衆議院

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第5号 平成21年4月21日(火曜日)

会議録本文へ
平成二十一年四月二十一日(火曜日)

    午前九時二分開議

 出席委員

   委員長 深谷 隆司君

   理事 木村  勉君 理事 小池百合子君

   理事 後藤田正純君 理事 新藤 義孝君

   理事 中谷  元君 理事 長島 昭久君

   理事 鉢呂 吉雄君 理事 佐藤 茂樹君

      あかま二郎君    赤城 徳彦君

      秋葉 賢也君    新井 悦二君

      石原 宏高君    猪口 邦子君

      江渡 聡徳君    越智 隆雄君

      大塚  拓君    木原  稔君

      北村 茂男君    杉田 元司君

      鈴木 馨祐君    冨岡  勉君

      中根 一幸君    西本 勝子君

      葉梨 康弘君    橋本  岳君

      松浪健四郎君    松本 洋平君

      三原 朝彦君    矢野 隆司君

      大島  敦君    川内 博史君

      田嶋  要君    武正 公一君

      伴野  豊君    平岡 秀夫君

      松野 頼久君    三谷 光男君

      渡辺  周君    石井 啓一君

      冬柴 鐵三君    赤嶺 政賢君

      辻元 清美君    下地 幹郎君

    …………………………………

   参考人

   (社団法人日本船主協会会長)           前川 弘幸君

   参考人

   (社団法人日本船長協会会長)           森本 靖之君

   参考人

   (全日本海員組合組合長) 藤澤 洋二君

   参考人

   (早稲田大学法学学術院教授)           水島 朝穂君

   衆議院調査局海賊行為への対処並びに国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動等に関する特別調査室長           金澤 昭夫君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月二十一日

 辞任         補欠選任

  中森ふくよ君     西本 勝子君

  吉田六左エ門君    猪口 邦子君

  阿部 知子君     辻元 清美君

同日

 辞任         補欠選任

  猪口 邦子君     吉田六左エ門君

  西本 勝子君     中森ふくよ君

  辻元 清美君     阿部 知子君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律案(内閣提出第六一号)


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     ――――◇―――――

深谷委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律案を議題といたします。

 本日は、本案審査のため、参考人として、社団法人日本船主協会会長前川弘幸君、社団法人日本船長協会会長森本靖之君、全日本海員組合組合長藤澤洋二君、早稲田大学法学学術院教授水島朝穂君、以上四名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人の方々に一言ごあいさつ申し上げます。

 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。参考人各位から忌憚のない御意見をお述べいただきまして、審査の参考にさせていただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 最初に、前川参考人、森本参考人、藤澤参考人、水島参考人の順に、お一人十五分程度の御意見をお述べいただきたいと思います。その後、委員からの質疑にお答え願いたいと思います。

 なお、御発言の際は委員長の許可を得ることになっております。また、参考人は委員に対して質疑することはできないことになっておりますので、あらかじめ御承知おきのほどお願い申し上げます。

 それでは、前川参考人、よろしくお願いいたします。

前川参考人 おはようございます。日本船主協会の前川と申します。

 本日は、このような場で、ソマリア沖、特にアデン湾における海賊対策に対する当協会の意見を述べさせていただく機会をいただきまして、まことにありがとうございます。

 去る三月十三日に、浜田防衛大臣よりアデン湾における海賊対処のために海上警備行動が発令され、三月三十日よりアデン湾において護衛活動を行っていただいております。

 極めて難しい課題であるにもかかわらず、短期間で我が国艦船の派遣が実現し、また海賊対処法案が国会で速やかに審議されていることにつきましては、国会の関係の方々及び我が国政府御当局の海運業界に対する御理解と多大なる御尽力のたまものであると、改めて深く感謝申し上げます。

 さて、皆様御既承のこととは存じますが、四面を海に囲まれ資源の乏しい我が国におきましては、原油、鉄鉱石などのエネルギー、工業原料や、小麦、大豆などの食料を海外から輸入する一方、自動車や電気製品などさまざまな製品を輸出しております。その輸送を私ども外航海運が担っており、輸送量は、重量ベースでは我が国貿易量全体の九九・七%を占めております。また、金額ベースでは六八・五%を占めております。

 私どもが運航する船舶には日本籍船と外国籍船がございますが、それらをあわせて日本商船隊と呼んでおります。この日本商船隊の輸送量は、日本の輸出量の約四〇%、輸入量につきましては約六五%になります。

 今さら申し上げるまでもございませんが、アデン湾における海賊事件は、無辜の民を人質に身の代金を強奪するという極めて卑劣な犯罪行為であり、当協会は、我が国商船隊の安全確保のため効果的かつ具体的な対策を早急に講じてほしい旨、昨年より、国土交通省を初めとする我が国政府へお願いしてまいりました。

 昨年四月には、日本関係船が海賊による銃撃を受けたことから、ソマリア沖を航行する船舶の安全確保について、国土交通大臣に要望書を提出いたしました。その後も凶悪な海賊事件が頻発することにかんがみ、海賊行為を防止する効果的かつ具体的な対策を図っていただきたい旨、国土交通大臣に再度要望いたしました。

 さらに、海上保安庁長官が、本件に絡み、国会で、遠方への派遣にたえられる艦艇は海上保安庁内では一隻しかないこと、各国がここへ派遣しているのは軍艦であることなどから、海上保安庁の艦艇を派遣することは困難である旨答弁され、一方、海上警備行動の範囲内であれば現行法のもとでも海上自衛艦の派遣が可能とのことから、本年一月五日には麻生首相に、また一月十五日には浜田防衛大臣に面談の機会を得、海賊事件への即時対応について直接要望させていただきました。

 その結果、三月十三日に、浜田防衛大臣より、アデン湾における海賊対処のため海上警備行動が発令され、三月十四日に海上自衛隊の護衛艦二隻が呉港より出港、三月三十日よりアデン湾において護衛活動を開始していただいております。また、三月十三日には海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律案が国会に提出され、既に審議が始まっているところであります。

 繰り返しにはなりますが、極めて難しい課題であるにもかかわらず、短期間で我が国の艦船の派遣が実現し、海賊対処法案が国会で速やかに審議されていることは、国会関係の方々及び我が国政府御当局の海運業界に対する御理解と多大なる御尽力のたまものであると、改めて深く感謝申し上げます。

 さて、アデン湾では、今も海賊事件が後を絶たないどころか、海賊の活動範囲が広がっている状況にあります。

 二〇〇八年には、アデン湾において百十一件の海賊事件が発生し、四十二隻がハイジャックされました。日本企業の関係する船舶も、十二隻が海賊の襲撃を受け、うち五隻がハイジャックされました。この五隻のうち、三隻は二〇〇八年内に、また二隻は二〇〇九年に入り解放されましたので、現時点におきましては抑留されている日本関係船はありません。

 二〇〇九年は、四月十日までに三十四件の海賊事件が発生し、五隻がハイジャックされております。幸いなことに、日本関係船の被害は今のところ発生しておりません。

 また、二〇〇九年は、アデン湾のみならず、ソマリア東方海上でも海賊事件が多発し、二十二件の海賊事件、うち六隻のハイジャックが報告されています。日本関係船は、二隻が海賊に襲撃され、銃撃を受けております。さらには、つい先ごろ、米国籍コンテナ船が海賊に襲われ、船長が連れ去られた事件の際は、三名の海賊が射殺されたことを受け、海賊側から報復するとの声明があったと報じられました。このような状況を見ると、今後海賊がますます凶悪化するおそれがあると懸念されます。

 我々海運業界といたしましても、これまでできる限りの対策を自助努力で講じてまいりましたが、武装した海賊を前にしてはなすすべがありません。

 これまでも、英国海軍情報収集機関やEU軍に船舶の動静を定期的に報告し、有志連合軍がアデン湾に設定した安全回廊の航行や、可能な限り夜間にアデン湾の海賊頻発海域を航行するような航海計画を立案して対処しておりますが、乗組員による昼夜にわたる見張り員の強化はもちろんのこと、船内の出入り口を施錠したり灯火管制をする等、決して気の抜けない航海を余儀なくされております。

 特に、低速船や乾舷の低い船では、民間のセキュリティーガードを乗船させ運航させた船社もあると聞き及んでおります。自衛することでかえって人命が危険にさらされる危険もあり、不安を払拭できるものではございません。

 乗組員は不安と緊張を抱えたまま航行しており、また、会社の担当者は、船が無事に航行することを祈るような思いで船の動静を確認している毎日であります。

 それゆえに、三月三十日から海上自衛隊護衛艦による護衛が開始され、船団へ参加した各船からは、航行の安全確保に多大なる貢献を感謝するとの報告が多数届いております。

 アデン湾の航行を避け、南アフリカの喜望峰経由の航路を選択するにしても、お客様や用船者、運航者への説明と了解を得るのは容易ではなく、さらに、航海日数の増加に伴う運航費の増加、物資の輸送がおくれるなどその影響は大きく、会社には大きな負担を強いられております。

 また、海賊は、人命、船舶の安全のみならず、我が国の経済活動への大きな脅威でもあります。海賊の横行を放置すれば、物資の安定的な輸送が阻害され、我が国の経済活動や国民生活への影響も懸念されます。

 海賊対処法案が今国会において重要法案との位置づけで御審議いただいているわけでございますが、我々海運業界といたしましては、この法律により、我が国商船隊の大宗を占める外国籍船や外国人船員もより効果的かつ適切な護衛が可能となり、海上における船舶航行の安全確保に我が国が積極的に貢献できることになると考えております。

 我々といたしましては、本法案の早期成立を強く期待しているところであります。

 最後になりますが、アデン湾は欧州とアジアを結ぶ海上交通の要衝であり、本法案が、同湾を航行する我が国関係船舶の安全を守り、我が国の経済及び国民生活に大きく貢献するものと確信しております。

 我々外航海運会社といたしましては、安全かつ安定的な海上輸送サービスの提供をもって関係者の御尽力に報いるよう、引き続き努力してまいる所存でございます。

 どうもありがとうございました。(拍手)

深谷委員長 ありがとうございました。

 次に、森本参考人、どうぞお願いいたします。

森本参考人 日本船長協会の森本でございます。

 このたびは、船員の声を聞く機会を与えていただきまして、ありがとうございます。そして、正直に申し上げて、やっとかという気はしないでもありませんが、ソマリアに自衛艦を派遣していただきまして、本当にありがとうございます。今この場をかりて、船長を代表して、厚く御礼を申し上げます。

 本題に入ります前に、一応、船長の職務と権限というものについて少しお話しさせていただきたいと思います。

 船員は、労働保護あるいは行動規範を規定した船員法の適用を受けます。船員法には船長と海員というふうに区分けしておりまして、船長は、海員を指揮監督し、職務に必要な命令をすることができる、あるいは、生命、身体もしくは船舶に危害を及ぼすような行為をしようとする海員もしくは旅客がいた場合、その危害を避けるために必要な処置を行うことというふうになっております。

 さらに、刑事訴訟法を受けて、船長には司法警察権も与えられております。

 これらの規定は、船内にある者が加害者あるいは被害者になることを想定して規定したものでありまして、銃器はもちろんのこと、警棒すら持っていない船長が、その危険抑止のために行い得ることは相当に制限されております。したがって、船員法の二十九条には、船長は、必要とあれば、行政庁に援助を仰ぐことができると規定されております。

 以上に紹介いたしました諸規定を駆使しても、機関銃やロケットランチャー、あるいはそういう武器を所持する海賊に立ち向かうことは到底困難なことであるのは容易に御理解いただけると思います。そして、これらの諸規則というものは、海賊というものの存在を想定せずに制定されたものと考えられます。

 また、船員法の第十四条には、船長は、他船の遭難を知ったときは、自船に急迫した危険がない限り、人命の救助に必要な手段を尽くさなければならないという規定があります。同様の規定は、国連海洋法条約第九十八条にもあります。

 どこそこの国の船だからおれは助けに行かないなんということは、船長には許されません。船長として、救助に行くと予定がおくれて、会社に迷惑をかけるんじゃないかという気持ちを抑えて、人命救助という非常に崇高な使命を果たすために救助に参ります。

 このように、他の船の遭難を救助する義務は国際ルールであり、これは海の男の仁義であるというふうに思っていただいたらいいと思います。

 さて、ソマリア沖を通航した船長の報告を少し紹介させていただきたいと思います。

 漁船を見れば海賊船ではないかとびくびくし、まるで、あの平家物語の富士川の合戦で鳥の羽音で逃げていった平家軍のような、ああいう気持ちでびくびくしながらその海域を航行して、船長は最大限に緊張しております。そして、操舵室にあるVHFからは、付近航行中の船舶の通話がそのままよく聞こえてまいります。

 夜間、近くの船がハイジャックされた様子を報告する日本人船長のレポートの一端を紹介いたします。

 小さな船が自分の船にまつわりついている、離れない、発砲してきた、海賊だ、助けてくれとVHFで多国籍軍を呼び出す悲痛な叫び声。しばらくしてから、軍艦から貴船の位置を知らせという応答があって、その後十五分間、何の連絡もない。沈黙がありまして、その十五分後に、悲しそうな声で、乗っ取られた、頭に銃を突きつけられている、他船が近づいてきたら人質を一人ずつ殺すと言っているから、頼むから本船には近づかないでくれというふうなことがVHFからそのまま聞こえてくる。

 その船は、居住区の明かりも、それから、海上衝突予防法に違反しますが、夜間であるにもかかわらず航海灯まで消して、真っ暗にしてお忍びで行っていたつもりなんですが、やはり乗っ取られて、乗っ取られた直後に、デッキライトを含むすべての明かりを全部つけさせられ、それから、やがて静かにソマリアの方向に向かって去っていったという報告でございます。

 昨年の四月でございますが、日本の大型タンカーが銃撃されて、穴があいた。それを何とか、船長は振り切ろうとして、その通報を受けたドイツの軍艦エムデン、これが物すごいスピードで来てくれたらしいんです。それで、その海賊を追っ払ってくれた。船長は帰ってから、恐らく乗組員全員はあのエムデンという名前を一生忘れないであろうというふうに言っておりました。

 このように、無線による悲痛な叫びを聞いた船長は数多くおります。

 次に御紹介いたしますのは、海上自衛艦が現地に赴いてからの最近の報告でございます。

 これは日本人船長からの報告ですが、初めて自衛艦のエスコートを受けて航行したが、自国艦船の護衛を本当に誇らしく思った、部下のフィリピン人たちは顔も明るく、日本人を一段とリスペクトしてくれているように感じたというふうに言っております。

 また、これから御紹介するのは、日本関係船に乗った外国人船長からの報告です、これは原文は英語ですけれども。

 集合地点の二時間前からVHFでの交信を始めた。航行時のスピード、コースなどを打ち合わせ、指示を受けた。船団を組んで航行中には会話も少なく、ヘリコプターが着艦するときにコースを変えるときの打ち合わせぐらいで、ほかに会話はなかった。小船が本船に近づいてきたときに、直ちに艦の方からヘリコプターが巡見に来てくれた。行動はまことにエクセレントであり、プロフェッショナルであったというふうに報告しております。この活動は乗組員全員の士気を高めてくれ、心から感謝したい、これが外国人船長の報告でございます。

 これまで海賊対策に派遣された艦船は、欧米主要国のほかに、ロシア、中国、インド、イラン、マレーシア、いろいろございます。そして最近では、我が国と韓国。これらの国が実施しておりますエスコートは、保護対象船舶に優先順位をつけているようでございます。当然、自国船及び自国関係船を優先にエスコートしております。

