に与えるべきではないと思いますし、それから身を切るまでは上げるべきではないという議論についても、反対派の口実になるんではないかと思います。

 したがって、無駄の削減というのは、当然、どういう状況であろうと恒常的にやっていかないといけないテーマであろうというふうに考えております。絶えず実施していくべきテーマであるというふうに考えておる次第でございます。

 以上で私の公述を終わります。どうもありがとうございました。(拍手)

中井委員長 ありがとうございました。

    ―――――――――――――

中井委員長 これより公述人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。笹木竜三君。

笹木委員 民主党の笹木竜三です。

 質問を始めます。

 最初に、仲川公述人にお聞きしたいわけですが、先ほど、国と地方のやることの役割分担を明確にするように、そういうお話もありました。そして、地方が使えるお金、そうしたものを一括交付金も含めてふやしていくべきだと。額としてはふやしていますし、地方交付税もふやしているわけですが、そういうお話もありました。

 そんな中で、国がしっかりとやるべきこととして教育というのがあります。その水準、最低水準をしっかりと国が保障する、これは国の大きな役割だとも思っています。

 きのうも話題になっているわけですが、我々は、政権交代後、いち早く、公立高校の授業料の無償化、そして私立高校は、所得によっていろいろ差はありますが、それに見合うぐらいの額を支援金として渡す、これを実施しました。中途の退学者が減っているとか、将来の人生設計も教育の選択肢も非常にふえたという声も多いわけですが、そのことの評価についてまずお聞きしたいと思います。

仲川公述人 御質問にお答えさせていただきます。

 高校無償化というものにつきまして、もちろんこれは非常に大きな効果はあるかと思っております。経済財政状況の非常に厳しい中で、子供たちの進路、また、実際に社会に出ていくための窓口としての高校の役割というのは非常に大きいと思っております。

 しかし一方で、子供たちが高校を中退する理由というのがほかにもさまざまございます。これは、教育の質の問題もあれば、社会全体に夢を持てないというようなこともございます。このあたりは複合的に議論をしていく必要があろうかというふうに感じております。

笹木委員 あわせて、湯元公述人にも今の点をお聞きしたいわけです。

 スウェーデン・モデルのお話がありました。スウェーデンでは授業料というのは大学院まで無料だ、そういうようなこともいろいろなところで報告をされています。ぜひ、公立高校の授業料無償化、この政策の評価、そして今後についても一言いただければ、そう思います。

湯元公述人 お答えいたします。

 スウェーデンの教育制度は、義務教育から高校、大学、大学院まで無料ということになっております。

 スウェーデンの政策の基本的考え方というのは、教育や社会保障というものは人に対する投資であるという考え方をしております。スウェーデンの非常に高福祉な社会保障を維持していくというためには、小さな国ですから、国際競争力を強化して経済成長を高めていかないといけない、これがバックの認識としてございまして、経済成長力を高めるためには、やはり人材というものを育成していくことが非常に大事だという認識のもとに、この部分について無償化をしている。

 しかし、当然、国民に対してはその分のコストというものを大きな負担として負担していただくということですから、そういった形での了解があって初めて無償化をしている。特に高等教育に関しましては、一旦社会人になって働いた後、自分の能力をさらに磨くために大学や大学院に入り直して、さらに転職をする、こういう方々が日本などと比べるとはるかに多くて、大学で三十代以上の方のウエートというのは三三%、平均年齢も二十六歳という形になっておりまして、生涯を通じた教育に力を入れているということでございます。

笹木委員 きのうも、さらに給付型奨学金の充実をしろとか、いろいろないい御意見もいただきました。我々が政権交代して、それまでOECDの中でも例外的にそれを行っていないという状況を脱皮しました。こうした人への投資、しっかりと充実をしていきたいと思っています。

 あわせて、仲川公述人の方からお話がありました、余りころころと決めたシステムを短期間で変えてくれるな、こうしたこともしっかりと受けとめていきたい、そう思っております。

 次に、社会保障と税の一体改革についてお聞きをしたいわけです。

 ぜひ公述人の皆さんにも認識いただきたいんですが、今、ねじれと言われています。でも、御承知のように、ねじれというのは、仲川公述人も市議会でいろいろ苦労はされていると思うんですが、我々与党だけじゃないんですね、過半数を参議院で持っていないのは。民主党以外も過半数を持っていないわけで、やはり合意をつくっていくことが、そのルールをつくっていくことが与党、野党ともに求められている。与党、野党というのは今後かわる可能性も十分あるわけですから、そういう習慣というかルールをつくっていくことが今非常に大事なんだろうと思います。

 そうした中で、お聞きしたいんですが、例えば、私も地元でいろいろな話をします。しかし、先ほど公述人のお話にもありましたが、今後高齢者がふえる、そして年金、介護、医療、こうしたことの費用がどんどんとさらにふえていく、それについて、自己負担を上げるだけで対応するのか、あるいは保険料を上げるだけで対応するのか、それでできると思いますかという質問をすると、ほとんどの方は、やはり無理だろう、国庫負担、税金は必要だろう、そういう話になっていきます。税金はどれだということで、この国会の中でも、ほかの税金じゃなくて消費税でやはり見ていくしかないんだろう、そういうふうに考えている政党は決して少なくないと思います。

 そんな中で、今、いろいろ考え方の違いはあります。先ほど公述人からお話があった、将来の社会保障像についても違いがあるし、目先の使い方についてもいろいろな違いはあります。しかし、少しでも速いスピードで与党と野党が意見を出し合って合意をつくっていく。全て合意できるかどうかはわかりません。共通の合意を早くつくっていく、社会保障像についてどこまでは共通部分だと。しかも、第二ステップ以降の将来の社会保障像について。こうしたことは本当に急いでやらないといけないと思うわけですが、そうしたことについて、仲川公述人、そして村岡公述人、湯元公述人の御意見を伺いたいと思います。

仲川公述人 お答えいたします。

 この社会保障と税の一体改革に伴う増税ということについては、地方でも非常に大きな影響があるということを考えております。増税に際しては、その前にしっかりと、先ほど申し上げたような国における財源捻出を徹底して、身を切ってやっていただくということが当然大前提だと思っております。

 ただ、この財源捻出のために数年間かかるというようなことではやはり制度設計がままならないですし、現場の要請というものはどんどん進んでまいりますので、追いつかなくなってまいります。

 そういうことでは、本来であれば、この二十四年度の当初予算案を御提案いただくに伴って、徹底した財源捻出をした上でこの予算案を提案いただくということであれば、今後の増税論議もさらに進むと思いますし、この一体改革もよりスピードを持って進めていくことが可能であるのではないかというふうに考えております。

村岡公述人 私どもも、経済界としまして、この税と社会保障の一体改革、これはやはり、少子高齢化に対応し、あるいは日本の財政の問題を解決するためにも必要なものだというふうに理解をしております。

 そうした中で、私の意見の中にも申し上げさせていただきましたけれども、今の現役世代に過度な負担を強いる、こういったやり方になりますと景気への影響もマイナスの方が出てくるということもありますので、税の方でもそれ相当の負担をしていく。保険料だけの見直しではなくて、税も含めた全体、あるいは給付のあり方も含めた全体の中で考えていくべき問題だというふうに理解をしてございます。

 以上でございます。

湯元公述人 社会保障と税の一体改革というのは、自民党前政権時代から重要な課題として認識され、議論されてきました。そして、日本が危機的状況を続ける中で、こういった重要な改革が本当に十年以上進んでいないというのが私の実感でございます。まさに、もう待ったなしの状況にあるのではないかと思います。

 そういう意味で、私は個人的には、何とかこの国会の状況も打開して、与野党が真摯にこの問題について議論を闘わせていただくというのが非常に大事なのではないかと思います。

 参考までに、またスウェーデンの話になって恐縮ですが、スウェーデンは、一九九一年に税制の抜本改革を実行いたしました。その前に、一九八八年あたりから与野党が委員会をつくって協議を進めまして、総選挙を経てその改革を九一年に実行した、こういうことをやっておりまして、やはり大きな改革というものをやるためには、与党、野党がいろいろ議論を深めながら、スピーディーに物事を決定していくということが極めて重要なのではないかと思っております。

笹木委員 それともう一つ、簡単にで結構なんですが、実施時期について。

 身を切る改革については、我々、選挙の前からそのことを約束もし、そして今もさらにやると言って頑張っているわけで、それは我々が責任も含めてしっかりと果たしていかないといけないわけですが、あわせて実施時期ですね。「経済状況の好転」ということを書いておりますが、そのことについて、村岡公述人と湯元公述人に一言ずつお話しいただきたいと思います。

村岡公述人 そういったことを含めてタイミングの問題も重要であるかと思いますけれども、今これが経済に与える影響が大きいからやれないだとか、そういうことではなくて、これを歳出削減あるいは自分で身を切ることも含めてやることによって、皆さんが安心感が出てくる。それによって将来の明るい展望も開けて、企業も雇用もふやしていける。そういうポジティブ、プラス面のところをもっと見ていく必要があるのではないかと思います。

湯元公述人 今の状況では、経済情勢の好転ということを各種経済指標を見ながら総合的に判断するということになっておりますが、先ほどちょっと申し上げましたとおり、その総合的の中にデフレ脱却というものが視野に入ることが必要なのではないか。

 視野に入るという意味は、数字として出てくる、デフレから脱却する数字を見るということではなくて、翌年度の政府経済見通しにおいて、物価関連の各種指標がありますが、それを総合的に判断して、デフレから脱却できる状況になるというふうに判断をされた場合には、やる必要があろうかと思います。

 また、逆に言えば、それが見込めない状況下でやるということは、国民により大きな負担が出てきますので、その辺の見きわめは慎重にやっていくべきだと思っております。

笹木委員 最後に、TPPについてお伺いしたいわけですが、伊藤公述人、いろいろお書きになったものの中で、アジアでの五十年、百年後の構想を日本はしっかりとビジョンを持っていくべきだというお話であったり、あるいは、日米と日中両方を整合的に位置づけを考えていく、この必要性があるということも書いておられます。

 そんな中で、TPP、もちろん、公的な医療保険制度とか安全な食の確保とか、こうしたものは我々は妥協しないでしっかりと確保していかないといけないと思いますが、アジア太平洋の中での経済連携あるいは経済協力のルールづくり、これを我が国がみずから積極的に役割を果たしてルールをつくっていく、この協議を続けて合意を目指す、このことについて、伊藤公述人のお考えを伺いたいと思います。

伊藤公述人 御指名いただきまして、お返事を申し上げます。

 TPPは、野田首相が昨年のAPECの機会に交渉参加を突然言い出したということで賛否両論の反響を日本国内で呼んでおりますが、また、その批判的な議論の中に、TPPはアメリカが進めていること、それにくみしてアジアあるいは中国を敵に回すのかといったような批判もございますが、それらにつきまして、私は、一言で言って、批判の立脚点が間違っているのではないか。

 と申しますのは、TPPとTPP以外の貿易自由化の流れとは、日本から見て二者択一的なものではなくて、これは両方ともできるし、両方とも進めていかなければならないものである、かように考えております。

 現実問題としては、WTOの場において、グローバルに、世界的に、貿易の自由化、投資の自由化、それ以外にも経済の連携強化を進めていくべきものでありますが、WTOは全世界の国々が参加しているという、余りにも組織として意思決定、意思統一のメカニズムの欠けた場であるために、結果的に、二十年ぐらい前から、できる国の間で貿易自由化を進めようということで、FTA、さらにそれを発展させた形でEPAというものが展開し、それも主として二国間でアメーバのように広がっていくという、スパゲッティ現象とも申しますが、非常に混乱した状況のような、どこかで整理して、どこかで流れをまとめなければいけないという状況になっていたと思うわけです。

 特に、これは各地域において、地域主義、リージョナリズムという形で、北米大陸においてはアメリカ、カナダ、メキシコのNAFTA、欧州においてはEU、そして東アジアにおいてはASEANプラス三カ国、日中韓というような形で進んできたわけでありますが、特に東アジアにおいて、ASEANプラス日中韓の貿易自由化が理念、理論としては語られつつも具体的な政府間交渉になかなか入らないという中で、待ちかねていたように出てきたのがTPPである。したがって、TPPを通じて可能になる貿易自由化、その他の経済の国境措置の排除というものは、日本は拒否する立場には全くない。

 他方、東アジアの、例えばASEANプラス3の地域主義について、そっちはやめるのか、捨てるのかという批判については、そうではなく、同時に進めていくべきである。では、そっちを先にやるべきじゃないかという議論もございますが、そっちの方はまだ政府間交渉が始まっていないわけですから。それに対して、TPPはもう現実に政府間交渉が始まっているわけですから。

 物事の順序としては、日本が結果的にTPPの方を先に取り組んでいるように見えるのは、これは日本のせいではなくて、世界の流れがそうなっているということであって、しかし、同時にTPP以外の貿易自由化も進めて、最終的には、まずアジア太平洋においてFTAAPというようなものを目指しながら、可能なところから手がけていくべきではないかと思っております。

中井委員長 ありがとうございます。

 伊藤公述人、懇切丁寧にお答えいただくのは結構ですが、もう少し時間を、まことに申しわけありません。

笹木委員 質問を終わります。

中井委員長 次に、田中康夫君。

田中(康)委員 国民新党・新党日本の田中康夫でございます。

 私たちの会派は、フェアなタックス、フェアなトレード、フェアなエナジー、これはTPPならぬTTEと申しております。公平や平等というのは、これは全知全能の神とて難しいわけでして、フェアであるということが大事であろう。それはすなわち、切磋琢磨の正しいハイエクと、経世済民、あるいは富国強兵ならぬ富国裕民の新しいケインズというものの統合が必要かと思っております。

 今、伊藤公述人から、TPPとそのほかの経済の協定は二者択一ではないというお話がありました。私どももそうした見解であります。日本はもとより自由貿易国家であります。開国は既にしていて、至らぬ点を改める改国でなくてはなりません。しかし、FTAというジョギング、あるいはEPAというハーフマラソンをちょっとおサボりしていた国が突如フルマラソンのTPPに出るとなると、これはAEDの自動除細動器があっても、なかなか心臓麻痺は防げないかと思っております。

 こうした観点の中で、本日、社団法人日本経済団体連合会経済政策委員会の企画部会長でいらっしゃり、また、株式会社東芝取締役で監査委員会の委員長でいらっしゃる村岡富美雄さんに幾つかお尋ねを申し上げたいと思います。

 一月十五日の日本経済新聞で、いわゆるUSTR、米国通商代表部に米国生命保険評議会が文書で、かんぽ生命保険と共済保険に関する積年の課題を一挙解決するのがTPP参加の意義である、このことを日本に認識させよという文書を出しておりますが、これは経団連としては、当然の認識であろうというお考えでよろしゅうございましょうか。お聞かせください。

村岡公述人 申しわけございません。経済政策委員会そのものでの所管事項ではございませんで、詳しくは承知してございません。

田中(康)委員 しかし、公述人としては、経済政策委員会の部会長ということでお越しだと思いますが。

 もう一点、今、同じくUSTRへの文書で、アメリカの大手自動車三社で構成されている米国自動車貿易政策評議会というところが、日本のTPP参加には現時点では反対と表明されております。しかし、アメリカとしてはTPPを推進しようという立場かと思います。

 この中で、日本独自の軽自動車規格というものは日本国内のメーカーのみが恩恵を受ける非合理的な政策なので、これの廃止を求める、また同時に、アメリカ車の輸入に向けての日本市場の開放を義務づけるのがTPP参加ということの前提だというふうに書いております。この点に関してはいかがでございましょうか。

村岡公述人 確かに先生おっしゃるとおり、軽自動車については参入障壁があるということで当初記述されておりましたけれども、その後取り下げたというふうに私は理解をしてございます。

 それから、アメリカの自動車産業協会が日本のTPPに対して反対を表明しているということに対しても、これも、日本車に対する脅威も含めて、あるいは先ほどの軽自動車の参入障壁もあっての話だったと思います。

 ただ、一九八〇年代に、日米自動車摩擦、いろいろな貿易摩擦があった時点で、日本においても自動車のある一定量の輸入を義務づけてやりましたけれども、大きな効果が出なかったという実績がある。ということは、これは参入障壁という制度面での問題ではなくて、日本に合った、消費者が買うかどうかというところも大きく依存しているところだと思います。

 したがって、日本だけが入らないで独自のルールでやっていくのではなくて、そういうTPPの枠の中で、同じ土俵でみんなが同じルールでやっていく、その中で公平公正に競争していくということが大事で、必ずしも軽自動車を日本が独自にアメリカに参入させないためにやったのではないんだというふうにも理解をしております。

田中(康)委員 私どもは、ASEANプラス6という形で物を進めるということがプライオリティーとして最も高いという見解の会派でございます。

 ただ一方、きのう、日本政府がオーストラリア等四カ国との事前協議という中では、「全品目の関税撤廃を目指し交渉している」と日本政府が明言したというふうに共同通信が流したんですね。

 そういたしますと、村岡さんが御懸念あるいは期待をされているところが、軽自動車という点、文書がその後どうなったかという以前に、政府間交渉でこういう形ですと、なかなか、日本の産業の裾野という点で、懸念するべき事項があるのではないかというのが私たちの考えなんですが、この点はいかがでございましょうか。

村岡公述人 日本の政府が申し上げている主張とアメリカから出てくる情報とに乖離がある、この内容について、私ども、当事者ではないので、どちらが正しいか承知しておりませんけれども、日本政府はあくまで、交渉の中で日本の主張すべきところは主張するというふうにおっしゃっておりますので、それを私どもは信じております。

 それから、ASEANプラス6、あるいは日中韓FTA、こういったものを先に優先すべきというのも議論としてございますけれども、現在既に動いているのがTPPの交渉であって、しかもTPPは、世界で四割の経済圏を占める中でやろうとしている。そういう中で、まず今交渉している。しかもこれに乗りおくれると、田中先生がおっしゃられました、日本が主張すべき例外品目を設けるとか、そういったところが受け入れられなくなる可能性がある。

 したがって、私どもとしては、早くTPPの交渉に入って、日本の言うべきところを言う、主張すべきだという立場で申し上げてございます。

 それから、医療の問題に保険の問題、こういったことに関しても日本では懸念がございますけれども、アメリカは、国民皆保険制度、そういう制度そのものをやめろというようなことは言わないんだ、要するに、あくまで、トレード、貿易関係の中での話をするんだということで言っていますので、その点についても、もちろん主張する、あるいはクリアにしていくという必要はあるかと思いますけれども、懸念はしてございません。

田中(康)委員 私どもは、アジアの成長を取り込む場合に、中国、韓国、台湾、インドネシア、フィリピン、タイ、あるいはインドというところが参加をする形での経済交渉というものが必要であって、これらが参加しないのにアジアの成長を取り込むというのは、国民にはなかなか理解できないのではないかと思っております。

 最後の質問であります。

 日本は消費税率の率の話をしておりますが、一方で、先進国の中で唯一インボイスという取引明細書を導入しておりません。これに関しては、公述人としては、インボイスを入れるということはフェアな税制への理解の一歩というふうにお考えか、あるいはそれは不要とお考えか、お聞かせください。

村岡公述人 申しわけございません。方法論については、ちょっと私の意見は持ち合わせてございません。

田中(康)委員 今お聞きいたしましたのは、先ほど、法人実効税率が高いのではないか、あるいはTPPがきちっと進んでいないのではないか、これらがまさに五重苦あるいは六重苦だというふうにお話しになられたので、ちょっとお聞きしたんです。

 では最後に、法人実効税率という点に関しまして、各国と比べて高いというデータがございます。他方で、私どもの日本では、いわゆる利益に課税をするという形になっておりますので、地方税の一部が外形標準課税でありますが、上場企業の七割が法人税あるいは地方税の法人事業税を一円も払っていない、あるいは連結決算を導入している超大企業の六六%が法人税を払っていないという形で、これは、冒頭に申し上げたフェアという観点から、どう改善すべきなのか、あるいは改善はできないのかという点に関しての御見解をお聞かせください。

中井委員長 村岡公述人、時間が過ぎておりますので、簡単にお願いいたします。

村岡公述人 法人実効税率につきましては、単に私どもの負担を減らしてほしいということの面だけで申し上げているのではなくて、国際競争の中で日本が突出して高い。これはヨーロッパでも法人税率を今下げる競争に入っています。それから、アメリカも今度下げるという方針をオバマ大統領が出している。そうした中で、実際に下げた場合に、税収が計算上は減るのではなくて、それによって企業活動が活発化してむしろ税収がふえた、ヨーロッパにおいてはそういう実績もございます。

 そういった面から、私どもは、企業の負担だけを減らしてほしいということではなくて、結果として税収がふえる、それによってデフレスパイラルからも離れていくという面から申し上げてございます。

田中(康)委員 ありがとうございます。

中井委員長 次に、浅野貴博君。

浅野委員 新党大地・真民主の浅野貴博と申します。

 本日は、公述人の皆様、早朝から御苦労さまでございます。よろしくお願いいたします。

 日本国際フォーラム理事長の伊藤憲一先生にお伺いしたいと思います。

 永遠の敵も永遠の味方もいない、あるのは国益のみと大変シビアな国際情勢において、我が国の国益、国民の生命財産をどう守っていくのか、まさに、国会議員、我々に課せられた最大の使命だと思います。

 その中で、対米、対中関係、地球大、世界大の大きなうねりの中で考えなきゃいけない、大変示唆に富んだ重い提言を本日聞かせていただきました。アメリカ、中国は、日本にとって、本当に難しく、つき合っていくのが大変な国でございますが、その中で我が国の国益を考えたときに、エネルギーの問題も考えて、ロシアとの関係が一つのキーになり得るんじゃないかと私は考えております。

 対ロ関係につきましては、我が党の代表鈴木宗男が他のどの議員よりも尽力してきた、これは皆様にもお認めいただけると思います。伊藤先生も、ソ連時代からロシアにかかわってこられた。

 そこで、きょう、伊藤先生にお伺いしたいと思います。

 ロシアに関しまして、我が国は北方領土という問題を抱えております。ただ、この北方領土問題も、共産主義ソ連から自由と民主のロシアになって、我が国もスタンスを変えてまいりました。今、私の手元に「われらの北方領土二〇一〇年版」がございますけれども、その中にも、ソ連からロシアに変わって向こうのスタンスも変わってきた、そこで日本側も、四島一括というスタンスではなく、四島の日本への帰属が認められれば、実際の返還のあり方や時期、また、今四島に住んでいるロシア国民の方々の対応等も柔軟に考えていくんだとスタンスを変えてまいりました。

 ただ一方で、いまだに我が国の中にも、特に有識者と言われる方の中に、四島一括を声高に訴える、政府方針が変更したことを理解されていない方もいらっしゃいます。このことについて、伊藤公述人はどうお考えになるのか、お考えをお聞かせください。

伊藤公述人 対米関係、対中関係、難しい問題を抱えている中で、日本としては対ロ関係をぜひ打開したいところでありますが、御指摘のように、北方領土問題という未解決の極めて大きな問題が残っていて、この問題に解決の見通しがつかないために、日ロ関係は袋小路に入ったまま、冷戦時代、ソ連時代はびくともしなかったわけであります。

 その後、エリツィン大統領の時代に東京宣言というものができて大きく日ロの立場が近づいた時期もございましたが、その後また、プーチン時代に入って、見たところソ連時代に逆戻りしたのではないかと思われるような低迷した状態で推移しているわけでございます。そのような日ロ関係をいかに打開するか。これは、長期的な展望で考えるよりないのではないか。

 長期的な展望ということで考えますと、ソ連政権がエリツィン政権にかわり、エリツィン政権がプーチン政権にかわったように、プーチン政権もまた、いつ、どのような政権にかわっていくかわからないということを一つ踏まえ、二つ目に、エネルギー問題の分野において、日ロ間においてお互いに補い合う関係が展望としては出てきている。どのようにこの機会を活用することができるのか、できないのか。それは日ロ双方の英知が問われているわけでありますが、そのためにも、翻って北方領土問題の解決というものが改めて求められているのだろう。

 したがって、そういうエネルギー問題のような日ロ協調の可能性によって北方領土問題が動くか、北方領土問題が動くことによって日ロエネルギー協力が推進されるということになるのか。

 いずれにせよ、そういう可能性が動くときを日本は待ってつかむべきであって、何もないところに誘い出されるままに躍り出ていくような対ロ外交だけは避ける必要があるのじゃないか、そのように考えております。

浅野委員 ありがとうございます。

 今、伊藤公述人がおっしゃったのは、昨年の二月二十八日付の「北方領土、今は動く時にあらず」とする論文の趣旨に沿ったものかなと思います。

 今、伊藤公述人は、プーチンに入ってソ連時代に逆戻りした、プーチンはスターリン主義に回帰しているんじゃないかという主張をお持ちかと思いますけれども、私はむしろ、帝国主義ロシア、強いロシアを復活させようとしている、その中で日本との協力関係を結ぶことがロシアの国益にかなうんだ、そう考えるプーチンさんがことし恐らく大統領に返り咲くだろう、そのときこそ、領土問題を解決し、日ロ関係を発展させる一つの契機になり得るんじゃないかと。

 もちろん、楽観はしてございません。我が国の側から適切な打ち返しをすれば、日本を重視するプーチンさんは、同じく、我が国の琴線に触れる交渉に乗ってくるのではないかと考えるところでございます。

 今は動くべきときではないという主張もありますけれども、私は、今こそ、これからこそ動くべきときではないかと思いますが、いかがお考えになりますでしょうか。

伊藤公述人 おっしゃられるようなことをプーチンが考え、動いてくるのならば、これは一つのチャンスですから、逃さず交渉に入るべきだろうと思います。しかし、プーチン政権において、既に十年以上経過しておりますが、そのようなことを考え、動こうとしているというように判断すべき事実はなかったんじゃないか。

 今の段階ではじっと見るべきであって、日本側からあれこれと新たな提案をしても、それはすなわち日本側の譲歩につながるわけですが、その譲歩をとられるだけのことで、日本側として日ロ関係を有利に前進させるためのきっかけとなるようなロシア側の動きはいまだ見られないというふうに観察いたしております。

浅野委員 プーチンさんが大統領をやられたときにそういう動きが見られなかった、それは、何も私はロシアの側に立つものでは全くございませんけれども、むしろ我が方に問題があったんじゃないかと考えております。

 その時々の政局にこの問題は翻弄されてまいりました。我が国側がロシアに響く、どう日ロ関係を発展させていくか、どうその中で北方領土問題を解決していくか、我が国からの働きかけが足りなかった部分もあると思っております。それは、ひとえに、国会議員、政府全体の不作為という面もありますので、私も含め全国会議員は、これからしっかり取り組んでいかねばならないのだと思っております。

 以上で質問を終えます。ありがとうございました。

中井委員長 次に、佐田玄一郎君。

佐田委員 公述人の皆さん方、本当に御苦労さまでございます。早速、質問させていただきます。

 私は、自民党の群馬県選出の佐田玄一郎と申します。

 まず、仲川公述人にお伺いします。

 今、うちの方も、県庁所在地が前橋市で、十九日に、新しい、若い市長さんが生まれました。この市長さんは、まさに今お話にありましたように、行政改革を中心に、今までたまったあかを全部取っていく、こういう公約のもとに当選をされた。私は、それを見ておって、本当に仲川公述人に似ているなとつくづく思ったわけでございます。

 それで、実は私は、自民党で道州制本部の本部長をやっております。これはまさに、究極的には、道州制というのはやはり行政改革であり、そしてまた地方分権の中心にあるべきものだ、私はこういうふうに思っております。ただ、なかなかそれが御理解いただけないんですけれども、今お話を聞いておりまして、私は、仲川公述人の考え方に非常に共感するものがあり、これは当然のことだと思っているんです。

 どういうことかというと、具体的には、基礎自治体がしっかりしていく、そして基礎自治体が直接住民の皆さん方の意見を集約しながら、それを都道府県なり国に上げていく、やはりこういう基礎自治体が中心になっていかなくちゃいけない、その中で二重行政、三重行政を直していく、これがまさに大事な考え方じゃないかな、私はこういうふうに思っているんです。

 その中で、まず一つお聞きしたいのは、今、関西に関西広域連合というのがありますね。私は資料を持ってきたんですけれども、これを見たところ、仲川公述人の奈良県は入っていないんですね。この関西広域連合につきまして、仲川公述人はどのようにお考えか、お聞かせいただきたいと思います。

仲川公述人 今、御指摘いただきましたように、私どものございます奈良県は、関西広域連合には参加いたしておりません。

 奈良市の考え方というところで申しますと、やはり、関西というのは非常にロケーションも近いということもございますし、特に私どもは大阪方面への通勤者が非常に多いということもございますので、文化的背景としても連携をしていくことのメリットが非常に多いと感じております。

 そういうことで、早急に関西広域連合に奈良県も加盟していくべきではないかというふうに考えているところでございます。

佐田委員 関西広域連合は、私はすばらしい発想だと思います。ただ、問題は、地方自治法の範囲内で連携をしていく、いろいろな仕事について連携をしていくということでありまして、要するに、真に一つの自治体になっていく、そういうことではないわけでありまして、私は、もっと究極に進めるためには、本当に無駄をなくすためには、将来しっかりとした考え方を持っていかなくちゃいけないんじゃないか、こういうふうに思っているんです。

 今回、所信で総理が、地方支分部局、つまり国の出先機関を地域ごとに移譲していこう、こういうふうな提案をされております。そうなりますと、人も物も財源も全部そっちに移譲されるわけですね。そうなったときに、果たしてそれがうまくいくと仲川公述人は思いますか。

仲川公述人 国の機関や機能を地方にどんどん移譲していこうということについては、原則的には賛成の立場でございます。

 しかし一方で、国にとって抱え切れなくなった人員、もしくは不要となった事業を地方に押しつけるという観点においての地方への移譲ということであれば、これは地方としても、受け入れるということについては非常に難しい部分があろうかと思っております。あくまでも、今おっしゃっていただいたように、基礎自治体が仕事をしやすくなる環境、住民にとってプラスになる事業を展開していくためにプラスになる移譲であるということであれば、これは歓迎すべきことであるというふうに考えております。

佐田委員 この件についてはしっかりと議論していきたいんですけれども、時間もありません。

 私が何を申し上げたいかというと、実は、今もう既に、関西広域連合だけじゃなくて、例えば九州でもやっています。ただ、もう一つ、国と本当に直結している、これはぜひ御理解いただきたいんですけれども、道州制特区推進法というのが法律として既にあるんです。

