衆議院

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第3号 平成24年5月23日(水曜日)

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平成二十四年五月二十三日(水曜日)

    午後一時開議

 出席委員

   委員長 山田 正彦君

   理事 阿知波吉信君 理事 石井登志郎君

   理事 逢坂 誠二君 理事 加藤 公一君

   理事 柿沼 正明君 理事 西野あきら君

   理事 村田 吉隆君 理事 富田 茂之君

      網屋 信介君    磯谷香代子君

      大西 健介君    大山 昌宏君

      加藤  学君    金子 健一君

      川島智太郎君    桑原  功君

      坂口 岳洋君    初鹿 明博君

      花咲 宏基君    早川久美子君

      松崎 哲久君    松本  龍君

      皆吉 稲生君    宮崎 岳志君

      本村賢太郎君    森岡洋一郎君

      山崎  誠君    山本 剛正君

      稲田 朋美君    加藤 勝信君

      北村 茂男君    小泉進次郎君

      高木  毅君    武部  勤君

      橘 慶一郎君    二階 俊博君

      東  順治君    穀田 恵二君

      内山  晃君    中島 隆利君

      山内 康一君

    …………………………………

   参考人

   (慶應義塾大学大学院教授)            曽根 泰教君

   参考人

   (東洋大学法学部教授)  加藤秀治郎君

   参考人

   (東京工業大学名誉教授) 田中善一郎君

   参考人

   (法政大学大原社会問題研究所教授)        五十嵐 仁君

   衆議院調査局第二特別調査室長           岩尾  隆君

    ―――――――――――――

委員の異動

五月二十三日

 辞任         補欠選任

  石井  章君     大山 昌宏君

  勝又恒一郎君     山崎  誠君

  川越 孝洋君     磯谷香代子君

  篠原  孝君     加藤  学君

  齋藤  健君     橘 慶一郎君

  松野 博一君     稲田 朋美君

  佐々木憲昭君     穀田 恵二君

同日

 辞任         補欠選任

  磯谷香代子君     川越 孝洋君

  大山 昌宏君     石井  章君

  加藤  学君     篠原  孝君

  山崎  誠君     大西 健介君

  稲田 朋美君     高木  毅君

  橘 慶一郎君     齋藤  健君

  穀田 恵二君     佐々木憲昭君

同日

 辞任         補欠選任

  大西 健介君     初鹿 明博君

  高木  毅君     松野 博一君

同日

 辞任         補欠選任

  初鹿 明博君     勝又恒一郎君

    ―――――――――――――

五月二十一日

 衆議院比例定数削減に反対し、民意を反映する制度への改善を求めることに関する請願(宮本岳志君紹介)(第一〇八七号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する件(衆議院議員の選挙制度)


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     ――――◇―――――

山田委員長 これより会議を開きます。

 政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する件、特に衆議院議員の選挙制度について調査を進めます。

 本日は、本件調査のため、参考人として慶應義塾大学大学院教授曽根泰教君、東洋大学法学部教授加藤秀治郎君、東京工業大学名誉教授田中善一郎君及び法政大学大原社会問題研究所教授五十嵐仁君に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に一言御挨拶申し上げます。

 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席いただきまして、大変ありがとうございます。参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、曽根参考人、加藤参考人、田中参考人、五十嵐参考人の順序で、お一人十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑にお答えいただきたいと存じます。

 念のため申し上げますが、発言する際には委員長の許可を得ることとなっております。また、参考人は委員に対し質疑することはできませんので、あらかじめ御了承願いたいと思います。

 それでは、まず曽根参考人にお願いいたします。

曽根参考人 ただいま御紹介いただきました慶應義塾大学の曽根でございます。

 私がきょう申し上げますことは、かなり一般論でございます。ただし、この一般論を御理解いただくと、その後の議論が円滑に進むというふうに理解しております。

 最初に申し上げたいことは、四点に関しまして、時間の制約がございますので簡潔に申し上げたいと思います。

 まず、公職選挙法に関しましてさまざまな解釈がございますが、公職選挙法の趣旨を、私といたしましては、政党及び候補者と有権者のコミュニケーションを円滑にするためのルールというふうに解釈いたします。定義を変えるということでございますが、今まである定義を拡張するということでもございます。

 というのは、今までどちらかといえば、べからず集、既に何度も御議論されてきたことですが、ある意味で、普通選挙法以来の規則が、建て増し、増築をしてきた老舗旅館のように非常に複雑な形になっていて理解しにくい。これは、議員立候補者の方からも国民からも言われていることでございます。それを、一言で言えば抜本的に変える必要が、時期としてはあるだろうというふうに思っております。

 そのときの原理は何かということを一言で申し上げると、フェアプレーだと。公平な競争、公平な手続ということでゲームを行うというふうに考えております。そういう意味でいえば、小学生、中学生にもわかるようなルール、それは、政治の世界のゲームもスポーツの世界と同じようにフェアプレーで行うんだ、そういう原理に立ち返れば、わかりやすいルールであることが必要になろうと思います。

 それで、まず第一に申し上げたいことは、現行法の一番のネックというのは、選挙運動期間という概念を設けて、それを政治活動の期間と区別し、選挙期間のみ適用する仕組みになっている、この区別を廃止することが必要であるということをまず申し上げたいと思います。

 これは、選挙運動の期間ということで、選挙活動と政治活動を区別するんですが、両者はいかなる理由で区別可能なのか。政治活動そのものが選挙活動、あるいは選挙活動そのものが政治活動、なかなか実態としては両者を区別することは難しいだろうと思います。

 そこで、この区別を廃止するということをまず最初に申し上げたいと思います。それによってかなりの法律が必要なくなるというふうに思います。

 そうすると、現在行われている選挙期間というものは一体何になるのかということになるわけですが、これは選挙公営の期間であるというふうに理解して、ほとんどの規則を政治活動ということで統合するということを考えております。

 このことと、先ほど申し上げました、政党、候補者と有権者とのコミュニケーションを円滑にするという、むしろ積極的にコミュニケーションを促進するということを政治活動、選挙活動の骨子とする考え方からいけば、現行法にある文書図画利用の制限、選挙期間中に配れるものが限られているとか、文書図画の配布というものの範囲あるいは枚数の限定というようなことが除かれるわけですね。これが自由化されるわけだし、あるいは、戸別訪問というものが禁止されていることが解禁される。あるいは、公開討論会というものもかなり制約を受けながら現在行われているわけですが、これも自由化される。

 さらに言えば、ここ何年か皆さん御議論されてきたネット選挙、インターネット、電子メール等の電子機器を利用した選挙活動あるいは政治活動というものを早期に解禁するという結論になるわけです。

 そういう意味で、まず第一点目として申し上げるのは、先ほどの選挙運動期間と政治活動の区別をなくすということと同時に、コミュニケーションを円滑にする手だてとして、今申し上げたようなことの自由化あるいは解禁ということを考えております。

 そのことは、実は政治資金規正法にも関係してくるわけです。

 政治資金に関しては詳しく申し上げませんけれども、原理原則でいえば、これまた手足を縛るような法律のつくりになっていると思いますが、私自身は、クリーンハンド、あるいは李下に冠を正さずという言い方もございますし、もっと別の表現をすれば、制度倫理的な意味でいえば利益相反の禁止、一般的な原則を理解すれば何が禁止されているかがわかるような、そういうつくりの方がよろしいと思います。

 さらに言えば、寄附、政治献金というものの寄附の文化を根絶やしにする必要はないというふうに思っております。

 具体的には、政治会計というものを創設して、そこに一元化する。現行法ですと、政治資金管理団体、政党支部あるいは政治団体というふうにそれぞれ分かれている資金が一元管理される方がよろしいというふうに思っております。

 そういう意味でいいますと、先ほどの区分をなくすということは、選挙運動費用というのを政治資金の方に組み込む、公職選挙法上の選挙運動費用を政治資金規正法に統合する、こういう理解でございます。

 それをどこに届け出るか、どこが管理するかというようなことは、選挙・政治資金委員会というようなもの、これは現実にはまだないわけですけれども、仮称として、こういうものを創設したらどうかというふうに考えております。

 四点目、選挙制度に関しましても、さまざまな選挙制度の試案あるいはアイデアが出ております。

 現在出ております三つの大きな争点というのは、一票の格差是正、定数削減、抜本的な選挙制度改革というものが出ておりまして、この三つを同時に解決することは可能なのかというのが、多分、きょう今日も議論されていることだろうと思います。

 最初の一票の格差是正問題というのは、これは憲法上の問題でありまして、次に行われる選挙が違憲であるかどうかということが一つの論点であります。憲法が想定するものと現実の政治の競争が一致しているかというと、全てがそうだとは思いませんが、最低限、憲法的な枠組みの中で競争が行われる必要があるというふうに理解しております。

 その中で、一人別枠方式というもの、言ってみれば、これはハンディキャップをつけて競争を行う。プロとアマが一緒にゴルフをやるときにはハンディキャップがあった方がいいわけですが、プロ同士の試合はハンディキャップは必要ないわけで、言ってみれば、政治家が競争するときにはプロ同士の試合であるわけです。ただし、特に地方、地域の格差、東京あるいは首都圏に比べてやや優遇措置をとらなければいけない、だからこそ一人別枠方式だという議論がございますが、これは憲法論のたてつけとしては少し難しい議論と思います。

 というのは、もし選挙で選出された国会あるいは国会議員が、地域格差、所得格差の是正を行うことができないのであるならば、ハンディキャップ説にも根拠があるんですが、現実には、政策的手当てとしてこの是正措置は過去もあるいは現在も行われている。例えば、人種、言語、宗教のような、きょうの少数があしたの多数になれない、こういうような現象があるとするならば、それは選挙制度で手当てをする必要があるでしょうけれども、この場合は、政策的な手当てというものは不可能ではないわけです。そういう意味で、ハンディキャップをあらかじめつくる必要はないという憲法的な解釈には根拠があると思います。

 そこで、定数削減が今論点になっておりますが、消費税の増税の前にやるべきことがあるだろう、しかし、定数削減の前にやるべきことがあるだろうということがもう一つ重要であります。

 それは、選挙制度の改革というのは、政治システムあるいは政治状況の競争関係を変更することであります。

 その場合の政治システムあるいは政治状況というのは何かというと、例えば政権交代が起きやすい、あるいは単独政権になるのか否かとか、二大勢力あるいは二大政党の競争か多党制なのか、代表概念で選挙制度を考える立場と、多様な意見の反映という考えで選挙制度を考える立場の違いがありますし、ここでは衆議院を議論しておりますが、参議院との関係を考えずに選挙制度の設計は無理と思います。このような政治的な状況を理解した上で制度変更、制度設計をすべきというふうに思います。

 そういう意味で申し上げれば、まだ、現在の衆議院の選挙制度というのは、制度設計の理念あるいは制度の意図というのはわかるわけでございます。それに比べて、参議院及び地方議会の選挙は意図がなかなか読み取れないところがございます。

 現在の衆議院の制度を変えるときにどういう原理が必要なのかといえば、これまた、先ほど申し上げましたように公平性の原則が必要になってくる。つまり、現状の変更に際しまして、特定の政党、特定の候補者が有利になったり不利になったりしないこと。

 ただし、これをもし貫きますと、現状維持、例えば現行制度並立制を、小選挙区制の方を何議席か減らし、比例代表のところも何議席か減らす、例えば一〇%ずつ両方削減するというような意見は、現行の変更においてはそれほど大幅な変更にならないわけですが、現状維持になりやすい。ありきたり、あるいはめり張りがきかないと言ってもいいかもしれません。

 そこで、もう少し考慮すべきというのは、現状における不都合な部分の修正であるとか、あるいは、先ほど言いましたように少数党を配慮する、ハンディキャップということをどこまで考慮するか、こういうようなことが必要になってくるだろうと思います。

 ただし、この制度のときにも、実は考慮すべきことというのはたくさんあります。つまり、財政的な理由の議論から選挙制度というのを設計していいものだろうか。つまり、定数削減というのは、専ら財政あるいはみずから身を削るということから議論が主張されておりますけれども、必要なのは、いかなる政治的な政党間の競争関係あるいは政治システムを想定するかであります。

 そういう点で、この設計の際に出てくる幾つかの案を考慮した際に、現状の手直しで済むのか、あるいは大幅な変更なのか、この二つの選択肢の中でとるべき道はどこかということ、これが最終的には選択されることだというふうに理解しております。

 そういう意味でいえば、最低限、一番目の一票の格差の是正は早急に行うべきである、しかる後に定数削減及び選挙制度改革を、つまり、短期で見る改革なのか、中長期で見る改革なのか、あるいは抜本改革をするべきなのか。先ほど申し上げました選挙運動期間とか政治活動の区別を廃止するというのは、これはもう抜本改正です。ただ、できない改正ではないと思います。

 そういう意味で、抜本的なものを今の時間軸の中で一歩一歩進めていく、こういうふうに考えるのが一番妥当な、あるいはわかりやすい改正方法ではないかというふうに思います。

 以上で、私の発言を終わりたいと思います。(拍手)

山田委員長 ありがとうございました。

 次に、加藤参考人にお願いいたします。

加藤参考人 東洋大学の加藤です。

 日ごろ、選挙制度については言いたいことがたくさんありましたので、きょうはお呼びいただいて大変ありがたく存じております。

 まず、私が一番最初に申し上げたいのは、選挙制度については、日本で非常にたくさんの非常識なことが平然と語られているということであります。

 まず大きな一番の特徴は、統治システムとの関係が非常に重要で、その中で選挙制度を位置づけるということを考えなければいけないんですが、継ぎはぎの議論を平気でやるという風潮がどうもあるようであります。

 それで、簡単な例からいきますと、まず誤解ですが、死に票という言葉がございますが、これは日本では落選した候補への投票というふうに理解されておりますが、とり過ぎた票も死に票ではないかというのが外国での一般的な議論でございます。市町村選挙がいいかと思いますが、トップの候補が非常にとりますが、それはとり過ぎた票が議席につながらないではないかというようなことであります。

 次は二党制ですが、日本では、二大政党制と言われるために、二党が伯仲していないと二大政党ではないというような理解が広くなされておりますけれども、政権交代の可能性が重要なのでして、一回一回の議席の差はつくものでございます。

 あとは、少数代表制という言葉が学術用語としてありまして、中選挙区制のように少数の代表も送れるようにという言葉でありますが、これは戦前、東京帝大の野村淳治がつくりました造語でございまして、外国の文献には全くありません。したがって、選挙制度を議論するときは、基本は、比例代表なのか、小選挙区のように多数を代表する多数代表なのかという点を押さえていただきたいと思います。

 もう一つが、選挙制度というと、それぞれが利害得失があってどれも決定的ではないというようなことを語りますが、これは今回の議論でぜひやめていただきたい。それぞれ考えがあって、これがいい、あれがいいと言っているのでありまして、理念のない選挙制度論にならないようにしていただきたいということであります。