 ただし、船団に入れてほしいという船をむげに断った例は聞いておりません。それどころか、攻撃されている他国の船を救出してくれた軍艦はたくさんございます。例えば、北朝鮮の船をアメリカ軍が、あるいは台湾のタンカーを中国軍が、マースクのコンテナ船をロシア軍が、中国船をマレーシア軍が、それから中国船をデンマーク軍がというふうに、枚挙にいとまがないほどのケースがございます。海の男たちは国境を越えて救助活動をしてくれております。

 現在、規模の違いはございますが、約二十カ国に近い国から艦船が派遣されております。しかし、どこの国も、救助すべき対象船に制限を設けているという話は聞いたことがございません。

 先ほど紹介いたしました、誇らしいと言った日本人船長の報告には続きがございます。ある船から、船団に組み入れてほしいという要請がありました。で、それに対して自衛艦側は、貴船の船舶所有者、オーナーに連絡して救助の可否を検討するというような、何か非常に歯切れの悪い応答をしていたと船長は言っております。

 海上において、遭難した船舶の救援に駆けつけることは、国籍に関係なく、先ほど海の男の仁義であると申し上げましたが、こういう返答をしなければならない自衛艦の人は、どんな歯がゆい思いをしてあの緊張の海で航海しているのかと。あるいはまた、これらの会話はすべての船舶が聞いております。外国船も全部聞いております。果たしてどういうふうに日本の対応を思っているのだろうか、そういうふうなことを思うと、私は日本人として、ちょっとクエスチョンマークがつきます。

 今日、各国、いろいろな思惑があって、国連の安保理で全会一致の決議というのは、この前の、すぐ最近もそういう例がありましたけれども、なかなかありませんけれども、事海賊という問題に関して言えば、去年は二回も全会一致の決議を見ております。ということは、海賊という行為が人類共通の敵であるという認識を全世界が共有しているあかしではないかと思います。

 国民の生活を陰で支える船員たちを助けてほしいと思います。それから、日本の海の男たちに肩身の狭い思いをさせないでいただきたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 きょうはどうもありがとうございました。(拍手)

深谷委員長 ありがとうございました。

 次に、藤澤参考人にお願いいたします。

藤澤参考人 全日本海員組合の組合長、藤澤洋二と申します。

 本日は、海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律案に対する意見を述べる機会を与えていただきまして、ありがとうございます。

 四面環海の我が国は、海洋貿易立国として、先ほど船主協会の会長の話にもありましたように、資源エネルギー関係では、原油が九九・七%、天然ガスが九六・三%、鉄鉱石が一〇〇%、石炭が九九・三%を輸入に依存しており、食料は六〇%を輸入しています。これらを輸送するライフラインである外航海運は極めて重要であります。

 我が国外航海運は、我が国の国際海上輸送の約六〇%、特に輸入については約六五%を分担する主たる輸送の担い手であり、安定的な輸送を確保し、我が国産業界の国際活動、国民生活の維持向上を図る上で不可欠な存在であります。我が国の国益、国民生活、その産業を守る上で、我が国の外航海運が安定的な輸送を確保し、海上輸送体制を維持することは国家的課題であると考えます。

 一方、我が国産業の世界進出を支える我が国外航海運が果たす役割も極めて大きいものであります。その日本商船隊は約二千三百隻でありますが、日本籍船、外国に船籍を置く便宜置籍船、外国単純用船の構成となっています。

 また、日本人船員は、国家の安全保障や自国物資の安定輸送、船舶運航にかかわるノウハウ等、我が国の海運及び海事関連産業の維持存続の観点で重要な任務を担っています。

 旗国主義に基づき、旗国たる我が国日本が、政府の管轄権行使及び保護の対象とする日本籍船は現在約百隻であり、我が国の邦人保護の権限が及ぶ日本人船員につきましては、約二千六百人にまで減少しています。その他、日本商船隊二千三百隻には、四十四カ国、約四万九千人の外国人船員が乗船し、就労しています。その七〇%の約三万三千人はフィリピン人船員であります。

 このような実態において、我が国の経済安全保障の観点から、日本の管轄権が及ぶ日本籍船の増加について、また外国に船籍を置く便宜置籍船や船員供給国等における政治、外交等諸事情に左右されない日本人船員の乗り組む日本籍船の増加に向けて、その対応が計画的に進められています。

 一九九二年以降、中央政府が存在しないソマリアの政情不安により、ソマリア沖・アデン湾において、武装した海賊が商船を乗っ取り、乗組員や船舶を人質に身の代金を要求するという凶悪な事件が発生、頻発してまいりました。昨年一年間に百十六件の襲撃事件が発生しており、多くの船舶は機関銃やロケット弾などで銃撃を受け、うち三十四隻がハイジャックされるという事件が発生しました。日本の企業が関係する船舶においても十二隻が襲撃を受け、うち五隻がハイジャックされました。

 その後、海賊事件は拡大傾向をたどっています。このような海賊行為の横行を放置すれば、物資の安定的な輸送が阻害され、我が国の経済活動や国民生活への影響は必至であり、当該海域を航行する日本関係船舶の安全はもとより、これに乗り組む船員の生命が脅かされております。

 我が国にとって、特に欧州、中東から東アジアを結ぶ海上輸送は、石油の安定供給や我が国輸出産品の安定的輸送の観点から極めて重要であり、この海域の就航が閉ざされると、我が国の経済活動、国民生活に大きな影響を及ぼすことになります。

 本組合は、昨年二〇〇八年十一月に開催された第六十七回定期全国大会において、日本籍船と日本人船員を中心とした海上輸送体制の整備と海上安全行政に対する政策確立のもとで、海洋・貿易立国として我が国の国益、国民生活の安定にその使命を果たす活動方針を採択しました。

 全日本海員組合は、太平洋戦争の終戦直後、昭和二十年十月十五日、国際海運、国内海運、水産産業に働く全部門の船員と水際で働く労働者により結成された産業別労働組合であります。太平洋戦争におきましては、軍人を上回る犠牲といたいけな年少船員を含む六万人余の戦没船員と膨大な船舶の喪失による日本商船隊の壊滅という大きな犠牲を払った経験を有しております。

 我々は、戦争の悲劇を二度と繰り返さないことを活動の方針とし、戦争拡大につながる法律改正には正面から否定してまいりました。

 ソマリア・アデン湾沖の海賊行為については、その海域を軍事行動区域ではなく、海賊行為すなわち犯罪行為によるハイリスク海域と位置づけ、警察行動による治安維持のもとで対応し得るという前提に立ったものであります。

 かつて日本と欧州・中東航路において遭遇したマラッカ・シンガポール海峡における海賊事件への対応については、我が国の海上保安庁主導による対処に功を奏しました。ソマリア・アデン湾沖海賊事件についても、海上保安庁主導による警察行動が主流となるべきものであると考えるところですが、現実問題として、海上保安庁には保有の装備船などにその態勢が万全でないとされています。

 一九九四年に発効された国連海洋法条約において、海賊行為の定義や海賊行為抑止のための協力義務等が定められました。海洋に関する諸問題を包括的に規律するこの条約を受けて、我が国においても、新たな海洋立国を目指した海洋基本法が二〇〇七年七月に施行されました。海上輸送の安全の確保及び環境保全は、国連海洋法条約において、原則として旗国の義務とされています。

 このような現状においては、日本商船隊の警護活動とその警護については、自衛艦派遣による対処しかないのが現実であり、開始された日本商船隊警護活動は、日本人船員のみならず、日本商船隊に乗船する外国人船員とその家族、さらには船員供給国の安心感につながっています。

 また、日本の海員組合として加盟する国際運輸労連、ITFにおきましても、ソマリア沖における武装強盗・海賊事件に対する船員の保護を求める決議がなされました。国連、IMO等の国際機関並びに国際海事団体に対して、海賊・武装強盗事件の被害を排除するため、国際社会の政治的意思を行使するよう求める決議であります。

 現在審議中の法案は、軍事行動区域への自衛艦派遣を前提とするものではなく、日本の経済社会、国民生活にとって船舶航行の安全の確保が極めて重要であること、並びに海洋法に関する国際連合条約の趣旨にかんがみ、海賊行為の処罰について規定するとともに、海賊行為に対しては適切、効果的に対処することを目的としているものと解釈しています。したがいまして、当該海域において任務を遂行する自衛官に、そして船舶と船員の保護につながるものであると考えます。早急なる審議とその成立を求めるものであります。

 最後に、ハードパワーとしての艦船出動による対処のみではなく、国連決議に基づくソマリアの治安統治とインフラ整備など、ソフトパワーにも日本は中心的役割を果たしていただきたいと強く願うものであります。

 どうもありがとうございました。(拍手)

深谷委員長 ありがとうございました。

 次に、水島参考人、お願いいたします。

水島参考人 意見を述べる機会を与えていただきまして、どうもありがとうございます。

 ただいま、海運や海上交通の現場にかかわる三つの立場の方々から御意見を拝聴しました。とりわけ直接海で働く人々の組合の御意見は大変重く響きました。海上における生命財産を脅かす海賊行為は許されるものではなく、これを取り締まる必要性については、もちろん異論はございません。国連海洋法条約も、公海上等における海賊行為の抑止への協力を定めております。

 問題は、憲法第九条を有する我が国日本の場合、海賊対処の目的のためにいかなる手段が適切なのかどうか、この視点からの検証が必要であるという立場でございます。

 そこで、私の意見の結論を申し上げますと、私は、自衛隊による海賊対処には憲法上疑義があり、現在のエスコート活動などから一定の抑制的効果があるということがあったとしても、長期的に見て日本がとるべき政策ではないと考えております。直接の海賊対処はあくまでも海上保安庁で行い、自衛隊の海外派遣ルートの開拓に資するような海賊対処行動の新設は見送るべきであると考えております。

 理由は、ここでは自衛隊の憲法適合性の問題はひとまずおくとしても、長年にわたる政府解釈(法制局)の観点に立ったとしても、武器使用のハードルを下げることは、自衛隊の合憲性を担保してきたぎりぎりの線を超える可能性が高いからであります。

 何よりも問題なのは、現在活動中の護衛艦「さざなみ」「さみだれ」の活動について、その法的根拠が自衛隊法八十二条の海警行動とされた点であります。まずは派遣ありきのいわば法的根拠の創出。そして海警行動は、一九五四年、自衛隊法が制定されたとき、いわゆる領海警備行動規定と公海上の警備行動規定がもともと分けて定められるべきだという提案に対して、最終的にこれを一本化して八十二条とされた、そういう立法経過、趣旨及び条文上の構造から見て、これを公海上に拡大することについては無理があると考えております。

 海上警備行動の発動は、特別の必要がある場合、すなわち海上保安庁の対処困難性が明らかな場合に限られます。今回、そのような厳密な検証があったでしょうか。もちろん、海上保安庁の現在の能力その他についての国会における御審議がございましたけれども、政治がまず海自派遣ありきで先行させたことによって、むしろその検証が十分ではなかったのではないかと考えております。

 海賊という非国家的主体が相手であって、目的も、海賊対処という警察目的であるという表面的な論理だけでは不十分であります。実質的に見た場合、各国が海軍艦艇によって当たっておりますけれども、日本の海上自衛隊も、国際法上はこの軍艦の位置づけを与えられてきます。その能力からして、既に海外に出て武器使用の可能性に直面させていること自体、いわば実質的に、政府解釈の基礎にある必要最小限度という部分を超える活動に連動しかねません。

 この法案に対する私の意見は、自衛隊が海外において海賊対策を行うことは妥当ではないこと、憲法九条を持つ日本としては、海上警察活動には海上警察をもって対処すべきであり、いきなり自衛隊をもって制圧にかかるのは筋が通らないことであります。そもそも、自衛隊に海上警備行動などの形で海上警察活動を認めること自体が問題だったのであり、海保の装備が足りないのであれば、なぜ海保の能力を向上させる方向に議論を向けなかったかが問題であります。自衛隊の国際政治的利用、私の言葉で言うと、現内閣になってから、自衛隊の政局的運用が目立っていることが危惧されるのであります。

 以下、法案の個別的な問題点について五つ指摘いたします。

 第一に、第二条で海賊行為が定義されておりますけれども、海賊それ自体の定義はありません。国連海洋法条約でも同様であります。しかし、海賊法案は日本の法律であり、刑法に海賊行為がないために、初めてその構成要件を定めるという意味では特別刑法の性質を持ちます。行為に着目した定義だけでなく、海賊という主体に着目した場合、例えば、反政府ゲリラが同種の行為を行った場合、あるいは内戦当事者が交戦団体として戦闘に接続ないし付随して、法案二条のような行為を行った場合はどうなるのかなどの問題があります。ソマリアしか想定しないで、恒久法の性格を持つ法律を急いで制定するところに危うさを感じます。これはソマリア海賊特措法ではないという点に問題が、より詰めた定義の検討などが必要だと考えます。

 第二に、法案第三条に海賊についての犯罪構成要件は定められていますが、公海上の犯罪に対する刑事手続の規定はありません。ソマリア沖で海賊を拘束した場合、その後の刑事訴追をどうするか、そういう手段について十分ではないのであります。法案九条にある公務執行妨害罪など日本法を外国人に適用した場合、日本で刑事訴追をするのであればいかなる問題が起こるか。EUが既に協定等をケニアで結んでおりますけれども、これは人権保障にかかわる重要な問題であり、よもや十三条の政令に委任するということはないと信じますけれども、この点についての整理が多分に疑問であります。

 そして第三に、海上保安庁と自衛隊の役割分担もあいまいであります。日本の内水、領海で行われる海賊行為についても自衛隊が対処するのはなぜか。個別の刑法の規定に違反した場合、例えば陸上の強盗犯人について、警察が対処し切れない場合には自衛隊が対処するということを正面から定めた制度はもちろんありません。法案は、構成要件を掲げ、個別の構成要件に該当する行為には、特別の必要があれば自衛隊が対処することを規定しています。

 司法警察の領域である個別の犯罪行為を対象として自衛隊が関与するような制度はほかにないのではないか。制度としてのバランスはとれているのか。なぜ自衛隊は、法律に基づいて犯罪とされる行為のうち、陸上のものについては対処せず、数多くの海上犯罪のうち、海賊行為にだけ対処するのか。能力的に海保が対応できないケースがあるというのであるならば、海保の能力の向上が筋ではないか。これでは、司法警察制度に対する自衛隊の過度の介入ではないか。このように疑問が尽きないのであります。

 なお、治安出動についての警察と自衛隊の関係については、旧防衛庁、国家公安委員会との間に特別協定及び細部協定があり、役割分担は明確とされています。また、治安出動は、一般の警察力をもっては治安が維持できないと認められる場合に限定されていますが、海賊対処の場合、特別の必要がある場合の判断は、そのときの政府の選択にゆだねられているのであります。

 第四に、法案六条、八条で武器使用が緩和されていることであります。六条で準用される警職法の七条、海保法の二十条一項の武器使用基準のほか、船舶を用いた三つの行為、すなわち、他船舶への、一、著しい接近行為、二、つきまとい行為、三、進行妨害行為に対して武器が使用できます。例えば、つきまとい行為というのはストーカー規制法二条を想起させますが、正当防衛、緊急避難のケースでなくても、海賊のつきまといに武器使用が可能となることは従来の枠を大きく踏み越えるものではないでしょうか。任務遂行射撃を事実上定着させる一歩になり得ます。海賊対処という合意を得やすいケースで先例をつくり、後に、海外派遣恒久法にこの法的枠組みをスライドしていくということが危惧されるのであります。

 第五に、法案第七条の特別の必要性の判断根拠もあいまいであり、また、国会承認も重視されておりません。これまで自衛隊の海外派遣の中で、最も武器使用の可能性が指摘されている派遣形態であり、国会承認は不可欠と考えます。

