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第2号 平成14年12月3日(火曜日)

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平成十四年十二月三日(火曜日)
    午後一時一分開議
 出席委員
  法務委員会
   委員長 山本 有二君
   理事 佐藤 剛男君 理事 塩崎 恭久君
   理事 園田 博之君 理事 棚橋 泰文君
   理事 加藤 公一君 理事 山花 郁夫君
   理事 漆原 良夫君 理事 石原健太郎君
      倉田 雅年君    左藤  章君
      笹川  堯君    下村 博文君
      中野  清君    平沢 勝栄君
      保利 耕輔君    保岡 興治君
      吉野 正芳君    鎌田さゆり君
      日野 市朗君    平岡 秀夫君
      水島 広子君    山内  功君
      石井 啓一君    木島日出夫君
      中林よし子君    植田 至紀君
      徳田 虎雄君
  厚生労働委員会
   委員長 坂井 隆憲君
   理事 長勢 甚遠君 理事 野田 聖子君
   理事 宮腰 光寛君 理事 釘宮  磐君
   理事 山井 和則君 理事 福島  豊君
   理事 武山百合子君
      岡下 信子君    奥谷  通君
      佐藤  勉君    竹下  亘君
      棚橋 泰文君    三ッ林隆志君
      宮澤 洋一君    森  英介君
      谷津 義男君    山本 幸三君
      吉田 幸弘君    吉野 正芳君
      渡辺 具能君    家西  悟君
      石毛えい子君    鍵田 節哉君
      金田 誠一君    五島 正規君
      土肥 隆一君    水島 広子君
      江田 康幸君    桝屋 敬悟君
      佐藤 公治君    小沢 和秋君
      藤木 洋子君    阿部 知子君
      中川 智子君    川田 悦子君
    …………………………………
   法務大臣政務官      中野  清君
   厚生労働大臣政務官    渡辺 具能君
   参考人
   (都立松沢病院院長)   松下 正明君
   参考人
   (日本看護協会会長)   南  裕子君
   参考人
   (精神科医師)      富田三樹生君
   参考人
   (日本精神保健福祉士協会
   常任理事)        大塚 淳子君
   参考人
   (全国「精神病」者集団会
   員)           長野 英子君
   法務委員会専門員     横田 猛雄君
   厚生労働委員会専門員   宮武 太郎君
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案(内閣提出、第百五十四回国会閣法第七九号)
 裁判所法の一部を改正する法律案(平岡秀夫君外五名提出、第百五十四回国会衆法第一八号)
 検察庁法の一部を改正する法律案(平岡秀夫君外五名提出、第百五十四回国会衆法第一九号)
 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案(水島広子君外五名提出、第百五十四回国会衆法第二〇号)


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     ――――◇―――――
山本委員長 これより法務委員会厚生労働委員会連合審査会を開会いたします。
 第百五十四回国会、内閣提出、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案、これに対する塩崎恭久君外二名提出の修正案、第百五十四回国会、平岡秀夫君外五名提出、裁判所法の一部を改正する法律案及び検察庁法の一部を改正する法律案並びに第百五十四回国会、水島広子君外五名提出、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案の各案及び修正案を議題といたします。
 本日は、各案及び修正案審査のため、参考人として、都立松沢病院院長松下正明君、日本看護協会会長南裕子君、精神科医師富田三樹生君、日本精神保健福祉士協会常任理事大塚淳子君、全国「精神病」者集団会員長野英子君、以上五名の方々に御出席いただいております。
 この際、参考人各位に委員会を代表して一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多用のところ御出席いただきまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、審査の参考にいたしたいと存じますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 次に、議事の順序について申し上げます。
 まず、松下参考人、南参考人、富田参考人、大塚参考人、長野参考人の順に、それぞれ十分以内で御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。
 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。
 それでは、まず松下参考人にお願いいたします。
松下参考人 皆さん、こんにちは。都立松沢病院の院長の松下と申します。
 実は、合同委員会の先生方には松沢病院をかつて見学していただきまして、その折に少しディスカッションをしていろいろ私の考えなどを伝えたということがありますが、きょうはこういう機会を与えていただきまして大変ありがたく思っておりますし、また、当時お話ししたことと重複をするかもしれませんけれども、それはお許し願いたいというふうに思っております。
 ひとまず、私の立場というのは、現場で大変多くの、この法案で言いますと対象者となりますが、その対象者を抱えて、その治療に励んでおりますが、現場から見て一体どうかという話を少しさせていただきたいというふうに思っております。
 レジュメでは「現場で困っている」という表現をしました。困っているという表現がいいかどうかわかりませんが、ともかく現場で非常に苦労をしているというところがあって、もしもそういうところが解決をすればもっと精神医療の方が発展していくのではないかというふうな思いを込めて、そういうことを少しピックアップしてみました。
 一つは、病院に入る入り口のところの話なんですが、起訴前の、不起訴になってそのまま措置入院の形、医療福祉法の対象として来る、あるいは裁判の中で心神耗弱とか喪失とか、そういう形で来る患者さんたちがもちろんすべてなんですが、どうもその辺が、いきなり最初からもう医療の方に判断が仰がれて、対象者の方にそういう対象行為に対する意識みたいなものが少し薄れてきて、それがその後の病院の中での入院治療にかなりかかわってくる、支障を来すというところが一つ。これは私自身の考え方で、司法精神医学を専門にしていらっしゃる方がそう思っていらっしゃるかどうかわかりませんが、そんな印象を一つ持っております。
 最も大きな問題は、そこにbとcというふうに書いたことなんです。bの点では、例えばよくなって、大分もう症状も薄れて、そしてほぼ社会復帰の活動もできるような状態になったときに、では実際、措置を解除して新しくまた別な形にして、あるいは将来退院をするというときに、現在のやり方では全く医療サイドだけにその判断を仰がれているので、大変それは苦慮することが多いというのが現場であります。
 すべてがそうだというわけではなくて、多くの例では、非常によくなって、実際社会復帰をしていって、そしてその後何事もないというのが大変多いわけですが、一部の方に限って言うと、多少よくなって社会復帰可能なんだけれども、もしもそれで対象行為をまた繰り返すようなことになったらどうだろうということで、大変医療の方にも責任をかぶされているので、その辺をちゅうちょして、そのために退院が長引く、あるいは入院が長引く事態が起きるということが大変あります。その辺が現場としては非常に苦慮していることが一つあります。
 もう一つは、退院をした後、現在のあれでは、普通の病院、松沢病院なら松沢病院の外来を通院して治療を続けるわけですが、いつの間にか受診しなくなる、来院しなくなるということで、患者さんたちがどちらの方向に行くのかよくわからない、その辺の不安があります。
 本当にきちっとフォローできないという体制の中で、医療だけでいくと、現行ではそうせざるを得ないのでということがあって、いろいろな事例がありますが、事例のことは余りきょうはお話をいたしませんが、そういうことでまた同じような対象行為を繰り返したといった事例があったりとかさまざまなことがあって、その辺は非常に我々現場にいる者として不安で、そういう不安がまた先ほど言ったような退院させることをヘジテートしてしまう、そういうことがあります。
 それから、もう一つの問題、これはもう当然なんですが、現在私どもの病院では、対象行為で入院している患者さんは百人近くいらっしゃる。一つの病棟は、割とそれを固めて治療をしている病棟がありますし、ほかの患者さんたちはあちこちの病棟に散らばっていて、一緒になって治療をしているというところがありますが、治療環境が余りよくなくて、例えば、看護スタッフも含め、あるいは医師のスタッフ、あるいはもちろんハードの面のスペースだとか設備も含めて、大変不十分な状況の中でやっていかなければいけない、医者にとっても看護にとっても大変ストレスの多い職場なんですが、その辺で大変苦慮していることがあるので、その辺はもう非常に大きな問題として残る。
 そのほか幾つか細かいことはあると思いますが、大きく言えばそのようなことを現場で困っていると。
 それで、私の意見、あるいは、私ども実際携わっている者の意見としては、この問題は医療だけではどうしても解決できない面があって、どうしても司法というものの力をかりて、一緒になってそういう対象者の精神医療のためにやっていかなければいけないというのが我々の共通した意見であります。
 そういう意味で、今回の法案は、入り口のところでも途中でもかなり法的な縛りというのはきちっとかかっているので、あるいは、そのフォローをする外来においてもそうなので、大変それは私どもにとっては好ましいので、ぜひこの法案は成立させてほしいというふうに願っております。
 これからの問題点は、必ずしもこの法案だけの問題ではなくて、司法精神医学という領域での問題ですが、いろいろなことがありますが、一つは、やはりこれだけが独立してひとり歩きをしていってはだめなので、一般の精神医療のシステムと非常に密な連携をとりながらやっていかないといけないという基本的な考え方があります。したがって、そういう意味では、一般の精神医療の質を極めてレベルアップしなければいけないというのは、もう当然なことだというふうに考えております。
 そのほか、今度できます保護観察所の長や社会復帰調整官の役割を、単にその名前、形だけではなくて、実体を伴った形できちっとしてやっていかないと、その人たちが非常に大きな役割をこれからとっていかざるを得ない、とっていくだろうと思いますので、その辺の実体化にできるだけ努めてほしいという願いがあります。
 そのほか責任能力の判定の問題だとか、あるいは起訴前鑑定の基準化の問題とか、さまざまなことがありますが、これは必ずしもこの法律にかかわらないことですが、そういうことも将来的にはやはり十全にしていっていただかなければ、この制度自体がうまく働かないんじゃないかというふうに思っております。
 ちょっと延びましたが、以上でございます。(拍手)
山本委員長 ありがとうございました。
 次に、南参考人にお願いいたします。
南参考人 日本看護協会の南裕子と申します。
 日ごろから、先生方におかれましては、私ども日本看護協会の活動に対しまして大変御理解を賜り、心から感謝申し上げます。そして本日は、このように貴重な時間をいただき、発言の機会を与えていただきましたこと、重ねて御礼申し上げる次第でございます。ありがとうございます。
 日本看護協会は、国民の信頼にこたえるライフサポーターとして、五十四万人の会員を擁する看護職能団体として、国民、患者中心の医療、看護を目指して活動を進めてまいりました。このような立場から、まず、これからの我が国の精神保健福祉のあり方、あるべき方向性について私どもの意見を述べさせていただきたいと思います。
 改めて申し上げるまでもないことではございますが、リハビリテーションの理念、ノーマリゼーションの理念に基づいて、入院や施設での処遇ではなく、できる限り、みずからが居住する地域で治療を受け、当たり前に暮らしていくことができる、そのような地域ケアが必要だと考えます。しかし、二十一世紀になった現在でも、精神病院に社会的入院が多数存在し、立ちおくれた地域精神保健福祉施策の充実が喫緊の課題となっています。
 精神障害者に対するサービスは、その疾病の特性から、地域での日常生活において、服薬管理や病状の変化への対応など医療のかかわりを必要とする場合が多く、服薬を中断したり、日常生活上の問題、トラブルがきっかけになって病状が悪くなることがあります。このように疾病と障害をあわせ持つ精神障害者への施策には、医療と福祉の連携が不可欠でございます。
 こういう連携を看護の視点から見ますと、社会復帰施設に看護職員を配置すること、訪問看護を拡充すること、地域生活支援センターを身近な地域に設置して、日常生活上の問題や悩みなども安心して気軽に相談できる窓口をつくることなどの体制を整備することが重要と考えます。
 精神障害者の地域生活を支援するためには、このような精神保健福祉施策にとどまらず、年金、医療、福祉・介護、雇用などの社会保障制度全体で、そして住宅政策も含めて総合的に推進することが必要でございます。そして、国、都道府県、市町村、保健、医療、福祉の関係機関、当事者団体やボランティアグループなどNPO、さらに地域住民などの協働で、重層的、総合的に支援する取り組みがぜひとも必要でございます。
 現在、社会保障審議会障害者部会精神障害分会において、社会的入院七万二千人の解消と精神病床の削減が検討されておりますが、このような基本的な立場からも、ぜひとも、国民、患者の視点、利用者の立場に立った施策をまとめていただきたいと存じます。
 次に、まず、法案に関します私たちの考え方を述べさせていただきます。
 法案につきましては、池田小学校事件を契機にして法律案が拙速に取りまとめられたのではないかという疑問を感じながら、これまでの国会審議を見守ってまいりました。法律案は、精神障害のために心神喪失等の状態となり重大な他害行為を行った者に対して、地方裁判所における審判や入院、通院等の処遇などを規定する新たな制度が現在審議されております。
 私どもは、先ほど申し上げましたように、精神医療の方向性、精神保健福祉施策のあり方を踏まえて、今回の法律案が精神保健福祉の現場にどのように受けとめられているのか、さまざまな疑問や不安を感じているということについて心配しておりました。政府においては、こうした疑問や不安にこたえて、関係する団体に法制度の説明と理解を得る努力をお願いしたかったと思います。
 特に、いわゆる再犯のおそれの要件につきましては、社会防衛的な役割を医療が担えるものではないことを心配しておりました。むしろ大切なことは、このような不幸な事件が起こらないように予防することでございます。そのために重要なことは、地域精神医療体制の充実と国民の精神障害者に対する偏見を払拭することです。もちろん、医療は犯罪防止を目的とするものではありませんが、地域での体制整備により、結果として不幸な事件を防ぐことができるのです。