 その点で、例えば二十世紀のスペインの哲学者オルテガの言葉を引かせていただきますと、民主政治は、一つの取るに足りない技術的細目にその健全さを左右される、選挙制度が適切なら何もかもうまくいく、そうでなければ何もかもだめになる。選挙制度が適切なら何もかもうまくいく、そうでなければ何もかもだめになるというのですが、日本は戦前から戦後にかけて、中選挙区制という日本で考えられた制度をやってきましたが、それがいろいろな不適切なところを生んでいるわけでありまして、その点のことをよく考えて議論をしていただきたいなと思います。

 現在、身を切る改革ということで定数の削減に話が行っておりますが、やはり基本で押さえるべき点がたくさんありますので、その点は軽視しないで議論していただきたいと思います。

 それで、先ほど申し上げました統治システムでありますが、アメリカとイギリスのことがよく言及されますが、これは物すごく違うものでございまして、日本ではこの両者の違いをかなり簡単に考え過ぎの傾向がございます。大統領制、議院内閣制の違いは御承知のとおりですが、そこのもとにおいての議会というのは全く違うものでございます。

 議会というのを立法府と訳しますと、立法府なんだから立法をしろというふうな議論に行きますが、イギリスは、そういう立法府的なイメージからは大きく外れる議会でございます。与党が内閣として官僚の協力を得て出す法案を野党は批判する。討論さえすればいいので、そこで何か実際の立法を議員自体が担わなければいけないということをほとんど考えていない制度であります。

 日本では、立法府なのだから議員が法案をつくれ、議員が修正をしろということを言いますが、現在の日本の国会の周辺の補助スタッフからいいまして、これはほとんど不可能というか極めて難しいことを、立法府なのだからということで議論しているように思われてなりません。

 ですから、日本はどちらを目指すのか、その点をはっきりしまして、アメリカのように、立法作業を議会がするんでしたら、そのように選挙制度も考える。それで、党の役割がそう大きくありませんから、そうでしたら比例代表とかそういう制度も可能かと思いますが、イギリスのようにやりたいのでしたら、安定政権の創出は極めて重要ですから、小選挙区制などを中心にするというのは自然なことかと思います。

 それで、選挙制度の基本的な知識ですが、多数代表と比例代表とありますが、多数代表制を日本では小選挙区制と言っておりますが、それで間違いではありませんが、そのことが、一人選ぶ場合以外のときにどうなるかが極めて大きな問題になっています。

 それぞれ代表的な論者がいまして、小選挙区のような多数代表制ではウォルター・バジョット、日本では戦前、吉野作造が極めて立派な議論をしております。比例代表制については、J・S・ミルと、戦前では美濃部達吉が唱えておりました。

 この両者を考えますと、戦後の日本の議論は極めて恥ずかしいような議論が展開されてきているように思います。日本では理念の空疎な制度が続いてきまして、外国では、日本だけがやっているものですから、そういうものはジャパニーズ・システムだということでございます。

 先ほどちょっと申し上げましたが、地方議員選挙は極めてでたらめでございます。参議院の選挙区選挙というのもでたらめというか、これも名前だけは選挙区選挙となっておりますが、改選一の激烈な激しい競争をする小選挙区制もあれば、複数の定数のところで単記制で投票するために、二人区などは、民主党と自民党が投票する前からほぼ決まっているようなことでございます。こういうことでは問題かと思います。

 それで、少数代表制については山県有朋が導入した議論で、山県有朋というのは、戦前、政党というものが出てくることを極めて敵視した政治家でありまして、そういう人が考えた制度、それを復活していいものかということであります。

 日本では、選挙制度を変えまして二十年近くたちますが、今、公然と中選挙区制復活論があるのは、私などからいいますととても理解がしにくいことであります。

 経済学者のガルブレイスは、株で失敗した人はもう株は懲り懲りだというのをよく言いますがそれはたかだか二十年しか続かないといいますが、日本では中選挙区制で懲りたということを言っていた人がまた中選挙区制ですかというような状況で、負の側面に対しての認識が本当だったのかということを疑わざるを得ません。

 失敗という点では、日本より深刻な反省をしましたのがドイツでありまして、ドイツは、ナチス・ドイツを生んだということの反省などからいろいろな議論がなされました。特に悲劇的なのはお隣のオーストリアでありまして、特にユダヤ人だった人はその犠牲になりましたから、今までのような選挙制度をやっていてはいけないということを唱えました。

 経済学者のシュンペーターは、経済がうまくいっているのは市場で激しい競争が行われているからだ、同じようなことをやるには、どちらが勝つかということで激しい競争をする制度が大事だということで、小選挙区制を擁護しております。比例代表や中選挙区制のようなぬるま湯的なものではいけないということであります。

 もう一人は、二十世紀を代表する哲学者カール・ポパーであります。彼もまたオーストリアのユダヤ人ですが、彼は、民主政治ということをいろいろ議論しているけれども、一番大事なのは流血なしの政権交代であるということを言っているわけでございます。

 その観点からいいますと、比例代表制はどういう制度かといいますと、キャスチングボートを握る少数派政党に過剰な影響力を与えるんですね。一党と二党がかなりの議席を得ているとき、第三党がどちらにつくかによって政権が決まる。こういうようなのは、比例代表制の論者は、一票がそれぞれ同じ重きを持つように、公正な選挙制度と言いますが、そういう意図と比例代表制がもたらしている結果は全然違うものであるということであります。比例代表制は、政党は選べても、結果的に政権は選べていないことになっているということであります。

 それで、改正の方向でございますが、衆議院については、現在の並立制は激変緩和の要素から導入されたものでありまして、これは将来的に一本化する、そういう議論をしなきゃいけないときかと思いますが、現在語られている連用制は、これからいいますと趣旨の全く異なるもので、まず、私はほとんど、一般の有権者の方に説明のつかない制度かと思います。

 部分的に小選挙区あり、今までのような比例代表、あとは連用制的なものを入れますと三つの制度が並び立ちますが、何と呼ぶのかわかりませんが、鼎立制とか名前を何か考えられているのかわかりませんが、ちょっとこれは余りにも複雑かと思います。

 中選挙区制は先ほど申しましたように最悪のことで、日本に合っていると申しますが、外国でこれがいいからこれを導入しようという国は私は聞いたことがありません、私の不勉強かもしれませんが。同士打ちが復活しますが問題はないのかということで、私は、下手にいじるよりも、小選挙区の何増何減という形がいいかと思っております。

 私の案は、では、それだけでは定数削減はどうなるんだということであります。

 そこで、できる範囲で何とか考えるとしたら、一つだけ方法があるかと思います。現在の制度に大体近いものを維持して定数削減をして、現在のような結果に近いものをやる方法でありますが、現在、ブロックで行っている比例代表を全国での比例配分に変えるということであります。

 これをそのままやりますと、中小政党が多少有利になります。どうしてかといいますと、比例代表制は選挙区の定数が多ければ多いほど比例の度合いが高まりますから、大政党と中小政党の差は比率的に近いものになってきます。

 前回の結果をもとにして計算をしてみますと、二十議席減らして百六十議席にしますと、比例の議席は、公明党は、みんなの党からの一議席が近畿ブロックか何かであったと思いますから、それを除きますと二十ですが、二十が十八。共産はふえます、九が十一。社民は四が七。三十議席減にしますと百五十議席になりますが、その場合は、公明が二十から十七、共産が九から十、社民は四から六というぐあいであります。

 こういうようなことでありまして、ブロック制を私は悪くない制度だと思っています。もしやるんでしたら、ドイツがそうしているんですが、ブロックの名簿を決める際、地方分権的な要素を生かすということで名簿の決定を完全に地方に委ねるんでしたら、ブロック制を残す意味はあるかと思いますが、現在の日本での運用はほとんどそういう要素が見られません。したがって、現在の運用でしたら、そのあたりが何とか各党で話をしてやれる線ではないかなと思っております。

 どうもありがとうございました。(拍手)

山田委員長 ありがとうございました。

 次に、田中参考人にお願いいたします。

田中参考人 東京工業大学の田中と申します。

 本日は、お招きいただきましてありがとうございます。

 先ほど、曽根参考人からは公選法を含めて広い観点からお話があり、また、加藤先生からは選挙制度一般についてのお話がありました。私は、端的に、十五分しかありませんので、衆議院選挙制度の改革はどうあるべきかについてお話しさせていただきたいと思います。

 論点は三つありまして、一つは、加藤先生とは必ずしも意見は一致しないんですけれども、小選挙区制度は民意を反映しない。第二点は、小選挙区比例代表並立制は、小選挙区制度の力が比例代表に及んで、実質的には小選挙区化に近づいているということ。第三は、民意を反映するにはやはり比例代表制度を考えていかなきゃいけない。この三点について簡単にお話しさせていただきたいと思うわけであります。

 まず第一点でございますが、小選挙区制は民意を反映しないという点であります。

 最近の衆議院選挙、先生方は既に戦っていらっしゃったわけでありますが、例えば二〇〇五年の総選挙で、得票率、これは、加藤先生の言う、とり過ぎた部分も含めてでございますが、政権党の自民党は、比例代表で三八%、小選挙区制で四八%ほどです。つまり、いずれも五〇%に達していないけれども、議席率は六二%という驚異的な議席率をとっているわけであります。また、二〇〇九年の民主党が勝利した選挙でも、民主党は、比例区では四二%、小選挙区では四七%。これも、いずれも過半数をとっていないにもかかわらず、六四%の議席率をとっている。つまり、簡単に言えば、過半数をとっていないにもかかわらず政権を掌握する。そして、民主党の場合ですとマニフェストを実行するということになります。

 つまり、これは、かつてアメリカ合衆国のフェデラリストのマディソンが言った、政党政治というのはいかに悪いのかということの中に、少数が多数を支配するということを言っているわけでありますが、まさにこうした状況が小選挙区制の最も大きな特徴であるというふうに私は思うわけであります。

 実際に、我が国の場合は、比例代表と小選挙区がまざった並立制という制度をとっているわけでありますが、先ほど加藤先生も言われましたが、純粋に小選挙区制をとっているイギリスを見ますと、一九四五年以降、何回か選挙が行われているわけでありますが、その中で政権党が過半数をとった選挙は一度もないわけであります。最低の場合、三五%で政権をとっている、こういうような事態が起きているわけでありまして、これは、そういう人たちが多数だというのはいかがなものかなと私は思うわけであります。また、反対に、二大政党のうち得票数が少ない方が政権をとった例が二つもあるわけですね。

 そういうように、この小選挙区制度というのは、いろいろな意味で問題を持っているというふうに私は思っているわけであります。

 それから、なぜまた今回小選挙区制が問題なのかといいますと、これは選挙を勉強している者には常識であるわけでありますが、小選挙区制というのは、いわゆる三乗の法則というのがイギリスの場合に働いているわけでありまして、基本的には得票率の三乗が議席に、詳しい話は省略させていただきますが、三乗の形で反映するということになります。ということは、国民のちょっとした気まぐれというものが拡大されて議席に反映されるということになるわけです。

 特に、最近の選挙を見ますと、マニフェスト選挙というふうに言われていますけれども、果たして本当にマニフェスト選挙が行われているのか、つまり、政策を吟味した上で国民が投票しているのかということを思いますと、私は必ずしも賛成できない面があるわけであります。

 例えば二〇〇五年の選挙、小泉さんが選挙をやったわけでありますが、そのとき、郵政民営化ということで、一応、わあっと自民党が大勝したわけでありますが、皆さん御存じのように、今国会では郵政の民営化は実質的にはやめたということになるわけで、ではあの選挙は一体何だったのかということになりますね。

 それから、二〇〇九年の選挙、これも民主党がわあっと政権交代を果たしたわけでありますが、去る四月二十八日のメーデーのときに、民主党の応援団長の一人であるところの連合の古賀会長がこう言っているわけですね、新しい政治の幕あけに期待した熱い思いは残念ながら冷め、失望や落胆に変わったと。

 果たしてこういうようなタイプの国民の選択がいいんだろうかという問題は、どうしても問わざるを得ないと思うわけであります。

 そうなると、こうした有権者のそのときそのときの気まぐれ、あるいは風と言ってもいいかもしれませんが、そういうものはなるたけ反映しないような選挙制度を考えていかなきゃ国民の民意が反映しないだろうと思うわけでありますね。その意味で小選挙区制というのはむしろ逆方向であるということで、やはり改めるべきであるというのが私の第一の考え方であります。

 第二は、小選挙区比例代表並立制は、小選挙区制度の力が比例代表に及んで、実質的には小選挙区制に近づいているという件であります。

 これは、新しい制度が実施されたのが一九九六年でございますが、それから既に五回選挙が行われているわけです。その中で、比例区それから小選挙区で第三党以下の政党がとった議席を調べてみれば、歴然たるものがあるわけであります。

 小選挙区のところでは、かつて、一九九六年には三十五議席、第三党以下がとっていたわけですが、前回はたった十五議席になっているわけです。小選挙区はそういうように、デュベルジェの法則でありますから、だんだんと二党制に近づいていくというのが一般に認められるわけでありますが、では比例区はどうなのかといいますと、比例区も、かつて、一九九六年には七十議席、第三党以下があったのが、先ほどの二〇〇九年の選挙では三十八議席へと減っている。つまり、ちょうど小選挙区に引きずられるような形で、比例区でも第三党以下のシェアがどんどん落ちているというのが認められるわけであります。

 これは既に学者の一部の先生は指摘しているわけでありますが、やはり選挙は地元でしっかりした足場がないと、比例区というのはどうしても地から離れた選挙のようになってしまう、地元に足場がないと勝てないわけですね。ですから、そうなると、結局は第一党と第二党がどんどん力を持っていって、比例区で第三党以下が互角に戦うのは大変難しいという状況になります。

 伝え承るところによると、共産党は前回は候補者を絞ったというふうに伺いましたけれども、次回の選挙にはまたふやしていくということを伺っております。多分そうじゃないかと思います。これが第二番目。

 第三番目は、やはり比例代表制度を採用しなきゃいけないのではないか、そういう結論になるわけであります。

 これは加藤参考人とはちょっと意見が違うわけでありますが、基本的には、加藤さんはアメリカとイギリスという二つの、いずれも小選挙区制を採用している国を例に挙げられたわけでありますが、ヨーロッパを見れば、小選挙区制をとっている国、しかも議院内閣制で小選挙区制をとっている国というのは、私の知っている限りはイギリスぐらいなものなのではないかというふうに思うわけであります。その他の国は、基本的には、有名な政治学者のサルトーリという人の言葉を使えば、穏健な多党制というものが支配しているというふうに見ることができます。

 ちなみに、私の手元に、一九四五年以後のヨーロッパの内閣の存続期間の平均を調べたものがあるわけでありますが、最も長い内閣の存続期間を持っているのはルクセンブルクであります。イギリスではありません。イギリスは二番目でありまして、次が先ほどありましたオーストリアであります。オーストリアは比例代表です。それからアイルランドという形になっています。ルクセンブルクが千百三十六日、英国が九百九十五日、オーストリアが九百三十三日、こういうような感じで、ほとんど大同小異なんですね。

