衆議院

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第1号 平成27年3月9日(月曜日)

会議録本文へ
平成二十七年三月九日(月曜日)

    午前九時二十分開議

 出席委員

   委員長 大島 理森君

   理事 金田 勝年君 理事 萩生田光一君

   理事 原田 義昭君 理事 平口  洋君

   理事 平沢 勝栄君 理事 森山  裕君

   理事 山井 和則君 理事 今井 雅人君

   理事 上田  勇君

      秋元  司君    石原 宏高君

      岩屋  毅君    衛藤征士郎君

      小倉 將信君    小田原 潔君

      大岡 敏孝君    金子 一義君

      金子めぐみ君    熊田 裕通君

      小池百合子君    小林 鷹之君

      今野 智博君    笹川 博義君

      鈴木 俊一君    田所 嘉徳君

      武部  新君    長坂 康正君

      根本  匠君    野田  毅君

      古屋 圭司君    星野 剛士君

      宮崎 謙介君    保岡 興治君

      山下 貴司君    山本 幸三君

      山本 有二君    若狭  勝君

      小川 淳也君    金子 恵美君

      岸本 周平君    後藤 祐一君

      郡  和子君    階   猛君

      田嶋  要君    玉木雄一郎君

      馬淵 澄夫君    山尾志桜里君

      井坂 信彦君    重徳 和彦君

      松木けんこう君    松浪 健太君

      岡本 三成君    中野 洋昌君

      樋口 尚也君    赤嶺 政賢君

      池内さおり君    大平 喜信君

      島津 幸広君    高橋千鶴子君

    …………………………………

   公述人

   (株式会社大和総研主席研究員)          鈴木  準君

   公述人

   (日本大学国際関係学部教授)           水野 和夫君

   公述人

   (公益財団法人東京都医学総合研究所心の健康プロジェクト主席研究員)    西田 淳志君

   公述人

   (株式会社政策工房代表取締役社長)        原  英史君

   公述人

   (一橋大学国際・公共政策大学院教授)       佐藤 主光君

   公述人

   (日本労働組合総連合会副事務局長)        高橋 睦子君

   公述人

   (白梅学園大学子ども学部教授)          無藤  隆君

   公述人

   (全国労働組合総連合議長)            小田川義和君

   予算委員会専門員     石崎 貴俊君

    ―――――――――――――

委員の異動

三月九日

 辞任         補欠選任

  金子めぐみ君     大岡 敏孝君

  小池百合子君     笹川 博義君

  土井  亨君     今野 智博君

  辻元 清美君     郡  和子君

  前原 誠司君     田嶋  要君

  赤嶺 政賢君     池内さおり君

  高橋千鶴子君     島津 幸広君

同日

 辞任         補欠選任

  大岡 敏孝君     金子めぐみ君

  今野 智博君     若狭  勝君

  笹川 博義君     武部  新君

  郡  和子君     金子 恵美君

  田嶋  要君     玉木雄一郎君

  池内さおり君     大平 喜信君

  島津 幸広君     高橋千鶴子君

同日

 辞任         補欠選任

  武部  新君     小池百合子君

  若狭  勝君     土井  亨君

  金子 恵美君     辻元 清美君

  玉木雄一郎君     山尾志桜里君

  大平 喜信君     赤嶺 政賢君

同日

 辞任         補欠選任

  山尾志桜里君     前原 誠司君

    ―――――――――――――

本日の公聴会で意見を聞いた案件

 平成二十七年度一般会計予算

 平成二十七年度特別会計予算

 平成二十七年度政府関係機関予算


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     ――――◇―――――

大島委員長 これより会議を開きます。

 平成二十七年度一般会計予算、平成二十七年度特別会計予算、平成二十七年度政府関係機関予算、以上三案について公聴会を開きます。

 この際、公述人各位に一言御挨拶申し上げます。

 公述人各位におかれましては、御多用中にもかかわらず御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。平成二十七年度総予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、どうか忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願い申し上げます。

 御意見を賜る順序といたしましては、まず鈴木準公述人、次に水野和夫公述人、次に西田淳志公述人、次に原英史公述人の順序で、お一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 それでは、鈴木公述人にお願いいたします。

鈴木公述人 おはようございます。大和総研で経済政策の調査をしております鈴木準と申します。

 本日は、お招きをいただきまして大変光栄でございます。御審議の御参考としていただきたく、平成二十七年度予算案につきまして賛成の立場から意見を述べさせていただきます。

 早速でございますが、お手元の資料を少し使わせていただきます。

 私の資料の一ページ目でございます。

 日本経済は、大きな流れといたしまして、リーマン・ショックの後の世界同時不況、それから東日本大震災を経まして、二〇一三年以降かなりの明るさを取り戻していると思います。海外経済の要因などもございますけれども、成長志向、パイをふやすという現在の経済政策の基本スタンスは、もちろん課題もありますけれども、基本的に正しいものであると考えております。

 一三年以降の景気回復は、マインドで消費がよくなる、あるいは公共投資でよくなるということでございましたけれども、ここに来て、ラグを伴って輸出なども動きを見せてきている。ここには、海外から観光客がたくさん来ているとか、そういったことも含まれます。

 今後は、計画ベースでいい数字が出ておりますが、企業の設備投資が実際に動きを強めていくかどうか、ここに非常に注目しております。経済の好循環の強化ということでは、ここがポイントであろうと思います。

 消費税増税の前後では、当然、景気は一時的に攪乱をしているわけでございますけれども、それを考慮するとしましても、昨年の夏以降、秋ごろからは回復の基調をたどっているというふうに判断をしております。

 以上のことが税収増なんかに反映された予算かと存じます。

 もちろん、課題は多うございまして、二ページ目にお進みいただきたいと思います。

 バランスシート調整というのが長期に進んでまいりまして、それも一応収束して、それから、これは九〇年代以降の課題でございますけれども、内外価格差の是正もかなり進んできた。現在、非常にデフレ脱却の好機であるというふうに思います。

 ただ、その水準が一%か二%かというのは非常に難しいですけれども、少なくとも、安定的な物価上昇を十分に見通せている状況ではない、道半ばということであります。

 円安あるいはエネルギー価格、こういったことでインフレ期待を形成するのはなかなか持続性に欠けるというふうに私は思いますので、もちろん金融政策は重要ですけれども、実体経済面での取り組みがますます重要になってきていると考えております。一言で言いますと、供給力の強化ということであります。

 供給力の強化と私が申し上げますのは、それで需給ギャップが拡大してむしろ物価が下がるとかいう話ではなくて、消費者が欲しがるような物やサービス、消費者が必要な物やサービスが絶え間なく市場に提供されて、きちんと需要が伴ったダイナミズムを取り戻す、こういう意味でございます。あるいは、輸出企業でいえば、円高になったときに価格を下げなくても売れるような、代替性のない、代替のきかない、日本のブランド力、こういったものをつけていくという意味で供給力の強化ということが必要だと思います。

 同じことを、三ページもあわせてごらんいただきたいと思います。

 結局、供給力の強化というのは、生産性を引き上げる、あるいは労働者の実質賃金を上げるということであります。成長戦略といいますのは、最終的には生産性、実質賃金あるいは生活水準を上げていくということが目的ですので、まさにそれを目的として、実質賃金と名目賃金を上げて、その結果として安定的な物価上昇が実現する、こういう道筋が求められているというふうに考えます。実体経済面から見ますれば、デフレの背景にある賃金低迷を克服することがポイントだということでございます。

 生産性を引き上げるという意味でも、先ほど申し上げた設備投資にやはり注目しております。

 設備投資というのは、何も伝統的な物づくりの工場をつくるということだけではなくて、IT投資ですとか研究開発投資、あるいは人材育成投資、今、製造業というのは別に物だけをつくっているわけではなくて、サービスと組み合わせてさまざまなビジネスを展開しているというのは、先生方御案内のとおりでございます。

 その観点からは、法人税減税の実施、あるいは、例えば財政投融資なんかで、産業投資を使って民間投資の呼び水をやるといったようなことが盛り込まれた今回の予算というのは、今申し上げた考え方に一定程度即したものであろうというふうに見ております。

 四ページにお進みいただきたいと思います。

 資金の過不足でもって設備投資が十分に立ち上がっていないということを見ますと、企業部門が九〇年代半ば以降、いわゆる資金余剰の状況が続いております。これは、企業が借金の返済を行う、あるいは金融資産を積み増しているということでございます。後半で財政再建について申し上げたいと思いますけれども、政府の大幅な資金不足と民間の大幅な資金余剰というバランスにあるということであります。誰かの貯金は誰かの借金でございますので、これはどちらか一方だけを修正するというわけにはいかない。

 景気回復と財政再建の二兎を追ってはならないという意見もございますけれども、私は、これは本来、二兎を追わないとどちらも解決できない問題だろうというふうに思っております。今回の予算案というのは、経済再生と財政再建の両立ということが一つの特徴でございますので、これは正しい捉え方であろうということであります。

 さて、ここで重要なことは、マクロバランス上はこうなんですけれども、では、仮に民間の設備投資が立ち上がって企業の資金余剰が縮小したときに自動的に財政が再建されるかというと、決してそういうことではございません。このバランスというのは、それぞれの経済主体が行動した結果こういうことになっているということでございますので、政府は政府として財政再建をやっていただく必要があるということであろうと思います。

 五ページにお進みいただきたいと思います。地方創生について、若干分析を提示させていただきました。

 左図の横軸に示しましたように、都市部では今後高齢者数の絶対数が大きくふえますので、それに対応したインフラ整備が必要だというのはそのとおりなのでございます。ただ、高齢者人口が今後ふえるというのは、結局、今生活しやすい地域だからそうだということでありまして、雇用機会があって、賃金がある程度高くて、生活が便利だ、そういう地域にはこれからも若者や働き盛りの人たちというのは入ってまいりますので、縦軸の高齢化率は、むしろそういう地域は低くなるということになります。

 つまり、若い人が高齢者を支えるとよくいいますが、そういった視点で考えますと、都市部は何とかなる、しかし地方部こそますます厳しいと予想されるということであります。

 他方で、私は、だからといって地方が総悲観になる必要は全くないと思っております。

 どういうことかといいますと、通常、地域別の将来推計人口というのは、基本的には、賃金ですとか地価ですとか、そういう価格を説明変数に入れずに予想しております。ですので、これは将来予測ではなくて現在の状況を示しているということでございます。現在の出生動向あるいは人口移動の状況を延長したり若干仮定を変えたりして未来にプロジェクション、投影している、こういうものでございますので、これは、今うまくいっているかいっていないかを示しているということであります。予測ではないということですね。

 ですので、まさに地域の創意工夫が将来を決めるということでありまして、予算案で地方創生に関して重視されているということは、一定の評価ができると思います。

 ただ、付言させていただきますと、今まで予算がなかったから地方創生ができなかったのかというと、当然そうではないと思いますので、体系的な地方分権政策が重要だと思いますし、少なくとも、従来の国土の均衡ある発展型の政策を国が主導して展開するということではなくて、やはり地域ごとの特徴、差異を認めていく、こういった方向が必要であろうかと考えております。

 六ページから、財政再建について数点申し上げたいと思います。

 ごらんいただきますように、二〇〇九年度以降の財政規模は、デフレ下の中にもかかわらず、膨張した状況が続いているように見えます。

 一五年度予算案を拝見しますと、PB赤字GDP比の一〇年度比半減という目標を含めて財政健全化目標は堅持されているということでありますけれども、長期的に見ますと、財政の持続可能性が確保されたというふうにはなかなか言いにくい状況になっていると思います。

 これまで、デフレで民間投資が低迷している中では、政府の利払いは、残高の巨額さと対比しますと極めて小さかったですし、むしろ、借金を累増させながらも利払いが減ってきたなんということもございました。

 ところが、右の図にごらんいただきますように、さすがに借金の規模の方の圧力が大きくなってきて、いよいよ利払いがふえる構造に転換している。それだけしっかりした財政改革と財政運営が求められる局面を迎えているというふうに思います。これは、デフレ脱却あるいは民間投資の喚起という政策が成功すればするほど重要になるといいますか、それを成功させるためにも財政改革が重要になっているということだと思います。

 七ページ、財政の金利負担ということで、さらにごらんいただきますと、二月の十二日に内閣府が経済財政諮問会議に提出された中長期の経済財政に関する試算を拝見しますと、経済再生ケースでは、長期金利が上昇していくわけですね。ただ、政府の利払い負担は、過去に発行された国債の満期ですとか発行時の金利にかなり規定されておりますので、実際の負担という点で見た、ここでは負債の利回りと書いているものがそうでございますけれども、これはかなりタイムラグを伴って、後から上がってきます。

 当面、二〇二〇年前後までを見ますと、負債利回りが成長率をかなり下回っておりますので、公債等残高GDP比が低下をする。しかし、だからいいということではなくて、二〇二〇年代、その先を展望すれば、今後、二〇二〇年ごろまでが最後の猶予期間ということも言えるのではないか。

 右のベースラインケースでごらんいただくと、デフレ脱却を前提とすれば、当然、金利、負債利回りは一定の上昇を見せますので、金利が成長率を上回るタイミングは前倒しされるということであります。

 気づけば、日本の財政状況というのはG7諸国あるいは南欧諸国と比べても悪い状況になっておりますので、PBはもちろん重要でございますが、さらに金利負担も注視しなければいけない状況になっているかと思います。

 八ページで、では残された時間はどれぐらいあるのかという点で、二点ほど申し上げたいと思います。

 日本では超のつく高齢化が進むという意味では、団塊世代あるいは第二次ベビーブーム世代の方々の加齢を見通しますと、二〇二〇年代後半から三〇年代を乗り越えられる構造を早期につくることがやはり重要だと思います。

 それから、市場の観点から見ますと、二〇二〇年代の後半には政府債務が時価ベースの家計金融資産を上回る可能性が出てくるということであります。

 私は、日本の経常赤字化というのは二〇三〇年代かなというふうに予想しておりますけれども、そういう意味では、外から、ネットで入ってきているということではないんですが、残高で見て誰が国債を保有しているのかと考えたときに、家計金融資産を上回っているわけですので、これは、事業会社が生産設備を持たずに国債を持つ、金融機関が民間の預金を受け入れて貸し出しをせずに国債を持つ、あるいは中央銀行が国債を持つ、こういう状況というのは、極めて憂慮すべき状況になるということでありますので、二〇二〇年のPB黒字化目標というのは極めて重要だと思います。

 九ページ、十ページというところは、経済と財政の関係について整理をしたものでございます。

 結論だけ、ポイントを申し上げますと、九ページの方は、歳出を賄っている税収の割合の現状に照らしまして、その収支を改善させるに十分なほど税収弾性値が高いかというと、そうは考えがたいということであります。税収弾性値というのは、どちらかというと、いろいろな理由で低下していく方向にあるということが第一点。

 第二点として、収支を左右しておりますのは、弾性値で説明がつかない、高齢化等による要因、自然増だということであります。

 したがいまして、成長期待ではなくて、歳出と歳入について制度的な改革を財政民主主義の観点から政治プロセスを通じて実現する必要があるだろうということであります。

 十ページの方は、デフレを脱却すれば税収増は期待できるわけですが、当然これは、政府調達コストとか、公務員賃金とか、マクロ経済スライドを除く社会保障の部分ですとか、こういったところで歳出もふえますので、物価上昇でもって財政収支改善というのは期待がなかなかできない。

 ただ、過去のデータを分析しますと、実質成長の場合には成長率ほどは歳出がふえないということでございますので、その場合には収支改善の条件を満たす。実質成長というのは、まさに先ほど申し上げた生産性の向上ということでありますので、ここが重要であろうかと思います。

 十一ページが、私どもの長期の試算でございます。

 昨年十一月に、経済財政諮問会議の「選択する未来」委員会というところから、四つのマクロシナリオが提示されました。生産性が停滞するケースと上がるケース、人口が減少するケースと一億人程度で安定するケース、四つのケースがあるわけです。当然、生産性を上昇させて人口を安定化させるというのが選択すべき未来だと思いますけれども、私どもでそれぞれのシナリオに応じて財政がどうなるかを試算してみますと、現状のままいけば、いずれのケースでもPBは黒字化しないということであります。

 その大きな理由が社会保障でありまして、十二ページでございます。

 お示ししておりますように、今後は、医療給付、介護給付がかなりふえて、それに伴って公費負担もふえていくということであります。年金は、マクロ経済スライドという長期の財政制約を満たすような仕組みが一応入っているわけでございますけれども、医療や介護につきましては、需要を長期的にどうコントロールするのか、その購入費用をどういうふうに負担し合うかということについて、賃金、物価の将来予測に照らして従来のメカニズムで予測するとこういう形になるということでございます。

 十三ページが、これまでの中央、地方政府、すなわち税負担、公費部分の財政収支の状況を見たものでございます。横軸に示した期間の間に収支のGDP比がどれだけ変化し、その内訳がどうだったかを見たものでございます。

 八〇年代の中曽根内閣、二〇〇〇年代の小泉内閣では、その他の歳出、ここでは「行革等の効果」と書かせていただいておりまして、その効果も小さくないわけですが、やはり社会保障への公費負担が非常に大きい、徐々に大きくなっているということでございます。例えば、二〇〇七年から一三年という一番右側のところでごらんいただきますと、悪化分のうちの二%ポイントぐらいは社会保障への公費負担ということでございます。

 かつては、建設国債等公共投資で財政赤字という時代がございましたけれども、今は赤字国債、いわば経常的な、日々、毎日、毎週、毎月を赤字で操業している、そういう状況になっているということでございます。

 十四ページでございます。

 したがいまして、当然、給付の部分でいろいろな改革が必要だと思います。公的保険のカバレッジですとか給付の効率化、それから当然保険料も、負担していただける方にどういうふうに負担していただくか。あるいは公費負担についても、保険料負担と公費負担、どういうバランスをとっていくのか。皆保険、皆年金を守る必要があると思いますので、その辺のビジョンと制度設計の議論を深めるべき局面を迎えているかなと思っております。

 十五ページが、私どもが二〇一三年に発表させていただきましたマクロモデルを使ったシナリオでございます。

 右の上の表をごらんいただきますと、ベースシナリオというのが、これは政府が幾ら借金をしても破綻しない、しかしどこかで破綻するだろうということなんですが、計算上は破綻をしていませんので、十年ごとの成長率、一・五、一・五、一・〇と書いてございます。右上の表でございます。

 これに対しまして、改革シナリオ、ここでは、支給開始年齢を引き上げるとか、医療の窓口負担、高齢者の皆様にも二割ぐらいの負担をお願いするとか、消費税については、二〇三〇年ごろには日本の消費税は二〇%、二〇三〇年代半ばには二五%ぐらいの、そういう負担増も行っていく改革シナリオ、この場合にどうかということであります。

 私は、何か将来展望が明るくなれば経済にマイナスはないという言い方は非常に無責任だと思うんですね。給付削減をやる、あるいは負担増をやれば、当然経済は下押しをされると思います。問題は、どれぐらい下押しされるかということを数字で議論すべきじゃないかと。

 ここで改革シナリオをごらんいただきますと、成長率が、ならしますと〇・二%ポイントぐらい下がります。これは三十年ですので、〇・二%ポイントというのは非常に大きなコストであります。それだけ生活水準の向上を我慢しなければいけないということであります。ただ、逆に言うと、それだけのコストを払えば制度の破綻は回避できる、こういうシミュレーションでございます。

 ただ、それでも問題解決まではいかないということで、超改革シナリオというのがございます。

 ここではさらに給付削減を若干するんですけれども、では、給付削減と負担増をさらにもっと強くやったら財政の問題は解決するかというと、やはり経済が悪くなるわけでございますね。ですから、この問題というのは、負担増と給付削減を限りなくやれば解ける問題かというと、そういうことではない。

 ここで、超改革シナリオというのは、政府は直接給付する部分というのを少しスリム化していく、他方で、規制を見直したり、税制でインセンティブをつけていただいたり、あるいはマイナンバー制度なんか、使い勝手よくしていただいたりして、民間が政府の削減する分を補完するような、企業年金ですとか健康産業市場ですとかいった市場が別途立ち上がってくる、こういう想定を置きますと、この超改革シナリオということで問題解決ができる。これは、先ほど申し上げた二兎を追わなければいけないということのまさに一つの姿でございます。

 最後に、結びとしまして、十六ページでございます。

 これまで、財政構造改革法あるいは骨太二〇〇六ということで、日本は財政再建について何度もチャレンジしてまいりました。そこから私なりにレッスンということで申し上げると、第一に、やはり政府だけではなくて、国会あるいは政党の皆様にも十分にコミットしていただかないと達成できない非常に難しい問題であるということ。二つ目に、公費部分だけを操作してもなかなかうまくいかないので、やはり社会保障全体をデザインし直す必要があるということ。それから三番目に、租税負担率、国民負担率が決して高くない日本でございますので、諸外国並みのサービスを求めるということであれば、やはり負担のシェアを、これは民主主義のプロセスで決めていく必要がある。それから四番目に、これは先行き三十年、四十年、五十年をにらんだタイプの政策でございますから、足元の景気、一年あるいは半年あるいは数カ月の景気でもって議論が混乱してしまわないような、そういう工夫が何らか必要ではないかということではないかと思います。

 非常に駆け足で恐縮でございます。以上で私の公述とさせていただきます。

 御清聴大変ありがとうございました。(拍手)

大島委員長 ありがとうございました。

 次に、水野公述人にお願いいたします。

水野公述人 日本大学の国際関係学部で経済学を中心に教えております水野と申します。どうぞよろしくお願いします。

 それでは、私は、今回の予算に関しまして、特に成長戦略についてお話し申し上げたいと思います。

 資料のタイトルは、「「歴史の危機」における新しいシステム構築」でありますが、歴史の危機というのは、具体的には、近代システムがもう機能不全に陥っているというふうに認識しなければいけないんじゃないかなと思います。そう考えますと、想定外のことがこれまで何度も起きてきましたが、想定外と言って済まされることではないと思います。これからは想定外のことが常に起きる、そういう時代に入ってきているんじゃないかなと思います。

 近代システムというのは、経済的な側面からいえば、経済成長の時代ということであります。特に、この二百年間というのは著しい経済成長を実現しました。失われた二十年に入りましてから、マイナス成長あるいはデフレというのが定着するようになりました。

 プライマリーバランスを二〇一〇年代に均衡する、それから潜在成長率を二%に引き上げるといった政策が、二〇〇一年ないし二〇〇二年の骨太の方針からずっと実施されてきました。ところが、ちょうど今十数年たちましたが、全く目的が達成できていないというのが今の現状だと思います。

 そこで、表紙の次のテーブルをごらんいただきたいと思います。

 これはマクロ経済指標のこの十数年のパフォーマンスを示したものです。主に、包括的な指標であります名目GDPあるいは実質GDP、それから物価、GDPデフレーターと消費者物価の推移を、二〇〇二年というのは、骨太の方針が二〇〇一年に決まって、そして戦後最長の景気回復が始まって、あるいは金融システム危機がほぼ収束のめどがついてというところからであります。二〇一四年が現在であります。

 特にここで申し上げたいことは、雇用者報酬、家計の生活水準がよくなっているかどうかということだと思います。

 雇用者報酬につきましては、とりわけ、ちょうど真ん中あたりの実質GDPのすぐ下の雇用者報酬、これが実質雇用者報酬で、家計の購買力をあらわしております。

 右半分のところになりますけれども、増減額、二〇〇二年から二〇一四年を通して十二年間のパフォーマンスが示してあります。それから、この二年間のパフォーマンスが一番右側の縦のところになります。

 枠で囲ってありますところが、まず名目の雇用者報酬、bの欄でありますが、この十二年間におきまして名目雇用者報酬は七兆三千億円減りました。ただ、この二年間は所得は六・五兆円ふえています。

 名目がふえているからいいじゃないかということになるかもしれませんが、家計からすれば、その所得でどれだけの数量的な財やサービスを購入できるかという実質雇用者報酬が大事だと思いますので、ちょうど中ほどのdの欄の右半分をごらんいただきたいと思います。

 この十二年間で実質雇用者報酬は六・八兆円ふえました。名目では減っているんですけれども、物価が下がったことによって購買力はふえました。ところが、この二年間、マイナス一・〇、一兆円の減少ということで、むしろこの二年間は、物価が上昇して、購買力は下がってしまうということが起きました。

 なぜ名目で上がって実質で下がっているのかということですが、それはGDPデフレーターと消費者物価の違いということになります。

 家計の雇用者報酬は、消費者物価で購買力をはかるということになります。そこで、消費者物価はこの二年間、一・五%上がりました。実質GDPを計算するときのGDPデフレーターは〇・五%ということでありますので、消費者物価の上昇率の方が高くなっていますので、その結果、家計の購買力が一段と落ちてしまうということになりました。これは、第一の矢であります異次元の金融緩和、私はこれが家計にとっては大きなマイナスになっているというふうに言えると思います。

 そして、潜在成長率のところをごらんいただきたいと思いますが、こちらは実質GDP二%という成長戦略に大きくかかわるところですけれども、潜在成長率は逆に、一%から現在〇・六%へと低下しているということになります。

 次の三ページ目のところをごらんいただきたいと思います。

 家計は、物価の増減、上がったり下がったりすることについてどういうふうに考えているのかということなんですけれども、日本銀行の生活意識に関するアンケート調査の調査項目でありますけれども、今六六・六%の人が、物価上昇を困ったことだというふうに回答しております。五〇%がちょうど分岐点でありますので、二〇一三年の夏以降、家計は、物価の上昇を困ったことだというふうに考えている人が半数を上回るということになりました。

 そのタイミングよりほぼ一年間おくれまして、点線の推移でありますが、家計が実感する景況感ということなんですけれども、こちらは左目盛りになりますが、景況感、悪くなったと感じる人の方がふえ始めているという状況になっております。

 次に四ページ目、今度は家計の所得と資産に限定したものであります。

 給与所得は、二〇〇二年、四百四十七万円だったものが、二〇一三年には四百十三万円になりました。この十二年間で三十四万円減っているということになります。

 ただ、この統計上はまだ二〇一三年の数字なんですけれども、ふえております。これは、名目GDPあるいは名目雇用者報酬がふえているということと対応しております。

 問題なのは、年収二百万円以下で働いている人の数が、一九%から、今二四%、一千百万人ということになっております。

 もちろん、働く機会がふえたということで、二百万円以下でも働く機会がふえたということであればそれはそれでいいことであると思いますが、もし二百万円以下でも働きたいという人がふえているということになれば、それは貯蓄残高に反映してくるということだと思います。

 貯蓄残高、勤労者世帯のところをごらんいただきますと、しかも中央値なんですけれども、これは百人並べたらちょうど五十番目の人の所得ということになりますが、八百十七万円から七百三十五万円、八十二万円も減っているということになります。経済成長が全体に行き渡っているような状況であれば平均値で見て大丈夫だと思いますが、ばらつきが大きくなってくるような状況でありますと、むしろ中央値の方が重要な指標だと思います。

 そうなりますと、二〇一三年の一年間、まだこちらも二〇一四年の数字が出ていないんですけれども、一番新しい一年間というのは、二十二万円、マイナス二十二・二という数字がありますが、減少しているということになります。この統計によれば、貯蓄が百万円以下の世帯が一〇%ありますので、次の不況が来た場合に貯蓄残高を取り崩さざるを得ないという人たちがかなりいるということになります。

 一番下の金融資産を全く持っていない世帯というのが、一六%から三〇・四%へというふうにふえております。

 ですから、トリクルダウンというのは、ほとんどこの十数年、行き渡っていないということが言えるんじゃないかなと思います。

 次の五ページ目が、金融資産の非保有世帯の割合です。

 これも日本銀行のアンケート調査であります。一九八七年には三・三%でありました。三十世帯に一世帯が金融資産を保有していないという状況だったんですが、現在は三〇・四%でありますので、ほぼ三世帯に一世帯が金融資産が全くないという状況であります。

 これは、なぜ九〇年以降こんなにふえたのかということですが、ふえた局面を見ますと、いわゆるバブル崩壊型の不況に見舞われたときであります。九〇年に株式、それから九一年に不動産バブルが崩壊しました。そこから、九〇年代半ばに一〇%に上がる。それから九〇年代後半、九七年、九八年の金融システム危機、アメリカのインターネットバブル崩壊にかけまして、一〇%から、今度は二〇%を超えました。一気に一〇%上がる。それから次に、二〇〇八年のリーマン・ショックで二〇%から三〇%にふえました。いずれも、バブル崩壊によって一〇%ふえる。これは、貯蓄残高が百万円しかないといった層の人たちが、失業が長期化した場合に貯蓄を取り崩さざるを得ないということだと思います。

 この三〇%というのはかなり高い、日本から見れば戦後で最悪の数字になっているんですけれども、今話題のピケティの「二十一世紀の資本」によりますと、いや、どんな時代だって、今の時代も、資産を持たない層というのは常に五割いるということであります。