 三県以上が合併した場合には道州と認める、なおかつ国のいろいろな権限だとか財源を移譲させていく。それはどういうことかといったらば、地域から上がってきて、例えば北海道、きょう鉢呂先生がおられるけれども、要するに、基礎自治体並びにいろいろな団体、そういう団体から上がってきたものを北海道で議決された場合は、それを上げてきて、国がそれを了解する、了解できるものとできないものがあるけれども、できる限りやっていく、そういう法律が既にあるんですよ。

 その中で一番問題になっていることは何かというと、北海道開発局なんですね。開発局については、今までの物すごい北海道の歴史があって、かつ、今言われたように、人員もたくさんいるわけですよ。では、言われるように、一気に出先機関を広域連合に全部移譲しましょうといっても、かなり難しい部分があるんじゃないか、私はこういうふうに思って、だから今、北海道では開発局の方々は大反対しています。

 でも、これは基本的には、本当に権限の移譲やらで行政改革に資するものでありますけれども、やはりその辺のいろいろな問題が出てこようかと思いますけれども、公述人はどう思われますか。

仲川公述人 さまざま検討していくべき事項はあるかと思っております。しかし一方で、二重、三重行政を徹底して排除していくということに主眼を置き、地域立脚、地域視点の真の行政サービスを提供していくということにおいては、私は、やはり中間自治体のあり方というところが今後大きな争点になってくると思っております。

 そういう意味では、関西広域連合でも、参加されている首長さんの中でも、道州制の導入に対してのスタンスについては各論反対の部分もあるかというふうに伺っておりますけれども、このあたりも含めて、早急に、基礎自治体と中間自治体、また国、この今後の大きなあり方を根本的に仕組みづくりから変えていくことが今最も求められていることだというふうに考えております。

佐田委員 私は、いわゆる行政改革とまた道州制への移行の問題に非常に興味を持っておりまして、そういう意味におきましては、これから、どういうものが移譲できるか、どういうものは移譲できないのか。それは、やはり原点は、二重、三重行政をなくす、そしてまた住民の方々のために資する、こういうことが一番大事なことだ、私はこういうふうに思っているんです。したがって、公述人、絶対に失敗は許されないんです。失敗をしたら大変なことになる、失敗は許されないことだと私は思っております。

 その中で、なぜ私が北海道の道州制特区の法律のことを言ったかというと、今いろいろなことが、権限、財源の移譲の問題が出てきているんです。例えば、文科省関係なしに北海道の医学部の定員を変えたりすることをやっておるわけです。今、いろいろなものの規制緩和もやっています。そういう中で失敗も成功もある。こういうことを含めて、ただ想像で言うのではなくて、これからしっかりと現実を踏まえて我々は進めていかなくちゃいけないんじゃないか、こういうふうに思っております。

 ぜひ、仲川公述人には、これからも行政改革に向けて全力で頑張っていただきたいと思います。

 次に、村岡公述人にお聞きしたいんですけれども、今ちょっと聞いておりましたら、TPPの問題、国民皆保険のことにつきましては大丈夫だというふうに言われましたけれども、その根拠はどういうことなんですか。

村岡公述人 日本の場合には国民皆保険をとっておりますし、それについて変更を求めるものではないとアメリカは言っているということを申し上げたものでございます。根拠を私どもが直接アメリカから聞いたわけではなくて、いろいろな報道でなされているものから聞いたものでございます。

佐田委員 TPPにはいろいろな議論があるんですね。いろいろな議論があるということが私はおかしいと思っているんですよ。これは国益にもかかわる非常に大事なことなわけですよ。

 したがって、今、事前協議を行っているわけですね、例えば局長であるとかその辺のレベルの方々が行って。特に問題はアメリカですよね。アメリカ、ニュージーランド、オーストラリア、この辺が今キーポイントになっているわけですよ。その中で特に一番大事なのは、国益、戦略からしても、アメリカとの交渉が大事だ。

 二月の七日に行きました。そのときには、いろいろなパブリックコメントをやっておったという話を聞きました。しかしながら、USTRからはほとんど意見が出ていないんですね、正式な意見は。そして、この間、二十一、二十二日に行われました。しかしながら、それに対するこちらからの対応であるとか、向こうからのパブリックコメントは聞こえてきても、総合的に二十一あるいろいろな項目のことは全く聞こえてこない。

 こういうふうに情報が国民に全く披露されていないことにつきまして、公述人はどう思いますか。

村岡公述人 今先生おっしゃられましたように、私どもも、意見がいろいろあるのではなくて、日本としては、もう内需がこれ以上大きくならない、あるいは、先ほど申し上げましたように、少子高齢化が進んでいく中で、世界の中で同じ土俵でやっていかなきゃいけない、そのためにTPPに早く参加表明をして、協議も早く進めていただきたいということを経団連としては申し上げております。

 したがって、いろいろな議論をするのもありますけれども、方向としてまだ日本もいろいろ意見が割れているために、日本の政府も、こういうことをやるということがはっきり打ち出せない、そういった形で協議が進められない。アメリカの方も、まだ日本がどういうふうに態度を決めているのかどうかもはっきり把握されていない可能性がある。したがって、意見も出ない。あるいは、意見が出ない中で、向こうが早くどんどん向こうの立場で決めていこうというふうな姿勢も見受けられるということですので、今先生がおっしゃられましたように、私どもも、意見がいろいろあるんじゃなくて、まずこの協議を早く進める、その前にまず早く表明を、やるんだということを決めていただきたいというふうに思います。

 それでないと、日本は今後ますます取り残されて、日本の中だけで経済活動をやることを強いられるということを懸念してございます。

佐田委員 私が非常に心配しているのは、聞こえてくるうわさの中で、例えば二月七日の事前協議のときに、これはもう非常に国民の生活に密着して大事なことなわけですよ。にもかかわらず、これは言っていないと言っているんだけれども、外務省の局長クラスの方がそういうレベルの協議に行って、全てのものをテーブルに、自由化の対象にのせる、こういうことを言ったということに対して、私は非常に前のめりと危惧しているんですよ。

 何でもいいから早くやりましょうと言うんじゃなくて、やはり国益を中心として、しっかりと検討しながら言っていかなくちゃいけないんじゃないか、こういうふうに思っています。

 工業関係においてだって、例えば、日本全体の制度にしても、ISD条項というのはお聞きになっていると思いますけれども、これをアメリカが強烈にやれというふうに言っているわけですよ。いろいろな違う考え方もありますよ。そうなってきたときに、日本の制度や農業だけではなくて、いろいろな影響を受ける可能性もあるわけですね。

 そしてまた、経団連の立場として、これを進めなくちゃいけない。進めなくちゃいけないというときに、いろいろな二十一の項目がある。そういうところの業界の方々と話し合うというお気持ちはありますか。

村岡公述人 私ども、野田総理が日本の立場は主張すべきところは主張すると言うことを信じて、このTPP交渉に臨んでいただきたいということ。

 もう一つは、私ども経団連の企業だけがよくなるようなTPP交渉をしてほしいということは決して申し上げてございません。経団連に加盟されていない業界、今おっしゃられました農業、漁業も含めまして、昨年提示させていただきました私どもの成長戦略二〇一一という中でも、農業そのものが今衰退している中で、あえてこれを今後成長産業として位置づけていくんだ、あるいはこういうふうに持っていくんだということで、六次産業という言い方をさせていただいておりますけれども、そういったことを含めて農業単独でやることにはもう限界がある。これを、加工だとか流通、消費者、あるいはプランナーだとか、こういったものも含めて、全体の農業を今から企業経営と同じようにやっていくべきだということも提案させていただいております。

 したがって、今、二十一のいろいろなことが提案されています。全体を含めて経団連としては進めていきたいというふうに考えてございます。

佐田委員 時間がなくなってまいりましたけれども、私は、非常にまだ情報がない中でこれを進めるということは反対しております、はっきり言って。これはもう大事なことですから、これからもいろいろな業界の方ともよく話し合ってやっていただきたい。

 そういう中で、最後の質問をちょっとやらせていただきたいと思います。

中井委員長 時間が来てからの質問は御遠慮願って、意見をおまとめいただいて。

佐田委員 はい、わかりました。

 実は、外交についてもちょっとお話をしたかった、日本と中国の関係。特に伊藤先生にお聞きしたかったのは、尖閣でのああいう衝突の問題。船長を我々は帰してしまった。それによって公判も維持できない、要するに証拠も公的に見られない。そういうことが起きたことに対して、今後とも、ああいうことが起きないように、ああいう失敗がないように、ぜひこれからも検討していきたい、こういうふうに思っていますので、伊藤先生、よろしく。

 きょうは済みませんでした。ほかの先生も申しわけありません。

 以上です。

中井委員長 次に、高木陽介君。

高木(陽)委員 公明党の高木陽介でございます。

 四人の公述人の皆さんには、本当に貴重な御意見をありがとうございました。

 この国会は、特に社会保障と税の一体改革というのが大きな注目を受けていて、新聞、テレビのメディアを初め、連日報道もされておりますが、なかなかその内容の部分というのが多くの国民に伝わっていないと思うんですね。特に、与野党が協議しろという世論調査を見ますと、それは協議した方がいいだろう、これはもう当たり前だと思うんです。

 ただ、その内容が一番問題であって、実は私たち公明党も、与野党は協議すべきだという考え方に立っています。ただ、条件がございまして、実は、二〇〇九年、私たちがまだ政権与党にいたときに、所得税法を改正したときに附則というところで五つの条件をつけました。消費税を議論するときには、まず一番目には、景気、経済を回復させることだ。二番目は、社会保障のビジョンをより具体的に明確にすべきである。三番目が、これは言わずもがななんですけれども、無駄をしっかりと省く。四番目は、社会保障の目的税化をしっかりとしよう。五番目に、国民に負担をお願いするわけでありますから、これは消費税だけではありません、所得税や法人税や相続税といったさまざまな税体系全体の中で負担を考えていきましょう。こういう条件で今後議論を進めていくということで、附則に書きました。

 その後、二〇一〇年の参議院選挙のときに、当時の民主党政権、菅総理が、消費税の問題、一〇%と言われる。自民党の方も一〇%と言われる。それで消費税問題がクローズアップされてくるんですけれども、やはり一番最初に大切なのは、社会保障というのをどういうふうにするんだ、この少子高齢社会の中でどういうふうにするというのをはっきりさせてからじゃないと、一体幾らお金がかかるんだというのがわからないので、まず社会保障の協議をしましょうと公明党の山口代表も呼びかけました。その後、言うからにはしっかり出さなければいけないということで、二〇一〇年の十二月に、公明党としての新しい福祉社会ビジョンという具体案をまとめました。ですから、私たちはいつでも、もうきょうからでも協議ができるという形なんですね。

 そういった中で、まず湯元公述人にお伺いしたいんですけれども、五つの条件、先ほどの公述人のお話をお伺いすると、例えば、社会保障のビジョンというのがなかなかはっきりしていない部分があるんじゃないかといった御意見もあったと思いますし、または、景気の問題、経済の問題、これも触れられていました。無駄、身を切る話は、それを理由にしちゃいけない、ただ、やはりそれはそれでやっていかなきゃいけないと私たちは思っていますが、ここら辺の五つの条件、それをはっきりさせた上で協議をするという考え方はいかがでしょうか。

湯元公述人 私も、それは非常に重要なことだと思っております。

 今おっしゃられた五つの条件、景気を回復させるというのは条件以前の問題だと思いますけれども、不幸にして、東日本大震災あるいは最近のヨーロッパ危機の影響等を受けていますので、外部要因がありますから非常に難しいところもありますが、これはまず最低限の条件だろうと思います。

 それから、社会保障のビジョンというのも、まさにこれは各党の皆様方それぞれに違いがあってしかるべきだろうと思います。国民各層もそれぞれ求めるものは違いがあってしかるべきであって、そこの骨太の大きな方向性というものについて、各党のビジョンをすり合わせながら、共通点あるいは違いはどこかということをはっきりさせていくことが、まさに消費税引き上げを社会保障の財源とするということを言っているわけですから、その中身が国民にわからないと、それはなかなか判断がつかないということになるんだろうと思います。

 それから、目的税化というのは今回の大綱で示されている。

 それから、最終的に社会保障・税制の一体改革、そういう側面でいきますと、確かに消費税以外の所得税、相続税等の税制改正等も二十四年度改正で引き上げがなされるということになっておりますけれども、それはそれだけで十分かといいますと、例えば給付つき税額控除というものを考える際に、その財源はどう考えていくのかという問題がございます。つまり、より所得水準の低い方に、税金を払っていない方も含めて還付していくわけですから、そうすると、これは所得税の見直しというものをもう一段やらないと、実は財源がなかなか出せないような問題じゃないかなと思います。

 したがいまして、第一ステップの二〇一五年までの話と第二ステップの二〇一五年度以降の改革において、これも当然、税制の次なる改革というのも必要になってくるということでございまして、その辺のところを、条件をはっきりさせた上で与野党で協議をしていただくというのが私は最も望ましいと思っております。

高木(陽)委員 ありがとうございます。

 湯元さんにもう一つお伺いしたいんですが、今、第二ステップというお話が出ました。

 民主党が、年金の改革案、抜本改革をするんだということでマニフェストでも訴えていた、厚生年金、共済年金、被用者年金、そして国民年金を含めたいわゆる一元化をする、さらに最低保障年金制度をつくって、その財源を消費税で充てる、こういうふうに言いました。

 これは年金だけではないんですけれども、あらゆる政策というのは総論賛成、各論反対になる部分がありまして、その各論をしっかりと、いわゆる数字を出してもらいたいと私たちは主張しているんです。そういう話をしたら、その抜本改革案は来年に法案を出しますと。

 試算等々でいろいろとこの国会でももめましたけれども、そうなってきますと、今回の社会保障・税の一体改革ということでやったとしても、どうも、公述人もお話しになっていた、財政健全化がかなり前面に出ているんじゃないかみたいな御意見もありましたが、私たちもそう思っています。

 やはり話し合いをしたいと思うんですけれども、次のステップである年金の抜本改革、この最低保障年金で一体幾らかかるんだろう、そういうものが見えないと、今回、もしよしんば話し合いができて、消費税をアップしましょうと決めたとしても、来年またこの年金問題が出てきてさらに上がりますと。試算で見ると、これは六十年後だと言いながらも、七・一%必要だと言われている。ではそれが、六十年後はそうだけれども、五年後はどうなんだ、または七年後はどうなんだ、こういうのが見えないと、やはりこの協議というのがなかなか進まないと思う。

 この民主党案を含めてどういうふうにお考えか、お伺いしたいと思います。

湯元公述人 年金制度の問題は、本当に国民にとっては社会保障の中でも最も関心の高い問題だと思っております。そういう意味で、民主党の方から新しい年金制度をつくるという問題提起がなされたこと自体は、私はそれは評価したいと思いますけれども、今の段階では試算が四ケース出ているということであって、どういう制度づくりをしていくのかについては、まだ詳細な情報は十分出ていない状況ではないかと思います。

 途中の段階での消費税率はどうなるのかという話も、試算値から見れば、当面十年、二十年はそれほど大きく上がらない。それは徐々に、一年ごとに、新制度に導入をしていって、六十年という時間をかけていくということですから、当然、最初は余り財源が必要なくて、上がらないということです。

 私、財源の問題も重要だと思うんですけれども、この新しい制度において税金を投入する最低保障年金の部分を、範囲をどこまでに絞るのかという議論。ケースは四通り出ていますけれども、それは、まさに、年金制度というのを国家がどこまでしっかりと最低保障機能という形で保障していくのかということに尽きるわけでございます。

 そして、現在の制度は、基礎年金の半分を国家が税金として補填しているという形なんですけれども、こういう形を強化していく方策の方が望ましいのか。これは、ある意味、全ての国民に対して国家が税金で一部を保障する制度ですし、それから、民主党の案というのは一定の所得層以下の人たちに対して保障するやり方、その是非をどう考えるのかというような問題もあります。

 それから、民主党の案では、一定の所得以上の方は現在の年金制度と比べると年金給付額が減るというような形にもなっています。これも非常に大きな議論を巻き起こすポイントだと思いまして、この年金制度改革に当たっては、現行制度を改善していくという方向性の方がいいのか、民主党の案というものを進めていく方がいいのか、これは与野党の間で徹底的に議論していただく方がいいと思いますけれども、今言ったようなさまざまな議論を巻き起こす論点があるわけでありまして、それを明確にしていただくというところから議論がスタートすると、評価できるのかなというふうに思います。

高木(陽)委員 今、公述人のお話にあったように、そういう論点がいろいろある中で、そこを明確に民主党が出していただかないと協議がなかなかできないというのが私たちの実感なんですね。それは、今のお話でも、十分そういうものなんだなというふうに思いました。

 続いて、村岡公述人にお伺いしたいのは、最初の意見陳述の中で、社会保障の制度が財政を圧迫していく、特に、少子高齢化が進む、年金の制度等は人口増加、こういう時代のシステムだった、こういうふうなお話がありました。

 ただ、実は、この予算委員会でも、集中審議というのも行われたり、二十七日の月曜日には参考人質疑でこの問題をやりました。そのときに、自公政権時代の政府の社会保障国民会議の委員になり、政権交代しても、民主党政権のときでも政府の委員になった細野さんという方がお話をされました。ここであったのは、教育が必要だという観点からで、いわゆる大いなる誤解を、今の年金の知識、常識で、多くの国民が持っていると。

 どういうことかというと、よく言われるのは、未納だと年金財政が破綻する。ところが、未納になりますともらう人が減りますから、これは破綻しないんです。生活保護の問題は出てきますけれども、年金財政は破綻しない、これが一つ。二つ目は、少子高齢化でこの制度が壊れていくんだ、こういう言い方をしました。ところが、二〇〇四年の年金改革というのは人口動態をちゃんと計算に入れてやっています。もっと言いますと、この間の人口問題研究所の出した、人口が減っていくというのは、もう五年も十年も前から言われていることで、だから二〇〇四年改革をやったわけです。そして、そういうような中で、それが大丈夫なような制度にして、五年ごとの検証で、二〇〇九年でもこれは大丈夫ですという結論が出ていますね。

 もう一つは、では全部でいいのかといったら、問題は、低年金の方は加算しましょう、自公が前に言っていたことを民主党も言い始めました。さらには、非正規の方々をちゃんと厚生年金に入れるようにしましょう、これも自公の言っていたものを今回の民主党は言い始めています。これは共通しています。

 これをやっていくということで、ある意味でいうと、現行制度を手直ししていく、こういうやり方でいいのではないかなという案、一方で民主党は、そうじゃないんだ、もたないんだと言うんですけれども、実は、政府の審議会の方でも、いわゆるそういう人口動態をしっかりと見据えた上で、人口減少でだめになるというのは誤解なんだというここら辺の認識、これをどう思われていますか。

村岡公述人 今、高木先生がおっしゃられたとおりで、誤解がまずはあります。

 私どもも、先ほど申し上げました陳述の中で、少子高齢化が進むから年金制度が崩壊するという認識ではございません。これは、おっしゃられましたように、前回の年金の改革のときに、百年間は大丈夫だ、これだけの積み立てがあるという前提で年金の改革をやった。ただ、最初、年金が戦後スタートしたころには積立方式の形でありましたけれども、だんだん賦課方式になってきて、若い現役世代が高齢者を支えるという形になってきたわけですけれども、これが破綻することはないと思います。

 ただ、今おっしゃられたように、誤解が蔓延をしていて、幾ら保険料を払っても将来自分たちは年金がもらえないんじゃないかという若い世代の誤解を解かない限り、この問題は解決しない。では、消費税なり、あるいは基礎年金をこの税で賄うとか、そういう一つ一つ細かいところでこれが改善されるとは思いません。

 ですから、これだけで全て改善するとは思っていませんが、一つ一つを積み上げていくしかないので、したがって、私どもは、消費税のアップをして、少なくともこれを財源にすれば財政の方の改善にもつながっていくという全体的な効果の中で申し上げております。

高木(陽)委員 では、最後に仲川公述人にお伺いします。

 意見陳述のときに子宮頸がんのワクチンのお話がちょっと出ました。実は、公明党は、ずっとこのがんのワクチンの問題を取り上げてきて、地方議会でも一生懸命動いてきました。

 やはり、基金でやるとなかなか、積まれていればいいですけれども、今回延長しましたけれども、恒久的にやって国がしっかり負担をしていく、こういうふうにすべきだと思いますが、最後に御意見をお伺いしたいと思います。

仲川公述人 子宮頸がんワクチンにつきましては、非常に効果が高いということは検証されておりますので、基礎自治体としてもぜひ継続をしていきたいと思っております。

 ただ、今御指摘のように、懸念をされますのは、いわゆる一般財源化されてしまいますと、地方の負担、実質的にはそうなってしまうという懸念がございますので、やはり国の責任においてしっかりと継続できる枠組みをおつくりいただくということが重要だと考えております。

高木(陽)委員 ありがとうございました。

中井委員長 次に、宮本岳志君。

宮本委員 四人の公述人の皆さん、御苦労さまです。私、日本共産党の宮本岳志です。

 まず、奈良市長の仲川げん公述人にお伺いをしたいと思うんです。

 市長は先ほど、臨時財政対策債は、本来、交付税で入るべきものを地方の借金に押しつけているんじゃないかという御指摘もありました。

 本来、交付税特会で国が借り入れて地方に保障していたものを、地方に臨財債という形で借りさせる。こういう議論をやったときに、私、ちょうど参議院の総務委員会で、本当にきのうのことのように思い出すんですけれども、そういうことをやると地方の財政がもうやっていけないじゃないかというふうに申し上げたら、当時の総務大臣が、いや、国もやっていけないんですよ、そう目の前でおっしゃったのをきのうのことのように思い出すんですね。

 それで、ナショナルミニマムは、本来、国民の権利に差があってはならないというお話もありました。

 言うまでもなく、地方交付税というものは、財政調整とともに財政保障の機能を持つ、これはもう当然の大原則でありますけれども、そういう点では、地方交付税というのは地方の財源ですから、これが足りないのであれば、本来、交付税法を変えて、税率の配分を変えてでもきちっと保障すべきだと私は思います。この点、市長のお考えをぜひお伺いしたいと思います。

仲川公述人 地方財政計画を含め、地方の財源確保という観点でございますけれども、今御指摘のように、やはりナショナルミニマムという部分につきましては、特に、地方自治体間の財政格差が近年拡大をしているという状況もございますし、これからどんどん少子化や人口減少を迎える中においては、特にそういった部分の懸念が地方の首長の中でも広がってございます。

 そういう意味では、国の責任において行うべき領域をしっかりと再定義していただいて、その財源をしっかりと確保していただく、これが、地方が安心して今後も継続経営をしていくための必要な条件だというふうに考えております。

宮本委員 もう一問お伺いするんですが、市長は、小学校の全ての学年で三十人学級に取り組むということを公約に掲げて、既に徐々に始めておられると聞きました。本来、ことしは小学校二年生ということで国もやることを目指したんですけれども、残念ながら、義務教育標準法の改正は見送られて、加配で手当てをするということになりました。

 市長が、そういう全学年での少人数学級ということを掲げられたのはどういう思いからか、そして、それがことしなかなか国においてはままならない、このことについてのお考えをお聞かせいただきたいと思います。

仲川公述人 私も、マニフェストの中で三十人学級を実現すると掲げてございます。

 先ほどの質問でもございましたが、OECD先進諸国の中でも教育投資の率が非常に低いというのが日本の特徴でございます。

 全体の中で財源が厳しいということは当然ございますけれども、未来の世代に投資をとめてしまえばその国の未来はないというふうに考えておりますので、やはり子供たちが安心して教育を受けられる環境。そしてさらに、現場の教職員の方にとっても、三十人学級になりますと、私も現場を見ましたけれども、どの子供が消しゴムを落としたかということも先生は把握をできる状況でございます。こういったことは、わずかなことですけれども、次の日本をつくっていくために必ず必要なことだと考えております。

 ただ、懸念をいたしますのは、国での今後の三十人程度学級、もしくは三十五人学級の進捗が、なかなか先が見えないということでございます。特に、既に先行して三十人学級等に取り組んでいる自治体に対しては、国の制度というのは追加的な財源が担保されないというような話も漏れ聞いてございます。このあたりはやはりしっかりと方向を示して、子供や保護者が安心できる環境をつくっていただきたいと考えてございます。

宮本委員 ぜひ、そういう地方の思いを受けとめて国の制度として保障できるように、法律をきちっと改正することを含めて進めていきたいというふうに思っております。

 そこで、次に、湯元公述人にお伺いをしたいと思うんです。

 政府は、このたび、社会保障・税の一体改革ということを打ち出しましたけれども、先ほどのお話の中でも、社会保障の充実に充てられるのは、引き上げられる税率のわずか一%分、二・七兆円分しかない。これは実は、岡田副総理も我が党の質問に対してそう答弁をされました。残りは既存の社会保障の財源と置きかわるだけであるというふうに言わざるを得ないと思います。これでは、とても、社会保障の充実、一体改革ということにはほど遠いではないか。改革と言うけれども、改革の中身がないというふうに私たちは考えます。先ほどもそういうお話もあったかと思うんですが、公述人のお考えをお聞かせいただきたいと思います。

湯元公述人 今回の社会保障改革は、中身を見ますと、主として、格差是正対策それからセーフティーネットの強化、まさに現下の経済情勢に対して、所得の再配分や将来の安心を確保するための施策を盛り込んだというふうに私は認識しておりまして、そのための財源としてネットで二兆七千億円という計算を出したと思います。それ自体は合っている数字だろうと私は思っております。

 さはさりながら、やはり社会保障の問題というのは、まさに少子高齢化が進む中で、当然、年金の部分だけが大きくクローズアップされているところはありますが、財源不足が深刻化しますのは、むしろ医療や介護、こういったところでありますから、これについても一定の手当てをしているというふうに私は思いますけれども、これで本当に十分かどうかというのは、甚だ難しい、不透明な面もあるのかなと思っております。

 ただ、これも、問題が現実として浮かび上がってくるプロセスの中でそういったことに対する対応策というのをやっていかないといけないということですから、そうしますと、当然、追加的にどういうことをやるべきかということが、また二〇一五年度以降の改革議論の中で起きてくるのかなと思っております。

 重要なことは、これはネットで二兆七千億ですから、本当は三兆八千億円分の充実をやるということで、見た目よりはそれなりのことをしっかりやっているということですが、減らすといいますか、重点化、効率化の方でしっかり一兆円余りのものを効率化しながらそれも財源として使う、これが本当にうまくできるかどうかというのが、きちっとできるかどうかにもかかわってくると思っております。

宮本委員 深刻な財政危機ということは、これはもう当然議論をされているわけですね。それで、財政危機を考える場合に、私は、対GDP比で長期債務がどういう比率になっているかということが非常に大事だと思うんですよ。

 先ほど、失われた二十年という話も経団連の方からもございました。日本の場合は、GDPがこの間全然伸びないというのがやはり非常に深刻で、ですから、そのままGDP比が悪化するという状況になっているわけですね。欧米などを見ても、借金はそれなりにふえている国もあるんですけれども、GDPが伸びているものですから、GDP比はそれほど悪化していないという状況もあります。

 私たちは、日本のGDPが長期にわたって低迷、低落傾向にある最大の原因は、国民の所得が減って内需が冷え込んでいることにあるというふうに考えておりますけれども、このことについて、湯元公述人と日本経団連の村岡公述人のお考えをお聞かせください。

村岡公述人 まず、財政の問題で申し上げます。

 GDP比率が大事だというコメント、まさにそのとおりだと思います。今、日本は、おおよその値でGDPが五百兆円、債務が一千兆円ということで、二〇〇%の対GDP比率の債務を抱えているわけで、これはギリシャよりも高いというレベルになってございます。残高そのもの、これはGDP比率ですから、分子、分母の関係で、債務の方の増加額あるいは率、これはほかの国と比べて極めて高いわけではなくて、今おっしゃられましたように、GDPが落ち込んできている、名目GDPがこの二十年間で全く伸びていないということに起因するものであろうと思います。

 したがって、私ども申し上げていますのは、名目GDPをいかに伸ばすかということが大事でありまして、実質GDPがプラスであっても、これはデフレの中でのプラスになるわけでして、デフレの中であれば、成長が伸びない、成長がないということだろうと思いますけれども、結果的にはそういうふうになっている。したがって、このGDPを伸ばしていくということが大事だろうと思います。

 国民所得が減っているということに対しては、内閣府から資料も調査統計も出てございますけれども、労働分配率、これは決して落ちてはございません。

 したがって、総給与が減っているとかいろいろ言われたりもしますけれども、所定外のところの賞与であるとか残業、これが今の低成長の中で減っておりまして、決して、賃金を抑制した結果とか、そういう所得のあれが減っていることではない。むしろ労働分配率は高目に、今大体七四、五%の労働分配率であって、失われた二十年のスタートする前よりは一〇ポイント近く上昇してございます。

湯元公述人 御指摘のとおり、日本の財政赤字の悪化というのは、一つの要因としては、当然、GDPが名目でふえないということであります。もちろん、少子高齢化が進む中で特に社会保障経費が膨張しているということも同じく財政悪化の要因でありますから、それへの対応、プラス、名目GDPをいかに回復させるか。これは、イコール、我が国がいかにデフレから脱却するかを考えていかないといけないということだろうと思います。

 デフレというのはさまざまな原因で起きているということが指摘されていますが、グローバルに、中国を初めとする新興国企業が世界市場に参入して、それと日本企業は競争をしていかないといけない、こういう厳しい環境であります。それに輪をかけて、歴史的な円高というような状況の中で、非常に厳しい競争を強いられてきていた。

 そういう中で、実際に、もちろん賃金を何で見るかということにもよりますが、そういう競争の結果としては、それなりに賃上げの抑制等も行われてきたことは事実であります。所定内の賃金、給与とか、そういうものは結果的にはまだふえ続けておりますけれども、ボーナスのところは経済情勢が悪いときには落ち込んできたということがあります。

 ただ、これは、企業側の賃上げに対するスタンスが不十分であるがゆえに内需が低迷し、それゆえにデフレが長期化している、そういうロジックではなくて、むしろ外部要因によってそういった競争環境の中でそういう状況が起きてきたということであって、大事なことは、名目GDPを回復させる、まさにデフレから脱却させる成長戦略というものを国家がしっかりとつくって、それを実行していくということが非常に重要だと思っております。

宮本委員 総務省の家計調査を見ましても、勤労世帯の可処分所得というのは、一九九〇年の五百二十九万から、二〇一〇年、二十年後には五百四万。可処分所得が減っている。この間には、九七年のピークは五百九十六万ですから、百万近く下がっているんですね。だから、内需が本当に冷え込んでいる原因というのはここにあると私たちは思うんですよ。