 国会への報告についても、法案は事前でも事後でもよいかのように読めます。原則事前とすべきであり、この点、民主党の修正案に賛成をいたします。

 なお、法案七条二項に、防衛大臣が内閣総理大臣に海賊対処行動の承認を受けるとするときは、それが現に行われている場合、行動の概要を通知すれば足りると定めております。この通知すれば足りるという表現は違和感があります。この表現を使った法律を探したところ、十例ありましたけれども、会社法とか不動産登記法などでありまして、このような重要な公法については、自衛隊法百十五条の十六に一カ所のみでありまして、これも、自衛隊の部隊の道路使用許可を得るとき、それが複数の警察署にまたがったとき一つの警察署で足りるというレベルでございまして、その意味では、今回、国会承認を欠いただけでなく、あくまでも現場優先の判断が強まっていることがうかがわれます。法律レベルで足りているといっても、憲法レベルで見れば民主的正当性は足りていない疑義があるわけであります。

 以上、本法案の問題点を個々指摘しましたが、これに尽きるものではありません。野党の修正提案も出ておりますが、私は、海警行動で出した護衛艦を日本に戻し、本法案では自衛隊の部分を削除して、海上保安庁を軸に再検討して、日本がやるべき海賊対処行動の方針を抜本的に仕切り直すべきであると考えます。

 アフリカの角の海域を通る船はすべて効果的に保護しようとすると、全世界のすべての軍隊を動員しても足りないという指摘があります。短期的に軍事介入は副作用が強く、また、既にエスコートのような象徴的活動で一般的抑止の段階は終わり、先週からかなりソマリアの海は荒れてまいりました。フランスと米国の艦艇が強硬策をとって死者を出しています。クリントン国務長官は、四月十五日、海賊との闘いを宣言しました。既に米軍は、海賊との闘いで強硬手段をとり、先週三人を射殺しました。荒波の中、二十四メートルの距離からの狙撃であります。海賊側も報復を訴えております。日本が護衛艦を継続してこの海域に出すことは、いずれ日本も暴力の連鎖にコミットすることになります。

 護衛艦「さみだれ」が不審船と遭遇したとき、他国籍の船について対応しています。海警行動は根拠づけられないので、防衛省は船員法十四条のシーマンシップで説明しましたし、海幕長は人道的観点から対応したと言います。先ほどの海の男の仁義というものはとうといわけではございますけれども、海上自衛隊の艦船は、まさに日本におけるいわば武装組織を海外に出すという枠組みにかかわる部分でありまして、このような海の男のシーマンシップだけで正当化できるものではないと私は考えております。仕切り直しが必要であると考えております。

 国連海洋法条約は、百七条で、海賊拿捕権限のある船舶を、軍艦だけでなく政府の公務に使用される船舶としております。司法警察活動である海上強盗に対する海上保安庁の武器使用については、ぎりぎり憲法九条に違反しないと考えます。

 海保は外洋型巡視船を保有していますが、まず海自ありきの政治判断に影響され、過剰に抑制的になっているように私は見ております。海保の能力を発揮することこそ肝要でありましょう。海賊は組織犯罪であり、それに対応するのは海の警察である、こういうふうに思います。

 なお、ドイツのカッセル大学の平和研究所の提言「海賊に対処は正しい手段で」によりますと、プリントやレジュメに書きましたような、ソマリアの政治的安定化や、また、ソマリアとイエメンの沿岸警備隊の国際的支援、さらには、海賊の国際的なネットワークができておりますので、組織犯罪対策への多角的協力、これは国際刑事警察機構などとの関連です、このような形で海賊の組織犯罪とのネットワークを断つことも大切であります。そして、何よりも、これはソマリア沖において、ヨーロッパやその他の国々による違法操業や、とりわけ海洋投棄等によって、ソマリアの住民たちが大変先進国に対する反発を抱いていた、そういう報道あるいは研究がございます。

 さらに、国際海事機構、IMOは、ソマリア沖海賊対策では、海上取締官を養成する、そういうセンターを周辺諸国に勧告しています。これは、直接的には、現在行われている海賊行為を阻止するという、いわば即効的な対応にはならないという批判があるかもわかりません。しかし、日本が恒久法を制定し、本委員会で審議し、決定し、国会の法律という形になる以上、恒久法である以上は、そのような多角的な検証をした上で行うべきだと私は考えております。既に海上保安庁は、東南アジアの海賊対策についてさまざまな形で蓄積をしており、また、そういう蓄積をアフリカにも応用しつつあります。

 日本は、護衛艦派遣という方向で特化するのではなく、むしろ海保を軸に、資金援助や人的援助、巡視船の提供等、さまざまな形で海賊の対策に協力する道を選択すべきであると私は思っています。

 そして、何よりもソマリアの状況は果たして例外状況かということであります。つまり、ソマリア沖が大変今注目されていますけれども、このように破綻した国家が海賊化して先進国の船に向かってくる状態というのは、今後もいろいろな場面に起こり得る。現在のグローバル格差社会という中で、このような貧しい国々や、その貧困がこういう不幸な形で出てくる。そこに日本の船員やさまざまな国の船員たちが犠牲になる。そういうことをなくしていかなきゃいけない。そのためにもこういう例外状態を使って、いわば軍事的な機能の常態化を図るのではなく、私たちは、より根本的な視点が必要ではないか、そういう意味では思考の幅は狭められてはならないというふうに考えております。

 以上の観点から、本法案についての慎重審議を求め、これで私の陳述を終わります。

 ありがとうございました。(拍手)

深谷委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

深谷委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。越智隆雄君。

越智委員 おはようございます。自民党の越智隆雄でございます。

 きょうは、参考人の皆様には貴重な御意見をさまざまな形でさまざまな角度からお話しいただきまして、まことにありがとうございます。

 私は、皆さんもおっしゃっていますが、もちろんこの日本国は海上貿易立国でございまして、戦後、よいものをつくって、それを外国に売って、稼いだお金で足りないもの、エネルギーや食料を買うというような国家モデルでこの六十数年やってきたんだというふうに思っております。GDP五百兆円の国でありますけれども、おととしぐらいのピークでは、輸出が八十兆円、輸入が七十兆円でございますから、GDP対比でも本当に大きな金額を輸出に頼っている。

 先ほど前川会長初め皆さんから、輸出入のうちでの海上輸送の大切さという話はございましたけれども、もちろん海上輸送のシーレーンの安全確保が日本経済にとって死活的に重要でございまして、先週も、ある委員の方からは運輸安全保障というような言い方をされておられました。まさにこの運輸安全保障をつかさどっているのが、きょういらっしゃっている参考人の皆様だというふうに思っております。

 きょうは四月二十一日でございますが、ちょっと振り返りましたら、先ほど言及ございました、大型タンカーの「高山」が被弾したのはちょうど去年のきょうで、時間が十時四十分ということでございましたので、まさにこのタイミングで被弾をした。先ほど船長様から、フリゲート艦のエムデンの名前は忘れないというお話がございましたが、まさにあれから一年がたったんだというふうに思います。

 その後、海賊事案が急増して、また一方で国連決議が二度にわたって行われた。そして、去年の十月の十七日、長島議員が麻生総理と質疑をする中で、麻生総理に一年間の国際情勢の変化は何だという話の中でソマリア沖の海賊の話が出てきて、そこでいろいろな議論が行われて、長島委員の諸提案があったわけですが、その最後に引用されたのが船主協会の要望書、十月十日の国土交通大臣あての要望書が出てきたということでございまして、あれから約半年間、それぞれの団体からいろいろな御要望あるいは意思表示をしていただいて、それでこの新法制定に向けた国会審議にまでたどり着いた、そういうことだというふうに思っております。

 そこで、時間も限られておりますので、質問させていただきたいと思います。

 まず一つ目にお伺いしたいのが、せっかくの機会でございますので、いろいろな意味での実感をお伺いしたいと思っております。

 実感と申しますのは、アデン湾の現状で海賊の脅威にさらされながら実際にソマリア沖を航行するということについて、それぞれのお立場でもう一度お話をいただきたいということと、三月の三十日から実際にエスコートが始まったわけでありますが、何が変わったかというところをお伺いしたいと思うんです。

 前川会長におきましては、経営者といいますか、事業主の立場でその辺の実感をお伺いしたい。また、森本会長におかれましては、先ほど大分お伺いしましたけれども、もし加えることがあればおっしゃっていただきたいと思います。また、藤澤組合長に関しましては、船員さんの立場でお話をいただければありがたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

    〔委員長退席、中谷委員長代理着席〕

前川参考人 前川でございます。

 先ほどの御質問にお答えいたしますと、私の意見陳述の中でも申し述べましたけれども、三月三十日以前の段階では、私どもが運航する船舶がアデン湾における海賊行為から免れるために、各社それぞれ船舶の運航についてルールをつくっております。

 私が今社長を務めております川崎汽船の例でいきますと、十五・五ノット以下の船はアデン湾を航行しない、十八ノット以上の船は高速船でもございますので特別の措置を講じなくても通航できる、その間の十五・五ノットから十八ノットの間の船は都度アデン湾を航行するかどうかについて社内で議論をする、こういうようなルールをつくっております。

 なぜ十五・五ノットかといいますと、海賊船というのは小型のボートでかなり高速で来る。十八ノット以上の船であると、何とか蛇行しながらそういう高速の海賊船を振り切ることができるのではないか、こういうようなことであります。したがって、アデン湾を航行するに当たっても、十五・五ノットから十八ノットの間の船については、例えば、先ほど申し述べましたようにUKMTOに連絡する、あるいは民間の警備会社に頼む。民間の警備会社は、恐らく装備上は今の海上自衛艦が積んでおられる大音響を発する装置とか、そういうのを積んで始動する。だけれども、最終的にはまさに自衛活動でありまして、民間の警備会社を雇ったところで、武器を持った海賊から襲撃された場合には免れない、こういう不安な状況でありました。

 三月三十日以降は、もちろん四日か五日に一遍の警備でありますけれども、遭遇する危険度が高い船は時間を調節してでもその護衛活動の船団の中に加わるということによって、先ほどいろいろな方から御説明ありましたように、極めて現場の人間からも安心したような状況であります。

 以上でよろしゅうございますか。

森本参考人 実感というのは先ほど申し上げましたとおりで、まだ自衛艦が向こうに行ってくれてからそれほど日がたっておりませんので、いろいろな報告はまだ入ってきておりませんが、日本人の船長は日本語で連絡し合えるのが非常に助かったと言っておりました。それから、それまでは、今前川会長からお話ありましたように、UKMTOだとかIMBと本当に連絡を密にとりながらびくびくしながら行っていたわけですが、やはり自国船が来てくれたということで非常に心強いというのは、これは特に書面に書いたレポートじゃなくて、各社の海務担当の人がそういうふうに評価しております。

 また何か新しい情報があれば。もう少し時間がかかると思いますが。

 以上でございます。

藤澤参考人 今、ソマリア沖を航行する船舶がどのように海賊を脅威に感じているかというお話をさせていただくときに、冒頭に申しましたように、日本商船隊の七割はフィリピン人船員を中心にする外国人の船員が乗船しているわけでございます。そういった中で、多くの船員が拉致をされたり、いろいろな被害に遭っております。そういった意味で、フィリピン国内におきましても、政府の方も、フィリピン人船員はもう全員下船をさせる、就航させないとか、いろいろな話に入っているわけです。

 日本はこういう経済活動に外航海運を中心にする海上輸送が本当に必要ないのであれば、もとよりいろいろな対応についてはもっと違った角度で考えられるわけでございますけれども、我が国経済にとっては、どうしてもこの海域を通らなければならない。そういう状況でございますので、船員は非常に、強迫観念の中で、日本人船員が中心になり、外国人船員と共闘して船舶の運航に日夜邁進している。もう極限に近い、非常に海賊の脅威にさらされているのが現実でございます。

 それから、先ほど来、外国の艦船、ドイツの艦船が「高山」を警護したという話がございます。事実そうでございますけれども、乗船している船長、いろいろな立場の運航者のお話を聞くと、必ずしも外国の軍艦は、本当に真に自国の船を守るような形で守ったのか、若干疑問が残るところもあるというとらえ方もあるわけでございます。

 したがって、三月三十一日に日本が自衛艦を二隻派遣いたしました。これらについては、海洋基本条約、あるいは二〇〇七年に施行した海洋基本法、これらの精神は全部条約の延長にあるわけでございますから、その旗国の義務として、海上輸送に従事している船舶の安全を確保していただきたいということには変わりございませんし、三月三十一日にやっと二隻の自衛艦が派遣されたことを船員は非常に心強く思っております。

 また、フィリピン等における家族、フィリピンの政府においても、多くの船員が乗っているわけでして、非常に高く評価をしているというのが実態でございます。

 以上でございます。

越智委員 ありがとうございました。

 新法に対するお考えをお伺いしたいと思うんですが、その前に一点、今の関係で前川会長にお伺いしたいんです。

 十五・五ノット以下、そして十八ノット以上、それ以外の中間のところ、ここが都度検討しなければならないんだというお話がございましたけれども、もしおわかりになれば、この辺の割合というのはどのぐらいになるんでしょうか。

前川参考人 正確な割合というのはなかなか私の頭の中に入っていないわけでございますけれども、一般的に言いますと、あの海域を通航する船は、まずアジアと欧州を結ぶコンテナ船、これは一般の雑貨をコンテナに積んで走っているわけでございます。一般的に、コンテナ船というのは極めて高速でございまして、通常、二十三ノットあるいはそれ以上の高速で走っております。

 それから、日本の主たる輸出商品であります自動車、完成車を積んだ自動車専用船というのが、やはり日本あるいはアジアから欧州に向かって通航しております。この自動車船も、大きいのでいきますと、一遍に自動車を大体六千台積むような船が走っているわけでございますけれども、これも大体二十ノットのサービススピードを持っております。

 それから、あの海域でいきますと、LNG船というのは大体十五万立米、あるいは大きなものになりますと二十万立米以上の船があるわけですけれども、このLNG船も比較的スピードが速くて、大体二十ノット程度で走っております。

 ちょうどひっかかるといいますか、速度が遅い船は、通常、例えば石炭とか、あるいは日本の輸出産業の一つであります鋼材を積む船とか、いわゆるバルクの貨物を積んだ船、これらは大体十四、五ノットでございます。小さい船になりますと、やはり乾舷も低くて、海賊に乗り込まれる危険性が高い。

 それから、あの海域ですと、原油をもとにしたケミカルが商品として動いているわけですけれども、ケミカル船というのも大体二万トンから三万トンぐらいの船で、速力は恐らく十四、五ノット程度で、これも、荷物を満載すると極めて乾舷が低くなってくる、こういうような状況でございます。

越智委員 ありがとうございました。

 次に、新法に対するお考えをお伺いしたいと思います。

 それぞれお伺いしたいと思うんですが、特に今回のポイントの一つが、新法ではあらゆる船舶を保護の対象としているというところ、この点についてお考えをお伺いしたいと思っておるんですけれども、世界の海運の実情に照らしてどう受けとめられているのか。

 特に、船主協会の皆様におかれては、外国船籍の船がふえてきているということ、また、外国船から、いろいろな形で民間あるいは国、それぞれから支援を受けている、相互の協力関係の中でどう受けとめられているかという点が一つ。

 二つ目は、船長協会の皆様には、先ほど海の男の仁義というお話がございましたが、また一方で、国籍が異なる船員を統括されなければならないという立場で、今回、新法が施行されるとどう変わってくるのかという点でございます。

 また、海員組合の皆様には、先ほどもお話がございました、外国人組合員、非居住特別組合員というんでしょうか、この割合がかなり多いということでございますが、そういうお立場から考えて、先ほども御説明ございましたが、もし、おつけ加えになることがあれば教えていただきたいと思います。