 さらに、地域での受け皿が不十分なままでは、法律案の対象者の社会復帰は困難でございます。まずは地域生活を支援する体制をつくる必要があります。そのような意味からも、政策の優先順位、プライオリティーに問題がなかったのか、法律案に関しては疑問に感じておりました。
 このようなときに、塩崎議員外二名提出の修正案が出されました。修正案は、社会復帰という視点を明確にしようとしていることや、対象者等から退院の許可等の申し立てを制限する期間の撤廃、そして附則修正によって、精神医療等の水準の向上を規定するとともに、五年後の見直し規定を盛り込んでおります。私どもは、このような修正案に対して、今後の精神医療の充実の道筋を明確にするものとして評価しております。
 私どもは、法律案の対象者をなぜ重大な他害行為に限定するのか、精神保健福祉法の措置入院制度とどう違うのか、精神科治療では、犯罪に当たる行為の有無でその治療方法、治療内容は変わるものではありません。むしろ、薬物の効果が得られないなどの治療抵抗性や、職員や患者に対する暴力等の処遇の困難というものが現場では問題になっています。
 また、我が国の病院病床数百六十四万床のうち、精神病床は三十五万床です。二〇%以上が精神病床であるにもかかわらず、医療費に占める割合はたったの五%にしかすぎません。人員配置基準については、一般病床の医師数が入院患者十六人に一人、看護師数が入院患者三人に一人ですが、精神病床の医師数は入院患者四十八人に一人、看護師数は入院患者四人に一人と、一般病床と依然格差があります。
 このような格差を解消するために、特に救急などの急性期医療を初め、薬物専門治療病棟、児童思春期病棟、身体合併症病棟、さらに措置入院指定病院の指定基準につきましても、一般病床以上の人員配置基準とすることが必要だと考えております。そのような意味で、精神医療等の水準の向上を掲げた附則修正を評価いたします。そして、改善すべき課題につきまして、審議を通じましてより具体的に、より明確にしていただきたいというふうに思っています。
 修正案の、施行五年後の検討規定につきましても、起訴前、起訴後の精神鑑定や刑事施設等における医療提供体制など、刑事司法と精神医療の運用状況についても専門的な検証を加え、その上で制度全般にわたる検討を行うことが必要だと考えます。
 また、国会報告は毎年実施することが望ましいと考えますが、いかがでしょうか。情報公開が適切に行われて初めて国民の疑問や不安が軽減されると思います。
 限られた時間の中で、言い足りないところなどございますが、今回の法案が、刑事司法や精神医療の現状の検証と改善並びに地域精神保健福祉施策の具体的な充実への道筋を確実なものとしていただけたら一歩前進だと考えます。以上の私どもの意見、要望につきまして、今後の国会審議に反映していただければ幸いでございます。
 日本看護協会は、先頭に立って精神障害者の地域ケアに全力で取り組む所存でございますので、引き続きよろしく御指導のほどお願い申し上げます。
 ありがとうございました。(拍手)
山本委員長 ありがとうございました。
 次に、富田参考人にお願いいたします。
富田参考人 私は、精神科医として、そして現在、民間病院の院長として、それから日本精神神経学会の精神医療と法に関する委員会の委員長として、きょうは発言いたします。
 お手元に発言の要旨があるかと思いますが、一部、二部、三部と分かれております。三部は総括的なお話で、実は、ここのところが私がふだん感じていることの、非常に日常の精神科医としての怒りがいっぱい、足りませんが、書かれておりますが、そこまできょうの話は行くかどうかわかりません。そういう状況を踏まえて発言させていただきます。
 まず、修正案についてお話しいたします。
 修正案の要点は、四十二条第一項第一号「入院をさせて医療を行わなければ心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった」云々ということを「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる」ため云々というふうに変更したということがあります。これについて、五点にわたって批判いたします。
 一番。法の第一条第一項はそのままであるということがまず前提であります。そして、「再び」という言葉を消しましたが、「同様の」を入れて、再犯予防という実質は変更しておりません。したがって、第一条、四十二条、法の目的とこのことによって、すべてが再犯予防の目的のもとに従属してこの法は解釈しなければいけないということをまず言っておかなければいけません。
 二番目。「心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害」という言葉を「対象行為を行った際の精神障害」として、対象行為と精神障害の間の心神喪失や心神耗弱という法律関係をなくしてしまったということであります。これは重大な改悪です。検察段階で心神喪失等と判断されてこの法の中に送り込まれた上で、もうその心神喪失と心神耗弱という法律関係は消えてしまうということであります。
 三番目。社会復帰という言葉に「同様の行為を行うことなく、」という限定をしたことであります。社会復帰という言葉に同様の行為を行うことなくという限定をしたことによって、我々が言っている社会復帰ということとは全く質の異なった社会復帰であるということになります。病状によって犯罪を犯すということもあるでしょうし、病状によらずして犯罪を犯すということもあります。その区別がここではどのようになるのでしょうか。
 四番目。医療を受けなければ再び対象行為を行うおそれという言葉を「医療を受けさせる」というふうに変えました。これは、今までも医療可能性、医療適応性が非常に希薄だったんですけれども、ここの表現でいうと、医療適応性、医療可能性は全く考えられない表現になってしまった。医療を受けさせるということが目的になるということになってしまった。
 さらに、五番目。「この法律による医療」を新たに挿入されましたが、「この法律による医療」という内容は全く示されておりません。「この法律による医療」は、明確になっているのは再犯予防のためということ一点のみであります。
 二番目。合議体の裁判官と精神保健審判員の役割の明確化について述べられております。これは一見いいように思えますが、よくよく考えてみたら、結局こういうことではないか。裁判官が法律関係の学識に基づいて判断する、意見を述べるということは何を言っているのか。結局、私どもの考えでは、この人は危険かどうかという判断が裁判官に期待されているのではないかということになって、結局、この法に基づいた形での再犯予防ということが裁判官の枠組みの中で行われるということが、これはむしろはっきりしたんだということになります。
 三番目。退院許可、処遇終了の申し立ての禁止期間が廃止されました。これは一見いいことなんですが、現実の刑事司法の現状、それから現在精神保健福祉法のもとにある精神医療審査会の現状から見ますと、この廃止は事実上何の意味もない。迅速にそれが再検討されるという保証には現実にはならないだろうというふうに思っております。
 さらに、附則関係に行きます。
 附則関係は、時間がありませんので簡単に言いますが、趣旨説明の中で、「本制度の指定医療機関における医療が最新の司法精神医学の知見を踏まえた専門的なものでなければならないことはもとより、一般の精神医療についても、本制度による高度な医療水準を及ぼす」云々というふうに書いてあります。
 この文言は、修正案を書いた方はもしか医療をよくしたいというふうに思っているのかどうか、私には全くわかりませんが、私の目からすると唖然たるものです。つまり、司法精神医学というものを一体何だと思っていらっしゃるのか、司法精神医学を臨床に適用するとは一体どういうことであると思っていらっしゃるのか。我々臨床医は、この法案は再犯予測が可能であるというふうな枠組みの中で行われますが、これは、リスク管理というものを一般の精神医療の中にもどんどん持ち込んでくるということをむしろいいことだと言っているというふうに私は読んでしまうのであります。こんなことは到底許されないことであります。
 修正案については以上ですが、この法案そのものの問題点については、起訴前のいろいろな問題については全く手つかずであること、しかも、前回の国会でも政府答弁で述べられましたし、最近「論点整理」というペーパーが出されましたが、その中で、人格障害は対象にならないということを政府等で答弁されていますが、これは全く虚偽であります。その資料にもありますが、犯罪白書の中で、人格障害は明らかに不起訴処分になったり、心神喪失、心神耗弱になっております。それから、判例においても明らかにそういうものがあります。この虚偽のことを前提に法案審議は進まないと思います。
 二番目、再犯予測についてです。
 再犯予測については、我々の委員会が九月二十日付で「再犯予測について」という見解を出しました。これは吉岡隆一が主としてまとめたものですけれども、それに基づいて意見を述べさせていただきます。
 再犯予測というものはどういうものかということになりますが、ある程度特徴を持った集団に対して、どのような結果がどれだけの頻度で起こるか、どれだけの期間のうちで推測し得るかという枠組みなしには論じられないものであります。この法案の場合は、心神喪失、心神耗弱等の重大犯罪初犯の集団に対して、重大再犯または同様の行為が再び心神喪失等の状態で、この法案では特定されてはいませんが、長期の予測期間のうちにどれほどの頻度で行われるかということが枠組みになります。そして、考えなきゃいけないのは、必ずその個人が再犯を犯すかどうかという問題ではありません、確率が問題視されているのであります。
 それで、前回の国会で議論になりました山上先生の論文等も根拠になっていますが、再犯率が七%の集団に対して、カナダの最も進んだと言われるVRAGという再犯予測のやり方をそこに挿入しますと、犯罪を犯すであろうとされた人の実に八割は犯罪を犯しません。そのような再犯予測の水準なんです。こんなもので拘禁されてはたまったものではありません。精神障害者ならいいのだということには全くなりません。そういう再犯予測の問題があります。
 さらに、リスクファクターの問題であります。
 再犯予測のリスクファクターは、精神病、統合失調症であるとかそれから迫害妄想があるとか、そういう精神病理学的な特徴とか精神医学的な特徴に全くむしろ関係しません。そういうものではないのであります。例えば、そこにありますように、両親から若いときに分離したとか、それから未婚であるとか、それから発病前に犯罪歴があるとか、そういう問題が予測率を高めるのであります。それからもう一つ、精神病質と診断され得るような人たちが予測率を上げるんです。再犯予測をしたときに、再犯予測がある程度でも意味があろうとすると、精神病理学的な問題とは関係のない、人口学的な問題とか社会的な環境の問題とかが再犯率を上げるんです。
 ですから、心神喪失等とされた人たちがこの法の中に入りますが、しかし、再犯予測という観点に関していうと、そういう人たちは再犯予測を低めるんですということになります。そういうことでありますから、精神病質はこの対象にならないと政府側の答弁がありますが、精神病質が対象にならなければ、再犯率は、予測が低められるというか、全くできなくなるという問題が生じるのであります。
 処遇と治療の問題に行きますが、いずれにしろそういう形で入った、そして、高リスク、低リスク、それから中間のリスクの人々がそこに入ることになります。ところが、処遇をするときに、例えば中間のリスクの人たちに高リスクの処遇をしなくてもいいのか、あるいは低リスクの人たちに高リスクの処遇をしなくてもいいのかという問題が実践的に生じます。そうすると、実に困難な状況になるんです。もし、低リスクだとして出したとします、出したとしたら、低リスクの中にも必ず犯罪を犯す人は生じるんです。これは精神障害者に限りませんよね。生じないためには、低リスクの人もやはり高リスクの人と同じ処遇をしなければ、つまり、出してはいけないというふうに必ずなるんですということが挙げられます。
 それから、英国の例を挙げますが、英国の場合、四十例の殺人事例の審査記録がありますが、この詳細な検討は、予測可能性の問題と回避可能性の問題の二つについて調べてあります。そして、予測可能性と回避可能性の二つについて詳細に検討した結果はこのようになっているのであります。重要なことは、回避可能性があるというふうにされた二十六例中、十七例が一般的な精神医学的なケアの改善によって回避できただろうというふうに言っているのであります。つまり、リスク評価をいかにするか、高めるかという問題ではなくて、結局、あのイギリスにおいてでも、精神科医療の底上げというか充実こそが重要なんだということをこのムンロという人の調査報告は述べているのであります。全くこの法案の趣旨は本末転倒なのであります。
 時間が迫られていますが、ここまでが主に私の言いたいことでありますが、国会議員の皆さんにぜひお願いしたいことがあります。事実をきちっと調査していただきたい。事実もないところで、偏見に基づいて政策を立案すべきではありません。
 私はいつも怒りを持って医者として働いています。どのような怒りを持つかといいますと、いかに我々が精神科医療で一生懸命やっても、四十八対一の特例で我々が何ができるかということであります。先ほど松下先生がいろいろおっしゃいました。私もそういう話は知っています。いろいろなことを抱え込んでいて大変なんだと。それは大変なんですよ、当たり前じゃないですか。四十八対一の状況で一体何がやれるというのですか。このことをよく考えてください。
 四十八対一だけじゃありませんよ。PSWとかいろいろな人たちが要るんですよ、必要なんですよ。我々の病院で二百十床です。二百十床の中で我々の病院では七名のPSWがいます。公立の病院でPSWを補充できるような体制になっていますか、なっていませんよ。民間病院でそれを入れるということは、それだけの経費がかかりますよ。経費がかかって、みんな賃金は低いんですよ。それでもやっているんです。官公立病院は、いろいろな縛りがあって多くの人たちを雇えないんです。しかし、官公立病院は別に赤字であってもある程度できるんですよ。民間病院はできないんですよ。
 このような状況を放置しておいて、先ほどの修正案のような趣旨では、全く本末転倒であります。このような法案は廃案にして、事実をよく調査して、そして何が問題なのであるのかということをよく考えて、検討して、一から出直すべきであると思います。
 我々の精神神経学会の理事会が、四点について確認しました。その資料の中にあると思います。再犯予測はできない。それから、医療改革と司法改革がまず必要である。三番目として、その双方の改革に基づいた上での交流が必要である。それから四番目、事実、情報公開をして、国民の前に全部明らかにしてやるべきである。例えば、この前の名古屋の刑務所の事件は何ですか。あのようなことはいっぱい起こっているんです。我々の精神神経学会の歴史の中でも、精神障害者が拘置所で虐殺されたということもありました。いろいろなことが起こりました。調査しようとすると、非常に厚い司法の壁の中でできません。国会議員は調査権を持っていらっしゃる。きちっと調査をして、何が問題であるかということを明らかにして、その上でいろいろ検討していただきたい。
 以上です。(拍手)
    〔山本委員長退席、坂井委員長着席〕