 よく、比例代表になると小党分立になるから内閣はがたがたになるというようなことがあるわけでありますが、必ずしもそれは言えないわけで、制度というよりもむしろ風土というものが内閣の存続に影響しているのであるということをこれは示しているものだと私は思うわけであります。

 それからもう一つ、先ほど曽根参考人からもお話がありましたが、参議院との関係をどういうふうに見るかということであります。

 比例代表にしますと、多分、多数党、絶対多数をとる政党はない、衆議院も参議院もないということになります。そうなると、衆議院と参議院をまたいだ形で連立政権の構想というのを考えざるを得ない状況になるだろうと思うわけであります。つまり、そうなると当然ねじれは解消されるわけですね。政権ができたところでねじれは解消されるということで、現在のような二院制を前提としたところでは、むしろ、比例代表で絶対多数をとる政党が出てこない状態が望ましいのではないかというのが私のもう一つの論点でございます。

 もし、それでも少数乱立が心配であるというならば、例えばドイツが採用しているように、足切り条項、三%とか四%とか足切り条項をつければそれなりに乱立は防ぐことができるのではないかと思います。ちなみに現在のドイツは、私の知っている限りは、五つの政党が一応でき上がって政争に邁進している、そういう状況であるわけであります。

 それから、中選挙区制の方は全く評価されていなかったわけですが、中選挙区制もいい面もあるということはやはり常識でありまして、中選挙区制というのは、いわゆる学問的に言えば準比例制という側面もあるわけで、選ぶ方にとっては人と党を選ぶという非常にありがたい制度でありまして、加藤先生の言うように、もう古くなったから捨て去るべきものであるとは、私は必ずしも思っておりません。

 以上で私のお話を終わらせていただきたいと思います。(拍手)

山田委員長 ありがとうございました。

 次に、五十嵐参考人にお願いいたします。

五十嵐参考人 御紹介をいただきました五十嵐でございます。

 お招きをいただきましてありがとうございます。

 私は、今から約二十年前、一九九三年に「一目でわかる小選挙区比例代表並立制」という本を書きました。ここで小選挙区制を批判し、また、連用制の問題点も指摘しております。その四年後の九七年に、前年、九六年に初めて実施された並立制での総選挙を分析した「徹底検証 政治改革神話」という本も出しております。

 小選挙区制に問題があるということは、このときから明瞭でありました。そのような私からすれば、何を今さらと言いたい気持ちですけれども、過ちを改めることは大変よいことでありまして、今がその絶好のチャンスだというふうに思っております。

 以下、小選挙区制の問題点と望ましい選挙制度のあり方についてお話をさせていただこうと思いますけれども、この小選挙区制の問題点のことにつきましては、今の田中参考人がほとんど話をされまして、また、私とほぼ意見は一致しております。重ならないようにしたいと思いますけれども。

 まず第一点が、小選挙区制の制度的欠陥です。小選挙区制には、もともと根本的な制度的欠陥がある。選挙制度にはいろいろなよしあしがありますけれども、小選挙区制は最悪、ワーストの選挙制度であり、ぜひこれは廃止、なくしてもらいたいというのが、一言で言えば私のきょうの意見であります。

 最初に、最も単純なモデルをそこに図示してあります。有権者九人、選挙区三つのモデルでありますけれども、全体で投票すれば四対五になる結果が、小選挙区で代表を選ぶと二対一になってしまう、つまり多数と少数が制度によって逆転する、こういうからくりがこの選挙制度にはもともと理論的に含まれているということなんですね。皆さんは、選挙制度を論ずるに当たってこのことを御存じで議論されているかどうかということを、私はまず伺いたいというふうに思います。

 しかも、今、田中先生がおっしゃいましたように、イギリスの総選挙では、少数が多数になるとか、逆転するということがありましたし、二〇〇〇年のアメリカの大統領選挙でも、また二〇一〇年七月の参議院選挙でも同じような現象が生まれております。理論的にだけではなくて、現実に少数と多数が逆転する、こういう選挙制度は選挙の制度としてはあってはならない。民主主義を少なくとも口にするのであるならば、これを認めてはならない、私はそう思っております。

 また、二点目は、少数が多数に読みかえられるという問題点もあります。

 さらに、三点目は、多くの死票が出て選挙結果に生かされません。〇九年総選挙の場合は、四六%が死票になっております。

 四点目に、過剰勝利と過剰敗北によって選挙の結果が激変する。〇五年の場合と〇九年の場合、二回の総選挙を比較しますと、民主党は激増し自民党は激減して、過剰勝利、過剰敗北という結果が生じております。

 五番目に、政党規模に対して中立的ではない。これも今田中先生が御指摘されたとおりでありまして、大政党に有利に、小政党に不利になる。人為的に民意をゆがめて代表させる、根本的な欠陥を持つ最悪の選挙制度が小選挙区制であるというふうに私は考えております。

 実際にどのような問題点が生じてきたかということについても幾つか指摘しておきたいと思います。

 一つは、政権の選択肢が事実上二つしか存在しない。大きな政党が二つしかなくなるということの結果、そうなるということです。

 二つ目に、民主党を前にしてこれを言うのは非常に言いづらいのですが、選挙互助会的な政党の登場ということでありまして、小選挙区で当選できるのは一人だけしかないということでもって、肩を寄せ合う、そういう政党ができたというふうに思います。

 三点目は、風向きによって短期間で多数政党が交代する。その結果、衆参が異なるねじれ現象が起きやすくなっているという問題があります。

 また、一方で、二大政党の間に存在する有権者を奪い合うということで、相互の政策が接近するという形で政策が似通う。連立、翼賛化という、連立、提携、連携の可能性、誘惑が生ずる。しかし、小選挙区制でありますから、選挙になれば敵対せざるを得ないということでもって、結局それはうまくいかない、そういうジレンマが生まれるということです。

 五番目が、地域や民意との乖離、切断ということでありまして、小選挙区で落選しても比例区で当選できる。選挙区の民意の動向に無頓着である。中選挙区制の場合は、選挙区と議員との結びつきというのは今よりずっと強かったというふうに思いますし、選挙区でいろいろ意見が上がってくると、それが政党の政策にも反映される。自民党が長期にわたって政権を維持できたのは中選挙区制であったからであるというふうにも言えるのではないかと思います。今日、そういう選挙区や民意と、それから個々の議員や政党との応答性というものが非常に薄れているというふうに言えるのではないでしょうか。

 六番目も、これも皆さんの前でこういうことを言いたくはないのですが、議員の質の低下という問題があるように思われます。同一政党内での競争や切磋琢磨というような機会がなくなって、鍛錬されたり教育されたりという機会が非常に少なくなっているということでありまして、そういう議員がおられるということは、一般にそう言われておりますし、皆さんは、周りを見ていただければおわかりじゃないかと思います。申しわけありません。

 三点目ですが、制度改革に関する幾つかの論点ということですけれども、一つは連用制の問題でございます。

 これは、今浮上してきていますけれども、一九九三年にも民間政治臨調によって提案されたものでありまして、また約二十年ぶりに復活したなというふうに、私はちょっと懐かしく思ったのですが。

 小政党が不利にならないという点では小選挙区制よりはましということではありますけれども、しかし、小選挙区と、比例代表ではなく反比例代表が並立するという形になるわけでありまして、有権者の選択が、特にこの比例部分では逆転するということで、頑張ってほしいと思って有権者が投じたら、投じれば投じるほど減ってしまう、小選挙区でもって頑張ってほしいと投じれば比例代表部分が減ってしまう、こういう形でゆがめられます。

 「正当に選挙された国会における代表者」という憲法前文の文言からしますと大きな問題が生ずるわけであって、これは憲法違反ではないかという、その可能性もある。もし選挙がこの連用制のもとでなされれば、裁判に訴えられ、違憲判決が出るという可能性もあるのではないかというふうに思います。

 比例定数の削減案も、現在の選挙制度改革との関連で出てきておりますけれども、日本の国会議員は国際的に見ても多くありません。先進国で一人当たりの国民の数が多いのはアメリカだけでありまして、日本は、イギリスやフランスやドイツなどと比べても多くない。したがって、現在よりも少なくすることは反対であります。

 これは、身を切る改革というふうに言われておりますけれども、実際は民意を切る改悪でありまして、比例区定数の削減は小選挙区の比率を高めて、今指摘しました問題や害悪というものをさらに拡大する、増大させるということになるだろうというふうに思います。

 これをぜひやりたいというのは消費増税のための口実ではないのか。これをやらないとほかに、やることがないということじゃないですけれども、ほかに身を切るということでもってやれることが余りない、せめて比例区定数ぐらい切っちゃったらどうだという、いわゆる政局や党略のために制度改革を利用するというようなことがあってはならないというふうに思っております。

 三点目に、〇増五減案でありますけれども、これは、やらないよりはましだという面がありますが、しかし、それは当面の緊急避難でありまして、人口異動が続けば、いずれまた是正が必要になるだろうというふうに思います。

 昨年三月の最高裁判決が問題としました一人別枠方式にはメスが入りませんし、抜本的改革を先延ばしするための口実ということになってしまうのではないか。つまり、もうこれで終わりということで、その次の抜本的改革に着手されないということになってしまっては困るということであります。

 四点目に、民意の反映か集約かという論議が、これはもう二十年前からありました。比例代表は民意の反映であって、小選挙区は民意の集約であると。付言しますと、小選挙区は多数党に有利だけれども比例代表は少数党に有利だという議論もありましたけれども、小選挙区は多数党に確かに有利ですけれども、比例代表は少数政党を不利にしないということであって、別に有利にするわけではありません。この点も大きな誤解ではありましたけれども、この反映か集約かという議論もまた大きな誤解に基づくものであるというふうに思います。

 そもそも、選挙というのは民意を議会に反映するためのシステムでありまして、制度でありまして、反映された民意を、議会において議論、熟議を通じて、討論を行うことによって一つの方向性に集約していくというのが議会であり国会の役割なんですね。だから、国会議員が、つまり議会に選出されて民意を反映するべき議員自身が、選挙によって集約などということを言うのはまさに自己否定そのものであって、国会に正当に反映された民意に基づいて国民の意思を一つの方向、政策にどうまとめ上げていくかということこそ、議会に選出された議員の方々が行うべき役割、重要な役割なのではないだろうかというふうに思います。

 望ましい選挙制度の提案ということでございます。

 一つは、十一ブロックでの比例代表制であります。現行の十一ブロックをそのままに小選挙区の定数を加えるということで、今すぐに、この場で皆さんが合意すればできる、こういう簡単な制度改善、制度改革でありまして、できればそういう方向で話し合いをして合意をしていただきたいなというふうに思います。

 二つ目が、全国一区での比例代表制ということでありまして、これは四百八十議席全てを全国一区の比例代表で選出するというやり方です。

 三番目が、都道府県単位での比例代表制ということで、現在の議席を人口に比例して配分し、比例代表で選出するというやり方です。

 全国一区が一番民主的なんですけれども、しかし、地域代表としての性格が薄れるという問題がありますし、全国を股にかけて選挙をするというのも候補者の皆さんの負担が大きいということで、しかも、十一ブロックという制度になっておりますので、それを生かす形で、ある程度地域性を保持しながら比例代表制を導入するというやり方がよろしいのではないかということです。

 各都道府県ということになりますと、選出単位が狭くなって死票が多くなりますし、どのような形でそれぞれの定数を配分するかということが問題になります。人口異動によってそれぞれの都道府県の定数に不均衡があらわれるという場合も出てくるかもしれません。比例代表ということでやりますと、定数不均衡問題というのは同時に解決されるということです。この点での大きなメリットがある。

 四番目が、現在、中選挙区制復活ということで議員連盟ができたりして、そういう動きがありますけれども、これも、少数政党もそれなりに議席を獲得できる準比例代表制ですから、現状より改善されるだろうというふうに思います。

 しかし、準比例代表制の、準をわざわざつくる必要はないのでありまして、準を取って完全な比例代表という形にした方がより民主的ではないか。しかも、定数三や、前にやった五なんかの場合ですと、三議席目、五議席目は、やはりこれは小選挙区制的な問題が生まれるということでありまして、さらにまた、これも以前の中選挙区制もそうでしたけれども、定数不均衡の問題というのが、ある一定の年月、期間がたてば生ぜざるを得ないだろうというふうに思います。

 ということで、結びですが、今から約二十年前に、先ほど申しましたような形で小選挙区制を批判し、連用制の問題点も指摘した私としましては、今日このような形での意見陳述を行う機会を得たことはまことに感慨無量でありまして、ここで述べたような問題が生ずることは以前からわかっていたことではありますけれども、政治改革神話が崩れて、そしてそれをやはり見直さなきゃいけないということでこういう形で皆さんが議論されている。大変結構なことだというふうに思いますし、歓迎したい。

 ぜひ、現在の選挙制度を見直して、小選挙区制を廃止し、比例代表的な選挙制度を導入することによって、より民主的な選挙制度、本当に国民の気持ちが国会にきちんと反映され、そして皆さんがそれに基づいて、熟議、討論を通じてよりよい政策を形成することができるような国会をつくる、そういう方向での制度改革を行っていただきたいというふうに思います。このことをお願いして、私の意見陳述を終わらせていただきます。

 どうもありがとうございました。(拍手)

山田委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人の意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

山田委員長 これより参考人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。柿沼正明君。

柿沼委員 民主党の柿沼正明でございます。

 本日は、参考人の皆様、まことにありがとうございます。

 望ましい選挙制度のあり方について、四人の参考人の皆様から種々お話をいただきました。見事に意見が割れておりまして、これを参考にさせていただいて次に進めてまいりたいというふうに思います。最後の五十嵐参考人からは大変厳しい御意見もいただきました。この点も、この選挙制度の変更の中でしっかりと議論を尽くしてまいりたいというふうに思います。

 それで、きょうは選挙制度の話が中心ではありますが、どうしても選挙制度だけではなかなか公平公正な選挙というものになっていかない。現実に、世の中の至るところの選挙の現場で不公正と思われる事例も多々ございます。

 きょうは、曽根先生が若干選挙運動も触れていただきましたけれども、むしろ、選挙制度に加えて、その取り巻く公職選挙法ですとか、そちらの方の問題を少し質問させていただきたいと思います。

 選挙には、選挙の五原則、憲法などにも書かれておりますが、普通選挙、平等選挙、秘密投票、自由選挙、そして直接選挙、五つの原則があるわけですが、選挙制度で四つは恐らく担保されると思います。その五つのうちの一つ、自由選挙、きょうはちょっとここの御意見を賜りたい。自由選挙について、その侵害をどうなくしていくのか、その辺についての御意見を賜りたいと思います。

 特に、人間関係が濃密な地方の選挙におきましては、全く自由な意思によって選挙ができるような状況がない場合も多々ございます。

 たまに検挙されますので事例としても出ておりますが、福祉施設なんかで、入所している方にメモを渡して、そして車で投票所まで送迎するなんということもございます。または、町内会なんかで、禁止されている寄附、そういうものをして、寄附をした候補者を応援する、これもいろいろな事例でたまに検挙されております。