前川参考人 先ほど来御説明がありましたように、私どもの運航する船舶は、日本商船隊としては約二千三百隻、そのうち日本籍船というのは百隻弱でございますから、やはり大半の船は外国籍船、外国籍船の中でもパナマ籍船が多いわけでございます。それから、乗り組んでいる船員は、藤澤組合長からもお話がありましたように、約七割はフィリピン人船員でございます。

 そういう中にあって、私どもとしては、日本商船隊総体として国際競争力を維持するためには、やはり日本籍船に加えて、従来、船の乗組員に日本人が乗り組まなければならないという制約がなかった外国籍船、置籍船を持つことによって、日本商船隊全体としても国際競争力を高めてきた、こういう状況であります。したがって、我々としましては、第一義的に日本商船隊全体を護衛の対象にできるように、これをまずお願いしたいということでございます。

 それから、中には、私ども、単に自分たちが支配している船だけではなくて、自分たちが運航するけれども、実際は外国のオーナーがつくった船を用船して、我々の運航船舶のフリートの中に入れておく、こういうことでもございます。これらの船を入れますと、私どもは、日本籍船それから日本の海運会社が持っている外国籍船の船、それから、外国のオーナーから用船している船、これをあわせて我々が運航して外航海運というのは成り立っているわけでございます。いずれも、大半は日本に関係する、経済に必要な原材料とか貿易物資を運んでいる、あるいは海運企業が海外で業容を拡大するために実際に行っている外国用船もございます。いわば、そういう安全を守っていただくということは、日本の外航海運企業に対する大きな支援になる、こういうふうに考えております。

 以上でございます。

森本参考人 新法で、国籍を問わずに護衛するということに対してどう思うかという御質問だと私は理解いたしましたけれども、今前川参考人がおっしゃいましたように、今は船舶の運航形態というのは非常に複雑になっております。

 昔のように、東京港に船籍のある船に日本人の船員が五十人も乗っていた、私が入社した昭和三十七年ごろはそうでありましたけれども、七一年の円のフロート制導入が始まって以来、円価が高くなりまして、だんだん国際競争力が日本はなくなっていって、今日のようになった。

 と同時に、船の籍もほとんどパナマ、リベリアというふうなところに移っていき、そして、乗っている乗組員も、船長と機関長だけが日本人、あるいは全く日本人が乗っていないような船も日本商船隊の中に入り、船を管理する会社はまた別の会社がやる、それから乗組員を派遣するマンニング会社はまた別の会社である。

 そういう意味では、昔と非常に違う、それぞれ専門分化された集合体として船舶が動かされているようなところがございます。

 したがいまして、船長としてそういう船に乗っていったときに、船内の乗組員は、はっきり言ってみんなかわいい家族です。先ほど言いましたように、船長にはそれなりの権限も付与されておりますけれども、大きな責務があります。ですから、ああいう危険な海域を本当に無事に帰って、航海成就して母港にたどり着いたとき、母港といってもパナマ籍ですからめったに帰れませんけれども、横浜だとか東京に帰ってきたときの、その達成感、成就感というのは、それは日本船時代と全く変わりません。

 そういうことで、私たちは、職場で余り国籍を意識しない、ボーダーレスの仕事に従事しているというような感じですから、先ほども私はお話しさせていただきましたけれども、この船は守ってやるけれども、こっちはだめだよとかいうようなことは、やはり海の上ではできるだけそういうことがないようにしていただきたいと思います。

藤澤参考人 先ほど先生の方からお話ありましたように、全日本海員組合には、今、日本人の組合員が全部で二万五千人、非居住特別組合員、いわゆる外国人の組合員が、商船でおおむね四万九千人、水産を合わせますと五万二千人という実態になっております。そういった意味でいきますと、なおかつ日本商船隊に全員乗船しているわけでございますけれども、国籍は四十四カ国、こういった国籍となっております。したがいまして、アジア太平洋の船員だけでなくて、欧州だとか、いろいろなヨーロッパ系の船員も数多くこの日本商船隊には乗船をしている、こういう実態でございます。

 先ほど、あらゆる船舶を対象に、これは自衛艦派遣前提でのお話だと思います、そのあらゆる船舶という意味が、日本商船隊に所属する国籍の船を指すのか、あるいは全世界の船を指すのか、いろいろあると思います。

 ただ、我々は、過度に海賊問題について、全世界の、そういった守る義務を日本が負えるのか、そこは慎重にやはり考えていくべきでしょうし、プライオリティーは日本商船隊を中心にして対応していくということに尽きると思います。と申しますのは、それぞれの国の、外国の法律においても、やはり優先的に自国の船員、自国の商船を守っていくわけでございますから、日本だけが全世界のあれに積極的にというのは、そこは慎重な対応が必要なんじゃないかなというふうに考えております。

 ただ、日本商船隊の方も、いろいろな船籍の船、また国籍の船員が乗っておりますので、今進められている、積み荷等々を中心にして日本商船隊の是非を判断していく、こういった対応、またほかにもあると思いますけれども、慎重な対応の中で、そういった日本商船隊を中心にする、いろいろな、最小限、最大限の対応に取り組むべきではないかなというふうに考えております。

 以上でございます。

越智委員 ありがとうございました。

 時間となりましたので、これでおしまいにいたします。

中谷委員長代理 次に、佐藤茂樹君。

佐藤(茂)委員 公明党の佐藤茂樹でございます。

 きょうは、四人の参考人の皆様、大変貴重な意見を陳述していただきまして、まことにありがとうございます。

 既に一時間にわたる、各十五分の陳述の中で、それぞれ内容が凝縮しておりますので、なかなか質問することもないんですが、あえて確認の意味で質問をさせていただきたいと思います。

 さらに、どうしても各党で聞きたいことがそれぞれ重なる部分はあるかもわかりませんが、同じことを聞くな、そういうふうな顔をせずに、それぞれ各党が質問して議事録にもしっかりと載せていくというのも、我々、党を代表している質問者の一つの役目でもございますので、ぜひ快くお受けいただきたいと思います。

 特に、私は、きょうは海運並びに海上交通の仕事に携わっておられる当事者の皆さんを中心にお聞きいたしまして、あと時間がございましたら、水島先生の方にもお聞きをさせていただきたいと思います。

 一つは、我々、一月九日に与党のプロジェクトチームというもので議論を開始させていただきました。ちょうどそのときに、きょうお見えになっております日本船主協会の前川会長と全日本海員組合の藤澤組合長、両名の共同声明を発表されたわけでございます。その中に、抜粋ですけれども、「アデン湾を航行する船舶およびその乗組員は、今、この瞬間も海賊の脅威に晒されているという状況であり一刻も早い対応が求められている。」中略で「まずは現行法の枠組みの中で海上自衛隊艦船の派遣を早急に実施することを強くお願いする。」そういうことが述べられているわけでございます。

 特に、会社側の方もさることながら、きょうは労働組合の藤澤組合長もお見えになっておりますが、労使双方がそろってこういう要請をされてきているということを非常に私どもは重く受けとめさせていただいた次第でございます。

 そこで、陳述の中でも触れておられましたけれども、ぜひ確認をさせていただきたいと思うのは、ぜひ藤澤組合長にお尋ねしたいのは、船員の皆さんというのは、私のおじも戦前、戦中、戦後と船乗りでございまして、一等航海士までやったんですが、戦前の話とかを昔聞いたことがあるんです。先ほどありましたように、やはり戦中も含めて犠牲者が非常に多かった、約六万人ぐらいというお話がございましたけれども、そういうところから、戦争に加担もしないし、また被害者にもならない、そういう平和主義の観点から、戦後も自衛隊の派遣には非常に慎重な立場を貫かれているということは私ども理解をしているところでございます。

 今回の新法については、そういう戦争や紛争に行くのではなくて、生命と財産を守りに行く警察活動の一環として、海保で足らざる部分を補足する警察活動として行く新法に私どもはまとめさせていただいた、それが閣法になって出てきているというように私どもは理解をしておりますけれども、そういう平和主義を貫かれている全日本海員組合を代表してのお立場から、今回の新法での自衛隊も含めた海賊対処行動、海賊対処法案についての評価を、ぜひ藤澤組合長にお尋ねしたいと思います。

藤澤参考人 先ほど、冒頭にも申し上げさせていただきましたけれども、我々は、十代の船員一万九千名を含めまして、六万数千名が太平洋戦争において犠牲になるという経験をいたしております。これは軍の兵隊よりも戦死者が多かった、犠牲が多かった、そういう経験を持っております。

 したがいまして、戦争の拡大につながる法律改正だとか憲法改正とか、そういったものには、すべからく、海員組合のみならず、陸海空、港湾の労働団体、二十団体が一丸となっていろいろな運動を展開しておりますし、これからも展開していく所存でございます。

 それで、今回、なぜ日本船主協会との共同声明に至ったか。ここにおきましては、何回も申し上げますように、海洋立国日本において、やはり経済活動として海上輸送体制が不可欠だと。海上というのは、船と船員が一体の考えにならなければ、安全運航あるいはいろいろな物事には取り組んでいけないわけです。

 そこで、日本船主協会の方も、我々船員の方も、日本人、外国人を問わず、やはり生命の危機等、いろいろな問題に直面しました。そこで、今出ているのが、もう就航しない、全部下船する。そういったいろいろな思いの中で、ここは軍事行動区域、戦争区域ではない。いわゆる海賊行為による犯罪エリアだ。犯罪エリアですけれども、かなりなハイリスクがある。そういった状況を船員の方も正しく認識をいたしております。

 そういった範疇でいきますと、犯罪取り締まり、こういったことを中心にやっていけば、いわゆる船と船員は日本の経済活動を担う海上輸送に従事できる、こういうことに全国大会でも意見が集約をされたわけでございます。

 したがって、一義的には海上保安の警察活動を中心にした対応ということを求めるわけでございますけれども、何回も出ていますように、海上保安庁には一隻しかそういう能力を装備した船がない、こういう状況です。

 そこで、現在新法がいろいろ審議をされております。その目的、志向をどこに置いているのか、よく精査いたしました。まさしく、先生言われますように、これは海上輸送を擁護する、いわゆる船舶を擁護する、邦人を擁護する、そういった観点を目的として、いろいろな対応について中身の論議が行われているというふうに私は読んで解釈をいたしました。

 そういった意味からいきますと、早くこの新法を制定して、安全に、いろいろな日本商船隊の運航の警護に入っていただきたい、そういう思いでございます。

佐藤(茂)委員 ありがとうございます。

 それともう一つは、この審議の中ではそういう御意見は出ませんでしたけれども、野党の政治家の一部の中には、これはぜひ前川会長にお聞きしたいんですが、そういう危ないところであれば、アデン湾等を回避して、アフリカの最南端である喜望峰等を回る航路に全部回せばいいじゃないのか、そういうことを言われる方もいらっしゃったように聞いているわけでございます。

 これは会社の方で、また船主協会の方で大体つかんでおられると思うんですけれども、例えば約二千隻のそういう船がアデン湾を回避して喜望峰を全部回る、そういうようなことをした場合のそういう経済的な損失等というのは非常に甚大なものになるのではないのかなと推測するわけでございますが、そういうことにつきまして、前川会長の方から御答弁をお願いできたらありがたいと思います。

前川参考人 経済的なその負担ということなんですけれども、なかなか正確にはつかめないわけであります。

 まず、アデン湾を通ってスエズを通るより、これを避けて喜望峰回りにしますと、大体、航海日数が六日から十日ぐらい延びるわけでございまして、距離にしますと約六千五百キロメーター延びるということでございます。

 我々は、まさに海運というのは国際競争にさらされておりまして、日本籍船、あるいは日本の船社であろうと外国の船社であろうと、やはり油を買うときは国際市場で同じ値段で買う。それから、船員さんの給料も大体同じでございまして、船をつくるにしても同じマーケットのところで船をつくる。まさに一物一価の世界でございますから、そういった国際競争にさらされている中で、日本の船社だけが運航日数が延び、なおかつ経済的な負担も負いながら国際競争に勝つことはできない。

 これは、最終的に、船会社の経済的な問題もさることながら、実際に運んでいるお客様の荷物がおくれるということでございますから、お客様のリードタイムとかあるいはインベントリー、こういうものにも大きく影響が及ぶわけでございまして、実際問題として、すべての船を喜望峰回りにするということは選択肢としてはなかなかとりにくい、こういうふうに考えております。

 以上でございます。

佐藤(茂)委員 続いて、森本船長協会会長にお尋ねをしたいんですけれども、自衛隊が海上警備行動に基づいて出動いたしましてから、私の聞いている限りでも、今までで三回保護対象となっていない外国籍船から救助を求められて、急遽自衛隊の護衛艦が救助に出かけて、大音響装置等を使って、船員法に基づいてぎりぎりの対応をしたことが報道として言われております。

 当委員会でも、それを法律違反ではないのかとか、いろいろなことを質問された方もいらっしゃいますが、私は間違ってもそういう法律違反をあげつらうべきではなくて、先ほどの言葉で言うと、海の男として法律の中でぎりぎりのことをされたということで、日本国民としてはその行為というものを逆に誇りに思い、称賛すべきであるのではないのかなという感想をその質問を聞きながら思っておったところでございます。

 むしろ、そういう現行法での課題を克服するためにも、日本関係船舶以外の外国籍船、また外国船員、こういうものをしっかりと保護対象とすることができるようなこの新法を早急に成立させることが私は必要ではないのか、そのように思っておるわけですが、森本船長協会会長の御所見を伺いたいと思います。

森本参考人 先ほどの参考人意見のときにも申し上げさせていただきましたけれども、海上で働いておりますときに、国籍というものは、ほとんどといいますか、全く意識をいたしません。

 それで、今、佐藤先生がおっしゃったところに何が問題があるのか、ちょっと私はよくわからないんですけれども、全く問題ないと私は思っております。

佐藤(茂)委員 それで、先ほど越智委員からもありましたけれども、今回新法によりまして、そういう日本関係船舶以外の外国籍船もしっかりと保護対象となるというところが一番変わるわけでございますが、私ども与党の会議に特に来ていただいて、森本参考人がおっしゃった、今は、日本の船の中でも、他国艦船がエスコートする船団にコバンザメのように遠慮しがちについていっている船もあるんだ、そういうお話がございました。

 しかし、今度、外国籍船も保護対象になるようになると、日本が組む船団の中に、同じようにコバンザメかどうかわかりませんが、逆についてくる、そういう船も出てこようかと思うんですね。

 そこで、優先順位をどう考えるかという問題が出てくると思うんです。私は、EUの司令部に行きましたときに、EUの考え方というのが我々参考になったなと思いますのは、彼らは、アタランタ作戦でWFPの食料等を運ぶ、そういう船を最優先にするんだ、それ以外は、その他脆弱な船舶という形で、EUであろうとどこであろうと全部並列に扱ってしっかりと対応するんだということを述べられていたような覚えがあるわけです。

 この新法に基づいて日本が外国籍船まで含めて保護対象に広げた後、そこで考え方としては、その保護対象に優先順位を設けた方がいいのかどうか、そのことについて、森本会長並びに前川参考人の御意見をぜひ伺いたいと思います。

森本参考人 もし日本関係船舶を自衛艦二隻か三隻だけで守ろうとすれば、当然優先順位をつけなければ、とてもじゃないけれども五百海里のあの長いレーンを守り切れないと思います。

 そこで、御存じだと思いますが、コンバインド・タスクフォース151、これは、ソマリア沖の海賊対策専門に二十カ国近い国が参加して分担しながらそのレーンを共同で守っていこうという中で、日本は日本だけでというのは、全船を守り切ろうとしたら非常に難しいと思いますので、やはりその辺は国際協調の中でやっていっていただければと思います。