坂井委員長 ありがとうございました。
 次に、大塚参考人にお願いいたします。
大塚参考人 よろしくお願いいたします。きょうの機会をありがとうございました。
 私は、今、日本精神保健福祉士協会常任理事と、日本病院・地域精神医学会の理事をさせていただいておりますが、本日の発言は、民間の精神科病院に勤める個人の臨床現場の思いを申し上げたいというふうに思っております。
 また、私は、今の勤務先の以前に身体障害者の授産施設で働いておりました。そのときがちょうど国際障害者年の取り組みの真っただ中でありまして、国民の関心事になったことがいかに状況改善の一助になったか、いかに状況が変わっていったかということを目の当たりにいたしました。ぜひ精神障害者の領域の問題も広く国民のものにしていただきたいというふうに考えております。
 また、とても個人的な体験ではありますが、私が幼いときから本当に近しく交流しておりました同い年の精神科医が、十年前に、医療中断による妄想が激しくなった者の刃物で刺されるということがありまして、医療機関内でありましたので一命をぎりぎり取りとめました。今も精神科医を続けております。このとき私自身も、今の勤務先で、まさしく激しい幻覚妄想と混乱の中で殺人を犯してしまった方の担当となっておりました。事件の翌日一日、病院の中で勤務するのが大変難しかったことをとても大きな体験として今も思っております。
 また、既に六例のこうした当該精神障害者の入院治療や退院支援、通院医療、地域生活支援にかかわって実践をしております。そういった立場から発言をさせていただきます。
 少し具体的なお話をさせていただきたいと思います。
 私の病院で、昨年一年間の措置入院患者さんの実数を調査いたしましたところ、三十八件ありました。全国平均の中でどのような位置にあるかということは、資料等をつけていますので、また後でごらんください。この中で、重大犯罪を犯された方が三名ありました。残り三十五件は、広く自傷他害ということで上がってこられた方です。
 ここに大きな問題があるかと思っていますが、この措置時の状況ですが、他の機関で治療中の者が二名、治療中断をしている者が八名、薬物関連で逮捕や受刑歴のある者が四名、発病の兆候がありながらも長いこと未治療のままだったという方が三名。これは何を意味しているかということは、現行の精神医療の貧しさの問題を的確に示しているというふうに考えます。
 この貧しさ、「課題」のところですが、まず、地域の精神保健相談機関の情報等が本人や御家族に十分に行き届いていないということで、初犯の予防にも至らなかったという状況があるかと思います。
 また、治療中断例ですが、重大な犯罪行為をした障害者を含み、措置解除のあり方に非常に大きな問題があるというふうに私は考えます。
 先般、坂口大臣が措置解除は約半年ぐらいで行われて退院に至っているのではないかというふうにおっしゃいましたが、措置解除イコールすぐ退院ということではないというふうに考えています。措置解除の後、いかに地域の中に再定住をするところをしっかりと支援していくかということをしないまま、措置解除してすぐほうり出しているということが非常に多い現状があります。そういう方たちは、結果として頻回な措置回数として上がってきていて、ラベルがついていくという形になっています。
 もう一つは、事前の、入院措置の判定のところのシステムの不備の問題です。私の実感としては、二十五条や二十六条通報によって病院に来られる方たちの多くは、警察の配慮がなかったり、検察の配慮がなかったりするために、手錠を目の前でほかの患者さんたちに見られるという姿があります。こういうことで、同じ医療機関の中で、患者さん同士の中で情報が飛び交ってしまいます。これでいい医療が果たしてできるかという問題を感じております。
 もう一つの調査です。三年ほど前に、やはり同じく当院で、当該精神障害者の実態を調査してみました。当時、同僚と挙げてみた実例が十八名浮かびました。これは、すべてではありません。そのときに私どもPSWとして顔が浮かんでくる方たちの数字です。
 この中に、大きく二つに特徴が見られましたけれども、一つは、やはり病状に起因して犯罪を犯してしまったかなと思われる人たちで、的確な治療、温かいケアが必要で、そういうことをきちっと時間をかけてすれば十分地域に帰れるという方たちです。実際に、転帰は、十八名のうち十名がこういう方たちでしたが、十名のうち八名はきちっと退院をできて地域生活をしておりますが、残りの方のうち一例は再犯に至ってしまいました。この再犯は院内でありました。院内でありましたが、院内でこういうことが起きると、鑑定に逆送するというルートがございません。このあたりも、病院は刑務所ではないのですが、刑事司法領域がきちっと組み込んでくださいません。
 残りの一群は、人格に問題があって、司法手続の問題が大きくあったかなというふうに感じる問題です。
 それから、もう一つの調査の紹介です。昨年、私どものPSW協会における会員のアンケート調査をいたしました。これは、事件が起きる前の六月に始めましたが、実際に現場でかかわっている者たちがいかに困難を抱えているかということを調査いたしました。
 当時の会員二千四百名強のうち、回答があったのは四百八十名強でした。回答数は二〇%ということで回収率は低かったですが、回答してくださった方の七割が医療機関等でした。この回答者のうち、約四割がかかわりがある、六割はかかわりがないという実例でした。このかかわりがないという状況をまたどういうふうに考えるかということは、大きな課題だというふうに思っております。医師だけでかかわっている、PSWのところまでかかわりはおりてこないということも大きくあります。
 そのかかわりがあるという回答を寄せてくださった方の五割の百十名から、具体的な事例が百三十挙がってきました。読み込むのが大変でしたが、この者たちの多く、七五%以上が非常に大きな困難を抱えて現場で苦しんでいるという実態が上がりました。
 何が大変かというと、こういう方たちはやはり入院が長期化しております。なぜ入院が長期化しているかというと、入院に至る前の司法の手続の不備の中から、過重な期待、責任が病院にかかり、医療機関にかかり、退院に慎重にならざるを得ないという状況です。
 入院が長期化した四十三事例のうち、二十例はもう退院ができる状況でした。重大な犯罪行為を犯していても十分退院ができる状況にまで医療の中ではなっているにもかかわらず退院ができないということがあります。今の法案で考えられていることを考えたときに、どういうふうにお考えになるでしょうか。
 それから、病状が改善し退院した事例が二十七事例ぐらいあります。実際にはもっと数多いと思いますが、事例として書いてくださったのは二十七だけでした。これはやはり、PSW、精神保健福祉士たちが地域のソーシャルサポートネットワークの形成に深く深く絡んでいるという事例でした。
 しかし、六割のワーカーたちが、かなり大変だ、それから、かかわれない不全感を感じているという内容が上がってきています。この多くは、業務内容や病院の中のPSWの位置づけによるものです。PSW、精神保健福祉士が雇われていない病院や、事務所に机を置いて患者さんと向き合うことをさせてもらえていない病院も全国の中ではかなり数多くあります。
 チームを組む、連携を組む、地域の中で生活支援をするという形で社会復帰調整官というのが挙がっておりますが、連携を組もうにも、私たちの職域が何をする人間かということがほかの領域の方たちにわかってもらえません。この状態で、連携が組めるということは考えられません。非現実的な話だと思います。社会復帰調整官ということでありましたら、なぜ保護観察所に置かないといけないのかということもわかりません。
 私の事例、二つですが、家族の中で当事者が両親を殺害してしまったという事例があります。御兄弟は行方をくらましました。なかなか連絡はとれませんでした。帰ってきてくださったときには、やはり退院を受け入れたくない。退院を受け入れたくないから、私どもに会わない日曜日に面会に来られて、医療では無理だと思うので、一生懸命宗教への勧誘をしておりました。こういう現実があります。こういう方たちを支援するのに何年かかるか御存じでしょうか。
 もう一つ、家族と縁が切れている方が多いです。こういう方たちの住居を探すときの苦労は並大抵ではありません。お一人の方に、保証人がいない方の住居探しをするときに何軒の不動産屋さんを歩くか御存じでしょうか。
 不動産屋さんが求めるのは、たまに二万円ぐらいで保証人の名を売ってくださる機関がありますけれども、こういう保証人ではなく、何かがあったときに実際に駆けつけて支援してくれるという実質の保証人です。
 こういう保証人の制度は、今、精神障害者に関してはつくられておりません。公的なところでつくられているというふうに私が知っているのは、川崎市の事例だけです。あとは、「もやい」という、ホームレスの方たちの支援の政策の中で有志団体がつくっているぐらいかというふうに考えております。
 こういうものがない中で、今回語られている社会復帰というのは、全くイメージができません。恐らく、精神保健福祉法に言う精神障害者の社会復帰とは異質なものだろうというふうに思います。精神障害者福祉法に言う社会復帰が今できていないこの現状の中で、より大変な、深刻な状況を抱えた方たちが社会復帰できるというふうにうたわれるのだとしたら、それは社会復帰の質が全く違うものだというふうに考えます。社会復帰という言葉の内容を、ぜひもう一度精神保健福祉法にうたったときのことを確認していただいて、もう一度考え直していただきたいというふうに思います。
 こういう多くの限界や困難は、現行の精神保健福祉法の改善の中で十分解決に向かうことはあるというふうに考えています。ぜひそこを、富田先生もおっしゃいましたが、事例的な検証を十分にした上で進めていただきたいというふうに思います。
 それから、国の政策は市町村の方向に動いておりますけれども、国の政策がいい方向に動いていても、自治体が必ずしもそういうふうに動くとは限りません。既に、国立の療養所がある自治体におきまして、市町村になったからということで、保健所のデイケアが廃止されております。もう既に行き場のなくなった地域の障害者たちがたくさんおります。また、ショートステイ等の予算もつけていない自治体が、東京都では、一区以外すべてのところが、二十三区はつけておりません。こういうことをどういうふうにお考えになるか。ぜひとも検討していただきたいと思います。
 こういう改善は、御本人たちや家族の苦しみに寄り添って、しっかりと時間をかけて、丁寧に継続的なかかわりをすることで、御本人が安心して、安全に暮らせる地域の状況、そういう環境をつくる中でしか解決しないというふうに考えています。今回の法案のような、管理的、予防拘禁的な取り組みは、まさしく逆行するというふうに考えております。
 そして、何よりも、今の社会的入院の現状をつくっている、そういう中でのスティグマを助長するというこの一点のみによっても、国の政策による人権侵害を拡大させる有害な法律案だというふうに考えます。よろしく御検討ください。
 ありがとうございました。(拍手)
坂井委員長 ありがとうございました。
 次に、長野参考人にお願いいたします。
長野参考人 こんにちは。
 私は現在四十九歳になります。十七歳のときに、生まれて初めて単科の精神病院に入院しました。それ以来私は通院を続けておりますし、入退院も何度も繰り返してまいりました。その意味では、私は確かに精神障害者の本人であり当事者であるとも言えると思います。
 しかし、この法案について私がこの場で語るということに、私は非常に、ちゅうちょというか、穏やかでない気持ちがございます。このふかふかのじゅうたんの、暖房のきいたところで、暖房もない、日も当たらない保護室にいるたくさんの仲間たちの思いを語れるだろうかという思いもあります。そして、本来ここに来て話すべき人たちがここにいないということです。本来耳を傾けられるべき人たちが耳を傾けられていないということです。
 この法案がもし成立したら対象者となったであろう方たちは、今、精神病院の閉鎖病棟の奥深く、あるいは保護室に監禁されています。彼らこそ今ここに来て参考人として話していただきたい。それが無理ならば、ぜひこの審議は精神病院の閉鎖病棟の中に出張してやっていただきたい。私は今、そういう思いでいっぱいです。
 恐らく、今私の語る言葉も、その本当の当事者にとってはむなしいと思います。あるいは、この本人抜きの審議に私自身が加担している、裏切り者の言葉だと彼らには受け取られるかもしれません。それでも私はあえてここに来ましたのは、この法案は精神障害者差別だからです。再び三たび、私たち精神障害者は人間でない、おまえらは人間でない、私たちには人権はないと国会が宣言しようとしているからです。
 私どもは、全国「精神病」者集団として、そしてこらーるたいとうとして、法務省人権擁護局に、お手元に配りました人権救済申し立てをいたしました。人権侵犯者として名指しいたしましたのは、小泉首相、坂口厚生労働大臣、そして森山法務大臣です。この法案の提出そのものが私たち精神障害者に対する差別であるという趣旨でございます。
 私たちは常に一方的に対策の対象としてすべてが語られてきました。今この法案をめぐる審議もそうです。そして、この国の精神医療政策もそうです。そして、あえて言えば、精神医療自体もまた、私たち抜きに勝手に強引な医療を続けてきました。発病した途端、私たちは人間ではなくなります。すべてが、私たち本人抜きで、他人によって決められていってしまいます。
 私たちは、確かに病気は苦しいです。病気の苦しさもあります。しかしもっと苦しいのは、私たちが人間として、人として扱われない、差別の苦しさです。発病によって、友は離れていきます。職を失う、学園から追放される、家庭からも追い出される、地域からも排除される、こういうことはまれではありません。そのあげくに精神病院、病院と名はついているけれども、単なる収容所です。収容所に閉じ込められて、拘禁されていく。私たちは、私自身も含め、多くの仲間が多かれ少なかれこういう経験を重ねております。
 この差別の中で、最悪の自殺という選択を選ぶ仲間が余りに多過ぎます。今十二月ですね。十二月の年末、それからお正月、これは私たちにとって魔の季節です。皆が温かい家庭で家族とともに過ごすこのシーズンに、何の支援もなく地域でひとりで暮らす仲間が、毎年この十二月とお正月にどれだけ死を選んできたか。それを今私は思い浮かべております。
 こうした差別の現実の中で池田小事件がありました。そして、資料でお配りしました人権救済申し立ての添付資料一に、そこで、とりわけ大阪でどんな事態があったか報告されております。せっかく決まった職を失った方や、出かけようとしたらいきなり近所の人に取り囲まれて、おまえは精神病院に通院しているだろう、危なくてしようがない、おまえ、さっさと入院しちまえというようなこともありました。今、大阪の精神病院は池田小以降満床だそうです。それだけではありません。さまざまな患者会や人権活動をしている団体には、いろいろな嫌がらせや脅迫の電話などもありました。
 こうしたときに、政府は何をすべきだったか。まず、精神障害者に対する正しい知識を広報すべきですし、偏見を払拭するための広報活動をすべきでした。ところが、それをするどころか、小泉首相は何をしたか。精神的に問題のある人が逮捕されても社会に戻ってひどい事件を起こすことがかなり出ている、医療、刑法の点でまだまだ対応しなければならない、こう言ったんですね、小泉首相は。まだ、この事件で逮捕された方が精神障害者であるのかどうか、実際にやった事件が精神障害ゆえのものであるのかどうか全くわからない事件直後です。何と軽率な、しかし、一国の首相の発言です。どれだけ我々の生活に大きな影響があったか小泉首相は自覚すべきだと思いますが、それは撤回されることなく、しかも、今回のこの法案の準備作業が始められました。