 そのほかにも、これもあってはいけないことですけれども、ティッシュ入りのパンフレットを配る。これは、私は群馬県ですけれども、たまに行われております。警察に言っても音沙汰なしでございます。

 あとは、自治会長が、これは準公務員でありますけれども、特定候補者のポスターの張り出しを地区の住民に要請するんですね。そうすると、地区の住民は、これは直接聞いた話ですけれども、やはり村八分になりたくない、町会長さんが持ってきた、断れない、こんな事例もございます。

 あと、もっと顕著なのは、日本じゅうで行われていると思いますけれども、ある候補者を応援したら仕事がなくなるぞということを言われたということも多々ございます。

 もっとあるのは、結構長い、長期政権の首長さんの選挙なんかでありますけれども、特定の候補者を応援しないとまたこれも仕事がなくなるぞ、干されるぞというような話は枚挙にいとまがないくらいございます。

 こういうことが住民によって通報されても、警察は、裁量捜査というか、全てをちゃんと捜査して検挙するわけでなくて、ほとんど見て見ぬふり、たまに検挙する、こういう不公正な状態が続いております。

 もっと悲しいのは、こうした圧力の存在や自由選挙が侵害されている事例を市民の側が、やむを得ずでありますけれども、仕方ないということで受け入れてしまう、これが実態でございます。

 そこで、参考人の皆様に御質問したいんですが、こうした自由選挙が侵害されている実態、選挙制度をいじっても、自由選挙のところだけは制度ではなかなか担保されないわけでございますが、どう改善し、どう解決につなげていくべきか。これは参考人の質疑なので、自由にお答えいただければと思います。四人の方全員にお願いします。

曽根参考人 今御指摘の問題というのを私は詳しく知っているわけではございません。ですので、明快な答えができるわけではないんですけれども、本来、選挙というのは、自由な意思で国民が投票を行うということを前提にでき上がっています。さらに、国民主権ということは、先ほど選挙制度の根本は何か、民意の反映なのかということがありましたけれども、小選挙区を主張するグループの方は国民が政権を選択するという、国民が政権を選ぶというところを前提にすると、これは比例代表では難しいということになります。これはちょっと補足的に申し上げます。

 施設などで管理者が名前を書いてしまうというようなことは、例えば認知症の人だと意思表示が十分できないというようなことがあるわけで、意思が十分表現できない人の投票をどうするのかというのは、これは難問でして、終末期医療の場合における例えば胃瘻、胃に穴をあけて胃瘻は嫌だとか、あるいは事前に、病院ではなくて自宅に戻りたいなんという意思表示がどこかに書き残されていればそれも尊重できるんですが、通常そうではなくて、アルツハイマーあるいは認知症などのケースだとそこはわからない。これは、選挙制度にかかわる問題ではなくて非常に広い問題で、意思をどう酌み取るかというのは、これはここですぐお答えできる問題ではないと思います。

 おっしゃったことの大半は、かつての日本における村社会の弊害というふうに一般論で言えると思いますが、ただ、それがどのくらい全体に影響を及ぼしているのかということはわかりません。

 というのは、先ほどから小選挙区の批判がございましたけれども、小選挙区で当初導入するときに多く指摘されたのは、新人が立候補しにくい、新人が立候補しても当選しにくいという安定選挙区が多いのが前提だったんですね。ところが、日本ではその安定選挙区が、この二〇〇五年、二〇〇九年においてかなり少なくなってしまったということが票の揺れ動きということで指摘されているわけで、そういう意味では、村社会においても票は動くんですね。非常に限られたところだけが安定している。

 安定選挙区は、実は、今おっしゃったような村的な、きずなというか紐帯が非常に強いところで人間関係から票が成り立っていたという、この話はどちらかというと、我々、かつて、昔の選挙制度のときにあった話で、今もあるのかなというのは、お聞きしていてちょっと不思議に思ったことで、あったとしても非常に限られるのではないか。その限られていることを制度的にどう手当てしたらいいかというのは、これは単純に言って、今の選挙制度を具体的に実行するしかないというお答えだと思います。

加藤参考人 この問題は、きょうは四人とも政治学者でありますが、余り胸を張って答えられないんです。学会での選挙だとか大学での学長選挙、学部長選挙だとか、非常に恥ずかしいような実態があるわけでございまして、村は別に農村でなくてもあるわけですね。

 私は東北の農村部の出身なものですから、御質問の趣旨は少しはわかるんですが、先ほど曽根参考人からございましたように、べからず選挙をやって警察が余り出てくるような形での取り締まりというのは好ましくないので、どうにか、システム全体を動かす形でそうでない方向に持っていくということを考えるしかないと思います。

 それで、先ほどから私の意見に対して随分批判が厳しいわけでありますが、小選挙区制になりまして、中選挙区制の時代よりは随分よくなったように思っています。ですから、そういうところを考えていくべきであって、法律上、何はだめ彼はだめというのをただ並べるよりは、そういうのが余り集票につながらない形の選挙制度を考えていって、全体として、緩やかでいいけれども公正な選挙に近づけるということを考えたらどうかなと思います。

山田委員長 時間が押しておりますので、手短にお願いします。

田中参考人 まさに、加藤先生の御指摘のとおり、我が東京工業大学は学長が全然決まっていない状況でございまして、ちょっと恥ずかしい状況なんでございます。

 私も、この方の話は聞いてはいますけれども、その方を専門に勉強しているものではないので何とも言えないので、基本的には、先生方がやはり現状を把握されて最善な方式をとってされるのが一番いいんだろうと思うわけでありますが、先ほどの曽根先生のお話との絡みでいきますと、選挙運動期間の自由化だとか、文書図画利用の自由化とか戸別訪問の自由化とかという問題もこれに絡んでくるので、結構難しい問題が起こるのではないかなという印象を、お話を伺いながら受けました。

 簡単でございますが。

五十嵐参考人 既に御指摘のように、先ほど指摘された問題と選挙制度の問題とは総体的に別だというふうに思います。

 選挙については、運動に対する規制はできるだけなくして、自由な形でお互いに競い合う中で、そういう人間関係、部落のしがらみやあるいは金銭による腐敗などがなくなるような方向を目指していくべきだと思いますし、腐敗ということについて言えば、これは政治資金規正法や腐敗防止のための法制度を強化する、そういう形で対応するべきだというふうに思います。

 それから、選挙の自由の中には、ぜひインターネットでの選挙運動、それから将来的には、機械、コンピューターでの投票というようなことも十分検討に値するのではないか。

 私の義理の母親は下半身不随で長年病床におりましたけれども、やはり選挙で投票したいということで車椅子で投票所に行きましたけれども、字が書けないんですね。タッチパネルでもって押さえれば投票できるというような制度だったら、まさに自分の意思で投票できるわけですけれども、介添え人といいますか、そこにいる方に代筆をお願いするというようなことがありました。

 どなたでも自由に投票することができるようなそういうシステムというものを、やはり技術的進歩の中でこれから追求していくということも当然考えるべきことではないかというふうに思います。

柿沼委員 ありがとうございます。

 きょうは選挙制度のお話をしていただくということでお越しいただきながら、ちょっとストレートじゃないボールを投げさせていただきましたけれども、実は、公平公正な選挙をやる上で、しがらみ選挙をなくしていくこと、岐阜県の議員もいますけれども、地方部においては本当にこれが重大な部分になっております。

 特に、地方議員の選挙はこれだけで行われているような部分もございまして、本当に民主的な政治が行われるための選挙制度を語るときには、こういうしがらみをなくしていくとか、これは非常に大事だと思いますので、逆に、参考人の皆様にお願いしたいのは、この辺の研究も、我々素人じゃなく学界の皆様にもいろいろ研究をしていただければと思います。

 もうお時間がないようなので、最後に世襲の問題。

 日本は、国会議員だけじゃなくて、地方議員、首長も含めまして大変世襲議員が多い土地柄でございます。首長に至っても、二世だけじゃなくて、三世、四世、まるで大名制度みたいなそういう状況も出ております。先ほどの、しがらみの部分をつくり出している要因でもあるというふうに考えております。

 これはもう質問する時間がございませんので、先ほどの、しがらみとか世襲とか合わせた地盤というものが日本の政治の前に立ちはだかっているということをぜひ御認識いただければというふうに思います。

 そして、この地盤を突き崩すのは、一般的な、初めて立候補する、政治家の家系じゃない人にとっては大変な問題でございます。一年や二年で新しい有権者、支援者の方まではつくれません。何年もかかってやっていくことになります。

 そうすると、先ほど五十嵐先生もおっしゃっていましたけれども、パフォーマンスですとかポピュリズムですとか、一気に追いつくためにはそういう動きが出てきてしまうわけです。場合によっては、厳しい御意見もありましたけれども、政治家の劣化、政治の劣化にもつながりかねないということで、選挙制度とあわせて、この辺の問題を改善していけるように我々も頑張っていきたいと思いますので、またいろいろサポート、御意見、よろしくお願いしたいと思います。

 ありがとうございました。

山田委員長 次に、西野あきら君。

西野委員 自由民主党の西野あきらでございます。

 本日は、四先生におかれましては、大変御多忙のところ、当委員会からの参考人としての御出席に、万難を排して御参加を賜りまして、選挙制度にかかわります問題について大きくお考えの一端をお聞かせいただきまして、まことにありがとうございます。

 そういう制度論の中にありますが、ごく限られた時間でございますので、私は、喫緊の国会の課題、選挙にかかわります課題だけに絞ってお尋ねをして、まず曽根先生と加藤先生に御意見をお聞かせいただきたいというふうに思っております。

 御案内のとおり、ことしは主要な各国で選挙がございます。既に台湾の総統選挙も終わりましたし、ロシアの大統領も交代をいたしましたし、フランスの大統領も終わりました。きょうとあしたでエジプトの大統領が選ばれる由でございますし、さらに、十一月には米国、十二月には韓国というふうに、非常に世界じゅうが大きな選挙を抱えておるわけでございます。

 我が国も、社会保障と税の一体改革、現野田総理が政治生命をかけてやる、こうおっしゃっているわけでございまして、間もなく三年になるわけでございまして、一年は残すわけでございますけれども、私は、総理が持つ専権事項であります衆議院の解散・総選挙というものは全く予断を許さない状況に来ておる、このように思っておるわけでございます。

 そこで、御案内のとおり、昨年の三月二十三日、最高裁の大法廷で、過ぐる平成二十一年の小選挙区制の選挙の結果について、要するに一票の格差という問題が訴訟提起されまして、そして判決で、あの選挙は違憲状態にある、こういう判定が出たわけであります。

 私ども自由民主党は、直ちに、御指摘を受けている点について、御案内のとおり、〇増五減という問題を、提議をとりあえずいたしまして、現在各党協議を進めておるわけでございまして、この時間帯にも、各党の幹事長、書記長が現在別室でこの問題について協議を進めておるというふうに思っております。

 なかなか予断を許さぬ状況にあるというふうに思っておりますが、そこで、この協議が残念ながら未成立、協定ができなかったということになって総選挙に突入をいたしました場合は、それに伴う、施行された総選挙の結果を再び訴訟提起されますと、最高裁が言っております違憲状態でありますから、加えて、施行された選挙は無効である、こういう判断を下すのではないかというふうに思います。

 これは最高裁の問題でありますけれども、曽根先生、加藤先生、まずその辺について、恐らくそうだろうということなのか、所感を教えてほしいということが一点。

 それと、首相の持つ解散権というのは憲法上は制約をされない、こういうことを言っているわけでございます。ところが、違憲状態と指摘を受けた中で行います解散権というものは、やはり法治国家でもありますし、実質、解散権は私は拘束されるのではないのかな、そのようにも考えるわけであります。

 このような状況の中で選挙が実施をされましたら、これは先般の朝日新聞の世論調査でも五〇%以上の方が、今選挙をこういう状態ではやるべきでない、こういうアンケートが出ておるようでございますが、その二点について、解散権は実質拘束されるのではないかという考え方とあわせて、両先生、曽根先生、加藤先生から、御意見がありましたらお聞かせをいただきたいと思います。

曽根参考人 お答えします。

 この二点は、密接に絡んでいると思います。解散権は拘束はされないんですが、事実上、その選挙は無効になる可能性がある。つまり、一点目の御質問のところは、無効になる可能性があるリスクをかけて選挙を行うということはどういう意味か、私はそう考えております。

 そして、最高裁の判決は、前回の判決はかなり本気だと思います。つまり、国会、立法府に対して、本気で改革をちゃんとやりなさいというメッセージ。今までは、どちらかといえば事情判決のような形で、違憲状態ではあるけれども選挙は無効にはしない、そういう理解なんです。

 私が推論するわけにもいきませんけれども、可能性としては、無効というふうに判決が出る可能性はあると思っております。それは選挙全体に対する無効ではなくて、個別選挙区での訴訟で無効が出る可能性があるのではないか。その場合は、その議員がかわらないといけないのか。あるいは、特に問題なのは、国会で議決していますね。議決したものが全部無効になるということはないと思いますが、一体どこまでが、単に選挙区だけではなくて、国会の議決という問題にもかかわることが発生すると思います。

 象徴的なことは、千葉四区、総理の選挙区ですが、ここでの訴訟は多分というか必ず出てくると思います。そうした場合に、そこから選出された首相ということに関して、議論はかなり活発になるのではないか。

 ですから、国会としましては、いち早く完全な、つまり最高裁が望むような形の選挙制度改革、例えば、一人別枠方式も除いて完全な形で応えるということは無理かもしれませんけれども、立法府としての努力はかなり喫緊の課題としてあると思っております。それをしない状態での選挙というのは、大変リスクが高いというふうに思っております。

加藤参考人 この問題は、私は政治学者ですので、憲法学者とはまた違った判断があるかと思います。

 最高裁の違憲状態という判決ですが、これは、私は、書きぶりとしてかなり踏み込んでいると思いますので、その気になって受けて、ぜひ緊急にこれを直していただきたいなと思っております。

 私はドイツの研究から政治学の勉強を始めたものですから、ドイツの場合は、憲法裁判所がどんどん判断を下します。そういうことからいいますと、このまま解散があった場合、衆議院の選挙の結果を無効として、あと残るのは参議院しかありませんから、参議院で緊急集会をして衆議院の次の選挙制度を一回決めて、それで一回選んでもらうというようなことを一度やってもらいたいなと思っていますが、これは半ば私の希望的観測でありまして、実際そう動くかわかりません。今までのような事情判決云々でクリアできるよりは、もっと踏み込んで書いてあるという点だけは肝に銘じて対応していただきたいなと思います。

 解散権を拘束されるかどうかですが、御本人が拘束されると思っていなければ解散するでしょうが、それは、その後で無効になるリスクがやはり大きいかと思います。

 以上です。

西野委員 ありがとうございます。

 それだけに、国会が不作為と言われないようにしっかり、これは各党、ハイレベルで今進めておられますけれども、早急に一定の結論を見出すべく、総理がおっしゃっているとおり、社会保障と税の一体改革よりも先んじてこの問題は結論を出したい、それを私どもは信じて、各党協議をしっかりと私どもはウオッチしていきたいというふうに思っております。