 ですから、まだ三〇%であれば先進国に比べればいいじゃないかということも言えるかもしれませんが、そんなことは私は言えないと思います。せっかく日本は、ほかの先進国にない、資産を持たない人がうんと低かったという世の中を実現したわけですから、ほかの先進国に悪いところまで見習う必要はないと思います。

 ただ、これは放っておきますと、もうこれ以上、今後バブルが起きないということであれば、三〇%が四〇%になり、五〇%になる。あと二回大きなバブルが崩壊するということが起きれば、恐らくこの比率は五〇%になってしまうということだと思います。

 ということは、バブルを起こさない。これは、グローバル化していますから、日本の中で幾らバブルを起こさない政策をとりましても、外国で起きればそれが日本に及んでくるということなんですが、次の六ページ目をごらんいただきたいと思います。

 バブルがなぜ起きるかということですけれども、これは一番上の枠組みのところの2番で書いてありますが、成長のメカニズムというのは、常に新しい空間を発見するということだったと思います。もう一つが技術革新であります。

 もう既に、アフリカのグローバリゼーションというところまで事実上到達しました。もちろん、実際にアフリカが近代化されて豊かな生活をするというのはまだ何十年もかかると思いますが、もうその先はないということが重要だと思います。アフリカの次、どこを探すのかということなんですが、宇宙空間とかあるいは海底とかというところを探さない限り、もうないと思います。

 そうしますと、今何が起きているかというと、この概念図のところのバーチャル空間でありますが、ここは電子・金融空間。金融の自由化あるいはIT技術、これが融合しまして、ウォール街では十億分の一秒で証券売買ができるようになりました。時間を小刻みにするということは、空間が広がっている、空間の面積が広がっているということになります。でも、ここは無限に上昇していくということは難しいと思います。

 世界じゅうで量的金融緩和を、アメリカは脱却しましたけれども、それでもゼロ金利が続いております。それ以外は量的緩和をするということは、本来ならば工場や店舗、オフィスビルなどの雇用を伴うところに投資が行われるはずなんですけれども、ここは既にいろいろな指標、例えば一単位のGDPを産出するのにどれだけの資本ストックを持っているのかという資本係数は、日本は世界で一位であります。私は、非常に資本は過剰になっていると思いますので、これ以上店舗、オフィスビルに投資するということはなかなか難しい。むしろ、これからMアンドAが起きて、既にコンビニ業界とか始まっていると思いますが、MアンドAが起きるということは、そんなに雇用がふえるわけではないということだと思います。

 あと、資本が過剰であるということを示したものが、七ページ目の金利のグラフです。

 金利といいましても、これは主に資本の利潤率で置きかえることができますので、資本の利潤率が低いということは、それだけ追加一単位、追加一万円の投資をすれば得られるリターンは減ってきているということをあらわしております。これは何も日本だけの特有の現象ではなくて、最近では日本よりもドイツの利回りの方が低いという状況になりました。日本もドイツも国内では過剰になっているということであります。

 過去、過剰だったのはいつかというと、四百年前の中世が終わったときのイタリアであります。このときは一・一%で、もうこれ以上投資する機会がないというふうに当時の歴史書に記述が残っております。これ以上イタリアの中では投資する機会がないということなので、どうしたかというと、新しい空間を、かぎ括弧つきの新大陸ということで、そちらに投資を求めるということになりました。そこで、イタリア、スペインというのはその後百年間、事実上、世界の主役から消えてしまうということが起きました。ですから、日本も今、四百年前のイタリアと同じような危機に直面しているんじゃないかなと私は思います。

 次の八ページ目は、歴史の危機とは何かということで、バーゼル大学のブルクハルトは過去三つ、一番、二番、三番を指摘しています。

 今は、特に2番のイタリア・ジェノバ、当時は世界で最も繁栄した国だったんですけれども、これがその後一世紀にわたって長期停滞するということが起きました。これは、将来どういう方向に進むかという、時代は国民国家の時代だったのに、イタリアは都市国家の道をそのまま選びました。それから、スペインは世界帝国の道を選んで、結局、中規模の国民国家、イギリスとオランダの台頭に全くスペイン、イタリアが対応できないということで、その後、歴史の表舞台から消えてしまうということでありました。

 そういう意味では、大事なことというのは、今後、どちらの方向に世界が向かっているのかということを考えて、その歯車を逆転させるというのは恐らく経済政策ではとてもできない、一旦もう歯車が回り始めたらそれに合わせるしかないというふうに私は思います。では、今のこれまでの十数年の成長戦略というのがその歯車にちゃんと合っているのかということを考えることが非常に大事じゃないかなと私は思っております。

 以上であります。(拍手)

大島委員長 ありがとうございました。

 次に、西田公述人にお願い申し上げます。

西田公述人 東京都医学総合研究所の西田と申します。よろしくお願いいたします。

 本日は、このような公述の機会をいただきまして、大島委員長を初め委員の先生方に感謝申し上げます。

 本日、私の方からは、認知症の国家戦略の国際動向というテーマでお話をさせていただきます。

 本年の一月二十七日に、関係閣僚会議を経まして、省庁横断的な推進体制のもと、我が国初となる認知症国家戦略が発表され、多くの国民がその成果に期待を寄せているところかと存じます。

 さて一方、海外では、認知症国家戦略が打ち出されて既に久しい国々もありまして、認知症国家戦略に関する国際的な情報の蓄積が昨今進んでまいりました。

 こうした各国の経験を踏まえつつ、我が国の認知症国家戦略をさらに発展、進化させていくにはどのようなことがポイントとなるのか、そういった観点から本日はお話をさせていただきたいと思います。

 お手元の資料二ページ目をごらんいただければと存じますが、ここには「私は」で始まる九つの文章が並んでおります。

 幾つかここで読み上げますが、一つ目は、私は、適切なタイミングで認知症の診断を受けた、三つ目、私の認知症並びに私の人生にとって最良の支援と治療が受けられている、四つ目、私の周囲の人々、特にケアをしてくれている家族が十分なサポートを受けられている、五つ目、私は、尊厳と敬意を持って扱われている、七つ目、私は、人生を楽しんでいる、八つ目、私は、コミュニティーの一員であると感じられる。

 さて、既にお気づきのとおり、この「私」とは、認知症の人、御本人のことであります。先生方の御親族にも、認知症を経験されておられる方々、また、経験され、既に旅立たれた方々もいらっしゃると思います。そうした方々にこうした質問を投げかけた際、どの程度の方々がこれらの問いに丸をつけることができるでしょうか。

 実は、この九つの質問は、イギリスの認知症国家戦略の成果を評価するために策定されたものです。イギリスでは、認知症国家戦略の最終年に、第三者機関によって、相当数の認知症の御本人にこれらの質問に回答していただき、それをもって国家戦略の成果を見きわめるということになっています。

 資料三ページ目をごらんください。

 さて、今御紹介したイギリスの認知症国家戦略の評価基準からもおわかりになりますように、各国の認知症国家戦略においては、今現在、認知症を抱えておられる人、その御家族の視点に立って、五年程度の集中改革期間内に具体的なよい変化を起こすことが目標とされています。すなわち、相当なスピード感を持って、認知症の人がよい生活を送ることができる環境や仕組みを構築していくことが求められているわけであります。

 次の四ページ目をごらんください。

 それでは、なぜ、各国は国を挙げて、また、スピードを上げて認知症政策の推進に取り組むようになったのか、その主な背景要因として、少なくとも二つ挙げることができます。

 一つは、経済的な背景です。

 認知症人口の急激な増加に伴い、認知症に関連する社会的なコストが今後大幅に増大することが、各国の推計で明らかになっております。特に、認知症関連のコストで最も大きな割合を占めるのが、インフォーマルケアコストと呼ばれるものでありまして、これには、家族介護者が認知症の人の介護のために就労ができなくなることによる経済損失が含まれています。少子高齢社会における限られた労働人口が認知症の介護に縛られることによって、さらに労働力が減少するということが見込まれています。

 こうした観点から、認知症政策の成否は、社会保障のみならず、経済や財政、また地方創生等にも決定的な影響を与えることになってまいります。

 二つ目の背景要因としては、認知症に対する国民の関心が高まってきた、特に、認知症とともに生きる人たちがみずから声を上げることによって、それまで無視されてきたニーズを社会の中で顕在化させてきたことが大きく影響しています。

 既に、第二期、第三期の国家戦略へと進んでいる国も多くありますが、仮に政権が交代しても、国民の認知症に対する関心の高さゆえに、認知症政策の優先度が下がることはまれであります。こうした国民のニーズを踏まえて、各国では、認知症を持ちながらも、住みなれた地域で在宅生活が最大限可能となる環境の整備並びにサービスの改革が強力に進められております。

 資料五ページ目をごらんください。

 さて、私どもは二〇一三年に、認知症国家戦略を打ち出している国々の政策関係者を招聘いたしまして、各国の戦略の方向性やその具体策についての情報を共有するための国際政策会議を開催いたしました。各国の国家戦略の理念は、認知症の人の思いを尊重し、住みなれた地域での生活の継続を可能とすることを目指すという点において、全て一致しておりました。

 その理念実現のための個別施策についてのポイントは、ここで全て述べる時間がございませんので割愛させていただきますが、詳細は、六ページまたは七ページを後ほど御参照いただければと思います。

 一つ二つ各国での共通政策、共通課題について御説明いたしますが、認知症に対する早期発見、早期診断ということは非常に耳にするわけですけれども、日本を含めた各国で共通する問題は、診断の後の支援がないという問題があります。多くの人々は、早期発見、早期絶望の状態に至ってしまうということがよく聞かれるわけです。

 各国では、診断に至らない人を診断に結びつけることと同様に、それ以上に、診断した後の人に対する具体的な生活支援、そういったもののきちんとした政策を進めるということが重視されています。

 もう一つ申し上げますと、認知症の人に対する抗精神病薬の処方が各国で大きな問題になっております。抗精神病薬の処方は、認知症の人の心理・行動症状と呼ばれる興奮や幻覚、妄想に対して処方されるお薬でありますけれども、そういう処方が非常に多いことによって認知症の人が多く死亡しているということが問題になり、英国議会でも非常にスキャンダルとして議論された経緯があります。

 こうした認知症の方々に対する各国が抱える問題は共通性を持ち、そういった問題を協力しながら、各国の政策が進展していっているという状況でございます。

 さて、八ページをごらんください。

 各国が認知症国家戦略によって推し進めようとしているのは、認知症の人がサービスの都合に合わせて循環させられる旧来のサービス中心モデルから、認知症の人のニーズに合わせて必要なサービスが届けられる当事者中心モデルへの転換であります。

 これまで認知症の人やその御家族は、医療や介護のサービスがばらばらに分断されていて、そのサービスのはざまに落ちてしまい、結果として必要な支援や対応がおくれ、問題が増悪した後、入院、入所を余儀なくされてきました。こうした分断的、事後的、また収容的なサービスモデルからの脱却、すなわち、問題が増悪する前に、統合された適切な支援が認知症の人とその御家族にタイムリーに届けられるサービスモデルへの転換が、各国で強力に推進されているわけであります。

 次の九ページをごらんください。

 さて、こうした認知症国家戦略の国際動向を踏まえた上で、このたびの我が国の認知症国家戦略、新オレンジプランについて若干の考察を述べさせていただきます。

 まず、前提として、我が国の高齢化率は二五%と世界首位であり、認知症国家戦略が打ち出されたタイミングとしては、早いとは言えない、遅かったと言わざるを得ません。しかしながら、このたび省庁横断的な推進体制のもとで国家戦略が打ち出されたことは、非常に大きな意義があると存じます。

 その基本理念も、住みなれた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けるために必要なことに的確に応えるというもので、各国同様に当事者中心モデルへの転換を目指そうとしています。この理念実現のための施策、七本柱の中でも、認知症の人やその家族の視点を重視し、施策の企画立案、評価への、当事者、御家族の参加を進めることが明記されていることは極めて大きな意義があるというふうに思います。

 一方で、政策的に課題が残る部分も一部見られます。次のページをごらんください。

 認知症の人の地域生活の継続が困難となる最大の要因は、先ほども申し上げましたように、認知機能の低下というよりも、不安感や焦燥感、幻覚や妄想、興奮などが出現する心理・行動症状というものが最大要因であります。この心理・行動症状が出現すると、家族の介護負担も急激に増してきます。こうした症状の出現に対して、早期に適切な支援がなされないことによって危機が発生し、地域生活の継続が困難になることが少なくありません。

 この心理・行動症状は、不適切なケアの環境、環境変化によるストレス、言語化できない身体的な苦痛などが原因となっていることが少なくありません。各国の国家戦略においては、この心理・行動症状の出現をできる限り予防して、発生した場合には迅速に在宅でその問題を解決する仕組みが構築されています。

 認知症国家戦略を持つヨーロッパ八カ国及びオーストラリアなどでも、この心理・行動症状に対する中心施策として、訪問型の医療チーム、すなわち、アウトリーチ型、出前型の医療チームによって、在宅で危機を回避、解決するサービスの普及が進んでおります。こうしたサービスの効果によって、認知症の人の精神科病院の入院が大幅に減少することが報告されています。

 一方、国際的に見て異常な我が国の現状として、認知症の人が精神科病院に多く入院し、極めてその入院が長期化しているということがあります。平均在院日数が七百日以上または九百日以上との調査結果があり、認知症の方が精神科病院に入院したまま亡くなられるということも少なくないことが示唆されています。まさに、この新オレンジプランの掲げる理念と逆行する現状であります。精神科病院に入院する際の理由の九割以上が心理・行動症状であり、こうした危機を適切なタイミングで地域の中で解決するための対策が、諸外国以上に我が国では必要であります。

 しかしながら、今回の新オレンジプランの中では、各国の認知症国家戦略の中で中心施策として位置づけられる訪問型の医療普及が明記されておらず、その点は大きな課題として残ったというふうに考えております。

 次のページを御参照ください。

 実は、この心理・行動症状に対して、在宅診療で対応していく試みが我が国においても始められています。

 この、こころのホームクリニック世田谷と呼ばれるクリニックは、世田谷の烏山にございまして、二〇一三年の四月に開設されています。認知症や精神疾患を抱える人及びその御家族を在宅で支援、診療する専門クリニックとして今診療されておられまして、開設して一年三カ月で合計百四十七名の方が患者さんとしておられます。そのうち認知症の人が六一%を占めるということであります。認知症の在宅医療のニーズがとても高いということが、こういったことからもうかがえます。

 このクリニックの強みは、各国の認知症国家戦略で行われている訪問型のサービスと同様に、二つの特徴があります。

 一つは、いつでも相談できる、二十四時間、医師や看護師に電話がつながるということがポイントです。これによって家族介護者の方々は安心感を持たれて、その安心感が認知症の人にも伝わるのか、非常に御本人も安定するということがあります。

 二つ目の強みは、タイムリーな訪問支援ができるということで、危機が発生し始めたときに在宅に行って、何が問題でこういう状態が起きているかをその場で見きわめて、その場で問題を解決する。それによって危機が収束し、入院に至らず在宅生活の継続が可能になるということであります。

 こういった電話、それから迅速なアウトリーチで対応することによって、現在、定期外来受診が不能な状態にある重度の認知症の方七十一人のうち、精神科病院への入院が必要になった方が一名のみということであります。二十四時間の電話対応とアウトリーチで入院事例はまれとなり、地域生活の継続を効果的にサポートできるということが、こういった実践からも明らかとなっております。

 次のページを御参照ください。

 認知症国家戦略の目標を達成するために、理念を達成するためにということで、新オレンジプランによって構築された省庁横断的な認知症国家戦略の推進体制を生かして、施設収容型のケアモデルから地域包括型のケアモデルへ着実な転換を果たしていただきたいと願っております。

 認知症国家戦略の進捗プロセスやアウトカムについて、当事者や介護者の視点による評価を。冒頭御紹介したイギリスのように、国民が状況がよくなったと実感できるような進捗プロセス管理、アウトカム評価が必要だというふうに思います。

 最後に、先ほど申し上げました、認知症の人を在宅で支えるための訪問型、出前型の医療サービスの普及を推進するための施策を、診療報酬等の改定を含めて具体化していくことが今後の課題であるというふうに考えております。

 以上でございます。どうもありがとうございました。(拍手)

大島委員長 ありがとうございました。

 次に、原公述人にお願いいたします。

原公述人 おはようございます。政策コンサルティングの会社を運営しております、原と申します。

 本日は、このような機会をいただきまして、大変ありがとうございます。

 私は、政府の国家戦略特区のワーキンググループの委員、また大阪府、大阪市の特別顧問なども務めており、国や地方の規制改革、行政改革などにかかわってきております。

 きょうは、特に規制改革、行政改革の観点からお話をさせていただきたいと思います。

 まず第一に、安倍内閣の施政方針演説によれば、今国会は改革断行国会と位置づけられていると承知しております。アベノミクスの第三の矢、つまり成長戦略を進める上で、いわゆる岩盤規制の改革は特に重要と考えます。

 お配りしております資料の二ページで、ちょっと字が細かくて恐縮ですが、世銀グループの公表している世界各国ガバナンス指標のデータをお示しいたしました。

 ここでは、政府のパフォーマンスに関する四つの指標、政府の有効性、汚職の抑制、法の支配、規制の質という四つについて、世界各国の中でのトップテン、それから日本を含む主要先進国の順位を示しています。

 全般に我が国政府は、世界の中では比較的頑張っている方だと思います。政府の有効性は、この指標では世界で十四位。それから、汚職の抑制については十六位。法の支配については二十三位であります。これは全体で二百数十カ国の中での順位ですが、こういった順位です。トップテンにこそ入っていませんが、欧米の主要先進国の中では上位に位置しているわけであります。

 一方で、もう一つの指標である規制の質、これは、健全な規制を導入し、民間セクターの発展を促進できているかという指標なわけでありますが、これについては順位が三十六位とかなり低くなります。主要先進国と比べましても最底辺に位置しているということであります。つまり、ここが日本政府のいわば苦手分野なわけであります。

 ですから、いわゆる岩盤規制と言われるような、十年も二十年も、こんな規制はおかしいと言われながら岩盤のように維持されている規制が残っているわけであります。

 安倍内閣が成長戦略の根幹として二年で岩盤規制を打ち破るという方針を掲げられていることは、高く評価されるべきと考えます。これまでの政権でさまざまな成長戦略が策定されてきておりますが、いずれも、これからの成長分野として、農業、あるいは健康・医療、環境・エネルギーといった分野を掲げて政策的な支援、誘導が図られてきました。しかし、残念ながら、いずれの分野もいまだに、これからの成長分野のままであると思います。

 これは理由は簡単で、これらの分野はいずれも岩盤規制の残されている代表的な領域だからであります。新規参入や新たな創意工夫が規制によって制約されている状態のまま、幾らこれからの成長分野であると旗を振っても、成長は難しいということだと思われます。

 問題は、岩盤規制改革が本当に実現できるかどうかです。二年で岩盤規制を打ち破るという表明を安倍総理がなさったのは、昨年の一月、スイスのダボス会議でのスピーチでありました。ということは、残された期間はあと十カ月しかありません。

 これまで一年数カ月の間に、実現にまでたどり着いた改革はまだ決して多くはありません。既に法律が成立したものという意味では、昨年の通常国会での電力改革の第二弾、つまり小売参入の自由化ぐらいであります。農協改革、患者申し出療養、労働時間規制改革、電力改革の第三弾、発送電分離といったものについては、今国会でこれから審議される段階であります。

 さらに、まだ残されている課題も少なくありません。例えば、長年の懸案となっている、農業分野でいえば株式会社の農地所有、医療の分野であれば医療機器、医薬品の承認の迅速化、雇用の分野では同一労働同一賃金の実現といったようなものが残されています。こうした課題に、残り一年弱の間にどのタイミングでどのように取り組んでいくのか、早急に見通しを明確にすることが重要であると考えます。

 国家戦略特区については、私も政府のワーキンググループの一員として運営にかかわってきております。兵庫県養父市での農業改革、福岡市での創業促進のための改革といった先鋭的な取り組みのほかに、東京圏、関西圏といった広域的なエリアでの制度運用も本格化してきています。

 国家戦略特区は、いきなり全国規模では困難な岩盤規制を、まずは地域限定で実験的に改革していくという仕組みであります。この仕組みを最大限に活用して、さらに強力に進めていけるように、私もできる限りのお手伝いをしていきたいと考えております。

 改革を促進するための予算への転換という視点も重要と考えます。

 いわゆる岩盤規制と言われる領域では、多くの場合、規制によって利益を得ている利益集団が存在し、そのために改革がなかなか進まないという実態があります。これまで得られていた利益を補填ないし補償するということで改革が進むのであれば、有力な手法になると思います。

 改革すべき状態を維持することにお金を使うのではなく、円滑に改革を進めるためにお金を使うということに重きを置くべきではないかと考えます。

 ただ、規制改革会議や国家戦略特区での規制改革の議論は、予算の査定、見直し、あるいは要求といったスケジュールとは必ずしも合致せずに、別トラックでなされております。このため、規制改革の議論と予算の連動は不足しがちであります。関係省庁との規制改革の議論の進展とも連動して、機動的に予算の見直し、手当てができるような仕組みなども検討されるべきではないかと考えます。

 二点目に、成長戦略の前提としての公務員制度改革の重要性についてお話ししたいと思います。

 別紙の二でお示ししておりますが、これはお配りしている資料の三枚目ですが、ここでは、政策の製造過程である官僚機構に問題があると、そこからでき上がってくる政策にもゆがみが生じるということを示しています。

 例えば、よく言われます縦割り、セクショナリズムという問題は、役所の各部署がそれぞれ所管をしている特定利益が優先されるということにつながります。それから、よく言われます年功序列、あるいは裏からいえば能力・実績主義の不徹底という問題は、事なかれ主義であるとか人材の死蔵、組織優先の意識といったことをもたらし、これらがいずれも政策のゆがみにつながっていくわけであります。それで、このゆがみの代表例が岩盤規制ということであります。

 公務員制度改革は、一般には成長戦略とは無関係と捉えられがちであります。しかし、こうして見ると、公務員制度改革は、政策のゆがみの構造を取り除くための改革であって、実は成長戦略の重要な柱と考えられるわけであります。

 安倍内閣の発足以降、二〇〇八年に制定された国家公務員制度改革基本法以来の懸案であった内閣人事局が創設され、昨年から稼働を始めました。長い間停滞した公務員制度改革がようやく前進しているということは評価してよいと思います。一方で、制度改革が本当に成果をもたらすのかどうかは運用次第であります。

 かつて橋本龍太郎内閣のもとで推進された橋本行革は、中央省庁再編と並んで内閣機能の強化が重要な柱とされていました。内閣府の設置、経済財政諮問会議の創設、民間人の登用のための制度の新設など、さまざまな制度改革がなされました。

 しかし、この制度改革が本当の真価を発揮したのは、その後、小泉内閣で制度がフル活用され、首相主導の枠組みが運用上確立していったときだったと考えられます。

 その意味で、内閣人事局、大臣補佐官制度といった新たに導入された仕組みについて、その真価を発揮できるのかどうか、運用が問われている段階だと考えます。

 現状で心配な点もあります。

 例えば、能力・実績主義の徹底のために二〇〇七年の国家公務員法改正で導入された新たな人事評価制度の運用状況です。

 新たな人事評価制度では、一般職員の場合、SからDまでの五段階評価がなされます。Sが最上位、Bが標準、Dが最下位であります。

 現実になされている評価を見ますと、これは総務省で二〇一四年に出されている報告書から引用しておりますが、五段階のうち、上から二番目のAが五〇%を超え、一方で、Cつまり「通常より物足りない」という評価は〇・五%、Dつまり「はるかに及ばない」という評価は〇・一%ということであります。これはどう考えられるでしょうか。

 私は、今の会社をつくる前に二十年以上官庁に勤め、その後の仕事の中でも役所の人たちと仕事をする機会を多く持っておりますが、国家公務員三十万人のうち、物足りないに相当する方が千人に五、六人しかいないというのは、私の実感とはかなり異なります。

 また、幹部職員については、これはAからCの三段階評価になっています。実際の評価を見ると、上位のAが八割、Cは〇・〇%ということであります。

 もちろん、幹部に上り詰めた方々ですから全般にレベルが高いことは、そのとおりだと思います。しかし、そうはいっても、一旦幹部に登用されたが職責を十分果たせていませんという人が皆無であるというのは、これまた私の実感とは異なります。また、求められる水準を上回る業績、Aということですが、こういう方が八割もいるとしたら、政府はもっとすばらしく機能しているのではないかと思います。

 要するに、現状の人事評価の実態は、だめな人にだめだということをせずに、余り差をつけないようにしているということだと思います。せっかく新しい人事評価制度を導入しても、これでは効果が十分にはあらわれません。

 役所組織の大きな問題の一つは、頑張っても頑張らなくても余り差がつかず、同じように昇進し、同じように給与が上がっていくということであります。こうした組織では、どうしても頑張らない人の比率がふえてしまいがちです。組織内に頑張らない人がふえれば、政府が十分に機能を果たせない、発揮できない、それだけでなく、公務員人件費の無駄が生まれるわけであります。

 こうした人事運用は、国に限ったことではありません。地方自治体でも同様の問題があります。能力・実績主義の不徹底によって、日本全国で莫大な公務員人件費の無駄がもたらされているということであります。

 この関連で、私もかかわりました大阪府、大阪市での取り組み例にも触れておきたいと思います。

 大阪府、大阪市では、二〇一二年に職員基本条例を制定し、能力・実績主義の徹底、人事評価に相対評価の導入ということを定めています。大阪府、大阪市の場合も、やはり形式上は五段階評価がなされていましたが、かつては、C評価、D評価は、先ほどと同様、千人に数人、一万人に数人といったレベルでありました。これを解消するために、条例で、Sは五%、Aは二〇%、Bは六〇%、Cは一〇%、Dは五%という枠を定め、既に運用がなされています。

 人事評価について、絶対評価がいいのか相対評価がいいのか、本来どちらが適切なのかという問題は議論の分かれる点であります。しかし、少なくとも、低い評価をつけないことが常態化してしまっている現状を変えるためには、国でもこうした手だてが検討されてよいのではないかと考えます。

 こうした課題を含めて、創設された内閣人事局を核として、これまでの公務員制度改革の成果が最大限に発揮されるように、運用面での改革推進が期待されます。

 第三に、地方分権改革について触れたいと思います。

 規制改革の議論は、具体論のレベルでは、しばしば地方分権と表裏一体です。というのは、地域での固有の事情、独自の創意工夫が、国が全国一律で定めている法律によって阻まれるということがしばしば問題を引き起こしているからです。この意味で、地方分権改革も成長戦略の重要な柱の一つと考えられるわけであります。

 規制改革や公務員制度改革と同様に、地方分権改革も長年にわたって取り組みがなされ、第一次分権改革、第二次分権改革を経て、権限移譲、義務づけ、枠づけの見直しなどが進められてきました。しかし、例えば、出先機関改革などでは課題がまだ多く残されていますし、その先の道州制に向けて道はまだ遠い状況と考えられます。

 これまでの分権改革でどうしても限界があったのは、地方自治体側の行政機能の限界、つまり、本当に委ねて大丈夫なのかという問題にしばしば突き当たったためではないかと考えられます。

 今後、分権改革をさらに進めていくということのためには、地方自治体の行政機能を高めることが必須だと考えます。そして、横並び、一律方式で分権を進めていくということではなく、行政機能を高めるための取り組みを突出して進めた自治体には、突出して権限や財源を移譲するといった進め方に切りかえていくことも必要と考えます。

 中央官庁から県庁、市役所への分権だけでなく、ルール設定の分権、つまり、国会から地方議会への分権も重要です。このためには、地方議会の機能強化も重要と考えます。

 昨年二〇一四年は、地方議員の質を問われる問題というのが続出しましたが、地方議員の質の向上は、分権を進める観点でも避けて通ることのできない課題と考えます。

 こうした観点で、従来から地方制度調査会などでもなされている議論として、地方議会は土日、夜間開催にして、普通の仕事をしている人がそのまま議員になれるようにしたらよいのではないかというものがあります。

 欧米諸国の場合、特に基礎自治体の議会の場合、土日、夜間に開催し、普通の仕事をしている人が普通に議員も務めるということが広く見られます。そのかわり、報酬は、無報酬あるいは年間数十万円の実費程度ということであります。

 一方、日本の場合、地方議員への支出額は、報酬のほか、期末手当、政務活動費、費用弁償を合算して試算すると、年間総計二千七百億円程度という金額であります。これは諸外国と比べるとかなり突出した支出額であります。それでも、日本の地方議会がその分だけ突出してよく機能しているということならばまだよいのですが、決してそうは言えないと思います。