 それで、先ほど村岡公述人の方からは、不安が消費マインドを冷やし、内需拡大を阻んでいて、ますます経済成長率が下がっているんだ、こういう話がありましたけれども、そういう点では、その不安の中には雇用不安というものを含んでいるわけでありますし、こういう形で非常に可処分所得が下がっているのは、非正規労働が蔓延化し、そしてそれが、景気の動向が一たび悪くなればすぐに非正規切りという形であらわれる、こういうことにも一つの原因がある。やはりここから立て直さなければ、本当の内需拡大には向かわないんじゃないですか。村岡公述人、いかがですか。

村岡公述人 先ほど申し上げましたように、一人当たりの所得が確かに減ってございます。ただ、これはいろいろな要因がございまして、例えば、働き方の多様性、非正規化、こういった方々がふえている、あるいは定年延長、六十歳以降の働かれる方、この方々の比率もふえてきているということで、一人当たりは確かに落ちてきているところもあります。ただ、同じ世代で見た場合に、その人個人個人で見た場合に減っているかというと、必ずしもそうではないということだと思います。

 ただ、先ほど申し上げましたように、低成長によりまして残業が減っている、あるいは賞与が減っている、そういったことで減っているところはございます。これは、私が先ほど申し上げましたように、成長戦略を推進して、ここのところでふやしていくべきだというふうに考えてございます。

宮本委員 持ち時間の関係で伊藤公述人には御意見を伺うことができず、申しわけございませんでした。

 以上で終わらせていただきます。

中井委員長 次に、阿部知子さん。

阿部委員 社会民主党・市民連合の阿部知子です。

 私の持ち時間は十分でございますので、よろしくお願いいたします。

 少子高齢化、そして経済のグローバル化、さらにはいわゆる環境問題や災害問題も含めて、持続可能性が問われる時代であります。この時代をどう新しい目でつくり変えていくかということで、きょう、冒頭、仲川公述人にお伺いいたしますが、大変に若い三十代の市長として、また、大変しっかりもしておられる御意見を伺って、心強く思うものであります。

 市長の所信表明を拝見する中で、特に子育てと教育と医療というところに重点を置かれていて、本当にこれからの世代にとって最も重要な部分と思いますが、中でも教育と言われる分野では、先ほどの三十人学級とともに、給食の問題をお取り上げいただきました。

 今、世帯の貧困化に伴って、なかなか家庭できちんと三度の食事をとらない、あるいは生活の乱れでとれないお子さんもふえている中で、中学校の給食ということも大変大事な視点と思います。なぜここに着目されたのか。私は先ほどのような要因があると思いますが、市長はどうお考えでしょう。

仲川公述人 中学校での給食の導入ということにつきましては、私が二年半前の選挙のマニフェストをつくる際に、現場で、子育てに携わっていらっしゃる保護者の方から強いお声をいただいたのがきっかけでございます。

 今御指摘のように、食の乱れ、また食育という観点からも、やはり給食が非常に重要だということを感じております。奈良市内では、既に公立の小学校では給食は実施をしておりましたけれども、中学校ではこれまではお弁当ということでございました。確かに、保護者のつくってくださるお弁当を大切に味わう、そういう親子のきずなという意味でのお弁当の役割を一方で指摘はされておりますけれども、今は共働きが非常にふえているという状況もございますので、ここはやはり公教育の中でも給食をしっかりと充実していこうということで取り組みをさせていただいているところでございます。

阿部委員 食は命のもとでありますし、また、地産のものを使われて経済の活性化にも役立つと思いますし、何よりも地域とのきずなということもできてまいりますでしょう。ぜひ先進的なお取り組みをよろしくお願い申し上げたいと思います。

 引き続いて、湯元公述人にお伺いいたしますが、きょう、大変に詳細な分析をいただきまして、問題点がより明らかになったこと、まず感謝を申し上げたいと思います。

 諸外国のデータ、特にスウェーデンのものなどもつけていただいておりますが、私が思いますに、今回の税と社会保障の一体改革と称されるものの中で、我が国の場合は、雇用対策というか雇用問題へのアプローチが極めて薄いように思います。職業訓練もそうですし、ドイツなどでは創業支援もございますし、若い世代にとっても、今若い世代の失業率が高い。日本はさほどでなくても、やはり非正規化が強いとなれば、次世代ということを考えた場合に、雇用問題へのアプローチが重要になってくると思いますが、お考えを伺いたいと思います。

湯元公述人 その御指摘は、私も全く同じでございます。本来、全世代対応型の社会保障システムを打ち出すのであれば、子育てのみならず、就業支援、雇用の部分についても含めて戦略的なものを考えていく必要があるんじゃないかなと思っております。

 先ほどちょっとスウェーデンの事例を申し上げましたけれども、スウェーデンでは、いわゆる積極的労働市場政策にGDP比で一%の予算を投入しております。これは世界一でございます。それに対して、日本は、残念ながら、まだ〇・三%というところであります。

 日本の企業の国際競争力の低下等が円高等の要因で生じているというような報道がなされますけれども、やはり人材の質が極めて重要で、まさに、日本企業がこれから世界のグローバル市場で利益を獲得し、その利益を日本に還元していくということが、日本経済の成長にとっても、あるいは社会保障制度を維持するためにも極めて重要な課題であります。

 そのためには、グローバル人材というものを育成していかないといけませんし、あるいは、中国等々新興国との国際競争の中で衰退していく産業やそういうものを補助金などを出して生き残らせるということではなくて、むしろ、これから成長していくような未来産業を育てていくことを積極的に考えていかないといけない。

 そのためには、人が旧来型の産業から新しい産業に移っていく。これは、最先端技術の産業のみならず、国内においては、医療、介護、保育、子育て、こういうところは、当然、財源を投入して充実させていかないといけない分野でありまして、ここをしっかりと雇用を生み出し産業化していくという視点も非常に大事で、スウェーデンは、そういった大きな視点の中で、雇用というものを非常に重視して対策をとっている。

 我が国も、規模の面ではそう簡単にスウェーデンまではいけないと思いますけれども、充実させていく方向が非常に重要ではないかと思っております。

阿部委員 次に、TPP問題でお尋ねいたします。

 まず、仲川公述人にお願いいたしますが、この間、政府が進めますTPPについては、市長会や町村長会等々からも、十分な情報が伝わっておらないというお声が上がっていると思います。

 市長は、若くもあり、これからの時代を生きるという意味で、国際化ということはもう前提と思いますが、そういう中で、自治体として、今、国がどういう情報を出すべきとお考えであるかをお願いしたい。

 それから、村岡公述人には、先ほどお話を伺っておりますと、日本の国内産業が、少子化、人口減によって、ある意味では余り大きな市場がないやの御発言でありましたが、逆にエネルギー産業部分では、国内外を問わず新たな分野となってまいると思います。そうした部分のいろいろ市場拡大あるいはイノベーションなどについてのお考え、特にスマートグリッドなどの送電網の問題もありますし、ここについての御意見があれば、お願いいたします。

仲川公述人 御指摘のように、TPPに関しましては、政府から出される情報も省庁間でいろいろと差があるということは実感をいたしております。

 私どもの地元の議会でもTPP問題は質問でもよく出てくる問題でございますし、農業を含めさまざまな産業構造、これからどのように成長させていくのかということでは、地方自治体としても非常に関心を持っているテーマでございます。

 そういう意味では、国に対して求める情報提供といいますのは、偏った物の見方ではなくて、さまざまな観点でしっかりと検証して、まずい情報もあわせて出していただくということだと思います。そういった部分をうやむやにしてしまうと正しい判断を間違ってしまうということになりますので、このあたりは、やはり厳しい目でチェックをして、正しい情報をいただきたいというふうに考えてございます。

村岡公述人 GDPが国内で縮小しているということに関してはいろいろな要因がございます。人口減少によるもの、あるいはもう一つは、円高によりまして日本の国際競争力が落ちてきている。ドルベースでのGDPは伸びているかもわからないけれども、やはり日本の国内の中では円ベースでのGDPが大事で、それが落ちてきている。事実、かつて日本が強かったDRAMであり、液晶パネルであり、DVDレコーダー、こういったものがどんどん韓国勢に取ってかわられているというのが現実であります。

 今、阿部先生がおっしゃられましたように、では、日本は、今後、日本の中では市場が小さいから、どこへ伸びていくか。海外へ伸びていかざるを得ないわけで、そういった場合に、コモディティーの商品では、競争力は事実上ございません。

 したがいまして、今おっしゃられましたように、どれか一つということはないわけですけれども、エネルギーであり、環境であり、医療であり、あるいは、今クール・ジャパンというふうに言っておりますけれども、観光であるとかソフト、文化、こういったものはまだ日本が強い。しかも、これから新興国が伸びていく中で、そういったところの社会インフラがまだまだ十分でないために、社会インフラは命にかかわるところですから、日本がやはりそこの技術力を生かしてどんどんここを拡大していく、これはチャンスがあると思います。

 ただ、これをやるためには立地競争力を高めていかないと、いずれまた、韓国であり、中国に取ってかわられるおそれがございますので、今ここでやることが喫緊の課題だというふうに認識をしてございます。

阿部委員 再生可能エネルギー分野は待ったなしでございますので、ぜひよろしくお取り組みいただきたいと思います。

 終わります。

中井委員長 次に、山内康一君。

山内委員 みんなの党の山内康一と申します。

 最初に、仲川市長に質問をさせていただきたいと思います。

 実は、仲川市長が就任された年の事業仕分け、私も、二日間、ボランティアでお手伝いをさせていただきました。政権交代前から事業仕分けにかかわってきた人間としては、奈良市の事業仕分けは結果につながっていると思うんですけれども、国の事業仕分けは、残念ながら、余り成果が上がっていない。先ほどの数字でも、わずか数%しか歳出削減につながっていないということをおっしゃっていましたが、なぜ自治体ではうまくいく事業仕分けが国では余りうまくいかなかったのか、市長なりの分析と、もし市長が大臣とか総理という立場であれば、どこら辺の支出を切り込んでいくか、無駄を切り込んでいくか、お話しいただければと思います。

仲川公述人 山内先生には、奈良市の事業仕分けに御協力をいただきまして、改めて御礼を申し上げます。

 皆様方に御協力いただいて、私どもでも二年間にわたって実施をいたしました。その結果、最終的には七億以上の実質的な真水の財源を生み出すことができたわけでございますけれども、この仕分けというのは、今まで、事務レベルで削減をしようと思えばできたものについては当然やってございますので、それではタッチできてこなかった、いわゆる利害関係者がたくさんいたり政治判断が難しいものが仕分けの対象になってございます。

 そういうことで申し上げると、やはり、最終的に批判を受けてでもそれを断行しようとするかどうかという意思決定だと思っております。

 そういう意味では、地方は二元代表でございますけれども、議院内閣制ではございませんので、首長の意思決定でしっかりと答えを出すことができると考えております。そこがやはり国と地方の差につながっているのかなというふうに私は感じております。

山内委員 私も奈良の事業を二日間見せていただいて、何とか財団とか観光絡みの箱物が非常に多い。恐らく、長年にわたって積み重なった既得権に、市長の政権交代によって大分メスが入れられたのかなというふうに思っておりますが、なかなか国ではうまくいかなかった。民主党の方、ぜひ頑張っていただきたいと思います。

 続きまして、湯元公述人にお尋ねをしたいと思います。

 恐らく時間がなくて資料の最後の方までいかなかったと思うんですが、社会保障の中で、実学志向の強い教育、それから積極的労働市場政策ということをおっしゃっています。この点、大変興味深く感じましたので、特に、職業大学の充実している点、あるいは一般大学における職業学位、こういった点について御説明をいただいて、もし日本で、そこから学び、取り入れるべき点があればどういった点なのか、教えていただければと思います。

湯元公述人 ありがとうございます。

 職業大学が充実しているというところは、日本もそれなりに努力を積み重ねてきているというふうに思いますけれども、特に日本と違いますところは、一般大学の職業学位というものがございます。

 例えば、弁護士とか介護士とか看護師とか、こういうものになるとき、日本の場合は国家試験を受けてなるわけでございますけれども、スウェーデンにおいては大学で専門コースというのがありまして、それが二年から五年とか、いろいろコースによって違いますけれども、そういう専門コースに入ってそれをしっかりと履修すればその資格が得られるというものでございます。

 スウェーデンの場合は、特に大学というのは、次のステップにつくための重要な教育機能、職業訓練機能も含めて果たしているというふうに位置づけられております。日本とちょっと違う慣行がございまして、高校を卒業したときに、みんなが大学に行って一般的なお勉強をするということではなくて、かなりの方が、一旦社会人になって、最初はブルーワーカーも含めてそういった仕事につくわけですけれども、その後、やはり能力を高めて社会に貢献する仕事をしたい、そういうことを考える人たちが多くて、途中から、仕事をやめましてそういった専門コースに入りまして、資格を自動的に身につけて、また次のステップについていく。

 これは、実はスウェーデンの賃金制度とも密接なかかわりがありまして、日本のように年功序列的な賃金というのはございませんので、自分の能力を高めて、よりレベルの高い仕事についていかないと所得は上がっていかない。そして、所得が上がらなければ、最終的にもらえる年金の額も非常に低いものになってしまう。

 こういうインセンティブがありますので、常にそういう形で自己の能力をアップするような気持ち、インセンティブというのをスウェーデン国民も持っておりますし、国家としても、そういったものに無料でそういった教育を提供する、こういう考え方をしてそういう政策を行っている。

 日本でも、どこまでいけるかというのは、当然、財源の問題もございますので難しいものがありますが、大学や大学院教育のあり方を考える上で非常に参考になる面も多いのではないかと思っております。

山内委員 今の湯元さんのお話、もうちょっとお聞きしたいんですけれども、例えば、失業した人がそういう職業大学とか一般大学の職業学位を取ろうと思ったら、授業料は無料だというのはわかるんですが、例えば生活費とか、そういった面の支援もあるのかというところと、一般の大学でそういう職業訓練的なことをやると、例えば入学時期とか、あるいは期間、四年間なのか一年なのか。もしかしたら短期のサーティフィケートみたいなコースもあるのかわかりません。そういう柔軟性は確保されているんでしょうか。

湯元公述人 大学と職業大学で必ずしも同じではないと思いますけれども、職業大学のケースでは、例えば、リーマン・ショックで組み立て工が失業した場合に、政府が次世代のバイオ産業育成のための技術者養成プログラムをつくってそこに入るケースを想定しますと、そのときの学費はもちろん無料、それから生活費は、全て無料ですとモラルハザードが起きますので、かなりの部分はローンという形で提供して、一部、どうしても最低保障のところは生活費も補給するということでございます。

 それから、コースやカリキュラムは非常に多彩に用意されていますので、非常に多様なプログラムの中から自由に選択ができるというふうに聞いております。

山内委員 もう最後になりそうなんですが、経団連の村岡公述人に、半分は質問、半分は要望ということでお伝えしたいんです。

 日本の労働市場の問題の一つは、新卒じゃないとなかなか入れない。特に大企業ほどそうだと思うんですけれども、既卒者に対する差別というのが非常に大きいのかな。ある程度スキルを身につけた後の中途採用というのは別ですけれども、新卒がだめだったらしばらく普通の正社員にはなかなかなれないとか、あるいは、新卒で就職活動をやって失敗すると、わざと必修単位を落として五年生をやるとか六年生をやるとかいう学生が多いんですけれども、本来、五年生、六年生をやるのは全くの無駄以外の何物でもないのにあえて留年する人がいるのは、新卒じゃないと採ってくれない、そういう労働慣行があると思うんです。

 新卒じゃないとだめだという意味では、既卒者差別みたいな労働慣行を改めていかないと、特に若者の雇用環境はよくならないと思うんです。これは恐らく企業の単なる慣行ですから、例えば、経団連がよくやるように会員企業に呼びかけるとか、改善を図る手はあるんじゃないかと思うんですけれども、何らかの手は打てないものでしょうか。

村岡公述人 御理解いただきたいのは、もう既に私どもは新卒だけの採用にこだわってございませんで、通年採用あるいはキャリア採用という呼び方をしておりますけれども、途中採用の方も同等の条件で、同年次の方は後から入ってきても同じ扱いで採用するというのがどんどん進んでおります。

 ただ、おっしゃられるように、それはほとんどの会社に浸透していることではないので、まだ今は移行段階にあるわけですけれども、そうしないと、新卒だけを採ってやっていますと内向きの志向ですから、今から、グローバルで戦っていく、あるいはグローバル人材が必要な中で、そういうやり方はもう通用しないという認識はもう持っております。

 ですから、今もそういう形で進めておりますので、あとは、おっしゃられたように、会員企業なりほかのところにもそういうことを啓蒙していくことも必要かと認識はしてございますけれども、今、既にかなりのところでも進んでいるということも御理解を賜りたいと思います。

山内委員 終わりますが、改めてお願いします。

 実際、そういう制度を取り入れている会社も多いし、数もふえているとは思うんですけれども、やはり不十分だと思いますし、もしその点で新卒以外は差別するという慣行がなくなれば、東大が秋入学とか言っていますけれども、何月に卒業してもいいようになるわけですから、非常にフレキシブルで、学生にとっても、企業にとっても、よい制度になると思います。ぜひ、より積極的にお願いをしたいと思います。

 以上で質問を終わります。

中井委員長 次に、石田三示君。

石田(三)委員 新党きづなの石田三示でございます。

 公述人の皆さんには、大変知見あふれる御指摘をいただきまして、ありがとうございます。

 私は、まず最初に、仲川公述人に伺いたいと思うんです。

 仲川さんはNPOから市長になられたということで、私もずっとNPO活動を推進してきたという立場の中でお伺いをしたいと思うんですが、書かれたものの中に、市民の当たり前を実現していくことだ、取り戻すことだというふうに書かれておるんですが、私たちも、国会議員として、多分、国民の当たり前を取り戻すことだと思っています。

 NPO活動は、本来行政が踏み込んでやるべきところを、財源の関係あるいは人的な部分でなかなかできなくなってきたところを、市民の中からNPO活動として生まれてきているということだというふうに思っています。その中で、行政改革あるいは財政改革の面から見ても、NPOをどう活用していくかというのは非常に大きなことだと私は思っております。

 そういった中で、仲川先生が進められてきたこと、これから考えておられること、あるいはNPO活動への支援に対して国に要望すること、そういったことがございましたら、お願いしたいと思います。

仲川公述人 御質問にお答えいたします。

 NPOを初めとして、さまざまな民の立場で公共領域を担うパートナーが今活躍をしているのは御存じのところだと思います。

 私自身といたしましては、公共サービスが求められるその幅や深さというものがどんどん変わっている中で、一方で、地域や現場の中では声なき声がたくさんある、行政のサービスではフォローされていないところで困っている方、悩んでいる方がたくさんいらっしゃる、そういう意味では、本来的には、行政がより現場に即して市民目線でサービスをしっかりと組み立てていけばNPOが出るまでもないというものも多々含まれていると思います。

 また、一方で、公平性の観点から行政ではなかなか手を出しにくい個別テーマであるとか、そういったところに対して、きめ細かに、柔軟でしなやかに活動するという特性からして、NPOの意義というのはあろうかと思っています。

 ただ、一方で、行革的視点でNPOを活用するということに対しては、一つ考えるところがございます。

 と申しますのも、指定管理者制度を初め、さまざまな形でNPO等に対して行政からの委託事業というのが出されることが近年多うございます。しかし、その一方で、その委託の金額であるとか人件費の算出根拠、こういったものについては非常に大きな差があります。

 例えば、大手のシンクタンクであれば研究員の人件費一日幾らということがございますが、国のある省庁では、その研究員の前年の給与所得明細を出せ、そこから割り戻した時給でしか払わないというようなことがございます。そうなりますと、同じ質のサービスを提供しても、大手の企業のシンクタンクとNPOのシンクタンクであると、その単価が二倍、三倍と変わってくることがございます。

 そういうことで考えますと、行革の手段としてNPOを活用するということではなくて、より民間の立場で、効率的に、効果的に活動するNPOをパートナーとした際に、結果として財源が浮いてくるということで見ていただければというふうに考えてございます。

石田(三)委員 私も指定管理を受けている立場ではあるんですが、NPOに出したから非常に安く上がるんだという感覚はやはりちょっとまずいなというふうに私は思っています。

 そういった中で、一般の仕事をしている以上にNPOに参加をしている人が給料が安かったりということは決してあってはならぬことだというふうに私は思っていますが、NPOが地域に根差して活動していく中で効率よく進められることであれば、大いにやらなきゃいけないことだなというふうに私は思っています。よろしくお願いしたいと思います。

 次に、湯元公述人に伺いたいと思うんですが、公述人は、私がいただいた文書の中で、農業振興に関して戸別所得補償などの補助金を廃止してといったお考えをしているようでございますけれども、第二次大戦後、イギリスも非常に自給率が下がって、五〇%から今七〇%くらいまで多分上がっていると思うんですが、ヨーロッパ全体を見ても、戸別所得補償で自給率を上げてきたということがあると私は思います。

 今回、民主党政権も、戸別所得補償を入れて、これから、非常に崇高な目標であります、四〇%を十年間で五〇%に上げていこうというその一番大きな柱が私は戸別所得補償だというふうに思っていますが、その戸別所得補償をなくした農業振興というものの道筋をちょっとお示しいただきたいというふうに思います。

湯元公述人 それは私が書いたものということでございましょうか、ちょっとあれなんでございますが。

 戸別所得補償そのものを批判しているということではなくて、日本の農業の場合は規模をいかに拡大して競争力をつけていくかというのがやはり大事だと思いますので、そういう意欲のあるところにむしろ所得補償をする。一律にばらまきで所得補償をするという考え方は好ましくないのではないかといったような趣旨のことは大分以前に申し上げた記憶もありますので、恐らくその絡みでそういう御質問だったのかなと思っております。

中井委員長 石田君、何の雑誌か、彼にわかるように言ってください。

石田(三)委員 これはいただいた資料なんですけれども、「空洞化を「止める」から「埋める」へ」です。

湯元公述人 了解いたしました。

 これは一つの考え方を提示させていただいたことでありまして、空洞化というのは、当然、いろいろ個別の政策としては、とめるためのいろいろな補助金が出ているというのは承知しておりますが、大きな考え方として、これを防ぐというのは今非常に難しい環境にある。それよりも、国内に新しい産業を構築していく。

 まさに農業もそういう意味では輸出競争力を持った産業に切りかえていく必要があって、そして、戸別所得補償の問題については一例として挙げさせていただいておりますけれども、これをより競争力のあるところに、農業産業への参入者があらわれるような形で使うという使い方が非常に重要だと思っております。

 ちょっとそこまで詳しく私は書いていないと思いますけれども、私の趣旨としてはそういうことでございます。恐れ入ります。

石田(三)委員 では、戸別所得補償に限らず、やる気のある人に対してはしっかり支援をしていく、そういった流れをつくっていくということなんですかね。それは戸別所得補償であるかもしれませんけれども。

 私は、食料安全保障を第一義に政治家として考えていきたいということをかねがね考えているわけでございますけれども、先ほど、食料自給率、日本は三九%まで落ちたと。石破先生は、多分、食料自給力ということをおっしゃられている。これは、有力な耕地をしっかり確保する、あるいは担い手をしっかり確保することだというふうに思いますが、その結果として食料自給率があるわけなので、それは自給率を一つ目安にしてもいいのかなというふうに思っています。

 日本の食料安全保障を考えたときに、TPP推進の方もおいでになるようでございますけれども、今、世界の人口は七十億から九十億になろうとしております。また、異常気象ですとかピークウオーターといった中で、今後は減産が考えられるといった状況でもありますし、また、過去に食料輸出国が国内の事情によって輸出をとめる、禁輸をするという状況もあるわけであります。

 そういった中で、私は、国内でどれだけの食料を確保するかということは、主権国家として必ずやっていかなきゃいけないことだというふうに思っているわけでございます。今、六〇%を外国に依存しているわけです。確かに、国際的に連携をとりながら、食料が困ったときには譲ってくださいね、そういったお約束をしてもなかなか守られるものではないだろうというふうに思っています。そういった中で、どうしても国内自給率というのは守っていかなきゃいけないんだろうというふうに私は思っています。

 民主党は、今回、十年後に五〇%という大きな目標を掲げました。私は、これは絶対やっていかなきゃいけない、ましてや、これは一つの過程だというふうに思っているくらいでありまして、その辺に関して、私は、地方がエネルギーと食料をしっかり自給していく形を地域地域が持つということがやはりまず基本的に大事だと思いますので、仲川先生には、それについてちょっとお伺いをしたい。

 あと、ほかの先生方には、食料自給率を日本はどうやって確保していくのか、主権国家として国民の胃袋、食料安全保障というものをどう考えていったらいいのか、お伺いをしたいというふうに思います。

 済みません、よろしくお願いします。

仲川公述人 食料及びエネルギーの安全保障ということでございますが、私自身も、市長の前はエネルギー開発企業で仕事をしてございましたので、エネルギー安全保障に携わってきた中の一人でございます。

 今までは、地域のエネルギー、どのように供給するのか、どのように保障していくのかということは、恐らく基礎自治体としての領域ではなかったと思っております。しかし、昨年の原発事故以来の節電などに際しまして、やはり私どもも、自前でどれだけのエネルギーを賄うことができるのか、もしくは今までどれだけの総量がかかっていたのかということについて、改めて考えなければいけないと考えております。

 これは食料も同じでございまして、特に大阪への意識の高い県民性、市民性というのがございますので、自分たちが日ごろ手にしている、口にしているものがどこから来ているのかということに対して今は非常に関心が高まってございますから、これをいかに地域で生産し、地域で消費していく構図をつくっていくのか。そのために基礎自治体としてやるべきことはたくさんあるというふうに考えております。

中井委員長 それでは、三人にお伺いしますが、時間がありませんので、一人一分以内でお願い申し上げます。

伊藤公述人 食料、エネルギー、両方に通ずることでございますけれども、安全保障という観点からいうと、国内で調達する、それが自給ということの意味であれば、それは安全保障につながらない。むしろ、世界が相互依存を強めている中で、農業一つとってみても、石油が入ってこなければ、トラクターが動かない、何も動かないというような事態が考えられるわけで、むしろ、エネルギーならエネルギー共同体、食料なら食料共同体、グローバルなレベルだけじゃなくて、地域的なレベル、そして、お互いに危機を招かないための、というのは、危機が一旦来ると、それは某国だけに集中するわけじゃなくて、全ての国が市場メカニズムを通じて影響を受けるわけですから、私は、その観点をぜひお忘れいただかないように、そうでなければ新しい二十一世紀の安全保障を確保できないんじゃないかと考えます。

村岡公述人 食料の専門家ではないので一般論でしか申し上げられませんけれども、まず、食料自給率を上げる、これは国のリスクマネジメントとして必要であるというふうには思います。

 TPPとの関連で申し上げますと、私の最初のお話の中でも申し上げましたとおり、今の農業そのものは、農業に従事している方の平均年齢が既にもう六十六歳になっている。しかも、米の消費量が五十年前と比べて半分になっているというような状況で、今のまま戸別の生産農家でやっていくのは無理がある。したがって、TPPをやれば農家が潰れるという話もあるが、これを、先ほど申し上げました六次産業化するとか、そういうことで改善をしていって、逆に輸出ができるようなことに持っていくことも必要かというふうに考えてございます。

湯元公述人 私もさほど専門家ではございません、恐縮でございます。

 一般論で申し上げますと、やはり、担い手の高齢化、担い手の不足、意欲ある若者が農業に参入してやっていきたい、そういう人たちをいかにふやすか。それには、当然、補助的な政策も必要だと思いますし、それから、他方で、参入主体、企業の参入については賛否両論あるところではありますけれども、農業というものを六次産業化して付加価値を高め、これを輸出産業化するという目標を国家として設定するならば、こういったところについても非常に前向きに検討していただくというのがよろしいのではないかと思っております。

石田(三)委員 ありがとうございました。

中井委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。

 公述人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。

 午後一時から公聴会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午後零時二十三分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時開議

中井委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 平成二十四年度総予算についての公聴会を続行いたします。

 この際、公述人各位に一言御挨拶を申し上げます。

 公述人各位におかれましては、御多用中にもかかわらず御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。平成二十四年度総予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願いいたします。

 御意見を賜る順序といたしましては、まず三木義一公述人、次に小室淑恵公述人、次に菊池英博公述人、次に浦野広明公述人の順序で、お一人様二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 それでは、三木公述人にお願いいたします。

三木公述人 三木でございます。

 昼食後の気だるい時間帯であり、大学でいいますと魔の三限目といいますので、少し声を大きくしてしゃべらせていただきますので、よろしくお願いいたします。

 大学で三十年間税法を担当してまいりましたので、税法研究者という立場でこういう機会を与えていただいたことに大変感謝申し上げますと同時に、せっかくの機会ですから、税財政に係る法的な問題点についても、ぜひ先生方に問題点を共有していただきたいと思いまして、一言申し上げさせていただきたいと思います。

 まず、平成二十三年度の税制改正におきまして、租税の手続関係が大幅に公正化されたことについてお礼を申し上げたいと思います。

 税法研究者にとりましては、税務手続法の公正化がおくれていることは非常に深刻な懸案事項でございました。不利益な更正処分があっても、理由すら書かないでいい。それから、先生方が申告をして、もし間違って高目に申告してしまった場合であっても是正できるのは一年間だけでありますし、仮に一年以内に気がついても、例えば外国税額控除があることなどに気がついたような場合は、もうだめです、そういうふうに制限されておりました。

 一方、課税庁の方は五年間権限がありますので、そうしますと納税者としてはどうなるかといいますと、二十一世紀のついこの間まで、課税庁に対して、まるで江戸時代のお代官様に民百姓がお願いするかのごとき、嘆願書というものの提出が事実上強制されていたわけであります。そういう事態であったこと、さらに、税務調査に際して事前通知をするなどの手続規定が現行法には全然ないわけであります。

 そういった問題点がありまして、ぜひ改正をしていただきたかったわけですが、昨年、おかげさまで基本的に改正ができまして、大幅に公正化が実現したというふうに思っております。

 本来であれば、このような改正については、納税者の代表としての議員の先生方全員に御賛同いただけると思っていたのでありますけれども、残念ながら一部取り残されておりますので、そういう残されている問題点、行政不服申し立て制度など、それから、今年度の改正案では、相続税のあの不合理な連帯納付、これも時間があれば説明したいわけですが、連帯納付などについての適正化も図られようとしておりますので、ぜひ先生方にも、税務行政手続の公正化を一層進めるように関心を持っていただきたいということをお願いしておきたいわけであります。