 ところで、もう一点お尋ねをしたいと思うんです。

 今の最高裁の判決でございますが、この判決の理由に、衆議院の選挙区画定審議会設置法第三条第二項における、御指摘のあったいわゆる一人別枠方式、それを理由に挙げておるわけですね。御案内のとおり、この一人別枠方式というのは、人口の少ない地方に、選挙区といいますか県といいますか、比例配分をいたしまして、より多目に配分を行っていく。言いかえたら、人口の少ない地域の民意を反映させることに導入の大きな目的があるのかなというふうにも思っておるところでございます。

 そこで、ちょっとお尋ねをいたしたいのは、現行はいわば人口で大きく選挙区を分けているわけでありますが、投票価値の平等性という点からいたしますと、非常に難しい問題が出てくると思うんですね。

 それは、御案内のとおり、例を挙げますと、昨年の三月十一日のあの大震災で、例えば福島県においては、私が調べましたところでも、現在で、選挙区外に移動した人口というのが約九万七千人いらっしゃいます。福島県を越えて他県に移動した人、これが六万三千人、締めて十六万人ほどの人口が既に福島県では移動しているというのが実態であるわけなんです。そうすると、十六万人も変わりますと、このままの選挙制度でございますと、人口がぐっと減っておるわけでございますから、定数減になってくるということも当然想定をされるわけであります。

 そこで、ちょっとお尋ねしたいのは、憲法第四十三条には、「両議院は、全国民を代表する」、こうなっているんですね。全国民を代表したのが国会議員である、こう規定をされているわけです。そうだと思います。しかし、他方では、小選挙区で選ばれた衆議院というものは、その選挙区を代表するという意味にもとれると思いますし、そのような性格があるんだろうというふうに思うんですね。

 実は、私ども自由民主党では、憲法問題について議論をずっと進めておりまして、この四月に憲法改正草案なるものを発表しておるわけでございます。先生方のところにはお手元に行っているかどうかはわかりませんけれども、これによりますと、第四十七条にはこういうふうに書いているわけです。選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、当然法律で定める、この場合においては、各選挙区は、人口を基本とし、行政区画、地勢等を総合的に勘案して定めなければならない、我が党では憲法改正草案でそう書いておるわけでございます。

 ここで言う地勢という問題を考えて選挙区というものを考えた場合は、当然ながら、今論議をされております一票の格差、それから国民の投票する投票価値の平等性という性格が、概念が変わってくるのではないのかなというふうにも私は思うんです。

 まだ我が党の憲法草案の段階ではありますけれども、そういう地勢等を勘案したという形で憲法がもしも改正をされた場合は、一票の格差とか申しますが、投票価値の平等性という問題が、概念が変わってくるのではないかというふうに思います。

 失礼でございますが、曽根先生と加藤先生にもう一度お尋ねできたらありがたいと思います。

山田委員長 では、時間が押していますので、簡単にお願いします。

曽根参考人 一人別枠に関しましては、先ほど私申し上げましたように、人口比例という最高裁の理解というのは、ある意味で、原則論としては正しい。ただし、一人別枠方式を外すことによってのみ目的が達せられるのかというのは、これは解釈の分かれるところと思っております。

 それで、地勢というものは、山とか川をまたぐ選挙区というのは現実には難しいよということを言っているんだろうと思います。そういう意味で、現実の生活圏と選挙区というのはできるだけ一致させた方がいいということはそのとおりです。だけれども、そっちは憲法上の問題ではなくて区割り審の方の役割であって、憲法の方は理念的なものを言っているというふうに私は理解しております。

加藤参考人 一人別枠方式ですけれども、私は、これはない方が自然でいいかと思っています。

 あと、自民党の改憲案の四十七条に規定された選挙区の画定について、いろいろ行政区画や地勢等を勘案するというのも、これが入ったから判断がどうかというのはかえって難しい問題になるので、ない方がいいのではないかなと思っております。

 私は、先ほど時間がないので触れられなかったんですが、現在、難しい問題になっているのは、人口にこだわっているために、国勢調査の確定を待たないと選挙区をいじれないという問題があります。

 きょうのお話でも、〇増五減、関係ない議員の方はゆったりされているようですが、その五減される県の議員の方は、どうなるのかということで随分気をもんでおられることと思います。ですから、あと一年を切ったとかそういう段階でそういうことをいじられるのはかなわないんじゃないかなと思っています。

 それで、別のやり方として、有権者数に応じて選挙区を画定するという方式をぜひ導入していただきたいなと思っています。有権者名簿はいつでも確定されていますから、衆議院の選挙があったたびに、すぐ一年以内に有権者の数に応じて選挙区を画定し直す、そういう慣行をぜひ確立していただきたいなと思います。

 そうでないと、変更された方の、特に減る方の選挙区の方は大変なので、スムーズにやるためにも、何かそういう方法をぜひ御検討いただきたいなと思います。

西野委員 ありがとうございました。

山田委員長 次に、富田茂之君。

富田委員 公明党の富田茂之でございます。

 四人の先生方には、大変示唆に富む御意見をいただきまして、ありがとうございます。

 かなり両論に分かれたという感じで、各党の協議が調わないのも、学者の先生たちがこれだけ分かれるんだから無理もないかなと思うんですが、今、一人別枠方式の件について西野先生の方からお尋ねがありましたけれども、各党の協議の中で、〇増五減案を先行させようというような話が今出ております。この点について、これがいい方向なのかどうか。

 〇増五減は、今も出ておりました一人別枠方式について何の解決策も示していないというふうに私は思います。また、神奈川県と大阪府を比べますと、神奈川の方が人口が多いのに、配分されている定数は大阪の方が多いというような矛盾もいまだに抱えたまま先行して本当にいいんだろうか。

 〇増五減を先行させて、定数是正とか抜本改革は次の次の選挙だというふうな話も出てきています。そうなると、次に行う選挙というのは仮の選挙なのか、抜本改革が行われる前の仮の選挙なのかということで、一体次の選挙はどういった意味があるんだというふうにも思われます。

 〇増五減の、憲法違反状態をとりあえずまず解消だということで先行させるという意見について、各先生のお考え方をちょっとお聞かせ願えればと思います。

曽根参考人 私は、〇増五減、違憲状態をいち早く解消すべきという立場です。そして、削減というよりも、選挙制度というのは、課題としては、画定するというか、完璧な選挙制度というのはないものですので、議論の対象にはいつでもなり得る。ただし、違憲状態での選挙というのはやはり大変苦しいものですので、これは先行して解決しておくべきだというふうに思っております。

加藤参考人 私も曽根先生とこの点で全く見解は同じですので、特に独自の意見はありません。

田中参考人 私は、むしろちょっと逆の考え方を持っておりまして、やはり、そろそろ抜本改革の時期ではないかというふうに思っておりまして、ずるずるとやりますと、またこういう変な状態が続いていくのではないかというふうに思っております。

 そもそも、比例議席を二十減らした、二百から百八十にしたということ自体がかなり問題だと私は思っておりまして、仮にやるとするならば、小選挙区制三百議席を同じ割合減らすというような方法をまずは考えた方がいいんじゃないかというふうに思っております。

 以上です。

五十嵐参考人 〇増五減案が抜本改革を先送りするための口実というような形になってはならないと思います。

 今の選挙制度改革が問題になってきているのは、昨年三月の最高裁の判決だけではなくて、現実に小選挙区制のもとで五回選挙をやられてきて、その結果生じている政治の現実というのがあるわけですよね。この現実は、〇増五減という形で定数を変えても、結局そのまま残るということでありまして、私は、小選挙区制をなくすることが、今言った、現実に生じている政治の問題もそれから定数不均衡の問題も一挙に解決する妙案であるというふうに思っております。

富田委員 曽根先生と加藤先生は、〇増五減、違憲状態を直せという意味で先行すべきだというふうなお話だと思うんですが、田中先生と五十嵐先生のお二人は、抜本改革、先送りにならないように、そういうふうにきちんとすべきだと。全く、ちょっと分かれた形になったと思うんです。

 現実の協議を動かしていくときに、民主党の方から比例八十削減、今回、樽床さんの二度目の私案で比例の方は七十五というふうに出てきましたけれども、これを取り下げればいいじゃないかというふうに実は五十嵐先生は論文で書かれていました。

 これを取り下げれば各党が、我々少数政党も含めて全部同じテーブルにのれて、きちんとした議論ができるんじゃないかというふうに五十嵐先生はおっしゃっていて、身を切る改革と言われるけれども、民意を切る改悪だというふうに先ほど言われて、私もそのとおりだと思うんです。

 比例八十削減というマニフェストに民主党が余りにもこだわるばかりに、定数是正も抜本改革も、せっかくテーブルができているのにそこで転がっていかない、そういうふうに我々は感じているんですが、本来、比例の方にすべきだというふうに御意見を言われた田中先生と五十嵐先生は、今の選挙制度改革協議の中で、民主党が比例削減を大きくやるべきだと言っていることについてどんな御意見ですか。

田中参考人 私の意見を述べさせていただきますと、マニフェスト自体がインチキである、こういうふうに私は考えておりまして、国民の過半数の人が、先ほども言いましたが過半数の票も得ていないわけでありますし、しかも、それの中の過半数の人が、私の思うには、あれを読んで、比例代表八十削減するから民主党に投票したなんというのは誰も思っていないと私は思っているわけです。

 ですから、固執する自体が、ほかのマニフェストで民主党がうたったことと同じでありますけれども、自体が問題であると私は思っております。

五十嵐参考人 この点でも田中先生と同意見でありまして、ほかの問題ではマニフェストを次々と破ってきているのに、なぜこの問題だけマニフェストにこだわるのかというのは大変不思議であります。

 さらに、八十議席を比例区から削減する、なぜ八十なのかというふうに思っておりましたら、今度は七十五でいいんだ、こういう話でした。小選挙区が五議席減るから八十なんだという、バナナのたたき売りじゃあるまいし、国民の代表の席を八十だ、七十五だということでもって削るというのは、やはりこれは、国民の負託を受けて、国会でその意思を代表し議論をするという立場の国会議員の数の問題ですから、そう軽々しく扱ってもらっては困るというふうに思っております。

 以上です。

富田委員 両先生の意見は、我々の党の意見と本当に同じだと思うんです。ぜひ民主党の皆さんにも考えていただきたいと思うんです。

 加藤先生が提案ということで最後に、要するに、比例を削減する場合にブロックよりも全国レベルでというふうに御提案されました。

 これは、先般の日経新聞の記事の中にも加藤先生の考え方を紹介していただいていたんですが、加藤先生が今までいろいろ書かれていた選挙制度の論文を見ていますと、参議院の全国区のお話をされている中で、情報格差が出てきてしまうんじゃないか、選挙民がきちんと全国区レベルの選挙で候補者を選べるのかというような論調がありました。

 衆議院の選挙制度は拘束名簿式ですから、そういうことでないんだということでこういう御提案をされているんだと思うんですが、政党も選ぶ、人も選ぶ、選挙民からしてみたら、そういった選挙制度が一番やはり民意を反映する選挙制度ではないかと思うんです。その点、ブロックよりも全国区でやれば少数政党にも配慮できるんじゃないかという御意見ですが、そのあたりはどうでしょうか。

加藤参考人 情報コスト、投票するときどれだけのことを考えなきゃいけないかということ、本気で吟味をしないと投票できない難しい選挙制度もあれば、ふだんのイメージで漠然と、この党がいいからこの党に入れるとか、そういう感覚で投票できる制度の差があって、参議院の非拘束名簿式は、運用の仕方によっては非常に有権者に負担をかける制度になるんじゃないかということを感じたものですから、あの制度が導入されたとき私は反対意見を申し上げたんですが、運用を見ていると、有権者の方が結局政党に投票される方が多くて、余り候補者名を書かれる方が多くなかったので、私の見通しとはちょっと違ったことがありました。

 衆議院の場合でいいますと、現在のブロックをやめて全国でされる場合ですが、投票の方式は政党に入れるだけですから、どこが変わるかというと、比例のところで重複立候補した人の扱いだけが変わるところになります。ですから、有権者にかかる負担としては同じようなことでいけるのではないかなと思っています。

 大変なのは議員さんの方で、比例での復活をやはり心のどこかで期待されている方が、余り比例の部分が減ってしまいますと、そこではほとんど芽がなくなるということで、この議論で議員の質の問題が出ているときに、ある程度実力がありながら僅差で敗れた人が次々、全く議席を失ってしまう方がいいのか、ある程度は残った方がいいのかというようなものは多少議論いただいた方がいい点であって、八十削減というのはその辺も踏まえて議論していただきたいなと思っております。

富田委員 今、加藤先生がおっしゃったように、重複立候補の部分がやはり全国ブロックだと相当問題になると思うんですね、小選挙区の候補者を仮に一位で全部並べちゃうと、比例単独の候補者というのはほとんど当選可能性がないということになりますので。そういった今の御指摘も踏まえて、この委員会でもしっかり今後議論をしていきたいと思います。

 本当にありがとうございました。

山田委員長 次に、穀田恵二君。

穀田委員 日本共産党の穀田恵二です。

 四人の参考人の先生方には、本当にお疲れさまでした。貴重な御意見、ありがとうございます。

 私は、まず最初に五十嵐参考人にお聞きします。

 きょう、五十嵐参考人がレジュメでもお話ありました、選挙制度に関する幾つかの論点という中で述べられました、民意の反映か集約かということについて少しお聞きしたいと思います。

 これは、いわゆる政治改革以来、選挙制度に関して一貫して語られてきたものでした。特に、民意の反映としての比例、民意の集中としての小選挙区制という話が随分喧伝されたものですが、私は、これは間違っていると思うんですね。

 きょう、先生はこの(四)のところの話は非常に短くされたので、できればもう少し詳しく述べていただけるとありがたいんですが。御意見を伺いたいと思います。

五十嵐参考人 先ほども言いましたように、選挙というのは代表を選ぶものです。

 もともと、直接選挙といいますか、要するに直接民主主義ということで、有権者、主権者がそのまま出てきて議論を行うというのが一番民主的なんですけれども、しかし、社会の規模が拡大していけばそれはできなくなる。かわりに代表を選ぶというのが選挙の始まりですよね。代表を選ぶシステムですから。

 それが、選ぶ側と選ばれる側の民意の構図が変わってしまうということになりますと、間接民主主義の否定になっちゃうんですよね。そうでしょう。だって、選挙をやったら違っちゃうというのは。だから、これはやはり大きな問題である。

 民意を集約するというふうに言われたときには、これは政権交代をできやすくするというふうな議論がありましたけれども、そもそも、望んでいない政権交代ができやすくなるということになっては困るわけですよ。国民が望んでいない、主権者が望んでいない政権交代が起きても困るし、望んでいる政権交代が起きなくても困る。

 この望まれた政権交代が起きない場合と望まれなかった政権交代が起きる場合はあるのかというと、きょうの私の最初の最も単純な小選挙区制のモデルの図を見ていただきますと、実際にあるわけなんですね。

