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第1号 平成14年7月5日(金曜日)

会議録本文へ
平成十四年七月五日(金曜日)
    午前九時三十分開議
 出席委員
  法務委員会
   委員長 園田 博之君
   理事 佐藤 剛男君 理事 塩崎 恭久君
   理事 棚橋 泰文君 理事 山本 有二君
   理事 加藤 公一君 理事 平岡 秀夫君
   理事 漆原 良夫君 理事 西村 眞悟君
      荒井 広幸君    後藤田正純君
      左藤  章君    笹川  堯君
      下村 博文君    鈴木 恒夫君
      西田  司君    平沢 勝栄君
      保利 耕輔君    松島みどり君
      柳本 卓治君    吉野 正芳君
      岡田 克也君    鎌田さゆり君
      今野  東君    佐々木秀典君
      手塚 仁雄君    日野 市朗君
      水島 広子君    山花 郁夫君
      石井 啓一君    藤井 裕久君
      木島日出夫君    中林よし子君
      植田 至紀君    徳田 虎雄君
  厚生労働委員会
   委員長 森  英介君
   理事 鴨下 一郎君 理事 鈴木 俊一君
   理事 長勢 甚遠君 理事 野田 聖子君
   理事 釘宮  磐君 理事 山井 和則君
   理事 福島  豊君 理事 佐藤 公治君
      岡下 信子君    上川 陽子君
      木村 義雄君    北村 誠吾君
      後藤田正純君    佐藤  勉君
      自見庄三郎君    田村 憲久君
      竹下  亘君    竹本 直一君
      棚橋 泰文君    西川 京子君
      堀之内久男君    松島みどり君
      三ッ林隆志君    宮澤 洋一君
      谷津 義男君    吉野 正芳君
      家西  悟君    大島  敦君
      加藤 公一君    鍵田 節哉君
      金田 誠一君    五島 正規君
      土肥 隆一君    三井 辨雄君
      水島 広子君    江田 康幸君
      東  順治君    桝屋 敬悟君
      樋高  剛君    小沢 和秋君
      瀬古由起子君    阿部 知子君
      中川 智子君    野田  毅君
      川田 悦子君
    …………………………………
   議員           加藤 公一君
   議員           平岡 秀夫君
   議員           水島 広子君
   法務大臣         森山 眞弓君
   厚生労働大臣       坂口  力君
   法務副大臣        横内 正明君
   厚生労働副大臣      宮路 和明君
   法務大臣政務官      下村 博文君
   厚生労働大臣政務官    田村 憲久君
   最高裁判所事務総局刑事局
   長            大野市太郎君
   政府参考人
   (法務省刑事局長)    古田 佑紀君
   政府参考人
   (法務省矯正局長)    鶴田 六郎君
   政府参考人
   (法務省保護局長)    横田 尤孝君
   政府参考人
   (厚生労働省社会・援護局
   障害保健福祉部長)    高原 亮治君
   法務委員会専門員     横田 猛雄君
   厚生労働委員会専門員   宮武 太郎君
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案(内閣提出第七九号)
 裁判所法の一部を改正する法律案(平岡秀夫君外五名提出、衆法第一八号)
 検察庁法の一部を改正する法律案(平岡秀夫君外五名提出、衆法第一九号)
 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案(水島広子君外五名提出、衆法第二〇号)


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     ――――◇―――――
園田委員長 これより法務委員会厚生労働委員会連合審査会を開会いたします。
 先例によりまして、私が委員長の職務を行います。
 内閣提出、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案、平岡秀夫君外五名提出、裁判所法の一部を改正する法律案及び検察庁法の一部を改正する法律案並びに水島広子君外五名提出、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案の各案を議題といたします。
 各案の趣旨の説明につきましては、これを省略し、お手元に配付してあります資料により御了承願います。
 これより質疑を行います。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。後藤田正純君。
後藤田委員 自由民主党の後藤田でございます。
 まず、今回の新たな処遇制度の趣旨及び目的等についてお尋ねいたします。
 今まで、再三、長時間にわたりましての審議が続いておりましたけれども、そろそろ各論、また論点について浮き彫りにされてきたかと思います。そういう意味では、政府案、そしてまた反対案等々、結局パラレルな部分もあると思っておりますが、しかしながら、これはこれとして、私は、例の大阪の池田小学校の事件を初め、いろいろな大きな社会的な影響があった問題だと思っておりますので、これは早急に法整備をすべき問題だと思っております。
 そういう中で、改めてお伺いしますが、今回の政府案に基づく新たな処遇制度につきまして、何を目的とするものであり、また、なぜ今回この制度を創設することとしたか、これにつきまして改めて法務大臣の御見解をお聞かせいただきたいと思います。
森山国務大臣 この法律案の目的は、心神喪失等の状態で殺人、放火等の重大な他害行為を行った者に対し、その適切な処遇を決定するための手続等を定めることによりまして、継続的かつ適切な医療並びにその確保のために必要な観察及び指導を行うことによりまして、その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もってその社会復帰を促進するということでございます。
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の処遇のあり方につきましては、法務省及び厚生労働省におきまして、昨年一月から合同検討会を開催するなど調査検討を進めていたところでございますが、そのような中で大阪・池田小学校の事件が発生いたしまして、これをきっかけといたしまして、精神医療界を含む国民各層から適切な施策を求める声がさらに高まったものと考えておりまして、このような意見の高まりや、与党プロジェクトチームにおける調査検討の結果等も踏まえまして、このような者に対する適切な処遇を確保するため、この法律案により新たな処遇制度を創設することといたしたものでございます。
後藤田委員 今の御説明のとおりだと私自身もその背景について思いますけれども、本法案においていろいろと議論が今までにされてきましたが、その中の論点の一つとして、これは刑罰とどう違ってくるのかというような議論がございますが、今回の処遇制度につきまして、対象者に対します継続的で適切な医療を確保するものである、刑罰とは性格が異なるものであるという御見解を政府はされておりますけれども、そのような認識でよろしいんでしょうか。また、その根拠、理由を御説明いただきたいと思います。担当局長にお願いします。
古田政府参考人 ただいま委員御指摘のとおり、この制度はあくまで必要な医療を確保するというための制度でございまして、刑罰ではございません。
 刑罰は、御案内のとおり、違法行為をした場合の責任がある者に対するその責任に対する非難ということでございますが、この法律案で想定しております医療の確保は、そういうふうな非難という意味は全くございませんので、刑罰とは全く違うものでございます。
後藤田委員 それでは、もう一点。
 今回の新たな処遇制度でございますけれども、一方で、もう一つは昭和四十九年の改正刑法草案におきます保安処分と似たようなものではないかという御批判、御非難もあるようでございますが、本制度と改正刑法草案の保安処分との違い、これにつきまして法務当局に、わかりやすく、また明確に御説明をいただきたいと思います。
古田政府参考人 ただいま御指摘の改正刑法草案におきます保安処分におきましては、これは、あくまで刑事手続の一環として、刑事事件の審理を行った裁判所が、刑事訴訟の手続により刑事処分としてその要否や内容を決めるというものでございます。また、その言い渡しを受けた者は、法務省が所管をする保安施設へ収容するということが想定されていたものでございます。
 これに対しまして、本法律案による新たな処遇制度におきましては、対象者に対して継続的かつ適正な医療を行い、また医療を確保するために必要な観察等を行うことによって本人の社会復帰を促進するという目的のもとに、刑事手続とは別個のものとして、刑事事件を審理する裁判所とは別の、精神科医もその構成員とする裁判所の合議体が、刑事処分ではなくて、先ほど申し上げましたように医療を確保するという観点から、その処遇の要否、内容を決定するものでございます。また、その処遇を受けることとなった者は、厚生労働大臣の所管する病院に入院、あるいは入院しないで治療を受けるということとしているわけでございます。
 また、制度の目的という点から申し上げますと、改正刑法草案におきます保安処分は、いわゆる予防拘禁というものとは違うものではありましたが、刑法に規定するということから、社会防衛というのをその直接の目的の一部としていたものでございました。
 しかし、この制度によります処遇は、対象者に対して継続的に適切な医療を行う、そういうことによって病状の改善、それに伴う同様の行為の再発の防止を図る、そのことによって社会復帰を促進するということでございまして、社会防衛をその直接の目的としているものではございません。
 ただいま申し上げたような点から、改正刑法草案におきます保安処分とは異なるというものでございます。
後藤田委員 今の御説明に関連してですけれども、今の点について、野党案との、余りこれは言葉を使うのは変ですが、保安処分というものに対しての意見の相違というのはどの点にあるとお考えか。御感想だけでも刑事局長に聞かせていただきたいと思っております。
古田政府参考人 必ずしも質問の御趣旨を的確に把握できたかどうかわかりませんけれども、基本的な考え方といたしまして、政府案は、重大な他害行為を行った、不幸にしてそういうことをするに至った、そういう方について、やはりその処遇を適切に決定する仕組み、こういうものが必要である、それに引き続きましてやはり適切な医療の確保というのをしっかり行う仕組みが必要である、そういう考えに基づいてできているわけでございます。
 ただいま御指摘のありました議員提案で提案されておられますものにつきましては、そういうふうな重大な他害行為ということに着目してその適切な処遇を決定するというふうな仕組みではないというふうに理解しております。
後藤田委員 それでは、厚生労働省にお伺いします。
 もう一つの論点としては、再犯のおそれを予想したり証明することは大変難しいという議論が日本の精神科医の先生方から発言があるようでございますけれども、それは同時に、この日本において、司法精神医療、この不備を、まさに精神科医の方々が日本にはそういった司法精神医療がございませんと言っているようなものだと私は思っておりまして、各国の状況を見ますと司法精神医療というのは大変進んでいる、日本の精神科の分野において司法に絡んだそういった医療の整備が全くなされていなかった、不備であったというふうに感じざるを得ないんですけれども、その点につきまして、今の日本の司法精神医療についての現状と、不備であるのであれば、これを今後発展させるためにどのように取り組んでいくかを厚生労働省にお尋ねしたいと思います。
坂口国務大臣 おはようございます。
 我が国におきましては、これまで精神保健福祉法におきまして、精神保健指定医が自傷他害のおそれが認められるか否かを診断いたしまして、そして、これが認められる者に対しましては必要な医療を行ってきたところでございます。一方、諸外国におきましては、いわゆるリスクアセスメントあるいはリスクマネジメントに関する専門的な知識経験等を有する司法精神医学の専門家が多数存在しているというふうに承知をいたしております。このような諸外国と比べますと、我が国におきましては、この分野の専門家の数が必ずしも多くないことは事実だというふうに思っております。
 そこで、厚生労働省におきましては、このような専門家の質と量をさらに向上させますために、昨年度から、厚生科学研究におきまして、司法精神医学に関する研究に新たに着手したところでございます。また本年度からは、研究者や臨床医等を海外に派遣をいたしまして司法精神医学の研究、研修に従事していただいているところでございます。
 今後さらに、このような取り組みを継続いたしますとともに、国内におきましても、海外から帰国をされました方あるいはまた我が国の専門家を中心といたしまして、医療関係者に対する研修等を開始したいと思いますし、司法精神医学についての専門的な調査研究を国の機関で行う体制をつくるなど、そうした各般の取り組みをこれから行いたいと考えております。
後藤田委員 ネガティブな議論が横行する中で、ぜひとも、日本が本当に欠けている司法精神医療という問題に目を背けずにそれに着目して、ポジティブにその制度を育成していただきたい。それがひいては精神障害者の方々のこれからのことにつながると私は思っておりますので、ぜひそれはお願いしたいと思います。
 次に、これは厚生労働省、そして最高裁、法務、お三方にお伺いしたいんですが、今回の新しい制度が成立した場合に、そのときに裁判を構成する三者の方々、新しい取り組みなわけでありますから、それに準備をしているのが当然であって、これは成立後にどういう準備をされるのかという点について、各三関係者からそれぞれ、裁判に臨む方々が新しい処遇制度においてどういった訓練または教育、そしてまた倫理観を持ってやられるのか、それについてどういう形で三方の方々が制度を設けているのか、その点につきましてお伺いしたいと思います。
大野最高裁判所長官代理者 お答えいたします。
 これまでも、裁判官に対しましては、司法研修所等における研修あるいは各種裁判所における鑑定研究会、それから執務資料の配付等を通じまして精神医学に関する知見の向上に努めてきたところであります。
 そして、この法律案につきましても、全国の裁判官に知らせ、周知を図ってきたところでありますが、法案が成立した後におきましては、さらに研修や協議会を実施し、この法律の趣旨、内容を裁判官に十分理解してもらうとともに、精神医学に関する理解を一層深めてもらうことによりまして、法の趣旨に沿った中立公正な判断、適正な運用に努めてまいりたいというふうに考えております。
後藤田委員 ちょっと今のじゃ非常に抽象的なので、具体的に、どういう制度なりどういう教育体制を整えるというふうに考えていらっしゃいますか。
大野最高裁判所長官代理者 この法案成立後につきましては、一つは、司法研修所におきましてこの法案に関する趣旨、内容等についての研修、それから精神医学に関しての研修といったものを考えておりますし、それから、裁判官の協議会を通じまして、今と同様のことについて各裁判官でいろいろこの法律の理解についての協議を行うというようなことを含めますし、それから、鑑定研究会等におきましても精神科医の方々と裁判官とがお互いにその立場から相互理解が深められるように、そういった議論の場を設けて今後の実施に向けて努力してまいりたいというふうに考えております。
後藤田委員 では、あと関係二省庁。
古田政府参考人 この法律案が成立した場合には、検察官につきましても、より精神医療に関する知識、これを十分備えさせるということが必要であるということは私どもも認識しておりまして、では、そのために具体的にどういうことをするかということになりますと、細かなスケジュール等までまだ考えているわけではございませんが、一つには、まずこの法律の内容、趣旨、これを検察官に十分理解させる、その趣旨を徹底させる、そのためのさまざまな説明会あるいは、検察官の場合に研修が何年か置きにございますけれども、そういうもののカリキュラムの一つとして取り入れる、そういうふうなことを考えているわけでございます。
 さらにまた、この問題につきましては、やはり精神医療に従事しておられる方々との相互理解がさらに深まるということがどうしても必要でございまして、これまで必ずしもその相互理解が十分ではなかったのではないかと思われる面も多々ございますので、そういう精神医療に従事する方々との間のさまざまな研究会あるいは意見の交換の機会を多く設けていく、そういうふうな措置をとることが必要であると考えております。
高原政府参考人 精神保健審判員は、精神保健判定医の中から選任することとされているところでございます。
 精神保健判定医の資格要件につきましては、具体的には、精神保健指定医を取得いたしまして、その精神保健指定医としての臨床経験年数が一定年数以上であって、かつ自傷他害のおそれを判断する措置診察に一定件数以上従事したことがあること、司法精神医学に関する研修を受講した者であること等とすることを検討しておりまして、司法精神医学に関します研修は、いわゆる司法精神医学の理論、実践、法学、供述心理学、精神鑑定の技法等々を現在のところ考えております。
後藤田委員 今それぞれお伺いしましたけれども、結局、これは、いかに本処遇制度について心配をされている方に安心をさせるかということになりますと、その裁判に臨む方々がきちんとした人間である、そういう人間を選ぶということが一番重要な点だと思っております。
 幾らいい法律や制度をつくっても、結局は人の行いであります。人の行いすべてでいい制度もいい法律も変わってしまうわけでありまして、そういう意味では、例えば各省庁にもさまざまなチェック、監査機構があります。例えば警察などはチェック機能に対するチェック機能があるぐらいです。つまり、警察があって、国家公安委があって、また一方で警察刷新会議というものがつい昨年、一昨年ですか、催されまして、チェック機能をチェックしなきゃいけないような、今、日本はそんな世の中になっているわけでありまして、今回、今お話をいただいたわけでありますが、いわゆる第三者機関としてその人選を考えるというような、各省の推薦並びに各省が、各関係当局が選んだ人間がそういう裁判に臨むわけでありますが、第三者機関として何かチェックをする、二年、三年置きに、また五年、十年置きに、そういうお考えというのはあるんでしょうか。
 お医者さんも、認定医制度の問題なんかこれからどんどん議論されなきゃいけませんが、二十年、三十年たった医者が、本当に初年度の、一番脂の乗ったころの医療ができるかといったら、これはできないわけですよ。いわゆる車でいうとペーパードライバーですね。そういった問題も、今医療について、医師界について私は問題意識を持っているわけですけれども、今回の件も、やはり反対されている方、また御心配されている方に安心をしていただくように、そういった第三者機関として人選をするというお考えはそれぞれございますでしょうか。その点、教えていただきたいと思います。
大野最高裁判所長官代理者 お答えいたします。
 これまで裁判官が担ってまいりました職責はいずれも中立公正な判断が要求されるものでありまして、その職責を適正に遂行してきたものというふうに考えております。この法律案により担うこととなる新たな職責につきましても、同様に適切に職務を遂行することは可能であるというふうに考えておりまして、公平性等を担保するために第三者機関の設置等が必要であるというふうには思っておりません。
 なお、裁判の是正につきましては抗告といった制度もございますので、制度の中でそういったものとして保障されているというふうに考えております。
古田政府参考人 実際の審判に出席する検察官あるいは申し立てをする検察官、これを、今御指摘のような第三者機関によって選任するということはなかなか難しい問題があろうかと思いますけれども、若干、検察庁における事務処理の実情を申し上げますと、検察官の場合には基本的にその判断等につきまして必ず上司の了解を得るというシステムになっております。そういう中で、判断のばらつき、あるいは不当な判断が入らないようにチェックしていく、そういう機能というのを検察庁の中で、言ってみれば非常に重要な仕事でございますので、十分ふだんから備えるように気をつけて、現実にそういうふうに運用しているわけでございまして、この制度におきましてもやはり同様のことになると考えております。
高原政府参考人 精神保健審判員の選任の母体であります精神保健判定医には、先ほど御説明申し上げましたように、司法精神医学に関します研修を十分に受講していただくことを義務づけるとともに、さらには、更新制を取り入れて、最新の国際的水準の司法精神医学の知見を身につけていただくことを考えております。
後藤田委員 それでは、もう一つの論点であります。これは法務省にお伺いします。
 今回の処遇制度の中で、裁判所が対象行為の存否を確認するための手続でございますけれども、その件につきまして、刑事訴訟とは異なって、審判手続で行われるというふうになっております。しかしながら、一方で、それに対しておかしいという意見も一部あります。対象行為はまさに犯罪に当たる行為である、これを認定する手続は刑事訴訟手続と同じ手続でなければいけないんじゃないかというような批判も一方であるようでございますが、この点についての御見解を法務当局にお願いしたいと思います。
古田政府参考人 委員御案内のとおり、刑事訴訟手続は、刑罰という非難を加えるという観点からどういう制度が合理的かということで考えられているものでございますが、この制度は、先ほど申し上げましたとおり、そういうふうな非難を加えるという手続、言いかえれば制裁を科する手続というものではございませんで、あくまで、不起訴処分となりあるいは無罪等の裁判が確定した者につきまして、その後その人をどういうふうに処遇するかという観点から、継続的かつ適切な医療を行い、また医療を確保するために必要な観察等を行う、そしてその社会復帰を促進する、そういう制度でございます。
 したがいまして、本制度によります処遇は、一方でその者が対象行為を行ったということから直ちにすべてこの制度によって処遇の対象になるということではなくて、医療が必要な人の中から本制度による医療を行うこととする人を限定するために、一定の行為を行った人であるということをその前提要件としたものでございます。
 不起訴処分の場合でございますけれども、検察官認定に疑問が生じた場合に、裁判所としては本制度の対象者として考えていいのかどうかということ、これを明らかにする必要はあるわけでございまして、それに必要な限りで事実の取り調べを行って、関係証拠によって対象行為の存否を確認する、そういうものとして構成しているわけでございます。
 このような本制度の目的や、対象行為を行ったことが要件とされている趣旨等から考えますと、本制度による処遇の要否、内容の決定手続は刑事訴訟手続と同じようなものでなければならない理由というのはないわけでございます。むしろ、適切な処遇を迅速に決定するということが重要でありまして、裁判所が医療が必要と判断されるのに対し、できる限り速やかに本制度による医療を確保するということが大事であるということからいたしまして、刑事訴訟手続、非難を加えることを目的とするようなそういうものより、柔軟でかつさまざまな資料に基づいて処遇を決定するということが制度の趣旨に合致するものと考えているわけでございます。
 そういう観点から、審判手続によることが適当であると判断したものでございまして、犯罪行為に該当するものがあるということだけで直ちに刑事訴訟手続と同じようなものでなければならないということにはならないと考えております。
後藤田委員 次に、厚生労働省にお伺いします。
 次の論点としましては、本法案において定義されている医療でございますが、すべてこれは新しい、先ほど来申し上げます司法精神医療に伴う、諸外国に日本も追いつき、それを整備するという背景の中でつくられている法案だと私は認識しておりますが、その中の医療という定義が、今までの一般的な精神医療とどのような点が異なるのか、具体的な特徴につきまして御指摘をいただきたいと思います。
高原政府参考人 指定入院医療機関におきます医療でございますが、医師及び心理技術者による精神療法を頻繁に行う、そして作業療法などを通じて社会復帰に向けた訓練を綿密に行う、また患者の行動観察を入念に行い、おそれの評価を行うなど、一般の精神病院で行う医療とは異なり、手厚い専門的な医療を行うこととしております。
後藤田委員 今お答えいただいたように、一般の精神医療とは違う、手厚い医療ということでございますが、じゃ、その手厚い医療をするために、果たして、十分な診療報酬、この財源の確保はどのようにされるつもりでしょうか。いわゆる、今ある限られた財源の中でどこかを削ってふやすという、そういうお手盛りのことであれば、全くこの法案の趣旨に反するわけでありますので、診療報酬体系の改革も含めて教えていただきたいと思います。
高原政府参考人 本制度におきます医療は、国におきまして一元的に行う医療としております。費用は全額国費によることとしておりまして、議員御指摘のとおり、本制度における手厚い専門的な医療を確実に実施していくためには医療費の確保が必要不可欠であると考えております。
 今後、本制度において行う医療の内容や人員配置基準等について、最も効果的なものとなるよう検討を進めていくとともに、必要な経費について財務当局の理解を得ながら確保し、本制度の着実な実施を図ってまいりたいと考えております。
後藤田委員 今お伺いしたとおり、一般精神医療とはまた違って手厚い医療をするんだということでございますけれども、一方で、一般の精神医療においても重症または急性期、薬物乱用など治療が難しいケースもございまして、一般の精神医療と比べて今回の医療に手厚くするということで格差が出てしまう、そういった問題点も社会全般のことを考えると出てくると思うのですね。
 こうした患者さんに対しても、いわゆる一般の精神医療においての重症な患者さんにおいても、今後手厚い医療が同様に必要だと私は思いますけれども、その点についてはいかがでございますか。
坂口国務大臣 精神病床におきまして、現在その中に入院をしておみえになります皆さんには、急性期の患者さんから既に積極的な入院治療の必要性が減少している患者さんまで、さまざまな方が入所しておみえになるというふうに思います。
 このような中で、患者の病態に応じて適切な処遇を行いますためには、精神病床のいわゆる機能分化を図るということがこれから非常に大事になるというふうに思っております。
 御指摘のように、重症あるいは急性期、薬物乱用など、手厚く専門的な医療が必要となる患者さんにつきましては、それにふさわしい治療体制を確保していく必要がございます。難治性の精神疾患などの特に対応が困難な精神疾患患者に対しましては、国立病院でありますとか療養所が、精神疾患政策医療ネットワークを活用いたしまして中心的な役割を果たしているところでございますが、今後とも、その機能の充実を図る必要がございます。
 現在、社会保障審議会の障害者部会におきまして、精神保健、医療、福祉の総合計画の策定に向けた検討を行っているところでございますが、この中で、精神病床の機能分化のあり方につきましても議論を行っているところでございます。この議論を踏まえまして、そして一般の精神病棟に入っておみえになります皆さん方に対します問題点も充実をしていきたいというふうに考えているところでございます。
後藤田委員 それでは、最後の論点でございますけれども、これは法務省にお伺いします。
 諸外国の例をよく引き合いに出して、本制度のもとでの問題点が指摘されるわけでございます。どういった問題点かといいますと、治療の必要がないのに入院が長期化をして退院できなくなるというような、そんな問題が海外でも起こっている。いわゆる悪い意味での保安処分的な、そういった現状が見受けられるという意見もございます。
 これについて、我が国の本制度のもとでそういう事態が起きないように、またそれを防ぐためにどのような仕組みを設けているのか。これにつきまして、法務当局にお伺いしたいと思います。
古田政府参考人 外国の状況について詳細を申し上げる立場でもございませんが、この制度におきましては、まず前提といたしまして、裁判所におきまして、医療を受けさせるために入院をさせる、こういうふうな決定をするためには、入院をさせて医療を行わなければ心神喪失あるいは心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認める場合に限られているわけでございまして、治療の必要がない者がこの法律案による入院の対象となることは、要件上あり得ないということになるわけでございます。
 また、入院が一たん決まった者につきましても、指定入院医療機関の管理者は、入院を継続して医療を行わなければやはり先ほど申し上げたような精神障害のために再び対象行為を行うおそれがある、そういうことを認めることができない状態になったときには直ちに裁判所に対しまして退院の許可の申し立てをしなければならないということを義務づけているわけでございます。
 それに加えまして、入院を継続して医療を行わなければやはり精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認める場合につきましても、少なくとも六カ月ごとに地方裁判所に対して、そういう状態であるので入院継続が必要であるということについての確認の申し立てを指定医療機関の長はしなければならないわけでございまして、六カ月ごとに必ずチェックが入るシステムにしてあるわけでございます。
 さらに、それに加えまして、この法律案におきましては、対象者、保護者または付添人からも退院等の許可の申し立てをすることができるようにしておりまして、その判断に不服があればさらに上級の裁判所の判断も求められるようになっておりまして、さまざまな形で、おっしゃるような、治療の必要がないにもかかわらず入院が不当に長期化するというようなことが起こらない仕組みとするため、さまざまな配慮をしているところでございます。
後藤田委員 以上で質問を終わります。ありがとうございました。
園田委員長 漆原良夫君。
漆原委員 公明党の漆原でございます。
 まず最初に、再び対象行為を行うおそれという概念についてお尋ねします。
 政府案では、再び対象行為を行うおそれというのを本制度による処遇を行うための要件としておりますが、これについては社会防衛を図るためではないかとの批判もあるところでございますが、そもそも、このようなおそれというものをこの法律の要件とした理由をお尋ねしたいと思います。
古田政府参考人 この制度によります処遇は、先ほども申し上げましたとおり、社会復帰を促進するためでございまして、危険性から社会を防衛するというようなことを直接の目的とする予防拘禁とは違うわけでございます。しかしながら、この制度におきます処遇も、例えば入院でありますとか、その後の精神保健観察でございますとか、人身の自由の制約や自由に対する干渉を伴うものでございます。
 精神医療におきまして、仮にある者に医療を行うことが必要であるという場合でありましても、その意思に反して強制的に医療を受けさせるということが常に許されるということは考えにくいわけでございまして、先ほども申し上げましたように、本制度におきましては、医療を強制する仕組みで、そのことによって医療を確保していくということではございますが、自由に対する制約等がどうしてもこれは不可避的に生ずることでございますので、このような制約が認められるためには、やはり医療が必要な状態にあるということに加えまして、その者の精神障害のために問題行動に及ぶおそれ、こういうものが認められるということが必要であるというふうに考えているわけでございます。
 そういうことから、再び対象行為を行うおそれということを要件としているものでございまして、これは人身の自由に対する干渉、制約の限度を考慮して、そういうことが積極的に認められる場合に限って強制医療の対象とするという趣旨で、限定するために設けているものでございます。
