衆議院

メインへスキップ



第17号 平成16年5月12日(水曜日)

会議録本文へ
平成十六年五月十二日(水曜日)

    午前九時三分開議

 出席委員

   委員長 池坊 保子君

   理事 青山  丘君 理事 伊藤信太郎君

   理事 遠藤 利明君 理事 渡海紀三朗君

   理事 川内 博史君 理事 平野 博文君

   理事 牧  義夫君 理事 斉藤 鉄夫君

      今津  寛君    宇野  治君

      江崎 鐵磨君    小渕 優子君

      奥野 信亮君    加藤 紘一君

      上川 陽子君    城内  実君

      岸田 文雄君    近藤 基彦君

      鈴木 恒夫君    田村 憲久君

      西村 明宏君    馳   浩君

      古川 禎久君    山際大志郎君

      加藤 尚彦君    城井  崇君

      小林千代美君    古賀 一成君

      須藤  浩君    高井 美穂君

      土肥 隆一君    鳩山由紀夫君

      肥田美代子君    牧野 聖修君

      松本 大輔君    笠  浩史君

      富田 茂之君    石井 郁子君

      横光 克彦君

    …………………………………

   文部科学大臣       河村 建夫君

   文部科学副大臣      稲葉 大和君

   文部科学大臣政務官    田村 憲久君

   文部科学大臣政務官    馳   浩君

   政府参考人

   (文化庁次長)      素川 富司君

   政府参考人

   (農林水産省農村振興局整備部長)   南部 明弘君

   文部科学委員会専門員   崎谷 康文君

    ―――――――――――――

五月七日

 助産の高度専門職大学院での質の高い助産師教育実現に関する請願(阿部知子君紹介)(第一八一〇号)

 私立専修学校の教育・研究条件の改善と父母負担軽減に関する請願(赤嶺政賢君紹介)(第一八三三号)

 同(石井郁子君紹介)(第一八三四号)

 同(穀田恵二君紹介)(第一八三五号)

 同(佐々木憲昭君紹介)(第一八三六号)

 同(志位和夫君紹介)(第一八三七号)

 同(塩川鉄也君紹介)(第一八三八号)

 同(高橋千鶴子君紹介)(第一八三九号)

 同(山口富男君紹介)(第一八四〇号)

 同(吉井英勝君紹介)(第一八四一号)

 国による三十人学級実現、私学助成大幅増額に関する請願(藤田一枝君紹介)(第一九三二号)

 豊かな私学教育の実現のための私学助成に関する請願(阿久津幸彦君紹介)(第一九三三号)

同月十二日

 すべての子供に行き届いた教育を進め、心の通う学校に関する請願(泉房穂君紹介)(第二〇二九号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 文化財保護法の一部を改正する法律案(内閣提出第八七号)

 私立学校教職員共済法等の一部を改正する法律案(内閣提出第四八号)

 地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出第一二六号)


このページのトップに戻る

     ――――◇―――――

池坊委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、文化財保護法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として文化庁次長素川富司君及び農林水産省農村振興局整備部長南部明弘君の出席を求め、説明を聴取したいと存じますが、御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

池坊委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

池坊委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。斉藤鉄夫君。

斉藤(鉄)委員 公明党の斉藤鉄夫でございます。

 今回、この文化財保護法とそれから著作権法の改正案が国会に提出されております。衆議院におきましては、文化庁行政にかかわる初めての質疑になるわけでございます。そういう意味で、文化財保護また文化振興という全体のことにつきまして、まず最初に大臣に御質問を申し上げたいと思います。

 二年半前に文化芸術振興基本法ができました。そして、それに基づいて文化芸術振興基本計画が立てられているところでございます。そういうことで、文化予算、文化芸術振興予算、ふえてきてはおりますけれども、諸外国に比べるとまだまだ低いレベルだ、このように認識をしております。今年度の文化庁予算、文化庁予算を文化芸術振興予算、こういうふうに置きかえるといたしますと、今年度一千十六億円、これは国家予算全体八十二兆円の中の〇・一二%ということでございます。

 ところが、この割合、フランスでは一%前後あると言われております。よく文化芸術振興の一つの形としてフランス型もしくはヨーロッパ型と言われておりますが、このフランスやヨーロッパの諸国は、予算をかなり確保して、その予算で文化芸術振興をやっているわけですけれども、大体国家予算の一%前後を文化振興に使っている、このように言われております。

 また、これはヨーロッパだけではなくて、例えばお隣の韓国も、最近、韓国は新進若手芸術家の活躍が本当に注目をされておりますし、また韓国の映画というのも今世界に発信をされて、非常に韓国の文化芸術発信というのが注目されておりますが、その韓国においても〇・六%というふうに私は認識しております。国家予算の〇・六%が文化芸術振興に使われている。

 そういう中で、日本はつい二、三年前までは〇・一%にも達しなかった。ここ二、三年、この文化芸術振興基本法、超党派でつくりました文化芸術振興基本法ができて〇・一二%というところまでいきましたけれども、それでもアジアの周辺諸国、またヨーロッパの国々に比べると甚だお寒い状況、こう言わざるを得ないわけでございます。

 これからの日本は、まさに経済的にも、また世界の中での日本の地位を高めるという意味でも日本の文化芸術振興ということが重要になってくると思われますが、まず第一に、そのもととなる予算を拡充しなくてはいけない、我々立法府の人間もその点を非常に認識しなくてはいけないと思うんですが、大臣、そのことについてのお考えと御決意を最初にお伺いしたいと思います。

河村国務大臣 おはようございます。

 斉藤先生には、文化芸術振興法の成立について、その先頭に立っていただきまして成立いたしました。改めて敬意と感謝を表します。

 今御指摘のあった点は、私も全くうなずかざるを得ない状況にあると私も認識をいたしております。文化予算、我々は、日本はいっぱしの文化国家のつもりでおるわけでありますが、現実に文化予算にどのくらいお金を使っているかということになりますと、今斉藤先生の方から御指摘があったパーセンテージでありまして、これをいかに伸ばすかということは一つのこれからの大きな課題であると私も思っております。

 現実に、文化につきましてはかなり地方も頑張っておるわけでございまして、国も文化予算を立て、また地方に対する支援もしているわけでございまして、地方の予算を統計上見ますと、日本の国家予算一千億に対して、地方はその七倍弱のもの、六千六百億ぐらいのものが今現実に文化に使われておる、こういう状況でございます。しかし、それを足したって一兆円にはいっておりませんで、統計上見ても、ドイツだって地方を足すと一兆をはるかに超えている、こういう状況下にあることをかんがみますと、我々はまだ努力が足りないという思いでございます。

 これから、今回の法案も提出させていただきましたが、文化芸術、日本の歴史、伝統、それから生活習慣、そういうものからたくさん生まれている文化というものをもっともっと引っ張り上げて、そして高い文化水準を保つために努力をいたしたい、こう思っております。その裏づけになる予算の獲得についてはさらに努力をいたしたいと思いますし、これまでの日本の文化予算が、一千億にいったと言われながらも、中身を見ると、ややもすると箱物的なものがつくと予算が伸びるというような状況がある、そうじゃなくてもっとソフトの部分なんかにも力を入れていかなきゃいかぬと思っております。

 それからアメリカの例なんかを見ますと、アメリカは、表面に出てくる数字というのは意外と少ない数字なんです。しかし、これはよく裏側を見ると、税制によって寄附をしっかり集めてやっている。こういうこともございますので、そういう点からも、もっと我々、知恵を出さなきゃいかぬし、そういうことも考えていかなきゃいかぬと思っておりまして、立法府からも力強い御支援をいただきながら、本当に胸を張って文化芸術立国だと言えるように努力をいたしたい、こう思っておるところであります。

斉藤(鉄)委員 今、大臣、アメリカの話を出されましたけれども、これは一九九九年のデータでしたけれども、アメリカは確かに、政府が文化振興の予算を確保してそれを使うということは余りしておりませんが、先ほどおっしゃったように寄附が非常に盛んで、これは四年前のデータですけれども、一九九九年一年間で、文化振興のために集まった寄附の総額は、百円換算で一兆一千六百億円だそうでございます。同じ年に日本の寄附が百八十三億円ということで、六十倍の差がある。ヨーロッパ型の文化芸術振興、政府が助成をするということでも、先ほど言いましたように十倍前後の大きな差があるということで、本当にこれから心して頑張っていかなくてはいけないな、このように思っておりますので、大臣もよろしくお願いをいたします。

 それでは、今回の文化財保護法の一部を改正する法律案についてお聞きするわけですけれども、まず、大臣、文部科学省、文化庁としての基本的な文化財保護についての基本方針、これをお伺いいたします。

河村国務大臣 文化財の保護というもの、これをこれからどのように進めていくか、基本的な考え方でございます。

 文化財というのが、我が国の歴史、文化等を正しく理解するためには、これは欠くことのできないものでございますし、いわば日本の文化、歴史、そういうものの一つのあかしといいますか、それが文化財としてあらわれておるわけでございます。そういう意味では、これからの歴史の積み上げ、将来の文化のための発展をなしていく基礎でございますから、これを国としてきちっと保護していく、そしてそれを保護しながら活用していく、これは極めて重要なことであろう、こう思っておるわけでございます。

 現在、その文化財を保護するための基本法として文化財保護法があるわけでございますが、これは、有形の文化財あるいは無形の文化財、さらに民俗文化財、それから記念物、その上に伝統的建造物群、こういうものを文化財として定義いたしております。これらの文化財のうち、重要である、そう思うものを、国が指定等を行いながら保護する、こういう形をとっておるわけでございます。

 また、指定等を行った文化財につきましては、現状の変更とかあるいはそれが輸出されるような場合には一定の制限が課せられる、こういうこともございますし、また一方、文化財の保護、修理、あるいは防災、また伝承承継者養成、こういうことのための保護といいますか、それのための財政措置を行っている、こういうことにいたしておるわけでございます。

 今日、我が国の社会構造、国民意識、こういうものが、文化財を取り巻く環境にいろいろ厳しい現況がございます。いわゆる開発と保存の問題というようなこともありまして、文化財行政としても、こういうことも踏まえながらこれからの対応を考えていかなきゃいかぬ、そのための見直しをしていこうというのが、今回の文化財保護法の改正の趣旨になっておるわけでございます。

 そういう意味で、今回の文化財保護法の一部改正をいたしながら、今後とも一層の文化財の保護、充実に努めてまいる所存でございますので、よろしくお願いをいたしたいと思います。

斉藤(鉄)委員 先ほど大臣の御答弁の中にもありました、私も今回改めて勉強したんですけれども、文化財と定義される内訳が、有形文化財、無形文化財、それから民俗文化財、記念物、伝統的建造物群というものがこれまでございました。それに今回、文化的景観ということとそれから民俗技術というものが加わるわけでございますけれども、今回はこういう国民の生活に密接に関係したものを取り上げた、このようにも理解できるわけです。

 いわば生きている文化財を保護していこうというものであると思いますけれども、改めまして、今回の法改正の趣旨と意義について、わかりやすく簡潔にお願いしたいと思います。

河村国務大臣 先ほども若干触れさせていただきましたけれども、この文化財というものが、まさに我が国の歴史の営みの中で、自然や風土あるいは社会や生活を反映して、継承して生まれてきた、こういうものでございますから、まさに現在の我が国の文化の基礎になっておる。それを、一方では、その保護のあり方については、社会構造、また国民の意識というものを考えながら不断の改善を図っていくということが必要になってきておるわけでございます。

 今回の文化財保護法の改正におきましては、人と自然とのかかわりの中でつくり出されております文化的景観、また地域において伝承されてきた生活や生産に関する用具とか用品とか、そういう製作技術である民俗技術というもの、これに新しい視点を入れて、保護の対象にしていこうというものでありまして、近代の文化財等を保護するため、建造物群以外の有形の文化財にも登録制度を導入しようということでこれを拡充していこう、こういうことを考えたわけでございます。

 これらの文化財は、いずれも国民の生活に密接に関係をしておりますから、我が国の歴史、文化等を正しく理解するために不可欠である、一方では、我が国の社会、産業構造の変化、あるいは国民生活、意識の変化によって、その価値が十分認識されないままに、ほっておくといつの間にか失われてしまう、この危険もあるわけでございます。まさに斉藤先生言われたように、生きている文化財、生活とともにある文化財でもございますから、そういう面にも配慮しながら、国や地方公共団体、あるいは文化財を持っておられる方、所有者等の連携協力もいただきながら、これらの文化財を国民共通の財産として次の世代につないでいく、継承していく、このように努力をしていきたい、そのための今回の法改正であること、このことに御理解をいただき、十分な御論議をいただきながら、速やかな成立をお願いしたい、こう考えておるわけでございます。

斉藤(鉄)委員 その中で、今回、文化的景観というものが入った。これは、非常に私としても驚きでしたし、ある意味で革新的な試みかな、このように思います。

 私が生まれ育ったのは、島根県と広島県の県境にありまして、棚田百選に選ばれている、そういう一つの山村で生まれまして、まさにその原風景が私の人間形成の上でも非常に大きな比重を占めているんですけれども、私が生まれ育ちましたその村は、高齢化率がもう五〇%を超えておりまして、過疎化が進んで、里山や、棚田なども耕作放棄地となりつつございまして、ある意味では守らなくてはいけない文化的景観なんですけれども、非常に危機にある、このように思っております。

 今回、新たに文化的景観を文化財として位置づける、非常に私は、我が意を得たり、こういう思いもあるんですけれども、このことについて、なぜ今回こういうことになったのか、お伺いいたします。

稲葉副大臣 今、斉藤先生御指摘の点につきましては、まさにこれからの日本の景観、すなわちそれが文化にもつながってくるわけでありまして、特に、過疎化あるいは後継者不足、担い手の高齢化、こういう問題については、ひとり文部科学委員会のみならず、日本の国全体の問題としてとらえていかなきゃならない重要な問題だと思っております。

 先ほど大臣からの御答弁にもございましたように、我々は、これらの問題点を整理する意味も含めまして、これから国会で成立をお願いする景観法と連動しながら、その景観法に定める景観の中から特にこれは大事だなと思われる重要な景観について、各市町村の申し越し、あるいは所有者との協議の上に立って、文化庁長官のところに御申請ございました案件についてその指定を行っていきたい、こう思っているところであります。

 これからの日本のよき文化であります農業あるいは伝統的な技術につきましても、その意味も含めまして今回文化財保護法の改正を要請しているところでありまして、どうしても切れ目なく受け継いでいってもらいませんと、一回途切れた技術というものは回復するのに大変な労力を要する、こういう観点から、今回この法改正をお願いし、さらに、我々としましてもいろいろな運用を図っていかなきゃならない。新たな改正案を運用しながら、不足する部分についてはさらに検討を重ねて補いをしていきたい、所有者の方々に御理解と御協力をお願いしてまいりたい、かようなことまで考えて今回の法改正に至った次第であります。

斉藤(鉄)委員 今副大臣がお答えになりました中で、今国土交通委員会で審議されております景観法との関係、今回の景観法と文化財保護法の改正、この関係がちょっと明確でないものですから、この点についてお伺いいたします。