 これは朝日新聞の二〇一一年の調査結果ですが、例えば、首長の提出した議案を全く修正、否決したことのない丸のみ議会が五〇%、議員提案の政策条例が一本もない無提案議会が九一%といった状況とされています。

 むしろ、日本の場合は、地方議員に相当額の支出をしているがゆえに、市町村議会でも、議員になるといったら、会社はやめて、全てをなげうって立候補するということが一般的であります。その結果、議員になろうとする人材の幅を狭めてしまい、かえって議会の機能を弱めているという面もあるのではないかと考えられます。

 地方制度調査会では、今から十年前の二〇〇五年でありますが、住民を代表する議会の議員に幅広い人材を確保できるように、女性や勤労者が議員として活動する上での便宜に資するよう、休日、夜間などに議会を開催するといった運用上の工夫をすべきである、また制度面では、勤労者が議員に立候補でき、また議員として活動することができるような環境の整備、さらには地方公共団体の議会の議員と当該団体以外の地方公共団体の職員との兼職を可能にする、こういったことも検討すべき課題であるという答申がなされています。

 しかし、これも岩盤の一つと言うべきか、その後、普通の人がそのまま議員になれるようにするといった改革は全く進んでいません。地方議員の質を高めて地方議会の機能を強化していくというためには、こうした改革も前進させる必要があるのではないかと考えます。

 最後に、四点目でございますが、改革推進体制全般についてお話ししたいと思います。

 かつての一九六〇年代の第一次臨調、それから八〇年代の第二次臨調から橋本行革のころまでは、行政改革というのは今よりも幅の広い概念でありました。当時は財政再建、行政機構改革、特殊法人改革、公務員制度改革、規制改革、地方分権改革といった課題に包括的に取り組みがなされていました。

 九〇年代半ばごろから、規制改革、分権改革など、それぞれの課題への本格的な取り組みが進む中で、それぞれ専門の担当部局が独立して強化されていきました。これは決して悪いことではありません。しかし、反面では、改革の細分化という面もあったと思います。

 それでも、例えば二〇〇〇年代の前半には、初期の経済財政諮問会議がさまざまな改革全般のエンジンとして機能し、ここが統合の役割を果たしていたといったこともありました。

 現時点で見ますと、この行政改革の抱える大きな問題の一つは、改革が細分化されていて、これを束ねて統合的に推進する機能が欠落しているということではないかと考えられます。行政改革、規制改革、地方創生、国家戦略特区、産業競争力強化、こういったそれぞれの課題についてそれぞれ会議体が設けられ、事務局が置かれていますが、一方で、これらを束ねる機能というのは不十分であります。これは、時に改革勢力の分断をもたらします。

 私が実際に国家戦略特区のワーキンググループなどで関係省庁との協議をしている中でも、関係省庁側から、それは地方分権の方で対応していますとか、あるいは、それは規制改革会議で議論をしていますといった反応がなされることがしばしばあります。規制改革、地方分権改革、国家戦略特区といった取り組みは、本来密接に関連する一体の課題であるにもかかわらず、改革担当部局の側がばらばらになって連携不足になっていることは、改革にとって決して有利に働きません。事務局間の連携強化、会議体の合同開催といったことは一部なされつつありますが、そうはいっても、役所の縦割り組織での水平的連携にはやはり限界もあります。

 今後、限られた期間の中で大改革を推進していくということに向けては、やはり、かつてあったような改革全般を統合的に束ねる体制をつくることで改革推進をさらに加速し、深めるということが必要ではないかと考えます。

 以上、今後の予算審議で多少なりとも御参考になれば幸いです。

 御清聴大変ありがとうございました。(拍手)

大島委員長 ありがとうございました。

    ―――――――――――――

大島委員長 これより公述人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。星野剛士君。

星野委員 おはようございます。自由民主党の星野剛士でございます。

 本日は、大変お忙しい中、衆議院の予算委員会公聴会にお出ましをいただきまして、また大変貴重な御意見をいただきまして、心から感謝をしております。まことにありがとうございます。

 それでは、時間も限られておりますので、お二人、大和総研の鈴木公述人と、日本大学、これは私の母校でもありますが、水野公述人に順次御質問をさせていただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 まず、鈴木公述人に数点お伺いをしたいというふうに思います。

 今、この委員会で審議をしている来年度予算案について肯定的な御評価もいただきました。そして、公述人の意見表明の中で、歳出改革、歳入改革、これは同時に二兎を追わなければうまくいかないという点についても、大変参考になりました。

 どちらかというと、予算または経済運営、財政、どちらかに偏った議論が非常に大きく、とにかく、財政再建のためにはこれを削りこれも削り、あとは増収でという、何かやはりバランスを欠いた、私は、経済は生き物だと思いますし、その経済に立脚して財政というものもつくられていくわけでありますから、そこはしっかりとバランスをとりながら考えていかないといけないんだろうというふうに思います。

 そして、本日は法人税の改革について焦点を少し絞らせていただいて、御質問をさせていただきたいと思います。

 法人税の実効税率は、世界を見渡しますと、OECD諸国平均で二五%、英国はキャメロン首相が二〇%への引き下げを明言しておりますし、現在最も税率の高い米国も連邦法人税を三五%から二八%に引き下げ、特に製造業については二五%にする予定であります。日本では、今、東京都で三五・六四%、来年度には二・五一%を引き下げ三二・一一%、そして二十八年には三一・三三%とする予定であります。そして、数年内に三〇%を切る水準まで引き下げる予定を我々は考えております。

 ただし、私は、この程度の水準で国際競争を勝ち抜くことができるのか、大変疑問を持っております。安倍総理は、世界で一番企業が活躍しやすい国を目指す、国際的に遜色のない水準へ法人税改革を進めていくと発言をされております。

 そこで、鈴木公述人にお伺いをしたいと思います。

 立地競争力強化の観点から、日本は法人実効税率を国際的に遜色のない水準にすべきだと考えますが、この点についてどのようにお考えでしょうか。あわせて、法人実効税率の効果を最大限に発揮するためには、制度・規制改革やコーポレートガバナンスの強化等が必要とのお考えですが、これらを実施したと想定する構造変化シナリオでは、実質GDPをどの程度押し上げる可能性があるとお考えになっているのか、この点についてお伺いをしたいと思います。

鈴木公述人 御質問ありがとうございます。お答え申し上げます。

 法人税改革に関してということでございますが、私は、国際的な調和といいますか、企業はグローバルに行動しておりますので、諸外国の動きを見ながら法人税率を国際的に調和させていくということが重要だと思います。ただ、一方で、引き下げ競争のようなことになりますと、税の世界でそれはどうなのかということにもなってまいりますので、そこのバランスが難しいわけでございます。

 その効果を最大限発揮させていくためには、結局、法人税率引き下げだけでは恐らく難しいのだろう、今も先生おっしゃっていただきましたけれども、やはり規制改革を行って新しく投資をしていけるような市場をつくっていく、あるいは、コーポレートガバナンスの改革をして企業経営がきちんとそれに応えていくような体制をつくっていくということが重要だというふうに思います。

 さらに、全体として体系的な、政策体系が必要だということなんですが、その中には当然財政規律ということもございまして、財源をきちんと確保して税率を下げていく、つまり課税ベースを拡大するということだと思います。

 その意味では、さらに申し上げると、いろいろな租税特別措置があって、本当の実効税率、本当の税負担率、表面上の実効税率ということではなくて租税特別措置も含めた本当の実効税率を考えた場合に、現状ですと、いろいろな業種によってかなり異なっております。最近の新しいビジネスというのはなかなか租税特別措置がかかっていない部分も多うございますので、結局、業種によって本当の実効税率がかなり違う。ですから、そこをできるだけイコールフッティングにする形で全体の税率を下げていく。

 こういう戦略をとっていくことによって、なかなかこれはほかの政策とのバランスが難しいので、どれぐらいの数字かということは、いろいろな計算がございますけれども、かなり時間をかけてということであれば、それなりに大きな効果が出てくるのではないかというふうに考えております。

星野委員 ありがとうございます。

 次に、法人実効税率の引き下げの目的についてお伺いをしたいというふうに思います。

 経済の好循環への寄与はもちろんですが、そもそも論としては、事業環境の国際的イコールフッティング、競争条件の不利を是正することが原点であると私は考えております。その競争条件とは、単に税率の問題だけではなくて課税ベースもあると念頭に置くべきではないかと私は思っております。今、公述人からも御指摘をいただきました。

 今回の法人税改革では、厳しい財政制約の中で、欠損金の繰越控除制度の大幅縮減を初め、産業界に対して、世界と比較しても大変厳しい課税ベースの拡大がなされました。

 そこで、御質問したいと思います。

 今後、法人実効税率の引き下げを実施する上では、課税ベースも含めて国際的イコールフッティングを図るべきではないかと考えておりますが、いかがでしょうか。

鈴木公述人 お答え申し上げます。

 課税ベースの拡大は、まさに先生おっしゃるとおり、重要だと思います。

 目的という意味では、もちろん、対外投資、工場が外に出ていくというのは税だけではございませんけれども、税も一部要因としてあろうかと思いますので、そこの部分はきちんと取り払う。それから、長期的には対内投資を呼び込む。それから、やはり、パイをつくるエンジンの一つである企業に対するメッセージとして、これは広く中小企業等も含めて、基本的には法人に対する税のあり方を考えていくんだ、そういうことでもって企業家マインドを鼓舞していくということが目的だと思います。

 そのとき、課税ベースという意味では、繰欠制度をどのぐらい、どういう制限を設けるかというのは非常に難しい問題です。

 それから、やはり日本の場合は地方法人二税が非常に、諸外国と比べて特異といいますか、高いという問題がございますので、それを外形標準化して付加価値割にすれば、消費税と非常に近い、経済に対して中立性がより増すような形になって、財源としても非常に安定的なものになっていくということで、地方法人二税の改革。

 それから、地方の消費税といいますか付加価値税といいますか、そういったものとの、税制全体のデザインの中で課税ベースのところを、外形標準課税化を含めて考えていくということではないかと思います。

星野委員 ありがとうございます。

 繰欠、繰越欠損金の控除制度、国際比較しますと、実は大変厳しいんですね。最も厳しいフランスと同じですし、繰越期間を考えると、フランスが無制限であるのに対し、日本は十年であります。ここら辺も少し付言をさせていただきたいというふうに思います。

 そして、三番目の質問に移りたいと思います。今お話も出ていました外形標準課税の問題ですね。

 外形標準課税の拡充によって、実は、利益の多い大企業は大きな減税となりますが、地方で頑張っている赤字の中堅企業や利益の少ない黒字の中堅企業は増税となる傾向があります。

 今回の法人税改革においても賃上げへの配慮措置などが講じられたことは大変意義深い、重要だというふうに思っておりますけれども、しかし、今後の方向性を考えるに当たっては、外形標準課税の構造的問題から慎重に議論をする必要があると思います。具体的には、外形標準課税が固定費である賃金を中心とする課税体系であるという点も含めて慎重に議論をすべきだと考えますが、その点についてはいかがでしょうか。

鈴木公述人 お答え申し上げます。

 外形標準課税というのが赤字法人課税という側面は、おっしゃるとおりございます。

 今回の法人税改革というのは、やはり成果に対する応援といいますか、頑張って成果が上がったところに応援をする、そういうメッセージだろうと思います。

 先生御指摘の賃金という意味では、賃金を払っていればそれは費用ということになります。法人税の世界では、当然、賃金を払えば法人税は減るということになりますので、経済活動に対する中立性という意味では、外形標準課税というのは適しているのではないか。

 一点申し上げると、付加価値割というのは、利益にも当然入ってきます、付加価値ですので。そうすると、投資も課税ベースなんですね。今の消費税というのは、消費が課税ベースで、投資が入っておりません。ですから、外形標準課税は投資も入っているというところで、私は若干、投資に対してディスインセンティブかなと思っておりまして、そこにちょっと注意をしながら外形標準課税の今後を考えるべきではないかと考えております。

星野委員 ありがとうございます。大変参考になりました。

 安倍政権でも訴えておりますけれども、まず、成長のエンジン、そして経済の好循環をしっかりと回していく、そのことによってそれぞれの、働く方々の賃金も上げていく、設備投資もふやす、雇用も拡大をする、これを好循環と我々は考えているわけであります。その中核をなすのが法人税改革だというふうに思っておりますので、今後とも御指導のほどよろしくお願い申し上げます。

 それでは、時間も限られておりますので、水野公述人にお話を聞きたいと思います。

 公述人は、御著書、これは私の愛読書でもありますが、「資本主義の終焉と歴史の危機」の中で、グローバル資本主義について、「グローバル資本主義の暴走にブレーキをかけるとしたら、それは世界国家のようなものを想定せざるをえません。」「世界国家、世界政府というものが想定しにくい以上、少なくともG20が連帯して、巨大企業に対抗する必要があります。具体的には法人税の引き下げ競争に歯止めをかけたり、国際的な金融取引に課税するトービン税のような仕組みを導入したりする。」と述べられております。

 そこで、お尋ねをしたいと思います。

 仮に、法人税引き下げ競争にブレーキをかける場合、G20はその目的達成のためにどのような仕組みを導入すべきだとお考えになりますでしょうか。一口にG20と申しましても、主権国家の集まりです。思惑はそれぞればらばらで、経済の発展状況にも差異があります。どのように意思統一を図るのかも含めて御教示をいただければ幸いでございます。

水野公述人 お答えします。

 私は、G20というのは、先進国と、それからBRICS等のような新興国が両方まざっているということですけれども、これは、長い時間、恐らく十年とかかければ、新興国が相当先進国に追いついてくると思います。追いついてくるということは、そもそも投資機会が、今は新興国にいっぱい投資機会があるということなんですけれども、新興国も日本やドイツの路線を追いかけているわけですから、十年で追いつくわけではないと思いますが、いずれ、ある程度の水準に追いつくということになれば、投資機会はほとんどの国でそんなに差がなくなってくると思います。今の段階から議論をして、それぞれ、これ以上の水準までには引き下げない、引き下げ競争をやっていますとゼロになってしまいますので、例えば、二〇なら二〇、二五なら二五というところで合意をするような議論をしていくべきじゃないかなと私は思います。

 それから、トービン・タックスですけれども、これは、国際資本の移動が事実上自由になりました九〇年代半ばから、国境を自由に越えるという動きが確認できるようになりました。

 そうしますと、何が起きるかといいますと、工場、店舗、オフィスビルだけではなくて、資産と資産の交換というのが国境を越えて行われる。それが、世界のGDP七十兆ドルの恐らく何十倍というお金が国境を越えるということですので、そうすれば、その国境を越えるのに対して〇・数%、〇・〇幾つでもいいと思いますけれども、その場合は資産と資産の交換に対してトービン・タックスをかけるべきだと私は思います。そうしないと、新興国の方は外国からの投資が呼び込めなくなるという不利な状況が出てくると思いますので、資産と資産の交換だけに対しては〇・〇何%をかけて、少しでも資産価格がバブル化しないようにということを、それは、どの国にとっても私はプラス、新興国だって、バブルが起きて、それがはじければ大変なことだと思います。

 私は、G20で、ほぼ同じような土俵でもう議論できる状況になってきている、向こう十年間、二十年間を考えれば、同じ議論ができるような土俵にもうなってきているんじゃないかなと考えております。

星野委員 ありがとうございました。参考にさせていただきたいと思います。

 これで終わります。

大島委員長 次に、岡本三成君。

岡本(三)委員 公述人の皆様、きょうは、お運びいただきまして、ありがとうございます。

 早速質問させてください。

 まず、鈴木さんに質問いたします。

 お話を伺いますと、要は、資産の裏側は負債なので、これは二兎を追わなければ実現不可能だというお話、よく理解できました。

 日本においては設備投資がとりわけ重要で、生産性の低さを考えるとIT投資をやっていくべきだということと、負債サイド、支出、財政健全化においては、社会保障費の伸びが大きな負債をもたらしたことは間違いないので、ここを抑制して、消費税も適切なタイミングでということで、よく理解できるんですけれども、一方で、昨年四月の消費税上げというのが経済拡大の頭を押さえたことは事実だというふうに思います。

 議論の中といたしましては、それは両方とも大事なんだけれども、若干の時間差をつけた方がいいんじゃないかという議論があります。十分に経済拡大ができるように集中投資をやった後に、その果実を負債の返済に充てるようなことで、時間差をつけてやった方が両方ともかち得ることができるんじゃないか、これは決してポピュリズムの話ではなくて、その方が経済改革のためにもいいのではないかという議論がありますが、どのように思われますでしょうか。

    〔委員長退席、原田(義)委員長代理着席〕

鈴木公述人 お答え申し上げます。

 財政構造改革法のときには、三年ぐらい所得税減税を先行させて景気を立ち上げるとか、それから小泉政権のときには、消費税の引き上げはある意味封印をして、それで歳出削減をやって成長戦略をやったということでございますけれども、いずれも、結果的には、環境が大きく変わってうまくいかなかったということであります。

 消費税を上げるというのはまさに家計の実質所得を政府に移すということですので、当然経済は悪くなるわけですね。今回は予想以上に悪くなったということはおっしゃるとおりだと思いますけれども、では、一体どれぐらい悪くなるのか、どれぐらい悪くなったら問題なのか。それから、いわゆる弾力条項のような考え方、どれぐらい我々は今我慢すべきなのか、どれぐらい悪くなったら先送りすべきなのかとか、そういったことをもう少し議論するということが、先行させるという考え方についてどうかというお答えになるのではないかというふうに思います。

岡本(三)委員 ありがとうございます。

 続きまして、水野さんに質問させてください。

 非常に長いタイムスパンで過去のデータを示しながら、大きな転換点ではないかというのは、示唆に富まれる御意見だというふうに思います。

 それで、頂戴しました資料の一番最後のところに、ではどうすればいいんだという御提案に関しまして、今までの歴史と反対のことをやっていけばいいんだと。より速く、より遠くへ、より合理的にというのを、よりゆっくり、より近くへ、より寛容にと。

 そのほか、日本国内における経済圏のことであったり、大学のことであったり、定年制の延長であったり、さまざまアドバイスをいただいておりまして、示唆に富むところが多いんですけれども、比較的ハードルの高い目標であるがゆえに、私たちがこれから三年、五年という短中期で取り組むに当たっての第一歩として、これは十年、二十年の単位では実現可能なことかもしれませんけれども、仮に先生の仮説が正しいとしたときに、これから三年、五年という短中期で政府に取り組んでほしいことがあれば、ぜひアドバイスをいただければと思います。

水野公述人 私が今一番短期的にできることというのは、大学の地方分散。私が勤めている日本大学が三島にあるわけでそういうことを申し上げているわけじゃないんですけれども、明らかに東京に大学が、東京だけじゃないんですけれども、若い人も東京に集中している。大学で地方から東京に出てくると、地方にもう一回帰る人が少ない。とりわけ女子の方が地元には帰らないというふうに言われています。

 そうすると、東京でも人口のアンバランスが起き、それから地方でも若い人たちの人口のアンバランスが起きるということになりますので、ますます晩婚化と未婚化、それから少子化になっていくということでありますので、私は、大学を地方分散させて、そして、例えば県庁とか地元の有力企業、地銀とかそういったところは地元大学生の採用を優先するということが大事だと思いますし、これはもう三年以内にすぐできるんじゃないかなと思います。

 それから、このレジュメに大学を四年制から八年制にと書いてありますが、これはなぜそういうことを申し上げるかといいますと、今、時代がどっちの方向に向かうかわからないという状況だと思います。これまで引いてあったレールの延長線上に進んでいっていいのかどうかもわからない状況だと思います。

 そうすると、例えば経済学部、法学部、文学部といった一つの科目だけ四年間学んでいわゆる専門家となっても、時代の変化に対応できないと思います。一番いい例が、イギリスが工業化に成功したというのはアダム・スミスの国富論ということになっていますが、アダム・スミスは、倫理学と道徳学と法律学、そして四番目に経済学を学びました。御本人は、倫理学あるいは道徳学が生涯の研究テーマということでした。

 ですから、四つぐらいの科目を学ばないと新しい時代に対応できないということだと思いますので、私は、大学に入ったら、四つというのは大変かもしれませんが、最低二つ以上の専門科目をちゃんとマスターするということ、それで初めて社会に出て、経済だけで物を見るとか法律だけで物を見るということをしないで両面から見る、そういう若い人をつくっていくことが大事じゃないかなと思います。

 そうすれば、連動して、社会に出る年齢が後ろにずれるわけですから、ちょうど健康年齢も十歳若返っているということでありますから、生産年齢人口を後ろにずらすという、目盛りを変えるだけで随分と変わってくるというふうに私は考えています。

岡本(三)委員 ありがとうございます。

 続きまして、西田さんに質問させてください。

 西田さんには何点かあるんですが、まず、御説明いただきました中で、世界的に認知症が最大のリスクファクターというふうに捉えられて、各国の首脳が積極的な取り組みをされていることを認識いたしました。

 その中で、世界全体では、例えば二〇一〇年に関連コストで五十兆円と試算されているみたいですが、日本も大変な拡大を見せているわけですが、コストとして、危機感として持ってはいるんですけれども、実際的なコストとして、日本の認知症関連に関するコストをどのように推計していらっしゃるのかというのが一点目です。

 加えまして、この中で世田谷の例を引かれまして、施設から訪問の方に大きくかじ取りをしていくことが、ケアとしても質が高くなるし、求められている方向性ではないかというふうに御指摘をいただきました。

 私どもも、公明党、地方の議員のネットワークの中で包括ケアをやろうとしているわけですけれども、施設介護から訪問ということに加えて、その地域ごとの特性みたいなものも加味する必要があるのかどうかということに関して御意見を伺えればと思います。

西田公述人 御質問ありがとうございます。

 まず、認知症の関連コストということでありますけれども、各国で国家戦略に踏み切っていく前の年ぐらいに必ずコストが発表されて、それで財務省を含めて危機感を持ってこの施策の優先性を確立していくということで進んでいくわけですが、我が国においては、今現在ちょうど推計の最終段階にあって、この三月、四月ぐらいに公表というふうに聞いております。慶応大学の佐渡先生という方の研究班で今推計中で、御報告が間もなくあるというふうに思います。

 各国、国家戦略を出している国の高齢化率は一七%台が平均ですので、そうしますと、二五%の我が国においては、少なからず、やはり相当なコストを見越した対策がこれから必要になってくるんじゃないかというふうに思います。

 そして、地域包括モデルへの移行に際して、地域ごとの特性を踏まえた展開ということを先生御指摘いただきましたけれども、まさに重要な点だと思います。

 例えば、東京などでは非常に人口密度が多いですので、ある意味、訪問をするのに非常に適している。そういうところでは、世田谷の今の実践のような訪問モデルというものを広げていくことで、認知症の人の在宅生活の可能性が非常に高まっていくというふうに思います。

 では、地方でそのようなことができるか、人口密度が低いところで訪問サービスができるかというと、なかなかそういうことは難しいと思いますけれども、各国でやられていますのはテレメディシンで、要は、介護現場や医療現場の人たちの指導を含めて、都市部のコンサルタントの人がテレメディシンで相談に乗る、これでかなりの成果が上げられています。

 そういうことも、地域ごとの特性を踏まえ、地方でのこういう認知症の地域モデルをつくっていくときの一つの大事な対策になるというふうに思います。

岡本(三)委員 ありがとうございます。

 続きまして、原さんに質問させてください。

 このいただきましたペーパーの一つ目に、岩盤規制改革に対する御意見と、その手段の一つとして公務員制度の改革とおっしゃったわけですが、岩盤規制なわけですから大変に強固な規制なんですけれども、スピードと質ということをお伺いしたいんです。

 当然、根底から改革が行われた方がいいですし、それがスピーディーに行われた方がいいわけですけれども、規制自体が、ある程度、緩和がメッセージ性を込めていることを考えると、根底からの改革とはならないまでも、スピーディーにその改革が行われて結果を残していく方がよりよいという意見があるわけですけれども、そのことをどう思われるかというのが一つ目。

 加えまして、その手段の一つに公務員の評価があるということになると、先ほどおっしゃった絶対評価、相対評価ということであれば、絶対評価したものを標準偏差をつくって相対的に見ていけばいいと思うので、それは改革の方法は幾らでもあると思うんですが、評価をする方が、誰が評価をしているかということを変えることをどう思うかということについて御意見を伺いたいんですね。

 私、会社員の時代、アメリカの会社に長く勤めていたんですが、三百六十度評価で、上司も同僚も私の部下もネットで私の評価をするというふうな体制になっておりまして、それがそのままボーナスに評価をされたんですけれども、この二つの点、何か御意見があればお願いいたします。

原公述人 ありがとうございます。

 まず一点目、岩盤規制改革のスピードという点でありますが、これは、スピーディーな改革をやるということとそれから抜本的な改革をやるということを両建てでやっていく必要があるのではないかと思います。

 先ほどのお話の中でも触れました国家戦略特区というのは、スピーディーな改革を、まず場所を限って、あるいは対象を絞って、限定的に、実験的に進めてみる、そういう取り組みの一つだと思いますが、そういった形で、スピーディーに象徴的なところ、実験的なところに取り組んでいく、これが第一で、その上で、全般的な、抜本的な改革を進めていく。これは、まずその第一歩が進まないとめどが立たないということだと思いますので、そういった両建てが必要なのかと思います。

 それから二点目、評価の点でありますが、まず、現状の問題というのは、これは相対評価で後からならそうとしても、絶対評価のところで全然差がついていないので差のつけようがありませんというところが問題なのかなと思います。

 それから、御指摘をされた評価をする人の問題というのは、これはもう限りなく重要な問題だと思います。これは三百六十度評価なんかも一部進められているところもありますし、それからあと、評価をする人の評価軸の問題というのも大変重要だろうと思います。

 これは、かつての役所でよくあったような、組織防衛的な仕事をしたら評価をされるとか、そんなことになっていたら全く意味がないわけでありまして、しっかりと公益、公共のためのお仕事をした人が評価をされるという軸を、それこそ最終的には内閣主導で確立していかないといけない課題だと思いますが、内閣人事局のもとでいかにそういったことを確立していけるのかということではないかと思います。

岡本(三)委員 終わります。ありがとうございました。

原田(義)委員長代理 次に、後藤祐一君。

後藤(祐)委員 民主党の後藤祐一でございます。

 本日は、四人の公述人の皆様、本当にありがとうございます。

 早速質問に入りたいと思いますが、デフレと貨幣の関係について、まず伺いたいと思います。

 水野和夫公述人は、私もこれは愛読をさせていただきました「資本主義の終焉と歴史の危機」、大変示唆深い本だと思いますけれども、この中で貨幣の流通速度の話がございます。貨幣数量M掛ける流通速度Vイコール物価水準P掛ける取引量T、MVイコールPTという方程式がございますが、この貨幣の流通速度Vが一定であるという前提が低金利のもとでは崩れているということに触れておられますし、取引量Tの中には、実物経済での取引高だけではなく、金融市場での株や土地の売買取引が多く含まれていますというふうに触れておられます。

 また、小林慶一郎慶応大学教授は、二月十六日の日経新聞の経済教室で、何らかの理由で貨幣の流通速度が貨幣量の増加に反比例して低下すれば、幾ら中央銀行が貨幣をばらまいてもデフレから脱却できない、日本はまさにこの例に該当するということをおっしゃっておられます。

 あと、この話ともう一つ、これは鈴木公述人にも、お二人に聞きます。

 鈴木公述人は、二〇一四年十二月十一日の大和総研グループのホームページの方でこれに関連することを触れておられまして、「消費税がデフレ脱却を妨げるという見解は、デフレは単純な貨幣的現象では元来なかったということだ。」というふうに記述されておられます。

 このデフレと貨幣の問題というのは、当委員会において今まで大変議論されてまいりました。例えば、安倍総理は、二〇一三年二月七日の予算委員会で我が党の前原議員の質問に対して、「人口の減少とデフレを結びつけて考える人がいますが、私はその考え方はとりません。デフレは貨幣現象ですから。」というふうにはっきり断定しておられます。

 以上を踏まえて、この貨幣の流通速度の話をどう考えるか、つまり、貨幣量が増加しますと、貨幣の流通速度は一定ではなくて落ちていくこともあるのではないのかという点と、デフレは単純な貨幣現象ではないのではないかという、この二点について、水野公述人と鈴木公述人の御見解を伺いたいと思います。

水野公述人 それでは、二点についてお答えします。

 まず、貨幣の流通速度が落ちているというのは、MVイコールPY、通常、Tを実質GDPというYに置きかえて計算しますので、そうすると、結果としての流通速度、実質GDPは、大して、一、二%しかふえません。左辺のMというのは一、二%より、三、四%でふえていくということになりますので、そうしますと、結果として流通速度は落ちていく、そのとおりだと思います。