漆原委員 一部の精神科医の方から、再び対象行為を行うおそれの予測は不可能だというふうな批判がなされております。しかし、考えてみますと、現行法の措置入院制度においても自傷他害のおそれの判断がなされているところでございますが、こちらの判断については予測不可能だという批判は全く聞こえてきません。
 この自傷他害のおそれの判断と、再び対象行為を行うおそれの判断とは、私は基本的に同じものだというふうに考えておるわけでございますが、法務大臣の見解を尋ねたいと思います。
森山国務大臣 精神保健福祉法におきます自傷他害のおそれも、この法案におきます再び対象行為を行うおそれも、いずれも、その者の意思に反してでも精神医療を行うために必要とされる要件であるという点では同じでございます。
 また、いずれも、その者の現時点の精神障害の有無、内容を診断した上で、このような精神障害を原因として現に生じている病状または今後生じ得る病状を診断いたし、今後、そのような病状により一定の問題行動が引き起こされる可能性があるかどうかを判断するものでございまして、その判断過程や判断方法も同じでございます。
 このように、自傷他害のおそれの判断と、再び対象行為を行うおそれの判断は、その基本的な部分に違いはございません。
漆原委員 この自傷他害のおそれの判断は短期的な予測である、これに対して、再び対象行為を行うおそれの判断は長期的な予測であって、両者の予測期間が異なるというふうな意見がありますが、そのような違いがあるのかないのか、法務省に尋ねたいと思います。
古田政府参考人 精神保健福祉法におきましても、いわゆる自傷他害のおそれ、特に他害のおそれということが問題になるわけでございますが、その有無について判断する必要はございますが、これは、特に一定の期間を定めてその間の予測をするというふうなものではございません。そのことは、この法律案におきます再び対象行為を行うおそれにつきましても同じことでございまして、特にある特定の期間を定めてその期間の予測をするというものではございません。
 したがいまして、一たん裁判所により、ただいま申し上げたようなおそれがあると認定されて入院の決定がなされましても、その後、指定入院医療機関の管理者は、そのようなおそれの有無というのを常々判断し、それがあると認めることができなくなった場合には、これは直ちに退院の許可の申し立てをしなければならないこととしているところでございまして、仮に一たんおそれがあるという判断がされたとしても、そのような判断が一定期間の拘束力を持つとかそういうものではございません。
 そういう意味で、短期的あるいは長期的ということにつきましては、そういうふうな期間との関係で判断するものではないということでございます。
漆原委員 この自傷他害のおそれと、再び対象行為を行うおそれの関係について、厚生労働省においても今の法務省の答弁と同じように考えていいのかどうか。
 特に、六月二十八日の当委員会におきまして、厚生労働省の方からは、自傷他害のおそれは短期的な予測であるのに対し、再び対象行為を行うおそれは長期的な予測であるという意味の答弁がなされたというふうに記憶をしておりますが、今の法務省の答弁と若干違うのかなという気がしているところでございますが、厚生労働大臣にお尋ねしたいと思います。
坂口国務大臣 自傷他害のおそれと、再び対象行為を行うおそれというのは、その判断過程でありますとか判断方法の基本的な部分は異ならないというふうに思っております。いずれも一定の期間を想定して予測を行うものではなくて、法務省とその点では同様の考え方でございます。
 御指摘の答弁は、精神保健福祉法におきます自傷他害のおそれの判断に関しまして、特に最初に行われます措置入院の要否の判断は、主として短時間の措置診察に基づいて行われていることなどから、判断資料は限られたものとなっておりますし、その結果として、主として措置診察の時点における症状に基づいて予測が行われている面がある、こういう実務の一般的な運用状況に関する認識を示したものでございます。
 これに対しまして、本法律案におきましては、より広範な資料が収集できる仕組みを設けておりますし、慎重な医療的観察、及びこれまでの病状の推移や生活環境等に関する十分な資料に基づき判断をすることとしております。
 先日、長期的な見通しというふうに述べましたのは、本制度におきましては、単に目の前の症状だけでおそれの有無を判断するものではないという意見を述べたものでございまして、数カ月とかあるいは数年といった長い期間を想定して予測を行うといった意味では決してございません。
漆原委員 法務省にお尋ねしたいと思います。
 この再び対象行為を行うおそれの判断が不可能であるとする意見の中には、このような判断は、医者に対して対象者がいつどのような行為に及ぶかを予言することを求めているものであって、到底不可能なことを求めているという批判がなされております。本制度においては、おそれの有無を鑑定する医師に対してはどのような判断が求められているのか、お尋ねしたいと思います。
古田政府参考人 この制度におきまして鑑定医に求められておりますことは、対象者が精神障害者であるか否か、そして、継続的な医療を行わなければ心神喪失等の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあるかどうかということについての意見でございます。
 ところで、この再び対象行為を行うおそれの有無に関する意見、鑑定と申しますのは、対象者が継続的な治療を受けなければどのような症状が続くか、あるいは再現するか、そのような症状がある場合に、症状の内容、問題となっている重大な他害行為の内容、過去の問題行動歴の有無、内容に加えて、多くの症例から経験的に共有されている専門的な知識に照らしまして、人の生命、身体等に危険を生じさせる行動を含む問題行動に出るおそれがあり得ると判断されるかどうかということについての専門家としての御意見でございます。
 したがいまして、ある特定の罪名をピンポイント的に求めるとか、あるいはその時期がいつかというようなことの意見を求めているというものではございません。
漆原委員 続いて、民主党案と政府案の若干の比較をしながら質問をさせていただきたいと思っております。
 まず第一点は、入院の要否の判断資料の収集方法に関してでございますが、より確実な治療の効果あるいは病状の判断のもとで処遇の要否、内容を決定するためには、ある程度時間をかけて対象者の検査や診察等を行う必要があると思います。現行の措置入院制度では、二名以上の精神科医による診察が要件とされておりますが、実務上は短時間の問診によっているというふうに聞いております。
 まず、民主党案ではこの点について特段の措置がとられているのかどうか、とられているとしたら、内容について御説明を願いたいと思います。続いて、政府案ではどうなっているのか、政府の方に意見を求めます。
水島議員 お答え申し上げます。
 現行の措置入院制度においては、入院の要否の判定においてまだまだ改善すべき点が多いという御認識は全くこちらも同様でございまして、そのような基本認識に基づきまして民主党案を考えさせていただいております。
 具体的には、判定委員会を設置しまして、判定委員会が都道府県知事から判定を求められた場合に、精神保健指定医二名による合議体において、その合議体を構成する各委員が対象者を診察した上で、その自傷他害のおそれの有無並びに高度の医療及び保護の要否について合議により判定をすることといたしております。
 さらに、都道府県に精神保健福祉の専門家である精神保健福祉調査員を設置しまして、そして、都道府県知事が判定委員会に判定を求める際に調査を行わせることとしているほか、判定委員会が判定を行うに当たって必要があると認めるときには、対象者の過去の病歴、現在の病状、治療状況、過去の自傷他害行為の有無及び内容、現在の生活環境等、判定のために必要な事項について調査を行わせることができることとしております。
 以上のような措置入院の決定の手続の見直しにより、より適切なものになると考えております。
古田政府参考人 この適切な処遇を決定するための資料を多く、これは十分医療的な問題も含めて収集する、それに基づいて判断するということが必要でございまして、そのため政府案におきましては、対象者につきまして、特に最初の処遇の決定の申し立ての場合には、必ず一定期間病院に入院させて、鑑定や医療的観察を十分慎重に行うための期間を確保する、これを原則としているわけでございます。
 これに加えまして、申立人である検察官からは、その処遇の決定のために必要な資料につきまして提出義務を課して、そういう資料が十分集まることとするとともに、申し立てを受けた側あるいはその付添人、こちらからも資料の提出や意見陳述の機会を確保して、正確かつさまざまな観点からの資料に基づいて判断が可能なようにしている、また、それだけで足りないような場合も、裁判所で必要と認めるいろいろな事実調べができるというふうにしているわけでございます。
 そのほかにまた、生活環境等についての調査というのも非常に重要なこともございますので、保護観察所に裁判所から生活環境の調査を求めるというふうなことも可能にしておりまして、できるだけ正確なたくさんの資料によって判断ができる仕組みを考えているわけでございます。
漆原委員 時間の関係上、最後の質問になると思いますが、退院後の継続的な治療を確保するための方法について聞きたいと思います。
 特に心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者については、退院後も継続的で適切な医療を確保することが極めて重要であると考えます。現行の措置入院制度のもとでは実効性のある具体的な方策が定められていないというふうに私は認識しておりますが、この点について、民主党案ではどのような特段の措置を考えておられるのか、考えておられたらその内容を聞きたい。政府案ではどうなっているのか、お尋ねしたいと思います。
水島議員 私たちといたしましても、精神障害者の方が地域で適切な医療を継続的に受けていくということ、これは極めて重要なことであると認識をしております。
 現行の精神保健福祉法におきましても、保健所を中心として行われる精神保健福祉相談員を初めとする専門職による相談指導、精神障害者社会復帰施設の設置等、精神障害者の方の社会復帰の支援について規定はされておりますけれども、これを十分に機能させるためには、精神保健福祉に関する業務を行う各職種間のチームワークが大変重要であると考えております。
 そこで、民主党案におきましては、退院後の継続的な通院医療の確保を含めた全体的な社会復帰支援体制の強化を図るために、医師、精神保健福祉士、保健師、看護師、作業療法士その他精神障害者の保健及び福祉に関する業務を行う者の相互の連携が図られるよう、職種間の協力体制を整備すべき義務を都道府県等に努力義務として課しているところでございます。
横田政府参考人 お答えいたします。
 委員御指摘のように、特に心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につきましては、退院後も継続的で適切な治療が必要であることは全くそのとおりであります。
 そこで、政府案におきましては、通院患者は、厚生労働大臣が指定する指定通院医療機関において入院によらない医療を受けるとともに、保護観察所に新たに置かれる精神保健観察官による精神保健観察を行うこととしております。
 精神保健観察におきましては、このような医療機関はもとより、地域社会で精神障害者に対する援助業務等を行っている保健所等の関係機関とも連携しつつ、当該通院患者の生活状況を見守り、そしてその相談に応じまして、通院とか服薬とかそのようなものをきちんと行うように働きかけていくということをいたします。そのようなことによりまして、地域社会において継続的な医療を確保するということにしております。
 また、保護観察所の長は、指定通院医療機関の管理者及び通院患者の居住地の都道府県知事と協議しまして、その処遇に関する具体的な実施計画というものを定めます。
 そしてまた、今申し上げました保健所あるいは精神保健福祉センター、社会福祉事務所あるいは社会復帰施設等の関係機関の協力体制というものを、これは保護観察所あるいは精神保健観察官が中心となって、いわばコーディネーターとしてそういった協力体制を整備いたしまして、実施計画に関する関係機関相互の密接な連携の確保に努めます。
 さらに、継続的な医療を確保する必要があると認める場合には、地方裁判所に対して、入院によらない医療を行う期間の延長あるいは再入院の申し立てを行うこととしております。
 このように、政府案におきましては、通院患者が社会内において必要な医療を継続して受けられるようにするための新たな方策を盛り込んでおります。これによりまして、通院患者の社会復帰が十全に図られる、促進されるものと考えております。
 以上です。
漆原委員 以上で終わります。ありがとうございました。
園田委員長 福島豊君。
福島委員 本日は、私は、先般読売新聞に載りました、六月二十八日付でございますが、「論点」において、高木俊介さんという精神科医がこの法案についてのさまざまな指摘をしているわけでございます。実は、彼は私の同級生でございまして、いろいろと言われるとなかなか内心複雑なものがありまして、一つ一つ指摘されていることについて確認をしたいというふうに思っております。
 この中で、まず初めに、次のようなことが言われております。今回の法案は、問題の多い検察段階での責任能力判断の過程については、何の改善も図られていないではないかと。この点について、法務省としてどうお考えか、お聞かせいただきたいと思います。
古田政府参考人 検察当局におきまして、精神障害の疑いがあると思われる方についての事件を受理した場合に、その事件の捜査に当たりましては、犯罪の内容等、こういうものをきちっと捜査することはもちろんでございますが、その上で、責任能力に関する問題、あるいは生活の状況、そういうふうな点も含めまして、犯罪の軽重でありますとかいろいろな要素を考慮し、必要に応じて専門家の意見なども求めながら適切に処分を行うというふうに努めているところでございます。
 その過程の中で、必要に応じて鑑定等の依頼をするわけでございますが、それは、ただいま申し上げましたような事案の内容等を考慮して、どういうふうな措置が最も適切であるかということを考えながらやっているわけでございます。そういう現在の鑑定のあり方自体について特に重大な問題があるというふうには私どもとしては考えておりません。
 しかしながら、もちろん、その事件の捜査処理におきます責任能力の判断、こういうものの重要性は当然でございますので、それについてできるだけ適切な判断が行われるよう、資料の提供その他について十分な配慮が必要でございますし、また、鑑定をしていただく方々との間のいろいろな意思疎通、そういうものも十分図っていかなければならない。そういうことにつきましては、いろいろな観点からさらに今後改善をしていく必要はあると考えております。
 なお、この法律案におきましては、この対象者として申し立てをするためには、心神耗弱あるいは心神喪失であるということを検察官として厳密に認定する必要が生じます。したがいまして、現在、例えば比較的軽い事件等につきましては、被害者の意向とかそういうことを考慮して、あえて心神耗弱かどうかというようなことを厳密に認定するまでもなく、刑事事件として見た場合に不起訴にするというようなことはあり得るわけでございますけれども、今後、この制度ができますと、そのような疑いのある事件につきましては、やはり心神喪失か心神耗弱か、こういう点をきちっと鑑定によって認定した上で処理をするということになるわけでございます。
 なお、さらにつけ加えて申し上げますと、ただいま検察庁で行っておりますいわゆる簡易鑑定と申しますのは、これは本人の同意がある場合に限られるわけでございまして、現在までのところ、事件の内容によっては、同意がない場合に、あえて鑑定までの必要はないというふうなケースについては鑑定をしないケースもあるわけでございますが、今後は、この制度ができた場合には、先ほど申し上げましたように、そこをきちっと認定しなければならないわけですので、同意がない場合には、鑑定許可状を裁判所からいただいて鑑定をするということが必要になっていくであろうと思っております。
福島委員 今まで以上に厳密に行われるという趣旨だろうというふうに思います。
 次に、先ほども漆原委員の方から御指摘ございましたが、再び対象行為を行うおそれ、いわゆる再犯予測ということでございますが、それができるのかどうかということについての指摘もあります。
 「「再犯予測」が可能なのかどうかということが、慎重に検討される必要がある。」というふうに高木さんは指摘をしているわけでございます。これに対して、坂口厚生労働大臣が、英国の精神医学の教科書に再犯予測は可能であるとあるというふうに答弁しておるけれども、「その教科書には、「(予測には)明確な誤りの可能性があり」、「(精神科医は)予測の能力に対して謙虚でなければならない」と書かれている。」と指摘をしております。また、「米国の代表的な教科書にも、「精神科医は信頼できる正確さをもって将来の暴力を予測できないことが、すべての研究で示されている」とある。」というふうに指摘をされております。
 この再び対象行為を行うおそれというのが要件として必要であるということについては、先ほど法務省から、自由の制約を課すわけであるから、治療の必要性、そしてまた同時に、その問題行動を起こすおそれという二重の観点で判断をする必要があるという指摘があったのだというふうに思います。それは、ある意味では非常に慎重に、こうした自由の制約を課す判断を下すときには臨まなければならないんだという意味で、私は理解できるものでございます。
 ただ、しかしながら、この問題行動を起こすおそれ、いろいろな表現があります。先ほどの大臣の御説明ですと、自傷他害のおそれ、また、再び対象行為を行うおそれ、これは基本的に同じ考え方であるという指摘があったわけでございますが、こうしたことが明確に予測できるかどうかというのは、予測でございますので、あくまで誤りの可能性があり得るんだということも同時に踏まえておかなければいけないんだと思います。ですから……(発言する者あり)御同意の発言がございますけれども、そういったことも要件として同時に加えるということは、慎重を期すという意味からは大切だけれども、ただ、そこのところの予測については、一〇〇%予測できるわけではないだろうという指摘については謙虚に受けとめなければいけないというふうに私は思うわけでございます。そしてまた、その誤りがあった場合に、適切に、事後的に対処される必要もあると思います。
 この点についての政府の見解をお聞きしたいと思います。
古田政府参考人 御指摘のとおり、これは、危険性の評価といいますか、リスクのアセスメントでございますので、常にアセスメントに従った結果が起きるというものではないこともまた事実でございます。したがいまして、それができるだけ合理的と申しますか、確実に行われるようにいろいろな仕組みをつくっていくことが必要である、それはそのとおりでございます。
 この法案におきましては、まず最初の処遇の要否の決定の段階で、先ほど申し上げましたような十分な医療的観察が可能となるような仕組み、あるいはさまざまな観点からの資料、これが十分集まるというふうな仕組みを整えまして、要するに判断の基礎資料、これについて十分なものをまず用意する。さらに、対象者側からもいろいろな意見、あるいは資料の提出、場合によっては証人尋問の申し出みたいなものも含むわけでございますけれども、要するに、裁判所の判断に当たって一方的な資料に偏らないようにするということもあわせて配慮しているわけでございます。
 その判断がおかしいということになった場合には、これは上級の裁判所に不服を申し立て再審査を受けることができるというふうな仕組みにして慎重に考えておりますほか、その後、一たん処遇に関する決定が出た後も、入院の継続が必要な場合には六カ月ごとにさらに裁判所の確認を受けなければならない。あるいは、入院の必要といいますか、そういうおそれがあると認めることができないような状態になったときには直ちに退院の申し立てをしなければいけない。さらには、対象者の側からもやはり退院の申し立てができるということにいたしまして、それらの判断につきまして問題があるときには、やはり上級の裁判所の再審査を受けることができる。
 そういうふうなさまざまな状況、その人の状態に的確に応じた処遇が常々確保されるような仕組みを最大限考慮しているということでございます。
福島委員 次に、また高木さんはこのような指摘をしております。英国の病院収容命令には再犯予測要件はない、この法案よりもかなり厳格であるけれども、こうした要件はないというふうに指摘をしておるわけです。ですから、今回のこの法案の構成を考えるに当たって、必ずしも再び対象行為を行うおそれというものを要件とせずに組み立てることもできたのではないかという指摘だと思うんですが、この点については政府としてはどのようにお考えでしょうか。
古田政府参考人 イギリスの制度につきましては、入院命令、あるいは責任無能力になった場合に裁判所が義務的に入院を命ずる、そういう仕組みになっているわけでございますけれども、確かに、そのところだけとらえますと、いわゆる再犯のおそれとか、そういうふうなものは要件にはされていないわけでございます。
 ただ、一つ御理解いただきたいのは、その場合に、裁判所の方で、再び犯行を繰り返すおそれがあるということを認めたときには退院制限命令をかけるようになっております。退院制限命令がかかりますと、この患者の退院は医師あるいは病院の判断ではできなくなる。したがいまして、そういう危険のある場合については、いわゆる再犯のおそれ、これを裁判所で判断してそういう措置をとるという仕組みになっているわけでございます。
 一律に入院させるという仕組み、これももちろん全く考えられないわけではないわけですけれども、やはり特に強度の人身の自由の制約あるいは干渉が伴い得る可能性があるということからいたしますと、制度の立て方としては、イギリスで申しますれば退院制限命令がかけられるような、そういう方についてのみこの制度の対象にすることが適当である、そういう判断でございます。
 なお、イギリスの手続の方がより厳格というようなお話もございましたけれども、これはちょっとどういう意味でおっしゃっているのかよくわからないんですが、少なくとも処遇決定の手続というところについて申し上げます限り、ただいま御提案申し上げております政府案も非常に厳格な仕組み、慎重な仕組みになっているということは御理解いただきたいと存じます。
福島委員 入り口の問題か出口の問題か、どちらにしても、入り口のところでない場合には、イギリスであったとしても出口のところで、いわゆる退院のところで、再犯のおそれという要件をもって人身の自由の制約というものについて対処しているというのは、そういう意味では共通だという御認識を示されたのだというふうに思います。
 そしてまた、最後に高木さんはこういうことを言っております。「改革のポイントは、精神医療が引き受ける範囲を明確にして責任能力判断の厳正さを確保し、その上で限定的な責任能力者への矯正施設での医療を充実させること」であるというふうに言っております。今回のこの法案に盛り込まれている中身というのは、実はこの改革のポイントということと共通しているんだろうと私自身は思っておるわけでございますけれども、政府の御見解をお聞きしたいと思います。
古田政府参考人 責任能力に関する判断の厳密性ということが非常に大きなポイントということであろうと思うわけですが、日本におきます責任能力の判定というのが、では、例えばほかのドイツとかそういうところに比べてルーズかというと、かなり厳格な方であろうと考えております。
 それでまた、検察庁におきますいわゆる簡易鑑定の問題というのがあるいは一つのポイントになるのかもしれませんが、これまた御理解をいただきたいのは、検察官は刑事事件としてどう処理をするかということを考えるわけでございます。そうなりますと、事件自体が比較的軽いもの、被害者が処罰を望んでいない、特に精神障害による犯罪は家庭内の犯罪もかなり多いわけでございまして、被害者である家族も刑事事件とはしてもらいたくないというふうな気持ちを持っておられることもしばしばあるわけでございます。また、精神障害のある人にとってみましても、仮に責任能力があるといたしましても、やはり治療を先にした方がいい、治療を優先した方がいい、その方が目的を達するというような場合もしばしばあるわけでございます。
 したがいまして、検察官といたしましては、刑事事件として処理をする場合に、そういうふうな事案の内容、犯罪の軽重、そういうことを総合的に判断して処理をしているわけでございまして、もちろん心神喪失と判断される場合は別ですけれども、それ以外の場合に責任能力の問題がそう大きなウエートを必ずしも占めているわけではない、そういう実情ということを御理解いただきたいと思います。
 ちょっと長くなって恐縮ではございますけれども、例えば、事案が比較的軽くて、そういう精神障害等がない人であれば、示談ができれば起訴猶予あるいは罰金、あるいはごく短期の自由刑で執行猶予がつく、こういうふうなケースというのも非常に多いわけでございまして、こういうようなものについて、逆に、普通であれば罰金になるあるいは起訴猶予になるというような場合に、精神障害があるけれども責任能力が認められるという理由でそれを必ず起訴しなければならないとか、そういうことにいたしますと、これはかえって精神障害のある方に非常な不利益を与えることになるわけで、やはりその事案に応じた、刑事責任の面から見た処理というのは、これはぜひ必要でございます。
 したがいまして、高木医師のおっしゃっていることも、結局、刑事事件全体として見たときに、やはり処罰すべきものは処罰すべきである、そういうような観点からの御指摘としては理解できますが、責任能力だけの問題ではないということを御理解いただければと存じます。
 さらにつけ加えますと、先ほど申し上げましたように、罰金になる、あるいは短期の自由刑で執行猶予になる、こういう場合に精神の障害がある場合には、これはまたいずれにせよ精神医療の方で対応していただかなければならない問題でございまして、罰金を取ったからそれで済むとか、あるいは短期の執行猶予つきの自由刑になったからそれで済むという問題でもないということでもあることを御理解いただきたいと思います。
福島委員 以上で、時間が終わりましたので質問を終わります。ありがとうございました。
園田委員長 五島正規君。
五島委員 まず、両大臣にお伺いしたいわけでございますが、かつて、保安処分と言われているもの、昭和四十九年の治療処分の案、あるいは昭和五十六年にも保安処分の骨子等々が検討されたことがございました。この場合、保安処分という言葉ですが、精神病者に対する社会的差別を助長し、その世論を背景に、医学的、科学的根拠をあいまいにしたまま、人々の不安をあおり、社会防衛の名のもとに患者を選別し、管理し、隔離するその体制を保安処分ということで呼ばれてきたというふうに私は理解しております。過去にもこのような形の保安処分、決して精神障害者に対してだけでなく、とりわけ感染症の患者に対してはこのような形でなされてまいりました。
 今私が述べたこの文章は、昭和二十五年、ハンセン氏病の患者に対する日本の取り扱いについてWHOが出した勧告の内容でございます。既に、ハンセン氏病はもとより、例えばこのような形でさまざまな感染症の患者を扱ってきたということも、保安処分が日本の公衆衛生活動の中に非常に色濃くあったということの証左であると思っています。
 まずは、この保安処分ということについて両大臣はどのようにお考えなのか、その定義を含めてお聞かせいただきたいと思います。
森山国務大臣 心神喪失等の状態で重大な他害行為が行われる事案につきましては、被害者に深刻な被害が生ずるだけではなくて、精神障害を有する者がその病状のために加害者となるという点でも極めて不幸な事態でございます。このような者について必要な医療を確保し、不幸な事態を繰り返さないようにするということによりまして社会復帰を図ることが肝要であるということを考えるわけでございます。
 昭和四十九年の改正刑法草案及び昭和五十六年の刑事局案におきます保安処分制度におきましても、その者の危険性から社会を防衛するために行われるいわゆる予防拘禁とは異なるものでありましたが、刑法に規定するということにしていたことから、社会防衛をもその目的の一部としていたものでございました。
 しかし、この制度による処遇は、対象者に対して継続的に適切な医療を行うこと等によりまして、その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、その社会復帰を促進することを目的とするものでございまして、社会防衛をその直接の目的とするものではなく、社会防衛のために社会から隔離するという制度ではございません。
坂口国務大臣 法務大臣と同趣旨でございますが、別の角度から申し上げさせていただきますと、本法律案におきましては、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対しまして、その適切な処遇を決定するための手続などを定めることにより、継続的かつ適切な医療とその確保のために必要な観察、指導を行うことになっております。その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図りまして、もってその社会復帰を促進する、このことを目的としているわけでございます。
 したがいまして、本制度は、刑法に規定することとしていたために社会防衛もその目的の一つとしていた昭和四十九年の改正刑法草案でありますとか昭和五十六年の刑事局案における保安処分制度とは目的において全く異なるものと考えております。
五島委員 保安処分そのものの位置づけについて、刑法との関連でしかお考えでないようですが、実は、日本の公衆衛生活動、行政の中においては保安処分が中心であったと言っても過言でない時期がございました。
 例えば、新生間もない明治政府のもとにおいて、千葉県におけるコレラ騒動、軍隊が包囲して出入りを禁止し、焼き殺したという事例もございます。また、ハンセン氏病の問題につきましても、現実には日本においてほぼ解決してきつつある中において、昭和十三年、血の純潔運動というものが一生命保険会社から提唱されるや否や、政府もそれに悪乗りをしてあのような制度をつくってきた。あるいは、国民に対する医学的、科学的な根拠をあいまいにしたまま、疾病に対する不安をあおり立て、それによって社会防衛を進めていくという政策がとられてきたことも少なくございません。そうした体制全体が保安処分であると考えています。
 そこで、今回の法案が用意された背景は、池田小学校事件が直接の契機になったと考えています。池田小学校事件の被告人は精神病患者ではなく人格障害者とみなされており、心神喪失状態ではなかったことが明らかとなっています。また、この被告人は、かつて人格障害であるということによって犯罪に対して懲役刑の罰則を受けた経験がございます。この人格障害と言われている被告人が起こした事件、そのことを理由として今回の法案が作成されてくる土壌がつくられてきているということに対しては、非常に問題があると考えています。
 確かに、精神保健福祉法では、精神障害者を定義して、その中に、非常にあいまいで古い概念でございますが、精神病質者、精神病質というものが入っています。しかしながら、この精神病質ということをどうするかということについては、引き続き検討することとされておりますし、また、これに対して、今日の学問的な分類でいうならば、人格障害と言いかえるべきだ。しかし、人格障害という言葉に言いかえるならば、いわゆる触法ケースの処遇をどうするかということが宙に浮いてくる。矯正施設にも病院にも収容されないことがある。そうしたことについてどうするかの対応ができていないから、このように精神障害者の中に入れた。あるいは審議会の議論の中において、そうした人格障害の人たち、これを犯罪精神医学ということで言うのはいいけれども、こういうような人たちはとても医療の対象として対応できないじゃないかということがこの公衆衛生審議会の中でも議論されている。しかし、法律の中においては、精神障害者の中に精神病質が入っています。したがって、池田小学校事件の被告人が精神障害手帳の交付を受けていたということは精神病患者であったということを意味しません。