 人権救済申し立て書の添付資料、きょうお配りしたものの二というのがございます。法務省刑事局手持ちメモという資料でございます。この法案を提出した法務省の認識はどうであったかと申しますと、「精神障害者を危険な存在(犯罪予備軍)と見ることは社会情勢から見て困難であると考えられる。」そしてまた、「法務省において、犯罪を犯した精神障害者とそれ以外の者との再犯率を比較検討しているが、精神障害を持たない者と比較して精神障害者の再犯率が高いとの調査結果は得られていない。」あるいは、二〇〇〇年十二月に法務省、厚生省の重大な事件を起こした精神障害者の処遇についてという合同検討会が発足して、それに対する記者会見があり、資料が配られましたが、そこでも、精神障害者の犯罪が近年増加している事実もないし、あるいは一般に比べて発生率が高いという事実もないということが言われています。そして、もちろん今までたくさんの質疑の中、あるいは参考人の陳述の中で、精神障害者が野放しになっているというような事実はないんだということは明らかになったと思います。この国では、世界に類がないほど私たちは過剰に拘禁され続けています。社会的入院は七万ともそれ以上とも言われています。
 あるいはまた、添付の表が一番最後の方にあると思いますが、そこに読売新聞の記事、起訴を一般と精神障害を比べた記事がございます。そこの例えば殺人のところをごらんください。一般と精神障害者の起訴率を比べれば、著しく、つまり精神障害者が何が何でも不起訴になっているという状態ではないことが御理解いただけると思います。この表を見るところ、殺人事件でも一般で約五割の方が不起訴となっていますね。この人たち、つまり精神障害者じゃない方がたくさん不起訴になっているわけです。ところが、不起訴になったからといって、一度悪いことをしたからもう一度やるに違いないという決めつけでこの方たちが拘禁されるということはないんですね。予防拘禁されることはないんです。しかし、私たち精神障害者だけは、今度の法案は、もう一度やるに違いないということで予防拘禁しようとしているんです。再犯の予測についてもさんざん議論されましたが、要するに、またやるに違いないという決めつけ、何の科学的根拠も正当性も妥当性もないということが明らかになったと思います。
 これについても、法務省の、先ほど、皆さんのお手元にある刑事局メモはこう言っています。「「危険性の予測」について誰が、どのようにして行うのか、また、どの程度の確実性をもって可能なのか等これまで指摘されていた理論的・実際的に困難な課題がある。」というふうに法務省自身がおっしゃっています。
 精神障害者の事件がとても多いわけでもなく、近年非常にふえているわけでもない。再犯が特別多いわけでもない。しかも、余りに精神障害者が監禁されている実態がある。再犯予測など単なる決めつけにすぎない。それなのに、なぜこの法案が上程されたんでしょうか。皆さん、不思議に思われないでしょうか。何でこんな法案が必要とされるんでしょう、出てくるんでしょうか。
 一つの具体例を見てみましょう。お手元に、「「ポチ」と呼ばれた患者」という読売新聞の記事が引用されていると思います。これは、大阪の私立精神病院箕面ケ丘病院で、職員水増しとか違法拘束とかいろいろな問題が昨年暴露されまして、この病院はことしの一月に保険医療機関指定取り消しとなりましたけれども、この中で、一人の患者さんのことが話されています。
 大勢の人間が出入りするデイルーム、いわば食堂みたいなところですね、精神病院ではデイルームなどと言いますが、そこの窓の鉄さくに二メートルのひもをつけて、患者を犬のように縛っていたんです。十年近くだそうです。トイレも便器で済まし、食事もそこで済まし、この半径二メートルだけが彼の生活範囲でした。このようなことが実際にありました。
 本来、人をかぎをかけて閉じ込めるとか、あるいは縛るとか、そういうのは犯罪です。皆さんよく御存じだと思います。しかし、精神保健福祉法は、本人の医療と保護に欠くことのできない限度でという建前ですが、一定の手続のもと、閉鎖病棟にかぎをかけて閉じ込めるとか、あるいは身体拘束ですら一定認めております。つまり、刑法上の逮捕監禁罪を免責するために精神保健福祉法がありまして、そして、その決定ができるのは精神保健指定医だという構造になっております。
 このポチと呼ばれた患者にされたこと、十年にもわたってひもに縛りっぱなしだったということは、さすがに精神保健福祉法ですら合法化できません。犯罪です。単なる犯罪です。刑法上の罪です。しかし、この箕面ケ丘病院のこのポチと言われた患者をつないでいた人はだれ一人逮捕されていません。警察が調べたかどうか私は存じませんけれども、だれも逮捕者が出ていません。さらに、精神保健福祉法違反ということですら挙げられていません。この病院は、保険の請求が水増しだった、単にそろばん勘定のことだけで挙げられたんです。ところが、一人の人間を犬のように縛っていたことに関しては、だれも問題にしなかった、この国はだれも問題にしなかった、そのことをもう一度言いたいと思います。
 例えば、同じように一人の少女を監禁していた新潟の事件がありました。この事件は大変な騒ぎになりましたよね。マスコミも非常に大きく取り上げました。そして、この犯人と言われた人は逮捕されて、公判に回されて、刑罰を受けようとしています。確かに、この少女の監禁事件も、ポチと言われた患者さんを縛っていた事件も、本当に憎むべき犯罪だと私は思います。実りあるべき人生を奪った許せない犯罪です。しかし、この国では、精神障害者とみなされた人、この新潟の事件はそのように報道されました、みなされた人が何かをすると大騒ぎになります。マスコミが大々的に問題にされます。ところが、このポチと言われた患者さんが縛られていた事件は、読売新聞ですら全国版に載りませんでした。最近、私、何人かのドクターに聞きましたけれども、このこと自体を知らない精神科のお医者さんも結構いらっしゃいました。
 同じような犯罪が起こっても、加害者が精神障害者であるときと被害者が精神障害者であるときと、なぜこれほど差があるんでしょうか。やはり私たちは、精神障害者は、人間ではないんでしょうか。
 塩崎議員ほかが御提出された修正案の御説明では、この法案では対象者に医療を提供するんだ、社会復帰を促進するんだという御説明がありました。しかし、今現在ですら、違法行為の前歴があって措置となった方の入院は長期化しています。今、大塚さんがよく説明をなさっています。
 例えば、新潮45に、これはことしの夏ですが、「封印された殺人の記録」という、日垣隆さんという方がお書きになった記事が載っております。この記事の中では、松沢病院に長期間収容されている、事件を起こした入院患者さんが実名、顔写真で報道されております。これは何と二十年前の事件です。ということは、二十年間この方は入院させられっぱなしということなんですね。
 この方の場合も半年で措置解除にはなっていますが、措置解除イコール退院、社会復帰ではないことをもう一度御確認くださいませ。何か半年で措置入院の半分とかが措置解除だという御答弁があったそうですけれども、措置解除イコール退院ではございません。措置解除されても、医療保護入院や任意入院で入院し続けている方がたくさんいらっしゃいます。昨日私に手紙を下さったある方も、放火事件を起こして措置になって、措置はすぐ解除されましたが、十六年間入院なさっています。
 このように、二十年入院している方の実名、顔写真報道がされて、こんなやつが実は松沢病院では外出可で、時々周辺に買い物まで行っているんだというような書き方をされています。
 この法案の対象者というものは、精神障害者で、かつ重大な事件を起こして、さらに再犯の危険があった、三重の烙印を特別に押されるんですね。こういう人たちは永久にマスコミに追いかけられると思います。なぜ社会復帰などできるでしょうか。それこそ買い物だって行けない状態になると思います。
 政府は、六〇年代に精神病院をやみくもに増床しました。それまで、ある意味では放置されていたと言ってもいいかもしれませんが、辛うじて町の中で精神障害者は生きていたわけですね。ところが、町にいたその精神障害者が皆精神病院に駆り集められて監禁されていきました。したがって、人々は、日常的に精神障害者とおつき合いする機会というのを奪われてしまいました。精神障害者というのは鉄格子の中に入れられて、どこかずっと遠い精神病院に閉じ込められているものだという状況がつくり出されたんですね。これはまさにつくり出された、政府の政策によってつくり出されたんです。いわば、精神障害者は見えない存在、具体的な存在じゃなくて、非常に言葉だけの観念的な存在になってしまいました。それゆえに人々は、精神障害者は怖い、だから鉄格子の中に閉じ込められているんだと思い込むようになりました。この国の政策が人々の精神障害者差別をつくり、助長したのです。この過ちを二度と繰り返してはならないと思います。
 一たんつくられた隔離収容を解消するということがいかに困難か。これは今まで坂口大臣も、たくさんの厚生省のお役人の方たちも答弁していますけれども、いわゆる社会的入院の方が社会復帰するのに十年かかるなどとおっしゃっている。それぐらい困難だ、一たん閉じ込めた政策をとったら社会復帰は非常に困難になるわけです。この状況で新たな隔離収容施設をつくることを決して許してはなりません。
 ハンセン氏病の判決の中で、国の政策が差別を作出助長した、そして隔離状態を放置してきたことに関して、行政はもちろん、立法の不作為が問われたことを、今、皆さん、思い出してください。国会議員一人一人の責任が非常に厳しく問われたんです。
 今現在の精神病院の人権侵害状況、お手元に配りました読売新聞の表が載っておりますね。毎年毎年よくぞというぐらい、いわゆる不祥事というのが精神病院で起きていますね。この状況を放置していらっしゃるのも、もちろん行政がまず責任がありますが、やはり立法の不作為でもあると私は思います。
 しかし、この今問題になっている法案が万一にも成立することがあれば、これは立法の不作為ではありません、精神障害者差別宣言を積極的にする行為です。精神障害者差別と隔離の法を二重に成立させるという行為です。精神障害者は精神障害ゆえに犯罪を起こしやすいんだ、危険だ、だから特別な法律をつくって予防拘禁して、強制入院医療をさせなければいけないんだ、こういう精神障害者差別を再び三たび人々に植えつけるということです。
 民主主義というのは確かに多数決原理かもしれませんが、私たちは二百万ですが、やはり少数者です。事人権に関する限り、少数者の人権に関する限り、多数決で決められていい問題ではありません。今まさに国会議員の皆さん一人一人の見識が問われています。
 直ちにこの法案を葬り去ることを皆さんに訴えます。精神医療の今後の歴史の中で、そしてこの国の人権をめぐる歴史の中で、この法案に賛成した国会議員の名前は永久に刻み込まれるということを私たちはここで宣言します。
 どうも長い間失礼いたしました。(拍手)
坂井委員長 ありがとうございました。
 以上で参考人の御意見の開陳は終わりました。
    ―――――――――――――
坂井委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。竹下亘君。
竹下委員 自由民主党の竹下亘でございます。
 参考人の皆さん方、本日はお忙しいところ、この合同審査に御出席を賜り、貴重な御意見をお伺いさせていただきました。また、この法案とは別に、今、心神喪失を抱えておる人たち、その人たちがどういう状況に置かれているかについても、赤裸々な表現も含めて私たちにお教えをいただいたものと受けとめさせていただきます。
 しかし、私たちは、あの池田小学校の事件が起きてからというもの、どうしたら何の罪もない子供たちが死ななくて済むような社会をつくることができるか、懸命の模索を今日まで続けてきました。その中で、一つの社会のセーフティーシステムの支えになるかなという思いも込めて今回の法案の審議を今進めておりますし、その思いの中から塩崎さんを初めとする皆さん方が修正案も提案をして今日に至っておるわけでございます。
 特に、最初の法案の中で、再犯のおそれという言葉、「再び対象行為を行うおそれ」という表現が使われておった。この表現がさまざまの意味で十分とは言えない、あるいはいろいろな波紋を起こし過ぎるということに焦点を当てられまして、このような疑問を解消しつつ、中心を医療の必要性というところに要件を置きまして、目的を限定的なものにするというような方向に修正案がなっておると私は感じております。
 そこで、松下さんにお伺いをいたします。
 「再び対象行為を行うおそれ」という表現から、「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認める場合」、こう規定をし直しております。この条項につきまして、長年精神医療に携わっていらっしゃった医師のお一人といたしまして、どう評価されるのか、あるいは評価されないのかといったような点も含めて、まずお伺いをしたいと思います。
松下参考人 「再び対象行為を行うおそれ」、そのおそれということに関して言いますと、今の精神保健福祉法でも、自傷他害のおそれという言葉が使われていますので、そのおそれということ自体、それほど私にとっては余り問題にはなりません。
 ただ、全般的な文章として読むと、先ほどからほかの参考人の方もおっしゃっていますが、やはり再犯の予測というのは完全にできることではないということはもう当然なことなんで、私も余りそのことはあえて言いませんが、そういうことを考えさせたり、あるいは何か危険性という一種の偏見みたいなものがちょっとその表現の背後に潜んでおりますので、今回の修正案の提案では、そうではなくて、むしろ医療の必要性というものを中心に据えたり、あるいは社会復帰ということを中心に据えているということに関しまして、私は修正案は一つの大きな進歩でなかったかというふうに思っております。
竹下委員 ありがとうございました。
 さらに、修正案附則第三条を追加いたしまして、精神障害者全般に対する保健、医療、社会福祉の充実、あるいは、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対する施設と同じく、保健、医療、福祉施策の充実が重要であるということを、この附則第三条の中に書き込んでおります。そして、それを政府の責務として施策の充実に取り組むべきだということも述べておるわけでございますが、先ほど、参考人の皆さん方の意見を伺っておりますと、いや、それ以前だ、こういう保健、医療、福祉施設の充実以前に、精神医療そのもののあり方がさまざまな問題を起こしているという側面も厳しく指摘が出ておったところでございます。
 そこで、お伺いをさせていただきます。
 まず、やはり松下さんにお伺いをいたしますが、どうすればいいんですか。これだけいろいろな問題があって、しかし、我々、何もしないでいるわけにいかないんです。長年の経験に基づいて御意見があれば伺わせていただきたい。
松下参考人 どうすればいいか。私一人がどうかすればいいという問題ではなくて、皆さん方が先ほど主張されたように、私もまさにそう思うんですが、やはり一般的な精神医療というのは、先ほどの、例えば医者のあれが四十八対一とか、ほかの医療から比べると非常に劣悪な状況にある中で医療を行わなきゃいけないとか、さまざまなそういう問題点があるので、そういうことをきちっとやはりレベルアップするということが非常に大事だろうというふうに私は思っております。特に、精神医療のみならず、恐らく、福祉に関することだとか保健に関することも含めた、そういうことをぜひやっていかなければいけないし、ぜひやってほしいというふうに私は思っております。