 それは二番目の質問ともかかわってくるんです。インフレ、デフレは貨幣現象であるというフリードマンの有名な言葉があるんですけれども、これは、あらゆるデフレ、インフレは貨幣現象である、フリードマンがそう御指摘された時代というのは、多分、千九百四、五十年代で、そのときはまだ国際資本の完全移動というのが行われていない時期でした。

 国際資本の完全移動が行われていないということは、ほぼ閉鎖経済が中心で、残余として輸出と輸入が生まれる。でも、国際資本移動が完全自由化になりますと、逆に輸出と輸入が最初に決まって開放経済になり、そして金融の自由化ということで、さらに、九〇年代以降、欧米では二十一世紀に入ってから量的金融緩和が行われるようになりましたので、結局、Mは政策的にいっぱいふやすことができるんですけれども、そのふえたMはどこに行くかというと、工場や店舗、オフィスビルをつくって十年間かけて利益を得るというよりは、金融の自由化で、きょう買ってあしたもうけられるという市場をつくるのが金融の自由化でありますから、当然、きょう買ってあした売るという資産市場にお金が行く。

 そういう意味では、取引量Tの中に債券取引とか株式取引というのを本来入れた統計をつくれば、私は、ひょっとしたら流通速度は相当上がっているんじゃないかなと思います。世界的に、年間の株式売買高と債券の売買高、社債の売買高といった統計が、あちこちからかき集めればできるかもしれませんが、公式統計では発表されておりませんので、本当はG20なんかで国際資本取引というのを全部集めてそういうふうに計算すれば、私は、恐らく流通速度というのは上がっているんじゃないかなと思います。ただ、それが計算できないので、実質GDPというYで計算すれば下がっているということです。

 ですから、インフレ、デフレは、その中に資産価格の増減も入れれば貨幣現象ということなんですけれども、インフレ、デフレの中に資産価格の増減は入っていないということなので、そういう意味でいえば、インフレ、デフレは貨幣現象ではないというふうに言えると思います。

    〔原田(義)委員長代理退席、委員長着席〕

鈴木公述人 お答え申し上げます。

 デフレは貨幣的現象なのかどうかということでございますが、これはもう釈迦に説法でございますが、経済というのは、やはり金融と実物が本当に表裏一体、コインの裏表でございますので、私は、両方考えなければ、結局、例えばデフレからの脱却というのはできないと思います。

 日銀というのは、ずっと消費税率引き上げを前提に物価目標を達成できるというスタンスで政策を運営されてきたと思いますが、それに対して一部からは消費税引き上げがそれを妨げたという論評がなされておりますので、私はそれに対して、デフレは単純な貨幣的な現象ではないことがわかったということを書いたということでございます。

 私自身は、金融政策は重要だと思います。ただ一方で、実物経済も同じぐらい重要で、だからこそ二〇一三年一月の共同声明というものがあったんだと思います。

 これまで、やはり企業のバランスシート調整というのがずっと続いてきて、設備投資は低迷している。それから、九〇年代以来、ずっと内外価格差で、要するに、規制と非競争で消費者負担の産業構造だったものが、規制緩和とグローバル化で価格が機能するような状況に、ようやく今なってきた。ここできちんと経済が回っていく体制をとらないと、実物経済の方できちんと賃金が上がってデフレから脱却する、そういうことが起きないということだと思いますので、これはその両方が重要であって、単純に金融政策だけでデフレから脱却できるとは考えていないということでございます。

後藤(祐)委員 ありがとうございます。大変重要な議論だと思います。

 続きまして、これも水野公述人に伺いたいと思います。

 ことし一月五日の日経ビジネスの上で熊谷亮丸氏との対談がございまして、水野参考人から、「量的緩和は早くやめた方がいい。現在は国債発行額の七割を買っているが、」これは日銀がということでしょうが、「二%の物価上昇を目指すなら二〇一四年十月の二回目よりもさらに強力に緩和する必要があり、国債発行額の九割を買う事態になりかねない。すると国債の適正な価格が分からなくなり、日銀が債券市場を破壊するような段階まで進んでしまう。」と述べておられます。

 今後の日銀の国債購入がどうなっていくかという見通しと出口戦略、そしてこれらが日本及び世界のマーケットを含めた経済に与える影響について、水野公述人のお考えを教えてください。

水野公述人 お答えします。

 私は、ゼロ金利政策は、今の状況からすればやむを得ない、アメリカのとっているゼロ金利政策はやむを得ないと思いますが、量的緩和というのは、弊害の方が大きいと思います。それは、先ほどの資産価格の増減が貨幣現象になっているということで、八千円台の日経平均が一万八千円になっているという相当部分は、私は量的緩和がきいていると思います。

 それで、株価が八千円から一万八千円に上がって、先ほどの勤労者世帯の貯蓄残高の中央値が上がっていけば、中央値が上がっていくということは大半の人が恩恵を受けているということでありますので、それだったらまだいいかなと思いますが、中央値は逆に下がり続けているということでありますから、少なくとも百人中五十人強の人は恩恵を受けていない、過半数の人が恩恵を受けていないということであります。

 それから、バブルというのははじけてみないとわからないというのがグリーンスパン前々議長の名言だと思うんです。ですから、今バブルだと思っても、それははじけない限りわかりませんし、グリーンスパン議長は、はじけたらすぐ消防隊が駆けつければいいということだったんですけれども、リーマン・ショックのときにはすぐに駆けつけることができませんでした。

 ということは、市場の神様と言われたグリーンスパン議長でさえも事前にはわからないし、わからないけれども、駆けつければいい、駆けつけてすぐに消火活動すればいいということだったんですけれども、それはできませんでした。ということは、量的緩和というのは早くやめた方がいいと私は思います。

 なぜやめなきゃいけないかというと、国債の発行額が年間三十兆、四十兆もあるというのが、まずやめなきゃいけないということだと思います。今、国債の発行額が三十兆、四十兆、では、続けたらいいかというと、私はそれでも続けない方がいいと思います。なぜかといいますと、それで金利が上がるわけですから。日銀が量的金融緩和をやめれば金利が上がる。金利が上がれば、どれぐらい危険なことを財政政策上行っているのかということがわかりますので。

 債券市場というのは、私は、そういう危険なことに対するサインだと思います。そのサインをなくしてしまう、国債の価格がわからなくなってしまう、そういう政策だと思います。わからないまま毎年三十兆円ずっと発行していくというのが、永久に続けばいいと思いますが、それは永久に続かないと私は思います。

 それから、出口戦略をどうするか。今、二%になるまで、そして二%の消費者物価がもう二度とデフレに戻らないというところまで、もし、出口戦略を考える、そのときに出口だというふうにすれば、私は、消費者物価が安定的に二%になるという事態はもうほとんどあり得ないんじゃないかなと思います。これはもう過剰資本でありますから、供給力が需要に対して相当上回っているというのが日本とドイツの例だと思います。

 世界に与える影響というのは、世界的なバブルをどこかの地域でつくってしまう、資本が国境を越えることによって、バブルが日本以外のところで起こってしまう。それは、日本の企業が海外に進出していますので、あるいは輸出減ということになって、実体経済にもマイナスの影響を与えるということですので、非常に弊害ばかり、弊害の方が圧倒的に量的金融緩和政策というのは大きいというふうに私は思っております。

後藤(祐)委員 もう時間ですので、端的に質問します。平成二十七年度予算案についての評価を水野公述人と原公述人に伺いたいと思います。

 なお、水野公述人は、アベノミクスのように過剰な金融緩和、財政出動、規制緩和で成長を追い求めることは危機を加速させるだけだというようなことを二〇一四年八月十九日の週刊エコノミストでおっしゃっておられます。格差との関係なども含めて、その評価を伺いたいと思います。

水野公述人 二十七年度予算だけに限るというよりは、私が思っておりますのは、まずは歳出と歳入の均衡をどうやって図るかということで、今回、消費税、五から八%、二%は見送りということになりましたけれども、私は、消費税というのはセカンドベストだと思います。セカンドベストというのは次善策でありますから、本来消費税というのは、優先度はもうちょっと私は低いと思います。

 では、何を優先するかというと、今は、勤労者世帯ではそうではないんですけれども、二人以上世帯の金融資産残高は、去年、ちゃんと四・九%ふえました。だから、ピケティの言っているとおり、資本の収益性、収益率はちゃんと年五%でふえているということであります。そうすれば、相続税強化という方向になっていますけれども、私は、相続税強化プラス、それから、これはピケティが「二十一世紀の資本」に書いてありますように、年次累進資産課税でしたか、年五%でちゃんとふえるように日本もなりましたので、〇・〇何%の年次累進資産課税でも資産が減ることはないと思います。

 一方、家計の貯蓄率はついにマイナスになりました。家計は、誰かが貯蓄していればそれ以上に誰かが貯蓄金融資産を取り崩しているという状況になりました。そうしますと、資産も蓄積できない、消費税も上がっていくということになれば、ますます、先ほどの三〇%の金融資産がないという世帯がやはりふえていくということだと思いますので、資産がふえるような時代によくも悪くもなってしまいましたので、まずは、資産課税から先にして、それで足りない部分は消費税という、順番が私はどうも逆じゃないかなというふうに考えています。

原公述人 ありがとうございます。

 予算の評価ということでございますが、個別論では申し上げませんが、冒頭のお話でも申し上げましたように、一つにはこの効率化という観点、それからもう一つは、成長戦略を進めていくと言っている中で、特に規制改革を核とした成長戦略を進めていくとされている中で、それと連動した予算の見直し、予算措置といった改善の余地はまだあるのではないかと考えております。

後藤(祐)委員 ありがとうございます。

大島委員長 次に、今井雅人君。

今井委員 維新の党の今井雅人でございます。

 きょうは、貴重な意見をいただきまして、ありがとうございました。

 何名かの皆さんから、地方分権の必要性ということでお話がありましたので、まずこの点について、鈴木公述人、水野公述人それから原公述人、お三方にお話を伺いたいと思います。

 政策を考えるに当たっては、短期的な部分と長期的な観点、やはり両方合わせてやらなきゃいけないと思うんです。

 長期的な観点でいうと、いろいろな問題があると思いますけれども、今日本が一番抱えている問題は、少子高齢化、東京一極集中それから財政の問題、この三つではないかと私は今思っておりまして、これを解決する一番いい方法は道州制だというふうに思っておりますし、我が党もそれを提唱しているわけであります。

 まず、道州制にすると、それぞれのところに中核都市ができて、それでいわゆる東京一極集中が是正される。そこに自主財源を渡すということによって、今の交付税制度というのは、実は、地方公共団体が一生懸命節約をしてもなかなかその恩恵にあずからないという、そのインセンティブがないんですね。ですから、自主財源をとるということによって、このインセンティブが働いてくるという問題。

 それから、当然、二重行政も、コストも削減されるということで、財政にも非常にいいと思っています。

 それから、今、地方にそういう力があるのかということなんですが、これは実は、もう何十年も中央集権をやってしまっていることによって、地域の、地方の力が私は落ちているんだと思うんです。

 だから、これは、鶏と卵なんですけれども、やはりそういう方向に向けることで地域力が高まって、それぞれの自治体のレベルが上がるということも起きると思いますし、そこに、先ほど大学の話がありましたが、中核の教育機関、それからリージョナルバンクのような金融機関を置いて金融を強化する。そういうことによって地域を強化して、さらに、これは僕は少子化にもいいと思うのは、最近、核家族化しているんですけれども、大家族に戻ることは難しいかもしれませんが、親が近隣に住むことで子育てを助けられるということで、子育て対策になるんですね。そういう意味において、できるだけ家族を余り遠くにやらないということをするためにも、道州制というのは一番いい方法なんじゃないかなと私は思っているんですけれども、お三方の道州制に対するお考えをお聞かせいただきたいと思います。

鈴木公述人 お答え申し上げます。

 道州制がどれぐらいいいか悪いかということについては、私自身は分析を持ち合わせておりませんので、なかなか申し上げにくいんですが、私の資料の五ページ目にちょっと資料を載せておりましたけれども、大体五十万人ぐらいまでは規模の経済が働く。これは、通勤通学、都市雇用圏という分類で、五十万人ぐらいまでは規模の経済が働くということが言えるかと思いますので、ある程度の規模はやはり必要だということで、そういった経済圏をきちんとつくっていくということが重要だと思います。

 最近のいろいろな会議体等での議論を見ていますと、やはり基本的には、地域が地域のことを決められる必要がある。その原動力というのは、地域の希望である。地域がどういうことを希望しているかですね。

 ですので、先生おっしゃるように、例えば三世代居住で非常に子供が多い地域もあれば、そうではない形で就業と育児を両立させたいという希望もあるわけでありますので、それは、地域地域あるいは個々人の希望に合わせて、その地域でやり方を決める。それは、ですから一律に中央が誘導していくということではないのではないか。

 それから、やはり地域によってかなり特性が異なってくるということになりますと、これまでは割と同じように発展させるというイメージでございましたけれども、特徴を生かす、差をむしろつけていくということになりますと、地域間で連携をしていく、違う者同士が連携をすることによって、また新しい地域像というものがつくられていく。そのときに、人材ですとかネットワークですとか、先ほど原さんから議会の機能強化が必要だというお話がありましたが、ガバナンスですね、地域をどう変えていくのかを決めるガバナンスとかルールとか、そういったリーダーシップを持ったオピニオンリーダーをきちんとつくって、つくっていく。そういうことで、地域の希望を原動力にして、ある程度の規模にしてやっていく、こういうことではないかと思います。

 以上でございます。

水野公述人 私も、道州制というのは大賛成であります。あるいは、名称はちょっとどうなるかあれですけれども、私のイメージとしては、日本を五つ六つの経済圏に分ける。それで、先生が先ほどおっしゃった税源もというのも大賛成です。

 それはなぜ必要かということで、今までは、地方から東京へ、東京から世界へ、それがグローバル化だったと思います。ですから、まず地方でいえば、若い人が東京へ、それから東京から今度は海外展開へ、あるいは金融の世界ではウォール街へというふうにお金が集中しました。

 ウォール街に集中したお金は、ではまた日本の地域に戻ってくるかというと、全くそんなことはないと思います。十億分の一秒で取引するシステム投資にお金が使われる、十億分の一秒が実現できたら、今度は百億分の一秒でというシステム投資が起きると思いますので、これはオープンな空間だと思うんですね。地方から東京、東京から世界へというのはオープンな空間ですけれども、私は、オープンな空間というのは限界に来ていると思いますので、極力閉じた空間にする。

 閉じた空間にすれば、あちこちで道州制にしたり地域主権でミニ東京ができるんじゃないかということも懸念されるんですけれども、ある程度閉じた空間にしておけば、仮にミニ東京ができたとしても、そこから今の東京それから世界へということが起きない。ミニ東京で集まったお金は、その地域の中にどうやって還元するか、そういう仕組みにすることが大事だと思います。

 そのための一つは、先ほどの大学で、地元大学生の優先ですし、それから移動も、移動を制限するというと自由社会に反しますので、五つか六つで、百兆円経済ですから、百兆円あればギリシャの三倍ぐらいの経済圏ですから、エネルギーは日本全体でも地域に分けても足りないんですけれども、エネルギー以外のところはそんなに足りないことはないと私は思います。

 そうすれば、あとは五つの経済圏の外に出たときにプラスの何らかの負担がかかるという、例えば高速道路ですとその五つの経済圏の中だけは自由に無料で移動する、だけれども、隣の地域圏、経済圏に行ったときには料金がかかるというふうにすれば、それは強制ではないと思いますので、そういうことをしながらなるべく五つ六つで日本の中で閉じた空間にしていくのがいい、それを実現するには道州制じゃないかなというふうに考えております。

原公述人 ありがとうございます。

 もうお二人の方からもお話がございましたが、御指摘のように中央集権的な体制を変革していくという観点での道州制の導入というのは、私も賛成であります。

 特に、政策の競争のある状態をつくっていくということも重要ではないかと思います。ある地域で新しい政策の取り組みを導入してみて、これがうまくいくんじゃないかということで、それがほかの地域にも広がっていったり、あるいはさらによりよい進化がなされていくといったような政策の競争が複数の地域間でなされるといった、そんなことが重要ではないか。

 そのためには、まず一つ目に、基礎自治体の役割をさらに強化していくということが大前提だと思いますが、これは、身近な地域の課題については基礎自治体でしっかりとこなしていくということを前提にした上で、現在、国で果たされているような機能について、五つ六つがいいのか、もう少しなのかわかりませんが、それぐらいの道州の規模に分けて現在国が果たしているような役割を果たしていく、そんなことが必要なのではないかと思います。

今井委員 ありがとうございました。

 そのまま原公述人にもう一問お伺いしたいんですけれども、今、大阪府、大阪市の顧問をやっていただいていまして、都構想にも多分かかわっておられると思うんですけれども、都構想の効果、役割をどういうふうに評価しておられるかということと、この国会でも都構想の話が出るんですが、一部の方は、これはもう大阪のローカルな話なんじゃないかというふうにおっしゃる方もおられるんですけれども、都構想がやはりローカルな話で終わってはいけないと私も思うんですね。ですから、これが国に及ぼすというか、そういう意義についてどうお考えか。この二点についてお伺いしたいと思います。

原公述人 ありがとうございます。

 私は、大阪府と大阪市の特別顧問もやっているんですが、済みません、都構想自体は直接はかかわっておりませんので、そこの効果の部分は具体的には控えたいと思います。

 私が思いますには、大阪でやろうとしているのに国の法令で阻まれたり、なかなかできないということが生じているというところに根本的な問題があって、地方でやろうとしていることが地方で実現できるような仕組みをつくっていくということが重要ではないかと思います。

 これは、大都市制度の改革については地方自治法の改正なんかでも手だてが講じられていますが、やはり一律的なお仕着せの制度でこれでやってくださいというよりは、その自治体、地方、それぞれで考えられる中でこうした仕組みを導入していきたいということになったときに、それが円滑に実現できるような仕組みということが必要なのではないか。

 そういった意味でいいますと、この大阪都構想は、大阪発で、自分たちはこういう仕組みに変えたいということに取り組んで、国に対して働きかけをされてきたという経過だと思いますが、恐らく、この先にあるのは、もっと地方で自由度を持って行政体制を設計できるような、例えば、これもかつてからある議論ですが、地方によって、現在のような首長公選の仕組みあるいは議院内閣制的な仕組みを選択するであるとか、そういった仕組みに変えてもいいんじゃないか、そんな議論もありますけれども、そういったようなより自由度の高い仕組みに変えていくということがその先の議論としてあるのではないかと思います。

今井委員 どうもありがとうございました。

 お三方からのお話の中で、地方分権は本当に必要だなということを改めて意を強くさせていただきました。

 次に、西田公述人に一つお伺いしたいんです。

 大変示唆に富むお話で、興味深く聞かせていただいたんですけれども、お話ししていただいた内容は、認知症の皆さんにどう対処するかというお話が中心だったと思うんですが、ここのところ、七人に一人が五人に一人になった、要するに急増しているわけですね。やはり予防というか、認知症にならない、そういう戦略というのも重要なんじゃないかなと思うんですけれども、その点についてはどうお考えでいらっしゃいますか。

西田公述人 御質問ありがとうございます。

 先生おっしゃるとおり、認知症の膨大なニーズに対して、予防ということは非常に重要になってくると思いますけれども、これまでも既に、運動が有効であるとかいろいろな予防効果のあるものについては挙がっておりますが、まだ効果のサイズが少し小さいということで、今後は薬剤開発等も含めて、そういう予防についての研究をさらに進めていく必要があるというふうに思います。

 ただ、予防も大事なんですけれども、既に認知症になっている人がたくさんいらっしゃいまして、やはりその方々の生活の喫緊の問題を早急に解決していくということも国家戦略の非常に重要な柱であるというふうに思います。

今井委員 ありがとうございました。

 では、最後に、鈴木公述人、端的に。

 先ほど量的緩和の話がありましたけれども、現在の状況の中で、今後、追加緩和をする必要があるかどうか、その点についての御見解を最後にお伺いして、終わりたいと思います。

鈴木公述人 お答え申し上げます。

 金融緩和によって、今行き過ぎた円高は是正されておりますし、それで輸出企業はプラスになっている、それから地域経済も外国人観光客などが非常にふえているということでございますので、この先はやはり成長戦略第三の矢が重要だということで、今直ちに何か追加緩和が必要だという状況ではないのではないかと個人的には思っております。

今井委員 では、以上で終わります。

大島委員長 次に、島津幸広君。

島津委員 日本共産党の島津幸広です。

 きょうは貴重な御意見ありがとうございました。

 私からも公述人の皆さんにお聞きしたいと思います。

 時間が限られていますので端的に御質問させていただきます。

 最初に、水野公述人にお聞きします。

 私も「資本主義の終焉と歴史の危機」を読ませていただきました。資料の中にもあります、富を周辺から中心へ集中させる、グローバル化と格差の拡大、中間層の没落など、興味深い御指摘が多々ありました。

 今、大企業は空前の利益を上げる一方で、実質賃金が十九カ月連続マイナスになっています。きょうのお話でも、年収二百万以下の給与所得者の急増、金融資産なし世帯の増加が指摘されました。アベノミクスのもとで今後格差がどうなっていくのか、先生のお考えをお聞かせください。

水野公述人 私は、ますます格差は拡大していくと思います。

 先ほど、相続税強化ということだったと思いますが、一方で、生前贈与の無税枠も拡大しておりますし、ですから、相続によって資産が形成されていくという方向に向かって、相続財産がないのが今三割ですけれども、三割の御家庭の方は全く相続を受けられない、それで賃金は下がっているわけですから、新規の貯蓄ができないということでありますので、私は、上がっていく方向になっていくんだろうと考えております。

島津委員 ありがとうございました。

 もう一問、水野公述人にお聞きしたいと思います。

 この本では、日本での労働の規制緩和の名のもとにつくり出された非正規雇用社員の増加や人件費の抑制などの御指摘があります。こうした非正規雇用の増大、実質賃金の連続マイナスなど、現状の雇用問題が経済成長に与える影響についての先生のお考えをお聞かせください。

水野公述人 お答えします。

 規制緩和は、当初は、九〇年代後半は、働く人のニーズの多様化ということで労働の規制緩和が行われたと思います。これは、マクロの環境がいいときには恐らく当初の目的を達成できた、半年働いて半年は働かなくてもいいという選択をする人に対してもそれを認めるということだったと思います。

 でも、マクロの環境は、先ほどの、アメリカのクリントン大統領の時代のサマーズ財務長官が、三年に一度バブルは生じてはじけると。実際に、過去三十年間数えてみただけでも、すぐに三年に一回というのを思いつきます。

 労働の規制緩和と、三年に一度バブルがはじけるという環境が組み合わされる。それで、バブル崩壊型の不況というのは、先行きが見えない、売り上げがどれだけ減るのかわからない。通常の在庫循環型の不況であれば、これだけの過大な在庫があるから何カ月辛抱すればということで、解雇しなくても済むと思いますが、リーマン・ショック時の自動車産業のように、今特に輸出ですけれども、売り上げが瞬間蒸発するというような状況では、解雇せざるを得ない。そのときにちょうど労働の規制緩和が行われて、では雇いどめをしましょうということでありましたので、マクロの経済環境がバブル多発型のようなときに規制緩和をすれば、当然、今のような年収二百万円以下の人がふえ、金融資産をなくしていくという方向につながっていくと思います。

島津委員 ありがとうございました。

 続いて、西田公述人にお聞きいたします。

 事前にいただいた資料の中では、自殺や精神疾患による経済的損失の指摘とともに、若年層の精神疾患の予防の必要性などを訴えられていました。

 今、若者を使い捨てにするブラック企業が大きな社会問題になっています。仕事のストレスによる精神疾患がふえ、残業で疲れ果て、みずから命を絶つという悲しい出来事も起きています。若者の二人に一人が非正規雇用、賃金も安くて結婚もままならない、こういう状況です。

 こうした不安定な非正規雇用の広がり、サービス残業やブラック企業の横行、そして後を絶たない過労死という若者の状況があるわけですけれども、こうした非人間的な使い捨ての労働を放置しておいたのでは日本の将来はないと思います。こうした働き方、日本の状況、現状について、精神保健医療の立場からの先生のお考えをお聞かせください。

西田公述人 御質問ありがとうございます。

 きょうは認知症のお話をさせていただきましたけれども、それと若者の健康や命というのは一体の問題でありまして、やはり、高齢化社会を支える若い人の健康や活力を守る、そういう保健福祉をきちんと整えていく必要があります。

 先生も御存じだと思いますけれども、日本の若者の自殺率というのは各国に比べて非常に高い水準にありますし、そして近年も増加傾向にあるということでございます。そういう若い人たちがなぜ命を絶つに至るのかということについて、御指摘のとおり、経済的な問題やそれから精神的な問題等があると思いますけれども、そういったものをきちんと包括的に若い人に支援していくような、そういうサービスや相談機能の強化というものをきちんと地域でつくっていかなければいけないというふうに思います。

 若い方々の健康の最大の被害要因は精神疾患という時代でありますので、若い方々の心の健康を、きちんと予防し、そして不調の場合は早期に支援していく、そういう取り組みが必要ですけれども、まだ教育がきちんとなされていませんので、そういったことを学校教育等の場でも、若い人に対する心の健康の管理方法などについてきちんと教育していくことが必要だというふうに思います。

島津委員 ありがとうございました。

 続いて、鈴木公述人と水野公述人にお聞きしたいんですけれども、消費税が八%に増税されて十一カ月、生活に身近な商品の値上げも相まって、庶民の暮らしを圧迫しています。

 総務省発表の二〇一五年一月の家計調査によると、一世帯当たりの消費支出は二十八万九千八百四十七円、物価変動の影響を除く実質で前年同月比五・一%の減少でした。十カ月連続のマイナスです。

 こういう状況のもとで、八%のダメージがなかなか消えない、増税のダメージが消えない、こういうことが続いているわけですけれども、先ほど、時間差という議論もありました。こういう経済状況が悪化している中で、経済状況のいかんにかかわらず一〇%の増税を行う、これを本当にしていいのかどうか、もしそういう状況のもとで増税したらどうなのかということについてのお二人の先生のお考えをお聞かせください。

鈴木公述人 お答え申し上げます。

 消費税に関しましては、それを財源にしてどういう制度を行うかということとセットで決められておりますので、一〇%のときに、例えば年金生活者支援給付金を始めるとか、あるいは介護一号保険料を軽減するとか、さまざま、財源としてやろうとしていることがございますので、それとのバランスで、私は必要なことだと思います。

 ただ、先生おっしゃるとおり、経済との関係はきちんと見なければいけない。何が何でもやる財政再建至上主義ではもちろんないと思いますので、先ほどもちょっと申し上げましたが、基本的にはやるんだけれども、例えば東日本大震災クラスの震災が起きるとか、リーマン・ショック後の世界同時不況クラスの不況が起きるとか、そういうことであればさすがにそれは見送るという、そこら辺の、どういうときだったらやる、やらないと、基本はやるんだけれどもやらないということを事前にきちんと議論しておくということではないかと思います。

水野公述人 お答えします。

 八から一〇に上げたときというのは、今回と同じように、五から八%に上げたときと恐らく同じようなダメージが続くと思います。二〇一七年の四月から上げ、そのときに景気がよくなっているという保証は、私は、余りないと思います。

 では、やめたらいいかということですが、消費税はセカンドベストなんですけれども、いろいろな方法で税金を上げなきゃいけない。これは過去の、企業会計で、今、特別損失の処理、もう既に前倒しで使ってしまったわけでありますから、前倒しでサービスを受けるということですから、それを特損処理と言っていいのかどうか、それはいつか必ず何らかの税を上げなきゃいけないということだと思いますので、今鈴木さんがおっしゃったように、バブル型の不況のときにはやめた方が、引き上げない方がいいと私は思いますけれども、通常の景気循環型の、在庫をちょっとふやし過ぎてしまったとか、そういう不況であれば、不況であっても私は八から一〇に上げた方がいいと思います。

 ただ、最近は在庫循環型の不況じゃなくてバブル崩壊型の不況をどうも受けるようになりましたので、本当は、条件なしで八から一〇に上げるというふうに決めるのは非常にリスクが大きいというふうに考えております。

島津委員 ありがとうございました。

 時間が来ていますので、最後に、私は静岡県に住んでいます。御承知のように、東海地震の震源域の上に立っている浜岡原発があるわけですけれども、福島第一原発の事故を見ても、原発事故が起きると、経済に与える影響というのは非常に大きいものがあると思うんです。

 ただ、そういう中でも、今、安倍内閣は原発再稼働の方向を進めているんですけれども、原発再稼働について、万一事故が起きればそういうリスクがあるわけですから、その点について、四人の先生、端的でいいですので、再稼働についてのお考えを、専門外かもしれませんけれども、ぜひお聞きしたいと思いますので、お願いいたします。