 そこで、厚生労働大臣にお伺いしたいわけですが、人格障害による心神喪失あるいは心神耗弱状態ということがあり得ると考えているのかどうか。また、とりわけこの被告人のような反社会的人格障害に対する医学的な治療方法というものが、日本においても世界においても確立しているのかどうか。あるいは、精神分裂病あるいは躁うつ病といった精神病と人格障害との鑑別、これが非常に困難なものだと考えておられるかどうか。その点についてお伺いしたいと思います。
高原政府参考人 本制度におきます対象者の要件につきましては、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行ったことでございます。入院または通院の要件は、対象者について、裁判所において、継続的な医療を行わなければ心神喪失等の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると判断されることであります。
 したがいまして、人格障害のみを有する者につきましては、我が国では一般的に完全な責任能力を有すると解されております。心神喪失者等とは認められていないため、御指摘のとおり、本制度の対象とはならないものと考えております。
 反社会性人格障害の治療についてのお尋ねがございましたが、この治療は精神療法が中心となりますが、この障害を持つ者は治療意欲が乏しいことが多く、その治療は極めて困難な場合が多いというのは委員御指摘のとおりでございます。
 また、人格障害の中には、妄想性人格障害ないし分裂病質人格障害など、精神病と鑑別が著しく困難な例もあるのもまた事実であります。
 しかし、精神保健福祉法の第五条において、「「精神障害者」とは、精神分裂病、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者」と規定されており、委員御指摘のとおり、精神病質、すなわち人格障害も精神医療の対象としているものであります。
 このように、反社会性人格障害も含め犯罪を行っていない人格障害者の治療については、その困難さはあるものの、一般の精神医療の中で対処がなされているところであると承知しております。
 それとともに、心神喪失者または心神耗弱者ではない者については、今後とも事案に応じて適切に処罰するなどの方法により、その改善更生、社会復帰が図られるものと考えております。
五島委員 今部長が言われたように、確かに分裂病型、妄想型、そうした人格障害については、しばしば合併していることもございますし、一定の治療効果もあると考えられますし、また、鑑別について一定の困難さを伴うことについてはそのとおりだと思います。
 ただ、こうした今回の事件のような、いわゆる反社会性人格障害あるいは非社会性人格障害と言われている方々、この人々と精神病との鑑別は、あえておっしゃらなかったけれども、簡単であるはずです。そして、今部長が言われたように、人格障害の人の起こした犯罪、これは医療措置ではないんだ、そのとおりだと思います。
 にもかかわらず、この法案を出してきた根拠の中には、そうした科学的な知見や治療方法、そういうものを無視して、あのような残虐な事件が起こった、この犯罪は精神病患者が起こしたに違いない、そういう誤ったデマゴギーが一斉にはんらんし、その結果こうした法案ができたんじゃないですか。
 そこのところを、なぜこういうばかげたことが起こってきているのか、それについて、法務省や厚生労働省がどのようにこの世論の誤りを正そうと努力されたのか、後ほどお答えいただきたいと思います。
 そして、あわせて、こうした全く誤った判断がマスコミを通じて社会全体に流れ、精神障害者から起こるところのそうした凶悪犯罪があり得るんだ、そういう恐怖心からの社会防衛論をあおりかねないようなこのような法律をなぜ今日出されるのか。このような議論をされるんなら、もう一度検討を続けると言っておられた精神保健福祉法の中で、古い概念の精神病質というこの概念、これを早急に結論を得られる努力をされるべきではないですか。それはどうお考えですか、お伺いします。
古田政府参考人 いわゆる池田小事件との関係についてのお尋ねでございますが、法務省といたしましては、その当時から、池田小学校の事件を精神障害による犯罪の問題と結びつけて議論することは慎重でなければならない、当初からそういうことを常々述べていたわけでございまして、これは、もちろん政府部内もそうですし、対マスコミとの関係でも同様でございます。したがいまして、私どもとしては、短絡的にそういうものと結びつけたとか、そういうものではございません。
 ただ、それはそれといたしまして、それをきっかけといたしましていろいろな議論が非常に活発になったということも事実でございます。それで、その前から、厚生労働省との間で精神障害による犯罪の問題をめぐって合同検討会を持つなどいろいろな作業をしてきたわけでございまして、そういうような作業の継続としてこの法案というのをまとめたわけでございます。
    〔園田委員長退席、森委員長着席〕
五島委員 法務省は池田小学校事件について精神障害者による問題と結びつけることに対して慎重であったとおっしゃいました。
 しかし、現実にこの法案を一気につくろうよという話が盛り上がったのは、まさに我が国の総理である小泉さんが、この区別のつかないままにおっしゃったことが発端じゃなかったですか。そういう意味においては、今の説明は、法務省内部においてそうであったけれどもと言いながら、総理自身が全くその辺の区別もつかず、無知であって、そのことによっての放言がこういう法律に結びついたという事実を変えるものではないというふうに考えています。
 また同時に、この池田小学校事件の被告人が、過去において人格障害として懲役刑を受けておりながら、本人が、精神障害者であれば罰則を受けないよというふうに再三にわたって発言をし、そのようなおどし方をしてきたということも報じられております。そのことの中には、過去におけるいわゆる刑罰に処せられない段階におけるそうした犯罪行為、精神障害を持っているということでもって処理されてきた、処罰されずに済ませてきたという事実があったのではなかろうかというふうに思います。
 その辺はどのような経過で本人がこのようなことを方々で発言するに至るような経過が生まれてきたのか、お伺いしたいと思います。
古田政府参考人 この池田小事件の被告人につきましては、これまで刑事裁判を受けたケースで心神喪失あるいは耗弱というふうに認定されたものはございません。
 ただ、検察官の捜査の結果、冒頭陳述ということでいろいろな経緯について明らかにしてございますが、それによりますと、この被告人につきましては、かつて強姦事件で懲役三年の実刑判決を受けたことがございましたが、その際に、逮捕を免れるために精神病院に入ったというふうなことがあるようでございます。しかし、実際問題としては特に責任能力に問題があるということではなくて、実刑判決を受けているわけでございます。
 そういうふうになるに至った過程は、必ずしも詳細にはわからないところがあるわけですが、かなり若いうちから病院等に行っているということもございまして、精神病、精神障害ということを言えばそのようなことがあり得るかもしれないというのは、ただいま申し上げました強姦事件で精神病院に入った、思わぬ逮捕を免れる目的で精神病院に入ったというころからもう既にあらわれているようにうかがえます。
 その後、幾つか比較的軽微な事件で起訴されたものもございますし、不起訴になっているものもございますけれども、不起訴になっている事件につきましても、当方で承知しております限り、責任能力はないという理由で不起訴にされたものはない、むしろその犯罪が軽いとかそういうことが大きな理由になっているものでございます。
 したがいまして、一般的に申し上げて、検察庁のその処理と申しますのが、事件の内容との関連で見たときに、精神障害ということを中心にしているとは必ずしも言えないわけでございまして、本人がそういうふうなことを考えるに至ったとすれば、それはただいま申し上げましたような相当前からのそういう本人の思い込みというのが非常に強かったのではないかというふうに考えられるわけでございます。
五島委員 次に、病によって心神喪失状態あるいは耗弱状態にある人、その患者さんに対しては治療によって対処していく、そして、万一そういう方がいわゆる犯罪的行為に相当する事件があったとしても、それは治療によって対応していくというのは当たり前であり、一方、心神喪失ないしは耗弱状態にない者についてはそれを刑罰で対応するというのは当然だろうと思うわけです。
 そこで、問題になってくるわけでございますが、先ほどからも繰り返しておりますように、また、これは日本だけではなく、世界的にもいわゆる人格障害によるさまざまな行為というものはふえてきています。そして、我が国では、精神保健法の中において、精神病質という非常に古い言葉でありますが、人格障害を精神障害者の中に取り込んでいます。
 しかし、これは福祉法ですから、それを取り込んでいるということについては別個な考え方があってもいいかと思いますが、人格障害を持っている方々に対して本当にこの精神保健福祉法の中に置いておいていいのかどうか。法案ができたときから検討するとおっしゃってきた。その検討の状態はどうなっているか。
 これは治療の対象でないというふうに、先ほども、いわゆる妄想型、分裂症型以外はと部長もおっしゃった。しかし、そこのところを人格障害という言葉と明確に分けて対応していかないと、今回のように病で苦しんでいる人に対する世間の、社会的防衛、根拠のない差別感をあおるということが起こってくるんじゃないか。それについて厚生労働大臣はどのようにお考えか、お伺いしたいと思います。
高原政府参考人 精神病質というような表現と人格障害という表現とは違いますが、人格障害とは、思考、感情、人と接する態度などが平均な人々より極端に乖離して固定しておりまして、このため、みずからが悩んだり周囲の人々が悩まされたりするものであって、国際疾病分類、いわゆるICD10でございますが、第五章、精神及び行動の障害として含まれておるわけでございます。
 また、人格障害が精神障害者の定義に含まれているということによりまして、人格障害者がすべて精神医療ないし福祉の対象になるという誤解を受け、精神医療が混乱するという御意見もございます。しかし、精神保健福祉法第五条の精神障害者の定義は、精神保健福祉法で申します精神障害者の外延、一番広くとった場合の外堀でございますが、それを示すものでありまして、個々の制度や条文の対象となる精神障害者の範囲はその全部または一部であります。
 このため、人格障害を有する者が各制度や条文の対象となり得るか否かはその者の病状や障害の程度により個別に具体的に判断されるべきものであり、人格障害者がすべて精神医療の対象になるという誤解のため精神医療が混乱するためこれを外すということは必ずしも適当ではないのではないかと現在のところ考えております。
五島委員 状態分類の中において、それを病態分類と言ってもいいのですが、国際分類の中に入っているということと、治療の対象になり得るかどうか、これはまさに刑法との関係においては非常に難しい、非常に大事なところです。反社会的あるいは非社会的人格障害者が起こした行為、これは明らかに、法務省もおっしゃっているように、これは心神喪失状態や耗弱状態じゃないわけですから、刑法で処理するのは当たり前です。
 しかし、現実において、この二つの区分が非常にあいまいに社会的に使われてしまった。往々にしてこの両者の間における犯罪行為も一まとめにまとめられて、精神障害者の累犯率がどうだという議論すらされている現状がございます。
 そうしたことを考えた場合に、ここのところをやはりきちっと分けていかざるを得ない。少なくとも人格障害を治療的施設において対応するということにはならないだろう。では、この人たちは刑法の世界で処理しますと。当たり前でしょう。
 刑法の世界で処理するときに、いわゆる再犯の予測をした上で刑罰を決めていくんですか。なぜ、最も重要なそういう部分をあいまいにしたまま、精神障害者が犯罪行為を、いわゆる自傷他害の行為をするかもしれないという予測がここの中へ入ってこなければいけないのか、それについてはどうお考えでしょうか。
古田政府参考人 御理解いただきたいのは、刑罰は、ある違法行為をしたその責任に対する非難ということでございまして、再犯のおそれとかそういうものを根拠にして科すというものではございません。要するに非難として科すということでございます。そういう意味で、刑罰は、ただいま御指摘のような、再犯のおそれを中心にして構成されているものではない。
 人格障害とかそういう問題、それは刑の執行の過程でのさまざまな働きかけとか、そういうことは当然考える必要はございますけれども、そのことによって刑罰を科すとか、そういうことではないということを御理解いただきたいと存じます。
五島委員 まさに局長言われたとおりでしょう。そうであるならば、病によって、幻聴幻覚等によって、不幸にして傷害事件あるいは自傷事件を起こした患者さん、この方に対しては一〇〇%医療の充実によってそれをいやしていく、そういう状態を変えていく。そこには裁判所や何かが介入する必要はないとすら私は思っています。
 まず、そうした前提のもとで現行の状態を見てみますと、法務省の方は盛んに、人格障害と精神障害との分離がきちっとできているんだというふうなお話でございます。しかし、現実の簡易鑑定を含む例えば起訴前鑑定、この精神鑑定は本当に一貫しているのか。全国的にきちっと統一した基準でされているのか。
 これは衆議院の調査局の調査室の資料で見ましても、今年の二月の毎日新聞の記事が載っております。大阪や神戸では鑑定医一人で百名以上の鑑定をやっている。できるはずのないことをやらせているじゃないですか。そんなことをやっていて、本当に統一的な基準のもとで、今言われたようなそういう鑑定ができているんですか。したがって、起訴、不起訴率についても各地検において随分ばらつきがある。ここでも書かれている。
 局長言われたように、この二つの人たち、不幸にして病を持って、その結果自傷他害事件を起こしてしまった患者さん、また、いわゆる人格障害として起こしてしまった犯罪者、この二つを精神障害ということで鑑別していこうとするならば、このところにきちっとした、全国統一したクライテリアをつくり、その上で必要な鑑定人を一定の水準のもとで確保していく。民主党案にはその点はきちっと書かせていただいているわけでございますが、それは当たり前ではないか、今一番必要なことはそういうことではないのか、そのように思うわけですが、法務大臣、いかがですか。
古田政府参考人 事実関係的なことを申し上げますと、簡易鑑定、いろいろな御批判も確かにあるわけではございますけれども、全国的に見た場合、その起訴率は、それぞれの地検によってそう極端にばらついているというような実情はないと考えております。おおむね〇・二%台を中心に分布している。
 もちろん、中には一部、起訴率といいますか不起訴率といいますか、それがそれよりやや高い部分もございますが、これはさまざまな地域の、あるいは何らかの特殊原因が作用している可能性はあるのではないか。これについて、ただ断定的なことは申し上げられません。
 いずれにいたしましても、簡易鑑定と申しますのは、ある意味では機能が実は三つございます。一つは、責任能力についてのある程度の目安をつけていただく。事案によっては、それはかなり明白な場合も多いわけでございます。それから、いわゆる鑑定留置をつけた、ある程度の長期の鑑定が必要かどうかという判断をしていただく。それからもう一つは、仮に事件の内容からして不起訴にするような場合に、二十五条通報等の医療的措置、そことのつなぎをとるべきかどうかというふうな御意見を伺う。大きく分けると、そういう三つの機能があるわけでございます。
 その中で、実際の検察庁におきましては、その地方での信頼の置ける精神科のお医者さんにそういう仕事をお願いしているということでございまして、その御意見を十分参考にしながら、なお検察官として刑事事件の処分のあり方としてどうあるべきかということを十分考えて処理をしているというのが実情でございます。
 人格障害みたいなケースにつきましては、これは先ほど厚生御当局の方からも御答弁がありましたけれども、そのことのみによって心神喪失あるいは耗弱と認定されている例というのは、これは現実問題としても一般にない。したがいまして、そういう意味で、仮に人格障害という判断が出た場合に、責任能力についての判断がばらついているというふうなことはないものと考えております。
五島委員 全国でそれほど差がないとおっしゃいますけれども、これを見ますと、例えば大阪では一年間に、二〇〇〇年の状態ですが、簡易鑑定を受けた人を、二人の医者で二百五十七名やっている。神戸では一人の鑑定医が百六名の簡易鑑定を行っているという数字がありますし、一方、それが精神鑑定に回っていく比率を見てみますと、例えば東北地方、秋田とか山形あるいは福島とかというところでは、簡易鑑定を受けた人のほとんどが精神病として鑑定されているということで、非常にばらつきがあるのはこの数字を見ても事実ですよ。違うと言うんなら、これ、調査室の方に抗議しておいてください。
 これだけのばらつき、一人の医者が一名足らずの簡易鑑定をしている地検から百名を超えている地検までが一緒にあって、それで共通した結論が得られるはずがない。
 まして、私は、今回の池田小事件の被告人の状態を自分なりに考えますと、反社会的人格障害の患者さんというのは知的障害があるわけではありません。何回もでなくても、一回か二回こんなものを受けたことがある人であれば、簡易鑑定でどういうふうな答え方をすれば起訴が免除されるよねということは、私は簡単になれてしまうだろうと思います。
 そんないいかげんなことで、本当に最も大事な病者が病気ゆえにそういう事件を起こしたということとそうでない人との間で区別がつけられるのか。これがつけられないということであれば、大変な問題です。医学的にはつけられる、しかし、法務省の、あるいは裁判の執行過程の中においてつけられないということであれば、そちらの方を変えてもらわなければしようがない。そこのところについては、もう一度答弁をお願いしたいと思います。
古田政府参考人 ただいまのお尋ねにお答えする前に、先ほど、全国の処理でそう一般的には大きなばらつきはないと申し上げましたのは、要するに、検察庁で受理した刑法犯、交通事故を除いたものでございますが、その中で精神障害者と診断されてかつ不起訴になった人、この割合がそう一般的には大きなばらつきはないということを申し上げたものでございます。
 それから、ただいまのお尋ね、趣旨を必ずしも正確にあるいは理解していないかもしれませんけれども、いずれにいたしましても、先ほど申し上げましたように、捜査、公判段階におきまして人格障害というものがあるという認定が精神医療的な判断であった、そういうふうな者につきまして、それを前提に責任能力が否定される、あるいは減弱されるということは一般的にあり得ないことでございます。
 したがいまして、裁判あるいは捜査の段階でそういう点については十分区別はされている。それは、ただいま委員御指摘の、一人の医師の方にお願いしているか、あるいは多数の医師の方に順番にお願いしているかということとは必ずしもかかわりがないものでございます。
 そういうことで、もちろん、簡易鑑定をお願いするに当たりまして信頼の置ける医師の方をそれなりに必要な数お願いするようにするというのは当然でございますけれども、それぞれの地域の状況等によりましてそこにある程度のばらつきというのが出てくるというのもまた事実でございます。
 そういうことからいたしまして、全国的な統一というふうなお話もございましたけれども、これはやはり精神科のお医者さんの専門的判断、専門的知見ということが大変重要なことでございますので、私どもの方からそういうことは、言ってみれば、そうできることでもないということも御理解いただきたいと存じますし、また、その場で判断がつかないときには、その場では判断がつかないというふうなことを率直に言っていただいているというふうに考えております。
五島委員 非常に現状でうまくいっているんだと言いたいんでしょうが、では、現状でうまくいっているんなら、なぜ神戸事件のようなことが起こった場合あのような対応になったのか。
 先ほどのお話の蒸し返しになりますが、現実にあの池田小学校事件の報道があった後、六月の二十八日ですか、法務委員会で水島委員の質問に高原部長が答えておられますが、事実、地域の中において、精神障害者の方々の作業所やそういうふうなものの周辺地域との関係が非常に険悪な状態になった。
 本来なら起こるはずのないことが起こっているわけです。起こっていることは、結局、これまで法務省はちゃんとやってきました、そして厚生労働省の方もそこのところは制してきました、制してきましたと言いながら、反社会的人格障害の人たちの行動がそのまま精神障害者が起こした行動であるかのように伝えられ、そしてそれに政府が悪乗りをして保安処分的な法案をちらつかす、その繰り返しの中で、そういうすり込みを国民の中にやっているんやないですか。
 その辺のところを考えた場合に、今の局長のお話、一人で百名もの、いかに簡易鑑定といえどもできるはずのないことを押しつけている。どうも、できるはずのないことを押しつけるのがお好きなようでございます。
 例えば、医者に対して病状の変化や症状の改善について判断を求めることは当然です。また、その患者の疾病の再発防止に必要な方法についてその意見を求める、それは当然だし、医師はそれに答える義務がある。また、治療中断による症状の再発について一定の予測を述べる、これも当然医者の義務だと思います。
 しかし、万一症状が再発した場合に自傷他害の行為をその患者さんが下すかどうか、そんなことの予測はできるはずがない。だれだって、前回そういうことがあったんだから状況によっては起こすかもわかりませんねという答えしかできないでしょう。それは、医学的根拠じゃなくて経験則です。これを医師の判断として求めることには無理があるんじゃないですか。
 病によって他害行為を起こした患者さんがある、幻聴幻覚によってそういうふうな行為を起こすということがあり得るのは事実です。事実、起こっています。その患者さんを、治療によってその症状が改善された場合、それが再発されないためにはどういうふうな措置が必要なんですか、これが医師に求められている判断じゃないですか。その患者はまた起こすでしょうか、放置しておいた場合再発する可能性があれば、医者としては、再発すれば今回起こしたんだから起こす可能性があるとしか答えようがない。しかし、再発させない方法はあるのかどうか、それは意見として求められない。こんなばかな医師に対する意見の求め方がこの法律ではあるわけですね。厚生大臣、こんなあほなこと、本当に医師の判断と言えると思いますか。
坂口国務大臣 措置入院のときにも、これは自傷他害、いわゆる他害だけではございませんけれども、そのおそれがあるかどうかの判断というのは現在も求められているわけでございます。
 現在の精神医学によりますと、精神科医がその者の精神障害の類型でありますとかあるいは過去の病歴、現在及び対象行為を行った当時の病状、治療状況、病状及び治療状況から予測される将来の症状、対象行為の内容、過去の他害行為の有無及びその内容等を勘案しまして慎重に鑑定を行うことにより、再び対象行為を行うおそれの有無を予測することは可能であるというふうに思っている次第でございます。
五島委員 どうも話がかみ合いません。
 今回問題になっているのは、他害行為を起こした患者さんが対象になります。その患者さんが一定の治療が済んだ段階で、引き続き医学的コントロールのもとに置かれていてもそれを起こすというふうにおっしゃっているのか、医学的コントロールから離れてしまった場合にそういうことを起こす可能性を求めておられるのか。全然違うわけですね。ところが、現在の日本の精神医療の体制は、全くその体制ができていないんです。
 もし、病に侵された患者さんに対して、措置を含む病院の入院医療が、本当に他の疾病と少なくとも肩が並べられる並みの治療体制がとれる体制をつくっていく、そして、退院された後も、医学、あるいは臨床心理士等々による患者に対する生活指導並びに投薬を含む医療指導が継続していける体制ができ上がっていった場合、その判断は変わってまいります。万一、日本でそうした精神医療についてまともな医療体制が整備され、入院医療についても、当然措置入院についても、あるいはそういう通院といいますか、入院後の患者さんのフォローアップ体制についても制度が整備された場合、この法案がまだそれでも必要だとお考えなのかどうか、両大臣にお伺いしたいと思います。
森山国務大臣 御指摘のように、精神保健・医療・福祉対策一般の充実を図るということは大変重要でございまして、当然のことでございますが、この法律案に基づく制度をより効果的に運用する上でも、そのような対策の充実はさらに必要であると考えております。しかし、この点につきましては、この法律案と別に、厚生労働省におきまして総合計画の策定を進めていられるというふうに承知しております。
 しかし、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につきましては、都道府県知事の判断にゆだねることなく、特に国の責任におきまして手厚い専門的な医療を統一的に行う必要があると考えておりまして、措置入院制度とは異なり、裁判官と医師が共同して入院治療の要否や退院の可否等を判断する仕組みや、退院後の継続的な医療を確保するための仕組み等を整備することが必要であると考えられますことから、このような者に対する新たな処遇制度の整備が必要不可欠なものと考えまして、このたびこの法律案を提出させていただいたものでございます。
坂口国務大臣 措置入院の改善でありますとか、あるいは退院後の継続した治療の確保を図りますことは、これは重要な視点でございます。今後、精神障害者全般の保健・医療・福祉対策の充実を進めていく中で検討すべきものと考えております。
 しかし、本制度では、これは広く精神障害者一般をその対象とするものではなくて、心神喪失等の状況で重大な他害行為を行った者のみを対象としている、人身の自由の制約や干渉を伴うこと等から、医師と裁判官により構成される裁判所の合議体が決定する仕組みを整備した上で、国が責任を持って専門的な医療を統一的に行いますとともに、退院後の医療の中断が起こらないように、継続的な医療を確保するための保護観察所によりますところの観察、指導の制度を整備することといたしております。
 先ほど先生が御指摘になりましたように、十分な治療が行われていてもなおかつ必要かというお話ございましたけれども、これはケース・バイ・ケース、違うと思うわけでございますが、心神喪失者が重大な犯罪を起こしましたときに、その方が治療を継続していたことも想定されるわけでございます。治療を継続されていた上、なおかつそういうことが起こることがもしあるとするならば、それはやはり、さらに治療を行う中で、どうするかということが判断されるものと思っております。
五島委員 時間が参りましたが、それは、適切な治療をやるということは医療界に課せられた最大の任務であるということであって、大臣のおっしゃっていることは矛盾しないと思います。
 また、今回の問題が、人格障害者が非常にふえてきている、その人によって起こされた池田小事件を契機としてこのような問題が出てきておりながら、非常に増加している人格障害と言われている人たちに対して、その要望なり対処策を全く考えないまま、ピント外れの法律を議論しているということを申し上げて、終わります。
森委員長 次に、山井和則君。
山井委員 よろしくお願いします。民主党の山井和則です。
 先ほどの公明党の福島議員の、読売新聞の高木俊介医師の「論点」の質問に対しても、その答弁も聞いておりましたが、やはりこういう批判に対して十分な責任を果たしていないと思います。福島議員も納得しておられないようでした。与党の議員でさえ納得し切れない。
 また、気のせいかもしれませんが、私、坂口大臣と今までからずっと厚生労働委員会で審議をさせてもらっておりますが、きょうは、委員会で大臣の顔を見ていると、審議が進むにつれて顔が曇っていく。恐らく心の中で、これは確かにちょっと危ないな、この法案通して大丈夫かなというふうな心の動きが出てきているんじゃないかなというふうに思います。
 そこで、きょうは十ページの資料を用意させていただきました。ぜひとも、この法案に賛成しておられる特に与党の議員の皆さん、この資料を見ながら、一緒にこの法案について考えていきたいと思っております。
 本日は、局長さんや部長さんには答弁をお願いしておりませんで、森山大臣と坂口大臣にお願いしたいと思います。特に坂口大臣が多いと思いますので、五十分間、どうかよろしくお願いいたします。
 きょうの質問に際して、私、過去八時間の審議の、傍聴もさせてもらいましたし、改めてビデオを見ました。そのとき答弁を聞いてわからなくても、後で議事録を読むと、ああ、こういうことだったのかというのが理解できることが多いんですけれども、今回の答弁は、多くの場合において、議事録を読んでもさっぱりわからないという点が多いんですね。
 やはり、そういうわからない法案をわからないまま賛成しろというのはそもそもむちゃなことでありまして、きょうも議論になっておりますように、そもそも、どのような人が再犯のおそれ、同じ対象行為を行うというふうに判定されて、また、その判定は可能なのか、また、入院は何年ぐらいになるのか、また、具体的な、重大な他害行為とはどのようなものなのか、そういうふうな基本的なところがまだまだわからないわけであります。
 まず冒頭にお伺いしたいんですが、きょうの午前中の答弁で森山大臣、坂口大臣から、措置入院のときの判定と今回の判定は基本的には変わらない、そういう答弁があったかと思うんですが、それでしたら、今回も、同じ対象行為を起こすという文言ではなくて、他害のおそれというふうに文言を修正したらいいんではないかと思います。この点について、森山大臣、いかがでしょうか。
森山国務大臣 精神保健福祉法による措置入院の制度は精神障害者一般を対象としておりまして、この法律の制度の対象者につきましても、これまでこの法律による一般の精神医療の対象としてきたところでございます。しかし、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につきましては、都道府県知事の判断にゆだねることなく、特に国の責任において手厚い専門的な医療を統一的に行う必要があると考えられ、措置入院制度とは異なって、裁判官と医師が共同して入院治療の要否や退院の可否等を判断する仕組みや、退院後の継続的な医療を確保するための仕組み等を整備することが必要であると考えられますことから、このような者に対する新たな処遇制度の整備が必要不可欠なものと考えまして、今回、この法律案を提出させていただいたのでございます。
 なお、先ほども申し上げましたように、自傷他害のおそれの判断と再び対象行為を行うおそれの判断は、その判断の過程や方法等も同じでございまして、基本的な違いはないと考えますが、ただ、今述べたような新たな仕組み等を整備することが必要であると考えられることから、この制度を創設することにしたものでございます。
山井委員 今の答弁は制度創設の趣旨を述べておられるのであって、私が聞いたのは、同じ判定基準だったら、再び対象行為を行うという文言ではなくて、他害のおそれがあるという措置入院と同じ文言でいいのではないかということなんですが、いかがですか。これは一番本質的なところだと思います。
森山国務大臣 基本的な部分に違いはないというふうに申し上げました。
 ただし、自傷他害のおそれの判断における他害行為とは、殺人、放火等の重大な他害行為のみならず、窃盗等の比較的軽微なものも含むとされておりますことから、自傷他害のおそれは、再び対象行為を行うおそれに比べまして、より広範な行為を引き起こすおそれがある場合も認められるのではないかというふうに思います。
山井委員 そうしたら、先ほど答弁された、ほとんど対象は一緒だというような答弁とまた違ってくるわけですね。
 同じ質問をしたいと思います。
 この再び対象行為を行うという文言を他害のおそれということに変えていいんじゃないですか。坂口大臣はどう思われますか。
坂口国務大臣 考え方の基本的な点は同じだということを先ほど申し上げたわけでありますが、しかし、今回のこの法律の対象は、重大な犯罪を犯したいわゆる心神喪失または耗弱の人ということでありまして、対象が全く違うわけでありますから、そこを理解していただかないとこれはいけないというふうに思います。