素川政府参考人 お答え申し上げます。

 今国会に提案されております景観法案におきましては、都道府県または市町村が景観計画区域などを定めます。それとともに、その良好な景観の形成を促進するための行為規制等を行うことができるというふうにしているわけでございます。

 他方、重要文化的景観は、文部科学大臣が、都道府県または市町村の申し出に基づきまして、現在審議されております景観法で定める景観計画区域または景観地区の中にあります文化的景観のうち特に重要なものを選定する。そして、文化庁長官に対する現状変更の届け出等を行っていただくというような保護措置を講ずるということになっているわけでございます。

 このように、文化財保護法におきます文化的景観の保護と景観法というものを関連づけたというのは、景観法におきます良好な景観の形成と、今回文化財保護法において目指しております文化的景観の保護、これは地方自治体の自主的な取り組みを前提とするという点で共通するところがあるわけでございまして、両者が連携することによって効果的に文化財保護の目的を達成することができるというふうに考えたものでございます。

斉藤(鉄)委員 文化的景観を保護する、これは非常に重要だと思いますし、ぜひ進めるべきだと思いますが、同時に、そこには人も生活をしているわけでございまして、その生活に伴う公共事業、道路とかいろいろな公共事業もあるわけでございます。また産業も行われている。その公共事業や産業とこの文化的景観の保護、私は両立できると思っておりますけれども、この関係についての基本的考え方をお伺いします。

素川政府参考人 お答え申し上げます。

 御指摘のように、文化的景観、これは人々の生活や生業に密接に関連しているわけでございまして、地方におきます開発との調整並びに地元の産業との調和、これを図りつつ選定し、それを保護していくという点は特に重要であろうかと考えておるところでございます。

 このため、重要文化的景観の選定に当たりましては、文部科学大臣は、特に、関係者の所有権その他の財産権を尊重するということとともに、インフラ整備等の公益との調整でございますとか、農林水産業等の地域における産業との調和、こういったものに留意するということにいたしているわけでございます。

 さらに加えまして、重要文化的景観の保護に当たりましても、文化庁長官が管理に関する勧告などを行う際には、公益との調整並びに産業との調和を図る観点から、あらかじめ関係各省の長と協議するということといたしておるわけでございます。

斉藤(鉄)委員 それでは、ちょっと時間がなくなってまいりましたので、次に、民俗技術を文化財として位置づけるその理由についてお伺いします。

 私も何となく想像はつきます。今、この都市化の中、また地方では後継者不足や高齢化の中で、日本人の生活を支えてきた民俗技術がこのままにしておけば失われる、その危機感からだと思いますけれども、改めて、今回、民俗技術を文化財として位置づける理由についてお伺いいたします。

稲葉副大臣 もう斉藤先生の御質問の中にお答えも含まれていると思うんですけれども、まさしく私たちがこれから臨んでいかなければならない、注目していかなければならないのは、いろいろな作品を目の当たりにしているんですけれども、その作品の希少性それから価値について、正しい評価とともに、その作品を生み出す職人のわざ、技術、これが伝承していく過程において非常に困難になってきているという現状があります。

 確かに技術的にはすばらしいのでありますけれども、その技術を習得するのに長い年月がかかったり、あるいは費用がかかったり、こういうようないろいろな障害が存在するわけで、我々が日本の日本人たる伝統的な工芸品を生み出す技術というものは、これからも後世に間断なく伝えていかなければならない我々の世代の宿題だと思っております。

 そういう意味も含めまして、これからのいろいろな和様あるいはさまざまな技術についてどうやって保存していこうか、そこに私たちが注目してまいりましたところがありまして、新たに民俗技術について民俗文化財としての位置づけを求め、はっきりした保護対象にするべきだろう、こういう観点から改正をお願いしているところであります。

斉藤(鉄)委員 それでは、三点目の、今回の改正点でございます登録制度でございますが、平成八年の法改正では建造物群ということで建造物にしか登録制度を導入しなかったわけですが、今回の法改正ではその他の有形の文化財に登録制度を拡充することとしました。この理由についてお伺いします。

素川政府参考人 御案内のように、平成八年の文化財保護法の改正によりまして登録制度を建造物について導入したわけでございますけれども、それは開発の進展に伴う取り壊しの危機に瀕するものが建造物については多いとか、一定の対象物件が把握されているというようなことで先行的に導入したわけでございます。それ以外の有形の文化財につきましては、その後引き続き保護手法のあり方について検討してまいったところでございますが、今日、保存及び活用の措置が特に必要とされております近代の文化財というのが存在するということでございまして、これらの文化財は、一定の価値は認められるわけでございますけれども、まだ評価が定着していない、直ちに指定制度という指定を行うということは困難であるけれども、ほうっておくと消滅の危機の可能性もあるということで、早急な保護の措置が望まれているということでございます。

 そういうことを踏まえまして、今回、建造物以外の有形の文化財につきましても拡充するということにしたわけでございます。

斉藤(鉄)委員 今、国会で審議されております無形文化遺産の保護に関する条約への取り組みについてお伺いします。

 先ほど申し上げましたように、文化予算、日本は少ないんですけれども、しかし諸外国からは、日本は独自の文化を持った文化国家だ、このようにも認識をされております。そういう意味で、我が国がこの条約の推進について主導的な役割を担うべきだと思いますが、この点についてはいかがでしょうか。

河村国務大臣 斉藤先生御指摘の無形文化遺産の保護に関する条約、これは、日本としては無形文化遺産の保護制度を世界の先頭に立ってやってきたという経験があるものでありますから、その経験を生かしながら、最初からこの条約交渉の先頭に立って、無形文化遺産保護条約の成立に向けて積極的に参画してきております。

 昨年、おかげさまで、ユネスコの総会において本条約が採択されました。そこで、日本としてもこの条約の早期締結に向けて今国会において本条約の締結のための審議をいただいております、これは外務委員会だと思いますが。それとともに、無形文化遺産保護に関する各国の理解が進んで、条約が発効するために三十カ国の締結が要るわけでございまして、これが早くできればと、これを期待いたしております。

 そして、条約発効後も、条約によって設置をされます締結国会議あるいは無形文化遺産の保護のための政府間委員会、これに日本としても積極的に参加をするということでございまして、無形文化遺産保護に向けた国際的な取り組みについては日本としても積極的に取り組んでいく、こう思っておるところでございます。

斉藤(鉄)委員 先日、NHKテレビで源氏物語絵巻の修復の番組を見させてもらいまして、日本の文化財修復技術は最先端の科学技術を使って世界一だ、このように私は認識をした次第です。

 この日本の持っている文化財保護の技術、ポテンシャルを生かして、発展途上国の文化財、これもほっておきますとどんどん破壊されております。そういう国際協力を、これも日本がイニシアチブをとって進めるべきだと思いますが、この点についてお伺いをしたいと思います。

素川政府参考人 お答え申し上げます。

 文化財の保存、修復に関する技術、日本はその世界の最先端を行っているというふうに理解しておるわけでございますけれども、これを利用した国際協力というのは非常に重要な国際貢献の分野であろうと考えておるわけでございます。

 そのため、文化庁におきましては、例えばアフガニスタンの文化財に関しますと、昨年の八月にアフガニスタン等文化財国際協力会議の報告書というものをまとめまして、その報告書に基づきまして、御案内のバーミヤンの地下遺跡の探査でございますとか、アフガニスタン人の専門家のためのトレーニングのワークショップなどを行ったところでございます。

 さらに、本年一月からは、この会議を引き継いで、文化財の国際協力等の推進会議というようなものを設置いたしまして、文化財分野における国際協力を行うための総合的な対応のあり方について検討を進めてまいっているところでございます。

 今後とも、ユネスコを初めといたします国際的な支援体制を踏まえまして、関係機関相互の連携を図りながら、先生御指摘のような我が国の専門的な知見、技術を生かした国際協力というのを行ってまいることが重要かと考えておるところでございます。

斉藤(鉄)委員 時間が参りましたので終わりますが、最後に、私が最初に冒頭申し上げました、文化国家として、文化大国になるためにも、この文化行政、予算を拡充し、文部科学省としても重大な決意で進んでいただきたいということを申し上げさせていただいて、質問を終わります。

池坊委員長 川内博史君。

川内委員 おはようございます。川内でございます。文化財保護法の改正案について質疑をさせていただきたいと思います。

 私も、今の斉藤先生の御所見、全く同感でありまして、文化庁の予算をもっともっと拡充して、文化というものを、守るべきものについてはしっかり守りというような方向をしっかりしていかなければならぬということは同感であります。

 今回、今国会に提出をされている文化庁関係の法案、今回の審議は文化財保護法の改正案でありますが、これはこれから質疑をさせていただきますが、大変、なるほどな、そうかとみんなが理解をできる法案であろうと思います。しかし、著作権法の方は、ああ筋が悪いな、余りにも筋が悪いなと思わざるを得ない改正案であります。この大変筋のいい法案と筋の悪い法案を同じ素川さんが所管をしているということに私はちょっと理解をできない思いを今持っているところでございますが、著作権法の方はまた、まだ委員会付託をされておりませんので、後日ゆっくりと質疑をさせていただきたいということをまず冒頭に申し上げさせていただきまして、保護法の改正案のことについて聞かせていただきたいというふうに思います。

 今回のこの改正で、文化的景観というものを文化財として位置づけ、民俗技術を民俗文化財というものに位置づけ、さらに文化財の保護手法を多様化する、文化財の意味づけとか定義とか、あるいはその保護手段というものについて枠を広げた。これは大きな意義を私は感じますが、河村文部科学大臣としてこれらの意義というものをどのようにとらえていらっしゃるのか。そしてまた、今回の改正に基づいてそれをどのようにこれからの文化行政あるいは文化財行政というものに生かしていくおつもりなのかということを、まず、大づかみで結構ですので、御答弁をいただきたいと思います。

河村国務大臣 文化財というものが我が国の歴史、文化、伝統の中ではぐくまれた、また日本人の生活の営みの中で生まれてきたということを考えますと、まさに日本の国の文化の基礎がそこにあると言っても過言でないと思います。そういう意味で、これを大事にする、これを保護する、そして絶えずそういう問題について改善を行っていく、これはやはり大事なことでありますし、日本の国が文化創造立国というならば、まさに文化力、その原点だ、こういう認識でなければいかぬ、こう思っております。

 そういう意味で、今回さらにこの文化財の考え方を広げて、まさに我々が目にする文化的な景観の中にも歴史、文化、我々の営みがある、これをもっと大事にしようということでありますから、非常に意義のあることでありますし、そういうものをさらに登録もしながら保護、保存していこうという考え方に立ってきておるわけでございます。

 また、一方では、物に対する価値観とか、そういうものもどんどん変わってきておりますから、うっかりするとそういうものが失われてしまうおそれもある。そういうことにもやはり我々気をつけていこうという思いが今回の改正にあるわけでございます。そのことはやはり政治も、そのことにもっと我々気をつけていかなきゃいけない問題でありますし、そういう意味で、今回、文化財保護、先ほど予算の御指摘もございましたが、これはやはり国を挙げて取り組む体制が必要であろう、こう思っておりまして、まさにそうしたこれまでの文化財というものを、国民共通の財産といいますか、そういう観点に立ってこれを継承していくんだ、こういう考え方をさらに強く推し進めながら、文化財保護というものに力を入れていきたい、このように考えておるところでございます。

川内委員 ぜひ御奮闘をお願いしたいというふうに思います。

 文化的景観というものは、今、国土交通委員会で審議をされているそうでありますが、景観法という法律で定めのある景観計画区域または景観地区内以外の場所にも、ああ、これはすばらしい文化的景観だなと思われるものはあろうかというふうに思いますけれども、今回のこの法改正で、景観法で定める景観計画区域または景観地区内にあるものに限定をしたのはなぜかということについて、お聞かせをいただきたいと思います。

稲葉副大臣 確かに、川内先生がおっしゃられるように、それぞれの感じ方あるいは評価の中で、重要文化的景観と認識される案件につきましては、御指摘の景観法以外のところにも多数存在する向きもあるかとは存じます。ただ、この保護に関しましては、それぞれ所有者、耕作者あるいはその地域の方々の御理解、御協力、こういうものが存在しませんと、こういう助けをかりませんと、例えば棚田にしましても里山にしましても、後世に引き継いでいくことがなかなか難しくなっているのが現実だと思っております。

 したがって、景観法と、それからここで言う重要文化的景観というその重なり合いというものは大変密接な要素があり、不可分なところもございますので、我々としましても、まずその地域の住民の方々のコンセンサスを求めたい、御協力が欲しい、そういうところから出発しておりまして、したがって、景観法で定めるいわゆる文化的景観の中から、特に重要なものとして御協力をいただけるものをピックアップするような形でここに取り込ませていただいているわけです。

 これからの考え方としましては、さらにこの法が改正され、施行していく段階において、先生の御指摘に基づく、ほかのオーバーラップしない部分もあるじゃないかという点につきましては、今後の検討する課題として考えなきゃならない部分もあるいはあるかもしれませんが、当面、我々としましては、地域の方々の御理解、御協力を求めるという観点から、景観法に定める景観の中から、特にだれしもが重要、そう思われるものについてピックアップさせていただいて、この法に盛り込ませていただいたような経緯であります。

川内委員 今の副大臣の御答弁で、とりあえずはこういう形にしたけれども、そうでない、オーバーラップしない地域についても、特に重要だと思われる文化的景観については今後検討をしていきたいという前向きな御答弁であったというふうに解釈をさせていただきたいと思います。

 続いて、私、今回のこの法改正の前提となる資料を幾つかいただいたんですけれども、その中の一つで、農林水産業に関連する文化的景観の保護に関する調査研究という資料をいただいたんです。農林水産業に関連する文化的景観の保護に関する調査研究資料でございます。

 それで、これはどうやっていただいたかというと、文化的景観というのはどういう景観なんでしょうねということをお尋ねしたらば、研究したものがございますということでこの資料をいただいたんですけれども、この文化的景観というのは、農林水産業に関連するものが文化的景観なのか、あるいはそうでないのか。ほかにも文化的景観であると言ってもいいような景観というのはあるような気もするんですけれども、それについての御説明をいただけますでしょうか。

素川政府参考人 お答え申し上げます。

 先生御指摘のように、農林水産業に関連する文化的景観の保護に関する調査研究という報告書、これは文化庁に置かれました農林水産業に関連する文化的景観の保存・整備・活用に関する検討委員会というところが昨年の六月にまとめたものであるわけでございます。

 これは今回、文化的景観の定義を読ませていただきますと、地域における人々の生活または生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国の国民の生活または生業の理解のために欠くことができないものという定義をしているわけでございますけれども、私どもは、農林水産業に関連するものが、やはり数としては大宗を占めるといいますか、かなりの割合を占めるというふうに理解しております。