鈴木公述人 私は、四十年廃炉とか、秩序ある減原発、戦略的に原発を減らしていくということだと思います。ですので、電力料金を上げてしまって、経済をだめにしてしまうということではなくて、そこは計画的に秩序ある減原発を戦略的にやっていくということが望ましいのではないかと思います。

水野公述人 専門外なんですけれども、反対です。再稼働には反対です。

 理由は、成長しようと、成長戦略をすればするほど経済合理性というのが前面に出てくるというのが現状だと思います。もう三・一一の段階で、経済合理性というのを追求すればこういうことが起きてしまうということが明らかになったと思いますので、私は、再稼働については反対であります。

西田公述人 専門外なので何ともあれですけれども、ただ、地域を離れなくてはならなくなる方というのは、やはり、認知症の方なんかには非常に影響がありまして、そういう方々の病気の状態にも非常に影響を与えますので、そういう住みなれた環境が奪われるようなことがないようなエネルギー政策ということが今後重要だというふうに考えております。

原公述人 再稼働に際して安全性の確認が十分になされるべきだろうと思います。

島津委員 ありがとうございました。

 ちょっと時間が余りましたけれども、時間が来ましたので終わらせていただきます。

 きょうの御意見をしっかり受けとめて頑張っていきたいと思います。ありがとうございました。

大島委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。

 公述人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。(拍手)

 午後一時から公聴会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午前十一時五十六分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時開議

大島委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 平成二十七年度総予算についての公聴会を続行いたします。

 この際、公述人各位に一言御挨拶を申し上げます。

 公述人各位におかれましては、御多用中にもかかわらず御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。平成二十七年度総予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、どうか忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願い申し上げます。

 御意見を賜る順序といたしましては、まず佐藤主光公述人、次に高橋睦子公述人、次に無藤隆公述人、次に小田川義和公述人の順序で、お一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 それでは、佐藤公述人にお願いいたします。

佐藤公述人 本日は、お招きいただきましてまことにありがとうございます。

 私は、ふだんは経済学者でありまして、特に地方財政関係のことを専門としておりますので、本日も、地方財政絡みのお話を何点かさせていただければと思います。

 皆様方のお手元には、ちょっと分厚いですけれども、パワーポイントがございます。少し分量も多いので、かいつまんでの説明になりますことをあらかじめ御承知おきいただければと思います。

 一枚めくっていただきまして、二ページ目ですけれども、これはもう御案内のとおりですけれども、平成二十七年度予算におきまして、いよいよといいますか、地方創生について本格的な取り組みが始まるということになるかと思います。特に、地方財政計画というのがございますけれども、そちらにおきましても、地方創生に向けて一兆円の上乗せが図られるとか、あと、優先課題推進枠として七千億円が計上されるとか、こういった措置がなされてきたわけです。

 もう一枚めくっていただきますと、こちらは税制関係でありまして、御案内のとおり、法人税の引き下げというのも来年度から始まることになっております。

 法人税の引き下げといいますと、何となく、グローバル化への対応、国の話、国の財政にかかわる話と思われがちですけれども、これは地方の財政と密接にかかわってまいります。後ほど簡単に御紹介いたします外形標準課税とか、こういった改革にまで及んでいますので、この法人税の実効税率の引き下げというのは、まさに国と地方、両方の税制改革の議論だということになるかと思います。

 それからもう一つは、地域拠点強化税制の創設ということで、本社機能を移すとか拡充するとか、こういったことに対する支援策というのが行われているわけでありまして、昨今、人口消滅可能性都市とかそういった議論がありますので、そういった地方における人口減に対する対応ということになってくるのかというふうに存じます。

 さて、一枚めくっていただきますと、きょうのお話になってくるんですけれども、新しい酒と古い革というので、ちょっとタイトルをつけさせていただいております。

 地方創生というのは、これまでも地域の活性化とか都市の再生というのはさんざん議論されておりますけれども、ある意味、少しそれらを改めて見直す形で、地方創生という新しい酒が今、予算の中で注がれようとしているんだと思います。ただ、それを受け取る制度が果たして今のままでよろしいのかということは、我々は少し考えなきゃいけないのかなというふうに思っているわけであります。

 もちろん、制度の見直しということになりますと、いわゆる中長期的な観点からの議論にならざるを得ませんので、あした、あさって、性急に取り組むべきものではないかもしれませんが、ただ、私たちが今後、地方創生に取り組む中において留意するべきことかなと思います。

 いろいろあるんですけれども、きょう大きく二つ御指摘申し上げたいのは、地方交付税のお話と、法人課税に依存したと書いていますが、地方税制についてということになります。

 もう一枚おめくりいただきますと、では、今度、地方交付税の話に入ってくるわけですが、これも御案内のとおりといいますか、地方交付税といいますのは、もともとは、総務省さんが作成されますけれども、地方財政計画というものをベースに出されるものであります。地方財政計画というのは、国の観点から、これこれこれくらいのお金が地方においてはかかるであろう、そういう見通しのもとで歳出を計上し、それに対して見合いの歳入はどれくらいあるかということを調べ、足りない部分をある意味交付税という形で補填するといいますか埋めるというか、そういうふうな仕組みになっているわけです。

 この交付税をめぐりましては、長らくいろいろな賛否両論があります。私はちょっと批判的な側であるということを少し御留意いただければと思うんですけれども、ただ、もちろんそれに対して擁護する方もいらっしゃいます。

 一方の批判というのは、地方の甘えといいますか、言葉は悪いですけれども、モラルハザードを助長しているのではないか、そういうふうな御指摘があります。他方では、いや、そんなことはない、これはあくまでも国がいろいろと地方に対して仕事をやらせているその結果なんだ、そういう御指摘もあります。

 どちらかが間違えているわけではなく、これはまさに表裏一体の関係にあるということをまず御指摘申し上げたいと思います。つまり、国の規制、それから地方のいわゆる依存というのは、やはりある意味表裏一体である。これを、前、東大にいらっしゃいました神野先生は、集権的分散システムという非常にうまい言い方をしていたと思います。

 結果なんですけれども、交付税というのには二つの顔があるんですね。私、財政制度等審議会というのに参加していますけれども、財政制度等審議会において財務省さんの資料の説明を見ると、これは国の財源保障である、したがって、国が財源保障したとおりに地方が執行することが求められると。そうしないことを、計画と決算の乖離とかいう形で、いろいろと議論の的になったりするんです。

 他方、総務省さんのお話を聞くと、交付税というのは一般補助金であると。もちろん、交付税法第一条にもその旨は書かれているわけでありますが、地方自治を促進するためのものであって、地方自治体がむしろその用途については裁量を有するべきものであるということになっています。

 これはどう理解したらいいのかなということなんですけれども、予算ベースと決算ベースと書いておりますが、予算をつくるときは財源保障というところが重視されて、実際のお金の使い方、つまり地方の決算ベースになってきますと、どちらかというと一般補助金的な性格を多く持つということになっております。このあたりが議論を非常に混乱させているもとになるわけです。

 ちょっと一ページ飛ばして、七ページ目というところを見てもらった方がよろしいかと思うんですけれども、地方交付税につきましての建前と実際というところでありまして、建前は決して悪くないんですね。地方交付税は一般財源であり一般補助金であり、まさに地方自治の本旨に資する、そういう制度であるということになるかと思います。

 ただ、実態はと言われますと、最近でいうと行革インセンティブもそうですし、九〇年代に戻りますと、いわゆる事業費補正という形で公共事業をいろいろと促進したりということで、国の政策誘導という面がやはりあるということになるかと思います。そういう意味におきまして、実際のところ、一般補助金あるいは一般財源という本来の制度の本旨に即した形の運営がなされているかというと、ちょっとそこは怪しいかなということなのかと思います。

 この問題、国の財政に密接にかかわってきます。来年度予算は、地方交付税は十五兆五千億円というふうな形で抑制ぎみではありますけれども、やはり社会保障に続いて大きな国の予算項目ということになっておりますので、この地方交付税をどうするかという問題は、ひいては国の財政再建にかかわってくる問題であるということも考えなければならないかと思います。

 では、一ページめくっていただきまして、どうしたらよいのかということについて、考え方をこう整理しませんかということなんですけれども、交付税という制度自体が悪いわけではないし、もちろん国から地方への財政移転というのは必要なものなんだと思います。ただ、その財政移転の仕方が、これから地方の主体性、地方分権を進めていく、あるいは地方創生を促していくという観点から、今の仕組みでよいのかということは、やはり考えてみる必要があるのではないかというふうに思うわけです。

 幾つか並べておりますけれども、やはり国と地方の役割分担というところは明確にしていかなければなりませんし、地方の裁量を最大限尊重する仕組みにしていくべきであり、政策誘導という性格はできるだけ抑制していく必要があると思います。その上で、あくまでやはり財政規律を持たせるような仕組みにしていかないと、交付税も膨張していきますし、地方財政の健全化もなかなか進まないということになってくるのかなと思います。

 ちょっと細かいことをいろいろと書いているんですけれども、時間の関係上、ただ雑駁なアイデアだけ説明させていただきました。

 一ページめくっていただきますと、実はこれは随分昔に、私のほかに東大の岩本先生や大阪の赤井先生、慶応の土居先生とかと一緒に、こんな形で新しい制度をつくりませんかという提言をしているんですが、大きく分けると、交付税の役割を二つにきれいに分けませんかということです。

 財源保障という性格ならそれのための交付金、まさに一括交付金とかそういう性格だと思うんですけれども、交付金という制度と、それからまた、平準化が必要だということであれば財政調整、そういう役割をやはり担わせることが必要であろうということなので、くどいようですが、別に交付税という制度がだめだと言っているわけではなくて、その交付税の今の運営の仕方が本来の目的に即しているか。それが地域間格差の是正であれば、格差是正の役割に特化した制度と、財源保障ということであれば、教育とか医療とか福祉とか大事なサービスがありますから、そういうサービスに対する財源保障ということであれば、それに特化した仕組みをつくりませんかということになってくるかと思います。

 時間の都合もありますのでちょっと飛ばしますけれども、十ページ目の方に、そういう形で財政移転の役割分担というのを少し整理しませんかという提案をさせていただいているわけであります。

 そういう意味におきまして、ちょっと今回の地方創生に係る交付金はある意味チャレンジングでありまして、交付金という性格上は、ある意味地方の裁量、主体性が尊重されるべきものでありますが、ただ、他方、なかなか地方としましても、国の顔色をうかがいながら何か地方創生の計画をつくるということになると本末転倒ということになりますので、ここは、地方創生に係る交付金、新しい交付金をつくるということになっておりますので、やはりこういう財政移転の本来の役割というのを勘案しながら、本来の趣旨に沿う形での制度設計が求められるのではないかと思うわけです。

 次をめくって、十一ページ目に行っていただきますと、二ということで、地方税についてなんですけれども、地方税といいましてもいろいろたくさんあるので、今回お話ししたいのは地方法人課税だけということになります。

 御案内のとおり、今回、国が、国の政策としまして法人税の実効税率を引き下げるということになりました。しかし、そもそもなんですけれども、我が国の法人実効税率を高くしているのは何なのかといいますと、地方の法人課税というのが非常に強いんですね。国の法人税だけいえば、改正前は二五・五%です。それに一〇%上乗せする形で三五%というのが、これまでの我が国の法人実効税率だったわけです。

 この高い法人実効税率というのは、対外的に見れば我が国国内立地企業の国際競争力の阻害要因にもなりますし、国内的に見ると、これがすごく重要なんですけれども、やはり地域間の税収の格差、それから税収の不安定という問題につながっていたわけです。

 そういう意味におきまして、やはり地方法人課税の見直しというのは、安定的で公平な地方財政の運営というところから見ても、本来であれば近々の課題ということになるかと思います。それに向けてということもあるんですけれども、法人課税の実効税率の引き下げとあわせて、今回は外形標準課税の拡充というのが図られてきているわけであります。

 外形標準課税については御案内のとおりなのかもしれませんけれども、十二ページの次をめくっていただきますと、参考までに外形標準の課税ベースというのが出ているわけです。

 外形標準課税というのはよく二つの顔があると言われるんですが、一つは付加価値税という顔を持っておりまして、計算の仕方として、法人の利益に支払いの利子とか人件費を足して計算していますので、実質的には付加価値税という性格があります。ただ、付加価値の中のかなりの比重が人件費なものですから、人件費課税だという批判もあるわけなんです。

 この外形標準課税というのは、よい面もあります。よい面というのは、やはり広く薄く、応益性に即した課税ができるという面があります。それから、経済同友会なんかも提言していたと思うんですけれども、ある意味、新陳代謝といいますか、産業の新陳代謝の促進材料にもなるだろう。不採算な企業については、申しわけないですけれども撤退を促す、そういう仕組みがあるからです。

 ただ、理想的な外形標準課税は今申し上げたとおりなんですが、実態はと言われますと、今でも資本金一億円以上になっております。対象はあくまでもいわゆる大企業ということになっておりますので、赤字企業の全てが別に外形標準課税を払うわけではないということ。それから、そういう意味においては広く薄い課税になっていないということです。

 他方、資本金一億円以上でも、地域に密着した中堅の企業がまさにこれにひっかかってくると、やはり雇用のマイナス要因になってしまうんじゃないか、そういう懸念もあるわけであります。

 非常にその意味においては、この外形標準課税、もろ刃の剣的な性格を持っている。理想的にうまくやれば本当は安定的で健全な地方財政の基盤になりますけれども、まかり間違えると、地方創生、本来であれば雇用の促進、ここに関してマイナスの要因になるかもしれないということです。

 一ページめくっていただきまして、ではどうしたらいいのかという話になるんですけれども、やはり全体として見ると、私たちは、地方における企業課税のあり方というのは、全体としては見直す必要があるだろう。もちろんゼロにしろということではないんです。

 例えば、法人住民税の中には均等割という制度がありまして、これは、ある意味、地域社会への参加費用として許容できるものだと思います。ただ他方、高過ぎる地方の法人税率というのは、地域経済にとってもマイナス要因になりますし、対外的に見ても、国際的に見ても、日本の国際競争力の阻害要因にもなりかねないということになるかと思います。

 ではどうするかといいますと、答えはこれしかないかなというところなんですが、やはり、固定資産税とか個人住民税とか、そういう住民により広く薄く負担を求める方向に税制のあり方は転換せざるを得ないかなというふうに思うわけであります。それは、住民に対しては大きな負担を求めるという意見もあるんですが、ただ、応益課税という観点から見れば、住民がある意味行政サービスに対して対価を払う、そういう本来あるべき地方自治に近づける第一歩だと思います。

 もちろん、所得の低い方がいます、今、格差の問題が懸念されていますので、こういう方についてはきちんと給付の措置をとる。これは消費税増税においても同じことなんですけれども、やはり、そういう低所得者に対する配慮というのは、常にそれは給付という形で行う。これをあわせて行えば、本来の地方税、安定的で公平な、かつ応益に即して住民が地域の財政に貢献する、そういう本来の地方自治のあり方に近づくことができるのではないかというふうに思うわけであります。

 十五ページ、十六ページ目は税制のちょっと細かいところの話なので、時間も限られておりますので、十七の方に飛ばしていただきまして、最後のお話にさせていただければと思います。

 ここまでのお話は、何を言ってきたかといいますと、要するに、地方創生という新しい取り組みの中におきまして、今ある制度についても我々は見直す必要がありますねと。一つは交付税です。交付税の本来のあるべき役割に、本来の姿に戻しませんかということですね。それから、地方法人課税に依存している体質というのは、これはやはり見直していく必要がありますねと。なぜかというと、地域間での格差とか税収の不安定とか、そういった問題があるからです。

 こういったことをあわせて地方創生に私たちは取り組んでいくということになっていくと思うんですが、その地方創生に向けての考え方についても、ちょっと整理していく必要があるでしょうということが十七ページ目にまとめられているとおりでありまして、というのは、どう整理するべきかということなんですが、経済政策という顔と社会政策という顔と、この二つをちゃんと峻別しませんかということです。

 地方創生、実は、既にいろいろな提案がなされていると思うんですが、二つの顔があると思います。一つは、やはり地域経済の活性化、雇用の拡大、成長の促進という経済政策の面。それからもう一つは、お年寄りや子供たちが安心して暮らしていける、あるいは弱者救済という社会政策の面があります。

 どちらもすごく大切なんだと思うんですけれども、ただ、二つは分けて考えないといけない。例えば、中心市街地の活性化であれ、コンパクトシティーであれ、地域の再編成であれ、あるいは農業の振興であれ、その中には、これまでの政策体系では、経済政策、成長促進という面と、それから社会政策、所得保障を含めた格差是正という側面と、二つが相混在する、そういう性格があったように思います。

 ここをきちっと分けないと、本来自分たちで頑張れる自治体が頑張っていく、本来私たちが助けるべき自治体、地域を助ける、こういう役割分担が、この地方創生の政策体系の中でできないということになってしまいますので、やはりそこは、どちらかを選べと言っているわけではなくて、めり張りをつけませんかということです。

 やはり、政策には本来それぞれ目的があるわけですから、その目的に即する形での体系づくりをしていかないと、いろいろな議論がチャンポンになってしまって、かえって混乱のもとになるかもしれないということです。

 最後なんですけれども、地方分権がやはりこれから鍵になってくると思います。交付税の改革であれ、法人課税に依存する地方税体系の見直しであれ、最終的にやりたいのは、安定的な地方分権というものを進めていくことだと思います。

 なぜこの地方分権が重要なのかといいますと、地域住民のニーズに即した形での財政運営というのは言うまでもないんですが、私たちは今未知の領域にいるわけでありまして、というのは、高齢化が進んでいる、それから人口が減少していく、これに対して私たちはどう取り組んでいったらいいのかということは、やはりやってみなきゃわからないことというのはたくさんあるんですね。

 論より証拠といいますか、いろいろな自治体がいろいろな取り組みをして、その中でベストプラクティスを見出していって、それが普及していくという、例えば医療に関して言っても、平均在院日数の問題であるとか医師不足の問題とか、いろいろな問題があります。格差是正についても、格差是正と言うのは簡単なんですが、誰をどう助けていったらいいのか、どうやって就労を促進していったらいいのかという問題、これは非常にチャレンジングなんです。

 それについて、やはりいろいろな自治体がいろいろな取り組みをしていく、それを私たちは政策実験なんて言い方をしてしまいますけれども、その成功事例を集めて、それをデータベース化して世の中に普及させていくという、これを可能にするのが地方分権ということになると思います。

 そういう意味におきまして、地方分権を進めていくという観点からも、こうした既存制度の見直しというのは、やはり留意していく必要があると思います。

 ちょっと最後に書いてありますけれども、この地方創生を今後進めていくに当たって、始める前から言うのもなんですけれども、やはり出口戦略というのはちゃんと考えなければならなくて、当然最初は支援しなきゃいけない、それは初期投資みたいなものですから、支援は必要かと思いますけれども、最終的に、自立に向けて地方に対して自助を求めていく、そういう体制づくり、ロードマップをつくっていくということは欠かせないかなというふうに思うわけです。

 ちょうどお時間ですので、私の話は以上とさせていただきます。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

大島委員長 ありがとうございました。

 次に、高橋公述人にお願いいたします。

高橋公述人 ただいま御指名いただきました連合の高橋でございます。本日は、このような場で私たち連合の意見を表明する機会をいただきまして、心より感謝を申し上げます。

 お手元にレジュメを配らせていただいておりますが、働く者の立場から、現在の日本が置かれている状況をどのように見ているのか、また、日本経済の病巣とも言えるデフレを克服し、経済の好循環を実現するための課題、そして二〇一五年度政府予算案に対する問題意識について、発言をさせていただきます。

 まず、日本の経済社会についてでございます。

 日本経済は、この二年余りの間、緩やかな景気回復基調にあるとされています。にもかかわらず、多くの国民の間ではそうした実感を持つことができずにいるのも事実ではないでしょうか。全企業の九割以上を占めるとともに日本の約七割の雇用を抱える中小企業、あるいは全雇用者の四割に迫る非正規労働者にまで景気回復の恩恵が行き渡っていないからであり、特に地方ではそうした状況が顕著であります。

 それは、大企業と中小企業、そして正規労働者と非正規労働者、また男性と女性などの間に処遇の格差、生活の格差があり、その格差のために貧困にあえいでいる国民が多くいるからにほかなりません。

 近年では、主たる生計維持者である非正規労働者がふえており、その多くは、働いても年収二百万円にも満たない、いわゆるワーキングプアとなっています。また、生活保護受給者は、約二百十七万人と増加の一途をたどっています。しかも、そのことが、今や六人に一人と言われる子供の貧困を拡大させています。

 とりわけ、女性一人で家計と子育ての責任を全て担っているような世帯もあります。先日の川崎市の痛ましい少年殺害事件がございましたが、被害者の家庭も母子家庭といったようなことが報道をされてございました。母子家庭では、その七割が貧困に陥っていると言われています。そして、親の貧困は子供へと引き継がれ、いわゆる貧困の連鎖を生み出している、それが今の日本で起こっている現実でございます。

 連合は、働く者の代表者として、この日本を希望も安心もない国にしてはならない、希望する誰もが、学ぶことや、公正で公平な労働条件のもとで働くことができ、人として当たり前の暮らしを営むことができる国にしなければならないと考えています。そのためにも、社会的、経済的に弱い立場に置かれた人に光を当てた政治や政策がどうしても必要だと考えています。

 次に、デフレ克服と経済の好循環の実現に向けて、少し焦点を絞って、三点、意見を述べたいと思います。

 まず第一に、分配のゆがみの是正が不可欠であるという点についてです。

 労働者の賃金は、一九九七年をピークに低下の一途をたどっています。連合の推計では、雇用者の所定内賃金が一九九七年から二〇一三年の間に八%近くも減少している中で、企業の保有する現預金は三割近くも増加をしています。直近でも、過去最高益を更新する企業が多くある一方、実質賃金は十九カ月連続してマイナスになっています。

 こうした分配のゆがみが、GDPの六割を占める個人消費を冷え込ませる要因となっています。そのため、賃上げを起点として、個人消費が活性化し、企業の投資意欲を喚起するような好循環を確立しなければならないと考えます。

 また、大企業と中小企業との間の利益分配についても同じことが言えます。不公正な商取引慣行や下請法などの法令違反によって、中小企業の生み出した利益が損なわれるようなことになれば、従業員の賃金や労働条件の低下だけではなく、競争力の源泉となる設備の更新や人材の育成ができなくなります。そうなれば、ますます大企業と中小企業との間の格差が拡大していくことになってしまうと思います。

 第二に、消費拡大に向けては、暮らしの底上げ、底支えが必要であるという点です。

 現在の日本において、所得が低い人々は、生活に対する希望を持つことができず、強い将来不安を抱えています。そのため、所得が多少増加しても、これを消費に回さずに、将来に備えた貯蓄や日常の赤字の補填に使います。

 また、増加している若年の非正規労働者には、結婚や出産を望んでも、経済的な理由から諦めざるを得ないという状況も起きています。

 まず、正規労働者への転換はもとより、正規労働者との均等待遇の実現を図ることが重要だと思います。そのための第一歩として、最低賃金の引き上げ、社会保険の適用拡大は欠かせません。

 さらには、レジュメの裏側にありますように、世界的に見ても低水準な、税や社会保障での所得再分配機能の強化が必要だと思います。所得税制における累進性の強化や人的控除の社会保障給付への振りかえなど、税制改正における対応をしっかりと行って、所得格差を是正し、暮らしの底上げを消費の拡大につなげていくことが、デフレからの脱却のためにも欠かせない課題だと思います。

 そして第三に、暮らしの安定のための雇用の安定と公正な労働条件の確保についてです。

 暮らしの安定がなければ、余暇を楽しむことも、結婚、出産、子育てといったライフステージで必要不可欠な消費もままならないことは言うまでもありません。しかし、昨年来、暮らしの安定の基盤ともなる労働条件の確保と雇用の安定を図るための労働者保護ルールが脅かされていると思っております。

 政府は、昨年二回廃案となった労働者派遣法改正法案を提出しようとされていますが、この法案は、世界標準である、派遣は臨時的、一時的業務に限ることと均等待遇という二つのルールが確保されていない、世界に例のないものです。

 また一方で、労働時間法制の大幅緩和を行う労働基準法等改正法案の要綱が取りまとめられました。同要綱では、労働側が求めた労働時間の量的上限規制や勤務間インターバル規制の導入を見送って、裁量労働制の対象業務の拡大や高度プロフェッショナル制度の導入を行おうとしています。このような法改正は、さらなる過重労働や過労死の増加を招くことになるという極めて強い危機感を抱くものであります。

 政府におかれましては、働く者の暮らしの安定に向けて、安心して働くための労働者保護ルールと雇用のセーフティーネットを維持強化していただくよう、切に求めております。

 続いて、二〇一五年度政府予算案についてです。

 政府予算案では、社会的セーフティーネットの充実強化による将来不安の解消、雇用の安定と質の向上などを通じた国民全体の暮らしの底上げが不十分であると考えます。そのような観点から、当面の経済運営における重点課題について、三点申し述べたいと思います。

 まず一点目は、男女平等参画社会の実現についてです。

 全雇用者に占める女性の割合は年々増加をしており、今では約四割強になっています。しっかり日本経済の一翼を担っていると言ってもいいのではないかと思います。しかしながら、その半数、つまり二人に一人が非正規雇用労働者で、年収が二百万円未満の女性労働者が約四割います。

 また、職場においては、セクシュアルハラスメントなどがいまだに存在しており、連合が実施したアンケートでも、そうした実態が明らかになっています。加えて、妊娠や出産を理由とした不利益取り扱いや解雇といった違法行為も、マタニティーハラスメントとして問題視をしています。こうした行為は、女性が安心して働き続けることができる環境整備を妨げている大きな問題です。

 さらには、ポジティブアクションの取り組みのおくれも指摘できます。今国会に提出されている女性の活躍推進法案は、これを一定の拘束力を持って推進するものと期待をしておりますが、一方で、非正規労働者を含む全ての女性に対する取り組みを促すものにはなっていないのではないかと、不足感は否めません。

 このように、女性が活躍するための環境整備に課題を多く残す中で、予算案では、規模が小さく、実効性ある施策を講じるためにはまだまだ不十分であると思います。

 二点目は、若年就労支援の強化についてでございます。

 現在、学校を卒業して初めてつく職業が非正規雇用であるといった人たちが四割近くに達しています。そして、そのような若者の多くが、不本意ながらも非正規雇用の職についています。

 若者が将来の生活に対して希望を持って働き続けることができ、長期的にその能力を高めていくことができるよう、政府は、正社員転換の促進や正社員の求人をふやすような方策、いわゆるブラック企業に若者が使い捨てにされることを防止する施策を充実させることが重要であると認識しております。また、いわゆるニートと呼ばれる若年無業者に対する支援を継続的に行うことも必要だと考えます。

 そのために、青少年雇用促進法案を提出するなど、政府が法整備や若年就労支援のための事業を進めようとされていることについては、連合は評価をしているところでございます。しかし、深刻化している求人と求職のミスマッチや、奨学金の返済で経済的な困窮に陥る若年労働者の問題など、対応すべき課題はまだ多く存在していると思います。そうした課題への対応について、さらなる予算措置が必要です。

 そして、三点目でございますが、全世代支援型の社会保障制度の推進についてでございます。

 社会保障関係の予算案については、医療介護総合確保基金の充実や、介護職員処遇改善加算の継続と増額、生活困窮者自立支援法施行に向けた措置など、評価できる部分もあります。しかし、給付の抑制などが示されていることから、問題点について指摘をさせていただきます。

 まず、医療保険制度についてでございます。

 三月三日に閣議決定をされました国民健康保険法等一部改正案では、被用者保険の後期高齢者支援金の全面総報酬割導入によって生じる国庫補助削減分は、国保の財政対策に優先投入するとしています。医療保険制度の抜本的な改革案や国民健康保険制度の適正化策を示さないまま、被用者保険にさらなる負担を求めることについては、被用者保険団体の意見を全く無視するものであり、私たちとしては納得しておりません。

 次に、介護報酬改定についてでございます。

 政府予算案の介護報酬改定は、介護職員処遇改善加算が維持、増額された一方で、報酬本体は大幅な減額となっています。これで本当に事業者が介護職員の処遇改善の取り組みを積極的に進めるのかについては、疑念が残ります。さらには、経営的条件が厳しくなる中で、事業者の事業撤退も懸念されます。したがって、大幅なマイナス改定は再検討すべきであると考えます。

 続いて、生活保護制度についてでございます。

 住宅扶助特別基準の見直しが示されていますが、それによって転居を余儀なくされたり、住居の確保が困難になることが想定されます。また、冬季加算の引き下げは、厳しい積雪寒冷地の生活実態を無視したものと言えます。格差の是正、子供の貧困対策のためにも、引き下げは行うべきではありません。