山井委員 対象が違ったら要件が違ってくるわけではないですよね。別に、そういう重大な他害行為を起こした方でも、今度の法案に係る条件は他害のおそれとすればいいわけであって、もう一度説明していただけますか。対象が違うからということは理由にならないと思うんですね。
森山国務大臣 先ほど申し上げましたように、他害というのはいわば広いわけでございまして、対象行為を行うおそれというのはさらに絞った内容でございます。
山井委員 そうしたら、先ほどの答弁と違うんですね。同じような考え方だと言っておきながら、今は、もっと狭いというふうに答弁が変わったわけですね。
森山国務大臣 対象が多少違いますけれども、そのためのプロセスは同じだということを申したわけでございます。
山井委員 まさに、これは後の質問にかかわってくる非常に重要なことなんですけれども、やはり対象が違うわけですよね、この再び対象行為を行うということと他害のおそれと。違うんであれば、措置入院で自傷他害を予測しているから今回の法案でも予測できるということにはならないということを確認しておきたいと思います。
 次に、森山大臣にお伺いしますが、昨年の池田小学校事件の容疑者は、先ほどの五島議員の質問にもありましたが、池田小学校事件の以前に、お茶に睡眠薬を入れて三日間ぐらいの傷害事件を起こして起訴猶予になったということを聞いておりますが、この事件については今回の法案の対象となるんでしょうか。
森山国務大臣 今回の法案の内容につきましては、具体的には昨年の一月ごろから、特に法務省と厚生労働省で何らかの措置を新しく考えなければいけないということで協議が始まっていたわけでございまして、事件はたまたま六月に起こりました。そしてそれを一つのきっかけといたしまして、いろいろな社会の階層の皆さんから、またはマスコミももちろんですけれども、何らかの工夫が必要ではないかという声が上がってまいりまして、確かにこの事件がきっかけとなってこの法案の立案が促進されたという面はございますが、直接的に関係はございません。
 そして、仮にこの法案、法律が成立していたといたしましても、池田小学校事件の被告の場合には直接の該当はならないんではないかというふうに思います。
山井委員 質問をしましたのは池田小学校事件ではなくて、その前の、容疑者がそれ以前に起こされた、お茶に睡眠薬を入れて三日間の傷害ということで起訴猶予に以前なっておられるんですね、そのことについてお伺いしたので、答弁お願いします。そういうのが重大な他害行為というふうに入るのか。また、心神喪失、耗弱状態であったのか。
森山国務大臣 もしその当時この法案が施行されていたとすればというお話でございます。仮定のことについて答弁申し上げるのは必ずしも適当ではないと思いますが、なお、検察官は、本法案第三十三条第三項の本文によりますと、刑法第二百四条傷害罪に規定する行為を行った対象者については、傷害が軽い場合であっても、当該行為の内容、当該対象者による過去の他害行為の有無及び内容並びに当該対象者の現在の病状、性格及び生活環境を考慮して、その必要があると認めるときには対象者の処遇決定を求める手続の申し立てをするのであって、傷害の結果のみを考慮してその判断をするものではないというふうに言っております。
山井委員 今の答弁を聞きまして、重大な他害行為とは何か、重大というのはどんな行為かということなんですけれども、睡眠薬を入れて三日間の傷害を負わせた、そういうことでもこの法案に含まれる、そういう意味では非常に広いわけですね。そういう意味では、心神喪失あるいは耗弱状態じゃなかったら、そのような傷害だったら、それこそ起訴猶予になっていたようなことであっても、今回の法案の対象になれば、後で質問しますが、二年とか五年の入院になるかもしれないということもあり得るんだと思います。
 それで、今森山大臣は、今回の法案の対象には池田小学校事件の容疑者は直接は該当しませんということを明確におっしゃいました。
 一つお伺いしたいんですけれども、今回のこの法案は、小泉首相の池田小学校事件に対するコメント、法改正が必要なら行わねばならぬということが一つのきっかけになったわけなんですけれども、小泉首相はこの法案が池田小学校の容疑者には直接該当しないということは当然もう御存じなんですか。
 といいますのは、小泉首相が池田小学校事件のような犯罪の再発を防止することが必要だという趣旨で発言をされたと思っていますので。にもかかわらず、出てきた法案が池田小学校の容疑者には直接該当しませんということは、恐らく小泉首相からしたら、えっ、そんなはずはないんじゃないかと言われるんじゃないかと思うんですね。多くの国民も、恐らく今回の法案は池田小学校事件の容疑者を対象とするような法案じゃないかと思っていると思うんですが、いかがですか。
森山国務大臣 小泉首相の発言あるいは本法律案に対する政府等の説明は、一般論として、精神障害に起因する事件の被害者を可能な限り減らして、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が精神障害に起因するこのような不幸な事態を繰り返さないようにするための対策が必要であるという趣旨を述べられたものでありまして、池田小学校の事件が精神障害に起因して行われたものということを前提として述べられたものではございませんので、精神障害者に対する差別とか偏見とか、そのようなことを助長したということはないというふうに思います。
 念のため申し上げますと、この法律案によりまして、国の責任において、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対して必要な医療を確保し、不幸な事態を繰り返さないようにすることによりまして、その早期の社会復帰を図るための適切な体制を整備することでございまして、長期的にはむしろ精神障害者に対する差別とか偏見の解消につながっていくものであるというふうに思います。
山井委員 それでは、一つお願いなんですが、ぜひとも今の、直接、池田小学校はこの法案の対象には該当しないということを小泉首相に伝えていただきたいと思うんです。そしてまた、私、次も質問したいと思いますので、その感想というか小泉首相のコメントを次の機会にでもお聞きしたいと思うんですが、森山大臣、非常に根本的な、基本的なことなので、よろしいでしょうか。
森山国務大臣 総理は、私が申し上げるまでもなく十分御存じだと思います。しかし、先生からそのような御発言があったということはお伝えいたしましょう。
山井委員 それでは、次の質問に移らせていただきます。
 坂口大臣、私、この法案で最もわからないことの一つが、一度指定入院医療機関に入院すると大体どれぐらいの入院になるんだろう。やはり、それによって、一年ぐらいなのか十年ぐらいなのか、あるいは一生なのかによって、大分イメージが違ってくると思うんです。
 厚労省さんによりますと、この法案の対象者は年間三、四百人ということで、もちろん個人差はあろうと思うんですけれども、大体平均は何年あるいは何カ月ぐらいの入院ということを想定されておられますか、坂口大臣。
坂口国務大臣 これはなかなか予測することは難しいというふうに思いますが、本制度におきましては、対象者に継続的な医療を行わなければ心神喪失等の状態の原因となった精神障害のために再び重大な他害行為を行うおそれがあると認められる場合に限り、こういうことになっておりまして、本制度の医療を継続することとしております。このようなおそれの有無というのは、それぞれの対象者の病状でありますとかその状況によりまして大きく違うわけでありますから、今の段階でこれがどのぐらいになるのかということを予測することはなかなか難しい。
 ただ、現在厚生労働省の調査としてありますのは、平成十二年度におきまして、いわゆる検察官通報による重大犯罪ケースで措置入院となった患者は半年間で約五〇%が措置解除となっている、この数字はあるわけでございます。
山井委員 非常に重要な指標なんですけれども、そうしたら、坂口大臣としたら半年とかそのあたりを想定しておられるのかなというふうに理解しました。
 ついては、諸外国の例をちょっと見てみたんですが、この資料を見てもらえますでしょうか。これは厚労省さんからいただいた資料です。
 まず、ドイツのシュトラウビンク司法精神科病棟、平均二年二カ月、ハール精神病院のこの法案の対象者とされるような方々は約四年、ハイナ司法精神病院は四年。イギリス、高度保安病院は八・二年、デニス・ヒル・ユニットは十三・八カ月。カナダのフィリップ・ピネル研究所は三百五十日、ほぼ一年。アメリカ・コロラド州における心神喪失者の調査、これはほぼ四年ぐらいなんですね。
 坂口大臣、改めてになりますが、これと比較をしまして日本というのはどのあたりになりそうですか。イメージでもちろん結構なんですが。
坂口国務大臣 私もドイツの、そのベルリン州にあります病院を見せていただきましたときにそこでもお聞きしましたけれども、五年ということを言っておみえになりました。そのときに、非常に長いなという率直な感想を持ったわけでございます。
 これは制度のあり方等にもよるというふうに思いますから、これは違いは生じるだろうというふうに思いますけれども、日本の場合には、入院と、そしてその入院が必要でなくなりましたときには、いわゆる地域に戻してと申しますか、地域で観察を行うということになっておりますから、入院とそして地域に戻っての問題、これを両方合わせてどれだけかということになると、これはやはり長くなる可能性はあるというふうに思いますけれども、入院期間でどれだけかということを今言われましても、これからこれを行うわけでありますから、この法律を通していただくことができればこれからこれはスタートするわけでありますから、今の段階で何年とか何カ月ということを私が今ここで申し上げることはできません。
山井委員 そこが不安なんですが、最初の答弁では、半年ぐらいの事例が刑法に基づく措置入院の解除であるという話で、ところが、実際、坂口大臣が見に行かれたドイツでは五年ぐらいであるということなんですね。
 それで、そのことに関して見ていきたいんですけれども、この資料の中に、まさにそのドイツの資料があります。朝日新聞二〇〇一年十一月一日、「独に見る触法精神障害者の処遇」「長期化する施設収容」。ここで書かれている治療処分施設では、十年以上になる患者が一割、症状が重く一生外に出られないかもしれない人が三、四人、平均入院期間は約六年、九〇年ごろは四、五年だったが長期化している、これは全国に共通する傾向だと。それで、この記事の一番最後、左下に書いてありますのは、「モアバッハ判事はこの五年間で、別の裁判官が言い渡した最初の治療処分自体が不適切だったとして、六、七人の退院を認めた。判断はそれほど微妙だという」ということなんですね。平均六年も入院させておきながら、法の判断が非常に危ういということが書いてあります。
 それともう一つ、イギリスの例、次の3、これはイギリスのインディペンデント紙という有力な新聞であります。「回復しても出口のない高度保安病院」。それで、退院ができない理由として、七行目ぐらいに書いてあります。現在、治療に成功し、病院から移動する準備ができたとその人々は信じている。二つのことが彼らの釈放への道を遮っている。一つは、彼らの事例の審査に参加する知識のある専門家が不足していること。もう一つは、最も適切な扱いを受けられるような、地域でのケアが不足していること。
 次のページの真ん中ぐらいですね。全国的スキャンダルの裏にある事実、数値は以下のとおりである、高度保安病院の中で四百人以上の患者が中度保安病院のベッドへの移動を待っていると。つまり、受け皿がないわけで、退院ができないということになっているわけです。
 坂口大臣も御存じのように、残念ながら、イギリスやドイツに比べて日本の地域精神医療、受け皿というのはおくれていると言われております。そういう中で、外国でも、数年ということになって、受け皿がないから退院できないと。それで、後でも触れますが、きょうの資料の一番最後の新聞記事に、「「社会的入院」なお十万人」、受け皿がなくて退院ができないということが書いてあります。
 つまり、日本はイギリスやドイツよりも地域の精神医療や受け皿が不足している。これは逆に言えば、日本よりも充実しているイギリスやドイツでも、治療がある程度終わっても退院できない人がふえて、長期入院化してこの司法精神病院で問題になっているということなんですね。こういう懸念について、坂口大臣はいかが思われますか。日本でも同様の問題が起こるんではないでしょうか。
    〔森委員長退席、佐藤(剛)委員長代理着席〕
坂口国務大臣 地域における問題は、今回の法律でも取り上げられているところでございまして、地域における受け皿づくりというものを進めていかなければならないというふうにしているところでございます。今までのこの日本の精神医療におきましては、その点が非常に弱かったということは御指摘のとおりだというふうに思っております。
 一般の精神病の皆さん方全般につきまして、これはこれから見直していかなければならないというふうにも思っておりますけれども、今回のこの法律は、その中で重大な犯罪を犯した人ということに限定をされてくるわけでございます。
 この人たちに対します問題といたしましては、これは、入院をしておみえになる皆さん方が、いつかは必ず退院をされるわけでありますから、退院をされましたときに、やはり地域でそれがきちんと受けられるような体制というものは整備をしていくということで、今法務省と十分協議をさせていただいているところでございます。
山井委員 しかし、一般の社会的入院の人ですら十万人もまだ退院ができない。そして、今回の指定医療機関からの退院に関しては、恐らく、あの人はもともと重大な犯罪を起こして指定入院医療機関から退院してこられたんだというような偏見があるやもしれません。そうしたら、一般の十万人の社会的入院の人以上に退院しにくいと考えるのが普通だと思うんですね。
 そういう意味では、その問題を、地域の医療の充実というものをある意味では放置しておきながら今回のような法案を出すということに関しては私は説得力がないと。きっちりと一般、一般と言ったらなんですけれども、社会的入院の人が帰れる土壌があって、やはり今回の法案の対象となるような方々も安心して退院ができる、地域との連携ができているということになるんではないでしょうか。
 もう一つ、具体的に私この法案のイメージをつくるためにお伺いしたいのが、大体ベッド数はどれぐらいこの指定入院医療機関でつくられる御予定ですか。年間の対象は三、四百人ということなんですけれども、このベッド数のイメージがあれば、大体何年ぐらいの入院かということもイメージがわくんですが、いかがでしょうか、坂口大臣。
坂口国務大臣 本制度において必要とする指定入院医療機関や病床の数につきましては、現時点で的確なことを申し上げることは困難でございますけれども、必要な入院による医療が確実に実施されるように、本法の施行後の状況を見まして、そして、指定医療機関の計画的な整備を図ってまいりたいというふうに思っております。
 殺人でありますとか放火等の重大な他害行為を行いまして、検察庁で不起訴処分に付された被疑者のうち、精神障害のため心神喪失もしくは心神耗弱を認めた者、それから、第一審の裁判所で心神喪失を理由として無罪となった者、それから、心神耗弱を理由として刑を減軽された者、その数が平成八年から十二年までの五年間で約二千人でございます。通院患者の再入院も想定されることなどから、一年間の入院対象者数は最大で四百人程度ではないかというふうに思っております。これは四百に決めたわけでも何でもありませんが、最大でそのぐらいではないかというふうに思っています。
 このうち、一年間でどれだけ退院されるかということにもかかわってくるわけでございますが、今までのように半数が退院されるということになりますと、本法の施行後約十年後に全国で約八百から九百床程度必要になってくるというふうに思っております。八百ないし九百程度のベッド数を用意しておけば、これで十分ではないかと現時点では考えております。
山井委員 八百から九百ということでありますが、それが一つの目安になります。
 八百から九百ということは、もちろんこれは対象の三、四百人が確実にその対象になるかは全くわからないんですけれども、三、四百だったら一年で回転するということですし、八、九百だったら、もしかして二、三年ということを想定されているのかなということをそこから考えさせてもらいます。
 例えばイギリスでは、これも十分に正確とは言えないんですけれども、司法精神病棟的なものが約三千ベッドある。それを日本の人口に換算すると、数千という単位になってくるんですね。
 もう一度ちょっと坂口大臣にお伺いしたいんですけれども、そうしたら、先ほどの八百から九百と数千というのは全然けたが違うんですけれども、何千もつくるというたぐいのものではないですか。
坂口国務大臣 現在のところ、それほど多くの数字になるとは考えておりません。
山井委員 何年入るかわからない、また重大な他害行為というものの範囲も非常に広いという中で、ますますこの法案、わからない点が多いんですが、その根本的なわからなさは、先ほどの五島議員の質問にもありましたが、オックスフォード精神医学教科書なんですね。これはきょうの資料に入れさせていただきましたので、ちょっと坂口大臣も一緒に見ていただければと思います。
 5の1ですね。これは非常に重要なポイントです。坂口大臣がこれを引用して答弁をされたわけで、オックスフォード精神医学教科書によりますと、精神科医が予測を行うことが当然とされており、再び重大な他害行為を行うおそれの有無を予測することが可能であると考えておるところでありますと。
 先日の平岡議員の質問で、何か坂口大臣の答弁はこの本のいいとこ取りをしたのであって、ほかの場所にはもっと予測が困難であるということが書いてある、全部読まれましたかというような質問が先週あったかと思うんですが、ちょっと意地悪な質問になるかもしれませんが、大臣、その後、残りの部分というか、これは読まれましたか、原本。
坂口国務大臣 オックスフォード精神医学教科書を引用いたしましたのは、精神障害者が暴力に及ぶリスクにつきまして精神科医が予測することは国際的に当然のこととされていることの根拠を例示したためであります。
 確かに、同教科書におきましては、おそれの判断の難しさでありますとか、それを慎重に行うべき旨が記述されていることも事実でございます。それでもなお、精神科医にはこのような予測が求められていますことや、予測を行うための具体的な詳細な指針や手法でありますとか、そうしたことが記述をされておりまして、決して都合のいいところだけを申し上げたわけではございません。
 これは非常に難しい診断であろうということは、率直に私もそう思いますけれども、しかし、ヨーロッパの諸国におきましても、こうした診断技術が積み重ねられておりますことも事実でございます。
山井委員 質問を続けたいんですが、この議場を見ると、賛成している与党の議員が少ないじゃないですか。こんな重要な議論をしているのに。どうなっているんですか、これ。定足数に達しているんですか、これ。いいかげんにしてくださいよ、本当。三百万人の精神障害者の人生と人権がかかっているんですよ。反対している人間が来ていないんだったらいいけれども、賛成している方がどないなっているのか。(発言する者あり)
佐藤(剛)委員長代理 理事は、私も理事をやっていますが、こちらに理事二人おりますから。続けてください。(発言する者あり)続けてください。(発言する者あり)今数えていますから。ちょっと待ってくださいよ。きちんとやりますから、きちんと進行を。(発言する者あり)今調べさせています。(離席する者、退場する者あり)
    〔佐藤(剛)委員長代理退席、森委員長着席〕
    〔森委員長退席、園田委員長着席〕
園田委員長 それでは、この際、休憩いたします。
    午後零時二十八分休憩
     ――――◇―――――
    午後一時二十六分開議
園田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質疑を続行いたします。山井和則君。
山井委員 先ほどの坂口大臣の答弁の続きですが、先日の衆議院の本会議の答弁で、「慎重に鑑定を行うことにより、再び重大な他害行為を行うおそれの有無を予測することが可能である」ということをオックスフォードの精神医学教科書から答弁をされたわけでありますが、この資料、5の1を皆さん見ていただけますでしょうか。
 まず、これは厚生省からファクスでいただいたものですが、「司法精神医学」というところに、この項目、「危険性、リスク、予測の確率」と出ております。ここを一緒にちょっと坂口大臣も読んでいただきたいと思います。5の1というところであります。下線が引いてありますが、どういうことが書いてあるか。「患者が他人に害を及ぼすように振る舞う確率を評価することは、正当な臨床活動である」ということを書いてあります。しかし同時に、そもそもこの章のトップには、「予測はきわめて困難である。とりわけ、将来については。」ということが書いてあるわけですね。
 次のページ、またお願いします、三ページです。ここの下線の下の部分を読みますと、「精神保健の専門家は、患者が破壊的な行動を行う可能性を見極め、そのような害を防止できると期待されていることは自明のように思われるが、その自明性は観念論的で無思慮なものである。」「そのようなリスクを効果的に予測できるということも明白ではない。治療者がリスクの予測に直面していかに行為すべきかということも明白ではない」と書かれております。
 また、次のページ、四ページには、二重下線のところ、「精神保健の専門家は、次のような基準が満たされたときのみ、リスク・アセスメントに従事すべきである。」と書いてあります。その四番目には、「リスクは確率の言葉で表現され、誤りを免れない性質であり、予測は潜在的に変動しやすいことを明白に述べること。」
 それで、最後の十九ページのところ、次の次のページですが、十九と右下に打ってあって、上に5の5と書いてあるところには、「しかし、最終的に、我々はそのような予測的かつ予防的機能を遂行する我々の能力については謙虚でなければならない」というふうにこの章は結論づけられているわけです。
 そう見ると、まさに5の1に戻ってもらって、最初の章のトップに書いてありますように、「予測はきわめて困難である。とりわけ、将来については。」ということがこの教科書に書いてあるのであって、坂口大臣が答弁された、「慎重に鑑定を行うことにより、再び重大な他害行為を行うおそれの有無を予測することが可能である」というようなことは、ここには書かれていないんです。
 大臣、そのあたり、この本に書いてあることと答弁がずれていると私は思います。これはやはり修正すべきではないかと思いますが、いかがでしょうか。
坂口国務大臣 私は、全体として書かれていることは、診断は可能であるけれども、しかし謙虚でなければならない、大変その診断というのは難しい問題であるということが書いてあるということだと思います。
山井委員 まさにおっしゃいましたように、今のニュアンスと、ここで断言されている「有無を予測することが可能である」というのは、かなりニュアンスが違うというふうに私は思います。
 それで、例えばニューヨーク州の客員研究員のステッドマンさんという方の論文によると、「文献が示しているのは、通常精神科医は裁判において、正しく予測するよりも、四から六倍の回数で誤るということです。そして最良の場合でも、一回の正しい予測に対して二回誤るということです」というふうに書かれておりますし、また、同じアメリカのステッドマンの論文では、「暴力行為ありと判断したものの、この的中率は一対六・二、つまり、的中した者一人に対し、的中しなかった者が六・二名の比率になっていた」というような論文もあります。
 そう考えてみると、同じ対象行為を行うことの予測というのは非常に難しいという気がいたします。これは考えてみれば、私は、ハンセン病のまさに坂口大臣が取り組まれた問題とも多少似ていると思うんですね。本来入院治療を受けなくてもそのような対象行為を繰り返さなかったであろう人も、今回の法案の中で一緒に強制入院をさせられてしまうリスクというのは非常に高いということだと思います。それで、そのことを御認識いただきたいと思います。
 次に、私の資料の中で四ページを見ていただければと思います。
 話は日本のことに戻りますが、この四ページにありますように、「強制入院運用に地域格差 国の診断基準明確に」という読売新聞の記事があります。これによれば、強制入院の運用については、措置入院の患者数は人口規模当たりで十四倍の差があった。二十年以上の患者の割合も、山口が六九%なのに京都と千葉は〇%。
 次の4の2を見ていただけますか。例えば、人口十万人当たりの措置患者数は、一番低い大阪が〇・七人なのに鹿児島では九人、つまり十二倍以上も開きが出ているわけです。このような現状。
 そして、一番最後のページになりますが、「「社会的入院」なお十万人」という記事。この中でも、新規入院患者の五割近くが三カ月以内に退院するようになったが、入院患者全体の約半数が五年以上入院したままで、それで、十万人が社会的入院ということになっているわけですね。十万人以上が社会的入院、そして、新規入院患者の五割近くが三カ月以内に退院しているということは、今二十年以上入院している一万七千人以上の方というのは、本来適切な医療を受けていられたら地域に帰れているはずの人なんですね。
 午前中の議論に戻りますが、こういう社会的入院の人すら帰れないのに、今回の法案の対象の人を帰す、そういうことは非常に説得力に無理があると思います。このような現状に対して、坂口大臣、どう思われますでしょうか。
坂口国務大臣 この措置入院の方につきましては、それぞれの地域によります事情もあるんだろうというふうに思いますから、この数字をもって一概に多い少ないということを私は言うことはできないというふうに思いますが、こういう状況を打開していきますためには、これは精神病の方一般はもう当然のことでありますけれども、重大な犯罪を犯した人においてすら、やはりそれなりの治療を行い、そして、それは地域に戻すことができ得るということになれば、一般の精神病の皆さん方に対しましても、その問題は大きく波及していくだろうというふうに私は思います。
 そうした意味でも、今回、こうした重大な犯罪を犯す可能性のある人に対する問題につきましても、入院とそして地域の問題と十分にタイアップしていけるという姿勢を示さないといけないというふうに思っております。
山井委員 先ほどの答弁の中でも、予測というものは非常に難しい面もあるということを、坂口大臣、オックスフォードの教科書から答弁もされましたけれども、要は、同じ対象行為を行うということのおそれの判定が非常に不確定である。となると、繰り返しになりますけれども、実際は入院をしなくてもよかった人が何年も入院を強いられるケースがある。こういうことに関して、先ほど申し上げましたように、施設に、療養所に入所の必要のないハンセン病の元患者の方々がずっと入院されていた、その強制隔離の人権侵害の問題と似ていると思うんです。
 ですから、まさに昨年、職を辞してでも控訴は断念させるということをおっしゃった坂口大臣だからこそお伺いしたいんですけれども、今回の法案によって、ハンセン病の元患者の方々に対するのと似たような誤った長期にわたる強制隔離というものが起これば、これは人権侵害ではないか。このようなことについて、大臣は、ハンセン病の解決にあれだけリーダーシップを発揮された大臣だから聞くんですけれども、どう思われますでしょうか。今回のおそれの判定というのは百発百中ではないわけですよね。
坂口国務大臣 医学上の診断でありますから、百発百中ということには、それはいかなる病気のときにもなかなかいかないだろうと思います。
 しかし、これは、原則としまして六カ月ごとに裁判所が入院継続の要否を確認することになっておりまして、半年ごとにチェックをしていく。そして、裁判官とそして医師との間で協議をして、この人がさらに入院が必要であるかどうかということを議論していく。先日も、私はこの二人の間で意見が異なったらどうなんだということを聞いたわけでございますが、そうしましたら、その中で軽い方を採用すると。例えば、一方はもう少し入院だ、一方はもう退院させてもいい、こういうことであれば、退院させていいという方を採用する、こういうことのようでございますから、そうしたことを継続していくことによって、委員が御心配になりますように、一人の人を長くそこに必要以上に入院をさせていくということを避けることができ得るというふうに思っております。
山井委員 改めて今の点は非常に重要だと思うのでお伺いしたいんですが、先ほど申し上げましたように、イギリスでもドイツでも当初考えていたよりも長期入院の傾向が出ている。そして、地域医療の受け皿が不十分だということで長期化している。そういうことが海外で懸念されていて、また、これについては、本当に正確にこういう同じ対象行為のおそれというのが判定できるかどうかもわからない。そういう本当にこれはわからないことが多過ぎる法案なわけですね。
 繰り返しになりますけれども、法案対象者の人権ということから、坂口大臣、ハンセン病と同じような問題にならないですか。あれだけハンセン病の問題に対して、人権、強制隔離はよくないということで、職を辞する覚悟でという取り組みをされた坂口大臣が、この法案に関してはそういう誤った診断のおそれは少ないですから大丈夫ですと割と簡単におっしゃるのが、私はちょっと理解はできないんですけれども、いかがでしょうか。
坂口国務大臣 人権にかかわらないように十分な配慮をしなければならないのは御指摘のとおりだというふうに思います。
 しかし、一度そういう重大な犯罪を犯した人に対して、再びその人がそういうことを犯さないようにしてあげることが大事でありまして、そのことが全体に精神病患者の皆さん方に対する一般の考え方というものを変えていくことに私はなると思っております。だから、そのことにつきましては十分な配慮をやはりしていく必要があるというふうに私も認識をいたしております。
山井委員 今回の、来週行います視察で、こういう東京精神病院事情という資料を見せてもらいました。これを見ると、アンケート調査によって各病院の点数がされています。
 例えば、先日行った武蔵病院は三十四点と、この中でトップなんですね。首都圏のあたりでトップのところをいっているわけです。今度行く松沢病院も三十点と、これもトップレベルです。片や八点、十点という、本当に悲惨な状況のところがあるわけです。そういうところは、割と、もう青梅とか視察に行けないぐらいの山の中の方にあるわけですね。それで、そういう遠くの山奥で、実は今回の視察に行きたいということでいろいろ問い合わせたら、当日は院長がいないからだめだとか、そういうところは視察も受け入れない。そういう本当に町から遠く離れた精神病院で、五年も十年も多くの患者さんが人権侵害で放置されている。
 今回の答弁で、森山大臣も坂口大臣も、この法案は良質な医療を提供して社会復帰してもらうことを目的とするということを胸を張って何度も答弁されている。そこまで胸を張って良質な医療を提供して社会復帰してもらうということを強調されるんだったら、今こういう町外れの精神病院に十年、二十年と入院して、そして社会的入院で退院できない人にも、どうして同じように良質な医療を提供して社会復帰させる努力をされないんですか。そのことをされずに、この法案で対象の四百人だけはそういうことを言うというところに、この法案の最もまやかしと説得力のなさがあるんじゃないでしょうか。
 そこはセットで提示すべきだと思うんですが、いかがですか、坂口大臣。
坂口国務大臣 一般精神病の皆さん方に対します問題もありますことは、十分に私も知っているわけでありまして、そして、今審議会におきましてもそのことをやはり審議していただいておりまして、間もなく審議会の結論も出ることになっております。
 そして、それを踏まえまして、一般の精神病の皆さん方の治療のあり方につきましても、改革するところは改革をして、そして長い間そういうふうに入院をしておみえになる皆さん方を受け入れるために、それじゃどうしていったらいいかといったことも含めて議論を深めて、そしてそれに対する対応を考えていきたいというふうに思っております。
山井委員 本当にそういうことをおっしゃるなら、私も実は二年前から、社会的入院、この十万人いるのをどうするんですかと、国会に来て最初の質問から、私は津島大臣から言っているんです。そのときから、やる、やる、やるとおっしゃって進んでいないわけなんですね。ですから、この審議はまだ続くと思いますので、その中で明確な、いつまでにこの十万人の受け皿をつくるんだということを示してほしいと思います。