 以上です。

前川参考人 私も森本さんとほぼ同様の意見でございます。

 といいますのは、日本の自衛艦が二隻だけで活動するというのは、先ほど冒頭でも述べましたが、四日か五日に一遍、こういうような形になってきています。したがって、私は軍事的なオペレーションのことはよくわかりませんが、常識的に考えると、国際間の協調の中で、よくゾーンディフェンスというような言葉が使われていますけれども、お互いが一定の協調関係の中で役割分担であの広い海域を護衛する、あるいは警戒する、こういった形が恐らく常識的には正しいんだろうな、こう思っております。

 以上です。

佐藤(茂)委員 ありがとうございます。

 最後に、水島先生にちょっとお伺いをさせていただきたいんです。

 私は、自衛隊のこの任務についての考え方については、水島先生と考えは全く違うわけでございますが、ただ、きょうも資料の中に出されておりました、水島先生がいろいろなところで事前に発表されている中のカッセル大学平和研究所の四つの提言、これについては非常に参考になるものであるなと。

 というのは、本会議の代表質問のときに私は申し上げたんですけれども、各国の艦船並びに自衛隊等が出動して目の前の脅威である海賊に対処するというのは、病気でいえばあくまでも対症療法である、根本的な海賊を出さないためにはやはりソマリアを安定化させること並びに沿岸国の海上保安能力というものをしっかりと向上させていくことが必要である。

 これは、二月上旬に我々与党の調査団で行きましたときに、対策を打っているEUもそうですし、アメリカを初めとした有志連合軍の司令官もやはり同じ考えを持っていました。ソマリア周辺の、例えばジブチのゲレ大統領であるとか、またエチオピアのメレス首相なんかにも我々は会いましたけれども、やはりソマリアの安定化というものをしっかりとやらなければ海賊というのは根治できないんだという意識は、そういう意味でいうと、対策を打っている方もまた周辺の国も同じ意識なんですね。そういう観点で、この四つの観点を見せていただきましたときに、非常に共鳴する部分があるわけです。

 ただ、その先が大事で、具体論としてソマリアの政治的安定化、さらにはソマリアとイエメン、アデン湾周辺諸国の沿岸警備再建への国際的な支援ということを書いていますが、具体的にその中で日本がどういう役割を果たしていくべきであるか、そういう具体策で何かお考えがあればお聞かせ願えませんでしょうか。

水島参考人 今お手元にお配りしたものは新聞に書いた大変短いものでございますけれども、私はいろいろホームページその他、私の調査の範囲で、特にアタランタ作戦に批判的な研究者たちの集まったドイツの研究所なものですから、その意味で、アタランタ作戦で軍艦を使うことに批判的なドイツ人たちが、つまり、軍艦の対症療法の逆の問題を指摘しまして、そのことを立てました。

 ただ、おっしゃるように、そういうものはまさに漢方でやるのであって、病気の人間には直接注射が必要だという即効的な議論というのは必ず対比されます。

 私は、それは対立しないというふうに乗りますと、きょうの議論というのは、現場の方三者が求めていらっしゃるのは、気持ちはよくわかるんですけれども、本委員会はこの法案を通す基幹委員会でございまして、基本的にこれで、方向としては、法案八条に基づいて自衛隊の武器使用が、通常、これまでいわゆる正当防衛、緊急避難に限られていたものが船体射撃その他に広がる。これは警察活動だからという議論で実は広がっていくわけですが、そこがどうなのかを申し上げているのでありまして、対案についてお互いに詰めていくということについては全く共通の問題意識であり、私自身が今向こうの研究所からの情報その他で一番見ているのは、ソマリア沖とよく言うけれども、あそこの周辺諸国は大変多いんだ。刑事訴訟でいえば、ケニアとの関係でアタランタは刑事訴追協定をやっていますし、また、特に今、七割ばかりはいわゆるイエメン沖が多い。そうすると、イエメンの沿岸警備隊を強化するとか、日本が同じお金を出す、あるいは援助をするのならばもっとそういう視点を広げるべきだということはそのドイツの研究者との交流でも指摘されていまして、日本の一番期待されているのはそこなんだというのが彼らの指摘なんですね。

 ですから、ぜひこういう観点を踏まえて多角的に御審議をいただきたいということでございます。

佐藤(茂)委員 大変貴重な意見をありがとうございました。

 以上で終わります。

中谷委員長代理 次に、長島昭久君。

長島(昭)委員 民主党の長島昭久です。

 参考人の皆さんには、大変御苦労さまでございます。

 まず、前川会長に伺いたいんですが、私も昨年の十月、本委員会で発言をさせていただきました。その参考となりましたのが、十月十日に船主協会で国交大臣に提出をされた要望書でございまして、それに触発をされて本委員会で質問させていただきました。

 それから海上警備行動が発令されるまでに約五カ月、きょうお見えのお三方、恐らくいらいらしながら五カ月間を過ごしておられたんだろう、こういうふうに思うんですが、官邸にも行かれ、あるいは国交大臣にもさらに要請をされ、また防衛大臣にも要請をされたというふうに伺っております。

 その五カ月間の政府の動きはどうであったのか、どういう御感想をお持ちか。とりわけ、官邸が真剣に動き出したのは、中国が去年の暮れに軍艦を派遣するという決定をしてから、中国に負けていられないというような感じでにわかに動き出したというふうに私は承っておりますが、政府とやりとりをされながら、最初のとき、十月の段階、そして年明け、どんな変化があって皆さんのどんな努力があったか、少し披瀝していただければと思います。

前川参考人 たしか十月だったと記憶しておりますけれども、長島先生が国会で本件を取り上げていただく恐らく直前だと思うんですけれども、二カ月に一遍、私は船主協会の会長として、理事会が終了後記者会見をやっておりまして、そのときに海賊問題等について発言しました。

 そのとき、どういったことを私が言ったかと申しますと、やはりこの海賊の危険というのは今まさにそこにある危機なんですと。すなわち、我々が今こうしている間にも何隻かの船があの海域で海賊の攻撃の危険にさらされている、したがいまして、ともかく今打てる対策は早急に講じてほしい、こういう思いから記者会見でそういうコメントをした覚えがあります。

 国交大臣に要請し、年が明けてから麻生総理大臣それから浜田防衛大臣にもお願いしたところでございまして、今の時点では、非常に難しい問題を早急に解決していただいた、自衛艦を派遣していただいた、こういうふうに思っているわけでございます。十月から年内の動きが、私どもとしてはちょっと遅かったかなという思いはありますが、それでも三月には自衛艦を派遣していただいて、一月以降の動きについては、極めて私ども感謝を申し上げたいところでございます。

長島(昭)委員 多少お答えにくい質問だったかもしれませんが、続きまして、藤澤組合長に伺いたいと思います。

 先ほど佐藤委員からも御指摘がありましたけれども、もともと海員組合は平和主義を標榜して、どちらかというと水島先生の見解に近いお立場だというふうに思っておりました。しかし、今回は、そういういろいろな過去の思いあるいは主張を超えて、このソマリア沖の深刻な、まさに今おっしゃっていただいた、今そこにある危機に即効的に対処するためにはどうしても自衛艦の派遣が必要だということで、船主協会さんと一緒に共同声明を、ことしの一月ですか、出されたりしておられました。

 そこで、私が思いますには、海上保安庁で一義的に対応するというのが日本の今の法体系になっていますが、海上保安庁できちんとした対応ができる可能性があるならば、恐らく海員組合の皆さんもそちらの方をまず最優先で追求されたんだろうと思うんです。

 確かに、マラッカ海峡、九〇年代に非常に海賊が頻発しました。マラッカ海峡の事例では、我が国も海上保安庁を中心とした対応でした。当時は海上自衛隊という話はなかったというふうに記憶しております。一番この点で決定的なのは、最近は大分少なくなったとは言われておりますが、マラッカ海峡に出没していた海賊のレベルと、ソマリアのレベルとは随分違っているというふうに報道などでは聞いております。

 組合長のお立場から、マラッカとソマリアとちょっと海賊の質が違うんだ、だから、もちろん平和主義を標榜しているけれども、海上自衛隊の派遣もやむなし、こういう結論に至ったその辺の経緯を少し教えていただければと思います。

藤澤参考人 海賊問題に、全日本海員組合は、自衛艦を派遣だとか、あるいはいろいろな問題以前に、やはりもっと早い時期にいろいろな対応が必要であったと。すなわち、今先生御指摘のとおり、マラッカ・シンガポール海峡においては、既に海賊対策として、沿岸国あるいはASEAN、そういった会議の延長でそれなりの効果を発揮して、実績があったわけです。しかし、それ以上に事態が深刻になっている中でも、なかなか現実的な対応が、はっきり言いまして、国会あるいは政府の方から見える状況が生まれなかった、昨年末。

 そういった中で、どんどん年明けにソマリア沖の海賊問題が激化してきました。それで、先ほどからある「高山」がロケット砲弾により攻撃を受けた。こういうせっぱ詰まった状況の中で、いろいろな対応を模索するとするならば、海上保安庁の論議は時間もありません、当時は。そういった状況の中で、まずは日本の財産、生命を守る、邦人を守る、そのためには自衛艦の出動しかない、こういう判断から、各方面にお願いをした経緯がございます。

 したがいまして、我々は、昨年の十一月の定期全国大会、全国の大会においても、この問題の対応についていろいろ議論いたしましたけれども、もっと早い時期に、マラッカ・シンガポールの海賊対策の延長であれば、やはり一義的には海上保安庁が日本の船舶を守れたんじゃないのかと今でも思っております。

 それで、現在、マラッカ・シンガポール海峡の対応は、今言いましたようにASEANだとか大臣級会合の延長でもいろいろな論議をしたり、いろいろな対応についてマレーシア、シンガポール、インドネシア、こういったしっかりとした沿岸国が、いわゆる我々日本の海上保安庁とともにいろいろな対応について模索しながら対応したということが一つ。また、ソマリア沖のようにロケット砲弾を持ってきたり、そんな過激な海賊ではありませんでした。そういった意味で、ソマリア沖の海賊については、武装して来ているわけでございますから、しかも、今の海上保安庁の船は一隻しか装備していないというお話でございますので、やはりここは日本の国益、生命を守るためには自衛艦の出動しかない、こういうふうに考えているところでございます。

    〔中谷委員長代理退席、新藤委員長代理着席〕

長島(昭)委員 続きまして、水島先生にお伺いをしたいんですが、今、組合長さんの御見解を聞いていただいたと思うんですね。先生は、私、手元に先生が書いたものを、資料として配付していただいたものを持っているんですが、こう書いてあるんですね。海保でも十分可能なのに海自がしゃしゃり出てくるのは、自衛隊法八十二条海上警備行動の特別の必要がある場合の説明として不十分だ、このように書かれている。

 今、組合長さんが、いろいろ平和主義の思いもある中で、しかし、武装しているソマリアの海賊に対して、やはり船員を守らなきゃいけない、あるいは船を守らなきゃいけない、こういうことで、現状の海上保安庁では対応が不十分ではないか、こういう見解、私もそう思っているんですが、先生が海保でも十分可能という根拠を教えていただきたいと思います。

水島参考人 お答えします。

 海上保安庁が、例の九二年、あかつき丸のプルトニウム輸送の際につくった「しきしま」というのを現在一隻持ってございまして、これは相当装甲も厚く、また機関砲その他を持っていると聞いております。また、十三隻ですか、ある程度外洋型の巡視船も持っているということも聞いております。

 私は、基本的に海保だけでいいとは言っておりませんけれども、基本的に、海上警察の行う任務、これは、例えば通常の軍隊が司法警察活動を直接行うわけではございません。海上自衛隊の今回の活動は、いわゆる説明としては、行政警察活動という説明になろうかと思います。しかし、この行政警察活動をやる場合には、一般的な公共の秩序の維持ということが必要なんですが、海賊行為という特定犯罪ということになります。すると、特定犯罪のいわば取り締まりということは、これは文字どおり司法警察活動でございまして、そうしますと、海賊を逮捕し、一連の刑事手続にかけるという行動であります。ですから、各国ともに軍艦を派遣していますけれども、ドイツの場合は、ブンデス・ポリッツアイ、旧国境警備隊などを同乗させまして、手続は彼らにゆだねております。当然、日本も海上保安庁を同乗させております。

 その場合、今回、海保が、いわゆる特殊警備隊とされているSSTではなく、海上自衛隊の特別警備隊を連れていきましたね。つまり、今回の設計が、海上保安庁が持っているSSTなども含めた全体的な設計をして、その上で、最後の最後の手段として、それに輸送のためには護衛艦が必要だとか、例えばそういう設計ではなくして、まず護衛艦を象徴的に出すということが政治によって決断された。先ほど先生おっしゃる、中国の駆逐艦との対応があっただろうと思うんです。

 ですから、私は、特別な必要性の挙証、説明が足りないというのは、やはりもっと長期的にやるより、短期的にも海上保安庁が持っている能力をもっと発揮させるべきだったのに、政治の決断が先行したために、恐らく海上保安庁の方が過剰に抑制的になったというふうに私も見ておりまして、その意味では、もっと総合的な対応が可能だったためにこの特別な必要性が十分検証されていない、そういう立場で書いたわけで、新聞の場合、若干筆が走りますので、それは十分、全くそうだと、そう言い切っているわけではないことは、今つけ加えさせていただきます。

長島(昭)委員 大変重要な御指摘をいただいたと思います。

 そこで、私ども民主党では、特別の必要という八十二条の規定を受けて、それをもう少し多角的に、総理大臣を本部長とする本部を設けて、そこで、例えば外務大臣、海賊の国際的な環境はどうなっているのか、あるいは運輸をつかさどっている国交大臣、あるいは海上保安庁が本当に難しいのかどうかということをきちんと議論する、そういう手続の条項を設けて、それを修正案に盛り込んでおりますので、恐らくその点は先生にも御理解をいただけるのじゃないかな、こう思っております。

 そこで、もう一点伺いたいんですが、武器使用に関して、先ほど来、先生も非常に懸念を持っておられるようにおっしゃっておられます。それで、野党の中にもそういう意見が結構あるわけです。

 ただ、先生の御説明を伺っていると、例えば、先ほど具体的におっしゃったつきまといについての武器使用は、先生の御説明だと、海保でやる分には問題ないが、さっき先生おっしゃいましたね、海保の武器使用についてはぎりぎり憲法九条に違反しない、海自がやると九条に触れてしまうというような、そういうニュアンスに私は聞こえたんですが、もし間違っていたら訂正していただきたいんですけれども。

 いずれにしても、海保にしろ海自にせよ、海自の武器使用については海上保安庁法を準用する、あるいは警察官職務執行法を準用するということになっておりますので、海自が出るにせよ海保が出るにせよ、いずれにしても、警察官職務執行法を準用するという意味ではその二つの間に差はないんだろうと思っているんです。差はないにもかかわらず、海保は憲法の枠内、しかし海自が同じことをやると憲法をはみ出るというのは、憲法の要請だけを考えると、いずれも国家行為ですから、ちょっと説明として飛躍があるように感じるんですが、詳しく御説明いただければありがたいと思います。

水島参考人 今おっしゃった、警察官職務執行法第七条、海保法二十条を準用していくわけですけれども、準用の準用の準用で、もともとは警察官のけん銃使用がベースになっていますね。そして、いわゆるPKO法の二十四条、周辺事態法十一条、それから周辺事態船舶検査法の六条、テロ特措法十二条、そしてイラク特措法十七条、すべて同じ法的枠組みで、基本的に、いわゆる正当防衛、緊急避難の場合以外に危害は加えられないという枠組みを持っていますね。

 今回、一番問題だとされましたのは、海保の準用を自衛隊が準用された場合、海上警察活動におけるいわゆる武器使用の範疇と、自衛艦といういわゆる通常の各国の軍艦に当たる部分、これはまさに同じような機能は持たないわけです。