 理論的にもこういうことがありますし、皆さん御存じのところでは、先ほどもちょっと言いました二〇〇〇年米大統領選挙。ゴア候補の方がポピュラーボートでは数が多いんですよ。ところが、選挙人の数では少なくなっちゃった。これは各州、選挙人総取りですから、小選挙区制と同じような問題が生じる。こういう制度の仕組みによって民意が変わる。

 しかも、過剰敗北といいますか過剰勝利が生ずる。具体的な例で挙げたのは、これは四七%の得票率で七四%の議席を獲得するという〇九年総選挙の民主党の場合ですけれども、過半数に行っていないようなところが四分の三ぐらいまで議席がとれる、これはべらぼうじゃないかというふうに僕なんかは思います。

 だから、こういう過剰勝利、過剰代表を通じて政権が交代するということに幻惑されて、民意の集約というような議論が出てきたのではないか。実際には、これは民意が集約されているのではなくて、民意が歪曲されていることであるというふうに僕は思いますし、先ほども言いましたように、さまざまな民意があるわけですよ。

 そのさまざまな民意は、それぞれ皆さんが代表されているわけです。代表しているその民意に基づいて国会で議論をする、お互いに討論を通じて一致点を探り合い、そして一定の方向を出して合意に至るというのがまさに民意の集約であります。それこそ、国会、議会の役割であって、そういう役割を担っている議員の皆さんが選挙で民意を集約するというふうに言うのは、まさに自己否定そのものではないだろうかというふうに私は思っております。

 以上です。

穀田委員 ありがとうございます。

 次に、田中参考人にお聞きします。

 田中参考人は、論文で並立制の弊害について述べておられます。そして、現行の並立制が続く限り比例区の方も小選挙区に影響されるということを述べておられます。

 実は、共産党の候補者のお話も先ほど先生述べられていましたけれども、私は共産党なものですからあれなんですが、政権選択を一つの視野に入れないというものは排除されると。つまり、この党がすぐ政権につかないというふうに思われるものは当然排除されるという傾向を生みやすくするということも私はあると思うんですね。ですから、小選挙区に影響されるというだけじゃなくて、選択自身に大きな影響を及ぼすというのが並立制じゃないかと。

 ですから、その辺の並立制の弊害についてもう少しお述べいただければ幸いです。

田中参考人 その点に関しましては、実は、京都大学で先年亡くなられた先生が似たようなことをおっしゃっていまして、デュベルジェの法則が逆に民意の方向で反映していくと。

 まさに言われたとおりで、勝ちそうもない人と政党に投票するのはばかばかしいから、例えば民主党に投票するというようなことになって、二大政党に集約するということが言われている。まさにそのとおりだと思います。

穀田委員 ありがとうございます。

 それでは、曽根先生にお聞きします。

 九四年の政治改革で小選挙区比例代表並立制が決められました。あの当時、私も議員になったばかりでした。政治に金がかからなくなる、政権交代が可能だ、政策本位の選挙が行われる等々、よいことずくめとして喧伝されました。

 国会の衆議院選挙制度に関する各党協議会では、現行の選挙制度が民意をゆがめる制度であるという点については、民主党を除いて大体一致しているんですね。民主党だけがちょっと変わっているんですけれども、共通認識になっているんですね。そして、制度をつくった河野さん、細川さん両氏も、政治の劣化を招いた、間違いだったと反省しています。

 衆議院選挙制度の抜本改革をめざす議員連盟で、ある議員が、メディアと制度にかかわった佐々木毅氏を初め学者、政治学界だけは反省がない、こうおっしゃっていたのが非常に私は印象深かったと思うんです。それについての御意見を伺いたい。

曽根参考人 きょうは私個人の資格で参っておりますから、団体とか組織を代表するものではございません。

 確かに、政治学者、きょうはちょっと意見が二つに分かれておりますが、学界では、現行制度を肯定する人の方がはるかに多いです。これは多分国会とは違うかもしれません。若手の学者を含めて現行制度を肯定しております。

 ただし、一点だけ申し上げると、先ほどから民意の反映あるいは集約といいますけれども、代表のところで過半数をとれという意見は例外なんですね。ですから、過半数をとれというのは、比例を使おうが小選挙区を使おうが、普通の投票をすると過半数はとれないわけです。それで、小選挙区はそこをあえて、政府をつくるというときにおいて過半数の議席を持たせる制度、ただし、それをもっと徹底するということは、フランス型の二回投票をするしかないんですね。ですから、二回投票制を唱えている学者は日本ではかなり少ないと思います。

 それから、世論の揺れ動きということに関してはまだ答えは出ておりません。つまり、二〇〇五年と二〇〇九年というのは選挙制度に由来する現象なのか、それとも、これは制度を議論をする学者じゃなくて投票行動を研究する人たちが、日本の有権者、これは制度改革の前からそうなんですけれども、支持は比較的弱い。つまり、一貫して当時の自民党、当時の民主党に入れる人の比率というのは半分もいない。それから、無党派というのも、一貫して無党派という人も少ない。つまり、選挙ごとに揺れ動くんですね。さらに、支持の強度、世界の選挙と比べますと強度は弱い。

 つまり、支持の強度が弱く、かつ選挙ごとに動く有権者が前提のケースは風で左右される。これが過去二回のことで、今後もずっとそうなのかというところが意見が分かれるところで、学者の間で論争があるところです。

 制度改革に関しまして、過去、私も公選特に何度か来てお話を申し上げまして、この制度が根本的に間違っているというふうには思いません。ですから、手直しは必要かもしれませんが、原則は小選挙区比例代表制。

 さっき御質問ありましたけれども、比例代表部分を一気に削るというのはどうかといえば、私は余り賛成していないんです。つまり、小選挙区だけにしたらいいとか、八十議席をばさっと削ればいいとかという説ではないんですね。だけれども、基本は、政権選択ということを考えると、小選挙区をベースにするしかないという立場です。

 その制度をどのくらい手直しすれば、国民、世論あるいは国会議員の方々の御批判に耐えられるかという、そこであって、これに関しては、先ほど申し上げました世論の揺れ動きというものが、これは世界と比べるとかなり極端に起こっているんですね。ですから、一時的な現象なのか長期にわたる現象なのかというのがまだ確認できていないところが学者の間の論争だと思います。

 以上であります。

    〔委員長退席、加藤(公)委員長代理着席〕

穀田委員 五十嵐参考人に、同様の御意見についてお伺いしたいと思います。

 私は、はっきり言って、この政治改革、先ほど曽根先生からお話がありましたけれども、当時述べていた、金がかからないだとか政権交代可能だとか政策本位だとかいうことが、では実行されたのかということの総括と、今政治がどうなっているかという問題から接近する必要があろうかと思います。その点での御意見をお伺いしたい。

五十嵐参考人 反省していないのがマスコミと学者であるという御指摘です。

 今、学界で現行制度を支持している方が半数以上いるということであれば、まさに反省していないということの証拠でありまして、半数以上いるのかどうなのか、私はちょっと確かめたことがないのでわかりませんけれども、しかし、多数派である可能性は十分あるというふうに思います。

 そもそも、政治改革が議論された二十年前におきましても、この並立制導入、政治改革に反対するという学者は非常に少なかったですね。私や、あるいは亡くなった朝日新聞編集委員の石川真澄さんや、慶応大学の小林良彰先生くらいでありまして、先ほど紹介させていただきました私の「徹底検証 政治改革神話」という本の中でも当時既に、この九七年に出した本の中で、福岡政行白鴎大教授、佐々木毅東大教授、堀江湛慶応大教授、内田健三東海大教授、名前を挙げて私は批判しております。今日の姿を見てどのように思われるか、これらの方々の御意見を伺いたいというのは私も同様であります。

 マスコミということでいいますと、読売新聞の責任は非常に大きいというふうに思います。第八次選挙制度審議会に読売新聞、当時の会長をやられまして、この並立制を導入する、また、読売新聞は一月の段階で、政治改革の先送りは許されないとか、改革実現へ活路を求めよとか、妥協し政治改革を決着させよとかという形で、連続して社説を出して政治改革をたきつけた、こういう過去があるわけでありまして、今、この状況をどう見ているのかということを思います。

 それから、今御紹介ありましたように、このとき政治改革で合意されました河野さんと細川さんですけれども、河野さんは、それが正しかったかじくじたるものがあるというふうに述べておられます。政治劣化の一因もそこにあるのではないか、政党の堕落、政治家の資質の劣化が制度によって起きたのではと反省の弁を述べておられますし、細川さんも、穏健な多党制が望ましいので比率は半々ぐらいが適当と考えていたんだけれども、小選挙区に偏り過ぎたのは不本意だと。

 その後も、河野さんは、政治は劣化している、現職の皆さんの責任で選挙制度を変えてもらわなければならない、こういうふうに訴えておられます。

 元自民党総裁であられた河野洋平さん、現職の皆さんで抜本的な制度改革を行って選挙制度を変えてもらいたい、この要望といいますか要請を現職の皆さんはぜひ受けとめて、抜本的な制度改革に着手していただきたいというふうに思っております。

    〔加藤(公)委員長代理退席、委員長着席〕

穀田委員 田中先生、済みませんでした。

 きょう来られた参考人の方々は、八十の比例定数削減については、全体としてよろしくないという感じが見受けられたことがとても印象的だったことを述べて、終わります。

山田委員長 次に、内山晃君。

内山委員 新党きづなの内山晃でございます。

 四人の参考人の皆さんには大変貴重な御意見をいただきまして、本当に参考になります。ありがとうございます。

 それでは、御質問させていただきたいと思うんですが、まず、マニフェスト選挙についてお尋ねを申し上げたいと思います。

 政権公約を掲げながら実行しない、国民との約束を守らない、しかもマニフェストに書いてないことを堂々と行う。通販に例えますと、頼んだ商品がカタログと違うものが届きますと、当然これは、買った方は怒りますし、商品を返品するということになると思いますけれども、選挙では四年たたないと返品はできないわけでありまして、このマニフェスト選挙、マニフェストをどう国民が捉えて、選挙に臨んで、この選挙結果が出たのか。マニフェスト選挙というのは一体何なのか。政権公約を守るのか、守らないのか。書いたことが簡単に実行できなくていい、そういう選挙であっていいのかどうかという御意見を四人のそれぞれの参考人の方にいただきたいと思います。

曽根参考人 恐らく、現在、民主党のマニフェストに対する批判は、事前におけるフィージビリティー、実行可能性、実現可能性のチェックが甘かったから、これが原因の一つであるだろうと思います。

 そして、甘いマニフェストを書いてしまって、選挙で勝った場合、どういうことが起きるかというと、次の選挙で厳しい批判にさらされる。これは今までかつてないくらい厳しい批判にさらされるのではないか。その学習は結構、学習効果が今後は生きるだろう。それは民主党としては直面しなきゃならない問題というふうに理解しております。

加藤参考人 マニフェストにつきまして私がふだん思っていることは、導入されてからの経緯を見ますと一つの感慨があるというか、イギリスなどで発達したものを入れてきているわけでありますが、その後の対応のまずさというものを感じています。

 一つは、マニフェストを詳しく書くことについて反対意見があって、マニフェストを簡単なものにする動きがありましたけれども、私は、詳しいのはなきゃいけないと思います。それは誰が読むのかという議論がありますが、これは、一般の有権者はほとんど読まなくて、それで結構なんだと思うんですね。読まなければいけないのは、選挙に関係している政党や候補者の方、あとはメディアの方ですね。

 それで、なければいけなかったのは、民主党のマニフェストが実行できなかったのだとすれば、当時、選挙運動の中で、それをもう少しわかる形で批判をするというようなことをやらなきゃいけないところが、十分できなかった。あとは、メディアもそれぞれが言っていることをただ伝えるだけに終わったというところで、マニフェストは、運用の仕方で非常にまずいところが政党とメディアにあったということで、これを反省していただければ、いい方向に持っていけるのではないかと思っています。

 それで、一部のマニフェストの実行ができないという点ですが、これは、私は、外野から見ていて、ぜひ率直におわびしていただきたいなと思って見ておりました。

 私が印象深いのは、留学していたドイツで、一九七六年ですが、当時のシュミット政権ですけれども、予算の見通しを、選挙のときとその後で、そのとおりできないということがはっきりしたときがあります。このときは、本当に有権者にわかる形で、当時のシュミット首相は国民に対しておわびをしたのでありますね。それで有権者は相当印象を変えたということがあります。

 そういうこともありますので、当時、埋蔵金がこれだけあると思っていたけれども、実際はそれぐらいなかったとかいうようなことがあるんでしたら、そこは認めていただいて、その後の議論につなげていただきたいなと思います。

田中参考人 マニフェスト選挙自体、私は根本から批判しておりまして、もう十年ぐらい前から、これを始めたときから問題があると。マニフェスト選挙自体が大きな問題、矛盾を持っている、詳しいお話はちょっと省略しますけれども、持っているので、マニフェストでは選挙できない、国民は正しい選択ができないということを言っているわけであります。

 それはさておいて、今回の民主党に関しましては、こういうふうに思っております。民主党は、さきの参議院選挙前まではある意味ではまともなことを言っていたんだけれども、小沢さんが党首になってから、二〇〇七年の参議院選挙、それから今回の衆議院選挙ですが、要するに、まあ、できるかできないかはわからないけれども、国民に受けそうなものはどんどん入れようというようなことに変わったと私は思っているわけです。

 簡単に言いますと、端的な例は子ども手当ですね。子ども手当は、当初、小宮山さんなんかがやっていたときは一万六千円ぐらいでいいんだと言っていたのが、そんなんじゃもたないからというので倍増させるというようなことですね。それから、ガソリン税のあれも廃止するとか、結局、選挙に勝って何ぼであるという形に民主党は転換したわけであります。

 だから、国民はマニフェストを読んで民主党に今回投票したとは私は思っておりませんで、むしろ、何だか知らないけれども、自民党政権と公明党の連立政権はよくないから、この際やはり民主党にやらせたいという何となくムードが、わあっと今回の結果となってあらわれたと思います。

 ただ、マニフェストに関して言えば、要するに、政権をとるためのいわば、何といいますか、毛針と言うとまた怒られるかもしれませんけれども、そういうようなところがあるわけでありまして、実際にできないことはわかっていたわけなんですね。多分、要路にある方はきっとそう思っていたに違いないと思うんです。それが実際にできないことになったならば、菅総理大臣が「大臣」という岩波新書の中で明確にお書きになっているように、総理がやめるならば直ちに解散をして民意を問うべきであると。民主党は直ちに解散すべきであるというふうに私は思っております。

五十嵐参考人 選挙で誰に、どの党に投票しようかと思ったときに、何を手がかりにするかというと、やはりその人が言っていることや掲げている政策ですよね。だから、公約やマニフェストというのは、それは投票のための手がかりとして大変大切だと僕は思うんです。しかし、大切なものをいいかげんにつくっちゃったというところに問題があるわけで、そのつくり方や内容に問題があった。