 きょうの私のこの五十分の答弁を通じて、いかにこの法案が不確定で、本当に人権侵害になる危険性の非常に大きい、何年の入院になるかわからない、受け皿も整備されているかどうかわからない、そういう非常にあやふやで危険な法案であるということを私は感じました。
 それとともに、先ほど指摘しましたように、法務委員会の方々は、出席をしておられた方はおいておいて、来られなかった方はやはりこの法案に余り関心がないんじゃないかという気がいたします。
 そういう意味では、これから徹底した慎重審議と、この法案の廃案を再度私は要望して、質問を終わります。
園田委員長 水島広子君。
水島委員 民主党の水島広子でございます。
 まず、冒頭に一つお願いしておきたいんですけれども、午後の委員会になりましたら出席されている議員の数は非常に多くなったようですけれども、それとともに何か私語の量もふえてきたようでございまして、一番後ろの席で聞いておりましたところ、なかなか審議が聞き取りにくいところがございました。非常に重要な審議でありますし、私も本当に答弁を一言一言聞き漏らさないようにしていきたいと思っておりますので、ぜひ委員の皆様には御協力していただけますようにお願い申し上げます。
 さて、本日もちょっと冒頭に確認をさせていただきたいことがございます。
 まず、法務大臣、厚生労働大臣、両大臣にお伺いしたいんですけれども、もしも、きょうでもきのうでもいいんですけれども、池田小学校と同じような非常に残虐な事件が起こったとして、そしてメディアが、どうもその犯人は精神障害者手帳を持っていたとか、過去に措置入院歴があったようだとか、そのようなことを報道して大々的にやっていた場合に、談話を求められたとしましたら、両大臣はそれぞれどのような談話をお出しになりますでしょうか。法務大臣、厚生労働大臣、それぞれお答えいただきたいと思います。
森山国務大臣 御質問は仮定の事柄にかかわることである上に、御指摘のような痛ましい事件が再び起きることがないようにと願っておりますので、御質問に対する答弁は差し控えさせていただきたいと思います。
 なお、あくまで一般論として申し上げれば、何らかの事件が発生した場合に、法務大臣として捜査中の具体的な事件についての所見を申し上げることは適切でないと考えておりまして、事件に対するコメントは差し控えると思います。
坂口国務大臣 あってはならないことでございますけれども、もし小学校でそういうことが起これば、それは文部科学大臣の担当でございますから、私が談話を出すということはないというふうに思いますけれども、もしそうしたことを聞かれるということがあれば、やはり再びこういうことが起こらないようにするためにどうしたらいいかということを考えなければならないというのが、私の、もしあるとするならば、そういう答弁だろうと思っております。
水島委員 坂口大臣に重ねてお伺いしたいんですけれども、そのコメントを求められたときに、どうもこの犯人は精神科の患者みたいなんですけれどもと、そのようなことを言われましたときにはどのようにお答えになりますか。
坂口国務大臣 よく調べさせていただいて対応させていただきますと言う以外にないと思います。
水島委員 極めて慎重な御答弁を両大臣からいただきましたが、昨年の小泉首相の出されたコメントとは随分違っているなと改めて感じたところでございます。本当でしたら、そのような精神障害者に焦点を当てさせないように、それを軌道修正するようなコメントをいただければなおよいと思いますけれども、昨年の小泉首相の事件の翌日に出されたコメントと、今の両大臣それぞれのお答えを伺っておりまして、先日、法務委員会で両大臣に小泉首相の対応についての批判的な御答弁を求めたところお答えいただけなかったわけでございますけれども、今のお答えを伺いまして、やはり昨年の小泉首相の事件直後の言動に関して、あれは正しくない対応であったのだということを両大臣御認識になっているということを確認させていただいたと思います。
 さて、それではこの法案そのものの質疑に入らせていただきたいと思いますけれども、前回、私が法務委員会で質問をいたしましたことに対していろいろと御答弁をいただいたわけですけれども、どうも答弁が、こちらが求めていたものとは違うような方向に何度となくそれてしまいまして、私も改めて速記録を読み返してみましたけれども、何をお答えになっているのかよくわからないような箇所が幾つかございましたので、本日はまずその確認から入らせていただきたいと思います。そして、前回、さんざん審議をしたことでございますので、これにつきましては大臣から総括した御答弁をいただきたいと思います。
 まず伺いたいのは、政府が目的としていることを達成するために、現行の措置入院制度の改善ではなく、新法の立法でなければ対応できない点は何かということを厚生労働大臣から総括してポイントを絞って御答弁いただきたいと思います。
坂口国務大臣 心身喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対しましては、必要な医療を確保し、その病状の改善とこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、本人の社会復帰を図る、このことが重要であるというふうに考えております。
 心身喪失等の状態で重大な他害行為をした者を現行の精神保健福祉法の措置入院制度により処遇することにつきましては、一般の精神障害者と同様のスタッフ、施設のもとで処遇することになりますため、専門的な治療が困難となり、また、他の患者にも悪影響を及ぼしかねないこともございます。このような者についての入退院の判断が事実上医師にゆだねられておりまして、医師に過剰な責任を負わせることになっていることも挙げなければなりません。都道府県を超えた連携を確保することができないことも現実でございます。退院後の通院医療を確実に継続させるための実効性のある仕組みがないことなどの問題があると考えております。
 このため、今回の法案では、広く精神障害者一般をその対象とするものではなく、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者のみを対象として、適切な医療を継続的に確保する必要上、自由に対する制約や干渉が強くなることもあり得ますことから、医師と裁判官により構成される裁判所の合議体が決定する仕組みを整備したわけであります。国が責任を持って専門的な治療を行いますとともに、退院後の医療の中断が起きないように、継続的な医療を確保するための保護観察所による観察、指導の制度を整備していくことにしたものでございます。
 したがいまして、現行の精神保健福祉法とは別の新しい法律とすることが適当と考えたところでございます。
水島委員 今いただいた御答弁の中で、前回も私は入院と通院とをちょっと分けて質問をさせていただいていたわけでございますけれども、少なくとも入院の部分に関して、現行の措置入院制度の改善ではカバーし切れない点というのはどこになりますでしょうか。
坂口国務大臣 先ほど申し上げましたことに尽きているというふうに思いますが、一つは、対象とする人が違うわけでありますから、そこがスタートからして違うわけでございます。そして、この皆さん方を再びそうした重大な問題を起こさないようにさせていくためには、かなり整備をされたと申しますか、マンパワーといたしましても整備をし、そして的確にその人たちに対応をしていく、そういうことが大事でありまして、そういうことを徹底的に行うという趣旨からいきまして、やはりこの人たちに対しましては区別をしていくべきだ、こういうふうに思っている次第であります。
水島委員 きょうもこの後の質問の中でもう少し伺いたいとは思うんですけれども、けさからの議論を聞いておりましても、この対象とする人が違うと今大臣はおっしゃったんですが、今措置入院制度で扱われている対象者に比べると、今回のこの新法で対象とされる人はその中に含まれる、その一部であるという趣旨の御答弁をいただいているのだと思いますけれども、そうすると、対象とする人が違うというのはちょっと理解できない点でございます。
 また、再び重大な問題を起こさないためには十分なマンパワーをかけての治療が必要であるということについては、それはそうなんだと思いますけれども、そうしますと、今の措置入院制度の、そして今回の新法の対象者とならない方たちに関してのマンパワーや専門的治療という観点からの改善は必要ないということで新法をつくられるというふうに理解してよろしいんでしょうか。
坂口国務大臣 それはそんなことないわけでありまして、一般の精神病の皆さん方に対しましても、それは先ほどから申しておりますように、さらなる診断、治療が行われるようにしていかなければならないし、また、退院をされましたときの受け入れ体制というのも明確にしていかなければならない。
 現在、そのことにつきましては議論をさらにかなり重ねておりまして、入院中の皆さん方には少し機能別に入院をしていただくといったようなこと、それから、退院されました後の体制をどうつくるかといったことの議論も今続けているところでございまして、そのことも一日も早く明確にしていかなければならないと思っております。
水島委員 それはぜひそうしていただきたいんですが、まだ先ほどの御答弁でもわからないんですけれども、そういうわけではないと今御答弁されたわけですが、そうしますと、やはりこれは、新法をつくるというよりも、措置入院制度全体に対して、マンパワーという面から、また治療の専門性という面から、治療の底上げを図るというような手法の方がふさわしいのではないかと今答弁を伺ってまた思うわけですけれども、これは違うんでしょうか。
坂口国務大臣 そこはやはり一線があると思うんですね。今回の問題は、重大な犯罪を犯した、しかも心神喪失または耗弱状態にある人が重大な犯罪を犯す、そういう特別な人に対してどうするかということを今言っているわけでありまして、一般の精神病の皆さん方の治療の、あるいはまた診断のかさ上げをするということも大事でございますけれども、ここは一つの異質な部分として、そこには特別に目をかけていくと申しますか、そこは慎重に対応をしていく、こういうことを申し上げているわけであります。
水島委員 申しわけございませんが、まだ伺うんですけれども、私が伺っておりますのは、一般の精神障害者の方たちと新法というよりは、今の措置入院制度とこの新法との違いについて伺っているわけでございます。
 今ちょっと大臣から、何か大臣らしからぬ特別な人という言葉が出たわけでございますけれども、今の措置入院制度の対象となる方も、ある意味では、どうしても強制入院をしていたただかなければならないほどの強い病勢を持っている、また自傷他害のおそれがある。そういう意味では、もちろん患者さん全体から見ますと一部の限られた状態にある方であると言えるわけですけれども、その措置入院制度とまた独立させてこのような制度をなぜつくらなければいけないのかという点についてお答えいただけますでしょうか。
坂口国務大臣 何度か同じことを申し上げて恐縮でございますが、今対象にしております皆さん方は、重大な犯罪を既に犯した、そしてそれを繰り返す可能性があるかないかということの一点に絞っているわけでありますから、そうした意味で、この皆さん方と区別をしているわけでございます。
 一般の精神病の皆さん方に対しましても当然やっていかなければなりませんけれども、いわゆる重大な犯罪を既に犯している、そして、今後その人たちがそれを繰り返すおそれがないかどうかというその一点に絞って、この人たちを私たちは特別にひとつ治療をしていきたい、こういうふうに言っているわけであります。
水島委員 まだわからないので、私の理解力がないのかわからないんですけれども、もっとお伺いしたいんですけれども、つまり、重大な犯罪を既に犯した、そして繰り返す可能性があるかないか、その一点のみに絞ってこの新法をつくられたと、それは私も理解しているつもりでございます。
 ただ、措置入院制度の対象となるような自傷他害のおそれのある方、その方たちのことを考えますと、今までに何をやったか、やっていないかということよりも、やはり今現在かなりしっかりした治療が必要である、それは入院環境で御本人の意思の有無にかかわらず行わなければいけない。そういう意味では、かなりそこも絞られている話だと思うんですけれども、その措置入院制度を全体的にもっと運用を改善して、もっと手厚いマンパワーのもとで専門的治療が行えるようにしていくという方法では、今回大臣が目的とされていることは達成されないんでしょうか。これは入院の面だけに限ってお答えいただきたいと思います。
坂口国務大臣 今までに大きな犯罪を犯したような皆さん方を治療いたしますときには、かなり自由を抑制するということも私はできてくると思います。また、退院をいたしまして、そして通院をするということになりましても、それはやはりかなり制限を加えられたものになる可能性がありますから、だから、そういう意味におきまして、一般の皆さん方もそれと同じようにしてはいけない。そこはやはり区別をしなければならないと私は申し上げているわけであります。
水島委員 一般の方とおっしゃるんですけれども、措置入院の方がどういう環境に置かれるかということを考えますと、これはかなり、かなりというか、ある意味では完全に自由が制約されるようなところがございまして、なぜその措置入院の方以上に、入院環境においてどのようにプラスアルファの自由の制約ということがこの方たちの治療に対して特に必要なのかということはどうなんでしょうか。
高原政府参考人 入院医療につきましてよりも、むしろ通院の場合、例えば、現在の措置入院制度におきましては措置通院制度というものはございません。一定のフォローアップは、例えば保健所等でも、委員御案内のとおり、保健婦さんたちが管掌しておりますが、それを、ぜひ行けと、かなりこの制度は強制力を持って通院を要請するわけでありまして、これは、普通の生活をしている生活者の感覚から見ると、かなり強度な自由の制約ではないか、そういうふうに感じるわけであります。
水島委員 入院に限ってということを前回も言いましたし、先ほどからも申し上げているんですけれども、入院に絞ってお答えいただきたいんですけれども、今、通院の部分しかお答えがありませんでしたが。
高原政府参考人 入院医療におきましては、十分な人手をもとに、措置入院におきましても、今回の新しい制度におきましても、例えば抑制帯の使用は最小限にするとか、不必要なことはやっちゃいかぬとか、そういうことは一般的な注意として現在の精神保健福祉法にも記載されておる。それに従って新しい制度でもやる。そういうふうな点では、物理的に新しい制度において強度に自由を制約するということが入院医療に今以上にあるということは想像しにくいわけであります。
 しかし、平均値で比べてみると、今の措置入院の方、大体三十万入院患者のうちの一%、三千人ぐらいと言われておりますが、そういうふうなもののさらに限られた人を対象とする、衝動性も大きい方が多い可能性もあるということで、今の措置入院の患者さんよりも、基本的な運用方針は同じでありますが、平均値をとってみると、より強い制限を課した制度ないしは運用となる可能性が全くないとは言えないわけであります。
水島委員 今の答弁、確認させていただきたいと思いますが、そうしますと、運用上の違いは実質的にはないと。その場合に、なぜ今の措置入院制度と違う入院制度としてつくらなければいけないのかということなんです。
 ちょっと違う質問にかえて伺いますと、例えば、これは十分な予算があって、すべての措置入院の方に対して手厚い治療が確保できるのであれば、すべての措置入院の方にすることなのか。単に予算がないから、限られた、この前部長もプライオリティーという言葉を使われましたけれども、プライオリティーの高い方だけにしていこうとしているものなのか。その点についてはどうなんでしょうか。
 今部長がおっしゃった趣旨から申しますと、衝動性の高さとか、いろいろそういう可能性があってなんていうことをおっしゃるんですけれども、可能性があるからそのような方のための制度をつくるんじゃなくて、やはり、今現在目の前にいる患者さんが衝動性が非常に高くて非常に手厚い人手が必要だという医療上の判断があったら、そのような手厚い医療を提供できる、そのような判断に基づいて行うべきものなんじゃないんでしょうか。
高原政府参考人 委員御指摘のとおり、医療的なニードに従って医療は行われるものだと考えております。そのニードが、この新法において想定しております患者さんたちはより強度なものが要請される場合も想定されるということでございます。
 いずれにいたしましても、入院というものは本人の同意をもとにした通常の医療とは異なりますので、システムを整備して、その手続を明らかにするということは必要なことであると考えております。
水島委員 ということは、やはり医療上のニーズに応じてきちんとした医療が提供できるような体制を措置入院制度の底上げによって図るべきではないんでしょうか。それでは何が足りないんでしょうか。この入院治療というところだけに限ってお答えいただきたいと思います。
高原政府参考人 私は、医療というふうなものは入院部分と通院部分と切っていいのだろうかということを感じるわけであります。一人の患者さんは一人の患者さんでございまして、主治医がかわるということはあるわけでありますが、やはりシステムとしては、入院、通院といったものは少なくとも一貫した思想のもとに構築させられているべきだろう、そういうふうに考えております。
 また、資源の点だけでこの制度をつくったのかということでございますが、これは、一般の精神障害者と同様のスタッフ、施設のもとで処遇することは、専門的な治療が困難である、また他の患者にも必ずしもいい影響ばかりではない、悪影響も及ぼしかねない。それで、このような者についての入退院の判断について事実上医師にゆだねられている現在の措置制度におきましては、医師が過剰な責任を負わされることになっているということ等が考えられます。
水島委員 そろそろまた堂々めぐりになってきましたので、次の答弁は大臣にいただきたいと思うんですが、今回の新法の制度を見ますと、幾つかポイントがあると思うんですけれども、今部長は、入院も通院も一つのものとして考えるべきだとおっしゃった。そんなのは当たり前のことなわけですけれども、今回この新たな制度をつくるときに、今ある医療資源のどこをどう使って、それに例えばどこを改正して、あるいはどこに新しい仕組みをつくるか、そういう組み立て方の問題があると思います。
 今回の新法でいえば、例えば、最初の処遇を決めるところに裁判官が加わっていることですとか、入院治療を行う施設が専門的なというか特別なものになっている点ですとか、あるいは退院後に治療継続を保護観察所を利用して図っていく。幾つかのポイントがあるわけですけれども、私は、これはポイントごとに議論しても何らおかしなことはないと思います。その入り口の部分と入院の部分に関しては現行の措置入院制度の改善という形で取り組んで、その後に、どのような通院の確保の手だてを考えるかということをそれぞれ考えても、別にその患者さんの治療の一体性を損なうものではないと思うんですけれども、まず、そのような認識を共有していただけるのだとすれば、大臣に、今のこの入院の部分に限って、現行の措置入院制度の底上げでは今回達成できないものは何かあるのかということをお答えいただきたいと思います。
坂口国務大臣 私は精神科医じゃございませんから、具体的にどういう治療方法があるのかというようなことにつきましては私は存じません。
 ただ、重大な犯罪を犯した心神喪失者、そうした人たちと一般の精神病者といった場合には、これは違うんだと私は思っております。ですから、治療方法も、そこはおのずから異なってくるのではないかというふうに私は思います。
 そうした意味で、やはり重大な犯罪を犯した人たちに対しましては、再びそれを繰り返さないというのは、ただ単に精神病を治すということだけではなくて、この人たちに対しましてはもう少し何か幅広い治療方法というのがあるのではないかという気がいたします。それは、私は初めにお断りしましたように精神科医じゃございませんから、具体的にそれはどういうことかということまで申し上げることはできませんけれども、やはりそこにはおのずからの大きな違いがあるということを申し上げているわけでございます。
水島委員 ということは、今の御答弁をお聞きしますと、重大な犯罪を心神喪失等の状態で犯した人と、一般の、それ以外の措置入院の患者さんとの治療法は違うという趣旨で受け取らせていただいてよろしいんでしょうか。
 大臣御自身の知識がどの程度あるかということではなくて、これだけの制度を考えられて、特別な病棟までつくられるわけですから、当然厚生労働省としてそれなりの、こういう治療を提供するためには特別な病棟をつくらなければいけないんだという考えがあってのことだと思いますので、今の点を確認させていただけますでしょうか。これは、人手ということじゃなくて治療法ということで確認させていただきたいと思います。
高原政府参考人 まず、治療を開始するに当たっては、患者とそれから医師の間で、その事態の評価、つまり、病気がどういう病気であって、どういう状況で、何を患者さんはやったんだという認識を共有する必要があると思います。それで、その認識を共有した上で、どうすれば医師と患者が共同で、医師というのは医療スタッフということでお願いしたいわけですが、医療スタッフと患者さんとが共有して、どういう目標を立てて、信頼を醸成しながらさまざまな、怒りのコントロールであるとか被害者へのシンパシーをはぐくむとか、そういった社会適応性を増す方向での治療、これはやはりある種の、重大な犯罪行為に該当する行為というふうなものに対する認識から出発する、そういうことがこの病棟、この制度では行われる。
 それに対しまして一般の措置入院におきましては、自傷他害のおそれという、それよりかなり広い概念でくくっておりますので、そういうふうな認識における共有、もちろんその病識を共有するという点では一緒でありますが、やったことに対する自覚を促し、共通の、どうするかということ、そういうふうなことの目標の立て方はいささか違うものではなかろうかというふうに考えております。
水島委員 今、私、聞き違えかと思うような答弁をいただいたんですが、怒りのコントロールを覚えたり、被害者へのシンパシーをはぐくむ、やったことへの自覚を促す、これは医療なんですか、矯正なんですか。
 そもそも、心神喪失の状態で重大な犯罪を犯す方というのは、怒りに基づいてやったりとか、被害者へのシンパシーが足りないからやったりとか、そういうことなんですか。
高原政府参考人 通常、こういった医療は司法精神医療の中に包括された治療法というふうに言われておりますし、委員御案内のとおり、いわゆる認知行動療法等を利用したそういった治療も実際されているというふうに承知しております。
 もちろん、非常に深い意識の昏迷がある、ないしは心神喪失もしくは耗弱の状態が持続しているということでこういった治療法が始められるものではないということは、委員御指摘じゃありませんがお感じのとおりでありまして、そこにつきましては一般の精神病としての対応というふうなものがなされる。その後、ある程度平衡といいますか、寛解を迎えたときに考えていただく。そういうふうなものは、治療目標を共有しながら、信頼を持って社会復帰に向けて歩む、そういうことだろうと考えております。
水島委員 司法精神医学の中に含まれているといっても、心神喪失に陥るような状態を認知行動療法で治療できるとは私にはとても思えないんですけれども、そもそも、怒りのコントロール、被害者へのシンパシーをはぐくむ、やったことへの自覚を促す、これらのことは何を目的としてされるものなんでしょうか。
高原政府参考人 委員御質問のような治療が深い意識の昏迷であるとか心神喪失であるとか心神耗弱の状況で始められるものではないということは、私も先ほど申し上げたわけでありまして、これに対しては一般の精神科医療が先立つものである。その寛解期を迎えた後、そういった治療法を行う。
 その目的でございますが、これは、やはり患者さんの社会に復帰した後の受容性、社会への適合性、こういうふうなものを増加させる社会復帰訓練の一環であると考えております。
水島委員 それが心神喪失等の状態で重大な犯罪を犯した人に特有の治療法と言い切っていいんでしょうか。このような治療が必要な人というのはほかにもいると私は思いますけれども、なぜこの方たちだけにこの治療が、この特別な病棟において行われるということになるのか。
 本当にきょうも全く、通告している事項のまだ三分の一もいっていないと思うんですけれども、時間ももったいないので、今すぐにお答えいただけないんでしたら、その病棟で行おうとしている治療の詳細について次回までにきちんとまとめて、資料にでもしていただければと思うんですけれども、いかがですか。
    〔園田委員長退席、森委員長着席〕
高原政府参考人 当該入院施設で行われる医療の目標なり、おおよそのプログラムというふうなことはお話しできる、ないしは資料として提出できるとは思いますが、詳細については、それぞれの専門医ないしは今後の発展、それから治療者との間の合意というふうなものが必要でございますので、あくまでも大綱ということではお示しできると考えております。
水島委員 先ほどから、一般の方と一緒に治療をすると悪影響が及ぶとか、いろいろおっしゃるんですけれども、今でも、措置入院を解除できないような、極めて病勢が強いような状態にある方の場合には、これは医療上の判断で保護室に隔離されていたりですとか、別に、一般の患者さんが大勢いらっしゃるところに、ただそのまま入院されているというわけではないわけですので、何でここで別棟で特別な病棟をつくらなければいけないのかということの御説明にもなっていないと思います。医療上、隔離する必要がある場合には隔離できるように精神保健福祉法で定められているわけですので、何でプラスアルファの入院制度をつくらなければいけないのか、まだ理解できません。
 また、今大綱をお示しいただけるということですので、これはぜひ次回までに大綱としてお示しいただきたいと思いますけれども、その際には、それがほかの措置入院患者の方に関しては必要のない医療であって、特にこの人たちに特別の病棟において独立した形で行わないとうまくいかないのだということがわかるような形でお示しいただきたいと思います。
 普通の精神病院にもいろいろな病気の方が入院されていまして、それぞれの方にはそれぞれの専門的な治療があるわけでございまして、精神分裂病の方とうつ病の方が全く同じ病院に入っているから、同じ入院形態だから同じ治療を受けるなんということはあり得ない話でございますので、なぜそれを同じ環境の中で個別の治療として行っていくことができないのかというところもぜひお示しいただきたいと思います。
 では、これはぜひ次回までにそのような大綱の形で出していただけるということをもう一度確認いただけますでしょうか。
高原政府参考人 大綱についてお示ししたいと考えております。
水島委員 では、その大綱に基づきまして、ぜひ、本当に時間を効率的に使いたいと思いますので、次回、また質問をさせていただきたいと思います。
 さて、残り時間が少なくなってまいりましたが、前回の御答弁の確認の今度二つ目でございます。まだまだございます。
 まず、前回の高原部長の答弁、「私が医学的な観点からと言うのは、現行の措置入院制度におきましては医学的観点から医師のみが判断をしておるという点につきまして、医学的判断からと言っておるわけでありまして、担当しておる医師は、それなりに、家庭の状況であるとか、社会の状況であるとか、そういうふうなさまざまなことを考えて御判断にはなっておると思いますが、やはり、メディカルスキームといいますか、メディカルパラダイムといいますか、医療的な物の見方のみにとどまる。これはやはり対象者にとって必ずしもいいことではないのではないか。」と答弁されているわけですけれども、この「医療的な物の見方」「医学的な観点」というのは何なのか、そこに含まれないもので政府案において新たに制定されようとしているものは何なのか、それについて、これは大臣にお答えいただけますでしょうか。
高原政府参考人 ちょっと委員が混乱なさるような答弁を申し上げて遺憾でございます。
 精神保健福祉法における自傷他害のおそれの判断におきましては、措置診察の結果が重要な資料となっております。実務上、医療的な判断が重視されていることは事実でございます。措置診察を行う医師は、患者の生活環境など、さまざまな状況を考慮する際も、やはりみずからの専門分野である医療の視点から検討することが通常であることから、その旨を説明したものでございます。
 また、自傷他害のおそれの最終的な判断権者は都道府県知事でございます。このことは、措置入院制度の場合も純粋に医療的判断以外の判断を行うことが排除されているものではないということだと承知しております。
水島委員 そうしますと、前回の御答弁というのは余り意味がなかったということになるんでしょうか。医学的な物の見方とそうじゃない物の見方というのは、その違いと、今最後に、知事の判断というものがあるので医学的な物の見方以外のものが排除されているわけではないという趣旨であったと思いますけれども、医学的な物の見方と医学的な物の見方でないもので今回の法案で決められるものというのは何なのか、ちょっとそこの点だけもう一度お答えいただけますでしょうか。
高原政府参考人 余り上手な説明ではないかもしれませんが、措置制度におきましては、やはりクリティカルなポイントは措置診察であろうと思います。やはりこれからの情報がかなりの、かなりといっても半分どころじゃなくて、七、八割ぐらい重視されているんじゃないかというふうに考えております。
 その他の情報とは具体的にはどういうことなのかということでございますが、これは患者さんの置かれているいわゆる社会的なリスクファクター、つまり友人関係の強固さであるとか、サポーターがいるとか、家庭内が安定しているかとか、そういうふうな情報というものは当然参照すべきではあるけれども、自傷他害のおそれを判断する場合には、そういうふうなところまではなかなか入っていけないのが実情ではなかろうかという点で医学的と申し上げたわけでございます。
 新しい制度におきましては、裁判所が鑑定入院を命じまして、その間また精神保健福祉士等に意見を聞くとか、保護観察所が環境等について調査をするとかということもございまして、その社会的なサポート体制とか、入院しなきゃ本当に孤立してしまう人なのか、それとも地域の中できちんと通院をマネージすれば社会の中で治療しながら社会に溶け込むことができるのか、そういうふうな点は今回の制度の方が幅広に情報収集をするということになっております。
水島委員 私もまさに同じ問題意識を持ちますので、民主党案においては措置入院制度の判定をするときに精神保健福祉調査員というものを新設しているわけでございますけれども、つまり今の高原部長の御答弁というのは、民主党案にはそこの部分については賛成というような御答弁として受け取ってよろしいんでしょうか。
高原政府参考人 何らかの、例えばケアマネジャーとかケースマネジャーというふうな役割の人が、特に自傷他害であるとか、それから心神喪失状態で重大な犯罪に該当する行為を行った人とか、そういう患者さんには必要だねという点においては一致しているかと思います。
 しかしながら、私どもは、それを司法のサイドにおきます精神保健観察官という新しい官名といいますか公務員として規定したわけでありまして、これは、精神医療、保健福祉の専門家が該当する、どこにオフィスを置いてどうやるかという点においていささかの違いがあろうかと思います。
 さらに対象者につきましても、正直を申しまして、こういったケースマネジメントというのは、精神障害者に限らず障害者の社会復帰には必要なものでありますが、かなりのエネルギーと人手を食うものでございます。それで、御意見をあるいは異にするかとも思いますが、プライオリティーをつけてやるとするならば、やはり私どもが御提案申し上げている、心神喪失等の状態で重大な犯罪行為を行った、これでありますとかなり深いといいますか面倒見のいい体制ができるのではないかということで、こう考えております。
 一般の患者さんにつきましては、精神障害者生活支援センターでありますとか市町村の保健婦さんであるとか、さまざまな一般対策を車の両輪として進め、より適切な処遇を心がけてまいりたいと考えております。