 そして、四月から施行される子ども・子育て支援新制度についてです。

 政府予算案では〇・五兆円の新たな財源を確保していただいておりますが、本来、保育の量の拡充と質の改善には、当初、一・一兆円が必要とされておりました。いまだに解消されない待機児童の問題や保育士人材不足、保育の質の確保など、すぐにでも解決すべき課題は山積をしております。早急に財源確保に向けた検討を進めていただきたいと考えます。

 連合は、デフレの克服と経済の好循環の実現を最優先課題と捉え、そのためには、暮らしの底上げ、底支え、格差の是正、貧困の解消が必要だと考えています。また、いまだに景気回復の恩恵が波及しない地方における雇用創出や経済活性化についても、みずからの役割として、産官学金労言といった連携の枠組みを使って積極的に関与し、地方連合会も含めた全組織が、希望と安心の社会づくりに取り組んでまいりたいと思っております。

 そのことを最後にお伝え申し上げまして、私からの意見陳述とさせていただきます。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

大島委員長 ありがとうございました。

 次に、無藤公述人にお願いいたします。

無藤公述人 無藤でございます。

 私は、国全体の予算ということで見ると極めて小さいかもしれないことを一つ申し上げたいわけであります。それは、子供の問題であります。

 特に、来年度、平成二十七年度から、新たに子ども・子育て支援制度というものが始まるわけであります。私は、たまたま、内閣府の子ども・子育て会議というのがそのために発足しているわけでありますが、そのまとめ役というのを二年間仰せつかりました。そこでいろいろと学んできたことを、簡単に整理してお話ししたいと思います。

 まず第一に、来年度、二十七年度予算、承るところでは、五千百億円ほどの安定財源という形で子ども・子育て支援制度の実現に踏み出していただけるということであります。これは、長い日本の子供を囲む歴史、特に乳幼児でありますけれども、その中で極めて画期的な制度であり、また、極めて画期的な予算であるというふうに思います。

 私も、社会保障その他予算の非常に厳しいことというのはいろいろな形で承知しておりますが、その中でこれだけの巨額な予算を講じていただけたことは、感謝申し上げるわけであります。

 特に、現在、待機児童問題というものが大都市圏を中心に深刻であります。それはそのとおりでありますけれども、この制度が順調に動いていけば、おおむね五年間、平成二十七年度からの五年間になりますけれども、この中でほぼ解消できるというのは、現実的な見通しになってきたというふうに思います。

 もちろん、現に二十七年度、八年度で困る方はまだまだたくさんいらっしゃるわけでありますので、急ぐべきことは急がなければなりませんけれども、現実の問題で考えれば、四年ないし五年でほぼ解消の見通しが打ち出せたということは画期的なことであると考えたわけであります。

 その点は、言うなれば、子ども・子育てをめぐる量的な拡充の問題であります。それに対して、もう一つ大きな課題があると考えます。それは、幼児教育、保育をめぐる質の向上という問題であるわけです。

 日本の保育、幼児教育の質というのはかなり高いと国際的に評価されてはおりますけれども、しかしながら、欧米また特に東アジア各国はこの二十年間、アジア圏はほぼ二〇〇〇年代でありますけれども、幼児教育、保育に極めて力を入れてきております。

 そういう中で、日本の現在の基準、あるいは補助金のあり方、とりわけ民間の学校法人、社会福祉法人等の運営する幼稚園、保育園等でありますが、それに対する補助金が十分ではない、また施設設備等も十分でないということになってきたというふうに思います。例えば、韓国、台湾、シンガポールなどのアジア圏と比べても、日本がそういう意味では差がつけられ始めてしまったということに対して、危機感を覚えるわけであります。

 既に、よく引用されますけれども、ノーベル経済学賞をもらっているアメリカの経済学者、ヘックマンなどは、子供への投資、とりわけ乳幼児期、幼児教育の投資というものが一番ペイするんだ、大人になってからさまざまな意味で最も利益があるということを経済学的に立証しております。

 そういう意味で、この質を上げるということは非常に重要なことです。つまり、単に幼稚園、保育園に預ければ自然にそこで子供たちの教育ができるというものではなくて、質の高い保育者が質の高い施設設備の中でしっかりと教育をすることこそが重要だと考えるわけです。

 その意味で、私の資料の次、幼稚園、保育所、認定こども園の質の向上ということで、若干申し上げたいと思います。

 そこに書いてあることはやや細かいことなので、説明を省きたいと思いますけれども、基本的には何を望むところであるかと申し上げますと、保育をする、子供を預かって幼児教育を進めるというのが専門的な業務なんだということを明確にすることであります。

 そのときに、特に、民間の幼稚園、保育園等と公立の幼稚園、保育園等で働く方を比べますと、その処遇また研修の機会にかなり差があるわけであります。例えば、詳細な正確な数字ではありませんが、極めて大ざっぱに申し上げると、十年以上勤務して三十歳代で見れば、年収でいうと百万近い差も出てくるということであります。もちろん、これは地域ごとの差がかなり大きいので、例えば東京都と東北地方の各県と比べると大分違うとか、そういうことはもちろんあるんですが、全国平均的にそういったことが言えるわけです。

 私が申し上げたいのは、単に補助金をふやしてくれということではなくて、専門家が専門業務としての保育を進めるためには、それなりの処遇をしてこそすぐれた人材も集まるし、また、仕事を始めて一生懸命勉強してもらえるような機会をつくる、それによってよいものになっていくんだ、そして、よい子供が育つ、すぐれた学力を持った子供になっていくんだ、こういうことであります。

 そういたしますと、専門家としての処遇というのは、一つは、当然ながら、今申し上げた処遇、経済的な処遇であります。しかし同時に、ただお金をふやしてほしいということを申し上げたいわけではなくて、もう一つ申し上げたいのは、勉強の機会をつくってほしいということです。

 もちろん、保育者というのは、教師と同じですので、短大あるいは四大などを出て勉強してその職につくわけでありますけれども、今、いかなる専門職も、大学のときに学んだその知識で一生涯やっていけるということはないわけであります。そういう意味で、絶えざる勉強が必要ですけれども、その研修の機会というものを勤務時間の中でも保障していく、あるいは、勤務時間外でやるならば、それなりの手当てなり機会をしっかりとつくっていただきたいということであります。

 この研修の機会についても、どの程度時間が保障されているかは、いろいろ調査がありますけれども、簡単に言えば、公立小学校の教諭を十とすれば、公立幼稚園はほぼそれに近いものでありますけれども、民間の幼稚園はそれに対して例えば七割とか六割とか、下がっていきます。そして保育所は、公立であれ民間であれ、恐らく半分前後になってしまうわけですね。

 そういう意味では、私立幼稚園の場合には研修をしたくてもなかなか経費が伴っていないという問題だろうと思いますけれども、保育所の場合にはもっと深刻な問題があります。

 それは、保育所というのは、勤務時間、保育士の皆さんが働く時間、これは全て子供を保育する時間であります。つまり、八時間勤務というのは要するに子供を相手にする時間とイコールであります。そうすると、そこに、例えば保育を見直して検討するとか、勉強の機会を得て園内でいろいろ勉強するとか、そういったことが保障されてはいないわけです。もちろん、大勢保育士がいる場合には一人、二人抜けて外の研修に行くことはできますけれども、なかなか難しい。

 これについても、来年度、平成二十七年度予算の中では、子ども・子育て支援制度として研修時間をふやすということに踏み切っていただいております。しかしながら、それも極めてごくわずかでありますので、さらなる研修の確保が必要であろうと思います。

 特に、保育所保育士については、その勤務というものが、子供を保育するということ以外でも重要なことなんだということの位置づけが必要であると考えております。

 一方で、そういった勉強の機会をふやすとともに、私は、特に来年度、子ども・子育て支援制度で五千億という極めて大きな額が投じられるということであれば、より厳しい外からの評価ということも必要だというふうに思います。つまり、保育というもの、幼児教育というものは公的なものである、公のものであるとするならば、その公のものに対して、外からの専門的なしかるべき評価がなされていいと思います。

 これは別に、個々の保育士や幼稚園の先生方をランキングしろと申し上げているわけではなくて、やはり各幼稚園、保育園、認定こども園に対して、親御さんが安心して預けられるだけの質を確保しているのか、あるいは、国際標準に照らしてしっかりと自分たちの保育の営みをよくしているように努力しているか、そこを外から見る。行政的に、あるいは専門家のかかわりによって評価する。場合によっては、それによってさらにすぐれたところに補助をふやしていくような試みも考えられるのではないか、そんなふうに思っているわけであります。

 さて、もう一つの話題、私の資料の二枚目になるんですけれども、それは、子ども・子育て支援制度の先行きのことであります。

 子ども・子育て支援制度というのは、既存の幼稚園、既存の保育園とともに、新たに認定こども園という幼稚園と保育所を兼ねるものをつくっていきます。その認定こども園を中心として、幼児教育、幼児期の教育をしっかりやると同時に、お子さんを安心して預けられるような場にしていく。幼稚園の働きと保育所の働きを兼ねるということで、これは極めて保護者の要望が高い施設になっております。

 この拡充というのがさらに求められるわけでありますし、また、既存の幼稚園にしても、学校教育としての幼児教育をやると同時に、例えば、預かり保育という形で保育機能も持つようになりました。また、保育所も、もちろん保育をするわけでありますけれども、同時に、幼稚園と同様の教育を進めるという施設になってきているところであります。

 そういう現状を考えますと、今後、認定こども園の拡充、よりその質を高度化するという施策をお願いしたいということであります。

 そして、それと並行して、幼稚園教諭と保育士資格が今分かれているわけでありますけれども、その統合についてもぜひ御検討をお願いし、また進めていただきたいということであります。

 実は、この子ども・子育て支援制度が発足し、法律ができた折に、附帯決議として、幼稚園教諭と保育士資格の統合について進めるというふうになっておりましたけれども、どうやらまだきちっとした議論に入っていないようでありますが、いつまでもこれを延ばすことはできないと考えているわけであります。

 以上、子ども・子育て支援制度にかかわってですけれども、もう一つ申し上げたいことが、幼児教育の無償化の問題であります。

 この幼児教育の無償化というのは、予算としては、子ども・子育て支援制度とは別に組んでいただいているかと思います。

 この幼児教育の無償化というのは、少なくとも、三歳以上、四時間程度、全てのお子さん、すなわち、幼稚園でも保育所でも認定こども園でも、ともあれ四時間程度の幼児教育部分については無償にしよう、こういう考えであろうというふうに理解しております。

 これは、既に十年以上前から一つの施策として打ち出されてきたんだろうと思います。そして、本年度の議論の中でも、そのことの重要性というものを政府・与党の方では特にしっかりとお考えいただいていると理解しております。

 しかしながら、予算的にはなかなか厳しいものがある。すなわち、幼児教育の全面無償化というのは、計算すると八千億程度はかかるそうでありますけれども、確かにこれはなかなか厳しいものだと思います。

 その意味で、来年度、低所得の方に限定して無償化に入るということや、あるいは、細かいことですけれども、多子世帯、上に兄弟がいる場合の無償とか半額ということについても拡大していただいております。これは無償化に向けて第一歩を踏み出すということで、私は非常に画期的であると思いますけれども、やはりこれは第一歩であります。第二歩、第三歩というものをぜひお願いしたい。

 この無償化は、単に少子化対策として、小さいお子さんを抱えている家庭を楽にしたいというだけにとどまりません。もちろん、少子化対策としても恐らくトップに位置づくような重要な施策だと思うんですけれども、同時に、この幼児教育、保育について国が責任を持って進めるんだ、そういう国の姿勢のあらわれだと思うんですね。

 そういう意味では、小学校、中学校の公教育と同様の位置づけ、義務教育ではないにしても、それに近い教育をしっかりと国として行うんだ、そういう考え方を打ち出すことが大事だというふうに思います。一気に八千億といかなくても、そこに着実に進んでいくとともに、先ほど申し上げた専門的な業務としての保育なんだということを明確にしていただくことになろうというふうに思います。

 以上が私が申し上げたい主な点ですが、もう一つだけつけ加えたいと思います。それは、現行の待機児童対策の問題にかかわってであります。

 御存じのように、また先生方にも御努力いただいているこの待機児童の問題が、先ほど順調に進んできているとは申しましたが、実際には、二十七年度、二十八年度ぐらいにおいては相当の混乱が起こる、既に混乱が起きております。その最大の問題は、保育士不足ということであります。

 なぜ保育士が足りないかということでありますけれども、実を言うと、保育士資格を持っている方は十分にニーズを賄える数であります。養成校を卒業する人たちは、日本全体で毎年一万人を超えるはずです。ニーズはそれより多いわけですけれども、なぜニーズが多いかというと、二つの理由があります。一つは、このところ急速に保育所をふやしているということです。しかしながら、もう一つ大きな理由があって、それは離職者の数が多いということですね。

 厚生労働省は潜在保育士と呼んでおりますけれども、それが数十万人から百万人近い数がいるわけです。そういう意味で、保育士を持っている方が働いてさえくれれば、あっという間に保育士不足は解消するわけです。しかも、その方々は、二年間あるいは四年間しっかり勉強し、大部分の方は、何年間かは保育所に勤めていただいて、それなりのスキルを持っている方であります。そういう方をぜひ活用していただきたい。

 そのための施策というものもいろいろ工夫されていると思いますけれども、なかなかまだ効果が出ておりません。もちろん、給料を倍にするということができればそれはすぐに解消するのかもしれませんけれども、それは無理だろうと思います。

 来年度の処遇改善については、子ども・子育て会議の中で三%プラス増です。三%及び人事院勧告のお金ということで、これも現場から見れば、この三%ふえるということは非常に大きな意味があります。また、首都圏の自治体もかなり努力してそれに上乗せしていただいておりますけれども、しかしながら、それだけで保育士不足が解消するわけではないわけですね。

 何とかその潜在している人たちを掘り出し、必要によっては再訓練するなどでやっていただきたい。そうすれば、先ほど申し上げたように、専門家としてしっかり保育するという体制を維持できるというふうに考えているわけであります。

 そして、最後に、五千億の来年度予算についてはもう一度申し上げたいわけであります。

 私は、二年間子ども・子育て会議をやって、最後の段階、非常に気をもみましたけれども、予算案としてそれが出たということで本当にほっとしましたし、また、先生方の御努力に感謝申し上げます。

 しかしながら、それに上乗せするようなことで申しわけありませんけれども、子ども・子育て会議としては、一兆円超の予算があるところで初めて十分な質の改善ができるんだと考えて議論をしてまいりました。最終的に、五千億ほどのお金がどこかで七千億ぐらいと見込んでおります。それに加えて四千億というのは本当に大きなお金であることは承知しておりますけれども、何とかそれに少しでも近づき、将来の日本をつくる子供たちにとってすぐれた環境をつくっていただけるようお願いして、私の話とさせていただきます。

 どうもありがとうございました。(拍手)

大島委員長 ありがとうございました。

 次に、小田川公述人にお願いいたします。

小田川公述人 全国労働組合総連合の小田川と申します。本日は、こういう発言の場をいただき、心から感謝を申し上げたいと思います。

 私の公述は、お手元にお配りをいただいております資料に沿って述べさせていただきますが、その要旨は、安定をした良質な雇用と社会保障拡充に資する予算で、格差と貧困の広がりをとめる富の再配分施策の強化を心から要請したい、この点に尽きると思っております。

 一枚はぐっていただきますと、申し上げます意見の第一の前提は、労働者の暮らしが悪化し続けているという状況認識であります。

 御案内のように、実質賃金は二〇一五年一月まで十九カ月連続してマイナスをしておりまして、その中でも、パート労働者の現金給与額は名目でも〇・一%の減、こういう状況でありまして、一般労働者の賃上げが波及をしない非正規労働者、こういうことが顕著になっていると思います。

 こういう直近の状況の前に、年収二百万円以下の賃金しか得ていない労働者は四人に一人の状況にあり、それらのことが、二〇一五年一月の消費支出が前年同月比で実質五・一%、名目でも二・四%の減少となっていることや、あるいは二〇一三年度は家計貯蓄率が初めてマイナスを記録し、貯蓄ゼロ世帯が二〇一四年には三〇・四%にも達している、こういったことに反映をしていると考えております。

 とりわけ、子供がいます世帯、子供の貧困率は二〇〇〇年比で二〇一二年には一・八ポイント上昇しておりまして、次の世代に深刻な影響をもたらすまでになっていることが重大な問題だと考えております。

 一枚はぐっていただきますと、年収の低下状況をグラフにさせていただきました。労働者の賃金の低下、貧困化は、九〇年代半ば以降、より深刻化していることを図表で示させていただいております。

 二つ目の前提は、雇用、労働条件も悪化をし続けているということであります。

 二〇一四年には、雇用者は前年比で三十九万人の増加となっておりますけれども、その内訳は、正規労働者が十六万人減少をし、非正規労働者は三六・七四%と、五十六万人増となっております。正規労働者は二〇〇八年から七年連続をしてマイナスとなっておりまして、その影響は、二〇一三年度大学卒業者のうち非正規労働や一時的な仕事についた者が一八・六%と、若者にも及んでおります。また、女性雇用の五六・六五%は非正規労働に置かれておりまして、女性に問題を集中させていると思います。

 一方で、正規の労働者の総実労働時間は、近年ほとんど変化をしておりませんで、二千時間を超える状況が続いております。日本の男性労働者の一日の平均労働時間三百七十五分、OECD平均の一・四四倍という長時間の状況は是正をされておりません。

 このことが、二〇一三年度の過労死の請求件数などにも影響していたり、あるいは、介護をしながら働いている労働者、二百四十万人いますけれども、このうち、介護、看護のための離職は五年間で四十八万人に上り、うち八割が女性になっている、こういう状況にも反映していると考えております。

 一枚はぐっていただきますと、非正規労働への置きかえが九〇年代後半から進行していることをグラフ化させていただきました。この点もぜひ御理解をいただきたいと思います。

 申し上げましたような、労働者の暮らしや労働の実態等を是正する施策は、残念ながらこの間十分ではないというふうに受けとめております。とりわけ、再配分機能の低下、これは大きな問題だと思います。

 OECDの調査では、日本の再配分による格差是正効果は〇・〇六九で、貧困大国と言われておりますアメリカよりも低くなっております。

 相対的貧困率は、二〇一二年には一六・一%と上昇し、年々悪化をし続けておりますし、再配分施策の一つの柱であります年金は、二〇〇三年以降二〇一二年までの間に一二・五%低下をしております。あるいは、現役世代の配分施策と思います失業保険の給付状況は、二〇〇〇年代半ばには二〇%台前半にまで低下をしておりまして、この点でも再配分の機能低下は著しいと思います。

 一方で、資本金十億円以上の企業五千社の内部留保は、一九九七年度と比較をいたしますと、二〇一三年度で二百八十五兆円と倍増している状況にあると思います。

 短期的に見ましても、二〇一二年七月から九月の期と二〇一四年七月から九月の期、この二年間を比較いたしましても、雇用者報酬は四千三百二十億円減少し、貯蓄なし世帯は四・四ポイントふえた一方で、資本金十億円以上の企業の経常利益は四兆六百九十六億円増加をし、百万ドル以上の富を持つ富裕層は九万一千人増加する、こういった格差拡大の方向が加速をしているように私どもは受けとめております。

 一枚はぐっていただきます図表は、先ほども申し上げました、税、社会保障による格差是正効果にかかわる国際比較の図表であります。

 もう一つが、賃金低下の一方での内部留保の増加、もう一枚はぐっていただいたところにつけさせていただきました。

 こういった再配分機能が低下をする中での労働者の賃金低下あるいは非正規労働者の増、こういう状況があるわけですので、このことを私なりにまとめてみますと、一つは、低所得も要因とする非婚者の増加、少子化の進行、こういう問題があるのではないかと思います。二つ目に、社会保険から非正規労働者が排除をされ、社会保険制度の持続可能性が低下をしている、このことがあるように思います。三つ目は、安定した収入を得ていない若者の増加が、結果として、奨学金返還をめぐる訴訟を増加させるなど新たな社会問題を起こしているということではないかと思います。四つは、就労を急ぐ余りに、ブラック企業など望まない就労の強制が社会的に起きていることだと思います。五つ目は、雇用形態による身分差別とも思える差別的取り扱いが社会的に固定化している、このように考えております。

 男性の既婚率と年収の比例にかかわります資料をその次のところにつけておりますので、ぜひごらんいただければありがたいと思います。

 以上のような労働者の深刻な実態に照らしたときに、二〇一五年度政府予算を拝見いたしますと、幾つかの問題があるように思います。

 基本的な意見だけ申し上げますと、一つ目は、歳入に関しまして、消費税率八%への引き上げの一方で、法人税実効税率を二年間で三・二九%引き下げ、これは多額の内部留保を蓄積しています黒字の大企業に多額の減税を行うことを意味すると受けとめます。したがって、納得性のないものだと考えております。

 歳出にかかわりましては、社会保障の自然増分千七百億円が抑制をされておりますけれども、このことがさまざまな制度改悪につながっており、富の再配分機能をさらに低下させ、格差を拡大し、貧困を深刻化させる方向に向いているのではないか、このように考えます。

 また、二〇一四年度補正予算と合わせまして五兆円を超過いたしました防衛費は、社会保障費抑制の一方での増加の内容でありまして、バターより大砲の配分であって、これも納得できるものではない、このように考えております。

 さらに、雇用にかかわりましては、雇用調整助成金を三分の一に減額し、企業のリストラ支援の労働移動支援助成金を増額しておりまして、これは企業都合による雇用調整を加速するものではないか、言葉をかえれば、リストラ促進の施策ではないかというふうに思います。

 加えまして、東日本大震災からの復興がおくれておりますが、とりわけ資材、労務費等の高騰による入札不調が、多くのところから声が上がってきております。その点での特別の予算措置の実施を要請いたしたいと思います。

 次のところの表に、介護報酬の引き下げにかかわります問題点をつけさせていただいておりますが、私どもの調査でも、介護労働者の現在の平均賃金は二十万七千七百九十五円で、全労働者の平均賃金よりも約九万円低くなっております。この是正が求められているときの介護報酬の引き下げという問題の大きさについては、ぜひ御意見を申し上げたいと思います。

 次に、労働者の暮らしや雇用の現状を踏まえ、私どもは次の点で要望を申し上げさせていただきたいと思います。

 一つは、非正規労働者増を抑制する施策であります。二つ目は、実効性ある労働時間短縮策の実施であります。三つ目は、貧困と格差の是正も目的にした最低賃金制度の拡充であります。

 一つ目の非正規労働者増を抑制する施策にかかわりまして、第一は、派遣先企業での常用代替防止の歯どめのない労働者派遣法改悪法案の再々度の提出が予定をされているやにお聞きをしておりますが、断念いただくよう強く要請をしたいと思います。労働者派遣制度は、臨時的、一時的業務に厳格に限定をし、派遣先の労働者との均等待遇の義務づけなど規制の再強化と行政による指導の強化こそ必要だと考えます。

 第二に、雇用の七割を支えております中小企業対策予算の拡充、労働者のスキルアップのための合同職業訓練などの人材育成策などを要請したいと思います。なお、税制改正に盛り込まれております外形標準課税の資本金一億円以上への拡大などについては、中小企業支援策に逆行するものだと私どもは考えております。

 第三に、企業都合による雇用調整目的の労働移動支援助成金の拡充ではなくて、雇用調整助成金制度の活用促進と、労働者都合による移動を保障する雇用保険制度などの拡充を要望いたします。とりわけ、雇用保険制度にかかわりましては、失業手当支給期間の延長、公共職業訓練の拡充などで、望まない就労の回避をぜひお願いしたいと思います。

 二つ目に、実効ある労働時間短縮制度の実施にかかわりましてであります。

 この点でも、政府で検討されておりますプロフェッショナル労働制、裁量労働制などの規制緩和は、一日八時間、週四十時間労働制の原則を形骸化させる労働時間の制度の改悪だと考えますので、撤回されるべきものだと考えております。先ほど述べました労働者の実態、長時間過密労働の状況などからすれば、所定外労働時間を月四十五時間などとしております厚生労働省告示の法律事項への格上げ、勤務時間インターバル制度あるいは夜勤労働者の法定労働時間短縮などの実施を強く要請いたします。

 第二に、過労死防止対策予算の拡充を、法が成立したことも受け、改めてお願い申し上げたいと思います。

 第三に、人材不足分野が明らかになってきておりますけれども、こういう分野での人材育成の強化、公契約法の制定など、重層的下請構造のもとでも労働者の処遇改善が図れるよう、御検討をお願いしたいと思います。

 第四に、労働基準監督官の大幅増員も、労働時間短縮の実効性ある対策だと考えます。

 三つ目に、格差と貧困の是正を政策目的に確認をいただき、最低賃金制度の拡充を図っていただきたいと考えます。

 当面、最低賃金時給千円以上を政策目標に、中小企業に対する社会保険料の事業主負担分の軽減措置、あるいは最低賃金引き上げのための補助金、下請取引における公正取引監視の強化、公契約法の制定など、総合的な対策の実施を要望いたします。

 また、現在二百二十一円にまで広がっております地方最低賃金の格差を是正するために、全国一律最賃制度の導入を提案させていただきたいと思います。

 一枚はぐっていただきますと、世界の先進諸国の、現時点におけます為替レートで私どもが試算をいたしました最低賃金の時給の一覧表をつけさせていただいております。

 日本は加重平均七百八十円でありますけれども、他の諸国、スペインを除きまして、いずれもほぼ千円を超える状況に来ているということはぜひ御紹介をしたいと思います。

 次のところにあります図表は、現行の地域最賃制の大きな問題であると考えます地域間格差が人口流出の一因になっているのではないか、このように考えていることを図示したものであります。

 地域最低賃金が高い都道府県に周辺地域から人口が流入をしている。ここでは青森県の企画政策部のコメントを出させていただいておりますけれども、とりわけ、高校卒業あるいは大学卒業時の社会的人口移動にかかわって、こういう賃金の格差という問題が大きな影響を与えているのではないかと考えます。

 もう一枚はぐっていただきますと、出典を漏らしまして大変失礼をいたしましたが、静岡県の人口減少に関する県民意識調査から借用させていただきましたけれども、ここでも、東京圏と名古屋圏に挟まれた静岡県の人口流出要因の中では、収入も含めて雇用に関連する事項が高いこと、賃金格差の悪影響がうかがえることだと考えております。

 以上、雇用にかかわる中心的な私どもの要望三点を申し上げまして、私の公述を終わらせていただきたいと思います。

 ありがとうございました。(拍手)

大島委員長 ありがとうございました。

    ―――――――――――――

大島委員長 これより公述人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。秋元司君。

秋元委員 自由民主党の秋元司でございます。

 きょうは、公述人の皆様、本当にお忙しいところ、わざわざ国会までありがとうございました。きょうの話も含めまして、予算委員会、さらにいろいろな議論が深まったんじゃないのかな、そんな感想を持たせていただいたところでございます。

 時間がありませんので、早速でございますが、それぞれ質問をさせていただきたいと思います。

 まず初めは、佐藤公述人についてでございますけれども、きょうは、地方創生という観点から、そして税のあり方、またあわせて予算の配分、そういった視点から御議論をいただきまして、私もいろいろと参考にさせていただきました。

 とにかく、安倍内閣としても、この地方創生というのは、改革としての本当の一丁目一番地であって、デフレ克服をし、そして、今我が国が直面しているこの人口減少社会または生産年齢人口の低下、特に地方はこれが顕著に進んでいるものでありますから、これを早期に解決し、日本全体として経済も含めてどう底上げをしていかなくちゃいけないか、大きな課題であると思っております。

 そういった中で、きょうお話しいただいたことは非常に参考にさせていただいたと思っておりますが、一つだけ、ちょっと飛んでしまった部分があったんです。それは何かというと、消費税のことについてでございまして、きょう、レジュメの中にも、今後、税のあり方について、例えば、地方法人二税の問題も含めて、消費税を軸とした税体系の構築ということを御提案されていたんですけれども、実は、そのことが触れられていなかったので、このことについてちょっと質問させていただきたいんです。

 今回、安倍政権においても、昨年四月に消費税を上げさせていただきました。しかし、今、景気回復局面にある中において、消費税のインパクトがやはり非常に強かったということもあり、せっかく景気回復局面ありが、それがまた民間の消費が沈んでしまった、こういう要因をはらんでしまいました。

 もともと、消費税についてはいろいろな議論があったわけでございます。一般的には、消費税というのは、やはり景気に左右されにくい側面があったり、雇用への影響が少ないということが言われているんですけれども、日本は、どちらかというと、貯蓄性向、消費性向という考え方からすれば、貯蓄性向は高いんですが消費性向が非常に低いということもあって、これも余り比較はできないかもしれませんけれども、余りアメリカ人のようにばんばん物を買うといった国民性ではないということも現状である中において、あえてこの消費税ということに対して今回御提案されているその理由をも含めて教えていただきたいと思います。