 細かいことをどうすればいいかという問題は、それはまた別の問題というのか、今ここで一々言うことではないだろうと思いますが、ともかく、希望としては、私は今の一般精神科の医療が十全などとは一つも思っていなくて、むしろ大変不満に思っています。それはぜひやっていただきたいというふうに願っております。
竹下委員 同じような内容を富田さんにもお伺いをしたいと思います。
 リスク管理の問題等々、お話しになりました。富田さんの立場ではどうすればいいのか。そして、今私たちが審議をしておりますこの法案に基本的に反対であるという立場でお話をいただいたというふうに伺いましたが、このままでいいとは多分お考えになっていないだろう、どんなことをすればいいとお考えになっているか、その辺を含めてお伺いをさせていただきます。
富田参考人 先ほどの総括の中に述べてありますが、先ほども述べましたが、まず事実を認識していただきたいということであります。
 例えば、単純に四十八対一という医療法特例がありますが、よく考えていただきたいと思います。措置入院というのは、行政処分として知事命令で強制的に入院させるんです。医療保護入院は、医療及び保護の必要なためということで強制的に入院させるんです。強制的に入院させておきながら、医療の制度は一般医療水準以下であるということ、このことをよくお考えいただきたい。いいですか。強制的に医療のために入院させておきながら、医療は医療ではないということが五十年も続いているということであります。
 しかも、医師とか看護婦の数だけではないんですよ。読売の話もありますが、例えば、今、看護婦の四対一を辛うじてとっているもの、その水準を一応基準としても、指定病院の三割は満たないというふうになっていますね。措置指定病院でもその基準に満たない。
 いいですか。こういうことが人権侵害ないしは不法状態であるというふうにまず御認識すべきではないかというふうに思います。
 先ほど話しましたように、そういうものだけではないんです。社会復帰など簡単に言っちゃいけませんよ。我々が、今、二十年、三十年入院している人たちを出すためにどれだけ大変なことをやっていますか、PSWがどれだけ動いていますか。患者さん、家族はほとんどいません。そういう人たちを出すということがどれだけ大変かということをよくお考えいただきたい。そういうことをまずやるということです。
 先ほど話しましたように、殺人を犯したり、そういう人たちでも、実はそういう支えとか医療の質とかがまずなければ、どんなに特別保安病棟をつくっても、そこは、この法案では特に閉鎖システムになっていますよね、ほかの医療法体系とは全く違った閉鎖システムになっています。それでは全く医療などということはできません。そういうことをまず声を大きくして言いたいと思います。こんなことをやるよりも、今現在の状況をよく知ることです。刑務所医療なんかもよく知ることです。そして、患者さんがどういうふうに生活しているのかということをよく知ることです。
 たまたま、これはちょっとプライバシーに触れることでありますので言えないことがありますが、家族からも見捨てられて、どこへも行くところもなく、保証人もなくて、しかし、いろいろ算段の末、アパートを見つけて、これは数年かかりました、そして退院外泊のために外泊してもらいました。そうしたら、翌日死んでいました。
 そういうことが起こっているんです。そういうことを皆さんよく知ってください。事実を知ってください。
 以上です。
竹下委員 今私たちが取り組もうとしておりますのは、そういう精神医療をめぐる環境というのは、皆さん方の発言にございますように、さまざまな問題点を抱えておる。しかし、そうはいいましても、心神喪失者等の医療観察法案、何らかの手を打たなければいけないと私は考えております。仮に池田小学校のような事件がまた起きたら……(発言する者あり)そうかな。少しでもいい社会を目指していろいろ対応しなければならない。
 そういう意味で、今回の修正案は、大変な思いを込めて努力されているということをぜひ御理解いただきますようお願いを申し上げまして、私の質問を終わらせていただきます。
坂井委員長 次に、平岡秀夫君。
平岡委員 民主党の平岡秀夫でございます。
 きょうは、参考人の皆さん方、どうも御苦労さまでございます。
 最初に、今回の法律案、新法は、本当に目指すべき方向に向かっている法律案なのかということについて、参考人の一部の方々にお伺いいたしたいというふうに思います。
 先ほど南参考人から、地域医療、地域全体でこういった精神医療の問題について取り組んでいく必要があるんだというお言葉もありました。そして、長野参考人の方からも、今回の法案は、ただ単に差別を助長し、そして精神障害者の方々を拘禁する、拘束していく法律であるといったような評価がありました。
 実は、せんだって我々も、イタリアのトリエステで一九七八年に制定されたバザーリア法の関係についての勉強をいたしました。世界の精神医療の趨勢というのは、こうした隔離をしてやっていく、必ずしもそういうものではなくて、やはり地域全体として取り組んでいく、開放医療的なそうした方向に進んでいるというふうに私は理解したわけでありますけれども、今回の法案というのは、むしろそれに逆行する方向の法案になっているというふうに私は思っているんです。
 この点について、松下参考人と富田参考人にそれぞれ御意見をお伺いしたいと思います。
松下参考人 この法案が、現在の世界的な、トリエステが世界的かどうかわかりませんが、地域精神医療を中心としたそういう方向に逆行しているかどうかということですが、私は、現場からいって、先ほどちょっと言いましたが、そういう対象行為を行った対象者が、やはりもうほぼ無期限に近く閉鎖的に処遇せざるを得ない状況に今あって、そのために、その人たちをいかに精神医療をきちっとやって社会復帰させるか、そのための努力を我々はしているけれども、それが非常に今ネックがあってやれない。この法案ができると、その辺がかなりよくなるからということで、これは、隔離とか何かではなくて、法案がなくても現在の時点で隔離は絶対しているわけですから、この法案ができることによって、むしろその隔離的なものがもっと開放的になる方向に向かうんではないかというふうに私は理解をしております。
富田参考人 よくイギリスの例が出されますが、イギリスは今現在、精神保健法改正の動きがあります。これはどういうものかといいますと、精神病質という言葉は最近なくなったようですが、世の中で、あの人はおかしい、危ないというふうに、だれでもがだれも告発できます。そして、それによって、ある三段階の審査を経て、強制的な収容ないし地域管理をするということができるようなシステムになりました。これは、いわゆるリスク管理が徹底するとそうなるんですね。そういう形で、精神科医療に刑事政策的なものを医療的にやれというのが今イギリスで起こっている非常にすさまじい状況なんです。
 日本の今のこの法案はこうなります。この法案は、いろいろおっしゃいますが、必ず再犯予測が不可欠なんです。それを抜きにこの法案はできるわけがないんです。そういうふうになります。そして、その再犯予測というものが、先ほど修正案の議論の中で、この法案によって立派なものをつくって、そこで何かいろいろなことができたことを一般の精神科医の水準の向上に充てるという趣旨のものがありましたが、これは全く逆であります。
 ちょっと皆さん、考えてくださいよ。いいですか。これは、再犯させないための法律です。そして、だれかが外に出ます。つまり、フォールスネガティブの問題ですが、出て再犯を起こします。例えば殺人が起こったとします。殺人によって殺された人、被害者は訴えることが可能ですよね。訴えます。そうしたら、この法案によっては、これは再犯を防ぐための法律でしょう、ところが出したでしょう、出した判断はだれがしたんですかということになります。そうしたら、この法の目的に沿って裁判が行われます。これは明らかにミスだということになります。つまり、閉じ込める方向に必ず、一〇〇%なると私は思っております。そうしたら、判定をした医師、裁判官、いろいろな方々がそれに関与しています、だれが責任を負うんですか。だれが訴えられる当事者なんですか。漠然としています。そして、精神科医療全体がイギリスのようにリスク管理のようになって、重大な犯罪を犯さないのであっても、精神障害者が何かすれば問題、先ほど長野さんが言ったそういうものが起こります。
 だから、この法案が通れば、ますます精神障害者に対してリスク管理という観点、それから再犯をさせないためにどうするか。一般の人は、再犯させないために監視する体制がこの国にありますか。ないですね。精神障害者に関してはつくっていく、なっていく。そして、精神科医療にそれを負わせていくということに必ずなります。
 それからもう一つ。皆さん御存じかどうか、最近道路交通法が改正されました。道路交通法はどういうことかといいますと、欠格条項を、絶対的な欠格条項から相対的な欠格条項にする。つまり、精神障害、分裂病とか統合失調症とか、そういう者に関しては運転免許を与えないという今までのものを変えたんですね。よくなったかに思いました。
 ところが、内容はこうなっていますよ。我々、本委員会でも非常に議論して、精神神経学会理事会でも厳しく批判してきましたが、精神科医にこの人は運転しても大丈夫だという診断書を書かせるんですよ。書かせた上で運転免許を与えることを可能にするんです。何で精神科医がこの人は運転できるかどうかなんて鑑定しなきゃいけないんですか。そういうふうに、何か資格を持った人が診断して大丈夫だということを言わせて、訴訟されたらどうなりますか。これは議論になりました。大丈夫だと診断書を書いたからあれしたんだ、こういうふうになっていきますよ。
 我々精神科医は非常に危機感を持っています。さっき松下先生はいろいろおっしゃっていましたけれども、私は、松沢病院とか、いろいろ大変なところはあるということはよく知っていますし、そういうところの医師からとにかく大変なんだよという話を聞きます。大変なのは、この法案がないからでは全くありません。今の現状を大変にしているのは今の精神医療政策なんです。今の精神医療政策が大変にしているんですよ。それをちゃんと、何が問題なのかを明らかにしてきちっとしていくということが本来の我々がやるべきことです。この法案をつくっていいことなんか一切何もありません。
平岡委員 富田参考人のお話は非常によくわかりましたけれども、さらに話を再犯予測の方に移らせていただきたいと思います。
 先ほど松下参考人は、今回の修正案は医療の必要性あるいは社会復帰の必要性が明確になっているので評価したい、そういうお話がありました。
 ただ、入院決定の要件について見ますと、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる、その判断をしなければいけない。そのときに、今回の法案を見ますと、「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる」、こう書いてあるんですね。
 松下参考人は医師でもあろうと思うんですけれども、この規定で、どういう人を入院させるという判断ができるんでしょうか。入院をさせて医療を受けさせるための判断基準として、今の文章の中で、何を基準にして判断をされるんでしょうか、それができますでしょうか。
松下参考人 御質問の趣旨を十分理解できなかったんですが、要するに、基本的な考えは、疾患名はともかくとして精神症状が出た、そしてそのために対象行為を起こした、恐らくそれは因果関係があるだろう、だから対象者の精神症状をよくなせば対象行為がなくなるのではないかという大前提があって、そのために対象者のその精神症状を治療しなければいけないというのが大原則ですよね。それ抜きには全然精神医療というのはあり得ませんから、そういう観点からやるということが一つ。
 それからもう一つは、現在それでもやっている、でも、やっていて、では現在どうしてそれがうまくいかないのかといったときに、それは、先ほど私が言いましたように、特にこういう重大な他害行為をした人に関しては、医療だけでやっているとどうしても限界があってどうにもできないという事態が生じて、結局それが長期入院みたいな形になってしまう。だから、これは少し司法がきちっと関与していただいた方がむしろ対象者にとっても幸せになるのではないかという発想があるわけです。そういう大前提がある。そういうことで精神医療というものを考えていかなければいけないというふうに私は考えております。
平岡委員 多分、今言っておられることは、「入院をさせてこの法律による医療を受けさせる」、その医療じゃなくて、医療プラス何か別のものということですよね。となると、医療行為そのものを見てみたら、この法律で特別な医療が行われるということではなくて、この法律は医療プラス何かがあるからということだと私は思うんですよね。そうであるならば、多分、精神保健福祉法の中での医療をきっちりとやり、そして社会復帰をするための体制をきっちりととっていく、この二つが組み合わされれば、松下先生が言われているようなことはでき上がるんじゃないでしょうか。どうでしょう。
松下参考人 措置入院云々で今の医療の中でやるとできないというのも再三繰り返しているんですが、つまり、現在の、例えば松沢病院の中で、専門的な病棟、特に病気で集めた病棟というのはアルコール病棟とか痴呆病棟があるわけです。ではどうしてアルコール病棟だけつくるのかという疑問が当然出てくるわけですね。それはなぜかというと、やはり、アルコールの依存症に対する一種の治療プログラムというのがある。それは痴呆病棟に関してもそうです。痴呆病棟に関する治療プログラムがある。
 私は、今回の法案にそういうことはうたわれていないけれども、恐らく、今回の法案の対象となる施設ができたときには、そういう司法精神医学の治療プログラムというのはやはりちゃんとつくらないとだめだと思うんですね。それをつくった上で、例えば精神療法も含め、薬物療法も含め、あるいは生活指導とか、いろいろ社会復帰にかかわるようなことも含めたそういうプログラムの中でやらなければいけない。だから、そういうことで先ほど言った精神医療が必要だということです。
平岡委員 入院についても、どういう要件をもってして入院を決定するのかということがこの法案では全く明確になっていないという点について私はまず指摘したいと思うんですけれども、先ほどの松下参考人の説明の中に、今の措置入院制度であると、医師がいろいろ判断に苦しんで入院が長引いてしまう、あるいは退院をさせることを避ける傾向が、ヘジテートするというようなことを言われましたけれども、これは、裁判官が入ってきたらもっと退院がしにくくなるんじゃないでしょうか。
 裁判官というのは、再犯のおそれみたいなものを判断するわけですね。病気に基づく症状じゃなくて、それ以外のものとして、病気で入院したけれども、病気が治って退院が可能であるというふうに精神科医が判断しても、裁判官はだめだという判断をした、それだったら退院はできない。精神科医がこれは退院してもいいと判断したときに、裁判官がそれをとめる。精神科医が退院はだめだと言ったときに、裁判官がこれは退院させてもいいという判断をするはずがないわけですよね。