 そういうことを前提といたしまして、この御指摘の調査研究も農林水産業に関連する景観を中心に検討したわけでございますけれども、当然、文化的景観は農林水産業関連に限られるものではございません。それ以外の、例えば鉱山等の鉱工業に関する景観というものもあり得るわけでございまして、選定に当たりましては、広い中から検討してまいるということになろうかと思います。

川内委員 了解しました。

 さらに、この報告の中では、文化的景観については世界遺産条約やラムサール条約など国際的動向との関連も指摘をされているわけでございますけれども、この文化的景観といういわば新しい言葉の意味、あるいは、これらをめぐる国際的な動向について、今回の法改正と関連があれば御説明をいただきたいというふうに思います。

素川政府参考人 先生御案内のように、御指摘の調査研究の中で世界遺産条約やラムサール条約などに言及をしているわけでございます。

 ユネスコの世界遺産におきましては、平成四年に条約履行のための作業指針というものを改訂いたしました。この中で文化的景観の概念を導入したわけでございまして、それ以後、数々の物件が世界遺産として登録されるなど、国際的な保護が進められているわけでございます。

 また、ラムサール条約におきましては、自然的または人工的な湿地を対象として水鳥とその生息地域を保護するというものでございまして、重要な湿地及びそこに生息する動植物の国際的な保護が図られているということでございますが、我が国におきましては、棚田とか里山、それから水の関係では水郷だとか湖沼の景観、そういった、自然とのかかわりの中で人々の生活、日常の生活や生業を通じてつくり出されてきた景観があるわけでございまして、これは我が国の歴史や文化の理解のために欠くことができないものであると思うわけでございますけれども、これが社会状況の変化により、その保存の必要性というものが高まってきているわけでございます。

 このような国内及び国外の動向、状況を踏まえまして、今回の文化財保護法におきまして、文化的景観を文化財の一つとして追加する、そしてその保護と活用を図っていくということにいたしたいというふうに考えたわけでございます。

川内委員 今、棚田という言葉も出ましたけれども、棚田の保護のために各地でオーナー制度などの取り組みも進んでいるようでございますが、このオーナー制度のような取り組みにとって、今回の法改正というものはどのような意味を持つんでしょうか。

素川政府参考人 棚田の保護に当たりましては、御指摘のように、オーナー制度というものが導入され、非常に大きな効果を上げているというふうに承知しているわけでございます。

 今回の文化財保護法の改正によりまして棚田を含む文化的景観が文化財として位置づけられるということになりますと、棚田のオーナー制度、これはいろんな目的があろうかと思いますけれども、その一つには地域振興もあるのではないかと思われるわけでございますけれども、そういった地域振興も一層促進されるのではないかというふうに理解しているところでございます。

川内委員 ちょっと棚田にこだわってみたいんですけれども、棚田の保護などについては、農林水産省の施策の中に中山間地域の直接支払い制度というようなものもございますけれども、今回の法改正とこの直接支払い制度とは、何か関連性というようなものはあるんでしょうか。

素川政府参考人 お答え申し上げます。

 農林水産省によります中山間地域等直接支払い制度、これは、中山間地域に多く存在いたします棚田の保全に大きな役割を果たしているものと承知しているところでございます。

 今回の文化財保護法の改正は、棚田を含みます文化的景観を文化財と位置づけ、文化財保護の観点からさまざまな保護措置を講じようとするものであるわけでございます。これは、農林水産省によります、先生御指摘の制度などさまざまな施策と相まって、棚田の保護の推進というものに大きく寄与するものであるというふうに期待しているところでございます。

川内委員 それでは、条文の中の具体的な文言についてちょっと聞かせていただきたいんですけれども、百三十九条に「重要文化的景観に関しその現状を変更し、又はその保存に影響を及ぼす行為をしようとする者は、」という文章がございますが、その保護に影響を及ぼす行為とは、具体的にはどのような行為を想定されるのでありましょうか。

素川政府参考人 お答え申し上げます。

 文化財保護法の百三十九条、これは新しい改正後の条文でございますけれども、この中に、先生御指摘の現状変更と保存に影響を及ぼす行為につきましての届け出の規定があるわけでございます。

 この保存に影響を及ぼす行為の前に現状変更について少し申し上げますと、この届け出の対象となります現状変更というのは、重要文化的景観の現状に物理的または質的に何らかの改変を及ぼす行為であるというふうに整理させていただいているところでございます。

 保存に影響を及ぼす行為といいますのは、重要文化的景観の現状を物理的に改変するというような程度のものではないわけでございますけれども、保存環境の変化など間接的に文化財としての価値を減じる行為というふうに整理をさせていただいているところでございます。

 幾つか例はあると思いますけれども、一つ例を申し上げますと、例えば排水溝を地下に埋設するというようなことによりまして、地下水脈に影響を与える、地盤沈下のおそれがあるというような場合などは、この保存に影響を及ぼす行為という一つの例になるのではないかと思っております。

川内委員 間接的に文化財としての価値を減じる行為、例えば排水溝などを地下に埋設する等の行為、見た目はすぐには現状に変更が生じることはないかもしれないが、将来にわたって、もしかしたら現状の変更につながるような可能性を感じさせる行為というような解釈でよろしいでしょうか。もう一度、ちょっと。

素川政府参考人 お答え申し上げます。

 先生御指摘のように、土地の表面に大きな物理的な改変を及ぼすというものではありませんけれども、例で申しましたように、地下に埋設したものの影響というものが間接的に生じる可能性があるというようなことを例えばとして申し上げたわけでございまして、現状変更と保存に影響を及ぼす行為の違いというものが、例えばそういったところにあらわれているということでございます。

川内委員 所有者とか権利者にとっては、こういう重要文化的景観等に指定をされることによって不利益をこうむることも、現状変更が簡単にはできなくなるわけでありますから、あるというふうに思うんですけれども、その場合はどのような調整を行うのかということについてお聞かせをいただきたいと思います。

稲葉副大臣 先生御指摘のように、選定を受けた結果、当然、所有者の所有権あるいは鉱業権等さまざまな財産権に対しまして多少の制約がかかってくるのは否めないところであります。したがって、その方々にとりまして、生活の糧であったりあるいは仕事に密接にかかわってくる問題でありますので、その選定に当たっては、まず地方自治体が所有者とよく協議をして、所有者の御了解のもとに申請してくるように、こういうふうに規定をさせていただいているところであります。

 また、我々の指導としましても、もし指導を求められた場合には、そのことを十分調整した上で申し出てきてください、このように各自治体ないし市町村に呼びかけていきたいと思っております。

 また同時に、一たん選定を受けた後でありましても、その所有者御自身が、あるいは現状の変更等やむを得ない事情が出た場合には、その届け出によって現状変更することも可能なわけでありますので、そのことも踏まえながら、十分所有者の財産権の保護を図りながらこの法律の実施に当たってまいりたい、このように思っております。

川内委員 ここから私の提言をさせていただきたいんですけれども、一般的に文化財、例えば絵画とかあるいはつぼとか茶わんとかにしても、文化的な価値の高いものについては、ある一定の、要するに金銭的な価値というものが付随するわけですね。これはさっき斉藤議員も、文化には金がかかる、金をかけなきゃいけないんだということをおっしゃっていらっしゃったわけでありますが、私もそれは同感だと冒頭申し上げました。

 それで、文化財というものは、今私たちが目にしているそのままの形あるいはそのものを保存していくということが文化財の保護あるいは保存ということだと思うんです。これは、わかりやすく言うと、例えば横山大観先生の掛け軸がありましたと、これは今その掛け軸がすばらしいから価値があるわけで、だからこそ、それに落書きをしたり、何かをつけ加えたりすることはあってはならない。だから文化財の保護であり保存であるということになると思うんです。

 今回のこの法改正というのは、日本の歴史なり伝統なりに基づいた文化的な価値のある景観というものが日本じゅうにたくさん存在する、それは守っていかなければならない、私もそのとおりだというふうに思います。

 しかし、私たちは資本主義の世の中に生きているわけで、それらのものは、そういうふうに新しい言葉の定義があり、あるいはその言葉の定義の意味づけがあるのであれば、それに付随してある一定の金銭的な、金銭的なと言うと言葉が露骨ですが、経済的な価値というものも付随をさせられなければならないんじゃないかというふうに思います。

 どういうことかというと、この棚田の景観は十億円の価値があるとか、この里山は、隣の里山は荒れているから一山百万だが、この里山はすばらしいから、すばらしい景観だから一億円の価値があるとか、そういうわかりやすいある意味での価値の尺度というものがあれば、持っている人も、その所有者も、なるほど、これはそんなに価値があるものだったらしっかり守っていかなきゃいけないなということをお思いになられるんじゃないかなというふうに思うんです。

 所有者とか権利者にとって積極的にこの重要文化的景観という指定を受けたいと思うようなインセンティブというものが働くように、あるいは積極的に保護、保存をするインセンティブが働くような仕組みというものが私は必要だと思いますが、今後の方向性としてどのようなことをお考えになっていらっしゃるのか。あるいは、川内さんの言うことはよくわかるが、それはまあ考えとして聞いておくよということか。ちょっと御答弁をいただきたいというふうに思います。

素川政府参考人 お答え申し上げます。

 選定を受けたいというインセンティブでございますけれども、それが十億円の価値、それが二十億円になる、三十億円になるというような価格ではかることができるかどうかについてはなかなか疑問な面はあるわけでございますけれども、少なくとも、今回の文化財保護法の改正によりまして文化的景観が文化財として位置づけられるということになりますと、金銭に換算できるかどうかわかりませんけれども、やはり地域の魅力の向上、それが二倍になり三倍になるということは当然あるわけでございますので、それは、その地域に住む人たちの自覚であるとともに、また、周りの国民が見る目というものを通してもそのように価値が二倍、三倍になるというようなことで、地域の活性化にもつながる、自信にもつながるということではないのかと思っております。

 いずれにいたしましても、文化的景観制度の運用に当たりましては、地域の方々の理解というものを十分得るように努めてまいらなければならないと思っております。

川内委員 この文化的景観の定義に、「地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で」と定義がされているわけであります。人間の営々とした日々の営みによって形つくられてきた景観、それが文化的景観だということであれば、私は、それに制度を設けて重要文化的景観という形での意味づけというものをするのであれば、当然それに対応する経済的な価値というものもあってしかるべきだというふうに改めて御提言を申し上げさせていただきたいと思います。

 それでは、次の質問に移らせていただきますが、では、一体全体、文化的景観あるいは民俗技術というものについて、全国でどのくらいの数の申し出がおありになられるというふうに想定をしていらっしゃるかということをお尋ねいたします。

素川政府参考人 重要文化的景観と民俗技術についての対象となると見込まれる数というお尋ねでございます。

 文化的景観につきましては、文化庁が設置しました、先ほども引用させていただきました検討委員会が行いました調査研究報告書、これにおきましては、百八十の文化的景観を重要地域としてその報告書の中で取り上げているところでございます。

 当然、農林水産業だけではございませんので、それに取り上げられていないからといって対象にならないというわけではございませんけれども、一つの目安としてこのような数があるわけでございます。具体の候補物件につきましては、今後、その実地調査を行い、特定するわけでございますけれども、一つの目安として御理解いただければと思います。

 また、民俗技術につきましては、文化庁がこれまで都道府県の教育委員会の協力を得て調査を行ってまいりましたが、それらを踏まえて考えますと、将来の対象として今後調査対象としていくべきものとしては、民俗技術、約七千件程度あるということでございます。

 これにつきましても、今後、国の指定の対象となり得るものについては、引き続き学術的な調査を行って、具体的な候補物件を絞り込み、特定していくということになろうかと思います。

川内委員 あと、登録有形文化財制度というものがございます。この登録有形文化財制度を建造物以外の有形文化財にも拡充をするということでありますけれども、これは具体的にはどのようなものを考えていらっしゃるのか。対象とか、あるいは、やはり同じようにどのくらいの数を想定されていらっしゃるのかということについてお聞かせをいただきたいと思います。

素川政府参考人 登録有形文化財制度についての対象となる数の見込みでございますけれども、建造物以外の登録有形文化財といたしましては、近代に作成されて一括して保存されている歴史資料として価値があるものであって、資料全体として系統的にまとまって保存されているものというものが想定されるのではないかというふうに考えているところでございます。

 文化庁におきましては、平成九年度から近代歴史資料緊急調査という名前の調査を実施しているところでありまして、この登録の対象として今後さらに詳細な調査が必要であると見込まれているものといたしましては、約四千件程度というふうに考えているところでございます。

 なお、これらのものの中から、特に緊急性の高いものにつきまして登録制度による保護措置を講じてまいることが必要かと存じております。

川内委員 近代に作成されて系統的にまとまっている歴史資料というものは、具体的には、例えばこういうものだ、こういう資料だというのはありますか。

素川政府参考人 例えば、明治初期のいろいろな雑誌とか新聞なんかのコレクション。一つ一つですとなかなかその価値というものを特定することは難しいのですけれども、それが系統的にまとまって保存されているということで、近代のものでありましても非常に資料的な価値が高いと考えられるわけでございますので、特にこの登録の有形文化財につきましては、一括資料として保護すべき価値を有するものというものが特にそのポイントになるのではないかというふうに考えているところでございます。

川内委員 例えば明治初期の新聞あるいは雑誌のコレクションということでありますけれども、そのコレクションの量というか、これぐらいまとまっていると価値があるんだという具体的な基準みたいなものはあるのですか。

素川政府参考人 具体的な登録基準につきましては、登録文化財の種類に応じまして今後専門的な観点から検討していくわけでございますけれども、登録基準自体がやはり抽象的なものにならざるを得ないと思っております。

 具体的にどれくらいのボリュームのものがあれば歴史の資料として非常に価値が高いのかというようなことは、そのコレクションそれぞれの本体の情報の質によって変わってくるものであろうかと思います。そういう意味において、今、数量的な基準というのを申し上げるわけにはいきませんが、具体的には個々に検討するということになろうかと思うわけでございますけれども、やはり情報の質と量というのを総体で個別に判断してまいることになろうかと思っております。

川内委員 あと、登録有形民俗文化財制度というものも創設をされるということでありますけれども、これは登録記念物制度というようなものもあわせて創設をするということですが、この登録有形民俗文化財制度あるいは登録記念物制度というものの創設の意義と、そしてまた具体的にはどのようなものがあるのか、そしてまた対象となるものは全国でどのくらいの数があるのかということを、二つあわせてちょっと御答弁をいただきたいというふうに思います。

素川政府参考人 お答え申し上げます。

 登録有形民俗文化財でございますけれども、今回、有形の文化財に登録制度を導入した場合に対象として想定されますのは、やはり近代の文化財ということでございます。

 有形の民俗文化財につきましても、やはり近代につくられました生産とか生活用具のコレクションというものがあるわけでございますけれども、こういうものは放置しておくと消滅の可能性が高いということで、緊急な保護が必要であるということで、このたび登録制度を導入するものであるわけでございます。

 文化庁が行いました近代の生活文化遺産パイロット調査、これは五つの地区でパイロット調査をしたわけでございますけれども、平成十年に行いましたけれども、こういったものの調査結果から判断いたしますと、今後さらに詳細な調査が必要であると見込まれるものは約五千件程度ではないかというふうに考えられているわけでございまして、引き続き調査を進めた上で、緊急性の高いものから登録してまいる必要があると考えております。