 なぜかと申しますと、戦後、日本は国民主権主義になったわけですね。ですから、主権者である国民みずからが納税の義務を税制改正を通じて決断するというシステムになったはずですよね。この建前からしますと、税は、取られるものではなくて、同意して拠出するもの、あるいは、北欧の人たちのように、自分たちの共同体に対して預けるもの、こういう意識が形成されてしかるべきでありました。

 日本という国が国民のために生活を守り、皆さんの政治が国民に信頼され、税が適切に行使されていれば、国民の代表者である皆さんの施策に対して国民が同意して、税を出してもいいよと言ってくれるはずであります。

 ところが、相変わらず、税は取られるもの、そして減税の方が圧倒的に人気があるようであります。

 しかし、民主主義社会における減税というのは、本来的には、自分たちのことは自分たちでできるんだから政府は何もしなくてもいいよ、そのかわり税金も出さないよ、こういう富裕者の思想のはずであります。これを日本では、本来、政府の税の再配分を通じて格差是正を求めるべき庶民の人たちも要求しているという問題があります。なぜ、そうなってしまったんでしょうか。

 その原因の一つでありますけれども、戦後、国民主権主義になったにもかかわらず、日本の税務行政が明治時代の税務行政を踏襲しまして、国民を取り締まる、こういう発想で納税の義務を押しつけてきた側面が強く、国民の間には、まだお上が存在するかのような錯覚があるのではないかと思います。お上が取っていく税であれば、それは取られるのは嫌でありますし、お上が困ってもそれは知ったことではない、こういう発想になるのだろうと思います。

 しかし、自分たちが拠出し合う組織のお金で、拠出しなければ自分たちの生活が脅かされるんだという意識が国民の中にあれば、もっと税に対してきちんと向き合うはずであります。

 今回の税務手続の公正化というのは、実は、そういう面で納税者にきちんと税に向かい合ってもらいたい、そのためには、納税者の人たちを国家財政を支えるパートナーとしてきちんと位置づけたい、こういう願いだったわけであります。その第一歩が実現できたことに対して心から御礼申し上げたいと思いますし、今後、こうした面の公正化に向けて、さらに先生方の関心を向けていただきたいということをお願いしておきたいと思います。

 次に、今年度予算で税収増につながるものは余りありませんで、微調整にとどまっており、税と社会保障の一体改革の中で増収を図ろうとされているようであります。国内の税制は納税者の負担能力に応じたものにしなければいけないわけですから、本来であれば、所得税や法人税の応能化の強化も考えた上で消費税収の可能性を考えるべきだと思っておりますが、後述の国際化の問題や、既に税収が痩せ細ってしまっているという状況の中で考えますと、増収策としては消費税を軸に考えていかざるを得ないということは理解できるわけであります。

 しかしながら、消費税については、御存じのとおり、致命的な問題がございます。それは逆進性の問題でございました。これをどう克服するかに消費税の今後がかかっているわけでありますが、生活必需品を非課税にしたり、あるいは軽減税率を適用するというような方法が根本的な解決にならないことは、既に明らかになっております。ですから、これだけですと疑問だなというふうに思っていたわけでありますが、今回の改革案の中で示された思想は、従来と比べますと非常にすぐれたものでありました。

 私なりの理解で申しますと、国民が健康で文化的な最低限の支出をした場合に負担せざるを得ないであろう消費税を仮に五万円としますと、それをその人の所得税の中から控除しよう、そして、例えば家族四人ですと二十万円を所得税から控除していこう、こういう仕組みでありまして、仮にその人の所得税額がそれよりももっと少ない場合には、税を還付してあげよう。ところが、その人が社会保険の保険料等を払っていない人ですと、還付するよりも保険料に充当してその人の年金受給権を確保してあげよう、こういう一連のシステムだと思います。この仕組み自体は非常にすぐれたものだというふうに思っております。

 ただ、同時に、この仕組みですと、中低所得者の層の所得把握が非常に重要になってまいりまして、従来、申告不要だった低所得者層も確定申告の過程に参加させることになりました。さらには、年金データとの共同作業なども必要になりますので、それが歳入庁構想などにつながっていくのだろうというふうに思います。

 このような方法で逆進性が解消されるのであれば、消費税で税収を賄っていく方法は十分に説得力を持つと思います。ただ、その際、留意しておかなければならない問題がやはり残されております。一つは下請業者の転嫁可能性確保の問題と、もう一つは正規雇用への悪影響の阻止の問題であります。

 とりわけ後者の問題は大変大きくて、御存じのように、消費税の仕組みからしますと、正規雇用した社員への給与は課税仕入れになりません。ところが、これを外注化する、つまり派遣による賃金にいたしますと、課税仕入れになるわけであります。派遣労働法の規制の緩和と相まって、消費税が派遣労働を促進してきた面がございます。

 したがいまして、税率を引き上げるのであれば、それにあわせて労働法の規制も適切に考えていく必要があると思っております。

 番号制度については、納税者番号制度という発想ではなくて、給付のための番号制度という視点に変えられていることは大変重要だと思っております。ただ、国民に対して、国民が懸念しているデメリット以上のメリットとしてどのようなものが具体的に提供されるのかということを十分に示したのかという点については、なお課題が残されているのではないかと思います。

 所得税については、所得控除よりも税額控除、税額控除よりも手当へという思想自体は間違っていないだろうと思います。ただ、各種控除、とりわけ配偶者控除などについては多少の混乱もあるように思います。

 この配偶者控除というのは、所得がある人は健康で文化的な最低限の生活費は自分の基礎控除として引いていけるわけでありますが、専業主婦は一般的に個人の所得がない層ですから、この人の健康で文化的な最低限の生活費は他方配偶者が出しているわけですから、他方配偶者の税金計算のところで、他方配偶者は、その人自身の基礎控除と、それから、配偶者控除として、基礎控除の分を引いているだけの制度であります。ですから、そういう意味ではこの制度というのは非常に重要でありますし、別に、殊さらに専業主婦を優遇している制度でもないものですので、そこを十分に配慮した上での見直しというのをぜひお考えいただきたいというふうに思います。

 法人税につきましては、税率の問題に関連して、本来、課税標準をきちんと拡大していく、見直していくというのが民主党の政策だったのではないかというふうに思いますが、最近の改正案、今年度の改正案を見ますと、そういう影響が非常に薄れております。透明化法による報告がこの四月に出てくると思いますので、それを踏まえた上で、もう一度原点に戻って租税特別措置のあり方をぜひ検討していただきたいというふうにお願いをしておきます。

 それから、相続税については、基礎控除引き下げが課題となっておりますが、現行の制度はバブル期に引き上げたものですから、現在の状況からすると、この課税最低限の引き下げは理論的には相当だろうというふうに思っています。

 と同時に、民主党さんは相続税の基本的な課税方式を遺産税にしたいようであります。それはわかるのですが、ただ、アメリカ型のこの制度ですと、日本の民法の相続制度が合うかどうか、若干問題がありますので、日本の民法を前提にしますと、むしろ大陸型の遺産取得税に徹底していった方がいいのではないかと個人的に思っております。

 いずれにしましても、現行の課税制度というのはもう制度疲労を起こしておりまして、これをきちんと見直すということは必要だろうというふうに思っております。

 なお、間接諸税と印紙税、こういうものは、消費税がきちんと引き上げられたのであれば、基本的には整理すべきものだろうと思います。あとは政策的に必要なもののみを残すというような方向にぜひ向かっていただきたいと思っております。

 それから三番目に、私が、所得税、法人税の応能化は必要だというふうに思いつつも、フランスの大統領選で優位に立っているオランド候補のように所得税最高税率七五%にしなさいよと言うことになおちゅうちょを感じている理由を申し上げたいと思います。

 それは、一言で言いますと、一国でそのような応能化を図るというのがもはや非常に難しくなっておりまして、大きな壁があるわけであります。

 まず、個人から申しますと、多数決により税制改正をしていくという民主主義のルールは、少数者がそれを守ってくれることを前提にしているルールであります。ところが、少数者がそれを無視し始めたらどうなるでしょうか。税制改正で富裕者にきちんと税金を負担してもらいたいということをすると、富裕者は日本から外国へ住所を移してしまう。現在の課税のシステムは、いろいろな国々、大陸系もそうですが、住所がどこにあるかでその国が課税権を持っているわけであります。そうしますと、税制改正をするとそういう人たちが外国へ行くということが繰り返されますと、民主主義は崩壊してしまうわけであります。

 今、国際社会で問題になっているのは、この現象であります。こういう人たちは、その地域に対する忠誠心もありませんし、連帯感もありませんし、費用対効果で考えますから、何かあると、すぐ、さっと逃げてしまうということになります。そういうことを通じて、実は民主主義の基礎が形骸化されつつあるわけであります。

 企業はどうでしょうか。

 法人税というのは所得を得た企業が負担するものですから、赤字であれば法人税の負担はありません。御存じのように、日本の場合は企業の七五%は法人税を負担していないわけでありまして、残りの二五%が黒字であります。相対的に強い大企業さんということになりますので、税を負担してもらってもよさそうでありますが、各国が競って法人税率を引き下げ、税の割引競争を展開しているのは御存じのとおりであります。

 日本の場合、どの企業に日本が課税できるかを区分する基準は本店所在地でありまして、本店が日本にある場合には、内国法人として、その法人の全世界所得に課税できることになります。本店所在地で課税関係を変えられますので、移動も簡単でありますし、税率の低い国や誘致に積極的な国に移動しやすいということになってまいります。

 こうした国々と競争するためには日本の税率も下げなければならない、こういう口実の、税の割引競争に引き込まれてしまうわけであります。ですから、日本が法人税率を引き上げたくても、もはや日本だけの事情では決定できないという状況の中にいるわけであります。

 しかし、割引競争を続けていけば、結局は、税率はゼロ、取らないでいいよというのが一番いいということになってしまいます。ですから、割引競争を続ける愚かな政策を続けていくのは自殺行為であるということは各国とも実はわかっているはずなのでありますが、しかし、特定の地域が税率を下げたりすると、なかなか切りかえられないというのが実情であります。

 これに対して、日本の場合はタックスヘイブンの地域を実質的に支配している国ではないわけですから、むしろ日本が率先して国際的に共通した歯どめ策を提唱する資格がありますし、もうそろそろそういう方向に日本も向かわなければいけないんだというふうに思っております。

 なお、仮に日本の税率を引き上げることができたとしても、企業ですと、海外に子会社をつくってそちらに留保するということも可能であります。二〇〇八年のデータでいいますと、推計値で大体十九兆円ぐらいに既になっていると言われております。また、日本の平成十六年度の直接海外投資先のデータを見てみますと、第一位がオランダ、第四位がケイマンですね。ということは、本当に海外投資しているのか、それとも税金を逃げているだけなのかという問題があります。こうしたデータを見てみますと、日本におけるタックスギャップというものも相当大きな額になっているようであります。

 ニコラス・シャクソンさんという人が最近書いた「タックスヘイブンの闇」というのが国際社会のこうした部分を描いて話題となっておりますが、この問題についてのきちんとした日本の取り組みがないと、税金というのは国境を利用できない庶民が負担するものであって、その福利は国境を利用する富裕者が享受してしまうといういびつな社会になりかねません。もちろん、財務省も、手をこまねいているわけではなくて、昨年十一月に三十二カ国と行政協定を締結いたしましたし、昨年、ケイマン等のいろいろな地域と租税条約を締結して努力をしているところではあります。

 しかし、まだ、税の国際公正化の問題というのは、その入り口に差しかかっただけだと思います。今の税制はそれぞれの国家が独自に課税権を行使していますが、人や企業や物は国境を飛び越えて飛び回っているわけであります。一国で独自に課税するというシステムと人々の行動が対応しなくなっているわけであります。そのため、東京から札幌に行きますと飛行機代に消費税がかかっていますが、東京からパリに行きますと日本もフランスも消費税を取れない、こういうおかしなことになるわけであります。

 フランスでは、この矛盾に気がついて、国際航空券税という新しい国境を越えた税を二〇〇六年から徴収し始めて、その税収を感染症対策などの財源にし始めております。EUでは、御存じのように、通貨取引税が真剣に検討され始め、フランス、ドイツがその導入を具体的に提唱し、ついに二日前、サルコジ政権がその一部を導入することを可決しております。欧米の市民も、これらの税金の全面的導入を求める運動を展開しているようであります。

 一方、日本はどうでしょうか。

 国内の消費税問題にしか目が向けられていないために、国民や議員の方々の中での国際課税の適正化を求める声はまだまだ小さいように思います。国内の消費税だけではなくて、いや、国内の税制をより適正なものにするためにも、ぜひ、こうした国際課税の側面にも注目をしていただいて、こちらの方にも適正化を図るように努力していただきたいということをお願いしたいと思います。

 四番目に、国債発行と民主主義のことにちょっと触れておきたいと思います。

 なお現状ではどうしようもないんですが、これが一段落しましたら、将来的には、民主主義社会における政権交代を担保するものとして、もっと厳しい国債発行の制限規定を設けていただきたいと思います。

 御存じのように、財政法は公債不発行の原則を規定しておりますけれども、従来、この原則は、戦費抑制という観点のみから語られてきました。しかし、今回の一連の経過で明らかになったことは、この原則は民主主義社会における政権交代を担保するものであるということです。

 政権交代を前提とするならば、交代後の政権は新しいことをできるだけの財源がなければならないはずですが、税金が先食いされていますと、新しい施策はほとんど実行不能になります。政権交代が頻繁であったドイツでは従来から議論されていた問題なのでありますが、我が国でも、今回実感されたのではないかと思います。

 このようなことが繰り返されますと、国民は、政権交代だけではなくて、選挙自体にも関心を失い、民主主義が形骸化されかねませんので、これは与野党共通の問題だと思いますので、ぜひ御議論をしていただきたいとお願いしておきたいと思います。

 ところで、現在国会に提案されている税制改正案の所得税の部分は、改正されますと、二十五年、来年から適用されますので問題ないわけですが、かつて平成十六年に国会で可決された税制改正案は、三月に改正したんですが、譲渡しても譲渡損をほかのと相殺しちゃいけないよという不利益な内容だったんですが、それを一月一日に遡及して適用して、そのために不利益遡及の適用を受けた犠牲者が日本で出てしまいました。ぜひ、先生方、そういうことが今後ないように、国会で厳しくチェックしていただきたいと思います。

 最後になりますが、誰に税を負担してもらい、誰のために使うか、これが政治の中心課題でありまして、先生方の政策のかなめだろうというふうに思います。日本は未曽有の財政問題に直面しており、これを克服するためには国民に納得して負担してもらうことが必要でありますけれども、そのためには、何よりも、政治に対する信頼感と、国や政府との一体感というものがなければならないわけであります。皆さんの政策がそういう信頼の形成と負担の理解につながっているのか、議員の先生方一人一人に問われているのだろうと思います。この点を最後に強調して、私の公述とさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)

中井委員長 ありがとうございました。

 次に、小室公述人にお願いいたします。

小室公述人 ワーク・ライフバランスの小室と申します。本日は、どうぞよろしくお願いいたします。

 私は資料を用意しましたので、お手元にこういったものがございますので、御用意いただければと思います。

 私は、今、フロンティア部会の委員ですとか、厚労省の年金部会の委員、内閣府の、仕事と生活の調和推進委員会の委員などをさせていただいておりますが、本業は、ワーク・ライフ・バランス・コンサルティングを行う会社の代表をしております。

 企業に入って、労働時間を削減して売り上げを前年より上げるというようなコンサルをしています。今まで九百社にコンサルしてきたんですが、六十時間以上残業されていたような二十代の方で、八カ月後に残業時間がゼロになって、以前よりスリムになられて、婚活も始めましたと言っていただいたりというふうに、コンサルに入った当初は、どの企業も、極めて優秀な方が極めて孤独に長時間労働しているという組織が日本の職場には大変多いんですが、コンサルを終えた後には、チーム力がすごく上がって、短い時間で生産性を上げようとすると、人を信じる、情報を共有するということを始めますので、職場が非常に活性化するということを感じています。

 こういった非常にやりがいのある仕事をさせていただいているんですけれども、きょうは、私自身がふだん取り組んでいる労働時間の問題について、タイトルにも書かせていただきましたが、労働時間に対する国家戦略が必要ではないかということについてお話しさせていただきたいと思っております。

 一枚めくっていただきまして、自己紹介を簡単に入れました。きょうは時間に限りもあるので一言だけにさせていただきますが、現在、私は会社を創業して五年なんですが、長男が五歳です。ちょっと写真を入れてしまいまして、余りにもかわいい写真で驚かれたかと思うんですけれども。うそです、済みません。

 息子と会社の年齢が一緒というのは、実は、出産して三週間で復帰して、今の会社を起業しました。ですから、子育てと会社育てをずっと同時にやってきまして、私自身が、残業禁止の時間制約つき社長です。私だけではなくて、実は、全社員残業させないという経営をしていますが、五年間ずっと増収増益、利益率の大変高い会社になっています。

 私は、育児だけではなくて、一昨年は介護にも直面しました。今、ヘルパー二級も取りまして、介護の本もことし出すのですが、実は、私にいただくワーク・ライフ・バランスの御依頼というのも、年間三百回ぐらい講演会をしていますが、おととしから、介護と仕事の両立という御依頼のセミナーが急増してきております。

 ワーク・ライフ・バランスというと、女性、育児というふうに思われるんですが、実際には、今、男性管理職の方が、介護でお休みされる、もしくはやめてしまうということがふえています。

 大手製造業のT社さんでは、昨年介護休業をとられた方のうち、七割が男性でした。というのも、四、五十代は九割男性という企業が多いですから、親の介護になる年齢の方は圧倒的に男性が多く、育児で休んでいる女性の数を介護で休んでいる男性の数が超えているという企業もふえています。

 自動車メーカーのT社さんも、六万八千人いる社員が五年後に抱える親の介護の数は一万四千人、社員の五分の一だそうです。介護は平均して十年ぐらい続きますので、五分の二、五分の三、つまり、社員のほとんどが時間制約を抱える企業というようなことが、今後、すぐ目の前にあるということが言えます。

 こんなふうに、ワーク・ライフ・バランスといっても、対象や内容が今さまざまに広がってきている。そういったことを十年ぐらい一筋でやっている人間ということです。

 本題に入ります。

 次のスライドになりますが、今の日本社会を一枚であらわすとこんな感じというものをつくってみました。左側に大きな「仕事」という丸があります、右側に小さな「私生活」というのが見てとれると思います。

 今、月間六十時間以上残業する人の割合が世界で最も高い国が日本です。子供と遊べない、パートナーとの時間がない、独身の方も、スポーツの時間もなければ自己研さんの時間もない。決して、家庭を持っている方だけじゃなく、独身の方も、今、ワーク・ライフ・バランスに苦しんでいます。

 右側の図を見ていただくと、二十四カ国でとった調査で、ワーク・ライフ・バランスに対する満足度が最も低いのも日本。一番下に書いたんですけれども、つまり、今の日本は仕事ばかり。ワーク・ワーク・ワークの国という状況です。

 でも、これの何がいけないの、これで日本は勝ってきたんでしょう、これがなければ日本の今はないでしょうという言葉もよく聞きます。そしてまた、アジアが台頭する、新興国が台頭する中では、日本はもっと寝食を忘れて仕事をするぐらいじゃないと勝てないという話題もよく聞きます。

 でも、これは本当なんでしょうか。これだけ長時間労働してきた日本が、それに見合った成果を出しているのか。

 次のスライドも見てみてください。

 これは成果をあらわす指標で、今最も注目されている労働生産性というものです。右上に概念が書いてありますが、その国で稼ぎ出した付加価値額を働いている人間の頭数で割る、つまり、一人当たりの付加価値額にしたものです。GDP、GNPは国民数が多いと有利なんですけれども、これは一人当たりなんですね。

 一人当たりにしてしまうと、左側の図を見てみてください、OECD三十三カ国中で日本は二十二位。これは、先進国の中では最下位です。つまり、今、日本は、一番時間をかけて仕事をしているんですが、生み出す付加価値は一番低い。これは、同僚に例えると、あの人は残業時間はトップクラスなんだけれども、仕事の成果は最低クラスだよねと言われているのと同じことで、世界から見た日本人はこんな同僚。ですから、日本では働きたくないというふうに思われてしまう。

 この状況が続いたことによって、今、負のスパイラルが起きています。働く個人は、私生活が減ると、体験を通じたインプットがなくなります。妻の話を聞いて知った最近の家事労働の不満、不便だとか、子供と話して知ったキャラクターのはやり、地域のボランティアをやって気づいた地域社会の変化、こういったインプットがあってこそ、仕事の場で、企画を、ぐっとアウトプットが出せるわけですが、今は、空の引き出しを持った大群が押し寄せて出社して、それをひっくり返し合って会議して、俺はアイデアないよ、おまえもないの、えっ、俺もだけどみたいな会議が長引いて、貧困なアイデアが出て、そのアイデアで勝負するとやはり売れなくて、帰れなくて、睡眠がなくなって、集中力が落ちて、ミスが発生して、こんなことをぐるぐるぐるぐる繰り返しています。これをどこかでぐっととめて、逆回転に回し直していきたいんです。

 逆回転に回し直す上で最も重要なことは、逆回転に回すときに、一度強い負荷をかけなきゃいけないんですね。この強い負荷が、労働時間に対する対策。この負荷をかけて逆回転に回し直しさえすれば、睡眠をしっかりとり、インプット満タンで出社して、高いアウトプットを短い時間でぎゅっと出して、颯爽と帰り、またインプットして前向きに出社するという好循環が生まれます。

 この負のスパイラルをとめる労働時間の問題に対して、私が考えるに、この問題は単に一企業の問題ではない。一企業に任せておく問題ではなくて、これをどう行うのかによって日本の財政に大きな影響をもたらすと考えているので、きょう提案したいというふうに思っています。

 二つの場合のシミュレーションを考えたので、四ページのスライドをごらんください。

 今のまま労働時間に対策がとられなかった場合、現状の経営者がとる手法なんですが、左側の図の一本一本の棒が労働者、下の色の濃いところが八時間以内の労働、上の色の薄いところが残業時間をイメージしていると思ってください。

 この一つの枠が企業なんですけれども、この企業で、現在、景気が苦しい、経営が苦しいとなると、真っ先に点線の部分を削減しようとします。つまり、人をリストラして固定費を下げようとします。しかし、その仕事はなくなるわけではありませんので、右側の図を見てみてください、その仕事は残された人の上に乗っかるという構造になって、残業増ということが起きていますが、労働法が改正されて、今六十時間以上の残業をすると一・五倍払うという状態になりましたから、実は、削った固定費を残業代が上回っている企業というのが既に出てきています。

 それだけではありません。右下のところを見ていただくと、まとめて書きましたが、メンタル疾患増加が労働時間の増加に伴って出てきて、これは、一人メンタルでお休みをされると企業は年間八百万かかりますので、ここに対しての費用とリスクの増加。また、そんな企業からは、優秀な人はどんどん流出しますし、育児女性が離職せざるを得ない。長時間労働企業では両立ができないので、それまで育成してきた育成費がロスになります。また、全社員が体力、気力を疲弊させて、アイデアが枯渇していく。こんなどよんとした状態に、もう既に日本の企業は入っております。

 でも、この状態が恐ろしいのは、さらにその先なんです。さらに次のページ、スライドの五をごらんください。

 ここに、労働力人口の問題が重なってまいります。二〇〇七年問題、団塊世代が一斉に定年退職をして、二〇一七年になればそろって七十代。それを、団塊ジュニア世代、私ですけれども、この世代が、介護という形で、介護と仕事を両立する状態になってまいります。その図が右側だと思ってください。

 介護をする方が多くなると、遠方介護などで離職する人も当然出ます。時間制約を持つ人も出ます。しかし、既に頭数を削ってしまったんですね。リストラしてしまった。そうすると、抜けた人の仕事をフォローする人がいない。右下に書きましたが、頭数が少ないことで、抜けた分のフォローが不可能である。また、そうなってから、人が足りないといって人を採用しようとしても、もうそんな労働環境の悪い企業には人は来ないという状態で、労働環境の悪さで優秀な人材が採れない、事業継続が不可能になるという状態が起きます。これは、今、一つの企業に例えて言っていますが、これが国のレベルで起きているということをイメージしてください。

 一方で、対策がとられた場合というのをスライドの六に書いてみました。

 何らかの労働時間に対する国家戦略が持たれて、それが企業に対して発信された場合、企業は、同じように景気が苦しくなって、何とかしてコストを削減しようとしたときに、上の部分、つまり残業時間に注目します。残業時間を圧縮すると、右側の図のように、八時間以内のフレッシュな労働力で働く方たちというのでビジネスをするようになります。しかしながら、労働時間を減らした部分、残業を減らした部分の仕事が残りますので、それを、若者の雇用、もしくは時間制約のある女性の積極的な雇用という形で働く人の数をふやすという逆転の発想なんですが、こちらの方法で事業を継続しようというふうに考えると思います。

 右下に書きましたけれども、この状態で若者の雇用をふやすと、コストは減ります。また、時間制約を持つ社員の積極的な採用で、残業をさせないということが起きる。短い時間で高い生産性の組織をつくると、この真価が発揮されるのがその先になります。

 次のスライド七をごらんください。右側の図が、こういった短い労働時間で高い生産性の企業の未来です。

 介護や育児を抱えていても、時間が八時間以内で終えられるのであれば、きちんと両立することができます。また、遠方介護などで辞職する人が出たとしても、頭数がそろっていますから、人の仕事にフォローに入れる余裕があるという形で、互いに助け合うことができる。また、そういった組織には優秀な人が集まり、社員が健康で、生産性が高いという状態ができます。

 今は、このどちらの企業のタイプになるのかは経営者の判断に任せられていて、二極化している状態です。しかし、この二極化をそのままにしていていいわけではありません。どちらの企業がふえるかによって、財政に大きな影響が出てくるからです。

 スライドの八をごらんください。前者のパターンの企業がふえてしまった日本社会をイメージしています。

 これが財政にどのような影響を与えるかというと、右上から見ていきたいんですが、残業があるからまず介護はできないということで、要介護度一でも二十四時間型施設に入れたいという話になります。これは東大の佐藤教授と一緒に調査した結果なんですが、残業時間が六十時間を超えると、介護と仕事の両立は困難だと感じる人が一気にふえるという変化が起きます。今、私は訪問介護のボランティアもしているんですけれども、IT業に勤める長時間労働の息子さんに介護されている方のおうちに行くと、荒れ放題に荒れ果てていて、まだ要介護度が二であるにもかかわらず、もう二十四時間型施設に入れようとしています。

 こういった長時間労働が生むのは、二十四時間型施設を国がもっともっとつくってくれなきゃおかしいじゃないかというような要求につながってしまいます。

 二点目の吹き出しですが、育児。

 夫婦ともに働かなければ、今、二人以上の子供を育てる養育費はなかなか出せません。しかしながら、夫婦ともに残業にのみ込まれてしまうと、延長保育、延長保育という話になります。

 保育園の経営もコンサルティングをしているんですが、延長保育がふえると、一気に赤字の園になります。八時間以内の保育時間であれば、余り赤字にはならないんですね。延長保育がふえると、そこの赤字になった部分がそのまま地方自治体の赤字になります。

 そして、三つ目は地域です。

 今、働く方が全く地域社会に参画できないので、このままでは、地域の安全対策も防災も清掃も全部国がやってくれという話になる。

 四つ目、教育です。

 残業でしつけの時間もない、宿題も見てあげられないから、学童保育でしつけも宿題も全部やってくれという話になります。

 五つ目は、うつの問題。

 長時間労働とうつの相関性というのは非常に高いんですけれども、うつがこの四、五年で急増しています。それに対して再就職支援金というような、これもお金の話になってまいります。

 さらにその下ですけれども、女性の就業。

 子供のいる女性は長時間労働の企業では継続就業ができないのでやめざるを得ないとなると、もう年金も少ないんだから、将来不安なんだから、手当を増額してくれという話になります。

 最後に、その下、企業です。

 これだけもう利益の出ないような、左側の図のような切迫した状態になると、新規の雇用なんかしたくないんですね。それでも若者を雇用してという話になると、それは対策金をくれないとという話で、一番下に書きましたが、全てが福祉への要求がエスカレートする社会というところにつながっていって、財政は逼迫します。

 これは、国民がやりたいことではないんです。国民は、本当は自分の問題は自分で解決したい。しかしながら、労働時間が長いことで自分で解決できないことで、その要求が国に向かっていくという状態が起きています。

 では、一方で、対策がとられた方の社会というのがスライドの九になります。

 「労働時間に国家戦略がある場合」というスライドですけれども、右上の吹き出しから見ていただければと思いますが、まず介護。

 何とかして時間内で終えて会社を出れば、デイサービスは午後四時半に終わっちゃいますので、デイサービスに預けたとしても少し間に合わないんですが、ヘルパーさんや訪問介護を少し入れることによって、何とか、自分もかかわりながら、要介護度の低いうちは居宅介護で進むということもでき得ると思います。

 また、二つ目、保育です。

 夫婦のどちらかがきちんと定時に迎えに行けるということができれば、最低限の時間内で保育をし、夫婦で家計を担うことができる。

 内閣府のデータでは、妻が出産で仕事をやめて、その後パートで復帰して生涯を終えた場合の生涯賃金と、三回育休をとってでも生涯働き続けた場合の生涯賃金、一人の女性で五千万から二億円違うというデータが出ているんですね。これだけの収入が女性側でふえれば、子供も三人、四人と持てるという余裕も生まれますし、当然その分の税収もふえることと思います。そういった状態で、夫婦二人で育児、家事を分担することができる。

 三つ目、地域活動。

 ここに働く男性がもっと参加することができることによって、強い地域、安全・環境活動というのができると思います。

 そして、四つ目の吹き出しが私は一番大切だと思っている点です。

 毎晩の夕食時に父親が子供の話に耳を傾けることができる、こういう社会を私はつくりたいと思っています。今は、しつけの問題も、それからいじめの問題も、全て母親が一身に背負っているというような状態で、専業主婦の御家庭の方も大変苦しいと思います。ここに早期から父親がかかわって、耳を傾けることができる社会をつくることができると思います。

 また、五つ目ですけれども、若者。

 今、ボランティアをする時間も自己研さんの時間もありませんが、しっかりと時間ができれば、介護ボランティア、環境ボランティア、そして震災ボランティア、もっと出ることができると思います。あれだけの震災が起きたのに、昨年、ゴールデンウイークにならないとボランティアに行けない社会なんて何なんだろうというふうに思いました。もっと平日から地域にかかわって、ボランティアができる。

 そして、今、余りうまくいっていませんが、エリアマネー。

 地域で自分が貢献した分をエリアマネーとしてためるというものが、もっと若者に時間が出てくれば、そこでボランティアをし、ためたマネーで自分の親や自分の介護を自助努力で賄うというような流れも出てくると思いますし、恐らくもっと政治にも関心が向いて、投票率も上がるのではないかなというふうに思います。