 松下参考人が言っておられることはむしろ逆じゃないですか。裁判官をかますことによってさらに退院をおくらせ、そして退院させることを、社会全体として、制度全体がヘジテートするということになりはしないでしょうか、どうでしょう。
松下参考人 現状では、確かに精神科の医者だけの判断に任されているんです。具体的に言いますと、例えば殺人事件があった。特定の殺人ですと、よくなったときに、その人が退院をしても、特定の人に対する殺人というのはあり得ないから、恐らくそういう行為はほとんど予測できない。ところが、不特定多数の殺人というもの、通り魔みたいな殺人があったときに、非常に病気がよくなった、医者としてはやはりこれは退院をさせたい、でも、実際退院させて何かあったときには医者がすべて責任を負わざるを得ないという状況です、今は。
 今回は、それの退院の判断に関しては、医者の意見とともにやはり司法の意見も聞いて、そして司法がそれは退院してもいいでしょうということになれば、それは今の状況とは全然違って、もう少し早く社会復帰ができる。実際そういう予測はできませんから、別に犯罪を犯さないかもしれないしということが実際生ずるわけで、そうすると、要するに、長引いた入院も退院できるということになろうというふうに私は思っておりますけれども。
平岡委員 時間がないのでこれでやめますけれども、今のお話を総合すると、退院の判断はやはり医者がする、そして退院をした後のフォローというものを、社会全体として、社会復帰をするその仕組みの中できちっとやっていくことで、そういう形で対応するべきであって、退院をするときの判断を精神科医と裁判官がやることによって、後はもうほっておけばいいんだということでは多分ないはずなんですね。
 だから、退院をした後のケアをどうしていくかが本質的な問題であって、裁判官を退院をするときの判断にかまさせるということが本質ではないということを私として申し上げまして、質問を終わらせていただきます。
坂井委員長 次に、福島豊君。
福島委員 本日は、参考人の皆様方には、大変お忙しい中貴重な御意見を賜りまして、本当にありがとうございます。
 私も連立与党の中でこの検討に加わった一人でございますが、ただいまの参考人の御発言を聞いておりますと、大変複雑な心境でございます。松下参考人のおっしゃることを聞いているとなるほどなと思い、また、富田参考人、大塚参考人、長野参考人のお話を聞いていると、またなるほどなと、なかなか収れんしないわけでございます。
 そもそもの根っこのところには、日本の精神医療というものは大変問題がある、これは非常に共通した認識なんだと思うんですね。先般、野田正彰先生の本を読みましたが、なかなか日本の精神医療を内部的に変えるのが難しいということで、WHOにわざわざ来てもらって、見てもらって意見書を書いてもらったというような歴史的なことが書いてありましたけれども、まず、松下参考人にお尋ねしたいんですが、なぜ日本の精神医療というのは、二十一世紀に入りましても、さまざまな批判が出るような状態にあるんだろうかとお聞きしたいと思います。
松下参考人 なかなか難しい質問で、なぜかというのを、例えば一言とかあるいは一つか二つの理由で説明はできないんですが、今の精神医療の中で、特に松沢病院はこれから生まれ変わろうとしているんですが、社会的入院と俗に言われている患者さんをいかに退院させるか、それが非常に問題だ、現在の時点では大きな問題だと思っているんですが、では、なぜそういうような社会的入院患者を生ずるようになったかということをむしろ考えたときに、やはり日本の精神医療のあり方が一つわかると思うのですね。
 実は、私は昭和三十七年に卒業して医者になったんですが、そのころは、精神科の病床が十三万床ぐらいですね。人口は一億ちょっと切ったぐらいですよ。今は、一億三千万の人口で三十三万。それだけふえたということは、要するに病院がふえたんですね。病床がふえちゃったんです。そうすると、病床がふえると入院患者さんを入れざるを得ないということで入院患者がふえた、そういう側面がかなりあって、そういう経済的な理由がかなり日本の精神医療をレベルダウンさせたということは、私は基本的にあると思うんですね。
 だから、その辺をきちっとやはり修正をして、先ほどから話題が出ているように、将来的には精神医療というのは入院中心ではなくて地域医療中心だと私も思っていますから、そういう方向に向かっていかなければいけないというふうに私は思っています。
福島委員 富田参考人にも同じ御質問をいたしたいと思います。
富田参考人 日本の精神科医療の、特に戦後のことをお話ししますと、戦後の精神科医療は、まず一九五〇年に精神衛生法ができました。一九五八年に、先ほど私が言いました医療法特例ができました。一九六〇年代は高度経済成長ですね。そういう枠組みの中で、精神科医療の中にいろいろな要素を全部入れ込んだんです。
 まず貧困の問題があります。日本の精神病院が三十三万床ありますが、この三十三万床の偏在構造というのがあります。どの地域に万対でどのぐらいというのがあります。例えば東京とか、いわゆる太平洋ベルト地帯、比較的経済的に豊かな、それから工業とか仕事がある地域は万対病床数は基本的に少ないんです。二十とかそのぐらいなんです。ところが、東北とか、特に西南日本、特に九州全体ですね、それから四国の土佐とか、そういうところは万対五十とかそのぐらいの水準なんです。東京でいえば、区部は病床数がほとんどないんです。東京の東、多摩とか奥の方に病床数があるんです。
 そういう形で、精神病床は、経済的な、あるいは貧困の問題とかそういう問題の枠組みの中で林立したんです。筑豊地帯とか常磐地帯とか、炭鉱が崩壊していく過程で貧困が集積したところに精神病院がどんどん建ったんです。そういう形で精神病院は今のような姿をつくったんです。つまり、医療プロパー、精神障害プロパーの問題では全くない形で精神病院はつくられたんです。貧困と、簡単に言えば治安の問題がベースにあって精神病院ができたんです。それが今の現実なんですね。ですから、今度の法案は、治安の問題、刑事政策の問題が精神科医療にもっと強く流されようとしているというふうに私は考えているんです。
 医療は医療というふうにもっとしたいんです。精神保健福祉法には、医療及び保護という言葉がありますね。それから、社会復帰と社会参加というのが最近加わりましたが、もともと医療及び保護なんです。この保護の中に、今言った貧困の問題とか治安の問題とかが含み込まれているんです。私は、保護を今外せというふうに言っているんではありません。そういう形で今のができ上がっていると。
 それからもう一つ。そういう形ででき上がった民間精神病院が九〇%近くですね。私も民間精神病院の院長ですが、民間精神病院は収容していかなければ成り立たないんです。民間精神病院は収容主義でなければ自分たちは成り立たないんですというふうに今なっているんですよ。これは、何といってもなっているんです。それは、皆さん方、我々がつくってきたんですよ。公的にもっといろいろやればいいものをやらないで、そういう資本の流れの中に任せたんです。だからこうなったんですよ。
 これを変えていかなきゃいけないんです。変えていかなきゃいけません。変える視点がなくて、一般的に社会復帰という言葉を述べても、何にもならないんです。そういうことを皆さん、よく御認識いただきたいと思います。
福島委員 この国会でも、参考人がおっしゃられるような指摘が多々ありまして、塩崎先生を初めとする方々の修正案というのは、そこのところを十分に配慮して、そうした精神医療をどうしていくのかという視点を十分盛り込みたいという考えで出されたとは私は理解しております。
 どういうふうに底上げしていくのかということでございますが、地域における支援体制が大切だと思います。
 南参考人にお尋ねをしたいわけでございますけれども、地域における医療的な支援、福祉的な支援、いろいろありますが、その中で看護師の果たす役割というのも大変大きいだろうと思いますけれども、その点についてどのようなお考えかをお聞かせいただきたいと思います。
南参考人 地域におきまして今まで看護職が取り組んできました精神保健に関しましては、保健所を中心とした保健師が精神衛生相談員の資格を持って患者さんの再入院、再発を食いとめるというようなことで運動をしてきたんですが、何せ人が足りませんでした。
 アメリカ等でされています調査によりますと、外来と訪問看護とを組み合わせて行った場合と外来治療だけを行った場合とでは再発率がどう違うかというのを見ますと、外来と訪問看護を組み合わせた方が再発率は低いということがはっきりしております。
 精神障害者の課題というのは、対人関係が非常に大きな課題です。人と人とのつき合い、人と人との関係性、社会とのつき合いというところにいろいろな措置が必要だというふうに私たちは思います。それにもかかわらず、対人関係を主体としないといけないそういう分野に対して、医療関係者または専門家が非常に少ないということが大きなこの領域の課題だというふうに思います。
 したがって、今後、私たちが強く希望しておりますのは、入院期間中の、医師も含めてですが、医師も非常に重要ですが、医師と看護職等医療関係者の数がふえていくこと、それによって十分な手当てを病院の中で行うことによって早く退院できる仕組みがつくれること、そして受け皿をつくること。受け皿をつくるというのは、PSWだとか保健師だとか、看護職のいろいろな訪問看護体制を、今のところ医療でしかできないんですが、福祉の分野でも日常生活の中で薬を飲みながら退院していく人たちに支援できていくような、そういう体制が必要だというふうに私は思います。
 もう一つ重要なのは、住宅施策が非常に重要です。看護職といたしましても、共同住居だとかいろいろなことでプロジェクト的に頑張ってきているところは多々ございますけれども、今後ともその方向が重要だというふうに考えております。
福島委員 また、大塚参考人にお尋ねをしたいわけですが、社会復帰調整官ということで、さまざまな役割を精神保健福祉士の方には担っていただくということが修正案の中には盛り込まれているわけでございます。社会復帰調整官というのは、なかなかに医療現場におきます通常の業務にプラスアルファされる部分というのは当然出てくると思いますし、そしてまた、どれだけマンパワーを整えてもらうことができるのかとか、さまざまな御心配があろうかと思うんですけれども、その点について再度御発言がありましたら。
大塚参考人 社会復帰調整官を精神保健福祉士が担うということですが、今現在、また、近く国家試験を迎えようとしていますが、約一万三千ぐらいの資格者が生まれています。また、ことしも二万近くになるかと思うんですけれども、今の医療の中にすら雇っていただける基盤がありません。なぜならば、診療報酬制度で裏打ちがないからです。
 こういう現状の中で、限られたマンパワーで今は退院促進をしているというのが実情でありまして、私は今私の勤めている病院の外来専従担当をしておりますが、九百名ほどが対象です。もちろん、すべてがソーシャルワークが必要な方ではありませんが、こなせるはずがありません。病棟担当の者も、大体一名が六十から百は持っているというのが恐らく平均的な数字だと思います。お医者さんもかなり過激な勤務状態ではありますが、面接室の中で、また病棟で、大体は病院の建物の中で動かれる職種でありますが、私どもは外に出ます。
 社会復帰支援というのがどういうことなのかを皆さんきっと御存じないかと思いますが、今、南さんの方からも対人関係が大変な方々という話がありました。加えて、社会生活をするための力というのが長期の入院によって著しく損なわれております。
 私は、現在の精神障害者の、特に長期入院の患者さんたちの生活障害というのは病院がつくったと言っても過言ではないというふうに思っております。なぜならば、人間が変化する、成長する、社会の中で暮らすということは、体験する機会が与えられなければこれはどうにもできないことであります。皆さん、浦島太郎の状態になっているんですね。私どもでも日々目まぐるしく変わる今の社会になかなかついていけません。何十年も病院という限られた空間の中で暮らしていて、とてもとても不安が強い方たちを外に連れ出し、一緒に同行し、一つ一つの体験をともにする中でその不安を解消していく、彼らに安心感を持ってもらう、こういうことにどれだけの労力がかかるか、御存じでしょうか。これをする人員が配置されていないのが今の精神医療の状況なんです。
 これをまた、地域に暮らすようになった方々の地域生活支援までをもなぜ医療機関の限られたマンパワーでやらなければならないのでしょうか。今、地域の精神保健福祉のマンパワーも圧倒的に足りません。こういう中にあって、なぜ新たな法案では、現行の精神保健福祉領域の機関の中にマンパワーを充足することをしないで、いきなり保護観察所といったようなところに名前だけを変えた社会復帰調整官を置こうとしているのか。社会復帰調整というのは言葉を唱えればできるものではありません。
福島委員 以上で、時間がなくなりましたので終わりますが、大変貴重な御意見、ありがとうございました。
 いずれにしましても、しっかりお金をかけて、きちっとした医療をやらなきゃいけない、福祉をやらなきゃいけないということだろうと思います。ありがとうございました。
坂井委員長 次に、佐藤公治君。
佐藤(公)委員 自由党の佐藤公治でございます。きょうは、お忙しい中、このような時間をいただきましたことを心より感謝申し上げたいと思います。
 合同審査でこうやって参考人の皆さん方にいらっしゃっていただくのは、私にとってみれば二回目なんですけれども、前回の参考人の皆さん方から聞いたことときょうお話を聞いたこと、やはり全く同じ思いを持ったということでございます。
 最初に、南参考人にお聞きしたいと思いますけれども、ここにも書いてありますね。リハビリテーション及びノーマリゼーションの理念の実現。私はこういったことを議論する場合に、断片的ではなくて、全体を見た、やはり国のあるべき姿ということを考えるべきだと思う。まさに、社会復帰、地域状況、いろいろなことが相互に関係し合いながら、この一つの問題というのは解決の方向に向かう。断片的に論じて解決できることではないということが今までの議論でもよくわかったつもりでございます。
 そういう中で、多分南さんはお持ちになられていると思います。社会保障、福祉、言葉だけは大変にきれいな言葉が飛び交うのですけれども、果たして、小泉総理、今の内閣、政府にその基本的な理念やこの国のあるべき姿というのはあるとお思いになられますでしょうか。
南参考人 私はそのことに回答する立場にはないと思います。
佐藤(公)委員 ちょっと場所が場所なのでおっしゃれないのかなという気がいたしますけれども、これはすごく大事なことだと僕は思うのです。
 先ほども長野さんがおっしゃったように、やはり一番大事なことは、社会全体の差別ということをなくしていく。人道や人権、ノーマリゼーション、言葉ばかり世の中、マスコミ、メディアが伝えるけれども、実態はどうかといったら、かなりかけ離れているように思える。そういうことからすれば、この国のあるべき姿ということを本当に小泉総理がお持ちになられているのか、政府・与党の方々がそれを持ってやられているのか、非常に疑問に思うんですね。
 そこで、同じ質問なんですけれども、松下さん、非常に難しい質問かもしれませんけれども、あるならあるで結構です、ないならないで結構です、率直にお答え願えればありがたいと思います。感じられないんだったら感じられない、見えないんだったら見えない。今の政府・与党、小泉内閣に、国の社会保障、こういうことも含めて、すべてのこういったものの理念や基本的な青写真があるのかないのか、どうお思いになられるのか。
松下参考人 南さんと同じように、答える立場に余りなくて、よくわかりません。