 また、登録記念物につきましては、対象となる文化財につきましては、やはりこれも近代の遺跡とか名勝地ということを想定しているわけでございまして、その登録件数につきましては、文化庁が行いました近代遺跡調査、もしくは日本の古庭園といった調査から判断いたしますと、今後さらに詳細な調査が必要であると見込まれるものにつきましては、遺跡については約五千四百件程度、名勝地につきましては約八百件程度が想定されておるわけでございますけれども、これらにつきましても、緊急性の高いものというものから順次登録するということで、さらに調査を進める必要があろうかと考えておるところでございます。

川内委員 それぞれ五千件とか、今、全国的にこのぐらいの数があるということをお話しになられたわけでございますけれども、大変に数が多い中で、しっかりとした保護行政というものを行っていただきたいというふうに思います。

 そこで、最後に聞かせていただきたいのですけれども、本当に、先ほど、私、こだわるようで恐縮なんですけれども、名画とかすばらしい絵とか書画骨とうのたぐいは、高い価値がついたりして、割と所有者の方も、大事に持っていないと価値が減じるわけですから、大事に大事にしようというふうにインセンティブが働くわけでありますが、この文化的景観とかあるいは登録有形民俗文化財とか、登録有形文化財とかあるいは登録記念物というようなたぐいのものは、しっかり守っていかなきゃいけないということは意識としてはあったにしても、経済的な価値というものがなかなかにはっきりしないために、その保存とか保護についてなかなか難しい側面が私はやはりあるんじゃないかというふうに思うんですね。

 「他の公益との調整等」というところで、「文部科学大臣は、」「関係者の所有権、鉱業権その他の財産権を尊重するとともに、国土の開発その他の公益との調整及び農林水産業その他の地域における産業との調和に留意しなければならない。」と規定をされているわけでありますが、この規定というのはどのくらい強い規定なのか、大臣の御決意もあわせて、最後に御答弁をいただきたいというふうに思います。

河村国務大臣 確かに、御指摘の点、これからこの文化保護行政をやっていく上で、また、新しく景観、重要な景観を登録する、あるいは指定をする、その中でこれをうまくやっていこうとすれば、当然、そこにおられる方々あるいは地域の皆さんの御協力もいただかなきゃなりません。また、現実に生きておるものがございまして、現実に農林水産業との関連もあるということでございますから、この規定があるわけでございます。

 ただ、そういう意味で、一方では、文化庁長官がこれを行う、こうなっておりますが、さらに、この百三十七条の規定による勧告あるいは第二項の規定による命令、こういう場合においてもあらかじめ関係各省庁の長と協議をしろ、こういうふうにもなっておるわけでございます。

 しかし、これはやはり大事なことだと思いますが、文化行政を行う立場からいえば、景観の重要性というものをしっかり説明して理解をいただいて、この趣旨が通るようにということで努力をしなきゃいかぬ、こう思っております。特に設けられた規定でございまして、文化財を国民共有の財産として確実に次の世代に継承していくという課題、あわせて、最終的には社会におけるさまざまな公益との調整、これの上に立って実現をされる、この命題に沿って、我々としても、円滑な、この制度がうまく活用できますように、調整にも十分心がけながら、最大の努力をしてこの制度を生かしていきたい、このように思っております。

川内委員 ぜひとも頑張っていただきたいと思います。

 終わらせていただきます。ありがとうございました。

池坊委員長 松本大輔君。

松本(大)委員 民主党の松本大輔です。

 本日は、文化財保護法の一部を改正する法律案についてであります。

 文化的景観については、世界遺産をめぐる概念の広がりを受けたものと私は理解しております。世界遺産といえば、実は私の地元、選挙区にも厳島神社、安芸の宮島という世界遺産がありまして、今回の法案改正、私とは因縁浅からぬものというふうに感じているところであります。ですから、その厳島神社は、私にとってはふるさとの風景といいますか、ふるさとの原風景、代表的な原風景と言ってもいいものでございます。今回の文化財保護法の改正というものが、文部科学委員の各委員の先生方がまだうぶだったころの心のふるさとを回復する、その手助けとなることを切に期待しつつ、最初の質問に移りたいと思います。

 文化的景観については後でお伺いするとしまして、まずは民俗技術について取り上げたいと思います。

 今回の改正において、民俗技術に関連する条文はただ一つだけ、さらに言えば、たったの四文字であります。文化財保護法の二条の三号、民俗文化財の定義に民俗技術を追加するというものです。

 内容等についての言及がありませんので、改めて副大臣にお伺いしたいと思います。今回の法改正により、新たに保護対象となると予想されている民俗技術、先ほど約七千件ということでしたけれども、その内容、そして保護施策について具体的にお聞かせください。

稲葉副大臣 今までずっと御議論いただいてまいりましたその過程の中で、少しずつ明らかになってきたのじゃないかと思いますが、改めてお答え申し上げます。

 特に、民俗技術というものの中身について、あるいはその保護の状況についてということでございますが、私たちは、今までずっと生活をしてきた、その先人からの文化、こういうものについて今回特に着目をしたわけであります。

 その中で、特に民俗技術と言われる分野につきまして、例えば和くぎをつくる技術、あるいは雪おろしをするときに使う道具をつくる技術といった、地域の生活に密着してまいりました用具やその用具をつくる技術につきまして着目し、今後我々の文化の中でぜひとも残していかなければならない、さらに技術を磨いていってもらいたい、こういう案件につきまして民俗技術という定義を与え、これに対して保護対象にしようとしていく法改正の中身であります。

 今言われますように、その具体例のほかには、例えば、貧しい生計の中で一年の生活の副食とする食物についての保存食の技術とか、そういったさまざまな技術、あるいは、もう今となっては歴史的なものとしてとらえられていくかもしれません障子あるいはふすま、建具等の製作技術等につきまして、それぞれいろいろな分野からの検討を加えながら保護の対象としていこう、こう考えております。

 今お話ございましたように、件数としてもう既に約七千件を考えているわけで、その中から学術的な調査を踏まえて選定をしていきたい、かように考えております。

 また、その指定を受けたものにつきましては、地域の保護団体に対しまして、その保存のために必要な助言や勧告を行わせていただくと同時に、特に大事な保存に対する経費の部分については一部補助の対象としてまいろう、こう思っているところであります。

松本(大)委員 ありがとうございます。

 ちなみに、この民俗技術の調査の実施期間というものを教えていただけますでしょうか。

素川政府参考人 お答え申し上げます。

 これは諸職関係民俗文化財調査というタイトルで行ったものでございますが、昭和五十九年から平成五年にかけての十年間にわたって実施したものでございます。

松本(大)委員 先ほど来、後継者難とかという話が出ていますけれども、継承が非常に難しいものだという話を各委員の先生方、それから答弁に立たれる方もおっしゃっていらっしゃったわけです。調査期間が、今お伺いすると昭和五十九年から平成五年ということなんですけれども、もう既に十年も前ですね。平成五年というと今から既にもう十年も前の話ではないか。後継者難が叫ばれている中で、ひょっとしたら既に廃業されている方もいらっしゃるかもしれませんし、高齢化で、既にその技術を伴って実際に職人として働くことができない方もいらっしゃるかもしれないと思うんですが、文部科学省として、本気でこの民俗技術を後世に継承していこうという際に、十年前の調査をもとに今からその七千件を母集団として選定を行っていくということで本当に事足りるんでしょうか。

素川政府参考人 この調査は、御指摘のように平成五年までの十年間の調査でございますけれども、具体的にこの中からどのような物件を指定していくのかというためには、この七千件の中でもさらに詳細な調査を必要とするわけでございます。さらに、これ以外の対象につきましても、やはりその詳細な調査の中で対象にしていくものもあろうかと思います。そういう意味におきまして、ここは、この七千件といいますのは一つの所在の状況調査というようなものでございますので、これを踏まえてさらに詳細な調査というものは必要であろうかと思っています。

松本(大)委員 今の御答弁は、改めて現況確認をするという理解でよろしいんでしょうか。

素川政府参考人 具体的な文化財の指定に当たっては、さらに詳細な調査というものが必要であるわけでございます。そういう意味では、さらに調査をするということでございます。

松本(大)委員 済みません、しつこいようなんですが、文献を当たっても実際に現地にいらっしゃらなければ意味がないわけで、詳細な調査というものには、その方が御存命かどうかも含めて、現時点でどうなのかということも確認されるということでしょうか。

素川政府参考人 調査の一般論から申し上げますと、まず全体的な所在調査といいますか、広く網をかぶせまして、どの地域にどういう文化財が所在しているかというような調査をいたします。それから加えて、具体的にその物件につきまして指定していこうという関係になりますと、当然、地域の自治体の協力も得るわけでございますけれども、文化庁自体としての調査、現地の調査も含めまして、指定する際には必要になってくるわけでございます。

松本(大)委員 ありがとうございます。少し安心いたしました。

 文化や伝統というものを守っていくためには、やはり単に保護するということだけではなく、伝承していくという観点が非常に重要であると私は考えています。だからこそ、ちょっとしつこくなりましたが、先ほどのような質問というものをさせていただいたわけです。

 つまり、我々の生きている間だけ、十年前のある一定時点であればいいということじゃなくて、これを次の世代に伝承していかなければならない。言いかえれば、受け継いでいく次の世代というものも含めて育てていくということをしなければ歴史的財産というものを伝承していくことは不可能ですし、この歴史的財産をしっかりと引き継いでいくということこそが現代に生きる我々が次世代に対して背負っている責任ではないか、私はそのように考えております。

 この次世代への責任ということをテーマにしながら残りの質問を続けさせていただきたいと思いますが、やはり何より重要なのはその文化や伝統の担い手たる人だというふうに考えております。文化財の伝承を担う人材の育成こそが、喫緊の課題ではないかというふうに考えます。特に、今回の改正で対象となっています文化的景観、それから民俗技術、後者については形のないものについて、それを守り伝えていく人なくしては荒れ果てていく、あるいは消えていく運命にあるからなんです。ですから、人づくり、文化の振興というものを所管している文部科学省がこの文化財の伝承もつかさどっているということには大変大きな意味があると考えております。

 残念ながら、今までの御答弁の中では、その文化財の伝承を担う人材の育成について、明言というものが余りなかったように考えております。具体的なことも含めて、再度その点を重点的に御説明いただけますでしょうか。

河村国務大臣 松本委員言われるように、民俗技術も含め、こうしたものを後世にいかに伝えていくかということが当然大事になってくるわけでございまして、指定してそれで済むという問題ではないと私も考えております。

 そのためには、その裏づけになります予算も獲得していかなきゃならぬでしょうし、また、具体的にそれを支援する施策もとっていかなきゃならぬだろう、こう思っておりますが、既に現在、重要無形民俗文化財という制度、これによって伝承者の養成事業とか、あるいは記録作成等の活用事業、そういうものに対して経費の一部を国から補助いたしております。支援をしておる。

 そういうことから考えると、今回の民俗技術もその中に入っていくだろう、こう思っておりまして、地方によっていろいろな取り組みがなされておるし、そういうものが残っておる。これをこの十年の計画の中から絞り込んでいかなければなりません。それによって地域のいろいろな取り組み、熱意、既にそういうことに対して取り組んでおられるところもある。

 そういうことに対して、これから、いかに国としても財政的な裏づけを持ちながら支援をしていくかということに努力をしていきたい、こう思っております。その中でも、おっしゃるように、伝承者の養成をいかにするかということも含めて、今回の民俗技術を指定しながら、そういう視点をさらに強めながら、この文化保護行政というものを進めてまいりたい、このように考えております。

松本(大)委員 ありがとうございます。

 民俗文化財伝承・活用事業という、これまで行われてきた案件については後でも触れさせていただきたいと思いますが、まず今回の法改正に伴って、民俗技術の保護に係る予算要求、それから人員要求の内容、予定や構想、現段階ではこれでも仕方ないと思いますので、特に予算について、伝承を担う人の育成に使われる予算額というものを、今の大臣の御答弁を具体化する形で、少しお聞かせいただければと思います。

河村国務大臣 これからの予算のことについては、これを取りまとめながら最終的にどのぐらいに絞っていくかによって要求も変わってくると思いまして、これからの検討事項ということになるわけでございます。今の時点で、どのぐらいの規模でどのぐらいのことを考えているかということは、ちょっとお答えがまだ困難でございます。いずれにしても、今御指摘のように、関係者からも上がってきます。要望が参ります。

 そういうことで、民俗技術の保護、そしてそれを継承する後継者の養成、そういう視点を注視しながら、予算等の枠組みをつくり、確保に努力をしていきたい、このように考えております。

松本(大)委員 冒頭で、予算の総枠自体がそもそも少な過ぎるんだという斉藤委員からの御指摘もありましたけれども、民俗技術の伝承に関して、これからの検討事業であるということを聞いてちょっと不安になるわけですけれども、本当に、文化を守り次世代に引き継いでいくという覚悟がおありなのかというのが率直な感想でございます。人づくりを担う文部科学大臣が民俗技術を伝承する人の養成について余り御熱心ではないというふうに感じて、少し残念でなりません。

 民俗文化財、先ほど冒頭、予算がそもそも少ないんだというお話をしましたけれども、私が申し上げたいことは、予算の多寡というものもさることながら、民俗文化財の認定をして何らかの補助金がつけられて、しかし、例えば、その文化財の継承に資するような使われ方をしない。平たく言うと、余り効果を上げていない、余り感心されていないODAのような使われ方をしてしまう。もしそうなってしまえば、新たなばらまき予算にすぎなくなるわけであります。

 そうしたことがないように、きっちりと、伝承に資するような使い方、担保措置というものをぜひ図ってほしいな、今のうちから予算についてもきっちり盛り込んでおいてほしいなというのがさっきの質問の趣旨であります。

 最初の質問で民俗技術の内容についてお伺いしました。保存食、例えばフナずしとかこれに入るんだと思うんですけれども、そのほかには恐らく鍛冶とか船大工とか、あるいは杜氏、こういったものも民俗技術に盛り込まれるのではないかというふうに考えております。

 先ほど触れました私の地元でもあります厳島神社、毎年夏に管絃祭というお祭りが行われます。この祭りで、実は和船の船大工さんというのが大変重要な役割を果たしております。厳島神社のある島から対岸の陸地まで御神体が和船に乗って往復するというお祭りでして、大体午後四時から十一時ぐらいまでかかっている。かがり火をたいて御神体がゆっくりと海上を移動する間に、管絃という名前のとおり雅楽が奏でられるという大変風流なお祭りなんですけれども、この祭りの主役ともいうべきものが和船であります。

 御座船という、御神体が座るから御座船というような名前で呼んでいる木造船なんですが、実は、この木造船、御座船をつくれる船大工さんというものが、もういなくなろうとしております。代々この御座船、広島県内の倉橋島というところでつくられていたんです。ちなみに、この倉橋島、昨年九月にこの議事堂が落雷を受けて破損した、あの屋根の部分の石材の産地でもあります。従来は、そういう花崗岩の切り出しも盛んだった。そして、もう一つの主流を占める産業が造船だったわけです。