 下に二行でまとめましたけれども、定時後の時間で、育児、介護、健康維持、地域活性化に主体的に動くことができる社会をつくることができる。自分の不安事に自分で対策ができる社会、これが国民にとっては根本的には幸せな社会なんだと思います。自助努力ができるだけの生活時間というのを取り戻したいと考えています。

 最後に、主張になりますが、スライドの十番をごらんください。

 自助努力する国民を支える仕組みをつくる二つのポイントがあると思っています。

 一つは、長時間労働させる企業が損をする仕組みをつくることです。

 これはあくまでも例えばですが、残業代の割り増し率を上げる。今、平日一・二五倍ですが、アメリカでは一・七倍、休日出勤したら二倍です。こういった時間外労働をさせれば損をする仕組みというのを入れていく。また、もう一つの例としては、国際会計基準。国際会計基準では、社員の積み残した有給休暇は負債の額に書き込まなければならず、その社員が定年退職するときの時給で払い戻さなくてはならないんですね。ですから、フランスでは、いかに若いうちに社員に有給休暇を全部使い切らせるかというのが管理職の大切な仕事の一つになっています。

 こういった、管理職に動きを変えさせるためにも、会計基準や残業代というところを変えていくことによって、企業がどっちだったらもうかるのかということを自発的に判断して、行動を変えていくというようなアプローチがあると思います。

 しかし、こういった企業が、では、残業を抑制して人を採用しようと思ったときに、一番企業にとってネックとなるのが、女性たちが働くためには保育所が足りないというところなんです。二に書かせていただきました若者・子育て女性が働ける環境整備。

 私も経営者として一番困ることは、せっかく育てた社員が育休後に戻ってこれない。これが何といっても困ります。復帰予定日に復帰しない、そうしたら、すごく仕事の予定も狂います。せっかく本人も働く意欲がある、企業も待っていた、それなのに戻ってこれない。これほどのロスはあるでしょうか。これは、保育所をしっかり整備して待機児童をゼロにすれば、今すぐから減るロスなんですね。こんな簡単なことがなぜ何年間も解決されないのかが、本当にこれは、二人目が欲しいのにと思っている自分にとっても物すごく苦しいことですので、この労働時間ということ、さらに、望んでいる環境について考えていただければと思います。

 下にまとめました。労働時間の問題は個別企業の問題と放置せず、長時間労働させると損をする仕組みを行政がどれだけつくれるか、これが国民の幸福度に大きな影響を与えます。労働時間に対する国家戦略が必要だと思います。

 最後に、ワーク・ライフ・バランスということについて一言言って終わりにしたいと思います。

 私の会社のワーク・ライフバランスという社名ですが、よく誤解されるんですが、ワークとライフのバランスでしょうと。実はそうではありません。二対八とか七対三ではなくて、ワークとライフは、シナジー、相乗効果の関係です。ワークライフシナジー社にしようかと思っているくらいなんです。

 最後のスライドの十一に書きましたが、家庭や私生活が潤うことで、心身ともに健康になり、人脈も広がり、自己研さんが積める。だからこそ、仕事でアイデアが湧いて、もっと高い生産性で企画力もアップしてくる。この好循環が回る国にしていくということが大事だと思います。

 それから、男性も長時間労働はいけないんです。女性だけの問題ではなくて、男性の長時間労働が少子化の原因だと思います。

 私は、出産三週間後のときに、置いたら泣く、置いたら泣くという子供をどうしたらいいかわかりませんでした。両親ともに遠方に住んでいて、そして夫は経済産業省の役人です。残業の主な理由は国会です。ですから、深夜までたった一人で育児をしていると、どうして泣くのよという気持ちに何度も追い詰められましたし、こんなに泣くということは、これは病気なんじゃないかと思うと、今すぐ病院に行かないで、私の腕の中で死んじゃったらどうしようと思うと、本当に苦しくて、泣いてばかりの毎日でした。

 なので、女性の両立支援だけではないんです。男性の労働時間を含めて見直していくことが、少子化の問題、税金の問題、全てにつながってくるというふうに御理解いただければと思います。

 中国も韓国も、これから、日本に追随して、物すごい高齢化の国になっていきます。そのときに、この日本が、生産性高く働くモデルを発信して、アジアのリーダーであっていただきたいというふうに思っております。

 以上になります。熱心に耳を傾けていただいて、大変ありがたかったです。お時間、どうもありがとうございました。(拍手)

中井委員長 ありがとうございました。

 次に、菊池公述人にお願いいたします。

菊池公述人 皆さん、こんにちは。御紹介いただきました菊池でございます。

 私は、ちょっと多目に資料を用意しておりまして、クリアホールドの中に入っております。ただ、この中で、公述で使わせていただきますのは、一ページ目の表裏の一枚、それからその下に、附箋がついておりますが、図表がかなりございます。

 私は、日本は財政危機ではないんだ、政策危機だ、そういったことをきちっとしたデータで論述いたします。しかも、これらのデータは全て、政府が発表している、あるいは国際機関が発表しているデータでございます。したがって、データは多目に置いておりますが、私の発言のベースになる考え方でございます。

 それでは、この二枚だけを出していただきまして、あとはどうぞ横の方へ置いておいてください。あと、私が書きました原稿等で、御参考になればと思います。

 まず、私は、本年度のこの予算に対しては賛成でございます。できるだけ早く通していただきたい。

 しかし、依然としてデフレ予算です。しかも、本格的にデフレを解消しようとする政府の姿勢は、はっきり申し上げて、全く見られません。現在の日本は、政治経済、国民経済などあらゆる面で閉塞感と暗雲が漂っており、本質的な対策がないまま漂流しているのが現状であると思います。諸悪の根源は、既に十五年目を迎えた長期のデフレです。

 そこで、デフレの原因、日本に蔓延している事実の認識と対策の誤りを指摘いたしまして、抜本的なデフレ脱却対策を具体的にここで申し上げたいと思います。資料は全部用意しております。

 それでは、公述の一枚の資料をごらんいただけますか。時間の関係もありますので、裏表に申し上げたいことをたくさん書いてありますが、この要旨を最初申し上げまして、その後、時間があれば、この根拠になります主なデータを二、三申し上げたいと思います。

 まず初めに、一九九八年に始まった日本のデフレは、米国の大恐慌、これは一九二九年十月から三三年三月の三年六カ月、昭和恐慌、一九二五年から三三年の九年間をしのぐ悪質なデフレです。既に十五年目を迎えております。米国大恐慌も昭和恐慌も、ともにデフレが進んでいるときに増税、緊縮財政を実行して、経済を大不況、大恐慌にしてしまったのです。デフレの日本では、まずデフレ脱却を最優先すべきです。

 現在の日本にある危険な考えは、日本はデフレではない、低位安定で成長は期待できない、だから消費税しか財源がないんだという意見です。消費税を引き上げる方の経済的な根拠は大体これです。政府が今回お書きになった資料を見ていましても、そういうことははっきり見受けられます。こういう見解は、まさに、デフレを肯定して、成長を犠牲にするものです。極めて危険なことでございまして、これが長く続きますと、まさに国家の破滅につながってまいります。具体的なデータでもはっきりしてまいりました。

 そこで、私が申し上げたいことは、次の三点です。

 日本は、財政危機ではありません、政策危機です。世界じゅうで、日本が財政危機だと思っている国はどこにもありません、デフレ政策をとっているから税収が上がらない国だと思っているんです。税収が上がらないから増税しなさい、こう言っているにすぎません。

 日本は、既に平成恐慌という事態に陥っております。デフレが始まった一九九八年から二〇一一年までの累積デフレ率というものをとってみますと、ちょうどもう二〇%に達しておりまして、一九二五年に始まったデフレが累積デフレ率で二〇%に達したときに、あの昭和恐慌、一九三〇年から三一年の昭和恐慌が発生したんです。それで、その昭和恐慌のさなか、一九三一年の九月が満州事変です。

 現在の日本では所得税と法人税が激減しております。これはデフレの結果です。だから、消費税しかないといって消費税に走るんです。年金問題とか少子化問題は、デフレ問題で解決できます。デフレ対策を最優先すべきだと思います。

 二番目に、デフレ解消は、歴史的教訓としまして、財政主導、金融フォローの政策しかききません。

 この予算委員会、テレビでいろいろと拝聴させていただきました。金融にウエートを置いた御質問とか日銀総裁の御答弁がございましたけれども、これも必要です。しかし、財政主導で金融フォローでないと、長期のこのデフレは絶対に解消しません。これは歴史的に証明されていますから。経済というのは歴史です、一番はっきりしていることは。

 三番目には、経済のレジーム、基本方針を変更すべきです。

 現在のデフレ政策から、デフレ解消、経済成長路線に転換し、基礎的財政収支均衡策を撤廃し、景気振興を優先すべきです。そのために、緊急補正予算百兆円、五年間で実行することを提案いたしたいと思います。最大の円高対策というのは、実は内需拡大対策です。日本は、世界一、財源の豊富な国です。財源は幾らでもあります。この一覧にもつくってありますけれども。

 最後に、日本郵政に関連してですが、新郵政改革法案の制定というものが現在国会で審議されておられると思います。公明党さんがいろいろと御尽力されておられると思いますが、ぜひ早期の実現をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

 どうしてかといいますと、財政の見地から見ますと、先生方御案内のとおり、日本の国債保有額の三〇%は、実は日本郵政が持っているんです。ですから、もし、日本郵政が民営化される、民営化された新しい経営者が、国債はもう乗りかえて別のものに投資をするよ、海外へ持っていくよ、そうしますと、財政には大きな穴があきます。一挙に長期金利は高騰しますよ。

 ですから、そういうことを考えれば、郵政民営化の問題の一番の本質的な問題が何かということは、十分、先生方御案内と思いますので、ぜひとも早期に、今国会で、公明党さんが頑張っておられるようですが、ぜひよろしくお願いいたします。先生方もよろしくお願いいたします。

 それでは、今申し上げました三点につきまして、各論のところで主なことを申し上げたい。

 まず第一に、日本は財政危機ではない。

 財政危機というのは、実は壮大な虚構です。財務省が、増税をしたいために、いろいろな形でそういうことを言ってきたわけですね。そのうちに、実は財務省は財政のわなに入っちゃったんですよ。税収が上がらなくなっちゃった。それで、今もがいているというのが現状なんです。

 その理由を挙げますと、まず第一に、純債務で見た日本の財政というのがあります。

 これは御案内と思いますが、純債務というのは、粗債務、借入金から政府の金融資産を引いたものですね。この実質債務というのは、中央政府で今四百兆ぐらいです。だから、九百兆もある、さあ千兆だとある新聞なんかは騒ぎ立てますけれども、これは全くのでたらめです。一面だけしか見ていません。四百兆ぐらいです。ですから、世界じゅう、みんな円を買うんですよ。財政危機だと思っていないんです。

 それから二番目には、日本は世界一の純債権国です。二百六十兆の純債権を海外に貸しているんですから。

 海外に行きますと、どうしてそのお金を自分のために使わないの、使わないから、景気が悪くなって、税収が上がらないんじゃないのと、単純な質問を受けますよ。そのとおりです。

 三番目には、日本は、世界一、財源の豊かな国です。

 個人預金はどんどんふえています。最近の若い人は、将来が不安ですから預金しているんですよ。そういうものを使わなければ、回さなければ、経済は回りませんから、この点については、結局、財政の出動というものをベースにして考えていく必要があると思います。

 それから、私が申し上げた、日本が政策危機であるということですね。

 これは、まず第一には、日本の消費税五%といいますのは、国税が四%です。これが国税収入全体に占める比率は、最新のデータでは二四・四%です。一方、スウェーデンは、消費税の最高税率というのは二五%です。しかし、国税全体に占める比率は一八・五%。日本より低いんですよ。ということは、日本の税制構造に占める法人税、所得税がいかに低いか。つまり、デフレをやってきているからです。デフレというのは政策デフレです、はっきり申して。この後、具体的にちょっと申し上げますけれども。政策デフレをとってデフレをやっているから、上がらないんです。

 これは、先日、テレビを拝聴していましたら、阿部知子先生がここで質問をされておられました。そうしましたら、この問題に対して、安住大臣が、もし消費税を一〇%にする、つまり国税を八%にすると、この比率は三七%になる、国税全体に占める消費税比率が三七%になるとおっしゃいました。そうしますと、ヨーロッパのどの国よりも高いんですよ。そういうように、日本の税制構造といいますか、これは経済構造からきている問題ですから、そういうところに問題がありますから、消費税だけに目を向けるということは、そこだけ財源というのは、大きな間違いです。

 それから二番目には、長期デフレの原点は、一九九七年の橋本財政改革にあります。

 これは、実は財務省が財政判断を間違えたんですね。データも用意してありますけれども、粗債務だけで見て、これは行き過ぎだ、GDP比率が高過ぎる、さあやろうと思いました。ですから、後に、橋本元総理が国民に謝られましたね。二〇〇一年の総裁選のときでした。立派な総理だったと思います。ですけれども、いずれにしても、その失敗で、橋本財政改革を始めた一九九七年、その翌年から今日のデフレが始まっています。今日のデフレのベースは財政デフレです。

 それから三番目には、小泉改革がこのデフレを実は法制化しております。二〇〇二年に、基礎的財政収支を十年間で均衡させるという均衡財政を導入しました。日本にこの均衡財政という考えを入れれば、必ずデフレになるんです。これは閣議決定をして、法制化はしておりませんが、十年後に均衡させるということで、結局、二〇〇八年、九年で、これはまさに、リーマン・ショックもありましたけれども、また拡大する。大失敗だったんですね。数値目標をしたことも失敗です。

 これはどういうことかといいますと、日本は、一九七〇年代から、貯金がどんどんふえてきましたので、建設国債で過剰預金を吸収して、それを社会的インフラに投資してきたんです。それでお金がどんどん回ってきたんです。それによって、要は、官民ともにベストミックスといいますか、そういう形で経済が安定成長してきた。これをとめたわけですね。これをやめて、小さい政府、均衡財政政策、こういうことを言われたのが小泉構造改革でございます。その結果、結果的にはそこから成長は一挙にマイナス成長に落ち込んだ。そういうことの原点はここにあります。

 財政支出の抑制、地方交付税交付金とか公共投資の削減を中心として、実は、この十年間を見ますと、国内から百四十兆の金が搾り出されて、海外に出ています。この海外に出ている百四十兆のうち、半分はアメリカの国債を政府が買っています。半分は民間投資、こういう実態がございます。

 裏をごらんいただけますか。

 それと、先ほどもちょっとお話がありましたけれども、二〇〇三年の労働基準法の改正で解雇が自由になった。現在は、従業員の三分の一、千七百七十万は非正規社員です。年収は二百万以下。だから、税収も上がらないんです、所得税も上がらない。

 それから、あとは、市場原理型の金融行政をとって、時価会計とか自己資本比率規制、ペイオフというのを一挙にやりました。これで金融が物すごく締めつけられました。ですから、この金融デフレもあります。こういった相乗効果で、こういう悪質なデフレが続いているわけです。でも、本質は財政デフレです。

 小泉構造改革というのは、規制緩和とか小さい政府、均衡財政ということで、結局、デフレ政策で税収が激減しました。市場原理とか新自由主義というのが当時の経済理念だったと思いますが、私は、これこそ本当に悪魔の経済学だと思います。ここからしっかり脱皮しなきゃいけません。

 それから、財政規律というのは、その下にちょっと数字を書いてございますが、その前に、まず政権が交代いたしました。政権交代で、国民は、小泉構造改革といいますか、だまされたなと思って民主党に政権を託したわけです。鳩山総理は、基礎的財政収支均衡策、これは閣議決定を拒否しておられます。二〇一〇年五月、連休明けに、当時の菅財務大臣・副総理が財務省の意を体してこれを閣議決定してくれと言ったときに、それは適切ではないといって拒否された。だから、鳩山総理は、実はデフレの脱却をはっきりと宣言されておられたんですよ。これを継続するとよかったんです。ところが、その翌月、残念ながら退任されて、最初の閣議で、菅総理は、基礎的財政収支均衡策を閣議決定されました。これで再びデフレ政策に入ってしまったんです。これが現在まで続いております。

 それで、プライマリーバランスというものが今目標に立っておりますけれども、諸外国でこれを採用したのはアルゼンチンだけです。これを採用して、達成したときに国家が破綻しています。これは絶対にデフレ対策としてはやめるべきです。

 それから二番目には、先ほど申したとおり、デフレというのは、財政主導とか金融フォローでないと、絶対に解決しない。

 これは大恐慌とか昭和恐慌。それから、クリントンが一九九三年から五年で財政赤字を解消しています。そのときも主導は財政です、金融はフォローしています。これはデータもございますから、このことはしっかりと私は皆様方に申し上げて、再確認をしていただきたいと思います。

 最後に、緊急補正予算、五年間、百兆というものをここで提案したいと思います。

 デフレ解消のためには、まず、政策のレジーム、基本方針を変えることです。現在は、基礎的財政収支均衡策というものはデフレ政策のシンボルです。これをまず撤廃する。

 それから、同時に、国家としては、輸出中心、輸出大国から社会大国といいますか、国内の社会的な需要、それから駆逐されたインフラ、こういうものを再構築することに政策の理念をはっきりと変更すべきです。

 毎年の予算とは別に、緊急補正予算で百兆円、期間五年、最低毎年二十兆というものを提案したいと思います。それで、強靱な社会インフラの構築、これは償却済みの老朽インフラの更新から始めていくといいと思います。これでも二十兆、三十兆すぐ出ます。

 それから、脱石油、脱原発のエネルギーの改革、教育とか研究開発投資、地震対策をベースとした大規模なインフラ、生活に密着した公共投資、それから、民間には投資減税がいいと思うんです。つまり、国内に投資をして正規社員を雇ったら減税しますよと。

 今回、東日本の震災の第三次補正のときに法人税を下げましたね。あれを下げても、得するのは大企業だけです。国内のプラスには全くなりません。ああいうところはもう一度御再考願いたいと思います。

 それから、歳入対策ももっとしっかりしておくことです。

 所得税、法人税の最高税率を上げた方がいいです。それから、国内を立て直せば、海外に出ているお金というのは返ってきます。海外へ出ている証券投資というのはざっと二百五十兆あるんですけれども、これなんかは、国内がちゃんとブーミングアップしてくれば、必ず戻ってきます。それから、経済成長を取り戻せば必ず自然増収が出てくるんです。経済成長は犠牲にする、もうないんだと考えているから、消費税しか頼らないような、こういう一面的な財政になってしまうんですね。

 最後に、財源というのはどこにあるのか。

 埋蔵金でも五十兆はすぐ出ます。ちゃんとリストはありますから。それから、所得収支。海外からの所得収入が十五兆もありますし、個人の年間の貯金でも、現在、貯蓄超過ですから、毎年十五兆円ぐらいは出ているんですね、こういうものがはっきりした。貯金で金はあり余っているんです。金はうなっているけれども、使ってくれないだけです。だから、それをしっかりと使わなければいけない。このデフレのときに、民間に使ってくれなんと言ったって無理です。やはり政府がきちっとプロジェクトを組んで、そして、それに民間を誘導させればいいんです。民間には投資減税をして、しっかり誘導させるということがいいと思います。

 それから、最後に申し上げたいことは、日本は、現在、外貨準備として保有している、ざっと九十兆ぐらいの金があります。しかし、この外貨準備、大部分は米国債を買っているんですけれども、八十兆ぐらい買っています。

 これは、一九九九年九月までは日銀の資金でやっていたんです。ところが、一九九九年十月から、国民の預貯金で、そういうようなスキームにしてしまった。だから、現在では、国民の預貯金が、約百兆ぐらいは政府の短期預金で吸い上げられて、海外、アメリカの国債に行っているわけです。しかし、一九九九年九月までの状況に戻せば、つまり、現在、外貨準備、米国債を、政府が持っているものを日銀に持たせればいいんですよ。そうすれば百兆のお金が出てきますから。そういうふうにして新規国債を出したら、日銀がそういう操作をすることによって、資金のプラスマイナス、市場におけるプラスマイナスをきちっと均衡させれば、大型の予算を組んだところで、金利が上がるということは絶対にありません。これは過去の経験からそうです。そういうことをしっかりと御認識いただきたいと思います。

 時間がございませんので、残念ながら資料の説明がございませんでしたけれども、あと一分いただきますと、恐縮ですが、お手元のデータの右下の二というところをごらんいただけますか。

 ここに、純債務で見た日本の財政というのがございます。

 ここで我々国民がある意味では一番だまされていると思いますのは、特別会計なんです。右上にありますね。政府債務が九百兆もあるんだと政府は言いますが、そのうちの三百兆は特別会計の政府債務です。特別会計は、その下にありますとおり、政府が投融資活動をやっている。つまり、政府が銀行をやっているんですよ。三百兆のうち二百兆は財政投融資です。これは、三菱東京UFJ銀行の資産規模と大体同じです。それで金を貸している。それで政府系金融機関から海外へ出たりしていますね。それから、残りの百兆はアメリカの国債をほとんど買っている。

 そうしますから、特別会計の債務というのは、政府の債務であっても、これは国民が負担しなければならない債務じゃないんですよ。こんなものを入れるべきじゃないんです。これはよく申し上げるんですけれども、なかなか財務省がオーケーしないんでしょうけれども、ひとつ政治主導でこういうことをしっかりさせていただきたいと思います。

 それからもう一つ、右下の五をごらんください。あと一分で終えます。

中井委員長 なるべく残業のないように、ひとつよろしくお願いします。

菊池公述人 はい。大分、前の方も残業していたようですので。ごめんなさい。

 主要国の国税収入に占める消費税の割合、これはまさに先ほど申し上げたとおりです。消費税は、日本は五%で低いじゃないか、上げられる、上げられると言うけれども、実は、税制、国税の全体の中で見なきゃいけないんですよ、物事は。そうすれば、上の表を見るとわかるとおり、現段階でも、消費税が五%であれば国税は四%、その占める比率は二四・四%、上の中でかなり高いですね。スウェーデンが二五%だ。もっと日本は上げるべきだと言うけれども、スウェーデンは、それは一八・五%にすぎません。

 先ほど申し上げたとおり、もし一〇%に消費税を上げれば、これは三七%になる。三七%になると、どうですか。上の方に行って、日本が一番高くなりますよ。こういう事態があります。

 したがって、現在のような経済構造、つまり、消費税とデフレ政策をとって法人税も所得税も上がらないような事態にしていたのでは、いつまでたってもこのとおりです。これはまさに、財政のわなに陥って動けなくなっている。ここから脱却しなきゃいけない。これはやはり政治主導で、先生方に御指導いただきたいと思います。

 どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)

中井委員長 ありがとうございました。

 次に、浦野公述人にお願いいたします。

浦野公述人 皆さん、こんにちは。私は、立正大学の浦野広明と申します。よろしくお願いいたします。

 私が申し上げたいのはほぼ三点なんですけれども、一つは、消費税の増税法の成立過程についての問題、それから二番目は、租税全体の負担のあり方、三番目は、その負担した租税の使い方の問題について、発言をさせていただきたいと思います。

 まず、消費税増税の問題ですけれども、御存じのように、一九八九年の四月一日から消費税が実施されました。そうして現在の国税四%、地方税一%の消費税に至っているわけですけれども、この税率アップに際してどのような経過があったかということを最初に確認していきたいと思います。

 一九九四年の十一月に、当時の村山内閣、社会、自民、さきがけの連立内閣でしたけれども、この村山内閣が消費税の増税法案を成立させたわけです。しかし、この増税法案は、九七年四月一日から四%プラス一%の消費税にするということは書いてあったんですけれども、その前提として、九六年の九月三十日までに所要の措置を講ずるんだ、つまり、消費税率を上げるとも言っていないし、下げるとも言っていない、据え置くとも言っていないようなものだったわけです。

 つまり、経済状況を勘案して、下げるのか据え置くのか上げるのか、こういうことを九六年の九月三十日までに決めるんだというふうになっていたんですけれども、村山内閣を引き継いだ橋本内閣が、九七年の四月一日から、所要の措置を講じないまま現行の消費税の増税を行った、こういう税務の手続上の問題点があると思います。

 今回も、消費税引き上げ実施前に、経済状況を勘案して税率をどうするかを考えるということが盛り込まれておりますけれども、これは、橋本内閣が実施しなかった三%消費税の税率アップ、据え置き等をもう一度ここで見直すということがなければ、その先に進まないのではないか。つまり、私たちが納税の義務を負うのは、憲法三十条で、国民は法律の定めるところによって納税の義務を負うわけで、この消費税増税の附則の見直し規定は立派な法律ですから、この法律に基づかないで増税を実施してしまったのを、やはりもう一度ここで考える必要があるのではないか、このことを最初に申し上げたいと思います。

 二番目は、税金の取り方。

 納税者からすれば支払い方の問題ですけれども、これは、日本国憲法が基本になって税金の支払い方も考えるべきものであるというふうに私は考えております。

 日本国憲法では、税という漢字が出てくる条文は二つあります。一つは、納税という熟語が出てまいります。もう一つは、租税という熟語です。

 一つは、先ほど申しましたように、憲法三十条は「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。」という規定になっています。ここで重要なことは、法律の定めによって納税の義務を負うという問題です。

 もちろん、法律の定めというのは、八十四条では、議会で決める、国会で決めるんだということになっているわけです。国会で決めるということは、国会がなければ法律ができなかった。国会ができたのが日本でもまだ百二十年ぐらい前でしょうか。つまり、国会ができる前は封建時代でありまして、国王だとか封建領主が勝手に税金を取っていたということに対する当時の市民と言われる農民だとか中小業者の反乱が、この近代税制を生むきっかけになったわけです。

 卑近な例でいいますと、ちょうど消費税が実施された二百年前に起こったのがフランス革命、一七八九年でした。フランス革命は市民革命でありまして、このフランス革命の結果、フランスでも近代税制が採用されるようになり、自分たちの代表者である国会で税法を決め、そうして、払った税金は元を取るんだというような考え方で近代税制が生まれたわけです。その諸外国の運動の結果が日本国憲法にも引き継がれているわけです。

 それでは、日本国憲法は税金を取る場合の原則はどういうふうに考えているのかということなんです。

 例えば、憲法十四条が法のもとの平等をうたっているわけですけれども、この法のもとの平等は、負担能力に応じて平等に税を負担するというふうに考えるわけであります。そのことを応能負担原則と言うわけですけれども、あらゆる税制は、負担能力に応じて支払うような仕組みを採用することが可能なわけです。これは、消費税においてもそのようなことは可能になるわけです。

 この応能負担原則からした場合に消費税がどういうことになるのかということですけれども、公述人の方から、先ほど来、逆進性という問題が出されております。

 この逆進性は、結局、生活必需品に課税する場合に、所得が百万円の人と五百万円の人に同一の消費税負担を買い物すれば負わせるということになります。この場合、当然、低所得者は高い負担率になりますし、高所得者は低い負担率になるということで、負担能力を考えない税制ではないかと言われているわけです。

 それからもう一つは、課税庁側から説明されるのは、消費税は転嫁、上乗せできるんだという前提で、ですから、消費税の納税者になる事業者自体は自分の懐を痛めることはないんだという説明がなされるわけですけれども、しかし、消費税自体、転嫁、上乗せできるかどうかというのは、その企業の力があるかどうかによって左右されるわけです。

 つまり、今でも問題になっているのは、下請企業などは消費税が全く転嫁できない、どんどん下請単価が下げられている。そうして、そのうち、借り入れして消費税を払うんだけれども、その借り入れの返済もできなくなる。滞納、倒産というような状況が、消費税導入以来、非常に多くなっております。中小業者はほぼ半減したと言っても間違いないような状況になっております。

 一方、この転嫁という問題は、消費税は国税、地方税で五%ですけれども、例えば転嫁を一〇〇%しても五%でいいし、全く転嫁できなくても五%払わなければならない。五%自体に算定の根拠をなかなか見出せない、非常に曖昧な税ということになるわけです。

 そういう点で、やはりこの逆進性の問題は、どのような改正をしても克服できない問題であるわけです。

 それから、消費税自体は消費者が負担するわけですけれども、納税するのは、先ほど言いましたように事業者。この事業者の転嫁力というのは企業の力関係で全く異なってくる、こういう問題点があるのと、もう一つは、消費者の消費税負担の問題です。

 消費者には、低所得者、今、日本で、年収が二百万を切るような人が一千百万人、あるいは生活保護受給者が二百八万人というような数字が公表されております。この低所得者の方は、生活するために所得を全部使って、あるいはそれでも足りなく、貯金を取り崩したり借り入れをしたりする。そうして生活をするわけですけれども、生活費全てに消費税がかかってくるために、低所得者は消費税支出が非常に多くなる、一般消費者にとっても非常に消費税がかかっている支出が多くなる、こういう問題点があるわけです。

 多くの消費者が買うものというのは、大きな会社、例えば電力料金なども、大企業から購入するものが多いので、大きな会社は十分に消費税を転嫁している。ですから、一般消費者は非常に苦しい立場に追いやられているわけです。

 もう一つ、消費税の問題点では、輸出戻し税の問題があります。

 つまり、消費税の計算というのは、課税売り上げに五%を掛け、そこから事業者が支払った消費税がかかっている取引に五%を掛けて、その差額を納税するというのが消費税の計算方式ですけれども、その課税売り上げのうち、輸出した売り上げについては、五%ではなくて〇%の税率を乗じるというふうになっております。その結果、日本を代表する輸出製造業は多額の還付を受ける、納税がゼロで還付を受けているという問題があります。これは、電機だとか自動車関係の大きな会社は納税ゼロで、例えばトヨタ自動車の最近の数字でも、二千二百億円還付を受けているという問題があります。

 そうして、この還付は輸出売り上げについて〇%ですので、今問題になっているTPPの問題でも、関税を無制限に撤廃した場合、さらに輸出製造業の売り上げが伸びる、そして還付がふえる、こういうことになっていくわけです。ですから、逆進性がいろいろな面で非常に強いのが消費税ということになるかと思います。

 先ほど菊池公述人もおっしゃっていましたけれども、日本の消費税というのは、世界に類のないような消費税になっているわけです。つまり、消費税の標準税率が高いと言われているヨーロッパは二〇%前後の税率なんですけれども、生活費に、ぜいたく品、高級品と同じように消費税を課税しているというのは、世界じゅう探しても日本だけなわけです。しかも、日本では一〇%までは複数税率を採用しない、こういう説明がなされています。