水島委員 本当に時間がなくなってしまいましたが、私が伺ったのは、先ほど部長がいみじくも、措置制度においてはクリティカルなところは措置診察だとおっしゃったので、その措置診察のときのサポートとしての精神保健福祉調査員のことを申し上げたわけで、退院後の保護観察所のことを答弁されるというのはまさに最初から全く違う答弁をされているわけですけれども、そんなことを指摘ばかりしておりましたので、議論の前提にまだ至る前にきょうも持ち時間が今終わろうとしております。
 私が一番伺いたい、再び対象行為を行うおそれの判定のあり方などについて、今まで二回質問させていただいて、そこに行くまでの前提の整理すらまだ終わらないという状況でございますので、これからぜひしっかりと慎重な審議を進めさせていただきたいと思います。
 そして最後に、その前提として一つお願いしたいんですが、けさからもまた鑑定の問題についての審議がございました。そして、我が党の五島委員も先ほど各地検での簡易鑑定のばらつきについて問題にしておりましたが、その議論が先ほどから毎日新聞の記事をもとに行われているというのがちょっとおかしな話だと私は思いまして、これは今後の審議に備えて、法務省としてきちんと各地検における簡易鑑定の状況についての資料提出をしていただきたいんですけれども、お願いできますでしょうか。
古田政府参考人 簡易鑑定につきまして、網羅的な統計資料というのは実は持ち合わせておりません。ただ、単年度に限りましてどういう状況になっているのかということを調べた結果がございますので、それを提出することは検討させていただきたいと思います。
水島委員 新聞記事をもとに国会での審議をするというのも、特にそれが地検に関する資料であるというのに、私はとてもおかしなことではないかと思いますので、ぜひ資料の提出をお願い申し上げまして、そしてまた、次回以降それをもとにきちんとした審議をぜひさせていただきたいことをお願い申し上げまして、終わらせていただきます。
 ありがとうございました。
森委員長 次に、佐藤公治君。
佐藤(公)委員 自由党の佐藤公治でございます。本日は、こういう機会をいただきましてありがとうございます。
 私は、法律の専門家でもなければ医療の関係の専門家でもございません。ただし、自分がこの法案等を見させていただく中、疑問に思う点を率直に投げかけさせていただければありがたいかと思います。
 まず、坂口厚生労働大臣、大臣は私の質問に関してはもう大分おなれになっていらっしゃるので、どんなものが飛んできてもお答えになられると思います。ですので、私も気楽に聞かせていただきたいかと思いますけれども、大臣がさっき御答弁でもおっしゃいました、この法律というのは一つのことに絞り込んでいる、再発するかしないか、ここ一点に絞っているということなんですが、私がいろいろなものを見させていただく中、どうも議論がかみ合わない、平行線。民主党さんの話、また、ここで答弁されている方、また質問されている方、なかなかかみ合わない部分が多い。
 判定ということに関して、いろいろなマスコミ、メディアでも報じられている、判定の基準はいかがなものか、果たして予測というものが本当につくのか。そういう中で、大臣また法務大臣も、予測がつくということをはっきりおっしゃっておる。
 このかみ合わない議論をもう少し整理していただいて、国民にわかりやすい形で、一体全体、その判定の基準というものをどこに考え方、価値観を持って考えているのか、また、ほかの皆さんの意見はその価値観というものがどこにあると思われているのか、ここを一回きちんと整理して、わかりやすい形で私そして国民の皆さんに説明をしていただければと思うんです。
 ちょっと難しい質問かもしれないんですけれども、この判定ができるできない、天気予報の予測じゃありませんが、九〇%ならできるのか八〇%ならできるのか。実際問題、将来の予測に関して、それをきちっと確実になんということはまずできないというのが一般的な見方だと思います。
 こういうことに関して、大臣は、自分はどういう判定基準というものを設けて、できるとおっしゃるのは、一〇〇%じゃない、一〇〇%はあり得るわけない、それはわかっている、でも、今、現状、パーセンテージでいえばこれぐらいだ、しかし、民主党さん、ここで質問される、もしくは反対の意思を持たれている方々、こういう方々はこういう部分を違って見られているんではないか、こういうところをわかりやすく整理して説明をいただきたいかと思いますが、大臣、いかがでしょうか。
坂口国務大臣 再犯のおそれというのが診断できるのかどうかというお話だというふうに思いますが、これは、日本の精神医学界におきましても、ある大学の先生はそれはできるんだというふうにおっしゃるし、また、あるグループの皆さん方はそれはできないというふうにおっしゃるし、現在の段階におきましては、専門家の間でもそうした意見が分かれていることも事実でございます。
 しかし、諸外国に目を転じましたときに、諸外国におきましては、それをある程度でき得るという確信のもとにおやりになっている。そうしたこともあって、私は、ドイツの精神病院に対しまして、どういうふうにしてそれが行われているのか、本当にそこが間違いなくできるのかということを勉強しに行ったわけでございますが、少なくともドイツの私がお邪魔をしました精神科の先生方は、それは、今までの議論を重ねて、そして幾つものデータを重ねてきたけれども、それを診断することは可能であるという前提の上に立っておみえになるわけであります。
 ただし、今委員が御指摘のように、それじゃ一〇〇%できるのかという話になれば、それは私は、医療の世界の話でございますから、一〇〇%というのはいかなる分野においてもなかなか難しいんだろうというふうに思いますけれども、しかし、そこは診断し得るという立場に立っておやりになっていることは事実でございます。
 今回のこの我々の出しております法案におきましても、そういう確信のもとに出しているわけでございますが、しかし、そこでそれじゃ見直しは必要でないのかといえば、見直しも必要である。それは、少なくとも半年ごとの見直し規定を入れて、そしてそこで見直しを行って、もし万が一、初めそういうふうに思っていたけれども現状はそれほどではなかったということならば方向転換するということも、多分それはあり得るんだろうというふうに思います。しかし、それは可能だという前提の上に立って私たちは主張を続けているというところでございます。
佐藤(公)委員 可能だということで大臣、皆さん方は思われているんですけれども、それが可能じゃないという人たちは、ここがなぜかみ合わないんでしょうか。その前提が違っているということになるんでしょうか。大臣、いかがでしょうか。
坂口国務大臣 そこが、どういう理由でもって反対をされるのかということにつきまして、私は十分に存じておりません。
 しかし、精神科医が、いわゆる精神障害の類型、どういう形のものか、過去の病歴、現在及び対象行為を行った当時の病状それから治療状況、それから病状及び治療状況から予測される将来の症状、対象行為の内容、過去の他害行為のあるなし及びその内容、こうしたことを考慮に入れて総合的に判断をすれば、この人が将来起こす可能性としてあり得るかどうかということの判断はつき得るという立場で申し上げているわけでございますし、そして、可能性があるというふうに言われる先生方もそういうことを御主張になっているということでございます。
佐藤(公)委員 こうやって大臣からお話を聞いて、それもというふうにわかる部分があるんです。反対をされている方々の話を聞いても、それもわかるんです。でも、実際、なぜ本当にこんなにかみ合わないのかというところが本当にわかりづらい。ここをきちっとかみ合わせていかなければ本当の議論というのはできないのかなという気がいたします。
 また、大臣が先ほどおっしゃいましたが、反対をされている方々の前提というのは知らないがというふうにおっしゃいましたが、やはりそこいら辺をより研究し、わかった上で議論をかみ合わせる努力、時間というものも必要なんではないかと私は思います。
 ついては、こういう法律ができ上がるということ、これは、どの法律も大切ですけれども、またより一層、精神障害を持たれている方、こういう方々にとっても大事な法律というふうに言えると思うんですけれども、それにはやはりこれを成立させる上では責任というものが伴うと思います。予測ということに関して、これは実際問題、予測ということを踏まえた上での話ですけれども、これを成立させ、では、それが実際ちゃんとできるのかできないのか。見直していくということですけれども、できなかったときに見直していくということを考えられていると思うんですけれども、では、できなかったときに、うまく回らなかったときの責任ということに関しては、大臣、どうお考えになられるんでしょうか。
坂口国務大臣 申しわけありません、もう少しお話しいただけませんか。何が回らなかったときのお話でございますか。
佐藤(公)委員 私の言いたいことは、この法律が成立をし、これによって被害をこうむるような方々が出てきた場合、その人たちに対しての一つの、成立をさせた、つくった所管の大臣としての責任というものがあり得るんではないか。その被害というのはいろいろなことが想定されると思います。被害をこうむるということもあり得ると思います。これに関して責任というのをどう大臣はお考えになられるのか、また、どうやってそういったものをとるお考えがあられるのか、あったら教えてください。
坂口国務大臣 どういう被害をこうむることがあり得るのかということをにわかに判じがたいわけでございますが、我々は少なくとも、過去に重大な犯罪を犯した、そういう皆さん方に対して、再びその人たちが起こす可能性があるかどうかということの判断をしていく、そして、もしその人たちが繰り返すという判断をした場合には、その人たちにそれなりの治療を行うということでございますから、御迷惑をおかけするということは私はないんではないかというふうに思いますが、委員が御指摘になっております内容が十分に私理解できていない面もあるかもしれません。ありましたら、御指摘いただきたいと思います。
佐藤(公)委員 これは事前通告しておりませんけれども、法務大臣、今の私の質問を御理解していただけましたでしょうか。もしもいただいたのであれば、その責任というのは、これは厚生労働大臣に聞くべきことじゃなかったかもしれません、法務大臣に聞くべきことだったのかもしれません。法務大臣、いかがでしょうか。
森山国務大臣 大変難しいような御質問でございまして、私も十分理解しているかどうかわかりませんが、この法律の目的は、先ほど厚生労働大臣がおっしゃいましたように、重大な犯罪を犯された、心神喪失あるいは心神耗弱の状態等でそのようなことをしてしまった方々が二度とそのようなことを犯さないようにするために十分なケアをしなければいけない、そういう趣旨でつくられたものでございまして、目的は社会復帰ということにあるわけでございます。
 ですから、これによって被害を受けるというふうにおっしゃいますが、どういう被害があり得るのか。場合によって、もしかしたらあるいは人権を制約されて迷惑するということを考えていらっしゃるのかなとも思いますが、そういうことが全くないようにということは考えられておりまして、当然、人権の尊重ということは前提でございますし、また、入院されました場合にも、六カ月ごとに必ず点検をするようになっておりますし、さらに、退院されました後も十分なケアが行き届きますように保護観察の仕事も新しく創設いたしますし、考えられる限りのことを考えている次第でございまして、この法律によって被害をこうむるということが私といたしましては十分わかりかねますが、お答え申し上げるとすれば、今のようなことでございます。
佐藤(公)委員 これが僕は今の国会のあり方の問題なんじゃないかなという気がすごくする部分があるんですよね。やはり本当に、つくった以上、責任を持って、極論からいえば、何かあったら、私たちはそのときいたらばやめますとか、ちゃんと賠償請求、きちんとした金額補償はしますとか、そういうことが言える立場の方々だと思います。ですが、そういうこと、絶対いいなんということが言い切れるのかどうか、その辺のあたりというのは、私は非常に疑問に思う部分がある。
 僕が言いたいことは、今のこの法案、そして民主党さんの言っていること、両方とも大事なこと、大切なことがあるということなんですよ。両方とも本当は同時並行で考え、同時並行で進めるべきことだと私は思います。ですので、どっちがいいかどっちが悪いかというんじゃなくて、両方とも大事なこと。これを真剣に議論し、本当に今の社会、こういった問題を解決していくべき国会をやはり議論していかなくてはいけないかと思うんです。
 では、そういう中でちょっと法務大臣に幾つかお尋ねをさせていただければありがたいんですけれども、今までの議論の中で他害の議論が幾つかございました。他害ということにすればいい、いや限定をしていると。こういう中で、対象行為、第二条の第二項におきまして、この見方を、他害という広い範囲じゃなくて、この対象行為の中から見た場合には、実際、重大な犯罪ということになってくると、このほかに、刑法を見ますと、第百十七条激発物破裂罪とか、第百二十五条の往来危険罪とか、第百二十六条の汽車転覆罪、すごく古い名前な感じですね、汽車転覆罪、第百四十六条の水道毒物等混入罪、これは大事件だと僕は思うんですけれども、なぜこういったものを外して、この第二条の第二項にあるようなものに限定をしたんでしょうか。本来ならば重大な事件、それは確かに件数は少ないかもしれません、犯罪の絶対数は極めて少ないかもしれませんが、重大犯罪であることに変わりはなく、これらを排除する合理性がないのではないかというふうに思うんですけれども、いかがでしょうか。
横内副大臣 委員の御指摘のように、この法律案では、殺人、放火、強盗、強姦、強制わいせつ、傷害という六つの行為を対象行為といたしまして、心神喪失、心神耗弱の状態でこれらの行為を行った者をこの制度の対象にしているわけであります。これらの犯罪行為は、いずれも、個人の生命、身体、財産等に重要な被害を及ぼす行為であるということは当然でありますけれども、同時に、心神喪失等の状態で行われるのが過去の例としても相当数としても多いということから、心神喪失等の状態でこれらの行為を行った者については特に継続的かつ適切な医療の確保を図ることが肝要だというふうに考えまして、これらの行為を対象にしたものであります。
 御指摘のような、確かに激発物破裂とか往来妨害というような重要な犯罪行為もあるわけでありますけれども、こういうものが心神喪失の状態で行われるというのが必ずしも多くはないということが一つありますし、それに加えまして、そういった犯罪の場合には、そういった行為の場合には、同時に殺人だとか傷害の罪にも当たる場合が多くて、そちらの方で本法の対象になるという場合が多いと考えられますので、対象の犯罪とはしなかったということでございます。
佐藤(公)委員 今の説明でもわかる部分もあるんですけれども、そこで私が非常に疑問に思うことは、実際の今の全体の理念というか基本というものが、どういうことでこういった法律ができ上がってくるのかというのを非常に疑問に思う部分がございます。いろいろなことをこのたび読ませていただき、見させていただく中、例えば、一九八一年のときにつくられた、発表された保安処分の骨子における限定したものというのは幾つの対象ということにいたしたのか、答えられますでしょうか。
古田政府参考人 お尋ねは、改正刑法草案の後に法務省刑事局で発表した、修正をした骨子のことであると思いますが、これにつきましては、対象罪種としては、殺人、放火、強盗、強姦、強制わいせつ、傷害、これは傷害致死を含むわけですが、現実に起こることが相当数ある、そういうものに限ってするということにしておりました。
佐藤(公)委員 保安処分とは別物だということで考えられていると言いながらも、何か、その基本の考え方がどこにあってこういうものが出てきているのかというのが非常に疑問に思う部分があるということなんです。まず、保安処分や何かのことに関しても一つの延長線上で考えられた上での考え方、そしてまた、もしかしたら今法務省さんそして政府が考えていることは、法律の世界また司法の世界の話になると思うんですけれども、一元性、もしくは一元主義というような考え方を持たれてやられようとしているのか、現在の二元主義、二元制度というもの、こういったものと何か考え方が違ったものが出てきているのか。それは、本音の部分と建前論というものをうまく使い分けながら、ごまかしながら法律を通していく、そういうふうに感じられる部分が多く、非常に疑いを持たざるを得ないと思うんです。
 でも、一番今問題になっているのは、一般の方々に聞いてみてください、もしも政府に信頼というもの、国民との信頼関係があったんであれば、こういう法律というのはそんなに問題なく考えられる、そして議論が進むことだと思いますけれども、国民が、そして一般の方々が今の政治や行政に信頼ができないというところが一番の問題とも言えるんじゃないかと思います。いい法律をつくっても、使う人たちが悪かったら悪い法律になっちゃう、ここの部分だと僕は思うんですね。
 だから、僕は、今皆さん方がお話しされていることは、すごく大事なこと、必要なこともあるから、その賛否は別にしても、これは考えていくべきだ。民主党さんがおっしゃられるのも事実なんです。これも同時にやっていかなきゃいけない、直していかなきゃいけない部分、こういったものを強く感じるところがございます。
 そういう中で、法務大臣にお尋ねをしたいんですけれども、個々における細かい質問はちょっと後にさせていただきまして、法務大臣は代表質疑のところでおっしゃられておりました。鑑定ということに関しては、今、現状問題はないということをおっしゃられていたと思います。鑑定に関しては問題がないということをおっしゃられていたと思います。「事案の内容や被疑者の状況等に応じて、行われるべき精神鑑定の手段、方法についても適切に選択しているものと承知しており、現在の鑑定のあり方に重大な問題点があるとは考えておりません。」こういうお答えをされたと思います。
 しかし、いろいろな方々、またいろいろなメディアが報じている部分の中で、例えば一つの例を挙げさせていただければ、心神喪失、心神耗弱とされた者の九割近くが不起訴処分の対象であり、公判段階でも、無罪もしくは刑の減軽を受けた者が少ないこと。我が国の裁判で九九%近くが有罪判決を受ける傾向が反映されている。すなわち、公判で心神喪失を理由として無罪判決を受ける可能性が高い被疑者に関しては、検察官があらかじめふるいにかけて、その多くでは措置入院のための通報を行っていると推測される。こういうこととか、実際、検察、現場の方々の話を聞くと、もっと露骨な言い方をすれば、面倒くさいからこういう部分は先にどんどん処理できるものはしちゃえとか、本来のあるべき姿としての鑑定等をしていない、こういうような話がたくさん漏れ伝わってきております。
 こういう部分であると、鑑定自体はきちんとされているかもしれませんけれども、それを使う方々に問題がある部分がある。本来は裁判所が決めなきゃいけないことを事前に検察側が決めている。こういうような状態の中で、それを使う人たちによって恣意的にゆがめられている、もしくは恣意的に不起訴にされているというような話もたくさん出てきております。
 こういう部分に関して、法務大臣、いかがごらんになり、また、その辺は全く問題がないのか、もしくは、そういう部分をどう考えるのか。いかがでしょうか。
森山国務大臣 前にお答えいたしましたように、重大な問題があるとは考えておりません。検察当局におきましても、精神障害の疑いのある被疑者による事件の処理に当たって、犯行に至る経緯とか犯行態様とか犯行後の状況などについて、刑事事件として処理するために必要な捜査を尽くしまして、事件の真相を解明した上で、犯罪の軽重や被疑者の責任能力に関する専門家の意見等のいろいろな事情を総合的に勘案いたしまして、適切な処分を行うように努めているものと承知しておりまして、重大な問題はないはずだと信じております。
 しかし、いろいろなことをいろいろなメディアを通じて言われていることも私散見いたしておりまして、今まで行われたすべての事件について全く何の問題もなかったかというふうにおっしゃられますと、ずっと昔のことはもちろんわかりませんし、たくさんの事件の中には、百点満点ではないものもあるかもしれないとは思いますが、しかし、仮にそのような話をした人がいたといたしましても、それは、自分自身に対する自戒の念を込めて、十分心を引き締めてやっていかなければいけないということを言ったんではないだろうかというふうに思いますので、御心配のようなことはないと思います。
佐藤(公)委員 法務大臣、あなたは、そういう方々の一番最高の長にあられる。そこの部分では監督責任というものがあります。人ごとじゃないんです。やはり、それは謙虚に、きちんと耳を傾けて聞き、自分なりに調査をするなり、その環境が何が問題なのか、原因なのか。作業量なのか、仕事のやり方なのか。
 私は、先ほどの答弁の中でも不信感を抱いた一つ、これは、検察というものがきちんと公平、中立に行われていなきゃいけない、いるべきだと思いますし、そうあると私は思いますが、国民の皆さんと話をしても、やはり、まじめに生きている方々が報われるようなものになっているかといったら、みんな、疑問だと言います。力の強い方が得をし、力の弱い、でもまじめに生きている人たちが不遇な目に遭っちゃう、こういうことが現実あるように私は思います。
 そういったものを一つ一つ、やはり監督者である大臣がきちんと、その原因が何かを明確にし、変えていかなくてはいけないところがあります。人ごとではないと思いますので、きちんと調査をし、職場の改善その他をしなくてはいけないんであればそれなりにやる、人が足りないんであれば増員をきちんと要求をし、それだけの、公平、中立にできるような体制をつくる、こうあるべきだと思います。
 済みません、この論争をしていると時間がなくなっちゃって、また事前通告の質問ができなくなっちゃいますので、先に進めます。そういうことですので、十分気をつけてください。
 では、法務大臣、ちょっと細かいところに移らせていただきますけれども、この法案の中で、第二十四条の第五項において、警察官が行方不明の対象者を発見、通知した後の手続はどのように想定されているのか。同行状が発せられているときは第七十五条の二項によりますけれども、発せられていない場合はどうするのであろうか。また、発見と同時に身柄を確保する必要性、手段はいかがなものかというふうにこの法律を見て思うんですけれども、いかがでしょうか。
古田政府参考人 ただいまお尋ねの点につきましては、行方不明となった対象者の発見の通知を裁判所が受けまして、行方不明になったことが確定して、既にわかっていて同行状を発付しているときには、その同行状の執行ということでこれを裁判所まで連れてくる。それから、まだ同行状が発付されていなければ、同行状を発付しまして、裁判所まで連れてくるということになります。
佐藤(公)委員 では、次のことをちょっと聞かせていただきます。
 第三十二条の第一項の被害者の閲覧、民事訴訟関係、民事訴訟提起の必要性から、やはり、これは許可ではなくて権利とすべきだというふうにこの法律を見て思います。実際問題、これはただ横並びということで許可とされているのかもしれませんけれども、被害者の立場を考えた場合に、これは権利としてやはり考えていくべきだと思いますが、いかがでしょうか。
古田政府参考人 そのような御意見もあろうかと存じますけれども、処遇事件の事件記録、これは対象者の精神の状態、いわばその病気の状態等を中心といたしまして、対象者あるいは場合によってはその家族等のプライバシーに非常に深くかかわる事実が含まれている、そういうことが非常に多いことも事実でございます。そういうことからいたしますと、これが安易に明らかになるということになりますと、社会復帰の促進ということを阻害するということにもなる上、プライバシーの保護の上で非常に大きな問題が生ずるということでございます。
 そこで、この制度におきましては、その辺の事情を十分考慮して、裁判所において適切な範囲で、御指摘のような閲覧とか謄写その他について、被害者あるいはその遺族の方々等に裁判所が相当と認める範囲で、傍聴あるいは閲覧、謄写等を認めるということにすることが両方の調和の上で適切であると考えたということでございます。
    〔森委員長退席、山本(有)委員長代理着席〕
佐藤(公)委員 では、次を聞かせていただきます。
 第四十七条の第二項、ここにおいては「正当な理由」というふうに書いてあるんですけれども、「正当な理由」というのは具体的にはどういうことを指しているんでしょうか。
古田政府参考人 これは、先ほど申し上げましたようないろいろな対象者あるいはその家族等のプライバシーの保護、それから対象者の社会復帰、こういうようなことを十分念頭に置かなければならないわけでございます。そこで、そういう点を阻害することがないように十分注意をしていただく必要があるので、こういう規定を設けておるわけでございますが、この「正当な理由」というのは、一概にこういう場合ということが事柄の性質上決めにくいものでございまして、個別具体的な状況、目的で決まってくるということでございます。
 ただいま委員御指摘のように、例えば民事訴訟上これを利用する必要があるということで、弁護士さんに相談いたしますとか、あるいは、自分たちの家族、被害者等の民事訴訟以外でもいろいろな意味での利益の保護というのもあろうかと思いますが、そういう場合に、そういう問題についての職務を行っている人に相談する際にそれを打ち明けるとか、そういうふうなたぐいのことが典型的に「正当な理由」がある場合に当たるものと考えております。
佐藤(公)委員 この「正当な理由」というのがちょっとあいまいで抽象的な部分があるんですけれども、ここはなぜ具体的に例示的列挙をしていないんでしょうか。
古田政府参考人 それは、ただいま申し上げましたように、非常にいろいろな場合が考えられるわけで、それを個別具体的に、制限的に列挙するということは、実際問題として大変難しいと申しますか、かえってその範囲を狭くしてしまう、そういう問題があることから、やはり個別具体的なそれぞれの事情の判断で一般的に考えていくということにする方が適当であると考えたことによるものです。
佐藤(公)委員 これは、抽象的であると被害者の権利行使が萎縮する可能性がある、そういう部分からやはり具体性を持たせて列挙すべき点だと私は考えております。
 第三十三条の第三項において入院等の決定を申し立てない場合に、ここで被害者に対して処分結果を通知すべきだと私は思うんですけれども、それがこれに盛り込まれておりません。どうしてでしょうか。
古田政府参考人 ただいまお尋ねの件につきましては、これは刑事事件の処理をした後になるわけでございますが、その刑事事件の処理に関しまして被害者通知制度というのを設けて、これによって、特に御希望のある方を中心として通知をしているわけでございます。ただいまお尋ねのような場合には、その制度によって対応することになると考えております。
佐藤(公)委員 じゃ、同じようなことで、第五十一条の退院許可とか医療終了の場合、被害者に対して決定の結果をここでも通知すべきだと思いますが、同じようなことでしょうか。
古田政府参考人 今お尋ねのような御意見もあろうかとは存じますけれども、やはり一番重要なポイントは、この対象となる人について、どういうことでどういう処遇が決められるのかということがまず一番重要であろうと考えるわけでございます。
 それによりまして、以後、それに従った処遇が行われていくわけでございますが、その後の過程は、これは基本的に本人の社会復帰ということを重視しなければならないものでございまして、先ほども申し上げましたように、いろいろな、プライバシーとかそういうことにかかわることも非常に多い問題でもあり、最初の処遇の決定、そこの手続が終わった後は、基本的に対象者の社会復帰を重視して考えさせていただくようにしたい、そういうことでございます。
佐藤(公)委員 じゃ、もう一つ。第九十九条の第三項なんか、行方不明になった場合でも被害者への連絡を必要になすべきではないかということも、ここもそう思うわけでございますけれども、これから法務大臣、厚生大臣に聞かせていただきますので、聞いておいてくださいませ。
 私が言いたいことは、今こうやって指摘をさせていただいたことは、一般犯罪に比べてなぜここまで被害者に配慮するのかというようにお思いになる部分もあると思います。という問題もありますが、一般犯罪に比べると、重大犯罪を犯しながら社会内処遇で処理されるケースが多いと思われること、法律目的に照らしても、被害者に配慮してこそ対象者の社会復帰促進に資するということがその根拠となっていく。とても被害者のことを気遣いながら社会復帰促進に関して考えていく。その被害者というものに関して、これをもう少し考えていくべきところが幾つかの箇所であるのではないかと思います。
 被害者に対して、被害者の権利または被害者の権利保護ということでも、いろいろなところで議論がありますけれども、法務大臣、今回の法案に関して、被害者に関する配慮というか、被害者に関するものを前提にした気遣いの中での社会復帰促進というものを考えていくべきだと思いますけれども、いかがでしょうか。
森山国務大臣 この法律による新たな処遇制度におきましては、重大な他害行為が行われた後、検察官の申し立てによって行われる審判につきましては、裁判所が被害者等の申し出によりその傍聴を許すことができることとするとともに、決定の内容等を被害者等に通知することとしておりまして、被害者等の心情にも十分配慮したものとしているところでございます。
 また、本制度においては、継続的な医療を行わなければ心神喪失等の状態の原因となった精神障害のためにその者が再び重大な他害行為を行うおそれがあると認められるか否かを判断するに当たりまして、その者によって行われた重大な他害行為の内容も重要な考慮要素の一つとしております。当該行為の動機、態様、その者と被害者との関係等の事実につきましても、処遇の要否、内容の決定に当たって当然考慮されることと考えます。
佐藤(公)委員 同じ質問を厚生労働大臣に。
 今の質問に関して、ちょっとわかりにくい部分もあり、また担当分野外のこともあるかもしれませんが、やはり私は、被害者という方をもう少し意識した、また考えた法律であるべきことという考え方というのが大事だと思うんですけれども、厚生労働大臣、いかがでしょうか。
坂口国務大臣 被害者のことにつきましても十分配慮をしなきゃならないという委員のお気持ちは、私もよくわかるわけでございます。
 ただ、それは司法全体の中でお考えをいただくことであって、いわゆる重大な過失を犯しました方々に対する、再びその人たちが同じようなことを起こさないようにするというその一点に絞りましたこの制度の中ではなかなか考えにくい。もっと幅広く全体の中で考えていただくべきものと思います。
佐藤(公)委員 もう最後になりますのであれですけれども、私は、その一点に絞った、再犯のおそれということに関しての判定基準ということがどうしても、幾ら聞いてもよくわからない、かみ合わない部分が多い。ここをかみ合わせるともっといい議論ができるんじゃないかなというふうに私は思います。ここら辺のあたりをもう少し厚生労働大臣の方でもいろいろと見ていただき、議論をかみ合わせるようにお願いをさせていただいて、私の質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。
山本(有)委員長代理 瀬古由起子君。
瀬古委員 日本共産党の瀬古由起子でございます。
 きょう、私がここに持ってまいりましたパンフレットがございます。これは実は「ビューティフルマインド」という映画がございまして、ことしのアカデミー賞を受賞した映画でございます。
 これは、実在の人物を映画化したもので、精神分裂病、統合失調症の患者、ジョン・フォーブス・ナッシュという数学者が、三十年間精神病院の入退院を繰り返しながら、かなり危機的な状況まであったわけですけれども、病気と闘って、とうとうノーベル賞を受賞した物語です。その受賞会場でも幻聴や幻覚があらわれるが、彼はそれが現実でないことを冷静に判断して行動する。すなわち、病気とともに生きていく道を見つけたわけでございます。ナッシュを支える家族や職場の同僚の愛情、いざというときに直ちに駆けつける精神科医、重い精神病の病気があっても社会の中で生きていくというナッシュのこういう姿に多くの精神障害者や家族が勇気づけられたんではないかと思います。
 私自身は、民間の精神病院のソーシャルワーカーとして働いてまいりました。こうした流れが世界でも確かな流れになっていることに大変感動いたしております。
 そこで、具体的に政府の提出法案について質問いたします。