 ところが、供給過剰となって、そして船の主流が木造船から鋼船、さらにはFRPというふうに変わっていくにつれて、職人さん、すなわち船大工さんというものが少なくなっていったわけです。こんな深刻な後継者不足というか、もう後継者不在というような現状を受けまして、ことしは、従来の新造の時期を早めてこの御座船の新造というものが行われました。手がけたのは、最後の船大工と言われる植崎博司さん七十二歳と中本義章さん七十三歳でいらっしゃいます。私も実際にお会いしてきたんですけれども、お二人ともこの道五十年以上の大ベテランです。今回の御座船新造で、三十年ぐらいは船がもつかもしれない。

 ただ、耐用年数を過ぎる三十年先には、お二人とも百歳を超えていらっしゃいます。もう一度新しい御座船がつくれるのか、あるいは、その時点で後継者に対して体を張ってその技術を伝承していくような体力が残っていらっしゃるのかということを考えた際に、ひょっとしたら、あと三十年、更新期間を迎えるときには、木造船という形の御座船を私たちはもう拝めなくなっているかもしれないという状況であります。

 かがり火をたきながら、和船の上に乗っかった御神体が雅楽を奏でながら往復するという風流なお祭りなのに、プラスチック船じゃ非常に気分が出ないわけであります。しかし、実際ながらつくり手、後継者というものが存在していない、船大工、もちろんこの民俗技術の一つでもある重要な民俗文化財なわけであります。

 今回、無形民俗文化財として船大工の技術が認められるようになるということは是としましても、私が申し上げたいのは、一代限りの保護や認定では意味がないということです。守るべき価値があるというふうにお認めになられるのであれば、何よりも、どうやったら次世代に継承していけるのかということをこそ考えていかなければならないのではないかというふうに考えます。

 今回の改正案からも、ひょっとしたら民俗技術の保護については、現行法における無形民俗文化財に類する形の保護しかとられないのではないか。先ほどの御答弁の中でも、保護という部分のニュアンスしか私にはちょっとかぎ取れなかったんですけれども、では、今まで民俗文化財行政というものがどうだったのかということについて、ちょっと検証させていただきたいと思います。一体、これまでどおりの保護中心の、保存中心の民俗文化財行政で本当に大丈夫なのかということを検証させていただきたいと思います。

 まず、我が国の重要文化財の数と重要無形民俗文化財の数をお聞かせいただけますでしょうか。

    〔委員長退席、斉藤(鉄)委員長代理着席〕

稲葉副大臣 御質問の案件でありますが、平成十六年五月一日現在になりますが、重要文化財の指定件数は一万二千三百七十件であります。また、重要無形民俗文化財の指定件数につきましては二百二十九件となっております。

松本(大)委員 ありがとうございます。

 重要文化財一万二千三百七十件、重要無形民俗文化財は二百二十九件、重要無形民俗文化財の数は非常に少ないということが今の御答弁でもわかると思います。重要文化財のざっと五十分の一以下しかないわけです。民俗文化財制度の創設が国宝などと比べて新しいということもあるのかもしれませんが、構造的な問題もあるのではないかと私は考えております。

 つまり、有形文化財というものは、博物館や収蔵庫に保存すればとりあえず事足りる。しかし、無形文化財は、やはり人の手を介して伝承していくものです。それが社会の変化を受けやすいとも言えます。過疎化や少子高齢化による後継者不足、生活様式の変化というものが直撃をすることになるわけです。

 その点では、行政によるより迅速な対応が求められる分野ではないかなというふうに考えておりますが、その数少ない無形民俗文化財に対する保護施策というものは、これまでどのようになされてきたのでしょうか。お伺いしたいと思います。

河村国務大臣 御指摘の無形民俗文化財の保護施策といいますか、これにつきましては、衣食住、生業、信仰、年中行事等、こうした風俗慣習といいますか、あるいは民俗芸能を保護の対象ということで、これまで、先ほど御指摘のあった二百二十九件、重要だと思われるものに保護措置をしてきたということでございます。重要無形民俗文化財という形で指定をしてきたわけであります。

 この重要無形民俗文化財につきましては、地域の保護団体、いわゆる保存会といいますか、そういう形でほとんどやっておるようでございますが、そうしたことに対して、保存のための必要な助言あるいは勧告を行うとともに、伝承者の養成とかあるいは現地での公開、記録の作成、実態調査、そしてその保存に要する経費の補助、こういう形で進めておるわけでございまして、これからもこの保護施策の充実というものは努めてまいらなければいけない、このように考えておるところであります。

松本(大)委員 先ほどの大臣の御答弁の中にもありましたけれども、そして私が、こちらの御質問でも後で触れると申し上げたのが、民俗文化財伝承・活用事業というものでございます。これが平成十五年度民俗文化財伝承・活用事業というものの予算が、わずかおよそ八千八百万円にすぎない。伝承という活動に限った場合は、およそ、ざっと半分ぐらいにすぎない。そもそも総枠が少ないという議論もこの委員会の最初のところから始められているわけですけれども、それにしても、この民俗文化財の伝承・活用事業というものは、従来から、非常に少な過ぎるのではないかという感じがいたします。

 これは、例えば伝統芸能と比べてみた際にどうなのかということを比べてみると、一目瞭然であります。ちなみに、伝統芸能についての予算というものは九十三億円、民俗文化財の平成十五年度の伝承・活用事業が八千八百万円なのと比べると大違いなわけであります。

 そもそも、現行の文化財保護法というのが、歌舞伎や能とかいった重要無形文化財に対しては、伝承者の養成とか団体の指定とか、そういうわざの伝承に重きを置いてきた。ところが、それに対して民俗文化財というのは、かつて民俗資料と呼ばれていたことからもわかるように、生活の推移を示す資料だとして何となく軽んじられてきた嫌いがあるのではないかという気がいたします。

 昭和二十九年六月、各都道府県教育長あてに出された文化財保護委員会事務局通達に次のような記述があります。

  無形文化財は、芸能、工芸技術等の如く、特定の型や技術を特定の個人が相伝し、体現しているものであつて、いわば洗練されたわざということができるが、無形の民俗資料は、国民の生活様式や慣習そのものであつて、社会一般の人々が伝承しているものということができる。

  無形文化財には、重要無形文化財に指定してそのものをそのままの形で保存する措置を講ずる必要のあるものも多いのであるが、無形の民俗資料については、そのものをそのままの形で保存するということは、自然的に発生し、消滅して行く民俗資料の性質に反し、意味のないことである。

というような、驚くべき内容が盛り込まれております。

 今回の民俗技術というものも、従来の無形民俗文化財に対するとらえ方で行政が行われてしまえば、能や歌舞伎といった重要無形文化財に比べて、余りにもお粗末な対応に終始するのではないかというふうに考えるわけであります。だからこそ、継承、伝承といったことについて、やはり省庁を挙げて取り組む必要があるのではないかと私は思います。

 先ほど御紹介しました船大工さんの例をまた挙げてしまいますけれども、地元の自治体がどのように対応しているかといいますと、今回の御座船という木造船の新造に当たって、その新造風景というものをビデオにおさめておりました。ところが、このビデオを後世の人が見たところで、そもそも船大工の経験のない人が木造船を職人としてつくるということは到底難しい、できないだろうということを船大工さん御自身も認めていらっしゃるわけです。

 従来どおりの民俗文化財行政、つまり保存を中心とした考え方から脱しない限り、本当の意味で文化の伝承なんて到底できないのではないかというふうに考えます。

 和船をつくるのに必要なくぎ、あるいは船底から浸水を防ぐためにヒノキの皮を練ったものを、マキハダというものを詰め合わせるわけですけれども、こういったものをつくれる人がそもそも少なくなっている。あるいは、和船に使われるようなしなりのある杉の木というものが、今外材に押される中で林業自体が、乾燥を急いで、切り倒した後、枝つきでそのまま乾燥させる。そうすると、しなりのある木材自体が今では入手が難しくなっている。

 こういった材料、その材料をつくる職人さん、それからそれを組み立てる今回のような船大工さん、その技術も含めて、継承、後継者の養成というものを考えていかなければ、幾らビデオとかに撮るというようなこれまでどおりの記録中心の保護策を講じても、失われようとする大切な文化をとどめおくことはできないのではないかと私は考えております。その意味では、先ほど御紹介しました昭和二十九年当時の通達の考え方から変化をしない可能性もあるのではないかというふうに考えております。

 この際、民俗文化財というものを有形と無形に分類されていますけれども、先ほども申し上げたように、周辺の材料、その材料をつくる職人さん、それを組み立てる職人さんのわざも含めて、有形無形の区別自体が不自然になっている。それから、民俗文化財よりも重要無形文化財、例えば歌舞伎とか能とかといったものの方をより高度なものだというか、より高尚なものだというようなとらえ方自体が、もう時代おくれではないかと思います。

 無形民俗文化財の保護、伝承に当たって、新しい文化財保護行政、理念が必要だというふうに考えますが、今後の取り組みについてお伺いできますでしょうか。

    〔斉藤(鉄)委員長代理退席、委員長着席〕

河村国務大臣 確かに、御指摘のように、このままの状態であったときにどれだけそうした無形の民俗文化財が残っていくだろうかという心配、ごもっともだと私も思います。

 管絃祭の話をされました。松本先生も今回質問にお立ちになることもあってでしょうか、相当勉強をされてきたなと私も感じておるのでありますが、厳島神社のああいう大きいものは、それはもう日本の代表的なものであります。しかし、あれに倣って、どこの集落に行きましても厳島神社というのはあって、管絃祭をやっているんですね。私の萩の田舎の漁村でもありました。

 ところが、これはやはり漁業が盛んなときですとその地域は盛り上がっていまして、寄附もあるし、いろいろなことができる。しかし、だんだん漁業が態様が変わっていきますと、まさにプラスチック製の話も出ましたが、これが継承することを難しくしていることも事実なんですね。だから、ほっておくとなくなるからこれを保存しようということになるわけでありますが、この減退の状況をどこまでとどめていくかという問題、これは地域の皆さんの文化財に対する考え方と相まっていきませんと、国が幾らやれやれと言ったって、できないものはできないと言われたらおしまいになってしまいます。

 そういうことも考えながら、今回、全体のを調べてみると、七千件からのものがそれぞれの地域であることがわかっておるわけであります。この中で、どの部分についてどういうふうな形で残していくかということもしっかり考えていかなければなりません。

 これは今、それぞれの残し方にも、代表的なものがいろいろありますから、今の日本を代表するような厳島神社の管絃祭のようなものを、これはもう日本の全体の中でも残すべきようなものだとか、やはりある程度そういうことを考えながら、そして同時に、地域の盛り上がりといいますかそういうものも一体となって、どこをどう残していくかということも考えていかなければいけないだろう。

 特に、無形の民俗文化財というのは本当に地域の中に根づいておるものでありますから、これの変化の中で、やはり時代を超えても変わらない中核の部分を保持していくという考え方が必要ではないか、こう思っておりますし、そういうところに対してやはり伝承者の養成ということも考えていかなければならぬ、こう思います。

 そういう意味で、おっしゃるとおり人から人への知識とかわざとか、そういうものを継承していくことが大事でありますし、文化財の保護、伝承を担う人材も必要である。これも文化行政を行う文部科学省、文化庁としても重要に考えておる点でございます。

 具体的にどの点をどうするかということになると、では、これは全部残せるか、なかなかこれは難しい問題がそこにはあるのではないかと思いますけれども、御指摘の点を十分踏まえて、今ある文化財保護理念の構築というものをこの時代に改めて考えていくということが大事になってきた、こう思っております。今回のこの文化財保護法の改正に伴いまして、文部科学省、文化庁としても、改めて文化財保護理念の構築というものが大事である、このように感じております。

松本(大)委員 ありがとうございます。

 そのときだけ、認定だけして、あるいは選定だけして終わりということではなくて、自立した一次産業従事者の方というか、そういう方の養成も含めて継続性を図っていく中で、ぜひ伝承者の養成ということに省を挙げて取り組んでいただければというふうに考えております。

 文化的景観についてお話を進めたいと思います。

 まず、世界遺産条約における文化的景観と、今回の改正案における文化的景観の違いについてお答えいただけますでしょうか。

稲葉副大臣 今回の文化財保護法改正案におきます文化的景観ということにつきましては、「地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの」と規定されているわけであります。

 一方、ユネスコの世界遺産において規定されている文化的景観につきましては、三つに分類されますが、その一つに、自然とのかかわりの中で有機的に進化してきた景観という項目があります。

 今回の改正案につきましては、まさにこのユネスコの世界遺産における文化的景観の中で、自然とのかかわりの中で有機的に進化してきた景観という点と非常に近似性を持っているわけであって、御指摘の点につきましては、そういう部分について相マッチする部分があるんじゃないかと思います。

 なおまた、世界遺産の中には、さらに、庭園、公園など人間によって意図的につくられた景観、あるいは宗教、芸術などに関連する景観、この類型も存在するわけでありますが、この二類型につきましては、既に文化財として保護の対象になっている史跡や名勝等に含まれているものと考えております。

 御指摘の世界遺産における文化的景観及び今回の改正案における文化的景観の相違点については、我々は、ユネスコ遺産の中における三類型の中で、自然とのかかわりの中で有機的に進化してきた景観になぞらえて今回の改正案を上程してまいった、こう御説明申し上げます。

松本(大)委員 ありがとうございます。

 世界遺産条約における第二領域、有機的に進化する景観というものになぞらえてという御答弁をいただきました。

 これを読むと、文化庁の翻訳ですね、継続する景観について、「農林水産業などの産業と関連する景観」というような形の意訳がなされているんではないかというふうに実は私は思っております。

 と申しますのも、ユネスコの世界遺産委員会のホームページで原文がどうなっているのかというところを参照しますと、ここで下手くそな英語を読み上げてやじがふえても困りますので、原文を読み上げることはいたしませんが、伝統的な生活様式と密接に結びついており、現代社会において積極的な社会的役割を保っている景観というのが直訳といいますか、原文から素直に読み取れる文章ではないかなというふうに思います。

 確かに伝統的生活様式に農林水産業も含まれるとは思いますけれども、「農林水産業などの産業と関連する景観」というふうに、文化庁さん、翻訳をされている点について無理があるんではないかなというふうに考えるわけです。

 この委員会の質問の中でも、いや、農林水産業だけじゃないよ、鉱工業との関連というものもあるよというふうなお話をされましたが、この意訳ではそのような意味は読み取れませんし、伝統的生活様式を「農林水産業などの産業と関連する景観」と言い切ってしまうところには何となく違和感を覚えるんですけれども、その点についてはいかがでしょうか。