 例えばイギリスなどでも、食料品、水道、書籍、障害者用具、住宅建設あるいは医薬品、子供服などは〇%なんですけれども、日本は全部五%になっているわけです。私のつくった表で三ページに書いてありますけれども、国税収入では、今消費税は地方消費税一%も含めて国が徴収しておりますので、五%を国税収入というふうに見まして、それで図をつくったものがこの国税収入に占める消費税というものなんですけれども、五%で国税収入の二六%、一方、イギリスが一七・五%であるにもかかわらず二一・五というふうに、税収面でも非常にいびつな形になっているということが指摘できるかと思います。

 では、消費税は負担能力に応じて採用することができるのか。これは、できないわけではないんです。

 つまり、消費税は、学問的に、全部にかける全部消費税、一般消費税と、もう一つは、個別の商品だとかサービスに課税する個別消費税に分類されるわけです。この一般消費税というのは、今の日本の消費税ですから、全てのものに均一にかけるという問題点があります。個別消費税は、代表的なものでは、お酒の税金、酒税などが個別消費税になっております。この酒税も、やり方次第では負担能力に応じた形にすることが可能です。つまり、今の日本の酒税は、例えばウイスキーは、その質を問わず一律何%というような課税方式になっていますけれども、例えば麻生元総理大臣が毎晩召し上がっているようなウイスキーについては二〇%の税率にするということで、それだけ買う力がある方が買うわけですので、そういうことが個別消費税の場合には可能になるということかと思います。

 日本でも消費税が導入される前日まで物品税という個別消費税がありましたけれども、高級品、ぜいたく品には高い税率にする、そして生活必需品には低税率あるいは課税しないというような形で行う場合に、消費税でも負担能力に応じた税制を採用することが可能ということになるかと思います。

 それから、今、税と社会保障一体改革では、消費税を含む一体改革ということが言われておりますけれども、この一体改革の中には、特に所得税関係の増税というものが織り込まれております。

 これは私の資料では四ページから五ページあたりに書いてありますけれども、特にその中の一つだけ申し上げますと、給与所得控除。給与所得者は、給与年収から所得税法で決められた給与所得控除額を控除して給与所得の金額を計算します。

 例えば五百万円の年収の方であればほぼ三割が給与所得控除になっておりますけれども、税制改正大綱では、昨年、ことしと、この給与所得控除額を年収の六%にするような指摘がなされています。そうなりますと、例えば、平均的な所得者で年収の六%になれば、それだけで、所得税、住民税、健康保険税が五十万前後の増税になるという問題点があります。

 その他、公的年金だとかいろいろな問題がありますけれども、これは時間の関係で省略させていただきます。

 そして、相続税の問題についても、既に二〇〇三年から、高所得者、法定相続分が二十億円超の方が二〇%も税率が引き下げられることになっている一方、小規模宅地の評価減を縮小する、廃止するような方向だとか、あるいは、基礎控除の引き下げは、やはり都市部の庶民のなけなしの財産を奪っていくようなことになるので、生存権的財産、特に土地については評価の問題を考慮していただきたいと思います。

 それでは、最後になりますけれども、税負担、それから税の使途の問題です。

 税の使途については、日本国憲法から考えた場合に、憲法前文では平和的生存権がうたわれ、そして二十五条では生存権がうたわれる。こういうふうに、日本国憲法は、平和的生存権、社会保障を中心に構築されております。そういう意味では、私どもは、税の負担は、全ての税が福祉社会保障目的税である、今、社会保険料と呼ばれている限定的な目的税も含めて、負担能力に応じた制度にしなければならないというふうに考えております。

 それから、税収を消費税に頼らない形で行う場合にどうするかという問題なんですけれども、社会保障といえば、例えば、医療費の負担というのは非常に多くの国民に負担増をもたらしております。これも、保険料を払った上で窓口でさらにお金を払うというのは、八ページに書いてありますけれども、世界的に見ても日本とアメリカぐらいなものであって、こういうことから見ても、まだまだ社会保障が充実されなければいけないというふうに思っております。

 その財源ですけれども、課税対象としては、所得に対する課税、つまり所得税、法人税、これらをできるだけ漏れなく課税対象にして、そして、所得が低ければ低い税率、だんだん高くするという累進税率のうちでも段階的に税率を高くする超過累進課税の制度にしていくということで税収は十分上がりますし、実際に専門家が詳しく計算しているものが九ページにありますけれども、国税、地方税で単年度で二十八兆円の税収を確保することが可能なんだ、こういう計算をしております。

 ぜひ、応能負担原則の実現と、そして、あらゆる税が社会保障目的税である、こういう観点で税制の論議をしていただければ幸いかと思います。どうもありがとうございました。(拍手)

中井委員長 ありがとうございました。

    ―――――――――――――

中井委員長 これより公述人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。若泉征三君。

若泉委員 ただいま四人の先生方のお話を聞きまして非常に勉強になりまして、私が質問するより、もっとずっと続けてやっていただいた方がいいんじゃないか、こう思いました。

 私は民主党の若泉でございますが、私のことを少しPRさせていただきますと、今、全国に道の駅が九百七十七カ所あります。これは私が平成三年に提案して出しまして、それをお認めいただきまして、平成六年度に建設省の事業認定、道の駅になりました。皆さん、どこかあちこちいらっしゃいますと、この道の駅が若泉のあれかと、おこがましいんですが、そういうことでございます。

 それでは、質問に入らせていただきたいと思います。時間が余りありませんので速くやるかもしれませんが、ひとつ御配慮いただきたいと思います。

 サッチャー首相の就任演説の中で、私は、本当にあれは強烈な発言で驚いたんです。ちょうどイギリスの国家財政が、福祉国家として財政投資が大変膨張いたしまして、国家危機寸前まで行きました。そのときの就任当時の演説の中で、私の福祉政策はボランティアを推進することにあると言ったんですね。本当に驚きまして、政治家は、あれをつける、これをつける、これをすると言うんですけれども、ボランティアを推進しなさい、そういうことを言われたのを私は今でも覚えています。

 そのことについてですが、税と社会保障の一体改革に関しましては、今のこの時期におきましては税収がふえません、そして国債発行がふえていくときに、消費税による対応がやはり最も適切であると私は思っております。しかしながら、今後さらなる超高齢化社会を迎えるに当たって、この状況が続けば、国民の負担が限界に達し、国の財政が破綻するおそれがあります。この状況を打開するためには、やはりサッチャー首相の言葉にあるように、自助、共助、相互扶助によって運営される、家族や地域社会で行われてきた福祉の延長にあるボランティアが鍵になると思います。自民党さんの二十四年度の「わが党の政策ビジョン」にもちゃんと書いてあるんですね。これをもうちょっと早く言っていただくとよかったんですが。

 それで、例えば介護保険についてでございますけれども、今、この介護保険の総費用というのは、初年度、平成十二年度は三・六兆円、平成二十四年度には八・九兆円になる、そしてまた保険料は、初年度、平成十二年度が二千九百十一円で安かったんですが、平成二十一年度にはもう四千百六十円、またさらに高くなるだろうと言われております。

 私は、実は、後ほど申しますが、介護支援ボランティア制度というのをつくる必要があるんじゃないかと思う。自分でもそういうことをやってきましたが、元気な高齢者が助けを必要とする高齢者を支える、高齢者同士の支え合いの仕組み。高齢者六十五歳以上が研修を受け、登録し、施設入居者の話し相手になったり、昼食の配膳、散歩、レクリエーションの補助などを行い、その活動に応じて得たポイントを、換金したり、または寄附したりすることができる。

 実は、私はこれをやりました。これで公募しましたら、一カ月ぐらいの間に三百五十人の方が応募してきました。いわゆる主任ではありません、その資格を持っておりませんから。しかし、その補佐的な立場でボランティアに参加する。

 そして、もとより私は介護保険制度の政策に反対してきました。なぜなら、三世代同居の生活をする方の多い地方におきましては、親を子供がケアする生活文化が崩壊して、コミュニケーションがなくなり、地域における相互扶助の精神が失われていく。つまり、地方自治体と住民生活の生活文化が著しく変わっていくのではないかと危惧したからでございます。

 このことにつきましては、自分も自分の親を自分の家で全部介護しまして、そして、母がしたり、私の女房がしたりしてやってきましたが、やはり家の中での介護というのは非常にいいわけです。

 私は福井県なんですが、中山間地域に住んでおりますが、この中山間地域ではほとんど子供が親を見る、親の介護は子供が見る。都市ではそういうことは言えないかもしません。しかし、この保険制度が出てきましたときには、全国画一的に、同じようにしたわけですね。

 私は、それで反対したのは、そこで言ったんです。いわゆる我々みたいな中山間地域または地方においては、この制度を全部画一的に制度化するのはよくないんじゃないか、必ず財政が悪化しまして将来大変なことになる。一番大事なことは、三世代の同居をしている家族がだんだん崩壊してしまう。現在、崩壊しております。もう介護保険制度があるから、これはちゃんと年寄りのことは面倒見てくれるんだから、年寄りのことはそこに任せればいいんだ、必ずしもそういう極端な言い方ではありませんが、そういう精神が生まれて、いわゆる生活文化がだんだん失われつつある。非常にそういうことで危惧をしたわけであります。

 ここで重要なことは、先ほど、佐田先生が地方分権の本部長さんであると聞きましたが、私は地方分権推進論者です。

 平成十一年に地方分権一括法が成立いたしまして、その後何があったかといいますと、いろいろな、機関委任事務の廃止はありましたが、あと、十六年から三位一体改革、そしてその中で補助金の削減とか税源移譲、地方交付税が削減されるということで、だんだん地方がぼろぼろになっていくというような形でございました。そして、平成二十三年度予算下では、今、一括交付金化を実施いたしております。ただ、少し前よりは戻ってきた。

 そういう中におきまして、やはり私が思いますのは、地方分権一括法以来、実質的な地方分権、財源や権限の移譲は現段階では余り進んでいないというのが実情でありまして、早急に地方分権を進め、地域によって特色のある社会保障を実施できる体制を整備することにより、経費も節減し、住民の意識や生活文化も維持できると考えますが、これについてどう思われますか。まず、公述人の三木さんの方からお願いしたいと思います。

三木公述人 三木でございます。御質問いただきましてありがとうございます。

 ただ、今の御質問は、かなり広い、全般的なことにわたりますので、私が答えられる範囲で申しますと、先生がおっしゃったように、国の財源がきちんとしているときは、そういう公的介護その他もできるだけきちっと公的に行った方がいいと思いますが、今の財政事情ですと、できるだけボランティアなどもきちんと配慮していく必要は確かにあるだろうと思います。税制も実はそういう方向にこの間移ってきておりまして、寄附税制などの拡充もしてきているところだというふうに思います。

 介護との関係で申しますと、一つは、例えば、先生方、自分が仕事をするために、親の介護をしなきゃいけなくて、それができないもので、人に頼んで自分が仕事に行く。そうすると、では、介護を頼んだときの費用が現行法で必要経費になるかというと、難しいですよね。そういうような問題を税法上もっと手当てしていくところはありそうだというふうには思っております。

 それから、地方分権との関係でいいますと、地方自治体が地方特有の豊かな顔を見せるためには、財源がきちんと手当てされていることは当然であります。それが現行制度では非常に不十分であることも、先生がおっしゃったとおりです。

 そのためには、いろいろ改革点がありますが、法定外普通税制度の仕組みをもうちょっと先生方も御検討いただいて、自治体の裁量の余地、今そういう方向には入っていますが、それを広げるような方向で御検討いただければというふうに思います。

若泉委員 これは非常に幅広いことは幅広いんですが、私は道州制を前から求めてそういうものを提案してきておりますが、もし道州制になった場合に、東日本大震災または阪神大震災なんかを見るに、例えば、兵庫県の貝原知事が一人でいろいろとその対策を立てられた後に周りの県が協力してきた、あのような状況。また、東日本大震災もそうでございますが、一人のリーダーが、いわゆる財源とか、そういうものがないので、私は雪の降るところですから、これは除雪していいのかどうか、後に交付金が来るんだろうかどうかとか、補助金が来なかったらどうするか、一遍見てもらわなかったら除雪できないとか、除雪というよりも排雪ですね、雪がたくさん降りまして、そんなこともあります。

 または、災害が起きてもそうですよ。うちは福井で洪水がありましたが、その洪水のときに、もうあちこち泥まみれになったが、これは経産省から何か少し補助金が出るんじゃないか、中小企業に対してあるんじゃないかと、それを待っているまで大分時間がかかるわけです。

 それが、一つの州政府をつくっていきますと、その州政府の権限でぱんとそういうときには決めていけるということも、これからの時代、これからの日本の防災、危機に対しても必要なんじゃないか、そういうふうに私は思っております。

 それから、介護のことにつきまして、さっき小室さんの方からいろいろと詳しくお話しいただきましたが、私がさっき申し上げましたことに対してどのようにお感じになるか、いろいろとお教えいただきたいと思います。

小室公述人 御質問いただきましてありがとうございます。

 先ほどいただきました介護保険制度のことについて、確かに、三世代同居の地域に関しては、介護保険に頼らなくてもできる、そのことがかえって阻害要因になるというようなお話、そういった視点もあるんだなというふうに思いました。

 ただ、介護に関して実際に感じることは、一人介護するのに四人の手が必要というふうに言われています。夫婦で介護ができたとしても、時間的にはあったとしても、今は専業主婦の奥様が皆様にとっては多いと思うんですが、実際には働いていらっしゃる方というのも急増していますので、今後は妻が担うということもなかなかできないという中で、専門家の手もかりながら。

 介護というのは非常に長期化しますし、長かったら三十年かかりますので、その三十年の期間を疲弊してしまわずに継続できるということを考える意味でも、介護を少し外部化しないと、中だけではやはり途中で力尽きてしまうということがあります。企業にとってみると、それによって働き続けてもらえる方がふえるということが何よりもありがたいというところがありますので。

 三世代同居ということは大変すばらしいと思います、それに、介護に携わってくれる方がいるうちはいいような気がしますが、今後は女性を労働の手としても期待していかなくてはならないということも考えると、保険制度をいかに継続的にうまくポイントとして取り入れていくのか、全面的に二十四時間丸投げしてしまうのではなくて、いかに協力してお互いに疲弊せずにやっていくのかというところが重要であろうなというふうに思います。

 また、先ほどの私のプレゼンの中にもあったように、やはりエリアマネーという考え方、地域通貨という考え方をうまく取り入れていって、自助努力をしたいという方たちのパワーももっと招き入れていかないと、当然、ない袖は振れないということは国民もわかっていますので、自助努力のできるような仕組みをつくっていただくということは介護においても大変期待されているところではないかなというふうに思います。

 お答えになったでしょうか。

若泉委員 はい。ありがとうございます。

 菊池先生の御講演を私は二回聞いたことがあります。いつも気宇壮大で、夢がぱっと広がるんですが、きょうの中で、日本は財政危機ではない、政策危機である、財政による有効需要と金融緩和の一体化が不可欠と提案されておりますが、そのことについて、もう少し説明していただけますでしょうか。

菊池公述人 まず、現在我々が一番認識を改めなきゃいけない、率直に申し上げてそう思いますのは、本当にこの長期デフレ、デフレというものの怖さを余り、みんなは認識が乏しいんじゃないか、特にマスコミなんかもそうですし。これは昭和恐慌のときなんかでもそうなんですよ。昭和恐慌のときでも、昭和恐慌をはやしたのは実はマスコミですよ、当時の新聞なんかを拝見しますと。

 それと、財政危機だ財政危機だ、こう言いますけれども、先ほど数字で申し上げたとおり、実は、もともと、純債務だとかあるいは総合的な国力から見れば、決して財政危機ではないわけです。本当に財政危機だと思っている国はありませんよ。政策が悪いから、税収が上がらない政策になっちゃっているんですね。

 ですから、ここで、今までとってきた政策、つまり、とにかく債務をまず圧縮しなきゃいけないんだ、そういうことを優先する政策から、そうではなく、まず経済を活性化させる。例えば、一番のベースになるのは、御案内のとおり、名目のGDPという指数ですね。我々の額面給与だとかいうものですが、それがこの十年間は、一世帯で見ても百万円以上も落ちているとか、そういう形でどんどん落ちている。そうすると、これをいかにして持ち上げるかということを考えなきゃいけないんですね。

 そうしますと、長期のデフレになりますと、これは財政でまずリスクをとって、しっかりとした国家プロジェクトみたいなところ、昨年の三月十一日の東日本の大災害というものは本当に悲しいことでございますが、ただ、現在、関東で地震のいろいろな危機の問題が出ておりますね。でしたら、地震の耐震対策とか、そういうものをもっともっと重心にして、それで国土をもう一遍つくり直すんだと。

 それから、需要を喚起するというのは、やはり内需を喚起しないといけないわけですよ。そういうことによって、結局、崩壊していく国土の駆逐化といいますか、そういうのを抑える。と同時に、さっきもちょっと申し上げましたように、いかにして民間投資を喚起いたすか。今、一番落ちているのは、投資が足らないんですよ、御案内と思いますが。政府投資も二〇〇七年から回収超過です、だから回収超過。それから、民間投資も、小泉内閣になってからはかなりマイナスになってきましたが、一時盛り返したんですが、今でもマイナスです。特に、率直に申し上げて、菅総理になってからデフレは一段と進んでいますから。それは投資が足らないんですよ、一番は。民間投資は御案内のとおりです。

 ですから、いかに投資を喚起するかなんですよ。それで、先ほど申し上げたとおり、百兆の緊急補正予算。これは全て投資です、そういうふうに考えております。

若泉委員 ありがとうございます。

中井委員長 次に、中島正純君。

中島(正)委員 国民新党の中島正純でございます。

 本日は、公述人の皆様から貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございました。これまでの予算委員会の審議を踏まえまして、順次御質問させていただきたいと思います。

 まず一問目は、菊池公述人にデフレ問題についてお伺いさせてもらいたいと思います。

 デフレ問題というのはこの予算委員会でもたびたび議論をしてまいりました。本当に、デフレからの脱却というのは、日本経済の今最重要課題だというふうに考えております。これまでの歴代の内閣でもデフレからの脱却ということに必死になって取り組んでまいりましたけれども、なかなかこれが実現できておりません。

 なぜこれが実現できなかったのか、その問題点について、よろしくお願いいたします。

菊池公述人 これは、結局、財政支出に限度がある、最初から財政を抑えなきゃいけないということを考えているからです。

 それで、公述メモにもちょっと書いてありますけれども、財政規律の指標というのは何かといいますと、先生方御案内のとおり、分母は名目のGDP、分子は純債務。債務をそのままとったっていいです。この数字がどんどん上がっていくということは、結局国民の負担がふえる。これは、財政規律の面からいうと、むしろマイナスなんですね。

 これを長期にかけて下げていくことなんですよ。この数字を下げるということは何かといいますと、分母を大きくして数字を下げるか、もう一つは分子の債務を抑えてこの比率を下げるかです。

 それで、財務省が、あるいは自公政権以来、今もそうなんですけれども、やってこられた、特に基礎的財政収支均衡策というのは、債務をまず抑えることを優先するわけですよ。そうすると、肝心の投資項目、公共投資だとか、それから一般の財政支出でも、とにかく公共投資なんかどんどん落としていく。そうしますと、結局、経済が活性化しない、不活性になって税収がマイナスになる、税収がマイナスになるからまた逆に債務を抑えなきゃいかぬとか、こういう悪循環なんですね。まさにこの悪循環の歴史です。それを断たなきゃいけない。

 要するに、それには、まず、名目の国民所得をいかにして上げるか。債務は心配する必要ないんです、これは全然財政危機ではありませんし、日本には貯金なんか幾らでもあるんですから。しかも、九五%は全部日本人が持っている。

 そういうことで、ここで全面的にその考えを転換しなきゃいけない、そこからスタートしなきゃいけない、私はそう思います。

中島(正)委員 ありがとうございます。

 それでは、次は、三木公述人と浦野公述人に、消費税についてお伺いしたいと思います。

 今、政府は社会保障と税の一体改革で消費税の増税をうたっておりますし、野田総理も不退転の決意を表明されているところでございますが、さまざまな世論調査では、消費増税については一定の理解を示すということが反対よりも上回っております。そして、逆に、現内閣が提案している消費増税については、賛成よりも反対の方が上回っているというような現象が起きております。

 これは一体なぜこのような現象が起きているのか、それぞれお考えをお聞かせ願えますでしょうか。

三木公述人 大変難しい問題でありますけれども、しかし、この機会に先生方も考えていただきたいのは、実は税金の歴史の大半は、王様がいる時代の税金なんですよ。王様がいなくなって、主権者自身が自分で税金を決めなきゃいけなくなったのは、日本ではつい六十年前なんです。そして、それが始まってから我が国は、最初はアメリカが占領政策で超過累進税率、極めて高いものを導入しましたから、その上で戦後の経済が復興してまいりましたから、政治家の先生方は減税を言っても全然問題なかったわけです、税収がどんどん上がってきますから。

 ずっとそうやって減税減税で来て、国民が自分たちの社会に対して自分たちが税金を納めているんだという自覚を持ってもらうことがなかなかなかったわけです。あの消費税のときにようやく少し議論が沸きましたけれども、それでも中途半端なままで終わりました。

 そうやって、端的に言いますと、政治家の先生方が減税が何かあたかも正義の御旗のように、かつてのジョン王がいた時代のロビン・フッド、これは重税反対ですね、これと同じように、先生方が正義の闘士として減税をおっしゃっているといいますか、そういうことがずっと続いてきたために、国民の間でも、何か社会の税金というのは、自分たちじゃなくて、先ほど言ったように、お上のために自分たちは出しているみたいな意識になっちゃったんじゃないかと思うんですね。

 でも、今の社会、違うわけでしょう。先生方もおわかりでしょう。我々の社会でしょう。我々が税金を出して我々の社会を支えていかなきゃいけない、この当たり前のことを、我々、一般の人たちも、ようやく国家財政の状況を見て気づかされたわけですよ。それで今どうしますかということが我々に問われているんだろうというふうに思います。政治家の先生方も問われているわけですし、国民も問われているわけですよ。その国民がまだこういう税の問題について向き合っていないとすると、これは政治やマスコミの問題もあるんだろうと思います。

 そういう意味で、この機会は大変いい機会だと思うんです。政治家の先生も、それぞれの選挙民の方に、税の問題について、これは自分たちの社会の自分たちの問題だという自覚を持ってもらうように、ぜひ毅然と立ち向かっていただきたいということをお願いしておきたいと思います。

浦野公述人 御質問ありがとうございます。

 マスコミでは消費税増税しかないような論調が非常に目立つわけですけれども、しかし、もう一方では、読者の声の欄を見ると、そのマスコミで反対論が投書されている。

 消費税の場合になぜここまで反対の声が多いかといいますと、やはりそういう声を上げる人々がいなければ世論もできてこないんだと思うんです。日本では法律が一旦できたら諦めてしまうような傾向が強いんですけれども、珍しく消費税については、いろいろな団体が、消費税導入以来、消費税の問題を指摘してきておりますので、そういうことが世論形成に一定の役割を果たしていると思います。それから、新聞もなかなか消費税の本質的なことを報道できないというのは、広告主が大企業ですので、大企業の不利益になるようなことは報道できないんです。しかし、広告媒体として役割を果たすには読者がいなければいけないという矛盾がありますので、読者もだんだん利口になってきている側面があるんじゃないか、そういうふうに私は考えております。

中島(正)委員 ありがとうございます。

 最後に、小室公述人に育児についての問題をさせていただきたいと思います。

 先ほどお話をお伺いしたとおり、私もこれから働き方に大きな発想の転換が必要じゃないのかなというふうに考えております。それはやはり、育児に対する考え方ではないかというふうに思っておりまして、現状の、育児休暇をとる人への評価であるとか男性の育児休暇の困難さという面から見ましても、まだまだこの育児休暇、それから育児についての認識が改められていない現状があるのではないかなというふうに思うんですが、お考えをお聞かせください。

小室公述人 御質問ありがとうございます。

 今、育児休業の制度自体は整っているにもかかわらず、企業では運用がなされていないということがよく起きています。

 私が最大のポイントだと思っている点は、企業の社員に対する評価のつけ方です。どのように評価をつけているかというのを聞くと、管理職の方は成果主義でつけていると言います。その成果主義の定義を聞くと、月末、年度末で締めたときに、質掛ける量は誰が最大だったかということを問いますと。でも、これは本当は成果主義ではないんですね。

 本当の成果主義は、同じ時間内で勝負させて、誰が質掛ける量が最大だったかという時間当たり生産性を、本来、企業は、時間はコストですから、それを見なきゃいけないんですが、企業が実際やっているのは、月末、年度末という一定期間内であれば一日当たりの労働時間はどれだけ投入してもいいので、山は誰が高かったかというのを比べているんですね。これをやると、必ず一番労働時間が長かった人が勝つんです。一番寝なかった人が一位になるという構造なんです。こういう評価の中で、時間の制約のある人というのは評価が上がるわけがないんですね。

 ですので、実際には、復帰はできますけれども、復帰した後の評価は著しく下げられるという状況で、ましてや、男性にとってみると、そのような評価をつけられることは目に見えていますので、育児休業をとるわけがないということが起きます。

 なので、もちろん制度は重要なんですけれども、時間当たりの生産性で評価される仕組みということが企業の中に正しく適用されないと、制度をどれだけつくったとしても機能しないというふうに考えています。

 企業の中でそれを機能させる一つの方法として、一定の時間内で働かせるようなことを国としてある程度枠をはめていくということが、時間制約のある人にとって、時間制約のない人に時間の枠をはめていくことが、非常に大きな意味を持つだろうなというふうに考えております。

中島(正)委員 ありがとうございました。

 終わります。

中井委員長 次に、石川知裕君。

石川委員 新党大地・真民主の石川知裕でございます。

 四人の公述人の先生方、きょうは、お忙しい中、貴重なお話、本当にありがとうございました。

 まず、菊池公述人にお伺いをしたいと思います。

 お話を聞いておりまして、私も確かに、このデフレ下で消費税を増税することが本当に正しい政策なのか、大変疑問に思っております。

 きょうのお話を聞いておりますと、財政主導、金融フォローで対応すべきと。その中で、緊急補正予算、五年で百兆円ということを書かれておりました。そして、下の方に米国債を利用すべきだと書いてありますけれども、補正予算の百兆円というのはこの米国債を利用してということなのかということと、先般、私も予算委員会で日銀総裁に質問させていただきましたが、金融緩和を二月十四日に行いました。きょう、菊池さんは金融フォローが必要だということを書いていますが、この間ので十分だったのか不十分だったのか、今後どれぐらいやらなければいけないのか。

 また、先ほどいろいろ、もっとお話ししたそうな感じでありましたので、ゆっくりお話しいただいて結構です。

菊池公述人 公述の機会をふやしていただいて、どうもありがとうございます。

 まず、先生の最初におっしゃられた、デフレ下での消費税の引き上げはどうかということ。

 先ほどこれは、こちらの中島先生もおっしゃられたんですかね、つまり、今国民にいろいろな統計をとってみると、将来は消費税を上げる必要があるかもしれない、しかし現在はどうかというと、これは反対だと。やはりこれは国民の総合的な民意だろうと思うんですね。

 ということは、デフレのもとで増税をするというのは、先ほど公述の冒頭でも申し上げましたとおり、これは、かつて、大恐慌だとか昭和恐慌、もう大不況、恐慌にまで落ち込んだ大きな理由なんですよ。ですから、今、こういう時点で消費税をもし強行するということになりますと、本当に経済は一段とマイナスになります。数字以上に、心理的なものが怖いんですよ、先生方は十分御案内のとおり。経済というのはみんなそれで動くわけですから。ですから、そういう意味で、やはりこういう時期に消費税というものを上げるべきではないと思います。

 それから、消費税を上げるとどうなるかということを、実は資料の中にちょっと数字があるんですけれども、十二ページにありまして、後ほどでもごらんいただけばいいですが、これは、宍戸駿太郎先生という筑波大学の副学長をやっておられたマクロ経済モデルの大家の方が計算されました。

 結論から申し上げますと、もし消費税を五%引き上げる、こういうふうにいたしますと、それに伴いまして、大体、五年後にGDPが三十五から四十兆ぐらい減っていくということです。今は大体四百七十兆ぐらいですね。それから三、四十兆は減っていきますから、だんだんと四百兆に近づいていくということです。だから、消費税を一%上げると税収が二・五兆円上がる、こう言っていますけれども、それでふえても、その分だけは、今度は経済全体が萎縮しますから、所得税も法人税も減っていきます。

 事実、これは一九九七年の実数ではっきりしているんですよ。一九九七年のときには増税をしたんです。消費税を三から五に二%上げました。二%だから、五兆ふやしたんです。しかし、その九七年は、消費税で、国税としては四兆ふえたけれども、その他が二・二兆減っちゃったんです。だから、わずか一・八兆しかふえなかった。それから、九八年、九九年は、ともに、消費税は前と同じように取っているんですけれども、ほかが落ちちゃって、九八年は税収は前年比四・一兆落ちる、九九年は二・二兆落ちる。だから、消費税を上げた分はみんなすっ飛んじゃったわけですね。ですから、そういうことをまず基本的にきちっと認識すべきだ。

 それから、二番目に御質問がございました五年で百兆、これに対する財源の問題ですけれども、あそこに、財源とアメリカ国債との関連で書きました。

 これはどういうことかといいますと、新規に国債を発行しますよね、例えば、政府がことし建設国債を二十兆発行したとします。そうすると、政府が、既発債、既に市場へ出ている形で政府短期証券というのがありますね、実は、この政府短期証券を市場に売っ払って、そのお金でアメリカの国債を買っているわけです。それを一九九九年までは日銀がやっていたわけですよ。

 そうならば、その九九年九月までの状況に戻すためには、ことし二十兆建設国債を出したとします、そうしたら、中央銀行が、二十兆、市場に出ている短期国債を買い上げればいいんですよ。市場では二十兆取り上げた、それから二十兆出てきたから、プラス・マイナス・ゼロですよね。ですから、これは市場の金利なんかには影響ありませんし、結局、それは、原資になるのは今度は預貯金です。そういう操作をつけていけば、金利は上がることもありません。それから、米国債というのは、売るにも売れませんからね。しかし、そういうことで、きちっとした形で、国民の負担にならない形でアメリカとの協力も維持できる。

 それからもう一つは、さっき百兆の五年というプログラムを申し上げました。そうしますと、ここに資料もあるんですが、そういう形で景気振興していきますと、このDEMIOSという宍戸駿太郎先生のモデルでは、三年目にほぼ財政は均衡します。四年目以降はむしろ黒字になっている。つまり、経済が成長すれば、成長したことによって所得税も法人税も上がってくるんですよ。