佐藤公述人 ありがとうございます。

 消費税を軸にした税体系の構築ということですが、これは実は世界的な流れであります。ドイツ、イギリスにおきましても、一方では法人税を下げながら、あるいは社会保険料を下げながら、消費課税、彼らは付加価値税と呼んでいますが、これらを上げるというのが一つの流れになっております。

 ここで、まさに消費税の効果なんですが、長い目で見た視点と短期的な視点にちょっと分けて考えないといけないと思うんですね。

 短期的にはとおっしゃると、まさに御指摘のとおりで、実は、消費税というのは景気に対するインパクトは強いと思います。特に、日本人は非常に財布のひもがもともとかたい民族なのかもしれませんし、先行きがちょっと不透明だということもあって、なかなか皆さん、実際、積極的に消費をするということはないようなので、やはり短期的に見ると、かなり、思った以上に、我々経済学者も多分予想した以上に今回の消費税増税のマイナスのインパクトは大きかったと思います。

 では、結果的に消費税を上げるべきじゃなかったかというと、そうではなくて、やはりそれに合わせた形での景気対策をすればよかったんですね、本当は。それが足りなかったんだと思います。

 長期的にはと言われますと、これは自信を持って言えますけれども、やはり世界的に見ても、消費課税というのは成長に対しては資する税金です。もちろん、増税じゃないかといえばそうですけれども、ただ、法人税や所得税や社会保険料とか、ほかの税目に比べますと、OECDの統計分析なんかによっても、やはり消費税の方が成長に対するインパクト、マイナス影響は少ない、逆に消費税にシフトした方が成長促進になるという結果がありますので、そこは短期的な観点と長期の観点に分けて考えていく。

 もしこの次に二%上げるということであれば、そこは、短期的な景気対策はしっかり打ちながら長期の成長を見込む、こういう整理が必要なのかなというふうに思いました。

秋元委員 ありがとうございました。

 もう一つの視点をちょっとお伺いしたいんです。

 これまで、地方創生という視点じゃありませんけれども、我が国として、地方の活性化ということも含めたり、または予算を使わない形でどう経済活性化を練るかというのに、例えば構造改革特区であり地域特区であり、そして直近では国家戦略特区と言われる、この特区というものを大分やってまいりました。当然、その分野分野においては成功した事例も幾つかあるんですけれども、しかし、大きな流れとして、国全体として特区の利益ができてきたなというところまでなかなか望めない部分がまだ私も客観的に見るとあると思うんです。

 この特区について、それぞれいろいろな特区をやってきましたけれども、地方創生という観点からちょっと佐藤公述人の御評価を、また見解をいただきたいと思います。

佐藤公述人 ありがとうございます。

 今回、国家戦略特区とかはカバーできませんけれども、やはりもともと日本というのはどうしても規制が全国一律なので、どこかでまず成功事例を積み上げながらそれを全国に普及させる、こういう観点で特区というのを行われてきたと思います。

 どぶろくとか雇用関係とか港湾であるとか、いろいろと細かいのも幾つかありますけれども、とりあえずやってみることによって何らかの成果を得ている分野というのは多分あったとは思うんです。

 ただ、残念な点が二点あって、一つ目は、恐らく、成功事例と失敗事例をちゃんと客観的に、あるいはデータベース化する形で評価ができていたかどうかだと思うんですね。どうしても、何となく、うまくいった、うまくいかなかったという感じで、何かその次のステップ、失敗例も立派な教訓になりますので、それをちゃんと次に生かすような施策体系になっていたかというのはちょっと問われるかなと思います。

 それから、岩盤規制と言うとあれですけれども、やはり特区だから皆さんは認めている、中央官庁は特区だから認めている、いざ全国で普及させるとなるとやはり二の足を踏む、これが今までの流れかなと思うんですね。

 でも、ここはやはり、成功事例を地道に積み重ねていくということと、ちゃんとそれを分析、情報として共有できる環境というのをつくっていく必要があったのかなというふうには思うんですけれども、ただ、可能性は、こういう国ですから、特区の中で成功事例を積み重ねていく、こういうやり方が一つの構造改革の進め方かなとは思っております。

秋元委員 ありがとうございました。

 それに関連しまして、これは少し余談ぽい話でありますけれども、私、これは民間の世界だから余り国、政府が言うことじゃないかもしれませんが、実は、プロ野球、日本は非常に野球の文化に精通している国でありますから、大分サッカーについてはいろいろな地方チームが出てきて活性化しているんですけれども、プロ野球だけは相変わらずセ・パ合わせて十二球団であります。

 これを十六球団ぐらいにするという、まさに中央で成功したコンテンツを地方に持っていくということの中で、私は、これは地域再生には一番、ブロックも含めて非常におもしろいアイデアじゃないのかなと実は個人的にずっと思っているんですけれども、なかなか世の中このことを言及される方が少ないもので、プロ野球の十六球団化、何か御感想があれば教えてください。

佐藤公述人 私もどっちかというと野球派なので、Jリーグに比べると、やはりプロ野球は、具体的に言えば某巨人が僕はいけないと思っているんですが、東京を基盤にしているんですよね。東京が全国区になっちゃっているので、果たしてそれでよかったのかなと思います。

 でも、そうはいいながら、四国リーグであるとか、地域地域に少しずつリーグ制はできていますので、やはり地元からスポーツを育てていく、そういう視点は、野球は特にできるのじゃないかなというふうには思っているんですけれども。

秋元委員 ありがとうございました。

 次は、ちょっと高橋公述人にお伺いしたいんですが、私も実は今子供をちょうど育てる世代でございまして、今我が子は、五歳の双子を持っているんですけれども、私も実はイクメンを大分やらせてもらっております。

 自分の経験もさることながら、育休につきましては、大分、企業も社内の、特に役所を通じて、男性が育休をとるようになってきているんですけれども、産休という分野までもう少し男も広げてあげると、実は、多分、女性から見て一番つらいのは、お産前とお産、特に直後、この一年間というのが一番きつい時期じゃないのかなと私は思いますので、今、政府の方でも、内閣府の方でも、この産休プロジェクトというものを始めていこうという声があるんですが、この辺の感想について、高橋参考人と、あとは無藤参考人も含めてお願いしたいと思います。

高橋公述人 御質問ありがとうございました。

 実は、私ごとですけれども、私も三人の子供を産んで、仕事を続けながら今までやってきているという状況ですので、子供を産み育てながら、働きながらという経験をした女性の一人でありますので、今、夫といいますかパートナーがどれだけ育児やそれから出産も含めてかかわってくれるのかというのは、やはり物すごく関係があるのかなと思います。

 ある調査ですけれども、一人の子供を産むときには女性は何を考えるかというと、自分のキャリアが続くのかどうかということを考える。二人目の子供を産むときには、夫がどれぐらい家事、育児にかかわってくれるか。それから、三人目を産むときには、どれくらい財政といいますか家計に余裕があるかということで、やはり産み方を考える。

 まさしくそうだなというふうに私も思いまして、育休というのは、割と法制度もきちっとできてきまして、男性もきっちりとれるようになった。ところが、男性は二・数%ですか、まだまだ十分とれていないというところで、制度をしっかり周知させるということや、それから何といっても職場環境というのは必要だと思います。

 それと、今おっしゃられました産休についても、子供を産むということでは、女性にとっても非常に気持ち的にも不安になる、やはりそういったところで、夫がきちっとそのところをわかってあげられるような体制をつくるというのは非常に大事なことだと思いますので、そのあたりについてもぜひ御検討をよろしくお願いしたいと思います。

 以上でございます。

無藤公述人 私は、子供の成長を研究している立場で、母子関係についても調べております。

 一つは産休なんですけれども、産休を一律の制度として拡張するということよりは、一つは、妊娠中の母体保護等のことを考えたときに、個人ごとにとれる休暇制度のようなものが要るということなんですね。

 妊娠されている母親の場合に、生まれる前の日まで働いて元気いっぱいの人もいます。それから、いわゆるつわりもほとんど経験しないという方もいます。一方で、非常にしんどい、あるいは妊娠中毒症その他で数カ月も入院される方もいる。そうすると、そういうかなり苦しい立場の方にとっては、当然、働いている場合には休暇等は消えてしまいますので、その問題に対応できないかというのが一つです。

 それから、出産後は、私は産休と呼んでも何でもいいんですけれども、やはり育児休暇を確実にとれるということですね。これはなかなか中小企業あるいは個人事業の方にとっては厳しい条件ですが、それを何とかしていただけるかということが一つ。

 それからもう一つは、これは保育所の問題とも絡みますけれども、例えばスウェーデンなど北欧の場合には、育児休暇はほぼ全員がとりますけれども、それに加えて、育児休暇をとるのが大体一年半前後になります。そういたしますと、実は、北欧に行きますと、ゼロ歳児保育というのはほとんどないわけですね。

 もちろん、ゼロ歳児保育というものは、しっかりとした保育であれば子供が健全に育ちます。そうですけれども、そのような質の高い保育を実現するのは極めてコストが高いわけですね。

 東京都の場合ですと、ゼロ歳の保育というのは、お子さん、赤ちゃん一人当たり、月に大体三十五万から四十五万程度かかるわけです。そう考えると、実は一人当たり十万円でも二十万円でも渡した方が安いわけですが、もちろん誰にでも渡すというわけにいかないので難しいと思いますけれども、実は、制度をうまく設計できれば、育児休業の方が国全体としては安上がりかもしれないということなので、ぜひ御検討いただければと思います。

秋元委員 多分時間がもうあと三十秒なもので、三十秒だけいただいて。

 きょう、特に高橋参考人からも、労働者にまつわるいろいろな議論をいただきました。確かに、もっともっときめ細かくフォローしていかなくちゃならない部分は多分あると思います。特に、弱者、低所得者対策というのは顕著なところがあると思うんです。

 ただ、安倍内閣、少なくても三年前からスタートする中において、非常に景気が、やはり特に大手を中心によくなってきたということも含めて、労働環境も所得面も大分変わってきたんじゃないのかな。そういったことに対する労働者の皆さんの評価というのはどういった感じなのか、短くで結構でございますから、最後にこれだけをお聞きして終わりたいと思います。

高橋公述人 ありがとうございます。

 確かに、緩やかな景気回復基調が続いている、先ほど申しましたけれども、円安それから株高といったようなことで景気的には少し回復基調だというふうに思いますけれども、職場の中で言っているのは、限られた産業のところでの潤いはあるけれども、特に輸出産業等々は潤っているというような状況もありますけれども、やはり、輸入産業といいますか、そういった原材料を使って何かをつくるといったような中小企業とか、そしてまた地方、そういうところにはまだまだ届いていないというようなところで、多くの働く者、生活者の感覚としてはまだ実感をしていないといったようなところでございます。

秋元委員 以上で終わります。

大島委員長 次に、中野洋昌君。

中野委員 公明党の中野洋昌でございます。

 本日は、大変御多忙な中、四人の公述人の皆様には大変に貴重な御意見をいただきました。心より感謝を申し上げます。今後の予算の議論、またこれからの政策立案という意味で、大変に参考になる御意見が多かったな、このように思います。

 時間も限られておりますので、手短に質問をさせていただきますけれども、まずは、佐藤公述人にお伺いをしたいんです。

 地方創生、まさに今安倍政権として取り組んでおります。さまざまな地方も私回らせていただくこともありますけれども、やはり皆さん、非常に危機感を持って各地方は取り組んでおられるんじゃないかな、こういうことを感じております。

 その中で、少し気になりました点がございまして、もう少し、佐藤さんの意図したところというか、思いを説明していただければと思ったのが、この資料でいうと十七ページでございます、「地方創生に向けての考え方」というところで、経済政策と社会政策というところをもう少し峻別して考えていった方がいいんじゃないかという議論がございます。

 ここの資料を少し見せていただいて、確かにそうかもなと思う部分と、これが全て本当に当てはまるのだろうかと思う部分と二つございます。

 と申しますのは、これを素直に見ますと、それぞれの地域の中で、経済であるとか産業であるとか、自立してしっかり伸ばしていける、そういう強い地域もあれば、必ずしもそうでない地域もある。強い地域を、資源を投下してしっかり伸ばしていくことによって、自然とそのほかのそうじゃない地域も救済をされるんじゃないかというような見え方もしたんです。

 ただ、他方で、私は、いろいろな離島部であるとかそういったところ、かなり過疎地域にも行きますけれども、そういったところはそういったところなりに、地方創生をしていくやり方というのを皆さん知恵を絞っておられまして、恐らく、それぞれの地域なりに自立に向けてやれるべきことはあるんじゃないかなというふうな思いも他方で持ったのも事実なんです。

 また、大きな議論でいいますと、確かにそれぞれの市町村ごとに考えるとそうかもしれないけれども、もう少し広目で、都道府県であるとか、あるいは方面であるとか、大きな観点から見れば、核を育てていく、成長の軸となるようなところをしっかり育てていく、そういうもう少し広い視点に立って、地域全体の地方創生というか、そういう観点で強みを伸ばしていくという観点も確かに必要なのかな。

 私はこの二つの感想を持っておりまして、これについて佐藤公述人はどのようにお考えかというのをもう少し詳しく聞かせていただければと思うんです。

    〔委員長退席、平沢委員長代理着席〕

佐藤公述人 恐れ入ります。ちょっと時間がなくて、舌足らずな説明で申しわけありませんでした。

 まさに、経済政策という観点は、言及がありましたように、ある種の拠点形成という面があると思います。そこで、ある種、できるだけそこに労働を含めた資源を投下して成長を促していく、結果的に自立をさせていく。

 ただ、全ての地域がそれができるかというと、そうではない。まさに、離島については幾つかのケースがあると思います。頑張っているところもあって、そこを頑張るなと言う気はないので、ただ、なかなかそれが難しいところもあると思います。そこについては、やはり社会政策という形でしっかり手当てをしていくということ。

 それから、もう一つ、厳しいんですけれども、やはり経済政策の中に、ある種、新興産業の育成もありますが、逆に、古い産業の退出という面もあるんですね。そうなってくると、退出していった人たちがいるわけですから、それに対する手当てというのもしなきゃいけない。

 ですから、経済政策をやって伸ばすところは伸ばそう、でも、そのかわり、そこからこぼれてしまった人たち、あるいはその地域というのは、しっかり社会政策という形で受け皿をつくっていきましょう、この二頭立てでいきませんかということです。

 これまでは、どうしてもどっちかに偏るものですから、片手落ちになりがちだったのかなと思いますので、こういう組み合わせでいきませんかという提案でした。

中野委員 非常にわかりやすい御説明で、非常に参考になりました。ありがとうございました。

 続きまして、高橋公述人にお伺いをしたいんですけれども、社会的、経済的に弱い立場に置かれた人に光を当てた政策をやるべきだ、まさにおっしゃるとおりだと思います。しっかりやってまいりたい、このように考えております。

 その上で、今国会で議論されていく政策について、その評価あるいは改善点という意味で、もう少し詳しく教えていただければと思うんです。

 ここでお話がございました、例えば若年者の就労の問題。最近特に、若者を使い捨てにする企業、いわゆるブラック企業と呼ばれるような、こういうところもクローズアップをされてまいりました。若い世代にお話を伺うと、やはり非正規雇用の方であるとか、なかなか将来に希望が持てない、こういう御意見も確かに多かった、こういう思いもございます。

 しっかり若い人たちの雇用に力を入れていかないといけない、こういう思いでやってまいりまして、今国会におきましては、青少年の雇用の促進に関する法律ということで、新たな法律をつくっていく、こういうこともやらせていただきますし、御指摘のございました女性の問題、特に女性の貧困層がふえている、こういう御指摘もございました。女性が輝く時代へということで、女性の活躍の推進法案、こういうものもつくらせていただいているわけでございます。

 こうした政府の取り組みに対する評価、また、もっとここに力を入れていくべきだ、こういう改善の御指摘、こういうものがあればぜひ教えていただければというふうに思います。よろしくお願いします。

高橋公述人 ありがとうございます。

 私の方からは、今いただきました若者雇用の問題と、それから、女性が働き続ける、活躍推進といいますか、その二点について御意見を申し述べます。

 今先生がおっしゃいましたように、非正規労働者は特に若者がすごくふえている。大学を卒業しても最初の仕事は非正規という若者も結構ふえていまして、就職活動が非常に今複雑化しているということや、それからまたミスマッチといったような、そういうこと。それから、おっしゃいましたような、いわゆる長時間労働などでブラック企業が横行している、そういった状況で、非常に職場環境が厳しいなというふうなところで、今回提出を予定されています勤労青少年福祉法等の一部を改正する法律案、これについては、私どもは非常に期待をしているところでございます。

 なぜかというと、就職に関する情報をきっちり出すということ、そういったことはちゃんと方向性として出されておりますし、そういった意味でも、若者にとってはちゃんと見える形で、就職、そこの企業がどういう状況なのかといったようなことも見える形で受け取るということについては一定効果があるのではないかなというふうに思います。

 しかしながら、やはり貧困の連鎖、固定化などで、経済的に学校に行けないといったような若者たちは、中退をせざるを得ない者もあります。そういった意味では、経済的な格差を埋める意味でも、就職の前の教育という段階で、例えば給付型の奨学金の創設とか、そういったものをしながら、きっちりとそこで支援をしていって、そして、学校を出た後、社会に、就職にスムーズにつなげるような、そういったことが必要ではないかなというふうに思っております。それが一点でございます。

 それから、女性の部分ですが、先ほど言いましたように、女性は四割を超えて、非常に働く女性がふえているんですけれども、二人に一人が非正規雇用という非常に不安定な、シングルマザーでいけば、例えばダブルワーク、トリプルワークという、一つのお仕事ではなく、二つ、三つかけ持ちして、それで主たる家の経済を支えている、家計を支えているというようなところがございますので、そういったことをどうするのかといったところが課題としてございます。

 今回、女性の活躍推進法律案、これは、法律ができるということに対しては、私たち女性にとっては非常に心強いということで評価をしています。また、この中では、ポジティブアクションの取り組みということを推進するような具体的な行動計画がきちっと義務化をされる、そしてまた、目標も、数値を定めなさいよといったようなこともきちんとそこに入るということについては、非常に期待をしています。

 なぜかといえば、日本の男女不平等指数でいけば、経済と政治分野、ここが一番のマイナスになっておりますので、そういった意味でも、ポジティブアクションをするということは、指導的立場に女性がたくさん入っていく、そういうきっかけになるだろうということは評価をしています。

 しかしながら、先ほど申しましたような非正規労働者の状況とか、マタニティーハラスメントやそれからセクシュアルハラスメント等々、職場には、妊娠、出産を理由に、それが直接の理由にはならないんですけれども、結果的に解雇といったような状況になっている女性も多くおります。

 そういった意味から、全ての女性が働き続けるような、そういった法案の中身にしていただきたいということを切に願っております。

 以上でございます。

中野委員 ありがとうございました。

 続きまして、ちょっと時間も迫ってまいりましたので、無藤公述人にお伺いをしたいと思います。

 子ども・子育て支援新制度導入に当たりまして、無藤公述人からもいろいろな御意見をいただきまして、まさに、御指摘されている点というのは、私は本当にこれはごもっともだというふうに思います。

 あとは、消費税の増税を今回先に延ばしたわけでございますけれども、その中でもしっかりと財源を確保していくということでやってまいりました。新制度が導入をできる、こういうところへ来たわけでございまして、今後もやはり予算をどう確保していくのかというのは非常に大きな課題であるというふうに考えておりますので、しっかりと政治の場でやってまいりたいと思うんですけれども、今回、その子ども・子育て新制度で、量の拡充というお話と質の改善というお話と二点ございました。

 私も、子供が今、二人で、一歳ともうすぐ三歳、まさに幼児教育、こういうところでございますけれども、特に質の向上についてもう少し詳しくお伺いをしたいと思うんです。

 どうしても、我々、質の確保というと、まずは、例えば保育士さんとかの処遇を改善して人材を確保していくとか、そういうところをしっかりやらないといけない、こう考えておったんですけれども、質の向上の御指摘の中で、例えば専門家の評価であるとか保育のアドバイザーであるとか、さらに質を上げていくための取り組みということで御指摘をいただいておりまして、私は、これも非常に重要だなというふうに考えております。

 もう少し具体的に、今の日本の幼児教育でより改善していくべき点として、例えばこういうところをもっと改善していくべきであるとか、諸外国でこうした質の改善という意味で参考になる取り組みなどあれば、ぜひ教えていただければと思います。よろしくお願いします。

無藤公述人 ありがとうございました。

 質の改善というところで細かいことはたくさんあると思いますけれども、簡単に言えば、それぞれの先生方、幼稚園教諭や保育士の個別の力量を上げる、これが研修の充実ということです。

 これについては、現役で働いている方について研修するためには、そのための人件費をつけないと勉強のために出かけられませんので、これが必要だ。来年度の新たな制度のもとで、若干、その研修日がふえるわけですけれども、もう少しふやしていただきたい。これが一つです。

 それから、二番目は、個別の幼稚園や保育園等のよい実践というものを取り上げて、それを普及する工夫であります。いわゆるグッドプラクティスを取り上げていくという試みですね。

 三番目は、それに近いものですけれども、個別の自治体レベルですぐれた実践をかなり進め始めておりますので、その工夫です。もちろん、財政が豊かであればいろいろなことができるというのは当たり前なんですが、財政が厳しい中でもかなり努力し工夫されている都道府県あるいは市町村があります。そういうところの工夫を表に出し、全国化するということは、乏しい予算の中でもできることであるというふうに思うわけです。

 そういった、すぐれている、あるいはすぐれていない、もっと勉強してほしいというときに、先ほど申し上げたように、できれば客観的な評価基準をつくって、それによって、給与を何とかということよりは、もっと勉強してもらうために、こういうところを努力してほしいとか、こういう工夫をしてほしいということを外から専門家が助言できるような仕組みを導入していただきたい。これも極めて予算がかかるというものではなくて、十分できることであるというふうに申し上げたいと思います。

 以上です。

中野委員 以上で終わります。本当にありがとうございました。

平沢委員長代理 次に、山井和則君。

山井委員 四人の公述人の方々、大変貴重なお話をお聞かせいただきまして、ありがとうございました。特に、格差問題、子供の貧困の問題、地方創生、子ども・子育て支援、非常に多岐にわたって重要な御指摘をいただきました。

 私からは、主に雇用労働分野について、高橋公述人を中心に質問をさせていただきたいと思います。

 今回、残業代ゼロ制度、高度プロフェッショナル制度、そして一部営業職に裁量労働制を拡大するという労働時間法制の見直し、いわゆる残業代ゼロ法案について労働政策審議会で議論が行われました。

 私も、この労政審、毎回傍聴をさせていただきました。残念ながら、経営側、労働側、公益委員、三者構成の中で、最後の最後まで議論がまとまらず、労働側が大反対をする中で、その反対を押し切って、労働時間法制の見直しの法案の要綱まで決められてしまったということで、私もその姿を傍聴しながら非常に残念な思いをしました。

 その中で、改めて、労働側としてはどのような反対理由を出されたのか、そのことをお述べいただければと思います。

高橋公述人 御質問ありがとうございます。

 おっしゃられるように、高度プロフェッショナル制度が導入されるということについては、連合は強く反対をしてきました。

 もし仮に導入するとした場合には、深夜業の回数規制をすべきであると主張したり、休息時間、勤務時間規制ですね、インターバルや労働時間の量的上限規制を入れろとか、あるいは、絶対休日規制は選択的措置ではなく、これらを重畳的に講じるべきだということを常に主張してきました。

 しかしながら、労政審の中では、深夜業の回数の規制は盛り込まれましたけれども、先ほど言いましたような健康・福祉確保措置を重畳的に適用すべきといったような主張は残念ながら通りませんでした。

 さらに、休息時間、勤務間インターバル規制や、それから労働時間の量的上限規制において、一定の時間数については、法案成立後に改めて審議会で検討の上、省令で規定するとされております。ですので、現時点では、こういった中の量的な数字は全く議論をされていないというようなところでございます。勤務時間のインターバルやあるいは労働時間の上限に係る具体的な数値いかんでは、過労死等を防止するどころか、逆に過労死をふやしてしまうことにもなりかねないというふうに考えております。

 また、裁量労働制の見直しについてもですが、非常に問題が大きいというふうに思っております。

 高度プロフェッショナル制度については、例えば年収とか、一定、幅がありますよね。ありますが、これが、企画業務型裁量労働制の新たな枠組みの適用労働者ということでは年収の要件がありません。ですので、新たに追加された法人顧客への課題解決型提案営業業務の範囲に関して、法定指針で対象業務の範囲の詳細を具体的に示すとはしていますけれども、その指針の書きぶりによっては、その範囲が拡大、広がってしまうんじゃないか、そういった疑念が拭えないというようなところで反対をしてきました。

山井委員 今のことに関連して、昨年の六月二十日、超党派、全ての政党が賛成ということで、過労死防止法というものが成立をいたしました。年間百人以上の方々が過労死でお亡くなりになっておられ、また、こういう職場の労働環境関係でお亡くなりになっている方は約二千人とも言われる中で、過労死をなくすということの国の責務、これについて全ての政党、全ての国会議員が賛成の意を示したわけであります。

 にもかかわらず、今回、残業代をなくす、休日手当をなくす、こういう法改正が考えられているということは、今、高橋公述人がおっしゃったように、過労死防止法に反するのではないかと非常に心配をしております。

 さらに、高度プロフェッショナル制度だけではなくて、今おっしゃった裁量労働制の一部営業職への拡大の方は年収要件がありませんから、年収が二百万円でも三百万円でも四百万円でも、まあ残業代込みなのかもしれませんが、事実上、残業代という形では出なくなってしまうわけですね。

 それで、高橋公述人にお伺いしたいんですが、例えば、営業に裁量労働制、残業代ゼロというのは、私は非常に心配をしているんですが、要は、裁量労働制に移行して、営業のノルマは一・五倍にします、それでいて残業代はもうつきませんということになったら、これは本当に長時間労働、過労死というものがふえかねないんじゃないか。営業のノルマというのは幾らでも簡単にふやせますから、営業という職種に裁量労働制を拡大する危険性、このことについて高橋公述人はいかが思われますでしょうか。

    〔平沢委員長代理退席、委員長着席〕

高橋公述人 ありがとうございます。

 営業ということになると、成果というかノルマということになって、労働時間ということよりもノルマ、成果の方が重要になってくるというような観点になると思うんですね。そうしたときに、何をもってはかるのかということが非常に厳しくなってくるのかなと思います。

 今でも、営業だけではないんですけれども、フルタイムの労働者の年間の総実労働時間は依然として二千時間を超えているというところがあると思いますし、それから、特に、先ほどのこともありましたけれども、子育ての世代、三十代については二〇%が週六十時間以上といったようなところで、長時間労働が解決されていないというような状況でございます。

 しかしながら、営業とかあるいは高度プロフェッショナルとなったときに、その時間ですら守られなくなるわけですから、それで成果でということになりますと、私たちが今まで労働するといったことの一番の基本は時間が基準であるということで労働基準法が成り立っているわけですが、それを超えてしまうというようなことになりますと、何をもって成果ではかるのかということと、それから、先ほど言われましたような過労死が非常にふえるのではないかということと、もう一つは、少子化の一因にもなるのではないかというふうに思っております。

 長時間労働は、今までのデータの中でもありますように、過労やメンタルヘルスといった問題だけではなく、仕事と家庭の調和、まさしくワーク・ライフ・バランスといったこともきちんと保障されなくなるのではないかなというふうに思います。

 そこで、先ほど言いましたような、私たちとしては何としてもそこに歯どめをかけなければいけないということでは、労働時間の量的な上限規制をきちっとつけるべきだということや、休息時間、インターバル規制をつけるべきだということをしっかり提起してまいったところであります。

 それから、先ほど山井議員が言われましたように、昨年、超党派で、この国会の中で、過労死をしっかり防止する対策推進法というのができたわけですので、これは私たちは非常に喜んだわけでございます。このもとに、これからこの効果がどうなのかということをしっかり分析していきながら、その対策をどうするのかというところをしっかりやらなくちゃいけないのが、今の私たちの労働規制に関する考えの土壌にあります。

山井委員 ありがとうございます。

 確かに、長時間労働や過労の問題というのは非常に深刻になっておりまして、私も今、個人的に、過労によってうつ症状になられて休職をされている、仕事を休んでおられる方の相談に乗っているんですが、結局、一度過労で体調を壊してしまうと、骨折したというんだったら骨折が治ったら復帰できるんですけれども、メンタルな疾病になってしまいますと、なかなか立ち直りができなくなって、一歩間違うと、本当にこれは一生御苦労されることになってしまうんですね。