稲葉副大臣 御指摘のとおり、原文を直訳といいますか、訳しますと、先生が今御説明いただいたとおりの意訳、解釈になるかと思っております。

 ただ、私たちがこの翻訳について解釈しまするに、そもそもこの翻訳されたところが、どこから翻訳されたのか、その出典が、つまりは、農林水産業に関連する文化的景観の保護に関する調査研究会、ここからの報告でありまして、どうしても冠に農林水産業、こういう冠がつくような嫌いがしてならないわけであります。

 でありますので、私たちとしましては、単なる農林水産業などの産業に関連する景観としてとらえずに、ごく一般的に、継続する景観は、まさしく連檐として継続する景観でありまして、農林水産業にかかわる景観かどうかという、そういった限定的な解釈を求めるものではありませんし、むしろ、そういった限定的な解釈を加えた翻訳という点につきましては、かえって混乱を招くのではないか、このような心配すらしているところであります。

松本(大)委員 農林水産業へのこだわりという点についてもう少し御質問をさせていただきたいと思います。

 法律案要綱とか法律の案文の中に、先ほどから御質問も一部ありましたけれども、例えば百四十一条第二項、「文化庁長官は、」「勧告をしようとするときは、重要文化的景観の特性にかんがみ、国土の開発その他の公益との調整及び農林水産業その他の地域における産業との調和を図る観点から、政令で定めるところにより、あらかじめ、関係各省各庁の長と協議しなければならない。」というふうに書いてあります。

 公益との調整をうたった、例えば自然公園法とか、公益との調整に留意するということはあるかもしれませんが、殊さらに農林水産業だけが注記されているのに加えて、あらかじめ協議しなければならないという文言まで盛り込まれているわけですけれども、具体的には一体どういうケースであらかじめ長と協議して、どういう省庁とどういう件について協議することが想定されているから、あえて「公益との調整」に加えて「農林水産業その他の地域における産業との調和」という農林水産業へのこだわりを見せていらっしゃるのでしょうか。

河村国務大臣 具体的なことはまた後ほど説明を申し上げるとして、この重要文化的景観、これは先ほど来説明申し上げておりますように、地域の人々の生活とかその生業、産業、これに非常に密接に関係していることは間違いないんです。

 これを適切に保存、活用していくということになると、やはり公益との調整をしなければなりませんが、その中でも農林水産業を中心として、どうしても農林水産業、特に文化的景観というと、棚田なんかというのは非常に大きなウエートを占める、そういう意味もあって農林水産業が例示されておる、こういうことでありまして、この農林水産業その他の地域における産業との調和を図る視点が特に重要であるということもあって、農林水産業を一つの例示に明示的に規定をした、このように考えておるところであります。

松本(大)委員 ありがとうございます。済みません、もう少し教えてください。

 例えば、先ほども申し上げましたが、自然公園法においては、まさに農林水産業の対象でもある森林というものが規制対象になっているわけですけれども、「農林水産業その他の地域における産業との調和」という文言は盛り込まれておりません。

 農林水産業と住民の生活安定、持続可能な社会の構築の必要性というものは当然重要になってくるとは思うんです。だから、それは文言に盛り込まなくても、「公益との調整」の一言で入っているという趣旨だったからこそ、そうなっていたというふうに私は理解していたんですが、あえて今回の文化財保護法改正で、「公益との調整」というものに加えて「農林水産業その他の地域における産業との調和」という文言が盛り込まれたのか、何で屋上屋を重ねる必要があるのか、その必要性について、済みません、もう一度教えてください。

河村国務大臣 この文化的景観ということは、私は、世界遺産、棚田なんというのは日本の専売特許かと思ったら、実はそうではなくて、既にフィリピンのあの棚田というのはもっと壮大なもので、あれが世界遺産になっているという事実もあるんです。そういうものに啓発されたということでもありませんが、そういうことをずっと考えながら、やはり一つの例示としてそういうものがあり得るということから私はこれがつながってきた、こう思うわけでございます。

 日本のこれまでの生い立ち、瑞穂の国と言われた、その農業、第一次産業を中心としてきて日本は今日まで発展し、そしてそれを基盤にして今日の工業立国まで来たわけでありますから、その原点というべきものに対してどう保存していくかという観点に立つと、やはり農林水産業というものをまず例示して、今回これを中心にやっていこうということ、またこの検討会、今現実に検討されております景観法についても、我々は文化財保護法を持っていますから、その中にこれを取り入れていく。一方で、国土交通省あるいは農林水産省、環境省、これが一体となって今やっておる。

 そういうものの整合性の中に、我々としてもこれを取り入れるという意味で例示的に法律の中に書き込んだ、こういうことであるというふうに思います。

松本(大)委員 ありがとうございます。

 景観法が国土交通省、農林水産省、環境省の共同提出であって、その景観法上の景観計画区域とか、その前提があって文化的景観があるということはわかるとしても、だから直ちに、わざわざ今回の法案にだけ、「農林水産業その他の地域における産業との調和」という文言を盛り込む理由にはならないというふうに考えますし、先ほどの意訳についても余り納得はしておりません。

 食育の話ではありませんけれども、何となく農林水産業への不自然な偏りというものを、私は今回の法改正に感じます。WTOやFTAをめぐる議論を背景として、何か農水省の防衛本能というものがこうした議論の出発点になっているんじゃないかなと勘ぐりたくなるぐらい、非常に唐突な感じを受けることを指摘させていただいて、次の質問に移りたいと思います。

 先ほど大臣からフィリピンの棚田についての御答弁がありました。平成七年だと思うんですが、フィリピンのコルディレラの棚田というものが世界遺産として登録をされた。これが文化的景観としてのはしりだと思うんですけれども、その後、平成十三年に危機遺産という形のものにも登録をされております。つまり、営農の継続性、農耕の継続性というものが難しくなっている、その景観を保つのが難しくなっているということで、危機遺産というものにもあわせて登録をされているわけです。

 今回、その棚田をめぐる世界遺産の新しい議論の流れを受けて、文化財保護法を日本でも改正しようというのであれば、当然、世界遺産の先例でもある、文化的遺産の先例でもあるフィリピンのコルディレラ遺産が後継難で危機遺産にも同じように登録されているということも踏まえた上で、繰り返しになりますが、やはりその伝承というか継承というものに重きを置いた保護策というものが肝要になっていくのではないかと思います。それを踏まえた上で、お伺いしたいと思います。

 今回の法改正によって新たに保護対象となる重要文化的景観、百八十件ということでしたけれども、先ほどオーナー制度というものも一例として挙げられておりましたが、保護施策の内容について、もう少しお話をお聞かせいただけますでしょうか。

稲葉副大臣 重要文化的景観、このものの中身について、どういう物件を対象とするか、このことも大事なことだと思っております。この件につきましては、この法律が施行された後、専門的な見解を求めて検討することになります。

 文化審議会に諮問して、その答申を受け取って後、具体的な選定になってくることになりますが、その具体的な物件につきましては、やはり市町村等から、地元から申し出をいただき、そしてその申し出に基づいて、実地調査を含め、候補者を選定していく作業になろうかと存じております。

 件数につきましては、先生御指摘のとおり、百八十件の内容を今把握しているところでありますが、さらにその保護施策としまして、その物件の管理、修理あるいは復旧について、都道府県または市町村が行う措置につきましてはその経費の一部を補助することができる、こう改正法に規定をさせていただいているところであります。

 なお、その詳細につきましては、本法成立後、十七年度、来年度の予算で措置していこう、かように考えております。補助率等につきましては、大体公共事業的なもの、そうお考えくださってよろしいかと思います。

 なおまた、事務の体制につきましては、全体の事務量、これからいろいろ事案が届いてくるわけでありますので、その事案を踏まえながら十分な人的配置を考えてまいらなければならない、このように思っております。

松本(大)委員 ありがとうございます。

 保護施策も含めてそうですけれども、一般的に何かのプロジェクトを行う、何かの計画を遂行するという際には、以前この委員会でも少し触れましたけれども、やはり民間では当たり前のプラン・ドゥー・チェックというような一連の過程を経ることが重要ではないかなというふうに私は考えております。

 その際にも御指摘させていただきましたが、やはり官僚機構の最大の欠点というのは、仮説を立てて実行して、最後の検証という部分が根本的に欠落しているところではないかというふうに考えております。単年度主義の予算、短いサイクルの人事異動、長期的な視点を欠いたその場しのぎの無責任行政ということが指摘されるのもしばしばであります。

 文化というものはやはり長い時間をかけて育てていくものではないかというふうに私は思うのでありますが、自治体が、それでは重要文化的景観の選定をお願いしますというふうに上げてきて、それで保存管理計画と整備活用計画というものを策定した際に、選定権者といいますか、文部科学省としてというか国として、その保存管理計画と整備活用計画の実施状況、進捗状況というものをどのようにチェックされていく予定でしょうか。

河村国務大臣 松本委員御指摘のとおり、これからの重要文化財を保護していく上では、保存管理計画等の策定とその後の適切な運用、そしてそれをきちっとチェックする仕組み、これが大事だと思います。

 このために、この改正法、第百四十条でありますが、これには、「文化庁長官は、必要があると認めるときは、所有者等に対し、重要文化的景観の現状又は管理若しくは復旧の状況につき報告を求めることができる。」こうなっておりまして、さらに、市町村からの求めに応じて担当官の現地視察をさせる、あるいは日常的な情報交換等を通じて実態を把握する、あるいは保存管理計画等の適切な策定及び運用、これができるようにということで、国としても、そういう意味で、チェックという言葉はともかくといたしまして、文化的な景観の保護がきちっと行われているのかどうか、国と地方との役割分担を持ちながら、適切な策定と運用に努めていかなければいかぬ、こう思っております。

松本(大)委員 ありがとうございます。

 重要文化的景観の保護に関連して、例えば美しい棚田の保全ということになりますと、農林水産省もかかわってくる分野かなというふうに考えております。

 本日は、農村振興局でよろしいでしょうか、おいでいただいているはずであります。重要文化的景観の保護に関連して、例えば、美しい棚田の保全を図るための取り組みについてお聞かせいただけますでしょうか。特に、棚田の保全を担う農家の確保についてを中心にお答えいただけますでしょうか。

南部政府参考人 御説明いたします。

 我が国各地に非常に広く存在しておりまして独特の景観を形づくっている棚田というものは、人と自然のかかわりの中で形成されてきたものでありまして、文化的景観であるというふうに私ども認識しております。また、それとともに洪水防止というような多面的な機能も有しておりまして、農水省としましても、その保全が重要であるというふうに考えております。

 片や、こうした棚田は、過疎化や高齢化の進行、それから担い手の減少で、先生おっしゃいますように、耕作放棄地の増加というようなことになっております。その存続、維持が危ぶまれているのが現状といいますか、状況であったと思っております。

 このため、棚田の地形条件に合った簡易な農地の整備でありますとか、営農機械を通すための耕作道路の整備というようなことを行います里地の棚田保全整備事業、それから、棚田が主に存在します中山間地域等におきます農業生産条件の不利、これはどうしても地形条件等で出てまいりますので、それを補整するための直接支払い制度というような取り組みによりまして、営農の維持、継続ができるようにということで、棚田の保全を担う農家の確保に努めているところでございます。

 私ども農林水産省といたしましては、今後ともこれらの取り組みを進めることによりまして、棚田の保全を図ってまいりたいと考えております。

松本(大)委員 ありがとうございます。

 耕作道路の整備というような答弁を聞くと、何となく身構えてしまいたくなるのが野党なんですけれども、先ほども、中山間地など直接支払い制度というようなお話もあろうかと思います。担い手の定着に特徴のある事例として、将来の担い手の育成確保を目指した施設整備とか、担い手育成のための研修活動センターの整備とかというようなものも盛り込まれていたはずであります。

 担い手という言葉がくっついていると、先ほども答弁の内容にあったと思うんですが、農業機械が買えちゃったり、道路が整備できたり、何となく便利な打ち出の小づちになりはしないかなというような懸念を持ちつつ、最後に大臣にお伺いしたいと思います。

 大臣、選定権者としてお伺いしますが、重要文化的景観の候補地というのはごらんになったことがありますでしょうか。

河村国務大臣 松本委員が言われるのは、直接見たか、こういう……(松本(大)委員「そうです」と呼ぶ)私は、ここがその地域だというのは、田舎の方に挙がっているんだなということは、この地域だということは知っておりますし、また、全国の一覧表は見ましたが、具体的に大臣としての現地調査的なものはまだ行っておりません。

松本(大)委員 ゴールデンウイーク等も利用しまして、私は県内の二カ所を見てまいりました。世の中にはいろいろな雑誌があるので、「月刊文化財」という雑誌をいただいて、ここに重要地域が県内に挙がっておりましたので、ちょっと二カ所を見てまいりました。うち一カ所は、先ほどの造船の島でもある倉橋島の段々畑、もう一カ所は、本因坊という囲碁の棋聖が生まれた地域でもある因島というところの除虫菊畑です。

 この除虫菊畑の手入れをなさっているのは、何と御年九十一歳の村上さんという方でいらっしゃいます。農業をやめてからその世話をされているということなんですが、やはり後継難ということを嘆いていらっしゃいました。息子さんももう既に六十を迎えようとしている、ただ、後継については難色を示しているというものです。この方が何年か先にもし手入れができなくなると、重要文化的景観の候補地である地域が廃れてしまう可能性もやはり否定できない。

 何度も申し上げますが、やはりその場限りの補助金行政とか、何か箱物、人材育成と称した研修センターというような箱物をつくるとか道路を通すとか、そういうことではなくて、実際に自立してそこで農業を営めるような担い手の育成というものを粘り強くやっていかない限り、幾ら保護、認定を行ったところですぐに廃れてしまう、継承というものはとてもかなわないのではないかというふうに考えております。

 文化を次の世代に残していくというのが次世代への責任であるとすれば、税金の使われ方についても次世代の責任を自覚しながら使っていくということがやはり現代に生きる我々の使命ではないかと思います。

 最後に、人材育成、人づくりを担う文部科学省の最高責任者として、重要文化的景観の保護に係る予算や人員の内容等も含めて、人材育成に取り組まれる覚悟についてお答えをいただけますでしょうか。

池坊委員長 松本大輔君の質疑時間はもう既に終了しておりますので、時間終了後の質問は今後は差し控えていただきたいと思います。

 河村文部大臣。

河村国務大臣 それでは、簡潔に申し上げます。

 この新しい十七年度予算につきましては、これをどういうふうに要求していくか、これから検討しなければなりません。御指摘のように、やはり人材養成ということを重点にしながらやってまいりたいと思いますし、また、文化的景観に係る事務体制は、今後の全体の事務量も勘案しながら十分検討してまいりたい、このように考えております。

松本(大)委員 ありがとうございました。

池坊委員長 石井郁子君。

石井(郁)委員 日本共産党の石井郁子でございます。

 今回の法改正は、文化財の概念を広げて、失われつつある日本の文化的財産を残すという点で保護対象を拡大するというものでございまして、私どもも大変賛成できる点でございます。この改正案の内容をより深くつかんで、また充実させていくという立場で幾つか御質問させていただきます。