 なぜかといいますと、先ほど申し上げたように、行政警察活動ではなく、これは特定犯罪のための司法警察活動に近い行動でありまして、軍艦の任務、軍と警察のまさに本源的な任務分担との関係からいきまして、これを軍艦の行為として安易に認めることは、文字どおり、これは、これまでイラク特措法ですらぎりぎり維持してきたところを、やはりその枠を超えるものであるというふうに考えています。

 海外派遣恒久法というのを御審議されていると思いますけれども、自衛隊を本格的に海外に出す際も、同じような、先例としてそのような行動では基本的にいわゆる任務遂行射撃ができる、こういうことで、今回任務遂行射撃の枠組みを広めるというところで私は危惧をしていまして、つきまとい行為その他に対する、つまり、みずから撃たれていないのに射撃を開始するというのは文字どおり任務遂行射撃の範疇で説明できますので。そういう意味で、私は、いわゆる武装組織のそういう枠を広げるところに、十分な議論のないまま、海賊行為という特定犯罪に対処する、言ってしまいますと、かなり火事場何とやら的な場面で枠を広げていいのか、そういう危惧を持っておりますので、十分なその詰めが必要ではないか、こういう意見でございます。

長島(昭)委員 先生の御懸念、よく承って、私どもも審議に生かしていきたいというふうに思っております。

 そこで、さっき先生がおっしゃった海賊行為、今回はその行為に着目をして、行為そのものについて射撃、武器の使用が許される、こういう話になっているんですが、実は、今まで、我が国の防衛法制の議論は、武器の使用と武力の行使を分かつその基準というのは、行為するその行為そのものではなくて、行為の主体、だれが、どういう組織が例えば海賊行為を行うのか、そういうことを基準にして今まで議論してきたので、今回、行為そのものに着目してというのは私も実は多少違和感を持っているんです。

 そこで、先生が従来から御発言をされている、内戦の一方当事者になる可能性がある、海賊行為をする主体が内戦の一方当事者になる可能性もある。それから、数日前の新聞報道では、アルカイダがソマリア沖で活動する海賊対策艦船への攻撃を訴えたりとか、こういうことになってきますと、海賊行為を行う主体が場合によってはアルカイダとの関係性を疑われかねない、そういう状況になることも考えられると思うんですが、先生は海賊とアルカイダとの関係についてどんな情報を持っておられるか、最後に伺いたいと思います。

水島参考人 私は憲法研究者でございまして、テロ組織の詳しい情報その他は一般的な二次情報しか持ってございませんが、関連して、先生が冒頭におっしゃいました、つまり主体に着目した場合、すなわち、いわゆる内戦当事者あるいはゲリラその他とのかかわりが出た場合に、例えば日本が、犯罪行為への取り締まりである、これは警察行動である、武器使用も緩めて出ていった、しかし相手はそうは見てくれない場合がある。

 とりわけ、アメリカが今、私は四月十五日が大きいと思うんですが、クリントンさんがいわゆる海賊との闘いを言った。テロとの闘いはかなり行き詰まっていまして、ヨーロッパはテロとの闘いから離脱しようと、特にドイツなどもアフガンで相当疲れています。そうしますと、テロとの闘いのすそ野をオバマ政権はもう少し広げたい、国際協調的に。そうすると、テロのネタだけではなく、海賊のネタを入れて合同の任務部隊を今編成しながら、実は151と150というすみ分けにもかかわらず、かなり相互乗り入れ的になっているところに日本が余り自覚なしに参加していったときに、権限を広げていった場合、そこに巻き込まれる可能性もないとは言えない。

 だから、主体に着目して今まで慎重に持ってきた国の、日本の枠組みをそういう形で広めるんだったらよほどの議論が必要ではないかという立場で申し上げてございます。

長島(昭)委員 その点も含めて、私ども、徹底的な議論をこれからしてまいりたい、こう思います。

 参考人の皆さん、どうもありがとうございました。質問を終わります。

新藤委員長代理 次に、赤嶺政賢君。

赤嶺委員 日本共産党の赤嶺政賢です。

 参考人の皆さん、本当に御苦労さまでございます。

 まず、前川参考人にお伺いいたしますが、実は、私たちの立場は、今回のソマリア沖の海賊問題について、現地周辺国の海上警察力の強化やソマリアの内戦と貧困の解決に向けた支援を行うべきであって、自衛隊は出すべきではない、このように考えております。

 実際に、先ほどもありましたように、危険な海域で船を運航されている方々の思いは大変切実だと思いますが、なぜソマリアで海賊が発生するに至ったのか、自衛隊の派遣が問題の解決につながるのか、そういったもろもろのことを現実的で冷静な議論が必要だ、このように考えております。

 その上で何点か質問いたしますが、まず、ソマリア沖・アデン湾とはどういう海域なのかという点であります。この航路は、紅海からスエズ運河へと続く海の大動脈で、年間二千隻の日本関係船舶が通過すると言われているわけですが、一方で、実態的には、コンテナ船と自動車専用船が主体で、石油や鉄鉱石、石炭などの産業用資源や、あるいは食料、生活物資の占める割合は少ないという指摘もあります。

 また、先月、ソマリアの東方約九百キロの海上を航行中の商船三井の自動車運搬船が海賊の襲撃に遭ったわけですが、この船は、アラブ首長国連邦を出航してケニアのモンバサ港に向けて航行していたとのことでありました。

 そもそも、ソマリア沖・アデン湾という海域はどこからどこへ何を運ぶ船が多いのか、統計的な面も含めて、おわかりでしたら教えていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

    〔新藤委員長代理退席、委員長着席〕

前川参考人 統計的な数字というのは持っておりませんで、ちょっとナレーティブでございますけれども、口頭で御説明させていただきたいと思います。

 やはり、先ほど別の委員からの御質問にお答えしましたけれども、例えば、日本の主たる輸出品である自動車、完成車の輸送ですけれども、これは大体日本の輸出量の約二〇%が欧州に行っている。これは完成車として運ぶわけですから、先ほどちょっと言いました自動車専用船が運んで、あの海域を通過して行くわけですね。

 それから、コンテナ船というのは主として製品を運ぶものです。もちろん日本も含めたアジアの国々から、アデン湾、スエズを通過して地中海それから北欧州へと向かう。それから、主として工業品、それから農産物とか木材製品とか、こういうのを欧州あるいは地中海からスエズを通ってアジア諸国に運ぶ。こういうコンテナ船の貨物の要衝でございまして、これは恐らく世界の荷動き量の中でやはり二割以上の貨物があの海域を通過しているんではないか、こういうふうに考えております。

 鉄鉱石あるいは石炭とかのような、こういう原材料の方は、どちらかというと大きな船で、例えばインドネシアとかあるいはオーストラリアとか、ここを通って、まさに喜望峰回りで行っているケースが多い。それから、地中海沿岸それからイスラエルとか、このあたり向けの石炭とか鉱石、これはもう少し小さな船でスエズを通って行っていると思います。

 それから、先ほどもちょっと言いましたけれども、あのアデン湾の沿海国であるサウジアラビアは、世界一の産油国でありまして、最近の事例でいきますと、単に原油を輸出するということではなくて、原油から二次製品、三次製品をつくって工業化を図ろうとしていまして、そこから出てくるケミカル、化成品ですね、こういうのがあの海域から出てくる、こういうことでございます。世界全体を見渡してみると、やはりアジアからアメリカ、北米向けの荷動き量が一番多くて、その次はアジア―欧州、それからアジア域内、トレードの大きさからいくとそういう形になっております。

赤嶺委員 どうもありがとうございました。

 引き続きお伺いいたしますけれども、今回の自衛隊派遣の必要性として、民間船舶が喜望峰やパナマ運河回りに切りかえた場合の経済コストが挙げられるわけですが、喜望峰回りにした場合には燃料コストがかさむ一方で、アデン湾を通過した場合には、もともとスエズ運河の通航料があり、また最近は保険料も引き上げられた、このように聞いているわけですが、昨年高騰した原油価格も既に今落ちついて、世界不況の中で逆に船腹過剰の現状もある、こう聞いているわけです。

 こうしたソマリア沖・アデン湾を通過した場合、あるいは迂回した場合の経済コストを比較すると、実際にどの程度変わってくるのか、あるいはアデン湾を航行していた船舶のうち喜望峰回りに切りかえた船舶がどの程度あるのか、これも教えていただけませんでしょうか。

前川参考人 経済的な影響について、ちょっと私の手元で今資料を持っていないんですけれども、先生が今おっしゃられましたように、マーケットにより例えば一日当たりの船舶の用船料は変わってくる、それから、原油の価格が変動することによって、私どもが手配する船舶の燃料油の価格も変わってくるということで、マーケットによって変動はあると思いますが、今のこの現状下におきましても、経済的には、やはりアデン湾を通ってスエズを通過する方が経済的な効果はある、こういうふうに思っております。

 以上でよろしゅうございますか。

赤嶺委員 それでは、前川参考人そして森本参考人、藤澤参考人、御三名にお伺いしますけれども、昨年来、各国が次々と軍隊を派遣しておりますが、この間、私、委員会の質問でも行ったんですが、海賊は減るどころか逆に活動地域を拡大して襲撃件数も増加している状況です。

 アメリカの国防総省の報道官も、世界じゅうの海軍の艦船をすべてソマリア沖に集めても問題は解決しない、このように述べておられるわけですが、こうした現状をどう見ておられるのか。軍隊による警護活動で問題を解決できる見通し、そういう見通しはあるのでしょうか。それを御三方の参考人にそれぞれお伺いしたいと思います。

前川参考人 根本的な解決になるかどうかということにつきましては、私自身は、やはり根本的な解決にはもっと別な取り組みが必要だと考えておりますが、先ほど申し述べましたように、今そこにある危機ということで、今こうして先生とお話ししている間にも、我々が運航する船の何隻かが海賊の攻撃の危険にさらされておる。こういう状況は、国際社会としても、公海上の通商路を安全に確保するという意味では、やはり何らかの対策をとらなければいけない。

 私どもも、これがあの海域の安定といいますか、安全航路の確保に一〇〇%これだけでいいんだということで考えているわけではございません。だけれども、何かやらなければ、まさに我々としてはほかに選択肢がない、こういうことでございますので、そこら辺は御理解いただきたいと思います。

森本参考人 私も、力で最終的にそれをねじ伏せて問題が解決できる、それでそれが正しいやり方であろうとは思いませんが、一九九〇年代、マラッカ海峡で相当多数の海賊が出ておりました。あそこを通る船には、強力な探照灯、それから放水、消火栓ですけれども、そういうふうなものを用意させて、海賊ワッチを立てて、船長はあの海峡を非常に気を使いながら走っておりましたが、あのときは、せいぜい小銃と、何か機関銃もあったみたいですけれども、そんなに機動力のある海賊ではなかったようです。

 アロンドラ・レインボー号のときは、これは船ごと乗っ取られて、池野船長と、もう一人の日本人の機関長以下十五人のフィリピン人が、救命艇に乗せられて、一週間後に目隠しされて放置された。本当に運よく十一日目にタイの漁船に見つけられて、あれがあと二日おくれていれば完全に十七名の人命は失われていたであろうと。現にそういうふうなケースがマラッカ海峡では何件か出ております。それは、マラッカ海峡を囲むインドネシア、マレーシア、シンガポールの三国に日本の方からもいろいろと技術面それからパトロール等々の支援をして、そして、時間がかかりましたけれども、今減ってきております。

 一方、今回のソマリア沖ですが、やはり火力が全然違うようですし、例えば沿岸から六百キロ、七百キロ離れたところに出張ってくるというふうな、そういう機動力を持った海賊ですね。もちろん、最終的には、ソマリア、イエメン、あの辺、アフリカ全体がもっと貧困から脱出していって、日本並みにとは言いませんが、ちゃんと市民が生活できるような国になるのが一番いいと思います。ところが、今はやはり海賊という仕事がどうも若者には一番人気があるとか聞きますけれども、そういうふうな中で、もう既に船員は二人か三人死んでいます。殺された場合もありますし、心臓麻痺で死んだ船長もおります。

 百年河清を待つという言葉がございますけれども、最終的にはああいう国もちゃんとした国になってほしい、またそういうふうな助力を国際的にしていくべきだろうと思いますけれども、それまでの間は船員が何人死んでもいいということには決してならないと思いますし、現に、こうしてここに電気がつき、あるいは家庭に帰ればガスがつく、これはもう、やはり私たちが皆さんの見えないところでそれを運んでいるからこの生活が営まれるような環境にあるということをぜひ御記憶いただきたいと思いますし、そういうルートの中にはああいう危険海域も通ってきているんだということも御記憶いただきたいと思います。

 以上です。

藤澤参考人 先生の御指摘の点は、冒頭の意見陳述のときにも申し上げさせていただきましたように、ハードパワーとしての艦船派遣だけではこのソマリアの問題は解決しないと思います。あわせて、ソフトパワーとしての内政干渉あるいはいわゆるインフラ整備とか、いろいろなところに日本が国連を中心にしていろいろな活動を展開していくことも並行していくことが必要だというふうに認識いたしております。

 もう一点は、全世界の軍艦がそこに集結をする、それで海賊問題が解決するかという問題でございますけれども、今回のソマリア沖の海賊については、その目的と規模とそれなりの財力と、その統制がとれているいろいろな海賊の動きから推察しますと、簡単に解決する問題ではないというふうには考えております。

 そこで、我々は船員の立場でございますから、もう一つの解決方法としては、非常に危ない、全員が下船をする、こういったことも過去にもいろいろやってまいりましたし、危険海域だという認識でしたら、個人の意思を尊重して、もう下船したい者は下船する。これは実はロンドンの国際運輸労連の中でももう議論が始まっているところでございます。

 ただ、今ソマリア沖の危険については、二国間の戦争による軍事行動区域とはどこも断定はしていないわけでございまして、どうしても海賊行為による犯罪エリアだというふうな位置づけでございますので、いろいろな安全海路を設定しながら、いろいろな乗組員に対する理解の中で航行が続けられているということでございます。

 そういった見解です。

赤嶺委員 どうもありがとうございました。

 水島参考人に、限られた時間ではありますが、お伺いします。

 去年からの政府の説明によれば、犯罪行為にすぎないソマリア沖の海賊問題にかかわって、国連安保理決議が採択をされてきました。その中では、国連憲章第七章に言及し、国際の平和と安全に対する脅威とを述べております。去年十二月の決議一八五一では、ソマリアへの空爆まで許容できるような規定になっております。

 このような決議が採択されてきたのはなぜなのか、それから、政府は自衛隊の活動は警察活動だと強調するわけですが、警察活動と国連安保理決議との関係について、先生の御意見がありましたら伺いたいと思います。

水島参考人 決議の中でどういう力学が働いたかというところは詳しくは存じ上げませんが、アメリカとフランスが非常なイニシアチブをとったということは聞いております。

 それと、とりわけ地上に対してアメリカが、地上攻撃をしなければならないというところまでは各国の合意ができなかったということも聞いておりますが、その方向はかなり、ブッシュ政権末期でしたけれども、あったように思います。ただ、今それがどういうふうになっているかは存じ上げません。

 それから二点目は、先ほどの国連決議というのは、基本的に我が国も履行を義務づけられている国連加盟国でありますが、履行の仕方はそれぞれ各国の憲法上の手続でそれぞれ行うというのが国連の筋でございます。

 基本的に警察活動というのは、先ほども申し上げましたように、いわゆる軍が行政警察活動を一般の公共を通じてやることはありますけれども、この場合は海賊行為という特定の犯罪行為に対するその刑事手続の一貫性の一部をなしますので、これは司法警察活動に近い。その意味では、これを日本が行うという場合には難しい点が出てまいると考えております。