 選挙において、どういう政権をつくるのか、どういう政策を実行するのか、やはりそれは国民に対する、有権者に対する約束ですからね。要するに、方便として、政権をとるために、多数をとるために口当たりのいいことを言っちゃえばいいんだ、もうどんどん入れちゃえというふうにはやはりいかないだろう。もしそういうことでやられたんだったら、これは大きな問題であるし、そんなことはもう二度とやってもらいたくない。

 しかし今回、民主党の場合、そういうニュアンスがやはりかなり大きい。なぜそうなったのかというと、これは、私がさっき指摘しました選挙互助会的弱点。これも大変言いにくいところなんですが、結局、当選するために肩を寄せ合い、小選挙区でもってとにかく相手をたたき落とす、そういうことで一つの政党をつくる。しかし、政治理念や政策などはばらばらですから、なかなか一致できない。だから綱領もつくれない。綱領はないですね。

 マニフェストということでもなかなか一致できない。特に、重要な問題になればなるほど一致できない。やはりそういう問題点というのが、当選した、政権をとった後に出てきているのではないかというふうに私は思っております。

 だから、有権者の重要な手がかりになる公約にしろマニフェストにしろ、それはやはり真剣にきちんと討議をして、実行できる内容のものを国民に対する約束として掲げるべきだったのではないか。また、今、そこから後退するということについては、やはりそれは、責任を明らかにした上で、どうしてそうなったのかということについても説明が必要だろうというふうに思います。

内山委員 ありがとうございます。

 それでは、もう一度同じようにお聞きしたいと思うんですけれども、マニフェスト、政権公約に書いてないことを実施する、例えば消費増税であったりTPPであったり、こういったところは今議論をしておりまして、税と社会保障の一体改革でも、書いてないことをやることはどうなのかとか、非常にやはり稚拙な問答をやっておりますけれども、マニフェストに書いてないことを堂々とやるということは、参考人の皆さんはどのようにお考えになりますでしょうか。お一人ずつお願いします。

曽根参考人 書いてないことを言ったので手ひどく政権にダメージを受けたのが普天間問題です。普天間問題は、民主党は普天間という字さえ入れていないんですね。これはかなり周到に準備して、そこは表現をやわらかい形でしていたけれども、党首が選挙中に最低でも県外と言ってしまった。これによって、特に日米関係はかなり難しい局面に立ったし、鳩山首相は、辞任の一つの大きな理由になったわけですね。

 ですから、書いてないことを言うこと、それは実は、書いてないことを選挙期間中に首相が言うということは、ほぼマニフェストと同じというふうに受けとめた方がいいと思います。

 もう一つのお話は、書いてないことで、例えば、リーマン・ショックが起きたあるいは大震災が起きたというようなことがあった場合には、書いてないことでもやらざるを得ないですね。そういう意味では、マニフェストというのは、四年先まで全部見通して書き切るというものではないと思います。方向性は示すことは可能である。

 そういう意味では、危機管理のことも書いておけばいいじゃないかというのが一つですけれども、現実の政治における大きな、国際状況あるいは世界の経済状況というようなものをかぶってマニフェストにないものを補うということは、これはあり得ると思います。それは普通の、政治を運営するときには当然考慮すべきことだと思います。

加藤参考人 マニフェストに書いてないことにつきましては、事情が変わった点についての対応という部分があるでしょうから、一概に否定できない点があるかと思います。

 それで、私が先ほどちょっと触れた点ですが、いろいろな点を含めて、とにかく、四年間でこれこれやりました、いかがですか、だめならどうぞ政権交代をというのが小選挙区のダイナミズムかと思います。ですから、それをかわしたいならそれだけのことを言うということでありまして、何となく前と同じ議席数を維持できるというような比例代表とか中選挙区制ですと、なかなかその辺のところははっきり出てこない。

 先ほど、ぬるま湯はだめだと言いましたが、比例代表は、各国の例を見て、一回にかわるのはせいぜい三%ぐらいです。ですから、大きな、政権を交代させるようなことにはなかなかつながらないのに対して、とにかく漠然と、今の与党はだめ、野党のこれがいいとか、そういう観点で有権者が選べるようなシンプルなものを考えるべきであって、それを細かく言って、それを理解した上で有権者に投票を求めるというのは、有権者に対する過剰な期待で、そういうことを期待してつくった制度は、運用上、意図とずれた結果を招くだけだと思います。

田中参考人 マニフェストの件でありますが、曽根先生が言われたように、マニフェストを書いたときに意図しないことが出てくるというのは大いにあることでありまして、実際に、イギリスの政治を研究したある人は、イギリスの政治を見て、マニフェストに左右されるよりは、そのときの時勢によって左右される場合の方が多いんだというようなことを言っている人もいらっしゃいます。

 だけれども、今回の民主党のTPPと消費税に関しましては、もう既にマニフェストをつくった段階から予想されていたことであって、これはやはり意図的に隠したものであって、当然それは許すべきものではないだろうというふうに私は思っております。

山田委員長 時間がありませんので、手短に。

五十嵐参考人 はい。

 何でもやってもいいということであれば、マニフェストとは一体何なんだということになっちゃいますね。だから、僕も、一定の範囲のものはあると思うんです。だけれども、選挙のときにこういうふうにやりますよと、八百屋だと思って国民が投票したら、突然途中から魚を売り出す、これはやはり、ちょっと違うんじゃないかということになりますよね。

 だから、選挙で掲げたマニフェストから大きく変わる重要な問題については、やはりこれは改めて国民の信を問うということが必要なのではないかというふうに思います。

 以上です。

内山委員 ありがとうございました。

 終わります。

山田委員長 次に、中島隆利君。

中島(隆)委員 社民党の中島隆利でございます。

 本日は、四名の参考人の皆さん、貴重な御意見を賜っておりますこと、まず心からお礼を申し上げたいと思います。

 私も衆議院の選挙制度改革協議会のメンバーでございますが、一票の格差をめぐる違憲状態、これについては最高裁の判決を重く受けとめるべきだというふうに思っておりますし、格差是正もこの選挙制度改革の中で行うべきだという立場であります。

 そこで、今まで質問の中で回答されました参考人に、まず曽根参考人と加藤参考人にお尋ねしたいと思います。

 というのは、現行制度で五回の選挙が実施されました。民意の集約ということで、政権交代可能な二大政党ばかりがこれまでマスコミも含めてあおられた。そういう中で、逆に政治が民意から離れている、こういうふうに思っております。特に、今の国会状況を見ていただくと、政策を通じた論戦というよりも、政局での国会戦術を競い合う、こういう状況がございます。やはりこれは、小選挙区並立制という今の小選挙区制度の弊害ではないかというふうに思いますし、先ほどから出ておりますように、四割の得票で七割の議席を得る、民意が切り捨てられている、こういう状況ではないかというふうに思います。

 そこで、今、曽根参考人、加藤参考人から、現行の制度をどう改革するかというお話の中で、当面は〇増五減でいくべきだ、こういう御回答でもございました。曽根参考人は、中長期的に定数是正、抜本改正はやるべきだ、こういうようなお話、それから加藤参考人は、〇増五減を先行して、中選挙区はだめだから、こういうふうなお話があったんですが、今の選挙制度を維持か、あるいはそれをもとに将来的にという改革なのか、非常に、これまでの選挙の状況あるいは今の国政の状況を見ますと、小選挙区の現行の選挙制度が大きな弊害を生んでいると思うんですが、その点を再度お二人にお聞きしたいと思います。

曽根参考人 現行制度を使えば、国民の手に政権選択が委ねられているわけですから、もし国民が現在の政権を否定するならば、政権を取ってかわることは可能なわけですね。これがもし中選挙区ないしは比例代表だった場合には、多分政権交代は起きない可能性がある。

 ということでいうと、政権交代を促進する意味で、現行制度の方がすぐれているというふうに思います。

 もう一つは、お金の面を実証的に調べた研究から見ると、かなりお金がかからなくなっております。これは、中選挙区論者の方に申し上げたいことは、中選挙区にすれば小選挙区よりも競争は緩くなると思っているかもしれませんが、つまり、現状、一つの事務所で済んでいるところを三カ所にふやさなきゃいけないというふうに、お金の面では相当厳しくなるし、さらに同士打ち、つまり、中選挙区で政党が票数を分けることができる国もあるんですが、日本の場合には政党がそれをコントロールできません。そうすると、同士打ちが熾烈な形で行われた、かつての派閥型選挙という自民党の選挙に戻るわけでして、しかも、それは非常にお金がかかるということです。

 ということで申し上げれば、今の制度が悪いというから、では、どの制度にするか、比例代表にするのかあるいは中選挙区にするのかというと、政権交代とお金の面で、ここが生きるというふうには思いません。

 政策ということでいえば、今の政策が悪いと皆さんが御批判している。つまり、野党の役割というのは、今の政権の政策ではだめだ、我々の政策を実行するためには次の選挙で勝つことだ。国民の皆さんにそれを訴えて、政権交代ができる制度なわけですので、そういう意味では、それを生かした方が、つまり、政党の側、候補者の側も、有権者の側も、この制度を生かして政権交代なりあるいは政権選択なりをする。

 政権選択というのは実は政策選択ですので、政策選択というのは政権交代で起きるんですね。それを、今まで、五五年体制時代に余りやってこなかったところに問題があったと私は思っております。

加藤参考人 お答えします。

 私は六十二歳ですが、大学院の学生のころ、年配の先生が政治では惰性が働くと言うのを聞いて、何ということを言う学者かなと思って、若いときは批判的でしたが、六十を超えて、私も、政治では惰性が大きな働きをしているということを改めて認識しているようなものです。

 五回の選挙を重ねて、よくなった部分もありますが、まだ前の惰性が残っているところがあります。

 例えば、政党本位になっているかと言われたとき、依然として、党の中で異論を唱えて、党としてどちらなのかということは示さないまま、ずるずる時間がたっているというような現象がございますけれども、こういうのはかつての中選挙区のときのやり方でありまして、そういうのでは政党として選ぶことができませんので困りますというのが現在の制度の趣旨だと思うんですね。ですから、過去の惰性を引きずった政党のあり方というようなものをぜひ反省いただきたいなと思います。

 それで、弊害というお言葉でお話しになりましたが、私は、変えることは当然議論があればいいことだと思いますが、残り任期一年とかというような段階で何か大きな改革というのは、余りにも議論が、国民レベルまで含めてやれるということがないと思うので、難しいかと思います。

 それで、かつてのことを思い出していただきたいんですが、昔の公約というのはどういうものだったかというと、経済のことは私にお任せください、どうお任せするんですかというのがわからないまま池田勇人首相にお任せしたり、あとは、かつての公約で一番ひどかったのは、消費税を三%から五%に上げるときですが、当時の与党の議員の中でこういうことを言う人が多かったことを御記憶かと思います。野党に入れてもしようがありません、そんなものは決定につながりません、消費税を三から五に上げるのに反対の方は何をしなければいけないかというと、与党の中で五%に上げるのを反対している我々に入れてください、こういうのが当時の公約です。それで、その公約をした方が、その後、選挙の後それをやったかどうかというと、全然やらないで、沈黙を決め込んだわけですね。当時の公約というのはこういうものです。

 今は、いろいろ批判があると思いますが、どうしてマニフェストに書いてあるとおりやらないのか、あとは、書いてないことをやるのかという形で批判が出ているというのは、かつてのことから見れば大きな進歩かと私は思います。

中島(隆)委員 ありがとうございます。

 そこで、今度は四人の参考人にお聞きしたいんです。

 先ほど田中参考人からもちょっと出ました。前回の選挙制度を変えるときの、リクルートや政治と金の問題で小選挙区導入をされたときの第八次選挙制度審議会が強調された点が四点あります。その一つは政治腐敗の防止、一つは民意の集約による政治の意思決定の明確化、三つ目が政権交代の可能性の重視、それから四つ目が少数意見の国政への反映、この四つを果たすために選挙制度を変えよう、こういう提言だったと思うんですね。

 しかし、今の制度では、これは果たされていない。まあ、政権交代は起こっているんです。しかし、この四つの、政権交代以外のほかの課題を克服するためには、この制度ではちょっと効果が上がらないのではないかと私は見ているんです。

 今までずっと述べられましたが、短い時間で結構でありますが、この四つをクリアするためには、これは選挙制度だけではできないと思います。何かほかの、政治を改革するいろいろな方策も必要だと思うんですが、今の選挙制度をもっと変えるためにはどういう方法がいいのか、端的に述べていただけませんか。

曽根参考人 私は、もう既にお答えをして、お金の面では随分少なくなったと思いますし、民意の集約というのは、政権選択が国民の手に委ねられている、政権交代が行われている。少数意見というのは、これは比例代表部分で吸収しているのだろうと思います。

 問題は、そちら側ではなくて、政党のガバナンスをどうするかという問題であって、つまり、この制度が動くには二つのことが必要なんです。政党のガバナンスがしっかりしているということと、それから、地方分権が進んで、地方のことは地方が決定できるようになって、国会議員が地方のことまで全部やらなきゃならないということではなかったはずなんです。

 ですから、この二つの条件、政党のガバナンスと、地方が地方のことを決めることができる、国会はもっと大所高所、国政、外交とか経済運営とか、マクロの問題に対処するという役割分担があった方がいいと思います。

加藤参考人 過去、五回ですか、やった結果でどうかということですが、政治改革は議論は当然あってしかるべきだと思います。ですから、任期一年とかそういう段階でなく、終わった段階で、次の選挙の後必ずやるというようなことでお話しいただいて結構だと思います。そのときお願いしたいのが一つありまして、物すごく率直な議論をお願いしたいなと思っています。

 私は、中選挙区制度の批判をしましたが、復活をしたいという方が議員の集まりをつくっておられますけれども、中選挙区制というのは何ですかということを言った途端に、実はあの会はばらばらになるんじゃないかなと思うんですね。

 例えば、一人や小選挙区に反対だから二人からだとかと言ったら、二人じゃうちの党はちょっととか、三人でもちょっと難しいとか、五人ならいいけれどもとか、そういうのがあるのではないかと勘ぐっていますが、それはあなたの勘ぐりにすぎないと言われればそうですが、そういう議論をぜひしていただきたい。

 あとは、比例代表制を論じる方は、議院内閣制でやっている以上、絶対議論しなきゃいけないのは、要するに、敷居を全く外した、制限条項の全くない比例代表というのは、議院内閣制をとる以上はまず考えられないと思うんですね。そうしたら、ドイツがやっているように五%の条項を設けるとかなんとかと出てくると思いますが、そういうのを全然議論しないで比例代表をただ言って、そうすると、実は、いや、うちの党は三%しかいかないんじゃないかとか、そういうようなことを思いながら比例代表がいいとか言っているのでは、議論にならないと思います。

 ですから、ぜひ、今のはだめだという方も、自分たちの案をきっちり、率直なところを出して議論をお願いしたいなと思っています。きょうずっと聞いていまして、二人と二人の、選挙制度に託する理念の違いが、明確に違っているのがはっきりしたかと思いますけれども、そういうのを踏まえた上で、自分たちはどう考えるということをぜひ議論していただきたいなと思います。