佐藤(公)委員 よくわからないというのが正直な気持ちだと思います。僕らもわからないんですもの、何をやろうとしているのか。だからこういうことになってしまうのかなという気がいたします。そこの部分ということを考えていかなければいけないというふうに思いますけれども、やはり断片的な話ばかりだとどうしても、おのおののお立場の皆さん方からお話を聞くと、全くそのとおりだというふうに思う部分というのがあるのです。しかし、全体を、やはり社会をどうしていくかということが非常に大事なのかなという気がいたします。
 そういう中で、富田先生にお聞きしたいと思いますけれども、富田先生の現場での話、考え方、非常に説得力のあるものがあると思います。そういう話を聞く中、私が思うことは、全体を見たときに、まさに被害に遭った方、また被害に遭われた家族の方々、こういう方々に対しての配慮、考え方というものを富田さんはどうお感じになられているのか、簡単にお話を願えればありがたいと思います。
富田参考人 被害に遭われた方々は、こんな無念な思いはないと思います。私がやられたら、やり返す、そういう思いに駆られると思います。当然のことですね。だから、もし法がなければ、やり返しに、復讐に行くでしょう。しかし、この国には、残念ながらというか、法があるんですね、司法というものがあります。被害者の人権もそうだし、加害者の人権も重んじる、普遍的な人間的な価値として重んじるというのがこの国の憲法とかこの国の司法の中に一応あるはずです。復讐はしたいが、復讐はできません。
 ですから、被害者の思いは、復讐して何倍にも返したいと思うでしょう。しかし、加害者の普遍的な人間的な尊厳ということもきちっと考えなければ法というものは成り立ちません。皆さん国会議員なんだから、私にこんなことを言わせる必要はないと思います。
 被害者感情によって、報復感情で物事を考えるのは全く間違いと思います。次元が違う。次元の違うことを同一の水準で論じることは全く間違っていると思います。被害者救済はきちっとやるべきでしょう。しかし、報復という形で、私的な報復という形、私がやり返してやりたいと言うような、その報復という形で司法は動くべきではないと思います。
佐藤(公)委員 大塚参考人にお尋ねします。
 今の話、被害者ということをお思いになられたときに、どういうことを感じられるか、思われるか。いかがでしょうか。
大塚参考人 一般的に、被害者の感情を考えれば、加害者が精神障害を持っていなくても、相当な感情的にはとめられない思いがあると思いますが、私が今、実際に現場で感じていますのは、特に、精神障害者の中で病状に起因して重大な犯罪行為をして被害者、加害者関係になってしまう方々の多くは、同じ家族もしくはとても身近なところにその両方が位置しているということなんですね。これは本当にはかり知れない苦しみです。被害者の方も加害者の方も同じ親族、身内の中にいらっしゃることが多いのです。それは、とても近くにいるから、病状がひどくなったときにそこに身を置いているからそういうことになってしまうんですね。
 これは、双方を支援しなければいけない。双方を支援することを考えたときに、今回の法案は少しも解決にはなっていないと思います。これは言葉ではもう語れないというか、とてもとても苦しい実際の中で物すごい時間をかけてやりとりをしなければいけませんし、とてもクリアできる感情ではないまま実際に離れてしまう、それぞれが離れてしまうということがあるわけですね。
 被害者になってしまった家族に加害者になってしまった障害者の支援をしてほしいと思っても、それはとても要求するのに難しい事態です。しかし、実際にそのことを頑張ってやれる場合もありますし、やれないことが多いわけですね。そのときに、両方の苦しみをどういうふうに考えて寄り添っていくかということは、どちらからも信頼されないとできないことです。どちらからも信頼されるということはこの上ない難しい援助だというふうに考えております。
 答えになっていないかもしれません。申しわけないです。
佐藤(公)委員 修正案を提出された方が、先般の委員会でも答弁でおっしゃられていたのですが、党内議論したときも、そして今でも、これが社会防衛を目的としたものでは決してないということで、特に今回は、医療に当たっていただくことによって社会復帰が早くできるようにということが最大の目的だというようなことをおっしゃられました。
 これは言葉としては非常にきれいなんです。言葉として非常にきれいなんですが、やはり私も、通常国会からこの法案を見ていくに際して、本当に、片や国民の生命と財産を守る上で一人も何かあってはいけない、また片方も間違いがあってはいけない、そんな思いの中で、どうこの法律、法案をつくっていくかということの非常に板挟みの中での法案審議なのかなというふうに私が思うことがございます。
 これはもしかしたら、富田先生に言わせると、それを同一次元の中で論じたりするのではなく、別の次元で話し合いをしながら全体社会をつくり上げていくという方式なのかもしれません。しかし、そういう話をしていくと、やはりこの国のあるべき姿がどうなのかというところに行き着くんですね。そこがきちんとしないことには、片方だけやっても片方が落ちる、こっち側をやるとこっち側が落ちる、全体をどうとっていくかということなんですけれども、それが全く政治として機能していないのかなと私は思います。
 こういう中で、実際、この法律の中にはやはり社会防衛というのが、先ほど参考人の方々のお言葉の中にも入っていたんですね。これは、全く社会防衛というのを無視したことじゃなくて、社会防衛ということもやはり考えて法律としてはつくられていると思う。そこをうまくごまかして、何とか通しちゃおうなんというのが何か見え隠れするような気がする。つまり、こういう部分をごまかすことが、政治においてやはり国民の皆さんに信頼を得られないところなのかなという気がいたしますけれども、そういうことを受けて、もう余り時間もございませんけれども、松下さんにお尋ねをしたいと思います。
 修正案を提出された方でも、本当は修正案を出された方に聞かなきゃいけないかもしれないんですけれども、これはとりあえず一歩前進だと。何が前進だか私はよくわからない部分がある。一歩前進と言っているんですけれども、政府の方も、または修正を出されている方、こういう方々が一歩前進と言われているのは、何が一歩前進だと思われているんでしょうか。先ほどは医療という部分でお話をされていた部分もあると思うんですけれども、全体を見て、ひとつお答えを願えればありがたいと思います。
松下参考人 私は、現場から、やはり精神医療の立場からしか答えようがないんですが、精神医療という立場からいうと、この法案で言う対象者の精神医療は今よりははるかに進歩してくる、そういう意味ではすごくメリットがあるというふうに考えております。
 それと、社会防衛という話が出ましたが、私は、全くそういうことはないだろうと考えています。
佐藤(公)委員 松下参考人に引き続き聞かせていただければありがたいんですけれども、きょう、こちらの方の意見書を読ませていただいて、ここのdという部分というのは、社会復帰に向けての活動がほとんど行えない状況にあると。私はもう、ここの一点、この一点というのが非常に松下さんも、この部分を訴えているところというのが強くあるのかなという気がいたします。
 実際、皆さん方の意見を聞く限り、この社会復帰ということに関しては、かなり現状が食い違っている。それはやはり、病院側、医療側、地域、国民全体の意識というものがそれを受け入れる体制にもなっていない、こういう部分に感じられるんですけれども、松下さんの方から、こんなにひどい状況なら、こういうものをなぜ今まで放置してきてしまったのか、または早く変えなきゃいけなかったのか。どん詰まりに来てから、この法案ができ上がって、通る、通らないから、やはりもっとここを訴えるべきところだったと思うんですけれども、いかがでしょうか。
松下参考人 先ほどからほかの参考人の方もおっしゃっていますが、やはりそういう社会復帰活動が、もうほとんどと言うと語弊があるかもしれませんが、大変不十分な状況にあることは事実です。私どもの現場からいっても、その病棟から退院させるときに、先ほどから言うように、受け皿の問題だとか、あるいはもうPSWの数なんかはほとんど少ないですからね。そういうマンパワーだとか、そういうことが全くできていないことで、やはりこういうふうに社会復帰に向けての活動がほとんどできていない状況にある。だから、それはもう一般的に、その病棟だけではなくて、松沢病院全体の、社会復帰、病棟を含めてすべてのことに当てはまるので、確かに、一般の精神医療をすごくレベルアップしていかなければいけないことはもう言うをまたないと私は思っております。
 でも、そちらを先にやるか、ではこちらを先にやるか、そういう二者択一の問題でもなく、あるいは先後の問題でもなく、とにかくやることはもうやってほしい、とにかくいい方向にやってほしいというのが現場からの願いですね。
佐藤(公)委員 もう最後になりました。
 やはり、今の小泉内閣の政治というものが、基本が見えないからこういうふうになっているのかなと私は思いますけれども、これは天から降ってきたものじゃなくて、やはり、政治家がこういう政治をするからこうなっちゃった結果だと思います。そこのところを私たち議員ももう一度考え直して、今後とも審議を続けたいと思いますので、よろしくお願いします。
 ありがとうございました。
坂井委員長 次に、木島日出夫君。
木島委員 日本共産党の木島日出夫です。
 五人の参考人の皆さん、大変貴重な御意見、また現場からの御意見、本当にありがとうございました。
 私は、今提出されているこの法案を審議するに当たりまして、いろいろ日本の精神医療を勉強してみたんですが、最大の問題は、欧米で今進んできている地域での医療、病院に閉じ込めるんじゃなくて、精神障害者の皆さんを地域で、そこで生活し、医療ができ、本当の意味で社会復帰できる、そういう体制がどんどん後退をしてきている。そしてそれが、松下参考人がおっしゃったように、病棟の数、病床の数がむしろふえる、三十三万人の体制がいまだに残っている、七万人の社会的入院が全く解消できない、こういう状況にある。やはり、最も大事な地域医療・福祉体制をどう充実するかという、そこが一番おくれている、だから、いい入院治療をやっても地域に戻せない。その土台がないからじゃないかというふうに思わざるを得ません。
 今度の法案をよく吟味しているんですが、入院は確かに重厚になると私は思うんです。お金と人をかければ重厚になると思うんです。しかし、地域で障害者を支えるその手当てがほとんど皆無と言っていい法案の形になっているんじゃないかと思わざるを得ないんです。
 そこで、松下参考人にお聞きしたいと思うんです。
 こういう陳述がありました。対象者の精神医療が治療によって軽快し、軽くなり、退院させようとする際、対象行為の重大性をかんがみ、退院の可否の判断に苦しむことが多い、それはなぜか、地域に帰したときに、それを支える状況がないからだということをおっしゃいました。私は、まさにここが根本問題だと思うんです。そこを、そうおっしゃったんだけれども、松下参考人は、純粋な医学的判断だけでは無理であって、特に司法的な判断が必要である、そういう論理になるんですが、私は、必要なのは、司法的判断じゃなくて、地域での医療だけじゃなくて、これを支える福祉社会ではないかと思うんですが、いかがでしょうか。
松下参考人 地域の受け皿の、受け皿という表現は悪いんですが、要するに、地域の精神医療の、あるいは福祉の、保健のレベルアップは当然必要ですね。まさに、もう皆さんが言うとおりです。恐らく将来は、そういう地域精神医療を中心として精神医療が動いていくから、なおさらのことです。もちろん、この対象者の退院に関しましても、そういう受け皿がきちっと必要だということは当然です。
 でも、先ほど私が言ったのは、その一歩手前で、病院から社会へ出すというところで現在非常にネックになっているのは、全部それは医療の責任に任せられている、それが我々にとっては大変耐えられない。やはり、そこはきちっと司法も関与してもらわないといけないというのが私どもの立場ですね。
 もう一つは、この法案は通院医療をきちっとうたっていますね。その辺は僕は大変いいことだと思って、現在松沢病院でも盛んに、単に抱え込んでいるだけではなくて、大勢の対象者の退院を抱えています、退院者がいます。そして通院医療に持っていきます。数カ月は通院します。でも、だんだん通院しなくなってきた後に、その人たちは一体どこに行っているのか、一体どういうことをやっているのか、あるいはどういうふうに幸せなことをやっているのか、不幸せなのかということは全くわからない。その辺のことも含めたフォローアップをきちっとやらなきゃいけないんだけれども、今回の法案は、その意味では一つの進歩、前進じゃないかというふうに私は理解をしております。
木島委員 地域で精神障害者を支える医療、福祉、保健、これを充実することが大事だと。今、松下先生は、それに司法も関与すべきだというんですが、司法は地域での精神医療充実のためにどういう関与が必要だ、司法は何をすべきだと考えているんですか。
松下参考人 ちょっと言葉足らずで恐縮ですが、申しわけございませんが、地域医療に司法が絡むと言ったわけじゃなくて、退院をするという、そこの行為に関して、医療の行為に関しまして、医療だけに今任せられている、それはちょっとできないというのが現場の意見。そういうことで、地域医療に司法を絡めたことは毛頭考えていません。
木島委員 私が政府案に対して基本的な反対を唱えたのは、何で法務省所管の保護観察所が地域医療の通院治療を監視しなきゃならぬのか。まさにその分野こそ厚生労働省の保健、医療、福祉の分野ではないかと考えていたわけですが、今松下さんも、地域医療にまでは司法が関与するとは言っていないとおっしゃられましたので、それはそれとして受けとめておきたいと思うんです。
 南参考人からもうちょっと詳しくお聞きしますが、南参考人は地域ケアが一番大事だとおっしゃられました。幾つか具体的なお話も述べられました。もうちょっと詳しく、今の日本の現状のどこが問題か、どこをどう直すべきか、端的なお話を聞かせていただきたいと思うんです。
南参考人 地域で精神保健、医療、福祉がなかなか進んでいかない根底にはさまざまな理由があると考えます。
 一つは、一般国民の人たちの精神障害についての理解がなかなかできていない。かつての伝染病に誤解があったように、精神障害者に対する誤解は地域にあると思います。このことを変えていかないといけない。このことを国民がもっと深く理解できるような施策というのは必要だというふうに思います。
 しかし、具体的になりますと、私は、これはこの法案の対象の患者さんだけではなくて、一般的に、入院から退院、また地域に向かってということは一連のものだと思います。両方とも必要だというふうに思います。入院している患者さんが外来通院を始める。外来通院をすると、患者さんたちが生活しているところからお越しいただいた外来通院のところの相談機能を充実するというのは非常に重要で、今後とも私は看護職がかかわっていっていいことだと思います。
 私は長年、臨床保健師という名称で病院の中に保健師を置いて、まだPSWができない時代からそういう相談機能のことについて支援をしてまいりました。そういう意味で、まずは外来からということと、それから、病院から訪問看護していく訪問看護制度というのが今はございます。それをもっと拡充しないといけないということがあると思います。