 そういう意味では、労働者の健康、雇用を守るということは、結果的に、その方が御病気になられて、労働生産性が、あるいは経済成長につながるはずがないわけですから、こういう労働時間法制の緩和というのは非常に問題があると思っております。

 次に、無藤公述人にお伺いしたいと思いますが、先ほど、子ども・子育て支援ということで、ヘックマン教授、ノーベル経済学賞を受賞されまして、就学前の子供の教育、環境、しつけが一生を左右すると、非常に重要な御指摘をいただきました。

 そこで、例えば一人親家庭ですとかそういう貧困な家庭というのは、五歳までにもっとさまざまな、よい教育、よい保育、よい食べ物等々を提供せねばならないというふうなことをヘックマン教授もおっしゃっているわけですが、子ども・子育ての中の、特にそういう貧困家庭、一人親家庭の、経済的、社会的に厳しい御家庭のお子さん方の支援、こういうことについて、無藤公述人、何か御意見はございますでしょうか。

無藤公述人 まさに貧困世帯の問題、あるいは貧困を含めての家庭環境の格差の問題でありますけれども、非常に重要な問題であり、それに対して保育、幼児教育ができることはたくさんあるというふうに思います。三つほど挙げられると思います。

 一つは、まず、安心してお子さんを預けられる。貧困世帯であればあるほど、もちろん生活保護等もあると思いますが、働く必要がある場合も多いわけです。そういう意味では、働きながら安心して預けられる場をきちんと確保する、これが待機児童解消として一つ重要な役目だというふうに思います。

 例えば、既に不幸な事件もありましたけれども、極めて貧困な中で、正規の保育所に預けられなくて著しく質の悪いところに預けた場合の問題が出ておりますけれども、そういうことをなくす、これが第一であります。

 もう一つは、家庭環境が十分でないからこそ、それを補う幼稚園、保育園の教育なんだと思います。

 そういう意味では、幼稚園、保育園等の環境、また、そこで保育する先生方の資質、能力が上がれば、家庭環境の不利を補うことができる。家庭環境の不利というのは、幼児期は直接出てきませんけれども、それが基盤となって、小学校、特に高学年の学力、あるいは非行その他の問題にあらわれてくるわけです。そういう意味では、幼児期にしっかりとその後の成長の土台をつくる、それがすぐれた幼児教育の役割だと思います。

 三番目は、幼児教育の無償化であります。

 先ほど申し上げましたけれども、極めて低所得の方に対する無償化は来年度から始まりますけれども、例えば年収四百万程度だとして、十分かといえば十分ではないところもあるわけですね、家族数にもよると思いますけれども。

 そういう意味では、やはり無償化の幅を広げて、安心して子供を産み、安心して子供を育てられる環境にする必要がある。それが結果的に貧困による格差を軽減することにつながる、このように思います。

山井委員 ありがとうございます。

 それでは最後に、労働者派遣法について高橋公述人にお伺いしたいと思います。

 昨年の国会で、維新の柿沢先生や井坂先生を中心につくられた同一労働同一賃金法という均等待遇の法案、民主党も一緒になって提出をさせていただきました。きょうも格差の議論がございましたが、やはり、今回の労働者派遣法の最大の問題点は、均等待遇なきままに派遣を拡大する、こういうことでないかと思います。

 さらに、先日、厚生労働省の労働者派遣法担当課長が、派遣労働は物扱いだった、今回の法改正でようやく人間扱いになるんだという問題発言をされました。

 そこでお伺いしたいと思いますが、ヨーロッパでは均等待遇が派遣においても当然でありますのに、その均等待遇という前提なくして派遣を拡大する問題点について、そして、それに関連して、今回の労働者派遣法の改正によって、厚生労働省の担当課長いわく物扱いだった派遣労働が人間扱いに本当になるのか、そのことについて御意見をいただければと思います。

高橋公述人 ありがとうございます。

 派遣法の改正については、この間、二回廃案になったというようなところで、廃案になったというところでは、やはりもっと慎重にやるべきじゃないかというのもありながら、私たちとしては、これは問題のある法案だからというので、本当に安堵していたところなんですね。

 といいますのも、今、山井先生がおっしゃいましたように、労働者派遣法というのは、そもそも世界的にいけば、二つの約束事といいますか条件をきちんと満たしているというのが普通であります。一つは、あくまでも派遣は臨時的、一時的であるということと、もう一つは、均等待遇であるということ。この二つの考え方というのが、もうほとんどの国、いわゆる派遣労働がある国は、その考え方が当たり前であるというようなところでございます。例えばドイツでは、こういったところに違反した場合には、かなりの罰則規定があるというようなところにもなっております。

 そういったのが普通といったときに、今回は、文言は入るというようなこともちょっと聞きました。だけれども、今の専門の二十六業種以外を含め全ての業務で実質的にこの派遣の期間制限を撤廃するということになりますので、今、三年というところでインターバルを置くようになっていますけれども、これがこの法の改正によれば、同じ部署であれば、人をかえればまたそこは派遣でいい、そしてまた、派遣の人を、部署をかえればその人はまた派遣のままずっとというところでいけば、まさしく派遣が普通になっていくといいますか、派遣を望んでいる人にとってはそれはいいのかもしれませんけれども、私たちのデータの中では、不本意の派遣ということはたくさん出ています。そういった中では、幾らたっても正社員に転換できないというようなところになるかなと、大変危惧をしているところでございます。

 ですので、せめて、この派遣法の中では、世界標準と言われる、臨時的、一時的な労働であるということと均等待遇というこの二つの条件は、きっちりと中に盛り込んでいただきたいというふうに思っております。

 それから、課長のは、ちょっと、私たちはそれを聞きまして、それはやはり課長も、課長もというか、名指しではありませんけれども、そういったことを言われるというぐらい、この派遣法は問題であるとみずから言われたのではないかなというふうにも受け取れます。

 以上でございます。

山井委員 どうも大変ありがとうございました。終わります。

大島委員長 次に、重徳和彦君。

重徳委員 維新の党の重徳和彦でございます。

 きょうは、公述人の皆様方、本当にお忙しい中ありがとうございました。

 初めに無藤公述人にお伺いいたします。

 日本の最大の課題の一つが少子高齢化でございまして、少子化、少子化という先細りの言葉から、子供の数がふえていくイメージの増子化なんという言葉を私は使って、子供を産みたいな、育てたいなと思えるような、温かい地域社会づくりというものを目指していくべきではないかと常々申し上げているところです。

 幼児教育のみならず、日本の少子化の原因として、いろいろなものが挙げられると思います。例えば、核家族化が進んできた、都市部に移り住んできた若い方々にとっては必ずしも子育てをしやすい環境にはないとか、いろいろなことがあると思います。

 一方で、海外に目を転じると、フランスが、何といっても、V字回復というんですかね、少子化を増子化の方向に向けた成功事例としてよく取り上げられるんですが、でも、そこにはやはり、家族観の違いとか、社会的背景の違いなどもあると思います。もちろんフランスは幼児教育の無償化ということにはいち早く取り組んでこられた、そういう国だというふうにも認識しております。

 そういうフランスという先進事例を日本に当てはめるときに、そのまま当てはまる政策もあるでしょうし、でも、やはりそこは、社会的な背景が違うんだよ、歴史的背景が違うから必ずしもそうじゃないんじゃないかな、うまくいかないんじゃないかな、いろいろなものがあると思うんですけれども、日本に適用できる政策、ちょっと違う政策、そんなようなこと、フランスの事例でもし御指摘いただけるようなことがありましたらお願いしたいと思うんです。

無藤公述人 フランスだけではなくて、OECD全体としての検討と、日本の場合には、国全体とともに自治体ごとのさまざまな工夫があるわけですね。それらを見たときに、幾つか少子化対応として有効そうなものがあると思います。

 その一番大きなものは、やはり幼児教育の無償化だと思います。

 これは、どういう調査をしても、ほぼ、なぜ子供を産まないか、あるいは子供をふやさないか、特に第二子、第三子の場合に有効だと思うんですが、トップに挙がるのが、教育にお金がかかるということなんですね。

 教育にお金がかかるというときに、義務教育は比較的安いですから、やはり幼児教育、それとともに、当然ながら大学教育だと思いますけれども、とりわけ若い世帯、まだ収入が十分ではない世帯にとっては、幼児教育というものは非常にお金がかかるものだというふうになってしまいます。これが第一であります。

 二番目は、やはり、働きたい女性にとって働く機会を提供しつつ、子育ても可能にするということだと思います。

 それは、働きたい人が妊娠や出産を諦めるということをなくすとともに、世帯ごとの収入をふやしていくことが、お子さんをさらに産んだり育てたり、教育にお金をかけるということにつながるわけですね。

 幼児教育無償化をしても、例えば、多くの人にとって、子供が大学まで進んでほしいと願えば、かなりの授業料がかかるわけです。そうしますと、やはりある程度の収入がないと、なかなか二人目、三人目というふうにはいかないだろうと思いますので、そういうことも含めて、女性が働く、そして育児と両立させるということは大事なことだというふうに考えております。

 なお、ちなみに、女性が働くということについては、いわゆる共働き、フルタイムで継続する働き方もあると思いますけれども、同時に、一時期仕事から離れて育児に専念しながら、後に再雇用をしてもらう、また、学び直しを通して新たな資格を身につけるというルート、これも開発していただくとよろしいのかというふうに思います。

 女性の生涯、非常に長いわけですので、常に育児だけをしているわけではない。それが十年だとすれば、残りの長い人生の中で、当然ながら、働くことを望む方も多い。それを可能にすることが少子化の克服の道であるというふうに考えております。

 以上です。

重徳委員 ありがとうございます。

 次に、佐藤公述人にお伺いしたいんです。

 私自身も、地方自治、地方財政に十六年ぐらい携わってきた立場から、いただいた資料の中で、「手厚い(?)財源保障」という言葉が四ページ目あたりにあって、地方自治、自治体側にいると、手厚く手厚くと考えるわけですが、一方で、国からすると、非常に大きな財政負担にもなっている。だけれども、その裏腹として、国がそれだけ膨大な仕事を地方にやらせている、そういうことでありまして、財源保障なく、今の制度を前提とする限り、交付税というのも、簡単にカットするとか、そういうのは難しい話であるというような話で、なかなかこの分野は難しいという状況にあるわけなんです。

 そういう中で、資料の九ページ目に、地方財政抜本改革ということで、目指すべき望ましい姿が提言されております。

 お金の配分基準というのはいろいろ考えることができるわけなんですけれども、複雑なものだと、それはそれでわかりにくいということで批判もされますし、逆に簡素過ぎますと、人口、面積だけで全て規定するのはおかしいじゃないかと、いろいろなことがあって大変難しい分野だとは思うんですけれども、この九ページ目の新改革試案について少し解説をお願いしたいと思うんです。

佐藤公述人 では、九ページ目について簡単に御説明したいと思います。

 ポイントは、今の地方交付税と国庫補助負担金の間の役割分担をまず整理しませんかということです。

 例えば、規模感で申し上げますと、来年度の予算でいえば、地方交付税ですと十五兆五千億円ですし、国庫補助負担金ですと大体十三兆円ぐらいということになりますから、大体二十八から三十兆円規模の財政移転、これをどういうふうに財源保障の部分と財政調整の部分に分けるかということです。

 財政調整の話は、かつてあった新型交付税に少しイメージは近いのかもしれませんが、いわゆる基準財政需要のところは包括算定、まず人口と面積でいいかというのは確かに問われるかもしれませんが、そこは簡素化して、むしろ財政力の平準化というところに力点を置きましょう。

 まさに、国が地方にやらせている仕事という部分、そこは直轄事業費負担も含めてですけれども、そちらはむしろ財源保障をちゃんときめ細かくするべき分野でありますので、そこは交付金という形で手当てしましょう。

 ただ、交付金であって補助金じゃないというところは、まさにその細かいところ、事業の執行の詳細につきましては、自治体の主体性や裁量に委ねましょう。

 まさに、PDCAなんて最近言われますように、チェックのところ、アウトカム、アウトプットのところをちゃんとチェックして評価につなげましょう。そういう形で、交付金、今の国庫補助負担金のあり方も含めて体制的に見直したらどうか、そういう御提案ということになりました。

 ちょっともう一つ、きめ細かい、どうしてもこういう範疇から漏れる自治体があるのはわかっているんですけれども、それはそれで、激変緩和措置であるとか、まさに過疎対策とか離島措置とか、別途、別の枠組みでやりませんかという。何かそれを全部込み込みで地方交付税という一つの制度の中に入れるから、まさに御指摘のとおり、複雑でよくわからない、本当に効果があるかどうかも含めてよくわからない、そういう制度になってしまうのではないか、そういう問題意識でした。

 済みません、戻る前にちょっと一つ。

 先ほど、中野委員の質問に対する回答のところで、私、何かちょっと余計なことを言ったようで、不適切な発言だったそうで、失礼いたしました。

重徳委員 そうですね、交付税をシンプルにしつつ、補正する部分は別の制度でというのも一つの考え方かなというふうに思いますが、その部分がさらに複雑になっていろいろな制度ができていくということもまた想定されて、なかなか簡単なことではないなとは思っているんです。

 その一方で、もう一つは税源の話があります。引き続き佐藤公述人にお願いしたいんですが、実際、御提案の中でもそうですし、あと、政府も実際、法人課税とそれから消費課税、これを、税源を交換するというような話がありますね。

 確かに、佐藤公述人が御主張のように、法人税というものは、最終的には、消費者に転嫁されればそれは消費税的だし、あるいは賃金を上げないということになればそれは労働者の所得課税的なことにもなるということで、結局は、偏在性があるのが法人課税だし、あるいは景気の波、グローバル化の波に影響を受けるのが法人税だということから、より偏在性の少ない消費税というものが地方にふさわしいのではないか、これはもうかなり一般的な考え方にはなっていると思いますが、さらに踏み込んで、単に税源を交換するだけじゃなくて、税源をもっと地方に手厚くするという方向性が必要ではないか。

 そして、そうしない限り、交付税というのは、今のように調整財源のために国が赤字国債を膨大にまた発行してというようなことになりかねないものですから、もともとの地方税源というものをもっと充実させようというふうに考えるわけなんですが、この点についてのお考えをお聞かせください。

佐藤公述人 税源交換の話なんですけれども、実は今、私たちは多分この段階はもう通り過ぎてしまっていまして、というのは、まず、国も地方も財政状況が非常に逼迫する中で、国の税収を下げて地方の税収をふやしたところで問題の解決にならないわけなんですね。となってくると、やはり、税収そのものを国、地方あわせてふやしていく、そういう努力しかないのかなと。

 どちらの比重をより多くふやすか、つまり、それは、同じ増税をするときに、国税の比重をふやすのか、地方税の比重をふやすのか。ここのところは確かに、国と地方の仕事の量といったものを勘案する必要があるのかなと思います。

 消費税につきましても、当然、地方消費税というのは、今後とも地方にとってみて有力な安定的な財政基盤になるとは思いますが、ただ、それは国にとっても実は同じことなので、やはりそれは、国と地方、お互い歩み寄る形で、消費税を軸にした形での税体系をつくっていくということが必要だと思います。

 ただ、本末転倒なことはしたくないのは、地方の税源をふやすことによって逆に地域間格差がまたさらに広がるということがないようにしないといけませんから、もちろん、拡充するというときには、地域間での偏在性が少ないもの、地方消費税もそうですし、個人住民税とか固定資産税とか、こういったところがやはり対象になってくるのかなというふうに思うわけであります。

重徳委員 ありがとうございます。

 では、最後に、先生の最後のページに、「地方創生の矛盾」ということで「出口戦略は?」と。継続的な支援が補助金依存に結局なっていくんじゃないか、そういう指摘じゃないかなと思うんですけれども、今回の地方創生の交付金に対する評価をお述べいただきたいと思うんです。

佐藤公述人 今回の交付金ですけれども、交付金という趣旨だけのことはあって、本格的に、地方の裁量とかアイデアとか、こういったものはできるだけ酌み取っていきましょうという、そういうのは一つ地方分権の方向としてはかなっていると思います。

 ただ、私も大学の人間で、国から運営交付金をもらっている側からするとやはりわかるのは、交付金をもらいやすくするように、ある種、期限もありますから、国の方針をおもんぱかった形でのアイデアが出されてくると、それは本来の地方のニーズには即していないよねということになりますので、そこは、国と地方、コミュニケーションというか、意思疎通はちゃんとしないと、地方自治体が国の顔色を見た形での提案ということになってしまったら、これもまさに問題含みかと思います。

 交付金に限らないんですけれども、こういった支援というものは、スタートアップ、これから新しい取り組みをするんだというところで必要な当面の資金の提供という性格を持つのが大事だと思います。

 そこで、先ほど申し上げた経済政策とか社会政策の区別なんですが、社会政策ということであれば継続的な支援が必要だ、弱者救済の観点から、格差是正の観点から必要なんですが、経済政策という観点からいけば、最終的に目指すゴールは自立なわけですから、そこはあくまでも初期投資という位置づけであって、継続的にだらだらと交付金を交付するものではないと思います。そこも、やはり今回の地方創生、その目的、狙いに合わせた形での交付金制度の設計が必要なのかなというふうに思っております。

重徳委員 どうもありがとうございました。またこれからも、ぜひ皆様方の御意見を参考にさせていただきたいと思います。

 本日はありがとうございました。

大島委員長 次に、高橋千鶴子君。

高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。

 きょうは、四人の公述人の皆さん、大変お忙しい中、本委員会に出席いただきまして、貴重な御意見をいただきました。ありがとうございました。

 思いのほか時間が短いなと思って聞いておりましたので、簡潔に質問して、簡潔に受けていただければと思います。

 最初に、無藤公述人に伺いたいと思うんですけれども、子ども・子育て支援の来年度予算、五千百億円が画期的だというお話でありました。非常に遠慮がちではないかと思っております。

 そもそも、一兆一千億円が目標であったのではないか。特に質の充実の部分、量と質、両方叫ばれてきました。そこの部分では、三千億ないし四千億について、まだ財源も明らかにされていない中でスタートをして、今こういう事態になっております。

 そうした点では、まだまだ不十分な点があるのではないかと思いますし、多様な保育という中で、私たちは、質の担保というときに、単に、おっしゃいました、お給料を上げていくというだけではなくて、配置基準、小規模であってもきちんと人が配置される、そこも担保されることがやはり絶対大事ではないかと思っておりますので、それも含めて御意見をいただければと思います。

無藤公述人 おっしゃることは、全くそのとおりだと思います。

 量的な拡充に加えて質を上げていくために、では五千億で十分かといえば、十分ではないわけですね。一兆一千億近い額を子ども・子育て会議では提案してあります。それは一〇〇%すばらしいというわけでは決してなくて、やはり国の財政の中でできる限界というのを頭に置きながらも提案してきたわけですので、そういう意味では、ぜひ一兆円超というところを目指していただきたいというふうにお願いするわけです。

 その中でできることを幾つか既に申し上げましたけれども、当然ながら、その中でどうやって保育の質を担保するか、確実に最低限の質を確保し、さらにその質を上げていくための仕組みを組み込むか、これが重要だと思います。

 それは、幼稚園、保育園、認定こども園、あるいはそれ以外の保育の事業があるわけですけれども、どういったものであっても確実にその質を保証できる仕組みにしていただきたい。したがって、それに対する行政的な監査等もしっかりと行っていただきたいと思います。

 また、配置基準というのは、結局、例えば、一人の保育士さんが何人のお子さんの面倒を見るかといったことや、特に保育所の場合には夕方等長い時間ですので、そこで保育士が少なくなり過ぎても困りますので、そういう意味では配置基準の改善が必要です。

 私の話で国際標準と申し上げましたけれども、国際的に見ると、日本の基準というのは、大人、つまり幼稚園教諭や保育士に対する子供の数が著しく多いということです。それでもしっかりやれているという意味では、日本の保育者の皆さんはすぐれているんですが、やはり限度があるのではないか。

 これから質を上げるためには、配置基準の改善に踏み込む必要がある。これも、来年度若干踏み込んでいただけるんですけれども、十分とは私は考えてはおりません。

 以上です。

高橋(千)委員 ありがとうございました。

 党としては新制度そのものには反対をしておりますし、直接契約制度ですとか、公的保育の後退という点でさまざまな意見があります。でも、その中で、質的拡充ということがこれほど叫ばれたこともなかったと思っておりますので、やはりそこを諦めずに、きちんと物を申していくということが必要だと思っておりましたので、ぜひこれからもお願いをしたいと思っております。

 続きまして、小田川公述人に伺いたいと思うんですけれども、今国会でも格差が大きな争点になっております。私は、やはり格差が拡大している、それを本当に是正するための鍵となるのが賃金であり非正規雇用の是正、これが非常に重要ではないか。先ほどの陳述の中でも強調されたのではないかと思っております。

 そこで、今話題となっている残業代ゼロ制度についてですけれども、これは実質賃下げ策になるのではないか。時間ではなく成果で評価される働き方だと盛んに強調されます。しかし一方、成果主義賃金制度や裁量労働制という制度は既にあるわけで、また、成果を求められるがゆえに過労死を生むような長時間労働になっている、そういう現場の実態があると思うんですね。

 そのことをよく御存じの小田川公述人から、ぜひ御意見を伺いたいと思います。

小田川公述人 労働時間管理をしないということになりますと、結果的に、所定内とか所定外とかという概念がなくなってくるわけでして、言えば、割り増し賃金である所定外賃金を払う必要性がなくなっていく、その義務を負わなくなっていくということだと思います、使用者にとっては。

 ということになりますと、実質賃下げということよりも、全体として総人件費そのものを抑制する方向に向かいやすくなっていくと思いますし、そのための方策として使う企業がふえていくことを強く懸念しております。

高橋(千)委員 ありがとうございました。

 まさに総人件費抑制のツールになるのではないかと思っております。また、当然、指摘された過労死を生み出す危険をはらんでいるかと思っております。

 もう一点、派遣法についてなんですけれども、政府はよく、生涯派遣と言われるのはレッテル張りだというふうに言うんですね。しかし、やはり、今回の法案は、人をかえれば、あるいは部署をかえれば、ずっと派遣でいられる。これはもう生涯派遣そのものじゃないか、私たちはこのように思っております。

 今回、前国会で廃案になったにもかかわらず、改めて派遣法が提出される。その際に、前回公明党さんが提出された修正案を法案の中に盛り込むと言っているわけですね。

 私は、これは非常に矛盾にならないかと思うんです。つまり、原則に派遣は臨時的、一時的なものだというふうに書くんだけれども、それを担保する仕組みが全然ないじゃないか。あるいは、派遣がふえた場合、何らかの不都合があった場合、見直しをする、こう言っているわけですけれども、そもそも政府がニーズがあるんだとか言ってきたこととも矛盾をするのではないか、そもそも派遣法の欠点をみずから認めたことになるのではないか、このように思うんですけれども、小田川公述人の御意見を伺いたい。

小田川公述人 派遣法の問題は幾つかの点があろうかと思いますけれども、おっしゃいますように、臨時的、一時的な業務に限定をするというその担保は、二つの方向でやらなければいけないというふうに考えております。

 一つは、派遣元会社における、登録型のような派遣のあり方について規制なり見直しが必要。一方で、派遣先企業で、派遣労働者を受け入れる側の規制といいますか制約が必要。今回出されるであろうと思われます法案の中身を拝見いたしますと、派遣先企業で派遣労働者を使い続けていくための規制というものがないというふうに思っております。

 したがって、おっしゃいますように、臨時的、一時的業務に限定をするというふうに言ったとしても、それは派遣元に対する規制で終わる可能性が非常に強くて、結果として、生涯派遣労働もしくは常用代替としての派遣労働が蔓延をしていくという危険性を強く持っていると思っております。

高橋(千)委員 ありがとうございました。

 そこで、佐藤公述人に伺いたいと思うんですが、たくさん論点がございましたので、ちょっと絞って伺いたいと思うんです。

 法人二税の一部を国税にして、代替として個人への住民税や固定資産税を強化する、その際、応益負担という原則でというふうなお話をされたのかなと思っております。

 ここで、全体の法人税は今減税するべきだ、その財源は赤字でも外形標準課税だというのは、逆に、この法人をめぐる課税というのが果たして応益と言えるのだろうか、これが一点です。

 それから、法人二税を国税にする、それは法人二税が地方で格差があるからというふうなお話をされたんですけれども、ただ、雇用の問題もございますとおっしゃいました。つまり、地方自治体と、地域の企業の雇用や地域産業の問題からいっても、ここは簡単に国税でいいという話にはならないんじゃないかと思いますが、いかがでしょうか。

佐藤公述人 まず、ここで申し上げたかったのは、法人二税の比重を下げるというのは、別に国税化しろというわけではなく、もうはっきり言って、減税していきましょうということになると思います。つまり、それぞれの地域において、企業に対する税負担というのを抑え目にしていくということです。

 企業優遇じゃないかと言われるかもしれませんけれども、でも、企業の仕事は雇用を生み出すことでありますので、税負担を下げることによって雇用拡大の機会を提供する、こういうことは必要だと思います。御指摘のとおり、単に地方二税を国税に置きかえただけでは企業の税負担というのは減りませんので、雇用促進の効果にはなかなかつながりにくいかなと思います。

 外形標準課税なんですけれども、もちろん、一方では、法人税を下げるというときに代替財源が必要になってきます。いきなり固定資産税だ、個人住民税だというわけにはいきませんので、まずはできるところからということで、今回は、法人税の課税ベースの拡大、それから外形標準化の強化というのが図られたわけです。

 外形標準課税は、実際、今のところ一億円以上ということになっていますので、応益課税に即しているかと言われると、本来の趣旨からは少しずれているのかなというのが私の印象です。

高橋(千)委員 なぜこういう質問をしたのかといいますと、もちろん、外形標準課税については非常に大きな反対の意見があるからというのもあるんですけれども、やはり地域では、企業を誘致するときにたくさんの減税措置をいたします。

 ただ、企業が立地するときに、最低賃金が安いからと、そこに張りついて選んで、要するに、人件費のコストが安いということを売り物にして誘致する場合もあるわけですよね。だけれども、撤退するときに何の権限もない、地方自治体には。やはりそういう関係はおかしいんじゃないか。そのことがいろいろ見直しをされて、諸外国、アメリカの一部にもあるし、ヨーロッパにもあるし、もっと地方自治体との関係で、物を言える権限をやるべきじゃないかということを議論してきましたので、その点でどうなのかなということで意見を述べさせていただきました。

 もし何かありましたら、補足で、いいですか。

佐藤公述人 まさに、ちょっと腹の立つ話としては、地方が一生懸命補助金を出したり減税をして企業を誘致したのに、さくっといなくなるというのは実際あるんですね。幾つかの事件があります。

 ただ、一つ考えるべきは、これから地方創生だ、地域経済の活性化だというときにやはり考えるべきは、自分の地元に根差してくれる企業とか産業をどうやって育成していくか。外から持ってくるというのはある種ギャンブル的な性格があって、一発大きい工場を誘致すると雇用が一気にふえるというのはいいんですけれども、でも、そういう企業というのはなかなか定着してくれないわけですね、やはりどこか労働コストの安いところがあれば、そっちへさくっと行ってしまうわけなので。

 やはり、自分たちの地元の中からどうやって有力な産業を育成していくのか。それは農業かもしれません。では、そのために自治体は何ができるのか、そこを考えていく必要があるのかなというふうには思います。

高橋(千)委員 ありがとうございます。大体一致しているかなと思っております。

 最後に、小田川公述人にもう一点伺いたいんですが、最低賃金に地域格差が非常にある、その上でやはり全国一律でなければならないんだという点の重要性について、最後、補足していただければと思います。

小田川公述人 日本の最低賃金の現状を見るときに幾つかの問題点があると思いますが、その一つは、額自体が非常に低くて、生活保護の水準を下回るような水準になっているという問題が一つ。そして、御説明を申し上げましたけれども、地域間格差がこの間非常に広がっているということだと思います。

 最低賃金の低い地域に企業が進出をするという時代ではもうないのではないでしょうか。全体としていえば、近くに消費地があって、その地域に企業が進出をするという状況は強まっているわけでして、必ずしも賃金の低さが雇用の機会をふやす要因にはもうなっていないと考えております。

 したがいまして、御説明でも申し上げましたけれども、現状は、むしろ、近場の賃金水準の高いところに労働力が移動をしている、社会的な人口減が起き始めているというところにこそ、今は問題意識を持つべきだというふうに考えております。

 以上です。

高橋(千)委員 ありがとうございました。

 改めて、全国一律最低賃金、ぜひ実現をしたいと思います。

 きょうはこれで終わりますけれども、貴重な御意見、ありがとうございました。

大島委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。

 公述人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。(拍手)

 以上をもちまして公聴会は終了いたしました。

 公聴会は、これにて散会いたします。

    午後三時二十九分散会


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