田中参考人 政権交代は、一九九三年の中選挙区制時代に起こったんですね。皆さんはもう忘れていらっしゃるかもしれませんが、細川内閣ができたのは、まさに政権交代。だから、政権交代至上主義でいくのは非常に問題で、民意がちゃんと政権に反映するかどうかということの方が一番大事な問題だと私は思っております。政権交代それ自体が目的となるのは邪道な議論であろうと私は思っております。

 それから、この前の、これで比例代表だったら政権交代は起こらなかったかもしれないというわけですが、仮に前回の二〇〇九年なんかを見ますと、比例代表でもあるいは政権交代は起きたのではないかというふうに私は思わないわけではないわけであります。というわけで、必ずしも余り、政権交代にこだわる議論というのは非常に問題だと思うんです。

 それから、これは曽根先生の意見に賛成なんですけれども、仮に二大政党制に集約しても、その二大政党制ががたがた、つまり、ガバナンスと言われましたが、がたがたなら何のための小選挙区制なのか、こういう議論になると思うんですね。

 今は残念ながら、民主党を見てみますと、正直に言いましてとてもガバナンスがうまくいっていない。そういうところで二大政党に集約すると、本当に民意が反映するのだろうかという疑問を私は正直持っております。

五十嵐参考人 四番目になると時間がなくなって、いつも短くなって。

 政権交代は、国民が望んでいれば交代するという形になるのが当然であって、望んでいないのに制度によって実現しやすくするというのは、邪道というか、これはやはり民意に反する。

 小選挙区の場合は、これは石川さんが言っていることですけれども、政権交代が起きやすくなるというよりも、政権交代がドラマチックに起きると。つまり、過剰勝利なんですよね。だから、物すごくはっきりとした形で政権が交代するということはあるかもしれません。やはり、それは最終的に国民が交代を望んでいるかどうかということに決定される。

 もう一つは、政権が交代したにもかかわらず、政策は転換したのだろうかというのが今の国民の持っている大きな疑問なんだというふうに思うんですよね。

 鳩山さんのときにかなりそれは理念的にも大きく変わったように見えましたけれども、だんだん時間がたつにつれてもとに戻っているんじゃないかなという、そういう点での政策転換というものが政権交代によってどれだけ果たされたのか、政治はどれだけ変わったのかということが今問われているんじゃないかというふうに思います。

 政治と金の問題についても、結局その後、多分、鈴木宗男さんの事件だとか、今問題になっている陸山会事件とか、あるいは鳩山さんの子供手当の問題とか、要するに、なくならなかったということですよね。これはやはり政治資金規正法や腐敗防止法という形で別個にきちんと法的、制度的な対応を行うべきであって、選挙制度とは切り離して腐敗防止のための法律をきちんと整備するべきだろうというふうに思います。

 それから、少数意見の反映というのは、まさに小選挙区制の弱点を補うために比例代表区を並立してつくったわけであって、これは、だから削るというのは、そもそも第八次選挙制度審議会の趣旨に反することだというふうに思います。削ってはならないというふうに思います。

 以上です。

中島(隆)委員 時間が参りましたので。非常に四人の方、政党、政治家のガバナンスが大事だということで大分忠告もいただきました。

 貴重な意見、ありがとうございました。

山田委員長 次に、山内康一君。

山内委員 みんなの党の山内康一と申します。

 最初に、小選挙区制度に関連して曽根先生と加藤先生のお二人に質問させていただきます。

 小選挙区制度のもとでは大体どれぐらいの有権者の人口規模というのが望ましいのでしょうか。

 今の日本の小選挙区だと四十万人ぐらい。しかし、イギリスの場合は日本の人口の約半分ぐらいで下院議員が六百人いますから、多分、七万人か八万人ぐらいの有権者を相手に小選挙区で選挙をしています。私は、七、八万人だと、結構頑張れば戸別訪問で顔が見える関係ができると思うんですけれども、四十万人の小選挙区でやると結構しんどいと思うんですね。どれぐらいが適切なレベルなのかなという相場観があればお二人にお聞きしたいと思います。

曽根参考人 これは議員定数の削減の議論とも関係するんですが、日本の議員の数が異常に多いということはなくて、世界的に見たら、特にヨーロッパは人口が少ない国が多いので、今おっしゃったように十万あるいは二十万くらいで一議席というケースが比較的多いのではないかと思います。これは厳密に計算したわけではないのでわかりませんけれども。

 アメリカと日本を比べると、日本は議員が多いということになるんですが、そういう意味で、何万人くらいで一議席がいいのか、最適数というのはわかりません。最適数ではなくて、これはむしろ歴史的経緯でそれぞれの国が決めているのではないかというふうに思っております。

加藤参考人 私は、何人がいいかというのはコストとの関係だと思うんですね。ですから、議員がふえて、歳費が安くて、スタッフが少なくていいなら、もっとふやしたっていいと思うんですね。日本ではその辺が、先ほど申し上げたように議論がばらばらで、あるところはアメリカがいいみたいな話をして、あるところはイギリスみたいな話ですが。

 先ほど御紹介したポルスビーですが、イギリスの議会の様子を活写しているんです。議員さんのコートを預けるところが実はなくて、食堂の横にロッカーがあって、そこに入れている時代、いつの時代のことか、ちょっと古いかもしれませんが、そういう時代があって、下手にかがんだりすると、ウエートレスの方がこうして通っているところとぶつかってしまうというようなことです。こういう、安くていいというなら、そういうことで議員がふやせることだと思います。

 それで、アメリカのように、大量のスタッフがいて、上院議員みたいに四十何人もいるとか、そういうのでないと議員活動が務まらないようでしたら、議員の数は、やはりコストからいってある程度抑えざるを得ないことだと思います。

 ですから、選挙民何人に議員一人かというのは、べらぼうにふやすわけにもいかないでしょうから、その辺とあわせて、どういうのがいいのかという議論を始められたらいかがかなと思います。

山内委員 次に、比例代表の選挙制度について、田中先生と五十嵐先生、お二人に質問させていただきます。

 実は、みんなの党も、選挙制度改革では全国集計の比例代表というのを主張しているんですけれども、ただ、比例代表を中心の選挙にすると、その党の中の順位をどう決めるかというのが非常に重要な問題になってくると思うんですね。正直言って、今の参議院の全国比例だと、どこかの業界団体かスポーツ選手が非常に有利になって、普通のサラリーマンとか普通の自営業の人がぽんと出て全国比例で当選できるかというと、不可能に近いと思います、今の参議院の比例だと。

 ああいう制度はちょっとまずいんじゃないかなと思う一方で、もし衆議院の選挙を全国比例制度にするのであれば、どういうふうに党の中の順位を決めていくか、あるいはどういう制度が望ましいとお考えでしょうか。

田中参考人 確かに非常に難しい問題を提起されたと思います。

 先ほども議論がありましたけれども、やはり全国でやるというのはなかなか難しいのではないかと思うんですね。一人の候補者が全国を走り回って、しかも、最近、選挙運動期間が短くなっておりますので、その中で回るというのはなかなか難しい。そうなると、やはりブロックを考えざるを得ないのではないか。

 そこで、今度は、非拘束式でいくのか拘束名簿でいくのか、こういう問題になっていくんですが、参議院がいい例です。初めは拘束式でやったんだけれども、どうもうまくいかないから非拘束でやった。そうすると先ほど御指摘のあったような問題が起こるわけで、私も、非常にその辺、どうしたらいいのか迷っているところでありますけれども、どちらかというと、六、四ぐらいというような感じで、やはり非拘束の方がいいんじゃないか。

 なぜならば、今のところ、おたくの政党は別かもしれませんが、やはり政党の中で候補者が民主的に選ばれないのではないか。それならば、さっき言ったようなリスクはあるかもしれないけれども、国民が選んだ数によって選んだ方がまだましなのではないかなという感じを私は持っております。なかなか難しい問題だとは思いますけれども。

五十嵐参考人 この点でも田中先生とほとんど同意見でありまして、全国で選ぶというのは大変民主的なやり方で、制度的には一番支障がなくなるということですが、やはり全国を飛び回るというのは候補者に負担が大きいのではないかということと、地域との関連ということですよね。北海道や沖縄では、やはり地域特性という点で、抱えている課題も違うでしょうし、そういうことをある程度反映されるような国民代表ということがいいのではないかというふうに思います。

 党内での順位や、あるいは名簿をどうするのかということですけれども、予備選挙というやり方が一つあります。選挙名簿をつくる前に党内で予備的にやる。ただ、これはいろいろ難しい問題があって、今、韓国で、予備選挙に不正があったんじゃないかということで、野党の中がごたごたしておりますけれども、こういう問題が出てきます。

 それから、あらかじめ順位を決めた拘束名簿式ではなくて、順位を決めない非拘束名簿式でもって個人に投票してもらうというやり方があると思います。これは、選挙ではやはり人間を選びたい、候補者を選びたいという要求もあると思うんですよね。だから、そういう点では、政党の名前を書くということではなくて、個人の名前を書くということもあっていいのかな。だから、この辺を勘案して、国民に支持されるような、納得されるような制度を導入するといいますか、つくっていくということが必要なのではないかというふうに思います。

山内委員 では、四名の先生方にお聞きします。

 選挙制度というよりは、ちょっと法律の枠の外になってしまいますけれども、政党内の候補者の選び方というのは非常に重要ではないか。特に、先ほど政党のガバナンスのことに触れられた先生がいらっしゃいましたけれども、政党の中の候補者選びのあり方ですね。広く、例えば男女のバランスもあれば、職業のバランスもあれば、いろいろなバランスを考えて、どういう人を採っていくか。

 それ自体、非常に重要で、各党それぞれカラーがあっていいと思うんですけれども、どういう形で政党内の候補者を選んでいくか、あるいは、もし政党の比例の順位をつけるのであれば、順位の上か下かとか、それをどういうふうに決めていくといい政党のガバナンスができるんでしょうか。お伺いします。

曽根参考人 比例代表制の根幹にかかわる問題を御質問されたと思います。

 比例論者は、民意の比例配分的な議席、つまり、投票と議席の転換率の効率のよさを比例代表の特徴の代表にしていますが、実は、政党の見識というのは名簿、リストをつくるときに決まるわけですね。ところが、リストがつくれない、あるいはつくろうと思うと党内が分裂する、この問題の方が実は大きいわけです。ですから、比例代表というのはある意味でリストとワンセットだろうと思います。

 それで、例外的に非拘束が参議院で行われていますが、あれは、皆さんがよく理解されていないのは、実は二票制なんですね。二票制というのは政党名と個人名と。多くの人は個人名を書くという権利を放棄している。だから、カウントは政党名だけで、実際の当選者は個人名を書いた人の票がカウントされているわけです。二回カウントされているんですね。ですから、そういう意味で、ある意味で選択をみんな有権者に任せてしまって政党の見識を疑うようなことがある。これが比例代表の非常に重要な問題です。比例代表を生かすような政党に実はなってほしい。

 ところが、公認をするときに、党内が分裂する、あるいは対立が激しくなる。そのとき、選ぶ基準を、党員、党友の獲得数によって決めるとか、過去いろいろな事例がありました。ですから、党というのはいろいろなところで、さっきガバナンスと申し上げました、だけれども、公認ができるというのは一つ重要な要件であり、かつ、リストがつくれるような政党であってほしいと思っております。

加藤参考人 四番目の方の時間を奪わないように短くお答えしたいと思います。

 私は、これは政党の組織がどの程度あるかだと思います。それで、日本では、ないに等しい全国政党が結構ありますから、公募式みたいなことで決まってくる側面があると思います。

 ドイツのように組織がしっかりしてくれば、小選挙区は小選挙区で選ぶというようなことになって、ドイツの場合でいうと、小選挙区の候補者の名前は地元の有権者は覚えない、それで、一票の中に、比例の部分と政党の小選挙区での候補者が並んで書いてあるので、特に意識しないでさっと両方つけてしまうという人がほとんどです。ですから、そういうところと日本のようなところを同列に論じられないのです。

 日本はちょっと組織がなさ過ぎると思いますので、政党の組織、政治家の方にはもう少し考えていただきたいなと思います。

田中参考人 先ほどお話ししましたけれども、大変難しい問題なんですけれども、とりあえずは、密室ではなくて、公開の場で候補者を選ぶような形にしていくといいのではないかと思います。

 そのときに、いろいろなファクター、例えば女性の問題だとか、党への貢献だとか、そういういろいろなファクターも公開の場で出て、これだからこの人は選んだとか、この人は落ちたんだとか、そういうことが外からも見えるようにやっていくと、よりましなというか、よりすぐれた候補者が生まれていくのではないかと思います。

 曽根先生が言われたように、これは大変難しい問題だと思いますが、まずはその辺から始めてみられたらどうだろうかと今は思っております。

五十嵐参考人 これはもうそんなに意見は違わないんですが、政党の候補者をどう選ぶかはその政党の考え方や見識があらわれるという点では、私も曽根先生と同じ意見です。

 ただ、それは比例代表の名簿だけではなくて、小選挙区だって同じではないかというふうに思うんですね。小選挙区、特に二大政党の場合、あるいはかなり有利な風が吹いている政党の場合ですと、小選挙区で名簿に登載された段階である程度当選しやすいんじゃないかと見られる。そういうこともありますから、候補者を、どのような視点からどういう人を選ぶかということは、それは小選挙区であれ比例代表であれ、それぞれの政党の立場、考え方や見識が問われることになる。

 ヨーロッパの場合ですと、例えばジェンダーを重視してクオータ制にして、男女一人ずつ交互に候補者にするとか、あるいはマイノリティー、少数の人を優先するとか、あるいは世代などのバランスを考えるとかというようなことは当然あるだろうと思いますし、それを公開で、民主的でというふうな形で、できるだけ密室ではなくやるということも必要だろう。先ほど予備選挙の問題をちょっと言いましたけれども、そういうやり方もそれぞれの政党の中では考えられていいのではないかというふうに思います。

 以上です。

山内委員 あと一分半ぐらいしかないので、最後に、四人の先生にイエスかノーかでお答えいただければと思いますが、候補者の段階で男女のクオータ制というのを導入すべきかどうかということについて、四人の皆さんのお考えをお聞きします。

曽根参考人 それを決めたい政党があるならば、それはやればいいし、それは政党の決断だと思います。

加藤参考人 私は、クオータの割合をどのように考えるかということも含めて、今の曽根先生と同じで、各政党がこういうことを訴えたいのでこうしましたというのがはっきり出ればいいと思うんですね。ですから、そういう意味でも、政党として選んでもらうとき、目のつけどころの一つになる可能性はあると思います。

田中参考人 今まで前の二人の方とは異なった意見をしばしば言ってきましたが、大体同じ意見でございます。

五十嵐参考人 女性の比率を高めるべきだというふうに思いますが、直ちにそれをクオータ制という形にするかどうか、それは各政党の判断だろうというふうに思います。

 以上です。

山内委員 以上で質問を終わります。ありがとうございました。

山田委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして、厚く御礼申し上げます。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後三時四十九分散会


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