 そうすれば、最初のうち、二十兆、二十兆出して四十兆出しちゃう。それで出ちゃって、出っ放しじゃないか、決してそうじゃないんです。徐々に法人税、所得税が上がる。同時に、デフレが解消して物価が上がれば、同じ消費税でも、消費税収が上がるんですよ、御案内のとおり。今まで百円だったものが百二十円になった、同じ税率だって、消費税収は二割上がりますからね。だから、デフレというのはいかにマイナス効果か。それを解消するためにそっちのところで思い切った手を打てば、消費税も上がってくる。だから、税収も上がってくるんです。

 ですから、百兆の五年計画ということをしますと、三年ぐらいで税収はバランスする、四年、五年目は財政は黒字に転換していくという形になっています。

 これはモデルでこの資料の中にございますから、御案内いただけたらと思います。

石川委員 ありがとうございました。

 次に、小室公述人にお聞きしたいと思います。

 先ほどの資料の「自助努力する国民を支える仕組みを作る」というページのところで、一つは「国際会計基準では積み残した有給は負債」ということで、「長時間労働させる企業が損をする仕組みを作る」ということでした。二つ目に「待機児童をゼロに!保育所整備!」と書いてあります。

 私、実は議員会館にベビーベッドを設置していまして、古い議員会館というのは非常に狭くて、議員室の方に置いておりました。たまたま私の事務所に子供が二人いる秘書がおりまして、熱を出すと預かってもらえないものですから、たまに議員会館に来て、私なんかもあやしておりました。

 でも、保育所の整備というのはいろいろ問題があります。私も、もう少し保育士の資格だとかを緩和して、もっと弾力的に運営してもいいのではないのかなと思うんですけれども、保育所整備について何か御所見があれば、最後にお聞きしたいと思います。

小室公述人 ありがとうございます。

 保育所の問題について、もちろん数が足りないので数をふやすということが重要なのですが、私が働いている女性たちを見ていると、単に保育をしてくれればいいというものではないということを強く感じます。自分のキャリアと自分の子供の教育というのを非常にてんびんにかけてしまう傾向があります。

 自分が働くと子供に習い事もさせられない、それでもし小学校に入ったときに何かしらのおくれを持ったらどうしようということを考えると、働く女性は、自分のキャリアの方を捨てて、習い事に連れていったりする生活の方を選ぼうとしてしまうところがあって、保育の数とそれから質、保育と教育は別だとか言っていないで、本当に、保育の中で高い教育をしていくというぐらいの戦略で、もうこの国の教育のおくれということも言われているわけですから、保育プラス教育というところを一気に充実させるような考え方をしていかないと、自分も働く、そのことで子供がいい教育を受けながら保育を受けるというような安心感は生まれないのではないかなというふうに思います。

 ありがとうございました。

石川委員 ありがとうございました。

中井委員長 次に、馳浩君。

馳委員 自由民主党の馳浩です。

 私は、十年前から国会に保育所をつくろう議員連盟の会長をしておりまして、新しい議員会館になって、第二議員会館に保育所ができました。石川知裕委員にもぜひお使いいただきたいな。ただ、ちょっと高いんですよね。月八万円なんですよ。さすがにここがポイントで、こういったところが、まさしくワーク・ライフ・バランスの、陰で支える行政の役割の部分だろうな、こういうふうに今のお話を承っていて思いました。

 まず最初に、三木公述人。

 最初のお話の最後におっしゃったところで、政権交代とマニフェスト、財源論ですね。控除から手当へ、その理念はわかります。ただ、その手当の部分の財源が十分に手当てされていなかったね、こういう反省が今、野田総理や岡田副総理からも出てきております。

 政権交代、あり得べしと思います。となると、法律は数ですぐに変えようと思えば変えられます。ただし、財源は、やはり衆参ともに理解を得て税制改正するのはなかなか厳しいんですね。そう考えると、政治のあり方も、政権交代を経験したことによって、やはり財源があってこそ、ペイ・アズ・ユー・ゴーの原則は守られなければいけないんだろうな、こういうふうに思いますが、御所見を伺いたいと思います。

三木公述人 御質問ありがとうございます。

 今先生がおっしゃったとおりのことだと私も思っているわけです。私も、申し上げたかったことはそうなんです。議会制民主主義ですから、それぞれの政党さんはそれぞれの理念を掲げて国民に訴えて、政権をとるように努力をしていただきたいと思います。

 そうであれば、国民が先生方を信頼して政権を渡したときに、先生方の政策が実現できなければ、それができる財源がなければできないじゃないですか、政権交代の意味がないじゃないですか。そのためには、財源がきちんとなければいけないわけですよ。

 この間、我が国ではそういう経験がなかったためにその財源を先食いされてしまって、今回の問題がはっきりおわかりになったと思いますので、これを機会に、今回、今の国債の解消をするのが先だと思いますので、これをある程度抑えた上で、一定の時期が来ましたら、与野党ともに、政権交代、お互い政策で競う、そしてそれがきちんと財源もお互いが保障し合っていく、こういう仕組みにぜひしていただきたいと思います。

馳委員 私も同感です。財源論と経済成長戦略を競い合う政権交代の選挙にしないと、やはり民主党も自由民主党も国民から見放されてしまうのではないかと思います。

 さて、小室公述人、本当によくおしゃべりになりますよね。私も、家に帰って、いつも家内に本当によくいろいろ言われて、大体余り聞いていないんですけれどもね。きょうの小室公述人の話はよく聞いておりました。

 そこで、まず、小室公述人の考え方はワークシェアリングという考え方であるのかなと思いましたが、それでよろしいですか。

小室公述人 御質問ありがとうございます。お話も聞いていただき、ありがとうございます。

 きょう私の話したお話は、よくワークシェアリングに近いですねというふうに言われるんですが、実はワークシェアリングとはかなり違います。

 オランダなどに代表されるワークシェアリングは、一つの仕事を、一以下、一人分以下にするというようなシェアの仕方ですが、日本人は現在、一人で二人分ぐらいやってしまっているような状況なので、きょうお話しした話は、それを適正な一に近づけるというだけであって、一を割らない話です。

 ですので、今までのワークシェアリングの話ですと、その収入で一人の男性が果たして生活していけるのかというような心配になってしまうことが多かったんですが、きょうお話ししている話は、あくまでも一に近づけるという、日本はまだその状況ですので、ワークシェアリングまでいかない段階ではないかなというふうに思っております。もちろん、ワークシェアリングがあってもよいのですが。

馳委員 若い人が正規労働、常用雇用になるよりも、非常勤でも生きていけるよ、そういう感覚にも聞こえたので、そうではないということを実感しました。

 とすると、同じような働き方をしていたら、正規雇用も非正規雇用も同様の処遇を得て当然だ、すると、できるだけ同じような働き方をしていたら、ともに公的保険制度に入れればいいな、ここに入ってくるのではないかなと思うんですね。

 今回の政府の素案にも、被用者年金一元化、そして適用拡大がポイントになっていて、我々、自民党のときにも出しましたが、残念ながら民主党は反対されました。現在与党になった民主党も同じような内容で出してこられようとしていますが、我々と同様に今悩んでおられるのは、ちょっと待てよ、非正規雇用に随分と頼っている飲食業等が、これは困るよ、経営の負担になるよ、こういう声が今どっと出てきております。そうかといって、先ほどからおっしゃっているように、やはり同じような働き方をしていれば同じような処遇をしてあげるべきではないか、社会保険制度にできるだけ入れてあげようよという考え方は、私は合理性があると思います。小室公述人の御意見をいただきたいと思います。

小室公述人 御質問いただきまして、ありがとうございます。

 パート労働の厚生年金などの話については、当然、経営者の側は、初期は負担の方を大きく感じることと思います。

 ただ、日本社会は今、大きな流れでは、労働力人口の減少ということに悩む流れが大きく出てきていますので、短期的にはもちろんこのことは反発はある程度あるとは思うんですが、このことによって、一度パートで採用した人に対してきちんと厚生年金を出せることが、その後にその人は正社員にチャレンジするという道も必ず出てきますし、できれば能力のわかった人を採用していきたいという思いは今企業にもあると思いますので、そういった、仕事をしていなかった方がパートにチャレンジをし、そのチャレンジが実って正社員になりというような流れを促していく。

 そもそも、そこに年金があるだろうと思うことで働きに出ようと思う人をもっと引き出していくということが、企業にとっても、人をこれから採るのは苦労しますから、その苦労に対して、魅力を発信することでいい人を採れるという流れにもなると考えます。

 そこの魅力の部分をいかに経営者に視点として伝えて、負担に見合った魅力があるんだということをわかってもらえるかというところだとは思います。

 御質問ありがとうございました。

馳委員 今、その部分で、三十時間か二十時間かということで、ここが非常に大きなハードルになっているんですね。間をとって二十五時間か、これはよく国会でやる手法ですが。ここのところの詰めをしていかないと、やはり与野党ともにパート労働者の加入促進ということはやっていけないし、その安心感を与える決着を国会で図ることが重要であろうと思いました。非常に参考になりました。

 それから、先ほどの石川さんも御指摘されていましたが、やはり保育所という部分ですね。

 待機児童ゼロ作戦は、なかなか今お出しになろうとしている政府の子ども・子育て新システムでも、総合こども園ではちょっと救い切れないのかな。そうすると、保育所の整備また運営費に公費をできるだけ投入することもやむを得ないのかな、プラス、経営の厳しい幼稚園にも、今、認定こども園という制度がありますから、そこの決断をしていただくしかないのかな、こういうふうに思われるのですが、この保育所整備のあり方についてのお考えを伺いたいと思います。

小室公述人 ありがとうございます。

 先ほどの、霞が関につくった保育所、八万円という話もありまして、保育費の高さというところで、これは一見、高い保育所ではだめだというふうに思われがちですが、値段はまちまちでいいと私は思っています。数をしっかりつくり、そこでしっかりと利益が出る状態をつくっていかなければ、当然、単なる赤字を垂れ流すだけですので、ある程度利益の出る保育園をつくるということのスキームがすごく大事だと思っています。

 そういう意味では、これは親の考え方によりますし、親の年収にも当然よる話ですが、そこに教育を付加したいと思っている親にとってみると、保育園の中にプラスアルファのサービスがあったら、二万じゃなくてもいいんですね。私は今、認定こども園に入れていて、約二万円ですけれども、もしもそこで自分が月曜や土曜に習わせているようなものをプラスしてやってくれるのであれば、そこに八万円払ってもよいというふうに思う方は、中にはいらっしゃるんですね。

 そういったことをプラスできるような状態にすれば、園としてバリエーションをつくって黒字にすることができるんですが、これが今の仕組みの中では非常に難しいということが多いようですので、私も詳しいことまではわかりませんが、そういった親のニーズはあるんですね。

 もっとお金を払ってもいいと思ってすらいる親もいるということをうまく、黒字の園をふやすというところ、単に数をふやすということではなく、黒字の園をふやすということに対して仕組みを緩和していくべきではないかなと考えます。

馳委員 結婚、妊娠、出産、育児だけではなくて、ここにおられる国会議員の皆さん方は全員そうですね。転職時代。つまり、終身雇用、一つの会社に入って定年まで過ごすというのではなくて、いろいろなチャンスを得て、転職が可能であり、それが常態的になってきた時代だというふうに思われます。

 とすると、厚生年金に入っていても、共済年金に入っている人、公務員がそんなに簡単に転職するとは思えませんが、国民年金であっても、あるいは運用三号の問題等もございました、どんな働き方であっても、申請主義ではなくて自動的に届けをすれば切りかわる、これを共通番号制度でやっていく時代なんじゃないのかなと思われますが、小室公述人の御意見を承りたいと思います。

小室公述人 それに関して、私は全面賛成です。当然そうでなければならないし、なぜそんなことがいまだにできないのかというぐらいの疑問をいつも持っております。

馳委員 さて、菊池公述人、お話を伺っていて、だんだん何か亀井静香先生の話を伺っているような。

 私は、亀井先生が自由民主党時代に同じ政策グループにいて、よく教えていただきました。

 そのときによく議論になったのが、相続税見合いの無利子非課税国債を出してやれば、国民の金融資産を出していって、金融対策とともに財政面からも需給ギャップの解消に資するんじゃないか、こういうふうなおっしゃり方で、意気投合したというか、私はそう思うんですけれども、亀井先生も、そういう考え方もあると。ただ大蔵省がな、当時、昔の話です、大蔵省がなというふうな一言がついた議論がございました。

 改めて、先生がおっしゃった話の財源論となってくると、別建てにした方がいいと思うんですけれども、こういった相続税と見合いの無利子非課税国債等も活用する、そして、先ほどおっしゃったように、日銀法を改正して、インフレターゲットかゴールかわかりませんが、期限を決めて、説明責任を果たさせて、そして説明が果たせなかったら責任とれよという日銀法改正があってもいいなと。

 財政と金融がそろってデフレ対策に全面的に取り組むべきだと思いますが、御意見を承りたいと思います。

菊池公述人 まず、先生がおっしゃられた無利息国債の件です。

 私は、基本的にこの考え方には賛成です。どうしてかといいますと、やはり、もう少し日本国民が国債を買いやすいといいますか、それから、多面的に一つの目的を持って買っていくということによって、相当に国債の調達力も幅が広がりますし、買う人も、それに伴って意識の問題、それから、それを使えばこういうメリットもあるんだな、こういう意識が広がるんじゃないかと思うんです。

 事実、先生も御案内のとおり、現在、農村地帯なんかは高齢化が進みまして、農村地帯ですと土地の所有者というのは結構高齢化していますね。それで、こういう方が相続人もなくて結果的にその土地をどうするかというと、最終的には何か農協が買い取ってどうするかということらしいんですけれども。しかし、そういうものも、例えば、では早目にその土地を担保にして、それで無利息国債を買うというような形にする、そして相続税はそれに伴って少し安くする。だから、無利息国債を商品として開発するときに、問題はどういうメリットをつけるかだと思うんですね。

 ですから、これは亀井先生が特に御発案のようですが、いろいろ新聞紙上等で拝聴しておりますと、やはりそのメリットは相続税の軽減という形でいいんじゃないだろうかということなんです。私は、そういうふうにして幅広くしていきますと、結局、そういう国債を買おう、それから、今高齢化社会に伴って土地担保で、要するに眠っている資産を活性化する一つの手段として、そういうことに使えるんじゃないかと思います。

 それで、金利の問題とかいろいろありますけれども、若干そういうことによって相続税が軽減されるということでもいいんじゃないかと思うんです。

 これも新聞で読みましたけれども、恐らく財務省が反対する理由は、結局無利息国債でその分だけ軽減されるとしても、相続税の分で多く払ったらその分だけ損するじゃないかということなんですけれども、こういう御発想ではちょっといかがなものかな。やはりそれに対する経済効果をもっと考えた方がいいと思います。

 それから、二番目におっしゃられた、積極財政をやって何とかデフレを解消する、そのときに日銀との関係をどうするかということですけれども、それに伴って、今おっしゃられた日銀法改正の問題ですね。

 確かに、この前、国会での議論を拝聴しておりまして、日銀総裁がインフレターゲットは一%ぐらいにしましょうということをおっしゃられましたけれども、ただ、こういうことは言えるんですよ。金融だけに頼ってデフレを解消しようとする、それでそのターゲットを一%、二%にする。そうしても、実はデフレは解消しないと思うんです。

 それで、日銀が今非常に金融緩和にちゅうちょしている理由はこういうところにあると思うんですよ。

 つまり、小泉構造改革のときには、財政は締める、金融は緩めろということだったんです。緩め方としては、日本銀行にあります都市銀行とか大手銀行の預金に対して、ピークは三十五兆円ぐらい金をそこに置かせたんですね。それで、日銀は、それを銀行は使ってくださいよ、こう言った。ところが、デフレだから使えない。そのお金はどうなったかというと、実は、円キャリートレードという手法で、結局、ニューヨークなんかへ行って投機マネーに使われた。だから、ニューヨークの投機を起こしたマネーの三分の一とか、最近では半分は日本から来たと言われているんですよ。私も、海外へ行って、ニューヨークなんかへ行きますけれども、そういうことを言われたことがあります。

 ですから、そういうことに対して、今、日本が財政という面からのデフレ解消政策をとらないで金融だけを緩めるとしますと、かつての二の舞で、結局、海外へ行って投機なんかに使われるんじゃないかということなんです。そこが問題だと思います。

 ですから、インフレターゲットとかいうようなものだけでは解消できないと思います。問題なのは、需給ギャップを調整する財政をちゃんと出すことにして、日銀にちゃんと協力してもらうということです。こういうことだと私は思っております。

馳委員 終わります。

中井委員長 次に、東順治君。

東(順)委員 私は、公明党の東順治でございます。

 きょうは、公述人の皆様、貴重な御意見を賜りまして、まことにありがとうございました。

 それでは、何だか小室公述人に集中して大変申しわけないという気も先ほどからあるんですが、私も待機児童問題というところで今問題意識を持っておりまして、そういう中で、先ほど御説明いただいた、いわゆる待機児童をゼロに、保育所整備、これが自助努力する国民を支える仕組みをつくるんだ、こうございましたね。この辺のところを伺いたいと思います。

 その前に、ワークとライフのシナジーだ、相乗効果だと。この発想は、私は大変すばらしいなと思って伺いました。あちこちでこうやっていろいろ講演なさったり、さまざまに指導をしたりされているんでしょうが、小室公述人の先ほどからのお話を伺っていますと、旧来の発想の転換、これはやはり相当な衝撃を与えるんだと思うんですが、効果というのはどういうふうに出ていますか、さまざまな企業から。それをちょっと先に聞かせてください。

小室公述人 御質問をいただきまして、ありがとうございます。

 私どもは大体八カ月ぐらいコンサルに入ることが多いんですけれども、ほとんどの企業さんはリピートで必ず御依頼いただく形なので、もう二年目、三年目というコンサルをしています。

 毎回、七、八チームを選んで、そのチームの働き方を徹底的に変えていくということをやるんですけれども、ある製薬業さんなんかは、三四%残業減になって、業績全く変わらずです。

 建設業の企業さんも、建設業の企業さんの残業の原因は行政なんですけれども、金曜日の五時にお仕事をいただいて月曜日の朝が締め切りであるというようなことが最も原因なんですけれども、そういった業界、いわゆる外的要因のせいで残業をしているのであって、自分で何か変えてもどうせ残業は減らないと思っているような業界も、コンサルに入ると二割、三割は減ります。

 なので、自分のスキル不足だったり知識不足でいつも調べ物をしている、スキルがなくてパソコンの扱いに非常に手間取っているというような企業さんはたくさんありますので、生産性はまだまだ上げられますし、今まで成果が出なかったという企業さんは全くないです。日本という国は、もっともっと利益の出る国なんだというふうに私は思っております。

東(順)委員 それで、先ほどからのやりとりを伺っていて、大変私は気になったというか、気になったというのはいい意味でですよ、公述人さんの視点の中に、保育に教育というものがプラスされれば、それは少々お金がかかったって非常に大事なことなんだ、黒字の園をふやすということが非常に大事なので、単に保育所をたくさんふやせばいいということではない、こういう趣旨の御発言がございましたね。

 そこで、二〇一五年に創設を目指している子ども・子育て新システム、これは政府が今考えている。これはどういうものかといいますと、幼稚園と保育所の機能をあわせ持つ総合こども園というようなことなんですね。この保育所と幼稚園の機能をあわせ持つという意味は、保育というところに重点を置いた保育所と、幼児教育というところに重点を置いた幼稚園、この二つの機能をあわせ持つ、そういう総合こども園、それが、先ほどいみじくも公述人がおっしゃった、二つを充足させればというところと一致すると公述人もお考えなんでしょうか、どうでしょうか。

小室公述人 御質問ありがとうございます。

 全く一致するかどうかはわからないんですが、ポイントとしては本当に教育ということだと思っています。

 母親の気持ちとしては、これだけグローバル化する中で、グローバルな社会で戦わなきゃいけない子供をどうしてあげたらいいんだろうというようなところに大変焦りを感じています。これは単に教育熱心ということではなくて、グローバルなところでビジネスをやって苦労するというのはもう既に私たち自身が感じていることですので、同じ苦労をさせたくない。きちんと早期からグローバルに通用する人材に自分が育ててもらっていたら、こんなに英語で苦労しなかったのにというような、いろいろな苦労も自分自身が感じている中で、それを親の責任として、保育と教育ということの両方に力を入れたいというふうに感じていると思います。

 これは、両方あれば、今習い事に行っている人は本当に多いわけですから、そこの部分に払っているお金を保育というものにプラスアルファで払って、そうすれば親は送り迎えを、保育園に途中で行って習い事に行かせるだとか、ベビーシッターさんに二時に迎えに行ってもらって習い事に行かせるなんという矛盾をすることもなく、夕方まで安心して保育園の中で勉強もし、保育もしてもらってということができるのにという意味で、いろいろな意味で、場所を分ける必要、縦割りにする必要なんかないのにという憤りを強く感じています。

 もう一つは、どんなに地方自治体にお金を配ってあげても保育園をつくってくれないのは、赤字の園を一度つくっちゃったら、ずっとそれをその地方自治体が自分のところで背負わなきゃいけないから、保育園をつくる用の予算をもらっているのにそれで保育園をつくらないということが起きているわけですので、やはり、黒字の園をつくる仕組みをつくらなければ、どんなに地方自治体にお金を配っても、それは適正に、保育園をつくるお金には使われないという矛盾を強く感じているからです。

東(順)委員 同時に、子供さんを持つ女性が働くことの現実的なネックとして、やはり保育所不足というのが今、相当あるわけですね。

 これは、昨今の経済情勢の悪化というようなことで、共働き世帯がふえてきている。そうすると、待機児童という問題が高どまりし始めている。

 昨年四月現在で、全国で二万五千六百人という数字が出ているんですが、子ども・子育て新システムというものが、果たして待機児童をゼロにしていくということに対する大きな追い風になるとお考えかどうか、その点はいかがですか。

小室公述人 御質問ありがとうございます。

 数をつくるということに関してだけでなくて、それが、もう何度も同じ話になってしまいますが、ずっと黒字であり続けるような仕組みということがなければ、数をつくってもだめだというふうに思っているんです。

 なので、数をつくることは本当に早急に必要なのですが、今回の政策も、結局、数をつくる分だけのお金を配ったけれども黒字になる仕組みになっていないからつくらなかったということにまたなるんじゃないかと思っていて、内容についてはどんなにいいものだったとしても、実際に地方自治体がもらった予算をしっかりと保育園をつくることに使いたいと思わせるような、最後の、そこまでの仕組みがつくられているかどうかというところが一番気になるところです。

 詳しく意見を申し上げられなくて申しわけないんですが、そう思います。

東(順)委員 実は、これはこれから大議論に多分なると思います。企業がこの新システムというところへ参入する。この企業参入というのが是か非かというので、だんだん議論が大きくなり始めているんですね。そこで私は、これに対してどのように公述人はお考えになっているか、伺ったわけです。

 どっちにしても、ワークとライフのシナジー、それから待機児童をゼロにするという、この両方を満たしていく方向にこの新システムというものが果たしてプラスと出るかマイナスと出るか、これはこれからの大議論になろうかと思います。

 また機会がありましたら、御意見を伺いたいと思います。

 それから、菊池公述人、お願い申し上げます。

 二回にわたって公明党頑張れとおっしゃっていただきましたね。馳さんじゃありませんけれども、私も亀井先生の顔に見えてまいります。

 緊急補正予算を百兆円、そして五年間で毎年二十兆円ずつ投入しろという非常に大胆な御提言でございます。

 そこで、今、我が国の中小企業というのは九九・七%ですね。働いている人たちの七割が中小企業ですね。産業の空洞化の問題とか、新興国の追い上げで空洞化が起こり、働く場所がどんどんなくなってくる。そういう中で、他方、大震災が起こる、原発が起こるというようなことで、もう本当に悲鳴が上がっている。

 そこで、この大震災の復興対策、これは四回にわたって補正を組みました。例えば、そういう中で国内立地補助金というようなものも設ける。これは、まだまだ量的に力不足とお考えなのか、もっと大胆にこういう復興対策に集中投資をしろ、そういう意味を込めての百兆とおっしゃっているのか。例えば、学校とか公共の建物の耐震工事だとか、いろいろありますね。もっと大胆にやれという意味の百兆なんですか。その辺、いかがですか。

菊池公述人 まず、この百兆の五年というのは、例えば、二〇〇九年の一月にオバマ大統領が就任されましたね。それで、オバマ大統領が最初にやられたことは、二年で七十兆の緊急補正予算だったんですよ、御案内と思いますが。アメリカは債務国ですからね。その債務国で思い切ってやろうと。当時、アメリカは本当にデフレみたいになるんじゃないかと思った。

 ですから、アメリカの当時の国会の状況なんかをいろいろ資料で読みますと、アメリカの野党の共和党が、日本みたいになっちゃいかぬ、ジャパナイゼーションなんていう悪い意味での言葉が出て、日本みたいになっちゃいかぬから、オバマのその七十兆、二年の公共投資に賛成したんですよ。ですから、そういうことで思い切って、それでアメリカは幸いなことにデフレから脱却しましたね。デフレじゃなくて、最近ちょっとよくなってきましたね。ああいうのは二年、三年で効いてくるんです。ですから、あれなんか非常にいいヒントだと思いますね。

 それで、今先生がおっしゃられた、まさに第四次までわたって補正予算を組んでいただいた。これは、東日本の復興対策というのはよかったと思います。かなり思い切ってやられたなと思います。

 ただ、では、私が考えているのはそれに関連してどうなのかということですけれども、私が考えている百兆、五年というのは、あれとは別にしまして、やはり全国ですよ。あれは確かに東北地方に限定的にする、雇用なんかでも各県によりましてそれぞれ地元の人を優先しようということがされていますね、建設業で。それは僕はそれでいいと思うんですけれども、やはり全国的には物すごく疲弊しているわけですよ。北は北海道から、南は九州、沖縄までも。

 ですから、それをきちっと底支えして、そして、まず一番の手始めは、駆逐した社会インフラの構築だと思います。最近ではそういう本なんかも出ていますし、テレビでも少し話題になるようになってきました。そういうものをまずベースにする。

 それで、公共投資は、数字によりますと、まず、二〇〇七年から回収超過です。ずっと回収しているんです。それから、民間投資も実は最近回収超過です。投資が回収超過になると、経済というのはどんどん縮小していくんですね。デフレというのは経済規模が小さくなることですから、これを阻止しなきゃいけない。

 だから、それにはまず投資をきちっと出して、そして、民間に投資しろ、投資しろと言ったって無理なんですよ、デフレだから。まず、国がそういうデフレリスクをとって、ここまでやるよ、民間はついてきてくれ、ついてくれば投資減税とかそういう形でメリットを出します、こういう形にしていったらどうかということです。

 ですから、あくまでこれは全国的に展開すべきだという考えでございます。

東(順)委員 ありがとうございました。

 これで終わります。

中井委員長 次に、笠井亮君。

笠井委員 日本共産党の笠井亮です。

 きょうは、三木公述人、小室公述人、菊池公述人、そして浦野公述人、お忙しいところ、貴重な御意見をありがとうございました。

 早速伺いたいと思います。

 まず、浦野公述人に伺いますが、お話の中で、日本国憲法が要請する税のあり方というのは応能負担原則によるべきであるというのは、本当に大事なことだと思いました。そして、この見地から、消費税の逆進性が応能負担の原則に反するということも、まさにそのとおりだと思います。

 そこで、伺いたいんですが、そもそも、社会保障を消費税増税でという考え方について、どのようにお考えでしょうか。

浦野公述人 どうもありがとうございます。

 先ほども私の報告の中でも申し上げたんですけれども、日本国憲法の考え方からすると、憲法は福祉を非常に重視している、したがって、全ての税が福祉社会保障目的税であるということが憲法上の要請だ。

 そうしますと、一部の、消費税という負担能力を考慮しないもので福祉を賄うんだということは、まず応能負担原則に反するし、二番目の全ての税金が福祉社会保障目的税であるという憲法上の要請にも反する、二重のことになっていく。その結果、福祉予算がふえれば消費税を上げるという悪循環になっていくので、そういうところはどこかでストップをかけなければいけないんじゃないか、こういうふうに思います。

笠井委員 まさに、今度の一体改革が社会保障は消費税増税でということであるわけですが、その点は改めて今伺いました。

 三木公述人に伺いますが、先ほど、浦野公述人からも、消費税というのは、中小企業、とりわけ小企業にとっては、転嫁できないそもそもの仕組みであるということのお話がありました。三木公述人のお話の中では、転嫁可能性の確保という形で一言言われたわけですが、どういう意味でそのことをおっしゃったのか。

 中小零細企業は、これまでも、そういう意味では消費税を価格に転嫁できてこなかったというのが本当に苦しみだったわけですが、なぜできてこなかったのか。そして、転嫁可能性の確保というのはどんな意味でおっしゃっているのか、伺いたいと思います。

三木公述人 御質問ありがとうございます。

 この問題は大変難しい問題で、今回の改革一体法案の中では、提案の中の別紙二で、適正転嫁への取り組みについてという幾つかの仕組みが出されておるところです。従来と比べますと、それなりに配慮しようというところはよく見えるわけです。

 ただ、恐らく質問される先生もそうなんだろうと思いますが、下請というのは、実は、こういう制度があってもなかなかそれを利用しにくいというところが下請のつらさでありますので、それをどういうふうに実質的に配慮できるか。

 これは、世界の制度もちゃんと見なきゃいけないんですが、実はまだ世界の制度はそこまで入り込んでいないと思いますが、例えば、ゼロ税率を適用して還付する場合に、下請との配分などを考えるような仕組みを消費税の仕組みの中に入れていくようなことまで将来的には考えていくべきだろうと思います。

 ただ、今、それが具体的に提案されているわけではありません。確かに難しい問題だというふうには思っております。

笠井委員 浦野公述人に伺いますが、現在の税制でいうと、税率のフラット化がかなり進んでいる。政府は、累次そういうことでやってきて、なぜフラット化した税制を進めたのかということをちょっと思うわけです。その点で御意見があればなんですが。

 それと、累進性の強化によって、国の財政収支改善のための一つに、大企業優遇税制の是正と富裕層への課税強化というのがあると思うんですけれども、浦野公述人は日本の富裕層の存在あるいは実態をどう分析されているか。そして、今、税制のどこをどう改めれば、累進性を強化して国民生活に資するような税制になるとお考えでしょうか。そのお考えを伺いたいと思います。