赤嶺委員 どうもありがとうございました。

 終わります。

深谷委員長 次に、辻元清美さん。

辻元委員 社民党の辻元清美です。

 きょうは、参考人の皆様、本当にありがとうございます。

 私はピースボートという船に乗っておりまして、一万トン級の客船でしたが、あの海域を何回も走りました。スエズもパナマも何回も通過をし、地球一周を続けてまいりました。そういう意味では、船というのが大好きですし、海の安全を守るということの必要性、非常に痛感をしております。

 以前、マラッカで私自身も、乗っている船舶が、海賊か漁船かわからないベトナム難民を救助した折も、最後まで、海賊かもしれないということで、慎重な対応をしながら救助をしたというような経験もございます。

 さて、そういう中で、今回このような事態に至っていること、本当に深刻でかつ解決が難しい問題だなと思っております。私自身は、短期的な対応、そして中期的な対応、長期的な対応、三つをしっかりやっていかないと解決しないと思うんです。

 きょう、皆様のお話を伺っておりましても、ソマリアの国情の安定、これは長期的対応が必要だと思います。中期的には、周辺国家の沿岸警備活動を初め、海上保安力を高めていくこと、これに日本がどう貢献できるかということも大事だと思います。そして、短期的な対応としてのやり方をどうしていくか。しかし、この短期的な処方せんを間違えますと、中期的、長期的に至る前にさらに混乱と危険が増幅するというようなこともありますので、それで今回この委員会でいろいろな立場から慎重な審議がなされていると考えております。

 さてそこで、ちょっと視点を変えまして、私が今危惧しているのは、あの海域が全く通れない海域になってしまう可能性を危惧しております。といいますのは、まず水島先生にお伺いしたいんですが、先ほど暴力の連鎖という御発言がありました。記事でも大きく取り上げられておりますけれども、アメリカの海軍が三人の海賊を射殺したということに端を発して、報復だというような物騒な言葉が聞かれ、その後、このソマリアの混乱というのは単に海賊だけの問題ではなくて、アメリカが、二〇〇六年でしたか、空爆をかけました。結局、テロとの闘いの最前線の一部にソマリアを位置づけ、そしてアメリカが大規模な空爆をジブチからかけました。百人ぐらいのソマリアの民間人も亡くなったということが国連でも問題になって、潘基文事務総長もアメリカに対して非常に懸念を表明しました。ジブチから米軍機が飛び立ったために、ジブチも事前承認なくソマリアを攻撃した、幾ら無政府の状態でも何をやってもいいというわけではないということで、そういうようなことも、この間、この数年起こってきていることです。

 そういう混乱がある中で、アルカイダがあんな、何かそれに乗じてといいますか、攻撃せよみたいなことをホームページで言っているというような情報も飛び込んできている。そうなりますと、この三人の射殺ということが引き金になるかどうかわかりませんけれども、この海域自体がさらなる危険な、ややこしい、今の状況よりもさらに複雑な国際情勢が絡んできたような危険海域になる可能性がないとも言えないな、それを一番心配しているんですね。そうなると、みんな、喜望峰を回らなあかんということになるかもしれない。

 そういうような観点から、水島先生が先ほど暴力の連鎖を危惧するというようなお話をされましたので、最初にその点をお伺いしたいと思います。

水島参考人 ソマリアの海賊はどういう人たちかという議論がある中で、元漁民であるとか、あるいは沿岸警備隊員だった、こういう話があります。

 最近ドイツのディ・ベルトという新聞に、ソマリアの海賊のインタビューが出ました。彼は、海賊で金を稼いで、今は金融業をやっております。その彼の言葉を聞きますと、今、若い人がどんどんソマリアで海賊になっている、これがその傾向であると。つまり、ソマリアという国が破綻した後、先進国がいろいろと、先ほど申し上げた乱獲をやったりごみを捨てたりする。その怒りが、海賊に向かうのと同時に、安易な拝金主義で、金稼ぎの道具になる。つまり、いわゆる海賊ビジネス化している。その側面があることはよく報道されます。

 私も、カッセル平和研究所の分析したものを読んだところ、やはり海賊の背景の中に、そのような貧困だけじゃなくて、かなりソマリア内部におけるそういう格差社会が新たに生まれてきて、そういう流れの中から、金を早く効果的にとろう、そういうビジネスライクな行動があって、だから殺さない海賊だったんですね。その殺さない海賊たちに対してアメリカが三名狙撃をしたということによって、言ってしまうと、そういう海賊たちと専ら暴力をプロとする人たちが連合しながら、最終的にはそういう手段であの地域で海賊が凶暴化する可能性というのは、先生がおっしゃる点は私も危惧しております。

 そういう意味でいうと、どちらが引き金を引いたかということでいえば、もちろん海賊側がやっているわけですが、RPG―7を使って皆殺しにするとか、そういう手段を超えるような海賊のこの間のあれよりは、むしろ非常にビジネスライクにやっている、この怪しい海賊たちに向かう方法が、いわゆる射殺という方法でやったことで流れが少し変わってくるのではないかという面は、私は危惧をしております。

辻元委員 今後、これで海賊が減っていく効果があるのかどうか。効果のある対策を打たないと意味がないと思うんですね。

 要するに、最近では、各国の艦船がいない海域をねらってまた出てくるとか、それから、各国の艦船、自衛隊も含めまして、ずっとそこにいるわけにはいかないわけですね。あっちにいるからもう一隻行け、こっちにいるからもう一隻といかない。そうしますと、これは、出口戦略といいますか、艦船を派遣するときも、いつまでかというのもわからないというような状況になってくるわけです。

 そうしてきますと、先ほどから現場の三名の方が、やはり根本的な解決には別の方法も並行してやっていかなくちゃいけないというお話を前川参考人から伺い、そして森本参考人からは、力でねじ伏せて解決できるものではないけれども、とりあえず今こういう事態を何とかしなくちゃいけないという、苦渋の選択といいますか、そんな御発言があったように承ります。それから、海員組合、いろいろな過去の歴史も踏まえてソフトパワーの併用ということを、現場の声として承りました。

 私は、先ほどからマラッカ海峡の例が出ておりまして、ソマリアに即は当てはまらないと思います。ただ、オマーンやジブチやイエメンからは、日本に対しての、やはりかつての経験からの指導であったり、リーダーシップを発揮してほしいと。先日は、イエメンの沿岸警備隊の方が直接日本にもいらっしゃいまして、要請があったんです。

 そういう中で、マラッカの中で、直接すぐには当てはまらないかもしれませんけれども、あそこで実績を上げた、そして日本の海上保安庁が活躍をしました。皆さんも、民間と海上保安庁と協力し合ってさまざまな取り組みを進められたと思うんですが、その中で、これは効き目があったと思われるところをお三人の現場の皆さんに、具体的にこれはよかったと思うというような点をぜひ参考にお聞かせいただきたいんです。よろしくお願いいたします。

前川参考人 マラッカ・シンガポール海峡というのは、恐らくアデン湾、スエズ海域よりももっと重要な海路、海上交易の要衝だと思っております。それと、あの海域は極めて狭いんですね、海峡としては。シンガポール、マレーシア、インドネシアという国に囲まれて。その中で、私ども船主協会としては、あの海域の航路安全を確保するために、例えばブイのメンテナンス等々に、船主協会からマラッカ・シンガポール協会を通じて寄附を行い、安全航行を確保するための方策も講じております。協力させていただいております。

 海賊問題については、私ども船主協会、各国の船主協会の集まりで、アジア船主フォーラムというのがあります。もう十年以上前からやっているわけでございますけれども、この中に五つの委員会がありまして、その五つの委員会のうちの一つが、やはり海上安全の委員会でございます。その中で、民間の立場で各国の船主協会の代表が集まり、海賊防止のための有効な手だてはないかと。これは、主として、自分たちで議論したことを各国の政府を通じてお願いする、こういうことでございます。

 したがって、最終的には政府がどういうふうにかかわってくるか、こういうことだと考えておりまして、我々、民間の立場からも、そういう集まりを通じて議論したことをそれぞれの政府にお伝えし、要請する、こういう立場かと考えております。

 それから、済みません、先ほどイエメンの話がありましたけれども、私どもも、船主協会の立場でイエメンの大使とも面談をいたしました。イエメンの大使の方も、イエメンの国としてもあの海域の安全航行を守ることについて、やはりそれなりの責任と意図を持っているんだけれども、何分にも、いわゆるコースタルラインが長くて、なおかつ、国として、そういうところに投資といいますかお金をつぎ込む余裕がないから、あるいは日本のODAなり、あるいは海上保安庁なりに、いわゆる巡視船あるは巡視艇の供与をお願いできないかというような話もされておりました。

 したがって、民間としての立場でいろいろなことはやるつもりでございますけれども、やはり最終的には、政府としてどういったことを取り上げてやっていくか、こういうことだと考えております。

森本参考人 マラッカ海峡の場合、何が一番効果があったかということは、私は専門家ではございませんのでよくわかりませんが、現象だけで言わせていただきますと、海賊が急に減ったのはあの大津波の後です。あの後はうんと減りました。ですから、また起こってくれたらとは言いませんけれども、その後、大体それほど、かつての頻度で海賊が出てくるということはなくなりました。これは、そのほかに何か社会的な背景もあるんじゃないかと思いますが、その辺はちょっと私にはよくわかりません。

 以上です。

藤澤参考人 マラッカ・シンガポール海峡の問題は、まず沿岸国の内政が非常にしっかりしている状態で、日本の海上保安庁が中心的な役割としてそれぞれの国との間でいろいろな協議をしたり、あるいは、日本も海上保安庁をベースにしてかなりいろいろな貢献をしているわけですよね。例えば灯台の整備だとかいろいろなソフト面で相当、インドネシアも含めまして、日本もかなりな協力体制を持ってきたというふうに考えております。

 そういう中で、三つの国に分かれている状態にはあるわけですけれども、それぞれの国との間で協議をしながら、対策を練りながら、それに日本の政府が全面的な支援体制をとってきたということがやはり大きな貢献だったのではないかなというふうに思っております。

 ソマリアは政府がないわけでございますから、いわゆるそこの海上だけの問題として、目の前の対応だけでは解決できない。ですから、やはり内政にも日本が大きく関与するとか、いろいろな面で、沿岸の漁民が生活できるようにいろいろな支援をするとか、ソフト面でもいろいろな対応をしながらやっていかなければ、マラッカ、シンガポールのような結果にはならないんじゃないのかなというふうに考えております。

辻元委員 今前川参考人の方から、イエメンの大使にもお会いになったというお話がございまして、政府の方も、やはり関係周辺国の大使を集めての協議とか、それから、日本が一体何ができるのかということを、イエメンだけではなく、今イエメン、ケニア、タンザニアで海賊対策地域調整センターというのを立ち上げようというような話もございまして、また、サウジとアラブ首長国連邦に人を派遣していこう、こういうような動きもあると聞いておりますので、政府の方もそういう役割をしていく、また、それぞれ民間のお立場からも各国への連携や働きかけをお願いしたいと思います。

 そしてもう一つ、先ほどから水島先生も海保力のアップというお話がございました。そして、現場の三人の参考人の皆様にもお伺いしたいんですけれども、海上保安庁への注文というのはあるでしょうか。

 どういうことかといいますと、ドイツ、フランスなど、軍隊を出しておりますけれども、聞くところによりますと、外洋型の日本の海上保安庁のようなものを持っていないということなんです。コーストガードはあるんですよ。日本は海洋国ですから、かなり海上保安庁は世界でもしっかりしています。アメリカもしっかりしていますけれども。

 海上保安庁の歴史を見ますと、一九四八年に世界で一番最初に海上保安庁ができたのが日本です。それは、憲法との整合性もあって、日本は、きちんと防御もできる、そういう海軍にかわるものをしっかり持った中で海洋国家としてこれから生きていくということで、世界に先駆けての技術と歴史を持っているのが海上保安庁だと思うんですね。

 ですから、私は、いつでも自衛隊が先行して行くんじゃなくて、海上保安庁が、外洋、世界じゅうを守ることはいきなりには無理かもしれないですけれども、しっかりとした装備を持って、さらに充実をさせていくというのは、今回これをきっかけに、大事なことではないか。予算は厳しいですけれども、日本は海洋国家ですから、そこの部分は国民の皆さんにも御理解いただけるんじゃないかと思うんですね。

 そういう意味で、今の海上保安庁に対して、日ごろ御要望やお考えになっていることがあれば、この際、そして、水島先生も先ほど力のアップとおっしゃっておりましたので、四名の方に率直な御意見を伺いたいと思います。

前川参考人 特にこれといった御要望というのは持ち合わせておりませんが、海洋基本法の論議の中でも、やはり日本は小さな島国でございますけれども、海岸線あるいは経済水域を合わせると世界で六番目の大きさを占めている、こういうことのようでございますから、海上保安庁としては、近海海域の船舶の安全あるいは航路の安全確保、あるいは主として近海地域での業務、まずそれが第一ではないかな、今回のソマリア沖の海賊対策というようなことは、やはり全く当初の海上保安庁の業務の範疇にはなかったのではないかな、こういうふうに私なりに考えているわけでございます。

 したがって、そういう新しい事態についてどう考えるかというのは、まさに皆さん方で御議論をいただいて、ぜひ何とかいい方法を考えていただきたい、こういうふうに思っております。

森本参考人 現場の船長、船乗りは、海上保安庁にはいろいろな意味でおつき合いはあります。失敗して油を流しちゃったというような場合も厳重な取り調べを受けたり、日ごろのおつき合いはありますけれども、今前川参考人もおっしゃったように、沿岸の長さが三万四千キロある我が国で起こる、航行安全のためのいろいろな航路標識だとかそういうものの整備、それから、東京湾、伊勢湾、瀬戸内海、備讃瀬戸、あの辺の航路管制等々、日本の沿岸、近海の安全航行のために今いろいろなことを海上保安庁はやってくれておりますし、さらに、国際海事機関、IMOというのから新しい国際条約がいろいろと発信されてきます。公害対策の問題等々、それを日本の国内法にして、それをまた各船、各社に普及させる、そういうふうな仕事が海上保安庁の本来の仕事であろうと思います。

 したがって、保安庁のボートの横には、きれいなロゴマークがありまして、ジャパン・コースト・ガードと書いてあります。コーストですから、ちょっとソマリアまでは、日本のコーストと言っていいのかなというのは、これは私の個人的な見解ですが。

 それと、これも私の個人的見解ですけれども、やはり一タックスペイヤーとして申し上げれば、できるだけ効率のいいような防御体制といいますか、そういうものをしていただきたいと思いますし、保安庁にもこれがある、自衛隊側にもこれがあるというようなのはいかがなものかと思います。

 以上でございます。

深谷委員長 藤澤参考人、恐縮ですが、時間が経過していますので、簡単にひとつ。

藤澤参考人 海上保安庁に対して要望があるかという話でございます。

 時間の関係もありますので、端的に申し上げますと、今の国会、補正予算審議においても、審議をしていただく新造船の建造等々について、一隻しかないと言っているわけですから。いずれにしましても、海洋立国日本が果たすいろいろな方面への役割は、こういう海賊問題だけでなくて、先ほど言いましたように、インドネシアとかシンガポール、マラッカ海峡、あのあたりでも相当いろいろな事業を展開しているわけですから、やはりこの際、こういう状況に直面しているわけですから、自衛艦を派遣することに終始するだけでなくて、一方で海上保安庁の整備ということで予算編成を組んでも、いろいろ論議をしていただきたいと思っております。

水島参考人 一言だけ。

 先月の国土交通委員会で、海上保安庁長官が三月十七日に答弁しておりまして、海上保安庁法に、海上保安庁は軍ではない、こういうふうに明記されております、そういう軍事的色彩のないこういう海上の総合機関として、海上保安庁は恐らく世界初であります、今の規模も世界トップスリーに入るだろう、こう答弁されています。基本的に軍と結びつく傾向の強いコーストガードが、日本は法律で明確に禁止されておりますが、この区分けが明確な海上保安庁というのは非常に特徴があるというわけで、今後とも、そういう部分のすみ分けは明確にしておくべきだと思っております。