 また、訪問看護ステーションの仕組みですと、今の段階では、精神障害者の方に福祉のサイドで行けるのはホームヘルプの場合だけで、介護の人だけですね。精神障害のある人で、病気を抱えて、かつ薬を飲んでいて、身体的な合併症を起こしている人たちもいますが、そういう人たちに対して看護ケアが在宅でできていく、そういう仕組みは今のところございません。
 そういう意味では、私は、この法案に関して一つ気がかりになっているのは、入院治療とそれから通院治療を大事にしているというところは非常に評価できることですが、問題は、精神保健福祉法との関係で、いわゆる社会復帰病棟に転棟したり、または社会復帰のいろいろな機関を活用することが、この人たちができるかどうかということがいま一つあいまいであることが気になっています。地域の中に多様なサービスを提供することができて初めて、私は患者さんの本当の退院はあると思います。
 私は、一九六〇年代にアメリカにいまして、ちょうど地域医療、精神医療に大波が打たれたときにアメリカにいました。そのときに、受け皿のサイドが精神衛生センターだけで、クライシスインターベンションだけでやっていても再発予防にはならなかったということを私は見ています。実際に、きめ細やかな、日常生活におつき合いしていく専門家が、地域精神医療を推進していくのには非常に重要だというふうに思います。そのためには、国民の理解を深めていく施策も重要だというふうに考えています。
 以上でございます。
木島委員 ありがとうございました。
 富田参考人にお伺いをいたしますが、日本でなぜ入院の病床数を減らすことができなかったのか。先ほど経済的な要因も挙げられました。診療報酬制度の問題、定員の問題、そしてまた地域医療の体制がなかった問題、いろいろあろうかと思います。その中で、野田正彰先生が、精神病院の方にも問題があるといいますか、精神科のお医者さんたちが、本当に目の前にある患者の皆さんを地域に帰して、そして社会生活ができるように本気になって取り組むエネルギーが見受けられない、そうおっしゃられて野田先生は精神科のお医者さんをやめてしまうということまで書かれていますね。
 なぜ日本でそこがおくれてしまったのか。いろいろな方面から指摘していただきたいと思うんですが、富田参考人、よろしくお願いします。
富田参考人 野田さんの本は私も読みましたし、野田さんと私は同年ぐらいの精神科医です。野田さんは、私のことも名前ぐらいは知っているでしょう。私も野田さんの名前ぐらいは知っている。名前だけじゃない、いろいろ知っている。
 あの本の中で非常に大事な指摘が一つあります。先ほど質問の中にもあった、日本の精神科医は何をやっているのかということですね。日本の精神科医はちゃんと臨床をやっているのかということですね。そのことに関して言えば、日本の精神科医は十分に臨床をやっているということは到底言えないと私は思います。だからこんな法案が出てくるということも、精神科医として思います。
 では、日本の精神科医はみんなどうしようもないやつばかりなのか。日本の精神科医はどこに勤めているのか。精神病院に勤めている。そうですね。最近、クリニックというものが特に大都市圏では雨後のタケノコのごとくというか非常にいっぱい出てきました。このクリニックが受け皿になって精神病床数が減るのかという幻想はちょっとあった。ところが、クリニックがふえても精神病床数は全く減っていませんね。
 なぜか。医者がだめなんでしょうか。日本の精神科医は、一人一人話してごらんなさい、いい人もいっぱいいますよ。松下先生も大変いい人です。いい人ですというか、御存じかどうか、松下先生と私は同じところに大分いて、いろいろ議論した仲です。ところが、やはり構造が問題ですよ。多く閉じ込めておかなければ病院は成り立たないから閉じ込めておく。これは現実問題ですよ。
 例えば、私の病院のことを挙げましょう。二十年、三十年入院している人を退院させます。先ほどから出ているように、退院させるのに非常に力と意思と志が必要なんです。志がないとだめですよ、これは。そして、退院させます。ベッドがあきますね。長期在院者を十人退院させました。そのベッドをどうしますか。十人あけたら十人分収入がなくなるんですよ。これはなかなか大変なことなんです。そんなことをするよりも、無理に退院させないで、黙って置いておいた方がいいようにでき上がっているんです。でき上がっている。
 だから、特例が外せない、特例を外さない。例えば言いましょうか、日本精神科病院協会は、特例の撤廃に一貫して反対してきましたね、そうですよね。二〇〇〇年の医療法改正のときに、ハンセン病とか結核は特例が廃止になりましたよ。ところが、日本の精神科病院の特例は残しました。しかも、その中で、特例を廃止しないで、十六対一にするために七十年、八十年かかるなどという議論がなされているじゃないですか。一九五八年に特例をつくったときに、あれは一過性の措置だったはずですよ。当面の間だけだったんですよ。ところが、五十年たっているじゃないですか。そして、二〇〇〇年の医療法改正のときの議論は、十六対一にするためにあと七十年、八十年かかると言っているんですよ。何ですか、これは。
 日本の精神科医はだめですよ。だめだが、だめにしている構造をつくっているのは、そういう構造じゃないですか。そういうことです。
木島委員 ありがとうございました。
 残念ながら、時間が切れてしまいました。ほかの皆さんへの質問は割愛させていただきます。
 終わります。
坂井委員長 次に、中川智子君。
中川(智)委員 社会民主党・市民連合の中川智子です。
 本日は、お忙しい中、本当に貴重な御意見をありがとうございました。
 私は、今回のこの法案は、日本に新たな差別法を生み出す、さまざまな御意見の中で廃案にという言葉がございました、絶対にこれは廃案にすべきものだと思い、そのような立場から質問をさせていただきます。
 まず、長野参考人に伺います。
 長野参考人は、入退院を繰り返されたということを先ほどの陳述の中でおっしゃいました。きょうも本当はそのような隔離された精神病棟で行うべきだ、そして現実をもっとしっかり見てほしいということを御意見の中でお述べになりました。
 長野参考人が入院されていたときの経験とか、精神病院というもののイメージを、ちょっと私どもに教えていただきたいと思います。
長野参考人 まず、病院一般として、まあ国会議員の皆さんは、政治家というのは、健康じゃないと務まらないお仕事でしょうが、ほかの科である内科であれ、外科であれ、入院体験のおありの方もいらっしゃるかと思います。あるいは、御家族が入院なさった御経験のある方もいると思います。
 入院しますと、これは病気の治療の場でございますから、例えば六人部屋に入院します、そうすると、治療のためということで、ほかの科であろうと、いろいろな規則がありますね。朝は六時に検温に来るとか、採血に来るとか、あるいは九時になったら暗くして寝てくださいとか。十時に見たいテレビがあるから起きていると言っても、困りますと言われます。そういった治療の場としてのさまざまな制限は、どの科の病院でもございます。
 例えば六人部屋で、いろいろな社会体験をした、いろいろな生活体験をした者が顔を突き合わせて生活しなければいけないわけです。結構、入院生活というのは、ほかの科でもストレスになりますね。あら、嫌だ、あの人、気に入らないわとかいう人とも、本当にベッドを連ねて生活しなければなりません。
 ところが、精神病院の場合、治療の場ですから、二、三週間、一カ月ぐらいだったらまあ我慢できるにしても、これが年単位なんですね。生活の場になってしまっているんですね。
 どういう生活かというのは、一般の病院と同じように一つは考えられると思います。すべてがお仕着せの生活です。自分で何かを選べるというようなことは一切ありませんね。朝何時に起きなさい、夜は何時に寝ましょう。割と一生懸命、良心的になさっている病院であっても、できるだけ単調な生活に彩りをつけたいということで、週に一回はレクリエーションをしましょうとか、あるいは作業療法をしましょうとか、いろいろあるわけですが、それは全部お仕着せなんですね。
 私は非常にバレエが好きだ、きょう外国から有名なバレエ団が来るから、私はあそこに行ってそのバレエ公演を見たいと思っても、まずできません。もっと単純に、先ほど申したように、きょうは十一時から懐かしの映画をやるから、あの青春時代に、昔々ここに入れられる前に見た映画をぜひ見たいと思っても、とてもそんなことは許されません。それから、きょうお昼にはラーメンが食べたいなとか、あるいは、きょうはさっぱりざるそばにしたいなとか、そういうふうに思っても、給食は一カ月分の献立のとおりに、大体冷めて届きます。そういうように、本当に普通の人間の生活ができない。
 例えば、純粋に物理的な環境としても、ベッドがある、少々自分の私物が置ける、かぎがあるロッカーがあるようなところはまだましですが、大抵、普通の、床頭台と言われますそういうものがある程度だったり。そして、大抵の精神病院にはほかの科と違って、ベッドの周りにカーテンがありません。私も昔は花恥じらう乙女でしたが、それでも着がえるときに身を隠すところがないんです。今の一般科の病院はかなりアメニティーが向上したといいますし、精神病棟もかなり改善はされていますけれども、カーテンがないようなところ、いまだに畳部屋の病院もあります。そういうところで顔を突き合わせて、一年、二年、三年、四年と、いたずらに日を過ごしていかなければいけません。
 そこでは、勉強したいとか、いろいろな人とつき合いたい、先ほど大塚さんがおっしゃいました、人は社会の中でいろいろな人とつき合うことで成長することができますが、そういうこともできません。好きな本を買いに行くこともできません。映画も見られません。ひどい病院では、新聞を見ることを禁止している病院もあります。
 あるいは、新聞の中に挟まれているチラシを見ることを禁じている病院があります。なぜかというと、自由に買い物に行かせずに病院が経営している売店から物を買わせるには、物価水準を知られてはまずいからです。あ、いつも買っている洗剤がこのスーパーだと半分で買えるじゃない、そういうことを知られては困るんです。でも、実際、社会復帰しようと思ったら、生活保護の乏しい家計の中から安い買い物が上手にできる能力は必須です。そういう能力をどんどん毎日奪っているのが今の精神病院です。これが一応今の精神病院の水準ですね。
 そして、「「ポチ」と呼ばれた患者」という記事の中で、温和な患者さんはというふうに書いてあります。この一行は私は本当に胸が詰まります。記者は温和と表現しなければならなかったんですね。彼は、この処遇に怒りを持てなかったんです、怒りを表現できないんです。なぜかといえば、徹底して毎日を管理された生活の中で、そこに順応しなければ生き延びられないからなんです。そこで順応しなければ生きられない。殺されるかもしれない、何をされるかもわからないんです、精神病院は。だから、この記者さんは温和という表現をせざるを得なかったんですね。
 本当に、入院した途端から、あるいは発病した途端から、本来社会復帰のために治療やいろいろな支援が組まれていかなければならないけれども、今の、たくさんの参考人の方の御意見のように、とてもとてもそんな条件が今ないんですね。こういうことを、皆さん、申しわけありませんが、口が過ぎるかもしれませんが、放置していらっしゃいます。そのことを認識していただきたいと思います。
中川(智)委員 ありがとうございました。
 続きまして、富田参考人に伺いたいと思いますが、私は、この法律ができることによって、だれが一体喜ぶんだろうという思いがございます。この法律ができることによって生み出されるものがどのようなものなのかということが一点と、富田参考人がおっしゃいます、今回の法案の提出に当たって、いわゆる司法精神医学に対する認識の誤りというのが非常に大きい、そこの部分で、少し司法精神医学に対する御見解を伺いたい。この二点を富田参考人にお願いします。
富田参考人 一点目です。この法案ができて、だれが喜ぶか。つくりたい人は喜ぶでしょうね。それから、失礼ですが、今大変だと思っている、患者さんを抱えている、松下先生を前に失礼ですが、松沢病院の先生は喜ぶかどうか私はわかりません、それで少しは救われると思っていらっしゃる方が多いと思います。そういう方々はほっとするかもしれません。
 だけれども、まず間違いなく、つくってよかったなと思うのは忘れ去られるでしょう。つまり、何もいいことにはならないから。次に何をするかということに間違いなくなるでしょうから。だから、今喜んでおられる方も、あすは忘れるでしょう。そして、次にどういう治安的な対策を精神科医に押しつけようかというふうになるでしょうねというふうに思います。
 二番目、司法精神医学とは何か、これは実は非常に難しいと思います。難しいというのは、司法と精神医学の両方にまたがるということですよね。この法案ができるまでは、日本の司法精神医学は、簡単に言うと、司法精神鑑定をやるというそのことが非常に大きな問題だったというふうに思います。今度、この法案ができると、日本の司法精神医学は二つの課題を新たに背負うことになるだろうと思います。
 つまり、欧米であるように、再犯予測をどういうふうに精密に仕上げなければいけないかということが一つ。つまり、司法精神医学は、再犯予測をどうするかということを欧米に倣ってやらなければいけない。我々の委員会の報告のように、欧米の再犯予測は進んでいるなどといっても、この程度のものだし、また、必然的にその程度のものでしかないというふうに我々は考えていますが、日本は日本の状況の中で再犯予測をしなければいけないということになります。
 もう一つ。先ほどから問題になっているように、特別保安病棟、これができるということは、特別保安病棟の中で再犯を犯させないためにどのようにするかということが、司法精神医学の中に治療というものが持ち込まれる。
 今までは、日本の司法精神医学は、治療というものはほとんど持ち込まれたというふうには言えませんよね。もちろんこれは問題があります。例えば、矯正施設による精神医学、精神医学だけじゃありませんが、この問題をどう考えるかというのは非常に重要な問題です。問題ですが、今度の法案は、刑務所における精神医学とは全く異なっていると思います。犯罪傾向をどう矯正するかということが、新しく司法精神医学の大きな課題になるでしょう。果たしてこれは司法精神医学というべきでしょうか。矯正学ではありませんか。
 だから、私は、司法精神医学というのは、日本精神神経学会が、司法と医療の協同関係をつくるということを第三項の中に言っていますが、この協同関係というのは、司法は司法でやるべきことをやってくださいねということです。そして、医療は医療でやるべきことをやりましょうねと。この協同をどうするかというのが司法精神医学の大きな課題であるべきですが、この法案によって、先ほど言った二つの要素を日本の司法精神医学に持ってきて、しかも、この修正案の趣旨説明の中で、司法精神医学のような考え方で日本の精神科医療を向上させようという考え方が出てくると、これはとんでもない間違いになるというふうに思います。
中川(智)委員 時間になりました。きょうの御意見を伺って、この法案は成立させてはならないという思いを強くいたしました。
 ありがとうございました。
坂井委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。
 次回は、明四日水曜日午前十時三十分から連合審査会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後三時四十六分散会


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