浦野公述人 まず、フラット化の問題ですけれども、これは消費税もフラット化ですけれども、私は、第二次世界大戦後の税制の改定で非常によくないのが、消費税と、もう一つは住民税の一律一〇%。かつて日本では、住民税の税率も十段階以上の段階的な区分があったんですけれども、改正前でも五、一〇、一三だったものを一〇にしてしまった。これも、フラット化という名前で国民の六割が倍になってしまったようなことがあるわけです。

 ですから、フラット化というのは累進課税とは相反する考え方ですので、やはり総合累進課税、特に、先ほども申し上げましたように、応能負担原則の場合には総合累進課税、その中でも所得課税、所得税、法人税が中心に位置するべきものと思います。これが、一九九〇年、所得税と法人税が四十四兆ぐらいあったんですけれども、平成二十三年度の予算では半減しているんですね、二十一兆円ぐらいに。ですから、ちょうど消費税一〇%分ぐらいが単年度で、所得税、法人税が減収している、こういうものをやはり直していくことが必要だと思います。

 それからもう一つは、富裕層という問題では、やはり、フラット税制の中でも証券優遇税制というものが、所得が幾らあっても一〇%、所得税七%、住民税三%で済んでしまっている。これは、何年か前の、配当を一番受けていた方が年間に百億円という方がいらっしゃったわけですけれども、百億でも十億で、九十億残ってしまう。

 これが仮に超過累進課税で、かつて日本でも所得税、住民税で九割以上という時代があって、総合累進課税で段階的に課税ですから、必ずしも百億あるからといって九〇%にはなりませんけれども、限りなく九〇%に近いとしても百億で十億残るわけですから、こういう税制の改正、フラット化をやめて累進構造をとっていくということが非常に重要だと思っております。

 以上です。

笠井委員 菊池公述人に伺います。

 公述人がおっしゃっている御主張の中で、デフレの日本で法人税を下げれば得をするのは大企業だけで、国内投資に向かわないで配当金と役員報酬に回るだけだ、法人税収を減らすだけだということをおっしゃっていますが、私、同感いたします。

 ならば、大企業の課税にふさわしい法人税率ということになると思うんですけれども、その点についてはどのようにお考えでしょうか。

菊池公述人 私はこう考えます。

 まさに申し上げたとおりで、笠井先生も今復唱していただきましたとおり、今回、法人税を下げましたね、実際、三〇から二五に下げた。結局、あれによって、一部特別税制を廃止したとしても、毎年、ずっと今後、未来永劫にわたって八千億円からほぼ一兆円ぐらいの減収になるんですね。ですから、その部分はどこへ行くかというと、大体、法人税を払っているのは四分の一ぐらいの企業で、ほとんどは大企業です。大企業に行くんです。それで結局、大企業の剰余金みたいな形になってしまう。

 問題は、法人税を下げるならば、その税効果をどういうふうにきちっと求めるかなんですよ。つまり、私自身の考えを申し上げれば、もし法人税を下げるならば、国内に投資をして正規社員を雇ったら法人税を下げます、そういうひもつき投資減税というのが望ましいと思うんです。

 それで、今回、実際に法人税を下げましたね。下げた分というのは剰余金になります。それもこのままいきますと、剰余金と同時に、株式配当とか、それから余ったものは海外へ向かうということになるでしょうけれども、これでは結果的には国内のデフレは解消しないんですよ。私は、減税効果は国内的には極めて皆無に近いだろうと。だから、そういうような税制の改正というものはすべきじゃない。

 だから、今どうすべきかというと、私の意見を申し上げさせていただければ、法人税はまず三〇%に戻すべきです。戻した上で、今申し上げたような形で、大企業にもそういうことを適用する。

 どこまで大企業にそういう特例税制を出すか。私は、中小企業を中心にもっと税効果を上げるような投資減税を考えた方がいいと思いますから、そういうことをするに当たっても資本の大小に応じて、超大型企業についてはそういう特別のものを与えなくたっていいんじゃないか。事実、剰余金の額なんか見たら十分わかると思います。この剰余金、もう大企業だけで三十兆円ぐらいふえているんじゃないでしょうか。私はそう思っています。

笠井委員 小室公述人に伺います。

 相乗効果、仕事と両立させるということで、人間らしく生きたいという働く人の願いや要求が込められていると。そして、女性とともに男性の働き方の見直し、育児、介護ということでも興味深く伺いました。

 それで、今、人間らしく働くことができれば、経済も成長するし、働く人の所得もふえて社会保障も支えることができると。しかしそれは、おっしゃったみたいに、一企業の問題とか個人の努力だけではとてもできないという問題があって、そこに政治の仕事、責任があるんだと思うんです。

 そういう意味では、仕事と生活の調和、あるいは相乗効果という点では、長時間労働を改めるという点で政策をきちっと打つということとあわせて、正社員、正規雇用が当たり前の社会をつくっていくこと、要するに、長時間労働をやらなくても生活できる給与というのがきちっと確保されなきゃいけないし、それも企業任せにしていてはなかなかそうもいかない。政治の仕事は大きいんじゃないかと思うんですが、その点で御意見はいかがでしょうか。

小室公述人 御質問ありがとうございます。

 残業代を生活残業として稼いでいるようなことも、かなり実態としてはある企業というのもございます。その解決も、一つには、私は労働時間の問題でできると思っています。

 というのも、生活残業をしなければ成り立たないと思っている人を雇用している一方で、非管理職の方で物すごく残業代のついている方を社内にたくさん抱えていらっしゃるという企業が多いんですね。こちらの方の労働時間を圧縮することで、本来であればもっと利益が出て、一方で正当な賃金が払われていない方に対してももっと賃金を配分することが本来はできるんですが、そこの効率的な経営ができていないことが、一方で非正規の方たちへの賃金をひたすら下げていくという行動に出ているというふうに映ります。

 企業は、経営していけなければ何もならないというところもあるので、いかにしてこの残業代を今低賃金になっていらっしゃる方のところに振り分けるような構造をつくるかという意味でも、企業が労働時間というところに注目してやっていくことで、その流れを自発的に生み出すことができるのではないかなというふうに考えております。

笠井委員 最後に、手短に浦野公述人に伺いたいんですが、共通番号制度についてどのようにお考えか、伺いたいと思います。

浦野公述人 共通番号制は、かつて納税者番号ということで言われていたんですけれども、最近では、給付つき税額控除のために必要なんだというふうに表現が変わっていますけれども、給付つき税額控除自体が非常に不明確で、最近、日経新聞が報道したところだと、年間に一万円渡すんだという、一万円でプライバシーを売るのかというような問題があります。

 課税自体は今でも十分できているわけです。税務行政が適切に働けば、もっとまた税収も上がるかもしれない側面もあります。今の段階では番号制というのは必要ない、私はそういうふうに思います。

笠井委員 ありがとうございました。

 終わります。

中井委員長 次に、阿部知子さん。

阿部委員 社会民主党・市民連合の阿部知子です。

 いただきましたお時間は十分ですので、よろしくお願いします。

 まず冒頭、三木公述人にお伺いいたします。

 かつて社民党が与党におります当時、税調では大変いろいろ教えていただきまして、ありがとうございます。きょうは三点伺いたいと思います。

 公述人は冒頭、所得税や法人税の応能化の強化が本来であるが、すなわち、所得税もフラットになりましたし、法人税も四分の一くらいしかお払いでないということですから、そういうことの強化が本来であるが、一国応能化は不可能なので、グローバル経済になったので、このたびは消費税という方向で上げることもやぶさかではないやの御発言でありました。

 私は、先ほど菊池公述人もおっしゃっていただきましたが、今の我が国の税収構造で消費税を上げますと、消費税は安住大臣いわく三七%、私が試算すると四〇%近く、いかに何でもこの税収構造というのは世界に類がなくなってしまって、非常にある意味で偏りがあって、経済にとっても社会にとってもよくないのではないかと思います。

 一点目、この点についてお願いします。

三木公述人 御質問ありがとうございます。なかなか小室公述人の魅力に勝てないものですので悩んでおりましたが、ありがとうございます。

 今の御質問でいきますと、確かによくわかるのでありますが、現実に、我が国の歳出は百兆円で税収が四十兆という状況であります。これを長い形で続けていくわけにはいかないことも明らかなのですね。

 そういう状況の中で、所得税や法人税の再構成も目指さなければいけないことは明らかであります。ただ、今のこの事態の中で大幅な税収増を図るときに何が使えるかといいますと、法人税は先ほど言ったような状況ですし、所得税をもうこれほど痩せ細っている場合に急に戻すのは難しい。そうであれば、まずは消費税のところできちんと財政を立て直す方向性をつくって、それから社会の全体の税構造をきちんと国民の合意のもとで立て直していく必要がある、そういう意味でございます。

阿部委員 それにいたしましても、いかにしてもデフレでありまして、今もし消費税を上げたとしても、与える影響の方が大きいのではないかと私は考えるんですね。

 そして、税収構造の縮みは、せんだって私が問題にしましたように、実はさまざまな保険料の方を上げておりまして、結局、社会保障の持続可能性のためには保険料が重くなってきているという現実があります。

 これに対して、恐らく政権交代の当初は、例えば環境税なども税目に挙がっており、それが重過ぎる社会保険料負担の軽減に役立てられるのではないかという考え方もあったと思うのです。しかし、環境関係の税制の方は、多少は手がついたかに思いますけれども、そちらはやらないまま消費税の方になだれ込んでいるとあえて強い言葉を使いますが、この環境税などを社会保険料負担にかえていく。ドイツでもやったことですが、これについて、御意見いかがでしょうか。

三木公述人 環境税の問題については、その全体の構成のあり方も含めて、見直すべきことは当然だと思います。これを特定のものに充てる、目的税化することは、長い目で見るといろいろ硬直化しますから不適合だというのは、皆さん御存じのとおりだと思っています。

 今出ました環境税については、今見直しもしているところですね。そして、そのときに一つ問題なのは、あわせて、環境税の中に原発の問題も含めた上で、環境税制の再構成をする必要があるだろうと思っています。

 今の御質問との関係でいいますと、いずれにしても、社会保障と結びつけることをどう思うかという点、これについては、政策税制と収入税制は相対的に別の問題だろうというふうには思っています。

阿部委員 確かに、使用済み燃料棒等にも課税して、それをまた財源でふやしていくということもあろうかと思います。とにかく、今の私たちの時代は、エネルギー問題も食料問題も少子化問題も、いずれも大きなドラスチックな変化の時代ですので、やはり消費税だけに着目しない、トータルの賢い選択があってしかるべきだと思います。

 そして、消費税に着目するとしても、方向性は地方分権に向けるべきで、今回残念であるのは、かつて、自社さ政権時代は、消費税のうち、五%の一%をもともとの地方財源に置きました。しかし、今度の政権にあっては、消費税一〇%くらいまではそれをやらずして、その次のステップでとおっしゃいますが、既に現在に未来への萌芽がなければ、分権は進まないと思います。この点はいかがでしょうか。

三木公述人 御指摘はよくわかります。そして、今の提案の中で、地方税との関係でいいますと、消費税について、地方の持ち分を配慮するのは当然だと思っています。先ほど申しましたように、消費税収を上げていきますと、それにあわせて間接諸税の整理をしなければいけないはずであります。そのときには、今、地方税として取っている部分の整理も必要になってくるわけです。そのときに、当然、地方の取り分というのをその中で再構成していくことになるんだ、私はそういうふうに理解しておりました。

阿部委員 菊池公述人にお伺いいたします。

 オバマ大統領時代に、約七十兆、二年間の財政出動。私も、老朽化したインフラ整備、今日本の国土は災害に弱くなっていますから、重要な方向だと思います。賛意を表します。

 あわせて、公述人もお取り上げでありますが、今、エネルギー改革、再生可能エネルギーということで、私は都度問題にいたしますが、この分野は、新たな投資の機運がやはり今ここにあると思います。そうした分野への投資も含めて、一応、公述人は書いておられますが、なお御意見を伺います。

菊池公述人 阿部先生がおっしゃられたとおりで、やはり一種の中長期的な観点に立って、強靱な国家をつくる、再構築していくということを一つのベースにすべきだろうと思いますね、考え方として。そうして、民間だけではできない、それから、デフレだからさらにできない、そういうことに対して、政府がきちっとしたイニシアチブをとってプロジェクトを立ち上げる。そして同時に、民間もそこに引っ張り出していくということだと思います。

 ですから、エネルギーなんかというのはまさにそうなんですよ。原発に頼らないだけじゃなくて、石油もそうなんですね。石油でも、もうこれは石油マーケットだけで振り回されているんですから。もっとそういうことを考えて、本当に、自然エネルギーとかエネルギーの多様性、そういうものをもっともっと真剣に考える。

 それから、まさに、さっきも出ましたように、生活に密着した投資が必要です。これは、例えば待機児童の育児の問題とか、そういうものなんかは非常に需要が高いと思います。そういった面をきちっと対応して、民間も協力させていくことが必要だと考えております。

阿部委員 時間の関係で浦野参考人には伺えませんでしたが、きょうのお話は大変にためになって、特に、租税法律主義と、税制全体がもともと日本国憲法のもとで福祉というものに向かっているんだというお話は、肝に銘じたいと思います。

 あと、いろいろな意味で他を圧倒していた小室公述人には、頑張って、かわいい坊やのお写真までありましたので、もうそれだけで、十分とは言いませんが、本当にいいプレゼンをしていただきまして、ありがとうございます。

 終わらせていただきます。

中井委員長 次に、柿澤未途君。

柿澤委員 みんなの党の柿澤未途でございます。

 四人の公述人の皆さん、本当にお疲れさまでございました。ありがとうございました。

 菊池公述人のお話を聞いておりますと、私たちみんなの党の考え方に非常に近いな、こういうことを感じさせられました。デフレ脱却をしなければ、幾ら増税をしたって財政収支の均衡は実現しない、これがやはり世界の財政健全化の歴史的な教訓だというふうに思うんです。

 私たちもアメリカのクリントン大統領の時代の財政のお話をよくするんですけれども、あの当時、数十兆円に上る財政赤字を引き継いで、しかし、年率五、六%の経済成長を続けた結果、たった六年で財政黒字をほぼ増税なくして実現した。

 こういう道筋をやはり日本はたどっていくべきであって、今のようなデフレの状況下で消費税の増税をすれば、消費をさらに冷え込ませて、そしてさらなる税収の落ち込みを招き、財政状況はかえって悪化をしてしまう。これが、例えば平成九年に三%から五%に上げて以降の日本の財政の教訓でもある、こういうふうに思います。

 その点で、菊池公述人に、ある意味で角度の違ったお尋ねをしたいと思うんですけれども、こうした論者はこれまでもたくさんいたと思います。そしてデフレが続いてきた。また、先日の日銀の政策がワークしているというのを見て、ある意味では勢いを増している部分もある。しかし、この十年来、こうした議論は一貫して傍流の立場にあって、主流というか、政策当局の政策には残念ながら十分に反映されてこなかった、こういう状況だというふうに私たちは思っています。

 なぜ、このようにして、私たちやあるいは菊池公述人のおっしゃっているような、こうした方向性の議論が採用されて十分に実行される、こういう時代状況が生まれてこなかったのか。それは、私たちのプレゼンが悪かったのか、あるいは、財務省にはそれを取り入れられない何か理由があるのか、この点、菊池公述人はどうお考えになられているでしょうか。

菊池公述人 大変いい御指摘をいただいていると思います。

 それで、まことに僣越なんですが、私、クリアフォルダの中に一枚こういうのを入れてあるんですよ。「エコノミストは役に立つのか」というのが入っているんです。こういうものをお持ちするのはまことに僣越なんですが、もしこういう御意見が出た場合に申し上げようと。

 それで、何と書いてあるか。ここに、実は私が一番上にランクされている。誤解ないように申し上げたい。自慢するために持ってきたんじゃないんです。なぜかといいますと、真ん中から下ぐらいの方々、竹中平蔵さんも入っておられたり、これはまことに有名な方々が入っておられますね。つまり、過去十年間の、いわばエコノミストとか国政の中枢にいられた方々です。

 こういう方々は、実は、この東谷暁さんの格付によると不良債権になっているんですよ。つまり、大変失礼な言い方になりますが、こういうような方々がずっとアドバイスをしてこられたから、日本経済はやはり不良債権になっちゃったんでしょう。

 そこで、申し上げたいことは、私のような意見の者はほかにもかなりおります。ただ、これは、マスコミだとかそういう方がお呼びじゃないんだろうと思います。それからもう一つは、民主党さんになってからも、私が申し上げたいことは、やはりブレーンといいますか、そういう方々をもっとチェンジしなければいけないんですよ。チェンジしないから政策が変わらないんですよ。デフレのままになっちゃっている。そのことをもう一遍しっかりと御認識いただきたいなと思っております。

柿澤委員 別に菊池公述人のお先棒を担ぐためにこの質問をしたわけでは決してないんですが、さらに言えば、この文芸春秋「エコノミストは役に立つのか」、これは菊池公述人が第一位ですばらしいなとも思うんですけれども、第二位が小野善康さんで、この方の経済政策を見ていると、このランキングもちょっと怪しいな、こんなふうにも感じるところであります。

中井委員長 柿澤君、君のところの渡辺先生が入っているよ。

柿澤委員 いずれにしましても、私たちの政策と似通っている、こういうふうに思うんですけれども、現状認識はそうでありながら、私は、処方箋の点でちょっと違うな、こういうことを感じさせられました。

 経済成長の三要素として、労働、資本、技術革新・イノベーションというものがありますけれども、労働力は、残念ながら人口減少で減っているトレンドにあるのは事実だと思います。資本についても、伸びているという状況、環境にない。そういう意味では、技術革新、イノベーションの部分をどう興していくか、これが大事だと思いますが、そういう意味でいうとイノベーション、技術革新の原動力というのは、やはり私は規制の緩和ではないか、こういうふうに思うんです。

 しかし、小泉改革の規制緩和によって日本の経済はだめになった、こういうことを菊池公述人は言われているので、ある意味、現状認識と処方箋がばらばらになっちゃっているんじゃないか、こういうふうに感じられてならないんですけれども、この点について御答弁をお願いいたしたいと思います。

菊池公述人 まず、ポイントが二つあると思います。

 一つは、先生おっしゃられるとおり、経済の成長、かなめになるのが労働、資本、技術革新であることはよくわかります。それで、この中で今一番重要なのは確かに技術革新ですよ。しかし、そのもっと前提になるものは、実は資本なんですよ。

 資本がもう完全に国内で、さっきも申したように、実はデータもあるんですけれども、民間資本ももう既に回収超過です。政府資本も回収超過。だから、そういうようなデフレになってしまっているから、結局はこういう技術革新を促すようなベースがなかなかできてこないんですね。それが私は一つは大きくあると思う。

 だから私は、さっきから百兆の予算なんて申し上げているけれども、資本不足をいかにして官民ともに強化するか、そこにポイントを置くべきだ、こう言っているんです。

 それで二番目には、先生は、技術革新が起きるなら規制緩和をもっとしたらいいんじゃないかということですが、それは、あるところまでは言えると思います。しかし、ちょうどAIJという年金基金が破綻しましたね。あれなんかはやはり金融庁行政です。それから厚労省の行政もあるかもしれません。あれでもやはり、ああいう年金ファンドを単なる登録制にしてしまった。検査も余りやっていないようですね。だからあんな大破綻になるんでしょう。

 だから、規制緩和の非常に難しさは、やはり規制で必要なものはきちっとあるんですよ。それを緩めてしまうとああいうぐあいになる。あれの迷惑がかかるのは、我々国民ですからね。ですから、そういうことをきちっとして、その上で、経済成長にプラスになる規制を緩和すべきだということは賛成です。

柿澤委員 正直、このAIJのケースをアプライしておっしゃるのはいささかミスリーディングではないかなという気もするんですけれども。

 小室参考人に私も質問したいので、御質問を申し上げたいと思います。

 私、ほぼ同世代、ちょっと年が上ですけれども、そういう世代の一員として、先ほどのプレゼンテーション、大変すばらしかったというふうに思います。

 ただ、ちょっと角度を変えてお尋ねを申し上げたいと思うんですが、お配りをいただいた「労働時間に対する国家戦略の必要性について」というペーパーの六ページ、七ページのあたりで、「若者の雇用を増やすとコストは減る」、こう書いてある。「時間を減らして人を増やす企業」、こうした考え方がある。

 私はそれは望ましい方向性だと思うんですけれども、そうであるとすると、例えば労働市場の流動化、また正社員における解雇ルール、こういうものを明定して、ある意味では、もう残念ながら競争力を失った分野から成長分野に労働力が移行する、こうしたことをスムーズにするそれこそ規制改革が必要になってくるんではないか。

 この点についてはさまざまな意見のあるところでありますので、こうしたことを必然的に伴うというふうに私は小室さんのプレゼンを聞いていて思ったんですけれども、こうした労働市場の流動性に関して何か御見識があればお伺いをしたいなというふうに思います。

中井委員長 時間が迫っていますので、短くお願いします。

小室公述人 済みません、御質問の意図がどういう意味だったかがちょっとわかりませんでした。もう一度、済みません。(柿澤委員「年配者から若い人に雇用をリプレースするとすると、今の雇用ルールではすぐさまできないでしょうということです」と呼ぶ)どの雇用ルールで……。

 時間がないのに済みません。私が、質問の意図がわからないのかもしれません。何について詳しく聞いていらっしゃるか、もうちょっと詳しく言っていただいてもいいですか。規制ではなく慣行のような気がするんですが。

柿澤委員 ルールと言うからちょっと誤解を受けたかもしれませんけれども。

 いずれにしても、今、日本の経済において、私は、一つのボトルネックになっているのは、中高年の社員の皆さんが、ある種、今までの終身雇用的な雇用慣行の中で多く滞留をされて、若い人たちを十分に雇用する余力が企業の中になくなってしまっている、その結果、若い人たちの十分な雇用の機会が失われてしまっている、こういう状況にあると思うんです。

 若い人をたくさん雇えばコストの削減にもなる、こういう話が実現するとすればそこの部分の見直しが必然的に伴う、ある種、痛みが伴ってくると思うんですけれども、その点についてはどうお考えですかというお尋ねでした。済みません。

中井委員長 そこで終わります。時間が余りにも超過し過ぎます。

 次に、三輪信昭君。

三輪委員 新党きづなの三輪信昭でございます。

 四人の公述人の先生のすばらしいお話を聞きながら、これを聞こう、あれを聞こうと思ってチェックしておったわけでありますけれども、九番目になりますとほとんどが質問の対象になってしまったという点で、まず菊池先生にお聞きしたいと思うわけであります。

 デフレ脱却とずっと言ってきておりますけれども、全くデフレ傾向というものがとまりません。さらに、昨今の景気というのは非常に低迷状態でありますし、格差というのは地域においても出てきております。また、所得においても大変大きな格差が拡大していっているという状況下に今あるわけであります。かつて、デフレスパイラルという言葉がよく使われたと思うんですが、まさに今こそそうじゃないかなというのが私の実感であります。もしかしたら間違っておるかもわかりません。

 こういう状況下で現政権は、消費税の増税に突入しよう、こう言っておるわけでありますが、これはデフレ脱却どころか、まさに深刻な国難に向かって突き進むようなことではないか、こういう政策に対して国民が賛同することは絶対ない、そのように受けとめております。

 そこで、きょうのお話の中で特に私がインパクトを受けたのは、日本は財政危機ではないと、はっきりおっしゃいました。政策危機である、こう指摘されまして、九八年から今日まで続いておりますデフレ傾向というのは、政策の間違いがデフレを誘発しているんだ、私はそう受けとめて聞いておりました。ということは、これは政治のミスだということになってしまいます。その要因として、基礎的財政収支均衡策、これがデフレの大きな要因なんだと指摘もされました。

 そうなりますと、政策立案をして進めてきた過去の政権そのものが方針を間違えてしまってきておったということにもなりかねぬわけであります。言いかえれば、これは政策デフレと言っても過言ではないというふうに受けとめながら聞いておったわけであります。

 それで、国の政策決定にかかわる国会議員という立場に今、私、置いていただいているわけでありますが、このように政策が間違った形で選択されてきてしまっておる過去というものに対して大変気になるわけであります、きょうのお話を聞きまして。そもそも、我が国がデフレ政策をとってきたとおっしゃるわけですから。

 その政策を誤って今日まで来てしまったのはなぜなのか、このことをまずお聞きしたいと思います。

菊池公述人 まず、まさに現在は政策デフレです。どうしてこうなってしまったか。

 事の発端は、一九九六年六月に決めました、自民党時代に決めた、橋本財政改革の法案を作成したということですね。そして、これがもとになって金融恐慌みたいな形で株が暴落してしまったわけです。その後、小渕政権になってそういうものを凍結して、一応もとに戻るというふうになってきたんですが、結局、小泉構造改革として、二〇〇一年にスタートされました小泉内閣、特に二〇〇二年に基礎的財政収支均衡策というのを冒頭の施政方針にされて、それで続けてこられたんですね。ですから、それによって完全に財政を締めるという形で、金融は緩めるよと。

 それで、結果はどうかというと、もう細かいことは御案内のとおりで、格差は拡大するわ、いろいろ起きてきました。規制緩和とかいろいろあって、いいものもあった、悪いものもあった。それで、そういうことで結局政権が交代したわけですよ。やはり国民も気がついたんです。だから政権交代した。

 そこで、政権交代後を見ますと、実は民主党さんの政権でも分かれているんです。

 といいますのは、まず鳩山総理になられてから、鳩山総理は基礎的財政収支均衡策を閣議決定することを拒否されています。これは二〇一〇年の五月。私は新聞で読みましたけれども、当時の菅副総理が、財務大臣兼務の方が、基礎的財政収支をあと十年で、つまり二〇二〇年に均衡しろ、そういうふうに財務省が言ってきたのを閣議決定してくれと言った。そうしたら鳩山総理は、いや、それは党内にもいろいろ意見があるし、時期尚早じゃないか、そういうことは今すべきでないと拒否された。ところが、残念ながら、鳩山総理はその後、六月に退任されました。

 退任されて、最初の閣議で菅総理は、基礎的財政収支均衡策を閣議決定されたんです。ですから、結果的には、自公政権時代のデフレ政策をそのまま引き継いだ。だから、つい最近出た数字を見るとはっきりしていますよ。あのころからデフレは一段と進んでいます。

 したがって、私は、この場で一国民として申し上げたいことは、国民はそういう政策の転換を民主党さんに、三党、当時は国民新党と社民党さんも入っていた、政策で求めたんですよ。だから、よかったと思っていたら、残念ながら、はっきり申し上げて菅さんになられてから、すっかり昔のデフレ政策に戻っちゃった。

 それで、経済というのは御案内のとおり心理的なものですから、ますます経済が萎縮する形になって、野田先生になったら、今度は消費税だ、増税かと。増税に伴うマイナス要因というのはたくさんありますからね。そうなってきちゃった。

 ですから、この際、ぜひ民主党さんにも、原点に戻って、はっきりと基礎的財政収支を撤廃していただきたい。撤廃したら、支持率どんと上がりますよ。いや、本当です、これは。撤廃して、この五年、百兆を出してください。支持率七割ぐらい行きますよと私は思っております。

三輪委員 今のお話を聞きますと、これは今の与党、野党関係なく政策的な面で間違ってきたということでありますから、方向転換することが必要だ、このように受けとめます。したがって、不毛の議論よりも、どうしたらデフレから脱却できるか、その一点について全員で協議して方向性を出すべきだ、このようにお聞きしたわけであります。

 積極財政出動についてぜひとも聞きたいなと思いましたら、石川議員、馳議員、それから東先生、三人とも取り組まれました。

 したがって、ここについて大事なことは、五年、百兆という数字は、亀井先生がかつておっしゃった言葉でありますが、今やるべきだ、今やらなければ時間がない、今やれば間に合う、もうこの持論は私自身の持論でもあったわけであります。

 これをやった場合、五年後に実際どれくらいの経済効果というものが期待できるのか。これはお答えがなかったわけでありますので、ぜひ聞かせていただきたいと思います。

菊池公述人 今先生の御案内の点は、実は資料の中に出ておりまして、資料の六番というところに入っておりますので、口頭で結論を申し上げます。

 これは、まさに五年で百兆出す、毎年二十兆ずつ出していく。そうなると、どういう経済効果が出るか。まず、どのぐらい経済が成長するか、それで税収が上がるか、それから名目GDPがふえていくか、端的に言うと、こういうことです。

 そういうことになりますと、宍戸駿太郎先生の経済モデル、この方は、世界的なモデル、権威者の、レオンチェフモデルの継承者で大変な学者先生で、日本を代表する世界的な学者です。この方の数字によりますと、こういうことになるんです。

 毎年二十兆円ずつ出していきます。それで、五年間出していきますと、最初の一年、二年は、財政収支はまだ赤字です。三年で均衡します。四年、五年になると、財政はむしろ黒字になる。要するに、二十兆、二十兆を出していきますけれども、その二十兆を出しても、例えば四年目だと二十四兆税収が上がる。五年目だと、やはり同じく二十四兆、そういう形になる。

 それから一方、名目のGDPは、成長の過程に入りまして、毎年ふえていきまして、五年累計いたしますと、現在よりも二百五十兆から二百八十兆ぐらいふえます。

 それで、実を言いますと、デフレというのは思い切ってレジームの転換をしますと物すごく解決するんです。先生方は、昭和恐慌というのは十分御案内だし、十分知識としてお持ちだと思います。

 あのときは、まさにデフレ政策をとったんですね。浜口雄幸さんという方たちがとって、これも大蔵省出身の方ですけれども、大変なデフレになった。それで、政権が交代して、政友会になって、若槻首相が出て、高橋是清が出てきた。それで、思い切って財政支出する。前年に比べて大体二五%から三〇%ずつ財政支出をしている。今でいいますと、まさに毎年二十から二十五兆円です。そうしましたら、一挙にデフレは解消した。当時の新聞を見ますと、おもしろいように物価が上がるし、給料も上がってくると書いてあります。私、これは本当に読んだんです。

 ですから、ある意味では、これだけ国民はデフレで抑えつけられているんですよ。こういうときに思い切ったレジームの政策転換をやれば、必ずよくなります。これはもう私は信じて疑いませんので。これは政治主導です。ですから、先生方もよろしくお願いいたします。

 そういうことでございます。

三輪委員 政府の方から報道されるのは、借金地獄で、とにかく消費税を上げろという話ばかりで真っ暗闇な感じがしておったわけでありますが、この方法をもってすれば日本の将来に夢が持てる、そういう元気な将来を描くことができたということで、きょうは質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

中井委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。

 公述人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚くお礼を申し上げます。

 また、大変時間が窮屈な運営にいたしまして、申しわけありません。

 以上をもちまして公聴会は終了いたしました。

 公聴会は、これにて散会いたします。

    午後四時二十四分散会


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