 この法律で、触法の心神喪失者に対する医療が向上するか、いかなる医療が行われるのか、これは大変重大な問題だと思います。そこで伺います。
 まず、触法精神障害者の捜査段階での治療なんです。私は、この治療は極めて不十分だということは大変問題だと思っています。我が党が提案していますけれども、必要に応じて拘置所から病院に通院させたり、警察や検察による被疑者取り調べが時間外に及ぶ場合は指定医師の同意がある場合に限るなど、病状悪化を招かない措置が必要だと思いますけれども、その点いかがでしょうか。
    〔山本(有)委員長代理退席、園田委員長着席〕
鶴田政府参考人 お答えいたします。
 拘置所は勾留の裁判を執行する機関でございまして、したがいまして、勾留中の被疑者や被告人の逃亡や罪証隠滅の防止に十分留意することが要請されているところでございますが、ここに収容されております未決拘禁者につきまして精神科の治療を要する場合は、その者の身柄の確保を図るとともに、捜査中であるあるいは裁判中であるということから、その精神状態を安定させることにも配意しつつその処遇に当たっているところでございます。
 お尋ねの捜査段階における精神障害者の取り扱いにつきましては、精神科医の配置されている施設ではそのお医者さんが、あるいは、精神科医の配置のない施設では近隣の矯正施設や外部の精神科医の方に来ていただきまして、診察を行い、必要な投薬治療等の専門的な治療を実施しているところでありますけれども、今後とも一層適切に実施できるよう努めてまいりたい、そのように考えております。
 なお、拘置所では、どのような時間帯に行われるかにかかわらず、その取り調べが未決拘禁者の健康管理上悪影響を及ぼすおそれがあると拘置所の医師等が判断した場合には、従来からその旨を検察官等に連絡いたしまして適切な対応を行うよう配慮を願っているところでございます。
瀬古委員 これは、現状は極めて不十分です。今言われたこともあるかもしれませんけれども、全体的には、今、触法精神障害者の捜査段階での扱いが大変不十分な状態に終わっている。この点は、制度的にきちんとその病状悪化を招かない措置というのが私は必要だというふうに思います。ぜひ御検討いただきたいと思うんです。
 そこで伺いますけれども、第八十一条で、指定医療機関の行う医療について、この医療は現在行われている医療と比べてどのように変わってくるんでしょうか。第八十三条では現行の診療方針や診療報酬にない治療を行える規定がありますが、それは例えば具体的にどんな医療が考えられるんでしょうか。その場合には別建ての診療報酬体系という形になるということなんでしょうか。いかがですか。
高原政府参考人 本制度の指定入院医療機関における医療でございますが、医師や臨床心理技術者による精神療法を頻繁に行う、作業療法などを通じた社会復帰に向けた訓練を綿密に行う、患者の行動観察を入念に行いおそれの評価を行うなど、一般の精神病院で行う医療とは異なり、手厚い専門的な医療を行うこととしております。
 また、法案八十三条第二項でございますが、これらに関連しておりまして、「前項に規定する診療方針及び診療報酬の例によることができないとき、又はこれによることを適当としないときの診療方針及び診療報酬は、厚生労働大臣の定めるところによる。」と規定されております。
 これは、健康保険の診療報酬に記載のない検査や治療、手厚い人員配置などに対する入院料などを別に定めることを考えているからであります。
瀬古委員 診療報酬体系にないような検査やそういう治療というものは、一体、具体的にどういうものがあるのでしょうか。
高原政府参考人 診療報酬、いわゆる点数表に明らかに定めてないものにつきましては、類似のものが準用して適用されることが多いわけですが、これは、ある程度の治療手技もしくは検査といったものが定着されまして、そういったものが評価の対象になってくるというふうなプロセスを踏むわけであります。司法精神医学におきます心理判定ないしは心理検査、有名なものが幾つかありますが、こういったものについて、これが定着するのを待って定められるのを待つということもあるかとは思いますが、やはり積極的に定めて、定着を図って評価を確定していきたいと考えておるわけであります。
 それから治療法でございますが、例えば、精神療法とか心理療法とかというふうな形で一括されて表記されておったり、それから入院時における算定の回数制限とか、そういうふうなものもあるものもあるわけでございますが、こういったものについても、人員配置に応じて、頻繁な治療に即応した点数が算定できるように、そういった点数を定めていくという所存でございます。
瀬古委員 例えば、外国の保安処分施設で使われていると言われております薬を、そういう日本では認可されていないけれども外国で使っているような薬を使うとか、それから、ある意味では強制的に記憶をなくしてしまうとか、それから電気ショック、これは一定まだやっているところもありますけれども、それから、大変大きな問題になりましたロボトミー、廃人にしてしまう、こういう、人権上に大変重要な問題になるやり方が、治療とか検査とかいう形でやられることはないんでしょうか。
 それから、濃厚なといいますか、頻繁な治療というふうに今言われましたが、幻覚などで例えば自分の家族を殺害してしまった場合、身内を殺害した例というのはかなり多いわけですけれども、そういう場合に、本人が一定そのことについて自覚が明確になった、それで、マンツーマンでさらに、先ほどから出ていますように、本人の責任をもっと自覚させるというようなことをやることによって本人を追い込んでいくという場合も実際にはあると思うのですね。そういう意味では、マンツーマンで濃密にやることが果たしていいのかどうかという問題もございます。
 そういう一つ一つのケースを十分考えなきゃいかぬと思うのですね。一体どんな治療が必要なのか。実際には、精神科医療の治療の到達点に立った研究やそういう体制も必要だと思うのです。そういうものが不十分な中で、ともかくやってみるという程度では私はだめだと思うのです。
 それから、そういう治療が本当に人権上問題ないのかということでも、きちんとした情報公開がされていくのかどうか。ある意味では、治療という中で閉じ込められないのかどうか。こういう面でのチェック体制は十分やれるという保証があるのでしょうか、いかがですか。
高原政府参考人 委員御心配のような点につきましては、したがいまして、私どもといたしましては、この司法精神医療については国の責任でやる、そして厚生労働大臣が直接にその治療内容に、ある意味ではくちばしを入れることができるというふうな体系をとっております。
 御指摘のような新薬であるとか輸入薬であるとか、いわゆる薬事法の承認のないものにつきましては、一般の医療機関で行うのと同様の細心の注意を払う必要があると考えておりますし、ロボトミー等につきましては考えておりません。
 それから、心理療法とか精神療法につきましても、頻繁にやる、度が過ぎると、これはかえって追い込むことになるのではないか、ないしはマインドコントロールみたいなことになるのではないかということを御懸念かと思いますが、これは、人員とかなんとかにつきましても、せいぜい集団的なものとか、個別のものを一日に一、二時間というふうなものが限度でございましょう、準備等も入れて。それで、過度にわたることはもちろんないように留意するとともに、これは精神医療の専門医がみずから行う、ないしは心理の専門職に依頼して行うものでございますので、患者の状況を十分調査しながら、評価しながら、そういうことのないように努力する。これは一般の医療と同様でございます。
 次に、例えば自分の家族を殺した場合、それを自覚するということは、かえって追い込んでしまうことになるのではないかというお尋ねでございます。これにつきましては、御指摘のとおり、大変デリケートな問題があると考えております。しかしながら、逆にそれを忘れさせるとか意識の底に押し込めてしまうということによって症状というふうなものもまた変わってくるわけでございますので、その道の練達した精神科医が直接観察を行いながら、国の責任で行う。
 こういうふうな体制をとりながら、御指摘のように、プライバシーに触れない程度の情報公開は積極的に行いながら進めていく、こういうふうに考えております。
瀬古委員 どういう治療が行われるかというのは、ここはまだ、私は大変難しい問題があると思うんですね。そういう点ではもっともっと研究しなきゃならないと思いますけれども、単なる注意をしますとか大臣がくちばしを入れるというだけじゃなくて、きちっと制度的な、人権をチェックするような体制も含めてつくっていかないと、私は大変心配だというように思っています。
 次に伺いたいのですけれども、退院した場合、特定医療機関から退院した触法精神障害者の地域社会におけるケアは保護観察所ではできない、そういう体制がないということは、先日の法務委員会で我が党の木島議員が明らかにいたしました。
 では、この特定医療機関から退院した人が戻ってきたところに通院する病院とかそれから社会復帰の施設がない場合、これはどうするんでしょうか。強制力を持って通院させるというふうに先ほど御答弁にありましたけれども、そういう継続的な治療や社会復帰施設が確保できないという場合は、また再入院という形になってしまうんじゃないかと思うのですが、いかがでしょうか。
高原政府参考人 社会復帰の体制が整わないために退院ができないといたしましたとすれば、この法の目的自身が否定されるわけでございます。この法律は、まさに障害者の社会復帰のための法律でございます。したがって、そういった本末転倒のようなことが起こらないように最善の努力を払いたい、そういうふうに考えております。
瀬古委員 実際には本当にそういうふうになるのかということなんですよ。私、実は、きょう皆さんにお配りしております資料の中に、ちょっと資料五というところから見ていただきたいと思うのですが、ここには、精神障害者の社会復帰施設等市町村別設置率というのがございます。
 これを見てみますと、全国で設置されている市町村は一〇%です。一割しかないんですね。九割の自治体はこの精神障害者の社会復帰施設が何にもないという、こういう状態なんです。そういうところに、こういう特定医療機関から退院して、通院も社会復帰もしなきゃならない人たちが出されて、実際に行くところないでしょう、どうするんですか。
 今でも、精神障害者の人たちが、これは後でお話ししますけれども、なかなかそういう受け入れ体制がないということで退院できないという状況になっている。ましてや、あなたたちが言う特定医療機関から出た方々、そういう人たちこそ、きちっとした社会復帰の体制が必要でしょう。それが全くない。
 例えばどこか離れた施設に、それはあるかもしれません。しかし、そうしたら、そこには家族も来ないような、ある意味では、自分の知人や友人、それを援助する人たちも、だれも来ないようなところに閉じ込めるか、どっちかになっちゃいますよね。
 こういう形で本当に通院が保障されるんでしょうか。いかがですか。
高原政府参考人 通院医療につきましては、それぞれの対象者にとって社会復帰を図るにふさわしい居住地、環境において医療が行われることが適当であると考えられることから、指定通院医療機関については、そうした居住地からの通院が可能となるよう、民間の診療所等も含めて幅広く確保することを考えております。
 また、通院者については、精神保健観察官による精神保健観察に付されるとともに、保護観察所が指定通院医療機関や都道府県と協議し、協力体制を整備することによって、その円滑な社会復帰を図ることとしております。
 精神障害者の社会復帰施設は、精神障害者が地域に自立して生活していくために必要な訓練や福祉サービスを提供するものでありまして、その整備は極めて重要な施策であると考えております。
 これは触法の精神障害者の方に限らず一般的に必要なわけでございまして、こうした認識のもとで、障害者プランに基づき、精神障害者社会復帰施設を設置運営するに必要な経費についての補助を行うなど、計画的に社会復帰施設の整備を図ってきているところであり、今後ともなお一層努力してまいりたいと考えております。
 また、御指摘の、いわゆる九割の市町村にないのではないかということでございますが、社会復帰施設の整備につきましては、例えば、生活訓練施設や通所授産施設といった基本的なものにつきましては、障害保健福祉圏域に少なくとも一施設設置することを目標に掲げておりまして、各種施設の整備を促進しているところであります。
 しかしながら、一方、精神障害者社会復帰施設の設置については、地域の方々の理解、協力を得るのに時間を要することも事実でございまして、整備が進んでいないということもございますが、今後とも全力を挙げて、理解と支援を求めるために地域交流スペースを整備するなど、精神障害者に対する理解の促進に努力してまいりたいと考えております。
瀬古委員 努力するにしても、一割しか、市町村にこういう施設を持っているところがないわけですよ。
 この表を見ていただきますと、例えば、名前を挙げますと、高知県なんかは一つの市しかない。それから、佐賀県なんかも一つの町しかないんですね。福祉圏でといったって、一つの県にそれしかない。一体どこに帰るのかという問題があるわけですよ。
 これから努力すると言うんだけれども、まだ一割しかないわけで、まあ来年度で八割、九割までしますというなら少しは聞く耳持とうかなと思うけれども、一割しかないのに、これから努力しますといいながら、一方では、ある意味では、通院などを、社会復帰なども監視つきで強制的にやろうというわけでしょう。それならそれにふさわしいものがなきゃ、実際にはどうなるか。通うところがないということなら、戻らなきゃ仕方がないじゃないですか。こういう問題になってくると思うんですね。
 大変私は重要な内容と思うんですが、坂口厚生大臣、どうですか、それを聞いていただいて。本当に保障できるのかどうか。入院とか外来、それから社会復帰の体制ですね。本当に見通しがないと思うんですが、いかがですか。
坂口国務大臣 今委員のお述べになりますこと、ずっと聞かせていただいておりまして、一般の精神病者の皆さん方にも現在一部ありますけれども、やはり中間施設のようなところも少し要るのかなというふうに思いながら今聞かせていただいていたわけでございます。
 いろいろのことを考えながら、本当にその人たちが回復をしていただけるような道筋というものを現実的にやはり組み立てていく以外にないというふうに思っております。
瀬古委員 ですから、現実的にそういうものを組み立てた上でこの問題を考えないと、まず最初にそういう準備も十分整えないで、この法律だけひとり歩きしていくという問題になると、これは重大な問題になってくると思うんですね。その点をぜひ指摘しておきたいと思います。
 次に参ります。
 私は、日本の精神医療そのもののおくれという問題が大変深刻だと思うんです。そういう問題、この精神医療のおくれ、これを解決するということは、精神障害やそれから人格障害に起因する犯罪の防止、再発の防止にとっても極めて重要だと思っています。この基本的な問題についての認識をお伺いしたいと思うんです。
 まず、一九八八年施行の精神保健法は、入院中心医療から地域医療、地域ケアへの転換を示しました。一九八三年の厚生省実態調査では、受け入れ体制があれば退院できる患者は、困難であるが退院可能を入れて約五七%になっていました。
 一九九九年の、一番最新の調査なんですが、これは資料一を見ていただきたいと思うんですが、これを見ていただきますと、入院中の精神障害者の三十三万人のうち、受け入れ体制があれば退院できる患者は七万二千人、約二二%です。この二十年間で、受け入れ体制があれば退院可能者が、前は五七%、六割ぐらいあったんですが、半分に減ってきた。大変困難になってきているということをこの調査は示していると思うんですが、この点いかがでしょうか。
高原政府参考人 委員御指摘の統計は、厚生労働省が実施いたしました患者調査において、精神病床入院者三十二・九万人のうち約七万二千人、二一・九%が条件が整えば退院可能であるという結果であろうと思います。
 また、過去に行われた類似の調査の例といたしましては、昭和五十八年に厚生省が実施いたしました精神衛生実態調査におきまして、精神病床入院患者の近い将来の退院の見込みは、「退院して社会生活ができる」が八・四%、「条件が整えば退院の可能性がある」が二二・〇%ございました。
 また、平成五年に日本精神病院協会が実施した精神病院在院者実態調査報告において、在院患者の重症度が、寛解及び院内寛解が合わせて一二・九%、軽度が一八・四%でございました。
 平成十一年に日本精神神経学会リハビリテーション問題委員会が実施した長期入院患者の退院可能性とリハビリテーションニーズに関する調査におきまして、退院可能とされた者は四%、一年以上在院患者のうち、通院服薬あるいは地域生活問題が改善されればという条件つきを含めますと二八・四%等でございました。
 これらの調査結果から見まして、いわゆる社会的入院と考えられる者の割合は入院患者の二割ないし三割程度で近似していると考えておりまして、そういった者を対象に諸施策を展開しているところでございます。
 また、各調査は、対象施設の選定方法、対象となる患者、調査項目等の実施方法が異なるため、比較を行うことは困難ではありますが、いずれにいたしましても極めて重要な課題だと考えております。
 したがいまして、定義、調査方法等が異なる点から、いわゆる社会的入院者が増加しているのか減少しているのかということについては、直接的にコメントはちょっと難しいかと考えております。
瀬古委員 私は、厚生労働省、かつては厚生省のその実態調査について聞いているんです。最初は五七%、今は二二%、一体どうなっているのかと。
 まあ七万二千人というけれども、七万二千人どころじゃない、先ほど十万人というお話も出てまいりました。この資料一でも見ていただきますように、入院を必要とするという人が十九万七千人。本当にこの十九万七千人の方が精神病院にいなきゃならないのか、私はこれについてももっと正確な分析をするべきだと思うんですね。
 何で、必要もない、あなたたちが言うだけでも七万二千人の人たちがいつまでも精神病院に入っていなきゃならないのか。さらには十数万人、二十万人かもしれない、こういう人たちが何でいつまでも精神病院にいるのか、なぜ退院できないのか。私はもっと実態を正確に調査分析すべきだと思うんですが、その点いかがでしょうか。
高原政府参考人 今年度、精神障害者社会復帰サービスニーズ調査を実施する予定でございまして、御指摘の実態調査の必要性もこの中で含めて検討してまいりたいと考えております。
瀬古委員 では、厚労大臣に聞きたいんですけれども、患者の入院期間は、この資料二を見ていただきますと、三年未満が十五万人、四五%です。半数以上が三年以上の入院です。十年以上の入院は十万人もいる。それも、資料三を見ていただきますと、四十五歳から六十九歳がかなり占めている。受け入れ条件が整えば退院可能だという人々は、時間がたてばたつほど退院が困難になっていくんですね。
 私は、本当に急がなきゃならないと思うんです。少なくとも、あなたたちが言うなら、この七万人の人々の社会復帰はどのように保障されるんでしょうか。いかがでしょうか、大臣。
坂口国務大臣 現在の医療の中で、科別に見ると、精神神経科と申しますか、この分野のやはりおくれというのは否めない、私も率直にそう思います。
 さて、ここをどう整備していくのか。これは病院の中の整備だけではいけない。やはり地域にこの人たちを受け入れるための整備をしていくということは、大変これは幾重にも行わなければならない、非常に時間とそれから財源のかかる話ではあるというふうに率直に思うわけですが、しかし、ここはやはり少しずつでもやっていかないと、入院しておみえになる皆さん方を受け入れていくことができ得ない。大変大きな問題だというふうに私も認識をいたしております。
 ですから、地域にお帰りをいただきますときには、その皆さん方にやはり働いていただくような場所をどうつくるかといったこともございますし、それからもちろん、先ほどから出ておりますように、地域における治療の問題、いわゆる医療機関の分散の問題もあるわけでございますし、全体として非常に少ないという問題点も存在する。そうしたことを、整備を一つ一つやっていかなければならないわけでございますので、その問題意識というのは十分に持っているつもりでございまして、今審議会でいろいろ御議論をいただきまして、ことしの秋には審議会の結論も出るというふうに聞いておりますから、そのことも十分に参考にさせていただきながら、やはり精神神経医療というものの改善というものを進めていかなければならない、そういうふうに思っております。
瀬古委員 私は、大臣はそのおくれは認められたんですけれども、何でおくれたのかという分析が必要だと思うんですね。
 資料四を見ていただきますと、海外と比べて、ぐんとふえてきているのは日本だけで、あとはみんな七〇年代を契機にずっと減らしてきていますね、患者さんを。何でこうなったのか。何で日本だって外国と同じような道をたどらなかったのかというところに私はもう少しメスを入れなきゃならないと思うんです。世界の流れが、一九六〇年代から脱病院化、脱施設化の流れがあって、日本だけがふやしてきている。
 日本政府は、それに気づく、脱出するチャンスが幾つかありました。
 一九四七年、一九四八年には、厚生省が呼んだ二人のWHOの精神衛生顧問、ポール・レムカウ教授、アメリカ・カリフォルニア州の精神衛生局長のダニエル・ブレイン氏、彼らは地域医療保健の重要性を指摘して、病院中心の医療を批判する勧告書を残しました。しかし、日本はこれを取り入れませんでした。やがて患者狩りまでやって精神病院建築ブームが起きて、一九六三年にはライシャワー事件が起きてさらに精神病院建築ブームは高まったんです。
 日本は一九六九年に、WHOの顧問として、今度は英国からの派遣を要請して、ケンブリッジの精神医療で実績のあるD・H・クラーク氏が派遣された。クラークさんは三カ月間にわたって調査して、日本の政府に勧告をしたんですね。この勧告も、時間がもうございませんので言いますけれども、今の日本の精神医療、病院中心の精神医療から、やはり地域中心の精神医療に変えなきゃならないという勧告をしたわけです。それに対して日本の政府はどういう態度をとったのか。
 クラークさんが派遣された当時の日本側の責任者の加藤正明国立精神衛生研究所長は、日本社会精神医学会の講演で次のように述べておられます。この彼の勧告書はブレインやレムカウよりも鋭く、そして、厚生省に上位の精神科医がいない、精神病院に五年以上在院の若い患者が増加しており、今後三十年在院し続けるだろう、院主や看護婦が精神科に経験不足で、院主は収入を上げようと職員に圧力をかけている、一九八〇年から老人患者が急増する、こういうふうに言って勧告をした。しかし、これらの勧告が新聞記者に公表されたとき、行政の担当者が次のような発表をしたのには全く唖然とした。英国は何分にも斜陽国でありまして、日本がこの勧告書から学ぶべきものは全くありません、こういうふうに記者会見で言ったそうなんですね。これだけきちっと指摘していたんです。
 これは事実でしょうか。
高原政府参考人 当時の厚生省の課長の発言については、発言録として残されたものがございませんし、また、当該課長は既に亡くなっておるため、そのような発言があったかどうかについては、事実は確認できておりません。
 なお、御指摘の文献が存在するということは事実でございます。
 また、そこで指摘された内容につきましても、その後、若干のおくれはございますが、着実にその実施に向けて取り組んできたということもございます。
瀬古委員 四十年もおくれたんです。その結果、そのときの勧告を受け入れていたら本来とっくにもう退院できた人たちが、退院できないままこの間進んできたんですね。それだけじゃありません。
 一九八五年の五月には、国際法律家協会と精神科の専門家も入れた調査団が日本に派遣されました。この報告書でも、不適切な治療形態と重大な人権侵害を生み出す状況をつくっている、こういうふうに指摘されているわけです。このときにも、日本が依頼して来てもらったんですよ、そのWHOのこういう顧問の意見も聞かず、そして、こうした国際法律家協会の指摘もずっと無視し続けたんですね。
 こういう問題は、私は本当に、これから一生懸命やりますと言うのはやっていただければいいんですが、取り返しのない事態をつくってきたという点では、とりわけ、本来社会復帰できる人たちを病院の中に閉じ込めてきたという点で、私は重要な日本政府の責任は問われると思うんですが、その点、いかがでしょうか。大臣、お願いします。
高原政府参考人 日本の病院数が人口に比べ、諸外国に比べて著しく多いこと、在院日数が長いことは事実でありまして、これらは早急に是正すべきものだと考えております。
瀬古委員 四十年間もおくれてきた責任があるんですよ。ある意味では、単なる次をやりますというだけでは済まされない。それこそ、この加藤正明元国立精神衛生研究所の所長は、このクラーク勧告書を契機に変わっていたら、今日これほど日本が国際的な批判を浴びるようなことがないと思われて残念でたまらないと言っていらっしゃるんですね。こういうところにまで日本の精神医療を追い込んできたわけですよね。
 私は、なぜこうなったのかということについても分析しなきゃならないと思うんです。
 一つは、やはり外国と比べて民間依存の体質の問題だと思うんですね。外国では圧倒的に国や自治体が責任を持っているけれども、日本は民間で、病院数では八二%、病床数では八九%ですね。それで、精神医療というのは、もともと人手のかかる、本来採算の合わない分野です。この分野の国としての責任を放棄してきたと私は思うのです。そういう点で、私は、この反省をしっかりして、今後、やはり国が果たすべき役割というのはきちっとさせなきゃならないと思うのです。
 そういう点では、例えば医療を充実するという問題を言いましても、国立病院の統廃合が行われる、また、独立行政法人化。国が直接精神医療にかかわる、医療が今後後退しない、抜本的に改善できるなどということが言えるんでしょうか。いかがですか。
坂口国務大臣 この精神科の医療がさまざまな面でおくれている点があることは先ほど申し上げたとおりでございますが、これは、国立が少なくて民間が多いからおくれているとは私は思っておりません。これは、民間は民間できちっとおやりをいただいているところもあるわけでございますしいたしますから、それは民間の病院にお任せできるところはお任せをしていかなければならない。ただし、まあ、非常に不採算部分がある場合には、それは国の方がやっていかなきゃならないということもございましょう。それが国であれ民間であれ、精神科の病院として存立できるような体制、そしてその中が改善をされるような体制をやはりつくり上げていかなければならない。
 必ずしも、日本はベッド数が少ないわけではなくて、ベッド数はかなり多いわけでありますから、ベッド数が多いというそのことよりも、ベッド数よりもやはり質的に上げていかなきゃならない。そこは、入院の部分も大事でございますが、地域におけるケアの問題も非常に大きい。だから、入院と地域のケアと両方の分野に目を配りながら、新しくそこは構築をしていかなければならない。
 ここまで来ているわけでありますから、ここをどう改革をしていくかというやはり手順の問題だというふうに、何から手をつけて何からやっていくかということを明確にしていかなければならないと私は今思っている次第でございます。
瀬古委員 何でベッド数が多いのかという問題を私は考えなきゃいかぬと思うのです。一つは、やはり精神科特例という形で診療報酬を本当に低い形で押しつけてきた経過があるわけでしょう。民間病院は、これだけの看護婦やお医者さんの配置では結局患者さんを薬漬けにする、長期入院で採算を合わさざるを得ない、こういうところにあなたたちは追い込んできたんですよね。それは、私は民間病院だって民間病院で一生懸命やってきたと思うんです。しかし、それに見合うものを全然保障してこなかった。結果としてはこうした長期入院の患者さんをつくったというその責任にきちんとメスを入れなきゃならないと思うんです。
 そういう点では、具体的に、特別に精神科は医者が少なくていいなどという、こういうやり方が本当に改善されるという決意を示されるならいいですよ。具体的に、じゃ、お医者さんの配置は、改善は一体いつ行うんですか、いかがですか。
坂口国務大臣 先ほど申しましたとおり、ことしの秋、審議会の結論も出ますし、そうした問題を踏まえて新しい精神科医療のあり方というもののいわゆる青写真というものをかきたい、そう思っている次第でございます。
瀬古委員 私は、本当に一気にやらなければ、しかし、やったとしても本当に戻れるかどうかという大変重要な責任がやはり国に問われていると思います。
 社会復帰の問題についても、先ほど言いましたように、自治体の精神障害者の社会復帰施設の設置率は一〇%だ、九割の自治体では何にもない、こういう状態なんですね。手が全くついていないという状況なんです。
 それで、こういう社会復帰施設のおくれをカバーしてきたのが、実は無認可の小規模作業所や無認可の小規模グループホームなんです。
 資料六を見ていただきたいんですけれども、見ていただきますと、政府の進めてきた社会復帰の施設がなかなか進まない、ところが小規模作業所はどんどんふえてきているわけです。何でこれだけふえているんだ。これは何でこれだけふえているのかというと、やはり地域にきちんと根づいて活動している、それから、住民から十分理解されている。しかし、実際にはもう運営は火の車で、小規模通所授産施設ということで認可を受けると一千百万円に引き上げる、そういう制度はつくったんですけれども、例えば、私の住んでおります名古屋市などは、国が出した分名古屋市の分は減らしてしまってもらう金額は全然変わらない、実際にはこういうひどい実態になっているわけですね。
 よく、地域に偏見があるから施設ができないんだと言うけれども、一方では小規模授産所はどんどんふやしているんです。そうしたら、少なくとも一般授産所並みに、実際には補助額は、認可を受けても小規模通所授産施設は三分の一以下ですからね、うんと引き上げれば、それこそ社会資本でいえば今の一般の授産施設の三倍ぐらいの施設がうんとできるわけですから、そういう点での改善をやるべきだというように思いますが、いかがでしょうか。
高原政府参考人 いわゆる小規模作業所は、家族会などによる自主的かつ地域に根差した取り組みとして創意工夫を凝らした活動を展開されており、障害者の自立や社会参加の促進を図る上で重要な役割を果たしていると認識しております。また、これに対し、国が団体を通じて補助金を出しているほか、交付税措置を背景に地方公共団体が中心的な支援の役割を果たしていると承知しております。
 小規模作業所の長所を失うことなく、経営基盤を強化するため、社会福祉法人等の認可を受けた法定施設に移行できるよう小規模通所授産施設の制度化を図っていることもまた御案内のとおりでございます。
 厚生労働省といたしましては、小規模作業所の運営の安定化を図るため、引き続きまして小規模通所授産施設への移行を促進することなどにより、小規模作業所の活動の支援に努めてまいりたいと考えております。
瀬古委員 時間が参りました。
 実際に、今お話を聞いても、本格的に入院治療を十分充実したものにしていく、外来の治療やまた社会復帰をうんと一気に引き上げる、それもぼちぼち努力してなんという程度じゃない、五倍、十倍に引き上げるような取り組みがなければ、本当に今の国としての責任は持てないと思います。
 かつて、日本の精神医療の父、呉秀三が、我が国十何万人の精神障害者は実にこの病を受けたるの不幸のほかにこの国に生まれたる不幸を重ぬるものと言うべし、このように明治政府を告発いたしました。この病気になった上にこの国に生まれたる不幸、これをいまだもって語らざるを得ないということは、大変残念に思います。
 法案については、慎重な審議を求めるものです。
 以上、終わります。
園田委員長 中川智子君。
中川(智)委員 社会民主党・市民連合の中川智子です。
 私は、一九九六年、初めて衆議院議員に当選いたしましたときに、全くこういう世界、政治の世界というのを知らずに議員になってまいりました。そのときに、とても信頼している方が私に静かな声でこう言いました。中川さん、心を壊さないようにしなければならないよと。私はそのときよく意味がわかりませんでした。でも、たくさんの仕事をこの国会の中でする中で、私自身は、翌年に過労で倒れて入院しましたり、いろいろありました。