辻元委員 ありがとうございました。

深谷委員長 次に、下地幹郎君。

下地委員 先ほど辻元さんからも話がありましたけれども、私たち今論議をしている中で、この法律に、一義的には海上保安庁がやるというふうに書いてあるので、一義的にというんじゃなくて、今参考人がおっしゃったように、これはもう海上保安庁で無理だということを初めから決めるんなら、こんな法律じゃなくて、初めから海上自衛隊を出す法律の特措法にしたらどうかというのが私たちの考えなんですね。一々こういうふうに、こんな、一義的には海上保安庁がやりますよといって、海上保安庁ができませんから海上自衛隊を出しますというような、ややこしい法律を書くんじゃなくて、そのまま、参考人がおっしゃるようなものだったら海上自衛隊を出すというような法律にした方がわかりやすくて、その方がいいんじゃないかという論議もあるんですよ。

 そのことに関して、四人の先生方のお話をまず聞きたいんですけれども。

前川参考人 まず私どもが最初に考えたのは、先ほど申し述べましたように、今ある危険を何とか有効な手だてでもって解決してほしい、全面解決といかなくても何とか緩和してほしい、したがって、今の法律の枠内でできることはやってほしい、その先のことはまた、いろいろな論議はあるでしょうから考えていっていただきたい、こういうことでございます。

 そのときに、やはり、あの海域の地理上の問題とか、それから海賊の火力の問題とか、こういうようなことがいろいろあって、かなり前の段階から、海上保安庁としてはできない、船は出せないという見解が出されましたので、それでは今の法律の枠内でできることは何ですかと。それは海上警備行動で自衛艦が派遣される、こういう流れであったかと思っておりまして、その流れがありましたから、何とか、海上警備行動で出している、派遣している自衛艦について、やはりちゃんとした任務を果たしていただきたい、それから乗組員の安全等も考えねばいけないということでこの流れになったかと私は勝手に考えておるわけでございますけれども、下地先生のおっしゃることはそれでもってわからないでもありませんが、むしろ、海上自衛隊をそのまま出すという法律の方がなかなか難しいのではないかというのは勝手に想像しているんですけれども。

 以上でございます。

森本参考人 先生の御質問、私は、よくわかりません。職場では、海上では、水平線とチャートと天気図をにらめっこして育ってきた人間でございまして、そういう問題はよくわかりませんので、ちょっとお答えしかねます。済みません。

藤澤参考人 何回も申しますように、今、現場の方では急を要していろいろな対応を求めているわけです。先生の言われるような、自衛隊を中心にする、そういう法律の解釈あるいは制定ということになりますと、今のような日本船主協会と共同声明も出ませんし、逆に、現場の対応が相当おくれるんじゃないのかと思っております。むしろ、海上保安庁という大義の中で、やはり今緊急を要するから自衛隊の、自衛艦の派遣だ、こういう認識で我々も共同歩調をとっているわけでして、そこはよく理解していただきたいと思います。

水島参考人 地上で凶暴なテロリストが銃を持っているという場合、まず対応するのは警察でございます。その装備その他について、この間、自衛隊法を改正して、今、防衛庁長官経験者お二人を前に恐縮ですけれども、いろいろな規定が入っていきまして、オウムの対応とかいろいろ入っていきました。そうしますと、常にまず警察で対応して、不可能な、困難な場合、自衛隊、そういう順序でやっておりまして、海賊の問題で即自衛隊というのは、私の立場だけじゃなくてあらゆる立場からも、これはやや、いかがなものかと私は思いますけれども。

 ですから、こういう構成の仕方をせざるを得ないのも、やはり海の問題だけじゃなく、海賊という特定犯罪行為に対応する国の向き合い方として一応こういう対応になっているんだろうと理解はいたします。批判はおいておいて。

 ですから、今の御質問の趣旨については、ぎりぎりしんしゃくいたしましても、ちょっと、なかなかわからないというところでございます。

下地委員 今ここにある危機を乗り越えるために海上自衛隊を出すというのは、私たちは反対してないんですよ。ただ、法律をこういうふうに書いて、一義的に海上保安庁がやるというふうな法律を書いておきながら、一義的にだけれども、このままの法律だと永遠に海上自衛隊になるんじゃないですか、法律というのはそんなものじゃありませんよねということを言っているだけでして、そのことをこれからも論議していかなければいけないと思うんです。

 先ほど水島先生がお話をして、私たちもきのう「しきしま」を見てきたんですよ。「しきしま」を視察してきたんですけれども、非常に大きな船で、何か、ことしになって、去年ですか、タイからインドネシアから全部、三十一日間の遠洋航海をしたとか、三十五ミリ砲とか二十ミリ砲とか、非常に、武器の装備においても十二分に北朝鮮の不審船にもたえられるようなものになっていますとか、また、この「しきしま」という船の存在感みたいなものを、船のつくり方からしても遠洋にもたえられるようなものだったなというような感じを私たちは持っております。

 きのうの海上保安庁の方の管理官の説明だと、いかに自分たちの能力がないのかをお話ししないと国の方針に逆らっているみたいな感じがあるので、出れません出れませんと何回も何回も言っていて、私たちが聞いていてあきれるようなことだったんですけれども。

 そこで、水島先生から先ほど、この仕組みのつくり方にちょっと問題があるんだというふうな話がありました。海上保安庁と海上自衛隊の仕組みのつくり方、この法律にのっとっての仕組みのつくり方ということをさっきお話しになりましたけれども、もうちょっとゆっくり、わかりやすく、具体的にお話しいただきたいと思うんですけれども。

水島参考人 そもそも、もともと保安庁というのができてきて、海上警備隊といって、海上自衛隊に、大体二年単位でなっていきます。海上保安庁が海上警備隊と分かれるときに、海上保安庁法で、海上保安庁は、軍事的に組織され、軍事的に訓練されてはならないという規定を持って発足します。つまり、完全な海上警察に純化して出発をいたしました。

 したがって、海上自衛隊は、基本的に憲法のもとでぎりぎり、政府が言ういわゆる必要最小限の実力ということでありますけれども、対外的には海上警察ではなく、海上自衛隊は通常列国と並ぶ海上の正規武装部隊のように自己認識もし、そう見られてもきています。

 したがって、いわゆる海軍と、いわゆる海上保安庁、警察というのは明らかに任務が違う。軍と警察の本質的な任務の違いというのは、どこの国でもすみ分けをきちんとやっておりますが、日本では自衛隊と呼んでおりまして、軍ではないという公式の説明の中で、時にそれが相互乗り入れをします。その相互乗り入れが、時にいろいろな形で問題も起こします。

 ですから、その意味でいうと、軍としてはっきり憲法を改正しろという御意見が一方で出てまいりますけれども、その議論をきょうは、この委員会じゃございませんので、一切触れないでおくと。今の先生の形でいえば、わかりやすくというのができないような日本の戦後の六十数年があるわけで、その中で今、今そこにある危機と先ほどから言う中にどう向き合うかが問われているわけですから、現にあるそういう組織をどのように使っていくかという、まさにこの委員会が最終的に決める権限があるんですが、私は、ぜひとも、長年にわたる日本の憲法が組み立ててきた平和の枠組みに日本が持っている役割、そこに徹していただきたい。

 だとするならば、沿岸諸国への協力と加えて、直接対応でいえば、海上保安庁が最も望ましい。

 「しきしま」が弱い、弱い、海上保安庁としても不十分だというのは、あれは予算が欲しいですから、当然そういうこともあると思うんですけれども、私は、過小評価も過大評価もしないで、冷静に現実的な評価の上で考えていく中で、海上保安庁の発展方向も見えてくる、こう考えております。

下地委員 先生、もうちょっと具体的に、「しきしま」と海上自衛隊の船が一緒になってアデン湾に行って今の活動をするということの法律的な根拠だとか、そういうふうな行動ができるのかどうなのかというのは、先生のお考えを少しお聞きしたいんですけれども。

水島参考人 六条、七条、八条の文章構造を見ていただきますとわかると思うんですが、基本的に、海上自衛隊が出てくるのは、海上警備行動の八十二条と同じでありまして、やはり海上保安庁で対応できないということになり、海上自衛隊が出ていくわけですね。ですから、一緒になって並んで、これが日本のあれですよというような見せ方を、それを政治がするかどうかは全く別ですよ、法的にはそういうことを考えていないと思います。

 したがって、いわゆる今回の法律で、まず海上警備行動で自衛艦が行っていますね。私に言わせると、それに追加的合法性を付与する、そういう形で実はこの法律はあるように思います。これは、野党の民主党は、海上保安庁一義的というふうに主張して、そこで対立が起こっていますけれども、この法律の機能は、やはり追加的合法性にある。

 ただし、あの中にはっきりと、法律に、八十二条は適用しないという部分が何カ所か出てまいりますね。そこのすみ分けは、確かに法律は自覚しているのは法制局があるからでありまして、私は、基本的に、法律をつくった後の機能や、そのいわば実績、先例というものは、将来的には、自衛隊の海外派遣、恒久法に連動すると見ていまして、これは特措法じゃないんですよ。ソマリア海賊対策特措法をつくるなら、まだ議論の仕方がありました。そして、海上自衛隊を出すんだという議論はあり得た。しかし、今、恒久法をつくっているんです。恒久法はやはり慎重審議が必要だとさっきから何度も申し上げてございます。

下地委員 今、八十二条の話がありましたけれども、海上保安庁の船「しきしま」を出して、その後に海上自衛隊の船を出すというのは、憲法的にできないから海上自衛隊にお願いしたんだという解釈なのか、それとも、一隻では無理だから海上自衛隊も一緒になって出すことになったのかというと、どうなんですか。

水島参考人 私が、法律の立場に立ったとしてもという、よく法律学者のやる前提の中でいえば、この法律は、基本的に、今先生がおっしゃったように、まず海上保安庁が出ていって、実際その任務が十分でない、そうすると補完的に、つまり、いわば海上自衛隊が出動するということは、理論上はあり得るとは思うんです。あり得ると思うんですけれども、基本的にそういう形の順番を追っていなくて、既に海上自衛隊の二隻が出ているわけですね。したがって、それに対する、先ほどから申し上げている合法性の付与、急いでそれを正式なものにせよという要請が非常にある。

 だから、私は、やはり一たんこれは仕切り直しが必要だとさっきから何度も申し上げているのは、やはりあのときの二隻の海上警備行動の発令は拡大解釈だと考えていますので、そこを正すところから出発して、検討すべきだというふうに考えておるんです。

下地委員 わかりました。

 それで、前川参考人にお聞きしたいんです。

 今二隻行っておりますね。今、五日間ですか、一回に船団を護送していくというのは二隻ですけれども、日本の船舶の数が非常に多くあるわけですから、今の二隻ではなかなか、経済効率からしてもよくない。そういう意味で、あと何隻ぐらい護衛する船を出したら経済効率的にはもっとよくなるというふうに皆さんの方ではお考えになっていますか。

前川参考人 今、護衛をされている実績から見ますと、大体三隻程度のようであります、一回の護衛が。したがって、これが多いか少ないかという議論もあるわけですけれども、今現在、昨年の後半以降、世界の経済がといいますか需要が激変しておりまして、そういう意味でいきますと、海上荷動き量は、二〇〇八年から今年度を比べますと、恐らく二割ないし三割程度減少するのではないか、こういうふうに見る向きもあります。したがいまして、あの貿易路あるいは通商路は極めて重要なところですけれども、航行する船舶の数がちょっと減る可能性はあるんですね。

 したがいまして、今の二隻で十分でない、あるいはもう少しふやしていただきたいというようなことは、今の段階ではちょっと数字の上で見えないところがございます。

 ただ、今の段階でも、先ほど説明しましたように、スピードの速い船は、護衛のコンボイに加わらずにそのまま走っているものもございます。したがって、二隻で十分かというと、通常のことを考えると、よほど、先ほど言いましたが、例えば各国と共同して協調的な役割分担をするような形をやらないと、二隻だけで護衛できる船というのはやはり限られてくるんだろうな、こういうふうに考えております。

下地委員 今度、アメリカが海賊を射殺したというような状況になり、緊張感が出てくるような状況にこれからなるのではないかというようなこともありましたけれども、そういう中では、もう少し、皆さんの方からも、警備といいますか、これを厚くした方がいいというような要請は、今の段階ではお考えにはなっていないと。

前川参考人 いわゆる護衛活動が始まったばかりでございます。三月の三十日からということでございまして、実際我々が聞いている範囲では、先ほどいろいろな方から御報告ありましたように、乗組員のみんなから、安心してできるというような報告もありますので、もう少しステップアップといいますか、警備を厚くしてほしいというようなことは、今の段階ではまだ申し述べる予定はございません。

下地委員 この法律が、時間との闘いで早目に、衆議院、参議院を通過して、もっと護衛が外国船舶もできるというようなことになればいいというようなことをお考えになっていると思うんです。

 こういうふうな中で、一個だけですけれども、この海賊の行為が始まってから、船主組合や日本経済にとって、大体どれだけの経済損失というような数字はあるんですか。船主組合の方としては経済損失、船員とか労働組合の方では、船員の給料、危険手当がふえたとか保険料が高くなったとか、そういうものであったら、少し最後のお話をしていただきたいと思うんです。

前川参考人 数字としてつかまえるのは極めて難しいと思います。

 といいますのは、この海賊問題が起こって、乗組員の心配、苦労もさることながら、陸上部門において、いろいろな人間がいろいろな部署で懸念を払拭するためにいろいろな業務をしている、こういうようなことでございますから、単に船がアデン湾を航行したがゆえに何億円経済損失があった、こういう計算だけではない、こう考えておりますので、相当大きな金額になるだろう、こう思っております。

森本参考人 経済損失については、私はわかりません。

 ただ、長い乗組員では、二百何十日か拘束されていて、なかなか身の代金を払ってもらえないために、食料、水の供給も制限されて、非常に厳しい、苦しい拘束生活を送っていたという話を私たちはよく聞いております。あるいは、たたかれた、銃の台じりでどつかれた、それは、経済的な損失とかそんなんじゃなくて、我々の仲間がそういう目に遭っているということをよく認識していただきたいと思います。

 以上です。

藤澤参考人 先生の御指摘につきましては、アデン湾の入り口とアデン湾の奥の中で、労使の間でまず危険ゾーンを設定して、それから、安全海路として、各国の軍艦が多く防御する態勢で安全な海路の確認をして、今対応を図っているところです。

 そこに就航する場合は、いわゆる、日割りになりますけれども、乗組員の給与を倍にするとか、あるいはそのエリアで非常に被害を受けた場合は、労使で決めている災害補償等を二倍払うとか、そういったきめ細かい対応を、外国人の船員も含めましていろいろな確認をして、労使間で知恵を絞って対応している状況です。

下地委員 最後になりますけれども、人命を確保するというのは、これは当たり前の話で、私たちはそれだからやっているわけでして。ただ、この海域に関しては経済的な大きな意味もあるというふうなことを、この委員会の中でもお話がよくあるものですから、皆さんの方から、人命確保はもちろん当たり前のことですけれども、経済的にも損失がこれだけありますよという数字がどんと出てくるかというふうに思いましたけれども、出てこなかったのは残念だと思いますね。

 ありがとうございました。

深谷委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、参考人の皆様に申し上げます。

 本日は、お忙しい中を御出席いただきまして、貴重な御意見を伺いまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして、私から、心からお礼を申し上げます。どうもありがとうございました。(拍手)

 次回は、明二十二日水曜日午前八時四十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時一分散会


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