 まず、文化的景観の保護という問題でございますけれども、この文化的景観ということは、その地域で生活をし、生業をずっとしてきた、そういう中でつくられた景観、風土もありますけれども、そういう意味では、生活や生業という中でつくられてきたという点がありますから、その生活や生業ということがやはり大前提にあると思いますし、その人々の生活や生業をやはり尊重していくということは、当然前提となるというか考えなければいけないことだというふうに思うんですね。しかし、そういう点でいうと、具体的にどうなっていくのかということでいえば、いろいろ不安だとか、またよくわからないという点もありますので、ちょっと伺いたいと思うわけです。

 検討過程で、農林水産業と関連して保存すべき文化的景観の調査で、幾つか例も挙がっておりますけれども、その中の一つで申し上げますと、京都市北部に北山杉というのがあるんですね。大変高い評価を受けています。その方々にちょっとお聞きしたんですけれども、そこではもちろん生活をしているわけですから、杉は生活の糧でもあるということですね。

 それで、住民の方からしますと、その北山杉が重要文化的景観に選定される、そうなった場合、今までのように杉の伐採とか枝打ちというのは簡単にできなくなるんじゃないか、どういうふうになっていくのかという御質問などもありますので、こうした問題というのはどのように考えているのか、文化庁の御見解を伺っておきたいと思います。

稲葉副大臣 まさに、石井先生御指摘のように、この法律が施行されますと、現実問題として、その指定された物件を中心になりわいにしている方々、あるいはそれを中心に生活様式を持っておられる方々に甚大な影響が出てまいることは否定できないところであります。

 所有者の所有権あるいは鉱業権等、さまざまな財産権を少なからず制限していく、これが現実の問題になってまいるわけであります。ただ、この選定に当たりまして、大臣がされるわけでありますけれども、都道府県あるいは市町村の申し出に基づく、こういうふうな規定になっております。

 この規定の趣旨からしますと、当然そこには所有権者の同意あるいは所有権の侵害に対する受忍、こういうことが想像されるわけでありまして、ただ法の規定を条文からのみとらえるならば、市町村あるいは都道府県の申し出に基づく、こういう規定になっていまして、そこに所有権者たる所有者の意思というものが反映されていないような条文づらではあります。

 しかし、現実問題として、市町村が、あるいは都道府県が文部科学省に対し申請を出すに当たっては、所有権者の同意が得られない案件については、これは事実上、実態として申請を出すのは現実問題として不可能、このように私どもはとらえておりまして、条文の中で所有者の同意を必須条件とは明文化されてないにしろ、所有者の同意なくしてはこの物件についての選定はなし得ないもの、このようにとらえております。

石井(郁)委員 もう少し具体的にちょっと伺っておきたいんですが、所有権者というか所有者の財産権等々に、かなり甚大なとおっしゃったと思うんですが、影響が及ぶということですが、それは具体的にどういう形で制約なり制限なりというのがされると考えたらいいんでしょうか。

素川政府参考人 今、選定の段階で、事実上、所有者、関係者の同意、理解というものを前提にして行っていくという御説明を申し上げたところでございますけれども、重要文化的景観になった場合の具体的な管理のあり方に関して、先生、今、例で挙げられました、例えば杉の枝打ちですとか日常の手入れ、畑の日常的な営農、こういったものにつきましては、そこで生活し、それを産業としているということは当然のことでございますので、例えば現状変更や保存に影響を及ぼす場合の届け出というのがございますけれども、保存に影響を及ぼす行為について、軽微なものについてはそれは届け出は要らないとか、そういうふうな規定もございます。

 今申し上げましたように、日常の営農とか森林の管理の手入れというものにつきましては、当然それは届け出が不要なものになるというようなことで対応できるというふうに考えているところでございます。

石井(郁)委員 私、もう少しはっきり御答弁いただければと思ったのは、やはりそこで生活をしている、なりわいにしているということがあるわけですから、その部分というのは、重要文化的景観というふうに指定されても、生業自身は影響を受けない、それは継続していけるんだということは言えると思うんですね。そこのところだけはっきりさせていただきたいなと。いかがですか。

素川政府参考人 先生の御指摘のとおりでございます。日常の生活、職業的な生活を含めまして、それにつきましては影響を受けるということはございません。

石井(郁)委員 次に、重要文化的景観にどういう物件が選定されていくのかということがこれから始まるわけですけれども、そういう考え方の中の一つとして伺っておきたいわけですが、ナショナルトラスト運動というのが全国でいろいろございます。

 これは、具体を挙げますと、和歌山県の田辺市の天神崎が一つ有名なんですね。私もよく行くものですから取り上げたいと思うんですけれども、紀伊半島の中ほど、田辺湾北側の岬にある景勝の地です。田辺湾には国の天然記念物の神島、国有地の畠島があります。市街地に隣接しているんですけれども、海岸林の動植物、海の動植物とが平らな岩礁で連なっているわけですけれども、森、湿地、いそ、海、動植物が大変豊富なところで、これはよく潮の引いたいそでは二時間ほどの間に約二百種もの生物が記録される。市民、県民はもとより、子供たちもそこでいろいろなものを学ぶ、自然環境を学ぶかけがえがない場所だということになっているんです。

 しかし、行政が開発を抑制できない地域だということになっていまして、市民の手によってナショナルトラスト運動、三十年にわたって続けられております。こういう土地も重要文化的景観の選定対象となれるのかどうかという点を伺いたいと思います。

素川政府参考人 お答え申し上げます。

 文化的景観の保護に当たりましては、所有者や地方自治体のみならず、財団法人日本ナショナルトラストなどの民間団体、大きな役割を果たしているというふうに認識しているところでございます。

 先生御質問の、このようなナショナルトラスト運動にかかわる土地、地域が対象になるのかということにつきましては、重要文化的景観を選定するに当たりましては、景観法で定めます景観計画区域、もしくは景観地区として、都道府県または市町村が指定するということがまず第一段階として必要になってくるわけでございます。

 そういう意味におきまして、都道府県、市町村が定めます、この地区の中に入るかどうかということが、まずその第一段階として必要になってくるわけでございます。そういうものを前提といたしまして、文化庁、文部科学省といたしまして選定を行っていくということでございます。

石井(郁)委員 都道府県、市町村が景観法に基づくエリアということに設定すれば入り得るということですね。そのように理解していいかと思うんですが。

 今申し上げたこの地域というのは、本当に子供たちにも喜ばれているし、大変かけがえのない地域になっている、動植物を観察できる場所という点でも本当に残したいということで、大変運動が進まっています。

 それで、全国に五十幾つかこうした地域があると思うんですけれども、文科省として、文化庁として、そういう調査などはされているでしょうか。御存じですか。どのように把握しておりますか。

素川政府参考人 現在のところ、ナショナルトラスト運動の対象の地域に限った調査ということはしておりません。

石井(郁)委員 この機会にぜひそういう調査、把握もしていただきたいということを要望しておきたいと思います。

 次の問題ですけれども、重要文化的景観の保存のために必要と認められる物件の管理等の都道府県や市町村の措置に対して、国からの補助ができるものとするという一項がございます。これは具体的にどのような補助を検討しているのか、どのような補助になるのかという点でお伺いしたいと思います。

素川政府参考人 お答え申し上げます。

 先生御指摘のような規定を設けているわけでございまして、重要文化的景観に関する具体的な支援につきましては今後検討していくということでございますが、例えば、地方公共団体における保存管理計画の策定でございますとか、一定の管理、修理などにかかわる支援というものが想定されるものでございます。

石井(郁)委員 先ほど来、こういう支援というのをもっと強めるべきだということが各委員からも出ておりますけれども、積極的にぜひしていただきたいということがあります。

 関連して、税制上の措置として何か検討されるでしょうか。

素川政府参考人 文化財に関しましては、既に税制上の措置というものは先行して幾つかございます。例えば、史跡名勝天然記念物というのがございますけれども、これは指定文化財でございますけれども、この指定された土地を国や地方公共団体に譲渡した場合には所得税の特別控除があるとか、また指定された家屋や敷地について固定資産税の非課税等の優遇措置があるわけでございます。

 また、登録文化財である建造物につきましては、登録された家屋やその敷地につきましては、地価税の二分の一の軽減とか固定資産税の十分の一以内の減額、こういった税制上の優遇措置が既に講じられているところでございます。

 重要文化的景観の税制上の優遇措置については、今後検討するという課題でございますけれども、これらの税制上の措置を参考としながら検討を進めてまいりたいと考えております。

石井(郁)委員 もう少し具体に、重要文化的景観について何か検討、どのように始めているのか、もうちょっと述べていただけませんか。

素川政府参考人 重要文化的景観の税制上の優遇措置につきましては、法律の成立後、来年度に向けまして、具体的な検討をさせていただきたいと考えておるところでございます。

石井(郁)委員 今の御答弁だと、本当にするのかしないのかわかりませんので、するという方向かなというふうに理解をしたいと思いますけれども、もう少し積極的な姿勢で臨んでいただきたいなというふうに思いました。

 次に、民俗技術についてお聞きします。

 これも一つ具体を挙げますけれども、滋賀県の琵琶湖にフナずしがございます。これは平安時代から伝わっておりまして、近畿地方、全国でも有名な技術、保存食品の一つですね。つくり方はいろいろとあるんですけれども、何しろ四十工程ぐらいある、小型のもの、中型のもの等々、あるいは子持ちのニゴロブナを使用したというのは大変珍重されるとかということで、非常に工程というのが厳密にされているということがあるんですね。

 これは日本を代表する保存食品と言えると思いますけれども、こういう技術というのが保護の対象となるのかどうかということ、いかがでしょう。

稲葉副大臣 先生からの御質問でありますが、さきに松本先生からの御質問にもございましたように、宮島、厳島神社における船大工さんの技術、あるいは、そもそも和船を存置していかなければならないのじゃないか、そういう御指摘も踏まえながら、全国各地でこういう案件がそれぞれお国自慢のような形で、あるいはお国自慢にとどまらず、もっと国の文化財として、民俗技術としてそれを残していくべきだ、こういう御議論がこれからどんどん出てくるんじゃないかと思っております。

 そういった案件につきまして、一つ一つを、やはり地域に密着した物件、案件とはいえども、国としてどうとらえるかという観点からするならば、やはり一定の機関を設けてその機関の審議を経なければならないんじゃないか、これが私たちとしても考えているところであります。

 その機関として文化審議会を想定しているわけでありまして、その文化審議会に対して諮問し、答申を経た上で、御指摘のフナずしについて、あるいは各地の技術につきまして存続を図っていかねばならない、かように思っております。

石井(郁)委員 今回、民俗文化財の中にこういう民俗技術ということが加わったわけでございまして、私は、そういう新しい広がりというか、加わったことについて大変賛意を表したいと思うのです。

 そこで、この分野でも、やはり財政支援なんですね、どういうふうに考えていらっしゃるのか、これもお伺いをしたいと思います。

素川政府参考人 お答え申し上げます。

 民俗技術につきましては、これは民俗文化財の一つとして追加するというわけでございます。

 現在、民俗文化財の補助制度につきましては、無形の民俗文化財、重要無形民俗文化財につきましては、伝承者の養成とか記録作成に係る経費を補助しております。また、有形の重要有形民俗文化財につきましては、その保存、修理等に係ります経費の一部が国庫補助の対象となっているわけでございます。

 具体的には、このそれぞれの民俗文化財のそれぞれの保存会である保存団体というものが伝承事業の主体になっているわけでございますけれども、こういったものに対する支援というものが行われているわけでございます。

 民俗技術に対しましては、具体的な支援のあり方は今後検討するわけでございますけれども、先行いたします民俗文化財の補助制度ということを踏まえながら、積極的な十分な施策の推進に努めてまいりたいと考えております。

石井(郁)委員 現在のところは、やはり記録の作成だとか調査事業への補助だとかという形になっているのですね。

 私は、やはりこれは技術ですから、その伝承ということをきちんとしなければ、支援しなければ、伝わっていかないわけでしょう。それで、ずっと先ほども出てまいりましたけれども、後継者養成ということは本当に重大なというか重要な課題になっているわけですね。

 私も、もう時間ですけれども、先ほどの北山杉の例を申し上げましたけれども、本当に伐採、新しい苗木の保育を繰り返していかなきゃいけない、この枝打ちができる技術者が六十五歳以上だということだとか、本当に今、三十歳、四十歳代の技術者がいなくなっているということがあります。

 本当にそういうことを挙げたらもう切りがない。先ほど委員からの質問もございましたけれども、やはり後継者養成というのを真剣に取り組んでいただきたい。これは文科省だからこそできるし、青少年に夢を与えたり人を育てていくという文科省として力を入れていただきたいということで、最後に大臣の御答弁をいただいて、質問を終わります。

河村国務大臣 石井先生御指摘のとおり、この民俗文化財を貴重な国民的財産として次世代に継承していくために、やはり知識やわざを伝える後継者といいますか、これがいなければなりません。重要なことでありますので、これから、民俗技術の伝承事業に対する具体的な支援のあり方につきまして今検討をいたさせておるところでございますが、関係者の皆さん方からいろいろな御要望もいただいておりますので、民俗技術の保護が適切に行われるように必要な施策の推進に努めてまいりたい、このように考えております。

石井(郁)委員 どうもありがとうございました。

池坊委員長 横光克彦君。

横光委員 社民党の横光克彦でございます。質問させていただきます。

 今回のこの法律案によって、文化的景観が文化財として新たに追加されるわけでございます。先ほどから御説明ございますように、文化的景観とは「地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの」と定義されている。まさにおっしゃるとおりで、自然とまた人工的な部分が交わったところ、かかわり合ったところ、そういったところを、代表的な例は棚田でございましょうが、自然だけではこのような景観は維持できません、人工的だけでもまた維持できません、それぞれが相まって、私はあのようなすばらしい景観が今つくり上げられているんだと思っております。こういった文化的景観をこれから将来にわたって維持しよう、保護しよう、非常に私はすばらしい対策だと思っております。

 そのためには、先ほどからお話ございますように、大変な、いろいろな意味で経費がかかるわけですね。ただ、そういった意欲だけでは、到底、文化的景観は維持されるわけではございません。そういった意味で、やはり文化の保存、維持、そういったものにはどうしても経済的なものが求められてきます。これをほうっておけば、どんどん文化財というものは傷みが激しくなり、そしてまた消滅の道をたどるわけですので、そういった意味ではどうしても必要な経費だと私は思う。

 フランス等の文化庁の予算に比べて、我が国の文化庁の予算は余りにも低い。それでも、最近非常にいろいろな理解が深まって、伸びてきてはおりますが、そういった中で、さらにこういったものに対しての経費が必要になってくるわけです。そういったことに対してのお取り組みはこれまでの御答弁で随分よくわかりました。

 また、この文化的景観は、先ほどからお話ございますように、世界遺産条約というところから派生しているというお考えも述べられました。世界各国から、あるいは我が国の中でも国内の各地から、世界遺産に登録しようというそれぞれの地域の皆様方の運動が今盛んでございます。