 私は、一つには、さまざまなストレス、過労、また生活不安、そして社会状況の中で、体を病んでがんになったり、さまざまな身体疾病が出るという方と、いま一つは、真剣に生きよう、一生懸命この中でまじめに生きていこう、そのような生き方と同時にさまざまな要因が重なったときに心にその疾病が出るという方があると思います。
 私の友人の中でも、精神疾患で、ずっと病気と闘いながら生きていらっしゃる方が多いわけですが、やはり生きることにある意味では真剣であり、不器用でありながら、でも懸命にその病気と闘いながら生きていらっしゃるということを痛感しています。地域の中で、友人たち、そして家族が支え合いながらともに生きていかなければというふうに私は痛感しております。
 私は、ちょっと坂口大臣と森山大臣に伺いたいんですけれども、やはり、みずからの精神状況の中で、不眠とかさまざまあります。そういうストレスの中で精神科のドアをたたこうと思われたことは、両大臣、それぞれ一度や二度おありなのか、全くそのようなことがなかったかどうか、まず最初に伺いたいと思います。
森山国務大臣 私は、そのような経験はございません。
坂口国務大臣 今まではそんなになかったわけでありますが、大臣にさせていただきましてからかなりストレスも多いものでございますから、正直申しまして、それは精神科の疾病といいますよりも、強度なストレスによります体の反応というのはございまして、精神科の先生に御相談を申し上げたこともございます。
中川(智)委員 坂口大臣の今のお話というのはとても心に届きましたけれども、やはり、精神科の門をたたくときに、非常にそのことに勇気が要る。地域の中で信頼するカウンセラーやまた地域の相談の場所などがあり、そこに行くこと自体に対して何ら気楽に相談できるというものが整っていない、それが長い間続いてきたと私は思います。
 そして、なぜそういう差別や偏見が生まれたのか。依然としてその差別や偏見が、私たちが初期治療が大事だと言いながら囲い込んでいく、それが外に出せない。いやもう余り眠れないし、ちょっとおかしいから、体の状態もおかしいし、こうやって身体的にも表に出てきたから精神科に行ってきたのよということが気楽に言えない。
 これはやはり偏見だと思いますが、この差別、偏見というのがこの国にどの程度あると両大臣はお思いでしょうか。差別や偏見があるということをまずどのようにお考えか、そしてなぜこれほど強くあるのかということに対して、時間がございませんので、端的な御答弁をいただきたいと思います。どのようなことが原因か。
坂口国務大臣 やはり精神病の皆さん方に対する差別、偏見というのは率直に言って私はあるというふうに思っています。それはやはり、一つは、病院等に入れて地域の皆さんとの、いわゆる患者さんとそして一般の皆さんとの交流が少ない、もう一つは、精神病というものに対する理解が少ない、私は、突き詰めていけばこの二つだというふうに思っております。
 これを取り除いていきますためには、やはり実際に交流をしていただくということが、差別、偏見を取り除くために一番大事。そうした意味では、地域で、先ほど小規模作業所等の話も出ましたけれども、精神病の皆さん方にも働く場をやはり与えていくということが私は大変大事になってくるというふうに思っております。
森山国務大臣 坂口大臣のおっしゃったとおりだと思いますが、やはり、今までの長い間の社会的な偏見と申しましょうか、社会的に多くの人が思い込んでいたこと、その思い違いというものがなかなか改まらないのではないかというふうに思いますし、最近は大分よくなってきたように思いますが、まだまだ十分ではないというふうに私も感じております。
中川(智)委員 今の御答弁で、特に森山大臣、最近よくなってきたという認識が私とは大いに違うということをまず申し上げたいと思いますが、今、両大臣、同じような形の答弁の中で、交流が大事だ、そして理解が少ないのではないかと。これは連動していると思うんですね。交流が少ないからこそ理解ができない、そして誤った情報が誤ったまま市民の中に、国民の中に根づいてしまう。
 これで思い起こすことは何でしょうか。ハンセン病の違憲訴訟の問題であります。
 九十年間、あのらい予防法という法律があるからこそ、交流が遮断され理解が全くされずに、正しい情報を私たちは得なかった。そのことによって、人生被害、隔離被害を生んだわけです。私たちはあのハンセン病の訴訟で何を学んだのかと今回の新法を見まして思いました。何も学ばない。この国はまた誤った法律をつくろうとしている。私は、これを絶対にとどめなければ国会に来た意味がないとまで思いながらこの質問をしております。
 まず、坂口大臣、ハンセン病の解決に関しては大臣には本当に足を向けて眠れないぐらい感謝をしておりますが、あのような闘いをなされた方が、今回のこの法案に対しては、そこまでの人権意識、そして安易な治療というきれいごとの中で隔離政策を行おうとしていることになぜ気がつかれないのかということがとても残念です。
 あのハンセン病違憲訴訟の判決の中にこのような文章がございます。少数者の人権は多数決によって奪われてはならない。これが教訓でした。世論はあるでしょう。怖いという存在が植えつけられたならば、怖いと思うかもわからない。でも、そうじゃないんだと。
 きょうの私の資料にございますこの二枚ペーパーを見ていただきたい。刑法犯の検挙人員三十万九千六百四十九人のうち精神障害者の方は二千七十二人、〇・六七%です。殺人、強盗、傷害・暴行、放火と人数が書かれていますが、パーセンテージとしてはこれだけです。
 そして、二枚目の円グラフを見ていただきたい。この左側は、精神障害の方々が起こした犯罪の対象でございますが、親族が七〇%です。知人が一六・九%、第三者は一三・一%です。
 何を意味するのでしょうか。偏見、差別の中で行き場がなく、家族が抱え込み、その家族がぼろぼろになってしまう、そして結局身近な家族を傷つけ、殺していく。これが精神障害者の事件の実態です。
 なぜ、家族がぼろぼろになるまで抱え込まなければいけないのか。それは、この国の精神医療がいかにお粗末で、精神病の障害の方々を差別し、その偏見を助長するような施策ばかり繰り返し、それを払拭するためにしっかりとした政策を行ってこなかったか、このあかしではないでしょうか。
 そして、きれいごとで、高度な医療をする、きっちりと頻回に専門家たちが見て、この人たちがしっかり治るように国で面倒見ますよというのが今回の法律ですが、それは隔離です。正しい理解や交流ができない場に追い込むのです。
 そして、その被害は、隔離された、事件を起こした方々にとどまりません。三百万人と言われる、精神障害と懸命に闘いながら地域で生きようとしている人たちさえも、危険な存在だというレッテルで、あの人たちは何をするかわからない、無言の脅威の中で再び生きていかなければいけないという、そのようなまた新たな過ちをこの新法はつくり出すということを考えていただきたい。
 今のこの二枚の私のペーパーをごらんになってどのようにお思いか、坂口厚生労働大臣、森山大臣にお伺いいたします。
    〔園田委員長退席、山本(有)委員長代理着席〕
坂口国務大臣 過ちを起こしてはならない、そういうふうに思えばこそこの制度を考えたわけでありまして、何も、この制度をつくって、その中に閉じ込めておこうという考え方をこの中につくっているわけではありません。再び同じ重大な過失を犯す、そのことがもしもあれば、精神障害者の皆さん方全体に対する影響が非常に大きくなる。一度大きな過ちを犯した皆さん方に対して、再び同じような過ちを起こさないようにするためにどうするかという発想の中で今回考えているわけでありますから、それはちょっと、中川先生のお考えには、少しお考えが違うんじゃないかと私は思っております。
 何もその中に生涯閉じ込めておこうとかそういうことを申し上げているわけではなくて、その人たちを健全な形にして、地域にそれを戻すためにどうするかということをやろうとしている。ただし、そこは、何事もなかった今までの一般の精神障害者の皆さん方とは一つ違うところがある。それは、たとえ過去であれ重大な犯罪を犯したという、たとえ一度であろうと犯したという現実が存在をする。
 もう一度その人たちに同じことを起こさせてはならない。そのことを起こさせるとしたら、それは大変な、地域に対しましてもあるいはまた国民に対しましても逆の効果を与えてしまうではないか。そう思えばこそ、我々はこの法案を提案している次第であります。
森山国務大臣 この法律案による新しい処遇の制度と申しますのは、心神喪失等の状態で重大な他害行為が行われることにつきまして、被害者に深刻な被害が出るだけではなくて、精神障害を有する方にとっても大変不幸なことでございますから、特にこのような者につきまして、国の責任において必要な医療をきちんと確保して、不幸な事態を繰り返さないようにする、そして社会復帰を図るということが肝要であると考えてつくられたものでございます。
 そこで、この法律案におきましては、このような者の医療を確保するために、医師等の医療関係者を手厚く配置し、かつ十分な設備が整った指定入院医療機関を整備いたしまして、この指定入院医療機関において手厚い専門的な医療を行うとともに、通院患者につきましても、必要な医療を確保するために、保護観察所による精神保健観察にするということにしたものでございます。
 このようにして、対象者の早期の社会復帰を図るための適切な体制を整備するということは、長期的にはむしろ差別や偏見の解消につながっていくものと考えます。
中川(智)委員 坂口大臣に伺います。
 ただいまの答弁の中で、坂口大臣が事実認識として、私は、一般受刑者の再犯率は三〇%、精神障害者の方の再犯率は一五%と聞いておりますが、この整合性というのはその中でどうなるんですか。
 精神障害者の方が罪を犯せば、二度とそのようなことがないようにそこに閉じ込めて、そしていつ出られるかわからない、でもそういうことはないようにするというところが非常にあいまいなまま隔離をしていく。再犯率が半分の精神障害者だけ、そのような形で、一般医療でせずに隔離をして、その中に閉じ込めて医療をしなければいけない理由は何でしょうか、わかりませんが。
坂口国務大臣 それは、やはり御病気をお持ちだということでございます。そこが違うわけでありまして、病気があるがゆえにその皆さんも大変お気の毒だというふうに私は思うわけですね。病気なかりせばそういう罪は犯さなかったであろうと言われる人たちが、病気がありますがゆえに犯してしまった。
 その皆さん方に同じことを起こさせてはいけない。やはりその皆さん方に治療をし、そして地元にお帰りをいただいて、そうしたことがないようにしなければならない。また、これはそうすることによってなし得ることだというふうに思うわけです。そうした意味で我々は考えているということでございます。
    〔山本(有)委員長代理退席、園田委員長着席〕
中川(智)委員 新たなハンセン病の方々のような隔離をというところが、じゃ、本当に今までの入院で、病院で治療することをもうやめて、そして一度でも犯罪を犯した人はすべてそっちにということで、五、六年たったら措置入院制度などもなくして、すべてそちらで犯罪を犯した人は治療しようということなんですか。
坂口国務大臣 中にも具体的な例が書いてございますが、重大な過失を犯した人だけでありまして、わずかなことを犯した人までその中に入れるということは毛頭考えていないというふうに思いますし、そこは法務省の方からひとつお聞きをいただきたいと思います。
中川(智)委員 傷害というのが入っておりまして、括弧して、軽微なものは除くという、そのような表現です。
 では、例えば、バットでちょっと殴りつけて、そして全治一カ月。それは個々の事例によって違うとおっしゃいますけれども、また大臣にちょっと個人的なことを伺って申しわけないんですが、大臣、この仕事とかいろいろやっていらして、温和な大臣でありますけれども、本当に腹に据えかねて、もう本当にどついたろかという形で、人を殴りたいと思われたことはありませんでしょうか。
坂口国務大臣 私事にわたりますので、ここは控えておきたいと思います。
中川(智)委員 私は、病気を持っている、持っていないとかということじゃなくて、本当に一般の、普通に生きている、病気を持っていないと言われるような方々でも、いわゆるキレるというような形でのさまざまな犯罪が今頻発をしています。そこで、通院の事実があったり、精神的な病でそのような入院歴があったりということ、そのようないわゆる先入観なり、その人をレッテル張りをして、精神病というふうにして、そして隔離をしていく。
 ずっとこの間の国会審議を伺っていますと、大臣は、一生ではない、長きにわたらないようにということをされるとおっしゃいましたが、いわゆる一般受刑者の再犯率は三割もあり、精神障害者の方たちはその半分であるにもかかわらず、病気を理由に、治療を理由に、隔離、病棟に入れられて、治療の名のもとに再犯のおそれのチェックをされて、社会復帰が、外に出られないかもわからない。ここが物すごく大変なところだと思うんです。
 ハンセンの元患者の方々もおっしゃっていました。三年だと。療養所に入って三年たったら、もう社会復帰はできないと自分があきらめてしまう。もうこの中の方が楽だ。療養所の中の方が楽。もう何も考えない。生まれてきたことの意味、生きていることの意味、そのようなことを考えないで、自分の中からどんどんそういうものに対するエネルギーをみずからがなくならせていく。
 三年が限度ですし、これは六カ月と書いていますが、例えばその当事者が、いや、もう本当に世間に出たら、あいつもこいつも憎たらしいからとかということを自分の本音で言う人と、やはり、ある意味では自分の症状というものを隠しながらというようなことで、私は、お医者さんと裁判官がそこで判断して、再犯のおそれを問われたときに、そのように正直に言ってしまう人の方が隔離されていくという状況は当然生まれると思います。
 大臣は、一生ということはないと。そうしたら、そのきっちりした根拠と、上限というのをどのあたりまできっちりと設定して治療をしようとしていらっしゃるのか。そこを伺いたいと思います。
坂口国務大臣 私が治療するわけじゃありませんから、それは専門家にお任せをする以外にありませんけれども、その皆さんが再犯を起こすおそれはないというふうに判断をされたときには、それは地域に帰っていただいて、そして、しばらく観察を続けさせていただくということになるわけでありますから、二度と同じような過ちを繰り返させない、それが一番大事なことだというふうに思います。
 一般の方でありましたならば、それ相応の刑を受けられるわけであります。心神喪失という、その病気のために起こされた大きな誤りというものを、もう一度やはり犯させるようなことがあってはならないという配慮、これがやはり大事ではないかということを申し上げているわけです。
中川(智)委員 私は、ともかく犯罪を犯さないような、本当に初期の段階での精神医療がこれほど貧弱な中で、その病気がゆえに他害行為を行った人を隔離することは、この法律ができた暁には、精神障害者の方々全体が怖い存在としてまた社会から偏見、差別の目で見られ、生きにくくしていき、そして、みずからを追い込んでいくことになる。それを強く懸念して、この法案に対しては断固反対した姿勢で、慎重な審議を改めてお願いしたいと思います。
 そしてまた、先ほど毎日新聞の鑑定の問題がございましたが、これに関しては、法務省は簡易鑑定の実態調査というのを一切していずに、毎日新聞の指摘によって、やっと単年度、平成十三年、やったわけですが、きっちりこれは、単年度、十三年分だけじゃなくて、五年分のデータを出していただきたいと思います。データも一切なくて、このようなことの改善がなされるわけではありません。
 そして、きのうシンポジウムがありました。そこでたくさんのこの法案に反対する方々のお話の中で、特におっしゃったことを最後に申し述べて終わりにいたします。
 私たちが望んでいるのは普通にしてほしいということです。医療法の精神科医療の差別基準をなくして他科並みにすること。欠格条項をなくしたり、福祉サービスを他の障害と同じようなシステムや中身にしてほしいということ。保護者制度をなくしてほしい。普通に市民として生きていきたい。このことが、犯罪を生まない、その一番大きな条件になると思います。
 質問を終わります。ありがとうございました。
園田委員長 阿部知子君。
阿部委員 ただいま社会民主党・市民連合の中川智子の方から、本法案に対しての基本的な問題点についての指摘をさせていただきました。引き続いて、私、阿部知子ですが、特に、この法律、このスキーム自身が精神科医療の本来の姿をゆがめ、患者と医師との治療関係にも非常な不信の種をまくということにおいて、質問を続けさせていただきます。
 今、中川智子の方から申し入れをいたしました資料については御提示いただけるか否か、まず冒頭、担当部署からお伺いいたします。
 簡易鑑定について、日本全国かなり地域差があり、特定の医師がそれにかかわっているような実態もございますが、毎日新聞が新聞社の調査として一年をせんだって報道で出しておりましたが、これは当然所轄官庁としての厚生省から出されるべきと思いますが、担当部署の明確なお返事をまず伺います。
古田政府参考人 検察庁におきます簡易鑑定の話でございますので、私の方からお答えいたしますが、先ほども申し上げましたとおり、逐年にわたってのそういう資料は網羅的にはございません。
 また、そういう資料につきましては、先ほどの、ある特定の年度についてだけの全般的なものはございますが、これの提出方については、委員会の方からのまた御指示等もありますれば検討させていただきたいと存じます。
阿部委員 では、網羅せずしてかかる審議にかかること自身、非常に問題と思いますから、これは、この合同の委員会の方の資料として、本日の委員長から提出を求めていただきたいと思います。
 現状にあっても、簡易鑑定が非常に問題で、精神障害のある方たちへの冤罪、そこにだれも立ち会えませんから、クローズドな中で、混乱の中に、その精神障害のある方が犯罪を犯して立たされております。
 ここの出発点があいまいでは論議ができませんので、これはこの合同委員会として資料の請求を検討していただきたいと思います。
園田委員長 理事会で諮って検討させていただきます。
阿部委員 では、引き続いて質問に入らせていただきます。
 私は、先週の法務委員会のこの問題にかかわる審議の議事録と、きょう朝から現在までの皆様方の御審議をお聞きしながら、やはりこの法案、非常にねじれが生じている。
 そのねじれとは何かというと、本来法務省として、先ほど申しました解決すべき現在の精神障害のある方の触法、法を犯したような行為にかかわるいろいろな検察としての審議のあり方の不備、それから、そのことゆえにまた再犯も起こり得るやもしれない現状に対して、法務省自身がきちんとした点検をせずして、それを厚生省にボールを投げ渡した。厚生省としましては、極めて危なっかしい形のままにこのボールを受け取られようとしている。
 何が危なっかしいかと申しますと、一番大きな危惧、危うさの点は、坂口厚生労働大臣の御答弁にございましたが、再犯を予防するということが大前提である、この法案審議で再犯を予防するということが大前提であるという御答弁がございました。しかしながら、私が思います精神医療とは、それは結果であって大前提ではございません。精神医療に課せられた役割は、その患者さんが病から復帰し、それは、できれば通常の生活が送れるような支援をすることであって、再犯を予防することが大前提であるというような役割を精神医療が背負い込むことの中に実は今回の一番の大きな問題があると私は思っております。
 そして、坂口厚生労働大臣が、ふだんは大変に、人権的にも、ハンセン病問題でもそうです、私どもが敬服する坂口厚生労働大臣が、なぜあえてこの問題を背負い込もうとなさるのか、その背景をるる考えてみました。やはりこれも大臣のお言葉の中ですが、いわゆる再犯の危険性については予測し得るということを本会議でもこれまでの御答弁でも何カ所か引いておられますが、きょう御党の福島委員からも御指摘がありましたように、これは現在の精神医療現場でも結論の定まらぬ、あえて言えば、再犯の予測については精神医療はなし得ないという論の方が過半を占めている現状でございます。
 私は、このことを、きょうの討議で坂口厚生労働大臣がさらにどのように御認識あそばされたか、まず一点、お伺いいたします。
坂口国務大臣 けさからの議論の中でも、さまざまな問題が提起されたところでございますが、やはり現在の精神科医療の中で再犯を予測することができ得るかどうかというのは、それはいろいろの御議論のあるところだというふうに私も思っております。しかし、そこのことについて、諸外国でかなりそこが研究を重ねられて、そして、再び犯罪を起こさないようにしていくという、そこはかなり進んできているわけでありまして、日本にもそこはでき得るというふうに思うわけでございます。
 したがいまして、この人が起こすか起こさないかの予測というのは、確かにそれは難しいところがあるだろう。他の疾病の予測の難しいのも当然でございますが、ここもまた難しい予測ではありますけれども、けさから何度か申し上げておりますように、さまざまな条件を考えましたときに、そうしたことが起こり得る可能性というものを予測することというのは、これはでき得るというふうに思うわけでありまして、そのことをどのように理解をし、そして、その人たちが実際、現実問題として起こさないで、そして社会復帰をしていただくようにしなければならないというふうに私は思っているわけでございます。
阿部委員 ただいまの坂口厚生労働大臣の御答弁ですが、先日の御答弁の中に、オックスフォード精神医学教科書のページを引きましての御答弁がございます。二千六十六ページと二千六十七ページに、近年、今おっしゃったような再犯の可能性の予測について、再犯の予測の可能性についてでもいいですが、諸外国においてはある程度の知見が得られておるというお話でした。しかしながら、私は、この引用された文献についても、もう一ページ先の二千六十八ページ、ぜひとも坂口厚生労働大臣にお目通しいただきたいと思います。
 二千六十八ページには、逆に、そうした「精神保健の専門家によるリスク・アセスメントにおける債務の限界」、限界ということが繰り返し述べられております。「十分な量の経験的な事実が存在し、臨床的な意思決定を導くこと。」が、その一でございます。残念ながら、我が国における法を犯した方々、精神障害がなおかつおありな方々について、どのような援助がその方にとって一番望ましいかを十分な経験を積んでおるとは言いがたいその事象に、予測、予見性を立てるわけです。そして、「予測は潜在的に変動しやすいことを明白に述べること。」が四でございます。あわせて、最も強調しておきたいのは、五番目に述べられておりますが、「極めて例外的な状況を除き、彼らの刑期を引き伸ばしたりする立場にはない。」
 精神医療というものは、その患者さんとみずからの治療の関係において成り立つものでございます。極めて現在的な関係でございます。将来を予見、予測するということは、今回この法律の枠組みがそのようなものであるがゆえに、精神医療の現状を逸脱していると言わざるを得ない、これが繰り返し指摘されたところでございます。
 大臣が本会議で答弁なさいましたので、原文を厚生省から送っていただき、私も読んだばかりのところではございます。しかしながら、やはり医療にかかわる者はおのれの限界を知るべきです。おのれが医療の中に治療という名で取り込んだことの結果が、かえって患者さんの全人間的な発達を保証しない、あるいはその方の全人間的な人権を損なうことすらあるということが、医療者が知らねばならない出発点だと思います。
 私は、この点についてきょう坂口厚生労働大臣にお伝え申し上げましたので、物の読み方ではございますが、精神医療に、特に司法精神医療にかかわる方たちが何を限界と感じておられるかという点について、重ねて御検討をいただきたいと一点お願い申し上げます。
 引き続いて、森山法務大臣にお願いいたします。
 私はこの法案審議にあって、先ほど申しましたが、従来法務省の中で、例えば精神障害があり法を犯した方たちの処遇をいかにすべきか、七四年の、いわゆる世で言われておりますところの保安処分問題、八一年も同じような形の中で論じられておりますが、それが法制審議会等々にもかけられて、一連の法務省内での論議の過程があろうかと思います。
 先回の法務委員会においても、民主党の平岡委員が平成十二年の法務省の刑事局のメモを御参考に述べられましたが、このメモの中では、いわゆる再犯の予測ということについては極めて多々困難があり、これがまだ解決されておらないというメモがございました。そのことについて森山法務大臣は、先回の委員会では、基本認識は変わっておらないという御答弁でございましたが、再度確認をさせていただきます。
森山国務大臣 御指摘のメモにつきましては、「試案・手持メモ」と書かれておりますように、法務省刑事局の確定的な見解を記載した文書ではなくて、これに関する記録がないため確定的なことはお答えできませんが、平成十一年十一月ごろ、この問題について関心を有する方々による議論、検討の場に参加した際の手持ちのメモとして非公式に作成されたものではないかというふうに思われますが、御指摘の部分は、危険性の予測につきまして、主に医療関係者から、そこに記載されているような問題が指摘されているところに困難な課題がある旨を記載したものと思われます。
 しかしながら、現代の精神医学によりますと、本法律案におきます再び対象行為を行うおそれにつきまして、精神科医が本法律案の第三十七条第二項に規定する事項を考慮して慎重に鑑定を行うことにより、その有無を判断することは可能であると考えており、精神保健福祉法による措置入院に際しても、精神保健指定医がその者の自傷他害のおそれの有無を診断しておりますし、諸外国におきましても、医師により、その精神障害に基づき再び他人に危険を及ぼす行為を行うおそれの有無が判断されているというふうに承知しております。
阿部委員 今の御答弁、順次私の方からも論じさせていただきますが、一つは、精神医学界においてそのことが可能になったというふうに申されましたが、それは私が坂口厚生労働大臣にお尋ね申し上げました一点目ですので、あえて繰り返しません。
 精神医学の中に多々論議があり、むしろ我が国の精神医学においては、現時点ではない将来予測は不可能である、これは、触法精神障害者と括弧して呼ばれる方々の問題に一番深く携わってきた西山先生たちのコメントでもあり、これは森山法務大臣もお読みいただきたいと思います。
 そして、前回の審議の中では、そのような御答弁ではございませんでした。前回の審議の中では、これは高原政府参考人、あるいは古田政府参考人、御両者の意見を合わせた上で、医師のみでは再犯のおそれについては十分に予見、予測し得ないので裁判官を合わせて合議体で行うというのが、前回の法務委員会での御答弁を要約したものでございます。
 重ねて伺います。
 ここで合議体になさる意味は何か。前回は、再犯の予測ということについてるる、医師のみではできないと。これは議事録ですから、お読みいただければはっきりいたしますから。そこを、無理なことを強いるのではなくて、裁判官も合わせて判断のもととなさるという御見解でしたが、いかがでしょうか。
高原政府参考人 そういうふうに御理解いただいたとしましたならば、かなり私としては残念でございます。
 第一番目は、大臣から申し上げましたように、この間、例えば、委員も日常お使いだろうと思いますが、MEDLINEとかMEDLARSという医学データベースに公表されている実証的な予測研究の論文の数は、九〇年代に入って、八〇年代から数倍の勢いで上昇いたしまして、八〇年代後期から二〇〇〇年にかけて、その予測能力につきましては広く受け入れられるに至ったと考えております。
 また、裁判制度をこの決定に関与させるとしたことにつきましては、そういった医学的な判断ではなくて、一定程度の自由に対する制約を伴う医療であるため、デュープロセスと申しますか、しっかりとした、きちんとした正式なプロセスを踏んで、患者さんの人権を必要以上に抑えるということがないよう厳重な制度としたものであるということでございまして、これにつきましては、本日も、法務大臣、厚生労働大臣からお答え申し上げている点でございます。
 医師の予測が不可能であるため裁判手続によって予測を可能としたということは、全く私どもの意図しておるところとは異なりますので、賛否は別といたしまして、事実問題として訂正させていただきたいと思います。
阿部委員 では、高原政府参考人にあっては、前回の議事録をよくお読みいただきまして御答弁願いたいと思います。
 そして、私から申し述べますに、今のような御答弁であれば、むしろこれは法務省サイドとしてきちんとした枠組みを、本来法務省の中でおつくりになるべきだと思います。
 先ほど私が森山法務大臣に伺いましたが、これを法務省サイドでつくる場合は、以前に問題になた保安処分制度、その中の特に治療的、矯正的な、社会復帰ということを念頭に置いた矯正的な保安処分のあり方の一つとなると思います。あえてそこに持っていかずに、半分医療サイドに投げ込んだ中で責任の所在をあいまいにして、このような枠組みをつくるということはいかがなものかとも思います。
 そして、きょう、もう一点だけお願い申し上げます。
 皆さんのお手元に参考資料で配らせていただきましたが、これは現在、措置入院という形で扱われている患者さんの現状でございます。御答弁は坂口厚生労働大臣にお願いいたします。
 きょうの委員会でも措置入院制度と今回の新たなスキームの違いが論じられておりましたが、ここもなかなか本日の御答弁では実は明確ではございませんでした。しかしながら、その点をさておきましても、皆さんにぜひとも御認識いただきたいのは、措置入院患者さんの受け入れ状況で、大学病院、国立病院、都道府県立病院、指定病院という区分けの中で、指定病院、いわゆる民間病院を主体とした指定病院が非常に多いという事実でございます。
 二段目に移りまして、では、そのおのおのの看護スタッフはどのようであるか。いわゆる三対一基準を満たしておるものは、国立病院、都道府県立病院では八、九割でございますが、指定病院と言われる民間病院ではほとんど三対一以上、三・五以上、一対六という形の手薄な看護。
 そして、その下でございますが、医師についても非常勤が多うございます。
 そして、その次のページを見ていただきたく思いますが、その次のページの二段目、措置入院患者の状況でございます。
 措置入院患者さんの中でも、大学病院、国立病院、都道府県立病院、指定病院の中で、とりわけ指定病院は、民間病院が九割ですが、見ていただければわかりますが、現状の措置入院でさえ、十年以上二十年未満という形で指定病院に措置入院で入院されている方が二百八十三、二十年以上の方が八百十七名とおられます。
 この数、坂口厚生労働大臣にあっては、三千二百四十七名の措置入院の患者さんのうち四分の一は、二十年以上も民間の病院で、看護婦数の少ないところにおる。私は、厚生省としてまず手をつけるべきは、この当たり前の現状をどう具体的に変えていくかにあると思います。抽象論議ではなくて、このような二十年以上に及ぶ患者さんの幽閉です、これが現実にある現状に手をつけるのがこのボールを受け取る前の厚生省の役割と思いますが、一言御意見を伺って、終わらせていただきます。
坂口国務大臣 一般病院のあり方につきましても改革を加えていかなければならないというふうに思っていることは、先ほど中川議員の御質問にもお答えをしたところでございます。そして、それを行っていきますときに、まずどこをやるべきかという優先順位があるということも申し上げたとおりでございますが、御指摘をいただきましたところも十分尊重させていただきながら、我々、その改革に取り組んでいきたいと思います。
阿部委員 私がお示ししたのは措置入院のデータでございますので、極めて重く受けとめていただきまして、よろしく前進していただきたいと思います。
 ありがとうございました。
園田委員長 次回は、来る九日火曜日午前十時から連合審査会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後四時四十九分散会
     ――――◇―――――
  〔参照〕
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案
 裁判所法の一部を改正する法律案
 検察庁法の一部を改正する法律案
 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案
は法務委員会議録第十五号に掲載


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