 実は、私は大分県の宇佐市というところの出身ですが、ここは宇佐八幡宮といって、全国の八幡宮の総本山があるところで、ここの宇佐八幡と国東半島というのが一体となって、今、世界遺産に登録しようという運動が地域で起こっているんです。これは、宇佐神宮は神教ですね。ところが、国東半島というのは仏教なんですね。いわゆる神仏混交で、物すごく一時栄えた珍しい地域なんです。神教と仏教がともに共存共栄したという宇佐、国東半島地域というのが、磨崖仏とかいろいろなことで皆さん方御存じだと思います。こういったところを世界遺産に登録しようという動きがあるだけに、こういう文化的景観を保護しようという今回の法律、非常に私はタイムリーだなと思っている一人でございます。

 いろいろお聞きしようと思ったこと、随分説明をされましたので、ちょっと一つお聞きしたいのは、景観地区を各市町村の申し出によって、重要文化的景観というふうに国の方が選定する、そういうシステムになっておりますね。この景観地区というものを各自治体が申し出たら、申し出たところはすべて重要文化的景観になるわけでしょうか。

素川政府参考人 お答え申し上げます。

 重要文化的景観の選定につきましては、文化審議会の方に諮問いたしまして、それの答申を受けて選定するという手続があるわけでございます。したがいまして、当然その前段階として、文部科学省といたしまして、その選定の基準を定め、それに適合するかどうかということをきちんと審査するという必要があるわけでございます。

横光委員 しかし、この文化的景観、いわゆる景観というのは極めて感覚的なものです。あるいは、もっと言えば、情緒的な価値判断が求められる。Aという人はこれはすばらしい景観だなと思いながら、Bという人は大してそういった印象を受けない、そういった非常に難しい選定基準になろうかと思うんですね。

 そうした場合、今審議会等でというお話もございましたが、この重要文化的景観をどのような客観的な基準で選定していくのか。この基準というのは法律事項ではないわけでしょう。ですから、何らかの指針とかあるいはサンプルケースとか、そういったものをやはり示さなければ、申し出するサイドも非常に、ただただ申し出るだけではこれは意味がないわけでございまして、そのあたりの準備段階はどのようになっておるんでしょうか。

素川政府参考人 選定基準につきましては、法律の施行後、専門的な知見も踏まえてそのあり方については検討するわけでございますが、文化財として選考する文化財の種類がございまして、それぞれ指定基準、登録の基準というものが定められ、それが公表されているところでございます。こういうものを参考にしながら、文化的景観にふさわしい選定基準というものを定めてまいるということになろうかと思います。

 例えば、文化的景観には非常に多様な種類があるわけでございますけれども、やはり独特の風土の典型的な形態を顕著に示すものといったようなものが、過去の指定基準等から見ますと、一つの柱といいますか、基準になるのかなというふうに想像しているところでございます。

横光委員 今お話しのように、既存の制度のもとでやるということも大事でございますが、今回こういった新たな文化的景観ということを選定する場合、やはり今言われた非常に特異的なものがほとんど申し出があろうかと思いますので、非常にそういった分野は配慮していただきたいと思っております。

 また、これは先ほどからお話が出ておりますが、農山漁村の文化的景観、いわば棚田とか里山とか漁港とか、いろいろな分野の保護、これを保護する場合、私もちょっと追加的質問になりますが、やはり農林水産業の経済活動が行われているわけですね、現在そういう地域。そういうところでは、ここが文化的景観ということに指定された場合、非常にさまざまなプラスの面、あるいは考えようによってはマイナスの面さえ出てくることも考えられます。

 私の地方にもたくさん棚田がございます。そういったところでは、現実には非常に効率性が悪いわけですね。棚田で生産するということは非常に効率性が悪い。ですから、先ほど農水省のお言葉にもございましたように、中山間地域対策で直接支払い補償というもので頑張ってもらっている。そこが、生産地域として頑張ってきた上に、今度は文化財として文化的な価値を与えられるわけですね、文化的景観となると。それは、そこを守っている人たちには非常に大きな誇りにもなると私は思う。そしてまた、そのことが地域の活性化の一つにもなろうかと思う。その反面、効率性という意味では、景観を維持するためには余り状況を変えるわけにはいかないわけですね。非常に厳しい中で、これまでどおりの生産活動をしなければいけない。

 農水省対策としての分野と、今度、文化財として重要文化的な景観地区と指定された場合の保護と、両方これから保護するのが必要だと思う。文科省の方のこういった景観地区に指定された地区に対する保護体制をもう一度お聞かせいただきたいんです。支援体制。

稲葉副大臣 確かに、棚田あるいは里山等につきまして、これを維持し、また後継者を選び、受け継いでいくということは、現実問題として至難に近いところがあります。しかし反面、先生がおっしゃられるように、やはりその地域の方々にとりましても誇りであるというところ、これもまた私たちとしましては大いに活用させていただきたいところでありまして、この両者の接点といいますか、調整、調和というものがこの法律の中身として大事な部分だと思っております。

 ですからこそ、この選定につきましては、その地域の方々の発意、県あるいは市町村の申し出、その申し出の中には、先ほど申し上げましたように、当然所有権者の同意、このことを暗黙の条件としているわけであります。したがって、選定をし、また指定を受けた後にありましても、その生産活動、生業にみじんも影響が出てはならない、このように思うわけでありまして、石井先生の御質問の中にもございました、では枝打ちができなくなるのか、あるいは切り出しができなくなるのか、そういう御心配については、御心配なさることはないんだ、こう思っております。

 同時に、同じように棚田につきましても、その農家の方々の生産活動、生産意欲をそぐようなものであってはなりませんし、逆に、我々としましては、水田の持つ多面的機能ではありませんが、その棚田の持つ機能面からしても、これを保存していくような措置を農林水産省に限らず、我々としても視野の中に入れていくべきだと思っております。そういう点で、いろいろな支援体制をさらに検討させていただこう、かように思います。

横光委員 よくわかりました。よろしくお願いいたします。

 次に、民俗技術を今回いわゆる保護して継承していこうという試み、私はすごいことだと思うんです。先ほどからこれは各委員からのお話がございますように、本当に廃れつつある、しかもその反面、私たちの国にとって大変大事な技術だと私は思うんですね。

 ただ、これは、その技術を残す必要性と、それを残すためにはそこの産業との問題もございまして、産業そのものが廃れていけばその技術さえ意味がなくなっていく、そういった難しい面もあるんですが、それでもこうして保存していこう、技術を継承していこうという試み。これは、これまでの無形民俗文化財、例えば地方のお祭りとか、あるいは冠婚葬祭等の地方独特の風習、このあたりに対してのこれまでの補助体制もございまして、これと同じようなことも今度やるということもお話もございました。

 そういった意味と別に、今度、技術的な継承の面、これはどのような形で進められようとしておるのか。例えば学校現場で、そういった非常に貴重なお国自慢の技術を継承のために勉強するとか、あるいはNPOとかNGOで、地方公共団体と一緒になってそういった教える機会を設けるとか、いろいろなことも考えられるかと思うんですが、技術を継承する方法といいますか、どのようなお考えでこの貴重な技術を継承しようということをお考えなのか、お聞かせいただきたいと思います。

稲葉副大臣 確かに、いろいろな資料を整えるだけでは伝統的な技術を継承することは難しい、これは松本先生がおっしゃられた、そのとおりだと思っております。

 私自身も、個人的には、いろいろな資料を残していくだけでなくて、やはり小さい子供さんたち、あるいは地域に密着した形での文化財でありますので、やはり地域の方々にぜひともこれを実感していただく、自分たちで船をつくってみるとかあるいは自分たちで演じてみるとか、そういった体験の機会を頻繁に我々が提供する必要があるんじゃないかと思います。

 そういう点では、例えば、学校の先生の資格を、教師の免許を持っていなくても、大工さんが図工の時間に学校にやってきて授業に、先生になれるとか、あるいはその現場に行って校外活動の中で船の一部をつくってみるとか、そういったさまざまな体験を我々は柔軟な姿勢を持って実現していくことが、これからの伝統的な技術の継承につながっていくものと私自身は考えておりますので、この考えを行政の中で反映させてまいりたい、このように思います。

横光委員 非常によくわかりました。非常に難しい問題ですけれども、それだけに、きめ細やかな観点が必要だろうと思っております。

 次に、文化遺産の保存あるいは活用、このことは、文化庁のみならず、各省庁あるいは自治体、産業界、NPO、NGO、国民一人一人の積極的な役割が必要だと思うわけですね。

 そういった意味で、この保存、活用のために文化庁がいろいろな取り組みをされている中で、総務省との連携によって、文化遺産オンライン構想というものに今取り組まれておりますね。先般、この文化遺産オンラインの試行版が公開されたとお聞きしておりますが、どれぐらいの参加館があったのか、ちょっとお知らせいただきたいと思います。

素川政府参考人 文化遺産オンライン構想につきましては、先生御案内のように、文部科学省と総務省が連携して行っておるところでございますが、去る四月二十七日に、文化遺産オンラインの試験公開版というのをインターネットで公開したところでございます。

 この文化遺産オンライン構想自体は、最終的には、全国の国公私立の博物館、美術館等、一千館程度御参加いただきたいという目標を持っているわけでございますけれども、この試験公開版におきましては、約三十程度の、当面は国立の博物館、美術館が中心でございますけれども、そういうところから一部の情報を提供していただきまして、試験的に今公開しているという状況でございます。

横光委員 今説明がございましたように、いずれ千館程度の博物館、美術館の接続を目標にしている、スタートして、今三十ちょっとだというお話がございました。それほどに、まだまだ参加する館が、博物館、美術館のあれが少ないわけでございます。

 いろいろな影響があろうかと思いますが、いずれにいたしましても、これは、収蔵品等のデジタルアーカイブ化にはそれなりに費用がかかるんですね。総務省の技術、インターネットの技術、そしてまた文化庁の文化財、こういったものが相まって、国民により情報公開をしようという大変すばらしい試みでございますが、まだまだスタートしたばかりということで、これからでございましょうが、やはり技術の人材それから文化財に詳しい人材、いろいろなことが必要になってくる、そういったこともあろうかと思います。

 何といいましても、遠方に出かけなくても、見られなかった文化遺産をこのコンピューターの前に座りながらにして楽しめる、まず第一歩なわけですね、いわゆるポータルサイト、玄関口でございます。そして、まずそういった情報を得た上で、今度は本物を見に行こうという気持ちになる、あるいは、障害で動けない人も、ほぼそういった映像で見ることができる、文化財に接することができる。私は、大変大きな、これから広がっていってほしい試みであるということを申し上げまして、質問を終わります。

 ありがとうございました。

池坊委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。

     ――――◇―――――

池坊委員長 次に、内閣提出、私立学校教職員共済法等の一部を改正する法律案及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案の両案を議題といたします。

 順次趣旨の説明を聴取いたします。河村文部科学大臣。

    ―――――――――――――

 私立学校教職員共済法等の一部を改正する法律案

 地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

河村国務大臣 このたび、政府から提出いたしました私立学校教職員共済法等の一部を改正する法律案について、その提案理由及び内容の概要を御説明申し上げます。

 私立学校教職員の共済制度については、制度創設以来、国家公務員共済制度等との均衡を保つことを本旨とし、逐次必要な見直しを行い、現在に至っております。

 今回は、少子高齢化の一層の進展等、社会経済情勢の変化に対応した持続可能な制度を構築し、年金制度に対する信頼を確保するとともに、多様な生き方及び働き方に対応した年金制度とすることを目的とする厚生年金保険制度及び国家公務員共済年金制度の改正の内容を踏まえ、これらに準じた改正を行うため、この法律案を提出することとしたものであります。

 次に、この法律案の内容の概要について御説明申し上げます。

 第一に、基礎年金拠出金に対する国庫補助率については、現在、三分の一とされておりますが、平成十六年度においては三分の一の補助に加え、一定の額を追加することとし、平成十七年度以降においては補助率の引き上げを図り、平成二十一年度までに二分の一とするものであります。

 第二に、育児休業中の掛金の免除期間については、現在、加入者の養育する子が一歳に達するまでの期間とされておりますが、これを子が三歳に達するまでの期間まで延長するなど育児休業者等への配慮措置を拡充するものであります。

 第三に、七十歳以上の教職員については、現在、七十歳に達した日の前日に退職したものとみなして満額の共済年金を支給しておりますが、この仕組みを見直し、六十歳代後半の教職員と同様に、当該教職員の給与等の月額に応じた共済年金の支給調整措置を講ずるものであります。

 また、私立学校教職員共済法は、給付関係規定について国家公務員共済組合法を準用しているところであります。このため、別途今国会に提出されております国家公務員共済組合法等の一部を改正する法律案における共済年金に係る給付水準の調整措置、離婚等をした場合の当事者の合意等に基づく年金分割制度の導入その他の給付に関する改正事項については、私立学校教職員共済制度においても同様の措置が講じられるよう必要な規定整備を行うこととしております。

 以上が、この法律案の提案理由及びその内容の概要であります。

 何とぞ、十分御審議の上、速やかに御賛成くださいますようお願いを申し上げます。

 引き続きまして、このたび、政府から提出いたしました地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案について、その提案理由及び内容の概要を御説明申し上げます。

 国民の学校教育に対する要請が多様化、高度化する中で、公立学校が国民の期待に十分こたえることができるよう、公立学校の管理運営の活性化を図る必要があります。このため、地域の住民や保護者がより主体的に学校の運営に参画することを可能にすることにより、地域の住民、保護者の意向に的確に対応した教育活動を実施し、信頼される学校づくりを進めることが重要であります。

 この法律案は、このような観点から、公立学校の管理運営の改善を図るため、学校の運営に関して協議する機関として、地域の住民、保護者等が学校運営に参画する学校運営協議会を設置することができるようにするものであります。

 次に、この法律案の内容の概要について御説明申し上げます。

 第一に、教育委員会は、その指定する学校の運営に関して協議する機関として、指定学校ごとに学校運営協議会を置くことができるものとし、その委員は、教育委員会が任命することとするものであります。

 第二に、指定学校の校長は、教育課程の編成等について基本的な方針を作成し、学校運営協議会の承認を得なければならないこととするものであり、また、学校運営協議会は、指定学校の運営に関する事項について、教育委員会または校長に対して意見を述べることができることとするものであります。

 第三に、学校運営協議会は、指定学校の職員の採用その他の任用に関する事項について、その任命権者に対して意見を述べることができることとし、任命権者は、その意見を尊重するものとしております。

 第四に、教育委員会は、学校運営協議会の運営が著しく適正を欠くことにより、指定学校の運営に現に著しい支障が生じ、または生ずるおそれがあると認められる場合においては、指定を取り消さなければならないこととするものであります。

 第五に、市町村教育委員会は、その所管に属する学校について指定を行おうとするときは、あらかじめ都道府県教育委員会に協議しなければならないこととしております。

 このほか、所要の規定の整備を行うこととしております。

 以上が、この法律案の提案理由及びその内容の概要であります。

 何とぞ、十分御審議の上、速やかに御賛成くださいますようにお願い申し上げます。

池坊委員長 これにて両案の趣旨の説明は終わりました。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時十分散会


このページのトップに戻る
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.